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多価不飽和脂肪酸に糖尿病の予防効果はあるか?(解説:小川大輔氏)-1115

 多価不飽和脂肪酸(PUFA)にはオメガ3脂肪酸(魚油に多く含まれるドコサヘキサエン酸[DHA]やエイコサペンタエン酸[EPA]、また植物油に含まれるαリノレン酸など)とオメガ6脂肪酸(リノール酸、アラキドン酸など)が含まれる。PUFAには中性脂肪を低下する効果があることが知られている。一方、糖代謝や糖尿病の発症を防止する効果については有効と無効のどちらの報告もあり、一定の見解が得られていない。今回著者らはシステマティックレビューの研究を検索し、オメガ3脂肪酸、オメガ6脂肪酸、総PUFAの増加と2型糖尿病の予防および治療に対する効果をメタ解析により検討した1)。 著者らは、PUFAの摂取による影響を検討した無作為化比較試験83件、12万1,070例の症例を対象とし、長鎖オメガ3脂肪酸、αリノレン酸、オメガ6脂肪酸、総PUFAの摂取量と糖尿病の診断、ヘモグロビンA1c、血糖値、空腹時インスリン、HOMA-Rなどに関するデータを解析した。その結果、長鎖オメガ3脂肪酸の摂取増加と糖尿病の診断、ヘモグロビンA1c、血糖値、空腹時インスリン、HOMA-Rにほとんど影響がないことが示された。またαリノレン酸、オメガ6脂肪酸、総PUFAの増加も長鎖オメガ3脂肪酸と同様の結果であった。さらに、サプリメントによる高用量の長鎖オメガ3脂肪酸の摂取やαリノレン酸の摂取増加は、むしろ糖代謝に悪影響を及ぼす可能性が示唆された。 今回の検討により、多価不飽和脂肪酸、なかでも「体に良い」といわれるDHAやEPAといった長鎖オメガ3脂肪酸に糖尿病の発症を予防する効果はないことが明らかになった。また、多量のオメガ3飽和脂肪酸摂取による糖代謝悪化の機序は不明であるが、日常診療で高血糖の鑑別に健康食品やサプリの多量摂取も念頭に置く必要があると考えられる。

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国内初のインスリン+GLP-1受容体作動薬の配合注射液「ゾルトファイ配合注フレックスタッチ」【下平博士のDIノート】第33回

国内初のインスリン+GLP-1受容体作動薬の配合注射液「ゾルトファイ配合注フレックスタッチ」今回は、持効型溶解インスリンアナログ/ヒトGLP-1アナログ配合注射液「インスリン デグルデク/リラグルチド(商品名:ゾルトファイ配合注フレックスタッチ)」を紹介します。本剤は、持効型インスリンとGLP-1受容体作動薬を1回で投与できる国内初の配合注射製剤で、より簡便で確実な血糖コントロールが期待されています。<効能・効果>本剤は、インスリン療法が適応となる2型糖尿病の適応で、2019年6月18日に承認されています。<用法・用量>通常、成人では、初期は1日1回10ドーズ(インスリン デグルデク/リラグルチドとして10単位/0.36mg)を皮下注射します。投与量は患者の状態に応じて適宜増減しますが、1日50ドーズを超える投与はできません。注射時刻は原則として毎日一定とします。なお、投与量は1ドーズ刻みで調節可能です。<副作用>国内で実施された臨床試験において、安全性評価対象症例380例中126例(33.2%)に224件の臨床検査値異常を含む副作用が認められました。主な副作用は、便秘28例(7.4%)、下痢18例(4.7%)、悪心16例(4.2%)、糖尿病網膜症11例(2.9%)、および腹部不快感9例(2.4%)でした(承認時)。なお、重大な副作用として、低血糖、アナフィラキシーショック、膵炎、腸閉塞(いずれも頻度不明)が報告されています。<患者さんへの指導例>1.この薬は、不足している基礎インスリン分泌を補充する薬と、血糖値が高くなるとインスリンの分泌を促す薬の2種類が配合されており、血糖コントロールを改善します。2.めまいやふらつき、動悸、冷や汗などの低血糖症状を起こすことがあるので、高所作業、自動車の運転など、危険を伴う作業には注意してください。これらの症状が認められた場合は、ただちに糖質を含む食品を摂取してください。3.嘔吐を伴う持続的な激しい腹痛などが現れた場合は、使用を中止し、速やかに医師の診断を受けてください。4.未使用の薬剤は冷蔵庫内に保管してください。凍ってしまった場合は使えなくなるので注意してください。なお、旅行などに際して短期間ならば室温に置いても差し支えありません。5.使用開始後は、30℃以下の室内で遮光して保管してください。25℃以下の環境であれば4週間以内、30℃に近くなる環境では3週間以内に使用してください。<Shimo's eyes>本剤は、国内初の持効型インスリン製剤とGLP-1受容体作動薬の配合皮下注射製剤です。インスリン デグルデク(商品名:トレシーバ)と、リラグルチド(同:ビクトーザ)が固定比率で配合され、デバイスにはプレフィルドペン型注入器「フレックスタッチ」が採用されています。インスリンを用いた治療では、経口血糖降下薬と持効型インスリン製剤を組み合わせた「BOT(Basal Supported Oral Therapy)」や、持効型インスリン製剤と(超)速効型インスリン製剤を組み合わせた「強化インスリン療法」がよく行われています。本剤のような、持効型インスリン製剤とGLP-1受容体作動薬を組み合わせた治療法は「BPT(Basal supported post Prandial GLP-1 Therapy)」と呼ばれています。1日1回の投与で空腹時血糖と食後血糖両方の改善を期待できることから、BOTから強化インスリン療法にステップアップする前段階の治療として、近年注目されています。これまでBPTを行う場合は2種類の注射薬が必要でしたが、本剤によって1種類での治療が可能となったため、長期治療を必要とする糖尿病患者さんのアドヒアランスの向上と血糖コントロールの改善が期待できます。臨床試験では、本剤は基礎インスリン製剤に比べて低血糖のリスクを上げることなく、空腹時および食後の血糖コントロールを改善していますが、外来で変更する場合はとくに低血糖発現時の対応方法や連絡方法をしっかりと確認しましょう。なお、リラグルチドとDPP-4阻害薬はいずれもGLP-1受容体を介した血糖降下作用を有しているため、併用処方の場合には疑義照会が必要です。参考KEGG 医療用医薬品 : ゾルトファイ

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糖尿病と認知症リスク~メタ解析

 糖尿病と認知機能障害や認知症リスクとの関連については、明らかになっていない点が残っている。中国・青島大学のMei Xue氏らは、これらの関連について、さまざまな側面から検討を行った。Ageing Research Reviews誌オンライン版2019年8月17日号の報告。 2019年6月までのプロスペクティブ研究をPubMedより検索した。相対リスク(RR)の推定には、変量効果モデルを用いた。それぞれのメタ解析の信頼性を評価し、メタ回帰分析およびサブグループ解析を実施した。 主な結果は以下のとおり。・特定した2万8,082件の文献のうち、システマティックレビューの基準に合致した研究は144件であった。そのうち、122件についてメタ解析を行った。・糖尿病は、認知障害(認知機能障害および認知症)に対する1.25~1.91倍の過剰リスクが認められた。・前糖尿病においても、認知症リスクが高かった。・糖尿病関連の生化学的指標では、空腹時血糖(FPG)は、認知障害と非線形に関連していた。2時間血糖値(2h-PG)、HbA1cレベルの上昇、空腹時血漿インスリン(FPI)の低値および高値は、認知症リスクの増加と関連が認められた。・ピオグリタゾンの使用により、糖尿病患者の認知症リスクは、47%の減少が認められた。 著者らは「糖尿病、前糖尿病、糖尿病関連の生化学的指標の変化は、認知機能障害や認知症の発生率増加を予測した。ピオグリタゾンの保護効果については、ランダム化試験でさらなる調査が求められる」としている。

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内臓脂肪を減らす「スマート和食」、そのメカニズムとは

 「和食(Washoku)」が、日本の伝統的な食文化として、ユネスコの無形文化遺産に登録されたのは2013年。その健康効果には世界的に注目が集まっているが、ヒトの内臓脂肪蓄積に与える影響やメカニズムについては不明である。 今回、坂根 直樹氏(京都医療センター 臨床研究センター 予防医学研究室長)、高瀬 秀人氏(花王株式会社 生物科学研究所)らの研究グループは、日本の伝統に基づく食事が、内臓脂肪面積あるいはGIP(グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド)分泌に及ぼす効果を調査した。Nutrition journal誌2019年9月2日号の報告。 同グループは、これまでの研究で、1万1,438人の内臓脂肪と食習慣、さらに579人の3日間の食事記録と食習慣を調査した。それらのデータを詳細に解析した結果、「タンパク質/脂肪比≒1.0」「食物繊維/炭水化物比≧0.063」「ω-3脂肪酸/脂肪比≧0.054」これら3つの条件が、内臓脂肪蓄積の予防と関連することが明らかになった1)。 坂根氏らは、この3つの比を取り入れた日本食を「スマート和食」と呼び、スマート和食と現代食が内臓脂肪蓄積に与える影響について、クロスオーバー試験で調査した。 主な結果は以下のとおり。・対象は21人の過体重あるいは肥満の男性(平均年齢:41.0 ± 9.0 歳、平均BMI:25.2 ± 2.0 kg/m2)。・単回の食事負荷試験で、食後0、30、60、120、180、240分におけるGIPの曲線下面積(AUC)を算出した。スマート和食では、現代食と比べ、食後GIP濃度が有意に低かった(AUC:700.0 ± 208.0pmol/L・4 h vs.1117.0 ± 351.4 pmol/L・4 h、p <0.05)。一方、同時に測定した血糖、中性脂肪、インスリン、GLP-1、peptide YY、グレリンでは、両群間で差を認めなかった。・2週間にわたるスマート和食の介入では、内臓脂肪だけでなく、LDL-コレステロール、中性脂肪、HbA1c値が有意に減少した。 これらの結果から、スマート和食は、おそらくGIP分泌の抑制を介して、過体重/肥満男性の内臓脂肪面積を低下させ、代謝パラメーターを改善する可能性が示された。 坂根氏はコメントで、「今回の結果より、GIPが和食の内臓脂肪低減効果のメカニズムに関与していることが示唆された。ポッコリお腹を何とかしたいという患者さんはたくさんいる。食事では、脂質を減らしてタンパク質を増やす、糖質を摂る前に野菜・きのこ・海藻類などの食物繊維をたっぷり摂る、脂質を摂るならω-3系脂肪酸を積極的に摂る、という3つのポイントが大事」と示唆し、内臓脂肪を減らすための食事指導を勧めている。

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小児・思春期2型糖尿病患者におけるGLP-1受容体作動薬の有用性と安全性(解説:吉岡成人氏)-1111

 2019年6月、米国食品医薬品局(FDA)は10歳以上の2型糖尿病患者に対してGLP-1受容体作動薬であるリラグルチドの適応を承認した。米国において小児2型糖尿病治療薬が承認されるのは、2000年のメトホルミン以来のことである。 わが国における『糖尿病診療ガイドライン2016』(日本糖尿病学会編・著)には、小児・思春期における2型糖尿病の治療薬について、メトホルミン(10歳以上)とグリメピリドを除いた薬剤は「『小児などに対する安全性は確立していない』ことを本人ならびに保護者に伝え、使用に際しては説明に基づいた同意を得るようにする」と記載されている。 NEJM誌8月15日号に、基礎インスリンの併用の有無を問わず、メトホルミンによる治療を受けている小児・思春期2型糖尿病患者にリラグルチドを追加投与することの有用性について検討した成績が発表されている(Tamborlane WV, et al. N Engl J Med. 2019;381:637-646.)。10~16歳の患者135例を、リラグルチドを最大1.8mg/日まで追加投与する群とプラセボ群に分け、26週間二重盲検試験を行い、その後、非盲検試験として26週間延長して追跡を行っている。リラグルチド投与群では26週でHbA1cが0.64ポイント低下し、プラセボ群では0.42ポイント上昇しており、その差は-1.06ポイント、52週では群間の差が-1.30ポイントとなった。リラグルチド投与群では、嘔気、嘔吐、下痢など消化器系の有害事象が投与開始8週目までに多かったものの、小児・思春期糖尿病患者においてGLP-1受容体作動薬を併用することの血糖コントロール改善に対する有用性が確認されたと結論付けている。 2型糖尿病では経年的に膵β細胞の容積が減少し、それに伴い、インスリン分泌能が低下する。その要因として、膵β細胞のアポトーシスや分化転換(trans-differentiation)が関与していると想定されている。膵β細胞が脱分化し、α細胞などの非β細胞に分化するのではないかというのである。マウスのデータではあるが、GLP-1が膵α細胞を分化転換させ、膵β細胞を新生させるという実験成績もある(Lee YS, et al. Diabetes. 2018;67:2601-2614.)。膵細胞の分化転換に重要な役割を担っていると推定されるGLP-1 の受容体は多くの臓器に存在している。さまざまな臓器においてGLP-1受容体を長期にわたって刺激することの安全性は確立されておらず、膵腫瘍の発生リスクに関しても一定の結論は得られていない。 臨床の現場において、新たに、有用性が高い革新的な治療を行うことは重要であろうが、保守的であっても、安全性の高い医療を心掛ける姿勢も忘れてはならないのではなかろうか。

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災害対策、周りの施設はどうしている?-アンケート結果発表

9月1日は「防災の日」。皆さまの施設は災害時に備え、万全の対策を行っているでしょうか? 自然災害時には医師も被災者の1人。しかし、自らの家族だけではなく、経営者や勤務医としての立場から患者や従業員の命を守ることが求められます。今後、いつなんどき発生するかわからない災害に備え、全国の医師の災害に対する認識や自施設での取り組みについて、CareNet.com会員医師約200人に調査しました。結果概要「自施設において、検討または実施している対策はあるか?」という問いに対し、半数以上の施設で対策をしていないという結果に。画像を拡大する対策を行っていない回答者の中には、「災害拠点病院ではない」という理由も見られたが、災害拠点病院以外でもスタッフや患者への配慮が必要となるため、スタッフとの話し合いは欠かせないと考えられる。医師が考える具体的な対策とは…?自施設での対策を実施していると回答した69人(うち、4人は無効)における主な対策の内訳を『スタッフの安全確保』『休診対応』『災害拠点病院としての対応』『(日々の診療における)薬剤処方に関する対応』『備蓄』『その他』の6つに区分したところ、グラフのような結果になった。画像を拡大する具体的な回答として、「スタッフの出勤方法と出勤時間の確認」「緊急連絡用の掲示板整備やホームページでの休診連絡」「災害拠点病院として他院に連絡をとる」「日頃から薬剤の処方日数を1週間分増やす」「缶詰、米、水、燃料を備蓄する」などが挙がった。また、『その他』としては、「自家発電機を準備」「行政と連携し障害者や老人の存在を把握する」「在宅酸素療法の会社に災害時の態勢を確認」「院内放送で津波の有無を連絡」などがあった。具体策を講じている回答者で最も割合が高かった年代は、50代(34%)と40代(26%)であった。また、所属施設で最も割合が高かったのは、200床以上の病院(60%)で、続いて0床のクリニックなどが15%だった。画像を拡大する地域での話し合いは14%にとどまる「近隣のクリニックや病院、地域医師会などで対策を話し合ったことはあるか?」については、あると回答したのは14%のみで、ほとんどの施設が「地域間での話し合いの経験がない」と回答した。画像を拡大する地域の話し合いがあると回答した30人(14%)には、自施設での対策を行っていない12人が含まれていた。「ない」の理由は“機会がない”だけ?話し合われた内容としては、「患者の情報提供」「受け入れ状況の伝達」「避難経路や連絡・中継場所」「患者さんへの説明方法」「地震発生時の拠点病院、地域の医療ケア児の対策」「スプリンクラーの設置について」などが挙がった。一方で、「ない」と答えた医師の主な回答として「話し合いの機会がない」が最も多く(23%)、「自治体に委ねられている」「役員・立場ではない」「近隣のクリニックとは対象疾患が異なるから」などがあった。また7%と少数意見ではあるが、「大きな災害の想定がない」など危機感の乏しさも明らかになった。画像を拡大する設問詳細Q1.自施設において、検討または実施している対策はありますか?あるないQ2.設問1で「ある」と答えた方にお伺いします。それはどのような対策ですか?(自由記述)例)「薬剤の処方日数を1週間分増やした」「患者ごとにインスリンなどの対策を説明」「スタッフや来院患者の被害を防ぐため、早めに休診を決定し、患者にその旨を連絡する」などQ3.災害対策について、近隣のクリニックや病院、地域医師会などで対策を話し合ったことはありますか?あるないQ4.設問3で「ある」と答えた方は主な対策内容を、「ない」と答えた方はその理由をお答えください(自由記述)。画像を拡大する

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2型糖尿病の予防・治療に不飽和脂肪酸は影響せず?/BMJ

 英国・イースト・アングリア大学のTracy J. Brown氏とJulii Brainard氏らは、新たに診断された糖尿病と糖代謝に対する多価不飽和脂肪酸(PUFA)の影響を評価する、未発表データを含むこれまでで最も広範囲なシステマティックレビューとメタ解析を実施し、オメガ3、オメガ6または総PUFAの増加は、2型糖尿病の予防および治療に対し影響が少ないかあるいは影響がないことを明らかにした。これまで、オメガ3は実験データでは糖尿病のコントロールを悪化させることや、観察研究のシステマティックレビューでは有益性と有害性の両方が示唆されていた。また、オメガ6の上昇は、糖代謝の改善および悪化の両方と関連することが観察研究で報告されており、オメガ3、オメガ6および総PUFAの、糖代謝および2型糖尿病への影響は結論が得られていなかった。BMJ誌2019年8月21日号掲載の報告。無作為化試験83件のシステマティックレビューとメタ解析を実施 研究グループは、Medline、Embase、Cochrane CENTRAL、WHO international Clinical Trials Registry Platform、Clinicaltrials.gov、および関連するシステマティックレビューの研究を検索し、α-リノレン酸、長鎖オメガ3、オメガ6、総PUFAの増加による影響を評価した24週以上の無作為化比較試験を対象として、糖尿病の診断、空腹時血糖または空腹時インスリン、HbA1c、インスリン抵抗性(HOMA-IR)に関するデータを収集し、相対リスクと平均差を用いたランダム効果メタ解析による統計解析と感度解析を実施した。 ファンネルプロットを検討し、サブグループ化により介入の種類、ベースライン時の糖尿病リスク、抗糖尿病薬の使用、試験期間、用量などの影響を評価した。バイアスのリスクはCochrane toolとGRADEを用いたエビデンスの質で評価した。 検索により、無作為化比較試験83件(主に長鎖オメガ3補給の影響を評価)が解析に組み込まれた。10件はバイアスのリスクがlow(低)であった。長鎖オメガ3の高用量摂取で糖代謝が悪化 長鎖オメガ3は、糖尿病診断の可能性(相対リスク:1.00、95%信頼区間[CI]:0.85~1.17、5万8,643例、糖尿病発症3.7%)、あるいは糖代謝の測定値(HbA1c平均差:-0.02%[95%CI:-0.07~0.04]、血漿グルコース平均差:0.04mmol/L[95%CI:0.02~0.07]、空腹時インスリン平均差:1.02pmol/L[95%CI:-4.34~6.37]、HOMA-IR平均差:0.06[95%CI:-0.21~0.33])に関する影響が少ないかまたはまったく影響がなかった。 長鎖オメガ3の摂取量が4.4g/日を超えると、負の影響が示唆された。糖尿病の診断に対するα-リノレン酸、オメガ6および総PUFAの影響はエビデンスの質が非常に低いため不明であったが、α-リノレン酸の増加が空腹時インスリンを増加(約7%)させる可能性があることを除いては、糖代謝の測定値に対する影響は少ないかまたはないことが示された。 オメガ3/オメガ6比が糖尿病または糖代謝に重要であるというエビデンスは確認されなかった。

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10~16歳の2型DMにリラグルチド追加は有効?/NEJM

 2型糖尿病の小児・思春期患者(10~17歳)において、メトホルミンへのリラグルチド(1.8mg/日)追加投与は、基礎インスリン投与の有無にかかわらず、52週間にわたり血糖コントロール改善の効果があることが示された。ただし、消化器系有害事象の発現頻度がかなり高かった。米国・イェール大学のWilliam V. Tamborlane氏らが、135例を対象に行ったプラセボ対照無作為化比較試験の結果で、NEJM誌2019年8月15日号で発表した。メトホルミンは、疾患初期の若い2型糖尿病患者の大半にとって選択肢として承認された血糖コントロール薬である。一方で、メトホルミン単独治療を受けていると血糖コントロールが早期に不能になることが観察されている。若い2型糖尿病患者においてリラグルチドの追加(基礎インスリンの有無を問わず)の安全性および有効性は明らかになっていなかった。26週二重盲検の後、26週間非盲検延長 研究グループは、10歳以上17歳未満の2型糖尿病患者135例を無作為に2群に分け(1対1)、リラグルチド(最大量1.8mg/日)またはプラセボの皮下投与を行った。試験は、26週間の二重盲検期間と、その後26週間延長しての非盲検下期間を設定して行われた。 被験者の選択基準は、BMIが85thパーセンタイル超で、糖化ヘモグロビンが7.0~11.0%(食事療法と運動療法のみの治療下の場合)、または6.5~11.0%(基礎インスリンの有無を問わずメトホルミン治療を受けている場合)とした。 試験期間中は、全被験者にメトホルミンが投与された。 主要エンドポイントは、26週以降の糖化ヘモグロビン値のベースラインからの変化値だった。副次エンドポイントは、空腹時血糖値の変化などだった。安全性は、全試験期間を通して評価した。糖化ヘモグロビン値、リラグルチド群で0.64ポイント低下、プラセボ群は上昇 被験者135例のうち134例が、リラグルチド(66例)またはプラセボ(68例)を1回以上投与された。両群の人口動態的特性は類似していた(平均年齢は14.6歳)。 主要エンドポイントの26週時点の解析では、糖化ヘモグロビン値はリラグルチド群で0.64ポイント低下した一方、プラセボ群は0.42ポイント増加した。推定治療差は-1.06ポイントだった(p<0.001)。同差は、52週時点までに-1.30ポイントに増大した。 空腹時血糖値は、リラグルチド群では26週時と52週時で共に低下したのに対し、プラセボ群では上昇していた。 有害事象が報告された患者数は両群間で類似していたが(リラグルチド群56例[84.8%]、プラセボ群55例[80.9%])、全有害事象発生率と消化器系有害事象の発生率はリラグルチド群で高かった。

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アドヒアランス不良のカリウム薬の中止提案【うまくいく!処方提案プラクティス】第3回

 今回は、長期間にわたってカリウム薬を服用していたことに着目した症例です。患者さんより聴取した不満を契機に医師へ血液検査結果を基にした中止提案を行い、中止後の検査値や自覚症状に問題がないことを医師および患者さんと確認し、無事に中止することができました。患者情報外来患者、70歳、女性、身長:154cm、体重:52kg現病歴:高血圧、骨粗鬆症投薬時に、毎食後の服薬が苦痛で、L−アスパラギン酸カリウムの服用をよく忘れるとの相談あり(医師には伝えていない)。市販薬やサプリメントの使用はなし。食事は規則正しく1日3食で、食事摂取量にむらはなし。処方内容(1、3の内科からの処方薬は10年以上服用中)1.テルミサルタン錠20mg 1錠 分1 朝食後2.アルファカルシドールカプセル0.25μg 1カプセル 分1 朝食後3.L−アスパラギン酸カリウム錠300mg 3錠 分3 毎食後症例のポイント患者さんは上記1と3の処方薬を長年服用していますが、L−アスパラギン酸カリウムを毎食後に服用することを苦痛に感じていました。たびたびあった服用忘れを医師には伝えていなかったため、アドヒアランスが良好だということを前提に処方が継続されている可能性がありました。L−アスパラギン酸カリウムは、薬剤性低カリウム血症のカリウム補給に用いられることが多くあります。低カリウム血症の原因となる薬剤として、漢方薬(芍薬甘草湯など市販薬にも成分として含まれるので要注意)や利尿薬(とくにループ利尿薬)、グリチルリチン酸、インスリンが挙げられますが、この患者さんの処方内容からは薬剤性の低カリウム血症が生じている可能性は低いと考えられました。患者さんから聞き取った範囲では、1日3食しっかりと食事を摂取していることから、食事でカリウムが著しく不足しているとも考えにくいです。直近の血液検査結果を持参してもらうと、アドヒアランス不良であったにもかかわらず、血清カリウム値は4.5mEq/Lと充足しており、中止しても大きな影響はないと推察しました。医師に血液検査結果と患者さんの希望について話をしてみたところ、そもそもL−アスパラギン酸カリウムの処方を開始したのは前医のため処方意図がわからないこと、血清カリウムなどのL−アスパラギン酸カリウムの評価を失念されていたことが発覚し、L−アスパラギン酸カリウムの処方が中止となりました。その際、次回診察の際にカリウム値の採血を提案しました。低カリウム血症とは、血清カリウム値が3.5mEq/L未満の場合であり、2.5~3.0mEq/Lが中等症、2.5mEq/L未満は重症と定義されている。2.5mEq/L未満の重症ないし急速な低下時には、心臓(不整脈)、筋肉(筋力低下・倦怠感・麻痺・筋痙攣)、消化管(イレウス・食欲不振・嘔気)、腎臓(多尿・腎機能障害)などに症状が出現する。とくにジギタリス製剤服用中の患者では致死的不整脈が起こりやすいので、血清カリウム値のモニタリングが重要となる。処方提案と経過L−アスパラギン酸カリウムの中止から1ヵ月後に患者さんが再来局されました。血液検査で血清カリウム値は4.1mEq/Lと基準値内であり、食欲不振や倦怠感・筋力低下による症状などの低カリウム血症に基づく症状もありませんでした。患者さんは薬局に相談したことで負担となっていた薬剤を中止できたことを喜んでくださり、信頼関係の構築にもつながって血圧・血液検査の提示や相談の機会も増えました。

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第12回 低血糖、シックデイ、アドヒア―注射剤にまつわる問題への対処法【高齢者糖尿病診療のコツ】

第12回 低血糖、シックデイ、アドヒア―注射剤にまつわる問題への対処法前回に引き続き、GLP-1受容体作動薬とインスリンそれぞれについて、高齢者での使い方のポイントをご紹介します。低血糖や、GLP-1受容体作動薬での消化器症状、そしてきちんと打てているかが心配な注射剤のアドヒアランスについて、状態を確認する方法と対処法をまとめます。Q1 低血糖や消化器症状、シックデイが心配。どのようにコントロールしますか?1)低血糖について高齢者では発汗・動悸といった典型的な低血糖症状が出づらく、めまいや脱力感が前面に出る場合が多く、低血糖症状が見逃されることがあります。また、低血糖症状がせん妄として現れることもあり、注意が必要です。インスリン使用者あるいはGLP-1製剤にSU薬やグリニド薬を併用している例では、低血糖のリスクがあるため、定期受診時に非典型的な症状も含めて症状の有無を確認します。また、HbA1cの下限も意識し、過度のコントロールにならないようにインスリンやSU薬、グリニド薬を減量します。2)消化器症状について肥満の非高齢者では好ましいGLP-1受容体作動薬の食欲低下作用ですが、高齢者では脱水やサルコペニアを惹起する可能性があり、食思不振や過度の体重減少に注意が必要です。そのため、筋肉量が少ないと予想される「やせ型」の高齢者にはあまりいい適応ではありません。週1回のGLP-1受容体作動薬は消化器症状が比較的出づらいといわれていますが、リスクはあるため、定期外来受診時は食欲と体重の推移に注意する必要があります。3)シックデイについて水分や炭水化物の摂取などの一般的なシックデイ対応が前提ですが、ここでは注射製剤の取扱いについて記述します。GLP-1受容体作動薬は血糖依存性にインスリン分泌を促進するため、基本的には食事量が少なくても中止する必要はありませんが、嘔気などの消化器症状が強い場合は増悪させる危険性があるため中止します。持効型や中間型などの作用時間の長いインスリンは中止しないことが原則です。とくに、1型糖尿病などインスリン依存状態の場合は、たとえ食事摂取ができなくとも持効型製剤は絶対に中止しないように指導します。2型糖尿病でインスリン分泌能が保たれている場合には投与量を減量する場合もあります。超即効型製剤は、食事(炭水化物)量に応じ調整(例:食事摂取量が半量ならインスリン半量など)するように指導し、紙に書いて渡していますが、高齢者では対応困難な場合が多く、強い症状が半日以上続く、24時間以上経口摂取ができないなどといった場合1)は医療機関を受診するように指導しています。Q2 手技指導のポイントがあれば、教えてください。1)自己注射の可否の判断認知機能の低下した高齢者にとって新たに注射手技を獲得することは非常に困難です。DASC-8や時計描画試験を含むMini-Cogなどを用いて認知機能をスクリーニングし(第4回参照)、本人への指導を行うかを検討します。本人が難しい場合には介護者への指導を行うことになりますが、老々介護の世帯も多く、介護者への指導も難しいこともあり、インスリン分泌能が保たれている場合には、訪問看護やデイケアの看護師が行う週1回のGLP-1製剤が有用な選択肢として考えられます。また、注射自体は患者本人が可能なものの、インスリンの準備やその単位設定が困難な場合があるので、注射手技の一部を介護者に依頼することもよくあります。2)自己血糖測定本人や介護者が注射手技は獲得できても、自己血糖測定が困難な場合もあるため、指導状況をみながら自己血糖測定の指導を行うかどうか検討します。GLP-1製剤のみを使用している場合で、低血糖リスクが少ないと判断した場合は、血糖測定は必須ではありません。インスリン注射の場合で血糖測定が困難なときには、低血糖回避のため、やむを得ず血糖コントロール目標を緩和することがあります。自己血糖測定が可能な場合には、低血糖を回避するために、食前または眠前の血糖値100mg/dL未満が継続する場合にその前の責任インスリンの減量(1~2単位)を考慮します。また、血糖値の変動が大きい場合には、インスリンボールができていないかどうかを確認し、固くない場所に注射するように指導します。3)注射のアドヒアランス自己注射を行えていた例でも、加齢に伴って打ち忘れがあったり、注射の実施が困難になったりする場合もあります。明らかな誘因がなくコントロールが悪化したときは、注射の打ち忘れと注射手技を確認します。とくに眠前の持効型インスリンは、つい早く寝てしまって、打ち忘れが起こりやすいので、朝食前や夕食後に変更することがあります。外出や旅行の際のインスリンの打ち忘れも起こりやすいので、あらかじめバッグに予備の注射薬を入れておくように指導します。インスリン注射は実施できていても単位を間違えることが懸念される場合は、多少の血糖上昇には目をつぶり、毎回のインスリン量を同じにする、10単位など覚えやすい単位数に設定するなどの工夫をすることもあります。インスリン単位数は処方箋の記載だけでなく、必ず紙に書いて(多くは自己血糖記録用紙に)渡すようにし、外来受診時に何単位打っているかを患者さんに答えてもらって、単位数の間違えがないかを確認しています。独居で介護者がいない場合は低血糖リスクを極力下げるため、血糖管理目標を緩和します。訪問看護を導入すると、インスリンの残量を確認することで実際に打てているかどうかをわかることがあります。インスリン注射が必要であるが、自己管理が困難で、かつ介護者が不在の場合は外来での対応は困難であり、入院あるいは短期入所のうえ環境調整が必要です。入院・入所を拒否された場合でも、説得を続けながら地域包括支援センターなどに相談します。1)日本老年医学会・日本糖尿病学会編著. 高齢者糖尿病診療ガイドライン2017.南江堂;2017.

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下垂体性成長ホルモン分泌亢進症〔pituitary hypersecretion of growth hormone〕

1 疾患概要■ 概念・定義下垂体性成長ホルモン(GH:growth hormone)分泌亢進症とは、GHとその仲介ホルモンであるインスリン様成長因子(IGF:insulin-like growth factor)-Iの過剰により特有の外観(顔貌や体型など)、種々の代謝合併症を来す疾患である。■ 疫学欧米の疫学調査では人口10万人あたり3~13人の罹患率とされているが、実際には診断されていない潜在的な症例がこれより多く存在する可能性が指摘されている1)。男女差はなく、幅広い年代にみられるが40~50歳代に多い。■ 病因本症の病因の97%以上はGH産生下垂体腺腫による。ごくまれに異所性GH産生腫瘍(膵がんなど)によるGH分泌過剰、異所性成長ホルモン放出ホルモン(GHRH)産生腫瘍(気管支や膵臓の神経内分泌腫瘍など)により下垂体過形成を介してGH分泌亢進症を生じる病態がある。■ 症状わが国の診断の手引き2)では下垂体性巨人症、先端巨大症について以下の症候が挙げられている。症状は緩徐に進行するため本人も自覚していない場合があり、診断確定までに約10年経過することもある1)。1)下垂体性巨人症主症候:著明な身長の増加(最終身長は男子185cm以上、女子175cm以上)2)先端巨大症主症候:手足の容積の増大、先端巨大症様顔貌(眉弓部の膨隆、鼻・口唇の肥大、下顎の突出など)、巨大舌副症候:発汗過多、頭痛、視野障害(下垂体腺腫が視交叉を圧排すると両耳側半盲を来す)、女性における月経異常、睡眠時無呼吸症候群、耐糖能異常、高血圧、咬合不全、変形性関節症,手根管症候群■ 分類1)GH過剰が発症した時期による分類骨端線が閉鎖する以前に発症し、著明な高身長を呈するものを下垂体性巨人症(gigantism)、骨端線閉鎖後に発症するものを先端巨大症(acromegaly)という。2)厚生労働省による指定難病としての重症度分類以下に示す項目のうち最も重症度の高い項目を疾患の重症度とする。(1)軽症:血清GH濃度1ng/mL未満、血清IGF-1濃度SDスコア+2.5未満治療中の合併症がある。(2)中等症:血清GH濃度1ng/mL以上2.5ng/mL未満、血清IGF-1濃度SDスコア+2.5以上臨床的活動性(頭痛、発汗過多、感覚異常、関節痛のうち、2つ以上の臨床症状)を認める。(3)重症:血清GH濃度2.5ng/mL以上、血清IGF-1濃度SDスコア+2.5以上臨床的活動性および合併症の進行を認める。■ 予後手術で寛解した場合や薬物療法で良好なコントロール(血中IGF-Iの正常化)が得られた場合の生命予後は一般人と変わらない。しかし、長期にわたってGH過剰が続いた場合は、糖尿病、高血圧症、脂質異常症などを併発し、心血管系合併症により生命予後は悪化する。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)先端巨大症では、主症候(手足の容積の増大、先端巨大症様顔貌、巨大舌)のいずれかに加え、検査所見にて血中GHの過剰(経口75gブドウ糖投与で血中GHが正常(4 今後の展望前述のように内視鏡下での手術が主流となっている。近年の光学機器の進歩は目覚ましく、そのような背景からこれらの手術にも4K、8Kシステムなどが導入されつつある。今後も画質の向上が期待でき、手術成績も良くなる可能性が期待される。難治症例についてはソマトスタチン誘導体、ドパミン作動薬、GH受容体拮抗薬など複数の薬剤を組み合わせる治療も試みられている。5 主たる診療科内分泌代謝内科、脳神経外科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 下垂体性成長ホルモン分泌亢進症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報下垂体患者の会(患者とその家族および支援者の会)1)Zahr R, et al. Eur Endocrinol. 2018;14:57–61.2)厚生労働科学研究費補助金難治性疾患政策研究事業 間脳下垂体機能障害に関する調査研究班 編集. 間脳下垂体機能障害の診断と治療の手引き(平成30年度改訂版). 日本内分泌学会雑誌. 2019;95:1-60.公開履歴初回2019年8月13日

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第11回 高齢者でも!注射剤の活用法【高齢者糖尿病診療のコツ】

第11回 高齢者でも!注射剤の活用法高齢者は個人差が大きく、ひとくくりに高齢者といっても、認知機能が保たれており、予後が10年以上見込まれる75歳の方と、認知症など多くの並存疾患があり、予後不良が予想される65歳の方では治療方針が異なります。注射剤の使用で問題となるのは自己管理が困難な高齢者だと思いますので、そうした方々を念頭に、私が普段の診療で行っていることを中心に記述します。なお、インスリン依存状態や、注射製剤(とくにインスリン)の導入や中止の判断に迷う場合には専門医への紹介をぜひご検討ください。また、GLP-1受容体作動薬とインスリンは同じ注射薬ではありますが、効果や使用目的が根本的に異なるため、分けて考える必要があります。Q1 高齢者でのインスリン注射のはじめどきは?高齢者でも、インスリン注射の適応は非高齢者と同様です1)。(1) インスリン分泌能の低下、(2)抗GAD抗体陽性あるいは抗IA-2抗体陽性、(3) 経口血糖降下薬3剤でも血糖コントロール不良、(4) 重度の肝障害、腎症4期以降で使用できる経口血糖降下薬が少なく、血糖コントロール不良、(5) ステロイドの使用、(6)感染症などの急性期、(7)高血糖が持続し、積極的に糖毒性の解除を行うときなどの場合に、インスリン注射を検討します。インスリン療法では、超即効型製剤を各食前と持効型製剤による強化インスリン療法が血糖管理のうえでは理想的ですが、インスリン分泌能や本人・介護者の能力・実行力に応じて、注射回数を決定し、それに応じたインスリン製剤を選択します。頻回注射は難しいことが多く、持効型製剤を1回、介護者が可能な時間帯に打つか、本人の注射手技を確認してもらいます。インスリン グラルギン(商品名:ランタスXR)では±3時間、インスリン デグルデク(商品名:トレシーバ)では±8時間の注射時刻のずれは効果・安全性に影響しないことが示されており、日による注射時刻の変動は許容できます。Q2 高齢者でのGLP-1受容体作動薬のはじめどきは?(1)インスリン分泌は保たれているが、経口血糖降下薬3剤でも血糖コントロール不良、(2)高齢者でも減量のメリットが得られる場合、(3)腎症4期以降で使用できる経口血糖降下薬が少なく、血糖コントロール不良、(4)認知機能障害などで服薬アドヒアランス不良、かつサポート不足があるなどの場合に、GLP-1受容体作動薬を検討します。とくに(4)の場合はアドヒアランスを重視し、週1回製剤を選択することが多いです。週1回の注射を介護者あるいは訪問看護師、デイケアなどの施設看護師が打つようにすると打ち忘れることもなく、複数回の経口薬と比べ、アドヒアランスが上がる場合があり、独居で注射手技の獲得が困難な高齢者でも使用できます。Q3 インスリンの注射の減量・中止を考えるとき注射製剤の中止を考える場合は、良好なコントロールが持続し、かつ注射管理が困難となった場合や、患者あるいは家族の強い希望があった場合などです。インスリンを中止する場合には、たとえ少量のインスリン使用で良好なコントロールが得られている場合でも、インスリン分泌能や抗GAD抗体を測定したうえで、中止を検討します。インスリン分泌能が保持されている場合は、経口薬を調整しながらインスリンを漸減し、インスリンの中止を試みます。一方、インスリン分泌能が高度に低下している場合には、インスリンを中止することは難しいため、介護サービスなどを利用し、持効型製剤1回でもどうにか注射できる体制を構築する必要がありますが、実際には外来診療ではなかなか時間がとれず、入院していただき環境調整を行うことも多くあります。入院ではまず、強化インスリン療法で糖毒性を解除します。インスリン依存状態でなければインスリンの中止、あるいは持効型1回打ちへの変更を目標として、忍容性があれば入院早期からメトホルミンを投与し、経過に応じてDPP-4阻害薬あるいはGLP-1受容体作動薬を検討します。GLP-1受容体作動薬を追加しても食後血糖がコントロールできない場合はグリニド薬やαグルコシダーゼ阻害薬(α‐GI)を考慮します。外来でのインスリン治療の簡略化は米国糖尿病学会のposition statementが参考になります(図)2)。強化インスリン療法を行っている場合には基礎インスリン(持効型・中間型インスリン)は継続し、空腹時血糖値が目標内(90~150mg/dL、個々の症例に応じて要調整)に入るように調整。SMBGにおける空腹時血糖値の半数が150mg/dL以上の場合は基礎インスリンを2単位増加し、血糖が80mg/dL以下の場合は2単位減量。食前インスリン(速攻型・超速効型インスリン)については、経口薬を追加し、10単位以下であればそのまま中止、10単位より多い場合は半量とするとされています。画像を拡大する本邦では、3単位以下ぐらいが追加インスリン中止の目安であろうと思います。追加する経口薬は、eGFR≧45mL/minで忍容性があればメトホルミン500mg分2を、すでにメトホルミンが投与されているか使用できない場合にはDPP-4阻害薬などを使用し、追加インスリンの中止を検討。混合型インスリンを使用している場合には総インスリン投与量の7割の持効型製剤に変更し、インスリン量、経口薬を調整するようにしています。Q4 GLP-1受容体作動薬の中止を考えるときGLP-1受容体作動薬もインスリンと同様に良好なコントロールが持続し、かつ注射管理が困難となったときに、DPP-4阻害薬等に変更し、中止を検討します。週1回のGLP-1受容体作動薬を使用している場合にはかえってアドヒアランスが落ちる場合もありますので、経口薬の管理が可能かを介護者や、場合によってはケアマネージャーに確認して中止しています。本人が自己管理困難になってきた場合には、連日投与から週1回製剤への切り替えを行います。また、GLP-1受容体作動薬の作用である食欲低下作用が強く出過ぎてしまい、過度の体重減少をきたし、サルコペニアが懸念される場合にも中止します。1)日本糖尿病学会編著. 糖尿病治療ガイド2018-2019.文光堂;2018.2)American Diabetes Association.Diabetes Care.2019;42:S139-147.

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高血糖の脳梗塞患者、強化血糖コントロールは有効か/JAMA

 高血糖を有する急性期虚血性脳卒中患者の治療において、最長72時間の強化血糖コントロールは標準治療と比較して、90日時に機能アウトカムが良好な患者の割合に差はないことが、米国・バージニア大学のKaren C. Johnston氏らが行った「SHINE試験」で示された。研究の詳細は、JAMA誌2019年7月23日号に掲載された。急性期虚血性脳卒中患者では、高血糖は不良な転帰と関連するが、高血糖への強化治療の効果は知られていないという。ベースラインのNIHSSスコア別に、90日時のmRSを評価 本研究は、米国の70施設が参加した無作為化臨床試験であり、2012年4月~2018年8月の期間に63施設から1例以上の患者が登録された(米国国立神経疾患・脳卒中研究所[NINDS]などの助成による)。 対象は、年齢18歳以上、発症から12時間以内の虚血性脳卒中で、高血糖がみられ、米国立衛生研究所脳卒中スケール(NIHSS)のスコア(0~42点、点数が高いほど神経症状が重度)が3~22点の患者であった。 被験者は、コンピュータによる意思決定支援ツールを用いた持続静脈インスリン注入を受ける強化治療群(目標血糖値:80~130mg/dL[4.4~7.2mmol/L])、またはスライディングスケールに基づき、必要に応じて6時間ごとにインスリンを皮下投与する標準治療群(80~179mg/dL[4.4~9.9mmol/L])に無作為に割り付けられ、最長で72時間の治療が行われた。 有効性の主要アウトカムは、90日時の修正Rankinスケール(mRS、0[無症状または完全な回復]~6[死亡]点)に基づく良好なアウトカムとした。良好なアウトカムは、ベースラインのNIHSSスコアが3~7点の患者は90日時のmRSが0点、8~14点の患者は0~1点、15~22点の患者は0~2点と定義した。 事前に規定された中間解析の基準により、2018年8月、試験登録は無効中止となった。8割が糖尿病合併、重症低血糖の発現は有意に高い 1,151例(平均年齢66[SD 13.1]歳、女性529例[46%]、糖尿病920例[80%])が割り付けの対象となり、1,118例(97%)が試験を完遂した。23%がラクナ梗塞、50%が軽症脳梗塞(NIHSS:3~7点)で、再灌流療法は68%で行われていた。ベースラインの血糖値中央値は188mg/dL(10.4mmol/L)であった。 治療中の平均血糖値は強化治療群が118mg/dL(6.6mmol/L)、標準治療群は179mg/dL(9.9mmol/L)であった。 良好なアウトカムは、強化治療群が581例中119例(20.5%)で、標準治療群は570例中123例(21.6%)で達成され、両群間に有意な差はみられなかった(補正相対リスク 0.97、95%信頼区間[CI]:0.87~1.08、p=0.55、補正前リスク差:-0.83%、95%CI:-5.72~4.06)。 主な副次アウトカム(90日時の良好なNIHSSスコア、90日時の良好なBarthelインデックススコア、90日時の脳卒中特異的QOLスコア)は、いずれも両群間に有意な差はなかった。 低血糖または他の有害事象により早期に治療が中止された患者の割合は、強化治療群が581例中65例(11.2%)、標準治療群は570例中18例(3.2%)であった。 重症低血糖(<40mg/dL[<2.22mmol/L])は強化治療群の15例(2.6%)に認められ、標準治療群では発現しなかった(補正前リスク差:2.58%、95%CI:1.29~3.87、p<0.001)。 著者は、「これらの知見は、高血糖の急性期虚血性脳卒中患者における強化血糖コントロールの使用を支持しない」としている。

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GLP-1受容体作動薬は注射薬から経口薬へシフトするのか?(解説:住谷哲氏)-1090

 われわれが使用できるインクレチン関連薬には、DPP-4阻害薬とGLP-1受容体作動薬がある。これまでに報告された心血管アウトカム試験(CVOT)の結果から考えると、GLP-1受容体作動薬がDPP-4阻害薬に比べて、動脈硬化性心血管病(ASCVD)の再発予防に関しては積極的に選択される薬剤であるのは異論がないだろう。しかし注射薬のハードルは高く、とくにわが国ではGLP-1受容体作動薬が十分に使用されていないのが現状である。経口セマグルチドは経口GLP-1受容体作動薬であり、この状況を大きく変化させる可能性がある。 PIONEER programは経口セマグルチドの第III相臨床試験プログラムでありPIONEER 1から10までの10試験、組み込み総数9,543人(8,845人と記載しているものもあるが約9,000人と理解しておいて支障ない)から構成される。グローバル開発プログラムであるが対象患者が日本人のみの試験が2試験(PIONEER 9、PIONEER 10)含まれている。各試験の概略を列記すると、PIONEER 1は vs.プラセボ、PIONEER 2は vs.エンパグリフロジン、PIONEER 3(「経口セマグルチドは注射薬と同様にHbA1cを改善し体重を減少させる」)は vs.シタグリプチン(投与量固定)、PIONEER 4が本試験で vs.リラグルチド、PIONEER 5は対象がCKD合併患者、PIONEER 6(経口GLP-1受容体作動薬の心血管安全性を確認[解説:吉岡 成人氏])はCVOT、PIONEER 7は vs.シタグリプチン(投与量調節可)、PIONEER 8は対象がインスリン投与患者、PIONEER 9は日本人対象のPIONEER 4、PIONEER 10は日本人対象の vs.デュラグルチドである。これを見ると開発メーカーであるNovo社の経口セマグルチドに対する期待と、日本市場への戦略が見て取れる。 結果であるが主要評価項目である26週後のHbA1c低下量は、経口セマグルチド14mg群はリラグルチド1.8mg群に対して非劣性であった(非劣性のp<0.0001)。また副次評価項目である26週後の体重減少量は、経口セマグルチド14mg群4.4kgに対して、リラグルチド群3.1kgであり経口セマグルチド群で有意に減少した(p=0.0003)。有害事象の発生率は経口セマグルチド群80%、リラグルチド群74%でありプラセボ群67%に比べて高率であった。 比較対象であるGLP-1受容体作動薬注射製剤がリラグルチドとデュラグルチドであり、なぜセマグルチド注射薬ではないのかという点には少し疑問がある。しかしGLP-1受容体作動薬としての使用頻度はこの2剤が他を凌駕していると思われるので現実的な選択ともいえる。PIONEER programにより経口セマグルチドのエビデンスは強固なものとなり、GLP-1受容体作動薬が注射薬から経口薬へと大きくシフトする可能性は十分にある。最後に、日本人における安全性を考慮してわが国での経口セマグルチド投与量が最大7mgに制限されて、PIONEER programで得られたエビデンスが日本人糖尿病患者において活用されないような状況(これは多くのCVOTで認められている問題である)にならないことを期待している。

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1型糖尿病でのSGLT2阻害薬使用の注意

 2019年7月25日、日本糖尿病学会(理事長:門脇 孝)は、2014年に策定され、過去3度のアップデートを行っている「SGLT2阻害薬適正使用に関するRecommendation」のアップデート版を公開した。現在、同学会のホームページ上で公開され、学会員などへの周知が図られている。 SGLT2阻害薬は、現在6成分7製剤が臨床使用され、なかには1型糖尿病患者でインスリン製剤との併用療法としての適応を取得した製剤もある。しかし、ケトアシドーシスのリスクの増加が報告され、海外では、SGLT2阻害薬の成人1型糖尿病への適応が慎重にされていることもあり、1型糖尿病患者への使用に際し、十分な注意と対策が必要であるとしている。そのため、同学会の「SGLT2阻害薬の適正使用に関する委員会」では、「これらの情報をさらに広く共有することにより、副作用や有害事象が可能な限り防止され、適正使用が推進されるよう、Recommendationをアップデートする」と今回の目的を述べている。また、今回のアップデートでは、今までに副作用情報や高齢者の特定使用成績調査の結果を踏まえた、使用上での重要な注意点についても追加されている。 委員会では、「本薬剤は適応やエビデンスを十分に考慮した上で、添付文書に示されている安全性情報に十分な注意を払い、また本Recommendationを十分に踏まえて、適正使用されるべきである」としている。 今回のアップデートは次の通り。1型糖尿病患者の治療の態様に注意を向ける “Recommendation”では、次の3点のアップデートが行われた。1.1型糖尿病患者の使用には一定のリスクが伴うことを十分に認識すべきであり、使用する場合は、十分に臨床経験を積んだ専門医の指導のもと、患者自身が適切かつ積極的にインスリン治療に取り組んでおり、それでも血糖コントロールが不十分な場合にのみ使用を検討すべきである。6.全身倦怠・悪心嘔吐・腹痛などを伴う場合には、血糖値が正常に近くてもケトアシドーシス(euglycemic ketoacidosis:正常血糖ケトアシドーシス)の可能性があるので、血中ケトン体(即時にできない場合は尿ケトン体)を確認するとともに専門医にコンサルテーションすること。特に1型糖尿病患者では、インスリンポンプ使用者やインスリンの中止や過度の減量によりケトアシドーシスが増加していることに留意すべきである。7.本剤投与後、薬疹を疑わせる紅斑などの皮膚症状が認められた場合には速やかに投与を中止し、皮膚科にコンサルテーションすること。また、外陰部と会陰部の壊死性筋膜炎(フルニエ壊疽)を疑わせる症状にも注意を払うこと。さらに、必ず副作用報告を行うこと。1型糖尿病患者のSGLT2阻害薬併用時のインスリン減量法が詳細に 副作用の事例と対策では、主に追加記載として以下のアップデートが行われた。・重症低血糖 1型糖尿病患者では、インスリンの過度の減量によりケトアシドーシスリスクが高まる可能性に留意し、慎重に減量する(方法については下記参照)。[方法]1-a 血糖コントロール良好(HbA1c<7.5%)な場合、開始時に基礎および追加インスリンを10~20%前後を目安に減量することを検討する。1-b 血糖コントロール良好でない(HbA1c≧7.5%)場合、服薬開始時の基礎および追加インスリンは減量しないかあるいはわずかな減量にとどめる。2-a 経過中、血糖コントロールが改善し低血糖が顕在化した場合は、血糖自己測定や持続血糖モニタリングの結果に応じ、患者自身で責任インスリン量をすみやかに減量できるよう指導する。2-b ただし、上記の場合でも患者にはインスリンを極端に減量することは控えるよう指導する。特に基礎インスリンの減量は治療前の20%を越えることは避け、慎重に減量すべきである。・ケトアシドーシス 1型糖尿病ではインスリンポンプ使用者のポンプトラブルや予測低血糖マネージメント(PLGM)機能による基礎インスリンの中断が原因として重要であり注意を要する。臨床試験の報告では、アルコール多飲者、感染症や脱水など、女性、非肥満・やせ(BMI

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ウェルナー症候群〔WS:Werner syndrome〕

1 疾患概要■ 概念・定義ウェルナー症候群(Werner syndrome:WS)とは、1904年にドイツの眼科医オットー・ウェルナー(Otto Werner)が、「強皮症を伴う白内障症例(U[ウムラウト]ber Kataract in Verbindung mit Sklerodermie:Cataract in combination with scleroderma)」として初めて報告した常染色体劣性の遺伝性疾患である。思春期以降に、白髪や脱毛、白内障など、実年齢に比べて“老化が促進された”ようにみえる諸症状を呈することから、代表的な「早老症候群(早老症)」の1つに数えられている。■ 疫学第8染色体短腕上に存在するRecQ型のDNAヘリカーゼ(WRN)遺伝子のホモ接合体変異が原因と考えられる。これまで全世界で80種類以上の変異が同定されているが、わが国ではc.3139-1G>C(通称4型)、c.1105C>T(6型)、c3446delA(1型)の3大変異が症例の90%以上を占める。一方、この遺伝子変異が、本疾患に特徴的な早老症状、糖尿病、悪性腫瘍などをもたらす機序の詳細は未解明である。■ 病因希少な常染色体劣性遺伝病だが、日本、次いでイタリアのサルデーニャ島(Sardegna)に際立って症例が多いとされる。1997年に松本らは、全世界1,300例の患者のうち800例以上が日本人であったと報告している。症状を示さないWRN遺伝子変異のヘテロ接合体(保因者)は、日本国内の100~150例に1例程度存在し、WS患者総数は約2,000例以上と推定されるが、その多くは見過ごされていると考えられる。かつては血族結婚に起因する症例がほとんどとされたが、最近では両親に血縁関係を認めない患者が増え、患者は国内全域に存在する。遺伝的にも複合ヘテロ接合体(compound heterozygote)の増加が確認されている。■ 症状思春期以降、白髪・脱毛などの毛髪変化、両側性白内障、高調性の嗄声、アキレス腱に代表される軟部組織の石灰化、四肢末梢の皮膚萎縮や角化と難治性潰瘍、高インスリン血症と内臓脂肪蓄積を伴う耐糖能障害、脂質異常症、骨粗鬆症、原発性の性腺機能低下症などが出現し進行する。患者は低身長の場合が多く、四肢の骨格筋など軟部組織の萎縮を伴い、中年期以降にはほぼ全症例がサルコペニアを示す。しばしば、粥状動脈硬化や悪性腫瘍を合併する。内臓脂肪の蓄積を伴うメタボリックシンドローム様の病態や高LDLコレステロール(LDL-C)血症が動脈硬化の促進に寄与すると考えられている。また、間葉系腫瘍の合併が多く、悪性黒色腫、骨肉腫や骨髄異形成症候群に代表される造血器腫瘍、髄膜腫などを好発する。上皮性腫瘍としては、甲状腺がんや膀胱がん、乳がんなどがみられる。■ 分類WRN遺伝子の変異部位が異なっても、臨床症状に違いはないと考えられている。一方、WSに類似の症状を呈しながらWRN遺伝子に変異を認めない症例の報告も散見され、非典型的ウェルナー症候群(atypical Werner syndrome:AWS)と呼ばれることがある。AWSの中には、LMNA遺伝子(若年性早老症の1つハッチンソン・ギルフォード・プロジェリア症候の原因遺伝子)の変異が同定された症例もあるが、WSに比べてより若年で発症し、症状の進行も早いことが多いとされる。■ 予後死亡の二大原因は動脈硬化性疾患と悪性腫瘍であり、長らく平均死亡年齢が40歳代半ばとされてきた。しかし、近年、国内外の報告から寿命が5~10年延長していることが示唆され、現在では60歳を超えて生活する患者も少なくない。一方、足部の皮膚潰瘍は難治性であり、疼痛や時に骨髄炎を伴う。下肢の切断を必要とすることも少なくなく、患者のADLやQOLを損なう主要因となる。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)WSの診断基準を表1に示す。早老症候はさまざまだが、客観的な指標として、40歳までに両側性白内障を生じ、X線検査でアキレス腱踵骨付着部に分節型の石灰化(図)を認める場合は、臨床的にほぼWSと診断できる。診断確定のための遺伝子検査を希望される場合は、千葉大学大学院医学研究院 内分泌代謝・血液・老年内科学へご照会いただきたい。なお、本疾患は、難病医療法下の指定難病であり、表2に示す重症度分類が3度または「mRS、食事・栄養、呼吸の各評価スケールを用いて、いずれかが3度以上」または「機能的評価としてBarthel Index 85点以下」の場合に重症と判定し、医療費の助成を受けることができる。表1 ウェルナー症候群の診断基準画像を拡大する図 ウェルナー症候群のアキレス腱にみられる特徴的な石灰化像 画像を拡大する分節型石灰化(左):アキレス腱の踵骨付着部から近位側へ向かい、矢印のように“飛び石状”の石灰化がみられる。火焔様石灰化(右):分節型石灰化の進展した形と考えられる(矢印)。表2 ウェルナー症候群の重症度分類 画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 薬物療法WSそのものの病態に対する根本的治療法は未開発である。糖尿病は約6割の症例に見られ、高度なインスリン抵抗性を伴いやすい。通常、チアゾリジン誘導体が著効を呈する。これに対してインスリン単独投与の場合は、数十単位を要することも少なくない。ただし、チアゾリジン誘導体は、骨粗鬆症や肥満を助長する可能性を否定できないため、長期的かつ客観的な観察結果の蓄積が望まれる。近年、メトホルミンやDPP-4阻害薬、GLP-1受容体作動薬の有効性を示唆する報告が増え、合併症予防や長期予後に対する知見の集積が期待される。高LDL-C血症に対しては、非WS患者と同様にスタチンが有効である。四肢の皮膚潰瘍に対しては、皮膚科的な保存的治療を第一とする。各種の外用薬やドレッシング剤に加え、陰圧閉鎖療法が有効な症例もみられる。感染を伴う場合は、耐性菌の出現に注意を払い、起炎菌の同定と当該菌に絞った抗菌薬の投与を心掛ける。足部の保護と免荷により皮膚潰瘍の発生や重症化を予防する目的で、テーラーメイドの靴型装具の着用も有用である。■ 手術療法白内障は手術を必要とし、非WS患者と同様に奏功する。40歳までにみられる白内障症例を診た場合、一度は、鑑別診断としてWSを想起して欲しい。四肢の皮膚潰瘍は難治性であり、しばしば外科的デブリードマンを必要とする。また、保存的治療で改善がみられない場合は、形成外科医との連携により、人工真皮貼付や他部位からの皮弁形成など外科的治療を考慮する。四肢末梢とは異なり、通常、体幹部の皮膚創傷治癒能はWSにおいても損なわれていない。したがって、甲状腺がんや胸腹部の悪性腫瘍に対する手術適応は、 非WS患者と同様に考えてよい。4 今後の展望2009年以降、厚生労働科学研究費補助金の支援によって研究班が組織され、全国調査やエビデンス収集、診断基準や診療ガイドラインの作成や改訂と普及啓発活動、そして新規治療法開発への取り組みが行われている(難治性疾患政策研究事業「早老症の医療水準やQOL向上をめざす集学的研究」)。また、日本医療研究開発機構(AMED)の助成により、難治性疾患実用化研究事業「早老症ウェルナー症候群の全国調査と症例登録システム構築によるエビデンスの創生」が開始され、詳細な症例情報の登録と自然歴を明らかにするための世界初の縦断的調査が行われている。一方、WSにはノックアウトマウスに代表される好適な動物モデルが存在せず、病態解明研究における障壁となっていた。現在、AMEDの支援により、再生医療実現拠点ネットワークプログラム「早老症疾患特異的iPS細胞を用いた老化促進メカニズムの解明を目指す研究」が推進され、新たに樹立された患者末梢血由来iPS細胞に基づく病因解明と創薬へ向けての取り組みが進んでいる。なお、先述の全国調査によると、わが国におけるWSの診断時年齢は平均41.5歳だが、病歴に基づいて推定された“発症”年齢は平均26歳であった。これは患者が、発症後15年を経て、初めてWSと診断される実態を示している。事実、30歳前後で白内障手術を受けた際にWSと診断された症例は皆無であった。本疾患の周知と早期発見、早期からの適切な管理開始は、患者の長期予後を改善するために必要不可欠な今後の重要課題と考えられる。5 主たる診療科内科、皮膚科、形成外科、眼科(白内障)※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報千葉大学大学院医学研究院 内分泌代謝・血液・老年内科学 ウェルナー症候群(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター ウェルナー症候群(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)米国ワシントン州立大学:ウェルナー症候群国際レジストリー(医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報ウェルナー症候群患者家族の会(患者とその家族および支援者の会)1)Epstein CJ, et al. Medicine. 1966;45:177-221.2)Matsumoto T, et al. Hum Genet. 1997;100:123-130.3)Yokote K, et al. Hum Mutat. 2017;38:7-15.4)Takemoto M, et al. Geriatr Gerontol Int. 2013;13:475-481.5)ウェルナー症候群の診断・診療ガイドライン2012年版(2019年中に改訂の予定)公開履歴初回2019年7月23日

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持続する疲労感は成長ホルモン不全症(AGHD)のせい?

 ノボ ノルディスク ファーマ株式会社は、都内で成人の成長ホルモン分泌不全症(AGHD)に関するプレスセミナーを開催した。 セミナーでは「成人成長ホルモン分泌不全症(AGHD)とは」をテーマに、亀田 亘氏(山形大学医学部付属病院 第三内科 糖尿病・代謝・内分泌内科)を講師に迎え、なかなか診療まで結びつかない本症に関し、症状、診断と治療、患者へのフォローなどが紹介された。成長ホルモンが不足するとAGHDを来す 成長ホルモン(以下「GH」と略す)は下垂体で作られ、20歳くらいまで多く分泌され、それ以降は低下する。そして、下垂体で作られたGHは、静脈血に乗って、さまざまな標的器官に運ばれ、次のように作用する。・脳:思考力、意欲、記憶力を高める作用・軟骨・骨:正常な軟骨・骨の成長と強固な骨構造、骨量を維持する作用・心・骨格筋:心筋の強度・機能を高め、心臓の駆出機能を維持する作用・免疫系:免疫機能を亢進する作用・脂肪組織:脂肪代謝を促す作用・肝臓:糖新生作用の促進、IGF-1産生を促す作用・腎臓:水、電解質の調節作用・生殖器系:精巣・卵巣の正常な成長・発達を促進し、生殖機能を維持する作用 GHが不足するとAGHDを来し、亢進すると先端巨人症などの疾患を来すためにGHはバランスよく分泌される必要がある。AGHDは疲労感、集中力の低下などの日常の症状から疑う AGHDの主な症状として(詳細は『成人成長ホルモン分泌不全症の診断と治療の手引き(平成24年度改訂)』を参考)、疲労感、集中力の低下、うつ状態、皮膚の乾燥、体型の変化、骨量の低下、サルコペニア、脳腫瘍の合併などがある(小児発症では成長障害を来す)。 そして、AGHDの原因としては、脳の腫瘍や頭部外傷、中枢神経の感染症が考えられ、腫瘍によるものが多いという。 AGHD診断では、先述の臨床所見のほか、インスリン、アルギニン、L-DOPAなどの負荷によるGH分泌刺激試験の結果と合わせて診断されるほか、同時に重症度も判定される。 AGHD治療では、ソマトロピン(商品名:ノルディトロピンほか)などGH補充療法が行われている。わが国では、1975年から成長ホルモン分泌不全性低身長症の治療にGH補充療法が開始され、1998年にコンセンサスガイドラインができたことで世界的な治療へと拡大した。AGHDには 2006年から適応となり、現在もさまざまなGH関連疾患への適応が続いている。 患者フォローについては、AGHDは指定難病に指定され、医療費のサポートなどが受けられるほか、成長科学協会などの研究団体、下垂体患者の会などの患者会があり、疾患・治療に関する情報の提供・啓発などが行われている。

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全粒穀物、食物繊維の摂取が肝がんリスクを低下?/JAMA Oncol

 がん治療薬の開発が進んでいるが、一方で予防に対する研究も活発である。中国・安徽医科大学のWanshui Yang氏らは、全粒穀物や食物繊維の摂取量増加が、肝細胞がん(HCC)の素因として知られるインスリン抵抗性、高インスリン血症および炎症のリスク低下と関連していることから、これらの長期摂取によりHCCのリスクが低下するのではないかと仮定し、その関連性を米国の2つのコホート研究を基に解析した。その結果、全粒穀物および、おそらくシリアル繊維とふすまの摂取量増加は、米国成人のHCCのリスク低下と関連していることが示されたという。著者は、「今回の知見を再現し、他の人種・民族あるいは高リスク集団におけるこれらの関連性を調べ、根本的なメカニズムを解明するためには、今後、B型およびC型肝炎ウイルス感染を考慮したさらなる研究が必要である」とまとめている。JAMA Oncology誌オンライン版2019年2月21日号掲載の報告。 研究グループは、米国のNurses' Health StudyおよびHealth Professionals Follow-up Studyから計12万5,455例について解析した。 被験者は、全粒穀物、その成分であるふすまと胚芽、および食物繊維(シリアル、果物、野菜)の摂取量について、食事摂取頻度調査票(Food Frequency Questionnaire:FFQ)を用いて4年ごとに調査を受けていた。これらの摂取量とHCCとの関連について、Cox比例ハザード回帰モデルを用い、HCCの既知のリスク因子を調整後の多変量ハザード比(HR)とその95%信頼区間(CI)を推算し評価した。 主な結果は以下のとおり。・平均追跡期間24.2年、被験者12万5,455例(女性7万7,241例、男性4万8,214例、平均年齢63.4歳)中、HCC患者141例を確認した。・全粒穀物の摂取量増加は、HCCのリスク低下と有意に関連していた(最高三分位vs.最低三分位のHR:0.63、95%CI:0.41~0.96、傾向p=0.04)。・全ふすまの摂取量増加は、有意ではないもののHCCのリスク低下との関連が観察された(HR:0.70、95%CI:0.46~1.07、傾向p=0.11)。胚芽では関連はみられなかった。・シリアル繊維の摂取量増加は、有意ではないもののHCCのリスク低下と関連していた(HR:0.68、95%CI:0.45~1.03、傾向p=0.07)。果物や野菜の繊維では関連はみられなかった。

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175)知っていますか? 低血糖のリスク【糖尿病患者指導画集】

患者さん用:知っていますか? 低血糖のリスク説明のポイント(医療スタッフ向け)■診察室での会話医師前回の検査結果ですが、HbA1cが7%を切っていました。患者そうですか! よかった…。糖尿病教室で合併症のことを聞いてから心配で心配で…。(安堵した表情)医師ここまでよく頑張りましたね。合併症の予防には高血糖の改善が重要ですが、HbA1cが下がったので、これからは低血糖にも注意してくださいね。患者低血糖は、今までなったことがないので、大丈夫です。医師それはよかったです。ただ、インスリン治療を受けている患者さんのほとんどは、低血糖を経験しているといわれています。患者えっ、そうなんですか!?医師では、ここで問題です。この□□にはどんな言葉が入ると思いますか?患者一番上は交通事故…ですか? あとは…、わかりません。医師残りの答えは、認知症と心筋梗塞です。高齢になると、低血糖に気付きにくくなります。自覚のない低血糖を繰り返していると、これらのリスクも高まるので、ご家族にも低血糖についての注意を伝えておくようにしてください。患者はい。わかりました。(うれしそうな顔)●ポイント穴埋めクイズを用いて、質の良い血糖コントロールの大切さを説明します。患者さん用(解答):知っていますか? 低血糖のリスク■解答交通事故認知症心筋梗塞1)厚生労働省 重篤副作用疾患別対応マニュアル 低血糖2)一般社団法人 日本糖尿病学会 糖尿病治療に関連した重症低血糖の調査委員会報告

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1型糖尿病治療におけるSGLT1/2阻害薬sotagliflozinの可能性(解説:住谷哲氏)-1061

 インスリン非依存性に血糖降下作用を発揮するSGLT2阻害薬が、インスリン分泌不全が主病態である1型糖尿病患者の血糖コントロールに有効であることは理解しやすい。わが国ではイプラグリフロジンが最初に1型糖尿病患者に対する適応を取得し、次いでダパグリフロジンも1型糖尿病患者に対して使用可能となった。SGLT2阻害薬は近位尿細管に存在するSGLT2を特異的に阻害することによって尿糖排出を増加する。それとは異なりsotagliflozinはSGLT2のみならず腸管に存在するSGLT1も阻害するdual inhibitorであり、尿糖排泄に加えて腸管からのグルコース吸収をも阻害する。 本論文は、これまでに実施された1型糖尿病患者におけるsotagliflozinの有効性を検討した6つのRCT(3,238例)のメタ解析である。有効性の指標としてはHbA1c、空腹時血糖、各種CGMパラメータ、インスリン投与量、重症低血糖、体重などが検討された。有害事象としてはDKA、性器感染症、尿路感染症、下痢、体液量減少イベントなどが評価された。その結果はSGLT2阻害薬のダパグリフロジンを用いたDEPICT-1試験とほぼ同様であったが1)、注目すべきは、低血糖(-9.09イベント/人年、95%CI:-13.82~-4.36)および重症低血糖(相対リスク[RR]:0.69、95%CI:0.49~0.98)のリスクがsotagliflozinの投与により減少した点である。DKAとりわけeuglycemic DKAがSGLT2阻害薬を併用した1型糖尿病患者で懸念されるが、sotagliflozin投与によるDKAのリスクは治療開始時のHbA1cおよび基礎インスリン量の減少量と関連していることが明らかとなった。 SGLT2阻害薬のメタ解析ではSGLT2阻害薬の投与により重症低血糖の頻度は減少しないと報告されている2)。これはsotagliflozinのSGLT1阻害作用により食後血糖上昇が抑制され、それが追加インスリン量の減少につながった結果ではないかと推測される。低血糖に対する懸念から血糖コントロールが不十分なまま経過している1型糖尿病患者は少なくない。HbA1cの低下、インスリン投与量の減少、体重減少、重症低血糖リスクの減少が期待できるSGLT1/2阻害薬sotagliflozinは、1型糖尿病治療におけるunmet needsに応える新たな血糖降下薬となるかもしれない。

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