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すべての1型糖尿病患者にインスリンポンプ療法を施行すべきか?(解説:住谷 哲 氏)-387

 1型糖尿病患者は、インスリン分泌が枯渇しているため、インスリン投与が必須となる。現在では基礎インスリンとボーラスインスリンを組み合わせた、インスリン頻回注射療法[MDI:Multiple daily injections、(BBT [Basal-bolus treatment]ともいう)]を用いたインスリン強化療法が主流である。しかし、生理的インスリン補充のために必要となる基礎インスリンの調節は、MDIにおいては困難である。一方、インスリンポンプ療法(CSII [continuous subcutaneous insulin infusion]ともいう)は、自由に基礎インスリン量を調節できるために、MDIと比較して低血糖の少ない、より変動の少ない血糖コントロールが可能であるとされる。 これまでに、血糖コントロール指標や低血糖の頻度などの代用アウトカム(surrogate outcomes)を両治療法において比較した報告は多数あるが、心血管イベントや総死亡などの真のアウトカム(true outcomes)を比較した報告はほとんどなく、本論文は貴重である。その結果、インスリンポンプ療法によりMDIと比較して、総死亡が27%減少することが示され、衝撃的である。 本論文の結果が真実であれば、すべての1型糖尿病患者にインスリンポンプ療法を行うことが正当化されると思われるが、そうだろうか。 まず、本研究は観察研究であり、厳密には因果関係を証明することはできない。観察研究での因果関係の強さを推定する際には、介入の生物学的妥当性を考える必要があるが、この論文ではインスリンポンプ療法による重症低血糖の減少が可能性の1つとして挙げられている。 これまでに本論文の著者らにより、1型糖尿病患者における重症低血糖の頻度と、その後の心血管死との関連が報告されていることから、この推論は支持されると思われる1)。加えて、仮想的交絡因子(hypothetical confounders)を用いた統計学的解析により、治療選択によるバイアス(treatment allocation bias)も可能な限り排除されている。さらに、スウェーデンではほぼ100%の1型糖尿病患者が本研究で用いられたレジストリに登録されており、選択バイアス(selection bias)の可能性もほとんどない。以上から、本論文で示されたインスリンポンプ療法と総死亡も含めた心血管イベントリスクの減少との間には、因果関係がかなりの確率で存在すると考えられる。 筆者の外来にも多数の1型糖尿病患者さんが通院しているが、インスリンポンプ療法を施行しているのはごく一部である。わが国ではスウェーデンとは異なり治療費の問題もあるが、現実的にはインスリンポンプ療法に移行するには大きな壁があるように感じている。さらに、いったんインスリンポンプ療法に移行しても、その後にMDIに戻る患者も存在する。 本論文によれば、インスリンポンプ療法の壁が小さいと考えられるスウェーデンにおいても、インスリンポンプ療法を行っている患者は全体のわずか13.4%であり、きわめて少ない。つまり、現実にはインスリンポンプ療法が継続できる患者とできない患者が存在しており、後者が大部分を占めている。この両患者群の違いは単純ではなく、患者側のみならず、医療者側も含めた多数の複雑に絡み合った要因に依存していると思われる。 著者らも述べているが、インスリンポンプ療法の生理学的作用のみによる結果と単純に考えることはできず、インスリンポンプ療法が長期にわたって継続できることこそが、総死亡を含めた心血管イベントのリスク減少につながるとするのが正しい解釈であろう。 今後はインスリンポンプ療法の可否について、すべての1型糖尿病患者と医療提供者との間のshared decision makingが必要になると思われる。

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Vol. 3 No. 4 高尿酸血症と循環器疾患 心不全・虚血性心疾患とのかかわり

室原 豊明 氏名古屋大学大学院医学系研究科循環器内科学はじめに高尿酸血症は循環器疾患の危険因子の1つとして見なされているが、その具体的な影響度や機序などに関しては不明な点も多い。高尿酸血症が持続すると、いわゆる尿酸の蓄積に伴う疾患や症状が前面に現れてくる。典型的には、痛風・関節炎・尿路結石などである。しかしながら、尿酸そのものは抗酸化作用があるともいわれており、尿酸そのものが血管壁や心筋に直接ダメージを与えているのか否かは未だ不明の部分も多い。ただし、尿酸が体内で生成される過程の最終段階では、酵素であるキサンチンオキシダーゼが作用するが、この時に同時に酸素フリーラジカルが放出され、これらのラジカルが血管壁や心筋組織にダメージを与え、その結果動脈硬化病変や心筋障害が起こるとの考え方が主流である。本稿では、高尿酸血症と循環器疾患、特に心不全、虚血性心疾患とのかかわりに関して緒言を述べたい。高尿酸血症と尿酸代謝尿酸はDNAやRNAなどの核酸や、細胞内のエネルギーの貯蔵を担うATPの代謝に関連したプリン体の最終代謝産物である。プリン体は食事から摂取される部分(約20%)と、細胞内で生合成される部分(約80%)がある。細胞は過剰なプリン体やエネルギー代謝で不要になったプリン体を、キサンチンオキシダーゼにより尿酸に変換し、細胞から血液中に排出する。体内の尿酸の総量は通常は一定に保たれており(尿酸プール約1,200mg)、1日に約700mgの尿酸が産生され、尿中に500mg、腸管等に200mgが排泄される。余分な尿酸は尿酸塩結晶となり組織に沈着したり、結石となる。多くの生物はウリカーゼという酵素を持ち、尿酸を水溶性の高いアラントインに代謝し尿中に排泄することができるが、ヒトやチンパンジーや鳥類はウリカーゼを持たないために、血清尿酸値が高くなりやすい。尿酸の約3/4は腎臓から尿中に排泄される。腎臓の糸球体ではいったん100%濾過されるが、尿細管で再吸収され、6 ~10%のみ体外へ排出される。最近、尿酸の再吸収や分泌を担うトランスポーターが明らかにされ、再吸収では近位尿細管の管腔側膜にURAT1、血管側にGLUT9が、分泌では管腔側にABCG2が存在することが報告されている1, 2)。腎障害としては、尿酸の結晶が沈着して起こる痛風腎のほかに、結晶沈着を介さない腎障害である慢性腎臓病(CKD)も存在する。高尿酸血症のタイプは、尿酸産生過剰型(約10%)、尿酸排泄低下型( 約50~70%)、混合型(約20 ~30%)に分類され、病型を分類するために、簡便法では尿中の尿酸とクレアチニンの比を算出し、その比が 0.5を上回った場合には尿酸産生過剰型、0.5未満の場合には尿酸排泄低下型と分類している。高尿酸血症と循環器疾患の疫学高尿酸血症と動脈硬化性疾患、心血管イベント高尿酸血症は痛風性関節炎、腎不全、尿路結石を起こすだけでなく、生活習慣病としての側面も有しており、高血圧・肥満・糖尿病・高脂血症などの他の危険因子とよく併存し、さらには脳血管障害や虚血性心臓病を合併することが多い3)。尿酸は直接動脈硬化病変も惹起しうるという報告と、尿酸は単なる病態のマーカーに過ぎないという2面の考え方がある。いずれにしても、血清尿酸値の高値は、心血管病変(動脈硬化病変)の進行や心血管イベントの増大と関連していることは間違いなさそうである。尿酸は血管壁において、血小板の活性化や炎症反応の誘導、血管平滑筋の増殖を刺激するなど、局所で動脈硬化を惹起する作用がこれまでに報告されている。実際に、ヒトの頸動脈プラーク部において、尿酸生成酵素であるキサンチンオキシダーゼや、結晶化した尿酸が存在することが報告されている(本誌p.24図を参照)4)。尿酸は直接細胞膜やライソゾーム膜を傷害し、また補体を活性化することで炎症を誘発し血管壁細胞を傷害する。さらに尿酸生成に直接寄与する酵素であるキサンチンオキシダーゼは、血管内皮細胞や血管平滑筋細胞にも発現しており、この酵素は酸素ラジカルを生成するため、このことによっても細胞がさらなる傷害を受けたり、内皮細胞由来の一酸化窒素(NO)の作用を減弱させたりする。実際に、高尿酸血症患者では血管内皮機能が低下していることや、血管の硬さを表す脈派伝播速度が増大していることが報告されている(本誌p.25図を参照)5)。このように、尿酸が過度に生成される状態になると、尿酸が動脈壁にも沈着し動脈硬化病変を直接惹起させうると考えられている。では、血清尿酸値と心血管イベントとの関係はどうであろうか。1次予防の疫学調査はいくつかあるが、過去の研究では、種々の併存する危険因子を補正した後も、血清尿酸値の高値が心血管イベントの独立した危険因子であるとする報告が多く、女性では7.0mg/dL、男性では9.0mg/dL以上が危険な尿酸値と考えられている。また2次予防の疫学調査でも、血清尿酸値の高値が心血管事故再発の独立した危険因子であることが報告されている3)。日本で行われたJ-CAD研究でも、冠動脈に75%以上の狭窄病変がある患者群において、血清尿酸値高値(6.8mg/dL以上)群では、それ以下の群に比べて心血管イベントが増大することが示されている(本誌p.25図を参照)6)。イベントのみならず、最近のVH-IVUS法を用いたヒトの冠動脈画像の研究から、高尿酸血症はプラーク量や石灰化病変と関連していることが示されている(本誌p.26図を参照)7)。繰り返しになるが、これらが因果関係を持っての尿酸によるイベントや動脈硬化病変の増大か否かについては議論の余地が残るところではある。高尿酸血症と心不全慢性心不全患者では高尿酸血症が多くみられることがこれまでに明らかにされている8)。これは慢性心不全患者には他のさまざまな危険因子が併存しており、このため生活習慣病(multiple risk factor 症候群)の患者も多く、これらに付随して尿酸高値例が自然と多くみられるという考え方がある。もう1つは、慢性心不全患者では多くの場合利尿剤が併用されているため、この副作用のために血清尿酸値が高くなっているという事実がある。いずれにしても、尿酸が生成される過程は、心不全患者では全般に亢進していると考えられており、ここにもキサンチンオキシダーゼの高発現による酸素フリーラジカルの産生が寄与していると考えられている。事実、拡張型心筋症による慢性心不全患者の心筋組織では、キサンチンオキシダーゼの発現が亢進していることが報告されている9)。また、血清尿酸値と血中のキサンチンオキシダーゼ活性も相関しているという報告がある10)。高尿酸血症では、付随するリスクファクターや腎機能障害、炎症性サイトカインの増加、高インスリン血症などが心不全を増悪させると考えられるが、なかでも高尿酸血症に伴う心不全の病態においては、酸化ストレスの関与は以前から注目されている。慢性の不全心では心筋内のキサンチンオキシダーゼの発現が亢進しており、このために酸素フリーラジカルが細胞内で多く産生されている。また、慢性心不全患者の血液中には、心不全のないコントロール群に比べて、内皮結合性のキサンチンオキシダーゼの活性が約3倍に増加していることが報告されている。心筋細胞内のミトコンドリアにおいては、細胞内の酸素フリーラジカルが増加すると、ミトコンドリアDNAの傷害や変異、電子伝達系の機能異常などが起こり、最終的なエネルギー貯蔵分子であるATP産生が低下する。傷害されたミトコンドリアはそれ自身も酸素フリーラジカルを産生するため、細胞のエネルギー代謝系は悪循環に陥り、この結果心筋細胞のエネルギー産生と活動性が低下、すなわち心不全が増悪してくると考えられている。では疫学データではどうであろうか。前述したように、慢性心不全患者では高尿酸血症が多くみられる。さらに2003年にAnkerらが報告した論文では、ベースラインの血清尿酸値が高くなればなるほど、慢性心不全患者の予後が悪化することが示された11)。また筒井らの行った日本におけるJ-CARE-CARD試験でも、高尿酸血症(血清尿酸値が7.4mg/dL以上)は、それ以下の群に比べて、心不全患者の全死亡および心臓死が有意に増加していることが示された(本誌p.27表を参照)12)。このように、高尿酸血症は、心血管イベントの増加のみにとどまらず、慢性心不全の病態悪化や予後とも関連していることがこれまでに明らかにされている。おわりに高尿酸血症と虚血性心疾患、心不全との関係について概説した。尿酸そのものが、直接の原因分子として動脈硬化病変の進展や虚血性心疾患イベントの増加、心不全増悪と関連しているか否かは議論の残るところではあるが、疫学的には高尿酸血症とこれらのイベントに正の相関があることはまぎれもない事実である。この背景には、付随するリスクファクターとキサンチンオキシダーゼ/酸素フリーラジカル系が強く関与しているものと思われる。文献1)Enomoto A et al. Molecular identification of a renal urate anion exchanger that regulates blood urate levels. Nature 2002; 417: 447-452.2)Matsuo H et al. Common defects of ABCG2, a highcapacity urate exporter, cause gout: a functionbased genetic analysis in a Japanese population. Sci Transl Med 2009; 1: 5ra11.3)Fang J, Alderman MH. Serum uric acid and cardiovascular mortality the NHANES I epidemiologic follow-up study, 1971–1992: National Health and Nutrition Examination Survey. JAMA 2000; 283: 2404-2410.4)Patetsios P et al. Identification of uric acid and xanthine oxidase in atherosclerotic plaque. Am J Cardiol 2001; 88: 188-191.5)Khan F et al. The association between serum urate levels and arterial stiffness/endothelial function in stroke survivors. Atherosclerosis 2008; 200: 374-379.6)Okura T et al. Japanese Coronary Artery Disease Study Investigators. Elevated serum uric acid is an independent predictor for cardiovascular events in patients with severe coronary artery stenosis: subanalysis of the Japanese Coronary Artery Disease (JCAD) Study. Circ J 2009; 73: 885-891.7)Nozue T et al. Correlations between serum uric acid and coronary atherosclerosis before and during statin therapy. Coron Artery Dis 2014; 25: 343-348.8)Bergamini Cetal. Oxidative stress and hyperuricaemia: pathophysiology, clinical relevance, and therapeutic implications in chronic heart failure. Eur J Heart Fail 2009; 11: 444-452.9)Cappola TP et al. Allopurinol improves myocardial efficiency in patients with idiopathic dilated cardiomyopathy. Circulation 2001; 104: 2407-2411.10)Landmesser U et al. Vascular oxidative stress and endothelial dysfunction in patients with chronic heart failure: role of xanthine-oxidase and extracellular superoxide dismutase. Circulation 2002; 106: 3073-3078.11)Anker SD et al. Uric acid and survival in chronic heart failure: validation and application in metabolic, functional, and hemodynamic staging. Circulation 2003; 107: 1991-1997.12)Hamaguchi S et al. JCARE-CARD Investigators. Hyperuricemia predicts adverse outcomes in patients with heart failure. Int J Cardiol 2011; 151: 143-147.

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インスリンポンプ、1型糖尿病の心血管死抑制/BMJ

 1型糖尿病患者に対するインスリンポンプ療法は、インスリン頻回注射療法よりも心血管死のリスクが低いことが、デンマーク・オーフス大学のIsabelle Steineck氏らによる、スウェーデン人を対象とする長期的な検討で示された。糖尿病患者では、高血糖と低血糖の双方が心血管疾患(冠動脈心疾患、脳卒中)のリスク因子となるが、持続的皮下インスリン注射(インスリンポンプ療法)はインスリン頻回注射療法よりも、これらのエピソードが少なく、血糖コントロールが良好とされる。一方、これらの治療法の長期的予後に関する知見は十分ではないという。BMJ誌オンライン版2015年6月22日号掲載の報告。約1万8,000例を約7年フォローアップ 研究グループは、1型糖尿病の治療において、インスリンポンプ療法が心血管疾患や死亡に及ぼす長期的な影響の評価を目的とする観察研究を行った(欧州糖尿病学会[EASD]の助成による)。 Swedish National Diabetes Registerに登録された1型糖尿病患者1万8,168例(インスリンポンプ療法:2,441例、インスリン頻回注射療法[MDI]:1万5,727例)のデータを解析した。被験者は、2005~2007年に初回受診し、2012年12月31日までフォローアップされた。 臨床的背景因子、心血管疾患のリスク因子、治療法、既往症の傾向スコアで層別化し、Cox回帰モデルを用いてアウトカムのハザード比(HR)を算出した。平均フォローアップ期間は6.8年(11万4,135人年)であった。 ポンプ療法群はMDI群よりも若く(38 vs.41歳)、収縮期血圧がわずかに低く(126 vs.128mmHg)、男性(45.0 vs.57.1%)や喫煙者(10.5 vs.13.5%)が少なかった(いずれもp<0.001)。また、ポンプ療法群は身体活動性の低い患者が少なかった(21.8 vs.24.0%、p=0.01)。 さらに、ポンプ療法群は、アルブミン尿(20.7 vs.24.0%)や腎機能が低い患者(10.4 vs.11.7%)が少なく、降圧薬(32.0 vs.36.7%)や脂質低下薬(21.0 vs.26.4%)、アスピリン(15.0 vs.18.8%)の使用例が少なかった(腎機能p=0.04、その他p<0.001)。また、心血管疾患(5.4 vs.8.0%)や心不全(0.9 vs.2.3%)の既往例が少なく、教育歴が高い患者(37.3 vs.27.6%)や既婚者(40.3 vs.36.5%)が多かった(いずれもp<0.001)。致死的冠動脈心疾患、致死的心血管疾患、全死因死亡リスクが著明に低下 Kaplan-Meier法による解析では、すべてのアウトカム(致死的/非致死的冠動脈心疾患、致死的/非致死的心血管疾患、致死的心血管疾患、全死因死亡)が、ポンプ療法群で有意に優れていた(いずれもp<0.001)。 ポンプ療法群のMDI群に対する主要エンドポイントの補正後HRは、致死的/非致死的冠動脈心疾患が0.81(95%信頼区間[CI]:0.66~1.01、p=0.05)、致死的/非致死的心血管疾患は0.88(0.73~1.06、p=0.2)であり、ポンプ療法群で良好な傾向がみられたものの有意な差はなかった。 一方、致死的心血管疾患(冠動脈心疾患、脳卒中)の補正後HRは0.58(0.40~0.85、p=0.005)、全死因死亡は0.73(0.58~0.92、p=0.007)であり、いずれもポンプ療法群で有意に良好であった。 また、副次エンドポイントである致死的冠動脈心疾患の補正後HRは0.55(95%信頼区間[CI]:0.36~0.83、p=0.004)と有意差を認めたが、致死的脳卒中は0.67(0.27~1.67、p=0.4)、心血管疾患以外による死亡は0.86(0.64~1.13、p=0.3)であり、有意な差はなかった。 致死的冠動脈心疾患の1,000人年当たりの未補正絶対差は3.0件であり、致死的心血管疾患は3.3件、全死因死亡は5.7件であった。また、低BMI(<18)および心血管疾患の既往歴のある患者を除外したサブグループ解析を行ったところ、結果は全症例とほぼ同様であった。 著者は、「インスリンポンプ療法の生理学的作用や、使用者が受ける臨床的管理、ポンプ使用の教育的側面が、これらの結果に影響を及ぼしているかという問題は未解明のままである」としている。

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シタグリプチン追加で重症心血管イベント増加せず/NEJM

 2型糖尿病患者の治療において、通常治療にDPP-4阻害薬シタグリプチン(商品名:ジャヌビア、グラクティブ)を併用しても、重症心血管イベントは増加しないことが、米国・デューク大学のJennifer B Green氏らが実施したTECOS試験で示された。多くの2型糖尿病治療薬が承認されているが、一部の薬剤で心血管系の長期的な安全性に関して疑問が生じているという。米国FDAや欧州医薬品庁(EMA)は、新薬に対し、血糖降下作用だけでなく臨床的に重要な心血管系の重篤な有害事象の発生率を上昇させないことを示すよう求めている。NEJM誌オンライン版2015年6月8日号掲載の報告より。上乗せの安全性の非劣性を検証 TECOS試験は、心血管疾患を併発した2型糖尿病患者における通常治療へのシタグリプチンの上乗せの長期的な安全性を評価する二重盲検プラセボ対照無作為化非劣性試験(Merck Sharp & Dohme社の助成による)。 対象は、年齢50歳以上、1~2剤の安定用量の経口血糖降下薬(メトホルミン、ピオグリタゾン、スルホニル尿素薬)またはインスリン製剤により糖化ヘモグロビン(HbA1c)値が6.5~8.0%に保たれている患者とした。併存する心血管疾患は、重症冠動脈疾患、虚血性脳血管疾患、アテローム性末梢動脈硬化疾患とした。 被験者は、通常治療にシタグリプチン(100mg/日またはeGFR値が≧30、<50mL/分/1.73m2の場合は50mg/日)またはプラセボを併用する群に1対1の割合で無作為に割り付けられた。血糖降下薬は、個々の患者が適切な目標血糖値を達成できるようオープンラベルでの投与が推奨された。 主要複合アウトカムは、心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中、不安定狭心症による入院とした。シタグリプチン群の両側検定による相対リスクのハザード比(HR)の95%信頼区間(CI)上限値が1.3を超えない場合に非劣性と判定した。主要複合アウトカム発生率:11.4 vs. 11.6% 2008年12月~2012年7月までに、38ヵ国673施設に1万4,671例(intention-to-treat[ITT]集団)が登録され、シタグリプチン群に7,332例、プラセボ群には7,339例が割り付けられた。ベースラインの平均HbA1c値は7.2±0.5%、2型糖尿病の平均罹病期間は11.6±8.1年であり、フォローアップ期間中央値は3.0年だった。 HbA1c値は、4ヵ月時にシタグリプチン群がプラセボ群よりも0.4%低くなったが、この差はその後の試験期間を通じて徐々に小さくなった。全体のシタグリプチン群の最小二乗平均差は-0.29%(95%信頼区間[CI]:-0.32~-0.27)であった。 主要複合アウトカムのイベント発生は、シタグリプチン群が839例(11.4%、4.06/100人年)、プラセボ群は851例(11.6%、4.17/100人年)であった。非劣性のper-protocol(PP)解析では、シタグリプチン群のプラセボ群に対する非劣性が確認され(ハザード比[HR]:0.98、95%信頼区間[CI]:0.88~1.09、p<0.001)、優越性に関するITT解析(0.98、0.89~1.08、p=0.65)では有意な差を認めなかった。 副次複合アウトカムである心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中の発生も、PP解析で非劣性であり(HR:0.99、95%CI:0.89~1.11、p<0.001)、ITT解析では優越性を認めなかった(0.99、0.89~1.10、p=0.84)。また、ITT解析では、心不全による入院(1.00、0.83~1.20、p=0.98)、心不全による入院または心血管死(1.02、0.90~1.15、p=0.74)、全死因死亡(1.01、0.90~1.14、p=0.88)も、シタグリプチン群での発生が多いことはなかった。 一方、非心血管アウトカムでは、感染症、がん、腎不全、重症低血糖の発生率は両群間に差がなかった。急性膵炎の頻度はシタグリプチンで高かった(0.3 vs. 0.2%)が、有意な差はなかった(ITT解析:p=0.07、PP解析:p=0.12)。膵がんはシタグリプチン群で少なかった(0.1 vs. 0.2%)が、有意差は認めなかった(p=0.32、p=0.85)。 また、重篤な有害事象(消化器、筋骨格・結合組織、呼吸器など)の発生率には、両群間に臨床に関連する差はみられなかった。 著者は、「シタグリプチンは、心血管疾患のリスクが高い多彩な病態の2型糖尿病患者に対し、心血管合併症を増加させずに使用可能と考えられるが、これらの結果は、より長期の治療やより複雑な併存疾患を有する患者では、ベネフィットとともにリスクの可能性も排除できないことを示唆する」と指摘している。

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週1回デュラグルチド、1日1回グラルギンに非劣性/Lancet

 コントロール不良の2型糖尿病患者に対し、食前インスリンリスプロ併用下でのGLP-1受容体作動薬dulaglutideの週1回投与は、同併用での就寝時1日1回インスリン グラルギン(以下、グラルギン)投与に対し、非劣性であることが示された。米国Ochsner Medical CenterのLawrence Blonde氏らが行った第III相の非盲検無作為化非劣性試験「AWARD-4」の結果、示された。Lancet誌2015年5月23日号掲載の報告より。26週時のHbA1c変化の平均値を比較 試験は2010年12月9日~2012年9月21日にかけて、15ヵ国、105ヵ所の医療機関を通じ、コントロール不良の18歳以上、2型糖尿病患者884例を対象に52週にわたって行われた。 同グループは被験者を無作為に3群に分け、(1)dulaglutide 1.5mg/週(295例)、(2)dulaglutide 0.75mg/週(293例)、(3)1日1回就寝時グラルギン(296例)を、それぞれ食前インスリンリスプロ併用で投与した。 主要アウトカムは、26週時のHbA1c変化の平均値だった。非劣性マージンは0.4%とし、ITT解析を行った。HbA1c変化平均値、dulaglutide群でグラルギン群より大幅増 26週時のHbA1c変化平均値は、dulaglutide 1.5mg群が-1.64%、-17.39mmol/mol、dulaglutide 0.75mg群が-1.59%、-17.38 mmol/molであり、グラルギン群は-1.41%、-15.41mmol/molであった。 グラルギン群に比べた変化幅は、dulaglutide 1.5mg群-0.22%(非劣性のp=0.005)、dulaglutide 0.75mg群が-0.17%(同p=0.015)であり、いずれのdulaglutide投与群ともに非劣性であることが示された。 無作為化後の死亡は5例(1%未満)であった。死因は、敗血症(dulaglutide 1.5mg群の1例)、肺炎(dulaglutide 0.75mg群の1例)、心原性ショック、心室細動、原因不明(グラルギン群の3例)だった。 重度有害事象の発生件数は、dulaglutide 1.5mg群が27例(9%)、dulaglutide 0.75mg群が44例(15%)、グラルギン群が54例(18%)だった。グラルギン群に比べdulaglutide群でより多く発生した有害事象は、吐き気、下痢、嘔吐などだった。

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低血糖を医師に言わない患者は43.9%

 5月15日、都内においてサノフィ株式会社は、「インスリン-ライフ・バランス調査」と題してメディアセミナーを開催した。 セミナーでは、講師に寺内 康夫氏(横浜市立大学大学院医学研究科 分子内分泌・糖尿病内科学 教授)を迎え、糖尿病の現状、治療におけるインスリンの位置付けのほか、同社が行ったWEB調査「インスリン-ライフ・バランス」について説明を行った。糖尿病治療は個別的な時代へ 現在の糖尿病治療は、患者の年齢、合併症の状況、生活環境を見据え、個別に治療を実施している。また、治療戦略として、定期的に治療を見直すことで、血糖コントロールが悪い期間をできる限り短くする取り組みがなされている。そのため、早い段階から基礎インスリンと経口血糖降下薬を併用した治療が行われるようになってきている。新しい治療薬の開発や非専門医の糖尿病診療への取り組みもあり、糖尿病登録患者では平均HbA1cは7.46%(2002年)から7.00%(2013年)へと改善している。 一方で、インスリンを処方する医師が懸念することとして、体重増加のほかに、低血糖のリスク(専門医:43.0%、一般内科医:62.1%)があり、血糖コントロールと低血糖の発生防止のバランスをいかにとるか、今後も模索が続くと思われる。低血糖の予防は「とくにしていない:80.5%」 「インスリン-ライフ・バランス調査」は、全国20歳以上のインスリン投与患者707名(1型:76名、2型:631名)を対象として、とくに「低血糖」に着目し、その発症実態を調査、低血糖の状況と日常生活への影響、さらにインスリン療法に対するアンメットニーズを把握する目的で行われたものである(インターネット調査、調査期間:2015年1月10日~1月19日)。 その結果、インスリン使用患者の47.0%が「日中に低血糖を経験したことがある」と回答した。また、そうした場合、「必ずしも医師に話さない」患者が43.9%に上ることが判明した。 「低血糖による不便さや制限について」は、半数の患者が「不便を感じていない」と答える反面、日常の食生活(24.9%)、外食(22.5%)、運動/スポーツ(16.5%)、旅行(14.7%)など日々の活動に支障を感じていることがわかった(重複回答)。 直近3ヵ月間で低血糖を経験した患者に「自身による低血糖予防法」を聞いた問いでは、「とくに対処していない」が80.5%と多く、以下「補食」(46.6%)、「何か飲む」(37.3%)と続いた(複数回答)。また、「自己判断でインスリン減量」(20.3%)や「自己判断でインスリン使用中断」(5.9%)という回答も見られた。インスリン治療に望まれること 「今後のインスリン製剤に期待すること」という問いでは、「血糖コントロールが改善される」、「安全性が確認されている」、「低血糖を起こしにくい」の順で回答が多かった。 寺内氏は、最後に「将来のインスリン治療に望まれるアンメットメディカルニーズ」として、 ・良好な血糖コントロール ・1日を通じて低血糖のリスクがより少ないこと ・体重増加の影響が少ないこと ・長期における有効性/安全性を挙げ、レクチャーを終了した。●調査の詳細は、サノフィ株式会社まで。

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85)インスリン分泌がどこからされるか、クイズで説明【糖尿病患者指導画集】

患者さん用説明のポイント(医療スタッフ向け)■診察室での会話 医師世界で一番小さな島はどこか、知っていますか? 患者「ツバル」ですか? 医師残念、その島は人間の身体の中にあります。 患者人間の身体の中にある!? 医師そうです。膵臓の中にある「ランゲルハンス島」です。 患者ランゲルハンス島!? 医師顕微鏡でみると島のようにみえます。この島からインスリンが分泌されているんです。 患者ハハハ。水没しないように島を大事にしないといけないですね。 *「ツバル」オセアニアにある国家でバチカンに次いで小さな島国。温暖化の影響で海に水没する危機にある。●ポイントユーモアを交えて、ランゲルハンス島とインスリン分泌の関係について説明

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家族性高コレステロール患者は糖尿病になりにくい…?!(解説:吉岡 成人 氏)-341

スタチン薬による糖尿病の発症増加 スタチン薬の投与により、糖尿病の新規発症が約1.1倍(オッズ比[OR]:1.09、95%信頼区間[CI]:1.02~1.17)増加する1)。アトルバスタチンやシンバスタチンなどの疎水性のスタチン薬は、親水性のプラバスタチンと異なり、インスリンの作用を低下させることが報告されている。その機序として、アトルバスタチンが脂肪細胞における糖輸送担体(GLUT4)の発現を抑制することにより、糖の取り込みを減少させ、シンバスタチンでは、Caチャネルを阻害し血糖依存性のインスリン分泌を低下させることで、耐糖能が悪化する。また、スタチン薬のLDL受容体発現を亢進させる作用が、膵β細胞へのコレステロールの取り込みを促進して、インスリン分泌機能の障害に結び付く可能性についても検討されている。一方、LDL-コレステロールが著しく上昇する家族性高コレステロール血症(FH:familial hypercholesterolemia)の患者では、糖尿病の発症が少ないことが知られている。その理由として、LDL受容体の機能低下によりLDLの膜輸送障害を生じていることが、膵β細胞へのLDL輸送の低下と結び付き、アポトーシスを緩和するために糖尿病を引き起こしにくいのではないかと考えられている。家族性高コレステロールでは糖尿病の罹患率が低い オランダ、アムステルダムのAcademic Medical CenterのKastelein氏らは、1994年から2014年にオランダにおける国民検診プログラムに登録し、FHについてのDNA検査を受けた6万3,320例を対象として、FH患者における糖尿病の罹患率をFHに罹患していない親族での糖尿病の罹患率と比較検討している。糖尿病の診断は、患者の申告(self-reported diagnosis)によって行われている。 2型糖尿病の罹患率は、FH患者では440/2万5,137例(1.75%)、対照群(FHではない親族)では1,119/3万8,183例(2.93%)であり、FH患者で有意に少ない(OR:0.62、95%CI:0.55~0.69)ことが確認された。年齢、BMI、HDL-C、トリグリセリド・スタチン使用の有無、心血管疾患、家族歴で調整した後の多変量解析では、FH患者の2型糖尿病罹患率は1.44%、対照群では3.26%(OR:0.49、95%CI:0.42~0.58)であった。FHの遺伝子異常にはいくつもの変異があるが、APOB(アポリポ蛋白)遺伝子の異常とLDL受容体の異常を持つ場合の糖尿病の罹患率は、前者で1.91%(OR:0.65、95%CI:0.48~0.87)、後者で1.33%(OR:0.45、95%CI:0.38~0.54)であり、LDL受容体異常の患者における糖尿病の罹患が少ないことが確認された。また、LDL受容体が減少している場合と欠損している場合では、それぞれの糖尿病の罹患率は1.44%(OR:0.49、95%CI:0.40~0.60)、1.12%(OR:0.38、95%CI:0.29~0.49)と報告されている。今後の展望 今回の検討における糖尿病の診断は患者の申告によるものであり、血糖値やHbA1cを測定しているのではなく、ましてや経口ブドウ糖負荷試験を実施しているわけではない。おそらく、2型糖尿病の頻度は報告されている以上に多いのではないかと考えられる。とはいえ、FH患者、とくにFH受容体欠損患者では糖尿病の発症が少ないことが確認され、細胞内のコレステロール代謝が膵β細胞機能に影響を及ぼしていることが示唆される。今後、2型糖尿病患者においてみられる、アポトーシスによる継時的な膵β細胞機能低下を引き起こすメカニズムに、新たな視点からの検討が加えられる契機となる臨床的な知見かもしれない。

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事例47 ビルダグリプチン(商品名: エクア)錠50mgの査定【斬らレセプト】

解説事例では、「1型糖尿病」の患者に、ビルダグリプチン(エクア®)錠50mg 2Tを処方したところD事由(告示・通知の算定要件に合致していないと認められるもの: 支払基金)にて査定となった。同錠の適応を添付文書で確認してみる。効能又は効果に「2型糖尿病」のみが記載されている。事例の傷病名は「1型糖尿病」であるため適応がない。さらに、同剤の禁忌に「糖尿病性ケトアシドーシス、糖尿病性昏睡、「1型糖尿病」の患者(インスリンの適用である)」と記載されていた。患者安全の側面からも「1型糖尿病」への投与は避けるべき薬剤であろう。医師の処方後の薬剤監査をすり抜けて患者に投与した原因は、「糖尿病」という病名に適応があると各部署で思い込んでしまったことにあった。レセプトチェックシステムでは、患者投与後に対応となるため、処方入力時に稼働する薬剤監査システムの禁忌表示を大きくして、過誤を防ぐように対応した。

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山中伸弥氏が語るiPS細胞研究の発展と課題

 2015年3月19日、日本再生医療学会にて、京都大学 iPS細胞研究所(Center for iPS Cell Research and Application, Kyoto University、以下CiRA)の山中 伸弥氏が「iPS細胞研究の現状と医療応用に向けた取り組み」と題して講演した。進むiPS細胞再生医療 理化学研究所などのiPS細胞を使った加齢黄斑変性患者を対象とした臨床研究が承認され、iPS細胞研究の医療応用に向けて大きな一歩を踏み出した。CiRAでもいくつもの研究が進んでいる。パーキンソン病:ドパミン産生神経細胞の高純度の作製に成功し、現在サルのパーキンソン病モデルを用いて効果と安全性を検証中である。良好な結果であることから、年内に臨床研究の申請へと進める予定である。iPS細胞による輸血:血小板の元である巨核球、赤血球前駆細胞作製に成功。とくに血小板は大量培養のシステムを確立している。早い段階で臨床研究に入ると予想される。血小板も赤血球も放射線を当てることができ、増殖性の残っている細胞はすべて殺せるため安全性を確保できるという。本邦は急速な高齢化により今後10年以内に献血だけでは輸血が補えなくなると予想される。このように献血を補うアプローチは喫緊の課題だ。糖尿病:2次元カルチャーと3次元カルチャーでアプローチしている。2次元カルチャーでは、すでにiPS細胞からインスリン産生細胞の作製に成功している。マウスへの移植で血中のヒトC-ペプチドが増加することも確認されている。将来糖尿病の再生医療を実現。また3次元カルチャーでは、iPS細胞から膵臓を丸ごとつくることを目指す。現在、膵臓のオルガノイド作製に成功しており、今後の発展に期待がかかる。心筋再生治療:大阪大学では、すでに骨格筋芽細胞シートで重症心不全に対する良好な成績をあげているが、iPS細胞由来の心筋細胞シートについても大阪大学との共同研究で、作製に成功。動物での改善が示されている。さらに、心筋細胞シートに加え、心筋、内皮細胞、血管壁細胞で構成された心臓細胞シートの作製に成功。こちらも動物モデルで有意な心機能の改善が確認されている。心臓移植の待機中に亡くなる方も少なくない。そのような患者の延命につながると期待される。関節疾患:関節軟部疾患に対する再生医療アプローチを行っており、ヒトiPS細胞からの軟骨細胞作製に成功している。iPS細胞由来の軟骨細胞の移植により外傷等比較的欠損が小さい症例への治療に期待がかかる。筋ジストロフィー:筋ジストロフィー患者由来のiPS細胞から骨格筋幹細胞を作製し、この細胞を筋ジストロフィーモデルの免疫不全マウスへ移植することで病態の再現に成功。今後臨床応用を目指す。iPS細胞によるがん免疫の若返り:T細胞などの免疫細胞はがん細胞を攻撃するが、加齢に伴い免疫細胞は疲弊し、がん細胞の増殖転移が進む。そこで、がん細胞を攻撃する特定のT細胞を採取し、その細胞からiPS細胞を誘導・増殖させ、攻撃特性を持ったT細胞を再び作製することに成功している。がんに対する将来の治療として期待される。再生医療用iPS細胞ストック 倫理問題、費用、時間など多くの面で自家移植には限界がある。iPS細胞による再生医療を実現するためには、他家移植が主流となる。CiRAではiPS細胞をストックする計画を進めている。京大病院のiPS外来では患者の診察とともにiPS細胞ドナー候補ボランティアから献血を行っている。採取した血液はCiRA内のCPCに持ち込まれ、iPS細胞の樹立を行っている。  しかしながら、拒絶反応を減らすためにはHLAの一致が必要。HLAは膨大なバリエーションがあり、一致する確率はきわめて低い。効率よく一致させるためには、HLAホモドナーからの細胞作製が必須だ。日本人で最頻度のHLAタイプのホモドナー1人からiPS細胞をつくると、日本人の20%をカバーできる。違うホモで作製すると80%、140人で95%がカバーできる。最初の目標は日本人の50%のカバーだという。とはいえ、数十人のホモドナーを見つけるには数十万人を調べる必要がある。そのため、臍帯血バンク、日本赤十字社、骨髄バンクといったHLAの情報を管理している外部との連携を進めている。医療応用に必要な人材の確保 iPS細胞の研究には研究者だけでなく、優秀な技術員、規制専門家、契約専門家、知財専門家、広報専門家、事務職員など多くの人材が必要である。一方、国立大学の定員ポストは研究員のみである。実際のCiRAでは300人以上が雇用されているが、無期雇用は1割で、残りの9割は有期雇用である。これは国立大学の研究機関に共通する課題であり、安定雇用に活用できる運営費交付金の割合を増やすよう要望している。 とはいえ、米国では州からの援助は予算の5%。残りの95%はトップがさまざまなスポンサーから集め、安定的な雇用を確保している。そのため、CiRAもiPS細胞基金を立ち上げ、山中氏自ら活動し、研究者の長期雇用、研究環境改善、若手研究者教育に資金を募っているという。iPS細胞研究基金HP

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「朝食多め・夕食軽く」が糖尿病患者に有益

 イスラエル・テルアビブ大学のDaniela Jakubowics氏らは、2型糖尿病患者において、朝食が高エネルギーで夕食は低エネルギーの食事(B食)が、夕食が高エネルギーで朝食は低エネルギーの食事(D食)と比べ、インクレチンとインスリンの増加によって食後高血糖を抑えるかどうかを、オープンラベル無作為化クロスオーバー試験により検討した。その結果、総エネルギーが同じであっても朝食で高エネルギーを摂取するほうが、1日の総食後高血糖が有意に低下することが認められた。著者らは「このような食事の調節が、最適な代謝コントロール達成において治療上有効と考えられ、2型糖尿病における心血管などの合併症を予防する可能性がある」とまとめている。Diabetologia誌オンライン版2015年2月24日号に掲載。 本研究では、罹患歴10年未満でメトホルミン投与や食事療法(両方もしくはどちらか)を受けている、BMI 22~35の30~70歳の2型糖尿病患者18例(男性8例、女性10例)を対象とした。7日間のB食もしくはD食に無作為に割り付け、7日目の毎食後、血糖、インスリン、Cペプチド、intact GLP-1(iGLP-1)、総GLP-1(tGLP-1)を測定した。2週間のwashout期間後にもう一方の食事にクロスオーバーした。B食:朝食2,946kJ(約700kcal)・昼食2,523kJ(約600kcal)・夕食858kJ(約200kcal)D食:朝食858kJ(約200kcal)・昼食2,523kJ(約600kcal)・夕食2,946kJ(約700kcal) 主な結果は以下のとおり。・22例が無作為化され、うち18例が解析された。・B食ではD食に比べて、24時間の血糖AUC(曲線下面積)は20%低かったが、インスリンAUC、CペプチドAUC、tGLP-1 AUCは20%高かった。・食後3時間の血糖AUCとその最高血糖値は、B食ではD食に比べてどちらも24%低かったが、インスリンAUCは11%高かった。また、tGLP-1 AUCは30%高く、iGLP-1 AUCは16%高かった。・どちらの食事も昼食は同じエネルギーにもかかわらず、昼食後の3時間AUCは、B食ではD食に比べ、血糖が21%低く、インスリンが23%高かった。

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患者だけで十分!?明日はわが身 院内感染

 2015年2月17日、都内にて、感染症対策に関するセミナー(主催:日本ベクトン・ディッキンソン株式会社)が行われた。院内感染リスクの高さと対策の難しさ はじめに、賀来 満夫氏(東北大学大学院 内科病態学講座 感染制御・検査診断学分野 教授)が、米国におけるエボラ出血熱の二次感染を例に、医療環境における感染症リスクの高さについて述べた。 一方で、感染症対策には「誰でも感染する可能性がある」「原因菌が目に見えない」「感染後すぐに症状が発現しない」「必ずしも診断が容易ではない」といった特有の難しさがある。それ故、知らない間に感染拡大が起こる可能性があり、注意が必要である。 アメリカ疾病予防管理センター(CDC)の病院感染制御の目標でも、患者の安全確保に加えて、医療従事者の安全確保が挙げられている。しかし、わが国の医療従事者において、自身に対する感染制御の意識は必ずしも高いとは言えない。医療従事者の感染は患者にもリスクとなることを念頭に置き、患者と医療従事者の双方が協力し合い、感染予防に取り組んでいくことが重要である。米国における針刺し予防対策の歴史 次に、ジェニーン・ジェーガー氏(バージニア大学 医療システム学部 内科学 教授)が、米国の針刺し予防対策について説明した。米国でも以前は針刺し事故が多かったが、2000年の針刺し安全予防法の制定以降、安全機構付きの器材が普及し、針刺し事故は減少傾向にあるという。ただし、器材購入のみではその効果は限定的であり、器材を扱うプロセスも含めたトータルマネジメントが重要であると強調した。日本における針刺し事故の現状 わが国においても年間45~60万件の針刺し事故が起こっている。1999~2009年のC型肝炎の新規感染原因の割合をみると、約3分の1が院内感染で発症しているという報告もある。また、インスリン、抗がん剤、インターフェロンといった在宅医療での自己注射の普及に伴い、家庭・オフィス・公共施設など医療機関以外の針刺し事故が増加傾向にある。 患者を含めた一般の人々の感染症に対する危機意識はまだ低く、社会全体で危機管理を行っていく必要があるだろう。

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日本初、パーソナルCGM搭載インスリンポンプ発売

 日本メドトロニック株式会社は18日、日本初となる患者がリアルタイムで間質液グルコースを視認できるパーソナルCGM(Continuous Glucose Monitoring;持続グルコース測定)を搭載した「ミニメド620G インスリンポンプ」を発売した。 インスリンポンプにパーソナルCGM機能を搭載したシステムはSAP(Sensor Augmented Pump;パーソナルCGM機能搭載インスリンポンプ)と呼ばれ、血糖変動を患者自らが随時確認できる。SAPは患者自身によるさらなる適切なインスリン量調整の一助となるため、高血糖および低血糖リスクの低減が期待できるという。 ミニメド620G インスリンポンプは、日本語表示とカラー画面を導入し、少ないボタン操作で使用可能なナビゲーションメニューを搭載している。患者各自の症状にあわせて設定するインスリンの基礎レートおよびボーラス最少注入単位が0.025単位からと細かく調節できる。 さらに、CGMトランスミッタ(送信器)と通信することにより、パーソナルCGMとしても使用することができる。毎日のCGMグラフや血糖値の平均値、アラームの発生回数を最大3ヵ月記録することができるほか、5分ごとにグルコース濃度を測定することにより、SMBG(Self-Monitoring Blood Glucose;血糖自己測定)やHbA1cでは把握困難なグルコース濃度の推移(変動)をより的確に把握することが可能となる。測定が困難な早朝や夜間の時間帯における大きな血糖変動や自覚症状のない低血糖状態などを見出すこともできるため、より適切な糖尿病治療の指標となることが期待されている。また、意思表示が難しいため血糖値の状態を把握しにくい小児の患者においても、保護者がより安心して血糖管理を行えるように配慮されている。詳細はプレスリリース(PDF)へ

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Vol. 3 No. 1 食後高血糖は悪か? 悪者だとすればそれはなぜか?

熊代 尚記 氏東邦大学医療センター大森病院 糖尿病・代謝・内分泌センターはじめに前項にて血糖コントロールが心血管イベント抑制につながる可能性について解説されたが、どのような高血糖が危険なのか、そしてどのように血糖コントロールを行えば心血管イベントを抑制できるのか、未だ多くの謎が残されている。本稿では、食後の高血糖が心血管疾患のリスクファクターである可能性、および食後高血糖の是正が心血管イベントを抑制する可能性について、これまでの報告をもとに解説する。病的な食後高血糖とはそもそも食後血糖値が食前血糖値より高いことは生理学的にごく自然なことである。いったいどの程度の血糖値が食後高血糖として問題になるのであろうか。最新の国際糖尿病連合(International Diabetes Federation : IDF)の食後血糖値の管理に関するガイドライン1)によると、正常耐糖能者の食後の血糖値は、一般的に食後2〜3時間で基礎値に戻るとされ、食後高血糖は摂食1〜2時間後の血糖値が140mg/dLを上回る場合と定義されている。そして、食後血糖値を160mg/dL以下に維持することを管理目標に掲げている。2013年5月に発表された日本糖尿病学会の熊本宣言2013では、糖尿病合併症予防のためのHbA1c目標値は7.0%とされ、対応する血糖値の目安は空腹時血糖値130mg/dL、食後2時間血糖値180mg/dL程度となっている。食前より食後の高血糖が心血管イベントにとって悪である食前と食後の血糖値は連動して上下するはずであるが、これまでの報告をまとめると、興味深いことに、食前の血糖値よりも食後ないし糖負荷後の血糖値のほうがより感度高く心血管イベントの発症を予測することがわかってきた。また、やみくもに血糖値を下げることは食前の低血糖を引き起こす恐れがあり、低血糖が心血管イベントのリスクファクターであることが近年明らかとなってきたことも合わせて2-6)、食後の高血糖をターゲットとした治療ないし血糖変動を抑えるような治療が心血管イベント抑制に大切ではないかと注目されてきている。以下、食後の高血糖が悪であることを支持する報告、食後の高血糖是正が心血管イベント抑制につながる可能性を示唆する報告を具体的に挙げながら解説する。食後高血糖が心血管イベント発症を強く予測する新規発症2型糖尿病患者1,139名を11年間観察したDiabetes Intervention Study(DIS)7)では、空腹時血糖値が110mg/dL以下にコントロールされていても、朝食後1時間値が180mg/dLを超える場合は、140mg/dL以下の者と比べて心筋梗塞の発症率が3倍に増加した。心血管疾患死亡の相対リスクは、最も高い高血圧に次いで食後高血糖が高かったが、空腹時血糖値は死亡の予測因子やリスク因子にはならなかった。イタリアの2型糖尿病患者505名を14年間観察したSan Luigi Gonzaga Diabetes Study8)では、朝食前、朝食2時間後、昼食2時間後、夕食前の各血糖値を評価したところ、心血管イベントと最も関与していたのは昼食後の血糖値であった。ヨーロッパ系住民を対象とした前向きコホート試験20件のメタ解析であるThe Diabetes Epidemiology Collaborative Analysis of Diagnostic Criteria in Europe(DECODE)試験は、一般住民29,108名のグルコース負荷試験データをもとに、空腹時血糖値のみによる糖尿病診断では感度が不十分であることを示し9)、負荷後2時間血糖値が心血管イベントや全死亡と強く関連することを示した10)。また、アジア系住民(n=6,817)のデータをもとにメタ解析されたThe Diabetes Epidemiology Collaborative Analysis of Diagnostic Criteria in Asia(DECODA)試験11)でも、負荷後2時間血糖値が空腹時血糖値よりも心血管イベントと強く関連することが示された。山形県舟形町の住民2,651名のブドウ糖負荷試験を含む健診データを解析した前向きコホート試験(Funagata study)では、耐糖能正常者に比べて、境界型、糖尿病型となるほど心血管イベントが発症しやすく、同じ境界型であっても、IFG(空腹時血糖異常)ではなくIGT(負荷後血糖異常)で有意な心血管イベントの増加が見られることが示された12)。食後高血糖が血管内皮機能を悪化させる血管内皮は、血管最内層に位置する一層の細胞層(血管内皮細胞)より成る。血管内皮は血管内腔と血管壁を隔てるバリアーとなるばかりでなく、血管の拡張と収縮の調節、血管平滑筋の増殖調節、凝固調節、炎症の調節、酸化の調節に関与しており、これらは血管内皮機能と総称される。これらの血管内皮機能がバランスよく発揮されることで血管トーヌスが調節され、血管構造が維持される。血管内皮機能が保たれないと血管トーヌスの異常をきたし、血管構造が変化する(血管リモデリング)。この変化に内皮へのマクロファージの接着とアテローム病変の増大が合わさり、血栓・塞栓が誘発されて、心血管イベントが発症すると考えられる。Cerielloらはグルコースクランプを用いて、5mMと15mMの6時間ごとに血糖を変動させると、持続高血糖よりも血中のニトロチロシン(ニトロ化の修飾を受けたチロシン残基)が上昇し、それがflow-mediated dilatation(FMD)で測定される血管拡張能の低下と相関することを報告している13)。また、アセチルコリンに対する前腕血流増加反応で見た血管内皮機能が、2型糖尿病患者では食後に低下しており、αGIやグリニド系薬剤、超速効型インスリンの投与により改善することが報告されている14-16)。われわれは現在、もう1つの食後高血糖治療薬であるDPP-4阻害薬(リナグリプチン)が血管内皮機能を改善するかどうか、FMDを用いて検討中である。マウスの食後高血糖モデルでは、内皮へのマクロファージの接着とアテローム病変の増大が惹起され、この現象がαGIやグリニド系薬剤、インスリンによって予防できることが報告されている17-19)。今後、このような食後高血糖是正による血管内皮の保護が心血管イベントの抑制につながるかどうか、十分な検討が必要である。食後高血糖是正が心血管イベント発症を抑制するかもしれない以上の報告を踏まえて、食後高血糖が心血管イベントのリスクファクターであり、食後高血糖の是正が心血管イベントの発症を抑制するのではないかと期待されるようになった。しかし、結論的には、現状ではその効果は十分に証明されていない。以下、検証している報告について解説する。急性心筋梗塞後21日以内の2型糖尿病患者1,115名を、(1)超速効型インスリンアナログ(インスリンリスプロ)3回を注射して食後2時間血糖値135mg/dL未満を目指す食後介入群と(2)持効型インスリンアナログ(インスリングラルギン)1回またはNPHインスリン2回を注射して空腹時血糖値121mg/dL未満を目指す食前介入群とに無作為に割り付けて比較検討したHyperglycaemia and Its Effect After Acute Myocardial Infarction on Cardiovascular Outcomes in Patients with Type 2 Diabetes Mellitus(HEART2D)試験では、平均963日の観察後、HbA1cに群間差がなく、食後血糖値はリスプロ群が、食前血糖値はグラルギン群が有意に低かったが、主要血管イベントのリスクは両群で同程度であった(食後介入群31.2%、食前介入群32.4%、ハザード比0.98)20)。心血管ハイリスクのIGT患者9,306名を対象に、ナテグリニドとバルサルタンを用いた2×2 factorialデザインで実施された無作為化比較試験であるThe Nateglinide and Valsartan in Impaired Glucose Tolerance Outcomes Research(NAVIGATOR)試験では、中央値5年間のナテグリニド毎食前60mgの介入は、プラセボと比較して、糖尿病の発症(36% vs. 34%、ハザード比1.07)でも心血管疾患の発症(7.9% vs. 8.3%、ハザード比0.94)でも、予防効果を示すことはできなかった。なお、ナテグリニドは低血糖を増加させていた21)。したがって、前述のとおり低血糖が心血管イベントのリスクファクターであることから、低血糖を起こさずに血糖コントロールを行っていれば、心血管イベントの予防効果を示すことができたかもしれない。この点に関して、Mitaらは、早期2型糖尿病患者を対象にナテグリニドを投与し、低血糖の出現や有意な体重増加を認めなかったうえで、心血管イベントのサロゲートマーカーである頸動脈の内膜中膜複合体厚(intima media thickness : IMT)を抑制することができたことを報告している(本誌p.16図1を参照)22)。IGT患者1,429名を対象にアカルボースを用いて糖尿病発症予防を試みたStudy to Prevent Non-Insulin-Dependent Diabetes Mellitus(STOP-NIDDM)試験では、アカルボース毎食前100mgによる介入が糖尿病の発症を予防した(32% vs. 42%、ハザード比0.75、p=0.0015)23)。さらに、post-hoc解析によって高血圧(ハザード比0.66、p=0.006)や心血管イベントの発症(ハザード比0.51、p=0.03)も予防できたことが報告されている24)。このことは、1年以上継続したアカルボースの介入試験7件のメタ解析(Meta-analysis of Risk Improvement with Acarbose 7: MeRIA7、n=2,180)において、心筋梗塞(ハザード比0.36、p=0.0120)や全心血管イベント(ハザード比0.65、p=0.0061)が抑制されたこととも一致している25)。しかしながら、これらの報告には解釈において注意すべき点がいくつか存在する。まずSTOP-NIDDMにおいては、大血管障害の評価が2次エンドポイントであった。統計解析において、2次エンドポイントや後付解析は仮説を実証するものではなく、示唆するデータに過ぎないことを理解しておかなければならない26, 27)。さらに、心血管イベントの抑制効果(絶対的なリスクの低下)は数%程度であり、ごくわずかであった。服薬中断率も24%であり、これらを大きく差し引いて解釈する必要がある。MeRIA7については、対象となった7件の無作為化比較試験のうち、3件は未発表(2件は製薬企業がデータを提供)であることから、その妥当性は低い28, 29)。実際、日本糖尿病学会の『科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン2013』では、エビデンスレベル「なし」と位置づけられており、玉石混交のメタ解析の評価には注意が必要である。以上から、αGIを用いた食後高血糖治療が心血管イベントを抑制するかどうかの判断には、更なる検討が必要である。最後に、食後高血糖改善効果があり、体重増加と低血糖をきたしにくいDPP-4阻害薬の大血管障害予防効果に関して、最近2件のエビデンスが発表された。Saxagliptin Assessment of Vascular Outcomes Recorded in Patients with Diabetes Mellitus(SAVOR-TIMI)53研究30)では、約16,000人の大血管障害の既往または高リスクの2型糖尿病患者(アジア人を含む)が無作為にサキサグリプチン投与群とプラセボ投与群に割り付けられたが、心血管死・心筋梗塞・脳梗塞の発症リスクに有意差を認めなかった(本誌p.17図2、表を参照)。同時に発表されたExamination of Cardiovascular Outcomes with Alogliptin(EXAMINE)研究31)では、急性冠動脈症候群を発症した2型糖尿病患者(日本人を含む)約5,000人が無作為にアログリプチン投与群とプラセボ投与群に割り付けられ、アログリプチンのプラセボに対する非劣性を証明することを1次エンドポイントとして実施されたが、この研究でも心血管死・心筋梗塞・脳梗塞の発症リスクに有意差を認めなかった。両者ともRCTではあるが、服薬中断率が高いこと、追跡期間が2~3年と比較的短いこと、筆者・解析者に試験薬の製薬会社員が含まれていることなどの限界・バイアスがあるため、これらを差し引いて解釈する必要がある。現時点ではDPP-4阻害薬の大血管障害予防効果については明確な答えを出せず、進行中の残りのDPP-4阻害薬の試験結果を待っている状態である。以上、食後高血糖是正が心血管イベントを抑制する期待は高いのであるが、実際のところは十分に証明されておらず、低血糖を回避した血糖コントロールなど、工夫をしながらデータを蓄積して検討を続けることが必要である。私見としては、UKPDS80やEDIC studyで早期からの血糖コントロールが心血管イベントの抑制につながると報告されているにもかかわらず、食後高血糖をターゲットにした上述の試験では心血管イベントを抑制できなかった理由として、食後のみの高血糖のような軽症の状態での血糖値が心血管イベントに与える悪影響が、脂質や血圧などの他のリスクファクターに比べて影響が小さく、食後血糖値のみを穏やかに数年間改善させても十分な心血管イベントの抑制ができなかっただけなのではないかと推測している。そういった点では、早期から低血糖を予防しながら食後血糖値を抑制しつつ、全体的に血糖値がよくなるように厳格な血糖コントロールを行うことが大切なのではないかと考える。おわりに以上、本稿では食後高血糖が心血管イベント発症のリスクファクターであること、食後高血糖をターゲットとした血糖コントロールが心血管イベントの発症抑制につながるかもしれないことについて解説した。本稿が、本誌の主な読者である循環器専門医、脳血管、末梢血管疾患を担当される専門医の方々の糖尿病診療に役立ち、メタボリックシンドロームや糖尿病患者の心血管イベントの抑制に少しでも貢献すれば幸甚である。文献1)International Diabetes Federation Guideline Development G: Guideline for management of postmeal glucose in diabetes. Diabetes Res Clin Pract 2013. pii: S0168-8227(12)00282-3.2)Bonds DE et al. The association between symptomatic, severe hypoglycaemia and mortality in type 2 diabetes: retrospective epidemiological analysis of the ACCORD study. BMJ 2010; 340: b4909.3)Hemmingsen B et al. Intensive glycaemic control for patients with type 2 diabetes: systematic review with meta-analysis and trial sequential analysis of randomised clinical trials. BMJ 2011; 343: d6898.4)Boussageon R et al. Effect of intensive glucose lowering treatment on all cause mortality, cardiovascular death, and microvascular events in type 2 diabetes: meta-analysis of randomised controlled trials. BMJ 2011; 343: d4169.5)Zoungas S et al. Severe hypoglycemia and risks of vascular events and death. N Engl J Med 2010; 363: 1410-1418.6)Johnston SS et al. Evidence linking hypoglycemic events to an increased risk of acute cardiovascular events in patients with type 2 diabetes. Diabetes Care 2011; 34: 1164-1170.7)Hanefeld M et al. 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575.

市中肺炎患者に対するステロイド投与は症状が安定するまでの期間を短くすることができるか?(解説:小金丸 博 氏)-311

 市中肺炎では過剰な炎症性サイトカインによって肺が障害され、肺機能が低下すると考えられている。そのため、理論的には抗炎症効果を有するステロイドを併用することが有効と考えられ、肺炎の治療に有益かどうか1950年代から議論されてきた。しかしながら、最近報告された2つのランダム化比較試験においても相反する結果が得られており、いまだにステロイド併用の有益性について結論が出ていない1)2)。 本研究は、入院が必要な市中肺炎患者に対し、ステロイドを併用投与することの有用性を調べるために行った、多施設共同二重盲検ランダム化プラセボ対照比較試験である。18歳以上の市中肺炎患者785例を、(1)プレドニゾン50mg/日を7日間投与する群(392例)と、(2)プラセボ投与群(393例)に割り付けた。プライマリエンドポイントは、症状が安定化(バイタルサインが少なくとも24時間安定)するまでの日数とした。 その結果、症状が安定化するまでの期間の中央値は、プレドニゾン投与群が3.0日、プラセボ投与群が4.4日であり、プレドニゾン投与群のほうが有意に短かった(ハザード比1.33、95%信頼区間:1.15~1.50、p<0.0001)。プライマリエンドポイント以外の結果では、入院期間はプレドニゾン投与群のほうが約1日短かった。抗菌薬の総投与期間に有意差はなかったが、静脈注射での投与期間はプレドニゾン投与群で0.89日短かった。30日目までの肺炎関連合併症の発症率は両群間で有意差はなかったものの、プレドニゾン投与群で低い傾向がみられた。30日時点での総死亡率に差はなかった。 プレドニゾン投与群では、インスリンを要する高血糖の頻度が有意に高かった(19% vs 11%、オッズ比1.96、95%信頼区間:1.31~2.93、p=0.0010)。ステロイドによるその他の有害事象はまれであり、両群間で差はなかった。 適切な抗菌薬にステロイドを短期間併用することで、全身状態が早く安定化するのは理解できる結果である。ステロイドを併用することによって、入院期間や抗菌薬の静注投与期間を短縮できるのであれば、結果として入院費を抑制でき、患者にとってメリットになるかもしれない。 しかし、この研究を根拠に、入院を要する市中肺炎患者全例にステロイドを併用するかどうかを決めることは難しいと思う。ステロイドは、高血糖以外にも多くの副作用がある薬剤であり、死亡率の改善など誰もが納得できる理由がなければ全例に投与する必然性は乏しい。本研究の「症状が安定化するまでの日数」というプライマリエンドポイントの設定には疑問が残る。 最後に、実臨床ではステロイドの併用が必要と思われる肺炎患者がいるのも事実である。現時点では患者の基礎疾患、重症度、肺障害の程度などから総合的にステロイドの適応を判断することが多いと思われる。とくにICUに入室するような超重症肺炎患者にステロイドを併用すべきかどうかのデータは不足しており、今後のさらなる研究が待たれる。

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グリベンクラミド、妊娠糖尿病には注意/BMJ

 妊娠糖尿病の短期的治療について、グリベンクラミド(商品名:オイグルコン、ダオニールほか)はインスリンおよびメトホルミン両剤よりも明らかに劣性であり、一方、メトホルミン(+必要に応じてインスリン)がインスリンよりもわずかだが良好であることが示された。スペイン・Mutua de Terrassa大学病院のMontserrat Balsells氏らが、システマティックレビューとメタ解析の結果、報告した。結果を踏まえて著者は、「グリベンクラミドは、メトホルミンやインスリンが使用できるのなら妊娠糖尿病治療には用いるべきでない」と提言している。BMJ誌オンライン版2015年1月21日号掲載の報告より。メタ解析でグリベンクラミドとインスリン、メトホルミンを比較 妊娠糖尿病治療で使用される経口薬が増えており、ガイドラインでも使用を認めているが、安全性に関する情報は限定的である。先行研究では、経口薬に焦点を当てた無作為化試験のメタ解析が複数発表されているが、グリベンクラミドvs. インスリン、メトホルミンvs. インスリン、メトホルミンvs. グリベンクラミドなど総合的な検討は行われていなかった。 研究グループは、それらの比較が行われていた無作為化試験での短期的アウトカムを要約することを目的に、システマティックレビューとメタ解析を行った。 試験適格としたのは、全文を公表しており、薬物療法を必要とした妊娠糖尿病の女性を対象としている、グリベンクラミドvs. インスリン、メトホルミンvs. インスリン、メトホルミンvs. グリベンクラミドを比較検討しているすべての無作為化試験とした。 検索は、2014年5月20日時点でMEDLINE、CENTRAL、Embaseを介して行った。 主要評価項目は、主要アウトカム14(母体6[妊娠末期のHbA1c値、重症低血糖、子癇前症、体重増加など]、胎児8[出産児の在胎月齢、未熟児出産、出生時体重など])、副次アウトカム16(母体5、胎児11)とした。グリベンクラミドはインスリン、メトホルミンより劣性 検索により、15論文、被験者2,509例を解析に組み込んだ。 グリベンクラミドvs. インスリンの主要アウトカムについて、出生時体重(平均差109g、95%信頼区間[CI]:35.9~181g、p=0.003)、巨大児(リスク比:2.62、95%CI:1.35~5.08、p=0.004)、新生児低血糖(同:2.04、1.30~3.20、p=0.002)について有意な差がみられた。 メトホルミンvs. インスリンでは、母体の体重増加(平均差:-1.14kg、95%CI:-2.22~-0.06、p=0.04)、出産児の在胎月齢(同:-0.16週、-0.30~-0.02、p=0.03)、未熟児出産(リスク比:1.50、95%CI:1.04~2.16、p=0.03)で有意差が認められ、新生児低血糖についても差がある傾向が認められた(同:0.78、0.60~1.01、p=0.06)。 メトホルミンvs. グリベンクラミドでは、母体の体重増加(平均差:-2.06kg、95%CI:-3.98~-0.14、p=0.04)、出生時体重(同:-209g、-314~-104、p<0.001)、巨大児(リスク比:0.33、95%CI:0.13~0.81、p=0.02)、在胎不当過大児(同:0.44、0.21~0.92、p=0.03)で有意差が認められた。 副次アウトカムについては、メトホルミンvs. インスリンでは4つがメトホルミンで良好であり、メトホルミンvs. グリベンクラミドではメトホルミンで不良であったのは1つであった。治療不成功は、グリベンクラミドと比べてメトホルミンで高率だった。

577.

Vol. 3 No. 1 血糖をコントロールすることは、本当に心血管イベント抑制につながるのか? ~ DPP-4阻害薬の大規模臨床試験の結果を踏まえて~

坂口 一彦 氏神戸大学大学院医学研究科糖尿病・内分泌内科はじめに国際糖尿病連合のDiabetes Atlas第6版(2013年)1)によれば、世界の糖尿病患者数は3億8,200万人と推定され、そのうちの1億3,800万人が日本を含む西太平洋地区に存在するとされている。世界で糖尿病が理由で亡くなっている人が6秒に1人存在することになり、経済的損失は5,480億ドルにも達するとされている。患者数の増加は2035年には5億9,200万人に達すると予測され、人類にとっての脅威という表現も決して誇張ではない。糖尿病患者は心血管イベントを発生しやすい高リスク集団であることは以前より報告が多く、本邦においても1996年から国内の専門施設に通院する糖尿病患者2,033名を登録して開始されたJapan Diabetes Complications Study(JDCS)の9年次報告2)では、虚血性心疾患の発症率が9.6人/年(男性11.2人/年、女性7.9人/年)と著明に上昇し、脳血管疾患の7.6人/年(男性8.5人/年、女性6.6人/年)を上回っている。それでは、糖尿病患者の血糖をコントロールすることで心血管イベントの抑制につながるのだろうか?糖尿病は何のために治療するのか?という根源的な問題ともいえるこの点について、本稿ではこれまでのエビデンスに基づいて述べる。厳格な血糖コントロールとは何を意味するか?糖尿病の合併症のうち、網膜症・腎症・神経障害など細小血管合併症の発症は、平均血糖の上昇を意味するHbA1cとの間に強い関係があり、さらに1990年代〜2000年に行われたDCCT3)やUKPDS4)などの介入試験において、HbA1cを低下させることで発症・進展阻止が得られることが明らかとなった(図1)。一方で、虚血性心疾患に代表される大血管合併症の発症は、糖尿病患者の血圧や脂質への介入により抑制されることが確認できたが、HbA1cの低下と心血管イベント発症抑制との関連については、それら初期の介入試験では有意な関係を認めることができなかった。2000年代に入りACCORD5)、ADVANCE6)、VADT7)という3つの大規模臨床試験が相次いで発表された。いずれもHbA1cを十分に下げても主要心血管イベントの抑制効果を認めることができず、ACCORD試験に至ってはむしろ強化療法群で死亡率が上昇したという結果で多くの議論を呼ぶこととなった。図1 大規模臨床試験が明らかにした厳格な血糖コントロールがもたらすもの画像を拡大するこれらの試験が私たちに教えたことは、(1)HbA1cの低下は血糖の正常化と同義語ではない、すなわち低血糖を伴わず、血糖変動の小さい日々の血糖状態の結果としての質のよいHbA1cの改善が求められること、(2)年齢、罹病期間、合併症など背景要因を考慮せず一律な治療目標を設定することには問題があること、(3)罹病期間が長い患者に対する治療には限界があり、特に短期間での急速なHbA1cの低下は好ましくないこと、また治療開始の時期がその後の合併症や生命予後に大きく関わることから、糖尿病の発症早期からの治療介入が好ましいこと、などである。その結果、糖尿病の診療は下記のように変化が起きつつある。(1)低血糖の際に交感神経の活性化や凝固系亢進、炎症マーカーの亢進などを介して不整脈や虚血を誘発することが考えられ、低血糖に関する注意が従来以上に強調されることとなった。最近、経口糖尿病治療薬としてDPP-4阻害薬が登場し、現在本邦でも広く使用されているが、これは単独使用では低血糖を起こすことが基本的にはないためと思われる。(2)ADA/ EASDのガイドラインに患者中心アプローチの必要性があらためて記載され、患者ごとの治療目標を設定することが推奨されるようになった8)。(3)その後、厳格な血糖管理の影響は、特に大血管合併症や生命予後に関しては年余を経てからmetabolic memory効果9)やlegacy effect10)が現れることが初期の介入試験の延長試験の結果から明らかとなり、やはり早期からの治療介入の重要性が強調されることとなった。食後高血糖への介入の意義HbA1cがまだ上昇していない境界型のレベルから動脈硬化が進行し、心血管イベントを起こしやすいことはよく知られている。DECODE試験やDECODA試験、本邦におけるFunagata試験が示したことは、経口ブドウ糖負荷試験の空腹時血糖よりも負荷後2時間の血糖値のほうが総死亡や心血管イベントの発症とよく相関するという結果であった。食後高血糖が動脈硬化を促進するメカニズムとして、臍帯血管内皮細胞を正常糖濃度、持続的高濃度、24時間ごとに正常濃度・高濃度を繰り返すという3条件で培養した際、血糖変動を繰り返した細胞で最も多くのアポトーシスを認めたというin vitroの報告や、2型糖尿病患者における血糖変動指標であるMAGEと尿中の酸化ストレスマーカーが相関することなどから、食後高血糖は酸化ストレスや血管内皮障害を介し、大血管合併症につながりうると推測されている。国際糖尿病連合が発行している『食後血糖値の管理に関するガイドライン』では「食後高血糖は有害で、対策を講じる必要がある」とされている。それでは、食後高血糖に介入した臨床試験は期待どおりの結果であったであろうか?STOP-NIDDM試験(Study to prevent Non-Insulin-Dependent Diabetes Mellitus)11)IGT患者1,429名に対して、α-グルコシダーゼ阻害薬であるアカルボースで介入することで2型糖尿病の発症を予防することができるかどうかを1次エンドポイントにしたRCTである。試験期間は3.3年であった。その結果、糖尿病発症は有意に予防でき(ハザード比0.75、p=0.0015)、さらに2次エンドポイントの1つとして検証された心血管イベントの発症も有意に抑制されることが報告された(ハザード比0.51、p=0.03)。しかしアカルボース群は脱落者が比較的多く、得られた結果も1次エンドポイントではないことに注意したい。NAVIGATOR試験(The Nateglinide and Valsartan in Impaired Glucose Tolerance Outcome Research)12)IGT患者9,306名を対象として、血糖介入にはグリニド薬であるナテグリニドを、血圧介入にはARBであるバルサルタンを用いて、2×2のfactorialデザインで実施されたRCTである。1次エンドポイントは糖尿病の発症と心血管イベントの発症で、観察期間の中央値は5年間であった。結果としてナテグリニド群はプラセボ群に比し、糖尿病の発症(プラセボに対するハザード比1.07、p=0.05)、心血管イベントの発症(プラセボに対するハザード比0.94、p=0.43)といずれも予防効果を証明できなかった。本試験ではナテグリニド群において低血糖を増加させていたことや、投薬量が不足していた可能性などの問題が指摘されている。HEART2D試験(Hyperglycemia and Its Effect After Acute Myocardial Infarction on Cardiovascular Outcomes in Patients with Type 2 Diabetes Mellitus)13)急性心筋梗塞後21日以内の2型糖尿病患者1,115名を対象に、超速効型インスリンを1日3回毎食前に使用して食後血糖を低下させた治療群と、基礎インスリンを使用して空腹時血糖を低下させた治療群を比較したRCTである。平均963日のフォローアップで、同様にHbA1cが低下し、日内の血糖パターンにも変化がついたにもかかわらず、主要心血管イベントの発症には両群で有意差がつかなかった。このように、食後の高血糖が有害であるということを示唆するデータやそれを裏づける基礎的データはあるものの、血糖変動を厳格に管理することで本当に糖尿病患者の心血管イベントが減るのかということに関しては、未だ明らかではないことがわかる。DPP-4阻害薬を使用した大規模臨床試験インクレチン関連薬の登場は、糖尿病治療にパラダイムシフトを起こしたとまでいわれ、低血糖や体重増加が少ないというメリットがあるうえに、日内の血糖変動も小さく、真の意味で厳格な血糖コントロールを目指せる薬剤と期待され広く臨床使用されるようになった。加えてインクレチン関連薬には、血糖コントロール改善効果以外に、臓器保護効果やβ細胞の保護効果を示唆するデータが培養細胞や動物実験において出されつつある。最近、DPP-4阻害薬を用い、心血管イベントを1次エンドポイントとした2つのRCTが発表されたので、次にこれらの試験について述べる。試験が行われた背景ロシグリタゾンは本邦では未発売のPPAR-γ活性化薬の1つである。血糖降下作用に加え、抗炎症作用・臓器保護作用などの報告が多く、大血管イベント抑制効果も期待されていたが、2007年にそれまでの臨床試験の結果を解析すると、逆に急性心筋梗塞が対照群に比べて1.43倍、心血管死亡が1.64倍増加しているという衝撃的な報告がなされた14)。2008年、アメリカ食品医薬品局(FDA)はこれらの報告を受け、新規の糖尿病治療薬については心血管イベントリスクの安全性を証明することを義務づけた。ここで述べる2つのRCTは、このFDAの要請に応えるべく行われた。したがって、プラセボ薬に比し、心血管イベントの発生が非劣性であることを1次エンドポイントとしてデザインされたRCTであり、実薬による介入が対照群に比し優れているかどうかを検証するこれまで述べてきた他の試験とは性質が異なる。EXAMINE試験(Examination of Cardiovascular Outcome with Alogliptin)15)(表1)急性冠動脈症候群を発症した2型糖尿病患者5,380名を、アログリプチン群とプラセボ群に無作為に割り付け、観察期間中央値18か月として、心血管死、心筋梗塞、脳卒中の発症リスクを比較したものである。結果として、プラセボに対する非劣性は証明されたが(プラセボに対するハザード比0.96、p<0.001 for noninferiority)、優越性は証明されなかった。表1 EXAMINE試験とSAVOR-TIMI 53試験の概略画像を拡大するSAVOR-TIMI53試験(Saxagliptin and Cardiovascular Outcomes in Patients with Type 2 Diabetes Mellitus)16)(表1)心血管イベントの既往またはリスクを有する2型糖尿病患者16,492名を無作為にサキサグリプチン群とプラセボ群に割り付け、観察期間を中央値2.1年、主要評価項目を心血管死、心筋梗塞、脳卒中発症の複合エンドポイントとして比較したものである。結果として、プラセボに対する非劣性は証明されたが(プラセボに対するハザード比0.89、p<0.001 for noninferiority)、優越性は証明されなかった(p=0.99 for superiority)。本試験の対象は高リスクで罹病期間の長い中高年者であり、ACCORD試験の対象者に似ていることと介入期間の短さを考えると、介入終了時点でイベント発生の抑制効果が認められないことにそれほどの違和感はない。加えてACCORD試験ほど急速にHbA1cは下がっていない(むしろ介入終了時のプラセボとのHbA1cの差は全区間を通じて有意であったとはいえ、介入終了時点で7.7% vs. 7.9%と極めて小さな差であった)、主要評価項目のイベントを増やすことがなかったという意味では所定の結果は得られたといえる。しかし、解析の中で次の点が明らかになった。単剤で使用される限り低血糖のリスクは少ないDPP-4阻害薬であるが、併用薬を含む本試験においてはサキサグリプチン群のほうが有意に低血糖が多かった。また2次複合エンドポイント(1次複合エンドポイントの項目に加えて狭心症・心不全・血行再建術による入院を含めたもの)も両群で有意差はつかなかったが、その中の1項目である心不全による入院は、サキサグリプチン群がプラセボ群に比してハザード比1.19(p=0.007)と有意に増える結果となった。おわりにこのように、現時点では既述のように発症から比較的早い段階から介入することで、後年の心血管イベントや死亡を減らせることは証明されているものの、発症から年余を経た糖尿病患者に対する介入試験で、1次エンドポイントとしての心血管イベントを抑制することを証明した臨床試験は存在しない。DPP-4阻害薬を用いた2つの臨床試験は、優越性の証明が主目的ではなかったものの、心不全による入院の増加の可能性を示唆するものであった(IDF2013では、EXAMINE試験において心不全は増加傾向で、SAVOR-TIMI53試験とEXAMINE試験の2つの試験のメタ解析の結果でも有意に心不全が増えると報告された)。今後、DPP-4阻害薬を用いた大規模臨床試験の結果が明らかにされる予定であり(表2)、この点も興味が持たれる。表2 DPP-4阻害薬は糖尿病患者の予後を変えることができるか?現在進行中の心血管イベントを1次エンドポイントとした大規模臨床試験画像を拡大する文献1)http://www.idf.org/diabetesatlas2)曽根博仁. JDCS 平成21年度総括研究報告書.3)The DCCT Research Group. The effect of intensive treatment of diabetes on the development and progression of long-term complications in insulin-dependent diabetes mellitus. N Engl J Med 1993; 329: 977-986.4)Stratton IM et al. Association of glycaemia with macrovascular and microvascular complications of type 2 diabetes (UKPDS 35): prospective observational study. BMJ 2000; 321: 405-412.5)ACCORD Study Group. Effects of intensive glucose lowering in type 2 diabetes. N Engl J Med 2008; 358: 2545-2559.6)ADVANCE Collaborative Group. Intensive blood glucose control and vascular outcomes in patients with type 2 diabetes. N Engl J Med 2008; 358: 2560-2572.7)VADT Investigators. Glucose control and vascular complications in veterans with type 2 diabetes. N Engl J Med 2009; 360: 129-139.8)Inzucchi SE et al. Management of hyperglycemia in type 2 diabetes: A patient-centered approach. Diabetes Care 2012; 35: 1364-1379.9)DCCT/EDIC Study Research Group. Intensive diabetes treatment and cardiovascular disease in patients with type 1 diabetes. N Engl J Med 2005; 353: 2643-2653.10)Holman RR et al. 10-year follow-up of intensive glucose control in type 2 diabetes. N Engl J Med 2008; 359: 1577-1589.11)STOP-NIDDM Trail Research Group. Acarbose for prevention of type2 diabetes mellitus: the STOPNIDDM randomized trial. Lancet 2002; 359: 2072-2077.12)The NAVIGATOR Study Group. Effect of nateglinide on the incidence of diabetes and cardiovascular events. N Engl J Med 2010; 362: 1463-1476.13)Raz I et al. Effects of prandial versus fasting glycemia on cardiovascular outcomes in type 2 diabetes: the HEART2D trial. Diabetes Care 2009; 32: 381-386.14)Nissen SE and Wolski K. Effect of rosiglitazone on the risk of myocardial infarction and death from cardiovascular causes. N Engl J Med 2007; 356: 2457-2471.15)White WB et al. Alogliptin after acute coronary syndrome in patients with type 2 diabetes. N Engl J Med 2013; 369: 1327-1335.16)Scirica BM et al. Saxagliptin and cardiovascular outcomes in patients with type 2 diabetes mellitus. N Engl J Med 2013; 369: 1317-1326.

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市中肺炎入院患者、ステロイド追加で早期回復/Lancet

 入院を要する市中肺炎患者の治療において、プレドニゾンの7日間投与による補助療法を行うと、臨床的安定の達成までの期間が有意に短縮することが、スイス・バーゼル大学病院のClaudine Angela Blum氏らの検討で示された。市中肺炎では、血中への炎症性サイトカインの過剰放出により肺機能障害が引き起こされるが、ステロイドは全身性の炎症過程を抑制し、さらに肺炎球菌性肺炎に対する効果も確認されている。一方、ステロイド補助療法のベネフィットに関する議論は1950年代から続いているが、最近の臨床試験の結果は相反するものだという。Lancet誌オンライン版2015年1月18日号掲載の報告。ステロイド追加の有用性をプラセボと比較 研究グループは、市中肺炎に対する短期的ステロイド療法の有用性を評価する多施設共同二重盲検無作為化プラセボ対照比較試験を行った(Swiss National Science Foundationなどの助成による)。対象は、年齢18歳以上、入院後24時間以内の市中肺炎患者であった。 被験者は、プレドニゾン50mg/日を7日間経口投与する群またはプラセボ群に無作為に割り付けられた。主要評価項目は臨床的安定までの期間(バイタルサインが24時間以上安定するまでの日数)とし、intention-to-treat(ITT)解析を行った。 臨床的安定は、体温37.8℃以下、心拍数100回/分以下、自発呼吸数24回/分以下、昇圧薬の投与なしで収縮期血圧90mmHg以上(高血圧患者の場合は100mmHg以上)、精神状態が発症前レベルに回復、経口摂取が可能、適正な酸素供給(PaO2≧60mmHgまたはパルスオキシメトリ≧90%)のすべてを満たす場合と定義した。臨床的安定までの期間が1.4日短縮 2009年12月1日~2014年5月21日に、スイスの7つの3次病院に785例(ITT集団)が登録され、ステロイド群に392例(年齢中央値74歳、男性61%)、プラセボ群には393例(73歳、63%)が割り付けられた。 臨床的安定までの期間中央値は、ステロイド群が3.0日と、プラセボ群の4.4日に比べ有意に短かった(ハザード比[HR]:1.33、95%信頼区間[CI]:1.15~1.50、p<0.0001)。 30日以内の肺炎関連合併症(急性呼吸促迫症候群、膿胸、肺炎の持続)の発現率は、ステロイド群が3%であり、プラセボ群の6%よりも低かったが、有意な差は認めなかった(オッズ比[OR]:0.49、95%CI:0.23~1.02、p=0.056)。 退院までの期間(6.0 vs. 7.0日、p=0.012)および抗菌薬静注投与期間(4.0 vs. 5.0日、p=0.011)はステロイド群で有意に短かったが、肺炎の再発や再入院、ICU入室、全死因死亡、抗菌薬治療期間などは両群間に差はなかった。 有害事象は、ステロイド群の24%、プラセボ群の16%に発現し、有意差が認められた(OR:1.77、95%CI:1.24~2.52、p=0.0020)。ステロイド群では、インスリン治療を要する高血糖の院内発症率が19%と、プラセボ群の11%に比し有意に高かった(OR:1.96、95%CI:1.31~2.93、p=0.0010)。他のステロイド投与に特徴的な有害事象はまれであり、プラセボ群との間に差を認めなかった。 著者は、「プレドニゾン7日間投与は、合併症を増加させずに臨床的安定を早期にもたらした」とまとめ、「この知見は患者の立場からも実際的な価値があり、入院費や有効性の決定要因としても重要である」と指摘している。なお、今回の結果をこれまでのエビデンスに加えてメタ解析を行ったところ、入院期間の有意な短縮が確認されたという。また、著者は「高血糖の発現は予期すべきであり、ステロイド禁忌についても考慮する必要がある」としている。

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脱毛症の人はあのリスクが上昇

 脱毛症は、冠状動脈性心疾患のリスク上昇と関連し、脱毛症の重症度が高いほど、冠状動脈性心疾患のリスクも上昇する可能性があることが、オーストラリア・シドニー大学のNelson Trieu氏らによる研究で明らかになった。また、脱毛症は高血圧、高インスリン血症、インスリン抵抗性、メタボリックシンドロームのリスク上昇、血清総コレステロール値・トリグリセリド値の上昇とも関連が認められた。International journal of cardiology誌2014年10月20日号の報告。 脱毛症は、冠状動脈性心疾患リスクの上昇との関連が認められており、高インスリン血症、インスリン抵抗性、メタボリックシンドローム、脂質異常症、高血圧といった循環器疾患のリスク因子でもある。本研究では、脱毛症患者における冠状動脈性心疾患リスクとリスク因子を定量的に評価するために、データベースで文献を検索し、メタ解析を行った。プールされたオッズ比と95%信頼区間は、ランダム効果モデルを用いて算出した。 主な結果は以下のとおり。・31試験、2万9,254人の脱毛症患者について解析した。・脱毛症は、下記のリスク上昇と関連が認められた。 冠状動脈性心疾患(オッズ比1.22、95%CI:1.07~1.39) 高インスリン血症(オッズ比1.97、95%CI:1.20~3.21) インスリン抵抗性(オッズ比 4.88、 95%CI:2.05~11.64) メタボリックシンドローム(オッズ比 4.49、95%CI:2.36~8.53)・脱毛症患者は、脱毛症でない患者と比べて下記の値が高かった。 血清コレステロール(オッズ比 1.60、95%CI:1.17~2.21) 血清トリグリセリド(オッズ比 2.07、95%CI:1.32~3.25) 収縮期血圧(オッズ比 1.73、95%CI:1.29~2.33) 拡張期血圧(オッズ比 1.59、95%CI:1.16~2.18)

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食後血糖の上昇が低い低glycemic index(GI)の代謝指標への影響(解説:吉岡 成人 氏)-297

食後血糖と心血管イベント EBMならぬ“Advertising based medicine”の領域では、15年ほど前から「糖尿病患者における食後高血糖は虚血性心疾患のリスクファクターである」というキャッチコピーが飛び交い、多くの医療従事者たちに事実とは異なる情報を提供している。確かに、経口ブドウ糖負荷試験(75gOGTT)を実施した際の2時間値は心血管イベントや死亡のリスクであることが、DECODE(Diabetes Epidemiology; Collaborative analysis of Diagnostic criteria in Europe)study 、舟形町研究など、欧州のみならず日本においても、多くの疫学研究で確認されている。 しかし、75gOGTTの2時間値は、炭水化物のみならず、タンパク質や脂質、食物繊維などを含んだ食事を摂取した食後の血糖値とは同一のものではない。また、糖尿病患者ではなく、耐糖能障害(IGT)を対象にα−グルコシダーゼ阻害薬やグリニド薬によって糖尿病の発症予防に対する有用性を検討した臨床試験(STOP-NIDDM、NAVIGATOR)では、試験の経過において食後血糖値は観察項目としては取り上げられていない。さらに、STOP-NIDDMでは脱落症例が約25%も存在し、心血管イベントの発症に関与している臨床因子は血圧とトリグリセリドであり、75gOGTTの2時間値は有意な説明変数ではないことが論文内の表で示されている。しかも、1次エンドポイントとは関係のない、サブ解析での心血管イベントの発症予防効果の可能性のみが大きく取り上げられた、歪んだ臨床試験である。 ドイツでHanefeldらが実施したDIS(Diabetes Intervention Study)は、新規の2型糖尿病患者を対象にフィブラートを投与した際に心血管イベントが抑止されるか否かを検討した試験であるが、食後1時間の血糖値が心血管イベントの発症と関連することをも示した。とはいえ、食後血糖値に介入した試験ではなく、しかも、11年間の観察期間で対象患者の15.2%が心筋梗塞を発症しているという、きわめてハイリスクな群における研究成績である。 現段階において、2型糖尿病患者を対象として、食後高血糖に介入して心血管イベントの発症を抑止したという質の高いエビデンスは存在していない。低GI食の有用性は… このような背景の下、本研究は、食事中の炭水化物の量や内容が食後の高血糖や肥満と関連しているのであれば、食後高血糖を助長するglycemic index(GI)が高く炭水化物が多い食事が、低炭水化物食と比較して脂質プロフィールやインスリン抵抗性に悪影響を与えるのではないかという仮説を証明するために実施されたものである。 クロスオーバー対照試験で、(1) 高GI(グルコーススケール65%以上)、高糖質(エネルギー比率58%以上)、(2) 低GI(40%)、高糖質、(3) 高GI、低糖質(エネルギー比率40%)、(4) 低GI、低糖質の4群の食事の代謝指標への影響を検討している。 高糖質食群において、低GI群では高GI群に比較してインスリン感受性が低下し、LDLコレステロールが上昇したが、HDLコレステロール、トリグリセリド、血圧には変化がなかった。また、低GI、低糖質食であっても高GI、高糖質食と比較してインスリン抵抗性、LDLコレステロール、HDLコレステロール、収縮期血圧は改善しないという予想に反した結果が得られた。つまり、野菜や豆類、全粒穀類、果物などが豊富で低脂肪の健康的な食事(DASH: Dietary Approaches to Stop Hypertension)であればGIを気にする必要はないのではないかという結論である。 現在、日本では低糖質食が肥満の改善に有用であるとの情報が、多くの場で取り上げられ、注目を浴びている。確かに、健康な人たちに半年ほどの短期間にわたって低糖質食を行うことで肥満が解消されることが多いのは事実であろう。しかし、科学的にその有用性を示した成績はなく、また、糖尿病やメタボリックシンドロームの病態の改善に結び付くとは証明されていないことを認識すべきである。

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