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第232回 医学研究における国内受賞者の“ある共通点”、ノーベル賞から考えたこと

ここ2週間ほどのニュースの中心は、衆院解散と来たる総選挙が多くを占めている。渦中の新首相・石破 茂氏は、首相就任後、その言動の変節が話題となっている。その1つが選択的夫婦別姓を巡る問題である。総裁選中は「選択的なのだから否定する理由はない」としていたが、10月8日の参院代表質問では「夫婦の氏に関する具体的な制度のあり方については、国民の間にさまざまな意見があるものと承知している。 家族の在り方の根幹に関わる問題でもある。政府といたしましては国民の意見や国会における議論の動向を踏まえ、必要な検討を行いたい」と賛否すら明示しない官僚答弁に終始した。さてこのジェンダー問題は医学界でも長年指摘されてきた。昨今のわかりやすい事例を挙げるならば、東京医大をはじめとする複数の医学部で発覚した入試の女性差別問題である。もちろんこうしたことは氷山の一角に過ぎないだろう。そもそもパワハラ、アカハラ、セクハラなどの各種ハラスメントに対する認識が社会に定着し始めたのは、まだ最近のことだからだ。そしてちょうどこの時期、ノーベル賞各賞の受賞者が発表されたが、生理学・医学賞に着目してみると、創設以来の受賞者229人のうち女性受賞者は今年までで13人、全体の5.7%とかなり少ない。実はこれでもノーベル賞の自然科学系各賞の中では最も多い。ちなみに医学界では名高いアルバート・ラスカー医学研究賞(全4部門)の今年までの女性受賞比率は8.3%である。もちろん工学、農学、医学などを含む広義の自然科学系の研究に女性が進出した歴史はまだ浅いと言わざるを得ないことを鑑みれば、少なくとも現時点での世界標準の医学関連賞の女性受賞比率は一桁後半が妥当なのだろう。そうした中で南ドイツのエバーハルト・カール大学テュービンゲンの生化学研究所で創薬を研究する秤谷 隼世(はかりや はやせ)氏らが今年9月に「Health Science Report」に発表した「Gender disparities among prestigious biomedical award recipients in Japan: A cross sectional study(日本の権威ある生物医学賞受賞者での男女格差:横断的研究)」1)の内容が興味深い。秤谷氏が調べた医学賞とその結果研究は医学・生物医学系の研究に与えられる武田医学賞(創設1954年)2)、上原賞(同1985年)3)、慶應医学賞(同1996年)4)の受賞者を対象に行っている。「なぜこの3賞?」と思う人も少なくないだろう。これは論文に理由が記載されている。まず、これらがいずれも創設以来の受賞者全員の身元が公開されていること。武田医学賞は歴史が長く、慶應医学賞は国内と海外各1名が毎年選出されるため、国内受賞者と海外受賞者の男女比を比較できること、上原賞は前記2つの賞の中間的年代に設立されたためとしている。また、賞としては有名でも人文科学、社会科学、自然科学のさまざまな分野から候補者が入る賞に関しては、医学・生物医学領域での潜在的なバイアスと区別するため除外された。結論から言うと、この3賞内の重複受賞者、慶應医学賞の海外研究者部門を除く2023年までの国内総受賞者182人のうち女性は2人のみ。全受賞者に占める女性受賞比率はたった1.1%。なんという低さだろう。しかも、慶應医学賞の海外研究者部門の女性受賞比率は11.1%なのにだ。しかし、論文内の記述で私がもっとも驚いたのは初の女性受賞者が2015年の武田医学賞とごく最近だったこと。残る1人も武田医学賞の受賞者だ。論文内では、各賞の全受賞者の最終学位(博士号)取得から受賞までの平均年数を26~30年と算出している。ちなみにこの数字は慶應医学賞の海外研究者部門は32年、2023年までのラスカー受賞者は30年である。つまるところ日本人研究者も外国人研究者も博士号取得から受賞できるような実績を示すまでに要する時間はほぼ同じであり、女性受賞率が慶應医学賞海外研究者部門やラスカー賞に比べ、これら3賞では極端に低いことには日本特有の原因があると推察される。論文ではその一因として女性研究者の博士号取得者の少なさがあるのではないかと推定している。カギとなるのは前述のように博士号取得から受賞まで30年前後という期間を考慮した約30年前の女性研究者の博士号取得実態。論文内では1995年の自然科学分野の博士号取得者に占める女性割合は、日本が15.6%に対してアメリカが41.1%と報告しているもっとも論文では、より直近の2014〜23年に限定して国内3賞の女性受賞比率を算出しても3.8%に過ぎず、1995年時点の博士号取得者の女性比率から見てもかなり低いことに疑問を呈している。そこでもう1つの要因として推定しているのが3賞の選考過程である。選考委員名が完全に公開されている慶應医学賞の選考委員男女比は、最新の2023年が男性12人、女性4人だったが、2021年時点では男性12人、女性1人。いずれにせよ男女比が極めて不均衡である。また、武田医学賞と上原賞は、候補者選定時に、ほぼ男性のみである過去の受賞者からの推薦が可能となっている。無意識に意識した受賞者像このようなことから、論文では今回わかった国内3賞の女性受賞比率が著しく低い点について、アンコンシャス・バイアス(無意識な偏見)が働いていたのではないかとの考察を示している。ちなみにアンコンシャス・バイアスの傍証として、武田医学賞では受賞資格に国籍は問わないとしているにもかかわらず、過去の受賞者に外国人がいないことも挙げている。ざっくりまとめるならば、日本人男性社会の典型とも言えた医学界では、医学関連賞の候補者、受賞者の決定時に無意識に「日本人男性」を選出していたのではないかというわけだ。この指摘に対しては「いや、ちょっとジェンダー問題に偏り過ぎな見方では?」との声もあるかもしれない。しかし、私はこの論文の指摘には一理ありと思っている。まず、今回の論文を読んでふと私の頭に浮かんで参照したのがドイツのベーリンガーインゲルハイムの日本法人・日本ベーリンガーインゲルハイムが主催している卓越した医学研究論文に贈られるベルツ賞である。というのも前述の論文で分析対象となった武田医学賞、上原賞は、それぞれ日本を起源とする武田薬品、大正製薬の関連財団が主催している。内外差が見えてくるのではないかと考えたのだ。ベルツ賞創設は1964年と歴史は古い。前述の3賞と決定的に違うのは、毎年あらかじめ決めたテーマで公募する点だ。また、受賞者は論文共著者も含まれる。ざっと過去からの受賞者を眺めまわすと、極めて懐かしいご重鎮の名前があちこちに登場する。さてこの受賞者一覧5)を眺めまわし、明らかに女性とわかる名前を拾い上げて算出した女性受賞比率は3.8%。前述の3賞よりも明らかに高い。しかも、最も早い時期では1970年代に女性受賞者がいる。この違いはやはりドイツと日本の国情や文化ではないだろうか? 「それこそアンコンシャス・バイアスでは?」と言われそうだが、ドイツのほうが社会としてジェンダー問題の解消面で日本の一歩先を行っていることに異論がある人はいないだろう。この点の“傍証”とも言える事実もある。ベルツ賞の選考委員は賞創設時から公開されているのだが、その多くは古き良き(悪しき?)日本を代表する男性のご重鎮ばかり。だが、1つ異なるのは創設時から日本法人トップの外国人が加わっていた点である。ちなみに近年のベーリンガー日本法人はトップが日本人だった時期もあり、その時期は彼ら(2人)が選考に参加している。しかし、ともに外資系を渡り歩いてきたことで有名な人である。こうした点からもドイツ・日本、あるいは内外のジェンダーに関する認識の違いが影響している可能性は否定できない。グローバル化で医学賞にも変化そして今回の論文で唯一の女性受賞者がいた武田医学賞だが、最初の受賞者が2015年と知って前述のように驚いた反面、この時期にハッとした。ご存じのように同賞の大元の母体と言ってよい武田薬品は、浪花商人のコテコテ内資製薬企業から海外進出を果たし、2008年には米・ミレニアム社、2011年にはスイス・ナイコメッド社を買収して、本格的なグローバル化へと突き進んだ。2014年には創業以来初の外国人社長であるクリストフ・ウェバー氏が就任し、2019年には約7兆円もの巨額の資金を投じてアイルランドのシャイアー社を買収して、メガファーマ入りした。実は2008年のミレニアム社買収後、武田は元ミレニアム社長のデボラ・ダンサイア氏を初の女性取締役に迎え、2015年にはウェバー氏の下で組織された経営陣グループ「武田エグゼクティブチーム」に初めて女性のラモナ・セケイラ氏(現同社グローバル ポートフォリオ ディビジョン プレジデント)を迎えている。ちなみにセケイラ氏は、大学で分子遺伝子学と分子生物学を学んでいる。要は国を超えた感覚が移入されたことは、武田医学賞にも間接的に変化をもたらしたのではないかと私は勝手ながら推察している。となるとこの医学界でのジェンダー問題解決には“黒船到来”が必要ということなのか? いや、もうそんな悠長なことを言っていたら、それこそ日本沈没だと思うのだが。参考1)Hakariya H, et al. Health Sci Rep. 2024;7:e70074.2)武田医学賞:歴代受賞者一覧3)上原記念生命科学財団:これまでの上原受賞者4)慶應義塾医学進行基金:慶應医学賞受賞者一覧5)ベルツ賞:過去の受賞者

