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認知症リスクへの糖尿病・高血圧・脂質異常症の影響

 インスリン抵抗性に起因する高血圧症や脂質異常症の患者と、糖尿病ではない高血圧症や脂質異常症の患者では、認知症リスクが異なる可能性がある。今回、台北医学大学のYen-Chun Fan氏らによる全国的な集団コホート研究から、糖尿病の有無により高血圧症や脂質異常症による認知症リスクの増加に差があることがわかった。著者らは、「糖尿病発症に続く高血圧症や脂質異常症の発症は糖尿病発症の2次的なものでインスリン抵抗性を介在する可能性があり、認知症リスクをさらに高めることはない」と考察し、「糖尿病自体(高血糖の全身的な影響)が認知症リスク増加の主な原因かもしれない」としている。Alzheimer's research & therapy誌2017年2月6日号に掲載。 著者らは、台湾の国民健康保険研究データベースから、後ろ向きコホート研究を実施した。糖尿病コホートは、2000~02年に新たに糖尿病の診断を受けた1万316人を登録し、非糖尿病コホートは、同時期に糖尿病ではなかった4万1,264人を無作為に選択した(年齢および性別が一致した人を1:4の比率で登録)。両コホートをそれぞれ、高血圧症または脂質異常症の有無により4群に分けた。 主な結果は以下のとおり。・20~99歳の5万1,580人が登録された。・糖尿病コホートは非糖尿病コホートに比べて認知症リスクが高かった(調整ハザード比[HR]:1.47、95%CI:1.30~1.67、p<0.001)。・糖尿病コホートでは、高血圧症と脂質異常症の両方を有する群は、どちらもない群と比較して、認知症リスクの増加は有意ではなかった(p=0.529)。高血圧症のみ(p=0.341)または脂質異常症のみ(p=0.189)の群でも同様の結果がみられた。・非糖尿病コホートでは、高血圧症と脂質異常症の両方を有する群は、どちらもない群と比べて認知症リスクが高く(調整HR:1.33、95%CI:1.09~1.63、p=0.006)、高血圧症のみの群でも結果はほぼ変わらなかった(調整HR:1.22、95%CI:1.05~1.40、p=0.008)。脂質異常症のみの群では認知症リスクの増加は有意ではなかった(p=0.187)。

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高齢2型糖尿病、低過ぎるHbA1cは認知症リスク?

 ヘモグロビンA1c(HbA1c)は、糖尿病患者のQOL維持のための血糖コントロール改善の重要な指標とされているが、高齢者には低過ぎるHbA1cが害を及ぼす恐れがある。今回、金沢医科大学の森田 卓朗氏らの調査により、地域在住の高齢2型糖尿病患者において、HbA1cと要支援/要介護認定のリスクがJ字型を示すことが報告された。また、高齢の2型糖尿病患者での低過ぎるHbA1cが、認知症による後年の障害リスクに関連する可能性が示唆された。Geriatrics & gerontology international誌オンライン版2017年2月11日号に掲載。 著者らは、血糖降下薬またはインスリンを投与されている65~94歳の糖尿病患者184例を調査した。エンドポイントは初回の要支援/要介護認定および/または死亡で、HbA1c(4区分)と要支援/要介護認定リスクおよび/または死亡との関係について、Cox比例ハザード回帰モデルを用いて判定した。 主な結果は以下のとおり。・5年間に42例が初回の要支援/要介護認定を受け、13例が死亡した。・HbA1cと要支援/要介護認定リスク(年齢、性別、交絡変数を調整)との関係は、HbA1cが6.5%以上7.0%未満で最低となるJ字型を示し、6.0%未満では要支援/要介護認定リスクが増加し、最低レベルに比べたハザード比(HR)は3.45(95%CI:1.02~11.6、p=0.046)であった。・HbA1cが6.0%未満の患者では、6.0%以上の患者と比較し、(関節痛/骨折や脳卒中など他の障害ではなく)認知症によって要支援/要介護を認定されるリスクが高かった(HR:12.5、95%CI:3.00~52.2、p=0.001)。

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腹部脂肪蓄積の遺伝的素因が糖尿病、心疾患発症に関与/JAMA

 観察研究では、腹部脂肪蓄積と2型糖尿病、冠動脈性心疾患(CHD)との関連が示唆されているが、因果関係は不明とされる。遺伝的素因としてBMIで補正したウエスト/ヒップ比(WHR)が高い集団は、2型糖尿病やCHDのリスクが高いとの研究結果が、JAMA誌2017年2月14日号で発表された。報告を行った米国・マサチューセッツ総合病院のConnor A Emdin氏らは、「これは、腹部脂肪蓄積と2型糖尿病、CHDとの因果関係を支持するエビデンスである」としている。関連性をメンデル無作為化解析で評価 研究グループは、BMIで補正したWHRの多遺伝子リスクスコアと、脂質、血圧、血糖を介する2型糖尿病およびCHDとの関連を検証するために観察的疫学研究を実施した(筆頭著者はRhodes Trustによる研究助成を受けた)。 BMIで補正したWHRの多遺伝子リスクスコアは、腹部脂肪蓄積の遺伝的素因の指標であり、最近の研究で同定された48の一塩基多型(SNP)で構成される。このスコアと心血管代謝形質、2型糖尿病、CHDとの関連を、症例対照と横断的なデータセットを統合したメンデル無作為化解析で検討した。 心血管代謝形質は、2007~15年に行われた4つのゲノムワイド関連解析(GWAS、32万2,154例)の結果と、2007~11年に収集された英国のバイオバンク(UK Biobank)の個々の参加者の横断的データ(11万1,986例)から成る統合データセットに基づいて評価した。 また、2型糖尿病およびCHDは、2007~15年に実施された2つのGWAS(それぞれ14万9,821例、18万4,305例)と、UK Biobankの個々のデータを合わせた要約統計量を用いて評価した。1 SD上昇で発症リスクが有意に増加 UK Biobankの参加者11万1,986例の平均年齢は56.9(SD 7.9)歳、5万8,845例(52.5%)が女性であり、平均WHRは0.875であった。平均血圧は143.6(SD 21.8)/84.5(11.8)mmHg、平均BMIは27.5(4.8)で、糖尿病が5.1%、CHDが5.0%にみられた。 BMIで補正したWHRの多遺伝子リスクスコアが1 SD上昇すると、総コレステロール値が5.6mg/dL、LDLコレステロール値が5.7mg/dL、トリグリセライド値が27mg/dLそれぞれ上昇し、HDLコレステロールは6.0mg/dL低下した(いずれも、p<0.001)。 また、空腹時血糖値が0.56mg/dL(p=0.02)、空腹時インスリン対数変換値が0.07log(pmol/L)、食後2時間血糖値が4.1mg/dL(p=0.001)、HbA1cは0.05%それぞれ上昇し、収縮期血圧が2.1mmHg、拡張期血圧は1.3mmHgそれぞれ上昇した(とくに記載のないものはp<0.001)。 さらに、BMIで補正したWHRの多遺伝子リスクスコアの1 SD上昇により、2型糖尿病のリスクが有意に増加し(オッズ比[OR]:1.77、95%信頼区間[CI]:1.57~2.00、1,000人年当たりの絶対リスク増加:6.0、95%CI:4.4~7.8、p=7.30×10-21、2型糖尿病発症数:4万530例)、CHDのリスクも有意に増加した(OR:1.46、95%CI:1.32~1.62、1,000人年当たりの絶対リスク増加:1.8、95%CI:1.3~2.4、p=9.90×10-14、CHD発症数:6万6,440例)。 これらの知見は、以前の観察研究の示唆を裏付けるもので、体脂肪分布はBMIよりも2型糖尿病やCHDのリスクの変動を説明可能であり、BMIで補正したWHRはこれらの疾患の予防治療の開発におけるバイオマーカーとして有用となる可能性があるという。

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持続血糖測定は1型糖尿病の血糖コントロールに有効(解説:小川 大輔 氏)-644

 つい先日、岡山で行われた1型糖尿病の患者会に参加した。食事やインスリン療法のみならず、日常生活全般にわたりさまざまな意見交換を行い、改めて患者さんから学ぶことが多いと痛感した。  患者会では、血糖測定も話題の1つであった。昨年このコラムで新しい血糖測定器についてコメントしたが(CLEAR!ジャーナル四天王―601)、それが最近日本で販売開始となり、早速購入して使用している方もおられた。血糖測定方法としては、通常の頻回の穿刺による血糖測定よりも、持続血糖測定(CGM)のほうが血糖コントロールに有用であるとの意見が多かった。 そのような患者さんの実感を裏付けるような試験結果が今回JAMA誌に報告された。成人の頻回インスリン注射を行っている1型糖尿病患者158症例を対象とし、CGMを行う群(CGM群)と通常の血糖測定を行う群(対照群)の2群にランダムに2:1で割り付け、どちらが血糖コントロールに有用であるかの検討が行われた。結果は24週の試験でCGM群のほうが対照群よりもHbA1cを有意に低下した(ベースラインからの平均HbA1c低下はCGM群が1.0%、対照群が0.4%)。また、血糖値が70mg/dL未満になる時間もCGM群のほうが対照群と比較し有意に短かった(低血糖時間の中央値はCGM群が43分/日、対照群が80分/日)。 この論文を解釈するうえで注意する点をいくつか挙げてみる。1つ目はこの試験では25歳以上の成人を対象としており、1型糖尿病の好発年齢である小児や青少年は含まれていない。2つ目は、この試験で用いられたDexcom社のCGMは非常に精度が高いことが知られているが、残念ながら日本では発売されていない。3つ目は観察期間が24週と短いため、長期的な血糖コントロールや低血糖に対する効果は不明である。しかしこの試験の規模は小さいものの、試験デザインは実臨床に則しており、結果はリアルワールドを反映しているといえよう。

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第8回 α-グルコシダーゼ阻害薬(α-GI)による治療のキホン【糖尿病治療のキホンとギモン】

【第8回】α-グルコシダーゼ阻害薬(α-GI)による治療のキホン―どのような患者さんに適しているのでしょうか。 α-GIは、空腹時血糖値は正常であるのに、HbA1cがやや高いなど、食後高血糖の是正が必要な2型糖尿病患者さんが良い適応となります。インスリン分泌を介さずに、食後高血糖を改善するため、単独で低血糖を起こしにくく、体重増加を来しにくい薬剤です。 糖尿病患者さんでは、食後のインスリンの遅延分泌などがあると、食後の血糖上昇とインスリンのタイミングが合わずに、食後高血糖を来します。α-GIは、α-グルコシダーゼの作用を阻害することで、小腸における2糖類から単糖類(ブドウ糖)への分解を阻害します。通常であれば小腸上部でそのほとんどが分解されてしまう2糖類は、α-GIによって分解を阻害されると、小腸下部までそのまま運ばれます。その結果、ブドウ糖の吸収が遅延し、食後の血糖上昇が緩やかになり、食後高血糖が改善されます。 同じ食後高血糖改善薬に「速効型インスリン分泌促進薬」がありますが、速効型インスリン分泌促進薬はインスリン分泌を促進させて食後高血糖を改善させます。肥満の患者さんの場合、インスリン抵抗性により、インスリンが効きにくくなっており、それを補って血糖値を下げようとして、多量のインスリンを分泌してしまう「高インスリン血症」になっていることがあります。高インスリン血症がある患者さんに速効型インスリン分泌促進薬を投与してしまうと、肥満や高血圧、心血管疾患のリスクになりうる高インスリン血症が助長されてしまいます。 実際に、耐糖能異常(IGT)例を対象に、α-GI(アカルボース)による2型糖尿病の新規発症抑制効果を検討したSTOP-NIDDM試験では、2型糖尿病の新規発症が抑制されただけでなく、心血管イベントの発症も抑制されました1,2)。それに対して、40ヵ国でIGT例を対象に、速効型インスリン分泌促進薬(ナテグリニド)とARB(バルサルタン)の有効性を検討した2×2のファクトリアル(要因)試験※のNAVIGATOR試験では、糖尿病の新規発症を抑制できず、さらに心血管イベントの発症も抑制できなかったという結果が示されました3)。 ※2つ以上の治療法を組み合わせて行う試験デザイン いずれも海外で行われた試験で、対象は肥満の患者さんでした。STOP-NIDDM試験では、α-GI投与群で、食後高血糖の改善に加え、体重減少および血圧低下が認められ、さらに食後高インスリン血症の改善も示唆されました。しかし、NAVIGATOR試験では、速効型インスリン分泌促進薬を投与された患者さんで体重増加がみられていることから、高インスリン血症の助長が、真逆の結果に至った原因の1つと考えられています。 食後高血糖を引き起こす病態として、食後のインスリンの遅延分泌があるため、食後高血糖を改善するためにインスリン分泌を促す治療は理にかなってはいるのですが、食後の高インスリン血症があると考えられる肥満の患者さんでは、インスリン分泌を介さず、逆にインスリン分泌を節約しながら食後の高血糖を改善できるα-GIを用いながら、遅れて出るインスリン分泌を前倒しにして、“健康な人と同じインスリン分泌パターン”に近づけるために速効型インスリン分泌促進薬を併用(もしくは速効型インスリン分泌促進薬/α-GIの配合薬※※)することも、より良く食後高血糖を改善する手段として有用です。 ※※配合薬を第1選択薬として用いることはできません。 なお、α-GIの中で「ボグリボース」のみ、糖尿病の前段階であるIGTにおける2型糖尿病の発症予防が確認されていることから、0.2mg錠に限ってIGTに対して保険適用となっています。―腹部膨満感の訴えが多く、困っています。腹部膨満感や放屁、下痢などの消化器症状の副作用を軽減するためにはどうすればよいでしょうか。 α-GIにより、小腸で単糖類に分類されず、吸収されなかった2糖類の一部がそのまま大腸まで運ばれてしまうことがあります。その場合、腸内細菌によって発酵されることで、腸内のガスの産生が亢進し、腹部膨満感や放屁、腹鳴、下痢などの消化器症状を引き起こすことがあり、α-GIの投与ではしばしば問題となります。 消化器症状は、投与初期に発現することが多く、その後徐々に軽減・消失する傾向がみられるため、その旨を患者さんにお伝えし、少量から開始するとよいでしょう。 現在、国内で使用できるα-GIにはアカルボース(商品名:グルコバイ)、ボグリボース(商品名:ベイスン)、ミグリトール(商品名:セイブル)の3つがあり、α-グルコシダーゼ以外の消化酵素を阻害する作用の有無や、薬剤自体が腸管でどの程度吸収されるかなどにより、消化器症状の程度は薬剤ごとに異なってきます。また、同じ薬剤でも患者さんによっても違う場合がありますので、どうしても副作用が我慢できないと患者さんが訴えてきたときには、α-GIの中でスイッチするのもよいでしょう。―腹部手術後の症例に使用してもよいのでしょうか。 α-GIは、「腸内ガス等の増加に、腸閉塞が発現するおそれがあるため、開腹手術の既往又は腸閉塞の既往のある患者」に対して慎重投与するとされていますので、注意して使用すれば投与可能です。 胃切除後の患者さんでは、食物が急激に小腸に流入して吸収されてしまうと、一時的に高血糖状態となり、そのためにインスリンが過剰に分泌されて食後2~3時間に低血糖を生じる「(後期)ダンピング症候群」が起こることがあります※。そのため、胃切除を行った患者さんでは、ゆっくりと少しずつ食物を小腸に送り出すように食事をする必要があります。糖の消化吸収を遅らせるα-GIは、食後の急激な血糖上昇を抑制するため、ダンピング症候群を惹起する食後の急激なインスリン分泌を抑制することができます。 なお、α-GIはダンピング症候群の適応はありませんが、胃切除をした糖尿病患者さんで、血糖低下を目的に使用することは可能です。 ※食物の流入により、食後30分に低血糖が生じるのは「前期ダンピング症候群」で、α-GIは前期ダンピング症候群には適さない。―内服は食直後では効果がないのでしょうか。食直前に内服を忘れた場合、食後に服用してもよいのでしょうか。 α-GIは、「1日3回“毎食直前”に経口投与する」とされていますが、これは各薬剤とも、治験において、食直前投与により明らかな血糖降下作用が得られることが示されたことから、「毎食直前投与」に設定されています。 一方で、ミグリトールにおいて、朝食直前投与群、朝食開始後15分投与群、朝食開始後30分投与群で血糖低下をみた試験において、血糖のAUC(Area Under the blood concentration-time Curve:血中濃度-時間曲線下面積)はいずれの群においても、ミグリトール非投与群に比べて明らかに低下したこと4)、さらに、ミグリトールを食直前に投与した群と食後に投与した群で血糖低下をみた試験で、投与3ヵ月後のHbA1cと1,5-AGの低下程度は、両群で同等の傾向を示したことが報告されています5)。―糖の吸収が緩やかになり、血糖変動が少なくなるのが良い、ということは理解できるのですが、結局は吸収されてしまうのであれば一緒ではないでしょうか。 現在、承認されているα-GIの用量では、「糖の吸収阻害」は起こらず、あくまでも「吸収遅延」のレベルですので、ご指摘のとおり、小腸から吸収される糖の全吸収量は変化しません。 食事をすると、摂取された炭水化物は、唾液や膵液中のα-アミラーゼによってショ糖などの2糖類に分解された後、小腸でα-グルコシダーゼにより、ブドウ糖などの単糖類に分解されて吸収され、血糖が上昇します。糖尿病では、食後のインスリン遅延分泌などがあると、“食後の血糖上昇とインスリンのタイミングが合わずに、食後に急激に血糖が上昇する食後高血糖”を来します。α-GIは、ブドウ糖などの単糖類に分解するα-グルコシダーゼの作用を阻害することで、小腸における2糖類から単糖類(ブドウ糖)への分解を阻害します。通常であれば小腸上部でそのほとんどが分解されてしまう2糖類は、小腸上部でα-GIによって分解を阻害されると、小腸下部までそのまま運ばれ、その結果、“ブドウ糖の吸収が遅延”することで、食後の血糖上昇を緩やかにします。最終的に糖の全吸収量は変わらないのですが、食後の血糖上昇が緩やかになることによって、血糖変動幅が小さくなるため、それが結果的にHbA1cの低下につながるのです。1)Chiasson JL et al. Lancet. 2002; 359: 2072-20772)Chiasson JL et al. JAMA. 2003; 290: 486-494. 3)Holman RR et al. NAVIGATOR Study Group. N Engl J Med. 2010; 362: 1463-1476.4)Aoki K. et al. Diabetes Res Clin Pract. 2007; 78: 30-33.5)Aoki K. et al. Diabetes Obes Metab. 2008; 10:970-972.

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1型糖尿病のHbA1c改善に持続血糖測定が有用/JAMA

 頻回インスリン注射(MDI)で血糖コントロールが不良な1型糖尿病患者では、持続血糖測定(CGM)を用いた治療は通常治療よりも6ヵ月後のヘモグロビンA1c(HbA1c)の抑制効果が良好であることが、米国・Jaeb Center for Health ResearchのRoy W Beck氏らが実施したDIAMOND試験で示された。研究の成果は、JAMA誌2017年1月24・31日号に掲載された。米国の1型糖尿病患者について、米国糖尿病学会(ADA)のHbA1cの目標値(18歳未満:7.5%[58mmol/mol]、18歳以上:7.0%[53mmol/mol])の達成率は約30%にすぎず、糖尿病管理の改善が求められている。CGMは、5分ごとにグルコースを測定し、低血糖および高血糖の警告機能を備え、グルコースの傾向を示す情報を提供するため、1日に数回の血糖値の測定よりも有用な糖尿病管理情報をもたらす可能性があるという。CGMの効果を評価する米国の無作為化試験 DIAMONDは、MDIを受けている1型糖尿病患者におけるCGMの有効性を評価する多施設共同無作為化試験(Dexcom社の助成による)で、2014年10月~2016年5月に行われた。 対象は、年齢25歳以上、MDIによる治療を1年以上受けており、HbA1cが7.5~9.9%、試験開始前の3ヵ月間にパーソナルCGMデバイスの使用歴がない1型糖尿病患者であった。 被験者は、CGM群または対照群に無作為に割り付けられた。CGM群は、CGMシステム(Dexcom G4 Platinum)が提供され、5分ごとに間質液中のグルコース濃度を測定した。対照群は、1日4回以上の血糖値の測定が求められた。 主要評価項目は、ベースラインから24週までのHbA1c(中央判定)の変化の差とした。 2014年10月~2015年12月に、米国の24施設に158例が登録され、CGM群に105例、対照群には53例が割り付けられた。155例(CGM群:102例、対照群:53例)が試験を完遂した。24週時のHbA1cが0.6%抑制 ベースラインの全体の平均年齢は48(SD 13)歳(範囲:26~73歳、60歳以上:22%)、女性が44%で、糖尿病罹病期間中央値は19年(四分位範囲:10~31年)、平均HbA1cは8.6(SD 0.6)%であった。6ヵ月目(21~24週)に、CGM群の完遂例の93%が週に6日以上CGMを使用していた。 ベースラインからの平均HbA1cの低下は、CGM群が12週時1.1%、24週時1.0%であり、対照群はそれぞれ0.5%、0.4%であった(反復測定モデル:p<0.001)。24週時のベースラインからのHbA1cの平均変化の補正群間差は-0.6%(95%信頼区間[CI]:-0.8~-0.3%、p<0.001)であり、CGM群が有意に良好であった。 また、24週時のHbA1c<7.0%の達成率(CGM群:18% vs.対照群:4%、p=0.01)、HbA1c<7.5%の達成率(38% vs.11%、p<0.001)、HbA1cが10%以上低下した患者の割合(57% vs.19%、p<0.001)は、CGM群が良好であった。 これらCGM群のHbA1cに関するベネフィットは、全年齢、ベースラインのHbA1cの範囲(7.5~9.9%)のすべての患者で認められ、学歴による差もなかった。 低血糖(<70mg/dL)の期間中央値は、CGM群が43分/日(四分位範囲:27~69)、対照群は80分/日(四分位範囲:36~111)であり、有意な差が認められた(p=0.002)。重篤な低血糖は両群とも2例ずつに発現した。 著者は、「より長期的な効果とともに、臨床アウトカム、有害事象を評価するには、さらなる研究を要する」としている。

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Dr.林の笑劇的救急問答12

第1回 創傷処置1 まずは洗おう!そうしよう! 第2回 創傷処置2 痛くない注射 第3回 高血糖救急1 腹痛なら胃腸炎?それダメ!第4回 高血糖救急2 インスリン一発!それダメ! シーズン12下巻のテーマは 「創傷処置」と「高血糖救急」。創傷処置:外傷の患者に行う創処置は、できるだけ“痛くなく”するのは当然!とDr.林。閉鎖療法や縫合の基本、動物咬傷、痛くない局所麻酔注射、釣り針の抜き方、など実演映像を交えて、“痛くない”処置のコツを伝授! 高血糖救急:腹痛の患者に安易に“胃腸炎”というゴミ箱診断していませんか?DKAの患者にインスリンを一発!していませんか?誰もがついやってしまいがちな診療にDr.林が待ったをかけます!高血糖救急でのピットフォールを中心に徹底レクチャー!第1回 創傷処置1 まずは洗おう!そうしよう!創処置の基本は創洗浄!創洗浄の水は滅菌水である必要はないんです!むしろ水道水のほうが感染率が低いというデータも。そう、大切なのは洗い方なのです。また、閉鎖療法や縫合の基本、そして動物咬傷などの感染が懸念される傷についても、エビデンスを提示しながら、正しい創傷処置について解説します。第2回 創傷処置2 痛くない注射 救急や外来に訪れる外傷の患者に行う創処置は、できるだけ“痛くなく”するのは当然!とDr.林。今回は、痛くない局所麻酔注射、皮下ブロック、釣り針の抜き方、停留針、指輪の外し方などを、実演画像を交えて、コツを伝授!患者さんのためにしっかりとマスターしてください!第3回 高血糖救急1 腹痛なら胃腸炎?それダメ!腹痛を主訴に来た患者さんに“胃腸炎”というゴミ箱診断をしていませんか?ウイルス性の胃腸炎は嘔気・嘔吐・下痢の三拍子そろって初めて診断できるものです。解剖学的に説明のつかない腹痛というものはたくさんあります。糖尿病性ケトアシドーシスでの腹痛もその一つ。腹痛を主訴に受診した患者さんの場合には、必ず鑑別疾患にあげましょう!だれもが陥りやすいピットフォールを爆笑症例ドラマとDr.林の講義で確認しましょう!そうすれば決して忘れることはないでしょう。第4回 高血糖救急2 インスリン一発!それダメ!DKAの患者さんが救急搬送!さあ、あなたならどうしますか?インスリンを一発!いやいや、それは絶対ダメです!まずは慌てずゆっくり脱水の補正を行いましょう。脱水の補正の仕方によっては、脳浮腫などの合併症を起こすことも考えられます。どのように補正していくか、まだ教科書にも載っていない最新の話題“Dallas protocol”も取り入れながら、解説します。DKAの患者にやること、そして絶対にやってはいけないことを明確にわかりやすく、Dr.林ならではの講義でお届けします。

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1型糖尿病の血糖コントロールに持続血糖測定が有効/JAMA

 頻回インスリン注射(MDI)で血糖コントロールが不良な1型糖尿病患者において、持続血糖測定(CGM)を用いた治療は従来の治療に比べ、良好なヘモグロビンA1c(HbA1c)の改善をもたらし、患者の満足度も高いことが、スウェーデン・ウッデバラ病院のMarcus Lind氏らが行ったGOLD試験で示された。研究の成果は、JAMA誌2017年1月24・31日号に掲載された。MDIおよび持続皮下インスリン注入療法(CSII)による強化インスリン療法は、1型糖尿病の合併症を予防、抑制することが報告されている。一方、CGMシステムは、皮下に留置したセンサーで測定したデータを送信機で携帯モニタに送り、患者はグルコースの値を連続的に知ることができるため、インスリン用量の最適化に資するという。スウェーデンの無作為化クロスオーバー試験 GOLDは、1型糖尿病の血糖コントロールにおけるCGMを用いた治療と従来治療の効果を比較する非盲検無作為化クロスオーバー試験(NU Hospital Groupの助成による)。 対象は、年齢18歳以上、MDIによる治療中で、HbA1c≧7.5%(58mmol/mol)、空腹時Cペプチド<0.91ng/mL、罹病期間1年以上の1型糖尿病患者であった。 被験者は、6週間の導入期間の後、CGM(Dexcom G4 PLATINUM)用いた治療を行う群または血糖自己測定による従来治療を行う群に無作為に割り付けられ、26週の治療が行われた(第1治療期)。その後、17週のウオッシュ・アウト期間を経て、治療法をクロスオーバーし26週の治療が行われた(第2治療期)。 主要評価項目は、2つの治療法の26週時と69週時の平均HbA1cの差とした。 2014年2月24日~2016年6月1日に、スウェーデンの15の糖尿病外来クリニックに161例が登録され、142例(最大の解析対象集団[FAS])が2つの治療期を終了した。第1治療期にCGMに割り付けられたのは69例、従来治療に割り付けられたのは73例だった。HbA1c、血糖変動幅、治療満足度が良好、重篤な低血糖は1例 ベースラインのFASの平均年齢は44.6(SD 12.7)歳、男性が56.3%で、平均HbA1cは8.7(SD 0.8)%(72mmol/mol)、平均罹病期間は22.2(SD 11.8)年であった。 治療期間中の平均HbA1cは、CGMが7.92%(63mmol/mol)、従来治療は8.35%(68mmol/mol)であった。平均差は-0.43%(95%信頼区間[CI]:-0.57~-0.29)(-4.7mmol/mol、95%CI:-6.3~-3.1)であり、CGMが有意に良好であった(p<0.001)。 2つの治療期の治療開始時のHbA1cはほぼ同じであったが、治療中は両治療期ともCGMのほうがHbA1cが低い値で経過した。 平均血糖変動幅はCGMが161.93mg/dLと、従来治療の180.96mg/dLに比べて低く(p<0.001)、血糖値のSDもCGMのほうが低値だった(68.49mg/dL vs.77.23mg/dL、p<0.001)。 糖尿病治療満足度質問表(DTSQ、0~36点、点が高いほど良好)はCGMが30.21点、従来治療は26.62点(p<0.001)、DTSQ変化(-18~18点、点が高いほど満足度が良好に変化)はそれぞれ13.20点、5.97点(p<0.001)であった。 WHO-5精神健康状態表(0~100点、点が高いほど良好)はCGMが66.13点、従来治療は62.74点(p=0.02)であった。低血糖恐怖尺度(0~4点、点が高いほど恐怖が大きい)の行動/回避は、それぞれ1.93点、1.91点と差はなかった(p=0.45)。 重篤な低血糖は、CGMは1例(0.04/1,000人年)、従来治療は5例(0.19/1,000人年)にみられ、ウオッシュ・アウト期間には従来治療の患者の7例に認められた(0.41/1,000人年)。 有害事象は、CGMが77例に137件、従来治療は67例に122件発生した。CGMでセンサーに対するアレルギー反応で治療を中止した患者が1例みられた。重篤な有害事象は、CGMが7例に9件、従来治療は3例に9件認められた。 著者は、「臨床アウトカムと長期の有害事象を評価するには、さらなる検討を要する」としている。

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新たな人工膵臓システム、日常生活下で有用/Lancet

 1型糖尿病成人患者への新たな連続血糖測定(CGM)付きインスリンポンプの安全性と有用性について、自由生活下で検討した多施設共同無作為化クロスオーバー比較試験の結果が発表された。米国・ボストン大学のFiras H El-Khatib氏らが検討したのは、iPhone 4SとG4 Platinum CGMを連動させた人工膵臓システムで、体格の情報のみで初期化し、インスリンおよびグルカゴンを自動投与する。既存のセンサー増強型インスリンポンプとの比較において、カーボカウントの食事療法を要することなく優れた血糖コントロールを達成したことが示された。CGM付きインスリンポンプについて、これまで、自宅で自由に生活しながらという設定で安全性・有効性を調べる臨床試験は行われていなかった。Lancet誌オンライン版2016年12月20日号掲載の報告。従来型インスリンポンプと無作為化クロスオーバー比較試験 研究グループは、この新たな人工膵臓システムが、食事や運動の制約を受けることなく自宅で日常生活を送る1型糖尿病成人患者の、平均血糖値や低血糖症の頻度を減じることが可能かを評価した。米国内4施設(マサチューセッツ総合病院、マサチューセッツ大学、スタンフォード大学、ノースカロライナ大学)で、車で30分圏内に住む1型糖尿病の18歳以上患者をボランティア参加で募った。 被験者は無作為に1対1の割合で、連番が付されている密封封筒を用いて2ブロックに割り付けられ、人工膵臓および通常ケア(従来型またはセンサー増強型インスリンポンプ療法)による血糖コントロールをクロスオーバーで受けた。それぞれの治療期間は11日間。期間中、被験者はスポーツやドライブなども含めてあらゆる活動に制限を受けなかった。 この人工膵臓は、被験者の体格の情報のみで初期化するようになっており、連続血糖モニターからのデータを用いた自動適応用量アルゴリズムによって、インスリンとグルカゴンが皮下注で投与される。 主要アウトカムは2つで、平均血糖値と、平均CGM血糖値が3.3mmol/L未満であった時間。両療法を完了した被験者の2~11日のデータを解析した。従来インスリンポンプ法よりも血糖コントロールが有意に優れる 2014年5月6日~2015年7月3日の間に43例が無作為化を受け、39例が試験を完了した。人工膵臓療法を最初に受けたのは20例、対照ケアを最初に受けたのは19例であった。 結果、平均CGM血糖値は、人工膵臓療法の期間中は7.8mmol/L(SD 0.6)、対照ケアの期間中は9.0mmol/L(1.6)であった(差:1.1mmol/L、95%信頼区間[CI]:0.7~1.6、p<0.0001)。 平均CGM血糖値が3.3mmol/L未満であった時間は、人工膵臓期間中では0.6%(0.6)、対照ケア期間中では1.9%(1.7)であった(差:1.3%、95%CI:0.8~1.8、p<0.0001)。 視覚アナログスケール(0~10)で評価した悪心の平均スコアは、人工膵臓療法の期間中(0.52[SD 0.83])が対照ケア期間中(0.05[0.17])よりも有意に高かった(差:0.47、95%CI:0.21~0.73、p=0.0024)。 体重および各種検査値(収縮・拡張期血圧など)の変化について、両療法期間中で有意差はみられなかった。また、人工膵臓療法期間中に、重篤または不測の有害事象の発生はなかった。 結果を踏まえて著者は、「さらなる大規模かつ長期の試験を行い、人工膵臓による自動血糖管理の長期的な有用性とリスクを確立する必要がある」とまとめている。【訂正のお知らせ】本文内の表記に誤りがあったため、一部訂正いたしました(2017年1月4日)。

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第7回 速効型インスリン分泌促進薬(グリニド薬)による治療のキホン【糖尿病治療のキホンとギモン】

【第7回】速効型インスリン分泌促進薬(グリニド薬)による治療のキホン―軽症、もしくは耐糖能異常(IGT)の方に使うイメージなのですが、どのような患者さんに適しているのでしょうか。 速効型インスリン分泌促進薬は、SU薬同様、膵β細胞のSU受容体に結合してインスリン分泌を促進させる薬剤ですが、SU薬に比べ吸収と血中からの消失が速く、作用時間がSU薬より短いため、1日3回食直前投与による食後高血糖の改善に適しています。食後高血糖の改善が心血管疾患の発症や進展を抑制するうえで重要であることは、DECODE Studyやわが国のFunagata Studyといった大規模臨床試験から明らかです1)、2)。 速効型インスリン分泌促進薬は、空腹時血糖値はそれほど高くないのに、HbA1cがやや高いなど、食後高血糖の是正が必要な2型糖尿病患者さんで、患者さん自身のインスリン分泌能(内因性インスリン分泌能)がある程度保たれている(膵β細胞に十分な残存機能がある)比較的早期の患者さんが適しています。インスリン分泌能の指標については、「第5回 SU薬による治療のキホン」で紹介していますが、“過去にSU薬を長期に使っていない”ことを1つの目安にしていただくのもよいです。 なお、同じ食後高血糖改善薬であるα-グルコシダーゼ阻害薬(GI)「ボグリボース(商品名:ベイスン)」は、糖尿病の前段階であるIGTにおける2型糖尿病の発症予防が確認されていることから、0.2mg錠に限ってIGTに対して保険適用となっていますが、その他のα-GIと速効型インスリン分泌促進薬の添付文書上での適応は「2型糖尿病」です。―他剤との効果的な併用方法について教えてください。 速効型インスリン分泌促進薬は食後高血糖の改善に適しているため、血糖降下特性の異なる薬剤との併用という点から考えると、空腹時血糖値を低下させる薬剤との併用が考えられます。 速効型インスリン分泌促進薬は毎食直前の投与で朝食後、昼食後、夕食後の高血糖を改善しますが、食事と食事の間が短い時間帯では、連日投与である程度、次の食前血糖値の低下にも寄与します。つまり、朝食直前の投与で朝食後の高血糖が改善されると、昼食前血糖値は低下し、また、昼食直前の投与で昼食後の高血糖が改善されると、夕食前血糖値もある程度低下します。 しかし、夕食後は翌日の朝食前まで時間が空いてしまうため、血中からの消失速度が速い速効型インスリン分泌薬では、夜間・深夜帯に高血糖を生じることがあります。速効型インスリン分泌促進薬単独で治療をしていて、朝食前血糖値が200mg/dLを超えることが続くようであれば、主に空腹時血糖値を低下させるビグアナイド(BG)薬、チアゾリジン薬、SGLT2阻害薬の併用を検討します。 DPP-4阻害薬は、インスリン分泌促進、グルカゴン分泌抑制により、空腹時血糖値と食後血糖値のいずれも低下させますが、速効型インスリン分泌促進薬とは異なる経路でインスリン分泌を促進させるため、速効型インスリン分泌促進薬とDPP-4阻害薬の併用は効果的に食後高血糖を改善するという点でも有用です。SU薬とは、SU受容体に結合してインスリン分泌を促進するという同じ作用点を有し、併用の効果・安全性が確認されていないため、併用できません。 併用する薬剤については、薬価や副作用といった観点から選ぶとよいでしょう。 α-GIは、速効型インスリン分泌促進薬同様、食後高血糖を改善する薬剤ですが、インスリン分泌を介して血糖値を低下させる速効型インスリン分泌促進薬と異なり、糖の吸収を遅らせることで食後の高血糖を改善します。つまりインスリン分泌を介さずに血糖値を低下させるため、インスリン分泌を必要とせず、逆にインスリン分泌を節約できます。速効型インスリン分泌促進薬は、作用時間がSU薬よりも短いとはいえ、インスリン分泌を促進させることに変わりはありません。 食後高血糖を来す病態として、食後のインスリンが食後の血糖上昇よりも遅れて出る「インスリン遅延分泌」があるため、食後高血糖を改善するためにインスリン分泌を促す治療は理にかなってはいるのですが、肥満がある場合、インスリン抵抗性により、インスリンが効きにくくなっており、それを補って血糖値を下げようとして、多量のインスリンを分泌してしまう「高インスリン血症」になっていることがあります。そこに速効型インスリン分泌促進薬だけを用いてしまうと、さらなる高インスリン血症から、肥満が助長されたり、高血圧や心血管疾患のリスクにつながってしまう恐れがあります。 また、インスリンは、脂肪組織や肝臓で、中性脂肪の分解を抑制する働きを持つため、「高インスリン血症」は中性脂肪にも影響を及ぼします。肥満があって、食後の高インスリン血症があると考えられる患者さんでは、遅れて出るインスリン分泌を前倒しにして、“健康な人と同じインスリン分泌パターン”に近づけるために速効型インスリン分泌促進薬を用い、インスリン分泌を節約しながら食後の高血糖を改善できるα-GIを併用(もしくは速効型インスリン分泌促進薬/α-GIの配合薬※)することがよいでしょう。 ※配合薬を第1選択薬として用いることはできません。 また、吸収が速やかである速効型インスリン分泌促進薬は、食後の急峻なインスリン分泌を促しますが、持続血糖測定器(CGM)で速効型インスリン分泌促進薬とα-GIの血糖の低下を比較すると、α-GIが食直後から低下させるのに対し、速効型インスリン分泌促進薬はα-GIのそれよりもやや遅く、食後の血糖上昇を抑える時間帯が異なっている傾向がみられます3)。そのため、食後の血糖値全体を抑え、より強力に食後高血糖を改善するという点からも、速効型インスリン分泌促進薬とα-GIの併用は有用な手段です。―患者さんに毎食直前に服用していただくのは難しいと感じますが、どのように指導したらよいでしょうか。 1日3回服用する薬剤の場合、アドヒアランスも薬剤の効果に大きく影響するため、アドヒアランスが順守できることが重要となりますが、食後の高血糖が顕著な場合、やはり、食事のタイミングに合わせて服用する1日3回の食後高血糖改善薬が最も効果的です。 1日3回の場合、昼間の服用を忘れてしまうことが多いので、1日3回が難しければ、朝食前と夕食前だけでも服用してもらうようにします。とくに夕食後の血糖値が上がってしまうと、翌朝の服用まで時間が空いてしまうことと、夕食は1日の食事の中で最もボリュームが多く、その後、大きな身体活動をするわけでもなく、あとは寝るだけになってしまうため、夜間・深夜帯に高血糖が持続してしまいます。1日1回しか服用できなければ、夕食前だけは必ず服用してもらうようにしましょう。 速効型インスリン分泌促進薬は「1日3回“毎食直前”に経口投与する」とされています。服用を忘れてしまい、食中や食後に服用してしまうと効果が減弱することがあります。また、食前30分投与では、食後の血糖が上昇する前にインスリン値が上昇してしまうため、食事開始前に低血糖を起こしてしまう可能性があります。食前投与の時間や食中・食後投与については、各薬剤の添付文書に記載がありますので、ご確認いただければと思います。また、食事のタイミングと合わせた服用が必要な薬剤ですので、シックデイなどで食事が十分に取れない場合は、服用を中止するよう指導してください。―長時間使っていくと膵β細胞が疲弊しないか心配です。 速効型インスリン分泌促進薬もSU薬同様、膵β細胞のSU受容体に結合してインスリン分泌を促進させますが、SU薬に比べて血中からの消失が速いため、インスリン分泌を刺激する時間がSU薬よりも短いのが特徴です。動物実験では、SU薬と速効型インスリン分泌促進薬の連続投与において、SU薬でみられるインスリン分泌の減弱(膵β細胞の疲弊)が、速効型インスリン分泌促進薬では少ないことが報告されていますが4)、実臨床で、膵β細胞の疲弊が薬剤によるものなのかを判断するのは容易ではありません。食事・運動療法の乱れがなければ、薬剤の長期使用による膵β細胞の疲弊(2次無効)と判断できますが、多くは、生活習慣の乱れによる血糖コントロール不良により、持続する高血糖が存在するからです。 いずれにしても、速効型インスリン分泌促進薬の効果がみられなくなってきたときは、まず、薬剤を1日3回きちんと服用できているか、食事・運動療法が守られているかを確認する必要があります。1)DECODE Study Group, the European Diabetes Epidemiology Group. Arch Intern Med. 2001;161:397-405.2)Tominaga M et al. Diabetes Care. 1999;22:920-924. 3)森 豊. Calm 2(1): 1-7, 20154)Kawai J et al. Biochem J. 2008; 412: 93-101.

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薬物有害事象による救急受診、原因薬剤は?/JAMA

 米国において2013~14年の薬物有害事象による救急外来受診率は、年間1,000例当たり4件で、原因薬剤として多かったのは抗凝固薬、抗菌薬、糖尿病治療薬、オピオイド鎮痛薬であった。米国疾病予防管理センターのNadine Shehab氏らの分析の結果、明らかになった。米国では、2010年の「患者保護および医療費負担適正化法(Patient Protection and Affordable Care Act :PPACA)」、いわゆるオバマケアの導入により、国家的な患者安全への取り組みとして薬物有害事象への注意喚起が行われている。結果を受けて著者は、「今回の詳細な最新データは今後の取り組みに役立つ」とまとめている。JAMA誌2016年11月22・29日号掲載の報告。薬物有害事象による救急外来受診率は、年間1,000人当たり約4件 研究グループは、全国傷害電子監視システム-医薬品有害事象共同監視(NEISS-CADES)プロジェクトに参加している米国の救急診療部58ヵ所における4万2,585例のデータを解析した。主要評価項目は、薬物有害事象による救急受診ならびにその後の入院に関する加重推定値(以下、数値は推定値)であった。 2013~14年における薬物有害事象による救急外来受診は、年間1,000人当たり4件(95%信頼区間[CI]:3.1~5.0)で、そのうち27.3%が入院に至った。入院率は65歳以上の高齢者が43.6%(95%CI:36.6~50.5%)と最も高かった。65歳以上の高齢者における薬物有害事象による救急外来受診率は、2005~06年の25.6%(95%CI:21.1~30.0%)に対して、2013~14年は34.5%(95%CI:30.3~38.8%)であった。高齢者では抗凝固薬、糖尿病治療薬、オピオイド鎮痛薬、小児では抗菌薬 薬物有害事象による救急外来受診の原因薬剤は、46.9%(95%CI:44.2~49.7%)が抗凝固薬、抗菌薬および糖尿病治療薬であった。薬物有害事象としては、出血(抗凝固薬)、中等度~重度のアレルギー反応(抗菌薬)、中等度~重度の低血糖(糖尿病治療薬)など、臨床的に重大な有害事象も含まれていた。また傾向として2005~06年以降、抗凝固薬および糖尿病治療薬の有害事象による救急外来受診率は増加したが、抗菌薬については減少していた。 5歳以下の小児では、原因薬剤として抗菌薬が最も多かった(56.4%、95%CI:51.8~61.0%)。6~19歳も抗菌薬(31.8%、95%CI:28.7~34.9%)が最も多く、次いで抗精神病薬(4.5%、95%CI:3.3~5.6%)であった。一方、65歳以上の高齢者では、抗凝固薬、糖尿病治療薬、オピオイド鎮痛薬の3種が原因の59.9%(95%CI:56.8~62.9%)を占めた。主な原因薬剤15種のうち、抗凝固薬が4種(ワルファリン、リバーロキサバン、ダビガトラン、エノキサパリン)、糖尿病治療薬が5種(インスリン、経口薬4種)であった。また、原因薬剤に占めるビアーズ基準で「高齢者が常に避けるべき」とされている薬剤の割合は、1.8%(95%CI:1.5~2.1%)であった。 なお、本研究には致死性の薬物有害事象、薬物中毒や自傷行為などは含まれていない。

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GLP-1アナログ製剤で乳がんリスクは増大するか/BMJ

 英国のプライマリケアデータベースを用いたコホート研究の結果、GLP-1アナログ製剤の使用と乳がんリスク上昇との関連性は確認されなかった。カナダ・Jewish General HospitalのBlanaid M Hicks氏らが、2型糖尿病患者の乳がん発症リスクとDPP-4阻害薬あるいはGLP-1アナログ製剤の使用との関連を解析し、報告したもの。GLP-1アナログ製剤のリラグルチドでは、無作為化試験においてプラセボと比較し乳がん発症が多くみられたことが報告されていたが、この安全性について分析する観察研究は、これまでなかった。著者は、「検討では、使用期間2~3年ではリスク上昇が観察されたが、GLP-1アナログ製剤使用患者の乳がん検出率が一時的に増加したためと考えられる。ただし、発がんプロモーターの影響を排除することはできない」と述べている。BMJ誌2016年10月20日号掲載の報告。DPP-4阻害薬またはGLP-1アナログ製剤を投与された約4万5,000例について解析 研究グループは、英国のプライマリケアの診療記録が登録されたClinical Practice Research Datalink(CPRD)のデータを用い、1988年1月1日~2015年3月31日の間に非インスリン血糖降下薬を初めて処方された(初回処方以前に最低1年の治療歴があること)40歳以上の女性を特定し、このうち2007年1月1日~2015年3月31日にインクレチン製剤の投与が開始され1年以上記録のある4万4,984例を対象に、2016年3月31日まで追跡した。 解析には時間依存型Cox比例ハザードモデルを用い、DPP-4阻害薬(シタグリプチン、ビルダグリプチン、サキサグリプチン)使用とGLP-1アナログ製剤(エキセナチド、リラグルチド、リキシセナチド)使用による、乳がん発症について比較した。DPP-4阻害薬と比べGLP-1アナログ製剤で乳がんリスクの増大は確認されず 平均追跡期間3.5年(標準偏差2.2年)において、549件の乳がん発症が認められた(粗発生率3.5/1,000人年、95%信頼区間[CI]:3.3~3.8)。 DPP-4阻害薬使用患者と比較し、GLP-1アナログ製剤使用患者で乳がんリスクの上昇は認められなかった(発生率はそれぞれ1,000人年当たり4.4 vs.3.4、ハザード比[HR]:1.40、95%CI:0.91~2.16)。HRは使用期間が長いほど増大し、GLP-1アナログ製剤累積使用期間が2~3年で最も高値を示した(HR:2.66、95%CI:1.32~5.38)。しかし、3年超ではその傾向は消失した(HR:0.98、95%CI:0.24~4.03)。GLP-1アナログ製剤の初回使用からの経過期間別の解析でも、同様の傾向が確認された。 なお、著者は今回の結果について、「乳がんの家族歴などの残余交絡因子や、追跡期間が短いといった点で限定的なものである」と指摘している。

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前向きになるインスリン導入への対話術

 10月19日、日本イーライリリー株式会社と日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社は、都内においてインスリン治療に関するプレスセミナーを開催した。セミナーでは、2型糖尿病のインスリン治療に対する医師と患者の意識調査報告や、インスリン導入に向けた患者との対話術などが講演された。89.2%の患者が「現状の治療でよい(インスリン不要)」と回答 はじめに「インスリン治療に対する医師と患者の意識調査」について、森 貞好氏(日本イーライリリー株式会社 糖尿病・成長ホルモン事業本部 製品企画部長)より説明が行われた。調査は、本年8月に全国の医師173名、2型糖尿病患者(インスリン治療中も含む)198名にインターネットで行われたもの。 「インスリン未治療の患者(n=148)に対し、現在のインスリン治療の考え」を質問したところ、89.2%の患者が「わざわざインスリンを始めなくても、今の治療のままで大丈夫だ」と回答しているほか、「今よりも治療費が高くなる(83.8%)」、「注射の時間や回数に合わせて生活を変えなければならない(83.1%)」、「一度打ったら一生打ち続けなければならない(81.1%)」などインスリン治療に対し、ネガティブな回答が寄せられた。 「医師(n=173)が患者にインスリン治療を提案する際に困ること」では、「治療の必要性を理解してくれない(59.5%)」、「説明する時間が取れない(48.0%)」、「真剣に治療を検討してくれない(30.1%)」という回答だった。 「インスリン治療について医師に相談してみたいと思うことはあったか」の問いには、インスリン未治療の患者(n=174)で「思ったことはない(81.1%)」、インスリン治療中の患者(n=50)で「思ったことはない(46.0%)」と回答に開きがあった。 以上から、インスリン治療に対し、多くの患者に切迫感がなく、注射への負のイメージの先行、治療必要性の無理解が読み取れた。 最後に森氏は、「今後は、患者が治療に前向きに取り組めるよう、個々の患者の意向やその理由について問いかけられるように医師と患者のコミュニケーションが重要」と示唆を述べた。医療者がいかに患者の不安を取り除くかが、導入のカギ 次に石井 均氏(奈良県立医科大学 糖尿病学講座 教授)が、「前向きにインスリン治療に取り組むための患者と医師のコミュニケーション」をテーマに講演を行った。 インスリンが発見され、糖尿病の治療に使用されるまでを振り返るとともに、インスリン治療の重要性をDCCT、UKPDSなどの大規模試験を例に説明、インスリン治療の開始が早いほど、目標血糖値に迅速かつ確実に到達できると説明した。とくに2型糖尿病では、糖尿病の前段階で動脈硬化が起こっていると予想され、糖尿病の診断の段階で膵β細胞機能は50%程度になっていることから、重ねて早期導入の重要性を訴えた。 石井氏らが研究したDAWN JAPAN STUDYで「医師が考えるインスリン導入のタイミング調査」によれば、医師が糖尿病患者であったならばHbA1cが7.7%で導入を考え、自分の糖尿病患者へはHbA1cが8.3%で導入を考えるとしている。しかし、実際の導入はHbA1cが9.2%になってからという遅れた結果であった1)。また、2型糖尿病患者では、導入を勧められた場合、70~85%の患者が抵抗感を抱き、導入開始の引き延ばしがみられ、インスリンが手放せない1型糖尿病でもなかなかその事実を受け止められない患者では、インスリン注射の省略や注射をしないことでのケトアシドーシスもみられた。 そして、インスリン治療に対する患者心理としては、血糖コントロールが良くなるという正のイメージがある反面、注射への恐怖など注射に対する負のイメージ、他人に知られるのが嫌だという社会的・対人的影響、病状悪化への自己管理の後悔(罪悪感)、低血糖が怖いなどの治療への負のイメージなどに大別されるという2)。 こうした患者の気持ちをいかに変化させるかが重要となるが、「それには医療者が諦めずに説明を続けることが大切だ」と石井氏は述べる。たとえば先述のDAWN JAPAN STUDYによれば、インスリン導入をまったく考えていない患者でも6ヵ月以内に約30%がインスリン治療を開始するなど、医療側から患者の心理的抵抗を克服することが大切だという。そのためにも製薬メーカーから出されている説明資材をうまく活用し、患者がインスリン治療に前向きに進んでいくことができるように、患者の心の不安を取り除き、患者として生きていくことへの不安を和らげる必要性があると指摘する。 最後に石井氏は、「医療者は、新しい医療技術を患者に手渡しする仲介者であり、患者の声を聴く、続ける、待つ、不安を鎮めることを実行しつつ、新しい技術を患者に渡していかなければならない」とレクチャーを結んだ。(ケアネット 稲川 進)参考文献1)Ishii H, et al. PLoS One. 2012;7:e36361.2)Odawara M, et al. Curr Med Res Opin. 2016;32:681-686.関連リンク2型糖尿病のインスリン治療に関する医師と患者さんへの意識調査(PDF)前向き!~患者さんの「前向きなインスリン治療開始」のために~(PDF)【特集】糖尿病 外来インスリン療法

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患者さん負担を軽減するインスリン

 ノボ ノルディスク ファーマ株式会社は、10月13日都内において、同社の持効型インスリンアナログ インスリン デグルデク(商品名: トレシーバ注〔以下「本剤」という〕)の「用法・用量」の改訂に伴い、基礎インスリンの臨床知見に関するプレスセミナーを開催した。セミナーでは、インスリン治療の実際とともに、患者のインスリン治療への意識などのアンケート結果も発表された。毎回定時にインスリン注射するのは難しい はじめに、「基礎インスリン治療におけるアドヒアランスの重要性及びアンメットニーズ」をテーマに原島 伸一氏(京都大学大学院 医学研究科糖尿病・内分泌・栄養内科 講師)が、講演を行った。 インスリン治療中の糖尿病患者では、インスリンの生理的分泌動態を実現するために、食事・運動療法を基本としつつ、基礎インスリンを1日1~2回、定時に注射することが推奨されている。実際、インスリンアドヒアランス不良の患者では、HbA1cの値が高い傾向にあり、合併症リスクも増加するというレポートもある。 日本・海外を対象にしたインスリン注射に関するGAPP調査(患者n=1,530、医師n=1,250)によれば、「インスリン注射をスキップした、医師の指示通り注射しなかった」と回答した日本人患者(n=150)は44%にのぼり、医師(n=100)の回答でも「指示通りにインスリン注射ができない患者がいた」と66%が回答している。 また、「インスリン注射の困難な点について」では、日本・海外の患者は「毎日指示された時間や食事時にインスリン注射すること」と1番多く回答しているのに対し、医師は「毎日の注射回数」と回答するなど、意識の違いが表れている。 望まれるインスリン療法としては、患者・医師双方とも85%以上が「注射し忘れたときにカバーできるインスリン療法」を望み、患者の日常生活の変化に適合するレジメンを求められていることが報告された1)。 実際、持効型インスリン注射の時間がずれた場合の影響を調べた研究によれば、約2時間程度のずれでは、血糖値のコントロールに有意差は認められなかったものの、ずれる時間が長くなるに従い、低血糖発現頻度の上昇と関連する可能性があることがわかっている。そのため、作用時間が長く、安定した持効型インスリン製剤が望まれると原島氏は指摘する。 同氏は、「インスリンで治療中の患者さんの悩みとして、なかなか時間通りに注射できないという声が多く聞かれ、これが治療でのストレスになっている。今後安全性の高い、持効型インスリンがつくられることで、患者さんの不安の解消につながればと願う」とレクチャーを終えた。患者さんの生活・労働環境に合わせられるインスリン 続いて門脇 孝氏(東京大学大学院 医学系研究科糖尿病・代謝内科 教授)が、「トレシーバ注の新しい臨床的エビデンスと投与タイミングの柔軟性がもたらす臨床的な意義」をテーマに、患者さんのニーズに合った基礎インスリンの特徴について解説した。 本剤は、24時間を超えて血糖降下作用が平坦で安定しているのが特徴で、患者さんの「インスリンの注射忘れ」の不安を和らげる。 本剤の注射時刻を変更した投与法で有効性および安全性を検討したFlex(T1/T2)試験によれば、1型・2型糖尿病ともに投与時刻固定群と比較して、非劣性を証明できず、有意差を認めなかった。同様にわが国で行われた投与時刻固定群とフレキシブル投与群を比較したJ-Flex試験2)でも、HbA1cの推移においてフレキシブル投与群の非劣性を認めず、また、空腹時血糖の推移・すべての低血糖と夜間低血糖において、両群間に有意差が認められなかった。 これらの臨床試験を受け、本剤の「用法・用量に関連する使用上の注意」が改訂・承認された。以前は「毎日一定の時刻に投与させること」とされていたものが、改訂後は「通常の注射時刻から変更する必要がある場合は、血糖値の変動に注意しながら通常の注射時刻の前後8時間以内に注射時刻を変更し、その後は通常の注射時刻に戻すよう指導すること」とされた。 これにより、通常の投与時刻の前後8時間以内の投与が可能となり、患者さんの生活状況に合わせた、より現実的な治療ができるようになるという(原則は毎日一定の時刻である)。 終わりに門脇氏は、「糖尿病治療の目標は、血糖、体重、血圧などの良好なコントロールの維持により、さまざまな合併症を阻止することで、健康な人と変わらないQOLの維持、寿命の確保である。そのためにも患者さんの生活環境や労働環境に合わせた治療薬の適正化は、患者中心の医療の実現に寄与する」と講演を結んだ。(ケアネット 稲川 進)参考文献1)Peyrot M, et al. Diabet Med. 2012;29:682-689.2)Kadowaki T, et al. J Diabetes Investig. 2016;7:711-717.関連リンク【特集】糖尿病 外来インスリン療法

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第6回 DPP-4阻害薬による治療のキホン【糖尿病治療のキホンとギモン】

【第6回】DPP-4阻害薬による治療のキホン―DPP-4阻害薬の長期投与の安全性について教えてください。 最初のDPP-4阻害薬が海外で臨床使用されるようになってから約10年、国内で使用されるようになってから約7年が経過し、今では国内外で多くの糖尿病患者さんに使われています。しかし、古くから使われているSU薬やビグアナイド(BG)薬などに比べると使用期間が長くないため、長期投与の安全性について懸念される先生方も多いと思います。 DPP-4阻害薬については、心不全による入院リスクの増加が指摘されており、それを受け、1万4,671例の心血管疾患のある2型糖尿病患者さんを対象に、通常治療へのシタグリプチン追加の心血管に対する安全性を検討した多施設共同無作為化プラセボ対照二重盲検比較試験「TECOS(Trial to Evaluate Cardiovascular Outcomes after treatment with Sitagliptin)」が行われました1)。その結果、追跡期間中央値3年(四分位範囲2.3~3.8年)で、主要評価項目である心血管疾患死、非致死的心筋梗塞(MI)、非致死的脳卒中、不安定狭心症による入院の複合エンドポイントにおいて非劣性が示されており、これら有害事象のリスク上昇はみられなかったという結論に至っています※。また、類薬でも心血管に対する安全性を検討した試験が報告されています2)。 ※本試験でのシタグリプチン投与量は「100mg/日(30mL/分/1.73m2≦eGFR<50mL/分/1.73m2例は50mg/日)」となっており、国内での用法・用量は「通常、成人にはシタグリプチンとして50mgを1日1回経口投与する。なお、効果不十分な場合には、経過を十分に観察しながら100mg1日1回まで増量することができる。」です。 しかし、DPP-4阻害薬は、インスリン分泌を促進する消化管ホルモンであるGIPおよびGLP-1を分解し不活性化するDPP-4を阻害することで血糖値を下げる薬剤で、DPP-4は、免疫応答調節に関与するCD26などの活性化T細胞をはじめとし、さまざまな器官の細胞に存在するため、GIPおよびGLP-1以外の物質やホルモンなどに影響を及ぼす可能性があると考えられています。そのため、さらに長期的な安全性については、より多くの実臨床における使用成績が蓄積されることで、現時点で確認されていない有害事象を含め、わかってくることと思います。―DPP-4阻害薬の膵臓がんとの関連について教えてください。 DPP-4阻害薬の膵疾患との関連については以前より議論されており、さまざまな解析が行われ、多くの専門家がそれらを考察していますが、現在のところ、膵臓に対する安全性として、米国糖尿病学会(ADA)および欧州糖尿病学会(EASD)、国際糖尿病連合(IDF)は、情報が十分でないため、DPP-4阻害薬による治療に関する推奨事項を修正するには至らないという合同声明を発表しています3)。 国内では、保険会社の医療費支払い申請のデータベースを基に、DPP-4阻害薬における急性膵炎の発症を検討した後ろ向き解析で、急性膵炎のリスクを高めないという報告もありますが4)、現時点で、膵炎や膵臓がんなどへのDPP-4阻害薬の関与について、十分な症例数で、十分な期間、前向きに検討した試験はありません。しかし最近、インクレチン関連薬(DPP-4阻害薬、GLP-1受容体作動薬)による膵がんの発症リスクは、スルホニル尿素(SU)薬と変わらないことが、CNODES試験5)で確認されました。CNODES試験は、2型糖尿病患者の治療におけるインクレチン関連薬とその膵がんリスクの関連を検証した国際的な他施設共同コホート研究であり、カナダ、米国、英国の6施設が参加し2007年1月1日~2013年6月30日の間に抗糖尿病薬による治療を開始した97万2384例が解析の対象となりました。DPP-4阻害薬では、リナグリプチン、シタグリプチン、ビルダグリプチン、サキサグリプチンが、GLP-1受容体作動薬ではエキセナチド、リラグルチドが含まれました。SU薬と比較したインクレチン関連薬の膵がん発症の補正ハザード比[HR]は、1.02(95%信頼区間[CI]: 0.84~1.23)であり、有意な差を認めませんでした。また、SU薬と比べて、DPP-4阻害薬(補正HR: 1.02、95%CI: 0.84~1.24)およびGLP-1受容体作動薬(補正HR:1.13、95%CI:0.38~3.38)の膵がん発症リスクは、いずれも同等でした。治療開始後の期間についても、インクレチン関連薬の膵がんリスクに有意な影響はありませんでした。この論文では、インクレチン関連薬に起因するがんが潜在している可能性があるため監視を継続する必要はあるものの、今回の知見によりインクレチン関連薬の安全性が再確認された、と結論付けています。 DPP-4阻害薬の中には、重要な基本的注意として「急性膵炎が現れることがあるので、持続的な激しい腹痛、嘔吐などの初期症状が現れた場合には、速やかに医師の診察を受けるよう患者に指導すること」とされているものもあります。なお、糖尿病患者さんでは、健康成人に比べて急性膵炎や膵がんの発症率が高いので6)、DPP-4阻害薬使用の有無にかかわらず、注意して観察する必要があります。―1日1回、1日2回、週1回の製剤はどのような基準で選べばよいのか、教えてください。 投与回数はアドヒアランスに影響しますので、まずは患者さんの服薬状況やライフスタイルによって選ぶとよいと思います。アドヒアランスは効果に反映します。毎日きちんと服薬できているような患者さんでは問題ありませんが、仕事が忙しく、どうしても飲み忘れてしまうという患者さんや、勤務時間がバラバラだったり、夜勤などもあって、服薬が習慣化できないような患者さんでは、1日2回より1日1回、1日1回よりは週1回のほうが飲み忘れが少なくなるかもしれません。―DPP-4阻害薬の各薬剤間に大きな違いはあるのでしょうか。どのように使い分けをすべきか、教えてください。 DPP-4阻害薬の使い分けについては、第2回 薬物療法のキホン(総論)―同グループ内での薬剤の選択、使い分けを教えてください。をご覧ください。1)Green JB, et al. N Engl J Med. 2015;373:232-242.2)Scirica BM, et al. N Engl J Med. 2013;369:1317-1326.3)Egan AG, et al. N Engl J Med. 2014;370:794-797.4)Yabe D, et al. Diabetes Obes Metab. 2015;17:430-434.5)Azoulay L, et al. BMJ. 2016;352:i581.6)Ben Q, et al. Eur J Cancer. 201;47:1928-1937.

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GLP-1受容体作動薬は心血管イベントを抑止しうるか(解説:吉岡 成人 氏)-603

はじめに  いくつもの大規模臨床試験により、糖尿病治患者の心血管イベントを抑制するためには、発症早期からの集約的な代謝管理が有用であることが確認されている。一方、罹病期間が長く、心血管イベントを発症するリスクが高い患者やすでに心血管疾患の既往がある患者では、インスリンを中心とした薬剤で厳格な血糖管理を目指すことは、低血糖のリスクが高まり、心血管イベントを抑止しえないことも広く知られている。このような背景を基に、インクレチン製剤はGLP-1やGLP-1の代謝産物を介して心保護作用が期待され、心血管イベントに対する有用性を臨床的にも示すデータが待ち望まれていた。しかし、DPP-4阻害薬であるサキサグリプチン、アログリプチン、シタグリプチンを用いたSAVOR-TIMI53、EXAMINE、TECOSの各試験においては、プラセボと比較して心血管イベントに対する非劣性を示すにとどまった。一方、SGLT2阻害薬であるエンパグリフロジンがEMPA-REG試験で心不全の減少を介すると思われる心血管イベント抑制の効果を証明し、その後の解析によって腎保護作用を持つことも示唆されている。GLP-1受容体作動薬と心血管イベント 2016年の米国糖尿病会議において、リラグルチドによって2型糖尿病患者の心血管イベント(心血管死、非致死性心筋梗塞、非致死的脳卒中)が一定の割合で抑制される(ハザード比0.87、95%信頼区間、0.87~0.97)ことを示したLEADER試験(Liraglutide Effect and Action in Diabetes: Evaluation of Cardiovascular Outcome Results)は大きな話題となったが、有意差はないもののリラグリチド投与群で13例、プラセボ群で5例の膵臓癌の発生(p値0.06)というデータが気にかかった。さらに、急性心不全で入院した患者を対象としてリラグルチドを投与したFIGHT 試験(Functional Impact of GLP-1 for Heart Failure Treatment1))では、リラグルチドによって心不全の予後は改善せず、糖尿病患者に限定すると、予後を悪化しかねないことも示された。リキシセナチドを用いたELIXA試験(Evaluation of Lixisenatide in Acute Coronary Syndrome)でも心血管疾患に対する保護効果はなく、GLP-1受容体作動薬の心血管イベントに対する臨床効果に懸念が持たれた。GLP-1受容体作動薬、週1回製剤の場合 現在、日本において週1回投与が可能なGLP-1受容体作動薬はビデュリオン(エキセナチドをマイクロスフェアに包埋し持続的に放出する製剤)とトルリシティ(デュラグルチド、アミノ酸を置換したヒトGLP-1アナログ2分子にIgG4のFc領域を融合し、吸収速度と腎排泄を低下させ作用時間を延長させる製剤)が発売され、毎日の自己注射が難しい高齢者などを中心に使用が広まっている。 このような背景のもと2016年9月15日号のNEJM誌にノボノルディスクファーマで開発中のGLP-1受容体作動薬、週1回投与製剤であるセマグルチドの心血管イベントに対する影響を検討した研究(SUSUTAIN-6:Trial to Evaluate Cardiovascular and other Long-Term Outcomes with Semaglutide in Subjects with Type2 Diabetes)の報告が掲載された。 20か国230施設にて、50歳以上で心血管疾患の既往がある慢性心不全または慢性腎臓病(CKD)ステージ3以上、または60歳以上で心血管リスク因子(心血管疾患の既往、50%以上の冠動脈病変、運動負荷試験で陽性など)を有するHbA1c7.0%以上の糖尿病患者3,297例を対象としている。対象患者の糖尿病の平均罹病期間は13.9年、平均HbA1cは8.7%、平均体重は87.2kgで、観察期間(中央値2.1年)中に、セマグルチド投与群で6.6%、プラセボ群で8.9%に心血管複合イベント(心血管死、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中)が認められ、ハザード比は0.74(95%信頼区間:0.58~0.95、非劣性p<0.001)であった。セマグルチド0.5mg、1.0mg投与群でHbA1cはそれぞれ1.1%、1.4%低下し、体重も3.6kg、4.9kg低下した。膵癌の発生はセマグルチド群1例、プラセボ群4例と報告されている。 個々のイベントでは、心血管死についてはセマグルチド群2.7%、プラセボ群2.8%と差はなかったが、非致死性心筋梗塞と非致死性脳梗塞の発症はそれぞれ2.9% vs.3.9%(ハザード比0.74、95%信頼区間:0.51~1.08、p=0.12)、1.6% vs.2.7%(ハザード比0.61、95%信頼区間:0.38~0.99、p=0.04)と、セマグルチド群での低下傾向が認められた。細小血管障害についてはセマグルチド群の3.0%に網膜症の悪化(硝子体出血、光凝固、硝子体内注射など)が認められプラセボ群では1.8%であった(ハザード比1.76、95%信頼区間:1.11~2.78、p=0.02)。おわりに セマグルチド群では嘔気、嘔吐などの消化管の副作用が多いものの、より良好な代謝管理が得られ、心血管リスクが高い患者では心血管イベントに対する有用性も示唆される成績と考えられる。しかし、GLP-1受容体作動薬で今まで指摘されていなかった網膜症の増悪が示唆される点は不気味な印象を覚える。 いずれにしても、諸手を挙げて「GLP-1受容体作動薬は心血管イベントの抑制に有用」と結論付けるには難しい状況が続いている。【お知らせ】本文内の表記を一部変更いたしました(2016年11月7日)。

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先端巨大症〔acromegaly〕

1 疾患概要■ 概念・定義手足の末端や顔貌の変化など特有な容姿から名付けられた疾患名であるが、成長ホルモン(GH)の過剰分泌により生じる。骨端線閉鎖以前では巨人症(gigantism)を、骨端線閉鎖以降では骨の末端の肥大を示す先端巨大症(acromegaly)を呈する。また、GH過剰状態が長期に持続すると、QOLは低下し、心・脳血管障害、悪性腫瘍、呼吸器疾患などを合併し、生命予後は不良となる。■ 疫学欧米の最近の報告によると、発生頻度(罹患率)は、年間3.5~6.5人/100万人、有病率は125~137人と報告されている。わが国の報告では、片上氏らの宮崎県での調査の結果、罹患率は5.3人/100万人、有病率85人と報告されている。本症に性差はみられず、40~60歳を好発年齢とし各年齢層に広く分布している。■ 病因先端巨大症の99%以上は、下垂体のGH産生腫瘍が原因であるが、ごくまれに気管支や膵、十二指腸などに発生する内分泌腫瘍から、異所性にGH放出ホルモンが過剰に産生される異所性GHRH産生腫瘍や、膵臓がんや悪性リンパ腫での異所性GH産生などが原因となる先端巨大症の報告例がある。■ 病態生理GH産生腫瘍もほかの下垂体腫瘍同様、モノクローナルな腫瘍で、体細胞レベルでの突然変異(somatic mutation)が腫瘍化の原因と考えられてきた。約半数の症例ではGHRH受容体と共役しているGタンパク質のαsubunitであるGsαの活性化変異(gsp変異)が認められる。その結果アデニル酸シクラーゼの活性化が持続し、細胞内のcAMPの増加が維持され、細胞増殖が促進する。一方、家族性にGH産生腺腫を合併する疾患にCarney complex、家族性GH腺腫(isolated familial somatotropinoma:IFS)、多発性内分泌腺腫症(MEN1および4)があるが、弧発性GH腺腫でもこれらの遺伝性疾患の原因遺伝子が検討されたが、不活化を伴う体細胞変異は認められていない。■ 臨床症状症状はGH過剰分泌に基づく症候が主体で、時に下垂体腫瘍が大きな場合には下垂体機能低下、視機能障害、頭痛など占拠性症候が同時に認められる。GHの過剰分泌により、肝臓でインスリン様成長因子-1(insulin-like growth factor 1: IGF-1)が過剰に産生され、これらGH、IGF-1の過剰分泌が長期に続くと、骨、軟部組織、内臓の肥大や変形が生じる。臨床症状としては顔貌の変化、手足の肥大はほぼ全例で認められ、耐糖能の低下、巨大舌、発汗過多も70%以上でみられる。また、先端巨大症では約25%(自験例で13%)の症例でプロラクチン(PRL)の同時産生を認めるため、月経異常(無月経、乳汁漏出)が主訴となることがある(図1、図2、表)。画像を拡大するA:先端巨大症の主な症状B:先端巨大症男性例の顔貌。骨の変形に伴う眉弓部・頬骨部の隆起、下顎の突出がみられ、鼻、口唇の肥大も認める特徴的な先端巨大症顔貌C:左は手指の腫大、皮膚の肥厚、多毛など典型的な先端巨大症の手(右は成人男性健常者)画像を拡大する画像を拡大する1)顔貌の変化眉弓部や頬骨部の隆起、下顎の突出、咬合不全、歯間の開大などが認められ、軟骨、軟部組織、皮膚も影響され、鼻、口唇も肥大し、いわゆる先端巨大症様顔貌を呈する(図1B)。2)骨、関節、結合組織手足の骨は伸び、手足の末端は肥大し、指は厚ぼったく太く丸みをおび、時に手指で小さな物をつまみ上げることが困難となる(図1C)。多角的にはX線検査における手指末節骨先端の花キャベツ様変化また結合組織も肥大によるheel pad(踵骨と足底の間の軟部組織)の肥厚が認められる。時に骨、結合組織の肥厚に伴い、手根管症候群や座骨神経痛、股関節、顎関節、膝関節の変形に伴う痛みも認められる。体型も椎骨の肥大変形により、胸部は後彎、腰部は前彎という独特な体型を呈する。これら骨に生じた変形は通常進行性で不可逆的である。3)皮膚肥厚し、色素沈着や発汗過多により、手掌、足底は常にべたつき、しばしば異臭を伴う。4)臓器肥大肝臓、腎臓、甲状腺などが肥大する。舌の肥大は巨大舌と呼ばれ、声帯の肥大などとともに特徴的な低い声となる(deepening of the voice)。5)循環器高率に高血圧を合併する。これは進行する動脈硬化と細胞外液量の増加が関与すると考えられている。心肥大も多く、最終的には拡張性の心不全を生じ、生命予後を左右する大きな一因となっている。6)呼吸器胸郭、肺の弾性が低下し、換気低下が進行すると慢性気管支炎、肺気腫など器質性変化が生じ、時に呼吸不全となる。また、近年本症は閉塞性の睡眠時無呼吸症候群の一因としても注目されている。7)代謝GHのインスリン拮抗作用が原因で耐糖能の低下、糖尿病が高頻度にみられる。8)占拠性症候下垂体腫瘍の70%以上は、腫瘍径1cm以上のmacroadenomaであるが、視野異常など視機能低下を合併する頻度はそれほど多くはない(自験例で5%)。同様に腫瘍の圧迫による続発性下垂体機能低下症もまれである。■ 予後放置した場合の生命予後は、一般人口と比較すると不良で、標準化死亡率は1.72倍高いと報告される一方、治療によりGH、IGF-1値が正常化すると、その後の生命予後は一般人と変わらなくなると報告されている。また、合併する高血圧、糖尿病、心疾患などの合併症のコントロールも生命予後の改善に寄与する。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 臨床所見とGH、IGF-1基礎値診断の基本はまず臨床的所見から先端巨大症を疑うことが重要である。しかし、通常患者が直接専門医を受診することは少なく、早期発見のためにも、合併疾患の治療科である整形外科、呼吸器科、一般内科医などへの本疾患の啓発が重要である。近年、新聞・雑誌や下垂体患者会などからの啓発活動の結果、患者自らがこの疾患を疑い、専門機関を受診するケースも増加している。本疾患が疑われる患者では、まずGH、IGF-1値を含めた下垂体ホルモン基礎値を測定し、GH過剰分泌の有無、他のホルモンの過剰あるいは低下の有無を検討する。重要なことは、GH基礎値は変動が大きく、単回の血中GH基礎値のみでのGH過剰状態の判定は不可能で、同時に必ずGHの総分泌量を反映するIGF-1値を測定することが重要である。臨床所見を認め、IGF-1値が年齢、性別の基準値より明らかに高値を示す場合には、通常先端巨大症と考えてよい(図2)。■ 経口ブドウ糖負荷試験など先端巨大症患者では、GHの抑制がないか、逆説的な増加を示し、0.4ng/mL未満には抑制されない。感度の高い検査で、本疾患が疑われる場合には必須の検査である。この検査は、先端巨大症の診断のみならず耐糖能の評価、治療後の耐糖能低下改善の予測などにも重要な検査である。以上で診断が確実となれば、他の前葉ホルモンの機能評価を兼ねたTRH、CRH、GnRH 3者負荷試験、薬物の効果を予測するドパミン作動薬(ブロモクリプチン)やオクトレオチド負荷試験を施行する。■ 画像検査次に重要なことは腫瘍の状況の把握で、このためには下垂体の精検MRIが最も重要である。通常1cm以下の微小腺腫が2~3割程度を占める。また、下垂体腫瘍が認められない場合には、異所性GHRH産生腫瘍なども考慮する必要がある(図2)。■ その他の検査合併症の評価のため、心機能、呼吸機能、動脈硬化の程度の評価、大腸がんの有無の評価なども重要な検査である。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)先端巨大症を呈する下垂体腫瘍の治療の目的は、過剰に産生されているGHの早期の正常化と、腫瘍が大きく圧迫症候を伴っているときには、それらの改善にある。本疾患の治療の原則は、外科的切除が第1選択であるが、手術不能例や患者の同意が得られない特殊な場合、手術で治癒が不可能と考えられる一部の症例、外科的治療でも治癒が得られない場合には薬物療法、放射線療法などの補助療法を追加する。同時に合併症のコントロールも予後の改善からも重要である。先端巨大症の治療の流れを示すフローチャートを図3に示した。画像を拡大する■ 手術療法手術は通常経鼻的アプローチで行われ、これを「経蝶形骨洞手術」と呼び、手術用顕微鏡や内視鏡下に施行されるが、大きな腫瘍や浸潤性腫瘍では、患者の全身状態の改善による周術期のリスクの減少と腫瘍の縮小を目的として、術前短期(1~3回程度)のオクトレオチドLAR(商品名: サンドスタチンLAR)、ランレオチド(同:ソマチュリン)を使用する場合がある。現在のところ下垂体外科を専門とする施設での治癒率は、60~70%と報告されている(図4)。手術での治療成績不良な因子としては、腫瘍の大きさ、海綿静脈洞浸潤の有無などが挙げられる。画像を拡大する■ 薬物療法腫瘍からのGH分泌を抑制し、抗腫瘍効果のあるドパミン作動薬(ブロモクリプチン[商品名: パーロデル]やカベルゴリン[同:カバサール])、ソマトスタチンアナログ製剤が主に使用されている。それでも効果が不十分な場合には、GHの作用をブロックするペグビソマント(同:ソマバート)が使用される。ただし、ソマトスタチンアナログ製剤やペグビソマントは、有効率は高いものの、きわめて高価であること、ペグビソマントは毎日自己注射が必要なこと、カベルゴリンは保険適用ではないことが欠点である。また、これらの薬剤の効果をより高めるために、多剤薬物療法(combined therapy)も適時試みられている。■ 放射線照射海綿静脈洞内など外科切除困難な部位に腫瘍が残存し、薬物効果が不十分な場合などが適応となる。現在ではγナイフやサイバーナイフなどの定位放射線療法が主体で、従来の放射線療法に比較し、いずれも短時間でより選択的な照射が腫瘍へ可能であり、かつ治療効果発現までの時間も短く(通常1~2年)、正常下垂体、神経組織への障害も少ない。■ フォローアップ通常治療後、治癒基準を満たす症例が再発を呈することはきわめてまれであるが、半年~1年に1度GH、IGF-1検査のフォローが必要である。また、術前の症状の有無により、適時に大腸内視鏡、心エコーなどの定期的フォローも必要となるし、薬物療法施行例では、それぞれの副作用のチェック、さらに放射線療法が行われた症例ではGH、IGF-1はもちろん、下垂体機能低下症の長期にわたるフォローも重要となる。4 今後の展望本疾患の早期発見、早期治療のためには、関連診療科医師へのさらなる啓発活動が重要である。薬物治療法については、オクトレオチドLAR、ランレオチドなどの標準的なソマトスタチンアナログ製剤と比較して、より優れたGHおよびIGF-1の治療目標値への達成が期待されるSOM230(一般名: パシレオチド)が、2016年末にわが国で発売される予定である。また、ソマトスタチンアナログ製剤は、現在1ヵ月に1度の割合で病院での注射が必要となるが、アドヒアランスのより高い経口薬(oral octreotide)がすでに開発されており、近い将来広く臨床応用されることが期待される。5 主たる診療科下垂体疾患・腫瘍を取り扱う内分泌内科、脳神経外科、小児科6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 先端巨大症、下垂体性巨人症(下垂体性成長ホルモン分泌亢進症)平成27年施行の指定難病。先端巨大症は、下垂体性成長ホルモン分泌亢進症(告示番号77)に分類されている。本サイトは「厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患克服研究事業 間脳下垂体機能障害に関する調査研究 先端巨大症および下垂体性巨人症の診断と治療の手引き」にリンクされている。アクロメガリー広報センター(ノバルティスファーマ株式会社)先端巨大症ねっと(帝人ファーマ株式会社)いずれも製薬メーカーが運営するサイトであるが、患者向け、医療者向けの両サイトがあり、先端巨大症についての知識や治療法がわかりやすく解説されている。患者会情報下垂体患者の会(下垂会)2005年に下垂体疾患の患者有志が集まり、自分達の病気の難病指定を目標に結成され、現在全国規模で医療講演会や患者会を定期的に開催・活動している。1)Katznelson L, et al. J Clin Endocrinol Metab.2014;99:3933-3951.2)特集 先端巨大症の診療最前線. ホルモンと臨床.2009.3)平田結喜緒 編. 下垂体疾患診療マニュアル 改訂第2版.診断と治療社;2016.4)千原和夫 監修. 改訂版 Acromegaly Handbook.メディカルレビュー社;2013.公開履歴初回2016年10月18日

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第5回 スルホニル尿素(SU)薬による治療のキホン【糖尿病治療のキホンとギモン】

【第5回】スルホニル尿素(SU)薬による治療のキホン―SU薬が第1選択薬となる典型的な症例は、どのような患者でしょうか。 直接、膵β細胞上のSU受容体に結合してインスリン分泌を促進し、血糖を低下させるSU薬は、インスリン分泌障害のある、非肥満の患者さんに適しています。古くからある薬剤で、以前は臨床現場でも多く使われていましたが、DPP-4阻害薬が登場し、さらにSGLT2阻害薬が出るなど、糖尿病治療の選択肢が増えたことで、長期にわたる治療が必要な糖尿病においては、強力な血糖降下作用を示すSU薬は、「経口血糖降下薬の最後の手段として温存しておく」という考えが徐々に広がっています。 食事・運動療法を行っても血糖コントロールが改善しない場合は、患者さんの病態(インスリン分泌能低下、インスリン抵抗性、空腹時高血糖、食後高血糖など)に合わせ、“単独で低血糖を来しにくい”、“体重増加を来さない”といった安全性の面からも使いやすい薬剤から始め、それでも空腹時血糖値が下がらないようであれば、SU薬を検討してもよいと思います。また、そのときには、“膵β細胞に十分な残存機能がある(インスリン分泌能が比較的保たれている)こと※”、また、“食事・運動療法が守られていること”が重要です。 ※空腹時血中Cペプチド(CPR)値≧0.6ng/mL、24時間尿中CPR排泄量>20μg/日1) インスリン分泌能の評価には、血中インスリン、血中Cペプチド、尿Cペプチドがありますが、尿中Cペプチドは畜尿が必要なため、外来では用いにくい指標です。朝食前血中Cペプチドの正常値は1.0~3.5ng/mlで、0.5ng/ml以下ではインスリン依存状態と考えられます。低値であればあるほど、インスリン分泌障害が高度であり、インスリン療法が必要になります。また、この血中Cペプチドを用いたCペプチドインデックス(CPI)というものが、内因性インスリン分泌能の評価に有用な指標として使用されています。CPIの計算式は、CPI= [朝食前血中Cペプチド(ng/ml) / 朝食前血糖値(mg/dl)]×100 であり、CPI≦0.7ではインスリン療法が必要、CPI≧1.2では食事療法、運動療法を十分に行えば、経口薬で良好な血糖コントロールが得られるとされています2)。―長期使用による膵β細胞の疲弊、アポトーシス(二次無効)のリスクはあるのでしょうか。 SU薬を長期使用した患者さんで、膵β細胞が疲弊し、機能が低下することで、SU薬の効果が減弱し、血糖上昇を認める“二次無効”がみられることがあります。しかし、この効果減弱が、SU薬の長期使用による刺激が直接原因になっているのか、あるいは食事・運動療法の乱れによる血糖コントロール不良により、持続する高血糖が原因になっているのかを見極めることは容易ではありません。 このような状態になってしまうと、膵β細胞を休息させ、インスリン分泌能を回復させる必要があるため、インスリン治療が必要となります(糖毒性の解除)。インスリン分泌能が回復すれば、再び経口血糖降下薬による治療に戻すことができるようになる可能性もありますが、膵β細胞の機能低下程度や二次無効の期間によっては、回復が難しいこともあります。インスリン治療に対しては、患者さんにとって心理的障壁があるというだけでなく、実は医師にとっても大きな負担になることが報告されています3)。できるだけ医師、患者さんの双方で負担なく治療を続けるためにも、二次無効に至らないよう、SU薬は漫然と使用せず上手に使うことが重要です。今は、さまざまな治療薬がありますので、病態や安全性を考慮し、SU薬を使用するのであれば、他の薬剤も組み合わせ、それらの用量を調節しながら、SU薬はできるだけ低用量で維持するのがよいと思います。―低血糖を回避するためには、どのようなことに気を付ければよいでしょうか? SU薬では低血糖に注意する必要があります。強力なインスリン分泌促進作用が長時間続くため、血糖値にかかわらず“遷延性低血糖”が問題になります。とくに肝・腎機能低下例や生理機能の低下した高齢者では注意が必要で、高齢者の場合は認知症と間違われてしまうことがあります。 もう1つ、SU薬を投与する場合に注意したいのが“夜間の無自覚性低血糖”です。第2回 薬物療法のキホン(総論)-ファーストチョイスや併用に迷っています。機序の異なる薬の使い分け・効果的な組み合わせを教えてください。でもお話ししましたが、血糖値は1日の中で常に変動しており、その変動する血糖値をならした“平均血糖”を反映しているのがHbA1cです。持続的にインスリン分泌を促進するSU薬の場合、血糖変動幅はそのままの状態で、全体を下にスライドさせるように血糖値を低下させています。SU薬単独で比較的HbA1cが低い患者さんでは、食後の血糖値は高くても、夕食前や夜間の血糖値がかなり低いためにそれらが相殺されて、見かけ上はHbA1cが低くなっているということがあります。このような患者さんでは、食後高血糖が改善されていないうえに、夜間の血糖値は低血糖域付近であったり、低血糖を起こしている可能性があります(無自覚性低血糖)。夜間に低血糖を生じている場合、悪夢をみて気分が悪くなって目が覚めたり、起床時の頭痛や就寝時の発汗、倦怠感などを訴えることがあります。 夜間の低血糖を回避するためには、SU薬単独で血糖正常化を目指さずに(7.5%以下は目指さない)、食後高血糖を改善する薬剤などを併用して血糖変動幅を縮小する、血糖コントロールが悪化した場合にも、SU薬を増量するのではなく、単独で低血糖や体重増加を来しにくい薬剤の用量を調節するなどして、“上質な”HbA1cの低下を目指すとよいでしょう。―体重増加を回避するためには、どのようなことに気を付ければよいでしょうか? SU薬では、体重増加もしばしば問題になります。これはSU薬により空腹時血糖が下がり過ぎてしまい、空腹を感じて食べてしまうことが原因になります。前述したように、SU薬単独で治療しており、食後高血糖が改善されておらず、それを相殺するように、空腹時血糖値が低血糖傾向になっているような、見かけ上HbA1cが良好な患者さんでよくみられます。このような患者さんでは、血糖コントロールが悪化してくると、どうしても使用中のSU薬を増量したくなることもあるかと思いますが、SU薬を増量すると、ますます空腹感が強くなってしまうため、食後高血糖を改善する薬剤を追加するなどして、血糖変動幅を縮小する治療を行うとよいでしょう。1)日本糖尿病学会編・著.糖尿病治療ガイド2016-2017.文光堂;2016.2)鈴木ひかり、浦風雅春、戸邊一之. インスリン分泌能や膵島量の指標とは. 糖尿病レクチャー 1(1):69-74, 21003)Ishii H, et al. PLoS One. 2012;7:e36361.

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トルリシティ週1回注射で糖尿病患者の負担軽減

 8月31日、日本イーライリリー株式会社は、同社の持続性GLP-1受容体作動薬デュラグルチド(商品名:トルリシティ皮下注0.75mgアテオス)の投薬制限期間が、9月1日に解除されることから、「新しい治療オプションの登場による2型糖尿病治療強化への影響」をテーマにプレスセミナーを開催した。 セミナーでは、糖尿病治療への新しい選択肢を示すとともに、患者の注射に対する意識アンケート調査結果も公表された。トルリシティは簡単な操作で週1回の注射 じめに岩本 紀之氏(同社研究開発本部 糖尿病領域)が、トルリシティの製品概要について説明した。 GLP-1受容体作動薬は、膵β細胞膜上のGLP-1受容体に結合し、血糖依存的にインスリン分泌を促進する作用があり、グルカゴン分泌抑制作用も併せ持つ。胃内容物排出抑制作用があり、空腹時と食後血糖値の両方を低下させ、食欲抑制作用は体重を低下させる作用がある。また、単独使用では、低血糖を来す可能性は低いとされる。 トルリシティは、ヒトGLP-1由来の製剤で、血中濃度半減期は4.5日。1週間にわたり、安定した血中濃度を示すという。 26週の単独使用の国内第III相試験では、HbA1c推移はプラセボ(n=68)がベースラインから+0.14に対し、デュラグルチド(n=280)は-1.43であった。また、HbA1c 7.0未満の達成率(26週後)は、プラセボが5.9%だったのに対し、デュラグルチドは71.4%であった。また、副作用の発現率は29.7%(272/917例)で便秘、悪心、下痢の順で多く、重篤な副作用は報告されていない。低血糖症(夜間・重症含む)の発現は、プラセボ(n=70)で1例、デュラグルチド(n=280)で6例、リラグルチド(n=137)で2例だった。 なお、トルリシティのデバイスであるアテオスは、1回使い切りのデバイスで、わずか3つのステップで使用することができる。インスリンと異なり、針の付け替え、薬剤の混和、空打ちは不要で、訓練を要せずに簡単に使用できるという。 対象は2型糖尿病患者で、週1回、朝昼晩いつでも0.75mgを注射するだけで、優れた血糖低下を発揮する。DPP-4阻害薬はいい治療薬だけれど… セミナーでは、「新しい治療オプションの登場による2型糖尿病治療強化への影響~最新の研究結果から、注射に対する抵抗感の現状と未来を考える~」と題して、麻生 好正氏(獨協医科大学 内分泌代謝内科 教授)が、望まれる糖尿病治療薬の在り方と患者アンケートの概要について解説を行った。 糖尿病の概要と現状について、生活環境の変化(身体活動の低下)と食生活の変化(動物性脂肪の摂取の増加)などにより、患者数が50年前と比較し約38倍になっていること、そして、わが国では新しい血糖コントロール目標が2013年より導入され、個別化による目標血糖値に向けて治療が行われていることが説明された。 次に糖尿病の治療薬に望まれることとして、「低血糖を起さない」「治療に伴う体重増加がない」「血糖低下作用が十分ある」の3点を示すとともに、長期血糖コントロール維持と効果の持続性、膵β細胞機能低下抑制、障害のある腎・肝臓でも使用可能、心血管系に悪影響を及ぼさない、長期の安全性なども望まれると説明した。 現在、使用できる糖尿病治療薬の中でも、体重増加を避け、低血糖リスクの低い薬としては、「DPP-4阻害薬」「GLP-1受容体作動薬」「SGLT2阻害薬」の3種が挙げられる。とくにインクレチン関連薬の「DPP-4阻害薬」はアジア人に効果が高く、わが国でも広く使用されているが、最近増えている欧米型肥満の患者には効果に限界があり、また、経口血糖降下薬だけでは約6割の患者しかHbA1cを7.0%以下に下げることができず、次の治療オプションの模索がされているという。週1回注射のトルリシティは患者のアドヒアランスを向上 もう1つのインクレチン関連薬の「GLP-1受容体作動薬」は、注射薬のために臨床現場では使用へのハードルが高いものであった。しかし、GLP-1受容体作動薬は、DPP-4阻害薬の効果に加え、食欲低下、胃排出能の低下、体重減少効果もあり、抗動脈硬化作用1)も報告されている。他剤との併用では、基礎インスリンが一番効果を発揮し、基礎インスリンの良好な空腹時血糖コントロール、低血糖リスクが少ない、体重増加が少ない、肝糖新生抑制などの特性とGLP-1受容体作動薬の特性とが相まって効果を発揮することで、優れたHbA1cのコントロールをもたらすと期待されている。 先述のように注射というハードル故に、使用に二の足を踏まれていたGLP-1受容体作動薬について、患者へのアンケート調査(糖尿病治療薬[注射製剤]に関する患者調査2))で、次のようなことが明らかになった。 「患者が重視した薬剤属性」では、投与頻度(44.1%)、投与方法(26.3%)、吐き気の頻度(15.1%)、低血糖の頻度(7.4%)と回答が寄せられた。 「投与の度に注射が必要な糖尿病の治療薬を使用したいと思うか?」については、89.5%の患者が使用したくない/あまり使用したくないと回答し、とても使用してみたい/いくらか使用してみたいと回答した患者はわずか1.7%だった。 「トルリシティをどの程度使用してみたいか?」については、37.9%の患者が依然として使用したくない・あまり使用したくないと回答し、とても使用してみたい・いくらか使用してみたいと回答した患者は42.9%となり、上記の1.7%と比較して急伸した。 週1回の注射という患者のアドヒアランスを考慮したGLP-1受容体作動薬の出現は、アンケートにみられた注射への心理的ハードルを越え、たとえば忙しい社会人や在宅治療中の高齢者には、利便性が高く、経口薬だけではない治療の選択肢の幅が拡がるという。 最後に麻生氏は、「これから注射薬の早期導入がしやすくなることで、糖尿病患者の個別化治療の促進や予後の改善が期待される」とレクチャーを終えた。【訂正のお知らせ】本文内の表記を一部訂正いたしました(2016年9月21日)。■参考日本イーライリリー(糖尿病・内分泌系の病気)■関連記事ケアネットの特集「インクレチン関連薬 徹底比較!」

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第4回 チアゾリジン薬による治療のキホン【糖尿病治療のキホンとギモン】

【第4回】チアゾリジン薬による治療のキホン―チアゾリジン薬はどのような患者に適しているのでしょうか。 チアゾリジン薬は、脂肪前駆細胞から脂肪細胞への分化を促進させ、アディポネクチン※を分泌する小型脂肪細胞の増加や大型脂肪細胞のアポトーシス(細胞死)を惹起したり、脂肪細胞への脂肪酸の取り込み増加により、骨格筋や肝に取り込まれる脂肪酸の量を減少させることなどにより、末梢組織でのインスリン感受性を高め、インスリン抵抗性を改善して、血糖を低下させます。そのため、インスリン抵抗性のある肥満患者が適しています(BMI≧24、あるいは空腹時血中インスリン値≧5μU/mL)1)。 チアゾリジン薬では、循環血液量の増加による浮腫や心不全に注意する必要があります。浮腫は女性で多いことが報告されているため、女性では最小用量の15mg(1日1回)から開始します1)。副作用は効果の裏返しともいえます。チアゾリジン薬の市販後調査でも、女性のほうが本剤の感受性が強いことが報告されています。2),3)。女性のほうが効果が出やすいので、15mgでも浮腫が出るようであれば、減量しながらみていきます。 また、海外で、女性でチアゾリジン薬による骨折リスクが報告されていますので4)、骨粗鬆症や、閉経後の女性では注意が必要です。 私のこれまでの臨床経験から、チアゾリジン薬では明らかに効果が出る患者さん(レスポンダー)がいると感じています。そのため、そういった患者さんでは、効果と安全性のバランスをみながら、適宜増減を考慮し、治療を進めていくとよいと思います。 ※脂肪細胞から分泌される生理活性物質(アディポサイトカイン)で、骨格筋や肝における脂肪酸の燃焼と糖の取り込みを促進し、インスリン感受性を増強させる5)。また、マウスにおける動脈硬化の抑制や、アディポネクチン欠損マウスにおける血管の炎症性内膜肥厚の亢進が示されていることから、動脈硬化抑制作用を持つと考えられている6,7)。―どの程度の心疾患既往者であれば使用してよいのでしょうか。 チアゾリジン薬は心不全および心不全既往例では禁忌で、心不全発症の恐れのある心筋梗塞、狭心症、心筋症、高血圧性心疾患などの心疾患患者さんには慎重投与です1)。つまり、心不全以外の既往症であれば投与できますが、心疾患既往例では、心不全のリスクが高いことを念頭に置き、投与中は、浮腫や急激な体重増加、息切れや動悸といった心不全の症状がないかどうか、十分注意します。患者さんにも、あらかじめ、これら異常がみられた場合には、すぐに受診するよう伝えます。 また、定期的に血中BNP値や心電図、胸部X線検査などでモニタリングするとよいでしょう。とくに、心室で合成され、血中を循環する心臓ホルモンであるBNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド;Brain Natriuretic Peptide)は、心室への負荷の程度を反映する生化学的マーカーで、広く臨床現場で使用されています。「慢性心不全治療ガイドライン(2010年改訂版)」では、心不全の所見に加え、BNP>100pg/mLであれば、心不全を想定して検査を進めるとされています8)。心不全のリスクが高い患者さんでは、BNP値を測定し、上昇してくるようであれば、診察時には毎回検査するなど、注意が必要です。―膀胱がんの危険性について教えてください。 海外の研究で、ピオグリタゾンを投与した患者さんで膀胱がん発生リスクが増加する恐れがあり、投与期間が長くなるとリスクの増加傾向があることが示されています9)。そのため、膀胱がん治療中の患者さんには投与を避けることとされています1)。また、「膀胱がん既往例には、薬剤の有効性および危険性を十分に勘案したうえで、投与の可否を慎重に判断する」となっていますが1)、私は膀胱がん既往例に対しては、ピオグリタゾン以外の選択肢がない場合にしか用いていません。 ピオグリタゾンの膀胱がんのリスクについては、海外でリスクが増加する恐れがあるという報告があることを患者さんに伝え、投与期間が長くなってきたら、定期的な尿検査を行うなど、注意する必要があります。また、投与終了後も継続して、十分観察します。―浮腫・体重増加がみられる女性患者への対応を教えてください。 前述したように、女性は効果がある反面、浮腫が出現しやすいため、“むくみが出る可能性がある”こと、“塩分摂取量にはとくに注意する必要がある”ことを事前に伝えます。体重増加がみられれば、それが浮腫によるものなのか(急激な体重増加、手足のむくみ、息苦しさ、動機など)、あるいは生活習慣の乱れによる体重増加なのかを見極め、浮腫の場合には、心不全でないことを確認したうえで、浮腫に対する対応として、塩分制限や利尿剤投与などの対応を検討します。 チアゾリジン薬では、小型脂肪細胞が増加し、大型脂肪細胞のアポトーシスが惹起されることでインスリン抵抗性を改善する働きがあるとお話ししましたが、小型脂肪細胞が治療前より増加するため、過食などによる体重増加にも注意する必要があります。実際に、チアゾリジン薬を投与された2型糖尿病患者さんでは、内臓脂肪は減少するものの、皮下脂肪が増加することがわかっています10)。1)アクトス製品添付文書(2015年3月改訂)2)医薬品インタビューフォーム アクトス錠15・30,アクトスOD錠15・30(2015年11月改訂).p533)Kawamori R, et al. Diab.Res.Clin.Pract. 76(2007)229-235.4)Habib ZA, et al. J Clin Endocrinol Metab. 2010;95:592-600.5)Shindo T, et al. Nat Med. 2002;8:856-863.6)Kubota N, et al. 2002;277:25863-25866.7)Yamauchi T, et al. J Biol Chem. 2003;278:2461-2468.8)日本循環器学会ほか.慢性心不全治療ガイドライン(2010年改訂版).In:循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2009年度合同研究班報告).9)Lewis JD, et al. Diabetes Care. 2011;34:916-922.10)Miyazaki Y, et al. J Clin Endocrinol Metab. 2002;87:2784-2791.

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