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花粉症の初期療法に使用する薬剤として、「鼻アレルギー診療ガイドライン」では以下の5種類の薬剤が推奨されており、鼻噴霧用ステロイド薬は含まれていない。1) 第2世代抗ヒスタミン薬2) ケミカルメディエーター遊離抑制薬3) Th2サイトカイン阻害薬4) 抗ロイコトリエン薬5) 抗プロスタグランジンD2・トロンボキサンA2薬しかしながら、海外の花粉症では鼻噴霧用ステロイド薬による季節前投与の有用性が報告され、スギ花粉症においてもプラセボ対照無作為化比較試験によるエビデンスの蓄積が待たれている。このような背景のもと、2012年11月29日~12月1日に開催された第62回日本アレルギー学会秋季学術大会では、鼻噴霧用ステロイド薬による初期療法の有用性を検討した複数のプラセボ対照無作為化比較試験のデータが報告された。スギ花粉飛散開始前または翌日から鼻噴霧用ステロイド薬を投与し、有用性を検討山梨大学大学院医学工学総合研究部耳鼻咽喉科・頭頸部外科の増山敬祐氏は、スギ花粉症に対する鼻噴霧用ステロイド薬(フルチカゾンフランカルボン酸エステル)の初期療法の有用性を検討したプラセボ対照無作為化比較試験を報告した。増山氏らは、2011年の花粉症シーズンにおいて、適格性の評価を受けたスギ花粉症患者150例(うち妊娠と抗ヒスタミン薬使用の2例除外)を鼻噴霧用ステロイド薬群(75例)とプラセボ群(73例)の2群に無作為に割り付け、症状自覚時またはスギ花粉飛散開始翌日から投与を開始した。その結果、総鼻症状は、スギ花粉飛散開始後第2、第3、第4、第5週に、鼻噴霧用ステロイド薬群で有意に増悪が抑制され、くしゃみ、鼻漏、鼻閉の各症状についても同様であった。総眼症状は、第3、第4、第5週に鼻噴霧用ステロイド薬群で有意に増悪が抑制された。レスキュー薬の使用については、抗ヒスタミン薬の使用は鼻噴霧用ステロイド薬群で有意に少なかったが、点眼薬の使用は両群間で有意差はなかった。QOLスコアは、飛散ピーク時とシーズン後半に、鼻噴霧用ステロイド薬群で有意にスコアの悪化が抑制された。一方、副作用は両群とも軽微であり、有意差が認められなかった。これらの結果から、増山氏は、スギ花粉症に対する鼻噴霧用ステロイド薬による初期療法の有用性が示唆されると結んだ。スギ花粉飛散3週間前から鼻噴霧用ステロイド薬を投与し、有用性を検討岡山大学大学院医歯薬学総合研究科耳鼻咽喉・頭頸部外科学の岡野光博氏は、鼻噴霧用ステロイド薬を花粉飛散前から投与する群とプラセボ群の2群間における無作為化二重盲検比較試験と、鼻噴霧用ステロイド薬を花粉飛散前から投与開始する群、花粉飛散後にプラセボから鼻噴霧用ステロイド薬に切り替える群、プラセボ群の3群間による無作為化二重盲検比較試験を報告した。2群間における無作為化二重盲検比較試験は、スギ・ヒノキ花粉症患者50例を鼻噴霧用ステロイド薬(モメタゾンフランカルボン酸エステル)群(25例)とプラセボ群(25例)の2群に無作為に割り付け、スギ花粉飛散前(2010年2月1日)から投与開始し、スギ・ヒノキ花粉飛散期における有効性と安全性を検討した。なお、2010年のスギ花粉の本格飛散開始日は2月22日であったことから、スギ花粉飛散開始3週間前に投与を開始したことになる。その結果、鼻噴霧用ステロイド薬投与群では、鼻症状スコア、眼症状スコア、総鼻眼症状スコアにおいて抑制が認められた。QOLスコアも、スギ花粉飛散開始後、プラセボ群に比べて有意に良好であり、有害事象はプラセボ群と同等であった。この結果から、岡野氏は、鼻噴霧用ステロイド薬はスギ・ヒノキ花粉症に対する初期治療薬として有効かつ安全であることが示唆される、と述べた。次に、鼻噴霧用ステロイド薬による初期治療の開始時期を検討するために、スギ・ヒノキ花粉症患者75例を、鼻噴霧用ステロイド薬(モメタゾンフランカルボン酸エステル)をスギ花粉飛散前から投与開始する群(以下、飛散前投与開始群、25例)、スギ花粉飛散後にプラセボから鼻噴霧用ステロイド薬に切り替えた群(以下、飛散後投与開始群、25例)、プラセボ群(25例)の3群に無作為に割り付けた。3群ともスギ花粉飛散前(2011年2月1日)から投与開始し、飛散後投与開始群はその4週後にプラセボから鼻噴霧用ステロイド薬に切り替えた。2011年のスギ花粉の本格飛散開始日は2月23日であったことから、飛散前投与開始群では飛散開始のほぼ3週間前に投与開始、飛散後投与開始群では飛散開始からほぼ1週間後に投与開始したことになる。この結果、飛散前投与開始群、飛散後投与開始群ともにプラセボ群に比べて、スギ・ヒノキ花粉飛散期の鼻症状の増悪を有意に抑制した。眼症状については、スギ・ヒノキ花粉飛散期に、飛散前投与開始群がプラセボ群に比べ有意に増悪を抑制したが、飛散後投与開始群では有意な効果はみられなかった。総鼻眼症状は、スギ花粉飛散期に、飛散後投与開始群に比べて飛散前投与開始群が有意に増悪を抑制し、くしゃみと眼掻痒感について顕著であった。これらの結果から、岡野氏は、鼻噴霧用ステロイド薬によるスギ・ヒノキ花粉症に対する初期療法は、花粉飛散後より花粉飛散前に投与開始するほうが、より高い症状緩和効果が得られることが示唆されると述べた。