研修医の労働時間の長さは抑うつリスクに関連

提供元:HealthDay News

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公開日:2022/11/23

 

 米国の研修医(レジデント)の労働時間の長さは抑うつ症状に密接に関連していることが、新たな研究で明らかにされた。新人医師の臨床研修は、過酷なスケジュールと大きなプレッシャー、低い報酬で知られているが、今回の研究から、研修医では抑うつの有病率が高く、特に長時間労働がメンタルヘルスに悪影響を及ぼしていることが示された。この研究を実施した米ミシガン大学医学部教授のAmy Bohnert氏は、「研修医の1週間当たりの労働時間の削減に関する強力な根拠を示した結果だ」と述べている。この研究は、「The New England Journal of Medicine」10月20日号に掲載された。

 今回の研究では、2009~2020年に研修1年目を迎えた1万7,082人を対象とした。対象者は、研修開始1〜2カ月前と、開始後は四半期ごとに、うつ病スクリーニングに用いられる標準的な質問票(Patient Health Questionnaire 9-item version;PHQ-9)に回答した。PHQ-9での抑うつ症状の重症度は、スコア0〜4点でなし(正常)、5〜9点で軽度、10〜14点で中等度、15〜19点で中等度〜重度、20〜27点で重度と評価する。

 研究開始時点の対照者のPHQ-9の平均スコアは2.7±3.1点(中央値2.0点)で、中等度〜重度の抑うつ症状と評価されたのは20人に1人未満であった。しかし、1年間でPHQ-9スコアは全体的に増加した。試験開始時からの増加量は、週当たりの労働時間が40~45時間の場合で1.8ポイント、90時間超の場合では5.2ポイントと推定された。週当たりの労働時間は90時間超の人では、33.4%が抑うつの基準(スコア10点以上)を満たしていた。

 一部の研修医で、週当たりの労働時間が90時間を超えていた点についてBohnert氏は、「このような長時間の労働は、プレッシャーの多い環境でかかる持続的なストレス、睡眠不足や回復時間の不足、家族や親しい人と過ごす時間が持てないことなど、複数の理由で、メンタルヘルスに悪影響を及ぼす」と説明する。同氏は、「医師という仕事自体がストレスの多いものであるため、回復のための時間は不可欠だ」と述べる。さらに、「医師に限らず、ストレスの強い仕事に長時間従事すれば、精神的ウェルビーイングを損なう可能性がある」と指摘している。

 今回の研究には関与していない、米コロンビア大学医療センター教授のLaurel Mayer氏は、「新型コロナウイルス感染症パンデミックの発生に伴い、医療従事者のバーンアウト(燃え尽き症候群)が広く認識されるようになったが、抑うつは依然として個人の問題とみなされがちだ。医療制度は、このような問題に対処しなくてはならない」と指摘。そして、「今回の研究から、研修医の抑うつについても医療制度による対処が可能であることが示唆される」と述べている。

 Mayer氏は、「もちろん、研修医の教育や患者のケアに支障が出るレベルまで労働時間を減らすことは不可能だ。また、長時間労働の問題以外にも、精神疾患に対するスティグマ(汚名)が、医療従事者の間でも受診の妨げになっている可能性がある」と指摘する。こうしたことを踏まえた上で同氏は、「研修医の教育制度の問題だけでなく、メンタルヘルスについてオープンに話し合い、治療を受けやすい仕組みを築けるよう、医療制度を整えていく必要がある」と述べている。

[2022年10月24日/HealthDayNews]Copyright (c) 2022 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら