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バート・ホッグ・デュベ症候群〔BHDS:Birt-Hogg-Dube syndrome〕

※なお、タイトル、本文中の“Dube”の“e”にはアクサン・テギュが付くが正しい表記となる。(web上では、一部の異体字などは正確に示すことができないためご理解ください)1 疾患概要■ 疾患概念・定義バート・ホッグ・デュベ症候群(Birt-Hogg-Dube syndrome:BHDS)は17番染色体にあるFLCN遺伝子(以下「FLCN」)の生殖細胞系列遺伝子変異によって生じるまれな常染色体顕性(優性)遺伝性疾患である(OMIM#135150)。臨床症状は、皮膚、肺、腎臓に年齢依存性に病変が発症する。皮膚病変は、顔面から上半身にかけて、皮膚良性腫瘍である線維毛包腫(fibrofolliculoma)あるいは毛盤腫(trichodiscoma)が多発する。肺には多発肺嚢胞を生じ自然気胸を繰り返す。腎臓では、腎嚢胞や特徴的な組織型の腎腫瘍を両側に多発性に生じる。■ BHDSの疾患概念の歴史1977年にカナダ人の皮膚科医のBirt、病理医のHogg、内科医のDubeらは、25歳以降から頭頸部~胸背部にかけて数mm大の皮疹が出現する1家系を発見し、4世代70人の詳細な検討を行った。皮疹は、病理組織学的に線維毛包腫(fibrofolliculoma)を主体に毛盤腫(trichodiscoma)や軟性線維腫(acrochordon)からなり、常染色体顕性(優性)遺伝形式であった。甲状腺髄様がんの家系内多発も認めたが皮疹と分離して遺伝しており、皮疹は別個の遺伝性皮膚疾患と考えられた。一方、Birtらの報告より2年前の1975年に、ドイツ人皮膚科医のHornsteinとKnickenbergは、顔面・頸部・体幹の毛包周囲線維腫(perifollicular fibromas)を生じた同胞2人を発見した。うち1人は大腸ポリープと大腸がんを合併しており、また、父親にも同様の皮疹および多発肺嚢胞と両側腎嚢胞を認めたことから腫瘍発生を伴う遺伝性疾患であると報告した。現在では両論文に報告された皮膚腫瘍は同一と認識されており、HornsteinとKnickenberg は皮膚以外の内臓腫瘍のリスクを含めた疾患概念を提唱したが、Birtらは言及していなかった。そのため、現在広く用いられている疾患名は誤解であり、Hornstein-Birt-Hogg-Dube syndromeと呼称すべきであるとの意見がある。■ 疫学まれな常染色体顕性(優性)疾患で、罹患頻度に性差はないと考えられている。代表的な臨床症状すべてを呈することはまれであり(不完全浸透)、未診断症例も数多く存在する可能性が指摘されている。そのため人口当たりの有病率ははっきりとはわかっていない。自施設では、2006年頃から、気胸や肺嚢胞を契機にBHDSが疑われFLCN検査で診断確定した家系は500家系近くとなり、比較的よく遭遇する可能性のある遺伝性疾患と感じている。■ 病因と病態2002年にBHDS患者において17p11.2.領域にあるFLCNの生殖細胞系列遺伝子変異が同定された。FLCN遺伝子は14個のexonから構成され、579アミノ酸からなる64kDaのタンパク質であるフォリクリン(folliculin)をコードする。日本人を中心とした298家系のBHDSコホート研究では71種類の病的バリアントが同定され、重複(46.3%)、欠失(28.9%)、置換(7.0%)、挿入(0.7%)、欠失挿入(0.3%)、large genomic deletion (4.4%)、スプライシング異常(12.4%)であった1)。全体の80%の患者の遺伝子バリアントは、exon7・9・11・12・13に集中していた。特定の遺伝子型が臨床症状に影響するかについて、明らかな相関関係は認められていない。フォリクリンの機能は十分解明されたわけではないが、細胞周囲環境からのエネルギーや増殖シグナルを伝えるAkt-mTOR経路で機能している。腎腫瘍においては生殖細胞系列FLCN変異(first hit)に加え、もう一方の野生型FLCNに機能喪失型のsecond-hitが起こり、フォリクリンの機能が完全に失われることが腎腫瘍の形成に関与している (Knudsonの2-hit理論)。しかし、良性皮膚腫瘍である線維毛包腫や肺病変においてはsecond-hitの報告例はなく、ハプロ不全(haploinsufficiency)の状態が病変形成に関わると推測されている。一方、細胞接着を介したWnt/βカテニン経路、一次線毛の形成や機能、ミトコンドリア代謝、など多彩な細胞機能に関与することが報告されている。■ 臨床症状1)皮膚病変顔面(鼻翼・頬部)、頸部、耳、体幹上部を中心に、皮膚色と同じ~やや白色で痛みや発赤を伴わない数ミリ大のドーム状小丘疹が25歳以降に出現する(図1A)。病理所見は、毛包周囲を取り囲む良性腫瘍である線維毛包腫(fibrofolliculoma)を認める(図1B)。皮膚病変の有病率は検討したコホートにより異なり、欧米人では有病率70~80%、アジア人では18~49%低いとの指摘もある。日本人BHDS患者31人についてダーモスコピーを用いて観察し、必要に応じて皮膚生検を行った研究では、83.9%の症例で皮疹を診断できたと報告している2)。また、皮膚病変の平均発症年齢は42.5歳であり、欧米人より発症年齢が遅く、若年者では皮疹が未発症である可能性に留意する必要があると報告している2)。図1 Birt-Hogg-Dube症候群(BHDS)の皮膚病変画像を拡大するABHDSの皮膚所見。鼻部にドーム状の丘疹を多数認める。B線維毛包腫(fibrofolliculoma)の病理組織像。毛包漏斗部が拡張し、毛包上皮が索状・網状に増殖し(矢印)、それを取り囲むように膠原線維が増生している。2)腎病変BHDSの患者は、FLCN変異バリアントを持たない血縁者と比較して腎腫瘍を発症するリスクが約7倍高く、40歳以降に好発することが報告されている3)。BHDS患者の12~34%が、48~52歳でさまざまな組織型の腎がんを発症するとされる。組織型としてはHybrid oncocytic/chromophobe tumor(HOCT)または嫌色素性腎がんが多く(図2)、まれに淡明細胞型腎がんや乳頭状腎がんなどもみられ、両側多発性にさまざまな組織型が出現する。腫瘍は緩徐発育型が多いとされるが、悪性度が高く遠隔転移を伴う症例の報告もある。図2 Birt-Hogg-Dube症候群(BHDS)の腎病変画像を拡大するA腹部造影CT。右腎に2個の腎腫瘍を認める(矢印部)。B嫌色素性腎細胞がんの組織像(細胞質が染色されにくく、核周囲にハローを認める特徴に注目)3)肺病変両肺に肺嚢胞が多発し、気胸を繰り返すことが特徴である(図3)。BHDS患者はFLCN変異バリアントを持たない血縁者と比較して50倍の気胸リスクを有することが報告された3)。肺嚢胞はBHDS患者の85%前後に認められ、気胸は25%前後に認めるとされるが、BHDSの皮膚、肺、腎臓のどの病変に注目して集積したコホート研究なのかにより異なる。肺嚢胞は自然経過で数が増え、嚢胞も大きくなることが報告されている4)。嚢胞の数が増えると気胸の発症リスクが上がることが指摘されている。嚢胞数が少ない頃は、一般的に呼吸機能は正常範囲内であるが、嚢胞数が増えるにつれ閉塞性換気障害が出現する。図3  Birt-Hogg-Dube症候群(BHDS)の肺病変画像を拡大するA、B:胸部CT画像下葉、縦隔側優位や葉間部に接して、薄くスムースな壁を有する不整形の嚢胞が多数存在する。血管を取り囲む嚢胞を認める。C、D:胸腔鏡所見肺底部や縦隔面に、広基性で内部が透けてみえるような薄壁嚢胞が突出している。炎症所見はほとんどなく、大きな嚢胞では嚢胞表面に血管を含む索状の結合組織が豊富に認められる。E、F:病理組織像(HE染色とEVG染色)嚢胞は小葉間間質に接して形成されるため、腔内に静脈の突出がみられる。小葉間隔壁に接していない嚢胞壁は肺胞組織からなり、嚢胞には炎症細胞の浸潤や線維化はみられない。4)その他の臨床像大腸ポリープおよび大腸がんとの関連を示唆する報告が複数あったが、オランダの399人のBHDS患者と健常血縁者を比較したコホート研究では、ポリープの数および大腸がんの発生に有意差はみられなかった。その他、耳下腺腫瘍、甲状腺腫瘍、メラノーマ、副腎腫瘍、血液腫瘍、などを合併した症例報告があるが、関連性は明らかではない。■ 予後生命予後に最も影響するのは腎腫瘍であるが、治療後の予後についてのデータは乏しい。BHDSに特徴的なオンコサイトーマや嫌色素性腫瘍の増殖は比較的遅く、遠隔転移もしにくいが、aggressiveな経過を示す組織型の腎腫瘍の合併もある。一方、皮膚病変は美容上の問題、肺病変は気胸で入院加療を繰り返すと経済的あるいは就業上の問題などで生活の質に影響が大きい。BHDSは、「特定の疾病に罹患しやすい体質」であり、診断後は定期的な健診による健康管理に務めることが重要である。適切な健診間隔についてエビデンスはないが、各病変の好発年齢を参照し、必要な検査を受けるよう指導する。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)European BHD consortiumによる診断基準(表1)5)と、米国NIH(NCI)のSchmidtらの診断基準(表2)6)が発表されている。前者では皮疹の診断価値に重きが置かれている。一方、後者では診断確定には生殖細胞系列のFLCN変異の同定が必須、という立場である。国内ではFLCN検査は保険適用外のままである。そのため、BHDSを疑って皮膚生検を行ったが病理組織診断で線維毛包腫あるいは毛盤腫の診断が得られなければ、診断確定するすべがなくなる。FLCNの遺伝子検査を希望する場合には、非保険で公益財団法人かずさDNA研究所に検査の依頼をすることが可能である。また、遺伝性疾患であることから検査に際しては遺伝カウンセリング提供体制を構築することも重要である。画像を拡大する画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)1)皮膚病変線維毛包腫や毛盤腫は生命および機能予後に影響しないため基本的には経過観察されることが多いが、整容上の観点から切除されることがある。線維毛包腫に対するラパマイシン外用剤のPhaseIII試験が行われたが、プラセボと比較して有意な整容上の改善を認めなかった。2)腎病変異時・同時を含めて多発することから定期的な画像所見でフォローを行う。治療介入の目安として“3cmルール”があり、3cmに達する頃には腎機能温存のために腫瘍核出術(nephron-sparing surgery)が推奨されている6)。発見時にすでに3cmを超えていた場合には腎腫瘍のステージに応じた標準的治療を選択する。3)肺病変筆者らのグループは、気胸の既往歴がある314人のBHDS患者の解析を行った1)。初回の気胸発症年齢は中央値32歳(14~78歳)で、男性の方が女性よりも初回気胸年齢が若かった。25歳未満の発症は24.2%で認めた。特徴的と考えられたのが両側同時気胸を初発時と再発時合わせて11.8%の患者が経験していた。気胸が起こりやすい年齢分布としては、男女合わせて30代にピークがきているが、女性の方が男性と比較をして中年以降も気胸発症が続く傾向を認めた。気胸発症時の対応は、“British Thoracic Society”誌の発表している“pleural disease guideline 2010”に示される治療アルゴリズムなどを参考に治療の個別化が求められる。気胸の程度、肺機能障害の程度により慎重な外来経過観察、あるいは外来管理可能な簡易型ドレナージキットを用いた治療を行う。胸腔ドレーン挿入後にエアリークが停止しない場合には、外科治療が考慮される。標準的外科治療は胸腔鏡手術(video-assisted thoracoscopic surgery:VATS)であるが、エアリーク部の処置のみならず気胸再発を予防することを目的として、全肺胸膜カバリング術(total pleural covering:TPC)が専門施設では実施され、良好な再発防止効果が報告されている7)。TPCでは壁側胸膜との癒着を生じにくい吸収性素材である再生酸化セルロース(ORC)を使用し、葉間も含めた臓側胸膜全体を胸腔鏡下にORCで被覆し、フィブリン糊を滴下して手術を終了する。日常生活の注意点として気圧変化による気胸発症のリスクが挙げられる。研究対象としたコホートの大きさや対象者により違いがありうるが、フライトに関連した気胸のリスクは、患者当たり7.4%、1フライト当たり0.27%とする報告もある。肺嚢胞のある患者ではスキューバダイビングは禁忌である。4 今後の展望現時点でBHDSの病変に対して有効な薬剤は存在しないが、BHDS関連の腎腫瘍に対して散発性腎がんで適用のあるエベロリムスの有効性を検証する臨床試験がアメリカを中心に行われているなど薬剤開発が期待される。未診断例も数多くあることから、呼吸器内科医、皮膚科医、泌尿器科医を中心に疾患を認識し、レジストリ制度の構築により生涯にわたっての疾患表現型を追跡する必要があると考える。5 主たる診療科呼吸器内科、呼吸器外科、皮膚科、泌尿器科。肺病変は皮膚・腎臓病変より若年で発生するため気胸を契機にBHDSの診断に至る可能性が高い。呼吸器内科・外科では気胸や多発肺嚢胞を契機に的確に診断し、その後の健康管理を指導するうえで役割が大きい。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報気胸・肺のう胞スタディグループ(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)バート・ホッグ・デュベ症候群情報ネット(BHD-net)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報BHD Foundation(患者団体とMyrovlytis Trustにより設立された英国の団体)1)Namba Y et al. PLoS One. 2023;18:e0289175.2)Iwabuchi C, et al. J Dermatol Sci. 2018;89:77-84.3)Zbar B, et al. Cancer Epidemiol Biomarkers Prev. 2002;11:393-400.4)Hoppe BPC, et al. Am J Respir Crit Care Med. 2022;205:1474-1475.5)Menko FH, et al. Lancet Oncol. 2009;10:1199-1206.6)Schmidt LS, et al. Nat Rev Urol. 2015;12:558-569.7)Mizobuchi T, et al. Orphanet J Rare Dis. 2018;13:78.公開履歴初回2023年10月31日

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骨髄異形成腫瘍では誤診がまれではない

 骨髄異形成腫瘍(MDS)は診断が困難で、誤診もしばしば生じるため、セカンドオピニオンが必要であることを示唆した研究結果が発表された。研究論文の上席著者である、米マイアミ大学シルベスター総合がんセンターのMikkael Sekeres氏は、「診断の難しさや頻繁な誤診が、患者に不適切な治療やその他の潜在的に有害な結果を招くリスクを高める」と警鐘を鳴らしている。この研究論文は、「Blood Advances」に8月8日掲載された。 MDSは、造血幹細胞の機能異常が原因で正常な血液細胞が作られなくなる病態で、急性骨髄性白血病(AML)に進展する傾向がある。診断時の患者の年齢は、通常は60歳以上であり、生存期間は1年未満から10年程度までと幅がある。米国での新規MDS症例は年間約2万例と見積もられているが、過少報告や誤分類のために実際はそれ以上である可能性がある。 Sekeres氏らは今回、米国立心肺血液研究所(NHLBI)の全米骨髄異形成腫瘍自然史研究(National MDS Natural History Study)への参加者のデータを用いて、地域の病院の病理医による診断と中央の血液がんと骨髄腫を専門とする病理医(以下、専門病理医)による診断とを比較した。全米骨髄異形成腫瘍自然史研究は、MDSに関するデータと生物試料のリポジトリを構築して、この疾患に関する理解を深めることを目的としたもので、MDSの疑いがある患者やMDSと診断された患者で、治療の一環として骨髄生検が予定されている人が登録されている。 本研究では、918人(平均年齢72歳)が解析対象とされた。地域の病院で入力された診断データに基づくと、このうちの264人(29%)はMDS、15人(2%)は骨髄異形成/骨髄増殖性腫瘍(MDS/MPN;血液細胞の異常形成と骨髄幹細胞の過剰な増殖を併せ持つ)、62人(7%)は特発性血球減少症(ICUS)、577人(63%)はそれ以外の診断を受けており、骨髄芽球率30%未満のAMLの診断を受けた患者はいなかった。 この診断結果は、その後の専門病理医によるレビュー後に、3分の1程度が別の診断に再分類された。すなわち、MDSは266人(29%)、MDS/MPNは45人(5%)、ICUSは49人(5%)、骨髄芽球率30%未満のAMLが15人(2%)、それ以外が543人(59%)となった。地域の病理医による誤診断の53%は病理医の診断が研究用のフォームに誤記入されたことが原因であったことから、全体での誤診率は15%、MDSでの誤診率は21%と計算された。この結果は、MDS患者を含む全国がんレジストリの正確性に疑問を投げかけるものであると研究グループは述べている。さらに、地域の病理医と専門病理医の診断が一致しなかった症例では、一致した症例と比べて治療を受けた患者の割合が低く(25%対40%)、また、不一致例の7%は不適切な治療を受けていた。 Sekeres氏は、「これらの研究結果は、特にMDSのような希少な血液・骨髄腫瘍性疾患では、米国国立がん研究所(NCI)指定のがんセンターに所属する専門家の意見を求めることの重要性を浮き彫りにするものだ」と述べる。同氏は、地域の腫瘍医や病理医は、血液がんのようなまれながんよりも、乳がんのようなより一般的ながんの診断経験の方が豊富であることを指摘し、「地域の医師は、よりまれながんの診断の可能性を疑わせるような微妙な兆候を見逃す可能性がある」と懸念を示す。 研究グループは、この研究結果が、MDSに関するデータベースや、NCIの監視疫学遠隔成績(SEER)プログラムに大きな影響を与えるとの見方を示す。同プログラムは1970年代初期からがんの診断と転帰の傾向を監視している。Sekeres氏はさらに、「血液がんは診断が難しく、患者が正確に診断され、タイムリーに適切な治療を受けるためには、高度に熟練した病理医と連携する高度に専門化した臨床医によるセカンドオピニオンが必要だ」と主張している。

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第178回 老化に伴う難聴を脳のコレステロール補強で防ぎうる

老化に伴う難聴を脳のコレステロール補強で防ぎうる老化と関連する難聴は大問題であり、65歳を超える高齢者の約3人に1人が多かれ少なかれそうなります。難聴は聞こえにくくなるという不便さを強いることに加えて認知機能低下が早まることや認知症リスクの上昇とも密接に関連します。そういう大きな問題をはらむ老化関連難聴を脳のコレステロール補強といういとも手軽な方法で防げるかもしれないことがアルゼンチンのチームによるマウス実験で示されました1)。ちまたではコレステロールといえば悪者と相場が決まっていますが、神経細胞膜の要員の1つであり、神経細胞や膜連携タンパク質の機能に不可欠です。コレステロールはシナプス膜に豊富で、タンパク質複合体の数々に結合したり影響を及ぼしたりしてそれらの構造や振る舞い、活性を調節することが最近の研究で示されています。シナプス形成、細胞間相互作用、細胞内伝達に与するコレステロールを中枢神経系(CNS)は手ずから生成します。というのも末梢のコレステロールは血液脳関門(BBB)を通過できず、CNSは他所から調達することができないからです。ゆえに脳のコレステロール濃度は厳密に調節されており、その調節の乱れは認知機能障害や種々の神経変性疾患と関連することが知られています。脳のコレステロールは老化の影響も受けます。たとえば老化に伴って海馬のコレステロールが減ります。また、老人や神経変性疾患患者の脳のコレステロールは乏しいという検体解析結果も報告されています。老化と関連するコレステロール減少の原因の1つは海馬でのコレステロール水酸化酵素CYP46A1の増加です。マウス海馬シナプスの老化に伴うコレステロール減少が主にCYP46A1亢進に起因し、シナプス受容体の行き来や陥入を立ち行かなくし、記憶障害をもたらすことが確認されています。注目すべきことに、脳のコレステロールを底上げすることで老化マウスのシナプスや認知機能の不備を減らしうることが示されています。また、神経変性疾患の治療効果もあるらしく、ハンチントン病マウスのシナプスや認知機能が脳へのコレステロール運搬粒子で改善しました。老化関連難聴は内耳の蝸牛の外有毛細胞(OHC)の損失を発端の1つとします。音信号の増幅に携わるOHCの側壁は厳密な管理下のコレステロールを含み、OHC側壁のコレステロール含量の変化はOHC側壁内のモータータンパク質プレスチンの機能や配置に影響を及ぼすようです。しかし内耳の病変にコレステロール変動がどう寄与しているかはこれまで調べられたことはありません。そこでアルゼンチン・ブエノスアイレス大学のチームはコレステロール欠乏が内耳蝸牛の老化病変に寄与するとの仮説を立て、若いマウスと老化マウスの内耳のCYP46A1とコレステロール量を調べてみました。すると予想どおり高齢マウスの内耳のCYP46A1は若いマウスに比べて多く、コレステロールは逆に減っていました。続いて若いマウスのCYP46A1を過剰に活性化するとどうなるかが調べられました。その実験にはCYP46A1を活性化することが知られるHIV治療薬エファビレンツが使われました。若いマウスにエファビレンツを投与したところOHCのコレステロールが減り、プレスチンも乏しくなって配置が変わり、難聴がもたらされました。そして研究は脳のコレステロール補強の効果検討というクライマックスを迎えます。若いマウスへのエファビレンツ投与に伴う難聴を脳のコレステロール補強で防げるかどうかが調べられました。上述のとおりコレステロールは血中から脳に入れません。そこでコレステロールに似た構造と働きをし、BBBを通過して脳に到達できる植物ステロールに白羽の矢が立てられました。ここでも狙いどおりの結果が得られ、エファビレンツ投与マウスに植物ステロールを食べさせたところOHC機能が改善し、プレスチンの分布も正常化しました。最近ではエファビレンツが一翼を担うことが多い抗レトロウイルス薬ひとそろいを使用するHIV/AIDS患者に聴覚障害が多いことが報告されています。今回の結果によると植物ステロールがその予防や治療に役立つかもしれません。また、植物ステロールの服用は老化と関連する難聴の手軽な予防法となる可能性もあり2)、動物やヒトでのさらなる検討が期待されます。参考1)Sodero SO, et al. PLoS Biol. 2023;21:e3002257.2)Common supplements might reduce natural hearing loss / Eurekalert

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乾癬・湿疹の重症度、なぜ患者と医師で認識が異なるか

 乾癬や湿疹を有する患者と医師の間で、重症度の認識の違いとその要因を調べた結果、認識の不一致は46.3%に認められた。医師は視覚的な客観的尺度を重視したのに対し、患者は疾患の身体的、機能的、感情的な影響を重視したことが要因として示された。また、これらが患者のレジリエンス(回復力)、自己効力感、否定的な社会的比較と関連していること、医師は重症疾患に遭遇する頻度が高いため、軽症例を過小評価してしまう可能性も示唆された。シンガポール・National University Healthcare SystemのValencia Long氏らが患者と医師1,053組を対象とした横断研究を実施し、以上の結果が示された。著者は、「本研究により明らかになった患者と医師の認識の不一致の要因が、認識の不一致を小さくするための認知行動的介入の潜在的なターゲットになる」とまとめている。JAMA Dermatology誌オンライン版2023年7月12日号掲載の報告。 患者の重症度に関して、患者と医師で認識の不一致がみられることがある。この現象は、重症度評価の不一致(discordant severity grading:DSG)と称され、患者と医師の関係性を妨げ、フラストレーションの原因にもなる。 研究グループは、DSGに関連する認識、行動、疾患的要因を明らかにするため、定性的研究で理論モデルを導き出した。その後、構造方程式モデリング(structural equation modeling:SEM)を用いた定量的研究にて同モデルを検証した。対象患者と医師の収集は、便宜的標本抽出法を用いて2021年10月~2022年9月の期間に行った。3ヵ月以上にわたり乾癬または湿疹を有する18~99歳の患者を抽出した。データ解析は2022年10月~2023年5月に行った。 アウトカムは、患者と医師それぞれが評価した全般的重症度(NRS[numerical rating scale]:0~10、高スコアほど重症度が高い)の差で、医師の認識より患者の認識が2ポイント以上高い場合は「正の不一致」、2ポイント以上低い場合は「負の不一致」と定義した。また、SEMを用いて要因解析を行い、事前に特定した患者、医師および疾患因子と重症度の差との関連性を評価した。 主な結果は以下のとおり。・解析対象患者は1,053例(平均年齢43.5歳[標準偏差17.5]、男性579例[55.0%])。湿疹が802例(76.2%)、乾癬が251例(23.8%)であった。・解析に含まれた医師は44例(男性20例[45.5%]、31~40歳が24例[54.5%]、シニアレジデントもしくはフェローが20例、コンサルタントまたは主治医が14例)で、医師1人当たりの患者数中央値は5例(四分位範囲:2~18)であった。・患者と医師のペア1,053組のうち、487組(46.3%)で不一致が認められた(正の不一致447組[42.4%]、負の不一致40組[3.8%])。・患者と医師の評価の一致は不良であった(級内相関係数[ICC]:0.27)。・SEMを用いた要因解析により、正の不一致は、症状発現の大きさ(標準偏回帰係数β=0.12、p=0.02)、QOL低下の大きさ(β=0.31、p<0.001)と関連していた。患者や医師の人口統計学的背景との関連は認められなかった。・QOL低下が大きいほど、回復力およびスタビリティ(安定性)の低下(β=-0.23、p<0.001)、否定的な社会的比較の増大(β=0.45、p<0.001)、自己効力感の低下(β=-0.11、p=0.02)、疾患の周期性の増大(β=0.47、p<0.001)、慢性化の見込みの増大(β=0.18、p<0.001)との関連が認められた。・モデルの適合度は良好であった(Tucker-Lewis:0.94、Root Mean Square Error of Approximation[RMSEA]:0.034)。

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熱中症【いざというとき役立つ!救急処置おさらい帳】第4回

今回は「熱中症」についてです。夏場では熱中症はCommonな疾患で、さまざまな原因によって生じます。地球温暖化も相まって、熱中症は気象の影響による死亡の中で最も多いという報告があり1)、すべてのかかりつけ医にとって必修の疾患と言えるでしょう。私も救命センターで働いていると、熱中症患者の搬送や受診が年々増えていることを実感しています。熱中症の診療を若手医師に教える機会は多いのですが、しばしば「言葉の定義や治療方法があやふやだな」と感じることがあります。これは自分が研修医のときに上級医に言われたことでもありますが、系統立てて熱中症を勉強した経験が少ないことが影響しているのではないかと思います。今回は熱中症の定義や臨床像を整理し、かかりつけ医が熱中症患者を診る際のポイントや対処法をお伝えし、さらに帰宅時に「暑い中で作業する時は水分をしっかり取ってね」と指導する「しっかり」がどの程度かを解説します。熱中症の診断熱中症の診断で重要なのは「病歴の聴取」です。熱中症以外の疾患を見落とさないために、どんな場所で何をしていたか、随伴症状がないか、など聞ける範囲でしっかりと聴取しましょう。私が以前経験した苦い症例を挙げます。公園で遊んでいた母親と2人の子供が救急外来を受診。トリアージには一言「熱中症」と記載があり、体温は3人とも37.5℃程度であった。救急外来が混雑しており、3人ともぐったりしていたため、すぐに冷たい点滴を施行した。子供はすぐに元気になったが、母親はガタガタ震え、体温は39℃になり、嘔吐し始めた。よくよく聞くと、公園に着いたあたりから母親は倦怠感を感じて木陰で休んでいたとのことで、実は胃腸炎であった。この母親は運動性(労作性)熱中症にアンカリング(先に与えられた数字や情報を基に検討を始めることにより、その後の意思決定に影響を及ぼすこと)され、病歴をしっかりと聴取できていませんでした。熱中症診断の難しさを再確認した反省症例です。なお、古典的(非労作性)熱中症では、認知症や意識障害などにより病歴聴取が困難なことが多く、高温の環境から離れられなかった理由(図1)をしっかりと調べる必要があります2)。図1 熱中症と鑑別が必要な疾患例画像を拡大する熱中症の治療古典的熱中症は死亡率が高く、ほとんどの症例が総合病院に搬送されるため、ここからは、一般外来でもよく出会う運動性熱中症を中心にお話しします。目の前に熱中症患者がいた場合、まず現場で対応できるかどうかの判断が求められます。つまり、総合病院に搬送すべきかどうかという判断です。III度熱中症でジャパン・コーマ・スケール(JCS)2以上(見当識障害があり場所、日付、周囲の状況が正確に言えない)であれば、すぐに総合病院に搬送すべきです。JCS2程度であっても急性腎不全や横紋筋融解症など早期加療が必要な疾患を合併する可能性は高くなります。I度熱中症とII度熱中症の違いは、JCS0かJCS1かの違い、つまり意識清明か、見当識障害はないがぼーっとしているかの違いです。両方とも高温の環境から涼しい環境に移し、経口補水液を摂取させることが重要な治療です。ただし、II度熱中症で加療を開始して30分経っても意識が清明にならない場合は総合病院への搬送を検討しましょう3)。I度熱中症でも失神した場合はしっかりと鑑別を行い、病院での検査が必要になることがあるため搬送を検討します。熱痙攣(こむら返り)が収まらない場合は痛みで満足に水分摂取ができないことがあり、その際も搬送を検討します。私は熱痙攣が治まらず満足な水分摂取が困難な場合、生理食塩水の点滴と除痛目的のアセトアミノフェンを投与します。脱水による急性腎不全を合併していることがあるためNSAIDsの使用は控えます。また、報告は限られますが、芍薬甘草湯は熱中症に伴うこむら返りに効果があるという報告があり、頑張って1包(2.5g)を服薬してもらっています4)。これらの処置により1時間ほどで症状が改善することがしばしばあります。基本的にII度熱中症までは体温中枢が働いていて深部体温の上昇は軽度であるため、体表面の冷却が推奨されます。一般外来や院外でできることは、うちわや扇風機を使用する氷嚢を頸部、腋下、鼠経に設置する(直接では凍傷を生じることがあるので、必要に応じて間にタオルなどをはさむ)体に霧吹きで水をかけるなどがあります。氷水のプールに全身を浸して冷却するという方法が最も効果的だという報告がありますが、実行できる設備が少ないので現実的ではありません5)。霧吹きにはよく冷えた水を入れたほうがよいと思われがちですが、実はこれはお勧めできません。霧吹きによる体温降下は、水が蒸発する際に周囲の熱を奪うことで体内の熱を空気中に逃がすことができます(気化熱)。よって、常温~温かい水を使用するのがベストです。熱中症のピットフォール熱中症診療で注意しなければならないのが横紋筋融解症です。国家試験などにも出るほどメジャーな疾患ですが、診断が難しい疾患の1つでもあります。適切に治療しないと電解質異常や腎不全などを合併する恐れがあるため、早期診断・加療が必要です。熱中症の後に横紋筋融解症を合併した場合、尿がコーラ色になることがあります。これはミオグロビン尿と言われ、赤血球が尿沈渣では陰性で、尿定性では陽性になるのが特徴です。しかし、横紋筋融解症でミオグロビン尿が発現するのは19%程度であまり高くはありません6)。そこで診断基準に多く使われるのがクレアチニンキナーゼ(CK)です。多くの文献では正常値の5倍(1,000U/L)超を診断基準にしています。5,000U/L以下であれば横紋筋融解症の発症率は低いとされていますが、遅れて上がってくることもあるため注意が必要です7,8)。これらを聞くと「結局どうすればいいの?」となると思います。I度・II度熱中症であれば基本的に重症の横紋筋融解症は合併しないため、患者全員を病院に搬送して血液検査を行うというのは現実的ではありません。横紋筋融解症の治療は水分摂取が第1であり、認知症や意識レベルが低下している患者など水分摂取に懸念がある場合は積極的に病院受診を促すべきと考えます。私は患者を自宅に帰すときには、尿が出ない、尿が黒くなるなどの症状が現れた場合はすぐに病院を受診するよう指導しています。熱中症の予防最後に熱中症の予防です。環境省は熱中症の予防として、涼しい服装日陰の利用日傘・帽子の使用水分摂取を推奨しています。私も熱中症の患者さんは、水分摂取が少ないなと感じます。私が熱中症になった方に「水分を取りましたか?」と聞くと、多くの人が「取っている」と答えますが、よくよく聞くと「暑い環境で5時間働いていたのにコーヒー牛乳500mLを1本だけ」だったという経験があり、その量はさまざまです。では、よく言われる「こまめな水分摂取」とはどの程度でしょうか? 私が探した範囲では日本語で具体的に水分摂取量を記載しているものは見つかりませんでしたが、米国CDCによると、暑い環境で作業するときは水を15~20分ごとに8ounces(240mLくらい)、1時間で1Lくらいが摂取の目安となっています。この際、糖分の多いジュースなどは控えてもらいます。スポーツドリンクも糖分が多いので長時間継続的に摂取することは勧められませんが、状況に応じて活用しましょう。気温や活動の負荷によって異なりますが、最低基準としてこちらを患者へ説明してはいかがでしょうか。今回は、熱中症の診断、治療、予防について紹介しました。熱中症はCommonな病気であり、しっかりと治療し、適切に予防することが重要です。これからさらに暑くなると熱中症患者さんが増えてくるため、復習になれば幸いです。先生自身の熱中症対策もお忘れなく!熱中症の基礎知識<発熱と高体温>発熱とは体温中枢による調整によって体温が上昇することを指し、高体温は体温中枢のコントロールが破綻してしまっている状態を指します。前者の代表は感染症であり、後者は熱中症や甲状腺機能亢進症などが挙げられます。前者による体温上昇であればアセトアミノフェンなどの解熱鎮痛薬は効果がありますが、後者は解熱鎮痛薬で体温低下は期待できず、原因を解除する必要があります9)。<運動性(労作性)熱中症と古典的(非労作性)熱中症>運動性熱中症とは読んで字のごとく、屋外や炎天下で活動して水分摂取が足りないときに生じます。数時間以内で急激に発症し、発汗と脱水が必ず伴います。一方、古典的熱中症とは、小児や高齢者が安静時であっても高温の環境に置かれたときに生じます。毎年夏になると親がパチンコに行き子供を車に放置して熱中症で亡くなる、高齢者がクーラーをつけずに自宅にいて熱中症で亡くなるというニュースを聞くと思います。これらが古典的熱中症で、体温が急速に上がった結果、中枢神経の機能が破綻して発症します。発汗がないのが特徴であり、高度の脱水を伴わないこともあります3)。運動性熱中症は、若年~中年に多いということもあり死亡率は低く、5%未満ですが、古典的熱中症は高齢者が多く、また室内で発生することが多いため発見が遅れることもあり、死亡率は約50%と非常に高いです10)。<重症度分類>熱中症の重症度分類であるI度、II度、III度は日本救急学会の定義であり、日本オリジナルの分類です。従来から言われている熱失神(Heat syncope)、熱痙攣(Heat cramp)、熱疲労(Heat exhaustion)、熱射病(Heat stroke)では重症度のイメージがつきにくいため作成されました(図2)。ちなみに、熱痙攣は痙攣発作のことではなくこむら返りのことを指し、熱失神は立ち眩み~失神を指します。図2 日本救急学会提唱の熱中症重症度分類画像を拡大する 1)Summary of Natural Hazard Statistics for 2017 in the United States2)Epstein Y, et al. NEJM;380:2449-2459.3)Glazer JL. Am Fam Physician. 2005;71:2133-2140.4)中永 士師明. 日本東洋医学雑誌. 2013;64:177-183.5)Ito C, et al. Acute Medicine & Surgery. 2021;8:e635.6)Melli G, et al. Medicine. 2005;84:377-385.7)Stahl K, et al. J Neurol. 2020;267:8778-8782.8)Giannoglou GD, et al. Eur J Intern Med. 2007;18:90-100.9)Stitt JT. Fed Proc. 1979;38:39-43.10)Bouchama A, et al. NEJM. 2002;346:1978-1988.

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統合失調症における睡眠依存性の記憶の定着~メタ解析

 睡眠障害と認知機能障害は、統合失調症でみられる持続的な症状である。これまでのエビデンスにより、統合失調症患者は健康対照者と比較し、睡眠依存性の記憶の定着が損なわれている可能性が示唆されている。トルコ・Dokuz Eylul UniversityのCemal Demirlek氏らは、統合失調症における睡眠依存性の記憶の定着に関するシステマティックレビューおよびメタ解析を実施した。その結果、健康成人においては睡眠が記憶の定着を改善するが、統合失調症患者では睡眠依存性の記憶の定着が不足していた。Schizophrenia Research誌2023年4月号の報告。 PRISMAガイドラインに従ってシステマティックレビューを実施した。エフェクトサイズ(Hedge's g)の算出には、変量効果モデルを用いた。定量的レビューでは、健康対照者、統合失調症患者、健康対照者と統合失調症患者の比較における手続き記憶(procedural memory)について、3つの個別のメタ解析を実施した。さらに、最も一般的に使用される指タッピング運動シークエンス課題(finger tapping motor sequence task)について、別のメタ解析を実施した。 主な結果は以下のとおり。・システマティックレビューには、14研究(統合失調症患者304例、健康対照者209例)を含めた。・睡眠依存性の手続き記憶の定着に関するランダム効果モデル分析では、各エフェクトサイズは、統合失調症患者で小さく(g=0.26)、健康対照者で大きく(g=0.98)、健康対照者と統合失調症患者の比較では中程度(g=0.64)であった。・finger tapping motor sequence taskを用いた研究のメタ解析では、各エフェクトサイズは、統合失調症患者で小さく(g=0.19)、健康対照者で大きく(g=1.07)、健康対照者と統合失調症患者の比較では中程度(g=0.70)であった。・定性的レビューでは、統合失調症患者は健康対照者と比較し、睡眠依存性の陳述記憶(declarative memory)の定着も損なわれていた。・健康成人においては、睡眠が記憶の定着を改善するが、統合失調症患者では睡眠依存性の記憶の定着が損なわれていることが、本結果により支持された。・記憶のサブタイプごとに睡眠依存性の定着を調査するため、精神病性障害のさまざまな段階において睡眠ポリグラフを用いた研究が求められる。

