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第3回 高齢者の高血糖で気を付けたいこと【高齢者糖尿病診療のコツ】

第3回 高齢者の高血糖で気を付けたいことQ1 高齢者では基準が緩和されていますが、血糖値高めでも様子をみる方針でいいのでしょうか? 注意すべき病態はありますか?最近のガイドラインでは、高齢者、とくに認知機能やADLが低下している場合血糖コントロールが甘めに設定されていますが、どんなに高くてもよいというものではありません。高血糖で緊急性を要する病態として、高浸透圧高血糖状態(HHS)と糖尿病ケトアシドーシス(DKA)があり、注意が必要です(表)。画像を拡大するHHSはインスリン分泌が保たれている患者に、何らかの血糖上昇をきたす因子(感染症やステロイド投与、経管栄養など)が加わり、著明な高血糖と高度脱水をきたす病態です。血糖値は通常600mg/dLを超え、重症では意識障害をきたし、死亡率は10~20%とされています。HHSはとくに高齢者で起こりやすく、糖尿病治療中でこれらの因子を伴った場合は、十分な水分摂取を促すこと、こまめに血糖値をチェックすることが大切です。水分摂取困難や意識障害の症例はもちろん、血糖300mg/dL以上が持続する場合も専門医を受診させ、入院を考慮するべきでしょう。以前行った調査1)では、HHS患者では認知症有の患者が86%を占め、要介護3以上、独居または高齢夫婦世帯がそれぞれ半数以上を占めていました。これらの患者ではとくに注意が必要です(図1)。画像を拡大するDKAは、インスリンの絶対的欠乏によって脂肪が分解され、血中のケトン体が上昇し、アシドーシスを呈する病態です。高齢者のDKAの多くは1型糖尿病で治療中の患者さんでの、感染症合併やインスリンの不適切な減量・中断による発症です。体調不良時のインスリンの使用法(シックデイルール)を指導しておく必要があります。食事がとれないような場合でも、安易にインスリン(とくに持効型)を中止しないよう指導することが重要になります。HbA1c9%以上では、HbA1c7~7.9%に比べHHSやDKAなどの急性代謝障害をきたすリスクが2倍以上となります。高齢者ではHbA1c8.5%以上だと肺炎、尿路感染症などの感染症のリスクも高くなります。そのため私たちは、認知機能やADLが低下している患者さんでも、HbA1c8.5%未満を目標としています。HbA1c8.5%以上が持続する症例では、入院での血糖コントロールを行い、その後の環境調整を行っています。Q2 HbA1cが正常なのに、 食後血糖が高い患者へはどのように対応すべきでしょうか?HbA1cは平均血糖の指標であり、HbA1cが正常でも、血糖変動が大きい可能性があります。食後高血糖は血糖変動の大きな要因であるため、外来受診の患者さんでも、空腹時のみでなく、定期的に食後血糖(1、2時間値)を測定するようにしています。食後高血糖は、糖尿病予備軍の患者さんの糖尿病への進展リスクを高めるといわれています。また高齢者のみでの研究ではありませんが、心血管疾患の発症率や死亡率も高いことが知られています(図2) 2)。一方で、SU薬やインスリン使用中で食後高血糖、かつHbA1cが低い場合は、低血糖が隠れていることがあるため、注意が必要です。また早朝の血糖が高値を示す場合、実は夜間に低血糖があり、それに引き続いてインスリン拮抗ホルモンが分泌されて血糖が上昇している場合があります(ソモジー効果)。ソモジー効果が疑われる場合は深夜の血糖を測ることが望ましく、低血糖が疑われる場合は、インスリンやSU薬の減量を行います。画像を拡大する食後高血糖に対しては、まず生活指導を行います。ゆっくり時間をかけて食べる、糖質を食物線維が多いものと一緒にとる、清涼飲料水など糖質が速やかに吸収される食品を避ける、食後1時間後を目安にウォーキングや軽い体操を行うこと、などを勧めます。これらの指導を行ったにもかかわらず、食後血糖が常に200mg/dLを超えている場合は、α-グルコシダーゼ阻害薬(非糖尿病でも使用可能)や、グリニド製剤(糖尿病のみ使用可能)などの食後高血糖改善薬の投与も考慮します。前者は糖質の吸収を緩やかにする薬剤ですが、腹部手術後は慎重投与となっています。後者はインスリン分泌を刺激する薬剤ですので、低血糖への配慮が必要になります。いずれも1日3回食直前の内服が必要なので、服薬アドヒアランスの不良な患者さんには適していません。そのような患者さんには、効果は劣るものの服薬回数の少ないDPP-4阻害薬を考慮しますが、認知機能やADLが低下している患者さんでは食後のみの高血糖であれば、無投薬で様子をみることも多いです。Q3 高血糖に対する認識の低さを感じます。患者指導のポイントがあれば教えてください。まず、年齢、認知機能やADL低下の程度、合併症や併発疾患、生命予後によって、コントロールの目標も変わってきます。認知機能やADLが低下している場合は、厳格なコントロールは必ずしも必要ありません(第6回で詳述予定です)。一方、比較的若く、認知機能やADLが保たれている患者さんには、しっかり指導をしなければなりません。ここではこういった患者さんで病識が低い人への対応を考えます。これらの患者さんでは何よりも、通院を中断してしまうことが問題です。通院しているだけである程度の意欲はあるわけですから、その部分は褒めるようにしています。また、看護師や栄養士にも協力してもらい、治療に対するご本人の考えや感情を十分に傾聴することが大切でしょう。チームとしてのサポートが重要となります。「もう歳だからいい」と言う場合や、配偶者の介護の負担などで治療に向き合えないこともあります。医療スタッフが来院時に悩みを聞きながら、少しずつ治療に向き合えるように粘り強く待つことが大切です。長期間来院しない時はスタッフから連絡してもらい、心配していることやあなたの健康を一緒に支えているということをわかっていただきます。教育面では、休日の糖尿病教室への参加をお勧めしたりしますが、強制はしません。また、診療時間は限られているので、教育資材やビデオを貸し出したりして、合併症予防の重要性を学んでいただくようにしています。そして1つでも合併症を理解していただいたら、褒めるようにします。治療に関しては、同時にいくつものことを要求しないことも重要です。禁煙と運動、食事内容を一度に全て改善しろといってもできません。患者さんの取り組みやすいところから1つずつ、しかも達成しやすいところに目標をおきます。例えばまったく運動していない人では、「まず1日3,000歩歩いてみましょう」とします。この際、目標は具体的に、数値化したものが望ましいでしょう。そして患者さんにはかならず記録をつけてもらうようにしています。たとえ目標が達成できなくても、記録をつけはじめたということについてまず褒めます。とにかく、できないことを責めるのではなく、できたことを褒める、という姿勢です。投薬の面でも、できるだけ負担のないようにし、例えば軽症で連日の投薬に抵抗がある患者さんには、週1回の製剤からはじめたりしています。なお、認知機能やADLが低下している場合でも、著明な高血糖は避ける必要があります。Q1で述べた内容を、家族・介護者に指導します。 1)Yamaoka T, et al. Nihon Ronen Igakkai Zasshi. 2017;54:349-355.2)Tominaga M, et al. Diabetes Care. 1999;22:920-924.

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インスリンが血糖に関係なくがんリスクに関連か~JPHC研究

 わが国の大規模前向きコホート研究(JPHC研究)より、数種類のがんにおいて、インスリン高値が高血糖とは関係なく、糖尿病関連のがん発症に関連する可能性が示唆された。著者らは「血漿インスリン値の検査は、糖尿病を発症していない人においても、がんリスクを評価するうえで妥当なオプションである」としている。International Journal of Cancer誌オンライン版2018年9月5日号に掲載。 本研究では、がんリスクにおけるインスリンと血糖のそれぞれの影響を明らかにするために、インスリンの代用マーカーである血漿Cペプチド、および安定した血糖マーカーである糖化アルブミン(GA)と、がん全体および部位別のがんリスクとの関連が検討された。ベースラインでアンケートに回答し血液サンプルを提供した3万3,736人のうち、約4,000人にがんが発症した。明らかに糖尿病である被験者を除外し、3,036人のがん症例と3,667人のサブコホートで分析を行った。 主な結果は以下のとおり。・男女全体として、GAで調整後、Cペプチド値の最も高い群は、最も低い群と比べてがん全体(ハザード比[HR]:1.21、95%信頼区間[CI]:1.02~1.42)、結腸がん(1.73、1.20~2.47)、肝臓がん(3.23、1.76~5.91)、腎・腎盂・尿管がん(2.47、1.07~5.69)のリスク増加と有意に関連していた。・Cペプチドに関連した上記のがんのうち結腸がんと肝臓がんでは、Cペプチド値とは関係なく、GAの増加に関連したがんリスク増加も示した。GAの最も低い群に対する、最も高い群での結腸がんと肝臓がんのHRは、それぞれ1.43(95%CI:1.02~2.00)および2.02(95%CI:1.15~3.55)であった。・性別による差異は、Cペプチドと結腸がんの関連(相互作用のp=0.04)のみ明らかであった。

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ケアネット白書~糖尿病編2018

インデックスページへ戻る1.調査概要本調査の目的は、糖尿病診療に対する臨床医の意識を調べ、その実態を把握するとともに、主に使用されている糖尿病治療薬を評価することである。本調査は、2018年2月23日~3月2日に、ケアネットの医師会員約14万人のうち、2型糖尿病患者を1ヵ月に10人以上診察している医師500人を対象にCareNet.com上で実施した。2.結果(1)回答医師の背景回答医師500人の主診療科は、糖尿病・代謝・内分泌科が240人(48.0%)で最も多く、一般内科162人(32.4%)、循環器科41人(8.2%)などが続いた。医師の所属施設は、一般病院が194人(38.8%)で最も多く、以下、医院・診療所・クリニック125人(25.0%)、大学病院93人(18.6%)、国立病院機構・公立病院88人(17.6%)など。医師の年齢層は50代が160人(32.0%)で最も多く、次いで40代(129人、25.8%)、30代(125人、25.0%)が続いた。(2)薬剤の処方状況(1stライン)糖尿病治療薬をSU薬、α-グルコシダーゼ阻害薬(α-GI)、ビグアナイド(BG)薬、チアゾリジン薬、速効型インスリン分泌促進薬(グリニド)、DPP-4阻害薬、インスリン、GLP-1、SGLT2阻害薬、その他に分類し、食事・運動療法に加えて薬物療法を実施する際の1stラインの処方状況を聞いた(図1)。図1を拡大する処方が最も多かったのはDPP-4阻害薬で、回答した医師全体の38.3%が1stラインで使っている。昨年と比べると0.1ポイント減少で、ほぼ横ばいといえる。次いで多かったのはBG薬(27.6%)で、昨年と比べて1.3ポイント増加した。そのほか、SGLT2阻害薬(6.4%)は昨年と比べて2.7ポイント増加し、過去5年間において最も多かった。<糖尿病・代謝・内分泌科での1stライン>回答医師の属性が糖尿病・代謝・内分泌科の場合、1stラインでの処方割合が最も多かったのはDPP-4阻害薬(35.4%)だが、これに続くBG薬が34.8%であり、割合は拮抗している。一方、SU薬は過去5年の推移をみても一貫して減少傾向にあるようだ(図2)。図2を拡大する<その他の診療科(糖尿病・代謝・内分泌科以外)での1stライン>回答医師の属性がその他の診療科の場合、1stラインの処方割合はDPP-4阻害薬が最も多く(41.0%)、昨年と比べて0.3ポイント増とほぼ横ばいであった(図3)。図3を拡大する(3)薬剤の処方状況(2ndライン)●DPP-4阻害薬単剤処方例からの治療変更1stラインでDPP-4阻害薬を単剤投与しても血糖コントロールが不十分だった場合、2ndラインではどのような治療変更を行うかについて、1.SU薬を追加、2.速効型インスリン分泌促進薬を追加、3.α-GIを追加、4.BG薬を追加、5.チアゾリジン薬を追加、6. SGLT2阻害薬を追加、7. BG薬とDPP-4阻害薬の配合剤への切り替え、8. その他配合剤への切り替え、9.他剤への切り替え、10.その他―の分類から処方状況を聞いた(図4)。なお、2018年度は選択肢から「GLP-1を追加」、「インスリンを追加」を削除し、「BG/DPP-4阻害薬配合剤へ切り替え」「その他配合剤へ切り替え」を追加している。図4を拡大する最も多かったのはBG薬の追加で、回答した医師の40.8%に上った。SGLT2阻害薬の追加は過去5年間で年々増加傾向にあり、14.1%と昨年と比べて4.2ポイント増加した。一方、SU薬やα-GIの追加は減少傾向にある。BG/DPP-4阻害薬配合剤への切り替えは10.1%であった。回答医師の属性が糖尿病・代謝・内分泌科とその他の診療科を比較すると、専門医ではBG薬の追加が全体平均よりも高い傾向にあり、逆にα-GIの追加を選ぶ医師は少ない傾向があった。専門医以外では、α-GIの追加のほか、BG/DPP-4阻害薬配合剤を選択する割合が多い傾向がみられた(図5)。図5を拡大する●BG薬単剤処方例からの治療変更また、1stラインでBG薬を単剤投与しても血糖コントロールが不十分だった場合2ndラインではどのような治療変更を行うかについて、1.SU薬を追加、2.速効型インスリン分泌促進薬を追加、3.α-GIを追加、4.チアゾリジン薬を追加、5. DPP-4阻害薬を追加、6. SGLT2阻害薬を追加、7. BG薬とDPP-4阻害薬の配合剤への切り替え、8. その他配合剤への切り替え、9. DPP-4阻害薬(配合剤以外)への切り替え、10. DPP-4阻害薬以外の薬剤(配合剤以外)への切り替え、11.その他―の分類から処方状況を聞いた(図6)。図6を拡大する最も多かったのは前年に引き続きDPP-4阻害薬の追加(55.1%)であった。SGLT2阻害薬の追加(13.2%)を選択する医師の割合は、前年比で5.2ポイント増となり、2番目に多い選択肢となっている。回答医師の属性が糖尿病・代謝・内分泌科とその他の診療科を比較すると、専門医で最も多かったのはDPP-4阻害薬の追加(52.2%)で、次いでSGLT2阻害薬の追加(16.3%)となっていた。その他の診療科と比べると、DPP-4阻害薬の追加が少なく、SGLT2阻害薬の追加が多い傾向がみられた(図7)。図7を拡大する(4)薬剤選択の際に重要視する項目本調査では、薬剤を選択する際に重要視する項目についても聞いている(複数回答)。最も多いのは昨年に続き「低血糖をきたしにくい」で、77.8%の医師が挙げている。以下、「重篤な副作用がない」(65.0%)、「血糖降下作用が強い」(64.0%)などが続き(図8)、例年と大きな変化はみられなかった。図8を拡大する(5)配合剤に対する認知状況と処方意向今年度から新たに、配合剤の認知度や処方意向についても聞いている。配合剤がラインナップにあることが薬剤の選択理由のひとつになるかという問いに対しては、「とてもそう思う」、「そう思う」、「まあそう思う」と答えた医師が全体の7割強となった。また、処方したいと思う配合剤の組み合わせについて、1. DPP-4阻害薬とビグアナイド薬の配合剤、2. DPP-4阻害薬とSGLT2阻害薬の配合剤、3.上記以外の配合剤、4. 配合剤を処方するつもりはない―の4項目について聞いたところ(複数回答)、DPP-4阻害薬とビグアナイド薬の配合剤について63.4%の医師が処方意向を示した(図9)。図9を拡大する開発中、または開発検討中の配合剤の認知度について、1. シタグリプチン/イプラグリフロジンの配合剤、2. リナグリプチン/エンパグリフロジンの配合剤、3. アナグリプチン/メトホルミンの配合剤、4.なし―の4項目を聞いたところ(複数回答)、「なし」と答えたのは47.0%で、5割強の医師が開発中の何らかの配合剤を認知しているという結果となった。さらに、認知している配合剤が今後発売された場合、どのように処方したいかという問いに対しては、リナグリプチン/エンパグリフロジンの配合剤について52.0%の医師が「発売時より処方を検討していきたい」と回答し、処方意向が比較的高い傾向がみられた(図10)。図10を拡大するインデックスページへ戻るなお、本データはアンケートを用いた集計結果であり、処方実態を反映しているものではございません。

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第6回 アルコールを上手に断る裏ワザ【実践型!食事指導スライド】

第6回 アルコールを上手に断る裏ワザ医療者向けワンポイント解説納涼会や夏のイベントをはじめ、患者さんがアルコールの席に参加する機会は、1年を通してあるかと思います。「飲みの席では強引に勧められてしまって断りづらい」「やっぱり誘惑に負けて飲んでしまう」そんな理由をお持ちの患者さんに向けた、場を壊さずにアルコールを断る上手な裏ワザをご紹介します。写真の3つのグラス。どれがアルコール入りで、どれがソフトドリンクかお分かりでしょうか?アルコールとして見た場合、左がウイスキー、真ん中がハイボール、右がジンバックやウーロン茶割りに見えませんか?実は、この3つ、どれもソフトドリンクです。左はウーロン茶、真ん中は炭酸水にカットレモンを入れたもの、右はジンジャーエールです。このような、アルコールの席で役立つ「アルコール風ドリンクを用意する方法」を紹介します。まず以下の物をあらかじめ店員に依頼します。ソフトドリンクをアルコールが入っているグラスと同じものに入れてもらうカットレモンや氷これらを「炭酸水にレモンを入れたものを私に持って来てもらえますか?」「カットレモンだけをお皿にください」などと、注文時やトイレに立つ際にお願いすることがポイントです。この一言で、アルコール風のドリンクを手元に置いておくことができます。このように、アルコール風のドリンクが手元にあれば、無理に進められることもありませんし、「飲んでいる?」と聞かれたら「飲んでいます!」と答えられます。みんなでワイワイと飲んでいるときに、「場を乱したら…」とか「断りづらい」と思っている方にはオススメの方法です。また、アルコール量を減らしたいと思っている方にも、この方法はオススメです。アルコールグラスの横に、必ずこのようなドリンクを用意し、アルコールと交互に飲むようにすると、これだけでペースを落とすことができます。とはいえ、飲酒が好きな方にとって、アルコールの席は誘惑が多いものです。アルコール摂取によるリスクとして1)アルコール自体のカロリーだけでなく、食欲増進効果がある、2)血糖値に影響を与える(インスリン注射を含む薬物治療中の方は、低血糖を起こしやすい)、3)中性脂肪増加作用、4)肝臓への負担、があります。患者さんにはこうした認識のもとで、禁酒の必要性を理解し、誘惑の多いイベントなどをコントロールしてもらうことも大切です。

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DPP-4阻害薬とSGLT2阻害薬の配合剤「スージャヌ配合錠」【下平博士のDIノート】第8回

DPP-4阻害薬とSGLT2阻害薬の配合剤「スージャヌ配合錠」今回は、「シタグリプチンリン酸塩水和物/イプラグリフロジンL-プロリン配合錠(商品名:スージャヌ配合錠)」を紹介します。本剤は、DPP-4阻害薬とSGLT2阻害薬の配合剤であり、異なるアプローチにより血糖コントロールの継続・改善が期待されます。<効能・効果>2型糖尿病の適応で、2018年3月23日に承認され、2018年5月22日より販売されています。配合成分のシタグリプチンは、選択的にDPP-4を阻害し、活性型インクレチンを増加させることで、血糖依存的にインスリンの分泌を促進し、グルカゴンの分泌を抑制して血糖低下作用を示します。一方、イプラグリフロジンは選択的にSGLT2を阻害し、腎臓でのブドウ糖再取り込みを抑制することで、尿と共に糖を排出してインスリン非依存的な血糖低下作用を示します。なお、本剤を2型糖尿病治療の第1選択薬として用いることはできません。<用法・用量>通常、成人には1日1回1錠(シタグリプチン/イプラグリフロジンとして50mg/50mg)を朝食前または朝食後に経口投与します。<副作用>国内臨床試験(シタグリプチン50mgおよびイプラグリフロジン50mgを1日1回併用投与)において、220例中28例(12.7%)に副作用が認められています。主なものは頻尿13例(5.9%)、口渇6例(2.7%)、便秘6例(2.7%)でした(承認時)。<患者さんへの指導例>1.このお薬は、2種類の成分の配合剤で、体内のインスリン分泌を促す作用と、尿中に糖分を排泄させる作用により血糖値を下げます。2.低血糖症状(ふらつき、冷や汗、めまい、動悸、空腹感、手足のふるえ、意識が薄れるなど)が現れた場合は、十分量の糖分(砂糖、ブドウ糖、清涼飲料水など)を取るようにしてください。α-グルコシダーゼ阻害薬を服用中の場合は、ブドウ糖を取るようにしてください。3.過剰な糖が尿で排出されるため、尿路感染症(尿が近い、残尿感、排尿時の痛みなど)が生じることがあります。このような症状が現れた場合は、医師に相談してください。4.尿の量や排尿回数が増えることにより、脱水が生じることがあるので、多めに水分を補給してください。<Shimo's eyes>本剤の名称は、配合成分であるイプラグリフロジンの商品名「スーグラ」とシタグリプチンの商品名「ジャヌビア」が由来となっています。SGLT2阻害薬とDPP-4阻害薬という作用機序の異なる2つの薬剤を配合したことで、相補的な血糖降下作用が期待されます。それぞれの薬剤を単剤で服用した場合の薬価が、スーグラ錠50mg(200.20円/錠)とジャヌビア錠50mg(129.50円/錠)で合計329.70円なのに対し、スージャヌ配合錠は263.80円/錠なので、1日薬価を80%程度に抑えることができます※。本剤は、シタグリプチン50mgまたはイプラグリフロジン50mgの単剤治療で効果不十分な場合、あるいはすでにシタグリプチン50mgとイプラグリフロジン50mgを併用し、状態が安定している場合に切り替えて使用します。各単剤で効果不十分の場合は錠数を増やさず併用療法に移行でき、すでにそれぞれの薬剤を併用している場合は、薬剤数を削減できることから服薬アドヒアランスが向上し、長期にわたる安定した血糖コントロールが期待できます。なお、本剤はシタグリプチンおよびイプラグリフロジンと同様の効能・効果、用法・用量の組み合わせであり、実質的に既収載品によって1年以上の臨床使用経験があると認められました。そのため、新医薬品に係る通常14日間の処方日数制限は設けられていません。※2018年8月時点

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「暑くて運動できない」と嘆く患者さん【Dr. 坂根の糖尿病外来NGワード】第21回

■外来NGワード「涼しい時間帯に運動しなさい!」(患者の生活リズムを配慮しない)「プールで運動しなさい」(周辺の運動施設を確認しない)「家の中で何か運動しなさい!」(あいまいな運動指導)■解説 「暑くて運動できない」と嘆く患者さんがいます。こういった患者さんは、比較的長時間の有酸素運動だけが運動療法だと思い込んでいるかもしれません。ウォーキングなどの有酸素運動以外では、スクワットなどの筋力トレーニングも糖尿病に有効な運動療法の1つです。筋トレをすることで、インスリンのシグナル伝達・ミトコンドリア機能の改善、体脂肪の減少などにより、インスリン感受性がよくなります1,2)。その結果、血糖コントロールと筋力の改善効果がみられます3,4)。ただし、息を止めた筋トレで血圧が上昇しないように、注意を促しておきましょう。ジムなどで専門家の管理下に行う筋トレが最も効果が高いのですが、自宅で自分の体重を用いて筋トレを行うこともできます。まずは、過去の運動歴を聞いてみましょう。運動部などで筋トレの経験がある人ならいいですが、そうでない場合は自己流の筋トレになっている可能性があるので注意が必要です。正しいやり方をロールプレイングすることで、モチベーションを上げてもらいましょう。 ■患者さんとの会話でロールプレイ医師最近、運動はできていますか?患者頑張って歩いていたんですが、最近は暑くてなかなかできなくて…。医師確かに、夏は暑いですからね。無理に運動して熱中症になっても困りますし。患者そうなんです。どうしたものかと…(悩んでいる顔)。医師涼しい時間帯に外を歩いたり、プールを利用している人もいるんですが…(第三者の話として紹介し、患者の反応をみる)。患者そうしたいんですが、近くにプールがないんです(抵抗)。医師なるほど。若い頃はどんなスポーツや運動をされていましたか(過去の運動歴の確認)?患者学生時代は柔道をしていました。黒帯まで取ったんです。医師それはすごいですね。それなら、涼しい家の中でできる、いい運動がありますよ!患者それは何ですか(興味津々)?医師そこで立ち上がって、膝を軽く曲げてみて下さい。膝が爪先より先に出ると、太腿の後ろの筋肉は緩んでしまいますね(正しいスクワットの姿勢を説明)。患者スクワットですね! …本当だ。だけど、このままだと後ろに倒れそうです。医師そこで、バランスを取るために腕を前に出します。そして、ゆっくりと腰を落としてみましょう。血圧を上げないために、声を出しながらやるといいですね。1、2、3、…(10までゆっくりと数え、血圧が上がらない工夫を説明)。患者1、2、3…。医師膝を痛めますから、90度より曲げる必要はありません。110度くらいで2秒キープして、立ち上がります。患者1、2でキープ、3で立ち上がるですね。何回くらいやったらいいんですか?医師1セット10回程度ですね。少し休んで、合計3セットが目標です。これを週に2、3回やってみましょう。患者これなら家でもできそうです(うれしそうな顔)。■医師へのお勧めの言葉「涼しい家の中でできる、いい運動がありますよ!」(筋トレを説明)1)American Diabetes Association. Diabetes Care 2018;41:S38-S50.2)Strasser B, et al. Biomed Res Int. 2013;2013:805217.3)Irvine C, et al. Aust J Physiother. 2009;55:237-246.4)McGinley SK, et al. Acta Diabetol. 2015;52:221-230.

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メトホルミン単独療法で血糖コントロールが不十分な患者へのSU薬の上乗せは心血管イベント・総死亡のリスクを増加しない(解説:住谷哲氏)-900

 低血糖と体重増加のリスクはすべてのSU薬に共通であるが、SU薬が2型糖尿病患者の心血管イベントおよび総死亡のリスクを増加させるか否かは現在でも議論が続いている。発端は1970年に発表されたUGDP(University Group Diabetes Program)1)において、SU薬であるトルブタミド投与群で総死亡リスクが増加したことにある。その後の研究でこの疑念は研究デザイン上の不備によることが明らかとなり、トルブタミドと総死亡リスク増加との間には関連がないことが証明された。しかし安全性を重視するFDAはUGDPの結果に基づいて、現在においてもすべてのSU薬の添付文書に“increased risk of cardiovascular mortality”と記載している。 1998年に発表されたUKPDS 33が実施された目的の1つは、UGDPで疑われたSU薬の総死亡リスク増加の可能性を再検討することであった。その結果、SU薬は低血糖、体重を増加させるが細小血管合併症を減少し、心血管イベントおよび総死亡のリスクを増加させないことが明らかにされた。それでは低血糖、体重増加のリスクはあるが、心血管イベントおよび総死亡のリスクは増加させないSU薬は血糖降下薬の第1選択薬となりうるかといえば否である。その理由はメトホルミンがUKPDS 34において2型糖尿病患者の総死亡のリスクを減少させることが明らかにされたからである。UKPDS 33/34の結果を合わせて考えると、2型糖尿病患者の心血管イベントおよび総死亡のリスクに関して、SU薬はneutralであり、メトホルミンはbeneficialである、とするのが正しい解釈と思われる。初回治療患者(これまでに一度も血糖降下薬を投与されたことがない患者)に投与することで総死亡を減少させた血糖降下薬は、現在までメトホルミンのみである。したがって、何らかの理由でメトホルミンが投与できない初回治療患者にSU薬を投与することは、低血糖および体重増加のリスクを許容する条件下で正当化される。 ではメトホルミン単独療法で血糖コントロールが不十分である場合に、次にどの薬剤を上乗せすべきだろうか? 次々に発表されるCVOT(cardiovascular outcome trial)の結果に基づいて、ASCVD(atherosclerotic cardiovascular disease)を有する患者においてはSGLT2阻害薬またはGLP-1受容体作動薬がメトホルミンへ上乗せすべき薬剤として推奨されつつある。しかし現実には、安価なSU薬がメトホルミンへの上乗せ薬剤として多く使用されている。そこで本論文では、メトホルミン単独療法で血糖コントロールが不十分である患者において、SU薬への切り替え、または上乗せが、心血管イベント、総死亡、重症低血糖のリスクの増加と関連するか否かを検討した。これまでメトホルミン単独療法で血糖コントロールが不十分である患者のメトホルミンをSU薬に切り替えた際に、心血管イベント、総死亡、重症低血糖のリスクが増加するか否かを検討したランダム化比較試験および観察研究はない。メトホルミン単独療法で血糖コントロールが不十分である患者へSU薬を上乗せした際の有効性と安全性を検討したランダム化比較試験には、昨年発表されたTOSCA.IT2)があるが、これはピオグリタゾンとの比較であり、SU薬の有効性および安全性を厳密には評価できない。 リアルワールドエビデンスはランダム化比較試験の短所を補完するエビデンスとして近年脚光を浴びているが、厳密な手法を用いない解析は観察研究であるが故に多くのバイアスを含んでいる可能性がある。本論文の著者であるSuissa博士は著名な疫学者であるが、これまでメトホルミン3)、SU薬4)、SGLT2阻害薬5)に関する観察研究においてバイアスを適切に制御しなかった結果、誤った結論が導かれている可能性を指摘してきた。本研究では彼らが開発したprevalent new-user design6)を用いて、メトホルミン単独療法で血糖コントロールが不十分な患者に対するsecond-line(メトホルミンからの切り替え、またはメトホルミンへの上乗せ)としてのSU薬と心血管イベント、総死亡、重症低血糖との関連を検討した。 テキストでは切り替え群と上乗せ群がまとめて報告されているために理解が困難な点があるので、SupplementのeTable5を参考にする必要がある。eTable5の結果をまとめると、メトホルミンからSU薬への切り替え群では、メトホルミン単独療法継続と比較すると心筋梗塞(HR:1.73、95%CI:1.32~2.26)、心血管死(HR:1.56、1.24~1.97)、全死亡(HR:1.60、1.39~1.84)、重症低血糖(HR:8.14、4.74~13.98)はリスク増加を認めたが、虚血性脳卒中(HR:1.21、0.89~1.65)は増加を認めなかった。一方、SU薬の上乗せ群では、心筋梗塞(HR:1.02、0.79~1.31)、虚血性脳卒中(HR:1.26、0.97~1.63)、心血管死(HR:0.95、0.75~1.20)、全死亡(HR:1.09、0.95~1.25)にリスク増加を認めなかったが、重症低血糖はHR 7.27(4.34~12.16)とリスク増加を認めた。 筆者は、メトホルミン単独療法で血糖コントロールが不十分なためにSU薬へ切り替えたことはほとんどない。他の血糖降下薬を上乗せするのが常である。英国ではこの目的でメトホルミンからSU薬へ切り替えることが一般的かどうかは不明であるが、メトホルミンからSU薬に切り替えるとすればメトホルミンの継続使用が困難な場合だろう。このような場合は患者の予後が不良なことも多く、その結果、総死亡が増加した可能性は否定できない。またSU薬は初回治療患者において心血管イベントおよび総死亡のリスクに関してneutralであることから、切り替え群のみでリスクの増加が認められたのは、メトホルミンを中止することでメトホルミンの持つ心血管イベント、総死亡リスク減少作用がなくなったからとも考えられる。さらに上乗せ群では切り替え群と同程度の重症低血糖が発生しているにもかかわらず、心血管イベント、総死亡のリスクは増加していない。重症低血糖が心血管イベントおよび総死亡のリスク増加の原因として論じられることが多いが、UKPDS 33およびDEVOTE7)(持効型インスリンアナログであるグラルギンU100とデグルデクのランダム化比較試験)の結果はその考えを支持しておらず、重症低血糖と心血管イベントおよび総死亡との関連はそれほど強いものではないのかもしれない。またはメトホルミンには、重症低血糖から心血管イベントへの流れを遮断する何らかの作用がある可能性も考えられる。最後に、上乗せ群でのHbA1cの変化が記載されていないので不明であるが、上乗せ群ではHbA1cが低下したと考えるのが普通だろう。それにもかかわらず心血管イベント、総死亡のリスクは減少しなかった。SU薬を開始した時点でHbA1c>8.0%の患者が50%以上含まれていること(Table 1)を考えると、心血管イベント、総死亡のリスク減少を目的とするのであればSU薬を上乗せすることなく、HbA1c高値を許容してメトホルミン単独療法を継続するほうが重症低血糖のリスクも増加せず、患者にとってはメリットがあることになる。 それでは、メトホルミン単独療法で血糖コントロールが不十分な場合はどうすればよいのか? SU薬のHbA1c低下作用、細小血管合併症抑制作用は確立されている。本論文の結果から、メトホルミンに上乗せする場合においても心血管イベント、総死亡のリスクは増加しないことが示された。メトホルミンへの上乗せにDPP-4阻害薬やSGLT2阻害薬を処方せずにSU薬を処方する際に感じるなんとなく後ろめたい気持ちは、これからは持つ必要はなさそうである。■参考文献はこちら1)Meinert CL, et al. Diabetes. 1970;19:Suppl:789-830.2)Vaccaro O, et al. Lancet Diabetes Endocrinol. 2017;5:887-897.3)Suissa S, et al. Diabetes Care. 2012;35:2665-2673.4)Azoulay L, et al. Diabetes Care. 2017;40:706-714.5)Suissa S. Diabetes Care. 2018;41:6-10.6)Suissa S, et al. Pharmacoepidemiol Drug Saf. 2017;26:459-468.7)Marso SP, et al. N Engl J Med. 2017;377:723-732.

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第2回 重症低血糖を防ぐために【高齢者糖尿病診療のコツ】

第2回 重症低血糖を防ぐためにQ1 低血糖により高まるリスクにはどのようなものがありますか?高齢者の低血糖はさまざまな悪影響を及ぼします(表1)。軽症の低血糖でも認知機能障害を及ぼすことがあるため注意が必要です。また、低血糖の頻度が多くなるとうつ症状や糖尿病負担感の増加をもたらし、QOL低下を招きます。低血糖があると転倒や骨折が起こりやすくなり、重症化すると心血管疾患、うつ、認知症、および死亡のリスク因子ともなります。さらに重症低血糖と認知症、うつ、フレイルは相互に悪循環をもたらします。画像を拡大するQ2 高齢者で低血糖が起こりやすくなる理由、若年者とは違う“非典型的な”症状とは?高齢者(とくに75歳以上)で重症低血糖を起こしやすくなる原因は、(1)腎機能障害による経口血糖降下薬の蓄積、(2)加齢による低血糖症状の変化、(3)急な食事摂取量の低下、(4)低血糖の対処能力の低下、(5)薬剤の誤用などがあります(図1)。画像を拡大するとくに80歳以上では、腎機能障害(eGFR 45mL/分/1.73 m2未満)の頻度が多くなり、腎排泄の経口血糖降下薬(とくにSU薬)の蓄積をもたらします。持続時間が長いSU薬では、重症低血糖だけでなく、ブドウ糖投与で一時回復後も低血糖が持続する「遷延性低血糖」もきたしやすい点に注意が必要です。低血糖の典型的な自律神経症状である発汗、動悸、手のふるえなどが60歳以上では出にくくなり、無自覚性低血糖が起こりやすくなります。高齢者の低血糖では、頭がくらくらする、体がふらふらする、めまい、脱力感といった非典型的な症状であらわれることが多いので、見逃さないように注意が必要です。そのほか、目が見にくい、ろれつ不良、動作がぎこちない、片麻痺、物事の段取りがうまくいかない、意欲低下、せん妄などの神経・精神症状が起こる場合もあります。高齢者では肺炎などの急性疾患によって、急激に食事摂取量が低下することが多くなり、嘔吐、下痢などの消化器症状をきたすこともあります。こうしたシックデイ時に、SU薬やインスリンを通常量で服用・投与してしまうと、重症低血糖をきたす恐れがあるので、SU薬の減量・中止やインスリンの減量を適切に行うことが重要です。また、欠食などの食生活の乱れが低血糖の誘因になる場合もあります。認知症を合併した糖尿病患者では、低血糖への対処ができないために、さらに重症低血糖のリスクが高まります。普段は認知機能が正常な高齢者であっても、血糖値が47~54mg/dLになると認知機能障害を起こすことが知られています(図2)。軽度の低血糖であっても、実行機能障害、注意力低下、判断力低下などの認知機能障害を起こし、ブドウ糖をとるといった低血糖の対処ができなくなる事態が起こり得ます。この低血糖による認知機能障害は、認知症と異なり血糖値の正常化により回復することが多いので、ブドウ糖投与で症状が改善するかどうかを確認します。画像を拡大するQ3 どのような患者が低血糖を起こしやすいのでしょうか?表2に重症低血糖を起こしやすい患者の特徴を示します。加齢と関連する特徴としては、とくに認知機能障害の重症度が進むにつれて、低血糖リスクも高くなることに注意が必要です(図3)。画像を拡大する画像を拡大する Q4 低血糖を何とか未然に防ぐ“コツ”はあるでしょうか?1)低血糖の予測経口血糖降下薬を使用している場合、HbA1c 7.0%未満(または空腹時血糖110mg/dL未満)で低血糖リスクが加速度的に高まるので9)、低血糖とみられる症状がないか問診を行います。またインスリン使用者ではHbA1c高値でも、低血糖が起こる可能性を考える必要があります。2)SU薬の減量・中止SU薬はeGFRで腎機能を評価しながら、できるだけ少量で用います。eGFR 45mL/分/1.73m2未満で減量、eGFR30mL/分/1.73m2未満で原則中止とされています。高齢者ではグリベンクラミドの使用を控え、グリメピリドは0.5mg/日でも低血糖が起こりうることに注意が必要です。グリクラジドが最も低血糖のリスクが小さく、10~20mg/日の少量で使用します。HbA1c6.5%未満または何らかの低血糖の症状がみられた場合には、SU薬をさらに減量すべきでしょう。最終的には、グリクラジド10~20mg/日かグリニド薬に変更します。3)血糖自己測定の活用とインスリンの減量インスリン治療中、HbA1cが高くても低血糖リスクが高まるのは、日内または日差の血糖変動が大きいために、血糖値やHbA1cの値だけでインスリンを増量すると低血糖を起こしやすいことが原因と考えられます。したがって、血糖測定を毎食前と眠前の1日4回行い、血糖変動をみながらインスリン量を慎重に調節することが重要になります。同じ時間帯に血糖100mg/dL未満が連続する場合には、責任インスリン(その時間の血糖値に最も影響を及ぼしているインスリン)を1~2単位減量できないか検討するとよいでしょう。SU薬でもインスリン治療でも、低血糖は午前5時、6時台の発生が最も多くなります。したがって、早朝5時の血糖測定を行うことができれば理想的です。午前5時の血糖値100mg/dL未満が連続する場合も、インスリンの減量を検討します。4)柔軟な血糖コントロール目標日本糖尿病学会と日本老年医学会の合同委員会による「高齢者の血糖コントロール目標 (HbA1c値)」では、重症低血糖が危惧される薬剤(インスリンやSU薬、グリニド薬など)の使用がある場合は、重症低血糖を防ぐために目標値を甘めに設定しており、さらに目標下限値も設定しています。もし目標下限値を下回ったら、問診、またはSMBG、CGM、FGMなどを活用して低血糖の評価を行うべきでしょう。低血糖がなければ現在の治療を継続しますが、無自覚性低血糖がある場合は、それらの薬剤を減量します。例えばHbA1c6.0%未満など、下限値を大きく下回る場合は、その時点でSU薬やインスリンの減量を考慮したほうがよいでしょう。5)低血糖教育高齢者では重症低血糖のリスクが高い患者に対して、患者のみならず介護者を含めて、低血糖教育を行うことが大切になります。(1)高齢者の低血糖の非典型的な症状とその対処法、(2)毎食炭水化物を摂取し、欠食や極端な炭水化物制限をしないこと、(3)運動時の低血糖に注意すること、(4)食事摂取量が低下した場合や下痢、嘔吐の場合にはSU薬を減量・中止、またはインスリンを減量すること、を理解してもらうことが必要です。 1)Warren RE, Frier BM. Diabetes Obes Metab. 2005;5:493-503.2)Araki A, et al. J Am Geriatr Soc. 2004;52:205-10.3)Laiteerapong N, et al. Diabetes Care. 2011;34:1749-53.4)Johnston SS, et al. Diabetes Obes Metab. 2012;14:634-43.5)Chiba Y, et al. J Diabetes Complications. 2015;29:898-902.6)Pilotto A, et al. Biomed Res Int. 2014 Feb 13.[Epub ahead of print]7)Whitmer RA, et al. JAMA. 2009;301:1565-72.8)Goto A, et al. BMJ. 2013 Jul 29;347:f4533.9)Bramlage P, et al. Cardiovasc Diabetol. 2012;11:122. 10)Feil DG, et al. J Am Geriatr Soc. 2011;59:2263-72.

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新規糖尿病治療薬imeglimin、日本での第III相試験の患者登録完了

 代謝性疾患の革新的な治療薬の研究開発に取り組んでいるフランスのバイオ医薬品企業POXEL SA(以下Poxel社)は、開発中の2型糖尿病治療薬imegliminの日本における第III相試験であるTIMES 1試験の患者登録が2018年7月3日に完了したことを発表した。本剤に関して、今年6月の第78回米国糖尿病学会(ADA)のサイエンスセッションで、前臨床モデルにおけるimeglimin独自の作用機序に関連した新規知見が発表されている。 imegliminは、世界保健機関(WHO)によって新たな化合物クラスである「Glimins」として登録され、同クラスとして初めて臨床試験が実施されている。本剤は、ミトコンドリアの機能を改善するという独自のメカニズムを有しており、また、2型糖尿病治療において重要な役割を担う3つの器官(肝臓・筋肉・膵臓)において、グルコース濃度依存的なインスリン分泌の促進、インスリン抵抗性の改善および糖新生の抑制という作用を示し、血糖降下作用をもたらすことが期待されている。さらに本剤の作用機序は、糖尿病によって引き起こされる細小血管・大血管障害の予防につながる血管内皮機能および拡張機能の改善作用や、膵臓β細胞の保護作用を有する可能性も示唆されている。 本剤の日本における第III相試験であるTIMES試験(Trials of Imeglimin for Efficacy and Safety)は、合計約1,100例の患者を対象とした3本のピボタル試験で構成されている。TIMES 1試験は、200例を超える日本人2型糖尿病患者を対象とした、多施設共同、二重盲検、プラセボ対照比較、無作為化、単剤療法試験である。TIMES 2およびTIMES 3試験の登録も2018年下半期の完了が期待されており、Poxel社は、提携する大日本住友製薬と緊密に連携し、2020年に予定している日本での承認申請をサポートするという。 2018年6月25日に開催された第78回米国糖尿病学会(ADA)のサイエンスセッションでは、前臨床モデルにおけるimeglimin独自の作用機序に関連した重要な新規知見が発表された(タイトル「Imeglimin Protects Ins-1 Cells and Human Islets Against High Glucose and High Fructose-induced Cell Death by Inhibiting the Mitochondrial PTP Opening」)。研究グループの一人であるフランス・グルノーブルアルプス大学のEric Fontaine氏は、このデータから、細胞死に関与するミトコンドリアのチャネルmPTPの開口を阻害する独自の作用機序によって、フルクトースおよびグルコースが誘発する細胞毒性によるβ細胞の細胞死に対して、imegliminが防御機能を有することが確認されたと述べている。

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糖尿病入院患者の血糖コントロールは人工膵臓で自動化されるか?(解説:住谷哲氏)-893

 糖尿病患者数の増加に伴って糖尿病を合併した入院患者の割合も増えている。その結果、筆者も含めて多くの先生方は、血糖コントロール目的以外で他科に入院している患者の血糖コントロールを依頼されることになる(大阪では共観といいます)。ほとんどの患者は感染症、心不全などの治療や手術目的の入院であり、その血糖コントロール目標も<180mg/dLとほぼ確立している。また治療法も基本は持効型インスリンと超速効型インスリンによるBasal-bolus therapyになる。食事をしている患者であれば毎食前および就眠前の4回の自己血糖測定を実施してインスリン量を調節する。これが研修医にとっての大切なトレーニングになっているのであるが、将来このトレーニングも不要になるかもしれないような報告である。 Closed-loop insulin delivery system(以下、人工膵臓とする)は1型糖尿病患者においては実用化しつつあるが、2型糖尿病患者においてはまだ実用化には至っていない。本論文の著者らは、すでに先行研究において2型糖尿病患者における人工膵臓を用いたRCTでその有効性を報告している1)。今回の報告は、前報では英国のみであった実施施設をスイスも含めた2箇所にしたことと、人工膵臓の装着期間を3日から15日まで延長した点が新しい。 結果は血糖値が目標範囲内(100~180mg/dL)であった時間の割合(平均±SD)は、人工膵臓群65.8±16.8%、対照群41.5±16.9%で人工膵臓群が有意に高値であった(p<0.001)。平均血糖値も人工膵臓群154mg/dL、対照群188mg/dLであった(p<0.001)。また低血糖の時間、インスリン投与量に両群間で差はなかった。 筆者も以前は20人以上の共観患者のインスリン量を調節していたこともあるが、当然ながらかなりの労力を要した。人工膵臓の使用が実用化すれば、われわれ医師を含めた医療スタッフの負担は軽減されるのは確実だろう。しかし本試験で示された、人工膵臓で得られる血糖コントロールの改善が、何らかの臨床アウトカムの改善に結びつくか否かは、現時点では不明である。この点が明らかにされるまでは、研修医のためのトレーニングの機会がなくなることはないだろう。

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抗精神病薬の代謝への影響に関するランダム化比較試験

 青少年の非精神病性の破壊的行動障害の治療において、抗精神病薬は一般的に使用されている。米国・セントルイス・ワシントン大学のGinger E. Nicol氏らは、青少年の初回抗精神病薬曝露と代謝への影響を検討するため、身体計測とインスリン感受性の標準的な評価を用いて調査を行った。JAMA psychiatry誌オンライン版2018年6月13日号の報告。 1つ以上の精神疾患および臨床的に有意な攻撃性を有すると診断され、抗精神病薬治療が考慮された、ミズーリ州セントルイスの抗精神病薬を処方されていない青少年(6~18歳)を対象とし、ランダム化臨床試験を実施した。対象は、2006年6月12日~2010年11月10日に登録され、小児の破壊的行動障害に一般的に使用される3種類の経口抗精神病薬のいずれかを投与する群にランダムに割り付けられ、12週間の評価を受けた。データ解析は、2011年1月17日~2017年8月9日に実施された。主要アウトカムは、全体脂肪率(DXA法[二重エネルギーX線吸収法]で測定)と筋肉のインスリン感受性(安定同位体でラベルされたトレーサーによる高インスリンクランプを介して測定)とした。副次的アウトカムは、腹部肥満(MRIで測定)、脂肪および肝組織のインスリン感受性(トレーサーによるクランプを介して測定)とした。 主な結果は以下のとおり。・対象は144例(男性:98例[68.1%]、平均年齢[SD]:11.3[2.8]歳)、アフリカ系米国人が74例(51.4%)、ベースライン時の過体重または肥満患者は43例(29.9%)であった。・アリピプラゾール群49例、オランザピン群46例、リスペリドン群49例にランダムに割り付けられ、12週間の治療が行われた。・ベースラインから12週目までの主要アウトカムについて、DXAによる全体脂肪率は、リスペリドン群1.18%増加、オランザピン群4.12%増加、アリピプラゾール群1.66%増加であり、リスペリドン群およびアリピプラゾール群よりもオランザピン群において有意に大きかった(治療相互作用による時間:p<0.001)。・ベースラインから12週目までのインスリン刺激による骨格筋の糖取り込み率の変化は、リスペリドン群2.30%増加、オランザピン群29.34%減少、アリピプラゾール群30.26%減少であり、薬剤間に有意な差は認められなかった(治療相互作用による時間:p<0.07)。・インスリン感受性の主要な測定値は、プールされた試験サンプルにおいて、12週間有意に減少した。・ベースラインから12週目までの副次的アウトカムについては、リスペリドン群またはアリピプラゾール群よりもオランザピン群において、皮下脂肪の有意な増加が認められた(治療による時間:p=0.003)。・すべての群において、行動の改善が認められた。 著者らは「青少年に対する12週間の抗精神病薬治療中に、脂肪量およびインスリン感受性の有害な変化が認められ、オランザピンにおいて最も大きな脂肪量の増加が認められた。このような変化は、治療に起因するものであると考えられ、早期の心筋代謝性罹患率および死亡率のリスクと関連している可能性がある」とし、「青少年に対する抗精神病薬使用はリスクとベネフィットを考慮する必要がある」としている。■関連記事破壊的行動障害に対する非定型抗精神病薬使用小児攻撃性に対する抗精神病薬の効果~メタ解析第二世代抗精神病薬によるインスリン分泌障害の独立した予測因子は

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クローズドループシステムの人工膵臓、入院中の2型DMに有用/NEJM

 非集中治療下の2型糖尿病(DM)患者において、クローズドループ型インスリン注入システム、いわゆる人工膵臓の使用は、従来のインスリン療法と比較して、低血糖リスクは上昇せず血糖コントロールを有意に改善することを、スイス・ベルン大学のLia Bally氏らが、非盲検無作為化試験で明らかにした。DM患者は、入院すると急性疾患に対する代謝反応の変動、食事摂取の量やタイミングの変化、薬物性の一時的なインスリン感受性の急速な変化などによって、血糖コントロールの目標達成が難しくなることがある。クローズドループ型インスリン注入システムは、1型DM患者において血糖コントロールを改善できるという報告が増えていた。NEJM誌オンライン版2018年6月25日号掲載の報告。人工膵臓と従来のインスリン療法の血糖コントロールを比較 研究グループは、英国とスイスにある第3次病院において、一般病棟に入院中のインスリン療法を必要とする18歳以上の2型DM患者136例を、クローズドループ型インスリン注入システム(人工膵臓)群(70例)と、従来の皮下投与によるインスリン療法を受ける対照群(66例)に無作為に割り付けた。 両群とも、血糖値はAbbott Diabetes Care社の持続血糖測定器(CGM)Freestyle Navigator IIを用いて測定した。人工膵臓群では、インスリン注入は完全に自動化され、CGMの低血糖アラームは63mg/dLに設定された。対照群では、CGMのデータは盲検下で、臨床チームが末梢血の随時血糖測定によりインスリン投与量の調整を行った。 主要評価項目は、最大15日間あるいは退院までの期間における、CGMによる血糖値が目標範囲内(100~180mg/dL)であった時間の割合で、intention-to-treat解析にて評価した。人工膵臓群で血糖コントロールが良好 血糖値が目標範囲内であった時間の割合(平均±SD)は、人工膵臓群65.8±16.8%、対照群41.5±16.9%、群間差は24.3±2.9ポイント(95%信頼区間[CI]:18.6~30.0、p<0.001)で、人工膵臓群が有意に高値であった。また、目標範囲を超えていた時間の割合は、それぞれ23.6±16.6%および49.5±22.8%、群間差は25.9±3.4ポイント(95%CI:19.2~32.7、p<0.001)であった。 平均血糖値は、人工膵臓群154mg/dL、対照群188mg/dLであった(p<0.001)。低血糖(CGMによる血糖値が54mg/dL未満)の期間(p=0.80)や、インスリン投与量(投与量中央値は人工膵臓群44.4単位、対照群40.2単位、p=0.50)に関しては、両群で有意差は認められなかった。 重症低血糖あるいは臨床的に重大なケトン血症を伴う高血糖は、両群ともに発生がみられなかった。

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糖尿病での心理的負担が全死亡に影響~日本人男性

 2型糖尿病の日本人男性において、糖尿病に特異的な心理的負担感が全死因死亡と有意に関連することがわかった。天理よろづ相談所病院(奈良県)に通院する糖尿病患者を対象とした大規模レジストリ(Diabetes Distress and Care Registry in Tenri:DDCRT18)を用いた前向きコホート研究の結果を、天理よろづ相談所病院内分泌内科の林野 泰明氏らが報告した。Diabetologia誌オンライン版2018年6月8日号に掲載。 糖尿病患者は、セルフケア(運動、食事療法)や複雑な治療内容(経口血糖降下薬、インスリン注射、自己血糖測定)のために心理的負担感を抱いていることが明らかになっている。本研究では、DDCRT18での2型糖尿病患者3,305例の縦断的データを用いて、心理的負担感をProblem Areas in Diabetes(PAID)スコアで評価し、その後の全死因死亡リスクとの関連を調査。潜在的な交絡因子を調整したCox比例ハザードモデルを用いて、PAIDスコアと全死因死亡との独立した関連を調べた(平均追跡期間:6.1年)。 主な結果は以下のとおり。・研究の集団は、男性2,025例、女性1,280例、平均年齢64.9歳、平均BMI 24.6、平均HbA1c値58.7mmol/mol(7.5%)であった。・多変量調整モデルにおいて、PAIDスコアの第1五分位に対する第2~第5五分位の全死因死亡の多変量調整HR(95%CI)は、順に1.11(0.77~1.60、p=0.56)、0.87(0.56~1.35、p=0.524)、0.95(0.63~1.46、p=0.802)、1.60(1.09~2.36、p=0.016)であった。・サブグループ解析において、男性ではPAIDスコアと全死因死亡との関連がみられた(HR:1.76、95%CI:1.26~2.46)が、女性では認められなかった(HR:1.09、95%CI:0.60~2.00)。糖尿病の心理的負担感と性別との間に、有意な関連(p=0.0336)が認められた。

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第4回 水分摂取と各飲料水の糖分について【実践型!食事指導スライド】

第4回 水分摂取と各飲料水の糖分について医療者向けワンポイント解説水分摂取と各飲料水の糖質比較これからの時期、水分摂取を意識することが増え、ペットボトルを購入する機会も多くなりますが、ここに水分摂取の落とし穴があります。1日の水分摂取量の目安として、水分制限がない場合は約1.5~2.0Lといわれています。これは、コップ1杯を200mLと換算して、8~10杯ほどです。水分には、「酸素や栄養素を運ぶ働き」「老廃物を排泄する働き」「血液を循環させる働き」「汗として体温を調整する働き」「体液の性状を一定に保つ働き」など多くの働きがあります。朝、起きがけの1杯から始め、こまめな水分摂取が必要です。夏の時期、「電解質の多いスポーツドリンクを飲んだほうが良い」と考えている糖尿病患者さんなどが、無意識下で清涼飲料水による糖分の過剰摂取で高血糖や清涼飲料水ケトーシスを引き起こすケースもあります。大手2社のスポーツドリンク(ペットボトル500mL)で清涼飲料水の糖質を比較した場合、A社は23.5g、B社は31gでした。これを1本3gのスティックシュガーで換算すると、A社は約8本分、B社は約10本分に相当します。また、最近では、水と間違えてしまうような清涼飲料水もあります。これでは、水分を摂取しているつもりで、糖質を大量に摂取してしまうことになります。飲料に入っている糖分の問題点は、もう1つあります。裏の表示を見ると「果糖ぶどう糖液糖」「果糖 砂糖」などの表記があります。果糖(フルクトース)やブドウ糖(グルコース)は単糖類に分類され、それ以上加水分解されない糖のため、体内に入るとすぐに腸管から吸収されます。また、液糖であることでより吸収がされやすくなります。吸収された糖は、血糖値の急上昇へつながるため、血糖コントロールへの影響、糖化など、生活習慣病のリスクが高くなります。また、果糖は、内臓肥満やメタボへの影響が強く、米国・カリフォルニア大学デービス校のStanhope氏らは「ヒトにエネルギー比25%のフルクトースを10週間摂取させると、内臓脂肪の増加、脂質代謝異常、インスリン抵抗性の発症が引き起こされる」と報告しています1)。さらに、フルクトースはグレリンの抑制作用がなく、満腹中枢にも働かないため、その点においても肥満を助長させる大きな要因となります。空調のきいた室内にいることが多い、運動などをあまりしないなど、大量に汗をかくような環境ではない方や、食事がきちんと食べられている方は、食事から塩やミネラルが摂れるので、水、お茶、麦茶(ミネラル含有)などを中心に水分を摂取してもらいましょう。まずは清涼飲料水の糖質量の多さを認識してもらうこと、清涼飲料水に多く含まれる果糖摂取のリスクを患者さんに認識してもらうことが大切です。飲み物を買う際には、原材料名が記載されたラベルの確認を習慣にするよう伝えることもお勧めします。1)Stanhope KL, et al. J Clin Invest. 2009;119:1322-1334.

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第1回 高齢者糖尿病は何歳から? 何に注意が必要?【高齢者糖尿病診療のコツ】

第1回 高齢者糖尿病は何歳から? 何に注意が必要?Q1 加齢と糖尿病の関係とは?糖尿病の頻度は加齢とともに増加します。平成28年度の国民栄養調査によると、70歳以上の高齢者で糖尿病が疑われる頻度は男性で23.2%、女性で16.8%となっています(図1)。また、糖尿病患者の中で70歳以上の割合は31.9%を占めています。加齢に伴う糖尿病患者の増加は、加齢に伴うインスリン抵抗性の増加、インスリンの追加分泌の低下、身体活動量の低下などが関係していると考えられています。画像を拡大するQ2 何歳以上を「高齢者糖尿病」として注意すべきでしょうか?高齢者糖尿病は一般に65歳以上の糖尿病を指しますが、「高齢者糖尿病診療ガイドライン2017」では、75歳以上の後期高齢者と機能低下がある一部の前期高齢者が、「高齢者糖尿病」として、とくに注意すべき治療の対象とされています。これは、後期高齢者の糖尿病が前期高齢者の糖尿病と比較して、異なる特徴を示しているからです。第一に、高齢糖尿病患者を対象としたJ-EDIT研究における、MMSE(認知機能検査)の点数をみてみると、65~69歳の患者と比較して75歳以上の患者ではじめて有意に低下します(図2a)。また、日常生活動作であるADLも80歳以上で低下します。同じJ-EDIT研究で老研式活動能力指標を用いて、買い物、金銭管理などの手段的ADL、知的活動、社会的役割を含む高次ADLの障害数を評価したところ、80歳以上で有意に高次ADLの障害数が大きくなります(図2b)。画像を拡大するさらに、高齢者は加齢とともに体組成が大きく変化します。65歳以上の入院高齢糖尿病患者を対象に内臓脂肪面積100cm2以上の蓄積の頻度をみると、75歳以上で内臓脂肪蓄積が増加しています(図3a)。さらに、DEXA法で四肢の筋肉量(除脂肪量)をみると、男女ともに80歳以上で有意に低下しています(図3b)。この内臓脂肪の増加と筋肉量の低下は、インスリン抵抗性を大きくすることで、高齢者糖尿病の病態に大きく関わっています。画像を拡大する腎機能も75~80歳以上で有意に低下します。eGFRcreは筋肉量の影響を受けやすく、eGFRcysや血清シスタチンC濃度の加齢変化をみてみると、80歳以上で有意に増加しています(図4)。この腎機能障害は腎排泄性の薬剤(たとえばSU薬)の蓄積をもたらし、低血糖などの副作用を起こしやすくします。低血糖に関しても、80歳以上の患者で救急外来を受診する低血糖や重症低血糖が起こりやすいことが知られています。この重症低血糖の増加の原因は、上記の薬剤の蓄積しやすさに加えて、急性疾患によって食事摂取が低下しやすいこと、認知機能やADLの低下によって低血糖の対処能力が低下することが考えられます。合併症の中では、80歳以上の患者で脳卒中と心不全が起こりやすいことが知られています。上記に加えて、社会サポートが低下しやすいために、自立した生活を送ることが難しくなるだけでなく、インスリン注射などの糖尿病に関するセルフケアも困難になります。画像を拡大する Q3 「高齢者糖尿病」の治療目的・診断は若壮年者と違うのでしょうか?上記の理由から、「高齢者糖尿病」の治療目的は合併症の予防だけではなく、QOLの維持向上を目指し、さらに認知機能障害、ADL低下、サルコペニアなどの老年症候群を予防することにあります(図5)。また、QOLの維持・向上を図るためには、低血糖などを防ぎ、食のQOLを保つことも大切です。さらに、患者のみならず介護者の治療の負担を軽減することも大切です。なお、高齢者糖尿病の診断は若い人と同様に行います。画像を拡大する

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高血圧・高脂血症の治療は認知症を予防するか

 アルツハイマー病(AD)と血管リスク因子(VRF)の関連について疫学的エビデンスはあるが、VRFの治療が認知症やADの発症率を低下させるのか不明である。今回、スウェーデン・カロリンスカ研究所のSusanna C. Larsson氏らが、認知症およびADの発症におけるVRFの治療の影響について系統的レビューとメタ分析で検討した結果、降圧薬とスタチンが認知症やADの発症率を低下させる可能性が示唆された。Journal of Alzheimer's disease誌オンライン版2018年6月9日号に掲載。 著者らは、PubMedで2018年1月1日までに公表された関連研究から、認知症とAD発症率に対するVRF治療の影響を調査した無作為化比較試験(RCT)と前向き研究を同定した。 主な結果は以下のとおり。・8件のRCTと52件の前向き研究が同定された。・降圧治療により、RCT(5件、相対リスク[RR]:0.84、95%信頼区間[CI]:0.69~1.02)および前向き研究(3件、RR:0.77、95%CI:0.58~1.01)では、有意ではないが認知症リスクが低下し、前向き研究(5件、RR:0.78、95%CI:0.66~0.91)ではADリスクが低下した。・前向き研究において、スタチンによる高脂血症治療により認知症(17件、RR:0.77、95%CI:0.63~0.95)およびAD(13件、RR:0.86、95%CI:0.80~0.92)のリスクが低下したが、スタチン以外の脂質降下薬では低下しなかった。1件のRCTで、スタチンと認知症発症との関連は示されなかった。・1件のRCTおよび6件の前向き研究のデータから、血糖降下薬またはインスリン療法による認知症リスクへの有益な影響は示されなかった。

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第3回 意識障害 その3 低血糖の確定診断は?【救急診療の基礎知識】

72歳男性の意識障害:典型的なあの疾患の症例72歳男性。友人と食事中に、椅子から崩れるようにして倒れた。友人が呼び掛けると開眼はあるものの、反応が乏しく救急車を要請した。救急隊到着時、失語、右上下肢の麻痺を認め、脳卒中選定で当院へ要請があった。救急隊接触時のバイタルサインは以下のとおり。どのようにアプローチするべきだろうか?●搬送時のバイタルサイン意識:3/JCS、E4V2M5/GCS血圧:188/102mmHg 脈拍:98回/分(不整) 呼吸:18回/分SpO2:95%(RA) 体温:36.2℃ 瞳孔:3/3mm+/+10のルールのうち低血糖に注目この症例は前回お伝えしたとおり、左中大脳動脈領域の心原性脳塞栓症でした。誰もが納得する結果だと思いますが、脳梗塞には「血栓溶解療法(rt-PA療法)」、「血栓回収療法」という時間に制約のある治療法が存在します。つまり、迅速に、そして正確に診断し、有効な治療法を診断の遅れによって逃すことのないようにしなければなりません。頭部CT、MRIを撮影すれば簡単に診断できるでしょ?! と思うかもしれませんが、いくつかのpitfallsがあり、注意が必要です。今回も“10’s Rule”(表1)にのっとり、説明していきます1)。今回は5)からです。画像を拡大する●Rule5 何が何でも低血糖の否定から! デキスタ、血液ガスcheck!意識障害患者を診たら、まずは低血糖を除外しましょう。低血糖になりうる人はある程度決まっていますが、緊急性、簡便性の面からまず確認することをお勧めします。低血糖の時間が遷延すると、低血糖脳症という不可逆的な状況となってしまうため、迅速な対応が必要なのです。低血糖によって片麻痺や失語を認めることもあるため、侮ってはいけません2)。低血糖の診断基準:Whippleの3徴(表2)をcheck!画像を拡大する低血糖と診断するためには満たすべき条件が3つ存在します。陥りがちなエラーとして血糖は測定したものの、ブドウ糖投与後の症状の改善を怠ってしまうことです。血糖を測定し低いからといって、意識障害の原因が低血糖であるとは限りません。必ず血糖値が改善した際に、普段と同様の意識状態へ改善することを確認しなければなりません。血糖低値と低血糖は似て非なるものであることを理解しておきましょう。低血糖の原因:臭いものに蓋をするな!低血糖に陥るには必ず原因が存在します。“Whippleの3徴”を満たしたからといって安心してはいけません。原因に対する介入が行われなければ再度低血糖に陥ってしまいます。低血糖の原因は表3のとおりです。最も多い原因は、インスリンやスルホニルウレア薬(SU薬)など血糖降下作用の強い糖尿病薬によるものです。そのため使用薬剤は必ず確認しましょう。画像を拡大するるい痩を認める場合には低栄養、腹水貯留やクモ状血管腫、黄疸を認める場合には肝硬変(とくにアルコール性)を考え対応します。バイタルサインがSIRS(表4)やqSOFA(表5)の項目を満たす場合には感染症、とくに敗血症に伴う低血糖を考えフォーカス検索を行いましょう(次回以降で感染症×意識障害の詳細を説明する予定です)。画像を拡大する画像を拡大する低血糖の治療:ブドウ糖の投与で安心するな!低血糖の治療は、経口が可能であればブドウ糖の内服、意識障害を認め内服が困難な場合には経静脈的にブドウ糖を投与します。一般的には50%ブドウ糖を40mL静注することが多いと思います。ここで忘れてはいけないのはビタミンB1欠乏です。ビタミンB1が欠乏している状態でブドウ糖のみを投与すると、さらにビタミンB1は枯渇し、ウェルニッケ脳症やコルサコフ症候群を起こしかねません。ビタミンB1が枯渇している状態が考えられる患者では、ブドウ糖と同時にビタミンB1の投与(最低でも100mg)を忘れずに行いましょう。ビタミンB1の成人の必要量は1~2mg/日であり、通常の食事を摂取していれば枯渇することはありません。しかし、アルコール依存患者のように慢性的な食の偏りがある場合には枯渇しえます。一般的にビタミンB1が枯渇するには2~3週間を要するといわれています。救急外来などの初療では、患者の背景が把握しきれないことも少なくないため、アルコール依存症以外に、低栄養状態が示唆される場合、妊娠悪阻を認める患者、さらにはビタミンB1が枯渇している可能性が否定できない場合には、ビタミンB1を躊躇することなく投与した方が良いでしょう。ウェルニッケ脳症はアルコール多飲患者にのみ発症するわけではないことは知っておきましょう(表6)。画像を拡大するそれでは、いよいよRule6「出血か梗塞か、それが問題だ!」です。やっと頭部CTを撮影…というところで今回も時間がきてしまいました。脳卒中や頭部外傷に伴う意識障害は頻度も高く、緊急性が高いため常に考えておく必要がありますが、頭部CTを撮影する前に必ずバイタルサインを安定させること、低血糖を除外することは忘れずに実践するようにしましょう。それではまた次回!1)坂本壮. 救急外来 ただいま診断中!. 中外医学社;2015.2)Foster JW, et al. Stroke. 1987;18:944-946.コラム(3) 「くすりもりすく」、内服薬は正確に把握を!高齢者の多くは、高血圧、糖尿病、認知症、不眠症などに対して定期的に薬を内服しています。高齢者の2人に1人はポリファーマシーといって5剤以上の薬を内服しています。ポリファーマシーが悪いというわけではありませんが、薬剤の影響でさまざまな症状が出現しうることを、常に意識しておく必要があります。意識障害、発熱、消化器症状、浮腫、アナフィラキシーなどは代表的であり救急外来でもしばしば経験します。「高齢者ではいかなる症状も1度は薬剤性を考える」という癖を持っておくとよいでしょう。また、内服薬はお薬手帳を確認することはもちろんのこと、漢方やサプリメント、さらには過去に処方された薬や家族や友人からもらった薬を内服していないかも、可能な限り確認するとよいでしょう。お薬手帳のみでは把握しきれないこともあるからです。(次回は7月25日の予定)

