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急性ポルフィリン症〔acute porphyria〕

1 疾患概要■ 概念・定義ポルフィリン症とはヘム合成経路に関与する8つの酵素いずれかの先天異常が病因でヘム合成経路(すなわち、律速酵素である第1番目のデルタアミノレブリン酸(ALA)合成酵素(ALAS))が亢進し生じる疾患の総称。ポルフィリン代謝異常に基づく症候を呈し、ポルフィリンやその前駆物質が大量に生産され、体内に蓄積し、尿や糞便に多量に排泄される。ポルフィリン症は、病因論的には本経路の異常が生じる主たる臓器の違いにより肝型と骨髄型の2型に大別される(図1)。臨床的には急性腹症、神経症状、精神症状などの急性発作を起こす急性ポルフィリン症(ALA脱水酵素欠損ポルフィリン症〔ADP〕、急性間欠性ポルフィリン症〔AIP〕、遺伝性コプロポルフィリン症〔HCP〕、多様性ポルフィリン症〔VP〕)および、光線過敏症を呈する皮膚ポルフィリン症(先天性骨髄性ポルフィリン症〔CEP〕、晩発性皮膚ポルフィリン症〔PCT〕、肝性骨髄性ポルフィリン症〔HEP〕、骨髄性プロトポルフィリン症〔EPP〕および、間欠期のHCPとVP)とに分けられる。AIP以外の急性ポルフィリン症は皮膚症状も呈し、皮膚ポルフィリン症でもある。また、EPPの症例で病因遺伝子がフェロキラターゼでは無く、ALAS2遺伝子の機能獲得型変異やALAS2の安定性を制御する蛋白ClpXの遺伝子異常が病因となった症例も近年報告されており、病因遺伝子異常は2種類増えた。図1 ヘム合成経路と異常症画像を拡大する■ 疫学報告は、本症の知見が高まった1966~1985年の間になされたものが大半であり、ここ10年間の報告はむしろ減少している。次第にありふれた疾患として認識されるようになり、報告が減ったと考えられ、実際はこれよりはるかに多い症例があるものと思われる。急性ポルフィリン症の半数以上がAIPで、ついでHCP、VPと続く。ADPはきわめてまれである。1980~1984年の全国調査ではポルフィリン症の有病率は、人口10万人対0.38人とされているが、その10倍との報告もある。厚生労働省遺伝性ポルフィリン症研究班による2009年の調査では、1年間の受療者は35.5人と推定されているが、欧州の発症率(5.2人/100万人)と同等として計算すると648人となることにより、わが国では多くの未診断症例が埋もれている可能性が高いと思われる。■ 病因ヘムは、生体内においては、主に骨髄と肝臓で合成されている。約70~80%のヘムは、骨髄の赤血球系細胞で合成され、グロビンに供給されヘモグロビンを形成する。残りは主に肝臓で合成され、シトクロムP450などのヘム蛋白の配合族として利用されている。ヘム合成経路の律速酵素は、第1番目の酵素であるALASであり、本酵素活性の増減が細胞内ヘム蛋白量を調整している。ALAS酵素活性は、最終産物であるヘムにより、肝臓ではネガティブフィードバックを受けており、ヘムの量は一定に保たれる。ALASの酵素活性は、ヘム合成経路で最も低い(したがって律速酵素たりうる)。ポルフィリン症の病因は、それ以外のヘム合成系酵素の活性が遺伝子異常により低下し、ALAS活性より低くなることで、本経路の異常が生じることである。ウロポルフィリン(UP)、コプロポルフィリン(CP)、プロトポルフィリン(PP)などのポルフィリンの蓄積が光線過敏性皮膚炎の病因であることは確定しているが、後に述べる急性発作(神経系の機能異常が病因)を引き起こす機序は未確定である。上流の基質であるポルフォビリノーゲン(PBG)、およびALAの増加を病因とする神経毒性前駆物質説、ならびに、ヘム蛋白やヘム酵素の機能低下を病因とするヘム欠乏説があり、どちらが主であるかの決定的なデータはいまだみられない。なお、最終産物であるヘムの低下は、ネガティブフィードバック機序を介してALASの酵素活性を増加させ、異常酵素とALASの酵素活性の逆転状況をさらに助長させる。したがって、この酵素活性のバランスに影響を与える何らかの誘因(薬物など)により、異常酵素とALASの酵素活性の逆転状況がわずかに増強されただけで、悪循環の過程を経て、急性に病状の悪化(急性発作)を生じる。誘因としては、外傷、感染症、ストレス、甲状腺ホルモン、妊娠、あるいは飢餓など(狭義の誘因)、バルビタール、サルファ薬などの誘発薬剤、ヘム合成系酵素を直接障害し、ヘム合成能力をヘムの需要量以下に低下させる(発症剤)、セドルミッド、グリセオフルビンなどが挙げられる。薬剤については、下記のウェブサイトに記載されているので参照していただきたい。The American Porphyria Foundation(APF)European Porphyria Network(EPNET)■ 症状1)急性ポルフィリン発作腹部症状、精神症状、神経症状(三徴)。急性腹症を思わせる腹部症状が初期にみられ、後にヒステリーを思わせるような精神症状を呈し、最後には四肢麻痺、球麻痺などの神経症状を呈し、死に至ることもある急性発作がみられる。このときみられる腹部症状に対応する器質的な異常は認められず、機能的異常によるものと考えられている。このように、病状の進行に応じて多彩な症候を呈するので、種々の間違った診断の下に治療されるケースが多い。(1)腹部症状:腹痛、嘔気、嘔吐、便秘、下痢、腹部膨満など(2)精神症状:不眠、不安、ヒステリー、恐怖感、興奮、傾眠、昏睡など(3)神経症状:四肢脱力、知覚異常、言語障害、嚥下(飲み込み)障害、呼吸障害など2)光線過敏性皮膚炎HCPおよびVPでは、光線過敏性皮膚炎がみられることもある。3)非発作時(間欠期)無症状■ 予後いったん発症すれば、死亡率は20%を超え、予後不良と考えられていた。これは、診断がつかないまま、バルビタールなどの使用禁忌薬やほかの誘因が重なって、病状が悪化した症例が多いことも原因であり、診断がつき、適切な治療が行われた場合、大半は完全に回復する。繰り返し発症する症例では、発症に対する不安神経症を呈することもあり、発症早期から適切な治療をすることが望まれる。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)ヘム合成経路の酵素活性の低下は、その酵素による反応部位より上流の基質の増加と最終産物であるヘムの低下を引き起こす。したがって、増加した基質(ALAおよびPBG)や基質の代謝産物であるUPおよびCPなどを測定することにより、酵素異常の部位がわかる。臨床症状、検査値などを含め総合的に診断することが必要だが、検査値で考えると下に示した図2のフローチャートに従って検査を進めることになる。本症では、病因となる遺伝子異常を持っているが、いまだ発症していない人(潜在者)が少なからずみられる。その発症前診断には、上記のような代謝産物の測定および酵素活性の測定では不十分なことがあり、遺伝子診断が必要となることが多い。図2 急性ポルフィリン症診断のフローチャート画像を拡大する■ 検査成績(ポルフィリン関連)血中および尿中のPBG、ALA、ポルフィリンなどの値は、各種ポルフィリン症の病型に応じて異なるが、急性ポルフィリン症に共通する(まれな病型であるADPを除く)所見として尿中PBGの増加がある(定性的に調べる検査であるWatson-Schwartz法で陽性)。また、尿中ポルフィリンも増加し、肉眼的には特有のぶどう酒色(ポルフィリン尿)を呈する(10~30%の症例でみられる)。しかし、ADPやAIPでは、尿中ポルフィリンはあまり増加せず褐色調に留まることが多い。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 急性発作の予防誘因を避けるように指導することが大切である。飢餓が誘因となるので、十分な摂食をさせる(ダイエットは禁)。また、医療機関での薬剤投与に注意が必要となる。患者には使用可能薬剤の一覧などの携帯を勧める。月経に伴い急性発作を起こす症例では、LH-RHアナログを用いて、月経を止めることも効果がある。■ 発症時の治療1)グルコースを中心とした補液詳細な機序は不明だが、ALASの酵素活性を抑制し、急性発作を改善させるといわれている。わが国で、最も一般的に行われている治療法。インスリンを併用するとさらに効果が増す。2)ヘム製剤本薬剤はヘム製剤で、細胞内ヘムの上昇を引き起こし、ALASの酵素活性を抑え(ネガティブフィードバックにて)、ヘム合成系の相対的亢進を緩和させる。ポルフィリン症の治療としては、病態に則した治療法であり、欧米では40年来使用されており第一選択療法と位置づけられている。わが国では、2013(平成25)年8月、ヘミン(商品名:ノーモサング)が発売され、使用できるようになった。3)シメチジン作用機序は不明だが、ALAおよびPBGを減少させる効果がある。4)対症療法ポルフィリン症にみられる各種症候に対しては、下記のような対症療法が行われる。ここで大切なことは、使用禁止薬剤(誘因となる薬剤)を絶対に使用しないことである。(1)疼痛、腹痛には、クロルプロマジンおよび麻薬(2)不安、神経症には、クロナゼパム、クロルプロマジン(3)高血圧、頻脈には、ベータ遮断薬(4)抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(SIADH)には、補液による電解質の補充■ 発作が頻回に起こるときの発作予防薬ギボシラン(商品名:ギブラーリ):ALAS1を標的としたsiRNA。ALAs1の発現を抑制し、急性発作の発症を予防することを目的とした薬剤。2019年に米国で承認され、わが国でも2021年に承認された。4 今後の展望ヘム製剤やギボシランが治療に使えることとなり、国際標準に追いついたと言える。また、これら治療薬は高額だが、難病指定もなされ医療費補助もあり、治療は円滑に行える。しかし、確定診断の補助となる遺伝子解析が保険収載されておらず、これが認められると診断の精度が高まるので、現在、保険収載を要望中である。5 主たる診療科内科では代謝内科、消化器内科、神経内科。皮膚症状に対しては皮膚科。※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報ポルフィリン症相談(医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報全国ポルフィリン代謝障害友の会「さくら友の会」(患者と患者家族の会)1)大門 真.ポルフィリン症.In:矢崎義雄編.内科学.第11版.朝倉書店;2017. p.1815-1820.2)大門 真. ポルフィリン症の診断と分類. In: 岡庭 豊ほか編. year note 内科・外科等編 2010年版. 第19版. メディックメディア; 2009. p.719-729.3)難病情報センター ポルフィリン症(2022年1月17日アクセス)公開履歴初回2013年09月05日更新2022年01月20日

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押さえておきたいリアルタイムCGMの使用要件/日本糖尿病学会

 糖尿病診療で広く活用されてきているリアルタイム持続グルコース測定(リアルタイムCGM)。2018年12月からはリアルタイムCGMが保険適用となり、CGM機は施設基準を満たした医療機関で、適用患者も限定され使用されている。 日本糖尿病学会(理事長:植木 浩二郎)は、2019年に発表した「『リアルタイムCGM適正使用指針』について」の内容を改訂し、12月16日に公表した。リアルタイムCGM適正使用指針の主な改訂点【2.使用できる施設】・インスリンポンプ一体型リアルタイムCGMと同様にインスリンポンプ治療を行っている施設で、糖尿病治療経験5年以上の糖尿病専門医が1名以上常勤していることに加えて、インスリンポンプ治療の経験を2年以上有する常勤の看護師や薬剤師(糖尿病療養指導士や糖尿病看護認定看護師など)が1名以上配置されている施設に限定される。・糖尿病専門医や糖尿病療養指導士、糖尿病看護認定看護師に対しては、日本糖尿病学会が行うSAPやCGMのe-learningの受講を必須。【3.適応と注意点】 ・本機器は、(1)急性発症1型または劇症1型の糖尿病患者で、低血糖対策と血糖コントロールの両立が強く求められるが就労や生活環境上の理由でインスリンポンプ一体型リアルタイムCGM(SAP)を使用できない者、(2)2型の糖尿病患者でも内因性インスリン分泌が欠乏(空腹時血清Cペプチド 0.5ng/mL未満)しており、インスリン治療を行っていても低血糖発作など重篤な有害事象がおきている血糖コントロール不安定な者が適応となる。具体的にはインスリン頻回注射またはSAP以外のインスリンポンプ治療と1日最低2回以上のSMBGを行っているが、血糖が不安定で予期せぬ低血糖や著明な高血糖を繰り返す者で、上記に示した施設基準を満たす医療機関を受診している者が適応となる。・低血糖リスクが乏しく、血糖コントロールの安定している者または医師の指導に従わず、SMBG を行わない患者等は適応外である。【4.アラートの設定閾値】(1)低グルコースのアラート低グルコースアラートを使用する場合は使い始めてしばらくは60~70mg/dLに設定する。(2)高グルコースのアラート高グルコースアラートを使用する場合は使い始めてしばらくは250~300mg/dLに設定する。(3)その他のアラート機能これらのアラ―ト機能の内容、使い方、対処法については、患者の特性を考慮して個別的に設定、説明、指導を行う。【5.アラート鳴動時の対応】1)患者・原則として、アラート鳴動後にSMBGを行い、その結果をもとに糖尿病専門医、および糖尿病療養指導士や糖尿病看護認定看護師による事前の指導に従った対応を取ることが求められる。・医師は本機器での測定結果を過信せず、SMBGで血糖値を確認することが推奨されることを患者に対して教育する必要がある。また患者によってはアラート鳴動時以外にも本機器の数値に対して過剰に反応し、ブドウ糖の摂取やインスリン追加注射などを自己判断で行ってしまう可能性もあることから、低血糖・高血糖への対応については日常的な継続指導が必要である。2)患者家族等・患者自身が対応を取ることが難しく、かつ患者家族等が患者の傍にいる場合には、患者に代わって事前の医師の指導に従って対応を行うことを指導しておく必要がある。 なお、実際の使用開始に際しては学会が作成するeラーニングの受講が必須とされているので注意を願いたい。

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人生100年時代、インスリンも100歳、今もこれからも現役【令和時代の糖尿病診療】第4回

第4回 人生100年時代、インスリンも100歳、今もこれからも現役今回は、2021年の締めくくりとして、糖尿病治療において最も歴史のある「インスリン」について語ろうかと思う。今年は、20世紀最大の発見の1つともいわれるインスリンの生誕100年であり、本来なら世界中でいろいろな記念行事があったに違いない。しかしコロナの影響で中止を余儀なくされたり、バーチャル開催になってしまったりと残念でならない。読者の皆さんにもいろいろな年代層の方がいらっしゃると思う(ひょっとしたら100歳の方がご覧になっているかも!?)ので、私と同じく、あらためてインスリンについて考えてみるのもよいかと思う。100年前というと、和暦で大正10年まで遡る。歴史を紐解くと、この年は日本で原 敬首相暗殺というショッキングな事件があり、混沌とした時代だ。また、大正時代の市民生活は、大卒サラリーマンの初任給(月給)が50~60円というデータが残っているなど、まさにタイムスリップした気分で長い時の流れが感じられる。余談はこのくらいにして、少しインスリンの歴史を振り返ってみることにする。図1:インスリン発見100年の軌跡画像を拡大する1921年、カナダ・トロントの医師Frederick Grant Banting氏とCharles Best氏が膵島ホルモンの抽出に成功し、“isletin(アイレチン)”と命名した。その翌年、isletinは14歳の1型糖尿病患者に初めて投与されたが、当初は抽出物の精製が不十分であったためほとんど効果がなく、アレルギー反応が現れ投与は1回限りで中止された。それから程なくして、精製度を高めたものが用いられ、患者の血糖値は正常に低下した。トロントの研究グループは、膵からの抽出液isletinを“insulin”と名付け、製薬企業の協力下で製剤化し、大量生産ができる体制を整えた。これにより、糖尿病が治療可能な疾患になった。それ以前は、治療といえば飢餓療法という非常に悲しい延命策しかなく、不治の病だったのである。インスリンによる治療が可能になり、糖尿病性昏睡は激減したものの、網膜症・腎症の合併症がクローズアップされ、1930年代後半からは血糖コントロールと細小血管障害との関係があるのかなど、喧々諤々と議論されたこともあった。これに決着をつけたのが、1983~1993年に実施された糖尿病の大規模臨床研究DCCT1)である。数多あるインスリン製剤を使いこなすための基礎知識インスリン発見から100年後の2021年4月現在、インスリン製剤は26種類、59製品もの種類が存在する2)。こうまで増えると何を使用すればいいのかわかりづらく、「それなら糖尿病専門医に任せよう」ということにもなりかねないが、そうならないためにもこの場を借りてインスリン治療の基礎を伝授させていただく。まずはインスリンの適応であるが、日本糖尿病学会が提唱しているインスリン依存状態などの「絶対的適応」であれば、病態が安定するまでは専門医に任せてもよいと思われるので、今回は非依存状態であっても血糖コントロールのためにインスリンが必要な場合に、どのような選択をするかを中心に述べたいと思う。インスリン製剤は、作用時間により(超)超速効型・超速効型・速効型・中間型・持効型に分けられ、さらには作用時間が異なるインスリンを混ぜた混合型インスリン(配合注)が存在する。これらを適切に組み合わせ、正常な生理的インスリン分泌(下図)に近づけるよう単位調節を行っていく。インスリン治療の土台部分であり、食事と関係ない基礎分泌の補充を目的に使用される中間型・持効型、および食後の血糖値上昇に伴う追加分泌の補充を目的に使用される(超)超速効型・超速効型・速効型で分けて考えると理解しやすいかと思う。さらに、自己注射で使用できるデバイスには種類があり、それぞれメーカーや特徴によって名称が異なるため、これらの名前も覚えておくとよいだろう。図2:生理的インスリン分泌2型糖尿病患者にインスリン製剤を処方する際の実際(1)インスリンの導入は基礎か追加か?最初に使用するインスリン製剤については、空腹時血糖値の良しあし(個人的なカットオフ値の目安は150mg/dL)により決めることが多い。さほど高くなければ超速効型(追加分泌)から、高ければ持効型(基礎分泌)からと考えられるが、導入時はおそらくHbA1cが8%以上で空腹時血糖値が高い可能性が考えられる。慣れていない場合は、経口血糖降下薬に持効型(基礎)インスリンを追加する形のBOT(Basal supported Oral Therapy)が処方しやすいだろう。追加インスリンを使用する場合、今は食直前に投与する超速効型が主流だが、直近で登場したいわゆる(超)超速効型といわれる製剤(商品名:フィアスプ、ルムジェブ)は、食事2分前~食事開始後20分以内に注射する必要があり、打つタイミングの指導には注意しなければならない。(2)開始量は?糖尿病治療ガイド2020-20213)には、2型糖尿病における持効型インスリン療法開始時の投与量の目安として、1日0.1~0.2単位/実測体重(kg)程度(4~8単位)と記載されている。血糖値が高いからといって、最初から大量に投与することは避けるべきである。(3)1日の注射回数は?外来導入する場合は、1日1回の持効型または混合型インスリン(配合注)から始めるのが、先生方にとっても、また患者さんにとってもやりやすいかと思われる。とくに最近は高齢の糖尿病患者が非常に多くなり、自己注射がおぼつかないケースも増えている中で、1日1回なら同居家族の方に見守ってもらったり、打ってもらったりすることができるからである。(4)デバイス(インスリン注入器)は?インスリン製剤のデバイスは大きく3つに分かれ、使い捨てのプレフィルド製剤(ペンタイプ)、カートリッジ製剤(万年筆タイプ)、バイアル製剤があるが、それぞれにメリットとデメリットがある。わが国においては、利便性や衛生的な観点から圧倒的にプレフィルド製剤が多く使われているが、費用負担も大きいので、医療費を気にする患者さんには希望を確認したほうがよい。(5)注射針は?現在、太さ・長さ・構造が異なる8製品が処方可能であるが、これに関しての使い分けはマニアックなため一部の専門医に任せるとして、いたって標準的な製品で十分である。これで患者さんの同意が得られれば、インスリン導入ができ目標血糖値に合わせて単位の調節を行っていくことになる。インスリン注射部位の皮膚病変に注意ここで一つ注意点を述べておくと、インスリンは現時点で注射製剤のみであり、個人的に使用上で最も重要な事象として、同一部位に繰り返し注射をすることで発生する皮膚病変に留意している。アミロイドの沈着したインスリンボール(右写真)と、脂肪が肥大したリポハイパートロフィーの2種類がある4)。このような腫瘤部への注射で、インスリンの効果が顕著に減少してしまう。そのため、インスリン自己注射手技の再確認時に腹部の状態も忘れずに確認しておくことが大切である(とくに原因不明のコントロール悪化時など)。「注射部位を毎回変えている」と話す患者さんの中には、左右交互にはしているものの、同一部位に注射しているケースも多々あるので注意が必要だ(再三再四言ってはいるが、どうしても打ちやすい場所が決まってくる、中には硬いところに打った方が痛くないなどと言う患者さんまでいる)。これは糖尿病専門医ですらよく陥る失敗であり、読者にもぜひ心に留めておいてほしい。わが国において、1981年にインスリン自己注射が保険適応となり、自宅でも投与可能となったものの、以前はよく「インスリンは最後の治療」などと言われていた。かつては患者さんから「インスリンを打った知り合いはすぐに亡くなってしまった。だから打ちたくない」などという言葉をよく聞いたものだったが、最近はめっきり聞かなくなった。これは、われわれ医療従事者やインスリンを使用している患者さん方の地道な情報発信により、インスリン治療の有用性が未使用の人々にもきちんと理解されてきたからであろう。同時に、インスリンの早期導入によって生命予後がよくなることも伝わっていると認識している。これからも、インスリンは糖尿病患者さんのよりよい治療薬としてますます活躍していくに違いない。人生100年時代、インスリンも100歳今もこれからも現役今宵はインスリン100歳生誕記念に際し、楽しく気ままに書かせていただいた。まだまだ書き足りないことがあるものの、この辺で宮崎が生んだ焼酎「百年の孤独」を飲みながら、筆をおくことにする。それでは、皆さん来年こそいい年であることを祈りましょう!1)Diabetes Control and Complications Trial Research Group. N Engl J Med. 1993 Sep 30;329:977-986.2)竹内 淳. レジデント2021(医学出版)Vol.14 No.2. [通巻132号]:6-16.3)日本糖尿病学会編著. 糖尿病治療ガイド2020-2021. 文光堂;2020.4)Nagase T, et al. Am J Med. 2014;127:450-454.

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成人成長ホルモン分泌不全症の週1回の治療薬発売/ノボノルディスクファーマ

 ノボノルディスクファーマ株式会社は、12月10日に「成人成長ホルモン分泌不全症(重症に限る)」を効能または効果とする長時間作用型ヒト成長ホルモンアナログ製剤ソマプシタン(商品名:ソグルーヤ)を発売した。 成人成長ホルモン分泌不全症のとくに重症例では、自覚症状として易疲労感、スタミナ低下、集中力低下、気力低下、うつ状態などの症状があり、体組成異常として体脂肪の増加、除脂肪体重の減少などの異常、その他脂質代謝異常などを生じる。 今回発売されたソマプシタンは、長時間作用型遺伝子組換えヒト成長ホルモン(hGH)アナログであり、hGHを単一置換したアミノ酸骨格とアルブミン結合部位からなり、アルブミン結合部位(側鎖)は、親水性のスペーサーおよび16鎖の脂肪酸部位から構成され、化学結合によりアミノ酸骨格の101位に結合する。内因性アルブミンとの可逆的な非共有結合によりソマプシタンの消失が遅延し、その結果、in vivoでの半減期および作用持続時間が延長する。 日本におけるソマプシタンの承認では、日本人125人を含む454人の重症成人成長ホルモン分泌不全症患者が参加した臨床試験プログラム(REAL)の結果に基づいている。hGH製剤による治療歴がない患者に対するソマプシタンの週1回投与により、血清IGF-I値はプラセボと比較して統計学的に有意に上昇したが、ノルディトロピンの1日1回投与との比較では、ベースラインからの上昇に差はみられなかった。また、ソマプシタンは、躯幹部体脂肪率をプラセボより統計学的に有意に減少させた。体組成に関連するパラメータ(総脂肪量、内臓脂肪組織、除脂肪体重、体肢骨格筋量など)の変化量に、ソマプシタンとノルディトロピン間で統計学的に有意な差は認められなかった。そのほか、REAL全体を通じて、新たな安全性に関する問題は認めなかった。 ソマプシタンは、2021年1月22日に国内の医薬品製造販売承認を取得し、11月25日に薬価基準に収載された。ソマプシタン製品概要一般名:ソマプシタン(遺伝子組換え)販売名:ソグルーヤ皮下注5mg、ソグルーヤ皮下注10mg効能または効果:成人成長ホルモン分泌不全症(重症に限る)用法および用量:通常、ソマプシタン(遺伝子組換え)として1.5mgを開始用量とし、週1回、皮下注射する。なお、開始用量は患者の状態に応じて適宜増減する。その後は、患者の臨床症状および血清インスリン様成長因子-I(IGF-I)濃度などの検査所見に応じて適宜増減するが、最高用量は8.0mgとする。承認年月日:2021年1月22日薬価基準収載日:2021年11月25日薬価:ソグルーヤ皮下注5mg:2万6,107円ソグルーヤ皮下注10mg:5万2,214円発売日:2021年12月10日製造販売元:ノボノルディスクファーマ株式会社

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第25回 糖尿病診療における高齢者総合機能評価の活用法【高齢者糖尿病診療のコツ】

第25回 糖尿病診療における高齢者総合機能評価の活用法Q1 糖尿病診療における高齢者総合機能評価とは?なぜ重要なのですか?高齢者糖尿病では老年症候群の認知機能障害、フレイル、ADL低下、転倒、うつ状態、低栄養、ポリファーマシーなどが約2倍きたしやすくなります1)。また、疾患としては認知症、サルコペニア、脳卒中、骨関節疾患などの併存症も多くなります。さらに、孤立、閉じこもり、経済的な問題など社会的な問題も伴いやすくなります。こうした多岐にわたる診療上の問題点に対して、疾患よりも心身機能に焦点を当てて、多職種でその機能を改善する老年医学的アプローチが高齢者総合機能評価です。英語のComprehensive geriatric assessmentを略してCGAと呼ばれています。糖尿病におけるCGAは身体機能、認知機能、栄養、薬剤、心理状態、社会状況の6つの領域を評価するのがいいと考えています。そうした場合、栄養のことは栄養士、薬剤のことは薬剤師、心理と社会のことは看護師、心理士、ケースワーカーなどと協力して評価すると詳細に評価できると思います。入院患者のCGAの場合は、こうした多職種が分担して評価し、カンファレンスを行って、6つの領域に対する対策をチームで立てることができます。高齢者にチームでCGAを行うと、死亡や施設入所のリスクを低下させることができるというメタ解析の結果が得られています2)。Q2 糖尿病診療における高齢者総合機能評価で実際に評価すべき項目、用いるツールは?身体機能では手段的ADL、基本的ADL、フレイル、サルコぺニア、転倒、視力、聴力、巧緻機能などを評価します。手段的ADLと基本的ADLはLawtonの指標やBarthel指標で評価できますが、簡易に評価する場合はDASC-8(第7回参照)の質問の一部を使うことができます。フレイルはJ-CHS基準または基本チェックリストで評価しますが、歩行速度の測定が難しい施設では簡易フレイルインデックス(表1)が便利です。J-CHS基準や簡易フレイルインデックスは3項目以上、基本チェックリストでは8点以上がフレイルです。サルコペニアはAWGS2019による診断基準で診断しますが、臨床的には握力測定か5回椅子立ち上がりテストを行うのがいいと思います。握力は男性で28kg未満、女性で18kg未満が低下となります(第24回参照)。視力や巧緻機能はインスリン注射が可能かの判断に重要です。画像を拡大する認知機能では認知機能全般だけでなく、記憶力、遂行機能(実行機能)、注意力、空間認識など糖尿病で低下しやすい領域を評価することもあります。認知機能全般はMMSEまたは改訂長谷川式知能検査で評価する場合が多いです。DASC-21またはDASC-8は日常生活に関して質問する指標なので、メディカルスタッフや介護職が行うのがいいと思います。DASC-21は31点以上が認知症疑いとなります。MMSEがそれほど低下しなくてもインスリン注射などの手技ができない場合は、時計描画試験を行って遂行機能が障害されていないかを確かめます。MoCAは糖尿病患者のMCIのスクリーニング検査として有用です。MoCA25点以下がMCI疑いですが、臨床的には23点以下が実態に合っているように思います。心理状態はうつ状態、不安、QOL低下があるかをチェックします。うつはGDS15で評価しますが、短縮版のGDS5や基本チェックリストの5問の質問も利用できます。栄養では低栄養として体重減少、BMI低値、食事摂取の低下などを評価します。MNA-SFは低栄養のスクリーニングとして利用できます。また、腹部肥満の指標として腹囲を測定します。薬剤では、服薬や注射のアドヒアランス低下、ポリファーマシー、有害事象の有無を評価します。社会状況では、孤立、閉じこもり、社会参加、家族サポート、介護保険の要介護認定、住宅環境、経済状況などをチェックします。孤立や閉じこもりは社会的フレイルの重要な要素で、それぞれ同居家族以外の人の交流が週1回未満、外出が1日1回未満が目安となります。高齢糖尿病患者におけるCGAは入院患者の治療方針を決める場合に行い、外来では可能ならば年に1回、あるいは心身機能に変化があると考える場合に施行することが望ましいと考えます。Q3 外来診療で簡易に高齢者総合機能評価を行う方法はありますか?Q2でご紹介した高齢者総合機能評価(CGA)の項目は入院患者などが対象で、評価する時間と人手がある場合に行うものです。外来診療で簡易にCGAを行う例をご紹介したいと思います(図1)。画像を拡大するまず、身体機能と認知機能を簡易にスクリーニングするために、DASC-8またはDAFS-8を行います。DASC-8は以前にご紹介したように認知(記憶、時間見当識)、手段的ADL(買い物、交通機関を使っての外出、金銭管理)、基本的ADL(食事、トイレ、移動)の8問を4段階で評価し、合計点を出します(第7回参照)。DAFS-8は知的活動(新聞を読む)、社会活動(友人を訪問)、手段的ADL(買い物、食事の用意、金銭管理)、基本的ADL(食事、トイレ、移動)の8問からなり、知的・社会活動、手段的ADLは老研式活動能力指標から5問、Barthel指標から3問をとっています(表2)。DAFS-8はDASC-8と比べて基本的ADL以外は2者択一の質問なので聞きやすいという利点があります。DASC-8とDAFS-8のいずれも総合点によって3つのカテゴリー分類を行うことができ、血糖コントロール目標を設定することができます3,4)。画像を拡大するカテゴリーII以上で認知機能の精査を希望する場合はMMSEや改訂長谷川式知能検査を行います(第4回参照)。また、カテゴリーII以上はフレイル・サルコペニアがないかをチェックします。まず、握力の測定をします。さらに、簡易フレイルインデックスの体重減少、物忘れ、疲労感、歩行速度の低下、身体活動の低下の有無を質問し、フレイルをスクリーニングします。座位時間が長くなっていないかも身体活動を評価するのに参考になります。さらに、糖尿病の診療で従来から行っている栄養、薬剤、心理、社会面の評価を追加すればCGAとなります。外来でも多職種で分担すると効率的にCGAを行うことができます。当センターの糖尿病外来では初診時の問診項目にDASC-8を加えて、看護師が聴取するようになっています。Q4 評価結果を実際どのような考え方で治療・介入に結びつけていますか?こうしたCGAでは領域ごとに対策を立てることが大切です。カテゴリーII以上では身体活動量低下、フレイル・サルコペニア、アドヒアランス低下、社会ネットワーク低下の頻度が増加することが明らかになっています5)。したがって、カテゴリーII以上では、適正なエネルギーと十分なタンパク質を摂り、坐位時間を短くするように指導し、レジスタンス運動を含む運動を週2回以上行うことを勧めます。服薬アドヒアランス低下の対策は治療の単純化であり、服薬数や服薬回数を減らすこと、服薬タイミングの統一、一包化(SU薬を除く)、配合剤の利用などが挙げられます。インスリン治療の単純化は複数回のインスリン注射を(1)1日1回の持効型インスリン、(2)週1回のGLP-1受容体作動薬、または(3)持効型インスリンとGLP-1受容体作動薬の配合剤に変更していくことです。この治療の単純化はアドヒアランスの向上だけでなく、血糖のコントロールの改善や低血糖の防止を目指して行うことが大切です。カテゴリーIIIの場合は減薬・減量の可能性も考慮します。社会的な対策として、カテゴリーII以上で孤立や閉じこもりがある場合には社会参加を促し、通いの場などで運動、趣味の活動、ボランティアなどを行うことを勧めます。介護保険の要介護認定を行い、デイケア、デイサービスを利用することも大切です。また、訪問看護師により、インスリンなどの注射の手技の確認や週1回のGLP-1受容体作動薬の注射を依頼することもできます。1)Araki A, Ito H. Geriatr Gerontol Int 2009;9:105-114.2)Ellis G, et al. BMJ. 2011 Oct 27;343:d6553. 3)Toyoshima K, et al. Geriatr Gerontol Int 2018;18:1458-1462.4)Omura T, et al. Geriatr Gerontol Int 2021;21:512-518.5)Toyoshima K, et al. Geriatr Gerontol Int 2020; 20:1157-1163.

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妊娠高血圧腎症pre-eclampsiaとメトホルミン(解説:住谷哲氏)

 筆者は内科医で産科は専門外なのではじめに用語を整理したい。2018年に発表された日本産科婦人科学会の「妊娠高血圧症候群の定義分類」によると、「妊娠時に高血圧を認めた場合、妊娠高血圧症候群とする。妊娠高血圧症候群は妊娠高血圧腎症、妊娠高血圧、加重型妊娠高血圧腎症、高血圧合併妊娠に分類される」とあり、病型分類から子癇eclampsiaを除外し、高血圧に母体の臓器障害や子宮胎盤機能不全を認める場合は蛋白尿がなくても妊娠高血圧腎症とする、とされている。妊娠高血圧腎症が以前の妊娠中毒症であり、本論文のpre-eclampsiaと同一概念である。HELLP(Hemolysis, Elevated Liver enzymes, and Low Platelet count)症候群のような腎症を伴わない病態を妊娠高血圧腎症の訳語に含めるのは何となく違和感があるが、本稿でもpre-eclampsiaの訳語として妊娠高血圧腎症を使用する。 妊娠高血圧腎症の病態は現在も明らかではないが、何らかの胎盤機能異常が存在するとされている。胎盤機能異常があるので、最も確実な治療法は分娩または中絶による妊娠終了であるが現実的には妊娠継続を選択する場合がほとんどである。妊娠高血圧腎症の高リスク妊婦に対する低用量アスピリン投与が発症予防に有効であるとのエビデンスがあるが、発症した妊娠高血圧腎症に対する治療薬は現在存在しない。そこでこれまで、drug-repurposingの観点から、プラバスタチン、プロトンポンプ阻害薬、それとメトホルミンなどの投与が試みられてきた。本論文はメトホルミンの有効性を検証するためのproof-of-concept trialである。 対象は糖尿病のない、妊娠26週0日から31週6日の間に妊娠高血圧腎症と診断された妊婦(preterm pre-eclampsia)180人であり、プラセボおよびメトホルミン(徐放性メトホルミン3g/日 分3)が分娩まで入院下において投与された。主要評価項目はランダム化から分娩までの期間中央値とした。結果は、メトホルミン投与群で期間中央値が7.6日延長したが統計学的有意差はなかった(P=0.057)。しかし試験前に設定されたper-protocol analysisでは、分娩までメトホルミンの服薬を継続した患者においてはプラセボ群に比較して有意に延長していた。有害事象としてはメトホルミン投与群で下痢が有意に高頻度であった。 proof-of-concept試験であるから、妊娠高血圧腎症に対するメトホルミンの有効性が証明されるには大規模な臨床試験が必要である。しかし、妊娠高血圧腎症の妊婦に対してメトホルミン3.0gが投与される臨床試験が実施されたことは、妊婦に対するメトホルミンの安全性がもはや常識になりつつあることを示しているように思われる。

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FGM導入で患者も主治医もWin-Win【令和時代の糖尿病診療】第3回

第3回 FGM導入で患者も主治医もWin-Win令和時代の糖尿病診療として、今回は薬剤ではなく、器機の面から考えてみる。糖尿病は生活習慣病の代表選手でもあり、治療の根源は食事や運動など生活習慣の改善にあるが、そもそも「生活習慣病とは何ぞや?」というと、「食習慣、運動習慣、休養、喫煙、飲酒などの生活習慣が、その発症・進行に関与する疾患群」と定義される。裏を返せば、生活習慣を改善すれば良くなる見込みのある疾患であり、今回取り上げるFGM(Flash Glucose Monitoring)は、血糖値を連続的に「見える化」することにより、生活習慣の改善をサポートできる画期的な器機だ。従来の血糖自己測定(Self-Monitoring of Blood Glucose、以下SMBGと略す)は、穿刺針で指先から採血しその時点の血糖値を測定するものだが、FGMとは、上腕後部に着けたセンサーに服の上からリーダー(読取機)をかざすだけで、瞬時に血糖値を確認できるものである。正確には、FGMは血糖値ではなく間質液のグルコース濃度を測っているのだが、補正のために自己穿刺して血糖測定をする必要もないので、極めてシンプルに血糖管理ができる。センサーは最長14日間、自動的に毎分測定し記録し続ける(なお、最長8時間おきのスキャンが必要)ので、リーダーをかざした瞬間だけでなく、経時的な血糖推移も簡単に知ることができる。すなわち点が線になるのだ。図1:血糖グラフは「点」から「線」へ画像を拡大するこのメカニズムをご存じの方は、「CGM(Continuous Glucose Monitoring)との違いは?」という疑問にぶつかるかと思う。一言で表すならば、FGMはCGMの一種であり、間欠式スキャンCGM(intermittently scanned CGM:is-CGM)とも呼ばれる。リーダーをセンサーにかざした“瞬間”の皮下グルコース値を読み取る点から、“Flash”と名付けられた。患者が意図してセンサーにリーダーをかざすことで、現在から後ろ向きにグルコース値を認識する(一般的に、5~10分遅れて血液中のグルコース濃度が反映するとされる)。なお、CGMの中でもリアルタイムCGMはbluetoothで接続されるため、リーダーをかざす必要はない。FGM器機は、2017年に発売後まもなく保険適用され、さらに進化して2020年2月にはスマートフォンでも血糖値スキャンができるようになった。ここまで読んでいただき、少しでも興味を持っていただけたであろうか。「この手の器機は所詮専門医が使用するマニアックなもの」と決めつけてはいないだろうか? しかし、答えは「No」で、保険上では「糖尿病の治療に関し、専門の知識および5年以上の経験を有する常勤の医師または当該専門の医師の指導の下で糖尿病の治療を実施する医師が、間欠スキャン式持続血糖測定器を使用して血糖管理を行った場合に算定する」とある。対象は「強化インスリン療法を行っているもの、または強化インスリン療法を行った後に混合型インスリン製剤を1日2回以上使用しているもの」とされ、1型糖尿病でも2型糖尿病でも適応可能となっている。これにより、SMBGを行っているならばFGMを使用できない施設はほとんどないと言っていいのではないだろうか?FGMを装着後、劇的に血糖コントロールが改善した2例前置きはこのくらいにして、臨床現場での実例を見てみよう。まずは、小児発症の1型糖尿病で罹病歴27年の女性である。SMBGをきちんと行っているものの、HbA1cは7%台後半で変わらない状況であった。3年ほど前にFGMを装着したところ、インスリンを増量することもなくみるみるHbA1cが6%台後半まで下がり、なおかつ低血糖の頻度も減り非常に安定した。「子供のときは毎回針で指を刺して血を出すのが本当に痛くて嫌だったが、これ(FGM)になってからはいつでもどこでも測れるし、何よりも痛くない。時代は変わったなあ!」と、しみじみとご本人から語られたときは目頭が熱くなった。このときの言葉は今でも忘れられない。次に、2型糖尿病で強化インスリン療法を行っている60代女性のHbA1cを示す。図2:2型糖尿病:罹病歴21年(合併症:神経障害馬場分類1度[軽度]・網膜症[右A0:左A1」・腎症第1期)画像を拡大するどこからFGMが開始になったかは疑う余地もなかろう。これだけ劇的に下がったのは、薬剤を変えたわけでもインスリン量を増やしたわけでもなく、FGMを装着しただけである。患者は以前からSMBGを行っていたがさぼりがちで、測定結果も診察時には「忘れた」と言って持って来ないことが多々あった。そんな方が、スマホ対応のFGMを着けてからは多い時で1日に40回以上も測定したのである。最初は「先生に血糖値がすべてばれてしまう」と少し困惑気味だったが、聞くとゲーム感覚で楽しんでいるようで、どのようなものを食べると血糖値が高くなるとか、よく運動をすると血糖値がうそのように下がるなどとうれしそうに話してくれた。血糖変動が手に取るようにわかることで、行動変容が生まれたケースである。今後は薬剤の減量を検討しており、これがまた患者のいい動機付けになると考えられる。我々の施設では、強化インスリン療法施行中の2型糖尿病患者について、FGM導入は血糖コントロールのみならず、身体活動や治療満足度の改善にもベネフィットをもたらしたことも報告している1)。FGMデータを読むうえで重要な「AGP」と「TIR」それでは、実際のFGMデータ(AGPレポート)を見てみよう。図3:AGPレポート画像を拡大するここで2つのキーワード、AGP(Ambulatory Glucose Profile)とTIR(Time in Range)を以下に解説するので、ぜひ覚えていただきたい。これらは、HbA1cを補完する臨床目標およびアウトカム評価指標として、2019年6月にInternational Consensusで推奨されたものである2)。CGM/FGMの測定は1回の測定期間を2週間として、その間に得られたデータの70%以上を使用して解析すること解析にはAGPの手法を用いること血糖コントロール指標として、70~180mg/dLを治療域(Target Range)とし、この範囲内の測定回数または時間をTIR、治療域より低値域をTBR(Time Below Range)、高値域をTAR(Time Above Range)と定義する糖尿病リソースガイド3)より一部引用AGPについて、日々の血糖値を連続的に見ることができるのは言うまでもないが、FGM測定データの解析に用いられているAGPレポートとは「測定期間のグルコース値の要約」で、記録した数日間にわたる血糖変動の傾向が、一つのグラフとして示される。図4:AGPレポートの読み方《AGPレポートから読み取れる内容》1)24時間の平均血糖値2)24時間の血糖変動幅(i)中央値曲線(実線):中央値曲線の上下動が大きい箇所は、1日の中で血糖変動が大きい時間帯であることを示している。(ii)25%タイル曲線~75%タイル曲線(青色帯):各時間帯で、たとえば10日間のうち5日間はこの範囲内に血糖値が入る(50%の確率)。(iii)10%タイル曲線~90%タイル曲線(水色帯):各時間帯で、たとえば10日間のうち8日間はこの範囲内に血糖値が入る(80%の確率)。3)食後血糖の平均上昇幅このようにAGPで解析すると、1日のうちで低血糖/高血糖となる可能性の高い時間帯や血糖値の変動が大きい時間帯などが視覚的に確認でき、これを活用することで、血糖変動の幅や目標範囲との差、低血糖/高血糖の可能性の有無などについて把握しやすくなる。次にTIRとは、1日のうち血糖値が目標範囲内で過ごせた時間を表したもので、異なる糖尿病患者群のそれぞれで標準的なCGMの目標値が決められている。図5:異なる糖尿病患者群におけるCGMの目標値画像を拡大するこれらの指標に基づき、2型糖尿病患者を対象にした研究では、重症度に基づく糖尿病網膜症(DR)の有病率はTIR四分位の上昇とともに減少し、DRの重症度はTIR四分位数と逆相関を示した4)、TIRは大血管合併症の代替指標である頸動脈内膜中膜肥厚度と関連した5)など多くの論文が出され、有用性が実証されている。FGMによるAGPレポートを見るメリットとして、糖尿病のさまざまな合併症を防ぐため、24時間の血糖値がどのように変動しているか、つまり「血糖トレンド」に注目することが重要とされ、それをしっかり理解できると、下記のような点に関し、患者の状態が確認しやすくなる。(1)食後高血糖(血糖値スパイク)の有無(2)夜間低血糖や暁現象の有無(3)HbA1cの値だけではわからない、「血糖コントロールの質」などさらに今後の方向性として、コロナ禍などで対面診療ができない場合でのオンライン診療なども視野に入るかと思われる。FGM導入で患者も主治医もWin-Winいろいろと利便性ばかり述べてきたが、もちろん限界もある。装着を避けるべき患者像は、血糖値に振り回され、血糖ありきで生活習慣の改善がおろそかになってしまうような患者(たとえば血糖値が高いときインスリンを多く打ち過ぎて低血糖を繰り返す、あるいは補食し過ぎて高血糖になり悪化するケースなど)や、逆にせっかく装着しても、興味がなく規定の時間内に測定しない人や血糖値を他人に見られるのを非常に嫌がる患者などには、決して無理強いするものではない(医療機関でしか測定データを確認できない器機もあるにはあるが…)。また、皮膚に直接貼付するため、かぶれやすい患者などでは着けられない場合もある。いずれにせよ、患者の適性を考慮して使用することで行動変容につながり、薬剤以上の素晴らしい効果が期待できることをぜひ体験していただきたい。これを機に、糖尿病診療にFGMを活用すべく、まずは自身から行動変容を試みてはいかがだろうか。1)Ida S, et al. J Diabetes Res. 2020 Apr 9;2020:9463648.2)Battelino T, et al. Diabetes Care. 2019;42:1593-1603.3)糖尿病リソースガイド 糖尿病治療におけるTime in Range(TIR)の重要性と血糖トレンドの活用4)Lu J, et al. Diabetes Care. 2018;41:2370-2376.5)Jingyi Lu, et.al. Diabetes Technol Ther. 2020 Feb;22:72-78.

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「フィアスプ」の名称の由来は?【薬剤の意外な名称由来】第77回

第77回 「フィアスプ」の名称の由来は?販売名フィアスプ®注フレックスタッチ®フィアスプ®注ペンフィル®フィアスプ®注100単位/mL一般名(和名[命名法])インスリン アスパルト(遺伝子組換え)(JAN)効能又は効果インスリン療法が適応となる糖尿病用法及び用量画像を拡大する警告内容とその理由設定されていない禁忌内容とその理由禁忌(次の患者には投与しないこと)1.低血糖症状を呈している患者2.本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者※本内容は2021年11月10日時点で公開されているインタビューフォームを基に作成しています。※副作用などの最新の情報については、インタビューフォームまたは添付文書をご確認ください。1)2020年6月改訂(第2版)医薬品インタビューフォーム「フィアスプ®注フレックスタッチ®・フィアスプ®注ペンフィル®・フィアスプ®注100単位/mL」2)Novo Nordisk Pro:製品情報

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「ランタスXR」の名称の由来は?【薬剤の意外な名称由来】第76回

第76回 「ランタスXR」の名称の由来は?販売名ランタス®XR注 ソロスター®一般名(和名[命名法])インスリン グラルギン(遺伝子組換え)(JAN)効能又は効果インスリン療法が適応となる糖尿病用法及び用量通常、成人では、初期は1日1回4~20単位を皮下注射するが、ときに他のインスリン製剤を併用することがある。注射時刻は毎日一定とする。投与量は、患者の症状及び検査所見に応じて増減する。なお、その他のインスリン製剤の投与量を含めた維持量は、通常1日4~80単位である。ただし、必要により上記用量を超えて使用することがある。警告内容とその理由設定されていない禁忌内容とその理由禁忌(次の患者には投与しないこと)1.低血糖症状を呈している患者2.本剤の成分又は他のインスリン グラルギン製剤に対し過敏症の既往歴のある患者※本内容は2021年11月3日時点で公開されているインタビューフォームを基に作成しています。※副作用などの最新の情報については、インタビューフォームまたは添付文書をご確認ください。1)2021年2月改訂(第8版)医薬品インタビューフォーム「ランタス®XR注 ソロスター®」2)サノフィe-MR:製品情報

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tirzepatideの効果、心血管高リスク2型DMでは?/Lancet

 心血管リスクが高い2型糖尿病患者において、デュアルGIP/GLP-1受容体作動薬tirzepatideの週1回投与は、インスリン グラルギンと比較し52週時点のHbA1c値低下について優越性が示され、低血糖の発現頻度も低く、心血管リスクの増加は認められないことが示された。イタリア・ピサ大学のStefano Del Prato氏らが、心血管への安全性評価に重点をおいた第III相無作為化非盲検並行群間比較試験「SURPASS-4試験」の結果を報告した。Lancet誌オンライン版2021年10月18日号掲載の報告。tirzepatideの3用量(5、10、15mg)とインスリン グラルギンを比較 試験は、14ヵ国、187施設において実施された。適格患者は、メトホルミン、SU薬、SGLT2阻害薬のいずれかの単独または併用投与による治療を受けており、ベースラインのHbA1c値が7.5~10.5%、BMI値25以上、過去3ヵ月間の体重が安定している2型糖尿病の成人患者で、心血管リスクが高い患者とした。心血管リスクが高い患者とは、冠動脈・末梢動脈・脳血管疾患の既往がある患者、または慢性腎臓病の既往がある50歳以上の患者で、推定糸球体濾過量(eGFR)が60mL/分/1.73m2未満またはうっ血性心不全(NYHA心機能分類クラスII/III)の既往がある患者と定義した。 研究グループは、被験者をtirzepatideの5mg群、10mg群、15mg群またはインスリン グラルギン(100U/mL)群に1対1対1対3の割合で無作為に割り付け、tirzepatideは週1回、インスリン グラルギンは1日1回皮下投与した。tirzepatideは2.5mgより投与を開始し、設定用量まで4週ごとに2.5mgずつ増量した。インスリン グラルギンは10U/日で開始し、自己報告による空腹時血糖値が100mg/dL未満に達するまで漸増した。52週間投与した時点で有効性の主要評価項目について解析し、その後、心血管疾患に関する追加データを収集するため最大で52週間の追加治療を行った。 有効性の主要評価項目はベースラインから52週までのHbA1c値の変化量で、tirzepatide(10mg、15mg)のインスリン グラルギンに対する非劣性(非劣性マージン 0.3%)および優越性を検証した。安全性として、心血管死、心筋梗塞、脳卒中および不安定狭心症による入院の複合エンドポイント(MACE-4)についても評価した。10、15mg群で血糖降下作用の非劣性・優越性を確認、心血管リスクに差はなし 2018年11月20日~2019年12月30日に、3,045例がスクリーニングされ、2,002例が無作為に割り付けられた。治験薬の投与を1回以上受けた修正ITT集団は1,995例で、tirzepatide 5mg群329例(17%)、10mg群328例(16%)、15mg群338例(17%)、インスリン グラルギン群1,000例(50%)であった。 52週時点におけるHbA1c値のベースラインからの変化量(最小二乗平均値±SE)は、tirzepatide 10mg群-2.43±0.053%、15mg群−2.58±0.053%、グラルギン群-1.44±0.030%であった。グラルギン群に対する推定治療差は、10mg群で−0.99%(97.5%CI:−1.13~−0.86)、15mg群で−1.14%(97.5%CI:−1.28~−1.00)であり、非劣性および優越性が確認された。 有害事象については、tirzepatide群で悪心(12~23%)、下痢(13~22%)、食欲不振(9~11%)、嘔吐(5~9%)の発現頻度がグラルギン群(それぞれ2%、4%、<1%、<2%)より高かったが、ほとんどが軽症~中等度で、用量漸増期に生じた。低血糖(血糖値<54mg/dLまたは重症)の発現頻度は、tirzepatide群(6~9%)がグラルギン群(19%)より低く、とくにSU薬を用いていない患者で顕著であった(tirzepatide群1~3%、グラルギン群16%)。 MACE-4のイベントは全体で109例に認められた。tirzepatide 5mg群19例(6%)、10mg群17例(5%)、15mg群11例(3%)で、tirzepatide群合計で47例(5%)、インスリン グラルギン群では62例(6%)であった。tirzepatide群のグラルギン群に対するMACE-4イベントのハザード比は0.74(95%信頼区間:0.51~1.08)であり、MACE-4のリスク増加は認められなかった。試験期間中の死亡はtirzepatide群で25例(3%)、グラルギン群で35例(4%)、計60例確認されたが、いずれも試験薬との関連性はないと判定された。

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「トルリシティ」の名称の由来は?【薬剤の意外な名称由来】第75回

第75回 「トルリシティ」の名称の由来は?販売名トルリシティ®皮下注0.75mg アテオス®一般名(和名[命名法])デュラグルチド(遺伝子組換え)(JAN)効能又は効果2型糖尿病用法及び用量通常、成人には、デュラグルチド(遺伝子組換え)として、0.75 mgを週に1回、皮下注射する。警告内容とその理由設定されていない禁忌内容とその理由禁忌(次の患者には投与しないこと)1.本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者2.糖尿病性ケトアシドーシス、糖尿病性昏睡又は前昏睡、1型糖尿病の患者[インスリン製剤による速やかな治療が必須となるので、本剤を投与すべきでない。] 3. 重症感染症、手術等の緊急の場合[インスリン製剤による血糖管理が望まれるので、本剤の投与は適さない。]※本内容は2021年10月27日時点で公開されているインタビューフォームを基に作成しています。※副作用などの最新の情報については、インタビューフォームまたは添付文書をご確認ください。1)2021年3月改訂(第9版)医薬品インタビューフォーム「トルリシティ®皮下注0.75mgアテオス®」2)Lillymedical.jp:製品情報

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デュアルGIP/GLP-1受容体作動薬tirzepatideの血糖降下作用および体重減少作用は基礎インスリン デグルデクより優れている(解説:住谷哲氏)

 SURPASS-3はデュアルGIP/GLP-1受容体作動薬tirzepatideの臨床開発プログラムSURPASS seriesの一つであり、基礎インスリンであるデグルデクとのhead-to-head試験である。2018年にADA/EASDの血糖管理アルゴリズムがGLP-1受容体作動薬を最初に投与すべき注射薬として推奨するまでは、経口血糖降下薬のみで目標とする血糖コントロールが達成できない場合には基礎インスリンの投与がgold standardであった。特に持効型インスリンであるグラルギンの登場後は、BOT(basal-supported oral therapy)として広く一般臨床でも用いられるようになっている。 tirzepatideは5mg、10mg、15mgの3用量が設定され、2.5mg/週から開始し4週ごとに増量された。一方デグルデクは10単位/日から開始し、treat-to-target法により自己血糖測定による空腹時血糖値FBG<90mg/dLを目標として1週間ごとに増量された。デグルデクは毎日投与であるがtirzepatideは週1回投与であり、maskingは不可能であるため試験デザインはopen-labelである。 結果は、主要評価項目である52週後のHbA1c低下量は、3用量のすべてにおいてデグルデク群に対する優越性が示された。副次評価項目である体重減少量も、HbA1cと同様に3用量のすべてにおいてデグルデク群に対する優越性が示された。さらにHbA1c<7.0%、HbA1c<6.5%、HbA1c<5.7%の達成率も、tirzepatideの3用量のすべてにおいてデグルデク群よりも有意に高値であった。treat-to-target法を用いたことにより、FBGについては、5mg投与群ではデグルデク群に比して有意に高値であったが、10mgおよび15mg群ではデグルデク群との間に有意差は認められなかった。この結果から予想されるように、血糖日内変動における食後2時間後血糖値は、3用量のすべてにおいてデグルデク群よりも有意に低値であった。有害事象についても、<54mg/dLの低血糖の頻度は3用量のすべてにおいてデグルデク群よりも少なかった。 経口血糖降下薬の多剤併用療法でも目標血糖値が達成されない患者において、次のステップとして基礎インスリン投与によるBOTが開始されることは現在でも少なくない。現時点でBOTは次第にGLP-1受容体作動薬に置き換わりつつあるが、近い将来デュアルGIP/GLP-1受容体作動薬がGLP-1受容体作動薬に置き換わるのも現実的になってきたと思われる。

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第80回 COVID-19入院患者の半数に高血糖~脂肪細胞ホルモンの減少が寄与?

糖尿病の主徴である高血糖は炎症や感染に対抗する免疫の低下と関連し、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行の早くからその重症化要因の一つと認識されていました。その逆に、COVID-19は糖尿病と無縁だった人の高血糖と関連することも最近になって知られるようになっています。米国でCOVID-19が流行りはじめたころの数ヵ月間(2020年3月1日~5月15日)にCOVID-19と診断されてニューヨーク州の病院に入院したおよそ4千人(3,854人)を調べたところ、実におよそ半数(49.7%)に高血糖が生じていました1,2)。高血糖だと予後はより不良で、正常血糖の患者に比べて重度呼吸器不全・急性呼吸窮迫症候群(ARDS)は9倍、人工呼吸器使用は15倍、死亡は3倍多いことと関連しました。高血糖はCOVID-19以外の重度肺機能不全でも認められ、インフルエンザや細菌性肺炎などのCOVID-19以外の病態によるARDS患者とCOVID-19と関連するARDS患者の高血糖の割合は似たようなものでした。しかし高血糖の仕組みには違いがあり、前者ではインスリンを作るβ細胞の死や機能不全がどうやら主因であるのに対し、COVID-19と関連するARDS患者の高血糖は主にインスリン抵抗性によって生じていました。インスリン抵抗性はインスリンが出回っているにもかかわらずそれに反応できなくなることで生じます。COVID-19患者のインスリン抵抗性の原因を探るべく糖調節ホルモンを調べたところ血液中のアディポネクチンがひどく減っていました。アディポネクチンは脂肪細胞で作られるホルモンであり、インスリンへの反応を高めて糖尿病を生じにくくする役割を担います。SARS-CoV-2はヒトやマウスの脂肪細胞に感染可能であり、じかに脂肪細胞に手を下してアディポネクチン生成を妨害しているのかもしれません。SARS-CoV-2が脂肪細胞に影響を及ぼしうることはハムスターへの感染実験で示されています。SARS-CoV-2をハムスターに感染させたところウイルスに対抗する遺伝子が脂肪組織で強く発現し、アディポネクチンの発現が減じました。糖の扱いや糖尿病とCOVID-19を結びつける仕組みのさらなる把握にSARS-CoV-2感染ハムスターは今後重宝されるでしょう。今回の研究は治療の可能性も示唆しています。たとえばピオグリタゾンなどのアディポネクチン生成を増やすチアゾリジンジオン糖尿病薬は高血糖を伴うCOVID-19の治療に役立つかもしれません2)。メトホルミンなどの他のインスリン感受性亢進薬で糖代謝を底上げしてインスリン投与を回避することも期待できそうです1)。安全性や効果を調べる今後の試験でそれら薬剤のCOVID-19治療での価値が定まるでしょう。参考1)Reiterer M, et al.Cell Metab. 2021 Sep 16:S1550-4131,00428-9.2)COVID-19 may trigger hyperglycemia and worsen disease by harming fat cells / Eurekalert

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SGLT2阻害薬は主役か?それとも脇役か?【令和時代の糖尿病診療】第2回

第2回 SGLT2阻害薬は主役か?それとも脇役か?前回のGLP-1受容体作動薬に続き、今回はSGLT2阻害薬について、実話と私見に基づき述べていく。この薬剤もまた、生誕7年とまだまだ若い経口糖尿病治療薬である。発売当初は「尿に糖を捨てるだけの単純な薬」と認識され、糖尿病専門医の間でもあまり評価はされず、期待もされていない薬剤だったと記憶している。1つ、この薬剤があまり浸透していなかったためか、当時の面白いエピソードがあるので紹介させていただく。SGLT2阻害薬を服用中の患者さんで、会社の健康診断を受けた際、当然のことながら尿糖4+という結果が出た。本人はこの薬剤を飲んでいることを医師に告げたが、「“血糖コントロール不良”と言われた」と私に笑顔で伝えてくれた。さらに、本薬剤については私どもの施設でも、1型糖尿病への適応追加に関して治験を行ったが、専門医がいる病棟でも、ケトアシドーシスを恐れて参加しない施設が多く見られたという話があったくらいである。現在は経口薬として、α-GI薬に続いてSGLT2阻害薬の一部が1型糖尿病に適応追加を取得し、予想以上にいい効果が発揮されている。それどころか、昨年末に心不全に対する適応も加わり、さらには今年8月に透析予防の観点から現在大きな問題となっている慢性腎臓病(以下、CKDと略す)の適応まで追加になった。まさに、マルチな効能を兼ね備えた薬剤で、合併症を見据えた治療が可能になり、狭義の血糖降下薬を超えたとも言えるかもしれない。いろいろと話題の尽きない薬剤であるが、今回の話を進める中で、さらにいくつか述べていこうと思う。重要な3つのポイント:適応患者の選択、使い分け、心不全に対する効果ある日、恩師からの電話でSGLT2阻害薬について質問があった。内容は3点。(1)どのような患者がいい適応か?(2)多くの種類(国内承認は6成分)があるが、使い分けはどのようにしているのか?(3)循環器の先生が心不全に効果があると言っているがどのようなものか? といったもの。これらの質問に対し、答えた内容を順に紹介する。(1)どのような患者がいい適応か?これを語るには、まず分類・作用機序から簡単に確認する必要がある。SGLT2阻害薬は、糖尿病治療ガイド2020-20211)の中でインスリン分泌非促進系に分類され、主な作用としては腎臓でのブドウ糖再吸収阻害による尿中ブドウ糖排泄促進である。そして特徴として、単剤では低血糖を起こしにくく、体重減少効果があり(なお食欲増進に注意、詳しくは後述)、主な副作用として、性器・尿路感染症、脱水、皮疹、ケトーシスが知られている。使用上の注意として、「1型糖尿病患者において、一部製剤はインスリンと併用可能」「eGFR30未満の重度腎機能障害の患者では、血糖降下作用は期待できない」と記載され、さらには、主なエビデンスとして「心・腎の保護効果」「心不全の抑制効果」が示されている。上記からおのずと見えてくるいい適応症例は、「低血糖を起こしたくない肥満(とくに内臓肥満、いわゆるメタボ)で、尿路感染症がなく、腎機能が比較的保たれ脱水を引き起こしにくい患者」すなわち、(食事時間の不規則な)メタボ型の若年~中高年糖尿病患者ということになる。なお、それ以外の患者さんには使用できないのか? というと、そういうわけでもない。が、絶対に使用してはいけないのは、寝たきりの高齢者で水分もあまり摂れず、食事量も少ないインスリン分泌の落ち込んだ血糖コントロール不良の患者である。同様に、下痢や嘔吐で食事が摂れないシックデイや、脱水のときに服薬継続した場合は危険なため、処方する際はあらかじめ、休薬する条件をしっかり伝えておく必要がある。なぜならば、正常血糖ケトアシドーシスを起こすリスクがあるからである。これは、SGLT2阻害薬が上市されてからクローズアップされた医学用語であり、日本糖尿病協会からも「SGLT2阻害薬の適正使用に関するRecommendation」として出されている。また、本薬剤は、膵臓からのグルカゴン分泌を促進し、腎臓からの3-hydroxybutyrateとアセトアセテートの分泌を減少させることによりケトーシスのリスクを増大させるともいわれている2)。とくに経験年数の長い医師は、血糖値100mg/dL台でケトアシドーシスが起こるなんて今まで考えたこともない病態であろう。馴染みが薄いかもしれないが、現実にあちらこちらで起こっていて、決して頻度の低い珍しい病態ではないことを理解していただきたい。そして、内科以外の先生方にもぜひ覚えておいてほしい。また、たとえいい適応症例であったとしても、使用する際に重々注意してほしいことは、決して“痩せる薬”であることを前面に押し出し過ぎないことである。図1:エネルギー摂取量を減少させたときの体重の変化(理論計算結果)画像を拡大する薬の効果があっても、生活改善なくして体重は減らない。また、食事制限をしたとしても、現体重に合わせて目標を強化していかなくては、上記グラフのように1年あまりで下げ止まってしまうと考えられる。しかし、患者さんは、自分に都合のいいように考えるため、「(薬で痩せるなら)これでいくらでも食べられる」と勘違いして過食に走り、体重が落ちるどころかさらに増えてしまい、血糖コントロールが悪化する事態も起こりうる。そうなってしまうと、この薬剤に期待する効果が十分に得られないだけでなく、中止後のさらなる体重増加、血糖コントロール悪化につながる恐れまである。処方時には、食欲増進作用を併せ持つことに対する注意をぜひ伝えていただきたい。(2)薬の使い分けはどのようにしているのか?(class effectはあるのか?)この質問の答えとしては、SGLT1/2の受容体選択性や作用時間などで差異をつけ、いろいろな議論もあると思うが、私見として大差はないと考えている。副作用として、皮疹や下痢の頻度には若干の差があるが…。その中で、半減期と尿量に関して興味深い報告を1つ紹介する。入院中の2型糖尿病患者36例を対象に、トホグリフロジン20mg(商品名:アプルウェイ、デベルザ)を朝1回追加投与することで、日中の尿量は増加するものの、夜間の尿量増加はわずかにとどまり、夜間就寝中のQOLを損なうことは少ないことが示唆された3)。トホグリフロジンはSGLT2阻害薬のなかでは半減期が5.4時間と最も短く、健康成人に対する朝1回単回投与試験でも、夜間の尿糖排泄は少ないことが示されている4)。このような結果から、日中に比し、夜間の尿量増加が少なかったことは、トホグリフロジンの半減期が短いことによると推察される。夜間の尿意で眠れないといった患者さんには本剤の選択がいいかもしれない。表1:SGLT2阻害薬の作用持続時間画像を拡大する(3)心不全に対する効果ここに関しては私の出る幕ではないが、驚くべきことに昨年11月にダパグリフロジンが慢性心不全の標準治療に対する効能・効果の追加承認を取得した。この承認は、2型糖尿病合併の有無にかかわらず左室駆出率が低下した心不全(HFrEF)を対象とした第III相DAPA-HF試験5)の良好な結果に基づいている。表2:DAPA-HF試験の主要評価項目(複合アウトカム)心不全悪化イベント発生(入院または心不全による緊急来院)までの期間または心血管死画像を拡大するさらには、糖尿病患者に多いといわれている左室駆出率の保たれた心不全(HFpEF)に対するエンパグリフロジンの有効性を検討した、EMPEROR-Preserved試験において、主要評価項目(心血管死亡または心不全による入院の初回イベント)の発生リスクは、エンパグリフロジン投与群で有意に抑制されたという。以上のことから、SGLT2阻害薬はこれからさらに、循環器内科の先生方にも注目されると思われる。SGLT2阻害薬は主役か? それとも脇役か?ここまで述べたように、SGLT2阻害薬は血糖降下作用を持つ糖尿病治療薬としてのみならず、心不全・CKDの治療薬としても認められたことは記憶に新しい。いずれの病態も糖尿病の重大な合併症であり、第1回(前回)の図3「2型糖尿病における血糖降下薬:総括的アプローチ(ADA2021)6)」でも提示ししたごとく、動脈硬化性心血管疾患やCKDの合併または高リスクの場合は、メトホルミンとは独立して検討すると記載されており、まさに主役になれそうな勢いのある薬剤である。しかし、わが国において高齢者糖尿病が急増している中で、今回示したとおり適正な症例を選ぶ能力も身に着けていただく必要があり、決して万能薬ではないことを最後に付け加えたい。私個人の意見として、この薬剤の立ち位置は“名脇役”ということにさせていただこう。1)日本糖尿病学会編・著. 糖尿病治療ガイド2020-2021. 文光堂;2020.2)A Pfutzner, et al. Endocrine. 2017;56:212-216.3)大工原 裕之. 診療と新薬. 2017;54:25-28.「SGLT2阻害薬投与前後の血糖ならびに尿量変化について」4)Hashimoto Y, et al. BMC Endocr Disord. 2020;20:98.5)John J V McMurray, et al. N Engl J Med. 2019;381:1995-2008.6)American Diabetes Association. Diabetes Care. 2021;44(Suppl 1):S111-S124.

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イメグリミンが2型糖尿病治療の新薬として発売/大日本住友製薬・POXEL

 POXEL社および提携先の大日本住友製薬 株式会社は、2型糖尿病を適応症とする治療薬イメグリミン塩酸塩(商品名:ツイミーグ錠 500mg)を2021年9月16日に発売した。イメグリミンは2型糖尿病の治療パラダイムほぼすべての段階で候補となる可能性 イメグリミンは、2型糖尿病を治療するための、独自の2つの作用機序を有するファーストインクラスの薬剤。単剤および他の血糖降下療法レジメンへの追加療法として承認されている。 両社が共同で実施した “TIMES”(Trials of IMeglimin for Efficacy and Safety)プログラムを含む多数の前臨床試験および臨床試験の良好な結果に基づいて、今年6月に厚生労働省から承認されたことを受け 、今回のイメグリミンの発売となった。 TIMESプログラムは、1,100例以上の患者を対象にイメグリミンの有効性と安全性を検証した3つの第III相臨床試験から構成された。試験では主要評価項目および各目標値を達成し、イメグリミンの良好な安全性ならびに忍容性プロファイルを示した。 イメグリミンは、新規の化学物質クラスであるテトラヒドロトリアジン系に分類された初めての化合物で、ミトコンドリアへの作用を介して、グルコース濃度依存的なインスリン分泌を促す膵作用と、肝臓・骨格筋での糖代謝を改善する膵外作用(糖新生抑制および糖取込み能改善)により血糖降下作用を示すと考えられている。 イメグリミンの作用機序として、糖尿病によって引き起こされる細小血管・大血管障害の予防につながる血管内皮機能および拡張機能の改善作用を有する可能性があるほか、β細胞の生存と機能を保護する効果も期待されている。この特徴的な作用機序により、イメグリミンは、現在の糖尿病治療パラダイムのほぼすべての段階において、単剤または他の血糖降下剤との併用など、2型糖尿病治療の候補となる可能性が期待されている。イメグリミンの概要販売名:ツイミーグ錠 500mg一般名:イメグリミン塩酸塩規格・含量:1錠中イメグリミン塩酸塩 500mg効能・効果:2型糖尿病用法・用量:通常、成人にはイメグリミン塩酸塩として1回1,000mgを1日2回朝、夕に経口投与する製造販売承認:2021年6月23日 薬価収載:2021年8月12日 発売日:2021年9月16日薬価:34.40円製造販売元:大日本住友製薬株式会社

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新世代MRAのfinerenone、DKDの心血管リスク減/NEJM

 2型糖尿病を合併する幅広い重症度の慢性腎臓病(CKD)患者の治療において、非ステロイド型選択的ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬finerenoneはプラセボと比較して、心血管死や非致死的心筋梗塞などで構成される心血管アウトカムを改善し、有害事象の頻度は同程度であることが、米国・ミシガン大学医学大学院のBertram Pitt氏らが実施した「FIGARO-DKD試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2021年8月28日号で報告された。標準的な治療への上乗せ効果を評価 本研究は、48ヵ国の施設が参加した二重盲検プラセボ対照無作為化イベント主導型第III相試験であり、2015年9月~2018年10月の期間に参加者のスクリーニングが行われた(Bayerの助成による)。 対象は、年齢18歳以上、2型糖尿病を伴うCKDで、添付文書に記載された最大用量のレニン-アンジオテンシン系(RAS)阻害薬(ACE阻害薬、ARB)による治療で受容できない副作用の発現がみられない患者であった。スクリーニング時に、持続性のアルブミン尿の中等度上昇(尿中アルブミン[mg]/クレアチニン[g]比:30~<300)がみられ、推算糸球体濾過量(eGFR)が25~90mL/分/1.73m2(ステージ2~4のCKD)の患者、または持続性のアルブミン尿の高度上昇(尿中アルブミン/クレアチニン比:300~5,000)がみられ、eGFRが≧60mL/分/1.73m2(ステージ1/2のCKD)の患者が解析に含まれた。 被験者は、finerenone(10mgまたは20mg、1日1回、経口)またはプラセボを投与する群に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。 主要アウトカムは、心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中、心不全による入院の複合とされ、生存時間解析を用いて評価が行われた。副次アウトカムは、腎不全、eGFRのベースラインから4週以降における40%以上の持続的な低下、腎臓が原因の死亡の複合であった。主要アウトカム:12.4% vs.14.2% 7,352例が登録され、finerenone群に3,686例、プラセボ群に3,666例が割り付けられた。全体の平均年齢(±SD)は64.1±9.8歳で、69.4%が男性であった。 ベースライン時に、全体の70.5%がスタチン、47.6%が利尿薬の投与を受けていた。また、97.9%が血糖降下薬の投与を受けており、このうち54.3%がインスリン製剤、8.4%がSGLT2阻害薬、7.5%がGLP-1受容体作動薬の投与を受けていた。試験期間中に、15.8%がSGLT2阻害薬、11.3%がGLP-1受容体作動薬の投与を新たに開始した。 追跡期間中央値3.4年の時点で、主要アウトカムのイベントは、finerenone群が12.4%(458/3,686例)、プラセボ群は14.2%(519/3,666例)で認められ、finerenone群で有意に良好であった(ハザード比[HR]:0.87、95%信頼区間[CI]:0.76~0.98、p=0.03)。 この主要アウトカムのfinerenone群での利益は、主に心不全による入院(3.2% vs.4.4%、HR:0.71、95%CI:0.56~0.90)がfinerenone群で低かったためであり、心血管死(5.3% vs.5.8%、0.90、0.74~1.09)、非致死的心筋梗塞(2.8 vs.2.8%、0.99、0.76~1.31)、非致死的脳卒中(2.9% vs.3.0%、0.97、0.74~1.26)に差はみられなかった。 副次アウトカムは、finerenone群が9.5%(350例)、プラセボ群は10.8%(395例)で認められた(HR:0.87、95%CI:0.76~1.01)。 担当医の報告による全般的な有害事象の頻度は両群で同程度であり、重篤な有害事象はfinerenone群が31.4%、プラセボ群は33.2%で発現した。高カリウム血症は、finerenone群で頻度が高かった(10.8%、5.3%)が、高カリウム血症による死亡例はなく、高カリウム血症による恒久的な投与中止例(1.2%、0.4%)や入院例(0.6%、0.1%)は、finerenone群で多いものの頻度は低かった。 著者は、「患者の60%以上がベースライン時にeGFR≧60mL/分/1.73m2のアルブミン尿を伴うCKD患者であったことから、尿中アルブミン/クレアチニン比によるスクリーニングで早期にCKDを診断し、この心血管リスクが高く認知度が低い患者集団の転帰を改善するための治療を開始する必要性が浮き彫りとなった」としている。

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ミトコンドリアを介する新規作用機序の2型糖尿病治療薬「ツイミーグ錠500mg」【下平博士のDIノート】第82回

