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キエジ・ファーマ・ジャパン、希少疾患に注力 脂肪萎縮症治療薬メトレレプチンを承継

 2024年7月19日、キエジ・ファーマ・ジャパン株式会社は塩野義製薬株式会社からメトレレプチン(遺伝子組み換え)皮下注用製剤の製造販売承認承継の詳細と日本における今後の事業戦略などについて記者会見を開催した。 今回のセミナーでは、キエジグループ取締役 希少疾患事業部門長 ジャコモ・キエジ氏、キエジグループ希少疾患事業部 欧州および成長市場責任者 エンリコ・ピッチニーニ氏、キエジ・ファーマ・ジャパン 代表取締役社長 中村 良和氏らがそれぞれグループの歴史や事業戦略、日本法人のビジョンや事業戦略について説明を行った。キエジグループの歴史、研究開発について 初めにジャコモ・キエジ氏がグループの概要について発表した。 キエジグループは1935年にイタリアのパルマで設立された家族経営の企業であり、現在は80ヵ国以上で医薬品を製造・販売している。2023年には収益が30億ユーロを超え、7,000人の従業員、7つの研究開発センターを持つ企業へと成長した。 キエジグループでは研究開発に力を入れており、売り上げの約25%を研究開発に投資しているが、その目的は革新的な医薬品を開発することでよりグローバルな企業に成長することで、より多くの患者さんに新しい治療を届けることができると考えている。 注力している領域はいくつかあるが、とくに希少疾患に関しては4年前に新たに希少疾患部門を立ち上げ、買収、ライセンス契約などで10製品のラインナップがあり、パイプラインも豊富である。日本では今後キエジグループのパイプラインにあるすべての製品の上市が検討されている。 「私たちは患者さん中心の事業展開をしており、日本でもその姿勢を貫きたい」とキエジ氏は述べ、発表を終えた。希少疾患部門の戦略 続いて、エンリコ・ピッチニーニ氏から希少疾患部門の事業戦略についての発表があった。 希少疾患部門は2020年の立ち上げ以降、製品数を増やす、部門の人数は現在700人を超えている。 キエジグループの希少疾患部門が重点的に取り組んでいるのは先天代謝異常、内分泌代謝疾患、希少血液などの領域であり、ファブリー病や全身性脂肪萎縮症など10以上のパイプラインがある。 キエジグループのミッションは「患者さんに貢献すること」であり、世界中のさまざまな患者団体と連携し、協力関係を結ぶことで、患者さんのニーズを迅速に聞くことに注力している。日本でもこのアプローチを踏襲する予定だ。 今後の事業戦略としては、まず中核となる事業を構築し、戦略的に周辺領域へ着実に最大化すること、可能性を最大化することでサイクルを回し、成長していきたいと考えている。具体的には新たな顧客層を拡大するだけでなく、適応症の拡大や新たな地域への参入、診断支援による早期診断支援、新たなモダリティへの支援などさまざまな角度からの施策を考えている。 「私たちの製品を本当に必要としている人がいる場所に参入していきたい」と今後の展望についてピッチニーニ氏は締めくくった。キエジ・ファーマ・ジャパンの開発戦略について 最後にキエジ・ファーマ・ジャパンの代表取締役社長である中村 良和氏が日本でのビジョンなどについて発表した。 キエジ・ファーマ・ジャパンの特徴は“量より質、少数精鋭”である。少なくともメンバー全員が10年以上の希少疾患領域での経験を持っている。規模が小さい分、迅速に動けるため希少疾患に向いている。 また、今回承継するメトレレプチンの適応は脂肪萎縮症であり、発症は100万人に1人程度、国内患者数は約100人、平均寿命は30~40歳程度と極めて稀で重篤な疾患である。非常に発見が難しく、未診断の患者さんが多く存在する可能性があるため、痩せているインスリン抵抗性の糖尿病患者さんを見かけた場合は疑ってほしい、と中村氏は語った。 今後の日本における開発戦略と現状については、市場性などを考慮して戦略を考えている。今後開発を考えている疾患は、鎌状赤血球症(異常ヘモグロビン症)、サラセミア(地中海貧血)、α-マンノシドーシス、レーベル遺伝性視神経症、ファブリー病、表皮水疱症である。このうち、いくつかの疾患は患者数が10人程度の疾患もあるが、患者さんがいるのであれば発売したい、と中村氏は熱弁した。 とくに、表皮水疱症の治療薬については、塗り薬であることと、すでに米国、欧州で承認をされているため、ベースの治療薬になるのではないかと考えて戦略を策定中である、とのことであった。 「開発中の製品についてはすべて自社販売の方針であるが、少数精鋭のため学会などを含めて活動を行っていきたい」、と述べて中村氏は発表を終えた。 なお、メトレレプチンは2024年7月24日にキエジ・ファーマ・ジャパンが製造販売承認を承継し、メトレレプチン皮下注用11.25mg「キエジ」としてキエジ・ファーマ・ジャパンが販売および情報提供活動を行う。薬価収載は8月の予定。

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低血糖時に慌てないための方法(Dr.坂根のすぐ使える患者指導画集)

患者さん用画 いわみせいじCopyright© 2022 CareNet,Inc. All rights reserved.説明のポイント(医療スタッフ向け)診察室での会話患者 先日、低血糖になって…医師 どんな感じだったんですか?(低血糖エピソードの経過について尋ねる)患者 変な汗が出てきて、スキャンしたら血糖が58でこれはヤバいと思って、近くにある菓子パンやジュースを飲んだんですけど…その後、高血糖になって、インスリンで修正したら、下がり過ぎて…。医師 なるほど。血糖値がジェットコースターみたいだったんですね。患者 そうなんです。また、低血糖になったら、どうしようかと心配で…。医師 それなら、「15-15ルール」を活用してみてください。低血糖になったら15g程度の炭水化物、ロールパン1個ぐらいですね。それをとってから、15分後に血糖を確認してみてください。もし、まだ低いようなら15gの炭水化物を追加してみてください。患者 なるほど。今まで、慌てて、とり過ぎていました。画 いわみせいじポイント低血糖後の高血糖を予防するために、「15-15ルール」について具体例をあげてわかりやすく説明します。Copyright© 2022 CareNet,Inc. All rights reserved.

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診療科別2024年上半期注目論文5選(糖尿病・代謝・内分泌内科編)

Post-trial monitoring of a randomised controlled trial of intensive glycaemic control in type 2 diabetes extended from 10 years to 24 years (UKPDS 91)Adler AI, et al. Lancet. 2024;404:145-155.<UKPDS 91>:早期からの血糖強化管理による糖尿病合併症低減効果は24年間持続する血糖の早期強化管理により合併症リスクが有意に低減し、その効果が長期にわたり持続する(メタボリックメモリー)ことを実証したUKPDSのさらなる延長報告です。まさに「鉄は熱いうちに打て」です。その効果はメトホルミンでもインスリン・SU薬でも認められました。Dapagliflozin in Myocardial Infarction without Diabetes or Heart FailureJames S, et al. NEJM Evid. 2024;3:EVIDoa2300286.<DAPA-MI>:急性心筋梗塞で入院した心不全・糖尿病のない患者において、ダパグリフロジンはプラセボと比較して総死亡・心不全入院のリスク低減効果に有意差なしSGLT2阻害薬は冠動脈疾患2次予防や心不全入院リスク低減の効果を有することが実証されていますが、それぞれのハイリスク者に限定した効果であることが示唆されました。同時期に、エンパグリフロジンでも同様の結果が報告されています(Butler J, et al. N Engl J Med. 2024;390:1455-1466)。Semaglutide in Patients with Obesity-Related Heart Failure and Type 2 Diabetes.Kosiborod MN, et al. N Engl J Med. 2024;390:1394-1407.<STEP-HFpEF DM>:2型糖尿病を有する肥満関連心不全(HFpEF)患者において、セマグルチドはプラセボと比較して有意に症状スコア(KCCQ-CSS)を改善体重減少が心不全症状改善の主因だと思われますが、 GLP-1受容体作動薬による血行動態改善作用も関与したことが想定されています。本研究では心不全入院や心不全急性増悪といった臨床的アウトカムを評価できるほどの検出力はありませんでした。非糖尿病患者においても同様の結果が報告されています(Kosiborod MN, et al. N Engl J Med. 2023;389:1069-1084)。Effects of Semaglutide on Chronic Kidney Disease in Patients with Type 2 Diabetes Perkovic V, et al. N Engl J Med. 2024;391:109-121.<FLOW>:2型糖尿病を有するCKD患者において、セマグルチドはプラセボと比較して有意にCKD進展を抑制GLP-1受容体作動薬には腎保護作用があることが期待されており、その機序として体重減少の他に、抗炎症・抗酸化ストレス・抗線維化作用が想定されています。本研究はCKD進展抑制を実証した点で臨床的意義が大きいでしょう。ただし、低リスク者での効果やSGLT2阻害薬等との併用効果を実証した質の高いエビデンスはまだありません。Effect of Fenofibrate on Progression of Diabetic RetinopathyPreiss D, et al. NEJM Evid. 2024:EVIDoa2400179.<LENS>:フェノフィブラートはプラセボと比較して早期糖尿病網膜症の進展を有意に抑制フェノフィブラートが中性脂肪低下作用とは独立して網膜保護効果を有することが示されました(本研究での中性脂肪中央値は138mg/dL)。本剤は腎機能低下者では投与禁忌である点や日本では網膜症への保険適用がない点に気をつけましょう。

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糖尿病は過活動膀胱の有病率を押し上げる

 糖尿病や糖代謝関連マーカーと過活動膀胱(OAB)の有病率が、有意に正相関するとする研究結果が報告された。この関連の背景として、全身の慢性炎症が関わっているという。福建医科大学第二付属病院(中国)のQingliu He氏らの研究によるもので、詳細は「Frontiers in Endocrinology」に4月29日掲載された。 近年、糖尿病とOABとの潜在的な関連を示唆する研究報告が散見される。この関連のメカニズムとして、全身性慢性炎症の関与を指摘する報告もある。ただし、大規模な疫学研究のデータはまだ不足しており、両者の関連の機序の詳細も明らかでない。これを背景としてHe氏らは、糖尿病や高血糖とOAB有病率の関連、およびその関連に慢性炎症が及ぼす影響を検討した。 この研究には、2007~2018年の米国国民健康栄養調査(NHANES)のデータが利用された。NHANESでは、過活動膀胱症状スコア(OABSS)が調査に用いられており、OABSSが3点以上の場合にOABと定義した。解析対象はデータ欠落のない2万3,863人(平均年齢49.7±17.6歳、男性49.7%、BMI29.3±7.0)で、このうち4,894人(20.5%)がOABと判定された。 OAB群と非OAB群を比較すると、前者は高齢で女性が多く、BMIが高値という有意差があった。また、HbA1c(6.2±1.4対5.7±1.0%)、空腹時血糖値〔FPG(120.6±46.8対108.0±32.4mg/dL)〕、インスリン値(15.6±19.0対13.4±17.5μU/mL)という糖代謝関連指標も、全てOAB群の方が高値だった(全てP<0.001)。 年齢、性別、BMI、人種、教育歴、喫煙・飲酒習慣、座位時間、所得、高血圧・虚血性心疾患・心不全・脳卒中などを調整後、糖尿病(HbA1c6.5%以上などで定義)ではOABのオッズ比(OR)が77%高く〔OR1.77(95%信頼区間1.62~1.94)〕、前糖尿病(HbA1c6.0~6.4%などで定義)でもOABが多く見られた〔OR1.26(同1.06~1.53)〕。また、HbA1c、FPG、インスリン値のいずれも、高値であるほどOABのオッズ比が上昇するという有意な非線形の関連が認められた。 次に、糖代謝関連指標とOABとの関連に全身性慢性炎症が関与している可能性を想定し、炎症マーカー(白血球、好中球、リンパ球、血小板数)の寄与度を媒介分析で検討した。その結果、白血球はOABとHbA1c、FPG、インスリン値との関連の、それぞれ7.23%、8.08%、17.74%を媒介し、好中球は同順に6.58%、9.64%、17.93%を媒介していることが分かった。リンパ球と血小板数については、有意な媒介効果が見られなかった。続いて行った機械学習を用いた検討により、HbA1cがOABを予測する最も重要な指標であることが示された。 著者らは、「これらの結果に基づきわれわれは、糖尿病は全身性の慢性炎症を惹起し、それによってOABのリスクを高める可能性があるという仮説を立てている」と述べている。

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週1回投与の基礎インスリン製剤「アウィクリ注フレックスタッチ総量300単位/同700単位」【最新!DI情報】第19回

週1回投与の基礎インスリン製剤「アウィクリ注フレックスタッチ総量300単位/同700単位」今回は、週1回持効型溶解インスリンアナログ注射液「インスリン イコデク(遺伝子組換え)(商品名:アウィクリ注フレックスタッチ総量300単位/同700単位、製造販売元:ノボ ノルディスク ファーマ)」を紹介します。本剤は、世界初の週1回投与の基礎インスリン製剤であり、QOLやアドヒアランスの向上が期待されています。<効能・効果>インスリン療法が適応となる糖尿病の適応で、2024年6月24日に製造販売承認を取得しました。<用法・用量>通常、成人では1週間に1回皮下注射します。初期は通常1回30~140単位とし、患者の状態に応じて適宜増減します。他のインスリン製剤の投与量を含めた維持量は、通常1週間あたり30~560単位ですが、必要により上記用量を超えて使用することもあります。<安全性>重大な副作用として、低血糖やアナフィラキシーショック(頻度不明)があります。低血糖は臨床的に回復した場合にも再発することがあるので、継続的な観察が必要です。とくに、本剤は週1回投与の持続性がある薬ですので、回復が遅延する恐れがあります。その他の主な副作用として、糖尿病性網膜症、体重増加(1~5%未満)、注射部位反応、空腹、浮動性めまい、悪心・嘔吐、多汗症、筋痙縮(0.2~1%未満)などがあります。<患者さんへの指導例>1.この薬は、生理的なインスリンの基礎分泌を補充する目的で使用される自己注射薬です。週1回投与する注射薬ですので、同一曜日に投与してください。2.自己判断で使用を中止したり、量を加減したりせず、医師の指示に従ってください。3.高所での作業や自動車の運転など、危険を伴う作業に従事しているときに低血糖を起こすと事故につながる恐れがありますので、とくに注意してください。4.他のインスリン製剤と併用することがあります。この薬と他のインスリン製剤を取り違えないように、毎回注射する前にラベルなどを確認してください。<ここがポイント!>本剤は、世界で初めてとなる週1回投与の基礎インスリン製剤です。従来のインスリン製剤では、1日1回もしくは2回の皮下注射が必要だったので、投与回数が大幅に減少し、患者さんの負担軽減により、生活の質やアドヒアランスの向上が期待できます。インスリン イコデクは、投与後に強力かつ可逆的にアルブミンと結合し、その後、緩徐にアルブミンから解離することで、血糖降下作用が1週間にわたって持続します。インスリン治療歴のない2型糖尿病患者を対象とした第III相国際共同試験(ONWARDS 1試験)において、主要評価項目であるHbA1cのベースラインから投与後52週までの変化量を、本剤とインスリン グラルギンで比較しています。本剤とインスリン グラルギンの変化量はそれぞれ-1.55%および-1.35%(群間差:-0.19[95%信頼区間:-0.36~-0.03]、p<0.001)であり、本剤のインスリン グラルギンに対する非劣性が確認されました(非劣性マージン:0.3%)。同様に、HbA1cのベースラインから投与後26週までの変化量について、基礎インスリン療法で治療中の2型糖尿病患者を対象とした第III相国際共同試験(ONWARDS 2試験:インスリン デグルデクとの比較)、基礎・追加インスリン療法で治療中の2型糖尿病患者を対象とした第III相国際共同試験(ONWARDS 4試験:インスリン グラルギンとの比較)、1型糖尿病患者を対象とした第III相国際共同試験(ONWARDS 6試験:インスリン デグルデクとの比較)において、いずれも既存の持効型インスリン製剤に対する非劣性が証明されています(非劣性マージン:0.3%)。

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メトホルミンで先天異常のリスクは上昇しない

 経口血糖降下薬のメトホルミンの催奇形性を否定する論文が2報、「Annals of Internal Medicine」に6月18日掲載された。両論文ともに米ハーバード大学T.H.チャン公衆衛生大学院の研究者による報告で、妊娠成立前に男性が同薬を服用した場合、および、妊娠初期の女性が同薬を服用していた場合のいずれも、有意なリスク上昇は観察されなかったという。 最初の報告はRan Rotem氏らの研究によるもの。同氏は、「胎児や新生児の健康に関する研究では従来、母親の状態が重視されてきた。しかし近年は父親の状態の重要性に関する理解が深まってきている」と、CNNの取材に対して語っている。その一例として、妊娠成立前の3カ月間に男性がメトホルミンなどの経口血糖降下薬を服用していた場合に、先天異常のリスクが40%増加するという研究結果が2022年に報告されているという。しかし今回のRotem氏らのデータは、その報告と矛盾するものだ。同氏は、「過去の研究で観察されたリスク上昇は、薬剤ではなく高血糖そのもの、または併発疾患に関連して生じていた可能性がある」と指摘している。 Rotem氏らの研究は、1999~2020年にイスラエルで生まれた38万3,851人の新生児とその父親の医療データを用いて行われた。先天異常発生率は、妊娠成立前の精子形成期にあたる数カ月間にメトホルミンを服用していなかった父親の児では4.7%であるのに対して、同期間に同薬を服用していた父親の児では6.2%と高かった(オッズ比〔OR〕1.28〔95%信頼区間1.01~1.64〕)。しかし、父親の糖尿病以外の疾患や母親の健康状態を調整したところ、有意差は消失した(調整オッズ比〔aOR〕1.00〔同0.76~1.31〕)。父親がメトホルミン以外の経口血糖降下薬も併用していた場合には、背景因子調整後にもわずかなリスク上昇が認められたが、Rotem氏によると、「多剤併用患者は血糖管理が十分でないことが多いことから、リスク上昇は薬剤が原因ではなく、父親の健康状態が原因ではないか」とのことだ。 二つ目の報告はYu-Han Chiu氏らによるもので、2000~2018年のメディケアデータを用いて行われた。妊娠前の最終月経より前にメトホルミンのみで治療されていた女性2型糖尿病患者のうち、妊娠判明後に服用を中止しインスリン療法を開始していた場合の先天異常発生率は8.0%で、メトホルミンを継続しながらインスリン療法を開始していた場合は5.7%だった(リスク比0.72〔同0.51~1.09〕)。Chiu氏はCNNの取材に対して、「われわれはこの結果に驚いていない。メトホルミンは胎盤を通過して胎児に影響を及ぼし得るが、血糖コントロールに役立ち、それによって先天異常のリスクを下げる可能性がある。血糖コントロール不良は先天異常のリスク因子だ。インスリンとメトホルミンの併用で血糖コントロールがより改善すると考えられ、それがインスリン単独療法よりも先天異常の発生がわずかに少なかった理由ではないか」と話している。 これらの論文に対して英ダンディー大学のSarah Martins da Silva氏が付随論評を寄せており、「メトホルミンは、妊娠を希望する男性および女性の2型糖尿病や妊娠初期の高血糖の治療における、安全かつ効果的な選択肢であることが示唆されてきている。妊娠に際してインスリン療法への切り替えを推奨している現在のガイドラインを、再検討する時期が来ているのかもしれない」と述べている。

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チルゼパチド、閉塞性睡眠時無呼吸の肥満者の睡眠アウトカムを改善/NEJM

 中等症~重症の閉塞性睡眠時無呼吸と肥満のある患者の治療において、プラセボと比較してチルゼパチド(グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド[GIP]とグルカゴン様ペプチド1[GLP-1]の受容体作動薬)は、無呼吸低呼吸指数(AHI)の改善とともに体重減少をもたらし、良好な睡眠関連の患者報告アウトカムを示すことが、米国・カリフォルニア大学サンディエゴ校のAtul Malhotra氏らSURMOUNT-OSA Investigatorsが実施した「SURMOUNT-OSA試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2024年6月21日号で報告された。PAP療法の有無別の2つの試験からなる無作為化試験 SURMOUNT-OSA試験は2022年6月~2024年3月に、9ヵ国60施設で実施した52週間の二重盲検無作為化プラセボ対照第III相試験(Eli Lillyの助成を受けた)。 中等症~重症の閉塞性睡眠時無呼吸(AHI[睡眠中の1時間当たりの無呼吸および低呼吸の回数]≧15回/時)および肥満(BMI≧30[日本は≧27])と診断された患者469例を登録した。これらの患者を、ベースラインで気道陽圧(PAP)療法を受けていない集団(234例、試験1)と受けている集団(235例、試験2)に分け、それぞれ最大耐用量のチルゼパチド(10または15mg)を週1回皮下投与する群(試験1:114例、試験2:120例)またはプラセボ群(同120例、115例)に無作為に割り付けた。 主要エンドポイントは、AHIのベースラインから52週までの変化量とした。PAP療法の有無を問わず、AHIが有意に低下 ベースラインにおいて試験1は平均年齢が47.9歳、男性が67.1%、白人が65.8%、平均BMIが39.1、平均AHIが51.5回/時であり、試験2はそれぞれ51.7歳、72.3%、73.1%、38.7、49.5回/時であった。 試験1では、52週時のAHIの平均変化量は、プラセボ群が-5.3回/時(95%信頼区間[CI]:-9.4~-1.1)であったのに対し、チルゼパチド群は-25.3回/時(-29.3~-21.2)であり、推定治療群間差は-20.0回/時(95%CI:-25.8~-14.2)とチルゼパチド群で有意に優れた(p<0.001)。 また、試験2のAHIの平均変化量は、プラセボ群の-5.5回/時(95%CI:-9.9~-1.2)に対し、チルゼパチド群は-29.3回/時(-33.2~-25.4)であり、推定治療群間差は-23.8回/時(95%CI:-29.6~-17.9)とチルゼパチド群で有意に良好だった(p<0.001)。体重減少、hsCRP濃度、低酸素負荷、収縮期血圧なども改善 副次エンドポイントはすべて、PAP療法の有無にかかわらずチルゼパチド群で有意に優れた。このうち主なものとして、52週時の体重の変化率(推定治療群間差は試験1:-16.1%[95%CI:-18.0~-14.2]、試験2:-17.3%[-19.3~-15.3])、高感度C反応性蛋白(hsCRP)濃度の変化量(同試験1:-0.7mg/L[-1.2~-0.2]、試験2:-17.3mg/L[-19.3~-15.3])、低酸素負荷の変化量(同試験1:-70.1%分/時[-90.9~-49.3]、試験2:-61.3%分/時[-84.7~-37.9])、48週時の収縮期血圧の変化量(同試験1:-7.6mmHg[-10.5~-4.8]、試験2:-3.7mmHg[-6.8~-0.7])が挙げられた。 また、患者報告アウトカムであるPatient-Reported Outcomes Measurement Information System(PROMIS)の短縮版Sleep-related Impairment(PROMIS-SRI)および同短縮版Sleep Disturbance(PROMIS-SD)の52週時までの試験1、2を合わせた変化量は、チルゼパチド群で良好だった(いずれもp<0.001)。 一方、チルゼパチド群では消化器系の有害事象の頻度が高く、試験1では下痢が26.3%、悪心が25.4%、嘔吐が17.5%、便秘が15.8%で発現し、試験2ではそれぞれ21.8%、21.8%、9.2%、15.1%に認めた。これらの大部分は軽度~中等度だった。また、試験2のチルゼパチド群で急性膵炎を2例確認した。甲状腺髄様がんの報告はなかった。 著者は、「2つの試験において、チルゼパチドの投与を受けた参加者では、閉塞性睡眠時無呼吸に関連する一般的な心血管リスク因子の改善とともに、睡眠呼吸障害や、主観的睡眠障害および睡眠関連障害の緩和において臨床的に意義のある変化を認めた」とまとめている。

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高齢者の重症低血糖には治療の脱厳格化も重要/日本糖尿病学会

 日本糖尿病学会の年次学術集会(会長:植木 浩二郎氏[国立国際医療研究センター研究所 糖尿病研究センター長])が、5月17~19日の日程で、東京国際フォーラムをメイン会場として開催された。 糖尿病患者への薬物治療では、時に重症低血糖を来し、その結果、さまざまな合併症や死亡リスクを増加させる可能性がある。また、低血糖でも無自覚性のものは夜間に起こると死亡の原因となるなど注意が必要となる。 そこで本稿では、「シンポジウム29 糖尿病治療に伴う低血糖・ライフステージごとの特徴」で発表された「高齢者の糖尿病治療における低血糖」(演者:杉本 研氏[川崎医科大学総合老年医学 教授])の概要をお届けする。高齢者糖尿病は低血糖の自覚症状が乏しい 2023年に『高齢者糖尿病診療ガイドライン2023』が日本老年医学会と日本糖尿病学会の共同編集で発行され、杉本氏はこのガイドラインに沿って講演を行った。 同ガイドラインでは、QI-8「高齢者糖尿病の低血糖にはどのような特徴があるか?」で今回のテーマに関する事項が触れられている。低血糖の代表的な症状であるめまいや倦怠感については、高齢者では症状を自覚しにくいこと(無自覚性低血糖)、重症低血糖を起こしやすいこと、低血糖が認知症、転倒などのリスクとなり、大小血管障害の危険因子となることが記されている。とくに認知症と低血糖の関係については、認知症があると低血糖になるという側面と、低血糖があると認知症が進むという側面がある1)。そのため高齢者では血糖値は低すぎても、高すぎても問題となる。 低血糖とフレイルの関係については、低血糖が1回以上ある患者では、転倒は1.7倍、骨折は1.8倍にリスクが上がる2)こと、また低血糖はフレイル発症と関わるため、フレイル予防においても低血糖の防止が必要である。フレイルのある糖尿病患者に厳格な血糖マネジメントは必要かという点では、厳格な血糖マネジメントをしても合併症や死亡が抑制できず、重症低血糖がさらに増えることから、フレイルのある高齢者では厳格なマネジメントは必要ないとされている。そのため、高齢者糖尿病の血糖のマネジメント目標は、認知機能やADL、さらには多疾患併存状態がないかを評価したうえで設定することが推奨されている。 そのほか、重症低血糖を防ぐためには連続血糖測定(CGM)を用いた血糖マネジメントを提案すること、また血糖降下薬の選択では、SU薬、グリニド薬、超速効・速効型インスリンは重症低血糖を起こすリスクがあるため、これらの薬剤を選択する場合には低血糖に留意しながら慎重に使用する必要があることを指摘した。高齢者の重症低血糖の因子は、「70歳以上」「認知症」「CKD」など 多疾患併存疾患(multimorbidity)の患者の実態について、低血糖をターゲットに調べてみると、75歳以上で4つ以上の併存疾患がある患者で発生割合が非常に多かった一方で、重症低血糖は0.6%と多くはなかったという。 重症低血糖を起こす因子としては、「70歳以上」「認知症」「慢性腎不全(CKD)」「心不全」「悪性腫瘍」「骨折」などが挙げられている。薬剤としては「SU薬」「インスリン」「グリニド薬」「BOT療法」のほか、3剤以上の経口血糖降下薬の併用も危険因子とされている。さらに10剤以上処方されていると重症低血糖が起こるリスクも上がることからに、ポリファーマシーへの介入が低血糖の発生予防に寄与すると考えられる。 さらにアメリカ糖尿病協会(ADA)の指針についても触れ、血糖マネジメントが難しい患者、たとえば認知機能やADLの低下している患者や介護施設に入所している患者などに対しては、そもそもHbA1cの目標値を設定せず、低血糖や症候性高血糖を避けるよう求められていると説明するとともに、「治療の単純化、脱厳格化を考慮することが必要」と触れた。高齢糖尿病患者では治療の「単純化」と「脱厳格化」を考える 治療の単純化について、たとえばインスリンであれば持効型インスリンへの切り替えや注射のタイミングを睡眠前ではなく、朝に注射するように変更するなどの工夫が参考となる。 重症低血糖後の治療の脱厳格化についての研究では、5割近くのSU薬処方者が脱厳格化しているという報告があり、その実施数も増加してきている。脱厳格化する患者モデルとしては、ADLが低下している患者、CKD、うつ病、転倒の既往がある患者では実施率が高いとされ、以後の重症低血糖を減少させることにつながると考えられる。 さらに台湾の研究では、在宅サービスがあること、服薬アドヒアランスが良いと低血糖は起こりにくく、処方薬剤が5剤以上ある高齢者では在宅サービスにより介入することが低血糖発生回避につながるメリットとなることが報告されている。 最後に杉本氏は、「単に血糖値を下げるのではなく、低血糖を起こさない治療が高齢の糖尿病患者には重要であり、重症低血糖は認知症やフレイルと相互に関係している危険因子であるので、個々の患者評価が重要となる。高齢者ではHbA1cの目標値を設定する際には認知機能やADLの評価が不可欠であり、また低血糖の既往者などでは、CGMを使用してモニタリングし、TBR(Time below range:血糖が70mg/dL未満で推移する時間の割合)を減らすことが推奨される。重症低血糖の既往がある高齢患者では脱厳格化を行うことが重要な治療介入となり、ポリファーマシーに留意し、低血糖を生じやすい薬剤を中心に減薬を考慮することが必要」と述べ、講演を終えた。

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メトホルミンに追加すべき薬剤はSGLT2阻害薬、DPP-4阻害薬それともSU薬?(解説:住谷哲氏)

 GRADE(Glycemia Reduction Approaches in Diabetes: A Comparative Effectiveness Study)研究1)は、メトホルミン単剤で血糖管理目標を達成できない患者に追加する血糖降下薬としてインスリン(グラルギン)、SU薬(グリメピリド)、GLP-1受容体作動薬(リラグルチド)またはDPP-4阻害薬(シタグリプチン)の有用性を比較検討したランダム化比較試験である。その結果は、HbA1c低下作用はグラルギンとリラグルチドが他の2剤に比べて優れており、体重減少効果はリラグルチドが最も優れていた。 米国が国家予算を投入したGRADE研究であるが、メトホルミンに追加する2剤目として経口血糖降下薬ではなく注射薬(グラルギンまたはリラグルチド)を選択することは実臨床においてそれほど多くない。さらに2剤目の追加薬剤の選択肢にSGLT2阻害薬が含まれていないのが、この研究の結果を実臨床に反映しにくい理由の1つである。 本研究は新しい解析手法であるtarget trial emulation(標的試験模倣と訳すべきか。概要については過去の本連載を参考されたい2])を用いて、メトホルミンに追加する薬剤としてSGLT2阻害薬、DPP-4阻害薬およびSU薬のいずれが優れているかを英国CPRD(Clinical Practice Research Datalink)のデータを対象にして検討したものである。結果は、HbA1c低下作用、BMI減少作用、収縮期血圧低下作用においてSGLT2阻害薬が他の2剤に比較して優れていた。さらにSGLT2阻害薬は、心不全による入院抑制はDPP-4阻害薬に比較して優れており、腎疾患の進行抑制はSU薬に比較して優れていた。 臓器保護薬としてのSGLT2阻害薬の有用性は、高リスク患者を対象としたランダム化比較試験で明らかにされてきた。したがって多くのガイドラインでは、心不全または慢性腎臓病を有する2型糖尿病患者への積極的投与が推奨されている。しかし、われわれが通常外来で診察している低リスク患者に対する有用性はこれまで不明であった。本研究の結果は、低リスク患者においても血糖降下作用、BMI減少作用、収縮期血圧低下作用においてSGLT2阻害薬がDPP-4阻害薬、SU薬と比較して優れていることを示した点でインパクトが大きい。ただし本研究はメトホルミン投与患者への追加薬剤としての検討であり、この点には留意する必要がある。

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地中海食で女性の全死亡リスクが23%低下

 地中海式ダイエットを遵守している女性は全死亡リスク、がんや心血管疾患による死亡リスクが低く、この関連にはホモシステインなどの低分子代謝物質の多寡が寄与していることが明らかにされた。米ブリガム・アンド・ウィメンズ病院のSamia Mora氏らの研究によるもので、詳細は「JAMA Network Open」に5月31日掲載された。 地中海式ダイエットは、植物性食品(ナッツ、種子、果物、野菜、全粒穀物、豆類)を中心に、魚、鶏肉、乳製品、卵などのタンパク源とアルコールを適度に取り、油脂類はオリーブオイルから摂取し、赤肉、加工食品、菓子などは控えるという食事スタイル。既に多くの研究によって、地中海式ダイエットが健康リスクの抑制に有用であることが示されているが、全死亡リスクに関する長期間の追跡データは限られている。また、地中海食がどのように健康リスクを抑制するのかというメカニズムの理解はまだ不足している。これらの疑問点を明らかにするためMora氏らは、同院と米ハーバード大学により女性医療従事者対象に行われている疫学研究(Women's Health Study;WHS)のデータを用いた解析を行った。 解析対象はWHS参加者のうちデータ欠落などのない2万5,315人(平均年齢54.6±7.1歳、白人94.9%)。地中海式ダイエットの遵守状況は、131項目の質問から成る食物摂取頻度調査票の回答を基に0~9点の範囲にスコア化し、0~3点の群(39.0%)を低遵守、4~5点の群(36.3%)を中遵守、6~9点の群(24.7%)を高遵守と判定した。対象全体のスコアの中央値は4.0(四分位範囲3.0~5.0)だった。24.7±4.8年の追跡期間中に、心血管死935人、がん死1,531人を含む3,879人が死亡していた。 年齢と摂取エネルギー量、および、WHSの初期段階で実施された介入に用いた薬剤の影響を調整後、低遵守群を基準とする全死亡リスクは中遵守群〔ハザード比(HR)0.84(95%信頼区間0.78~0.90)〕、高遵守群〔HR0.77(同0.70~0.84)〕ともに有意に低く、遵守率が高いほど全死亡リスクが低いという関連が認められた(傾向性P<0.001)。また、高遵守群では心血管死〔HR0.86(0.69~0.99)、傾向性P=0.033〕、がん死〔HR0.80(0.69~0.92)、傾向性P=0.002〕のリスク低下も認められた。調整因子に喫煙・飲酒・運動習慣、閉経前/後、ホルモン補充療法の施行を追加すると関連性はやや弱くなったが、全死亡リスクについては引き続き有意な関連があった〔中遵守群がHR0.92(同0.85~0.99)、高遵守群はHR0.89(0.82~0.98)、傾向性P=0.001〕。 次に、地中海式ダイエットと全死亡リスク低下の関連に対する各種バイオマーカーの寄与度を検討。その結果、低分子代謝物質(ホモシステインやアラニンなど)と炎症マーカーの寄与が大きく、それぞれの寄与割合は14.8%、13.0%と計算された。その他の寄与因子としては、トリグリセライドが豊富なリポ蛋白(寄与割合は10.2%)、BMI(同10.2%)、インスリン抵抗性(7.4%)などが抽出された。 この結果についてMora氏は、「われわれの研究結果は、長生きをしたい女性は食生活に気をつける必要があることを示している」と話している。

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「糖尿病医療者のための災害時糖尿病診療マニュアル2024」発行/日本糖尿病学会

 日本糖尿病学会の年次学術集会(会長:植木 浩二郎氏[国立国際医療研究センター研究所 糖尿病研究センター長])が、5月17~19日に東京国際フォーラムなどで開催された。 2024年1月1日に石川県をはじめとする北陸地方を襲った「能登半島地震」は記憶に新しい。災害時に糖尿病患者やその家族へのサポートなどはどのようにあるべきであろう。 本稿では「災害時の糖尿病診療支援と糖尿病対策推進会議の活動」より「災害時糖尿病診療マニュアル2024の概要 総論」(講演者:荒木 栄一氏[熊本大学名誉教授/菊池郡市医師会立病院/熊本保健科学大学健康・スポーツ教育研究センター 特任教授])をお届けする。災害で糖尿病患者は簡単に弱者になる 地震、洪水などわが国は災害が多く、1,000人以上の犠牲者が発生した災害が多数ある。現在では南海トラフ地震や首都直下型地震、線状降水帯による水害などへの備えがなされている。しかし、それでもこうした災害時には、糖尿病患者は容易に代謝失調やインスリンの不足などにより災害弱者となりうる。 とくに食事療法での栄養の偏りや治療薬の確保が懸念されている。そこで、日本糖尿病学会と日本糖尿病協会の2つの学会は『糖尿病医療者のための災害時糖尿病診療マニュアル2024』を制作し、発行した。これは2014年に日本糖尿病学会「東日本大震災から見た災害時の糖尿病医療体制構築のための調査研究」委員会が作成した災害時の診療マニュアルを10年ぶりに改訂したもので、熊本地震での知見の追加のほか、新規糖尿病治療薬など最新の診療状況にも対応し、「糖尿病医療支援チーム(DiaMAT)」についても触れたもので、今回日本糖尿病協会も参画し、広く知見が記述されている。4章立てで災害時の糖尿病診療、平時の準備を説明 本マニュアルは大きく4章立てで構成され、荒木氏が説明した総論部分は下記のとおりである。〔I 総論 災害に対する備え〕「1 ライフラインと情報の整備」では、ライフラインの確保、災害時の連絡体制、バックアップを記載している。「2 食量や医薬品の備蓄」では、平時からの備蓄食料のローテーション消費や主治医と医薬品の備蓄や調達方法の相談を記載している。「3 医療機関の災害対応マニュアル、訓練」では、マニュアル整備とその見直し、災害時の人材の確保、院内の備品や食品の管理、地域との連携や訓練などを記載している。「4 地域の医療連携」では、連携の問題点と課題、災害時の医療連携を記載している。「5 災害時糖尿病医療従事者の教育」では、医療者への教育、平時の備えの指導(とくにシックデイ)、薬の調整や防災教育を記載している。「6 糖尿病患者への啓発」では、平時からの備えの啓発としてリーフレットの活用や正しい情報を得るための教育が記載されている。 また、総論以降の内容は次のとおりである。〔II 害時の糖尿病医療者の役割〕 災害派遣医療チーム(DMAT)、糖尿病医療支援チーム(DiaMAT)や医師やそのほかの医療従事者の役割などが記されている。〔III 個々の糖尿病病態への対応〕 全体的な注意事項、各治療(インスリン、経口薬、食事・運動療法のみ)での注意事項、合併症のある患者での対応、特別な配慮が必要な患者(妊婦、高齢者など)へのサポートが記されている。〔IV 患者の備え〕 避難所の確認や薬剤の備蓄、妊婦・高齢者などの特殊な患者への対応などが記されている。 その他コラムでは「シックデイ対策/インスリンポンプ使用者/COVID-19」などが記されている。 将来発生が危惧される大災害に対応するためにも、一読し、今できることから備えておきたい。

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第220回 1型糖尿病患者が細胞移植治療でインスリン頼りを脱却

1型糖尿病患者が細胞移植治療でインスリン頼りを脱却幹細胞から作るVertex Pharmaceuticals社の膵島細胞VX-880移植治療の有望な第I/II相FORWARD試験結果がこの週末の米国糖尿病協会(ADA)年次総会で報告されました。VX-880が投与された1型糖尿病(T1D)患者のインスリン使用が減るか不要となっており、1回きりの投与でインスリンに頼らずとも済むようになる可能性が引き続き示されています1,2)。最近の調査結果によると、先進の技術使用にもかかわらず、T1D患者の6%ほどが低血糖の自覚困難で誰かの助けを要する深刻な低血糖を繰り返し被っています3)。低血糖はT1D患者にしばしば認められます。しかしT1D患者は時と共にその自覚が困難になることがあり、その症状を感じられなくなる恐れがあります。自覚なく治療されずじまいの低血糖はやがて混乱、昏睡、発作、心血管疾患などの深刻な低血糖イベント(SHE)を招き、下手すると死に至ります。FORWARD試験は先立つ1年間のSHE回数が2回以上で、低血糖の自覚が困難なT1D患者を募って実施されています。当初の被験者数は17例でしたが、良好な結果が得られていることを受けてさらに約20例が試験に加わることになっています。当初の予定人数の17例はすでに組み入れ済みで、そのうち14例はVX-880投与に至っています。VX-880はヒト幹細胞から作られる膵島細胞を成分とし、試験では被験者の肝門脈に注入されました。VX-880が投与された14例のうち、目標用量(full dose)が1回きり投与された12例の経過は良好で、全員に膵島細胞が定着しました。投与前には生来のインスリン分泌の指標であるCペプチドが空腹時に検出できませんでしたが、VX-880投与後90日までに糖に応じたインスリン生成が確認されています。12例中11例はインスリン投与が減るか不要になりました。経過180日を過ぎた10例のうち7例はインスリン投与が不要となり、2例は日々のインスリン使用がおよそ70%少なくて済むようになりました。最終観察時点で12例全員のHbA1cは米国糖尿病協会(ADA)が掲げる目標である7%未満に落ち着いており、常時測定の糖濃度は70%超のあいだ目標範囲である70~180mg/dLに収まっていました。少なくとも1年間が経過した3例はSHEなしで90日目以降を過ごせており、インスリンに頼ることなくHbA1c 7%未満を達成しています。主だった血糖指標一揃いの大幅な改善、SHEの抑制、インスリン投与頼りの脱却の効果をみるに、VX-880はT1Dの治療を根底から変え、患者の負担を大幅に軽減しうると試験医師の1人Piotr Witkowski氏は言っています2)。玉に瑕なことにVX-880投与患者は免疫抑制治療を続ける必要があります。VX-880で備わった膵島細胞を守って免疫に排除されずに居続けられるようにするためです。そこでVertex社は免疫抑制治療不要の細胞治療VX-264の開発も進めています。VX-264はVX-880に免疫から守る覆いをつけたものであり、VX-880と同様に第I/II相試験が進行中です4)。参考1)Expanded FORWARD Trial Demonstrates Continued Potential for Stem Cell-Derived Islet Cell Therapy to Eliminate Need for Insulin for People with T1D / PRNewswire2)Vertex Announces Positive Results From Ongoing Phase 1/2 Study of VX-880 for the Treatment of Type 1 Diabetes Presented at the American Diabetes Association 84th Scientific Sessions / BUSINESS WIRE 3)Sherr JL, et al. Diabetes Care. 2024;47:941-947.4)NCT05791201(ClinicalTrials.gov)

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第219回 マラリア薬が世界の数百万人もの女性疾患を治療しうる

マラリア薬が世界の数百万人もの女性疾患を治療しうる植物のヨモギ(artemisia)から単離され、抗マラリア作用を有することでよく知られる化合物群アルテミシニン(artemisinins)の多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)治療効果がマウス/ラットやヒトへの投与試験で判明しました1,2)。世界の数百万人もの女性が被るPCOSは女性の最も一般的な内分泌疾患の1つで、男性ホルモン過剰(高アンドロゲン血症)、排卵を乏しくするかなくならせる卵巣不調、多嚢胞性卵巣を特徴とします。濾胞異形成や排卵/内分泌/代謝障害などのPCOSの病変の数々にアンドロゲン過剰が寄与することが知られています。また、PCOS女性から生まれた女児はPCOSになりやすく、出生前に過剰なアンドロゲンと共に過ごした雌マウスにはPCOS様病態が生じることが示されており、PCOSの影響は子にも及ぶようです3)。よってPCOSを制するにはアンドロゲン過剰を制する必要があります。薬によるPCOSの治療といえば今のところもっぱら個々の症状の手当てを目指すもので、PCOSのすべての病態を相手しうる薬はほとんどありません。経口避妊薬がPCOS成人女性のアンドロゲン過剰や不規則な月経周期の手当てとして推奨されていますが、不妊や多嚢胞性卵巣病変の改善は見込めません。また、経口避妊薬は血栓症などの副作用の心配があります。PCOS女性の多くは肥満などの代謝障害を呈します。中国の上海の復旦大学のチームによる先立つ研究で、アルテミシニン化合物がエネルギー消費を増やして肥満を防ぐ効果を有することが示されています。PCOS発生に代謝経路不調がどうやら寄与しうることとアルテミシニン化合物の代謝恒常性促進作用にヒントを得た同チームのさらなる検討のかいあって、アルテミシニン化合物のPCOS治療効果が今回新たに判明しました。アンドロゲン生成を増やすことが知られるヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)やインスリンの動物への投与でPCOSを模す病態が生じることがわかっています。hCGはミトコンドリアプロテアーゼLONP1とアンドロゲン生成の始まりを触媒する酵素CYP11A1の相互作用を妨げてCYP11A1を増やし、アンドロゲン生成を促してPCOSを起こします。アルテミシニンはLONP1とCYP11A1の仲を取り持ってCYP11A1分解を促し、卵巣でのアンドロゲン生成を阻止することを復旦大学のチームは今回新たに突き止めました。PCOSを模すマウスやラットにアルテミシニンの一種であるアルテメテルを投与したところ、血清のテストステロン上昇が抑制され、不規則な発情周期が正常化し、多嚢胞卵巣が減り、不妊病態が改善しました。検討はさらに少人数の臨床試験へと進みます。マラリア治療に実際に使われているアルテミシニンの一種であるdihydroartemisininをPCOS女性19例に投与したところ、マウスやラットでの結果と同様に血中のテストステロンが減り、多嚢胞卵巣病態が改善しました。19例中12例はいつもの生理周期を取り戻しました。長期投与の効果や経過改善を最大限にするための投与手段の最適化がさらなる検討で必要ですが4)、今回の結果によるとアルテミシニンはPCOS治療手段として有望なようです。参考1)Liu Y , et al. Science. 2024;384:eadk5382.2)Antimalarial compounds show promise to relieve polycystic ovary syndrome / Eurekalert 3)Risal S, et al. Nat Med. 2019;25:1894-1904.4)Stener-Victorin E. Science. 2024;384:1174-1175.

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糖尿病とがんの相互関連性、最新の知見は?/日本糖尿病学会

 近年、糖尿病とがんの相互関連性が着目されており、国内外で研究が進められている。日本では、2013年に日本糖尿病学会と日本癌学会による糖尿病とがんに関する委員会から、医師・医療者・国民へ最初の提言がなされた。糖尿病は全がん、大腸がん、肝がん、膵がんの発症リスク増加と関連するとされている。5月17~19日に開催された第67回日本糖尿病学会年次学術集会で、シンポジウム11「糖尿病とがんをつなぐ『腫瘍糖尿病学』の新展開」において、能登 洋氏(聖路加国際病院内分泌代謝科)が「糖尿病とがんの関係 2024 update」をテーマに講演を行った。講演の主な内容は以下のとおり。糖尿病患者はがん死リスクが高い 日本での2011~20年における糖尿病患者の死因は、多い順に、がん(38.9%)、感染症(17.0%)、血管障害(10.9%)となっている1)。糖尿病患者のがん死リスクは一般人よりも高く、糖尿病により発がん・がん死リスクが増加する可能性が注目されている。糖尿病を有するがん患者は生命予後・術後予後が不良であることがメタ解析で示されている。能登氏によると、糖尿病とがんはさまざまな要因を介して相互関連しているという。 糖尿病に伴うがんリスクの倍増率に関する研究によると、糖尿病がある人では、ない人と比べて、がん死リスクは1.3倍、がん発症リスクは1.2倍増加していることが示されており2)、能登氏は、がんは糖尿病の「合併症」とまでは位置付けられないが、関連疾患、併発疾患としては無視できないと述べた。糖尿病に伴う発がんリスクのがん種別では、海外のデータによると、リスクが高い順に、肝がん(糖尿病がない人と比べて2.2倍)、膵がん(2.1倍)、子宮がん(1.6倍)、胆嚢がん(1.6倍)、腎がん(1.3倍)、大腸がん(1.3倍)などが並んでいる2)。国内のデータによると、肝がん(2.0倍)、膵がん(1.9倍)、大腸がん(1.4倍)となっており3)、主に消化器系の発がんリスクが有意に高いことが判明した。 また能登氏は、上記の海外のデータにおいて、糖尿病を有する男性の前立腺がんの発症率は通常の0.8倍となっており、前立腺がんにはなりにくいことを興味深い点として挙げた。これは、糖尿病の場合はテストステロンが低くなることと関連しているという。糖尿病患者のがん発症メカニズム 現在想定されている糖尿病により発がんリスクが高まる機序について、能登氏は解説した。高血糖と高インスリン血症という主な2つの因子が、正常細胞をがん化し、がん細胞を増殖させていくと考えられている。また、高血糖により血中酸化ストレスが増加すると、染色体にダメージを与え、正常細胞ががん化する。さらに、高血糖自体が細胞増殖のエネルギーとなり、がん化した細胞の増殖が促進される。また、インスリンは直接的に発がんプロモーションに関与する。IGF-1という成長因子を介して間接的にも発がんを促進すると考えられている。さらに最近の研究によると、mTOR経路ががんに関わってくる遺伝子を促進したり、あるいは、正常細胞は発がん細胞を抑制しようとする細胞競合という機能を持っているが、インスリンによって細胞競合機能が抑制されてしまうことで、がん細胞が増殖しやすくなったりすることが判明した。また、糖尿病や肥満は全身的な炎症が慢性的に存在する。この炎症が、発がん・がんの増殖により拍車をかけることが考えられるという。最近では、さまざまな糖尿病治療薬が、発がん・がんの増殖に対して関連しているという仮説もあり、研究が進められている。 能登氏は、高血糖と高インスリン血症はどちらが発がんに影響しているかについて、以下の研究を取り上げて解説した。米国の研究によると、糖尿病患者は、糖尿病の発症から5~10年後に発がん倍率が1.3倍のピークを迎え、その後は低下するという。インスリン分泌能をC-ペプチドに置き替えてみると、発がん倍率とほぼパラレルな推移が認められる。一方、HbA1cで示される高血糖は、10~15年後にピークに達する。そのため、発がんへの影響は、高インスリン血症のほうが主体であることが推測されている4)。 一般的に欧米人よりもアジア人のほうがやせ型の人が多く、肥満度が低い。肥満は高インスリン血症を引き起こすため、肥満のほうが、発がんリスクが高くなると考えられている。しかし、能登氏らが実施したアジア人を対象とした調査によると、アジア人糖尿病患者の発がんリスクは低いだろうという予想に反して、男女共に、欧米人よりもアジア人のほうが発がんとがん死リスクが高いという結果になった5)。高血糖と高インスリン血症のがんへの影響は人種によっても変化する可能性がリアルワールドデータにより示唆された。 能登氏はここで、データ解釈上の注意点があることを指摘した。糖尿病患者は高齢・肥満によりがん発症リスクが高まるという交絡因子があるが、これは解析時に調整することができる。一方、糖尿病患者は日頃から検査を受けることが多いため、がん発見率も高まる。この「発見バイアス」は考慮しなければならない。実際のがん発症リスクは、前述の数値よりも低いであろうという。また、がん患者は糖尿病になりやすく、実は膵がんを先に発症し、それが糖尿病を引き起こしていたが先に糖尿病が診断されたという因果の逆転も考えられる。その点に気を付けて解釈をしなければならない。血糖変動幅を小さくすれば、がんリスクは低下するか? 高血糖ががんのリスク因子であるならば、血糖コントロールをよくすれば、がんのリスクは低くなるのかということについて、海外での心血管疾患に関するメタ解析の副次結果が提示された。発がんリスク、がん死リスクのいずれも、厳格な血糖管理をしても、がんのリスクは下がらないということが示唆された6)。また、能登氏らが実施した日本人を対象としたHbA1cと発がんリスクに関する研究によると、HbA1cが5.5~6.4%を基準値として、それよりも血糖コントロールが悪くても、発がんリスクはほとんど変わらなかった7)。 さらに踏み込んで、HbA1c変動と発がんリスクに関するデータでは、HbA1cの変動幅が大きい人ほどがんリスクが高まることが判明した8)。また、アジア人を対象とした海外のデータでも、発がんリスク・がん死リスクともに、HbA1c変動幅が大きいほうが、リスクが高くなることが明らかとなった9)。 ただし、観察研究で関連性が示されても、バイアス残存などのため因果関係にあるとは限らない。また、因果関係にあっても、是正・予防によりリスクが低下するとは限らないという。現時点では、HbA1cの変動幅はがんリスク評価マーカーとして活用するのが妥当で、Time in Range(TIR)もリスク評価マーカーとして有用かもしれない。がんと糖尿病に共通するリスク因子:食事と運動 能登氏は、がんと糖尿病に共通してリスクを上昇させる食事例として、赤肉・加工肉の過剰摂取、高Glycemic index(GI)食摂取を挙げ、逆にリスクを下げる食事例として、野菜、果物、食物繊維、全粒(未精白)穀物、魚をカロリーやバランスの管理をしたうえで摂取することを挙げた。 糖質制限・低炭水化物食には、以下のような功罪があるため慎重に行う必要がある。・血糖コントロール・減量に有効だが、1~2年で効果消失する。・糖尿病発症リスクは変わらない(J-カーブ示唆)。・さらに、極端な食事制限を長期間続けると、総死亡・がん罹患/死亡・心血管死亡が増加することも報告されている。 ある日本の観察研究によると、運動量とがんに関しては、運動量が多いグループほどがんリスクが低下することがわかっているため10)、運動ががんの予防につながる可能性があると能登氏は述べた。ただし、ベースラインにおいて、元々身体的な制限があるため運動できない人や、逆に元から健康志向が強い人が含まれるといった交絡因子が含まれることも考慮しなければならないという。 最近では、国内でも保険適用による減量手術がある。食事・運動を介さずに手術で劇的に短期間で減量した場合も、糖尿病とがんのリスクを劇的に減少させることが報告されている11)。体重を減らすことが非常に重要であることを示すデータとなっている。糖尿病治療薬はがんリスクに影響するか? 高インスリン血症はがんのリスク因子となるが、インスリンを治療薬として使用する場合は、がん死リスク・発がんリスク共に変化がないことがわかっているという12)。インスリンにより血糖値が劇的に下がるため、リスクが相殺されて、リスクがプラスにもマイナスにもならないのではないかと推察されている。そのほかの糖尿病治療薬とがんリスクについては、エビデンスは限定的だが、メトホルミンはがんリスクを低下させる可能性がある。ピオグリタゾンは、投与された患者で膀胱がんの発生リスクが増加する可能性が完全には否定できないので、膀胱がん治療中の患者には投与を避けることと添付文書に明記されている。 日常診療では、糖尿病とがんに関する日本糖尿病学会と日本癌学会による医師・医療者への提言を参照のうえ、性別・年齢に応じて適切に科学的に根拠のあるがんのスクリーニングを患者に受診するよう促す必要がある。がん患者における糖尿病 能登氏は最後に、日本での糖尿病を有するがん患者の割合を述べた。糖尿病を有するのは、全がん患者の20.7%、男性では21.8%、女性では19.4%。肝がん患者の32.1%、膵がん患者の31.7%が、糖尿病を合併している13)。なお、日本の一般成人の糖尿病有病率は15%程度である。 また、韓国で実施されたコホート研究によると、がんの既往がない人と比べて、がんの既往のある人・現在がんに罹患している人は、がん全般で糖尿病発症リスクが35%高まることが示された14)。とりわけ膵がんでは5.15倍に跳ね上がる。デンマークで実施されたコホート研究も韓国のデータと同様に、膵がんの糖尿病リスクが5倍となっている15)。 能登氏は今後の課題として、がんに伴う糖尿病リスク増加機序と経過の究明や、最適な治療法・コントロール目標値・医療者連携の確立を挙げ、研究を進めていきたいとまとめた16)。■参考1)中村二郎ほか. 糖尿病. 2024;67:106-128.2)Ling S, et al. Diabetes Care. 2020;43:2313-2322.3)春日雅人ほか. 糖尿病. 2013;56:374-390.4)Hu Y, et al. J Natl Cancer Inst. 2021;113:381-389.5)Noto H, et al. J Diabetes Investig. 2012;3:24-33.6)Johnson JA, et al. Diabetologia. 2011;54:25-31.7)Kobayashi D, Endocr Connect. 2018;7:1457-1463.8)Saito Y, et al. Cancer J. 2019;25:237-240.9)Mao D, et al. Lancet Reg Health West Pac. 2021;18:100315.10)Inoue M, et al. Am J Epidemiol. 2008;168:391-403.11)Adams TD, et al. N Engl J Med. 2007;357:753-761.12)ORIGIN Trial Investigators. N Engl J Med. 2012;367:319-328.13)Saito E, et al. J Diabetes Investig . 2020;11:1159-1162.14)Hwangbo Y, et al. JAMA Oncol. 2018;4:1099-1105.15)Sylow L, et al. Diabetes Care. 2022;45:e105-e106.16)後藤温ほか. 糖尿病. 2023;66: 705-714.

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イメグリミンのRWD、体重減少や肝機能改善も/日本糖尿病学会

 日本糖尿病学会の年次学術集会(会長:植木 浩二郎氏[国立国際医療研究センター研究所 糖尿病研究センター長])が、5月17日~19日の日程で、東京国際フォーラムをメイン会場に開催された。 今回の学術集会は「『糖尿病』のない世界を目指して〜糖尿病学の挑戦〜」をテーマに、46のシンポジウム、169の口演、ポスターセッションなどが開催され、特筆すべきは糖尿病患者の参加プログラムやこれからの医療を担う高校生向けの参加プログラムなども開催された。 本稿では「口演118 薬物療法」から「当院におけるイメグリミンの有効性・安全性の検討」(演者:吉田 薫氏[名鉄病院内分泌・代謝内科])をお届けする。イメグリミンはHbA1cを低下させ、脂質、肝機能を改善する可能性 イメグリミン(商品名:ツイミーグ)は、ミトコンドリアへの作用を介し、グルコース濃度依存的なインスリン分泌を促す膵作用と、肝臓・骨格筋での糖代謝を改善する膵外作用(糖新生抑制および糖取込み能改善)により血糖降下作用を示すことで、糖尿病によって引き起こされる細小血管・大血管障害の予防につながる血管内皮機能および拡張機能の改善作用を有する可能性が示唆されている治療薬で、β細胞の生存と機能を保護する効果も期待されている。わが国では、2021年6月23日に製造販売承認、同年8月12日に薬価収載、同年9月16日に発売されている。 吉田氏らの研究グループは、リアルワールドでのイメグリミンの有効性と安全性の検討を行うとともに、患者の体組成分析の検討も行った。 対象・方法として、2022年9月より2型糖尿病患者のイメグリミンへの切り替え、追加投与を行い、6ヵ月以上観察可能の75例(男性55例/女性20例)について投与前後の各種臨床指標および体組成推移を比較検討した。患者背景としては、平均年齢62.6歳、平均HbA1c8.8%、平均病歴12年、平均BMIは26で、併用薬ではメトホルミン、SGLT2阻害薬、DPP-4阻害薬の順で多く、インスリンは28%の患者で使用していた。 主な結果は以下のとおり。・HbA1cは8.9±1.5%から8.0±1.1%へ低下、グリコアルブミン(GA)は21.1±6.2%から19.5±4.5%に有意に改善した。・GA/HbA1cには変化がなかった。・脂質、肝機能(AST、ALTともに)は改善傾向がみられたが、血圧、腎機能には変化がなかった。・FIB-4 indexに変化はなかった。・体重は71.5±15.2kgから67.3±14.4kgへと減少した。・体組成分析において、体水分量は減少したが体蛋白量は変化がなかった。・脂肪量、筋肉量に有意な変化はなかった。・安全性では6例に消化器症状があり中止となったが、特筆すべき事象はなかった。 以上から吉田氏らのグループは「イメグリミンは体重を増加させることなく、血糖コントロールを改善し、脂肪肝を改善する可能性がある。また、体重を減らすことなくHbA1cを改善する可能性が示唆される」と考察している。

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第216回 Apple Watchの「心房細動履歴プログラム」をPMDAが医療機器承認、近い将来、針を刺さず血糖値測定ができる機能も搭載される?

ウェアラブルデバイスを使ってみたら……、睡眠の点数評価に一喜一憂する日々こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。皆さんは、最近流行りの健康管理機能が付いたウェアラブルデバイスを身に付けていますか? Apple Watch、Fitbit、Google Pixel Watchなどのウォッチタイプが一般的ですが、リストバンドタイプや指輪(リング)タイプも市販されています。私も人からもらった「Oura ring」というフィンランド・ŌURA社製の指輪タイプをこの半年くらい使っています。日中の心拍数とワークアウト心拍数や、夜間の安静時心拍数、心拍変動、体表温、呼吸数などを測定できます。私はもっぱら睡眠の点数を把握するのに用いています。100点満点中よく寝た日は80点くらいになるのですが、ちょっと夜更かしすると60点台に落ちてしまいます。まあ、自己管理にはそこそこ役立っているとは思うのですが、よく寝たつもりでも60点台が出ると、「寝足りないのかな」と不安になってしまう点と、久しぶりに会った友人から「あれ、結婚指輪なんてしてたっけ」とからかわれるのが玉に瑕です。なお、充電は4、5日に1回で済み、就寝中に装着していても気にならない点はウォッチタイプよりも使い勝手がいいと思います。ということで、今回はこの5月に「心房細動履歴プログラム」が医療機器承認されたApple社のApple Watchについて書いてみたいと思います。Apple Watchは、2018年に心電図測定機能を搭載して以降、ヘルスケア機能の拡充を図ってきました。今回承認された心房細動履歴プログラムは、光学式心拍センサーを用いた現在の心電図測定機能(Apple Watch ECG app)を拡充したものです。こうした機能拡充の延長線で、近い将来、「針なし」で血糖値の測定も行えるデバイスも登場しそうです。「Appleの心電図アプリケーション」、「Appleの不規則な心拍の通知機能」に次ぐ機能、米国から2年近く遅れての承認5月22日、Apple社は、同社のApple Watchに搭載された心房細動履歴プログラムが、医薬品医療機器総合機構(PMDA)から医療機器プログラムとして承認され、同日から日本でも利用可能になったと発表しました。医師から心房細動と診断された22歳以上の人が対象です。なお、このプログラム、世界的には2022年9月に公開されたwatchOS9で利用可能となっており、すでに世界で160近い国・地域で利用されているとのことです。Apple Watchを使っている人はご存じだとは思いますが、Appleはこれまでに「Appleの心電図アプリケーション」(一般的名称:家庭用心電計プログラム)、「Appleの不規則な心拍の通知機能」(同:家庭用心拍数モニタプログラム)といったプログラムをApple Watch向けに開発しており、これらは日本でも管理医療機器の区分で承認され、使われています。つまり、Apple Watchは血圧計などと同様、一般向けの医療機器としてごく日常的に用いられているのです。ただ、日本での承認は米国など各国と比べると大体2年遅れというのが実情です。心房細動履歴プログラムのベースとなっている心電図測定機能(Apple Watch ECG app)がApple Watchに搭載されたのは2018年9月に公表されたApple Watch Series4からでした。Apple Watch ECG appは米国食品医薬品局(FDA)から医療機器として認可を得て、Series4発売とともに米国などではこのアプリが使用可能となりました。しかし、日本では、Apple Watch series4発売時、Apple Watch ECG appの機能は取り除かれていました。「心電図測定」「脈の不整通知」という機能が医療機器に該当するため、国内での医療機器として認可を得る必要があったからです。ようやく、Apple Watch ECG appが家庭用心電計プログラムとして日本で承認されたのは2年後の2020年9月、実際の利用は2021年1月のwatchOS7.3へのアップデートからでした。今回の心房細動履歴プログラムもこれらと同様、米国から実に2年近く遅れての承認となりました。心房細動の徴候を示した時間の推定値をApple Watchの1週間の総装着時間に対する割合として通知Apple社の資料によれば、心房細動履歴プログラムは、Apple Watchに搭載された心拍センサーによって心拍を適時モニタリングし、心房細動の兆候を判別します。iOS 17.0以降とwatchOS 10.0以降のApple Watchの利用者が使用できます。具体的には、心房細動の徴候を示した時間の推定値を、Apple Watchの1週間の総装着時間に対する割合として、1週間ごとに通知するとしています。Apple Watchは心拍を常時モニタリングしているわけではないため、心房細動の持続時間ではなく、推定値として通知するとのことです。推定値は、連動するiPhoneの「ヘルスケア」アプリに週ごとのグラフとして表示されます。運動、睡眠、体重、飲酒量といったヘルスケアアプリが収集できるデータを、推定値のグラフと同時に提示することで、心房細動のリスクとなる生活習慣の改善が容易になるとしています。ところで、FDAは5月、この「心房細動履歴」機能をMedical Device Development Tools (MDDT:医療機器開発ツール)として承認しています。FDAによれば、Apple WatchはMDDTの承認を取得したはじめてのスマートウォッチだそうです。これによって、医療機関における臨床試験においても、Apple Watchの心房細動履歴をデータとして用いることができるようになるとのことです。もし血糖値の測定もウェアラブルデバイスでできるようになれば単なる健康管理だけではなく臨床的な有用性も高まるApple Watchをはじめとするウェアラブルデバイスですが、個人的には早く血糖値の測定もできるようにならないかと思っています。私は糖尿病ではありませんが、機会があって持続血糖測定器 「Dexcom G6」を数日間装着し、自分の血糖値の動きをiPhoneでウォッチし続けたことがあります。Dexcom G6はご存じのように、腹部などの皮下に微小の針を穿刺して留置した細いセンサーで、皮下間質液のブドウ糖濃度を持続的に測定するデバイスで、ほぼリアルタイムで血糖値がiPhoneに表示されます(測定された血糖値は5分ごとに自動的にモニターもしくはスマートフォンに送信)。食後の血糖値がいかにどーんと跳ね上がるか、よく言われる「運動するなら食後30分」の妥当性などを自身で実感できます。実際、食後30分内に早足で散歩をしたら、上がった血糖値がみるみる下り始めたのには驚きました。これは、糖尿病患者や糖尿病予備軍の人の患者教育にももってこいだな、と思ったものです。ただ現在のところDexcom G6やFreeStyleリブレなどの持続血糖測定器が保険診療で使えるのはインスリン注射を1日1回以上行っている糖尿病患者のみです。微小の針が付いた医療機器のため、一般向けの医療機器としては世界のどこでも認められていないようです。「吸収分光法を使って皮膚の下にレーザー光を当てて体内の血糖値を測定するチップを開発中」との報道仮に一般向けのデバイスであるApple Watchに搭載するとしたら、「針なし」(非侵襲的に血液検査なしで)で血糖値を測る必要がありそうですが、果たしてそんなことは実現可能なのでしょうか。実際、Apple社がそうした研究をしているとの報道もあります。2023年3月23日にテクノエッジに掲載された「Apple Watchで血糖値測定はまだ数年先。センサーの小型化が課題」と題する記事は、「Apple社が Apple Watch向けに非侵襲性、つまり注射針を刺す必要がない血糖値センサーの開発に取り組んでいることは長らく噂になってきた。しかし今なお実現にはほど遠く、あと3~7年は掛かる見通し」と書いています。同記事によれば、開発中の血糖値センサーは「吸収分光法を使っており、皮膚の下にレーザー光を当てて体内の血糖値を測定するシリコンフォトニクスチップ」だそうです。ただ、このセンサー、「以前は卓上サイズの大きさだったものが、現時点でのプロトタイプはiPhoneに近いサイズになり、腕に装着できるほどになった」とのことです。センサーがiPhoneサイズということは、実際にApple Watchに搭載できるようになるにはまだまだ相当時間がかかりそうです。とはいえ、光を当てて体内の血糖値を無侵襲に測定する技術が開発中とは驚きです。なお、他の報道によれば、ウェアラブルデバイスによる血圧測定は、血糖値測定よりも先に実現しそうだとのこと。心臓病や高血圧、そして糖尿病などの生活習慣病の通常の管理に、ウェアラブルデバイスが必須となる日はそう遠くなさそうです。

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2型糖尿病患者は疾患知識が不十分

 2型糖尿病患者の疾患に関する知識は十分とは言えず、患者教育に改善の余地があるとする研究結果が報告された。コインブラ大学(ポルトガル)のPedro L. Ferreira氏らが、同国の外来2型糖尿病患者を対象に行った調査から明らかになったもので、詳細は「Frontiers in Public Health」に3月8日掲載された。質問項目の中では、ケトアシドーシスの兆候に関する理解が最も不足していたという。 糖尿病の合併症抑止には患者の自己管理が重要であり、自己管理のためには疾患や治療法に関する正しい知識が必要とされる。知識の不足や誤解は適切な糖尿病治療の障壁となり、合併症リスクの増大につながる可能性がある。これを背景にFerreira氏らは、合併症抑止に必要とされる疾患情報の認知や理解レベルの実態を把握するため、患者対象の横断的研究を行った。 対象は、ポルトガル国内の医療機関5施設の外来に通院している2型糖尿病患者のうち、18歳以上で診断後1年以上経過しており、過去3カ月以内の受診記録のある患者とした。認知機能低下や精神疾患を併発している患者を除外し、解析対象は1,200人となった。主な特徴は、平均年齢65.6±11.4歳(範囲24~94歳)、女性50.1%、BMI29.5±5.1、罹病期間10.7±9.2年、HbA1c7.2±1.3%、インスリン療法患者39.9%、合併症有病率39.4%。 調査には、米ミシガン大学で開発された糖尿病知識テスト(Diabetes Knowledge Test;DKT)のポルトガル語版を用いた。DKTは2部構成で、前半は全ての糖尿病患者に対する14項目の質問、後半はインスリン療法を行っている患者に対する9項目の質問から成る。全体的な正答率は、インスリン療法を行っていない患者は51.8%、インスリン療法中の患者は58.7%で、後者が有意に高かった(P<0.05)。 正答率が15%に満たない質問項目が三つあり、そのうちの一つはケトアシドーシスの兆候に関するもので、正答率はわずか4.4%(震え、発汗、嘔吐、低血糖の四者択一で嘔吐を選択した割合)だった。 低血糖時に摂取しても役立たない食品の正答率は11.9%(飴、オレンジジュース、ダイエット飲料、スキムミルクの四者択一でダイエット飲料を選択した割合)だった。この質問では全体の56.9%がスキムミルクと誤答していたが、その割合は、インスリン療法を行っていない患者では53.1%であるのに対して、インスリン療法患者では62.6%であり、低血糖リスクがより高いことの多い後者の群の方がむしろ高値だった(P<0.001)。 摂取量をあまり気にしなくてよい食品の正答率は13.3%(甘くない食品、糖尿病食、「砂糖不使用」と表示されている食品、1食分20kcal未満の食品の四者択一で、1食分20kcal未満の食品を選択した割合)。この質問に関しては、インスリン療法中の患者の正答率が有意に高かった(10.8対17.1%、P<0.01)。 著者らは、「われわれの研究結果は、2型糖尿病の予後改善のために、患者の疾患知識を向上させる必要があることを示している。より的を絞り込んだ教育介入が有用ではないか」と述べている。

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UKPDS 91:診断直後の強化血糖コントロール、死亡リスクを生涯低減/Lancet

 2型糖尿病におけるスルホニル尿素またはインスリン、あるいはメトホルミン療法による早期の強化血糖コントロールは、従来の食事療法を主体とする血糖コントロールと比較して、死亡および心筋梗塞のリスクをほぼ生涯にわたって減少させ、診断後すぐに正常血糖値に近い状態を実現することは、生涯にわたる糖尿病関連合併症のリスクを可能な限り最小限に抑えるために不可欠である可能性があることが、英国・オックスフォード大学のAmanda I. Adler氏らによる英国糖尿病前向き研究(UKPDS)の10年後の結果から、14年間の追跡調査で明らかとなった。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2024年5月18日号で報告された。10年後以降、24年後までの14年間の解析結果 本研究では、1977~91年に英国の23施設を受診した25~65歳の2型糖尿病患者4,209例を、強化血糖コントロール(スルホニル尿素またはインスリン、体重増加がみられる場合はメトホルミン)を受ける群、または従来の血糖コントロール(主に食事療法)を受ける群に無作為に割り付けた。 この20年間の介入試験の終了時に、3,277例の生存者が10年間の試験後モニタリング期間に参加し、2007年9月30日まで追跡が行われた。本研究の対象は、この10年間の試験後モニタリング期間の終了時に生存していた患者1,489例であった。 ベースラインの平均年齢は50.2(SD 8.0)歳で、41.3%が女性であった。10年間の追跡開始時の平均年齢は70.9(8.5)歳で、その14年後の2021年9月30日の時点(合計24年)の生存者は79.9(8.0)歳だった。ベースラインからの追跡期間の範囲は0~42年で、期間中央値は17.5年(四分位範囲[IQR]:12.3~26.8)だった。メトホルミンで、死亡と心筋梗塞の相対リスクが20%、31%低下 試験終了から最長24年間に、血糖値およびメトホルミンのレガシー効果には、減弱の徴候を認めなかった。 従来の血糖コントロールと比較して、スルホニル尿素またはインスリン療法による早期の強化血糖コントロールでは、全体的な相対リスクが全死因死亡で10%(95%信頼区間[CI]:2~17、p=0.015)、心筋梗塞で17%(6~26、p=0.002)、細小血管症で26%(14~36、p<0.0001)の減少を示した。絶対リスクは、それぞれ2.7%、3.3%、3.5%低下した。 また、従来の血糖コントロールに比べ、メトホルミン療法による早期の強化血糖コントロールは、全体的な相対リスクが全死因死亡で20%(5~32、p=0.010)、心筋梗塞で31%(同12~46、p=0.003)減少した。絶対リスクは、それぞれ4.9%および6.2%低下した。脳卒中、末梢血管疾患のリスク低減は認めず 試験中または試験後に、2つの強化血糖コントロールのいずれにおいても、脳卒中および末梢血管疾患の有意なリスクの低下は認めず、メトホルミン療法では細小血管症の有意なリスク低減はみられなかった。 著者は、「この研究結果は、2型糖尿病患者に対する早期の強化血糖コントロールの導入を支持し、長期的な糖尿病関連合併症のリスクを最小化するための治療指針として活用される可能性がある」としている。本研究は、オックスフォード大学Nuffield Department of Population Health Pump Primingの助成で行われた。

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糖尿病診療GL改訂、運動療法では身体活動量の評価と増加に注目/日本糖尿病学会

 日本糖尿病学会より、5年ぶりの改訂となる『糖尿病診療ガイドライン2024』1)が5月23日に発表された。5月17~19日に第67回日本糖尿病学会年次学術集会が開催され、シンポジウム9「身体活動増加を可能にする社会実装とは何か?」において、本ガイドラインの第4章「運動療法」を策定した加賀 英義氏(順天堂大学医学部附属順天堂医院 糖尿病・内分泌内科)が本章の各項目のポイントについて解説した。 本ガイドライン第4章「運動療法」の構成は以下のとおり。・CQ4-1糖尿病の管理に運動療法は有効か?・Q4-2運動療法を開始する前に医学的評価(メディカルチェック)は必要か?・Q4-3具体的な運動療法はどのように行うか?・Q4-4運動療法以外の身体を動かす生活習慣(生活活動)は糖尿病の管理にどう影響するか? ※今回の改訂でQ4-4の項目が新たに追加された。CQ4-1糖尿病の管理に運動療法は有効か? 本ガイドラインではCQを作成する場合、基本的にメタ解析(MA)やシステマティックレビュー(SR)を行う必要がある。ただし、運動療法に関しては既存の有益なMA/SRが存在していたため、それらのアンブレラレビューにて評価された。 加賀氏は本発表にて、ガイドライン策定に当たり参考とした論文を紹介した。2型糖尿病患者の運動の効果については、有酸素運動またはレジスタンス運動のどちらもHbA1cを低下させる。とりわけ2011年のJAMA誌掲載の論文で、週150分以上の運動は、週150分未満と比較し、HbA1c低下効果が有意に高いという結果が示されており2)、現状、週150分が目安となっている。ただし、今回のアンブレラレビューに用いられた研究では、糖尿病の血糖コントロールに関しては、週100分以上の量反応関係はそれほどなく、週100分程度の運動でもHbA1cの低下効果が期待できるという結果が示されている3)。 近年、筋力トレーニングやレジスタンス運動に関するMA/SRが増え、エビデンスが蓄積しているという。レジスタンス運動をすることは、運動しない場合と比較すると、血糖コントロール、フィットネスレベル、体組成、脂質、血圧、炎症、QOLなどを有意に改善することが示されている。一方、レジスタンス運動群と有酸素運動群を比較すると、血糖コントロールに関しては有酸素運動のほうが効果が高く、筋量増加についてはレジスタンス運動のほうが効果的であることなどが示されている4)。 1型糖尿病に関しては、血糖コントロールに運動療法が有効かどうかは、成人と小児共に一定の見解が得られていないため「推奨グレードU」としている。1型糖尿病の場合、インスリン分泌能の残存度合いが異なることにより、運動療法の効果が個人間で異なる可能性がある。ただし、成人では体重、BMI、LDL-C、最大酸素摂取量、小児では総インスリン量、ウエスト、LDL-C、中性脂肪について、運動療法により有意に改善がみられたとする研究もあったという5)。Q4-2運動療法を開始する前に医学的評価(メディカルチェック)は必要か? Q4-2は基本的に2019年版を踏襲している。糖尿病の運動療法を開始する際に懸念されるのが有害事象であるが、とくに3大合併症の網膜症、腎症、神経障害についてきちんと評価し、整形外科的疾患の状態を把握して指導することが必要だと、加賀氏は解説した。心血管疾患のスクリーニングに関しては、軽度~中等度(速歩きなど日常生活活動の範囲内)の運動であれば必要ないが、普段よりも高強度の運動を行う場合や、心血管疾患リスクの高い患者、普段座っていることがほとんどの患者に対しては、中等度以上の強度の運動を開始する際はスクリーニングを行うのが有益な可能性もある。加賀氏は、低強度の運動から始めることが合併症を防ぐために最も有用な方法だと考えられると述べた。 運動療法を禁止あるいは制限したほうがよい場合については、『糖尿病治療ガイド2022-2023』に記載のとおりである6)。とくに注意すべきは、増殖前網膜症以上の場合と、高度の自律神経障害の場合であり、運動療法開始前にその状態を把握しておく必要がある。Q4-3具体的な運動療法はどのように行うか? Q4-3のポイントとして、有酸素運動は、中強度で週150分かそれ以上、週3回以上、運動をしない日が2日間以上続かないように行い、レジスタンス運動は、連続しない日程で週に2~3回行うことがそれぞれ勧められ、禁忌でなければ両方の運動を行うということが挙げられた。有酸素運動は、心肺機能の向上を主な目的とするため、最初は低強度から始め、徐々に強度と量を上げていく。高齢者においては柔軟・バランス運動がとくに重要となるという。Q4-4運動療法以外の身体を動かす生活習慣(生活活動)は糖尿病の管理にどう影響するか? 2024年版で新たにQ4-4が追加された。「身体活動量=生活活動+運動」であり、生活活動は「座位時間を減らす」という言葉に置き換えることが可能だという。本項のポイントは、現在の身体活動量を評価し、生活活動量を含めた身体活動の総量を増加させることにある。そのためには、日常の座位時間が長くならないように、合間に軽い活動を行うことが勧められる。 参考となる研究によると、食後に軽度の運動をすることで血糖値の改善効果を得られる。30分ごとに3分間、歩行やレジスタンス運動をすることによって、食後の血糖値が改善できる7)。CGMを用いた研究では、1日14時間の座位時間を、30分ごとに10分程度の立位や歩行で約4.7時間少なくすると血糖値が改善したことが示されている8)。国内における2型糖尿病患者の運動療法の実施率を調べた研究によると、患者の運動療法の実施率は約半数であり9)、糖尿病がある人の身体活動量を増やすことが課題となっている。 加賀氏は、米国糖尿病学会が毎年発表している「糖尿病の標準治療(Standards of Care in Diabetes)」を参考として挙げ10)、身体活動に対する指針の項目で、「現在の身体活動量および座位時間を評価し、身体活動ガイドラインを満たしていない人に対しては、身体活動量を現在より増やすこと」という記載が近年追加されたことを指摘した。2024年版から「2型糖尿病における24時間を通した身体活動の重要性(Importance of 24-hour Physical Behaviors for Type 2 Diabetes)」を示した表も掲載されており、座位/座り過ぎの解消、運動、身体機能の向上、筋力の強化、歩行/有酸素運動、睡眠の質や量といった24時間を通した評価が重視されている。運動療法ガイドラインの未来 加賀氏は講演の最後に、「現在、スマートフォンやスマートウォッチでかなり正確に生活活動量を測定できるため、まず自身の身体活動量を測定することから開始し、その次に行動することが重要であると考えている。今後は、ゲームやVRを使った運動について、2型糖尿病患者を対象としたRCTが増えれば、ガイドラインに組み込まれることになるかもしれない。そのほか、2型糖尿病患者の運動療法の老年疾患に関するMA/SRの充実、スポーツジムの有効な活用法など、エビデンスの蓄積に期待したい」と、運動療法ガイドラインの未来について見解を述べた。■参考文献1)日本糖尿病学会編著. 糖尿病診療ガイドライン2024. 南江堂;2024.2)Umpierre D, et al. JAMA. 2011;305:1790-1799.3)Jayedi A, et al. Sports Med. 2022;52:1919-1938.4)Acosta-Manzano P, et al. Obes Rev. 2020;21:e13007.5)Ostman C, et al. Diabetes Res Clin Pract. 2018;139:380-391.6)日本糖尿病学会編著. 糖尿病治療ガイド2022-2023. 文光堂;2022.7)Dempsey PC, et al. Diabetes Care. 2016;39:964-972.8)Duvivier BM, et al. Diabetologia. 2017;60:490-498.9)佐藤祐造ほか. 糖尿病. 2015;58:850-859.10)American Diabetes Association Professional Practice Committee. Diabetes Care. 2024;47:S77-S110.

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1日3杯以上のコーヒーがメタボの重症度を低下

 コーヒーの摂取がメタボリックシンドローム(MetS)の総合的な重症度の低下と関連している一方で、カフェインレスコーヒーや紅茶ではその関連が認められなかったことを、中国・Peking Union Medical College HospitalのHe Zhao氏らが明らかにした。European Journal of Nutrition誌オンライン版2024年5月4日号掲載の報告。 これまでの研究により、コーヒー摂取がMetSに良い影響をもたらすことが示唆されているが、いまだ議論の余地がある。そこで研究グループは、2003~18年の米国疾病予防管理センター(CDC)の国民健康栄養調査のデータ(1万4,504例)を用いて、コーヒーやカフェインレスコーヒー、紅茶摂取とMetSの重症度との関係を線形回帰で分析した。MetSの重症度はMetS zスコアとして総合的に評価した。サブグループ解析では、NCEP/ATP III基準を用いてMetS群と非MetS群に分類して解析した。 主な結果は以下のとおり。・3杯/日以上のコーヒー摂取は、MetS zスコアの低下と有意に関連していた(p<0.001)。MetS群(p<0.001)および非MetS群(p=0.04)ともに低下していた。・連日のコーヒー摂取は、BMI値(p=0.02)、収縮期血圧(p<0.001)、インスリン抵抗性(HOMA-IR)(p<0.001)、トリグリセライド値(p<0.001)の低下と関連するとともに、HDLコレステロール値(p=0.001)の上昇と関連していた。・カフェインレスコーヒーと紅茶の摂取では、MetS zスコアとの関連は認められなかった。

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