新型コロナウイルス、ネコからヒトへの感染が報告される

提供元:HealthDay News

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公開日:2022/07/13

 

 ネコからヒトへの新型コロナウイルスの初めての感染がタイで確認され、その症例報告が、プリンスオブソンクラー大学(タイ)のThanit Sila氏らにより、「Emerging Infectious Diseases」7月号で報告された。これを受けてカナダの専門家らは、「過剰に警戒する必要はないものの、対策の必要性を再認識すべきだ」と述べている。ゲルフ大学(カナダ)オンタリオ獣医学部教授のScott Weese氏は、「このウイルスは依然として、異種間伝播し得るものだと認識しておくことが重要だ」とニューヨークタイムズ紙に対して語っている。

 この報告によると、タイ、バンコク在住の64歳の父親と32歳の息子の親子に新型コロナウイルス感染が確認された。親子は、バンコクの入院用のベッドが満床だったことから、900km離れたプリンスオブソンクラー大学病院まで20時間かけて救急搬送された。その間、飼いネコも同じベッドで寝ていたという。動物病院に預けられたこのネコを2人の獣医師が押さえ付けている間に、別の獣医師が鼻腔スワブと直腸スワブを採取した。その際、ネコがこの獣医師の顔に向かってくしゃみをした。3人の獣医師はいずれも手袋とマスクを着用していたが、フェイスシールドとゴーグルは着用していなかったという。その3日後、検体を採取した獣医師に症状が現れ、この獣医師とネコの双方で新型コロナウイルス感染が判明した。残り2人の獣医師はウイルス陰性だった。

 3人の陽性患者とネコの新型コロナウイルスの全ゲノムシーケンシングの結果、4者のゲノム配列は同一であり、同病院の位置するソンクラー地方で発症した他の患者のゲノム配列とは異なっていることが判明した。

 Weese氏は、「以前より、新型コロナウイルスがペットからヒトへ感染する可能性はあると考えていたため、今回のタイで起きたネコから獣医師への感染に驚きはなかった」と話す。同氏らは2年ほど前から、ヒトと動物間の新型コロナウイルス伝播について広範囲な調査を実施している。ネコに焦点を当てたのは、ネコで呼吸器感染症リスクが高いからだという。また別の研究では、飼い主からネコへの感染や、ネコ間での感染が起こり得ることも示されている。

 Weese氏は自身のブログ「Worms & Germs」への最近の投稿の中で、「私は以前から、ネコと接触する人には新型コロナウイルスの感染対策が必要であると注意を促していた」と指摘。「ネコからヒトへの感染は確実に起こり得る。われわれが、獣医師の感染リスクを減らすための先を見越した実用的な指針の作成のために多くの時間を費やしてきたのはそのためだ」と述べている。とはいえ、同氏によると、ネコの新型コロナウイルス感染は、感染した飼い主からうつされるケースがほとんどであるため、過剰に心配する必要はないという。

 新型コロナウイルスに感染したネコはウイルスを拡散する可能性があるが、ネコから飼い主に伝播する確率は、「極めて低い」とWeese氏はブログで書いている。しかし、ネコを飼う家で感染者が出た場合は、そのネコからヒトや他のペットへのウイルス拡散を防ぐための対策が必要だという。同氏はニューヨークタイムズ紙でも同様の助言をしており、「自分が感染した可能性があり自主隔離する場合には、ペットとも距離を取るか、もしくはペットと自分を周りから隔離する」と述べている。

[2022年6月14日/HealthDayNews]Copyright (c) 2022 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら