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神経軸索スフェロイド形成を伴う遺伝性びまん性白質脳症〔HDLS:hereditary diffuse leukoencephalopathy with spheroid〕

1 疾患概要■ 概念・定義神経軸索スフェロイド形成を伴う遺伝性びまん性白質脳症(HDLS:hereditary diffuse leukoencephalopathy with spheroid)は、大脳白質を病変の主座とする神経変性疾患である。ALSP(adult-onset leukoencephalopathy with spheroid and pigmented glia)やCSF1R関連脳症(CSF1R-related leukoencephalopathy)と呼ばれることもある。本稿では、HDLS/ALSPと表記する。常染色体顕性(優性)遺伝形式をとるが、約半数は家族歴を欠く孤発である。脳生検もしくは剖検による神経病理学的検査により、HDLSは従来診断されていたが、2012年にHDLS/ALSPの原因遺伝子が同定されて以降は、遺伝学的検査により確定診断が可能になっている。■ 疫学HDLS/ALSPは世界各地から報告されているが、日本人を含めたアジア人からの報告が多い。HDLS/ALSPの正確な有病率は不明である。特定疾患受給者証の保持者は、2015年13人、2016年25人、2017年35人、2018年43人、2019年54人、2020年65人と年々増加傾向にある。HDLS/ALSPの有病率が増加している可能性は否定できないが、診断基準の策定など疾患についての認知度が高まり、確定診断に至る症例が増えたことが、患者数増加の要因だと思われる。しかしながら、確定診断にまで至らないHDLS/ALSP患者が依然として少なからず存在すると推察される。■ 病因HDLS/ALSPは colony stimulating factor-1 receptor(CSF1R)の遺伝子変異を原因とする。既報のCSF1R遺伝子変異の多くは、チロシンキナーゼ領域に位置している。ミスセンス変異、スプライスサイト変異、微小欠失、ナンセンス変異、フレームシフト変異、部分欠失など、さまざまなCSF1R遺伝子変異が報告されている。ナンセンス変異、フレームシフト変異例では、片側アレルのCSF1Rが発現しないハプロ不全が病態となる。中枢神経においてCSF1Rはミクログリアに強く発現しており、HDLS/ALSPの病態にミクログリアの機能不全が関与していることが想定されている。そのためHDLS/ALSPは一次性ミクログリア病と呼ばれる。■ 症状発症年齢は平均45歳(18~78歳に分布)であり、40~50歳台の発症が多い。発症前の社会生活は支障がないことが多い。初発症状は認知機能障害が最も多いが、うつ、性格変化や歩行障害、失語と思われる言語障害で発症するなど多彩である(図1)。主症状である認知機能障害は、前頭葉機能を反映した意思発動性の低下、注意障害、無関心、遂行機能障害などの性格変化や行動異常を特徴とする。動作緩慢や姿勢反射障害を主体とするパーキンソン症状、錐体路徴候などの運動徴候も頻度が高い。けいれん発作は約半数の症例で認める。図1 HDLS/ALSPで認められる初発症状画像を拡大する■ 予後進行性の経過をとり、発症後の進行は比較的速い。発症後5年以内に臥床状態となることが多い。発症から死亡までの年数は平均6年(2~29年に分布)、死亡時年齢は平均52 歳(36~84歳に分布)である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)脳MRI検査により大脳白質病変を認めることが、診断の契機となることが多い。頭部MRI所見は、初期には散在性の大脳白質病変を呈することがあるが、病勢の進行に伴い対称性、融合性、びまん性となる。白質病変は前頭葉・頭頂葉優位で、脳室周囲の深部白質に目立つ(図2A、B)。病初期から脳梁の菲薄化と信号異常を認めることが多く、矢状断面・FLAIRの撮像が有用である(図2C)。ただし、脳梁の変化はHDLS/ALSP以外の大脳白質変性症でも認めることがある。内包などの投射線維に信号異常を呈することもある。拡散強調画像で白質病変の一部に、持続する高信号病変を呈する例がある(図2D)。ガドリニウム造影効果は認めない。CT撮像により、側脳室前角近傍や頭頂葉皮質下白質に石灰化病変を認めることがある(図2E)。この所見は“stepping stone appearance”と呼ばれ(図2F)、HDLS/ALSPに特異性が高い。石灰化は微小なものが多いため、1mm厚など薄いスライスCT撮像が推奨される。HDLS/ALSPの診断基準としてKonno基準が国内外で広く用いられている。Konno基準に基づき、厚生労働省「成人発症白質脳症の実際と有効な医療施策に関する研究班」において策定された診断基準が難病情報ホームページに掲載されている(表)。図2 HDLS/ALSPの特徴的な画像所見画像を拡大する両側性の大脳白質病変を認める(A、B:FLAIR画像)。脳梁は菲薄化している(C:FLAIR画像)。拡散強調画像で高信号領域を認める(D)。CTでは微小石灰化を認める(E、F)。表 HDLS/ALSPの診断基準主要項目1.60歳以下の発症(大脳白質病変もしくは2の臨床症状)2.下記のうち2つ以上の臨床症候a.進行性認知機能障害または性格変化・行動異常b.錐体路徴候c.パーキンソン症状d.けいれん発作3.常染色体顕性(優性)遺伝形式4.頭部MRIあるいはCTで以下の所見を認めるa.両側性の大脳白質病変b.脳梁の菲薄化5.血管性認知症、多発性硬化症、白質ジストロフィー(ADL、MNDなど)など他疾患を除外できる支持項目1.臨床徴候やfrontal assessment battery(FAB)検査などで前頭葉機能障害を示唆する所見を認める2.進行が速く、発症後5年以内に臥床状態になることが多い3.頭部CTで大脳白質に点状の石灰化病変を認める除外項目1.10歳未満の発症2.高度な末梢神経障害3.2回以上のstroke-like episode(脳血管障害様エピソード)。ただし、けいれん発作は除く。診断カテゴリーDefinite主要項目2、3、4aを満たし、CSF1R変異またはASLPに特徴的な神経病理学的所見を認めるProbable主要項目5項目をすべてを満たすが、CSF1R変異の検索および神経病理学的検索が行われていないPossible主要項目2a、3および4aを満たすが、CSF1R変異の検索および神経病理学的検索が行われていない鑑別診断としては、アルツハイマー病、前頭側頭型認知症、多発性硬化症、皮質下梗塞と白質脳症を伴う常染色体顕性(優性)脳動脈症(cerebral autosomal dominant arteriopathy with subcortical infarct and leukoencephalopathy:CADASIL)など多彩な疾患が挙げられる。HDLS/ALSPと診断された症例で、病初期に多発性硬化症が疑われ、ステロイド治療を受けた例が複数報告されている。HDLS/ALSPはステロイド治療に効果を示さないため、大脳白質病変と運動症状を呈する若年女性を診察した場合には、HDLS/ALSPを鑑別する必要がある。HDLS/ALSPのための診断フローチャートを図3に示した。臨床的な鑑別診断は必ずしも容易ではなく、遺伝学的検査により確定診断を行う。2022年4月にCSF1R遺伝学的検査が保険収載され、かずさ遺伝子検査室に検査委託が可能である。図3 HDLS/ALSP診断のフローチャート画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)系統的な治療法は確立していない。HDLS/ALSPの経過中に出現する症状に応じた対症療法が行われる。痙性に対しては抗痙縮薬、パーキンソニズムに対して抗パーキンソン薬の使用を考慮する。症候性てんかんには抗てんかん薬を単剤で開始し、発作が抑制されなければ、作用機序が異なる抗てんかん薬を併用する。4 今後の展望HDLS/ALSPに対する造血幹細胞移植(hematopoietic stem cell transplantation:HSCT)が海外で行われている。現在までに15例のHDLS/ALSP患者がHSCTを受けている。HSCTを受けた約4割の症例で臨床的効果を認めている。ドナー由来の細胞がHDLS/ALSP患者脳に到達し、衰弱したミクログリアの機能を補完している可能性が考えられる。ミクログリア機能を回復される治験としてアゴニスト効果を有する抗TREM2抗体薬を用いた治験が海外で行われている。5 主たる診療科脳神経内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 神経軸索スフェロイド形成を伴う遺伝性びまん性白質脳症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)かずさ遺伝子検査室(本症の遺伝学的検査を受託している)患者会情報Sister’s Hope Foundation(米国のHDLS/ALSPの患者会の英語ホームページ)(米国の患者とその家族および支援者の会/ホームページは英語)1)Konno T, et al. Neurology. 2018;91:1092-1104. 2)下畑享良 編著. 脳神経内科診断ハンドブック. 中外医学社;2021.3)池内 健ほか. 日本薬理学雑誌. 2021;156:225-229.4)池内 健ほか. 実験医学. 2019;37:118-122.5)池内 健. CLINICAL NEUROSCIENCE. 2017;35:1354-1355.公開履歴初回2023年9月28日

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カテコラミン誘発多形性心室頻拍〔CPVT:Catecholaminergic Polymorphic Ventricular Tachycardia〕

1 疾患概要カテコラミン誘発多形性心室頻拍(Catecholaminergic Polymorphic Ventricular Tachycardia:CPVT)は比較的まれな疾患で、その頻度は10,000人に1人程度と言われているが正確な数は不明である1-3)。通常10歳前後で運動や興奮時、カテコラミン投与などにより心室頻拍(VT)や心室細動(VF)を発症し、若年者の失神発作や突然死の原因として重要である4)。無治療では10年生存率が60%程度と推定され2)、きわめて予後不良な疾患である。CPVT患者の安静時心電図は明らかな異常所見はなく、心臓超音波検査、CT、MRIなども正常であり、無症状のCPVT患者を通常の臨床検査から診断することは非常に難しい。一方、器質的心疾患を認めず安静時心電図では異常所見のない40歳未満で、運動もしくはカテコラミン投与により他に原因が考えられない2方向性VT(図1)、多形性VT・期外収縮(PVC)が誘発される場合には、CPVTと比較的容易に診断可能である。また、CPVT患者の60~70%に遺伝子異常がみつかり、CPVTは遺伝学的検査によっても診断可能である。図1 CPVTに特徴的な2方向性心室頻拍(矢印)と心室細動の発生2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 臨床診断CPVT患者の初発症状は失神発作であり、運動あるいは感情ストレスが誘因となる1、2)。学童期の運動やストレス時の意識消失発作の場合、CPVTを疑う必要がある。最初の失神は主に7~12歳ごろで少なくとも20歳までに発生することが多い5)。初発が心停止の場合もあり、乳幼児突然死症候群や特発性心室細動の原因がCPVTであることもある。トレッドミルなどの運動負荷心電図は、CPVTを診断するうえで最も有力な検査法である(図2)3)。運動により多形性VT、2方向性VT(1拍ごとにQRSの極性が180度変わり、VT波形間の連結期がほぼ一定の頻拍)が出現し、きわめて速いVT/VFが誘発されると失神や突然死を惹起する2)。図2 CPVT1患者のトレッドミル運動負荷検査画像を拡大するA:治療前、B:β遮断薬とフレカイニド治療後、C:検査中の心拍数の変化、D:検査中のPVC数の変化。CPVTの特徴として運動負荷のピーク(心拍数>120bpm)で多形性PVCや二方向性PVC(VT)が出現する。VPB: ventricular premature beat.(島本恵子ほか. 循環器病研究の進歩. 2022;Vol.XLIII No.1:67-75.)一方、未発症(無症状)CPVTに対する臨床診断は容易ではない。2方向性VTはCPVTに特徴的で特異度は高いが、その出現率は必ずしも高くなく感度は50%程度とも言われる。さらに軽症例ではPVCの単発あるいは2段脈しか認められないことがある3)。アドレナリン(エピネフリン)負荷試験は、運動負荷試験を実施できない症例の診断のために有用と考えられるが、やはり特徴的な2方向性PVCやVTが誘発されれば診断的な特異度は高いものの、感度(誘発率)は運動負荷よりさらに低い(28%)。ホルター心電図も日常生活や学校生活上での不整脈検出に有用であるが、実際の不整脈検出率は運動負荷検査よりも低い。なお、心臓電気生理学的検査(EPS)は、CPVTの診断的価値は低く、心臓突然死のリスク評価としてEPSによるVT/VF誘発は禁忌である。鑑別診断としては、失神発作の原因である「てんかん」、パニック発作なども臨床的に鑑別が必要である。とくに「てんかん」と診断されていたが、実際には失神の原因はCPVTによる不整脈が原因であった例は多い。また、同じ遺伝性不整脈の中で先天性QT延長症候群(とくにLQT1型)、Andersen-Tawil症候群(ATS)などは、運動中の失神発作や多形性PVC、2方向性VT/PVCなどCPVTと共通点が多く遺伝子検査による鑑別が重要である。■ 遺伝学的検査CPVTの60~70%に原因遺伝子が同定され、そのほとんどが心筋リアノジン受容体(RyR)の遺伝子RYR2であり常染色体顕性遺伝形式である(表)6)。患者の病歴、家族歴、心電図所見などから臨床的にCPVTと診断あるいは疑われた患者に対して、診断確定のため遺伝学的検査が推奨(クラスI)される(ただし保険適用外)。また、家族に対しては、当該患者(発端者)においてみつかった遺伝子異常の有無を検査することが推奨される。しかし、RYR2遺伝子はエクソンが105個の巨大な遺伝子であり、健常者にも多くのバリアントが報告されている。そのほとんどはCPVTとは無関係または関係性が不明なVUS(Variant of unknown significance)である。したがってRYR2にVUSのバリアントがみつかった場合、表現型あるいは家族整合性が不明瞭な場合には安易にCPVTと診断すべきではない。RYR2の他にはCASQ2を始めCALM1、TECRL、TRDNなど複数の遺伝子が報告されているが、いずれもきわめてまれで、通常CPVTの遺伝子検査としてはRYR2(CPVT1)とCASQ2(CPVT2)が推奨される。なお、若年者の運動・ストレス時の失神発作の場合、LQT1やATSとの鑑別も重要である。臨床的にLQTSと診断または疑われたが遺伝子検査ではLQT関連遺伝子には疾患原因遺伝子を同定できない場合は、RYR2遺伝子も検査を考慮する。以上からCPVTは運動誘発性の失神発作や2方向性VTなど典型的な臨床像を呈する場合は比較的容易に診断可能であるが、逆にそうでない患者・家族などの場合には積極的に疑って負荷心電図検査などを行わないと診断は容易とは言えない。さらに遺伝学的検査も診断確定や鑑別診断に非常に有用である。表 CPVTとその類縁疾患の遺伝子画像を拡大する(日本循環器学会・日本不整脈心電学会合同ガイドライン. 2022年改訂版不整脈の診断とリスク評価に関するガイドライン. 2022;62.)3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 生活指導CPVTと診断された場合、原則として運動(とくに競技スポーツ)は禁止すべきである。また、日常生活でも、可能な範囲で精神的・肉体的ストレスは避けることが望ましい。ただし、CPVTは運動のピーク時(心拍数≧110bpm)で心室不整脈が出現する場合が多く(図2)、逆に言えば薬物治療により心拍数が110~120まで増加しない程度にコントロールされていれば、通常の日常生活程度で不整脈による失神発作や突然死を来す可能性は低い。■ 薬物治療CPVTと診断された場合、薬物治療としてはβ遮断薬(クラスI適応)、フレカイニド(クラスIIa)の2つが有用である。一般的にはβ遮断薬が第1選択とされ、β遮断薬の中でもナドロール(商品名:ナディック)が推奨される。β遮断薬内服下でも不整脈抑制の効果不十分な場合にフレカイニド(同:タンボコール)を追加投与する。しかし、実際には多くの患者で両方の薬が必要となり、また、β遮断薬は徐脈や血圧低下、倦怠感など副作用のため十分な量を内服できない例も多く、フレカイニドの役割が重要となっている。■ 植込み型除細動器(ICD)ICDは不整脈疾患における心臓突然死を予防するもっとも優れた機器であるが、ICDによる電気的除細動によって交感神経がさらに緊張状態となり、CPVTを惹起しVFストーム化が懸念され、CPVT患者におけるICDの予後改善の効果は疑問視されている。では、薬物治療のみで絶対に安全か? との不安も完全には解消されない。現実的にはVF蘇生後患者では突然死の2次予防目的としてICD植込みが絶対適応(クラスI)とされる。問題は薬物治療下で失神発作を繰り返す場合であるが、最近発表された国際研究の結果からも、薬剤抵抗性のCPVTに対するICD植込みに肯定的な結果7)と否定的な結果8)が報告され結論は出ていない。若年者の場合、突然死予防効果とICD長期留置が及ぼすさまざまなデメリット(感染、リード断線、静脈閉塞、精神的問題など)を検討し、総合的に判断すべきと考える。4 今後の展望CPVTの家系内でRYR2遺伝子変異をもつ同胞(兄弟姉妹)の心イベント発生率は高く、両親、同胞への遺伝学的検査は患者本人のみならず、家族の心臓突然死を防ぐ早期診断、予防的治療介入に非常に有用である。遺伝学的検査の保険診療化が期待される。薬物治療として近年フレカイニドの有効性が報告されたが、β遮断薬とどちらを第1選択とすべきかについては結論が出ていない。また、今後はCPVTに対する新たな薬剤の開発が期待されている。非薬物治療としては、わが国ではあまり実施されていないが、星状神経節ブロックも有効である。今後は薬剤抵抗性患者でICD作動を回避したい患者への効果が期待される。5 主たる診療科循環器内科(できれば遺伝性不整脈専門外来)小児循環器科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報小児慢性特定疾病情報センター カテコラミン誘発多形性心室頻拍(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)国立循環器病研究センター カテコラミン誘発多形性心室頻拍(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)Leenhardt A, et al. Circulation. 1995;91:1512-1519.2)Sumitomo N, et al. Heart. 2003;89:66-70.3)Lieve KV, et al. Circ J. 2016;80:1285-1291.4)Roston TM, et al. Circ Arrhythm Electrophysiol. 2015;8:633-6425)Shimamoto K, et al. Heart. 2022;108:840-847.6)Priori SG, et al. Circulation. 2001;103:196-200.7)Mazzanti A, et al. JAMA Cardiol. 2022;7:504-512.8)van der Werf C, et al. Eur Heart J. 2019;40:2953-2961.公開履歴初回2023年9月12日

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若年性認知症と紛らわしい、初老期のADHD【外来で役立つ!認知症Topics】第8回

認知症専門クリニックの当院を訪れる患者さんの平均年齢は75歳、偏差は10歳くらいかと思う。だから40~65歳の患者さんが来られると、「若年性認知症か?」とまずは疑う。実際にはそれもあるが、複雑部分発作のようなてんかん性疾患や、睡眠時無呼吸症候群だと診断される人も少なくない。ところがここ数年、認知機能についても脳画像などの生物学的な診断指標についても問題なく、最終的に正常と診断する例が増えてきた印象がある。そこでこうした患者さんには、何か共通する背景があるのではないかと思うようになった。理系の学校卒、技術職で働いてきた人で、いわゆる理屈屋さんの傾向があるか?とまず思い当たった。そこで「そもそもどうして来院されたのですか?」と改めて尋ねると、「実は自分でも悪いとは思っていない。上司(あるいは女房)が認知症かどうか専門医に調べてもらうように言ったから」という回答が多いことがわかった。たまたまこの頃、「60歳以上の注意欠如・多動症ADHD(Attention Deficit Hyperactivity Disorder)にご注意を」という主旨の英文記事1)を読んだ。「60歳以上のADHD」という言葉に、「ほーっ」と感心した。実は20年ほど前に「大人になったADHD」という言葉を知ったとき、まず驚いたものだ。というのは、子供の頃の同級生や知友を思い浮かべても、ADHDは児童期には目立っても成長とともに改善し、多くの場合、成人になると治るものとずっと私は思っていたからである。ADHDは大人になってから表面化することもその専門家である岩波 明氏によると、「ADHDは、成人の3〜4%が持っているといわれており、診断を受ける大人が増えている。とくに症状が軽い場合、また周囲の環境によっては見過ごされることもある。しかし大人になると、就職や結婚などによって行動の範囲や人間関係が複雑になるため、それに対処しきれなくなったときに問題が表面化し、症状に気付くことがある」と述べられている。そして注意に関わる特徴として、「注意を持続するのが難しい」、「ケアレスミスが多い」、「片付けが苦手・忘れ物が多い」などを指摘されている2)。それを思い出した上で、60歳以上のADHDの特徴を丁寧に読み返してみた。(1)スイスチーズ記憶:覚えているものもあるが、スコンと抜けるものもある、いわゆる斑ぼけ。(2)気を逸らされるとやりかけの仕事を忘れてしまう。(3)物を定位置に戻さない。(4)くり返し、真っ白になる。(5)家計などの金銭収支を合わせられない。(6)周りに配慮せずしゃべり過ぎる。(7)他者を遮る。(8)他者と安定した関係が保てない。とあった。こうした目で認知症疑いの受診者を見直してみると、先ほどは最終的に知的正常とした中にも、ADHDと考え直すケースが少なくないと考えた。だから最近では、テストが正常であっても、ADHDでは?と思い直して、そのチェックのためにAQ(自閉症スペクトラム指数)3)を施行している。上記の症状のうち、とくに(1)~(5)は認知機能がらみである。一方で(6)~(8)は、従来からのいわゆる「キャラ」関連であろう。そもそもどうして初老期以降になってADHDが顕在化するのか? 答えはわからないのだが、やはり加齢化による機能低下は重要だろう。認知症は、以前は「痴呆症」と呼ばれたように、知性や知識の病である。ところで精神現象を包括する語に「知情意」がある。「情」とは心、「意」とは意欲である。ADHD の素因がある人は、年齢を重ねた時に、ミニメンタルステート検査(MMSE)、改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDSR)などで定量化しやすい知のみならず、情意についても、ほころびを生じやすいのではなかろうか。(6)~(8)は、本来の傾向が、この情意のほころびによって強められた現れなのかもしれない。こうしたことで、当事者の周囲が見て取る「知情意」の変化が認知症の初期症状と捉えられ、認知症専門外来という話になるのかもしれない。初老期のADHD治療さて治療においては、まず自分にはどんな問題があるかを、初老期になった当事者に自覚してもらう必要がある。上記報告1)はこれを簡潔に述べている。(1)先送りにしがちだ。(2)苛つきやすい自分をコントロールする必要がある。(3)制限時間を意識した段取りと進行が求められる。(4)落ち着かなさ、雑念が頭の中を駆け巡る、しゃべり過ぎ。などは過活動の残骸と考えよう。またADHDに適応がある薬物には、メチルフェニデート(商品名:コンサータ)、アトモキセチン(ストラテラ)、グアンファシン(インチュニブ)、リスデキサンフェタミン(ビバンセ)の4剤がある。いずれも副作用など危険性も高く、その処方にはADHDに精通した医師の関わりが求められているだけに、医師なら誰でもとはいかないだろう。終わりに、初老期以降のADHDと思しき人の病識、あるいは自覚について。それがある人と、まったくといっていいほどない人にきれいに二分されるという印象がある。筆者がADHD疑いと思っても本人が否定する場合は、本人と近しい人にもAQをやってもらう。それと本人の回答が明らかに乖離することが、こうしたケースの特徴のようだ。参考1)Nadeau K. A Critical Need Ignored: Inadequate Diagnosis and Treatment of ADHD After Age 60. ADDITUDE. 2022 July 14.2)NHK健康チャンネル 大人の「注意欠如・多動症(ADHD)」とは?特徴や治療を解説!(2023年7月21日)3)若林明雄ほか. 自閉症スペクトラム指数(AQ)日本語版の標準化. 心理学研究. 2004;75:78-84.

