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第333回 苦境の自治体病院(後編) 大胆な再編・集約化で話題になった米沢市立病院の資金不足比率が約15%に、「再編相手そのものが大きな間違い」という指摘も

再編・集約化してからわずか3年足らずで経営が行き詰まった米沢市立病院こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。大谷翔平選手がIL(負傷者リスト)入りしたにもかかわらず、MLBのロサンゼルス・ドジャースが好調を維持しています。直近のマイアミ・マーリンズ戦では連敗したものの、その前までは8連勝。今週中にも地区優勝が決まりそうです。ひょっとしたら、大谷選手、ポストシーズンに向けての休養込みなのかもしれません。一方で、米国では、ドジャースの筆頭オーナーであるマーク・ウォルター氏が金融問題で連邦当局による捜査を受けており、ドジャースもNBAのレイカーズのように身売りされるのではないかとの憶測も呼んでいます。金融業界や保険事業で財を成したウォルター氏の疑惑については、9月10日付の日本経済新聞夕刊に、スポーツライター・丹羽 政善氏が詳細な記事を寄せていて参考になります。端的に言えば、ウォルター氏が関わる生命保険会社や投資会社において不透明な会計処理や融資が行われていたらしい、ということのようです。丹羽氏は「一連の取引自体が違法と認定されたわけではないが」としつつ、ウォルター氏が(不透明な会計処理や融資による)「綻びを縫う過程で、レイカーズを手放した後も、最も価値のある資産の一つであるドジャースを守ったまま、この問題を処理できるのか、というのが、さらなる焦点となる」と書いています。ウォルター氏がドジャースのオーナーでなくなると大谷選手はドジャースとの契約を解除できるという条項が契約書にあるため、ポストシーズンの戦いとともに、こちらの”事件”の行方も気になるところです。さて、今回も前回に続いて、公立病院の経営の苦しさを伝えるニュースをお伝えします。前回は、東京都の日野市立病院が、シルバーウィークのせいで資金ショートの可能性が高まり、急遽、市が1億円を貸すことにしたケースを紹介、「今後の救急への取り組みや入院料の選択いかんでは、急性期医療の最前線から脱落し、『新たな地域医療構想』によって加速する『再編・集約化』の対象になる可能性は多分にあると考えられます」と書きました。もっとも、単純に「再編・集約化」をすればいい、というものでもないようです。3年前、大胆な「再編・集約化」によって医療関係者の間でも話題になった山形県の米沢市立病院が、「資金不足比率が約15%となる見通し」になったと報じられていました。再編・集約化してからわずか3年足らずでの経営の行き詰まり、一体何が原因だったのでしょうか。公立病院は資金不足比率が10%を超えると起債に知事の許可が必要に山形県の米沢市は8月18日、米沢市立病院の2025年度病院事業会計の決算見込みについて、地方財政法で規定する資金不足比率が約15%となる見通しであると発表しました。不足額は約10億円で、民間からの借入金などで対応したとのことです。患者数の下振れや物価高、人件費増などが要因で同病院は業務効率化を進め、経営改善を図るとのことです。8月19日付の山形新聞等の報道によれば、同日開いた記者会見で近藤 洋介市長は「病院は命を守る要で、抜本的な改革を進める」と述べ、酒井 雅彦病院事業管理者は「市の繰り出しにも限りがあり、早く手を打っておくべきだった。スピード感を持って対応する」と話したとのことです。地方財政法では、公立病院は資金不足比率が10%を超えると、不足する資金を補うため借金をする際、知事の許可が必要になります。同病院は2026年度は医療機器更新などで起債を予定しているとのことですが、この起債も勝手にできず、資金不足等解消計画を策定した上で知事の許可が必要になります。2023年11月、米沢市立病院と三友堂病院が同じ敷地に新築で同時オープン私がこのニュースに驚いたのは、米沢市立病院が「再編・集約化」のモデルとして一時話題になった病院だったからです。米沢市立病院が新築建て替えでオープンしたのは今から約3年前、2023年11月1日です。同じ敷地には民間病院の一般財団法人・三友堂病院が新築移転して同時にオープンしました。経営母体はそのままに2病院が共用部分を挟んで一体化するという再編事例は珍しく、オープン前には厚生労働省の「地域医療構想及び医師確保計画に関するワーキンググループ」で参考事例として紹介されたこともあります。米沢市立病院、三友堂病院が位置する山形県置賜医療圏は、東置賜・西置賜地域では公立置賜総合病院(川西町、470床)が地域の基幹病院として、米沢市では米沢市立病院が地域の基幹病院、三友堂病院が地域の基幹病院に準じる病院として急性期医療を提供していました。人口減少が急激に進む中、米沢市内の米沢市立病院と三友堂病院の2病院が両方とも急性期医療を提供する体制を維持していくことは困難であるとの判断から、10年近くの検討期間を経て決定したのが、2病院を市立病院の敷地に共用部分を挟んで新築し、一体化するという再編計画でした。米沢市立病院は救急などの急性期医療、三友堂病院は回復期・在宅医療と機能分担し、相互に患者を紹介し合うことでより深い連携に取り組むというのが再編の主たる目的でした。再編後の病床構成は、米沢市立病院は322床から263床(急性期245床、ハイケアユニット10床、8床休床)に、三友堂病院は185床から199床(地域包括ケア87床、緩和ケア22床、回復期リハ90床)に変更することになりました。ポイントは、市立病院は42床あった地域包括ケア病床を完全放棄、一方の三友堂病院は5床あったハイケアユニット、108床あった急性期病床を完全放棄する点です。人工透析も三友堂病院に集約することになり、同病院の透析ベッドは20床から50床となりました。なお、三友堂が別の地に有していた三友堂リハビリテーションセンター(回復期リハ120床)は2024年2月、60床の介護医療院に転換しました。ちなみに回復期、慢性期への転換を余儀なくされた三友堂病院の院長は移転直前、エムスリーのインタビューに対し「三友堂病院には130年の歴史がある。それまで米沢市の地域医療を支えてきた自負があるからこそ、当初は忸怩たる思いがあった」と答えています。「救急や手術を市立病院に集約したが、急性期患者の伸びが想定より低調だった」では、米沢市立病院の経営行き詰まりの原因は何だったのでしょうか。8月19日付の米沢日報は18日に開かれた記者会見の内容をより詳細に報じています。同記事によれば事業管理者の酒井氏は、建設当時の経営計画の見通しが不十分だったとして、資金不足比率が15%となった主な要因として次の3点を挙げています。1)患者数は、救急や手術を市立病院に集約したが、急性期患者の伸びが想定より低調だったこと(2025年度の入院患者は5%程度少ない、計画8万8,662人、実際8万3,933人)や、維持透析や人間ドックの機能を三友堂病院に移転したことで、市立病院の外来収益・その他の医業収益が減少、また他病院や高齢者施設など救急隊との連携が不十分だった。2)とくに、診療材料等の価格が著しく高騰したことや、人件費が人事院勧告に従い想定以上に上昇した。3)新病院開院に伴う医療機器の保守・診療材料の購入に伴う経費が増加したことや、アメニティなどの共用施設の賃借料等のランニング経費が増加した。2)はどこの公立病院も直面している問題で、米沢だけのことではありません。3)も当初から予想できていたことでしょう。というわけで最大の問題点は1)になります。病院の医業収入を補填する役割がある人間ドックや、売上への貢献が高いと考えられる透析を三友堂病院に移してしまったことは確かに痛い点ですが、注目すべきは「急性期患者の伸びが想定より低調だったこと」です。これは要するに、「再編は失敗だった」と言っているのと同じです。急性期(米沢市立病院)と慢性期(三友堂病院)の診療科や病床数のバランスが悪く、「相互に患者を紹介し合うことでより深い連携に取り組む」という当初の目的が実現できていないからです。同記事によれば酒井氏は、「人口減少が進んでいることや40代から50代が急激に減っている。病院単独での解決は難しい。病院職員の一人一人の意識改革が大切で、一丸になって取り組んでいきたい」と話したとのことです。ちなみに酒井氏は前山形県健康福祉部長で、市立病院テコ入れのためこの4月に就任したばかり、病院事務局長には前米沢市総務部長が就き、病院の事務方全体が大幅に刷新されたそうです。近藤市長は「雇用は守る」と話したそうですが、病院経営の専門家ではなく、県や市の役人を連れてきていることから、何やら大幅なリストラの予感もします。「米沢市立病院と公立置賜総合病院との再編の組み合わせを検討するべきだった」とある病院経営者が3年前に指摘今回のニュースを聞いて、私は3年前の夏に取材した東北地方のある病院経営者の話を思い出していました。その人は、当時全国の病院経営者の間でも話題となっていた米沢市立病院と三友堂病院の再編について「あれは失敗する」と断言していました。理由は、山形県置賜医療圏における急性期医療の再編という視点が欠けていたからです。この病院経営者は次のように話していました。「このケースは再編相手そのものが大きな間違い。置賜医療圏の人口は20万人、米沢市も7万人。この地域の人口が急激に減っている中、医療圏内の急性期医療をどうするかをまず考えるべきで、そうした観点からだと、米沢市立病院と公立置賜総合病院とのあいだで急性期医療の再編を検討するべきだったと思う。再編・ネットワーク化を伴う公立病院のケースでは、事業費の相当部分を交付税で賄うことができるというメリットがあり、それに飛びついてやってしまったのだろう。慢性期にシフトする三友堂は当面大丈夫かもしれないが、急性期の患者数減少をまともにくらう市立病院は相当苦労するに違いない。あれは失敗する」。事態はまさにこの病院経営者の予想通りになってしまったわけです。お金に目がくらんでの、拙速かつ独善的な方針決定の結果と言えます。遅きに失した感はありますが、次の地域医療構想の議論の過程では、米沢市立病院と公立置賜総合病院の急性期医療の再編が大きな課題として浮上することでしょう。

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主治医と連携した、抗がん剤治療の中止【非専門医のための緩和ケアTips】第131回

主治医と連携した、抗がん剤治療の中止進行がんの診療をしていると、必ず遭遇する難しい状況があります。それが「がん治療を中止・終了する場面」です。皆さんは経験があるでしょうか?今日の質問基幹病院と2人主治医制で担当する進行がんの患者がいます。病状が徐々に進行し、通院も難しくなりそうで、抗がん剤治療の中止を話し合う必要がありそうです。患者はがん治療の主治医を信頼しているようですが、抗がん剤治療についてどのような話をしているかはわかりません。このような場合、どう対応するとよいでしょうか?「抗がん剤治療の中止」は、患者が強いつらさを感じることの多い場面であり、医療者としては丁寧に対応したいものです。最初に、一般論として、こうした場面で必要なことを考えてみましょう。患者によっては、「抗がん剤を中止するということは、自分の命を諦めることだ。医師からも見捨てられたのだ」と捉えることがあります。病状の進行などにより、抗がん剤治療を継続するデメリットがメリットを上回る状況では、治療中止は本人にとって良い面もあるはずですが、それは医療者側の発想でしょう。一方、「中止を提案すると患者を傷つけるから、継続する」というのも良い状況とは言えないでしょう。病状が進行するなかで無益な治療を継続し、将来への備えをする機会が失われる、というのはよく見る光景です。誤解のないよう補足すると、そうした状況を否定しているわけでもありません。さまざまな背景があるなかで、本人、家族、医療者が選択した結果について、当事者以外が批評的に見ることはできないと感じます。そのうえで今回の質問のような状況であれば、私が在宅医療の医師の立場だったら取り組むことが2つあります。1つは、患者に「抗がん剤治療と自身の病状について、今、どのように捉えていますか」と尋ねることです。「抗がん剤治療の中止」という重要な話を「誰から聞くか」という点は重要です。今回であれば、がん治療医から話してもらうことが一般的かと思います。患者はがん治療医と関係を築いてきたでしょうが、そのためにかえって尋ねにくいことがあるかもしれません。もう1人の主治医の立場から、今後についての不安やどのようなサポートを求めているかを探ってみます。もう1つは、患者から了承を得たうえで、患者の考えや意向をがん治療医と共有します。基幹病院の外来は多忙で、診療時間も限られることが多いでしょう。もう1人の医師の立場から患者の考えや意向を確認し、それをがん治療医と共有することで、役割分担しながら「抗がん剤治療の中止」という大切な話し合いを支えます。医師同士が直接やり取りできれば理想ですが、タイミングが合わないことも多いので、外来看護師に伝える、診療情報提供書を作成するなどの工夫も必要でしょう。緩和ケアを実践するうえでは、がん患者にとって重要な場面に必ず直面することになります。すべてに自分で取り組むことは難しいですが、関係者と協力しながら、患者と家族を支援できればと思います。今日のTips今日のTips「抗がん剤治療の中止」はがん治療における大切な局面。関係者間で連携しながら取り組みましょう。

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収益率が高い?ゴミ屋敷は困る?在宅医療、医師1,000人アンケート結果

 今後、本邦では医療・介護の複合ニーズを有する85歳以上の高齢者の増加が見込まれ、2020~40年にかけて、85歳以上の救急搬送は75%増加し、在宅医療需要は62%増加すると推計されている。CareNet.comでは会員医師1,027人を対象に、在宅医療への従事状況・従事意向、魅力やハードルと感じる点について聞くアンケートを実施した(2026年7月23~24日実施)。53.1%が在宅医療への従事経験あり、診療科別では? 現在、または過去の在宅医療(訪問診療または往診)への従事状況について聞いた質問では、「主たる業務として従事している(週4日以上)」が6.5%、「外来診療の合間などに、定期的に従事している」が15.9%、「かかりつけ患者の急変時など、不定期に行っている(往診のみなど)」が7.4%、「過去に従事していたが、現在は行っていない」が23.3%と、従事経験のある医師が53.1%を占めた。「これまで従事したことはない」は46.9%であった。 診療科別にみると、現在何らかの形で従事している医師が最も多かったのは総合診療科(55.5%)で、外科(50.0%)、内科(45.4%)、皮膚科(40.6%)、腫瘍科(37.5%)などが続いた。「積極的に従事したい/従事量を増やしたい」と回答した医師は12.0% 今後の従事意向について聞いた質問では、「積極的に従事したい/従事量を増やしたい」との回答が12.0%で、「機会があれば従事してみたい/現状維持で継続したい」が48.8%と最も多かった一方、39.2%は「従事したくない/減らしたい」と回答した。 年代別にみると、「積極的に従事したい/従事量を増やしたい」との回答は10.7~13.3%と大きな差はなかったが、「従事したくない/減らしたい」との回答は30代では30.0%と最も少ない一方で、60代では46.0%と多い傾向がみられた。魅力/ハードルと感じる点について、最も多かった回答は? 在宅医療への従事状況に応じて「現在従事している」「過去に従事していたが、現在はしていない」「従事したことがない」の3群に分けて、在宅医療の魅力・メリットと感じる点について聞いた結果(上位3つまでの複数回答)、最も多かったのは、すべての群で「1人の患者を全人的に診ることができる(55.6%/51.0%/35.7%)」であった。2番目に多かった回答は、「現在従事している」医師では「生活に寄り添った診療ができる(33.0%)」であったのに対し、「過去に従事していたが、現在はしていない」「従事したことがない」医師では「収入面(28.5%/22.4%)」であった。 同様に、在宅医療に従事するに当たり「ハードル(障壁)」と感じる点について聞いた質問では、従事状況によらず「24時間365日の対応(オンコール負担)」が最も多く(54.9%/69.9%/57.7%)、「緊急時のバックアップ体制の欠如」が続いた(54.9%/48.5%/44.2%)。「自宅にいるときの笑顔がよい」などポジティブな意見がある一方、ゴミ屋敷問題なども… 在宅医療の現場で医師としてやりがいを感じたエピソード、実際に直面した困難、制度や環境の課題と感じる点について、自由記述で聞いた質問では、「自宅にいるときの笑顔がよい(50代・外科)」「1人の人の人生において、医療以外のことを尊重した医療的な提案ができる(40代・内科)」などのポジティブな意見が寄せられた一方、「他人の家へ入ることは危険。以前殺人事件も起こったが対策しようがない(60代・内科)」「ゴミ屋敷は困る(40代・泌尿器科)」といった、安全面・衛生面での懸念も寄せられた。 そのほか、多職種・複数の医療機関や施設間で連携することについて、「グループ診療で相談ができる(60代・内科)」という声がある一方で、「施設往診をしているが、施設ごとに患者データの報告レベルが違いやりにくい(60代・外科)」といった課題も寄せられた。利益面についても、「利益率が高い(60代・糖尿病・代謝・内分泌内科)」「入院医療費がカットできるのは大きい(50代・神経内科)」といったプラスの側面が挙げられた反面、「今後診療報酬が下がりそう(50代・循環器内科)」という声もあった。 その他のアンケート結果・詳細は以下のページに掲載中。「在宅医療への従事状況・従事意向/医師1,000人アンケート」

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在宅患者からの電話対応――電話トリアージのコツ【非専門医のための緩和ケアTips】第130回

在宅患者からの電話対応――電話トリアージのコツ在宅緩和ケアでは、患者や家族からの電話からその後の対応を判断する場面があります。でも、医療者間の相談ですら電話でのやりとりは難しい場面が多いのに、患者や家族からであればなおさらですよね。どういった工夫ができるのでしょうか?今日の質問在宅緩和ケアをやっていて難しいと感じるのが、患者や家族からの電話連絡への対応です。当院では最初に看護師が受けるのですが、往診したほうがよいかなどの判断に苦慮しているようです。電話でのやりとりは在宅緩和ケアで非常に重要なので、何か工夫できることがあれば知りたいです。患者や家族からの電話連絡をもとに緊急性を判断し、適切にアクションを取る訪問看護師には本当に頭が下がりますし、質問くださった先生がその苦労を慮っているのも素晴らしいですね。こういった電話をもとに対応を判断することを「電話トリアージ」と呼びます。救急領域では公的サービスの「#7119」をはじめとした相談窓口があり、症状を伝えて救急車を呼んだほうがよいかなどを相談するシステムがありますが、同じような発想です。さて、在宅緩和ケア領域における「電話トリアージ」はどのようにすればよいのでしょうか? 私の経験上、在宅医療の場合、患者はもちろん、家族も高齢の方が多く、電話で詳細な情報を説明させることは難しい場合があります。患者・家族に話させるよりは心配を受け止めつつ、医療者側から判断に必要な情報を聞き出すほうが実際的です。つまり、確認すべき事項をまとめてマニュアル化し、看護師に渡しておくことが現実的な対応策であり、こうした準備はスタッフのスキルアップの観点からも重要です。具体的には以下のような項目でしょう。(1)状況いつから/どのくらい悪い/今どこにいる/誰がそばにいる(2)呼吸話せるか/横になれるか/喘鳴はあるか/SpO2が測れるなら数値(3)意識普段と比べてどうか/せん妄らしいか(注意障害・見当識)(4)痛み急に強くなったか/動くと悪化するか/部位はどこか(5)出血・嘔吐・下痢などあれば量と回数(多い・少ないといった主観でOK)(6)内服・頓用どの薬剤をいつ使ったか・効果があったか/副作用は(7)介護力今夜を乗り切れるか(家族の疲労・限界度合いも重要な情報)普段から訪問診療をしている患者であれば、医療者側の事前知識もあるため、詳細に聞かなくてもよい項目もあるでしょう。電話口でこうした情報を引き出しながら、対応を判断します。さて、「電話トリアージ」のマニュアルを整備するうえで、私が重要と考えることを紹介します。●患者や家族が話していることが正しいとは限らない電話で「息苦しさはないですか?」と聞いて「大丈夫です」と回答があっても、実際には言いにくかった、気付けていなかった、といったことがあります。重要なことは、直接確認をしないと危ないケースもあるでしょう。●尋問にならないように留意するもう1つは、電話でさまざまなことを確認するのは大切である一方、患者や家族が尋問されているような気持ちにさせないことが重要です。医療者としては必要なことを聞いているだけのつもりでも、相手はいろいろ聞かれたけれどうまく答えられなかった、というネガティブな経験になってしまうこともよく聞きます。一定時間をかけてうまく情報を収集できなければ、「よくわかりました。少し心配な点もあるので、お伺いしてもよろしいですか?」と切り替える、ということを自分用のマニュアルに加えてもよいでしょう。「電話トリアージ」は有効であるものの、限界もあります。そこをよく理解して、有効な場面で使いこなしながら、電話だけでは対応が難しい場面では無理をせず直接診察する、というのは大切な態度だと思います。いかがでしょうか? 皆様の工夫もぜひ教えてください。今日のTips今日のTips電話トリアージの有効性と限界を理解して、うまく活用しよう。

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第308回 手足口病、全国25都道県で警報レベル 東北でも感染拡大/JIHS

<先週の動き> 1.手足口病、全国25都道県で警報レベル 東北でも感染拡大/JIHS 2.千葉の豪雨で25市町に災害救助法、マイナ保険証なくても受診可能に/厚労省 3.地域ごとに「推奨薬」選定へ 地域フォーミュラリ普及を本格化/厚労省 4.チルゼパチドの薬価25%減 低価格化による不適正使用を懸念/リリー 5.MMR混合ワクチンを個別接種へ 接種率低下と感染拡大に懸念/米国 6.沢井製薬が46品目販売中止、低薬価・設備老朽化で安定供給が課題に/沢井 1.手足口病、全国25都道県で警報レベル 東北でも感染拡大/JIHS国立健康危機管理研究機構(JIHS)の感染症動向調査によると乳幼児を中心に流行する手足口病が、東北各県で高い水準となっている。青森県では8月3~9日の患者報告数が257人で、6週間ぶりに減少したものの、1定点医療機関当たり7.56人と警報基準の5人を上回った。県内6保健所管内のうち5管内が警報レベルで、青森市・東津軽では10.33人、八戸市・三戸では9.14人だった。その一方で、岩手県では同期間の患者数が415人と前週から69人増加。1定点当たり15.37人で10週連続の増加となり、警報基準の3倍を超えた。一関27.0人、中部26.5人、県央25.0人など、10管内中7管内が警報レベルとなっている。宮城県も1定点当たり10.45人と今季最多を更新し、4週連続で警報基準を超えた。同じく福島県でも9.71人と2週連続で今季最多となり、警報レベルが4週続いている。全国では7月27日~8月2日の定点当たり報告数は6.03人。2週連続で減少したものの、25都道県で警報基準を超えており、依然として広範な流行が続いている。手足口病はエンテロウイルスなどによる感染症で、多くは軽症だが、まれに脳炎などの中枢神経合併症を来す。飛沫や接触のほか便を介して感染し、症状消失後も数週間にわたり便中へウイルスが排泄されることがある。医療現場では乳幼児の発熱、口腔内病変、手足の発疹に加え、意識障害、けいれんなど重症化を示唆する症状に注意が必要である。家庭や保育施設では石けんと流水による手洗い、タオルの共用回避、おむつ交換時の排泄物処理の徹底が求められる。 参考 1) 手足口病の減少続くも、感染性胃腸炎やコロナは増転【感染症動向調査第31週:7月27日~8月2日】(Medical Tribune) 2) 青森「手足口病」感染者数減少も依然5保健所管内で警報レベル(NHK) 3) 岩手県内「手足口病」患者数さらに増加 警報基準の3倍余に(同) 4) 福島県内 「手足口病」今季最多に お盆休みの感染対策徹底を(同) 2.千葉の豪雨で25市町に災害救助法、マイナ保険証なくても受診可能に/厚労省8月13日に千葉県を中心に発生した記録的豪雨で、県内の医療機関にも浸水や停電などの被害が広がっている。厚生労働省によると、14日午前10時時点で大規模病院を含む22医療機関から被害報告があり、千葉市、柏市、八千代市などを中心に影響が確認された。内閣府は多数の住民が生命・身体に危害を受ける、またはその恐れがあるとして、千葉県の21市4町、計25市町に災害救助法を適用した。厚労省は14日、被災者の保険診療や診療報酬に関する特例措置を通知した。避難時にマイナンバーカードや資格確認書を紛失、または自宅に残した場合でも、氏名、生年月日、連絡先に加え、被用者保険では事業所名、国保・後期高齢者医療では住所などを申し立てれば保険診療を受けられる。医療機関は可能な限り保険者を確認した上でレセプト請求するが、特定できない場合も住所や事業所名、連絡先などを記載して請求できる。被災者受け入れに伴う診療報酬上の特例も適用される。許可病床数を超えて患者を受け入れても減額措置を適用せず、DPC病院も従来通り診断群分類点数表による算定が可能となる。患者急増や災害支援への職員派遣によって看護配置や夜勤時間などの施設基準が一時的に満たせなくなった場合も、一定範囲では変更届を不要とする。また、被災医療機関からの転院患者については、平均在院日数や重症度、医療・看護必要度などの算定から除外できる場合があり、ICU・HCUにやむを得ず本来の対象外患者を収容した場合も特例が設けられた。そのほか、避難所で継続的な診療が必要な通院困難患者には、条件を満たせば在宅患者訪問診療料の算定も認められる。その一方で、保団連は医療機関や介護施設、在宅人工呼吸器・酸素療法、人工透析患者への電力・水供給の早期確保、医薬品・医療材料の供給、被災者の医療費窓口負担免除などを政府に要望した。豪雨災害では直接的な外傷だけでなく、停電・断水による透析や在宅医療の継続困難、慢性疾患治療の中断も重要な課題となる。 参考 1) 令和8年8月13日からの大雨に伴う災害に係る災害救助法の適用について(内閣府) 2) 令和8年8月13日からの大雨に伴う災害の被災者に係るマイナ保険証又は資格確認書の提示等について(厚労省) 3) 千葉豪雨 県内の22の医療機関から被害報告 厚労省(テレビ朝日) 4) 千葉の大雨、死者8人に…被災者の“医療費免除”と“最大850万円の支給”を医師団体が国に緊急要望(弁護士JPニュース) 5) 2026年8月13日からの千葉県を中心とする大雨被害、保険診療受診や診療報酬算定に関する特例を適用-厚労省(Gem Med) 3.地域ごとに「推奨薬」選定へ 地域フォーミュラリ普及を本格化/厚労省厚生労働省は、地域ごとに使用を推奨する医薬品を定める「地域フォーミュラリ」の普及を本格化させる。今秋をめどに、医療関係者らを対象とした全国説明会を開き、制度への正確な理解を広げる方針。地域フォーミュラリは、高血圧、脂質異常症、胃潰瘍などの治療薬について、有効性、安全性、費用、供給状況などを踏まえ、地域で推奨する医薬品をリスト化する仕組み。院内フォーミュラリと異なり、病院だけでなく診療所や薬局も含む地域全体で運用する。医師の処方権を制限するものではなく、標準的な薬物療法の共有、後発医薬品の適正使用、医薬品の安定供給を目的とする。日本フォーミュラリ学会によると、2026年2月時点で18都道府県30地域に導入が済んでおり、31地域が準備中。大阪府八尾市ではスタチンなど10薬効群、茨城県つくば地域では14薬効群について策定している。学会も31薬効群の「モデルフォーミュラリ」を公開しており、各地域はこれを参考に独自の事情を加味して策定できる。2026年度診療報酬改定では、医科・調剤の施設基準に、地域の医療機関、薬局、関係団体と医薬品の品目情報を共有し、安定供給に向けた事前の取り決めを行うことが望ましいとの考え方が盛り込まれた。現時点では努力目標だが、国が地域フォーミュラリを政策的に後押しする姿勢が鮮明になった。厚労省は全都道府県に医師会や薬剤師会などが参画する検討会の設置を求める。普及の背景には医療費適正化に加え、後発薬の供給不安や災害対応がある。健保連は2019年、高血圧、脂質異常症、糖尿病で後発薬への切り替えが進めば、全国で年間3,100億円の薬剤費削減につながると試算している。また、地域で使用薬をある程度集約すれば、薬局の在庫負担軽減や供給途絶時の代替、災害時の備蓄・配送にも役立つ。今後は、地域の実情を反映しながら、医師の処方判断とどう両立させるかが普及の鍵となる。 参考 1) 地域フォーミュラリ、厚労省が「全国説明会」今秋、医療関係者ら向けも(MEDIFAX) 2) 高血圧・脂質異常症・胃潰瘍…地域ごとに異なる「使用が推奨される医薬品」、リスト作りを国が推進(読売新聞) 3) 報酬改定も策定を後押し、広がる地域フォーミュラリ(日経メディカル) 4.チルゼパチドの薬価25%減 低価格化による不適正使用を懸念/リリー日本イーライリリーは、2型糖尿病治療薬チルゼパチド(商品名:マンジャロ皮下注)の薬価が8月1日付で25%引き下げられたことを受け、「画期的な医薬品に対する不当に不利益な対応」とする声明を発表した。今回の引き下げは、販売額が想定を上回った医薬品の価格を調整する「持続可能性特例価格調整」の適用によるもの。厚生労働省によると、同薬の保険診療での年間販売額は1,000~1,500億円規模に達している。薬価は2.5mg製剤で1本1,443円、15mg製剤で8,658円となった。リリーは、日本の価格は従来からG7で最も低い水準にあり、今回の引き下げにより同規模の経済圏でも最低水準になるとしている。同社は低価格化により、適応外となる痩身目的での不適正使用、海外からの医療ツーリズム、利益目的の買い占めや海外転売が拡大し、本来治療を必要とする2型糖尿病患者への安定供給に影響する可能性があると警告。政府に海外転売を厳格に規制する措置を求めている。チルゼパチドは週1回投与のGIP/GLP-1受容体作動薬で、食欲を抑制する作用も有する。わが国では2023年に2型糖尿病治療薬として発売されたほか、2025年には肥満症治療薬として別製品が発売されている。その一方で、糖尿病治療用製剤を美容・ダイエット目的で自由診療に使用する例が広がっており、適応外使用に伴う健康被害や、医薬品副作用被害救済制度の対象外となる可能性も指摘される。リリーは、今回の薬価引き下げについて、研究開発や国内投資の予見可能性を損ない、将来的なドラッグラグ・ドラッグロスにつながる恐れもあると主張している。高額な革新的医薬品による医療費増大への対応と、適正使用、安定供給、創薬イノベーションをどう両立させるか、薬価政策のあり方が改めて問われている。 参考 1) マンジャロの大幅な薬価引き下げに対する声明を発表~国際競争下における日本への長期的投資の持続のために、そして患者さんがイノベーションを享受するためには、予見可能で透明性の高い政策環境が不可欠~(日本イーライリリー) 2) 糖尿病薬マンジャロ「インドより安い」 不適正使用の助長に懸念(日経新聞) 3) 英アストラゼネカCSO 革新医薬への支出「先進国で公平負担を」(同) 4) リリー、マンジャロ薬価引き下げは「不当に不利益な対応」(AnswersNews) 5.MMR混合ワクチンを個別接種へ 接種率低下と感染拡大に懸念/米国米国のトランプ大統領は8月10日、小児のワクチン接種方針を見直す大統領令に署名した。麻しん、おたふく風邪、風しんを予防するMMR混合ワクチンについて、それぞれを別の機会に接種することを推奨するとともに、すべての小児に一律で推奨するワクチンを従来の17種類から11種類に縮小する方針を示した。A型・B型肝炎、ロタウイルス、髄膜炎菌、インフルエンザ、新型コロナワクチンなどは、医師と保護者による個別判断に移行するとしている。トランプ氏はワクチン接種数の増加と自閉症との関連を示唆しているが、米国小児科学会は「数百万人を対象とした多くの研究で関連がないことが示されている」と反論し、今回の見直しを「危険で誤解を招く」と批判している。WHOも、ワクチンと自閉症との因果関係を示す証拠はなく、MMRを単独接種に分ける医学的利点を裏付ける根拠もないとしている。さらに、麻しん・風しん・おたふく風邪の単独ワクチンは現在米国内では入手ができず、分割接種には製造体制の整備が必要となる。接種回数や受診回数の増加により、接種完遂率が低下するとの懸念も強い。米国では今年、8月6日時点で麻疹患者が2,465人に達しており、専門家はワクチン忌避の拡大がさらなる流行につながる可能性を警告している。なお、接種義務の決定権は各州にあり、大統領令のみでただちに接種スケジュールや保険適用が変更されるわけではない。 参考 1) 米、混合ワクチンを個別接種に 推奨対象も削減(共同通信) 2) 「ワクチンと自閉症が関連」が持論のトランプ氏、混合ワクチンを別々に接種する方針打ち出す…感染リスク拡大の恐れ(読売新聞) 3) 米医師ら、トランプ氏の大統領令に懸念 家庭でのワクチン離れにつながるか(CNN) 6.沢井製薬が46品目販売中止、低薬価・設備老朽化で安定供給が課題に/沢井沢井製薬は、後発医薬品22成分46品目について、在庫がなくなり次第、順次販売を中止すると医療関係者に通知した。大半は安定供給体制の構築と生産効率改善を目的とした製品構成の見直しによるもので、一部は協業する日医工グループ製品などへ統合する。対象にはアテノロール、アマルエット配合錠、アルファカルシドール、エバスチン、クアゼパム、テルミサルタンOD錠、ドネペジル、ニフェジピン、フルボキサミン、ブロナンセリン、メマンチンなど、日常診療で処方される薬剤も多数含まれる。沢井製薬は各品目について代替品・代替候補品を提示している。たとえばアマルエット配合錠はアムロジピンとアトルバスタチンの単剤、セチリジンOD錠は通常錠、ドネペジル錠は同社OD錠への切り替えが候補とされている。在庫消尽時期は品目ごとに異なり、多くは2027年4月だが、プロブコールは2026年10月、ザルトプロフェンやプロピベリン20mgは同年11月、ニフェジピンカプセルは2028年3月とされる。その一方で、アテノロールやアルファカルシドール、クアゼパムなどはすでに供給停止中となっている。経過措置期間の満了は2028年3月の予定。背景には後発薬業界の構造的な供給問題がある。日本製薬団体連合会の調査では、医療上の必要性が高い2,882品目のうち255品目、約9%で将来の供給継続が困難と回答された。主因は薬価低下や製造設備の老朽化であり、なかには全身麻酔薬や注射用抗菌薬など重要薬も含まれている。臨床現場では今後、単なる銘柄変更だけでなく、剤形や規格、配合剤から単剤への変更が必要となるケースもあり、処方時には院内採用品や地域薬局の在庫状況を含めた確認が求められる。 参考 1) 販売中止品目のお知らせ(沢井製薬) 2) 沢井製薬、後発薬46品目を販売中止へ 供給安定へ製品構成見直し(日経新聞) 3) 沢井製薬が46品目、高田製薬が31品目を販売中止に(日経メディカル) 4) 重要度高い薬「供給継続できず」1割 低薬価や老朽化で、日薬連調査(日経新聞) 5) 医療用医薬品供給状況報告(厚労省)

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第328回 「骨太の方針2026」の注目ポイント(後編) 地域医療構想ガイドライン公表を受け医療提供体制への言及多数、「攻めの予防医療」は総花的で斬新さなし

「注釈」で「有床診療所も含めて医療機関の役割分担の明確化を図ることを含む」と有床診の役割見直しを示唆こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この週末は、5月に内側側副靱帯損傷で傷めた左ひざの最終リハビリ目的で、山梨県の茅ヶ岳(「日本百名山」の著者・深田 久弥が登山中に急逝した山)に登ってきました。3ヵ月ぶりの登山でしたが、左足はほぼ完調で、急な上り下りが特徴の山でしたが、ストックを使うこともなく無事山行を終えました。が、下山してみると今度は右足の裏、土踏まずのあたりに痛みが発生し、次第に強くなりました。足底腱膜炎の症状です。登山中、知らず知らずのうちに左足をかばっていたツケと思われます。左足を受傷して3ヵ月、歩行のシンメトリー(対称性)の重要性に改めて気づかされた登山でした。ちなみに、茅ヶ岳の麓にある深田記念公園には、深田直筆の「百の頂に百の喜びあり」の言葉が刻まれた記念碑があります。実に深い言葉です。しかし、今の私には「百の頂に百の苦しみあり」と読めました。さて、今回も前回に引き続き、7月21日にようやく閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2026 『責任ある積極財政』元年 ~日本の挑戦を起動する!」(骨太の方針2026)の注目ポイントについて書いてみたいと思います。「骨太の方針2026」では前回書いた社会保障改革関連の記述以外では、新たな地域医療構想のガイドラインが公表されたことを受け、次のように医療提供体制への言及が多くありました。「2040年に向けて、病床数の適正化を着実に実施した上で、2027年度以降の地域医療構想を踏まえた医療機関の連携・再編・集約化を促進するとともに、地域包括ケアシステムの深化を図り、地域の実情に応じた質の高い効率的な医療・介護サービス提供体制を構築する」。なお、本文中の「医療機関の連携・再編・集約化」の文言には、「有床診療所も含めて医療機関の役割分担の明確化を図ることを含む」とする「注釈」が付きました。有床診療所の施設数・病床数は減少傾向にあり、人材不足、経営悪化、後継者不足などによりその存続が危ぶまれています。一方で、2040年に向けて、高齢者救急、在宅医療、看取り、介護施設との連携の需要は高まると考えられ、既存の有床診療所をそうした機能を提供するインフラとしてどう活用していくかが大きな課題となっています。この「注釈」から、有床診療所の役割の明確化と再評価が行われるだろうということが予想できます。救急医療体制の確保、人生の最終段階における医療・ケア、医師偏在対策、医学部定員削減も盛り込むその他の医療提供体制関連では、「妊娠・出産の経済的負担軽減と安心・安全な小児・周産期医療提供体制の両立、救急医療体制の確保、ドクターヘリの安全で持続可能な運航の確保、看取りなど人生の最終段階における患者中心の適切な医療・ケア、精神医療に関する地域医療構想を踏まえた取組、訪問看護の適切な実施、中山間・人口減少地域での柔軟な介護・障害福祉サービスの提供」などが挙げられていました。加えて、「かかりつけ医機能の発揮や医師の地域・診療科偏在の更なる是正策、大学病院等からの医師派遣の推進を含めた総合的な医師偏在対策、地域の実情を考慮した2028年度以降の医学部定員の削減に取り組む」と、医師偏在対策、医学部定員削減も盛り込まれました。また、「医療分野においては、新たな地域医療構想の下、将来需要を踏まえ、老朽化・災害対策を含む地域に不可欠な施設・設備の計画的な整備への必要な支援の在り方を検討する。介護・福祉分野においても、老朽化・災害対策を含む施設・設備の計画的な整備を支援する」と、地域医療構想を前提としながらも、施設・設備の整備についても記述されました。建設費や設備費の高騰で病院の建て替えや新設が滞っている地域は少なくありませんが、補助金等による国による何らかの対応が行われそうです。薬剤処方の適正化、効率化に関する検討項目が多数列挙医療保険制度関連では、前回詳しく書いた70歳以上の高齢者の医療費窓口負担割合に関する記述のほかは、「長期処方やリフィル処方箋の活用、地域フォーミュラリの全国展開、休薬・減薬などの効果的・効率的な治療の促進等により、給付の効率化や適正化を図りつつ、質の高いサービスを提供する。セルフメディケーション推進の観点からの更なる医薬品・検査薬のスイッチOTC化に向けた実効的な方策を検討し、必要な措置を行う」など、薬剤処方の適正化、効率化に関する検討項目が多数列挙されました。一見目新しい「攻めの予防医療と疾病対策」今回の「骨太の方針2026」で一見目新しいのは、高市 早苗首相が過去の記者会見でも強調していた「攻めの予防医療と疾病対策」の項目です。「国民のWell-beingの向上と健康寿命の延伸を図り、誰もが社会の担い手として活躍できる日本を実現する」として、「攻めの予防医療」を推進するとしています。具体的には、「健康増進、肥満症を含む疾病予防、早期発見、早期介入及び行動変容に関係機関が連携して取り組む。栄養・食生活を含む健康リテラシーの向上、地域住民の健康増進に資する薬局機能及び薬剤師の果たす役割の強化、学齢期の健康診断の在り方の見直し、予防接種、HIVや性感染症の予防、下水サーベイランス等の感染症対策、がん検診や精密検査の受診率向上、循環器病・糖尿病を含む生活習慣病等の予防、いわゆる国民皆歯科健診の具体化、口腔と全身の健康の関係に基づく歯科疾患対策・口腔健康管理、認知症の早期診断・早期対応、予防・医療・介護を通じた切れ目のないリハビリテーション、PHRの利活用と情報連携を推進する」としています。さらに、「更年期世代の女性への医療の推進や女性の健康総合センターの機能強化、『プレコンセプションケア推進5か年計画』の工程表の策定と実行、企業と保険者のコラボヘルス、睡眠対策を含む健康経営の推進等、予防・健康づくりを支えるヘルスケア産業の育成等を図る。 がん、脳卒中・心臓病その他の循環器病、慢性腎臓病、慢性閉塞性肺疾患、慢性疼痛、難病、アレルギー、依存症、難聴、睡眠障害等の疾病対策や移植医療対策を推進する」ともしています。新しさに欠ける「U.E.N.O.Plan~攻めの予防医療 厚生労働省関係施策~」よく読んでみると、予防医療と疾病対策の項目が総花的に羅列してあるだけで、どこが「攻め」なのかよくわかりません。「責任ある積極財政」と同じように、実態は二の次に、見た目(読んだ感じ)が一見カッコいいキャッチコピーにしたのでしょう。7月27日付のミクスオンライン等の報道によれば、上野 賢一郎厚生労働大臣は7月24日の閣議後会見で、「骨太方針2026」に盛り込んだ「攻めの予防医療」について、「健康寿命の更なる延伸や社会保障を支える基盤の維持・強化に向けて、取り組みを速やかに実施していく」と述べたとのことです。なお、具体化に向けて厚労省は「骨太の方針2026」が閣議決定された2日後の7月23日、「U.E.N.O.Plan~攻めの予防医療厚生労働省関係施策~」を公表しています。「U.E.N.O.」は厚労大臣の名前から取ったキャッチコピーで、「Understand, Exercise, Nourish and Optimize for Better Health」の略だそうです。ちょっと強引なコピーですね。同プランは「栄養・食生活」「がん・循環器病等」「歯科保健」「認知症」「リハビリテーション」「性差に由来するヘルスケア」の6領域を「直ちに取り組むべき第一弾の重点領域」として位置づけ、「攻め」の取り組みを具体化するため施策を盛り込んだものとのことです。ただ、その内容を見てみると、「栄養・食生活」は「食事ガイドを作成する」、「がん・循環器病等」は「がん検診の受診率60%、精密検査受診率90%の達成」、「認知症」は「新たな検査技術を活用し、早期診断・早期対応等を推進」というように、「攻め」という割には、従来施策の踏襲で、それほど斬新な取り組みが並んでいるわけではありません。というわけで、高市政権のさまざまな政策においても指摘されている、「華々しくぶち上げていること」と「実際にやっていること」の乖離を感じた今年の「骨太の方針」でした。

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第306回 無医地区が575地区に増加 医師不足エリア再拡大/厚労省

