米国の介護施設での褥瘡発生率に過少報告の可能性

提供元:HealthDay News

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公開日:2022/09/13

 

 米国で身内の人を介護施設に入所させる際には、公的機関のwebサイトの品質評価を頼りにせず、自分自身で十分に検討する必要があるかもしれない。「Medical Care」に8月4日掲載された論文によると、褥瘡(床ずれ)の発生率が過少報告されている可能性があるという。米シカゴ大学のPrachi Sanghavi氏らが報告した。

 米国の公的医療保険であるメディケアおよびメディケイドのサービスセンター(CMS)は、1990年代に介護施設の質を比較可能なwebサイトを立ち上げ、現在も公開している。しかし、論文の上席著者であるSanghavi氏によると、その情報は不正確であり、「2020年に報告された、転倒事故が過少報告されていることを指摘した研究と、同様のことが起きている」とのことだ。

 Sanghavi氏らは、2011~2017年の介護施設居住者の褥瘡による入院の医療費請求データと、CMSのサイトに公開されているデータを比較検討した。その結果、CMSのサイトに公開されている数値は、介護施設の短期滞在者では治療件数の70.2%に相当し、長期滞在者では59.7%に相当する数値だった。つまり、短期滞在者では実際の褥瘡件数の約3割、長期滞在者では約4割がCMSサイトのデータに反映されていなかった。なお、論文中に研究背景として述べられている情報によると、転倒事故も約4割の乖離が見られるとのことだ。

 「CMSが公開しているデータは大幅に過少報告されたものであり、施設居住者の安全確保のために、より客観的な指標を確立する必要がある」とSanghavi氏は述べている。また同氏は、「2017年に褥瘡による入院治療を要した居住者の割合が高かった第5五分位群(上位20%)のうち21.6%の施設が、5段階評価の4つ星または5つ星という高い評価を受けていた」と指摘している。

 CMSによると、サイトに掲載している情報は各施設から3カ月ごとに報告されるデータを基に編集したものだという。Sanghavi氏は、「CMSで公開されたデータを見て利用者は施設を選択する。各施設はそれぞれ他の施設と競合関係にある。よって介護施設が褥瘡や転倒事故などを故意に過少報告することがあると考えられる」と推測する。ただし、「事務手続きのミスなどで誤った情報が掲載されることもあり得る」と付け加えている。

 また同氏は、「さまざまなことが起きていると考えられる。これらの問題は簡単に解決できることではない」としながら、CMSが、同氏らの研究手法に類似したアプローチをとることによって、より実態に近いデータを公開できるのではないかと提案している。「新規のシステムを一から開発する必要はない。各施設から報告されたデータを医療費請求データと比較し、適宜、補足または置き換えれば良いことだ。そのようにして精度の高い情報が公開されるようになるまで、介護施設の選択に際しては比較サイトに頼るのではなく、他の情報を自分で確認する必要がある」とSanghavi氏は語っている。

 この研究発表に対して、米国ヘルスケア協会/生活支援センター(AHCA/NCAL)の医療部門の責任者であるDavid Gifford氏は、「米国の介護施設は過去10年で劇的に質が改善した。また、居住者の生活の質(QOL)の向上に今も努力している。介護施設の進歩は評価されるべきだ」と述べている。また、「われわれは医療政策担当者や政治家と協議を重ね、ケアをさらに改善し、常に変化していく必要がある」と付け加えている。

 なお、Sanghavi氏らの研究グループでは現在、介護施設における尿路感染症と肺炎の発生率に関するデータの正確性を検証しているという。尿路感染症と肺炎は介護施設において、最も頻繁に見られる感染症だ。研究結果は来年に論文発表する予定とのことだ。

[2022年8月17日/HealthDayNews]Copyright (c) 2022 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら