お知らせがあります。

  • 2020/05/27 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による感染拡大防止への協力、およびビジネスの継続・維持のため、 弊社カスタマーセンターの電話サポート窓口の休止期間を延長させていただきます。
    お問い合わせにつきましては、各サービスお問い合わせ先に記載されているメールアドレス、またはお問い合わせフォームにてご連絡くださいますようお願いいたします。

    電話窓口休止期間:2020年4月8日(水)~2020年6月14日(日)
    ※状況により、期間を変更する場合もございます。

    また、お問い合わせ状況によりメールによるご返信までにお日にちをいただく可能性がございますので、あらかじめご了承くださいませ。
    ご利用中の皆さまにはご迷惑をお掛けすることもあるかと存じますが、何卒ご理解を賜りますようお願い申し上げます。
Close

【次世代の創薬モダリティ「siRNA」】第3回:siRNA医薬品誕生までの道のり

印刷ボタン

公開日:2020/02/17

程 久美子 ( てい くみこ ) 氏東京大学・大学院理学系研究科・生物科学専攻・准教授

「siRNA医薬品」をご存知でしょうか?

siRNA医薬品は、その名の通り「RNA(リボヌクレオチド)」を薬にしたものです。そうです。DNAから遺伝情報を受け継ぐ、あの「RNA」が薬の有効成分なのです。

この度、世界初となるsiRNA医薬品(パチシランナトリウム、アルナイラム社)が登場しました。siRNA医薬品は従来の医薬品にはない特徴を持つ、次世代の医薬品です。今回は、そんなsiRNA医薬品が誕生するまでの道のりをご紹介します。

siRNAの特徴

図1.核酸医薬品の特徴

図1.核酸医薬品の特徴

画像を拡大する

従来の低分子医薬品や抗体医薬品がタンパク質をターゲットにするのに対し、siRNA医薬品はRNAをターゲットにします(図1)。RNA、つまり「塩基の連なり」はタンパク質のように構造が複雑ではないので、一度手法が確立されてしまえばどんな遺伝子、言い換えれば、どんな疾患にも応用できる可能性を秘めています。さらに、RNAにはタンパク質をコードするmRNAとコードしないncRNAがありますが、siRNA医薬品はncRNAもターゲットにできるため、従来の医薬品では治療が難しかった疾患への応用も期待できます。

また、化学合成が容易、特異性が高いことなども特徴です。

siRNA医薬品誕生のきっかけ

siRNA医薬品は、もともと生体内に備わっている「RNAi(RNA interference):RNA干渉」というメカニズムを利用しています。これは、1998年にカーネギー研究所(ワシントンD.C.)のFireらにより、線虫を使った研究で発見されました。彼らは、mRNAに対して相補的な一本鎖アンチセンスRNAを合成し、線虫に導入して遺伝子を抑制する実験を行っていましたが、あるとき通常の100~1000倍強烈に効果が現れました。これを不思議に思った彼らは、その原因を詳しく調べました。すると、二本鎖RNAが微量に混入していることに気が付きました。実はこの二本鎖RNAが、強い遺伝子抑制(RNA干渉)を引き起こす原因だったのです。予想外の結果の原因を追求していったことが、RNAiの発見につながったのでしょう。

その後、マサチューセッツ工科大学のTuschlらは、RNAiが起こる過程で長い二本鎖RNAが細かく切られ、21塩基程度の短いRNAになることを発見しました。この短いRNAが、siRNA(small interfering RNA)です。そして、siRNAをヒトに導入すると線虫と同様にRNAiが起こることが明らかとなり、一気に医薬品応用の研究が進んでいきました。

実用化の鍵となった技術

図2.ドラッグデリバリーシステムの
モデル図

図2.ドラッグデリバリーシステムのモデル図

画像を拡大する

しかし、siRNA医薬品の実用化は簡単ではなく、とくに標的部位へのデリバリー方法が課題となりました。核酸は一般に細胞内に取り込まれにくく、分解されやすい性質を持つためです。この課題を解決すべく、「LNP(lipid nanoparticle)」や「GalNAcコンジュゲート」といったドラッグデリバリーシステムが開発されました(図2)。LNPはsiRNAを脂質で封入したナノ粒子で、血中から素早く肝臓へ移行するという性質を持ちます。先日発売された初めてのsiRNA医薬品(パチシランナトリウム、アルナイラム社)は、このLNPを使っています。GalNAcは、肝臓に発現する受容体と結合する性質を持つ「糖」であり、これをsiRNAに連結することで、肝臓への走行性と安定性が向上します。こうした技術の確立により、まず肝臓を標的とした疾患に対する医薬品が誕生することになりました。

肝臓以外の組織へデリバリーする技術の研究も進められています。たとえば膵臓であれば、カテーテルでカプセルを打ち込んで、そこからsiRNAを染み出させる、肺であれば、inhalationといって、ハーッと吸い込ませるなど、方法はさまざまです。まだ試行錯誤の段階ですが、このような新しい技術が開発されれば、siRNAの医薬品としての幅がさらに広がると思います。

このようにしてsiRNA医薬品の実用化が進み、現在臨床開発もアルナイラム社をはじめ数社で進められています。siRNA医薬品の登場により、今後医療はどのように変わっていくのでしょうか。次回は、siRNA医薬品がもたらす未来について、お話ししていきたいと思います。

さらに詳しく知りたい方へ:siRNA医薬品の作用機序

図3.siRNA医薬品の作用機序

図3.siRNA医薬品の作用機序

画像を拡大する

siRNAが細胞に導入されると、まず「アルゴノート」というタンパク質に取り込まれます。続いてsiRNAは二本鎖から一本鎖に分かれ、その末端はアルゴノートタンパク質のポケット構造に入って固定されます。この一本鎖RNAとアルゴノートから成る複合体をRISC(RNA-induced silencing complex)と呼びます。一本鎖RNAがターゲットのmRNAと対合すると、mRNAの切断が起こり、ターゲット遺伝子の発現を抑制します。このような現象をRNAi(RNA干渉)と呼びますが、siRNAはこのRNAiを介して、ターゲット遺伝子の発現を抑制します。一本鎖RNAがターゲット以外のmRNAと対合してしまうと、臨床では副作用として現れることもあります。これを「オフターゲット効果」といいますが、現在はさまざまな技術の発達により、改善されてきています。

講師紹介

程 久美子 ( てい くみこ ) 氏東京大学・大学院理学系研究科・生物科学専攻・准教授

略歴

1987年3月

早稲田大学・理工学研究科・物理学及応用物理学専攻
博士後期課程修了(理学博士)

1987年4月〜1989年1月

三菱化成生命科学研究所・特別研究員

1989年2月〜2002年2月

日本医科大学・医学部・薬理学教室・助手/講師/助教授

2002年3月〜2006年3月

東京大学・大学院理学系研究科・生物化学専攻・
生物情報科学学部教育特別プログラム・特任助教授

2006年4月〜2014年3月

東京大学・大学院理学系研究科・生物化学専攻・助教授
東京大学・大学院新領域創成科学研究科・
情報生命科学専攻・助教授 兼担

2014年4月〜現在

東京大学・大学院理学系研究科・生物科学専攻・准教授

東京大学・大学院新領域創成科学研究科・
メディカル情報生命専攻・准教授 兼担