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事例009 エクセグラン錠の査定【斬らレセプト シーズン3】

解説事例では、旅行中のパーキンソン病患者からの受診の求めに応じ、ゾニサミド(一般名)にて処方、エクセグラン錠(商品名)を調剤したところ、C事由(医学的理由による不適当)にて査定となりました。増減点内容欄には、「ゾニサミドをパーキンソン病(本剤の承認外効能・効果)の治療目的で投与する場合には、パーキンソン病の効能・効果を有する製剤(トレリーフ)を用法・用量どおりに投与すること」と記載がありました。エクセグラン錠の添付文書を確認してみました。「抗てんかん剤」としての効能または効果しか記載はありません。同様にトレリーフの添付文書も確認してみました。用量は異なりますが、一般名は同じゾニサミドでした。こちらはパーキンソン病治療薬として認められています。薬価も大きく異なることから、用量を同じくした処方・調剤であれば、エクセグラン錠にもパーキンソン病の適用があると考えられていたようでした。そして、エクセグラン錠の添付文書「15.その他の注意」の最後には「パーキンソン病患者(承認外効能・効果)」と念押しのような記載がありました。医師も承認外使用であることをご存じではありましたが、点数が小さいとはいえ査定には変わりありません。また、医療安全上の問題にもなりかねないため、処方システムなどでアラートが表示された場合には対応いただくか、アラートに対する医学上必要性のコメントを注記いただくようにお願いをしました。

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糖尿病性末梢神経障害性疼痛治療に新たなエビデンスが報告された(解説:住谷哲氏)

 糖尿病性末梢神経障害DPN(diabetic peripheral neuropathy)は無症状のことが多く、さらに網膜症に対する眼底撮影、腎症に対する尿アルブミンのような客観的診断検査がないため見逃されていることが少なくない。しかしDPNの中でも糖尿病性末梢神経障害性疼痛DPNP(diabetic peripheral neuropathic pain)は疼痛という自覚症状があるため診断は比較的容易である。不眠などにより患者のQOLを著しく低下させる場合もあるので治療が必要となるが、疼痛コントロールに難渋することが少なくない。多くのガイドラインでは三環系抗うつ薬であるアミトリプチリン(以下A)、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬SNRIであるデュロキセチン(以下D)、電位依存性カルシウムチャネルα2δリガンドのガバペンチノイドに分類されるプレガバリン(以下P)およびガバペンチン(以下G)の4剤が有効性のある薬剤として推奨されている。疼痛をコントロールするためには十分量の薬剤を投与する必要があるが、実際にはそれぞれの薬剤の持つ特有の副作用で増量が困難となり、中断や他の薬剤の併用を必要とすることが多い。ちなみにわが国での神経障害性疼痛に対する最大投与量は、A 150mg、D 60mg、P 600mgとなっている。GはPと同様の作用機序であるが、添付文書上は抗てんかん薬としての適応のみであり神経障害性疼痛に対する保険適応はない。しかし社会保険診療報酬支払基金では最大投与量2,400mgまで認めているという不思議な状況である1)。 上記のそれぞれの薬剤のDPNPに対する有効性は明らかにされているが、どの薬剤が最も有効なのかを比較検討したhead to headのRCTはない。さらに併用療法についての有効性を検討したRCTにはPとDとの併用療法を検討した小規模のCOMBO-DN試験があるのみである2)。そこで各薬剤の有効性をhead to headで比較すること、および併用療法の有効性を検討することを目的に実施されたのが本試験であり、DPNP治療に新たなエビデンスをもたらした試験であると評価できる。 試験デザインは疼痛に関するRCTでは多用されるクロスオーバーデザインである。1コース16週とし、前半の6週は単剤治療期間、後半の10週が併用治療期間とされた。さらに単なる薬剤の組み合わせではなく、著者らはpathwayと記載しているが、投与順序も検討された。PとGは同様の作用機序なのでPが選ばれた(選択理由として、Gが1日3回投与である、Pと異なり薬物動態が線形でない、およびtitrationに時間を要する、と記載されている)。さらにAとDは両者ともに抗うつ薬であるのでこの組み合わせは除外された。したがって検討されるpathwayはA→P、P→A、D→P、P→Dの4組になる。これを1コース16週間のクロスオーバーデザインで実施すると16×4=64週で試験期間が1年以上となり、試験完遂が困難との判断からP→Dは除外された。その理由は、COMBO-DN試験の結果からP→D、D→Pの疼痛コントロール効果はほぼ同等であり、かつDは1日1回投与でありPと比較して初回投与として適切であると記載されている。このあたりがpragmatic trialとされるゆえんだろう。結果は、A、P、Dのどの薬剤から開始しても単剤での疼痛コントロール効果は同等であること、併用治療によりさらに疼痛コントロール効果が増強されること、どのpathwayでも効果は同等であること、が明らかとなった。さらに疼痛のみならず患者のQOLも同様に改善することが示された。したがって、最初にどの薬剤を投与するか、併用療法としてどの薬剤と組み合わせるかは、主として個々の薬剤による特有の副作用の程度に依存することになる。 DPNPに対しては、単剤を最大耐容量まで増量しても効果が不十分であれば躊躇せずに併用療法に進むことが疼痛コントロールのために有効であることが本試験によって明らかとなった。他の神経障害性疼痛に対しても恐らく同様の有効性が期待されるだろう。しかし腰痛などの神経障害性疼痛以外の疼痛に対しては本試験の結果が適用されないことは言うまでもない。

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第118回 介護保険制度持続のため、負担と給付の見直しの議論開始

<先週の動き>1.介護保険制度持続のため、負担と給付の見直しの議論開始/厚労省2.医療人材確保のためにも働き方改革とデジタル化推進を/厚労省3.画期的な医薬品の早期の導入のために新しい薬価算定方式を/厚労省有識者会議4.かかりつけ医機能について議論開始/社会保障審議会5.大麻成分を含む医薬品の国内使用可能へ/厚労省6.イベルメクチン、コロナウイルス治療に有効性見出せず/興和1.介護保険制度持続のため、負担と給付の見直しの議論開始/厚労省厚生労働省は社会保障審議会介護保険部会を9月26日に開催し、介護保険制度における給付と負担についての本格的な議論に着手した。今年の6月に閣議決定された「骨太方針2022」には、持続可能な社会保障制度の構築するため、給付と負担のバランスの確保や、能力に応じた負担の在り方の検討などといった文言が盛り込まれており、介護保険サービスの利用者負担を原則2割とすることや、現役世代並み所得(3割負担)の判断基準の見直しを含んだ議論を行い、今年の12月までに取りまとめを行い、2024年の医療・介護報酬改定までに介護保険制度の改正を行う方針。(参考)給付と負担に関する指摘事項について(厚労省)「給付と負担」検討開始、介護保険部会 次期制度改正見据え(CB news)介護「給付と負担」見直し着手 2割負担の拡大など論点(日経新聞)2.医療人材確保のためにも働き方改革とデジタル化推進を/厚労省厚生労働省は9月30日に「医療介護総合確保促進会議」を開催した。2024年度から新たに第8次医療計画や介護保険事業計画が始まるのに合わせて、今後、団塊の世代が後期高齢者となり働き手が減少していく日本の人口構造の変化に対応して、地域医療構想の実現に向け、人材確保と構造改革のためには、医療のデジタル化の促進を行うことが求められる。年度内に総合確保方針の改正案をまとめ、2024年度の医療計画の策定などに向けて具体化を進める。(参考)第17回医療介護総合確保促進会議(厚労省)3.画期的な医薬品の早期の導入のために新しい薬価算定方式を/厚労省有識者会議厚生労働省は、「医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会」を9月29日に開催した。この中で、物価高で不採算品目への配慮を求める意見が出されたほか、既存の医薬品では治療困難な領域の疾患に対して新たな治療手段を提供する革新的な医薬品や医療ニーズの高い医薬品の日本への早期導入を進めるためにも、欧米と比較して、日本の薬価が低く抑えられている現状を見直すために、イノベーションを評価できる新算定方式の導入を求める意見が再生医療イノベーションフォーラムから出された。(参考)有識者検討会 物価高で不採算品目への配慮求める声相次ぐ 日薬連、GE薬協に次いで卸連も(ミクスオンライン)医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会 資料(厚労省)4.かかりつけ医機能について議論開始/社会保障審議会厚生労働省は、9月29日に社会保障審議会の医療部会を開催した。これまで「第8次医療計画等に関する検討会」において、かかりつけ医機能の定義やかかりつけ医機能を発揮させるための具体的な仕組みなどについて、議論をしてきたが影響が大きいため、上位会議体である「社会保障審議会・医療部会」での話し合いを行うことになった。2024年に第8次医療計画が始まるのに合わせ、初回はフリートークで行われたが、財務省が検討を求めているかかりつけ医の登録制や、英国で採用されている「人頭払い」の導入には日本医師会などの委員が反対し、賛成意見はでなかったが、今後の動きに注目したい。(参考)第91回社会保障審議会医療部会「かかりつけ医機能について」(厚労省)「かかりつけ医機能」制度整備、法改正視野 社保審医療部会でも議論開始(CB news)かかりつけ医機能は医療部会で議論!「全国の医療機関での診療情報共有」でかかりつけ医は不要になるとの意見も-社保審・医療部会(Gem Med)5.大麻成分を含む医薬品の国内使用可能へ/厚労省厚生労働省は9月29日に厚生科学審議会の大麻規制検討小委員会を開催し、大麻取締法の改正に向けた方向性について取りまとめた。大麻所持者の検挙の増加などを踏まえ、これまでは罰則規定のなかった「使用罪」を新設するほか、医療用に大麻由来のカンナビジオールを含む難治性てんかんの治療薬の使用を解禁する方針を確認した。近年、日本を除く先進主要国では承認されており、現在国内でも臨床試験を実施している。(参考)第4回厚生科学審議会医薬品医療機器制度部会大麻規制検討小委員会大麻成分含む医薬品、国内使用に向け取締法改正へ 厚労省(産経新聞)大麻「使用罪」を新設=医療用解禁へ-取締法改正で骨子案・厚労省専門委(時事通信)6.イベルメクチン、コロナウイルス治療に有効性見出せず/興和興和株式会社は、9月26日、東京都内で記者会見を開き、軽症の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症を対象疾患として、抗寄生虫薬「イベルメクチン」の第III相臨床試験を進めていたが、今回の臨床試験の結果、主要評価項目において、統計的有意差が認めらず、開発を中止することを発表した。2021年7月から治験開始を発表、同年11月から今年の8月にかけ、日本とタイにおいて軽症患者1,030人を対象に二重盲検試験で実施していたが、投与開始4日前後で、37.5度以上の発熱や咽頭痛、筋肉痛などの症状は軽くなったが、統計的に有意差は認められなかった。一方、死亡例はなく、重症化例もほとんど認められず、安全性には問題はなかった。(参考)イベルメクチン「有効性見いだせず」 コロナ治療薬の臨床試験(朝日新聞)イベルメクチン コロナ治療薬の承認申請を断念 有効性見られず(NHK)興和 新型コロナウイルス感染症患者を対象とした「K-237」(イベルメクチン)の第III相臨床試験結果に関するお知らせ

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好中球とリンパ球の比が男性のうつ症状と関連

 一般的な健康診断の測定項目に含まれている白血球の分画である好中球とリンパ球の比(NLR)の値が、男性のうつ症状と独立して関連しているとする研究結果が報告された。弘前大学大学院医学研究科麻酔科学講座の木下裕貴氏らの研究によるもので、詳細は「Scientific Reports」に6月3日掲載された。同氏らは、NLRが男性のうつ状態の簡便なマーカーになり得るのではないかと述べている。 うつ病の原因については不明点が多く残されているが、神経の炎症が関与しているケースがあることが知られている。その傍証として、うつ病患者ではインターロイキン-6(IL-6)や腫瘍壊死因子-α(TNF-α)などの炎症性サイトカインが高値であるとする報告がある。ただし、IL-6やTNF-αの測定にはコストがかかり、多くの人を対象とするスクリーニング目的で行える検査ではない。 一方、一般的な健診の結果から簡単に計算可能なNLRや、血小板とリンパ球の比(PLR)が、IL-6やTNF-αと正相関することが知られており、NLRやPLRも神経炎症が関連する疾患のマーカーと成り得る可能性がある。実際、NLRやPLRと、統合失調症やてんかんなどとの間に有意な関連があることも報告されている。ただし、うつ病との関連はまだ十分検討されていない。木下氏らはこの点について、国内の地域住民を対象とする研究を行った。 研究には、弘前大学が中心となって行っている「岩木健康増進プロジェクト」のデータを用いた。同プロジェクトに登録された弘前市岩木地区住民1,073人のうち、うつ病と診断されている人および解析に必要なデータのない人を除外した1,051人(男性41%)を解析対象とした。 うつ状態の評価に用いられているCES-Dという指標で60点中16点以上の場合を「うつ症状あり」と定義すると、19.7%が該当した。性別の有病率は、男性19.1%、女性20.4%だった。 男性・女性ごとにうつ症状の有無で2群に分けて比較すると、男性の習慣的飲酒者がうつ症状のない群で有意に多く、また男性・女性ともにうつ症状のある群でCES-Dスコアが有意に高かった。しかし、年齢、BMI、現喫煙者の割合、高血圧・糖尿病・脂質異常症・冠動脈疾患・脳卒中の有病率、肝機能・腎機能・糖代謝指標などに有意差はなかった。 男性のNLRは、うつ症状のない群が中央値1.54、うつ症状のある群が同1.76であり、後者の方が有意に高かった(P=0.005)。またPLRも同順に123.7、136.8であり、後者の方が有意に高かった(P=0.047)。一方、女性のNLRやPLRは、うつ症状の有無で有意差がなかった。 次に、うつ症状ありを目的変数とし、うつ病との関連が報告されている、年齢、BMI、高血圧・糖尿病・脂質異常症・冠動脈疾患・脳卒中の既往、およびNLRとPLRなどを説明変数として、ロジスティック回帰分析を施行。その結果、男性のうつ症状ありに独立して関連する因子として、NLRが抽出された〔1増加するごとの調整オッズ比(aOR)1.570(95%信頼区間1.120~2.220)〕。NLR以外では、習慣的飲酒が負の関連因子〔aOR0.548(同0.322~0.930)〕として認められた以外、年齢やBMI、併存疾患、およびPLRは有意な関連が見られなかった。また、女性に関しては、NLRも含めて検討した項目の全てが非有意だった。 以上より著者らは、「男性ではNLRの高さがうつ症状に関連している可能性が示された」と結論付けた上で、「男性のうつ状態のスクリーニングにNLRを使用可能かの確認のため、大規模なコホート研究が求められる。また両者の因果関係の解明には、前向き縦断研究が必要」と述べている。なお、女性では結果が非有意だった点については、「NLRに影響を与えるエストロゲンのレベルが閉経前後で大きく変わるためではないか」との考察を加えている。実際に本研究でも、女性の年齢とNLRとの間に弱いながら有意な負の相関が認められたという。

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認知症と犯罪【コロナ時代の認知症診療】第16回

老年医学の名著「最不適者の生き残り」「よもぎ」は雑草と思われがちだが、実はハーブの女王とも呼ばれる。国内のいたるところで見られ、若芽は食用として餅に入れられることから、餅草とも呼ばれる。筆者にとってよもぎが、馴染みの深いのも実はこの餅にある。子供の頃、祖母に言われて道端のよもぎを摘んできて、よもぎ餅を一緒に作った記憶がある。この話を生物学に造詣の深いシステムエンジニアにした。にんまりと笑って言うには、子供の頃に私が摘んだものは道端の犬の小水がかかった汚いものだった可能性が高いと言う。「どうしてか? を観察すると散歩が楽しくなるかも」といった。そして分布ぶりから植物の生存競争の一端がわかるからと加えた。確かに色々な観察をした。最も記憶に残ったのは、背丈はたかだか1m以内とされるのに2mを超えるよもぎがあることだ。それらには共通性がある。ネット状フェンスや金属の柵にぴったり沿って生えていることだ。高い丈は子孫を伝えていく上で花粉が広く飛散しやすく有利だ。生物の生存競争では、最も環境に適した形質をもつ個体が生き残るとしたダーウィンの「適者生存」の法則が有名だ。よもぎの成長にとって重要な日光だが、フェンスや柵に寄り添ったよもぎは日陰に覆われる時なく十二分に太陽の光を浴びられる。もっと大切なのは風雨でも支えてもらえることだろう。さて「適者生存」と聞くと思い出すのが、“Survival of the unfittest”(最不適者生存の生き残り)1)という書である。これはイギリス老年医学の黎明期1972年にアイザック医師によってなされた著作である。私はこの書が出てから、10余年の後に留学先の図書館で読んだ。隅々まで頭にしみて、老年医学・医療が生まれた背景を理解できた気になれた。さまざまな背景により、高齢に至って多くのハンディキャップを背負った人がいかに生きていくか?そこで医者は何ができるかを問うた名著として読んだ。「生老病死」の「老」についての宗教観さえ感じた。初版時から50年以上が経過したが、その内容は日本における現状との違和感がない。それも残念だが…。ピック病とは限らない? 高齢者犯罪と疾患先頃、ある区役所の職員に連れ添われて60代初めの身寄りのない女性が来院した。記憶力はそう悪くないし、若い頃には窃盗歴などなかったのに、数ヵ月の間に万引きを重ね反省の色もなくおかしい。認知症があるのではないか調べて欲しいという。すぐにピック病を疑い、精査の結果でもピック病と確認した。1年に数人はこうした犯罪絡みの受診がある。認知症の犯罪となるとピック病と誰もが連想する。けれども、当院での経験では、意外なほどレビー小体型認知症が多い。この病気における意識・注意の変動や、てんかんの合併しやすさ、また認知機能の統合能低下などもあるのではないかと考えている。また認知症と並んで複雑部分発作などてんかん性の疾患が多い。裁判官にわかってもらう難しさ中には複数の犯罪を重ねて刑事裁判に至るケースもある。そこで意見書を求められると、「かくかくの認知症疾患があり、犯行当時の責任能力に影響を及ぼしたと推測される症状があったと考える」と書くことが多い。重度の認知症であれば、裁判官も本人と面接して、「ああこれでは」と思ってくれる。しかし軽度認知障害から軽度の認知症、それも前頭側頭型認知症だと難しい。というのは裁判官の世界では、精神神経疾患の犯罪とくると、統合失調症における放火や殺人事件に対する責任能力という古典的な命題が今も中核になっているのではと思えるからである。当方のケースは、統合失調症による幻覚や妄想に支配されてやってしまったかと分かるというレベルではない。長谷川式やMMSEは20点以上が多いから、裁判所における質問への理解力や発言、態度には不自然さがない。だから裁判官が私に向ける視線には、「これでも責任能力がないのですか?」と言いたげな気持ちがこもっている。8.5%で認知症性疾患罹患中に犯罪歴認知症患者における犯罪実態の系統的報告がある2)。研究対象は1999~2012年の間に認知症と診断され、米国の記憶・加齢センターで診察された2,397人の認知症患者である。米国、オーストラリア、スウェーデンの専門家により認知症性疾患と犯罪の関係が回顧的に調査された。全対象のうちの8.5%に認知症性疾患罹患中に犯罪歴があった。2,397人中の545人を占めたアルツハイマー病では犯罪率は7.4%であったのに対し、171人と総数では少ない前頭側頭型認知症における犯罪率は37.4%であった。この数字は本研究で調査対象となった5つの認知症性疾患の中で最多であった。この本報告は従来の小報告の結果を確認したと言える。さて米国における認知症の人の裁判状況は、私の経験とあまり違わないもののように思われる。と言うのは、本研究の結論として、「中年期以降に変性性の疾患と診断され、従来のその人らしさを失ってしまった患者に遭遇した医師は、その人が法的処罰の対象にならないように擁護に尽力すべきだ」と強調しているからである。終わりに。最近の生物界では、「適者生存」でなく「運者生存」が正しいとされるそうだ。フェンスの横におちたよもぎの種子は、まさにそれだろう。件の連続万引きの独居女性は、この事件のおかげで認知症がわかり、役所から手厚い支援が差し伸べられるようになったばかりか、不起訴にもなった。ある意味、幸運であった彼女は、“Survival of the unfittest”を実現したかなと考える。参考1)B. Isaacs, et al. Survival of the Unfittest: A Study of Geriatric Patients in Glasgow. Routledge and K. Paul;1972.2)Liljegren M, et al. JAMA Neurol. 2015 Mar;72:295-300.

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第102回 サル痘にも有効な「天然痘ワクチン」、国内備蓄の活用を検討

<先週の動き>1.サル痘にも有効な「天然痘ワクチン」、国内備蓄の活用を検討2.来年度から「マイナ保険証」義務化、健康保険証は原則廃止/厚労省3.後期高齢者の所得確認にもマイナ活用、プラットフォーム創設4.サイバー攻撃対策強化、職員向けセキュリティ研修が義務に/厚労省5.検査キット販売や看護師・薬剤師のタスクシェアなど、規制緩和を検討へ6.大麻取締法の改正について議論開始、医療ニーズへ対応/厚労省1.サル痘にも有効な「天然痘ワクチン」、国内備蓄の活用を検討欧米を中心に感染報告が相次いでいる感染症「サル痘」について、有効とされる天然痘ワクチンに注目が集まっており、すでに各国が確保に動き出している。後藤 茂之厚生労働相は27日の閣議後の記者会見で、わが国では以前からテロ対策を目的に天然痘ワクチンの生産・備蓄が行われており、政府がワクチンの活用方法について検討を進めていると述べた。世界保健機関(WHO)や国立感染症研究所などによると、サル痘は主にアフリカで流行する感染症で、発疹や発熱などの症状が出る。天然痘ワクチンには、サル痘の発症予防効果が約85%あるとされ、英国では感染が疑われる人への接種が進められている。現時点で国内での感染例はなく、後藤氏は「人から人への感染はまれとされている。国内外の発生動向を監視しつつ、必要な対応を講じる」と話した。(参考)サル痘とは?(ケアネット 患者説明用スライド)天然痘ワクチン「国内で備蓄」 サル痘にも有効―後藤厚労相(時事通信)サル痘に有効とされる天然痘ワクチン 日本も備蓄、活用方法を検討(毎日新聞)2.来年度から「マイナ保険証」義務化、健康保険証は原則廃止/厚労省厚生労働省は25日の社会保障審議会にて、健康保険証を原則廃止とし、2023年度からすべての医療機関・調剤薬局でマイナンバーカードと健康保険証を一体化した「マイナ保険証」の導入を義務付けることを決定した。政府によれば、オンライン資格確認に必要な顔認証付きカードリーダーの申し込みは約6割(約13万)の施設が済ませているが、運用を開始している施設は19%であり、マイナンバーカードによる資格確認の迅速な導入が求められている。2022年度上半期には導入の加速化が図られるよう集中的な取り組みを行い、未対応の施設は遅くとも9月頃までに顔認証付きカードリーダーの申し込みが必要とし、働きかけを行っていく。(参考)保険証「原則廃止」へ マイナンバーカードに一本化 政府検討(朝日新聞)マイナ保険証、病院に義務化 患者負担軽減も視野 厚労省検討(日経新聞)資料 オンライン資格確認等システムについて(厚労省)3.後期高齢者の所得確認にもマイナ活用、プラットフォーム創設政府が本年6月に取りまとめる経済財政運営方針「骨太の方針」に、75歳以上の後期高齢者の保険料の見直しについて、株式や配当などの金融所得も含めて勘案するため、マイナンバーカードを活用することが盛り込まれる。これによって、後期高齢者の医療費を支える現役世代の負担を軽減できる可能性がある。今後、金融資産がある高齢者の負担は増える見込みだ。このほか、「全国医療情報プラットフォーム」の創設を行い、電子カルテの診療情報やワクチン接種歴などを医療機関や自治体が共有し、患者が最適な治療を受けられるような情報基盤を作ることが決定した。災害時など、かかりつけ外の医療機関でも患者情報を確認し必要な治療の継続が可能になるほか、救急搬送された意識障害患者等の手術や薬剤情報等を確認することで、より適切で迅速な検査、診断、治療等の実施が可能となる。なお医療機関・薬局への情報共有は、個別に同意を得る仕組みを構築した後に運用を開始するとされ、2023年5月が目途。(参考)75歳以上保険料決定に「マイナンバー」活用も ”骨太の方針”原案判明(FNNプライムオンライン)医療情報、デジタル化で共有 プラットフォーム創設 骨太方針に明記(産経新聞)全国の医療機関で診療情報(レセプト・電子カルテ)を共有する仕組み、社保審・医療保険部会でも細部了承(Gem Med)4.サイバー攻撃対策強化、職員向けセキュリティ研修が義務に/厚労省近年、病院への大規模なサイバー攻撃がわが国でも増加していることを踏まえ、厚労省は27日に医療機関でのサイバーセキュリティ対策の方針を明らかにした。平時の医療機関での情報共有基盤として、医療版のISAC(Information Sharing and Analysis Center)を立ち上げてサイバーセキュリティのリスクマネジメントを強化支援する仕組みを確立するほか、脆弱性が指摘されている機器のアップデートや、医療従事者へのセキュリティ対策研修の充実を図る。診療録管理体制加算を算定する400床以上の医療機関には、年1回程度以上の職員向け情報セキュリティ研修の実施が求められる。(参考)医療機関へのサイバー攻撃対策、「ISAC」設立へ 200床未満の施設に「お助け隊」活用促進(CB news)病院に相次ぐサイバー攻撃 遅れる医療の防衛、日経調査 大規模3病院に侵入 3分の2でパスワード漏れも(日経新聞)医療分野のサイバーセキュリティ対策について(厚労省)5.検査キット販売や看護師・薬剤師のタスクシェアなど、規制緩和を検討へ岸田内閣の諮問機関である規制改革推進会議は、27日、政府に答申を提出した。5つの重点分野のうち、医療・介護・感染症対策として、オンライン診療の拡充により、自宅で受診・健康管理から薬剤・医薬品受け取りまでを可能とする方策や、薬剤師による調剤業務の一部外部委託を可能とする検討のほか、薬局での抗原定性検査キット販売の完全解禁などを求めている。また今後、介護需要増加に伴い人手不足が見込まれる介護施設での人員配置基準の緩和や、薬剤師による看護業務のタスクシェアのほか、機械学習を行うプログラム医療機器(SaMD)のアップデート時の審査の省略・簡略化についても検討を求めている。(参考)オンライン診療拡充、抗原キット薬局販売…規制改革推進会議が答申取りまとめ(読売新聞)国承認コロナ検査キット ネットでなぜ買えない? 政府見直し議論へ(朝日新聞)医療改革、スピード不可欠 規制改革会議が答申 看護、薬剤師が分担/介護人員を変更(日経新聞)6.大麻取締法の改正について議論開始、医療ニーズへ対応/厚労省厚労省は、大麻の規制について検討する委員会を25日新たに立ち上げた。2021年6月に出された「大麻等の薬物対策のあり方検討会」の取りまとめを踏まえ、大麻取締法、麻薬及び向精神薬取締法改正に向けて、議論を開始する。米国やG7諸国で承認されている大麻から製造された難治性のてんかん治療薬の事例等を参考に、医療ニーズへの対応や適切な利用を推進するとともに、大麻事犯の検挙人員が7年連続で増加していることを鑑みて大麻使用罪を創設するなど、不適切な大麻利用・乱用に対しても対応していく。(参考)大麻の「使用罪」導入の方向で議論 厚労省の新たな小委員会がスタート(BuzzFeed)第1回 厚生科学審議会医薬品医療機器制度部会大麻規制検討小委員会 資料

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認知症かてんかんか、診察時のポイント【コロナ時代の認知症診療】第15回

てんかん」についての認識ギャップ普通の人にとって、アルツハイマー病が高齢者の病気なら、てんかんは子供の病気だというのはいわば常識のようだ。またてんかんとけいれんは同義語だと思っている人は多いようだ。だから、「実はてんかんは高齢者に一番多い」と説明すると驚く人がほとんどである。さらに、「多くの高齢者てんかんでは、けいれんがみられない」と言うと「それ、本当!?」という反応が普通である。確かに小児期のてんかんも多いが、ご存じのように初老期以降に、てんかんの発症率も有病率も増加する。この様子を仮に図示するなら右に引っ張り上げられたU字型になる。さて初老期以降のてんかんでは、複雑部分発作が多い。多くは数十秒から数分の発作が起こり、普通は1時間以内のもうろう状態が続いてから元に戻る。その後で健忘を残す。ところがいずれのステージにおいても、多くはけいれんがみられない。しかも歩いたり食べたりは勿論、自転車やバイクの運転までできてしまうこともある。それだけに普通の人がてんかんだと思いもしないのも当然かもしれない。どうもこのような人では、認知症を疑われて、もの忘れ外来を受診する例が少なくない。というのは、本人にも周囲の人にも健忘が主症状だからである。つまり発作中とその後の記憶がないのはある意味当然だ。まわりの人には、「心ここにあらずの虚ろな目でおかしなことをしていた」などと映るが、後からそう言われても本人の記憶はまさにプッツンしている。だから周囲は、「これはボケの症状だな?」とみなすので、もの忘れ外来受診につながるようだ。認知症?てんかん?鑑別のポイントさて診察の場で、てんかんを疑うポイントがある。多いのはこのプッツン体験、つまりどうにもつながらない時間があるので、ここに強いこだわりと不安を訴えられるケースである。次に発作中でも動けるので、とんでもないことをやってしまうこともある。だがそんな自分が信じられない、「なぜこの私がこんなことを」と強い自責を示す方がある。筆者の記憶に残るのは、社長の実印を発作中に机の下のごみ箱に捨ててしまい、会社を上げて大騒ぎになった例である。類似例では、スーパーでの買い物の際に、てんかんを生じたためレジを通らずに商品を籠に入れたまま店を出ようとして警察沙汰になった例もある。この例では、取り調べに「どうしても自分が万引きしたとは思えない」と断固否定し続けたので受診に至ったのである。やっかいなのは、エピソディックな健忘事件だけでなく、「この頃、ずっと記憶が良くない」と述べる例が少なくないことである。確かに認知症にてんかんが合併と診断することもある。しかし「サブクリニカルな発作がしばしば起きているのだな」と考える例が多い。サブクリニカルというのは、第3者におかしいと思われるレベルではないし、本人もプッツンしたとは思わないのだが、脳内で軽度の異常放電が生じている状態という意味である。脳内でこうした異常放電を生じていれば、記憶をインプット(記銘)してもおそらく歩留まりは低下すると思われる。以上のような症状を、「プッツンのときは何の記憶もないし、普段でも記憶力は以前の80~90%程度に落ちた」と簡潔に表現した当事者がある。なおこうした方の脳波検査に際して、棘波のような診断的意味のある所見は必ずしも得られないことに注意が求められる。最終的にてんかんありの診断をして、抗てんかん薬により改善した症例において初回脳波検査で異常を捉えられる確率はせいぜい50%程度かなという個人的な印象がある。症状の多くは抗てんかん薬で改善する、ただし注意点もさて高齢になって初発するてんかんの背景には、老化と関連する諸要因、とくに脳神経学的な問題、例えば動脈硬化や脳出血・梗塞、脳外傷や認知症があると言われる。どれくらいてんかんが多くなるかについて、ナーシングホームの高齢者では在宅高齢者の7倍以上だが、これに神経学的な異常が重なると7~30倍にまだ高まるとした最近のレビューがある1)。自験例では、レビー小体型認知症、次いでアルツハイマー病の前駆期から初期に初発した人の割合がかなり高いという認識がある。なおてんかん症状の多くは抗てんかん薬で改善し、プッツンも80~90%程度におちた記憶も改善する。だから職場で上司から「見違える、蘇った」という称賛をもらう人も少なくない。もっとも認知症が基盤にある人では、緩徐に認知障害は進行していくようだ。終わりに抗てんかん薬の副作用への注意は言うまでもない。それらの中で最も注意が必要なのは、致命的な可能性もある皮膚疾患スティーブンス・ジョンソン症候群(Stevens-Johnson症候群)だろう。100万人に数人とされるが、指定難病として医療費助成制度もあるだけに、いかなる抗てんかん薬であっても油断は禁物である。参考1)Birnbaum AK,et al. Neurology. 2017 Feb 21;88:750-757.

