ケタミンが自殺念慮を抱く患者の治療薬として有効か

重度の自殺念慮を理由に入院している患者に対するケタミンの投与は、迅速かつ効果的な治療法となることが、モンペリエ大学(フランス)のMocrane Abbar氏らが実施した臨床試験から明らかになった。この研究結果は、「The BMJ」2月2日号に掲載された。
ケタミンは、強力かつ即効性のある鎮静剤で、意識を失うことなく痛みを迅速に和らげる作用を持つ。米国では、同薬は麻酔薬として1970年に米食品医薬品局(FDA)の承認を受けている。その一方で近年では、ケタミンにより、抑うつ症状や自殺念慮の迅速な寛解がもたらされる可能性が示唆されている。しかし、こうしたケタミンの作用を検討した過去の研究は質が良いとは言えず、臨床的に有用なエビデンスをもたらすに至っていない。
そこでAbbar氏らは、フランスで2015年4月13日から2019年3月12日の間に、重度の自殺念慮を理由に自発的に入院した18歳以上の患者156人を、ケタミンを投与する群(73人、ケタミン群)とプラセボを投与する群(83人、プラセボ群)にランダムに割り付け、ケタミンの自殺予防効果を検討した。対象患者には、ケタミン(0.5mg/kg)またはプラセボ(生理食塩水)を、24時間の間隔をあけて2回、静脈内投与した。主要評価項目は、投与後3日目に自殺念慮尺度(Scale for Suicide Ideation;SSI)による評価で完全寛解(3点以下)を達成した患者の割合とした。
その結果、完全寛解に達した患者の割合は、ケタミン群では46人(63.0%)だったのに対し、プラセボ群では25人(31.6%)にとどまっており、ケタミン群の方が有意に高かった。また、ケタミンの効果は、患者の有する診断歴によって異なり、効果が最も大きかったのは双極性障害の診断歴を有する患者であることも判明した。投与から6週間後の時点で完全寛解に達していた患者の割合は、変わらずケタミン群の方がプラセボ群よりも高かったが(69.5%対56.3%)、統計的な有意差はもはや認められなかった。
この研究には関与していない、米ジョンズ・ホプキンス大学医学部精神医学・行動科学のPaul Kim氏は、「この研究結果は、ケタミンが危機的な状況にある人に有用であることを示す新たなエビデンスとなるものだ」と評価する。「もちろん、これでケアが終了ということではなく、患者の経過観察を行い、場合によっては、これまで患者が受けてきた抗うつ療法を、用量を含めて見直すことも必要かもしれない」と付け加えている。
一方、今回の研究論文の付随論評を執筆した英オックスフォード大学のRiccardo De Giorgi氏は、「ケタミンは通常、双極性障害ではなく重度の抑うつ症状を持つ人に処方される薬剤なので、今回の結果には驚かされた」と話す。その上で同氏は、「このことは、自殺念慮の背後にある生物学的および心理的メカニズムがこれら2種類の精神疾患で異なることを示唆する。このことは今後の研究において重要になるだろう」と述べている。
ただしDe Giorgi氏は、ケタミンが抑うつ症状と自殺念慮の軽減に有効であることを示すエビデンスがあることに言及し、「現時点で言えることは、さらなる研究が必要だということだ」と結論付けている。
[2022年2月7日/HealthDayNews]Copyright (c) 2022 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら
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