血液検査によるがんの早期発見、予備的研究で有望な結果

提供元:HealthDay News

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公開日:2023/05/12

 

 実験段階にある血液検査によって、これまで発見することが難しかったがん種を含むさまざまな種類のがんを高い精度で発見できる可能性のあることが、米ヴァンダービルトがんセンターのBen Ho Park氏らによる予備的研究で示された。この研究結果は、米国がん学会(AACR 2023、4月14~19日、米オーランド)で発表された。

 今回のPark氏らの研究は、一度に複数の種類のがんのスクリーニング方法となり得る血液検査の開発に向けた取り組みとしては最新のものだ。これ以外にも現在、数多くの企業がこうした「多がん早期検出(multicancer early detection;MCED)」技術の開発を進めている。

 MCED検査では、破壊されたり死滅した細胞から血液中に放出される遺伝物質(cfDNA、セルフリーDNA)のうち、腫瘍細胞由来のcfDNAのメチル化(DNAの塩基にメチル基が付加すること)を解析する。Park氏は、「がん発症の鍵を握っているのは、DNAメチル化の異常だ。がん細胞と正常な細胞とではメチル化パターンが異なっている。また、がん種を超えて共通して認められるメチル化パターンがある一方で、組織特異的なメチル化パターンもある。それゆえ、メチル化パターンに基づくMCEDアプローチは、がんの検出とその組織の予測の両方に適している」と説明している。

 Park氏らは今回の研究で、化学的または酵素的処理を行うことなく、血中を循環するメチル化されたcfDNA分子を選択的に捕捉してそのメチル化の解析を行う、新たなMCED検査の精度を評価した。全ゲノム解析を行わずにDNAメチル化解析を行うこの方法は、費用対効果が高く、またcfDNAの質も保たれるという。研究では、がんのない人と、がん新規診断患者の合計約4,000人(約50%はステージIまたはIIのがん)から採取された血液検体を使用し、12種類のがんのシグナル検出における検査の精度を調べた。今回発表されたのは、1,903検体を用いて交差検証を行った初期解析の結果である。

 その結果、全ての種類とステージのがん検出のROC曲線下面積(AUC)は0.94だった。AUCは検査の精度を0~1で評価する指標で、1に近いほど精度が高いことを意味する。また、早期がん(ステージIまたはII)の検出能に関しては、同検査のAUCはそれぞれ0.92と0.95であり、放出される遺伝物質が少ないがん種(膀胱がん、乳がん、腎がん、前立腺がん、子宮体がん)をひとまとめにした場合でも、AUCは0.91と高かった。

 ただしPark氏は、「われわれは、この血液検査をスクリーニングツールとしてはまだ検討していない」と強調。短期的にはさらなる研究でこの血液検査の精度を確認する必要があるとしている。さらに、より重大かつ長期的な疑問、すなわち「この検査によって最終的に人々の生存期間の延長につながるのかどうか」についても、今後明らかにしていく必要があると話している。

 この研究には関与していないがん専門医で、米ニューヨーク大学(NYU)ランゴン・ヘルスのパールマターがんセンターのMichael Shusterman氏は、「この検査はあらゆる問題を解決してくれそうに見えるが、落とし穴もたくさんある」と指摘。その一つとして、早期に発見されるがんが増えると、無害ながんの発見も増える可能性を挙げている。また、「あまりにも小さい段階でがんが検出された場合、フォローアップで実施された画像検査では見つからない可能性があり、血液検査陽性でもがんと診断されず、経過観察のために画像検査が延々と実施され続けることも考えられる」と話す。

 他のMCED検査のうち、Galleriと呼ばれる50種類以上のがんのスクリーニングを行う血液検査に関しては、米国内の複数の医療機関で臨床試験が進行中だ。現時点で米食品医薬品局(FDA)から承認されたMCED検査はないが、Galleriを含むいくつかの検査は「薬事未承認検査(LDT)」として医師が利用することは可能だという。ただし、Park氏とShusterman氏は、MCED検査を受ける判断を下す前に、信頼できる医療従事者に相談するよう助言している。

 なお、学会発表された研究は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものとみなされる。

[2023年4月17日/HealthDayNews]Copyright (c) 2023 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら