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骨巨細胞腫〔Giant cell tumor of bone〕

1 疾患概要■ 概念・定義骨巨細胞腫は、病理組織学的に破骨細胞様多核巨細胞がみられる良性骨腫瘍であり、1818年にCooper氏により初めて報告された1)。2013年に改訂されたWHO分類(第4版)では2)、「OSTEOCLASTIC GIANT CELL RICH TUMOURS」の項にIntermediate (locally aggressive、rarely metastasizing) として分類されている。そして「A benign but locally aggressive primary bone neoplasm」と記載されているように、組織学的に良性であっても、局所再発や、まれに肺転移も来す腫瘍である。また、骨巨細胞腫に併存して、あるいは以前骨巨細胞腫が存在した部位に高悪性度肉腫が発生することがあり、これは2013年のWHO分類でmalignancy in GCTと総称されている。■ 疫学発生頻度は原発性骨腫瘍の約8.5%、原発性良性骨腫瘍の約12.3%であり3)、好発年齢は20~30代である。好発部位は、脛骨近位や大腿骨遠位、上腕骨近位、橈骨遠位などの長管骨骨端部であるが、比較的早期に発見された腫瘍は骨幹端に存在するものが多く、骨幹端に発生して速やかに骨端に広がる腫瘍と考えられる。しばしば、脊椎、骨盤などの体幹にも発生する。■ 病因骨巨細胞腫は、主に単核の単球細胞、多核巨細胞、紡錘形細胞で構成されており(図1)、腫瘍の本体は、間質に存在する紡錘形細胞と考えられている。そして、これらの細胞の起源については、単球細胞と多核巨細胞がマクロファージ由来、間質の紡錘形細胞が間葉系幹細胞由来と考えられている4)。本腫瘍に関するこれまでの分子生物学的研究から、間質の紡錘形細胞がRANKLを、多核巨細胞はその受容体であるRANKを高率に発現しており5)、このRANKL-RANKシグナルが骨巨細胞腫の病態形成に深く関わっていることが明らかとなっている。画像を拡大する■ 症状特異的な症状はなく、発生部位の腫脹、熱感、疼痛が主で、関節周囲に発生することから、荷重による疼痛や関節可動域制限を認めることが多い。また、腫瘍の増大が速く、これらの症状が発現してから進行するまでの期間が短く、病的骨折を生じて発見されることもある。■ 分類一般的にX線所見による病期分類6)を用いることが多く、再発などの予後と相関する。Grade1境界明瞭で薄い辺縁硬化を伴い骨皮質が正常Grade2境界明瞭だが辺縁硬化がなく骨皮質の菲薄化を認めるGrade3境界不明瞭で浸潤性および活動性を示し骨皮質の破壊と軟部組織への進展を認める■ 予後エアドリルを併用した病巣掻爬や電気メス、アルゴンビームなどの補助療法を追加する手術を行った場合、再発率は10~25%と報告されており、腫瘍を一塊として切除した場合の再発はこれより少ない。局所再発の多くは、術後2年以内であるが、長期経過後の再発も報告されている。また、約1~2%の例で肺転移を認めることがあり、非常にまれではあるが、肺転移巣の大きさや数、部位によっては死亡する例も存在する。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 検査1)画像検査(1)単純X線腫瘍は長管骨の骨幹端から骨端にかけての骨溶解像として描出される(図2)。腫瘍は偏心性に存在することが多く辺縁硬化像を伴うことは少ない。腫瘍が進行した場合、皮質骨は菲薄化と膨隆を伴いシェル状となる。また、時に皮質骨が消失することもある。その他、特徴的な所見としては腫瘍内部の隔壁構造がsoap-bubble appearanceを呈する場合がある。画像を拡大する(2)CT菲薄化した皮質骨の評価に有用である。(3)MRI骨髄内や骨外への腫瘍進展を捉えるために有用である。一般的に、腫瘍はT1強調像で等~低信号、T2強調像で高信号を示し、ガドリニウム(Gd)によりよく造影される。しかし、進行した場合、病巣内に出血に伴うヘモジデリン沈着、嚢胞形成、壊死などの多彩な変化を生じる。出血に伴い2次性の動脈瘤様骨嚢腫に発展した場合は、液面形成像(fluid-fluid level)を呈することもある。2)病理検査破骨細胞類似の多核巨細胞と単核の間質細胞からなる組織像を示す。腫瘍の辺縁に反応性骨形成がみられることがあるが、腫瘍による骨形成は通常みられない(図1)。■ 鑑別診断画像上の鑑別診断としては、良性では単純性骨嚢腫、動脈瘤様骨嚢腫、軟骨芽細胞腫など、悪性では通常型骨肉腫、血管拡張型骨肉腫、未分化高悪性度多形肉腫、がんの骨転移などが挙げられる。骨巨細胞腫は、好発年齢・部位と特徴的な画像所見により、診断は可能だが、最終診断には生検による病理検査が必要である。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 外科的治療他の良性骨腫瘍と同様に掻爬を行い、骨欠損部は骨移植や骨セメントで充填することが一般的である。ただし、鋭匙などによる単純な掻爬では再発率が高く、エアドリルの使用、掻爬後のフェノール処置、電気メスやアルゴンビームなどで焼灼など補助療法を追加した外科的治療を行うことが必要である7)。また、関節に浸潤し、軟骨下骨の温存が困難な例や、腫瘍により骨構築が破綻した場合は、切除を行い、骨欠損部を腫瘍用人工関節や人工骨頭で再建することもある。橈骨遠位端発生例では、腫瘍の活動性が高く、切除を行い関節固定で再建することが多い。■ 薬物療法骨転移による病的骨折などの骨関連事象を制御する目的で用いられているゾレドロン酸を切除困難な骨巨細胞腫に使用し、その有用性を述べた報告もある8)。筆者も使用経験があり、骨巨細胞腫に対する治療選択肢の1つと考えている。しかし、明らかな骨形成など明確な変化が得られることは少なく、また、保険適用外であることが問題である。骨巨細胞腫の治療上、革新的な変化が起きたのは、本疾患に対して抗RANKL抗体であるデノスマブの臨床試験が行われ、その結果を受けて2013年6月に米国食品医薬品局(FDA)が、骨巨細胞腫に対する適応を承認したことである。デノスマブは、すでに「多発性骨髄腫による骨病変および固形がん骨転移による骨病変」に対して2012年4月に保険収載され、現在多くの骨転移患者に用いられている。2013年3月には「骨粗鬆症」に対しても保険適用されている。骨巨細胞腫に関しては、FDAの承認後、わが国でも「切除不能または重度の後遺障害が残る手術が予定されている骨巨細胞腫患者」を対象として国内第II相臨床試験が行われ、2014年5月に骨巨細胞腫に対する追加承認を取得、骨巨細胞腫に対して用いることが可能となった。デノスマブは、RANKLを標的とするヒト型モノクローナル抗体製剤である。RANKL は、破骨細胞および破骨細胞前駆細胞表面のRANKに結合し、破骨細胞の形成、機能、生存に関わる分子であり、骨巨細胞腫の病態形成にも深く関与している5)。デノスマブによりRANKLが阻害されることにより、破骨細胞様多核巨細胞が消失し、腫瘍による骨破壊が抑制される。また、腫瘍内に骨形成が起こり、疼痛などの自覚症状も改善する。■ その他脊椎や骨盤など、解剖学的に切除が困難な部位に発生した場合には、腫瘍の進行を制御する目的で動脈塞栓術が試みられている。同じく切除不能例に対する放射線治療も行われてきたが、照射後の悪性化が問題となり、現在ではあまり行われていない。4 今後の展望骨巨細胞腫患者に対するデノスマブの有用性と安全性を明らかにする目的で、米国Amgen社により、骨巨細胞腫患者を対象とした臨床試験(20040215試験および20062004試験)が海外で実施された。いずれの試験においても、安全性と高い抗腫瘍効果が認められ9-11)、これら2試験の成績を基に、骨巨細胞腫に対する承認申請が米国Amgen社により行われ、米国では2013年6月に承認された。わが国においても、「切除不能または重度の後遺障害が残る手術が予定されている骨巨細胞腫患者」を対象に臨床試験が行われ、2013年6月にデノスマブが希少疾病用医薬品に指定され、「骨巨細胞腫」を効能・効果として、2014年5月に承認が得られている。筆者は、現時点での本疾患に対するデノスマブの適用を、「骨格の成熟した12歳以上の骨巨細胞腫患者で切除不可能な場合、もしくは切除に伴い重篤な機能障害を生じる場合」と限定して考えている。デノスマブの出現は、切除困難な骨巨細胞腫患者に大きな変化をもたらしたことは明らかである。しかし、エビデンスのある治療戦略はまだ明らかにされていない。術前投与と縮小手術の詳細や中長期の治療成績に関してもまだ不明である。今後、前向き多施設臨床試験などで、これらの問題を明らかにする必要があると考える。5 主たる診療科整形外科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報日本整形外科学会 骨・軟部腫瘍相談コーナー(一般利用者向けのまとまった情報)特定非営利活動法人 骨軟部肉腫治療研究会(医療従事者向けのまとまった情報)1)Cooper A, et al. Surgical essays. 3rd ed. Cox & Son; 1818.2)World Health Organization Classification of Tumours of Soft Tissue and Bone. IARC Press; 2013.3)日本整形外科学会 骨・軟部腫瘍委員会 編. 全国骨腫瘍登録一覧表(平成23年度). 国立がん研究センター; 2011.4)Wulling M, et al, Hum Pathol. 2003; 34: 983-993.5)Morgan T, et al. Am J Pathol. 2005; 167: 117-128.6)Campanacci M, et al. J Bone Joint Surg Am. 1987; 69: 106-114.7)岩本幸英 編. 骨・軟部腫瘍外科の要点と盲点(整形外科Knack & Pitfalls). 文光堂; 2005. p.210-213.8)Balke M, et al. BMC Cancer. 2010; 10: 462.9)Thomas D, et al. Lancet Oncol. 2010; 11: 275-280.10)Branstetter DG, et al. Clin Cancer Res. 2012; 18: 4415-4424.11)Chawla S, et al. Lancet Oncol. 2013; 14: 901-908.

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LancetとNEJM、同じデータで割れる解釈; Door-to-Balloon はどこへ向かうか?(解説:香坂 俊 氏)-300

 Door-to-Balloon Time(DTB)に関する議論が脚光を浴びている。医学界で最も権威が高い2誌(NEJMとLancet)がDTBに関する解析結果を掲載し、しかもその指し示す方向が正反対だったのである。さらに驚くべきことに、この2つの解析は同じデータセットから抽出されたものであった。大いなる矛盾ともいえるこの結果をどう解釈していくべきなのか、順番にみていきたい。循環器内科を専門とされない先生方へ  DTBはST上昇型急性心筋梗塞(STEMI)の患者さんが救急外来のドアを開けてから(Door)、緊急カテで冠動脈インターベンションを受ける(Balloon)までの時間のことを指します。2000年頃よりこのDTBが短ければ短いほどSTEMI患者さんの予後がよいことがわかってきたので、欧米では2005年頃から大規模なキャンペーンが行われました。その結果、2010年頃にはDTB 90分以下という基準を90%の症例で達成するに至り(90/90)、わが国でも遅ればせながら2014年の診療報酬改定にDTBが考慮されるようになりました※。 ただし、最近はDTBが重視されるあまり「行き過ぎ」の声もあり(例:患者さんを一切トイレに行かせなかったり、当直の循環器医を強制的にカテ室に待機させるなど)、あまりに数値優先の現場に反省を促す声も上がっています。※2014年の点数制では、同じSTEMI患者に緊急カテ(ステント留置)を行っても、DTBが90分以下ならば34,380点、これを満たさなければ「不安定狭心症」扱いで24,380点となります。 まず、NEJM側(2013年9月5日号)に掲載された解析1)の要旨は以下の通りである。●2005年から2009年の間に米国で施行された9万6,738例のSTEMI患者が対象となった(515施設からのデータ[NCDR CathPCIレジストリ]、緊急カテの後インターベンションを施行された症例のみ)。●転送症例やDTBが3時間以上かかっている症例は除外。●2005年から2009年までの間に平均DTBは83分から67分に短縮された。●がしかし、その期間の重症度補正された院内死亡率(5.0 vs. 4.7%、p=0.34)に有意差は認められなかった。この結果を受けて、「DTBにもはや意味はなくなった」だとか、「60分でもまだ長すぎる」などという議論が巻き起こり、さらにDTBを医療の質の指標として用いることにも疑問が呈された。 そして、今回Lancet側(オンライン版2014年11月19日号)に掲載された解析2)は以下の通りである。●2005年から2011年の間に米国で施行された15万116例のSTEMI患者が対象となった(423施設からのデータ[NCDR CathPCIレジストリ]、緊急カテの後インターベンションを施行された症例のみ)。●転送症例やDTBが3時間以上、そして15分以下、さらにデータが信頼できない施設の症例は除外。●2005年から2011年までの間に平均DTBは86分から63分に短縮された。●その期間の重症度補正された死亡率は上昇していた(5.0 vs. 4.7%、p=0.34)。●がしかし、DTBが短縮されるごとに死亡のリスクは下降傾向にあり(10分短縮されるごとに約10%院内死亡率が低下)、このトレンドは2005年から2011年の間すべての期間に共通して認められた。 いかがだろうか? Lancet側の論文の著者たちは論文の結語で「緊急カテに回ってくるSTEMI患者の重症度がここ数年で上がってきていて、全体の死亡率は上昇している。しかし、DTBを短縮するごとに予後が改善するトレンドに変更はない」と書いており、個人的にもこの結論は妥当なものと思う。むしろNEJM側の解析が「粗すぎた」のではないか? そうしたところは解析症例を抽出する際の除外基準の緩さにも現れている(Lancet側のほうが除外基準が厳しい;上記赤字部分参照されたい)。 この2つの研究からの“Take Home Message”は以下の2点に集約される。1)“Devil is in the details”。たいていの論文の最も大切な情報はMethodsにひっそりと隠されている。2)大規模データベース研究では重症度補正やサブグループ化など重層的に解析が行われるが、すべて同じ方向を指し示しているか確認する必要がある。これらは後ろ向き解析の宿命のようなもので、逆に前向きのランダム化研究などではこうした複雑な方法論の読み込みは必要ない。ランダム化が適正に行われていれば2群の比較だけに注目すればよく、統計的な補正は補助的な役割に留まるからである。ただし、本当にその論文に準じて自分の診療(practice pattern)を変更しようとするのならば、どのような研究でもMethodsを読み込むことを推奨したい。 最後に、蛇足かもしれないが、日本からもDTBに関する有力な論文が発表されていることを付記したい3)※※。主要なメッセージとしては、DTBの予後改善効果は非常に短い経過(発症2時間以内)で救急外来にやってきたSTEMI患者に限定される、というものだが、この研究では院内死亡率だけでなく長期的な予後も追っており、丁寧に多方面からデータを示している。このあたりのことが現場感覚からいくと存外真実に近いのではないかと思われるが、今後も欧米からのマスデータ、日本からのきめ細かいデータの双方から報告が期待される。※※塩見 紘樹、中川 義久、木村 剛ら(京都大学)によるCREDO-Kyotoコホートの解析。

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世界188ヵ国の平均寿命、13年で65歳から72歳へ/Lancet

 世界の平均寿命は、1990年の65.3歳から2013年は71.5歳に延びたことが判明した。一方で死亡数は、1990年の4,750万人から2013年は5,490万人に増加した。高所得地域では、心血管疾患とがんの死亡率が、低所得地域では下痢や下気道感染による小児の死亡率がいずれも減少したという。世界の研究者による共同研究「疾病による国際的負担に関する調査(Global Burden of Disease Study:GBD)2013」の結果、明らかになったもので、Lancet誌オンライン版2014年12月18日号で報告された。1990~2013年の世界の年齢別・性別全死亡率や疾病別死亡率を集計 GBD2013では188ヵ国を対象に、1990~2013年の毎年の年齢別・性別総死亡率や疾病別死亡率などのデータを集計した。 GBD研究は2010年版も公表されているが、2013年版ではさらに72ヵ国の最新登録データを追加し、中国やメキシコ、英国、トルコ、ロシアについては詳細データを採用しアップデートを行った。 それらの集計データを基に、240の死因について、6つの異なるモデルを用いて分析を行った。外傷死は10.7%増加、年齢調整死亡率は21%減少 その結果、世界の平均寿命(life expectancy)は1990年の65.3歳(95%UI:65.0~65.6)から、2013年には71.5歳(同:71.0~71.9)に延長した。一方で死亡数は、1990年の4,750万人(同:4,680~4,820万人)から、2013年は5,490万人(同:5,360~5,630万人)への増加だった。 高所得地域では、心血管疾患とがんによる年齢調整死亡率が減少し、低所得地域では下痢や下気道感染による小児の死亡、新生児死亡の減少が認められた。なおサハラ砂漠以南のアフリカの地域では、HIV感染症/AIDSが原因で平均寿命が短縮。多くの感染性疾患について、死亡数や年齢調整死亡率はともに減少していた一方で、非感染性疾患については、死亡数は増加、年齢調整死亡率は減少という傾向がみられた。 外傷による死亡についてみると、1990年の430万人から2013年には480万人へと10.7%増加した。一方で、年齢調整死亡率は21%減少していた。 2013年に死亡10万人以上の原因となった疾患のうち、年齢調整死亡率が1990年から増加したのはHIV感染症・エイズ、膵臓がん、心房細動・心房粗動、薬物依存症、糖尿病、慢性腎臓病、鎌状赤血球症だった。 5歳未満児の死因上位は、下痢性疾患、下気道感染、新生児死亡、マラリアだった。

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S3-09. Patient-reported endocrine symptoms, sexual functioning and quality of life (QoL) in the IBCSG SOFT trial

IBCSG SOFT試験における患者報告による内分泌症状、性機能およびQOLSOFT試験におけるQOL評価はT 861例、T+OFS 861例、E+OFS 854例に行われた。評価法としては症状、Global QOL(身体の健康、気分、コーピングの努力、治療の負担)を0~100までのアナログスケールで表し、高い数値がよりよい状況であることを反映した。8ポイント以上の差を持って臨床的に有意とした。評価は短期(6ヵ月)、中期(24ヵ月)、長期(60ヵ月)に行った。ホットフラッシュは化学療法の有無にかかわらず、短期にはT+OFSで低く、徐々に差が縮まり、長期的にはほぼ同等であった(図1)。化学療法なしのグループでは短期で睡眠障害と治療の負担に差がみられた。膣分泌、膣乾燥、膣掻痒感、性的魅力の喪失、性的興奮のしにくさはどの時期においてもほとんど差がなかった。Global QOLはいずれの項目も、どの時期においてもほとんど差がなかった(図2)。【図1】図1を拡大する【図2】図2を拡大するこの結果は、長期的にはどちらの群も大きな差がないことを示しているが、QOL評価は常にその限界を知っておく必要がある。短期で症状の強かった人が治療中断をしている可能性、症状がある人も徐々にその状態を許容し生活の一部として受け入れるようになってくる(レスポンスシフト)、そもそもどれくらい差があったら本当にQOLに差があるのかを判断することは難しい(最小重要差)、選択した項目がこれらの患者のQOLを真に反映しているか、を考えなければならない。S3-08で紹介したもう1つの臨床試験(J Clin Oncol. 2014; 32: 3948-3958.)でもQOL評価がなされており、FACT-Bや閉経期症状、性機能評価を示している。いずれも長期的にみてT単独と比較しT+OFSでQOLが低下している。こちらのデータも参考にしながら、OFSの活用を慎重に考えてほしい。

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Bare metal stentは本当に劣っているのか?(解説:上田 恭敬 氏)-288

 従来のメタ解析とは異なり、対象となる試験内の個々の症例データを用いて解析する新しいメタ解析の手法で、5つの無作為比較試験(RCT)の4,896症例のデータを用いて、bare metal stent(BMS)とcobalt-chromium everolimus eluting stents(EES)の成績を比較検討した報告である。各試験のPIによって、それぞれの試験の対象症例個々のデータがこの解析のために提供されている。対象となる試験の選択基準は、BMSとEESの無作為比較が行われた試験で1年以上のフォローアップ期間があるものとしている。あらかじめ決められた主要評価項目は心臓死で、副次評価項目は全死亡、心筋梗塞、ステント血栓症、標的血管再血行再建(TVR)、心臓死+心筋梗塞、全死亡+心筋梗塞である。 2年時点の全死亡は、BMSで4.0%であったのに対して、EESでは2.7%と有意に低値(HR:0.67、p=0.01)であった。同様に心筋梗塞(4.0% vs. 5.6%; HR:0.71、p=0.01)、ステント血栓症(1.3% vs. 2.6%; HR:0.48、p=0.001)、TVR(4.3% vs. 10.2%; HR:0.29、p<0.001)も有意にEESで低値であった。これは、特定のDESによって心臓死を減少させることを初めて示した報告であり、DESよりもBMSのほうが安全なステントであるとの考えを変えうる結果であると著者らは強調している。 確かに解析結果は妥当なものであるが、注意すべき点もいくつかあるように思われる。まず、検討した期間が2年間と短いことが問題である。ENDEAVOR III試験とSORT OUT III試験において、Cypher stentとEndeavor stentの成績が5年間の長期成績において逆転したことから考えても、PCI手技の影響を強く受ける短期の成績とステント特性の影響が出る長期の成績は分けて考える必要があり、2年間ではステント特性の影響を十分に評価できているとは言えない。 さらに、PCIの大部分の症例でIVUSをガイドとして使用している日本の現状では、短期成績はこれらの試験よりも良好と考えられ、その影響が異なるステント間で同等に出るとは限らない。また、冠動脈造影や冠動脈CT、負荷試験などによって濃厚にフォローアップされ、有意な再狭窄が出現すれば即座に再PCIが行われる可能性が高い日本の医療体制においては、重篤なイベントが未然に防がれている可能性も否定できない。 TVRにおいてBMSが劣っていることに異論はないが、死亡や心筋梗塞の発症においてもBMSが劣っているとの結果には違和感を覚える。やはり、欧米のデータと比較できる日本データを出すためには、日本においてもこのようなメタ解析に役立てる多くの良質なRCTが必要と思われる。

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プライマリPCIのD2B時間短縮、どう解釈すべきか/Lancet

 プライマリ経皮的冠動脈インターベンション(pPCI)は、入院から再灌流までの時間(door-to-balloon:D2B)が短いほど、患者個人レベルでは入院死亡率や6ヵ月死亡率は低下することが明らかにされた。D2Bが10分短縮するごとに、入院死亡率は8%低下、6ヵ月死亡率は6%低下することが示されたという。米国・ミシガン大学のBrahmajee K. Nallamothu氏らが、423病院15万例超のpPCI実施症例について行った後ろ向き試験の結果、明らかにした。近年、D2Bは徐々に短縮しているが集団レベルの死亡率は低下していなかった。今回の分析でも集団レベルでは、永続的な死亡増大傾向が示され、著者は、「D2B短縮の重大性は変わらないこと、および集団レベルの傾向を個人レベルの傾向として解釈すべきではないことが示された」と述べている。Lancet誌オンライン版2014年11月19日号掲載の報告より。D2Bと死亡率の関連を、個人・集団レベルでそれぞれ分析 本検討では、D2B短縮と死亡率との関連について、各死亡率の項目について集団レベルと個人レベルでみた場合に、異なる相関性がみられないかを調べた。具体的に、pPCIを受けた患者集団が変化しても、死亡リスクの増大傾向は変わらないが、個人レベルでみると、D2Bが短い患者ほど死亡リスクは低下すると仮定して検証を行った。 全米心血管データ登録名簿(National Cardiovascular Data Registry)を基に、2005年1月1日~2011年12月31日にpPCIを行ったST上昇型心筋梗塞患者15万116例を対象として、入院から再灌流までの時間と、死亡率との関連について後ろ向きに年単位で分析し変化の動向を調べた。 分析では、入院から再灌流までの時間が15分未満、または3時間超の人は除外した。 マルチレベルモデルを用いて、D2Bと入院死亡率、65歳以上については6ヵ月死亡率との関連を、個人レベルと集団レベルで調べた。D2Bが10分短縮で入院死亡率は0.92倍、6ヵ月死亡率は0.94倍に 対象期間中、pPCIを受けた患者は、2005年1万5,730例から2011年2万4,449例へとおよそ1.5倍(55%増)となっていた。 D2Bの年間中央値は、2005年の86分から2011年は63分に有意に短縮していた(p<0.0001)。同期間中、リスク補正後の入院死亡率は4.7%から5.3%に有意ではないが上昇し(p=0.06)、同6ヵ月死亡率は12.9%から14.4%に有意に上昇していた(p=0.001)。 マルチレベルモデル分析の結果、個人レベルでは、D2B短縮と入院死亡率、6ヵ月死亡率の低下に一貫した関連がみられた。D2Bの10分短縮につき、入院死亡率は0.92倍(補正後オッズ比:0.92、95%信頼区間[CI]:0.91~0.93、p<0.0001)、6ヵ月死亡率は0.94倍(同:0.94、0.93~0.95、p<0.0001)と有意に低下することが示された。 しかし、集団レベルでみた補正後入院死亡率、6ヵ月死亡率は、患者個人レベルでみたD2Bとの関連とは異なり、試験期間中のpPCIを受けた患者集団の規模および変化とともに増大することが示された。D2Bが年単位で変化(短縮)するごとに、入院死亡率は1.12倍(同:1.12、1.09~1.15、p<0.0001)、6ヵ月死亡率は1.11倍(同:1.12、1.07~1.14、p<0.0001)と有意に増大した。

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アルツハイマーに有用な生薬はコレ

 神経破壊性疾患の病因はいまだ解明されておらず、有効な新規薬剤の開発への挑戦が促されている。インド・Banaras Hindu大学のSadhu A氏らは、アルツハイマー型老人性認知症(SDAT)患者を対象に、新規漢方製剤とドネペジルの認知機能に対する有効性を比較検討した。その結果、オトメアゼナ、スナジグミおよびニガカシュウの抽出成分を含む漢方製剤は、ドネペジルと比較して認知機能を有意に改善すること、また炎症およびうつ病を軽減することを報告した。Clinical Drug Investigation誌オンライン版2014年10月15日号の掲載報告。 本研究の目的は、健常高齢者とSDAT患者において、漢方試験製剤の認知機能、炎症マーカーおよび酸化ストレスに対する有効性を評価することであった。研究グループは、60~75歳の健常高齢者およびSDAT患者を対象に、無作為化二重盲検プラセボおよび実薬対照臨床試験を実施した。健常高齢者には漢方試験製剤またはプラセボ、SDAT患者にはオトメアゼナ(全草)、スナジグミ(葉と果実)およびニガカシュウ(むかご)のいずれかの抽出物を含む試験製剤を500mg、またはドネペジル10mgを1日2回、12ヵ月投与した。3ヵ月ごとにMMSEスコア、digital symbol substitution(DSS;Wechsler Adult Intelligence Scaleのサブセット改訂版)、言語記憶における即時再生と遅延再生(digital memory apparatus―Medicaid systems、チャンディーガル、インド)、注意持続期間(Attention Span Apparatus―Medicaid systems、チャンディーガル、インド)、機能活動調査票(FAQ)およびうつ病スコア(高齢者用うつ尺度)などを用いて認知機能を評価した。さらに、炎症マーカーと酸化ストレスの程度を、標準生化学検査で分析した。 主な結果は以下のとおり。・健常被験者109例、SDAT患者123例が登録され、それぞれ97例、104例が試験を完了した。・SDAT患者において、12ヵ月間の試験製剤服用はドネペジル服用と比較して、DSS(38.984±3.016 vs. 35.852±4.906、p=0.0001)、言語記憶における即時再生(3.594±1.003 vs. 2.794±0.593、p<0.0001)、注意持続期間(4.918±1.239 vs. 4.396±0.913、p=0.0208)スコアの評価において認知機能改善に有効であった。・また試験製剤群はドネペジル群に比較して、FAQ(11.873±2.751 vs. 9.801±1.458、p<0.0001)およびうつ病スコア(16.387±2.116 vs. 21.006±2.778、p<0.0001)においても有意な改善が認められた。・一方で試験製剤群とドネペジル群の間で、MMSEおよび言語記憶の遅延再生において、有意差は認められなかった。・SDAT患者の試験製剤群ではドネペジル群と比較して、炎症および酸化ストレスが著しく軽減し、各マーカー値から試験製剤の作用機序が示唆された。各マーカー値は、ホモシステイン:30.22±3.87 vs. 44.73±7.11nmol/L(p<0.0001)、CRP:4.751±1.149 vs. 5.887±1.049mg/L(p<0.0001)、TNF-α:1,139.45±198.87 vs. 1,598.77±298.52pg/mL(p<0.0001)、スーパーオキシドディスムターゼ(SOD):1,145.92±228.75 vs. 1,296±225.72U/gHb(p=0.0013)、グルタチオンペルオキシダーゼ(GPx):20.78±3.14 vs. 25.99±4.11U/gHb(p<0.0001)、グルタチオン(GSH):9.358±2.139 vs. 6.831±1.139U/gHb(p<0.0001)、チオバルビツール酸反応性物質(TBARS):131.62±29.68 vs. 176.40±68.11nmol/gHb(p<0.0001)であった。・同様に、健常高齢者において12ヵ月間の試験製剤服用はプラセボ群と比較し、MMSE、DSS、言語記憶の遅延再生、注意持続期間、FAQおよびうつ病スコアにおいて、認知機能の有意な改善を示した(p<0.001)。・また、健常高齢者において12ヵ月間の試験製剤服用はプラセボ群と比較し、炎症(ホモシステイン、CRP、IL-6およびTNF-α値の低下)および酸化ストレス(SOD、GPxおよびTBARSの低下、ならびにGSHの増加)の軽減が観察された。・以上のように、漢方製剤が加齢に伴う認知機能低下の抑制に有効であることが示唆され、SDATのマネジメントと治療に新規漢方製剤の薬物療法としての可能性があると考えられた。関連医療ニュース 日本では認知症への抗精神病薬使用が増加 治療抵抗性統合失調症に対する漢方薬「抑肝散」の有用性:島根大学 高齢の遅発統合失調症患者に対する漢方薬の効果は  担当者へのご意見箱はこちら

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アトピー患者へのオンラインケア、対面治療と効果同等

 アトピー性皮膚炎患者への新たな皮膚科診療モデルとして、インターネット、パソコン、デジタルカメラを用いたダイレクトアクセス・オンラインケアの臨床アウトカムは、対面治療と同程度の改善を示したことが、米国・コロラド大学のApril W. Armstrong氏らによる無作為化試験の結果、示された。著者は、「ダイレクトアクセス・オンラインケアは、慢性皮膚病患者への皮膚科診療サービス提供の核心的なモデルとなりうることを示した」と述べている。JAMA Dermatology誌オンライン版2014年10月22日号の掲載報告。 皮膚科診療の新たな提供モデルは、アクセスを増加させるとともに患者中心アウトカムを改善する可能性がある。研究グループは、小児および成人のアトピー性皮膚炎患者を対象に、ダイレクトアクセスの効果に関して、治療フォローアップをオンラインで行うモデルと、診療所で対面にて行うモデルで比較した。 試験は1年間にわたり、無医地区、一般的コミュニティそして外来部門で行った。被験者は、インターネット、パソコン、デジタルカメラにアクセスできる小児と成人で、初回対面診療後、1対1の割合で、ダイレクトアクセス・オンラインケア、または通常対面治療に無作為に割り付け、アトピー性皮膚炎治療のフォローアップを行った。 ダイレクトアクセス・オンラインケアの患者は、臨床像を撮影し、既往歴とともにオンラインを介して皮膚科医に伝達。皮膚科医はオンラインにより非同期方式で臨床情報を評価し、患者に勧告や教育を行い、また処方を行った。一方、対面治療群の患者は、皮膚科医の診療所を訪れフォローアップを受けた。 主要評価項目は、patient-oriented eczema measure(POEM)、investigator global assessment(IGA)で評価したアトピー性皮膚炎の重症度であった。 主な結果は以下のとおり。・無作為化を受けたのは、小児および成人患者計156例であった。・ベースラインと12ヵ月時点で、POEMスコアのグループ内平均差(SD)は、オンラインケア群は-5.1(5.48)(95%信頼区間[CI]:-6.32~-3.88)、対面治療群は-4.86(4.87)(95%CI:-6.27-3.46)であった。・両群間のPOEMスコア変化の差は、0.24(6.59)(90%CI:-1.70~1.23)であり、事前規定の同等マージン2.5の範囲内であった。・疾患クリアランスまたはほぼクリアランスを達成した(IGAスコア0または1)患者の割合は、オンラインケア群38.4%(95%CI:27.7~49.3%)、対面治療群43.6%(同:32.6~54.6%)であった。・両群間の達成患者割合の差は、5.1%(90%CI:1.7~8.6%)で、事前規定の同等マージン10%以内であった。

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エボラ熱“最後の1人まで終わらない”と発見者ピオット氏

 2014年10月30日、グローバルヘルス技術振興基金(GHIT Fund)メディアセミナーが開催され、エボラウイルス発見者の1人であるロンドン大学衛生熱帯医学大学院学長 ピーター・ピオット氏が「エボラ出血熱やその他の感染症への対応と課題」について講演した。今回は、記者との質疑応答をレポートする。前回記事(「発見者ピーターピオットが語るエボラの今」はこちら)今までのアウトブレイクとの違いは? 今回の死者は約5,000人となり(会見時:2014年10月30日)、1976年の発見以降の38年間におけるエボラによる死者数の3倍に達する。これまでのアウトブレイクは非常に限定的なものであった。ところが、今回は、医療システムの崩壊、政府への信用欠如、対応の遅れなど、さまざまな要素が合わさり、流行を制御不能にした。また、医療従事者に悪影響を及ぼし、医療システムの崩壊を招いている。このように社会全体に与えている影響を鑑みると、大規模な国際的取り組みは喫緊の課題といえよう。事態は好転しているのか? 国際的協力が進み、社会の認知が改善したことで良い刺激が出てきているが、国によって状況は異なる。シエラレオネでは流行はまだ悪化している。リベリアでは一部の地域で沈静化のサインが出てきている。実際の社会での拡大阻止を実現できるのは、国際的援助ではなく、地域の人間の活動である。リベリアでは、伝統的指導者が、(死者の身体を拭くという)埋葬の方法を変えるべき、と発言するなど新たな動きが出てきた。これは非常に重要なことだ。 個人的な楽観的シナリオではあるが、クリスマスまでには緩やかな減少が各地にみられるかもしれない。防御服を着ても医療従事者の感染が起こっているが? 防御服を脱ぐ時が問題である。エボラウイルスは死亡患者の身体にも非常に多く生存する。嘔吐、下痢、出血などがその原因だ。死亡者の身体でも2~3日は感染性が高い状態が続き、患者の寝ていたシーツやテーブルの上などでも数時間生存する。ウイルスは口、鼻、結膜などから侵入する。防護服を脱ぐ際、過って患者や死亡者の体液がついた防御服に触れ、その手で瞼や鼻をさわるなどして感染を起こす。そのため、国境なき医師団など熟練した組織では現在、防御服の脱衣を監督下で行っている。中国、日本への拡大リスク 伝播は世界中どの国でも起こりうるが、中国での危険性は高いといえる。現在、何千人という中国人労働者がアフリカ大陸にいる。人の渡航は止めることはできない。中国人労働者がエボラを本国に持ち帰ることも、逆にアフリカ人が中国にウイルスを持ち込む可能性もある。だが、ここで最も大きな問題は医療機関の感染制御の質なのである。SARSの経験で徐々に改善されているものの、中国の公の病院の感染制御レベルはまだ低い。そういう意味で、中国は脆弱性が高いと考えられる。 一方、日本は衛生面、感染制御とも基準を満たしている。だが、同じレベルにある米国テキサスでも死者が発生していることからも安全とはいえない。この時期に、国全体でより良い感染制御の訓練を加速すべきである。これは一部の指定された病院だけでなく、すべての病院が対象となるべきだ。エボラウイルス治療薬、ワクチンの開発 現在は患者の隔離、生命維持、水分補給、接触者の検疫措置、環境改善などの原始的な形でしか封じ込めはできない。そのようななか、富士フイルムグループの富山化学工業のインフルエンザ治療薬アビガン錠がエボラ治療薬として認められた。エボラに対する効果はヒトでは確認されていないが(マウスでは確認済み)、WHOは本疾患の死亡率を鑑みこの判断を下した。現在、用量設定試験が進行中である。そのほかにも幾つかの治療薬が開発されつつある。また、ワクチンも開発されつつある。現在の混乱した状況では効果確認は容易ではないが、いつくかの候補があり、うち1つのワクチンで第I相試験が行われている。 エボラの大きな問題は、他者に感染させる危険がある最後の1人がいなくなるまで終わらないことである。実際、ギニアでは一旦沈静化したにもかかわらず1人の有名人に集まった葬儀参加者から感染が再拡大している。つまり、患者が1人いれば流行が再燃するには十分なのである。この点が他の感染症とは大きく違うところである。そして、これは同時に今後も全面的な取り組みが必要であることを意味する、とピオット氏は強調した。グローバルヘルス技術振興基金 GHIT Fund(Global Health Innovative Technology Fund):開発途上国に蔓延する感染症制圧に必要不可欠な医薬品、ワクチン、診断薬の研究開発および製品化の支援を目的とし、官・企業・市民がパートナーシップを組み資金を拠出して設立したグローバルヘルスR&Dに特化した基金。途上国の最貧困層が必要とする医薬品・ワクチン・診断薬の研究開発・製品化に向け活動している。

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ビフィズス菌で不安症状が改善

 最近の研究では、ストレス関連精神疾患に常在菌の摂取が好影響を与える可能性があることが示唆されている。しかし、特定の細菌が不安や抑うつ症状にどのような影響を及ぼすかは不明であった。アイルランド・コーク大学のH M Savignac氏らは、2種類のビフィズス菌の不安・抑うつ症状に対する影響や抗うつ薬との比較を行った。Neurogastroenterology and motility誌オンライン版2014年9月24日号の報告。 先天的不安BALB/cマウスに、ビフィドバクテリウム(B.)ロンガム1714またはB.ブレーベ1205、抗うつ薬エスシタロプラム、溶媒を用いた治療を毎日6週間実施した。行動評価には、ストレス誘発性高体温試験、ガラス玉覆い隠し行動試験、高架式十字迷路試験、オープンフィールド試験、尾懸垂試験、強制水泳試験を用いた。また、急性ストレスに対する生理的反応も評価した。 主な結果は以下のとおり。・両ビフィズス菌治療およびエスシタロプラム治療は、ガラス玉覆い隠し行動試験において不安の軽減が認められた。また一方、B.ロンガム1714治療は、ストレス誘発性高体温を低下させた。・B.ブレーベ1205治療は、高架式十字迷路試験において不安の低下をもたらした。一方、B.ロンガム1714治療は、尾懸垂試験において抗うつ様行動を引き起こした。・しかし、グループ間のコルチコステロンレベルに差はなかった。 以上より、2種類のビフィズス菌が不安マウスの不安を減少させることが示唆された。これらの結果は、各細菌株が内因性の効果を有すること、特定の障害に特異的に有益であることを示している。関連医療ニュース 若年男性のうつ病予防、抗酸化物質が豊富な食事を取るべき 日本人うつ病患者に対するアリピプラゾール補助療法:名古屋大学 効果不十分なうつ病患者、次の一手のタイミングは  担当者へのご意見箱はこちら

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急性期統合失調症、2剤目は併用か 切り換えか:順天堂大学

 順天堂大学の八田 耕太郎氏ら精神科救急医療機関の多施設共同研究グループ(JAST study group)は、統合失調症の急性期患者でリスペリドンまたはオランザピンの早期治療反応不良(ENR)例について、それぞれへの切り替えvs. 追加併用の検討を行った。結果、リスペリドンENR患者でオランザピンへの切り替えは、オランザピン追加併用よりもわずかだが優れる可能性が、一方でオランザピンENR患者ではリスペリドン追加併用がリスペリドン切り替えよりもわずかに優れる可能性が示されたことを報告した。Schizophrenia Research誌2014年9月号の掲載報告。 検討は、精神科救急医療部門で統合失調症の新規入院急性期患者を適格とし、評価者盲検無作為化試験にて行われた。最初に投与した抗精神病薬(リスペリドン[RIS]またはオランザピン[OLZ])について、ENR(Clinical Global Impressions-Improvement[CGI]尺度:2週時点で4以上)であった患者を、もう一方の抗精神病薬を追加併用する群、または切り替える群に無作為に割り付けて検討した(RIS+OLZ vs. RIS-OLZ、OLZ+RIS vs. OLZ-RIS)。 主な結果は以下のとおり。・リスペリドン治療を2週間受けた患者60例のうち、早期治療反応(ER)例は33例、ENRは27例であった。後者の患者のうちRIS+OLZに14例、RIS-OLZに13例が割り付けられた。・あらゆる要因による治療中止までの期間について、RIS+OLZ群(54.1日、95%信頼区間[CI]:41.3~67.0日)は、RIS-ER群(同:68.7日、61.2~76.2日)よりも有意に短かった(p=0.050)。・一方、RIS-OLZ群(同:58.5日、43.1~73.9日)はRIS-ER群と比較し、有意な差はなかった(p=0.19)。・オランザピン治療を2週間受けた患者60例のうち、ER例は36例、ENRは24例であった。後者の患者のうちOLZ+RISに11例、OLZ-RISに13例が割り付けられた。・あらゆる要因による治療中止までの期間について、OLZ-RIS群(56.1日、95%CI:40.7~71.5日)は、OLZ-ER群(同:74.9日、68.5~81.3日)よりも有意に短かった(p=0.008)。・同期間について、OLZ+RIS群(同:64.6日、49.6~79.6日)はOLZ-ER群と比較し、有意な差はなかった(p= 0.20)。 リスペリドンENR患者でオランザピンへの切り替えは、オランザピン追加併用よりもわずかだが優れる可能性が、一方でオランザピンENR患者ではリスペリドン追加併用がリスペリドン切り替えよりもわずかに優れる可能性が示された。結果を踏まえて著者らは、「これら所見のように日常診療を修正することが妥当か、さらなる検討を行う必要がある」とまとめている。関連医療ニュース 統合失調症治療、ベンゾジアゼピン系薬の位置づけは オランザピンによる急性期治療、心血管系に影響 統合失調症の急性増悪期、抗精神病薬の使用状況は?:国立精神・神経医療研究C  担当者へのご意見箱はこちら

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急性腰痛にデキサメタゾン静注は有効か

 神経根障害を伴う腰痛はデキサメタゾン単回静脈内投与により軽減するのだろうか。オーストラリア・ボンド大学のRavichandra Balakrishnamoorthyらが、救急診療部の患者を対象にプラセボ対照二重盲検比較試験を行い、上記治療の通常治療への追加により神経根障害を伴う腰痛患者の疼痛を短期的に改善することを明らかにした。6週後では効果に有意差はみられなかったものの、デキサメタゾン投与により救急診療部滞在時間が減少することが示唆され、著者は「デキサメタゾン単回静脈内投与は標準的治療の補助療法として安全と考えられる」とまとめている。Emergency Medicine Journal誌オンライン版2014年8月13日号の掲載報告。 試験は、3次救急病院1施設および都市部の救急診療部1施設にて行われた。 対象は、救急診療部の神経根障害を伴う腰痛患者58例で、通常の治療にデキサメタゾン8mgまたはプラセボを単回静脈内投与した。 主要評価項目は24時間後における疼痛強度(視覚アナログスケール[VAS])の試験開始時からの変化量、副次的評価項目は6週後の疼痛強度(VAS)、救急診療部滞在時間、下肢伸展挙上テスト(SLR)、およびオスウェストリー機能スコアであった。  主な内容は以下のとおり。・24時間後におけるVASスコア変化量は、デキサメタゾン群-2.63(95%信頼区間[CI]:-3.63~-1.63)、プラセボ群-0.77(同:-2.04~0.51)で、デキサメタゾン群がプラセボ群より1.86ポイント(95%CI:0.31~3.42、p=0.019)有意に大きかった。・6週後も試験開始時に比べVASスコアの有意な減少が持続していたが、両群で類似していた。・デキサメタゾン群はプラセボ群より救急診療部滞在時間が有意に短く(中央値:3.5時間 vs 18.8時間、p=0.049)、退院時のSLRも改善していた(14.7度、p=0.040)。・オスウェストリー機能スコアは、両群で差はなかった。■「デキサメタゾン」関連記事術前デキサメタゾン追加で術後24時間の嘔吐が低減/BMJ

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塩分過剰による心血管死、世界で年間165万人/NEJM

 全世界の平均ナトリウム摂取量は、基準値のおよそ2倍で、ナトリウム過剰摂取に起因する心血管疾患死は、年間165万人に上ることが明らかになった。米国・ハーバード公衆衛生大学院のDariush Mozaffarian氏らが、世界の成人の約74%について行った調査で明らかにした。ナトリウム摂取が心血管死亡率に与える影響について、世界レベルの検討はこれまで行われていなかった。NEJM誌2014年8月14日号掲載の報告より。世界66ヵ国に住む人のナトリウム摂取量を調査 研究グループは、世界66ヵ国に住む人の、尿中排泄量と食事内容から得られたナトリウム摂取量の調査結果を集計し、年齢、性別、国別のナトリウム摂取量を推定した。調査対象は、世界の成人74.1%に該当した。 ナトリウムが血圧に及ぼす影響について、年齢、人種、高血圧症の有無の別に、107の無作為化試験について行ったメタ解析のデータを基に割り出した。また、高血圧が心血管死に与える年齢別の影響については、2つの大規模コホート試験のメタ解析から算出した。原因別死亡は、2010年の世界疾病負担研究(Global Burden of Disease Study)に基づいた。 比較リスク評価を用いて、1日ナトリウム摂取量の基準値2.0gと比べ、現状のナトリウム摂取量が心血管に与える影響について、年齢、性別、国別に分析した。死亡10件中1件がナトリウム過剰摂取に起因する心血管死 結果、2010年の世界の1人当たりナトリウム摂取量の推定値は、1日平均3.95gで、地域別では2.18~5.51g/日と幅があった。 世界中で基準値を超えるナトリウム摂取に起因する心血管死は、年間165万人(95%不確実区間[信頼区間]:110万~222万人)に上った。同死亡のうち男性の割合は61.9%、女性は38.1%だった。 ナトリウム過剰摂取に起因する心血管死の割合は、死亡10件に1件(9.5%)で、なかでも低~中所得国では死亡5件に4件(84.3%)と高率だった。こうした死亡の5件に2件(40.4%)は、年齢が70歳未満だった。 同死亡率が最高だったのはグルジアで、最低だったのはケニアだった。

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認知症にイチョウ葉エキス、本当に有効なのか

 認知障害および認知症に対するイチョウ葉エキスの有益性および有害事象については、長年にわたって議論の的となっている。中国海洋大学のMeng-Shan Tan氏らは、認知障害および認知症に対しイチョウ葉エキス(EGb761)の有効性および有害性についてシステマティックレビューとメタ解析を行った。その結果、同240mg/日の22~26週投与により、認知、機能、行動の低下および全般的な低下を、阻止あるいは遅らせうることが、とくに神経精神症状を伴う患者で示されたと報告した。Journal of Alzheimer's Disease誌オンライン版2014年8月11日号の掲載報告。 2014年3月の時点でMEDLINE、EMBASE、Cochraneなどの関連データベースを、EGb761に関する無作為化試験(認知障害および認知症患者への治療として検討)を適格として検索し、評価した。 主な結果は以下のとおり。・適格基準を満たした試験は、9件であった。試験期間は、22~26週間で、合計2,561例の患者が含まれていた。・メタ解析の結果、認知に関する変化スコアの加重平均差は、プラセボと比較してEGb761群で良好であった(-2.86、95%信頼区間[CI]:-3.18~-2.54)。・また、日常生活動作(ADL)に関する変化スコアの標準平均差も、同様にEGb761群で良好であった(-0.36、95%CI:-0.44~-0.28)。・Clinicians' Global Impression of Change(CGIC)尺度に関するプラセボとのPeto法オッズ比(OR)は、統計的に有意な差がみられた(OR 1.88、95%CI:1.54~2.29)。・これらすべての有益性は、主にEGb761用量が240mg/日で認められた。・神経精神症状を伴う患者のサブグループ解析では、全体グループと比べてEGb761の240mg/日投与は、認知機能、ADL、CGICおよび神経精神症状の改善が、統計的に優れていることが示された。・アルツハイマー型認知症群の解析では、全体グループと比べて主なアウトカムはほとんど同等で統計的な優越性はみられなかった。・安全性のデータから、EGb761の安全性について重大な懸念はないことが示された。関連医療ニュース 認知症にスタチンは有用か 認知症予防効果を降圧薬に期待してよいのか 統合失調症の認知機能改善に抗認知症薬は有用か  担当者へのご意見箱はこちら

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乾癬治療へのセチリジン追加投与は有効か

 フマル酸エステル(FAE)治療を受ける乾癬患者への、経口抗ヒスタミン薬セチリジン(同:ジルテックほか)10mgの1日1回投与の追加は、治療開始12週間の有害事象を減少しなかったことが報告された。オランダ・エラスムス大学医療センターのD.M.W. Balak氏らが無作為化二重盲検プラセボ対照試験の結果、報告した。FAEは乾癬の有効かつ安全な長期治療薬とみなされているが、30~40%の患者が耐え難い胃腸障害や潮紅などの有害事象のために服用を中断している。今回の結果を踏まえて著者は、「FAEが引き起こす胃腸障害や潮紅の発症機序には、ヒスタミン以外のメディエーターが関与していると思われる」とまとめている。British Journal of Dermatology誌オンライン版2014年7月17日号の掲載報告。 試験は、PASI 10以上の乾癬患者でFAE 720mg/日の治療を開始した患者を、無作為に、セチリジン1日1回10mg群とプラセボ群に割り付け、12週間投与した。無作為化と治療割付は試験病院の院内薬局で行われた。 主要アウトカムは、有害事象の発生と治療を中断した患者の割合であった。 主な結果は以下のとおり。・50例の患者(男性33例、女性17例、年齢中央値44歳)が登録され、1対1の割合で各群に割り付けられた。・セチリジンの追加投与は、プラセボと比較して、有害事象を減少しなかった(84%vs. 84%、p=1.00)。・有害事象のタイプは、両群で異ならなかった。また、最も共通してみられたのは、胃腸障害(68%vs. 64%)、潮紅(60%vs. 48%)であった。・治療を中止した患者の割合も統計的有意差はみられなかった(24%vs. 32%、p=0.529)。

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妊娠間隔は早産リスクに無関係?/BMJ

 出産から次の妊娠までの間隔が短すぎたり長すぎたりしても、早産や出生時低体重などのリスクの増大はほとんど認められないことが明らかにされた。西オーストラリア大学のStephen J. Ball氏らが、単生児3人を出産した4万人超の女性について、後ろ向きコホート研究を行い報告した。これまでの検討では、被験者個別のリスク因子に関する適切な補正が難しかったが、今回は被験者1人が経験した複数の出産を比較して検討が行われた。結果を踏まえて著者は、「母体に転帰不良のリスク要因があることが示唆された」とまとめている。BMJ誌オンライン版2014年7月23日号掲載の報告より。連続2回の妊娠の間隔を比較 同研究グループは1980~2010年にかけて、オーストラリア西部で3人の単生児を出産した女性4万441人について後ろ向きに調査を行った。妊娠の間隔と早産などのアウトカムとの関連を分析した。 1人の母親について、2つの妊娠の間隔をマッチングさせることで、一人ひとりが自身のコントロールとなる手法をとった。 主要評価項目は、妊娠37週未満の早産、胎児発育遅延(在胎期間と性別の分布で10パーセンタイル未満)、出生時低体重(2,500g未満)だった。妊娠間隔5ヵ月以下でも、早産、出生時低体重、胎児発育遅延のリスク増なし その結果、今回のマッチング手法を用いた場合、出産から次の妊娠までの間隔が0~5ヵ月と短かった場合の早産リスクの増大は認められなかった(同間隔18~23ヵ月と比較したオッズ比[OR]:1.07、95%信頼区間[CI]:0.86~1.34)。同じく、出生時低体重(同:1.03、0.79~1.34)、胎児発育遅延(同:1.08、0.87~1.34)ともにリスクの有意な増大はみられなかった。 一方でマッチング手法を用いなかった場合、妊娠間隔が0~5ヵ月では早産や出生時低体重リスクの有意な増大が認められた。 しかし妊娠間隔が59ヵ月超の場合は、マッチング手法の有無にかかわらず、胎児発育遅延リスクの増大が認められた(60~119ヵ月のマッチングを行った場合の同OR:1.40、95%CI:1.11~1.76)。また妊娠間隔が60~119ヵ月の出生時低体重リスクについては、マッチング後1.14(同:0.85~1.54)だった。同間隔が長い場合の早産リスクの有意な増大は認められなかった。

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抗うつ薬+アリピプラゾール、長期忍容性は

 抗うつ薬が奏効しないうつ病患者に対する抗精神病薬の併用は、長期的に安全なのか。米国・バージニア大学のAnita H Clayton氏らは、大うつ病性障害(MDD)患者に対し、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)/セロトニン・ノルエピネフリン再取り込み阻害薬(SNRI)またはブプロピオン(国内未承認)にアリピプラゾールを併用した場合の長期忍容性を評価した。その結果、いずれの併用においても予期せぬ有害事象は認められず、同様の症状改善効果が認められたことを報告した。BMC Research Notes誌オンライン版2014年7月18日号の掲載報告。 研究グループは、MDD患者を対象とし、アリピプラゾールをSSRIs/SNRIsに併用した場合の長期治療の安全性、忍容性および有効性を評価するpost hoc解析を実施した。具体的には、1~4種類の抗うつ薬治療(ADT:SSRI、SNRIまたはブプロピオン)に対する反応性が不良で、その後にアリピプラゾールを投与した52週間の非盲検安全性試験の登録患者で、過去に実施された2つの研究に参加していない新規患者のデータを解析した。安全性、忍容性、性機能(マサチューセッツ総合病院性機能評価項目[MGH-SFI])、Clinical Global Impression-Severity(CGI-S)を評価した。 主な結果は以下のとおり。・ブプロピオン+アリピプラゾールが47例、SSRI/SNRI+アリピプラゾールが245例で、52週間の治療完了例はそれぞれ19例(40.4%)、78例(31.8%)であり、試験薬を1回以上投与(安全性評価対象)された例は46例、242例であった。・何らかの理由による中止までの期間中央値は、184.0日であった。・ブプロピオン群の97.8%、SSRI/SNRI群の93.8%に、1件以上の有害事象が発現した。・ブプロピオン群で最も多かった治療関連有害事象は疲労(26.1%)と傾眠(21.7%)であった。SSRI/SNRI群は疲労(23.6%)とアカシジア(23.6%)であった。・52週時の平均体重変化は、ブプロピオン群で+3.1kg、SSRI/SNRI群は+2.4kgであった。・治療に関連する、臨床的に意味のある空腹時血糖異常はブプロピオン群8.3%、SSRI/SNRI群で17.4%であった。空腹時総コレステロール値の異常は、それぞれ25.0%、34.7%であった。・空腹時血糖値のベースラインからの平均変化(標準誤差)は、ブプロピオン群1.4(1.9)mg/dL 、SSRI/SNRI群2.7(1.5)mg/dLであった。・ベースライン時のMGH-SFIスコアにおいて、ブプロピオン群はSSRI/SNRIと比べて性機能障害の程度が低いことが示唆された。そして両群ともMGH-SFIスコアの改善は、52週時に最大値を示した。・52週時点の平均CGI-S改善(最終的に改善に向かっている)は、ブプロピオン群-1.4、SSRI/SNRI群は-1.5であった(有効性の解析対象において)。・ブプロピオンまたはSSRI/SNRIのいずれにアリピプラゾールを追加しても、長期投与に伴う予期せぬ有害事象はみられなかった。また、症状改善は抗うつ薬群間で同様であった。MDD患者の性機能もまた、アリピプラゾール追加後に穏やかに改善した。関連医療ニュース 日本人うつ病患者に対するアリピプラゾール補助療法:名古屋大学 難治性うつ病にアリピプラゾールはどの程度有用か 本当にアリピプラゾールは代謝関連有害事象が少ないのか  担当者へのご意見箱はこちら

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Vol. 2 No. 3 慢性血栓塞栓性肺高血圧症に対するカテーテルインターベンションの現状と展望 バルーン肺動脈形成術は肺動脈血栓内膜摘除術の代替療法となりうるか?

川上 崇史 氏慶應義塾大学病院循環器内科はじめに慢性血栓塞栓性肺高血圧症(chronic thromboembolic pulmonary hypertension:CTEPH)とは、器質化血栓により広範囲の肺動脈が狭窄または閉塞した結果、肺高血圧症を合併した状態である。早期に適切な治療がなされない場合、予後不良であり、心不全から死に至るといわれている1)。当初Riedelらは、CTEPHの予後は、平均肺動脈圧が30mmHg、40mmHg、50mmHg以上と段階的に上昇するにつれて、5年生存率は50%、30%、10%へ低下すると報告した2)。現在、各種肺血管拡張剤が発達しており、上記より良好な成績であるとは思われるが、効果は限定的である。また、中枢型CTEPHに対しては、肺動脈血栓内膜摘除術(pulmonary endarterectomy:PEA)が根治術として確立されている3)。しかし、末梢型CTEPHに対する成績は中枢型CTEPHと比較して劣っており、末梢型のためにPEA適応外となる症例も少なからず存在する。2000年代半ばより、本邦において、薬物療法で十分な治療効果が得られず、PEA適応外である症例に対して、バルーン肺動脈形成術(balloon pulmonary angioplasty:BPA)が試みられ、有効性が報告された。以下、本邦から治療効果と安全性が確立したBPAについて概説する。BPAについて最初に複数例のCTEPHに対するBPAの有効性を報告したのは、2001年のFeinsteinらである4)。Feinsteinらは、末梢型や並存疾患によりPEA適応外である18例のCTEPHに対して、平均2.6セッションのBPAを施行し、平均36か月間、経過観察した。BPA後、平均肺動脈圧の有意な低下(43→33.7mmHg)とNYHA分類の改善(3.3→1.8)、6分間歩行距離の改善(191→454m)を認めたが、PEAと同様の合併症である再灌流性肺水腫が18例中11例(61.1%)に発症し、人工呼吸器管理が3例(16.6%)、BPA関連死が1例(5.6%)という成績であった。当時の旧式のバルーンカテーテルや0.035インチガイドワイヤーを用いて行われたBPAの初期報告は、上記のように有効性を認めたわけであるが、外科的根治術であるPEAの有効性には及ばなかった。当時、UCSDのJamiesonらのPEA周術期死亡率は4.4%であり、術後の平均肺動脈圧は、中枢型CTEPHで46から28mmHg、末梢型CTEPHで47から32mmHgまで改善することができた3)。このため、米国ではBPAはPEAに劣ると結論づけられた。当時、CTEPHの治療選択肢には、PEAと薬物療法があり、PEAの適応症例であれば、十分な改善を得ることができたが、PEA適応外の症例を薬物療法で治療してもあまり改善は得られなかった。結果として、年齢、並存疾患(全身麻酔ができない)、末梢型CTEPHなどでPEAが実施できない症例が割と多いこと、末梢病変の存在によりPEA後の残存肺高血圧症が10%程度あることが問題として残った。このような背景において、2000年代半ばより、本邦の施設でPEA適応外である重症CTEPHに対して、BPAが施行されるようになり、いくつかの報告がされた5-7)。なかでも、岡山医療センターのMizoguchi、Matsubaraらの報告は、68名のCTEPH患者に対して255セッションのBPAを施行し、最大7年間、経過観察している。結果、BPA後に平均肺動脈圧、肺血管抵抗の低下(各々45.4→24mmHg、942→327dyne sec/cm5)、心係数の増加(CI 2.2→3.2L/min/m2)、6分間歩行距離の延長(296→368m)、BNPの有意な改善(330→35pg/mL)を認めた。酸素投与量も減量(oxygen inhalation 3.0→1.3)することができ、68名中、26名の患者(38%)で在宅酸素療法を離脱することができた。また、96%の患者がWHO分類ⅠまたはⅡまで改善することができた。周術期死亡率は1.5%であり、再灌流性肺障害(再灌流性肺水腫と同義)を含めた呼吸器関連合併症を認めたが、症例経験の増加に伴い、合併症は有意に低下すると報告している。以上、2010年以降の本邦からの報告において、改良されたBPAは、Feinsteinらの初期のBPAと比べて、安全性・有効性ともに著しく改善したといえる。改善した理由としては、バルーンカテーテルの発達、0.014インチガイドワイヤーの使用、画像診断デバイス(IVUSなど)の積極的な使用などがあると思われる。手技の流れについては次項で述べる。BPAの実際術前、右心カテーテル検査・肺動脈造影を必ず行い、個々の患者における肺高血圧症の重症度と肺動脈病変の形態評価を行う。検査結果より、右房圧が高ければ、利尿剤を調節し、心拍出量が低値(CI 2.0L/min以下)であれば、術前からドブタミンの投与を行う。抗凝固療法については前日からワルファリンカリウムを中止している。重症例で軽度の肺出血が致死的となる可能性がある場合、コントロールしやすいヘパリンへ置換する方法もあると考える。ワルファリンは他剤との併用により容易に効果が増強するので、PT-INRの頻回の測定を要する。また、われわれはエポプロステノールを使用していない。理由はCTEPHにおいて肺動脈圧の低下作用が軽微であること、中心静脈カテーテル留置など手技が煩雑であること、抗凝集作用により出血を助長する可能性があると考えているからである。次に実際のBPA手技について述べる。手技は施設間でやや異なっていると思われる。しかし、0.014インチガイドワイヤーの使用、肺動脈主幹部へのロングシース挿入、積極的な画像診断デバイスの使用などは各施設である程度、共通していると思われる。以下、われわれの施設の手法を述べる。アプローチ部位の第1選択は、右内頸静脈である(図1)。理由はガイディングカテーテルのバックアップや操作性がよいことである。また、術後のスワンガンツカテーテル留置が迅速にできることも利点である。内頸静脈が使用できない場合は、大腿静脈アプローチを考慮する。まず、エコーガイド下に9Fr 8.5cmシース(スワンガンツカテーテル留置用シース)を右内頸静脈に挿入する。内頸静脈アプローチとはいえ、稀に気胸を合併することがある。気胸はBPA後の必要時にNPPVが使用できなくなるなど、術後管理を困難にするため、必ず避けねばならない。このため、われわれは100%、エコーガイド下穿刺を実践している。図1 右内頸静脈アプローチ画像を拡大する次に6Fr 55cmまたは70cmロングシースを9Frシース内へ挿入する。6Frロングシースの先端をJ型またはPigtail型にシェイピングし、0.035インチラジフォーカスガイドワイヤーに乗せて、治療対象となる左右肺動脈の近位部へ進める。その後、6Frロングシース内へ6Frガイディングカテーテルを入れ、治療標的となる肺動脈病変へエンゲージする。ガイディングカテーテルの選択には術者の好みもあると思うが、われわれは岡山医療センターと同様、柔らかい材質のMulti-purposeカテーテルを第1選択とすることが多い。その他、治療標的血管により、AL1カテーテルやJR4カテーテルを適宜、選択する。稀であるが、完全閉塞病変に対して、材質の固いガイディングカテーテルを使用することがある。ガイディングカテーテルのエンゲージ後、正面、左前斜位60度の2方向で選択造影を行い、0.014インチガイドワイヤーをバルーンかマイクロカテーテルサポート下に肺動脈病変を通過させる。肺動脈病変に対するワイヤリングは、PCIやEVTと違うと感じる術者が多い。これは、肺動脈の解剖が3次元的に多彩であること(細かい分岐が多い)、肺動脈は脆弱で破綻しやすいこと、肺動脈病変が他の動脈硬化病変と大きく異なること、呼吸変動の存在などに起因すると思われる。特にBPAにおいて、呼吸変動をコントロールすることはとても重要である。呼吸変動を上手に利用すれば、ガイドワイヤー通過の助けになるが、上手にコントロールできなければ、ガイドワイヤーによる肺血管障害(肺出血)が容易に起こると思われる。当院では、肺血管障害を最小限にするため、ガイドワイヤーの通過後、可能な限り、先端荷重の軽いコイルタイプのガイドワイヤーへ交換している。ガイドワイヤー通過後は、血管内超音波(IVUS)または光干渉断層法(OCT)で病変性状・範囲・血管径などを評価し、病変型に準じて、血管径の50~80%程度のサイズのバルーンカテーテルで拡張していく。なお、平均肺動脈圧40mmHg以上または心拍出量2.0L/min以下の症例の場合は、岡山医療センターの手法に倣って、上記より20%程度減じたバルーンサイズを選択している。なお、CTEPHの肺動脈病変は再狭窄することはほぼなく、バルーンサイズを減じても大きな問題になることはない。しかし、複数回治療後に平均肺動脈圧が低下した症例の場合は、適切なサイズのバルーンカテーテルで拡張することがさらなる改善のために必要である。次に術後管理について述べる。BPA後は原則として、スワンガンツカテーテルを留置し、集中治療室管理としている。また、術後、再灌流性肺障害の有無や程度を確認するために必ず胸部単純CTを施行する。これらは、術後の再灌流性肺障害の有無、重症度の評価をするために行っている。経過がよければ、翌日午前中に集中治療室から一般病室へ戻ることができ、午後には歩行可能となる。当院での104セッションのBPAにおいては、1セッションのみで3日間の集中治療室管理を要したが、残り103セッションの集中治療室の滞在期間は1日であった。なお、最近、NPPV装着は必須としていないが、常にスタンバイしておく必要がある。NPPV適応となるのは、コントロール困難な喀血・血痰、重度の酸素化不良例などである。以下に当院の症例を示す。症 例54歳、女性主 訴労作時呼吸困難既往歴特になし家族歴特になし現病歴2011年11月、労作時呼吸困難(WHO分類Ⅱ)を認めた。2012年1月、労作時呼吸困難が悪化したため(WHO分類Ⅲ)、近医を受診し、急性肺塞栓症の診断で緊急入院となった。抗凝固療法を行い、外来で経過観察していたが、2012年9月、労作時呼吸困難が再増悪したため(WHO分類Ⅲ)、同医を受診。心エコー図で肺高血圧症を指摘され、CTEPHと診断された。2012年11月、精査加療目的で当院を紹介受診した。右心カテーテル:右房圧9、肺動脈圧73/23/m41、心拍出量1.8、肺血管抵抗1156肺動脈造影:図2入院後経過タダラフィル20mg/日を内服開始したが、肺動脈圧66/24/m39、心拍出量1.8、肺血管抵抗967と有意な改善は認めなかった。本人・家族と相談し、BPAの方針となった。1回目BPA:左A9、A102回目BPA:右A6、A8、A103回目BPA:右A1、A2、A3、A4、A54回目BPA:左A1+2、A85回目BPA:左A4、A56回目BPA:右A1、A3、A6、A7、A8、A9治療後計6回のBPAで計20病変を治療後、症状は消失した(WHO分類Ⅰ)。また、右心カテーテルでは肺動脈圧34/11/m19、心拍出量3.1、肺血管抵抗316と著明な改善を認めた。図2 肺動脈造影画像を拡大するBPAの現状と今後の適応過去の報告において、FeinsteinらはBPA適応を末梢型CTEPHや併存疾患により全身麻酔が困難なPEA適応外のCTEPHとしてきた。これらは、本邦からの報告でも同様である。しかし、近年、BPAは有効性に加えて、安全性も大きく向上しており、当院では適応範囲を拡大して、以下をBPAの適応としている。中枢型CTEPH(原則としてinoperable)末梢型CTEPH高齢重篤な併存疾患を有するCTEPHPEA後の残存PH軽度から中等度のCTEPH上記の重篤な併存疾患とは、全身麻酔ができない症例のことであると考える。また、BPAの普及により、最も恩恵を受けたのは、PEA後の残存PHと軽度から中等度のCTEPH症例であろう。PEA後の残存PHに対して再度、PEAを行うのは実際、高リスクであり、BPAはよい選択肢である。また、軽度から中等度のCTEPHは、従来、薬物療法で経過観察されていた患者群であるが、これらの症例に対して、BPAを行うことによりさらにQOLが向上し、薬物療法の減量、在宅酸素療法の減量・中止が可能となることをしばしば経験する。以上より、カテーテル治療であるBPAは低侵襲であり、PEAより適応範囲が広いと思われる。しかし、BPAに適した症例、PEAに適した症例があり、個々の患者でよく検討することが重要である。CTEPHには、血管造影上、いくつかの特徴的な病変があることが報告されている8)。当院で治療した計476病変を検討した結果、病変により、BPAの手技成功率が異なることが確認された(図3)。当然であるが、カテーテル手術のため、閉塞病変の方が狭窄病変より治療が難しく、再灌流性肺障害を含めた合併症発生率も高率である。しかし、BPAで閉塞病変を開存させることにより、著しく血行動態や酸素化の改善を経験することが多々あり、個人的には、閉塞病変は可能な限り開存させるべきであると考える。図3 各種病変と手技成功率画像を拡大する一方、用手的に器質化血栓を摘除するPEAは、BPAと比べて、閉塞病変の治療が容易にできるかもしれない。また、器質化血栓が多量である場合、器質化血栓をバルーンで壁に圧着させるBPAより、完全に摘除するPEAの方が理にかなっているかもしれない。しかし、PEAでは到達が困難である肺動脈枝が存在することも事実である。いずれにしても、BPA、PEAの双方とも一長一短があり、適応決定に際しては、外科医・カテーテル治療医の両者で話し合うことが望ましいと考えられる。まとめ以上、近年、本邦で発展を遂げたインターベンションであるBPAについて概説した。従来、CTEPHに対する根治術はPEAだけであったため、BPAの発展は、CTEPH患者にとって大きな福音であると思われる。現在、経験のある施設で再灌流性肺障害を低減させる試みがなされ、合併症発症率は確実に減少している。しかし、安全性を重視するあまり、治療効果を減じるようでは、本末転倒といわざるをえない。低い合併症発生率と高い治療効果の双方を合わせもったBPAでなければならない。CTEPHの第一の治療ゴールは、平均肺動脈圧30mmHg以下を達成することである。これにより、CTEPH患者の予後を改善することができる。そして、第二の治療ゴールは、さらなる平均肺動脈圧の低下を目指して(20mmHg以下)、QOLの向上や酸素投与量の減量・中止、薬物療法の減量などを達成することである(図4)。われわれは可能な限り、平均肺動脈圧の低下を目指す「lower is better」を目標として、日々、CTEPHを治療している。また、BPAは本邦が世界をリードしている分野であり、今後、本邦から多くの知見が報告されなければならないと考える。図4 治療のゴール画像を拡大する最後にわれわれも発展途上であり、今後、多くの施設とBPAの発展について協力していければと思っている。文献1)Piazza G et al. Chronic thromboembolic pulmonary hypertension. New Engl J Med 2011;364: 351-360.2)Riedel M et al. Long term follow-up of patients with pulmonary thromboembolism: late prognosis and evolution of hemodynamic and respiratory data. Chest 1982; 81: 151-158.3)Thistlethwaite PA et al. Operative classification of thromboembolic disease determines outcome after pulmonary endarterectomy. J Thorac Cardiovasc Surg 2002; 124: 1203-1211.4)Feinstein JA et al. Balloon pulmonary angioplasty for treatment of chronic thromboembolic pulmonary hypertension. Circulation 2001; 103:10-13.5)Sugimura K et al. Percutaneous transluminal pulmonary angioplasty markedly improves pulmonary hemodynamics and long-term prognosis in patients with chronic thromboembolic pulmonary hypertension. Circ J 2012; 76: 485-488.6)Kataoka M et al. Percutaneous transluminal pulmonary angioplasty for the treatment of chronic thromboembolic pulmonary hypertension. Circ Cardiovasc Interv 2012; 5: 756-762.7)Mizoguchi H et al. Refined balloon pulmonary angioplasty for inoperable patients with chronic thromboembolic pulmonary hypertension. Circ Cardiovasc Interv 2012; 5: 748-755.8)Auger WR et al. Chronic major-vessel thromboembolic pulmonary artery obstruction:appearance at angiography. Radiology 1992;182: 393-398.

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吐下血の出血量を過小評価したため死亡に至ったケース

消化器最終判決判例時報 1446号135-141頁概要慢性肝炎のため通院治療を受けていた43歳男性。1988年5月11日夕刻、黒褐色の嘔吐をしたとして来院して診察を受けた。担当医師は上部消化管からの出血であると診断したが、その夜は対症療法にとどめて、翌日検査・診察をしようと考えて帰宅させた。ところが翌朝吐血したため、ただちに入院して治療を受けたが、上部消化管からの大量出血によりショック状態に陥り、約17時間後に死亡した。詳細な経過患者情報43歳男性経過昭和61年5月20日初診。高血圧症、高脂血症、糖尿病、慢性肝炎と診断され、それ以来昭和63年5月7日までの間に月に7~8回の割合で通院していた。血液検査結果では、中性脂肪461、LAP 216、γ-GTP 160で、そのほかの検査値は正常であったことから、慢性アルコール性肝炎と診断していた。昭和63年5月11日19:40頃夕刻に2回吐血したため受診。この際の問診で、「先程、黒褐色の嘔吐をした。今朝午前3:00頃にも嘔吐したが、その時には血が混じっていなかった」と述べた。担当医師は上部消化管からの出血であると認識し、胃潰瘍あるいは胃がんの疑いがあると考えた(腹部の触診では圧痛なし)。そのため、出血の原因となる疾患について、その可能性が高いと判断した出血性胃炎と診療録に記載し、当夜はとりあえず対症療法にとどめて、明日詳細な検査、診察をしようと考え、強力ケベラG®、グルタチオン200mg(商品名:アトモラン)、肝臓抽出製剤(同:アデラビン9号)、幼牛血液抽出物(同:ソルコセリル)、ファモチジン(同:ガスター)、メトクロプラミド(同:プリンペラン)、ドンペリドン(同:ナウゼリン)、臭化ブトロピウム(同:コリオパン)を投与したうえ、「胃潰瘍の疑いがあり、明日検査するから来院するように」と指示して帰宅させた。5月12日07:00頃3度吐血。08:30頃タクシーで受診し、「昨夜から今朝にかけて、合計4回の吐血と下血があった」と申告。担当医師は吐き気止めであるリンゴ酸チエチルぺラジン(同:トレステン)を筋肉注射し、顔面蒼白の状態で入院した。09:45血圧120/42mmHg、脈拍数114、呼吸数24、尿糖+/-、尿蛋白-、尿潜血-、白血球数16,500、血色素量10g/dL。ただちに血管を確保し、5%キシリトール500mLにビタノイリン®、CVM、ワカデニン®、アデビラン9号®、タジン®、トラネキサム酸(同:トランサミン)を加えた1本目の点滴を開始するとともに、側管で20%キシリトール20mL、ソルコセリル®、ブスコパン®、プリンペラン®、フェジン®を投与し、筋肉注射で硫酸ネチルマイシン(同:ベクタシン)、ロメダ®を投与した。引き続いて、2本目:乳酸リンゲル500mL、3本目:5%キシリトール500mLにケベラG®を2アンプル、アトモラン®200mgを加えたもの、4本目:フィジオゾール500mL、5本目:乳酸リンゲルにタジン®、トランサミン®を加えたもの、の点滴が順次施行された。11:20頃しきりに喉の渇きを訴えるので、看護師の許しを得て、清涼飲料水2缶を飲ませた。11:30頃2回目の回診。14:00頃3回目の回診。血圧90/68mmHg。14:20頃いまだ施行中であった5本目の点滴に、セジラニドを追加した。14:30頃酸素吸入を開始(1.5L/min)。15:00頃顔面が一層蒼白になり、呼吸は粗く、胸元に玉のような汗をかいているのに手足は白く冷たくなっていた。血圧108/38mmHg。16:00頃血圧低下のため5本目の点滴に塩酸エチレフリン(同:エホチール)を追加した。17:00頃一層大量の汗をかき拭いても拭いても追いつかない程で、喉の渇きを訴え、身の置き所がないような様子であった。血圧80/--mmHg18:00頃4回目の回診をして、デキストラン500mLにセジラニド、エホチール®を加えた6本目の点滴を実施し、その後、クロルプロマジン塩酸塩(同:コントミン)、塩酸プロメタジン(同:ヒベルナ)、塩酸ぺチジン(同:オピスタン)を筋肉注射により投与し、さらにデキストランL 500mLの7本目の点滴を施行した。5月13日00:00頃看護師から容態について報告を受けたが診察なし。血圧84/32mmHg01:30頃これまで身体を動かしていたのが静かになったので、家族は容態が落ち着いたものと思った。02:00頃異常に大きな鼾をかいた後、鼻と口から出血した。看護師から容態急変の報告を受けた担当医師は人工呼吸を開始し、ジモルホラミン(同:テラプチク)、ビタカンファー®、セジラニドを筋肉注射により投与したが効果なし。02:45死亡確認(入院から17時間25分後)。当事者の主張患者側(原告)の主張吐血が上部消化管出血であると認識し得たのであるから、すみやかに内視鏡などにより出血源を検索し、止血のための治療を施すべきであり、また、出血性ショックへと移行させないために問診を尽くし、バイタルサインをチェックし、理学的所見などをも考慮して出血量を推定し、輸血の必要量を指示できるようにしておくべきであった。担当医師はこれまでに上部消化管出血患者の治療に当たった経験がなく、また、それに適切に対応する知識、技術に欠けていることを自覚していたはずであるから、このような場合、ほかの高次医療機関に転院させる義務があった。病院側(被告)の主張5月11日の訴えは、大量の出血を窺わせるものではなく、翌日の来院時の訴えも格別大量の出血を想起させるものではなかった。大量の出血は結果として判明したことであって、治療の過程でこれを発見できなかったとしてもこれを発見すべき手がかりがなかったのであるから、やむを得ない。裁判所の判断上部消化管出血は早期の的確な診断と緊急治療を要するいわゆる救急疾患の一つであるから、このような患者の治療に当たる医師には、急激に重篤化していくこともある可能性を念頭において、ただちに出血量に関して十分に注意を払ったうえで問診を行い、出血量の判定の資料を提供すべき血液検査などをする注意義務がある。上部消化管出血の患者を診察する医師には、当該患者の循環動態が安定している場合、速やかに内視鏡検査を行い、出血部位および病変の早期診断、ならびに治療方法の選択などするべき注意義務がある。上部消化管出血が疑われる患者の治療に当たる医師が内視鏡検査の技術を習得していない場合には、診察後ただちに検査および治療が可能な高次の医療機関へ移送すべき注意義務がある。本件では容態が急激に重篤化していく可能性についての認識を欠き、上記の注意義務のいずれをも怠った過失がある。約6,678万円の請求に対し、請求通りの支払い命令考察吐血の患者が来院した場合には、緊急性を要することが多いので、適切な診察、検査、診断、治療が必要なことは基本中の基本です。吐血の原因としては、胃潰瘍や十二指腸潰瘍などの消化性潰瘍、急性胃粘膜病変、食道および胃静脈瘤破裂、ならびにMallory-Weiss症候群などが挙げられ、出血源が明らかになったもののうち、これらが90~95%を占めています。そして、意外にも肝硬変患者の出血原因としては静脈瘤59%、胃炎8.2%、胃潰瘍5.4%、十二指腸潰瘍6.8%、その他10.2%と、必ずしも静脈瘤破裂ばかりが出血源ではないことには注意が必要です。本件の場合、担当医師が当初より上部消化管からの出血であることを認識していながら、それが急激に重篤化していく可能性のある緊急疾患であるという認識を欠いており、そのため適切な措置を講ずることができなかった点が重大な問題と判断されました。さらに後方視的ではありますが、当時の症状、バイタルサインや血液検査などの情報から、推定出血量を1,000~1,600mLと細かく推定し、輸血や緊急内視鏡を施行しなかった点を強調しています。そのため判決では、原告の要求がそのまま採用され、抗弁の余地がないミスであると判断されました。たとえ診察時に止血しており、全身状態が比較的落ち着いているようにみえても、出血量(血液検査)や、バイタルサインのチェックは最低限必要です。さらに、最近では胃内視鏡検査も外来で比較的容易にできるため、今後も裁判では消化管出血の診断および治療として「必須の検査」とみなされる可能性があります。そのため、もし緊急で内視鏡検査ができないとしたら、その対応ができる病院へ転送しなければならず、それを怠ると本件のように注意義務違反を問われる可能性があるので、注意が必要です。消化器

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乾癬へのセクキヌマブの有効性/NEJM

 中等症~重症の局面型乾癬に対し、新規開発中のインターロイキン-17A阻害薬セクキヌマブ(secukinumab、国内承認申請中)を投与することで、12週間後に症状が75%以上改善した人は約7割に上ることが示された。カナダ・ダルハウジー大学のRichard G. Langley氏らが、2件の第III相プラセボ対照無作為化二重盲検試験、「ERASURE」と「FIXTURE」の結果、報告したもので、著者は、「中等症~重症の局面型乾癬に対し、セクキヌマブは有効であることが示された」とまとめている。NEJM誌オンライン版2014年7月9日号掲載の報告より。12週間後のPASI 75の割合を比較 ERASURE(Efficacy of Response and Safety of Two Fixed Secukinumab Regimens in Psoriasis)試験では、中等症~重症の局面型乾癬の患者738例を無作為に3群に分け、それぞれセクキヌマブを300mg、150mgまたはプラセボ(5週間は週1回、その後は4週ごと)をそれぞれ投与した。FIXTURE(Full Year Investigative Examination of Secukinumab vs. Etanercept Using Two Dosing Regimens to Determine Efficacy in Psoriasis)試験では、1,306例を無作為に4群に分け、セクキヌマブ300mg、150mg、プラセボと、エタネルセプト(50mg、12週間は週2回、その後は週1回)をそれぞれ投与した。 主要評価項目は、PASI(psoriasis area-and-severity index)スコアがベースライン時から75%以上改善(PASI 75)した人と、5ポイント修正IGA(investigator’s global assessment、研究者による皮膚症状の重症度の包括的な評価尺度)のスコアが0(寛解)または1(ほぼ寛解)の割合だった。PASI 75達成患者、セクキヌマブ群7~8割、エタネルセプト群4割 結果、12週間後にPASI 75だった患者の割合は、セクキヌマブ群がプラセボ群、エタネルセプト群よりも有意に高率だった。具体的には、ERASURE試験では、セクキヌマブ300mg群が81.6%、同150mg群が71.6%に対し、プラセボ群が4.5%だった。FIXTURE試験では、セクキヌマブ300mg群が77.1%、150mg群が67.0%に対し、エタネルセプト群44.0%、プラセボ群4.9%だった(両試験ともセクキヌマブ群vs. 比較群のp<0.001)。 また、修正IGAスコアが0または1の人の割合も、セクキヌマブ群でプラセボ群やエタネルセプト群より有意に高率だった。各試験の結果は、ERASURE試験では、セクキヌマブ300mg群が65.3%、同150mg群が51.2%、プラセボ群は2.4%だった。FIXTURE試験では、セクキヌマブ300mg群が62.5%、150mg群が51.1%、エタネルセプト群が27.2%、プラセボ群が2.8%だった(同p

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