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産後VTE予防のエノキサパリン、より高リスク例へ限定可能?/JAMA

 妊娠に関連した静脈血栓塞栓症(VTE)予防のためのヘパリン(エノキサパリン)ベースのプロトコルに、より選択的なリスク層別化アプローチを追加することで、産後VTEが増加することなく血腫が減少したことを、米国・アラバマ大学のMacie L. Champion氏らが報告した。著者らのアラバマ大学では、2016年に米国産科婦人科学会のガイドラインに基づく妊娠関連VTE予防プロトコルを導入したが、血腫の発生確率が2倍以上となり(補正後オッズ比[aOR]:2.34)、VTEは減少しなかったため、2021年に、より選択的なリスク層別化アプローチを取り入れたという。JAMA誌オンライン版2024年6月27日号掲載の報告。標準的リスク層別化と、より選択的な産後VTE化学的予防で比較 研究グループは、ヘパリンベースの産科学的血栓予防プロトコル(エノキサパリンプロトコル)に対する、より選択的なリスク層別化アプローチのアウトカムを後ろ向き観察研究で評価した。 対象は米国南東部の3次医療センター1施設で、2016年1月1日~2018年12月31日に出産した患者(オリジナルプロトコル群)および2021年12月1日~2023年5月31日に出産した患者(選択的プロトコル群)計1万7,489例。妊娠期間中にVTEまたはVTE高リスクのために外来で抗凝固療法を受けていた患者は除外した。対象患者は、標準的リスク層別化と、より選択的な産後VTE化学的予防のプロトコルによる治療を受けた。 主要アウトカムは、出産後6週までの血腫の臨床的診断。副次アウトカムは、出産後6週までのVTEの新規診断とした。群間のベースライン特性とアウトカムを比較し、オリジナルプロトコル群を参照群として主要および副次アウトカムのaORを95%信頼区間(CI)とともに推算した。エノキサパリン投与は減少したが、VTEは増加せず血腫が減少 試験対象1万7,489例のうち、オリジナルプロトコル群は1万2,430例(71%)、選択的プロトコル群は5,029例(29%)であった。選択的プロトコル群のほうが、年齢が高く(28.5歳vs.27.7歳)、政府管掌保険の加入者が少なく(59% vs.65%)、BMIが高値で(31 vs.30)、アスピリン使用者が多く(23% vs.18%)、妊娠高血圧腎症の診断率が高かった(21% vs.16%)(すべてのp<0.001)。 エノキサパリンを投与された患者は、選択的プロトコル群(410例、8%)がオリジナルプロトコル群(1,968例、16%)と比較して少なく、選択的プロトコル群のほうが、あらゆる血腫が減少した(0.3% vs.0.7%、aOR:0.38[95%CI:0.21~0.67])。これは、主に表在性血腫の大幅な減少(0.3% vs.0.6%、aOR:0.43[95%CI:0.24~0.75])がみられたことによるものであった。 選択的プロトコル群はオリジナルプロトコル群と比較して、VTE(0.0008%[4例]vs.0.0014%[17例]、aOR:0.40[95%CI:0.12~1.36])あるいは種類別にみたVTE(深部VTE、肺血栓塞栓症、その他のVTE)について、有意な増加はみられなかった。

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第221回 名古屋第二日赤の研修医“誤診”報道に医療界が反発、日赤本社の医療事故に対する鈍感さ、隠蔽体質も影響か(後編)

山開き直後の富士山で遭難死が相次ぐこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。7月10日に山開きした富士山で遭難死が相次いでいます。各紙報道によれば、7月14日までに4人の死亡が確認されています。疲労死、滑落死など死因はさまざまですが、日頃登山をしない人は3,000メートル級の山を少し舐めているような気がします。体力が若者ほどなく、高度順応力が低下している中高年の遭難はこれからも増えそうです。山では100メートル標高が上がるごとに0.6度気温が下がります。仮に標高0メートルの海岸部の気温が30度だとすると、3,776メートルの富士山山頂付近の気温は7~8度です。天候が悪く風も強ければ、体感気温は0度近くになるでしょう。もはや冬山です。そう考えると、ご来光を目的に気温が下がる夜や深夜に登ること自体が大きなリスクです。そもそも3,000メートルを超える北アルプスなどでは、深夜に登る人はほぼいません。これから富士山を目指そうという方は、天気が良い日に昼間の日帰り登山をお勧めします。山梨県側からの吉田ルートは登山規制が始まったとはいえ激混みなので、静岡県側からの富士宮ルートが最短でいいかもしれません。大体の所要時間は頂上往復で9時間前後。朝イチに登山口を出発すれば、夕方前には下山が可能です。医療メディアに「研修医は悪くない」といった論調の記事や、組織体制の不備を指摘する記事さて、今回は前回に引き続き、日本赤十字社愛知医療センター名古屋第二病院(以下、名古屋第二日赤)が先月公表した、研修医がからんだ医療事故を取り上げます。腹痛などを訴えて名古屋第二日赤に来院した男子高校生(当時16)について、SMA症候群を研修医が急性胃腸炎と“誤診”して治療が遅れるとともに、高度脱水への対応も不十分で心停止に至り死亡した事件について、前回は同病院が公開した公表用資料1)を基に経緯を概説しました。そして、病院の記者会見直後、全国紙などで「研修医が誤診」といった見出しの報道が行われたことを巡り、日経メディカルなど一部医療メディアにおいて「研修医は悪くない」といった論調の記事や、病院の組織体制の不備を指摘する記事が掲載され、医療界で少なからぬ反発が起きていると書きました。そうした反発や批判は概ね納得できるものです。公表が事故から1年後であったことや、遺族コメントを病院が代読するという異常さなどからも、事故直後から遺族と名古屋第二日赤とのあいだで厳しいやりとりがあったと想像されます。名古屋第二日赤という一病院で起きた事故ではありますが、日本赤十字社本社自体の医療事故に対する鈍感さ、隠蔽体質、事なかれ主義もその背景にありそうです。マスコミに対して公表された資料の“おそまつさ”からも、それを感じます。「公表用資料」の中の事案の検証結果が時系列で、“誤診”が冒頭に私は、「公表用資料」の中の事案の検証結果(いわゆる「どの段階でミスがあったのか」のまとめ)が時系列になっている点がまず気になりました。具体的には、次の5つが問題点として挙げられています(資料の詳細な記述は割愛)。1)CT画像の評価が不十分で、急性胃拡張に対する減圧治療ができていなかった。2)脱水症の評価が不十分で、治療の開始に遅れが生じていた。3)救急外来において研修医が診療する場面での報告・相談体制に不備があった。4)職員間において患者さんの情報を正確に共有できていなかった。5)患者さんの容態変化時に、院内で定められた緊急体制が活用されなかった。1)で研修医の「CT画像の評価が不十分」と書き、さらに「上級医に相談するべき画像所見でしたが相談していませんでした」と続きます。これでは、その後に過誤のその他の原因が記述されたとしても「評価が不十分」、すなわち「誤診」が一番の原因だ、と読む側(マスコミなど)が解釈してしまう危険があります。こうした事故報告書では、往々にして発生したことを時系列に書きますが、「検証結果」も時系列に記述してしまっては、患者が死に至った真の原因が明確にならず、覆われてしまいます。加えて、資料全般に渡って「臨床上のミス」と「組織体制上の問題点」が同列に記述されている点も気になりました。「研修医が上級医に相談する体制になっていなかった」ことや、「入院後のスタッフ間の情報共有の不備」などは、明らかに病院の組織体制上の問題であり、今回の事故の最大の原因とも考えられます。しかし、検証結果ではそうした問題点が、「誤診」や「鎮痛剤倍量投与」「心電図モニター未装着」といった「臨床上のミス」と同列に記述されています。その結果、臨床上のミスの根本原因とも考えられる組織体制上の問題点への切り込みが弱く、責任の所在も曖昧になっています。「かもしれません」という文章でお茶を濁し、「体制や組織風土が根本的な問題だった」と断言もせずその曖昧さは、「事案の検証結果」の後に記された「当院の問題として表出したこと」の以下の記述からもうかがえます。――当院は高度急性期病院として、どのような病気にも24時間365日絶え間なく応えることを使命としており、業務の繁忙や切迫感が常態化している背景があります。そのような業務環境のなかで、疾患の重症度、緊急性を優先して患者さんを診てしまう傾向があったのかもしれません。忙しさを理由に、患者さんに対しての職員の思いやりや丁寧さが欠けていたのかもしれません。今回の事例には、病院全体の体制や組織風土が根本的な問題ではないかと考えています。――事故から1年以上経っているにもかかわらず、「かもしれません」という文章でお茶を濁し、「病院全体の体制や組織風土が根本的な問題だった」と断言できていないのです。患者が死亡に至った原因を真剣に検証したのかどうか、疑問に感じます。「『なぜこの事例で記者会見を開いたのか』と正直、疑問を持ちました」と医療訴訟専門弁護士そんな風に考えていたら、「研修医は悪くない」という論陣を張った日経メディカルに興味深い記事が掲載されていました。7月2日付の「インタビュー 医療事故公表のあり方を考えるマスコミの目線が“研修医誤診”に向いてしまった原因は」というタイトルの記事です。同記事は医療機関側の弁護士として医療訴訟に携わってきた仁邦法律事務所所長の桑原博道氏にインタビューしたものですが、なんと桑原氏はその中で「最初に、メディアの報道と公開されている調査報告書を読んだとき、『なぜこの事例で記者会見を開いたのか』と正直、疑問を持ちました」と話しているのです。桑原氏は「過誤があると思われる事例でも、あるいは、医療事故調査・支援センターに報告されるような事例でも、多くの場合、記者会見は開かれていません。私の経験でも、記者会見を開くのはデメリットがそれなりにあることから、『それでも会見が必要だ』と感じる事案はほとんどない印象です」と語るとともに、「記者会見は、病院が世間に発したいメッセージとして、目的や信念を持って行うべきものであり、一般論として言えば、ご家族などから求められたから行うというものではありません。また、医療事故調査制度の対象事案だから行うというものでもありません」と、名古屋第二日赤の記者会見について、病院側に行うに足る明確な目的があったのかどうかに疑問を呈しています。さらに、先述した「公表用資料」の中の事案の検証結果の記載の順番について桑原氏も問題があったと指摘しています。加えて、「研修医は上級医に相談すべきだった」といった個人の責任を追及するような記述についても問題があるとしています。同記事2)は、医療事故が起きたときの記者会見開催の是非や、事故報告書の記載の仕方などについてわかりやすくまとめられており、医療関係者には参考になるでしょう。京都第一赤十字病院の度重なる過誤で明らかとなった日赤の隠蔽体質前回、「日本赤十字社が、医療事故や医療過誤に対して鈍感であり、隠蔽体質も有していることは、この連載の『第199回 脳神経外科の度重なる医療過誤を黙殺してきた京都第一赤十字病院、背後にまたまたあの医大の影(前編)』、『第200回 同(後編)』で詳しく書きました」と記しましたが、この点を簡単におさらいしておきます。京都市は今年1月、患者に対する手術の説明や診療記録の取り扱いが不適切だったとして京都第一赤十字病院に対し、改善を求める行政指導を行いました。不適切とされた事例はいずれも同病院の脳神経外科で確認されたものでした。2020年に行われた脳腫瘍の手術では、その後、予定外の再手術となった理由について、患者や家族に説明した記録が見つかりませんでした。さらに同年、手術後に死亡した別の患者の死亡診断書には「手術なし」と、事実と異なる記載をしていました。また、2021年には、研修医の医療処置を受けた患者が死亡していますが、遺族には処置を施した説明をしていませんでした。こうした事例の中には、病院の医療安全管理委員会に適切に報告されず、事後の検証も十分行われていなかったケースもありました。以上の3件のほか、2019~21年に手術後などに9人が死亡し、ほかにも3人の患者で不適切な対応があったとの情報が2023年、公益通報によって市に寄せられていました。実はこの公益通報が行われる3年も前に、脳神経外科で事故が多発していることを、当時、同病院に勤務していた医師が日本赤十字社本社に伝えていました。「月刊Hanada」(飛鳥新社)の2023年11月号の記事、「京都府立医大の深い闇 正常脳を誤って摘出 第一日赤脳外科部長が謝罪」によれば、「A医師と部下である第一脳神経外科副部長(注:事故が頻発していたのは第二脳神経外科)のB医師は11月19日、連名で日赤本社の医療事故担当の医療事業推進本部長宛てに嘆願書を提出。医療事故防止措置と医師の再教育の必要性、関係者の処分を求めた。すると11月11日、日赤本社の部長は電話でこう告げたという。『(中略)日赤本社で医療事故調査委員会を立ち上げるので待ってほしい』。ところが、本社は結局、調査委員会を立ち上げず、事故の当事者である第一日赤に丸投げし、第一日赤内部に院内事故調査委員会を立ち上げて処理するように命じた」。その結果、一連の事故は表沙汰にならず、死亡した患者遺族にも真実は伝えられず、事故を起こした医師たちに処分も下されず、3年後の公益通報まで日赤本社、第一日赤は事故を隠蔽し続けることになったわけです。多発する傘下の病院の医療事故に対して日赤本社は何かアクションを起こしたのか?日本赤十字社の各病院は、地域の基幹病院であり、地元の大学医学部の主要なジッツ(関連病院)となっています。各病院で起こった医療事故への対応が個々の病院に任されること自体はとくに不自然ではありません。ただ、病院自体が隠蔽しようしている事案について、現場からの通報を無視し、対応をその病院に丸投げする、というのは異常としか言いようがありません。事故を起こされた患者や家族は二の次に、日赤という組織や病院、あるいは医師を派遣する大学医局をまず守ろう、という姿勢は決して許されるものではないでしょう。今回の名古屋第二日赤の事故と、京都第一日赤の事故との間にはとくに関連性は見出だせません。しかし、昨年5月に名古屋第二日赤の事故が起こり、今年の6月17日に記者会見が開かれるまでのあいだに、京都市による京都第一日赤への立ち入り検査、行政指導が行われています。次々と明らかになる傘下の病院の医療事故に対して、日本赤十字社本社は組織として何かアクションを起こしたのでしょうか。少なくとも記者会見や公表用資料の内容からはまったく感じ取れません。日本赤十字社の闇は深そうです。参考1)SMA症候群を適切に治療できなかったことにより死亡に至らせた事例について/日本赤十字社愛知医療センター名古屋第二病院2)マスコミの目線が“研修医誤診”に向いてしまった原因は/日経メディカル

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新型コロナの抗原検査は発症から2日目以降に実施すべき

 今や、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)やインフルエンザなどの迅速抗原検査はすっかり普及した感があるが、検査は、症状が現れてからすぐに行うべきなのだろうか。この疑問の答えとなる研究成果を、米コロラド大学ボルダー校(UCB)コンピューターサイエンス学部のCasey Middleton氏とDaniel Larremore氏が「Science Advances」に6月14日報告した。それは、検査を実施すべき時期はウイルスの種類により異なるというものだ。つまり、インフルエンザやRSウイルスの場合には発症後すぐに検査を実施すべきだが、新型コロナウイルスの場合には、発症後すぐではウイルスが検出されにくく、2日以上経過してから検査を実施するのが最適であることが明らかになったという。 Middleton氏らは、呼吸器感染症の迅速抗原検査がコミュニティー内での感染拡大に与える影響を検討するために、患者の行動(検査を受けるかどうかや隔離期間など)やオミクロン株も含めたウイルスの特性、その他の因子を統合した確率モデルを開発した。このモデルを用いて検討した結果、新型コロナウイルスの場合、発症後すぐに迅速抗原検査でテストした際の偽陰性率は最大で92%に達するが、発症から2日後の検査だと70%にまで低下すると予測された。発症から3日後だとさらに低下し、感染者の3分の1を検出できる可能性が示唆された。 この結果について研究グループは、「すでにほとんどの人が新型コロナウイルスへの曝露歴を有しているため、免疫系はウイルスに曝露するとすぐに反応できる準備ができている。そのため、最初に現れる症状は、ウイルスではなく免疫反応によるものだと考えられる。また、新型コロナウイルスの変異株は、ある程度の免疫力を持つ人に感染した場合には、オリジナル株よりも増殖スピードが遅い」と説明している。 一方、RSウイルスとインフルエンザウイルスに関しては、ウイルスの増殖スピードが非常に速いため、症状の出現後すぐに検査を実施するのがベストであることが示唆された。 Larremore氏は、最近では新型コロナウイルス、A型およびB型インフルエンザウイルス、およびRSウイルスへの感染の有無を1つの検査で同時に調べることができる「オールインワンテスト」が売り出されるようになり、また、薬局や診察室でも複数のウイルスを一度に調べるコンボテストが行われていることを踏まえ、「これは悩ましい問題だ。発症後すぐの検査だと、インフルエンザウイルスとRSウイルスについてはある程度のことが明らかになるが、新型コロナウイルスについては時期尚早だろう。だが、発症から数日後では、新型コロナウイルスの検査には最適のタイミングだが、インフルエンザウイルスとRSウイルスの検査には遅過ぎる」と話す。 また、Larremore氏は、「新型コロナウイルスの抗原検査の場合、疑陰性率が高過ぎると思うかもしれないが、抗原検査はウイルス量が多く、周囲の人にうつす可能性のある人を検出する目的で作られたものだ」と指摘。その上で、「感染者の3分の1しか検出できなくても、最も感染力の強い3分の1を診断できれば、感染を大幅に減らすことができる」と説明している。 一方、Middleton氏は、最近、米疾病対策センター(CDC)が検査と予防のガイドラインを、「仕事や社会に復帰しても安全かどうかを判断する前に、もう一度、検査をするべき」という内容に改訂したことについて、「より理にかなった内容になった」との見方を示す。同氏は、「以前の方針の『発症後5日間の隔離』は、ほとんどのケースで必要以上に長かったと思う」と話している。

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週1回投与の基礎インスリン製剤「アウィクリ注フレックスタッチ総量300単位/同700単位」【最新!DI情報】第19回

週1回投与の基礎インスリン製剤「アウィクリ注フレックスタッチ総量300単位/同700単位」今回は、週1回持効型溶解インスリンアナログ注射液「インスリン イコデク(遺伝子組換え)(商品名:アウィクリ注フレックスタッチ総量300単位/同700単位、製造販売元:ノボ ノルディスク ファーマ)」を紹介します。本剤は、世界初の週1回投与の基礎インスリン製剤であり、QOLやアドヒアランスの向上が期待されています。<効能・効果>インスリン療法が適応となる糖尿病の適応で、2024年6月24日に製造販売承認を取得しました。<用法・用量>通常、成人では1週間に1回皮下注射します。初期は通常1回30~140単位とし、患者の状態に応じて適宜増減します。他のインスリン製剤の投与量を含めた維持量は、通常1週間あたり30~560単位ですが、必要により上記用量を超えて使用することもあります。<安全性>重大な副作用として、低血糖やアナフィラキシーショック(頻度不明)があります。低血糖は臨床的に回復した場合にも再発することがあるので、継続的な観察が必要です。とくに、本剤は週1回投与の持続性がある薬ですので、回復が遅延する恐れがあります。その他の主な副作用として、糖尿病性網膜症、体重増加(1~5%未満)、注射部位反応、空腹、浮動性めまい、悪心・嘔吐、多汗症、筋痙縮(0.2~1%未満)などがあります。<患者さんへの指導例>1.この薬は、生理的なインスリンの基礎分泌を補充する目的で使用される自己注射薬です。週1回投与する注射薬ですので、同一曜日に投与してください。2.自己判断で使用を中止したり、量を加減したりせず、医師の指示に従ってください。3.高所での作業や自動車の運転など、危険を伴う作業に従事しているときに低血糖を起こすと事故につながる恐れがありますので、とくに注意してください。4.他のインスリン製剤と併用することがあります。この薬と他のインスリン製剤を取り違えないように、毎回注射する前にラベルなどを確認してください。<ここがポイント!>本剤は、世界で初めてとなる週1回投与の基礎インスリン製剤です。従来のインスリン製剤では、1日1回もしくは2回の皮下注射が必要だったので、投与回数が大幅に減少し、患者さんの負担軽減により、生活の質やアドヒアランスの向上が期待できます。インスリン イコデクは、投与後に強力かつ可逆的にアルブミンと結合し、その後、緩徐にアルブミンから解離することで、血糖降下作用が1週間にわたって持続します。インスリン治療歴のない2型糖尿病患者を対象とした第III相国際共同試験(ONWARDS 1試験)において、主要評価項目であるHbA1cのベースラインから投与後52週までの変化量を、本剤とインスリン グラルギンで比較しています。本剤とインスリン グラルギンの変化量はそれぞれ-1.55%および-1.35%(群間差:-0.19[95%信頼区間:-0.36~-0.03]、p<0.001)であり、本剤のインスリン グラルギンに対する非劣性が確認されました(非劣性マージン:0.3%)。同様に、HbA1cのベースラインから投与後26週までの変化量について、基礎インスリン療法で治療中の2型糖尿病患者を対象とした第III相国際共同試験(ONWARDS 2試験:インスリン デグルデクとの比較)、基礎・追加インスリン療法で治療中の2型糖尿病患者を対象とした第III相国際共同試験(ONWARDS 4試験:インスリン グラルギンとの比較)、1型糖尿病患者を対象とした第III相国際共同試験(ONWARDS 6試験:インスリン デグルデクとの比較)において、いずれも既存の持効型インスリン製剤に対する非劣性が証明されています(非劣性マージン:0.3%)。

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ASCO2024 レポート 乳がん

レポーター紹介2024年5月31日~6月4日まで5日間にわたり、ASCO2024がハイブリッド形式で開催された。昨年も人が戻ってきている感じはあったが、会場の雰囲気はコロナ流行前と変わりなくなっていた。一方、日本からの参加者は若干少なかったように思われる。これは航空運賃の高騰に加えて、円安の影響が大きいと思われる(今回私が行ったときは1ドル160円!! 奮発した150ドルのステーキがなんと24,000円に…。来年は費用面で行けない可能性も出てきました…)。さて、本題に戻ると、今回のASCOのテーマは“The Art and Science of Cancer Care:From Comfort to Cure”であった。乳がんの演題は日本の臨床に大きなインパクトを与えるものが大きく、とくにPlenary sessionの前に1演題のためだけに独立して行われたセッションで発表されたDESTINY-Breast06試験は早朝7:30のセッションにもかかわらず、満席であった。日本からは乳がんのオーラルが2演題あり、日本の実力も垣間見ることとなった。本稿では、日本からの演題も含めて5題を概説する。DESTINY-Breast06試験トラスツズマブ・デルクステカン(T-DXd)は日本で開発が開始され、現在グローバルで最も使われている抗体薬物複合体(ADC)の1つと言っても過言ではない。乳がんではHER2陽性乳がんで開発され、現在はHER2低発現乳がんにおける2次化学療法としてのエビデンスに基づいて適応拡大されている。20年近く乳がんの世界で用いられてきたサブタイプの概念を大きく変えることになった薬剤である。T-DXdのHER2低発現乳がんの1次化学療法としての有効性を検証したのがDESTINY-Breast06(DB-06)試験である。この試験では、ホルモン受容体陽性HER2低発現の乳がんにおいて、T-DXdの主治医選択化学療法に対する無増悪生存期間(PFS)における優越性が検証された。この試験のもう1つの大きな特徴は、HER2超低発現(ultra-low)の乳がんに対する有効性についても探索的に検討したことである。HER2超低発現とは、これまで免疫組織化学染色においてHER2 0と診断されてきた腫瘍のうち、わずかでもHER2染色があるものを指す。本試験では866例(うちHER2低発現713例、超低発現が152例)の患者がT-DXdと主治医選択治療(TPC)に1:1に割り付けられた。主要評価項目はHER2低発現におけるPFSで13.2ヵ月 vs. 8.1ヵ月(ハザード比[HR]:0.62、95%信頼区間[CI]:0.51~0.74、p<0.0001)とT-DXd群の優越性が示された。ITT集団においても同様の傾向であった。HER2超低発現の集団については探索的項目であるが、PFSは13.2ヵ月 vs.8.3ヵ月(HR:0.78、95%CI:0.50~1.21)とHER2低発現の集団と遜色ない結果であった。一方、全生存期間(OS)についてはHER2低発現でHR:0.83、HER2超低発現でHR:0.75であり、いずれも有意差はつかなかった。有害事象は既知のとおりであるが、薬剤性肺障害(ILD)はany gradeで11.3%であった。2次化学療法の試験であるDESTINY-Breast 04試験ではOSの優越性も示されているため、OSの優越性が示されていない状況で毒性の強い薬剤をより早いラインで使うかどうかは議論が必要であろう。また、HER2超低発現の病理評価の標準化についても課題が残される。postMONARCH試験こちらも待望の試験である。日本国内で使えるCDK4/6阻害薬であるアベマシクリブのbeyond PD(progressive disease)を証明した初の試験である。これまでMAINTAIN試験で(phase2ではあるが)、CDK4/6阻害薬の治療後のribociclibの有効性が示されていたが、ribociclibは日本国内では未承認なため、エビデンスを活用することができなかった。postMONARCH試験では、転移乳がん、もしくは術後治療としてホルモン療法(転移乳がんはAI剤)とCDK4/6阻害薬を使用後にPDもしくは再発となった368例の患者を対象に、フルベストラント+アベマシクリブ/プラセボに1:1に割り付けられた。術後CDK4/6阻害薬後の再発が適格となっていたが残念ながら全体で2例のみであり、プラクティスへの参考にはならなかった。前治療のCDK4/6阻害薬はパルボシクリブが60%と最も多く、ついでribociclibで、アベマシクリブは両群とも8%含まれた。主要評価項目は主治医判断のPFSで、6.0ヵ月 vs. 5.3ヵ月(HR:0.73、95%CI :0.57~0.95、p=0.02)とアベマシクリブ群で良好であった。盲検化PFSが副次評価項目に設定されていたが、面白いことに12.9ヵ月 vs.5.6ヵ月(HR:0.55、95%CI:0.39~0.77、p=0.0004)と主治医判断よりも良い結果となった。有害事象はこれまでの臨床試験と変わりはなかった。この試験の結果をもって、自信を持ってホルモン療法の2次治療としてフルベストラント+アベマシクリブを実施できるようになったと言える。JBCRG-06/EMERALD試験さて、日本からの試験も紹介する。研究代表者である神奈川県立がんセンターの山下 年成先生が口演された。本試験はHER2陽性転移乳がんの初回治療として、標準治療であるトラスツズマブ+ペルツズマブ+タキサン(HPT)療法に対して、トラスツズマブ+ペルツズマブ+エリブリン療法が非劣性であることを証明した。446例の患者が登録され、1:1に割り付けられた。ホルモン受容体は60%が陽性であり、PSは80%以上が0であった。初発StageIVが60%を占めていた。主要評価項目のPFSはHPT群12.9ヵ月 vs.エリブリン群14.0ヵ月(HR:0.95、95%CI:0.76~1.19、p=0.6817)で非劣性マージンの1.33を下回り、エリブリン群の非劣性が示された。化学療法併用期間の中央値はエリブリン群が28.1週、HPT群は約20週であり、エリブリン群で長かった。OSもHR:1.09(95%CI:0.76~1.58、p=0.7258)と両群間の差を認めなかった。毒性については末梢神経障害がエリブリン群で61.2% vs. HPT群で52.8%(G3に限ると9.8% vs.4.1%)と、エリブリン群で多かった。治療期間が長いことの影響があると思われるが、less toxic newと言ってよいかどうかは悩ましいところである。HER2陽性乳がんにおけるエリブリン併用療法は1つの標準治療になったと言えるが、実臨床での使用はタキサンアレルギーの症例などに限られるかもしれない。ER低発現乳がんにおける術後ホルモン療法こちらはデータベースを使った後ろ向き研究であり臨床試験ではないが、実臨床の疑問に重要なものであるため取り上げる。米国のがんデータベースからStageI~IIIでER 1~10%の症例を抽出し、術後ホルモン療法の実施率と予後を検討したものである。データベースから7,018例の対象症例が抽出され、42%の症例が術後ホルモン療法を省略されていた。ホルモン療法実施群と非実施群におけるOSは3年OSが92.3% vs.89.1%であり、HR:1.25、95%CI:1.05~1.48、p=0.01と実施群で良い傾向にあった。後ろ向き研究ではあるが、ER低発現であっても術後ホルモン療法に意義がある可能性が提示されたことは、今後の術後治療の選択にとって重要な情報である。PRO-DUCE試験最後に日本からのもう1つの口演であるPRO-DUCE試験を紹介する。これは治療薬の臨床試験ではなく、ePROが患者のQOLに影響するかを検証した試験である。関西医科大学の木川 雄一郎先生によって発表された。本試験はT-DXdによる治療を受ける患者を対象として、ePRO+SpO2/体温の介入が通常ケアと比較してQOLに影響するかを比較した。主要評価項目はベースラインから治療開始24週後のEORTC QLQ-C30を用いたglobal health scoreの変化であり、ePRO群では-2.4、通常ケア群では-10.4であり、両群間の差は8.0(90%CI:0.2~15.8、p=0.091)と統計学的に有意にePRO群で良好であった。その他の項目では倦怠感はePRO群で良好であったが、悪心/嘔吐は両群間の差は認めなかった。この研究は日本から乳がんにおいてePROが有効であることを示した初の試験である。ePROは世界的にも必須のものとなっており、今後の発展が期待される。

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外科「電気メスの基本手技」【臨床実習を味わうケアネット動画Café】第2回

動画解説臨床研修サポートプログラムの研修医のための外科ベーシックより、本間崇浩先生の「電気メスの基本手技」を鑑賞します。電気メスの各設定で生肉を切ってみる。有害事象を起こさないためにデバイスの仕組みもしっかり勉強して臨みましょう!

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プライベートパーツを診る!

半分アトラス、臨床写真500枚超!「皮膚科の臨床」66巻7号(2024年6月臨時増刊号)“プライベートパーツ”疾患を網羅した豊富なアトラスと、エキスパートによる“プライベートパーツ”診療の注意点、鑑別診断、治療法などの解説からなる本特集。梅毒やエムポックスなど性感染症の最新トピックスも。貴重な臨床写真を眺めて学ぶもよし、興味のあるテーマから読み進めるもよし。皮膚科医のみならず外陰部疾患を診るすべての方へ。永久保存版の1冊です。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。目次を見るPDFで拡大する目次を見るPDFで拡大するプライベートパーツを診る!定価8,800円(税込)判型B5判頁数244頁発行2024年6月編集「皮膚科の臨床」編集委員会ご購入(電子版)はこちらご購入(電子版)はこちら紙の書籍の購入はこちら医書.jpでの電子版の購入方法はこちら紙の書籍の購入はこちら

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人間のペニスから初めてマイクロプラスチックを検出

 人間のペニスから7種類のマイクロプラスチックが初めて検出されたことを、米マイアミ大学ミラー医学部のRanjith Ramasamy氏らが、「IJIR: Your Sexual Medicine Journal」に6月19日発表した。この研究では、5点のペニスの組織サンプルのうちの4点でマイクロプラスチックが検出されたという。研究グループは本年5月に人間の精巣から驚くべきレベルのマイクロプラスチックが検出されたことを報告したばかりであった。研究グループは、マイクロプラスチックは主要臓器の細胞や組織に浸潤する可能性があると話している。 Ramasamy氏はCNNの取材に対し、「今回の研究は、人間の心臓の中からマイクロプラスチックが見つかったことを明らかにした先行研究を土台にしている」と述べ、「ペニスは心臓と同様、非常に血管の多い臓器であるため、ペニスからマイクロプラスチックが見つかったことに驚きはなかった」と語っている。 Ramasamy氏らは今回、勃起不全(ED)と診断され、2023年8月から9月の間に陰茎インプラント手術を受けるためにマイアミ大学の病院に入院していた6人の患者から採取したペニスの組織サンプルを用いて、赤外イメージングシステムによる分析を行った。組織サンプルは陰茎体部から採取され、うち5点のサンプルは洗浄済みのガラス器具に保存された。残る1点は、プラスチック容器に保存して対照サンプルとした。 その結果、ガラス器具に保存した5点のサンプルのうちの4点と対照サンプルから7種類のマイクロプラスチックが見つかった。最も多く検出されたのはポリエチレンテレフタレート(PET、47.8%)、次いで多かったのはポリプロピレン(PP、34.7%)であった。また、マイクロプラスチックのサイズは20〜500µmであった。 このような結果を踏まえた上でRamasamy氏は、「今後は、マイクロプラスチックがEDに関係しているのか、病理学的症状を引き起こすレベルはどの程度のものなのか、どのような種類のマイクロプラスチックが病理学的症状を引き起こすのかを明らかにする必要がある」と述べている。 Ramasamy氏は、この研究が「人間の臓器内に異物が存在することについての認識を深め、このテーマをめぐる研究の促進につながる」ことを願っていると付け加えている。同氏はさらに、「われわれは、ペットボトルやプラスチック製の容器から水や食品を摂取することに留意し、今後の研究で病理学的症状を起こし得るレベルが特定されるまでは、そうしたものの使用を制限するよう努めるべきだ」と述べている。 米ニューメキシコ大学薬学部教授のMatthew Campen氏はCNNの取材に対し、「プラスチックが体内の至る所に入り込んでいることを裏付ける興味深い研究だ」と話す。同氏は、「プラスチックは一般的に、人間の体の細胞や化学物質と反応はしないが、勃起や精子の生成に関与する機能を含め、体が正常に機能するためのプロセスに対して物理的に破壊的である可能性はある」と指摘する。 Campen氏は、共著者として参加した人間の精巣に関する研究において、人間の精巣中で検出されたマイクロプラスチックのレベルが、犬の精巣や人間の胎盤で検出されたレベルより3倍高かったことに言及。「われわれは、体内のマイクロプラスチックがもたらし得る脅威にようやく気付き始めたところだ。マイクロプラスチックが不妊症や精巣がん、その他のがんに関与しているのかどうかを明確にするためにも、このテーマに関する研究の急増が必要だ」と述べている。 一方、米国小児科学会(AAP)の食品添加物と子どもの健康に関する政策声明の筆頭著者である、米ニューヨーク大学ランゴンヘルスのLeonardo Trasande氏は、マイクロプラスチックがもたらす脅威が明らかになるまでの間にわれわれがやるべきこととして、「まず、可能な限りステンレスやガラスの容器を使い、プラスチックの使用量を減らすこと。また、乳幼児用の粉ミルクや搾乳した母乳を含め、プラスチック製の容器に入った食品や飲料を電子レンジで温めるのはやめること。さらに、熱により化学物質が溶出する可能性があるので、プラスチックを食器洗浄機に入れないようにすること」とCNNに対して語っている。

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母親のスマホ使用は乳児への語りかけの減少と関連

 母親がスマートフォン(以下、スマホ)を使っているときには、乳児への語りかけが16%減少し、乳児の言語発達に悪影響を及ぼす可能性のあることが、新たな研究で示唆された。1~2分程度の短時間のスマホ使用は、母親の乳児への語りかけをさらに減少させていたという。米テキサス大学オースティン校心理学分野のMiriam Mikhelson氏らによるこの研究結果は、「Child Development」に6月26日掲載された。 Mikhelson氏は、「新米の親へのアドバイスは、スマホの使用が子どものニーズに対応する親の能力に影響するということを認識することだ。子どもにとっては、自分の求めに応じて一貫性のあるケアを受けることが非常に重要だ。しかし、親がスマホに夢中になっていると、そのようなケアを受けにくくなることがある」と話す。 研究グループによると、親のスマホの使用は子どもの言語発達に影響を与える可能性が先行研究で示唆されているという。しかし、これらの研究結果のほとんどは、管理された実験室で親子を観察して導き出されたものである。これに対しMikhelson氏らは今回の研究で、実生活での母子のやりとりと親のスマホ使用との関連を検討した。具体的には、16人の乳児(平均月齢4.1カ月、白人75%、女児63%)に1週間オーディオレコーダーを装着し、その録音データを、1万6,673分に及ぶ親のスマホの使用時間と同期させて、スマホの使用が母親の乳児への語りかけにどのような影響を与えるのかを調べた。 その結果、母親のスマホの使用は乳児への語りかけの16%の減少と関連することが明らかになった。また、長時間の使用に比べて、短時間(1〜2分)の使用の場合には乳児への語りかけが26%減少することも示された。研究グループはこの点について、「長時間のスマホ使用では電話やビデオチャットなどでの会話を伴うことがあるため、乳児が耳にする音声の量が増えるのに対して、短時間のスマホ使用は電子メールのチェックやメッセージの送信のような非言語的な活動が主流となるからではないか」と推測している。 さらに、スマホの使用が母子のやりとりに与える影響は、特定の時間帯(午前9〜10時、正午から午後1時、午後3〜4時)に顕著になることも判明した。Mikhelson氏らは、「これらの時間帯は、食事の時間や、きょうだいが学校や保育園から帰ってくる時間など、母親が子どもと接する機会が多い時間帯と重なる」と指摘している。 研究グループは、「親は、スマホの使用が乳児への対応に与える影響を過小評価している可能性がある」と話している。Mikhelson氏は、「もちろん親の中には、仕事上の義務やその他の責任から、スマホを使わないでいることが難しい人もいるだろう」と一定の理解を示しつつも、「自分の育児の質に不安がある人に対して、われわれは、できる限り子どもに関心を向けるよう努力すること、そして、スマホがその能力をどの程度妨げているかについて自分に正直になることを勧めている」と語っている。そして、「スマホを極力使わないでおこうと思いながらも、ついついスマホを使っていると自覚することが、重要な第一歩だ」と付け加えている。 研究グループは、今後の研究では、メッセージングや電話などの特定のスマホの使用と、食事中や遊びの最中など異なる状況でのスマホの使用が、親の子どもへの語りかけに与える影響を調べる必要があるとしている。

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VEXAS症候群、83%に皮膚病変

 VEXAS(Vacuoles, E1 enzyme, X-linked, Autoinflammatory, Somatic)症候群は、近年定義された後天性自己炎症性疾患で、主に50歳以上の男性に発症する。全身性の炎症症状、進行性骨髄不全症、炎症性皮膚症状がみられるのが特徴である。米国・ラトガース大学のIsabella J. Tan氏らは、観察コホート研究においてVEXAS症候群では皮膚症状が一般的かつ早期からみられる症状であることを明らかにした。そのうえで「皮膚血管炎、好中球性皮膚症、または軟骨炎を患う高齢の男性患者では、VEXAS症候群についての遺伝的評価を検討する必要がある。早期診断を促進するために、皮膚科医の間でVEXAS症候群の認識を高めることが重要である」と述べている。JAMA Dermatology誌オンライン版2024年6月12日号掲載の報告。 研究グループは、VEXAS症候群における特徴的な皮膚症状を検討し、それらが疾患の臨床的、遺伝学的、組織学的側面とどのように関連しているのかを調べることを目的として、観察コホート研究を行った。 対象患者は2019~23年に、UBA1遺伝子変異が確認されVEXAS症候群と診断された112例。医療記録レビューから、あるいは米国・メリーランド州ベセスダの国立衛生研究所(NIH)で直接評価したVEXAS患者から収集したデータを用いて解析した。 主要アウトカムは、遺伝学的、組織学的およびその他の臨床的所見と関連するVEXAS症候群における皮膚症状の範囲。副次アウトカムは、VEXAS症候群に対する治療への反応とした。 主な結果は以下のとおり。・対象患者112例の年齢中央値は69歳(範囲:39~79)、男性は111例(99%)であった。・皮膚病変は一般的な症状であり(93例[83%])、VEXAS症候群に特徴的な症状のなかで最もよくみられた症状であった(68例[61%])。・患者60例から得られた64件の組織学的報告のうち、主な皮膚の組織病理学的所見は、白血球破砕性血管炎(23件[36%])、好中球性皮膚症(22件[34%])、血管周囲性皮膚炎(19件[30%])であった。・病原性遺伝子変異と皮膚症状には関連がみられた。p.M41L変異と関連が最も大きかったのは、好中球の皮膚浸潤(14/17例[82%])であった(Histiocytoid Sweet Syndromeと類似することが多い)。・一方、p.M41V変異と関連していたのは、血管損傷(11/20例[55%])、混合白血球の浸潤(17/20例[85%])であった。・経口prednisoneにより、67/73例(92%)の患者において皮膚症状の改善がみられた。・anakinraによるVEXAS症候群の治療を受けた患者において、潰瘍(2/12例[17%])や膿瘍(1/12例[8%])などを含む重度の注射部位反応(12/16例[75%])の発現頻度が高かった。

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自然の中での運動は屋内での運動よりも有益

 公園での散歩や小道を自転車で走るなどの自然の中で行う運動は、室内で行う運動よりも有益である可能性が、新たなレビューで示唆された。ただし、公共の自然エリアへのアクセスは地域により異なり、全ての人が屋外で運動できるわけではないと研究グループは指摘している。米テキサスA&M大学健康・自然センターのJay Maddock氏とHoward Frumkin氏によるこの研究の詳細は、「American Journal of Lifestyle Medicine」に5月11日掲載された。 Maddock氏らは本研究の背景説明の中で、現在、米国成人の4人に3人以上が推奨されている1週間の運動量を確保できていないと述べている。同氏らは、このような運動は、心臓病、糖尿病、一部のがん、骨粗鬆症などの慢性的な健康問題の予防に役立つ上に、免疫機能を高め、気分を改善し、痛みのコントロールを助け、寿命の延長にもつながると説明している。 この研究では、屋内運動との比較で屋外運動の利点を検討した先行研究のデータが分析された。その結果、屋外での運動には、気分や脳機能の改善や社会的交流の向上、運動することの楽しさの増大、労作感の軽減など、さまざまな利点のあることが明らかになった。ただし、これらの先行研究は1年未満という短期間で認められる結果に焦点を当てたものであり、得られた利点が長期的に蓄積されるかどうかは不明であるとMaddock氏らは説明している。 また、特定の集団は公園や緑地などの自然空間で運動するのが困難なことも分かった。例えば、地方では私有地が多いため、自然空間へのアクセスが少ないことが多いのだという。この点についてMaddock氏は、「例えば、公園から半マイル(約800m)以内の距離に住んでいる住民は、イリノイ州では98%近くに上るのに、ミシシッピ州ではわずか29%にとどまる」と述べている。 さらに、男性は女性よりも、公園や自然空間を利用する傾向が強いことも明らかになった。Maddock氏らは、これは、おそらく安全性への配慮に由来する結果だとの見方を示している。このほか、ロサンゼルスを拠点とするある研究によると、黒人の成人は白人、ラテン系、アジア系太平洋諸島民の成人よりも自然空間で運動する人が少ないことや、子ども、高齢者、障害を持つ人々は自然空間へのアクセスに課題を抱えていることなども明らかになった。Frumkin氏は、「公園やその他の自然空間を、容易に移動できる安全な空間とし、適切なプログラムを用意することで、そのような環境の利用を増やすことができる」と述べている。 こうした結果を踏まえてMaddock氏とFrumkin氏は、医師は患者に公園や自然空間を「処方」することを検討すべきだと主張している。Maddock氏は、「患者に自然の中で過ごす時間を増やすように勧めることは、自然処方、あるいは『ParkRx』として知られている。今後、研究を重ねる必要はあるものの、これまでの研究ではこのアプローチが効果的であることが示唆されている」と述べている。 Maddock氏らはさらに、医療専門家は、公園や緑地の造成・維持のための資金援助や、それらの利用を促進する地域社会の取り組みを手助けすることもできると話す。Maddock氏は、「公園や自然空間を身体活動に利用することは、運動することと自然の中で過ごすことという2つの重要な健康行動を同時に促進する強力な手段となり得ることは明らかだ。米国人の大多数が運動不足で、屋外で過ごす時間も不十分であることを考慮すると、これは特に重要な可能性がある」と述べている。

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ポリファーマシー対策は薬剤師も主導しよう【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第134回

多剤服用中の患者さんにどう向き合うか、どう減薬していくか、という課題は確実に周知されつつあります。また、その解決に地域の薬剤師の活躍が求められていることも明確になりつつあります。そのような中、「地域における高齢者のポリファーマシー対策の始め方と進め方(案)」という手順書案が6月21日に厚生労働省より出されました。厚生労働省は6月21日の高齢者医薬品適正使用検討会で、地域における高齢者のポリファーマシー対策の始め方と進め方を業務手順書として示した。薬剤師等を患者の薬剤を一元的に把握して調整を支援する「薬剤調整支援者」、地域全体で対策実行を推進する「地域ポリファーマシーコーディネーター」として設置することなどを推奨した。(2024年6月25日付 日刊薬業)2021年3月に、病院におけるポリファーマシー対策を構築する際のツールとして、「病院における高齢者のポリファーマシー対策の始め方の進め方」が発表されました。そのうえで、「ポリファーマシー対策は病院だけでなく地域全体で取り組むと実効性がより高まる」ということから、より広い地域を対象とした本手順書案がこのたび策定されました。手順書策定の目的は以下の2つです。1.地域においてポリファーマシー対策を始める際に、目の前の患者にどう対応するかという視点で活用する2.地域のマニュアルなどを整備し、業務をより効率的に行う参考資料として活用するこの手順書を活用して、地域やプレーヤーに合ったマニュアルなどを整備することが望ましいとされています。ポリファーマシー対策の始め方から、進め方、よくある課題、実施例などが書かれてあり、非常に実践的です。たとえば、ポリファーマシー対策を小規模から始める例として、残薬など服薬上の問題を解消するための介入を薬局薬剤師が行うとあります。また、患者さんの薬剤を一元的に把握し、多職種で効率的に連携して対応を進めるため、普段から患者さんに関わりのある医療者からポリファーマシーを調整するキーマンとして「薬剤調整支援者」を患者さんと相談して決めることが有効と記載されています。薬剤調整支援者には、かかりつけ薬剤師やかかりつけ医など、患者さんが最も相談しやすい人が望ましいとされています。患者さんとも地域の医療者とも協力しながら進める必要があり、薬局薬剤師のやるべきことは山積み!と武者震いすると同時に、これまで積み上げてきた関係性がより活用されることは間違いないとも思います。今後の展開としては、厚生労働省は今年度の予算事業で、今回作成した手順書案を用いてポリファーマシー対策の実施・検証を行うとしています。これらの業務の委託先のNTTデータ経営研究所によると、2地域を調査対象として課題抽出や対応策の整理などを実施するとのことです。具体的な行動はもう少し後でもいいかなとも思うので、ぜひ読んで想像だけでも膨らませてください!じわじわと、そして確実に、地域の薬剤師の役割と期待が増えているように思います。指針と手順書の確定が楽しみです。関連サイト地域における高齢者のポリファーマシー対策の始め方と進め方(案)

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新しい医師の役割

医師ならではの起業が患者を救う!ごきげんな社会を実現しよう医師には医療だけでなく、新たな道として起業を提案したい。専門知識を深めた「I型人間」から広く一般知識を身につけた「T型人間」となって起業しよう。本書はその手引きとして実際に起業した医師たちを紹介するとともに、株式を上場した著者の起業体験も披露する。ダメだったら医師に専念すればいい。起業により多くの患者を救い、自身も経済的・精神的に潤い、医薬品・医療機器輸入超過も解消させ、ごきげんな社会を実現しよう。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。目次を見るPDFで拡大する目次を見るPDFで拡大する新しい医師の役割定価3,740円(税込)判型A5判頁数292頁発行2024年4月著者坪田 一男ご購入(電子版)はこちらご購入(電子版)はこちら紙の書籍の購入はこちら医書.jpでの電子版の購入方法はこちら紙の書籍の購入はこちら

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消化器内科「ピロリ菌感染症関連」【臨床実習を味わうケアネット動画Café】第1回

動画解説臨床研修サポートプログラムの研修医のための内科ベーシック1消化器内科より、宮垣亜紀先生の「ピロリ菌感染症関連」を鑑賞します。実習中に聞かれがちなピロリ菌除菌に使用する3剤、答えられますか?

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低リスク前立腺がんの監視療法、10年後の病勢進行率は?/JAMA

 未治療の低リスク前立腺がん患者では、プロトコールに基づく監視療法(active surveillance)により、診断から10年の時点で49%の男性が病勢の進行がないか治療を開始しておらず、転移病変の発生は2%に達せず、前立腺がんによる死亡は1%未満であり、監視療法中の病勢進行や治療はアウトカムの悪化とは関連しないことが、米国・Fred Hutchinson Cancer CenterのLisa F. Newcomb氏らが実施した「Canary PASS研究」で示された。研究の成果は、JAMA誌2024年6月25日号で報告された。北米10施設の前向き観察研究 Canary PASS研究は、米国とカナダの10施設で実施した前向き観察研究であり、2008~22年8月に、低リスク前立腺がんと診断され、前治療歴のない男性2,155例を登録した(Canary Foundationなどの助成を受けた)。 全例で、限局性前立腺がんに対し、標準化されたプロトコールに基づいて前立腺特異抗原(PSA)の測定と、前立腺生検による監視療法を行った。 主要評価項目として、生検に基づく悪性度の再分類、根治的治療(根治的前立腺全摘除術、放射線療法、アンドロゲン除去療法[ADT]、その他)、根治的前立腺全摘除術時の有害な病理所見、治療後の再発、転移、全死亡、疾患特異的死亡の評価を行った。10年後の生検による悪性度再分類43%、治療49% 診断後の追跡期間中央値は7.2年であった。診断時の年齢中央値は63歳、83%が非ヒスパニック系の白人、7%が黒人であった。90%がグレードグループ1(GG1)の診断を受けており、PSA中央値は5.2ng/mLだった。 2,155例中2,008例が、診断のための初回生検後に監視療法としての生検を1回以上受けた。このうち約半数(1,003例)は悪性度の再分類または治療を受けなかった。374例が、確認生検で早期に、より悪性度の高いがんに再分類され、404例はその後の生検で悪性度の高いがんに再分類された。 診断から10年後に、生検による悪性度再分類は43%(95%信頼区間[CI]:40~45)で、治療は49%(47~52)で行われていた。 また、確認生検に基づき治療を受けた患者は425例(診断後の経過期間中央値1.5年)、その後の生検に基づき治療を受けた患者は396例(4.6年)であり、5年再発率はそれぞれ11%(95%CI:7~15)および8%(5~11)であった。10年後の転移発生率1.4%、前立腺がん特異的死亡率0.1% 根治的前立腺全摘除術時に、転移を有するがんへと進行していた患者は21例で、このうち10例は遠隔転移、5例は領域転移、6例はリンパ節転移であった。また、前立腺がん関連死は3例だった。 診断後の10年転移発生率の推定値は1.4%(95%CI:0.7~2)、10年前立腺がん特異的死亡率は0.1%(0~0.4)と低く、同じ経過期間における全死亡率は5.1%(3.8~6.4)であった。 著者は、「これらの結果は、低リスク前立腺がんと診断された患者では、監視療法が有効な疾患管理戦略であることを示すものである」と指摘している。

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夏場は注意!紫外線だけでなく、高温・熱中症も白内障リスクに

 今夏も高温の日が続くことが予想されている。紫外線が眼病リスクを高めるという報告はこれまでも多くされてきたが、紫外線だけでなく、環境温度や熱中症の既往も白内障リスクを高める可能性があるという。2024年6月にジョンソン・エンド・ジョンソンが行ったプレスセミナーにおいて、金沢医科大学 眼科学講座 主任教授 佐々木 洋氏が「紫外線と高温環境が目に与える影響と対策」と題した講演を行い、これまで佐々木氏らの研究グループが行った調査データをまとめて報告した。紫外線と白内障の関係 佐々木氏らの研究グループは、これまで世界各地で紫外線被曝量と白内障リスクの関連について調査してきた。 中国・台湾の3エリアで行った生涯紫外線被曝量(COUV)と白内障リスクの関連の研究1)においては、人種を漢民族に絞り、COUV量の異なる三亜・太原・台中において年齢、性別、糖尿病の有無、眼軸長(強度近視)調整後の白内障リスクを比較した。その結果、これまでCOUVは水晶体皮質が白濁する「皮質白内障」の発症と関係が深いことが報告されていたが、この研究においては、COUVは水晶体核が硬くなる「核白内障」発症リスクとの関連が最も大きいことがわかった。この結果について佐々木氏は「皮質白内障には紫外線と関連が強い輪状型皮質白内障、紫外線と関連がないWatercleftsという白内障が進行し生じる車軸型皮質白内障があることがわかってきた。紫外線強度の強い地域では核白内障のリスクが急激に上昇することが、今回の結果に影響している可能性があると考えている」とした。 沖縄県・西表島の40歳以上の住民を対象とした研究2)では、幼年期の紫外線被曝量が成人後の白内障リスク因子として大きいことがわかった。同じ西表島在住の成人でも高校まで沖縄に在住していた群は、20代以降に移住した群よりも核白内障に8.67倍なりやすかったという。 さらに、世界各地の研究結果を比較すると、COUVが高い地域の在住者はそうでない地域の在住者と比較して総じて核白内障リスクが増すものの、COUVが同等の地域であっても屋外活動時間やメガネやサングラス装着習慣の有無によって発症リスクが大きく変わることも明らかになった。 白内障リスク対策は、紫外線被曝を防ぐことだ。具体的な方法として、日本において使用者の多い日傘は紫外線カット率が10~30%程度とそこまで高くない。帽子は種類によるが20~70%、サングラスは50~98%であり、帽子とサングラスを併用することで95~99%カットできる。UVカット機能のあるコンタクトレンズは角膜全体を覆い、耳側から入る光や反射光も防ぐことができるため有用だという。佐々木氏は「私たちは西表島で課外活動中の小学生にサングラスを掛けさせる運動を行ったこともあるが、子供がずっとサングラスを掛け続けることは難しい面もあり、ほかの対策を併用する必要があるだろう」とした。環境温度と白内障の関係 紫外線と白内障の関係について研究を続けると、改めて高温地帯で白内障発症リスクとの強い相関が確認された。「ここから、紫外線だけではなく、環境温度や体内温度も白内障リスクと関わりがあるとのではないか、という仮説が生まれた」(佐々木氏)。世界中で平均気温は上がり続けており、日本の平均気温は過去100年間で約1.5℃上昇し、都心部ではヒートアイランドの影響などでさらに上昇度が大きい。 名古屋工業大学・平田 晃正氏のチームは人体を対象とした複合熱解析手法により環境温度・湿度、深部温度、年齢、出生地域、太陽光曝露の有無などの因子が水晶体温度をどう変化させるのかについて、スーパーコンピュータを使った計算機シミュレーションにより予測できることを報告している。この研究結果を基礎研究データとし、これまでの眼疫学研究から得た核白内障の有病率とシミュレーションにより計算した水晶体温度の関連を併せて検討した結果、高温環境下、具体的には水晶体温度が37度以上の熱負荷が続くと、核白内障リスクが増す可能性が高いことが明らかになった3)。とくに熱帯地域や高齢者、屋外労働者などでリスクが高いことが明示された4)。続く研究によって核白内障リスクの寄与因子としては水晶体への熱負荷が52%+紫外線被曝が31%、その他加齢要因が17%であることが示された5)。熱中症と白内障の関係 佐々木氏らは、さらにこの研究を進め、高温多湿の環境が引き起こす疾患、熱中症が白内障リスクにつながるのかについても調査した。本研究(論文執筆中)では2016年1月~2023年2月の5年間のレセプトデータを用い、追跡可能だった255万8,593例を調査対照とした。対象者を熱中症、白内障、糖尿病の病名で分類し、年齢、性別、都道府県、糖尿病罹患歴の有無でマッチングコホートを作成し、追跡期間中の熱中症既往の有無により、5年間の年代別白内障発症率を比較した。 結果として、追跡期間中1回以上の熱中症既往のある人は、そうでない人に比べ、白内障リスクが3~4倍高く、その差は年代が上がるほど急激に開く傾向があった。「この機序としては、熱中症時の急激な体温上昇によって水晶体温度も上昇し、水晶体熱負荷が白内障発症リスクにつながった可能性があると考えている」(佐々木氏)。紫外線被曝と熱中症の予防が肝要 今後の課題として佐々木氏は「紫外線、環境温度・熱中症と白内障についての複合的な関連の解明をさらに進める必要がある。幼少期の紫外線被曝が白内障リスク上昇に関与している可能性を示唆する調査結果も出ているため、保護者や子供への啓蒙活動が重要になる」と述べた。とくに眼科医が少ない発展途上国において、白内障発症はそのまま失明につながることも多いため、啓蒙と対策は喫緊の課題だという。「日本においても紫外線・赤外線カットサングラス、UVカットコンタクトレンズなどを使った対策を普及させること、これと併せて熱中症予防対策を強化することが、白内障発症リスクを低減することにつながる」と強調した。 さらに「白内障というと、高齢者を中心にありふれた疾患であり、手術すれば治る、といったように捉えられることも多いが、手術をしても決して若い時の視力・見え方に戻るわけではない。さらに核白内障の初期症状は老眼であり、紫外線被曝や熱中症既往は30~40代といった若い時期の老眼リスクにもつながる。まずは予防が肝要だ」と、予防の重要性を重ねて訴えた。

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座位時間を減らすことが健康的な老化につながる

 テレビは、ついだらだらと見てしまうものだが、健康的な老化のためにはソファーに座っている時間は短い方が良いことを明らかにした研究結果がまた1件報告された。米ハーバード大学T.H.チャン公衆衛生大学院疫学分野のMolin Wang氏らによる研究で、詳細は「JAMA Network Open」に6月11日掲載された。 この研究は、Nurses' Health Studyに参加した4万5,176人の女性の20年間の追跡データを用いて、座位行動および低強度の運動(light-intensity physical activity;LPA)と健康的な老化との関連を調査したものである。全参加者が1992年時点で50歳以上であり(平均年齢59.2歳)、慢性疾患は持っていなかった。座位行動の指標として、座位でテレビを見ている時間、座位で仕事をしている時間、その他の家庭での座位時間、LPAの指標として、家庭(LPA-HOME)と仕事(LPA-WORK)でそれぞれ立ったり歩いたりして過ごす時間を調べた。健康的な老化とは、主要な慢性疾患に罹患しておらず、主観的認知機能・身体機能・メンタルヘルス障害がない状態で70歳以上に達している場合と定義された。 20年にわたる追跡期間中に、3,873人(8.6%)が健康的な老化を達成していた。結果に影響を与える因子を調整して解析した結果、座位でテレビを見る時間が1日当たり2時間増えるごとに健康的な老化を達成するオッズが12%低下するが、LPA-WORKが1日当たり2時間増えるごとに同オッズは6%上昇することが示された。また、座位でテレビを見る時間のうちの1時間をLPA-HOME、LPA-WORK、または中強度から高強度の運動に置き換えることで、健康的な老化を達成するオッズがそれぞれ8%、10%、28%上昇することも明らかになった。さらに、夜間の睡眠時間が7時間未満の人は、テレビの視聴時間を睡眠に置き換えることで、健康的な老化を達成するオッズが高まることも示された。 この研究には関与していない、米ナショナル・ジューイッシュ・ヘルスで心血管の予防と健康を担当するAndrew Freeman氏はCNNの取材に対し、「テレビを見ることは、特に不健康な行為だ。その理由は、動かないからというだけではない。テレビを見るという行為には、ジャンクフードやTVディナー(温めるだけでそのまま食べられるワンプレートタイプの冷凍食品)を食べたり、人とコミュニケーションを取る機会を失ったり、睡眠が妨げられたりといったことを伴いがちだ」と指摘する。 Freeman氏は、「運動は、どんな方法でも、どんな時間でも、全てを好転させることができる。運動は、心血管系のリスクと血圧を下げる、本当に素晴らしい方法だ」と話す。同氏は、「私が強く勧めたいのは、職場でのスタンディングデスクやトレッドミルデスクの使用だ。私の考えでは、一度に30分以上座っているのであれば、それはおそらく長過ぎであり、少しでも動くように努めるべきだ」と述べている。

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第218回 迫る都知事選、主要4候補”以外“で気になる人物

今、東京は過去最多の56人の候補者が出馬している「東京都知事選挙」の真っ最中である。候補者の数もさることながら、すでに報道でも数多く伝えられているように、掲示板スペースが足りずにテープなどで掲示板の端っこにはみ出る形でポスター掲示を強いられる候補、公序良俗に反する内容のポスターで警視庁から警告を受ける候補、政党による掲示板スペースの販売などが伝えられるカオスな状態である。今回のことを受けて、「都知事選候補は予備選を」とか「選挙出馬での供託金(知事選は300万円)を引き上げるべき」など有権者の声もあるほどだ。私個人は自分にとって不快でノイズと感じる声・意見を耳にすることは民主主義の必然(もちろん限度はある)であることや、昨今の地方首長選挙で半ば“流行り”の無投票再選になるくらいだったらカオスなほうがマシという考えであるため、今回の都知事選を巡るさまざまな事象には寛容なほうである。とはいえ、東京都在住の私は有権者でもあるため、常に選挙で自分に最低限課している選挙公報の精読も56人もの候補者がいると、なかなかに骨が折れる。実はそれだけで1時間半を要したほどだ。さらに補足的に各候補のホームページやX(旧Twitter)の投稿もウォッチしているため、この選挙で消費する労力は生活への負の影響を危惧するレベルである。いつもならば医療・介護にかかわる各候補の主な政策を網羅的に紹介し、個人的な批評も加えるのだが、今回の都知事選でそれをやれば文字数で1万字超が避けられない。また、ここまで候補者が多いと、通常の選挙以上に主要候補と呼ばれる人とその他候補の報道量の格差が大きいし、各候補のHPやXを見ても、医療・介護関連にまったく言及していない候補も結構いる。ちなみに各種報道を見る限りでは、今回の主要候補とされているのは現職都知事の小池 百合子氏、立憲民主党を離党して出馬した蓮舫氏、広島県安芸高田市前市長の石丸 伸二氏、元航空幕僚長の田母神 俊雄氏となるようだ。これら候補を除く52人の候補者は相対的に露出度が少ない。露出度が控えめも公約は有権者ファーストその中で私がやや興味を引いた候補がいる。日本でのAI研究の草分けとも言われる東京大学大学院工学系研究科教授の松尾 豊氏の研究室を経て、AIエンジニア・SF作家として活動する安野(あんの) 貴博氏である。2022年にデジタル庁のデジタル関係制度改革検討会デジタル法制ワーキンググループの構成員も務めている。なぜ安野氏に興味を抱いたかと言えば、ネットニュースサイトNewsPicksでのインタビューで、デジタルを活用しながら民意を吸収し、選挙公約として掲げた政策も選挙期間中にアップデートしていく旨を語っていたからだ。こういった主張はネガティブな観点で“今風”と揶揄する人もいるだろうが、そもそも民意とは常に変化するものであり、それに応じて政策のアップデートは必要だろうと私は常々考えていたのである。そうこうしながら安野氏のXをウォッチしていたところ、突如、男性のHPVワクチン任意接種の全額助成という政策変更(追加)を打ち出してきた。ちなみにここの読者には釈迦に説法だが、4価のHPVワクチンに関しては、肛門がんや男性の尖圭コンジローマの適応が追加され、海外ではHPV起因の中咽頭がん、陰茎がんの予防にも有効とする報告もあり、男性での定期接種化が議論されてきた。しかし、厚生労働省の厚生科学審議会の予防接種・ワクチン分科会予防接種基本方針部会では、有効性・安全性に問題はないものの費用対効果の観点から課題があるとして、現時点では定期接種化を見送っている。ただ、各地の自治体で男性の接種に対する補助は広がりを見せており、東京都の場合は確認できるだけで23区内のうち20区がすでに全額助成を開始している、あるいは今後開始する予定である。一方、都下26市のうち現時点で全額助成を開始/開始を決定しているのは4市のみ、一部助成が1市とかなりの格差がある。これを都内一律で全額助成をするというのだ。ちなみにそのほかの政策でも「認知症への備えをアプリで支援」など特有の政策を掲げている。ちょっとご本人に直接話を聞いてみようと思い、街頭演説場所に出かけて話しかけてみた。その場に集まってきている有権者にもあいさつするなど多忙な中、3度に分けてご本人に疑問をぶつけてみた。街頭演説時に質問してみると―HPVワクチンの男性への接種費用の全額補助という政策を選挙戦中に追加しましたが、選挙以前にHPVワクチンのことはどの程度は認識していましたか?【安野】実は私も25歳頃にHPVワクチンを受けています(ちなみに本人は33歳)。その意味で、そもそもこのワクチンの接種が男性にも良い効果をもたらすことは知っていましたし、その結果、パートナーをも守れる可能性が高いことも知っていました。―認知症の方をアプリで支援するという政策が書かれてありましたが、具体的なイメージが湧きません。【安野】イギリスでは、実はアプリで自分が認知症発症後に備えて、たとえば、どういう治療方針を選択するか、自分の資産を誰に信託するかなどの情報をあらかじめまとめ、一定の条件下でほかの人が見られるような仕組みが整っています。また、オーストラリアでは自治体によっては60歳時点で今後の自分の意思を残すよう促す制度が存在しています。認知症の人が保有する凍結資産は東京都だけでも19兆円を超えるという試算もあるほどで、これは大きな問題です。また、認知症の高齢者の場合、さまざまな併存疾患を有していることも少なくないので、それらの治療方針についても自分の意思を反映させられないままになるのはこれまた問題と考えています。このような現実を考えれば、海外で行われている事例を東京都で導入する余地はあるのではないかと考えているのです。―アプリを使ったPHR(Personal Health Record)の活用は、国内でも難病患者をはじめさまざまなシーンで試みられていますが、今のところは目立った成果を挙げられていません。【安野】PHRがなぜあまりうまくいってないのかについては、私個人はまだ十分に精査できてない部分もあり、そこはきちんと調べる必要があると思っています。ただ、アプリそのものの出来であるとか、政府など公共機関などの発注などでは、使いやすさなどを担保しない形の発注になってしまっていることが多く、その点は一つ問題だと認識しています。とはいえ、これも仮説ではあるので、もう少し深く見たほうが良いとは思っています。―今回、安野さんが取り組んでいるような、有権者から提言を受けてアジャイルに政策を変更・追加することには批判もあると思うのですが。【安野】おっしゃる通りです。ただ、それについてはどのような政治家であっても自分一人が考え付くことには限界があると思うのです。ならば外部の声を上手に拾い上げて自分の政策に反映するほうが、より良いものになると考えています。そういう意味ではアジャイルに改善していくという考えです。“気持ちの揺れ“、候補者にもあっていいアジャイルとは、英語で”機敏な“という意味。最近ではソフトウェア開発などに関連してよく耳にするようになった言葉で、要は基本機能を実装したソフトウェアはすぐに実用を開始し、必要に応じて徐々にアップデートしていくということ。そもそも医療・介護を巡る個人の意思決定は、自分の生命や生活に直結するがゆえに揺れ動くのが常。その観点からむしろもっともアジャイル精神を求められるのが医療・介護政策だと個人的には考えているが、どうにも日本という国では行政は不必要なまでに首尾一貫性を求められ、それ以外にはあれやこれやのしがらみが影響して、やるべきことが鼻先まで見えていながら実現しない隔靴掻痒な状況は少なくない。ちなみに今の自分にとって、最もアジャイルなのはこの選挙の投票先である。これは元からそうだが、選挙当日朝まで私は投票先を決めていないことがほとんど。それもこれも選挙期間中は、候補者本人の政策提言にアジャイル精神が残されているし、候補者自身の評価につながる情報もアジャイルに変化するからである。そして、とくに今回は候補者が多いだけにいつも以上に悩ましい。もっともこの悩みも昨今、無投票再選が増えている地方首長選挙の有権者からすれば贅沢な悩みかもしれないが。

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セフトリアキソンとランソプラゾールの併用リスク、日本人では?

 セフトリアキソン(CTRX)とランソプラゾールの併用は、心室性不整脈、心停止、院内死亡を増加させることが示唆されるという研究結果が、2023年にカナダの研究グループから報告され、話題となった1)。そこで、三星 知氏(下越病院)らの研究グループは、医療データベースを用いた後ろ向きコホート研究により、日本人におけるこれらのリスクを検討した。その結果、日本人においてもCTRXとランソプラゾールの併用は、心室性不整脈や心停止のリスクを上昇させることが示唆された。本研究結果は、Journal of Infection誌オンライン版2024年6月17日号で報告された。 本研究は、JMDCが構築した日本の医療機関データベースを用いて、2014年4月〜2022年8月の期間に登録されたデータを解析した。対象は、CTRXまたはスルバクタム・アンピシリン(SBT/ABPC)とプロトンポンプ阻害薬(PPI)を併用する20歳超100歳未満の患者10万5,301例とした。主要評価項目は、心室性不整脈・心停止の発生率であった。 主な結果は以下のとおり。・CTRXを投与された患者5万5,437例およびSBT/ABPCを投与された4万9,864例を抽出した。対象患者の年齢中央値は81歳(四分位範囲:72~88)であった。・心室性不整脈・心停止は、CTRXを投与された患者187例(0.34%)、SBT/ABPCを投与された患者82例(0.16%)に認められた。・PPIを経口投与された患者集団において、CTRX+ランソプラゾール群はSBT/ABPC+ランソプラゾール群と比較して、心室性不整脈・心停止のリスクが有意に高かった(ハザード比[HR]:2.92、95%信頼区間[CI]:1.99~4.29、p<0.01)。・一方、CTRX+その他のPPI(ラベプラゾール、エソメプラゾール、オメプラゾールのいずれか)群はSBT/ABPC+ランソプラゾール群と比較して、心室性不整脈・心停止のリスクが有意に低かった(HR:0.48、95%CI:0.27~0.88、p=0.02)。・PPIを静脈内投与された患者集団では、CTRX+ランソプラゾール群(HR:4.57、95%CI:1.24~16.8、p=0.02)およびCTRX+オメプラゾール群(HR:4.47、95%CI:1.44~13.9、p=0.01)が、SBT/ABPC+ランソプラゾール群と比較して心室性不整脈・心停止のリスクが高かった。 著者らは、本研究結果は観察研究から得られた知見であり、さらなる研究が必要としつつ「CTRXとランソプラゾールの併用が、経口および静脈内投与のいずれにおいても心室性不整脈や心停止のリスクを上昇させることが示唆された。PPIと抗菌薬の選択が転帰を悪化させる可能性がある」とまとめた。

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