60歳以上のCVD一次予防にアスピリンを用いないことを推奨―USPSTF

米国予防医学専門委員会(USPSTF)は、60歳以上の成人に対する心血管疾患(CVD)一次予防目的での低用量アスピリン療法を、新たに開始すべきでないとする推奨をまとめた。40~59歳の一次予防のための低用量アスピリン療法についても、メリットは小さく使用は個別に判断すべきとしている。詳細は、「Journal of the American Medical Association(JAMA)」に4月26日掲載された。
低用量のアスピリンには抗血小板作用があり、虚血性の心臓発作や脳卒中のリスクを抑制する。その一方で副作用により、出血のリスクが増大する。USPSTFは今回、副作用のリスクをより重視し、2016年発表の推奨事項を改訂した。
今回の推奨事項の改訂は、主に2018年に発表された3つの大規模臨床試験の結果に基づくもの。それらの研究は全て、アスピリンによる血栓イベントの一次予防のメリットが限られたものであって、消化管や脳の出血リスクの方が上回ることを示していた。米国心臓病学会(ACC)の予防医療部門のトップを務めるEugene Yang氏は、「それらの研究からわれわれが学んだことは、一次予防におけるアスピリンのメリットは、実際には明らかと言えるものではなく、大出血の増加という有害事象のリスクが一貫して認められるということだった」と語っている。
また、米タフツ医療センターのJohn Wong氏によると、USPSTFは推奨事項改訂に際して、アスピリンの潜在的な出血リスクの評価のために、14件のランダム化比較試験のデータを解析したという。それらの研究には、総計30万人以上の患者が参加していた。「アスピリンを毎日服用すると、潰瘍や消化管出血のリスクが約60%増加する可能性があることが分かった。さらに、脳内の出血リスクは20~30%増加すると考えられる」と同氏は説明する。
改訂された推奨事項は2項目からなる。一つ目は、「向こう10年間のCVDリスクが10%以上の40~59歳の成人のCVD一次予防における低用量アスピリンの使用開始は、患者ごとに個別化して判断すべき。エビデンスは、このグループへのアスピリンの実質的なメリットは小さいことを示している。出血のリスクが高くなく、連日のアスピリン服用を継続する意思のある患者は、メリットを得られる可能性が高い」という内容。二つ目は、「60歳以上の成人のCVD一次予防目的で、低用量アスピリンの使用を開始しないことを推奨する」というもの。
この改訂により、USPSTFの推奨は、米国心臓協会(AHA)およびACCのCVD一次予防ガイドラインと整合性のある内容となった。Yang氏とWong氏によると、AHA/ACCのガイドラインは2019年に改訂され、70歳以上の成人に一次予防目的でのアスピリン療法を開始しないことを推奨しているという。
Yang氏はまた、「改訂されたUSPSTFの推奨は、既に心血管系に何かしらの問題があってアスピリンを処方されている患者には適用されない」と解説を加えている。心血管系の問題とは、脳卒中や心臓発作の既往、またはその他の主要な動脈の閉塞の既往、それらの治療のための血管形成術の既往など。同氏は、「それらが該当する患者ではアスピリンが明らかに有用であり、以前からの推奨に変更はない」と話す。
またWong氏は、「一次予防のために既にアスピリンが処方されている人は、今後も服用を続けるべきか否かについて、医師に相談することを強く勧める。医師に相談せずに服用を中止すべきでない」と注意喚起している。
この点についてYang氏は、自身の診療方針として、「既にアスピリンが処方されている患者には、USPSTFの推奨とその根拠を伝えて中止を提案する。継続を選択する人もいるだろうが、大半の患者は中止を選ぶのではないか」と語っている。
[2022年4月26日/HealthDayNews]Copyright (c) 2022 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら
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