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T-DXd、脳転移や髄膜がん腫症を有するHER2+乳がんに有効(ROSET-BM)/日本乳癌学会

 わが国における実臨床データから、脳転移や髄膜がん腫症(LMC)を有するHER2陽性(HER2+)乳がんにトラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)が有効であることが示唆された。琉球大学の野村 寛徳氏が第31回日本乳癌学会学術総会で発表した。T-DXdはDESTINY-Breast01/03試験において、安定した脳転移を有するHER2+乳がんに対して有望な効果が報告されているが、活動性脳転移やLMCを有する患者におけるデータはまだ限られている。 本研究(ROSET-BM)はわが国における多機関共同レトロスペクティブチャートレビュー研究である。2020年12月31日時点でHER2+乳がんの治療にT-DXdを使用した医療機関から、2020年5月25日~2021年4月30日にT-DXd治療を受けた脳転移またはLMCを有するHER2+乳がん患者(20歳以上、臨床試験でT-DXd治療を受けた患者は除外)の実臨床データおよび脳画像データを収集した(データカットオフ:2021年10月31日)。評価項目は、治療成功期間(TTF)、無増悪生存期間(PFS)、全生存期間(OS)、奏効率(ORR)、脳画像による頭蓋内病変(IC)-ORR、IC-臨床的有用率(CBR)など。 主な結果は以下のとおり。・国内62施設からの適格基準を満たした104例を解析対象とした。うち89例が評価可能な脳画像データを有していた。・前治療レジメン数の中央値は4.0(Q1:3.0、Q3:7.0)であった。・脳転移の随伴症状があった患者は30.8%で、随伴症状に対する薬剤はステロイドが14.4%、抗てんかん薬が10.6%であった。・脳転移は、LMCを伴わない活動性脳転移が73例、LMCを伴う活動性脳転移が17例、安定した脳転移が6例、LMCのみが2例、判定不能が6例だった。・全体でのPFS中央値は16.1ヵ月(95%信頼区間[CI]:12.0~NA)、OSは中央値に達しておらず、12 ヵ月OS率は74.9%(同:64.5~82.6)であった。・脳転移のサブグループ別にみた生存率は、活動性脳転移(T-DXd投与前30日以内に全脳照射を受けた患者を除く)において、PFS中央値が13.4ヵ月、OS中央値は未達だった。また、LMC患者においても、12ヵ月PFS率が60.7%、12ヵ月OS率が87.1%と持続的な全身性疾患のコントロールを示した。・TTF中央値は9.7ヵ月、間質性肺疾患/肺障害による投与中止は18.3%であった。・IC-ORRは62.7%、IC-CBR(6ヵ月時点)は70.6%であった。 野村氏は最後に、転移性脳腫瘍の増大で昏睡状態になった40代の乳がん女性が、T-DXd投与によって昏睡状態の回復および脳転移の改善がみられ、驚愕したという経験を紹介し、「脳転移やLMCを有するHER2+乳がん患者に対して、T-DXdは既報と同様の有効性と臨床的有用性を示した」とまとめた。

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急速に進行する認知症(後編)【外来で役立つ!認知症Topics】第6回

急速に進行する認知症(後編)「うちの家族の認知症は進行が速いのでは?」と問われる付き添い家族の対応には、とくに注意して臨む。筆者が働く認知症専門のクリニックでよくある急速進行性認知症(RPD:Rapid Progressive Dementia)は、やはり基本的にアルツハイマー病(AD)やレビー小体型認知症(DLB)が多いようだ。こうした質問に対する説明では、次のようにお答えする。まず変わった治療や指導法をしているわけではないこと。また一言でADやDLBと言っても、進行速度などの臨床経過は多彩であること。そのうえで、処方薬の変更などの提案をする。しかし、時に難渋する例がある。それは、aducanumabやlecanemabなど新規薬の治験を行っている症例が、たまたまRPDだったと考えざるを得ないケースである。こちらが何を言おうと、ご家族としては治験薬に非があるという確固とした思いがある。筆者は経験的に、ADでは個人ごとにほぼ一定の進行速度があり、肺炎や大腿骨頸部骨折などの合併症がない限りは、速度はそうそう変わらないと思ってきた。つまり、固有の速さでほぼ直線的に落ちると考えていた。今回、RPDを論じるうえで、改めてADの臨床経過を確認してみた。まずあるレビュー論文によれば、認知機能の低下具合は、病初期はゆっくりと立ち上がり、その後ほぼ直線的に経過し終末期には水平に近づくことが示されていた1)。次に神経心理学所見のみならず、バイオマーカーの観点からも、ADの経過の多彩性を扱った論文があった。ここでは、「代償的なメカニズムも働くが、進行具合は遺伝子が強く規定している」と述べられていた2)。とすると、筆者の経験則は「当たらずとも遠からず」であろう。単純にADもしくはDLBで急速悪化する例では、その速度はプリオン病ほど速くはないが、半年ごとの神経心理学テストで、「えーっ、こんなに低下した?」と感じる。こういうケースは一定数あるし、そんな例にはこれという臨床的な特徴がないことが多いと思ってきた。それだけに低下速度は遺伝子により強く規定されているという報告には、なるほどと思う。そうはいっても、RPDのADには中等度から強度のアミロイドアンギオパチーが多いと述べられていた。このことは、血管障害が発生する危険性が高いと解釈される。なお有名なAPOE4遺伝子の保有との関りも述べられていたが、非RPDのものと変わらないとする報告が多く、なかには有意に少ないとする研究もあるとのことであった。ADに別の疾患を併発することで急速悪化することもADなどの変性疾患に別の疾患が加わることもある。上に述べた脳血管障害や硬膜下血腫の場合には、かなり急性(秒から週単位)に悪化する。麻痺や言語障害など目立った神経学的徴候があればわかりやすいが、必ずしもそうではない。また、せん妄など意識障害が前景に立つ場合も少なくない。こうした例では、せん妄の特徴である急性増悪と意識障害の変動への注目が重要である。次に、正常圧水頭症は、潜行性に失禁、歩行障害が現れてくる。その「いつの間にか」の進行ゆえに、ある程度長期に診ていると、逆に合併の出現には気付きにくくなることに要注意である。一方であまり有名でないが、よく経験するのが夏場の熱中症、あるいは脱水である。7月の梅雨明け頃から9月下旬にかけて、「このごろ急に認知症が悪化した」とご家族が申告される例は多い。主因は、当事者が暑いと感じにくくなっていて窓開けやエアコン使用など環境調整ができないこと、また高齢化とともに進行しがちな喉の渇きを感知しにくくなることによる水分摂取の低下である。典型的な熱中症ではない、比較的軽度な例が多いので、家族からは「認知症が最近になって悪化した」と訴えられやすい。なお初歩的かもしれないが、若い時からうつ病があった人では、老年期に至って新たなうつ病相が加わることがある。これが半年から1年も続くとRPDと思われるかもしれない。ごくまれながら、認知症に躁病が加重されることもあって、周囲はびっくりする。なお誤嚥性肺炎、複雑部分発作のようなてんかんもRPDに関与しうる。どのように悪化したかを聞き出すことが第一歩さて、これまでADやDLBとして加療してきた人が、RPDではないかと感じたり、家族から訴えられたりした時の対応が問題である。多くの家族は「悪化した、進んだ」という言い方をされるので、何がどのように悪いのかを聞き出すことが第一歩だろう。普通は記憶や理解力などの低下だろうが、たとえば正常圧水頭症が加わった場合なら、失禁や歩行障害という外から見て取れる変化なのかもしれない。次に治療法の変更は、本人や家族が安心されるという意味からもやってみる価値があるだろう。まずは薬物の変更、あるいは未使用ならデイサービス、デイケアも有効かもしれない。さらに大学病院の医師等への紹介という選択肢もある。それには、まずプリオン病など希少疾患の検索依頼の意味がある。またADのRPDかと思われるケースでは、認知症臨床に経験豊かな先生に診てもらうことは、患者・家族のみならず、非専門医の先生にとっても良いアドバイスが得られるだろう。参考1)Hermann P, et al. Rapidly progressive dementias - aetiologies, diagnosis and management. Nat Rev Neurol. 2022;18:363-376.2)Koval I, et al. AD Course Map charts Alzheimer’s disease progression. Sci Rep. 2021 13;11:8020.

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高度アルツハイマー型認知症にも使用できるドネペジル貼付薬「アリドネパッチ27.5mg/55mg」【下平博士のDIノート】第116回

高度アルツハイマー型認知症にも使用できるドネペジル貼付薬「アリドネパッチ27.5mg/55mg」今回は、アルツハイマー型認知症治療薬「ドネペジル経皮吸収型製剤(商品名:アリドネパッチ27.5mg/同55mg)、製造販売元:帝國製薬」を紹介します。本剤は、軽度~高度のアルツハイマー型認知症患者に使用することができる貼付薬であり、アドヒアランス向上や投薬管理の負担軽減が期待されています。<効能・効果>アルツハイマー型認知症における認知症症状の進行抑制の適応で、2022年12月23日に製造販売承認を取得しました。なお、既存のドネペジル経口薬には、レビー小体型認知症における認知症症状の進行抑制の適応が追加されていますが、本剤にはこの適応はありません。<用法・用量>通常、軽度~中等度のアルツハイマー型認知症患者にはドネペジルとして、1日1回27.5mgを貼付します。高度のアルツハイマー型認知症患者には、27.5mgで4週間以上経過後に55mgに増量しますが、症状により27.5mgに減量することができます。本剤は背部、上腕部、胸部のいずれかの正常で健康な皮膚に貼付し、24時間ごとに貼り替えます。なお、他のコリンエステラーゼ阻害作用を有する同効薬(ドネペジル塩酸塩、リバスチグミン、ガランタミン)とは作用機序が重複するため併用することはできません。<安全性>国内第III相試験において、382例中214例(56.0%)に臨床検査値異常を含む副作用が認められました。主なものは、適用部位そう痒感95例(24.9%)、適用部位紅斑93例(24.3%)、接触皮膚炎48例(12.6%)などでした。なお、重大な副作用として、QT延長(1~3%未満)、心室頻拍(torsade de pointesを含む)、心室細動、洞不全症候群、洞停止、高度徐脈、心ブロック(洞房ブロック、房室ブロック)(0.1~1%未満)、失神、心筋梗塞、心不全、消化性潰瘍(胃・十二指腸潰瘍)、十二指腸潰瘍穿孔、消化管出血、肝炎、肝機能障害(0.1~1%未満)、黄疸、脳性発作(てんかん、痙攣など)、脳出血、脳血管障害、錐体外路障害、悪性症候群(Syndrome malin)、横紋筋融解症、呼吸困難、急性膵炎、急性腎障害、原因不明の突然死、血小板減少が設定されています(発現率の記載のないものはいずれも頻度不明)。<患者さんへの指導例>1.この薬は、脳内の神経伝達物質を分解する酵素の働きを抑えることで、認知症症状の進行を遅らせます。2.アルツハイマー型認知症によって機械操作能力が低下する可能性があります。また、本剤によって意識障害、めまい、眠気などが現れることがあるため、自動車の運転など危険を伴う機械の操作には従事しないようにしてください。3.皮膚刺激を避けるため、貼付部位は毎回変更し、同一部位への貼付は7日以上の間隔を空けてください。4.光線過敏症を避けるため、貼付部位を衣服で覆うなど直射日光を避けてください。また、本剤を剥がした後も、貼付していた部位への直射日光を避けてください。<Shimo's eyes>わが国では、軽度~高度のアルツハイマー型認知症(AD)の治療薬であるドネペジル経口薬(商品名:アリセプトなど)の他、軽度~中等度ADの治療薬としてリバスチグミン貼付薬(同:リバスタッチ、イクセロンなど)やガランタミン経口薬(同:レミニールなど)、中等度~高度ADの治療薬としてメマンチン経口薬(同:メマリーなど)が承認されています。本剤は、高度ADにも適応を有する初の経皮吸収型製剤です。ドネペジル経口薬と同じく軽度~高度ADの適応を有しているため、認知症の早期から使用可能であるとともに、リバスチグミン貼付薬の投与対象とならない高度ADに対しても使用が可能です。有効成分はドネペジル経口薬の体内における活性本体です。経皮吸収型製剤は、多剤を経口服薬している患者や、嚥下困難や寝たきり状態の患者であっても治療継続がしやすく、アドヒアランスの向上が期待されています。また、介護者にとっても投薬管理の負担軽減だけでなく、貼付の有無や投与量の視認が可能であるため投与過誤のリスクも低減することができます。また、食事の有無や時間に関係なく投与ができることもメリットと言えます。本剤は既存の内服薬であるドネペジル塩酸塩錠5mgおよび10mgを1日1回経口投与したときと、本剤27.5mgおよび55mgを貼付したときに同等の効果を得られるように設計されています。経口薬と比較して血中薬物濃度の上昇が緩やかであるため、経口薬と異なり軽度~中等度ADでは漸増せずに投与が可能です。副作用では、胃腸障害の発現状況は、下痢や悪心を除き、本剤群と経口薬群で明らかな差は認められませんでした。しかし、全身性の有害事象とともに、貼付薬に特有の適用部位の有害事象にも注意する必要があります。

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映画「アバター」【私たちの心はどうやって生まれたの?(進化心理学)】Part 1

今回のキーワード社会脳進化的適応環境(EEA)プレゼント仮説ダンバー数クッキング仮説人間関係の量と質映画「アバター」の舞台は、近未来の地球からやや離れた惑星パンドラ。そこに侵略しようとする地球人と先住民族との戦いを描いています。CGによる実写を超えた大自然の映像美とシンプルなストーリーで、私たちは時間を忘れてその世界観にどっぷり浸かることができます。今回の記事では、この映画に登場する先住民族たち同士のやり取りを通して、私たち人類の心がどうやって生まれたのかという心の起源に迫ります。そして、進化心理学そのものについて解説します。私たちの心とは?主人公は、先住民族ナヴィの森の民の長であるジェイク。もともと人間でしたが、アバターに完全に乗り移ることによって先住民族の一員になり、地球人から村を守ろうとします。しかし、彼だけが裏切り者として地球人のターゲットになってしまっていたため、彼は森の民を守るために自分の家族だけを引き連れて、遠い海の民の村に身を潜めます。ここから、その後の3つのシーンを通して、私たちの心の本質を説明します。(1)助けるか迷う1つ目は、ジェイク一家が海の民の村にやってくるシーン。出迎えた海の民の長トノワリは、他の海の民たちが見守るなか、そして妻ロナルが拒む様子を見せるなか、ジェイクたちを受け入れるか一時迷います。そのわけは、個人的には同じ長として助けたいと思いつつ、助ければ自分の部族が危険にさらされる恐れがあったからでした。(2)気を遣う2つ目は、ジェイクの息子ロークがトノワリの息子アオノンからよそ者として馬鹿にされたことに腹を立てるシーン。ロークはアオノンについ手を出してしまいます。ロークは父親ジェイクから「相手は長の息子だぞ。トラブルを起こすな」と叱られます。ジェイクは海の民たちに気を遣っていたのでした。こうして、ロークはアオノンに渋々謝りに行きます。(3)かばう3つ目は、アオノンがロークを危険な海に無理やり連れ出すシーン。なんと、アオノンはロークを置いてけぼりにして、仕返しをします。ロークは1人で何とか危険を脱して夜遅くに帰ってきます。アオノンが父親トノワリから叱られるなか、ロークは「いや、自分が行きたいって頼んだんだ」とアオノンをかばうのです。不思議に思ったアオノンは「なんでかばったんだ?」とあとで聞きます。すると、ロークは「部族の長の息子の気持ちはよくわかるから」と答えて、2人は仲直りをするのです。このように、助けるか迷ったり、気を遣ったり、かばったりするのは、私たちがどこかで見たことがあるような、よくあるシーンです。彼らは地球とは違う惑星の、人類とは違う生物種族でありながら、その心は私たちとまったく同じように描かれています。この心のあり方とは、常に相手の気持ちを推し量り、周り(集団)とうまくやっていくことです。これは、社会脳と呼ばれています。私たちの心の進化を促した環境とは?この私たちの社会脳は、いつ生まれたのでしょうか? それは、まさにナヴィ族が生きているような部族社会をつくっていた原始の時代であったと考えられています。それは、どんな環境でしょうか? ナヴィ族を通して、その特徴を大きく3つ挙げてみましょう1)。(1)その日暮らしで助け合うナヴィ族の森の民も海の民も他の動物を狩ったり、木の実や海藻を採ったりするなどの狩猟採集生活をしています。しかし、これらの食料は、基本的に蓄えることができません。そのため、誰かの食料が尽きれば、部族の別の誰かの食料を分けてもらいます。1つ目の特徴は、その日暮らしで助け合うことです。周りにある資源は部族全員のもので、所有の概念がありません。人口密度が低いため、資源がなくなれば、部族全員で別の場所に移住します。もちろん、他の部族の縄張りを侵せば、争いに発展します。なお、獲物を捕まえる心理の進化の詳細ついては、ギャンブル脳として関連記事1をご覧ください。(2)みんな顔なじみでわかり合うジェイク一家を出迎えた時に集まった海の民の数は、100人程度でした。そして、ロークが行方不明になった時、トノワリの指示のもと、部族全員がすぐに結束して、みんなで捜索をしていました。部族全員がお互いのことをよく知っており、通じ合っています。2つ目の特徴は、みんな顔なじみでわかり合うことです。そのために、部族の規模はそれぞれの家族や親族を中心としてつながった100人程度の小規模な集団になります。なお、一致団結する心の進化の詳細については、同調の心理として関連記事2をご覧ください。(3)いつも死と隣り合うジェイクはロークに「トラブルを起こすな」と叱りました。しかし、もしもそうしなかったら海の民からひんしゅくを買って追い出されたでしょう。そして、他にどこの部族も入れてくれなければ、それは死を意味します。なぜなら、彼らは集団になって食べ物を分け合い、猛獣から自分や子供たちを守り合って、何とか助け合って生きているからです。また、ロークは危険な海に置いてけぼりにされて、危うくサメのような魚に食べられて死ぬところでした。ジェイクの娘のキリがてんかん発作を起こした時、治療のためにやっていたことは、ロナル(トノワリの妻)の祈祷だけでした。3つ目の特徴は、いつも死と隣り合うことです。仲間外れにされたら死を待つだけです。それだけでなく、そもそも医療が発展していないため、乳幼児の死亡率は高いです。その日暮らしであるため若くして死ぬことも珍しくなく、平均寿命も低いです。だからこそ、人口密度が低いのです。なお、いつも死と隣り合う心の進化の詳細については、不安の心理として関連記事3をご覧ください。私たちの心の進化を促したこのような環境は、進化的適応環境(EEA)と呼ばれています。この映画では、ナヴィ族を通して、実は原始の時代の人類の生活環境をわかりやすく描いています。言い換えれば、ナヴィ族の暮らす森や海は、私たち人類の心の進化を考えるうえで、うってつけのモデル環境であるといえます。次のページへ >>

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lecanemab、FDAがアルツハイマー病治療薬として迅速承認/エーザイ・バイオジェン

 エーザイとバイオジェン・インクは2023年1月7日付のプレスリリースで、可溶性(プロトフィブリル)および不溶性アミロイドβ(Aβ)凝集体に対するヒト化IgG1モノクローナル抗体lecanemabについて、米国食品医薬品局(FDA)がアルツハイマー病の治療薬として、迅速承認したことを発表した。 本承認は、lecanemabがADの特徴である脳内に蓄積したAβプラークの減少効果を示した臨床第II相試験(201試験)の結果に基づくもので、エーザイでは最近発表した大規模なグローバル臨床第III相検証試験であるClarity AD試験のデータを用い、フル承認に向けた生物製剤承認一部変更申請(sBLA)をFDAに対して速やかに行うとしている。lecanemabの米国における適応症<適応症> lecanemabの適応症はアルツハイマー病(AD)の治療であり、lecanemabによる治療は、臨床試験と同様、ADによる軽度認知障害または軽度認知症の患者において開始すること。これらの病期よりも早期または後期段階での治療開始に関する安全性と有効性に関するデータはない。本適応症は、lecanemabの治療により観察されたAβプラークの減少に基づき、迅速承認の下で承認されており、臨床的有用性を確認するための検証試験データが本迅速承認の要件となっている。<用法・用量(対象者・投与方法・ARIAのモニタリング)> 治療開始前にAβ病理が確認された患者に対して、10mg/kgを推奨用量として2週間に1回点滴静注。lecanemabによる治療の最初の14週間は、アミロイド関連画像異常(ARIA)についてとくに注意深く患者の様子を観察することが推奨される。投与開始前に、ベースライン時(直近1年以内)の脳MRI、および投与後のMRIによる定期的なモニタリング(5回目、7回目、14回目の投与前)が行われる。<副作用> lecanemabの安全性は、201試験においてlecanemabを少なくとも1回投与された763例で評価されている。lecanemab(10mg/kg)を隔週投与された被験者(161例)の少なくとも5%に報告され、プラセボ投与被験者(245例)より少なくとも2%高い発生率であった。主な副作用は、infusion reaction(lecanemab群:20%、プラセボ群:3%)、頭痛(14%、10%)、ARIA浮腫/滲出液貯留(ARIA-E;10%、1%)、咳(9%、5%)および下痢(8%、5%)だった。lecanemabの投与中止に至った最も多い副作用はinfusion reactionであり、lecanemab群は2%(161例中4例)に対して、プラセボ群は1%(245例中2例)だった。lecanemabの重要な安全情報<重要な安全情報(警告・注意事項)>アミロイド関連画像異常(ARIA) lecanemabはARIAとして、MRIで観察されるARIA-E、あるいはARIA脳表ヘモジデリン沈着(ARIA-H)として微小出血、脳表ヘモジデリン沈着症を引き起こす可能性がある。ARIAは通常無症候であるが、まれに痙攣、てんかん重積状態など、生命を脅かす重篤な事象が発生することがある。ARIAに関連する症状として、頭痛、錯乱、視覚障害、めまい、吐き気、歩行障害などが報告されている。また、局所的な神経障害が起こることもある。ARIAに関連する症状は、通常、時間の経過とともに消失する。[ARIAのモニタリングと投与管理のガイドライン]・lecanemabによる治療を開始する前に、直近1年以内のMRIを入手すること。5回目、7回目、14回目の投与前にMRIを撮影すること。・ARIA-EおよびARIA-Hを発現した患者における投与の推奨は、臨床症状および画像判定による重症度によって異なる。ARIAの重症度に応じて、lecanemabの投与を継続するか、一時的に中断するか、あるいは中止するかは、臨床的に判断すること。・ARIAの大半はlecanemabによる治療開始後14週間以内にみられることから、この期間はとくに注意深く患者の状態を観察することが推奨される。ARIAを示唆する症状がみられた場合は臨床評価を行い、必要に応じてMRIを実施すること。MRIでARIAが観察された場合、投与を継続する前に慎重な臨床評価を行うこと。・症候性ARIA-E、もしくは無症候でも画像判定によって重度のARIA-Eとされた場合に投与を継続した経験はない。無症候でも画像判定によって軽度から中等度のARIA-Eとされた場合に投与を継続した症例に関する経験は限られている。ARIA-Eの再発症例への投与データは限られている。[ARIAの発現率]・201試験において、lecanemab群の3%(5/161例)に症候性ARIAが発現した。ARIAに伴う臨床症状は、観察期間中に80%の患者で消失した。・無症候性ARIAを含めると、ARIAの発現率はlecanemab群の12%(20/161例)、プラセボ群の5%(13/245例)であった。ARIA-Eは、lecanemab群の10%(16/161例)、プラセボ群の1%(2/245)で観察された。ARIA-Hは、lecanemab群の6%(10/161例)、プラセボ群の5%(12/245例)で観察された。プラセボと比較して、lecanemab投与によるARIA-Hのみの発現率の増加は認められなかった。・直径1cmを超える脳内出血は、lecanemab群の1例で報告されたが、プラセボ群では報告されなかった。他の試験では、lecanemabの投与を受けた患者において、致死的事象を含む脳内出血の発生が報告された。[アポリポタンパク質Eε4(ApoEε4)保有ステータスとARIAのリスク]・201試験において、lecanemab群の6%(10/161例)がApoEε4ホモ接合体保有者、24%(39/161例)がヘテロ接合体保有者、70%(112/161例)が非保有者であった。・lecanemab群において、ApoEε4ホモ接合体保有者はヘテロ接合体保有者および非保有者よりも高いARIAの発現率を示した。lecanemabを投与された患者で症候性ARIAを発症した5例のうち4例はApoEε4ホモ接合体保有者であり、うち2例は重度の症状が認められた。lecanemab投与を受けた被験者で、ApoEε4ホモ接合体保有者ではApoEε4ヘテロ接合体保有者や非保有者と比較して症候性ARIAおよびARIAの発現率が高いことが、他の試験でも報告されている。・ARIAの管理に関する推奨事項は、ApoEε4保有者と非保有者で異ならない。・lecanemabによる治療開始を決定する際に、ARIA発症リスクを知らせるためにApoEε4ステータスの検査が考慮される。[画像による所見]・画像による判定では、ARIA-Eの多くは治療初期(最初の7回投与以内)に発現したが、ARIAはいつでも発現し、複数回発現する可能性がある。lecanemab投与によるARIA-Eの画像判定による重症度は、軽度4%(7/161例)、中等度4%(7/161例)、重度1%(2/161例)であった。ARIA-Eは画像による検出後、12週までに62%、21週までに81%、全体で94%の患者で消失した。lecanemab投与によるARIA-H微小出血の画像判定の重症度は、軽度4%(7/161例)、重度1%(2/161例)であった。ARIA-Hの患者10例のうち1例は軽度の脳表ヘモジデリン沈着症を有していた。[抗血栓薬との併用と脳内出血の他の危険因子について]・201試験では、ベースラインで抗凝固薬を使用していた被験者を除外した。アスピリンやクロピドグレルなどの抗血小板薬の使用は許可された。また、臨床試験中に併発事象の処置のため4週間以内の抗凝固薬を使用する場合は、lecanemabの投与を一時的に中断した。・抗血栓薬を使用した被験者はほとんどがアスピリンであり、他の抗血小板薬や抗凝固薬の使用経験は限られており、これらの薬剤の併用時におけるARIAや脳内出血のリスクに関しては結論づけられていない。lecanemab投与中に直径1cmを超える脳内出血が観察された症例が報告されており、lecanemab投与中の抗血栓薬または血栓溶解薬(組織プラスミノーゲンアクチベーターなど)の投与には注意が必要である。・さらに、脳内出血の危険因子として、201試験においては以下の基準により被験者登録を除外している。直径1cmを超える脳出血の既往、4個を超える微小出血、脳表ヘモジデリン沈着症、血管性浮腫、脳挫傷、動脈瘤、血管奇形、感染病変、多発性ラクナ梗塞または大血管支配領域の脳卒中、重度の小血管疾患または白質疾患。これらの危険因子を持つ患者へのlecanemabの使用を検討する際には注意が必要である。infusion reaction・lecanemabのinfusion reactionは、lecanemab群で20%(32/161例)、プラセボ群で3%(8/245例)に認められ、lecanemab群の多く(88%、28/32例)は最初の投与で発生した。重症度は軽度(56%)または中等度(44%)だった。lecanemab投与患者の2%(4/161例)において、infusion reactionにより投与が中止された。infusion reactionの症状には、発熱、インフルエンザ様症状(悪寒、全身の痛み、ふるえ、関節痛)、吐き気、嘔吐、低血圧、高血圧、酸素欠乏症がある。・初回投与後、一過性のリンパ球数の減少(0.9×109/L未満)がプラセボ群の2%に対して、lecanemab群の38%に認められ、一過性の好中球数の増加(7.9×109/Lを超える)はプラセボ群の1%に対して、lecanemab群の22%で認められた。・infusion reactionが発現した場合には、注入速度を下げ、あるいは注入を中止し、適切な処置を開始する。また次回以降の投与前に、抗ヒスタミン薬、アセトアミノフェン、非ステロイド性抗炎症薬、副腎皮質ステロイドによる予防的投与が検討される場合がある。

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事例009 エクセグラン錠の査定【斬らレセプト シーズン3】

解説事例では、旅行中のパーキンソン病患者からの受診の求めに応じ、ゾニサミド(一般名)にて処方、エクセグラン錠(商品名)を調剤したところ、C事由(医学的理由による不適当)にて査定となりました。増減点内容欄には、「ゾニサミドをパーキンソン病(本剤の承認外効能・効果)の治療目的で投与する場合には、パーキンソン病の効能・効果を有する製剤(トレリーフ)を用法・用量どおりに投与すること」と記載がありました。エクセグラン錠の添付文書を確認してみました。「抗てんかん剤」としての効能または効果しか記載はありません。同様にトレリーフの添付文書も確認してみました。用量は異なりますが、一般名は同じゾニサミドでした。こちらはパーキンソン病治療薬として認められています。薬価も大きく異なることから、用量を同じくした処方・調剤であれば、エクセグラン錠にもパーキンソン病の適用があると考えられていたようでした。そして、エクセグラン錠の添付文書「15.その他の注意」の最後には「パーキンソン病患者(承認外効能・効果)」と念押しのような記載がありました。医師も承認外使用であることをご存じではありましたが、点数が小さいとはいえ査定には変わりありません。また、医療安全上の問題にもなりかねないため、処方システムなどでアラートが表示された場合には対応いただくか、アラートに対する医学上必要性のコメントを注記いただくようにお願いをしました。

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糖尿病性末梢神経障害性疼痛治療に新たなエビデンスが報告された(解説:住谷哲氏)

 糖尿病性末梢神経障害DPN(diabetic peripheral neuropathy)は無症状のことが多く、さらに網膜症に対する眼底撮影、腎症に対する尿アルブミンのような客観的診断検査がないため見逃されていることが少なくない。しかしDPNの中でも糖尿病性末梢神経障害性疼痛DPNP(diabetic peripheral neuropathic pain)は疼痛という自覚症状があるため診断は比較的容易である。不眠などにより患者のQOLを著しく低下させる場合もあるので治療が必要となるが、疼痛コントロールに難渋することが少なくない。多くのガイドラインでは三環系抗うつ薬であるアミトリプチリン(以下A)、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬SNRIであるデュロキセチン(以下D)、電位依存性カルシウムチャネルα2δリガンドのガバペンチノイドに分類されるプレガバリン(以下P)およびガバペンチン(以下G)の4剤が有効性のある薬剤として推奨されている。疼痛をコントロールするためには十分量の薬剤を投与する必要があるが、実際にはそれぞれの薬剤の持つ特有の副作用で増量が困難となり、中断や他の薬剤の併用を必要とすることが多い。ちなみにわが国での神経障害性疼痛に対する最大投与量は、A 150mg、D 60mg、P 600mgとなっている。GはPと同様の作用機序であるが、添付文書上は抗てんかん薬としての適応のみであり神経障害性疼痛に対する保険適応はない。しかし社会保険診療報酬支払基金では最大投与量2,400mgまで認めているという不思議な状況である1)。 上記のそれぞれの薬剤のDPNPに対する有効性は明らかにされているが、どの薬剤が最も有効なのかを比較検討したhead to headのRCTはない。さらに併用療法についての有効性を検討したRCTにはPとDとの併用療法を検討した小規模のCOMBO-DN試験があるのみである2)。そこで各薬剤の有効性をhead to headで比較すること、および併用療法の有効性を検討することを目的に実施されたのが本試験であり、DPNP治療に新たなエビデンスをもたらした試験であると評価できる。 試験デザインは疼痛に関するRCTでは多用されるクロスオーバーデザインである。1コース16週とし、前半の6週は単剤治療期間、後半の10週が併用治療期間とされた。さらに単なる薬剤の組み合わせではなく、著者らはpathwayと記載しているが、投与順序も検討された。PとGは同様の作用機序なのでPが選ばれた(選択理由として、Gが1日3回投与である、Pと異なり薬物動態が線形でない、およびtitrationに時間を要する、と記載されている)。さらにAとDは両者ともに抗うつ薬であるのでこの組み合わせは除外された。したがって検討されるpathwayはA→P、P→A、D→P、P→Dの4組になる。これを1コース16週間のクロスオーバーデザインで実施すると16×4=64週で試験期間が1年以上となり、試験完遂が困難との判断からP→Dは除外された。その理由は、COMBO-DN試験の結果からP→D、D→Pの疼痛コントロール効果はほぼ同等であり、かつDは1日1回投与でありPと比較して初回投与として適切であると記載されている。このあたりがpragmatic trialとされるゆえんだろう。結果は、A、P、Dのどの薬剤から開始しても単剤での疼痛コントロール効果は同等であること、併用治療によりさらに疼痛コントロール効果が増強されること、どのpathwayでも効果は同等であること、が明らかとなった。さらに疼痛のみならず患者のQOLも同様に改善することが示された。したがって、最初にどの薬剤を投与するか、併用療法としてどの薬剤と組み合わせるかは、主として個々の薬剤による特有の副作用の程度に依存することになる。 DPNPに対しては、単剤を最大耐容量まで増量しても効果が不十分であれば躊躇せずに併用療法に進むことが疼痛コントロールのために有効であることが本試験によって明らかとなった。他の神経障害性疼痛に対しても恐らく同様の有効性が期待されるだろう。しかし腰痛などの神経障害性疼痛以外の疼痛に対しては本試験の結果が適用されないことは言うまでもない。

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第118回 介護保険制度持続のため、負担と給付の見直しの議論開始

<先週の動き>1.介護保険制度持続のため、負担と給付の見直しの議論開始/厚労省2.医療人材確保のためにも働き方改革とデジタル化推進を/厚労省3.画期的な医薬品の早期の導入のために新しい薬価算定方式を/厚労省有識者会議4.かかりつけ医機能について議論開始/社会保障審議会5.大麻成分を含む医薬品の国内使用可能へ/厚労省6.イベルメクチン、コロナウイルス治療に有効性見出せず/興和1.介護保険制度持続のため、負担と給付の見直しの議論開始/厚労省厚生労働省は社会保障審議会介護保険部会を9月26日に開催し、介護保険制度における給付と負担についての本格的な議論に着手した。今年の6月に閣議決定された「骨太方針2022」には、持続可能な社会保障制度の構築するため、給付と負担のバランスの確保や、能力に応じた負担の在り方の検討などといった文言が盛り込まれており、介護保険サービスの利用者負担を原則2割とすることや、現役世代並み所得(3割負担)の判断基準の見直しを含んだ議論を行い、今年の12月までに取りまとめを行い、2024年の医療・介護報酬改定までに介護保険制度の改正を行う方針。(参考)給付と負担に関する指摘事項について(厚労省)「給付と負担」検討開始、介護保険部会 次期制度改正見据え(CB news)介護「給付と負担」見直し着手 2割負担の拡大など論点(日経新聞)2.医療人材確保のためにも働き方改革とデジタル化推進を/厚労省厚生労働省は9月30日に「医療介護総合確保促進会議」を開催した。2024年度から新たに第8次医療計画や介護保険事業計画が始まるのに合わせて、今後、団塊の世代が後期高齢者となり働き手が減少していく日本の人口構造の変化に対応して、地域医療構想の実現に向け、人材確保と構造改革のためには、医療のデジタル化の促進を行うことが求められる。年度内に総合確保方針の改正案をまとめ、2024年度の医療計画の策定などに向けて具体化を進める。(参考)第17回医療介護総合確保促進会議(厚労省)3.画期的な医薬品の早期の導入のために新しい薬価算定方式を/厚労省有識者会議厚生労働省は、「医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会」を9月29日に開催した。この中で、物価高で不採算品目への配慮を求める意見が出されたほか、既存の医薬品では治療困難な領域の疾患に対して新たな治療手段を提供する革新的な医薬品や医療ニーズの高い医薬品の日本への早期導入を進めるためにも、欧米と比較して、日本の薬価が低く抑えられている現状を見直すために、イノベーションを評価できる新算定方式の導入を求める意見が再生医療イノベーションフォーラムから出された。(参考)有識者検討会 物価高で不採算品目への配慮求める声相次ぐ 日薬連、GE薬協に次いで卸連も(ミクスオンライン)医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会 資料(厚労省)4.かかりつけ医機能について議論開始/社会保障審議会厚生労働省は、9月29日に社会保障審議会の医療部会を開催した。これまで「第8次医療計画等に関する検討会」において、かかりつけ医機能の定義やかかりつけ医機能を発揮させるための具体的な仕組みなどについて、議論をしてきたが影響が大きいため、上位会議体である「社会保障審議会・医療部会」での話し合いを行うことになった。2024年に第8次医療計画が始まるのに合わせ、初回はフリートークで行われたが、財務省が検討を求めているかかりつけ医の登録制や、英国で採用されている「人頭払い」の導入には日本医師会などの委員が反対し、賛成意見はでなかったが、今後の動きに注目したい。(参考)第91回社会保障審議会医療部会「かかりつけ医機能について」(厚労省)「かかりつけ医機能」制度整備、法改正視野 社保審医療部会でも議論開始(CB news)かかりつけ医機能は医療部会で議論!「全国の医療機関での診療情報共有」でかかりつけ医は不要になるとの意見も-社保審・医療部会(Gem Med)5.大麻成分を含む医薬品の国内使用可能へ/厚労省厚生労働省は9月29日に厚生科学審議会の大麻規制検討小委員会を開催し、大麻取締法の改正に向けた方向性について取りまとめた。大麻所持者の検挙の増加などを踏まえ、これまでは罰則規定のなかった「使用罪」を新設するほか、医療用に大麻由来のカンナビジオールを含む難治性てんかんの治療薬の使用を解禁する方針を確認した。近年、日本を除く先進主要国では承認されており、現在国内でも臨床試験を実施している。(参考)第4回厚生科学審議会医薬品医療機器制度部会大麻規制検討小委員会大麻成分含む医薬品、国内使用に向け取締法改正へ 厚労省(産経新聞)大麻「使用罪」を新設=医療用解禁へ-取締法改正で骨子案・厚労省専門委(時事通信)6.イベルメクチン、コロナウイルス治療に有効性見出せず/興和興和株式会社は、9月26日、東京都内で記者会見を開き、軽症の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症を対象疾患として、抗寄生虫薬「イベルメクチン」の第III相臨床試験を進めていたが、今回の臨床試験の結果、主要評価項目において、統計的有意差が認めらず、開発を中止することを発表した。2021年7月から治験開始を発表、同年11月から今年の8月にかけ、日本とタイにおいて軽症患者1,030人を対象に二重盲検試験で実施していたが、投与開始4日前後で、37.5度以上の発熱や咽頭痛、筋肉痛などの症状は軽くなったが、統計的に有意差は認められなかった。一方、死亡例はなく、重症化例もほとんど認められず、安全性には問題はなかった。(参考)イベルメクチン「有効性見いだせず」 コロナ治療薬の臨床試験(朝日新聞)イベルメクチン コロナ治療薬の承認申請を断念 有効性見られず(NHK)興和 新型コロナウイルス感染症患者を対象とした「K-237」(イベルメクチン)の第III相臨床試験結果に関するお知らせ

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認知症と犯罪【コロナ時代の認知症診療】第16回

老年医学の名著「最不適者の生き残り」「よもぎ」は雑草と思われがちだが、実はハーブの女王とも呼ばれる。国内のいたるところで見られ、若芽は食用として餅に入れられることから、餅草とも呼ばれる。筆者にとってよもぎが、馴染みの深いのも実はこの餅にある。子供の頃、祖母に言われて道端のよもぎを摘んできて、よもぎ餅を一緒に作った記憶がある。この話を生物学に造詣の深いシステムエンジニアにした。にんまりと笑って言うには、子供の頃に私が摘んだものは道端の犬の小水がかかった汚いものだった可能性が高いと言う。「どうしてか? を観察すると散歩が楽しくなるかも」といった。そして分布ぶりから植物の生存競争の一端がわかるからと加えた。確かに色々な観察をした。最も記憶に残ったのは、背丈はたかだか1m以内とされるのに2mを超えるよもぎがあることだ。それらには共通性がある。ネット状フェンスや金属の柵にぴったり沿って生えていることだ。高い丈は子孫を伝えていく上で花粉が広く飛散しやすく有利だ。生物の生存競争では、最も環境に適した形質をもつ個体が生き残るとしたダーウィンの「適者生存」の法則が有名だ。よもぎの成長にとって重要な日光だが、フェンスや柵に寄り添ったよもぎは日陰に覆われる時なく十二分に太陽の光を浴びられる。もっと大切なのは風雨でも支えてもらえることだろう。さて「適者生存」と聞くと思い出すのが、“Survival of the unfittest”(最不適者生存の生き残り)1)という書である。これはイギリス老年医学の黎明期1972年にアイザック医師によってなされた著作である。私はこの書が出てから、10余年の後に留学先の図書館で読んだ。隅々まで頭にしみて、老年医学・医療が生まれた背景を理解できた気になれた。さまざまな背景により、高齢に至って多くのハンディキャップを背負った人がいかに生きていくか?そこで医者は何ができるかを問うた名著として読んだ。「生老病死」の「老」についての宗教観さえ感じた。初版時から50年以上が経過したが、その内容は日本における現状との違和感がない。それも残念だが…。ピック病とは限らない? 高齢者犯罪と疾患先頃、ある区役所の職員に連れ添われて60代初めの身寄りのない女性が来院した。記憶力はそう悪くないし、若い頃には窃盗歴などなかったのに、数ヵ月の間に万引きを重ね反省の色もなくおかしい。認知症があるのではないか調べて欲しいという。すぐにピック病を疑い、精査の結果でもピック病と確認した。1年に数人はこうした犯罪絡みの受診がある。認知症の犯罪となるとピック病と誰もが連想する。けれども、当院での経験では、意外なほどレビー小体型認知症が多い。この病気における意識・注意の変動や、てんかんの合併しやすさ、また認知機能の統合能低下などもあるのではないかと考えている。また認知症と並んで複雑部分発作などてんかん性の疾患が多い。裁判官にわかってもらう難しさ中には複数の犯罪を重ねて刑事裁判に至るケースもある。そこで意見書を求められると、「かくかくの認知症疾患があり、犯行当時の責任能力に影響を及ぼしたと推測される症状があったと考える」と書くことが多い。重度の認知症であれば、裁判官も本人と面接して、「ああこれでは」と思ってくれる。しかし軽度認知障害から軽度の認知症、それも前頭側頭型認知症だと難しい。というのは裁判官の世界では、精神神経疾患の犯罪とくると、統合失調症における放火や殺人事件に対する責任能力という古典的な命題が今も中核になっているのではと思えるからである。当方のケースは、統合失調症による幻覚や妄想に支配されてやってしまったかと分かるというレベルではない。長谷川式やMMSEは20点以上が多いから、裁判所における質問への理解力や発言、態度には不自然さがない。だから裁判官が私に向ける視線には、「これでも責任能力がないのですか?」と言いたげな気持ちがこもっている。8.5%で認知症性疾患罹患中に犯罪歴認知症患者における犯罪実態の系統的報告がある2)。研究対象は1999~2012年の間に認知症と診断され、米国の記憶・加齢センターで診察された2,397人の認知症患者である。米国、オーストラリア、スウェーデンの専門家により認知症性疾患と犯罪の関係が回顧的に調査された。全対象のうちの8.5%に認知症性疾患罹患中に犯罪歴があった。2,397人中の545人を占めたアルツハイマー病では犯罪率は7.4%であったのに対し、171人と総数では少ない前頭側頭型認知症における犯罪率は37.4%であった。この数字は本研究で調査対象となった5つの認知症性疾患の中で最多であった。この本報告は従来の小報告の結果を確認したと言える。さて米国における認知症の人の裁判状況は、私の経験とあまり違わないもののように思われる。と言うのは、本研究の結論として、「中年期以降に変性性の疾患と診断され、従来のその人らしさを失ってしまった患者に遭遇した医師は、その人が法的処罰の対象にならないように擁護に尽力すべきだ」と強調しているからである。終わりに。最近の生物界では、「適者生存」でなく「運者生存」が正しいとされるそうだ。フェンスの横におちたよもぎの種子は、まさにそれだろう。件の連続万引きの独居女性は、この事件のおかげで認知症がわかり、役所から手厚い支援が差し伸べられるようになったばかりか、不起訴にもなった。ある意味、幸運であった彼女は、“Survival of the unfittest”を実現したかなと考える。参考1)B. Isaacs, et al. Survival of the Unfittest: A Study of Geriatric Patients in Glasgow. Routledge and K. Paul;1972.2)Liljegren M, et al. JAMA Neurol. 2015 Mar;72:295-300.

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第102回 サル痘にも有効な「天然痘ワクチン」、国内備蓄の活用を検討

<先週の動き>1.サル痘にも有効な「天然痘ワクチン」、国内備蓄の活用を検討2.来年度から「マイナ保険証」義務化、健康保険証は原則廃止/厚労省3.後期高齢者の所得確認にもマイナ活用、プラットフォーム創設4.サイバー攻撃対策強化、職員向けセキュリティ研修が義務に/厚労省5.検査キット販売や看護師・薬剤師のタスクシェアなど、規制緩和を検討へ6.大麻取締法の改正について議論開始、医療ニーズへ対応/厚労省1.サル痘にも有効な「天然痘ワクチン」、国内備蓄の活用を検討欧米を中心に感染報告が相次いでいる感染症「サル痘」について、有効とされる天然痘ワクチンに注目が集まっており、すでに各国が確保に動き出している。後藤 茂之厚生労働相は27日の閣議後の記者会見で、わが国では以前からテロ対策を目的に天然痘ワクチンの生産・備蓄が行われており、政府がワクチンの活用方法について検討を進めていると述べた。世界保健機関(WHO)や国立感染症研究所などによると、サル痘は主にアフリカで流行する感染症で、発疹や発熱などの症状が出る。天然痘ワクチンには、サル痘の発症予防効果が約85%あるとされ、英国では感染が疑われる人への接種が進められている。現時点で国内での感染例はなく、後藤氏は「人から人への感染はまれとされている。国内外の発生動向を監視しつつ、必要な対応を講じる」と話した。(参考)サル痘とは?(ケアネット 患者説明用スライド)天然痘ワクチン「国内で備蓄」 サル痘にも有効―後藤厚労相(時事通信)サル痘に有効とされる天然痘ワクチン 日本も備蓄、活用方法を検討(毎日新聞)2.来年度から「マイナ保険証」義務化、健康保険証は原則廃止/厚労省厚生労働省は25日の社会保障審議会にて、健康保険証を原則廃止とし、2023年度からすべての医療機関・調剤薬局でマイナンバーカードと健康保険証を一体化した「マイナ保険証」の導入を義務付けることを決定した。政府によれば、オンライン資格確認に必要な顔認証付きカードリーダーの申し込みは約6割(約13万)の施設が済ませているが、運用を開始している施設は19%であり、マイナンバーカードによる資格確認の迅速な導入が求められている。2022年度上半期には導入の加速化が図られるよう集中的な取り組みを行い、未対応の施設は遅くとも9月頃までに顔認証付きカードリーダーの申し込みが必要とし、働きかけを行っていく。(参考)保険証「原則廃止」へ マイナンバーカードに一本化 政府検討(朝日新聞)マイナ保険証、病院に義務化 患者負担軽減も視野 厚労省検討(日経新聞)資料 オンライン資格確認等システムについて(厚労省)3.後期高齢者の所得確認にもマイナ活用、プラットフォーム創設政府が本年6月に取りまとめる経済財政運営方針「骨太の方針」に、75歳以上の後期高齢者の保険料の見直しについて、株式や配当などの金融所得も含めて勘案するため、マイナンバーカードを活用することが盛り込まれる。これによって、後期高齢者の医療費を支える現役世代の負担を軽減できる可能性がある。今後、金融資産がある高齢者の負担は増える見込みだ。このほか、「全国医療情報プラットフォーム」の創設を行い、電子カルテの診療情報やワクチン接種歴などを医療機関や自治体が共有し、患者が最適な治療を受けられるような情報基盤を作ることが決定した。災害時など、かかりつけ外の医療機関でも患者情報を確認し必要な治療の継続が可能になるほか、救急搬送された意識障害患者等の手術や薬剤情報等を確認することで、より適切で迅速な検査、診断、治療等の実施が可能となる。なお医療機関・薬局への情報共有は、個別に同意を得る仕組みを構築した後に運用を開始するとされ、2023年5月が目途。(参考)75歳以上保険料決定に「マイナンバー」活用も ”骨太の方針”原案判明(FNNプライムオンライン)医療情報、デジタル化で共有 プラットフォーム創設 骨太方針に明記(産経新聞)全国の医療機関で診療情報(レセプト・電子カルテ)を共有する仕組み、社保審・医療保険部会でも細部了承(Gem Med)4.サイバー攻撃対策強化、職員向けセキュリティ研修が義務に/厚労省近年、病院への大規模なサイバー攻撃がわが国でも増加していることを踏まえ、厚労省は27日に医療機関でのサイバーセキュリティ対策の方針を明らかにした。平時の医療機関での情報共有基盤として、医療版のISAC(Information Sharing and Analysis Center)を立ち上げてサイバーセキュリティのリスクマネジメントを強化支援する仕組みを確立するほか、脆弱性が指摘されている機器のアップデートや、医療従事者へのセキュリティ対策研修の充実を図る。診療録管理体制加算を算定する400床以上の医療機関には、年1回程度以上の職員向け情報セキュリティ研修の実施が求められる。(参考)医療機関へのサイバー攻撃対策、「ISAC」設立へ 200床未満の施設に「お助け隊」活用促進(CB news)病院に相次ぐサイバー攻撃 遅れる医療の防衛、日経調査 大規模3病院に侵入 3分の2でパスワード漏れも(日経新聞)医療分野のサイバーセキュリティ対策について(厚労省)5.検査キット販売や看護師・薬剤師のタスクシェアなど、規制緩和を検討へ岸田内閣の諮問機関である規制改革推進会議は、27日、政府に答申を提出した。5つの重点分野のうち、医療・介護・感染症対策として、オンライン診療の拡充により、自宅で受診・健康管理から薬剤・医薬品受け取りまでを可能とする方策や、薬剤師による調剤業務の一部外部委託を可能とする検討のほか、薬局での抗原定性検査キット販売の完全解禁などを求めている。また今後、介護需要増加に伴い人手不足が見込まれる介護施設での人員配置基準の緩和や、薬剤師による看護業務のタスクシェアのほか、機械学習を行うプログラム医療機器(SaMD)のアップデート時の審査の省略・簡略化についても検討を求めている。(参考)オンライン診療拡充、抗原キット薬局販売…規制改革推進会議が答申取りまとめ(読売新聞)国承認コロナ検査キット ネットでなぜ買えない? 政府見直し議論へ(朝日新聞)医療改革、スピード不可欠 規制改革会議が答申 看護、薬剤師が分担/介護人員を変更(日経新聞)6.大麻取締法の改正について議論開始、医療ニーズへ対応/厚労省厚労省は、大麻の規制について検討する委員会を25日新たに立ち上げた。2021年6月に出された「大麻等の薬物対策のあり方検討会」の取りまとめを踏まえ、大麻取締法、麻薬及び向精神薬取締法改正に向けて、議論を開始する。米国やG7諸国で承認されている大麻から製造された難治性のてんかん治療薬の事例等を参考に、医療ニーズへの対応や適切な利用を推進するとともに、大麻事犯の検挙人員が7年連続で増加していることを鑑みて大麻使用罪を創設するなど、不適切な大麻利用・乱用に対しても対応していく。(参考)大麻の「使用罪」導入の方向で議論 厚労省の新たな小委員会がスタート(BuzzFeed)第1回 厚生科学審議会医薬品医療機器制度部会大麻規制検討小委員会 資料

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認知症かてんかんか、診察時のポイント【コロナ時代の認知症診療】第15回

てんかん」についての認識ギャップ普通の人にとって、アルツハイマー病が高齢者の病気なら、てんかんは子供の病気だというのはいわば常識のようだ。またてんかんとけいれんは同義語だと思っている人は多いようだ。だから、「実はてんかんは高齢者に一番多い」と説明すると驚く人がほとんどである。さらに、「多くの高齢者てんかんでは、けいれんがみられない」と言うと「それ、本当!?」という反応が普通である。確かに小児期のてんかんも多いが、ご存じのように初老期以降に、てんかんの発症率も有病率も増加する。この様子を仮に図示するなら右に引っ張り上げられたU字型になる。さて初老期以降のてんかんでは、複雑部分発作が多い。多くは数十秒から数分の発作が起こり、普通は1時間以内のもうろう状態が続いてから元に戻る。その後で健忘を残す。ところがいずれのステージにおいても、多くはけいれんがみられない。しかも歩いたり食べたりは勿論、自転車やバイクの運転までできてしまうこともある。それだけに普通の人がてんかんだと思いもしないのも当然かもしれない。どうもこのような人では、認知症を疑われて、もの忘れ外来を受診する例が少なくない。というのは、本人にも周囲の人にも健忘が主症状だからである。つまり発作中とその後の記憶がないのはある意味当然だ。まわりの人には、「心ここにあらずの虚ろな目でおかしなことをしていた」などと映るが、後からそう言われても本人の記憶はまさにプッツンしている。だから周囲は、「これはボケの症状だな?」とみなすので、もの忘れ外来受診につながるようだ。認知症?てんかん?鑑別のポイントさて診察の場で、てんかんを疑うポイントがある。多いのはこのプッツン体験、つまりどうにもつながらない時間があるので、ここに強いこだわりと不安を訴えられるケースである。次に発作中でも動けるので、とんでもないことをやってしまうこともある。だがそんな自分が信じられない、「なぜこの私がこんなことを」と強い自責を示す方がある。筆者の記憶に残るのは、社長の実印を発作中に机の下のごみ箱に捨ててしまい、会社を上げて大騒ぎになった例である。類似例では、スーパーでの買い物の際に、てんかんを生じたためレジを通らずに商品を籠に入れたまま店を出ようとして警察沙汰になった例もある。この例では、取り調べに「どうしても自分が万引きしたとは思えない」と断固否定し続けたので受診に至ったのである。やっかいなのは、エピソディックな健忘事件だけでなく、「この頃、ずっと記憶が良くない」と述べる例が少なくないことである。確かに認知症にてんかんが合併と診断することもある。しかし「サブクリニカルな発作がしばしば起きているのだな」と考える例が多い。サブクリニカルというのは、第3者におかしいと思われるレベルではないし、本人もプッツンしたとは思わないのだが、脳内で軽度の異常放電が生じている状態という意味である。脳内でこうした異常放電を生じていれば、記憶をインプット(記銘)してもおそらく歩留まりは低下すると思われる。以上のような症状を、「プッツンのときは何の記憶もないし、普段でも記憶力は以前の80~90%程度に落ちた」と簡潔に表現した当事者がある。なおこうした方の脳波検査に際して、棘波のような診断的意味のある所見は必ずしも得られないことに注意が求められる。最終的にてんかんありの診断をして、抗てんかん薬により改善した症例において初回脳波検査で異常を捉えられる確率はせいぜい50%程度かなという個人的な印象がある。症状の多くは抗てんかん薬で改善する、ただし注意点もさて高齢になって初発するてんかんの背景には、老化と関連する諸要因、とくに脳神経学的な問題、例えば動脈硬化や脳出血・梗塞、脳外傷や認知症があると言われる。どれくらいてんかんが多くなるかについて、ナーシングホームの高齢者では在宅高齢者の7倍以上だが、これに神経学的な異常が重なると7~30倍にまだ高まるとした最近のレビューがある1)。自験例では、レビー小体型認知症、次いでアルツハイマー病の前駆期から初期に初発した人の割合がかなり高いという認識がある。なおてんかん症状の多くは抗てんかん薬で改善し、プッツンも80~90%程度におちた記憶も改善する。だから職場で上司から「見違える、蘇った」という称賛をもらう人も少なくない。もっとも認知症が基盤にある人では、緩徐に認知障害は進行していくようだ。終わりに抗てんかん薬の副作用への注意は言うまでもない。それらの中で最も注意が必要なのは、致命的な可能性もある皮膚疾患スティーブンス・ジョンソン症候群(Stevens-Johnson症候群)だろう。100万人に数人とされるが、指定難病として医療費助成制度もあるだけに、いかなる抗てんかん薬であっても油断は禁物である。参考1)Birnbaum AK,et al. Neurology. 2017 Feb 21;88:750-757.

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自閉スペクトラム症の感情調整や過敏性に対する薬理学的介入の有効性~メタ解析

 感情調節不全や過敏性は、自閉スペクトラム症(ASD)でよくみられる症状である。英国・キングス・カレッジ・ロンドンのGonzalo Salazar de Pablo氏らは、ASDの感情調節不全や過敏性に対する薬理学的介入の有効性および治療反応の予測因子を評価する、初めてのメタ解析を実施した。その結果、いくつかの薬理学的介入(とくにアリピプラゾールとリスペリドン)は、ASD患者の感情調節不全や過敏性の短期的治療に有効であることが証明されており、忍容性プロファイルと家族の考えなども考慮し、複数の形式による治療を計画するうえで検討すべきであると報告した。Journal of the American Academy of Child and Adolescent Psychiatry誌オンライン版2022年4月22日号の報告。 プロトコルに従い、複数のデータベースより2021年1月1日までの研究をシステマティックに検索した。プラセボ対照ランダム化比較試験(RCT)を抽出し、感情調節不全や過敏性に対する薬理学的介入の有効性および治療反応の予測因子を評価した。Q検定を用いた不均一性および出版バイアスを評価した。主要エフェクトサイズは、標準化平均差(SMD)とした。研究の質の評価には、コクランのバイアスリスクツール(RoB2)を用いた。 主な結果は以下のとおり。・ASD患者2,856例を含む45件の研究が分析に含まれた。26.7%のRCTは、バイアスリスクが高かった。・抗精神病薬(SMD:1.028、95%CI:0.824~1.232)およびADHDに適応を有する薬物療法(SMD:0.471、95%CI:0.061~0.881)は、プラセボと比較し、感情調節不全や過敏性に対し有意な改善が認められたが、他の薬剤クラスでは認められなかった(p>0.05)。・各薬剤についての評価では、アリピプラゾール(SMD:1.179、95%CI:0.838~1.520)とリスペリドン(SMD:1.074、95%CI:0.818~1.331)の有効性が示唆された。・てんかん発症率の増加(β=-0.049、p=0.026)は、有効性の低下と関連していた。

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英語で「違法薬物」は?【1分★医療英語】第19回

第19回 英語で「違法薬物」は?Do you use any recreational drugs?(娯楽目的の薬物を使っていますか?)I’ve never use them.(一度も使ったことがありません)《例文1》Do you take any medications or drugs for recreational purposes?(医薬品や薬物を娯楽目的で使用していますか?)《例文2》This patient has a history of recreational drug-induced seizure.(この患者は薬物使用によるてんかんの病歴があります)《解説》米国での臨床においては、すべての患者さんに、違法かどうかにかかわらず娯楽目的で医薬品や薬物を使用しているかを確認しています。その際、薬物の種類が限定的にならないよう、“For example, medications that have not been prescribed to you, or any street drugs.”(たとえば、処方されていない薬やストリート・ドラッグなどのことです)と付け加えます。私が住むカリフォルニア州では、娯楽用途のマリフアナ使用は認められているため、マリフアナについては処方薬や違法薬物とは別に「タバコを吸いますか?」という質問の流れで「マリフアナを吸ったり食べたりしますか?」と聞くようになりました。一方で、オピオイド中毒も深刻な問題となっており、「痛み止め等の薬を服用していますか?」という点も念入りに確認します。おまけの知識として、薬は“medication”や“drug”ですが、今回の会話例のように“drug”は使い方次第では、「違法・娯楽薬物」を連想させることがあります。日本語の場合も「薬」と「ドラッグ」では、ニュアンスが少し違いますよね。「~の薬を飲んでいる」という表現は、前置詞の“on”を使って、“I’m on antihypertensive medication.”(高血圧の薬を飲んでいます)となりますが、“What drug are you on?”(何の薬を飲んでいるのですか?)という表現にすると、“on”と“drug”の組み合わせによって、「何の(違法・娯楽)薬物を使っているの?」というニュアンスにも聞こえるので、私は仕事においては“drug”より“medication”を多く使います。ただ、医療現場では“drug”もよく使われており、多くの場合、問題は生じていません。講師紹介

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心停止後昏睡、抗けいれん治療併用で転帰改善は?/NEJM

 心停止後昏睡患者において、律動的および周期的な脳波活動を48時間以上抑制する抗けいれん治療を標準治療に併用しても、標準治療のみと比較して3ヵ月後の神経学的アウトカム不良の割合に有意差は認められないことが、オランダ・トゥウェンテ大学のBarry J. Ruijter氏らが実施した医師主導型無作為化非盲検(評価者盲検)臨床試験「TELSTAR試験」の結果、示された。心停止後昏睡患者において、律動的および周期性の脳波パターンを治療することにより転帰が改善するかどうかは明らかになっていなかった。NEJM誌2022年2月24日号掲載の報告。律動的/周期的な脳波活動を認める心停止後昏睡患者を対象に 研究グループは、心停止後昏睡状態で律動的および周期的な脳波活動が認められた18歳以上の患者を、標準治療のみ(対照群)と、標準治療に加えて抗けいれん治療によりこの脳波活動を48時間以上抑制する段階的戦略を併用する群(抗けいれん治療群)に、1対1の割合で無作為に割り付け検討した。両群とも、標準治療には体温管理療法が含まれた。抗けいれん治療は、てんかん重積状態の治療に関する国際ガイドラインに基づいて行った。 主要評価項目は、3ヵ月後の脳機能カテゴリー(CPC)スケールのスコアに基づく神経学的アウトカムとし、アウトカム良好(CPCスコア:障害なし、軽度障害、中等度障害)またはアウトカム不良(CPCスコア:高度障害、昏睡、死亡)に分類した。副次評価項目は、死亡率、集中治療室(ICU)在室期間、および人工呼吸管理期間であった。3ヵ月後の神経学的アウトカム不良は90% vs.92%、死亡率は80% vs.82% 2014年5月1日~2021年1月24日の間に、172例が登録され、88例が抗けいれん治療群、84例が対照群に無作為化された。心停止後、中央値で35時間後に律動的/周期的な脳波活動が検出され、データが得られた157例中98例(62%)にミオクローヌスが認められた。 48時間連続して律動的/周期的な脳波活動が完全に抑制された患者の割合は、抗けいれん治療群56%(49/88例)、対照群2%(2/83例)であった。 3ヵ月後の神経学的アウトカム不良の患者の割合は、抗けいれん治療群90%(79/88例)、対照群92%(77/84例)(群間差:2%、95%CI:-7~11、p=0.68)、3ヵ月死亡率はそれぞれ80%および82%であった。 ICU在室期間および人工呼吸管理期間の平均値は、抗けいれん治療群が対照群よりわずかに長かった。

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抗CGRP抗体フレマネズマブの患者満足度調査

 米国・アルベルトアインシュタイン医科大学のDawn C. Buse氏らは、片頭痛に対する抗CGRP抗体フレマネズマブの長期的(52週間)な安全性および有効性を評価するために実施された延長試験を完了し、フォローアップ調査に同意した患者を対象に、フレマネズマブに対する満足度、好み、患者報告アウトカムの評価を行った。The Journal of Headache and Pain誌2020年9月4日号の報告。 延長試験では、片頭痛患者1,842例がフレマネズマブ四半期ごと投与群または月1回投与群にランダム化された。積極的な治療完了後、患者の満足度、治療および投薬の好み、患者報告アウトカムの変化を調査票を用いて評価した。 主な結果は以下のとおり。・延長試験を完了した患者557例中302例が調査に同意し、253例が調査を完了した。・フレマネズマブの平均満足度は、6.1±1.4(非常に不満:1~非常に満足:7で評価)であった。・多くの患者(175例、69.2%)は、フレマネズマブ月1回投与よりも、四半期ごと投与を好んでいた。・抗てんかん薬を使用している患者(130例)のうち、91.5%がフレマネズマブを好んでいた。・フレマネズマブ投与により、不安(74例、67.9%)、睡眠の質(143例、56.5%)、他者と過ごす時間の質(210例、83.0%)が改善したと報告された。 著者らは「片頭痛患者に対するフレマネズマブ投与は、満足度が高く、多くの患者は四半期ごと投与を好んでいた。また、フレマネズマブは、これまでの予防薬よりも好まれていた」としている。

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熱が上がったのは抗てんかん薬のせい?【ママに聞いてみよう(6)】

ママに聞いてみよう(6)熱が上がったのは抗てんかん薬のせい?講師:堀 美智子氏 / 医薬情報研究所 (株)エス・アイ・シー取締役、日本女性薬局経営者の会 会長動画解説一部の抗てんかん薬にみられる体温上昇の副作用。一般的な発熱と同じ対処をしてしまうと、症状を悪化させてしまう可能性があります。発生の機序と適切な対処法を押さえましょう。

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日本人の統合失調症、うつ病入院患者に対する睡眠薬の使用状況

 京都大学の降籏 隆二氏らは、統合失調症およびうつ病の入院患者に対する睡眠薬の使用率と睡眠薬と抗精神病薬使用との関連について調査を行った。Sleep Medicine誌オンライン版2021年11月22日号の報告。 全国の精神科病院200施設以上が参加する「精神科医療の普及と教育に対するガイドラインの効果に関する研究」(EGUIDEプロジェクト)の一環として、全国横断的研究を実施した。統合失調症入院患者2,146例とうつ病入院患者1,031例のデータを分析した。すべての向精神薬の投与量を記録し、退院時のデータを分析した。睡眠薬と抗精神病薬使用との関連を評価するため、多変量ロジスティック回帰分析を用いた。 主な結果は以下のとおり。・睡眠薬を単剤または2剤以上で使用していた患者の割合は、それぞれ以下のとおりであった。 ●統合失調症入院患者:睡眠薬単剤療法55.7%、併用療法17.6% ●うつ病入院患者:睡眠薬単剤療法63.6%、併用療法22.6%・多変量ロジスティック回帰分析では、統合失調症入院患者における睡眠薬使用と正の関連が認められた因子は、2種類以上の抗精神病薬の使用および抗コリン作用薬、抗不安薬、気分安定薬、抗てんかん薬の使用であった。・うつ病入院患者では、2種類以上の抗うつ薬、抗精神病薬の使用および抗不安薬、気分安定薬、抗てんかん薬の使用と睡眠薬使用との間に正の関連が認められた。 著者らは「睡眠薬の使用は、精神疾患を有する入院患者において、頻繁に認められることが明らかであった。統合失調症およびうつ病の入院患者のいずれにおいても、抗精神病薬の併用療法は、睡眠薬使用に影響を及ぼすことが示唆された」としている。

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