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アイカルディ症候群〔AS:Aicardi syndrome〕

1 疾患概要■ 概念・定義アイカルディ症候群は、1965年にJean Aicardiによって報告された神経疾患である。脳梁欠損、脈絡網膜裂孔、点頭てんかん (infantile spasm) を典型的な3主徴とし、主に女児に認められる。なお、Aicardi-Goutie(eはアクサン・グラーヴ)res症候群とは別の疾患である。■ 疫学まれな疾患であり、正確な頻度は不明である。民族差はないと言われており、欧米では9~17万人に1例程度との報告がある。■ 病因現時点で不明である。患者の大部分が女児であることから、X染色体顕性遺伝(男児では致死性)または常染色体上の限性発現遺伝子の異常により女児にのみ発症するとも考えられている。■ 症状脳梁欠損、脈絡網膜裂孔、点頭てんかんを典型的な3主徴とするが、必ずしも3つがそろっているとは限らない。また、この3主徴以外にもさまざまな大脳形成異常、視神経の異常、その他のタイプのけいれん、さまざまな重症度の知的障害、側弯などの骨格異常が認められる。1)神経症状てんかんは、大部分の症例(>95%)に認められる。大部分の症例は1歳未満に発症する。点頭てんかんは早期にみられ、経過中にさまざまなタイプの薬剤治療抵抗性てんかんを発症する。脳波所見として、非対称性のサプレッション・バーストや両半球間の解離を伴う非同期の多巣性てんかん様異常がよくみられる。頭部MRIでは脳梁の異形成があり、大部分は完全脳梁欠損であるが、部分欠損の場合もある。主に前頭葉と傍シルビウス裂領域の多小脳回や厚脳回は典型的である。脳室周囲と皮質内の異所性灰白質もよくみられる。大脳の左右非対称、脈絡叢乳頭腫、脳室拡大、第3脳室や脈絡叢の脳内嚢胞がしばしばみられる。2)眼症状本症候群の特徴である脈絡膜裂孔は、網膜色素上皮とその下にある脈絡膜の白色または黄白色での円形で、境界部にさまざまな濃さの色素沈着を伴う、境界明瞭な色素脱失領域であり、視神経周囲の球後極に集簇することがある。 3)頭蓋顔面症状特徴的な顔貌として、短い鼻尖、鼻先が上向きで鼻梁の角度が小さい前顎骨、大きな耳、まばらな眉毛が含まれる。斜頭、顔面非対称性、時に口唇口蓋裂も報告されている。4)骨格症状半椎体、ブロック椎体、癒合椎体、肋骨の欠損などの肋椎体の異常はよくみられる。患者の1/3が著しい側弯症になる可能性がある。5)消化器症状便秘、胃食道逆流、下痢、摂食障害が認められる。管理上、てんかんの次に大きな問題となる症状である。6)悪性腫瘍腫瘍の発生率が増加することが示唆されている。良性腫瘍として脈絡叢乳頭腫や脂肪腫など、悪性腫瘍として血管肉腫、肝芽腫、髄芽腫、胚性がん、奇形腫など、さまざまなまれなタイプの腫瘍が報告されている。7)成長身長は7歳、体重は9歳まで一般集団と同じ程度であるが、それ以降になると一般集団より低くなるとの報告がある。8)内分泌思春期早発症、思春期遅延症の報告がある。■ 分類とくになし。■ 予後生命予後は不良である。個人差が大きくけいれんの重症度にもよる。平均余命は8.3歳との報告がある一方、寿命の中央値は18.5歳との報告がある。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)診断は臨床所見のみで行う。症状がそろっていれば男児でも診断される。1999年に報告されたAicardiによる診断基準案は以下の通りである。古典的3徴候の存在が本症候群の診断となる。古典的3徴候の2つに加え、少なくとも2つの他の主要な特徴または補助的な特徴の存在は、本症候群の診断を強く示唆する。■古典的3徴候での診断【古典的3徴候】点頭てんかん (infantile spasms)特徴的な脈絡膜裂孔脳梁欠損(部分的な場合もある)【主な特徴】皮質奇形(多くは小脳回)脳室周囲および皮質下の異形成症第3脳室および/または脈絡叢周囲の嚢胞視神経・視神経乳頭のコロボーマまたは低形成【支持特徴】椎骨および肋骨の異常小眼球症もしくは他の眼症状“Split-brain” 型脳波肉眼的大脳半球非対称性■研究班による診断基準わが国の研究班においても以下のような診断基準が提唱されている。【A.症状】●主要徴候1.スパズム発作[a]2.網脈絡膜ラクナ(lacunae)[b]3.視神経乳頭(と視神経)のcoloboma、しばしば一側性4.脳梁欠損(完全/部分)5.皮質形成異常(大部分は多小脳回)[b]6.脳室周囲(と皮質下)異所性灰白質[b]7.頭蓋内嚢胞(たぶん上衣性)半球間または第3脳室周囲8.脈絡叢乳頭腫●支持徴候9.椎骨と肋骨の異常10.小眼球または他の眼異常11.左右非同期性’split brain’脳波(解離性サプレッション・バースト波形)12.全体的に形態が非対称な大脳半球a.他の発作型(通常は焦点性)でも代替可能b.全例に存在(またはおそらく存在)【B.検査所見】1.画像検査所見:脳梁欠損をはじめとする中枢神経系の異常(脳回・脳室の構造異常、異所性灰白質、多小脳回、小脳低形成、全前脳胞症、孔脳症、クモ膜嚢胞、脳萎縮など)がみられる。2.生理学的所見:脳波では左右の非対称または非同期性の所見がみられる。ヒプスアリスミア、非対称性のサプレッション・バーストまたは類似波形がみられる。3.眼所見:網脈絡膜ラクナが特徴的な所見。そのほか、視神経乳頭の部分的欠損による拡大、小眼球などがみられる。4.骨格の検査:肋骨の欠損や分岐肋骨、半椎、蝶形椎、脊柱側弯などがみられる。【C.鑑別診断】以下の疾患を鑑別する:線状皮膚欠損を伴う小眼球症。先天性ウイルス感染。<診断のカテゴリー>A-1、2、4を必須とし、さらにA-5、6、7、8のいずれかの所見を認めた場合に診断できる。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)根本治療法はなく、対症療法のみである。スパズム発作と薬剤治療抵抗性けいれんの管理が必須である。診断時からの理学療法、作業療法、言語療法の開始が望ましい。側弯に伴う合併症予防のための適切な筋骨格系のサポートと治療が必要である。また、成長、栄養状態、発達の経過、呼吸機能と誤嚥のリスク、側弯の程度などについての定期的な評価が必要である。4 今後の展望原因遺伝子は未同定であるが、今後同定された場合には、発症のメカニズムが解明され、治療法が確立することが望まれる。5 主たる診療科小児神経科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病センター アイカルディ症候群(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)小児慢性特定疾病情報センター アイカルディ(Aicardi)症候群(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)Gene Reviews Aicardi syndrome(医療従事者向けのまとまった情報)OMIM Aicardi syndrome(医療従事者向けのまとまった情報)1)Adam MP, et al(eds). GeneReviews. 1993.2)Kroner B, et al. J Child Neurol. 2008;23:531-535.3)Aicardi, et al. International Pediatrics. 1999;14:5-8.4)加藤光弘. てんかん症候群 診断と治療の手引き(日本てんかん学会編集). メディカルデビュー;2023.p.21-25.5)「稀少てんかんに関する調査研究」班 アイカルディ症候群 診療ガイドライン(第2版)公開履歴初回2024年7月4日

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間質性肺炎合併肺がん【DtoD ラヂオ ここが聞きたい!肺がん診療Up to Date】第6回

第6回:間質性肺炎合併肺がんパーソナリティ日本鋼管病院 田中 希宇人 氏ゲスト神奈川県立循環器呼吸器病センター 池田 慧 氏※番組冒頭に1分ほどDoctors'PicksのCMが流れます参考1)Ikeda S et.al,Nintedanib plus Chemotherapy for Small Cell Lung Cancer with Comorbid Idiopathic Pulmonary Fibrosis. Ann Am Thorac Soc.2024;21:635-643.関連サイト専門医が厳選した、肺がん論文・ニュース「Doctors'Picks」(医師限定サイト)講師紹介

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早期TN乳がんの術前・術後ペムブロリズマブ、QOLの評価(KEYNOTE-522)

 早期トリプルネガティブ乳がん(TNBC)への術前・術後のペムブロリズマブ追加を検討したKEYNOTE-522試験で、主要評価項目の病理学的完全奏効と無イベント生存期間の有意な改善はすでに報告されている。今回、副次評価項目の患者報告アウトカムにおいてペムブロリズマブ追加による実質的な差は認められなかったことを、シンガポール・国立がんセンターのRebecca Dent氏らがJournal of the National Cancer Institute誌オンライン版2024年6月24日号で報告した。 本試験の対象は、治療歴のない高リスク早期TNBC患者で、術前にペムブロリズマブ(3週ごと)+パクリタキセル+カルボプラチンを4サイクル投与後、ペムブロリズマブ+シクロホスファミド+ドキソルビシン(またはエピルビシン)を4サイクル、術後にペムブロリズマブを最長9サイクル投与する群と、術前に化学療法+プラセボ、術後にプラセボを投与する群に2対1に無作為に割り付けられた。事前に規定された副次評価項目のEORTC QLQ-C30およびQLQ-BR23について、ベースライン(術前、術後の1サイクル目の1日目)から、完遂率/コンプライアンス率60%/80%以上であった最後の週までの変化の最小二乗平均の群間差を縦断モデルで評価した。 主な結果は以下のとおり。 ・完遂率/コンプライアンス率が60%/80%以上の最後の週は、術前では21週、術後では24週であった。・術前では、ベースラインから21週目までの変化の最小二乗平均の群間差(ペムブロリズマブ+化学療法[762例]vs.プラセボ+化学療法[383例])は、GHS/QOLが-1.04(95%信頼区間[CI]:-3.46~1.38)、情緒機能が-0.69(同:-3.13~1.75)、身体機能が-2.85(同:-5.11~-0.60)であった。・術後では、ベースラインから24週目までの変化の最小二乗平均の群間差(ペムブロリズマブ[539例]vs.プラセボ[308例])は、GHS/QOLが-0.41(95%CI:-2.60~1.77)、情緒機能が-0.60(同:-2.99~1.79)、身体機能が-1.57(同:-3.36~0.21)であった。

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生活習慣の改善でアルツハイマー病の進行が抑制か

 食事や運動などの健康的な生活習慣を組み合わせて取り入れることが、軽度認知障害(MCI)や初期の認知症の患者の認知機能維持に役立つことが、米国の非営利団体である予防医学研究所(Preventive Medicine Research Institute)所長のDean Ornish氏らが実施したランダム化比較試験(RCT)で示された。このRCTでは、健康的な食事、定期的な運動、ストレスマネジメントなどを組み合わせた生活習慣改善プログラムを受けた患者の約71%で認知症の症状が安定、または薬剤を使わずに改善していた。それに対し、こうした生活習慣の改善を行わなかった対照群では約68%の患者で症状の悪化が認められたという。この試験の詳細は、「Alzheimer’s Research and Therapy」に6月7日掲載された。Ornish氏らは、「生活習慣の改善が認知症やアルツハイマー病の進行に影響を与えることを示した研究は、これが初めてだ」と説明している。 Ornish氏らはこのRCTで、MCIまたは初期のアルツハイマー型認知症と診断された51人を登録し、生活習慣を改善するプログラムを受ける群と対照群のいずれかにランダムに割り付けた。生活習慣改善プログラムは、以下の4つの要素で構成されていた。1)有害な脂質や精製された穀類、アルコール、甘味料の摂取を抑え、ホールフード(加工や精製をしないか極力抑えた野菜や果物、穀類、魚など)と植物性食品を中心としたプラントベース食を基本とする食事の摂取、2)低強度の筋力トレーニングを週に3回以上と有酸素運動を1日に30分以上実施、3)瞑想やストレッチ、呼吸法、誘導イメージ療法などによるストレスマネジメントを1日1時間実施、4)患者とそのパートナーのためのサポートグループの1時間の活動を週3回実施。 その結果、20週間後の時点で、Clinical Global Impression of Change(CGIC)での認知機能の評価において、生活習慣改善プログラム群では17人(約71%)が改善か状態を維持していると評価されたのに対し、対照群では17人(68%)が最小限〜中等度の悪化と評価されたことが明らかになった。また、認知機能とアミロイドタンパク質などのアルツハイマー病の血中マーカーの双方において、生活習慣改善プログラム群と対照群の間に有意差が認められた。例えば、生活習慣改善プログラム群ではアミロイド値の改善が認められたが、対照群では同値は悪化していた。さらに、生活習慣改善プログラムの遵守度が高いほどアミロイド値の低下の幅も大きくなることが示された。このほか、生活習慣改善プログラム群ではアルツハイマー病リスクを高める微生物が有意に減少し、アルツハイマー病に対して保護的に働く可能性が指摘されている微生物が増加していることも確認されたという。 Ornish氏は、「今回のRCTの結果は極めて心強いものであり、慎重に受け止めてはいるが楽観視している。この結果は、多くの人々に新たな希望と選択肢をもたらすことになるかもしれない」と話す。 このRCTの参加者の一人は、以前は1冊の本を読み終えるのに何週間もかかっていたが、RCT終了後は3~4日で読み終えることができ、しかも読んだ内容のほとんどを覚えていたという。また、自身の資金や退職後の生活を管理する能力を取り戻した元経営者の参加者もいた。さらに、ある女性参加者は、それまで5年間にわたってできていなかった家業の財務レポートを、現在では正確に作成できるようになったと話している。 今回のRCTに参加した米マサチューセッツ総合病院McCance Center for Brain HealthのRudolph Tanzi氏は、「アルツハイマー病の新たな治療法は切実に求められている。バイオファーマ企業はアルツハイマー病の治療薬を開発するために数十億ドルもの資金を投じてきたが、過去20年間に承認に至ったアルツハイマー病治療薬はわずか2剤だけだ。このうちの1剤は、最近、市場から回収され、もう1剤は効果が限定的で価格は極めて高く、脳浮腫や脳出血などの重篤な副作用を引き起こすこともある」と指摘。「それに対して、今回の試験で実施した集中的な生活習慣の改善は、わずかな費用で認知機能と日常生活機能の改善をもたらすなど、良い効果しかないことが示された」と述べている。

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おいしいスイカの怖い話(Dr.坂根のすぐ使える患者指導画集)

患者さん用画 いわみせいじCopyright© 2022 CareNet,Inc. All rights reserved.説明のポイント(医療スタッフ向け)診察室での会話患者 最近、血糖が高くて…医師 何か、はまっているものとかありませんか?患者 そうですね…スイカが大好きで、塩を少しだけかけて食べています。医師 なるほど。スイカは水っぽいのであまり血糖が上がらないと思っている人も多いですね。けど、このくらいの1切れで、ごはん半分のカロリー、糖質は20gくらいあるのでコップ1杯のジュースと同じですね。画 いわみせいじ患者 えっ、そうなんですか。3切れ、いやもっと食べていました。塩をかけたら血糖が下がるかと思って…(気づきと勘違い)。医師 ハハハ…塩をかけても糖分の量は変わりません。対比効果で甘くなりますけどね。患者 了解です。スイカの食べ過ぎには気を付けます。ポイントスイカ1切れ(約200g、炭水化物≒20g)でも血糖が上がりやすいことをわかりやすく説明します。Copyright© 2022 CareNet,Inc. All rights reserved.

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英語で「悔いはない」は?【1分★医療英語】第137回

第137回 英語で「悔いはない」は?《例文1》I have no regrets about the choices I have made.(私は自分の選択に後悔はありません)《例文2》Try everything you can and leave no regret behind.(やれることはすべてやって、悔いを残さないようにしなさい)《解説》「悔いを残さない」という表現は、日常会話、医療現場のさまざまな場面で使われます。私は終末期のがんの子供を持つ親と話すときに、往々にして“we left no stones unturned”という表現を使います。このような状況では、適切な声掛けというのは難しいのですが、「できることはすべてやりました(悔いはありません)」というメッセージは、残される家族の心的負担を少しでも減らせるのではと思います。この表現は古代ギリシャの逸話に由来し、「宝物を探すためにすべての石を引っくり返した」という意味から来ているそうです。類似表現としては、“have no regret”や“leave no regret”があります。文脈次第ですが、《例文1》《例文2》のように、前者は過去の事象に対して、後者は未来の事象に対して使用することが多い印象です。講師紹介

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第221回 年2回注射でHIV感染知らず

年2回注射でHIV感染知らずHIV感染の治療薬として承認済みのギリアド・サイエンシズのHIVカプシド阻害薬レナカパビルの予防効果を調べた第III相試験で、半年に1回の同剤注射は2千例強の女性のHIV感染を一切許さず、毎日の経口薬服用に比べてより手っ取り早い予防手段の確かな効果が裏付けられました1)。PURPOSE 1という名称の同試験には南アフリカとウガンダの28ヵ所の生まれながらの女性(cisgender women and adolescent)5,300例超が参加しました。HIVに感染していないそれらの若い(16~25歳)女性は半年に1回のレナカパビル注射群、経口薬エムトリシタビン・テノホビル アラフェナミド(F/TAF)1日1回服用群、経口薬エムトリシタビン・テノホビル ジソプロキシル(F/TDF)1日1回服用群のいずれかに2対2対1の割合で割り振られました。有効なHIV予防法はすでにいくつかあることから、HIV予防の臨床試験でプラセボ群を設けることは非倫理的とおおむねみなされています。ゆえに本試験PURPOSE 1でもプラセボ群はなく、試験に集まった選定前の女性集団(世間の女性)のHIV発生率(background HIV incidence)がプラセボに代わる主たる比較対象とされ、F/TDF投与群の感染率が第2の比較対象とされました。試験の結果レナカパビル注射群の女性2,134例にHIV感染は一切生じず、その感染率(0例/100人年)は世間の女性のHIV感染率(2.41例/100人年)や1,068例中16例が感染したF/TDF投与群のHIV感染率(1.69例/100人年)に比べて有意に低いことが示されました。2,136例中39例が感染したF/TAF服用群のHIV感染率(2.02例/100人年)はF/TDFと似たりよったりで、残念ながら世間の女性に比べて有意に低いことは示せませんでした。感染予防のための経口薬の連日服用はたいてい困難なことが先立つ試験で示されています。今回の試験でのF/TAFやF/TDFの服用遵守がどうだったかは現在解析中です。レナカパビルの予防効果判明によりPURPOSE 1試験は早仕舞いとなり、F/TAFやF/TDFを服用していた被験者もレナカパビルを使えるようになります。HIV感染の恐れが大きい人へのレナカパビル年2回注射の予防効果を調べているもう1つの第III相PURPOSE 2試験の結果が今年遅くか来年早々に判明します。PURPOSE 2は米国、アルゼンチン、ブラジル、メキシコ、ペルー、南アフリカ、タイで実施されており、男性として生まれた連れ合い(partner assigned male at birth)とのコンドームなしの肛門性交を受け入れている生まれながらの男性(cisgender man)、生まれたときは女性だった男性(transgender man)、生まれたときは男性だった女性(transgender woman)、無性(gender non-binary individual)の被験者3千例強(3,295例)が参加しています2)。もし成功裏となればそのPURPOSE 2の結果とPURPOSE 1の結果を使ってレナカパビルのHIV感染予防用途が承認申請されます。今回速報されたPURPOSE 1の結果の詳細は後に学会で発表されます。アナリストの調査によると、まだ感染していないがそうなる恐れが大きい人にレナカパビル年2回皮下注射は広く受け入れられそうです3)。感染予防のレナカパビル皮下注射は市場を大いに拡大し、数年のうちに年間売り上げ17億ドルを超えると同アナリストは予想しています。上述のとおりレナカパビルはHIVの治療薬として先立って承認されており、シュンレンカという製品名で販売されています。参考1)Gilead’s Twice-Yearly Lenacapavir Demonstrated 100% Efficacy and Superiority to Daily Truvada for HIV Prevention/Gilead Sciences2)PURPOSE 2試験(ClinicalTrials.gov)3)Gilead's twice-yearly HIV prevention shot hits bullseye, trial stopped early/FirstWord

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臨床現場で認知症やMCI患者のアドヒアランスは把握可能か

 多くの患者でみられるアドヒアランスの不良は、健康状態の悪化、QOLの低下、医療費の増大の原因となる。スペイン・Instituto CUDECA de Estudios e Investigacion en Cuidados Paliativosの氏Pilar Barnestein-Fonsecaらは、軽度認知障害(MCI)および認知症患者におけるアドヒアランス不良の割合を推定するため、錠剤カウントの参照法(RM)を考慮し、実臨床で有用かつ簡便な2つの自己報告法(SRM)の診断的妥当性を評価した。Frontiers in Pharmacology誌2024年5月22日号の報告。 本コホートは、多施設ランダム化比較試験に組み込まれた。8施設より387例が、非確率的連続サンプリング法を用いて選択された。包括基準は、ミニメンタルステート検査(MMSE)スコア20〜28点、55歳以上、薬物治療中、治療薬剤の自己管理とした。対象患者のフォローアップ調査は、ベースラインから6ヵ月、12ヵ月、18ヵ月にわたり実施した。治療アドヒアランスに関連する変数は、フォローアップ期間の各ポイントで測定した。変数には、年齢、性別、治療、併存疾患、MMSE testを含めた。アドヒアランスには、錠剤数、SRMとしてのMorisky-Green test(MGT)、Batalla test(BT)を含めた。統計分析には、記述式分析および95%信頼区間(CI)を含めた。診断の妥当性には、SRMとRMのオープン比較統計的関連性、層別比較(アドヒアランス不良を評価するための最良の方法としてRM、κ値、感度、特異度、尤度比)を含めた。 主な結果は以下のとおり。・対象患者数387例の平均年齢は73.29歳(95%CI:72.54〜74.04)、女性の割合は59.5%であった。・併存疾患は、HTAが54.4%、骨関節病変が35.9%、DMが24.5%であった。・MMSE平均スコアは、25.57(95%CI:25.34〜25.8)であった。・RMによる治療アドヒアランスは、ベースラインの22.5%から6ヵ月26.3%、12ヵ月14.8%、18ヵ月17.9%へ変動がみられた。・SRMによる治療アドヒアランスは、ベースラインの43.5%から6ヵ月32.4%、12ヵ月21.9%、18ヵ月20.3%であった。・κ値は各ポイントで、すべての比較において統計学的に有意であった(スコア:0.16〜0.35)。・診断の妥当性に関する感度、特異度は、次のとおりであった。【MGT】感度:0.4〜0.58、特異度:0.68〜0.87【BT】感度:0.4〜0.7、特異度:0.66〜0.9【MGT+BT併用】感度:0.22〜0.4、特異度:0.85〜0.96 著者らは、「SRMは、アドヒアランス不良患者を正しく分類可能なツールであり、実臨床でも非常に使いやすく、結果もすぐに得られるため、MCIおよび軽度の認知症患者の服薬アドヒアランスの判定に使用可能である」としている。

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再発・難治性DLBCL、複数の分子標的薬を含む5剤併用療法が有効/NEJM

 再発または難治性のびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)の治療において、ベネトクラクス+イブルチニブ+prednisone+オビヌツズマブ+レナリドミド(ViPOR)の5剤併用療法は、特定の分子サブタイプのDLBCLに持続的な寛解をもたらし、有害事象の多くは可逆性であることが、米国・国立衛生研究所(NIH)のChristopher Melani氏らの検討で示された。研究の成果は、NEJM誌2024年6月20日号に掲載された。米国の単一施設第Ib/II相試験 研究グループは、DLBCLの複数の発がん性遺伝子変異を標的とするレジメンであるViPOR療法の安全性と有効性の評価を目的に、単一施設において第Ib/II相試験を行った(米国国立がん研究所などの助成を受けた)。 2018年2月~2021年6月に、年齢18歳以上でECOG PSスコアが0~2点の再発または難治性B細胞リンパ腫患者60例を登録した。このうち20例(DLBCL 10例を含む)を第Ib相試験、40例(すべてDLBCL)を第II相試験の対象とした。 第Ib相試験では、第II相試験におけるベネトクラクスの推奨用量を確定するために4つの用量を評価し、他の4剤は固定用量とした。第II相試験の拡大コホートには、胚中心B細胞型(GCB)DLBCLと非GCB-DLBCLの患者を含めた。ViPOR療法は6サイクル(1サイクル21日)行った。患者の3分の2以上で血液毒性 DLBCL患者50例の年齢中央値は61歳(範囲:29~77)、92%が病期IIIまたはIV期、86%が乳酸脱水素酵素(LDH)高値、56%が2つ以上の節外病変を有し、68%が国際予後指標(IPI)3点以上で、17例(34%)は形質転換リンパ腫だった。全身療法による前治療数中央値は3(範囲:1~9)で、20例(40%)はCAR-T細胞療法による治療歴があった。 第Ib相試験では、用量制限毒性であるGrade3の頭蓋内出血が1件発生し、第II相試験でのベネトクラクスの推奨用量は800mgに決定した。 第II相試験(60例)では、患者の3分の2以上に何らかの血液毒性を認め、52%でGrade3または4の好中球減少(全サイクルの24%)、45%でGrade3または4の血小板減少(同23%)、25%でGrade3(Grade4は認めず)の貧血(同7%)が発現した。Grade3の発熱性好中球減少が発生した患者は3例(5%)のみで、Grade4はみられなかった。 Grade3以上の非血液毒性は、29%で低カリウム血症、8%で下痢、4%でALT値上昇、3%で倦怠感、2%で嘔吐が発現した。毒性により減量を要した患者の割合は17%、投与延期は25%であった。2年無増悪生存率34%、2年全生存率36% 評価が可能であったDLBCL患者48例における奏効の割合は54%(26例)で、38%(18例)が完全奏効であった。完全奏効を達成したのは、非GCB-DLBCL患者、およびMYC遺伝子の再構成を有するか、BCL2とBCL6遺伝子のいずれか、あるいは両方の再構成を有する高悪性度B細胞リンパ腫の患者のみであった。 奏効までの期間中央値は0.66ヵ月(範囲:0.59~4.34)で、完全奏効例の78%が地固め療法を受けずに完全奏効を持続していた。 ViPOR療法の終了時に、患者の33%で循環血中の腫瘍DNAが検出されなかった。また、追跡期間中央値40ヵ月の時点で、2年無増悪生存率は34%(95%信頼区間[CI]:21~47)、2年全生存率は36%(95%CI:23~49)であった。 著者は、「特定の分子サブタイプにおけるViPOR療法の有効性は、治癒可能な疾患を有するDLBCL患者のサブグループに限定されるが、これは今回の結果の一般化可能性にある程度の確証をもたらすものである。非GCB-DLBCLと、MYCおよびBCL2遺伝子の再構成を伴う高悪性度B細胞リンパ腫(HGBCL-DH-BCL2)におけるViPOR療法の抗腫瘍活性については、今後の研究課題である」としている。

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プラネタリーヘルスダイエットは地球と人間の健康を促進する

 地球を救うために考案された、植物性食品をベースにした食事法であるプラネタリーヘルスダイエット(planetary health diet;PHD)は人々の命をも救うことが、米ハーバード大学T.H.チャン公衆衛生大学院の疫学・栄養学教授であるWalter Willett氏らによる大規模研究で確認された。Willett氏は、「食生活を変えることで気候変動のプロセスを遅らせることができる。地球にとって最も健康的なことは、人間にとっても最も健康的なことなのだ」と述べている。米国立衛生研究所(NIH)からの研究助成金を受けて実施されたこの研究の詳細は、「The American Journal of Clinical Nutrition」に6月10日掲載された。 PHDは、加工度の低い植物性食品の摂取を重視し、魚や肉、乳製品の摂取は控えめにする食事法である。植物性食品ベースの食事が地球と人間の双方に有益であることは他の研究でも示されているが、そのほとんどは短期的な視点で検討したものである。それに対し、今回の研究では、20万人以上の男女を最長で34年にわたって追跡調査を行い、PHDの有益性を検討した。 対象は、Nurses’ Health Study(1986〜2019年)の参加女性6万6,692人、Nurses’ Health Study II(1989〜2019年)の参加女性9万2,438人、およびHealth Professionals Follow-up Study(1986〜2018年)の参加男性4万7,274人で、ベースライン時にがん、糖尿病、主要な心血管疾患に罹患している者はいなかった。研究グループは、PHDの遵守状況を評価するためのPHDインデックス(PHDI)を作り出し、4年おきに実施した半定量的食物摂取頻度調査票を基に対象者のPHDIを算出した。 追跡期間中に、女性3万1,330人と男性2万3,206人が死亡していた。PHDIに基づき対象者を5群に分けて解析したところ、PHDIが最も高い群では最も低い群に比べて、あらゆる原因による死亡リスクが23%(調整ハザード比0.77、95%信頼区間0.75〜0.80)低いことが明らかになった。主要な死因(がん、心血管疾患、呼吸器系疾患、神経変性疾患)ごとに検討しても同様の結果であった。さらに、PHDIが最も高い群では、最も低い群に比べて温室効果ガスの排出量が29%、肥料の必要量が21%、農地の使用量が51%少なかった。このことは、PHDの遵守が環境にも好影響を与えることを示している。 研究グループは、「気候変動に拍車をかける温室効果ガスを削減する上で鍵となるのは森林の再生であり、そのためには、食糧生産に使用する土地を減らすことが重要だ」と話す。また、Willett氏はハーバード大学のニュースリリースの中で、「この研究結果は、人間と地球の健康が密接に関連していることを示すものだ。健康的な食生活は環境の持続可能性を高め、環境の持続可能性は地球上の全ての人の健康と幸福に不可欠なものなのだ」と述べている。

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問題飲酒につながる仕事の特性

 日本では近年、問題飲酒(依存・乱用などの有害な飲酒やアルコールに関連した問題)が増加している。1,500人以上の地方公務員を5年間追跡した結果、男性では職位が低い人やシフト勤務の人、女性では仕事のパフォーマンスの自己評価が低い人ほど、問題飲酒につながりやすいことが明らかとなった。また、男女とも、週に3回以上や1回に2合以上の飲酒が、問題飲酒と関連していた。富山大学学術研究部医学系の茂野敬氏らによる研究であり、「Industrial Health」に5月15日掲載された。 問題飲酒は、がんや脳血管疾患などによる死亡リスクの上昇につながる。労働損失による経済的な影響も大きいことから、労働者の問題飲酒を予防することは重要である。問題飲酒の要因に関する調査結果は報告されているものの、横断的な研究が多く、男女別にリスク要因を追跡する研究が必要とされていた。 そこで著者らは、日本公務員研究の参加者のうち、2014年(ベースライン)の調査時に問題飲酒のあった人を除き、2019年まで5年間追跡できた1,535人を対象とする縦断的研究を行った。飲酒はCAGEというスクリーニングテストで評価し、「飲酒量を減らさなければいけないと感じたことはあるか」などの4項目のうち2項目以上に該当する場合を問題飲酒とした。また、仕事の特性、ワークライフバランス、社会活動などについても調査した。 対象者のうち男性は968人(平均年齢43.2±8.3歳)、女性は567人(同38.2±10.0歳)であり、追跡期間中の問題飲酒の累積発生率は、男性が9.6%、女性が5.8%だった。 問題飲酒と関連する要因について、ロジスティック回帰分析を用い、影響を及ぼし得る因子を統計学的に調整して解析した。その結果、週3回以上の飲酒習慣が、男性(週2回以下と比べてオッズ比2.66、95%信頼区間1.68~4.23)、女性(同3.81、1.54~9.40)ともに問題飲酒と関連していた。また、1回当たり2合以上の飲酒も、男性(1合以下と比べて同1.73、1.10~2.72)、女性(同3.36、1.50~7.51)ともに問題飲酒との関連が認められた。 仕事の特性に関しては、男性では、職位の高さ(中間管理職・管理職)と問題飲酒の間に負の関連が見られた(一般職と比べて同0.56、0.33~0.95)一方で、シフト勤務は問題飲酒との正の関連が示された(定時勤務と比べて同2.96、1.46~6.00)。女性では、主観的な仕事のパフォーマンスの悪さが問題飲酒と関連していることが明らかとなった(パフォーマンス良好と比べて同5.30、1.57~17.86)。 今回の研究結果から著者らは、「問題飲酒と関連する要因は男性と女性で異なっていることが示唆された」と述べ、問題飲酒の予防に男女差を考慮することの重要性を指摘している。また、問題飲酒が発生するまでには5年よりも長くかかる可能性があること、コロナ禍で飲酒習慣が変化したといわれていることにも言及し、「データ分析を継続していく」としている。

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メトホルミンに追加すべき薬剤はSGLT2阻害薬、DPP-4阻害薬それともSU薬?(解説:住谷哲氏)

 GRADE(Glycemia Reduction Approaches in Diabetes: A Comparative Effectiveness Study)研究1)は、メトホルミン単剤で血糖管理目標を達成できない患者に追加する血糖降下薬としてインスリン(グラルギン)、SU薬(グリメピリド)、GLP-1受容体作動薬(リラグルチド)またはDPP-4阻害薬(シタグリプチン)の有用性を比較検討したランダム化比較試験である。その結果は、HbA1c低下作用はグラルギンとリラグルチドが他の2剤に比べて優れており、体重減少効果はリラグルチドが最も優れていた。 米国が国家予算を投入したGRADE研究であるが、メトホルミンに追加する2剤目として経口血糖降下薬ではなく注射薬(グラルギンまたはリラグルチド)を選択することは実臨床においてそれほど多くない。さらに2剤目の追加薬剤の選択肢にSGLT2阻害薬が含まれていないのが、この研究の結果を実臨床に反映しにくい理由の1つである。 本研究は新しい解析手法であるtarget trial emulation(標的試験模倣と訳すべきか。概要については過去の本連載を参考されたい2])を用いて、メトホルミンに追加する薬剤としてSGLT2阻害薬、DPP-4阻害薬およびSU薬のいずれが優れているかを英国CPRD(Clinical Practice Research Datalink)のデータを対象にして検討したものである。結果は、HbA1c低下作用、BMI減少作用、収縮期血圧低下作用においてSGLT2阻害薬が他の2剤に比較して優れていた。さらにSGLT2阻害薬は、心不全による入院抑制はDPP-4阻害薬に比較して優れており、腎疾患の進行抑制はSU薬に比較して優れていた。 臓器保護薬としてのSGLT2阻害薬の有用性は、高リスク患者を対象としたランダム化比較試験で明らかにされてきた。したがって多くのガイドラインでは、心不全または慢性腎臓病を有する2型糖尿病患者への積極的投与が推奨されている。しかし、われわれが通常外来で診察している低リスク患者に対する有用性はこれまで不明であった。本研究の結果は、低リスク患者においても血糖降下作用、BMI減少作用、収縮期血圧低下作用においてSGLT2阻害薬がDPP-4阻害薬、SU薬と比較して優れていることを示した点でインパクトが大きい。ただし本研究はメトホルミン投与患者への追加薬剤としての検討であり、この点には留意する必要がある。

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HIVと関連するがん【1分間で学べる感染症】第6回

画像を拡大するTake home messageHIVと関連するがんは「AIDS指標悪性腫瘍」と「非AIDS指標悪性腫瘍」の2つがあることを押さえよう。「AIDS指標悪性腫瘍」は、1)非ホジキンリンパ腫、2)カポジ肉腫、3)子宮頸がんの3つを覚える。HIV感染者ではがん罹患の頻度が高いため、積極的なスクリーニングにより早期発見が求められる。HIV感染者では非感染者と比較して、がん罹患の頻度が高いとされています。なかでも、とくに関連があるとされる「AIDS指標悪性腫瘍」は、HIV感染者がこれらのがんを発症した場合、AIDSを発症していることを意味します。「AIDS指標悪性腫瘍」には以下の3つが挙げられます。1)非ホジキンリンパ腫2)カポジ肉腫3)子宮頸がんまた、これらの3つには入らないものの、HIV感染者で非感染者と比較して発生頻度が高いがんを「非AIDS指標悪性腫瘍」と呼びます。「非AIDS指標悪性腫瘍」には以下が挙げられます。1)肺がん2)肛門がん3)ホジキンリンパ腫4)口腔がん・咽頭がん5)肝臓がん6)外陰部がん7)陰茎がん抗レトロウイルス療法(ART)により「AIDS指標悪性腫瘍」の発生頻度は低下しましたが、「非AIDS指標悪性腫瘍」に関しては年々増加してきていることが報告されています。積極的なスクリーニングにより早期発見が求められます。1)Yarchoan R, et al. N Engl J Med. 2018;378:1029-1041.2)Yuan T, et al. EClinicalMedicine. 2022;52:101613.3)Reid E, et al. J Natl Compr Canc Netw. 2018;16:986-1017.4)“アンケート結果 HIVの悪性腫瘍(非AIDS指標疾患)の動向−2022年症例分解析−”. 日本医療研究開発機構 エイズ対策実用化研究事業. 2024-05. , (参照2024-06-05)

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統合失調症に対する2種類の長時間作用型注射剤抗精神病薬の併用療法

 統合失調症患者のうち、複数の治療に対し抵抗性を示す患者の割合は、最大で34%といわれている。継続的かつ適切な治療が行われない場合、再発、再入院、抗精神病薬による薬物治療の効果低減、副作用リスクの上昇を来す可能性が高まる。統合失調症患者のコンプラインアンスを向上させ、臨床アウトカムやQOLの改善に対し、長時間作用型注射剤(LAI)抗精神病薬の有用性が示唆されており、治療抵抗性統合失調症患者に対しては、2種類のLAI抗精神病薬を同時に投与することが推奨されている。イタリア・University of Campania Luigi VanvitelliのSalvatore Cipolla氏らは、統合失調症またはその他の精神病スペクトラム障害患者に対する2種類のLAI抗精神病薬併用に関する利用可能なエビデンスのレビューを行った。Brain Sciences誌2024年4月26日号の報告。 PRISMAステートメントに従い、2024年2月9日までに公表された2種類のLAI抗精神病薬のさまざまな組み合わせに関する研究を、PubMed、Scopus、APA PsycInfoより検索した。統合失調症および関連疾患の患者に対する2種類のLAI抗精神病薬の組み合わせとその臨床アウトカムを報告した研究を対象に含めた。 主な結果は以下のとおり。・最終分析には、ケースレポート9件、ケースシリーズ4件、観察的レトロスペクティブ研究2件を含めた。・LAI抗精神病薬の併用療法では、良好な治療反応が報告され、新規または予期せぬ副作用は報告されなかった。・さまざまな薬剤の組み合わせが使用されていた、アリピプラゾール水和物とパリペリドンパルミチン酸月1回(32回)の併用が最も多かった。 著者らは「2種類のLAI抗精神病薬による治療レジメンは、すでに多くの臨床現場で用いられており、統合失調症スペクトラム障害の治療に有用であり、効果的かつ比較的に安全な治療戦略であると認識されている」としている。

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AIを用いた血液検査で肺がんを早期発見

 人工知能(AI)により、血液中のセルフリーDNA(cfDNA)と呼ばれるDNA断片のパターンに基づいて肺がんリスクのある人を特定できることが、新たな研究で示された。論文の共著者で、米ジョンズ・ホプキンス大学キンメルがんセンターのVictor Velculescu氏は、「われわれは、医師の診察室で実施可能な簡便な血液検査を手に入れた。この検査により、CT検査で確認すべき肺がんの潜在的な兆候が認められるかどうかが分かる」と話している。研究の詳細は、「Cancer Discovery」に6月3日掲載された。 世界保健機関(WHO)によると、肺がんは世界で最も死亡率の高いがんである。肺がんリスクの高い人では、CTによる肺がん検診を毎年受けることで、まだ治療可能な段階の早期がんを発見でき、がんによる死亡を防ぐことが可能になる。米国予防医療専門委員会(USPSTF)は、喫煙歴がある50〜80歳の人に対し、肺がん検診を年に1回受けることを推奨しているが、実際に毎年、検診を受けているのはそのうちの6〜10%であるという。Velculescu氏は人々が検診を敬遠する理由として、予約から受診までにかかる時間の長さと低線量CT検査での放射線被曝を挙げている。 こうした肺がん検診へのハードルを下げるためにVelculescu氏らはこの5年間、AIを用いて肺がん患者に特徴的なcfDNAを検出する血液検査の開発に取り組んできた。この検査法(cfDNAフラグメントームアッセイ)は、正常細胞とがん細胞との間に見られるDNAの折り畳まれ方の違いを利用している。研究グループの説明によると、正常細胞のDNAは、巻き上げられた毛糸玉のように整然と折り畳まれているのに対し、がん細胞のDNAの折り畳まれ方はより乱雑であり、細胞死に伴い血液中に放出されるがん患者のcfDNAは、がんのない人のcfDNAより混沌としていて不規則な傾向があるのだという。 Velculescu氏らは、576人の肺がん患者および非肺がん患者の血液サンプルを用いてAIソフトウェアを訓練し、血液中の特定のcfDNA断片化パターンを識別できるようにした。その後、382人のがん患者および非がん患者の血液サンプルを用いて、この検査の肺がん識別能を検証した。その結果、この検査の陰性的中率は99.8%と非常に高いことが明らかになった。これは、肺がんの可能性があるのに見逃されてしまう人が1,000人中わずか2であることを意味する。 さらに、コンピューターシミュレーションを用いて、この血液検査により肺がん検診の受診率が5年以内に50%にまで向上した場合にどうなるのかをシミュレートした。その結果、検出される肺がんの数が4倍になり、早期に発見されるがんの割合は約10%増加し、これにより、5年間で約1万4,000人のがんによる死亡を防ぐことができると推定された。 Velculescu氏は、「この検査は安価で、非常に大規模に実施することが可能だ。この検査により肺がん検診がもっと身近になり、より多くの人が検診を受けるようになると、われわれは信じている。それにより、早期に発見され治療される肺がんも増えるだろう」とジョンズ・ホプキンス大学のニュースリリースの中で述べている。 この血液検査はすでに試験室で使用可能である。研究グループは、肺がん検診に使用するために米食品医薬品局(FDA)の承認を求める予定であるとしている。

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第217回 バリアフリーはどこにある!?車いす介助から見えた現実

「百聞は一見に如かず」とはよく言ったものである。今まさに人生初の経験をしている。車いすの使用である。といっても自分自身が車いすを利用することになったわけではなく、父親の介助者としてだ。以前、本連載でも触れたが、80代後半の両親は今も健在で、父親は軽度認知障害(MCI)持ちで歩行も亀の歩み状態となっている。それでも父親の出掛けたがりな性分は変わらず、それに付き添う母親のイライラが募った結果、私と母親は折り畳み式の軽量車いすの利用を検討し始めていた。ただ、前述の本連載バックナンバーでも触れたように、介助者である母親が納得するものを見つけるという段階で停滞を余儀なくされた。ところが利用しなければならない事態が現実に発生してしまったのだ。父親の容態ちょうどゴールデン・ウイーク(GW)が始まる1週間前のことだった。いつもより早く目が覚めた私は、ジムで小一時間運動し、シャワールームで汗を流して脱衣所に戻ると、スマートフォンに実家近くに住む薬剤師の親戚からLINE通話の着信があったことに気付いた。朝から何だろうと思ってそのまま体を拭いていると、今度は母親から電話の着信。何かあったと直感的に思った。母親には以前から「生死にかかわること以外で日中に音声電話をかけてこないこと」と言い含めていたからだ。急いで電話を受けると、「詳細はLINEに送ってあるから。お父さん、今、病院に救急車で向かっている」と一気にまくしたてられた。母親の声の背後に救急車のサイレン音がかぶさっていた。「わかった。また、連絡頂戴」と言って、一旦電話を切った。そのままLINEを立ち上げてメッセージを確認すると、「しゃべりなくなって救急車で市立病院に向かっている。体は元気(原文ママ)」とのメッセージ。わかるような、わからないような。即座に「脳梗塞か」とだけLINEメッセージを返し、急いで服を着て事務所に戻った。道すがら前述の親戚に折り返し、どうやら「起床後に(父親の)足が浮腫んでいた」と母親が彼に話していたことを知った。事務所に到着した時点で母親から新たなメッセージが着信していた。「一時的に、梗塞したようで(救急)車の中で回復した。病院について診察受けている、大丈夫だと思う」私はこの日、午前10時と午後1時からオンラインでの打ち合わせがあったが、安定した通信状態が必要なので、それが終わるまで事務所は動けない。昼直前に母親から「脳梗塞が見つかり、入院になった」とのLINEメッセージが着信した。午後の打ち合わせを終え、そこから不在に備えた雑務を諸々こなして、仙台駅に到着したのは6時過ぎ。父親と面会できたのは翌日だった。面会時はちょうど理学療法士がついてリハビリ中。横で眺めていると、結構キチンとやり取りし、手足も動いている。理学療法士が去ってから、父親が起き上がってベッドの端に腰掛け、「この姿勢のほうが耳がよく聞こえる。ワハハ」と元気そうだった。主治医からは、アテローム血栓性脳梗塞で搬送時のNational Institutes of Health Stroke Scale(NIHSS)スコアは1。血栓回収療法は行わず、抗血小板薬の内服のみで対応しているが、経過観察や検査のため10日間の入院と説明を受けた。結局、私はそのままGW半ばまで病院にアクセスの良い市内のホテルに滞在し、毎日父親を見舞った。退院日には再び医師の説明を受け、軽度の心房細動が確認されたため、今後は内服薬を抗血小板薬から抗凝固薬へ切替えるとの方針が告げられた。駅構内・ホームで悪戦苦闘!最終的に後遺症もなく退院に漕ぎ着けたのだが、10日間の入院の結果、教科書通りなのかもしれないが、歩行力が低下してしまった。入院前から通所リハビリは利用していたが、母親が利用先の理学療法士から聞いた話によると、退院後は以前よりもふらつくシーンがやや増えたとのこと。このため母親が急遽ケアマネジャーに相談し、遠出をする時のことも考慮して、折り畳み式の軽量車いすをレンタルすることになったのだ。軽量車いすが実家に届いたのは5月末。そのため父親の状態確認と車いす介助を経験するため、私は帰省することにした。父親は自宅内や自宅近傍は自力歩行をしていたが、やや距離があるところに出かける時は車いすを使っていた。そして実家には今回レンタルした軽量車いすのほかに前述の親戚から譲り受けた車いすがあり、母親は仙台市内などの繁華街に出かける時は前者、地元の街中を移動するときは後者と使い分けていた。実際に介助してみると、なかなか大変である。どちらの車いすもまだ50代の私にとって重量面で堪えることはないが、非日常の車いす操作に伴い、さまざまな“ケアレスミス”が生じる。たとえば、父親の車いすを押しながら駅の自動改札を抜けた時のこと。改札の幅に問題はなく、父親は車いすに座ったまま自分の交通系ICカード(以下、ICカード)を自動改札に見事にタッチ(実はMCIだとこの自動改札のタッチを本人が忘れたりする)。ピッと音が鳴りホッとしてそのまま改札を通過した。実はここですでに“ミス”が発生していた。この時は母親も一緒にいたため、「あんた(私のこと)、自分のICカードは?」と言われてハッとした。父親のことに集中するあまり自分のICカードのタッチを忘れてしまっていたのだ。そのままホームに進む。以前は父親とこうして出かける時は、父親本人はシルバーカーを押していたので、改札前の歩行距離が最短で済む乗降口に並んでいた。この時も車いすを押しながらいつものようにその場所に並ぼうとすると、母親から「こっち!」と改札から少し離れた対抗ホームに向かう階段近くにある乗降口へと誘導された。「何でだろう?」とやや不思議に思ったが、電車が到着する2分ほど前にようやく理由がわかった。母親から促されて父親が電車に乗るために車いすから立ち上がる。最寄り路線を走るJRの車両はいまもドアが開いたところに大きな段差があるため、乗降時は車いすのままとはいかず、父親も自力歩行をしなければならない。そのために父親が車いすから立ち上がる際、足腰が弱った父親が不安定な車いす本体以外で支えとして掴まえることができるポールが、この階段脇の乗降口にしかなかったのだ。父親が立ち上がる直前に私は手早く車輪のブレーキをかけ、車いすを折り畳んで2人の後に続いた。この辺の操作を覚えることは何の苦もない。車内に乗り込むと、母親の指示で折り畳んだ車いすをシルバーシート脇の車両連結部付近にある広めのスペースに置いた。そして自分も両親の真向かいの席に座り、ホッと一息ついてから「あれ?」となった。というのも車いす導入後、母親はすでに父親と車いすを電車に乗せ、仙台市内の繁華街まで何度か出かけている。母親と2人がかりですら、気の抜けない作業だと私が思っていた「駅到着~電車に乗り終える」までの一連の作業を、母親はこれまで1人でこなしていたことに気付いたからだ。80代後半の小柄な母親にとってはかなり大変な作業なはずなのに。仙台駅に到着後は、私が軽量車いすを先に抱えて降りて、ホーム上で展開し、母親の介助で降りてきた父親を乗せ、ホーム中ほどにあるエレベーターまで移動。そこで改札階に上がり、3人で改札を抜ける。この時は私も忘れずICカードをタッチした。駅でのバス乗降、何が大変かって…父親のかかりつけ歯科医院の受診日のこと。とりあえず母親が路線バスで行ってみたいというので、仙台駅の有名なあのペデストリアンデッキ上を車いすを押しながら移動した。バスターミナルへはデッキから階段で降りていくことになる。幸いエレベーターはあったが、実はこれも大変。というのも駅舎からバス乗り場までの最短距離にある階段そばにはエレベーターはなく、デッキ上を大回りで移動してエレベーターがある場所まで移動して乗り場に降りることになった。バス乗り場では車いすに乗った父親の姿を見つけた係員が親切に誘導してくれ、事なきを得てバスに乗り込めた。しかし、折り畳んでもそれなりに大きさのある車いすを車内で保持しながらの移動は決して楽ではなく、人目もやや気になってしまう。目的地のバス停到着時は電車と同じく私が先行して降車し、母親に介助されながら降車した父親を車いすに乗せて、歯科医院まで私が歩道上を押して歩いた。何でもない作業に思っていたのだが、実はこれがそうでもない。歩道の所々には沿道から車両用の横断勾配があるのだが、この勾配に片輪でもかかると、かなりバランスが崩れる。自分は両親と比べまだ若いからとやや過信していたが、勾配でのバランス制御は介助者が車いすを押す力の多寡だけで解決するのはやや無理がある。そして目的地の歯科医院に到着すると、入口は道路の縁石からやや上方に傾斜したところにあった。そのまま前輪を浮かすように傾斜に乗り上げて前進しようとするもうまくいかない。結局、母親のアドバイスに従い、180度回転させ、引き上げるようにして傾斜を上ることになった。認知症カフェ参加、役所までヒヤヒヤそしてこの翌日には、実家近くの役所で開かれる認知症カフェに参加するため、役所まで再び父親を車いすに乗せて連れて行くことなった。この時に使用したのは親戚から譲り受けたほうの車いす。実家から役所までは2ルートあるのだが、母親からは歩道が綺麗に整備されたルートではなく、農道を拡張したルートを行くように指示された。曰く、前者はあの横断勾配が多くバランスを崩しやすいのだという。すでに前日にこの件は経験済みだったので、アドバイスに従うことにした。もっとも後者のルートは専用の歩道はなく、すぐ脇をビュンビュン乗用車が通り過ぎる。しかも路面の舗装は排水性アスファルトと呼ばれる粗い舗装のため、車いすに乗る父親には路面からのガタガタとした振動がまともに伝わってしまう。父親は文句ひとつ言わずに黙って乗っていたが。そして目的地の役所建物の目の前で車道から歩道に入ろうとしたところで。またガツンとやってしまった。ちょうど車道から歩道の境目は極めて緩やかなV字状で歩道の縁石も申し訳程度に隆起していた(後に現場まで行って定規で計測したところ2cm弱)のだが、前進ができない。結局、昨日の歯科医院前と同じく180度回転し、歩道側に引き上げるように車いすで乗り込み、再び180度方向転換して進み、無事、役所に到着した。背後からついてきた母親が「バリアフリーって歩行できる人のためのもので、車いすを使う人のものではないんだよね」と漏らした。同感だった。医療機関や介護施設ならば、車いすも想定したバリアフリーになっているだろうが、市中は必ずしもそうとは言えないのだ。明日はわが身、車いす介助者による事故そんなこんなもあって車いすについて調べるうちに行き着いたのが、独立行政法人製品評価技術基盤機構のホームページである。同機構は各種製品の安全関係に関する調査事業も行っており、そこでは報告のあった製品事故に関する情報も検索ができる。私が「車いす」のキーワードで検索すると、2019~22年に6件(電動車いすは除く)の報告があった。これはあくまで機構に報告があったものであり、世で起きた車いすに伴う事故の本当にごく一部だろう。いずれもリコールなどに該当する製品そのものの不具合ではない。どちらか言うと使用(介助)者側のミスなどに起因する。6件中4件は死亡事故だ。そのうちの1件の事故詳細を読んでいて何とも言えない気持ちになった。事故の詳細は施設介護者が入浴後の使用者を車いすに移乗させ、左足をフットサポートに乗せようとしたとき、車いすのバックサポートの後方に頭を倒していた使用者もろとも後方に転倒。そのまま使用者が亡くなったという事例である。使用者の姿勢もあり、左足をフットサポートに乗せようと持ち上げた時に重心が偏って起こった事故だ。不注意と言われればそれまでだが、介護者に悪意はまったくない。施設勤務介護者ですらこの状況なのだから、家族介護者で同様の事故が起こっているであろうことは容易に想像がつく。また、ある1件は介助者が、使用者の乗車した車いすを車いす用体重計に乗せるため前輪を上げる(浮かす)操作後に前進し、車いすが大きく傾き使用者が転落・負傷したという事案。まさに私が路上の縁石前で父親の車いすで行おうとしたこととほぼ同じ操作で事故は起きている。結局、介助者の「このくらい」という悪意のない行動が事故に結び付いているのだが、同時に私の少ない経験ながらも市中にはそうした操作を“強いられてしまう”現場があちこちにある。過去から比べれば世の中は進展しているとはいえ、私たちはまだ真のバリアフリー社会への途上にあるのだと改めて実感させられている。

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ASCO2024 レポート 泌尿器科腫瘍

レポーター紹介米国臨床腫瘍学会(ASCO)は、1964年の創立以来「がんが予防または治癒されすべてのサバイバーが健康である世界」というビジョンを掲げ活動してきた、がん治療研究のための学会であり、世界各国に5万人近くの会員を有する。年1回の総会は、世界のがん研究者が注目する研究成果が発表される機会であり、2024年は5月31日から6月4日まで米国イリノイ州のシカゴで行われた。COVID-19のまん延があった2020~22年にかけてon-line参加のシステムが整い、現地参加と何ら変わりなく学会参加が可能となったため、今年はon-lineでの参加を選択した。泌尿器科腫瘍の演題は、Oral Abstract Session 18(前立腺9、腎5、膀胱4)、Rapid Oral Abstract Session 18(前立腺8、腎4、膀胱4、陰茎1、副腎1)、Poster Session 112で構成されていた。ASCOはPractice Changingな重要演題をPlenary Sessionとして5演題選出するが、今年は泌尿器カテゴリーからは選出されなかった。Practice Changingな演題ではなかったが、新しい見地を与えてくれる演題が多数あり、ディスカッションは盛り上がっていた。今回はその中から4演題を取り上げ報告する。Oral Abstract Session 腎/膀胱4508 淡明細胞腎がん1次治療のアベルマブ+アキシチニブ、PFSを延長(JAVELIN Renal 101試験)Avelumab + axitinib vs sunitinib in patients (pts) with advanced renal cell carcinoma (aRCC): Final overall survival (OS) analysis from the JAVELIN Renal 101 phase 3 trial.Robert J. Motzer, Memorial Sloan Kettering Cancer Center, New York, NYJ Clin Oncol 42, 2024 (suppl 16; abstr 4508)JAVELIN Renal 101試験は、転移性淡明細胞腎がんにおける1次治療としてアベルマブ+アキシチニブ(AVE+AXI)をスニチニブ(SUN)と比較するランダム化第III相試験であり、無増悪生存期間(PFS)の延長が示され、すでに報告されている。この転移性腎細胞がんにおける1次治療の免疫チェックポイント阻害薬(ICI)とチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)の組み合わせは、そのほかにもペムブロリズマブ+レンバチニブ、ニボルマブ+カボザンチニブ、ペムブロリズマブ+アキシチニブがあり、いずれも全生存期間(OS)の延長が報告されているだけに、このAVE+AXIのOS結果も注目されていた。この報告は、フォローアップ期間最小値68ヵ月における最終解析である。プライマリ・エンドポイントは2つ設定され、PD-L1陽性の転移性腎細胞がんにおける中央判定によるPFSとOSである。全体集団における解析はセカンダリ・エンドポイントに設定されていた。PD-L1陽性集団のOS中央値は、SUN 36.2ヵ月、AVE+AXI 43.2ヵ月、ハザード比 (HR):0.86(95%信頼区間[CI]:0.701~1.057、p=0.0755)であり、ネガティブな結果であった。全体集団でのOS中央値は、SUN 38.9ヵ月、AVE+AXI 44.8ヵ月、HR:0.88(95%CI:0.749~1.039、p=0.0669)であり、こちらも有意差なしの結果となった。全体集団のOSのサブグループ解析では、とくに効果不良を示唆する群はないが、IMDCリスク分類のPoorリスクにおいてはSUNとの差は開く傾向(HR:0.63、95%CI:0.43~0.92)があった。有害事象(AE)に関し、Grade3以上の重篤なAEはSUN群61.5%とAVE+AXI群66.8%であったが、AVE+AXIにおける免疫関連有害事象(irAE)は全体で50.7%、重篤なものは14.7%であった。この結果により、ICI+TKI療法のすべての治療成績がそろったことになる。ICI単剤においては、抗Programmed death(PD)-1抗体か抗PD-ligand(L)1かの違いによる影響があるかどうか確かな証拠はないが、抗PD-1抗体のみがOS延長を証明できたことになる。またTKI単剤の比較において、VEGFR(Vascular Endothelial Growth Factor Receptor)を強く阻害しつつ耐性化にも対応できる新世代のTKIであるカボザンチニブとレンバチニブのレジメンがより良い治療成績を示した。試験間における患者背景の差はあるものの、薬効の違いもICI+TKI療法の効果に影響しているのではないかと感じる。とはいえ、目の前の患者にICI+ICI療法かICI+TKI療法か、いずれを選択するのがベストかの問いに答えられる臨床試験は行われておらず、PFSやOSだけでなく奏効割合や病勢増悪割合、合併症、治療環境なども加味し、患者との話し合いの下で決定していく現状は今後も変わらないだろう。Oral Abstract Session 前立腺/陰茎/精巣LBA5000 去勢抵抗性前立腺がんのカバジタキセル+アビラテロン併用療法はPFSを延長(CHAARTED2試験)Cabazitaxel with abiraterone versus abiraterone alone randomized trial for extensive disease following docetaxel: The CHAARTED2 trial of the ECOG-ACRIN Cancer Research Group (EA8153). Christos Kyriakopoulos, University of Wisconsin Carbone Cancer Center, Madison, WIJ Clin Oncol 42, 2024 (suppl 17; abstr LBA5000)CHAARTED試験は、転移性去勢感受性前立腺がん(mCSPC)におけるアンドロゲン除去療法(ADT)に加えUpfrontにドセタキセル(DTX)を6サイクル行うことでOS延長が証明された重要な試験であった。これにより、DTXがアンドロゲン耐性クローンも含め初期に量を減らすことに寄与する、という仮説が立証されたと考えられている。CHAARTED2試験は、初回にDTXが行われた患者に対し、アンドロゲン受容体(AR)阻害薬に加えカバジタキセル(CBZ)をさらに加えることで、AR阻害薬の効果が延長するかを検討するランダム化比較第II相試験であった。3サイクル以上のDTX治療歴があるmCRPC患者を、アビラテロン(ABI)1,000mg+プレドニゾロン(PSL)10mg群とABI+PSLに加えCBZ 25mg/m2 3週ごとを6サイクルまで行う群に1:1でランダム化した。プライマリ・エンドポイントはPFS延長(HR:0.67、α=0.10、β=0.10)と設定された。患者背景は、Gleason score 8~10が83%、High-volumeが76%含まれる集団であり、両群にバランスよく割り付けられていた。PFS中央値は、ABI+PSL群で9.9ヵ月、ABI+PSL+CBZ群で14.9ヵ月、HR:0.73(80%CI:0.59~0.90、p=0.049)と有意差を認めた。セカンダリ・エンドポイントのOSは、HR0.93であり、今回の検討ではアンダーパワーではあるが有意差を認めなかった。AEでは、重篤なものは26.7%と42.2%であり、ABI+PSL+CBZ群で多く報告された。Kyriakopoulos氏は、CBZ追加によるOS延長は認められなかったものの、PFSやPSA(Prostate Specific Antigen)増悪までの期間の延長は認められたことから仮説は証明できたことを報告した。とはいえ、現在のmCSPCの初期治療は3剤併用療法(AR阻害薬+DTX+ADT)であることから、日常診療に与える影響は限られると結んだ。Rapid Oral Abstract Session 前立腺/陰茎/精巣5009 陰茎がん1次治療のペムブロリズマブ併用化学療法(HERCULES試験)A phase II trial of pembrolizumab plus platinum-based chemotherapy as first-line systemic therapy in advanced penile cancer: HERCULES (LACOG 0218) trial.Fernando Cotait Maluf, Hospital Beneficencia Portuguesa de Sao Paulo and Hospital Israelita Albert Einstein; LACOG (Latin American Cooperative Oncology Group), Sao Paulo, BrazilJ Clin Oncol 42, 2024 (suppl 16; abstr 5009)希少がんである進行陰茎がんにおける1次治療の免疫療法追加のエビデンスが報告された。陰茎がんの発生は、アフリカやアジア、中南米などの低所得国に多いことが知られているが、ブラジルで行われた単群第II相試験の結果である。陰茎がんの標準治療として無治療と比較したランダム化試験はないが、プラチナ併用レジメンを基本としている。NCCN(National Comprehensive Cancer Network)ガイドラインによると、preferred regimenとして3剤併用のTIP療法(パクリタキセル+イホスファミド+シスプラチン)、other recommended regimenとしてFP療法(5FU+シスプラチン)が提示されている。TIP療法はFP療法と比べると、奏効割合が40%程度と高いが、AEの割合も高く忍容性は問題となることが多い。Maluf氏らは、初発の転移性陰茎がん患者に対し、シスプラチン70mg/m2あるいはカルボプラチンAUC 5 day1と5FU 1,000mg/m2 day1~4に加えペムブロリズマブ200mgを3週間ごとに6サイクル実施後、ペムブロリズマブのみを維持療法として34サイクル実施するレジメンの治療成績を報告した。プライマリ・エンドポイントは奏効割合であり、統計設定は奏効割合期待値40%、閾値20%、両側α=0.1、β=0.215として33症例が必要であると計画された。患者37例が登録され、年齢中央値56歳、白人40.5%が含まれていた。奏効割合は39.4%(95%CI:22.9~57.9%)でありポジティブな結果であった。PFS中央値は5.4ヵ月(95%CI:2.7~7.2)、OS中央値は9.6ヵ月(95%CI:6.4~13.2)であった。サブグループ解析では、TMB(Tumor Mutational Burden)高値(≧10)と低値(<10)の奏効割合は75%と36.4%、HPV-16陽性と陰性では55.6%と35%であり、PD-L1陽性、陰性による一定の傾向はなかった。AEは全Gradeで91.9%、Grade3以上で51.4%であり、治療関連死はなかった。このHERCULES試験により、ペムブロリズマブ+FP療法は転移性陰茎がんの新たな治療オプションとなった、と報告された。日本においてこのレジメンは保険承認が得られず適用は困難だが、陰茎がんが希少がんであることを考慮すると、診断時より遺伝子パネル検査を行うことでICI使用の機会を逃さないよう注意を払う必要がある。Rapid Oral Abstract Session 腎/膀胱4510 尿膜管がん1次治療のmFOLFINOX療法(ULTMA試験)A multicenter phase II study of modified FOLFIRINOX for first-line treatment for advanced urachal cancer (ULTMA; KCSG GU20-03).Jae-Lyun Lee, Asan Medical Center, University of Ulsan College of Medicine, Seoul, South KoreaJ Clin Oncol 42, 2024 (suppl 16; abstr 4510)希少がんの重要なエビデンスとして、膀胱尿膜管がんの単群第II相試験の結果も注目すべき演題の1つである。尿膜管がんは膀胱がんのうち1%未満の発生割合で、標準治療が確立していないがんであるが、病理組織の特徴は消化器がんに類似することから、5FU系、プラチナ系薬剤での治療が適用されることが多く、その有効性が報告されている。Lee氏らは、modified FOLFIRINOXレジメン(オキサリプラチン85mg/m2 day1、イリノテカン150mg/m2 day1、ロイコボリン400mg/m2 day1、5FU 2,400mg day1をそれぞれ2時間、1.5時間、2時間、46時間かけて静注)に、支持療法としてペグフィルグラスチム6mg皮下注を3日目、予防的抗菌薬として少なくとも最初の2サイクルはレボフロキサシン750mgを4~7日目に内服し、2週間を1サイクルとして最大12サイクルまで継続する治療プロトコールを開発し、その治療成績を報告した。プライマリ・エンドポイントは奏効割合であり、期待値35%、閾値17%、α=0.05、β=0.2に設定された。2021年4月~2023年11月の2年7ヵ月間に韓国の5施設で実施した試験であった。患者背景は、年齢中央値50歳(28~68)、PSは0/1がそれぞれ3/18例であった。奏効割合は61.9%(95%CI:41.1~82.7)であり、病勢増悪例は0例であった。PFS中央値は9.3ヵ月(95%CI:6.7~11.9)、OS中央値は19.7ヵ月(95%CI:14.3~25.1)であった。安全性では、Grade 3以上の重篤なものは、貧血2例、好中球減少1例、血小板減少1例、嘔気1例、下痢1例であったが、Grade2の発生は、血小板減少3例、嘔気8例、嘔吐2例、下痢1例、口内炎3例、倦怠感6例、末梢神経障害5例であった。発熱性好中球減少症や治療関連死は認めなかった。演者らは、mFOLFIRINOX療法は膀胱尿膜管がんの新たな治療選択肢として考慮されるべきであると締めくくった。尿膜管がんでも大腸がんと同様に、triplet therapyがdoublet therapyより数値上高い奏効割合を示すことができた試験であったのは、生物学的特性が類似していることを反映すると思われる。また、毒性の強いレジメンに安全性を高める工夫が最大限盛り込まれたプロトコールになっていることで、今回の良い結果を生んだと思われた。この試験の患者背景で特徴的なのは、患者の年齢が若いことと、PS不良例は含まれていないことも重要なポイントである。

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ASCO2024 レポート 肺がん

レポーター紹介2024年のASCOはほぼ現地開催となり、同時にWebでのライブ配信等も充実した、ポストコロナを完全に印象付ける形で実施された。ASCO Lung、Lung ASCOと呼ばれるほど肺がんに関しては当たり年であり、早期緩和ケアをVirtualで実施するか対面で実施するか比較したREACH PC、EGFR遺伝子変異陽性III期非小細胞肺がんに対する化学放射線療法後のオシメルチニブの意義を検証したLAURA、限局型小細胞肺がんにおいて化学放射線療法後のデュルバルマブの意義を検証したADRIATICの3試験がPlenaryで採択される等、注目演題がめじろ押しであった。本稿では、その中から重要な知見について解説したい。REACH PC試験2010年のASCOでTemelらが、肺がん患者に対する早期緩和ケア介入が、QOLのみならず生存期間を延長したという驚きの発表を行って以来、早期緩和ケアは肺がん治療のスタンダードとして認識されてきた。ただし、その実施に際しては、医療アクセスの問題、さらに近年はCOVID-19が障壁となっている現状が存在する。そこで、同じグループが実施したのが、進行非小細胞肺がん患者1,250例を対象として、従来の対面の早期緩和ケアを毎月実施することと、VirtualのVideo Visitsによる早期緩和ケアを毎月実施することの、patient-reported measuresへの影響を検証したREACH PC試験をである。米国を中心に実施された本試験は、FACT-Lと呼ばれるQOL指標を主要評価項目として、対面とVideo Visitsが同等であることを検証した。両群で対人、Video Visitsはおおむね遵守されており、双方が併用されていないことも確認されている。結果は明快であり、24週時点で両群のFACT-L指標は同等であることが示され、Video Visitsも早期緩和ケアにおける選択枝の1つであると位置付けられた。今回はまだ初回報告であることから、今後さらなる追加解析の結果が公表される見込みではあるものの、すべての早期緩和ケアをVideo Visitsにすることが妥当ということではなく、どういった場合にVideo Visitsがより有用かについて検討することが必要と、演者も結論付けていた。さらに、米国を中心に実施されたことから、医療環境、医療アクセス、地理的な条件等が大きく異なるわが国ならびに世界各地で同様の結論が得られるのか、解決すべき課題は少なくない。ただ、virtualとrealを併用したコミュニケーションの在り方が今後減少する可能性は乏しく、むしろvirtualをいかに実臨床に活用していくかを検討しよう、というASCOの意図をplenaryセッションでの採択という結果から読み取ることができる。LAURA試験EGFR遺伝子変異陽性の切除不能III期非小細胞肺がんに対して、根治的化学放射線療法後にオシメルチニブを増悪もしくは許容できない毒性が出現するまで続けることで、プラセボ群に対して無増悪生存期間(PFS)における優越性を検証した第III相試験がLAURA試験である。割付調整因子として、根治的放射線治療の同時vs.逐次、IIIA 期vs.IIIB/C期、中国vs.中国以外、が設定されている。216例の患者が2:1でオシメルチニブ群により多く割り付けられた。副次的評価項目として全生存期間(OS)、脳転移無増悪生存期間、安全性等が設定されている。PFSはハザード比0.16、95%信頼区間0.10~0.24で、オシメルチニブを追加することでPFSが有意に延長(39.1ヵ月vs.5.6ヵ月)するという結果であった。24ヵ月時点のPFSの点推定値はオシメルチニブ群で65%、プラセボ群で13%であり、50%以上の上乗せを認めている。とくに、プラセボ群のPFSはEGFR遺伝子変異陽性進行非小細胞肺がんと同様の状況であることが強調されていた。プラセボ群では68%に新規病変(増悪)を認めており、29%が脳転移であり、オシメルチニブ群の8%と明白な違いを示していた。同時に発表されたOSは、36ヵ月以降でややオシメルチニブ群が良好な傾向を示しているものの、ハザード比0.81で大きな違いはなかった。プラセボ群で81%がオシメルチニブにクロスオーバーしていることも同時に報告されている。両群でOSイベントが20%程度であることから、まだ未成熟なデータとはいえ、今後追加報告が行われる見込みである。NEJM誌に同時掲載され、会場では大きな拍手が沸き起こった。ADAURA試験よりも、一段階進行しているが、同様に根治を目指すことができる病態において、チロシンキナーゼ阻害薬であるオシメルチニブの有効性が示されるという、既視感のあるデータであった。ADAURAとの最も大きな違いは、Post-ADAURAともいえる状況で、チロシンキナーゼ阻害薬による地固め療法に対する意見が(現時点では)それほど強く沸き起こっていないところである。確かに、オシメルチニブを増悪もしくは許容できない毒性を認めるまで継続するという治療法は、ディスカッサントもその課題を指摘していた。(1)ADAURA(オシメルチニブ3年)においても、より長いほうがよいのでは、との議論がすでにある状況、(2)ADAURAよりも進行した病状であること、(3)プラセボ群のPFSが進行肺がんを思わせる状況であり進行期同様の治療(増悪まで)が許容されうる!?等の諸点が、ADAURAの結果を初めて見た際とは大きく異なる。ただ、このプラセボ群の成績は、これまでEGFR遺伝子変異陽性III期非小細胞肺がんに対して根治的化学放射線療法を実施した研究結果と比べても悪い印象であり、その点は検証の必要性がありそうである。本試験結果から同対象にオシメルチニブが適応拡大される可能性は高く、実臨床で使用可能となった段階で、最適な対象患者選定、さらには至適使用期間等についてわれわれが検討していく必要があると考えている。ADRIATIC試験臨床病期I~III期、限局型小細胞肺がんを対象として、根治的化学放射線療法後のデュルバルマブ(1,500mg固定用量、4週おき、最大24ヵ月)による地固め療法を、プラセボと比較する第III相試験がADRIATIC試験である。730例が登録され、デュルバルマブ群に264例、プラセボ群に266例、デュルバルマブ+トレメリムマブ群に200例が割り付けられた。今回はデュルバルマブ群とプラセボ群に関する解析が実施され、デュルバルマブ+トレメリムマブ群については次回以降に解析が行われる。割付調整因子は、臨床病期I/II vs.III期、PCIの有無が設定されている。主要評価項目はデュルバルマブとプラセボの比較におけるOSとPFSのCo-primaryとされ、デュルバルマブ+トレメリムマブにおけるOS、PFSはKey secondary endpointと位置付けられている。統計学的設定としては、5%のα(両側検定)を、OSに4.5%、PFSに0.5%使用し、それぞれで優越性が示されればαをリサイクルする予定が設定されている。PFS、OSともに優越性が示され、非の打ちどころのない結果が示された。PFSのハザード比は0.76、95%信頼区間0.61~0.95と有意に試験治療群が良好であり、24ヵ月時点のPFS点推定値は試験治療群で46.2%、プラセボ群で43.2%であった。OSのハザード比は0.73、95%信頼区間0.57~0.93と有意に試験治療群が良好であり、36ヵ月時点のOS点推定値は試験治療群で56.5%、プラセボ群で47.6%であった。IMpower133、CASPIANの両試験により、進展型小細胞肺がんの初回治療に導入された免疫チェックポイント阻害薬が、いよいよ限局型小細胞肺がんの標準治療にも導入され、その有効性は進展型よりも限局型においてより大きい結果であった。同様の傾向は、非小細胞肺がんや、それ以外のがん腫においても繰り返し示されており、Late lineよりもFirst line、進行期よりも早期において免疫チェックポイント阻害薬の意義が大きいことに再現性がある。切除可能小細胞肺がんにおける周術期治療への免疫チェックポイント阻害薬の展開が期待されるところではあるものの、これまで同集団に対して第III相試験を実施し完遂できたのはJCOG1205/1206試験のほかはほぼ存在せず、わが国で小細胞肺がんに対する周術期免疫チェックポイント阻害薬の治療開発が何かしらの形で行われることに期待したい。EVOKE-01試験sacituzumab govitecanは、TROP2を標的とし、ペイロードとしてSN-38をDAR 7.6で搭載した抗体薬物複合体(ADC)である。近年大きな話題となっているADCにおいて、非小細胞肺がんにおいてはTROP2を標的としたDato-DXdが先行しており、昨年のESMOで発表されたTROPION-Lung 01試験においてドセタキセルに対して、とくに非扁平上皮非小細胞肺がんにおいてPFSの優越性を示している。今回、ほぼ同様のセッティングである、進行非小細胞肺がんの2次治療において、sacituzumab govitecanとドセタキセルを比較した第III相試験がEVOKE-01試験である。603例が1:1で登録され、割付調整因子は、扁平上皮がんvs.非扁平上皮がん、前治療での免疫チェックポイント阻害薬がCR/PR vs.SD/PD、ドライバー遺伝子変異(AGA)の有無、が設定された。主要評価項目としてはOSが設定され、PFSが副次評価項目とされた。PFSのハザード比は0.92、95%信頼区間0.71~1.11でドセタキセルに対する優越性は示せなかった。さらに、OSにおいてもハザード比は0.84、95%信頼区間0.68~1.04とsacituzumab govitecanが良い傾向にはあるものの、統計学的な優越性は示せなかった。同じTROP2を標的としたADCによる、ドセタキセルをコントロールとした第III相試験において、TROPION-Lung 01試験とは異なる結果となったことは意外ではあるものの、両試験ともにOSにおいて明白な優越性が示せなかった点は共通している。TROP2は、肺がんを含め多くのがん腫で高頻度に発現していることが報告されていることからADCの良い標的と考えられてきたが、実際の臨床試験で示される有効性はその発現割合とは異なっており、前治療等による蛋白発現への影響が示唆されている。Dato-DXdを用いて、TROP2蛋白発現だけでなくマルチオミックス解析を付加した臨床試験の結果がGustave Roussyでも報告されており、ADCにおいても治療前の標的蛋白の評価の重要性が示唆されている。周術期治療アップデート・追加解析周術期治療に関してもいくつかのアップデート、追加解析の報告が行われている。日本においても1年ほど前に承認された、術前ニボルマブ+化学療法の有効性を評価したCheckMate 816試験の4年アップデート解析が報告された。無イベント生存期間(EFS)は3年時点で53%、4年時点で49%の点推定値が報告され、48ヵ月以降はプラトーに達しているかのような生存曲線であり、引き続き良好な成績であった。OSについても同時にアップデートが報告され、3年時点で77%、4年時点で71%と、コントロール群に比べ明確に良好であるものの、もともとの統計設定でOSの優越性を評価する基準が厳しく、統計学的には優越性を示すことができていない。術前のみのCheckMate 816試験は周術期免疫チェックポイント阻害薬の試験ではむしろマイノリティであり、同じ企業が実施したCheckMate 77T試験を含め、他の試験はほぼ術後免疫チェックポイント阻害薬も実施する試験治療を採用している。CheckMate 77T試験からは、N2リンパ節転移のSingle vs.Multipleで、周術期免疫チェックポイント阻害薬の意義が異なるかを検討したサブグループ解析が報告され、結果としてはMultiple N2であっても周術期ニボルマブの意義は十分に存在するというものであった。N2リンパ節のSingle/Multipleに関する解析が企業治験で実施されることの意義は大きい。Multiple N2でも周術期免疫チェックポイント阻害薬の意義は明白であり、R0切除を目指すことができると判断されている状況であれば、Multiple N2であっても切除を前提とした周術期免疫チェックポイント阻害薬が選択肢となりうることが示された。ADAURA試験からは、ctDNAを用いたMRD解析の結果が報告されている。RaDaRと呼ばれるTissue-InformedのMRD解析が用いられており、MRD解析の意義が示されている。ただ、MRD解析においてポイントとなるランドマーク時点(術後アジュバント前)の解析結果というよりは、モニタリング相におけるMRD陽性から画像診断上の再発までの解析に主眼が置かれており、今後の追加解析に期待したい。抗体医薬品の進歩近年の抗体医薬品の進歩は目を見張るものがある。現時点でその中心はADCだが、今後はBispecific抗体、BiTE等がそこに加わり、より多様な展開を示すことが期待されている。抗体製剤に比較的共通する特徴としてInfusion-related reaction(IRR)があり、その対処を目指した試験がPALOMA-3試験である。amivantamabは開発当初からIRRが課題とされており、IV投与よりも皮下注射のほうがIRRの頻度を低減させられることはすでに知られていた。PALOMA-3試験は、amivantamabとlazertinibの併用療法において、amivantamabのIVと皮下注射の有効性と安全性、薬物動態を評価した第III相試験である。主要評価項目は薬物動態における同等性とされ、副次評価項目に奏効割合、PFS等が設定されている。主要評価項目である薬物動態では同等の結果が得られ、IRRの頻度において、IVが66%に対して皮下注射では13%であり、明らかにIRRの頻度を抑制することが可能となった。皮膚毒性等については同等であった。さらに、PFSのハザード比が0.84、95%信頼区間0.64~1.10であり、OSのハザード比は0.62、95%信頼区間0.42~0.92と、いずれも皮下注射で良好という結果であり、安全性、有効性ともに皮下注射を支持する結果であった。また、血管内皮増殖因子(VEGF)と、抗PD-1抗体のBispecific抗体であるivonescimabを用いたHARMONi-A試験の結果も報告された。EGFR-TKI後に増悪したEGFR遺伝子変異陽性進行非小細胞肺がんを対象に、プラチナ併用化学療法とivonescimabもしくはプラセボを併用する第III相試験である。PFSのハザード比は0.46、95%信頼区間0.34~0.62、OSのハザード比は0.72、95%信頼区間0.48~1.09と、PFSでは統計学的に有意に、OSにおいても併用療法がより予後を改善させる傾向が示された。前出のamivantamabだけでなく、血管新生阻害薬と免疫チェックポイント阻害薬の併用療法もすでに検討されている領域に、新たな選択肢が投入される形となった。今後も複数の選択肢が開発されていく見込みであり、EGFR-TKI耐性化後の治療選択は引き続き注目を集めることになりそうである。さいごに冒頭で紹介したように、肺がんの注目演題が多数報告されたASCOは、近年の治療開発の状況を縮図のように示した学会であった。周術期や根治的な病態における免疫チェックポイント阻害薬や分子標的薬の役割、ADC、Bispecific抗体、BiTE等抗体医薬品の治療開発等が注目を集めている。さらに、EGFR-TKI耐性化後、EGFR遺伝子変異陽性初回治療、ALK初回治療、周術期治療等、同一の領域にさまざまな選択肢が展開される状況となることも明白であり、続々と実臨床に投入される治療法から、患者ごとに最適な選択肢をどのように検討し、提案し、相談するかが問われる時代が訪れようとしている。