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メポリズマブは難病EGPAの治療を変えるか

 2018年6月6日、グラクソスミスクライン株式会社は、同社のメポリズマブ(商品名:ヌーカラ)が、5月25日に好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(以下「EGPA」と略す)の適応追加の承認を取得したことを期し、本症に関するメディアセミナーを都内で開催した。 セミナーでは、EGPAの診療概要ならびにメポリズマブの説明が行われた。EGPAの診断、喘息患者に神経症状が現れたら要注意 セミナーでは、石井 智徳氏(東北大学 血液免疫病学分野 特任教授)が、「好酸球性多発血管炎性肉芽腫症について」をテーマにEGPAの最新の知見を講演した。 EGPAは、従来「チャーグ・ストラウス症候群」や「アレルギー性肉芽腫性血管炎」と呼ばれていたが、2012年より本症名で統一された。EGPAの病態は、気管支喘息というアレルギーの要素と種々の臓器障害という血管炎の要素を併せ持った疾患であり、自己抗体(ANCA:抗好中球細胞質抗体)が出現することで著明な好酸球増多を起こし、血管に炎症を起こすとされている。わが国のEGPAの患者像として、推定患者は約2,000例、男女比では女性が多く、その平均発症年齢は55歳、気管支喘息の既往歴のある患者が多いという。 EGPAの全身症状としては、発現頻度順にしびれ、感覚障害などの「神経症状」(93%)、発熱、関節痛などの「全身症状」(76%)、肺炎などの「呼吸器症状」(60%)、紫斑などの「皮膚症状」(51%)、糸球体腎炎などの「腎障害」(39%)、副鼻腔炎などの「耳鼻咽喉症状」(23%)、不整脈などの「心血管系症状」(16%)、腹痛、下痢などの「消化器症状」(16%)、強膜炎などの「粘膜・目の症状」(10%)が報告されている。 診断では、先行症状の喘息、副鼻腔炎などからEGPAに結びつけることは難しく、ANCAでは臨床検査を行っても陽性率が30~50%とあまり高くなく、診断では見逃されている可能性が高いという。石井氏は「EGPAの診断では、患者教育と丁寧な問診、診察が求められ、患者が『最近、喘息発作が多い』『手足がしびれた感じがする』『足首に力が入らず上げられない』など訴えた場合は、本症を疑うべき」と診療のポイントを示した。また、EGPAでは、血管炎による心血管症状が最も予後に関わることから息切れ、心電図異常、MRI・心エコー検査の結果に注目する必要があるという。メポリズマブによるEGPA治療でステロイドを減量できた EGPAの治療では、現在第1選択薬としてステロイドが使用されている。ステロイドは、効果が確実に、早く、広く作用する反面、易感染症、骨粗鬆症、糖尿病の発症、脂質異常症、肥満など副作用も多いことが知られている。そこでステロイド抵抗性例やステロイドの減量を目的に、シクロフォスファミド、アザチオプリン、タクロリムスなどの免疫抑制剤が治療で併用されている。効果はステロイドのように広くないものの、長期投与では副作用がでにくく、最初はステロイドで治療し、免疫抑制剤とともにステロイドを減量する治療も行われている。そして、今回登場した生物学的製剤メポリズマブは、好酸球を作るIL-5に結合することで、好酸球の増殖を阻止し、血管などでの炎症症状を抑える効果を持つ。副作用も注射部位反応はプラセボに比べて多いものの、重篤なものはないという。 最後に石井氏は、「本症のステロイド治療者で糖尿病を発症し、インスリン導入になった患者が、メポリズマブを使用したことでステロイドの減量が可能となり、インスリンを離脱、糖尿病のコントロールができるようになった」と具体的な症例を紹介するとともに、「メポリズマブは、好酸球浸潤のコントロールが難しかった症例への適用やステロイドが減量できなかった症例への効果が期待でき、さらに再燃を抑制し、寛解維持を目指すことができる」と希望を寄せ、講演を終えた。メポリズマブの製品概要 薬効分類名:ヒト化抗IL-5モノクロナール抗体 製品名:ヌーカラ皮下注 100mg 効能・効果:(追加として)既存治療で効果不十分な好酸球性多発血管炎性肉芽腫症 用法・容量:通常、成人にはメポリズマブ(遺伝子組換え)として1回300mgを4週間ごとに皮下に注射する

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高齢者糖尿病の治療で避けたい治療薬

 2018年5月24日より3日間開催された第61回日本糖尿病学会年次学術集会(学会長:宇都宮 一典)にて「高齢者糖尿病の病態と診療のポイント」をテーマに、井藤 英喜氏(東京都健康長寿医療センター 理事長)が教育講演を行った。 本稿では教育講演の概要をお届けする。全糖尿病患者の約80%が60歳以上という現実 わが国の高齢者人口は、全人口の27%を超え、これに伴い60歳以上の糖尿病患者が全糖尿病患者の約80%を占める状況となった。こうした状況を受け、高齢糖尿病患者特有の症状や病態を考慮に入れ、欧米のガイドラインなどを参考に、日本糖尿病学会と日本老年医学会の合同委員会により作成された『高齢者糖尿病診療ガイドライン 2017』(南江堂)、『高齢者糖尿病治療ガイド2018』(文光堂)が発行された。ガイドラインでは、高齢者糖尿病を認知機能やADLなどの条件で3つのカテゴリーに分け、血糖コントロール目標値をカテゴリー別に7.0~8.5%未満に設定するとともに、重症低血糖が危惧される糖尿病薬を使用している場合は目標値に下限値を設けるなどの指針を示すものとなっている。高齢者糖尿病に特有な病態の理解が必要 高齢者糖尿病は2型がそのほとんどを占め、発症原因として生活習慣の集積に加え、臓器の加齢変化が指摘されている。また、患者は糖尿病に加え、高血圧、虚血性心疾患、脳血管障害、閉塞性動脈硬化症(ASO)、腎機能障害、がんなど多彩な疾患を合併していることが多く、多剤を併用しているケースが多い。多剤併用や糖尿病薬で起こる低血糖は、うつ、認知機能低下、QOLの低下、転倒・骨折など、さまざまな弊害をもたらす。とくに低血糖に関し、「高齢者では、無自覚、あるいは症状があっても非典型的な場合もあり、周囲からの注意も必要だ」と同氏は警鐘を鳴らす。また、糖尿病自体が、要介護の原因となる認知症や転倒・骨折などの老年症候群の危険因子であることが明らかにされており、「高齢者糖尿病の診療では、いかに老年症候群の発症・進展を予防するかも含め、考える必要がある」と同氏は指摘する。高齢者糖尿病の治療で大事なポイント 高齢者糖尿病の治療では、大きな目標として成人糖尿病と同じく「血管合併症の予防」があるが、同時に、高齢者では「健康寿命の延伸」「老年症候群の予防」「重症低血糖の予防」が重要であり、そのためには「患者背景に即した安全・妥当な治療」の実施が求められる。血糖に関しては、診療ガイドラインに記載されているとおり、年齢、認知機能、ADLの状況、併存疾患、使用薬剤を考慮に入れ、個々の症例に最適と考えられている血糖コントロール目標値を目安にコントロールする。 食事療法は、75歳以上の後期高齢者ではタンパク質摂取量が少ないほど死亡率が上昇する。そして、高齢者ではタンパク質摂取量が低下すると筋肉量や筋力が減少し、フレイルやサルコペニアなどの老年症候群が惹起されやすくなるといったことから、タンパク質を含む食品、肉や魚、さらに大豆、ミルク・乳製品、豆類などの摂取が推奨される。また、大豆製品や野菜、海藻などの摂取は、認知機能維持に有用という報告もあるので、高齢者ではとくにこれらの食品の摂取が勧められる。 運動療法は、定期的な身体活動が代謝異常の是正だけでなく、生命予後、ADLの維持、認知機能低下の抑制に有用であるとされる。歩行、水泳などに代表される有酸素運動、スクワット、ダンベルに代表されるレジスタンス運動のほかに、高齢者糖尿病では、片脚立ちなどのバランス運動が転倒予防に有効であり、これらを絡めて行う必要がある。 薬物療法では、ガイドライン記載のとおり、「低血糖の防止」「多剤併用への注意」が重要となる。とくに「低血糖を起こしやすいSU薬、グリニド薬、インスリンの使用はなるべく避け、使用する場合は、低血糖対策を立て、患者や介護者にその対処法を十分説明しておく必要がある。また、高齢者はシックデイになりやすいので、低血糖同様にそれへの対応・予防策の教育も大事だ」と同氏は指摘する。 最後に「高齢者糖尿病患者の診療は、患者のQOLの維持・向上、現在の生活の継続を支援するという視点から考えた治療を行い、患者の生活背景を考慮に入れ、起こりうる有害事象を避けながら治療を継続していくことが重要だ」と同氏は語り、講演を終えた。

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週1回製剤が糖尿病患者の負担軽減

 近年、糖尿病治療にはさまざまな薬物療法が登場する中、患者の意向や負担を考慮し、個々のライフスタイルに合わせた治療方法の選択が望まれている。しかし、糖尿病患者の負担を評価する既存の質問票では、薬物治療に対しての負担を抽出して評価することは難しい。 そこで今回、奈良県立医科大学は、日本イーライリリー株式会社の支援により、2型糖尿病患者における薬物治療の負担を測定するアンケート調査手法、「DTBQ(Diabetes Treatment Burden Questionnaire:糖尿病薬物治療負担度質問票)」を開発し、検証・調査を行った。 本試験の解析結果より、DTBQの信頼性が示され、服用による患者負担は、注射薬より経口薬のほうが小さく、また投与頻度が少ないほど小さくなることが明らかになった。本結果は、論文としてDiabetes Therapy誌2018年3月29日号に掲載された。 本研究は、外来で以下の6種類のうち1種類の治療を12週間以上受けている 2型糖尿病患者236例を対象に行われた。1. 注射薬(GLP-1受容体作動薬:以下GLP-1)を週1回±経口血糖降下薬2. 注射薬(インスリンまたはGLP-1)を1日1回±経口血糖降下薬3. 注射薬(インスリンまたはGLP-1)を1日2~3回±経口血糖降下薬4. 経口血糖降下薬のみを週1回5. 経口血糖降下薬のみを1日1回6. 経口血糖降下薬のみを1日2~3回 DTBQは、(1)基本情報を聴取するパートと、(2)薬物療法に対する負担感を評価するパートで構成されている。(2)の質問は、18項目それぞれを1~7点で回答し、このスコアレベルをもとに治療負担を評価する。 検証は、信頼性評価として、236例を対象に1回目のDTBQ記入を実施、ならびに再現性評価として、47例を対象に、1回目のDTBQ記入に続き2回目の記入を実施した。 主な結果は以下のとおり。・週1回の経口薬の患者負担が最も小さく、次いで1日1回の経口薬、週1回の注射薬の順となり、1日複数回の服用は患者負担が大きかった。・HbA1c値が7.0%未満の患者と7.0%以上の患者を比較すると、後者のほうがより負担を感じていた。・低血糖経験のない患者よりも、経験のある患者のスコアが有意に高く、低血糖経験のある患者のほうが治療に対して負担を感じていた。・注射薬、経口血糖降下薬ともに、コンプライアンスのよい患者は治療に対する負担が軽度であった。・本試験の解析の結果、Cronbach’s α係数が0.7775~0.885であったことから各質問に対する回答の一貫性が示され、信頼性が明らかになった。・級内相関係数(ICC)が0.912であったことから、1回目の回答と2回目の回答の一致度が高いことが示され、再現性に優れていることが判明した。 この結果について、石井 均氏(奈良県立医科大学 糖尿病学講座 教授)は、「今後この結果は患者さんをより理解すること、そのうえで患者さんに合った、より良い治療方針を決定していくことに役立つことを確信しています」とコメントしている。■原著論文1)Ishii H, et al. Diabetes Ther. 2018 Mar 29. [Epub ahead of print]■参考日本イーライリリー株式会社 プレスリリース

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