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NSAIDs、心筋梗塞や胎児動脈管収縮に関して使用上の注意改訂/厚労省

 2024年10月8日、厚生労働省はNSAIDsの添付文書の改訂指示を発出した。全身作用が期待されるNSAIDs(医療用)の添付文書には重大な副作用の項に「心筋梗塞、脳血管障害」を、シクロオキシゲナーゼ阻害作用を有するNSAIDs※の添付文書には特定の背景を有する患者に関する注意として、妊婦に対し「シクロオキシゲナーゼ阻害剤の使用により胎児動脈管収縮を疑う所見を適宜確認する」旨の追記がなされる。※すべての妊婦が禁忌とされている薬剤を除く重大な副作用の項に「心筋梗塞、脳血管障害」 匿名医療保険等関連情報データベース(NDB)を用いたNSAIDsの心筋梗塞および脳血管障害リスクに関する調査(以下、本調査)結果から、全身作用が期待されるNSAIDs(アスピリンを除く)の心筋梗塞および脳血管障害リスクが示唆されたと判断。なお、アスピリンについては本調査において心血管系事象の発現リスクが高い患者に対して予防的に処方されていた可能性が否定できなかったことなどから、本調査結果からアスピリンの心筋梗塞および脳血管障害リスクについて結論付けることは困難と判断された。 対象医薬品は以下のとおり。◯ アセメタシン、インドメタシン(坐剤)、インドメタシン ファルネシル、オキサプロジン、チアラミド塩酸塩、プログルメタシンマレイン酸塩、メロキシカム◯ アンピロキシカム、イブプロフェン、エトドラク、ナプロキセン、ピロキシカム(経口剤)、フルルビプロフェン(経口剤)、フルルビプロフェン アキセチル、ロキソプロフェンナトリウム水和物(経口剤)、ロルノキシカム◯ ケトプロフェン(注射剤、坐剤)◯ ザルトプロフェン◯ ナブメトン、ブコローム、メフェナム酸◯ フルフェナム酸アルミニウム◯ エスフルルビプロフェン・ハッカ油「胎児動脈管収縮を疑う所見」の確認を 妊娠中期のシクロオキシゲナーゼ阻害作用を有するNSAIDsの曝露に関する観察研究、系統的レビューなどの公表論文、妊娠中期の当該薬剤の曝露による胎児動脈管収縮関連症例を評価し、使用上の注意の改訂要否および措置範囲の検討がなされた。NSAIDsによる妊娠後期の胎児動脈管収縮は知られており、今般、妊娠中期のNSAIDs(低用量アスピリン製剤を除く)の曝露による胎児動脈管収縮について、公表論文が複数報告されていること、因果関係が否定できない症例が認められたことから、低用量アスピリン製剤を除くNSAIDsについて、使用上の注意を改訂することが適切と判断された。 なお、局所製剤については、全身作用を期待する製剤と比較し相対的に曝露量が低いことから、胎児動脈管収縮を疑う所見を適宜確認する旨の注意喚起は不要と判断された。 また、低用量アスピリン製剤については、妊娠中期の当該製剤の曝露は胎児動脈管の収縮および心拡張能に影響がないことを示唆する公表論文が複数報告されていること、当該製剤と胎児動脈管収縮の因果関係が否定できない症例が認められていないことから、現時点で安全対策措置は不要と判断された。 対象医薬品は以下のとおり。◯ アスピリン(解熱鎮痛消炎の効能を有する製剤)◯ アンピロキシカム、イブプロフェン、エトドラク、ナプロキセン、ピロキシカム(経口剤)、フルルビプロフェン(経口剤)、フルルビプロフェン アキセチル、ロキソプロフェンナトリウム水和物(経口剤)、ロルノキシカム◯ イソプロピルアンチピリン・アセトアミノフェン・アリルイソプロピルアセチル尿素・無水カフェイン[SG配合顆粒]、サリチルアミド・アセトアミノフェン・無水カフェイン・クロルフェニラミンマレイン酸塩[ペレックス配合顆粒]、サリチルアミド・アセトアミノフェン・無水カフェイン・プロメタジンメチレンジサリチル酸塩[PL配合顆粒ほか]◯ エテンザミド、スルピリン水和物◯ ケトプロフェン(注射剤、坐剤)◯ ザルトプロフェン◯ ジブカイン塩酸塩・サリチル酸ナトリウム・臭化カルシウム[ネオビタカイン注ほか]◯ セレコキシブ◯ ナブメトン、ブコローム、メフェナム酸◯ フルフェナム酸アルミニウム◯ イブプロフェンピコノール、インドメタシン(貼付剤)、ジクロフェナクナトリウム(外皮用剤)、ピロキシカム(外皮用剤)、フルルビプロフェン(外皮用剤)、ロキソプロフェンナトリウム水和物(外皮用剤)◯ インドメタシン(塗布剤)◯ エスフルルビプロフェン・ハッカ油◯ ケトプロフェン(外皮用剤)◯ サリチル酸グリコール・l-メントール、サリチル酸メチル、サリチル酸メチル・dl-カンフル・トウガラシエキス[MS温シップほか]、サリチル酸メチル・dl-カンフル・l-メントール[MS冷シップ「タイホウ」ほか]、サリチル酸メチル・l-メントール・dl-カンフル・グリチルレチン酸[スチックゼノールA]、フェルビナク、ヘパリン類似物質・副腎エキス・サリチル酸[ゼスタッククリーム]、サリチル酸◯ ジクロフェナクエタルヒアルロン酸ナトリウム

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高血圧・CKD患者へのNSAIDs【日常診療アップグレード】第14回

高血圧・CKD患者へのNSAIDs問題63歳男性。50代から高血圧と慢性腎臓病(CKD)の治療のためACE阻害薬を内服中である。現在の血圧は120/70mmHgで安定している。4日前、畑の除草作業を行った。3日前から両肩と両上肢が痛くなり、市販の湿布薬を貼っているが効果はあまりない。健診で腎機能低下を指摘されたことはない。NSAIDsを7日間処方した。

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15の診断名・11の内服薬―この薬は本当に必要?【こんなときどうする?高齢者診療】第5回

CareNeTVスクール「Dr.樋口の老年医学オンラインサロン」で2024年8月に扱ったテーマ「高齢者への使用を避けたい薬」から、高齢者診療に役立つトピックをお届けします。老年医学の型「5つのM」の3つめにあたるのが「薬」です。患者の主訴を聞くときは、必ず薬の影響を念頭に置くのが老年医学のスタンダード。どのように診療・ケアに役立つのか、症例から考えてみましょう。90歳男性。初診外来に15種類の診断名と、内服薬11種類を伴って来院。【診断名】2型糖尿病、心不全、高血圧、冠動脈疾患、高脂血症、心房細動、COPD、白内障、逆流性食道炎、難聴、骨粗鬆症、変形性膝関節症、爪白癬、認知症、抑うつ【服用中の薬剤】処方薬(スタチン、アムロジピン、リシノプリル、ラシックス、グリメピリド、メトホルミン、アルプラゾラム、オメプラゾール)市販薬(抗ヒスタミン薬、鎮痛薬、便秘薬)病気のデパートのような診断名の多さです。薬の数は、5剤以上で多剤併用とするポリファーマシーの基準1)をはるかに超えています。この症例を「これらの診断名は正しいのか?」、「処方されている薬は必要だったのか?」このふたつの点から整理していきましょう。初診の高齢者には、必ず薬の副作用を疑った診察を!私は高齢者の診療で、コモンな老年症候群と同時に、さまざまな訴えや症状が薬の副作用である可能性を考慮にいれて診察しています。なぜなら、老年症候群と薬の副作用で生じる症状はとても似ているからです。たとえば、認知機能低下、抑うつ、起立性低血圧、転倒、高血圧、排尿障害、便秘、パーキンソン症状など2)があります。症状が多くて覚えられないという方にもおすすめのアセスメント方法は、第2回で解説したDEEP-INを使うことです。これに沿って問診する際、とくにD(認知機能)、P(身体機能)、I(失禁)、N(栄養状態)の機能低下や症状が服用している薬と関連していないか意識的に問診することで診療が効率的になります。処方カスケードを見つけ、不要な薬を特定するさて、はっきりしない既往歴や薬があまりに多いときは処方カスケードの可能性も考えます。薬剤による副作用で出現した症状に新しく診断名がついて、対処するための処方が追加されつづける流れを処方カスケードといいます。この患者では、変形性膝関節症に対する鎮痛薬(NSAIDs)→NSAIDsによる逆流性食道炎→制酸薬といったカスケードや、NSAIDs→血圧上昇→高血圧症の診断→降圧薬(アムロジピン)→下肢のむくみ→心不全疑い→利尿薬→血中尿酸値上昇→痛風発作→痛風薬→急性腎不全という流れが考えられます。このような流れで診断名や処方薬が増えたと想定すると、カスケードが起こる前は以下の診断名で、必要だったのはこれらの処方薬ではと考えることができます。90歳男性。初診外来に15種類の診断名と、内服薬11種類を伴って来院。【診断名】2型糖尿病、心不全、高血圧、冠動脈疾患、高脂血症、心房細動、COPD、白内障、逆流性食道炎、難聴、骨粗鬆症、変形性膝関節症、爪白癬、認知症、抑うつ【服用中の薬剤】処方薬(スタチン、アムロジピン、リシノプリル、ラシックス、グリメピリド、メトホルミン、アルプラゾラム、オメプラゾール)市販薬(抗ヒスタミン薬、鎮痛薬、便秘薬)減薬の5ステップ減らせそうな薬の検討がついたら以下の5つをもとに減薬するかどうかを考えましょう。(1)中止/減量することを検討できそうな薬に注目する(2)利益と不利益を洗い出す(3)減薬が可能な状況か、できないとするとなぜか、を確認する(4)病状や併存疾患、認知・身体機能本人の大切にしていることや周辺環境をもとに優先順位を決める(第1回・5つのMを参照)(5)減薬後のフォローアップ方法を考え、調整する患者に利益をもたらす介入にするために(2)~(4)のステップはとても重要です。効果が見込めない薬でも本人の思い入れが強く、中止・減量が難しい場合もあります。またフォローアップが行える環境でないと、本当は必要な薬を中断してしまって健康を害する状況を見過ごしてしまうかもしれません。フォローアップのない介入は患者の不利益につながりかねません。どのような薬であっても、これらのプロセスを踏むことを減薬成功の鍵としてぜひ覚えておいてください! 高齢者への処方・減量の原則実際に高齢者へ処方を開始したり、減量・中止したりする際には、「Stand by, Start low, Go slow」3)に沿って進めます。Stand byまず様子をみる。不要な薬を開始しない。効果が見込めない薬を使い始めない。効果はあるが発現まで時間のかかる薬を使い始めない。Start lowより安全性が高い薬を少量、効果が期待できる最小量から使う。副作用が起こる確率が高い場合は、代替薬がないか確認する。Go slow増量する場合は、少しづつ、ゆっくりと。(*例外はあり)複数の薬を同時に開始/中止しない現場での実感として、1度に変更・増量・減量する薬は基本的に2剤以下に留めると介入の効果をモニタリングしやすく、安全に減量・中止または必要な調整が行えます。開始や増量、または中止を数日も待てない状況は意外に多くありませんから、焦らず時間をかけることもまたポイントです。つまり3つの原則は、薬を開始・増量するときにも有用です。ぜひ皆さんの診療に役立ててみてください! よりリアルな減薬のポイントはオンラインサロンでサロンでは、ふらつき・転倒・記憶力低下を主訴に来院した8剤併用中の78歳女性のケースを例に、クイズ形式で介入のポイントをディスカッションしています。高齢者によく処方される薬剤の副作用・副効果の解説に加えて、転倒につながりやすい処方の組み合わせや、アセトアミノフェンが効かないときに何を処方するのか?アメリカでの最先端をお話いただいています。参考1)Danijela Gnjidic,et al. J Clin Epidemiol. 2012;65(9):989-95.2)樋口雅也ほか.あめいろぐ高齢者診療. 33. 2020. 丸善出版3)The 4Ms of Age Friendly Healthcare Delivery: Medications#104/Geriatric Fast Fact.上記サイトはstart low, go slow を含めた老年医学のまとめサイトです。翻訳ソフトなど用いてぜひ参照してみてください。実はオリジナルは「start low, go slow」だけなのですが、どうしても「診断して治療する」=検査・処方に走ってしまいがちな医師としての自分への自戒を込めて、stand by を追加して、反射的に処方しないことを忘れないようにしています。

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腎盂腎炎に対する内服抗菌薬を極める~スイッチのタイミングなど~【とことん極める!腎盂腎炎】第7回

腎盂腎炎に対する内服抗菌薬を極める~スイッチのタイミングなど~Teaching point(1)抗菌薬投与前に必ず血液/ 尿塗抹・培養検査を提出する(2)単純性腎盂腎炎ではセフトリアキソンなどの単回注射薬を使用し、適切なタイミングで内服抗菌薬に変更する(3)複雑性腎盂腎炎では基本的には入院にて広域抗菌薬を使用する。外来で加療する場合は慎重に、下記のプロセスで加療を行う(4)副作用や薬物相互作用に注意し、適切な内服抗菌薬を使用しよう《今回の症例》78歳、男性。ADLは自立。既往に前立腺肥大症があり尿道カテーテルを留置されている。来院3日前から悪寒戦慄を伴う発熱と右腰背部痛があり当院を受診した。尿中白血球(5/1視野)と尿中細菌105/mLで白血球貪食像があり、訪問看護師からの「尿道カテーテルをしばしば担ぎあげてしまっていた」という情報と併せ、カテーテル関連の腎盂腎炎と診断した。来院時、発熱に伴うふらつき・食思不振がみられたため入院加療とした。尿中のグラム染色とカテーテル留置の背景からSPACE(S:Serratia属、Pseudomonas aeruginosa[緑膿菌]、Acinetobacter属、Citrobacter属、Enterobacter属)などの耐性菌を考慮し、ピペラシリン/タゾバクタム1回4.5gを6時間ごとの経静脈投与を開始し、経過は良好であった。その後、尿培養と血液培養から緑膿菌が検出された。廃用予防のため早期退院の方針を立て、内服抗菌薬への切り替えを検討していた。また入院3日目に嚥下機能を確認したところ嚥下機能が低下していることが判明した。はじめに本項では腎盂腎炎の内服抗菌薬への変更のタイミングや嚥下機能や菌種による選択薬のポイントや副作用などについて述べる。まずひと口に腎盂腎炎といっても、単純性腎盂腎炎と複雑性腎盂腎炎では選択するべき抗菌薬や対応は異なる。 1.単純性腎盂腎炎単純性腎盂腎炎において、(1)ショックバイタルでない、(2)敗血症でない、(3)嘔気や嘔吐がない、(4)脱水症の徴候が認められない、(5)免疫機能を低下させる疾患(悪性腫瘍、糖尿病、免疫抑制薬使用、HIV感染症など)が存在しない、(6)意識障害や錯乱などがみられない、のすべてを満たせば外来での治癒が可能である1)。単純性腎盂腎炎の原因菌はグラム陰性桿菌が約80%を占め、そのうち大腸菌(Escherichia coli)が90%である。そのほかKlebsiella属やProteus属が一般的であることからエンピリックにセフトリアキソンによる静脈投与を行う。その後、治療開始後に静注抗菌薬から経口抗菌薬へのスイッチを考慮する場合、従来からよく知られた指標としてCOMS criteriaがある(表1)。画像を拡大する2.複雑性腎盂腎炎冒頭の症例も当てはまるが、複雑性腎盂腎炎は、尿路の解剖学的・機能学的問題(尿路狭窄・閉鎖、嚢胞、排尿障害、カテーテル)や全身の基礎疾患をもつ尿路感染症である。一番の問題としては再発・再燃を繰り返し、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、Enterobacter属、Serratia属、Citrobacter属、腸球菌(Enterococcus属)などの耐性菌が分離される頻度が増えることである。そのため単純性のように単純にセフトリアキソン単剤→内服スイッチともいかないのが厄介な点である。この罠にはまらないためには、必ず尿塗抹・培養検査を提出しグラム染色を確認することが大切である。基本的には全例入院で加療することが推奨されているが、全身状態良好でかつグラム陰性桿菌が起因菌とわかった際には周囲に見守れる人の確認(高齢者の場合)や連日通院することを約束しセフトリアキソンを投与し、培養結果と全身状態が改善したことを確認して内服抗菌薬を処方する2)。この場合も合計14日間の投与期間が推奨されている1)。なお、複雑性腎盂腎炎を外来加療することはリスクが高く、入院加療が理想である。【内服抗菌薬の使い分け】いずれにせよ培養の結果がKeyとなるが、一般的な内服抗菌薬は以下が推奨されている。処方例3,4)(1)ST合剤(商品名:バクタ)1回2錠を12時間ごとに内服(2)セファレキシン(同:ケフレックス)1回500mgを6〜8時間ごとに内服(3)シプロフロキサシン(同:シプロキサン)1回300mgを12時間ごとに内服(4)レボフロキサシン(同:クラビット)1回500mgを24時間ごとに内服腎機能に合わせた投与量や注意事項など表2に示す。なお、腎機能はeGFRではなくクレアチニンクリアランスを使用し評価する必要がある。画像を拡大する治療期間は一般に5〜14日間であり、選択する抗菌薬による。キノロン系は5〜7日間、ST合剤は7〜10日間、βラクタム系抗菌薬は10〜14日間の投与が勧められている2)。各施設や地域の感受性パターンに基づいて抗菌薬を選択することも大切である。筆者の所属施設では、単純性の腎盂腎炎の内服への切り替えは大腸菌のキノロン系への耐性が20%を超えていることから、セファレキシンやST合剤を選択することが多い。【各薬剤の特徴】<ST合剤>バイオアベイラビリティも良好で腎盂腎炎の起因菌を広くカバーする使いやすい薬剤である。ただし最近では耐性化も進んできており培養結果を確認することは重要である。また消化器症状、皮疹、高カリウム血症、腎機能障害、汎血球減少など比較的副作用が多いため注意して使用する5)。とくに65歳以上の高齢患者では高カリウム血症と腎不全をより来しやすいと報告されており経過中に血液検査で評価する必要がある6)。簡易懸濁も可能なため、嚥下機能低下時や胃ろう造設されている患者でも投与可能である。妊婦への投与は禁忌である。<セファレキシン>第1世代セフェム系抗菌薬であるセファレキシンは、一部の大腸菌などの腸内細菌に耐性の場合があるため、起因菌や感受性の結果を確認することが重要である。また一般的には長時間作用型の静注薬であるセフトリアキソンを初めの1回使用したうえで、セファレキシンを用いることが推奨されている。なお第2世代セフェム系内服抗菌薬であるセファクロル(商品名:ケフラール)はアレルギーの頻度が多いため推奨されていない。第3世代セフェム系抗菌薬(同:メイアクトMS、フロモックス)は、わが国ではさまざまな場面で使用されてきたが、バイオアベイラビリティの関係で処方しないほうがよい。ペニシリン系では、βラクタマーゼ阻害薬配合であれば使用可能とされている。日本のβラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリン(同:オーグメンチン)はペニシリン含有量が少なく、アモキシシリン(同:サワシリン)と併用し、サワシリン250mg+オーグメンチン375mgを8時間ごとに投与することが推奨されている。<ニューキノロン系>シプロフロキサシン、レボフロキサシンなどのニューキノロン系については、施設における大腸菌のニューキノロン耐性が10%以下の際は経験的治療として投与が可能とされている。また大腸菌以外に緑膿菌にも効果があることが最大の利点であるため、耐性獲得の点からはなるべく最低限の使用を心がけ、温存することが推奨される。副作用としてQT延長、消化器症状、アキレス腱断裂、血糖異常がある。相互作用として、NSAIDsやテオフィリン(とシプロフロキサシン)との併用で痙攣発作を誘発する7)。妊婦への投与は禁忌である。レボフロキサシンはOD錠があるため、嚥下機能が低下している高齢者にも使いやすい。細粒もあるが、経管栄養では溶けにくいため細粒ではなく錠剤を粉砕する方が望ましい。<ESBL産生菌>extended spectrum β-lactamases(ESBL)産生菌に対する経口抗菌薬としてST合剤やホスホマイシンが知られている。ST合剤は感受性があれば使用可能であり、カルバペネム系抗菌薬に治療効果が劣らず、入院期間の短縮、合併症の減少、医療コストの削減が期待できるとの報告がある8)。ホスホマイシンは、海外では有効性が示されているものの、国内で承認されている経口薬はfosfomycin calciumだが、海外で用いられているのはfosfomycin trometamolであるため注意を要する。fosfomycin trometamolのバイオアベイラビリティは42.3%だがfosfomycin calciumのバイオアベイラビリティは12%にすぎない。近年耐性菌が増加するなかで他剤と作用機序の異なる本剤が見直されてきてはいるが、国内で有効性が示されているのは単純性の膀胱炎のみである7,9)。腎盂腎炎に対する有効性は現在研究中であり、現時点では他剤が使用できない軽症膀胱炎、腎盂腎炎に使用を限定するべきである。《今回の症例のその後》尿培養から検出された緑膿菌はレボフロキサシンへの感性が良好であった。心電図にてQT延長がないことを確認し、入院5日目に全身状態良好で発熱など改善傾向であったことから、レボフロキサシンOD錠1回250mgを24時間ごと(腎機能低下あり、用量調節を要した)の内服へ切り替え同日退院し再発なく経過している。1)山本 新吾 ほか:JAID/JSC感染症治療ガイドライン2015 ─ 尿路感染症・男性性器感染症─. 日化療会誌. 2016;64:1-30.2)Johnson JR, Russo TA. N Engl J Med. 2018;378:48-59.3)Hernee J, et al. Am Fam Physician. 2020;102:173-180.4)Gupta K, Trautner B. Ann Intern Med. 2012;156:ITC3-1-ITC3-15, quiz:ITC3-16.5)Takenaka D, Nishizawa T. BMJ Case Rep. 2020;13:e238255.6)Crellin E, et al. BMJ. 2018;360:k341.7)青木 眞 著. レジデントのための感染症診療マニュアル 第4版. 医学書院. 2020.8)Shi HJ, et al. Infect Drug Resist. 2021;14:3589-3597.9)Matsumoto T, et al. J infect Chemother. 2011;17:80-86.

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がん疼痛に対するNSAIDsとアセトアミノフェン【非専門医のための緩和ケアTips】第83回

がん疼痛に対するNSAIDsとアセトアミノフェンがん疼痛の薬剤といえばオピオイドが真っ先に浮かびますが、NSAIDsとアセトアミノフェンも重要な鎮痛薬です。ではこの2つの鎮痛薬、どのように使い分けると良いのでしょうか? 似ているようで異なる2剤の使い分けについて考えてみます。今回の質問がん疼痛に対する非オピオイド薬鎮痛薬として重宝するNSAIDsとアセトアミノフェンですが、どのように使い分ければいいのでしょうか? 鎮痛効果はNSAIDsのほうが強いイメージがありますが、消化管出血などの副作用が心配です…。軽度~中等度のがん疼痛に対して推奨されるこの2剤ですが、根拠に基づいた使い分けをしていない方も多いようです。まずは、それぞれの薬理作用を復習してみましょう。NSAIDsは、炎症や疼痛に関与するプロスタグランジンの合成酵素であるCOXを阻害する薬剤です。鎮痛作用だけでなく、抗炎症作用も期待できます。一方で、腎障害、心血管、胃粘膜障害などの副作用があります。COXにはいくつかの種類があり、その選択性によって副作用の頻度が異なります。緩和ケア領域では症状緩和のために処方した薬剤で副作用が出ることは避けたいので、胃腸障害などの副作用がNSAIDsに比べて少ないCOX-2阻害薬を使用することが多い印象です。アセトアミノフェンは抗炎症効果がほとんど期待できない一方で、中枢性のCOX阻害により鎮痛効果を発揮します。また、下行性疼痛抑制系の活性化作用もあるとする報告も見られるようになりました1)。解熱薬としてもよく処方されるアセトアミノフェンですが、鎮痛薬として使用する際は投与量を注意しましょう。1日600〜800mg程度で解熱作用が期待されるのですが、鎮痛作用を期待する際はさらに投与量を増やす必要があります。1回500〜1,000mg、1日最大で4,000mgまで増量が認められています。主だった副作用に肝障害があり、肝機能に合わせた投与量調整が必要です。アセトアミノフェンで鎮痛を試みる際は、安全な範囲で十分量を使用することが大切です。さて、この2剤の使い分けですが、私自身は高齢のがん患者さんを診療することが多いため、アセトアミノフェンを優先して処方するケースが多いです。元々腎機能が悪い場合や心不全を懸念する患者に対しては、NSAIDsは避けることが多いです。一方、がん性腹膜炎や骨転移の痛みに対してはNSAIDsの有効性が知られているため、副作用が許容できる場合は積極的に使います。また、NSAIDsが使用しにくい状況であれば、ステロイドも選択肢となります。というわけで、アセトアミノフェンを処方することの多い私ですが、ここで注意すべき「落とし穴」があります。それは患者さんが知らないあいだにアセトアミノフェンが含まれる総合感冒薬などを服用し、過量投与になることがある点です。広く使いやすい薬剤だからこそ、知らないうちに過剰に内服していないかを確認する必要があるのです。今回のTips今回のTipsNSAIDsとアセトアミノフェンのそれぞれの特徴を理解し使い分けよう。1)Ayoub SS. Temperature(Austin). 2021;8:351-371.

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片頭痛の予防薬は薬物乱用頭痛も減らす?

 慢性片頭痛に苦しんでいる人は、鎮痛薬を飲み過ぎると薬物乱用頭痛に襲われるという悪循環に陥ることがある。こうした中、片頭痛の予防薬として広く使用されているカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)受容体拮抗薬のatogepant(商品名Qulipta、日本国内未承認)が、薬物乱用頭痛の回避にも役立つ可能性のあることが、英キングス・カレッジ・ロンドン(KCL)のPeter Goadsby氏らの研究で示された。CGRPは、片頭痛を誘発するタンパク質の1つである。この研究の詳細は、「Neurology」に6月26日掲載された。 慢性片頭痛とは、頭痛が月に15日以上の頻度で起こり、そのうち8日以上が片頭痛の診断基準を満たしている状態と定義されている。今回の研究には、755人の慢性片頭痛患者が参加した。参加者の平均的な1カ月当たりの片頭痛の日数は18.6~19.2日、頭痛薬の使用日数は14.5~15.5日だった。また、頭痛薬の使用歴について報告があった参加者の3分の2に当たる500人(66.2%)が頭痛薬の使用過多の基準を満たしていた。この基準は、頭痛薬の種類がアスピリンやアセトアミノフェン、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の場合は月に15日以上、トリプタン製剤やエルゴタミン製剤の場合は月に10日以上、複数の頭痛薬を併用した場合は月に10日以上使用した場合と定義された。 参加者は12週間にわたって、1)atogepant 30mgを1日2回、2)atogepant 60mgを1日1回、3)プラセボを摂取する群のいずれかにランダムに割り付けられた。 その結果、頭痛薬使用過多の基準を満たしていた患者のうち、プラセボを使用していた群と比べてatogepant 30mg群では1カ月当たりの片頭痛日数が約3日少なく(最小二乗平均の差−2.7日)、頭痛日数も約3日少なかった(同−2.8)。また、atogepant 60mg群では、プラセボ群と比べて片頭痛日数が約2日少なく(同−1.9)、頭痛日数も約2日少なかった(同−2.1)。Goadsby氏らによると、頭痛薬使用過多の基準を満たしていなかった研究参加者においても、同様の結果が示されたという。 さらに、頭痛薬使用過多の基準を満たしていた患者のうち、1カ月当たりの片頭痛の平均日数が50%以上減少した患者の割合は、プラセボ群の24.9%に対してatogepant 30mg群では44.7%、atogepant 60mg群では41.8%であることも示された。このほか、頭痛薬使用過多の基準を満たした患者の割合も、atogepant 30mg群では61.9%、atogepant 60mg群では52.1%減少したのに対し、プラセボ群では38.3%の減少にとどまっていた。 Goadsby氏は、「片頭痛持ちの人は、衰弱性の症状となることの多い頭痛を抑えるために鎮痛薬を多用する傾向がある。しかし、薬の使い過ぎは薬物乱用頭痛と呼ばれる頭痛を引き起こす可能性があるため、予防的な治療が必要だ」と言う。そして、「この結果に基づけば、atogepantによる治療は頭痛薬の使用量を減らし、薬物乱用頭痛の発生リスクを低下させ得ると考えられる。このことは、片頭痛を抱える人の生活の質(QOL)の向上をもたらす可能性がある」と「Neurology」のニュースリリースの中で述べている。ただし、今後、atogepantの有効性と安全性を評価するためのさらなる研究が必要である。 またGoadsby氏らは、今回の研究の限界として、頭痛や頭痛薬使用の状況が研究参加者の自己報告に基づいているため、報告が正確でない可能性も考えられることを挙げている。なお、この研究はatogepantを製造しているAbbVie社の資金提供により実施された。

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最初の数分で患者の情報を系統立てて収集する【こんなときどうする?高齢者診療】第2回

外来で1人の患者に割ける診察時間は何分ありますか?今回は限られた時間の中で高齢者の健康問題の情報を効率的に得る方法「DEEP-IN」を紹介します。こんな場面を想定してみてください。90歳男性。独居。既往歴は安定した高血圧と糖尿病。前医の退職に伴い、新しいかかりつけ医を求めて新規患者枠で外来にやってきました。診察に使える時間は5分です。高齢者診療の原則は「老年症候群があるという前提で診療する」ことです。患者の老年症候群を把握すると、疾患の治療だけでなく、同時にQOL/ADLの維持・向上への次の一手を考えることができるようになります。包括的高齢者アセスメント(Comprehensive Geriatric Assessment ; CGA)は優れたツールですが、まとまった時間を十分にとることのできない外来で使うのはあまり現実的ではありません。そこで短時間で高齢者アセスメントができる型、簡易高齢者アセスメントを活用してみてはいかがでしょうか。簡易高齢者アセスメントの型は、高齢者にコモンに生じる項目の頭文字をとり「DEEP-IN」と覚えます。順番にDementia, Depression, Delirium, Drugs(認知機能、抑うつ、せん妄、服薬状況)、Eye(視力)、Ear(聴力)、Physical function・Fall(身体機能、転倒)、Incontinence(失禁)、Nutrition(栄養状態)です。この型は、短時間で高齢者の診療とケアに必要な情報が得られるよう、とくに「身体・認知機能」と日々の自立生活に必要な項目に注目して設計されています。DEEP-INで患者の情報を効率的に収集する各項目でどのようなことを聞くか、例をみてみましょう。D(認知機能)診察当日の曜日や家族・お孫さんの名前や年齢。これらで大まかな認知能力をアセスメントできます。E&E(視力・聴力)眼鏡や補聴器の使用有無だけでなく、テレビや電話が使いにくくなっていないか、と日々の生活からも情報を収集することができます。P(身体機能)毎日の生活で○○するのが難しい、不安、ということはないか。例えば着替えや洗濯、買い物などです。独居であれば入浴について聞くのがおすすめです!衣服の着脱、浴槽をまたぐ、水・お湯の温度を設定するなど、複雑な動作が数多く含まれている入浴という行為。これに問題や不安がなければ、ほかの日常生活動作も大丈夫というアセスメントも可能でしょう。I(失禁)多くの高齢者の方が悩まれている失禁ですが、これまで一度も聞かれたことがない、ということも珍しくありません。血圧が心配で来たのに、「尿失禁」について急に聞かれると驚く方もいます。デリケートな話題なので聞き方には配慮しましょう。「○○さんのお年になると悩む方も多いのですが」といった一言を添えると答えやすくなります。N(栄養状態)衣服やベルトのサイズ変化、1年間の体重変化や食事内容などが聞けるとGoodです!さて、DEEP-INの型を使って問診したところ、次のような情報が得られました。90歳男性。独居。安定した高血圧と糖尿病D:今日の曜日が言える。孫の名前と年齢を覚えている。しかし服薬記憶はあいまい。お薬手帳は所持。服用している薬の中に、副作用リスクが高い薬がある(NSAIDs、ベンゾジアゼピン、抗ヒスタミン薬が配合された総合感冒薬、抗アレルギー薬を常用)、複数の保険薬局を使用している。E&E:眼鏡と補聴器が欠かせない。眼鏡は2焦点レンズ1)。補聴器は耳掛け式。P:ADLはほぼ自立しているものの、入浴時に転倒の不安がある。直近12ヵ月で転倒歴はない。しかし外出時は杖を使用。I:尿便失禁なし。夜間頻尿もなし。N:1年で5kgの体重減少(これまで誰にも相談したことはない)。ベルトサイズ、時計のバンドサイズの変化、食欲低下あり。いかがでしょうか。「高血圧症、糖尿病」と疾患名だけでは焦点が定まっていなかった患者像の解像度がグッと高くなったと思いませんか?これだけの情報が得られれば、高血圧と糖尿病への処方だけでなく、自立した生活・QOLを向上させるような健康増進介入も可能です。今回は転倒リスクに注目してみましょう。赤字の項目すべてが転倒リスクにつながるため、介入策はないか考えてみましょう。介入の方法としては、(1)転倒につながる副作用がある薬剤の減薬・中止を検討する(2)視力検査と単焦点レンズの眼鏡への変更の2点は比較的簡単にできるのでは、と考えます。2焦点レンズの眼鏡の下部は近距離用に焦点があわせてあるため、足元を見たときに視界がぼやけて遠近感がつかみにくいため転倒のリスクが高まります。単焦点眼鏡への変更を提案してもいいでしょう。1回の問診で網羅できなくても、すべての健康問題を解決できないとしても、焦る必要はありません。これらの項目はさまざまな医療職の方でも情報収集が可能で、医師よりも聞きやすい、聞きなれていることも多いのではないでしょうか。例えば看護師の方に失禁に関して聞いていただくなど、ぜひチームで役割分担、情報共有してみてください。患者の日々の生活が鮮明に想像できるようになります。本人から情報を得られないときは?高齢者の診療においては、患者本人から情報が得られない状況によく遭遇します。その際は、身体診察から情報を得る、年齢・性別といった疫学的視点から頻度の高い症状・徴候を推測してみましょう。これは老年症候群を知っておくことにほかなりません! 医師で在宅医療に携わるサロンメンバーは、患者本人から情報が得られないときには「●歳をすぎたら、突然具合が悪くなって救急車に乗ることがあるかもしれません。そうなったときにすぐに対処できるように、子どもさんにお薬や治療のことを知ってもらっているんですよ」と声掛けをして、家族の同席を促すそうです。身内がいない方であれば地域包括支援センターとの連携を促すなど、どんな形であっても第3者の目を入れることがポイントです。この声掛けには老年医学で大切にしている、高齢者へのかかわり方のコツが詰まっています。1つめはノーマライゼーション。「●歳を過ぎたら皆さんそうしていますよ」と患者と同年代の人の多くがそうしていると伝えると心理的ハードルが下がります。2つめは「救急車に乗るかもしれない」という言い方で、予後予測を共有していること。患者と予後予測を共有するのは非常に重要ですが、受け入れがたい方が多い話題でもあります。このケースは今すぐに起こることではないが起こってもおかしくない話なので、患者が恐れを持ちづらいのがポイントです。そして最後に、「子どもさんに知ってもらっているんですよ」という締め方。どうしますか?と患者に選択させるのではなく、医療者としてのお勧めをデフォルトで提示すること。これで患者の意思決定ストレスを減らしています。いずれも患者に恥ずかしさや恐怖を与えない配慮が素晴らしいです。これらは高齢者にかかわるときあらゆる場面で役に立ちます。DEEP-INとともにぜひ診療で使ってみてください!参考1)多焦点レンズの使用は遠近感や周囲視野の視力を低下させ、転倒のリスク上昇と関連するといわれている。Lord SR,et al. J Am Geriatr Soc. 2002 Nov;50(11):1760-1766.

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第214回 マダニ媒介感染症治療薬が承認!それは新型コロナで苦戦した“あの薬”

久しぶりにあの薬の名前を聞いた。抗インフルエンザウイルス薬のファビピラビル(商品名:アビガン)のことである。本連載ではコロナ禍中にこの薬を核にした記事は2回執筆(第7回、第44回)し、そのほかの記事でも何度か触れたことがある。当時は新型コロナウイルス感染症に対してこの薬が有効ではないかと騒がれ、しかも一部報道やSNS上で過剰な期待が喧伝されていたため、それに苦言を呈する内容になったが、医療従事者内ではご承知の通り、結局、有効性が示されずに消え去る形となった。そのファビピラビルが5月24日に開催された厚生労働省の薬事審議会・医薬品第二部会で「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)ウイルス感染症」を適応とする効能追加の承認が了承されたのだ。マダニに咬まれて感染、SFTSウイルス感染症とは一部にはSFTSウイルス感染症自体が聞き慣れない人もいるかもしれない。今回承認が了承された適応症のSFTSウイルス感染症はSFTSウイルスを保有するマダニ類に咬まれることで起こるダニ媒介感染症の1種である。6~14日の潜伏期間を経て38℃以上の発熱、吐き気・嘔吐、腹痛、下痢、下血などの出血症状、ときに神経症状、リンパ節腫脹なども伴う。臨床検査値では病名の通り、血小板減少(10万/mm2未満)をはじめ、白血球減少、AST、ALT、LDHの上昇などが認められる。致死率は10~30%程度というかなり恐ろしい感染症1)だ。もともとは2009年に中国の湖北省(ちなみに新型コロナウイルス感染症が初めて確認された武漢市は同省の省都)、河南省で謎の感染症らしき患者が多数発生し、中国疾病予防管理センター(中国CDC)が2011年にSFTSウイルスを同定した。日本では2013年に山口県で初めて確認され(患者は死亡)、この直後のレトロスペクティブな調査から2005年以降それまでに別の10例の存在が確認された(うち5例が死亡)2)。現在SFTSウイルス感染症は感染症法で4類感染症に分類され、初めて患者が確認された2013年は年間40例だったが、それ以降の報告数は年々増加傾向をたどり、最新の2023年は132例と過去最多だった。2013年以降の2023年までの累計報告数は942例で、うち死亡は101例。累計の致死率は10.7%。ただし、この致死率は見かけ上の数字である。というのもこの死亡例の数字は感染症法に基づく届け出時点までに死亡が確認されている例のみだからだ。国立感染症研究所などが中心となって2014年9月~2017年10月までのSFTS患者を報告した事例のうち、予後の追跡調査が可能だった事例では致死率27%との結果が明らかになっている。これまでの患者報告は、東は東京都から南は沖縄県まで30都県に及んでいるが、推定感染地域はこのうち28県で西日本に偏在しているのが特徴だ。西日本(近畿・中国・四国・九州)内でこれまで患者報告がないのは奈良県のみである。ただし、東日本での患者報告数は少ないものの、マダニ類が吸血する野生の哺乳類ではSFTS抗体陽性の個体も見つかっており、単に診断漏れになっている可能性がある。そもそも近年、国内でSFTS患者が増えている背景には、昨今のクマ出没の急増と同じく、マダニ類が吸血するシカやイノシシなどの野生の哺乳類が人家周辺まで生息域を広げたことが影響しているとの指摘は少なくない。こうした動物に接する機会が多い獣医療従事者では、動物のケアなどから感染した疑いがある報告例は11例あり、また愛玩動物である犬、猫がSFTSに感染し、そこから人への感染事例もある。ちなみに犬、猫から感染が確認された世界初の症例は、2017年に西日本で野良猫に咬まれ、SFTS発症後に死亡した日本での症例である。また、極めてまれだがSFTS患者の体液を通じて人から人へ感染する事例もあり、日本国内ではこの4月に初めてこうした症例が報告されたばかりだ。さてSFTSに関しては「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)診療の手引き 改定新版2019」が厚生労働省より発刊されている。現時点でSFTS感染症のワクチンはなく、これまでの治療も基本は発熱・頭痛・筋肉痛にはアセトアミノフェン(病態そのものに出血傾向があるためアスピリンやNSAIDsは使わない)、悪心・嘔吐には制吐薬、下痢にはロペラミド、消化管出血には輸血療法などの対症療法しかなかった。過去に中国ではウイルス性肝炎治療に使用する抗ウイルス薬であるリバビリンが使用されたことがあったが、1日500mgの低用量では致死率を下げないと考えられた3)ことから、前述の手引きでも推奨されていない。そうした中でSFTSウイルス感染マウスでより高い効果が示されていたのがファビピラビルである。ファビピラビル、承認までの紆余曲折これに対する企業治験が行われて今回晴れて承認となったわけだが、これが実は一筋縄ではいかなかったのが現実だ。そもそも前述したこの感染症の特徴を考慮すればわかるように、患者は突発的に発生するものであり、かつ致死率は高い。結局、製造販売元である富士フイルム富山化学が行った第III相試験は、多施設共同ながらも非盲検の既存比較対照試験、いわゆる従来の対症療法での自然経過の致死率との比較にならざるを得なかった。実質的には単群試験である。たとえ患者数が確保されたとしても、致死率の高さを考えれば対症療法の比較対照群を設定できたかどうかは微妙だ。そして今回の承認了承に先立つ5月9日の医薬品第二部会での審議では、「有効性が示されていると明確には言えない」として一旦は継続審議になった。これは第III相試験の結果から得られた致死率が15.8%で、事前に臨床試験の閾値とされた致死率12.5%を超えてしまったためである。ただ、現実の致死率よりもこれが低い可能性があるとして、再度検討した結果、既存論文などの情報も含めたメタアナリシスで得られたSFTSウイルス感染症の致死率が21~25%程度だったこと、それに加えて富士フイルム富山化学側が市販後臨床試験でウイルスゲノム量の評価で有効性を確認することを提案したため、承認了承となった。ちなみにこれに先立ってSFTSウイルス感染症に対してファビピラビルを投与した愛媛大学を中心に行われた医師主導治験での致死率は17.3%。こちらも前述のメタアナリシスよりは低率である。そしてファビピラビルと言えば、抗インフルエンザ薬として承認を受けた際に催奇形性を有する薬剤であることが問題になり、「厚生労働大臣の要請がない限りは、製造販売を行わないこと」といった前代未聞の条件が付いたことはよく知られている。承認されたが市中在庫はない異例の薬剤だった。しかし、今回のSFTSウイルス感染症については、▽原則入院管理下のみで投与▽原則患者発生後に納入▽研修を受けた登録医師のみで処方可能、という条件のもとにこの「大臣要請のみ」で製造という条件は緩和された。あるけどない謎の抗インフルエンザ薬。期待のみで終わった新型コロナ治療薬という苦難を経て、ファビピラビルが復活の兆しを見せるのか。個人的にはひそかに注目している。参考1)厚生労働省:重症熱性血小板減少症候群(SFTS)について2)Takahashi T, et al. J Infect Dis. 2014;209:816-827.3)Liu W, et al. Clin Infect Dis. 2013;57:1292-1299.

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世界初、「塗る」アレルギー性結膜炎治療薬が登場/参天

 参天製薬などは、5月22日、持続性・経眼瞼アレルギー性結膜炎治療剤「アレジオン眼瞼クリーム0.5%」(一般名:エピナスチン塩酸塩、以下アレジオンクリーム)の発売を開始したと発表した。塗布するクリームタイプのアレルギー性結膜炎治療薬は世界初となる。 国内で無症状期のアレルギー性結膜炎患者を対象として行われた第III相試験(プラセボ対照無作為化二重盲検比較試験)では、アレルギー性結膜炎の主症状である眼そう痒感スコアおよび結膜充血スコアにおいて、アレジオンクリームのプラセボ眼瞼クリームに対する優越性が検証された。また、長期投与試験において認められた副作用は眼瞼そう痒症1.6%(2/124例)および眼瞼紅斑0.8%(1/124例)で、重篤な副作用は認められなかった。 現在、アレルギー性結膜炎に対しては同社の「アレジオン点眼液」をはじめとするヒスタミンH1受容体拮抗薬の点眼薬が広く処方されているが、1日2回または4回の点眼が必要となる。アレジオンクリームは1日1回の塗布で終日にわたって有効性を維持でき、点眼が困難な患者でも容易かつ適切に投与しやすいことが特長で、アレジオン点眼薬と同様にコンタクトレンズ装着時にも使用できる。 従来の点眼薬との使い分けについて参天製薬は「アレジオンクリームは患者さんの投薬負担の軽減が期待でき、服薬コンプライアンス、QOL向上にも貢献できると考えている。新規治療だけでなく、点眼薬で治療中の患者さんの置き換えも視野に入れている」とする。また、点眼薬とアレジオンクリームの併用については、「臨床試験では他剤の併用例はなく、他剤と併用した場合の効果や安全性は現時点では不明だが、日本眼科学会の『アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン』では、抗アレルギー点眼薬だけでは効果不十分な場合には、ステロイド点眼薬、NSAIDs点眼薬の併用、また花粉など抗原に対するセルフケアとして洗眼薬の使用が勧められていることから、そうした治療薬との併用が必要な場合もあると考える。一方で、同ガイドラインに抗アレルギー点眼薬同士の併用を推奨する記載はなく、アレジオンクリームは前例がない剤形であることからも、追加薬剤としての抗アレルギー点眼薬との併用治療の考え方などは現状では不明である」としている。製品概要製品名:アレジオン眼瞼クリーム 0.5%一般名:エピナスチン塩酸塩性状:白色~淡黄白色のクリーム剤効能・効果:アレルギー性結膜炎用法・用量:通常、適量を1日1回上下眼瞼に塗布する貯法:室温保存包装:2gチューブ入×10本薬価:1,686.7円/g保険給付上の注意:なし発売日:2024年5月22日

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小林製薬サプリ摂取者、経過観察で注意すべき検査項目・フォローの目安

 小林製薬が販売する機能性表示食品のサプリメント『紅麹コレステヘルプ(以下、サプリ)』による腎機能障害の発生が明らかとなってから約2週間が経過した。先生の下にも本サプリに関する相談が寄せられているだろうか。日本腎臓学会が独自で行った本サプリと腎障害の関連について調査したアンケートの中間報告1)から、少しずつサプリ摂取患者の臨床像が明らかになってきている。 そこで今回、日本腎臓学会副理事長である猪阪 善隆氏(大阪大学大学院医学系研究科腎臓内科学 教授)に、摂取患者を診療する際に注意すべき点、患者から相談を受けた場合の対応について緊急取材した。猪阪氏は全国の医師に対し、「医師が診療する際に注意すべき点として、電解質異常や腎機能障害が改善されない症例は専門医へ紹介してほしい。また、患者に対して、“過度な心配は不要”であることを伝えてほしい」と呼び掛ける。その理由は―。Fanconi(ファンコニー)症候群 日本腎臓学会のアンケート中間報告によると、今回報告された症例の多くにFanconi症候群を疑う所見が目立っていたと示唆されている。このFanconi症候群とは、腎臓専門医でも診療経験を有する医師は少ない、比較的まれな疾患だという。本疾患の概要を以下に示す。◆疾患概念・定義:近位尿細管の全般性溶質輸送機能障害により、本来近位尿細管で再吸収される物質が尿中への過度の喪失を来す疾患群で、ブドウ糖(グルコース)、重炭酸塩、リン、尿酸、カリウム、一部のアミノ酸などの溶質再吸収が障害され、その結果として代謝性アシドーシス、電解質異常、脱水、くる病などを呈する2)。◆原因:原因は多岐にわたり、発症年齢も乳児期から成人と多様。先天性のものではDent病、ミトコンドリア脳筋症をはじめ、原因不明の症例が国内では多く、後天性(二次性)のものとしては悪性腫瘍やネフローゼ症候群のほか、一部の抗腫瘍薬(シスプラチンなど)、バルプロ酸、抗ウイルス薬などの薬剤の使用が起因している2)。近年ではNSAIDsによる報告もみられる。◆主な症状:代謝性アシドーシスの特徴ともいえる疲労や頭痛のほか、筋力低下や骨の痛みなど。 猪阪氏は本病態とアンケートの中間報告を総合し、「今回寄せられた症例の場合、1/4の患者にステロイドが使用されていた。今回は専門医による対応であったことから、間質性腎炎の診断・治療に準じて腎生検を行い、炎症レベルを考慮しての治療であった。一般内科の医師の場合には、まず被疑薬の中止を行い、注意深く経過観察を続けてもらいたい」と治療方法について説明した。中間報告後に明らかになった電解質異常 上述したFanconi症候群のような所見を疑うには、日常診療で行っている尿検査や生化学検査、血液学検査をオーダーするなかで、電解質の項目に注意を払う必要があると同氏は強調した。「集まった症例をみると電解質異常が多くみられた。カリウム(K)値は本疾患においても低K血症による不整脈発症の観点から重要ではあるが、今回とくに注意が必要なのは、一般的な血液検査に含まれないリン(P)や重炭酸イオン(HCO3-)の変化」と同氏は話した。その理由として「ナトリウム(Na)値やK値は日頃から注意すべき項目として目が行きがちだが、血清P値や血液ガス分析によるHCO3-濃度の測定は、非専門科では日常的に行う検査ではないので、ぜひ意識してオーダーし、経過を診ていただきたい」と述べ、「サプリの摂取を中止しても代謝性アシドーシスの状態が続いている場合もあるため、その場合には専門医の診断が必要」と説明した。また、「電解質異常がどこまで完全に回復してくるのかは今後の検証が待たれる」ともコメントした。電解質異常が残るような症例は専門医へ 専門医へ紹介するタイミングについて、同氏は「本サプリの問題が報道される前の時点では、腹痛などの症状を訴える→症状に応じた検査を実施→問診でサプリ摂取が判明→腎機能検査という診断の流れもあったようだ。しかし、今はサプリの影響が強く疑われ、すでに不安を抱えた患者さんは一通り受診を終えられているかと思う」と前置きをしたうえで、「被疑薬を中止した場合、約2週間で改善する傾向にある。中止したことで腎機能の改善がみられる場合は、そのままかかりつけ医での経過観察で問題ないため、正常値まで改善するのをフォローしてほしい。しかし、腎機能が十分改善しない場合や、上述のとおり電解質異常が残る場合には、早めに専門医へ紹介してほしい。また、症状が重症と考えられる患者についても同様」と紹介すべき患者の見極め方を説明した。 このほか、アンケート結果では尿の異常として血尿が報告されているが、これについては「サプリ摂取による腎障害が原因で生じたものではなく、潜在的にあった原疾患による可能性も考えられる」と説明した。また、本サプリを服用して来院した患者であっても、それ以外のサプリや薬剤を服用している可能性の高い患者も多いため、「原因をサプリに絞り込まずに鑑別していくことが必要」とも補足した。 なお、アンケート結果は5月に取りまとめて報告する予定であり、今年6月28~30日に横浜で開催される第67回日本腎臓学会学術総会でも緊急シンポジウムの開催が検討されている。

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第205回 アドレナリンを「打てない、打たない」医者たちを減らすには(後編) 「ここで使わなきゃいけない」というタイミングで適切に使えていないケースがある

