女性の心房細動患者はアブレーション治療関連の有害事象が多い

心房細動の治療法の一つに、血管カテーテルを用いたアブレーションと呼ばれる方法があるが、この処置に伴う有害事象の発生率に性差があることが報告された。女性患者で発生率が高いという。米イェール大学のJames Freeman氏らの研究によるもので、詳細は「Heart」に9月14日掲載された。
心房細動は不整脈の一種で、米国人の15~20%が発症すると考えられている。動悸や息切れなどの症状が現れることがあり、また、それらの症状が現れない場合にも脳梗塞のリスクが上昇する。薬物療法としては、脳梗塞予防のための抗凝固薬と、不整脈に対して抗不整脈薬が使用される。
一方、カテーテルアブレーション治療は、不整脈を起こしている電気信号の発生箇所を、高周波エネルギーで焼灼したり凍結させたりする治療法。過去10年の間にこのアブレーション治療の安全性は向上してきている。例えば、より正確な場所をアブレーションするために電気信号の把握に加えて超音波で確認したり、穿孔を防ぐためにカテーテルに加わった力を術者が感じ取れるような機器が開発されたり、周術期の抗凝固薬の投与量をより適切に調節できるようになった。また、女性と男性の解剖学的な違い(女性の心臓が小さいことの手技への影響など)の理解も深まった。
しかし、これまでの小規模な研究から、アブレーション治療に伴う有害事象のリスク因子の一つとして、性別(女性)が該当する可能性が示唆されている。そこでFreeman氏らは、アブレーション治療の有害事象の発生率やベースライン特性の性差などを、多施設共同研究の大規模なサンプルで検討した。
研究には、米国内で実施されている心臓血管手術のレジストリのデータから、心房細動に対するアブレーション治療を受けた患者を抽出して用いた。2016年1月~2020年9月に、150カ所の医療機関で706人の医師により、5万8,960人がアブレーション治療を受けていた。そのうち女性は34.6%だった。
治療を受ける前のベースラインデータを比較すると、女性は男性より高齢で(68対64歳、P<0.001)、併存疾患が多く、心房細動関連の生活の質(QOL)のスコアが低かった(51.8対62.2点、P<0.001)。また男性では持続性心房細動が多いのに比べて、女性では発作性心房細動が多く、複数回の受療行動が記録されていた。自覚症状に関しても、女性は動悸、胸痛、めまい、疲労感などの訴えが多かった。
アブレーション治療関連の有害事象に関しては、全有害事象〔調整オッズ比(aOR)1.57(95%信頼区間1.41~1.75)〕、および、重大な有害事象〔aOR1.60(同1.33~1.92)〕の発生率が、女性は男性よりも有意に高いことが示された。また、1泊を超える入院を要した割合にも有意差があり、女性で高かった〔aOR1.41(同1.33~1.49)〕。
女性に多く発生していた有害事象として、心臓の周りに血液がたまって心臓の働きが低下する心嚢液貯留、恒久的なペースメーカーを必要とする徐脈、呼吸困難につながる横隔神経障害、血管損傷、出血などが該当した。ただし、院内死亡や意図しない急性肺静脈隔離の発生率には差がなかった。
Freeman氏は、「これまで行われてきた研究では十分に把握されていなかった、アブレーション治療関連の多くの有害事象を評価し得たことは、本研究の大きな成果の一つ」と述べている。また、「アブレーション治療に伴う有害事象への認識は深まっているものの、いまだに術後の長期間持続する症状の発生が認められる」と問題点を指摘。「アブレーション治療は確かに患者のQOLを改善するが、われわれは引き続きリスク軽減のための努力を続けていかなければならない」と語っている。同氏は、今後もアブレーション治療後の患者モニタリングを継続していくことを計画している。
[2022年10月19日/HealthDayNews]Copyright (c) 2022 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら
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