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新システム人工膵臓、長期使用の有用性を確認/NEJM

 クローズドループシステムの人工膵臓の、長期使用の有用性が報告された。1型糖尿病患者を対象とした検討で、これまでのセンサー併用型ポンプ療法と比較して血糖コントロールを改善し、低血糖の発生は低く、成人被験者では血糖値の低下に結びついたという。英国・ケンブリッジ大学のHood Thabit氏らが、小児・青年25例と成人33例を対象とした12週間使用について検討を行い報告した。在宅療法としてのクローズドループシステムの人工膵臓の長期使用の可能性、安全性および有効性については、これまで確認されていなかった。NEJM誌オンライン版2015年9月17日号掲載の報告。1型糖尿病、成人33例と小児・青年25例を対象に12週間使用を評価 試験は、被験者が自宅で自由に生活している状況下で、クローズドループインスリン投与法とセンサー併用型ポンプ療法を比較して行われた。 検討は、2件の多施設無作為化対照試験にて実施され、被験者は58例(小児・青年25例、成人33例)であった。 クローズドループシステムは、成人被験者には昼夜にわたって、小児・若年者被験者には夜間に使用。クローズドシステムを12週間使用し、センサー併用型ポンプ療法(対照)を同一期間使用し評価した。 主要エンドポイントは、成人被験者については血糖値が70~180mg/dL、小児・青年については同70~145mg/dLであった時間割合とした。目標血糖値達成時間割合が11.0ポイント有意に増大 成人被験者において、目標血糖値達成の時間割合は、クローズドループシステム群67.7±10.6%、対照群56.8±14.2%で、クローズドループシステム群のほうが11.0ポイント(95%信頼区間[CI]:8.1~13.8)有意に増大した(p<0.001)。 また、平均血糖値は、クローズドループシステム群のほうが有意に低かった(差:11mg/dL、95%CI:6~17、p<0.001)。同様に、血糖値63mg/dL未満期間に関する曲線下面積(AUC)(39%低減、95%CI:24~51、p<0.001)、平均HbA1c値(差:0.3%、0.1~0.5、p=0.002)も有意に低かった。 小児・青年被験者では、目標夜間血糖値達成割合は、クローズドループシステム群が24.7ポイント(95%CI:20.6~28.7)有意に多かった(p<0.001)。 また、平均夜間血糖値は、29mg/dL(同:20~39)有意に低く(p<0.001)、昼夜血糖値63mg/dL未満期間に関するAUCは42%有意に低かった(95%CI:4~65、p=0.03)。 重度低血糖の報告は、クローズドループシステム群で3件発生した。1件は成人で、バッテリーの低下によるものであった。小児・青年群の報告例2件は第三者の支援を必要としたが入院とはならなかった。

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EMPA-REG OUTCOME試験:リンゴのもたらした福音(解説:住谷 哲 氏)-422

 リンゴを手に取ったために、アダムとイブは楽園から追放された。ニュートンは、リンゴが木から落ちるのを見て万有引力の法則を発見した。どうやら、リンゴは人類にとって大きな変化をもたらす契機であるらしい。今回報告されたEMPA-REG OUTCOME試験の結果も、現行の2型糖尿病薬物療法に変革をもたらすだろう。 優れた臨床試験は、設定された疑問に明確な解答を与えるだけではなく、より多くの疑問を提出するものであるが、この点においても本試験はきわめて優れた試験といえる。本試験は、FDAが新たな血糖降下薬の認可に際して求めている心血管アウトカム試験(cardiovascular outcome trial:CVOT)の一環として行われた。SGLT2(sodium-glucose cotransporter 2)阻害薬であるエンパグリフロジンが、心血管イベントリスクを増加しないか、増加しないならば減少させるか、が本試験に設定された疑問である。短期間で結果を出すために、対象患者は、ほぼ100%が心血管疾患を有する2型糖尿病患者が選択された。かつ、心血管疾患を有する2型糖尿病患者に対する標準治療に加えて、プラセボとエンパグリフロジンが投与された。その結果、3年間の治療により心血管死が38%減少し、さらに、総死亡が32%減少する驚くべき結果となった。しかし、奇妙なことに、非致死性心筋梗塞および非致死性脳卒中には有意な減少が認められず、心不全による入院の減少が、心血管死ならびに総死亡の減少と密接に関連していることを示唆する結果であった。さらに、心血管死の減少は、治療開始3ヵ月後にはすでに認められていることから、血糖、血圧、体重、内臓脂肪量などのmetabolic parameterの改善のみによっては説明できないことも明らかになった。つまり、インスリン非依存性に血糖を降下させるエンパグリフロジンが、血糖降下作用とは無関係に患者の予後を大きく改善したことになる。この結果の意味するところを、われわれはじっくりと咀嚼する必要があるだろう。 エンパグリフロジンが心血管死を減少させたメカニズムは何か? これが本試験の提出した最大の疑問である。残念ながら本試験は、この疑問に解答を与えるようにはデザインされておらず、新たなexplanatory studyが必要となろう。科学史における多くの偉大な発見は、瞥見すると突然もたらされたようにみえるが、実際はそこに至るまでに多くの知見が集積されており、そこに最後の一歩が加えられたものがほとんどである。したがって本試験の結果も、これまでに蓄積された科学的知見の文脈において理解される必要がある。ニュートンも、過去の多くの巨人達の肩の上に立ったからこそ、はるか遠くを見通せたのである。この点において、われわれは糖尿病と心不全との関係を再認識する必要がある。 糖尿病と心不全との関係は古くから知られているが、従来の糖尿病治療に関する臨床試験においては、システマティックに評価されてきたとは言い難い1)。これは、FDAの規定する3-point MACE(Major adverse cardiac event:心血管死、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中)および4-point MACE(3-point MACEに不安定狭心症による入院を加えたもの)に、心不全による入院が含まれていないことから明らかである。糖尿病と心不全との関係は病態生理学的にも血糖降下薬との関係においても複雑であり、かつ現時点でも不明な点が多く、ここに詳述することはできない(興味ある読者は文献2)を参照されたい)。血糖降下薬については、唯一メトホルミンが3万4,000例の観察研究のメタ解析から心不全患者の総死亡を抑制する可能性のあることが報告されているだけである3)。 本試験においては、ベースラインですでに心不全と診断されていた患者が約10%含まれていたが、平均年齢が60歳以上であること、すべての患者が心血管病を有していること、糖尿病罹病期間が10年以上の患者が半数を占めること、約半数の患者にインスリンが投与されていたことから、多くの潜在性心不全患者または左室機能不全(収縮不全または拡張不全)患者が含まれていた可能性が高い。筆者が考えるに、これらの患者に対して、エンパグリフロジンによる浸透圧利尿が心不全の増悪による入院を減少させたと考えるのが現時点での最も単純な推論であろう。これは、軽症心不全患者に対するエプレレノン(選択的アルドステロン拮抗薬)の有用性を検討したEMPHASIS-HF試験4)において、総死亡の減少が治療開始3ヵ月後の早期から認められている点からも支持されると思われる。興味深いことに、ベースラインで約40%の患者がすでに利尿薬を投与されており、エンパグリフロジンには既存の利尿薬とは異なる作用がある可能性も否定できない。 本試験の結果から、エンパグリフロジンは2型糖尿病薬物療法の第1選択薬となりうるだろうか? 筆者の答えは否である。EBMのStep4は「得られた情報の患者への適用」とされている。Step1-3は情報の吟味であるが、本論文の内的妥当性internal validityにはほとんど問題がない。しいて言えば、研究資金が製薬会社によって提供されている点であろう。したがって、この論文の結果はきわめて高い確率で正しい。ただし、本論文のpatient populationにおいて正しいのであって、明日外来で目前の診察室の椅子に座っている患者にそのまま適用できるかはまったく別である。つまり、外的妥当性applicabilityの問題である。そこでは医療者であるわれわれの技量が問われる。その意味において、本論文は糖尿病診療におけるEBMを考えるうえでの格好の教材だろう。 薬剤の作用は多くの交互作用のうえに成立する。そこで注意すべきは、本試験が心血管病の既往を有する2型糖尿病患者における2次予防試験であることである。2次予防で有益性の確立した治療法が1次予防においては有益でないことは、心血管イベント予防におけるアスピリンを考えると理解しやすい。心血管イベント発症絶対リスクの小さい1次予防患者群においては、消化管出血などの不利益が心血管イベント抑制に対する有益性を相殺してしまうためである。同様に、心不全発症絶対リスクの小さい1次予防患者においては、性器感染症やvolume depletionなどの不利益が、心不全発症抑制に対する有益性を相殺してしまう可能性は十分に考えられる。さらに、エンパグリフロジンの長期安全性については現時点ではまったく未知である。 薬剤間の交互作用については、メトホルミン、レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系阻害薬、β遮断薬、スタチン、アスピリンなどの標準治療に追加することで、エンパグリフロジンの作用が発揮されている可能性があり、本試験の結果がエンパグリフロジン単剤での作用であるか否かは不明である。それを証明するためには、同様の患者群においてエンパグリフロジン単剤での試験を実施することが必要であるが、その実現可能性は倫理的な観点からもほとんどないと思われる。 糖尿病治療における基礎治療薬(cornerstone)に求められるのは、(1)確実な血糖降下作用、(2)低血糖を生じない、(3)体重を増加しない、(4)真のアウトカムを改善する、(5)長期の安全性が担保されている、(6)安価である、と筆者は考えている。現時点で、このすべての要件を満たすのはメトホルミンのみであり、これが多くのガイドラインでメトホルミンが基礎治療薬に位置付けられている理由である。本試験においても、約75%の患者はベースラインでメトホルミンが投与されており、エンパグリフロジンの総死亡抑制効果は、前述したメトホルミンの持つ心不全患者における総死亡抑制効果との相乗作用であった可能性は否定できない。 ADA/EASDの高血糖管理ガイドライン2015では、メトホルミンに追加する薬剤として6種類の薬剤が横並びで提示されている。メトホルミン以外に、総死亡を減少させるエビデンスのある薬剤のないのがその理由である。最近の大規模臨床試験の結果から、インクレチン関連薬(DPP-4阻害薬およびGLP-1受容体作動薬)の心血管イベント抑制作用は、残念ながら期待できないと思われる。本試験の結果から、心血管イベント、とりわけ心不全発症のハイリスク2型糖尿病患者に対して、エンパグリフロジンがメトホルミンに追加する有用な選択肢としてガイドラインに記載される可能性は十分にある。EMPA-REG OUTCOME試験は、2型糖尿病患者の予後を改善するために実施された多くの大規模臨床試験が期待した成果を出せずにいる中で、ようやく届いたgood newsであろう。参考文献はこちら1)McMurray JJ, et al. Lancet Diabetes Endocrinol. 2014;2:843-851.2)Gilbert RE, et al. Lancet. 2015;385:2107-2117.3)Eurich DT, et al. Circ Heart Fail. 2013;6:395-402.4)Zannad F, et al. N Engl J Med. 2011;364:11-21.関連コメントEMPA-REG OUTCOME試験:試験の概要とその結果が投げかけるもの(解説:吉岡 成人 氏)EMPA-REG OUTCOME試験:SGLT2阻害薬はこれまでの糖尿病治療薬と何が違うのか?(解説:小川 大輔 氏)EMPA-REG OUTCOME試験:それでも安易な処方は禁物(解説:桑島 巌 氏)

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膵神経内分泌腫瘍〔P-NET : pancreatic neuroendocrine tumor〕

1 疾患概要■ 概念・定義神経内分泌腫瘍(neuroendocrine tumor: NET)は、神経内分泌細胞に由来する腫瘍の総称で、膵臓、下垂体、消化管、肺、子宮頸部など全身のさまざまな臓器に発生する。NETは比較的まれで進行も緩徐と考えられているが、基本的に悪性のポテンシャルを有する腫瘍である。ホルモンやアミンの過剰分泌を伴う機能性と非機能性に大別される。■ 疫学1)pNETの発症数欧米では膵神経内分泌腫瘍(pancreatic neuroendocrine tumor: pNET)は膵腫瘍全体の1~2%、年間有病数は人口10万人あたり1人以下と報告されている。日本における2005年の1年間のpNETの受療者数は約2,845人、人口10万人あたりの有病患者数は約2.23人、新規発症率は人口10万人あたり約1.01人と推定された。発症平均年齢は57.6歳で、60代にピークがあり、全体の15.8%を占めている。一方、2010年1年間のpNETの受療者数は約3,379人、人口10万人あたりの有病患者数は約2.69人、新規発症率は人口10万人あたり約1.27人と推定され、増加傾向がみられた。2)疾患別頻度2005年のわが国の疫学調査では、非機能性pNETが全体の47.4%を占め、機能性は49.4%を占めていた。2010年では、非機能性・機能性pNETの割合はそれぞれ34.5%と65.5%であり、非機能性腫瘍の割合が増えた。インスリノーマ20.9%、ガストリノーマ8.2%、グルカゴノーマ3.2%、ソマトスタチノーマ0.3%であった。機能性・非機能性腫瘍の割合は、欧米の報告に近づいたが、わが国では機能性腫瘍においてインスリノーマが多い傾向にある。■ 病因NETの発生にPI3K (phosphoinositide 3-kinase)-Akt経路が関わっていると考えられている。NETでは家族性発症するものが知られており、多発性内分泌腫瘍症I型(MEN-1)では原因遺伝子が同定され、下垂体腫瘍、副甲状腺腫瘍やpNETを来す。また、結節性硬化症、神経線維症、Von Hippel-Lindau(VHL)病を含む遺伝性腫瘍性疾患ではpNETの発生にmTOR経路が関連していると考えられているが、病因の詳細はいまだ不明である。■ 症状2005年のわが国における全国疫学調査によると、「症状あり」で来院した症例が全体の60%で、最も頻度が高いのは低血糖由来の症状であった。一方、無症状で検診にて偶然発見された症例は全体の24%であった。また、有症状例において何らかの症状が出現してからpNETと診断されるまで、平均約22ヵ月を要している。1)機能性腫瘍の症状機能性pNETは腫瘍が放出するホルモンによる内分泌症状をもたらすが、転移性のものは悪性腫瘍として生命予後に関わるという別の側面も持つ。また、ホルモン分泌も単一ではなく、複数のホルモンを分泌する腫瘍も認められる。主な内分泌症状を表1に示した。画像を拡大する2)非機能性腫瘍の症状非機能性腫瘍では特異的症状を呈さず、腫瘍増大による症状(周囲への圧迫・浸潤)や遠隔転移によって発見されることが多い。初発症状は腹痛、体重減少、食欲低下、嘔気などであるが、いずれも非特異的である。有肝転移例の進行例では、肝機能障害・黄疸が認められる。■ 分類上述したとおり、機能性腫瘍と非機能性腫瘍に大別される。遺伝性疾患(MEN-1、VHL)を合併するものもある。わが国においてはMEN-1合併の頻度は、2010年の調査ではpNET全体で4.3%であった。その中で、ガストリノーマは16.3%と最も高率にMEN-1を合併しており、非機能性pNETでは 4.0%であった。欧米の報告では非機能性pNETのMEN-1合併頻度は約30%であり、日本と大きな差を認めた。pNETの病理組織学的診断は、とくに切除不能腫瘍の治療方針決定に重要な情報となる。WHO 2010年分類を表2に示す。画像を拡大する■ 予後予後に与える因子は複数認められ、遠隔転移(肝転移)の有無、遺伝性疾患の有無、組織学的分類が影響を与える。欧米の報告によると5年生存率は、腫瘍が局所に留まっている症例で71%、局所浸潤が認められる症例で55%、遠隔転移を有する症例で23%とされる。インスリノーマ以外は遠隔転移を有する率が高く、予後不良である。単発例で転移がなく、治癒切除が施行できた症例の予後は良好である。WHO 2010分類でNECと診断された症例は、進行が早く、予後はさらに不良である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 存在診断症状や画像所見よりpNETが疑われた場合、各種膵ホルモンの基礎値を測定する。MEN-1を合併する頻度が高いことから、初診時に副甲状腺機能亢進症のスクリーニングで血清Ca、P値、intact-PTHを測定する。腫瘍マーカーとして神経内分泌細胞から合成・分泌されるクロモグラニンA(CgA)の有用性が知られているが、わが国ではいまだに保険適用がない。ほかに腫瘍マーカーとしてはNSEも用いられるが感度は低い。症状、検査などからインスリノーマやガストリノーマが疑われた場合、負荷試験(絶食試験、カルチコール負荷試験)を加えることで存在診断を進める。■ 局在診断pNETの多くは、多血性で内部均一な腫瘍であり、典型例では診断は容易であるが、乏血性を示すものや嚢胞変性を伴うような非典型例では、膵がんや嚢胞性膵腫瘍など他の膵腫瘍との鑑別が問題となる。インスリノーマやガストリノーマでは腫瘍径が小さいものも多く、正確な局在診断が重要である。症例に応じて各種modalityを組み合わせて診断する。1)腹部超音波検査内部均一な低エコー腫瘤として描出される。最も低侵襲であり、スクリーニングとして重要である。2)腹部CTダイナミックCTにて動脈相で非常に強く造影される。肝転移やリンパ節転移の検出にも優れており、ステージングの診断の際に必須である。3)腹部MRIT1強調画像で低信号、T2強調画像で高信号を呈する。CT同様、造影MRIでは腫瘍濃染を呈する。4)超音波内視鏡(EUS)辺縁整、内部均一な低エコー腫瘤として描出される。膵全体を観察でき、1cm以下の小病変も同定できる。診断率は80~95%程度とCTやMRIより優れており、原発巣の局在診断において非常に有用である。さらにEUS-FNAを併用することで組織診断が可能である。 5)選択的動脈内刺激薬注入法(SASI TEST)〔図1〕機能性腫瘍の局在診断に有用なmodalityである。腹部動脈造影の際に肝静脈内にカテーテルを留置し、膵の各領域を支配する動脈から刺激薬(カルシウム)を注入後、肝静脈血中のインスリン(ガストリン)値を測定し、その上昇から腫瘍の局在を判定する方法である。腫瘍の栄養動脈を同定することで他のmodalityでは描出困難な腫瘍の存在領域診断が可能であり、インスリノーマやガストリノーマの術前検査としてとくに有用である。画像を拡大する6)ソマトスタチンレセプターシンチグラフィー(SRS)pNETではソマトスタチンレセプター(SSTR)、とくにSSTR2が高率に発現している。SSTR2に強い結合能を持つオクトレオチドを用いたソマトスタチンレセプターシンチグラフィー(SRS)が、海外では広く行われており、転移巣を含めた全身検索に有用である。わが国では保険適用がないため、臨床試験として限られた施設でしか施行されていない。早期の国内承認が期待される。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 外科的治療pNETの治療法の第1選択は外科治療であり、小さな単発の腫瘍に対しては、腫瘍核出術が標準術式である。多発性腫瘍、膵実質内の腫瘍など核出困難例は膵頭十二指腸切除術、幽門輪温存膵頭十二指腸切除術、または膵体尾部切除術、膵分節切除術が行われる。肝転移を有する症例でも切除可能なものは積極的に切除する。1)分子標的薬近年、pNETに対するさまざまな分子標的薬を用いた臨床試験が行われてきた。その結果、mTOR阻害薬であるエベロリムス(商品名:アフィニトール)とマルチキナーゼ阻害薬であるスニチニブ(同:スーテント)が進行性pNET (NET G1/G2)に有効であることが示された。米国NCCNガイドラインでも推奨され(図2)、最近わが国でもpNETに対して保険適用が追加承認された(表3)。2015年の膵・消化管神経内分泌腫瘍(NET)診療ガイドラインでは、pNETに対するエベロリムスやスニチニブ療法はグレードBで推奨されているが、さまざまな有害事象に対する注意や対策が必要である(表3)。画像を拡大する画像を拡大する画像を拡大する画像を拡大する2)全身化学療法(殺細胞性抗腫瘍療法)進行性pNETに対する全身化学療法は、わが国においてはいまだコンセンサスがなく、保険適用外のレジメンが多い。(1)NET G1/G2に対する全身化学療法進行性の高分化型pNET(NET G1/G2相当)に対し、欧米で使用されてきた化学療法剤の中ではストレプトゾシン(STZ[同: ザノサー点滴静注])が代表的であるが、わが国ではこれまで製造販売されていなかった。国内でpNETおよび消化管NETに対するSTZの第I/II相試験が多施設共同で行われ、2014年にわが国でも保険適用され、2015年2月より国内販売された。膵・消化管神経内分泌腫瘍(NET)診療ガイドラインでは、pNET に対するSTZ療法はグレードC1と位置づけられている。他ではアルキル化剤であるダカルバジン(同: ダカルバジン)の報告もあるが保険承認されていない。(2)NECに対する全身化学療法pNETのうち低分化型腫瘍(WHO分類2010でNEC)は病理学的に小細胞肺がんに類似しており、進行も非常に速いことから、小細胞肺がんに準じた治療が行われている。肝胆道・膵由来のNECに対するエトポシド/CDDP併用療法の結果をretrospectiveに解析した報告では、奏効率14%、PFS中央値 1.8ヵ月、OS中央値が5.8ヵ月であった。わが国で実施された小細胞肺がんに対する第III相試験においてイリノテカン/CDDP併用療法がエトポシド/CDDP併用療法より効果を示したことを受けて、肺外のNECに対しても期待されている。現在、膵・消化管NECに対し、エトポシド/CDDP併用療法 vs. イリノテカン/CDDP併用療法の国内比較第III相試験が行われている。3)ソマトスタチンアナログ(SA)SAは広範な神経内分泌細胞でのペプチドホルモンの合成・分泌を阻害する作用を有している。オクトレオチド(同:サンドスタチン)を含むSAが持つ機能性NETに対する効果について、症候に対するresponseが平均73%(50~100%)といわれている。2009年に中腸由来の転移性高分化型NET(NET G1/G2相当)に対するオクトレオチドLARの抗腫瘍効果が示された(PROMID study)。pNETに対するSAの抗腫瘍効果に関しては、これまで十分なエビデンスは得られてこなかったが、2014年にランレオチド・オートゲル(同:ソマチュリン)のpNET・消化管NETに対する無増悪生存期間延長効果が報告された(CLARINET study)。それを受けてNCCNガイドラインでは、pNETに対するSAの位置づけが変わったが(図2)、わが国のガイドラインでは抗腫瘍効果を目的とした、NETに対するSAの明確な推奨はない。現在、わが国での承認を目的に、ランレオチド・オートゲルの国内第II相試験が進行中である。■ 肝転移に対する治療pNETの肝転移は疼痛や腫瘍浸潤による症状、もしくは内分泌症状が認められるまで気が付かれないことも多く、肝転移を伴った症例の80~90%は診断時すでに治癒切除が困難である。pNETの肝転移は血流が豊富であり、腫瘍への血流は90%以上肝動脈から供給されていることから、肝細胞がんと同様に動脈塞栓療法(transarterial embolization: TAE)や動脈塞栓化学療法(transarterial chemoembolization: TACE)がpNETの肝転移(とくに高腫瘍量)の局所治療として有用である。TAE後の生存率に関する報告はさまざまで5年生存率が0~71%(中央値50%)、生存期間中央値も20~80ヵ月と幅がある。腫瘍数が限られている症例では、ラジオ波焼灼術(RFA)が有用とする報告もある。わが国の診療ガイドラインでは、肝転移巣に対する局所療法はグレードC1と位置付けされている。4 今後の展望今までpNETに関しての診断・治療に関する明確な指針が、わが国にはなかったが、2013年にweb上でガイドラインが公開され、2015年には「膵・消化管神経内分泌腫瘍(NET)診療ガイドライン」として発刊された。今後、わが国におけるpNET診療の向上が期待される。pNETに対する薬物療法の臨床試験としては、進行性のG1/G2 pNETを対象に新規SAであるSOM230(パシレオチド)/RAD001(エベロリムス)併用療法とRAD001単独療法を比較したランダム化第II相試験がGlobal治験として行われ、現在解析中である。テモゾロミド(同: テモダール)は、副作用が軽減されたダカルバジンの経口抗がん剤であり、国内では悪性神経膠腫に保険適用を得ている薬剤であるが、進行性NET患者に対する他薬剤との併用療法の臨床試験が行われており、サリドマイド(同: サレド)やカペシタビン(同: ゼローダ)やベバシズマブ(同: アバスチン)などの薬剤との併用療法が期待されている。最近の話題の1つとして、WHO分類でNECに分類される腫瘍の中に、高分化なものと低分化なものが含まれている可能性が指摘されている。高分化NECに対する分子標的薬治療の可能性も提案されているが、今後の検討が待たれる。診断ツールとして有用な、血中クロモグラニンAの測定や、SRSが1日も早くわが国でも保険承認されることを希望するとともに、海外で臨床試験として施行されているPRRT(peptide receptor radionuclide therapy)の国内導入も今後の希望である。5 主たる診療科消化器内科、消化器外科、内分泌内科、内分泌外科、腫瘍内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療・研究情報日本神経内分泌腫瘍研究会(Japan NeuroEndocrine Tumor Society: JNETS)(医療従事者(専門医)向けのまとまった情報)独立行政法人 国立がん研究センター「がん情報サービス」(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)NET Links(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)がん情報サイト(Cancer Information Japan)(患者向けの情報)がんを学ぶ(患者向け情報)(患者向けの情報)患者会情報NPOパンキャンジャパン(pNET患者と家族の会)1)日本神経内分泌腫瘍研究会(JNETS) 膵・消化管神経内分泌腫瘍診療ガイドライン作成委員会編.膵・消化管神経内分泌腫瘍(NET)診療ガイドライン; 2015.2)Ito T, et al. J Gastroenterol. 2010; 45:234-243.3)Yao JC, et al. N Eng J Med. 2012; 364:514-523.4)Raymond E, et al. N Eng J Med. 2011; 364:501-513.公開履歴初回2013年02月28日更新2015年09月18日

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インスリンは「最後の切り札」ではない

 9月10日、都内においてサノフィ株式会社は、持効型溶解インスリンアナログ製剤「ランタスXR注ソロスター」(9月7日発売)のプレスセミナーを開催した。 セミナーでは、河盛 隆造氏(順天堂大学大学院医学研究科 スポートロジーセンター センター長)が、「私のインスリン物語」と題して、現在の糖尿病治療におけるインスリンの使用状況と今後の展望についてレクチャーを行った。インスリンは世界を変えた はじめに河盛氏は、「1921年のインスリン発見は、世界を変えた発見である」として、インスリン発見とその後の製剤開発の道程をたどり、糖尿病治療の歴史を振り返った。 健康な人では、体内に取り込んだブドウ糖をうまく利用できるよう、インスリンはグルカゴン分泌と調整して働いている。そのため、血糖値はほぼ一定であり、急激な変動はない。しかし、このバランスが崩れた状態が糖尿病であり、いかにインスリン分泌を高め、膵臓の働きを活性化させ、ブドウ糖を全身で利用できるようにするかが糖尿病の治療となる。 2型糖尿病の薬物療法は、足らないインスリン分泌を、足らない時間帯に、足らない量を十分に供給し、さらに少ない内因性分泌インスリンを有効利用すべく、全身細胞でのインスリンの働きを高めることにある。 また、現在わが国では約140万人がインスリン治療を行っているが、日本糖尿病学会が定めた血糖コントロールの目標値HbA1c 7.0%未満を達成できているのは、うち約20%である。その原因として、現在インスリンが糖尿病治療の切り札として使用されていることが挙げられ、内因性インスリンが回復可能な状態での治療期を逃しているが故に、本来のインスリンの効果がうまく発揮されていないのではないかとの示唆を投げかけた。 そのうえで自験例として、他疾患で入院してきた2型糖尿病の患者の例を挙げた。本症例では、緻密なインスリン療法により正常血糖応答を維持したところ、内因性インスリン分泌が回復した。そのほか、退院後、わずかな経口糖尿病薬で、良好な血糖値のコントロールができるようになったケースも多くみられるという。それに加えて、血糖のコントロールが良くなると、他の疾患の予後も良くなるとの知見を語った。切り札「インスリン」の早期活用 糖尿病は徐々に進行する疾病であり、悠長に構えてはいられない。膵β細胞機能の維持、回復のためにインクレチン関連薬やDPP-4阻害薬などさまざまな経口治療薬が注目されている。しかし、膵β細胞機能の維持、回復で実績があるのはインスリンであり、早期使用による高血糖毒性の除去が望まれる。 そのため、軽度のインスリンの働きの低下と食後過血糖を放置するべきではなく、発症直後からインスリンの使用も考慮に入れて、治療戦略を練ることが重要となる。 確かにインスリン使用には、低血糖リスク、体重増加、注射薬への患者の心理的抵抗、アドヒアランスの問題など越えるべきハードルがある。しかし、近年のインスリンは低血糖を起こしにくいこと、体重増加は食事療法との併用で解決できること、インスリンデバイスもさまざまな改良が行われ、痛みがほとんどない針も発売されるなど、患者に利用しやすい環境になっている。 今後のインスリン治療には、良好な血糖コントロール、低血糖リスクの低減、体重増加の影響が少ないことなどが望まれ、製薬メーカーも医療者や患者の要望に応える製品作りを行っている。 こうした中で、先日発売された「ランタスXR」は、ゆっくりと体内に吸収されることで、従来のランタスよりも長時間にわたり効果が現れる。そのため、睡眠中の低血糖が起こりにくいだけでなく、1型・2型糖尿病の双方において、24時間・夜間ともに低血糖リスクが低いという特性を持つ、新しい基礎インスリンである。 今後、手遅れになる前のインスリン使用により、膵β細胞機能の維持、回復に寄与し、より良好な血糖コントロールが実現されることを期待したい。関連コンテンツサノフィ株式会社のプレスリリースはこちら。(PDFがダウンロードされます)特集 糖尿病 外来インスリン療法

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コーヒー4杯/日以上で結腸がんの再発が減少?

 座りがちな生活や肥満、食事による糖負荷増大などの相対的インスリン過剰状態では、結腸がんの再発が増加することが観察研究で示されている。一方、コーヒーの高摂取が、2型糖尿病リスクの減少とインスリン感受性の増大と関連しているが、結腸がんの再発と生存率に対するコーヒーの影響は不明である。米国・ハーバード大学のBrendan J. Guercio氏らは、コーヒー摂取量とステージIII結腸がん患者の再発および死亡との関連を検討し、コーヒーの高摂取が結腸がんの再発や死亡の減少に関連する可能性を報告した。Journal of clinical oncology誌オンライン版2015 年8月17日号に掲載。 著者らは、ステージIII結腸がん953例について、術後化学療法中および終了後6ヵ月間におけるカフェイン入りコーヒー、カフェイン抜きコーヒー、ハーブティー以外の紅茶、その他128種類の摂取量を前向きに調査した。がんの再発率や死亡率におけるコーヒー、ハーブティー以外の紅茶、カフェインの影響についてCox比例ハザード回帰を用いて調べた。 主な結果は以下のとおり。・コーヒー(カフェイン入りおよびカフェイン抜き)を4杯/日以上を摂取する患者の結腸がん再発または死亡の調整ハザード比(HR)は、まったく飲まない患者に比べ、0.58(95%CI:0.34~0.99)であった(傾向のp=0.002)。・カフェイン入りコーヒーを4杯/日以上摂取する患者では、がんの再発または死亡リスクがまったく飲まない人と比べて有意に減少し(HR:0.48、95%CI:0.25~0.91、傾向のp=0.002)、カフェイン摂取量の増加もがんの再発または死亡を有意に減少させた(HR:5分位の両端で0.66、95%CI:0.47~0.93、傾向のp=0.006)。・ハーブティー以外の紅茶とカフェイン抜きコーヒーの摂取量は患者の転帰と関連していなかった。・コーヒー摂取量と転帰改善の関連は、他の再発や死亡の予測因子を通じて一貫しているようにみえる。

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ピオグリタゾンとがん(解説:吉岡 成人 氏)-397

日本人における糖尿病とがん 日本における糖尿病患者の死因の第1位は「がん」であり、糖尿病患者の高齢化と相まって、糖尿病患者の2人に1人はがんになり、3人に1人ががんで死亡する時代となっている。日本人の2型糖尿病患者におけるがん罹患のハザード比は1.20前後であり、大腸がん、肝臓がん、膵臓がんのリスクが増加することが、疫学調査によって確認されている。糖尿病によってがんの罹患リスクが上昇するメカニズムとしては、インスリン抵抗性、高インスリン血症の影響が大きいと考えられている。インスリンインスリン受容体のみならず、インスリン様成長因子(IGF-1)の受容体とも結合することで細胞増殖を促し、がんの発生、増殖にも関連する。チアゾリジン薬であるピオグリタゾンとがん ピオグリタゾン(商品名:アクトス)は承認前の動物実験において、雄ラットにおける膀胱腫瘍の増加が確認されていた。そのため、欧米の規制当局により米国の医療保険組織であるKPNC(Kaiser Permanente North California)の医療保険加入者データベースを用いた前向きの観察研究が2004年から行われ、2011年に公表された5年時の中間報告で、ピオグリタゾンを2年間以上使用した患者において、膀胱がんのリスクが1.40倍(95%信頼区間:1.03~2.00)と、有意に上昇することが確認された。さらに、フランスでの保険データベースによる、糖尿病患者約150万例を対象とした後ろ向きコホート研究でも、膀胱がんのリスクが1.22倍(95%信頼区間:1.05~1.43)であることが報告され、フランスとドイツではピオグリタゾンが販売停止となった。また、日本においても、アクトスの添付文書における「重要な基本的注意」に、(1)膀胱がん治療中の患者には投与しないこと、(2)膀胱がんの既往がある患者には薬剤の有効性および危険性を十分に勘案したうえで、投与の可否を慎重に判断すること、(3)患者またはその家族に膀胱がん発症のリスクを十分に説明してから投与すること、(4)投与中は定期的な尿検査等を実施することなどが記載されるようになった。多国間における国際データでの評価 その後、欧州と北米の6つのコホート研究を対象に、100万例以上の糖尿病患者を対象として、割り付けバイアス(allocation bias)を最小化したモデルを用いた検討が2015年3月に報告された。その論文では、年齢、糖尿病の罹患期間、喫煙、ピオグリタゾンの使用歴で調整した後の100日間の累積使用当たりの発症率比は、男性で1.01(95%信頼区間:0.97~1.06)、女性で1.04(95%信頼区間:0.97~1.11)であり、ピオグリタゾンと膀胱がんのリスクは関連が認められないと報告された1)。KPNCの最終報告 今回、JAMA誌に報告されたのが、5年時の中間報告で物議を醸しだしたKPNCの10年時における最終解析である。ピオグリタゾンの使用と膀胱がんのみならず前立腺がん、乳がん、肺がん、子宮内膜がん、大腸がん、非ホジキンリンパ腫、膵臓がん、腎がん、直腸がん、悪性黒色腫の罹患リスクとの関連を、40歳以上の糖尿病患者約20万例のコホート分析およびコホート内症例対照分析で検証したものである。 その結果、ピオグリタゾン使用は、膀胱がんリスクの増加とは関連しなかった(調整後ハザード比1.06:95%信頼区間:0.89~1.26)と結論付けられた。 しかし、解析対象とした10種の悪性疾患中8種の悪性疾患とピオグリタゾンの関連は認められなかったものの、前立腺がんのハザード比は1.13(95%信頼区間:1.02~1.26)、膵がんのハザード比は1.41(95%信頼区間:1.16~1.71、10万例/年当たりの膵臓がんの粗発生率は、使用者で81.8例、非使用者で48.4例)であったことが報告されている。 チアゾリジンの膀胱がんを発症するリスクに対する懸念は払拭されたのか、前立腺がんと膵がんのリスクに関するデータは、偶然なのか、交絡因子の影響なのか、事実なのか……、また1つの問題が提示されたのかもしれない。

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すべての1型糖尿病患者にインスリンポンプ療法を施行すべきか?(解説:住谷 哲 氏)-387

 1型糖尿病患者は、インスリン分泌が枯渇しているため、インスリン投与が必須となる。現在では基礎インスリンとボーラスインスリンを組み合わせた、インスリン頻回注射療法[MDI:Multiple daily injections、(BBT [Basal-bolus treatment]ともいう)]を用いたインスリン強化療法が主流である。しかし、生理的インスリン補充のために必要となる基礎インスリンの調節は、MDIにおいては困難である。一方、インスリンポンプ療法(CSII [continuous subcutaneous insulin infusion]ともいう)は、自由に基礎インスリン量を調節できるために、MDIと比較して低血糖の少ない、より変動の少ない血糖コントロールが可能であるとされる。 これまでに、血糖コントロール指標や低血糖の頻度などの代用アウトカム(surrogate outcomes)を両治療法において比較した報告は多数あるが、心血管イベントや総死亡などの真のアウトカム(true outcomes)を比較した報告はほとんどなく、本論文は貴重である。その結果、インスリンポンプ療法によりMDIと比較して、総死亡が27%減少することが示され、衝撃的である。 本論文の結果が真実であれば、すべての1型糖尿病患者にインスリンポンプ療法を行うことが正当化されると思われるが、そうだろうか。 まず、本研究は観察研究であり、厳密には因果関係を証明することはできない。観察研究での因果関係の強さを推定する際には、介入の生物学的妥当性を考える必要があるが、この論文ではインスリンポンプ療法による重症低血糖の減少が可能性の1つとして挙げられている。 これまでに本論文の著者らにより、1型糖尿病患者における重症低血糖の頻度と、その後の心血管死との関連が報告されていることから、この推論は支持されると思われる1)。加えて、仮想的交絡因子(hypothetical confounders)を用いた統計学的解析により、治療選択によるバイアス(treatment allocation bias)も可能な限り排除されている。さらに、スウェーデンではほぼ100%の1型糖尿病患者が本研究で用いられたレジストリに登録されており、選択バイアス(selection bias)の可能性もほとんどない。以上から、本論文で示されたインスリンポンプ療法と総死亡も含めた心血管イベントリスクの減少との間には、因果関係がかなりの確率で存在すると考えられる。 筆者の外来にも多数の1型糖尿病患者さんが通院しているが、インスリンポンプ療法を施行しているのはごく一部である。わが国ではスウェーデンとは異なり治療費の問題もあるが、現実的にはインスリンポンプ療法に移行するには大きな壁があるように感じている。さらに、いったんインスリンポンプ療法に移行しても、その後にMDIに戻る患者も存在する。 本論文によれば、インスリンポンプ療法の壁が小さいと考えられるスウェーデンにおいても、インスリンポンプ療法を行っている患者は全体のわずか13.4%であり、きわめて少ない。つまり、現実にはインスリンポンプ療法が継続できる患者とできない患者が存在しており、後者が大部分を占めている。この両患者群の違いは単純ではなく、患者側のみならず、医療者側も含めた多数の複雑に絡み合った要因に依存していると思われる。 著者らも述べているが、インスリンポンプ療法の生理学的作用のみによる結果と単純に考えることはできず、インスリンポンプ療法が長期にわたって継続できることこそが、総死亡を含めた心血管イベントのリスク減少につながるとするのが正しい解釈であろう。 今後はインスリンポンプ療法の可否について、すべての1型糖尿病患者と医療提供者との間のshared decision makingが必要になると思われる。

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Vol. 3 No. 4 高尿酸血症と循環器疾患 心不全・虚血性心疾患とのかかわり

室原 豊明 氏名古屋大学大学院医学系研究科循環器内科学はじめに高尿酸血症は循環器疾患の危険因子の1つとして見なされているが、その具体的な影響度や機序などに関しては不明な点も多い。高尿酸血症が持続すると、いわゆる尿酸の蓄積に伴う疾患や症状が前面に現れてくる。典型的には、痛風・関節炎・尿路結石などである。しかしながら、尿酸そのものは抗酸化作用があるともいわれており、尿酸そのものが血管壁や心筋に直接ダメージを与えているのか否かは未だ不明の部分も多い。ただし、尿酸が体内で生成される過程の最終段階では、酵素であるキサンチンオキシダーゼが作用するが、この時に同時に酸素フリーラジカルが放出され、これらのラジカルが血管壁や心筋組織にダメージを与え、その結果動脈硬化病変や心筋障害が起こるとの考え方が主流である。本稿では、高尿酸血症と循環器疾患、特に心不全、虚血性心疾患とのかかわりに関して緒言を述べたい。高尿酸血症と尿酸代謝尿酸はDNAやRNAなどの核酸や、細胞内のエネルギーの貯蔵を担うATPの代謝に関連したプリン体の最終代謝産物である。プリン体は食事から摂取される部分(約20%)と、細胞内で生合成される部分(約80%)がある。細胞は過剰なプリン体やエネルギー代謝で不要になったプリン体を、キサンチンオキシダーゼにより尿酸に変換し、細胞から血液中に排出する。体内の尿酸の総量は通常は一定に保たれており(尿酸プール約1,200mg)、1日に約700mgの尿酸が産生され、尿中に500mg、腸管等に200mgが排泄される。余分な尿酸は尿酸塩結晶となり組織に沈着したり、結石となる。多くの生物はウリカーゼという酵素を持ち、尿酸を水溶性の高いアラントインに代謝し尿中に排泄することができるが、ヒトやチンパンジーや鳥類はウリカーゼを持たないために、血清尿酸値が高くなりやすい。尿酸の約3/4は腎臓から尿中に排泄される。腎臓の糸球体ではいったん100%濾過されるが、尿細管で再吸収され、6 ~10%のみ体外へ排出される。最近、尿酸の再吸収や分泌を担うトランスポーターが明らかにされ、再吸収では近位尿細管の管腔側膜にURAT1、血管側にGLUT9が、分泌では管腔側にABCG2が存在することが報告されている1, 2)。腎障害としては、尿酸の結晶が沈着して起こる痛風腎のほかに、結晶沈着を介さない腎障害である慢性腎臓病(CKD)も存在する。高尿酸血症のタイプは、尿酸産生過剰型(約10%)、尿酸排泄低下型( 約50~70%)、混合型(約20 ~30%)に分類され、病型を分類するために、簡便法では尿中の尿酸とクレアチニンの比を算出し、その比が 0.5を上回った場合には尿酸産生過剰型、0.5未満の場合には尿酸排泄低下型と分類している。高尿酸血症と循環器疾患の疫学高尿酸血症と動脈硬化性疾患、心血管イベント高尿酸血症は痛風性関節炎、腎不全、尿路結石を起こすだけでなく、生活習慣病としての側面も有しており、高血圧・肥満・糖尿病・高脂血症などの他の危険因子とよく併存し、さらには脳血管障害や虚血性心臓病を合併することが多い3)。尿酸は直接動脈硬化病変も惹起しうるという報告と、尿酸は単なる病態のマーカーに過ぎないという2面の考え方がある。いずれにしても、血清尿酸値の高値は、心血管病変(動脈硬化病変)の進行や心血管イベントの増大と関連していることは間違いなさそうである。尿酸は血管壁において、血小板の活性化や炎症反応の誘導、血管平滑筋の増殖を刺激するなど、局所で動脈硬化を惹起する作用がこれまでに報告されている。実際に、ヒトの頸動脈プラーク部において、尿酸生成酵素であるキサンチンオキシダーゼや、結晶化した尿酸が存在することが報告されている(本誌p.24図を参照)4)。尿酸は直接細胞膜やライソゾーム膜を傷害し、また補体を活性化することで炎症を誘発し血管壁細胞を傷害する。さらに尿酸生成に直接寄与する酵素であるキサンチンオキシダーゼは、血管内皮細胞や血管平滑筋細胞にも発現しており、この酵素は酸素ラジカルを生成するため、このことによっても細胞がさらなる傷害を受けたり、内皮細胞由来の一酸化窒素(NO)の作用を減弱させたりする。実際に、高尿酸血症患者では血管内皮機能が低下していることや、血管の硬さを表す脈派伝播速度が増大していることが報告されている(本誌p.25図を参照)5)。このように、尿酸が過度に生成される状態になると、尿酸が動脈壁にも沈着し動脈硬化病変を直接惹起させうると考えられている。では、血清尿酸値と心血管イベントとの関係はどうであろうか。1次予防の疫学調査はいくつかあるが、過去の研究では、種々の併存する危険因子を補正した後も、血清尿酸値の高値が心血管イベントの独立した危険因子であるとする報告が多く、女性では7.0mg/dL、男性では9.0mg/dL以上が危険な尿酸値と考えられている。また2次予防の疫学調査でも、血清尿酸値の高値が心血管事故再発の独立した危険因子であることが報告されている3)。日本で行われたJ-CAD研究でも、冠動脈に75%以上の狭窄病変がある患者群において、血清尿酸値高値(6.8mg/dL以上)群では、それ以下の群に比べて心血管イベントが増大することが示されている(本誌p.25図を参照)6)。イベントのみならず、最近のVH-IVUS法を用いたヒトの冠動脈画像の研究から、高尿酸血症はプラーク量や石灰化病変と関連していることが示されている(本誌p.26図を参照)7)。繰り返しになるが、これらが因果関係を持っての尿酸によるイベントや動脈硬化病変の増大か否かについては議論の余地が残るところではある。高尿酸血症と心不全慢性心不全患者では高尿酸血症が多くみられることがこれまでに明らかにされている8)。これは慢性心不全患者には他のさまざまな危険因子が併存しており、このため生活習慣病(multiple risk factor 症候群)の患者も多く、これらに付随して尿酸高値例が自然と多くみられるという考え方がある。もう1つは、慢性心不全患者では多くの場合利尿剤が併用されているため、この副作用のために血清尿酸値が高くなっているという事実がある。いずれにしても、尿酸が生成される過程は、心不全患者では全般に亢進していると考えられており、ここにもキサンチンオキシダーゼの高発現による酸素フリーラジカルの産生が寄与していると考えられている。事実、拡張型心筋症による慢性心不全患者の心筋組織では、キサンチンオキシダーゼの発現が亢進していることが報告されている9)。また、血清尿酸値と血中のキサンチンオキシダーゼ活性も相関しているという報告がある10)。高尿酸血症では、付随するリスクファクターや腎機能障害、炎症性サイトカインの増加、高インスリン血症などが心不全を増悪させると考えられるが、なかでも高尿酸血症に伴う心不全の病態においては、酸化ストレスの関与は以前から注目されている。慢性の不全心では心筋内のキサンチンオキシダーゼの発現が亢進しており、このために酸素フリーラジカルが細胞内で多く産生されている。また、慢性心不全患者の血液中には、心不全のないコントロール群に比べて、内皮結合性のキサンチンオキシダーゼの活性が約3倍に増加していることが報告されている。心筋細胞内のミトコンドリアにおいては、細胞内の酸素フリーラジカルが増加すると、ミトコンドリアDNAの傷害や変異、電子伝達系の機能異常などが起こり、最終的なエネルギー貯蔵分子であるATP産生が低下する。傷害されたミトコンドリアはそれ自身も酸素フリーラジカルを産生するため、細胞のエネルギー代謝系は悪循環に陥り、この結果心筋細胞のエネルギー産生と活動性が低下、すなわち心不全が増悪してくると考えられている。では疫学データではどうであろうか。前述したように、慢性心不全患者では高尿酸血症が多くみられる。さらに2003年にAnkerらが報告した論文では、ベースラインの血清尿酸値が高くなればなるほど、慢性心不全患者の予後が悪化することが示された11)。また筒井らの行った日本におけるJ-CARE-CARD試験でも、高尿酸血症(血清尿酸値が7.4mg/dL以上)は、それ以下の群に比べて、心不全患者の全死亡および心臓死が有意に増加していることが示された(本誌p.27表を参照)12)。このように、高尿酸血症は、心血管イベントの増加のみにとどまらず、慢性心不全の病態悪化や予後とも関連していることがこれまでに明らかにされている。おわりに高尿酸血症と虚血性心疾患、心不全との関係について概説した。尿酸そのものが、直接の原因分子として動脈硬化病変の進展や虚血性心疾患イベントの増加、心不全増悪と関連しているか否かは議論の残るところではあるが、疫学的には高尿酸血症とこれらのイベントに正の相関があることはまぎれもない事実である。この背景には、付随するリスクファクターとキサンチンオキシダーゼ/酸素フリーラジカル系が強く関与しているものと思われる。文献1)Enomoto A et al. Molecular identification of a renal urate anion exchanger that regulates blood urate levels. Nature 2002; 417: 447-452.2)Matsuo H et al. Common defects of ABCG2, a highcapacity urate exporter, cause gout: a functionbased genetic analysis in a Japanese population. Sci Transl Med 2009; 1: 5ra11.3)Fang J, Alderman MH. Serum uric acid and cardiovascular mortality the NHANES I epidemiologic follow-up study, 1971–1992: National Health and Nutrition Examination Survey. JAMA 2000; 283: 2404-2410.4)Patetsios P et al. Identification of uric acid and xanthine oxidase in atherosclerotic plaque. Am J Cardiol 2001; 88: 188-191.5)Khan F et al. The association between serum urate levels and arterial stiffness/endothelial function in stroke survivors. Atherosclerosis 2008; 200: 374-379.6)Okura T et al. Japanese Coronary Artery Disease Study Investigators. Elevated serum uric acid is an independent predictor for cardiovascular events in patients with severe coronary artery stenosis: subanalysis of the Japanese Coronary Artery Disease (JCAD) Study. Circ J 2009; 73: 885-891.7)Nozue T et al. Correlations between serum uric acid and coronary atherosclerosis before and during statin therapy. Coron Artery Dis 2014; 25: 343-348.8)Bergamini Cetal. Oxidative stress and hyperuricaemia: pathophysiology, clinical relevance, and therapeutic implications in chronic heart failure. Eur J Heart Fail 2009; 11: 444-452.9)Cappola TP et al. Allopurinol improves myocardial efficiency in patients with idiopathic dilated cardiomyopathy. Circulation 2001; 104: 2407-2411.10)Landmesser U et al. Vascular oxidative stress and endothelial dysfunction in patients with chronic heart failure: role of xanthine-oxidase and extracellular superoxide dismutase. Circulation 2002; 106: 3073-3078.11)Anker SD et al. Uric acid and survival in chronic heart failure: validation and application in metabolic, functional, and hemodynamic staging. Circulation 2003; 107: 1991-1997.12)Hamaguchi S et al. JCARE-CARD Investigators. Hyperuricemia predicts adverse outcomes in patients with heart failure. Int J Cardiol 2011; 151: 143-147.

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インスリンポンプ、1型糖尿病の心血管死抑制/BMJ

 1型糖尿病患者に対するインスリンポンプ療法は、インスリン頻回注射療法よりも心血管死のリスクが低いことが、デンマーク・オーフス大学のIsabelle Steineck氏らによる、スウェーデン人を対象とする長期的な検討で示された。糖尿病患者では、高血糖と低血糖の双方が心血管疾患(冠動脈心疾患、脳卒中)のリスク因子となるが、持続的皮下インスリン注射(インスリンポンプ療法)はインスリン頻回注射療法よりも、これらのエピソードが少なく、血糖コントロールが良好とされる。一方、これらの治療法の長期的予後に関する知見は十分ではないという。BMJ誌オンライン版2015年6月22日号掲載の報告。約1万8,000例を約7年フォローアップ 研究グループは、1型糖尿病の治療において、インスリンポンプ療法が心血管疾患や死亡に及ぼす長期的な影響の評価を目的とする観察研究を行った(欧州糖尿病学会[EASD]の助成による)。 Swedish National Diabetes Registerに登録された1型糖尿病患者1万8,168例(インスリンポンプ療法:2,441例、インスリン頻回注射療法[MDI]:1万5,727例)のデータを解析した。被験者は、2005~2007年に初回受診し、2012年12月31日までフォローアップされた。 臨床的背景因子、心血管疾患のリスク因子、治療法、既往症の傾向スコアで層別化し、Cox回帰モデルを用いてアウトカムのハザード比(HR)を算出した。平均フォローアップ期間は6.8年(11万4,135人年)であった。 ポンプ療法群はMDI群よりも若く(38 vs.41歳)、収縮期血圧がわずかに低く(126 vs.128mmHg)、男性(45.0 vs.57.1%)や喫煙者(10.5 vs.13.5%)が少なかった(いずれもp<0.001)。また、ポンプ療法群は身体活動性の低い患者が少なかった(21.8 vs.24.0%、p=0.01)。 さらに、ポンプ療法群は、アルブミン尿(20.7 vs.24.0%)や腎機能が低い患者(10.4 vs.11.7%)が少なく、降圧薬(32.0 vs.36.7%)や脂質低下薬(21.0 vs.26.4%)、アスピリン(15.0 vs.18.8%)の使用例が少なかった(腎機能p=0.04、その他p<0.001)。また、心血管疾患(5.4 vs.8.0%)や心不全(0.9 vs.2.3%)の既往例が少なく、教育歴が高い患者(37.3 vs.27.6%)や既婚者(40.3 vs.36.5%)が多かった(いずれもp<0.001)。致死的冠動脈心疾患、致死的心血管疾患、全死因死亡リスクが著明に低下 Kaplan-Meier法による解析では、すべてのアウトカム(致死的/非致死的冠動脈心疾患、致死的/非致死的心血管疾患、致死的心血管疾患、全死因死亡)が、ポンプ療法群で有意に優れていた(いずれもp<0.001)。 ポンプ療法群のMDI群に対する主要エンドポイントの補正後HRは、致死的/非致死的冠動脈心疾患が0.81(95%信頼区間[CI]:0.66~1.01、p=0.05)、致死的/非致死的心血管疾患は0.88(0.73~1.06、p=0.2)であり、ポンプ療法群で良好な傾向がみられたものの有意な差はなかった。 一方、致死的心血管疾患(冠動脈心疾患、脳卒中)の補正後HRは0.58(0.40~0.85、p=0.005)、全死因死亡は0.73(0.58~0.92、p=0.007)であり、いずれもポンプ療法群で有意に良好であった。 また、副次エンドポイントである致死的冠動脈心疾患の補正後HRは0.55(95%信頼区間[CI]:0.36~0.83、p=0.004)と有意差を認めたが、致死的脳卒中は0.67(0.27~1.67、p=0.4)、心血管疾患以外による死亡は0.86(0.64~1.13、p=0.3)であり、有意な差はなかった。 致死的冠動脈心疾患の1,000人年当たりの未補正絶対差は3.0件であり、致死的心血管疾患は3.3件、全死因死亡は5.7件であった。また、低BMI(<18)および心血管疾患の既往歴のある患者を除外したサブグループ解析を行ったところ、結果は全症例とほぼ同様であった。 著者は、「インスリンポンプ療法の生理学的作用や、使用者が受ける臨床的管理、ポンプ使用の教育的側面が、これらの結果に影響を及ぼしているかという問題は未解明のままである」としている。

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シタグリプチン追加で重症心血管イベント増加せず/NEJM

 2型糖尿病患者の治療において、通常治療にDPP-4阻害薬シタグリプチン(商品名:ジャヌビア、グラクティブ)を併用しても、重症心血管イベントは増加しないことが、米国・デューク大学のJennifer B Green氏らが実施したTECOS試験で示された。多くの2型糖尿病治療薬が承認されているが、一部の薬剤で心血管系の長期的な安全性に関して疑問が生じているという。米国FDAや欧州医薬品庁(EMA)は、新薬に対し、血糖降下作用だけでなく臨床的に重要な心血管系の重篤な有害事象の発生率を上昇させないことを示すよう求めている。NEJM誌オンライン版2015年6月8日号掲載の報告より。上乗せの安全性の非劣性を検証 TECOS試験は、心血管疾患を併発した2型糖尿病患者における通常治療へのシタグリプチンの上乗せの長期的な安全性を評価する二重盲検プラセボ対照無作為化非劣性試験(Merck Sharp & Dohme社の助成による)。 対象は、年齢50歳以上、1~2剤の安定用量の経口血糖降下薬(メトホルミン、ピオグリタゾン、スルホニル尿素薬)またはインスリン製剤により糖化ヘモグロビン(HbA1c)値が6.5~8.0%に保たれている患者とした。併存する心血管疾患は、重症冠動脈疾患、虚血性脳血管疾患、アテローム性末梢動脈硬化疾患とした。 被験者は、通常治療にシタグリプチン(100mg/日またはeGFR値が≧30、<50mL/分/1.73m2の場合は50mg/日)またはプラセボを併用する群に1対1の割合で無作為に割り付けられた。血糖降下薬は、個々の患者が適切な目標血糖値を達成できるようオープンラベルでの投与が推奨された。 主要複合アウトカムは、心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中、不安定狭心症による入院とした。シタグリプチン群の両側検定による相対リスクのハザード比(HR)の95%信頼区間(CI)上限値が1.3を超えない場合に非劣性と判定した。主要複合アウトカム発生率:11.4 vs. 11.6% 2008年12月~2012年7月までに、38ヵ国673施設に1万4,671例(intention-to-treat[ITT]集団)が登録され、シタグリプチン群に7,332例、プラセボ群には7,339例が割り付けられた。ベースラインの平均HbA1c値は7.2±0.5%、2型糖尿病の平均罹病期間は11.6±8.1年であり、フォローアップ期間中央値は3.0年だった。 HbA1c値は、4ヵ月時にシタグリプチン群がプラセボ群よりも0.4%低くなったが、この差はその後の試験期間を通じて徐々に小さくなった。全体のシタグリプチン群の最小二乗平均差は-0.29%(95%信頼区間[CI]:-0.32~-0.27)であった。 主要複合アウトカムのイベント発生は、シタグリプチン群が839例(11.4%、4.06/100人年)、プラセボ群は851例(11.6%、4.17/100人年)であった。非劣性のper-protocol(PP)解析では、シタグリプチン群のプラセボ群に対する非劣性が確認され(ハザード比[HR]:0.98、95%信頼区間[CI]:0.88~1.09、p<0.001)、優越性に関するITT解析(0.98、0.89~1.08、p=0.65)では有意な差を認めなかった。 副次複合アウトカムである心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中の発生も、PP解析で非劣性であり(HR:0.99、95%CI:0.89~1.11、p<0.001)、ITT解析では優越性を認めなかった(0.99、0.89~1.10、p=0.84)。また、ITT解析では、心不全による入院(1.00、0.83~1.20、p=0.98)、心不全による入院または心血管死(1.02、0.90~1.15、p=0.74)、全死因死亡(1.01、0.90~1.14、p=0.88)も、シタグリプチン群での発生が多いことはなかった。 一方、非心血管アウトカムでは、感染症、がん、腎不全、重症低血糖の発生率は両群間に差がなかった。急性膵炎の頻度はシタグリプチンで高かった(0.3 vs. 0.2%)が、有意な差はなかった(ITT解析:p=0.07、PP解析:p=0.12)。膵がんはシタグリプチン群で少なかった(0.1 vs. 0.2%)が、有意差は認めなかった(p=0.32、p=0.85)。 また、重篤な有害事象(消化器、筋骨格・結合組織、呼吸器など)の発生率には、両群間に臨床に関連する差はみられなかった。 著者は、「シタグリプチンは、心血管疾患のリスクが高い多彩な病態の2型糖尿病患者に対し、心血管合併症を増加させずに使用可能と考えられるが、これらの結果は、より長期の治療やより複雑な併存疾患を有する患者では、ベネフィットとともにリスクの可能性も排除できないことを示唆する」と指摘している。

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週1回デュラグルチド、1日1回グラルギンに非劣性/Lancet

 コントロール不良の2型糖尿病患者に対し、食前インスリンリスプロ併用下でのGLP-1受容体作動薬dulaglutideの週1回投与は、同併用での就寝時1日1回インスリン グラルギン(以下、グラルギン)投与に対し、非劣性であることが示された。米国Ochsner Medical CenterのLawrence Blonde氏らが行った第III相の非盲検無作為化非劣性試験「AWARD-4」の結果、示された。Lancet誌2015年5月23日号掲載の報告より。26週時のHbA1c変化の平均値を比較 試験は2010年12月9日~2012年9月21日にかけて、15ヵ国、105ヵ所の医療機関を通じ、コントロール不良の18歳以上、2型糖尿病患者884例を対象に52週にわたって行われた。 同グループは被験者を無作為に3群に分け、(1)dulaglutide 1.5mg/週(295例)、(2)dulaglutide 0.75mg/週(293例)、(3)1日1回就寝時グラルギン(296例)を、それぞれ食前インスリンリスプロ併用で投与した。 主要アウトカムは、26週時のHbA1c変化の平均値だった。非劣性マージンは0.4%とし、ITT解析を行った。HbA1c変化平均値、dulaglutide群でグラルギン群より大幅増 26週時のHbA1c変化平均値は、dulaglutide 1.5mg群が-1.64%、-17.39mmol/mol、dulaglutide 0.75mg群が-1.59%、-17.38 mmol/molであり、グラルギン群は-1.41%、-15.41mmol/molであった。 グラルギン群に比べた変化幅は、dulaglutide 1.5mg群-0.22%(非劣性のp=0.005)、dulaglutide 0.75mg群が-0.17%(同p=0.015)であり、いずれのdulaglutide投与群ともに非劣性であることが示された。 無作為化後の死亡は5例(1%未満)であった。死因は、敗血症(dulaglutide 1.5mg群の1例)、肺炎(dulaglutide 0.75mg群の1例)、心原性ショック、心室細動、原因不明(グラルギン群の3例)だった。 重度有害事象の発生件数は、dulaglutide 1.5mg群が27例(9%)、dulaglutide 0.75mg群が44例(15%)、グラルギン群が54例(18%)だった。グラルギン群に比べdulaglutide群でより多く発生した有害事象は、吐き気、下痢、嘔吐などだった。

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低血糖を医師に言わない患者は43.9%

 5月15日、都内においてサノフィ株式会社は、「インスリン-ライフ・バランス調査」と題してメディアセミナーを開催した。 セミナーでは、講師に寺内 康夫氏(横浜市立大学大学院医学研究科 分子内分泌・糖尿病内科学 教授)を迎え、糖尿病の現状、治療におけるインスリンの位置付けのほか、同社が行ったWEB調査「インスリン-ライフ・バランス」について説明を行った。糖尿病治療は個別的な時代へ 現在の糖尿病治療は、患者の年齢、合併症の状況、生活環境を見据え、個別に治療を実施している。また、治療戦略として、定期的に治療を見直すことで、血糖コントロールが悪い期間をできる限り短くする取り組みがなされている。そのため、早い段階から基礎インスリンと経口血糖降下薬を併用した治療が行われるようになってきている。新しい治療薬の開発や非専門医の糖尿病診療への取り組みもあり、糖尿病登録患者では平均HbA1cは7.46%(2002年)から7.00%(2013年)へと改善している。 一方で、インスリンを処方する医師が懸念することとして、体重増加のほかに、低血糖のリスク(専門医:43.0%、一般内科医:62.1%)があり、血糖コントロールと低血糖の発生防止のバランスをいかにとるか、今後も模索が続くと思われる。低血糖の予防は「とくにしていない:80.5%」 「インスリン-ライフ・バランス調査」は、全国20歳以上のインスリン投与患者707名(1型:76名、2型:631名)を対象として、とくに「低血糖」に着目し、その発症実態を調査、低血糖の状況と日常生活への影響、さらにインスリン療法に対するアンメットニーズを把握する目的で行われたものである(インターネット調査、調査期間:2015年1月10日~1月19日)。 その結果、インスリン使用患者の47.0%が「日中に低血糖を経験したことがある」と回答した。また、そうした場合、「必ずしも医師に話さない」患者が43.9%に上ることが判明した。 「低血糖による不便さや制限について」は、半数の患者が「不便を感じていない」と答える反面、日常の食生活(24.9%)、外食(22.5%)、運動/スポーツ(16.5%)、旅行(14.7%)など日々の活動に支障を感じていることがわかった(重複回答)。 直近3ヵ月間で低血糖を経験した患者に「自身による低血糖予防法」を聞いた問いでは、「とくに対処していない」が80.5%と多く、以下「補食」(46.6%)、「何か飲む」(37.3%)と続いた(複数回答)。また、「自己判断でインスリン減量」(20.3%)や「自己判断でインスリン使用中断」(5.9%)という回答も見られた。インスリン治療に望まれること 「今後のインスリン製剤に期待すること」という問いでは、「血糖コントロールが改善される」、「安全性が確認されている」、「低血糖を起こしにくい」の順で回答が多かった。 寺内氏は、最後に「将来のインスリン治療に望まれるアンメットメディカルニーズ」として、 ・良好な血糖コントロール ・1日を通じて低血糖のリスクがより少ないこと ・体重増加の影響が少ないこと ・長期における有効性/安全性を挙げ、レクチャーを終了した。●調査の詳細は、サノフィ株式会社まで。

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85)インスリン分泌がどこからされるか、クイズで説明【糖尿病患者指導画集】

患者さん用説明のポイント(医療スタッフ向け)■診察室での会話 医師世界で一番小さな島はどこか、知っていますか? 患者「ツバル」ですか? 医師残念、その島は人間の身体の中にあります。 患者人間の身体の中にある!? 医師そうです。膵臓の中にある「ランゲルハンス島」です。 患者ランゲルハンス島!? 医師顕微鏡でみると島のようにみえます。この島からインスリンが分泌されているんです。 患者ハハハ。水没しないように島を大事にしないといけないですね。 *「ツバル」オセアニアにある国家でバチカンに次いで小さな島国。温暖化の影響で海に水没する危機にある。●ポイントユーモアを交えて、ランゲルハンス島とインスリン分泌の関係について説明

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家族性高コレステロール患者は糖尿病になりにくい…?!(解説:吉岡 成人 氏)-341

スタチン薬による糖尿病の発症増加 スタチン薬の投与により、糖尿病の新規発症が約1.1倍(オッズ比[OR]:1.09、95%信頼区間[CI]:1.02~1.17)増加する1)。アトルバスタチンやシンバスタチンなどの疎水性のスタチン薬は、親水性のプラバスタチンと異なり、インスリンの作用を低下させることが報告されている。その機序として、アトルバスタチンが脂肪細胞における糖輸送担体(GLUT4)の発現を抑制することにより、糖の取り込みを減少させ、シンバスタチンでは、Caチャネルを阻害し血糖依存性のインスリン分泌を低下させることで、耐糖能が悪化する。また、スタチン薬のLDL受容体発現を亢進させる作用が、膵β細胞へのコレステロールの取り込みを促進して、インスリン分泌機能の障害に結び付く可能性についても検討されている。一方、LDL-コレステロールが著しく上昇する家族性高コレステロール血症(FH:familial hypercholesterolemia)の患者では、糖尿病の発症が少ないことが知られている。その理由として、LDL受容体の機能低下によりLDLの膜輸送障害を生じていることが、膵β細胞へのLDL輸送の低下と結び付き、アポトーシスを緩和するために糖尿病を引き起こしにくいのではないかと考えられている。家族性高コレステロールでは糖尿病の罹患率が低い オランダ、アムステルダムのAcademic Medical CenterのKastelein氏らは、1994年から2014年にオランダにおける国民検診プログラムに登録し、FHについてのDNA検査を受けた6万3,320例を対象として、FH患者における糖尿病の罹患率をFHに罹患していない親族での糖尿病の罹患率と比較検討している。糖尿病の診断は、患者の申告(self-reported diagnosis)によって行われている。 2型糖尿病の罹患率は、FH患者では440/2万5,137例(1.75%)、対照群(FHではない親族)では1,119/3万8,183例(2.93%)であり、FH患者で有意に少ない(OR:0.62、95%CI:0.55~0.69)ことが確認された。年齢、BMI、HDL-C、トリグリセリド・スタチン使用の有無、心血管疾患、家族歴で調整した後の多変量解析では、FH患者の2型糖尿病罹患率は1.44%、対照群では3.26%(OR:0.49、95%CI:0.42~0.58)であった。FHの遺伝子異常にはいくつもの変異があるが、APOB(アポリポ蛋白)遺伝子の異常とLDL受容体の異常を持つ場合の糖尿病の罹患率は、前者で1.91%(OR:0.65、95%CI:0.48~0.87)、後者で1.33%(OR:0.45、95%CI:0.38~0.54)であり、LDL受容体異常の患者における糖尿病の罹患が少ないことが確認された。また、LDL受容体が減少している場合と欠損している場合では、それぞれの糖尿病の罹患率は1.44%(OR:0.49、95%CI:0.40~0.60)、1.12%(OR:0.38、95%CI:0.29~0.49)と報告されている。今後の展望 今回の検討における糖尿病の診断は患者の申告によるものであり、血糖値やHbA1cを測定しているのではなく、ましてや経口ブドウ糖負荷試験を実施しているわけではない。おそらく、2型糖尿病の頻度は報告されている以上に多いのではないかと考えられる。とはいえ、FH患者、とくにFH受容体欠損患者では糖尿病の発症が少ないことが確認され、細胞内のコレステロール代謝が膵β細胞機能に影響を及ぼしていることが示唆される。今後、2型糖尿病患者においてみられる、アポトーシスによる継時的な膵β細胞機能低下を引き起こすメカニズムに、新たな視点からの検討が加えられる契機となる臨床的な知見かもしれない。

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事例47 ビルダグリプチン(商品名: エクア)錠50mgの査定【斬らレセプト】

解説事例では、「1型糖尿病」の患者に、ビルダグリプチン(エクア®)錠50mg 2Tを処方したところD事由(告示・通知の算定要件に合致していないと認められるもの: 支払基金)にて査定となった。同錠の適応を添付文書で確認してみる。効能又は効果に「2型糖尿病」のみが記載されている。事例の傷病名は「1型糖尿病」であるため適応がない。さらに、同剤の禁忌に「糖尿病性ケトアシドーシス、糖尿病性昏睡、「1型糖尿病」の患者(インスリンの適用である)」と記載されていた。患者安全の側面からも「1型糖尿病」への投与は避けるべき薬剤であろう。医師の処方後の薬剤監査をすり抜けて患者に投与した原因は、「糖尿病」という病名に適応があると各部署で思い込んでしまったことにあった。レセプトチェックシステムでは、患者投与後に対応となるため、処方入力時に稼働する薬剤監査システムの禁忌表示を大きくして、過誤を防ぐように対応した。

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山中伸弥氏が語るiPS細胞研究の発展と課題

 2015年3月19日、日本再生医療学会にて、京都大学 iPS細胞研究所(Center for iPS Cell Research and Application, Kyoto University、以下CiRA)の山中 伸弥氏が「iPS細胞研究の現状と医療応用に向けた取り組み」と題して講演した。進むiPS細胞再生医療 理化学研究所などのiPS細胞を使った加齢黄斑変性患者を対象とした臨床研究が承認され、iPS細胞研究の医療応用に向けて大きな一歩を踏み出した。CiRAでもいくつもの研究が進んでいる。パーキンソン病:ドパミン産生神経細胞の高純度の作製に成功し、現在サルのパーキンソン病モデルを用いて効果と安全性を検証中である。良好な結果であることから、年内に臨床研究の申請へと進める予定である。iPS細胞による輸血:血小板の元である巨核球、赤血球前駆細胞作製に成功。とくに血小板は大量培養のシステムを確立している。早い段階で臨床研究に入ると予想される。血小板も赤血球も放射線を当てることができ、増殖性の残っている細胞はすべて殺せるため安全性を確保できるという。本邦は急速な高齢化により今後10年以内に献血だけでは輸血が補えなくなると予想される。このように献血を補うアプローチは喫緊の課題だ。糖尿病:2次元カルチャーと3次元カルチャーでアプローチしている。2次元カルチャーでは、すでにiPS細胞からインスリン産生細胞の作製に成功している。マウスへの移植で血中のヒトC-ペプチドが増加することも確認されている。将来糖尿病の再生医療を実現。また3次元カルチャーでは、iPS細胞から膵臓を丸ごとつくることを目指す。現在、膵臓のオルガノイド作製に成功しており、今後の発展に期待がかかる。心筋再生治療:大阪大学では、すでに骨格筋芽細胞シートで重症心不全に対する良好な成績をあげているが、iPS細胞由来の心筋細胞シートについても大阪大学との共同研究で、作製に成功。動物での改善が示されている。さらに、心筋細胞シートに加え、心筋、内皮細胞、血管壁細胞で構成された心臓細胞シートの作製に成功。こちらも動物モデルで有意な心機能の改善が確認されている。心臓移植の待機中に亡くなる方も少なくない。そのような患者の延命につながると期待される。関節疾患:関節軟部疾患に対する再生医療アプローチを行っており、ヒトiPS細胞からの軟骨細胞作製に成功している。iPS細胞由来の軟骨細胞の移植により外傷等比較的欠損が小さい症例への治療に期待がかかる。筋ジストロフィー:筋ジストロフィー患者由来のiPS細胞から骨格筋幹細胞を作製し、この細胞を筋ジストロフィーモデルの免疫不全マウスへ移植することで病態の再現に成功。今後臨床応用を目指す。iPS細胞によるがん免疫の若返り:T細胞などの免疫細胞はがん細胞を攻撃するが、加齢に伴い免疫細胞は疲弊し、がん細胞の増殖転移が進む。そこで、がん細胞を攻撃する特定のT細胞を採取し、その細胞からiPS細胞を誘導・増殖させ、攻撃特性を持ったT細胞を再び作製することに成功している。がんに対する将来の治療として期待される。再生医療用iPS細胞ストック 倫理問題、費用、時間など多くの面で自家移植には限界がある。iPS細胞による再生医療を実現するためには、他家移植が主流となる。CiRAではiPS細胞をストックする計画を進めている。京大病院のiPS外来では患者の診察とともにiPS細胞ドナー候補ボランティアから献血を行っている。採取した血液はCiRA内のCPCに持ち込まれ、iPS細胞の樹立を行っている。  しかしながら、拒絶反応を減らすためにはHLAの一致が必要。HLAは膨大なバリエーションがあり、一致する確率はきわめて低い。効率よく一致させるためには、HLAホモドナーからの細胞作製が必須だ。日本人で最頻度のHLAタイプのホモドナー1人からiPS細胞をつくると、日本人の20%をカバーできる。違うホモで作製すると80%、140人で95%がカバーできる。最初の目標は日本人の50%のカバーだという。とはいえ、数十人のホモドナーを見つけるには数十万人を調べる必要がある。そのため、臍帯血バンク、日本赤十字社、骨髄バンクといったHLAの情報を管理している外部との連携を進めている。医療応用に必要な人材の確保 iPS細胞の研究には研究者だけでなく、優秀な技術員、規制専門家、契約専門家、知財専門家、広報専門家、事務職員など多くの人材が必要である。一方、国立大学の定員ポストは研究員のみである。実際のCiRAでは300人以上が雇用されているが、無期雇用は1割で、残りの9割は有期雇用である。これは国立大学の研究機関に共通する課題であり、安定雇用に活用できる運営費交付金の割合を増やすよう要望している。 とはいえ、米国では州からの援助は予算の5%。残りの95%はトップがさまざまなスポンサーから集め、安定的な雇用を確保している。そのため、CiRAもiPS細胞基金を立ち上げ、山中氏自ら活動し、研究者の長期雇用、研究環境改善、若手研究者教育に資金を募っているという。iPS細胞研究基金HP

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「朝食多め・夕食軽く」が糖尿病患者に有益

 イスラエル・テルアビブ大学のDaniela Jakubowics氏らは、2型糖尿病患者において、朝食が高エネルギーで夕食は低エネルギーの食事(B食)が、夕食が高エネルギーで朝食は低エネルギーの食事(D食)と比べ、インクレチンとインスリンの増加によって食後高血糖を抑えるかどうかを、オープンラベル無作為化クロスオーバー試験により検討した。その結果、総エネルギーが同じであっても朝食で高エネルギーを摂取するほうが、1日の総食後高血糖が有意に低下することが認められた。著者らは「このような食事の調節が、最適な代謝コントロール達成において治療上有効と考えられ、2型糖尿病における心血管などの合併症を予防する可能性がある」とまとめている。Diabetologia誌オンライン版2015年2月24日号に掲載。 本研究では、罹患歴10年未満でメトホルミン投与や食事療法(両方もしくはどちらか)を受けている、BMI 22~35の30~70歳の2型糖尿病患者18例(男性8例、女性10例)を対象とした。7日間のB食もしくはD食に無作為に割り付け、7日目の毎食後、血糖、インスリン、Cペプチド、intact GLP-1(iGLP-1)、総GLP-1(tGLP-1)を測定した。2週間のwashout期間後にもう一方の食事にクロスオーバーした。B食:朝食2,946kJ(約700kcal)・昼食2,523kJ(約600kcal)・夕食858kJ(約200kcal)D食:朝食858kJ(約200kcal)・昼食2,523kJ(約600kcal)・夕食2,946kJ(約700kcal) 主な結果は以下のとおり。・22例が無作為化され、うち18例が解析された。・B食ではD食に比べて、24時間の血糖AUC(曲線下面積)は20%低かったが、インスリンAUC、CペプチドAUC、tGLP-1 AUCは20%高かった。・食後3時間の血糖AUCとその最高血糖値は、B食ではD食に比べてどちらも24%低かったが、インスリンAUCは11%高かった。また、tGLP-1 AUCは30%高く、iGLP-1 AUCは16%高かった。・どちらの食事も昼食は同じエネルギーにもかかわらず、昼食後の3時間AUCは、B食ではD食に比べ、血糖が21%低く、インスリンが23%高かった。

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患者だけで十分!?明日はわが身 院内感染

 2015年2月17日、都内にて、感染症対策に関するセミナー(主催:日本ベクトン・ディッキンソン株式会社)が行われた。院内感染リスクの高さと対策の難しさ はじめに、賀来 満夫氏(東北大学大学院 内科病態学講座 感染制御・検査診断学分野 教授)が、米国におけるエボラ出血熱の二次感染を例に、医療環境における感染症リスクの高さについて述べた。 一方で、感染症対策には「誰でも感染する可能性がある」「原因菌が目に見えない」「感染後すぐに症状が発現しない」「必ずしも診断が容易ではない」といった特有の難しさがある。それ故、知らない間に感染拡大が起こる可能性があり、注意が必要である。 アメリカ疾病予防管理センター(CDC)の病院感染制御の目標でも、患者の安全確保に加えて、医療従事者の安全確保が挙げられている。しかし、わが国の医療従事者において、自身に対する感染制御の意識は必ずしも高いとは言えない。医療従事者の感染は患者にもリスクとなることを念頭に置き、患者と医療従事者の双方が協力し合い、感染予防に取り組んでいくことが重要である。米国における針刺し予防対策の歴史 次に、ジェニーン・ジェーガー氏(バージニア大学 医療システム学部 内科学 教授)が、米国の針刺し予防対策について説明した。米国でも以前は針刺し事故が多かったが、2000年の針刺し安全予防法の制定以降、安全機構付きの器材が普及し、針刺し事故は減少傾向にあるという。ただし、器材購入のみではその効果は限定的であり、器材を扱うプロセスも含めたトータルマネジメントが重要であると強調した。日本における針刺し事故の現状 わが国においても年間45~60万件の針刺し事故が起こっている。1999~2009年のC型肝炎の新規感染原因の割合をみると、約3分の1が院内感染で発症しているという報告もある。また、インスリン、抗がん剤、インターフェロンといった在宅医療での自己注射の普及に伴い、家庭・オフィス・公共施設など医療機関以外の針刺し事故が増加傾向にある。 患者を含めた一般の人々の感染症に対する危機意識はまだ低く、社会全体で危機管理を行っていく必要があるだろう。

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日本初、パーソナルCGM搭載インスリンポンプ発売

 日本メドトロニック株式会社は18日、日本初となる患者がリアルタイムで間質液グルコースを視認できるパーソナルCGM(Continuous Glucose Monitoring;持続グルコース測定)を搭載した「ミニメド620G インスリンポンプ」を発売した。 インスリンポンプにパーソナルCGM機能を搭載したシステムはSAP(Sensor Augmented Pump;パーソナルCGM機能搭載インスリンポンプ)と呼ばれ、血糖変動を患者自らが随時確認できる。SAPは患者自身によるさらなる適切なインスリン量調整の一助となるため、高血糖および低血糖リスクの低減が期待できるという。 ミニメド620G インスリンポンプは、日本語表示とカラー画面を導入し、少ないボタン操作で使用可能なナビゲーションメニューを搭載している。患者各自の症状にあわせて設定するインスリンの基礎レートおよびボーラス最少注入単位が0.025単位からと細かく調節できる。 さらに、CGMトランスミッタ(送信器)と通信することにより、パーソナルCGMとしても使用することができる。毎日のCGMグラフや血糖値の平均値、アラームの発生回数を最大3ヵ月記録することができるほか、5分ごとにグルコース濃度を測定することにより、SMBG(Self-Monitoring Blood Glucose;血糖自己測定)やHbA1cでは把握困難なグルコース濃度の推移(変動)をより的確に把握することが可能となる。測定が困難な早朝や夜間の時間帯における大きな血糖変動や自覚症状のない低血糖状態などを見出すこともできるため、より適切な糖尿病治療の指標となることが期待されている。また、意思表示が難しいため血糖値の状態を把握しにくい小児の患者においても、保護者がより安心して血糖管理を行えるように配慮されている。詳細はプレスリリース(PDF)へ

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