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ICU入室前のソーシャルサポートは退室後の抑うつと関連

 集中治療室(ICU)で治療を受けた患者を対象とする単施設前向きコホート研究の結果、ICU入室前のソーシャルサポートが少ないほど、ICU退室後の抑うつが生じやすいことが明らかとなった。駒沢女子大学看護学科の吉野靖代氏らによる研究であり、「BMJ Open」に6月19日掲載された。 ICU在室中・退室後、退院後に生じる認知・身体機能の障害やメンタルヘルスの問題は、集中治療後症候群(post-intensive care syndrome;PICS)と呼ばれる。集中治療の進歩により患者の生存率は向上している一方で、PICSによりQOLが低下し、元の生活に戻ることのできない患者も多い。メンタルヘルスに関しては、がん患者や心疾患患者を対象とした研究で、ソーシャルサポートと抑うつの軽減との関連が報告されている。ただ、ICU患者におけるソーシャルサポートとICU退室後のメンタルヘルスに関しては、研究結果が一貫していなかった。 そこで著者らは今回、2020年12月から2022年6月の期間に、国内1施設のICU(内科・外科8床)に2日間以上在室した患者で、中枢神経疾患や精神疾患などの患者を除いた153人を対象とし、ICU入室前のソーシャルサポート(ICU入室2日後から退室2週後の間に調査)と、ICU退室3カ月後の心的外傷後ストレス障害(PTSD)症状、不安、抑うつ症状との関連を検討した。ソーシャルサポートは「Duke Social Support Index(DSSI-J)」、PTSD症状は「Impact of Event Scale-Revised(IES-R)」、不安と抑うつ症状は「Hospital Anxiety and Depression Scale(HADS)」という自記式質問票を用いて評価した。 ICU退室3カ月後の追跡調査データの得られた解析対象患者は115人であり、年齢中央値は74.0歳(四分位範囲64.5~80.0歳)、男性が61人(53.0%)だった。患者の73.9%が予定手術のため入院し、57.3%が心臓手術のためICUに入室した。ICU在室日数の中央値は7日(四分位範囲5~8日)だった。ICU退室3カ月後、PTSDの疑いのある人の割合は11.3%、不安症状のある人は14.0%、抑うつ症状のある人は24.6%だった。 PTSD症状、不安、抑うつ症状について、説明変数をソーシャルサポート尺度とし、年齢、性別、教育年数を調整した多変量線形回帰分析を行った。その結果、PTSD症状および不安症状の重症度とソーシャルサポートに関連は認められなかった。しかし、抑うつ症状に関しては、ソーシャルサポート(β=-0.018、95%信頼区間-0.029~-0.006、P=0.002)は、抑うつ症状の重症度と独立して関連することが明らかとなった。また、抑うつ症状とソーシャルサポートとの関連には性差が認められ、男性の方が関連は強かった(交互作用P=0.056)。 今回の研究結果から著者らは、「ICU入室前のソーシャルサポートは、ICU退室後の抑うつ症状と関連するが、PTSD症状とは関連しなかった」と総括している。女性は抑うつと関連していた一方で、ソーシャルサポートが少ない男性は女性よりも抑うつ症状を生じやすいことなどを指摘し、「ICU入室前のソーシャルサポートが少ない患者は、ICU退室後の抑うつ症状に注意する必要がある」と述べている。

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アルツハイマー病、生存期間・悪化速度・入院/入所までの期間は?【外来で役立つ!認知症Topics】第20回

アルツハイマー病(AD)者に関わる臨床医なら、自分の治療は本当にうまくいっているのかと、時に心配になるのではなかろうか? 少なくとも筆者はそうである。たとえば「どんどん進行している」とか「一向に良くならないばかりか悪化した」などの訴えがあると、「むむっ!」と口元がゆがむ。ご家族は、医療者が思うような認知機能テストやADLなど数値化できるものの変化でなく、暴言・暴力、幻覚や妄想、衝動性、BPSDなど出れば、ひどく悪化したと思いがちだ。だから、その訴えと医師側の評価とが乖離することは稀でない。とはいえ、何が臨床経過の客観的な指標であり、それぞれの指標はどの程度の率で変化するかを知っていることは、認知症治療者にとっての素養かもしれない。そこで成書やレビューなどに当たってみた。結果として、生存期間、認知機能の悪化速度、そして入院・入所までの期間が3大ポイントと考えた。認知症と生存期間認知症性疾患全体の生命予後のメタアナリシス1)によれば、認知症全体としての死亡率は、認知症のない者に比べて5.9倍も高い。認知症全体の平均では、発症年齢が68.1±7.0歳で、診断された年齢は72.7±5.9歳。そして、初発から死亡まで7.3±2.3年で、診断から死亡まで4.8±2.0年との由。ADでは、初発から死亡まで7.6±2.1年、診断から死亡までが5.8±2.0年とされる。注目すべきは、いわゆる4大認知症性疾患の中で、ADの生命予後が一番良いことだ。もっともメタアナリシスの対象は、私が対応する患者さんの年齢より、少し若いかなという印象がある。それはさておき、ADの診断がついた患者さんやその家族から、余命は何年か?の質問を筆者が受けたなら、以上のメタアナリシスの結果を参考にして4~8年程度と答える。MMSEやADAS-cogで認知症の進行速度を評価認知機能の評価尺度として、ミニメンタルステート(MMSE:30点満点)が最もよく研究されている。ある教科書2)によると、年間の点数変化は1.8から4.2と幅が大きい。その理由は、観察開始時の重症度がどうだったかによる。つまり開始時に軽度なら点数変化は小さく、重度なら大きい。最近の研究で、MMSE、ADAS-cogについて大人数(開始時769例)のMCI者を対象にした報告を読んだ3)。開始時のMMSE得点は平均で27.3±1.9であった。これが3年後には、対象が473例になり、そのMMSE得点は25.3±4.8になった。3年で300例ものドロップアウトがあるが、以上の結果を分析して、MMSEについて低下が小さい群では年間2~3点の低下、中程度低下群では年間6~7点としている。この結果は従来の報告をほぼ支持すると思われる。次にADAS-Cogが注目される。このオリジナル版は11項目により、総合的にADの認知機能を評価する70点満点の尺度であり、問題なしが0点、最重度が70点である。従来のAD治療薬の治験においては、一番よく用いられてきた。ADAS-Cogが公表された頃の中等度のADを対象にした研究によれば、本尺度の年間変化は平均8点前後とまとまっている。なお上記したMCI者を対象にしてMMSE、ADAS-cogを詳細に検討した研究3)では、ADAS-Cogの研究開始時の平均得点は14.1±8.8である。3年の追跡結果から、ADAS-Cogについて、小変化群で年間2点の増加、中程度の群で年間3~4点の増加としている。はじめはゆっくり、途中で加速、再びゆっくり以上より、MMSEとADAS-Cogの成績推移では、当初ADが軽度なら両者における得点変化も少ないが、進行すれば大きくなるとまとめられる。これに関して2点の追記が欠かせない。まずこれらの経時的な変化の仕方(形状)は直線的なものではない。図に示すようなシグモイド、すなわち当初ゆっくりと、途中から直線的に加速し、末期は再度ゆっくりと変化する形状と考えられている。次に臨床経過を考えるとき、Rapid Declinerと言われる悪化速度の速いAD患者の一群が存在することは以前から注目されてきた。そのような患者を捉えるうえで、たとえばMMSEが半年で3点(年間6点)以上の低下をしていくことと提案したものがある。このような進行の予測因子を知ることは、臨床家が患者・家族にアドバイスするうえで重要である2)。まず教育年数が高いと進行が速いと考えられている。次に幻覚や妄想など神経精神医学的な症状があると進行が速くなるとする意見が多い。もっとも、こうした症状自体ではなく症状に対して処方される抗精神薬等が問題ではないかという意見がある。一方で、発症年齢が若いほど進行も速いと考えられがちだが、これは確立していない。性別も確立したものではない。アポリポ蛋白E4(APOE4)があるとAD発症のリスクが高くなり、発症年齢も早まることは有名だが、進行予測の要因としては確立していない。また合併症の脳血管障害も確立していない。なお錐体外路徴候も以前は検討されたが、今日ではレビー小体型認知症(DLB)の疾患概念が浸透してADと鑑別がかなり正確になった。それだけに従来の知見はADとDLBの進行の差異を論じていたのかもしれない。入院・入所までの期間は?入所予測因子について80の報告をレビューしたものによれば、施設入所を予測する因子として、患者要因では認知機能の重篤度、日常生活動作の自立と依存の度合い、BPSD、そしてうつ病が重要であった4)。介護者要因として、情緒的ストレスの高さが指摘されている。系統的な報告ではないが、失禁、焦燥、歩行困難、徘徊と過活動そして夜間の不穏などが、介護者が述べる入所の決定要因として最も多いと述べた報告があった。この意見は臨床の場でわかりやすく、筆者は大いに頷く。参考1)Liang CS, et al. Mortality rates in Alzheimer's disease and non-Alzheimer's dementias: a systematic review and meta-analysis. Lancet Healthy Longev. 2021 Aug;2(8): e479-e488.2)Fleisher AS, Corey-Bloom J. The natural history of Alzheimer’s disease. In Ames D, Burns A, O’Brien J. Dementia 4th ed. Boca Raton:CRC Press;2010.p.405-416.3)Lansdall CJ, et al. Establishing Clinically Meaningful Change on Outcome Assessments Frequently Used in Trials of Mild Cognitive Impairment Due to Alzheimer's Disease. J Prev Alzheimers Dis. 2023;10:9-18.4)Gaugler JE, et al. Predictors of nursing home admission for persons with dementia. Med Care. 2009;47:191-198.

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昏睡・植物状態の患者、25%はfMRIまたはEEGで脳活動あり/NEJM

 昏睡、植物状態または最小意識状態マイナスの患者において、約4例に1例は言葉による指示に対するfMRIまたは脳波(EEG)上の活動、すなわち認知と運動の解離(cognitive motor dissociation:CMD)が認められたという。米国・Spaulding Rehabilitation HospitalのYelena G. Bodien氏らが国際共同前向きコホート研究の結果を報告した。一方、意識障害を有するが言葉による指示に対して観察可能な反応があった患者において、CMDが認められたのは約3例に1例であった。脳損傷により指示に反応しない患者が認知課題を行い、fMRIやEEGで検出される場合がある。CMDとして知られるこの現象については、これまで意識障害患者の大規模コホートにおいて体系的な研究はなされていなかった。NEJM誌2024年8月15日号掲載の報告。言葉による指示に対する脳活動をfMRIならびにEEGで評価 研究グループは、6施設が参加するResearch Electronic Data Capture(REDCap)データベースを用いて、2006~23年における意識障害を有する18歳以上の成人478例の臨床、行動、task-based fMRIおよびEEGのデータを収集した。 解析対象は、少なくとも1回以上Coma Recovery Scale-Revised(CRS-R)で評価され、かつCRS-R評価の前後7日以内にtask-based fMRIまたはEEGで言葉による指示(たとえば、「テニスをすることを想像する」、「手を開いたり閉じたりすることを想像する」、「手を開いたり閉じたりする」)に対する反応の評価を受けた患者とした。 対象患者を、CRS-Rに基づき、言葉による指示に対して観察可能な反応がなかった患者(すなわち、昏睡、植物状態、最小意識状態マイナス)と、反応があった患者に分け、言葉による指示に対するtask-based fMRIまたはEEGの反応を評価した。言葉による指示に対する観察可能な反応がなかった患者のうち25%はCMDを認める データが収集された478例中、CRS-Rスコアあるいはtask-based fMRIまたはEEGのデータが得られなかった125例が除外され、解析対象は353例となった。fMRIまたはEEGのいずれかのみで評価された患者が231例(65%)、fMRIとEEGの両方が実施された患者が122例(35%)であった。患者背景は、年齢中央値37.9歳、脳損傷からCRS-R評価までの期間の中央値は7.9ヵ月(受傷後28日以内にCRS-R評価を受けた患者の割合は25%)、病因の50%は脳外傷であった。 CRS-Rに基づき昏睡、植物状態または最小意識状態マイナスと診断された患者は241例で、このうち60例(25%)において、言葉による指示に対して観察可能な反応はなかったにもかかわらずtask-based fMRIまたはEEGに対する反応、すなわちCMDが検出された。60例のうち11例はfMRIのみ、13例はEEGのみ、36例は両方で評価された。 CMDは、年齢が若いこと、受傷からの時間が長いこと、脳外傷が病因であることと関連していた。 対照的に、課題に基づくfMRIまたはEEGでの反応は、言語による命令に対して観察可能な反応を示した参加者112例中43例(38%)にみられた。

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成人のうつ病や不安症と関連する幼少期の要因とは

 うつ病および不安症の発症率について、子宮内・周産期・幼児期の発達段階における5つの人生早期の因子(母乳育児、出産前後の母親の喫煙、出生体重、多児出産、養子縁組)との長期的な関連性を明らかにするため、中国・Medical College of Soochow UniversityのRuirui Wang氏らが40~69歳の成人を対象に調査を行った。Translational Psychiatry誌2024年7月20日号の報告。 UK Biobankのデータを用いて、2006~10年に40~69歳の50万2,394例を募集した。ベースライン時にタッチスクリーンアンケートまたは口頭でのインタビューを通じて、参加者より幼少期の情報を収集した。主要アウトカムは、うつ病および不安症の発症とした(ICD-10に従って定義)。各因子のハザード比(HR)および95%信頼区間(CI)を算出した。 主な結果は以下のとおり。・フォローアップ期間中央値13.6年の間に、うつ病の発症は1万6,502例(3.55%)、不安症の発症は1万5,507例(3.33%)であった。・潜在的な交絡因子で調整後、5つの人生早期の因子はうつ病リスクの有意な増加と関連していることが示唆された。【非母乳育児】HR:1.08、95%CI:1.04~1.13【出産前後の母親の喫煙】HR:1.19、95%CI:1.14~1.23【多胎児】HR:1.16、95%CI:1.05~1.27【低出生体重】HR:1.14、95%CI:1.07~1.22【養子】HR:1.42、95%CI:1.28~1.58・不安症リスクの増加も5つの人生早期の因子と関連が認められた。【非母乳育児】HR:1.09、95%CI:1.04~1.13【出産前後の母親の喫煙】HR:1.11、95%CI:1.07~1.16【多胎児】HR:1.05、95%CI:0.95~1.17【低出生体重】HR:1.12、95%CI:1.05~1.20【養子】HR:1.25、95%CI:1.10~1.41・用量反応関係も観察され、人生早期のリスク因子の数が増えると、うつ病および不安症のリスクが高まる可能性が示唆された。 著者らは、「5つの人生早期の因子は、それぞれが成人期のうつ病および不安症発症に対する独立したリスク因子であると考えられる」とし、「これら人生早期の因子を考慮することは、その後の人生のメンタルヘルスに対する感受性を理解するうえで不可欠である」とまとめている。

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重篤な薬疹を起こしやすい経口抗菌薬は?/JAMA

 一般的に処方される経口抗菌薬の中には、マクロライド系薬と比較して救急外来受診または入院に至る重篤な皮膚有害反応(cADR)のリスクが高い薬剤があり、とくにスルホンアミド系とセファロスポリン系で最も高いことが、カナダ・トロント大学のErika Y. Lee氏らによるコホート内症例対照研究の結果で示された。重篤なcADRは、皮膚や内臓に生じる生命を脅かす可能性のある薬物過敏症反応である。抗菌薬はこれらの原因として知られているが、抗菌薬のクラス間でリスクを比較した研究はこれまでなかった。結果を踏まえて著者は、「処方者は、臨床的に適切な場合はリスクの低い抗菌薬を優先して使用すべきである」とまとめている。JAMA誌オンライン版2024年8月8日号掲載の報告。経口抗菌薬のクラスと重篤なcADRの関連性について解析 研究グループは、2002年4月1日~2022年3月31日に、カナダ・オンタリオ州の行政保健データベースを用いて、コホート内症例対照研究を実施した。データソースは、65歳以上のオンタリオ州住民に処方された外来処方薬のデータを含むOntario Drug Benefit database、救急外来受診の詳細情報を含むCanadian Institute for Health Information(CIHI)National Ambulatory Care Reporting System、入院患者の診断と治療のデータを含むCIHI Discharge Abstract Database、オンタリオ州健康保険(Ontario Health Insurance Plan)データベースである。ICES(旧名称:Institute for Clinical Evaluative Sciences)でこれらのデータを個人レベルで連携し、分析した。 対象は、少なくとも1回経口抗菌薬を処方された66歳以上の患者で、このうち、処方後60日以内に重篤なcADRのため救急外来を受診または入院した患者を症例群、これらのイベントがなく各症例と年齢と性別をマッチさせた患者(症例1例当たり最大4例)を対照群とした。 主要解析では、条件付きロジスティック回帰分析を用い、マクロライド系抗菌薬を参照群として、抗菌薬のクラスと重篤なcADRとの関連を評価した。スルホンアミド系とセファロスポリン系で重篤なcADRのリスク大 20年の研究期間において、症例群2万1,758例、対照群8万7,025例を特定した(両群とも年齢中央値75歳、女性64.1%)。 多変量調整後、スルホンアミド系抗菌薬が重篤なcADRと最も強く関連しており、マクロライド系抗菌薬に対する補正後オッズ比(aOR)は2.9(95%信頼区間[CI]:2.7~3.1)であった。次いで、セファロスポリン系(2.6、2.5~2.8)、その他の抗菌薬(2.3、2.2~2.5)、ニトロフラントイン系(2.2、2.1~2.4)、ペニシリン系(1.4、1.3~1.5)、フルオロキノロン系(1.3、1.2~1.4)の順であった。 重篤なcADRの粗発現頻度が最も高かったのはセファロスポリン系(処方1,000件当たり4.92、95%CI:4.86~4.99)で、次いでスルホンアミド系(3.22、3.15~3.28)であった。 症例群2万1,758例のうち重篤なcADRで入院した患者は2,852例で、入院期間中央値は6日(四分位範囲[IQR]:3~13)、集中治療室への入室を要した患者は273例(9.6%)で、150例(5.3%)が病院で死亡した。 なお、著者は研究の限界として、ICD-10コードを使用してcADRを特定したが重篤なcADR専用のコードはなく本研究固有の定義を作成したこと、cADRを引き起こす可能性のある非ステロイド性抗炎症薬などの市販薬の使用については調査できなかったことなどを挙げている。

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スピーチ・ニューロプロテーゼ、ALS患者の発話を実現/NEJM

 米国・カリフォルニア大学デービス校のNicholas S. Card氏らは、重度の構音障害を有する筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者1例において、皮質内に埋め込んだ電極を介して発話の神経活動を文字に変換し出力するスピーチ・ニューロプロテーゼ(speech neuroprosthesis)が、短時間のトレーニングで会話に適したレベルの性能に達したことを報告した。ブレイン・コンピュータ・インターフェース(BCI)は、発話に関連する皮質活動を文字に変換しコンピュータの画面上に表示することにより、麻痺を有する人々のコミュニケーションを可能にする。BCIによるコミュニケーションは、これまで広範なトレーニングが必要で精度も限られていた。NEJM誌2024年8月15日号掲載の報告。発症後5年の45歳ALS患者に、微小電極4個を左中心前回に埋め込み 研究グループは、ALS発症から5年、四肢不全麻痺と重度の運動障害性構音障害を有する45歳の男性(ALS機能評価スケール改訂版スコア[範囲:0~48、高スコアほど機能は良好]は23)の左中心前回(発話に関連する運動活動を調整する重要な大脳皮質領域)に、4個の微小電極アレイを外科的に埋め込み、256個の皮質電極を介して神経活動を記録した。 微小電極アレイは、1個の大きさが3.2mm×3.2mmで、64個の電極が8×8のグリッド状に配置されており、専用器を用いて大脳皮質に1.5mm埋設された。 2023年7月に手術(埋め込み)が行われ、25日後から32週間にわたり84回のセッション(1日1セッション)でデータを収集した。 各セッションでは、指示された課題(患者が視覚的または音声的な合図の後に単語を言おうとする)および会話モード(患者が好きなことを言おうとする)において、患者が何かを言おうとしたときの神経活動を解読し、解読した単語をコンピュータの画面上に表示した後、テキスト読み上げソフトウェアを用いてALS発症前の患者の声に似せた音声で発声された。最終的に97.5%の精度を達成 使用初日(手術後25日)において、患者が50単語から構成された文の発話を試みた結果、スピーチ・ニューロプロテーゼは99.6%の精度を達成した。 2回目のセッションでは、スピーチ・ニューロプロテーゼの語彙を50単語からほぼすべての英語を網羅する12万5,000単語以上に増やし、1.4時間のシステムトレーニングを行ったところ、患者の発話を90.2%の精度で解読した。 さらにトレーニングデータを追加した結果、スピーチ・ニューロプロテーゼは埋め込み後8.4ヵ月にわたって97.5%の精度を維持した。この間に患者は合計248時間以上、1分当たり約32単語の速度で会話をした。

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ビーガン食で若返り?

 完全菜食主義(ビーガン)の食事スタイルが、老化現象を遅延させる可能性のあることが報告された。一卵性双生児を対象とした研究の結果であり、詳細は「BMC Medicine」に7月29日掲載された。双子のきょうだいのうち8週間にわたりビーガン食を摂取した群は、肉や卵、乳製品を含む雑食(普通食)を摂取した群よりも、生物学的な老化現象が抑制される傾向が認められたという。 この研究は、米国の加齢関連検査サービス企業であるTruDiagnostic社のVarun Dwaraka氏らが行った。老化の程度を表す生物学的年齢の推定には、DNAのメチル化やテロメア長などの指標が用いられた。Dwaraka氏は、「ビーガン食を摂取した研究参加者では、“エピジェネティック老化時計”とも呼ばれることのある、生物学的年齢の推測値の低下が観察された。しかし普通食を摂取した研究参加者では、このような現象が観察されなかった」と話している。 研究に参加したのは一卵性双生児の成人21組(平均年齢39.9±13歳、男性23.8%、BMIはビーガン食群が26.3±5、普通食群が26.2±5)。介入期間は8週間で、前半の4週間は調理済みの食事を支給するとともに栄養教育を実施。後半の4週間は、研究参加者が栄養教育に基づき自身の判断で食品を摂取し、その間、予告なしに24時間思い出し法による食事調査を実施して、各条件の食事スタイルが遵守されていることを確認した。 介入終了時点で、ビーガン食群では普通食群よりも細胞レベルの老化が少なく、また、心臓や肝臓、内分泌代謝、炎症などの検査値を基に算出した生物学的年齢の若返りが観察された。ビーガン食群の介入中の摂取エネルギー量は普通食群に比べて1日当たり平均約200kcal少なく、介入期間中の体重減少幅が平均2kg大きかった。この差は主として、介入前半の調理済みの食事を支給している期間に生じていた。 著者らは、「われわれの研究結果は、短期間のビーガン食がエピジェネティックな加齢による変化の抑制と摂取エネルギーの抑制につながることを示唆している」と総括している。ただし、「ビーガン食による加齢変化の抑制が、減量によってもたらされたものであるかどうかは不明」とのことだ。また、ビーガン食には微量栄養素が不足するリスクもあることから、「サプリメントを併用しないビーガン食の長期的な影響の検証が必要」としている。そのほかにも、「普通食をビーガン食に変更して、適切な栄養素摂取を維持した場合のエピジェネティックな変化、および全身的な健康状態に及ぼす長期的影響の検討も重要」と、今後の研究の方向性を述べている。

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自宅でできる大腸がん検査で大腸がんの死亡リスクが低減

 自宅で採取した便検体を用いる免疫学的便潜血検査(fecal immunochemical test;FIT)により、大腸がんによる死亡リスクを33%低減できることが、新たな研究で示された。FITは、大腸がんまたは前がん病変の可能性がある大腸ポリープの兆候である便中の血液を抗体で検出する検査法だ。論文の筆頭著者である、米オハイオ州立大学医学部教授のChyke Doubeni氏は、平均的なリスクの人をスクリーニングするためには、年に1回のFITによる大腸がん検診が、「10年ごとの大腸内視鏡検査と同程度に機能する」と述べている。この研究の詳細は、「JAMA Network Open」に7月19日掲載された。 Doubeni氏は、「本研究結果を受け、患者とその臨床医は、自信を持ってこの非侵襲的な検査を大腸がん検診に使用できるようになるだろう。また、大腸がん検診率が非常に低い、医療サービスが十分に行き届いていない地域社会において、FITを効果的に用いる方法を見つけることにもつながるはずだ」と同大学のニュースリリースの中で述べている。 Doubeni氏は、「大腸がん検診のゴールドスタンダードは大腸内視鏡検査だが、この検査に抵抗を覚える人もいる」と話す。大腸内視鏡検査では、患者は鎮静剤を投与され、カメラ付きの細いチューブを直腸に挿入して腸の内壁を観察する。同氏は、「大腸がんは、検診を受けることで、最も初期の前がん病変を発見できることが何十年も前から知られている。しかし、45~75歳の米国人のうち大腸がん検診を受診しているのはわずか60%程度に過ぎない」と話す。一方、FITは、自宅というプライバシーの保たれた場所で便を採取できる。採取した便検体は、検査機関に送って分析してもらう。 今回の研究では、2002年から2017年の間に自宅でのFITによる大腸がん検診を受けた米カイザー・パーマネンテの患者1万711人(60〜69歳32.9%、女性47.8%)のデータを用いて、FITによる大腸がん検診と大腸がんによる死亡リスクとの関連を評価した。1万711人のうちの1,103人は大腸がん症例、9,608人は症例と年齢、性別、健康保険加入期間、居住地域を一致させた対照だった。 その結果、FITによる大腸がん検診を1回以上受けることは、大腸がんによる死亡リスクの33%の低下(調整オッズ比0.67、95%信頼区間0.59〜0.76)、左側の大腸がんによる死亡リスクの42%の低下(同0.58、0.48〜0.71)と関連することが明らかになった。FITと右側の大腸がんによる死亡リスクとの間に関連は認められなかった。なお、大腸がん啓発団体であるFight Colorectal Cancerによれば、左側の大腸がんの発生頻度は右側の大腸がんよりもはるかに高いという。 さらに、FITによる大腸がん検診は、ほとんどの人種/民族において大腸がんによる死亡リスクの有意な低下と関連し、リスクは、アジア系では63%、黒人では42%、白人では30%低下する可能性が示された。ヒスパニック系でも死亡リスクは22%低下していたが、統計学的に有意ではなかった。 論文の共著者である、米カイザー・パーマネンテ北カリフォルニアのDouglas Corley氏は、「過去数年間にFITによる大腸がん検診を1回以上受けた人を対象にした本研究により、FITが効果的なツールであることが確認された。長い目で見ると、FITを推奨通りに毎年受けることで、大腸がんによる死亡リスクは本研究で示された数字以上に低下することが期待される」と話す。 一方、Doubeni氏は、FITで異常な結果が判明した人は遅滞なくフォローアップの大腸内視鏡検査を受けることが重要であると強調している。

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AIが医師による重要な脳波検査の判読をサポート

 人工知能(AI)が100年の歴史を持つ脳波(EEG)検査の潜在的な有用性を高め、この昔ながらの検査に新たな輝きを与えつつあると、米メイヨー・クリニック神経学AIプログラムのディレクターであるDavid Jones氏らが報告した。EEG検査は頭部に取り付けた十数個の電極を通して脳の活動を測定する検査で、てんかんの検査によく使われている。しかし、EEG検査で記録された波形は判読が難しいため、医師は、認知症やアルツハイマー病の初期兆候を見つけ出すために、より高額な費用がかかるMRIやCTなどの選択肢に頼ってきたという。こうした中、AIにより、人間には検出が難しいかすかなEEGの異常を検出できる可能性のあることが新たな研究で示されたのだ。詳細は、「Brain Communications」に7月31日掲載された。 今回の研究では、メイヨー・クリニックで10年にわたってEEG検査を受けた1万1,001人の患者の1万2,176件のEEGデータが使用された。Jones氏らは、機械学習とAIを使用して、複雑なEEGパターンから無視すべき要素を自動的に排除してデータを簡素化し、アルツハイマー病などの認知症に特徴的な6つのパターンを抽出。これらのパターンに焦点を合わせた解析を行えるモデルを設計した。 Jones氏らは、「AIを活用したEEG検査は、医師によるアルツハイマー病やレビー小体型認知症のような認知症の判別に役立つ日が来るかもしれない」と述べている。同氏は、「EEGには脳の健康状態に関する多くの医学的な情報が含まれている。認知機能に問題がある人ではEEGが遅くなり、わずかな違いが見られることは広く知られている」とニュースリリースの中で説明している。 論文の筆頭著者で、メイヨー・クリニック臨床行動神経学フェローのWentao Li氏は、「ベッドサイドでの認知機能検査や体液バイオマーカーの検査、脳画像検査といった従来の認知症の評価方法と比べると、EEGパターンを迅速に抽出するこの技術の有用性は驚くべきものだった」とニュースリリースの中で述べている。 この種のコンピューター支援による分析が、医師によるEEGの判読を後押しする可能性があると、Jones氏は言う。同氏は、「現在、医療データのパターンを定量化する一般的な方法の一つは、専門家の意見によるものだ。では、そのパターンが実際に存在しているということは、どうして分かるのか。専門家が『存在する』と判断したから、というのがその答えだ。しかし、AIと機械学習によって専門家には見えないものが見えるようになっただけでなく、専門家に見えるものを正確に数値化できるようになった」と説明する。 とはいえ、EEG検査は必ずしもMRIやPET、CTといった他のタイプの検査の代わりとなるものではないとJones氏らは言う。ただ、EEG検査はより多くの場所で受けられる検査であり、他の検査よりも費用がかからず、侵襲性も低い。例えば、EEG検査であれば脳活動をスキャンするためのX線や磁場は必要ない。Jones氏は、「専門科のクリニックやハイテクな装置には簡単にアクセスできない地域において、AIを活用したEEG検査は、脳の問題を早期の段階で発見するためのより経済的でアクセスしやすいツールとなり得る」と話す。 Jones氏は、「記憶力の問題を、それが明確になる前の段階で見つけることは極めて重要だ」と指摘。その上で、「早期段階での正確な診断は、患者に適切な見通しを与え、最善の治療を施す助けとなる。われわれが検討している方法は、髄液検査や脳グルコース代謝を調べる画像検査、記憶力検査といった現行の検査と比べて早期の記憶障害や認知症がある人を特定できる、より低コストの方法となり得る」と述べ、期待を示している。 ただし、AIを微調整してEEG分析を向上させるには、さらに数年の研究が必要になると、Jones氏は話している。

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こんな歩き方も運動療法の一方法(Dr.坂根のすぐ使える患者指導画集)

患者さん用画 いわみせいじCopyright© 2023 CareNet,Inc. All rights reserved.説明のポイント(医療スタッフ向け)診察室での会話患者医師患者医師患者医師患者医師患者医師患者医師患者最近、体力の低下を感じてきて…年ですかね。いえいえ、年のせいなんかではありませんよ。最近、運動はどうされていますか?頑張って…歩いているつもりなんですが…だんだん歩くのが遅くなって…。なるほど。確かに、頑張って歩いていても、ダラダラ歩いているだけでは年とともに体力は低下しますからね。やっぱり。どんな運動をしたらいいですかね?お勧めは「インターバル速歩」です。インターバル速歩?そうです。ダラダラ歩くのではなくて、「はや歩き」と「ゆっくり歩き」を交互に繰り返すことです。確かに、さっさと歩くのは長く続かないので…ダラダラと長く歩いていました。どのくらいの速さで歩いたらいいですか?画 いわみせいじそうですね。全速力の6~7割程度、「ややきつい」ぐらいですかね。3分くらい少し早めに歩くと脈が上がってくると思いますよ。なるほど。どのくらいの頻度でやればいいですか。まずは、「はや歩き」を3分間、「ゆっくり歩き」を3分間、合計6分間を1セットとして、1日5セット以上、これを週4日以上行うと効果的ですよ。わかりました。頑張ってやってみます(嬉しそうな顔)ポイントインターバル速歩のやり方や到達目標(週に4日、20セット以上)を具体的に説明します。Copyright© 2023 CareNet,Inc. All rights reserved.

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carcinoma(がん)【病名のルーツはどこから?英語で学ぶ医学用語】第10回

言葉の由来がん(癌)は英語で“carcinoma”といいます。日本語ではしばしば「カルチノーマ」と呼ばれますが、英語では「カルスィノーマ」のような発音になります。“carcinoma”は上皮組織系由来のがん(癌)を指します。肉腫や造血器腫瘍など、上皮組織系由来ではないものを含んだ広い意味での「がん」を指す英語は“cancer”です。“carcinoma”の語源はギリシャ語で「カニ」を意味する“karkinos”と、腫瘍を意味する接尾辞である“-oma”から成り立っています。古代ギリシャの医師ヒポクラテスが、がんから指のように広がる腫瘍がカニの姿に見えることから、“karkinos”という言葉を使用したとされています。なお、肉腫を表す“sarcoma”の語源も同じくギリシャ語で、肉を意味する“sarks”と接尾辞の“-oma”を組み合わせてできた単語です。がんの歴史は古く、紀元前1,500年ごろのエジプトのパピルスに、乳がんの記述が見つかっており、これが現状では最古のがんの記録です。近代になるまで「がんの正体」は明らかになっていませんでしたが、解剖学や顕微鏡の発達によって、がんは細胞の異常増殖によって発生することが明らかになり、外科手術療法の確立などにつながりました。併せて覚えよう! 周辺単語腺がんadenocarcinoma扁平上皮がんsquamous cell carcinoma転移metastasis腫瘍学oncology生検biopsyこの病気、英語で説明できますか?Carcinoma is a type of cancer that begins in the epithelial cells, which are the layers of cells that cover the surfaces of the body, line internal organs and cavities, and form glands. Carcinomas can occur in many parts of the body, including the skin, lungs, breasts, pancreas, and other organs.講師紹介

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加糖飲料とうつ病リスク〜前向きコホート研究

 加糖飲料とうつ病リスクの遺伝的素因との関連性は、いまだ明らかとなっていない。中国・天津医科大学のYanchun Chen氏らは、加糖飲料、人工甘味飲料、天然ジュースとうつ病との関連を調査し、これらの関連が遺伝的素因により変化するかを評価した。General Psychiatry誌2024年7月17日号の報告。 ベースライン時のうつ病でない39〜72歳の一般集団18万599人を英国バイオバンクのデータより抽出した。加糖飲料、人工甘味飲料、天然ジュースの摂取量は、2009〜12年の24時間思い出し法(24-hour dietary recall)より収集した。うつ病の多遺伝子リスクスコアを推定し、低リスク(最低三分位)、中リスク(中間三分位)、高リスク(最高三分位)に分類した。ハザード比(HR)および95%信頼区間(CI)の算出には、Cox比例ハザードモデルおよびsubstitutionモデルを用いた。 主な結果は以下のとおり。・12年間のフォローアップ期間中にうつ病を発症した人は、4,915人であった。・加糖飲料と人工甘味飲料の摂取量が多い(1日当たり2単位超)人では、うつ病リスクの上昇が認められた。【加糖飲料】HR:1.26、95%CI:1.12〜1.43【人工甘味飲料】HR:1.40、95%CI:1.23〜1.60・天然ジュースの適度な摂取(1日当たり0〜1単位超)は、うつ病リスク低下と関連が認められた。【天然ジュース】HR:0.89、95%CI:0.83〜0.95・遺伝的素因により、これらの関連性に影響を及ぼさなかった(p interaction>0.05)。・substitution-モデルでは、1日当たり1単位の加糖飲料または人工甘味飲料を天然ジュースに変更することにより、うつ病リスクのHRはそれぞれ0.94(95%CI:0.89〜0.99)、0.89(95%CI:0.85〜0.94)へと低下することが示唆された。 著者らは「加糖飲料や人工甘味飲料の摂取量が多いとうつ病リスクは上昇し、天然ジュースの適度な摂取は、うつ病リスク低下と関連していた。理論的には、加糖飲料や人工甘味飲料を天然ジュースに変更することで、うつ病リスクが軽減されると考えられる」としている。

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尋常性乾癬へのグセルクマブ、投与間隔を16週ごとに延長可能か

 インターロイキン(IL)-23のp19サブユニットに結合し、IL-23の活性を阻害するグセルクマブを用いた尋常性乾癬の維持療法について、16週ごと投与は8週ごと投与に対して非劣性であることが、ドイツ・フライブルク大学のKilian Eyerich氏らによる海外第IIIb相二重盲検無作為化比較試験「GUIDE試験」で示された。慢性の炎症性皮膚疾患である乾癬には、個別化治療およびde-escalation治療戦略に関するアンメットニーズが存在する。試験結果を踏まえて著者は、「今回の試験は、2回の連続した診察時(20週時および28週時)に皮膚症状が完全に消失した患者において、グセルクマブの投与間隔を延長しても疾患活動性をコントロール可能であるとのエビデンスを示した初の無作為化比較試験となった」とまとめている。JAMA Dermatology誌オンライン版2024年7月31日号掲載の報告。 GUIDE試験は中等症~重症の尋常性乾癬患者を対象に、グセルクマブの早期介入と投与間隔の延長を評価する試験で、現在も進行中である。ドイツとフランスの80施設で行われており、「早期介入の影響」「投与間隔の延長」「治療中止後の有効性の維持」を評価する3パートで構成されている。 本論で報告されたのは投与間隔の延長を評価するパート2の結果で、最初の患者は2019年9月、最後の患者は2022年3月に受診した。 パート1(0週~28週)では、患者は0週時、4週時、12週時、20週時にグセルクマブ100mgの投与を受けた。このうち20週時と28週時にPsoriasis Area and Severity Index(PASI)スコア0を達成した患者をスーパーレスポンダー(SRe)とし、パート2(28週~68週)では、これらSReを8週ごとまたは16週ごとのグセルクマブ100mg投与群に無作為化した。非SReは、非盲検下で8週ごとにグセルクマブの投与を継続した。 試験の主要目的は、SReにおける疾患コントロール(68週時点でPASI<3)達成率(主要エンドポイント)について、16週ごと投与群の8週ごと投与群に対する非劣性(マージン10%)を検証することであった。バイオマーカーに関するサブスタディでは、皮膚および血液における免疫学的効果を評価した。 主な結果は以下のとおり。・パート2では、822例がグセルクマブの投与を受けた(SRe 297例[36.1%]、非SRe 525例[63.9%])。・SRe(8週ごと投与群148例、16週ごと投与群149例)は、平均年齢39.4(SD 14.1)歳、女性95例(32.0%)、男性202例(68.0%)であった。・主要エンドポイントの疾患コントロール達成率は、16週ごと投与群91.9%(137/149例、90%信頼区間:87.3~95.3)、8週ごと投与群92.6%(137/148例、88.0~95.8)であり、グセルクマブ16週ごと投与の8週ごと投与に対する非劣性が示された(非劣性のp=0.001)。・臨床的有効性は免疫学的変化と一致していた。CD8陽性組織常在型メモリーT細胞数はベースラインから速やかに減少し、両群ともに低値を維持していた。同様に、血漿中のIL-17A、IL-17F、IL-22、βディフェンシン2値もベースラインから有意に低下し、68週時点まで両群ともに低値を維持した。・グセルクマブの忍容性は良好であり、新たな安全性シグナルは確認されなかった。

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自己免疫疾患を有するがん患者、ICIによるirAEリスクは?

 自己免疫疾患を有するがん患者では、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の投与によって免疫関連有害事象(irAE)が発現する割合は高いものの、これらは軽度で管理可能であり、がんへの反応性には影響がなかったことを、米国・テキサス大学MDアンダーソンがんセンターのMaria A. Lopez-Olivo氏らが明らかにした。European Journal of Cancer誌2024年8月号掲載の報告。 自己免疫疾患を有するがん患者は、ICIのランダム化比較試験から除外されていることが多い。そこで研究グループは、自己免疫疾患の既往があり、ICIを投与されたがん患者を含む観察試験と非対照試験のシステマティックレビューおよびメタ解析を実施し、新規イベントや自己免疫疾患の再燃を含むirAEの発現率、irAEによる入院・死亡などを調査した。 研究グループは、5つの電子データベースを2023年11月まで検索した。研究の選択、データ収集、質の評価は2人の研究者によって独立して行われた。 主な結果は以下のとおり。・解析には、95件の研究から、がんおよび自己免疫疾患の既往を有する2万3,897例が組み込まれた。がん種で多かったのは肺がん(30.7%)、皮膚がん(15.7%)であった。・自己免疫疾患のある患者は、自己免疫疾患のない患者と比較して、irAEの発現率が高かった(相対リスク:1.3、95%信頼区間[CI]:1.0~1.6)。・すべてのirAEの統合発現率(自己免疫疾患の再燃または新規イベント)は61%(95%CI:54~68)で、自己免疫疾患の再燃は36%(95%CI:30~43)、新規のirAE発現は23%(95%CI:16~30)であった。・自己免疫疾患が再燃した患者の半数はGrade3未満であり、乾癬/乾癬性関節炎(39%)、炎症性腸疾患(37%)、関節リウマチ(36%)の患者で多かった。・irAEが発現した患者の32%は入院を必要とし、irAEの治療として72%にコルチコステロイドが用いられた。irAEによる死亡率は0.07%であった。・自己免疫疾患のある患者とない患者の間で、ICIに対するがんの反応性に統計的な有意差は認められなかった。 研究グループは「これらの結果から、ICIは自己免疫疾患を有するがん患者にも使用可能であることが示唆されるが、患者の3分の1以上が自己免疫疾患の再燃を経験したり、入院を必要としたりするため、注意深いモニタリングが必要である。これらの知見は、がん専門医がモニタリングと管理の戦略を改善し、ICI治療の利点を最大化しつつリスクを最小化するための重要な基盤となるものである」とまとめた。

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血液検査で多様な疾患の発症を予測可能か

 たった一滴の血液により何十もの疾患の発症を予測できるかもしれない。新たな研究で、血液中のタンパク質の「シグネチャー」を分析することで、血液がん、神経変性疾患、肺疾患、心不全を含む67種類の疾患を予測できる可能性が示された。英ロンドン大学クイーン・メアリー校、プレシジョンヘルスケア大学研究所のJulia Carrasco-Zanini氏らによるこの研究の詳細は、「Nature Medicine」に7月22日掲載された。 この研究は、UKバイオバンク製薬プロテオミクスプロジェクト(UK Biobank Pharma Proteomics Project;UKB-PPP)からランダムに選び出した4万1,931人の2,923種類に及ぶ血漿タンパク質のデータを用いたもの。Carrasco-Zanini氏らは、これらの血漿タンパク質のデータを対象者の電子カルテと関連付け、10年間での218種類の疾患の発症を予測する予測モデルを作成した。その上で、基本的な臨床情報のみを用いたモデル、あるいは基本的な臨床情報に37種類の臨床アッセイデータを組み合わせたモデルとこのモデルの疾患予測能を比較した。 その結果、5〜20種類のタンパク質のシグネチャーを含むスパースな予測モデルは、多発性骨髄腫、非ホジキンリンパ腫、運動神経障害、肺線維症、拡張型心筋症など67種類の疾患の発症を、基本的な臨床情報のみを用いたモデルよりも高い精度で予測できることが明らかになった。また、このモデルは、基本的な臨床情報と37種類の臨床アッセイデータを組み合わせたモデルよりも、上述の疾患を含む52種類の疾患の予測能が優れていた。 Carrasco-Zanini氏は、「われわれのタンパク質シグネチャーのいくつかは、前立腺がんの前立腺特異抗原(PSA)のようなスクリーニング検査にすでに実用化されているタンパク質と同等か、それ以上の予測能を示した」と話す。同氏は、「それゆえ、われわれはこれらのタンパク質シグネチャーが多くの疾患の早期発見、ひいては予後の改善に役立つ可能性を大いに期待している」とロンドン大学クイーン・メアリー校のニュースリリースの中で述べている。 論文の責任著者の1人である、製薬会社グラクソ・スミスクライン(GSK)の副社長兼ヒト遺伝学・ゲノム学部長であるRobert Scott氏は、「このような簡単な血液検査は、疾患の早期発見を改善するだけでなく、新薬の研究と開発に役立つ可能性もある。医薬品開発における重要な課題は、新薬の恩恵を最も受けそうな患者を特定することだ」と語る。また同氏は、血漿タンパク質をベースにした血液検査について、「さまざまな疾患においてリスクの高い患者を特定するのに利用でき、また、テクノロジーを利用してヒューマンバイオロジーと疾患に対する理解を深めようとするわれわれのアプローチに合致するものでもある」と述べている。 ただし研究グループは、今回の研究結果は、さまざまな民族や多様な疾患のさまざまなレベルの症状を持つ人など、異なる集団を対象に検証する必要があると述べている。

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マクロライドとキノロンを組み合わせたmacrolones、耐性菌に有望か

 2方向から同時に細菌を攻撃する抗菌薬が、薬剤耐性菌と闘うための解決策になるかもしれない。互いに異なる標的に作用する2種類の抗菌薬を組み合わせたmacrolonesと呼ばれる合成抗菌薬が、細菌のタンパク質合成の阻害とDNA複製の阻害という2つの異なる方法で細菌の細胞機能を破壊することが示された。米イリノイ大学シカゴ校(UIC)生物分子科学および薬学分野のAlexander Mankin氏らによるこの研究の詳細は、「Nature Chemical Biology」に7月22日掲載された。 Macrolonesは、広く使われている2種類の抗菌薬であるマクロライド系抗菌薬とフルオロキノロン系抗菌薬を組み合わせたものである。エリスロマイシンのようなマクロライド系抗菌薬は、細菌の細胞内にあるリボソームでのタンパク質合成を阻害し、シプロフロキサシンのようなフルオロキノロン系抗菌薬は、細菌がDNAを複製する際に必要とする酵素(DNAジャイレース、トポイソメラーゼIV)を標的にする。 今回の研究では、論文の共著者の1人でありUIC生物科学分野のYury Polikanov氏らの構造生物学を専門とする研究室と、Mankin氏らの薬学を専門とする研究室が、さまざまなmacrolonesの細胞内での作用を調べた。 Polikanov氏らはmacrolonesとリボソームの相互作用を調べた。その結果、macrolonesは従来のマクロライド系抗菌薬よりも強固にリボソームに結合し、マクロライド耐性の細菌株のリボソームも阻害することが示された。また、耐性遺伝子の活性化を引き起こすこともないことが確認された。 一方、Mankin氏らの研究室では、macrolonesがリボソームやDNAジャイレースのどちらを優先的に阻害するのかを、さまざまな投与量で調べた。その結果、いくつかの投与量でいずれかの標的を効果的に阻害することが示されたものの、低用量でリボソームとDNAジャイレースの両方に作用する、特に有望なmacrolonesが特定された。 Polikanov氏は、「基本的に同じ濃度で2つの標的を同時に攻撃することで、細菌による単純な遺伝的防御をほぼ不可能にすることができる」と話す。この点についてMankin氏は、「細菌がどちらか一方の標的に対して変異を起こしても(もう一方に対する変異を同時に起こすことはできないため)結果的に耐性を獲得することができないからだ」と説明している。 Polikanov氏は、「この研究の主な成果は、今後、進むべき方向性を明らかにしたこと、また、化学者に対しては、macrolonesが両方の標的を同時に攻撃するように最適化する必要があることを示した点だ」と述べている。

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英語で「代わりに来ました」は?【1分★医療英語】第144回

第144回 英語で「代わりに来ました」は?《例文1》Good morning, my name is Dr. Smith. I came to see you on behalf of Dr. Yamada while he's away at a conference. How can I assist you today?(おはようございます。スミスと申します。山田医師が学会に出席しているので、代わりに診察に来ました。本日はどうされましたか?)《例文2》Dr. Johnson is here on behalf of Dr. Tanaka to discuss your test results.(ジョンソン先生が田中先生の代わりにあなたの検査結果についてお話しします)《解説》“on behalf of”は、「ほかの医師の代わりに診察を行う」際に使用できる丁寧な表現です。“on behalf of”は「〜の代わりに」「〜を代表して」という意味を持ち、比較的フォーマルな場面で使用されます。この表現は、ビジネスや法律の分野でも頻繁に使用されますが、医療現場においても適切な表現だといえるでしょう。「代表して」というニュアンスがあるので、たとえば、“I would like to thank you on behalf of my team.”(チームを代表して、私がお礼を申し上げたいです)といったようにも使えます。医療現場では急な代診や担当医の変更など、予期せぬ状況が発生することがあります。そのような場面で“on behalf of”を使用することで、専門的かつ丁寧に状況を説明することができます。なお、このような代診のシチュエーションでは、以前に扱った“fill in for”も“I'm filling in for Dr. Yamada today.”のように使えますので、そちらのフレーズとセットで覚えておいていただくとよいでしょう。講師紹介

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腎盂腎炎のときによく使う抗菌薬セフトリアキソンを極める!【とことん極める!腎盂腎炎】第6回

腎盂腎炎のときによく使う抗菌薬セフトリアキソンを極める!Teaching point(1)セフトリアキソンは1日1回投与が可能で、スペクトラムの広さ、臓器移行性のよさ、腎機能での調整が不要なことから、腎盂腎炎に限らず多くの感染症に対して使用される(2)セフトリアキソンとセフォタキシムは、スペクトラムがほぼ同じであるが、投与回数の違い、腎機能での調整の有無の違いがある(3)セフトリアキソンは利便性から頻用されているが、効かない菌を理解し状況に合わせて注意深く選択する必要があることや、比較的広域な抗菌薬で耐性化対策のために安易に使用しないことに注意する(4)セフトリアキソンは、1日1回投与の特徴を活かして、外来静注抗菌薬療法(OPAT)に使用される1.セフトリアキソンの歴史セフトリアキソンは、1978年にスイスのF. Hoffmann-La Roche社のR. Reinerらによって既存のセファロスポリン系薬よりさらに強い抗菌活性を有する新しいセファロスポリンの研究開発のなかで合成された薬剤である。特徴としては、強い抗菌活性と広い抗菌スペクトラムならびに優れたβ-ラクタマーゼに対する安定性を有し、かつ既存の薬剤にはない独特な薬動力学的特性をも兼ね備えている。血中濃度半減期が既存のセファロスポリンに比べて非常に長く、組織移行性にも優れるため、1日1回投与で各種感染症を治療し得る薬剤として、広く使用されている。わが国においては、1986年3月1日に製造販売承認後、1986年6月19日に薬価基準収載された。海外では筋注での投与も行うが、わが国においては2024年8月時点では、添付文書上は認められていない。2.特徴セフトリアキソンは、セファゾリン、セファレキシンに代表される第1世代セファロスポリン、セフォチアムに代表される第2世代セファロスポリンのスペクトラムから、グラム陰性桿菌のスペクトラムを広げた第3世代セファロスポリンである。多くのセファロスポリンと同様に、腸球菌(Enterococcus属)は常に耐性であることは、同菌が引き起こし得る尿路感染や腹腔内感染の治療を考える際には重要である。その他、グラム陽性球菌としては、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)に耐性がある。グラム陰性桿菌は、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、Stenotrophomonas maltphilia、偏性嫌気性菌であるBacteroides fragilisはカバーせず、アシネトバクター・バウマニ(Acinetobacter baumannii)も感受性があることが少ない。ESBL(extended-spectrum β-lactamase:基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ)産生菌やAmpC過剰産生菌といった耐性菌に対しては感受性がない。グラム陽性桿菌は、リステリア(Listeria monocytogenes)をカバーしない。血漿タンパク結合率が85~95%と非常に高く、半減期は健康成人で8時間程度と長いため、1日1回投与での治療が可能な抗菌薬となる。タンパク結合していない遊離成分が活性をもつ。そのため、重症患者ではセフトリアキソンの実際のタンパク結合は予想されるより小さいとされているが1)、その臨床的意義は現時点では不明である。排泄に関しては、尿中排泄が緩徐であり、1gを投与12時間までの尿中には40%、48時間までには55%の、未変化体での排泄が認められ、残りは胆汁中に、血清と比較して200~500%の濃度で分泌される。水溶性ではあるが、胸水、滑液、骨を含む、組織や体液へ広く分布し、髄膜に炎症あれば脳脊髄移行性が高まり、高用量投与で髄膜炎治療が可能となるため、幅広い感染症に使用される。3.腎盂腎炎でセフトリアキソンを選択する場面は?腎盂腎炎の初期抗菌薬治療は、解剖学的・機能的に正常な尿路での感染症である「単純性」か、それ以外の「複雑性」かを分類し、さらに居住地域や医療機関でのアンチバイオグラム、抗菌薬使用歴、過去の培養検査での分離菌とその感受性結果を踏まえて抗菌薬選択を行う。いずれにしても腎盂腎炎の起因菌は、主に腸内細菌目細菌(Enterobacterales)となり、大腸菌(Escherichia coli)、Klebsiella属、Proteus mirabilisが主な起因菌となる2)。セフトリアキソンは一般的にこれらをすべてカバーするため、多くのマニュアルにおいて第1選択とされている。しかし、忘れられがちであるが、セフトリアキソンは比較的広域な抗菌薬であり、これらの想定した菌の、その地域でのアンチバイオグラム上のセファゾリンやセフォチアムの耐性率が低ければ、1日1回投与でなければいけない事情がない限り、後述の耐性化のリスクや注意点からも、セファゾリンやセフォチアムといった狭域の抗菌薬を選択すべきである。アンチバイオグラムを作成していない医療機関での診療の場合は、厚生労働省院内感染対策サーベイランス事業(Japan Nosocomial Infections Surveillance:JANIS)の都道府県別公開情報3)や、国立研究開発法人国立国際医療研究センター内のAMR臨床リファレンスセンターが管理する感染対策連携共通プラットフォーム(Japan Surveillance for Infection Prevention and Healthcare Epidemiology:J-SIPHE)の公開情報4)を参考にする。国内全体を見た場合にはセファゾリンに対する大腸菌の耐性率は高く、多くの施設において使用しづらいのは確かである。一方で、セフトリアキソンは、前述の通り耐性菌である、ESBL産生菌、AmpC過剰産生菌、緑膿菌はカバーをしないため、これらを必ずカバーをする必要がある場面では使用を避けなければいけない。4.セフトリアキソンとセフォタキシムとの違いは?同じ第3世代セファロスポリンである、セフトリアキソンとセフォタキシムは、スペクトラムがほぼ同じであり、使い分けが難しい薬剤ではあるが、2剤の共通点・相違点について説明する。セフトリアキソンとセフォタキシムとのスペクトラムについては、尿路感染症の主な原因となる腸内細菌目細菌に対してのスペクトラムの違いはほとんどなく、対象菌を想定しての使い分けはしない。2剤の主な違いは、薬物速度、排泄が大きく異なる点である。セフォタキシムは投与回数が複数回になること、主に腎排泄であり腎機能での用法・用量の調整が必要であり、利便性からはセフトリアキソンのほうが優位性がある。しかし、セフトリアキソンが胆汁排泄を介して便中に排出され、腸内細菌叢を選択するためか5)、セフォタキシムと比較し、腸内細菌の耐性化をより誘導する可能性を示す報告が少なからずある6,7)。そのため、投与回数や腎機能などで制限がない限り、セフトリアキソンよりセフォタキシムの使用を優先するエキスパートも存在する。5.投与量論争? 1gか2gかサンフォード感染症治療ガイドでは、化膿性髄膜炎を除く疾患では通常用量1〜2g静注24時間ごと、化膿性髄膜炎に対しては2g静注12時間ごと、Johns Hopkins ABX guidelineでは、化膿性髄膜炎を除く通常用量1〜2g静注もしくは筋注24時間ごと(1日最大4mg)での投与と記載されている。米国での集中治療室における中枢神経感染症のない患者でのセフトリアキソン1g/日と2g/日を後方視的に比較評価した研究において、セフトリアキソン1g/日投与患者で、2g/日投与患者より高い治療失敗率が観察された8)。腎盂腎炎ではないが、非重症市中肺炎患者を対象としたシステマティックレビュー・メタアナリシスでは、1g/日と2g/日の直接比較ではないが、同等の効果が期待できる可能性が示唆された9)。日本における全国成人肺炎研究グループ(APSG-J)という多施設レジストリからのデータを用いたpropensity score-matching研究において、市中肺炎に対するセフトリアキソン1g/日投与は2g/日と比較し、非劣性であった10)。以上から、現時点で存在するエビデンスからは、重症患者であれば、2g/日投与が優先され、軽症の肺炎やセフトリアキソンの移行性のよい臓器の感染症である腎盂腎炎であれば、1g/日も許容されると思われるが、1g/日投与の場合は、慎重な経過観察が必要と考える。6.セフトリアキソン使用での注意点【アレルギーの考え方】セファロスポリン系では、R1側鎖の類似性が即時型・遅延型アレルギーともに重要である11)。ペニシリン系とセファロスポリン系は構造的に類似しているが、分解経路が異なり、ペニシリン系は不完全な中間体であるpenicilloylが抗原となるため、ペニシリン系アレルギーがセファロスポリンアレルギーにつながるわけではない。セフトリアキソンは、セフォタキシム、セフェピムとR1で同一の側鎖構造(メトキシイミノ基)を有するため、いずれかの薬剤にアレルギーがある場合は、交差アレルギーが起こり得るので、使用を避ける。ただし、異なるR1側鎖を有する複数のセファロスポリン系にアレルギーがある場合は、β-ラクタム環が抗原である可能性があり、β-ラクタム系薬以外の抗菌薬を選択すべきである。【胆泥、偽性胆道結石症】小児で問題になることが多いが、セフトリアキソンは胆泥を引き起こす可能性があり、高用量での長期使用(3週間)により胆石症が報告されている。胆汁排泄はセフトリアキソンの排泄の40%までを占め、胆汁中の薬物濃度は血清の200倍に達することがある12,13)。過飽和状態では、セフトリアキソンはカルシウムと錯体を形成し、胆汁中に沈殿する。この過程は、経腸栄養がなく胆汁の停留がある集中治療室患者では、増強される可能性がある。以上から、重症患者、高用量や長期使用の際には、胆泥、胆石症のリスクになると考えられるため、注意が必要である。【末期腎不全・透析患者とセフトリアキソン脳症】脳症はセフトリアキソンの副作用のなかではまれであるが、報告が散見される。セフトリアキソンによる脳症の病態生理的メカニズムは完全には解明されていないが、血中・髄液中のセフトリアキソン濃度が高い場合に、β-ラクタム系抗菌薬による中枢神経系における脳内γ-アミノ酪酸(GABA)の競合的拮抗作用および興奮性アミノ酸濃度の上昇により、脳症が引き起こされると推定されている。セフトリアキソン関連脳症の多くは腎障害を伴い、患者の半数は血液透析または腹膜透析を受けていることが報告され、これらの患者のほとんどは、1日2g以上のセフトリアキソンを投与されていた14)。セフトリアキソンの半減期は、血液透析患者では正常腎機能患者と比較し、8~16時間と倍増することが判明しており15)、透析性の高いほとんどのセファロスポリンとは異なり、セフトリアキソンは血液透析中に透析されない14)。以上から、末期腎不全患者の血中および髄液中のセフトリアキソン濃度が高い状態が持続する可能性がある。サンフォード感染症治療ガイドやJohns Hopkins ABX guidelineなど、広く使われる抗菌薬ガイドラインでは、末期腎不全におけるセフトリアキソンの減量については言及されておらず、一般的には腎機能低下患者では投与量の調節は必要ないが、末期腎不全患者ではセフトリアキソンの減量を推奨するエキスパートも存在する。また1g/日の投与量でもセフトリアキソン脳症となった報告もあるため16)、長期投与例で、脳症を疑う症例があれば、その可能性に注意を払う必要がある。7.外来静注抗菌薬療法(OPAT)についてOPATはoutpatient parenteral antimicrobial therapyの略称で、外来静注抗菌薬療法と訳され、外来で行う静注抗菌薬治療の総称である。外来で点滴抗菌薬を使用する行為というだけではなく、対象患者の選定、治療開始に向けての患者教育、治療モニタリング、治療後のフォローアップまでを含めた内容となっている。OPATという名称がまだ一般的ではない国内でも、セフトリアキソンは1日1回投与での治療が可能という特性から、外来通院や在宅診療でのセフトリアキソンによる静注抗菌薬治療は行われている。外来・在宅でのセフトリアキソン治療は、本薬剤による治療が最も適切ではあるものの、全身状態がよく自宅で経過観察が可能で、かつアクセスがよく連日治療も可能な場合に行われる。OPATはセフトリアキソンに限らず、インフュージョンポンプという持続注射が可能なデバイスを使用することで、ほかの幅広い薬剤での外来・在宅治療が可能となる。詳細に関しては、馳 亮太氏(成田赤十字病院/亀田総合病院感染症内科)の報告を参考にされたい17)。1)Wong G, et al. Antimicrob Agents Chemother. 2013;57:6165-6170.2)原田壮平. 日本臨床微生物学会雑誌. 2021;31(4):1-10.3)厚生労働省院内感染対策サーベイランス事業:道府県別公開情報.4)感染対策連携共通プラットフォーム:公開情報.5)Muller A, et al. J Antimicrob Chemother. 2004;54:173-177.6)Tan BK, et al. Intensive Care Med. 2018;44:672-673.7)Grohs P, et al. J Antimicrob Chemother. 2014;69:786-789.8)Ackerman A, et al. Antimicrob Agents Chemother. 2020;64:e00066-20.9)Telles JP, et al. Expert Rev Anti Infect Ther. 2019;17:501-510.10)Hasegawa S, et al. BMC Infect Dis. 2019;19:1079.11)Castells M, et al. N Engl J Med. 2019;381:2338-2351.12)Arvidsson A, et al. J Antimicrob Chemother. 1982;10:207-215.13)Shiffman ML, et al. Gastroenterology. 1990;99:1772-1778.14)Patel IH, et al. Antimicrob Agents Chemother. 1984;25:438-442.15)Cohen D, et al. Antimicrob Agents Chemother. 1983;24:529-532.16)Nishioka H, et al. Int J Infect Dis. 2022;116:223-225.17)馳 亮太ほか. 感染症学雑誌. 2014;88:269-274.

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1日も早く自宅に帰りたい-入院中に生じる廃用症候群/転倒を防ぐには?【こんなときどうする?高齢者診療】第4回

CareNeTVスクール「Dr.樋口の老年医学オンラインサロン」で2024年7月に扱ったテーマ「転倒予防+α」から、高齢者診療に役立つトピックをお届けします。転倒・廃用症候群の予防は、入院・外来を問わず高齢者診療に欠かせません。その背景と介入方法を症例から考えてみましょう。90歳女性。 既往症は高血圧、膝関節症。認知機能は保たれている。バルサルタンとアセトアミノフェンを服用。独居でADL/IADLはほぼ自立。買い物で重いものを運ぶのは難しいと感じている。3日前からの排尿痛と発熱で救急受診。急性腎盂腎炎の診断。入院して抗菌薬による治療を開始。本人は1日も早く帰宅し、自宅での自立生活を再開したいと希望している。原疾患の治療に加えて、自立生活を再開できる状態を作ることが入院中の治療・ケアのゴールになりますが、入院中に著しい身体機能低下を来す患者は少なくないのが実情ではないでしょうか。入院が高齢者に及ぼす影響まず、その背景を確認しましょう。入院中の高齢者は87~100%の時間をベッド上で過ごすといわれています1)。入院期間のほとんどがベッド上での生活となれば、当然、身体活動量は低下します。その他に、慣れ親しんだ自宅と異なる環境により、睡眠障害や口に合わない食事などで食欲不振、栄養不良に陥ることも珍しくありません。これらが引き金になり、筋肉量や有酸素能力が低下したり、歩行に必要な体のバランス機能や認知機能などが低下したりします。ちなみに、20~30代をピークに筋肉量の減少が始まることが多く、有酸素運動能力は25歳を過ぎると10年ごとに約10%減少していくともいわれています2-5)。加齢に伴う変化としての身体機能低下に、入院による負の変化が加わることで、廃用症候群のリスクが極めて高くなるのです。さらに悪いことに、こうした機能低下によって転倒をきっかけに入院した高齢患者が退院後6カ月以内に転倒する割合は約40%。そのうち15%は転倒により再入院に至るという研究もあります1)。そのほかに施設入所の増加、フレイルの悪化、ひいては死亡率の上昇などが生じます。急性疾患の治療を目的とした入院自体が機能低下の悪循環に入る原因になってしまうのです。入院中に生じる廃用症候群・転倒の悪循環を止めるには?このことから、身体機能低下を予防することは原疾患の治療と並ぶ重要な介入であることがわかると思います。ここからは、入院中の機能低下を最小限に抑えて、可能な限り身体機能を維持または強化し、患者の「家に帰りたい」という願いを叶える方法を探りましょう。まずアセスメントです。ここでは、簡単にできる機能評価・簡易転倒リスクのスクリーニング方法を2つ紹介します。1つめは、以下に挙げる4つの質問を使う方法です。(1)ベッドや椅子から自分で起き上がれますか?(2)自分で着替えや入浴ができますか?(3)自分で食事の準備ができますか?(4)自分で買い物ができますか?1つでも「いいえ」がある場合は、より詳しい問診やリハビリテーションチームに機能評価を依頼するなど、詳細な評価を検討します。また同時に、視力や聴力の程度、過去1年の転倒歴、歩行や転倒に関しての本人の不安なども、転倒リスクを見積もるために有用な質問です。2つめは、TUG(Timed up and Go)テストです。椅子から立ち上がって普通の速度で3m歩いてもらい、方向を変えて戻ってくるまでにかかる時間を計ります。10秒未満で正常、20秒未満でなんとか移動能力が保たれた状態、30秒未満では歩行とバランスに障害があり補助具が必要な状態と判断します。入院患者のアセスメントでは、15秒以上かかる場合は理学療法士に詳しいアセスメントや助言を求めるとよいでしょう。医師が押さえておくべき運動処方の原則さて、患者の状態を把握できたら次はどのような運動介入を行うかです。ここでは、「歩行のみ」のトレーニングはかえって転倒のリスクを高めるということを覚えておきましょう。転倒予防やADLの維持をサポートするには、筋力トレーニング、有酸素運動、バランストレーニング、歩行/移動トレーニングなどの複数の運動療法を組み合わせて、バランスよく総合的に鍛えることが重要です。そのほかにも関節可動域訓練などさまざまな訓練がありますから、患者の状態に合わせてリハビリテーションチームと共に計画を立ててみましょう。 外来での転倒予防のポイントはオンラインサロンでサロンでは外来患者のケースで、転倒リスクになる薬剤や外来でのチェックポイントや介入のコツを解説しています。また、サロンメンバーからの質問「高齢患者に運動を続けてもらうコツ」について、樋口先生はもちろん、職種も働くセッティングも異なるサロンメンバーが経験を持ち寄り、よりよい介入方法をディスカッションしています。参考1)Faizo S, et al. Appl Nurs Res. 2020:51:151189.2)Janssen I, et al.J Appl Physiol (1985). 2000;89:81-88.3)Mitchell WK, et al. Front Physiol. 2012 Jul 11:3:260.4)Hawkins S, et al. Sports Med. 2003;33:877-888.5)Kim CH, et al. PLoS One. 2016;11:e0160275.

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小児科「小児の発熱」【臨床実習を味わうケアネット動画Café】第7回

動画解説臨床研修サポートプログラムの研修医のための小児科ベーシックより、遠藤周先生と 西﨑直人先生の「小児の発熱」を鑑賞します。成人とは異なる鑑別方法で診なければならない小児。実習に入る前に注意点を把握しておきましょう!

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