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リンゴ型の脂肪分布、腹部と臀部で異なる遺伝的機序が関与か/JAMA

 ウエスト/ヒップ比(WHR)の算出の基礎となる腹部(ウエスト)および殿大腿部(ヒップ)の脂肪分布には、それぞれ異なる遺伝メカニズムが関連している可能性があることが、英国・ケンブリッジ大学のLuca A. Lotta氏らの検討で示された。研究の成果は、JAMA誌2018年12月25日号に掲載された。一般にWHRで評価される体脂肪分布は、BMIとは独立の重要な心血管代謝疾患の寄与因子とされるが、腹部の高脂肪分布または殿大腿部の低脂肪分布によるWHR増加が心血管代謝疾患リスクに影響を及ぼすかは不明だという。遺伝的バリアントとリスクの関連を評価 研究グループは、WHR高値と関連する遺伝的バリアント(genetic variant)を同定し、その心血管代謝疾患リスクとの関連を推定する目的で、多段階的なアプローチによる検討を行った(英国医学研究会議[MRC]の助成による)。 3つの住民ベースの前向きコホート研究(UK Biobank、Fenland、EPIC-Norfolk)、1つのケース・コホート研究(EPIC-InterAct)および既報の6つの全ゲノム関連解析(GWAS)の要約統計量を用い、4つの段階(GWAS、フォローアップ解析)に分けて解析を行った。 第1段階では、脂肪分布関連の遺伝的バリアントを同定するために、BMIによる補正の有無別にGWASを行った。第2段階では、第1段階とは別個に、WHR関連の遺伝的バリアントを用いて、腹部(ウエスト周囲長)の高脂肪分布または殿大腿部(ヒップ周囲長)の低脂肪分布によるWHR高値の多遺伝子スコアを算出した。 第3段階では、二重エネルギーX線吸収測定法(DEXA)を用いて部位別の脂肪塊を測定し、多遺伝子スコアとの関連を検討することで、このスコアの妥当性の評価を行った。第4段階では、6つの心血管代謝疾患リスク因子(収縮期血圧、拡張期血圧、空腹時血糖、空腹時インスリン、トリグリセライド、LDLコレステロール)および2つの疾患アウトカム(2型糖尿病、冠動脈疾患)と多遺伝子スコアとの関連を評価した。糖尿病、冠動脈疾患のリスク評価に有用な可能性 UK Biobankの欧州人家系の参加者45万2,302例の平均年齢は57(SD 8)歳、女性が54%で、平均WHRは0.87(SD 0.09)であった。GWASでは、202の遺伝的バリアントが、BMIで補正したWHR(66万648例)および非補正WHR(66万3,598例)と関連が認められた。 DEXA解析(1万8,330例)では、WHR高値のウエストおよびヒップの多遺伝子スコアは、それぞれ腹部脂肪の高値および殿大腿部脂肪の低値と特異的な関連がみられた。 フォローアップ解析(63万6,607例)では、ウエストおよびヒップの特異的な多遺伝子スコアはいずれも、BMI補正WHRの1SD上昇ごとに、高収縮期血圧、高拡張期血圧、高トリグリセライド値と関連を示した。 また、2型糖尿病(ウエスト特異的多遺伝子スコア=オッズ比[OR]:1.57、95%信頼区間[CI]:1.34~1.83、1,000人年当たりの絶対リスク増[ARI]:4.4、95%CI:2.7~6.5、p<0.001、ヒップ特異的多遺伝子スコア=OR:2.54、95%CI:2.17~2.96、ARI:12.0、95%CI:9.1~15.3、p<0.001)および冠動脈疾患(ウエスト特異的多遺伝子スコア=OR:1.60、95%CI:1.39~1.84、ARI:2.3、95%CI:1.5~3.3、p<0.001、ヒップ特異的多遺伝子スコア=OR:1.76、95%CI:1.53~2.02、ARI:3.0、95%CI:2.1~4.0、p<0.001)についても、ウエストおよびヒップの特異的な多遺伝子スコアはいずれも、BMI補正WHRの1SD上昇ごとに有意な関連が認められた。 著者は、「腹部脂肪高値または殿大腿部脂肪低値と特異的に関連する遺伝メカニズムは、それぞれ独立に体形と心血管代謝疾患リスクの関連に寄与している可能性がある」とまとめ、「これらの知見は、2型糖尿病および冠動脈疾患のリスク評価や治療の改善に資する可能性がある」としている。

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リナグリプチンのCARMELINA試験を通して血糖降下薬の非劣性試験を再考する(解説:住谷哲氏)-991

 eGFRの低下を伴う腎機能異常を合併した2型糖尿病患者における血糖降下薬の選択は、日常臨床で頭を悩ます問題の1つである。血糖降下薬の多くは腎排泄型であるため腎機能に応じて投与量の調節が必要となる。DPP-4阻害薬の1つであるリナグリプチンは数少ない胆汁排泄型の薬剤であり、腎機能に応じた投与量の調節が不要であるため腎機能異常を合併した患者に投与されることが多い。 これまでにDPP-4阻害薬の安全性を評価した心血管アウトカム試験CVOTでは、サキサグリプチンのSAVOR-TIMI 53、アログリプチンのEXAMINE、シタグリプチンのTECOSが発表されている。リナグリプチンの安全性を評価した本試験の報告により、DPP-4阻害薬の安全性を評価したすべてのCVOTが出そろったことになる。本試験の最大の特徴は、リナグリプチンが胆汁排泄型であることに基づいて、これまで報告されたCVOTの中で最多の腎機能異常合併2型糖尿病患者を組み入れた点にある。 6,979例がエントリーされたが、その半数以上がeGFR<60mL/min/1.73m2であり、eGFR<30mL/min/1.73m2の患者も約15%含まれていた。主要評価項目は心血管死、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中からなる3-point MACEであったが、副次評価項目にはESRDへの移行、腎関連死、ベースラインから40%以上のeGFRの低下の持続からなる腎複合エンドポイントが含まれている。中央値2.2年の観察期間において、プラセボ群の3-point MACE発症率は5.63/100人年であり、これまで実施されたCVOTの中で最も高リスクであった。このことは腎機能異常合併2型糖尿病患者の心血管リスクがきわめて高いことを示している。既報のDPP-4阻害薬のCVOTと同様に、主要評価項目ではプラセボ群に対する非劣性が証明されたが優越性は証明されなかった。期待された腎複合エンドポイントでも優越性は証明されなかった。多くの探索的アウトカムexploratory outcomeの中でプラセボ群と有意差を認めたのはアルブミン尿の進展HR 0.86(0.78~0.95、p=0.003)、複合細小血管エンドポイントHR 0.86(0.78~0.95、p=0.003)のみであった。重症低血糖の頻度もプラセボ群との間に有意差を認めなかった。また観察期間中のHbA1cはリナグリプチン群で0.36%有意に低下した。 本試験も含めて既報のCVOTはすべて非劣性試験non-inferiority trialであり、その結果をどのように解釈して日常臨床に適用すればよいのだろうか? 確かにすべての非劣性試験は製薬企業が新たな薬剤を販売するための臨床試験であり、われわれ臨床家にとっても患者にとってもメリットはないとの指摘にも一理ある1)。非劣性試験で証明されるのは、対象である新たな血糖降下薬(試験薬)が既存の血糖降下薬と比較して3-point MACEなどの心血管イベントを非劣性マージン(多くはハザード比の95%信頼区間の上限が1.3に設定される)を超えて増加させないことのみである。これをクリアすればその試験薬は「安全な血糖降下薬」としてのお墨付きを当局から得られる。つまり心血管イベントを29%増加させる可能性があっても血糖降下薬としては許容されることになる(この点については議論があるが本稿では割愛する)。そうであれば何も高価な新薬(試験薬)を使う必要はなく、プラセボ群で使用された従来の安価な血糖降下薬を使えばよいではないか、との反論も当然あるだろう。 血糖降下薬を投与する目的は心血管イベントなどの真のアウトカムを改善することにあり、HbA1cなどはあくまで代用のアウトカムsurrogate outcomeである。HbA1cを低下させれば腎症を含めた細小血管障害リスクが低下することはこれまでに証明されている。つまり将来の細小血管障害リスクを低下させるためにHbA1cを低下させることは正当化される。本試験においてリナグリプチンは代用のアウトカムであるHbA1cと、同じく代用のアウトカムである尿アルブミンを有意に減少させたが、これはHbA1cの低下による可能性が高い。一方、心血管イベントについては、RCTのメタ解析によると厳格な血糖管理により非致死性心筋梗塞を含めた冠動脈疾患は減少するが、脳卒中、全死亡は減少しないと報告されている2)。つまり将来の心血管イベントリスクを低下させるためにHbA1cを低下させることは、細小血管障害の場合と同じ程度に正当化されるとは言い難い。 CVOTでは、血糖降下作用とは独立した心血管イベントリスクの上昇の有無を検証するために、試験デザインとしてプラセボ群と試験薬群とのglycemic equipoise(血糖コントロールつまりHbA1cが両群で試験期間中に同等であること)が要求されている。しかし本試験も含めた既報のすべてのCVOTにおいては試験薬群のHbA1cが有意に低下している。この点について、プラセボ群で血糖管理が強化されなかったのは倫理的に問題であるとの意見もあるが、筆者の見解は少しく異なる。実際にはCVOTに組み入れられたようなきわめて心血管イベント高リスクの患者で、かつ、すでに複数の血糖降下薬を併用してHbA1cが8.0%程度の患者において、インスリンを増量、SU薬を増量、他の血糖降下薬を追加することはACCORDの結果が報告されて以降、容易ではないのが現実ではないだろうか。血糖降下薬を増量、追加して血糖管理を強化するbenefitとharmを天秤に掛けると、clinical inertiaとの批判もあるが、現状維持を選択する判断になることが多い。さらに本試験に組み入れられたような腎機能異常を合併した患者においては、より一層その傾向が顕著である。つまりプラセボ群では血糖管理を強化しなかったのではなく、従来の血糖降下薬では強化できなかったのが事実に近いだろう。言い方を変えれば、試験薬により血糖管理を少しではあるが強化できたと言ってよい。そのような条件下においても、リナグリプチンが心血管イベントリスクを増加させずに血糖降下作用を発揮できることは本試験において証明されたと考えてよい。 非劣性試験は前述したように、患者にとって真のアウトカムの改善をもたらす薬剤を生み出す試験ではない。CVOTにおいて優越性を示した血糖降下薬はこれまでに複数存在するが、特殊な対象患者群、短い観察期間を考えるとすべての2型糖尿病患者にbenefitをもたらすかは不明である。今後はCVOTで優越性を示した薬剤を用いて、幅広い患者群に対する長期間の優越性試験superiority trialが実施されることを期待したい3)。

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GIP/GLP-1受容体デュアルアゴニストLY3298176は第3のインクレチン関連薬となりうるか?(解説:住谷哲氏)-986

 インクレチンは食事摂取に伴って消化管から分泌され、膵β細胞に作用してインスリン分泌を促進するホルモンの総称であり、GIP(glucose-dependent insulinotropic polypeptide)とGLP-1(glucagon-like peptide-1)の2つがある。GIPおよびGLP-1は腸管に存在するK細胞、およびL細胞からそれぞれ分泌され、インスリン分泌促進以外の多様な生理活性を有している。しかしGIPは高血糖状態においてはインスリン分泌作用が弱いこと、脂肪細胞に作用して脂肪蓄積につながることから、現在はGLP-1のみがGLP-1受容体作動薬として臨床応用されている。しかし生理状態では両者は同時に分泌される、いわば双子の腸管ホルモンであり、この両ホルモンの受容体を同時に刺激する目的で開発されたのがGIP/GLP-1受容体デュアルアゴニストLY3298176である。 LY3298176はGIPに類似した39個のアミノ酸からなるポリペプチドであり、20番目のリジンに脂肪酸側鎖を結合することで週1回投与を可能とした。GIP受容体とGLP-1受容体の両者に高い親和性で結合して細胞内シグナル伝達を惹起することが基礎実験で確認されている1)。基礎実験から臨床への橋渡しとなるproof of concept試験をクリアした後に実施されたphase 2 trialが本試験である。プラセボ群に加えて、実薬群としてはすでに発売されているデュラグルチド1.5mgが用いられて、1mg、5mg、10mg、15mgの4用量が検討された。 26週にわたり血糖降下作用、体重減少作用に対する有効性、および有害事象を検討したが、その結果は非常にimpressiveであった。試験開始時の平均HbA1cは8.1%、BMIは32.6kg/m2であったが、15mg投与群におけるHbA1cの低下はプラセボ群と比較して-1.94%、デュラグルチド群と比較しても-0.73%であった。さらにデュラグルチド群の2%に対して、10mg投与群の18%、15mg投与群の30%は正常血糖値とされるHbA1c<5.7%を達成した。体重減少についてもデュラグルチド群の-2.7kgに対して、-11.3kgであった。予想されたように消化器系の有害事象は用量依存性に増加したが多くは一過性であった。また重症低血糖は1例もなかった。 LY3298176による血糖降下作用および体重減少作用が、GLP-1受容体またはGIP受容体のいずれを介した作用なのかは、本試験の結果からは明らかではない。デュラグルチド群と比較してLY3298176の作用はより強力であることからGIP受容体を介した作用がdominantであると考えるのが妥当と思われるが、これまでの報告ではGIPの単独投与による血糖降下作用および体重減少作用はこれほど著明ではない。いずれにせよ本薬剤の投与により30%の患者の血糖値がほぼ正常化し、著明な体重減少が得られた結果から、非常にpromisingな薬剤であり第3のインクレチン関連薬となりうる可能性は高い。やはり双子のインクレチンはtwincretinとして作用するのが本来の姿であるのかもしれない。

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心代謝特性はBMIと関連するか

 BMIは脂肪を非脂肪と区別せず、脂肪分布を無視し、健康への影響を検出する能力が不明とのことで批判されている。今回、英国・ブリストル大学のJoshua A. Bell氏らは、心代謝特性との関連においてBMIと二重エネルギーX線吸収測定法(DXA)による全身および局所の脂肪指数(fat index)を比較した。その結果から、腹部の肥満が心代謝障害の主因であり、その影響の検出にBMIが有用なツールであることが支持された。Journal of the American College of Cardiology誌2018年12月18日号に掲載。 著者らは、英国での親と子供の縦断研究Avon Longitudinal Study of Parents and Childrenの子供2,840人において、10歳時と18歳時にBMIおよびDXAによる全身・体幹・腕・脚の脂肪指数(kg/m2)を測定し、18歳時の230種類のメタボロミクスの項目との関連を評価した。 主な結果は以下のとおり。・10歳時に全身脂肪指数およびBMIが高値であることが、18歳時に収縮期および拡張期血圧高値、高VLDLおよび高LDLコレステロール、低HDLコレステロール、高トリグリセライド、高インスリンおよび高アセチル糖タンパク質といった心代謝特性と関連することが示された。・18歳時の全身脂肪指数とBMIの関連は強く、10歳から18歳までの各指標の増加も強く関連した(例 アセチル糖タンパク質の増加は、全身の脂肪指数のSD単位増加当たり0.45SD[95%信頼区間:0.38~0.53]vs. BMIのSD単位増加当たり0.38SD[同:0.27~0.48])。・心代謝特性との関連は、BMI・全身の脂肪指数・体幹の脂肪指数で類似していた。・非脂肪指数(lean mass index)高値は心代謝特性との関連は弱く、脂肪指数高値に防御的ではなかった。

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リナグリプチン、高リスク2型DMでのCV・腎アウトカムは/JAMA

 心血管および腎リスクが高い2型糖尿病の成人患者では、通常治療と選択的DPP-4阻害薬リナグリプチンの併用療法は、主要な心血管イベントのリスクがプラセボに対し非劣性であることが、米国・Dallas Diabetes Research Center at Medical CityのJulio Rosenstock氏らが行ったCARMELINA試験で示された。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2018年11月9日号に掲載された。2型糖尿病は心血管リスクの増加と関連する。これまでに実施された3つのDPP-4阻害薬の臨床試験では、心血管への安全性が示されているが、これらの試験に含まれる高い心血管リスクおよび慢性腎臓病を有する患者の数は限定的だという。心血管・腎アウトカムへの影響を評価するプラセボ対照非劣性試験 研究グループは、心血管および腎イベントのリスクが高い2型糖尿病患者において、心血管および腎アウトカムに及ぼすリナグリプチンの影響の評価を目的に、プラセボ対照無作為化非劣性試験を行った(Boehringer IngelheimとEli Lillyの助成による)。 対象は、HbA1cが6.5~10.0%で、高い心血管リスク(冠動脈疾患、脳卒中、末梢血管疾患の既往、微量・顕性アルブミン尿[尿中アルブミン/クレアチニン比(UACR)>30mg/g])および腎リスク(推定糸球体濾過量[eGFR]が45~75mL/分/1.73m2かつUACR>200mg/g、またはUACRにかかわらずeGFRが15~45mL/分/1.73m2)を有する2型糖尿病患者であった。末期腎不全(ESRD)患者は除外された。 被験者は、通常治療に加え、リナグリプチン(5mg、1日1回)を投与する群またはプラセボ群に無作為に割り付けられた。臨床的必要性および参加施設のガイドラインに基づき、他の血糖降下薬およびインスリンの使用は可能とされた。 主要心血管アウトカムは、心血管死、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中の複合の初回発生までの期間とした。非劣性の判定基準は、リナグリプチンのプラセボに対するハザード比(HR)の両側95%信頼区間(CI)の上限値が1.3未満の場合とした。副次腎アウトカムは、腎不全による死亡、ESRD、eGFRのベースラインから40%以上の低下の持続とした。 2013年8月~2016年8月の期間に、27ヵ国605施設に6,991例が登録され、6,979例(リナグリプチン群3,494例、プラセボ群3,485例)が1回以上の試験薬の投与を受けた。このうち98.7%が試験を完遂した。主要心血管アウトカム:12.4% vs.12.1%、副次腎アウトカム:9.4% vs.8.8% ベースラインの全体の平均年齢は65.9歳、eGFRは54.6mL/分/1.73m2、UACR>30mg/gの患者の割合は80.1%であった。57%が心血管疾患を有し、74%が腎臓病(eGFR<60mL/分/1.73m2あるいはUACR>300mg/gCr)であり、33%が心血管疾患と腎臓病の双方に罹患しており、15.2%はeGFR<30mL/分/1.73m2であった。 フォローアップ期間中央値2.2年における主要心血管アウトカムの発生率は、リナグリプチン群が12.4%(434/3,494例)、プラセボ群は12.1%(420/3,485例)で、100人年当たりの絶対発生率差は0.13(95%CI:-0.63~0.90)であり、リナグリプチン群はプラセボ群に対し非劣性であった(HR:1.02、95%CI:0.89~1.17、非劣性のp<0.001)。優越性には、統計学的に有意な差はなかった(p=0.74)。 副次腎アウトカムの発生率は、リナグリプチン群が9.4%(327/3,494例)、プラセボ群は8.8%(306/3,485例)で、100人年当たりの絶対発生率差は0.22(95%CI:-0.52~0.97)であり、優越性に関して統計学的に有意な差は認めなかった(HR:1.04、95%CI:0.89~1.22、p=0.62)。 有害事象の発生率は、リナグリプチン群が77.2%(2,697/3,494例)、プラセボ群は78.1%(2,723/3,485例)であった。低血糖エピソードが1回以上発現した患者の割合は、それぞれ29.7%(1,036例)、29.4%(1,024例)であり、急性膵炎は0.3%(9例)、0.1%(5例)に認められた。 著者は、「本試験全体の高い主要心血管イベントの発生率(5.63/100人年)は、これまでの血糖降下薬の心血管アウトカムに関する検討の中でも最もリスクの高いコホートの1つを登録したこの試験が、2型糖尿病治療薬の心血管安全性の評価に関するFDAの必要条件に従って実施され、腎障害への臨床的影響を明らかにしたことを示すものである」としている。

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減量後の低炭水化物食、代謝量を増大/BMJ

 低炭水化物ダイエットは、体重減少維持中のエネルギー消費量を増大することが明らかにされた。米国・ボストン小児病院のCara B. Ebbeling氏らが行った無作為化試験の結果で、BMJ誌2018年11月14日号で報告された。エネルギー消費量は、体重の減少とともに低下し、体重再増加を促す要因となるが、この代謝反応に、長期間にわたる食品構成がどのような影響を与えるのかは明らかになっていなかった。今回の検討で示された関連性は、炭水化物-インスリンモデルで一貫性を持ってみられ、著者は「示された代謝効果は、肥満治療の成功を改善する可能性があり、とくにインスリン分泌能が高い人で効果があると思われる」と述べている。体重減少後の、高・中・低量炭水化物ダイエットのエネルギー消費を評価 さまざまな炭水化物/脂質比ダイエットの総エネルギー消費量への影響を検討する試験は、米国2施設で2014年8月~2017年5月に行われた。被験者は、18~65歳でBMI値25以上の164例。 被験者はrun-inダイエット期間(9~10週間)に体重を12%(2%の範囲内で)減少した後、炭水化物含有量が違う3つの試験ダイエット(60%の高量群、40%の中量群、20%の低量群)のうち1つを、いずれも20週間受けるよう無作為に割り付けられた。試験ダイエットはプロテインでコントロールし、2kg以内の範囲で体重減を維持するためにエネルギーを調整した。 炭水化物-インスリンモデルで予測された効果の修正について検証するため、サンプルは体重減前のインスリン分泌能(経口ブドウ糖摂取30分後のインスリン濃度)で3つに分類した。 主要評価項目は、DLW法で測定した総エネルギー消費量(intention-to-treat解析)。per protocol解析では、潜在的により正確な推定効果を提示し、目標体重減を維持した対象を含んだ評価も行った。副次評価項目は、身体活動度で評価した安静時エネルギー消費量、代謝ホルモンのレプチン値とグレリン値であった。体重減前のインスリン分泌能が高いほど低量ダイエットの効果が大きい 被験者164例は、高量ダイエット群に54例、中量ダイエット群に53例、低量ダイエット群に57例それぞれ割り付けられた。 intention-to-treat解析(162例)において、総エネルギー消費量はダイエットによって異なり(p=0.002)、炭水化物含有量10%減少につき、総エネルギー消費量は52kcal/日(95%信頼区間[CI]:23~82)増大する線形の傾向が認められた(1kcal=4.18、kJ=0.00418MJ)。 総エネルギー消費量の変化は、高量ダイエット群との比較において、中量ダイエット群で91kcal/日(95%CI:-29~210)大きく、低量ダイエット群で209kcal/日(91~326)大きかった。per protocol解析(120例)では、それぞれの差は、131kcal/日(-6~267)、278kcal/日(144~411)であった(p<0.001)。 体重減前のインスリン分泌能が最も高かった被験者において、低量ダイエット群と高量ダイエット群の差は、308kcal/日(intention-to-treat解析)、478kcal/日(per protocol解析)であった(p<0.004)。 グレリン値は、低量ダイエット群が高量ダイエット群よりも有意に低値であった(intention-to-treat解析、per protocol解析において)。レプチン値も、低量ダイエット群が高量ダイエット群よりも有意に低値であった(per protocol解析において)。〔12月6日 記事タイトルを修正いたしました〕

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デュラグルチドのREWIND試験は1次予防の壁を越えるか

 米国・イーライリリー・アンド・カンパニーは、2型糖尿病治療薬デュラグルチド(商品名:トルリシティ)の国際共同試験「REWIND試験」において、主要心血管イベント(MACE※)の発現率を有意に減少させたことを発表した。 対象患者の7割は1次予防例で、GLP-1受容体作動薬では初めて、1次予防例を含む幅広い2型糖尿病患者における心血管(CV)イベントへの影響を評価した試験といえる。※心血管死、非致死性心筋梗塞(心臓発作)、非致死性脳卒中から成る複合評価項目 REWIND(Researching cardiovascular Events with a Weekly INcretin in Diabetes)試験はCVイベント発現率について、デュラグルチド1.5mg※週1回投与とプラセボとを比較した多施設共同無作為化二重盲検比較試験である。主要評価項目はMACEの初発で、詳細データは、2019年6月に開催予定の米国糖尿病学会(ADA)にて報告予定である。※国内におけるデュラグルチドの用法・用量は0.75mg/週CVアウトカム試験における1次予防という壁 糖尿病患者でCVイベント発症リスクが高いことはよく知られている。そのため、EMPA-REG OUTCOMEやLEADER等で示された、薬剤によるCVイベント抑制作用には大きな注目が集まっている。一方、こうした試験の対象者はCV高リスクの2次予防例が多く、1次予防例が少ないことが指摘されていた。また1次予防例が多く含まれる試験でCVリスクを有意に減少させることは難しいとされてきた。 しかし、今回発表のREWIND試験の対象には、ベースライン時に心血管疾患の既往がない患者が69%含まれる。 これまでのGLP-1受容体作動薬のCVアウトカム試験では患者の7割以上が心血管疾患の既往があり、その点、従来試験と正反対の背景を有する。「HbA1c 9.5%以下」を対象とした点が鍵 デュラグルチドの国際共同試験であるREWIND試験は、他のCVアウトカム試験同様、心血管疾患の既往またはリスク因子を有する2型糖尿病患者9,901例が対象。 患者の選択基準は、以下であった。(1)経口血糖降下薬(1~2剤)±基礎インスリン、もしくは基礎インスリン単独での治療を受けている患者 (2)HbA1c 9.5%以下(3)50~54歳で、心血管疾患既往を有する患者(4)55~59歳で、心血管疾患既往、もしくは心血管疾患または腎疾患の徴候を1つ以上有する患者(5)60歳以上で、心血管疾患既往、もしくは心血管疾患のリスク因子を2つ以上有する患者 このうち特徴的なのは「(2)HbA1c 9.5%以下」という基準だ。他のGLP-1受容体作動薬のCVアウトカム試験ではHbA1c値の上限を設定しておらず、REWIND試験で初めてHbA1c値の上限が設定された。1次予防例7割、前例がないデュラグルチドのCVアウトカム試験 HbA1c値の規定の違いにより、従来のGLP-1受容体作動薬のCVアウトカム試験と異なる対象患者が組み入れられ、結果的に対象者の7割が1次予防例という、かつてないCVアウトカム試験が設定された。ベースラインの平均HbA1c値も7.3%と、比較的低い値になっている。 さらに1次予防例が多いことでイベント発症までの期間が延長され、追跡期間中央値は5.3年と、GLP-1受容体作動薬のCVアウトカム試験としては最長となっている。 1次予防例を7割含む、2型糖尿病患者におけるCVイベント抑制を報告したGLP-1受容体作動薬のCVアウトカム試験は前例がない。今回、米国・イーライリリー・アンド・カンパニーは、REWIND試験においてMACEの発現率を有意に減少させたことをいち早く発表した。現段階で明らかなのは試験概要と患者背景のみで、詳細結果は不明だが、デュラグルチドによってCVイベント抑制が示されたことは注目に値する。 REWIND試験の詳しいデータおよび結果は、2019年6月のADAで発表される予定である。

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第4回 糖尿病患者の認知症、予防と対応は【高齢者糖尿病診療のコツ】

第4回 糖尿病患者の認知症、予防と対応はQ1 糖尿病における認知機能障害のスクリーニング法、どう使い分けたらいいですか?糖尿病は認知症や軽度認知機能障害(MCI)をきたしやすい疾患です。アルツハイマー病は約1.5倍、血管性認知症は約2.5倍起こりやすいとされています1)。糖尿病患者における認知症の発症には、高血糖によるMCI、微小血管障害、脳梗塞の合併、アルツハイマー病の素因などの複数の因子が関連しているとされています。また、MCIを呈することで、記憶力、実行機能、注意・集中力、情報処理能力などの領域が軽度から中等度に障害されます。この中で、記憶力障害や実行機能障害は糖尿病におけるセルフケア(服薬やインスリン注射など)の障害につながります。実行機能は物事の目標を設定し、順序立てて誤りなく遂行する能力です。実行機能の障害によって、買い物、食事の準備、金銭管理など手段的ADLが低下します。手段的ADLが低下し、セルフケアが障害されると、血糖コントロールが悪化して、さらに実行機能障害が起こるという悪循環に陥りやすくなるのです。この実行機能障害は前頭前野の障害が原因とされており、種々の検査がありますが、時計描画試験、言語流暢性試験が簡単に行える検査です。糖尿病における認知機能障害のスクリーニング検査を表に示します(詳細は、日本老年医学会の高齢者診療におけるお役立ちツールを参照)。画像を拡大するまず、一般的にはMMSEや改訂長谷川式知能検査のいずれかを行います。それらが高得点でも認知機能障害が疑われる場合には、時計描画などが含まれているMini-Cog試験、MoCAなどを行うことをお勧めします。Mini-Cog試験は3つの単語を覚えた後に、丸の中に時計の文字盤と10時10分の秒針を書いて、最初に覚えた3つの単語を思い出すという簡単な試験です。時計が書けて2点、思い出すことができた単語の個数を点数として合計点を出します。5点満点中2点以下は認知症疑いとされます。MoCAはMCIかどうかをスクリーニングするのに有用な検査であり、時計描画試験などの種々の検査が含まれていますが、複雑な検査なので臨床心理士などが行う場合が多いと思います。MoCAはMMSEよりも糖尿病における認知機能障害を見出すことに有用であると報告されています2)。上記のMMSEなどの神経心理検査は非日常的なタスクを患者さんに行ってもらうので、メディカルスタッフや介護職が行うには抵抗が大きいように思います。そこで、メディカルスタッフなどが簡単な質問票によって認知機能を評価できるものに、DASC-21とDASC-8があります。DASC-21は地域包括ケアシステムのための認知症アセスメントシートであり、記憶、見当識、判断力(季節に合った服を着る)、手段的ADL(買い物、交通機関を使っての外出、金銭管理、服薬管理など)、基本的ADL(トイレ、食事、移動、入浴など)をみる21項目の質問からなります(「DASC」ホームページを参照)。各質問を4段階の1~4点で評価し、合計点を出して31点以上が認知症疑いとなります。31点以上でかつ場所の見当識、判断力、基本的ADLの質問のいずれかが3点以上の場合は中等度以上の認知症疑いになります。DASC-8は日本老年医学会が11月に公開したDASC-21の短縮版であり、記憶、時間見当識、手段的ADL3問(買い物、交通機関を使っての外出、金銭管理)、基本的ADL3問(トイレ、食事、移動)の8問を同様に4段階に評価し、合計点を出します。DASC-8は認知機能だけでなく、手段的ADL、基本的ADLといった生活機能が評価できるので認知・生活機能評価票とも呼ばれます。Q2 糖尿病患者の認知症予防または進行防止のための対策にはどのようなものがありますか?糖尿病における認知症発症の危険因子は高血糖、重症低血糖、CKD、脳血管障害、PAD、身体活動量低下などです。とくに重症低血糖と認知症は双方向の関係があり、悪循環をきたすことがあります3)。したがって、認知機能障害の患者では適切な血糖コントロールと、高血圧などの動脈硬化性疾患の危険因子の治療を行うことが大切です。日本糖尿病学会と日本老年医学会の合同委員会により、認知機能とADLの評価に基づいた高齢者糖尿病の血糖コントロール目標(HbA1c値)が発表されています(図)。SU薬やインスリンなど低血糖のリスクが危惧される薬剤を使用する場合で、中等度以上の認知症合併患者はカテゴリーIIIとなり、HbA1c値の目標は8.5%未満で下限値7.5%となります。また、MCIから軽度認知症の場合はカテゴリーIIとなり、HbA1c値の目標は8.0%未満で下限値7.0%となり、柔軟な目標値を設定します。画像を拡大する治療目標は、年齢、罹病期間、低血糖の危険性、サポート体制などに加え、高齢者では認知機能や基本的ADL、手段的ADL、併存疾患なども考慮して個別に設定する。ただし、加齢に伴って重症低血糖の危険性が高くなることに十分注意する。 注1)認知機能や基本的ADL(着衣、移動、入浴、トイレの使用など)、手段的ADL(IADL:買い物、食事の準備、服薬管理、金銭管理など)の評価に関しては、日本老年医学会のホームページを参照する。エンドオブライフの状態では、著しい高血糖を防止し、それに伴う脱水や急性合併症を予防する治療を優先する。注2)高齢者糖尿病においても、合併症予防のための目標は7.0%未満である。ただし、適切な食事療法や運動療法だけで達成可能な場合、または薬物療法の副作用なく達成可能な場合の目標を6.0%未満、治療の強化が難しい場合の目標を8.0%未満とする。下限を設けない。カテゴリーIIIに該当する状態で、多剤併用による有害作用が懸念される場合や、重篤な併存疾患を有し、社会的サポートが乏しい場合などには、8.5%未満を目標とすることも許容される。注3)糖尿病罹病期間も考慮し、合併症発症・進展阻止が優先される場合には、重症低血糖を予防する対策を講じつつ、個々の高齢者ごとに個別の目標や下限を設定してもよい。65歳未満からこれらの薬剤を用いて治療中であり、かつ血糖コントロール状態が図の目標や下限を下回る場合には、基本的に現状を維持するが、重症低血糖に十分注意する。グリニド薬は、種類・使用量・血糖値等を勘案し、重症低血糖が危惧されない薬剤に分類される場合もある。【重要な注意事項】糖尿病治療薬の使用にあたっては、日本老年医学会編「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン」を参照すること。薬剤使用時には多剤併用を避け、副作用の出現に十分に注意する。(日本老年医学会・日本糖尿病学会編・著.高齢者糖尿病診療ガイドライン2017,p.46,図1 高齢者糖尿病の血糖コントロール目標(HbA1c値),南江堂;2017)高齢者をカテゴリーI~IIIに分類するためにはDASC-8またはDASC-21を行うことが有用です。DASC-8では8~10点がカテゴリーI、11~16点がカテゴリーII、17~32点がカテゴリーIIIとなります。DASC-21では21~26点がカテゴリーI、27~38点がカテゴリーII、39点以上がカテゴリーIIIに相当します4)。DASC-8の質問票と使用マニュアルについては、こちらを参照してください。認知症と診断されないMCIの段階、すなわちカテゴリーIIの段階からレジスタンス運動、食事療法、心理サポート、薬物治療の単純化、介護保険など社会資源の確保を行うことが大切です。運動療法を行い、身体活動量を増やすことは認知機能の悪化防止のために重要です。身体機能の低下した高齢糖尿病患者にレジスタンス運動、有酸素運動などを組み合わせて行うと、記憶力や認知機能全般が改善するという報告もあります5)。可能ならば、週2回の介護保険によるデイケアを利用し、運動療法を行うことを勧めます。市町村の運動教室、太極拳、ヨガなど筋力を使う運動もいいでしょう。低栄養は認知症発症のリスクになるので、食事療法においては十分なエネルギー量を確保します。認知機能に影響するビタミンA、ビタミンB群などの緑黄色野菜の摂取不足にならないように注意することが大切です。薬物療法でもMCIの段階から、低血糖の教育を介護者にも行うことが必要です。低血糖のリスクはMCIの段階から高くなるからです(第2回、図3参照)。また、この段階から服薬アドヒアランスが低下することから、服薬の種類や回数の減少、服薬タイミングの統一、一包化などの治療の単純化を行います。薬カレンダーや服薬ボックスの利用も指導するのがいいと思います。カテゴリーIIIで目標下限値を下回った場合は、減量、減薬の可能性を考慮します。介護保険を利用し、デイケアまたはデイサービスを利用することで、孤立を防ぎ、社会とのつながりを広げ、介護者の負担を減らすことが大切です。家族や介護相談専門員と相談し、ヘルパーによる食事介助、訪問看護による服薬やインスリンの管理、または週1回のGLP-1受容体作動薬の注射などの支援の活用を検討していきます。徘徊、興奮などの行動・心理症状(BPSD)があると、糖尿病治療が困難になることが多くなります。BPSDの対策は環境を調整し、その原因となる疼痛、発熱、高血糖、低血糖などを除くことです。またBPSDは患者の何らかの感情に基づいており、叱責などによってBPSDが悪化することも多いので、介護者の理解を促すことも必要となります。抗認知症薬も早期に投与することでBPSDが軽減し、感情の安定や、意欲の向上、会話の増加がみられることがあるので専門医と相談し、使用を考慮しています。メディカルスタッフと協力して、認知症だけでなく、MCIの早期発見を行い、適切な血糖コントロールとともに、運動・食事・薬物療法の対策を立て、社会サポートを確保することが大切です。1)Cheng G, et al. Intern Med J. 2012;42:484-491.2)Alagiakrishnan K, et al. Biomed Res Int. 2013:186-106.3)Mattishent K, Loke YK. Diabetes Obes Metab.2016;18:135-141.4)Toyoshima K, et al. Geriatr Gerontol Int 2018;18:1458-1462.5)Espeland MA, et al. J Gerontol A Biol Sci Med Sci 2017;72:861-866.

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CV高リスク2型DMへのSGLT2iのCV死・MI・脳卒中はプラセボに非劣性:DECLARE-TIMI58/AHA

 先ごろ改訂された米国糖尿病学会・欧州糖尿病学会ガイドラインにおいてSGLT2阻害薬は、心血管系(CV)疾患既往を有する2型糖尿病(DM)例への第1選択薬の1つとされている。これはEMPA-REG OUTCOME、CANVAS programという2つのランダム化試験に基づく推奨だが、今回、新たなエビデンスが加わった。米国・シカゴで開催された米国心臓協会(AHA)学術集会の10日のLate Breaking Clinical Trialsセッションにて発表された、DECLARE-TIMI 58試験である。SGLT2阻害薬は、CV高リスク2型DM例のCVイベント抑制に関しプラセボに非劣性であり(優越性は認めず)、CV死亡・心不全(HF)入院は有意に抑制した。Stephen D. Wiviott氏(Brigham and Women’s Hospital、米国)が報告した。3分の2近くが1次予防例 DECLARE-TIMI 58試験の対象は、1)虚血性血管疾患を有する(6,974例)、または2)複数のCVリスク因子を有する(1万186例)2型DM例である。クレアチニン・クリアランス「60mL/分/1.73m2未満」例は除外されている。本試験における1次予防例の割合(59%)は、CANVAS Program(34%)に比べ、かなり高い。 平均年齢は64歳、DM罹患期間中央値は11年、平均BMIは32kg/m2だった。併用薬は、82%がメトホルミン、43%がSU剤を服用し、41%でインスリンが用いられていた。CVイベント抑制薬は、レニン・アンジオテンシン系抑制薬が81%、スタチン/エゼチミブが75%、抗血小板薬も61%、β遮断薬が53%で用いられていた。 これら1万7,160例は、SGLT2阻害薬ダパグリフロジン群(8,582例)とプラセボ群(8,578例)にランダム化され、二重盲検法で4.2年間(中央値)追跡された。MACE抑制はプラセボに非劣性が示された その結果、CV安全性1次評価項目であるMACE(CV死亡・心筋梗塞[MI]・脳梗塞)の発生率は、SGLT2阻害薬群:8.8%、プラセボ群:9.4%(ハザード比[HR]:0.93、95%信頼区間[CI]:0.84~1.03)となり、SGLT2阻害薬による抑制作用は、プラセボに非劣性だった(p<0.001)。このように、プラセボに比べMACEの有意減少は認められなかったものの、もう1つのCV有効性1次評価項目である「CV死亡・心不全入院」*リスクは、SGLT2阻害薬群で有意に減少していた(HR:0.83、95%CI:0.73~0.95)。*試験開始後、MACEリスク中間解析前に追加 有害事象は、服用中止を必要とするものがSGLT2阻害薬群で有意に多かった(8.1% vs.6.9%、p=0.01)。なおメタ解析でリスク増加が懸念されていた膀胱がんは(Ptaszynska A, et al. Diabetes Ther. 2015;6:357-75.)、プラセボ群のほうが発症率は有意に高かった(0.5% vs.0.3%、p=0.02)。CANVAS programとの併合解析で、1次予防例におけるMACE有意抑制は示されず SGLT2阻害薬による2型DMのCVイベント抑制作用を検討した大規模ランダム化試験は、このDECLARE-TIMI 58で3報目となる。そこでWiviott氏らは、既報のEMPA-REG OUTCOME、CANVAS programと合わせたメタ解析により、SGLT2阻害薬のMACE抑制作用を検討した。 その結果、CV疾患既往例では、SGLT2阻害薬によりMACEのHRは0.86(95%CI:0.80~0.93)と有意に低下していたものの、リスク因子のみの1次予防例(1万3,672例)では、SGLT2阻害薬によるリスク低下は認められなかった(HR:1.00、95%CI:0.87~1.16)。なお、CV疾患既往の有無による交互作用のp値は「0.05」である。一方、CV死亡・HF入院のHRは、CV疾患既往例で0.76(95%CI:0.69~0.84)、リスク因子のみ例で0.84(95%CI:0.69~1.01)だった(交互作用p値:0.41)。 本試験はAstraZenecaの資金提供を受け行われた(当初はBristol-Myers Squibbも資金提供)。また学会発表と同時にNEJM誌にオンライン掲載された。「速報!AHA2018」ページはこちら【J-CLEAR(臨床研究適正評価教育機構)とは】J-CLEAR(臨床研究適正評価教育機構)は、臨床研究を適正に評価するために、必要な啓発・教育活動を行い、わが国の臨床研究の健全な発展に寄与することを目指しています。

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知らずに食べている超悪玉脂肪酸、動脈硬化学会が警鐘

 農林水産省がトランス脂肪酸(TFA)に関する情報を掲載してから早10年。残念なことに、トランス脂肪酸に対する日本の姿勢には進展が見られない。2018年10月31日、動脈硬化学会が主催するプレスセミナー「トランス脂肪酸について」が開催され、丸山 千寿子氏(日本女子大学家政学部食物学科教授)、石田 達郎氏(神戸大学大学院医学研究科特命教授)がTFA摂取によるリスクに警鐘を鳴らした。トランス脂肪酸はどうやって体内に取り込まれるのか TFAと飽和脂肪酸を同量摂取して比較した場合、TFAは飽和脂肪酸と比べ動脈硬化の発症を10倍も増やし、糖尿病の原因となるインスリン抵抗性の悪化などを引き起こす。そのため、TFAは超悪玉脂肪酸とも呼ばれている。にもかかわらず、なぜ、TFAがいまだに食品に使用されているのだろうか。石田、丸山の両氏は「現時点では日本人において、直接その有害性を証明した根拠が少ないため」とコメント。 さらに、勘違いされやすいが、TFAは食品などに直接注入される添加物ではない。シス型で天然の液体植物油であるオレイン酸やリノール酸が工場などの食品加工の過程において、トランス型で固形油のエライジン酸やリノエライジン酸に変換・生成されるのである。ただし石田氏は、「家庭での一般の調理過程ではほとんど生じない」と家庭内調理の安全性を伝えた。TFAの新たな測定法と臨床研究の今後の展望 これまで日本でのTFA摂取量の検討は、摂取量に関するアンケート調査を実施し、それに基づいて推測することが多かった。石田氏らは、TFAの血中濃度について、ガスクロマトグラフィー質量分析計を用いて直接測定することに成功。その結果、TFA摂取量がLDL-C値やTG値と正相関、HDL-C値と逆相関することを明らかにした。これは海外の疫学研究と結果が類似しており、石田氏は、「この研究において、TFA血中濃度とBMIや年齢の関係を見ると、高齢者(75歳以上)ではメタボ有無による差はないものの、若年層(60歳未満)のメタボ群では有意にTFA血中濃度が高値を示した。また、冠動脈疾患を有する患者でも同様の傾向を示した。ただし、この研究は入院患者、病院食摂取後、早朝空腹時で測定しているため、これでもTFAのリスクは過小評価されている可能性がある」と述べ、「今回われわれが行った約1,000例を対象とした試験の結果は、海外で証明されたTFAの有害性と酷似している。つまり、海外で証明された知見は日本人においても当てはまると考えることが妥当」とし、「日本の大規模臨床試験がなくても、TFAがリスクだと認識するべきだ」とコメントした。異なる見解を示す消費者庁と農林水産省、2023年までにトランスフリーなるか 摂取過多が認められた国々では、TFAの摂取削減や表示義務が課されている。実際、アメリカでは加工食品に含まれる脂質の含有量のみならず、その内容を重視し、total fatに加えてtrans fatが記載されている。残念ながら日本ではこのような表示義務がないため、食品を製造する各企業の努力に頼らざるを得ない。 そんな中、WHOは『Make the world trans fat free by 2023』という目標を掲げ、TFAによる冠動脈疾患の削減に取り組む具体策を講じている。丸山氏は、「一般の人だけでなく、各企業がTFAについての理解があるかどうかも問題」と、啓蒙活動の重要性を語った。 また、日本でのTFA削減が足踏みしている理由として、丸山氏は各省庁の対応を指摘。「消費者庁は“脂質の含有量だけではなく内容にも留意すること”を丁寧に提示している。一方の農林水産省は、ホームページに“食品中のTFAを減らす努力をしています”と記載していながらも、“TFAだけを必要以上に心配せず、脂質全体の摂取量に十分配慮”と記している」と、TFA摂取による健康被害に根拠がないとも読み取れる説明文に、同氏は悲憤した。 アメリカでは表示が義務化されたことでTFAの摂取が78%も減少したそうである。日本では、いくら“TFAをとらないで!”と言っても、何にどれくらい含まれているのかがわからないため、避けることができない。これを踏まえ両氏は、「日本人は表示されればそれを避ける傾向があるので、表示義務化が実現すればTFAの摂取量は減少するかもしれない。われわれは各省庁にお願いを続けていく」と、摂取規制実現へ向き合っていく姿勢を示した。■参考日本動脈硬化学会:栄養成分表示に関する声明農林水産省:トランス脂肪酸に関する情報消費者庁:トランス脂肪酸に関する情報■関連記事不眠症になりやすい食事の傾向トランス脂肪酸の禁止で冠動脈疾患死2.6%回避/BMJ

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重度肥満2型DM、肥満手術で大血管イベントリスク低下/JAMA

 肥満外科手術を受けた重度肥満の2型糖尿病患者は、肥満外科手術を受けなかった場合と比較し、大血管イベント(冠動脈疾患、脳血管疾患)のリスクが低下したことが、米国・カイザーパーマネンテ北カリフォルニアのDavid P. Fisher氏らによる後ろ向きマッチングコホート研究の結果、明らかとなった。大血管イベントは、2型糖尿病患者の障害および死亡の主たる原因であり、生活習慣の改善を含む内科的治療ではリスクを低下させることができない場合がある。いくつかの観察研究では、肥満外科手術が2型糖尿病患者の合併症を低下させる可能性が示唆されていたが、症例数が少なくBMI値が試験に利用できないこと(非手術群では入手不可のため)が課題であった。JAMA誌2018年10月16日号掲載の報告。重度肥満の2型糖尿病患者、手術vs.通常ケアの大血管イベント発生を比較 研究グループは、米国の4つの統合医療ネットワークにおいて2005~11年の期間に肥満外科手術を受けた19~79歳の重度肥満(BMI≧35)の2型糖尿病患者5,301例(手術群)について、施設・年齢・性別・BMI・HbA1c・インスリン使用歴・糖尿病罹病期間・以前の医療利用をマッチングした対照1万4,934例を非手術群とし、肥満外科手術(ルーワイ胃バイパス術76%、スリーブ状胃切除術17%、調節性胃バンディング術7%)と通常の糖尿病治療を比較した(追跡は2015年9月まで)。 主要評価項目は、大血管疾患(冠動脈疾患[急性心筋梗塞、不安定狭心症、経皮的冠動脈インターベンションまたは冠動脈バイパス術]あるいは脳血管疾患[脳梗塞、脳出血、頸動脈ステント留置術または頸動脈内膜剥離術]の初発)発生までの期間とし、統計解析には多変量調整Cox回帰モデルを使用した。手術で複合大血管イベントと冠動脈疾患の発生が低下、脳血管疾患は有意差なし 手術群と非手術群を合わせた2万235例は、平均年齢(±SD)50±10歳で、女性が手術群76%、非手術群75%、ベースラインの平均BMI(±SD)はそれぞれ44.7±6.9、43.8±6.7であった。 追跡期間終了時において、手術群で106件(脳血管疾患37件、冠動脈疾患78件、追跡期間中央値:4.7年[四分位範囲:3.2~6.2])、非手術群で596件(脳血管疾患227件、冠動脈疾患398件、追跡期間中央値:4.6年[四分位範囲:3.1~6.1])の大血管イベントが認められた。 肥満外科手術は、5年時の複合大血管イベント発生率低下と関連しており(手術群2.1% vs.非手術群4.3%、ハザード比:0.60[95%信頼区間:0.42~0.86])、冠動脈疾患発生率の低下も同様であった(1.6% vs.2.8%、0.64[0.42~0.99])。脳血管疾患発生率は、5年時で両群に有意差はなかった(0.7% vs.1.7%、0.69[0.38~1.25])。 結果を踏まえて著者は、「本研究の結果について無作為化臨床試験で検証する必要がある」と提言するとともに、「医療従事者は、重度肥満で2型糖尿病を有する患者の肥満外科手術の意思決定に関与する際は、大血管イベント予防における肥満外科手術の潜在的役割を共有する必要がある」とまとめている。

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1型DM、ハイブリッド人工膵臓vs.SAP療法/Lancet

 食事時のインスリンボーラス注入の必要性を除けば昼夜にわたり自動でインスリンを注入するハイブリッド・クローズドループ型インスリン注入システム(以下、ハイブリッド人工膵臓)は、既存のセンサー増強型インスリンポンプ(SAP)療法と比較して、6歳以上の幅広い年齢層にわたる1型糖尿病患者の血糖コントロールを改善し、低血糖リスクを低減することが明らかにされた。英国・ケンブリッジ大学代謝科学研究所のMartin Tauschmann氏らによる、国際多施設共同の非盲検無作為化試験の結果で、Lancet誌オンライン版2018年10月1日号で発表された。自由生活下で12週間介入、標的血糖範囲内の時間割合を評価 試験は、英国4病院と米国2施設の糖尿病外来クリニックで、インスリンポンプ療法を受けたが血糖コントロール不良(糖化ヘモグロビン[HbA1c]:7.5~10.0%)の6歳以上の1型糖尿病患者を集めて行われた。 被験者は無作為に2群に分けられ、1群はハイブリッド人工膵臓療法を、もう1群はSAP療法を、いずれも12週間にわたり自由生活下で受けた。なお、介入期間前に4週間の導入期間が設けられ、試験インスリンポンプと連続血糖モニタリングのトレーニングが行われた。 適格患者の無作為化は、中央の無作為化ソフトウェアを用いて実行されたが、両群とも割り付け治療の盲検化はされなかった。無作為化では、HbA1c低値(<8.5%)と高値(≧8.5%)の層別化も行われた。 主要評価項目は、無作為化後12週時点の標的血糖範囲内(3.9~10.0mmol/L)だった時間割合。主要評価項目と安全性評価項目の解析は、全無作為化患者を対象に行われた。ハイブリッド人工膵臓群65%、SAP療法群54%で有意差 2016年5月12日~2017年11月17日に114例がスクリーニングを受け、適格患者86例が、ハイブリッド人工膵臓療法(46例)またはSAP療法(40例、対照群)を受けるよう無作為に割り付けられた。被験者のうち22歳以上が44例、13~21歳が19例、6~12歳が23例であった。 標的血糖範囲内時間割合は、ハイブリッド人工膵臓群(65%、SD8)が、対照群(54%、SD9)と比べて有意に高率であった(ベースラインから12週時点までの変化の平均差:10.8ポイント、95%信頼区間[CI]:8.2~13.5、p<0.0001)。 HbA1cは、ハイブリッド人工膵臓群がスクリーニング時8.3%(SD 0.6)から、4週間の導入期間後は8.0%(0.6)、12週間の介入期間後は7.4%(0.6)に低下した。対照群は、8.2%(0.5)から7.8%(0.6)、7.7%(0.5)への低下で、HbA1cの低下は、ハイブリッド人工膵臓群が対照群と比べて有意に大きかった(変化の平均差:0.36%、95%CI:0.19~0.53、p<0.0001)。 血糖値が3.9mmol/L以下で推移した時間(変化の平均差:-0.83ポイント、95%CI:-1.40~-0.16、p=0.0013)、10.0mmol/L以上で推移した時間(同:-10.3ポイント、-13.2~-7.5、p<0.0001)は、いずれもハイブリッド人工膵臓群が対照群よりも有意に短時間であった。 センサー測定血糖値の変異係数については、介入間で有意差は認められなかった(変化の平均差:-0.4%、95%CI:-1.4~0.7、p=0.50)。同様に、投与されたインスリン1日総量(変化の平均差:0.031U/kg/日、95%CI:-0.005~0.067、p=0.09)と、体重(同:0.68kg、-0.34~1.69、p=0.19)についても両群間で有意な差はなかった。 重症低血糖症の発生はなかった。ハイブリッド人工膵臓群1例で、注入セットの不具合による糖尿病ケトアシドーシスが報告。また、重症高血糖症が両群2例ずつで、そのほかハイブリッド人工膵臓群13件、対照群3件の有害事象が報告された。

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発症時年齢は1型糖尿病患者の心血管疾患リスクに関連する(解説:住谷哲氏)-917

 1型糖尿病患者の動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)リスクが2型糖尿病と同様に増加することは、本論文の著者らによってスウェーデンの1型糖尿病レジストリを用いて詳細に検討されて報告された1)。今回、著者らは1型糖尿病の発症時年齢とASCVDとの関連を同じレジストリを用いて解析した。その結果、発症時の年齢は糖尿病罹病期間を調整した後も、ASCVDリスクと有意に関連することが明らかにされた。 1型糖尿病の主病態はインスリン分泌不全であり、インスリン抵抗性の寄与は2型糖尿病とは異なりほとんどない。したがって1型糖尿病患者では、高血糖そのものによりASCVDのリスクが増大していると考えられる。本論文では、とくに急性心筋梗塞のリスクが1型糖尿病患者において約30倍に増加しているのが注目される。これは2型糖尿病患者における厳格な血糖管理の影響を検討したメタ分析において、非致死性心筋梗塞が強化治療により有意に減少したことと一致しており、冠動脈疾患の発症には高血糖が強く関連することを示唆している2)。一方、脳卒中の増加は約6倍であり、加齢の影響を差し引いて考えることが当然必要であるが、同じASCVDである冠動脈疾患と脳卒中に対する高血糖の影響は大きく異なっていることが示唆される。 若年1型糖尿病患者のASCVDの発症を主要評価項目として、スタチンおよびRAS系阻害薬の有効性を検討したランダム化比較試験は存在しない。ASCVDの代用エンドポイントである内頚動脈内膜中膜複合体厚を副次評価項目として、若年1型糖尿病患者に対するACE阻害薬およびスタチンの効果を検討したランダム化比較試験としてAdDIT(Adolescent Type 1 Diabetes Cardio-Renal Intervention Trial)が昨年報告されたが3)、両薬剤ともにプラセボ群と差はなかった。しかしASCVDの発症メカニズムは1型糖尿病と2型糖尿病とに共通すると考えられることから、2型糖尿病治療における包括的心血管リスク管理のストラテジーはそのまま1型糖尿病にも適用できると思われる。1型糖尿病患者の治療は2型糖尿病患者以上に血糖管理にのみ注目してしまうことが多い。とくに若年発症の1型糖尿病患者の治療の際にはASCVDの抑制に留意した治療を心掛けることが必要である。

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第3回 高齢者の高血糖で気を付けたいこと【高齢者糖尿病診療のコツ】

第3回 高齢者の高血糖で気を付けたいことQ1 高齢者では基準が緩和されていますが、血糖値高めでも様子をみる方針でいいのでしょうか? 注意すべき病態はありますか?最近のガイドラインでは、高齢者、とくに認知機能やADLが低下している場合血糖コントロールが甘めに設定されていますが、どんなに高くてもよいというものではありません。高血糖で緊急性を要する病態として、高浸透圧高血糖状態(HHS)と糖尿病ケトアシドーシス(DKA)があり、注意が必要です(表)。画像を拡大するHHSはインスリン分泌が保たれている患者に、何らかの血糖上昇をきたす因子(感染症やステロイド投与、経管栄養など)が加わり、著明な高血糖と高度脱水をきたす病態です。血糖値は通常600mg/dLを超え、重症では意識障害をきたし、死亡率は10~20%とされています。HHSはとくに高齢者で起こりやすく、糖尿病治療中でこれらの因子を伴った場合は、十分な水分摂取を促すこと、こまめに血糖値をチェックすることが大切です。水分摂取困難や意識障害の症例はもちろん、血糖300mg/dL以上が持続する場合も専門医を受診させ、入院を考慮するべきでしょう。以前行った調査1)では、HHS患者では認知症有の患者が86%を占め、要介護3以上、独居または高齢夫婦世帯がそれぞれ半数以上を占めていました。これらの患者ではとくに注意が必要です(図1)。画像を拡大するDKAは、インスリンの絶対的欠乏によって脂肪が分解され、血中のケトン体が上昇し、アシドーシスを呈する病態です。高齢者のDKAの多くは1型糖尿病で治療中の患者さんでの、感染症合併やインスリンの不適切な減量・中断による発症です。体調不良時のインスリンの使用法(シックデイルール)を指導しておく必要があります。食事がとれないような場合でも、安易にインスリン(とくに持効型)を中止しないよう指導することが重要になります。HbA1c9%以上では、HbA1c7~7.9%に比べHHSやDKAなどの急性代謝障害をきたすリスクが2倍以上となります。高齢者ではHbA1c8.5%以上だと肺炎、尿路感染症などの感染症のリスクも高くなります。そのため私たちは、認知機能やADLが低下している患者さんでも、HbA1c8.5%未満を目標としています。HbA1c8.5%以上が持続する症例では、入院での血糖コントロールを行い、その後の環境調整を行っています。Q2 HbA1cが正常なのに、 食後血糖が高い患者へはどのように対応すべきでしょうか?HbA1cは平均血糖の指標であり、HbA1cが正常でも、血糖変動が大きい可能性があります。食後高血糖は血糖変動の大きな要因であるため、外来受診の患者さんでも、空腹時のみでなく、定期的に食後血糖(1、2時間値)を測定するようにしています。食後高血糖は、糖尿病予備軍の患者さんの糖尿病への進展リスクを高めるといわれています。また高齢者のみでの研究ではありませんが、心血管疾患の発症率や死亡率も高いことが知られています(図2) 2)。一方で、SU薬やインスリン使用中で食後高血糖、かつHbA1cが低い場合は、低血糖が隠れていることがあるため、注意が必要です。また早朝の血糖が高値を示す場合、実は夜間に低血糖があり、それに引き続いてインスリン拮抗ホルモンが分泌されて血糖が上昇している場合があります(ソモジー効果)。ソモジー効果が疑われる場合は深夜の血糖を測ることが望ましく、低血糖が疑われる場合は、インスリンやSU薬の減量を行います。画像を拡大する食後高血糖に対しては、まず生活指導を行います。ゆっくり時間をかけて食べる、糖質を食物線維が多いものと一緒にとる、清涼飲料水など糖質が速やかに吸収される食品を避ける、食後1時間後を目安にウォーキングや軽い体操を行うこと、などを勧めます。これらの指導を行ったにもかかわらず、食後血糖が常に200mg/dLを超えている場合は、α-グルコシダーゼ阻害薬(非糖尿病でも使用可能)や、グリニド製剤(糖尿病のみ使用可能)などの食後高血糖改善薬の投与も考慮します。前者は糖質の吸収を緩やかにする薬剤ですが、腹部手術後は慎重投与となっています。後者はインスリン分泌を刺激する薬剤ですので、低血糖への配慮が必要になります。いずれも1日3回食直前の内服が必要なので、服薬アドヒアランスの不良な患者さんには適していません。そのような患者さんには、効果は劣るものの服薬回数の少ないDPP-4阻害薬を考慮しますが、認知機能やADLが低下している患者さんでは食後のみの高血糖であれば、無投薬で様子をみることも多いです。Q3 高血糖に対する認識の低さを感じます。患者指導のポイントがあれば教えてください。まず、年齢、認知機能やADL低下の程度、合併症や併発疾患、生命予後によって、コントロールの目標も変わってきます。認知機能やADLが低下している場合は、厳格なコントロールは必ずしも必要ありません(第6回で詳述予定です)。一方、比較的若く、認知機能やADLが保たれている患者さんには、しっかり指導をしなければなりません。ここではこういった患者さんで病識が低い人への対応を考えます。これらの患者さんでは何よりも、通院を中断してしまうことが問題です。通院しているだけである程度の意欲はあるわけですから、その部分は褒めるようにしています。また、看護師や栄養士にも協力してもらい、治療に対するご本人の考えや感情を十分に傾聴することが大切でしょう。チームとしてのサポートが重要となります。「もう歳だからいい」と言う場合や、配偶者の介護の負担などで治療に向き合えないこともあります。医療スタッフが来院時に悩みを聞きながら、少しずつ治療に向き合えるように粘り強く待つことが大切です。長期間来院しない時はスタッフから連絡してもらい、心配していることやあなたの健康を一緒に支えているということをわかっていただきます。教育面では、休日の糖尿病教室への参加をお勧めしたりしますが、強制はしません。また、診療時間は限られているので、教育資材やビデオを貸し出したりして、合併症予防の重要性を学んでいただくようにしています。そして1つでも合併症を理解していただいたら、褒めるようにします。治療に関しては、同時にいくつものことを要求しないことも重要です。禁煙と運動、食事内容を一度に全て改善しろといってもできません。患者さんの取り組みやすいところから1つずつ、しかも達成しやすいところに目標をおきます。例えばまったく運動していない人では、「まず1日3,000歩歩いてみましょう」とします。この際、目標は具体的に、数値化したものが望ましいでしょう。そして患者さんにはかならず記録をつけてもらうようにしています。たとえ目標が達成できなくても、記録をつけはじめたということについてまず褒めます。とにかく、できないことを責めるのではなく、できたことを褒める、という姿勢です。投薬の面でも、できるだけ負担のないようにし、例えば軽症で連日の投薬に抵抗がある患者さんには、週1回の製剤からはじめたりしています。なお、認知機能やADLが低下している場合でも、著明な高血糖は避ける必要があります。Q1で述べた内容を、家族・介護者に指導します。 1)Yamaoka T, et al. Nihon Ronen Igakkai Zasshi. 2017;54:349-355.2)Tominaga M, et al. Diabetes Care. 1999;22:920-924.

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インスリンが血糖に関係なくがんリスクに関連か~JPHC研究

 わが国の大規模前向きコホート研究(JPHC研究)より、数種類のがんにおいて、インスリン高値が高血糖とは関係なく、糖尿病関連のがん発症に関連する可能性が示唆された。著者らは「血漿インスリン値の検査は、糖尿病を発症していない人においても、がんリスクを評価するうえで妥当なオプションである」としている。International Journal of Cancer誌オンライン版2018年9月5日号に掲載。 本研究では、がんリスクにおけるインスリンと血糖のそれぞれの影響を明らかにするために、インスリンの代用マーカーである血漿Cペプチド、および安定した血糖マーカーである糖化アルブミン(GA)と、がん全体および部位別のがんリスクとの関連が検討された。ベースラインでアンケートに回答し血液サンプルを提供した3万3,736人のうち、約4,000人にがんが発症した。明らかに糖尿病である被験者を除外し、3,036人のがん症例と3,667人のサブコホートで分析を行った。 主な結果は以下のとおり。・男女全体として、GAで調整後、Cペプチド値の最も高い群は、最も低い群と比べてがん全体(ハザード比[HR]:1.21、95%信頼区間[CI]:1.02~1.42)、結腸がん(1.73、1.20~2.47)、肝臓がん(3.23、1.76~5.91)、腎・腎盂・尿管がん(2.47、1.07~5.69)のリスク増加と有意に関連していた。・Cペプチドに関連した上記のがんのうち結腸がんと肝臓がんでは、Cペプチド値とは関係なく、GAの増加に関連したがんリスク増加も示した。GAの最も低い群に対する、最も高い群での結腸がんと肝臓がんのHRは、それぞれ1.43(95%CI:1.02~2.00)および2.02(95%CI:1.15~3.55)であった。・性別による差異は、Cペプチドと結腸がんの関連(相互作用のp=0.04)のみ明らかであった。

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ケアネット白書~糖尿病編2018

インデックスページへ戻る1.調査概要本調査の目的は、糖尿病診療に対する臨床医の意識を調べ、その実態を把握するとともに、主に使用されている糖尿病治療薬を評価することである。本調査は、2018年2月23日~3月2日に、ケアネットの医師会員約14万人のうち、2型糖尿病患者を1ヵ月に10人以上診察している医師500人を対象にCareNet.com上で実施した。2.結果(1)回答医師の背景回答医師500人の主診療科は、糖尿病・代謝・内分泌科が240人(48.0%)で最も多く、一般内科162人(32.4%)、循環器科41人(8.2%)などが続いた。医師の所属施設は、一般病院が194人(38.8%)で最も多く、以下、医院・診療所・クリニック125人(25.0%)、大学病院93人(18.6%)、国立病院機構・公立病院88人(17.6%)など。医師の年齢層は50代が160人(32.0%)で最も多く、次いで40代(129人、25.8%)、30代(125人、25.0%)が続いた。(2)薬剤の処方状況(1stライン)糖尿病治療薬をSU薬、α-グルコシダーゼ阻害薬(α-GI)、ビグアナイド(BG)薬、チアゾリジン薬、速効型インスリン分泌促進薬(グリニド)、DPP-4阻害薬、インスリン、GLP-1、SGLT2阻害薬、その他に分類し、食事・運動療法に加えて薬物療法を実施する際の1stラインの処方状況を聞いた(図1)。図1を拡大する処方が最も多かったのはDPP-4阻害薬で、回答した医師全体の38.3%が1stラインで使っている。昨年と比べると0.1ポイント減少で、ほぼ横ばいといえる。次いで多かったのはBG薬(27.6%)で、昨年と比べて1.3ポイント増加した。そのほか、SGLT2阻害薬(6.4%)は昨年と比べて2.7ポイント増加し、過去5年間において最も多かった。<糖尿病・代謝・内分泌科での1stライン>回答医師の属性が糖尿病・代謝・内分泌科の場合、1stラインでの処方割合が最も多かったのはDPP-4阻害薬(35.4%)だが、これに続くBG薬が34.8%であり、割合は拮抗している。一方、SU薬は過去5年の推移をみても一貫して減少傾向にあるようだ(図2)。図2を拡大する<その他の診療科(糖尿病・代謝・内分泌科以外)での1stライン>回答医師の属性がその他の診療科の場合、1stラインの処方割合はDPP-4阻害薬が最も多く(41.0%)、昨年と比べて0.3ポイント増とほぼ横ばいであった(図3)。図3を拡大する(3)薬剤の処方状況(2ndライン)●DPP-4阻害薬単剤処方例からの治療変更1stラインでDPP-4阻害薬を単剤投与しても血糖コントロールが不十分だった場合、2ndラインではどのような治療変更を行うかについて、1.SU薬を追加、2.速効型インスリン分泌促進薬を追加、3.α-GIを追加、4.BG薬を追加、5.チアゾリジン薬を追加、6. SGLT2阻害薬を追加、7. BG薬とDPP-4阻害薬の配合剤への切り替え、8. その他配合剤への切り替え、9.他剤への切り替え、10.その他―の分類から処方状況を聞いた(図4)。なお、2018年度は選択肢から「GLP-1を追加」、「インスリンを追加」を削除し、「BG/DPP-4阻害薬配合剤へ切り替え」「その他配合剤へ切り替え」を追加している。図4を拡大する最も多かったのはBG薬の追加で、回答した医師の40.8%に上った。SGLT2阻害薬の追加は過去5年間で年々増加傾向にあり、14.1%と昨年と比べて4.2ポイント増加した。一方、SU薬やα-GIの追加は減少傾向にある。BG/DPP-4阻害薬配合剤への切り替えは10.1%であった。回答医師の属性が糖尿病・代謝・内分泌科とその他の診療科を比較すると、専門医ではBG薬の追加が全体平均よりも高い傾向にあり、逆にα-GIの追加を選ぶ医師は少ない傾向があった。専門医以外では、α-GIの追加のほか、BG/DPP-4阻害薬配合剤を選択する割合が多い傾向がみられた(図5)。図5を拡大する●BG薬単剤処方例からの治療変更また、1stラインでBG薬を単剤投与しても血糖コントロールが不十分だった場合2ndラインではどのような治療変更を行うかについて、1.SU薬を追加、2.速効型インスリン分泌促進薬を追加、3.α-GIを追加、4.チアゾリジン薬を追加、5. DPP-4阻害薬を追加、6. SGLT2阻害薬を追加、7. BG薬とDPP-4阻害薬の配合剤への切り替え、8. その他配合剤への切り替え、9. DPP-4阻害薬(配合剤以外)への切り替え、10. DPP-4阻害薬以外の薬剤(配合剤以外)への切り替え、11.その他―の分類から処方状況を聞いた(図6)。図6を拡大する最も多かったのは前年に引き続きDPP-4阻害薬の追加(55.1%)であった。SGLT2阻害薬の追加(13.2%)を選択する医師の割合は、前年比で5.2ポイント増となり、2番目に多い選択肢となっている。回答医師の属性が糖尿病・代謝・内分泌科とその他の診療科を比較すると、専門医で最も多かったのはDPP-4阻害薬の追加(52.2%)で、次いでSGLT2阻害薬の追加(16.3%)となっていた。その他の診療科と比べると、DPP-4阻害薬の追加が少なく、SGLT2阻害薬の追加が多い傾向がみられた(図7)。図7を拡大する(4)薬剤選択の際に重要視する項目本調査では、薬剤を選択する際に重要視する項目についても聞いている(複数回答)。最も多いのは昨年に続き「低血糖をきたしにくい」で、77.8%の医師が挙げている。以下、「重篤な副作用がない」(65.0%)、「血糖降下作用が強い」(64.0%)などが続き(図8)、例年と大きな変化はみられなかった。図8を拡大する(5)配合剤に対する認知状況と処方意向今年度から新たに、配合剤の認知度や処方意向についても聞いている。配合剤がラインナップにあることが薬剤の選択理由のひとつになるかという問いに対しては、「とてもそう思う」、「そう思う」、「まあそう思う」と答えた医師が全体の7割強となった。また、処方したいと思う配合剤の組み合わせについて、1. DPP-4阻害薬とビグアナイド薬の配合剤、2. DPP-4阻害薬とSGLT2阻害薬の配合剤、3.上記以外の配合剤、4. 配合剤を処方するつもりはない―の4項目について聞いたところ(複数回答)、DPP-4阻害薬とビグアナイド薬の配合剤について63.4%の医師が処方意向を示した(図9)。図9を拡大する開発中、または開発検討中の配合剤の認知度について、1. シタグリプチン/イプラグリフロジンの配合剤、2. リナグリプチン/エンパグリフロジンの配合剤、3. アナグリプチン/メトホルミンの配合剤、4.なし―の4項目を聞いたところ(複数回答)、「なし」と答えたのは47.0%で、5割強の医師が開発中の何らかの配合剤を認知しているという結果となった。さらに、認知している配合剤が今後発売された場合、どのように処方したいかという問いに対しては、リナグリプチン/エンパグリフロジンの配合剤について52.0%の医師が「発売時より処方を検討していきたい」と回答し、処方意向が比較的高い傾向がみられた(図10)。図10を拡大するインデックスページへ戻るなお、本データはアンケートを用いた集計結果であり、処方実態を反映しているものではございません。

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第6回 アルコールを上手に断る裏ワザ【実践型!食事指導スライド】

第6回 アルコールを上手に断る裏ワザ医療者向けワンポイント解説納涼会や夏のイベントをはじめ、患者さんがアルコールの席に参加する機会は、1年を通してあるかと思います。「飲みの席では強引に勧められてしまって断りづらい」「やっぱり誘惑に負けて飲んでしまう」そんな理由をお持ちの患者さんに向けた、場を壊さずにアルコールを断る上手な裏ワザをご紹介します。写真の3つのグラス。どれがアルコール入りで、どれがソフトドリンクかお分かりでしょうか?アルコールとして見た場合、左がウイスキー、真ん中がハイボール、右がジンバックやウーロン茶割りに見えませんか?実は、この3つ、どれもソフトドリンクです。左はウーロン茶、真ん中は炭酸水にカットレモンを入れたもの、右はジンジャーエールです。このような、アルコールの席で役立つ「アルコール風ドリンクを用意する方法」を紹介します。まず以下の物をあらかじめ店員に依頼します。ソフトドリンクをアルコールが入っているグラスと同じものに入れてもらうカットレモンや氷これらを「炭酸水にレモンを入れたものを私に持って来てもらえますか?」「カットレモンだけをお皿にください」などと、注文時やトイレに立つ際にお願いすることがポイントです。この一言で、アルコール風のドリンクを手元に置いておくことができます。このように、アルコール風のドリンクが手元にあれば、無理に進められることもありませんし、「飲んでいる?」と聞かれたら「飲んでいます!」と答えられます。みんなでワイワイと飲んでいるときに、「場を乱したら…」とか「断りづらい」と思っている方にはオススメの方法です。また、アルコール量を減らしたいと思っている方にも、この方法はオススメです。アルコールグラスの横に、必ずこのようなドリンクを用意し、アルコールと交互に飲むようにすると、これだけでペースを落とすことができます。とはいえ、飲酒が好きな方にとって、アルコールの席は誘惑が多いものです。アルコール摂取によるリスクとして1)アルコール自体のカロリーだけでなく、食欲増進効果がある、2)血糖値に影響を与える(インスリン注射を含む薬物治療中の方は、低血糖を起こしやすい)、3)中性脂肪増加作用、4)肝臓への負担、があります。患者さんにはこうした認識のもとで、禁酒の必要性を理解し、誘惑の多いイベントなどをコントロールしてもらうことも大切です。

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DPP-4阻害薬とSGLT2阻害薬の配合剤「スージャヌ配合錠」【下平博士のDIノート】第8回

DPP-4阻害薬とSGLT2阻害薬の配合剤「スージャヌ配合錠」今回は、「シタグリプチンリン酸塩水和物/イプラグリフロジンL-プロリン配合錠(商品名:スージャヌ配合錠)」を紹介します。本剤は、DPP-4阻害薬とSGLT2阻害薬の配合剤であり、異なるアプローチにより血糖コントロールの継続・改善が期待されます。<効能・効果>2型糖尿病の適応で、2018年3月23日に承認され、2018年5月22日より販売されています。配合成分のシタグリプチンは、選択的にDPP-4を阻害し、活性型インクレチンを増加させることで、血糖依存的にインスリンの分泌を促進し、グルカゴンの分泌を抑制して血糖低下作用を示します。一方、イプラグリフロジンは選択的にSGLT2を阻害し、腎臓でのブドウ糖再取り込みを抑制することで、尿と共に糖を排出してインスリン非依存的な血糖低下作用を示します。なお、本剤を2型糖尿病治療の第1選択薬として用いることはできません。<用法・用量>通常、成人には1日1回1錠(シタグリプチン/イプラグリフロジンとして50mg/50mg)を朝食前または朝食後に経口投与します。<副作用>国内臨床試験(シタグリプチン50mgおよびイプラグリフロジン50mgを1日1回併用投与)において、220例中28例(12.7%)に副作用が認められています。主なものは頻尿13例(5.9%)、口渇6例(2.7%)、便秘6例(2.7%)でした(承認時)。<患者さんへの指導例>1.このお薬は、2種類の成分の配合剤で、体内のインスリン分泌を促す作用と、尿中に糖分を排泄させる作用により血糖値を下げます。2.低血糖症状(ふらつき、冷や汗、めまい、動悸、空腹感、手足のふるえ、意識が薄れるなど)が現れた場合は、十分量の糖分(砂糖、ブドウ糖、清涼飲料水など)を取るようにしてください。α-グルコシダーゼ阻害薬を服用中の場合は、ブドウ糖を取るようにしてください。3.過剰な糖が尿で排出されるため、尿路感染症(尿が近い、残尿感、排尿時の痛みなど)が生じることがあります。このような症状が現れた場合は、医師に相談してください。4.尿の量や排尿回数が増えることにより、脱水が生じることがあるので、多めに水分を補給してください。<Shimo's eyes>本剤の名称は、配合成分であるイプラグリフロジンの商品名「スーグラ」とシタグリプチンの商品名「ジャヌビア」が由来となっています。SGLT2阻害薬とDPP-4阻害薬という作用機序の異なる2つの薬剤を配合したことで、相補的な血糖降下作用が期待されます。それぞれの薬剤を単剤で服用した場合の薬価が、スーグラ錠50mg(200.20円/錠)とジャヌビア錠50mg(129.50円/錠)で合計329.70円なのに対し、スージャヌ配合錠は263.80円/錠なので、1日薬価を80%程度に抑えることができます※。本剤は、シタグリプチン50mgまたはイプラグリフロジン50mgの単剤治療で効果不十分な場合、あるいはすでにシタグリプチン50mgとイプラグリフロジン50mgを併用し、状態が安定している場合に切り替えて使用します。各単剤で効果不十分の場合は錠数を増やさず併用療法に移行でき、すでにそれぞれの薬剤を併用している場合は、薬剤数を削減できることから服薬アドヒアランスが向上し、長期にわたる安定した血糖コントロールが期待できます。なお、本剤はシタグリプチンおよびイプラグリフロジンと同様の効能・効果、用法・用量の組み合わせであり、実質的に既収載品によって1年以上の臨床使用経験があると認められました。そのため、新医薬品に係る通常14日間の処方日数制限は設けられていません。※2018年8月時点

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「暑くて運動できない」と嘆く患者さん【Dr. 坂根の糖尿病外来NGワード】第21回