<先週の動き> 1.無医地区が575地区に増加 医師不足エリア再拡大/厚労省 2.高額療養費、8月から患者負担増 長期療養者には年間上限/厚労省 3.24年度の社会保障給付費138兆円 医療はコロナ費減で1.9%減/社人研 4.ドクターヘリの安定運航へ財政支援 広域搬送網の再設計も/厚労省 5.自由診療の再生医療に行政処分 患者死亡受け改善命令/厚労省 6.移植患者の術後管理置き去り 有償あっせんの元NPO理事長を再逮捕/警視庁 1.無医地区が575地区に増加 医師不足エリア再拡大/厚労省厚生労働省は、2025年10月末時点の「無医地区」が全国で575地区となり、2022年の前回調査から18地区増えたと公表した。無医地区人口も12万2,206人から13万4,753人へ1万2,547人増加した。国による定義では無医地区とは「医療機関がなく、中心地点からおおむね半径4キロ以内に50人以上が居住し、受診に長時間を要するなど医療機関を容易に利用できない地域」を指す。長期的には1984年の1,276地区から徐々に減少してきていたが、今回の調査で増加に転じ、医師不足地域が再び広がり始めた可能性が示された。都道府県別では、大分県が44地区で前回より6地区増え、岩手県、島根県、山口県、沖縄県が各4地区増加した。無医地区人口は大分県で5,852人、沖縄県で3,861人、山口県で1,920人増えるなど、地区数以上に住民への影響が拡大した地域もある。その一方で、福岡県は4地区、富山県と奈良県は各2地区減少した。山形県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、大阪府、佐賀県には無医地区がなかった。厚労省は、診療所の閉院や高齢医師の引退後に後継者を確保できないことが増加の主因とみている。なお、これとは別に厚労省は7月31日に「医師養成過程を通じた医師の偏在対策等に関する検討会」を開き、2028年度以降、医学部臨時定員を全国で削減する方針を示している。厚労省としては医師少数県や全国の医師偏在指標を下回る県には削減幅を緩和する考えだが、定員増は想定していない。このため、医師不足を訴える自治体からは地域偏在が固定化・助長される懸念が出ており、単純な医師養成数だけでなく、地域枠医師の離脱防止、結婚や育児、介護を含む柔軟な勤務、キャリア形成を支える伴走型支援が重要となる。さらに、基幹病院とへき地診療所が医師を融通する地域医療連携推進法人、巡回診療、オンライン診療、搬送体制を組み合わせ、1人の医師に依存しない広域ネットワークへ転換する必要がある。無医地区の拡大は、慢性疾患の継続管理や予防接種だけでなく、救急受診の遅れ、在宅医療・看取りの空白、基幹病院への患者集中にもつながる。医師には、地域の診療所単位ではなく、2次医療圏全体で外来、救急、在宅、訪問看護、薬局をどう維持するかという視点が求められる。 参考 1) 令和7年度無医地区等及び無歯科医地区等調査の結果を公表します(厚労省) 2) 575地区で医療機関ゼロ 22年比18増、厚労省調査(共同通信) 3) 「無医地区」増加に転じる 25年10月末 18増の計575地区に(CB news) 4) 「全国値」未満は緩和検討 厚労省 医学部臨時定員、28年度は全都道府県で削減へ(同) 2.高額療養費、8月から患者負担増 長期療養者には年間上限/厚労省高額な医療費の患者負担を抑える高額療養費制度が8月1日から見直された。所得区分ごとの月額自己負担上限は、住民税非課税世帯で4~5%、それ以外でおおむね7%引き上げられる。たとえば70歳未満で年収約370~770万円の場合、従来の「8万100円+医療費の一定部分の1%」から「8万5,800円+(総医療費-28万6,000円)×1%」となり、定額部分で5,700円増える。さらに2027年8月には所得区分を細分化し、年収約650~770万円では定額部分が11万400円となるなど、現行制度と比べ最大38%の負担増となる見通し。その一方で、長期療養者への配慮として、8月から年間自己負担上限が新設された。年収約370~770万円では年53万円で、所得に応じ18~168万円に設定される。直近12ヵ月で3回、月額上限に達すると4回目以降の負担が軽減される「多数回該当」の上限額は原則据え置く。これまで月ごとの上限にわずかに届かず、多数回該当の対象にならなかった患者も、年間上限により負担が抑えられる場合がある。ただし年間上限は償還払いとなるため、患者がいったん上限を超える金額を立て替えなければならない可能性がある。厚生労働省は今回の見直しにより、2027年度時点で保険料と公費による医療給付を年間約2,450億円削減できると試算する。このうち約1,070億円は、患者の受診行動の変化による医療費減少を見込んだものだ。厚労省は、長期療養者や低所得者に配慮しており、必要な受診が抑制されるとは想定していないと説明する。しかし、患者団体や医療関係者からは、がんや難病など高額な治療を継続する患者の受診控えや治療断念、生活困窮につながるとの懸念が出ている。また、今回の見直しによる患者側の負担増(所得区分や受療状況によって年間負担は異なる)に対し、保険料の軽減効果は1人当たり年約1,400円(月額約117円)にとどまり、負担増とのアンバランスさを疑問視する指摘もある。今回の見直しでは、高所得者ほど医療利用時の負担を重くする「応能負担」が強化された点も論点となる。保険料や税の段階ですでに所得に応じた負担を求める中、専門家からは給付を受ける際にも負担差を広げることが、国民皆保険を支える連帯を損なうとの意見もある。医療現場では、患者の年齢や所得区分、多数回該当、年間上限、加入する健康保険の付加給付を確認し、治療費の見通しを早期に説明する必要がある。また、マイナ保険証を利用すれば、原則として限度額適用認定証がなくても窓口負担を上限額までに抑えられる。がん相談支援センターや医療ソーシャルワーカーと連携し、経済的理由による治療の中断を防ぐ支援が一層重要となる 参考 1) 高額療養費制度 自己負担の上限額引き上げも 年間上限額を新設(NHK) 2) 高額療養費、負担上限が8月から最大7%増 来夏には最大38%増(朝日新聞) 3) 高額療養費見直し 政府説明をデータでたどると? ロジックに異論(同) 4) 所得高ければ医療費負担も重く…広がる「応能負担」、専門家は問題視(同) 5) 今日から変わる「高額療養費制度」 “年間上限”導入も自己負担増に患者団体「治療断念につながる」懸念(弁護士JPニュース) 3.24年度の社会保障給付費138兆円 医療はコロナ費減で1.9%減/社人研国立社会保障・人口問題研究所は、2024年度の社会保障費用統計を公表した。年金、医療、介護、子育て支援などに充てられた社会保障給付費(ILO基準)は138兆3,019億円で、前年度から2兆6,703億円、2.0%増加した。増加は3年ぶりで、新型コロナウイルス対策に伴う支出が膨らんだ2021年度の138兆7,544億円に次ぐ過去2番目の規模となった。人口1人当たりでは111万7,100円と、前年度より2万6,400円、2.4%増えた。部門別では、年金が57兆8,528億円と最も多く、前年度比1兆4,592億円、2.6%増加した。物価や賃金の動向を反映し、2024年度の年金改定率が+2.7%となったことなどが影響した。介護や子供・子育て、生活保護などを含む「福祉、その他」は35兆6,436億円で、2兆836億円の増加、6.2%増えた。介護報酬の+1.59%改定や児童手当の所得制限撤廃などが押し上げ要因となった。その一方で、医療は44兆8,055億円で、前年度から8,726億円、1.9%減少し、2年連続のマイナスとなった。新型コロナ対策費の縮小が主因で、医療需要そのものの減少を示すものではない。給付費全体に占める構成割合は、年金41.8%、医療32.4%、福祉その他25.8%だった。社会保障給付費の国内総生産(GDP)比は21.53%で、前年度より0.37ポイント低下した。給付費は増えたものの、GDPの伸びがそれを上回ったためで、2021年度の24.07%をピークに低下が続く。社会保障財源(ILO基準)は155兆6,896億円で、年金積立金の運用実績低下に伴う資産収入の減少により21.4%減少した。財源構成は社会保険料53.3%、公費37.5%など。高齢化に加え、物価・賃金、報酬改定、少子化対策が給付費を左右する構造が改めて示された。 参考 1) 令和6(2024)年度 社会保障費用統計の集計を公表します~社会保障給付費、3年ぶりに増加~(社人研) 2) 24年度の社会保障給付費138兆円 高齢化で2番目の水準 厚労省(時事通信) 3) 2024年度の社会保障給付費、過去2番目に多い138兆円 GDP比は低下(日経新聞) 4) 社会保障給付費が3年ぶりに増加 対GDP比は減少続く 24年度(朝日新聞) 5) 24年度の社会保障給付費、「医療」は1.9%減 社人研(MEDIFAX) 4.ドクターヘリの安定運航へ財政支援 広域搬送網の再設計も/厚労省厚生労働省は、整備士不足などで一部地域のドクターヘリが運休している問題を受け、「救急医療搬送体制等のあり方に関する検討会」を開催し、安定運航に向けた議論を始めた。ドクターヘリは、救急医療機器を備え、医師・看護師が同乗して現場や搬送中に診療を行う専用機で、一般的に操縦士、整備士、医師、看護師らが搭乗する。2022年までに京都府を除く46都道府県へ導入されたが、整備士の確保難から東京、大阪、徳島などで運休が発生している。運休地域では、近隣県のドクターヘリ、消防防災ヘリ、ドクターカー、救急車による代替や相互応援が行われ、例外的に整備士を同乗させず操縦士2人で運航する「ツーパイロット制」も検討されている。大阪府は新たにエアロトヨタへ委託し、8月24日から月10日程度の限定運航を再開する予定だが、予備機を利用するため不具合時には再び停止する可能性がある。厚労省によると、2025年度は46都道府県57機で事業を実施した一方で、2026年4月時点で運航を委託できていたのは43都道府県54機にとどまった。年間受諾件数は2024年度に2万8,405件で、救急医療の基盤として定着している。国は今年度の当初予算に100億円を確保し、飛行時間に応じた運航委託費の補助基準額を引き上げた。さらに、機体整備や資機材、整備士確保などを支援する緊急事業として補正予算22億円を計上した。検討会では、短期的には運航事業者への財政支援、共同運航、規制の見直しを進め、9月にも中間取りまとめを行う。中長期的には整備士、操縦士、医療従事者の必要数を推計し、養成・確保策を構築する。今後は、ヘリ単独の維持ではなく、地域の搬送距離や疾病構造を踏まえ、消防防災ヘリやドクターカーを含む広域救急搬送網として再設計する視点が求められる。 参考 1) 救急医療用ヘリコプター(ドクターヘリ)の現状について(厚労省) 2) ドクターヘリ安定運用に向けて必要な支援は何か、社会構造変化の中でドクターヘリの役割をどう考えるか-救急医療搬送体制検討会(Gem Med) 3) 大阪府のドクターヘリ、新たな委託先はエアロトヨタ 8月下旬から一部運航再開へ(産経新聞) 5.自由診療の再生医療に行政処分 患者死亡受け改善命令/厚労省厚生労働省は7月31日、自由診療の再生医療を提供していた「ネオポリス診療所銀座クリニック」(東京都中央区)と「大阪ベテスダクリニック」(大阪府泉佐野市)の管理者に対し、再生医療等安全性確保法に基づく改善命令を出した。銀座クリニックでは今年3月、慢性疼痛に対する治療として本人の脂肪由来細胞を投与された外国籍の60代女性が急変し、搬送先で死亡。厚労省は同月13日、治療の一時停止を命じ、その後、提供体制を調査していた。調査では、細胞加工を委託する事業者を介し、韓国の再生医療グループが患者ごとの投与細胞数や投与方法を指定したリストを作成し、クリニックがその内容に従って処置していたことが判明した。医師ではない第三者が実質的に治療内容を決定する体制が常態化し、治療で得た利益の大部分も同グループなどに渡っていたという。さらに、国に届け出た再生医療提供計画から逸脱した治療を行うなど、複数の法令違反が認められた。厚労省は、第三者の影響力を排除し、医療機関が自らの責任で適正な提供体制を構築するよう求めた。大阪ベテスダクリニックでも同様に第三者主導の提供体制が確認され、再生医療後に体調不良で入院を要した患者1人について必要な報告をしていなかったとして改善命令を受けた。銀座クリニックの死亡原因については引き続き調査中である。今回の事案は、患者死亡事故を契機とした立ち入り調査により、外部事業者主導の不適正な運営体制や計画逸脱が発覚し、法に基づく改善命令が出された(因果関係の調査は継続中)。さらに、高額な自由診療として拡大する再生医療で、治療の医学的妥当性だけでなく、指示系統、利益配分、有害事象報告、届け出内容との整合性を含む管理体制の検証が不可欠であることを示した。再生医療等安全性確保法では、医療機関が提供計画を作成し、認定再生医療等委員会の審査を経て国に届け出ることなどを求めている。外部の事業者が治療設計や集患、収益配分まで事実上支配すれば、医師の独立した判断や緊急時対応が損なわれる恐れがある。自由診療の再生医療を提供する医療機関は、委託先との契約関係や治療決定過程を点検し、重篤な有害事象を速やかに報告する体制の再確認が求められる。 参考 1) 再生医療等の安全性の確保等に関する法律に基づく改善命令等について(厚労省) 2) 不適切再生医療で銀座の診療所に改善命令 厚労省 細胞投与で外国籍の患者死亡(産経新聞) 3) 患者死亡の再生医療クリニックなどに改善命令 厚労省(NHK) 4) 「銀座クリニック」の黒幕/「再生医療」謳う自由診療に札付きの輩(FACTA online) 6.移植患者の術後管理置き去り 有償あっせんの元NPO理事長を再逮捕/警視庁警視庁などの合同捜査本部は7月28日、カンボジアでの生体腎移植を別の患者に有償であっせんしたとして、NPO法人「難病患者支援の会」の元理事長で、一般社団法人「国際医療相談室」を実質的に運営していた菊池 仁達容疑者(66)を臓器移植法違反の疑いで再逮捕した。再逮捕容疑は2025年、千葉県内の60代男性にカンボジアでの生体腎移植をあっせんし、医師への謝礼や手数料名目で約850万円を受け取った疑い。男性は渡航後、中国人コーディネーターに現地医療費などとして約13万ドル、当時約1,900万円を支払い、カンボジア人男性とみられるドナーから腎臓移植を受けたとされる。渡航前には、菊池容疑者と協力関係にあった大阪市内の病院で血液検査などを受け、病院長の紹介状が中国人コーディネーターを介して現地の中国人医師団に送られていた。その一方で、男性は「アフターケアも万全」と説明されていたにもかかわらず、帰国後の受け入れ先が確保されておらず、受診を断られるなどして10ヵ所余りの医療機関を転々とした。このため移植後に必要な処置を受けるまで2ヵ月以上かかったというが、現在の容体は安定している。捜査本部は、同法人が設立された2024年3月以降、少なくとも患者5人から計4,500万円以上を受け取り、その一部が菊池容疑者の保釈金調達に伴う借金返済へ充てられたとみている。患者ごとの請求額は約500~900万円と幅があった。菊池容疑者は過去にもベラルーシでの無許可移植あっせんで実刑判決を受けており、保釈中に今回の事業を主導した疑いがある。臓器移植法は、患者とドナーを対価により結び付ける行為や、無許可のあっせんを禁じている。今回の事件は、海外渡航移植の不透明な費用構造に加え、免疫抑制剤の投与や感染対策など、帰国後の国内医療への引き継ぎが整わないまま患者が置き去りにされる危険性も浮き彫りにしたが、海外での移植内容やドナー情報、感染症・免疫抑制療法に関する情報が不十分な場合、国内医療機関で安全な術後管理を引き継ぐことが困難になる問題も浮き彫りとなった。 参考 1) 臓器移植法違反事件 帰国後の男性 受診拒否で医療機関を転々(NHK) 2) 別の男性にも臓器移植手術あっせんか NPO元理事を再逮捕へ(同) 3) 臓器移植あっせん事件、別の患者からも対価か 元NPO理事再逮捕へ(朝日新聞) 4) 臓器有償あっせん、患者から受け取った現金を菊池被告が借金返済に…保釈金1,800万円の調達でできた借金(読売新聞)

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第326回 地域医療構想策定ガイドラインやっと公表(後編) 地域で急性期拠点機能の病院選定が難航した場合、都道府県が主導して決定、大学病院本院等の意見も参考に

高齢者救急・地域急性期機能と急性期拠点機能については併存できずこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。花巻東高校出身でスタンフォード大学の佐々木 麟太郎選手(21)のマイアミ・マーリンズとの契約が正式に決まり、7月23日(現地時間)、入団会見が行われました。流暢な英語で「My goal, my dream, is always to make it to the Big Leagues as soon as possible」と抱負を語るとともに、スペイン語も話せるように勉強するとも話していました。佐々木選手は昨秋のNPBドラフト会議でソフトバンクから1位指名を受け、進路が注目されていましたが、7月12日、マーリンズがドラフト8巡目(全体235位)で指名していました。各紙報道によれば契約金は21万200ドル(約3,400万円)と、ソフトバンクの提示よりはるかに低額でしたが、自身の長年の夢であったMLBを目指すことにしたわけです。こうした日本の有望選手の米国大学を経てのMLB流出は今後も続きそうです。それにしても、大谷 翔平選手、菊池 雄星投手に続いて3人目のMLB選手を輩出する可能性のある花巻東高校はすごいですね(今年の夏の全国高等学校野球選手権大会にも岩手県代表で出場します)。ところで、佐々木選手はスタンフォード大学の2年目を終わったばかりのはずですが、名門大学は中退するのでしょうか?調べてみると、現時点では中退ではなく休学と報じられています。スタンフォード大学の学籍を維持したまま、マーリンズ傘下でプレーしながら将来復学する余地を残した形です。米国の大学には長期の休学制度があり、報道等によればスタンフォード大学の休学は無期限に近い形で認められるそうです。現役引退後(あるいはMLBで通用しなかった場合)に再び通い、学位を取ってビジネスマンを目指す可能性もあるわけです。なかなか賢い選択です。早くメジャーに上がって活躍して欲しいですが、重めの体重(120kg前後と報じられています)ゆえ、走力と守備力が少々心配です。今回も前回に引き続き、7月3日に公表された「地域医療構想策定ガイドライン」について書いてみたいと思います。創設される「医療機関機能報告」は新たな地域医療構想の最大の“肝”と言えますが、とりまとめ段階では言われていなかった「新ルール」が盛り込まれました。以前は、1医療機関が複数の機能を報告することもできるとされていましたが、高齢者救急・地域急性期機能と急性期拠点機能については、両機能を一つの医療機関が報告できないことが明示されたのです。地域包括医療病棟や地域包括ケア病棟入院料を持つ急性期病院にとって、このルールは影響が大きいと考えられます。「急性期病院A一般入院料」、「急性期病院B一般入院料」の診療報酬と連動した措置「医療機関機能報告」制度とは、地域(二次医療圏等を基礎とした構想区域)ごとに確保すべき医療機関機能として高齢者救急・地域急性期機能在宅医療等連携機能急性期拠点機能専門等機能より広域な観点で確保すべき医療機関機能として医育及び広域診療機能(大学病院本院のみ)をそれぞれ位置付け、「各医療機関が2040年において担う医療機関機能を決定」し、報告する制度です。「とりまとめ」の段階では、医療機関は「複数の機能を報告することもできる」とされていましたが、最終的には「高齢者救急・地域急性期機能と急性期拠点機能については、医療資源を多く要する医療や高齢者救急の役割分担を明確化するためのものであり、両機能を一つの医療機関が報告することはしない」と明示されました。2026年度診療報酬改定では急性期拠点機能を想定した「急性期病院A一般入院料」、「急性期病院B一般入院料」が新設されましたが、「A」は地域包括医療病棟や地域包括ケア病棟入院料とのケアミックスは認められず(経過措置あり)、「B」も地域包括医療病棟とのケアミックスは認められません(経過措置あり)。「医療機関機能報告」のルールも診療報酬と連動した措置と言えます。高齢者救急・地域急性期機能と急性期拠点機能を一つの医療機関が報告できないことについては、すでに全国自治体病院協議会などから批判の声が出ています。7月17日付のGem Medの報道によれば、全国自治体病院協議会は7月16日に定例記者会見を開き、望月 泉会長らが、地方の自治体病院は急性期拠点機能とともに、実質的に高齢者救急・地域急性期機能を果たしていることから、病院による機能分担は難しいとの考えを示し、(厚労省は)「地域医療の実態を把握・勘案できていないのではないか」との疑問を呈したとのことです。この問題、今後さらに揉めそうな予感がします。急性期拠点機能は地方都市型や大都市型の地域では人口20万人から30万人の単位で一つガイドラインにおいて急性期拠点機能は、「地域での持続可能な医療従事者の働き方や医療の質の確保に資するよう、手術や救急医療等の医療資源を多く要する症例を集約化した医療提供を行うものである」と定義、「単に手術の実施や救急医療の提供を行うだけでなく、例えば、災害医療への対応、新興感染症への対応、医育(臨床研修・専門研修)、地域の医療機関への人的協力、地域における必要な病床の確保のための積極的な役割など、各地域において政策的に必要な医療等も含め、地域において求められる医療を提供する必要がある」としています。その上で、「急性期拠点機能は、人口の少ない地域においては、一つ確保・維持することとし、地方都市型の地域や大都市型の地域において、人口20万人から30万人の単位で一つ確保することを基本的な考え方として確保する」と必要数の目安も提示しています。どの医療機関が急性期拠点機能を担うか関係者間の協議が調わない場合の考え方も提示どの病院が「急性期拠点機能」を担うかは、各地域でこれから議論、駆け引きが行われるわけですが、ガイドラインは協議が難航する際の考え方(議論の収束のさせ方)について以下のように細かく明示しています。厚労省が各地域の「協議の場」が相当荒れるだろうと予想していることがうかがえます。ガイドラインの「II.地域医療構想の策定について」の「4.入院医療」の中の「(2)協議事項」において、区域内において、どの医療機関が急性期拠点機能を担うかについて、関係者間の協議が調わない場合の考え方を以下のように示しています。地域において設定すべき数以上の医療機関が急性期拠点機能を担う意向があり、協議が円滑に進まない場合であって、医療機関から求めがあった場合や都道府県が必要と認めた場合等については、都道府県が病院間での意見交換等の場を設定する。病院間での協議でも調わない場合においては、都道府県や医師の人的協力を行う大学病院本院も交え、人材確保の見通しを踏まえた上で、協議を行う。例えば、大都市、地方都市部において、県立病院と市立病院、あるいは市立病院同士等が近接して所在し、急性期医療の役割分担について協議が必要となるような場合は、県と市の病院事業担当部局が、県の地域医療構想担当部局、医療関係者、人的協力を行う大学病院本院等の協力を得ながら、診療実態や各種補助金・繰入金の活用状況等を踏まえ協議を行い、2040年に向けた連携・再編・集約化の方針の下で、それぞれの病院がどのような役割分担を行っていくか整理する必要がある。その上で、なお、関係者間の協議が調わない場合には、都道府県において、改めて各医療機関の診療実績や将来の医療需要の見通し等を客観的に勘案し、医療関係者や人的協力を行う大学病院本院等の協力も得ながら、方向性を決定する。なお、その場合、急性期拠点機能を担わないこととなった病院についても、高齢者救急の対応や地域の初期救急の対応等、地域で必要な役割を果たすことができるよう、高齢者救急の主な受入先とする体制を構築するなど、関係医療機関との協議も踏まえ、具体的な取組を検討していく。各診療科で“星取り表”を作り、全体としてどちらの病院が急性期拠点機能に相応しいかを判断端的に言えば、協議がうまく進まない場合は、都道府県が診療実績等を参考にしながら主導して決定に持っていけ、その際、人的協力を行う大学病院本院等の意見も参考せよというわけです。仮に人口30万人の圏域に脳神経外科で同レベルの手術を同程度行っている医療機関が2病院あった場合、どちらに人員を集約したいかの希望を医師派遣元の大学病院に聞き、それを参考にすることになります。もちろん、脳神経外科だけでは急性期拠点機能は担えませんから、消化器外科、心臓外科等々、各診療科でいわば“星取り表”を作り、全体としてどちらの病院が急性期拠点機能にふさわしいかを判断するわけです。病院と大学医局とのそれまでの関係や、病院側の医療機器・設備等の充実具合なども勘案されると考えられます。つまり、地域で急性期拠点機能の医療機関を目指す病院は、患者獲得競争だけではなく、医師を派遣してもらっている大学病院との関係を深めることも重要な要素になるわけです。大学病院の意見が重要ということになると、各科教授の権限も相当大きなものになりそうです。国公立の大学医学部では、贈収賄事件が起きないかと今から心配になってしまいました。

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第305回 「攻めの予防医療」公表 がん検診60%と国民皆歯科検診の実現へ検討/厚労省

<先週の動き> 1.「攻めの予防医療」公表 がん検診60%と国民皆歯科検診の実現へ検討/厚労省 2.日本人の平均寿命、男女とも延伸 女性は41年連続世界一/厚労省 3.高額療養費、8月から負担増 社会保障費膨張で改革圧力強まる/政府 4.電子カルテ、2030年にほぼ100%へ 国はクラウドと情報共有を標準に/政府 5.看護学生、10年で3割減 地域医療を脅かす看護師不足/厚労省 6.医療機関の倒産、上半期で過去2番目 後継者難が深刻化/東京商工リサーチ 1.「攻めの予防医療」公表 がん検診60%と国民皆歯科検診の実現へ検討/厚労省厚生労働省は、7月23日に健康寿命の延伸を目指す施策パッケージ「U.E.N.O.Plan」を公表した。従来のように国民の自主的な健康行動を促すだけでなく、行政や保険者が能動的に介入し、行動変容を後押しする「攻めの予防医療」への転換を掲げている。重点領域は、「がん・循環器病等、栄養・食生活、歯科保健、認知症、リハビリテーション、性差に由来するヘルスケア」の6分野である。がん対策では、2028年度までに胃、大腸、肺、乳房、子宮頸部の主要5がん検診の受診率目標を60%、精密検査受診率を90%としている。就業状況に応じた受診勧奨、職域と自治体の連携、受診率の見える化、未受診理由の調査、ポータルサイトの開設を進めるほか、事業者と保険者による「コラボヘルス」を強化する。要精密検査者への勧奨や相談支援も充実させ、検診を受けるだけでなく、診断・治療につなげる仕組みを重視する。歯科保健では、2027年度から「国民皆歯科検診」の実現に向け、現在10歳ごとの歯周病検診を5歳ごとに拡大し、希望者が唾液などによる簡易検査を毎年受けられる仕組みを検討する。栄養分野では、生活習慣病予防に向けた「食事ガイド」を2026年度中に作成する。リハビリテーションは、心身機能の回復にとどまらず、日常生活動作の改善、社会参加、健康増進を支える重点領域とされた。急性期での早期・休日リハビリ、地域の通いの場や短期集中予防サービス、訪問・通所リハビリなどを予防、医療、介護を通じて切れ目なく提供し、科学的根拠に基づくポータルサイトで本人の主体的参加を促す。ただし、新規施策は情報発信が中心で、実効性は今後の診療報酬・介護報酬や予算措置に左右される。日本慢性期医療協会は、この提言に関連して、高齢者の要介護化や重度化の大きな要因である転倒・骨折を防ぐ「攻めのリハビリ戦略」を提言した。理学療法士・作業療法士が、身体機能、住環境、栄養、服薬、骨粗鬆症を評価する「転倒リスク健診」、ICT・AIを用いた自宅環境評価、要介護前の予防的リハビリの制度化が柱である。「転倒させない、転倒しても骨折させない、骨折しても寝たきりにさせない」の3段階で介入し、健康寿命の延伸と医療・介護費の抑制を目指す。今後は、理念を現場で実行できる人員配置、財源、評価制度の具体化が焦点となる。 参考 1) U.E.N.O.Plan~攻めの予防医療厚生労働省関係施策~(厚労省) 2) 攻めの予防医療推進する「U.E.N.O.Plan」を公表 主要ながん検診受診率60%達成へ 28年度までに(CB news) 3) 日慢協、「攻めのリハビリ戦略」提言 骨折・転倒を防ぐリスク健診など(同) 4) 厚労省「攻めの予防医療」、リハビリを予防・医療・介護貫く重点領域に位置づけ(PT-OT-ST.net) 2.日本人の平均寿命、男女とも延伸 女性は41年連続世界一/厚労省厚生労働省は、7月24日に2025年の「簡易生命表」を公表した。それによると、日本人の平均寿命は男性81.35歳、女性87.33歳で、前年よりそれぞれ0.25歳、0.20歳延びた。男女とも前年を上回るのは2023年以来2年ぶり。女性は41年連続で世界1位を維持し、男性はスウェーデン、スイス、イタリアなどに次いで7位となり、前年から順位を1つ下げた。男女差は5.98年で、前年より0.05年縮小した。平均寿命は、その年の年齢別死亡率が今後も続くと仮定した場合に、0歳児が平均して何歳まで生きるかを示す指標である。今回の数値は、わが国に住む日本人を対象とした2025年の簡易生命表に基づく。わが国では男性が2020年まで9年連続、女性が8年連続で過去最高を更新していたが、新型コロナウイルス感染症による死亡増加の影響で2021年、2022年は男女ともに低下した。2023年にはいったん回復したものの、2024年は男性が横ばい、女性が0.01歳短くなっていた。今回の延伸には、がん、心疾患、新型コロナによる死亡率の低下が寄与した。男性ではがん、女性では新型コロナや心疾患による死亡率低下の影響がとくに大きかった。その一方で、肺炎や老衰による死亡割合は増加しており、高齢化に伴う死因構造の変化もみられる。国際比較では、女性は日本に続き韓国、スペインが上位となり、男性はスウェーデンが82.52歳で首位、スイスが82.40歳と続いた。ただし、各国の公表年や集計方法には違いがあり、順位は参考値として捉える必要がある。厚労省は、わが国の平均寿命は男女とも世界トップクラスで、保健福祉水準の高さを示す一方で、なおコロナ禍前の水準(2020年時点で男性81.56歳、女性87.71歳)には戻っていないとしている。今後は寿命の延伸だけでなく、健康寿命との差を縮め、フレイルや生活習慣病を予防し、要介護期間を短くする取り組みが一層重要となる。 参考 1) 令和7(2025)年簡易生命表の概況 2) 2025年の平均寿命 男女とも前年上回る 女性は世界1位(NHK) 3) 平均寿命、男女とも延び 昨年、女性は87.33歳で世界首位 厚労省まとめ(日経新聞) 4) 日本人の平均寿命、女性は41年連続「世界一」の87.33歳…男性81.35歳(読売新聞) 3.高額療養費、8月から負担増 社会保障費膨張で改革圧力強まる/政府政府は、7月24日に医療費の自己負担を一定額に抑える高額療養費制度について、2026年8月と2027年8月の2段階で患者負担の上限を引き上げる関連政令を閣議決定した。8月1日から所得区分ごとの月額上限を4~7%引き上げ、さらに2027年8月には所得区分を細分化したうえで、現行比最大38%まで引き上げる。年収約370~770万円では、現在の基準額8万100円が2026年8月から8万5,800円となり、2027年8月以降、年収約650~770万円では11万400円となる。その一方で、長期療養者への配慮として、2026年8月から所得に応じた年間上限を新設し、同年収帯では53万円とする。現行制度は、月ごとの自己負担限度額を超えた分を保険者が給付する仕組みで、直近12ヵ月で3回以上該当した場合、4回目以降の負担を軽減する「多数回該当」がある。今回、この多数回該当の限度額は原則据え置く。厚生労働省の資料では、健保組合の1,000万円以上の高額レセプトは2010年度の174件から2024年度には2,328件に増えており、高額医薬品や高度医療の普及を背景に制度の持続可能性が課題となっている。さらに70歳以上の外来通院の負担を抑える「外来特例」も見直し、一般区分の月額上限は現在の1万8,000円から2026年8月に2万2,000円、2027年8月に2万8,000円へ引き上げる。低所得層には据え置きや年間上限を設ける。政府は給付費を抑え、現役世代の保険料軽減につなげる狙いだが、患者団体は、がんや難病など継続治療が必要な患者の受診控えや治療中断を懸念する。背景には、膨張を続ける社会保障費がある。2026年度当初予算で社会保障費は39兆円と歳出の約3割を占め、財務省は2027年度の自然増を約4,000億円と見込む。政府・与党内では、70歳以上の窓口負担引き上げ、介護サービスの2割負担対象拡大、外来特例の廃止、OTC類似薬の追加負担などを巡り温度差がある。介護報酬改定による賃上げ対応も歳出増要因となる。さらに「骨太の方針」から例年の「財政健全化」の文言が消え、長期金利が一時2.9%に達するなど、市場は歳出膨張への警戒を強めている。制度の持続可能性と患者のセーフティーネットを両立できるかが焦点で、医療現場には所得区分、年間上限、多数回該当を踏まえた丁寧な説明と相談支援が求められる。 参考 1) 高額療養費制度の概要(厚労省) 2) 高額療養費、8月から負担増 月4~7%、年間上限額を新設(共同通信) 3) 高額療養費の上げ決定 負担上限、来月から2段階(日経新聞) 4) 社会保障費の膨張止まらず、自然増は0.4兆円 来年度の概算要求基準(日経新聞) 4.電子カルテ、2030年にほぼ100%へ 国はクラウドと情報共有を標準に/政府政府は7月21日に、新たな規制改革実施計画を閣議決定した。医療分野では、電子カルテを単に院内で保存する装置から、全国で医療情報を共有・活用する基盤へ転換する方針を打ち出している。政府目標として2028年度までに200床以上の病院、2030年までに全医療機関での普及率ほぼ100%を掲げる一方、上野 賢一郎厚生労働大臣は記者会見で法改正に基づく目標達成義務は「政府に課されたものであり、医療機関に導入を義務付けるものではない」との見解を示している。現在使用している電子カルテや紙カルテの継続利用も可能とされているが、政策の全体像としてはクラウド化と情報共有を軸としたデジタル化が加速している。中心となるのはクラウドネイティブ型電子カルテである。厚生労働省は一定の標準仕様、情報連携、セキュリティ要件を満たす製品の認証制度を2026年度中に整備し、2027年春の認証開始を目指す。多要素認証やペネトレーションテスト、電子処方箋・電子カルテ情報共有サービスとの接続を想定し、中小病院や診療所には認証製品の導入補助も検討する。院内サーバー中心の仕組みから、ベンダーが更新や防御を担うクラウド型へ誘導する狙いがある。政府の重点計画も、クラウドネイティブ型の認証制度と標準型電子カルテの普及を明記した。電子カルテ情報共有サービスは2026年度中に全国運用を開始し、以後はバイタル、画像、病理・画像診断レポートなど共有情報を拡大する。薬局、訪問看護、介護事業所との連携も視野に入り、診療情報は施設内で完結せず、患者を軸に流通する方向となる。保存期間も、先天性疾患や小児がんなど長期追跡が必要な疾患を念頭に延長が検討される。既存カルテの継続使用は当面可能だが、更新時には標準化、クラウド、外部連携への対応が事実上の選択条件になっていく。医師にとって電子カルテは単なる記録媒体ではなく、地域連携、救急、処方、研究、AI活用の入口となる。その一方で、システム障害時の診療継続、アクセス権限、情報漏えい対策、入力負担への備えは不可欠である。医療機関は「義務化されるまで待つ」のではなく、次回更新を見据え、データ移行性、標準規格、バックアップ、サイバー対策を早期に点検すべき段階に入った。 参考 1) 規制改革実施計画(内閣府) 2) デジタル社会の実現に向けた重点計画(デジタル庁) 3) 電子カルテ、厚労省が認証制度 中小病院や診療所の導入補助を検討(日経新聞) 4) 電子カルテデータの保存期間を延長へ 年内結論、規制改革実施計画(CB news) 5) 厚労相「医療機関に電子カルテ導入の義務はない」(保団連) 5.看護学生、10年で3割減 地域医療を脅かす看護師不足/厚労省看護師不足が、地方を中心に病床削減や病棟閉鎖という形で地域医療を直撃している。看護師養成課程の受験者は2025年度に14万1,234人で、10年間で30.8%も減少している。18歳人口の減少はこの期間に9.1%に過ぎず、単なる少子化だけでは説明できない。とくに専門学校の受験者は63.2%減り、宮城県、沖縄県を除く全都道府県で定員割れとなっている。さらに2030年度までに94課程が廃止される予定で、卒業生の8割超が地元で就職する専門学校の縮小は、地域の看護師不足に深刻な影響を与える。背景には、看護師の夜勤を含む不規則な勤務形態、責任の重さ、実習負担、学費、賃金の伸び悩みがある。看護師養成には102単位が必要で、そのうち約4分の1を実習が占める。SNSでは「実習がきつい」との印象も広がる。さらに50~54歳の看護師の平均月収は20~24歳より7万7,000円高い程度で、年齢や経験を重ねても処遇が伸びにくいこともある。購買力平価ベースの給与でも米国やオーストラリアを大きく下回り、診療看護師など公的なキャリアアップ制度が乏しいことも職業選択上の弱点となっている。影響はすでに顕在化している。岐阜県立下呂温泉病院では看護職員が約10年で50人減り、配置基準に合わせて実質稼働病床を130床まで縮小した。市立金山病院も看護師不足を一因に療養病棟を閉鎖した。青森県むつ市でも患者受け入れ制限が検討されるなど、看護師不足は医師不足と同様に、病院の診療機能そのものを規定する問題である。病院に空床があっても看護配置がなければ入院を受けられず、救急、手術、病棟運営、退院支援、在宅移行まで連鎖的に影響するため、地域にとって非常に重要な課題となる。また、医師の業務を看護師へ一方的に移すだけでは看護師の業務負担が増えるため、医師事務作業補助者や看護補助者を含む役割分担、指示の標準化、不要な慣行の見直しに医師も関与しなければならない。厚生労働省は2040年までの需要推計、新人研修の充実、ICT教材、遠隔授業、養成校の統廃合・サテライト化、教員配置基準の柔軟化を検討する。日本病院会からは、看護師偏在対策として卒後臨床研修や地域マッチングを導入する案も出ている。自治体による修学支援、地元勤務を条件とした学費給付、外国人看護補助者の活用も進む。ただし、確保策だけでなく、賃金、夜勤負担、教育支援、柔軟な勤務、専門性に応じた評価を一体で見直さなければ、看護師の志望者数減と離職の連鎖は止まらない。看護師の確保は、看護部門だけの課題ではなく、病院経営と地域医療構想の根幹に位置付けるべき大きな課題となっている。 参考 1) 消える看護学生、10年で3割減 地域医療の持続に黄信号(日経新聞) 2) 新人看護職員研修充実による看護師の資質向上、看護師養成校の人員体制柔軟化等による経営支援等を検討-看護職員養成・確保検討会(Gem Med) 3) 看護師の確保策にとどまらず「偏在対策」が必要、医師と同様の「卒後一定期間の臨床研修」制度を検討せよ-日病・相澤会長(同) 4) 看護師不足、人材確保へ模索 岐阜県下呂市、行政連携や外国人材活用(NHK) 6.医療機関の倒産、上半期で過去2番目 後継者難が深刻化/東京商工リサーチ東京商工リサーチによると、2026年上半期に倒産した病院、診療所、歯科医院は前年同期比15.1%増の38件と医療機関の経営悪化が一段と鮮明になっていることが明らかになった。上半期としては、2006年以降で2009年の39件に次ぐ2番目の高水準である。内訳は病院が4件と前年同期から半減した一方で、診療所は19件、歯科医院は15件に増加。診療所は過去20年間で最多となり、地域の身近な医療機関ほど厳しい状況に置かれている。倒産原因は、患者数や収入の減少など「販売不振」が22件、「既往のしわ寄せ」が8件で、合わせて約8割を占めた。さらに、後継者難による倒産は過去最多の11件に上り、全体の約3割を占めた。倒産の37件、97.3%が破産で、民事再生は1件だけだった。経営不振に陥った医療機関では、第三者への承継や再建が難しい実態がうかがえる。その一方で、裁判所への申し立てなどを伴う倒産には至らないものの、事業継続を断念し、廃業を選ぶ医療機関も急増している。帝国データバンクによると、2024年の休廃業・解散は722件だったが、2025年には823件へ増え、2年連続で過去最多を更新した。うち診療所が661件を占め、診療所経営者の56.7%が70歳以上とされる。2025年の倒産も66件で過去最多となった。背景には、光熱費、医薬品、医療材料、給食費、建設費、人件費の上昇に対し、公定価格である診療報酬へ十分に転嫁できない医療特有の構造がある。厚生労働省の調査でも、2024年度は一般病院の67.6%、医療法人の一般診療所の37.4%が赤字だった。患者数の減少、職員不足、施設の老朽化、後継者不在が重なれば、地域から医療機関が失われ、救急や在宅医療を含む残存施設への負担集中を招く。資金支援だけでなく、早期の事業承継、医療機関の再編・連携、物価や賃金を反映した診療報酬上の対応が急務となっている。 参考 1) 2026年上半期「医療機関」倒産 増勢続く 上半期で2番目の38件、「後継者難」は最多(東京商工リサーチ) 2) 日本の医療は崩壊寸前? 医療機関の休廃業・解散は過去最多722件(AERA)

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第325回  「地域医療構想策定ガイドライン」やっと公表(前編) 国の人口減少と高齢患者急増に対する強い危機感あらわ、「再編・集約化」の取り組みに最重点

今年春にも公表される予定も、延びに延びて7月にやっと公表こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。ワールドカップ、終わってしまいましたね。日本でのテレビ観戦は、寝不足との戦いでなかなかハードでしたが、無料で観ることができるのですから贅沢は言えません。商業主義的過ぎるとの批判や、トランプ大統領のFIFAへの異例の介入騒動などもありましたが、サッカー素人の私でもいろいろな意味で楽しめた大会でした。日本経済新聞を購読している方はご存知だとは思いますが、大会期間中、同紙はほぼサッカー専門紙の趣で、下手なスポーツ新聞より詳しいワールドカップの記事を載せていました。同紙は経済紙にもかかわらず、武智 幸徳記者、阿刀田 寛記者という2人の著名なサッカー記者がいます。彼らの記事(戦評)はもはや文芸評論(あるいは文学)の域に達しており、感心しながらも逆に笑ってしまう記事も多々ありました。武智記者は7月11日付の同紙記事で、アルゼンチン対エジプト戦でのエジプトの得点がVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)で取り消された件について触れ、「VARという制度が導入されてから、ピッチ上のプレーは区切りをつけた一つひとつの固まりとして分類されるようになった。文章に例えるなら、段落が変わるごとに付箋をつけて文頭と文末を示すようなものである。(中略)文頭に得点をした側の反則があれば文末の得点が取り消されるのはやむを得ない」と独自の解釈を披露。一方の阿刀田記者は、アルゼンチン対イングランド戦を評した7月17日付の同紙記事で、この試合をマラドーナの神話が生まれた1986年の試合と比較、「今回の試合はそれともひと味違う。何しろ彼らは、メッシの美技という美酒に酔っただけではなく、先制した後のイングランドの弱腰を末代まで笑う権利を手にしたのだから」と、文学的過ぎる戦評を書いていました。7月21日付の決勝を報じた記事でも、「牙が折れてもスペインにかみついて歯形を残したアルゼンチンの散りざまは、まことにアルゼンチンらしかった」と最後までアルゼンチン礼賛のトーンは不変でした。ちなみに阿刀田記者は作家・阿刀田 高氏の息子さんです。さて、今回は7月3日に厚生労働省がようやく公表した「地域医療構想策定ガイドライン」について書いてみたいと思います。今年春にも公表される予定でしたが、延びに延びて7月になってしまいました。厚労省は遅れの原因について説明していません。一説には、医政局の担当課が中東情勢に伴う医療資材不足の対応に追われたことが一因と言われています。仮にそれが本当だとしたら、厚労省、人手不足過ぎるのでは、と心配になります。2028年度中に策定、2035年度を目途に一定の成果を確保2025年12月に成立した改正医療法で定められた「新たな地域医療構想」をどう策定するかについては、2026年3月まで開かれた地域医療構想及び医療計画等に関する検討会で議論が続けられてきました。公表された「地域医療構想策定ガイドライン」は、この検討会の「とりまとめ」を基に、基本的な考え方や具体的な策定の手順を厚労省が整理したものです。このガイドラインを基に、各都道府県は2027年度上半期頃までに、地域医療構想調整会議において課題の整理や構想区域の点検・見直しなどを行います。そして2028年度までに、各都道府県において急性期拠点機能を担う医療機関の具体的な医療機関名の決定も含めて「地域医療構想」として策定し、「2040年を見据えた医療提供体制について、2035年度を目途に、一定の成果を確保する」としています。つまり、2029年3月までに新たな地域医療構想を策定し、地域の医療機関の役割分担、棲み分けの方向性を決定、2035年度までに構想を一定程度進め、2040年頃に必要とされる医療提供体制にできるだけ近づけておく、という流れになります。地域医療構想の見直し8つのポイント新たな地域医療構想の概要については、本連載の「第294回 改正医療法やっと成立、医療機関の集約化、統合・再編、病床削減さらに加速へ 『地域医療構想の見直し』 8つのポイント」でも解説しました。そこでも書いた8つのポイントをおさらいしておきましょう。1)病床の機能分化だけでなく、外来・在宅、介護との連携、人材確保等の計画も2)医療法の規定で「地域医療構想」が「医療計画」よりも上位の概念に3)基準病床数は「新たな地域医療構想」における将来(2040年)の病床必要量の範囲内に4)病床機能の区分、「回復期」は「包括期」に名称変更5)新たに「医療機関機能報告」の制度が創設6)人口規模が小さ過ぎる構想区域は合併、大き過ぎる構想区域は分割7)精神医療も地域医療構想で位置付け8)病床数の削減を支援する事業を都道府県が実施できるように人口減少と高齢患者急増に対する国、厚労省の非常に強い危機感以上の8ポイントを念頭にガイドラインを読んでみたのですが、一読して伝わってくるのは、人口減少と高齢患者急増に対する国、厚労省の強い危機感です。ガイドラインは冒頭の「I.地域医療構想の考え方」の「1.2040年に向けた医療提供体制について」中で、「背景」について、我が国においては、今後、人口構造や疾病構造の変化に伴い、医療の需要が量的、質的に大きく変化することが見込まれている。特に、団塊の世代が後期高齢者となる2025年以降、2040年に向けて、高齢者人口の増加に伴い、高齢者救急や在宅医療の需要が増加する一方、急性期医療の需要が多くの地域で減少することが見込まれる。また、生産年齢人口の減少に伴い、医療機関における医師や看護職員等の担い手の確保がますます困難となることが想定される。このため、地域において必要な医療提供体制を将来にわたり確保していく観点から、2040年頃の医療需要を見据えつつ、医療機関の役割分担や連携のあり方を整理し、地域全体として適切な医療提供体制を構築することを目的として、地域医療構想を推進する必要がある。──と記しています。各地で人口減少が急激に進む中、地域の急性期拠点機能を集約化などによって維持するとともに、急性期拠点機能から“落ちこぼれていく”医療機関を生き長らえさせ、需要が急増する高齢者救急や在宅医療に対応できる医療機関に再編していくことが、地域医療構想の主眼であることがわかります。急性期医療については広域での集約化をそのため、ガイドラインの複数の項目において、「再編・集約化」を強く意識した文言があるのが大きな特徴です。「I.地域医療構想の考え方」の「3.医療機関機能の確保について」の中では、「医療機関の連携・再編・集約化」について、「大都市型の地域においては、医療需要の総量としては大きく減少はしないが、手術等の集学的な医療は相対的に減少し、高齢者救急等の包括期の医療需要や慢性期の需要が相対的に増加していく」ため「それぞれの地域ごとに当該状況に応じた医療機関の連携・再編・集約化の取組が求められる」としています。加えて、「急性期医療については、構想区域ごとに、緊急性の高い疾患や頻度の高い疾患等に対応できる体制の確保が必要となる。がん手術やその他の高度な外科手術については、症例数が多い医療機関ほど、医療の質が高いことが一般的に知られており、こうした高度な手術等については、地域の医療資源に応じて、構想区域よりも広域な単位で集約して実施することを検討する必要がある」と、広域での機能の集約化の検討も要請しています。また、「救急車の受入や手術の実施を行う医療機関の集約化や役割分担、夜間に緊急手術を行う医療機関の集約化等も取組として検討が必要である」と急性期拠点機能や急性期病床の集約化以外の連携・再編・集約化の必要性についても言及しています。市町村には自治体病院の経営は二の次にダウンサイジング、再編・集約化求めるさらに、「I.地域医療構想の考え方」の「2.地域医療構想について」の中の「関係者に期待される役割等」でも再編・集約化の必要性を強調しています。関係者の中で、とくに市町村等に求められる役割について、「病院開設者としては、人口の少ない地域における自治体立病院は、当該地域での唯一の基幹的な医療機関として地域を支えている医療機関でもある一方で、都市部においては、他の医療機関と機能が競合している医療機関もあるなど、地域における役割は様々」とした上で、「自治体立病院の開設者としての観点だけではなく、他の医療機関と同様に、病床数の適正化(ダウンサイズ)や提供する医療内容の見直し等を行い、地域全体の医療提供体制の構築・維持や連携・再編・集約化の取組への協力が求められる」と、自治体病院の経営を優先させるのではなく、周辺医療機関との棲み分けの中でダウンサイジング、再編・集約化に取り組むよう要請しています。同様に公立・公的病院等に対しても、「県立病院や公的病院等、その設置主体である都道府県、日本赤十字社、済生会、厚生連、国立病院機構、労働者健康安全機構等においても、病床数の適正化(ダウンサイズ)や提供する医療内容の見直し等を行い、地域全体の医療提供体制の構築・維持や連携・再編・集約化の取組への協力が求められる」とダウンサイジング、再編・集約化の検討を迫っています。こうした流れを受けて、公立病院を管轄する総務省の公立病院改革は、経営改善というよりも、ダウンサイジング、再編・集約化に軸足を移していくでしょう。その結果、人口減少地域では閉院する医療機関もこれまで以上に増えていくと予想されます。高齢者救急・地域急性期機能と急性期拠点機能については併存できず新たに創設される「医療機関機能報告」は新たな地域医療構想の最大の“肝”と言えますが、「とりまとめ」までの議論では言われていなかった新たなルールが盛り込まれました。以前は、医療機関は複数の機能を報告することもできるとされていましたが、「高齢者救急・地域急性期機能と急性期拠点機能については、医療資源を多く要する医療や高齢者救急の役割分担を明確化するためのものであり、両機能を一つの医療機関が報告することはしない」と明示されたのです。このルールは、地域包括医療病棟や地域包括ケア病棟入院料を持つ急性期病院には、少なからぬ影響が出ると考えられます。(この項続く)

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第304回 総合診療は「ブルーオーシャン」か?~「ほかに選択肢がなかったから」ではなく、キャリア戦略としての総合診療を考える~

先日、高校の同級生で、開業医や病院の経営コンサルタントを長年やっている公認会計士と久しぶりに飲みました。そのとき、彼がポロっと漏らした言葉が妙にリアルでした。「最近さ、勤務医の先生から『新しく開業したいから手伝って』って頼まれても、正直『はい、喜んで!』とは引き受けづらいんだよね。これからの医療情勢を考えると、経営が軌道に乗るまで相当大変だからね」この言葉、今の医療界の空気を実によく表していると思いませんか?過日、「病院の急性期ベッド数、全国で40年に4割減 厚生労働省が必要数を試算」(日経新聞)の報道にもあったように、勤務医にとって高齢者救急の患者数が増えているのに「病床削減」という内容に驚きを持たれた方も多いと思います。そんな中、2025年12月に成立した改正医療法による外来医師過多区域での新規開業の要件追加(いわゆる開業規制の開始)が盛り込まれるなど、開業を巡る状況もだんだん厳しくなっており、若い先生方は頭を悩ませているのではないでしょうか。かといって、一時期勝ち組のように話題になっていた自由診療(美容クリニックなど)への転身もその実態の裏側が徐々に明らかになっており、全員が成功するわけではないという現実が見えてきました。従来型のキャリアパスだけでは、どこも黄色信号が灯りつつあるのが現状です。そんな中、国がいま「イチ押し」しているのが「総合診療」です。かつて総合診療(総診)といえば、「なんでも薄く広く診る先生」「専門が決まらなかった人の行き先」などと、誤解されることもありました。しかし今、時代は大きく変わっています。医師の偏在、高齢者救急患者の増大、在宅医療へのシフト、そして相次ぐ病院再編による専門医の充足…。気が付けば総診は、「これから最も社会的ニーズが高まる基本領域」として、国の医療政策の根幹に据えられ始めています。厚労省が都道府県に6月末に発出した最新の「医師確保計画策定ガイドライン」でも、その本気度が伝わってきます。これまでのように医師不足なら「各診療科の医師数を増やせば解決」というフェーズはとうに終わり、これからは医師不足に対しては経済的インセンティブや勤務環境の改善、リカレント教育を総動員した集中的な対策が始まろうとしています。では、なぜ今、総診が「ブルーオーシャン」になりえるのか。臨床現場目線でひも解いてみましょう。私たちが向き合う「患者像」の地殻変動最大の理由はシンプルです。目の前にやってくる患者さんの姿が変わったからです。これからの地域医療では、「単一疾患をその専門医だけが診ていればOK」という患者さんは減っていきます。代わりに増えるのが、高齢で、複数の持病があり、認知症やフレイルを抱え、社会的・経済的な背景も複雑…という、いわゆる「マルモ(Multiple morbidity:多疾患併存)」の患者さんです。厚労省のデータでも2020年から2040年にかけて、85歳以上の救急搬送は75%増、在宅医療の需要は62%増という凄まじい予測が出ています。その一方で、多くの診療科で予定手術の件数は大幅に減少に転じる見込みです。つまり、医療のニーズそのものが「高度急性期・臓器別」から、「高齢者救急・在宅・慢性期・地域包括ケア」へと、完全に重心を移しつつあります。これは何も「地方」や「へき地医療」に限った話ではありません。大都市でも、救急外来や施設、在宅でこうした複雑な患者さんは溢れています。急性期病院の高齢患者さんを担当する医師は、救急部門、一般急性期病床、地域包括ケア病床、診療所、どこに身を置くとしても、「総合診療的な視点とスキル」がなければ現場が回らない時代が来ています。その証拠に、去年(2025年)の日本内科学会雑誌12月号は「内科医が『かかりつけ医』になるとき-変化する医療と内科医の責任」として総合診療医による特集号で、ネットでも非常に反響がありました。従来の各臓器別の専門診療では、かかりつけ医を求める患者のニーズに合致しくなっていることが明らかになっています。国の政策も「総診推し」へ本腰先日公開の政府行政事業レビューによると2025年度目標であった全都道府県での「大学医学部附属病院に総合診療医センター設置」について、その実績は12にとどまり、計画未達であることが明らかになりました。「なんだ、全然進んでないじゃないか」と思うかもしれません。しかし、裏を返せば、「国がこれから目標達成に向けて強化に動く領域」だということです。有識者からも「インセンティブの強化や待遇改善を幅広く検討せよ」と強い提言が出ています。2018年度に始まった総合診療専門医制度ですが、2025年4月時点での総数は937人。これからの爆発的な高齢者救急や在宅ニーズを考えると、ハッキリ言って圧倒的に専門医が足りていません。だからこそ、今、総診を選ぶ若手医師には、国の制度整備、教育の拠点、地域からの求人、あらゆる行政支援が集中する「先行者利益」があると言えます。医学生・若手医師にとっての「リアルなキャリア戦略」「地域医療に貢献する」という高潔な理念も素敵ですが、もっと現実的な「キャリアの強み」として総診を捉えてみましょう。メリットは大きく3つあります。(1)とにかく「出口(働く場所)」が広い病院であれば「総合内科、救急、地域包括医療・ケア病棟」、開業すれば在宅医療、診療所、へき地、さらには行政や医学教育まで、キャリアの選択肢がとにかく多彩です。ライフステージに合わせたシフトがしやすいのも魅力です。(2)強烈な「政策の追い風」がある厚労省が指定する「重点医師偏在対策支援区域」では、診療所の承継・開業支援だけでなく、「土日の代替医師の確保支援」まで検討されています。「総診で地域に出ると休みが取れない」という常識を、国が予算をつけて変えようとしています。(3)セカンドキャリアとしての親和性ガイドラインでは、中堅・シニアの臓器別専門医が総診的スキルを学ぶための「リカレント教育(学び直し)」も始まっています。「若手だけの道」ではなく、内科、外科、小児科、救急などを極めた先生が、将来的に在宅や老年医療へスイッチするための強力な武器になります。ただし、甘い話ばかりではない(便利屋リスクへの警戒)ここまで良い面を挙げましたが、リアルな課題もあります。大学のセンター設置が進まないのは、指導医不足や「結局、総診って何をしてくれるの?」というキャリアパスの見えにくさがあるからです。現場の理解が追いついていない病院では、残念ながら「人手不足を埋めるための便利屋」として使われてしまうリスクが依然としてあります。だからこそ、若手の先生方に伝えたいのは、「総診は素晴らしいから直感で選べ」ではなく、「だからこそ、教育体制と指導医の質をシビアに見極めて選んでほしい」ということです。救急、内科、小児科、診断推論、さらには病院運営や地域連携まで体系的に学べる「きちんとした支援体制」があるプログラムを選ぶこと。ただの人手不足の穴埋めにしかならない環境とは、ここで大きな差がつきます。医学生・若手医師へのメッセージ総診は、もはや「専門がない医師の行き先」ではありません。これからの日本医療の最大の主戦場である「複雑な患者を丸ごと診て、医療と介護と生活をつなぐ」という、極めて高度な専門性が必要な診療科となります。臓器別専門医として1つの領域をディープに極める道も、当然リスペクトされるべき素晴らしいキャリアです。ただ、これからの医療現場で「引く手あまた」になるのは、専門臓器の知識に加えて、「患者全体を診る力」「地域で支えるシステムを知る力」を掛け合わせられる医師です。最初から総診を志すのも良し、他科を経てから総診のマインドを取り入れるのも良しというキャリアもあるかと思います。「需要は最大、政策の追い風もあり、そして、ライバルはまだ少ない」「総合診療は、これからの時代を生き抜く医師にとって、極めて合理的な『ブルーオーシャン(成長領域)』である」と断言していいと私は思っています。 参考 1) 医師確保計画策定ガイドライン~第8次(後期)~(厚労省) 2) 政府の行政事業レビュー(内閣府) 3) 病院の急性期ベッド数、全国で40年に4割減 厚労省が必要数を試算(日経新聞) 4) 【2026年度開始】医師の開業規制とは? 知っておきたい規制地域や対策(ドクタービジョン)

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第302回 骨太方針原案、窓口負担・診療報酬調整を明記/政府

<先週の動き> 1.骨太方針原案、窓口負担・診療報酬調整を明記/政府 2.医師確保計画GL通知、重点医師偏在区域を明示/厚労省 3.200床以上病院の電子カルテ導入、2028年度100%へ2年前倒し/政府 4.2040年の地域医療構想、急性期病床4割減・包括期は拡大/厚労省 5.協会けんぽ黒字拡大、医療費と後期高齢者支援金も増加/協会けんぽ 6.京都大を国際卓越研究大学に認定へ、初年度200億円支援/文科省 1.骨太方針原案、窓口負担・診療報酬調整を明記/政府政府は6月30日に経済財政諮問会議を開き、「骨太の方針2026」原案を示した。2027年度予算編成を見据え、医療・介護提供体制と社会保障負担の見直しが大きな論点となった。医療保険制度では、高齢者の受診行動や所得状況を踏まえた窓口負担の見直しについて、2027(令和9)年度予算編成過程で結論を得る方針が盛り込まれた。ただし、この記載には調整中を示す「P」マークが付いており、今後の与党調整や閣議決定までに文言が変わる可能性がある。高齢者の窓口負担をめぐっては、財政制度等審議会が「70歳以上の患者負担を原則3割とする方向を提言する」という一方で、上野 賢一郎厚労相は一律3割負担には慎重な姿勢を示しており、年末の予算編成に向けて政府・与党内で調整が続く見通し。医療現場にとっては、自己負担増大による受診抑制、慢性疾患の管理、救急受診、未治療や重症化リスクへの影響も含め、制度設計の行方を注視する必要がある。診療報酬については、経済・物価動向が2026年度改定時の見通しから大きく変動し、医療機関などの経営状況に支障が生じた場合、2027(令和9)年度予算編成過程で診療報酬上の加減算を含む追加調整を行うと明記された。物価高、人件費上昇、委託費・材料費増が病院経営を圧迫するなか、2026年度改定後も経営実態を踏まえた対応が検討対象となっている点は重要である。その一方で、医療提供体制については、2040年に向けて必要病床数を上回っているとされている一般病床と療養病床で約5万6,000床、基準病床数を超えている精神病床約5万3,000床を対象に病床数の適正化を進め、2027年度以降の地域医療構想を踏まえた医療機関の連携・再編・集約化を促進するとした。地域包括ケアシステムの深化、高齢者救急、在宅医療、中山間・人口減少地域での柔軟なサービス提供も課題に挙げられている。さらに、医師偏在対策を進め、地域の実情を考慮した2028年度以降の医学部定員削減にも取り組む方針が示された。介護報酬・障害福祉サービス等報酬改定では、物価変動に対応しつつ、他職種と遜色のない処遇改善を図るとしており、医療・介護人材確保も引き続き重要課題となる。 参考 1) 経済財政運営と改革の基本方針 2026 原案 (経済財政諮問会議) 2) 高齢者窓口負担見直し、年末の予算編成で結論出す方針-骨太方針2026原案(医事新報) 3) 「骨太の方針」が大幅なスリム化も、医療政策の記載数は増えた?(日経メディカル) 4) 2027年度介護報酬改定では「他職種と遜色のない処遇改善の実現を図る」骨太の方針原案、病床数適正化や医学部定員削減を明記(同) 2.医師確保計画GL通知、重点医師偏在区域を明示/厚労省厚生労働省は、都道府県が2027年度から運用する第8次後期の医師確保計画策定ガイドラインを通知し、重点医師偏在対策支援区域を対象とする「医師偏在是正プラン」の考え方を示した。医師偏在は、地域間・診療科間で長年の課題とされ、地域枠を中心に医師数を増やしてきたものの、ミクロの医師不足解消には十分つながっていない。ガイドラインでは、経済的インセンティブ、地域医療機関の支え合い、医師養成過程を通じた取組みを組み合わせ、医師の勤務・生活環境や柔軟な働き方に配慮しながら、中堅・シニアを含む全世代の医師にアプローチする方針を掲げた。重点区域は、一定の定住人口が見込まれる一方で、必要な医師を確保できず、人口減少より医療機関の減少速度が速い地域などに設定し、優先的・重点的に対策を進める区域とされた。都道府県は厚労省が示す候補区域を参考に、医師偏在指標、可住地面積当たり医師数、へき地尺度、医療機関へのアクセス、診療所医師の高齢化率、住民の受診行動、人口動態などを踏まえ、地域医療対策協議会と保険者協議会で協議した上で、真に重点的な医師確保が必要な区域に限って設定する。支援対象とする医療機関については、重点区域内の全医療機関を一律に対象とするのではなく、とくに支援が必要な医療機関を選定する。選定に当たっては、設立母体にかかわらず、今後策定される新たな地域医療構想や地理的条件を踏まえ、地域医療対策協議会・保険者協議会で合意を得る必要がある。必要医師数は、候補区域を重点区域に設定する場合、原則として候補区域の要件を脱するために必要な人数を基準とする。施策面では、重点区域で診療所を承継・開業する場合の施設・設備整備や一定期間の地域定着支援、中核病院などから重点区域内の医療機関へ医師を派遣する際の費用支援、勤務医の離職防止や新規勤務医確保に向けた土日の代替医師確保支援などが示された。 参考 1) 医師確保計画策定ガイドライン~第8次(後期)~(厚労省) 2) 医師偏在是正プランの考え方を明示 確保計画策定GLで 厚労省通知(CB news) 3.200床以上病院の電子カルテ導入、2028年度100%へ2年前倒し/政府6月30日に内閣府は日本成長戦略会議を開き、取りまとめた「日本成長戦略」について公開した。この中で、医療DX基盤の整備を成長投資の重点分野に位置付け、電子カルテ導入目標を一部前倒しした。電子カルテ未導入の200床以上の病院については、療養病床などが中心の病院を除き、2028年度までに普及率100%を目指す。従来は2030年までにおおむね全医療機関への導入を目指す方針だったが、200床以上の未導入病院では期限が2年前倒しされる形となる。背景には、医療情報の共有、診療の効率化、医療の質向上に加え、創薬・医療機器開発に必要なデータ基盤の整備がある。成長戦略では、クラウドネイティブに最適化された医療DX基盤について、「大量のデータを必要とする創薬・医療機器の開発の基盤」であり、医療提供体制の効率化・質向上、サイバー攻撃への強靱性確保に不可欠と位置付けている。政府は、従来の院内サーバー管理を中心とするオンプレミス型の医療機関情報システムを、クラウドネイティブ型へ刷新する方針を示した。これにより、サイバーセキュリティ対策の強化と、全国的なデータ連携基盤の構築を図るとしている。2030年までには、電子カルテ普及率を約100%、地域の拠点病院のサイバーセキュリティ対策を100%とし、大病院向けクラウドネイティブ型製品の提供も目指す。具体策として、厚労省などが認証したクラウドネイティブ型電子カルテ製品の普及を促進し、大病院向け製品については一体的・集中的な開発と普及を支援する。また、ネットワークの外部接続点の監視、サーバー等の管理強化など、サイバーセキュリティ対策も強化する。さらに、全国医療情報プラットフォームの拡充やデータ連携基盤の整備、病院DXの推進も盛り込まれた。厚労省の調査では、2023年10月時点の電子カルテ導入率は、400床以上で93.7%、200~399床で79.2%まで進んでいる一方で、200床未満では59.0%にとどまる。今後、200床以上の未導入病院は、電子カルテ導入だけでなく、クラウド移行、標準化、サイバー対策、地域医療情報連携への対応を同時に迫られる。医療機関にとって電子カルテは、単なる院内システムではなく、診療情報共有、医療安全、経営効率化、研究・創薬基盤、BCP対策を支える基幹インフラとして再定義されつつある。 参考 1) 日本成長戦略(内閣府) 2) 電子カルテ導入 200床以上は「28年度100%」2年前倒し 政府目標(CB news) 4.2040年の地域医療構想、急性期病床4割減・包括期は拡大/厚労省厚生労働省は7月3日、2040年を見据えた新たな地域医療構想策定ガイドラインと、全国の必要病床数の機械的試算を公表した。この中で、2040年の必要病床数は、2025年度比で約10万床少ない106.9万床とされ、人口減少と医療需要の質的変化が病床再編を迫る構図が明確になった。とりわけ急性期病床は66万床から37.4万床へ約4割減少とされる一方で、高齢者救急、退院支援、早期リハビリ、在宅復帰を担う「包括期病床」は41.6万床と大きく位置付けられた。慢性期は28.0万床でおおむね維持される見通しである。背景にあるのは、85歳以上高齢者の増加と生産年齢人口の減少である。ガイドラインでは、2040年に向けて高齢者救急や在宅医療の需要が増える一方で、急性期需要は多くの地域で減少し、医師・看護職員の確保は一層困難になると整理している。従来の地域医療構想は病床機能の分化・連携が中心だったが、今回は入院に加えて外来、在宅、介護連携、人材確保までを含む「地域全体の医療提供体制」の再設計に踏み込む点が大きい。都道府県は2026年度から2027年度前半にかけて医療需要や提供体制をデータ分析し、構想区域の点検・見直しを行う。2028年度までに、急性期拠点機能を担う具体的医療機関名、各病院が2040年に担う医療機関機能、必要病床数、入院・外来・在宅・介護連携・人材確保の取組を地域医療構想として策定する。急性期拠点は人口20~30万人に1施設を目安とし、手術、救急搬送、医師確保、施設老朽化など実績と持続可能性を踏まえて協議される。病院にとっては、今後の議論が「自院の病床数」だけでなく、「地域で何を担う病院か」を問うものとなる。厚労省によると医療機関機能は、高齢者救急・地域急性期、急性期拠点、在宅医療等連携、専門等機能、大学病院本院の医育・広域診療機能に整理される。各医療機関は現在の機能、2040年に担う機能、診療実績を各都道府県に報告し、地域医療構想調整会議での協議を経て、遅くとも2028年度までに2040年の医療機関機能を決定する。高齢者救急では、誤嚥性肺炎や心不全などを受け入れ、早期からリハビリ、栄養、口腔、退院調整を行い、介護施設や在宅とつなぐ力が問われる。ガイドラインも、高齢者救急では入院早期からリハビリテーション、栄養管理、口腔管理を行い、在宅医療や介護との連携を包括的に進める必要性を示している。さらに明記すべきは、地域医療構想と医療計画の関係が変わる点である。これまで地域医療構想は医療計画の記載事項の一つだったが、新たな地域医療構想は医療計画の上位概念として位置付けられ、第9次医療計画はその具体的な実行計画となる。2次医療圏も、見直された構想区域と原則一致させる方向であり、今後の診療報酬、医師確保、救急、在宅、介護連携の議論は、この構想と連動して進む。各病院は、地域医療構想調整会議での実績データに基づく協議に備え、自院の救急受入、手術、退院支援、在宅・介護連携、人材確保の実績を可視化し、地域内での役割を早急に整理する必要がある。 参考 1) 地域医療構想策定ガイドライン(厚労省) 2) 地域医療構想でガイドライン公表 40年見据え、都道府県が策定-厚労省(時事通信) 3) 急性期の病床、40年の必要数4割減 厚労省試算(日経新聞) 4) 令和8年度都道府県医師会地域医療構想策定等ガイドライン説明会(日本医師会) 5) 1つの病院が「急性期拠点機能」と「高齢者救急・地域急性期機能」とを同時に持つことは認めない-新地域医療構想GL(1)(Gem Med) 5.協会けんぽ黒字拡大、医療費と後期高齢者支援金も増加/協会けんぽ全国健康保険協会(協会けんぽ)は、2025年度の医療分決算見込みを公表した。協会会計と国の特別会計を合わせた合算ベースで、収入は12兆3,406億円、支出は11兆6,611億円となり、単年度収支差は6,795億円の黒字となった。黒字は前年度より209億円増加し、協会けんぽ発足後でも高水準の決算となる。収入増の主因は保険料収入の伸びであり、保険料収入は11兆546億円、前年度比4,057億円増となった。背景には、賃上げによる標準報酬月額の上昇と、被保険者数の増加がある。2025年度の被保険者数は2,604.4万人で前年度比1.8%増、平均標準報酬月額は31.5万円で同1.8%増となった。その一方で、支出も増加している。保険給付費は7兆5,369億円で前年度比2,818億円増、拠出金などは3兆7,829億円で同1,634億円増となった。とくに加入者1人当たり保険給付費は3.5%増加しており、医療の高度化や受診動向の変化が影響している。また、後期高齢者支援金は2兆4,891億円に増加し、団塊の世代がすべて75歳以上となったことによる概算納付額の増加や精算負担の増加が主因とされる。今回の黒字は、賃金上昇と被保険者数増による保険料収入の増加が、医療費や高齢者医療への拠出増を上回った結果である。ただし、支出の伸び率4.2%は収入の伸び率4.1%を上回っており、財政構造が安定化したとみるのは早い。協会けんぽ自身も、2026年度診療報酬改定で本体改定率が3.09%と高い伸びとなり、2026年6月以降の医療費に反映されること、さらに平均保険料率が2026年度から10.0%から9.9%へ引き下げられることを指摘している。医療機関にとっては、協会けんぽの黒字を単純な「財政余力」と捉えるより、保険料収入の伸びに支えられながらも、医療費、後期高齢者支援金、診療報酬改定の影響が重なり、今後の保険者財政が再び厳しくなる可能性を意識すべき局面である。準備金残高は6兆5,457億円、保険給付費などの7.2ヵ月分に相当するが、加入者の平均年齢上昇、医療の高度化、後期高齢者支援金の高止まりには引き続き留意が必要である。 参考 1) 2025(令和7)年度協会けんぽの決算見込みについて(協会けんぽ) 2) 協会けんぽ、昨年度6,795億円の黒字 賃上げで保険料収入増(日経新聞) 3) 協会けんぽ 昨年度決算 6,795億円黒字 賃上げで保険料収入増加(NHK) 6.京都大を国際卓越研究大学に認定へ、初年度200億円支援/文科省文部科学省は7月3日、世界トップレベルの研究力を目指す「国際卓越研究大学」に京都大学を認定する方針を発表した。政府の総合科学技術・イノベーション会議などへの諮問を経て、今夏にも正式認定される見通しで、東北大学、東京科学大学に続く3校目となる。初年度となる2026年度の助成額は約200億円が見込まれている。国際卓越研究大学制度は、政府が設置した10兆円規模の大学ファンドの運用益を活用し、最長25年間にわたって年数百億円規模の支援を行う仕組みである。わが国の研究力が国際的に相対的低下を続けるなか、大学の研究環境や若手研究者の育成、国際競争力の強化を図ることが目的とされる。京都大学が高く評価されたのは、従来の「小講座制」から「デパートメント制」への大規模な組織改革である。教授を頂点とする約1,000の小講座・研究室単位の体制は、専門性を深める一方で、閉鎖性や若手研究者の独立性の確保が課題とされてきた。京大はこれを廃止し、学術領域ごとに約20のデパートメントへ再編する計画を示した。2029年4月までの完全移行を目指し、若手・中堅研究者が独立して研究できる環境作り、分野横断型研究の推進、研究支援体制の強化による研究時間の確保を進める。また、京大は研究成果に基づく資金配分の仕組みや、大学院教育の強化も掲げている。今後25年間で年間の博士号取得者を現在の約690~700人から約3倍の2,100人規模に増やすほか、引用回数が上位10%に入る「トップ10%論文」の割合を現状の約2倍に引き上げる目標も盛り込んだ。同大の湊長 博総長は、「世界水準の研究大学を確立し、社会課題の解決やイノベーション創出につなげたい」と考えを示している。その一方で、同じく2回目の公募に申請していた東京大学は、医学部をめぐる不祥事やガバナンス上の課題などを理由に継続審査となった。今回の京大への認定は、単なる大型助成ではなく、大学組織の統治、研究者の自立性、国際競争力を問う改革の一環といえる。医師・医学研究者にとっても、医学部・大学病院を含む研究体制や若手育成のあり方に影響する動きとして注目される。 参考 1) 国際卓越研究大学の認定等に関する有識者会議(アドバイザリーボード)における審査の結果について(概要) 2) 京大を卓越大に認定へ 200億円支援、小講座制を廃止し組織再編(朝日新聞) 3) 世界トップレベル目指す「国際卓越大」に京都大を認定へ、東北大・東京科学大に続く3校目…今年度200億円助成見通し(読売新聞) 4) 京大を「国際卓越研究大学」に認定へ 今年度200億円助成見込み(NHK)

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第322回 遅々として進まぬタスクシフト、「臨時的」に「輸液」に限った訪問看護ステーションヘの薬剤配置をもっと緩和せよと日本維新の会

日本医師会の松本会長が3期目へこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。日本医師会は6月27日の定例代議員会で、任期満了に伴う役員改選を行いました。会長選は現職の松本 吉郎氏(埼玉)以外に届け出はなく、3期目続投が決まりました。副会長、常任理事など、ほかの役職の届け出もすべて定数通りでこちらも無投票でした。いずれも無投票となるのは坪井 栄孝元会長が3期目を決めた2000年以来とのことです。松本会長になる前の何回かの日医会長選は結構泥臭い戦いが繰り広げられていましたが、診療報酬本体の改定率が30年ぶりに3%超えの3.09%となった”実績”を前に、さすがに現職に反旗を翻す勢力は現れなかったということなのでしょう。松本会長は山口県出身の71歳。浜松医大卒業後、埼玉県医師会理事・常任理事、大宮医師会長、日本医師会常任理事を経て、2022年から現職を務めています。ちなみに、1982年まで25年間も日医会長を務めた武見 太郎氏以降、日医会長を3期以上務めた人物は、羽田 春兔氏(4期)、坪井氏(4期)、横倉 義武氏(4期)、松本会長の4人しかいません。次の2年を無事乗り切れば、松本会長は歴史に残る“大会長”の仲間入りということになります。ということで、日本医師会の新体制も決まり、遅れていた財政制度審議会・分科会の通称「春の建議」(政府の経済財政運営と改革の基本方針[骨太の方針]を見据えた意見書)も6月26日にやっと出て、現時点で医療政策の方向性をリサーチするためのイベントは、残るは「骨太の方針」だけとなりました。通常は5月に出ているはずの「春の建議」もなかなかに読ませる内容になっていますが、今回は、6月16日、日本維新の会が「骨太の方針」に向けて行った提言に興味深い項目がありましたので、その内容を紹介したいと思います。日本維新の会が骨太に向けて「医療・介護、労働分野における社会実装の加速」を提言日本維新の会は6月16日、規制改革などを求める提言を城内 実規制改革担当相と遠藤 敬首相補佐官(連立合意政策推進担当)に提出しました。「日本再起への次なる一手~規制改革を中核とする経済成長戦略~」と題する提言書は、2025年10月の連立政権合意「日本再起への12本の矢」に続く次なる改革の柱として打ち出すもので、「副首都の実現に向けた官民連携・規制緩和の活用」「AI時代における社会実装の加速」などの各論項目とともに、「医療・介護、労働分野における社会実装の加速」も中心的な各論項目に加えられています1)。その中では、1)医療等データの利活用の抜本的拡大 、2)医療現場におけるタスクシフト・タスクシェアの推進 、3)医療AIの社会実装、4)医療法人の経営に関する制度の在り方の検討、5)かかりつけ医機能の強化に向けた総合診療科の制度的位置づけの見直し──の5点を提言しています。「訪問看護ステーションへの薬剤配置が認められていないため、患者ごとに予測される薬剤を事前に処方するという非効率な運用が常態化」私が注目したのは、2番目の「医療現場におけるタスクシフト・タスクシェアの推進」です。提言では、現状、医師から看護師へのタスクシフトについては、特定行為研修制度の下で一定の進展が見られるとしつつ、「看護師から介護職へのタスクシフトは依然として進んでいない。例えば、介護職による胃ろうからの栄養投与は認められている一方で、内服薬の投与は看護師でなければ行うことができず、合理的な区分とは言い難い」と指摘、そして、「訪問看護ステーションへの薬剤配置が認められていないため、発熱等の急変時に解熱剤等を即時に提供することができず、患者ごとに予測される薬剤を事前に処方するという非効率な運用が常態化している」とステーションにおける現状の問題点を挙げた上で、「政府は、医療現場におけるタスクシフト・タスクシェアの推進を、政府の規制改革の重要課題として位置づけ看護師から介護職への業務範囲の合理的な見直し、訪問看護ステーションへの薬剤配置等に取り組むべきである」としています。3年前、日本薬剤師会は「薬剤師の調剤権の侵害」として大反対訪問看護ステーションへの薬剤配置問題については、3年前、2023年の本連載「第162回 止められない人口減少に相変わらずのんきな病院経営者、医療関係団体(後編)『看護師に処方権』『 NP国家資格化』の行方は?」でも取り上げました。この時は、政府の規制改革推進会議で議論が進められている、訪問看護ステーションに配置可能な医薬品の拡大案について、日本薬剤師会の山本 信夫会長(当時)が「配置可能薬を拡大するということについては断固反対という立場だ」と語ったというニュースとともに、規制改革推進会議での議論の状況を紹介しました。当時、規制改革推進会議では「薬局の遠隔倉庫」案などが検討されていました。薬剤師はオンラインで訪問看護ステーションに配置された薬剤を遠隔管理(倉庫室温、ピッキングの適切性、在庫など)し、薬局がステーションに随時医薬品を授与。一方、ステーションの看護師は、必要に応じて医師の指示内容を薬局と共有、処方箋の写しに基づいてステーションの倉庫から薬剤をピッキング、患者に投薬するというスキームでした。しかし、こうした案に対し、当時の日本薬剤師会は「薬剤師の調剤権の侵害」として大反対していたのです。なお、規制改革推進会議の医療・介護・感染症対策ワーキング・グループの中には一定の条件下で訪問看護師が処方箋を発行して投薬できるようにする、という大胆な規制緩和策を提案する委員もいました。2025年12月の通知で「臨時的な対応」として訪問看護ステーションへの輸液の配置が認められるそれが3年前のことですが、訪問看護ステーションへの薬剤配置は依然十分な形では実現していません。この問題は、2022年の秋から内閣府の規制改革推進会議のワーキング・グループで検討されてきた問題で、2025年5月に出された「規制改革推進に関する答申」では、「在宅医療における円滑な薬物治療の提供」として取り上げられ、「地方公共団体や関係団体等に対する要請や、個別の患者の状態や状況に応じ、在宅患者の療養を担う医師、薬剤師、訪問看護師等の協議の下、在宅患者の急な状態変化への対応のために必要な医薬品として、新たな品目(例:輸液)を事前に訪問看護ステーションに配置することを可能とする」と、2025年度中に所要の措置を講ずるとしていました。そして、2025年12月25日付の通知「指定訪問看護事業者における医薬品の取り扱いについて」2)が発出され、まずは輸液を対象にして、あくまでも「臨時的な対応」として訪問看護ステーションへの薬剤配置が認められました。「医師から看護師へのタスクシフト」も不十分では?3年前には「訪問看護師に処方箋を発行できるようにせよ」という意見すらあったにもかかわらず、「臨時的な対応」で輸液のみ配置というところに、規制改革の難しさ、壁の厚さを感じます。日本維新の会の今回の提言は、「発熱等の急変時に解熱剤等を即時に提供することができず、患者ごとに予測される薬剤を事前に処方するという非効率な運用が常態化している」と、輸液にとどまらず、広くコモンディジーズに用いる解熱剤等も配置できるようにせよ、と言っているわけです。無薬局地域の存在や、夜間・休日に非対応の薬局が少なくないことから考えても、まったくの正論と言えるでしょう。ところで、日本維新の会は、「医師から看護師へのタスクシフトについては、特定行為研修制度の下で一定の進展が見られる」としていますが、本当にそうでしょうか?たとえば米国では、ナースプラクティショナー(NP)に一定の処方権を与えている州もあります。そうした状況と比べても、日本の看護師へのタスクシフトの不十分さは明らかです。その延長線で言えば、老人保健施設など高齢者施設の施設長は、最新医学に疎いことの多いリタイア前の老齢医師ではなく、高齢者医療の教育を受けた看護師が務めてもいいと思うのですがいかがでしょう。NP創設に一貫して反対してきた日本医師会は断固反対だとは思いますが。参考1)日本再起への次なる一手~規制改革を中核とする経済成長戦略~/日本維新の会2)指定訪問看護事業者における医薬品の取扱いについて/厚生労働省

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高齢の糖尿病を有する人の薬物治療の限界はどこか/日本糖尿病学会

 第69回日本糖尿病学会年次学術集会(会長:下村 伊一郎氏[大阪大学大学院医学系研究科 内分泌・代謝内科学 教授])が、5月21~23日の日程で、大阪国際会議場、リーガロイヤルホテル大阪をメイン会場に開催された。 今回の学術集会は「IMAGINE いのち輝く 糖尿病の医療・医学を共に目指して」をテーマに、41のシンポジウム、143の口演、ポスターセッション、会長特別企画による講演、特別企画「糖尿病とともに生活する人々の声をきく」などが開催された。 高齢の糖尿病を有する人では、糖尿病本態だけでなく、心血管障害や認知障害、運動器障害などさまざまな疾患を併存しているケースが多く、治療薬の選択やアドヒアランスのフォローなど考慮することが多岐にわたる。実臨床ではどのように診療を進めるべきであろうか。そこで本稿では、シンポジウム34「超高齢時代のダイアベティス治療はいかにあるべきか」(日本糖尿病学会・日本糖尿病協会合同シンポジウム)より清野 祐介氏(藤田医科大学医学部内分泌・代謝・糖尿病内科学/関西電力医学研究所糖尿病研究センター)の「超高齢2型糖尿病の至適な薬物治療の限界」の講演概要をお届けする。治療薬の工夫が重要な高齢の糖尿病を有する人 高齢の糖尿病を有する人では、糖尿病は高血糖、低血糖、フレイル、サルコペニア、認知機能低下の危険因子となる。また、加齢による肝機能、腎機能の低下がみられることから治療薬の選択では、バランス調整が必要になる。『糖尿病治療ガイド2024』(編集:日本糖尿病学会)では、高齢の糖尿病を有する人の治療の留意点を示しており、「低血糖を避けながら、高血糖をおだやかに是正することが必要」としている。また、糖尿病合併症や他の疾患との併存が多く、服薬数が多くなるのも特徴である。 このような多剤併用はアドヒアランスの低下を来し、高血糖や重症低血糖など致死的なリスクが高くなる。そのために服薬回数の減少や服薬タイミングの統一、一包化、配合薬の選択などが行われているが、緊急時の対応への準備も必要となる。日本糖尿病学会と日本老年医学会が共同制作した『高齢者糖尿病診療ガイドライン2023』(編集:日本老年医学会)では、「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標(HbA1c値)」が示されており、3つのカテゴリー別と重症低血糖が危惧される薬剤(インスリンやスルホニル尿素薬[SU薬]など)の使用の有無で、HbA1cの目標値と下限値が示されている。現段階で、超高齢の糖尿病を有する人にこのHbA1cの目標値があてはまるかどうかは不明である。よく理解しておきたい糖尿病治療薬の高齢の患者への影響 糖尿病の治療において、体重を減らすことは、インスリン感受性や糖代謝を改善するのに効果的とされているが、高齢の糖尿病を有する人では、筋肉量や骨量の低下があり、配慮する必要があるとされる。また、高齢の糖尿病を有する人に糖尿病治療薬を使用する際の懸念点としては、たとえばα-グルコシダーゼ阻害薬では服用回数が多い、SGLT2阻害薬では体重減少、チアゾリジン薬では心不全の増悪や女性では骨折リスクの増加、ビグアナイド薬では腎機能低下時に乳酸アシドーシスのリスクの出現、GLP-1受容体作動薬では体重減少、SU薬やグリニド薬では単独で低血糖のリスクが高くなるなどが挙げられる。そのほか、高齢の糖尿病を有する人に頻用されているDPP-4阻害薬では、演者の経験としては便秘など消化器症状の頻度も高く、重症例では腸閉塞を来す例もみられたという。とくに高齢の糖尿病を有する人は、在宅で診療をされている患者が多く、主治医が適切なタイミングでこうしたリスクを防ぐことができるか課題であると指摘する。高齢の糖尿病を有する人にはSU薬とDPP-4阻害薬の使用が多い 糖尿病治療薬の使用などについて、清野氏らが行った多施設共同研究の一端に触れた。この研究では、65歳以上の糖尿病、慢性腎疾患、そのいずれかまたは両方の疾患の患者を対象としたもので、参加施設は糖尿病、腎臓病の専門医を中心とした多職種連携が行われている施設。参加者は1,355例で、65~74歳は767例、75~84歳が523例、85歳以上が65例。これらの参加者のBMI、骨格筋量(SMI)、HbA1c、eGFRなどの数値を計測した。 その結果、85歳を区切りとしてみると、85歳以上では握力、筋力が65~84歳群との比較で顕著に低下していた。使用されている治療薬について85歳以上では体重減少に働くようなSGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬の使用頻度が低くなっていた。また、乳酸アシドーシスのリスクからビグアナイド薬、心不全のリスクからチアゾリジン薬の使用頻度も低い一方で、SU薬とDPP-4阻害薬は高頻度で使用されていた。また、予想に反してグリニド薬、α-グルコシダーゼ阻害薬の使用が多く、その理由として「参加者の自己管理能力が高かったことが推定される」と述べた。 本研究では、糖尿病診療支援が整った医療施設で食事療法も薬物療法もしっかりでき、通院や歩行にも問題がない参加者を対象としていることから、このような結果につながったと推察している。しかし、実臨床の現場では、通院ができずに糖尿病非専門医による在宅医療を受けているケースが多く、治療薬剤の選択、血糖マネジメントの目標をどこにおくのかなど糖尿病学会の推奨があまり知られていないこと、あるいは超高齢の糖尿病を有する人の治療に関するガイドラインがないことが現状の問題点となっていると述べた。さらに90歳以上の2型糖尿病を有する人を対象とした大規模臨床試験は皆無であり、複雑な背景をもつ症例への的確なアプローチをいかに構築するかが課題であると指摘した。高齢の糖尿病を有する人の治療最適化には多職種・在宅医療連携が重要 高齢の糖尿病を有する人の症例を1つ挙げ、介護施設などでの診療の難しさを説明した。症例は施設入所している91歳女性(要介護3)で認知症があり、車いすを使用、BMIは15.7でやせ型。インフルエンザで突然の意識障害があり、救急搬送された。来院時の血糖値は35mg/dLで急性低血糖にてブドウ糖静脈投与で意識回復をした。普段は、DPP-4阻害薬と少量のSU薬を服用している。腎機能は保たれているがHbA1cは5.4%であり、高齢者にとっては過度な管理で、低血糖のリスクが予想される症例だったという。日常から糖尿病をきちんと診療できる環境ではないことが予想され、治療目標、とくに下限目標の情報が診療する人、介護する人にきちんと行き届いていないのではないかと警鐘を鳴らす。また、在宅医療など超高齢糖尿病を有する人の診療現場では糖尿病専門医が予想していないような治療上の悩みも多々見受けられる。そこで、日本糖尿病協会(JADEC)では、「JADEC在宅医療・介護支援Q&A集」を作成するとともに、在宅・介護の診療現場からの質問を募っている。清野氏は、今後、こうした診療現場の情報を集積し、在宅・介護の診療現場用のJADECカードシステムによる糖尿病支援ツールセットを作成していく必要があると提言を行った。 高齢の糖尿病を有する人の治療では、『高齢者糖尿病診療ガイドライン』があるものの、90歳以上の超高齢者を対象としたエビデンスは乏しい。実臨床では認知機能、ADL、介護力が治療を規定するが、高齢者では厳格な血糖管理より低血糖回避と何よりも患者の生活維持が重要だと考える。 おわりに清野氏は、「今後の高齢の糖尿病を有する人の診療では、患者の体重や握力測定など定期的な確認も大切であり、治療の最適化には多職種・在宅医療連携が重要になる」と語り、講演を終えた。

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第301回 高齢者のポリファーマシー対策、医療従事者向け資材を公表/厚労省

<先週の動き> 1.高齢者のポリファーマシー対策、医療従事者向け資材を公表/厚労省 2.OTC類似薬の追加負担、対象外患者を定め2027年3月施行へ/厚労省 3.小児がん拠点病院を集約化、症例集積で医療の質確保へ/厚労省 4.高齢者の窓口負担3割化を提言、包括払い・病院再編も/財政審 5.ドクターヘリ運休相次ぐ、安定運航へ検討会設置/厚労省 6.長崎大病院など3病院、不急の救急搬送に選定療養費7,700円を徴収/長崎市 1.高齢者のポリファーマシー対策、医療従事者向け資材を公表/厚労省厚生労働省は6月24日に開いた「高齢者医薬品適正使用検討会」で、高齢者のポリファーマシー対策を進めるため、医療従事者向けの普及啓発資材を公表した。多剤服用に伴う薬物有害事象、服薬過誤、服薬アドヒアランス低下などを防ぐため、「高齢者の医薬品適正使用の指針」や病院・地域での業務手順書の内容を分かりやすく整理したもの。主な対象は医師、歯科医師、薬剤師だが、看護師や介護職など多職種での活用も想定している。資材は指針の総論編、各論編のほか、病院向け、地域向けの計4種類。これまで本格的に取り組んでいなかった医療機関でも導入しやすいよう、イラストを多用し、文字量を抑えた構成としている。資材では、「ポリファーマシーとは、単に薬剤数が多い状態(多剤服用)ではなく、多剤服用に関連して有害事象や服薬困難などの問題が生じている状態を指す」としている。高齢者では、加齢に伴う腎機能低下や薬物動態の変化、複数医療機関の受診、処方カスケードなどにより形成されやすい。病院向け資材では、対策開始時の留意点として、剤数だけに着目せず、安全性や治療効果、患者の生活状況を踏まえて処方内容を適正化する必要性を強調した。対象患者を優先順位付けし、小規模から始めること、担当者を明確にして情報を一元化すること、多職種の役割分担を整理することが実践の鍵となる。薬剤服用後の体調不良が疑われる外来患者には受診や相談を促す。実務上は、「お薬手帳」を活用した処方・調剤情報の一元管理に加え、患者の日常生活動作や認知機能、栄養状態、生活環境、服薬管理能力などを総合的に評価することが重要となる。併せて、腎機能や薬物相互作用、同効薬の重複、一般用医薬品やサプリメントの使用状況も確認する。ふらつき、転倒、せん妄、食欲低下、便秘、排尿障害などが出現した場合は、薬剤起因性も疑う。薬剤を見直すときは、中止・減量・変更後の病状悪化や代替薬による有害事象にも注意が必要となる。2026年度の診療報酬改定では、病棟薬剤業務実施加算の見直しにより、ポリファーマシー対策や退院時薬剤情報連携が一層重視されている。薬剤総合評価調整加算などの実績向上にもつながる可能性があり、薬剤部門だけでなく、入退院支援、病棟看護、地域薬局、かかりつけ医を含めた組織的な取り組みが求められる。資材では、剤数だけに着目せず、安全性確保などを踏まえた処方内容の適正化が必要であると強調されている。 参考 1) 第22回 高齢者医薬品適正使用検討会 資料(厚労省) 2) 高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)(同) 3) 高齢者の医薬品適正使用の指針 総論編の概要 普及啓発資材(同) 4) ポリファーマシー対策 普及啓発資材を公表 適正使用指針などの説明で活用 厚労省(CB news) 5) ポリファーマシー対策の始め方と進め方の普及啓発ツールが公表。薬剤総合評価調整加算等の実績向上が期待される(HCナレッジ) 2.OTC類似薬の追加負担、対象外患者を定め2027年3月施行へ/厚労省厚生労働省は6月25日、市販薬と成分や効能が似る「OTC類似薬」について、患者に薬剤費の一部追加負担を求める新制度の具体化に向けた有識者検討会の初会合を開いた。新制度は2027年3月の施行を想定し、対象薬剤の薬剤費の4分の1を保険給付から外し、「特別の料金」として通常の1~3割負担に上乗せする。対象は、ロキソニン錠やアレグラ錠、保湿剤、湿布などを含む77成分、1,066品目を機械的に選定した案が示されており、今後効能・効果を踏まえて整理される。制度の目的は、OTC医薬品で対応している患者との公平性を確保し、現役世代を中心とする保険料負担の上昇を抑えることにある。ただし、必要な受診を妨げないよう、追加負担を求めない患者や療養の範囲が大きな論点となる。厚労省案では、高校生年代までの子供、低所得者、入院患者、がん患者や指定難病患者など配慮が必要な慢性疾患患者は対象外とする方向。入院中の処方は退院時処方を含めて追加負担を求めない。がんについては、治療中または治療開始に向け継続診療中の患者や、副作用対策に用いる薬は除外する一方で、治療終了後の経過観察のみの場合や、がんと直接関係しない症状への処方は追加負担を求める方向である。長期使用が医療上必要なケースも除外候補で、内服薬は年間処方日数がおおむね50週以上、外用薬は、塗布剤・貼付剤・点眼剤・点鼻剤・吸入剤などについて、医師が毎日の塗布や貼付など日常的使用を指示している場合を目安とする。厚労省は今後、77成分ごとに医療用医薬品とOTC医薬品の効能・効果の違いを整理し、代替性の有無を検討する。検討会は8月ごろに中間整理を行い、医療保険部会や中医協での議論、患者団体ヒアリングを経て、秋ごろの取りまとめを目指す。医療現場では、対象外となる医学的必要性をどのように判断・記録するかが実務上の焦点となる。 参考 1) 一部保険外療養の施行に向けて(厚労省) 2) 負担対象OTC類似薬議論 除外条件も、厚労省(東京新聞) 3) OTC類似薬の追加負担、がん・通年処方は対象外 厚労省が案提示(日経新聞) 4) 日常使用の湿布は負担対象外 OTC類似薬の新制度-厚労省会議(時事通信) 3.小児がん拠点病院を集約化、症例集積で医療の質確保へ/厚労省厚生労働省は6月23日に開かれた「小児がん拠点病院等の指定要件に関するワーキンググループ」で、小児がん診療提供体制の見直し案を示し、大筋で了承を得た。少子化に伴い小児がん患者数の減少が見込まれる中、高難度医療、希少がん診療、再発・難治例への集学的治療、国際共同治験などを担う施設に症例を集積し、医療の質を維持・向上させる狙い。現在全国15ヵ所の「小児がん拠点病院」は、10ヵ所程度に集約化する方針で、8月上旬までに整備指針を改定する。新たな小児がん拠点病院は、高度専門医療に加え、ドラッグ・ラグ/ロスの解消や新規治療開発への貢献も求められる。診療実績要件は、再発時の紹介を含む年間新規症例数30例以上に加え、年間手術数10例程度を新設する。放射線療法については、自施設で提供できない場合も他施設と連携して提供できる体制を要件化する。医師以外のスタッフの配置も見直し、細胞診断業務に携わる人員について「1人以上必要な数」の配置を求める方向。国立成育医療研究センターと国立がん研究センターは、引き続き小児がん中央機関として、中央診断体制や国際共同治験、医療技術開発を牽引する。その一方で、集約化による患者・家族の医療アクセス低下を防ぐため、新たに「都道府県小児がん拠点病院」を各都道府県に原則1ヵ所整備する。小児がん拠点病院と連携しながら標準的治療を提供し、標準治療が確立していないがんや再発・難治例では診療情報を共有し、必要に応じて専門施設へ紹介する。専門治療後や病状安定後には、地域医療機関へ円滑に逆紹介する体制も求められる。指定要件は、年間新規症例数20例以上、または都道府県内の小児がん年間新規症例の原則半数以上を診療していることとする。現行の小児がん連携病院145ヵ所は「小児がん連携医療機関」に見直され、病院だけでなく診療所も参加可能となる。標準的治療、特定がん種への対応、長期フォローアップ、移行期医療、在宅医療などを担う体制を整える。今後、全国小児がん拠点病院等連絡協議会と都道府県小児がん診療連携協議会を設け、広域・地域双方の課題を協議する。新たな指定類型は2027年4月から適用される見通し。 参考 1) 第5回 小児がん拠点病院等の指定要件に関するワーキンググループ(厚労省) 2) 小児がん拠点病院を集約化して医療の質を確保し、患者・家族の医療アクセス確保にも配慮する-小児がん拠点病院指定要件WG(Gem Med) 3) 小児がん拠点病院 10ヵ所程度に集約化へ 8月上旬までに整備指針改定 厚労省(CB news) 4) 「小児がん拠点病院」集約化へ 患者減見据え10ヵ所程度に(MEDIFAX) 4.高齢者の窓口負担3割化を提言、包括払い・病院再編も/財政審財務省の財政制度等審議会は6月26日、「人口減少と不確実性の時代における国力の強化と財政運営」と題する建議を片山 さつき財務相に提出した。建議は、日本経済がデフレ型から供給制約型へ移りつつあるとし、「強い経済」には未来投資と実質賃金上昇による投資と賃上げの好循環が不可欠とした。その一方で、金利上昇局面では財政資源も制約下にあり、補正予算依存から脱却し、恒常的施策は当初予算で措置する改革の実効性と財政規律の両立を求めた。高市政権が掲げる「責任ある積極財政」や、債務残高対GDP比の安定的低下を中核目標とする方針についても、成長頼みでは市場の信任を損ないかねないとして、利払い費を含む財政収支の管理を促した。医療・介護分野では、現役世代の保険料負担を抑えるため、社会保障負担率に数値目標と年限を設け、改革工程表を作成すべきだと提言した。医療では「患者アクセスの保障」と「負担抑制」のバランスを掲げ、70歳以上の患者自己負担を可及的速やかに原則3割へ引き上げることを求めた。70~74歳を一律に高齢者扱いする現行の線引きの見直し、75歳以上への経過措置、外来特例の廃止、特定疾病制度の検証・見直しも論点とした。さらに、建議では、医療機関を受診する際の窓口業務のコスト(保険証確認や会計など)について、診療行為そのものではなく、初・再診料で評価する必然性は乏しいとして、保険給付外サービスとして患者に請求できる仕組みの検討を求めた。医療の提供体制については、小規模分散型の病院・診療所では人材不足下の効率化に限界があるとして、病院の集約・再編、地域医療連携推進法人の活用、外来機能の統合・大規模化、かかりつけ医機能強化を提起した。診療報酬についても、入院・外来診療ともに、出来高払い中心からアウトカム評価と包括払い中心へ移行し、医療DXで少ない人員でも質を保つ体制を後押しすべきだとした。あわせて、医療法人の経営情報の見える化、医療機関の職員の職種別給与・人数の提出義務化、医療法人の業務範囲拡大、2027年度薬価改定の完全実施、後期高齢者医療制度の都道府県化や金融所得を含む応能負担の徹底も盛り込んだ。医療界にとっては、患者負担増だけでなく、報酬体系、病院再編、経営情報開示まで含む包括的な制度転換の予告と受け止める必要がある。 参考 1) 人口減少と不確実性の時代における国力の強化と財政運営(財務省) 2) 「強い経済」へ投資と賃上げ循環 予算編成改革、実効性確保を-財政審建議(時事通信) 3) 70歳以上の医療費窓口支払い「速やかに3割負担を」財制審が意見書(日経新聞) 4) “高齢者も病院窓口負担を原則3割に” “大学は現在の半分程度まで縮減を” 財政制度等審議会が片山さつき財務大臣に意見書(TBS) 5) 診療報酬をアウトカム評価中心の包括払いに 財政審、入院・外来共に(CB news) 5.ドクターヘリ運休相次ぐ、安定運航へ検討会設置/厚労省厚生労働省は、東京や関西などでドクターヘリの運休が相次いでいることを受け、安定的な運航体制の確保に向けた検討会を7月中に立ち上げる。上野 賢一郎厚生労働相が6月26日の閣議後記者会見で明らかにした。検討会には医療関係者、航空関係者、自治体担当者、有識者などが参加し、救急医療搬送体制の在り方や国の関与、財政支援、人材確保策について議論する。ドクターヘリは、救急医療機器を搭載し、専門医と看護師が搭乗して現場に向かうことで、重症患者への早期医療介入と迅速搬送を担う。上野厚労相は「全国各地の救急医療体制を確保する上で極めて重要な役割を果たしている」と述べ、持続可能な運航体制の構築が急務との認識を示した。運休の背景には、運航事業者における整備士不足がある。東京や兵庫などでは昨年以降、整備士を確保できないことによる運航停止が発生しており、自治体からも国の対応を求める声が上がっている。加えて、公共ヘリの操縦には高度な技量と経験が必要で、操縦士の高齢化も課題となっている。ドクターヘリの操縦士は50歳以上が7割超を占め、2030年以降には毎年10人以上が不足するとの見通しもある。国土交通省も航空大学校を活用した若手操縦士の養成や、シミュレーター活用による飛行経験要件の見直し、養成費支援を進める方針。検討会では、医療現場と航空運航の双方の実情を踏まえ、財政支援、人材育成、整備士・操縦士の確保を含めた具体策を検討する。 参考 1) ドクターヘリ検討会設置へ 運休受け、安定運航議論(共同通信) 2) 整備士不足で運休相次ぐ「ドクターヘリ」 安定運航へ厚労省が検討会を立ち上げ(テレビ朝日) 3) 関西などドクターヘリ運休 7月中にも検討会立ち上げ 厚労省(NHK) 4) ドクター・防災ヘリ念頭…国交省、航空大で操縦士養成の背景(ニュースイッチ) 6.長崎大病院など3病院、不急の救急搬送に選定療養費7,700円を徴収/長崎市長崎市内の3病院は7月1日から、緊急性が認められない症状で救急搬送された患者に対し、選定療養費7,700円を徴収する。対象は長崎みなとメディカルセンター、長崎大学病院、日赤長崎原爆病院で、いずれも200床以上の急性期病院として脳卒中、心筋梗塞、重症外傷などに対応する役割を担う。これまで救急搬送では紹介状なし受診に伴う選定療養費の徴収対象外としていたが、救急車要請時の緊急性が医師により認められない場合に負担を求める運用へ改める。背景には、救急搬送件数の増加と大病院への軽症患者集中がある。長崎市消防局管内では、2022年度以降の救急搬送が2万5,000件超で高止まりし、医療機関の応需率は2019年度の80.7%から、近年は60%台前半まで低下している。長崎みなとメディカルセンターでは2023年度の救急搬送3,987人のうち36%が軽症だった。市消防局が病院へ11~20回問い合わせた搬送事例も、2019年度の2件から2024年度には109件へと急増しており、搬送先選定の長期化が問題となっている。同センター救命救急センターは年間約4,200台の救急車と約4,500人のウォークイン患者を受け入れる。輪番日の夜間は救急医1人、研修医4人、看護師5人で対応する体制だが、午後5~7時ごろに搬送が集中し、初療室5床が短時間で埋まることもある。早川 航一センター長は、安易な救急車利用の抑制により、真に緊急性の高い患者の治療時間と病床を確保する必要性を強調している。その一方で、制度運用には課題も残る。第三者が救急車を呼んだ場合や観光客でも、緊急性がないと判断されれば徴収対象となる一方で、警察など公的機関からの要請は原則対象外とされる。徴収判断は医師がガイドラインに基づき行うが、病院間で判断に差が出れば不公平感につながりかねない。救急車の有料化ではなく、救急医療資源を守る施策として位置付けつつ、個別事例の検証や市民への周知が不可欠となる。救急車を呼ぶか迷う場合は、救急安心センター「#7119」の活用も促されている。 参考 1) 救急搬送における選定療養費について(長崎市) 2) 不急の救急搬送に長崎市内の3病院が7月から特別料金、救急車の適正利用が狙い…「緊急性」線引きに課題も(読売新聞) 3) 「これ以上は危うい…」長崎県内最多の救急搬送患者を受け入れる救命救急センター、切迫する最前線の現状(長崎新聞) 4) 「とりあえず救急車」の前に…7月1日~長崎市の3病院で「救急搬送における選定療養費徴収」スタート 迷ったときは?(長崎放送)

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第300回 従来の保険証の暫定措置7月末で終了へ 窓口・救急対応で混乱防止を/厚労省

<先週の動き> 1.従来の保険証の暫定措置7月末で終了へ 窓口・救急対応で混乱防止を/厚労省 2.電子処方箋の導入促進へ 7月14日に医療機関・薬局向け説明会/厚労省 3.診療情報共有、チャットでは不可 DX関連加算の要件を明確化/厚労省 4.診療所にもサイバー対策調査へ 7月からG-MISで実態把握/厚労省 5.介護保険法改正が成立 人口減少地域と身寄りなし高齢者支援を強化/厚労省 6.成年後見制度が「終われる制度」へ 退院支援にも対応求められる/国会 1.従来の保険証の暫定措置7月末で終了へ 窓口・救急対応で混乱防止を/厚労省厚生労働省は6月18日に開催された社会保障審議会医療保険部会で、マイナ保険証の利用状況と、従来の健康保険証に関する暫定措置を7月末で終了する方針を示した。2025年12月に従来の保険証は廃止され、マイナ保険証または資格確認書による資格確認が原則となっていたが、期限切れの保険証を持参した患者についても、医療機関側で被保険者番号などを確認できる場合は3割などの通常負担で受診を認める暫定運用が続いていた。これが8月以降は終了し、受診時にはマイナ保険証か資格確認書の持参が必須となる。4月のマイナ保険証利用率は68.15%だった。施設別では病院68.50%、医科診療所71.16%、歯科診療所71.52%、薬局63.29%で、昨年12月以降は6割台で推移している。 その一方で、加入者に占める利用登録割合は全保険制度で7割を超え、共済組合84.6%、健康保険組合83.7%、後期高齢者医療75.8%などとなった。マイナンバーカード保有率も8割を超えており、制度は移行期から本格運用の段階に入ったといえる。医療機関にとって重要なのは、8月以降の窓口混乱への備えである。厚労省は保険者、医療機関、薬局向けにリーフレットを配布し、SNSや福祉関係団体を通じて周知する。とくに高齢者、障害者、施設入所者、在宅患者では、本人がマイナ保険証を持参できない、資格確認書の所在がわからない、家族や施設職員が制度変更を十分に把握していないといった事態が想定される。外来受付だけでなく、救急外来、入退院支援、訪問診療部門でも、患者・家族への早期案内が必要である。関連して、スマートフォン搭載のマイナ保険証利用も広がっている。対応施設は約12.5万、スマホ搭載件数は約800万件に達し、訪問診療・訪問看護で用いるマイナ資格アプリでも読み取りが可能となった。さらに令和8年度からは、スマホ読み取りや音声案内、顔認証エラー低減に対応した第2世代顔認証付きカードリーダーの導入も進む。救急領域では、救急隊がマイナ保険証から受診歴や薬剤情報を確認する「マイナ救急」の本格運用が始まっている。吐血患者で食道静脈瘤手術歴を推定できた事例、意識障害患者で抗てんかん薬の処方歴を把握できた事例など、病歴聴取が困難な場面で搬送先選定や初期対応に役立つ可能性が示された。制度変更は事務手続きにとどまらず、医療安全、救急医療、地域医療DXの基盤整備として捉える必要がある。 参考 1) マイナ保険証の円滑な利用について(厚労省) 2) マイナ保険証の最新利用率68% 7月末に暫定措置の終了「早期切り替えを」厚労省(テレビ朝日) 3) 8月から「マイナ保険証」か「資格確認書」必須に 期限切れた保険証でも保険診療認める「暫定措置」終了へ(東京新聞) 4) マイナ保険証、4月の利用率は68% 従来の保険証は7月末で完全終了(日経新聞) 5) マイナ保険証、病院の利用率68.50% 4月 医科診療所は71.16%(CB news) 2.電子処方箋の導入促進へ 7月14日に医療機関・薬局向け説明会/厚労省厚生労働省は、電子処方箋の導入・利用促進に向けたオンライン説明会を7月14日午後7~8時で開催する。名称は「令和8年度電子処方箋オンライン説明会~診療報酬改定でどう変わる? 業務・経営面のポイントを解説~」(視聴先URL)。医療機関や薬局を対象に、YouTubeでライブ配信し、参加登録は不要となっている。説明会後には、アーカイブ動画と説明資料を厚労省ウェブサイトに掲載する予定。説明会では、電子処方箋導入による医療安全や業務効率化のメリットに加え、導入補助金、2026年度診療報酬改定での位置付けを解説する。未導入施設だけでなく、すでに電子処方箋システムを導入した施設も対象としており、運用開始後の業務や経営上のポイントを確認できる内容となる。2026年度の診療報酬改定では、従来の医療DX推進体制整備加算などが整理され、新たに電子的診療情報連携体制整備加算が設けられた。同加算では、オンライン資格確認、マイナ保険証利用率、電子処方箋、電子カルテ情報共有サービスなどが施設基準に関わる。疑義解釈では、当面の間、2名以上、常勤医師が1名のみの場合は1名以上の常勤医師が電子処方箋を発行できればよいことや、院外処方では電子処方箋の発行に加え、引換番号付き紙処方箋を発行し、処方情報を登録する運用でもよいことが示されている。その一方で、電子処方箋の導入には、システムの改修、HPKIカード、電子署名環境、院内運用ルールの整備が必要となる。導入補助金を活用した準備も求められる。医師にとっては、処方入力後の確認手順、重複投薬・併用禁忌チェック、薬局との情報連携、紙処方箋との併用時の運用整理が実務上の焦点となる。電子処方箋は、単なる処方箋の電子化ではなく、医療DX関連加算や地域医療連携、薬剤情報の共有と一体で進む仕組みである。各医療機関では、説明会を機に、自院の導入状況、常勤医師の利用体制、薬局との連携、補助金活用の可否を確認しておきたい。 参考 1) 電子処方箋の運用開始や導入準備に関するオンライン説明会(厚労省) 2) 令和8年度電子処方箋オンライン説明会の実施について(同) 3) 電子処方箋オンライン説明会「改定でどう変わる?業務・経営面のポイント」(ドラビズオンライン) 3.診療情報共有、チャットでは不可 DX関連加算の要件を明確化/厚労省厚生労働省は6月17日、2026年度診療報酬改定に関する疑義解釈資料(その8)を示し、新設項目を中心に算定上の取り扱いを明確化した。医療機関、とくに医師の実務に影響が大きいのは、医療DX関連加算、心不全管理、在宅医療、リハビリ・摂食嚥下、精神科、訪問看護などである。まず、電子的診療情報連携体制整備加算では、施設基準にある「地域の複数医療機関で検査結果や画像情報等を含む診療情報を共有・閲覧できるネットワーク」の考え方が整理された。厚労省は、診療情報提供料Iの検査・画像情報提供加算または電子的診療情報評価料の施設基準を満たし、電子カルテ情報を参加医療機関が随時閲覧できるネットワークであることが必要と明示した。単にチャットやメーリングリストで日々の報告や一部情報を共有するサービスでは要件を満たさないとした。さらに地域連携ツールを使っている医療機関は、実際に検査、画像、投薬、注射、退院時要約などを共有・閲覧できる体制か、アクセスログを含め確認が必要となる。電子処方箋については、当面、2名以上、常勤医師が1名のみの場合は1名以上の常勤医師が電子処方箋を発行できればよいとの扱いが再確認された。常に電子処方箋を発行する必要まではなく、引換番号付き紙処方箋を発行し処方情報を登録する運用でもよい。また、電子処方箋システムを導入済みで利用申請も行ったが、HPKIカード取得待ちの場合は、当面、接続インターフェース要件を満たすとされた。心不全再入院予防継続管理料では、心不全再入院予防チームに薬剤師や理学療法士が所属してよく、研修修了が望ましいとされた。管理料1・2を届け出る病院は、地域に管理料3を算定する医療機関がない場合でも研修会を開催する必要があり、二次医療圏の医療機関に広く参加や連携を呼びかけることが求められる。在宅CPAPでは、海外赴任などやむを得ない事情で3ヵ月以上中断し、再開時期が事前にわかる場合、再開時は開始後3ヵ月以内と同様に扱える。ただし中断理由を診療録に記載する必要がある。在医総管・施設総管の新規届出では、初回届出時はいったん基準該当として差し支えないが、その後は定期的な確認と届出が必要である。このほか、身体的拘束最小化推進体制加算は2026年度中の届出に限り、講習・委員会の開催予定を添付すれば1年間要件を満たす扱いとなるが、講習会の開催などの要件を満たさない場合には、直ちに届出を取り下げることが必要になる。さらに摂食嚥下支援計画の説明者、心理支援加算の再算定、認知行動療法の医師要件、脳血管内治療やてんかん手術の適正使用指針も明確化された。訪問看護では紹介料などによる利用者誘導の禁止が明記されたため、医療機関側も連携先の選定や患者紹介の透明性に注意が必要となる。 参考 1) 疑義解釈資料の送付について(その8)(厚労省) 2) 電子的診療情報連携体制整備加算、心不全再入院予防継続管理料、物価対応料等の詳細明確化-疑義解釈8(Gem Med) 3) 診療情報の共有、「チャット」では要件満たせず 新設のDX関連加算(MEDIFAX) 4) 26年度改定・疑義解釈資料(その8)医療DXの新加算、診療情報共有でチャットは対象外(CB news) 4.診療所にもサイバー対策調査へ 7月からG-MISで実態把握/厚労省厚生労働省は、医療情報システムのサイバーセキュリティ対策に関する実態調査を、従来の病院中心から診療所へ拡大する。医政局医療情報担当参事官室が6月15日付で事務連絡を発出し、医療機関等情報支援システム(G-MIS)を利用している診療所を対象に、7月6日~8月21日まで調査を実施する。回答は6月末時点の状況について求められ、医療情報システム安全管理責任者の設置、サイバー攻撃等を想定したBCP策定と訓練、サーバ・端末・ネットワーク機器の台帳管理、職員研修、電子カルテ利用の有無などを確認する。背景には、医療機関を狙うランサムウェア被害の増加がある。過去には徳島県の半田病院、大阪急性期・総合医療センター、岡山県精神科医療センターなどで、保守用VPNや外部委託業者の接続点を経由した攻撃により電子カルテが停止し、診療継続に大きな影響が出た。厚労省でも、中・大規模病院では外部ネットワーク接続点を網羅的に把握できていないことが課題とされ、病院調査では情報システム部門の人員不足、CSIRT未整備、二要素認証の遅れなどが明らかになっている。政府でも、AIを悪用したサイバー攻撃への警戒が強めている。高性能AIにより脆弱性の発見が高速化すれば、医療機関の未更新機器や外部接続点が狙われるリスクはさらに高まる。日本医師会も、医療機関は知識・人材・財源が不足しており、対策は自己責任ではなく地域医療を守る社会インフラ投資として支援すべきだと訴えている。医療法施行規則では、病院、診療所、助産所の管理者にサイバーセキュリティ確保のため必要な措置を講じる義務が位置付けられている。今回の診療所調査は、地域医療の足元にあるリスクを可視化し、チェックリストや安全管理ガイドラインに基づく具体的支援につなげる狙いがある。医療DXの前提として、院長・管理者主導のサイバーセキュリティ体制の確認が急務となる。 参考 1) 令和8年度診療所における医療情報システムのサイバーセキュリティ対策に係る調査について(厚労省) 2) 診療所のサイバー対策、実態調査へ 厚労省(MEDIFAX) 3) サイバー攻撃は激化、医療機関等は「チェックリスト」用いて自院のセキュリティ対策の再確認を-医療等情報利活用ワーキング(2)(Gem Med) 4) 医療機関等におけるサイバーセキュリティ対策の課題等を共有(日医オンライン) 5.介護保険法改正が成立 人口減少地域と身寄りなし高齢者支援を強化/厚労省人口減少と高齢単身世帯の増加を背景に、介護保険法、社会福祉法、老人福祉法などの改正法が6月19日、参院本会議で可決・成立した。今回の改正は、医療機関にも退院支援、在宅療養調整、施設入所支援に直結する内容である。柱の1つは、中山間地域など人口減少地域で介護サービスを維持するための「特定地域サービス」の創設である。介護人材の確保が難しく、訪問に時間を要する地域では、全国一律の人員配置基準や出来高払いでは事業継続が困難になっていた。改正後は、対象地域に限って職員配置基準を弾力化し、訪問系サービスでは月単位の定額報酬も選択可能とする。これでも提供体制の維持が難しい場合には、介護保険財源を用いて市町村が居宅サービスなどを実施できる仕組みも設けられる。厚労省は今後、対象地域や基準を議論し、2027年度の導入を目指す。もう1つの重要な点は、頼れる身寄りのない高齢者への支援拡充である。これまで主に判断能力が不十分な人を対象としてきた金銭管理などの支援を広げ、入院・入所手続き、日常生活支援、葬儀・納骨・家財処分などの死後事務まで、地域の支援機関が担えるようにする。国の推計では2040年に単身高齢者世帯は1,000万世帯を超える。医療現場では、保証人の不在、退院先調整、死亡後の対応が大きな課題であり、地域包括支援センターや社会福祉協議会などとの連携がより重要になる。有料老人ホームについては、住宅型有料老人ホームなどで指摘されてきた「囲い込み」対策として登録制を導入する。入居者に同一・関連法人の介護サービス利用を求めること、ケアマネジャーやかかりつけ医の変更を強いることなどを防ぎ、ケアマネジメントの独立性を確保する狙いがある。医師が施設入所後の療養方針や訪問診療先を確認する際にも、患者本人の選択権が守られているかを意識する必要がある。このほか、ケアマネジャー資格の更新制は廃止される。ただし、研修受講は義務として残り、オンデマンド化や時間短縮で負担軽減を図る。夜間対応型訪問介護は、機能が重なる定期巡回・随時対応型訪問介護看護へ統合される方向である。今回の改正は、介護サービスを「全国一律」から「地域の実情に応じて維持する」方向へ転換するものといえる。病院側には、退院支援の早期介入、身寄りなし高齢者の意思決定支援、施設紹介時の透明性確認など、医療と介護の接点での実務対応が求められる。 参考 1) 改正社会福祉法など成立 身寄りない高齢者支援拡充 参院本会議(NHK) 2) 介護保険法が成立 人口減少地域のサービス維持へ基準を緩和(朝日新聞) 3) ケアマネ資格の更新制の廃止が正式決定 改正介護保険法が成立 研修受講は義務に オンデマンド化で負担減へ(Joint) 4) 介護保険法改正で有料老人ホームの“囲い込み”や人口減少地域の介護はどう変わる?専門家に聞いた3つのポイント(ジョブメドレー) 5) 国会審議中の2027年度介護保険法改正法案のポイント(メディカルサポネット) 6.成年後見制度が「終われる制度」へ 退院支援にも対応求められる/国会認知症や知的障害などで判断能力が不十分な人を支える成年後見制度を抜本的に見直す改正民法が6月17日、成立した。現行制度では、1度利用を始めると本人の判断能力が回復しない限り原則として死亡まで継続し、後見人には包括的な代理権や取消権が与えられる。このため、本人の意思決定を過度に制限する、報酬負担が長期化する、必要な場面だけ使いにくいといった批判があった。改正後は、制度を「必要なときに、必要な範囲で」使える仕組みに改める。現在の後見、保佐、補助の3類型は、後見人と保佐人を廃止して補助人に一本化する。補助人の権限は、遺産分割、不動産売却、施設入所契約、預貯金管理など、本人に必要な個別行為ごとに家庭裁判所が判断する。必要がなくなれば途中終了でき、本人の利益のためとくに必要な場合は、不正がなくても補助人の交代が可能になる。補助人には年1回の家裁への状況報告も義務付けられる。医療現場では、認知症の高齢者や身寄りのない患者の入退院手続き、医療費の支払い、施設入所、相続・財産管理をめぐり成年後見制度が関わる場面が多い。今後は、単に「後見人を立てる」発想ではなく、患者本人の意思を確認し、どの法律行為にどの程度の支援が必要かを整理することが重要になる。退院支援では、地域包括支援センター、社会福祉協議会、法律専門職、行政との連携がより求められる。報酬面でも見直しが入る。これまでは本人の資産額が報酬判断で大きな比重を持っていたが、改正後は支援する事務の内容や難易度をより重視する方向となる。短期間・限定的な利用が可能になれば、利用者負担の軽減につながる可能性がある。その一方で、制度終了後の生活支援、金銭管理、意思決定支援を誰が担うのかは残された課題である。単身高齢者の増加を踏まえ、成年後見制度の改正は、医療と福祉が地域で本人を支える体制作りを迫るものといえる。 参考 1) 成年後見制度の見直し 改正民法などが成立 参院本会議(NHK) 2) 成年後見大改正「終われる制度」に 利用者が払う報酬どう変わる?(朝日新聞) 3) 「死ぬまで継続」廃止へ 成年後見制度見直し 背景に単身世帯増(毎日新聞) 4) 成年後見、終身利用を見直し 改正民法が成立、デジタル遺言導入(時事通信) 5) 財産管理の成年後見、途中終了・交代しやすく 改正民法が成立(日経新聞)

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第298回 医学部地域枠「9年勤務」の運用緩和へ、留学・子育てに配慮/厚労省

<先週の動き> 1.医学部地域枠「9年勤務」の運用緩和へ、留学・子育てに配慮/厚労省 2.「やせ薬」目的で拡散するマンジャロ、個人売買の監視強化/厚労省 3.外来医師過多区域で新規開業対応を強化、9医療圏を候補に提示/厚労省 4.出生率1.14で過去最低、周産期・小児医療の集約化議論へ/厚労省 5.外科医への退職強要で大津市民病院側に100万円支払い命令/大津地裁 6.私物PCとクラウド利用に警鐘、患者情報1,365件漏えいの可能性/藤田医大 1.医学部地域枠「9年勤務」の運用緩和へ、留学・子育てに配慮/厚労省厚生労働省は、医学部入試の「地域枠」について、卒業後に特定地域で原則9年以上勤務する現在の運用を見直す検討に入った。地域枠は、一般入試とは別に定員を設け、奨学金の貸与と引き換えに、卒後一定期間、都道府県知事が指定する医療機関などで勤務する仕組み。2025年度は医学部定員9,393人のうち1,847人と約2割をこの地域枠の学生が占めた。医師偏在対策の柱の1つだが、若手医師の20~30歳代は、専門医取得、海外留学、結婚・出産・育児、家族介護などの時期と重なる。10~18年度に地域枠で入学した4,917人のうち、入学時の条件を満たさなかった人は301人。その理由としては「個人的な理由」が最多だった。厚労省は有識者検討会で議論を進め、留学や専門医資格取得のための猶予期間、一時中断の柔軟化などを検討し、年内の取りまとめを目指す。地域枠をめぐっては、都道府県ごとの運用差も課題となっている。育児休業による中断は全都道府県で認められている一方で、留学は35、介護は31都道府県にとどまる。高知大学のように、臨床研修後の残り7年間を15年間のうちに終えればよいとする柔軟な制度や、自治医科大学のように卒業生同士の結婚に配慮し、一定条件で配偶者の出身都道府県勤務を認める例もある。山梨県では、県内勤務を条件に修学資金返還を免除する制度について、条件を満たさない場合に最大約842万円を求める違約金条項を廃止する方針が示された。同条項をめぐっては、消費者機構日本が差し止めを求め、甲府地裁が今年1月に「平均的な損害を超え不当」として差し止めを命じていた。県は控訴していたが、制度を見直し、県による面接、在学中の地域医療実習、勤務年数に応じた段階的な返還免除、貸与額の引き上げなどを導入する。地域医療を支える制度の実効性を保ちつつ、18歳時点の選択で30代までのキャリアを過度に拘束しない制度設計が問われている。 参考 1) 医師の「地域枠9年」緩和 厚労省検討 医学部入試 留学・子育てに配慮(日経新聞) 2) 山梨県 医師確保のための「地域枠」制度 違約金条項を廃止へ(NHK) 3) 山梨県が医学部の修学資金制度を見直し、「違約金」を廃止(朝日新聞) 4) 山梨、医師修学資金貸与の違約金を廃止 裁判踏まえ見直し(毎日新聞) 2.「やせ薬」目的で拡散するマンジャロ、個人売買の監視強化/厚労省糖尿病治療薬チルゼパチド(商品名:マンジャロ)をダイエット目的で使用したり、SNSで個人間売買したりする動きが広がっているとして、厚生労働省が注意喚起と監視を強化する。上野 賢一郎厚生労働大臣は6月5日の閣議後の会見で、「マンジャロを個人間で売買することは違法」と明言。都道府県など関係機関と連携し、SNSを含むネットパトロールを強化し、法違反には厳正に対処する考えを示した。マンジャロは米・イーライリリーが開発したGIP/GLP-1受容体作動薬で、国内では2型糖尿病において効能・効果で承認され、医師の処方のもとで使用されている。その一方で、食欲を抑える作用が注目され、美容・ダイエット目的での使用を勧めるSNS投稿や美容クリニックの広告が拡散している。上野厚労相は「糖尿病治療以外で使用した場合の安全性、有効性は確認されていない。思わぬ副作用につながる可能性も否定できない」と述べ、適正使用を呼びかけた。6月2日には、大阪府警がマンジャロをSNS経由で無許可販売したなどとして、大阪府・奈良県の20~30代の男女3人を医薬品医療機器法(薬機法)違反の疑いで書類送検した。薬機法は、許可を受けていない者が業として医薬品を販売することを禁じており、違反すれば3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金の対象となる。処方箋医薬品であるマンジャロは、許可業者であっても処方箋なしには販売できない。また、販売目的で保管する「貯蔵」も処罰対象となり得る。購入しただけの人を直接処罰する規定はないとされるが、余った薬を友人に有償で譲ったり、SNSで転売したりすれば無許可販売に問われる可能性がある。さらに、正規ルート外で入手した医薬品は偽造品や不適切な温度管理のリスクがあり、重い副作用が出ても医薬品副作用被害救済制度の対象外となる。医療者には、マンジャロが単なる「やせ薬」ではなく糖尿病治療薬であることを患者に説明し、安易な個人売買や自己判断での使用を避けるよう啓発する姿勢が求められる。 参考 1) マンジャロ個人間売買、厚労相「法違反は厳正に対処」 注意喚起強化(朝日新聞) 2) 糖尿病治療薬「マンジャロ」上野厚労相が適正な使用を呼びかけ(NHK) 3) 厚労相「法違反、厳正に対処」 マンジャロ個人売買の横行受け(毎日新聞) 4) 「やせ薬」危険な個人売買 糖尿病薬「マンジャロ」取引横行 許可なくSNSで販売疑い異例の立件(同) 5) マンジャロ無許可販売で書類送検、買う側には「罰則なし」? それでも弁護士が購入を勧めないワケ(弁護士ドットコム) 3.外来医師過多区域で新規開業対応を強化、9医療圏を候補に提示/厚労省厚生労働省は、2027年度から始まる第8次医療計画後期に向け、「外来医療に係る医療提供体制の確保に関するガイドライン」を都道府県に通知した。今回の見直しは、都市部など診療所医師が集中する地域で新規開業への対応を強める一方で、医師不足地域では診療所の承継・開業支援を進めるもので、外来医療における偏在策が具体化しつつある。ガイドラインでは、外来医師偏在指標と可住地面積当たり診療所数を基に、とくに外来医師が多い「外来医師過多区域」の候補として、東京・区中央部、区西部、区西南部、区南部、区西北部、京都・乙訓、大阪市、福岡・糸島、神戸の9つの2次医療圏を提示した。外来医師過多区域では、無床診療所の新規開設希望者に対し、原則として開設6ヵ月前までの事前届出を求める。届出では、夜間・休日の初期救急、在宅医療、発熱外来、学校医・予防接種、警察医会への協力など、地域で不足する医療機能を担う意向の有無や内容を示す必要がある。要請や勧告に従わない場合には、内容の公表に加え、保険医療機関の指定期間を通常より短縮する対応も想定される。その一方で、制度は一律の開業抑制ではない。親の死亡に伴う急な診療所承継や、自治体の求めに応じて地域外来医療を担う場合などは、事前届出の猶予・免除の対象となり得る。また、診療所の全医師が育児や介護で夜間・休日対応ができない場合など、地域で不足する医療機能を担えない「やむを得ない事情」も例示された。医師不足地域では、国と都道府県による診療所の承継・開業支援が始まっている。2024年度補正予算で102億円、2026年度当初予算で20億円が措置され、施設整備、医療機器購入、職員給与や材料費などの運営経費を支援する。青森県では県内全6つの2次医療圏を重点医師偏在対策支援区域に定め、2025年度に19診療所が交付対象となった。承継10施設、新規開業9施設で、内科に加え産科や小児科の開業も含まれた。県内診療所数の減少幅は緩やかになっており、県や医師会からは支援事業を評価する声が出ている。外来医療の偏在対策は、開業の自由と地域に必要な医療機能の確保をどう両立させるかが焦点となる。都市部では新規開業医に地域で不足する医療機能への協力を求め、医師不足地域では経済的支援で承継・開業を後押しする「要請と支援」の両輪が動き出した。今後は、地域医療構想、かかりつけ医機能報告、外来機能報告のデータを活用しつつ、長期的な財源確保と、地域ごとの実効性ある協議が問われる。 参考 1) 外来医療に係る医療提供体制の確保に関するガイドライン~第8次(後期)~」について(厚労省) 2) 開業規制の医師過多区域、5都府県の9圏域候補 国がガイドラインで示す(CB news) 3) 第8次後期外来医療計画のGLを通知、外来医師過多区域の取り組みを記載-厚労省(日本医事新報) 4) 第8次後期の外来計画でGL 過多区域の「特例」示す(MEDIFAX) 5) 重点区域の診療所支援、偏在是正に一定の効果 「長期的な財源確保」を(同) 4.出生率1.14で過去最低、周産期・小児医療の集約化議論へ/厚労省厚生労働省が公表した2025年人口動態統計(概数)で、わが国の出生数は前年比1万4,937人減の67万1,236人となり、10年連続で過去最少を更新した。合計特殊出生率は1.14で、3年連続の過去最低となった。出生数の減少率は2.2%と、近年の5%台からは縮小したが、死亡数158万9,489人との差である自然減は91万8,253人に達し、19年連続の人口減少となった。婚姻件数は48万9,119組で2年連続増加したが、この10年では14万組余り減っており、少子化の基調は変わっていない。都道府県別の出生率は、沖縄1.52、宮崎1.46、福井1.45が高く、東京0.96、北海道・宮城1.00と低かった。関東以北で低く、西日本で高い「西高東低」の傾向がみられた。この背景には、所得・雇用の不安定さ、出会いの少なさ、子育て費用、仕事と育児の両立困難、固定的な性別役割分担意識の地域差など、複数の要因が絡むとされる。政府は児童手当の拡充、子供誰でも通園制度、育児休業給付の充実、出産費用無償化などを進めるが、尾崎 正直官房副長官は「少子化に歯止めがかかっていない」との認識を示している。医療現場への影響はすでに顕在化している。国内の分娩取扱施設は2006年の3,098施設から2025年には1,856施設へ約4割減少し、診療所は初めて1,000施設を下回った。埼玉県本庄市では地域最後の分娩施設が少子化による経営難などを理由に分娩を休止し、妊婦健診は地域診療所、分娩は近隣施設で担うセミオープン型へ移行した。小児医療でも、低出生体重児や小児外科症例の減少により、NICU・GCUの空床、専門医・指導医育成の症例確保、こども病院の赤字が課題となっている。NICUは出生1万人当たり46.2床と、かつての整備目標を大きく上回る一方で、GCUの病床利用率が50%未満の地域周産期母子医療センターも多い。第9次医療計画に向けて、国は周産期・小児医療の病床数見直し、集約化、都道府県を越えた広域連携の検討を始める。少子化は単なる人口政策ではなく、分娩、小児救急、NICU、小児外科、思春期医療まで含む医療提供体制の再編問題である。安全性を維持しながら、患者・家族の移動負担や地域アクセスをどう支えるかが、今後の医療政策の焦点となる。 参考 1) 人口動態統計月報(概数)(令和7(2025)年12月分(年計を含む))(厚労省) 2) 13県で出生率上昇も…少子化に歯止めかからず 対策の拡充不可避 令和7年人口動態統計(産経新聞) 3) 出生率1・14、過去最低を更新 出生数は最少の67万人 令和7年人口動態統計(同) 4) 閉じる分娩施設、減る小児の症例数 世界最高水準を誇る医療の未来は(朝日新聞) 5) 少子化で経営成り立たず 地域最後のお産休止、空床増えるこども病院(同) 6) 去年の出生数67万人 過去最少 少子化対策ポイントは(NHK) 5.外科医への退職強要で大津市民病院側に100万円支払い命令/大津地裁大津市立大津市民病院に勤務していた外科医3人が、業績不振を理由に退職を強要され、パワーハラスメントを受けたとして、病院を運営する地方独立行政法人や前理事長、前院長に慰謝料や未払い退職金など計約2,900万円の支払いを求めた訴訟で、大津地裁は6月5日、原告のうち1人に対する退職強要を認め、病院側に慰謝料100万円の支払いを命じた。パワハラについては3人とも認めず、残る2人への退職強要も否定した。判決によると、前理事長らは2021年4~9月、外科などの業績不振を理由に「改善の兆しが見えないということで決断せざるを得ない」などと発言。同年9月の面談では、元副院長に対し、「外科の医師には退職してもらい、別の大学のチームに来てもらうよう頼む」趣旨の発言をした。田野倉 真也裁判官は、外科の経営低迷が元副院長らの責任とは認められないにもかかわらず、退職を求めた言動は「社会通念上相当と認められる退職勧奨の範囲を超えた」と判断。自由な退職意思の形成を妨げる退職強要に当たるとして、精神的苦痛と退職を余儀なくされたことへの慰謝料を認めた。その一方で、残る2人の医師については、問題となった面談に出席しておらず、前理事長らの意向を元副院長から伝えられたに過ぎないとして、退職を強要されたとは評価できないとした。また、原告側が主張したパワハラについても、3人いずれについても認定しなかった。前理事長が元副院長に対して名誉毀損を理由に550万円を求めた反訴も棄却された。今回の判決は、病院経営の改善や診療科再編を理由とする人事対応であっても、特定医師に退職を既定方針として繰り返し伝える行為は、適法な退職勧奨の範囲を超え得ることを示した。医師不足や経営悪化を背景に診療体制の見直しを迫られる医療機関では、業績評価の根拠、面談記録、本人の自由意思の確保、配置転換や業務改善の選択肢提示など、手続きの透明性が一層問われる。 参考 1) 大津市民病院の損賠訴訟 退職強要認め100万円支払命令 地裁判決(産経新聞) 2) 「退職の決定」何度も通知するパワハラ…市立病院側に医師1人に100万円の支払い命じる判決(読売新聞) 3) 大津市民病院の前理事長ら、医師に退職強要 100万円の損害賠償支払い命令、大津地裁(中日新聞) 6.私物PCとクラウド利用に警鐘、患者情報1,365件漏えいの可能性/藤田医大藤田医科大学病院は、6月3日に看護師の私物パソコン(PC)に保存されていた患者情報1,365件が外部に漏えいした可能性があると発表した。対象は、末期腎不全、腹膜透析、腎代替療法指導を受けた一部患者で、氏名、性別、生年月日、患者ID、病名、転帰、入退院日、検査データなどが含まれる。現時点で不正利用は確認されていないが、病院は対象患者への謝罪と経過報告、相談窓口の設置、全職員研修、個人情報の取扱実態調査を進める。今回の事案で注目すべきは、病院本体の電子カルテが直接侵害されたのではなく、職員が規定に反して患者情報を私物PCに保存し、自宅でサポート詐欺型の不正侵入を受けた点である。看護師は学会発表資料の作成などを目的に、2020年ごろからクラウドを介して患者情報を私物PCと共有していた。5月25日、自宅でウェブサイトを閲覧中に偽の警告画面が表示され、表示された連絡先やURLに応じた結果、第三者による遠隔操作を受けたとみられる。その後、ウイルス駆除名目の金銭請求、身に覚えのないクレジット請求、携帯電話アカウント変更通知などがあり、専門業者からサポート詐欺と情報漏えいの可能性を指摘された。医療機関のサイバー対策は、ランサムウェア対策のみを想定すれば足りる段階ではなくなっている。偽警告、遠隔操作、クラウド同期、私物端末、学会・研究用データの持ち出しが組み合わされば、重大な個人情報漏えいにつながる。とくに、匿名化が不十分な症例リストや検査データ、紹介状、退院サマリーを、発表準備や在宅作業のために個人端末へ移す運用は、診療所でも起こり得る。厚生労働省は5月29日に開かれた「医療等情報利活用ワーキンググループ」で示した「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン第7.0版(案)」は、病院だけでなく、一般診療所、歯科診療所、薬局、訪問看護ステーション、介護事業者も対象とする。医療情報を保存するシステムに限らず、医療情報を扱う情報システム全般が対象であり、私物PCやクラウド利用も管理外ではなくなっている。さらに令和8年度版チェックリスト案では、二要素認証、パスワード要件、端末・サーバ・ネットワーク機器の台帳管理、アクセス権限管理、USBなど外部記録媒体の制限、不要ソフトの停止、インシデント時の連絡体制、サイバー攻撃を想定した事業継続計画(BCP)の策定が重視されている。まず、クリニックなどでも「患者情報をどの端末、クラウド、USB、メールに置いているか」を確認し、私物PC端末への保存禁止、学会・研究用データの匿名化手順、クラウド共有の承認制、偽警告が出た際に電話しない・URLを開かないなどのセキュリティ教育が必要となる。サイバー対策はもはや医療情報システム部門だけの課題ではなく、診療情報の持ち出しルールと緊急時対応を明文化するなど、医療機関の経営者にとって重要な課題になっている。 参考 1) 個人情報漏洩に関するご報告とお詫び(藤田医科大病院) 2) 第32回 健康・医療・介護情報利活用検討会 医療等情報利活用ワーキンググループ(厚労省) 3) 患者情報1,365件漏えいか 藤田医科大病院 相談窓口設置へ(読売新聞) 4) 藤田医科大病院で1,300件超の患者情報漏えい 私物PCでサポート詐欺被害(CB news) 5) 藤田医大病院 私用パソコンに保存 患者の個人情報流出か(NHK)

