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第23回 実は病院経営に詳しい菅氏。総理大臣になったらグイグイ推し進めるだろうこと(前編)

「地方を大切にしたい」と菅官房長官こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。菅 義偉官房長官が自民党の総裁選に出馬することを正式に表明しました。記者会見では自らの叩き上げの人生(秋田の農家に生まれ、農業を継ぎたくなくて集団就職で上京、法政大学の夜間を卒業し、サラリーマンに…)について触れた後、「地方を大切にしたいという気持ちが脈々と流れており、活力ある地方をつくっていきたいとの思いを常に抱きながら政策を実行してきた」と語りました。次いで「私自身、国の基本というのは、自助、共助、公助であると思っております。自分でできることはまず自分でやってみる、そして、地域や自治体が助け合う。その上で、政府が責任をもって対応する」とも述べました。「自助、共助、公助」については菅氏の総裁選のキーワードのようで、9月5日に自身のブログで公表した政策の中でも「自助・共助・公助、そして絆」がスローガンに掲げられています。この記者会見を聞きながら、私は約40年前、仙台の大学に入った時の教養部のクラスオリエンテーションのことを思い出しました(東北新幹線開業前です)。右隣に秋田県の大館鳳鳴高校出身のS君が座っていました。彼が私に何か質問してくるのですが、何を言っているのかまったくわかりません。同じ東北弁でも県によって難易度が大きく異なり、秋田や青森は難しい部類に入ります。S君の話が普通に理解できるようになるのに数ヵ月かかりました(ちなみに私もS君たち東北人から「おめの名古屋弁もわがんね」とからかわれていました)。菅氏は秋田県の内陸、雄勝町(現在の湯沢市)出身とのことです。高校を出て上京(もちろん、東北新幹線も山形新幹線もない時代です)して直後は、おそらくコミュニケーションには相当苦労されたのではないでしょうか。上京後、半世紀を経ての、ほぼ訛りを感じさせない日々の会見は、ある意味、田舎から東京に出てきた東北人の意地を感じさせます。440公立・公的病院リストラリストの大元それはさておき、もし菅政権になったら、医療関係者はまずどんな政策を気にしなければならないでしょうか? 安倍政権の路線を踏襲した、「新型コロナウイルスの感染拡大防止と社会経済活動の両立を図る」方針については、「まあそうだろうなあ」と、とくに意外性はありません。では何か。第1に予想できるのは、「地方、都市部含めて、公立・公的病院の再編・統合が今まで以上に強硬かつ急速に進められるのではないか」ということです。なぜならば、菅氏こそが、今、全国各地で進められようとしている公立・公的病院改革の大元とも言える存在だからです。厚労省は昨年9月、急性期病床を持つ公立・公的病院のがん、心疾患などの診療実績を分析。全国と比較してとくに実績が少ないなどの424病院(2020年1月に約440病院に修正)のリストを公表し、全国の病院経営者や自治体の首長に大きな衝撃を与えました。この時、リスト公表とともに、急性期病床の規模縮小やリハビリ病床などへの転換などを含む地域の病院の再編・統合を各地で議論を行うことを要請し、今年9月までに結論を出すよう定めていました。「公立病院改革ガイドライン」を仕切った菅総務大臣このリストラリスト公表に至るきっかけとなったのが、2015年3月に出た「新公立病院改革ガイドライン」(平成27年3月31日 総財準第59号 総務省自治財政局長通知)です。「新」となっているのは、「旧」があるからです。最初の「公立病院改革ガイドライン」(平成19年12月24日 総財経第134号 総務省自治財政局長通知)が出されたのは2007年12月のことでした。2007年の旧ガイドラインは、2007年5月に開かれた経済財政諮問会議で菅総務大臣(第一次安倍内閣で初入閣)が公立病院改革に取り組むことを表明したことをきっかけに策定されました(12月の公表時は増田寛也総務大臣)。背景には医師不足や経営悪化にあえぐ公立病院がありました。なぜ、総務大臣が?と思われる方がいるかもしれませんが、公立病院は地方公共団体が経営する病院事業という位置づけであり、その管轄は厚生労働省ではなく、総務省の自治財政局準公営企業室だからです。「民間にできることは民間に」2007年の「旧ガイドライン」の大きなポイントは、公立病院の役割を「地域において提供されることが必要な医療のうち、採算性等の面から民間医療機関による提供が困難な医療を提供することにある」と定義、「民間にできることは民間に任せろ」としたことです。そのうえで「経営効率化」「再編・ネットワーク化」「経営形態見直し」の3つの柱を提示、病院を開設する地方公共団体に対して改革プランの策定を要請しました。この時は、「アメとムチ」とも言える政策も取られました。とくに、経営主体の統合や病床削減をするケースには、手厚い交付税措置が行われることになったため、苦境に陥っていた公立病院は、病院統合や病床削減を選択していきました。続く2015年の「新ガイドライン」では「旧ガイドライン」によっても進まなかった公立病院改革を、前述の3つの柱を維持しつつ、厚生労働省が主導する「地域医療構想」と連携させながら進めていくために策定されました。菅氏(この時は官房長官)がよく強調する「省庁の垣根を超えた政策」ということもできます。この「新ガイドライン」では、地方公共団体に新たに新公立病院改革プランの策定を求めるとともに、病院の再編・統合に当たっての都道府県の役割・責任の強化も行われています。なお、公立病院の改革プランと地域医療構想調整会議の合意事項との間に齟齬が生じた場合は改革プランの方を修正すること、となっており、地域医療構想の実現が最優先課題とされています。地域医療構想調整会議が各地で進んでいく中、「公立病院だけでなく公的病院も対象に加えろ」という議論の流れとなり、2018年6月には「経済財政運営と改革の基本方針2018」において「公立・公的病院については、地域の民間病院では担うことのできない高度急性期・急性期医療や不採算部門、過疎地等の医療等に重点化するよう医療機能を見直し、これを達成するために再編・統合の議論を進める」と明記されました。そして、1年3ヵ月後の2019年9月に424病院のリスト公表に至ったわけです。ちなみに公的病院とは、日赤・済生会・厚生連が開設する病院や、独立行政法人国立病院機構、独立行政法人地域医療機能推進機構などの公的法人が開設する病院などのことです。再編・統合についての報告期限は延期にところで、厚生労働省は8月31日、「具体的対応方針の再検証等の期限について」と題する医政局長通知(医政発0831第3号)を各都道府県知事に発出、今年9月末までに結論を出すよう定めていた全国約440の公立・公的病院を対象とする再編・統合について、都道府県から国への報告期限を今年10月以降に延期することを通知しました。新型コロナウイルス感染症の影響で議論が進んでいないことや、7月に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2020」に「感染症への対応の視点も含めて、質が高く効率的で持続可能な医療提供体制の整備を進めるため、可能な限り早期に工程の具体化を図る」と、今後の再編・統合を考えるうえで「感染症への対応」を盛り込むことが明記されたことなどが理由と見られます。徹底的に効率化してなんとか生きながらえさせるこうした延期で、ひとまずほっとした病院や自治体も多いと思いますが、新しい総理大臣からどのような指示が飛ぶかが注目されます。菅氏は9月2日、異次元金融緩和に関して聞かれた際に「地方の銀行は将来的に多すぎる。再編も1つの選択肢になる」と語り、9月5日の日本経済新聞のインタビューに対しては、中小企業について「足腰を強くしないと立ちゆかなくなってしまう。中小の再編を必要であればできるような形にしたい」とこちらも統合・再編を促進する考えを述べています。これらは、公立・公的病院改革と全く同じロジックだと言えます。こう見てくると、菅氏が出馬会見で語った「地方を大切にしたいという気持ち」とは、「地方を今までのままで大切にしていく」ことではなく、地方のあらゆるリソースを「徹底的に効率化してなんとか生きながらえさせる」ことだということがわかります。病院経営者や自治体の首長も、そのことはしっかりと頭に入れておいた方がよさそうです。新政権が第2に進めるであろうことですが、今回は長くなり過ぎましたので、来週にもう少し考えてみたいと思います(この項続く)。

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第28回 おいしいお米が地域一体型NSTの落とし穴【噂の狭研ラヂオ】

動画解説ほし薬局の星利佳先生が実現させたいのは地域一体型NST(栄養サポートチーム)。患者さんが退院して自宅に戻ると、どうしても栄養不足になってしまう。星先生曰く、山形のお米が美味しいのでついついどんぶり飯でお腹を満たしてしまいがちなのだとか。せめて卵と納豆を食べさせよう!他職種チームのチャレンジについてお聞きします。

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オンライン服薬指導の実態 初診で麻薬のNG処方も【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第53回

2月末に発出された事務連絡「新型コロナウイルス感染症患者の増加に際しての電話や情報通信機器を用いた診療や処方箋の取扱いについて」により、いわゆるオンライン服薬指導が可能になってから半年が経過しました。4月には特例措置で初診でのオンライン診療が可能になるなど目まぐるしい変化がある日々でしたが、先日、4~6月のオンライン診療および服薬指導に関する運用実績が報告されました。厚生労働省は8月6日、新型コロナウイルスの感染拡大を踏まえたオンライン診療・服薬指導に関する特例措置について、現在の運用実績を「オンライン診療の適切な実施に関する指針の見直しに関する検討会」に報告した。5~6月のオンライン服薬指導の件数は6万8,849件で、全体の0.51%となり、最大処方日数は22~30日が3万580件で最多となった。診療では、初診から麻薬、向精神薬を処方したケースが見られたものの、現在の感染状況を考慮し、特例措置を継続することを決めた。(2020年8月17日付 薬事日報)報告を見てみますと、オンライン診療の受診者の年齢は0~10歳が全体の約30%と最も多く、50歳以下が大多数を占めています。一方、61~70歳が約4%、71~80歳が約3%という結果でした。慢性疾患の症状が安定していて、感染リスクが高い高齢者ほど利用してほしいシステムですが、「オンライン」というものはやはり高齢者にはハードルが高いものなのだと実感しました。さらに、電話・情報通信機器による服薬指導の実施割合については、全処方箋枚数のうち、5月は0.61%、6月は0.37%で、その98%が過去にもその薬局を利用している患者さんでした。悩みのタネであった薬剤の配送方法については、配送業者を利用したケースが90%近くを占めていました。薬局の立地にもよりますが、薬剤師や薬局スタッフによる手渡しのリスクや手間を考えると、思い切って配送業者を利用するほうが感染リスクも抑えられて合理的だという判断なのでしょう。特例措置は当面継続特例措置では、初診において「麻薬および向精神薬の処方をしてはならない」と明記されていますが、麻薬および向精神薬が処方されている事例が18件報告されています。安全管理が必要な抗がん薬、免疫抑制薬などのいわゆる「ハイリスク薬」の処方については、診療録などにより当該患者の基礎疾患の情報を把握することが条件となっていましたが、これらの情報の把握ができないにもかかわらず処方されていたケースも確認されています。4月10日付事務連絡において、「原則として3か月ごとに、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の状況や、本事務連絡による医療機関および薬局における対応の実用性と実効性確保の観点、医療安全等の観点から改善のために検証を行うこととする」とあり、上記のような特例措置の要件を順守しない処方については指導を行うよう都道府県に依頼したとあります。オンライン診療・服薬指導の特例措置は当面このまま継続されるようですが、3ヵ月後の11月ごろにまた継続するかどうかの判断が行われるはずですので、医療機関への受診を敬遠する患者さんであっても安心・安全に治療できるように体制を整えたいものです。

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事例009 同一日院内処方 + 院外処方の査定【斬らレセプト シーズン2】

解説事例の患者は、熱発をみとめ、早朝時間外の救急外来を受診し、いったん帰宅。同日の時間内に再受診をしていました。時間外では院内調剤にて1日分の処方があり、時間内では院外処方箋にて時間外と同一薬剤を4日分投与されていました。このうち、院内調剤に係る手技料一式が事由B「医学的に過剰・重複と認められるものをさす」の「重複」として査定になったものです。院外処方箋の発行と院内調剤の同時併用、または同日併用は、2以上の診療科で異なる医師が処方した場合を除き、原則算定は認められません。やむを得ない場合には、その理由と日付をレセプトに補記して併用することができます。この場合は、院外薬局との関連性を明確にするため、院外処方箋を優先させて算定します。なぜならば、処方箋料には調剤料、処方料、調剤技術基本料が含まれており、重複算定はできないとされているからです。したがって、同日の院内調剤分の薬剤料のみを算定します。今回は、救急診療科と内科の両受診であったことで、異なる診療科であれば両方が算定できるものとして保険請求されたものです。しかしながら、病名が同じであり、処方内容に同一薬剤が含まれていたために、一連の診療とみなされて査定されたものと考えられます。レセプトチェックシステムのアラートに見直しをかけて防止策としています。

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高齢の早期乳がん、術後放射線療法は省略可能か?

 高齢の早期乳がん患者において、乳房温存手術後の放射線療法が省略可能かについては議論がある。米国・ヴァンダービルト大学医療センターのFei Wang氏らは、70歳以上の乳がん患者11万例以上のデータを解析し、放射線療法実施の有無による生存への影響を評価した。International Journal of Cancer誌オンライン版2020年8月24日号に掲載の報告より。高齢の早期乳がん患者の放射線療法の省略は死亡率の増加と関連 対象は米国国立がんデータベースに登録され、2004~2014年に乳房温存手術を受けた、70歳以上、T1-2N0-1M0の女性乳がん患者。多変量Cox比例ハザードモデルを使用して、3、5、10年時の死亡率と乳房温存手術後の放射線療法との関連についてハザード比(HR)および95%信頼区間(CI)を推定した。 70歳以上の高齢女性乳がん患者の死亡率と乳房温存手術後の放射線療法との関連を評価した主な結果は以下のとおり。・11万5,516例のデータが分析された。・乳房温存手術後に放射線療法を受けなかった患者は、放射線療法を受けた患者よりも死亡率が高く(5年生存率:71.2% vs.83.8%)、3年死亡率の多変量補正後ハザード比(HR)は1.65(95%信頼区間[CI]:1.57~1.72)、 5年死亡率のHRは1.53(1.47~1.58)、10年死亡率のHRは1.43(1.39~1.48)であった。・この関連は、内分泌療法または化学療法の有無、期間やその他の臨床的特徴によるすべての層別化分析において、また90歳以上の患者においても観察され、放射線療法を行わない患者の5年死亡率は40~65%増加した。・内分泌療法を受けたT1N0およびエストロゲン受容体陽性の患者に限定した傾向スコア層別化分析においても、この正の関連性が持続した(5年死亡率のHR:1.47 [1.39~1.57])。 著者らは、本研究ではT1N0およびエストロゲン受容体陽性の患者においても、放射線療法の省略は死亡率の増加と関連したとし、乳房温存手術後の放射線療法の省略は普遍的な実践とはなりえないのではないかとまとめている。

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カナグリフロジンの下肢切断リスク、65歳以上CVD患者で増大/BMJ

 SGLT2阻害薬カナグリフロジンの下肢切断リスクについて、心血管疾患のある65歳以上において最も明白な増大が認められること、追加有害アウトカムの発生に関する必要治療数(NNT)は6ヵ月で556例(切断例はカナグリフロジン投与1万例当たり18例超)であることが、米国・ブリガム&ウィメンズ病院・ハーバード大学医学大学院のMichael Fralick氏らによる検討で明らかにされた。GLP-1受容体作動薬投与群と比較した下肢切断リスクは1.73倍で、発生率の差は1,000人年当たり3.66であったという。先行研究のカナグリフロジンの心血管アウトカムを検討した試験「CANVAS試験」では、カナグリフロジン群がプラセボ群よりも下肢切断リスクが2倍近く高いことが確認されており、同試験対象者が従前試験よりも10歳以上高齢であったこと、またベースラインの心血管リスクが高かったことから、切断リスクの上昇は限定される可能性が示唆されていた。著者は、「今回の結果は、日常的ケアにおけるカナグリフロジン投与の、切断リスクを明らかにするものである」と述べている。BMJ誌2020年8月25日号掲載の報告。カナグリフロジンによる下肢切断リスクをCVDの有無と65歳以上・未満で検証 研究グループは、新たにカナグリフロジンを投与された成人における、年齢および心血管疾患別にみた下肢切断率を推算する住民ベースのコホート試験を行った。 2013~17年の、米国の2つの民間の保険請求データベース(MarketScan、Optum)とメディケア保険請求データベースを基に、新たにカナグリフロジンを処方された患者を抽出し、1対1の割合の傾向スコアマッチングで抽出したGLP-1受容体作動薬を新たに処方された患者と、下肢切断術の発生について比較した。 被験者を以下の4グループに分類し、下肢切断率についてハザード比(HR)と1,000人年当たりの率差を算出。(1)ベースラインで心血管疾患のない65歳未満、(2)ベースラインで心血管疾患のあった65歳未満、(3)ベースラインで心血管疾患のない65歳以上、(4)ベースラインで心血管疾患のあった65歳以上。 メタ解析にて、各グループの統合HRと1,000人年当たりの率差を求め評価した。カナグリフロジン群の下肢切断に関するHRは65歳以上CVD患者で有意差 3つのデータベースから傾向スコアマッチングで、新規のカナグリフロジン処方群または新規のGLP-1受容体作動薬処方群31万840例を抽出し、解析を行った。 カナグリフロジン群のGLP-1受容体作動薬群に対する、下肢切断に関するHRおよび1,000人年当たり率差は、グループ(4)「ベースラインで心血管疾患のあった65歳以上」で、HRが1.73(95%信頼区間[CI]:1.30~2.29)、率差3.66(同:1.74~5.59)と、いずれも有意差が認められた。 一方、その他のグループでは有意差は認められなかった。グループ(1)のHRは1.09(95%CI:0.83~1.43)、率差0.12(同:-0.31~0.55)、グループ(2)はそれぞれ1.18(0.86~1.62)と1.06(-1.77~3.89)、グループ(3)はそれぞれ1.30(0.52~3.26)と0.47(-0.73~1.67)であった。

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フロセミドによるK値低下 カリウム追加ではなく抜本的な解決を提案【うまくいく!処方提案プラクティス】第26回

 今回は、フロセミド服用中に血清カリウム値が低下した症例です。フロセミドなどのループ利尿薬は、作用機序由来の低カリウム血症を来しやすいため、カリウム値の補正のためにカリウム製剤が追加されることがあります。今回は、カリウム製剤の追加ではなく、原因となるループ利尿薬そのものを変更することでカリウム値の改善ができたケースを紹介します。患者情報70歳、男性(施設入居)基礎疾患高血圧症、糖尿病、慢性心不全(HFpEF)、心房細動、認知症既往歴50歳時に心筋梗塞のため左前下行枝(LAD)にステント留置副作用歴スピロノラクトンが女性化乳房による乳房痛で服用中止訪問診療の間隔2週間に1回服薬管理介護士が管理処方内容1.ベニジピン錠4mg 1錠 分1 朝食後2.カンデサルタン錠8mg 1錠 分1 朝食後3.テネリグリプチン錠20mg 1錠 分1 朝食後4.グリメピリド錠0.5mg 1錠 分1 朝食後5.フロセミド錠20mg 1錠 分1 朝食後6.エドキサバン錠30mg 1錠 分1 朝食後7.カルベジロール錠2.5mg 2錠 分2 朝夕食後8.ピタバスタチン錠2mg 1錠 分1 夕食後9.センノシド錠12mg 2錠 分1 夕食後本症例のポイントこの患者さんは、複数の基礎疾患に加え、慢性心不全を患っていました。認知症もあったため自宅での生活が困難となり、施設に入居して3年目です。2週間に1回の訪問診療で体調確認を行い、半年に1回血液検査を行っていました。訪問診療に同行した際に、医師より「筋力低下やふらつきなどの自覚症状の訴えはないが、利尿薬の影響もあってカリウム値が3.8mg/dLから3.3mg/dLに下がってきている。アスパラカリウム錠300mgを3錠 分3 毎食後で補正するのはどうか?」と相談がありました。そこで、いくつか考えるポイントがあったので整理することにしました。フロセミドの治療効果と代替薬の服薬負担を検討患者さんは、慢性心不全によるうっ血症状の浮腫を改善する目的でフロセミド錠を長期服用していました。低カリウム血症をこのままにした場合、不整脈などから心不全悪化の引き金になりかねないので、カリウムの補正は必須です。しかし、カリウム製剤は分3投与になるため患者さんの服薬負担が増すことから避けたいと考えました。また、フロセミド錠は作用時間が短く、バイオアベイラビリティ(生物学的利用能)も約50%と低いことから、利尿薬治療抵抗性などにつながると指摘されていることも気掛かりでした。そこで、同系統のループ利尿薬のトラセミド錠への変更を検討しました。トラセミド錠は、抗アルドステロン作用によるカリウム保持性があり、バイオアベイラビリティも外国人データで79~91%と高いため、長期的に服用しても安定感があると考えました。カリウム製剤を追加するのではなく、フロセミド錠をトラセミド錠に変更することでカリウムの補正にもつながります。なお、別の案としては、カリウム製剤ではなく、選択的アルドステロンブロッカーのエプレレノン錠を追加する方法もありましたが、今回は服用錠数を増やすことなく治療効果を維持することを優先して、トラセミド錠への変更を提案することにしました。処方提案と経過医師へカリウム製剤の追加投与ではなく、フロセミド錠からトラセミド錠への変更をすることでカリウムの補正が可能になることを提案しました。服用錠数や用法を変えずに対応できることが医師に評価され、2週間後に採血でモニタリングしてみようと処方提案が採用されました。フロセミド錠からトラセミド錠への変更後、下腿浮腫の増悪やうっ血症状の増悪はなく経過し、4週間後の採血結果は血清カリウム値が3.6mg/dLと補正されました。その後も電解質異常やうっ血症状の出現はなく経過しています。フロセミド錠10mg/20mg/40mg インタビューフォームトラセミド錠4mg/8mg インタビューフォーム

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「がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン」6年ぶりの改訂

 『がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン2020年版』が7月22日に発刊された。今回の改訂は2014年版が発刊されてから6年ぶりで、ヒドロモルフォン(商品名:ナルサスほか)、トラマドール塩酸塩の徐放性製剤(商品名:ワントラム)などの新規薬物の発売や新たなエビデンスの公表、ガイドライン(GL)の作成方法の変更などがきっかけとなった。本書の冒頭では日本緩和医療学会理事長の木澤 義之氏が、「分子標的薬ならびに免疫チェックポイント阻害薬をはじめとするがん薬物療法が目覚ましい発展を遂げていることなどを踏まえて改訂した」と述べている。 がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン2020年版の主な改訂点については、8月9日~10日にWeb開催された「緩和・支持・心のケア 合同学術大会」での教育講演「『がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン(2020年版)』の概要」でも発表され、馬渡 弘典氏(横浜南共済病院 緩和支持療法科)が解説した。がん疼痛の薬物療法に関するガイドラインとして必要な情報に絞る まず、がん疼痛の薬物療法に関するガイドラインの改訂版は作成方法の変更により計325ページから185ページへと大幅にボリュームダウン。大幅に絞られた臨床疑問は65項目から28項目に絞られ、Appendixには委員会で討論したが根拠が乏しく解説文に記載しなかったこと、現場の臨床疑問・現在までの研究と今後の検討課題が記載された。以前まで取り上げられていた「麻薬に関する法的・制度的知識」「がん疼痛マネジメントを改善するための組織的な取り組み」「薬物療法以外の痛み治療法(放射線療法、神経ブロック、骨セメント)」はがん疼痛の薬物療法に関するガイドラインの枠組みでは扱いづらくなったとのことで2020年版では割愛されたが、「大切な事項なので書籍などで確認を」と述べた。2020年版では突出痛の定義が近年の考えを加味して変更された 馬渡氏はがん疼痛の薬物療法に関するガイドライン2020年版を作成する際に生じたエビデンスと推奨のギャップについて解説した上で、疼痛強度に応じた鎮痛薬の使用方法を説明した。まず、中等~高度のがん疼痛についてはCQ3~7*を示し、「中等~高度の疼痛がある患者に対して、強オピオイド間の優劣については今回のシステマティックレビューでは認められなかったため、本ガイドラインではどの薬剤を選択しても良いと結論付けられている」と説明。CQ6(がん疼痛のある患者に対して、フェンタニルの投与は推奨されるか?)については、今年6月末にフェンタニルの貼付剤(商品名:フェントステープ)がオピオイド鎮痛剤未使用のがん疼痛患者へ適応となったことにも触れた。また、それ以前に決定稿になったことを断ったうえで、フェンタニルによる初回投与は、『投与後に傾眠、呼吸抑制の重篤な有害作用の有無を継続して観察出来るとき』の条件付き推奨となったことを述べた。さらに、「添付文書にも 増量時の注意事項が書かれているので、注意して経過観察してほしい」と述べた。*CQ3~7は、「がん疼痛のある患者に対して、各薬剤(モルヒネ、ヒドロモルフォン、オキシコドン、フェンタニル、タペンタドール)の投与は推奨されるか?」について記載。 次に、2018年のWHOのガイドライン改訂で、3段階ラダーの表現が本文から付録に相当するANNEXに移ったが、がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン2020年版でも中等度のがん疼痛では「強い推奨が弱オピオイドから強オピオイドに変更された」点について説明。CQ8(がん疼痛のある患者に対して、コデインの投与は推奨されるか?)やCQ9(がん疼痛のある患者に対して、トラマドールの投与は推奨されるか?)、CQ23(がん疼痛のある患者に対して、初回投与のオピオイドは、強オピオイドと弱オピオイドのどちらが推奨されるか?)の内容に反映されている。 突出痛については、「突出痛の定義は国際的に決まったものはないが、『持続痛の有無や程度、鎮痛薬治療の有無にかかわらず発生する一過性の痛みの増強』から『定期的に投与されている鎮痛薬で持続痛が良好にコントロールされている場合に生じる、短時間で悪化し自然消失する一過性の痛み』へと、近年の考えを加味して変更された」と解説した。また、がん疼痛の薬物療法に関するガイドラインにおける突出痛に投与するオピオイドの薬剤の用語の統一についても触れ、総称区分を以下のように示した。●速放性製剤:経口モルヒネ、ヒドロモルフォン、オキシコドンなど●経粘膜性フェンタニル:フェンタニル口腔粘膜吸収製剤●レスキュー薬:突出痛に投与するオピオイドの経口薬、注射剤、坐剤すべてがん疼痛の薬物療法に関するガイドライン2020年版の変更点 このほか、がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン2020年版の変更点として、腎機能低下時の投与や便秘時について解説。CQ17(オピオイドが原因で、便秘のあるがん患者に対して、下剤、その他の便秘治療薬の投与は推奨されるか?)やCQ22(がん疼痛のある、高度の腎機能障害患者に対して、特定のオピオイドの投与は推奨されるか?)を示し、「高度の腎機能障害患者にフェンタニルやブプレノルフィンの“注射剤”を推奨していること。コデイン、モルヒネを投与する場合は短期間で少量から投与すること。軽度から中等度の腎障害では減量すればどのオピオイドも投与可能。ただし、ブプレノルフィンは高度の腎機能障害がある時や、ほかの強オピオイドが投与できない時に限定する」と述べた。<今回からがん疼痛の薬物療法に関するガイドラインに追加された主な新規薬剤>・ヒドロモルフォン(商品名:ナルサス、ナルラピド、ナルペイン)・オキシコドン塩酸塩水和物徐放錠(同:オキシコンチンTR錠)[オキシコンチン錠の販売中止に伴う]・トラマドール塩酸塩(同:トラマールOD錠、ワントラム)とアセトアミノフェン配合剤(同:トラムセット)[カプセル剤の販売中止に伴う]・ミロガバリン(同:タリージェ)・ナルデメジン(同:スインプロイク)とその他の便秘治療薬(ポリエチレングリコール製剤、リナクロチド[同:リンゼス]、エロピキシバット[同:グーフィス])<がん疼痛の薬物療法に関するガイドラインから削除された主な薬剤>・モルヒネ製剤の一部(同:カディアン、ピーガード)・エプタゾシン(同:セダペイン)、ジヒドロコデインリン酸塩(同:リン酸ジヒドロコデイン)、ペチジン塩酸塩(同:ペチジン塩酸塩「タケダ」) 今後の予定として、同氏は2020年版のガイドライン作成過程で用いた各種のテンプレートを掲載した詳細資料を作成し、『本ガイドライン作成の経過やより詳細な内容を知りたい読者がインターネット上で閲覧できるようにする』『CQ、ステートメントを英文化し、国際紙に掲載する』などを掲げた。また日本緩和医療学会より一般市民向けに2017年に出版されている「患者さんと家族のためのがんの痛み治療ガイド 増補版」も改訂が必要とされれば速やかに改訂を行うこととすると述べ、「教科書などとうまく使い分けて役立ててもらえれば」と締めくくった。

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1日1回で空腹時血糖と食後血糖の両方を改善する「ソリクア配合注ソロスター」【下平博士のDIノート】第57回

1日1回で空腹時血糖と食後血糖の両方を改善する「ソリクア配合注ソロスター」今回は、持効型溶解インスリンアナログ製剤/GLP-1受容体作動薬「インスリン グラルギン/リキシセナチド配合製剤(商品名:ソリクア配合注ソロスター、製造販売元:サノフィ)」を紹介します。本剤は、1日1回の投与で空腹時血糖と食後血糖を同時に改善することで、より良い血糖コントロールを得ることが期待されています。<効能・効果>本剤は、インスリン療法が適応となる2型糖尿病の適応で、2020年3月25日に承認され、2020年6月8日より発売されています。<用法・用量>通常、成人には、5~20ドーズ(インスリン グラルギン/リキシセナチドとして5~20単位/5~20μg)を1日1回朝食前に皮下注射します。1日1回5~10ドーズから開始し、患者の状態に応じて増減できますが、1日20ドーズを超えることはできません。<安全性>日本人2型糖尿病患者を対象に実施された国内第III相試験では、主な副作用として、悪心(5%以上)、腹部不快感、下痢、嘔吐、消化不良、便秘、胃腸炎、食欲不振、めまい、振戦、注射部位反応(内出血、紅斑、浮腫、そう痒など)、疲労(いずれも1~5%未満)、腹部膨満、腹痛、多汗症、傾眠、倦怠感、空腹感(いずれも1%未満)が認められています(承認時)。なお、重大な副作用として、低血糖、急性膵炎、ショック、アナフィラキシーが発現する恐れがあります。<患者さんへの指導例>1.この薬には、空腹時血糖を調節する成分と、食後血糖を調節する成分の2種類が配合されていて、1日1回の注射で血糖コントロールを改善します。2.めまいやふらつき、動悸、冷や汗などの低血糖症状を起こすことがあるので、高所作業、自動車の運転など危険を伴う作業を行う際は注意してください。これらの症状が認められた場合は、ただちに糖質を含む食品を摂取してください。3.嘔吐を伴う持続的な激しい腹痛が現れた場合は、使用を中止し、速やかに医師の診断を受けてください。4.未使用の薬剤は冷蔵庫内に保管してください。凍結すると使用できなくなるので、直接冷気に触れないように注意してください。なお、旅行などに出掛ける場合、短期間であれば室温に置いても差し支えありません。5.使用開始後は冷蔵庫に入れず、キャップをしっかり閉めて涼しいところに保管してください。直射日光の当たるところや自動車内などの高温になる恐れのあるところには置かないでください。6.使用開始後31日を超えたものは使用しないでください。<Shimo's eyes>本剤は、持効型インスリン製剤とGLP-1受容体作動薬の配合皮下注射製剤で、インスリン デグルデク/リラグルチド(商品名:ゾルトファイ配合注フレックスタッチ)に次ぐ国内2剤目の薬剤です。インスリン グラルギン(同:ランタス)とリキシセナチド(同:リキスミア)が日本独自の配合比である1単位:1μgで配合されていて、デバイスにはプレフィルドペン型注入器「ソロスター」が採用されています。主に空腹時の血糖コントロールを改善する持効型インスリン製剤も、主に食後の血糖コントロールを改善するGLP-1受容体作動薬も国内外で広く使われていますが、持効型インスリン製剤は低血糖および体重増加に注意が必要で、GLP-1受容体作動薬は胃腸障害に注意が必要です。本剤は、国内第III相試験で、空腹時血糖と食後血糖のいずれも改善し、インスリン グラルギン単剤と比較して、低血糖と体重増加のリスクを増やさずに統計学的に有意なHbA1cの低下を示しました。また、安全性に関しても、各配合成分の既知の安全性プロファイルと同等であることが確認され、リキシセナチドと比較して、胃腸障害の副作用リスクを低減しました。持効型インスリン製剤とGLP-1受容体作動薬を組み合わせた治療法は「BPT(Basal supported post Prandial GLP-1 Therapy)」と呼ばれています。本剤を用いることで、経口糖尿病薬が効果不十分で新しく注射薬を導入する場合や、ほかの注射薬から切り替える場合などに、1日1回の投与でBPTが可能となります。なお、DPP-4阻害薬はGLP-1受容体を介した血糖降下作用を有するため、本剤と併用する場合は疑義照会が必要です。参考1)PMDA 添付文書 ソリクア配合注ソロスター

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早期乳がんの放射線療法による長期予後、術中vs.術後外来/BMJ

 早期乳がん患者において、乳房温存手術(乳腺腫瘍摘出術)と併せて行う術中放射線療法(TARGIT-IORT)は、術後全乳房外部放射線療法(EBRT)に代わる有効な放射線療法であることが示された。長期のがん抑制効果はEBRTに引けを取らないものであり、一方で非乳がん死亡率は低かった。英国・ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのJayant S. Vaidya氏らによる無作為化試験「TARGIT-A試験」の結果で、本試験の早期結果においては、TARGIT-IORTの利点として通院頻度が少なく済むこと、QOLの改善、副作用が少ないことなどが示されていた。結果を踏まえて著者は、「乳房温存手術が予定されている場合、適格患者とTARGIT-IORTについて話をすべきであろう」と提言している。BMJ誌2020年8月19日号掲載の報告。早期乳がん2,298例をTARGIT-IORTとEBRTに無作為割り付け 研究グループは、TARGIT-IORTの有効性がEBRTに代わりうるものかを調べる前向き非盲検無作為化試験を行った。英国、欧州、オーストラリア、米国、カナダの10ヵ国32センターで、3.5cm以下、cN0-N1の浸潤性乳管がんである45歳以上の女性患者2,298例を登録し、乳房温存療法の適格性を検討した後、術前に無作為化を行い(中央でブロック層別化)、TARGIT-IORTまたはEBRTに1対1の割合で割り付けた。 EBRT群には全乳房への標準的な分割照射コース(3~6週間)が行われた。TARGIT-IORT群には同一麻酔下で乳腺腫瘍摘出後ただちに照射が行われ、ほとんどの患者(約80%)は1回のみの照射だった。なお、術後の組織病理学的検査で高リスク因子が疑われる所見が認められた場合は、EBRTの追加照射が行われた(約20%)。 主要評価項目は、5年局所再発率(両群間の絶対差の非劣性マージン2.5%以内と定義)と長期生存アウトカムであった。5年局所再発率の差は1.16%、その他要因の死亡率はTARGIT-IORT群が有意に低値 2000年3月24日~2012年6月25日に、1,140例がTARGIT-IORT群に、1,158例がEBRT群に無作為に割り付けられた。5年完遂フォローアップ時の局所再発リスクは、EBRT群0.95%に対し、TARGIT-IORT群2.11%で、TARGIT-IORTのEBRTに対する非劣性が示された(群間差:1.16%、90%信頼区間[CI]:0.32~1.99)。 最初の5年間で、TARGIT-IORTはEBRTよりも局所再発が13例多く報告された(24/1,140例vs.11/1,158例)が、死亡は14例少なかった(42/1,140例vs.56/1,158例)。 長期追跡(中央値8.6年、最長18.90年、四分位範囲:7.0~10.6)では、局所無再発生存について、統計学的に有意差はみられなかった(ハザード比[HR]:1.13、95%CI:0.91~1.41、p=0.28)。また、乳房温存生存(0.96、0.78~1.19、p=0.74)、遠隔無病生存(0.88、0.69~1.12、p=0.30)、全生存(0.82、0.63~1.05、p=0.13)、および乳がん死亡率(1.12、0.78~1.60、p=0.54)でも有意差は認められなかったが、その他の死因による死亡率はTARGIT-IORT群で有意に低かった(0.59、0.40~0.86、p=0.005)。

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がん治療で心疾患リスクを伴う患者の実態と対策法/日本循環器学会

 第84回日本循環器学会学術集会(2020年7月27日~8月2日)で佐瀬 一洋氏(順天堂大学大学院臨床薬理学 教授/早稲田大学医療レギュラトリーサイエンス研究所)が「腫瘍循環器診療の拡がりとCardio-Oncology Rehabilitation(CORE)」について発表。がんを克服した患者の心血管疾患発症リスクやその予防策について講演した。循環器医がおさえておくべき、がん治療の新たなる概念-サバイバーシップ がん医療の進歩により、がんは不治の病ではなくなりつつある。言い換えるとがん治療の進歩により生命予後が伸びる患者、がんサバイバーが増えているのである。とくに米国ではがんサバイバーの急激な増加が大きな社会問題となっており、2015年時点で1,500万人だった患者は、今後10年でさらに1,000万人の増加が見込まれる。 たとえば小児がんサバイバーの長期予後調査1)では、がん化学療法により悪性リンパ腫を克服したものの、その副作用が原因とされる虚血性心疾患(CAD)や慢性心不全(CHF)を発症して死亡に繋がるなどの心血管疾患が問題として浮き彫りとなった。成人がんサバイバーでも同様の件が問題視されており、長期予後と循環器疾患に関する論文2)によると、乳がん患者の長期予後は大幅に改善したものの「心血管疾患による死亡はその他リスク因子の2倍以上である。乳がん診断時の年齢が66歳未満では乳がんによる累計死亡割合が高かった一方で、66歳以上では心血管疾患(CVD)による死亡割合が増加3)し、循環器疾患の既往があると累計死亡割合はがんとCVDが逆転した」と佐瀬氏はコメントした。心疾患に影響するがん治療を理解する この逆転現象はがん治療関連心血管疾患(CTRCD:Cancer Therapeutics-Related Cardiac Dysfunction)が原因とされ、このような患者は治療薬などが原因で心血管疾患リスクが高くなるため、がんサバイバーのなかでも発症予防のリハビリなどを必要とする。同氏は「がん治療により生命予後が良くなるだけではなく、その後のサバイバーシップに対する循環器ケアの重要性が明らかになってきた」と話し、がんサバイバーに影響を及ぼす心毒性を有する薬を以下のように挙げた。●アントラサイクリン系:蓄積毒性があるため、生涯投与量が体表面積あたり400mg/m2を超えるあたりから指数関数的にCHFリスクが上昇する●分子標的薬:HER2阻害薬はアントラサイクリン系と同時投与することで相乗的に心機能へ影響するため、逐次投与が必要。チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)は世代が新しくなるにつれ血栓症リスクが問題となる●免疫チェックポイント阻害薬:PD-1阻害薬とCTLA-4阻害薬併用による劇症心筋炎の死亡報告4)が報告されている これまでのガイドラインでは、薬剤の影響について各診療科での統一感のなさが問題だったが、2017年のASCOで発表された論文5)を機に変革を迎えつつある。心不全の場合、日本循環器学会が発刊する『腫瘍循環器系の指針および診療ガイドライン』において、がん治療の開始前に危険因子(Stage A)を同定する、ハイリスク患者とハイリスク治療ではバイオマーカーや画像診断で無症候性心機能障害(Stage B)を早期発見・治療する、症候性心不全(Stage C/D)はGLに従って対応するなど整備がされつつある。しかしながら、プロテアソーム阻害薬や免疫チェックポイント阻害薬のような新規薬剤は未対応であり、今後の課題として残されている。循環器医からがんサバイバーへのアプローチが鍵 がん治療が心機能へ影響する限り、これからの循環器医は従来型の虚血性心疾患と並行して新しい危険因子CTRCDを確認するため「がん治療の既往について問診しなければならない」とし、「患者に何かが起こってから対処するのではなく腫瘍科医と連携する体制が必要。そこでCardio-Oncologyが重要性を増している」と述べた。 最後に、Cardio-Oncologyを発展させていくため「病院内でのチームとしてなのか、腫瘍-循環器外来としてなのか、資源が足りない地域では医療連携として行っていくのか、状況に応じた連携の進め方が重要。循環器疾患がボトルネックとなり、がん治療を経た患者については、腫瘍科医からプライマリケア医への引き継ぎ、もしくは心血管疾患リスクが高まると予想される症例は循環器医が引き継いでケアを行っていくことが求められる。これからの循環器医にはがんサバイバーやCTRCDに対するCORE6)を含めた対応が期待されている」と締めくくった。■参考1)Armstrong G, et al. N Engl J Med. 2016;374:833-842.2)Ptnaik JL, et al. Breast Cancer Res. 2011 Jun 20;13:R64.3)Abdel-Qadir H, et al. JAMA Cardiol. 2017;2:88-93.4)Johnson DB, et al. N Engl J Med. 2016;375:1749-1755.5)Almenian SH, et al. J Clin Oncol. 2017;35:893-911.6)Sase K, et al. J Cardiol.2020 Jul 28;S0914-5087(20)30255-0.日本循環器学会:心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン(2012年改訂版)

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第39回 「服薬期間中のフォロー」で実際に糖尿病患者のHbA1cは改善するのか【論文で探る服薬指導のエビデンス】

 9月1日より施行される改正薬機法で義務化される「服薬期間中のフォロー」は多くの薬剤師が意識しているようで、電話やメッセージアプリなどによる支援を実施していたり、いろいろと検討していたりするという話を聞きます。海外においては、すでにテキストメッセージや電話によるフォローを行い、それらのアウトカムを検討した論文が少なからず存在します。今回はその中から、2018年5月にBMJ誌に掲載された、ショートメッセージサービス(SMS)をベースにした糖尿病自己管理サポートの論文を紹介します1)。対象患者は16歳以上のコントロール不良(HbA1cが65mmol/molまたは8%以上)の1型または2型糖尿病患者366例で、通常のケアに加えて個別化されたテキストメッセージによるフォローを最大9ヵ月間受ける介入群183例と、通常ケアのみを受ける対照群183例にランダムに割り付けて比較しています。途中脱落や連絡が取れなくなったなどの被験者を除き、各群177例が解析に含まれました。テキストメッセージで提供された情報は、糖尿病自己管理や生活スタイルに関わるサポート、動機付けおよびリマインドで、メッセージは自動コンテンツ管理システムにより送信されています。主要評価項目はHbA1cのベースラインから9ヵ月時点における変化、セカンダリアウトカムは3ヵ月と6ヵ月時点におけるHbA1cの変化、効果の自覚、セルフケアの行動、健康関連のQOLなど21項目をみています。9ヵ月時点の平均HbA1bは、対照群の-3.96mmol/mol(標準偏差[SD]:17.02)と比べて介入群では-8.85mmol/mol(SD:14.84)で、補正後平均差-4.23(95%信頼区間[CI]:-7.30~-1.15)と有意に低下しました。セカンダリアウトカムについては、21項目中、フットケア(補正後平均差:0.85[95%CI:0.40~1.29]、p<0.001)、全体的な糖尿病サポート(補正後平均差:0.26、95%CI:0.03~0.50、p=0.03)、EQ-5D評価による視覚アナログスケール(補正後平均差:4.38、95%CI:0.44~8.33、p=0.03)、糖尿病の症状の自覚(補正後平均差:-0.54、95%CI:-1.04~-0.03、p=0.04)の4項目で有意な差が出ています。患者の介入への満足度は高く、169例中161例(95%)が役に立ったと報告しており、164例(97%)がほかの糖尿病患者にも勧めたいと思うと報告していました。また、85例(50%)がほかの人とメッセージを共有しており、120例(71%)が糖尿病について学ぶ助けになったとしています。シンプル、簡易なメッセージでも血糖コントロールに効果あり実際どのようなメッセージがどのくらいの期間送られていたかについては、研究のプロトコル論文2)の表1にモジュールごとに詳しく書かれています。たとえば、インスリンモジュールであれば、「未開封のインスリンは冷所保管してください。変色したもの、塊が析出しているもの、期限切れのもの、ひび割れや漏れのあるもの、冷凍や過熱されたものは使用しないでください」などで、禁煙モジュールであれば「(こんにちは)(名前)さん。糖尿病の良好な管理と将来の健康のために禁煙をしましょう。禁煙サポート窓口へお電話ください(番号)」、血糖モニタリングモジュールであれば「(こんにちは)(名前)さん。血糖値をチェックする時間です。測定結果を返信してください」などです。そのほかにも運動の工夫、低血糖対策、親近者のフォローなどモジュールごとに決まったメッセージがあります。今後、臨床的なアウトカムとしての検討がさらに進んでいくと思いますが、薬剤師視点ではごく当たり前のシンプルなメッセージを送ることが、定期フォローの中で血糖コントロールに寄与するというのは現場としても勇気づけられる結果だと思います。実業務でも工夫して、服薬期間中のフォロー体制を構築する参考になるのではないでしょうか。1)Dobson R , et al. BMJ. 2018;361:k1959. 2)Dobson R, et al. Trials. 2016;17:179.

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SARS-CoV-2変異株、重症度が変化/Lancet

 遺伝子のオープンリーディングフレーム(ORF)8領域に382ヌクレオチド欠損(Δ382)を認める新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)変異体の感染者は、症状が軽症であることが明らかにされた。シンガポール・国立感染症センターのBarnaby E. Young氏らによる観察コホート試験の結果で、著者は「観察されたORF8における欠損の臨床的影響は、治療やワクチン開発に影響を与えるものと思われる」と述べている。ORF8領域にΔ382を有するSARS-CoV-2遺伝子変異体は、シンガポールおよびその他の国でも検出されていた。Lancet誌オンライン版2020年8月18日号掲載の報告。Δ382変異体感染者と野生型感染者の低酸素症の発生を比較 研究グループは、シンガポールの公立病院7ヵ所で2020年1月22日~3月21日に、PCR検査によりSARS-CoV-2感染が確認された患者のうち、Δ382変異のスクリーニングを受けた患者を後ろ向きに特定し、それら患者を集めた前向きコホート試験「PROTECT試験」を行った。 被験者の臨床情報や臨床検査・放射線検査データを、電子カルテおよび入院中・退院後に採取された血液・呼吸器検体情報から収集して、Δ382変異体感染者と野生型SARS-CoV-2感染者を比較。精確ロジスティック回帰法を用いて群間の関連性と、酸素補充療法を要する低酸素症の発生(主要エンドポイントで重症COVID-19の指標)について調べた。低酸素症発生リスク、Δ382変異体群は野生型群より低い 278例がPCR検査でSARS-CoV-2への感染が確認され、Δ382変異のスクリーニングを受けていた。そのうち131例がPROTECT試験に登録。92例(70%)が野生型に感染、10例(8%)が野生型とΔ382変異体の混合感染で、29例(22%)がΔ382変異体に感染していた。 酸素補充療法を要する低酸素症の発生率は、Δ382変異体感染群が野生型感染群よりも低率だった。Δ382変異体感染群は0%(0/29例)、野生型感染群は28%(26/92例)で絶対群間差は28%(95%信頼区間[CI]:14~28)だった。年齢や併存疾患について補整後、Δ382変異体感染群の酸素補充療法を要する低酸素症の発生に関するオッズは、野生型感染群と比べてより低かった(補正後オッズ比:0.07、95%CI:0.00~0.48)。(8月27日 記事の一部を修正いたしました)

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ビスホスホネートの非定形大腿骨骨折リスク、服用中止後速やかに低下/NEJM

 非定型大腿骨骨折リスクは、ビスホスホネートの使用期間とともに上昇するが、使用中止後は速やかに減少することが、米国・カリフォルニア大学サンフランシスコ校のDennis M. Black氏らによる検討の結果、示された。また、リスクはアジア人のほうが白人よりも高いことや、非定型大腿骨骨折の絶対リスクは、ビスホスホネート使用に伴う大腿骨近位部骨折およびその他の骨折リスクの減少と比べると、非常に低いままであることも明らかにされた。ビスホスホネートは、大腿骨近位部および骨粗鬆症骨折を抑制する効果がある。しかし、非定型大腿骨骨折への懸念からビスホスホネートの使用が大幅に減少しており、大腿骨近位部骨折が増加している可能性が示唆されていた。NEJM誌2020年8月20日号掲載の報告。非定型大腿骨骨折と、ビスホスホネートおよびその他リスク因子の関連を評価 研究グループは、不確実性が残っている非定型大腿骨骨折とビスホスホネートおよびその他リスク因子との関連を明らかにする検討を行った。 2007年1月1日~2017年11月30日に、カイザーパーマネンテ南カリフォルニア医療システムの会員で、ビスホスホネートを処方された50歳以上の女性を追跡評価した。 主要アウトカムは非定型大腿骨骨折で、ビスホスホネートの使用を含むリスク因子データは電子健康記録から入手。骨折についてはX線画像で判定し、多変量Coxモデルを用いて解析を行った。 ビスホスホネートのリスク-ベネフィットのプロファイルを、使用期間1~10年でモデル化し、使用に関連する非定型骨折と、使用により予防したその他の骨折を比較した。ビスホスホネートの非定型骨折リスク、アジア人は白人の4.84倍 ビスホスホネートを処方された被験者女性は総数19万6,129人で、追跡期間中に発生した非定型大腿骨骨折は277件だった。多変量補正後の非定型骨折リスクは、ビスホスホネートの使用期間が長期になるほど上昇し、3ヵ月未満と比較したハザード比(HR)は、3~5年未満の使用では8.86(95%信頼区間[CI]:2.79~28.20)、8年以上では43.51(13.70~138.15)だった。 その他のリスク因子としては、アジア人種(対白人種HR:4.84、95%CI:3.57~6.56)、身長、体重(いずれも高い・重いほど上昇)、グルココルチコイドの使用などだった。 一方で、ビスホスホネートの使用中止により、非定型骨折リスクは急速に低下することが示された。 リスク-ベネフィットについては、ビスホスホネートを1~10年使用中の骨粗鬆症骨折・大腿骨近位部骨折リスクの低下は、白人については非定型骨折リスクの上昇を大幅に上回っていた。アジア人についても、大腿骨近位部骨折などビスホスホネートの予防効果は非定型骨折リスク増加を上回っていたが、白人ほど顕著ではなかった。具体的には、ビスホスホネート使用3年後の時点で、白人では大腿骨近位部骨折が149件予防され、ビスホスホネート関連の非定型骨折の発生は2件だった。これに対してアジア人ではそれぞれ、91件と8件だった。

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第27回 ケアマネを取ってみたものの…【噂の狭研ラヂオ】

動画解説山形県最上地域に3店舗を構えるほし薬局社長 星利佳先生にインタビュー。さすがは雪深い山形県、薬局の一部はバスの待合室としても開放しているそう。ドラッグストアのポップ作りは得意だけど、ケアプランは苦手だから得意な人に任せる。自分の得手不得手を見極めて前進する彼女のやり方とは?

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ケアネットDVD サンプル動画リンク集(2020年9月版カタログ掲載)

インデックスページへ戻るケアネットDVD 新刊・おすすめのサンプル動画をご覧いただけます。(※YouTube「ケアネット公式チャンネル」にリンクします)Dr.増井の心電図ハンティングDr.皿谷の肺音聴取道場Dr.白石のLet's エコー 運動器編Dr.長尾の胸部X線ルネッサンスDr.長尾の胸部X線クイズ 初級編Dr.長尾の胸部X線クイズ 中級編Dr.長尾の胸部X線クイズ 上級編ナベちゃん先生のだれでも撮れる心エコーナベちゃん先生のだれでも読める心エコーネッティー先生のわかる!見逃さない!CT読影術Dr.徳田のすぐできるフィジカル超実技Dr.志賀のパーフェクト!基本手技一発診断Dr.大山のがんレク!すべての医療者に捧ぐがん種別薬物療法講義(上巻)Dr.大山のがんレク!すべての医療者に捧ぐがん種別薬物療法講義(下巻)Dr.飯島の在宅整形岡田正人のアレルギーLIVE肩腰膝の痛みをとるDr.究のあなたもできるトリガーポイント注射骨太!Dr.仲田のダイナミック整形外科〈上巻〉骨太!Dr.仲田のダイナミック整形外科〈下巻〉骨太!Dr.仲田のダイナミック整形外科2Dr.安部の皮膚科クイズ 初級編Dr.安部の皮膚科クイズ 中級編毎日使える 街場の血液学救急エコー最速RUSH!プライマリ・ケアの疑問 Dr.前野のスペシャリストにQ!【循環器編】プライマリ・ケアの疑問 Dr.前野のスペシャリストにQ!【呼吸器編】プライマリ・ケアの疑問 Dr.前野のスペシャリストにQ!【消化器編】プライマリ・ケアの疑問 Dr.前野のスペシャリストにQ!【神経内科編】プライマリ・ケアの疑問 Dr.前野のスペシャリストにQ!【整形外科編】プライマリ・ケアの疑問 Dr.前野のスペシャリストにQ!【精神科編】Dr.林の笑劇的救急問答15Dr.林の笑劇的救急問答15Dr.たけしの本当にスゴい高齢者身体診察Dr.たけしの本当にスゴい症候診断Dr.たけしの本当にスゴい症候診断2Dr.たけしの本当にスゴい症候診断3Dr.岡の感染症プラチナレクチャー 医療関連感染症編Dr.岡の感染症プラチナレクチャー 市中感染症編(上巻)Dr.岡の感染症プラチナレクチャー 市中感染症編(下巻)Dr.須藤のやり直し酸塩基平衡ドクター力丸の人工呼吸管理のオキテ出直し看護塾〈第1巻〉出直し看護塾〈第2巻〉Dr.野原のナルホド!接触・嚥下障害マネジメント~キュアからケアへ~すべての作品のサンプル動画はこちらからご覧いただけます。

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