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小児の点滴ルート確保時の疼痛を減らすまさかの方法【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第228回

小児の点滴ルート確保時の疼痛を減らすまさかの方法Pixabayより使用奇抜なタイトルの論文だったので、まさかトップジャーナルとは思っていませんでした。読んだ後に気付きました、すいません。この連載では、私もあえて「誰も知らないマイナー医学雑誌」の論文を読みあさっているワケではないので、誤解なきよう。Lee HN, et al.Effect of a Virtual Reality Environment Using a Domed Ceiling Screen on Procedural Pain During Intravenous Placement in Young Children A Randomized Clinical Trial.JAMA Pediatr. 2023;177(1):25-31.VRゴーグルのゲームってやったことあります? 私は一度、家電量販店でVRゴーグルをかけて崖の上に立ったことがあるのですが、後ろから妻に押されて「殺す気か!」と思ってしまいました。没入感がすごいですよね。そんなVRの世界に入っているタイミングで小児の点滴ルートを確保したら、疼痛が少なくなるんじゃないか、あわよくばバレないんじゃないか、という研究立案をしたのがこの研究です。実際に、小児の気をそらすということが効果的であることは示されていて、VRはその最有力候補だったのです1)。かといって、小児にVRゴーグルを着用してもらうことは困難なので、ドーム型の天井スクリーンを使ったVR環境を実現するというなかなか大掛かりなランダム化比較試験です。対象となったのは、静脈ルート確保が必要な生後6ヵ月~4歳の小児です。主要評価項目は、ベッドに寝かせた後から針が皮膚を貫通するまでの4時点における疼痛スコアとしました。スケールはFLACCという小児用の疼痛スコアを用いました。88人の小児のうち、44人がVR環境、44人が非VR環境にランダム化されました。針を貫通した時点のFLACCスコアの中央値は介入群6.0(四分位範囲:1.8~7.5)、対照群7.0(5.5~7.8)という結果でした。中央値にはさほど差がないように見えますが、順序ロジスティック回帰モデルではVR介入群のほうが疼痛が少ないことが示されました(オッズ比:0.53、95%信頼区間:0.28~0.99、p=0.046)。SNSなどで、子供の気をそらしながらワクチンを一瞬で接種する小児科医の動画を見かけますが、これも同じロジックです。というわけで、小児救急でどんどんVR環境を広めていきましょう!1)Litwin SP, et al. Virtual Reality to Reduce Procedural Pain During IV Insertion in the Pediatric Emergency Department: A Pilot Randomized Controlled Trial. Clin J Pain. 2021 Feb 1;37(2):94-101.

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首・腰痛、姿勢療法は医療費増大/JAMA

 急性または亜急性の頸部痛/腰痛を有する患者において、集学的な生物心理社会的介入または個別化姿勢療法は、いずれも経過観察と比較して3ヵ月後の疼痛関連障害スコアをわずかではあるが統計学的に有意に改善した。ただし、個別化姿勢療法では1年間の脊椎関連医療費が経過観察より有意に増加した。米国・ブリガム&ウィメンズ病院・ハーバード大学医学大学院のNiteesh K. Choudhry氏らが、米国の33施設で実施した3群の実用的非盲検クラスター無作為化試験「SPINE CARE試験」の結果を報告した。JAMA誌2022年12月20日号掲載の報告。急性/亜急性の頸部痛/腰痛患者を対象に、33施設でクラスター無作為化試験を実施 SPINE CARE試験の対象は、持続期間が3ヵ月以内の頸部痛または腰痛を主訴に来院した18歳以上の患者であった。過去3ヵ月間に、連続して7日以上麻薬を服用、あるいは6回以上の理学療法・カイロプラクティック治療・鍼治療・姿勢療法などを受けたことがある患者、過去6ヵ月以内に脊椎の手術・注射または神経根切断術を受けたことがある患者などは除外した。 研究グループは、参加したプライマリケア診療所33施設を、集学的な生物心理社会的介入(identify, coordinate, and enhance [ICE] care model、ICE)群、個別化姿勢療法(individualized postural therapy、IPT)群または通常ケア群に1対1対1の割合で無作為に割り付け、各施設の適格患者に割り付けられた治療を行った。 ICEケアモデルとは、STarT Backスクリーニングツールを用いて、理学療法、ヘルスコーチによる痛みを軽減するためのカウンセリング、およびかかりつけ医へのコンサルテーションを組み合わせ、適切な介入を行うケアモデルである。また、IPTは、エゴスキューメソッドを用いて標準化された方法で、自己効力感と自己管理を重視し、脊柱の筋肉の再調整とリバランスによって痛みを治療する試みである。通常ケア群では、介入を行わなかった(経過観察のみ)。  主要評価項目は、Oswestry Disability Index(ODI、0~100点、点数が高いほど疼痛関連障害が重度)スコアのベースラインから3ヵ月後までの変化量(臨床的に意義のある最小変化量を6と定義)、および1年間の脊椎関連医療費とした。各治療群と通常ケア群との比較では、有意水準を両側0.025とした。疼痛関連障害スコアは2介入とも有意に改善、ただし姿勢療法では医療費が増加 2017年6月~2020年3月に2,971例が無作為化された(通常ケア群992例、ICE群829例、IPT群1,150例)。最終追跡は2021年3月であった。2,971例(平均年齢51.7歳、女性1,792例[60.3%])のうち、2,733例(92%)が試験を完遂した。 平均ODIスコアは、ICE群ではベースラインの31.2点から3ヵ月後には15.4点に、IPT群では29.3点から15.4点に、通常ケア群では28.9点から19.5点に改善した。3ヵ月後における平均ODIスコアの通常ケア群との絶対差は、ICE群で-5.8(95%信頼区間[CI]:-7.7~-3.9、p<0.001)、IPT群で-4.3(-5.9~-2.6、p<0.001)であった。 1年間の平均脊椎関連医療費は、ICE群1,448ドル、IPT群2,528ドル、通常ケア群1,587ドルであり、通常ケア群と比較しICE群では139ドル減(リスク比:0.93、95%CI:0.87~0.997、p=0.04)、IPT群では941ドル増(1.40、1.35~1.45、p<0.001)であった。

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男女別、心血管イベントのリスク因子は/Lancet

 脂質マーカーとうつ病は、女性より男性で心血管リスクとの関連が強く、食事は男性よりも女性で心血管リスクとの関連が強いことが、カナダ・マックマスター大学のMarjan Walli-Attaei氏らによる大規模前向きコホート研究「Prospective Urban Rural Epidemiological:PURE研究」の解析の結果、示された。ただし、他のリスク因子と心血管リスクとの関連は女性と男性で類似していたことから、著者は、「男性と女性で同様の心血管疾患予防戦略をとることが重要である」とまとめている。Lancet誌2022年9月10日号掲載の報告。35~70歳の約15万6,000例で、各種リスク因子と主要心血管イベントの関連を解析 研究グループは、現在進行中のPURE研究における、高所得国(11%)および低・中所得国(89%)を含む21ヵ国のデータを用いて解析した。 解析対象は、2005年1日5日~2021年9月13日に登録され、ベースラインで35~70歳の心血管疾患既往がなく、少なくとも1回の追跡調査(3年時)を受けた参加者15万5,724例であった。 主要評価項目は、主要心血管イベント(心血管死、心筋梗塞、脳卒中、心不全の複合)とした。代謝リスク因子(収縮期血圧、空腹時血糖値、ウエスト対ヒップ率、非HDLコレステロール)、血中脂質(総コレステロール、中性脂肪、LDLコレステロール、HDLコレステロール、総コレステロール/HDLコレステロール比、ApoA1、ApoB、ApoB/ApoA1比)、行動的リスク因子(喫煙、飲酒、身体活動、食事[PURE食事スコア])および心理社会的リスク因子(うつ症状、教育)と主要心血管イベントとの関連を男女別に解析し、ハザード比(HR)ならびに人口寄与割合(PAF)を算出した。脂質マーカーとうつ症状は、女性より男性で心血管リスク上昇 解析対象15万5,724例の内訳は、女性9万934例(58.4%)、男性6万4,790例(41.6%)、ベースラインの平均(±SD)年齢はそれぞれ49.8±9.7歳、男性50.8±9.8歳で、追跡期間中央値は10.1年(四分位範囲[IQR]:8.5~12.0)であった。 データカットオフ(2021年9月13日)時点で、主要心血管イベントは女性で4,280件(年齢調整罹患率は1,000人年当たり5.0件[95%信頼区間[CI]:4.9~5.2])、男性で4,911件(8.2件[8.0~8.4])発生した。男性と比較して、女性はとくに若年で心血管リスクプロファイルがより良好であった。 代謝リスク因子と主要心血管イベントとの関連は、非HDLコレステロールを除き、女性と男性で同様であった。非HDLコレステロール高値のHRは、女性で1.11(95%CI:1.01~1.21)、男性で1.28(1.19~1.39)であった。また、他の脂質マーカーも女性よりも男性のほうが一貫してHR値が高かった。 うつ症状と主要心血管イベントとの関連を示すHRは、女性で1.09(95%CI:0.98~1.21)、男性で1.42(1.25~1.60)であった。一方、PUREスコア(スコア範囲:0~8)が4以下の食事の摂取は、男性(HR:1.07[95%CI:0.99~1.15])よりも女性(1.17[1.08~1.26])で主要心血管イベントと関連していた。 主要心血管イベントに対する行動的および心理社会的リスク因子(合計)のPAFは、女性(8.4%)よりも男性(15.7%)で大きく、これは主に現在喫煙のPAFが男性で大きいためであった(女性1.3%[95%CI:0.5~2.1]、男性10.7%[95%CI:8.8~12.6])。

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ASCO2022 レポート 血液腫瘍

レポーター紹介今年のASCO 2022の年次総会も、COVID-19の影響で、昨年のASCO 2021に引き続き、ハイブリッド開催となりました。その恩恵を受けて、昨年と同様に、米国・シカゴまで行かずに、通常の病院業務をしながら、業務の合間に、時差も気にせず、オンデマンドで注目演題を聴講したり、発表スライドを閲覧したりすることができました。それらの演題の中から、今年も10の演題を選んで、発表内容をレポートしたいと思います。以下に、悪性リンパ腫(慢性リンパ性白血病含む)関連5演題、多発性骨髄腫関連3演題、白血病関連2演題を紹介します。悪性リンパ腫(慢性リンパ性白血病含む)関連First-line brentuximab vedotin plus chemotherapy to improve overall survival in patients with stage III/IV classical Hodgkin lymphoma: An updated analysis of ECHELON-1.  (Abstract #7503)ECHELON-1試験は、初発の進行期ホジキンリンパ腫患者を対象に、これまでの標準治療のABVD療法と、ブレンツキシマブベドチンとブレオマイシンを入れ替えたA-AVD療法を比較した第III相比較試験で、これまでの発表にて、A-AVD療法がABVD療法と比較し、PFSの延長効果が示されていた。今回の発表では、追跡期間の中央値が73ヵ月(約6年)の時点で、A-AVD療法の、OSについての優位性も示された(6年時点のOS:[A-AVD療法:93.9%、ABVD療法:89.4%]) (HR:0.590、95%信頼区間[CI]:0.396~0.879、p=0.009)。サブグループ解析では、IPSが4~7の患者、Stage IVの患者、節外病変が2以上の患者など、予後不良と思われる患者において、有意にA-AVD療法がABVD療法よりもOSを延長した。2次がんの発症率も、23例と32例で、A-AVD療法で少なかった。ホジキンリンパ腫については、これまで、ABVD療法に対し、OSでの優位性を示した治療法はなかったが、A-AVD療法が初めてABVD療法にOSで優ったことが示された歴史的試験結果となった。Glofitamab in patients with relapsed/refractory (R/R) diffuse large B-cell lymphoma (DLBCL) and >2 prior therapies: Pivotal phase II expansion results. (Abstract #7500)R/R DLBCL患者に対し、近年、CD19-CAR-T細胞治療やポラツズマブベドチン(ADC)などの新薬が登場し、治療成績は良くなったが、それらの治療にても再発・難治となる場合もあり、さらなる新薬の開発が望まれている。本発表では、CD20とCD3(2対1の比率)に対する二重抗体薬のglofitamabの第II相試験(21日サイクルにて、最大12サイクルまでの固定期間治療であり、サイクル1のDay1には、CRS軽減のため、オビヌツズマブを投与し、Day8に2.5mg、Day15に10mgを投与、サイクル2以降はDay1に30mgを投与する)の結果が報告された。154例の2ライン以上の前治療歴(リツキシマブの治療歴を含む)のあるR/R DLBCL患者が対象となった(59.7%が3ライン以上、33.1%がCAR-T治療を受けていた)。主要評価項目のCR率は39.4%であり、副次評価項目のORRは51.6%であった。また、CAR-T治療歴のある、なしでのCR率は、それぞれ35%と42%であった。CR維持率は12ヵ月時点で77.6%であった。CRSは63%に認めたが、うち59%はG1~2であり、ほとんどがサイクル2までに認められた。glofitamabは、CAR-T既治療例を含むR/R DLBCLに対する新たな治療薬として期待できる。Influence of racial and ethnic identity on overall survival in patients with chronic lymphocytic lymphoma. (Abstract #7508)CLLは、西欧諸国では頻度の多い疾患であるが、アフリカやアジアでは少なく、発症率や予後に、人種差が影響するかどうかは、明らかではなかった。本発表では、National Cancer Databaseに2004~18年に登録されたアメリカのCLL患者を解析している。9万7,804例のうち、8万8,680例(90.7%)が白人、7,391例(7.6%)が黒人、2,478例(2.6%)がヒスパニック、613例(0.6%)がアジア人であった。今回は、この中で、白人と黒人を比較している。黒人の方が、診断時の年齢が66歳(vs.70歳)と若く、合併症を有する割合も27.9%(vs.21.3%)と多かった。さらに、次の項目(女性患者、非保険加入者、低所得者)の割合が黒人で多かった。また、CLLの治療を、診断時すぐに開始された割合も35.9%(vs.23.6%)と多く、OSは短い(中央値:7.00年vs.9.14年)ことがわかった。CLLの病態に人種差がどのように影響しているかは不明だが、経済力の差などが、診断時期や治療法の選択にも影響している可能性もあり、それがOSの差に反映していると思われる。GEMSTONE-201: Preplanned primary analysis of a multicenter, single-arm, phase 2 study of sugemalimab (suge) in patients (pts) with relapsed or refractory extranodal natural killer/T cell lymphoma (R/R ENKTL). (Abstract #7501)R/R ENKTLの予後はきわめて不良である(OS中央値は7ヵ月未満、1年OSは20%未満)。本試験では、R/R ENKTLに対する抗PDL1抗体薬(sugemalimab)の第II相試験(GEMSTONE-201試験)の最初の解析結果が報告された(追跡期間の中央値が13.4ヵ月時点)。対象となった患者は、80例(年齢中央値:48歳、男性:64%、前治療が2ライン以上:49%、前治療に抵抗性:46%)であり、Suge 1,200mgを3週に1回投与し、最長24ヵ月投与した。主要評価項目のORRは、46.2%であった。また、副次評価項目のCR率は、37.2%であり、12ヵ月時点のDORは、86%であった。探索的評価項目の全生存率は、12ヵ月時点で68.6%であった。G3以上の有害事象は39%(治療薬関連は16%、そのうち重篤な有害事象は6.3%)でみられ、最も高頻度にみられたirAEは、甲状腺機能低下症が16%にみられた。R/R ENKTLに対する抗PDL1抗体薬は、その有効性と安全性のバランスから期待できる治療薬と考える。Primary results from the double-blind, placebo-controlled, phase III SHINE study of ibrutinib in combination with bendamustine-rituximab (BR) and R maintenance as a first-line treatment for older patients with mantle cell lymphoma (MCL). Abstract #LBA7502初発の自家移植非適応の高齢MCL患者(65歳以上)に対するBRX6サイクル+R維持療法(2ヵ月ごと2年間)と、その治療に最初からイブルチニブ560mg(or プラセボ)を上乗せし、イブルチニブ(or プラセボ)は、PDあるいは毒性中止となるまで継続する治療を比較した第III相比較試験のSHINE試験の結果がLate break abstractとして報告され、同日のNEJM誌にPublishされた。イブルチニブ群259例とプラセボ群260例が治療を受けた。主要評価項目のPFSの中央値は、80.6と52.9ヵ月であり、HR:0.75(0.59~0.96)と有意にイブルチニブを併用した治療で約2年のPFSの延長がみられた。ハイリスク症例(BlastoidタイプあるいはTP53変異あり)でも、イブルチニブ群でPFSが良い傾向にあったが、症例数が少なく、有意差は認めなかった。TTNTもHR:0.48(0.34~0.66)でイブルチニブ群で延長がみられた。イブルチニブ群では、G3/4の有害事象として、出血(3.5%)、心房細動(3.9%)、高血圧(8.5%)、関節痛(1.2%)を認めた。ただし、OSについては、HR:1.07(0.81~1.40)で差を認めていない。SHINE試験で、初めて、初発の高齢MCL患者に対するイブルチニブの有用性(併用効果)が示され、今後、標準治療の変更が見込まれる結果となった。多発性骨髄腫関連Major risk factors associated with severe COVID-19 outcomes in patients with multiple myeloma: Report from the National COVID-19 Cohort Collaborative (N3C). (Abstract #8008)NCATS’ National COVID Cohort Collaborative (N3C)のデータベースを用い、MM患者におけるCOVID-19の重症化のリスクを解析している。本データベースには、2万6,064例のMM患者が登録(うちCOVID-19 陽性は8,588例)されていた。多変量解析によって、肺疾患、腎疾患の既往は重症化のリスクであったが、糖尿病、高血圧は有意なリスクとはならなかった。喫煙は、むしろリスクが低い傾向があった。造血幹細胞移植、COVID-19ワクチン接種は有意に重症化リスクを下げた。一方、IMiDs、PI、デキサメサゾン治療は死亡リスクを上昇させたが、ダラツムマブ治療はリスクとはならなかった。1.93%のMM患者がCOVID-19感染10日以内に、4.47%のMM患者が30日以内に死亡した。本発表は、世界での最大級のデータベースを解析したものであり、COVID-19流行下のMM診療に役立つと思われる。Teclistamab, a B-cell maturation antigen (BCMA) x CD3 bispecific antibody, in patients with relapsed/refractory multiple myeloma (RRMM): Updated efficacy and safety results from MajesTEC-1. (Abstract #8007)BCMAとCD3に対する二重抗体薬 teclistamabの第I/II相MajesTEC-1試験の最新のデータが発表された。対象となった患者165例(第I相:40例、第II相:125例)は、前治療のライン数が5(2~14)で74%が4ライン以上であった。また、78%がトリプルクラス抵抗性、30%がペンタドラッグ抵抗性であり、90%が最後の治療に抵抗性の状態であった。Tecは、1.5mg/kgを週1回、皮下注で投与する方法が推奨用量であった。有効性の評価では、ORRは63%で、VGPR以上は58.8%、CR以上は39.4%であった。DORの中央値は18.4ヵ月、12ヵ月時点のDORは68.5%であり、CR以上が得られた患者では80.1%であった。PFSの中央値は11.3ヵ月、OSの中央値は18.3ヵ月であった。有害事象については、CRSは、72.1%でみられたが、G3は1例(0.6%)でG4/5はなかった。CRS発現は2日目(1~6)にみられ、2日間(1~9)続いた。治療関連死は5例(COVID-19 2例、肺炎1例、肝不全1例、PML1例)、AEによる減量は1例だけであった(21サイクル目)。BCMAを標的とするCAR-T療法よりは効果が落ちるものの、Off the shelfの薬剤であり、大いに期待される。Daratumumab carfilzomib lenalidomide and dexamethasone as induction therapy in high-risk, transplant-eligible patients with newly diagnosed myeloma: Results of the phase 2 study IFM 2018-04. (Abstract #8002)フランスのグループ(IFM)で実施されたHigh riskの染色体異常(CA)(t[4;14]、 del[17p]、 t[14;16]のいずれか)を有する移植適応のある初発MM患者を対象としたDara-KRD(6サイクル)+Auto(MEL200)+Dara-KRD(4サイクル)+2回目Auto(MEL200)+Dara-Len維持療法(2年)の第II相試験(IFN 2018-04試験)の寛解導入Dara-KRD治療の結果が報告された。50例の患者がエントリーされた。Del(17p)が20例、t(4;14)が26例、t(14;16)が10例、Gain(1q)は25例、前記の2以上のCAを有しているのは34例であった。46例が6サイクル完遂でき、2例はAE(COVID-19感染と腫瘍崩壊症候群)で中止、2例はPD中止となった。6例が2回Auto分のPBSCHに失敗したため、Dara-KRD(3サイクル)後にPBSCHを実施したところ、全例、PBSCHに成功した。ORRは96%、VGPR以上は91%、MRD測定(NGS)を行った37例中、MRD陰性であったのは、62%であった。今後、この治療法は続きがあるが、寛解導入部分の有効性、安全性は評価できると考える。白血病関連Overall survival by IDH2 mutant allele (R140 or R172) in patients with late-stage mutant-IDH2 relapsed or refractory acute myeloid leukemia treated with enasidenib or conventional care regimens in the phase 3 IDHENTIFY trial. (Abstract #7005)AMLにおいて、8~19%の症例で、IDH2遺伝子変異がみられ、IDH2遺伝子変異には、R140Q変異(75%)とR172K変異(25%)がある。変異IDH2阻害剤のenasidenibは、IDH2遺伝子変異を有する高齢R/R AML患者に対し、通常の治療(AZA、CA少量、BSC)と比較しOSの延長は認められなかった(IDHENTIFY試験)。今回の解析では、R140変異とR172変異に分けて解析している。R140と比較し、R172では併存する変異遺伝子の数が、少なかった。また、R140ではSRSF2、FLT3、NPM1、RUNX1遺伝子の変異を伴うのが多かったが、R172では、DNMT3A、TP53の変異が多かった。このことが影響したためか、R140では、OSに差を認めなかったが、R172においては、有意に、enasidenibが、通常治療よりもOSを延長した(14.6ヵ月 vs.7.8ヵ月)。遺伝子変異に基づいた治療法の選択は今後、ますます重要になると思われ、興味深い発表と考える。Efficacy and safety results from ASCEMBL, a phase 3 study of asciminib versus bosutinib (BOS) in patients (pts) with chronic myeloid leukemia in chronic phase (CML-CP) after >2 prior tyrosine kinase inhibitors (TKIs): Week 96 update.  (Abstract #7004)2ライン以上のTKIによる前治療歴があり、それらのTKI治療に抵抗性・不耐容のCML患者に対し、従来のTKIが結合するATP結合サイトとは異なるミリストイルポケットを標的とするasciminibとボスチニブを比較した第III相試験のASCEMBL試験のフォローアップデータが発表された。最初の解析時点から16.5ヵ月経過した2.3年時点での結果である。157例がasciminib、76例がボスチニブに割り付けられ、84例(53.5%)と15例(19.7%)が治療継続しており、治療効果不十分のため中止となった症例は、38例(24.2%)と27例(35.5%)であった。96週時点のMMR率(副次評価項目)は、37.6%と15.8%であり、有意にasciminibが優れていた(主要評価項目の24週時点のMMR率は25.5%と13.2%であった)。内服期間の中央値も23.7ヵ月と7.0ヵ月で、asciminibが長かった。asciminibでボスチニブよりも多くみられたAEは、血小板減少であり、ボスチニブでみられる下痢、嘔気・嘔吐、皮疹、肝障害は、明らかに少なかった。今回の結果から、asciminibは、既存のTKIに抵抗性・不耐容のCML患者の長く継続できる新たな治療薬として、再認識され、現在、日本でも保険適用で使用可能となった。おわりに以上、ASCO 2022で発表された血液腫瘍領域の演題の中から10演題を紹介しました。昨年のASCO 2021でも10演題を紹介いたしましたが、今年も昨年と同様に、どの演題も今後の治療を変えていくような結果であるように思いました。来年以降も現地開催に加えてWEB開催を継続してもらえるならば、ASCO 2023にオンライン参加をしたいと考えています。(でも、もう少し参加費を安くしてほしい、特に、円安の今日この頃(笑))

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精神科入院患者の重症度に応じたうつ病の薬理学的治療

 ICD-10では、うつ病を重症度に応じて分類している。また、ガイドラインでは、重症度に応じたうつ病治療に関する推奨事項を記載している。ドイツ・ハノーファー医科大学のJohanna Seifert氏らは、実臨床における精神科入院患者に対するうつ病の重症度に基づいた向精神薬の使用について評価を行った。その結果、ガイドラインの推奨事項と実臨床での薬物治療には乖離があり、精神科入院うつ病患者の治療における臨床ニーズをガイドラインに十分反映できていない可能性が示唆された。Journal of Neural Transmission誌オンライン版2022年5月7日号の報告。 精神医学における医薬品の安全性(AMSP)プログラムを用いて、うつ病の重症度に基づく薬物治療のデータを分析した。 主な結果は以下のとおり。・2001~17年に、参加病院で治療を受けた精神科入院うつ病患者は、4万3,868例であった。・多くの患者は、複数の抗うつ薬による治療を受けていた(中等度うつ病患者:85.8%、重度うつ病患者:89.8%、精神病性うつ病患者:87.9%)。・より重度の患者では、SNRIやミルタザピンで治療されることが多く、SSRIで治療されることは少なかった(各々、p<0.001)。・重症度の上昇とともに、抗精神病薬、とくに第2世代抗精神病薬使用の有意な増加が認められた(中等度うつ病患者:37.0%、重度うつ病患者:47.9%、精神病性うつ病患者:84.1%[各々、p<0.001])。・併用では、抗精神病薬+抗うつ薬が最も多く(中等度うつ病患者:32.8%、重度うつ病患者:43.6%、精神病性うつ病患者:74.4%)、次いで抗うつ薬の2剤併用であった(中等度うつ病患者:26.3%、重度うつ病患者:29.3%、精神病性うつ病患者:24.9%)。・リチウムの使用は少なかった(中等度うつ病患者:3.3%、重度うつ病患者:6.1%、精神病性うつ病患者:7.1%)。・向精神薬の数は、うつ病の重症度とともに増加が認められ、精神病性うつ病患者では、向精神薬の使用率が最も高かった(中等度うつ病患者:93.4%、重度うつ病患者:96.5%、精神病性うつ病患者:98.7%[各々、p<0.001])。・抗うつ薬単剤治療の割合は、重症度が低い場合でもあまり多くなかった(中等度うつ病患者:23.2%、重度うつ病患者:17.1%、精神病性うつ病患者:4.4%)。