■外来NGワード「涼しい時間帯に運動しなさい!」(患者の生活リズムを配慮しない)「プールで運動しなさい」(周辺の運動施設を確認しない)「家の中で何か運動しなさい!」(あいまいな運動指導)■解説 「暑くて運動できない」と嘆く患者さんがいます。こういった患者さんは、比較的長時間の有酸素運動だけが運動療法だと思い込んでいるかもしれません。ウォーキングなどの有酸素運動以外では、スクワットなどの筋力トレーニングも糖尿病に有効な運動療法の1つです。筋トレをすることで、インスリンのシグナル伝達・ミトコンドリア機能の改善、体脂肪の減少などにより、インスリン感受性がよくなります1,2)。その結果、血糖コントロールと筋力の改善効果がみられます3,4)。ただし、息を止めた筋トレで血圧が上昇しないように、注意を促しておきましょう。ジムなどで専門家の管理下に行う筋トレが最も効果が高いのですが、自宅で自分の体重を用いて筋トレを行うこともできます。まずは、過去の運動歴を聞いてみましょう。運動部などで筋トレの経験がある人ならいいですが、そうでない場合は自己流の筋トレになっている可能性があるので注意が必要です。正しいやり方をロールプレイングすることで、モチベーションを上げてもらいましょう。 ■患者さんとの会話でロールプレイ医師最近、運動はできていますか?患者頑張って歩いていたんですが、最近は暑くてなかなかできなくて…。医師確かに、夏は暑いですからね。無理に運動して熱中症になっても困りますし。患者そうなんです。どうしたものかと…(悩んでいる顔)。医師涼しい時間帯に外を歩いたり、プールを利用している人もいるんですが…(第三者の話として紹介し、患者の反応をみる)。患者そうしたいんですが、近くにプールがないんです(抵抗)。医師なるほど。若い頃はどんなスポーツや運動をされていましたか(過去の運動歴の確認)?患者学生時代は柔道をしていました。黒帯まで取ったんです。医師それはすごいですね。それなら、涼しい家の中でできる、いい運動がありますよ!患者それは何ですか(興味津々)?医師そこで立ち上がって、膝を軽く曲げてみて下さい。膝が爪先より先に出ると、太腿の後ろの筋肉は緩んでしまいますね(正しいスクワットの姿勢を説明)。患者スクワットですね! …本当だ。だけど、このままだと後ろに倒れそうです。医師そこで、バランスを取るために腕を前に出します。そして、ゆっくりと腰を落としてみましょう。血圧を上げないために、声を出しながらやるといいですね。1、2、3、…(10までゆっくりと数え、血圧が上がらない工夫を説明)。患者1、2、3…。医師膝を痛めますから、90度より曲げる必要はありません。110度くらいで2秒キープして、立ち上がります。患者1、2でキープ、3で立ち上がるですね。何回くらいやったらいいんですか?医師1セット10回程度ですね。少し休んで、合計3セットが目標です。これを週に2、3回やってみましょう。患者これなら家でもできそうです(うれしそうな顔)。■医師へのお勧めの言葉「涼しい家の中でできる、いい運動がありますよ!」(筋トレを説明)1)American Diabetes Association. Diabetes Care 2018;41:S38-S50.2)Strasser B, et al. Biomed Res Int. 2013;2013:805217.3)Irvine C, et al. Aust J Physiother. 2009;55:237-246.4)McGinley SK, et al. Acta Diabetol. 2015;52:221-230.

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メトホルミン単独療法で血糖コントロールが不十分な患者へのSU薬の上乗せは心血管イベント・総死亡のリスクを増加しない(解説:住谷哲氏)-900

 低血糖と体重増加のリスクはすべてのSU薬に共通であるが、SU薬が2型糖尿病患者の心血管イベントおよび総死亡のリスクを増加させるか否かは現在でも議論が続いている。発端は1970年に発表されたUGDP(University Group Diabetes Program)1)において、SU薬であるトルブタミド投与群で総死亡リスクが増加したことにある。その後の研究でこの疑念は研究デザイン上の不備によることが明らかとなり、トルブタミドと総死亡リスク増加との間には関連がないことが証明された。しかし安全性を重視するFDAはUGDPの結果に基づいて、現在においてもすべてのSU薬の添付文書に“increased risk of cardiovascular mortality”と記載している。 1998年に発表されたUKPDS 33が実施された目的の1つは、UGDPで疑われたSU薬の総死亡リスク増加の可能性を再検討することであった。その結果、SU薬は低血糖、体重を増加させるが細小血管合併症を減少し、心血管イベントおよび総死亡のリスクを増加させないことが明らかにされた。それでは低血糖、体重増加のリスクはあるが、心血管イベントおよび総死亡のリスクは増加させないSU薬は血糖降下薬の第1選択薬となりうるかといえば否である。その理由はメトホルミンがUKPDS 34において2型糖尿病患者の総死亡のリスクを減少させることが明らかにされたからである。UKPDS 33/34の結果を合わせて考えると、2型糖尿病患者の心血管イベントおよび総死亡のリスクに関して、SU薬はneutralであり、メトホルミンはbeneficialである、とするのが正しい解釈と思われる。初回治療患者(これまでに一度も血糖降下薬を投与されたことがない患者)に投与することで総死亡を減少させた血糖降下薬は、現在までメトホルミンのみである。したがって、何らかの理由でメトホルミンが投与できない初回治療患者にSU薬を投与することは、低血糖および体重増加のリスクを許容する条件下で正当化される。 ではメトホルミン単独療法で血糖コントロールが不十分である場合に、次にどの薬剤を上乗せすべきだろうか? 次々に発表されるCVOT(cardiovascular outcome trial)の結果に基づいて、ASCVD(atherosclerotic cardiovascular disease)を有する患者においてはSGLT2阻害薬またはGLP-1受容体作動薬がメトホルミンへ上乗せすべき薬剤として推奨されつつある。しかし現実には、安価なSU薬がメトホルミンへの上乗せ薬剤として多く使用されている。そこで本論文では、メトホルミン単独療法で血糖コントロールが不十分である患者において、SU薬への切り替え、または上乗せが、心血管イベント、総死亡、重症低血糖のリスクの増加と関連するか否かを検討した。これまでメトホルミン単独療法で血糖コントロールが不十分である患者のメトホルミンをSU薬に切り替えた際に、心血管イベント、総死亡、重症低血糖のリスクが増加するか否かを検討したランダム化比較試験および観察研究はない。メトホルミン単独療法で血糖コントロールが不十分である患者へSU薬を上乗せした際の有効性と安全性を検討したランダム化比較試験には、昨年発表されたTOSCA.IT2)があるが、これはピオグリタゾンとの比較であり、SU薬の有効性および安全性を厳密には評価できない。 リアルワールドエビデンスはランダム化比較試験の短所を補完するエビデンスとして近年脚光を浴びているが、厳密な手法を用いない解析は観察研究であるが故に多くのバイアスを含んでいる可能性がある。本論文の著者であるSuissa博士は著名な疫学者であるが、これまでメトホルミン3)、SU薬4)、SGLT2阻害薬5)に関する観察研究においてバイアスを適切に制御しなかった結果、誤った結論が導かれている可能性を指摘してきた。本研究では彼らが開発したprevalent new-user design6)を用いて、メトホルミン単独療法で血糖コントロールが不十分な患者に対するsecond-line(メトホルミンからの切り替え、またはメトホルミンへの上乗せ)としてのSU薬と心血管イベント、総死亡、重症低血糖との関連を検討した。 テキストでは切り替え群と上乗せ群がまとめて報告されているために理解が困難な点があるので、SupplementのeTable5を参考にする必要がある。eTable5の結果をまとめると、メトホルミンからSU薬への切り替え群では、メトホルミン単独療法継続と比較すると心筋梗塞(HR:1.73、95%CI:1.32~2.26)、心血管死(HR:1.56、1.24~1.97)、全死亡(HR:1.60、1.39~1.84)、重症低血糖(HR:8.14、4.74~13.98)はリスク増加を認めたが、虚血性脳卒中(HR:1.21、0.89~1.65)は増加を認めなかった。一方、SU薬の上乗せ群では、心筋梗塞(HR:1.02、0.79~1.31)、虚血性脳卒中(HR:1.26、0.97~1.63)、心血管死(HR:0.95、0.75~1.20)、全死亡(HR:1.09、0.95~1.25)にリスク増加を認めなかったが、重症低血糖はHR 7.27(4.34~12.16)とリスク増加を認めた。 筆者は、メトホルミン単独療法で血糖コントロールが不十分なためにSU薬へ切り替えたことはほとんどない。他の血糖降下薬を上乗せするのが常である。英国ではこの目的でメトホルミンからSU薬へ切り替えることが一般的かどうかは不明であるが、メトホルミンからSU薬に切り替えるとすればメトホルミンの継続使用が困難な場合だろう。このような場合は患者の予後が不良なことも多く、その結果、総死亡が増加した可能性は否定できない。またSU薬は初回治療患者において心血管イベントおよび総死亡のリスクに関してneutralであることから、切り替え群のみでリスクの増加が認められたのは、メトホルミンを中止することでメトホルミンの持つ心血管イベント、総死亡リスク減少作用がなくなったからとも考えられる。さらに上乗せ群では切り替え群と同程度の重症低血糖が発生しているにもかかわらず、心血管イベント、総死亡のリスクは増加していない。重症低血糖が心血管イベントおよび総死亡のリスク増加の原因として論じられることが多いが、UKPDS 33およびDEVOTE7)(持効型インスリンアナログであるグラルギンU100とデグルデクのランダム化比較試験)の結果はその考えを支持しておらず、重症低血糖と心血管イベントおよび総死亡との関連はそれほど強いものではないのかもしれない。またはメトホルミンには、重症低血糖から心血管イベントへの流れを遮断する何らかの作用がある可能性も考えられる。最後に、上乗せ群でのHbA1cの変化が記載されていないので不明であるが、上乗せ群ではHbA1cが低下したと考えるのが普通だろう。それにもかかわらず心血管イベント、総死亡のリスクは減少しなかった。SU薬を開始した時点でHbA1c>8.0%の患者が50%以上含まれていること(Table 1)を考えると、心血管イベント、総死亡のリスク減少を目的とするのであればSU薬を上乗せすることなく、HbA1c高値を許容してメトホルミン単独療法を継続するほうが重症低血糖のリスクも増加せず、患者にとってはメリットがあることになる。 それでは、メトホルミン単独療法で血糖コントロールが不十分な場合はどうすればよいのか? SU薬のHbA1c低下作用、細小血管合併症抑制作用は確立されている。本論文の結果から、メトホルミンに上乗せする場合においても心血管イベント、総死亡のリスクは増加しないことが示された。メトホルミンへの上乗せにDPP-4阻害薬やSGLT2阻害薬を処方せずにSU薬を処方する際に感じるなんとなく後ろめたい気持ちは、これからは持つ必要はなさそうである。■参考文献はこちら1)Meinert CL, et al. Diabetes. 1970;19:Suppl:789-830.2)Vaccaro O, et al. Lancet Diabetes Endocrinol. 2017;5:887-897.3)Suissa S, et al. Diabetes Care. 2012;35:2665-2673.4)Azoulay L, et al. Diabetes Care. 2017;40:706-714.5)Suissa S. Diabetes Care. 2018;41:6-10.6)Suissa S, et al. Pharmacoepidemiol Drug Saf. 2017;26:459-468.7)Marso SP, et al. N Engl J Med. 2017;377:723-732.

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