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自閉スペクトラム症の感情調整や過敏性に対する薬理学的介入の有効性~メタ解析

 感情調節不全や過敏性は、自閉スペクトラム症(ASD)でよくみられる症状である。英国・キングス・カレッジ・ロンドンのGonzalo Salazar de Pablo氏らは、ASDの感情調節不全や過敏性に対する薬理学的介入の有効性および治療反応の予測因子を評価する、初めてのメタ解析を実施した。その結果、いくつかの薬理学的介入(とくにアリピプラゾールとリスペリドン)は、ASD患者の感情調節不全や過敏性の短期的治療に有効であることが証明されており、忍容性プロファイルと家族の考えなども考慮し、複数の形式による治療を計画するうえで検討すべきであると報告した。Journal of the American Academy of Child and Adolescent Psychiatry誌オンライン版2022年4月22日号の報告。 プロトコルに従い、複数のデータベースより2021年1月1日までの研究をシステマティックに検索した。プラセボ対照ランダム化比較試験(RCT)を抽出し、感情調節不全や過敏性に対する薬理学的介入の有効性および治療反応の予測因子を評価した。Q検定を用いた不均一性および出版バイアスを評価した。主要エフェクトサイズは、標準化平均差(SMD)とした。研究の質の評価には、コクランのバイアスリスクツール(RoB2)を用いた。 主な結果は以下のとおり。・ASD患者2,856例を含む45件の研究が分析に含まれた。26.7%のRCTは、バイアスリスクが高かった。・抗精神病薬(SMD:1.028、95%CI:0.824~1.232)およびADHDに適応を有する薬物療法(SMD:0.471、95%CI:0.061~0.881)は、プラセボと比較し、感情調節不全や過敏性に対し有意な改善が認められたが、他の薬剤クラスでは認められなかった(p>0.05)。・各薬剤についての評価では、アリピプラゾール(SMD:1.179、95%CI:0.838~1.520)とリスペリドン(SMD:1.074、95%CI:0.818~1.331)の有効性が示唆された。・てんかん発症率の増加(β=-0.049、p=0.026)は、有効性の低下と関連していた。

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英語で「違法薬物」は?【1分★医療英語】第19回

第19回 英語で「違法薬物」は?Do you use any recreational drugs?(娯楽目的の薬物を使っていますか?)I’ve never use them.(一度も使ったことがありません)《例文1》Do you take any medications or drugs for recreational purposes?(医薬品や薬物を娯楽目的で使用していますか?)《例文2》This patient has a history of recreational drug-induced seizure.(この患者は薬物使用によるてんかんの病歴があります)《解説》米国での臨床においては、すべての患者さんに、違法かどうかにかかわらず娯楽目的で医薬品や薬物を使用しているかを確認しています。その際、薬物の種類が限定的にならないよう、“For example, medications that have not been prescribed to you, or any street drugs.”(たとえば、処方されていない薬やストリート・ドラッグなどのことです)と付け加えます。私が住むカリフォルニア州では、娯楽用途のマリフアナ使用は認められているため、マリフアナについては処方薬や違法薬物とは別に「タバコを吸いますか?」という質問の流れで「マリフアナを吸ったり食べたりしますか?」と聞くようになりました。一方で、オピオイド中毒も深刻な問題となっており、「痛み止め等の薬を服用していますか?」という点も念入りに確認します。おまけの知識として、薬は“medication”や“drug”ですが、今回の会話例のように“drug”は使い方次第では、「違法・娯楽薬物」を連想させることがあります。日本語の場合も「薬」と「ドラッグ」では、ニュアンスが少し違いますよね。「~の薬を飲んでいる」という表現は、前置詞の“on”を使って、“I’m on antihypertensive medication.”(高血圧の薬を飲んでいます)となりますが、“What drug are you on?”(何の薬を飲んでいるのですか?)という表現にすると、“on”と“drug”の組み合わせによって、「何の(違法・娯楽)薬物を使っているの?」というニュアンスにも聞こえるので、私は仕事においては“drug”より“medication”を多く使います。ただ、医療現場では“drug”もよく使われており、多くの場合、問題は生じていません。講師紹介

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心停止後昏睡、抗けいれん治療併用で転帰改善は?/NEJM

 心停止後昏睡患者において、律動的および周期的な脳波活動を48時間以上抑制する抗けいれん治療を標準治療に併用しても、標準治療のみと比較して3ヵ月後の神経学的アウトカム不良の割合に有意差は認められないことが、オランダ・トゥウェンテ大学のBarry J. Ruijter氏らが実施した医師主導型無作為化非盲検(評価者盲検)臨床試験「TELSTAR試験」の結果、示された。心停止後昏睡患者において、律動的および周期性の脳波パターンを治療することにより転帰が改善するかどうかは明らかになっていなかった。NEJM誌2022年2月24日号掲載の報告。律動的/周期的な脳波活動を認める心停止後昏睡患者を対象に 研究グループは、心停止後昏睡状態で律動的および周期的な脳波活動が認められた18歳以上の患者を、標準治療のみ(対照群)と、標準治療に加えて抗けいれん治療によりこの脳波活動を48時間以上抑制する段階的戦略を併用する群(抗けいれん治療群)に、1対1の割合で無作為に割り付け検討した。両群とも、標準治療には体温管理療法が含まれた。抗けいれん治療は、てんかん重積状態の治療に関する国際ガイドラインに基づいて行った。 主要評価項目は、3ヵ月後の脳機能カテゴリー(CPC)スケールのスコアに基づく神経学的アウトカムとし、アウトカム良好(CPCスコア:障害なし、軽度障害、中等度障害)またはアウトカム不良(CPCスコア:高度障害、昏睡、死亡)に分類した。副次評価項目は、死亡率、集中治療室(ICU)在室期間、および人工呼吸管理期間であった。3ヵ月後の神経学的アウトカム不良は90% vs.92%、死亡率は80% vs.82% 2014年5月1日~2021年1月24日の間に、172例が登録され、88例が抗けいれん治療群、84例が対照群に無作為化された。心停止後、中央値で35時間後に律動的/周期的な脳波活動が検出され、データが得られた157例中98例(62%)にミオクローヌスが認められた。 48時間連続して律動的/周期的な脳波活動が完全に抑制された患者の割合は、抗けいれん治療群56%(49/88例)、対照群2%(2/83例)であった。 3ヵ月後の神経学的アウトカム不良の患者の割合は、抗けいれん治療群90%(79/88例)、対照群92%(77/84例)(群間差:2%、95%CI:-7~11、p=0.68)、3ヵ月死亡率はそれぞれ80%および82%であった。 ICU在室期間および人工呼吸管理期間の平均値は、抗けいれん治療群が対照群よりわずかに長かった。

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抗CGRP抗体フレマネズマブの患者満足度調査

 米国・アルベルトアインシュタイン医科大学のDawn C. Buse氏らは、片頭痛に対する抗CGRP抗体フレマネズマブの長期的(52週間)な安全性および有効性を評価するために実施された延長試験を完了し、フォローアップ調査に同意した患者を対象に、フレマネズマブに対する満足度、好み、患者報告アウトカムの評価を行った。The Journal of Headache and Pain誌2020年9月4日号の報告。 延長試験では、片頭痛患者1,842例がフレマネズマブ四半期ごと投与群または月1回投与群にランダム化された。積極的な治療完了後、患者の満足度、治療および投薬の好み、患者報告アウトカムの変化を調査票を用いて評価した。 主な結果は以下のとおり。・延長試験を完了した患者557例中302例が調査に同意し、253例が調査を完了した。・フレマネズマブの平均満足度は、6.1±1.4(非常に不満:1~非常に満足:7で評価)であった。・多くの患者(175例、69.2%)は、フレマネズマブ月1回投与よりも、四半期ごと投与を好んでいた。・抗てんかん薬を使用している患者(130例)のうち、91.5%がフレマネズマブを好んでいた。・フレマネズマブ投与により、不安(74例、67.9%)、睡眠の質(143例、56.5%)、他者と過ごす時間の質(210例、83.0%)が改善したと報告された。 著者らは「片頭痛患者に対するフレマネズマブ投与は、満足度が高く、多くの患者は四半期ごと投与を好んでいた。また、フレマネズマブは、これまでの予防薬よりも好まれていた」としている。

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熱が上がったのは抗てんかん薬のせい?【ママに聞いてみよう(6)】