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CAR-T療法、2次がん・T細胞リンパ腫のリスクは?/NEJM

 キメラ抗原受容体(CAR)-T細胞療法では、2次がん、とくにウイルスベクターの組み込みに関連するT細胞腫瘍のリスクが新たな懸念事項となっているが、米国・スタンフォード大学のMark P. Hamilton氏らは、同大学医療センターで2016年以降にCAR-T細胞療法を行った症例について解析し、2次がんはまれであることを明らかにした。「クローンの関連を明確にし、ウイルスベクターのモニタリングに関する枠組みが必要と考えられる」とまとめている。NEJM誌2024年6月13日号掲載の報告。791件中25件に2次がんが発生、血液がんの3年累積発生率は6.5% 研究グループは、2016年2月4日~2024年1月15日に、スタンフォード大学医療センターでCAR-T細胞療法を実施した724例(791件)について、2次がんの発生率を調査した。 追跡期間中央値15ヵ月において、解析した724例、計791件の細胞注入後に、非黒色腫皮膚がんを除く25件の2次がんが特定された。内訳は、血液がん14件(骨髄異形成症候群または急性骨髄性白血病に関連したがん13件、T細胞リンパ腫1件)、固形腫瘍11件(黒色腫4件、前立腺がん2件、乳管がん2件、子宮内膜腺がん1件、肺腺がん1件、転移を有する中皮腫1件)であった。 2次血液がんの累積発生率は3年時で6.5%であり、これは既報と同様、CAR-T細胞療法後の2次がん発生がまれであることを示唆するものであった。CAR-T細胞療法後のT細胞リンパ腫は、ベクターと関連なし CAR-T細胞療法後にT細胞リンパ腫を発症した1例について詳細に検討した。本症例は、原疾患がStageIVのエプスタイン・バーウイルス陽性(EBV+)びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)で、アキシカブタゲン シロルユーセルによるCD19標的CAR-T細胞療法を行った後、54日目にEBV+T細胞リンパ腫が確認され、62日目に病死した。EBV+DLBCL発症の3年前に乾癬および好酸球性筋膜炎の既往があった。 患者より採取した血液検体ならびに腫瘍細胞を用い、CAPP-seqアッセイ、全エクソームシーケンス、定量的PCR、シングルセルRNAシーケンス解析、シングルセルDNAシーケンス解析、フローサイトメトリー解析、ClonoSEQアッセイを行った結果、各リンパ腫は、分子的に免疫表現型およびゲノムプロファイルが異なっていたが、いずれもEBV陽性で、DNMT3A変異およびTET2変異クローン性造血と関連しており、CAR-T細胞の作製に用いられたレトロウイルスベクターがT細胞リンパ腫に直接関与しているエビデンスは認められなかった。

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不定愁訴を改善する介入法をRCTで検証/Lancet

 持続性身体症状(persistent physical symptoms:PPS)を有する成人に対して、自己管理の支援に重点を置き、症状に関する説明を強化した臨床的介入(symptom-clinic intervention)は、複数のPPSの改善をもたらすことが、英国・シェフィールド大学のChristopher Burton氏らが実施したプラグマティックな多施設共同無作為化並行群間比較試験「Multiple Symptoms Study 3:MSS3試験」で示された。先行研究で、複数のPPSを抱える人々は生活の質が低下し、医療を受ける機会も不足していることが示されているが、地域の総合診療医(GP)によるコミュニケーションの強化に重点を置いた介入が、PPSを改善するかは検討されていなかった。Lancet誌2024年6月15日号掲載の報告。GPによるコミュニケーションを強化した臨床的介入と通常ケア単独を比較 研究グループは2018年12月6日~2023年6月30日の期間に、イングランドの4つの地域にある英国国民保健サービスの一般診療所108施設において、複数のPPSを有する(患者健康質問票[Patient Health Questionnaire-15:PHQ-15]スコアが10~20)18~69歳の成人を登録し、介入群または通常ケア群に1対1の割合で無作為に割り付けた。介入の性質上、被験者を盲検化することはできなかった。 介入群では、通常ケアに加えて、詳細な病歴や患者の経験に関する十分な聴取、症状についての合理的な説明を行い、患者が症状を管理できるよう最大4回の医療相談を実施した。 主要アウトカムは、無作為化後52週時点でのPHQ-15スコアとし、ITT解析で評価した。52週時点のPHQ-15スコア、介入群12.2 vs.通常ケア群14.1、介入群で有意に改善 計354例が無作為化され、178例(50%)が介入群、176例(50%)が通常ケア群に割り付けられた。 52週時のPHQ-15スコア(平均±SD)は、介入群12.2±4.5、通常ケア群14.1±3.7であった。補正後スコアの群間差は-1.82(95%信頼区間[CI]:-2.67~-0.97)であり、介入群の統計学的に有意な改善が示された(p<0.0001)。 有害事象は、介入群36件、通常ケア群39件が報告された。非重篤な有害事象の発現率(群間差:-0.03[95%CI:-0.11~0.05])ならびに重篤な有害事象の発現率(群間差:0.02[95%CI:-0.02~0.07])に、統計学的な有意差は認められなかった。介入に関連する重篤な有害事象も認められなかった。

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