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抗精神病薬と副作用―肥満、糖代謝異常、インスリン分泌に与える影響

統合失調症患者では一般と比べて平均寿命が15年短いことが報告されている。その死亡原因として最も多いのは自殺であるが、その他、統合失調症患者では陰性症状や不規則な生活習慣のために、肥満や脂質代謝異常などを有する割合が高く、それに起因した心筋梗塞などの動脈硬化性疾患の合併率が高いことが知られている。さらに、抗精神病薬の副作用として脂質代謝異常や肥満を来すこともあり、欧米の研究から、抗精神病薬服用中の統合失調症患者ではメタボリックシンドローム(MetS)の合併率が高いことも報告されている(Newcomer JW. Am J Manag Care. 2007; 13: S170-177)。第22回日本臨床精神神経薬理学会・第42回日本神経精神薬理学会合同年会の「抗精神病薬と代謝異常」のセッションのなかから、統合失調症患者の入院が体重や糖代謝に及ぼす影響、抗精神病薬がインスリン分泌に及ぼす影響、統合失調症患者におけるBMIやウエスト径とGIP遺伝子多型の関連を検討した報告を紹介する。統合失調症患者の精神科病棟入院により肥満や糖脂質代謝が改善されたわが国における横断研究によると、入院加療中の統合失調症患者のMetS有病率は15.8%と健常者と同程度であるが、外来患者ではMetSの有病率は48.1%と高いことが報告されている(Sugawara N, et al. Ann Gen Psychiatry. 2011;10:21)。さらに、わが国では欧米に比べて精神科病床数が多く、慢性期のみならず急性期でも平均在院日数が長期に及ぶという精神科医療の特徴がある。そこで三上剛明氏(新潟大学大学院医歯学総合研究科精神医学分野)らは、精神科病棟入院により、統合失調症患者の体重や糖脂質代謝に関する検査値がどのように変化するのか検討を行った。研究の対象は、2008年1月~2011年8月に急性期治療のため、新潟大学医歯学総合病院精神科に2週間以上入院した統合失調症患者160例のうち、入院時のBody Mass Index(BMI)が25kg/m2以上の53例である。これらの患者のカルテから、身長、体重、空腹時血糖、総コレステロール、中性脂肪、HDLおよびLDLなどの血液生化学検査値を抽出し、入院時と退院時の値を比較した。患者背景は、平均年齢が34.0±8.4歳、男性が27例、平均BMIが28.7±3.2kg/m2、平均在院日数が114.4±90.0日、34例が措置入院であった。BMIの値は、退院時では26.9±3.3 kg/m2となり、入院時に比べ有意(p<0.001)に減少した。BMIの変化量と入院日数には負の相関が認められた(r=0.597、p<0.001)。空腹時血糖値も入院時99.9±27.3mg/dLから退院時89.1±14.2mg/dLと有意に(p=0.039)減少した。その他、HDL(52.5±14.9mg/dLから45.4±10.4mg/dL、p=0.003)、LDL(121.6±27.4mg/dLから107.9±25.7mg/dL、p=0.027)の値も有意に減少した。肥満(BMI≧30 kg/m2)の患者は入院時の16例から退院時には10例に、過体重(25kg/m2≦BMI<30kg/m2)の患者は37例から26例に減少し、一方、標準体重の患者は入院時0例から退院時には17例に増加した。これら肥満、過体重、標準体重の患者の割合の変化は有意(p<0.001)であった。総コレステロールおよびトリグリセライドの値には有意な変化はみられなかった。これらの結果より、外来で過体重や肥満を呈していた統合失調症患者は、精神科病棟へ入院することによって体重やBMI、空腹時血糖値が改善することが示された。入院で肥満や過体重が改善に向かう理由として、三上氏は、①入院により適切なカロリーとバランスのよい食事が提供されること、②入院により清涼飲料水や間食が制限されること、③精神状態の安定に伴い過食が減ることなどを挙げた。また三上氏は、外来の統合失調症患者の治療では、精神症状の治療だけでなく、積極的な栄養指導や生活習慣の改善が必要であると指摘した。さらに、わが国の医療独特の精神疾患における長期入院は、統合失調症患者の身体的健康を守るという観点からは評価されるべきであり、近年、わが国でも脱施設化が進み、統合失調症の治療は外来治療が主体となるため、外来での患者の健康管理がより重要であるとのコメントを述べた。抗精神病薬治療がインスリン分泌に与える影響統合失調症患者で、とくに第2世代抗精神病薬と糖代謝異常との関連を指摘した報告は多く、Perez-Iglesias氏らは未治療の患者を対象として、抗精神病薬治療開始から1年で糖脂質代謝パラメータが有意に悪化することを報告している(Perez-Iglesias R, et al. Schizophr Res. 2009;107:115-121)。さらに、抗精神病薬で治療されている患者のおよそ10.1%が治療開始後わずか6週間で、糖尿病(WHO基準)を発症することも報告されている(Saddichha S, et al. Acta Psychiatr Scand. 2008; 117: 342-347)。米国糖尿病学会では空腹時血糖異常(IFG:空腹時血糖100~125mg/dL)を前糖尿病段階とし、MetSの診断基準にも採用している。また、75g経口糖負荷試験(OGTT)後の2時間血糖値140~199mg/dLを耐糖能異常(IGT)として、心血管死亡のリスクとも相関する病態として重要視している。また、抗精神病薬服用中の統合失調症患者で空腹時血糖が正常域にあっても、75gOGTT後の2時間血糖値を測定すると、16.2%がIGTであり、3.5%が糖尿病であったとの報告もある(Ono S, et al.投稿中)。須貝拓朗氏(新潟大学大学院医歯学総合研究科精神医学分野)らは、抗精神病薬を服用中の統合失調症患者に75gOGTTを実施し、血糖値および血中インスリン値の変化を健常者と比較検討した。研究方法は、新潟大学医歯学総合病院とその関連病院に入院中の統合失調症群(159例)と健常者(対照群、90例)に75gOGTTを実施した。統合失調症群では8週間以上同一の抗精神病薬単剤を服用し、少なくとも3週間は用量の変更がなかった。75gOGTTは空腹時および治療薬服用前に行い、血糖値および血中インスリン値の変化を対照群と比較した。また、IFGおよびIGTの患者を除外した集団においても同様の検討を行った。統合失調症群と対照群の患者背景は、平均年齢(34.6±9.2歳 vs. 32.8±7.1歳)、性別(男性の割合54.1% vs. 62.2%)、糖尿病の家族歴(31.4% vs. 28.9%)などに両群で差はなく、ウエスト径(82.2±11.1cm vs. 77.7±9.4cm)、総コレステロール(180.8±36.8mg/dL vs. 200.8±30.1mg/dL)、HDL(51.5±12.7mg/dL vs. 67.5±17.2mg/dL)に差が認められた。75gOGTT後120分までの血糖値と血中インスリン値の推移を比較したところ、血糖値はOGTT後1時間より統合失調症群の患者の方が有意(p=0.006)に高値を推移した。血中インスリン値でも同様にOGTT後30分より統合失調症群が有意(p<0.001)に高値となった。IFGおよびIGTを除外して検討を行っても同様の結果が保たれた。本研究の結果は、オランザピン服用群、リスペリドン服用群、および健常者群で糖負荷試験後の血糖値と血中インスリン値の推移を比較した研究(Yasui-Furukori N, et al. J Clin Psychiatry. 2009; 70: 95-100)における、オランザピンおよびリスペリドン服用群で、血糖値と血中インスリン値が健常群と比べ高値を推移したという結果とも一致していた。以上の結果から、須貝氏は「統合失調症に対する抗精神病薬治療は、インスリン抵抗性につながるインスリン分泌反応に影響している可能性が示唆された」と述べた。また、膵β細胞機能には人種差があり、抗精神病薬が耐糖能異常に及ぼす影響については、今後、同一個体を用い、プロスペクティブに検討する必要があると述べた。抗精神病薬服用中の統合失調症患者におけるBMI、ウエスト周囲径とGIP遺伝子多型との関連統合失調症の治療に用いる非定型抗精神病薬は体重増加や糖代謝異常を来し、とくにオランザピンやクロザピンはそのリスクが高いことが知られている。また、最近の大規模なゲノムワイド関連解析(GWAS)により、糖尿病や肥満と関連した遺伝子が同定され、福井直樹氏(新潟大学大学院医歯学総合研究科精神医学分野)らはこれらの遺伝子のなかからglucose-dependent insulinotropic polypeptide(GIP)遺伝子多型に注目し、抗精神病薬誘発性の糖代謝異常や体重増加との関連について検討している。GIPは消化管ホルモンのひとつで、食物刺激により小腸より分泌され、膵β細胞のGIP受容体(GIPR)を介して血糖依存性にインスリン分泌を促進するほか、脂肪細胞の受容体にも作用し体重増加をもたらすとされている。福井氏らは、オランザピンを服用している統合失調症患者でGIP遺伝子多型があると、糖負荷試験後の血中インスリン値が有意に高くなること(Ono S, et al. Pharmacogenomics J. 2011 July 12 [Epub ahead of print])や、BMIの増加率が大きいことを報告している。こうした背景に基づいて、今回福井氏らは、抗精神病薬服用中の統合失調症患者群と健常者群において、BMIやウエスト径、糖代謝関連因子と、GIP遺伝子のプロモーター領域に位置する-1920G/A多型との関連について検討を行った。抗精神病薬で治療中の統合失調症患者147例と健常者152例を対象とし、GIP遺伝子-1920G/Aの多型を同定し、Gアリルを有するGG+GA群とAアリルを有するAA群の2群に分け、BMIやウエスト径、空腹時血糖値、HbA1c、インスリン抵抗性指数(HOMA-IR)を比較検討した。統合失調症患者群では、102例が単剤を服用しており、主な薬剤はオランザピン(52例)、リスペリドン(41例)、ペロスピロン(16例)、クエチアピン(11例)、アリピプラゾール(10例)であった。統合失調症群においてGG+GA群とAA群を比較したところ、AA群ではBMI(24.2±4.2 vs. 22.2±3.7、p=0.004)およびウエスト径(85.0±12.0 vs. 80.2±10.7、p=0.012)が有意に大きかったが、健常者群では2群間でBMIやウエスト径に有意差はみられなかった。ウエスト径は統合失調症のAA群で最も大きく、次いで統合失調症群のGG+GA群、健常者群であった。福井氏はこれらの結果から、「抗精神病薬を服用中の統合失調症患者において、GIP遺伝子-1920G/A多型のうち、AA遺伝子型を有する患者ではGアリルを有する患者に比べて体重増加を来しやすいことが示唆された」と結論を述べた。健常者ではこのような関連は認められず、肥満という表現型でみた場合、GIP遺伝子多型と抗精神病薬の内服または統合失調症の罹患との間に交互作用がある可能性を指摘した。関連リンク

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抗うつ効果の予測と最適な薬剤選択

うつ病治療において抗うつ薬は不可欠であるが、治療開始後1ヵ月以内に副作用や薬剤が効かないなどの理由で、うつ薬の服用を中断し自殺のリスクが高まることが報告されている。抗うつ薬治療を成功させるには、抗うつ効果の予測のみならず、副作用の予測も重要である。第22回日本臨床精神神経薬理学会・第42回日本神経精神薬理学会合同年会の「抗うつ効果の予測と最適な薬剤選択」と題したシンポジウムでは、治療効果の予測因子や副作用を予測する方法に関する最新の研究成果が紹介された。早期反応と副作用認識の観点からみた抗うつ薬の効果反応予測渡邊衡一郎氏(杏林大学医学部精神神経科学)は抗うつ薬の効果の予測として、薬剤への早期反応と副作用認識に着目した研究を紹介した。初期治療に反応しなかった大うつ病患者を対象とした米国のSTAR*D研究において、2,874例のシタロプラム服用患者を14週間追跡した結果から、これらの患者の症状が2週間で大きく改善し、早期に中核症状の改善が認められた患者では予後が良好であることが示された。そこで渡邊氏は、大うつ病患者(132例)を対象として、適切は用量の抗うつ薬(セルトラリン)を2週間投与し、MADRS改善度が20%以上の早期反応者にはセルトラリン内服を継続し、一方、MADRS改善度が20%未満の患者(早期非反応者)に対して、セルトラリンを継続する群とパロキセチンに変更する群にランダムに割り付けた研究を行った。その結果、治療薬変更群の方は継続群に比べて8週時の寛解とMADRS改善度が有意(p=0.007およびp=0.003)に高いことが示された。この結果に基づき、鈴木氏は「早期に反応しない患者では、次の治療に変更した方は予後が良好であり、早期に治療に反応するか否かはアウトカムの予測に役立つ」と述べた。次いで渡邊氏は、副作用認識に着目した効果予測の研究について紹介した。医師と患者の副作用に対する認識には差があり、医師よりも患者で約4倍も治療に関連した副作用だとみなすことが多いという研究結果がある。渡邊氏らは、治療歴のない大うつ病の初診患者493例を対象としプロスペクティブなコホート調査を行った(Kikuchi T, et al. J affect Disord 2011; 135: 347-353)。初診時と2回目の受診時に、副作用の可能性があるイベントや症状悪化について、これを副作用とみなすかどうか調査を行い、患者が薬剤によらないと評価している場合を「副作用を過小評価する群」とし、また患者が薬剤によると評価した場合を「副作用を過小評価しない群」として早期反応との関係を調べた。どちらの群もベースラインの簡易抑うつ症状尺度(QIDS)は13.8および13.2と差はなかったが、「副作用を過小評価する群」では約9.6日後の評価はQIDS 12.0(早期改善率11.1%)に対して、「副作用を過小評価しない群」ではQIDS 9.5(早期改善率27.1%)であった。また、過小評価している副作用の数とQIDS改善率の間には負の相関があった(r= -0.30、p<0.001)。これらの結果から渡邊氏は、「新たに生じた副作用を過小評価する人々は治りにくい可能性があり、有害事象に対して自己関連付けをしてしまう人ではうつが治りにくく、QOLも悪い」と述べた。抗うつ薬の早期反応予測は簡単な方法で可能になると思われるが、それには症状や副作用の評価尺度の確立が不可欠となる。抗精神病薬の副作用予測鈴木雄太郎氏(新潟大学大学院医歯学総合研究科精神医学分野)は遺伝子多型情報に基づいた副作用予測の試みについて解説した。精神疾患の遺伝子研究は疾患関連遺伝子や臨床効果の予測に関するものが多く、副作用予測の観点から遺伝子多型を探索した研究は少ない。しかし、副作用はその生物学的発症機序が推定でき、その程度を定量的に数値化できるために少量のサンプルで解析できるという利点がある。その一方で、副作用はさまざまな表現型をとるため、その表現型に関する幅広く詳細な理解が必要となる。鈴木氏は、近年注目されている抗精神病薬と心電図上のQT延長の副作用予測について、“Deep phenotyping”(Tracy RP. Curr Opin Lipidol. 2008; 19: 151-157)というシステム生物学の技法を用いた研究成果を紹介した。QT延長は、心室性不整脈やTorsades de Pointes(TdP)のリスクを増大させ、心臓突然死を引き起こす。近年、抗精神病薬や抗うつ薬の使用と心臓突然死や不整脈との関連が調べられ、抗うつ薬が心臓突然死と関連することが報告されている(Weeke P, et al. Clin Pharmacol Ther. 2012; 92:72-79)。これら心臓突然死を惹起させる原因として、抗うつ薬にQT延長リスクがあるのか検討が行われた結果、ノルトリプチリンやアミトリプチリン、クロミプラミンなどの三環系抗うつ薬にはQT延長作用があることが明らかになった。SSRIではシタロプラムやエスシタロプラムで症例報告がみられ、シタロプラムのスウェーデンにおける市販後調査ではTdP発症の10%がQT延長と関連していたという。エスシタロプラムではQT延長のある患者への投与は禁忌とされ、エスシタロプラムの開発過程においては、5~10msのわずかなQTの変化を代替マーカーとしてTdP発症を予測するThorough QT試験が行われたことを鈴木氏は紹介した。鈴木氏はさらに、ゲノムワイド関連解析(GWAS)で同定されたQT延長に関連した遺伝子が抗精神病薬服用中の統合失調症患者のQT間隔に及ぼす影響を検討した、自身のグループの研究を紹介した。QT延長関連遺伝子の一塩基多型(SNP)は、欧米で実施された5つのコホート研究の15,842例を対象にGWASを行って同定された候補遺伝子のなかから、日本人でマイナーアレル頻度の高い8つのSNPについて解析を行った。対象患者109例(女性52例、男性57例)のうち、87例が単剤で治療され、薬剤の内訳はオランザピン46例、リスペリドン32例、クエチアピン14例、レボメプロマジン12例、アリピプラゾール8例などであった。8つのSNPにおいて24時間平均QTcF、夜間平均QTcF、最大QTcFに及ぼす遺伝子型、年齢、性別、抗精神病薬の用量など各変数の影響を重回帰分析で解析したところ、QT延長の副作用と相関するSNPが同定された。以上の講演をまとめて、鈴木氏は、今後副作用に焦点をあてたpharmacogenetics研究が盛んになることが期待され、「一つの副作用でも多彩な表現型をとるため、Deep phenotypingを行うことで大量解析をせずに予測因子を同定できる可能性がある」と語った。その他、三原一雄氏(琉球大学大学院医学研究科精神病態医学)は、循環気質や発揚気質、抑うつ気質、焦燥気質、不安気質などの気質が治療に対する反応や予後に及ぼす影響に関する治験を紹介した。加藤正樹氏(関西医科大学精神神経学)は、個別化医療を目指した遺伝子や生物学的マーカーの検索の最前線を紹介した。関連リンク

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精神科薬物治療の身体リスクを考える

司会染矢俊幸氏(新潟大学大学院医歯学総合研究科精神医学分野)森隆夫氏(日本精神科病院協会 愛精会あいせい紀年病院)演者鈴木雄太郎氏(新潟大学大学院医歯学総合研究科精神医学分野)菅原典夫氏(弘前大学大学院神経精神医学講座)須貝拓朗氏(新潟大学大学院医歯学総合研究科精神医学分野)稲村雪子氏(新潟医療福祉大学健康栄養学科)松田公子氏(静和会浅井病院薬剤部)古郡規雄氏(弘前大学大学院医学研究科神経精神医学講座) 2011年より、日本臨床精神神経薬理学会と日本精神科病院協会との合同プロジェクト「精神科薬物治療の身体リスクを考える―統合失調症患者さんの命と健康を守るために」が開始され、日本における統合失調症患者の肥満やメタボリックシンドローム(MetS)の実態、患者や医療者の意識を調査する研究が行われている。第22回日本臨床精神神経薬理学会・第42回日本神経精神薬理学会合同年会のシンポジウム「精神科薬物治療の身体リスクを考える」において、本プロジェクトの意義や調査結果、今後の介入試験などについて紹介された。人種差や精神科医療の違い、第2世代薬の臨床導入の差を考慮した調査が必要鈴木雄太郎氏(新潟大学大学院医歯学総合研究科精神医学分野)はまず、抗精神病薬による糖脂質代謝関連の副作用について、これまでの知見をまとめ、本プロジェクトの意義を紹介した。一般人口の平均寿命76歳と比較して、統合失調症患者では61歳と15年も寿命が短く、その死亡原因は自殺(10%)のほか、虚血性心疾患が50~75%を占める(Hennekens CH, et al. Am Heart J. 2005; 150: 1115-1121)。また、ハロペリドールやチオリダジンなどの定型抗精神病薬服用により心臓突然死のリスクは1.99倍に、クロザピンやオランザピン、クエチアピンをはじめとする非定型抗精神病薬服用では2.26倍に高まることが報告されている(Ray WA, et al. N Engl J Med. 2009; 360: 225-235)。その理由として、とくにオランザピンやクエチアピン、リスペリドンなどの第2世代薬は体重増加をもたらし(Casey DE, et al. Am J Med. 2005; 118 Suppl 2: 15S-22S)、肥満やMetSの合併が心血管疾患による死亡リスクを上昇させている可能性がある。一方、Body Mass Index(BMI)と死亡リスクの関係は、欧米ではBMIが25以上ではBMIの増加とともに死亡リスクも上昇するが、日本や韓国、中国などのアジア諸国ではBMI 27.6の時に死亡リスクが最低となるU字型を呈する。また、日本人の膵β細胞機能は欧米人に比べて脆弱であり、糖尿病患者のBMIも日本人では欧米人よりも低い。こうした人種差を考慮した日本人患者の詳細なデータはまだない。鈴木氏は日本の精神科医療の特徴にも言及した。日本では統合失調症や妄想性障害患者の入院の平均在院日数が543.4日と、欧米に比べてはるかに長期にわたる。こうした精神科病棟入院患者と外来患者との身体リスクの比較も重要な課題である。さらに、日本と欧米の抗精神病薬の使い方にも差がある。日本では欧米に比べて単剤治療よりも多剤併用が多く、多剤併用が身体リスクに及ぼす影響の検証が必要である。また、日本では第2世代薬の臨床導入が遅れ、今後これらの薬剤の副作用が身体リスクや死亡リスクに及ぼす影響を検証することが課題となっている。そこで、統合失調症の日本人患者の身体リスクに関する詳細なデータを得て、これらの課題に回答を得ることを目的に本プロジェクトが開始された。患者の身体リスクに対して精神科医はどう認識しているのか抗精神病薬の身体リスクに及ぼす影響について、診療にあたる精神科医はどのように認識し治療しているのか、菅原典夫氏(弘前大学大学院神経精神医学講座)は、2012年3月~5月に実施した「統合失調症患者の抗精神病薬治療と身体リスクに関するモニタリング調査」の結果を報告した。本調査は、日本精神科病院協会の会員病院に勤務する精神科医師を対象とした無記名式のアンケート調査である。有効回答数は2,583名(男性2,039名、女性544名)であり、平均年齢48.8歳、平均病院勤続年数10.0年、平均精神科経験年数19.2年であった。どのくらいの医師が抗精神病薬のMetSリスクに不安を感じているのかを問う、「血糖値上昇リスクのある薬剤の処方に不安があるか」との質問に85.2%が「不安がある」と答えた。「不安がない」という14.8%の医師にその理由を尋ねたところ(複数回答可)、「体重管理や栄養指導を行っているから」が52.8%、「血糖値の異常を来した例を経験していない」が21.5%、「定期的なモニタリングを実施しているから」が13.1%などの回答であった。体重測定の実態を調べるため「どのような患者で体重を測定しているのか」との質問に対して、「血糖値上昇や体重増加リスクのある薬剤を服用している患者」が25.3%、「すべての患者」が24.4%、「定期的ではなく、気がついたときだけ測定している」が21.0%、「BMIの大きい患者」が16.8%、「糖尿病の合併や家族歴のある高リスクの患者」11.1%、「全く体重測定をしていない」は1.3%であった。体重測定をしている医師にその頻度を尋ねたところ、入院では月1回(76.3%)が最も多く、週1回(17.8%)、半年に1回(5.2%)、年に1回(0.7%)であった。外来では受診毎(29.1%)、最低3ヵ月に1回(24.6%)、最低半年に1回(24.4%)、最低年に1回(21.9%)の順であった。体重以外で定期的にモニタリングしている検査について調べたところ、空腹時血糖値77.9%、血清脂質70.0%、血圧61.5%、食生活(食事内容、食欲)58.2%、HbA1c 56.5%、清涼飲料水などの多飲40.5%、心電図37.6%、ウエスト径4.5%などであった。これらのモニタリングの頻度の根拠を聞いたところ、「自分自身の経験に基づいて」が47.6%、「とくに根拠はなく、何となく決めている」が18.9%、「ガイドラインを参考にして」が14.5%、「専門医の意見を参考として」が10.1%、「とくに決まりはない」が8.9%であった。「これらの体重測定や血液生化学検査のモニタリングは、身体リスクを減少させるために適切な頻度だと思うか」との質問に対しては、「適切だと思うが、あまり自信がない」が最も多く54.2%、「適切がどうか分からない」が25.2%、「適切であり、十分だと考える」が20.6%であった。患者へのインフォームド・コンセントの状況を調べるために、「血糖値上昇リスクのある薬剤を処方する際にそれについて説明を行いますか」との質問には、「口頭にて質問を行っている」が69.7%、「高リスクの患者には説明している」が24.1%、「説明していない」が4.9%、「書面にて説明している」が1.2%の回答だった。菅原氏はこれらの結果をまとめて、「血糖値上昇リスクのある抗精神病薬の処方に関して80%以上の医師が不安を認識している実態が浮かびあがった」と述べた。不安がないと回答した医師の過半数は、体重管理や栄養指導またはモニタリングを行っているからとしているが、多くの医師がそれらのモニタリング頻度について自信がないと回答しており、日本の医療実態に即した管理方法について検討する必要があると指摘した。外来の統合失調症患者が抱える身体リスクの現状須貝拓朗氏(新潟大学大学院医歯学総合研究科精神医学分野)は、外来通院中の統合失調症患者を対象として、患者の意識と身体リスクの実態を調べるために行った無記名式アンケート調査の結果を報告した。日本精神科病院協会加盟の523施設より8,310件の回答が得られた。平均年齢は46.8±14.7歳であり、服用中の抗精神病薬は単剤が50.0%、2剤が25.4%、3剤以上が8.2%であった。主要な薬剤は、リスペリドン(2,455名)、オランザピン(1,515名)、アリピプラゾール(919名)、クエチアピン(739名)、ブロナンセリン(504名)、ペロスピロン(403名)、パリペリドン(273名)、そして定型抗精神病薬(2,907名)であった。MetS関連パラメータの分布状況は、BMI 25以上が48.0%、ウエスト径85cm以上(男性)が68.0%、中性脂肪150mg/dL以上が32.9%、HDLコレステロール40mg/dL未満が22.3%、LDLコレステロール140mg/dL以上が37.2%、収縮期血圧130mmHg以上が44.1%、拡張期血圧85mmHg以上が29.1%、空腹時血糖値110mg/dL以上が44.8%であった。これらの検査値を日本のMetS診断基準にあてはめると24.9%がMetSとなった。また、アジア人向けのNCEP-ATP III基準では29.8%がMetSと診断された。単剤と多剤併用でMetSの有病率を比較したところ差はみられなかった。薬剤毎のMetSの有病率においても有意な差はなかった。BMI毎のMetSの有病率の比較では、標準体重(18.5≦BMI<25.0)でもJASSO基準では9.7%、NCEP-ATP III基準では15.5%がMetSであった。アンケートによる患者意識調査では、43.7%の患者が「最近1年間で体重が増えたと思う」と回答した。現在通院している病院での体重測定の頻度は、受診毎が24.2%、3ヵ月に1回が16.0%、半年に1回が5.7%、1年に1回が8.9%、体重測定をしたことがないのは31.1%であった。血液検査の頻度は、受診毎が6.3%、3ヵ月に1回が23.6%、半年に1回が21.3%、1年に1回が21.4%、血液検査をしたことがないのは14.5%であった。「メタボ」という言葉を知っていると答えた患者は68.0%、BMIを知っていたのは20.7%であった。また、定期的な血液検査を希望すると答えた患者は55.5%、定期的に体重測定を希望するとした患者は57.3%であった。以上のアンケート調査の結果から、須貝氏は「日本人の外来通院統合失調症患者におけるMetS有病率は一般人口よりは高いが、これまでの欧米の疫学研究の結果に比べて低い値であった。単剤・併用療法、または薬剤によるMetSの有病率には差はなかった」と述べた。また、患者の意識調査から6割近い患者が定期的な体重測定や血液検査を希望していることを指摘した。今後は精神科病棟入院患者についても同様なアンケート調査を実施し、外来患者の結果と比較する予定である。栄養士と薬剤師の立場からみた統合失調症患者の健康問題稲村雪子氏(新潟医療福祉大学健康栄養学科)は栄養士の立場より、退院後および外来通院の統合失調症患者の食生活の実態調査を行い、「間食」が肥満をもたらす大きな要因であることを明らかにし、肥満防止には間食に焦点をあてた教育が必要であると述べた。また、稲村氏は2010年7月~12月に全国の統合失調症の入院患者15,171名を対象として、低体重(BMI<18.5)、標準体重(18.5≦BMI<25)、肥満(BMI≧25)の分布を調べる大規模調査を行った。その結果、各BMIの分布状況は、それぞれ20.2%、58.2%、21.6%であった。先行する研究と比べて、肥満の割合が低く、低体重が多いという結果であったと報告した。松田公子氏(静和会浅井病院薬剤部)は、抗精神病薬の薬理学的作用機序の違いによる副作用プロファイルの差について紹介し、体重増加や耐糖能異常からMetSをひき起こすのはH1受容体遮断が関与しているものと思われる。また松田氏は、こうした副作用に対してチーム医療で対応し、精神疾患に対して糖尿病療養指導士が介入することによりHbA1cの低下に効果があったことを紹介した。その他、精神科慢性期病棟における抗精神病薬の減量や単剤化への取り組みなどについても紹介した。統合失調症患者のMetSをいかに予防するか古郡規雄氏(弘前大学大学院医学研究科神経精神医学講座)は、抗精神病薬治療の身体リスクに関する合同プロジェクト委員会にて取り組む介入試験について紹介した。本試験は、統合失調症患者のMetS予防に関する研究であり、来年4月頃より開始を予定している。BMI≧25以上の外来統合失調症患者を対象として、①無介入群(現状維持)、②低介入群(体重測定)、③高介入群(食事・運動療法)の3群にランダム化割り付けを行い、1年間追跡するものである。主要評価項目はMetS有病率および体重の変化であり、副次評価項目は血圧、血糖値、血清脂質の改善などである。日本の医療に則した介入を評価するうえで、その結果が期待される。関連リンク

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双極スペクトラムの現況:診断と治療

ここ数年来、双極スペクトラムという言葉が広まっているが、一方で過剰診断などの問題も指摘されている。第22回日本臨床精神神経薬理学会・第42回日本神経精神薬理学会合同年会では、双極スペクトラムの現況についてその最前線をレビューするシンポジウムが寺尾岳氏(大分大学医学部精神神経医学講座)の司会で開催された。双極スペクトラムの概念と診断井上猛氏(北海道大学大学院医学研究科精神医学分野)は双極スペクトラムの概念とその診断についてレビューを行った。単極性うつ病と双極性障害を区別するようになったのは、1980年のDMS-III以降である。しかし、①大うつ病エピソードを有する患者の約10%が双極性障害であること、②双極性障害の約2/3が大うつ病エピソードで発症すること、③双極性障害と大うつ病におけるうつ病症状はほぼ同じであり、症状から見分けることが困難であるなどの理由から、単極性うつ病と双極性障害の鑑別は難しい。GoodwinとGhaemiが2000年に提唱した感情スペクトラムは、大うつ病エピソードと双極Ⅰ型障害を両極に据えた概念であり、反復性うつ病と双極Ⅱ型障害の間の一群を「双極スペクトラム障害」としてカテゴリー化し、「従来の診断基準を満たす明確な躁病/軽躁病エピソードは認めないがbipolarityを有する気分障害」と定義した。さらに2007年に、GoodwinとJamisonは大うつ病と双極性障害の間のスペクトラムと、感情障害と気質の間の重症度スペクトラムの二次元で成り立っているとの概念を示した。双極スペクトラム障害(BSD)の診断に関しては、2001年にGhaemiらが診断基準を示している(Ghaemi SN, et al. J Psychiatr Pract. 2001; 7: 287-297)。それに対しKiejnaらが2006年に、単極性大うつ病とBSDでみられる症状について、BSDでオッズ比が高いものを検証した。2000年~2007年に北海道大学病院精神神経科を外来受診した気分障害患者について、最長7年まで経過を観察し最終診断を調査した。その結果、単極性うつ病の5.5%は双極性障害に、4.9%はBSDに変更となり、BSDの25%は双極性障害に変更となり、75%はBSDのままであった。井上氏は、BSDの一部は潜在性双極性障害であり、一部は単極性うつ病と双極性障害の中間型ではないかとの見解を示した。混合性うつ病(Benazzi F. Lancet. 2007; 369: 935-945)は、双極性障害に多く、また双極性障害の家族歴をもつ者が多い。双極性障害に移行する大うつ病でも多くみられ、抗うつ薬で躁転や悪化しやすいという特徴がある。気質の評価ではTEMPS-A気質評価質問紙が用いられているが、質問項目が110項目に及ぶため、井上氏らはTEMPS-Aの質問項目を39にしぼった短縮版を作成した。この短縮版について、北海道大学病院を初診したうつ病患者で気分障害に分類された患者を対象としてプロスペクティブな検証を行っている。井上氏は最後に講演をまとめて、双極スペクトラムの臨床的意義として、大うつ病の診断の際には常に双極性障害を疑い、閾値下の軽躁や躁症状について積極的に問診し診断すること。また、診断の際には、双極性障害の家族歴や反復性、若年発症、抗うつ薬による躁転やリチウムへの反応性、および難治性が手掛かりとなることを述べた。今後の研究の展望として、大うつ病と双極性障害の中間型あるいは移行型に対する診断と治療に対する研究の推進、双極性障害における気質の病因的意義や気質の要因を探ること、治療への応用などを挙げた。双極スペクトラムの生物学的基盤気質には生物学的基盤が存在し、双極性障害を誘発することが示唆されているが、循環気質や発揚気質について検討した報告は少ない。帆秋伸彦氏(大分大学医学部精神神経医学講座)らは、発揚気質と光照射との関連について検討を行った。まず、56名の健常者を対象としてアクチグラムを用いて光曝露量を測定し、気質との関連を検討したところ、高揚気質のスコアが高いほど光曝露量が多く、睡眠時間の変動が大きく、中枢セロトニン機能が低くなることが示された(Hoaki N, et al. Psychopharmacology(Berl). 2011; 213: 633-638)。一方、循環気質の健常者では光曝露量は少なく、光を浴びないと気分変動が大きくなる可能性が示唆された(Araki Y, et al. J Affect Disord. 2012; 136: 740-742)。すなわち、発揚気質者では光をよく浴びていることが示されたが、光を浴びていると発揚気質が増強されるのか、あるいは発揚気質者が光を求める向日性を有するのかは明らかではなかった。そこで帆秋氏らは、照度と気質に注目した北海道大学との共同研究で、緯度の異なる大分県と北海道の大学生を対象とし、年齢や性別をマッチさせて気象条件や日照時間の差を考慮した検討を行った。その結果、重回帰分析にて発揚気質のみが大分県と北海道の差を有意に反映し、日照時間が長く光を多く浴びることで発揚気質が増強される可能性が示唆された(Kohno K, et al. J Affect Disord. 2012 Jul 27. [Epub ahead of print])。さらに、発揚気質者では光を好み向日性があるのか検討するために、「発揚気質者では明暗の弁別閾が異なり暗さをよく感じるために光を求める」との仮説をたて、fMRI(functional MRI)で明暗課題の実験を行った。この実験は、健常者35名を対象とし、明るさを11段階に分けたスライドをランダムに提示し、明るいと感じるか(明課題)、逆に暗いと感じるか(暗課題)ボタンを押して答えさせるものである。その結果、発揚気質者と他の者では明暗の弁別閾に有意差はなく、本仮説は否定された。次いで帆秋氏らは嗜好性に着目し、「発揚気質者では明るさを好み暗さを嫌う」との仮説をたて、同様に明るさを11段階に分けたスライドを提示して、好課題と嫌課題の実験を行った。その結果、非発揚気質者では暗いスライドに好きと回答する割合が高く、発揚気質者では暗いスライドに嫌いと回答する割合が高くなり、嗜好性の差とする本仮説は指示された。また、fMRIの解析から発揚気質者では明るさの嗜好性に関連する脳の左楔前部の賦活が他の者より有意に大きいことが明らかにされた(Hoakiら投稿中)。以上の結果から、光を浴びることで発揚気質が増強され、また発揚気質者では明るさを好み暗さを嫌うためにより多くの光を浴びることが示唆された。さらに、発揚気質と左楔前部の賦活の関連が示された。左楔前部は双極性障害の認知課題でその活動性の低下が報告されており、今回の結果は発揚気質と双極性障害との関連を示すものでもあると帆秋氏は述べた。これまでTCI(Temperament and Character Inventory)で分類された気質とPET脳画像との関連についてはいくつかの報告があるが、TEMPS-Aの気質とPET画像との報告はまだない。帆秋氏らは33名の健常者(男性19名、女性14名、平均年齢31.0±8.7歳)を対象として、高照度光照射装置による光照射群と光照射を行わない対照群に無作為に割り付け、5日間の光照射の後にFDG-PET撮像を行い、気質と光照射が脳機能に及ぼす影響を検討した。対象者の気質は、抑うつ気質9名、循環気質10名、発揚気質15名、焦燥気質10名、不安気質2名(重複あり)であった。その結果、男性の照射・焦燥気質群と男性の照射・非焦燥気質群において糖代謝の高い脳部位が認められ、気質が光照射と関連して脳機能に影響する可能性が示された(Kohnoら投稿中)。帆秋氏は最後に、双極性障害から双極スペクトラム、単極性うつ病まで、診断では連続しているのにその治療が異なることに対して、「変曲点」が存在するのではないかという仮説を紹介して講演を終えた。関連リンク

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精神疾患の治療開発-今、見逃せない新たな取り組み

「精神疾患の治療開発」のスタディ・グループでは、従来のパラダイムにとらわれず新しい発想で効果的な精神疾患の治療開発を目指している。第22回日本臨床精神神経薬理学会・第42回日本神経精神薬理学会合同年会にて、橋本恵理氏(札幌医科大学医学部神経精神医学講座)の司会のもと、4名が新しい精神疾患の治療の取り組みについて紹介した。PAK阻害薬によるグルタミン酸シグナルの阻害林(高木)朗子氏(東京大学大学院医学系研究科疾患生命工学センター構造生理学部門)は、グルタミン酸シグナルの阻害によるシナプス保護の観点から新薬開発の可能性を紹介した。大脳皮質の70%のシナプスが樹状突起棘(スパイン)であり、そのほとんどがグルタミン酸作動性シナプスである。死後脳の剖検から、統合失調症患者では背外側前頭前野や聴覚野、海馬台ではスパイン密度が減少しており、また多くの統合失調症関連遺伝子がグルタミン酸作動性シナプスに局在していることが報告されている。記憶や認知、適応をもたらす細胞基盤はシナプスの可塑性であり、シナプスの機能はその形態と著しく相関しているため、形態(サイズ)から機能を評価することができる。林氏らはDISC1遺伝子をノックアウトすることによりスパインサイズが減少し、NMDA受容体によるRac1/PAK1シグナル伝達経路が過剰に活性化されることを明らかにした(Hayashi-Takagi A, et al. Nat Neurosci. 2010; 13: 327-332)。次いで林氏らは、PAK阻害薬のスパインに対する効果を検討したところ、PAK阻害薬はDISCノックダウンによるスパイン消滅を予防し、スパインサイズを回復することが示された(Hayashi-Takagi A投稿中)。さらに、PAK阻害薬の他の機能に及ぼす影響についても検討を進めている。また、統合失調症患者では発症前後で前頭野皮質が強い収縮を示し(Sun D, et al. Schizophr Res. 2009; 108: 85-92)、疾患の進行過程でグルタミン酸レベルが低下することが知られている(Theberge J, et al. Br J Psychiatry. 2007;191:325-334)。林氏は最後に、マウスで脳のスパインの形態変化を顕微鏡下で直接観察するというin vivoスパインイメージングの動物モデルの開発について紹介した。精神疾患の炎症モデルからみたミノサイクリンの治療への応用統合失調症患者では炎症性サイトカインの亢進が認められ、神経炎症機序が関与していることが指摘されている(Meyer U. Prog Neuropsychopharmacol Biol Psychiatry. 2011 Nov 15, Epub)。また、中枢神経系の炎症の機序にはミクログリアが深く関わり、発症から5年以内の統合失調症患者ではミクログリア活性化が認められる(van Berckel BN, Biol Psychiatry. 2008;64:820-822)。橋本謙二氏(千葉大学社会精神保健教育研究センター病態解析研究部門)は、第二世代抗生物質製剤であるミノサイクリンが、ミクログリアの活性化を強力に抑制することに着目し、統合失調症治療への応用について紹介した。統合失調症のマウスモデルでミノサイクリンの効果を検討したところ、ジソシルピンにより惹起されるプレパルスインヒビション(PPI)の障害や、フェンサイクリジンによる統合失調症様の認知機能障害を抑制することが示された。さらに橋本氏は、ミノサイクリンが脳神経にアミロイドβ蛋白を蓄積させるγセクレターゼの活性をコントロールする5-リポキシゲナーゼを阻害し、アルツハイマー型認知症の発症を抑制する可能性にも言及した(Hashimoto K. Ann Neurol. 2011; 69: 739)。カルボニルストレスの代謝制御による統合失調症の治療酸化ストレスが加わるとカルボニル化合物であるメチルグリオキサール(MG)が生成し、このMGを消去するために、グリオキシラーゼ(GLO)解毒回路が働く。この解毒回路にもれたMGはメイラード反応によって終末糖化産物(AGEs)となる。AGEsはビタミンB6(カルボニル・スカベンジャー)により補足されて分解される。AGEsが体内に蓄積する状態をカルボニルストレスといい、動脈硬化の進展や糖尿病合併症との関連で着目されていたが、糸川昌成氏(東京都医学総合研究所精神行動医学研究分野)らは、この病態を標的とした統合失調症の新しい治療の可能性を紹介した。糸川氏らは、統合失調症患者で解毒酵素のGOL1にフレームシフト変異を発見し、その患者ではAGEsの蓄積と、それに伴うビタミンB6の枯渇が認められたことから、統合失調症患者のなかで、AGEs蓄積と関連した「カルボニルストレス性統合失調症」の存在を明らかにした(Arai M, et al. Arch Gen Psychiatry. 2010; 67: 589-597)。AGEsの蓄積は統合失調症のリスクを25倍上昇させ、ビタミンB6欠乏は10倍リスクを上昇させることが示されている。さらに、AGEs蓄積は統合失調症の重症度とも相関していた。そこで糸川氏らは、治療により症状が改善した統合失調症患者ではAGEsも低下すると推測して検討したところ、外来患者では入院患者に比べてAGEsが有意に低く、AGEsの低下が退院につながることがわかった。さらに糸川氏らは、ビタミンB6欠乏のあるカルボニルストレス性統合失調症患者にビタミンB6を補充することにより症状の改善が得られないか検討を重ねている。ビタミンB6はピリドキサミン、ピリドキサール、ピリドキシンの3種類の化学物質の混合体であり、このうちAGEs解毒作用を有するのはピリドキサミンのみである。糸川氏らはまず、健常者24名を対象に第I相試験を行ったところ、ピリドキサミン1,800mg/日の投与量で有効血中濃度に達し、有害事象は認めなかった。この成績に基づいて、統合失調症患者を対象とした医師主導第II相試験が進行中である。GLO1遺伝子にフレームシフトをもつ患者では発症前からAGEsが高い可能性があり、糸川氏らはそのような患者には発症前からピリドキサミンを投与してAGEs蓄積を抑制するという、統合失調症の発症予防を視野にいれた治療法も検討中である。神経幹細胞移植を用いた再生医療的アプローチの可能性鵜飼渉氏(札幌医科大学医学部神経精神医学講座)は、治療抵抗性または難治性の統合失調症うつ病、胎児性アルコール・スペクトラム障害(FASD)などの治療として、神経幹細胞を経静脈的に投与する再生医療的な取り組みを紹介した。実験方法は、妊娠期のマウスにPoly(I:C)(TLR3リガンド)を投与して生まれた統合失調症のモデルマウスを用い、生後1ヶ月時に神経幹細胞を経静脈的に投与し、6ヵ月時にその行動の評価および脳の剖検を行った。その結果、神経幹細胞移植群では、新奇オブジェクトの探索時間を有意に延長し、記憶学習や認知機能の障害が抑制された。また、社会性の評価において神経幹細胞移植群では能動的な社会的行動の減少が抑制されることも示された。一方、FASDモデルラットでは神経幹細胞移植により、強制水泳試験における無動時間の延長を抑制して、うつ状態の改善にも効果がみられた。札幌医科大学ではすでに、12名(男性9名、女性3名)の脳梗塞患者を対象として自己骨髄間葉系幹細胞を静脈内投与する治療が試みられており、移植をきっかけに脳卒中スコアが改善し回復スピードが加速することや、MRIで脳梗塞病変の縮小が確認されている(Honmou O, et al. Brain. 2011; 134: 1790-1807)。鵜飼氏らは、治療抵抗性難治性うつ病患者を対象とした本治療法の精神疾患への臨床応用を検討している。神経幹細胞移植のメカニズムとして、短期的にはサイトカインを介した神経栄養因子増強作用や抗炎症作用、血管新生作用が考えられ、また長期的には神経新生の増加がもたらされるとしている。鵜飼氏らは、細胞電気生理学的解析やシナプス機能・構造学的解析、オプトジェネティクス解析など最先端の手法を用いて、神経幹細胞移植の効果について解析を進めている。関連リンク

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うつ病の既往歴がある患者に対する禁煙治療は難しい?!

 大うつ病の既往は、禁煙治療中あるいは治療後の禁煙継続に悪影響を及ぼすことが報告された。米国・ノースウェスタン大学ファインバーグ医学校のHitsman氏らによるメタ解析の結果で、以前(2003年)の解析のアップデート報告。当時の報告では、大うつ病既往は禁煙治療に影響しないことが示されていた。今回の解析結果を受けて著者は、大うつ病喫煙患者には、この点に注目した効果的な治療もしくは適切な治療を見極めることが必要だと提言している。Addiction誌オンライン版2012年10月16日号の報告。 以前のレビュー対象14試験と、2000~2009年に発表された論文で適格であった28試験を対象に組み込み、過去の大うつ病、最近(≦6ヵ月)の大うつ病エピソード、認知行動療法(対面法vs.自己療法)の継続期間と種類、その他の因子をコード化した。解析は、大うつ病喫煙患者に選択的ベネフィットを与える可能性がある実験的治療の影響を極力排除するため、プラセボ/最小強度対照試験のみとした。短期間(≦3ヵ月)および長期間(≧6ヵ月)の禁煙における過去の大うつ病の影響に関する試験特異的オッズ比(OR)を算出した(ランダム効果モデルを用いて統合)。試験方法論と治療因子を用いて、禁煙に関する評価を行った。主な結果は以下のとおり。・非大うつ病喫煙者よりも、大うつ病喫煙者では、短期禁煙のオッズ比が17%低く(評価対象35例、OR:0.83、95%CI:0.72~0.95、p=0.009)、長期禁煙は19%低かった(同38例、0.81、0.67~0.97、p=0.023)(この評価ではバレニクリン単独試験は抗うつ作用を有するので除外した)。・過去の大うつ病と禁煙との関連は、試験方法論(最近の大うつ病患者は除外、大うつ病評価の種類によるなど)や、治療(認知行動療法)によって異なることが認められた。関連医療ニュース ・統合失調症患者における「禁煙」は治療に影響を与えるか? ・喫煙+糖尿病はうつ病リスクを高めるのか?! ・認知症治療薬ガランタミン、ラット試験で喫煙欲求の軽減効果を確認

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うつ病に対するミルタザピンvs他の抗うつ薬【ポール・ヤンセン賞受賞】

 第22回日本臨床精神神経薬理学会・第42回日本神経精神薬理学会合同年会(2012年10月18~20日、宇都宮市)にて2012年ポール・ヤンセン賞を受賞した名古屋市立大学 渡辺氏の「うつ病に対するミルタザピンと他の抗うつ薬の比較―コクランレビュー」を紹介する。 従来の抗うつ薬と異なる作用機序を有するミルタザピン。名古屋市立大学 渡辺氏らは成人のうつ病急性期治療に対するミルタザピンと他の抗うつ薬を比較したエビデンスを評価し、レビューを行った。その結果、著者らは「ミルタザピンはSSRIと比較し、とくに治療早期の有効性に優れる」としている。Cochrane Database Syst Rev誌2011年12月7日号の報告。 うつ病の急性期治療でミルタザピンと他の抗うつ薬を比較した無作為割り付け対照試験を対象とした。エビデンスはコクランうつ・不安神経症グループ研究データベース(CCDANCTR)にて検索を行った。関連研究報告書の参考文献リストをチェックし、専門家への問い合わせを行った。登録基準のチェックとデータの抽出は、2名の著者が各々独立して実施した。各データのランダム効果モデルはオッズ比(OR)と標準化平均差(SMD)に統合された。主要評価項目は治療反応とし、副次的評価として脱落率、忍容性を評価した。評価時期は、治療開始から2週間時点を治療早期、治療開始6~12週時点を急性期治療終了時とした。主な結果は以下のとおり。・最終的に29試験からうつ病患者4,974例のデータが得られた。対照薬として三環系抗うつ薬(10試験、1,553例)、SSRI(12試験、2,626例)、SNRI(2試験、415例)が用いられた。・主要評価項目では、ミルタザピンは三環系抗うつ薬と比較して、治療早期(OR 0.85、95%CI 0.64~1.13)および急性期治療終了時(OR:0.89、95%CI:0.72~1.10)のどちらも明確な差が示されなかった。・ミルタザピンはSSRIと比較して、治療早期(OR 1.57、95%CI 1.30~1.88)および急性期治療終了時(OR:1.19、95%CI:1.01~1.39)とも有意に優れていた。・ミルタザピンはSNRI(ベンラファキシンのみ)と比較して、治療早期(OR 2.29、95%CI 1.45~3.59)および急性期治療終了時(OR:1.53、95%CI:1.03~2.25)とも有意に優れていた。・忍容性は、明確な差を検出することができなかった。・有害事象では、ミルタザピンはSSRIと比較して、体重増加、食欲の増加、眠気を引き起こす可能性が高く、嘔気・嘔吐、性機能障害の可能性は低かった。関連医療ニュース ・【ポール・ヤンセン賞受賞】夜間における抗精神病薬関連のQT延長リスク ・【学会レポート】精神科薬物治療の身体リスクを考える ・【人気コンテンツ】うつ病治療におけるNaSSA+SNRIの薬理学的メリット

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抗うつ薬だけじゃない!うつ病寛解を目指す「共同ケア」の効果は?

 うつ病に対する共同ケア(collaborative care)の有効性について評価した結果、抑うつおよび不安アウトカムが、通常ケアと比べて改善することが、英国・マンチェスター大学のArcher氏らによるシステマティックレビューの結果より示された。著者は、「抑うつ・不安症状を呈する成人患者の臨床治療に有用であることが示された」と結論している。Cochrane Database Syst Rev2012年10月17日号の報告。英国では、よくあるメンタルヘルスの問題として人口の最大15%が抑うつや不安症状を有すると推定されており、世界的にもこれらの症状の影響や負荷を減らすための効果的な介入が求められている。共同ケアは、慢性疾患マネジメントモデルをベースとする複合的な介入で、メンタルヘルスのマネジメントにおいても有望視されている。 2012年2月までに、MEDLINEやEMBASEなどから関連する無作為化試験を登録しているCochrane Collaboration Depression, Anxiety and Neurosis Group(CCDAN)試験レジスターを検索した。適格試験は、抑うつまたは不安を呈するあらゆる年齢を対象とした共同ケアについての無作為化試験とした。2人の独立したレビュワーがデータ抽出を行い、バイアスリスクの検証とともに、標準化された平均差(SMD)およびリスク比(いずれも95%CIを伴う)を統合算出して検討した。結果の妥当性について感度解析も行った。主な結果は以下のとおり。・無作為化試験79件(関連性のある比較90件を含む)、参加者計2万4,308例を組み込んだ。・試験は、バイアスリスクにより差があった。・主要解析の結果、共同ケアモデルで治療されたうつ病成人患者は、介入が短期、中期、長期を問わず、抑うつ症状のアウトカムについて有意に顕著な改善を示した。短期介入のSMDは-0.34(95%CI:-0.41~-0.27)、RRは1.32(95%CI:1.22~1.43)、中期介入のSMDは-0.28(同:-0.41~-0.15)、RRは1.31(同:1.17~1.48)、長期介入のSMDは-0.35(同:-0.46~-0.24)、RRは1.29(同:1.18~1.41)であった。・しかしながら、これらの有意なベネフィットは、非常に長期にわたる介入においては示されなかった(RR:1.12、95%CI:0.98~1.27)。・不安症状のアウトカムについても同様の結果が示された。短期介入のSMDは-0.30(95%CI:-0.44~-0.17)、RRは1.50(95%CI:1.21~1.87)、中期介入のSMDは-0.33(同:-0.47~-0.19)、RRは1.41(同:1.18~1.69)、長期介入のSMDは-0.20(同:-0.34~-0.06)、RRは1.26(同:1.11~1.42)であった。・不安症状アウトカムについては、非常に長期にわたる介入の比較試験がなかった。・薬物療法、メンタルヘルスQOL、患者満足度を含んだ副次アウトカムでも、ベネフィットがあるとのエビデンスが認められた。しかし、身体的QOLに関するベネフィットについては、エビデンスが乏しかった。関連医療ニュース ・【学会レポート】抗うつ効果の予測と最適な薬剤選択 ・世界初!「WEB版」気分変動アンケート、その後の臨床に有益 ・うつ病患者は要注意?慢性疼痛時のオピオイド使用

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【ポール・ヤンセン賞受賞】夜間における抗精神病薬関連のQT延長リスク

 2012年10月18~20日に第22回日本臨床精神神経薬理学会・第42回日本神経精神薬理学会合同年会が宇都宮で開催された。同学会において、日本臨床精神神経薬理学会2012年ポール・ヤンセン賞が発表され、新潟大学 渡邉氏の「夜間における抗精神病薬に関連したQT間隔延長リスクの増加―24時間ホルター心電図記録を用いた研究から―」と、名古屋市立大学 渡辺氏の「うつ病に対するミルタザピンと他の抗うつ薬の比較―コクランレビュ―」が受賞した。今回は、新潟大学 渡邉氏らの報告を紹介する。 これまでの報告において、抗精神病薬がQT延長を引き起こす可能性があることがわかっている。一方で、QT間隔は日内変動があり、健常者では昼間よりも夜間に延長する。新潟大学 渡邉氏らは、抗精神病薬服用患者のQT間隔に関して、日内変動および薬剤間の差を検討した。J Clin Psychopharmacol誌2012年2月号の報告。 対象は抗精神病薬オランザピン(OLZ)またはリスペリドン(RIS)を服薬中の統合失調症患者および未服薬の健常者(18~65歳)。ホルター心電図でCM5誘導を記録、QT解析ソフトでQT間隔を測定、専門家によるチェックを行った後、Fridericiaの公式[QTcF=QT/RR1/3]を用いて対応するRR間隔で補正し、30分間の平均QTcFから24時間、日中、夜間の平均QTcFを算出した。3群間の比較には一元配置分散分析法を、事後検定にはBonferroni法を用いた。主な結果は以下のとおり。・OLZ群41例、RIS群25例、健常群40例を解析した。・夜間のQTcFは日中と比較し、RIS群 13.9±15.0ms、OLZ群 3.5±11.7ms、健常群 5.2±10.5ms長く、昼夜の差はRIS群でOLZ群、健常群と比較し有意に大きかった(各々p=0.003、p=0.019)。・夜間のQTcFは、RIS群 411.6±29.0ms、OLZ群 395.9±21.2ms、健常群 387.8±19.0msであった。日中のQTcFは、RIS群 397.7±23.4ms、OLZ群 392.4±18.9ms、健常群 382.6±17.3msであった。日中のQTcFではRIS群とOLZ群との間に有意な差は認められなかったが、夜間のQTcF間隔はRIS群がOLZ群、健常群と比較し有意に長かった(各々p=0.021、p

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検証!デュロキセチンvs.他の抗うつ薬:システマティックレビュー

 大うつ病の急性治療について、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)であるデュロキセチンとその他の抗うつ薬との有効性、受容性、忍容性を比較するシステマティックレビューを、イタリア・ベロナ大学のCipriani氏らが行った。Cochrane Database Syst Rev2012年10月17日号の報告。 MEDLINE(1966~2012年)、EMBASE(1974~2012年)、CENTRAL(コクラン比較臨床試験登録)などをソースとして、2012年3月までに発表された試験論文および参照リストを検索した。デュロキセチンのメーカーのマーケティング部門、その他専門家からも補足データの提供を受けた。試験論文は言語を問わず、デュロキセチンとその他あらゆる抗うつ薬とについて検討した大うつ病患者を対象とする無作為化試験を適格とした。計16の無作為化試験(参加者合計5,735例)が、レビューに組み込まれた。主な結果は以下のとおり。・16試験中3試験は未発表のものであった。「デュロキセチンvs. 1つのSSRI」を検討したものが11試験(参加者計3,304例、対パロキセチン6試験、対エスシタロプラム3試験、対フルオキセチン2試験)、「デュロキセチンvs. 新規抗うつ薬」が4試験(同1,978例、対ベンラファキシン3試験、対デスベンラファキシン1試験)、「デュロキセチンvs.抗精神病薬」が1試験(同453例)で、三環系抗うつ薬と比較した試験はなかった。・プール解析の信頼区間(CI)は大きすぎて、デュロキセチンを他の抗うつ薬と比較した有効性についての統計学的有意差は認められなかった。・エスシタロプラムまたはベンラファキシンとの比較において、デュロキセチン群に無作為化された患者は何らかの原因によりドロップアウトした割合が高率であった[各群比較とのオッズ比(OR):1.62、95%CI:1.01~2.62、OR:1.56、95%CI:1.14~2.15]。・デュロキセチン服用患者がパロキセチン服用患者よりも有害イベントを経験したことが示されたが、エビデンスは弱かった(OR:1.24、95%CI: 0.99~1.55)。・比較試験はわずかで、臨床的に意義ある差を見いだすことは困難だった。また経済効果を報告するまでには至らなかった。関連医療ニュース ・うつ病補助療法に有効なのは?「EPA vs DHA」 ・他SSRI切替、どの程度の効果?北海道大学の報告 ・統合失調症患者の認知機能改善にフルボキサミンは有効か?

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世界初!「WEB版」気分変動アンケート、その後の臨床に有益

 WEBベースで行う気分変動調査(Mood Swings Questionnaire:MSQ)など自己診断双極性障害スクリーニングの尺度は、高い認容性を有し、良好なアウトカムに結びつくことが明らかにされた。オーストラリア・ニューサウスウェールズ大学のParker氏らが、WEB自己スクリーニング尺度の臨床への有用性を検討する公式では初となる試験の結果、報告した。Acta Psychiatr Scand誌オンライン版2012年10月5日号の掲載報告。 WEBベースのMSQを完了し双極性障害の可能性があると判定された人が、そのテストを有用だと判断したか、またその後に優れた臨床経過を有したかどうかを検討した。被験者のベースライン時とフォローアップ3ヵ月時点のデータを解析した。主な結果は以下のとおり。・MSQによるスクリーニングで「陽性」であった665例を対象とした。・MSQに対しては、有益である(informative)、有効である(validating)、または動機づけとなる(motivating)との回答がみられ、満足度は高かった。・被験者が双極性障害との診断を受けたのは、最初のうつ病エピソードから平均12年後であった。・大半が、正確な診断を求めたかどうかにかかわらず自己マネジメント戦略を実行した。・被験者を、スクリーニング後にとった行動の程度により3群に分け解析した。その結果、積極的な行動をとった人、診断確認を行った人は、試験期間中に、抑うつ症状、QOL、全体的な身体機能の改善が認められ、最もよい臨床経過をたどった。関連医療ニュース ・100年前と比べ統合失調症患者の死亡は4倍増、最大の死因は… ・検証!向精神薬とワルファリンの相互作用 ・特定の抗うつ薬使用で脳内ヘモグロビン濃度が増加!:名古屋大学

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統合失調症患者の「自傷行為」に関連する予測因子

 精神疾患患者の自殺予防は、日本のみならず世界各国で重要な課題となっている。英国 シェフィールド大学Pluck氏らは、統合失調症患者の自傷行為における臨床的および神経心理学的側面を人口統計学的に調査し、臨床的介入に最も関連する独立した予測因子の検証を行った。Eur Psychiatry誌オンライン版2012年10月9日号の報告。 対象は、統合失調症患者87例。対象患者に対し薬物乱用、うつ症状、自暴自棄、陽性/陰性症状、病識に関する項目を調査した。神経心理学的評価は、病前のIQ、継続的なパフォーマンステスト、認知機能、衝動性にて評価した。3ヵ月間前向きに医療記録の調査を行った。主な結果は以下のとおり。・過去に自殺未遂を含む自傷行為を認めた患者は59例(68%)。・自傷行為の経験を有する患者は、経験のない患者と比較し、うつ症状、自暴自棄、衝動性、自傷行為の家族歴をもつ割合が有意に高かった。・3ヵ月の前向き調査期間中に自傷行為がみられた患者5例は、過去に自傷行為を経験しており、初期から抑うつ傾向が認められることが多かった。・ロジスティック回帰によると、統合失調症患者における自傷行為の独立した危険因子は発症前の高いIQと多剤乱用であった。・うつ症状は、過去およびフォローアップ期間中の自傷行為の独立した予測因子であった。関連医療ニュース ・100年前と比べ統合失調症患者の死亡は4倍増、最大の死因は自殺 ・自殺リスクの危険因子の検証、年齢別のうつ症状との関係は? ・双極性障害患者の自殺企図、テストステロンレベルと相関

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統合失調症の症状悪化に関連?「喫煙」「肥満」の影響

これまで多くの研究者が、統合失調症などの精神疾患患者における不規則な生活がその後の症状や治療と関連しているかどうかを検討している。Cerimele氏らは統合失調症や双極性障害患者における健康リスク行動(health risk behaviors)が、その後の症状や機能レベルに関連づけられるかを検証するため、システマティックレビューを行った。Gen Hosp Psychiatry誌オンライン版2012年10月5日号の報告。 PRISMA系統的レビュー法を用いPubMed、Cochrane、PsychInfo、EMBASEのデータベースで検索した。検索ワードは「健康リスク行動、ダイエット、肥満、過体重、BMI、喫煙、たばこの使用、座りがちな生活や行動、運動不足、活動レベル、フィットネス、座っていること」、および「統合失調症、双極性障害、双極性疾患、統合失調感情障害、重度かつ持続的な精神症状・精神病」であり、6ヵ月以上の前向き対照研究を対象とした。この情報から、「座りがちな生活、喫煙、肥満、運動不足」が統合失調症および双極性障害患者の症状重症度や機能障害に影響を与えるかを検討した。主な結果は以下のとおり。・2,130報中8報が基準を満たし、健康リスク行動を有する508例とコントロール群825例が抽出された。・たばこの使用との関係を検討した報告が6報、体重増加/肥満との関係を検討した報告が2報であった。・7報から、たばこの使用や体重増加/肥満などの健康リスク行動を1つ以上有する統合失調症患者および双極性障害患者は、その後のより重度な症状悪化や機能レベルの低下(両方またはいずれか一方)が認められた。関連医療ニュース ・日本人統合失調症患者の脂質プロファイルを検証! ・統合失調症患者における「禁煙」は治療に影響を与えるか? ・100年前と比べ統合失調症患者の死亡は4倍増、最大の死因は自殺、とくに若者で

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100年前と比べ統合失調症患者の死亡は4倍増、最大の死因は自殺、とくに若者で

 英国・Hergest UnitのHealy D氏らは、統合失調症および関連する精神病の死亡動向について、20世紀初頭と直近とを比較するコホート研究(1875~1924年コホートvs.1994~2010年コホート)を行った。その結果、死亡率は4倍に増大しており、最大の死因は自殺であることなどが明らかとなった。筆者は、「死亡率は大幅に増大した。しかしながら特定領域については介入が可能であり、解析データは、早期介入が、統合失調症患者に標準的な寿命を与える可能性があることを示している」とまとめた。BMJ誌オンライン版2012年10月8日号の掲載報告。 2つの疫学的な完全データが入手できる患者コホートを対象とした。コホートの患者は、北ウェールズのメンタルヘルスサービスに関するフォローアップデータが、1年以上、最長10年間存在した。これらのデータを用いて、統合失調症および関連精神病患者の生存率と標準化した死亡率を算出した。 第1コホートは、北ウェールズのデンビー精神病院に、1875~1924年に入院した統合失調症および関連精神病患者3,168例(患者症例ノートの記録からデータを収集)であった。第2コホートは、北西ウェールズ地区総合病院精神科に、1994~2010年に入院(統合失調症および関連精神病による初回入院)した患者355例であった。 主な結果は以下のとおり。・統合失調症および関連する精神病による標準化された死亡率は、第1コホートと比べて第2コホートは4倍であった。・第1コホートでは75%、第2コホートでは90%の10年生存の可能性を認めた。・自殺は第2コホートの最も頻度の高い死因であった(SMR 35)。一方で、第1コホートでは、最も頻度の高い死因は結核であった(SMR 9)。・第2コホートのデータでは、高齢者の死亡は心血管系の原因により、若者の死亡は自殺が原因であった。関連医療ニュース ・自殺リスクの危険因子の検証、年齢別のうつ症状との関係は? ・自殺予防に期待!知っておきたいメンタルヘルスプログラム ・検証!向精神薬とワルファリンの相互作用

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バイポーラの躁症状に対するアリピプラゾールの位置付けは?

 近年、わが国では双極性障害に適応を有する薬剤が次々と承認されている。従来、気分安定薬を中心とした薬剤が主流であったが、非定型抗精神病薬も使用可能となった。双極性障害患者の急性躁症状に対し、明確な薬理学的および副作用プロファイルを有するアリピプラゾールをどのように使用すべきだろうか。英国のDratcu氏らは、双極性障害患者の急性躁症状に対し、アリピプラゾールの豊富な使用経験を有する英国の医療専門家による委員会にて議論を行った。Int J Psychiatry Clin Pract誌2012年10月号の報告。主な結果は以下のとおり。・アリピプラゾールは短期、長期にかかわらず、また単剤、気分安定薬との併用にかかわらず、適正に使用することで、双極性障害患者の躁症状に有効であるとの見解が一致した。・他の非定型抗精神病薬と異なり、アリピプラゾールの躁症状への効果は鎮静作用に関連していなかった。このことより、患者にとってとくに長期的なメリットが大きいと考えられる。・急速な鎮静が必要な場合には、ベンゾジアゼピン系薬剤の短期間併用が推奨される。・アリピプラゾールに関連しているほとんどの副作用は、最初の1~3週間以内に発現し、通常は一時的かつ簡便に治療可能である。・アリピプラゾールは、代謝系の副作用や性機能不全のリスク低下をもたらし、アドヒアランスを高め、臨床転帰を向上させることができる薬剤である。・良好な安全性・忍容性プロファイルを有するアリピプラゾールは、双極性障害患者の急性躁症状に対しファーストライン治療薬として推奨される。関連医療ニュース ・アリピプラゾールが有用な双極性障害の患者像とは? ・うつ病の5人に1人が双極性障害、躁症状どう見つける? ・アリピプラゾールで患者満足度向上?!

