スポーツクラブは子どもの視力低下を防ぐ?―早大

塾通いをしている子どもは視力が低下しがちだが、スポーツクラブにも通うことで、そのリスクが抑制されるのではないかとする研究論文が発表された。早稲田大学先端生命医科学センターの柴田重信氏らが、小学生を対象に行った調査の結果であり、詳細は「International Journal of Environmental Research and Public Health」に11月26日掲載された。
近視は学齢期に発症することが多く、成人後の新規発症は少ない。そのため学齢期の近視の発症や進行を防ぐことが、その後の長い人生の視機能にとって重要。近視の発症には遺伝要因と環境要因があり、後者に対する介入により近視の発症・進行を抑制可能と考えられる。近視の発症を促す環境要因として、学習やゲーム、パソコンなどの近見作業が挙げられ、一方、スポーツや野外活動は近視リスクを抑制する可能性があるとされている。しかし、学習とスポーツの相互の影響を定量的に検討した研究は、これまで行われていない。柴田氏らは、小学生を対象とする横断研究により、この点を検討した。
この調査は、文部科学省の「スーパー食育スクール事業」に指定されている、東京都港区内の公立小学校18校の生徒を対象に行われた。2018~2019年に実施された調査に6~12歳の生徒7,419人が回答。学習塾、スポーツクラブ、カルチャースクール、その他の習い事から、通っているものを複数選択可で回答してもらい、カルチャースクールまたはその他の習い事のみを選択した生徒を除外。残った3,522人(47.47%)を対象として、眼鏡の使用の有無との関連を解析した。なお、港区は学習塾やスポーツクラブに通っている小学生の割合が他地域に比較して高いことが、以前の調査で示されている。
解析対象者のうち、学習塾のみに通っている生徒が785人、スポーツクラブのみに通っている生徒は765人、両者に通っている生徒が1,506人であり、習い事をしていない生徒が466人だった。また、眼鏡をかけている生徒は738人(21.0%)だった。性別で比較すると男児よりも女児に眼鏡使用者が多く、また学年が上がるほど眼鏡使用者率が上昇していた。
多変量解析にて性別と学年を調整後、習い事をしていない生徒を基準とする「眼鏡を使用していない」に該当するオッズ比(OR)は、学習塾のみに通っている生徒では0.67(95%信頼区間0.49~0.90)となり、有意な負の相関が認められた。反対に、スポーツクラブのみに通っている生徒はOR1.45(同1.03~2.04)と、有意な正の相関が認められた。学習塾とスポーツクラブの両方に通っている生徒はOR0.85(同0.64~1.14)であり、習い事をしていない生徒と有意差がなかった。
次に、学習塾やスポーツクラブに通う頻度との関連を検討。その結果、学習塾に通う頻度が高いほど眼鏡使用率が高くなるものの、スポーツクラブへ通う頻度の高さが眼鏡使用率を押し下げるという関係が明らかになった。この関係は学習塾へ通う頻度が週3~5回の生徒で有意であり、学習塾へ通う頻度が週2回以下の場合は眼鏡使用率自体が高くないために、スポーツクラブへ通う頻度が多いことによる、さらなる眼鏡使用率の有意な低下は見られなかった。また、週に6回以上学習塾へ通う生徒では、スポーツクラブに通う生徒が少ないため、やはり統計的に有意な関連は見られなかった。
著者らは本研究の限界点として、スポーツクラブでの活動が屋外/屋内のいずれで行われているかを評価していないこと、港区内のみの調査であり結果の一般化には他の地域での研究が必要なことなどを挙げている。その上で、「小学生が塾だけでなくスポーツクラブに通うことで、視力の低下を防ぐことができる可能性があるのではないか。保護者や医療提供者、および政策立案者は、子どもたちの視力低下リスクを抑制するという目的からも、スポーツ環境の整備に配慮すべき」と述べている。
[2022年1月24日/HealthDayNews]Copyright (c) 2022 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら
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