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子どもの朝食欠食も糖尿病リスクにつながる可能性――足立区の中学生で調査

 朝食を食べない成人は2型糖尿病のリスクが高いことが報告されているが、同じことが子どもにも当てはまるかもしれない。その可能性を示唆するデータが報告された。東京都足立区内の中学校の生徒を対象とした研究で、朝食欠食の習慣がある子どもは、交絡因子を調整後も糖尿病前症に該当する割合が有意に高かったという。東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科国際健康推進医学分野の藤原武男氏らの研究によるもので、詳細は「Frontiers in Endocrinology」に2月22日掲載された。 2型糖尿病は、あるとき突然発症する病気ではなく、血糖値が糖尿病の診断基準に至るほどではないものの基準値より高い状態、「糖尿病前症」(国内では糖尿病予備群とも呼ばれる)という段階を経てから発症する。つまり、糖尿病前症に該当する場合は、その後、2型糖尿病を発症するリスクが高い。一方、2型糖尿病の発症リスク因子としては、家族歴や食習慣の乱れ、運動不足、肥満などが知られている。これらのうち、食習慣の乱れの一つとして朝食の欠食が挙げられ、朝食欠食により遊離脂肪酸レベルの上昇に伴うインスリン抵抗性の亢進、消費エネルギー量の低下、概日リズムの乱れなどを介して糖代謝に悪影響が及ぶと考えられている。 実際に、朝食欠食と糖尿病や糖尿病前症との関連は成人対象の研究で示されている。ただし、小児については報告が少ない。海外からはいくつかの研究結果が報告されているが、関連性を肯定するものと否定するものが混在している。また、食習慣が糖代謝に及ぼす影響には人種差があることから、日本の子どもたちを対象とする研究が必要とされる。以上を背景として藤原氏らは、足立区内の小中学生対象に行われた「A-CHILD Study」の中学生のデータを用いて、朝食欠食と糖尿病前症リスクとの関連を検討した。 解析対象は、2016年、2018年、2020年の調査に回答した中学校7校の2年生、計2,090人から、データ欠落者、および、糖代謝レベルを判定するHbA1cへの影響を考慮して、貧血(ヘモグロビンが12g/dL未満)に該当する生徒を除外した1,510人。 朝食を「毎日食べる」と回答したのは83.6%で、残りの16.4%は「時々食べる」、「ほとんど食べない」、「全く食べない」であり、それらを朝食欠食群と定義した。糖尿病前症をHbA1c5.6~6.4%の場合と定義すると、3.8%が該当した。糖尿病の診断基準であるHbA1c6.5%以上の生徒はいなかった。 糖尿病前症の有病率は、朝食を毎日食べる群が3.5%、朝食を欠食する群では5.6%だった。多変量解析で性別、世帯収入、糖尿病の家族歴を調整後、朝食欠食群の生徒は毎日食べる生徒に比べて、糖尿病前症に該当する割合が2倍近く高いことが明らかになった〔オッズ比(OR)1.95(95%信頼区間1.03~3.69)〕。 BMIで層別化したサブグループ解析では、BMIが平均から1標準偏差以上上回っている生徒の場合(全体の15.1%)、朝食を欠食することと糖尿病前症に該当することに、より強固な関連のあることが分かった〔OR4.31(同1.06~17.58)〕。その一方、BMIの平均からの逸脱が1標準偏差未満の群では、朝食欠食による糖尿病前症の有意なオッズ比上昇は観察されなかった〔OR1.62(0.76~3.47)〕。 このほか、朝食欠食の習慣のある生徒は、起床時刻が遅く、平日の睡眠時間が長く、運動をする頻度が低いという有意差が見られた。なお、前記の多変量解析の調整因子に、起床時刻と運動頻度を追加した解析の結果も同様であり、朝食を欠食する生徒の糖尿病前症に該当する割合は約2倍だった〔OR2.01(1.04~3.89)〕。 著者らは本研究を、「アジア人の思春期児童で朝食の欠食と糖尿病前症との関連を検討した初の研究」と位置付けている。結論は、「糖代謝に影響を及ぼし得る交絡因子を調整後も、中学生の朝食の欠食は糖尿病前症に該当することと関連しており、この関連はBMIの高い生徒で顕著だった」とまとめられている。また、食習慣は中学生になるよりもさらに早い段階で身に付き、それが成人後に引き継がれる可能性が高いことから、「子どもが幼い頃から毎日朝食を食べさせるようにするための、保護者を対象とする介入が重要ではないか」との考察を付け加えている。

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世界初の持続性GIP/GLP-1受容体作動薬「マンジャロ」発売/リリー・田辺三菱

 日本イーライリリーと田辺三菱製薬は、4月18日付のプレスリリースで、持続性GIP/GLP-1受容体作動薬「マンジャロ皮下注2.5mgアテオス」「同皮下注5mgアテオス」(一般名:チルゼパチド、以下「マンジャロ」)の販売を同日より開始したことを発表した。 マンジャロは、グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド(GIP)とグルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)の2つの受容体に作用する世界初の持続性GIP/GLP-1受容体作動薬である。天然GIPペプチド配列をベースとした単一分子の構造だが、GLP-1受容体にも結合するように改変されており、選択的に長時間作用し血糖値を改善させる。本剤は、1回使い切りのオートインジェクター型注入器(「アテオス」)によって、週1回皮下注射する薬剤である。あらかじめ注射針が取り付けられた専用ペン型注入器により、注入ボタンを押すことで自動的に注射針が皮下に刺さり、1回量が充填されている薬液が注入されるため、患者が用量を設定したり、注射針を扱ったりする必要がない。 また、本剤は通常、成人には、チルゼパチドとして週1回2.5mgの開始用量から開始し、4週間投与した後、週1回5mgの維持用量に増量する。患者の状態に応じて適宜増減が可能な薬剤であり、5mgで効果不十分な場合は、4週間以上の間隔を空けて2.5mgずつ増量ができ、最大で週1回15mgまで使用が可能である。6つの用量規格のうち、開始用量(2.5mg)と維持用量(5mg)の2規格が先行して4月18日より発売され、高用量の4規格(7.5mg、10mg、12.5mg、15mg)は、6月12日に発売予定である。 日本イーライリリーの糖尿病・成長ホルモン事業本部長メアリー・トーマス氏は、「このたびのマンジャロの発売を大変うれしく思います。2型糖尿病と共に歩む多くの方々へ、新しいクラスの治療選択肢としてマンジャロをお届けできるように適正な情報提供に努めてまいります」と述べている。 また、田辺三菱製薬の営業本部長である吉永 克則氏は、「当社は、『病と向き合うすべての人に、希望ある選択肢を。』をMISSIONとして掲げております。新発売を迎えたマンジャロが2型糖尿病と共に歩む人々にとって希望ある選択肢となるよう、情報提供活動を通じてマンジャロの適正使用を推進してまいります」としている。 なお、本剤は、イーライリリー・アンド・カンパニーが米国において2022年5月13日、世界初の持続性GIP/GLP-1受容体作動薬として承認を取得し、同年6月7日より「Mounjaro」の製品名で販売を開始している。日本では、同年9月26日に承認を取得した。マンジャロの製造販売承認は日本イーライリリーが有し、販売・流通は田辺三菱製薬が行う。医療従事者への情報提供活動は日本イーライリリーと田辺三菱製薬が共同で実施する。

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2型DMの追加処方に有益なのは?~816試験をメタ解析/BMJ

 中国・四川大学のQingyang Shi氏らはネットワークメタ解析を行い、2型糖尿病(DM)成人患者に対し、従来治療薬にSGLT2阻害薬やGLP-1受容体作動薬を追加投与する場合の実質的な有益性(心血管系および腎臓系の有害アウトカムと死亡の減少)は、フィネレノンとチルゼパチドに関する情報を追加することで、既知を上回るものとなることを明らかにした。著者は、「今回の結果は、2型DM患者の診療ガイドラインの最新アップデートには、科学的進歩の継続的な評価が必要であることを強調するものである」と述べている。BMJ誌2023年4月6日号掲載の報告。24週以上追跡のRCTを対象に解析 研究グループは、2型DM成人患者に対する薬物治療として、非ステロイド性ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(フィネレノンを含む)とチルゼパチド(二重GIP/GLP-1受容体作動薬)を既存の治療オプションに追加する有益性と有害性の比較を目的にシステマティックレビューとネットワークメタ解析を行った。 Ovid Medline、Embase、Cochrane Centralを用いて、2022年10月14日時点で検索。無作為化比較試験で、追跡期間24週以上を適格とし、クラスの異なる薬物治療と非薬物治療の組み合わせを体系的に比較している試験、無作為化比較試験のサブグループ解析、英語以外の試験論文は除外した。エビデンスの確実性についてはGRADEアプローチで評価した。816試験、被験者総数47万1,038例のデータを解析 解析には816試験、被験者総数47万1,038例、13の薬剤クラスの評価(すべての推定値は、標準治療との比較を参照したもの)が含まれた。 SGLT2阻害薬と、GLP-1受容体作動薬の追加投与は、全死因死亡を抑制した(それぞれオッズ比[OR]:0.88[95%信頼区間[CI]:0.83~0.94]、0.88[0.82~0.93]、いずれも高い確実性)。 非ステロイド性ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬については、慢性腎臓病を併存する患者へのフィネレノン投与のみが解析に含まれ、全死因死亡抑制の可能性が示唆された(OR:0.89、95%CI:0.79~1.00、中程度の確実性)。その他の薬剤については、おそらくリスク低減はみられなかった。 SGLT2阻害薬とGLP-1受容体作動薬の追加投与については、心血管死、非致死的心筋梗塞、心不全による入院、末期腎不全を抑制する有益性が確認された。フィネレノンは、心不全による入院、末期腎不全をおそらく抑制し、心血管死も抑制する可能性が示された。 GLP-1受容体作動薬のみが、非致死的脳卒中を抑制することが示された。SGLT2阻害薬は他の薬剤に比べ、末期腎不全の抑制に優れていた。GLP-1受容体作動薬は生活の質(QOL)向上に効果を示し、SGLT2阻害薬とチルゼパチドもその可能性が示された。 報告された有害性は主に薬剤クラスに特異的なもので、SGLT2阻害薬による性器感染症、チルゼパチドとGLP-1受容体作動薬による重症胃腸有害イベント、フィネレノンによる高カリウム血症による入院などだった。 また、チルゼパチドは体重減少がおそらく最も顕著で(平均差:-8.57kg、中程度の確実性)、体重増加がおそらく最も顕著なのは基礎インスリン(平均差:2.15kg、中等度の確実性)とチアゾリジンジオン(平均差:2.81kg、中等度の確実性)だった。 SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬、フィネレノンの絶対的有益性は、ベースラインの心血管・腎アウトカムリスクにより異なった。

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乳がんの予後に糖尿病が影響

 糖尿病の女性は乳がん発症リスクが高いことが知られているが、乳がんの予後にも糖尿病の影響が及ぶ可能性を示唆する研究結果が報告された。糖尿病がある場合、無遠隔転移生存期間や全生存期間が有意に短いという。順天堂大学大学院医学研究科乳腺腫瘍学の戸邉綾貴子氏、堀本義哉氏らの研究によるもので、詳細は「Breast Care」10月発行号に掲載された。 糖尿病は多くのがんの発症リスクの高さと関連のあることが報告されており、そのメカニズムとして、インスリン抵抗性による高インスリン血症が、がんの発生を促すように働くことが想定されている。乳がんも糖尿病によって発症率が高くなるがんの一つ。ただ、乳がんの予後が糖尿病の有無によって異なるのか否かは明確になっていないことから、戸邉氏らはこの点を後方視的コホート研究により検討した。 2006~2018年に乳がんに対する根治的手術を受けた患者(遠隔転移のあるステージ4以外の患者)のうち、解析に必要なデータがそろっていて、経過を1年以上追跡可能だった322人を解析対象とした。このうち106人(33%)が糖尿病を有していた。糖尿病群は非糖尿病群に比べて高齢で(67.6対61.5歳)、BMIが高い(26.8対23.8)という有意差があった(いずれもP<0.001)。また、糖尿病群は腫瘍径の大きい患者の割合が高かった(5cm未満と以上の比がP=0.040)。ただし、女性ホルモン受容体(ER)陽性の割合やヒト上皮成長因子受容体2遺伝子(HER-2)陽性の割合、術後補助化学療法の施行率は有意差がなかった。 この対象に含まれていた、遠隔転移を起こし得る浸潤性乳がん患者296人を平均45カ月間(範囲2~147)追跡したところ、36人(12%)に遠隔転移が発生していた。そのうち16人が乳がんで死亡し、13人が乳がん以外の原因で死亡していた。 無遠隔転移生存期間(DMFS)に関連する因子を検討したところ、単変量解析では腫瘍径、リンパ節転移、ERの状態、術後補助化学療法の有無とともに、糖尿病が有意に関連していた。それらを独立変数とする多変量解析では、腫瘍径〔ハザード比(HR)4.68(95%信頼区間2.13~10.32)〕と糖尿病〔HR2.27(同1.05~5.02)〕という2項目が、DMFSの短縮に関連する独立した因子として抽出された。また、全生存期間(OS)については多変量解析の結果、ER陽性のみがOS延長に有意に関連する因子という結果だった〔HR0.14(0.06~0.36)〕。 次に、カプランマイヤー法でDMFSとOSを検討すると、糖尿病群はDMFSが有意に短く(P=0.036)、OSは有意差がなかった(P=0.115)。ただし、ER陰性のサブグループ解析では、DMFS(P=0.045)だけでなく、OS(P=0.029)も糖尿病群では有意に短いことが明らかになった。一方、ER陽性の場合は、DMFS、OSともに糖尿病の有無による有意差は見られなかった。 続いて、糖尿病患者群を乳がん診断時のHbA1c7.0%未満/以上で層別化して検討すると、DMFS(P=0.732)、OS(P=0.568)ともに、HbA1cの高低による有意差は認められなかった。 これらの結果を基に著者らは、「乳がん診断時に糖尿病を有していた患者は予後が悪く、特にER陰性の場合は予後への影響がより顕著だった」と総括している。また、糖尿病患者は予後が悪いにもかかわらず、HbA1cで層別化した検討ではDMFSやOSに有意差が示されなかったことから、「糖尿病の一次予防の重要性が再認識された」と考察を述べている。

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重症市中肺炎、ヒドロコルチゾンが死亡を抑制/NEJM

 集中治療室(ICU)で治療を受けている重症の市中肺炎患者では、ヒドロコルチゾンの投与はプラセボと比較して、全死因死亡のリスクを有意に低下させ、気管挿管の割合も低いことが、フランス・トゥール大学のPierre-Francois Dequin氏らCRICS-TriGGERSepネットワークが実施した「CAPE COD試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2023年3月21日号で報告された。フランスの無作為化プラセボ対照第III相試験 CAPE COD試験は、フランスの31施設が参加した二重盲検無作為化プラセボ対照第III相試験であり、2015年10月~2020年3月の期間に患者の登録が行われた(フランス保健省の助成を受けた)。 重症の市中肺炎でICUに入室した年齢18歳以上の患者が、ヒドロコルチゾンの静脈内投与を受ける群、またはプラセボ群に無作為に割り付けられた。 ヒドロコルチゾンは、200mg/日を4日間または8日間投与した時点で、臨床的改善度に基づき、その後の総投与日数を8日間または14日間と決定し、用量を漸減した。すべての患者が、抗菌薬と支持療法を含む標準治療を受けた。 主要アウトカムは、28日時点で評価した全死因死亡であった。 予定されていた2回目の中間解析の結果に基づき患者の登録が中止された時点で、800例が無作為化の対象となり、このうち795例のデータが解析に含まれた。400例がヒドロコルチゾン群(年齢中央値67歳、男性70.2%)、395例がプラセボ群(67歳、68.6%)であった。ICU内感染、消化管出血の頻度は同程度 28日目までに、死亡の発生はプラセボ群では395例中47例(11.9%、95%信頼区間[CI]:8.7~15.1)であったのに対し、ヒドロコルチゾン群は400例中25例(6.2%、3.9~8.6)と有意に少なかった(絶対群間差:-5.6ポイント、95%CI:-9.6~-1.7、p=0.006)。 90日時点での死亡率は、ヒドロコルチゾン群が9.3%、プラセボ群は14.7%であった(絶対群間差:-5.4ポイント、95%CI:-9.9~-0.8)。また、28日時点でのICU退室率はヒドロコルチゾン群で高かった(ハザード比[HR]:1.33、95%CI:1.16~1.52)。 ベースラインで機械的換気を受けていなかった患者のうち、28日目までに気管挿管が導入されたのは、ヒドロコルチゾン群が222例中40例(18.0%)、プラセボ群は220例中65例(29.5%)であった(HR:0.59、95%CI:0.40~0.86)。 ベースラインで昇圧薬の投与を受けていなかった患者では、28日目までに昇圧薬の投与が開始されたのは、ヒドロコルチゾン群が359例中55例(15.3%)、プラセボ群は344例中86例(25.0%)であった(HR:0.59、95%CI:0.43~0.82)。 ICU内感染(ヒドロコルチゾン群9.8% vs.プラセボ群11.1%[HR:0.87、95%CI:0.57~1.34])と消化管出血(2.2% vs.3.3%[0.68、0.29~1.59])の頻度は両群で同程度であった。一方、ヒドロコルチゾン群では、治療開始から1週間のインスリン1日投与量(35.5 IU/日vs.20.5 IU/日、群間差中央値:8.7 IU/日[95%CI:4.0~13.8])が多かった。 著者は、「先行試験やメタ解析では、グルココルチコイドの薬力学的作用と一致する高血糖の発生率の増加が報告されている。この高血糖の増加は通常、一過性のものだが、今回の試験では確認していない」としている。

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糖尿病患者、女性は男性より静脈血栓塞栓症を発症しやすい

 糖尿病患者は非糖尿病者よりも静脈血栓塞栓症(VTE)のリスクが高いこと、特に女性患者でリスク差が大きく、かつ男性糖尿病患者との比較でもリスク差がある可能性を示すデータが報告された。ウィーン医科大学(オーストリア)のCarola Deischinger氏らの研究によるもので、詳細は「Diabetes Research and Clinical Practice」12月号に掲載された。 糖尿病と心血管疾患(CVD)リスクとの関連については豊富なエビデンスがあり、糖尿病に伴う凝固亢進状態はCVDのみならずVTEリスクも押し上げることが想定される。ただし、糖尿病とCVDの関連に比べ、糖尿病とVTEに関するエビデンスはまだ十分でない。特に、性差についてはほとんど分かっていない。 Deischinger氏らの研究は、オーストリアの1997~2014年の医療費請求データベースを用いたレトロスペクティブなコホート研究として行われた。20~79歳の糖尿病患者18万34人と、年齢・性別が一致する糖尿病でない54万102人を対照群として設定し、VTEリスクを糖尿病の有無および性別・年齢層別に比較した。 その結果、非糖尿病群のVTEリスクは男女間で類似しているのに対して、糖尿病患者では男性より女性の方が、年齢にかかわらずほぼ一貫して相対リスクが高かった。具体的には、男性糖尿病患者は非糖尿病男性に比べてVTE診断のオッズ比(OR)が1.30(95%信頼区間1.26~1.35)であるのに対して、女性糖尿病患者は非糖尿病女性に比べてOR1.52(同1.46~1.58)だった(いずれもP<0.001)。女性糖尿病患者のオッズ比は男性糖尿病患者の1.17倍(同1.11~1.23)であり、女性糖尿病患者のVTE発症が有意に多かった。 年齢層別に見ると、20代は男性・女性ともに、糖尿病であっても有意なオッズ比の上昇は認められず、女性糖尿病患者と男性糖尿病患者との比較でも有意差はなかった。30代では男性・女性ともに、糖尿病患者で有意なオッズ比の上昇が認められたが、女性患者と男性患者の比較では有意差がなかった。40~70代は全て、男性・女性ともに糖尿病患者で有意なオッズ比の上昇が認められ、かつ女性患者は男性患者よりも有意にオッズ比が高かった。性別によるオッズ比の差が最も著しい年齢層は50代であり、女性糖尿病患者は女性非糖尿病者に対してOR2.14(1.91~2.40)、男性糖尿病患者は男性非糖尿病者に対してOR1.30(1.20~1.41)であって、女性糖尿病患者のオッズ比は男性糖尿病患者の1.65倍(1.43~1.89)に上った。 このほかに、処方されている血糖降下薬のカテゴリー別の解析も実施され、DPP-4阻害薬を処方されている女性患者は、同薬が処方されていない女性糖尿病患者に比較してVTE診断のオッズ比が有意に高いことが示された〔OR2.3(P=0.0096)〕。男性については、DPP-4阻害薬の処方の有無による有意差は見られなかった。また、インスリン、ビグアナイド薬、SU薬、チアゾリジン薬の処方の有無では、男性・女性ともに有意差がなかった。 著者らは、「われわれの研究結果は、女性糖尿病患者、特に閉経期の患者はVTEの発症を、より注意深く監視する必要があることを示唆している」と述べている。

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米国の成人1型糖尿病患者の肥満有病率は一般人口と同等

 従来、1型糖尿病患者は痩せていることが多いと考えられてきたが、米国ではそのような捉え方が当てはまらなくなってきたことを示すデータが報告された。米ジョンズ・ホプキンス大学ブルームバーグ公衆衛生大学院のMichael Fang氏らの研究によるもので、「Annals of Internal Medicine」に2月14日、レターとして掲載された。 この研究は、米国国民健康インタビュー調査に回答した、12万8,000人以上の一般住民のデータを解析するという手法で行われた。著者らは、「本研究は、米国の1型糖尿病患者における過体重・肥満の有病率を調査した初の研究と考えられる」としている。 統計解析の結果、成人1型糖尿病患者の約62%が過体重または肥満であることが分かった。内訳は、34%が過体重で、28%が肥満。なお、過体重とは世界保健機関(WHO)によりBMI25.0~29.9の範囲と定義されている。ただし、日本人は体重増加による健康への影響がより大きく現れやすいため、国内の基準ではこの範囲も肥満と判定される。 米国の一般住民の過体重・肥満の有病率は64%であり、今回明らかになった1型糖尿病の成人患者で62%という有病率は、ほぼこれに匹敵する。一方、米国の2型糖尿病成人患者における過体重・肥満の有病率は86%と報告されている。 今回の調査では、過体重や肥満の1型糖尿病成人患者の中で、医療スタッフから、身体活動量を増やしたり摂取エネルギー量を減らしたりするといった、ライフスタイル改善のアドバイスを受けていたのは、半数強に過ぎないことも分かった。医療スタッフが過体重・肥満の1型糖尿病患者に対して減量の指導を積極的に行っていない理由について、研究者らは、高強度の身体活動と厳格な摂取エネルギー制限を並行して行った場合に、低血糖のリスクが上昇すると考えられるためだろうと推測している。 論文の筆頭著者であるFang氏は、「1型糖尿病患者の体重管理のための安全な食事・運動療法のエビデンスが不足しているため、医師はそれらの指導を控えている可能性がある。2型糖尿病患者の体重管理に関しては大規模な臨床研究に基づくエビデンスが確立されてきたが、それと同じように1型糖尿病患者の体重管理についても臨床研究が必要とされている」と述べている。また、論文の上席著者で同大学院教授のElizabeth Selvin氏は、「われわれの研究結果は、世界的に肥満が蔓延している中でも1型糖尿病患者は例外とする考え方に、警鐘を鳴らすものと言える」と、大学発のリリースに記している。 1型糖尿病は、成人後に発症することもあるが小児期に罹患しやすい自己免疫疾患。血糖を細胞に取り込むために必要なインスリンを産生する膵臓内の細胞を、免疫系が誤って攻撃して破壊してしまい発症する。過体重や肥満、加齢などが発症リスクに影響を及ぼす2型糖尿病とは、異なるタイプの糖尿病として位置付けられている。1型糖尿病では、インスリン注射やインスリンポンプを用いた治療が生存のために必須となる。 1型糖尿病の発症リスクに肥満は関連がないと考えられているが、発症後の治療には影響を及ぼす可能性がある。例えば、肥満のためにインスリンに対する体の感受性が低下することが多く、そのような状態では、インスリン投与量を増やす必要が生じたり、血糖変動を予測しにくくなることがある。米疾病対策センター(CDC)は、20歳以上の米国成人における1型糖尿病患者数を約160万人としている。 なお、本研究は、米国国立心臓・肺・血液研究所(NHLBI)のサポートを受けて実施された。

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糖尿病がある人の3人に1人は病気を‘恥’と感じた経験あり

 糖尿病がある人の3人に1人は、糖尿病であることを恥ずかしく感じた経験があるというデータが報告された。神戸市立看護大学看護学部の稲垣聡氏、糖尿病内科まつだクリニックの松田友和氏らが行った横断研究の結果であり、詳細は「BMJ Open Diabetes Research & Care」に12月13日掲載された。恥ずかしさを感じた経験のある人は精神的苦痛を強く感じており、幸福感が低いことも明らかになったという。 近年、糖尿病に関するスティグマが、糖尿病のある人の生活の質(QOL)を低下させることへの関心が高まっている。スティグマとは「汚名」や「不名誉」といった意味。誤った情報に基づくスティグマが存在すると、対象者が社会に受け入れられにくい状況が生じる。糖尿病のある人の場合、スティグマのために糖尿病であることを恥と捉え、病気を隠そうとしたり、食事の際に周囲の人に合わせて健康的でない食べ物を食べたり、人目を避けてインスリン注射や血糖測定をするといった行動につながる。 スティグマは、社会の認識が改善してそれが解消されることが最善であり、そのための働きかけも関係団体が中心となって行われている。ただし、糖尿病を持つ人が感じている可能性のある‘恥’をテーマとした研究は、これまでほとんど行われていない。稲垣氏らはこのような状況を背景として、糖尿病であることを恥ずかしく感じたことのある人の割合やその関連因子を明らかにするため、以下の研究を行った。 この研究は、調査会社に登録されているパネルを対象とする、インターネット調査として実施された。質問内容は、「糖尿病であることを恥ずかしいと思うことはあるか」、「糖尿病であることを同僚や友人などに伝えているか」という2項目であり、それに加え、心理的幸福感(WHO-5)、糖尿病関連の精神的苦痛(PAID)、自己管理行動(J-SDSCA)、自己管理の効力感(SESD)などを評価。 解析対象者は20歳以上で「2型糖尿病のために受診したことがある」と回答した510人。その主な特徴は、平均年齢63.7±8.7歳、男性67.1%、BMI24.8±4.4、大卒以上51.6%、糖尿病罹病歴13.2±8.5年、インスリン療法中16.9%、HbA1c7.0±1.1%、診断された合併症を有する人の割合11.8%など。 「糖尿病を恥ずかしいと思うことはあるか」との質問には32.9%が「はい」と回答し、「糖尿病であることを同僚や友人などに伝えているか」には17.5%が「いいえ」と回答した。糖尿病を恥じたことのある群は、ない群に比べて心理的幸福感が低く、糖尿病関連の精神的苦痛は大きく、またBMIが高値だった(全てP<0.001)。ただし、実際の自己管理行動(P=0.797)やHbA1c(P=0.362)は有意差がなかった。 糖尿病を恥じた経験のあることに関連する因子を二項ロジスティック回帰分析で検討した結果、女性〔オッズ比(OR)4.78(95%信頼区間2.90~7.89)〕、経済的負担感(OR1.55~3.79)が有意な正の関連因子として特定された。反対に、高齢〔OR0.94(95%信頼区間0.92~0.97)〕、教育歴〔大卒以上でOR0.60(同0.37~0.98)〕、自己効力感〔OR0.91(0.86~0.98)〕は、糖尿病を恥じることに対して保護的に働く可能性が示された。BMIやインスリン療法を行っているか否かは、有意な関連がなかった。 著者らは本研究が、糖尿病のある人の恥ずかしさに焦点を当てた初の研究であったため参考となる文献が限られていたことから、アンケート内容が最適なものではなかった可能性があること、恥と感じた理由について調査していないことなど、いくつかの限界点があるとしている。その上で、「2型糖尿病のある人の約3分の1は、糖尿病関連の苦痛や心理的幸福感の低さを伴う恥の体験を有していた。糖尿病のある人のQOL改善には、恥に焦点を当てた研究およびケア方法の確立が必要である」と結論付けている。

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ビタミンDで2型糖尿病のリスクがわずかに低下

 ビタミンDを積極的に摂取することによって、2型糖尿病の発症リスクがわずかに低下する可能性を示唆する研究結果が報告された。ただし、専門家は、ビタミンD摂取が健康的な食事や運動習慣に取って代わるものではないとしている。米タフツ医療センターのAnastassios Pittas氏らの研究によるもので、詳細は「Annals of Internal Medicine」に2月7日掲載された。 ビタミンDは骨量減少や骨折を減らす目的で、サプリメントなどとして摂取されることがある。近年、ビタミンDには骨代謝改善以外にもさまざまな作用のあることが分かり、その中の一つとして2型糖尿病リスクを下げる可能性も示唆されている。ただし、この点についての明確なエビデンスは得られていない。そこでPittas氏らは、2型糖尿病リスクの高い人を対象に、ビタミンD投与による介入を行った研究報告を対象とするシステマティックレビューとメタ解析を行った。 PubMed、Embaseなどの文献データベースに2022年12月9日までに収載された報告を対象として、前糖尿病状態にある成人を対象に経口ビタミンDを投与し、糖尿病新規発症リスクをプラセボと比較した研究報告を検索。3件の無作為化比較試験が抽出された。 メタ解析の結果、ビタミンD投与によって糖尿病発症リスクは15%有意に低下することが明らかになった〔ハザード比(HR)0.85(95%信頼区間0.75~0.96)〕。3年間の介入期間中の絶対リスクの差は3.3%(同0.6~6.0%)とわずかではあるが有意だった。なお、介入によって血清25-ヒドロキシビタミンDレベルがより高値(50ng/mL以上)に維持されていた群でのサブグループ解析では、プラセボ群に対して糖尿病発症リスクが76%低下〔HR0.24(0.16~0.36)〕、3年間の絶対リスクは18.1%低下(11.7~24.6)と、より顕著なリスク抑制効果が認められた。また、前糖尿病状態から正常耐糖能への改善は、ビタミンD投与群の方が30%多く認められた〔率比1.30(1.16~1.46)〕。 この結果を基にPittas氏は、「2型糖尿病リスクが高い場合は、その発症抑制のためにビタミンDが有効であることが示された。ただしこの研究結果は、2型糖尿病リスクが平均的な人には当てはまらず、また糖尿病発症抑止のための至適用量もまだ不明だ」と述べている。さらに、「この結果を、ビタミンDを服用すれば、食習慣を変えたり運動を心がける必要がなくなるというメッセージとはしたくない。健康的な食事や習慣的な運動に代わるサプリメントなどは存在しない」と、拡大解釈しないよう注意を喚起している。 ビタミンDと糖尿病の関連については、赤道から離れた高緯度地域で糖尿病の有病率が高いという疫学データが発表されてから、関心が集まるようになった。ビタミンDは紫外線に当たった時に皮膚で産生されるため、高緯度地域の人ではそのレベルが低くなりやすい。その後の研究で、実際に血液中のビタミンD濃度と2型糖尿病リスクとの間に関連性のあることが報告され、また基礎的な研究からは、ビタミンDにインスリン産生を促す働きがあることも分かってきた。 本研究には関与していない、米ニューヨーク大学(NYU)ランゴン・ヘルスのIsaac Dapkins氏は、「前糖尿病状態の人の血中ビタミンDレベルを測定し、欠乏状態であればサプリメントなどによる補給が、2型糖尿病発症リスク抑制につながる可能性がある。もちろん、運動などの方がより効果的だが、前糖尿病に該当し、まだ自分の血中ビタミンDレベルを知らない人は、医師に相談して測定してもらうのも良いのではないか」と述べている。

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第153回 安価な心疾患薬がプラセボ対照試験で糖尿病に有効

わが国では1965年に承認されて心血管疾患治療薬として世界で普及している安価なCaチャネル遮断薬ベラパミルの服用でインスリン生成細胞の損失を遅らせうることが成人患者の試験に続いて小児患者の試験でも示されました1,2,3,4)。インスリン生成を担うβ細胞に特有の経路のいくつかと1型糖尿病(T1D)の関連が最近明らかになりつつあります。チオレドキシン相互作用タンパク質(TXNIP)が絡む経路がその1つで、TXNIPは活性酸素を除去する酸化還元タンパク質であるチオレドキシンに結合してその働きを阻害し、酸化ストレスを助長します。糖に応じて発現するTXNIPはどうやらインスリンを作る膵臓β細胞には好ましくないようで、糖尿病のマウスのβ細胞ではその発現が増え、過剰発現させるとβ細胞が死ぬことが確認されています。であるならその抑制はβ細胞にとって好ましいと容易に予想され、TXNIPを省くとやはりβ細胞がより生き残り、マウスの糖尿病を予防することができました。ベラパミルはTXNIPのβ細胞での発現を抑制します。その効果は同剤のよく知られた作用であるL型Caチャネルの阻害とそれに伴う細胞内Caの減少によると示唆されています。とするとインスリンを作るβ細胞や心臓などのL型Caチャネルの発現が豊富な組織ではベラパミルのようなTXNIP阻害薬の恩恵が最も期待できそうです。ベラパミルにどうやら糖尿病抑制効果がありそうなことは細胞や動物の実験のみならず臨床データの解析でも早くから観察されています。2006年にAmerican Heart Journal誌に掲載された2つの報告では冠動脈疾患患者の降圧薬治療2種を比較した試験INVESTのデータが解析され、ヒスパニック患者の同剤使用と糖尿病発症リスク低下の関連が認められています5,6)。より最近の2017年の報告ではベラパミル使用患者の2型糖尿病発現リスクが他のCaチャネル阻害薬に比べて低いことが確認されています7)。台湾の4万例超を調べた結果です。その翌年2018年には小規模とはいえ歴としたプラセボ対照二重盲検試験の結果が報告されるに至ります8,9)。試験には1型糖尿病と診断されてから3ヵ月以内の成人24例が参加し、ベラパミル投与に割り振られた11例の1年時点でのインスリン投与量はプラセボ投与群の13例に比べて少なくて済んでいました。また、β細胞機能がどれだけ残っているかを示すCペプチド分泌はベラパミル投与群がプラセボ群を35%上回りました。そして今回、小児患者を募ったプラセボ対照試験でもベラパミルの有益な効果が認められました1)。試験では1型糖尿病と診断されて1ヵ月以内の小児患者88例がベラパミルかプラセボに割り振られ、同剤使用群の1年時点でのCペプチド分泌は成人患者の試験結果と同じようにプラセボ群を30%上回りました。ただし、血糖値の推移を示すHbA1c、血糖値が目安の水準であった期間の割合、インスリン用量に有意差は認められませんでした。今後の課題としてベラパミルの効果の持続の程や最適な投与期間をさらなる試験で調べる必要があると著者は言っています。去年2022年11月に米国FDAは1型糖尿病の進展を遅らせる抗体薬teplizumabを承認しました。少なくとも30分間かけての1日1回の静注を14日間繰り返す同剤の費用は約20万ドル(19万3,900ドル)です3)。Cペプチドへの効果の程はというと、ベラパミルのプラセボ対照試験2つと同様に小規模の被験者58例の無作為化試験のteplizumab投与群のCペプチド分泌は1年時点でプラセボを20%ほど上回りました10)。Cペプチドへの効果がそこそこあって安くて忍容性良好なベラパミルのような経口薬は実用的であり11)、teplizumabのような他の薬剤との併用での活用がやがて実現するかもしれません4)。参考1)Forlenza GP, et al. JAMA. 2023 Feb 24. [Epub ahead of print]2)Verapamil shows beneficial effect on the pancreas in children with newly-diagnosed type 1 diabetes / Eurekalert3)Blood pressure drug helps pancreas function in type 1 diabetes. / Reuters4)Old Drug Verapamil May Have New Use in Type 1 Diabetes / MedScape5)Cooper-DeHoff RM, et al. Am Heart J. 2006;151:1072-1079.6)Cooper-DeHoff R, et al. Am J Cardiol. 2006;98:890-894.7)Yin T, et al. J Clin Endocrinol Metab. 2017;102:2604-2610.8)Ovalle F, et al. 2018;24:1108-1112.9)Human clinical trial reveals verapamil as an effective type 1 diabetes therapy. / Eurekalert10)Herold KC, et al. Diabetologia. 2014;56:391-400.11)Couper J. JAMA. 2023 Feb 24. [Epub ahead of print]

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第149回 今の日本の医療IoT、東日本大震災のイスラエル軍支援より劣る?(後編)

2月6日に発生したトルコ・シリア大地震のニュースを見て村上氏は東日本大震災時のイスラエル軍の救援活動を思い出します。後編の今回は、現在の日本が顔負けのIoTを駆使したイスラエル軍の具体的な支援内容についてお伝えします。前編はこちら 仮設診療所エリアには内科、小児科、眼科、耳鼻科、泌尿器科、整形外科、産婦人科があり、このほかに冠状動脈疾患管理室(CCU)、薬局、X線撮影室、臨床検査室を併設。臨床検査室では血液や尿の生化学的検査も実施できるという状態だった。ちなみにこうした診察室や検査室などはそれぞれプレハブで運営されていた。一般に私たちが災害時の避難所で見かける仮設診療所は避難所の一室を借用し、医師は1人のケースが多い。例えて言うならば、市中の一般内科クリニックの災害版のような雰囲気だが、それとは明らかに規模が違いすぎた。当時、仮設診療所で働いていたイスラエル人の男性看護師によると、これでも規模としては小さいものらしく、彼が参加した中米・ハイチの地震(2010年1月発生)での救援活動では「全診療科がそろった野外病院を設置し、スタッフは総勢200人ほどだった」と説明してくれた。この仮設診療所での画像診断は単純X線のみ。プレハブで専用の撮影室を設置していたが、完全なフィルムレス化が実行され、医師らはそれぞれの診療科にあるノートPCで患者のX線画像を参照することができた。ビューワーはフリーのDICOMビューアソフト「K-PACS」を使用。検査技師は「フリーウェアの利用でも診療上のセキュリティーもとくに問題はない」と淡々と語っていた。実際、仮設診療所内の診療科で配置医師数が4人と最も多かった内科診療所では「K-PACS」の画面で患者の胸部X線写真を表示して医師が説明してくれた。彼が表示していたのは肺野に黒い影のようなものが映っている画像。この内科医曰く「通常の肺疾患では経験したことのない、何らかの塊のようなものがここに見えますよね。率直に言って、この診療所での処置は難しいと判断し、栗原市の病院に後送しましたよ」と語った。ちなみに東日本大震災では、津波に巻き込まれながらも生還した人の中でヘドロや重油の混じった海水を飲んでしまい、これが原因となった肺炎などが実際に報告されている。内科医が画像を見せてくれた症例は、そうした類のものだった可能性がある。診療所内の薬局を訪問すると、イスラエル人の薬剤師が案内してくれたが、持参した医薬品は約400品目にも上ると最初に説明された。薬剤師曰く「持参した薬剤は錠剤だけで約2,000錠、2ヵ月分の診療を想定しました。抗菌薬は第2世代ペニシリンやセフェム系、ニューキノロン系も含めてほぼ全種類を持ってきたのはもちろんのこと、経口糖尿病治療薬、降圧薬などの慢性疾患治療薬、モルヒネなども有しています」と説明してくれ、「見てみます?」と壁にかけられた黒いスーツカバーのようなものを指さしてくれた。もっとも通常のスーツカバーの3周りくらいは大きいものだ。彼はそれを床に置くなり、慣れた手つきで広げ始めた。すると、内部はちょうど在宅医療を受けている高齢者宅にありそうなお薬カレンダーのようにたくさんのポケットがあり、それぞれに違う経口薬が入っていた。最終的に広げられたカバー様のものは、当初ぶら下げてあった時に目視で見ていた大きさの4倍くらいになった。この薬剤師によると、イスラエル軍衛生部隊では海外派遣を想定し、国外の気候帯や地域ブロックに応じて最適な薬剤をセットしたこのような医薬品バッグのセットが複数種類、常時用意されているという。海外派遣が決まれば、気候×地域性でどのバッグを持っていくかが決まり、さらに派遣期間と現地情報から想定される診療患者数を割り出し、それぞれのバッグを何個用意するかが即時決められる仕組みになっているとのこと。ちなみに同部隊による医療用医薬品の処方は南三陸町医療統轄本部の指示で、活動開始から1週間後には中止されたという。この時、最も多く処方された薬剤を聞いたところ、答えは意外なことにペン型インスリン。この薬剤師から「処方理由は、糖尿病患者が被災で持っていたインスリン製剤を失くしたため」と聞き、合点がいった。ちなみにイスラエルと言えば、世界トップのジェネリックメーカー・テバの本拠地だが、この時に持参した医薬品でのジェネリック採用状況について尋ねると、「インスリンなどの生物製剤、イスラエルではまだ特許が有効な高脂血症治療薬のロスバスタチンなどを除けば、基本的にほとんどがジェネック医薬品ですよ。とくに問題はないですね」とのことだった。この取材で仮設診療所エリア内をウロウロしていた際に、偶然ゴミ集積所を見かけたが、ここもある意味わかりやすい工夫がされていた。感染性廃棄物に関しては、「BIO-HAZARD」と大書されているピンクのビニール袋でほかの廃棄物とは一見して区別がつくようになっていたからだ。大規模な医療部隊を運営しながら、フリーウェアやジェネリック医薬品を使用するなど合理性を追求し、なおかつ患者情報はリアルタイムで電子的に一元管理。ちなみにこれは今から11年前のことだ。2020年時点で日常診療を行う医療機関の電子カルテ導入率が50~60%という日本の状況を考えると、今振り返ってもそのレベルの高さに改めて言葉を失ってしまうほどだ。

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2型糖尿病患者にも完全クローズドループポンプが有用

 これまで主として1型糖尿病の治療目的で研究開発が続けられている完全クローズドループインスリンポンプが、2型糖尿病患者の血糖コントロール改善にも役立つことを示す研究結果が報告された。英ケンブリッジ大学のCharlotte Boughton氏らの研究によるもので、詳細は「Nature Medicine」に1月11日掲載された。インスリン注射療法に比べて、血糖値が目標範囲内にある時間が長くなり、低血糖を増やすことなくHbA1cが低下したという。 インスリンは、全身の細胞で血糖をエネルギー源として利用する際に必要なホルモンであり、膵臓で産生されている。1型糖尿病は、膵臓のインスリン産生が絶対的に不足する病気。それに対して2型糖尿病は、膵臓のインスリン産生が少ないか、インスリンが作用する細胞の感受性が低下しているかのいずれか、または両方によって、インスリンが相対的に不足する病気。1型糖尿病患者は生存のためにインスリン療法が必須であり、2型糖尿病では一部の患者が血糖管理のためにインスリン療法が必要となる。 インスリン療法は一般的にはインスリン注射によって行われるが、1型糖尿病患者では必要なインスリンを自動的に注入し続けるインスリンポンプ療法も行われる。このポンプ療法は、インスリン療法の絶対的適応である1型糖尿病の治療法とされてきた。しかしBoughton氏によると、「2型糖尿病患者も2~3割はインスリン療法を行っている」といい、今回の研究から、「完全クローズドループシステムのインスリンポンプは、2型糖尿病の治療において、インスリン注射よりもはるかに効果的であることが示された」とのことだ。 1型糖尿病の患者が現在使っているクローズドループのインスリンポンプは、インスリンの必要量が急上昇する食事に合わせて投与量を調整するため、食事のタイミングや食べる量を患者自身が入力して設定するタイプが主流。それに対して今回の研究では、そのような必要のない完全クローズドループシステムと呼ばれるインスリンポンプが用いられた。このシステムでは、血糖センサーから得られる血糖変動の情報を基に、アルゴリズムによってインスリンの必要量が判断され、その量が自動的に投与される。患者は必要に応じて、スマホで血糖値を確認したり設定を変更する。 この研究の解析対象は、2型糖尿病患者26人〔平均年齢59±11歳、女性27%、BMI35.3±8.6、糖尿病罹病歴17.5±8.2年、インスリン療法歴8.5±6.9年、HbA1c9.0±1.4%、インスリン投与量の中央値0.70U/kg(四分位範囲0.54~1.31)〕。研究デザインはクロスオーバー法で、全体の半数は先に完全クローズドループシステムを用いた治療を8週間継続、残りの半数は先に、それまで通りインスリン注射による治療を実施。2~4週間のウォッシュアウト期間を置いて割り付けを切り替え、それぞれの治療を8週間継続した。 その結果、血糖値が70~180mg/dLの範囲にあった時間の割合は、完全クローズドループ条件で66.3%、インスリン注射条件で32.3%、平均血糖値は同順に165.6mg/dL、226.8mg/dL、HbA1cは7.3%、8.7%であり、いずれも完全クローズドループ条件の方が有意に良好だった(全てP<0.001)。低血糖(70mg/dL未満)の時間の割合は0.44%、0.08%であり、有意差がなかった(P=0.43)。 研究期間を通して重症低血糖(血糖値が40mg/dL未満、または他者の助けを必要とする状態)は発生しなかった。完全クローズドループ条件では、デバイスの問題が5人(6件)発生した。 これらの結果を総括してBoughton氏は、「完全クローズドループシステムの利用による血糖コントロールの改善は、網膜症、腎臓病、下肢切断などの糖尿病合併症のリスクを低下させる可能性がある。ただし、実際にそのような変化が現れるか否かは、大規模な長期間の研究が必要」と述べている。同氏は、「2型糖尿病の患者数は世界的に増加しており、かつ若年期での発症が増え、罹病期間が長期化している。インスリン療法が必要となった2型糖尿病患者は、誰でもこのシステムの恩恵を得ることができる」とも話している。 もっとも、従来のインスリン注射と指先穿刺による血糖測定での治療に比べて、この治療法はコストが増大する。米ノースカロライナ大学チャペルヒル校のJohn Buse氏によると、「現時点では、デバイス、消耗品、インスリン、およびサポート体制のために、年間約1万ドルかかる。ただ、このコストは時間の経過とともに低下していく」と説明する。同氏はまた、「血糖変動の少ない良好なコントロールによって、失明、腎不全、下肢切断、心臓発作、脳卒中などの合併症が減り、高血糖や低血糖による緊急入院の頻度も抑制されるだろう。さらに、感染症や認知機能の低下を含む、糖尿病に伴う多くの重要な健康障害のリスクも低下する可能性がある」と述べている。

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ガーデニングと料理の授業で小学生が健康に

 小学校でガーデニングと料理の授業を行うと、子どもたちの血糖値やコレステロール値が良好になるという研究結果が報告された。米テキサス大学オースティン校のJaimie Davis氏らの研究によるもので、結果の詳細は「JAMA Network Open」に1月10日掲載された。 Davis氏は、「砂糖を多く含む食事や飲料の摂取によって、成人だけでなく子どもたちの2型糖尿病のリスクが高くなることが分かっている。われわれは、学校でガーデニングと料理を教えることを通じて、野菜や果物がどのように育ち、食べるまでにはどのような手間がかかるのかを理解させ、子どもたちの食生活に影響を与えることを意図した。さらにそれによって、2型糖尿病などのリスクを抑制し得るかを評価したかった」と、研究目的を語っている。 「Texas Sprouts(テキサスの子どもたち)」と名付けられたこのプログラムは、テキサス州の低所得世帯の多い地域の小学校を中心に実施されている。子どもたちに対して1年度(9カ月間)にわたり、教育用庭園を用いてのガーデニング、栄養学、料理などの授業が18回行われ、また保護者に対しても月1回のペースで9回の講座が開かれる。Davis氏らの研究には、このプログラムを実施している16の小学校が参加。無作為に8校ずつの2群に分けて、1群はプログラムの開始を遅らせ、比較対照群とした。 解析対象は、採血検査などの同意が得られた695人。平均年齢は9.28±0.04歳で、男児が44.17%であり、65.03%は給食が無料または割引の対象となる低所得世帯の子どもだった。9カ月の介入前後でのHbA1cの変化量は、同期間の対照群の変化量より0.02%有意に大きく低下し(P=0.005)、LDL(悪玉)コレステロールの変化量も6.40mg/dLの差が見られた(P=0.048)。 一方、空腹時血糖値やインスリンインスリン抵抗性、中性脂肪、HDL(善玉)コレステロールの変化量には有意差がなかった。しかし、そうであってもDavis氏は、「われわれが過去20年間続けてきた、運動の奨励や食生活の改善を促すという介入は、このTexas Sproutsほど効果的ではなかった」と述べている。そして、「介入期間は1年度のみだが、うまくいけば子どもたちは介入終了後も、果物や野菜をよく摂取し、そのような食生活を成人になっても継続するかもしれない」と期待している。 米国の栄養と食事のアカデミーの元会長で、Texas Sproutsの活動を支持しているConnie Diekman氏は、「私はこのアイデアに大賛成だ。食べ物の好みは、学習により変えることができる。このプログラムは、子どもたちがより良い食習慣を身につけるための素晴らしい方法と言える」と評価し、より多くの学校が採用することを望んでいる。ただし同氏は、「身に付いている習慣は短期間では変わらない。この介入期間の終了はプログラムの終わりではなく、始まりと見なされるべきだ」との注意を付け加えている。

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患者向け広告費が高い医薬品とは?/JAMA

 米国では、医療用医薬品(処方薬)の消費者に向けた直接広告(direct-to-consumer[DTC]広告)が許可されている。米国・ジョンズホプキンス公衆衛生大学院のMichael J. DiStefano氏らは、DTC広告費が高い医薬品の特性を明らかにするための調査を実施した。その結果、2020年に売上高が上位を占めた医薬品の中で、総販促費に占めるDTC広告費の割合が高かったのは、付加的な臨床的有用性の評価は低いが総売上高が高い医薬品であったことが明らかになったという。JAMA誌2023年2月7日号掲載の報告。販促費に占めるDTC広告費は13.5% 研究グループは、2020年に米国での売上高が上位150品目の医薬品特性と販促費の関連を評価する目的で、探索的な横断研究を行った(Arnold Venturesなどの助成を受けた)。フランスとカナダの医療技術評価機関(France's Haute Autorite de Sante、Canada's Patented Medicine Prices Review Board)と医薬品データソース(Drugs@FDA、FDA Purple Book、Lexicomp、Merative Marketscan Research Databases、Medicare Spending by Drug data)により、医薬特性(2020年総売上高、2020年総販促費、臨床的有用性評価、適応症数、適応外使用、分子タイプ、治療を受けた患者の症状概要、投与タイプ、後発品有無、FDA承認年、WHO解剖治療化学分類、メディケア加入者の年間平均支出、売上に占める当該医薬品の割合、市場規模、市場競争力)を評価した。 2020年に、販促費に占めるDTC広告費の割合の中央値は13.5%(四分位範囲[IQR]:1.96~36.6)であり、販促費中央値は2,090万ドル(IQR:272万~1億3,100万)であった。また、総売上高中央値は15億1,000万ドル(IQR:9億7,000万~22億6,000万)で、製薬企業の売上高に占める当該医薬品の割合の中央値は7.9%(IQR:4.2~17.7)だった。 臨床的有用性の評価を受けた135品目のうち92品目(68%)は、付加的な有用性が低いと判定された。また、売上高上位150品目のうち76品目(51%)は、2012年以降に承認されたものであった。販促費の80%以上がDTC広告費に充てられた医薬品は12品目だった。総売上高10%増ごとに、DTC広告費が1.5%上昇 付加的な臨床的有用性が低い医薬品は高い医薬品に比べ、販促費全体に占めるDTC広告費の割合が14.3%(95%信頼区間[CI]:1.43~27.2、p=0.03)高かった。また、当該医薬品の総売上高が10%増加するごとに、DTC広告費の占める割合が1.5%(95%CI:0.44~2.56、p=0.005)上昇した。 WHO分類による消化管・代謝関連の医薬品(インスリン製剤、血糖降下薬を含む)は、他のすべての医薬品分類に比べ、販促費全体に占めるDTC広告費の割合が19.4~38.6%低く、統計学的に有意な差が認められた(いずれもp<0.05)。 著者は、「これらの知見の意味を理解するには、さらなる研究が必要である」としている。

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GLP-1受容体作動薬・TAZ/PIPC、重大な副作用追加で添文改訂/厚労省

 厚生労働省は2023年2月14日、GLP-1受容体作動薬含有製剤およびGIP/GLP-1受容体作動薬チルゼパチドの添付文書について、改訂を指示した。改訂内容は、『重要な基本的注意』の項への「胆石症、胆嚢炎、胆管炎または胆汁うっ滞性黄疸に関する注意」の追記(チルゼパチドは「急性胆道系疾患に関する注意」からの変更)、『重大な副作用』の項への「胆嚢炎、胆管炎、胆汁うっ滞性黄疸」の追加である。本改訂は、GLP-1受容体作動薬含有製剤投与後に発生した「胆嚢炎、胆管炎、胆汁うっ滞性黄疸」の国内症例の評価、GLP-1受容体作動薬と急性胆道系疾患との関連性を論じた公表文献の評価に基づくもの。なお、チルゼパチドについては関連する症例集積はないものの、GLP-1受容体に対するアゴニスト作用を有しており、GLP-1受容体作動薬と同様の副作用が生じる可能性が否定できないことから、使用上の注意の改訂が適切と判断された。『重要な基本的注意』が新設・変更<新設>リラグルチド(遺伝子組換え)、エキセナチド、リキシセナチド、デュラグルチド(遺伝子組換え)、セマグルチド(遺伝子組換え)、インスリン デグルデク(遺伝子組換え)/リラグルチド(遺伝子組換え)、インスリン グラルギン(遺伝子組換え)/リキシセナチド<変更>チルゼパチド 改訂後の添付文書において追加された記載、変更後の記載は以下のとおり。8. 重要な基本的注意 胆石症、胆嚢炎、胆管炎又は胆汁うっ滞性黄疸が発現するおそれがあるので、腹痛等の腹部症状がみられた場合には、必要に応じて画像検査等による原因精査を考慮するなど、適切に対応すること。『重大な副作用』が新設 該当医薬品は、リラグルチド(遺伝子組換え)、エキセナチド、リキシセナチド、デュラグルチド(遺伝子組換え)、セマグルチド(遺伝子組換え)、インスリン デグルデク(遺伝子組換え)/リラグルチド(遺伝子組換え)、インスリン グラルギン(遺伝子組換え)/リキシセナチド、チルゼパチド。 改訂後の添付文書において追加された記載は以下のとおり。11. 副作用11.1 重大な副作用胆嚢炎、胆管炎、胆汁うっ滞性黄疸「急性胆道系疾患関連症例」*の国内症例の集積状況(1)13例[うち、医薬品と事象との因果関係が否定できない症例8例](2)、(5)3例[うち、医薬品と事象との因果関係が否定できない症例1例](3)4例[うち、医薬品と事象との因果関係が否定できない症例1例](4)23例[うち、医薬品と事象との因果関係が否定できない症例6例](6)、(7)1例[うち、医薬品と事象との因果関係が否定できない症例0例](8)0例いずれも死亡例はなかった。(1)リラグルチド(遺伝子組換え)[販売名:ビクトーザ皮下注18mg](2)エキセナチド[販売名:バイエッタ皮下注5/10μgペン300、ビデュリオン皮下注用 2mgペン](3)リキシセナチド[販売名:リキスミア皮下注300μg](4)デュラグルチド(遺伝子組換え)[販売名:トルリシティ皮下注0.75mgアテオス](5)セマグルチド(遺伝子組換え)[販売名:オゼンピック皮下注0.25/0.5/1.0mgSD、同皮下注2mg、リベルサス錠3/7/14mg](6)インスリン デグルデク(遺伝子組換え)/リラグルチド(遺伝子組換え)[販売名:ゾルトファイ配合注フレックスタッチ](7)インスリン グラルギン(遺伝子組換え)/リキシセナチド[販売名:ソリクア配合注ソロスター](8)チルゼパチド[販売名:マンジャロ皮下注2.5/5/7.5/10/12.5/15mgアテオス]*:医薬品医療機器総合機構における副作用等報告データベースに登録された症例タゾバクタム・ピペラシリン水和物にも『重大な副作用』が新設 同日、タゾバクタム・ピペラシリン水和物の添付文書についても改訂が指示され、『重大な副作用』の項へ「血球貪食性リンパ組織球症(血球貪食症候群)」が追加された。改訂後の添付文書に追加された記載は以下のとおり。<旧記載要領>4. 副作用(1)重大な副作用(頻度不明)11)血球貪食性リンパ組織球症(血球貪食症候群)血球貪食性リンパ組織球症があらわれることがあるので、観察を十分に行い、発熱、発疹、神経症状、脾腫、リンパ節腫脹、血球減少、LDH上昇、高フェリチン血症、高トリグリセリド血症、肝機能障害、血液凝固障害等の異常が認められた場合には、投与を中止し、適切な処置を行うこと。<新記載要領>11. 副作用11.1 重大な副作用11.1.11 血球貪食性リンパ組織球症(血球貪食症候群)(頻度不明)発熱、発疹、神経症状、脾腫、リンパ節腫脹、血球減少、LDH上昇、高フェリチン血症、高トリグリセリド血症、肝機能障害、血液凝固障害等の異常が認められた場合には、投与を中止し、適切な処置を行うこと。

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triple agonist LY3437943はdual agonist チルゼパチドを凌駕する薬剤となりうるか?(解説:住谷哲氏)

 GLP-1受容体およびGIP受容体のdual agonistであるチルゼパチドは昨年製造承認されたばかりであるが、すでにその次の薬剤としてのGLP-1受容体、GIP受容体およびグルカゴン受容体に対するtriple agonistであるLY3437943(triple Gと呼ばれている)の第Ib相試験の結果が報告された。その結果は、血糖降下作用および体重減少作用の点でGLP-1受容体作動薬デュラグルチドより優れており、有害事象の点でも問題はなく、第II相試験への移行を支持する結果であった。 DPP-4阻害薬、GLP-1受容体作動薬などのインクレチン関連薬の血糖降下作用を説明する際には、これまでインスリン分泌促進作用だけではなくグルカゴン作用の抑制も強調されてきた。グルカゴンはその名称が示すように肝臓での糖新生を促進するホルモンである。2型糖尿病患者の高血糖にはグルカゴン作用が影響しており、グルカゴン作用を抑制することが血糖降下につながると説明されてきた。つまり単純に考えるとグルカゴン作用を増強すれば血糖は上昇すると考えるのが普通だろう。そこが生命の神秘というか、グルカゴン作用を増強するtriple agonist LY3437943はGLP-1受容体作動薬単剤よりも血糖および体重をより低下させることが示された。グルカゴン作用を増強することで血糖および体重が低下したメカニズムは本試験の結果からは明らかではないが、グルカゴンの持つエネルギー消費量energy expenditureの増大、肝細胞での脂肪酸β酸化の増大などが関与しているのかもしれない。 タイトルにあるチルゼパチドとの直接比較ではないので現時点ではどちらの血糖降下作用、体重減少作用が勝っているかは明らかではない。しかしtriple Gがすべての点でチルゼパチドを凌駕していればチルゼパチドを処方する必要はなくなるので、Lillyとしては難しい経営判断が必要になりそうである。

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治療抵抗性双極性障害治療の現在と今後の方向性

 双極性障害は世界人口の1~2%に影響を及ぼすとされる慢性的な精神疾患であり、うつ病エピソードが頻繁に認められ、約3分の1の患者では適切な用量による薬物治療に反応が得られないといわれている。治療抵抗性双極性障害(TRBD)の明確な基準は存在しないが、2つの治療薬による適切な治療を行ったにもかかわらず効果不十分である場合の対処は、TRBD治療の重要な課題である。米国・ルイビル大学のOmar H. Elsayed氏らは、TRBDに対する治療介入、課題、潜在的な今後の方向性について、エビデンスベースでの確認を行った。その結果、TRBDの現在の治療法に関するエビデンスは限られており、その有効性は低かった。TRBDの効果的な治療法や革新的なアプローチは研究中であり、今後の研究結果が待ち望まれる。Neuropsychiatric Disease and Treatment誌2022年12月16日号の報告。 PubMedよりTRBD治療に関連するランダム化対照試験、ClinicalTrials.govよりTRBD/双極性うつ病治療に関連する進行中の試験を検索した。 主な結果は以下のとおり。・プラミペキソールおよびモダフィニルによる補助療法の短期的な有効性を裏付けるデータ、ラセミ体ケタミンの静脈内投与の限定されたデータが報告されている。・インスリン抵抗性患者におけるエスシタロプラムのセレコキシブ増強療法とメトホルミン治療は、有望な結果が示されている。・右片側電気けいれん療法は、有意なレスポンス率と改善を示したが、薬物療法と比較し有意な寛解は認められていない。・経頭蓋磁気刺激(TMS)療法は、TRBDの偽治療と比較し、有意な差は認められていない。・新規作用機序を有するブレクスピプラゾールやボルチオキセチンによる薬理学的治療は、単極性うつ病に対する有効性に続いて試験が行われている。・短期集中TMS療法(aTMS)などのTMSプロトコールの調査も行われている。・革新的なアプローチとして、サイケデリック支援療法、インターロイキン2、糞便移植療法、多能性間質細胞などによる治療の研究が行われている。

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2型糖尿病の子どもの4人に1人は肥満でない

 子どもの2型糖尿病は、小児肥満と関連付けられて語られることが多い。しかし世界的に見ると、2型糖尿病の患児の4人に1人は肥満ではないとする研究結果が報告された。特にアジアはほかの地域に比べて、肥満を伴う患児の割合がより低いという。マクマスター大学(カナダ)のConstantine Samaan氏らの研究によるもので、詳細は「JAMA Network Open」に12月15日掲載された。同氏は、「この結果は、子どもの2型糖尿病は多様性の高い疾患であることを示している」と述べている。 Samaan氏らは、小児2型糖尿病における肥満の有病率を報告した研究を対象とするシステマティックレビューとメタ解析を実施。MEDLINE、Embase、CINAHL、Cochrane Library、Web of Scienceに2022年6月16日までに収載され、少なくとも10人以上の小児を研究対象としている論文を検索。53件(研究対象者数の合計8,942人)の研究報告をメタ解析の対象とした。 その結果、2型糖尿病患児の肥満有病率は75.27%(95%信頼区間70.47~79.78)であり、2型糖尿病診断時点の肥満有病率(解析対象者数4,688人)は77.24%(同70.55~83.34)であることが明らかになった。性別にみると男児は女児よりも肥満を伴っていることが多かった〔オッズ比2.10(1.33~3.31)〕。また人種別ではアジア人の肥満有病率が64.50%(53.28~74.99)と低く、白人は89.86%(71.50~99.74)と高かった。 肥満を伴わない小児2型糖尿病が少なくないという結果が得られたことから、Samaan氏らはその理由を考察し、いくつか候補を挙げた。一つの可能性は、肥満によって糖尿病発症後、診断が遅れて病態が進行した結果として体重が減少した子どもが含まれているというものであり、もう一つの可能性として、遺伝因子などが関与した「その他の型の糖尿病」が2型糖尿病と診断されているという考え方が候補に挙がった。しかし同氏によると、いずれの考え方も、今回の研究で示された結果をうまく説明できなかったという。現時点で同氏らは、非肥満でもインスリン抵抗性を生ずる、またはインスリンを十分産生できない子どもが一定数存在するのではないか、との仮説を立てている。 子どもの糖尿病と言えば、かつては1型糖尿病を指すことが多かった。しかし米国では過去数十年の間で、1型と2型、双方の小児糖尿病が増加してきた。米疾病対策センター(CDC)によると、20歳未満の2型糖尿病の患者数は2001年から2017年の間に95%増加し、2017年には米国の10~19歳の人口10万人あたり67人が2型糖尿病に罹患しているという。 本研究には関与していない、米シダーズ・サイナイ医療センターのBahareh Schweiger氏は、「報告された結果は、小児2型糖尿病の主要な原因が肥満であることを改めて認識させるものではあるが、それとともに、肥満以外のリスク因子が存在していることを示しており、臨床医はその点を念頭に置く必要がある」と述べている。同氏によると、肥満と判定されない程度の体重増加も2型糖尿病のリスクとなると考えられ、新型コロナウイルス感染症パンデミックに伴う生活習慣の変化も、そのような傾向に影響を及ぼしている可能性があるという。また、「子どもの睡眠習慣、受動喫煙、ストレスレベルなどがエピジェネティックな影響、つまり塩基配列の変化を伴わない遺伝子的変化を引き起こしていないかという点も知りたいところだ」と同氏は述べている。

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1型糖尿病は子どもの学業成績に影響を及ぼしていない

 1型糖尿病の子どもは、そうでない子どもよりも学校を欠席することが多いが、学業成績や大学進学率は差がないことを示すデータが報告された。英カーディフ大学のRobert French氏らの研究によるもので、詳細は「Diabetes Care」に12月1日掲載された。 この研究は、2009~2016年に英国の義務教育年齢(6~16歳)だった、ウェールズ地方の学校の生徒の通学や進学の状況を解析するという手法で行われた。解析対象となった生徒のうち、糖尿病でない生徒が26万3,426人、1型糖尿病と診断されていた生徒が1,212人含まれていた。評価項目として、欠席日数、16歳時点の学業成績、18歳以上の高等教育への進学率が設定され、また血糖コントロール状況とそれらとの関連も調査された。 まず欠席日数に着目すると、1型糖尿病の生徒は年平均約9セッション欠席していた(この研究では半日を1セッションと定義)。HbA1cの五分位で5群に分類して比較すると、最も厳格にコントロールしている第1五分位群は年約7セッションの欠席であった。反対にコントロールに難渋している第5五分位群は年約15セッション欠席していた。 French氏は、「最も重要なことは、1型糖尿病の子どもたちは学校を欠席しがちであるにもかかわらず、おしなべて非常によくやっているということだ。家族と子どもたちの負担は少なくないが、彼らは頑張っている」と語る。同氏の評価は、学業成績が糖尿病でない生徒との間に有意差がなく、高等教育課程への進学率も同等〔オッズ比1.067(95%信頼区間0.919~1.239)〕という結果に基づくもの。 ただし、血糖コントロールの達成状態別に見ると、糖尿病の管理に苦労している生徒は勉強面でも苦労している状況が浮かび上がった。例えば、HbA1c第1五分位群の生徒の学業成績や進学率は、糖尿病でない子どもの平均よりも有意に優れていた一方で、HbA1c第5五分位群の生徒は有意に低い値だった。なお、糖尿病罹病期間は、学業成績や進学率と有意な関連がなかった。 1型糖尿病は、膵臓がインスリンをほとんど、または全く分泌しなくなる病気。患者は1日数回のインスリン注射により高血糖を防ぎ、かつ血糖値の下がり過ぎを防ぐために血糖測定を繰り返したり、補食(低血糖の予防や改善のための軽い食事)を取ったりする必要に迫られる。「学校教育と医療関係者は、1型糖尿病の子どもたちとその家族に、さらに多くの支援を提供する必要がある。それによって、より多くの1型糖尿病患児が、健康的に成長し、学業を伸ばし、可能性を最大限に発揮できるのではないか」と、French氏は語っている。 今回の研究報告に関連して、米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)のChristina Reh氏は、「糖尿病の子どもたちの欠席を完全になくすことは困難だ。たとえ糖尿病を適切にコントロールできていたとしても、年に4回は専門医の診察を受ける必要がある。また、糖尿病に関連する何らかの理由で欠席しなければならないこともある」と話す。そして、「本研究の結果は、糖尿病の子どもたちが糖尿病でない子どもと同等の学業成績を収めていることを示していて、心強い」と論評。ただし、「メンタル面の問題や家族の支援の不足など、1型糖尿病の治療に多くの障壁を抱えている子どもほどHbA1cが高い傾向がある。そのような患児は、学校でも何らかの問題に直面していることが多い可能性がある」とも付け加えている。

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アラーム付き間歇スキャンCGM vs. SMBG-試合前から勝負あり?(解説:住谷哲氏)

 持続グルコース測定器(continuous glucose monitoring:CGM)は大きく分けて3種類ある。現在わが国で使用できる機器も併せて記載すると、(1)リアルタイムCGM(real-time CGM[rtCGM]):そのときの血糖値が常に測定表示されるもの(Dexcom G6、ガーディアン コネクト)、(2)間歇スキャンCGM(intermittently scanned CGM[isCGM]、flash glucose monitoring[FGM]とも呼ばれる):患者がセンサーをスキャンしたときにのみグルコース値が表示されるもの(フリースタイルリブレ)、(3)professional CGM(pCGM):患者はグルコース値を装着中に見ることができず検査終了後に解析するもの(フリースタイルリブレPro)、になる。最も汎用されているのはフリースタイルリブレであるが、欧米ではすでに低血糖・高血糖アラーム付きのフリースタイルリブレ2にほぼ移行しており、他の新規医療機器と同じくわが国は周回遅れの状況である。 現在の糖尿病診療においてCGMの活用は血糖管理に必要不可欠のものとなりつつある。2019年にCGMデータ解釈に関するコンセンサスステートメントが報告されてから、TIR(time in range)やGMI(glucose management indicator)などの指標も次第に普及してきた1)。新規薬剤と同じく、その普及にはCGMの市場を広げたい企業の競争も大きく影響している。現時点ではrtCGMのDexcomとisCGMのAbbottが火花を散らしているが、アラーム付きのrtCGMであるDexcom G6が血糖管理においてはAbbottのフリースタイルリブレを一歩リードしている2)。そこにAbbottが送り込んだのがアラーム付きのフリースタイルリブレ2(本邦未発売)である。本来であればDexcom G6 vs.フリースタイルリブレ2の直接比較試験が望ましいが、本論文FLASH-UKは残念ながらフリースタイルリブレ2 vs.SMBGの比較試験である。その結果は、フリースタイルリブレ2群が24週後のHbA1cの低下度および<70mg/dLの低血糖時間に関してSMBG群に比較して優れていた。これまでのCGMの有効性に関する報告からこの結果は試験前から当然予想されたように筆者には思われるが、きちんとしたRCTで証明した点がNEJM誌に掲載された理由だろう。 2022年4月の診療報酬改定で、フリースタイルリブレがインスリン使用中のすべての糖尿病患者に対して保険診療で使用可能となった。さらに同年12月にはDexcom G6も保険診療上はフリースタイルリブレと同じ扱いとなり、今後は使用患者の増加が予想される。またCGMのデータをApple Watchに代表されるsmart watchで読み取ることも可能となりつつあり、血糖管理のハイテク化はまだまだ続きそうである。

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