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高齢成人のうつ、不安、PTSDに対する性的虐待の影響

 性的暴力は、メンタルヘルスに重大な影響を及ぼすとされる。小児期の性的虐待は、その後の人生における内在化障害と関連しており、高齢の成人においては、性的暴力がこれまで考えられていた以上に多く発生している。後の人生における性的暴力への医療従事者の対応スキルは十分であるとは言えず、生涯(小児期、成人期、老年期)における性的暴力のメンタルヘルスへの影響に関する研究も不十分である。ベルギー・ゲント大学のAnne Nobels氏らは、高齢成人を対象に、性的虐待とメンタルヘルスへの影響について調査を行った。International Journal of Environmental Research and Public Health誌2022年2月28日号の報告。 2019年7月~2020年3月、ベルギー在住の高齢成人513人を対象に構造化された対面式インタビューを実施した。ランダムウォーク検索アプローチを用いて、クラスターランダム確立サンプリングを行った。うつ病、不安神経症、心的外傷後ストレス障害(PTSD)の評価には検証済みの尺度を用いた。対象者には、生涯および過去12ヵ月間の自殺企図および自傷行為について質問した。性的暴力は、広範な性的暴力の定義に基づくbehaviourally specific questionsを用いて測定した。 主な結果は以下のとおり。・各発症率は、うつ病27%、不安神経症26%、PTSDが6%であり、過去12ヵ月間における自殺企図の割合は2%、自傷行為の割合は1%であった。・生涯における性的暴力の経験は44%以上で認められ、過去12ヵ月間でも8%であった。・生涯における性的暴力は、うつ病(p=0.001)、不安神経症(p=0.001)、慢性疾患を有する(p=0.002)または低学歴である(p<0.001)試験参加者のPTSDと関連が認められた。・生涯における性的暴力と過去12ヵ月間の自殺企図または自傷行為との間に関連は認められなかった。 著者らは「生涯における性的暴力は、後の人生におけるメンタルヘルスの問題と関連しており、性的暴力歴を有する高齢成人に個別に対応したメンタルヘルスケアが求められる。そのためには、専門家への教育促進や臨床ガイドラインの開発、ケア手順の策定が重要である」としている。

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新しい慢性めまい疾患「PPPD」とは?【知って得する!?医療略語】第8回

第8回 新しい慢性めまい疾患「PPPD」とは?新しいめまいの疾患概念が登場したって本当ですか?めまいに関して、持続性知覚性姿勢誘発めまい(PPPD)という疾患概念が確立し、耳鼻科系医学誌を中心に注目されています。そのため、複数の診療科が関与しうるPPPDは、多くの医師が知っておくと良いかもしれません。≪医療略語アプリ「ポケットブレイン」より≫【略語】PPPD【日本語】持続性知覚性姿勢誘発めまい【英字】Persistent Postural-Perceptual Dizziness【分野】脳神経・心療内科【診療科】耳鼻科・精神科【関連】視覚起因性めまい VV(visual vertigo)恐怖性姿勢めまいPPV(phobic postural vertigo)空間と動きの不快感 SMD(space motion discomfort)慢性自覚性めまい CSD(chronic subjective dizziness)実際のアプリの検索画面はこちら※「ポケットブレイン」は医療略語を読み解くためのもので、略語の使用を促すものではありません。めまいは多くの臨床医が遭遇する症状の1つですが、慢性的めまいに関して、近年注目されている『持続性知覚性姿勢誘発めまい(PPPD:Persistent Postural-Perceptual Dizzines)』は、耳鼻科医のみならず内科、心療内科、精神科、リハビリ科など複数診療科の医師が関わる可能性のある疾患のため、取り上げたいと思います。PPPDは2017年にBarany学会から診断基準が提示された新しい慢性めまいの疾患です。診断基準は、日本語版が日本めまい平衡医学会から示されており、「3ヵ月以上持続する浮遊感」「不安定感」「非回転性めまい」を主訴に、体動や動く物体を見たとき、あるいは複雑な視覚パターンを見たときに増悪します。筆者が経験した患者2名は、縞模様の物をみると、明らかな症状の増悪があり、1名は前庭片頭痛が前駆していました。両名とも日常生活や仕事に大きな支障がありました。慢性めまいの39%がPPPDだったとする報告もあり、慢性めまいの鑑別として重要です。PPPDに特徴的な検査異常はなく、臨床症状と経過より診断します。PPPDの治療法は、抗うつ薬や抗不安薬による薬物治療と、認知行動療法・前庭リハビリテーションによる非薬物治療があります。PPPDを認識しておくことは有用だと思います。お時間が許せば、下の総説論文で詳細をご確認ください。1)堀井 新. 日耳鼻. 2020;123:170-172.2)五島 史行. 日耳鼻. 2021;124;1467-1471.

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循環器フェロー編始動!3年のレジデント生活を乗り切った後の景色は…?【臨床留学通信 from NY】第31回

第31回:循環器フェロー編始動!3年のレジデント生活を乗り切った後の景色は…?連載開始より、USMLE(米国医師免許試験)突破までの道のりや、内科レジデントとして過ごしたMount Sinai Beth Israelでの日常などについてお伝えしてきましたが、今回より、循環器内科フェローとして着任したMontefiore Medical Center/Albert Einstein Medical Collegeでの様子を綴っていきたいと思います。引き続き、どうぞよろしくお願いします。これまで述べてきた通り、内科は外科系に比べると門戸は広め(それでも近年、外国人のハードルはどんどん上がっています)ではあるものの、3年の内科レジデントを終えた後、循環器フェローに入り込むのはなかなか熾烈な競争でした。人気の診療科かつ収入も良いというところと、米国内で循環器フェローのスポット数が決まっているところも要因です。米国では、ACGME (Accredition Counsil for Graduate Medical Education)と呼ばれる組織が必要な教育をその病院が提供できるかを判断し、雇えるフェローの数を決めているからです1)。その点は日本より統率されていて、特定の診療科が過剰になることもなく (フェローを終え、専門医試験に合格しないと原則働けない)、逆に人気のない科にも人が充足されるという仕組みになっています。もちろん、国土が広大で地域間格差も当然ありますが、そこは田舎のほうが給与がよい、といったことで多少バランスを取ろうとしているようです。循環器フェローで必要な年数は3年で、循環器専門医だけでなく、心臓超音波専門医や心臓核医学専門医を取得することもできます。ただカテーテル治療にはInterventional cardiologyのフェローを1年追加する必要があります。さらにこの後、Structural heart disease fellowshipを別に1年、不整脈(EP)で2年、心不全で1年、心エコー、心臓MRI/心臓CT等のイメージングフェローで1~2年といったadvanced fellowshipなどがあり、専門によっては果てしなきトレーニング期間が続くことになります。米国のフェローのトレーニングは、レジデント同様2週間ごとのローテーション制度です。3年のうち、CCU、心エコー、カテ、EP、コンサルト、核医学があり、このほかに先天性心疾患、心臓CT/MRIといったオプションもあります。それぞれにアテンディングと呼ばれる指導医がついて指導に当たれるのは、日本よりはるかに豊富な医者の数によってトレーニングがまかなわれているメリットとも言えますが、その背後には途方もない高額な医療費によってまかなわれている事情もあります。3年目はElectiveと呼ばれ、自身の興味ある分野を集中的にとレーニングできるようになり、たとえばカテーテル治療に進みたい人は、半年以上かけてそこに注力することもできます。気になる当直頻度は、1年目は月5回、2年目は月2回程度で、日本の比にはならない米国大学病院ならではの業務量をこなすことになります。ここを超えると、3年目には当直がなくなり、年次によるQOLの差がかなり大きいと言えます。しかしながら、給料は残念ながらレジデントとほぼ同等。年間7.6万ドルでは、物価の高いNYでは赤字財政を余儀なくされることを覚悟しておいたほうがよさそうです。参考1)ACGME Program Requirements for Graduate Medical Education in Cardiovascular Disease (Internal Medicine) Column画像を拡大するこちらはワシントン記念塔の写真です。サンクスギビングと呼ばれる連休を利用してワシントンDCまで行ってきました。実は高校生の時、ニューヨークでの短期留学でもこの景色を見ています。24年前には米国で医師として働くことになるとは全く思わず、英語もしゃべることもできなかったのですが…。

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アトピー性皮膚炎の精神面への影響、4歳児でも

 英国の小児1万1千例超を長期10年にわたって追跡したコホート研究で、小児におけるアトピー性皮膚炎(AD)とメンタルヘルスの関連が明らかにされた。重症ADは、小児期のうつ症状および内在化症状を呈する可能性を約2倍増大することが、また、軽症~中等症ADはうつ症状との関連は認められなかったが、4歳という早い時期に内在化問題行動との関連が認められたという。米国・カリフォルニア大学サンフランシスコ校のChloe Kern氏らが報告した。 先行研究で成人におけるADとメンタルヘルス状態の関連は明らかにされているが、小児に関しては、世界中でADの大きな負荷が問題になっているが、メンタルヘルス併存疾患の発症に関する文献は限られている。JAMA Dermatology誌2021年10月号掲載の報告。 研究グループは、小児および思春期の複数時点で、ADと内在化問題行動およびうつ症状との関連を調べ、また喘息/鼻炎、睡眠、炎症など潜在的な媒介因子を調べる住民ベースの縦断的出生コホート研究を行った。UK Avon Longitudinal Study of Parents and Childrenの登録児について、出生から平均10.0年間(SD 2.9)追跡した児のデータを解析した。データの収集期間は1990年9月6日~2009年12月31日で、解析は2019年8月30日~2020年7月30日に行われた。 屈面性皮膚炎(flexural dermatitis)に関する標準化質問票によって測定した年間AD有病率を、月齢6ヵ月~18歳の11時点で評価。主要評価項目は、うつ病の症状(10~18歳の5時点でShort Moods and Feelings Questionnaireを用いて得た小児からの回答で測定)、内在化問題行動(4~16歳の7時点でEmotional Symptoms subscale of the Strength and Difficulties Questionnaireを用いて得た母親からの回答で測定)であった。 主な結果は以下のとおり。・解析には、1万1,181例の小児が含まれた(男子5,721例[51.2%])。・期間中のうつ症状有病率は、6.0~21.6%、内在化問題行動は10.4~16.0%であった。・軽症~中等症ADは、うつ症状との関連は認められなかったが、内在化問題行動は4歳という早い時期に関連が認められた(補正後モデルにおける小児期全体の平均増大オッズ:29~84%)。・重症ADは、うつ症状(補正後オッズ比:2.38、95%信頼区間[CI]:1.21~4.72)、内在化問題行動(1.90、1.14~3.16)と関連していた。・睡眠の質は、上記の関連の一部を媒介していたが、睡眠時間、喘息/鼻炎、炎症マーカー(IL-6、CRP)値の違いによる関連は認められなかった。

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「コネ」も大事な手段!? フェローシップ採用の突破法【臨床留学通信 from NY】第27回

第27回:「コネ」も大事な手段!? フェローシップ採用の突破法これまで述べたことのまとめになりますが、フェローシップ採用において、面接に呼ばれ、最終的にマッチに至るには、USMLEの点数、卒後年数、推薦状、学会/論文業績がいずれも重要です。そして、AMG(米国医学部卒業)>IMG(外国医学部卒業)、VISA、レジデント出身病院、という序列は、少なくともアプライの時点では如何ともしがたい要因です。しかしながら、米国ならではというところでコネは重要で、「あ、この人コネがかなり効いてるな」、というケースは散見されます。私自身、コネがそんなになかったのですが、知り合いを通じて面接に呼んでもらうということはありました。現在の勤務先であるMontefioreにマッチできたのも、大学の先輩がMontefioreにいる世界的に有名なStructural Heart DiseaseのInterventional CardiologistであるAzeem Latib氏と知り合いであったことから履歴書に目が止まり、Latib氏が私の論文業績を評価してくれてProgram Directorに話を通してくれたことが大きかったのではないかと思います。実際、ランク付けを決める締め切り直前に、Chief of Cardiologyからも面接の機会を追加でもらえたため、「これは大丈夫かな」と思いました。ただ、もしMontefioreがダメだったとしたら、その後どこまでランクが下がってしまうのかはわからなかったので、マッチングというのはこれという絶対的な正攻法のない恐ろしい仕組みだと改めて思いました。さて、米国では7月からの着任に備えて、1年前の7月からアプライが始まり、9~10月に面接、12月には合否が出るという流れで、日本の就職スケジュールと比べてかなり早いと思います。しかし、結果が出て契約書を受け取ったら、日本の厚生労働省とビザ更新のための手続きについてやりとりする必要があり、実際には時間的猶予はそれほどなかったというのが実際のところです。ちなみに、着任前でしたが人間関係を早めに築いておきたいと考え、Latib氏に論文の指導を受け、前回のコラムで紹介したJACC誌掲載の論文1)のcoauthorにもなっていただきました。参考1)Shoji S, et al. J Am Coll Cardiol. 2021 Aug 24;78(8):763-777.Column早いもので、臨床留学している日本人の後輩たちもフェローシップのアプライ時期となりました。私が2年ほど指導した人たちの研究は、心臓カテーテル系および心臓外科のトップジャーナルに載るまでになり、今後が楽しみです1,2)。1)Ueyama H, et al. JACC Cardiovasc Interv. 2021 Jul 12;14(13):1481-1492.2)Yokoyama Y, et al. J Thorac Cardiovasc Surg. 2021 Jul 29;S0022-5223(21)01133-8.

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新治療が心臓にやさしいとは限らない~Onco-Cardiologyの一路平安~【見落とさない!がんの心毒性】第6回

新しい抗がん剤が続々と臨床に登場しています。厚生労働大臣によって承認された新医薬品のうち、抗悪性腫瘍用薬の数はこの3年で36もありました1)。効能追加は85もあり、新しい治療薬が増え、それらの適応も拡大しています。しかし、そのほとんどの薬剤は循環器疾患に注意して使う必要があり、そのうえで拠り所になるのが添付文書です。医薬品医療機器総合機構(PMDA)のホームページの医療用医薬品情報検索画面2)から誰でもダウンロードできます。警告、禁忌、使用上の注意…と読み進めます。さらに、作用機序や警告、禁忌の理由を詳しく知りたいときは、インタビューフォーム(IF)を開きます。循環器医ががん診療に参加する際には、患者背景や治療薬のことをサッと頭に入れる必要がありますが、そんな時に便利です。前置きが長くなりましたが、今回は時間のない皆さまのために、添付文書の『警告』『禁忌』『重要な基本的注意』に循環器疾患を含んでいる抗がん剤をピックアップしてみました。『警告』に書かれていること(表1)の薬剤では重篤例や死亡例が報告されていることから、投与前に既往や危険因子の有無を確認のうえ、投与の可否を慎重に判断することを警告しています。infusion reaction、静脈血栓症、心不全、心筋梗塞や脳梗塞などの動脈血栓症、QT延長、高血圧性クリーゼなどが記載されています。副作用に備え観察し、副作用が起きたら適切な処置をし、重篤な場合は投与を中止するように警告しています。(表1)画像を拡大するこうした副作用でがん治療が中止になれば予後に影響するので、予防に努めます。『警告』で最も多かったのはinfusion reactionですが、主にモノクローナル抗体薬の投与中や投与後24時間以内に発症します。時に心筋梗塞様の心電図や血行動態を呈することもあり、循環器医へ鑑別診断を求めることもあります。これらの中には用法上、予防策が講じられているものもあり、推奨投与速度を遵守し、抗ヒスタミン薬やアセトアミノフェン、副腎皮質ステロイドをあらかじめ投与して予防します。過敏症とは似て非なる病態であり、発症しても『禁忌』にはならず、適切な処置により症状が治まったら、点滴速度を遅くするなどして再開します。学会によってはガイドラインで副作用の予防を推奨してるところもあります。日本血液学会の場合、サリドマイド、ポマリドミド、レナリドミドを含む免疫調節薬(iMiDs:immunomodulatory drugs)による治療では、深部静脈血栓症の予防のために低用量アスピリンの内服を推奨しています3)。欧州臨床腫瘍学会(ESMO)では、アントラサイクリンやトラスツズマブを含む治療では、心不全の進行予防に心保護薬(ACE阻害薬、ARB、および/またはβ遮断薬)を推奨しています。スニチニブ、ベバシズマブ、ラムシルマブなどの抗VEGF薬を含む治療では、血圧の管理を推奨しています4)。『禁忌』に書かれていること『禁忌』には、「本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者」が必ず記されています。禁忌に「心機能異常又はその既往歴のある患者」が記されているのは、アントラサイクリン系の抗がん剤です。QT延長や、血栓症が禁忌になるものもあります。(表2)画像を拡大するここで少し注意したいのは、それぞれの副作用の定義です。たとえば「心機能異常」とは何か?ということです。しばしば、がん医療の現場では、左室駆出率(LVEF)や脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)値だけが、一人歩きをはじめ、患者の実態とかけ離れた判断が行われることがあります。循環器医ががん患者の心機能を検討する場合、LVEFやBNPだけではなく、症状や心電図・心エコー所見や運動耐容能などを多角的に捉えています5)。心機能は単独で評価できる指標はないので、LVEFやBNP値だけで判断せず、心機能を厳密かつ多面的に測定して総合的に評価することをお勧めします。添付文書によく記載されている「心機能異常」。漠然としていますが、これの意味するところを「心不全入院や死亡のリスクが高い状態」と、私は理解しています。そこで、「心機能異常」診断の乱発を減らし、患者ががん治療から不必要に疎外されないよう努めます。その一方で、心保護薬でがん治療による心不全のリスクを最小限に抑えるチャンスを逃さないようにもします。上述の定義のことは「血栓症」にも当てはまります。血栓症では下腿静脈の小血栓と肺動脈本管の血栓を一様には扱いません。また、下肢エコーで見つかる米粒ほどの小血栓をもって血栓症とは診断しません。そこそこの大きさの血栓がDOACなどで制御されていれば、血栓症と言えるのかもしれませんが、それでも抗がん剤を継続することもあります。QT延長は次項で触れます。『重要な基本的注意』に書かれていることー意外に多いQT延長『重要な基本的注意』で多かったのは、心機能低下・心不全でした。アントラサイクリン系薬剤、チロシンキナーゼ阻害薬、抗HER2薬など25の抗がん剤で記載がありました。これらの対応策については既に本連載企画の第1~4回で取り上げられていますので割愛します。(表3)その1画像を拡大する(表3)その2画像を拡大する意外に多かったのは、QT延長です。21種類もありました。QT間隔(QTc)は男性で450ms、女性で460ms以上をQT延長と診断します。添付文書では「投与開始前及び投与中は定期的に心電図検査及び電解質検査 (カリウム、マグネシウム、カルシウム等)を行い、 患者の状態を十分に観察する」などと明記され、血清の電解質の補正が求められます。とくに分子標的薬で治療中の患者の心電図でたびたび遭遇します。それでも重度の延長(QTc>500ms)は稀ですし、torsade de pointes(TdP)や心臓突然死はもっと稀です。高頻度にQT延長が認められる薬剤でも、新薬を待ち望むがん患者は多いため、臨床試験で有効性が確認されれば、QT延長による心臓突然死の回避策が講じられた上で承認されています。測定法はQTcF(Fridericia法)だったりQTcB(Bazett法)だったり、薬剤によって異なりますが、FMS様チロシンキナーゼ3-遺伝子内縦列重複(FLT3-ITD)変異陽性の急性骨髄性白血病治療薬のキザルチニブのように、QTcFで480msを超えると減量、500msを超えると中止、450ms以下に正常化すると再開など、QT時間次第で用量・用法が変わる薬剤があるので、測定する側の責任も重大です。詳細は添付文書で確認してみてください。抗がん剤による心臓突然死のリスクを予測するスコアは残念ながら存在しません。添付文書に指示は無くても、循環器医はQTが延長した心電図ではT波の面構えも見ます。QT dispersion(12誘導心電図での最大QT間隔と最小QT間隔の差)は心室筋の再分極時間の不均一性を、T peak-end時間(T波頂点から終末点までの時間)は、その誘導が反映する心室筋の貫壁性(心内膜から心外膜)の再分極時間のバラツキ(TDR:transmural dispersion of repolarization)を反映しています。電気的不均一性がTdP/心室細動の発生源になるので注意しています。詳細については、本編の参考文献6)~8)をぜひ読んでみてください。3つ目に多かったのはinfusion reactionで、該当する抗がん剤は17もありました。抗体薬の中には用法及び用量の項でinfusion reaction対策を明記しているものの、『重要な基本注的意』に記載がないものがあるので、実際にはもっと多くの抗がん剤でinfusion reactionに注意喚起がなされているのではないでしょうか。血圧上昇/高血圧もかなりありますが、適正使用ガイドの中に対処法が示されているので、各薬剤のものを参考にしてみてください。そのほかの心臓病についても同様です。なお、適正使用ガイドとは、医薬品リスク管理計画(RPM:Risk Management Plan)に基づいて専門医の監修のもとに製薬会社が作成している資料のことです。抗がん剤だけではない、注目の新薬にもある循環器疾患についての『禁忌』今年1月、経口グレリン様作用薬アナモレリン(商品名:エドルミズ)が初の「がん悪液質」治療薬としてわが国で承認されました。がん悪液質は「通常の栄養サポートでは完全に回復することができず、進行性の機能障害に至る、骨格筋量の持続的な減少(脂肪量減少の有無を問わない)を特徴とする多因子性の症候群」と定義されています。その本質はタンパク質の異常な異化亢進であり、“病的なるい痩”が、がん患者のQOLやがん薬物療法への忍容性を低下させ、予後を悪化させます。アナモレリンは内服によりグレリン様作用を発揮し、がん悪液質患者の食欲を亢進させ、消耗に対抗します。切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん、胃がん、膵がん、大腸がんのがん悪液質患者のうち、いくつかの基準をクリアすると使用できるので、対象となる患者が多いのが特徴です。一方、添付文書やインタビューフォームを見ると、『禁忌』には以下のように心不全・虚血・不整脈に関する注意事項が明記されています。「アナモレリンはナトリウムチャネル阻害作用を有しており、うっ血性心不全、心筋梗塞、狭心症又は高度の刺激伝導系障害(完全房室ブロック等)のある患者では、重篤な副作用を起こすおそれがあることから、これらの患者を禁忌に設定した」9)。また、『重要な基本的注意』には、「心電図異常(顕著なPR間隔又はQRS幅の延長、QT間隔の延長等)があらわれることがあるので注意すること」とあります。ピルシカイニド投与時のように心電図に注意が必要です。実際、当院では「アナモレリン投与中」と書かれた心電図の依頼が最近増えています。薬だけではない!?注目の新治療にもある循環器疾患につながる『警告』免疫の知識が今日ほど国民に浸透した時代はありません。私たちの体は、病原体やがん細胞など、本来、体の中にあるべきでないものを見つけると、攻撃して排除する免疫によって守られていることを日常から学んでいます。昨今のパンデミックにおいては、遺伝子工学の技術を用いてワクチンを作り、免疫力で災禍に対抗しています。がん医療でも遺伝子工学の技術を用いて創薬された抗体薬を使って、目覚ましい効果を挙げる一方で、アナフィラキシーやinfusion reaction、サイトカイン放出症候群(CRS:cytokine release syndrome)などの副作用への対応に迫られています。免疫チェックポイント阻害薬の適応拡大に伴い、自己免疫性心筋炎など重篤な副作用も報告されており、循環器医も対応に駆り出されることが増えてきました(第5回参照)。チサゲンレクルユーセル(商品名:キムリア)は、採取した患者さんのT細胞を遺伝子操作によって、がん細胞を攻撃する腫瘍特異的T細胞(CAR-T細胞)に改変して再投与する「ヒト体細胞加工製品」です。PMDAホームページからの検索では、医療用「医薬品」とは別に設けてある再生医療等「製品」のバナーから入ると見つかります。「再発又は難治性のCD19陽性のB細胞性急性リンパ芽球性白血病」と「再発又は難治性のびまん性大細胞型B細胞リンパ腫」の一部に効果があります。ノバルティスファーマ株式会社のホームページで分かりやすく説明されています10)。この添付文書で警告しているのはCRSです。高頻度に現れ、頻脈、心房細動、心不全が発症することがあります。緊急時に備えて管理アルゴリズムがあらかじめ決められており、トシリズマブ(ヒト化抗ヒトIL-6レセプターモノクローナル抗体、商品名:アクテムラ)を用意しておきます。AlviらはCAR-T細胞治療を受けた137例において、81名(59%)にCRSを認め、そのうち54例(39%)がグレード2以上で、56例(41%)にトシリズマブが投与されたと報告しています11)(図)。(図)画像を拡大するトロポニンの上昇は、測定患者53例中29例(54%)で発生し、LVEFの低下は29例中8例(28%)で発生しました。いずれもグレード2以上の患者でのみ発生しました。17例(12%)に心血管イベントが発生し、すべてがグレード2以上の患者で発生しました。その内訳は、心血管死が6例、非代償性心不全が6例、および不整脈が5例でした。CRSの発症から、トシリズマブ投与までの時間が短いほど、心血管イベントの発生率が低く抑えられました。これらの結果は、炎症が心血管イベントのトリガーになることを改めて世に知らしめました。おわりに本来であれば添付文書の『重大な副作用』なども参考にする必要がありますが、紙面の都合で割愛しました。腫瘍循環器診療ハンドブックにコンパクトにまとめてありますので、そちらをご覧ください12)13)。さまざまな新薬が登場しているがん医療の現場ですが、心電図は最も手軽に行える検査であるため、腫瘍科と循環器科の出会いの場になっています。QT延長等の心電図異常に遭遇した時、循環器医はさまざまな医療情報から適切な判断を試みます。しかし、新薬の使用経験は浅く、根拠となるのは臨床試験の数百人のデータだけです。そこへ来て私は自分の薄っぺらな知識と経験で患者さんを守れるのか不安になります。患者さんの一路平安を祈る時、腫瘍科医と循環器医の思いは一つになります。1)独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)新医薬品の承認品目一覧2)PMDA医療用医薬品 添付文書等情報検索3)日本血液学会編.造血器腫瘍診療ガイドライン2018年版. 金原出版.2018.p.366.4)Curigliano G, et al. Ann Oncol. 2020;31:171-190. 5)日本循環器学会編. 急性・慢性心不全診療ガイドライン2017年改訂版(班長:筒井裕之).6)Porta-Sanchez A, et al. J Am Heart Assoc. 2017;6:e007724.7)日本循環器学会編. 遺伝性不整脈の診療に関するガイドライン2017 年改訂版(班長:青沼和隆)8)呼吸と循環. 医学書院. 2016;64.(庄司 正昭. がん診療における不整脈-心房細動、QT時間延長を中心に)9)医薬品インタビューフォーム:エドルミズ®錠50mg(2021年4月 第2版)10)ノバルティスファーマ:CAR-T細胞療法11)Alvi RM, et al. J Am Coll Cardiol. 2019;74:3099-3108. 12)腫瘍循環器診療ハンドブック. メジカルビュー社. 2020.p.207-210.(森本 竜太. がん治療薬による心血管合併症一覧)13)腫瘍循環器診療ハンドブック.メジカルビュー社. 2020.p.18-20.(岩佐 健史. 心機能障害/心不全 その他[アルキル化薬、微小管阻害薬、代謝拮抗薬など])講師紹介

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第75回 感染経験のデルタ株防御効果はワクチンよりずっと高い

新型コロナウイルス感染(COVID-19)を経た人のデルタ変異株の感染しやすさは先立つ感染なしのPfizerワクチンBNT162b2接種2回完了者に比べてずっと低く、発症も入院もより免れていることがイスラエルの試験で示されました1)。試験ではイスラエル人およそ250万人のデータベースが解析され、今夏(6月1日~8月14日)のデルタ変異株感染率は先立つ新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染なしで今年初め(1~2月)にワクチン接種2回目を済ませた人の方が感染を経験したワクチン非接種の人に比べて6~13倍高いという結果が得られました。また、感染経験者は先立つ感染なしのワクチン接種完了者に比べてCOVID-19発症率はわずか27分の1、COVID-19関連入院率は8分の1で済んでいました。試験の結果は人間の生来の免疫系の優秀さを物語るものですが、Pfizerワクチンや他のCOVID-19ワクチンの重症化や死亡を防ぐ効果は健在です。ワクチンを接種していない人がワクチン接種の代わりにあえて感染するなどもってのほかであり、そんなことをすれば死人がでるでしょう2)。被験者のCOVID-19関連死亡は一例もなく、今回の試験でも幸いにしてワクチンは重病を防ぐ効果を依然として維持していることが伺えました。感染経験とワクチン接種が組み合わさればデルタ変異株をいっそう寄せ付けなくなることも示されました。感染経験があってワクチンを1回接種した人の再感染率は感染経験のみでワクチン非接種の人に比べておよそ半分で済んでいたのです。その結果は、感染経験がある人へのPfizerやModernaのmRNAワクチン2回接種の必要性の検討を前進させるでしょう。SARS-CoV-2感染経験があればワクチン接種推奨の対象外ということにはいまのところなってはおらず、米国は感染を経験した人も決まりの回数のワクチンを接種することを推奨しています。日本でも感染経験がある人に決まりの回数が接種されています3)。しかし今回の試験結果によると感染を経験した人へのmRNAワクチンの接種はひとまずは1回で十分かもしれません。Scienceのニュースによると、ドイツ、フランス、イタリア、イスラエルなどでは感染を経験した人へのワクチン接種はひとまず1回きりとなっています2)。感染経験者がワクチンを1回接種すれば現在出回るどのワクチンもそれだけでは到達し得ない防御レベルを身につけうるとScripps Researchの著名研究者Eric Topol氏は述べています2)。参考1)Comparing SARS-CoV-2 natural immunity to vaccine-induced immunity: reinfections versus breakthrough infections. medRxiv. August 25, 2021.2)Having SARS-CoV-2 once confers much greater immunity than a vaccine-but no infection parties, please / Science3)厚生労働省「新型コロナワクチンQ&A」

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コロナワクチン接種後の脳静脈血栓症、VITT併存で重症化/Lancet

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチン接種後の脳静脈血栓症は、ワクチン起因性免疫性血栓性血小板減少症(VITT)が併存すると、これを伴わない場合に比べより重症化し、非ヘパリン抗凝固療法や免疫グロブリン療法はVITT関連脳静脈血栓症の転帰を改善する可能性があることが、英国・国立神経内科・脳神経外科病院のRichard J. Perry氏らCVT After Immunisation Against COVID-19(CAIAC)collaboratorsの調査で示された。研究グループは、これらの知見に基づきVITT関連脳静脈血栓症の新たな診断基準を提唱している。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2021年8月6日号で報告された。VITT有無別の転帰を評価する英国のコホート研究 CAIAC collaboratorsは、VITTの有無を問わず、ワクチン接種後の脳静脈血栓症の特徴を記述し、VITTの存在がより不良な転帰と関連するかを検証する目的で、多施設共同コホート研究を行った(特定の研究助成は受けていない)。 COVID-19ワクチン接種後に脳静脈血栓症を発症した患者の治療に携わる臨床医に対し、ワクチンの種類や接種から脳静脈血栓症の症状発現までの期間、血液検査の結果にかかわらず、すべての患者のデータを提示するよう要請が行われた。 脳静脈血栓症患者の入院時の臨床的特徴、検査結果(血小板第4因子[PF4]のデータがある場合はこれを含む)、画像所見が収集された。除外基準は設けられなかった。 VITT関連の脳静脈血栓症は、入院期間中の血小板数の最低値が<150×109/L、Dダイマー値が測定されている場合はその最高値が>2,000μg/Lと定義された。 主要アウトカムは、VITTの有無別の、入院終了時に死亡または日常生活動作が他者に依存している患者(修正Rankinスコア3~6点[6点=死亡])の割合とされた。また、VITTの集団では、International Study on Cerebral Vein and Dural Sinus Thrombosis(ISCVT)に登録された脳静脈血栓症の大規模コホートとの比較が行われた。主要アウトカム:47% vs.16% 2021年4月1日~5月20日の期間に、英国43施設の共同研究者から脳静脈血栓症99例のデータが寄せられた。このうち4例は、画像で脳静脈血栓症の明確な所見が得られなかったため解析から除外された。残りの95例のうち、70例でVITTが認められ、25例は非VITTであった。 年齢中央値は、VITT群(47歳、IQR:32~55)が非VITT群(57歳、41~62)よりも低かった(p=0.0045)。女性はそれぞれ56%および44%含まれた。ISCVT群は624例で、年齢中央値37歳(VITT群との比較でp=0.0001)、女性が75%(同p=0.0007)を占めた。 ChAdOx1(Oxford-AstraZeneca製)ワクチンの1回目接種後に脳静脈血栓症を発症した患者が、VITT群100%(70例)、非VITT群84%(21例、残り4例のうち3例はBNT162b2[Pfizer-BioNTech製]の1回目接種後、1例は同2回目接種後)であり、接種から脳静脈血栓症発症までの期間中央値はそれぞれ9日(IQR:7~12)、11日(6~21)だった。 VITT関連脳静脈血栓症群は非VITT関連脳静脈血栓症に比べ、血栓を形成した頭蓋内静脈数中央値が高く(3[IQR:2~4]vs.2[2~3]、p=0.041)、頭蓋外血栓症の頻度が高かった(44%[31/70例]vs.4%[1/25例]、p=0.0003)。 退院時に修正Rankinスコアが3~6点の患者の割合は、VITT群が47%(33/70例)と、非VITT群の16%(4/25例)に比べて高かった(p=0.0061)。また、VITT群におけるこの有害な転帰の頻度は、非ヘパリン抗凝固療法を受けた集団が受けなかった集団に比べて低く(36%[18/50例]vs.75%[15/20例]、p=0.0031)、直接経口抗凝固薬投与の有無(18%[4/22例]vs.60%[29/48例]、p=0.0016)および静脈内免疫グロブリン投与の有無(40%[22/55例]vs.73%[11/15例]、p=0.022)でも有意な差が認められた。 著者は、「VITT関連脳静脈血栓症は他の脳静脈血栓症に比べ転帰が不良であることが明らかとなったが、VITTはChAdOx1ワクチン接種によるきわめてまれな副反応であり、COVID-19に対するワクチン接種の利益はリスクをはるかに上回る」としている。

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超加工食品の高摂取で炎症性腸疾患のリスク大/BMJ

 超加工食品の摂取量増加は、炎症性腸疾患(IBD)のリスク増加と関連していることが、前向きコホート研究「Prospective Urban Rural Epidemiology(PURE)」で明らかとなった。カナダ・マックマスター大学のNeeraj Narula氏らが報告した。IBDは先進国で多くみられ、食事などの環境因子が影響していると考えられている。しかし、添加物や保存料を含む超加工食品の摂取とIBDとの関連性についてのデータは限られていた。著者は、「今後はさらに、超加工食品中の寄与因子を特定するための研究が必要である」とまとめている。BMJ誌2021年7月14日号掲載の報告。35歳以上の約11万6千例で超加工食品摂取とIBD発症の関連を評価 研究グループは、PURE研究のうち欧州・北米、南米、アフリカ、中東、東アジア、東南アジアおよび中国の7地域における、低・中・高所得国を含む21ヵ国のデータを用いて評価した。 解析対象は、2003年1日1日~2016年12月31日に登録され、ベースラインの食物摂取量調査(各国で検証済みの食物摂取頻度調査票を使用)ならびに、3年ごとの前向き追跡調査を少なくとも1サイクル完遂している、35~70歳の成人11万6,087例である。 主要評価項目は、クローン病や潰瘍性大腸炎を含むIBDの発症とした。Cox比例ハザードモデルを用い、超加工食品とIBDリスクとの関連についてハザード比(HR)およびその95%信頼区間(CI)を算出した。超加工食品の摂取量増加で、IBDリスクが約1.7~1.8倍に上昇 追跡期間中央値9.7年(四分位範囲:8.9~11.2)において、解析対象11万6,087例中467例がIBDを発症した(クローン病90例、潰瘍性大腸炎377例)。潜在的な交絡因子で補正後、超加工食品の摂取量が多いほどIBDの発症リスクが高いことが認められた(1日1サービング未満と比較した1日5サービング以上のHR:1.82[95%CI:1.22~2.72]、同1日1~4サービングのHR:1.67[95%CI:1.18~2.37]、傾向のp=0.006)。 清涼飲料水、精製甘味料入り食品、塩分の多いスナック菓子、加工肉などの超加工食品のさまざまなサブグループで、IBDのリスク上昇との関連が認められた。結果はクローン病と潰瘍性大腸炎で一貫しており、異質性は低かった。 一方、白身肉、赤身肉、乳製品、でんぷん、果物、野菜、豆類の摂取量は、IBD発症と関連していなかった。 なお、著者は、参加者の年齢が35~70歳であったためクローン病の発症例が少数であったこと、小児や若年成人でIBDを発症した患者に一般化できるかは不明であること、経時的な食事の変化は考慮されていないこと、観察研究の特性上バイアスが残存している可能性があること、などを研究の限界として挙げている。

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