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慢性腰痛症への鍼治療、プラセボと比較し症状および疼痛強度を改善

 鍼治療の慢性腰痛症への効果について、シャム対照治療との比較の結果、症状スコアおよび疼痛強度の低下がみられ、より良好な効果を示すことが示唆されたと、韓国・キョンヒ大学校のCho YJ氏らが報告した。鍼治療は慢性腰痛症に効果的な治療として知られているが、プラセボより優れているかについては依然として不明なままであった。Spine誌オンライン版2012年9月28日号の掲載報告。 ソウル市内3病院に通院する、非特異的な腰痛症が3ヵ月以上持続する18~65歳130例を対象とした多施設共同無作為化患者-評価者盲検シャム対照試験を行った。個々の鍼治療の効果を症状(bothersomeness)の減少で調べた。 被験者は、韓医学の医師(Korean medicine doctor)から6週間(週2回)にわたって、個別に鍼治療またはシャム鍼治療を受けた。主要アウトカムは、慢性腰痛症の症状について視覚アナログスケール(VAS)でみたスコアの変化であった。副次アウトカムには、疼痛強度についてみたVASスコアと、オスウェストリー障害指数(ODI)、全般的な健康状態(SF-36)、ベックうつ病評価尺度(BDI)などによる評価を含んだ。 主な結果は以下のとおり。・ODIを除き、ベースラインにおいて両群間に差異は認められなかった。・参加者のうち116例が治療を完了し、3、6ヵ月間のフォローアップを受けた。14例は途中で脱落した。・主要エンドポイント(8週間)時点で、慢性腰痛症の症状および疼痛強度についてのVASスコアで、両群間の有意な差が認められた(p<0.05)。・さらにそれら2つのスコアは、フォローアップ期間3ヵ月の時点まで継続的な改善がみられた(各p=0.011、p=0.005)。・ODI、BDIとSF-36スコアについては、両群ともに改善し、群間差はなかった。

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特定の抗うつ薬使用で脳内ヘモグロビン濃度が増加!:名古屋大学

 近年、日本の研究者たちは脳活動の変化に基づいて精神疾患を診断するために、近赤外分光法(NIRS)を用いた研究を行ってきた。NIRSとは、近赤外光を生体外から照射し、組織内を透過した光を分析することにより、組織血液中におけるヘモグロビンの状態を調べる方法である。しかし、NIRS測定における向精神薬の影響については明らかになっていない。名古屋大学 幸村氏らはNIRSを用いて健常者の前頭前野活性に対する抗うつ薬の鎮静効果を評価した。その結果、ミルタザピンの投与によりヘモグロビン濃度の増加が認められたことを報告した。Psychopharmacology (Berl)誌オンライン版2012年10月5日号の掲載。 健常男性19名を対象としたプラセボ対照二重盲検クロスオーバー試験。ミルタザピン15㎎、トラゾドン25㎎、プラセボを8日間連続で夜間に投与し、1週間以上のウォッシュアウト期間を設けながらローテーションを行った。被験者は、試験期間中に計7回、NIRSを行った(試験開始1週間以上前および各ローテーションの第2、9日目)。NIRS実施時には、言語流暢タスクを計測し、正確な言語の数(行動遂行)を記録した。スタンフォード眠気尺度(SSS)スコアは毎日測定した。 主な結果は以下のとおり。・ミルタザピン投与後9日目におけるNIRSの結果によると、他の群と比較し、オキシヘモグロビン(oxy-Hb)濃度の有意な増加が認められた。・ミルタザピン投与後2日目には、他の群と比較し、SSSスコアの有意な上昇が認められた。・すべての群において、行動遂行に有意差は認められなかった。 これらの結果を受けて、著者は「精神障害をもつ患者の脳活動を評価するにあたって、特定の種類の抗うつ薬が脳機能に影響を与える可能性についても検討すべきである」としている。関連医療ニュース ・統合失調症患者の認知機能改善にフルボキサミンは有効か? ・SPECT画像診断による前頭部脳血流評価で、大うつ病高齢者のSSRI有効性を予測 ・うつ病治療におけるNaSSA+SNRIの薬理学的メリット

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情動障害患者よりも統合失調症患者で有意に体重を増加:オランザピンのメタ解析

 カナダ・モントリオール大学のMoteshafi H氏らは、オランザピンの忍容性[心血管代謝系の有害反応と錐体外路症状(EPS)]について、統合失調症患者と情動障害患者を比較するメタ解析を行った。その結果、統合失調症患者は体重増加を引き起こしやすい可能性が示された。著者は「この結果は、統合失調症患者ではメタボリック症候群になりやすいという遺伝的素因に加えて、とくに心血管疾患に対する生活習慣リスク(食生活の乱れ、運動不足、ストレス、喫煙など)を有する割合が高いという事実の裏付けとなるのではないか」と述べている。Drug Saf誌2012年10月1日号の報告。 PsycINFO(1967~2010年)、PubMed(MEDLINE)、EMBASE(1980~2010年)などのデータソースを用いて、(1)統合失調症と情動障害の成人患者に関するオランザピンの有害反応(代謝あるいはEPS)、(2)試験期間中のオランザピン単独療法 を評価していた無作為化試験を検索し、解析に組み込んだ。2人の独立したレビュワーが論文選定のためアブストラクトをスクリーニングし、レビュワー1人が事前に決めていた除外・包含基準に基づき関連データを抽出した。主要アウトカムは代謝有害反応(体重変化、血糖値、LDL-C、総コレステロール、トリグリセリド)、副次アウトカムはEPS(パーキンソン症候群、静座不能、抗パーキンソン病薬の服用)の発生率であった。主な結果は以下のとおり。・33試験(4,831例)を解析に組み込んだ。・忍容性アウトカム(統合失調症群と情動障害群で個別に算出しメタ解析に組み込んだ)は、統合失調症患者および情動障害患者いずれにおいても、オランザピンが体重増加に関与し、トリグリセリド値、血糖値、総コレステロール値を上昇することを示した。・オランザピン治療によって、情動障害患者よりも統合失調症患者で有意に体重が増加した。・血糖値、総コレステロール、トリグリセリド値の上昇について、統計的有意差はみられなかったものの、統合失調症群が情動障害群よりも高値であった。・パーキンソン症候群の発症率は、統合失調症群が情動障害群よりも有意に高値であった。関連医療ニュース ・日本人統合失調症患者の脂質プロファイルを検証!:新潟大学 ・ベンゾジアゼピン系薬剤の使用で抗精神病薬多剤併用率が上昇?! ・治療抵抗性統合失調症へのクロザピン投与「3つのポイント」

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統合失調症患者の認知機能や副作用に影響を及ぼす?「遊離トリヨードサイロニン」

慢性期統合失調症入院患者は、持続的な精神症状と抗精神病薬による副作用に悩まされている。これら精神症状や副作用にはプロラクチン、甲状腺ホルモン、脳由来神経栄養因子(BDNF)など、いくつかのバイオマーカーが関連しているといわれているが、明らかにはなっていない。大分大学 市岡氏らは慢性期統合失調症患者における、精神症状や錐体外路系副作用とホルモン、BDNFとの関係を調査した。Prog Neuropsychopharmacol Biol Psychiatry誌2012年10月号の報告。 対象は、慢性期統合失調症入院患者93例。対象患者の精神疾患や錐体外路系副作用とプロラクチン、甲状腺ホルモン(遊離トリヨードサイロニン[T3]、遊離サイロキシン[T4]、甲状腺刺激ホルモン)、コルチゾール、BDNFとの関係を調べた。精神症状はPANSS、認知機能はMMSE、錐体外路症状はDIEPSSにより、それぞれ評価した。分析には、重回帰分析を用いた。主な結果は以下のとおり。・抗精神病薬の用量は、PANSS陽性サブスケールスコアの有意な差異を予測する唯一の変数であった。・BDNFおよびT3はMMSEスコアの有意な差異を予測した。・プロラクチンおよびT3はDIEPSSスコアの有意な差異を予測した。本研究では、慢性期統合失調症患者の認知機能や錐体外路系副作用にはBDNF、T3、プロラクチンが関与している可能性が示唆され、中でも著者らはT3が重要な予測因子となることを強調した。関連医療ニュース ・双極Ⅰ型障害患者の症状発症に関連する“キヌレン酸” ・グルタミン酸ドパミンD3受容体遮断による統合失調症の新たな創薬の可能性 ・「統合失調症リスク因子」海馬における働きが判明

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統合失調症患者におけるフィルター障害のメカニズムを解明

 統合失調症における作業記憶(ワーキングメモリ)障害について、前頭前皮質背外側部(DLPFC)ネットワーク内の機能的接続障害によるものであることが明らかにされた。米国・エール大学医学部のAnticevic A氏らが、いわゆる「フィルター障害」のメカニズムについて検討した結果で、「注意散漫への抵抗性障害は、DLPFCと周辺領域(視床/辺縁系の皮質下と調節領域結合を含む)の断絶を示すという考え方を支持する知見が得られた」と報告した。Schizophr Res誌2012年10月号の掲載報告。 先行研究で著者らは、健常者ではDLPFC活性はワーキングメモリにおける良好な注意散漫回避に結びついているが、統合失調症患者では結びついていないことを示していた。その知見を踏まえて、統合失調症はワーキングメモリ障害におけるDLPFCネットワーク内の機能的接続障害と関連していると仮定し、検証した。 統合失調症患者28例と対照群24例を対象に、遅発性非言語ワーキングメモリタスク(ワーキングメモリ維持期に一過性の視覚的注意を逸らすタスクを含む)を完了した。DLPFC全脳作業ベースの機能的接続(tb-fcMRI)を評価し、とくに維持期の注意散漫の有無について評価した。主な結果は以下のとおり。・患者群は注意散漫症状を呈している間、皮質および皮質下の両領域において、tb-fcMRIが機能しないことが明らかになった。・対照群は注意散漫時に、DLPFCと扁桃体延長領域間のtb-fcMRI低下を示した。・一方で患者群は、扁桃体との結合を示す変化は見られなかった。しかし、背側正中視床との強い接続性を示した。・注意散漫症状の間、対照群はDLPFCとその他の前頭前野皮質領域間との接合がより明確であったが、患者群は、そのような機能を示す変化が見られなかった。関連医療ニュース ・検証「グルタミン酸仮説」統合失調症の病態メカニズム ・統合失調症患者の認知機能改善にフルボキサミンは有効か? ・グルタミン酸ドパミンD3受容体遮断による統合失調症の新たな創薬の可能性

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