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ソーシャルワーカーの介入、HIV患者の退院後の受診改善/JAMA

 入院中のHIV感染患者への介入として、強化された標準ケアと比較して、退院後のHIVクリニックへの受診を促す連携型の患者管理(linkage case management)による介入は、退院後の死亡率を改善しないものの、受診までの期間を短縮し、抗レトロウイルス療法(ART)のアドヒアランスやウイルス量が抑制された患者の割合を改善することが、米国・Weill Cornell MedicineのRobert N. Peck氏らが実施した「Daraja試験」で示された。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2024年3月6日号で報告された。タンザニア20施設の無作為化試験 本研究は、HIVケアへの参加の障壁に対処するようにデザインされた連携型患者管理介入(Darajaと呼ばれる)が、タンザニアのHIV感染患者の退院後のアウトカムを改善できるか否かの検証を目的とする単盲検無作為化試験であり、2019年3月~2022年2月に同国北西部の20施設で参加者を募集した(米国国立精神保健研究所[NIMH]などの助成を受けた)。 ARTを受けていない、もしくは中止し、何らかの理由で入院したHIV感染患者500例(平均年齢37歳、女性76.8%)を登録し、Daraja介入を受ける群に250例、強化標準ケアを受ける群に250例を無作為化に割り付け、12ヵ月間追跡した。 Daraja介入群は3ヵ月間にわたり、ソーシャルワーカーによる最大5回の研修を病院、自宅、HIVクリニックで受けた。強化標準ケア群は、退院前にHIVカウンセリングとHIVクリニックの予約の仕方に関する支援を受けた。ART開始までの期間、受診の継続率も改善、介入関連の有害事象は発現せず 175例(35.0%)がCD4細胞数<100/μLで、402例(80.4%)はARTによる治療歴がなく、98例(19.6%)はARTを中止した患者であった。 12ヵ月後までに85例(17.0%)が死亡した(介入群43例、強化標準ケア群42例)。12ヵ月時点の全死因死亡率(主要アウトカム)は両群間に差を認めなかった(介入群17.2% vs.強化標準ケア群16.8%、ハザード比[HR]:1.01、95%信頼区間[CI]:0.66~1.55、p=0.96)。 一方、介入群は強化標準ケア群に比べ、初回のHIVクリニック受診までの期間(HR:1.50、95%CI:1.24~1.82、p<0.001)、ART開始までの期間(1.56、1.28~1.89、p<0.001)が有意に短縮した。 また、12ヵ月時のHIVクリニック受診の継続率(87.4% vs.76.3%、p=0.005)、ARTのアドヒアランス(81.1% vs.67.6%、p=0.002)、HIVのウイルス量抑制(HIV RNA<1,000コピー/μL)(78.6% vs.67.1%、p=0.01)の割合は、いずれも介入群で良好だった。 Daraja介入の1年間の平均費用は、立ち上げ費を含め1例当たり約22ドルであった。また、Daraja介入に関連した有害事象は認めなかった。 著者は、「低コストの患者管理介入により、HIVクリニックとの早期の連携とART開始が促進され、HIV患者の退院後の死亡率を低減できるとの仮説は確証できなかったが、退院後のHIVケアの継続を促すという効果が得られた」とまとめ、「これらの知見は、HIVの入院患者における連携型の患者管理に関して、その潜在的な役割を決定するのに役立つ可能性がある」としている。

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代替塩で高血圧予防

 食塩を代替塩に置き換えると、低血圧リスクを高めることなく高血圧リスクが約4割抑制されるとする研究結果が報告された。北京大学臨床研究所(中国)のYangfeng Wu氏らの研究によるもので、詳細は「Journal of the American College of Cardiology(JACC)」に2月12日掲載された。 世界保健機関(WHO)によると、高血圧は心臓病発症と心血管死の主要な危険因子であり、世界中で14億人以上の成人が高血圧に罹患していて、毎年1080万人が高血圧に関連して死亡しているという。Wu氏は、「人々は手頃な価格で容易に入手できる加工食品を利用することを通して、塩分を過剰に摂取してしまうことが少なくない。食品の選択が心臓の健康に及ぼす影響を認識して、減塩に対する人々の意識を高めることが重要だ」と述べている。 Wu氏らは、中国の介護施設居住者を対象とする無作為化比較試験により、食塩を代替塩に替えることの血圧への影響を調査した。研究参加者は55歳以上で高血圧でない(140/90mmHg未満)611人(平均年齢71.4歳、女性26%、血圧121.9/74.4mmHg)。無作為に2群に分け、298人には通常の食塩を使った料理を提供し、313人には代替塩を使った料理を提供した。代替塩は、ナトリウム濃度が62.5%に抑えられていて、カリウムが25%を占め、残りの12.5%はキノコやレモン、海藻などを利用した香料で構成されていた。 2年間の追跡期間中の100人年当たりの高血圧発症率は、通常塩群では24.3であるのに対して代替塩群では11.7であり、交絡因子調整後のハザード比は0.60(95%信頼区間0.39~0.92)と、代替塩群で有意なリスク低下が観察された(P=0.02)。なお、高齢者では高血圧とは反対に、血圧が下がり過ぎてしまう危険な低血圧も起こりがちだが、代替塩群でそのような低血圧の増加は認められなかった〔リスク比1.10(95%信頼区間0.59~2.07)〕。Wu氏は、「われわれの研究結果は、人々が食事を楽しみながら血圧を高めることなく、自分の健康を守り心血管リスクを最小限に抑えられる方法を示している」と述べている。 アムステルダム大学医療センター(オランダ)のRik Olde Engberink氏が、この研究発表に対して付随論評を寄せている。その中で同氏は、「これまでのところ、人々に対して単に塩分摂取量を減らすことを訴えるだけの対策の効果は十分でないことが示されており、本研究の結果はそのような方法に代わる公衆衛生戦略となり得る」と述べている。また、本研究において介護施設で提供する食事への加工食品の利用が週に1回までに制限されていたことに着目し、加工食品に含まれるナトリウム量の削減が重要である可能性も指摘。「食品業界全体で代替塩を採用して、加工食品中のナトリウム/カリウム比を改善していくべきではないか」と付け加えている。

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昭和医科大学医学部 外科学講座乳腺外科学部門【大学医局紹介~がん診療編】

林 直輝 氏(教授/診療科長)垂野 香苗 氏(准教授/診療科長補佐)成井 理加 氏(専攻医)講座の基本情報医局独自の取り組み、医師の育成方針当院のブレストセンターは、診察室、マンモグラフィ撮影室、超音波室、処置室、患者の集うリボンズハウスなどを1つのエリアに備え、患者中心の理想的な環境を提供しています。また、附属病院も含めて年間1,000件以上の手術を行う国内最大規模の、多くの若い力で活気に溢れた医局です。乳がん診療の発展と社会貢献のために、“乳がん診療の発展と社会に貢献できる視野の広い医師になる”、“良い臨床医になるためにScienceを理解する”を2つの柱として、臨床、研究、教育を進めています。臨床面での強み臨床面での当院の大きな強みは、国内でも早くから取り組んでいる遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)、MRIガイド下生検などです。さらに、乳がん診療における多方面からのde-escalationに取り組んでおり、手術の縮小を目指す臨床試験だけでなく、画期的な治療法である短期加速乳房照射「SAVI」を導入しています。これは通常約5週間かかる乳房部分切除後の照射を2~5日のみで完結するもので、time toxicityの新たな解決法になります。新しい技術を活用しながら、乳がん診療の進歩に貢献し、患者に最適な治療を提供するチームを目指します。医局でのがん診療/研究のやりがい、魅力昭和医科大学乳腺外科の英語表記は、”Breast Surgical Oncology”です。乳がんに関わる周術期の治療のみではなく、診断から手術、再発転移までの治療を幅広く行う診療科です。また、HBOCなどの多診療科での連携した診療や昭和医科大学内のさまざまな研究所と連携した新薬の治験や臨床研究も多数行っております。また、ほかの診療科との連携も大学病院でありながらしやすい環境にあるのも魅力です。大学というバックグラウンドもあり、臨床と研究にバランスよく関われるのが当院の魅力であると思います。一般病院では難しい研究の支援も大学として、昭和医科大学統括研究推進センター(Showa Medical University Research Administration Center:SURAC)を中心に力を入れており、さまざまな支援を受けることができます。医局の雰囲気、魅力昭和医科大学の乳腺外科は、外科学講座を構成する一部門として、2010年に創設されたまだまだ歴史の浅い医局です。しかし、附属4病院(旗の台、豊洲、藤が丘、横浜市北部)、NTT東日本関東病院の乳腺外科を統括し、合わせて1,000件以上の乳がん手術を行っています。本部は、旗の台にある昭和医科大学附属病院で、日本で有数のブレストセンターがあります。昭和大学出身者が比較的多いですが、出身大学、初期研修病院などはさまざまです。また、途中入局の医師も多く在籍しており、異なるバックグラウンドの医師が在籍しております。女性医師も多く在籍しており、産休、育休の取得や時短勤務にも対応しております。また、毎朝のカンファレンスなどでの情報共有や、コミュニケーションの時間を重視しています。医学生/初期研修医へのメッセージ乳がん領域の診療は、画像診断、手術、薬物療法とさまざまな領域の発展が日進月歩です。将来的に何をどのように専門にしていくかは、医学生・初期研修医の段階で決めるのは難しいと思いますし、実際経験してみて自分の適性というものがわかることも多々あります。乳腺外科の分野でまず、幅広くいろいろなことを学び、自分の適性やビジョンを定めていくことをおすすめします。当科では、その点幅広い経験ができ、乳腺・乳がん診療に将来的に関わっていくうえで多岐にわたる経験を通じて、その後の進路を選択することができると思います。興味のある先生はぜひ一度見学にいらしてください。いつでも大歓迎です。毎朝行われるカンファレンスこれまでの経歴・同医局を選んだ理由2017年地方大学卒業後、初期研修は都内の他大学病院で1年目を大学、2年目を市中病院で研修を行いました。研修医のときに回った乳腺外科に興味を持ち、働きやすさとやりがいの両方から、乳腺外科への入局を考えるようになりました。同医局を選んだ理由としては大きく3つあります。1つ目は手術件数の多さです。私が入局を考えていた頃は新専門医制度が開始した直後であり、その制度もまだ不明な点も多く、大学病院など大きな病院での外科専門医取得を考えました。その中でも乳がん手術件数の多い当医局を入局先の候補として考え、実際に見学して入局を決定しました。2つ目は働きやすさです。見学した際に、他大学から入局されている先輩がいるかどうか、先輩方の雰囲気などを確認しました。当医局は、他大学や他研修先から入局する人も多く、上級医の先生方もほかの病院で勤務していた方が多いです。そのため外部からの入局者を歓迎している雰囲気があります。3つ目は早くから乳腺外科としての経験を多く積むことができることです。これに関しては、メリットデメリットどちらもあるかと思いますが、自分のやりたいことが決まっている方には、早くから乳腺外科の外来や手術などを経験できる点が良いと思います。現在学んでいること・今後のキャリアプラン現在私は医師7年目で、今年乳腺専門医を取得しました。3〜5年目は、外科プログラムに則り経験を積み、5年目頃からは乳腺外科を中心に診療を行っています。入局以降、上級医の先生にご指導いただき、毎年の学会発表や乳腺専門医の取得に必要な論文などを書かせていただきました。当医局では多くの症例と乳がん診療の経験豊富な先生方の指導のもと、専門医取得を行うことができます。専門医取得後のキャリアはさまざまです。自分のやりたいことがあれば、それを相談できる環境にあると思います。乳腺外科を考えられている方、ほかの科と乳腺外科とで迷われている方はぜひ一度見学にいらしてください。日本乳癌学会学術総会で昭和医科大学医学部 外科学講座乳腺外科学部門住所〒142-8555 東京都品川区旗の台1-5-8問い合わせ先breast.ikyoku@gmail.com医局ホームページ昭和医科大学病院乳腺外科昭和医科大学病院ブレストセンター専門医取得実績のある学会日本外科学会日本乳癌学会遺伝性腫瘍学会臨床腫瘍学会 など研修プログラムの特徴(1)乳がんの診断から手術、薬物療法と乳がんに関わる一連の治療をトータルで学ぶことができます。(2)放射線科、形成外科、産婦人科、遺伝診療部など多診療科に関わるチーム医療を学ぶことができます。(3)外科専門医、乳腺専門医の要件に十分な症例経験を積むことができます。

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ピロリ除菌で大腸がんリスクも低減/JCO

 Helicobacter pylori(H. pylori)陽性で除菌治療を受けた場合、治療を受けなかった陽性者と比較して、大腸がんの発症リスクと死亡リスクの両方が有意に低減したことを、米国・VA San Diego Healthcare SystemのShailja C. Shah氏らが明らかにした。Journal of Clinical Oncology誌オンライン版2024年3月1日号掲載の報告。 近年、H. pylori感染と大腸がんのリスクとの間に正の関連があることが報告されている1)。Shah氏らの研究グループは、H. pylori感染と陽性者における除菌治療が、大腸がんの発症率と死亡率に及ぼす影響を調査するためにコホート研究を行った。 解析には、1999~2018年に退役軍人健康管理局でH. pylori検査を行った退役軍人のデータが用いられた。追跡調査は、大腸がんの発症、大腸がんまたは他の要因による死亡、2019年12月31日のいずれか早い日まで継続した。主要評価項目は大腸がんの発症率と死亡率であった。 主な結果は以下のとおり。・H. pylori検査を受けた81万2,736人のうち、陽性は20万5,178例(25.2%)であった。・陰性群と比べて、陽性群では大腸がん発症リスクは18%高く(調整ハザード比[aHR]:1.18、95%信頼区間[CI]:1.12~1.24)、死亡リスクは12%高かった(aHR:1.12、95%CI:1.03~1.21)。・除菌治療を受けた群と比べて、治療を受けていない群では大腸がん発生リスクは23%高く(aHR:1.23、95%CI:1.13~1.34)、死亡リスクは40%高かった(aHR:1.40、95%CI:1.24~1.58)。・これらの結果は、血清学的検査を受けていない群でより顕著であった。 これらの結果より、研究グループは「H. pylori陽性は、大腸がんの発症および死亡と関連している可能性があり、未治療の人、とくにに活動性の感染が検出された人が最もリスクが高いようである」とまとめた。

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心筋を微小組織にして移植、iPS細胞による新たな心不全治療とは/日本循環器学会