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第63回 「自宅が病院になる」時代へ ― Hospital at Homeとは何か

高齢化が進む世界で、いま注目を集める医療提供モデルがあります。「Hospital at Home(以下、HaH)」と呼ばれる、自宅にいながら入院相当の急性期医療を受けられる仕組みです。日本ではまだなじみの薄い言葉かもしれませんが、欧米ではすでに一定の実装が進んでいます。私の勤めるマウントサイナイ医科大学にもHaHのチームがあり、救急外来からHaHに入院させることもしばしばです。今回ご紹介するのは、HaHが従来の入院医療と比べて高齢者にとって本当に有効で安全なのかを、ランダム化比較試験11件・計3,301例を統合して検証した系統的レビュー・メタ分析です1)。本稿ではまずHaHの概念を整理し、論文の知見をご紹介したうえで、日本社会への適用可能性について考えてみたいと思います。Hospital at Homeとはどのような仕組みかHaHとは、本来であれば急性期入院が必要な患者さんに対し、医師・看護師・理学療法士などの多職種チームが患者さんのご自宅へ出向き、「病院レベルの治療」を自宅で提供する仕組みです。点滴投与、バイタルサインの遠隔モニタリング、計画的な訪問診療などが組み合わされ、自宅という環境で入院に匹敵する医療が展開されます。入り口は大きく2通りに分かれます。救急外来などから直接ご自宅で治療を開始する「入院回避型(admission avoidance)」と、いったん病院で安定化させた後に早期退院し、自宅で治療を継続する「早期退院型(early discharge)」です。「住み慣れた場所で過ごしたい」という多くの高齢者の願いに応えつつ、院内感染やせん妄、廃用症候群といった「入院に伴う合併症」を減らすことが期待されています。私の所属する医療機関でも、両パターンの利用があります。メタ分析が明らかにしたこと本研究は、PubMedやCochrane Libraryなど主要なデータベースを2024年4月まで網羅的に検索し、65歳以上(または65歳以上が80%以上を占める集団)を対象とする11件のRCTを統合しました。結果は、なかなか印象的なものでした。在院日数はHaH群で平均およそ2.1日短縮し、総医療費もHaH群で有意に少なく、再入院リスクは18%の低下が示されました。さらに、手段的日常生活動作(IADL)で測る生活機能は、HaH群でわずかながら有意に改善していました。一方で、死亡率や有害事象(転倒・せん妄など)の発生頻度には両群間で差がありませんでした。安全性を損なうことなく、効率と機能予後の双方で利益があった、と読み取れる結果です。ただし、いくつかの限界もあります。再入院や費用に関する研究間のばらつきが大きく、HaHのモデル設計、医療システムの違い、患者選定の基準の違いなどが結果に大きく影響している可能性があります。著者ら自身も、対象研究の大半が西側先進国で行われており、文化や制度の異なる地域での適用可能性は不確かである、と慎重に述べています。日本に活かせるのかそれでは、HaHは日本に活かせるのでしょうか。日本は世界に類を見ない超高齢社会であり、急性期病床の逼迫、医療費の増大、そして「最期は住み慣れた場所で過ごしたい」という多くの声、いずれも切実な課題です。訪問診療・訪問看護・地域包括ケアという在宅医療の制度的基盤も整いつつあり、HaHを取り入れる素地は決して悪くないと考えられます。一方で、慎重に考えるべき点も少なくありません。HaHは「入院に代わる急性期治療」であり、24時間体制の急変対応、遠隔モニタリング、多職種連携が前提となります。日本の在宅医療は安定期の慢性管理や看取りを中心に発展してきた経緯があり、急性期医療を在宅で提供する人員配置や診療報酬体系は、現状のままでは十分とは言えないでしょう。家族介護者の負担、住環境、地域差といった現場の事情も無視できません。それでもなお、入院に伴う合併症を抑え、機能と尊厳を守りつつ医療資源を効率化できる可能性は、日本の医療にとって大きな示唆を含んでいるとも思います。本論文の知見を踏まえながら、日本の文脈に合った「日本版HaH」の検証研究や制度設計を進めていくこと。それが、これからの日本の医療界に課された大切な宿題と言えそうです。 1) He H, et al. Efficacy and Safety of Hospital-at-Home versus Traditional Hospital Care in Older Patients: A Systematic Review and Meta-Analysis of Randomized Controlled Trials. Gerontology. 2026;72:384-396.

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第294回 増える診療所、減り続ける有床診療所 地域医療に懸念/厚労省

<先週の動き> 1.増える診療所、減り続ける有床診療所 地域医療に懸念/厚労省 2.18歳人口減少で、医療職の養成校の定員割れ深刻化、2040年へ確保を/厚労省 3.小規模クリニック苦境、医療・福祉倒産が3年連続最多/東京商工リサーチ 4.病院サイバー対策を強化、クラウド移行支援へ/政府 5.抗がん剤取り違えで乳児死亡 県立こども病院医師を減給処分/静岡県 6.奥能登の新病院構想、集約化か産科維持かで議論/石川県 1.増える診療所、減り続ける有床診療所 地域医療に懸念/厚労省厚生労働省の医療施設動態調査によると、2026年2月末時点の全国の病院数は7,972施設となり、前年同月比で75施設減少した。病院数は1990年の1万96施設をピークに減少が続いており、2025年には8,000施設を割り込んでいる。その一方で、一般診療所は10万5,548施設で、前年同月比407施設増となったが、その内訳をみると無床診療所が増える一方で、有床診療所の減少が続いている。有床診療所は2月末時点で5,080施設、病床数は6万6,672床となり、いずれも減少傾向にある。直近1年間では月平均約19施設、約348床のペースで減少しており、現在のペースが続けば2026年7月には5,000施設、6万5,000床を割り込み、2027年には6万床を下回る可能性も指摘されている。有床診療所は、在宅医療や高齢者医療、急性期病院からの受け入れなど、地域包括ケアを支える重要な役割を担っている。2次医療圏によっては総病床数の4分の1を有床診療所が占める地域もあり、その減少は地域医療体制の脆弱化につながることが懸念されている。厚労省はこれまで診療報酬改定で、有床診療所を「専門特化型」と「地域包括ケア型」に分類し、在宅患者や介護施設利用者の受け入れ評価、慢性透析患者対応、地域連携分娩管理加算などの支援策を拡充してきた。2026年度同改定でも入院基本料引き上げなどのテコ入れが行われている。しかし、減少傾向には歯止めがかかっていない。背景には経営難に加え、後継者不足や医師・看護師確保の困難さがあるとみられる。地域包括ケアシステムや高齢者医療を支える役割が期待される中、有床診療所の維持をどう図るかが今後の大きな課題となっている。 参考 1) 医療施設動態調査(2026年2月末概数)(厚労省) 2) 病院数が前年同月比75施設減、厚労省調べ 一般診療所は407施設増(CB news) 3) 有床診療所は2026年2月末に5,080施設・6万6,672床に減少、2026年7月に5,000施設・6万5,000床を切る公算-医療施設動態調査(Gem Med) 2.18歳人口減少で、医療職の養成校の定員割れ深刻化、2040年へ確保を/厚労省少子高齢化が進む中、看護師やリハビリ専門職など医療関係職種の養成・確保が新たな政策課題として浮上している。厚生労働省は5月7日、「医療関係職種の安定的な養成・確保に関する検討会」の初会合を開き、医師・歯科医師・薬剤師を除く12職種について、横断的な対策の検討を始めた。対象は、看護師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、救急救命士、診療放射線技師、臨床検査技師、臨床工学技士、視能訓練士、義肢装具士、歯科衛生士、歯科技工士である。背景にあるのは、18歳人口の減少と養成校の定員割れである。2024年度の定員充足率は、診療放射線技師が103.2%と唯一100%を上回った一方で、看護師は89.6%、理学療法士は87.8%、救急救命士は82.6%にとどまった。言語聴覚士は72.9%、臨床検査技師は76.1%、作業療法士は66.5%で、歯科技工士は53.5%、臨床工学技士は57.0%と6割を下回った。看護師国家試験の受験者数も2021年の6万6,124人をピークに減少し、2025年は6万3,131人となった。厚労省の推計では、2021年から2040年にかけて18歳人口は23道県で4割以上減少する見通しで、秋田県、青森県、岩手県、福島県では5割前後の減少が見込まれる。森光 敬子医政局長は、「養成校の努力だけで充足率の改善を図ることは、なかなか見込めない」と述べ、地域ごとの対応が必要との認識を示した。その一方で、現場では高年齢の看護職員の存在感が増している。55歳以上の看護職員は2008年の17.1万人から2024年には41.3万人へと2.4倍に増え、このうち65歳以上は10.8万人だった。厚労省は、ミドルやシニア層が希望に応じて働き続けられる支援が重要になるとしている。検討会では、養成校の集約化や共同化、遠隔授業、サテライト施設の活用、奨学金、社会人の参入促進、リカレント教育、育児・介護と両立できる働き方などが論点となる。さらに、限られた人員で医療水準を維持するため、各職種の質の確保や役割分担、地域別の需給推計の必要性も指摘された。2040年に向け、医療・介護ニーズは複雑化する一方で、支え手は減少する。養成校の定員割れは単なる学校経営の問題ではなく、地域医療の持続可能性に直結する。厚労省は年内をめどに意見を取りまとめ、2027年度予算や制度改正につなげたい考え。 参考 1) 第1回 医療関係職種の安定的な養成・確保に関する検討会(厚労省) 2) 少子高齢化進む2040年に向けて、看護職・リハ職など12医療専門職種の養成・確保策の検討開始-医療職種養成・確保検討会(Gem Med) 3) 18歳人口が4割超減少 23道県で 21-40年に(CB news) 4) 看護師国試、21年をピークに受験者数が減少 OT・PT・STの受験者数は定員割れで推移(同) 5) 医療職種の養成校、定員割れ改善「見込めない」厚労省医政局長が認識(同) 6) 医療職種、入学定員割れが顕著 安定的な養成・確保が課題に(同) 7) 55歳以上の看護職員、16年で2.4倍増 24年は41.3万人 厚労省集計(同) 3.小規模クリニック苦境、医療・福祉倒産が3年連続最多/東京商工リサーチ医療・福祉分野の経営悪化が深刻化している。東京商工リサーチによると、2025年度の医療・福祉事業の倒産は478件で、前年度比10%増となり、1988年度以降で過去最多を3年連続で更新した。とくに老人福祉・介護事業が182件と最多で、障害者福祉や児童福祉でも倒産が増加した。また、従業員5人未満の小規模事業者が大半を占めていた。病院やクリニック、歯科医院に限った「医療機関」の倒産も71件とこの20年間で最多となった。内訳はクリニック32件、歯科医院31件、病院8件で、とくに歯科医院の増加が目立つ。原因の約9割は「販売不振」と「既往債務のしわ寄せ」で、患者減少に加え、人件費や光熱費、医療材料費の高騰が経営を圧迫している。倒産の97%超は破産で、経営再建の難しさも浮き彫りとなった。歯科分野では、歯科診療所と歯科技工所の倒産が計39件に達し、過去20年で最多となった。全国の歯科診療所は約6万6,000施設と、コンビニの店舗数を上回る水準にある。予防歯科や審美歯科など需要は多様化しているものの、競争激化に加え、高額医療機器への投資、後継者不足、材料費高騰が重荷となっている。とりわけ歯科技工所では、銀など貴金属価格の上昇に加え、中東情勢悪化によるナフサ不足の影響で、樹脂系材料も値上がりしている。診療報酬改定でベースアップ支援料が新設されたが、コスト増を吸収できるかどうかは不透明だ。コロナ禍ではゼロゼロ融資などで倒産が抑えられていたが、支援終了後に経営悪化が顕在化した形。人口減少と高齢化が進む中、医療提供体制の維持には、単なる補助金ではなく、業務効率化や地域再編、M&Aも含めた抜本的な対策が求められている。 参考 1) 2025年度の「医療機関」倒産 20年で最多の71件 クリニック・歯科医院の淘汰が加速、「破産」が97%超(東京商工リサーチ) 2) 医療・福祉の倒産、3年連続で過去最多 東京商工リサーチ調べ(日経新聞) 3) 「歯科関連」倒産が過去20年で最多 「あると助かるがコンビニより多い」 コロナ禍後に医療現場で起きている「支援終了」(AERA DIGITAL) 4.病院へのサイバー対策を強化、クラウド移行支援へ/政府政府は、大規模病院に対するサイバーセキュリティ対策を強化するため、クラウド型システムへの移行を支援する方針を固めた。今夏にまとめる官民投資のロードマップでは、「2030年までに地域の拠点病院のサイバー対策100%実施」という数値目標を盛り込む見通し。背景には、医療機関を狙ったサイバー攻撃の増加がある。2022年には大阪急性期・総合医療センターが攻撃を受け、救急患者受け入れを制限。2026年2月には日本医科大武蔵小杉病院で個人情報漏洩が発生したほか、市立奈良病院でも今年4月にシステム障害が起き、救急受け入れ停止や外来制限に追い込まれた。市立奈良病院では、ネットワーク監視装置が異常通信を検知し、電子カルテを含む一部システムを停止。手術延期や紙カルテ運用への切り替えを余儀なくされた。現時点で個人情報漏洩や悪意ある侵入は確認されていないものの、奈良市は外部有識者による調査委員会を設置し、再発防止策を検討する。政府は、経済安全保障推進法の改正に合わせ、医療分野を「基幹インフラ」に追加する方向で調整している。対象は病床数400以上、診療科16以上などを満たす全国88病院で、多要素認証やサイバー攻撃を想定したBCP(事業継続計画)策定などを点検する。現在、多くの病院では院内サーバーで管理する「オンプレミス型」が主流だが、更新や監視の負担が大きく、データ連携にも障壁がある。このため政府は、クラウド型への移行を促進し、システム開発企業や医療機関への財政支援を検討している。また、厚労省は2026年5月にも「医療情報システムの安全管理ガイドライン第6.1版」を公表する予定で、AI利用に伴う情報漏洩リスクや職員教育の重要性も新たな論点となっている。診療継続と患者情報保護の両立に向け、医療機関のセキュリティ体制強化が急務となっている。 参考 1) 病院のサイバー対策支援 クラウド移行、政府が予算措置 今夏に数値目標(日経新聞) 2) 巧妙化するサイバー攻撃 医療機関のセキュリティ見直し急務(RESCHOニュース) 3) サイバー攻撃疑いの市立奈良病院、救急受け入れと外来診療を停止(日経メディカル) 4) 市立奈良病院システム障害 奈良市が謝罪、原因特定調査「継続中」(奈良新聞) 5.抗がん剤取り違えで乳児死亡 県立こども病院医師を減給処分/静岡県2021年に静岡県立こども病院にて生後3ヵ月の乳児に抗がん剤を誤投与した医療事故で、病院を運営する県立病院機構は5月8日、担当していた49歳の男性医師を減給の懲戒処分とした。乳児は重い障害を負い、約10ヵ月後に死亡している。事故当時、乳児は急性白血病で入院中だった。医師は本来、静脈内に投与すべき抗がん剤を、脊髄を囲む「髄腔」内に誤って投与した。病院の事故調査報告書によると、医師は看護師から薬剤を受け取る際、確認を十分に行わず、髄腔内投与用と静脈投与用の薬剤を取り違えたという。乳児は誤投与後、自発呼吸ができなくなる重大な障害を負い、治療が続けられたものの、10ヵ月後に死亡した。事故を受け、医師は昨年、業務上過失傷害の罪で略式起訴され、罰金50万円の略式命令を受けていた。病院と遺族側との間では民事上の示談も成立している。県立病院機構は5月8日付で、医師に対し「1日分賃金の半額」の減給処分を実施した。また、監督責任を問い、当時の院長と内科系診療部長についても文書厳重注意とした。男性医師は「大変申し訳ないことをしてしまった」と述べている。坂本 喜三郎理事長は「あってはならない重大事案」とした上で、「安全・安心な医療を提供できるよう、再発防止に職員一丸となって取り組む」とコメントしている。今回の事故では、薬剤確認の不徹底というヒューマンエラーが背景にあったとされる。小児がん治療のような高度医療では、複数人による確認体制や投与経路確認の徹底が不可欠であり、医療安全対策のあり方が改めて問われている。 参考 1) 医療ミスで生後3ヵ月の乳児死亡 薬剤を誤投与した男性医師を減給処分 1日分の賃金を半分に 患者は急性白血病で入院(テレビ静岡) 2) 乳児に薬を誤投与、重大な障害を負い10ヵ月後に死亡 静岡県立こども病院の男性医師を減給処分(中日新聞) 3) 静岡県立こども病院で乳児死亡“薬取り違え”で医師を懲戒処分(NHK) 6.奥能登の新病院構想、集約化か産科維持かで議論/石川県石川県が進める奥能登地域の病院再編を巡り、産科医療体制のあり方が大きな論点となっている。県は、人口減少や医療従事者不足が深刻化する奥能登地域の4つの公立病院について、救急や入院機能を集約した新病院を能登空港周辺に整備する方針で、7日に検討会を開いた。会議では、奥能登の妊婦は新病院で妊婦健診を受ける一方で、分娩は七尾市や金沢市の病院で行う案が県側から示された。県は、「分娩には24時間対応できる複数の産科医や小児科医、麻酔科医、新生児対応体制など膨大な人的・物的資源が必要であり、現状では医療従事者の確保が困難」と説明した。これに対し、輪島市や穴水町などの自治体側からは強い反発が相次いだ。輪島市の坂口 茂市長は「安全だけでなく、住民の安心感も重要だ」と述べ、奥能登で出産できない状況が若者流出にもつながると懸念を示した。出席者からは「若者は住むなと言っているに等しい」との声も上がった。奥能登では、能登半島地震以前は市立輪島病院が地域唯一の分娩機能を担っていたが、過去の医療事故を受けて複数医師体制を構築してきた経緯がある。現在は地震後の影響もあり、金沢からの医師派遣が週2回程度に減少し、妊婦健診など外来対応のみとなっている。その一方で、県側は宿泊費支援や搬送体制整備などで安全性を担保したい考えで、山野 之義知事は「安全第一が共通認識」とした上で、地域の要望も踏まえて工夫を検討したいと述べた。石川県は今後、産科や小児医療の分科会を設置し、専門家も交えて議論を継続する。今年度中に新病院の基本構想をまとめる方針だが、開院までにはさらに6~7年程度かかる見通しで、地域医療と人口維持をどう両立させるかが問われている。 参考 1) 石川 奥能登地域の病院再編 産科の医療体制について議論(NHK) 2) 「能登に住むなってことか」奥能登新病院に「分娩機能なし」提案 首長から反発 山野知事「どんな工夫ができるのか」議論する(石川テレビ) 3) 奥能登の新病院で分娩実施せず 石川県が体制案 市町首長から反論(朝日新聞) 4) 奥能登の新病院構想 自治体要望の分べん機能導入 医療従事者不足で石川県は慎重姿勢(テレビ金沢)

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