ママに聞いてみよう(6)熱が上がったのは抗てんかん薬のせい?講師:堀 美智子氏 / 医薬情報研究所 (株)エス・アイ・シー取締役、日本女性薬局経営者の会 会長動画解説一部の抗てんかん薬にみられる体温上昇の副作用。一般的な発熱と同じ対処をしてしまうと、症状を悪化させてしまう可能性があります。発生の機序と適切な対処法を押さえましょう。

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日本人の統合失調症、うつ病入院患者に対する睡眠薬の使用状況

 京都大学の降籏 隆二氏らは、統合失調症およびうつ病の入院患者に対する睡眠薬の使用率と睡眠薬と抗精神病薬使用との関連について調査を行った。Sleep Medicine誌オンライン版2021年11月22日号の報告。 全国の精神科病院200施設以上が参加する「精神科医療の普及と教育に対するガイドラインの効果に関する研究」(EGUIDEプロジェクト)の一環として、全国横断的研究を実施した。統合失調症入院患者2,146例とうつ病入院患者1,031例のデータを分析した。すべての向精神薬の投与量を記録し、退院時のデータを分析した。睡眠薬と抗精神病薬使用との関連を評価するため、多変量ロジスティック回帰分析を用いた。 主な結果は以下のとおり。・睡眠薬を単剤または2剤以上で使用していた患者の割合は、それぞれ以下のとおりであった。 ●統合失調症入院患者:睡眠薬単剤療法55.7%、併用療法17.6% ●うつ病入院患者:睡眠薬単剤療法63.6%、併用療法22.6%・多変量ロジスティック回帰分析では、統合失調症入院患者における睡眠薬使用と正の関連が認められた因子は、2種類以上の抗精神病薬の使用および抗コリン作用薬、抗不安薬、気分安定薬、抗てんかん薬の使用であった。・うつ病入院患者では、2種類以上の抗うつ薬、抗精神病薬の使用および抗不安薬、気分安定薬、抗てんかん薬の使用と睡眠薬使用との間に正の関連が認められた。 著者らは「睡眠薬の使用は、精神疾患を有する入院患者において、頻繁に認められることが明らかであった。統合失調症およびうつ病の入院患者のいずれにおいても、抗精神病薬の併用療法は、睡眠薬使用に影響を及ぼすことが示唆された」としている。

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痙攣を伴わないてんかん重積―NCSE【知って得する!?医療略語】第4回

第4回 痙攣を伴わないてんかん重積―NCSEてんかん重積状態を表す表現の1つに、「NCSE」があると聞きました。どういう病態ですか、教えて下さい!NCSEは「nonconvulsive status epilepticus」から生まれた略語で「非痙攣性てんかん重積状態」を意味します。てんかん重積というと、全身痙攣が持続するイメージが強いですが、意識障害のみのてんかん重積がNCSEです。原因不明の意識障害では、NCSEの可能性をしっかり鑑別しましょうね。≪医療略語アプリ「ポケットブレイン」より≫【略語】NCSE【日本語】非痙攣性てんかん重積状態【英字】nonconvulsive status epilepticus【分野】脳神経【診療科】脳神経外科【関連】痙攣性てんかん重積状態 (CSE:convulsive status epilepticus)、全身痙攣重積状態(GCSE:generalized convulsive status epilepticus)実際のアプリの検索画面はこちら※「ポケットブレイン」は医療略語を読み解くためのもので、略語の使用を促すものではありません。意識障害の鑑別にAIUEOTIPSが有名となり、意識障害の鑑別に「E:epilepsy(てんかん)を想定することは浸透していると思います。しかし、あえて、いま一度、NCSEを取り上げるのは、NCSEが高齢者に発症しやすいため、神経内科や救急に携わる医師だけではなく、高齢者診療に関わる医療者の皆さまと、「“意識障害のみ”のてんかん重積発作」が存在することを改めて共有したかったからです。てんかん重積状態と言えば、痙攣発作を伴う意識障害のイメージが先行しがちです。しかし、全身性の痙攣を伴なわず、意識障害しか症状を呈さない非痙攣性てんかん重積状態(NCSE:nonconvulsive epilepticus)が存在します。このため「てんかん=痙攣する」という疾患イメージに縛られてしまうと、NCSEを見落とし、診断と治療が遅れてしまう可能性があります。2008年に吉村 元氏らは94例のてんかん重積患者(15歳以上)の検討を行いました。その報告によれば、てんかん重積の25.5%がNCSEでした。さらに、入院後に痙攣性てんかん重積状態(CSE:convulsive status epileptics)からNCSEに移行した8例を加えると34%がNCSEでした。この知見を踏まえると、痙攣性てんかん重積の治療において留意したいのは「痙攣の停止=てんかん発作の終了」ではないことです。痙攣は止まっても脳の中ではてんかん波が持続し、NCSEに移行している可能性があります。上述の報告によれば、原因不明の意識障害の患者さんには、繰り返し脳波検査を施行しており、積極的かつ繰り返しの脳波検査の必要性がうかがえます。さらに、同報告では予後に関する調査もされており、多変量解析の結果、NCSEが独立した予後不良因子であることも指摘されています。2016年には貴島 晴彦氏らがNCSEの病態と治療について総説をまとめており、その中でNCSEの症状の多彩性と原因疾患の幅広さが述べられています。また、同論文ではNCSE診断におけるビデオ脳波持続モニタリングの有効性に触れています。成人発症てんかん重積は60歳以上に多く、高齢者人口の増加に伴い、その発症頻度の増加が予測されています。高齢者の原因不明の意識障害では、NCSEをしっかり鑑別に想起し、早期診断・治療の観点から、積極的な脳波検査と原因疾患の検索が必要と考えます。1)吉村 元ほか.臨床神経. 2008;48:242-248.2)貴島 晴彦ほか. 脳神経外科ジャーナル. 2016;25:229-235.3)松島 一士ほか. 日本神経救急学会雑誌. 2015;27:53-55.

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治療抵抗性うつ病への薬理学的増強戦略~包括レビュー

 治療抵抗性うつ病(TRD)は、治療転帰不良であることは言うまでもないが、最良の薬理学的増強戦略にどの抗うつ薬を用いるべきかに関するエビデンスは十分ではない。イタリア・Azienda Socio Sanitaria Territoriale MonzaのAlice Caldiroli氏らは、TRDに対する抗うつ薬の薬理学的増強療法に関するエビデンスを包括的にレビューした。International Journal of Molecular Sciences誌2021年12月2日号の報告。 TRDに対する抗うつ薬の薬理学的増強療法に関する利用可能なエビデンスを特定するため、主要な精神医学データベース(PubMed、ISI Web of Knowledge、PsychInfo)より検索を行った。TRDに対する薬理学的増強療法を主なトピックスとし、TRDの明確な定義が記載されている英語論文を抽出した。 主な結果は以下のとおり。・最も研究されていた薬剤は、アリピプラゾールとリチウムであった。・有効性に関して、最も強力なエビデンスが示された薬剤は、アリピプラゾールであった。・オランザピン、クエチアピン、cariprazine、リスペリドン、ziprasidoneは、良好な結果が認められたが、その程度は低かった。・ブレクスピプラゾール、esketamine点鼻薬については、実臨床でのさらなる研究が求められる。・ケタミン静脈内投与は、短期的な抗うつ効果が認められた。・補助的な治療薬(抗てんかん薬、神経刺激薬、プラミペキソール、ロピニロール、アスピリン、メチラポン、レセルピン、テストステロン、T3/T4、naltrexone、SAM-e、亜鉛)の有効性に関するエビデンスは限られており、その有効性を正確に推定することは困難であった。・ラモトリギン、ピンドロールに関するエビデンスは、否定的なものであった。 著者らは「リチウムに関するデータは多少の議論の余地があるものの、TRD患者に対する効果的な増強療法として、アリピプラゾールとリチウムが有効であることが示唆された。他の薬剤については、信頼できる結論を導き出すことができなかった。これらの結果を明らかにするためには、標準化されたデザイン、用量、治療期間を用いて制御された比較研究が必要であろう」としている。

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特発性基底核石灰化症〔IBGC:idiopathic basal ganglia calcification〕

1 疾患概要■ 概念・定義特発性基底核石灰化症(idiopathic basal ganglia calcification:IBGC)は従来、ファール病と呼ばれた疾患で、歴史的にも40近い疾患名が使われてきた経緯がある。欧米では主にprimary familial brain calcification(PFBC)の名称が用いられることが多い。基本は、脳内(両側の大脳基底核、小脳歯状核など)に生理的な範囲を超える石灰化を認める(図1)、その原因となる生化学的異常や脳内石灰化を来す基礎疾患がないことである。最近10年間で、原因遺伝子として、4つの常染色体優性(AD)遺伝子(SLC20A21)、PDGFRB2)、PDGFB3)、XPR14))、2つの常染色体劣性(AR)遺伝子(MYORG5)、JAM26))が報告された。日本神経学会で承認された診断基準が学会のホームページに公開されている(表)。図1  IBGCの典型的な頭部CT画像画像を拡大する69歳・男性。歯状核を中心とした小脳、両側の大脳基底核に加え、視床、大脳白質深部、大脳皮質脳回谷部などに広範な石灰化を認める。表 特発性基底核石灰化症診断基準<診断基準>1.頭部CT上、両側基底核を含む病的な石灰化を認める。脳以外には病的な石灰化を認めないのが特徴である。病的とする定義は、大きさとして斑状(長径で10mm以上のものを班状、10mmm未満は点状)以上のものか、あるいは点状の両側基底核石灰化に加えて小脳歯状核、視床、大脳皮質脳回谷部、大脳白質深部などに石灰化を認めるものと定義する。注1高齢者において生理的石灰化と思われるものは除く。注2石灰化の大きさによらず、原因遺伝子が判明したものや、家族性で類似の石灰化を来すものは病的石灰化と考える。2.下記に示すような脳内石灰化を二次的に来す疾患が除外できる。主なものとして、副甲状腺疾患(血清カルシウム(Ca)、無機リン(Pi)、iPTHが異常値)、偽性副甲状腺機能低下症(血清Ca低値)、偽性偽性副甲状腺機能低下症(Albright骨異栄養症)、コケイン(Cockayne)症候群、ミトコンドリア病、エカルディ・グティエール(Aicardi Goutieres)症候群、ダウン(Down)症候群、膠原病、血管炎、感染(HIV脳症など、EBウイルス感染症など)、中毒・外傷・放射線治療などを除外する。注1iPTH:intact parathyroid hormone インタクト副甲状腺ホルモン注2小児例では、上記のような先天代謝異常症に伴う脳内石灰化である可能性も推測され、全ゲノム解析などの遺伝子検索が望まれる。3.下記に示すような 緩徐進行性の精神・神経症状を呈する。頭痛、精神症状(脱抑制症状、アルコール依存症など)、てんかん、精神発達遅延、認知症、パーキンソニズム、不随意運動(PKDなど)、小脳症状などの精神・神経症状 がある。注1PKD:paroxysmal kinesigenic dyskinesia 発作性運動誘発性ジスキネジア注2無症状と思われる若年者でも、問診などにより、しばしば上記の症状を認めることがある。神経学的所見で軽度の運動機能障害(スキップができないなど)を認めることもある。4.遺伝子診断これまでに報告されているIBGCの原因遺伝子は常染色体優性遺伝形式ではSLC20A2、PDGFRB、PDGFB、XPR1、常染色体劣性遺伝形式ではMYORG、JAM2があり、これらに変異を認めるもの。5.病理学的所見病理学的に脳内に病的な石灰化を認め、DNTCを含む他の変性疾患、外傷、感染症、ミトコンドリア病などの代謝性疾患などが除外できるもの。注1 DNTC:Diffuse neurofibrillary tangles with calcification(別名、小阪-柴山病)この疾患の確定診断は病理学的診断であり、生前には臨床的にIBGCとの鑑別に苦慮する。●診断Definite1、2、3、4を満たすもの。1、2、3、5を満たすもの。Probable1、2、3を満たすもの。Possible1、2を満たすもの。日本神経学会ホームページ掲載のものに、下線を修正、追加(改訂申請中)してある。■ 疫学2011年に厚生労働省の支援により本症の研究班が立ち上がった。研究班に登録されている症例は、2021年現在で、家族例が40家系、孤発例が約200例である。症例の中には、頭部外傷などの際に撮影した頭部CT検査で偶発的にみつかったものもあり、実際にはこの数倍の症例は存在すると推定される。■ 病因2012年に中国から、IBGCの原因遺伝子としてリン酸トランスポーターであるPiT2をコードするSLC20A2の変異がみつかったことを契機に、上記のように4つの常染色体優性遺伝子と2つの常染色体劣性遺伝子が連続して報告されている。また、症例の中には、過去に全身性エリテマトーデス(SLE)の既往のある症例、腎透析を受けている症例もあり、2次性とも考えられるが、腎透析を受けている症例すべてが著明な脳内石灰化を呈するわけではなく、疾患感受性遺伝子の存在も示唆される。感染症も含めた基礎疾患の関与によるもの、外傷、薬剤、放射線など外的環境因子の作用も推測される。原因遺伝子がコードする分子の機能から、リン酸ホメオスタシスの異常、また、周皮細胞、血管内皮細胞とアストロサイトの関係を基軸とした脳血管関門の破綻がこの石灰化の病態、疾患の発症機構の基盤にあると考えられる。■ 症状症状は中枢神経系に限局するものである。無症状からパーキンソン症状など錐体外路症状、小脳症状、精神症状(前頭葉症状など)、認知症を来す症例まで極めて多様性がある。発症年齢も30~60歳と幅がある。自験例の全202例の検討では、パーキンソニズムが26%、認知機能低下26%、精神症状21%、てんかん14%、不随意運動4%であった7)。不随意運動の内訳はジストニアが4例、ジスキネジアが2例、発作性運動誘発性ジスキネジア(Paroxysmal kinesigenic dyskinesia:PKD)が2例であった。わが国では諸外国と比して、不随意運動の頻度が低かった8)。必ずしも遺伝子変異によって特徴的臨床所見があるわけではない。国内外でもSLC20A2遺伝子変異患者ではパーキンソニズムが最も多く、PDGFB遺伝子変異では頭痛が多く報告されている。筆者らの検索でも、PDGFB変異患者では頭痛の訴えが多く、患者の語りによる質的研究でも、QOLを低下させている一番の原因であった。PKDはSLC20A2遺伝子変異患者で多く報告されている。筆者らはIBGC患者、とくにSLC20A2変異患者の髄液中の無機リン(Pi、リン酸)が高いことを報告している9)。頭部CT画像にも各遺伝子変異に特徴的な画像所見はないが、JAM2遺伝子変異では、他ではあまりみられない橋などの脳幹に石灰化がみられることがある。■ 分類原因遺伝子によって分類される。遺伝子の検索がなされた家族例(FIBGC)では、40%がSLC20A2変異10)、10%がPBGFB変異11)で、他XPR-1変異が1家系、PDGFRB変異疑いが1家系で、この頻度は国内外でほぼ一致している。■ 予後緩徐進行性の経過を示すが、症状も多彩であり、詳しい予後、自然歴を調べた論文はない。石灰化の進行を評価するスケール(total calcification score:TCS)を用いて、遺伝子変異では、PDGFRB、PDGFB、SLC20A2の順で石灰化の進行が速く、さらに男性、高齢、男性でその進行速度が速くなるという報告がある12)。原因遺伝子、二次的な要因によっても、脳内石灰化の進行や予後は変わってくると推定される。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)基本的には原因不明の脳内に限った石灰化症である。National Center for Biotechnology Information(NCBI)には、以下のPFBCの診断基準が挙げられている。(1)進行性の神経症状(2)両側性の基底核石灰化(3)生化学異常がない(4)感染、中毒、外傷の2次的原因がない(5)常染色体優性遺伝の家族歴がある常染色体優性遺伝形式の原因遺伝子として、すでにSLC20A2、PDGFB、PDGFRB、XPR1の4遺伝子が報告され、現在、常染色体劣性遺伝形式の原因遺伝子MYORG、JAM2がみつかってきており、上記の(5)は改訂が必要である。わが国では孤発例の症例も多く、疾患の名称に関する課題はあるが、診断は前述の「日本神経学会承認の診断基準」に準拠するのが良いと考える(上表)。鑑別診断では、主なものとして、副甲状腺疾患(血清カルシウム、Pi、iPTHが異常値)、偽性副甲状腺機能低下症(血清カルシウム低値)、偽性偽性副甲状腺機能低下症(オルブライト骨異栄養症)、コケイン症候群、ミトコンドリア脳筋症(MELASなど)、エカルディ・グティエール症候群(AGS)、ダウン症候群、膠原病、血管炎、感染(HIV脳症など、EBウイルス感染症など)、中毒・外傷・放射線治療などを除外する。IBGCの頭部CT画像は、タツノオトシゴ状、勾玉状などきれいな石灰化像を呈することが多いが、感染症後などの二次性の場合は、散発した乱れた石灰化像を呈することが多い。後述のDNTCの病理報告例の頭部CT所見は、斑状あるいは点状の石灰化である。IBGCは小児期、青年期は大方、症状は健常である。小児例では、AGSを始め、多くは何らかの先天代謝異常に伴う脳内石灰化症、脳炎後など主に二次性の脳内石灰化症が示唆されることが多い。今後の病態解明のためには、とくに家族例、いとこ婚などの血族結婚の症例を含め、エクソーム解析や全ゲノム解析などの遺伝子検索が望まれる。高齢者の場合は、淡蒼球の生理的石灰化、また、初老期以降で認知症を呈する“石灰沈着を伴うびまん性神経原線維変化病”(diffuse neurofibrillary tangles with calcification:DNTC、別名「小阪・柴山病」)が鑑別に上がる。DNTCの確定診断は、病理学的所見に基づく。しかし、最近10年間の班研究で調べた中ではDNTCと病理所見も含めて診断しえた症例はなかった。脳内石灰化をみた場合の診断の流れを図2に提示する。図2 脳内石灰化の診断のフローチャート画像を拡大する脳内に石灰化をみた場合のフローチャートを示す。今後、病態機構によって、漸次、更新されるものである。全体をPFBCとして包括するには無理がある。名称として現在は、二次性のものを除外して、全体をPBCとしてまとめておくのが良いと考える。【略号】(DNTC:Diffuse neurofibrillary tangles with calcification、FIBGC:Familial Idiopathic Basal Ganglia Calcification、IBGC:Idiopathic Basal Ganglia Calcification、PBC:Primary Brain Calcification)3 治療 (治験中・研究中のものも含む)根本的な治療法はまだみつかっていない。遺伝子変異を認めた患者の疾患特異的iPS細胞を用いて、PiT2、PDGFを基軸に創薬の研究を進めている。対症療法ではあるが、不随意運動や精神症状にクエチアピンなど抗精神病薬が用いられている。また、病理学的にもパーキンソン病を合併する症例があり、抗パーキンソン病薬が効果を認め、また、PKCではカルバマゼピンが効果を認めている。4 今後の展望中国からAR遺伝形式の原因遺伝子MYORG、JAM2が見出され、今後さらなるARの遺伝子がみつかる可能性がある。また、疾患感受異性遺伝子、環境因子の関与も想定される。IBGC、とくにSLC20A2変異症例では根底にリン酸ホメオスタシスの異常があることがわかってきた。ここ数年で、Pi代謝に関する研究が大いに進み、生体におけるPi代謝にはFGF23が中心的役割を果たす一方、石灰化にはリン酸とピロリン酸(二リン酸, pyrophosphate:PP)の比が重要である指摘やイノシトールピロリン酸 (inositol pyrophosphate:IP-PP)が生体内のリン酸代謝に重要であることが注目されている。最近では細胞内のPiレベルの調節にはイノシトールポリリン酸 (inositol polyphosphate: InsPs)、その代謝にはイノシトール-ヘキサキスリン酸キナーゼ、(inositol-hexakisphospate kinase:IP6K)がとくに重要で、InsP8が細胞内の重要なシグナル分子として働き、細胞内Pi濃度を制御するという報告がある。また、SLC20A2-XPR1が基軸となって、クロストークを起こすことによって、細胞内のPiやAPTのレベルを維持する作用があることも明らかとなってきた。生体内、細胞内でのPi代謝の解明が大きく進展している。5 主たる診療科脳神経内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。IBGCでは通常は小児期には症状を呈さない。小児期における脳内石灰化の鑑別では小児神経内科医へのコンサルトが必要である。精神発達遅滞を呈する症例あり、脳内石灰化の視点から、多くの鑑別すべき先天代謝異常症がある。とくに、MELAS、AGS、副甲状腺関連疾患、コケイン症候群、Beta-propeller protein-associated Neurodegeneration (BPAN、 SENDA)などは重要である。また、家族例では、IRUD-P(Initiative on Rare and Undiagnosed Diseases in Pediatrics:小児希少・未診断疾患イニシアチブ)などを活用したエクソーム解析や全ゲノム解析などの遺伝子解析が望まれる。   そのほか、症例の中には、統合失調症様や躁病などの精神症状が前景となる症例もある。これらはある一群を呈するかは今後の課題であるが、精神科医との連携が必要なケースもまれならずある。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報日本神経学会診断基準(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)NCBI GeneReviews Primary Familial Brain Calcification Ramos EM, Oliveira J, Sobrido MJ, et al. 2004 Apr 18 [Updated 2017 Aug 24].(海外におけるPFBCの解説、医療従事者向けのまとまった情報)●謝辞本疾患の研究は、神経変性疾患領域の基盤的調査研究(20FC1049)、新学術領域(JP19H05767A02)の研究助成によってなされた。本稿の執筆にあたり、貴重なご意見をいただいた岐阜大学脳神経内科 下畑 享良先生、林 祐一先生、国際医療福祉大学 ゲノム医学研究所 田中 真生先生に深謝申し上げます。1)Wang C, et al. Nat Genet. 2012;44:254–256.2)Nicolas G, et al. Neurology. 2013;80:181-187.3)Keller A, et al. Nat Genet. 2013;45:1077-1082.4)Legati A, et al. Nat Genet. 2015;47:579-581.5)Yao XP et al. Neuron. 2018;98:1116-1123. 6)Cen Z, et al. Brain. 2020;143:491-502.7)山田 恵ほか. 臨床神経. 2014;54:S66.8)山田 恵ほか. 脳神経内科. 2020;92:56-62.9)Hozumi I, et al. J Neurol Sci. 2018;388:150-154.10)Yamada M, et al. Neurology. 2014;82:705-712.11)Sekine SI, et al. Sci Rep. 2019;9:5698.12)Nicolas G, et al. Am J Med Genet B Neuropsychiatr Genet. 2015;168:586-594.公開履歴初回2021年12月2日

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若年性認知症患者さんを支える諸制度・保険の知識【コロナ時代の認知症診療】第9回

EODで鑑別すべきはうつ病関連だけではない若年性認知症(EOD)にかかっていることに、当事者や家族、同僚などの周りが早期から気づくことは稀である。経験的に、本人は何となくこれまでとは違うなと違和感を抱いていることもあるがまったく無頓着であることも多い。勤務している人の場合、変調に一番気づいているのは、本人の失敗を直接に被りやすい同僚や部下だろう。最近では一定規模以上の会社において、ストレスチェックが義務化され、「うつ病」の概念が浸透しているので、こうした当事者に対してうつ病やその周辺疾患などを想起する人が多いかもしれない。前回述べたように、認知症に派生する問題が事例化してくると、会社も捨て置けなくなって受診を促すことになる。ストレスチェックの結果を心配する人に、産業医が最初の相談先とされるせいか、まずこうした医師への相談が勧められることが多い。しかし産業医で認知症を専門とする人は例外的だろう。そこでかかりつけ医を夫婦で受診することも多いようだ。EODで鑑別すべきはうつ病関連だけではない。てんかんや睡眠時無呼吸症あるいは遅発性の妄想性疾患などと幅広い。仮にEODと診断が固まっても当事者が現役で家族の大黒柱の場合には、その人のこれからを思うと容易に診断名は告げられない。それだけに認知症専門医への相談が必要になる。知り合いに専門医がいない場合には、ネット検索がいいだろう。日本老年精神医学会か日本認知症学会のホームページをみれば、地域別に専門医の氏名や所属機関、また外来日などがわかるはずである。なおここまで男性の勤務者を想定して既述したが、EODの約半数は女性である。その場合も基本は同じだろう。知っておきたい「傷病手当金」や「精神障害者保健福祉手帳」さて次は治療となるが、既存4薬以外にこれというものがない。確かにアルツハイマー病に対してのAducanumabが2021年6月にアメリカで承認されたところだが、その使用に要する精査や経費などを考えると、当面はわが国での投与はそう容易ではない。それだけに福祉的な対応の基本は知っておきたい。EODの人に対する組織の姿勢はさまざまである。ピンは、その職場の中で定年の時まで働いてもらおうというものである。職位や給料は下がっても、その時々の能力に応じてできることを組織内のどこかでやってもらうというところもある。そうした組織の姿勢はさておき、医療者が関わる面について以下に述べる。福利厚生では、休職になるケースが多いだけに、まず基本は傷病手当金である。これは、病気やけがのために会社を休み、事業主から十分な報酬が受けられない場合に支給される。連続して休んだ日があった場合、4日目以降、休んだ日に対して支給され、その期間は、支給を開始した日から最高1年6ヵ月である。なお退職後でも、ある条件を満たしていれば、引き続いて残りの期間も傷病手当金を受けることができる1)。次は「精神障害者保健福祉手帳」である。これは認知症などの精神疾患があり、日常生活に支障をきたす場合に申請できる。さらに血管性認知症やレビー小体型認知症などにより身体症状がある場合には、「身体障害者手帳」に該当する例もある。これに関連して、従業員が一定数以上の規模の事業主は、従業員に占める身体障害者・知的障害者・精神障害者の割合を「法定雇用率」以上にする義務がある。(障害者雇用促進法43条第1項)。具体的に、民間企業の法定雇用率は2.3%。従業員を43.5人以上雇用している事業主は、障害者を1人以上雇用しなければならない、とされる。この「障害者」の範囲については、障害者雇用率制度の上では、身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳の所有者を実雇用率の算定対象としている(短時間労働者は原則0.5人カウント)。患者さんの生活を支えるために、医師にできること以上の公的な制度に加えて、民間でも使えるものがある。その代表が生命保険の高度障害である。これは被保険者が、責任開始期(日)以後の病気やケガを原因として、両眼の視力や言語機能を永久に失ったときなど、定められたいずれかの障害状態に該当した場合に、死亡保険金と同額の高度障害保険金が受け取られるものである。具体的な障害内容として、1)両眼の視力を全く永久に失ったもの、2)言語またはそしゃくの機能を全く永久に失ったもの、3)中枢神経系・精神または胸腹部臓器に著しい障害を残し、終身常に介護を要するもの、など7つの例が示されていることが多い。特記すべきは、認知症は入っていないことである。したがっていわば寝たきりになった認知症ではなく、「動ける状態の認知症」では2)もしくは3)の障害として、医師は診断書を書くのが現実である。なお一回では申請が受理されなくても、状態の進行に応じて繰り返し申請すれば必ず受理されることを経験してきた。参考1)全国健康保険協会「傷病手当金について」

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日本の介護施設の認知症高齢者における向精神薬および抗コリン薬の使用状況

 医療経済研究機構の浜田 将太氏らは、日本の主要な介護施設の1つである介護老人保健施設に入所している認知症高齢者を対象に、向精神薬および抗コリン薬の処方および中止の状況を評価するため、コホート研究を実施した。BMJ Open誌2021年4月8日号の報告。 2015年、日本の介護老人保健施設3,598施設を対象にアンケート調査を実施した(施設ごとにランダムに選択された入所者最大5例)。アンケート回収は、343施設(回答率10%)より得られ、入所者1,201例が含まれた。標準化された尺度を用いて、認知症の有無および重症度を評価した。入所時および入所2ヵ月後の向精神薬および抗コリン薬の処方状況を評価した。入所者のベースライン特性と処方または中止との関連を評価するため、多変量ロジスティック回帰分析を用いた。 主な結果は以下のとおり。・抗認知症薬(19.4%→13.0%)、催眠薬(25.1%→22.6%)、抗不安薬(12.3%→10.7%)の処方は減少したが、抗精神病薬(13.2%→13.6%)、抗うつ薬(7.4%→6.7%)、抗てんかん薬(7.1%→7.8%)などの他の向精神薬、抗コリン薬(35.2%→36.6%)の処方については、統計学的に有意な減少が認められなかった。・いくつかの要因と処方との関連が確認された。たとえば、85歳以上の高齢(調整OR:0.60、95%CI:0.43~0.85)や寝たきり(調整OR:0.67、95%CI:0.47~0.97)では抗精神病薬の処方は減少し、高度の認知症(調整OR:3.26、95%CI:2.26~4.70)では抗精神病薬の処方が増加することが示唆された。・個人レベルでみると、入所時に向精神薬または抗コリン薬を処方されていた入所者の4分の1は、入所2ヵ月後にはそれぞれ1剤以上の中止が認められた。・高度の認知症に対する抗認知症薬の処方(調整OR:1.86、95%CI:1.04~3.31)および非認知症高齢者に対する向精神薬の処方(調整OR:1.61、95%CI:1.00~2.60)は、中止と関連していた。 著者らは「有害事象リスクを軽減するためにも、介護老人保健施設の入所者に対する向精神薬および抗コリン薬の処方は、検討する余地があると考えられる」としている。

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ヒブ(Hib)ワクチン【今、知っておきたいワクチンの話】各論 第10回

今回は、ワクチンで予防できる疾患、VPD(vaccine preventable disease)としてヒブを取り上げる。ヒブ(Hib)は、“Haemophilus influenzae type b”(インフルエンザ菌b型)の頭文字をとった呼称で、髄膜炎などにより多くの子供たちの命を奪ってきた病原体の1つである。しかし、2008年にワクチンが国内に導入されてからHib感染症の報告数は激減し、2014年以降、5歳未満のHib侵襲性感染症は報告されていない。あまりに目覚ましい発症予防効果のため、Hib感染症そのものが忘れ去られつつある今、本稿では改めてこの疾患の特徴と疫学、成人におけるワクチンの活用について取り上げる。ヒブワクチンで予防できる疾患Hibは気道を介して感染する(飛沫感染と接触感染)。乳幼児の上気道に定着し、ほとんどの場合は無症状である。ワクチンが導入される前の保菌率は、15歳以下の17%、16~30歳の5.1%であった。しかし、気道から血流感染を起こすと、図に示すように髄膜炎、肺炎、敗血症、喉頭蓋炎、中耳炎などさまざまな臓器に侵襲性感染症を起こす。なかでもHib髄膜炎の致死率は5%と高く、4人に1人にてんかん、難聴、発育障害などの後遺症を残す1)。1996~1998年の調査ではHib髄膜炎は年間約600人で、罹患リスクの高い生後2ヵ月~5歳までの間に2,000人に1人の割合で罹患していると推測されていた。インフルエンザ菌による侵襲性感染症は感染症法において、第5類感染症全数届出疾患となっている2)。図 ワクチン導入前のHib感染症の病型画像を拡大する細菌学的にみるとHibはインフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)の1つで、インフルエンザ菌はa~f型の6つの莢膜菌型と、これらに該当しない型別不能の菌(Non-typable H. influenzae:NTHi)に分かれる。感染防御にあたって最も重要な宿主因子は莢膜多糖体(PRP/polyribosylribitol phosphate)に対する抗体である。通常は5歳以上になるとワクチン未接種であっても抗PRP抗体価が自然に上昇するため、感染リスクが低くなる。逆に乳児は感染リスクが高く、実際にワクチン導入前の侵襲性感染症の93%が5歳未満で、ピークは生後8ヵ月であった。このことから、生後早期に免疫を獲得しておくことが重要であるとわかる。ワクチンの概要表 ワクチンの概要と接種スケジュール画像を拡大する1)開発、普及の歴史ヒブワクチンは1980年代に開発が進んだ。はじめに開発されたのは莢膜多糖体(PRP)を抗原としたワクチンで、18ヵ月以上の小児を対象として導入されたが、効果は限定的で、また最も侵襲性感染症のリスクが高い2歳未満の小児への免疫原性が弱かった。その後、2歳未満の小児への免疫原性が改善された、PRPにキャリア蛋白を結合させた結合型ワクチン(conjugate vaccine)が開発され、現在わが国ではこのワクチンが採用されている。2006年、WHOが乳児期のワクチンとして推奨し、日本では2008年12月に販売開始となった。2010年11月には「子宮頸がん等ワクチン接種緊急促進事業」により多くの自治体で公費助成の対象となり、さらに2013年4月からは定期接種(A型疾病)が開始された。2)効果発症予防効果は90%以上と高い。米国ではワクチン導入5年で、5歳未満の侵襲性感染症の罹患率が99%減少したと報告されている。日本でも1道9県における疫学調査により、公費助成後のHib髄膜炎の減少率は100%と示されている3,4)。3)副反応ワクチン接種による一般的な副反応のみで、特異的な副反応は報告されていない。複数回の接種により、副反応の発現率が上昇することはない。4)注意点ヒブワクチンによるアナフィラキシーを起こしたことがある場合には禁忌である。日常診療で役立つ接種ポイント【5歳以上のワクチンについて】無脾症、待機的脾摘手術予定者、脾機能低下症、造血幹細胞移植者において、ヒブワクチンの接種が推奨される。前述の通り通常5歳以上では、ワクチン未接種であっても抗RPR抗体が上昇するため、ワクチン接種が不要である。しかしながら、上記のハイリスク群では、ワクチンによって十分な抗体価を維持する必要がある。米国の予防接種の実施に関する諮問委員会(ACIP)では、ヒブワクチン未接種の無脾症、待機的脾摘手術予定者では1回接種(脾摘術の場合は、術前14日前に接種)、造血幹細胞移植者ではヒブワクチン接種歴に関わらず移植後6~12ヵ月からの3回接種を推奨している。今度の課題、展望ヒブワクチンは、侵襲性Hib感染症の発症予防効果が非常に高く、Hib髄膜炎は今や過去の病気になりつつある。しかしながら臨床で遭遇することが減ったのは、高いワクチン接種率の恩恵であることを忘れてはならない。今後も肺炎球菌ワクチンと共に、ヒブワクチンの重要性を伝え、乳児期および高リスク者への接種を推奨してもらいたい。Hib感染症の減少とともに、非b型のインフルエンザ菌および無莢膜型(non-typable H. infuenzae:NTHi)による侵襲性感染症の増加が報告されている。2019年度感染症流行予測調査では、検討された58株のうち、3株がe型、4株がf型、その他の51株はNTHi であった。臨床診断名では26名が肺炎で最も多く(45%)、NTHiによる高齢者の肺炎が課題となっている。現在NTHiに対する複数のワクチン開発が進んでおり、今後の実用化が期待される。参考となるサイトこどもとおとなのワクチンサイト日本ワクチン産業協会 予防接種に関するQ&A集2020.インフルエンザ菌b型(Hib)感染(pdf)1)Plotkin SA, et al(eds). Plotkin's Vaccines (Seventh Edition).Elsevier.2018.2)国立感染症研究所. 令和元年度(2019年度)感染症流行予測調査報告書.(最終アクセス2021.7.15)3)厚生労働科学研究費補助金. 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究事業 Hib、肺炎球菌、HPV及びロタウイルスワクチンの各ワクチンの有効性、安全性並びにその投与方法に関する基礎的・臨床的研究 平成26年度 総括・分担研究報告書 庵原俊昭、「小児細菌性髄膜炎および侵襲性感染症調査」に関する研究(全国調査結果)(厚生労働科学研究成果データベース閲覧システム)4)菅秀. ワクチンの実地使用下における有効性・安全性及びその投与方法に関する基礎的 ・ 臨床的研究 平成28年度 委託研究開 発成果報告書(国立研究開発法人 日本医療研究開発機構)(最終アクセス2021.7.27)5)CDC. MMWR. 2014;63:1-14.講師紹介

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ブレークスルー感染、死亡・入院リスクが高い因子/BMJ

 英国・オックスフォード大学のJulia Hippisley-Cox氏らは、英国政府の委託で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的大流行の第2波のデータを基に作成した、ワクチン接種後の死亡・入院のリスクを予測するアルゴリズム(QCovid3モデル)の有用性の検証を行った。その結果、ワクチンを接種しても、COVID-19関連の重症の転帰をもたらすいくつかの臨床的なリスク因子が同定され、このアルゴリズムは、接種後の死亡や入院のリスクが最も高い集団を、高度な判別能で特定することが示された。研究の成果は、BMJ誌2021年9月17日号に掲載された。アルゴリズムの妥当性を検証する英国の前向きコホート研究 本研究は、COVID-19ワクチンを1回または2回接種後のCOVID-19関連の死亡・入院のリスクを推定するリスク予測アルゴリズムの妥当性の検証を目的とする、英国の全国的な人口ベースの前向きコホート研究である(英国国立健康研究所[NIHR]の助成を受けた)。 解析にはQResearchデータベースが用いられた。このデータベースには、約1,200万例の臨床研究および薬剤の安全性研究に基づく個々の患者の臨床・薬剤に関するデータが含まれ、COVID-19ワクチン接種、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)の検査結果、入院、全身性抗がん薬治療、放射線治療、全国的な死亡・がんのレジストリデータと関連付けられた。 2020年12月8日~2021年6月15日の期間に、COVID-19ワクチンを1回または2回接種した年齢19~100歳の集団(解析コホート)が対象となった。 主要アウトカムはCOVID-19関連死、副次アウトカムはCOVID-19関連入院とされ、ワクチンの初回および2回目の接種後14日から評価が行われた。また、解析コホートとは別の一般診療の検証コホートで、妥当性の評価が実施された。 ワクチンを接種した解析コホート695万2,440人(平均年齢[SD]52.46[17.73]歳、女性52.23%)のうち、515万310人(74.1%)が2回の接種を完了した。COVID-19関連死は2,031人、COVID-19関連入院は1,929人(最終的に446人[23.1%]が死亡)で認められ、2回目の接種後14日以降の発生はそれぞれ81人(4.0%)および71人(3.7%)だった。 最終的なCOVID-19関連死のリスク予測アルゴリズムには、年齢、性別、民族的出自、貧困状態(Townsend剥奪スコア[点数が高いほど貧困度が高い])、BMI、合併症の種類、SARS-CoV-2感染率が含まれた。早期介入の優先患者の選択に有用な可能性 COVID-19関連死の発生率は、年齢および貧困度が上がるに従って上昇し、男性、インド系とパキスタン系住民で高かった。COVID-19関連死のハザード比が最も高い原因別の因子として、ダウン症(12.7倍)、腎移植(慢性腎臓病[CKD]ステージ5、8.1倍)、鎌状赤血球症(7.7倍)、介護施設入居(4.1倍)、化学療法(4.3倍)、HIV/AIDS(3.3倍)、肝硬変(3.0倍)、神経疾患(2.6倍)、直近の骨髄移植または固形臓器移植の既往(2.5倍)、認知症(2.2倍)、パーキンソン病(2.2倍)が挙げられた。 また、これら以外の高リスクの病態(ハザード比で1.2~2.0倍)として、CKD、血液がん、てんかん、慢性閉塞性肺疾患、冠動脈性心疾患、脳卒中、心房細動、心不全、血栓塞栓症、末梢血管疾患、2型糖尿病が認められた。 一方、イベント数が少な過ぎて解析できなかった疾患を除き、COVID-19関連入院にも死亡と類似のパターンの関連性がみられた。 初回と2回目の接種後で、死亡・入院との関連性が異なるとのエビデンスは得られなかったが、2回目以降のほうが絶対リスクは低かった(初回接種のみと比較した2回目接種の死亡ハザード比[HR]:0.17[95%信頼区間[CI]:0.13~0.22]、入院HR:0.21[0.16~0.27])。 検証コホートでは、QCovid3アルゴリズムにより、COVID-19関連死までの期間の変動の74.1%(95%CI:71.1~77.0)が説明可能であった。D統計量は3.46(95%CI:3.19~3.73)、C統計量は92.5と、判別能も良好だった。このモデルの性能は、ワクチンの初回と2回目の接種後も同程度であった。また、COVID-19関連死のリスクが高い上位5%の集団では、70日以内のCOVID-19関連死を同定する感度は78.7%だった。 著者は、「このリスク層別化の方法は、公衆衛生上の施策の推進に役立ち、早期介入の対象となる患者の優先的な選択に有用となる可能性がある」としている。

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