 再生医療において、ヒト人工多能性幹細胞由来心筋細胞 (hiPSC-CM)を用いた心臓修復の臨床応用は、心筋細胞(CM)の生着不良や移植後の不整脈に苛まれ難航してきた。だが今回、第88回日本循環器学会学術集会『iPS由来再生心筋細胞移植治験の初期成績から見た虚血性重症心不全治療へのインパクト』において、福田 恵一氏(Heartseed社/慶應義塾大学 名誉教授)らは、他家iPS細胞由来の純化精製心筋細胞微小組織(hiPSC-CS)を開発し、心筋層に直接注入することで、梗塞部位周辺の心筋の再生に成功したことを報告した。なお、本発表は非臨床試験および現在進行中の第I/II相LAPiS試験の中間報告である。鍵は「心筋を球にして注入、心筋と同化させる」 心筋細胞は骨格筋細胞と異なり幹細胞が存在しないため、一旦壊死してしまうと不可逆的に細胞数は減少の一途を辿る。これにより心臓では収縮不全(心不全の進行)が生じる。これに対し、福田氏らは“心筋残存部位へ生理的肥大を起こすとされるiPS細胞由来心筋細胞を移植することで、梗塞部位が補われ、心機能の回復につながる”という仮説を立て、虚血性心不全に伴う心筋壊死や喪失による心筋不足を改善するため、まず2つの非臨床試験を実施。カニクイザルにヒトの再生心室筋細胞(純度の高い心室筋)を移植し、有効性・安全性を実証した。 試験に用いられた細胞は、生着率を高めるために心筋細胞を1,000個程度の塊に作製した「心筋球」1)と呼ばれるもので、非臨床試験では1匹当たり6,000万個を移植した。 本試験の有効性について、「移植細胞がレシピエントの心室筋細胞と連結し、それと同様に介在板を介して長軸方向に整列、生着していることが確認された。また、移植細胞も既存の細胞と同じリズムで同期して動いていることを確認した。そして、投与後3ヵ月後には心筋球が4倍程度となり約10%の左室駆出率(LVEF)を改善させることができた」と説明した。一方の安全性については「移植後7~14日目に心室頻拍が観察された。しかし、不整脈が出現することはほかのグループが行った単離心筋移植法による試験からも想定済みであった。それと比べると、今回の発生は移植早期で、心臓専門医が日常臨床で対応できる範囲の不整脈であった」と述べた。後側・側壁に渡る広範囲の梗塞がみられた症例も回復 続いて、市原 有起氏(東京女子医科大学 心臓血管外科学分野)、藤原 立樹氏(東京医科歯科大学 心臓血管外科)が第I/II相LAPiS試験における各自の治験症例を報告した。<治験概要>●対象者:虚血性心疾患に起因する重症心不全で、既存の内科的/外科的標準治療を行うも効果無効患者●方法:他家iPS細胞由来心筋球を冠動脈バイパス術(CABG)時に左室(セグメント分割した前壁、側壁、後壁、下壁)に対し、3本の針がセットになったデバイス全15回を移植した。非盲検で低用量5例(0.5億個)、高用量5例(1.5億個)を予定している。移植治験組み入れの主な基準は、CABG予定の虚血性心不全患者、LVEF 15~40%、NYHA分類II度以上。移植後の免疫抑制薬としてステロイド、MMF(ミコフェノール酸モフェチル)、タクロリムスを投与し、26週以降はタクロリムスを継続した。●主要評価項目:投与26週後の安全性●主な有効性指標:心収縮機能(LVEF、左室内径短縮率[FS])、心筋壁運動、生存心筋量など 現時点で低用量4例の移植が終了している。市原氏の症例では、移植6ヵ月後のGlobal longitudinal strain(GLS)解析から、左室リバースリモデリングと心機能の著明な改善が認められ(左室拡張末期容積[LVEDV]:430→289mL、左室収縮終期容積[LVESV]:297→189mL、LVEF:31→35%)、左心室を16セグメントに分割して心筋スペックルトラッキングの変化を観察したが、このうち心筋細胞を移植した9セグメント中7セグメントで心筋収縮の改善が観察された。1例目、2例目とも心筋移植部位の改善が観察されたことから、市原氏は「血行再建術と心筋細胞移植の併用療法は心機能改善の新たな治療法になりうる。移植による免疫抑制薬のコントロールも内科が上手く対応してくれ、問題なかった。内科・外科が協調して心不全のトータルマネジメントを行うことが重要」とコメントした。 続いて、藤原氏が携わった症例においては、心筋移植部位7セグメント中5セグメントで改善が観察された。その一方で、僧帽弁閉鎖不全症の悪化もあり、残念ながら非移植部位での壁運動の低下が顕著であったため、全体では心機能が低下していた。これについて、「患者は心不全ステージ分類でいうと、ステージCからDに移行する段階であり、本治療を行わなければ、身体機能の低下が免れることはできなかったと思われる。しかし、心筋細胞移植により術前ADLの維持ができたことはよかった。免疫抑制薬の問題もなかった。今後の検討課題として、部位別の収縮度の改善効果が移植回数に比例していたことを踏まえ、心筋細胞の移植量と移植部位の検討が重要になると思われる」と話した。 最後に福田氏は「世界初の治験であることから、当初は参加者から(本治験の)同意が得られにくかった。この治験ではバイパス手術との併用を行ったが、今後は移植単独の投与も検討したい。本治験から得られた課題である“移植部位・投与方法”の在り方などと併せて、一歩一歩科学的に進めていきたい」と締めくくった。

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微小プラスチック、心血管イベント・死亡リスク上昇と関連/NEJM

 頸動脈プラークからマイクロプラスチックまたはナノプラスチック(MNP)が検出された患者は、検出されなかった患者と比較して、追跡34ヵ月時点の心筋梗塞、脳卒中、全死因死亡の複合リスクが有意に高かった。イタリア・University of Campania Luigi VanvitelliのRaffaele Marfella氏らが多施設共同の前向き観察試験の結果を報告した。いくつかの研究で、摂取や吸入、皮膚への曝露を通じてMNPが体内に入り込み、細胞組織や臓器に作用することが示されており、MNPは母乳、尿、血液だけでなく、胎盤、肺、肝臓などでも見つかっている。最近行われた前臨床モデル研究では、MNPが心血管疾患の新たなリスク因子であることが示唆されていたが、このリスクがヒトに及ぶという直接的なエビデンスは示されていなかった。NEJM誌2024年3月7日号掲載の報告。プラーク中にMNPの存在が確認された患者vs.確認されなかった患者で検討 研究グループは、無症候性頸動脈疾患に対して頸動脈内膜切除術を受ける予定の患者を対象に検討を行った。 頸動脈プラークの摘出検体を用いて、熱分解ガスクロマトグラフィー質量分析、安定同位体分析、電子顕微鏡検査を行い、MNPの存在を分析した。炎症性バイオマーカーは、酵素免疫測定法と免疫組織化学法で評価した。 主要エンドポイントは、心筋梗塞、脳卒中、全死因死亡の複合で、プラーク中にMNPの存在が確認された患者と確認されなかった患者を比較した。MNPの存在が認められた患者の複合イベントリスクは4.53倍 計304例が登録され、257例が追跡期間中央値33.7(SD 6.9)ヵ月の試験を完了した。 150例(58.4%)の患者の頸動脈プラークからポリエチレン(平均21.7±24.5μg/mg)が検出された。また、31例(12.1%)の患者のプラークからは、測定可能なポリ塩化ビニル(平均5.2±2.4μg/mg)も検出された。 電子顕微鏡検査により、プラーク中のマクロファージ間に、辺縁がギザギザの異物が確認でき、外部デブリに散在していることが認められた。 放射線検査では、これらの異物の一部に塩素が含まれていることが示された。 アテローム内にMNPの存在が認められた患者は、認められなかった患者よりも、主要エンドポイントのイベントリスクが有意に高かった(ハザード比:4.53、95%信頼区間:2.00~10.27、p<0.001)。

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認知症は現代病? 古代での症例はまれ

 認知症は時代を問わず人類を悩ませてきた病気だと思われがちだが、実際には現代に登場した病気であるようだ。米南カリフォルニア大学レオナード・デイビス校(老年学)のCaleb Finch氏と米カリフォルニア州立大学ロサンゼルス校歴史学分野のBurstein Stanley氏らが古代ギリシャとローマの医学書を分析した結果、アリストテレスや大プリニウスなどが活躍した今から2000〜2500年前には、認知症に罹患する人は極めてまれだったことが示唆されたのだ。研究グループは、「現代の環境やライフスタイルがアルツハイマー病などの認知症の発症を促しているとする考え方を補強する結果だ」と述べている。この研究の詳細は、「Journal of Alzheimer’s Disease」に1月25日掲載された。 Finch氏らは、高齢者の健康に関する医学史の中で認知機能の低下についての記述が見当たらないことから、紀元前8世紀から紀元後3世紀の間にギリシャとローマで書かれた一次文献から記憶力の低下や認知症についての記述を探し出し、その評価を行った。 その結果、古代ギリシャ人は、加齢に伴い軽度認知障害(MCI)に相当するような記憶力の問題が現れることを認識してはいたが、アルツハイマー病などの認知症で見られるような記憶や発話、論理的思考における深刻な障害についての記述を残していないことが明らかになった。 数世紀後のローマ時代に入ると、いくつかの文献に重度の認知症が疑われる記述が見つかった。例えば、紀元後1世紀のローマ帝国時代に活躍したギリシャの医学者ガレノスは、80歳になると、新しいことを覚えるのが難しくなる者がいることを記述している。また、博物学者として著名な大プリニウスは、共和制ローマ末期の元老院議員で弁論家のマルクス・ウァレリウス・メッサッラ・コルウィヌスが自分の名前を忘れてしまったことを記録している。同じく共和政ローマ末期の政治家、弁論家、哲学者のキケロは、「老人の愚かさは(…)無責任な老人の特徴であるが、全ての老人の特徴ではない」と記している。 このような調査結果を踏まえてFinch氏らは、都市ローマの人口が増えるにつれて公害が進み、それが人々の認知機能を低下させる一因になったのではないかと推測している。また同氏らは、ローマの貴族階級は、鉛の調理器具や水道管を使用し、甘味料としてワインに酢酸鉛を添加していたため、知らぬ間に神経毒性のある鉛に曝露していた可能性にも言及している。 古代の文献調査で得られた観察結果を再確認するモデルとして、Finch氏らはボリビアのアマゾンに住む先住民のツィマネ族に関する現代の研究を引き合いに出す。同氏らはその理由を、「ツィマネ族は産業革命以前のライフスタイルを維持し、非常に活動的であるという点で、古代のギリシャ人やローマ人とよく似ているため」と説明する。ツィマネ族は、認知症発症率が極めて低い(1%程度)ことでもよく知られている。これに対し、65歳以上の米国人での認知症発症率は11%に上る。 Finch氏は、「ツィマネ族の研究データは洞察力に富んだものであり、非常に貴重だ。認知症の発症例がほとんど存在しない高齢者の大規模集団について詳細に記録された最良のデータであり、その内容は全て、環境が認知症の発症リスクを決定する大きな要因であることを示唆している。ツィマネ族の研究データは、認知症のリスクを解明するための手がかりを提供しているのだ」と述べている。

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救急部の静脈ルート:18G vs.20Gガチンコ対決【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第253回

救急部の静脈ルート:18G vs.20Gガチンコ対決看護roo!より使用末梢静脈ルートは、救急医療だけでなく入院医療でも必須の処置の1つです。私は研修医の頃、太いルートを入れるのは苦手だったのですが、ベテラン看護師に集中特訓してもらう期間があって、それ以降わりと上手になりました。さて、三次救急の場合、18ゲージのような太いルートと、20ゲージのような細めのルートのどちらがよいでしょうか。当然、太い18ゲージのほうが大量輸液ができるわけで、こちらのほうが挿入難易度が高くなります。また、患者さんにとっても太い穿刺針は強い痛みを伴います。Mitra TP, et al. Spiced RCT: Success and Pain Associated with Intravenous Cannulation in the Emergency Department Randomized Controlled Trial.J Emerg Med. 2024 Feb;66(2):57-63.これは、三次救急の現場において、18ゲージと20ゲージの静脈ルート確保によって、患者が感じる疼痛や、手技の困難さを比較するために行われた単施設研究です。被験者は、18ゲージ群または20ゲージ群のいずれかにランダム化割り付けされました。評価項目は、患者が経験した挿入時の疼痛と、医療従事者が感じた手技上の困難さの2つで、10cmのVAS(Visual Analogue Scale)で評価されました。178例の患者が解析に含まれ、それぞれ89人ずつにランダム化されました。平均疼痛スコア(差0.23、95%信頼区間[CI]:0.56~1.02、p=0.5662)と平均手技難易度スコア(差0.12、95%CI:0.66~0.93、p=0.7396)の間に、統計学的または臨床的に有意差は確認されませんでした。また、18ゲージ群と20ゲージ群の間で、初回のルート確保成功率(89人中75人vs.89人中73人、p=0.1288)、および合併症(89人中1人vs.89人中2人)にも差は確認されませんでした。というわけで、18ゲージでも20ゲージでもそんなに変わりませんよ、というのが今回の研究の結論になります。しかし、個人的にはやはり18ゲージのほうが難しい気がするんですが…。うーむ。そうか、自信を持てということか!

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精巣癌診療ガイドライン 2024年版 第3版

2015年以来の改訂!エビデンス評価、推奨グレードを変更2015年以来の改訂。前版より書名を一部変更し『精巣癌診療ガイドライン』とした。エビデンスの確実性、推奨グレードを4段階で評価した。十分なコンセンサスが得られている事項は総論として記載し、議論の余地が残る重要臨床事項については13のClinical Question(CQ)、保険未承認の新規診断法や治療法については2つのFuture Research Question(FRQ)として記載した。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。目次を見るPDFで拡大する画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。目次を見るPDFで拡大する 精巣癌診療ガイドライン 2024年版 第3版定価3,960円(税込)判型B5判頁数192頁発行2024年2月編集日本泌尿器科学会ご購入(電子版)はこちら医書.jpでの電子版の購入方法はこちら紙の書籍の購入はこちらご購入(電子版)はこちら紙の書籍の購入はこちら医書.jpでの電子版の購入方法はこちら

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D2B time短縮で心原性ショック伴うSTEMIの院内死亡率が減少(J-PCIレジストリ)/日本循環器学会

 経皮的冠動脈インターベンション(PCI)を受けた心原性ショックを伴うST上昇型心筋梗塞(STEMI)患者における、Door-to-Balloon(D2B)timeと院内死亡率との関連について、国内の大規模なレジストリである日本心血管インターベンション治療学会(CVIT)の「J-PCIレジストリ」を用いた解析が行われた。その結果、D2B timeの10分の延長につき、院内死亡率が7%ずつ増加することが示され、D2B timeを短縮することは院内死亡率の減少につながる可能性が示唆された。3月8~10日に開催された第88回日本循環器学会学術集会のLate Breaking Cohort Studies 1セッションにて、千葉大学医学部附属病院循環器内科の齋藤 佑一氏が発表した。 STEMIの治療成績・予後の決定因子として、発症から冠動脈再灌流までの時間が重要であるものの、その発症時間を正確に同定することが難しいことから、指標として用いられる機会は少ない。そのため、病院到着から再灌流までの時間であるD2B timeが、治療の迅速性を表す実用的な指標として用いられている。しかし、これまでに心原性ショックを合併したSTEMI患者におけるD2B timeに関して検証した報告は乏しい。 J-PCIレジストリは日本において実施されているPCIの約90%をカバーする大規模なデータベースである。本研究ではJ-PCIレジストリデータを用いて、2019年1月~2021年12月にわが国の1,190施設でPCIを受けた73万4,379例のうち、STEMI患者10万672例のデータを解析した。なお本研究では、年齢<20歳もしくは>100歳、STEMI以外のPCI、D2B time<15分未満もしくは>180分、心原性ショックを伴わない心停止症例は除外された。単変量および多変量解析を用いて、D2B timeと院内死亡率との関連を評価した。 主な結果は以下のとおり。・プライマリPCIが実施されたSTEMI患者10万672例において、年齢中央値は69.4±13.0歳、女性23.8%、糖尿病有病率35.5%であった。・心原性ショックを合併した(CS+)患者は、1万3,222例(13.1%)であった。そのうち、心原性ショックを経験したが院外心停止を合併しなかった(CS+/CA-)群は7,994例(60.0%)、心原性ショックと心停止を両方とも合併した(CS+/CA+)群は5,278例(40.0%)であった。・機械的補助循環が使用されたのは、CS+/CA-群:42.2%、CS+/CA+群:49.6%であった。・心原性ショックを合併した患者では左冠動脈主幹部病変が多く認められ、CS+/CA-群:10.7%、CS+/CA+群:12.3%であった。・平均D2B timeは、CS-/CA-群:74.0±30.0分、CS+/CA-群:80.2±32.5分、CS+/CA+群:83.7±34.0分であった(p<0.001)。・院内死亡率は、CA-/CA-群:2.3%、CS+/CA-群:17.0%、CS+/CA+群:36.7%であり(p<0.001)、心停止合併症例ではとくに死亡率が高かった。・心原性ショックを合併したSTEMI患者において、D2B timeの延長は、単変量および多変量モデルにおいて死亡率の上昇と有意に関連していた。D2B timeの10分の延長につき、院内死亡率は7%ずつ増加することが示された(調整オッズ比[aOR]:1.07、95%信頼区間[CI]:1.06~1.08)。またD2B timeが院内死亡率に及ぼす影響について、明確な閾値は同定されなかった。・心停止の有無、機械的補助循環の使用、病院ごとの症例数などで層別化された感度分析においても、D2B timeの短縮は一貫して院内死亡率の減少と関連していた。 国内の大規模レジストリデータを用いた本研究により、D2B timeを短縮する努力は心原性ショックを伴うSTEMI患者の臨床転帰を改善する可能性が示唆された。なお本研究はJACC:Asia誌に掲載される予定だ。

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新規2型経口生ポリオワクチン(nOPV2)、有効性・安全性を確認/Lancet

 新規2型経口生ポリオウイルスワクチン(nOPV2)は、ガンビアの乳幼児において免疫原性があり安全であることを、ガンビア・MRC Unit The Gambia at the London School of Hygiene and Tropical MedicineのMagnus Ochoge氏らが、単施設で実施した第III相無作為化二重盲検比較試験の結果を報告した。nOPV2は、セービン株由来経口生ポリオウイルスワクチンの遺伝的安定性を改善し、ワクチン由来ポリオウイルスの出現を抑制するために開発された。著者は、「本試験の結果は、nOPV2の認可とWHO事前認証を支持するものである」とまとめている。Lancet誌オンライン版2024年2月22日号掲載の報告。ガンビアの乳児および幼児で、有効性、ロット間の同等性、安全性を検討 研究グループは、ガンビアにおいて2021年2~10月に、生後18週以上52週未満の乳児と1歳以上5歳未満の幼児を登録した。 乳児は、nOPV2の3ロットのうちの1つ(各群670例)またはbOPVの1ロット(335例)の計4群に、2対2対2対1の割合で無作為に割り付けられた。また、nOPV2の3群のうち、それぞれ224例は2回投与群(1回目投与の28日後に同じロットのnOPV2を投与)に、bOPV群も同様に112例が2回投与群に無作為に割り付けられた。 幼児は、nOPV2(ロット1)群またはbOPV群に1対1の割合で無作為に割り付けられ、28日間隔で2回投与を受けた。 免疫原性の主要アウトカムは、乳児におけるnOPV2ワクチン1回目投与28日後のポリオウイルス2型のセロコンバージョン(抗体陽転)率で、nOPV2の3群のうち各2群間のセロコンバージョン率の差の95%信頼区間(CI)が-10%から10%の範囲内にある場合、各ロットは同等であるとみなした。 忍容性および安全性の主要アウトカムは、投与後7日までの特定有害事象(solicited adverse events)、28日後までの非特定有害事象(unsolicited adverse events)、および投与後3ヵ月までの重篤な有害事象の発現率で、便中のポリオウイルス排泄量も調査した。全体で2回投与後の抗体保有率は93~96% 乳児2,346例が無作為に割り付けられ、2,345例がワクチンの投与を受け、2,272例が1回投与後の解析対象集団に、また746例が2回投与後の解析対象集団に組み入れられた。幼児は600例が無作為に割り付けられ、全例がワクチン投与を受けた。 乳児の1回投与群におけるセロコンバージョン率は、ロット1が48.9%、ロット2が49.0%、ロット3が49.2%であった。2ロット間のセロコンバージョン率の差の95%CIは、ロット1とロット2の比較で-5.5~5.4、ロット1とロット3の比較で-5.8~5.1、ロット2とロット3の比較で-5.7~5.2であり、ロット間の同等性が示された。 ベースラインにおいて血清陰性であった乳幼児におけるセロコンバージョン率は、乳児で1回投与後が63.3%(316/499例)(95%CI:58.9~67.6)、2回投与後が85.6%(143/167例)(79.4~90.6)、幼児ではそれぞれ65.2%(43/66例)(52.4~76.5)、83.1%(54/65例)(71.7~91.2)であった。 ベースラインにおいて血清陰性および血清陽性であった乳幼児における2回投与後の抗体保有率(血清中和抗体価が≧8を抗体保有と定義)は、乳児で92.9%(604/650例)(95%CI:90.7~94.8)、幼児で95.5%(276/286例)(92.4~97.6)であった。 安全性に関する懸念は認められなかった。1回目投与の7日後にポリオウイルス2型の排泄を認めた乳児は、187例中78例(41.7%)(95%CI:34.6~49.1)であった。

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がん治療中のその輸液、本当に必要ですか?/日本臨床腫瘍学会

 がん患者、とくに終末期の患者において最適な輸液量はどの程度なのか? 第21回日本臨床腫瘍学会学術集会(JSMO2024)で企画されたシンポジウム「その治療、やり過ぎじゃないですか?」の中で、猪狩 智生氏(東北大学大学院医学系研究科緩和医療学分野)が、終末期がん患者における輸液の適切な用い方について、ガイドラインでの推奨や近年のエビデンスを交え講演した。「輸液の減量」をがん治療中の腹痛や悪心の治療オプションに 猪狩氏はまず実際の症例として、70代の膵頭部がん(StageIV)患者の事例を紹介した:1次治療(GEM+nab-PTX)後にSDとなったものの、8ヵ月後に腹痛、悪心で緊急入院し、がん性腹膜炎、麻痺性イレウスと診断。中心静脈確保、絶食補液管理(1日2,000mL)となり、腹痛に対しオピオイドを開始したものの症状コントロール困難となった。 このようなケースで治療オプションとなるのは、オピオイドの増量や制吐薬、ステロイド、オクトレオチドの使用などだが、同氏は「輸液の減量も症状緩和のための手段の1つとして加えてほしい」と話した。輸液量で予後は変わるか?また大量の輸液で増悪する可能性のある症状とは 近年報告されているエビデンスとしては、終末期のがん患者において輸液1日1,000mL群(63例)と100mL群(66例)を比較した結果、全生存期間について群間の有意差はなかったという多施設共同無作為化比較試験の報告がある1)。一方で腹膜転移のあるがん患者226例を対象に実施された前向き観察研究では、輸液1日1,000mL群と200mL群の比較において、1,000mL群で浮腫、腹水、胸水の増悪が認められやすかったと報告されている2)。「終末期がん患者の輸液療法に関するガイドライン 2013年版」3)では、終末期がん患者に対する大量輸液で増悪する可能性のある病態・症状としては以下が挙げられている:・浮腫→疼痛、倦怠感・胸水、腹水の増加→腹痛、腹部膨満感、呼吸苦、咳嗽・気道分泌の増加→呼吸苦、咳嗽、喘鳴・せん妄→身の置き所のなさ、疼痛の閾値低下・消化管分泌物の増加→嘔吐、悪心、腹痛 これらの知見から猪狩氏は、終末期がん患者に対する多量の輸液は、全生存期間の延長効果も乏しく、むしろ各種症状を増悪させる可能性があることを指摘した。症状緩和に適した輸液量と減量を検討するタイミング では、実際に症状緩和に適した輸液量とはどのくらいなのか? 日本、韓国、台湾の2,638例を対象に実施された前向き観察研究では、Good Death Scale(GDS)という評価尺度(症状緩和や死の受容といった観点から患者が穏やかな死を迎えられたかの医療者評価)を用いた評価の結果、1日250~499mLの輸液を投与された患者で有意にGDSが高かった4)。 実臨床で輸液の減量を検討するタイミングについて猪狩氏は、Palliative Performance Scale(PPS)20%以下(ADLがベッド上で全介助、食事の経口摂取は少量、意識レベルもややdrowsy)が1つの目安となるのではないかと提案。「PPS20%以下のタイミングがいま投与している輸液量がこのままでいいのかを振り返る1つのポイント。輸液を完全にやめる必要はないが、患者さんの苦痛症状や家族の希望に応じて、減量を選択肢の1つに加えていただきたい」と話して講演を締めくくった。

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カフェインは片頭痛を引き起こすのか

 カフェイン摂取は、片頭痛の要因であると考えられており、臨床医は、片頭痛患者に対しカフェイン摂取を避けるよう指導することがある。しかし、この関連性を評価した研究は、これまでほとんどなかった。習慣的なカフェイン摂取と頭痛の頻度、持続時間、強さとの関係を調査するため、米国・Albany Medical CollegeのMaggie R. Mittleman氏らは、発作性片頭痛成人患者を対象としたプロスペクティブコホート研究を実施した。Headache誌オンライン版2024年2月6日号の報告。 2016年3月~2017年8月に発作性片頭痛と診断された成人患者101例を対象に、カフェイン入り飲料の摂取に関する情報を含むベースラインアンケートを実施した。対象患者は、頭痛の発症、持続時間、痛みの強さ(スケール:0~100)に関する情報を1日2回、6週間、電子的日誌で報告した。年齢、性別、経口避妊薬の使用で調整した後、ベースライン時の習慣的なカフェイン摂取と6週間の頭痛との関連を評価した。 主な結果は以下のとおり。・データ収集が完了した対象患者は97例。・調整後の平均頭痛日数は、習慣的なカフェイン摂取のない患者20例、カフェイン摂取1~2回/日の患者65例、カフェイン摂取3~4回/日の患者12例で同様であった。【習慣的なカフェイン摂取のない患者】7.1日、95%信頼区間(CI):5.1~9.2【カフェイン摂取1~2回/日の患者】7.4日、95%CI:6.1~8.7【カフェイン摂取3~4回/日の患者】5.9日、95%CI:3.3~8.4・推定値は不正確であったものの、平均頭痛継続時間、痛みの強さにおいても、カフェイン摂取レベルによる差は認められなかった。●平均頭痛継続時間【習慣的なカフェイン摂取のない患者】8.6時間、95%CI:3.8~13.3【カフェイン摂取1~2回/日の患者】8.5時間、95%CI:5.5~11.5【カフェイン摂取3~4回/日の患者】8.8時間、95%CI:2.3~14.9●痛みの強さ【習慣的なカフェイン摂取のない患者】43.8:95%CI、37.0~50.5【カフェイン摂取1~2回/日の患者】43.1:95%CI、38.9~47.4【カフェイン摂取3~4回/日の患者】46.5:95%CI、37.8~55.3 著者らは「本研究では、習慣的なカフェイン摂取と頭痛の頻度、持続時間、痛みの強さとの関連は認められなかったことから、発作性片頭痛患者に対するカフェイン摂取制限は推奨されない」としながらも、「通常のカフェイン摂取量から逸脱した場合、片頭痛発作が引き起こされるかどうかを明らかにするためにも、さらなる研究が求められる」としている。

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医師の働き方改革に必須なのは財源の確保、米国の医療保険制度から考える(1)【臨床留学通信 from NY】第57回

第57回:医師の働き方改革に必須なのは財源の確保、米国の医療保険制度から考える(1)医師の働き方改革が2024年4月から施行されます。私は米国にいるため情報に疎いのですが、働き方のみの形状を変えたところで、当直を働く時間にカウントしないといった姑息な手段が取られるのみではないかと危惧します。形だけの働き方改革にならないために、医者の働く時間を少なくしても同等の給料が得られるような、財源の確保が必要です。今回から3回にわたって、医師の働き方改革と財源確保について、米国の医療保険制度から考えてみたいと思います。日本とは対照的な米国の医療システム日本の国民皆保険は世界がうらやむ制度です。誰もが平等に最良の医療を受けられ、それが同じ価格で、かつ1人当たりの負担額も安いからです。それとは対照的な米国の医療システム。貧富の差が激しい米国においては、ある一定の収入以下の人が入れるMedicaid(メディケイド)という保険がありますが、それがカバーする内容はかなり制限されています。具体的に挙げるのは難しいのですが、たとえば今話題のセマグルチドを肥満症に処方するのは、新しい薬で高額であるためできないと思います。同様に、65歳以上が入れる保険のMedicare(メディケア)も一見よさそうなのですが、それだけしか入っていない場合、セマグルチドはカバーされないでしょう。そのため、いろいろな会社が提供するプライベート保険などに入らなければなりませんが、プランはさまざまです。といっても、たとえば4人家族で保険料を払おうとすると年間100万~150万円以上は必至。よく聞くポスドク留学は最低賃金が一般的に5万ドル(約740万円)程度といわれていますが、それに保険のプランを追加するかどうかもよく交渉しないと大変になってしまいます。その点、臨床留学は病院勤めのため、当初の給料は6万ドル(約890万円)余りでしたが、かかれる病院の縛りはあれど(このプランでは自分が所属する病院のみにしかかかれない)、保険もカバーされていたため、家族帯同の渡米には一定の安心がありました。無保険者も一定数いる米国5万~6万ドル程度の収入の場合、Medicaidには入れず、年間1万ドル(約150万円)近くかかる健康保険にも入らない人がいるため、米国には無保険の人がいることになります。予防医療を声高に叫んでいる米国において、そもそも病院に行けない未治療高血圧、脂質異常症、糖尿病の人が、心筋梗塞になって病院に来て、命は助かったがお金がない、ということもあります。実際には緊急Medicaidに入ってなんとかなるようなのですが、詳しくはちょっとわかりません。また、私が働いている病院の1つであるJacobi Medical Centerはニューヨーク市の公的病院であるため、無保険でも最低限の治療や投薬は受けられるようになっています。米国のそんな医療を受けたくはない、というのも日本人なら感じることですが、日本人が今まで受けてきた恩恵も、医師の働き方改革と並行して変えていく必要がありそうです。次回には、米国で行われている医療費を制限するための膨大な方法を説明したいと思います。Column先月、子供の冬休みに合わせて、4泊5日でアリゾナ州のグランドキャニオン国立公園とセドナに行ってきました。アメリカの国立公園はすごいと聞いておりましたが、西側にたくさんあるため、訪れたのは今回が初めてでした。壮大で息を呑むような景色でした。2009年発売のLeica M9で撮影した写真ですが、綺麗に撮れました。画像を拡大する画像を拡大する

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gout(痛風)【病名のルーツはどこから?英語で学ぶ医学用語】第1回

言葉の由来痛風は英語にすると“gout”です。この“gout”、語源は諸説あるようですが、フランス語の“goute”ないし、中世ラテン語の“gutta”という言葉から来ているようです。これらの言葉にはともに“drop”(落とす)という意味があるそうです。「痛風」と「落とす」…。一瞬つながりがわかりにくいですが、痛風という病気は、古くは「血液中の原因物質が関節に“落っこちる”」ことで起きると信じられてきたそうです。ここから、この言葉が当てられたようです。そして、この由来は当たらずといえども遠からずで、痛風とは、尿酸が結晶となって関節内に“落っこちる”ことで起こるのですよね。実際に、“gout”を“drop”(落とす、滴る)という古典的な意味合いで用いるケースも、読み書きでは残っているようです。口語で耳にすることはありませんが、“gouts of phlegm”と言うと、「痰の塊」の意味となり、“drop”に近い意味合いだと思われます。日本語の「痛風」という病名の由来も諸説あるようですが、「風が当たっただけでも痛い」ところから来ている、というのが定説ですね。そう考えると、痛風は英語と日本語でまったく語源が異なるようです。併せて覚えよう! 周辺単語痛風発作gout attack尿酸urate/uric acid結晶crystalプリン体purine関節炎arthritisこの病気、英語で説明できますか?Gout is a common, painful form of arthritis. It causes swollen, red, and stiff joints. It occurs when uric acid builds up in the blood and causes inflammation in the joints.講師紹介

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de novo転移乳がん、治療を受けない場合の生存期間

 新規に転移のある乳がん(dnMBC)と診断され、その後治療を受けなかった患者の全生存期間(OS)中央値は2.5ヵ月と、1回以上治療を受けた患者の36.4ヵ月に比べて有意に短かったことが、米国・Duke University Medical CenterのJennifer K. Plichta氏らの研究でわかった。Breast Cancer Research and Treatment誌オンライン版2024年3月5日号に掲載。 本研究では、2010~16年における成人dnMBC患者を米国・National Cancer Databaseから抽出し、1回以上治療受けた患者(治療あり群)と理由にかかわらず治療を受けなかった患者(治療なし群)に層別化した。OSはKaplan-Meier法を用いて推定し、OSに関連する因子はCox比例ハザードモデルを用いて評価した。 主な結果は以下のとおり。・5万3,240例のdnMBC患者のうち、治療ありが92.1%、治療なしが7.9%だった。・治療なし群は、年齢が高く(中央値:68歳vs.61歳、p<0.001)、合併症スコアが高く(p<0.001)、トリプルネガティブの割合が高く(17.8% vs.12.6%)、疾病負荷が高かった(転移部位2ヵ所以上:未治療38.2% vs.既治療29.2%、p<0.001)。・OS中央値は治療あり群が36.4ヵ月、治療なし群が2.5ヵ月であった(p<0.001)。・治療なし群のOS悪化に関連する因子は調整後、高齢、高い合併症スコア、高い腫瘍悪性度、トリプルネガティブ(vs.HR+/HER2-)が挙げられた(すべてp<0.05)。 本研究の結果、治療を受けなかったdnMBC患者は、高齢で、合併症があり、臨床的にアグレッシブながんが多く、治療なし患者の予後は治療あり患者と同様、選択された患者および疾患特性と関連していた。著者らは「治療しなかったdnMBCの予後は悲惨」としている。

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日本人胃がんの薬物療法研究の最新情報/日本胃癌学会

 新薬の登場で変化する胃がん薬物療法の国内研究の最新情報が第96回日本胃癌学会総会で報告された。ペムブロリズマブ+化学療法による進行胃がん1次治療の日本人サブセット ペムブロリズマブと化学療法の併用は日本人胃・食道胃接合部がんの1次治療においてもグローバルと同様の結果を示した。 切除不能または転移を有するHER2陰性の胃・食道胃接合部腺がん1次治療で良好な結果を示したペムブロリズマブ+化学療法の第III相KEYNOTE-859試験における日本人サブセットの結果が示された。日本人サブセットは101例で、ペムブロリズマブ+化学療法群は48例、コントロールとなる化学療法群は53例であった。 追跡期間中央値28.9ヵ月における全生存期間(OS)中央値は、ペムブロリズマブ+化学療法群16.8ヵ月、化学療法群13.3ヵ月(ハザード比[HR]:0.71、95%信頼区間[CI]:0.44〜1.13)、無増悪生存期間(PFS)中央値はペムブロリズマブ+化学療法群6.8ヵ月、化学療法群6.7ヵ月(HR:0.82、95%CI:0.49〜1.36)であった。奏効率(ORR)はペムブロリズマブ+化学療法群54.2%、化学療法群56.6%、奏効期間中央値はペムブロリズマブ+化学療法群18.4ヵ月、化学療法群5.4ヵ月であった。 Grade3以上の治療関連有害事象(TRAE)はペムブロリズマブ+化学療法群の41.7%、化学療法群の39.6%に発現した。Grade3以上の免疫介在性有害事象はペムブロリズマブ+化学療法群の16.7%、化学療法群の3.8%に発現した。日本人MSI-H胃がんに対するニボルマブ+イピリムマブの1次治療 切除不能進行再発のマイクロサテライト不安定性の高い(MSI-H)胃がんの1次治療としてのニボルマブ+イピリムマブの有効性と安全性を評価するNO LIMIT試験(WJOG13320G/CA209-7w7)の結果が発表された。 NO LIMIT試験は医師主導の第II相試験で、全国75施設935例の切除不能かつ化学療法未治療の胃がんからMSI-Hをスクリーニングし、ニボルマブ+イピリムマブの介入を行った。主要評価項目は盲検下独立中央判定(BICR)によるORRで、推定値を35~65%とした。 MSI-H陽性の割合は5.6%であった。対象は2022年8月29日までに試験に登録された29例。 BICR評価の確定ORRは62.1%(CRは10.3%)で主要評価項目を達成した。病勢コントロール率(DCR)は79.3%であった。Waterfallプロットでは深い奏効が示された。PFS中央値は13.8ヵ月、OS中央値は未達で12ヵ月OS率は80%であった。 Grade3以上のTRAEは41.3%で、安全性プロファイルは既報どおりであった。進行胃がんにおけるラムシルマブのbeyond PD 進行胃がんにおいて血管新生阻害薬の継続療法を評価した第III相RINDBerG試験の結果が発表された。ラムシルマブのbeyond PD療法は主要評価項目であるOSを達成できなかった。 血管新生阻害薬のPD後の継続は、さまざまながんで有効性が報告されている。胃がんでもRAINFALL試験の事後解析で2次治療としてのラムシルマブのPD後投与が良好なOSに関連していると報告されている RINDBerG試験の対象はラムシルマブおよび化学療法抵抗性で既治療の切除不能胃・食道胃接合部腺がん。登録患者はラムシルマブ+イリノテカン(RAM+IRI)群とイリノテカン単剤(IRI)群に割り付けられた。主要評価項目はOS、副次評価項目はPFS、ORR、安全性などであった。 OS中央値はRAM+IRI群9.4ヵ月、IRI群8.5ヵ月で、調整HRは0.91、p値は0.37と主要評価項目は未達であった。PFS中央値はRAM+IRI群3.8ヵ月、IRI群2.8ヵ月で、HRは0.72、p値は0.001とRAM+IRI群で有意に優れていた。ORRはRAM+IRI群22.2%、IRI群15.0%であった。DCRはそれぞれ65.6%と52.7%で、オッズ比は1.71、p値は0.02とRAM+IRI群で有意に優れていた。 主な有害事象としては、両群とも好中球減少、白血球減少、食欲不振、倦怠感などが多くみられた。RAM+IRI群の26例、IRI群の32例が毒性中止となっている。

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薬剤推奨不要を示す臨床試験(解説:後藤信哉氏)

 欧米人は各種疾病、合併症のリスク層別化がうまい。抗凝固薬は確実に重篤な出血合併症リスクを増加させるので、メリットの明確な症例に限局して使用することには価値がある。 私は、本研究のThrombosis Risk Prediction for Patients with Cast Immobilisation (TRiP)スコアを知らなかった。私同様知らないヒトはhttps://doi.org/10.1016/j.eclinm.2020.100270を読むとよい。臨床的に比較的簡便に血栓リスクの層別化が可能である。本研究では、急性期を過ぎたのちに、low risk群(TRiP(cast)スコア<7)には抗凝固薬療法を施行せず、high risk群に抗凝固薬療法を施行した。 静脈血栓症の世界の標準治療は、低分子ヘパリン自己皮下注射である。手技としては、それなりにうっとうしい。low riskであれば、抗凝固療法の継続が不要であることを示した本試験には、一定の意味がある。高価な薬剤が増え続ける現在、薬剤を使用するよりも、使用しない推奨のできる臨床研究は価値がある。

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認知症発症の危険因子としてのコロナ罹患【外来で役立つ!認知症Topics】第15回

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行が始まってから、コロナと認知症との関係という新たなテーマが生まれた。まず予防には3密だと喧伝された。その結果、孤独化する高齢者が増えたので、認知症の発症が増加しているという報告が相次いだ。つまり孤独という認知症の危険因子を、コロナが一気に後押ししたという考え方である。そうだろうなとは思いつつ、このエビデンスは乏しかった。それから次第に前向きの疫学研究から、コロナ罹患と認知症発症との関係を報告するものが出てきた。そして最近では、こうしたもののレビューも報告されるようになり、なるほど、こういうことかとポイントが見えてきた。そこで今回は、認知症発症の危険因子としてのコロナ罹患を中心にまとめてみたい。スペイン風邪と認知症の関連は?まず人畜共通感染症による第1のパンデミックとされる「スペイン風邪(Spanish Flu)」を連想した。というのは、コロナはスペイン風邪をしのぐ人畜共通感染症によるパンデミックをもたらしたからだ。スペイン風邪の原因は、トリインフルエンザウイルスとヒトインフルエンザウイルスの遺伝子が混ざり合った新型のウイルス(Influenza A virus subtype H1N1の亜系)だと考えられている。そこで1918年の第1次世界大戦当時に世界的に流行したこのスペイン風邪の認知症への影響はどうだったのかと調べてみた。説得力の強いものに、デンマークで1918年当時妊娠中の母親の胎内にあったヒトに注目し、対象とコントロールで合計28万人余りのデータを用いた研究がある1)。ここでは、該当者が62~92歳に達した期間において、あらゆる認知症性疾患についての発症に注目し、その相対危険度を調査している。その結果、スペイン風邪罹患と認知症発症の間には有意な関係はなかったとされる。この報告のように、どうも積極的に両者の関係を指摘する報告は乏しいようだ。コロナと認知症、追跡期間が長いほど発症率が上昇?さてコロナについて成された近年の報告のレビューが注目された2)。多くの研究結果からは、コロナに罹患することでアルツハイマー病を含むすべての認知症の発症率はおよそ2倍と考えられている。実際、これまでの報告の多くは、60歳以上のヒトにおいては、コロナに罹患することで、亜急性期、慢性期の認知症発症は確かに高まりそうだと報告している。もっとも、コロナ罹患による認知症発症への影響力は、他の呼吸器系のインフルエンザ感染や細菌感染と大差がないとの結論になっている。一方で興味深いのは、追跡期間の違いによる認知症の発症率の相違である。すなわち発症から3ヵ月間もしくは6ヵ月間追跡した研究に比べて、1年間追跡した研究では認知症の発症率が高くなっているのである。このことは、コロナによる認知症の発症は、罹患ののち長期間にわたって続くことを示唆している。また疫学から、なぜコロナが認知症とくにアルツハイマー病に関連するかについてのレビューも興味深い3)。まずコロナへの罹患しやすさについては、加齢が最大にして唯一の危険因子だとされる。そしてその背景として高血圧、糖尿病、心疾患など、いわゆる生活習慣病が考えられている。またこうした要因が、回復を遅くすることも事実である。さらに、最初に述べたような孤独化と普通の生活に戻れないことが高齢者においてうつ病や不安を生じる間接的な要因になることも関係しているだろうとされる。ところで、すでに認知症であった人が、パンデミックによって社会的な交流がなくなったり、ケアが手薄になったりしたことで死亡率が高まった可能性もあることが述べられている。実際、パンデミック時代になってから、コロナ感染の有無にかかわらず、認知症者の死亡率が25%も高まったことを報告したメタアナリシスもある4)。認知症発症の原因として注目される炎症こうしたコロナによる認知機能の低下や認知症発症の原因として最も注目されるのは炎症、とくにこれに関わるサイトカインであろう。このサイトカインとは、ある細胞から他の細胞に情報伝達するための物質である。その中でも有名なのは、インターフェロンやインターロイキンだろう。感染量が多くなるほど、サイトカインも大量に放出されるが、それが著しい場合はサイトカインストーム(免疫暴走)と呼ばれる。サイトカインストームが起こることで大脳組織の炎症が生じる結果、認知機能に障害が生じる。なお近年では、アルツハイマー病の病因仮説として、脳の炎症説は主流の1つとなっている。また別の説として、新型コロナウイルスは、微小血管に障害をもたらし、肺の組織を障害することによって、大脳への酸素の流れに支障を来すことに注目するものがある。さらには、新型コロナウイルスとアミロイドやタウとの関係にも注目するもの、あるいはアルツハイマー病の危険因子とされるAPOE4を介して発症に関係するという考えなどもある。いずれにせよ現時点において新型コロナウイルスと認知症の発症との関係について確立しているわけではない。今後の長期的なフォローアップにより、少しずつ解明が進んでいくと思われる。参考1)Cocoros NM, et al. In utero exposure to the 1918 pandemic influenza in Denmark and risk of dementia. Influenza Other Respir Viruses. 2018;12:314-318.2)Sidharthan C. COVID-19 linked to higher dementia risk in older adults, study finds. News-Medical.Net. 2024 Feb 9.3)Axenhus M, et al. Exploring the Impact of Coronavirus Disease 2019 on Dementia: A Review. touchREVIEWS in Neurology. 2023 Mar 24.4)Axenhus M, et al. The impact of the COVID-19 pandemic on mortality in people with dementia without COVID-19: a systematic review and meta-analysis. BMC Geriatr. 2022;22:878.

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英語で「いずれにしても」は?【1分★医療英語】第121回

第121回 英語で「いずれにしても」は?《例文1》医師Regardless of the results, you can go home today.(検査結果とは関係なく、今日退院できますよ)患者Okay. That sounds great!(良かったです!)《例文2》患者Regardless of my wish, please do whatever needs to be done.(私の希望にかかわらず、必要なことをしてください)医師I will certainly do.(わかりました)《解説》“regardless of”、この表現はあらゆる場面で非常に役に立ちます。例文に示したように、“regardless”、または“regardless of~”として「いずれにしても」や「~に関係なく」という意味で使われます。医療現場では、さまざまな要素が絡み合って物事が決定されます。その中でそういった要素に影響されることなく、意思決定をする場面があります。そのような場合にこの“regardless”を用いて決定事項を強調して伝えることができます。“R”と“L”が混じっているので発音は要注意です。初めは使うのがやや難しいかもしれませんが、ぜひ、ものにしてください。講師紹介

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