乳幼児に多いRSウイルス感染症、1回の注射で予防可能?

開発中の長時間作用型抗体「ニルセビマブ」により、RSウイルス(呼吸器合胞体ウイルス)感染症の重症化リスクを劇的に低減できる可能性があるという2件の研究結果が、「The New England Journal of Medicine」に3月3日掲載された。
RSウイルス感染症は、乳幼児を中心に、通常、秋から春にかけて流行する呼吸器の感染症である。その症状は、鼻づまり、鼻水、発熱、咳、喉の痛みなどだが、早産児や基礎疾患のある乳幼児などでは、肺感染症に至ることがある。米国では、RSウイルスが原因で年間5万8,000人もの乳幼児が入院している。
現在、RSウイルス感染を予防するための唯一の手段は、パリビズマブというモノクローナル抗体の注射である。同薬剤は、効果の持続時間が短いため、1シーズンに5回の注射が必要である上に、使用が認められているのは重症化リスクの高い乳幼児に対してのみである。
これに対して、サノフィ社(フランス)と英アストラゼネカ社が開発を進めているニルセビマブは、長期作用型のモノクローナル抗体で、1回の注射で、シーズンを通してあらゆる小児のRSウイルス感染を予防できる可能性があるという。
2件の研究のうちの1件は、米ルリー小児病院スタンリー・マン小児研究所のWilliam Muller氏ら実施した、健康な新生児1,490人を対象とした第3相試験。RSウイルス感染症シーズンが始まる前に、対象者を2対1の割合で、ニルセビマブを1回接種する群と、プラセボを接種する群に割り付けた。接種後150日の間に、RSウイルスによる下気道感染で治療が必要になった患者の割合は、ニルセビマブ群では1.2%であったのに対し、プラセボ群では5.0%であり、ニルセビマブの有効率は74.5%と計算された。Muller氏は、「この知見がRSウイルス感染症治療のパラダイムシフトとなる可能性がある」と述べている。
もう1件は、ウィットウォーターズランド大学(南アフリカ)ワクチン学分野教授のShabir Madhi氏らが実施した第2/3相試験。同試験では、早産児や心疾患または肺疾患のある乳幼児925人を、ニルセビマブを1回接種した後にプラセボを月に1回、4カ月にわたって接種する群と、パリビズマブを月に1回、5カ月にわたって接種する群に割り付けた。その結果、ニルセビマブの1回接種の安全性がパリビズマブと同等であることが示された。Madhi氏は、「この結果は、RSウイルスの予防手段が1つしかなく、シーズン中に毎月投与しなくてはならない現状からの大きな飛躍を意味する」と述べる。そして、「ニルセビマブは、コスト削減や投与の簡便化にもつながる可能性がある」と今後への期待を示している。
これらの研究をレビューした米ロングアイランド・ジューイッシュ・フォレスト・ヒルズ病院のJennifer Kurtz氏は、「RSウイルスは風邪症状だけで済むこともあるが、呼吸困難を引き起こすこともある。RS感染症で入院した比較的年長の乳幼児では、後に喘息や慢性的な喘鳴を発症するリスクが高くなる」と説明する。そして、「小児科医、新生児科医として、RSウイルス感染症が重症化して入院する多くの乳幼児を目にしてきた。ニルセビマブが広く利用できるようになった際には、保護者に流行シーズン前に接種を検討するようアドバイスするつもりだ」と述べている。
[2022年3月3日/HealthDayNews]Copyright (c) 2022 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら
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Hammitt LL, et al. N Engl J Med. 2022;386:837-846.
Domachowske J, et al. N Engl J Med. 2022;386:892-894.
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