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医師が選んだ2015年の10大ニュースランキング! 【CareNet.com会員アンケート結果発表】

1位フランス・パリ中心部で連続テロ事件が発生 11月13日の夜(現地時間)に起こった「パリ同時多発テロ事件」。パリと郊外のサン=ドニのスタジアムの計7ヵ所でほぼ同時に発生した爆発と銃撃は、一瞬にして世界中を震撼させたとても痛ましい事件でした。多くの人々が犠牲になり、少なくとも130人が死亡したとされています。翌14日、過激派組織ISがインターネット上に犯行声明を発表。オランド大統領も同日中にフランス国内に非常事態宣言を発令し、その後、3ヵ月延長しました。事件後、フランス軍がシリアのIS拠点へ報復空爆したこともあり、いまだ予断を許さない状況が続いています。2位安全保障関連法が成立 安全保障関連法が9月19日未明の参議院本会議で可決され、成立しました。具体的には、10本の現行法をまとめた「平和安全法制整備法案」と、「国際平和支援法案」を合わせたものを指します。法案の内容には集団的自衛権の行使容認を含むため、日本国民への影響が懸念されています。今後の動きからも目が離せません。3位日本人科学者2人がノーベル賞に 生理学・医学賞に大村智氏、物理学賞に梶田隆章氏 昨年に続き、今年も2人の日本人科学者がノーベル賞を受賞しました。生理学・医学賞の大村 智氏(北里大学特別栄誉教授)は抗寄生虫薬イベルメクチンの開発が多数の患者さんの命を救ったことに、物理学賞の梶田 隆章氏(東京大学宇宙線研究所長)はニュートリノ振動の発見という宇宙開発への功績に対して贈られました。2日連続の受賞発表という快挙に、日本中が明るい空気に包まれました。4位日米など12ヵ国、TPPの妥結を大筋合意 5年以上をかけて行われた環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉が妥結、大筋合意されました。巨大な自由貿易圏が誕生するなど大きなメリットもある反面、デフレや食の安全が脅かされる恐れがあるというデメリットも懸念されています。すぐに実施されるわけではありませんが、医療分野も医療保険の自由化によって混合診療が解禁された場合に大きな影響があることから、今後の動きに注目したいところです。5位「マイナンバー」法が施行 法案が施行され、10月1日から通知が始まったマイナンバー。来年1月からは運用も始まります。日本に暮らすすべての人に12桁の番号が割り振られることは、情報共有によるミスの軽減や国のコストカットというメリットと、プライバシーが侵害される危険性というデメリットがあります。当面は税金、社会保障関連のみの運用ですが、医療分野では別の番号(医療等ID)による運用が2018年度から段階的に始まるため、引き続き情報収集が必要です。6位ラグビー日本代表の活躍。五郎丸選手、24年ぶりW杯勝利導く7位独フォルクスワーゲン、不正ソフトウェア使用で排ガス規制逃れ8位過激派組織イスラム国(IS)による、日本人拘束事件9位横浜市の傾きマンション問題。データ改ざんも次々発覚10位群馬大学医学部附属病院、腹腔鏡手術で患者8人が死亡した問題において過失を認める★アンケート概要アンケート名:『医師が選んだ2015年の10大ニュース!』実施日:2015年11月18日調査方法:インターネット対象:CareNet.com会員医師有効回答数:1,016件

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新型インフルエンザH7N9、初の院内感染例か/BMJ

 鳥インフルエンザA(H7N9)ウイルスの院内ヒト-ヒト感染例が、中国・浙江省衢州市疾病予防管理センターのChun-Fu Fang氏らにより報告された。感染入院患者と5日間、同一病棟に入院していたCOPD既往患者への伝播が、疫学調査により確認されたという。その他同一病棟患者への感染が検体不足で確認できず、患者間の感染は確定できなかったが、著者は「今回の調査結果は、病院内での無関係のヒト-ヒト間におけるH7N9ウイルス感染のエビデンスを提示するものだ」と述べ、「インフルエンザ様疾患を呈した入院患者および家禽市場のサーベイランスを強化し、ウイルスの伝播・病原のモニタリングを十分に行う必要がある」と提言している。BMJ誌オンライン版2015年11月19日号掲載の報告。同一病棟への入院歴があった2人の患者を疫学調査 2013年2月にH7N9ウイルスのヒトへの感染が報告されて以来、中国では3回のエピデミックが発生している。しかし、これまでに報告されたヒト-ヒト感染例はすべて家族集団内で起きており、各自の病原体への曝露が原因あるいはH7N9ウイルスに感染しやすい遺伝的感受性による可能性を示唆するものであった。 今回、疫学調査が行われたのは、2015年2月に同一病棟への入院歴があった2人の患者であった。無関係のヒト-ヒト感染の可能性を示唆するものであったことから、研究グループは、患者およびその濃厚接触者、局所環境から検体を収集し、rRT-PCR、ウイルス培養検査を行った。また、赤血球凝集抑制試験、マイクロ中和試験でウイルス特異抗体の検出を行い、臨床的データ、感染経路の追跡、系統樹分析、血清学的検査の結果を主要アウトカムとして評価した。両患者のH7N9ウイルスはほぼ同一 1例目の患者は49歳男性、鉱山労働者で掘削ドリルオペレーター。発熱(37.5℃)、咳、咽頭痛を訴え2月16日に村の診療所を受診。翌日、別の診療所を受診するが熱がひかず、18日に地方病院Aに入院した。CT検査で両肺に浸潤影を認め23日にB病院に転院。24日にH7N9ウイルスに感染していることが確認され、25日に専門病院Cに転院しオセルタミビル治療を受けたが、その後4月20日に死亡した。同患者については、症状発症が家禽市場を訪れた7日後であったことが確認されている。 2例目の患者は57歳男性。COPD歴30年で、2月15日に増悪のためA病院に入院、18日に49歳男性患者と同じ病棟に転棟し5日間を過ごした。23日に病状が改善し退院したが、翌日、発熱(40℃)と咳を呈する。49歳男性患者との濃厚接触者と認定され25日にD病院に入院、H7N9ウイルス感染が確認され、26日に専門病院Cに転院となりオセルタミビル治療を受けたが、3月2日に呼吸不全のため死亡した。この患者については、家禽市場へは行っていないこと、また濃厚接触者に関しても発症前15日間に家禽市場へ行った人はいなかったことが確認されている。 両患者のH7N9ウイルスは、ゲノムシーケンスの結果、ほぼ同一のもので、家禽市場で分離培養されたウイルスとも遺伝的に類似していたという。 一方で、濃厚接触者38人に関する検査において、ウイルス特異抗体は検出されなかった。また、伝播が両患者間で起きたのかは、同一病棟からの検体不足のため確定はできていない。環境スワブ検体から、rRT-PCR検査でH7N9ウイルスの陽性反応が示されたが、ウイルスの培養には至らなかった。診断の遅れと複数回の転院により血清サンプルを集めることができず、H7N9ウイルスの抗体検査はできなかった。

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鋭い論文解説が勢ぞろい!【CLEAR!ジャーナル四天王 2015年トップ30発表】

臨床研究適正評価教育機構(J-CLEAR)は、臨床研究を適正に評価するために、必要な啓発・教育活動を行い、日本の臨床研究の健全な発展に寄与することを目指しているNPO法人です。本企画『CLEAR!ジャーナル四天王』では、CareNet.comで報道された海外医学ニュース『ジャーナル四天王』に対し、鋭い視点で解説します。コメント総数は約450本(2015年11月時点)。今年掲載された150本以上のコメントの中から、アクセス数の多かった解説記事のトップ30を発表します。1位高齢者では、NOACよりもワルファリンが適していることを証明した貴重なデータ(解説:桑島 巖氏)(2015/5/20)2位LancetとNEJM、同じデータで割れる解釈; Door-to-Balloon はどこへ向かうか?(解説:香坂 俊氏)(2015/1/9)3位FINGER試験:もしあなたが、本当に認知症を予防したいなら・・・(解説:岡村 毅氏)(2015/3/20)4位降圧は「The faster the better(速やかなほど、よし)」へ(解説:桑島 巖氏)(2015/4/3)5位MRIが役に立たないという論文が出てしまいましたが…(解説:岡村 毅氏)(2015/7/22)6位DAPT試験を再考、より長期間(30ヵ月)のDAPTは必要か?(解説:中川 義久氏)(2015/1/8)7位やはり優れたワルファリン!(解説:後藤 信哉氏)(2015/8/19)8位ヘパリンブリッジに意味はあるのか?(解説:後藤 信哉氏)(2015/7/8)9位市中肺炎患者に対するステロイド投与は症状が安定するまでの期間を短くすることができるか?(解説:小金丸 博氏)(2015/2/18)10位CKD合併糖尿病患者では降圧治療は生命予後を改善しない?(解説:浦 信行氏)(2015/6/9)11位ワルファリン出血の急速止血に新たな選択肢?(解説:後藤 信哉氏)(2015/4/6)12位SPRINT試験:厳格な降圧が心血管発症を予防、しかし血圧測定環境が違うことに注意!(解説:桑島 巖氏)(2015/11/13)13位なんと!血糖降下薬RCT論文の1/3は製薬会社社員とお抱え医師が作成(解説:桑島 巖氏)(2015/7/14)14位COSIRA試験:血管を開けるのか?それとも、閉じるのか? 狭心症治療に新たな選択肢(解説:香坂 俊氏)(2015/3/27)15位SORT OUT VI試験:薬剤溶出性ステント留置は成熟した標準治療となった!(解説:平山 篤志氏)(2015/2/10)16位心血管リスクと関係があるのはHDL-C濃度ではなくその引き抜き能(解説:興梠 貴英氏)(2015/1/21)17位SPRINT試験:75歳以上の後期高齢者でも収縮期血圧120mmHg未満が目標?(解説:浦 信行氏)(2015/11/18)18位鼻腔から集中治療を行える時代へ:ハイフロー鼻腔酸素療法(解説:倉原 優氏)(2015/6/3)19位働き過ぎは、脳卒中のリスク!(解説:桑島 巖氏)(2015/8/31)20位CLEAN試験:血管内カテーテル挿入時の皮膚消毒はクロルヘキシジン・アルコール(解説:小金丸 博氏)(2015/10/30)21位IMPROVE-IT試験:LDL-コレステロールは低ければ低いほど良い!(解説:平山 篤志氏)(2015/6/22)22位なぜ心房細動ばかりが特別扱い?(解説:後藤 信哉氏)(2015/10/5)23位LDL-コレステロール低下で心血管イベントをどこまで減少させられるか?(解説:平山 篤志氏)(2015/4/21)24位EMPA-REG OUTCOME試験:試験の概要とその結果が投げかけるもの(解説:吉岡 成人氏)(2015/10/1)25位DPP-4阻害薬の副作用としての心不全-アログリプチンは安全か…(解説:吉岡 成人氏)(2015/4/14)26位食後血糖の上昇が低い低glycemic index(GI)の代謝指標への影響(解説:吉岡 成人氏)(2015/1/6)27位抗うつ薬、どれを使う? 選択によって転帰は変わる?(解説:岡村 毅氏)(2015/3/3)28位治療抵抗性高血圧の切り札は、これか?~ROX Couplerの挑戦!(解説:石上 友章氏)(2015/2/20)29位デブと呼んでごめんね! DEB改めDCB、君は立派だ(解説:中川 義久氏)(2015/9/30)30位問診と自己申告で全死亡が予測できる?(解説:桑島 巖氏)(2015/7/6)今回ご紹介しました「CLEAR!ジャーナル四天王」とは他にも、人気のランキングはこちらをどうぞ

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2015年、人気を集めた記事・スライド・動画は?【2015年コンテンツ閲覧ランキング TOP30】

2015年も、日常診療に役立つ情報を、記事やスライド、動画などで多数お届けしてまいりました。その中でもアクセスの高かった人気コンテンツは、何だったのでしょうか?トップ30をご紹介いたします。1位わかる統計教室第1回 カプランマイヤー法で生存率を評価するセクション1 生存率を算出する方法2位特集:アナフィラキシー 症例クイズ(1)3回目のセフェム系抗菌薬静注後に熱感を訴えた糖尿病の女性3位特集:誰もが知っておきたいアナフィラキシー(3)知っておくべき初期治療4位1分でわかる家庭医療のパール ~翻訳プロジェクトより~第16回 犬猫咬傷~傷は縫っていいの? 抗菌薬は必要なの?5位特集:誰もが知っておきたいアナフィラキシー(1)誘因と増悪因子を整理6位CLEAR!ジャーナル四天王高齢者では、NOACよりもワルファリンが適していることを証明した貴重なデータ(解説:桑島 巖 氏)7位Dr.山本の感染症ワンポイントレクチャーQ9.急性腎盂腎炎の標準的治療期間、10~14日の根拠を教えてください。8位特集:誰もが知っておきたいアナフィラキシー(2)診断のカギ9位Dr.山本の感染症ワンポイントレクチャーQ1.急性上気道炎での抗菌薬投与は本当に不要なのでしょうか?10位Dr.山本の感染症ワンポイントレクチャーQ20.尿路感染症にアンピシリン・スルバクタム、正しいですか?11位臨床に役立つ法的ケーススタディ【ケース1】「入院拒否後、自宅で死亡。家族対応はどうすべき?」(後編)12位わかる統計教室第2回 リスク比(相対危険度)とオッズ比セクション2 よくあるオッズ比の間違った解釈13位わかる統計教室第1回 カプランマイヤー法で生存率を評価するセクション2 カプランマイヤー法で累積生存率を計算してみる14位わかる統計教室第2回 リスク比(相対危険度)とオッズ比セクション3 オッズ比の使い道15位特集:誰もが知っておきたいアナフィラキシー(4)再発予防と対応16位特集:アナフィラキシー 症例クイズ(2)海外出張中に救急搬送されたアレルギー体質の35歳・男性の例17位わかる統計教室第2回 リスク比(相対危険度)とオッズ比セクション1 分割表とリスク比18位Dr.倉原の“おどろき”医学論文第45回 急性心筋梗塞に匹敵するほど血清トロポニンが上昇するスポーツ19位Dr.山本の感染症ワンポイントレクチャーQ7.抗菌薬を投与する際、内服・点滴のどちらにするか悩むことがたびたびあります。20位診療よろず相談TV シーズンII第10回「脂質異常症」(回答者:寺本内科歯科クリニック / 帝京大学臨床研究センター長 寺本 民生氏)Q3.LDL、下げ過ぎによるリスクは?21位特集:成人市中肺炎 症例クイズ(2)「何にでも効く薬」は本当に「何にでも効く」のか?22位CLEAR!ジャーナル四天王LancetとNEJM、同じデータで割れる解釈; Door-to-Balloon はどこへ向かうか?(解説:香坂 俊 氏)23位Dr.山本の感染症ワンポイントレクチャーQ5.インフルエンザ感染で、WBCやCRPはどのように変化するか?24位斬らレセプト ―査定されるレセプトはこれ!事例61 「初診料 休日加算」の査定25位Cardiologistへの道@Stanford第6回 会員からのリクエスト「米国医師の給与について」26位アリスミアのツボQ22. 発作性心房細動はやがてどうなるの?27位わかる統計教室第1回 カプランマイヤー法で生存率を評価するセクション4 カプランマイヤー法の生存曲線を比較する28位スキンヘッド脳外科医 Dr. 中島の 新・徒然草五十五の段 責任とってねテレビ局29位Dr.小田倉の心房細動な日々~ダイジェスト版~テレビなど健康番組を見る患者さんへの説明用資料30位患者向けスライド期外収縮の患者さんへの説明

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心房細動の抗血栓療法時の消化管出血後、再開による死亡リスクは?/BMJ

 心房細動患者の消化管出血後の抗血栓療法再開による全死因死亡などのリスクについて調べた結果、再開しなかった患者群との比較で、再開レジメン別にみると経口抗凝固薬単独再開群の全死因死亡および血栓塞栓症のアウトカムが良好であったことが、デンマーク・コペンハーゲン大学病院のLaila Staerk氏らによるコホート試験の結果、明らかにされた。消化管出血は、経口抗凝固療法を受ける心房細動患者の出血部位として最も多いが、同出血後に抗血栓療法を再開するのか見合わせるのかに関してはデータが不足していた。BMJ誌オンライン版2015年11月16日号掲載の報告。全死因死亡、血栓塞栓症、重大出血、消化管出血再発リスクを検討 検討は、デンマークコホート(1996~2012年)の抗血栓療法を受ける心房細動患者で、入院中に消化管出血を呈しその後退院した全患者を対象に行われた。試験集団には4,602例(平均年齢78歳、女性45%)が組み込まれた。これら患者が消化管出血発症前に受けていた抗血栓療法の内訳は、経口抗凝固薬単独23.9%、抗血小板薬単独53.3%、経口抗凝固薬+抗血小板薬の併用19.4%、アスピリン+アデノシン二リン酸(ADP)受容体拮抗薬の併用2.5%、その他3剤併用0.9%であった。 同集団について、時間依存的Cox比例ハザードモデルや比較リスクモデル[抗血栓療法の非再開群 vs.再開群(単独または併用療法)]を用いて、全死因死亡、血栓塞栓症、重大出血、消化管出血再発の各アウトカム発生リスクを調べた。なお、比較リスクモデルの検討では既往処方薬の使用による交絡を回避するため、フォローアップ開始を退院後90日時点からとした。非再開群との比較では経口抗凝固薬単独群のアウトカムが良好 試験集団全体における消化管出血後2年時点の各アウトカムの累積発生率は、全死因死亡が39.9%(95%信頼区間[CI]:38.4~41.3%、1,745例)、血栓塞栓症12.0%(同:11.0~13.0%、526例)、重大出血17.7%(同:16.5~18.8%、788例)、消化管出血再発12.1%(同:11.1~13.1%、546例)であった。全死因死亡、重大出血、消化管出血再発は、集団への包含1ヵ月以内に顕著な増大がみられた一方、血栓塞栓症の発生は、2年の間、一定して増大していた。 比較リスクモデルの検討には3,409例が組み込まれた。このうち抗血栓療法を再開しなかった患者は27.1%(924例)であった。また再開群のレジメン内訳は、経口抗凝固薬単独21%(725例)、抗血小板薬単独38.5%(1,314例)、経口抗凝固薬+抗血小板薬併用11.3%(384例)、アスピリン+ADP受容体拮抗薬併用1.5%(51例)であった。 非再開群との比較で、全死因死亡リスクの低下が認められた再開レジメンは、経口抗凝固薬単独(ハザード比[HR]:0.39、95%CI:0.34~0.46)、抗血小板薬単独(同:0.76、0.68~0.86)、そして経口抗凝固薬+抗血小板薬併用(同:0.41、0.32~0.52)であった。 また、血栓塞栓症リスクの低下が認められたのは、経口抗凝固薬単独(同:0.41、0.31~0.54)、抗血小板薬単独(同:0.76、0.61~0.95)、経口抗凝固薬+抗血小板薬併用(同:0.54、0.36~0.82)であった。 一方で、単独療法において経口抗凝固薬単独のみが、重大出血リスクの増大と関連していた(同:1.37、1.06~1.77)。 消化管出血再発リスクについては、レジメン間で有意差はみられなかった。

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あくびはヒトからイヌに伝染する【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第56回

あくびはヒトからイヌに伝染する FREEIMAGESより使用 こんな言葉をご存じでしょうか。 「あくびは感染症である」 この名言を残した偉人は、…いません。私が今思い付いただけです。すいませんすいません。 あくびがヒトからヒトへ伝染することはすでに知られており、私たちも日常的に経験するワケですが、今日紹介するのは、あくびはヒトからイヌへ伝染するという斬新な論文です。まさかイヌはないだろうとお思いのアナタ、ワンちゃんをナメたらあかんですよ。論文のタイトルもシンプルです。 Joly-Mascheroni RM, et al. Dogs catch human yawns. Biol Lett. 2008;4:446-448. ごく最近まで、あくびがうつるのはヒトの間だけだろうと考えられてきました。その後、チンパンジーでも確認され、ではもっともヒトに近い距離にいるイヌではどうだろうかという議論が起こりました。2008年に報告されたこの研究は、29人の被験者ならぬ、29匹の被験犬が参加したあくびの試験です。被験犬の平均年齢は6.4歳でした。方法はシンプルで、イヌの名前を呼んだ後にアイコンタクトを取りながらあくびをしてイヌのあくびを誘発するというものです。あくびではなくただ口をアーンと開ける疑似動作も取り入れました。その結果、ヒトがあくびをした場合、29匹中21匹であくびが伝染したそうです。疑似動作の場合は、誰1人として、いや、誰1匹としてあくびは伝染しませんでした。実はヒトのあくびというのはより親しい間柄では伝染しやすいことが知られています1)。さらに、イヌにおいてもその同様の機序が存在することが報告されています。飼い主と見知らぬ人のあくびを見た場合、飼い主のほうがより伝染性のあくびを生じやすいというのです2)。いやあ、こういう報告って探せばたくさんあるものですね。参考文献1)Norscia I, et al. PLoS One. 2011;6:e28472.2)Romero T, et al. PLoS One. 2013;8:e71365.インデックスページへ戻る

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2015年、最も読まれた「押さえておくべき」医学論文は?【医療ニュース 年間ランキングTOP30】

2015年も、4大医学誌の論文を日本語で紹介する『ジャーナル四天王』をはじめ、1,000本以上の論文をニュース形式で紹介してきました。その中で、会員の先生方の関心が高かった論文は何だったのでしょう?アクセス数順にトップ30を発表します!1位本当だった!? 血液型による性格の違い(2015/6/2)2位脳梗塞の発症しやすい曜日(2015/4/3)3位心房細動へのジゴキシン、死亡増大/Lancet(2015/3/30)4位緑茶で死亡リスクが減る疾患(2015/4/30)5位学会発表後になぜ論文化しない?(2015/3/3)6位食道がんリスクが高い職業(2015/2/4)7位「朝食多め・夕食軽く」が糖尿病患者に有益(2015/3/4)8位アルツハイマー病への薬物治療、開始時期による予後の差なし(2015/10/28)9位片頭痛の頻度と強度、血清脂質と有意に相関(2015/10/13)10位パートナーがうつ病だと伝染するのか(2015/5/14)11位コーヒー摂取量と死亡リスク~日本人9万人の前向き研究(2015/5/11)12位長時間労働は多量飲酒につながる/BMJ(2015/1/26)13位急性虫垂炎は抗菌薬で治療が可能か?/JAMA(2015/6/30)14位2型糖尿病と関連するがんは?/BMJ(2015/1/23)15位脳梗塞と脳出血の発症しやすい季節(2015/10/19)16位胃がん切除予定例のピロリ除菌はいつすべき?(2015/7/16)17位ジゴキシンは本当に死亡を増大するのか/BMJ(2015/9/14)18位甘くみていませんか、RSウイルス感染症(2015/10/9)19位認知症、早期介入は予後改善につながるか(2015/2/6)20位肺炎球菌ワクチン 接種間隔はどのくらい?(2015/4/22)21位新規経口抗凝固薬の眼内出血リスク、従来薬との比較(2015/8/12)22位5歳までのピーナッツ摂取でアレルギー回避?/NEJM(2015/3/9)23位軽度認知障害からの進行を予測する新リスク指標(2015/1/7)24位若白髪のリスク因子(2015/1/19)25位社会生活の「生きにくさ」につながる大人のADHD(2015/9/16)26位内科診療「身体診察」の重要性を再認識(2015/6/5)27位性別で異なる、睡眠障害とうつ病発症の関連:東京医大(2015/8/20)28位心不全患者へのASV陽圧換気療法は死亡を増大/NEJM(2015/9/18)29位低GI食、インスリン感受性や収縮期血圧を改善せず/JAMA(2015/1/5)30位唐辛子をほぼ毎日食べると死亡リスク低下/BMJ(2015/8/17)

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米国の非急性PCIの不適切施行、5年で大幅減/JAMA

 米国における2009~14年の経皮的冠動脈インターベンション(PCI)の施行動向を調べた結果、非急性PCIの不適切施行は26.2%から13.3%に有意に減少していたことが、イェール大学医学部のNihar R. Desai氏らによる調査の結果、明らかにされた。一方で、非急性PCIの不適切施行率の病院間のばらつきは、2014年時点でも5.9%~22.9%にわたっており解消されていなかった。本検討は、2009年にリリースされたAppropriate Use Criteria for Coronary Revascularizationを踏まえて、PCI施行の動向を初めて調査した結果だという。JAMA誌2015年11月17日号掲載の報告。2009~14年の全米766病院、270万例のPCI施行例を分析 Appropriate Use Criteria for Coronary Revascularizationは、米国心臓病学会(ACC)と米国心臓協会(AHA)、その他関連専門学会が、PCIのクリティカルな評価と患者選択の改善を目的にリリースしたものである。 研究グループは、同基準導入後の米国におけるPCI施行数、患者選択、施行の適切さについて、2009年7月1日~14年12月31日のNational Cardiovascular Data Registry CathPCIレジストリデータを基に分析し調べた。 主要評価項目は、2012年版 Appropriate Use Criteria for Coronary Revascularizationの評価で不適切な非急性PCIと分類された施行割合で、患者および病院単位で評価した。 分析には、総計766病院、270万例のPCI施行データが組み込まれた。このうち、76.3%が急性PCI例、14.8%が非急性PCI例であった。病院間のばらつきは変わらず 年間のPCI全施行数は、2010年53万8,076例から14年は45万6,507例と減少していた。このうち急性PCIの年間施行数は、2010年37万7,540例、14年も37万4,543とほぼ変わらなかったが、非急性PCIは8万9,704例から5万9,375例へと有意に減少していた(p<0.001)。 非急性PCIを受けた患者についてみると、重度の狭心症での施行率が有意に上昇しており(カナダ心臓血管学会分類III/IVの狭心症が2010年15.8%、14年38.4%)、PCI施行前の抗狭心症薬服用(2剤以上服用が2010年22.3%、14年35.1%)、非侵襲検査で認められた高リスク症例(22.2%、33.2%)の割合も、それぞれ有意に上昇していた(すべてのp<0.001)。多枝冠動脈疾患の施行割合も、わずかだが有意に増えていた(43.7%、47.5%、p<0.001)。 また、非急性PCI不適切施行例の割合は、2010年26.2%(95%信頼区間[CI]:25.8~26.6)から14年は13.3%(同:13.1~13.6)に、施行数でみると2万1,781例から7,921例に減少していた。 病院単位でみた非急性PCI不適切施行例の割合は、2009年中央値25.8%であったのに対し14年は同12.6%と減少していた。ただし病院間のばらつきは変わっておらず、2009年の分布範囲は16.7%~37.1%、14年は5.9%~22.9%であった。

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小児の乾癬発症、抗菌薬や感染症との関連は?

 抗生物質(抗菌薬)はヒトの微生物叢を破壊し、いくつかの小児の自己免疫疾患と関連している。一方、乾癬は、A群溶連菌およびウイルス感染と関連していることが知られている。米国・ペンシルベニア大学のDaniel B. Horton氏らは、抗菌薬治療や感染症が小児における偶発的な乾癬と関連しているかどうかを調べる目的で、コホート内症例対照研究を行った。その結果、感染症は小児の乾癬発症と関連しているが、抗菌薬は実質的にはそのリスクはないことを報告した。JAMA Dermatology誌オンライン版2015年11月11日号の掲載報告。 研究グループは、英国におけるプライマリケアの医療記録データベースであるThe Health Improvement Networkを用い、1994年6月27日~2013年1月15日のデータを2014年9月17日~2015年8月12日に分析した。 症例は、初めて乾癬と診断された1~15歳の小児(免疫不全、炎症性大腸疾患および若年性関節炎患児を除く)(845例)で、年齢および性別をマッチさせた乾癬の既往のない対照小児(8,450例)と比較した。対照は、乾癬と診断した小児が1例以上いるプライマリケアにおいて診断と同時期に受診した小児から無作為抽出された。 全身投与の抗菌薬処方、および乾癬と診断される前2年以内の皮膚ならびに他の部位の感染症について調べ、主要評価項目を乾癬の発症として、乾癬と抗菌薬治療ならびに感染症との関連性について条件付きロジスティック回帰分析を行った。 主な結果は以下のとおり。・マッチング、地域、社会経済的貧困、外来受診および過去2年以内の感染症に関して調整後、最近2年間の抗菌薬治療は偶発的な乾癬とわずかに関連していた(調整オッズ比[aOR]:1.2、95%信頼区間[CI]:1.0~1.5)。・皮膚感染症(aOR:1.5、95%CI:1.2~1.7)およびその他の感染症(同:1.3、1.1~1.6)の関連性は類似していた。・抗菌薬で治療した非皮膚感染症(1.1、0.9~1.4)ではなく、未治療の非皮膚感染症(1.5、1.3~1.8)が乾癬と関連していた。・曝露期間を生涯とした場合も、結果は類似していた。・抗菌薬の種類や抗菌薬を初めて投与された年齢は、乾癬と関連していなかった。・乾癬診断前の期間を2年からさまざまな期間に変えた場合でも、所見は実質上変化しなかった。

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梅毒に気を付けろッ! その2【新興再興感染症に気を付けろッ!】

ケアネットをご覧の皆さま、こんにちは。国立国際医療研究センター 国際感染症センターの忽那です。本連載「新興再興感染症に気を付けろッ!」、通称「気を付けろッ」は「新興再興感染症の気を付け方」についてまったりと、そして時にまったりと、つまり一貫してまったりと学んでいくコーナーです。第14回となる今回は梅毒の続きで、性交渉歴の聴取の仕方と梅毒の臨床症状についてです。デリケートな内容へのアプローチ梅毒は性感染症ですので、梅毒を疑った時点で性交渉歴を聞かなければなりません。読者の皆さまは、性交渉歴をどのように聴取していますでしょうか?もちろん「ねえねえ、セックスやってる~?」という90年代のバブリーなノリで聞いてはいけません。ここはビーチやゲレンデ、ましてやジュリアナ東京ではありません! われわれがいるのは病院であり、相手にしているのは患者さんなのですッ!われわれは、常日頃から性交渉歴というきわめて個人的な内容について、聴取していることに自覚的でなければなりません。患者さんのセックスについて、けっして軽く聞いてはならないのです。しかし、いきなり初対面の患者さんに、性交渉歴を聞くのはちょっとためらいがあることと思います。そんなときには「これはすべての患者さんに聞いていることなのですが…」「診断で大事なことかもしれないので、聞かせていただきたいのですが…」などの前置きをすると、患者さんも回答に抵抗が少ないかもしれません。「5つのP」を重点に肝心の問診の内容ですが、性交渉歴を聴取する際には「5つのP」を意識して問診することが重要です。米国疾病対策予防センター(CDC)のSTDガイドラインには「5P」と書いてあるのですが、性交渉の話で5Pっていうと、わが国では何となく誤解を招きやすい表現である気がしますので、私は「5つのP」と言っています、はい。表がその「5つのP」になります。画像を拡大するとくに重要なのはパートナーのPとプラクティスのPです。パートナーについては、男性か、女性か、両方かを聞きます。男性だから女性と、女性だから男性としか性交渉しないとは限りません。また、特定の相手のみとしか性交渉がないのか、不特定の相手ともあるのかによってSTDのリスクが大きく異なります。プラクティスは性交渉の内容です。通常の生殖器同士の性交渉だけでなく、オーラルセックス、オーラル・アナル・セックスなどの性交渉を行っているかを聴取します。3つ目のプロテクションのPは、コンドームの使用の有無によって感染のリスクを推定することができますし、4つ目の既往歴は性感染症の既往のある人は、また性感染症になりやすいという、けっして偏見ではなくキラリと光る真実に基づいています。このような「5つのP」を意識しながら、性感染症のリスク評価を行うわけですが、前回もご紹介したとおり、現在梅毒は大流行している状況です。また、今回の梅毒の流行は、当初MSM(Men who has sex with Men:男性と性交渉する男性)の間で始まりましたが、現在は男性-女性間でも感染例が多数報告されている状況です。ですからわれわれ臨床医は、とくに梅毒に関して疑う閾値を低くして診療に望む必要があります。再確認、梅毒の病態どのような場合に梅毒を疑うか? それは、今どの時期の梅毒を診ているのかを意識することが重要です。図1は梅毒の自然経過ですが、見ておわかりのとおりかなり複雑です。画像を拡大する第1期梅毒は、梅毒の病原微生物であるTreponema pallidumが進入した部位(陰茎、膣、肛門、口唇など)に、約3週間の潜伏期の後に硬性下疳と呼ばれる丘疹を生じる病態です(図2)。画像を拡大するこの硬性下疳は痛くないのが特徴で、本人も気付かないことが多々あります。この際、鼠径リンパ節腫大を伴うこともあります。第1期梅毒のときに治療がされなければ、約4~10週を経て第2期梅毒に移行します。第2期梅毒で特徴的なのは前回もご紹介したとおり、皮疹です。梅毒の皮疹は手のひら、足の裏にも皮疹が出るのが特徴です(図3)。画像を拡大するちなみに梅毒以外で手のひら・足の裏にも皮疹がみられる感染症としては、手足口病、日本紅斑熱、感染性心内膜炎、髄膜炎菌感染症などがあります。第2期梅毒のその他の臨床症状としては、発熱、全身倦怠感、リンパ節腫脹、関節痛などを呈することもあります。あるいは「腹痛の原因精査で内視鏡をしたら胃梅毒だった」「ネフローゼ症候群の原因が梅毒だった」「ブドウ膜炎の原因(以下同文)」というような、さまざまな病態を呈することがあります。第2期梅毒の臨床症状は非常に多彩です。かと思うと、第2期梅毒の臨床症状をまったく呈さずに、潜伏期梅毒に移行する症例もあり、梅毒の診断は時に非常に難しいのです。症状の出ない潜伏期梅毒潜伏期梅毒はその名のとおり、とくに症状を有さない梅毒の状態ですが、感染後1年以内のものは早期潜伏期梅毒、1年を越えるものは後期潜伏期梅毒と定義されます。厳密にきっちり1年で分かれるものではありませんが、早期潜伏期梅毒は性交渉でも感染性を有し、第2期梅毒を再発することがあるのに対し、後期潜伏期梅毒は、性交渉で感染することは少なくなります(母胎感染はありえます)。感染後さらに時間が経過すると、晩期梅毒という病態に移行するといわれています。しかし、抗菌薬が頻繁に処方される現代では、非常にまれな病態とされています。臨床現場でも、とりあえずカッコつけのために、鑑別診断として挙げることはありますが、ぶっちゃけ私も診たことがありません。さらにさらに、このような第1期から晩期までの梅毒の流れとは別に、いつのステージであっても神経梅毒という中枢神経系の感染症を発症することがあります。神経梅毒は早期には無症状であることも多く、臨床症状はなく髄液検査でのみ異常がみられることも多々あります。時間が経過すると、慢性に進行する認知症状などを呈し「なんか最近言っていることがおかしい」「計算ができなくなった」などといった症状で、神経内科や精神科などを受診することもあります。こうなってくると、いわゆる「Treatable Dementia(見逃してはいけない認知症)」の鑑別になってきます。いやー、梅毒の病態は非常に複雑です。梅毒がひっそりと流行しているのは、このような「診断の難しさ」も関与しているものと思われます。さて、梅毒だけでけっこう引っ張ってしまいましたが、次回はいよいよ梅毒の診断と治療についてご紹介いたしますッ!!1)Workowski KA, et al. MMWR Recomm Rep.2015;64:1-137.2)柳澤如樹ほか. モダンメデイア.2008;54:14-21.

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若き医師にエールを!

.case dl dt{width: 5em; font-weight: bold;}.case dl dd{margin-left: 6em;}.case dl{width: auto;}これからの医療を担う若き医師の皆さんを応援する動画コンテンツをご用意しました。それぞれの現場でメンターとして活躍する先生方からの実践的な生のメッセージをお届けします!CareNeTV LiVE!「医師としての経験から学ぶこと」人気のメンターから熱いメッセージとエールをお届けする対談シリーズ。JPC2015 in Amamiセレクト10月に行われたJPC2015から、フィジカルの達人たちの選りすぐりのコンテンツを紹介!右側に30秒の予告編を公開中。出演医師の関連コンテンツ山中 克朗氏診療よろず相談TV「総合診療」平島 修氏Dr.平島のフィジカル教育回診フィジカル王にオレはなる!身体診察技法を熱く学ぶ!01忽那 賢志氏新興再興感染症に気を付けろッ!診療よろず相談TV「肺炎」明日から役立つ内科診療ベストライブ「不明熱」徳田 安春氏明日から役立つ内科診療ベストライブ「こんなときフィジカル」 

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球脊髄性筋萎縮症〔SBMA : Spinal and Bulbar Muscular Atrophy〕

1 疾患概要■ 概念・定義緩徐進行性の筋力低下・筋萎縮や球麻痺を示す成人発症の遺伝性運動ニューロン疾患である。単一遺伝子疾患であり、発症者には後述する原因遺伝子の異常を必ず認める。本疾患の病態にはテストステロンが深く関与しており、男性のみに発症する。国際名称はSpinal and Bulbar Muscular Atrophy(SBMA)であるが、報告者の名前からKennedy diseaseとも呼ばれる1)。わが国ではKennedy-Alter-Sung症候群と呼ばれることも多いが、本症は単一疾患であるため、症候群という表現は適切ではないとの意見もある。■ 疫学有病率は10万人あたり2人程度で、わが国の患者数は2,000~3,000人程度と推定されている。人種や地域による有病率の差は明らかではない。■ 病因X染色体上にあるアンドロゲン受容体(AR)遺伝子のCAG繰り返し配列の異常延長が原因である。正常では36以下の繰り返し数が、SBMA患者では38以上に延長している。このCAG繰り返し数が多いほど、早く発症する傾向が認められる。CAG繰り返しの異常延長の結果、構造異常を有する変異ARが生じる。この変異ARは男性ホルモン(テストステロン)依存性に下位運動ニューロンなどの核内に集積し、最終的には神経細胞死に至る。同様の遺伝子変異はハンチントン病や脊髄小脳変性症などの疾患でも認められ、CAGはグルタミンに翻訳されることから、これらの疾患はポリグルタミン病と総称される。SBMAでは他のポリグルタミン病とは異なり、世代を経るに従って発症が早くなる表現促進現象は軽度である。■ 症状1)神経症状初発症状として手指の振戦を自覚することが多く、しばしば筋力低下に先行する。四肢の筋力低下は30~60代で自覚され、下肢から始まることが多い。同じ時期に有痛性筋痙攣を認めることも多い。脳神経症状として代表的なものは、嚥下障害や構音障害などの球麻痺である。むせなどの嚥下障害の自覚がなくても、嚥下造影などで評価すると潜在的な嚥下障害を認めることが多い。喉頭痙攣による短時間の呼吸困難を自覚することもある。その他の脳神経症状として、顔面筋や舌の筋力低下・線維束性収縮を認める。線維束性収縮は安静時には軽度であるが、筋収縮時に著明となり、contraction fasciculationと呼ばれる。顔面や舌のほか、四肢近位部でも認められる。眼球運動障害は認めない。感覚系では下肢遠位部で振動覚の低下を認めることがある。腱反射は低下、消失し、Babinski徴候は一般に陰性である。小脳機能には異常を認めない。高次機能は保たれることが多いが、一部障害を認めるとした報告もある。2)随伴症状代表的な随伴症状として、女性化乳房を半数以上に認める。また、肝機能障害、耐糖能異常、高脂血症、高血圧症などをしばしば合併する。女性様皮膚変化、睾丸萎縮などを認めることもある。■ 分類とくに分類はされていない。同じ運動ニューロン疾患である筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis: ALS)は、球麻痺型など発症部位で分類することもあるが、SBMAでは一般的に行われていない。■ 予後四肢の筋力低下は緩徐に進行し、筋力低下の発症からおよそ15~20年の経過で、歩行に杖を必要としたり、車いすでの移動になったりすることが多い2)。進行に伴い球麻痺も高度となり、誤嚥性肺炎などの呼吸器感染が死因の大半を占める。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)厚生労働省の神経変性疾患に関する調査研究班が作成した診断基準を表に示す。家族歴がない症例の場合、特徴的な症状から臨床的な診断は可能だが、特定疾患の申請には遺伝子検査が必要となる。血液検査では、血清CKが異常高値を示す。また、血清クレアチニンは異常低値となることが多い。随伴症状に伴い、血液検査でもALT(GOT)やAST(GPT)、グルコース、HbA1c、総コレステロールの上昇などがしばしば認められる。髄液検査は正常である。筋電図では高振幅電位、interferenceの減少など神経原性変化を認める。感覚神経伝導検査において、活動電位の低下や誘発不能がみられることが多い3)。SBMA患者の約10%においてBrugada型心電図異常を認める報告がある4)。特に、失神の既往歴や突然死の家族歴がある症例では、検出率を上げるため右側胸部誘導を一肋間上げて、心電図を測定することが推奨される。病理学的には、下位運動ニューロンである脊髄の前角細胞および脳幹の神経核の神経細胞が変性・脱落するとともに5)、残存する神経細胞には核内封入体を認める6)。CAG繰り返しの異常延長によって生じる変異ARが、この核内封入体の主要構成成分である。筋生検では、小角化線維や群集萎縮といった神経原性変化が主体であるが、中心核の存在など筋原性変化も認める。鑑別診断として、ALSや脊髄性筋萎縮症(spinal muscular atrophy: SMA)の軽症型であるKugelberg-Welander病、多発性筋炎などがあげられる。とくに、進行性筋萎縮症(progressive muscular atrophy: PMA)と呼ばれる成人発症の下位運動ニューロン障害型の運動ニューロン疾患は、ALSよりも進行がやや遅いことがあり、SBMAとの鑑別が重要である。本症の臨床診断は、遺伝歴が明確で、本疾患に特徴的な身体所見を呈していれば比較的容易であるが、これらが不明瞭で鑑別診断が困難な症例では、遺伝子検査が有用である。現在、遺伝子検査は保険適用となっている。画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)かつては男性ホルモンの補充療法や蛋白同化ステロイド投与、TRH療法などが試みられたこともあるが、これらの治療の有効性は確認されていない。現在のところ有効な治療法はなく、耐糖能異常や高脂血症などの合併症に対する対症療法が中心である。また、四肢の筋力低下に対する対症療法として、筋力維持のためのリハビリテーションを行うことも多い。球麻痺に対し、嚥下リハビリを行うこともある。これらのリハビリの具体的内容に関するエビデンスは確立されていない。重度の嚥下障害がある場合、胃瘻を造設するなどして経管栄養を導入する。呼吸障害が進行した症例では、NIPPVや気管切開を行ったうえでの人工呼吸管理が必要となるが、患者本人や家族に対するインフォームド・コンセントが重要となる。SBMAのモデルマウスを用いた研究によって、変異ARが下位運動ニューロンの核内に集積する病態が、男性ホルモン(テストステロン)依存性であることが解明された。テストステロンの分泌を抑制する目的でオスのSBMAモデルマウスに対して去勢術を施行したところ、核内に集積する変異ARの量は著しく減少し、運動障害などの神経症状が劇的に改善した。この治療効果は、黄体形成ホルモン刺激ホルモン(LHRH)アゴニストであるリュープロレリン酢酸塩(商品名:リュープリンほか)の投与による薬剤的去勢でも再現された7)。リュープロレリン酢酸塩は前立腺がんなどの治療薬として、すでに保険適用となっている薬剤であるため、SBMA患者で薬剤の有効性と安全性を検討するフェーズII試験が行われ、さらにフェーズIII試験に相当する医師主導治験(JASMITT)が実施された。その結果、リュープロレリン酢酸塩がSBMAの病態を反映するバイオマーカーとして重要な陰嚢皮膚における変異ARの核内集積を抑制するとともに、血清CKも低下させることが判明した8)。また、有意差は認めなかったものの嚥下機能の改善を示唆する結果が得られたため、追加の治験も実施され、今後の承認申請を目指している。リュープロレリン酢酸塩とは作用機序は異なるものの、男性ホルモン抑制作用をもつ5α還元酵素阻害薬であるデュタステリド(同:アボルブ)の臨床応用を目指した第II相試験が、アメリカで実施された。この試験でも嚥下機能などで改善傾向が示されるなど、前述したリュープロレリン酢酸塩の治験に近似した結果が得られたが、これも承認には至っていない9)。4 今後の展望最近では、SBMA患者からもiPS細胞が樹立され10)、治療薬のスクリーニングやSBMAの病態解明に寄与することが期待されている。また、マイクロRNAや片頭痛の治療に用いられるナラトリプタンもSBMAモデルマウスの表現型を改善することが報告されており、今後の臨床応用が期待されているが、具体的な臨床試験の計画には至っていない。5 主たる診療科神経内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究情報難病情報センター 球脊髄性筋萎縮症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報SBMAの会(患者とその家族向けのまとまった情報)1)Kennedy WR, et al. Neurology.1968;18:671-680.2)Atsuta N, et al. Brain.2006;129:1446-1455.3)Suzuki K, et al. Brain.2008;131:229-239.4)Araki A, et al. Neurology.2014;82:1813-1821.5)Sobue G, et al. Brain.1989;112:209-232.6)Adachi H, et al. Brain.2005;128:659-670.7)Katsuno M, et al. Nat Med.2003;9:768-773.8)Katsuno M, et al. Lancet Neurol.2010;9:875-884.9)Fernandez-Rhodes LE, et al. Lancet Neurol.2011;10:140-147.10)Nihei Y, et al. J Biol Chem.2013;288:8043-8052.公開履歴初回2013年04月25日更新2015年11月17日

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降圧目標120mmHg vs.140mmHgの結果:SPRINT/NEJM

 50歳以上で非糖尿病・心血管イベント高リスクの患者について、収縮期血圧目標120mmHg未満の厳格降圧療法が同140mmHg未満の標準降圧療法よりも、致死的・非致死的重大心血管イベントおよび全死因死亡の発生を有意に抑制したことが、米国ケース・ウェスタン・リザーブ大学のJackson T. Wright氏らによるSPRINT試験(米国立衛生研究所[NIH]助成)の結果、示された。一方、厳格降圧療法群では、低血圧症、失神、電解質異常、急性腎障害/腎不全といった重度有害事象の有意な増大がみられた。NEJM誌オンライン版2015年11月9日号掲載の報告。9,361例を対象に無作為化試験 本検討は、非糖尿病患者の心血管疾患の罹患および死亡を抑制するための至適降圧目標値を明らかにすることを目的に行われた。 被験者は、50歳以上、収縮期血圧130~180mmHg、心血管イベント高リスク(脳卒中以外の臨床的/不顕性心血管疾患、CKD、フラミンガム10年冠動脈疾患リスク15%以上、75歳以上のいずれか1つ以上に該当)を適格とした。糖尿病または脳卒中既往の患者は除外した。 2010年11月~2013年3月に9,361例を登録し、厳格降圧療法群(4,678例)、標準降圧療法群(4,683例)に無作為に割り付けて、当初3ヵ月間は月に1回、その後は3ヵ月ごとにフォローアップを行った。 主要アウトカムは、心筋梗塞、その他の急性冠症候群、脳卒中、心不全、またはあらゆる心血管死の複合とした。 両群のベースライン特性は類似していた。厳格降圧療法群について、平均年齢67.9歳、女性比36.0%、心血管疾患20.1%、CKD 28.4%、フラミンガム10年冠動脈疾患リスク15%以上61.4%、75歳以上28.2%、またベースライン血圧値139.7/78.2mmHg、非喫煙43.8%/元喫煙42.3%、BMI値29.9、降圧薬数1.8などであった。120mmHg群で主要複合アウトカム、全死因死亡の発生が有意に低値 試験は当初、平均追跡期間5年を予定していたが、中央値3.26年で厳格降圧療法群の主要複合アウトカム発生が有意に低いことが確認され、早期に中断となった。 両治療戦略による収縮期血圧値の差は、急速かつ持続的に認められた。追跡1年時点の評価における平均収縮期血圧値は、厳格降圧群121.4mmHg、標準群136.2mmHg、追跡期間中の平均値は121.5mmHg、134.6mmHgであった。平均降圧薬数は2.8、1.8であった。 主要複合アウトカム発生は、厳格降圧群1.65%/年、標準群2.19%/年で、厳格降圧療法による有意な抑制が確認された(ハザード比[HR]:0.75、95%信頼区間[CI]:0.64~0.89、p<0.001)。 全死因死亡の発生も、厳格降圧群(1.03%/年)が標準群(1.40%/年)よりも有意に低かった(HR:0.73、95%CI:0.60~0.90、p=0.003)。 重度有害事象の発生は、厳格降圧群1,793例(38.3%)、標準群1,736例(37.1%)で有意差はなかった(HR:1.04、p=0.25)。しかし、個別にみた場合に厳格降圧群で、低血圧症(2.4%、HR:1.67、p=0.001)、失神(2.3%、1.33、p=0.05)、電解質異常(3.1%、1.35、p=0.02)、急性腎障害/腎不全(4.1%、1.66、p<0.001)の発生頻度の有意な増大が認められた。転倒外傷(2.2%、0.95、p=0.71)、徐脈(1.9%、1.19、p=0.28)の有意差はみられなかった。また、これら重度有害事象の発生パターンの差は、75歳以上被験者についてみた場合も同様であった。

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双極性障害のうつ症状改善へ、グルタミン酸受容体モジュレータの有用性は

 グルタミン酸系経路の障害が、双極性うつ病の病態生理に重要な役割を果たしている可能性を示すエビデンスが新たに出てきている。英国・オックスフォード大学のTayla L McCloud氏らは、双極性障害のうつへのグルタミン酸受容体モジュレータの使用に着目し、その有用性についてレビューを行った。ケタミン、メマンチン、cytidineについて、それぞれプラセボを対照としたランダム化比較試験(RCT)についてレビューしたところ、ケタミン単回静脈内投与が、24時間後の反応率においてプラセボと比べ有意に良好な反応率を示したことを報告した。Cochrane Database Systematic Reviewsオンライン版2015年9月29日号の掲載報告。 レビューは、(1)双極性障害患者の急性うつ症状軽減における、ケタミンおよびその他のグルタミン酸受容体モジュレータの影響を評価する、(2)急性うつ症状を認める双極性障害患者におけるケタミンおよびその他のグルタミン酸受容体モジュレータの忍容性をレビューすることを目的とした。Cochrane Depression, Anxiety and Neurosis Review Group's Specialised Register (CCDANCTR、2015年1月9日時点)を介して、Cochrane Library(すべての年)、MEDLINE(1950年~現在)、EMBASE(1974年~現在)、PsycINFO(1967年~現在)のデータベースからRCTを検索した。また、関連文献およびシステマティックレビューの引用文献リストも照合。日付、言語、公表形式に関する制限は設けなかった。検索では、成人双極性障害を対象にケタミン、メマンチン、その他のグルタミン酸受容体モジュレータと、他の精神病薬あるいは生理食塩水のプラセボを比較したRCTを対象とした。2人以上のレビュワーがそれぞれレビュー対象試験を選択し、試験の質を評価したうえでデータを抽出した。本レビューの主要アウトカムは、反応率と有害事象、副次アウトカムは寛解率、うつの重症度スコアの変化、自殺傾向、認知能、QOL、脱落率とした。さらなる情報を得るため、著者に問い合わせを行った。 主な結果は以下のとおり。・5件の試験 (被験者329例)がレビューの対象となった。・すべての試験がプラセボを対照とした2アーム試験で、グルタミン酸受容体モジュレータ(ケタミン:2試験、メマンチン:2試験、cytidine:1試験)を気分安定薬に併用して用いていた。治療期間は単回静脈内投与(ケタミンを用いたすべての試験)、メマンチンおよびcytidineの反復投与(それぞれ8~12週、12週)であった。・3試験は米国で実施され、台湾が1件、実施場所を特定できないものが1件あった。被験者の大半 (70.5%) は台湾からの参加であった。・全例がDSM-IVあるいはDSM-IV-TRにより最初に双極性障害と診断され、現在はうつ期にあった。・うつの重症度は、1件の試験を除き、すべて中等度以上であった。・レビューの対象としたグルタミン酸受容体モジュレータの中で、ケタミンだけがプラセボと比べ主要アウトカムである反応率(注射後24時間)において良好な結果を示した(オッズ比[OR]:11.61、95%信頼区間[CI]:1.25~107.74、p=0.03、I2=0%、2試験、33例)。この結果は、低いエビデンスの質に基づくものであった。・統計学的有意差は3日目で消滅したが、平均推定値ではケタミンの優位性が示された(OR:8.24、95%CI:0.84~80.61、2試験、33例、エビデンスの質は非常に低い)。・1週目において、ケタミンとプラセボ間で反応率における差異は認められなかった (同:4.00、0.33~48.66、p=0.28、1試験、18例、エビデンスの質は非常に低い)。・メマンチンとプラセボの反応率において、治療1週後(同:1.08、0.06~19.05、p=0.96、1試験、29例)、2週後(同:4.88、0.78~30.29、p=0.09、1試験、29例)、4週後(同:5.33、1.02~27.76、p=0.05、1試験、29例)、3ヵ月後(同:1.66、0.69~4.03、p=0.26、I2=36%、2試験、261例)に有意差は認められなかった。これらの結果は、非常に低いエビデンスの質に基づくものであった。・3ヵ月時点での反応率においてcytidineとプラセボ間で有意差は認められなかった(同:1.13、0.30~4.24、p=0.86、1試験、35例、エビデンスの質は非常に低い)。・副次アウトカムである寛解に関しては、ケタミンとプラセボ間、メマンチンとプラセボ間のいずれにおいても有意差は認められなかった。・副次アウトカムであるうつ重症度スコアのベースラインからの変化に関して、24時間時点でケタミンはプラセボに比べ高い有効性を示した(MD:-11.81、95%CI:-20.01~-3.61、p=0.005、2試験、32例)が、その効果は治療1~2週後には確認されなかった。また、メマンチンとプラセボ間で、本アウトカムに関する差異はみられなかった。・プラセボとケタミン、メマンチン、cytidineの間に有害事象に関する有意差は認められなかった。・ケタミンとプラセボ、メマンチンとプラセボあるいはcytidineとプラセボの間で、脱落例数に差はなかった。ケタミンあるいはcytidineの有害事象による脱落例について活用可能なデータはないが、メマンチンとプラセボ間に差はなかった。・本レビューで得られた結論は、解析可能なデータが少なく、非常に限定的なものとなる。・双極性障害におけるグルタミン酸受容体モジュレータに関するエビデンスは、単極性うつ病に関するものより少ない。・全体としては、ケタミンの単回静脈内投与(気分安定薬への追加薬として)において、24時間後の反応率という点でプラセボより良好という限定的なエビデンスが得られた。双極性うつの寛解という点では、ケタミンによる優れた効果は示されなかった。・ケタミンは迅速で短期的な抗うつ作用を有する可能性があるが、単回静脈内投与の効果は限られたものであると思われた。・ケタミンには精神異常発現様作用があるため、試験の盲検化に支障をきたす可能性があった。実薬を比較薬とした試験をレビューに含めなかったため、このことが本レビューにおける特別な論点となった。またそのため、不適正な盲検化過程によりもたらされるバイアスを排除することができていない。・ケタミンの有害事象を結論付けるエビデンスは見出せなかった。・より強力な結論を得るためには、ケタミンについて、反復投与など、抗うつ反応を維持するさまざまな方法を検討する、より詳細なRCT(適切な盲検化を伴う)が必要である。・他の2つのグルタミン酸受容体モジュレータ(メマンチンとcytidine)に関しては、有意義な結論を導く十分なエビデンスはなかった。・本レビューはエビデンスの完全性という面だけでなく、使用可能なエビデンスの質が非常に低かったという点で、限定的なものとなった。関連医療ニュース グルタミン酸受容体阻害薬、気分障害での可能性は 精神疾患におけるグルタミン酸受容体の役割が明らかに:理化学研究所 ケタミンは難治性うつ病に使えるのか  担当者へのご意見箱はこちら

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日本COPDサミット~健康寿命延長に向けて変わるCOPD予防・治療の最前線~

 11月5日都内(文京区)にて、2015年度日本COPDサミットが開催された(主催:一般社団法人GOLD日本委員会/一般社団法人日本呼吸器学会/公益財団法人日本呼吸器財団)。 本年の世界COPDデーは11月18日であり、この日に向け、世界各国でさまざまな啓発イベントが実施されている。本サミットもその一環として企画された。 冒頭、三嶋 理晃氏(日本呼吸器学会 理事長)は、「各団体がタッグを組むことにより、インパクトある啓発活動につなげ、各メディア・自治体・医療関係者・一般市民への情報発信を高める後押しをする」と本サミットの目的を述べた。 以下、当日の講演内容を記載する。COPDはもはや肺だけの疾患ではない COPDはタバコの煙を主因とする閉塞性の肺疾患であるが、近年COPDは全身性の炎症疾患と考えられるようになってきた。実際、COPDは肺がん・肺炎・肺線維症などの肺疾患だけでなく、糖尿病、動脈硬化、骨粗鬆症、消化器病、うつ・記銘力低下などへの影響が報告されている。 この点について、長瀬 隆英氏(GOLD日本委員会 理事)は、なかでも糖尿病には注意が必要だと述べた。糖尿病患者がCOPDを併存すると生命予後が悪くなること1)、反対に、血糖コントロールが不良であると肺機能が有意に低下することが報告されているからである2)。しかしながら、COPDがさまざまな疾患に影響を及ぼす理由については、いまだ不明な点もあるため、今後さらなる研究が必要といえそうだ。受動喫煙は他人をむしばむ深刻な問題 受動喫煙のリスクについては、これまでも問題となってきた。加藤 徹氏(日本循環器学会禁煙推進委員会 幹事)は、「さらなる受動喫煙の問題は、分煙では防ぐことができない点である」と強調した。その理由は、「受動喫煙」の10%はPM2.5粒子成分(径<2.5μm)と同じくらいの非常に小さな粒子であるため、分煙してもドアなどの隙間から漏れ出るからである。さらに、この小さな粒子は、一度肺内に侵入すると肺胞の奥深くにまで到達し、一部は呼出されるが、大部分が湿った空気で膨張して居座り、悪さをする。仮に煙を直接吸わなかったとしても、喫煙後3~5分間は喫煙者からこれらの粒子が呼出されることがわかっているため、注意が必要である。 加藤氏は「喫煙をしなくても受動喫煙に曝露することで、心筋梗塞や脳卒中、喘息、COPDになりやすくなる」と述べ、屋内全面禁煙の重要性を強調した。すでに禁煙推進学術ネットワーク(2015年10月現在、27学会が参加)から2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて「受動喫煙防止条例」制定の要望書が東京都に提出されている。今後、受動喫煙を防止するための積極的な対策が望まれる。COPDで注意すべき3つの合併症 COPDではさまざまな合併症が存在するが、石井 芳樹氏(日本呼吸器財団 理事)は「肺がん、気腫合併肺線維症、喘息にはとくに注意が必要」と述べた。【肺がん】 COPDは喫煙とは独立した肺がん発症のリスク因子であり、10年間の肺がん発生率は約5倍にもなるという3)。さらに、COPD患者では、喫煙量が同等であっても肺がんによる死亡率が7倍も増加すると報告されている4)。これに対し加藤氏は、「早期にCOPDを発見し、禁煙をすることが死亡率を低下させるうえで何より重要」と述べた。【気腫合併肺線維症】 気腫合併肺線維症の特徴は、肺気腫による閉塞性障害と肺線維症による拘束性障害が合併すると、呼吸機能の異常が相殺されマスクされる点にあるという。2つの病態が重複することで一酸化炭素拡散能の低下がさらに増強され、低酸素血症や肺高血圧が悪化する。COPDは肺がんとの合併率が高いが、肺線維症が合併すると肺がん発症率がさらに高くなるため5)、慎重な経過観察が重要である。【喘息】 近年、COPDと喘息を合併する、オーバーラップ症候群が問題となっている。COPDと喘息は異なる病態の疾患であるが、咳、痰、息切れ、喘鳴など症状の鑑別が、とくに喫煙者と高齢者においては難しい。このオーバーラップ症候群は、年齢とともに合併率が増加するといわれている6)。喘息を合併することで、COPD単独の場合よりも増悪頻度は高くなり、重症な増悪も多くなるという7)。加藤氏は、それにもかかわらず喘息患者が喫煙をしているケースが散見される、として「とくに喘息患者では禁煙指導を徹底して、オーバーラップ症候群への進展を防ぐことが重要である」と述べた。COPDにおける地域医療連携のあり方 COPDの診断には呼吸機能検査が必須であるが、一般の開業医では難しいのが現状である。このことに関して、中野 恭幸氏(滋賀医科大学内科学講座 呼吸器内科 病院教授)は、「手間がかかる」、「検査時に大きな声を出さないといけない」、「数値が多すぎて理解が難しい」などを理由として挙げた。こうしたことも相まって、COPD患者の多くが未診断・未治療であることが問題となっているが、呼吸器専門医だけでは、多くのCOPD患者を管理することは難しい。 このような事態を受けて、滋賀県では数年前から地域医療連携への取り組みを始めた。専門医が病院で呼吸機能検査やCTを行い、その結果を基に標準的治療方針を決定し、その後は、一般開業医が担当する。さらに、急性増悪で入院が必要な際には専門医が引き受ける、などの体制を整えている。 しかしながら、専門医に紹介するときには、COPDがかなり進行している場合も多く、いかに早い段階で専門医に紹介するかが焦点となりそうだ。中野氏は「この取り組みは現在、大津市医師会で実施しているが、今後は滋賀県全体のパスになることが望まれる」と述べ、そのためには医師会主導で進めることも重要だとした。 その他、滋賀県では、医薬連携にも力を入れている。近年、COPDには、さまざまな吸入デバイスが登場し、デバイス指導がより一層重要な意味を持つようになった。そのため滋賀県では、地域の関係者が連携し、吸入療法の普及と質的向上を図ることを目的として、滋賀吸入療法連携フォーラム(SKR)が結成された。本フォーラムは年7~8回開催され、会場ではさまざまなデバイスに触れることができる。その他の医療従事者に対しても講習会を開くなどして、多職種でチームとなってCOPDに向き合う体制づくりを行っている。COPDにおける運動療法の役割 「重度のCOPD患者では、呼吸機能だけでなく、精神的な悪循環にも焦点を当て、QOLを重視することが大切」と黒澤 一氏(日本呼吸器学会 閉塞性肺疾患学術部会 部会長)は述べた。そのうえで、日本での普及が十分とはいえない呼吸リハビリテーション(運動療法)の有用性について触れた。 黒澤氏は「強化リハビリテーションにより筋肉がついたり、関節が柔らかくなることにより、体を動かすときの負荷が減り、呼吸機能的にも精神的にも余裕ができる」と述べた。しかしながら、問題は、強化リハビリテーションにより一時的に改善がみられても、飽きてしまい続かないケースが多いことだという。これらのことから、「負荷の大きいリハビリテーションではなく、活動的な生活習慣を送ることを意識すべき」と黒澤氏は述べた。そのうえで、自分のペースで動作をすることができるスポーツが有効として、例として「フライングディスク」を挙げた。フライングディスクを行うことによって、身体活動性が向上し身体機能の強化にもつながるという。さらに生きがいや仲間ができることによって前向きになり、呼吸機能にも良い影響が及ぶようだ。だが、この競技へのサポート体制はまだ十分ではなく、今後の課題と言えそうだ。 最後に、福地 義之助氏(GOLD日本委員会 代表理事)は、「今後COPDの一般国民への認知率向上を推し進めていくとともに、臨床医師の疾患に対する理解や診断・治療力の向上が必要である。さらに、COPDは全身に及ぶ疾患であることから、他の診療科との連携強化にも力を入れていく」と締めくくった。(ケアネット 鎌滝 真次)参考文献1)Gudmundsson, et al. Respir Res. 2006;7:109.2)Yeh HC, et al. Diabetes Care. 2008;31:741-746. 3)Skillrud DM, et al. Ann Intern Med. 1986;105:503-507. 4)Kuller LH, et al. Am J Epidemiol. 1990;132:265-274.5)Kitaguchi Y, et al. Respirology. 2010;15:265-271.6)Soriano JB, et al. Chest. 2003;124:474-481.7)Hardin M, et al. Respir Res. 2011;12:127.

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安全かつ有効な冠動脈ステント内再狭窄の治療法は?/BMJ

 冠動脈ステント内再狭窄の治療は、薬剤被膜バルーンと薬剤溶出ステントが臨床的および血管造影アウトカムに優れ、有効性は同程度であることが報告された。イタリア・カターニア大学フェラロット病院のDaniele Giacoppo氏らが、無作為化試験24件・患者4,880例を包含したシステマティックレビューと階層的ベイジアンネットワークメタ解析の結果、示した。ステント内再狭窄の治療については、過去20年間でさまざまな戦略が提案されてきたが、それらを比較した無作為化試験の結果は混合しており、断定的なものはない。研究グループは最も安全かつ有効な介入治療を明らかにすることを目的に今回の検討を行った。BMJ誌オンライン版2015年11月4日号掲載の報告。システマティックレビューとネットワークメタ解析で検討 レビューは2015年8月10日時点で、PubMed、Embase、Scopus、Cochrane Library、Web of Science、ScienceDirectおよびその他の主要科学ウェブサイトを検索して行われた。あらゆるタイプの冠動脈ステント内再狭窄を有する患者を対象とした無作為化試験を包含し、同群同時期への複数治療を包含した試験、同一介入の異型について比較した試験は除外した。 主要エンドポイントは、標的病変の血行再建と晩期損失内腔径で、いずれも6ヵ月、12ヵ月時点で評価した。 主要解析は、ネットワークサブ解析、標準的ペアワイズ比較、サブグループおよび感度解析にて行われた。薬剤溶出ステントと薬剤被膜バルーンが最も優れ有効性は同程度 検索により、24試験(患者4,880例)、7つの介入治療を特定した。 プレーン・バルーン治療と比較して、ベアメタルステント、小線源近接療法、回転性粥腫切除術、カッティングバルーン、薬剤被膜バルーン、薬剤溶出ステントは、標的病変血行再建および主要有害心イベントのリスクが低く、さらに晩期損失内腔径も低値であった。 治療ランキングは、標的病変血行再建に関する有効性は薬剤溶出ステントが最も高位と思われ(61.4%)、晩期損失内腔径については薬剤被膜バルーンが同程度に高いと見込まれた(70.3%)。 薬剤被膜バルーンと薬剤溶出ステントの有効性を比較した結果、標的病変血行再建(サマリーオッズ比[OR]:1.10、95%信頼区間[CI]:0.59~2.01)、晩期損失内腔径縮小(最小内腔径の平均差:0.04mm、95%CI:-0.20~0.10)ともに同等だった。 死亡、心筋梗塞、ステント血栓症のリスクは、全治療において類似していた。ただし解析結果はイベント数が少なく限定的なものであったと著者は追記している。 また、解析に組み込んだ試験について、介入期間、ベースライン特性、エンドポイントの報告に関して不均一性がみられ、長期フォローアップの報告が不足していたと報告。薬剤溶出ステントと薬剤被膜バルーンとの比較については、直接的および間接的なエビデンスに矛盾がみられたという。さらに、主要解析では薬剤被膜バルーンと薬剤溶出ステントの有効性は同程度であると示されたが、探索的サブグループ解析で、第2世代のエベロリムス溶出ステントが標的病変血行再建のリスクが低い傾向が示されたと言及している。

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こうして私は追いつめられた【新型うつ病】

今回のキーワード非定型うつ病進化医学社会脳ただ乗り遺伝子(フリーライダー)疾病利得労働法制方リワーク「新型うつ病」とは?皆さんは、「新型うつ病」という言葉を聞いたことがありますか? うつ病はよく知られていますが、ここ10年くらいで、「新型うつ病」が職場を騒がせています。例えば、「新型うつ病」の彼らは休職中に海外旅行に行こうとします。従来のうつ病とは根本的に何が違うのでしょうか? なぜ医師は休職のための診断書を出すのでしょうか? 果たしてこれは病気なのでしょうか? その正体は? どうすれば良いのでしょうか?前回(9月号)の記事で、進化医学的な視点で従来型のうつ病の理解を深めました。これを踏まえて、今回、「新型うつ病」について同じように進化医学的な視点で、その理解を深め、アプローチのポイントを探っていきましょう。今回、取り上げるのは、2012年に放映されたNHKの実録ドラマ「こうして私は追いつめられた」です。15分の短編映像で分かりやすく見せるための割愛や演出はありますが、「新型うつ病」の心理を生々しく描いており、理解の助けになります。なお、このドラマは、「新型うつ病」の検索ワードによるインターネットの動画の視聴が可能です。「新型うつ病」にはどんな症状がある?―表1主人公の今井は27歳男性で、IT企業の社員です。若手として張り切っていましたが、上司の前田から、仕事のミスについて「何やってんだよ」「そろそろこれくらいのこと、できるようになってくれよ」とたびたび叱責されるようになります。やがて、今井は、買ってきた食べ物をむさぼり食べながら「眠れない」「落ち着かない」などの症状を自覚するようになります。そして、受診した医療機関で、医師にうつ病と診断され、「今後3か月の休養を必要とする」との診断書が渡されます。これだけで見ると、本人が苦しんでいるという点で、診察時には基本的に従来型のうつ病の症状と量的に同じに見えてしまいます。しかし、その後に質的な違いがあることに気付きます。それは、休職してから今井が「よーし、気分転換にグアム行っちゃいますか?」とはしゃいでいるように、休職中に海外旅行に行ってしまうことです。つまり、楽しい出来事には元気になれています(気分の反応性)。これは、前回の記事で紹介しました従来型のうつ病(大うつ病性障害)の診断基準の「ほとんど毎日(ほとんど1日中)」という病状の一貫性を満たさなくなっています。よって、厳密には、今井の病態は非定型うつ病(非定型の特徴を伴ううつ病)が当てはまります(表1)。この診断名が、世の中で「新型うつ病」と呼ばれているようです。なお、「新型うつ病」はあくまでマスコミが作り出した呼び名であり、正式な病名ではないです。詳細は、うつ病学会のホームページのQ&AのQ4.をご参照ください。ちなみに、その他の元気になれる楽しい出来事(気分の反応性)としてよく耳にするのは、同窓会の幹事、転職活動、引っ越し、熱心な趣味や習い事、マラソン完走などです。表1 非定型の特徴を伴ううつ病(非定型うつ病)の診断基準(DSM-5) 感情意欲思考項目◎気分の反応性(1)過食(2)過眠(3)体の重さ(鉛様の麻痺)(4)拒絶に敏感備考◎は必須(1)から(4)の4項目中2項目以上もともとうつ病(従来型)などの診断基準を満たしている(いた)「新型うつ病」の心理とは?―表2今井の言動に注目しながら、従来型のうつ病と比べた「新型うつ病」の心理を大きく3つあげてみましょう。(1)人(周り)のせいにしやすい―他罰今井は、「おれこんなにがんばってるのに」「あの言い方はひどい」「前田のやつ、バカにしやがって」「(今、自分が苦しんでいるのは)全部、あいつのせいだ」と心の中でつぶやいています。そして、「おれをうつ病に追い込んだ鬼畜上司・M田!」とブログで悪口を書き込み始めます。1つ目の心理は、困難(ストレス)を人(周り)のせいにしやすいことです(他責、他罰)。周りを責めることで自分を守る心理です。そのため、責任感が乏しく、迷惑を被っていると感じやすくなり(被害的)、その反撃として攻撃的になります。対照的に、従来型のうつ病の心理は、困難(ストレス)を自分のせいにしやすいことです(自責、自罰)。自分を責めることで周りを守る心理です。そのため、責任感が強くなりすぎて、周りに迷惑をかけていると感じやすくなり(罪責感、罪業妄想)、いたたまれなくなり自殺のリスクを高めます。また、「新型うつ病」では、うつ病と診断された今井が「ですよね~」と喜んで症状をさらに饒舌に語っているように、うつ病と診断されることを積極的に受け入れ、休みたがります。今井が「ほっとした」「おれは悪くない」と言っているように、うつ病と診断してもらえれば、うまく行かないことは病気のせいにできるからです。悪いのは、病気であり、自分ではない。自分は被害者であり犠牲者であるという発想になります。だからこそ、「うつ病になるくらい苦しんだんだから、もう休んでいいんだ」と言い、休職中に悪びれることもなく海外旅行に行くなどSNSで充実したプライベートを発信します。対照的に、従来型のうつ病は、うつ病と診断されることに抵抗的で(否認)、休みたがらないです。それは、うつ病になってしまったのは自分のせいだと思っているからです。(2)周りが自分に合わないと不安がる(「傷付き不安」)―拒絶に敏感今井は、「何か悩みがあるなら聞かせてください。連絡待ってます」との前田からのメールが来た時、「全然分かってねえのか、前田。あんなにおれをいじめといて」と腹を立てます。そして、ブログの「M田のここが許せないベスト10」への好意的な反響メールを読んで、「みんなおれの味方なんだ」「やっぱりおれは間違ってない」と安心します。今井は、叱責など自分が受け入れてもらえない状況に敏感になり落ち着かなくなっていた一方、賛同など自分を受け入れてもらえる状況で落ち着きを取り戻しています。2つ目の心理は、周りが自分の期待に合わない、つまり傷付くことへの不安が強いこと、「傷付き不安」です(拒絶に敏感)。これは、非定型うつ病の診断基準の1つでもあります(表1)。この不安からとても打たれ弱くなります(ストレス耐性の脆弱性)。困難に向き合うこと(直面化)が苦しくなります。逆に傷付かない状況では元気になります。だからこそ、職場ではうつでも、自宅では元気で海外旅行に行こうと思えるのです。さらに、その不安から受け身や逃げ込みの心理が働きます(逃避、回避)。例えば、今井は、自宅に訪ねてきた前田と鉢合わせそうになった時、こそこそしています。前田に不満があるわりに向き合おうとはしていません。最後に復職した時も、「復職したおれをどんなふうに迎えてくれるのだろうか?」と思い、前田に自分からは歩み寄らず、前田が来るのを待っています。ちなみに、この逃げ込み(逃避、回避)の心理が過剰に働いていれば、また傷付くおそれのある職場への復帰には逃げ腰になり、病態が慢性化します。対照的に、従来型のうつ病は、逆に自分が周りの期待に合わない、つまり「傷付ける(=迷惑をかける)」ことへの不安が強いため、我慢しようとして打たれ強くなります。そして、抱え込みの心理が働き(執着)、休職しても早期の復職を望みます。つまり、「新型うつ病」は打たれ弱いために我慢ができなくて「うつ病」になるのに対して、従来型のうつ病は打たれ強いために我慢しすぎてうつ病になるということです。(3)周りに目が向きにくい―共感性欠如今井は、実家で両親から「食欲もあるし顔色も良いんじゃない?」「お前ほんとに病気なのか?」といぶかしく思われます。すると、「病気だっつってんだろ?」と言い返します。周りの意見を気にしない様子がうかがえます。また、その後、今井のブログは世の中で批判を浴びて炎上します。それを知った前田は「これ以上会社を誹謗中傷すると解雇もあるから」との留守録のメッセージを今井の電話に残します。それを聞いた今井は「なんでおれがこんな目に遭うんだ!?」とパニックになります。今井は、周りからどう思われているのかをまだピンときていないのです。3つ目の心理は、自分に目が向きすぎて周りに目が向きにくいことです。周りへのアンテナ(他者配慮)をあまり張っていないのです。これは、「周りよりもまず自分が大事」との思いが強いため、結果的に、周りの人たちへの気遣いが乏しくなります(共感性欠如)。その気遣いとは、例えば、休職中に海外旅行に行ったことを同僚が知ったらどう思うか、悪口を書き込んだブログを上司が知ったらどう思うかということです。また、この心理から「周りが自分に何をしてくれるのか」という発想をしやすくなり、苦手な上司や同僚がいなくなるなどの環境の調整がなされない限り、病状は良くはなりにくくなります。つまり、「なりたい自分」になれないなら、あきらめるという現実には耐えられないので保留という暫定措置をとるため、できる限り休職し続けようとする場合があるわけです。対照的に、従来型のうつ病は、逆に周りに目が向きすぎて、自分に目が向きにくいです。「自分よりも周りが大事」「自分のことは二の次」との思いが強いため、周りに気を使いすぎて(過剰な他者配慮)、「自分が周りに何をするべきなのか」「なるべき自分」という発想をしやすくなります。休職中は診察での態度もとても協力的です。ただ、焦りから早く復職しようとする場合はよくあります。表2 「新型うつ病」と従来型のうつ病の違い 「新型うつ病」(=非定型うつ病など)従来型のうつ病年齢20、30歳代(青年)40歳代以上(中高年)性格(パーソナリティ)自分本位(自己愛)真面目で几帳面(執着器質)例責任感乏しい人(周り)のせいにしやすい(他罰)迷惑を被っていると感じやすい(被害的)強すぎる自分のせいにしやすい(自責)迷惑をかけていると感じやすい(罪責的)ストレス耐性弱い周りが自分に合わないと不安がる(拒絶に敏感)逃げ込み(逃避、回避)強すぎる自分が周りに合わないと不安がる抱え込み(過剰適応)他者配慮乏しい周りに目が向きにくい(共感性欠如)なりたい自分を目指す多すぎる周りに目が向きすぎる(過剰な他者配慮)なるべき自分を目指す治療反応性良好ではない比較的に良好例診断や休職積極的当初は抵抗的(否認)その後に協力的薬物療法効果は限定的多くは効果あり認知行動療法集団で効果あり効果あり予後多くは慢性化多くは軽快なぜ「新型うつ病」になるのか?―図1.これまで、「新型うつ病」には、人(周り)のせいにしやすい(他罰)、周りが自分に合わなと不安がる(拒絶に敏感)、周りに目が向きにくい(共感性欠如)という大きく3つの心理があることが分かりました。それでは、なぜこのような心理になるのでしょうか? なぜ「新型うつ病」になるのでしょうか? ここから、その原因を、社員(個人)と会社(社会)という2つの側面に分けて探ってみましょう。(1)社員(個人)の要因―自己本位な性格(自己愛パーソナリティ)後半にブログのオフ会で登場する臨床心理士ののぞみんが、「現代型うつ(新型うつ病)を発症する大きな原因は、患者さんの精神的な幼さです」と指摘します。言い換えれば、3つの心理の根っこにあるのは、自己本位な性格(自己愛性パーソナリティ)です。これは、真面目で几帳面な従来型のうつ病の性格(執着器質)とは対照的です。つまり、「新型うつ病」の患者は「オンリー・ワン(唯一の存在)」でありたいという心理が根っこにあります。従来型のうつ病の患者がありたい心理である「ワン・オブ・ゼム(組織の歯車)」では納得しないのです。人は成長するにつれて、自分が大事という自己本位の心理(自己愛性)から周りが大事という他者配慮の心理(社会性)にシフトしていきます。例えば、「ワン・フォー・オール、オール・フォー・ワン(1人はみんなのために、みんなは1人のために)」という言い回しがあります。本来は、相手や状況(環境)に応じて両者のバランスが取れていることが理想的ですが、「新型うつ病」は「ワン」(自己本位)の心理に偏りすぎてしまい、従来型のうつ病は「オール」(他者配慮)の心理に偏りすぎています。どちらにしても、そのバランスが失われています。両者は、うつ病になるという結果は同じなのですが、性格(パーソナリティ)としての原因は真反対であることが分かります。また、文化によってもこの自己本位と他者配慮の心理のバランスには偏りがあります。日本はもともと他者配慮の強い集団主義の文化であるのに対して、アメリカなどの欧米は自己本位の強い個人主義です。つまり、今、日本では社員(個人)が、集団主義から個人主義化してきているということです。(2)会社(社会)の要因―会社本位な社風前田は一緒に残業をしている他の部下たちに「昔はおれも上司に怒られてへこんで。でもその後、居酒屋に飲みに連れてってもらって。そこで教わったんだよ仕事の意味を。いっしょに客の喜ぶ顔見ようじゃないかって肩叩かれて。それでまた元気になって何とかやって行けたんだ」とこぼします。一方、オフ会でのぞみんは「今の不況では、昔のように十分な社員教育を行えないという悩みもあるんです」「そして会社にも今井さん育てる体制や今井さんへの理解が欠けていた」「そこに断絶が生まれ、お互いが苦しむことになったんです」と続けます。会社(社会)の要因として、会社本位な社風なってしまったことです。経済の低迷や国際競争の激化により、社員を育て成長を見守る余裕が経費的にも時間的にも職場になくなってきました。即戦力や成果を求めすぎて、社員(個人)よりも会社(社会)の利益に重きを置かざるを得なくなってしまったのです。つまり、社員(個人)だけでなく会社(社会)も、集団主義から個人主義化してきているということです。なぜ「新型うつ病」は増えているのか?―表3.「新型うつ病」になる原因は分かってきましたが、なぜこれほどまでに「新型うつ病」は増えているのでしょうか? 海外の状況と比べつつ、日本ならではの状況を社員(個人)と会社(社会)という2つの側面に分けてまた探ってみましょう。(1)社員(個人)の要因―受け身で依存的な育ち方のぞみんは、「核家族やゆとり教育の世代に育って、大事に育てられてきて、人に怒られたり、ぶつかりあったりする経験が少ないから」と言います。ここから分かることは、葛藤(ストレス)の少ない育て方(生育環境)により、自己本位な育ち方に変わってきたのに、受け身で依存的な育ち方は相変わらず残っている、むしろ増えていることです。この世代は、ちょうど1980年代以降の生まれで、現在の20、30歳代ということになります。逆に、1970年代以前の生まれである現在の40歳代以降に「新型うつ病」は少なく、従来型のうつ病が多いです。家庭では、核家族化により祖父母がもともと家におらず、父親は単身赴任や出張で不在がちで、さらに一人っ子で兄弟がいなければ、母親との濃密な関係が増えて、過干渉で過保護に育てられます。母親が先回りするので、小さな失敗や挫折という貴重な経験をしにくくなります。学校では、「みんな仲良し」「ゆとり」という教育方針のもと、競い合いやぶつかり合いが好ましくないと教えられます。よって、友達や恋人との関係も、傷付け合わないために細心の注意を払った表面的な「やさしい」付き合いに留まります。例えば、ラインやメールの返事をいかに早くするかばかりを気にするようになります。言いたいこと言い合ってぶつかり合うような深い友情や恋愛感情の関係にはなりにくくなっているのです。本来、社会では人の価値観はそれぞれ違い、仕事においても恋愛においてもぶつかることは当たり前です。しかし、成人するまでに人間関係でぶつかり合う経験が少ないと、その葛藤を適切に対処する能力が磨かれていかないのです。結果的に、その葛藤(ストレス)を避けるために、逃げ込みの心理が働き、休職という手段を用いて、会社(社会)に依存してしまうのです。それでは、世界、特にアメリカではどうでしょうか? アメリカでは、会社でうまく行かないことがあれば、自分の能力が発揮できないと思い、あっさり辞めて他の会社に転職します。転職率が高いのもうなずけます。一貫したドライな個人主義です。一方、日本では、会社でうまく行かないことがあっても、その会社にしがみつきます。けっきょく集団的な帰属意識が根強いため、社員(個人)は、個人主義的な自己本位に変わってきたのに、集団主義的な依存は変わらないままなのです。これが、さきほどのぞみんが指摘した「幼さ」です。一貫しない「ウェット」な個人主義なのです。ちなみに、この依存的な育ち方として、「新型うつ病」と時期や特徴を同じくして注目されている社会現象が「ひきこもり」や「草食系」です。なかなか働こうとしない心理は、人間関係においてもなかなか働きかけようとしない心理につながっていきます。(2)会社(社会)の要因―保護的な労働法制今井の会社の社長は、前田に「うつ病とか言って単なる『怠け病』じゃないのか。そんなの気合いで何とでもなるんだよ。甘えだ甘え」と吐き捨てます。かつては「気合い」という言葉で、連帯意識を高め、それでも休職してしまう場合、その数少ない社員を手厚く抱え込んでいた時代がありました。当時からの就業規則では「新型うつ病」による休職を想定していません。会社の要因として、現在、「新型うつ病」によって休職する社員が急増しているにもかかわらず、その保護的な労働法制が残っていることです。それでは、世界、特にアメリカではどうでしょうか? アメリカでは、就職は基本的に社員(個人)と会社の契約です。よって、社員(個人)の能力が発揮されていなければ、契約への債務不履行となり、解雇の理由になります。雇用の流動性が高いのもうなずけます。会社も一貫したドライな個人主義です。一方、日本では、うまく行かない社員がいても、保護的な労働法制によって、もともとの給料の7、8割の傷病手当が1年半から3年くらい支給され、手厚く抱え込まれてしまうのです。特に、手厚くされる公務員や大企業の社員は、復職を先延ばしする傾向があります。けっきょく、社会の集団的な連帯意識が根強いため、会社は、利益追求する個人主義的な会社本位に変わってきたのに、手厚い集団主義的な労働法制は変わらないままなのです。これは、「新型うつ病」に戸惑い右往左往する社会の「幼さ」と言えます。日本の社会もまた一貫しない「ウェット」な個人主義なのです。表3 「新型うつ病」の増加の原因、結果、アプローチ 職員(個人)職場(社会)原因変化自己本位(個人主義的)会社本位(個人主義的)無変化依存的な育ち方(集団主義的)休職中の保護的な労働法制(集団主義的)結果逃げ込み抱え込みアプローチ自己本位の是正休職中の依存の脱却会社本位の是正休職中の過保護の脱却なぜ「新型うつ病」は「ある」のか?―グラフ1.これまで、「なぜ『新型うつ病』になるのか?」という疑問やその増加の原因を解き明かしてきました。それは、「かんばりすぎ脳」「上下関係脳」「つながり脳」「先読み脳」でした。それでは、そもそもなぜ「新型うつ病」は「ある」のでしょうか? その起源について、進化医学的な視点で、無意識的な心理と意識的な心理に2つに分けて探っていきましょう。(1)「助けて(休ませて)」という無意識的な心理―「助けて脳」前回(9月号)の記事では、従来型のうつ病の起源として4つの心理の進化をご紹介しました。その中で、3番目の「つながり脳」(社会脳)に着目してみましょう。社会脳とは、助け合い(協力)を好む心理でもあります(利他性)。例えば、困っている人がいたら、私たちは自然と助けたくなります。これは、そうなるように私たちの心が進化してきたと考えられています。この心理が働く遺伝子をより持っている種の共同体(社会)が、生存率や生殖率を高め、子孫をより多く残してきたからです(包括適応度)。この社会脳の中でさらに新しく進化した心理が考えられています。それは、周りの「助けたい」という心理を逆手に取った「助けて」という無意識的な心理です。例えば、身の危険を感じるなどの自分では対処できない困難(ストレス)を感じた時、腰や膝が抜けたり(転換性障害)、気を失い記憶がなくなること(解離性障害)があります。この反応は、単独で行動している場合は生存に不利です。しかし、集団で行動している場合、周りに助けてもらえる可能性が高く、生存に有利であることから進化したと考えられています。ここで、私たちは、「助けて」と言葉で伝えれば済むのに、なぜわざわざ体の反応で示さなくてはならないのかと思うでしょう。その理由は、言葉を使うようになったのは喉の構造が進化したごく最近の20万年前だからです。社会脳は300万年前から進化し始めており、その間の280万年間に、私たちの祖先は、言葉ではなく、主に表情、身振り手振り、態度でコミュニケーションをとっていました(サイン言語)。だからこそ、現代でも、言語的コミュニケーションよりも非言語的コミュニケーションの影響力の方が圧倒的に大きいのです(メラビアンの法則)。つまり、「新型うつ病」の1つ目の起源は、困難(ストレス)を感じた時、うつという反応(抑うつ反応)を周りに見せることで(信号)、周りから援助(互恵的利他行動)を引き出す心理であると言えます(社会的ナビゲーション仮説)。腰抜けや膝抜け、記憶喪失がわざとではないのと同じように、抑うつ反応は、本人が意図せず意識せずに起こります。現代の日本では、社員(個人)のストレス耐性が弱まってきているにもかかわらず、会社(社会)のストレス負荷は増してきています。この状況で、この抑うつ反応が、先史時代の瀬戸際の捨て身の心理戦略から、高度に社会化した現代を生き抜く新たな心理戦略として引き継がれ広がってきているように思われます。そう考えれば、職場ではうつでも自宅では元気であったり、休職中に元気で復職してまたうつになるという現象も、周りの支援を引き出すための一時的なもので一貫性がない点から納得がいきます。また、うつ病の治療としての薬物療法や休養が、従来型のうつ病に効果があるのに対して、「新型うつ病」にはほとんど効果がない現状も、会社の苦手な上司や同僚というストレス因子が変わらない点から、納得がいきます。(2)「どうせならもっと助けて(休ませて)」という意識的な心理―「怠け脳」今井の会社の社長は「怠け」と言い放っています。休職する前、今井は本人なりに一生懸命で、「怠け」の意図や意識ははっきりとは見受けられません。ところが、休職した後、海外旅行に行けるくらい元気になっているにもかかわらず、なかなか復職しようとしない点では、「怠け」の意図や意識が見受けられます。「怠け」もまた、社会脳の中でさらに新しく進化し心理戦略と考えられます。それは、助け合い(協力)の心理を出し抜いた「働かなくても良いなら働かない」、今井に当てはめれば「どうせならもっと助けて(休ませて)」という意識的な心理です。先史時代、私たちの祖先は、助け合い(協力)によって得た共同体(集団)の食糧(資源)を平等に分配してきました。ところが、その平等意識に乗じることで、その資源を楽して手に入れようとする心理もまた進化したのです。これを駆り立てるのは、「ただ乗り遺伝子(フリーライダー)」と呼ばれます。みんながお金を払って乗り物に乗っているのに自分だけただで乗ろうとする、言い換えれば、みんなが働いているのに自分だけは休もうとすることです。実際に、社会主義国家であったかつてのソビエト連邦や、国民を厚遇した政策のギリシアでは、働かない人が増えすぎて、国の運営が破綻しました。つまり、「新型うつ病」の2つ目の起源は、うつによって周りから援助が得られた時に、うつが治らないことを主張することで、その援助の継続を引き出す心理であると言えます(疾病利得)。これは、休めることに味を占めて、自分の権利として就業規則による休職可能な期間を目一杯に休もうとする点で、損得勘定が働いており、意図して意識して起こっていると言えます。「新型うつ病」は、経過の途中で、無意識的な心理から意識的な心理にシフトしていると言えます。「『新型うつ病』は怠けか病気か?」という議論の難しい点は、この無意識と意識の心理の偏りが、患者によっても、また病期によっても違うため、一概に言えないことです。さらに、本人は「おれは悪くない」という心理が強いため、「怠け」の要素を認めたがらないです。ここで言えることは、「新型うつ病」に「怠け」の要素はあると私たちは理解しつつも、臨床の場面で「怠け」という価値判断を含む言葉を使うことは治療的ではないということです。なぜ医師は休職診断書を作成してしまうの?―医師の心理.今井がうつ病と診断されて「ですよね~」と喜んでいる様子に、医師は「はい?」とけげんな表情をしています。実際に、ほとんどの医師は、初診の段階で「新型うつ病」を疑ってはいるのですが、なぜ休職のための診断書を作成してしまうのでしょうか? その理由は、大きく3つあります。(1)訴えを重くとる―見逃しはだめ1つ目の理由は、医師は基本的に症状を重くとることです。今井は「おれこんなにがんばってるのに」と思っており、それを医師は聞いています。患者が本人なりにはがんばっている点で(過剰適応)、「新型うつ病」に従来型のうつ病の要素も混じっていることが実際の臨床でよくあります。つまり、少なくとも初診時の診察室の中だけでは一概に「新型」か従来型かとはっきり言い切れないということです。このような病態に対して、「新型うつ病」と決め付けて、訴えを過小評価して休養を指示せずに後に従来型のうつ病の要素で症状が悪化して自殺されるなどの重大な事態を招くと問題があります。逆に、「新型うつ病」と決め付けず、むしろ訴えを過大評価して安全策として休養を指示して、実は後から休養するほどではなかったと分かっても問題はないです。つまり、医療において重要視されるのは、「空振りはありだけど見逃しはだめ」ということです。(2)訴えを受け止める―信頼関係が大事2つ目の理由は、医師は基本的に訴えを受け止めることです(受容)。医師は今井の饒舌な訴えに耳を傾けています。医師は、この受容によって信頼関係(ラポール)を築くことを優先します。これは医師の倫理観でもあります。逆に言えば、上から目線で疑いの目を向けていたら(パターナリズム)、治療が始まらないということです。たとえ「新型うつ病」を見抜いていたとしても、少なくとも訴えを受け止めているふりをして、暴くことはためらいます。(3)訴えを覆せない―客観性がない3つ目の理由は、医師は基本的に訴えを覆せないことです。今井の饒舌な様子(表出)から症状が誇張されていることが推測されます。実際の臨床では、「『うつ』でもう職場に行けない」と言い張ったり、「このままだとどうにかなってしまう」とほのめかす患者も多いです。うつ病の診断や治療方針は、このような診察室での患者の主観的な訴えを根拠としており、それが疑わしいと思っても、それを覆すだけの客観的な事実や検査データが医師側にはないのが現実です。患者は、診断書をもらう時点では海外旅行に行くとは言いません。多くのうつ病の心理検査も、患者の主観が反映されてしまい、客観性には限界があります。このような状況で、もし十分な根拠なく訴えを突っぱねれば、逆に医師の判断に客観性がないことになり、医師によるいやがらせ(ドクターハラスメント)だと受け取られる危険性もあります。さらに、患者によっては、休養診断書を手に入れるために、医療機関を渡り歩く場合もあります。最初のうちは休職するほどの状態ではないと医師から判断されるのですが、納得が行かず、セカンドオピニオンの名のもとに受診を繰り返すうちに、やがて訴え方が誇張的で誘導的になり、最終的に休職診断書を手に入れることができるのです。「新型うつ病」にどうすれば良いの?―表3、表4.これまで、「新型うつ病」の理解を深めてきました。治療反応性としては、従来型のうつ病が良好であるのに比べて、「新型うつ病」はもともと良好ではないことが分かります。それでは、どうすれば良いのでしょうか?「新型うつ病」の原因は主に4つであることを解き明かしてきました。それは、社員(個人)が自己本位(個人主義的)になったこと、社員(個人)が依存的なまま(集団主義的)であること、会社(社会)が会社本位(個人主義的)になったこと、会社(社会)が労働法制によって休職中に保護的なまま(集団主義的)であることです。ということは、その4つの原因に対して、それぞれ4つのアプローチをすれば良いのです。それは、社員(個人)の自己本位の是正、社員(個人)の休職中の依存の脱却、会社(社会)の会社本位の是正、会社(社会)の休職中の過保護の脱却です。ここから、社員(個人)と会社(社会)という2つの側面に分けて、さらにそれぞれの側面で2つのアプローチのポイントをご紹介します。社員(個人)にどうすれば良いのか?.(1)周りに目を向けさせる―認知行動療法オフ会でのぞみんは「つらそうですね」と今井に共感します。しかし、間を置いて「M田さんも」と付け加えると、今井は「はっ?」「のぞみん、M田の味方なの?」とびっくりして言います。そして、他の参加者は「なんでM田の気持ちなんて分かるわけ?」と質問してきます。1つ目のアプローチのポイントは、自己本位の是正と依存の脱却のために、周りの視点に立たせて周りに目を向けさせることです(認知行動療法)。これは、一方的に説教をすることではないです。自分に目が向いてばかりで自分のことでいっぱいになっている本人に、周りがどう思っているかなどを具体的に問いかけ多面的に想像させます。例えば、本人が休職中に海外旅行に行ったことを知った同僚の気持ち、自分が悪口を書き込んだブログを見た上司の気持ち、そして今井を叱っていた時の上司の気持ちなどです。また、過去・現在・未来の時間軸の視点に立たせて将来に目を向けさせることです(メタ認知)。今この瞬間に目が向いて逃げ込もうとしている本人に、本人に「新型うつ病」の特性の理解を促し、このままだと将来どうなるかなどの見通しを伝えます。例えば、本人の物事のとらえ方(認知)に主な原因があること、原因からして従来型のうつ病ではないこと、薬の効果は限定的であること、休職が長引けば長引くほど対人スキル(社会性)が低まり逆に復職が困難になること、部署移動や転職により職場の環境を変えるだけでは同じ症状がまた出る可能性が高いことなどです。(2)周りが自分に合わなくても不安がらなくさせる―集団の復職訓練(リワーク)オフ会の参加者の男性の1人が「(妻が)『今夜は出かけるんだ。気分転換も大事だよね。いってらっしゃい」って嫌味を言うんだよ」「あいつ(妻)は内心じゃおれのこと働きもせず遊び歩いちゃってと思ってるんだよ」と嘆きます。すると、他の参加者たちは「それって」「単に思い込みなんじゃ・・・」とぼそっと指摘します。このやり取りを見た今井は、自分が独りよがりだったことに気付き、復職を決意するのです。ここから分かることは、自分独りでは気付かなかったことが、集団の中では気付くことができることです。昔から「人の振り見て我が振り直せ」とはよく言ったものです。2つ目のアプローチのポイントは、自己本位の是正と依存の脱却のために、休職しているうつ病の患者が集まった集団で復職訓練を行うことです(リワーク)。昨今では、このリワークを行う医療機関や企業が増えてきています。「新型うつ病」の患者は、医師や臨床心理士などの医療職(権威)からの個別の指摘に対しては、「傷付き不安」から身構えてしまい、自分の偏った考え方(認知の偏り)を認めようとしなかったり(否認)、反発するケースがあります(抵抗)。ところが、自分と似たメンバーからの指摘であれば、仲間意識による親近感から「傷付き」も最小限になります。こうして、安心感のある集団の中で、小さな「傷付き」体験を積み重ねることで、物事のとらえ方(認知)の偏りが修正され、周りが自分に合わなくても不安がらなくなり、「傷付き不安」を克服して、打たれ弱くはなくなります(人間的成長)。言い換えれば、リワークとは、仲間といっしょに小さく傷付け合うことで、人間関係とは何かを学ぶ大人の学校です。リワークによって、「自分の周りには相手がいる」「自分はたくさんの中の1人なんだ」という現実をより意識するようになります。すると徐々に、「自分にばかり目が向いていた」「上司や会社のせいにしてばかりだった」「嫌なことから逃げていた」という自分のもともとの考え方(認知)に気付くようになります。そして、「もっと周りにも目を向けよう」「自分にも悪い所があった」「嫌なことでも仕事だからやろう」と考えるようになります。こうして、自分も大事だけど周りも大事と思うようになり、「なりたい自分」と「なるべき自分」のバランスがよりとれるようになっていきます。会社(社会)はどうすれば良いのか?.(1)社員(個人)を育て見守る取り組みを行う―アサーショントレーニング上司の前田は一緒に残業をしている他の部下たちに「おれだって好きで今井を叱ってたわけじゃないよ」「早く一人前になってもらわなきゃ困るから必死だったんだよ」とこぼします。すると、ある部下が「今井も必死だったんじゃないですか?」「毎日あわただしすぎて、とにかく失敗しないように必死で、そればっかりで分かんなくなっちゃったじゃないですかね」と進言します。思い直した前田は、いよいよ今井が復職した日に「ありがとう。待ってたよ」「これからはもっとコミュニケーションをとって、いっしょに成長していけたらと思っている」と同じ目線で真摯に向き合います。すると、今井も「ありがとうございます」と素直に答えることができるのです。1つの目のアプローチのポイントは、会社本位の是正のために、そして長期的な会社の利益のためにも、社員(個人)を育て見守る取り組みを行うことです。これは、昔ながらの「気合い」や「精神力」などの抽象的な言葉で一方的に押し付けることではありません。例えば、それは感謝し合うポジティブなコミュニケーションのスキルを会社全体で推し進めることです(アサーショントレーニング)。また、「こうしろ!」「ああしろ!」という指示命令ではなく、「あなたはどうしたい?」「何ができるの?」「私たちは何をしてあげられる?」という問いかけによる双方向のかかわり方です。さらには、入社研修で新人社員たちに今回紹介しているこのドラマを流して、休職中に海外旅行に行く社員の問題点や上司が一方的に叱責する会社の問題点などについてグループワークをして、コミュニケーションの大切さをお互いの共通認識とすることです。「新型うつ病」のなり方を学ぶことは、「新型うつ病」にならないやり方を学ぶことでもあるからです。(2)休職中の傷病手当を最低限の設定に引き下げる―限界設定上司の前田は、部下たちに「(休職している)今井の担当分は同じチームのみんなに肩代わりしてもらう」と伝えます。すると、部下たちは「そんなあ、おれたちもう今の作業量でいっぱいいっぱいですよ」と嘆きます。一方、今井は休職中に傷病手当で海外旅行に行っています。これは、明らかに不公平です。このドラマでは、幸運なことに、オフ会でのやり取りのおかげで、今井は考え直し、早めに復職することができました。しかし、実際は、休職中の手厚い保障に安住することで、なかなか復職できないケースが多いです。2つ目のアプローチのポイントは、休職中の過保護の脱却と公平性のために、休職中の傷病手当を生活費と医療費を加味した最低限の設定に引き下げることです。つまり、保障の線引きを見極めるということです(限界設定)。これには、日本の労働法制が変わらなければならないです。そうすることで、本人に早期の復職が動機付けられます。そもそも、「傷病」の期間は、休養の期間であり、海外旅行などの交遊費にお金がかかることはないはずです。交遊費にお金をかけるくらい活動性が高いなら、早期に復職するタイミングであると言えます。また、自宅では元気で職場でうつになるという状態なら、それは本人にその職場が合っていないわけで、退職や転職のタイミングであると言えます。ただ、ここで誤解がないようにしたいのは、先ほど紹介したアメリカのような完全な契約社会が望ましいというわけではないです。それは、全くセーフティネットがないことはホームレスや犯罪などの別の社会問題を引き起こすリスクが高まるからです。かと言って、先ほど紹介したかつてのソビエト連邦や現在のギリシアのような生活が過剰に保障された社会もまた望ましくないです。それは、働かない人たち(フリーライダー)が増えすぎてしまい、国の財政(資源)を食い潰して、国家(集団)が破綻するリスクが高まるからです。現在の日本は、正規労働が昔ながらの労働法制で過剰に保障されています。その過剰になった保障の費用を抑えようとして、会社は全く保障のない非正規労働を増やし続けています。格差がますます開き、アンバランスになっています。望ましいのは、非正規労働を減らし正規労働を増やすことはもちろんですが、同時に正規労働の過剰な保障を是正することです。大事なことは、「切り捨て」の社会も「抱え込み」の社会も同じくらいの危うさがあり、私たちは、そのバランスをとる必要があるということです。表4 「新型うつ病」へのアプローチのポイント アプローチポイント職員(個人)自己本位の是正休職中の依存の脱却周りの視点に立たせて周りに目を向けさせる(認知行動療法)過去・現在・未来の時間軸の視点に立たせて将来に目を向けさせる集団で復職訓練を行う(リワーク)職場(社会)会社本位の是正職員(個人)を育て見守る取り組みを行う休職中の過保護の脱却休職中の傷病手当を最低限の設定に引き下げる(限界設定)「新型うつ病」はどこに行くの?.「新型うつ病」は、現在の日本の文化が作り出した要素が大きいことが分かります。それは、もともとの集団主義的な文化から新しい個人主義の文化に変わりゆく時代の流れの中で起きています。つまり、「新型うつ病」は、「助けて脳」と「怠け脳」という社会脳の進化の代償であるだけでなく、現在の日本の一貫しないウェットな個人主義という「文化の代償」とも言えます。今ここで、「新型うつ病」の正体が見えてきました。そして、どうすれば良いのかも分かってきました。これから社員(個人)も会社(社会)も私たち全員が、「新型うつ病」をより良く理解していけば、そして、バランスのとれた新たな労働の文化を生み出していけば、「新型うつ病」という現象はなくなっていく可能性があるのではないでしょうか?1)吉野聡:「現代型うつ」はサボりなのか、平凡社新書、20132)NHK取材班:職場を襲う「新型うつ」、文藝春秋、20133)アンソニー・スティーブンズほか:進化精神医学、世論時報社、20114)大平英樹:感情心理学・入門、有斐閣アルマ、2010

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MetSリスクの高い抗うつ薬は

 メタボリックシンドローム(MetS)は双極性障害患者でよくみられ、一般集団と比較し相対リスクは1.6~2倍といわれている。このリスク増加は、不健康なライフスタイルや薬物治療に起因すると考えられている。これまで、抗精神病薬や気分安定薬は、体重増加やMetSと関連付けられてきたが、抗うつ薬の影響については総合的に評価されていなかった。イタリア・トリノ大学のVirginio Salvi氏らは、抗うつ薬の種類とMetSリスクとの関連を評価するため検討を行った。Psychopharmacology誌オンライン版2015年9月26日号の報告。 本横断的研究では、双極性障害患者294例を連続登録した。MetS診断には、修正NCEP ATP-III診断基準を用いた。患者に使用された抗うつ薬は、一般的な分類名(SSRI、TCA、SNRI、その他の抗うつ薬)、およびヒスタミン1(H1)受容体との親和性を考慮した薬理学的作用に従って分類した。 主な結果は以下のとおり。・全般的には、抗うつ薬の使用はMetSと関連していなかった(有病率[PR]:1.08、95%CI:0.73~1.62、p=0.70)。・ヒスタミン1受容体への高い親和性を有する抗うつ薬を使用した患者(15例)では、MetSの有病率の大幅な増加が認められた(PR:2.17、95%CI:1.24~3.80、p=0.007)。・連続共変量モデルとして阻害定数(Ki)を含めた場合、KiとMetS有病率との間に逆相関を認めた(p=0.004)。 結果を踏まえ、著者らは「本研究は、双極性障害患者のMetSリスクを予測するためには、抗うつ薬の古典的な分類よりも薬理学に基づいた分類のほうがより有用であることを、臨床現場で初めて示した報告であり、臨床経過に関連する可能性がある。しかし、これらの知見が一般化できるかどうかを検討する、より大規模な研究が必要である」とまとめている。関連医療ニュース 抗精神病薬による体重増加や代謝異常への有用な対処法は:慶應義塾大学 難治性うつ病発症に肥満が関連か 非定型うつ病ではメタボ合併頻度が高い:帝京大学  担当者へのご意見箱はこちら

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免疫性血小板減少症〔ITP:immune thrombocytopenia〕(旧名:特発性血小板減少性紫斑病)

1 疾患概要■ 概念・定義特発性血小板減少性紫斑病(ITP:idiopathic thrombocytopenic purpura)は、厚生労働省の特定疾患治療研究事業対象疾患(特定疾患)に認定されている疾患であり、他の基礎疾患や薬剤などの原因がなく、血小板の破壊が亢進し減少する後天性の自己免疫疾患と考えられている。欧米では本疾患に対し、免疫性(immune)あるいは自己免疫性(autoimmune)という表現が用いられており、わが国においても本疾患の病名を免疫性血小板減少症(ITP:immune thrombocytopenia)へと改定する予定である。血小板が減少していても、必ずしも出血症状を伴うわけではないことが“purpura”を削除した理由であり、この考え方は本疾患の治療戦略とも密接に関連する。■ 疫学わが国におけるITPの有病者数は約2万人で、年間発症率は人口10万人当たり約2.16人と推計される。つまり年間約3,000人が新規に発症している計算になる。最近の調査では、慢性ITPの好発年齢として20~40代の若年女性に加え、60~80代でのピークが認められるようになってきている。高齢者の発症に男女比の差はない。急性ITPは5歳以下の発症が圧倒的である。■ 病因ITPの病因はいまだ不明な点が多いが、その主たる病態は血小板の破壊亢進である。ITPでは血小板膜GPIIb-IIIaやGPIb-IXなどに対する自己抗体が産生され、それらに感作された血小板は早期に脾臓を中心とした網内系においてマクロファージのFc受容体を介して捕捉され、破壊されて血小板減少を来す。これらの自己抗体は主として脾臓で産生されており、脾臓は主要な血小板抗体の産生部位であるとともに、血小板の破壊部位でもある。さらに最近では、ITPにおける抗血小板自己抗体は巨核球の分化・成熟にも障害を与え、血小板産生も正常コントロールと比べ減少していることが示されている。■ 症状症状は皮下出血、歯肉出血、鼻出血、性器出血など皮膚粘膜出血が主症状である。血小板数が1万/μL未満になると血尿、消化管出血、吐血、網膜出血を認めることもある。口腔内に高度の粘膜出血を認める場合は、消化管出血や頭蓋内出血を来す危険があり、早急な対応が必要である。血友病など凝固因子欠損症では関節内出血や筋肉内出血を生じるが、ITPでは通常、これらの深部出血は認めない。■ 分類ITPはその発症様式と経過より、急性型と慢性型に分類され、6ヵ月以内に自然寛解する病型は急性型、それ以後も血小板減少が持続する病型は慢性型と分類される。急性型は小児に多くみられ、ウイルス感染を主とする先行感染を伴うことが多い。一方、慢性型は成人に多い。しかしながら、発症時に急性型か慢性型かを区別することはきわめて困難である。最近では、12ヵ月経過したものを慢性型とする意見もある。■ 予後ITPでは、血小板数が3万/μL以上の場合、死亡率は正常コントロールと同じであり、予後は比較的良好と考えられている。しかし、3万/μL以下だと出血や感染症が多くなり、死亡率が約4倍に増加すると報告されている。この成績より、血小板数3万/μL以上を維持することが治療目標となっている。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)ITPの診断に関しては、いまだに他の疾患の除外診断が主体であり、薬剤性やC型肝炎など血小板減少を来す他の疾患を鑑別しなければならない。とくに血小板数が3~5万/μL以下の症例で無症状の場合や検査コメントに血小板凝集(+)と記載されている場合は、末血用スピッツ内のEDTAにより誘導される「見かけ上」の血小板減少(EDTA依存性偽性血小板減少症)を除外すべきである(治療の必要なし)。ITPと同様に免疫学的機序で血小板が減少する二次的ITPとして、全身性エリテマトーデスなどの膠原病やリンパ系腫瘍、ウイルス肝炎、HIV感染などが挙げられる。詳しい病歴の聴取や身体所見、時には骨髄穿刺により先天性血小板減少症や薬剤性血小板減少症、さらには血小板産生障害に起因する骨髄異形成症候群や再生不良性貧血などの鑑別を行う。骨髄検査において典型的ITPでは、幼若な巨核球が目立つが巨核球数は正常あるいは増加しており、その他はとくに異常を認めない。PAIgG(Platelet-associated IgG:血小板関連IgG)は2006年に保険収載されたが、PAIgGは血小板に結合した(あるいは付着した)非特異的なIgGも測定するため、再生不良性貧血などの血小板減少時にも高値になることがあり、その診断的意義は少ない。2023年に血漿トロンボポエチン濃度と幼若血小板比率(IPF%)を組み込んだ新たなITPの診断基準が公表されている。一方、これらのバイオマーカーの測定は現時点で保険適用外であり、その保険収載が急務の課題である。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ ITPにおける治療目標ITPの治療目標は血小板数を正常化させることではなく、危険な出血を予防することである。具体的には血小板3万/μL以上かつ出血症状が無い状態にすることが当面の治療目標となる。「成人ITP治療の参照ガイド2019改訂版」では、初診時血小板が3万/μL以上あり出血傾向を認めない場合は、無治療での経過観察としている。血小板数を正常に維持するために高用量の副腎皮質ステロイドを長期に使用すべきではないとの立場である。図に「成人ITP治療の参照ガイド2019 改訂版」の概要を示す。なお、本ガイドは、https://www.jstage.jst.go.jp/article/rinketsu/60/8/60_877/_pdfにて公開されている。画像を拡大する1)第1選択治療(1)ピロリ菌除菌療法(2010年6月より保険適用)わが国においては、ITPに関してH.pylori(ピロリ菌)除菌療法の有効性が示されている。ピロリ菌感染患者には、第1選択として試みる価値がある。出血症状を伴う例に対しては、ステロイド療法をまず選択し、血小板数が比較的安定した時点で除菌療法を試みる。(2)副腎皮質ステロイド療法ピロリ菌陰性患者や除菌無効例には、副腎皮質ステロイド(プレドニゾロン)が第1選択となる。副腎皮質ステロイドは網内系における血小板の貪食および血小板自己抗体の産生を抑制する。血小板数3万/μL以下の症例で出血症状を伴う症例が対象である。とくに口腔内や鼻腔内の出血を認める場合は積極的に治療を行う。50~75%において血小板が増加するが、多くは副腎皮質ステロイド減量に伴い血小板が減少する。初期投与量としては0.5~1mg/kg/日を2~4週間投与後、血小板数の増加がなくても8~12週かけて10mg/日以下にまで漸減する。経過が良ければさらに減量する。2)第2選択治療(1)トロンボポエチン(TPO)受容体作動薬ITPでは血小板造血が障害されているものの、血清TPO濃度は正常~軽度上昇に止まる。この成績より、血小板造血を促進する治療薬としてTPO受容体作動薬が開発され、2011年より保険適用となっている。薬剤としては、ロミプロスチム(商品名:ロミプレート/皮下注)やエルトロンボパグ オラミン(同:レボレード/経口薬)があり、優れた有効性が示されている。血栓症の発症や骨髄線維化のリスクがあるため、これらに関しては慎重にモニターすべきである。妊婦には使用できない。(2)リツキシマブB細胞に発現しているCD20抗原を認識するヒトマウスキメラモノクローナル抗体で、B 細胞を減少させ、抗体産生を低下させる作用がある。わが国では2017年3月よりITPに対して適応拡大されている。(3)脾臓摘出術(脾摘)発症後6~12ヵ月以上経過し、各種治療にて血小板数3万/μL以上を維持できない症例に考慮する。寛解率は約60%。摘脾の1週間前より免疫グロブリン大量療法(後述)にて血小板を増加させる。近年では、TPO受容体作動薬などの新規薬剤の登場により、脾摘施行例は減少している。(4)新規ITP治療薬「成人ITP治療の参照ガイド2019改訂版」公開後に新たに上市されたITP治療薬として、ホスタマチニブ([Syk阻害剤]およびエフガルチギモド(胎児性Fc受容体阻害剤)が挙げられる。これらの薬剤の治療上の位置付けに関しては、今後の検討課題である。3)難治ITP症例への治療法(第3選択治療)本項で述べる薬剤は、ITPへの適応は無いものの、文献などにて有効性が示唆されている薬剤である。4)緊急時の治療診断時、消化管出血や頭蓋内出血などの重篤な出血を認める症例や、脾摘など外科的処置が必要な症例には、免疫グロブリン大量療法やメチルプレドニンパルス療法にて血小板を速やかに増加させ、出血をコントロールする必要がある。血小板輸血は一般には行わないが、活動性出血を伴う重症例では血小板輸血も積極的に考慮する。4 今後の展望上記以外の新たなITP治療薬として、BTK阻害薬、新規TPO受容体作動薬、抗CD38抗体薬など種々の薬剤が開発、治験されており、これらの薬剤の上市が待たれる。5 主たる診療科血液内科、あるいは血液・腫瘍内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)成人特発性血小板減少性紫斑病治療の参照ガイド2012年版(医療従事者向けのまとまった情報)妊娠合併特発性血小板減少性紫斑病診療の参照ガイド(医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報つばさのひろば(血液疾患患者とその家族の会)1)Cines DB, et al. N Engl J Med.2002;346:995-1008.2)冨山佳昭. 臨床血液. 2011;52:627-632.3)柏木浩和ほか. 臨床血液. 2019;60:877-896.4)柏木浩和ほか. 臨床血液. 2024;64:1245-1257.公開履歴初回2013年03月28日更新2015年11月02日更新2024年9月16日

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子宮鏡下避妊法のベネフィットとリスク/BMJ

 子宮鏡下避妊法(hysteroscopic sterilization)は腹腔鏡下避妊(laparoscopic sterilization)法と比べて、望まない妊娠リスクは同程度だが、再手術リスクが10倍以上高いことが、米国・コーネル大学医学部のJialin Mao氏らによる観察コホート研究の結果、報告された。数十年間、女性の永久避妊法は腹腔鏡下両側卵管結紮術がプライマリな方法として行われてきたが、低侵襲な方法として医療器具Essureを用いて行う子宮鏡下避妊法が開発された。欧州では2001年に、米国では2002年に承認されているが、米国FDAには承認以来、望まない妊娠や子宮外妊娠、再手術など数千件の有害事象が報告され、2014年には訴訟も起きているという。しかし、これまでEssure子宮鏡下避妊法の安全性、有効性に関して、卵管結紮術と比較した報告はほとんどなかった。BMJ誌オンライン版2015年10月13日号掲載の報告。2005~13年ニューヨーク州住民ベースでEssure子宮鏡下法 vs.腹腔鏡下法 検討は、Essure子宮鏡下避妊法の安全性と有効性を、大規模包括的な州コホートで腹腔鏡下避妊法と比較した住民ベースコホート研究であった。ニューヨーク州の日帰り手術施設で、2005~13年に子宮鏡下法および腹腔鏡下法を含む避妊法を複数回受けている女性を対象とした。 主要評価項目は、術後30日以内の安全性イベント、1年以内の望まない妊娠と再手術とした。患者特性およびその他交絡因子を補正後、病院クラスター混合モデルを用いて、30日アウトカムと1年アウトカムを比較した。再手術までの期間は、frailty時間事象分析法を用いて評価した。望まない妊娠リスクオッズ比0.84、再手術リスクオッズ比10.16 対象期間中、子宮鏡下法を受けた患者は8,048例、腹腔鏡下法を受けた患者は4万4,278例が特定された。同期間中、子宮鏡下法は45例(2005年)から1,231例(2013年)へと有意に増大していた(p<0.01)。一方、腹腔鏡下法は同7,852例から3,517例に減少していた。子宮鏡下法を受けた患者は腹腔鏡下法を受けた患者と比べて、高年齢で(40歳以上25.2% vs.20.5%、p<0.01)、骨盤内炎症性疾患歴(10.3% vs.7.2%、p<0.01)、重大腹部手術歴(9.4% vs.7.9%、p<0.01)、帝王切開歴(23.2% vs.15.4%、p<0.01)を有する傾向がみられた。 術後1年時点で、子宮鏡下法は腹腔鏡下法と比較して、望まない妊娠リスクは高くなかったが(オッズ比[OR]:0.84、95%信頼区間[CI]:0.63~1.12)、再手術リスクについて大幅な増大が認められた(OR:10.16、95%CI:7.47~13.81)。 結果を踏まえて著者は、「両避妊法のベネフィットとリスクについて患者と十分に話し合い、患者が情報に基づく意思決定ができるようにしなければならい」と提言している。

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