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「周期性嘔吐症候群」とはどのような病気?治療法はある?

 あまり知られていないが、悪夢のような症状をもたらす疾患がある。周期的に突然、強い吐き気や嘔吐が繰り返される、周期性嘔吐症候群(CVS)と呼ばれる疾患だ。米国消化器病学会(AGA)はこのほど、CVSの診断と管理に関する新たな臨床ガイダンス「臨床診療の改訂版(Clinical Practice Update)」を発表。CVSの症状があると思う人は、症状についてメモを取り、声を上げるよう呼び掛けている。 同ガイダンスによると、全人口の約2%がCVSを経験しているが、診断に至るまで何年もかかる場合もあるという。同ガイダンスの著者の1人で米ピッツバーグ大学医療センターのDavid Levinthal氏は、「診断は強力なツールになる。診断されることで患者は衰弱性の症状の正体が分かるだけでなく、医療提供者も効果的な治療計画を立てることができるようになる」と説明している。 CVSの主な症状は、数日間にわたって続く吐き気や嘔吐である。次の発作が現れるまでの期間は長い。軽度のCVSの場合、発作の持続期間は2日未満で、発作の回数も年に4回に満たない。一方、重度のCVSでは発作の持続期間がより長く、1年間に起こる発作の回数も多く、患者の中には入院や救急外来の受診が必要になる人もいるという。現在、CVS患者の約半数が少なくとも年に一度は救急外来を受診し、3分の1がCVSの症状による機能障害を抱えているという。また、発作と発作の間に嘔吐を繰り返すことはなくても、吐き気や消化不良といった症状が現れる場合もあるという。 CVSは誰にでも起こり得るが、女性や若年成人に多い。また、片頭痛の既往歴や家族歴がある人にも多いという。CVSの診断を受けるには、過去の嘔吐発作の詳細な記録を残しておく必要があると医師らは説明している。CVSは、胃腸炎や食中毒と誤診されることが多い。これらの症状が一定のパターンの一部であることを示すことで、自分がCVSである可能性を疑えるようになると研究グループは述べている。 Levinthal氏は、「臨床診療改訂の目的は、CVSの認知度を高め、診断が遅れるケースを減らし、患者の治療へのアクセスを向上させることだ」とAGAのニュースリリースの中で説明。その上で、「プライマリケアや救急医療、緊急医療の提供者、特に発作時に治療を求めるCVS患者と接する最前線にいる人たちに届くことをわれわれは願っている」としている。同ガイダンスでは、睡眠やストレスの管理、また薬物療法はCVS患者の助けになり得るとされている。 米国立衛生研究所(NIH)によると、専門家の間でもCVSの原因は明確になっていない。ただ、脳と消化管の間の神経信号の問題や、ストレスに対する脳と体内のホルモンシステムの反応に問題があることなどが原因となる可能性が指摘されている。また、遺伝子もリスクに影響している可能性があるという。

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極端に暑い日や寒い日には診療予約のキャンセルが増加

 極端に高温や低温の日には、予約されている診療時間に来なかったり(ノーショー)、診療をキャンセルしたりする患者が増えることが明らかになった。こうした傾向は、65歳以上の高齢者と慢性疾患を有する人で顕著だったという。米ドレクセル大学医学部のNathalie May氏らによるこの研究の詳細は、「American Journal of Preventive Medicine」に6月20日掲載された。 この研究では、米フィラデルフィア市の13カ所の大学病院の外来患者(18歳以上)9万1,580人の間に、2009年1月から2019年12月31日の間に発生した診療予約104万8,575件の追跡が行われた。May氏らは、受診の有無に関するデータを米国海洋大気庁(NOAA)の国立環境情報センター(National Centers for Environmental Information;NCEI)が提供する気象データに基づいて寒い季節と暑い季節に分類し、極端な気温とプライマリケアの利用との関連を検討した。 その結果、最高気温が華氏89度(摂氏31.7度)以上になると、華氏1度(摂氏0.56度)上昇するごとに、無駄になる(ノーショーまたはキャンセル)診療予約が0.64%増加することが示された。また、最高気温が華氏39度(摂氏3.9度)以下の場合でも、華氏1度低下するごとに、無駄になる診療予約が0.72%増加していた。さらに、極端な気温に伴い診療を取りやめる傾向は、特に、65歳以上の患者と慢性疾患を有する患者で強いことも判明した。 May氏は、「気候変動による異常気象は、慢性疾患を有する全ての患者の健康とウェルビーイングを脅かす」と指摘する。同氏はさらに、「とりわけ、極端な暑さや寒さに対抗するための資源を持っていない可能性のある最も脆弱な患者に対しては、警戒を怠らないようにするべきだ。われわれは、プライマリケアの利用における気候変動の影響を研究することで、特に、都市における気候変動の悪影響の観点から健康と公平性を支援する政策を推進したいと考えている」と話している。 一方、論文の筆頭著者であるドレクセル大学医学部のJanet Fitzpatrick氏は、「ノーショーは、患者が自身の健康を損なうだけでなく、他の患者にも悪影響を及ぼす。診療を切望している患者は他にもいる中でのノーショーは、貴重な予約枠を無駄にし、待ち時間の長さによる患者満足度を低下させる。また、急患や救急外来の利用が増え、慢性疾患の管理も不十分になることから、将来、より多くの医療が必要となり、結果的に国の医療システムにかかるコストも増加する」と話す。 医療システムは、遠隔医療の活用によってこのような影響を軽減することができるとFitzpatrick氏は話す。同氏は、「新型コロナウイルス感染症のパンデミックの際、遠隔医療は医療提供の重要な一形態として機能した。気候変動が悪化する中、この研究は、患者が必要なケアを確実に受けられるようにするための選択肢として、遠隔医療の恒久的な適用を提唱することを支持するものだ」と述べている。

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スタチンの使用はパーキンソン病リスクの低下と関連

 日本人高齢者を対象とした大規模研究により、スタチンの使用はパーキンソン病リスクの低下と有意に関連することが明らかとなった。LIFE Study(研究代表者:九州大学大学院医学研究院の福田治久氏)のデータを用いて、大阪大学大学院医学系研究科環境医学教室の北村哲久氏、戈三玉氏らが行った研究の結果であり、「Brain Communications」に6月4日掲載された。 パーキンソン病は年齢とともに罹患率が上昇し、遺伝的要因や環境要因などとの関連が指摘されている。また、脂質異常症治療薬であるスタチンとパーキンソン病との関連を示唆する研究もいくつか報告されているものの、それらの結果は一貫していない。血液脳関門を通過しやすい脂溶性スタチンと、水溶性スタチンの違いについても、十分には調査されていない。 そこで著者らは、LIFE Studyの2014年~2020年の健康関連データを用いて、コホート内症例対照研究を行った。65歳以上の高齢者で、追跡中にパーキンソン病を発症した人を症例、症例1人に対してコホート参加時の年齢、性別、市町村、参加年をマッチさせた対照5人を選択し、解析対象は症例9,397人と対照4万6,789人とした(女性53.6%)。スタチンは脂溶性(アトルバスタチン、フルバスタチン、ピタバスタチン、シンバスタチン)と水溶性(プラバスタチン、ロスバスタチン)に分類し、コホート参加時からの累積投与量の指標として、標準化1日投与量の合計(total standardized daily dose;TSDD)を算出した。 条件付きロジスティック回帰を用い、先行研究に基づいて併存疾患の有無を調整して解析した結果、スタチン使用は非使用と比較して、パーキンソン病リスクの低下(オッズ比0.61、95%信頼区間0.56~0.66)と有意に関連していることが明らかとなった。この関連は性別にかかわらず、男性(同0.62、0.54~0.70)と女性(同0.60、0.54~0.68)ともに認められた(交互作用P=0.71)。また、年齢層ごとに検討した場合も、65~74歳(同0.57、0.49~0.66)、75~84歳(同0.60、0.53~0.68)、85歳以上(同0.73、0.59~0.92)のいずれも同様の関連が認められた(交互作用P=0.17)。 全体として、スタチンの累積投与量が多いほどパーキンソン病リスクが低いことも明らかとなった。具体的には、TSDD 0(投与なし)の人と比較して、TSDD 1~30ではリスク上昇(同1.30、1.12~1.52)と関連していた一方で、TSDD 31~90(同0.77、0.64~0.92)、TSDD 91~180(同0.62、0.52~0.75)、TSDD 181以上(同0.30、0.25~0.35)ではリスク低下と関連していた。また、脂溶性スタチン(同0.62、0.54~0.71)と水溶性スタチン(同0.62、0.55~0.70)のどちらも、パーキンソン病リスク低下と関連していることが示された。 以上から著者らは、「日本人高齢者において、スタチン使用とパーキンソン病リスク低下との間に有意な関連が認められた。スタチンの累積投与量が多いほど、パーキンソン病の発症に対して予防効果を示した」と述べている。スタチンによる予防効果のメカニズムについては、脳動脈硬化の低下やドーパミン作動性神経細胞の生存などによる可能性が考えられるとして、この予防効果をより正確に評価するため、さらなる研究の必要性を指摘している。

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COPD・喘息の早期診断の意義(解説:田中希宇人氏/山口佳寿博氏)

 COPD(chronic obstructive pulmonary disease:慢性閉塞性肺疾患)は2021年の統計で1万6,384例の死亡者数と報告されており、「健康日本21(第三次)」でもCOPDの死亡率減少が目標として掲げられている。気管支喘息も、年々死亡者数は減少しているとはいえ、同じく2021年の統計で1,038例の死亡者数とされており、ガイドラインでも「喘息死を回避する」ことが目標とされている。いずれも疾患による死亡を減少させるために、病院に通院していない、適切に診断されていないような症例をあぶり出していくことが重要と考えられている。しかしながら、疾患啓発や適正な診断は容易ではない。現在、COPD前段階ということで、「Pre COPD」や「PRISm」といった概念が提唱されている。閉塞性換気障害は認めないが画像上での肺気腫や呼吸器症状を認めるような「Pre COPD」や、同じく1秒率が閉塞性換気障害の定義を満たさないが、%1秒量が80%未満となるような「PRISm」であるが、それらの早期発見や診断、そして治療介入などが死亡率の減少に寄与しているかどうかについては明らかになっていない。 今回NEJM誌から取り上げるカナダ・オタワ大学からの「UCAP Investigators」が行った報告では、症例発見法を用いたCOPD・気管支喘息の診断と治療により、呼吸器疾患に対する医療の利用が低減することが示された。約3万8,000例の中から、595例の未診断のCOPD・喘息が発見され、介入群と通常治療群に分けられ、呼吸器疾患による医療利用の発生率が評価されている。ガイドラインによる治療を順守するような呼吸器専門医の介入により、被検者の医療利用は有意に低下することが報告された。早期診断・治療を受けることにより、SGRQスコアとCATスコアや1秒量が改善することが示され、症例の健康維持に寄与することが期待されている。また、早期診断することにより、自らの病状の理解や自己管理の重要性を認識することも重要と考えられる。 一見、病気はすべて早期発見・早期治療が良いように思われるが、いくつかの問題点も考えられる。1つは軽症や無症状の症例が診断されることにより、生命予後に寄与しない治療が施される可能性がある。診断された患者は不安や精神的・心理的なストレスを抱えることも懸念される。2つ目に、限りある医療資源を消費してしまうことが推測される。呼吸器専門医や呼吸器疾患に携わる医療者は本邦でも潤沢にいるわけではなく、呼吸器専門医が不在の医療機関も少なくない。より重症や難治例のために専門医の意義があるわけで、軽症例や無症状の症例に対してどこまで介入できるか、忙しい日本の臨床の現場では現実的ではない部分が大きい。3つ目には薬物療法の早期開始により、副作用リスクがメリットを上回る可能性も不安視される。とくに吸入ステロイドによる局所の感染症や糖尿病や骨粗鬆症のリスクは、長期使用となると見逃すことはできないのだろう。 いずれにしても症例発見法は簡便であり多くの医療機関で導入可能と筆者は訴えているが、COPD・喘息の早期診断・早期介入が医療利用の低減のみならず、長期予後や死亡率の減少などにつながるかどうか、より長期的な検討が必要なのだろう。

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バスケットボールでよくある傷害は足首の捻挫

 バスケットボールは、わが国でも漫画の影響やBリーグの活躍で非常に人気の高い球技であり、パリ・オリンピック2024でも注目されている競技である。そんなバスケットボールは、身体接触も多く、選手の怪我も多いスポーツである。 では、バスケットボールの選手は、どのような傷害をよくするのか。セルビアのPristina-Kosovska Mitrovica大学体育・スポーツ学部のNikola Aksovic氏らの研究グループは、さまざまな文献を基にシステマティックレビューを行った。その結果、選手は膝と足首を傷害する頻度が高いことが判明した。Life誌2024年7月19日号の報告。シューティングガードのポジションは負傷率高め 研究グループは、バスケットボール選手のスポーツ傷害に関し性別、場所、スポーツ、コート上の位置によるスポーツ傷害の違いを説明する目的で利用可能な関連データを収集した。 研究方法としては、1990~2024年までのPubMed、MEDLINE、ERIC、Google Scholar、ScienceDirectの論文について、データベースを用いデジタル検索を行い、解析した。 主な結果は以下のとおり。・男女共に最も頻度の高い重度傷害は膝と足首の傷害だった。・最も頻度の高い傷害形態は足首の捻挫と靭帯の損傷だった。・最も頻度の高い傷害はランニング中とボールとの接触後に起こっていた。・ポジション別では、シューティングガードの負傷率が最も高く、次にセンター、ポイントガードであり、ガードは内転筋の負傷率が最も高いという結果だった。 これらの結果から研究グループは、「バスケットボール選手には足首と膝のケガが多く、とくに足首の捻挫が多い。膝の損傷は、膝前十字靱帯(ACL)損傷を含め、女子バスケットボール選手に多い。ジャンプ、着地、急激な方向転換、試合中の身体への負荷など、さまざまな要因が傷害の原因となっていることが明らかになった」としている。

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運動不足気味の糖尿病患者さんへの運動指導(Dr.坂根のすぐ使える患者指導画集)

患者さん用画 いわみせいじCopyright© 2023 CareNet,Inc. All rights reserved.説明のポイント(医療スタッフ向け)診察室での会話患者医師患者医師患者医師患者医師患者医師患者最近、血糖値が上がってきて…。確かに、空腹時の血糖値はいいのですが、平均血糖値のHbA1cが高いので食後に血糖値が上がっているかもしれませんね。なるほど。どうやったら、血糖値が下がりますか?そうですね。確か〇〇さんの仕事はデスクワークが中心でしたね。そうです。デスクワークが中心で運動不足気味です…。なるほど。家での過ごし方はいかがですか?家でもスマホをみながら、ゴロゴロしていることが多いです。なるほど。座る時間が長くなると、血糖値が上がりやすくなると言われていますからね。やっぱり、座り過ぎがよくないんですね。そうですね。30分に1回、立ち上がって軽い運動ができるといいですね。わかりました。30分に1回ですね。頑張って立ち上がってみます。画 いわみせいじポイント食後に30分おきに軽い運動を行うことで、食後高血糖が改善することを説明します。Copyright© 2023 CareNet,Inc. All rights reserved.

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たまには地雷を踏もう【Dr. 中島の 新・徒然草】(541)

五百四十一の段 たまには地雷を踏もうついに8月に突入して暑さ全開!今日、車に乗ろうとしたら外気温が41度と表示されました。これ、お盆の頃には一段落つくのでしょうか?さて、今回は外部講師による先日の研修医向け症例検討会の様子を述べたいと思います。当初は研修医が準備した症例についてディスカッションする予定だったのだとか。しかし、病歴聴取も身体所見も不十分だ、ということで結局は講師が準備した症例を使ってのカンファレンスになりました。私にとっても良い勉強になるので、この検討会にはもう10年以上も参加し続けています。さて、肝心の検討会。準備された症例は、中年女性の発熱です。講師は可能性のある病態を順に研修医に挙げさせます。発熱ですから、当然のことながら、鑑別診断は感染症に集中します。講師「感染症としてありそうな疾患は、ほかに何を挙げることができるかな?」研修医「悪性リンパ腫でしょうか?」中島「うっ、マズイ」その瞬間、講師の表情が険しくなります。講師「今は感染症ということで鑑別疾患を挙げているのだから、ほかのカテゴリーに入ってはダメだよ」講師はイラッとしたに違いありませんが、この時は事なきを得ました。でも、この研修医、一体何を聴いていたんでしょうか。レビュー・オブ・システムズを含む病歴聴取が済んだ後、講師が研修医たちに尋ねます。講師「じゃあ一通り病歴を確認した後に、次は何が必要かな」研修医「CTでしょうか?」中島「ま、まずい!」そう思う間もなく、講師がアナフィラキシーを起こしてしまいました。講師「違ーう! CTなんか撮るな。血液検査も論外!」研修医「え……と?」何という鈍い研修医。自分が地雷を踏んだ自覚もないのか。講師「身体所見じゃないか。身体所見だろ、次に必要なのは!」研修医「そうでしたっけ」病歴聴取、身体所見の後に検査というのがお作法です。総合診療科のカンファレンスで毎週のように研修医を厳しく指導してきたあの日々は、一体なんだったのか?こっちまでアナフィラキシーを起こしそうになりました。ただ、講師のほうは一気に活性化されたようです。その後の身体所見の取り方、鑑別診断の挙げ方など、レクチャーそのものは冴えわたりました。何よりも、診断学の奥の深さを思い知らされ、私までヤル気が湧いてきます。西洋社会ではdevil's advocate(悪魔の代弁者)といって、わざと違う意見を吹っかけて議論を活性化させるという手法があるそうですが、あの研修医は期せずして悪魔の役割を果たしたのかも。レクチャーの後で講師と話したときに「ああいう奴も必要ですよね」ということで意見が一致しました。正しい答えを言おうとするあまりに出席者が沈黙してしまうカンファレンスよりも、見当外れであっても講師を活性化させる研修医がいたほうがいいような気がします。もし今後のカンファレンスがあまり活発でなかったら、私自身がdevil's advocateになることが必要かもしれません。でも「こいつアホか?」と思われたりしたら辛いですね。ま、今さら世間体を気にする年齢でもないか。最後に1句地雷踏む 若者現る 夏盛り

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80歳以上の心房細動患者、低用量エドキサバンは有益か

 心房細動への抗凝固薬の処方において、高齢患者では若年患者より出血が増加するため、推奨用量より低い用量を処方することが多いが、無作為化試験のデータは少ない。今回、米国・ハーバード大学医学部のAndre Zimerman氏らは、80歳以上の心房細動患者において、事前に規定された減量基準を満たさない場合でも低用量の抗凝固薬(エドキサバン)が有益かどうか、ENGAGE AF-TIMI 48試験における事後解析で検討した。その結果、エドキサバン30mgは、エドキサバン60mgとの比較(減量基準を満たさない患者)またはワルファリンとの比較(減量基準を満たす/満たさない患者)において重大な出血が少なく、虚血性イベントは増加しなかった。JAMA Cardiology誌オンライン版2024年7月10日号に掲載。 ENGAGE AF-TIMI 48試験は、心房細動患者を2種類の用量のエドキサバンまたはワルファリンに無作為に割り付けた国際共同二重盲検試験である。今回は本試験の事後解析として、80歳以上の減量基準を満たさない患者でエドキサバン30mg群と60mg群を比較し、また減量基準を満たすまたは満たさない患者でエドキサバン30mg群とワルファリン群を比較した。主な評価項目は、死亡・脳卒中もしくは全身性塞栓症・重大な出血の主要ネットクリニカルアウトカム、および個々の発生率であった。 主な結果は以下のとおり。・今回の解析では80歳以上の2,966例(平均年齢83歳、男性56%)を対象とした。・減量基準を満たさない1,138例において、エドキサバン60mg群は30mg群に比べて重大な出血が多く(ハザード比[HR]:1.57、95%信頼区間[CI]:1.04~2.38、p=0.03)、とくに消化管出血が多かった(HR:2.24、95%CI:1.29~3.90、p=0.004)が、有効性エンドポイントに有意差はなかった。・減量基準を満たす/満たさない2,406例において、エドキサバン30mg群はワルファリン群と比べ、主要ネットクリニカルアウトカム(HR:0.78、95%CI:0.68~0.91、p=0.001)、重大な出血(HR:0.59、95%CI:0.45~0.77、p<0.001)、死亡(HR:0.83、95%CI:0.70~1.00、p=0.046)の発生率が低かったが、脳卒中と全身性塞栓症の発生率は同等であった。 著者らは「これらのデータは、高齢の心房細動患者では減量基準を満たさない場合でも、エドキサバン30mgといった低用量の抗凝固薬投与を考慮してもよいという概念を支持する」としている。

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自閉スペクトラム症のADHD症状に対する薬理学的介入〜メタ解析

 自閉スペクトラム症(ASD)患者における注意欠如多動症(ADHD)症状の治療に対する薬理学的介入の有効性に関するエビデンスを明らかにするため、ブラジル・Public Health School Visconde de SaboiaのPaulo Levi Bezerra Martins氏らは、安全性および有効性を考慮した研究のシステマティックレビューを行った。Progress in Neuro-psychopharmacology & Biological Psychiatry誌2024年7月14日号の報告。 ASDおよびADHDまたはADHD症状を伴うASDの治療に対する薬理学的介入の有効性および/または安全性プロファイルを評価したランダム化比較試験を、PubMed、Cochrane Library、Embaseのデータベースより検索した。主要アウトカムは、臨床尺度で測定したADHD症状とした。追加のアウトカムは、異常行動チェックリスト(ABC)で測定された他の症状、治療の満足度、ピア満足度とした。 主な結果は以下のとおり。・システマティックレビューの包括基準を満たした22件のうち、8件をメタ解析に含めた。・メチルフェニデートと比較した、クロニジン、モダフィニル、bupropionによる治療に関する研究が、いくつか見つかった。・メタ解析では、メチルフェニデートは、多動、易怒性、不注意などの症状に対し、プラセボと比較し、有効であることが示唆された。しかし、定型的症状に対する影響は認められず、メチルフェニデート誘発性の副作用による脱落率が大きな影響を及ぼしていることが、データ定量分析より明らかとなった。・アトモキセチンは、プラセボと比較し、多動および不注意症状に対し有効であることが示唆されたが、定型的症状または易怒性には影響を及ぼさなかった。・さらに、研究からの脱落原因となった副作用に、アトモキセチンは影響を及ぼさないことが明らかとなった。 著者らは「メチルフェニデートは、多動、不注意、易怒性に有効であるが、安全性に懸念がある。一方、アトモキセチンは、多動および不注意に緩やかな有効性を示し、副作用プロファイルは比較的良好であった。グアンファシン、クロニジン、bupropion、モダフィニルなどの薬剤に関する情報は、限定的であった」としている。

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cfDNAでHER2陽性の固形がん、T-DXdの奏効率56.5%(HERALD)/JCO

 抗HER2抗体薬物複合体トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)は、前治療歴があり代替の治療手段のない切除不能または転移を有するHER2陽性(IHC 3+)固形がんについて、米国食品医薬品局(FDA)より2024年4月に迅速承認を取得している1)。本承認は、組織検体をもとにHER2陽性(IHC 3+)が認められた患者での有効性が評価されており、リキッドバイオプシー検体でも同様の結果が得られるかは、明らかになっていなかった。そこで、血中遊離DNA(cfDNA)でERBB2(HER2)遺伝子増幅が検出された切除不能固形がん患者を対象に、医師主導治験として、国内多施設共同第II相単群試験「HERALD/EPOC1806試験」が実施された。その結果、対象患者は前治療ライン数中央値3であったが、奏効率(ORR)は56.5%と高率であった。本研究結果は、八木澤 允貴氏(いまいホームケアクリニック)らによって、Journal of Clinical Oncology誌オンライン版2024年8月1日号で報告された。 本研究は、進行消化器がん患者のリキッドバイオプシー研究「GOZILA Study」2)のスクリーニング対象患者について、cfDNAを用いてHER2遺伝子増幅がみられる患者を抽出した。cfDNAの解析にはGuardant360を用いた。なお、免疫染色によるHER2発現の評価は不要とした。cfDNAでHER2遺伝子増幅がみられた患者に対し、T-DXd(3週ごと、5.4mg/kg)を病勢増悪または許容できない毒性が認められるまで投与した。主要評価項目は、治験担当医師評価に基づくORRとした。副次評価項目は無増悪生存期間(PFS)、奏効期間(DOR)などとした。 主な結果は以下のとおり。・cfDNA検査を実施した4,734例中252例にHER2遺伝子増幅がみられた。そのうち、16がん種の62例が対象となった。前治療ライン数中央値は3であった。・13がん種で奏効が認められ、治験担当医師評価に基づくORRは56.5%(35/62例)であった。内訳は以下のとおり。 食道がん50.0%(6/12例) 大腸がん50.0%(5/10例) 唾液腺がん100%(7/7例) 子宮体がん83.3%(5/6例) 子宮頸がん40.0%(2/5例) 胆道がん25.0%(1/4例) 膵がん0%(0/4例) 卵巣がん100%(2/2例) 小腸がん100%(2/2例) 尿路上皮がん50.0%(1/2例) 胃がん(組織検体のHER2遺伝子陰性)50.0%(1/2例) 非小細胞肺がん0%(0/2例) 悪性黒色腫100%(1/1例) 乳房外パジェット病100%(1/1例) 前立腺がん100%(1/1例) 原発不明がん0%(0/1例)・治験担当医師評価に基づくPFS中央値は7.0ヵ月、DOR中央値は8.8ヵ月であった。・ベースラインのHER2遺伝子のコピー数中央値で2群に分けて解析した結果、2群間でORRに有意差はみられなかった。・2サイクル目の1日目のcfDNA検査でHER2遺伝子増幅がみられなくなった患者は、ORRが88.0%(22/25例)と高率であった。・間質性肺疾患は16例(26%)に発現したが、ほとんどが軽度であった(Grade1が14例、Grade2が1例、Grade3が1例)。

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デュピルマブ、11歳以下の好酸球性食道炎に有効/NEJM

 小児(1~11歳)の好酸球性食道炎患者において、デュピルマブはプラセボと比較して有意に高率な組織学的寛解をもたらし、デュピルマブの高曝露レジメンがプラセボと比較して、重要な副次エンドポイントの測定値の改善に結びついたことが示された。米国・マウントサイナイ・アイカーン医科大学Mirna Chehade氏らが第III相無作為化試験の結果を報告した。デュピルマブはIL-4/IL-13経路を阻害するヒトモノクローナル抗体であり、成人および思春期の好酸球性食道炎を含む、2型炎症で特徴付けられる5つの異なるアトピー性疾患で有効性が示されていた。NEJM誌2024年6月27日号掲載の報告。16週時点の組織学的寛解を主要エンドポイントに第III相試験 第III相試験はパートA~パートCの3段階で行われ、本論ではパートAとパートBの結果が報告された。試験は米国26施設とカナダ1施設で行われた。 パートAは16週の無作為化二重盲検プラセボ対照フェーズで、1~11歳のプロトンポンプ阻害薬(PPI)に不応の活動期好酸球性食道炎患者を、デュピルマブの高曝露レジメンまたは低曝露レジメン、および各レジメンの適合プラセボ群(2群)に、2対2対1対1の割合で割り付け投与した。パートBは36週の実薬投与フェーズで、パートAを完了した適格患者をパートBに組み入れ、パートAで割り付けられたレジメンに従いデュピルマブの投与を継続、パートAでプラセボに割り付けられた患者には、無作為化時の適合レジメンに従いデュピルマブを投与した。デュピルマブの各曝露レベルでは、4段階に設定した用量のいずれかをベースラインの体重に応じて投与した。盲検化を確実とするため、全患者にデュピルマブまたはプラセボを2週ごとに投与した。 主要エンドポイントは、16週時点の組織学的寛解(食道上皮内好酸球数の最大値が高倍率視野当たり6個以下)とした。重要な副次エンドポイントは(1)食道上皮内好酸球数の最大値が高倍率視野当たり15個未満、(2)食道上皮内好酸球数最大値のベースラインからの変化率、(3)eosinophilic esophagitis histology scoring system(EoE-HSS)のグレードスコアのベースラインからの絶対変化、(4)同ステージスコアの絶対変化、(5)2型炎症遺伝子シグネチャーのnormalized enrichment score(NES)のベースラインからの相対的変化、(6)eosinophilic esophagitis diagnostic panel(EDP)遺伝子シグネチャーのNESのベースラインからの相対的変化、(7)Eosinophilic Esophagitis Reference Score(EREFS)総スコアのベースラインからの絶対変化、(8)Pediatric Eosinophilic Esophagitis Sign/Symptom Questionnaire-Caregiver(PESQ-C)で1つ以上の好酸球性食道炎の症状を認める日数割合のベースラインからの変化の8つで、階層的に検定した。組織学的寛解率は高曝露レジメン群68%、低曝露レジメン群58%、プラセボ群3% パートAで無作為化された患者は102例であった(デュピルマブ高曝露レジメン群37例、同低曝露レジメン群31例、プラセボ群34例)。このうち、パートBでは37例(100%)が高曝露レジメンを、29例(94%)が低曝露レジメンを継続。プラセボ群はパートBでは、18例(53%)が高曝露レジメンを、14例(41%)が低曝露レジメンの投与を受けた。 パートAで、組織学的寛解は高曝露レジメン群25/37例(68%)、低曝露レジメン群18/31例(58%)、プラセボ群1/34例(3%)で認められた。高曝露レジメン群とプラセボ群の群間差は65%ポイント(95%信頼区間[CI]:48~81、p<0.001)、低曝露レジメン群とプラセボ群の群間差は55%ポイント(37~73、p<0.001)であった。 高曝露レジメン群はプラセボ群と比較して、組織学的測定値(食道上皮内好酸球数の最大値、EoE-HSSグレードおよびステージスコア)、内視鏡的測定値(EREFS総スコア)およびトランスクリプトーム測定値(2型炎症およびEDP遺伝子シグネチャー)が有意に改善した。 また、すべての患者におけるベースラインから52週まで(パートB終了時)の組織学的測定値、内視鏡的測定値、トランスクリプトーム測定値の改善は、パートAでのデュピルマブの投与を受けた患者のベースラインから16週までの改善と、おおむね同程度であった。 パートAでは、デュピルマブ投与(いずれかの用量)を受けた患者がプラセボ投与を受けた患者よりも、新型コロナウイルス感染症、注射部位疼痛、頭痛の発現が、少なくとも10%ポイント以上多かった。重篤な有害事象は、パートAではデュピルマブ投与を受けた患者3例、パートBでは全体で6例に発現した。

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オリンピック陸上選手のパフォーマンスのピークは何歳か

 オリンピックはしばしば、国際的なスポーツの栄光を手にする一生に一度の貴重な機会だと言われるが、このことは、とりわけ陸上競技選手に当てはまるようだ。走る・跳ぶ・投げる能力を競う陸上選手のパフォーマンスのピーク年齢は27歳であることが、新たな研究により明らかになった。27歳を超えると、それ以降にピークを迎える可能性は44%になり、この数字は1年ごとに低下していくことも示されたという。ウォータールー大学(カナダ)データサイエンス分野のDavid Awosoga氏と同大学経済学分野のMatthew Chow氏によるこの研究の詳細は、「Significance」7月号に掲載された。 Awosoga氏は、「オリンピックは4年に1度しか開催されないため、陸上選手は、自分のパフォーマンスがピークを迎える時期に合わせて、オリンピック出場権を獲得する確率を最大化するためのトレーニング方法を慎重に検討するべきだ」と述べている。 Awosoga氏らは、World Athleticsより、1996年のアトランタオリンピックから2020年の東京オリンピックまでの7大会分の陸上競技データを入手し、各選手のキャリアアップに関するデータと組み合わせて分析した。キャリアアップとは、アスリートの競技人生における年ごとのトップパフォーマンスと定義した。分析の際には、性別、国籍、イベントの種類、オリンピックイヤーであるか否か、およびトレーニング年齢(アスリートがWorld Athletics公認の大会に参加し、記録を残した年数)を考慮した。 なお、今回の研究で陸上選手に焦点を当てた理由についてAwosoga氏は、「サッカーやテニスのような他のオリンピック競技は、オリンピック期間以外のときにも注目される大会があるが、陸上選手にとってはオリンピックが最大の舞台だからだ」と説明している。 解析の結果、過去30年間を通してオリンピックの陸上選手の平均年齢は、男女ともに一貫して26.9歳であることが明らかになった(年齢中央値は、女性27歳、男性26歳)。興味深いことに、陸上選手のパフォーマンスがピークを迎える年齢の中央値も27歳であった。また、27歳を超えると、それ以降にピークを迎える可能性は44%に過ぎず、その可能性は年を追うごとに低下していくことが示された。 その一方で、この研究では、アスリートのパフォーマンスのピークに影響を与える因子は年齢だけではないことも示されたとChow氏は説明する。同氏によると、アスリートは年齢に関係なく、次のオリンピックの出場権を争っている年により良いパフォーマンスを発揮する傾向があることが示されたという。 例えば、オリンピックに5回出場した、西インド諸島のセントクリストファー・ネイビスの選手であるキム・コリンズ(Kim Collins)は、40歳のときに、2016年リオデジャネイロオリンピックの出場権をかけた100m走で自己ベストの9秒93を記録した。Chow氏は、「本当に興味深かったことは、オリンピックイヤーであることが、アスリートのパフォーマンスの予測にも役立つことが分かったことだ」と話す。 Awosoga氏らは、彼らの分析が、アスリートが試合でベストパフォーマンスを発揮するのに役立つことを期待している。同氏は、「オリンピックイヤーや、自分の遺伝子、国籍を変えることはできないが、これらの生物学的・外的要因にうまく沿うようにトレーニング方法を修正することはできるだろう」と述べている。 一方Chow氏は、「この結果は、オリンピックを目指すことがいかに大変なことであるかを示すものでもある」と話す。同氏は、「陸上選手の競技を見ているとき、われわれは、身体能力のピークに達しているだけでなく、非常に幸運なタイミングの恩恵を受けているという、統計学的な異常さを目の当たりにしているのだ」と述べている。

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めまい(BPPV)【いざというとき役立つ!救急処置おさらい帳】第17回

今回は施設内でめまいを訴える患者さんを診察した経験を紹介します。めまいを診る機会は多くありますが、どのようなアプローチが必要なのか復習しましょう。内容が多いので2回に分け、前半では良性発作性頭位めまい症(BPPV)を紹介します。<症例>82歳、女性主訴めまい施設入所中の患者。朝ベッドから起き上がるとめまいを訴え、立てなくなった。昼ごろまで様子をみたが改善しないため臨時往診を依頼。アレルギーなし服用薬高血圧の薬、認知症の薬既往歴高血圧、高脂血症、認知症ベッド上で横になっている。血圧:142/82、脈拍:82、体温:36.2℃さて、皆さんならどのようにアプローチしますか? まず重要なのは、患者さんの訴えが医学的な「めまい」であるかどうかを判断することです。なぜなら、一般的には「立ちくらみ」もめまいと表現されることがあるからです。初めにそのめまいが「中枢性/末梢性めまい」か「前失神」かを区別して、調べるべき内容を検討します。この患者さんは認知症がありましたが、自身の症状については正確に訴えており、起き上がらなくてもめまいを感じているようです。この情報から、前失神ではないと判断できます。(1)STANDINGアルゴリズムSTANDINGアルゴリズムを使ってめまいの種類を鑑別していきます。STANDINGアルゴリズムは救急医でも簡易にできる中枢性めまいを否定するアルゴリズムで、陰性的中率は99%(95%信頼区間:97~100)です。図1を見てください1)。図1 STANDINGアルゴリズム画像を拡大するまず初めにするのはNystagmus(眼振の出方)です。何を鑑別しようとしているかといいますと、BPPVとそれ以外のめまいです。BPPVはまったく発症様式が異なり、特定の向きの頭位変換で潜時(5~6秒)を経てめまいが出現し、1分程度持続して止まる、というのが特徴です。私の経験では、一定の体位をとったまま動きたがらず、動かなければめまいがない、というのが特徴と考えます。今回の患者さんは、頭を動かすとめまいが生じ、動かなければ症状がないとのことで、BPPVが強く疑われました。(2)BPPVの鑑別BPPVは三半規管(図2)に耳石が落下して生じるといわれています。三半規管は前半規管、後半規管、外側半規管に分かれ、前半規管は垂直に立っているため耳石は落下しにくいです。図2 三半規管画像を拡大するまれに「頭を振ったらめまいが強くなる」ということでBPPVと診断している医師がいますがそれは違います。めまいがある人が頭を振ると気持ち悪くなるのは普通のことです。BPPVのめまいの特徴は、「特定の頭位変換で数秒した(潜時)後にめまいが出現し、1分以内に消失する」です。めまいが生じた後に吐き気が残存しますが、それは別です。BPPVは外側半規管型と後半規管型に分かれます。頻度としては後半規管型のBPPVの頻度が多いといわれています。私は簡便性から、外側半規管型を否定してから後半規管型のBPPVの診断に移っています(理由は後述)。<外側半規管型BPPV>外側半規管型BPPVは、耳石が外側半規管に落下することにより症状が生じます。頭を左右に動かすと症状が誘発されます。患側の耳側に頭を向けると、患側方向に強い眼振が出現し、反対側を向けると健側に弱い眼振が出現します。端的に言うと、左右に頭を振るとどちらでも床向きの眼振が誘発され、眼振が強いほうが患側です(図3)。この試験をSupine roll test といいます。図3 Supine roll test(右外側半規管型BPPVの眼振の向きと強度) 注:頭だけ振る画像を拡大する私が先に外側半規管型を否定するのは、BPPVの患者はたいてい横になっているので、そのまま仰向けになってもらえればSupine roll testがすぐに実行できるからです。外側半規管型と診断されればBBQ Roll Maneuver (Lampert method)を実施します(図4)2)。図4 BBQ Roll Maneuver画像を拡大するBBQ roll maneuverは臥位になり、1.患側に頭を傾ける、2.健側に頭を傾ける、3.腹ばいになる、4.患側に側臥位になる、5.仰向けになる、を行います。多くの文献でそれぞれの頭位を30~90秒としていますが、私は耳石がしっかりと確実に流れるようにするため、2分ごとにしています。しかし、この患者さんにSupine roll testを実施しましたが、誘発されませんでした。よって外側半規管型BPPVは否定的と判断しました。<後半規管型BPPV>外側半規管型BPPVでなければ、後半規管型BPPVの可能性が高くなります。後半規管型BPPVはDix Hallpike法で診断します(図5)3)。右(または左)45度頸部捻転位から右(または左)45度懸垂頭位に頭位変換し、めまいが誘発されるかをみます。誘発された側が患側です。図5 Dix Hallpike法画像を拡大する患側でめまいが誘発され、床向きの回旋成分がある眼振が出現します。うまく誘発されたらEpley法を実施します(図6)。図6 Epley法画像を拡大する手順としては、1.座位をとり、患側に頭を向ける、2.そのまま後ろへ倒れ、頭を下垂した状態にする、3.健側に頭を傾ける、4.健側向きに側臥位になる(この際頭は床に向いてもらう)、5.座る、となります。Epley法を実施する際に私が工夫していることが2つあります。1つ目は、手順1と2がDix Hallpike法とまったく同じですので、私はDix Hallpike法で明らかに誘発された場合、そのままEpley法に移行して2から開始しています。2つ目は、4の側臥位になった際、頭位を真横にするとかなりの頻度で嘔吐する/しそうになるため、必ず床を向くように意識しています。誤嚥もしにくくなります。この患者さんは、Dix Hallpike法で右側の陽性となりました。そのままEpley法を実施したところ、普通に歩けるようになりました。そして、認知症のため先ほどまで歩けなかったことを忘れ、ご飯を食べに行ってしまいました。しかし、施設職員からは感動され「BPPVをしっかり勉強します」というお言葉をいただきました。以上がBPPVになります。次回はBPPV以外のめまいで、STANDINGアルゴリズムを用いて中枢性と末梢性を鑑別する方法を紹介します。<クプラ結石型>あまり聞きなれない名称かもしれませんが、日本のめまいガイドラインにも記載されており、三半規管の膨大部にあるクプラと呼ばれるゼラチン状の部位で、頭の傾きを感知しています。そこに耳石が付着して頭位変換によりクプラが変位し、めまいが誘発されるといわれています4)。特徴としては持続時間が1分以上と長く、先述したEpley法やBBQ maneuverで治癒しにくいことが挙げられます。英語ではcupulolithiasisと表現されますが、PubMedで検索しても英語の論文ではほとんど触れられておらず、エビデンスは限られているようです。しかし、実際に診療していると、BPPVの病歴だけれど妙に持続時間が長く、治療でも改善しないことがあります。その際はクプラ結石型を疑いましょう。クプラ結石型に対してはエビデンスのある治療はないですが、Gufoni法が効くのではという報告があります5)。<HINTS method>中枢性めまいと末梢性めまいの鑑別にHINTS methodという方法があるのですが、時折BPPVに使用している医師を目撃します6)。前提としてHINTs methodはBPPVには使用できません。HINTsのNである、「方向交代性眼振ありで中枢性の疑い」ですが、BPPVは方向交代性の眼振が特徴です。その点を踏まえてもSTANDINGアルゴリズムの最初にBPPVかどうかを見分けるのは非常に重要と考えます。 1)Vanni S, et al. Acta Otorhinolaryngol Ital. 2014;34:419-426.2)Hwu V, et al. Cureus. 2022;14:e24288. 3)You P, et al. Laryngoscope Investig Otolaryngol. 2018;4:116-123.4)日本めまい平衡医学会診断基準化委員会編. Equilibrium Research. 2009;68:218-225. 5)武田 憲. めまいのリハビリテーション 耳石置換法と平衡訓練. 日本耳鼻咽喉科学会会報. 2017;120:9-14.6)Gerlier C, et al. Acad Emerg Med. 2021;28:1368-1378.

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忽那氏が振り返る新型コロナ、今後の対策は?/感染症学会・化学療法学会

 2024年8月2日の政府の発表によると、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の定点当たりの報告数は14.6人で、昨夏ピーク時(第9波)の20.5人に迫る勢いで12週連続増加し、とくに10歳未満の感染者数が最も多く、1医療機関当たり2.16人だった。週当たりの新規入院患者数は4,579人で、すでに第9波および第10波のピークを超えている1)。 大阪大学医学部感染制御学の忽那 賢志氏は、これまでのコロナ禍を振り返り、パンデミック時に対応できる医師が不足しているという課題や、患者数増加に伴う医師や看護師のバーンアウトのリスク増加など、今後のパンデミックへの対策について、6月27~29日に開催の第98回日本感染症学会学術講演会 第72回日本化学療法学会総会 合同学会にて発表した。日本ではオミクロン株以前の感染を抑制 忽那氏は、コロナ禍以前の新興感染症の対策について振り返った。コロナ禍以前から政府が想定していた新型インフルエンザ対策は、「不要不急の外出の自粛要請、施設の使用制限等の要請、各事業者における業務縮小等による接触機会の抑制等の感染対策、ワクチンや抗インフルエンザウイルス薬等を含めた医療対応を組み合わせて総合的に行う」というもので、コロナ禍でも基本的に同じ考え方の対策が講じられた。 欧米では、オミクロン株が出現した2021~22年に流行のピークを迎え、その後減少している。オミクロン株拡大前もしくはワクチン接種開始前に多くの死者が出た。一方、日本での流行の特徴として、第1波から第8波まで波を経るごとに感染者数と死亡者数が拡大し、とくにオミクロン株が拡大してからの感染者が増加していることが挙げられる。忽那氏は「オミクロン株拡大までは感染者数を少なく抑えることができ、それまでに初回ワクチン接種を進めることができた。結果として、オミクロン株拡大後は、感染者数は増えたものの、他国と比較して死亡者数を少なくすることができた」と分析した。新型コロナの社会的影響 しかし、他国よりも感染対策の緩和が遅れたことで、新型コロナによる社会的な影響も及んでいる可能性があることについて、忽那氏はいくつかの研究を挙げながら解説した。東京大学の千葉 安佐子氏らの日本における婚姻数の推移に関する研究では、2010~22年において、もともと右肩下がりだった婚姻数が、感染対策で他人との接触が制限されたことにより、2020年の婚姻数が急激に減少したことが示されている2)。また、超過自殺の調査では、新型コロナの影響で社会的に孤立する人の増加や経済的理由のために、想定されていた自殺者数よりも増加していることが示された3)。忽那氏は、「日本は医療の面では新型コロナによる直接的な被害者を抑制することができたが、このようなほかの面では課題が残っているのではないか。医療従事者としては、感染者と死亡者を減らすことが第一に重要だが、より広い視点から今回のパンデミックを振り返り、次に備えて検証していくべきだろう」と述べた。パンデミック時、感染症を診療する医師をどう確保するか コロナ禍では、医療逼迫や医療崩壊という言葉がたびたび繰り返された。政府が2023年に発表した第8次医療計画において、次に新興感染症が起こった時の各都道府県の対応について、医療機関との間に病床確保の協定を結ぶことなどが記載されている。ただし、医療従事者数の確保については欠落していると忽那氏は指摘した。OECDの加盟国における人口1,000人当たりの医師数の割合のデータによると、日本は38ヵ国中33位(2.5人)であり医師の数が少ない4)。また、1994~2020年の医療施設従事医師数の推移データでは、医師全体の数は1.47倍に増えているものの、各診療科別では、内科医は0.99倍でほぼ横ばいであり、新興感染症を実際に診療する内科、呼吸器科、集中治療、救急科といった診療科の医師は増えていない5)。 感染症専門医は2023年12月時点で1,764人であり、次の新興感染症を感染症専門医だけでカバーすることは難しい。また、岡山大学の調査によると、コロナパンデミックを経て、6.1%の医学生が「過去に感染症専門医に興味を持ったことがあるが、調査時点では興味がない」と回答し、3.7%の医学生が「コロナ禍を経て感染症専門医になりたいと思うようになった」、11.0%の医学生が「むしろ感染症専門医にはなりたくない」と回答したという結果となった6)。医療従事者のバーンアウト対策 日本の医師と看護師の燃え尽きに関する調査では、患者数が増えると医師と看護師の燃え尽きも増加することが示されている7)。米国のMedscapeによる2023年の調査では、診療科別で多い順に、救急科、内科、小児科、産婦人科、感染症内科となっており、コロナを診療する科においてとくに燃え尽きる医師の割合が高かった8)。そのため、パンデミック時の医師の燃え尽き症候群に対して、医療機関で対策を行うことも重要だ。忽那氏は、所属の医療機関において、コロナの前線にいる医師に対して精神科医がメンタルケアを定期的に実施していたことが効果的であったことを、自身の経験として挙げた。また、業務負荷がかかり過ぎるとバーンアウトを起こしやすくなるため、診療科の枠を越えて、シフトの調整や業務分散をして個人の負担を減らすなど、スタッフを守る取り組みが大事だという。 忽那氏は最後に、「感染症専門医だけで次のパンデミックをカバーすることはできないので、医師全体の感染症に対する知識の底上げのための啓発や、感染対策のプラクティスを臨床現場で蓄積していくことが必要だ。今後の新型コロナのシナリオとして、基本的には過去の感染者やワクチン接種者が増えているため、感染者や重症者は減っていくだろう。波は徐々に小さくなっていくことが予想される。一方、より重症度が高く、感染力の強い変異株が出現し、感染者が急激に増える場合も考えられる。課題を整理しつつ、次のパンデミックに備えていくことが重要だ」とまとめた。■参考1)内閣感染症危機管理統括庁:新型コロナウイルス感染症 感染動向などについて(2024年8月2日)2)千葉 安佐子ほか. コロナ禍における婚姻と出生. 東京大学BALANCING INFECTION PREVENTION AND ECONOMIC. 2022年12月2日.3)Batista Qほか. コロナ禍における超過自殺. 東京大学BALANCING INFECTION PREVENTION AND ECONOMIC. 2022年9月7日4)清水 麻生. 医療関連データの国際比較-OECD Health Statistics 2021およびOECDレポートより-. 日本医師会総合政策研究機構. 2022年3月24日5)不破雷蔵. 増える糖尿病内科や精神科、減る外科や小児科…日本の医師数の変化をさぐる(2022年公開版)6)Hagiya H, et al. PLoS One. 2022;17:e0267587.7)Morioka S, et al. Front Psychiatry. 2022;13:781796.8)Medscape: 'I Cry but No One Cares': Physician Burnout & Depression Report 2023

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最新のアトピー性皮膚炎治療薬レブリキズマブ、有効性はデュピルマブと同等か

 カナダ・トロント大学のAaron M. Drucker氏らは、アトピー性皮膚炎を効能・効果として新たに承認されたレブリキズマブについて、リビングシステマティックレビューおよびメタ解析により、その他の免疫療法と有効性・安全性を比較した。その結果、成人のアトピー性皮膚炎の短期治療の有効性は、デュピルマブと同等であった。レブリキズマブは臨床試験でプラセボと比較されていたが、実薬対照比較はされていなかった。JAMA Dermatology誌オンライン版2024年7月17日号掲載の報告。 研究グループは、Cochrane Central Register of Controlled Trials、MEDLINE、Embase、Latin American and Caribbean Health Science Informationデータベース、Global Resource of Eczema Trialsデータベースおよび試験レジストリを用いて、2023年11月3日までに登録された情報を検索した。中等症~重症のアトピー性皮膚炎に対する全身免疫療法を8週間以上評価した無作為化比較試験を適格とし、タイトル、アブストラクト、全文をスクリーニングした。データを抽出し、ランダム効果モデルを用いたベイジアンネットワークメタ解析を実施。薬剤間の差は、臨床的意義のある最小変化量を用いて評価した。エビデンスの確実性は、GRADE(Grading of Recommendations Assessment, Development and Evaluation)システムを用いて評価した。最新の解析は2023年12月13日~2024年2月20日に実施した。 有効性アウトカムは、Eczema Area and Severity Index(EASI)、Patient Oriented Eczema Measure(POEM)、Dermatology Life Quality Index(DLQI)、Peak Pruritus Numeric Rating Scales(PP-NRS)とし、平均群間差(MD)と95%信用区間(CrI)を求めて比較した。安全性アウトカムは、重篤な有害事象、有害事象による試験薬の中止とした。その他のアウトカムは、EASI-50、EASI-75、EASI-90達成率、Investigator Global Assessment(IGA)スコアに基づく奏効率(IGAスコアが2点以上低下し、1点以下を達成)などとし、これらの二値変数のアウトカムはオッズ比と95%CrIを求めて比較した。 主な結果は以下のとおり。・解析には、98の適格試験の対象患者2万4,707例が組み込まれた。・最長16週間の治療を受けた成人アトピー性皮膚炎患者において、レブリキズマブはデュピルマブと比較して、EASI(MD:-2.0、95%CrI:-4.5~0.3、エビデンスの確実性:中)、POEM(-1.1、-2.5~0.2、中)、DLQI(-0.2、-2.1~1.6、中)、PP-NRS(0.1、-0.4~0.6、高)のいずれも臨床的に意義のある差はみられなかった。・有効性に関する二値変数のアウトカムのオッズは、デュピルマブがレブリキズマブと比較して高い傾向にあった。・その他の承認済みの全身療法の相対的有効性は、今回のリビングシステマティックレビュー以前のアップデートで示されたものと同様であり、高用量ウパダシチニブおよびアブロシチニブが、数値的に最も高い相対的有効性を示した。・安全性アウトカムは、イベント発現率が低く、有用な比較が制限された。

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NSAIDの“有害な処方”、とくに注意すべき患者群とは/BMJ

 イングランドでは、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)の処方は5つの高リスク集団において、回避可能な害(avoidable harm)と医療費増加の継続的な原因であり、とくに慢性疾患を有する集団や経口抗凝固薬を使用している集団において急性イベント誘発の原因となっていることが、英国・マンチェスター大学のElizabeth M. Camacho氏らの調査で明らかとなった。研究の成果は、BMJ誌2024年7月24日号で報告された。高リスク集団を対象とするイングランドのコホート研究 研究グループは、イングランドの高リスク集団における問題のある経口NSAID処方に関して、発生率、有害性、英国国民保健サービス(NHS)の費用の定量化を目的に、住民ベースのコホート研究を行った(英国国立衛生研究所[NIHR]の助成を受けた)。 対象は、経口NSAIDを処方された5つの高リスク集団(胃腸保護薬を使用していない高齢者[65歳以上]、経口抗凝固薬の併用者、心不全患者、慢性腎臓病患者、消化性潰瘍の既往歴を有する者)であった。有害な処方によりQALYが失われ、医療費が増加 NSAID処方が有害でなかった場合と比較して、有害な処方により質調整生存年(QALY)の損失と費用の増加を認めた。1例当たりのQALY損失の平均値は、「消化性潰瘍の既往歴」の0.01(95%信用区間[CrI]:0.01~0.02)から「慢性腎障害患者」の0.11(0.04~0.19)までの範囲であった。また、医療費増加の平均値は、「心不全」の14ポンド(=17ユーロ、18ドル)(95%CrI:-71~98、有意差なし)から「経口抗凝固薬の併用者」の1,097ポンド(236~2,542、有意差あり)までの範囲だった。 また、1,000例当たりの有害な処方の発生は、「消化性潰瘍の既往歴を有する者」の0.11から「胃腸保護薬を使用していない高齢者」の1.70までの範囲であった。害を及ぼす可能性が最も高いのは「経口抗凝固薬の併用者」 全体として、有害な処方の頻度が最も高かったのは「胃腸保護薬を使用していない高齢者」であり、1,929(95%CrI:1,416~2,452)QALYが失われ、246万ポンド(95%CrI:65万~468万)の費用を要した。また、有害な処方の影響が最も大きかったのは「経口抗凝固薬の併用者」で、2,143(95%CrI:894~4,073)QALYが失われ、費用は2,541万ポンド(95%CrI:525万~6,001万)であった。 10年間で総計6,335(95%CrI:4,471~8,658)QALYが失われ、イングランドのNHSは3,143万ポンド(95%CrI:928万~6,711万)の費用を要したと推定された。 著者は、「イングランドでは、高リスク集団において問題のあるNSAID処方が蔓延しており、65歳以上の高齢者では、年間10万7,000例が胃腸保護薬なしにNSAIDを処方されている。NSAIDは、経口抗凝固薬を使用している者に処方された場合に、最も害を及ぼす可能性がある」としている。

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がんによる死亡の半数近くとがん症例の4割にライフスタイルが関係

 がんによる死亡の半数近くとがん症例の4割に、喫煙や運動不足などのライフスタイルが関係していることが、新たな研究で明らかになった。特に喫煙はがんの最大のリスク因子であり、がんによる死亡の約30%、がん発症の約20%は喫煙に起因することが示されたという。米国がん協会(ACS)がん格差研究のシニア・サイエンティフィック・ディレクターを務めるFarhad Islami氏らによるこの研究結果は、「CA: A Cancer Journal for Clinicians」に7月11日掲載された。 Islami氏らは、米国における2019年のがんの罹患率とがんによる死亡率に関する全国データとそのリスク因子を分析し、ライフスタイルのリスク因子に起因するがんの症例数と死亡数を推定した。その結果、2019年に30歳以上の米国成人に発生した、メラノーマを除くがん症例の40.0%(178万1,649例中71万3,340例)とがんによる死亡の44.0%(59万5,737例中26万2,120例)は、是正可能なライフスタイルのリスク因子に起因することが示された。 それらのリスク因子の中でも、がん罹患とがんによる死亡への寄与度が特に高かったのは喫煙であり、あらゆるがん症例の19.3%、がんによる死亡の28.5%は喫煙に起因すると推測された。この結果についてIslami氏は、「米国での喫煙に起因する肺がん死亡者数は、過去数十年の間に喫煙者が大幅に減少したことを考えると憂慮すべき数だ」と懸念を示す。同氏は、「この知見は、各州で包括的なたばこ規制政策を実施して禁煙を促進することの重要性を強調するものでもある。さらに、治療がより効果的になる早期段階で肺がんを見つけるために、肺がん検診の受診者数を増やす努力を強化することも重要だ」と付け加えている。 そのほかの因子でがん罹患とがんによる死亡への寄与度が高かったのは、過体重(同順で7.6%、7.3%)、飲酒(5.4%、4.1%)、紫外線曝露(4.6%、1.3%)、運動不足(3.1%、2.5%)であった。Islami氏は、「特に、若年層で体重過多と関連するがん種が増加していることを考えると、健康的な体重と食生活を維持するための介入により、米国内のがん罹患者数とがんによる死亡者数を大幅に減少させることができるはずだ」との考えを示している。 さらに本研究では、がん種によってはライフスタイルの選択によりがんの発症を完全に、もしくは大幅に回避できる可能性があることも判明した。例えば、子宮頸がんは、ヒトパピローマウイルス(HPV)感染を防ぐワクチンの接種により全て回避できる可能性がうかがわれた。論文の上席著者であるACSのサーベイランスおよび健康の公平性に関する科学のシニアバイスプレジデントを務めるAhmedin Jemal氏は、「同様に、肝臓がん予防も、その原因となるB型肝炎ウイルスに対するワクチンの接種が効果的だ。B型肝炎ウイルスは、肝臓がん以外にも肛門性器や口腔咽頭のがんの原因にもなる」と説明する。その上で同氏は、「推奨されている時期にワクチン接種を受けることで、これらのウイルスに関連する慢性感染、ひいてはがんのリスクを大幅に減らすことができる」と付け加えている。

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一部の糖尿病用薬の処方が認知症リスクの低さと関連

 メトホルミンやSGLT2阻害薬(SGLT2i)と呼ばれる糖尿病用薬の処方が、認知症やアルツハイマー病(AD)のリスクの低さと関連していることが報告された。慶煕大学(韓国)のYeo Jin Choi氏らの研究によるもので、詳細は「American Journal of Preventive Medicine」に5月3日掲載された。 2型糖尿病は多くの国で重大な健康問題となっており、世界中で約5億3000万人が罹患していて、その罹患によって認知機能障害や認知症のリスクが50%以上上昇する可能性が示されている。認知症もまた、高齢化に伴い世界的な健康問題となっており、患者数はすでに4000万人以上に上るとされている。 2型糖尿病がADのリスクを押し上げるメカニズムについて、インスリン抵抗性に伴う慢性炎症、酸化ストレス、血管障害の関与などが考えられており、一部の糖尿病用薬はインスリン抵抗性改善作用などを介してADリスクを低下させる可能性がある。ただし、糖尿病用薬のタイプによって認知症やADのリスクが異なるのかという点は、十分明らかにはなっていない。Choi氏らは、比較されている薬剤の組み合わせが異なる過去の複数の研究データを統合して、多くの薬剤の影響を比較可能とするベイジアンネットワークメタ解析により、この点を検討した。 文献データベースであるCENTRAL、MEDLINE(PubMed)、Scopus、Embaseのスタートから2024年3月までに収載された論文を対象とする検索により、16件の研究報告を抽出。それらの研究参加者数は合計156万5,245人で、7種類の治療レジメン(メトホルミン、SU薬、α-グルコシダーゼ阻害薬〔α-GI〕、チアゾリジン薬、DPP-4阻害薬、SGLT2i、非薬物治療)が含まれていた。16件中7件は米国、3件はカナダで行われ、そのほかは英国、台湾、中国、香港、韓国などで行われていた。 第一選択薬として用いられていた薬剤のうち最も多くの研究で比較されていたのはSU薬とメトホルミンであり、後者は前者に比べて認知症リスクが有意に低かった(リスク比〔RR〕0.53〔95%信頼区間0.44~0.64〕)。第二選択薬として用いられていた薬剤について、SU薬を基準として比較すると、SGLT2iのみ有意なリスク低下が認められた(RR0.39〔同0.16~0.88〕)。 第一・第二選択薬を区別せずにSU薬を基準として解析すると、メトホルミン(RR0.53〔0.44~0.63〕)とSGLT2i(RR0.41〔0.25~0.66〕)、および非薬物治療(RR0.73〔0.56~0.97〕)でリスクが低く、α-GIはリスクが高かった(RR2.4〔1.2~5〕)。ADリスクについても対SU薬で、メトホルミンとSGLT2iのみ、リスク低下が示された。なお、年齢を75歳未満/以上に二分した層別解析では、SGLT2iによる認知症リスク低下は75歳以上でのみ有意だった。 著者らは、「メトホルミンとSGLT2iが用いられている糖尿病患者は、他の糖尿病用薬が用いられている場合に比較し認知症リスクが低いことが示された。ただし、患者固有の要因がこの関係に影響を及ぼしている可能性がある。例えばメトホルミンは一般的に、合併症が少ない非高齢期に処方が開始される傾向がある。これらの理由により、本研究の結果の解釈は慎重に行われる必要があり、また将来の大規模な臨床試験が必要とされる」と述べている。

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言ってませんか? 実はうまく伝わらない「バットで殴られたような痛みですか?」【もったいない患者対応】第11回

登場人物<今回の症例>70代男性夕食後に突然発症した頭痛で救急要請意識清明。頭全体の激しい痛みを訴える<急いで痛みの性質を確認する必要がありそうです>どこが痛みますか?頭全体がとにかく痛いです。それは、バットで殴られたときのような痛みでしょうか?バット? そんなもんで殴られたことはないからわからん!えーっと、最高の痛みを10とすると、いまは何ですか?え? 10? どういう意味?1番痛くないときをゼロ、最も痛いときを10とすると…。よくわからん! とにかく痛いんだ。なんとかしてくれよ!【POINT】頭痛を訴える患者さんに対し、くも膜下出血で特徴的とされる「バットで殴られたときのような痛み」であったかを尋ねる唐廻先生。しかしあまり有用な情報が得られず、今度はペインスケールを使って痛みの程度を尋ねようとしました。ところが、今度は患者さんから「よくわからん」と一言。どうすればスムーズに問診できるのでしょうか?突然のペインスケールはかえって混乱を招く教科書では、典型的な痛みの表現の仕方として、くも膜下出血の「突然バットで殴られたような」や、心筋梗塞の「ゾウに踏まれたような」というものがよく紹介されています。しかし実際にバットで殴られたり、ゾウに踏まれたりしたことのある人はいないでしょう。突然こうした質問を投げかけられると、患者さんは予想外の事態に面食らってしまうことがあります。また、痛みの程度を知る際には確かにペインスケールが有用ですが、これは患者さん自身にもある程度の“慣れ”が必要になる手法です。たとえば、がん性疼痛などでは、前と比べてどうであったかを数字で表現することで、痛みの推移を医療スタッフと共有し、鎮痛薬の用量調節を行う、といったように便利に使うことができます。しかし、初診で救急搬送されたような患者さんに対して、いきなり「最高が10としたらいまは何ですか?」と聞いても、まともに答えられる人はいません。医師よりは看護師に多い印象ですが、初診の時点で患者さんにこのような質問を投げかけ、「は!?」と不思議そうな顔で返されている姿をときどき見ます。緊急時はとくにスムーズな問診が必須となるため、とにかく答えやすい質問方法を選ぶ必要があるでしょう。では、どのように聞けばスムーズに答えてもらえるのでしょうか?「人生最大の痛みですか?」痛みの程度を知りたい際に、最も答えやすい質問が「人生最大の痛みかどうか」です。同程度の痛みをこれまで何度か経験している・繰り返している場合と、今回初めて人生で経験したこともないほどの強い痛みに見舞われている場合では、想定する疾患は変わってきます。「OPQRST」で痛みの程度以外の情報も集める目の前で強い痛みを訴える患者さんの場合、最初に痛みの“程度”ばかりに意識が向かいがちですが、それ以外の情報もなるべく素早く収集する必要があります。問診すべき情報は語呂合わせでよく紹介されますが、例えば「OPQRST」が便利です。O:Onset 発症様式P:Provocative/Palliative 増悪・緩解因子Q:Quality/Quantity 痛みの性質・程度R:Region/Radiation 部位・放散痛S:associated Symptoms 関連症状T:Time 経過これらの項目をなるべく素早く聞いていき、痛みという主観的な情報を客観的な情報に“翻訳”していくことが大切です。これでワンランクアップ!どこが痛みますか?頭全体がとにかく痛いです。人生でこれまで経験したことないほど痛いですか?※1※1:緊急時には感覚的に答えられる質問が◎こんなに痛いのは初めてです。いつ頃痛くなりましたか?※2※2:痛みの強さ以外のこともしっかり聞き取る2時間くらい前です。全体が締めつけられるような痛みですか? 鼓動に合わせてガンガン痛みますか?※3(以下略)※3:クローズドクエスチョンだとスムーズに答えてもらいやすい。

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第226回 古くはヒトの糞中から見つかった細菌が創傷治癒を促進

古くはヒトの糞中から見つかった細菌が創傷治癒を促進切開部や傷の除菌が大事なことは言うまでもないことですが、本をただせばビールやヒトの糞から見つかった1)細菌が糖尿病患者の治療困難な傷の治癒を助けうることが示唆されました。傷に有害な細菌を検討した数多くの報告とは真反対に、ペンシルベニア大学医学部のElizabeth Grice氏らのチームは慢性創傷の多くに認められる細菌Alcaligenes faecalis(A. faecalis)が糖尿病関連創傷の治癒促進効果を担うことを発見しました2)。その結果によるとA. faecalisは糖尿病患者に多い酵素・細胞外基質分解酵素(MMP)を阻止し、傷口が閉じるのに不可欠な細胞移動を促します。創傷治癒を後押しするA. faecalisの仕組みを把握することで糖尿病と関連する創傷の新たな治療法を生み出せそうです。そもそも治らないか治りが非常に遅い褥瘡、潰瘍、裂傷を含む慢性創傷は糖尿病につきもので、痛い感染症をしばしば引き起こし、悪くすると四肢の切断や死に至ることもあります。手術で壊死組織を除去するか包帯をするくらいがせいぜいで治療法は限られます。糖尿病性足潰瘍(DFU)患者46例からの195の検体のゲノム配列を解析した先立つ研究3)で、A. faecalisは最も多く認められた細菌の1つでした。褥瘡、静脈性下肢潰瘍、鎌状赤血球症下肢潰瘍を調べた他の試験でもAlcaligenes属が一貫してしばしば検出されています。DFUの経過とA. faecalisの関連はあいにく認められませんでした。しかしGrice氏らはA. faecalisの検出や量の多さに興味が湧き、傷の治りが悪い糖尿病マウスを使ってA. faecalisの効果を調べてみました。その取り組みは功を奏します。マウスの背にあえて発生させた傷にA. faecalisを与えたところ、A. faecalis非投与群に比べて治癒が早まり、感染の合併は認められませんでした。さらに調べたところ、A. faecalisは創傷治癒にあたる細胞であるケラチノサイトの増殖と創傷部への移動を促すとわかりました。また、糖尿病患者の皮膚検体をA. faecalisとともに培養したところ、ケラチノサイトが有意に多く増えました。糖尿病患者はMMPが過剰で、MMPが過剰な環境は傷の治りに支障を来すことが先立つ研究で示されています。A. faecalisが投与された糖尿病マウスの遺伝子発現を調べたところ、ケラチノサイトで作られることが知られるMMP-10を含むMMP遺伝子幾つかの発現が減っていました。病原性細菌の黄色ブドウ球菌は逆にMMP-10を含むMMPの幾つかを増やし、黄色ブドウ球菌とA. faecalis投与のMMP-10の発現は最も差がつきました。その他の検討結果も加味するに、A. faecalisはどうやらMMP-10過剰発現を抑制することで糖尿病創傷の治りを促すようです。研究をGrice氏とともに率いたEllen White氏は今回の成果を次のように説明しています。「MMPは細胞同士の結びつきを解いて細胞が動けるようにする。糖尿病患者のMMPは過剰だが、A. faecalisは創傷でのMMP発現を整えて傷口が塞がるのを早めることを今回の研究は示した。」4)上述のとおりヒトの創傷治癒の経過へのA. faecalisの作用を示唆する研究成果はありません。なぜかといえば、それら先立つ試験の検出力がそもそも不十分だったためかもしれませんし、A. faecalisの効果を妨げる要因のせいかもしれません。そのような要因として、たとえば創傷の微生物のどれかが直接的に阻害するか栄養を横取りするかしてA. faecalisの増殖や効果を妨げているかもしれません。今後の課題として、皮膚細胞やその他の細菌とA. faecalisのやり取りや相互作用の仕組みを解明したいとWhite氏は言っています4)。参考1)Weinstein L, et al. N Engl J Med. 1951;244:662-665.2)White EK, et al. Sci Adv. 2024;10:eadj2020. 3)Kalan LR, et al. Cell Host Microbe. 2019;25:641-655.4)Penn researchers reveal how a bacterium supports healing of chronic diabetic wounds / Eurekalert

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