サイト内検索|page:139

検索結果 合計:5062件 表示位置:2761 - 2780

2761.

不眠症患者に対するスボレキサントの安全性プロファイル~市販後調査サブグループ解析

 スボレキサントは、不眠症治療に用いられるデュアルオレキシン受容体拮抗薬である。MSD株式会社の佐野 秀樹氏らは、日常でみられるさまざまな初期治療下におけるスボレキサントによる不眠症治療の安全性プロファイルと臨床経過を明らかにするため、検討を行った。Expert Opinion on Drug Safety誌オンライン版2019年9月3日号の報告。 市販後調査(PMS;2015~17)より、スボレキサントによる初期治療時の患者の状態に基づき、睡眠薬未治療群(N群)、これまでの睡眠薬からの切り替え群(S群)、追加投与群(A群)、その他(O群)に分類し、サブグループ解析を行った。 主な結果は以下のとおり。・PMSより抽出された患者3,248例の内訳は、N群1,946例(59.9%)、S群703例(21.6%)、A群536例(16.5%)、O群63例(1.9%)であった。・不眠症関連薬剤性副作用の発現率は、S群では5.3%であり、N群(0.46%)およびA群(1.5%)よりも高い傾向が認められた。・6ヵ月時点における効果不十分による中止率は、S群では14.9%であり、N群(9.6%)およびA群(10.4%)よりも高い傾向が認められた。 著者らは「他の不眠症治療薬から切り替えてスボレキサントによる治療を開始する際には、不眠症関連薬剤性副作用を注意深くモニタリングする必要がある。このことは、切り替え前の不眠症治療薬を突然中断したことが原因である可能性が示唆された」としている。

2763.

【荻野☓池野対談】第1回 世界から見た日本の“惨状”

日本の国際競争力が失われてきている――誰しも漠然とそう感じているのではないだろうか。とくにアカデミズムの分野では、その傾向が顕著だ。国別の論文発表数のランキングは年々下落し、国内大学の研究費も減少。それに伴い、若手研究者の待遇悪化や海外流出なども目立っている。こうした現状にあって、再び日本が技術開発力を持ち、イノベーションを生み出して国際社会で存在感を放つためには、どんな施策がありえるのか。日本の医学部を卒業した医師であり今は米国を拠点に活躍する、ハーバード大学の医学大学院および公衆衛生学大学院教授の荻野 周史氏とスタンフォード大学主任研究員の池野 文昭氏。ともに日米の大学・起業現場を熟知する教育者・研究者である2人が対談で語り合った。データでも肌感でも明らかに「凋落した国」池野私は日本で省庁の委員会委員や地方自治体のアドバイザリー業務をしており、月に3回程度は帰国しているので、日本の状況は空気感を含めて理解しているつもりです。データを見れば、名目GDPランキングではかろうじて世界3位(2018年)の座を保っていますが、中国との差は開くばかり。スイスのビジネススクールIMD(国際経営開発研究所)が発表する「世界競争力ランキング」では、昨年から5つ順位が下がって30位(2019年1))。1位はシンガポールで、その後に香港、米国と続き、中国は14位で韓国は28位。日本はマレーシアやタイよりも下なのです。とくに政治やビジネスの効率に対する評価がきわめて低い。「世界時価総額ランキング2)」(2019年9月)のトップ50を見ても、トヨタが38位に入っているだけで、そのほかは圧倒的に米国の会社、続いて中国系の会社が目立ちます。平成元年の時点3)では、トップ5をNTTと大手銀行といった日本企業が独占し、そのほかに27社もの日本企業が50位内にランクインしていました。当時のバブル経済の影響が大きかったとはいえるものの、この状況からはその後30年間、日本がまったく新たな産業を生み出せていないことがわかります。世界から見た日本は「急速に凋落した国」です。荻野帰国はたまに里帰りをする程度ですが、米国にいても日本の競争力が落ちていることを感じます。たとえば、ハーバードへの留学生やポスドク。日本からの応募は今でも一定数ありますが、かつてに比べ受からなくなっています。その代わり、中国人が大幅に増加しました。採用側としては、同等の学力ならコミュニケーション力が高く、国としての勢いもある中国人を採ろう、となるのです。また、日本国内における研究者や教育者のポストを見ると、待遇や裁量などの条件が米国と比べてあまりにも悪い。これでは世界で活躍している人をリクルートできません。日本から出るほうも日本に来るほうも人材が減り続け、日本がさらに世界から取り残されることを危惧しています。池野今、シリコンバレーに進出している日本の会社は約950社あるのですが、現地の人を雇おうとしても来てくれない、という話をよく聞きます。会社側は「米国企業のように簡単に首にはしない。福利厚生が手厚い」という点を売りにしているのですが、シリコンバレーで職を求める優秀な人のニーズとまったくマッチしない。GAFA(Google、Amazon.com、Facebook、Apple Inc.)に代表されるように、高い給与は当然として、新しい挑戦ができる、自分の夢をかなえられる、大きな裁量を持って働ける、といった環境を提供しないと優秀な人は雇えません。生き残ることの苦しさ・楽しさ荻野私は学生のころから病理学を研究したいと思っていました。当時、その希望をかなえるには大学院に行くというのが普通に考えて唯一の道でした。しかし、大学院に半年通って絶望しました。硬直した組織、旧態依然としたテーマ…。ここで長くはやっていられない、と危機感を持ち、考えたのが米国留学でした。渡米には研修資格取得や語学の準備などが必要で、最低1年ほどはかかる。そこで在沖縄米国海軍病院でインターンシップをしながら準備を進め、研修先の病院を見つけたのです。その後、苦労しながらもハーバードに職を得て、今に至ります。池野海外への興味は学生時代からありました。私は自治医科大学の出身で、当時の日本ではまだ僻地医療が確立していなかったので、卒業後の勤務に役立つと考え、2ヵ月間シアトルのワシントン大学で僻地医療を見学したのです。そこで、米国の自由と力強さに魅せられました。しかし、卒後は地域医療に従事する義務がありましたので米国への思いは封印し、出身地である静岡県の公務員として地域医療に従事しました。荻野それが、どうして渡米されることになったのですか?池野9年間の研修・勤務を終え、地域医療にやりがいも感じていたので、「このまま静岡の県立病院で定年まで働けばいいかな」と考えていました。それが、知り合いの医師から「米国の大学で動物実験を手掛ける医師を探している。学費も出すので行かないか」という誘いが来たのです。当時の私はスタンフォードについて詳しくは知らなかったのですが、学生の時の憧れを思い出し、何もわからないまま海を渡りました。来てみれば、周囲にノーベル賞受賞者などの有名研究者がぞろぞろいて、環境の違いに圧倒されました。「3年くらい米国を満喫したら帰ろう」と思っていたのですが、さまざまなご縁があり、米国に拠点を置いたまま今に至ります。荻野留学中は学費を払っているので、ある意味で「お客さん」ですが、仕事に就く時はご苦労があったのではないですか? 私は大変でした。6年間の研修期間中に3つの大学病院に勤務したのですが、終わり近くになると、優秀な同僚には研修先から就職のオファーが来るのです。私にも来るだろう、と待っていたのですが、まったく来ません(笑)。今から思えば実力不足だったので、当然のことなのですが、当時はショックでしたね。必死になって全米の大学に空ポジションを探したところ、私の専門に合うポジションは3つしかなくて。なんとかハーバードに職を得られたことは、本当にラッキーでした。池野私も職探しには苦労しました。渡米初年度に永住権の抽選に申し込んだら、偶然にも当たったのです。早くから就労できたのは非常に幸運だったのですが、それを知った周囲の同僚の視線がガラリと変わりました。「いつかは帰るお客さん」だったのが、職を争うライバルになったわけです。しかも、私は子供が4人おり、彼らを養いながら世界一生活費が高いといわれるシリコンバレーで生活するだけのサラリーを稼がねばならない。すべてが保障された公務員の身分を捨ててきた、という焦りもあり、そのプレッシャーはすさまじいものがありました。荻野本当にタフでないと生きていけない世界です。運よく仕事を得ても、成果を出さないと、あっという間にそこにいられなくなる。その半面、自分にしかできない成果を出していると、誰かが見て評価してくれる世界でもあります。その簡明さと働きやすさに惹かれ、今まで働き続けてきました。7人の主君を渡り歩いた藤堂 高虎4)のように、よりよい評価をしてくれるところで存分に仕事ができる点が大きいですね。こちらでは、学生時代から同じところに居続けることはマイナスになります。多くの日本人のように学生時代からずっと同じところにいると「変化を嫌い、現状維持を好む」と受け取られますし、実際にそのとおりだと思います。池野非常にドライで「アウトプットなき者は去れ」という文化ですよね。最初はそれがきつかったのですが、次第に慣れ、今ではこちらのほうが心地よくなりました。第2回に続く 参考1)https://www.imd.org/contentassets/6b85960f0d1b42a0a07ba59c49e828fb/one-year-change-vertical.pdf2)https://stocks.finance.yahoo.co.jp/us/ranking/?kd=43)https://diamond.jp/articles/-/177641?page=24)戦国・江戸時代の武将・大名。浅井 長政、豊臣 秀吉、徳川 家康をはじめ多くの主君に仕え、功を立てた

2764.

免疫チェックポイント阻害薬の効果、抗菌薬投与で減弱?

 免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の効果を左右する興味深い知見が発表された。広域抗菌薬(ATB)療法によって引き起こされるディスバイオシス(dysbiosis、腸内細菌叢の破綻)が、ICIの効果を減弱する可能性があるという。英国・インペリアル・カレッジ・ロンドン、ハマースミス病院のDavid J. Pinato氏らが、実臨床でICI治療を受ける患者を対象に前向き多施設コホート研究を行い、ICI投与前のATB投与により、全生存期間(OS)および奏効率が悪化したことを示した。著者は「ICI治療予後不良の決定要因として、ATBを介した腸内細菌叢の変化の解明が喫緊の課題である」とまとめている。JAMA Oncology誌オンライン版2019年9月12日号掲載の報告。 研究グループは、ICI治療と同時またはICI投与前のATB療法と、通常の臨床診療にてICI治療を受けたがん患者のOSおよび奏効との間に関連があるかどうかを評価する目的で、3次医療施設2施設にて前向き多施設コホート研究を実施した。 対象は、臨床試験ではなく通常診療でICI治療を受けるがん患者で、2015年1月1日~2018年4月1日に196例が登録された。 主要評価項目は、ICI治療開始からのOS、RECIST(ver. 1.1)に基づく奏効、ICI治療抵抗性(ICI初回投与後、pseudo-progressionを認めることなく6~8週で進行と定義)であった。 主な結果は以下のとおり。・196例の患者背景は、男性137例、女性59例、年齢中央値68歳(範囲:27~93歳)で、がん種別では非小細胞肺がん119例、悪性黒色腫38例、その他39例であった。・OSは、ATB事前投与例2ヵ月、同時投与例26ヵ月(ハザード比[HR]:7.4、95%CI:4.2~12.9)であった。・同時投与はOSと関連しなかったが(HR:0.9、95%CI:0.5~1.4、p=0.76)、ATB事前投与は事前投与なしと比較してOSの有意な悪化が認められた(HR:7.4、95%CI:4.3~12.8、p<0.001)。・ICI治療抵抗性は、事前投与例が21/26(81%)で、同時投与例の66/151(44%)と比較して有意に高率であった(p<0.001)。・事前投与ありは事前投与なしと比較して、がん種にかかわらず一貫してOSが不良であった(非小細胞肺がん:2.5 vs.26ヵ月[p<0.001]、悪性黒色腫:3.9 vs.14ヵ月[p<0.001]、その他の腫瘍:1.1 vs.11ヵ月[p<0.001])。・多変量解析の結果、ATB事前投与(HR:3.4、95%CI:1.9~6.1、p<0.001)およびICI治療奏効(HR:8.2、95%CI:4.0~16.9、p<0.001)は、腫瘍部位、腫瘍量およびPSとは独立してOSと関連していることが認められた。

2765.

大腸がん、末梢神経障害を考えるならCAPOX3ヵ月療法

 これまでに、大腸がんに対するFOLFOX療法およびCAPOX療法の3ヵ月投与の6ヵ月投与に対する非劣性は報告されているが、オキサリプラチン併用化学療法は、末梢性感覚ニューロパチー(PSN)と関連することが知られている。国立がん研究センター東病院の吉野孝之氏らは、StageIII大腸がん患者を対象とした無作為化非盲検第III相臨床試験「ACHIEVE試験」において、長期持続性PSNの発生率は6ヵ月投与法より3ヵ月投与法で、またmFOLFOX6療法よりもCAPOX療法で、有意に低いことを明らかにした。治療期間を短縮しても有効性の主要評価項目である無病生存期間(DFS)に差はなかったことから、著者は「特に低リスクの患者には、CAPOX療法3ヵ月投与が最適な治療選択肢となるだろう」とまとめている。JAMA Oncology誌オンライン版2019年9月12日号掲載の報告。 研究グループは、StageIII大腸がん治癒切除例に対する術後補助化学療法としてのmFOLFOX6療法またはCAPOX療法について、3ヵ月投与法の6ヵ月投与法に対するDFSの非劣性を検討するとともに、持続性PSNを評価する検討を行った。 2012年8月1日~2014年6月30日に、アジア人患者1,313例を両投与法群に無作為に割り付けた。レジメンの選択は担当医の判断に委ねられた。データの解析は、2017年7月~2018年6月に行われた。 主要評価項目はDFS、副次評価項目は3年後までのPSNおよび全生存期間であった。 主な結果は以下のとおり。・無作為化された1,313例(性別:女性651例、年齢:平均66歳、範囲28~85歳)のうち、22例は治療を受けなかった(10例は登録後2週以内に治療を開始できず、7例は同意撤回、5例はその他の理由)。・治療を受けた1,291例(3ヵ月群650例、6ヵ月群641例)のうち、969例(75%)がCAPOX療法を受けた。・6ヵ月群に対する3ヵ月群のDFSのハザード比は0.95(95%CI:0.76~1.20)であった。・同ハザード比は、mFOLFOX6群で1.07(95%CI:0.71~1.60)、CAPOX群で0.90(95%CI:0.68~1.20)であり、また低リスク(TNM分類T1~3およびN1)群で0.81(95%CI:0.53~1.24)、高リスク(T4またはN2)群で1.07(95%CI:0.81~1.40)であった。・3年間持続する全GradeのPSNは、3ヵ月群9.7% vs.6ヵ月群24.3%であった(p<0.001)。・3年間持続するPSNの発現率は、mFOLFOX6療法よりCAPOX療法のほうが、3ヵ月群および6ヵ月群のいずれにおいても有意に低かった(3ヵ月群:7.9% vs.15.7%[p=0.04]、6ヵ月群:21.0% vs.34.1%[p=0.02])。

2766.

患者との“分かり合えなさ”は埋まるか 「医療マンガ大賞」創設

 いくら説明しても患者に伝わらない、そんなコミュニケーション・ギャップを感じることはあるだろうか。 2019年9月30日、神奈川県横浜市は、医療に関するコミュニケーション・ギャップの改善を目的に、「医療マンガ大賞」を創設。その記念トークイベントを開催した。 「医療マンガ大賞」は、横浜市の医療広報の一環として、患者や医療従事者が体験したエピソードを基にそれぞれの視点の違いを描く漫画を公募する取り組みだ。患者と医療従事者では同じ出来事でも受け取り方が異なるが、それぞれの視点からの捉え方を漫画にすることで、互いの視点の違いへの気づきや共感を促すことを目的としている。 審査員の1人である佐渡島 庸平氏(株式会社コルク代表取締役・編集者)は、「コミュニケーション・ギャップはほぼすべての業界で起きている。医療情報は生命に関わるものなので、患者にもっと積極的に学んでほしいと医療関係者は思う。だが、患者側には難しい医療情報を自ら学ぶインセンティブがない」と言う。専門家がいい情報を提供しても、受け取るとは限らない。それは医療のように受け取り手との間に知識の差がある場合に顕著なようだ。 また、大塚 篤司氏(医師・SNS医療のカタチ運営)は、「たくさんの患者を診ていることが、逆に患者のサポートにならないことがある」と自身の体験を振り返った。その理由は、医師は病気の告知後、諦めたり前向きになったりと、さまざまなパターンで患者が病気を受容していく過程を見ているために、その患者がどのようなプロセスを経るかがなんとなくわかってしまう。目の前の患者はまだとまどっている時期なのに、前向きになったものとして扱ってしまうなど、患者と同じ速度で気持ちを動かせないことにあると言う。 「医療マンガ大賞」では、こうした医療者と患者のコミュニケーション・ギャップのエピソードを10点提示する。うち6点は株式会社メディカルノートが監修。同社共同創業者の井上 祥氏は、転院、在宅医療、脳卒中をテーマに、それぞれに患者と医師双方の立場からのエピソードを制作した。 そのほかの4点はツイッターで集まった156作品から、SNS医療のカタチの医師4名が選出。登壇した大塚氏は新人看護師とがん患者のエピソードを選んだ。「それぞれ思い入れのあるエピソードを寄せていただいたので、どれも医師として考えさせられることがあり、精神的に“くる”作業だった。苦しさ、うれしさ、くやしさなど様々な感情の動きがある中で、最終的に自分は、やさしさを感じられるものを選んだ」という。 応募作品の審査には、佐渡島氏、大塚氏、井上氏に加え、漫画家のこしのりょう氏も加わる。こしの氏は、『Ns.あおい』や『町医者ジャンボ』などの医療漫画を多く描いている。看護師の妻を持つこしの氏は、『ブラックジャックによろしく』が流行していたころ、編集部から誘いがかかったことで『Ns.あおい』を描き始めた。「初めは看護師の視点で、医師や病院経営者に喝を入れるような内容を描いていたが、取材をする中でいい医師にも出会い、医師の立場や意見を知るようになった。そうすると、患者側の知識のなさで医師を悪者にしている側面もあるのではないかと、自分の医療に対する見方が変わった」と振り返る。医療漫画の制作を通して、患者・看護師・医師、それぞれの視点を知ることで、自らの考え方が変わる経験をしたこしの氏。応募者に向けて「同じ題材でも、描き手のキャラクターや個人的な体験によって、出来上がるストーリーはまったく異なるものになるはず。思い切り自分を出してほしい」とエールを送った。佐渡島氏は「医師で漫画を描く人にもぜひ応募してほしい」と医師の参加にも期待を寄せた。 作品の募集は10月10日まで、受賞作の発表は11月中旬を予定している。「医療マンガ大賞」ホームページ

2768.

福井大、臨床実習を「見える化」するシステムを開発・販売

 2019年9月、福井大学はICTを使った臨床実習の管理システムを開発、発売すると発表した。医学部の5、6年生が病院に出向いて行う臨床実習は、いまだに紙で管理されているケースが多い。結果として、電子カルテとの連携が限られる、管理や評価が煩雑、双方向コミュニケーションに限界がある、など多くの問題点が生じていた。 今回発表した「F.CESS(エフ・セス)」は福井大学が学内ベンチャーと共同で開発。実習スケジュール管理、実習用カルテの記載、評価、学生と教員のコミュニケーション、他科連携など、従来さまざまな手段で行われてきた臨床実習周りの機能を一元的に管理できるようにした。 学生は、策定されたスケジュールに沿って実習先に出向き、割り振られた患者のカルテを「F.CESS」経由で参照、実習が終われば専用端末から実習用カルテに学んだ内容を入力する。教員はオンライン上で実習内容を評価し、質疑応答もシステム上で完結する。学習履歴や達成度も一覧で確認できるなど、学生・教員双方にとって大きな効率改善負担軽減につながる、という。福井大学医学部附属教育支援センター長の安倍 博氏は「計画・実施・評価・改善という実習のPDCAサイクルをシステム内で完結できる」と胸を張る。 「F.CESS」を開発したきっかけについて、同大医学部長の内木 宏延氏は「臨床実習にもアウトカム(学習成果)が求められる時代。米国の医師免許資格受験時に求められる国際認証基準に対応するためにも、臨床実習を参加型に改革しなければならない。ICTはそのために必須のツール」と説明する。関連30施設との電カル連携も実現 臨床実習の管理にあたって肝となるのは、院内の電子カルテとの連携だ。セキュリティの問題から電子カルテと外部システムとの連携はハードルが高く、臨床実習においては学生が大学病院だけではなく関連病院に出向く機会も多いため、そことの連携も必要となる。大学病院と関連病院とで電子カルテの方式が異なるケースも多く、データ連携の難易度はさらに上がる。福井大学の場合も臨床実習先となる学外の関連病院は30施設にのぼるが、VPN網を使って安全にデータをやり取りできる学外病院アクセス機能を開発、実装することに成功した。 「F. CESS」は福井大学の学内版として、2018年から運用を開始。1年間の運用後に行った学生や教員へのアンケートでは、約8割がシステムについて「非常によい」または「よい」と回答した。学生からは「診療に参加している実感が持てる」「疑問点を気軽に質問できる」、教員からは「空き時間に使えるので診療の妨げにならない」「指示が出しやすい」といった声が寄せられたという。小規模大学ならではの機動性とチーム力 今回、同大が開発に至った理由について、同大医学部附属教育支援センター客員准教授 兼 日本医学教育技術研究所代表の田中 雅人氏は「どの大学でも必要性はわかっていても、他科や関連病院との連携が難しく、実現に至らないのではないか。私たちは小規模大学で縦割文化がなく、以前から教育現場とシステム開発の本学認定ベンチャーが深く関わってきたことが実現の土台となった」と述べる。 他大学へ紹介をはじめたところ関心は高く、既に複数の大学から引き合いが来ているという。AIを使って蓄積された学習データを基に学生ごとに実習内容を最適化する、看護学部や薬学部などほかの医療実習の用途にも展開する、など次のフェーズの検討もはじめている。※画像は福井大学の提供

2769.

ribociclib+フルベストラント、HR+/HER2-閉経後乳がんでOS延長(MONALEESA-3)/ESMO2019

 ホルモン受容体陽性HER2陰性(HR+/HER2-)の閉経後進行乳がんに対する、ribociclib+フルベストラント併用療法の有効性を検討した第III相MONALEESA-3試験の最新結果が発表され、全生存(OS)期間を有意に延長したことが明らかになった。スペインで開催された欧州臨床腫瘍学会(ESMO2019)において、米国・David Geffen School of MedicineのDennis J. Slamon氏が発表した。ribociclibについては、HR+/HER2-の閉経前進行乳がんにおいて、内分泌療法との併用がOSを有意に延長したことがMONALEESA-7試験により示されている。・対象:未治療または1ラインの内分泌療法を受けた、閉経後女性または男性のHR+/HER2-進行乳がん患者・試験群:以下の2群に2対1の割合で無作為に割り付け ribociclib群:ribociclib(600mg/日を3週投与、1週休薬)+フルベストラント(500mg、28日を1サイクルとして1サイクル目のDay 1、Day 15、それ以降はDay 1) 484例 プラセボ群:プラセボ+フルベストラント 242例・評価項目: [主要評価項目]RECIST v1.1評価に基づく無増悪生存期間(PFS) [副次評価項目]OS、奏効率(ORR)、クリニカルベネフィット率(CBR)、安全性など 主な結果は以下のとおり。・2019年6月3日のデータカットオフ時点で、153例(ribociclib群121例、プラセボ群32例)が投薬継続中であった。追跡期間中央値は39.4ヵ月。・OS中央値は、ribociclib群NRに対しプラセボ群40.0ヵ月で、ハザード比(HR):0.724、95%信頼区間(CI):0.568~0.924、p<0.00455であった。あらかじめ規定された境界値(p<0.01129)を下回り、ribociclib群における優越性が示された。・サブグループ解析の結果、1次治療(NR vs.45.1ヵ月、HR:0.700、95%CI:0.479~1.021)、早期再発および2次治療(40.2 vs.32.5ヵ月、HR:0.730、95%CI:0.530~1.004)の患者でともにribociclib群のOSにおけるベネフィットが確認された。肺、肝転移の有無を含む、すべてのサブグループでOSにおけるベネフィットは一貫していた。・PFS中央値についてもアップデートされ、初期解析結果と一致する結果が報告された(20.6ヵ月vs.12.8ヵ月、HR:0.587、95%CI:0.488~0.705)。治療ライン数によらずribociclib群でPFS中央値の延長が確認され、1次治療の患者では、プラセボ群19.2ヵ月に対しribociclib群で33.6ヵ月に達している(HR:0.546、95%CI:0.415~0.718)。・後治療については、ribociclib群の81.5%、プラセボ群の84.7%で何らかの治療が行われた。ribociclib群で多かったのは内分泌療法単独(26.0%)、化学療法単独(23.2%)、プラセボ群で多かったのは内分泌療法+その他(29.2%)、化学療法単独(20.1%)であった。後治療としていずれかのラインでほかのCDK4/6阻害薬の投与があったのは、ribociclib群11%、プラセボ群25%であった。・初回化学療法までの期間中央値は、ribociclib群でNR、プラセボ群29.5ヵ月でribociclib群で長かった(HR:0.696、95%CI:0.551~0.879)。・PFS2(無作為化から最初の後治療後の増悪あるいは死亡までの期間)中央値は、ribociclib群39.8ヵ月に対しプラセボ群29.4ヵ月で、HR:0.670、95%CI:0.542~0.830であった。・約40ヵ月の追跡期間において、ribociclib群で新たに報告された有害事象はなく、安全性プロファイルは以前の報告と一貫していた。ribociclib群で多くみられたGrade3/4の有害事象は、好中球減少症(57.1% vs.0.8%)、肝胆道系障害(13.7% vs.5.8%)、QTc延長(3.1% vs.1.2%)であった。

2770.

ビスホスホネート製剤を噛み続ける患者の中止提案【うまくいく!処方提案プラクティス】第6回

 服用状況を確認すると、意外な薬の飲み方をしているケースがしばしばあります。今回は、施設職員向けの勉強会を契機に副作用リスクを発見できた症例を紹介します。患者情報施設入居(5年目)、80歳、女性現病歴:骨粗鬆症、高血圧症、便秘症、アルツハイマー型認知症血圧推移:140/70台既往歴:大腿骨頸部骨折(78歳時)2週間に1回の往診あり(薬剤師も同行)処方内容1.アムロジピン錠5mg 1錠 分1 朝食後2.オルメサルタン錠20mg 1錠 分1 朝食後3.エルデカルシトールカプセル0.75μg 1錠 分1 夕食後4.酸化マグネシウム錠330mg 2錠 分2 朝夕食後5.アレンドロン酸錠35mg 1錠 分1 起床時 毎週土曜日症例のポイントこの患者さんは、アルツハイマー型認知症のため短期記憶が乏しく、入居時より施設職員が内服薬を管理していました。2年前に転倒、大腿骨頸部骨折のため入院し、骨粗鬆症が指摘されたためエルデカルシトールとアレンドロン酸の内服が開始となりました。しかし、その入院を契機に認知機能低下がさらに進行し、食事や排泄は全介助が必要になり、自立歩行も困難で臥床の時間が長くなったと施設職員から情報提供がありました。ある日、施設職員に向けて粉砕不可の薬についての勉強会を薬剤師主導で実施したところ、「この患者さんは内服薬を口にするとすべて噛み砕いてしまうが問題ないか」という相談がありました。アレンドロン酸などのビスホスホネート内服薬は、粉砕や分割することで口腔粘膜や食道に付着し、潰瘍などの刺激性症状を引き起こす可能性が知られており、薬剤の中止や剤形の変更が必要と考えました。患者は服用時に薬を噛み砕くことが習慣になっており、このままアレンドロン酸を継続すると、潰瘍発生の可能性がある。また、臥床の時間が長く、週1回の内服とはいえ、アレンドロン酸を服用するために起床直後に上体を起こしてその後30分間維持することは、患者、施設職員ともに負担に感じていた。アレンドロン酸の代替薬として、ビスホスホネート製剤の注射薬(月1回投与)があるが、ADLを考えると積極的な適応をどこまで優先させるか検討が必要である。エルデカルシトールは内容物が液状であり、脱カプセルや噛み砕くのに不適であるため、粉砕不可薬であり、服用しやすい剤形としてアルファカルシドールへの変更も検討したい。処方提案と経過その後の往診にて、患者さんがアレンドロン酸を含むすべての薬剤を服用時に噛み砕いていることや30分以上上体を起こしていることが負担となっていることを、医師に報告しました。リスク回避を目的にアレンドロン酸の処方中止または注射薬への変更と、エルデカルシトールをアルファカルシドールに変更することを提案したところ、ビスホスホネート製剤の積極的な治療適応ではないため、アレンドロン酸は中止となりました。エルデカルシトールはアルファカルシドールに変更したうえで、定期服用薬は本人が服用しやすいよう粉砕調剤の指示を受けました。現在、患者さんは服用薬によるむせ込みもなく施設で生活を続けています。

2771.

12週間ごとに投与する新規乾癬治療薬「スキリージ皮下注75mgシリンジ0.83mL」【下平博士のDIノート】第34回

12週間ごとに投与する新規乾癬治療薬「スキリージ皮下注75mgシリンジ0.83mL」 今回は、ヒト化抗ヒトIL-23p19モノクローナル抗体製剤「リサンキズマブ(商品名:スキリージ皮下注75mgシリンジ0.83mL)」を紹介します。本剤は、初回および4週時の後は12週ごとに皮下投与する薬剤です。少ない投与頻度で治療効果を発揮し、長期間持続するため、中等症から重症の乾癬患者のアンメットニーズを満たす薬剤として期待されています。<効能・効果>本剤は、既存治療で効果不十分な尋常性乾癬、関節症性乾癬、膿疱性乾癬、乾癬性紅皮症の適応で、2019年3月26日に承認され、2019年5月24日に発売されています。<用法・用量>通常、成人にはリサンキズマブとして、1回150mgを初回、4週後、以降12週間隔で皮下投与します。なお、患者の状態に応じて1回75mgを投与することができます。<副作用>尋常性乾癬、関節症性乾癬、膿疱性乾癬、乾癬性紅皮症の患者を対象とした国内外の臨床試験(国際共同試験3件、国内試験2件:n=1,228)で報告された全副作用は219例(17.8%)でした。主な副作用は、ウイルス性上気道感染27例(2.2%)、注射部位紅斑15例(1.2%)、上気道感染14例(1.1%)、頭痛12例(1.0%)、上咽頭炎10例(0.8%)、そう痒症9例(0.7%)、口腔ヘルペス8例(0.7%)などでした。150mg投与群と75mg投与群の間に安全性プロファイルの違いは認められていません。なお、重大な副作用として、敗血症、骨髄炎、腎盂腎炎、細菌性髄膜炎などの重篤な感染症(0.7%)、アナフィラキシーなどの重篤な過敏症(0.1%)が報告されています。<患者さんへの指導例>1.この薬は、乾癬の原因となるIL-23の働きを抑えることで、皮膚の炎症などの症状を改善します。2.体内の免疫機能の一部を弱めるため、ウイルスや細菌などによる感染症にかかりやすくなります。感染症が疑われる症状(発熱、寒気、体がだるい、など)が現れた場合には、速やかに医師に連絡してください。3.この薬を使用している間は、生ワクチン(BCG、麻疹、風疹、麻疹・風疹混合、水痘、おたふく風邪など)の接種はできないので、接種の必要がある場合には医師に相談してください。4.入浴時に体をゴシゴシ洗ったり、熱い湯船につかったりすると、皮膚に過度の刺激が加わって症状が悪化することがありますので避けてください。5.風邪などの感染症にかからないように、日頃からうがいと手洗いを心掛け、体調管理に気を付けましょう。インフルエンザ予防のため、流行前にインフルエンザワクチンを打つのも有用です。<Shimo's eyes>乾癬の治療として、以前より副腎皮質ステロイドあるいはビタミンD3誘導体の外用療法、光線療法、または内服のシクロスポリン、エトレチナートなどによる全身療法が行われています。近年では、多くの生物学的製剤が開発され、既存治療で効果不十分な場合や難治性の場合、痛みが激しくQOLが低下している場合などで広く使用されるようになりました。現在発売されている生物学的製剤は、本剤と標的が同じグセルクマブ(商品名:トレムフィア)のほか、抗TNFα抗体のアダリムマブ(同:ヒュミラ)およびインフリキシマブ(同:レミケード)、抗IL-12/23p40抗体のウステキヌマブ(同:ステラーラ)、抗IL-17A抗体のセクキヌマブ(同:コセンティクス)およびイキセキズマブ(同:トルツ)、抗IL-17受容体A抗体のブロダルマブ(同:ルミセフ)などがあります。また、2017年には経口薬のPDE4阻害薬アプレミラスト(同:オテズラ)も新薬として加わりました。治療の選択肢は大幅に広がり、乾癬はいまやコントロール可能な疾患になりつつあります。本剤の安全性に関しては、ほかの生物学的製剤と同様に、結核の既往歴や感染症に注意する必要があります。本剤の投与は基本的に医療機関で行われると想定できますので、薬局では併用薬などの聞き取りや、生活指導で患者さんをフォローしましょう。本剤は、初回および4週後に投与し、その後は12週ごとに投与します。国内で承認されている乾癬治療薬では最も投与間隔が長い薬剤の1つとなります。通院までの間の体調を記録する「体調管理ノート」や、次回の通院予定日をLINEの通知で受け取れる「通院アラーム」などのサービスの活用を薦めるとよいでしょう。参考日本皮膚科学会 乾癬における生物学的製剤の使用ガイダンス(2019年版)アッヴィ スキリージ Weekly 体調管理ノート

2772.

高齢者における魚摂取量と認知症発症リスクの関連~大崎コホート2006

 魚類は、認知機能低下を予防する多くの栄養素を含んでいる。したがって、習慣的な魚類の摂取は、認知症発症リスクの低下に寄与する可能性が示唆されている。しかし、認知症発症と魚類の摂取を調査したプロスペクティブコホート研究は少なく、それらの調査結果は一貫していない。東北大学の靏蒔 望氏らは、魚類の摂取量と認知症発症リスクを評価するため、大崎コホート研究のデータを用いて検討を行った。The British Journal of Nutrition誌2019年9月3日号の報告。 ベースライン時に65歳以上であった大崎市在住の住民を対象に、食物頻度アンケートを実施し、魚類やその他の食物摂取に関するデータを収集した。ハザード比(HR)および95%信頼区間(CI)の推定には、多変量調整Coxモデルを用いた。魚類の摂取量を四分位に分け、最も少ない群をQ1、最も多い群をQ4とし、Q1を基準に認知症発症リスクを検討した。 主な結果は以下のとおり。・対象者1万3,102例中、5.7年のフォローアップ期間後における認知症発症は1,118例(8.5%)であった。・Q1と比較した認知症発症HRは、Q2で0.90(95%CI:0.74~1.11)、Q3で0.85(95%CI:0.73~0.99)、Q4で0.84(95%CI:0.71~0.997)であった(傾向性p値=0.029)。・フォローアップ期間の最初の2年間で認知症と診断された人およびベースライン時に認知機能が低下していた人を除外した場合でも、同様の結果が得られた。 著者らは「健康な高齢者において、魚類の摂取量が多いと認知症発症リスクが低いことが認められた。本知見は、習慣的な魚類の摂取が、認知症予防に有益であることを示唆している」としている。

2773.

第29回 検脈法ふたたび~“妙技”をブラッシュアップせよ【Dr.ヒロのドキドキ心電図マスター】

第29回:検脈法ふたたび~“妙技”をブラッシュアップせよここしばらく『心電図の壁』のエッセイや『空飛ぶ心電図』での対談などの企画が続きましたが、久しぶりに“いつもの”心電図レクチャー形式に戻りましょう。今日にでも出会いそうな症例を題材に、心電図クイズに続いて、心拍数の計算法に関して再考します。Dr.ヒロの最近の“気づき”を皆さんはどう考えるかなぁ。では、はじめましょう!症例提示64歳、男性。関節リウマチ、COPD(チオトロピウム吸入、テオフィリン内服)にて通院中。主訴は発熱と労作時呼吸苦。3月某日、定期受診当日の夕方より熱発、翌日いったん解熱するも再発した。息切れも増強したため来院した。やせ型。体温38.4℃、血圧145/87mmHg、脈拍103/分・整、酸素飽和度91%(室内気吸入)だが軽労作にて容易に80%台前半となる。WBC:18,720/μL、CRP:>20mg/dL。胸部X線で右下肺野の透過性低下あり。インフルエンザ迅速検査は陰性。受診時の心電図を示す(図1)。(図1)救急受診時の心電図画像を拡大する【問題1】心電図所見として正しいものを2つ選べ。1)心房細動2)右軸偏位3)左房拡大4)時計回転5)ST低下解答はこちら2)、4)解説はこちらCOPDの典型的な身体所見(やせ型、男性、熱発、呼吸困難)ですね。多くの方が、上気道感染や肺炎などによる急性増悪を第一に考えると思います。それでOKですが、こんな時でも心電図はとられるわけで、その読みを問うています。ええ、もちろん「系統的判読」です(第1回)。1)×:「心房細動」の診断基準を復習しましょう。「R-R不整」と「洞性P波を欠く代わりにf波(細動波)」でしたね(第4回)。一見してR-R間隔は整で、II誘導などでQRS波の手前に明瞭なP波がコンスタントに確認できます。2)○:QRS電気軸の定性判定は、IとaVF(またはII)誘導に着目でした(第8回)。I:下向き、aVF(II)誘導:上向きのパターンは「右軸偏位」ですね。QRS波高が変動*1して、やや難しいですが、“トントン法Neo”を駆使して「+100°」ないし「+105°」(“トントン・ポイント”はIと-aVR間でI寄り)と言えたら最高です(第11回)。3)×:これはDr.ヒロお得意の“左右違い”(笑)。正解は「右房拡大」です。診断基準を整理しておきましょう(図2)。(図2)右房拡大の診断基準画像を拡大する教科書そのほかでは、「II、III、aVF、V1、V2*2のいずれかの誘導でP波高2.5mm以上」という基準がよく示されますが、これはかなりハードルが高く、めったに満たしません。「右房拡大」ではP波が“ホッソリ”かつ“ツンッ”と尖った形になることが一番の特徴なので(尖鋭化)、こうした“人相”ならぬ“波相”にまず反応しましょう。その上でどれか1つでもP波が2mm以上なら積極的に診断する姿勢をボクは推奨しています。4)○:正常ではV1からV6誘導に向かうにつれてR波は増高、S波は減高してゆき、真ん中(V3~V4)あたりで入れ替わります(移行帯)。V5誘導時点でも“下向き”(R<S)な場合に「時計回転」と言います。いくつか原因があり、その一つは今回のようなCOPDなどの慢性肺疾患です。5)×:ST偏位は、基線(T-P/T-QRS/Q-Qライン)に対するJ点(QRS波の「おわり」)の相対位置で決まります(第14回)。“(スター)ト”のプロセスでは、目の“ジグザグ運動”で肢誘導から胸部誘導まで漏れなくST偏位をチェックしましょう。本例ではST低下・上昇いずれもありません。*1:V1誘導でとくに顕著なQRS波高の変動(QRS amplitude variation)は「呼吸」による影響が強いとされ、3秒強のサイクルは呼吸促迫状態なのかとボクなら推察します。QRS波が減高する部分が吸気相に一致し、その際、膨張した肺によりV1誘導が心臓から最も遠ざかることで理解されるようです。*2:ニサンエフ(下壁誘導)は“兄弟”で、V1とV2は“お隣さん”のイメージ。ともに波形が類似すること多し。【問題2】自動診断は「高度な頻脈」となっているが、正確な調律診断は何か? 具体的な心拍数とともに述べよ。解答はこちら135/分(新・検脈法)、洞(性)頻脈解説はこちら心電図に自信のない人がついつい頼ってしまいがちな自動診断。これを見ることについて、基本的にボクは全然OKだと思います。慣れないうちは、自分なりの判読に漏れがないかのチェックにも使えるので、積極的に“カンニング”しようと薦めているくらいです(笑)。ただし、以前よりだいぶ精度が上がっているとはいえ、機械は“万全”ではないのです。この方の自動診断には「高度な頻脈」の記載があるだけで、そのほか調律に関係するものはありません。自身で判定する際には基本に忠実に、はじめの“レーサー(R3)・チェック”を適用すれば答えは簡単です。正確に調律診断をすることも大切ですが、今回は心拍数の計算法に関して“検脈法”から最近感じたことを述べたいと思います。“「高度な頻脈」に喝!”皆さんが普段使っている心電計は、大半が国産メーカー製のはず。そこでしばしば見られる「高度な頻脈(または徐脈)」という診断表示*3は、心拍数がおおむね「120/分超」か「40/分未満」の時に出ることが多いようです。ただ、この「高度な~」は、調律でも不整脈の名称でもないんです。穏やかな日曜の朝、スポーツ選手のプレイに「喝!」という長寿番組がありますが(笑)、Dr.ヒロ的にはこの表現に“喝”!…これは「診断」ではありません。以前から言いたかったのはこのことだったんです。「調律」と「心拍数」は常にセットです。基本調律を述べずに心拍数の速い・遅いだけを宣言するような診断と、ほかの心電図所見を同列で語るから紛らわしくなるのです。機械(≒心電計)が診断できない時こそ人間の目が必要なんです。R-R間隔は整で5mm四方の太枠マスがほぼ2つ分ですから、“300の法則”(第3回)的には150/分に近い「頻脈」です。しかも、“イチニエフの法則”(第2回)にピッタリのP波がコンスタントにいるから…そう、「洞調律」ですね。2つをあわせて「洞(性)頻脈」*4、これが正しい調律診断です。*3:「極端な」という表現を用いるメーカーもあり。*4:循環器学用語集(第3版)では「性」はなく「洞頻脈」が「sinus tachycardia」の正式な表現とされる。“あとは心拍数を求めよう”「心拍数○○/分の洞(性)頻脈です」こう述べるべく、あと知りたいのは心拍数の数字だけ。“ドキ心”レクチャー受講生なら、“検脈法”でしょ。R-R間隔が整なら肢誘導か胸部誘導のどっちか片方(5秒間)かでQRS波を数えればいいわけでした(第3回)。肢誘導に11個、胸部誘導に12個とカウントすれば、132/分(肢誘導のみ)、144/分(胸部誘導のみ)、138/分(肢誘導+胸部誘導)のいずれかの数値となるでしょう。いずれの方法でも、心拍数は「130~140/分」程度だとわかります。検脈法を用いる時、“不整脈”がある場合は基本的に10秒間カウントすべし、というのがDr.ヒロ流。ここで言う「不整脈」とは、R-R間隔の整・不整ではなく“レーサー・チェック”の3項目のいずれかが正常でない場合*5を想定しています。ですから、通常の検脈法では、138/分、四捨五入して「心拍数約140/分の洞(性)頻脈です」と述べることになるでしょう。基本的にはこれで正解です。*5:今回は心拍数が「50~100/分」の正常範囲から外れるので「不整脈」に該当すると考えて欲しい。“両端が気になって仕方ない”「高度な頻脈(徐脈)」に対するネガティブ・キャンペーンと正しい調律診断をしてレクチャーを終えてもいいのですが、ボクが本当に伝えたいことは別にあります。検脈法を適用していたある日、ふと“端っこ”が気になったんです。肢誘導と胸部誘導から一つずつ、今回の心電図からIII誘導とV4誘導を抜き出してみましょう(図3)。(図3)気になる“両端”の心拍たち画像を拡大するオリジナルの検脈法では(1)、(3)、(4)は1個のQRS波とカウントし、(2)はノーカウントになります。一部分しかなくても、1周期まるまるある心拍と同じ扱いでいいんだろうか…そう悩んだのです。“両端が気になったワケ”以前から検脈法で求めた心拍数と心電計の表示する値とが、まぁまぁズレるなぁと感じる時がありました。たとえば次の心電図を見てください(図4)。(図4)検脈法の“弱点”?画像を拡大する肢誘導にはQRS波が4つあります。一方、胸部誘導のほうはどうかと言うと、最後の最後にちぎれた“見切れ”QRS波がありますね。これをどうカウントしますか? オリジナル検脈法では、これも立派に「1拍」とカウントして、4+4で計8個、これを60秒(1分)に換算して「48/分」です。一方の自動診断では「43/分」となっています。「検脈法」は驚くほどに正確な心拍数を提供してくれるんです、大半のケースでは。その“実力”を知っているがゆえ、ボクにはこのズレが大きく感じるのです。“たかが5”とはいえ、48と43の差は“されど5”と感じてしまうのはビビリだから?…いや否。なんとかこれを乗り越えようと、最近になってオリジナル検脈法を“改良”することにしたのです。名付けて“新・検脈法”。■新・検脈法のルール■1)「QRS-T」全体を“1組”として心拍と見なし、一部でも欠けていたらQRS波0.5個とカウントする2)「P波だけ」はカウントしない心拍数が1分間の「心室」拍動回数である以上、P波は無視してQRS波+T波に注目しようと思いました。心室の脱分極・再分極を表して常に“2つで1組”の「QRS-T」を“1心拍”とみなすルールです。ほんのちょびっと見切れていても、9割方あり残りわずかに足りない場合でも“恨みっこなし”。すべて「0.5個」分の心拍と数えるのがミソです。もう一度、心電図(図4)に戻りましょう。肢誘導と胸部誘導の境界はIIとV2間の微妙なギャップ部分であり、このラインまでに肢誘導4拍目はT波の“おわり”がギリギリ滑り混んでいますから、肢誘導のQRS数は4個でOKです。一方の胸部誘導は“見切れている”最後の1拍は“半分カウント”ですから「3.5個」です。4+3.5で計「7.5個」と考えれば…そう心拍数は「45/分」です。これで心電計の数値との差が2に縮まりました。これならDr.ヒロ的にも許容範囲です。今回の心電図(図1)に対しても“新・検脈法”を用いてみましょう。図3の(1)、(3)は「1個」、(2)は「0個」、そして(4)は「0.5個」分の心拍となります。すると肢誘導11個、胸部誘導11.5個(最後だけ0.5個)となるので、全部で22.5個と思えば、6倍して…「135/分」。なんと心電計の計算にぴったり一致しました! ちなみに、0.5があっても、6倍ないし12倍で算出するため、“新・検脈法”による心拍数は必ず整数で算出されるので安心です。“腕比べをやってみた”Dr.ヒロのふとした妄想から誕生した“新・検脈法”ですが、本当か?…そう悩んだらほかの人に相談するより、まず自分で確かめるまで決して納得しないのがDr.ヒロの悪いところ(笑)。心拍数に関しては、心電計の計算値が常に正しいと考えて、数千にも及ぶ“杉山ライブラリー”の心電図から抽出した計100例(洞調律45例、期外収縮20例[PAC:10例、PVC:10例]、心房細動20例、その他15例)を用いて“腕比べ”をしてみました。「しかし、果たしてそこまでやる必要あるの?」という批判も聞こえてきそうですが…その結果を表にして示します(表1)。(表1)画像を拡大する皆さんは結果をどう見ますか? 平均値、中央値や最大・最小値どれをみても“イイ線いってる”感じです。“半分(0.5個)カウント”の影響か、新・検脈法のほうがオリジナルの検脈法よりも小さい値で見積もるようです。フィッティングに関しては、最終列の「決定係数」、いわゆるR2値を見ると、両者とも99%以上の高精度の予測能力があると言えますでしょうか。煩雑さの面では、オリジナル法よりも“一手間”加わる新・検脈法の方でわずかにR2値が高く見えてしまうのは開発者の性、いや“親心”でしょうか。でも、こうした結果を得るちょっと前から、臨床研究で心電図を扱う場合にも、ボクは手動計算の心拍数値は新・検脈法で求めるようにしています。あくまでも印象として、こちらのほうが従来法よりも精度が上がっている気がするからです。皆さんはどう思われるでしょうか? “新・検脈法”に関するご意見・ご感想をお寄せいただけたら嬉しいです。Take-home Message「高度な頻脈(徐脈)」という診断は不要!~調律と心拍数で表現せよ。「T-QRS」を1組と見て“見切れQRS波”を「0.5拍」でカウントする“新・検脈法”が多少手間でも有用かも!?【古都のこと~随心院門跡~】随心院門跡(山科区)は、古来より「小野郷*1」として、そして現在も小野と呼ばれる場所にあり、地下鉄(東西線)に乗れば市内中心部から30分程度で行くことができます。正暦二年(991年)、“雨僧正”仁海(にんがい)*2の開基とされ、もとは牛皮山曼荼羅寺*3と言ったそう。その後、増俊阿闍梨(ぞうしゅんあじゃり)が曼荼羅寺(まんだらじ)の子房として随心院を建立し、後堀河天皇から宣旨を受け「門跡」となりました(寛喜元年:1229年)。総門をくぐってすぐ右方には「小野梅園」があり、ここもオススメ観梅スポットの一つです(早春以外も緑が溢れる)。長屋門から入って庫裡(くり)を通って書院の襖絵や調度品を楽しみ、普段は開かない薬医門を内側から眺めると独特の趣を感じました。回廊を少し歩けばお目当ての庭が姿を現します。コンパクトながら池をたずさえ、縁側から見える奥深い緑の景色が実に目に映えます。さぁ、これからは紅葉シーズン。あまり人混みのない“ひっそり系”ながら、母親への愛情に溢れた由緒ある寺院に一緒に来られたら、良い親孝行になるでしょう。*1:三宅八幡宮(左京区上高野)の回で登場した「小野郷」とは異なる。*2:宮中からの勅命でしばしば請雨の法を行った。“雨降らし”の達人の意味か。*3:仁海僧正は一夜の夢に牛に生まれ変わった亡母を見て、飼養したが日なくして死んだ。それを悲しみ、その皮に両界曼荼羅の尊像を描いて本尊にしたことにちなんだ名称。

2774.

新しい抗うつ薬の出現(解説:岡村毅氏)-1117

 まったく新しい機序の抗うつ薬に関する臨床からの報告である。まずは抗うつ薬についておさらいしてみよう。1999年にSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)が使えるようになり、うつ病の薬物療法に革命的な変化が起きた。それまでの古典的抗うつ薬には抗コリン作用(便秘など)や抗ヒスタミン作用(眠気など)などが伴ったが、SSRIには消化器症状(吐き気など)以外は比較的少なかったからである。 また、このころ(製薬業界にとっては黒歴史かもしれないが)うつはこころの風邪というキャンペーンがなされたりして、精神科・心療内科の敷居がずいぶん低くなった。うつはこころの風邪という言説は、今ではすっかり疾病喧伝(薬を売るために変な宣伝をしたという批判)の文脈で引用されるが、個人的には物事には両面があると思う。今では信じられないかもしれないが、「うつは弱い人がなるものだ」「精神科に行くなんて人生の破滅だ」と信じて、誰にも助けを求められずに重篤化する人もいたので、このキャンペーンによって救われた人もいただろう。 もちろん操作診断が使われるようになり、専門家が経験と知識に基づいて診断する「うつ病」から、いくつかの基準を満たしたときに診断される「うつ病エピソード」として捉えられるようになったことも大きいだろう。 ともあれ、20世紀から21世紀になるころ、うつ病は特殊で恐ろしい精神疾患ではなくなり、僕らの生活世界に現れた。人々は、かつてはそう簡単には「わたし、うつっぽいかも」とは言わなかったが、いまやずいぶん簡単に言うようになった。あれから20年間、いち臨床医としての意見であるが、SSRIが出たときのような革命的変化をもたらした薬剤は出ていない。 これは実は、統合失調症についてもいえる。1996年に同じく副作用が少ない非定型抗精神病薬が使えるようになって(もちろん、ないわけではない)、革命的な変化が起きた。具体的には新たな長期入院者はほとんど見なくなった。その後いくつかいい薬は出たが、破壊的イノベーションは起きていない。そして人々は「トウシツ」などと気軽に言うようになった。 おそらく50年前には、うつ病や統合失調症を経験した友達がいる人は少なかったであろう。今では、たぶん普通のことだ。 いずれにせよ、うつ病の薬物治療は20年程度、革命的な進歩はない。よく言えば漸進している状態である。むしろ、うつ病として治療すべき状態と、そうではない状態(たとえば生活習慣の乱れをまずは治すべき状態)などの、薬物治療以前の仕分けがしっかりなされるようになってきている。また人的資源の少ないわが国でも認知行動療法もようやく行われつつある。修正型電気けいれん療法(m-ECT)もいまや広く行われている。薬物療法以外が拡充しているのだから、健全なことだと思う。 さて、うつ病の薬物治療で現在のところ期待されている薬剤は「ケタミン」と「GABA受容体作用薬」であろう。本論文は、後者についての明らかな臨床効果を報告するものである。 これが、革命を起こしたSSRI以来の20年間に出現した「その他大勢」の新薬の末席に連なることになるのか、ブレークスルーになるのかは、もうしばらく見てみないとわからないだろう。 なお、筆者は抗うつ薬が常に必要だとは思わない。うつ病の治療には薬物治療、精神療法、環境調整の3つの柱があり、とくに軽症の場合は薬物を使わなくてもよい場合も多い。一方で、医学はしょせん人間の営みであり、苦しむ人を支援するためには、3つの柱を総動員しなければならない。また、こころを込めて治療をしても治らないときもある。とはいえ、この3つの柱はがんの「標準治療」みたいなものであり、奇妙な代替療法に患者さんが迷い込まないことを祈りたい。

2775.

030)ありがちな外来混雑パターン【Dr.デルぽんの診察室観察日記】

第30回 ありがちな外来混雑パターンしがない皮膚科勤務医デルぽんです☆日々、外来をやっていると、なんとなくお決まりの患者さんの流れが見えてきませんか? 示し合わせているわけでもないのに、どこも似たような感じで不思議なものです。朝イチは、コンスタントに混雑する時間帯。出勤前のサラリーマンや、早起きの高齢者など、診療開始時間には、すでに十数人が待合室に座っています。診察を開始して、混雑の第一波が落ち着くと、時刻はだいたい10時半頃になっています。ここからは、お昼に向けてだんだんと忙しくなっていく時間帯です。日によっては、出足の遅い患者さんがお昼の受付終了間際にどっと押し寄せることもあり、お昼時間にずれ込んでしまうこともしばしば。雨の日など、患者さんの出足が遅くなりやすい日は、とくにピークが後ろ倒しになりがちで、受付終了時間に混雑が待ち構えていたりします。このように、お昼に大混雑があったり、第一波が落ち着く前に第二波が来たりすると、「今日は忙しかったな…」という印象が残ります。受付人数を確認して、「こんなに来てたのか!」とか「案外こんなもんか」などとスタッフ間で感想を言い合うのも、混雑日の一興です(笑)。また、終了時間ギリギリや、昼過ぎの時間外に飛び込んでくる患者さんに限って重症例のことがあり、診察を始めるとそこから予想外に時間が掛かることも。我慢を続けて耐えきれなくなってから来るのではなく、悪化する前に(そして受付時間内に)受診してほしい! と心の底から願う皮膚科医なのでした。それでは、また~!

2776.

ワクチンガイドラインが9年ぶりに改訂

 格安航空会社(LCC)の乗り入れによる海外旅行や海外商圏の広がりによる出張などで渡航する日本人の数は減少することがない。その一方で、海外に渡航し、現地で感染症に罹患するケースも後を絶たない。現地で病に臥せったり、国内には存在しない、または、まれな感染症を国内に持ち込んだりというケースもある。 こうした感染症の予防には、渡航前にワクチンを接種することが重要だが、具体的にどのようなワクチンを、いつ、どこで、誰に、どのようなスケジュールで接種するかは一部の専門医療者しか理解していないのが現状である。 そんな渡航前のワクチン接種について、医療者の助けとなるのが海外渡航者のためのワクチンガイドラインである。今回9年ぶりに改訂された『海外渡航者のためのワクチンガイドライン/ガイダンス2019』では、研究によるエビデンスの集積が困難な事項も多いトラベラーズワクチン領域にあって、現場で適切な接種を普及させるために、エビデンスのシステマティックレビューとその総体評価、益(疾病の予防効果、他)と害(副反応の可能性、他)のバランスなどを考量し、最善のアウトカムを目指した推奨を呈示すべくClinical Question(CQ)を設定した。また、今版では「I ガイドライン編」と「II ガイダンス編」の2構成となった。6つのCQで接種現場の声に答える 「I ガイドライン編」では、大きく6つのCQを示すとともに、各々のエビデンスレベル、推奨グレードについて詳細に記載した。 たとえば「日本製と海外製のA型肝炎ワクチンの互換性はあるか」というCQでは、「互換性はある程度確認されており、同一ワクチンの入手が困難となった場合、海外製のA型肝炎ワクチンでの接種継続を提案する」(推奨の強さ〔2〕、エビデンスレベル〔C〕)と現場の悩みに答えるものとなっている。インバウンド向けの対応も詳しく記載 「II ガイダンス編」では、総論として海外渡航者に対する予防接種の概要を述べ、高齢者や基礎疾患のある小児などのリスク者、小児・妊婦などの注意すべき渡航者、留学者など接種を受ける渡航者について説明するとともに、渡航先(地域)別のワクチンの推奨、わが国の予防接種に関する諸規定の解説、未承認ワクチンへの取り扱い、インバウンド対応(海外ワクチンの継続、宗教・文化・風習への対応など)が記載されている。 各論では、個々のワクチンについて、特徴、接種法、スケジュール、有効性、安全性、接種が勧められる対象などが説明されている。ワクチンは、A/B型肝炎、破傷風トキソイド・ジフテリアトキソイド・DT、DPT・DPT-IPV・Tdap、狂犬病、日本脳炎、ポリオ、黄熱、腸チフス、髄膜炎菌、コレラ、ダニ媒介性脳炎、インフルエンザ、麻しん・風しん・おたふくかぜ・水痘が記載されている。 その他、付録として、疾患別のワクチンがまとめて閲覧できるように「各ワクチン概要と接種法一覧」を掲載。さらに渡航者から相談の多い「マラリア予防」についても概説している。 2019年のラグビー・ワールドカップ、2020年の東京オリンピックと日本を訪問する外国人も増えることから、渡航者の持ち込み感染も予想される。本書を、臨床現場で活用し、今後の感染症対策に役立てていただきたい。

2777.

第4回 狭間先生の目を覚まさせた女性薬剤師の一言【噂の狭研ラヂオ】

動画解説「先生は薬局の息子だから薬剤師に優しいんですね」とよく言われるという狭間先生。でもそれはちょっと違うそうです。先生が薬剤師に期待をするのは、一人ひとりが持つ本気を知っているから。それに気が付いたきっかけは薬局を2店舗閉めることになり頭を抱える狭間先生に女性薬剤師が言い放ったある一言だそうです。

2778.

(膿疱性)乾癬〔(pustular) psoriasis〕

1 疾患概要■ 概念・定義表皮角化細胞の増殖あるいは角質の剥離障害によって、角質肥厚を主な病態とする疾患群を角化症という。なかでも炎症所見の顕著な角化症、つまり潮紅(赤くなること)と角化の両者を併せ持つ角化症を炎症性角化症と称するが、乾癬はその代表的疾患である1)。乾癬は、遺伝的要因と環境要因を背景として免疫系が活性化され、その活性化された免疫系によって刺激された表皮角化細胞が、創傷治癒過程に起こるのと同様な過増殖(regenerative hyperplasia)を示すことによって引き起こされる慢性炎症性疾患である2)。■ 分類1)尋常性(局面型)乾癬最も一般的な病型で、単に「乾癬」といえば通常この尋常性(局面型)乾癬を意味する(本稿でも同様)。わが国では尋常性乾癬と呼称するのが一般的であるが、欧米では局面型乾癬と呼称されることが多い。2016年の日本乾癬学会による調査では全体の75.9%を占める3)。2)関節症性乾癬尋常性(局面型)乾癬患者に乾癬特有の関節炎(乾癬性関節炎)が合併した場合、わが国では関節症性乾癬と呼称する。しかし、この病名はわかりにくいとの指摘があり、今後は皮疹としての病名と関節炎としての病名を別個に使い分けていく方向になると考えられるが、保険病名としては現在でも「関節症性乾癬」が使用されている。2016年の日本乾癬学会による調査では全体の14.6%を占める3)。3)滴状乾癬溶連菌性上気道炎などをきっかけとして、急性の経過で全身に1cm程度までの角化性紅斑が播種状に生じる。このため、急性滴状乾癬と呼ぶこともある。小児や若年者に多く、数ヵ月程度で軽快する一過性の経過であることが多い。2016年の日本乾癬学会による調査では全体の3.7%を占める3)。4)乾癬性紅皮症全身の皮膚(体表面積の90%以上)にわたり潮紅と鱗屑がみられる状態を紅皮症と呼称するが、乾癬の皮疹が全身に拡大し紅皮症を呈した状態である。2016年の日本乾癬学会による調査では全体の1.7%を占める3)。5)膿疱性乾癬わが国では単に「膿疱性乾癬」といえば汎発性膿疱性乾癬(膿疱性乾癬[汎発型])を意味する(本稿でも同様)。希少疾患であり、厚生労働省が定める指定難病に含まれる。急激な発熱とともに全身の皮膚が潮紅し、無菌性膿疱が多発する重症型である。尋常性(局面型)乾癬患者が発症することもあれば、本病型のみの発症のこともある。妊娠時に発症する尋常性(局面型)乾癬を伴わない本症を、とくに疱疹状膿痂疹と呼ぶ。2016年の日本乾癬学会による調査では全体の2.2%を占める3)。■ 疫学世界的にみると乾癬の罹患率は人口の約3%で、世界全体で約1億2,500万人の患者がいると推計されている4)。人種別ではアジア・アフリカ系統よりも、ヨーロッパ系統に多い疾患であることが知られている4)。わが国での罹患率は、必ずしも明確ではないが、0.1%程度とされている5)。その一方で、健康保険のデータベースを用いた研究では0.34%と推計されている。よって、日本人ではヨーロッパ系統の10分の1程度の頻度であり、それゆえ、国内での一般的な疾患認知度が低くなっている。世界的にみると男女差はほとんどないとされるが、日本乾癬学会の調査ではわが国での男女比は2:16)、健康保険のデータベースを用いた研究では1.44:15)と報告されており、男性に多い傾向がある。わが国における平均発症年齢は38.5歳であり、男女別では男性39.5歳、女性36.4歳と報告されている6)。発症年齢のピークは男性が50歳代で、女性では20歳代と50歳代にピークがみられる6)。家族歴はわが国では5%程度みられる6,7)。乾癬は、心血管疾患、糖尿病、高脂血症、高尿酸血症、肥満、メタボリックシンドローム、非アルコール性脂肪肝、うつ病の合併が多いことが知られており、乾癬とこれらの併存疾患がお互いに影響を及ぼし合っていると考えられている。膿疱性乾癬に関しては、現在2,000人強の指定難病の登録患者が存在し、毎年約80人が新しく登録されている。尋常性(局面型)乾癬とは異なり男女差はなく、発症年齢のピークは男性では30~39歳と50~69歳の2つ、女性も25~34歳と50~64歳の2つのピークがある8)。■ 病因乾癬は基本的にはT細胞依存性の免疫疾患である。とくに、細胞外寄生菌や真菌に対する防御に重要な役割を果たすとされるTh17系反応の過剰な活性化が起こり、IL-17をはじめとするさまざまなサイトカインにより表皮角化細胞が活性化されて、特徴的な臨床像を形成すると考えられている。臓器特異的自己免疫疾患との考え方が根強くあるが、明確な証明はされておらず、遺伝的要因と環境要因の両者が関与して発症すると考えられている。遺伝的要因としてはHLA-C*06:02(HLA-Cw6)と尋常性(局面型)乾癬発症リスク上昇との関連が有名であるが、日本人では保有者が非常に少ないとされる。また、特定の薬剤(βブロッカー、リチウム、抗マラリア薬など)が、乾癬の誘発あるいは悪化因子となることが知られている。膿疱性乾癬に関しては長らく原因不明の疾患であったが、近年特定の遺伝子変異と本疾患発症の関係が注目されている。とくに尋常性(局面型)乾癬を伴わない膿疱性乾癬の多くはIL-36受容体拮抗因子をコードするIL36RN遺伝子の機能喪失変異によるIL-36の過剰な作用が原因であることがわかってきた9)。また、尋常性(局面型)乾癬を伴う膿疱性乾癬の一部では、ケラチノサイト特異的NF-κB促進因子であるCaspase recruitment domain family、member 14(CARD14)をコードするCARD14遺伝子の機能獲得変異が発症に関わっていることがわかってきた9)。その他、AP1S3、SERPINA3、MPOなどの遺伝子変異と膿疱性乾癬発症とのかかわりが報告されている。■ 症状乾癬では銀白色の厚い鱗屑を付着する境界明瞭な類円形の紅斑局面が四肢(とくに伸側)・体幹・頭部を中心に出現する(図1)。皮疹のない部分に物理的刺激を加えることで新たに皮疹が誘発されることをKoebner現象といい、乾癬でしばしばみられる。肘頭部、膝蓋部などが皮疹の好発部位であるのは、このためと考えられている。また、3分の1程度の頻度で爪病変を生じる。図1 尋常性乾癬の臨床像画像を拡大する乾癬性関節炎を合併すると、末梢関節炎(関節リウマチと異なりDIP関節が好発部位)、指趾炎(1つあるいは複数の指趾全体の腫脹)、体軸関節炎、付着部炎(アキレス腱付着部、足底筋膜部、膝蓋腱部、上腕骨外側上顆部)、腱滑膜炎などが起こる。放置すると不可逆的な関節破壊が生じる可能性がある。膿疱性乾癬では、急激な発熱とともに全身の皮膚が潮紅し、無菌性膿疱が多発する8)(図2)。膿疱が融合して環状・連環状配列をとり、時に膿海を形成する。爪病変、頬粘膜病変や地図状舌などの口腔内病変がみられる。しばしば全身の浮腫、関節痛を伴い、時に結膜炎、虹彩炎、ぶどう膜炎などの眼症状、まれに呼吸不全、循環不全や腎不全を併発することがある10)。図2 膿疱性乾癬の臨床像画像を拡大する■ 予後乾癬自体は、通常生命予後には影響を及ぼさないと考えられている。しかし、海外の研究では重症乾癬患者は寿命が約6年短いとの報告がある11)。これは、乾癬という皮膚疾患そのものではなく、前述の心血管疾患などの併存症が原因と考えられている。乾癬性関節炎を合併すると、前述のとおり不可逆的な関節変形を来すことがあり、患者QOLを大きく損なう。膿疱性乾癬は、前述のとおり呼吸不全、循環不全や腎不全を併発することがあり、生命の危険を伴うことのある病型である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)多くの場合、先に述べた臨床症状から診断可能である。症状が典型的でなかったり、下記の鑑別診断と迷う際は、生検による病理組織学的な検索や血液検査などが必要となる。乾癬の臨床的鑑別診断としては、脂漏性皮膚炎、貨幣状湿疹、接触皮膚炎、アトピー性皮膚炎、亜鉛欠乏性皮膚炎、ジベルばら色粃糠疹、扁平苔癬、毛孔性紅色粃糠疹、類乾癬、菌状息肉症(皮膚T細胞リンパ腫)、ボーエン病、乳房外パジェット病、亜急性皮膚エリテマトーデス、皮膚サルコイド、白癬、梅毒、尋常性狼瘡、皮膚疣状結核が挙げられる。膿疱性乾癬に関しては、わが国では診断基準が定められており、それに従って診断を行う8)。病理組織学的にKogoj海綿状膿疱を特徴とする好中球性角層下膿疱を証明することが診断基準の1つにあり、診断上は生検が必須検査になる。また、とくに急性期に検査上、白血球増多、CRP上昇、低蛋白血症、低カルシウム血症などがしばしばみられるため、適宜血液検査や画像検査を行う。膿疱性乾癬の鑑別診断としては、掌蹠膿疱症、角層下膿疱症、膿疱型薬疹(acute generalized exanthematous pustulosisを含む)などがある。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)1)外用療法副腎皮質ステロイド、活性型ビタミンD3製剤が主に使用される。両者を混合した配合剤も発売されている。2)光線療法(内服、外用、Bath)PUVA療法、311~312nmナローバンドUVB療法、ターゲット型308nmエキシマライトなどが使用される。3)内服療法エトレチナート(ビタミンA類似物質)、シクロスポリン、アプレミラスト(PDE4阻害薬)、メトトレキサート、ウパダシチニブ(JAK1阻害薬)、デュークラバシチニブ(TYK2阻害薬)が乾癬に対し保険適用を有する。ただし、ウパダシチニブは関節症性乾癬のみに承認されている。4)生物学的製剤抗TNF-α抗体(インフリキシマブ、アダリムマブ、セルトリズマブ ペゴル)、抗IL-12/23p40抗体(ウステキヌマブ)、抗IL-17A抗体(セクキヌマブ、イキセキズマブ)、抗IL-17A/F抗体(ビメキズマブ)、抗IL-17受容体A抗体(ブロダルマブ)、抗IL-23p19抗体(グセルクマブ、リサンキズマブ、チルドラキズマブ)、抗IL-36受容体抗体(スペソリマブ)が乾癬領域で保険適用を有する。中でも、スペソリマブは「膿疱性乾癬における急性症状の改善」のみを効能・効果としている膿疱性乾癬に特化した薬剤である。また、多数の生物学的製剤が承認されているが、小児適応(6歳以上)を有するのはセクキヌマブのみである。5)顆粒球単球吸着除去療法膿疱性乾癬および関節症性乾癬に対して保険適用を有する。4 今後の展望抗IL-17A/F抗体であるビメキズマブは、現時点では尋常性乾癬、乾癬性紅皮症、膿疱性乾癬に承認されているが、関節症性乾癬に対する治験が進行中(2022年11月現在)である。将来的には関節症性乾癬にもビメキズマブが使用できるようになる可能性がある。膿疱性乾癬に特化した薬剤であるスペソリマブ(抗IL-36受容体抗体)は静注製剤であり、現時点では「膿疱性乾癬における急性症状の改善」のみを効能・効果としている。しかし、フレア(急性増悪)の予防を目的とした皮下注製剤の開発が行われており、その治験が進行中(2022年11月現在)である。将来的には急性期および維持期の治療をスペソリマブで一貫して行えるようになる可能性がある。乾癬は慢性炎症性疾患であり、近年は生物学的製剤を中心に非常に効果の高い薬剤が多数出てきたものの、治癒は難しいと考えられてきた。しかし、最近では生物学的製剤使用後にtreatment freeの状態で長期寛解が得られる例もあることが注目されており、単に皮疹を改善するだけでなく、疾患の長期寛解あるいは治癒について議論されるようになっている。将来的にはそれらが可能になることが期待される。5 主たる診療科皮膚科、膠原病・リウマチ内科、整形外科(基本的にはすべての病型を皮膚科で診療するが、関節症状がある場合は膠原病・リウマチ内科や整形外科との連携が必要になることがある)※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 膿疱性乾癬(汎発型)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)日本皮膚科学会作成「膿疱性乾癬(汎発型)診療ガイドライン2014年度版」(現在、日本皮膚科学会が新しい乾癬性関節炎の診療ガイドラインを作成中であり、近い将来に公表されるものと思われる。一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報日本乾癬患者連合会(疾患啓発活動、勉強会、交流会をはじめとしてさまざまな活動を行っている。都道府県単位の患者会も多数存在し、本会のwebサイトから検索できる。また、都道府県単位の患者会では、専門医師を招いての勉強会や相談会を実施しているところもある)1)藤田英樹. 日大医誌. 2017;76:31-35.2)Krueger JG, et al. Ann Rheum Dis. 2005;64:ii30-36.3)藤田英樹. 乾癬患者統計.第32回日本乾癬学会学術大会. 2017;東京.4)Gupta R, et al. Curr Dermatol Rep. 2014;3:61-78.5)Kubota K, et al. BMJ Open. 2015;5:e006450.6)Takahashi H, et al. J Dermatol. 2011;38:1125-1129.7)Kawada A, et al. J Dermatol Sci. 2003;31:59-64.8)照井正ほか. 日皮会誌. 2015;125:2211-2257.9)杉浦一充. Pharma Medica. 2015;33:19-22.10)難病情報センターwebサイト.11)Abuabara K, et al. Br J Dermatol. 2010;163:586-592.公開履歴初回2019年9月24日更新2022年12月22日

2779.

薬剤師会が再教育せざるを得なくなった薬剤師の倫理観【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第33回

薬局・薬剤師のコンプライアンスや倫理観の強化が、待ったなしの状態になっているようです。東京都薬剤師会の永田泰造会長は9月5日の定例会見で、「薬局による不適切行為」といった不祥事に対して、都内全薬局の管理薬剤師を対象にしたコンプライアンス研修会の詳細を公表した。10月から11月にかけ、都内4か所の会場で、平日の勤務終了時間を想定した午後7時から2時間、「より高い倫理観の醸成」を目的に開催する。(2019年9月6日付 RISFAX)この記事は東京都薬剤師会が主催する管理薬剤師を対象とした研修について報じていますが、日本保険薬局協会(NPhA)も会員企業の経営陣を対象としたコンプライアンス強化に向けた新たな取り組みを実施すると発表しました。また、2019年10月開催の日本薬剤師会学術大会でも、「医薬品の製造・流通・販売に関わる者のガバナンスの強化について」という組織体制や仕組みの強化をテーマとした分科会が開催される予定です。なぜ急にコンプライアンスやガバナンスが白熱しているのか? と思われる方もいるかもしれませんが、きっかけは昨年発生したある薬局チェーンの調剤報酬不正請求問題のようです。この問題は、薬歴が未記載のまま薬剤服用歴管理指導料を請求していた薬局が地方厚生局から指摘を受けたことに端を発します。薬局は過去5年間さかのぼって薬歴の記載と請求額を調査して、不適切に受け取っていた額を返還することになりましたが、その返還額を改ざんして過少に報告していたことが発覚し、さらにこの改ざんは当時の取締役が指示を出していたという悪質な事例です。具体的な改ざん行為は、薬剤服用歴の入力日の改ざんや未記載だった薬歴の事後記入などであったと発表されています。コンプライアンス違反で「今までどおりやっていた」は言い訳にならない薬歴は、書いても書かなくてもその月内に行政にチェックされることなくレセプト請求ができるのが現状です。しかし、患者さんのアレルギー歴や併用薬のチェック、副作用は起きていないか、どのような理由で薬が変更されたのかなど、さまざまな情報を積み重ねることで包括的に患者さんを把握し、安全にお薬を飲んでもらうというのが薬局・薬剤師業務の根幹であることは言うまでもありません。薬歴を書いていないというのは薬剤師の業務を行っていないのと同義でしょう。そもそも薬歴を書いていない状態で薬剤師の業務が行えるわけがないとも思います。ほかにも、処方箋をグループ会社の別薬局に送付し、処方箋を受け取った別薬局で調剤を行ったものとして保険請求をしたという事例や、薬剤師認定制度実施機関から交付される研修受講シールがインターネット上のオークションサイトなどで売買されている事例なども記憶に新しいのではないでしょうか。これらもいわゆる「不適切行為」に当たります。違反して、「今までどおりにやっていた」「みんなそうやっている」「前任者からそうやると聞いている」などは言い訳になりません。すべての薬剤師がコンプライアンスをいま一度見直す必要性を感じます。

2780.

「死なない・死ねない」時代が来る――その時、医師は?【Doctors' Picksインタビュー】第3回

各方面の医療の進化の概略を示し「人は死なない・死ねない時代に入りつつある。これからの時代を生きるうえで、それを踏まえた心と身体の準備をすべき」と呼び掛ける自著をまとめた奥 真也氏。その俯瞰的な視点には、放射線医というキャリアのスタート地点と、民間の医療関連企業で勤務した経験が大きく関わっているという。医療の急速な進化は、医師の仕事も変えていくはず、と奥氏は語る。最大の敵“がん”克服の道筋私は1988年、昭和最後の年に医師になりました。平成の30年間がそのまま医師のキャリアです。この期間に、医療は驚くほど変わりました。その代表格が「がん治療」です。私が医師のキャリアをスタートした20世紀後半には、がんは致死的疾患の主要な座を占めていました。部位ごとのみならず患者さんごとにまったく異なる特徴を示すがんに対し、人類はなかなか有効な手だてを見いだせずにいました。1990年代半ばから、その状況は変わり始めます。手術や放射線、抗がん剤治療が発達し、それらを組み合わせることでがんを克服できるケースが出てきました。さらに21世紀に入ると、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬という新しい治療法の開発が急速に進み、本当の意味で「がんに効く薬」が登場しました。さらに、光免疫療法や遺伝子ゲノム解析を用いた治療も実臨床の段階に入りつつあります。この30年間の各種がんの5年生存率の変化や、死亡率上位を占めるがん種の変遷を見ると、胃がんや大腸がん、肺がんといった、かつては不治と思われたいくつかのがんが、今や克服可能となっていることがわかります。現場で臨床に当たっている方は「克服」と断定してしまうことに違和感があるかもしれませんが、30年前と比較し、人類とがんとの戦いがまったく異なるフェーズに入っていることに異論はないでしょう。「医療の完成」までわずか、死の概念も変わるこれまでの人類の歴史は、病気との戦いの連続でした。ペスト、天然痘、結核、AIDS…、ある病気を克服してもすぐに次の病気が立ちはだかりました。しかし、「がん」という高い壁の乗り越え方が見えつつある今、私はすべての病気を治せる「医療の完成」の9合目の地点まで来た、と考えています。90%ではなく9合目と表現しているのは、最後の1合には、乗り越えるのが大変な「難敵」が待ち構えているからです。大別すると、(1)膵臓がんや胆管がんといった発見・アプローチが難しい病気、(2)筋ジストロフィー、脊髄側索硬化症(ALS)や種々の遺伝的な免疫不全症などの希少疾患、(3)大動脈解離やくも膜下出血などの急死につながりやすい疾患、これらが具体的な難敵でしょう。しかし、(1)のがんは前述のとおり有効なアプローチが増加し、(2)の希少疾患についても、筋ジストロフィーについては小児のうちに完治を目指すアプローチの新薬が登場するなど、克服の道が見えつつあるものが増えてきています。(3)の急死を含め、完全な克服には医療保険制度や社会の在り方なども含めて議論する必要があり、時間はかかるでしょうが、それでもアプローチは日進月歩で進化しています。克服困難だった病気が次々に治療可能となり、数十年前と比較して人類は「予期しないタイミングで死ぬ」ことが圧倒的に減りました。寿命は延び続け、日本をはじめ先進国では急速に高齢化が進んでいます。簡単には「死なない・死ねない時代」になりつつある今、「死」自体が、これまでに考えられてきたもの、長らく恐れられてきたものから変容するでしょう。死、そして人生そのものに対する向き合い方が根本的に変わっていくのです。これまで、私たち医師の役割は、目の前の人の病気を治し、1日でも長く生かすことでした。でも、その常識すらも変わっていくでしょう。私たち医師は、そうした患者さんや社会の変化に向き合う準備ができているでしょうか?画像診断・病理診断はAIの独擅場に医師の仕事を変えつつある、もう1つの大きな要因は人工知能(AI)の応用です。2016年、 Google DeepMindによって開発されたコンピュータ囲碁プログラム「AlphaGo(アルファ碁)」が世界のトップ棋士に勝ち越しました。1980年代には「複雑なルールの囲碁において、コンピュータが人間に勝つのは22世紀以降になる」といわれていたものが、21世紀早々のタイミングでいとも簡単に壁を越えていったのです。こうしたAIが医療の世界ですでに応用されているのは、皆さんもご存じのとおりです。私はよく、画像診断で病変を見つける作業を絵本の『ウォーリーをさがせ!』に例えるのですが、この絵本で要求される「似たような中から条件に当てはまる1人を見つける」という作業は、集中力を要し時間もかかるものです。しかも臨床現場では、「異常があるのかさえもわからない」「あっても確率は1万分の1」といった難しさも加わります。こうした作業は、AIが圧倒的に得意な分野です。たとえば、マンモグラフィの画像診断において、熟練医師が1人の画像を診断するのに10分かかるところ、AIは同じ10分で6万人分を診断します。1分で6,000人を診断して精度にも問題がないのですから、勝負にすらなりません。現在の放射線科医や病理医の仕事の一部は、急速にAIに替えられていくでしょう。そして、変化はややゆっくりかもしれませんが、どの診療科にも同じ流れはやってきます。人間の医師が不要になるわけではありませんが、5年、10年後の医師の仕事は、今とはまったく異なるものになることでしょう。この変化の影響を一番受けるのは医学生や若手医師の方でしょうが、今の医学教育や医師育成のシステムはこれらの変化に対応し切れていないように見えます。事実、こうした話を書籍*にまとめたところ、一般向けの書籍を目指したのにもかかわらず、医師や医学生から反応が多くあったり、大学の医学部から副読本・参考書として使いたいという話がきたりもしました。まったく異なるキャリアで視野を広げる私がこのように医療を俯瞰的に見る視点を持つようになったのは、キャリアのスタートが放射線医だったことが大きく影響しているのだと思います。放射線科は、複数の科の患者の画像診断を一手に引き受ける部門です。幅広い診療科の医師と一緒に仕事をしたことや、多岐にわたる患者の診断を受け持ったことが、自分の土台になっています。もう1つ、ほかの医師があまり持たないキャリア経験が、民間企業に所属したことでしょう。私は長らく大学で教鞭を執っていましたが、あるきっかけから民間企業に転じ、製薬会社や医療系コンサルティング会社、そして医薬機器メーカーに勤めました。それまで、医師として薬や診断機器のユーザー側だったものが、メーカーに入って提供する側に回ったのです。この両者の経験が、医療の全体感をつかむことに大きく役立ちました。私の場合、意図してのキャリアチェンジではありませんでしたが、まったく異なる環境で働き、異なる視点で医療の世界を見る経験は、長い医師人生の中で必ず役立つはずだと感じます。人生100年時代、医師がすべきことは?ロンドン・ビジネス・スクール教授のリンダ・グラットン氏は、共著書『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)』の中で「人生100年時代に備えよ」と呼び掛け、大きな話題を集めました。この問題はもちろん、医師自身にも当てはまります。大学で役職をもらい、定年まで勤め上げるといった、これまでの「上がり」のキャリアでは、長く延びつつある人生に対応し切れません。医療が大きく変化しつつある今は、医師にとって活躍の場が増えている時代でもあります。臓器再生や脳の記憶を保存するなど、「不死」の時代を見据えた新たな医療ビジネスがどんどん登場しています。まだ決定的な治療法が見つかっていない認知症に社会としてどう向き合っていくのか、というのも大きな論点でしょう。どのテーマにも、医療の専門知識とともに、高い倫理観が求められます。さらに、「死なない・死ねない」時代を迎えるにあたり、避けて通れないのが「安楽死」を巡る議論でしょう。安楽死(医療が介入する積極的安楽死)を法律で認めている国は、世界に8ヵ国(米国は州単位)あります。もちろん、簡単に答えを出せる問題ではありませんが、高い専門知識と死に向かう人の実情を知る医師だからこそ、この問題からも目を背けず、積極的に議論していくべきではないかと思います。*『Die革命 医療完成時代の生き方』(奥 真也/著. 大和書房. 2019年3月発行)※この記事は、奥氏の著書『Die革命 医療完成時代の生き方』(大和書房)と2019年7月に開催された同書の出版記念講演(「医療の完成による死なない・死ねない時代が来る!!~人生100年時代の生き方~」紀伊國屋書店 新宿本店)の内容を再構成したものです。このインタビューに登場する医師は医師専用のニュース・SNSサイトDoctors’ PicksのExpertPickerです。Doctors’ Picksとは?著名医師が目利きした医療ニュースをチェックできる自分が薦めたい記事をPICK&コメントできる今すぐこの先生のPICKした記事をチェック!私のPICKした記事がん遺伝子パネル検査後の治療をご希望される患者さんへ個人に対するがん治療を遺伝子検査によって最適化するパネル検査。春先に保険収載され始め、いよいよ本格的に動き出しました。本来はがんの標本自体が必要ですが、血液等で代用するリキッドバイオプシー(liquid biopsy)の手法も大いに注目されます。このような追い風の中ですが、まだまだ、「遺伝子的な最適状況は判明しても、適切な治療が提供できない」ということが、パネル検査の概念について、大きな障碍になっているのが現状です。今後、パネル検査、リキッドバイオプシー由来のデータを基に、薬の開発法が新たな方法論に進んでいく時代が拓かれると思われます。仮説検証的な方法から、発見的(heuristic)な方法への転換です。

検索結果 合計:5062件 表示位置:2761 - 2780