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前立腺肥大症はとても有病率の高い疾患ですので、薬局でその治療薬の筆頭であるα1遮断薬について説明する機会が多くあります。タムスロシンやシロドシン、ナフトピジルはα1受容体への選択性が高いため、非選択性のテラゾシンやドキサゾシンなどに比べて、低血圧などの血管系障害のリスクは低いとされています1)。リスクが低いといっても、起立性低血圧や重症低血圧の兆候には注意が必要ですし、ほかにも特徴的な副作用がありますので、今回はそれらに関する論文を紹介します。低血圧リスク前立腺肥大症に使用されるα1遮断薬は血管を拡張させる作用は少ないですが、それでも血圧降下がみられることがあります。入院を必要とする重症低血圧をアウトカムとした後ろ向きコホート研究では、中高年の良性前立腺肥大症患者がタムスロシンを服用すると、重症低血圧のリスクが高まり、とくに投薬開始後8週間はその傾向が顕著であることが示唆されています2)。タムスロシンの使用と重症低血圧リスクの関係を調査するにあたり、40~85歳の男性で、タムスロシンまたはデュタステリドの処方を受けていた患者を抽出し、初回調剤日にコホートに組み入れています。88万770人の追跡で、低血圧で入院した患者は2,562例でした。1万人年当たりの発症を薬剤別にみると、デュタステリド群は31.3例(14万4,309人年当たり451例)と患者全体の29.1例に近い数値であったものの、タムスロシン群は42.4例(24万276人年当たり1,018例)とやや高い数値でした。コホート分析において、タムスロシン群における初回服用時と服用再開時の重症低血圧の発症率は下表のとおりでした。自己対照ケースシリーズ研究でも下表のように同様の傾向となっています。自己対照ケースシリーズとは、対照群を設定せずに、ケースごとにリスク期間とコントロール期間を設定するため、イベントが発生したケース自体をコントロールとする研究デザインです。服用開始または服用再開後1~8週で重症低血圧リスクが上昇しているため、8週程度を目安に低血圧兆候(立ちくらみ、めまいなど)にとくに注意を払うよう説明できるとよいと思います。射精への影響α1遮断薬の中でもα1A型の薬剤では、射精障害が生じやすいことが知られています。前立腺肥大症治療薬の射精機能障害に関して検証した23件の研究を含むメタ解析では、射精障害のオッズ比はタムスロシンで8.58、シロドシンで32.5、ドキサゾシンやテラゾシンはプラセボと同等だったとする研究があります3)。また、性欲減退や射精量減少については、タムスロシン0.8mg/日(本邦の常用量は0.2mg/日)とプラセボのランダム化クロスオーバー試験で、タムスロシン群の平均精液量は90%の患者で減少し、35%で射精がみられなかったとする研究があります。ただし、シロドシンと異なり、精液が尿道から出ない逆行性射精のリスクは低いとされています4)。一方、2件の第III相試験をプール解析した研究では、シロドシン群では28.1%の患者で逆行性射精が生じたとされています5)。添付文書では約17%となっていて頻度として少なくはないですし、性欲減退や精液量減少、また逆行性射精などの症状は気にされる患者さんも多いため、事前に情報提供しておくとよいでしょう。術中虹彩緊張低下症候群(Intraoperative Floppy Iris Syndrome:IFIS)α1遮断薬服用中の患者さんが白内障手術を受ける際に、術中虹彩緊張低下症候群(Intraoperative Floppy Iris Syndrome:IFIS)という虹彩のうねりや脱出、瞳孔径の縮小などの現象が生じることがあります。白内障手術中のIFIS発症頻度を調査した前向き研究では、白内障手術を受けた患者1,968例2,643眼のうち、IFISは男性患者25例29眼(1.1%)で観察され、その全員がα1遮断薬を服用していたという報告があります6)。薬剤別では、タムスロシンを服用している58眼のうち25眼(43.1%)、ナフトピジルを服用している21眼のうち4眼(19.0%)でIFISが生じています。処置に影響がない場合も多いものの、α1遮断薬の服用は事前に眼科医に伝えるよう説明しておくほうがよいでしょう。いくつかα1遮断薬に特徴的な注意事項を紹介しました。患者さんの安全やQOLに影響する副作用ですので、服薬指導の参考になれば幸いです。1)Rees J, et al. BMJ. 2014;348:g3861.2)Bird ST, et al. BMJ. 2013;347:f6320.3)Gacci M, et al. J Sex Med. 2014;11:1554-1566.4)Giuliano F. BJU Int. 2006;97 Suppl 2:34-38.5)Marks LS, et al. J Urol. 2009;181:2634-2640.6)Oshika T, et al. Am J Ophthalmol. 2007;143:150-151.