ミトコンドリアを介する新規作用機序の2型糖尿病治療薬「ツイミーグ錠500mg」今回は、2型糖尿病治療薬「イメグリミン塩酸塩(商品名:ツイミーグ錠500mg、製造販売元:大日本住友製薬)」を紹介します。本剤は、ミトコンドリアに作用する新しい機序の糖尿病治療薬であり、インスリン分泌低下型、インスリン抵抗性亢進型のいずれであっても血糖降下作用が期待できます。<効能・効果>本剤は、2型糖尿病の適応で、2021年6月23日に承認され、同年9月16日に発売されました。本剤の適用は、あらかじめ糖尿病治療の基本である食事療法、運動療法を十分に行った上で効果が不十分な場合に限り考慮します。<用法・用量>通常、成人にはイメグリミン塩酸塩として1回1,000mgを1日2回朝、夕に経口投与します。なお、本剤とビグアナイド系薬剤は作用機序の一部が共通している可能性があります。臨床試験でも両剤を併用した場合は、ほかの糖尿病用薬との併用療法と比較して消化器症状が多く認められたことから、併用薬を選択する際は注意が必要です。<安全性>臨床試験において、本剤が投与された安全性評価対象1,103例中、副作用発現数は168例(15.2%)でした。主な副作用は、低血糖6.7%(74例)、悪心2.1%(23例)、下痢1.9%(21例)、便秘1.3%(14例)などでした。なお、低血糖は重大な副作用としても報告されています。<患者さんへの指導例>1.この薬は、血糖値に応じてインスリンの分泌を促す作用と、インスリンが働きにくい状態を改善する作用によって血糖値を改善します。2.薬の服用により、低血糖症状を起こすことがあります。脱力感、高度の空腹感、発汗、震えなどの症状が認められた場合には、飴やジュースなどで糖分を摂取してください。α-グルコシダーゼ阻害薬を併用している場合はブドウ糖を摂取してください。<Shimo's eyes>本剤は、既存の経口糖尿病治療薬とは異なる構造を有しており、ミトコンドリアへの作用を介してグルコース濃度依存的なインスリン分泌を促す膵作用と、肝臓・骨格筋での糖代謝を改善する膵外作用(肝臓での糖新生抑制、骨格筋などでの糖取り込み能改善)の2つによって血糖降下作用を示します。インスリン分泌低下型、インスリン抵抗性亢進型のいずれの病態であっても効果が期待できるという特徴があります。製品名は、2つを意味する“twin”と一般名の“imeglimin”に由来しています。2型糖尿病患者を対象とした長期投与試験において、単独療法または併用療法でHbA1c改善効果を示し、52週にわたってその効果が維持されました。主な副作用には、悪心、下痢、便秘などがあります。重大な副作用として低血糖(6.7%)が報告されていますが、本剤の作用によるインスリン分泌はグルコース濃度依存的で、低血糖時にはインスリンを分泌させないことが報告されており、単剤使用での重症低血糖のリスクは低いと考えられます。腎機能障害のある患者では、腎臓からの排泄が遅延し、本剤の血中濃度が上昇する恐れがあることから、eGFRが45mL/min/1.73m2未満(透析を含む)の患者への投与は推奨されていません。注意すべき点は、メトホルミンとの併用により消化器症状が増大する恐れがあることです。また、インスリン製剤やSU薬、速効型インスリン分泌促進薬と併用すると低血糖のリスクが上がるため、これらの薬剤を併用する際には減量の検討が必要です。参考1)PMDA 添付文書 ツイミーグ錠500mg

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「デベルザ」の名称の由来は?【薬剤の意外な名称由来】第69回

第69回 「デベルザ」の名称の由来は?販売名デベルザ®錠20mg一般名(和名[命名法])トホグリフロジン水和物(JAN)効能又は効果2型糖尿病用法及び用量通常、成人にはトホグリフロジンとして20mgを1日1回朝食前又は朝食後に経口投与する。警告内容とその理由設定されていない。禁忌内容とその理由禁忌(次の患者には投与しないこと)1.本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者2.重症ケトーシス、糖尿病性昏睡又は前昏睡の患者[輸液、インスリンによる速やかな高血糖の是正が必須となるので本剤の投与は適さない。]3.重症感染症、手術前後、重篤な外傷のある患者[インスリン注射による血糖管理が望まれるので本剤の投与は適さない。]※本内容は2021年9月15日時点で公開されているインタビューフォームを基に作成しています。※副作用などの最新の情報については、インタビューフォームまたは添付文書をご確認ください。1)2019年10月改訂(第12版)医薬品インタビューフォーム「デベルザ®錠20mg」2)興和株式会社:製品情報検索

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糖尿病薬物治療で最初に処方される薬は/国立国際医療研究センター

 糖尿病の治療薬は、さまざまな種類が登場し、患者の態様に合わせて治療現場で処方されている。実際、2型糖尿病患者に対して最初に投与される糖尿病薬はどのような治療薬が多いのだろうか。 国立国際医療研究センターの坊内 良太郎氏らのグループは、横浜市立大学、東京大学、虎の門病院の協力のもとこの実態について全国規模の実態調査を実施した。調査の結果、最初の治療薬としてDPP-4阻害薬を選択された患者が最も多く、ビグアナイド(BG)薬、SGLT2阻害薬がそれに続いた。また、薬剤治療開始後1年間の総医療費はBG薬で治療を開始した患者で最も安いこと、DPP-4阻害薬およびBG薬の選択には一定の地域差、施設差があることが明らかとなった。2型糖尿病患者への処方薬を全国約114万例で解析 本研究の背景として、わが国の2型糖尿病の薬物療法は、すべての薬剤の中から病態などに応じて治療薬を選択することを推奨している。そのため、BG薬を2型糖尿病に対する第1選択薬と位置付けている欧米とは処方実態に違いがあることが予想されていたが、日本全体の治療実態についての詳細は不明だった。そこで、匿名レセプト情報・匿名特定健診等情報データベース(NDB)を用い、わが国の2型糖尿病患者に対し最初に投与された糖尿病薬の処方実態を明らかにすることを目的に全国規模の研究を行った(本研究は厚生労働科学研究として実施)。 坊内 良太郎氏らのグループは、調査方法としてNDBの特別抽出データ(2014-17年度)から抽出した成人2型糖尿病患者のうち、インスリンを除いた糖尿病治療薬を単剤で開始された患者を対象に、研究期間全体および各年度別の各薬剤の処方数、処方割合、新規処方に関連する因子、さらに初回処方から1年間の総医療費を算出し、それに関連する因子についても検討。対象患者数は全体113万6,723例(総医療費の解析対象:64万5,493例)。糖尿病患者への処方選択で強く影響する因子は「年齢」 調査の結果、2型糖尿病患者に最初に処方された薬剤は全体でBG薬(15.9%)、DPP-4阻害薬(65.1%)、SGLT2阻害薬(7.6%)、スルホニル尿素(SU)薬(4.1%)、α−グルコシダーゼ阻害薬(4.9%)、チアゾリジン薬(1.6%)、グリニド薬(0.7%)、GLP-1受動体作動薬(0.2%)だった。 都道府県別では、BG薬が最大33.3%(沖縄県)、最小8.7%(香川県)、DPP-4阻害薬が最大71.9%(福井県)、最小47.2%(沖縄県)と大きな違いを認めた。 各薬剤の選択に最も強く影響した因子は「年齢」で、高齢者ほどBG薬、SGLT2阻害薬の処方割合は低く、DPP4阻害薬およびSU薬の処方割合が高いことが示された。 総医療費については、BG薬で治療を開始した2型糖尿病患者が最も安く、SU薬、チアゾリジン薬が続き、GLP-1受容体作動薬が最も高いことが明らかとなった。多変量解析で、BG薬はチアゾリジン薬を除くその他の薬剤より総医療費が有意に低いことが示された。 今回の調査から坊内 良太郎氏らのグループは、全国規模の調査により、(1)わが国の2型糖尿病患者に対して最初に投与される糖尿病薬は欧米と大きく異なりDPP-4阻害薬が最も多いこと、(2)BG薬で治療を開始した患者の総医療費が最も安いこと、(3)薬剤選択に一定の地域間差や施設間差があること、などが初めて明らかになったと総括する。 また、「今後、個々の患者に対するより適切な薬剤選択などの診療の質の全国的な均てん化を進めるためには、薬剤選択に際し代謝異常の程度、年齢、肥満その他の病態を考慮することについてのさらなる周知に加え、薬剤選択の一助となるフローやアルゴリズムなどの作成が有効と考えられる」と示唆し、「本研究により得られた成果を基に、どの薬剤の血糖改善効果が高いか、合併症予防効果が高いかを明らかにすることを目的とした研究が行われ、一人一人の糖尿病患者にとって最適な糖尿病の個別化医療の確立されることが望まれる」と展望を述べている。

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日本人高齢者における慢性疾患治療薬の使用と新規抗認知症薬使用との関連

 新たに抗認知症薬が使用された高齢者において、慢性疾患に対する治療薬の使用状況がその後の認知症発症に影響を及ぼすかについて、東京都健康長寿医療センターの半田 宣弘氏らが、調査を行った。BMJ Open誌2021年7月15日号の報告。 首都圏の患者を対象としたレトロスペクティブコホート研究を実施した。対象は、2012年4月~6月(バックグラウンド期間)に抗認知症薬を使用していなかった柏市在住の77歳以上の高齢者4万2,024人。主要アウトカムは、2015年3月までのフォローアップ期間中の新規抗認知症薬の使用とした。対象者は、年齢別に77~81歳(1群)、82~86歳(2群)、87~91歳(3群)、92歳以上(4群)に分類した。年齢、性別に加え、バックグラウンド期間に使用していた14セットの薬剤を共変量とし、Cox比例ハザードモデルを用いて分析した。 主な結果は以下のとおり。・134万5,457人月のフォローアップ期間中(平均:32.0±7.5ヵ月、中央値:35ヵ月)に新たに抗認知症薬を使用した患者は、2,365人(5.6%)であった。・12ヵ月間の新規抗認知症薬使用率は、1.9±0.1%(1群:0.9±0.1%、2群:2.1±0.1%、3群:3.2±0.2%、4群:3.6±0.3%、p<0.0001)であった。・高齢および女性に加え、以下の薬剤の使用は、新規抗認知症薬使用と有意な関連が認められた。 ●スタチン(HR:0.82、95%CI:0.73~0.92、p=0.001) ●降圧薬(HR:0.80、95%CI:0.71~0.85、p<0.0001) ●非ステロイド性気管支拡張薬(HR:0.72、95%CI:0.58~0.88、p=0.002) ●抗うつ薬(HR:1.79、95%CI:1.47~2.18、p<0.0001) ●脳卒中後の治療薬(HR:1.45、95%CI:1.16~1.82、p=0.002) ●インスリン(HR:1.34、95%CI:1.01~1.78、p=0.046) ●抗腫瘍薬(HR:1.12、95%CI:1.01~1.24、p=0.035) 著者らは「本レトロスペクティブコホート研究により、高齢者における慢性疾患に対する治療薬と新規抗認知症薬使用との関連が特定された。これらの結果は、実臨床における認知症の臨床診断や医療政策を立案するうえで役立つであろう」としている。

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