准教授 高橋 寛先生「人と交わり、先端を目指せ!-ある整形外科医の挑戦-」

公開日:2010/10/27

東邦大学医学部卒業後、関連病院に勤務。その後大学に戻る。日本整形外科学会では数々の専門医を取得。内視鏡学会技術認定医でもあり、内視鏡を駆使した手術では一目置かれている。現在、東邦大学医療センター大森病院整形外科 准教授。

患者のライフスタイルを大切にした「やさしい手術」を目指す

当院の整形外科では年1,100件の手術、そのうち脊椎関係が200件以上あります。大学病院なので、他の病院では手術ができないような高齢者や、糖尿病などの合併症を抱えている方が多いのが特徴です。したがって手術自体の難易度も高く、術後の管理にもかなり気を遣うケースが多々あります。また、他の病院から急に難症例を紹介されることもあります。夜に突然相談され、翌日予定されている手術までの間に執刀したこともあります。

手術自体に関しても、ただ見た目をきれいに手術するだけではなく、その患者の術後の生活までを考えた手術でなければいけません。手術を受ける患者は、下は10代から上は90歳を超える方までいます。また体質やライフスタイルも人それぞれです。執刀する際は患者に適した術式や治療方法を選択し、患者にやさしい手術ができるように心掛けています。

「早期離床の実現」は患者の負担を減らす

昔はとにかく患者を寝かしすぎていたと思います。私が入局したての頃は、患者を3、4週間ベッドに寝かせていました。ギプスをつけている方や麻痺がある方は、寝ている期間が長ければ長いほど足に血栓ができやすくなります。患者さんの身体を起こしたとたんに血栓が肺に飛べば急性肺動脈血栓塞栓症、頭に飛べば脳塞栓を起こしてしまうという危険がありました。今では一般の方々にも有名になった、いわゆる「エコノミークラス症候群」です。

当院は早期の離床が実現しています。たとえば、腰椎椎間板ヘルニアの場合、内視鏡や顕微鏡を使用することにより、これまでは骨から筋肉を剥がす必要があったものを、剥がさなくてよくなりました。この場合、患者の痛みや負担が軽減するので、手術の翌日から歩行が可能になります。患者が、高校生や大学生くらいだと早く退院したがるので、抜糸は外来で行うこともあります。手術執刀と術後管理など、治療へのアプローチ方法を少しずつ怖がることなく変えてきた成果だと思っています。

整形外科でも、循環器・泌尿器・婦人科などとの連携は重要

腰痛は、腰そのものが悪い場合もありますが、泌尿器、産婦人科系の疾患が原因である場合もあります。さらにはメンタル面が関係していることもあるので、主訴だけで判断すると危険です。他院で診断を受け、紹介状を持って来院する患者に関しては、その診断結果を鵜呑みにしないよう心掛けています。「単に腰痛だから整形外科」と安易な診断を受けている方も多いのですが、よく診察してみると、婦人科、循環器系の病気であることが結構あります。

患者自身がストレスと感じていなくても、身体がストレスと感じていて、それが腰痛につながっていたというケースもあります。手術をする前によく診療を重ねないと大変なことになりますので、整形外科だけの判断をしないようにしています。

また、高齢の方には血行障害を持っている人が多いので、ABIやTBIの検査をするようにしていますが、その検査だけでも判断がつかず、循環器科とやりとりが続く場合もあります。他の診療科も同じだとは思いますが、整形外科も他科との連携がとても重要になってきています。

垣根を超えた臨床研究で今の私がある

診療で一番大切なこと。それは患者との信頼関係を築きあげることだと思います。そのため、最初の診察時には患者の人柄をみます。患者は「この先生どんな人だろう」「信用できるのかな」と不安に思っています。それをやわらげ、信頼してもらうためには、こちらから話しやすい雰囲気を作ったり、話題を工夫したりする必要があります。

ですから、まず患者がどのような人柄なのかをみる必要があるのです。正確な診断を下すためには、検査も大事ですが、患者の生活環境も含めて、患者のことを良く知ることが大切です。信頼関係を築けなくては正しい診断ができないのです。今の若い医師は患者に対して深入りしない傾向があります。もっと私たちが、患者と信頼関係を構築することの重要性を伝えていく必要があるのかもしれません。

また、患者の人柄も様々ですから、日頃からコミュニケーション能力を磨くことが必要です。普段からいろいろな人と接し、自分の引き出しをこつこつ増やしていく、そんな地道な努力も必要だと思います。これは医学生の頃からでもできることです。是非、今の医学生には、勉強させすればよいというだけでなく、一人の大人として、きちんと人と接することができるように心がけて欲しいものです。

熱意があればチャンスはいくらでもある

私は図々しい性格ですから、わからないことがあるとアポイントもなしに勝手に解剖の教室や他の医局にいき、教授を捕まえて質問しています。後で、その領域の大家だった……などと気づくこともあるくらいです。若い頃も、違う医局の先輩に勝手に相談しにいっていました。関連病院に出ていた時は、夜こちらに来て、教授に論文を添削してもらったこともありました。研究や指導には厳しいですが、「これがやりたい」と頑張る人には、自分の仕事を後回しにしてでも協力してくださる先生方が多い、そう感じています。

東邦大学はそんな雰囲気がありますので、今の若手も、もっと積極的であってほしいなと思っています。わからないことがあったらどんどん上級医や先輩を捕まえて聞いて欲しいですし、「これがやりたい」ということがあればもっとアピールしてもよいと思います。

東邦大学の場合、成績優秀な学生ほど外へと出ていきますが、自分の出身大学で臨床研究し続けるメリットも考えた方がよいです。出身大学だからこそ自分の望んでいる研究ができる、周りからの協力が得やすいというメリットがあるはずです。

また、自分を成長させるために、自分がこういう医師になりたいと思えるような人に出会ったら、その人の行動をまねたり、読んでいる書籍・参考書などを自分も読んでみたりすることをおすすめします。私も若い頃から実践していますが、自分一人で勉強していては身に付かないような知識や考え方を蓄積することができ、幅広い引き出しを持つことができます。若いうちは恥ずかしいとは思わず、いろいろな診療科の先生や先輩たちとコミュニケーションをとってほしいですね。どんな領域でも他科との連携は必要な時代です。きっと将来の財産になります。

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