インタビュー: 海老澤 元宏氏(国立病院機構相模原病院 臨床研究センター長)昨年11月8日掲載の、本連載「第186回 エピペンを打てない、打たない医師たち……愛西市コロナワクチン投与事故で感じた、地域の“かかりつけ医”たちの医学知識、診療レベルに対する不安」は、2023年に公開されたケアネットのコンテンツの中で最も読まれた記事でした。同記事が読まれた理由の一つには、この事故を他人事とは思えなかった医師が少なからずいたためと考えられます。そこで、前回に引き続き、この記事に関連して行った、日本アレルギー学会理事長である海老澤 元宏氏(国立病院機構相模原病院 臨床研究センター長)へのインタビューを掲載します。愛西市コロナワクチン投与事故の背景には何があったと考えられるのか、「エピペンを打てない、打たない医師たち」はなぜ存在するのか、「アナフィラキシーガイドライン2022」のポイントなどについて、海老澤氏にお聞きしました。(聞き手:萬田 桃)造影剤、抗がん剤、抗生物質製剤などなんでも起こり得る(前回からの続き)――「薬剤の場合にこうした呼吸器症状、循環器症状単独のアナフィラキシーが起こりやすく、かつ症状が進行するスピードも早い」とのことですが、どういった薬剤で起こりやすいですか。海老澤造影剤、抗がん剤、抗生物質製剤などなんでも起こり得ます。とくにIV (静脈注射)のケースでよく起こり得るので、呼吸器単独でも起こり得るという知識がないとアナフィラキシーを見逃し、アドレナリンの筋注の遅れにつながります。ちなみに、2015年10月1日〜17年9月30日の2年間に、医療事故調査・支援センターに報告された院内調査結果報告書476件のうち、死因をアナフィラキシーと確定または推定したのは12例で、誘引はすべて注射剤でした。造影剤4例、抗生物質製剤4例、筋弛緩剤2例などとなっていました。――病院でも死亡例があるのですね。海老澤IV(静脈注射)で起きたときは症状の進行がとても速く、時間的な余裕があまりないケースが多いです。また、心臓カテーテルで造影剤を投与している場合は動脈なので、もっと速い。薬剤ではないですが、ハチに刺されたときのアナフィラキシーも比較的進行が速いです。こうしたケースで致死的なアナフィラキシーが起こりやすいのです。2001~20年の厚労省の人口動態統計では、アナフィラキシーショックの死亡例は1,161例で、一番多かったのは医薬品で452例、次いでハチによる刺傷、いわゆるハチ毒で371例、3番目が食品で49例でした。そして、そもそもアナフィラキシーを見逃すことは致命的ですが、対応しても手遅れとなってしまうケースもあります。病院の救急部門などで治療する医師の中には、「ルートを取ってまず抗ヒスタミン薬やステロイドで様子を見よう」という方がまだいるようです。しかし、その過程で「ここでアドレナリンを使わなきゃいけない」というタイミングで適切に使えていないケースがあるのです。先程の死亡例の中にもそうしたケースがあります。点滴静注した後の経過観察が重要――いつでもどこでも起き得るということですね。医療機関として準備しておくことは。海老澤大規模な医療機関ではどこでもそうなっていると思いますが、たとえば当院では、アドレナリン注シリンジは病棟、外来、検査室、処置室などすべてに置いてあります。ただ、アドレナリンだけで軽快しないケースもあるので、その後の体制についても整えておく必要があります。加えて重要なのは、薬剤を点滴静注した後の経過観察です。抗がん剤、抗生物質、輸血などは処置後の10分、20分、30分という経過観察が重要なので、そこは怠らないようにしないといけません。ただ、処方薬の場合、自宅などで服用してアナフィラキシーが起こることになります。たとえば、NSAIDs過敏症の方がNSAIDを間違って服用するとアナフィラキシーが起こり、不幸な転帰となる場合があります。そうした点は、事前の患者さんや家族からのヒアリングに加えて、歯科も含めて医療機関間で患者さんの医療情報を共有することが今後の課題だと言えます。抗ヒスタミン薬とステロイド薬で何とか対応できると考えている医師も一定数いる――先ほど、「僕らの世代から上の医師だと、“心肺蘇生に使う薬”というイメージを抱いている方がまだまだ多い」と話されましたが、アナフィラキシーの場合、「最初からアドレナリン」が定着しているわけでもないのですね。海老澤アナフィラキシーという診断を下したらアドレナリン使っていくべきですが、たとえば皮膚粘膜の症状だけが最初に出てきたりすると、抗ヒスタミン薬をまず使って様子を見る、ということは私たちも時々やることです。もちろん、アドレナリンをきちんと用意したうえでのことですが。一方で、抗ヒスタミン薬とステロイド薬でアナフィラキシーを何とか対応できると考えている医師も、一定数いることは事実です。ルートを確保して、抗ヒスタミン薬とステロイド薬を投与して、なんとか治まったという経験があったりすると、すぐにアドレナリン打とうとは考えないかもしれません。PMDAの事例などを見ると、アナフィラキシーを起こした後、死亡に至るというのは数%程度です。そういった数字からも「すぐにアドレナリン」とならないのかもしれません。アナフィラキシーやアレルギーの診療に慣れている医師だと、「これはアドレナリンを打ったほうが患者さんは楽になるな」と判断して打っています。すごくきつい腹痛とか、皮膚症状が出て呼吸も苦しくなってきている時に打つと、すっと落ち着いていきますから。打てない、打たない医者たちを減らしていくには――打つタイミングで注意すべき点は。海老澤血圧が下がり始める前の段階で使わないと、1回で効果が出ないことがよくあります。「血圧がまだ下がってないからまだ打たない」と考える人もいますが、本来ならば血圧が下がる前にアドレナリンを使うべきだと思います。――「打ち切れない」ということでは、食物アレルギーの患者さんが所持している「エピペン」についても同様のことが指摘されていますね。海老澤文科省の2022年度「アレルギー疾患に関する調査」1)によれば、学校で子供がアナフィラキシーを発症した場合、学校職員がエピペン打ったというのは28.5%に留まっていました。一番多かったのは救急救命士で31.9%、自己注射は23.7%でした。やはり、打つのをためらうという状況は依然としてあるので、そのあたりの啓発、トレーニングはこれからも重要だと考えます。――教師など学校職員もそうですが、今回の事件で浮き彫りになった、アドレナリンを「打てない」「打たない」医師たちを減らしていくにはどうしたらいいでしょうか。海老澤エピペン注射液を患者に処方するには登録が必要なのですが、今回、コロナワクチンの接種を契機にその登録数が増えたと聞いています。登録医はeラーニングなどで事前にその効能・効果や打ち方などを学ぶわけですが、そうした医師が増えてくれば、自らもアドレナリン筋注を躊躇しなくなっていくのではないでしょうか。立位ではなく仰臥位にして、急に立ち上がったり座ったりする動作を行わない――最後に、2022年に改訂した「アナフィラキシーガイドライン」のポイントについて、改めてお話しいただけますか。海老澤診断基準の2番目で、「典型的な皮膚症状を伴わなくてもいきなり単独で血圧が下がる」、「単独で呼吸器系の症状が出る」といったことが起こると明文化した点です。食物によるアナフィラキシーは一番頻度が高いのですが、9割方、皮膚や粘膜に症状が出ます。多くの医師はそういったイメージを持っていると思いますが、ワクチンを含めて、薬物を注射などで投与する場合、循環器系や呼吸器系の症状がいきなり現れることがあるので注意が必要です。――初期対応における注意点はありますか。海老澤ガイドラインにも記載してあるのですが、診療経験のない医師や、学校職員など一般の人がアナフィラキシーの患者に対応する際に注意していただきたいポイントの一つは「患者さんの体位」です。アナフィラキシー発症時には体位変換をきっかけに急変する可能性があります。明らかな血圧低下が認められない状態でも、原則として立位ではなく仰臥位にして、急に立ち上がったり座ったりする動作を行わないことが重要です。2012年に東京・調布市の小学校で女子児童が給食に含まれていた食物のアレルギーによるアナフィラキシーで死亡するという事故がありました。このときの容態急変のきっかけは、トイレに行きたいと言った児童を養護教諭がおぶってトイレに連れて行ったことでした。トイレで心肺停止に陥り、その状況でエピペンもAEDも使用されましたが奏効しませんでした2)。アナフィラキシーを起こして血圧が下がっている時に、急激に患者を立位や座位にすると、心室内や大動脈に十分に血液が充満していない”空”の状態に陥ります。こうした状態でアドレナリンを投与しても、心臓は空打ちとなり、心拍出量の低下や心室細動など不整脈の誘発をもたらし、最悪、いきなり心停止ということも起きます。――そもそも動かしてはいけないわけですね。海老澤はい。ですから、仰臥位で安静にしていることが非常に重要です。とにかく医療機関に運び込めば、ほとんどと言っていいほど助けられますから。アナフィラキシーは症状がどんどん進んで状態が悪化していきます。そうした進行をまず現場で少しでも遅らせることができるのが、アドレナリン筋注なのです。(2024年1月23日収録)参考1)令和4年度アレルギー疾患に関する調査報告書/日本学校保健会2)調布市立学校児童死亡事故検証結果報告書概要版/文部科学省

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日本における頭痛に対する処方パターンと特徴

 長野県・諏訪赤十字病院の勝木 将人氏らは、メディカルビッグデータであるREZULTを用いて、日本の成人頭痛患者(17歳以上)に対する処方パターンの調査を行った。Cephalalgia誌2024年1月号の報告。 Study1では、2020年に頭痛と診断された患者における急性期治療薬の過剰処方の割合を横断的に調査した。過剰処方は、トリプタンとNSAIDs(30錠/90日以上)、NSAIDs単剤(45錠/90日以上)と定義した。Study2では、最初の頭痛診断から2年超の処方パターンを縦断的に調査した。処方薬剤数は、90日ごとにカウントした。 主な結果は以下のとおり。・Study1では、363万8,125例中20万55例(5.5%)が頭痛と診断されており、そのうち1万3,651例(6.8%)に対し急性期治療薬が処方されていた。・NSAIDs単独処方は、1万2,297例(90.1%)でみられ、トリプタンは1,710例(12.5%)に処方されていた。・過剰処方は、2,262例(16.6%)でみられ、1,200例(8.8%)には頭痛の予防治療薬が処方されていた。・Study2では、684万618例中40万8,183例(6.0%)は、頭痛と診断され、その後2年以上継続していた。・時間の経過とともに、急性期治療薬の過剰処方の割合が増加していた。・2年間で急性期治療薬が過剰処方を経験した患者は3万7,617例(9.2%)、2万9,313例(7.2%)において、予防治療薬の処方経験が認められた。 著者らは「実臨床データより、予防治療薬の処方が依然として不十分であることが示唆されており、頭痛に対する急性期治療薬および予防治療薬の処方の割合は、いずれも時間の経過とともに増加している」とまとめている。

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ERCP後膵炎の予防におけるインドメタシン坐剤の役割は?(解説:上村直実氏)

 内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)は、胆道および膵臓疾患にとって重要な診断法・治療法である。厚生労働省の2007年から2011年のアンケート調査によると、ERCP後の膵炎発症頻度は0.96%、重症例は0.12%と報告されており、重症膵炎の発症頻度は低いが、一度生ずると患者負担が大きいため膵炎の予防法が課題となっている。今回、米国とカナダで行われた無作為化非劣性試験の結果、ERCP後膵炎の高危険群における膵炎の予防に関して、欧米の標準治療である非ステロイド性抗炎症薬インドメタシン直腸投与+予防的膵管ステント留置の併用と比較して、インドメタシン単独投与は予防効果が劣ることが2024年1月のLancet誌に掲載された。 わが国のERCP後膵炎ガイドラインを見ると、膵炎高危険群に対する予防策として最も強く推奨されているのは一時的膵管ステント留置であるが、本邦では、治療目的以外の予防的膵管ステントとしての保険適用を取得していないことが大きな課題となっている。一方、インドメタシンなどNSAIDsの抗炎症作用が膵炎の発生を抑えることができる可能性と多くの臨床試験の結果から「ERCPの検査前もしくは直後の直腸内投与」が提案されているが、膵管ステント留置とNSAIDs併用に関するエビデンスが不足していることから両者の併用に関する記載はない。わが国の胆膵内視鏡診療は世界でも最高峰のレベルと思われるが、この分野で日本発のレベルの高いエビデンスが輩出されることが期待される。 わが国の臨床研究における大きな問題は、エビデンスレベルの高い研究デザインでの臨床試験を施行するための財源や人材も含めた体制がきわめて不十分な点である。一般の臨床現場において、欧米と異なる国民皆保険制度により最善と思われる診療を享受できることから、プラセボを用いた臨床試験や新たな薬剤を用いた臨床研究を施行する場合、被験者としてエントリーしてもらうこと自体が困難であることが多く、今後、レベルの高い臨床研究を推進するために産官学で協力した体制の確立が必要であろう。

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外傷の処置(7)消化管出血へのトラネキサム酸【一目でわかる診療ビフォーアフター】Q97

外傷の処置(7)消化管出血へのトラネキサム酸Q97前回に続き、トラネキサム酸関連で話題をもう1つ。外勤先の診療所に黒色便を主訴として76歳男性が受診した。ピロリ菌除菌歴があるが、その後の内視鏡フォローはされていない。最近、元々の腰痛が増悪し、近医でNSAIDs定期内服が始まっていたようだ。粘膜保護薬程度で、制酸薬の内服はない。バイタルサインは安定しており、身体所見上貧血を示唆する所見はないようだ。後方医療機関に送る上で、前投薬はどうしようか。

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変形性手関節症の症状軽減に効果的な治療法とは?

 変形性手関節症に対する一般的な治療法であるステロイド薬やヒアルロン酸の注射は、ガイドラインでも推奨されているにもかかわらず、実際には症状を緩和する効果がないとする研究結果が報告された。Parker研究所(デンマーク)リウマチ科のAnna Døssing氏らによるこの研究結果は、「RMD Open」に9月21日掲載された。 Døssing氏らは、MEDLINE、Embase、およびCochrane Central Register of Controlled Trials(CENTRAL)を検索して、2021年12月26日までに発表された、変形性手関節症の患者に対する薬物療法の効果に関するランダム化比較試験(RCT)を65件選出。これらの研究結果から痛みに対する治療の効果量を計算し、それぞれの治療法の効果をネットワークメタアナリシスおよびペアワイズメタアナリシスで評価した。これらのRCTでは、総計5,975人を対象に、29種類の治療法について検討されていた。 解析の結果、プラセボに比べて、経口非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)と経口糖質コルチコイドには変形性手関節症の痛みを軽減する効果のあることが示された〔効果量はNSAIDsで−0.18(95%信頼区間−0.36〜0.02)、経口糖質コルチコイドで−0.54(同−0.83〜−0.24)〕。また、NSAIDsでは、手の機能、患者全般評価、握力に改善が、糖質コルチコイドでは、手の機能、患者全般評価、健康関連QOLに改善が認められた。 これに対して、研究対象者の多くが母指手根中手関節症(母指CM関節症)に対する治療として受けていたヒアルロン酸や糖質コルチコイドの関節内注射、全身性エリテマトーデスや関節リウマチなどに使用されるヒドロキシクロロキン、および局所NSAIDsがプラセボよりも変形性手関節症の症状軽減に有効であることを示す結果は得られなかった。また、痛みに対する局所クリームやジェルの有効性に関する明確なエビデンスは得られなかった。 この研究報告を受けて、米レノックス・ヒル病院ニューヨーク手関節センターの共同ディレクターであるDaniel Polatsch氏は、「変形性手関節症、特に母指CM関節症に対しては、以前より糖質コルチコイドの関節内注射が基本的な治療法として実施されている。しかし、今回の研究により、この治療法の有効性に対するエビデンスが驚くほど欠如していることが明らかになった」と話し、「自分も含めた多くの手外科医が共有している考え方や、臨床現場で経験していることとは真逆の結果だ」と驚きを表す。 Polatsch氏は、変形性手関節症の治療は個別化されるべきだとの考えを示す。「私は常に、最もリスクの低い選択肢から治療を開始するべきことを提唱している。経口NSAIDsや経口糖質コルチコイドの短期使用は、その意味で合理的なアプローチだと言える」と話す。とはいえ、これらの薬の長期使用は副作用を引き起こす可能性があることにも留意すべきだ。例えば、NSAIDsの長期使用は、出血性潰瘍と関連することが指摘されている。また、経口ステロイド薬の長期間の服用は、高血圧、体重増加、皮膚の菲薄化、感染症を招く可能性がある。 Polatsch氏は、「変形性手関節症の患者は、医療従事者とさまざまな治療法について話し合い、一緒に計画を立てるべきだ」と助言する。また、「症状が長引く患者は、薬物療法、スプリント療法、ハンドセラピー、注射、そして最終手段として手術など、あらゆる選択肢を徹底的に評価できる手外科医に診てもらうのも良いだろう」と話している。

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アセトアミノフェンの禁忌解除で添付文書改訂、処方拡大へ/厚労省

 アセトアミノフェン含有製剤の添付文書について、2023年10月12日、厚生労働省が改訂を指示し、「重篤な腎障害のある患者」「重篤な心機能不全のある患者」「消化性潰瘍のある患者」「重篤な血液の異常のある患者」及び「アスピリン喘息(非ステロイド性消炎鎮痛剤による喘息発作の誘発)又はその既往歴のある患者」の5集団に対する禁忌解除を行った。添付文書における禁忌への記載が、成書やガイドラインで推奨される適切な薬物治療の妨げになっていたことから、今年3月に日本運動器疼痛学会が禁忌解除の要望を厚生労働省に提出していた。禁忌解除の対象に含まれていないアセトアミノフェンを含有する配合剤に注意 アセトアミノフェンの禁忌解除対象製剤は以下のとおり。・アセトアミノフェン[経口剤、商品名:カロナール原末ほか]・アセトアミノフェン[坐剤、同:カロナール坐剤小児用50ほか]・アセトアミノフェン[注射剤、同:アセリオ静注液1000mgバッグ]・トラマドール塩酸塩・アセトアミノフェン配合剤[同:トラムセット配合錠ほか]・ジプロフィリン・アセトアミノフェン等配合剤[同:カフコデN配合錠] 具体的な変更点として、アセトアミノフェン含有製剤の添付文書について、5集団のうち「重篤な心機能不全」「消化性潰瘍」「重篤な血液異常」の3集団を禁忌の項から削除し、『特定の背景を有する患者に関する注意』(慎重投与)の項で注意喚起する。「重篤な腎障害のある患者」は禁忌解除に伴い、投与量・投与間隔の調節を考慮する旨を追記した。「アスピリン喘息(非ステロイド性消炎鎮痛剤による喘息発作の誘発)又はその既往歴のある患者」については、1回あたりの最大用量はアセトアミノフェンとして300mg以下とすることが注意喚起として追記された。 また、トラマドール塩酸塩・アセトアミノフェン配合剤については、添付文書の用法・用量に関連する使用上の注意の項に、慢性疼痛患者で、アスピリン喘息又はその既往歴のある患者に対して本剤を投与する場合は、1回1錠とすることという記載が加わった。鎮咳薬ジプロフィリン・アセトアミノフェン等配合剤については、アスピリン喘息(非ステロイド性消炎鎮痛剤による喘息発作の誘発)又はその既往歴のある患者/アスピリン喘息の発症にプロスタグランジン合成阻害作用が関与していると考えられ、症状が悪化又は再発を促すおそれがあると記された。 なお、今回の検討はアセトアミノフェン単剤に加え、アセトアミノフェンを含有する配合剤も併せて行われたが、以下の配合剤はNSAIDsを含有することから今般の禁忌解除の対象品目には含まれていないので、注意が必要である。・サリチルアミド・アセトアミノフェン・無水カフェイン・プロメタジンメチレンジサリチル酸塩配合剤(商品名:PL配合顆粒)・サリチルアミド・アセトアミノフェン・無水カフェイン・クロルフェニラミンマレイン酸塩配合剤(同:ペレックス配合顆粒)・イソプロピルアンチピリン・アセトアミノフェン・アリルイソプロピルアセチル尿素・無水カフェイン配合剤(同:SG配合顆粒)

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NSAIDなどを服用している高齢者、運転に注意

 認知機能が正常な高齢者の服用薬と、長期にわたる運転パフォーマンスとの関連を調査した前向きコホート研究の結果、抗うつ薬や睡眠導入薬、NSAIDsなどを服用していた高齢者は、非服用者と比べて時間の経過とともに運転パフォーマンスが有意に低下していたことを、米国・ワシントン大学のDavid B. Carr氏らが明らかにした。JAMA Network Open誌2023年9月29日号掲載の報告。 米国運輸省と米国道路交通安全局は、90種類以上の薬剤が高齢ドライバーの自動車事故と関連していることを報告している。しかし、自動車事故リスクの上昇が薬剤の副作用によるものなのか、治療中の疾患によるものなのか、ほかの薬剤や併存疾患によるものなのかを判断することは難しい。そこで研究グループは、認知機能が正常な高齢者において、特定の薬剤が路上試験における運転パフォーマンスと関連しているかどうかを前向きに調査した。 参加者は、有効な運転免許証を持ち、ベースライン時およびその後の来院時の臨床的認知症尺度のスコアが0(認知機能障害がない)で、臨床検査、神経心理学的検査、路上試験、投薬データが入手可能であった65歳以上の198人(平均年齢72.6[SD 4.6]歳、女性43.9%)であった。データは、2012年8月28日~2023年3月14日に収集され、2023年4月1~25日に分析された。 主要アウトカムは、Washington University Road Testによる路上試験の成績(合格または限界/不合格)であった。多変量Cox比例ハザードモデルを用いて、運転に支障を来す可能性のある薬剤の服用と、路上試験の成績との関連性を評価した。 主な結果は以下のとおり。・平均追跡期間5.7(SD 2.45)年で、70人(35%)が路上試験で限界/不合格の評価を受けた。・非服用者と比べて、すべての抗うつ薬(調整ハザード比[aHR]:2.82、95%信頼区間[CI]:1.69~4.71)、SSRI/SNRI(aHR:2.68、95%CI:1.54~4.64)、鎮静薬/睡眠導入薬(aHR:2.72、95%CI:1.41~5.22)、NSAIDs/アセトアミノフェン(aHR:2.72、95%CI:1.31~5.63)の服用は、路上試験で限界/不合格となるリスクの増加と有意に関連していた。・脂質異常症治療薬を服用している参加者は、非服用者に比べて限界/不合格となるリスクが低かった。・抗コリン薬や抗ヒスタミン薬と成績不良との間に統計学的に有意な関連は認められなかった。 これらの結果より、研究グループは「この前向きコホート研究では、特定の薬剤の服用が経時的な路上試験の運転パフォーマンスの低下と関連していた。臨床医はこれらの薬剤を処方する際には、この情報を考慮して患者に適宜カウンセリングを行うべきである」とまとめた。

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北欧の臨床データベースは堅牢?(解説:後藤信哉氏)

 本研究は、デンマークにおける15~49歳の約200万例の女性の約2,100万人年のデータである。観察期間内に、8,710例に退院時の診断として深部静脈血栓または肺塞栓症が起こっていた。症例を集めてバイアスを排除して、しっかり観察しようとの態度は学ぶべきである。 観察データから仮説の検証は基本的にできない。本研究では、いわゆる避妊ピルとNSAIDsが深部静脈血栓または肺塞栓症に及ぼすインパクトの有無を調べようとしている。多数の交絡因子が寄与するので統計学的モデリングが必要になる。NSAIDsの使用が深部静脈血栓または肺塞栓症を増やすと報告しているが、モデリングの結果なので、あくまでも将来検証すべき仮説を提示したと理解する必要がある。とくに避妊ピルを用いている症例でのNSAIDsの使用が、深部静脈血栓または肺塞栓症の発症と関連しているかもしれない。観察研究は科学研究の第一歩であるが、今後さらなる研究が必須である。

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慢性便秘症ガイドライン改訂、非専門医向けに診療フローチャート

 慢性便秘症は、2010年代にルビプロストン(商品名:アミティーザ)、リナクロチド(同:リンゼス)、エロビキシバット(同:グーフィス)、ポリエチレングリコール(PEG)製剤(同:モビコール)、ラクツロース(同:ラグノス)といった新たな治療薬が開発されている。このように、治療の進歩とエビデンスの蓄積が進む慢性便秘症について、約6年ぶりにガイドラインが改訂され、『便通異常症診療ガイドライン2023―慢性便秘症』が2023年7月に発刊された。そこで、便通異常症診療ガイドラインの作成委員長を務める伊原 栄吉氏(九州大学大学院医学研究院 病態制御内科学)に改訂のポイントを聞いた。新たな慢性便秘症のガイドライン作成が求められていた 慢性便秘症は、QOLが低下するだけでなく、長期生命予後に影響するコモンディジーズである1)。慢性便秘症には、結腸運動機能(便の運搬機能)障害(排便回数減少型)と直腸肛門機能(便の排泄機能)障害(排便困難型)の2つの病態が存在するため、病態に基づいた治療が必要となる。また、2010年代には新たな慢性便秘症治療薬が複数開発されており、これらのエビデンスをまとめ、非専門医向けに診療フローチャートを作成する必要があった。さらに、オピオイド誘発性便秘症の治療法も明らかにする必要もあった。これらの背景から、新たな慢性便秘症のガイドラインの作成が求められており、今回『便通異常症診療ガイドライン2023―慢性便秘症』が作成された。また、便秘は下痢と表裏一体であることから、慢性下痢症のガイドラインも新しく作成することになり、『便通異常症診療ガイドライン』という形で、「慢性便秘症」と「慢性下痢症」に分けて作成された。便通異常症診療ガイドライン2023にフローチャート 慢性便秘症には、上述のとおり「排便回数減少型」と「排便困難型」の2つの病態が存在する。伊原氏は「前版の慢性便秘症診療ガイドライン20172)では、排便困難型に重点が置かれていたため、バランスを取った便秘の定義を作成する必要があった」と述べた。そこで、今回の便通異常症診療ガイドライン改訂では、これら2つの病態が考慮され、便秘は「本来排泄すべき糞便が大腸内に滞ることによる兎糞状便・硬便、排便回数の減少や、糞便を快適に排泄できないことによる過度な怒責、残便感、直腸肛門の閉塞感、排便困難感を認める状態(下線部が排便回数減少型に該当)」と新たに定義された。また、慢性便秘症は「慢性的に続く便秘のために日常生活に支障をきたしたり、身体にも種々の支障をきたしうる病態」と定義された。なお、便秘は状態名であり、(慢性)便秘症は疾患名である。つまり、「便秘のために日常生活に支障をきたしているものが便秘症(疾患)である」と伊原氏は述べた。 今回の便通異常症診療ガイドラインの診断基準は、前版の『慢性便秘症診療ガイドライン2017』に準じており、内容には変更がない。しかし、ここでも「排便回数減少型」と「排便困難型」の2つの病態が考慮され、従来の6項目が排便中核症状(排便回数減少型に相当)と排便周辺症状(排便困難型に相当)に分けて記載された。 慢性便秘症の診療について、今回の便通異常症診療ガイドライン2023ではフローチャートが作成されている。そこにも記載されているが、腫瘍性疾患や炎症性疾患が隠れている可能性もあるため、警告症状や徴候の有無を調べることの重要性を伊原氏は強調した。「警告症状にあてはまるものがあれば、大腸内視鏡検査などを実施してほしい。そこで、機能性便秘症であることがわかってから、慢性便秘症の治療に進んでいただきたい」と述べた。警告症状・徴候の詳細については、便通異常症診療ガイドライン2023の「CQ4-1:慢性便秘症における警告症状・徴候は何か?(p.55)」を参考にされたい。フローチャートで診療の流れが明確に、刺激性下剤はオンデマンド治療 伊原氏によると、機能性便秘症の多くが排便回数減少型であるという。そこで、排便回数減少型の治療について解説いただいた。 便秘症の治療薬について、今回の便通異常症診療ガイドライン2023で強い推奨(エビデンスレベルA)となったのは、「浸透圧性下剤(塩類下剤、糖類下剤、高分子化合物[PEG])」「上皮機能変容薬(ルビプロストン、リナクロチド)」「胆汁酸トランスポーター阻害薬(エロビキシバット)」であった。そこで、これらの薬剤を中心に機能性便秘症治療のフローチャートが作成された。ここでの基本的な治療の流れは「生活習慣の改善→浸透圧性下剤→上皮機能変容薬または胆汁酸トランスポーター阻害薬」である。エビデンスが十分でないと判断された「プロバイオティクス」「膨張性下剤」「消化管運動機能改善薬」「漢方薬」は代替・補助治療薬として記載され、「刺激性下剤」「外用薬(坐剤、浣腸)、摘便」はオンデマンド治療であることが明記された。また、このフローチャートは、2023年5月にAmerican Gastroenterological Association(AGA)およびAmerican College of Gastroenterology(ACG)によって発表された『AGA/ACG Clinical Practice Guideline3)』と細かな違いはあるものの、おおむね同様の内容となっている。 新規作用機序の治療薬の使い分けについても、関心が高いのではないだろうか。そこで、今回の便通異常症診療ガイドライン2023では「FRQ 5-1:ルビプロストン、リナクロチド、エロビキシバットを用いるべき臨床的特徴は何か?(p103、104)」が設定された。回答は「ルビプロストン、リナクロチド、エロビキシバットを用いるべき臨床的特徴は明らかになっておらず、今後のさらなる検討が必要と考えられる」となっており、ガイドライン上では便秘症治療薬の使い分けについて明確には示されなかった。しかし、「少しずつわかってきたこともある」と伊原氏は述べた。「ルビプロストンは若い女性で嘔気が起こりやすいため、若い女性にはエロビキシバットやPEG製剤を選択する」「痛みを伴う便秘症にはリナクロチドを選択する」「PPIを用いている患者は酸化マグネシウムの効果が落ちること、ルビプロストンには粘膜バリアを修復する機能があることから、NSAIDsやPPIを服用している患者にはルビプロストンを選択する」「糖尿病患者など、腸の運動が落ちている可能性がある患者には、腸の運動を亢進させるエロビキシバットを選択する」といった便秘症治療薬の使い分けも考えられるとのことである。ただし、「実際に使用して、効果を判定しながら治療を行ってほしい」とも述べた。 今回、オピオイド誘発性便秘症に対する治療のフローチャートも作成された。ガイドラインには「オピオイド誘発性便秘症が疑われる患者には、浸透圧性下剤、刺激性下剤、ナルデメジン、ルビプロストンが有効である」と記載されているが、伊原氏は「ナルデメジンについては、オピオイドの副作用としての便秘に対する効果はあるが、それ以外の機能性便秘症には効果がないので、どちらが主体の便秘症であるか考えて選択する必要がある」と付け加えた。詳細については、便通異常症診療ガイドライン2023の「CQ5-4:オピオイド誘発性便秘症に対する治療法は何か?(p.101)」と「フローチャート5」を参考にされたい。便通異常症診療ガイドライン2023に慢性便秘症の病態評価 慢性便秘症の病態評価において、放射線不透過マーカー法やMRI/CTの有用性が報告されており、今回の便通異常症診療ガイドライン2023にも取り上げられている(CQ4-3、4-4)。しかし、日常診療での実施は難しいのが現状である。そこで、注目されるのが直腸エコー検査(CQ4-2)であると伊原氏は述べた。「直腸エコーで直腸内に便の貯留がみられない場合は直腸感覚閾値の異常、柔らかい便がみられた場合は便排出障害、三日月状の固い便がみられた場合は坐剤や摘便により改善する可能性が考えられる」と解説した。また、「浣腸を行う前に直腸エコーを行うことで、浣腸の必要性がわかるのではないか」とも述べた。 また、病態評価について「病態評価が難しい現状にあるため、症状分類で構わないので『排便回数減少型』『排便困難型』の分類を行い、排便困難型で症状が重い場合は直腸視診や直腸エコーを実施してほしい。そこで明らかな便排出障害が認められる場合は、専門医への紹介を検討していただきたい」とまとめた。便通異常症診療ガイドライン2023改訂ポイントのまとめ 伊原氏は、今回の便通異常症診療ガイドライン2023改訂のポイントを以下のようにまとめた。(1)便秘と慢性便秘症の定義を改訂した(状態名を便秘、病態[疾患名]を[慢性]便秘症とした)(2)「病態(疾患名)」は、「症」を語尾につけることで、病気ではない「状態名」と区別した(3)定義、分類、診断、治療とすべてにわたり、便が直腸へ運搬できない結腸運動機能障害型(排便回数減少型)、直腸に貯留した便が排泄できない直腸肛門機能障害型(排便困難型)の2つの病態を念頭にいれて作成した(4)慢性便秘症の病態評価において直腸エコー(便秘エコー)の有用性を初めて記載した(5)オピオイド誘発性便秘症の治療法を初めて記載した(6)診療のフローチャートを初めて作成した

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DOAC内服AF患者の出血リスク、DOACスコアで回避可能か/ESC2023

 心房細動患者における出血リスクの評価には、HAS-BLEDスコアが多く用いられているが、このスコアはワルファリンを用いる患者を対象として開発されたものであり、その性能には限界がある。そこで、米国・ハーバード大学医学大学院のRahul Aggarwal氏らは直接経口抗凝固薬(DOAC)による出血リスクを予測する「DOACスコア」を開発・検証した。その結果、大出血リスクの判別能はDOACスコアがHAS-BLEDスコアよりも優れていた。本研究結果は、オランダ・アムステルダムで2023年8月25日~28日に開催されたEuropean Society of Cardiology 2023(ESC2023、欧州心臓病学会)で発表され、Circulation誌オンライン版2023年8月25日号に同時掲載された。 RE-LY試験1)のダビガトラン(150mgを1日2回)投与患者5,684例、GARFIELD-AFレジストリ2)のDOAC投与患者1万2,296例を対象として、DOACスコアを開発した。その後、一般化可能性を検討するため、COMBINE-AF3)データベースのDOAC投与患者2万5,586例、RAMQデータベース4)のリバーロキサバン(20mg/日)投与患者、アピキサバン(5mgを1日2回)投与患者1万1,1945例を対象に、DOACスコアの有用性を検証した。 以下の10項目の合計点(DOACスコア)に基づき、0~3点:非常に低リスク、4~5点:低リスク、6~7点:中リスク、8~9点:高リスク、10点以上:非常に高リスクに患者を分類し、DOACスコアの大出血リスクの判別能を検討した。また、DOACスコアとHAS-BLEDスコアの大出血リスクの判別能を比較した。【DOACスコア】<年齢> 65~69歳:2点 70~74歳:3点 75~79歳:4点 80歳以上:5点<クレアチニンクリアランス/推算糸球体濾過量(eGFR)> 30~60mL/分:1点 30mL/分未満:2点<BMI> 18.5kg/m2未満:1点<脳卒中、一過性脳虚血発作(TIA)、塞栓症の既往> あり:1点<糖尿病の既往> あり:1点<高血圧症の既往> あり:1点<抗血小板薬の使用> アスピリン:2点 2剤併用療法(DAPT):3点<NSAIDsの使用> あり:1点<出血イベントの既往> あり:3点<肝疾患※> あり:2点※ AST、ALT、ALPが正常値上限の3倍以上、ALPが正常値上限の2倍以上、肝硬変のいずれかが認められる場合 主な結果は以下のとおり。・RE-LY試験の対象患者5,684例中386例(6.8%)に大出血が認められた(追跡期間中央値:1.74年)。・ブートストラップ法による内部検証後において、DOACスコアは大出血について中等度の判別能を示した(C統計量=0.73)。・DOACスコアが1点増加すると、大出血リスクは48.7%上昇した。・いずれの集団においても、DOACスコアはHAS-BLEDスコアよりも優れた判別能を有していた。 -RE-LY(C統計量:0.73 vs.0.60、p<0.001) -GARFIELD-AF(同:0.71 vs.0.66、p=0.025) -COMBINE-AF(同:0.67 vs.0.63、p<0.001) -RAMQ(同:0.65 vs.0.58、p<0.001) 本研究結果について、著者らは「DOACスコアを用いることで、DOACを使用する心房細動患者の出血リスクの層別化が可能となる。出血リスクを予測することで、心房細動患者の抗凝固療法に関する共同意思決定(SDM)に役立てることができるだろう」とまとめた。

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