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男性乳がんの病理学的特徴と生存期間

 男性の乳がんは女性の乳がんと同様の治療戦略で管理されている。今回、中国・空軍軍医大学西京病院のMeiling Huang氏らは、自施設における男性乳がんの臨床病理学的特徴、治療、生存期間について後ろ向きに分析・報告した。American Journal of Men's Health誌2024年9・10月号に掲載。 本研究は2006年8月~2024年3月に西京病院に入院した男性乳がん患者66例を対象とした。データは病院記録と西京病院の乳がんデータベースから収集した。 主な結果は以下のとおり。・男性乳がんの罹患率は2018年から増加傾向にあり、女性乳がん患者よりも高齢であった。・最も多い組織型は浸潤がんで、ホルモン受容体陽性であった。・計62例(93.9%)に修正根治的乳房切除術が施行されていた。・化学療法は39例(59.1%)、内分泌療法は14例(21.2%)、放射線療法は9例(13.6%)に施行されていた。・全生存期間中央値は46.7ヵ月(0.9~184.8ヵ月)で、最新データでは58例(87.9%)が生存している。・生存期間と有意に関連する因子は、年齢(χ2=3.856、p=0.050)、エストロゲン受容体(χ2=10.427、p=0.005)、分子タイプ(χ2=10.641、p=0.031)、p63(χ2=2.631、p<0.001)、内分泌療法(χ2=31.167、p<0.001)であった。 著者らは「これらの結果は男性乳がんに関する貴重な知見を提供し、標準治療の参考となる」としている。

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金融詐欺に遭うのはアルツハイマー病の初期兆候?

 金融詐欺に引っかかりやすくなっている高齢者では、アルツハイマー病発症の高リスクと関連付けられている脳領域に変化が生じている可能性のあることが、新たな研究で明らかになった。論文の上席著者である、米南カリフォルニア大学心理学および家庭医学教授のDuke Han氏は、「高齢者の金銭的搾取に対する脆弱性を評価することは、軽度認知障害やアルツハイマー病などの認知症の初期段階にある人の特定に役立つ可能性がある」と述べている。この研究の詳細は、「Cerebral Cortex」9月号に掲載された。 米国のアルツハイマー病の患者数は700万人近くに上り、アルツハイマー病は65歳以上の成人における死因としては5番目に多い。米アルツハイマー病協会によると、2024年だけでアルツハイマー病にかかる医療費は3600億ドル(1ドル140円換算で50兆4000億円)に達すると推定されている。 Han氏らは今回、高性能MRIを用いて、認知障害の明らかな兆候は認められない52〜83歳の試験参加者97人の脳を調査し、初期のアルツハイマー病と金銭的搾取に対する脆弱性の関連を検討した。MRIでは、脳の「嗅内皮質」に焦点が当てられた。嗅内皮質は、学習や記憶を司る海馬と、感情や動機付けなどの認知機能を調整する内側前頭前皮質の間の中継点として機能する脳領域であるが、アルツハイマー病において最初に変化が現れる部分でもあり、通常、病気の進行とともに菲薄化していくことが知られている。さらに、「Perceived Financial Exploitation Vulnerability Scale(PFVS)」と呼ばれる標準化されたツールを用いて、参加者の金銭的な認識力や金銭に関わる不適切な判断に対する脆弱性(財務的搾取脆弱性〔financial exploitation vulnerability;FEV〕)を評価した。 Han氏らが、FEVと嗅内皮質の厚さを比較した結果、金融詐欺に遭いやすい人ほど、嗅内皮質の薄いことが明らかになった。この結果は、特に70歳以上の人で顕著だった。 過去の研究では、FEVは軽度認知障害、認知症およびアルツハイマー病と関連する脳内の分子レベルの変化と関連付けられている。Han氏は、「過去の研究結果を踏まえて実施された本研究結果は、FEVが、高齢者の認知機能の変化を見つけ出すための新たな臨床ツールになり得るという考えを支持する重要なエビデンスとなるものだ」との見方を示している。さらに同氏は、「金銭的搾取に対する脆弱性だけが、アルツハイマー病やその他の認知機能低下の決定的な指標となるわけではない。しかし、FEVの評価は、さまざまなリスクプロファイルの一部となり得る」と付け加えている。 その一方でHan氏は、本研究は嗅内皮質の厚さとFEVとの関連を示したが、因果関係を証明するものではない点も強調している。同氏は、より多様な人を対象に、より長期的に追跡する研究を実施して、FEVが認知機能の評価において信用できるツールとなり得るかを検討する必要があるとしている。

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脳梗塞発症後4.5時間以内、tenecteplase vs.アルテプラーゼ/JAMA

 発症後4.5時間以内の静脈内血栓溶解療法が適応となる急性虚血性脳卒中患者において、90日後の機能的アウトカムに関してtenecteplaseはアルテプラーゼに対して非劣性であることが認められ、安全性プロファイルも同様であった。中国・National Clinical Research Center for Neurological DiseasesのXia Meng氏らが、同国の55施設で実施した無作為化非盲検(評価者盲検)第III相非劣性試験「ORIGINAL試験」の結果を報告した。tenecteplaseはアルテプラーゼの遺伝子組み換え体で、フィブリン特異性が高く半減期が長いことから、単回ボーラス投与が可能である。tenecteplaseはアルテプラーゼと比較して、90日後の機能的アウトカム、死亡率、症候性頭蓋内出血の発生率が同等であることが報告されているが、中国人の急性虚血性脳卒中患者に対するtenecteplase 0.25mg/kgの有効性に関するエビデンスは限られていた。著者は、「本試験の結果は、脳梗塞発症後4.5時間以内の静脈内血栓溶解療法として、tenecteplaseはアルテプラーゼに代わる適切な治療法であることを支持するものである」とまとめている。JAMA誌オンライン版2024年9月12日号掲載の報告。90日後のmRSスコア0または1の割合を比較 研究グループは、脳卒中重症度評価スケール(NIHSS)スコアが1~25で測定可能な神経学的欠損を有し、症状が30分以上持続しており、症状発現後4.5時間以内の18歳以上の急性虚血性脳卒中患者を、tenecteplase(0.25mg/kg静注)群とアルテプラーゼ(0.9mg/kg静注)群に1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要アウトカムは、90日時に修正Rankinスケール(mRS)スコア0または1を達成した患者の割合で、非劣性マージンはリスク比(RR)の95%信頼区間(CI)の下限が0.937とした。安全性アウトカムは、試験薬投与終了後36時間以内の症候性頭蓋内出血、90日以内の全死亡、90日時のmRSスコア5または6であった。 2021年7月14日~2023年7月14日に1,504例がスクリーニングされ、このうち1,489例が無作為化された(tenecteplase群744例、アルテプラーゼ群745例)。tenecteplaseの非劣性を検証、症候性頭蓋内出血および90日全死亡は同等以下 1,489例のうち、治療を受けなかった21例と、無作為化手続き完了前に治療を開始したことが判明した3例を除く、計1,465例が有効性の解析対象集団となった。患者背景は、年齢中央値66.0歳、女性446例(30.4%)であった。 90日時にmRSスコア0または1を達成した患者の割合は、tenecteplase群72.7%(532/732例)、アルテプラーゼ群70.3%(515/733例)で、tenecteplaseのアルテプラーゼに対する非劣性が検証された(RR:1.03、95%CI:0.97~1.09、p=0.003)。 症候性頭蓋内出血は、各群で9例(1.2%)に発生し(RR:1.01、95%CI:0.37~2.70)、そのうち、tenecteplase群の3例、アルテプラーゼ群の5例が死亡した。 90日死亡率は、tenecteplase群4.6%(34/732例)、アルテプラーゼ群5.8%(43/733例)であった(RR:0.80、95%CI:0.51~1.23)。

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CAR-T細胞療法により二次がんリスクは上昇しない

 自家キメラ抗原受容体T細胞(CAR-T細胞)療法製品の添付文書には、CAR-T細胞療法後に二次性のT細胞性悪性腫瘍が発生するリスクがあるとの警告が記載されている。しかし、新たな研究で、CAR-T細胞療法後のそのような二次がんの発生頻度は、標準治療後の二次がん発生頻度と同程度であることが示された。米メモリアル・スローン・ケタリングがんセンター(MSKC)成人骨髄移植サービス分野のKai Rejeski氏らによるこの研究の詳細は、「Clinical Cancer Research」に9月11日掲載された。 米国がん協会(ACS)の説明によると、CAR-T細胞療法は、患者の血液から採取したT細胞にキメラ抗原受容体(CAR)を発現させるための遺伝子を導入し、特定のがん細胞を攻撃できるようにした上で患者の体内に戻す治療法である。ACSは、「CAR-T細胞療法は、ある種のがんに対して、たとえ他の治療法が効かなくなった場合でも、非常に有効な可能性がある」と述べている。 しかし、米食品医薬品局(FDA)は2024年1月、FDAの有害事象報告システムのデータに基づき、CAR-T細胞療法製品の添付文書に、治療対象となったB細胞リンパ腫や多発性骨髄腫などとは無関係に新たなT細胞性悪性腫瘍(二次がん)が発生する可能性について警告を表示するよう要求した。これに対し、Rejeski氏らは、FDAのデータでは、二次がん発生に影響を及ぼす可能性のある他の因子、例えば年齢、他に受けた治療、追跡期間などが考慮されていない点を指摘する。同氏は、「患者は、この警告の追加についてのニュースを読んでおり、当然のことながら、医療提供者に安全性について質問している。われわれは、潜在的なリスクを理解するとともに、データを慎重に解釈して患者に説明する必要がある」と話す。 今回の研究でRejeski氏らは、リンパ腫または多発性骨髄腫の患者5,517人を対象とした18件の臨床試験と7件のリアルワールド研究のデータの分析を行った。対象者は、現在承認されている6種類のCAR-T細胞療法のうちのいずれかを受けていた。 中央値21.7カ月に及ぶ追跡期間中に5.8%の患者に326件の二次がんが発生していた。解析の結果、CAR-T細胞療法前に受けた別の治療の回数が3回以上だった患者では、3回以下だった患者に比べて二次がんリスクの高いことが示された。CAR-T細胞療法を受けた患者と標準治療を受けた患者の転帰を比較した4件の研究(対象者の総計1,253人)を対象にした解析では、二次がんが発生した患者の割合は、CAR-T細胞療法を受けた患者で5%、標準治療を受けた患者で4.9%であり、両群間に有意な差は認められなかった。また、二次がんリスクは、治療対象となるがんの種類や受けたCAR-T細胞療法の種類によって変わらないことも明らかになった。さらに、326件の二次がんのサブタイプを調べたところ、T細胞性悪性腫瘍はわずか5件(0.09%)を占めるに過ぎず、T細胞性悪性腫瘍と患者のCAR-T細胞療法で使用されたT細胞との遺伝的関連については、3件のうちの1件でのみ陽性と判定されていた。 こうした結果を受けてRejeski氏は、「これらの結果は、標準治療に比べてCAR-T細胞療法が二次がんリスクを上昇させることを示唆するものではない」と結論付けている。同氏はさらに、「CAR-T細胞療法により患者の生存期間は延びるが、それは同時に新たながんが発生する期間も延びることを意味する」と指摘し、「CAR-T細胞療法は、自身の成功の犠牲になっている可能性がある」と述べている。 Rejeski氏は、「過去20年以上を振り返ると、難治性の大細胞型B細胞リンパ腫に対する治療法で、標準治療以上に患者の生存率を向上させたのはCAR-T細胞療法だけだ。CAR-T細胞療法での二次がんリスクは極めて低いため、この治療を決して控えるべきではない」とアドバイスしている。

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2剤併用の新レジメンで腎細胞がん患者の生存期間が倍増

 進行性腎がんに対する治療において、パゾパニブ(商品名ヴォトリエント)にベバシズマブ(商品名アバスチン)を組み合わせることで患者の生存期間を延長できる可能性が、第2相臨床試験で示された。米ロズウェルパーク総合がんセンターのSaby George氏らが実施したこの試験の結果は、欧州臨床腫瘍学会(ESMO 2024、9月13〜17日、スペイン・バルセロナ)で発表された。 パゾパニブは、チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)として知られる抗がん薬の一種である。血管内皮細胞表面に存在する血管内皮増殖因子受容体(VEGFR)とがん細胞が分泌する血管内皮増殖因子(VEGF)が結合すると、シグナルが血管内皮細胞内に伝達され、血管新生が促される。TKIは、VEGFRの働きを阻害してVEGFRとVEGFの結合を抑制することにより血管新生を阻止し、がん細胞の増殖を抑制する。米食品医薬品局(FDA)がパゾパニブ承認の根拠とした以前の臨床試験では、腎がんと診断された患者の無増悪生存期間(PFS)は平均11カ月強であることが示されていた。 今回の研究では、治療歴のない淡明細胞型の転移性腎細胞がん患者51人(年齢中央値65.6歳、男性70.6%)に、新規レジメンであるパゾパニブとベバシズマブによる治療を行い、12カ月後の臨床的有効率(clinical benefit rate;CBR、完全奏効、部分奏効、安定の割合を合計したもの)を調べた。治療方法は、1〜28日目にパゾパニブ800mgを1日1回投与し、10週間サイクルの36日目と50日目にベバシズマブ10mg/kgを投与するというものだった。研究グループによると、パゾパニブによる治療ではVEGFが増加し、それによりがん細胞が薬剤に耐性を持つ可能性があるという。そこで、治療サイクルの中程でVEGFを中和する作用のあるベバシズマブを投与する治療法を考え出したと説明する。 治療の結果、12カ月時点で51人中40人(78%)にCBRが認められた。中央値33.1カ月の追跡期間における客観的奏効率(完全奏効+部分奏効)は54.9%、CBRは98%、PFS中央値は22.1カ月、全生存期間(OS)中央値は62.9カ月であった。副作用としては、下痢(70%)、高血圧(54%)、疲労(69%)、吐き気(51%)が認められた。 進行性腎細胞がん患者の中には強力な免疫療法を提案される人もいるが、研究グループは、一部の患者にとっては免疫療法よりもパゾパニブとベバシズマブによる併用療法の方が安全性の高い選択肢となり得ると指摘する。 George氏は、「他のリスクグループの患者には免疫療法の選択肢もあったため、今回の第2相臨床試験には、より低リスクのカテゴリーに属する患者が多く含まれていた。この有望な結果は、パゾパニブとベバシズマブの交互投与が、低リスクの腎細胞がん患者に対して有望な治療レジメンとなり得ることを示唆している」と話している。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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ESMO2024レポート 肺がん

レポーター紹介2024年9月13日から17日にかけて、ESMO2024がスペインのバルセロナで開催された。肺がん領域でも多くの注目される内容が発表されたが、その中でもとくに現在や近未来の日常臨床に影響を与えそうなものについていくつか紹介したい。すでに報告されているpositive試験のアップデート内容がある一方で、期待された第III相試験のnegativeデータも複数報告されていたことも印象的であった。LBA48:CCTG BR.31試験試験概要BR.31試験は、完全切除された非小細胞肺がん(NSCLC)患者に対する補助療法としてのデュルバルマブの有効性と安全性を評価する第III相二重盲検プラセボ対照試験である。試験デザイン患者は完全切除後に原則プラチナベースの化学療法を受けた後、2:1の割合でデュルバルマブ(20mg/kgを4週ごとに1年間)またはプラセボの投与を受けた。PD-L1発現が25%以上の患者で、EGFRおよびALKの遺伝子変異を持たない患者での無病生存期間(DFS)が主要評価項目であり、副次評価項目として全生存期間(OS)、生活の質(QOL)、および安全性が評価された。結果PD-L1発現が25%以上の患者群では、デュルバルマブを投与された群とプラセボ群でDFSに有意な差は認められなかった。DFS中央値はデュルバルマブ群で69.9ヵ月、プラセボ群で60.2ヵ月であり、ハザード比は0.935(p=0.642)であった。また、安全性プロファイルは従来の知見と一致しており、重大な有害事象(Grade3/4)の発生率は23.5%であった。結論完全切除後のNSCLC患者に対して、デュルバルマブはDFSの延長に寄与しないことが示された。治療関連有害事象(TRAE)は発生したものの、全体的な安全性は許容範囲内とされた。コメント本試験は、本邦も西日本がん研究機構(WJOG)を介して参加したグローバル試験であり、その結果も注目されたが、結果はnegativeであり残念であった。NSCLCの術後補助療法では、これまでにアテゾリズマブやペムブロリズマブの良好な結果が示されていたが、それらとの結果の違いの原因については明らかではない。デュルバルマブについては後述の術前・術後にデュルバルマブを使用するAEGEAN試験は良好な結果であったため、やはり免疫療法は術後投与よりも術前投与のほうが有利であることが示唆された。LBA49:AEGEAN試験研究概要AEGEAN試験において、血中循環腫瘍DNA(ctDNA)のクリアランスが術前治療中の病理学的効果および無イベント生存期間(EFS)に与える影響を評価することを目的とした。研究デザインこの研究では、手術可能なNSCLC患者(IIA~IIIB期)が対象となり、デュルバルマブ1,500mgとプラチナベースの化学療法を4サイクル行い、その後、12サイクルのデュルバルマブまたはプラセボを投与した。試験の探索的エンドポイントとして、ctDNAクリアランスと病理学的完全奏効(pCR)、EFSとの関連が評価された。結果ctDNAクリアランスが得られた患者では、pCR率が大幅に改善した。とくに、術前治療4サイクル後にctDNAがクリアされた患者では、EFSが有意に良好であった(ハザード比[HR]:0.23、p<0.05)。また、ctDNAクリアランスが得られた患者の5年EFS率は73.4%に達し、予後良好な患者群であることが示された。結論手術可能なNSCLC患者において、術前のctDNAクリアランスはpCRおよびEFSの改善と強く関連しており、治療効果の早期予測指標として有望である。コメントAEGEANレジメンは本邦ではまだ承認されていないが、今後承認が期待されている。ctDNAクリアランスを含めた術前治療後の評価により高率にpCRを予測できるようになれば、術前療法のみで治癒し、手術を必要としない患者も将来的には予測できるようになるかもしれない。また、リキッドバイオプシーにより術後療法の必要性も判断できるようになることを期待したい。1208MO:NEJ034試験試験概要この第III相試験は、特発性肺線維症(IPF)を伴う肺がん患者に対する周術期ピルフェニドン療法の有効性と安全性を評価することを目的とした。ピルフェニドンは抗線維化および抗炎症作用を持つ薬剤であり、術後の急性増悪を予防できるかどうかが検証された。試験デザイン患者は、周術期にピルフェニドンを4週間投与された群と投与されなかった群に無作為に割り付けられた。主要評価項目は、術後30日以内に発生した急性増悪の割合であった。結果ピルフェニドン群で急性増悪の発生率は6.1%、対照群では10.3%と報告されたが、この差は統計学的に有意ではなかった(p=0.339)。ピルフェニドンの投与が急性増悪の予防に明確な効果を示すことはできなかった。結論日本人患者を対象としたこの試験では、ピルフェニドンが術後の急性増悪を防ぐ効果は示されなかった。コメント本邦における肺がん手術では手術関連死はほとんどなく、世界的にもきわめて良好であるが、間質性肺炎合併肺がん患者においては術後急性増悪が発生するとその致死率は約50%とされているため、本試験の結果は注目されていた。結果はnegativeであり残念であった。間質性肺炎合併肺がん患者に対する、より安全な治療法の開発が期待される。1243MO:JCOG1914試験試験概要この第III相試験は、切除不能な局所進行NSCLCを有する高齢者(75歳以上)に対する週1回のカルボプラチン(CBDCA)+nab-パクリタキセル(nab-PTX)療法と毎日の低用量CBDCA療法を比較したものである。試験デザイン患者はCBDCA+nab-PTXまたは低用量CBDCAを放射線療法と併用して投与された。化学放射線療法(CRT)後はデュルバルマブによる維持療法が推奨された。主要評価項目はOSであり、副次評価項目として無増悪生存期間(PFS)、奏効率、患者報告アウトカム(PROs)、および安全性が評価された。結果PFSの結果では、1年PFS率はCBDCA+nab-PTX群で55.5%、低用量CBDCA群で59.0%と報告され、OSに関してもCBDCA+nab-PTX群で79.6%、低用量CBDCA群で87.3%であり、ともに有意差は確認されなかった。TRAE(Grade3/4)は両群ともに比較的多く報告され、CBDCA+nab-PTX群での治療関連死も観察された。結論高齢の日本人患者において、CBDCA+nab-PTX療法は、低用量CBDCA療法に対して優位性を示さなかった。コメント本試験は中間解析の結果、将来的にもCBDCA+nab-PTX群のOSでの優越性が示される可能性はきわめて低いと判断され、無効中止となった。本邦においては、高齢者に対するcCRTにおいて標準的な化学療法レジメンは引き続き低用量CBDCAということになる。LBA54:MARIPOSA-2試験試験概要この第III相試験は、EGFR遺伝子変異を有する進行NSCLC患者において、オシメルチニブ治療後のアミバンタマブ+化学療法併用に与える影響を評価することを目的としており、今回はアップデートされたOSが発表された。試験デザイン患者は、アミバンタマブ+化学療法、または化学療法単独の群に無作為に割り付けられた。主要評価項目はPFS、副次評価項目としてOS、治療後の症状進行までの時間(TTSP)、治療中断までの時間(TTD)、および安全性が評価された。結果2回目の中間解析では、アミバンタマブ+化学療法併用群は化学療法単独群と比較してOSの延長傾向が示された(HR:0.73)。また、TTSPやTTDの観点からもアミバンタマブ併用群のほうが優れており、副作用プロファイルは既存のデータと一致していた。結論オシメルチニブ治療後の進行EGFR遺伝子変異陽性NSCLC患者に対して、アミバンタマブ+化学療法は全体的な生存率を改善し、今後の標準治療の1つとなる可能性がある。コメントMARIPOSA-2試験におけるアミバンタマブ+化学療法併用群と化学療法単独群の比較について報告された。2回目の中間解析でOSの延長傾向が報告された。オシメルチニブ治療後増悪時の治療選択は課題であり、本レジメンの本邦での承認が期待される。LBA55:MARIPOSA試験(抵抗性メカニズムの解析)研究概要この試験は、進行NSCLC患者に対する1次治療としてのアミバンタマブ+lazertinibの併用療法と、オシメルチニブ単独療法における獲得抵抗性メカニズムを比較することを目的としている。試験デザインEGFR変異陽性の局所進行または転移のあるNSCLC患者を対象に、アミバンタマブ+lazertinib群(429例)とオシメルチニブ群(429例)で比較した。主要評価項目はPFSであり、副次評価項目としてOS、客観的奏効率(ORR)、奏効期間(DoR)、および安全性が評価された。結果ctDNAを用いたGuardant360 CDx がん遺伝子パネルにより、アミバンタマブ+lazertinib群とオシメルチニブ群では抵抗性メカニズムの違いが明らかになった。とくに、MET増幅がオシメルチニブ群では9.3%の患者に認められたのに対し、アミバンタマブ+lazertinib群では1.8%と低かったことが確認された。さらに、EGFRの二次性耐性変異発生率も、アミバンタマブ+lazertinib群のほうが低かったことが報告された。結論EGFR変異を有する進行NSCLC患者において、アミバンタマブ+lazertinibはオシメルチニブと比較して、EGFRおよびMETに関連した耐性メカニズムの発生率を有意に低下させた。コメントアミバンタマブの作用機序として期待通りの結果である。とくに、治療前と治療終了時のctDNAの比較により獲得耐性メカニズムを研究した点は興味深い。アミバンタマブ+lazertinib療法も本邦での承認が期待されている。LLBA81:ADRIATIC試験研究概要ADRIATIC試験は、限局型小細胞肺がん(LS-SCLC)患者を対象に、デュルバルマブ療法の有効性を評価したものである。とくに、cCRTの使用レジメンおよび予防的頭蓋照射(PCI)の影響に焦点を当てた。試験デザイン限局型SCLC患者において、cCRT後にデュルバルマブを投与した群と標準治療を比較した。PCIの使用も含めて、治療後のOSおよびPFSに与える影響が検討された。結果デュルバルマブ併用療法は、cCRT後の生存率を改善することが示されたが、PCIの有無やcCRTの内容にかかわらず、その効果は持続した。TRAE(Grade3/4)は両群で同様に発生し、安全性において大きな差は認められなかった。結論限局型SCLC患者に対するデュルバルマブ併用療法は、標準治療に比べて統計学的に有意な生存利益をもたらした。とくに、PCIの使用にかかわらず良好な結果が示されており、今後の標準治療として採用される可能性がある。コメント現在、限局型SCLCに対して免疫チェックポイント阻害薬は本邦では承認されていないが、ADRIATIC試験の結果により本邦での承認も期待される。今回の内容は限局型SCLCに対する本レジメンの標準的な使用をサポートすることになると考えられる。

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HR+/HER2-転移乳がんへのSG、アジア人での第III相試験(EVER-132-002)

 転移/再発のHR+/HER2-乳がんへのサシツズマブ ゴビテカン(SG)の有用性を検討したTROPiCS-02試験において、SGが化学療法に比べ無増悪生存期間(PFS)および全生存期間(OS)を有意に改善したことが報告されているが、本試験にはアジア人患者が3%しか登録されていない。今回、アジア人患者を対象とした無作為化第III相試験(EVER-132-002)で、SGが化学療法と比べPFSおよびOSの有意かつ臨床的意義のある改善を示したことを、中国・Chinese Academy of Medical Sciences & Peking Union Medical CollegeのBinghe Xu氏らが報告した。Nature Medicine誌オンライン版2024年10月1日号に掲載。・対象:転移または局所再発した切除不能のHR+/HER2-乳がんで、転移後に内分泌療法またはタキサンによる治療を1ライン以上、化学療法を2~4ライン受けたアジア(中国・台湾・韓国)人の患者・試験群:SG(1、8日目に10mg/kg静注、3週ごと)・対照群:医師選択による化学療法(エリブリン、カペシタビン、ゲムシタビン、ビノレルビンから選択)・評価項目:[主要評価項目]盲検下独立中央判定(BICR)によるPFS[副次評価項目]OS、BICRによる奏効率(ORR)・奏効期間(DOR)・臨床的有用率(CBR)、安全性、QOLなど 主な結果は以下のとおり。・2020年12月9日~2022年12月2日にスクリーニングされた485例中、331例がSG群(166例)と化学療法群(165例)に無作為に割り付けられた。・追跡期間中央値は、患者全体で13.4ヵ月(範囲:0.1~28.7)、SG群で14.5ヵ月(同:1.3~27.8)、化学療法群で12.7ヵ月(同:0.1~28.7)だった。・PFSはSGで改善し(ハザード比[HR]:0.67、95%信頼区間[CI]:0.52~0.87、p=0.0028)、中央値はSG群が4.3ヵ月、化学療法群が4.2ヵ月だった。・OSもSGで改善し(HR:0.64、95%CI:0.47~0.88、p=0.0061)、中央値はSG群が21.0ヵ月、化学療法群が15.3ヵ月だった。・ORRはSG群が20%、化学療法群が15%、DOR中央値はSG群が5.3ヵ月、化学療法群が5.2ヵ月だった。・Grade3以上の治療関連有害事象で多かったのは、好中球減少、白血球減少、貧血であった。 著者らは「本試験におけるSG の有効性と安全性はTROPiCS-02 試験の結果と一致しており、アジア人の内分泌療法抵抗性で既治療の転移/再発のHR+/HER2-乳がん患者における新たな治療選択肢としてSGを投与することを支持している」とまとめている。

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重度の便秘、メタン生成菌の過剰増殖が原因か

 重度の便秘の原因は、メタンを生成する腸内微生物(メタン生成菌)の過剰な増殖である可能性が、新たな研究で明らかになった。腸内細菌叢のバランスが崩れて腸内メタン生成菌異常増殖症(IMO)が引き起こされている人では、IMOがない人に比べて重度の便秘が生じるリスクが約2倍高いことが明らかになったという。米シーダーズ・サイナイ消化管運動プログラムの医療ディレクターを務めるAli Rezaie氏らによるこの研究の詳細は、「Clinical Gastroenterology and Hepatology」に8月13日掲載された。 人間の腸内には、細菌、ウイルス、真菌、古細菌など、数兆個もの微生物が生息している。このような腸内微生物は、食物の消化の促進や免疫反応の管理など、健康の維持に重要な役割を果たしている。しかし、有害な微生物が有益な微生物を駆逐して健康上の問題を引き起こすこともある。例えば、Clostridioides difficileという細菌が腸内に定着すると、ひどい下痢を引き起こすことがある。 メタン生成菌は、細菌や真菌とは異なる微生物の一種である古細菌に分類され、IMOは便秘などのさまざまな病気の発症機序に関与していることが示唆されている。このことからRezaie氏らは今回、IMOの症状の特徴を明らかにするために、19件の研究(対象は、IMO患者1,293人、IMOのない対照3,208人)を対象にシステマティックレビューとメタアナリシスを行い、IMOのある人とない人の消化器症状の発生率と重症度を比較した。 IMO患者には、膨満感(78%)、便秘(51%)、下痢(33%)、腹痛(65%)、吐き気(30%)、おなら(56%)など、さまざまな消化器症状が認められた。解析の結果、IMO患者は対照に比べて、便秘の発生率が有意に高かったが(47%対38%、オッズ比〔OR〕2.04、95%信頼区間〔CI〕1.48〜2.83、P<0.0001)、下痢の発生率は低いことが明らかになった(37%対52%、OR 0.58、95%CI 0.37〜0.90、P=0.01)。また、IMO患者は対照に比べて、便秘の重症度は有意に高いが(標準化平均差〔SMD〕0.77、95%CI 0.11〜1.43、P=0.02)、下痢の重症度は有意に低いことも示された(SMD −0.71、95%CI −1.39〜−0.03、P=0.04)。 便秘は一般的に、食物繊維の摂取不足や薬の副作用などが原因とされるが、研究グループは、腸内細菌の構成も便秘の一因である可能性を疑っていたという。Rezaie氏は、「われわれの研究により、IMO患者は便秘、特に重度の便秘になりやすい一方で、重度の下痢になる可能性は低いことが明らかになった」と述べている。 研究グループは、IMOを原因とする便秘の治療には、抗菌薬と腸内細菌の健康促進を目的とした特別な食事療法を組み合わせる必要があると話す。最も一般的な方法である下剤による治療は、症状を一時的に緩和するものの、問題の根本的な解決にはならない。そのため研究グループは、まずは呼気検査によりIMOの有無を確認することが重要だと話す。 Rezaie氏によると、IMOは簡単な呼気検査で確認できるという。同氏は、「腸内に古細菌が過剰に存在するとメタンの生成が増え、その一部が血流に入り込んで肺に運ばれ、呼気として排出される。IMOの診断テストは、そのような呼気中のメタンを利用して行われる。基本的に、メタンが過剰に存在する人は、便秘、鼓腸、腹部膨満感、下痢など、多くの消化器症状を呈する」と説明する。 Rezaie氏は、「将来的には、IMOを原因とする便秘に悩む人を対象に、特定の治療法や個別化された治療法の開発を進めたいと考えている。そのための最初のステップは、呼気検査により過剰なメタン生成を特定し、古細菌の過剰増殖を検出することだ。それが、最終的にはより的を絞った治療法の開発につながる可能性がある」と話す。同氏はさらに、「これは、一般的な下剤による治療から脱却するための大きな一歩だ」と付言している。

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英語で「触知可能です」は?【1分★医療英語】第151回

第151回 英語で「触知可能です」は?《例文1》Palpable cervical lymph nodes were found on physical exam.(身体診察で触知可能な頸部リンパ節が見付かりました)《例文2》Left supraclavicular lymph node was palpable, and we should discuss this case further.(触知可能な左鎖骨上リンパ節があり、この症例についてさらに検討する必要があります)《解説》今回は身体診察の所見の表現方法を解説します。「触知可能である」は形容詞の“palpable”という単語で表現します。動詞に“-able”と語尾に付けることで「~が可能である」という意味の形容詞になります。今回の場合、“palpate”(触診する)という動詞に“-able”を付けることで“palpable”、「触知可能である」という意味になるわけです。このように“-able”を語尾に付けることで動詞から変化した形容詞はほかにも多くあります。たとえば、“movable”は「可動性がある」という形容詞ですが、こちらも動詞の“move”(動く)に“-able”を付けた形です。文章にすると、“The lymph node is movable.”(このリンパ節は可動性があります)といった表現になります。実際の医療の場面でも使えますね。“lymph node(s)”という単語は「リンパ節」という意味です。せっかくですので、主要なリンパ節の英語表現も挙げておきましょう。cervical lymph nodes頸部リンパ節axillary lymph nodes腋窩リンパ節inguinal lymph nodes鼠径リンパ節mediastinal lymph nodes縦隔リンパ節supraclavicular lymph nodes鎖骨上リンパ節ぜひ、リンパ節とそれに付随する所見の表現方法を覚えてください。講師紹介

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第235回 第III相試験の壁高し~スタチンの多発性硬化症治療効果示せず

第III相試験の壁高し~スタチンの多発性硬化症治療効果示せず第III相試験の壁は高く、第II相試験結果から期待されたスタチンの多発性硬化症(MS)治療効果が認められませんでした1,2)。スタチンは脂質異常症を治療し、心血管や脳の虚血疾患を予防するのに広く使われています。それらの効果にはコレステロール低下に加えて、コレステロールとは独立した働きもどうやら寄与しているようです。免疫調節作用がその1つで、スタチンは炎症性細胞が血液脳関門(BBB)を通れるようにするタンパク質ICAMのリガンドであるLFA-1を阻害します。また、自己攻撃性T細胞が作るサイトカインを炎症促進から抗炎症のものに変えることも示されています。スタチンは細胞保護作用や脳血管の血行改善作用などもあり、MSの初期の炎症のみならず脳実質細胞や血管を障害するより進行した段階の患者にも有効と目されました。そのような期待を背景にして、スタチンの1つであるシンバスタチンの二次性進行型MS(secondary progressive MS)治療効果を調べた第II相MS-STAT試験は2008年に始まりました。試験には二次性進行型MS患者140例が参加し、半数(70例)ずつ高用量(80mg)のシンバスタチンかプラセボを投与する群に割り振られました。結果は遡ること10年前の2014年にLancet誌に掲載され、本サイトの同年の記事でも紹介されているとおり、脳萎縮を遅らせるシンバスタチンの有望な効果が認められました3)。また、体の不自由さの進行を抑制する効果も示唆されました。検査2つ(EDSSとMSIS-29)の2年時点での比較でシンバスタチン投与群がプラセボに有意に勝りました。ただし、別の身体機能検査MSFCはプラセボと有意差がつきませんでした。また、新規/拡大脳病変の発生率や再発率もプラセボと有意差がありませんでした。とにかく主な目的であった脳萎縮の抑制効果が認められたことを受け、著者のロンドン大学のJeremy Chataway氏らは第III相試験での検討が必要と結論しています。Chataway氏らが引き続き率いた第III相MS-STAT2試験は第II相試験結果のLancet誌掲載から4年後の2018年3月末に英国の患者団体MS Societyなどの協力の下で始まりました4)。その翌々月5月から2021年9月までの2年半弱に英国の31の病院から被験者が集められ、二次性進行型MS患者964例がシンバスタチンかプラセボ投与群に1対1の割合で割り振られました5)。主要アウトカムは第II相試験でも使われたEDSSに基づく身体障害の進行率でした。ベースラインのEDSSが6点未満だった患者はEDSSの1点以上の上昇、ベースラインのEDSSが6点以上だった患者はEDSSの0.5点以上の上昇が身体障害の進行と判定されました。その結果は上述したとおりで、シンバスタチンは二次性進行型MS患者の身体障害の悪化を遅らせることはできませんでした1)。残念な結果ではありますが、英国のMSコミュニティーが大規模で高品質の臨床試験を担えることをMS-STAT2試験は知らしめました。30年前は皆無だったMS治療は今や幸い増えているもののまだ不十分です。進行性MSに効きそうな薬一揃いを検討しているOctopus6)のような高品質の臨床試験に引き続き投資する、とMS Societyの臨床試験部門リーダーEmma Gray氏は言っています7)。参考1)Cholesterol drug found to be ineffective for treatment of multiple sclerosis / UCL 2)Simvastatin Fails to Reduce Disease Progression in Phase 3 MS-STAT2 Trial of Secondary Progressive Multiple Sclerosis / NeurologyLive3)Chataway J, et al. Lancet. 2014;383:2213-2221.4)Multiple Sclerosis-Simvastatin Trial 2(MS-STAT2)5)Evaluating the effectiveness of simvastatin in slowing the progression of disability in secondary progressive multiple sclerosis(MS-STAT2 trial):a multicentre, randomised, placebo-controlled, double-blind phase 3 clinical trial / ECTRIMS 2024 6)Octopus: Optimal Clinical Trials Platform for Multiple Sclerosis7)MS-STAT2 trial shows that simvastatin is not an effective treatment for secondary progressive MS / Multiple Sclerosis Society.

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出産数・初産年齢とマンモグラフィ濃度の関連~22ヵ国1万1千人のデータ

 年齢やBMIはマンモグラフィ濃度(MD)に強く影響すると同時に乳がん発症リスクとも関連することが確立されているが、出産数、初産年齢、授乳歴とMDとの関連は明らかになっていない。今回、アイルランド・RCSI University of Medicine and Health SciencesのJessica O’Driscoll氏らが、International Consortium of Mammographic Density(ICMD)で検討した結果、出産数とMDは逆相関、初産年齢とMDは正相関し、乳がんリスクとの関連性と一致することが示された。Breast Cancer Research誌2024年9月30日号に掲載。 ICMDは、乳がんではない35~85歳の1万1,755人の女性の疫学・MDデータをプールした22ヵ国27研究の共同研究であり、40の国・民族の集団を網羅している。著者らは、集団群間のメタ解析およびプール解析を用いて、高濃度乳房面積/全乳房面積(PMD)、高濃度乳房面積(DA)、非高濃度乳房面積(NDA)の平方根(√)と出産数、初産年齢、授乳歴の有無、生涯授乳期間との線形回帰の関連を検討した。 主な結果は以下のとおり。・これらの解析対象となった1万988人の女性のうち、90.1%(9,895人)で出産経験があり、うち13%(1,286人)が5回以上経験していた。初産時の平均年齢は24.3歳であった。・出産数(1回増加当たり)は、√PMD(β:-0.05、95%信頼区間[CI]:-0.07~-0.03)および√DA(β:-0.08、95%CI:-0.12~-0.05)と逆相関し、この傾向は少なくとも出産が9回まで明らかであった。・初産年齢(5歳増加当たり)は、√PMD(β:0.06、95%CI:0.03~0.10)および√DA(β:0.06、95%CI:0.02~0.10)と正相関し、√NDA(β:-0.06、95%CI:-0.11~-0.01)と逆相関した。・出産経験のある女性において、授乳歴の有無・生涯授乳期間はMDとの関連は認められなかった。

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肥満小児へのリラグルチド、BMIが改善/NEJM

 肥満の小児(年齢6~<12歳)において、生活様式への介入単独と比較してリラグルチドによる56週間の治療+生活様式介入は、BMIの低下が有意に大きく、体重の変化も良好であることが、米国・ミネソタ大学のClaudia K. Fox氏らSCALE Kids Trial Groupが実施した「SCALE Kids試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2024年9月10日号に掲載された。9ヵ国の無作為化プラセボ対照第IIIa相試験 SCALE Kids試験は、9ヵ国23施設で実施した二重盲検無作為化プラセボ対照第IIIa相試験(スクリーニング期間[2週間]、導入期間[12週間]、治療期間[56週間]、追跡期間[26週間]で構成)であり、2021年3月に開始し2024年1月に終了した(Novo Nordiskの助成を受けた)。 年齢6~<12歳の肥満小児(年齢と性別で補正したBMIパーセンタイル値が95パーセンタイル以上を肥満と定義)82例を登録した。リラグルチド(3.0mgまたは最大耐用量)を1日1回皮下投与する群に56例、プラセボ群に26例を無作為に割り付けた。全例が導入期間から試験終了まで生活様式への介入を受けた。 主要エンドポイントは、BMIの変化量とした。確認的副次エンドポイントは、体重の変化量およびBMIの5%以上の低下であった。56週時にBMIが5.8%低下 全体の平均(±SD)年齢は10(±2)歳で、男児が44例(54%)とわずかに多かった。72%が白人だった。 56週の時点で、BMIのベースラインからの変化量は、プラセボ群が1.6%の増加であったのに対し、リラグルチド群は5.8%低下し有意に改善された(推定群間差:-7.4%ポイント、95%信頼区間[CI]:-11.6~-3.2、p<0.001)。 副次エンドポイントの優越性を検証する検出力はなかったが、56週時までの体重の平均変化量はプラセボ群が10.0%増加したのに比べ、リラグルチド群は1.6%の増加にとどまり良好であった(推定群間差:-8.4%ポイント、95%CI:-13.4~-3.3、p=0.001)。また、5%以上のBMI低下を達成した小児の割合は、プラセボ群の9%(2/23例)と比較して、リラグルチド群は46%(24/52例)と優れていた(補正後オッズ比:6.3、95%CI:1.4~28.8、p=0.02)。最も多い有害事象は胃腸障害 有害事象は、リラグルチド群が89%(50/56例)、プラセボ群は88%(23/26例)で発現した。これらのほとんどが軽度または中等度で、明らかな後遺症を残すことなく消失した。最も多かった有害事象は胃腸障害で、リラグルチド群が80%(45/56例)、プラセボ群は54%(14/26例)で発生した。 治療期間中に、重篤な有害事象はリラグルチド群で7例(12%)、プラセボ群で2例(8%)に発現した。担当医がリラグルチド投与に関連する可能性(possiblyまたはprobably)があると判断した重篤な有害事象は、嘔吐が2例、大腸炎が1例であった。有害事象によりリラグルチドの投与を中止した患者は6例(11%)で、このうち3例は胃腸障害が原因だった。 著者は、「3歳の時点で肥満のある小児のほぼ90%が青年期に過体重または肥満であることが示されており、肥満の青年では2~6歳の間に最も急激な体重増加が起きているとされることから、肥満の管理では治療開始の最も適切な時期を考慮し、生涯にわたり継続すべきと考えられる」としたうえで、「小児におけるリラグルチドの有効性と安全性、成長パターンへの潜在的影響を評価する長期的な研究が必要である」と述べている。

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新規3剤配合降圧薬の効果、標準治療を大きく上回る

 血圧がコントロールされていない高血圧患者を対象に、新たな3剤配合降圧薬であるGMRx2による治療と標準治療とを比較したところ、前者の降圧効果の方が優れていることが新たな臨床試験で明らかにされた。George Medicines社が開発したGMRx2は、降圧薬のテルミサルタン、アムロジピン、インダパミドの3剤配合薬で、1日1回服用する。アブジャ大学(ナイジェリア)心臓血管研究ユニット長のDike Ojji氏らによるこの研究結果は、欧州心臓病学会年次総会(ESC Congress 2024、8月30日~9月2日、英ロンドン)で発表されるとともに、「Journal of the American Medical Association(JAMA)」に8月31日掲載された。 成人の高血圧患者は世界で10億人以上に上り、患者の3分の2は低・中所得国に集中していると推定されている。高血圧は死亡の最大のリスク因子であり、年間1080万人が高血圧が原因で死亡している。 今回の臨床試験は、未治療または単剤の降圧薬を使用中で血圧がコントロールされていない黒人患者300人(女性54%、平均年齢52歳)を対象に、ナイジェリアで実施された。対象者は、6カ月にわたってGMRx2による治療を受ける群と、標準治療を受ける群にランダムに割り付けられた。GMRx2には、テルミサルタン、アムロジピン、インダパミドの4分の1用量(同順で、10/1.25/0.625mg)、2分の1用量(同20/2.5/1.25mg)、標準用量(同40/5/2.5mg)の3種類があり、治療は低用量から開始された。標準治療は、ナイジェリアの高血圧治療プロトコルに従い、アムロジピン5mgから開始された。有効性の主要評価項目は、ランダム化から6カ月後に自宅で測定した平均収縮期血圧の低下、安全性の主要評価項目は、副作用による治療の中止だった。 対象者の試験開始時の自宅で測定した平均血圧は151/97mmHg、病院で測定した平均血圧は156/97mmHgだった。300人中273人(91%)が試験を完了した。ランダム化から6カ月後の追跡調査時における自宅で測定した平均収縮期血圧の低下の幅は、GMRx2群で31mmHgであったのに対し標準治療群では26mmHgであり、両群間に統計学的に有意な差のあることが明らかになった(調整群間差は−5.8mmHg、95%信頼区間〔CI〕−8.0〜−3.6、P<0.001)。研究グループは、ジョージ研究所のニュースリリースの中で、収縮期血圧が5mmHg低下するごとに、脳卒中、心筋梗塞、心不全などの主要心血管イベントの発生リスクは10%低下することが報告されていると説明している。 また、ランダム化から1カ月後の時点でGMRx2群の81%、標準治療群の55%が医療機関での血圧コントロール目標(<140/90mmHg)を達成していた。この改善効果は6カ月後も持続しており、達成率は、GMRx2群で82%、標準治療群で72%だった。安全性については、副作用により治療を中止した対象者はいなかった。 こうした結果についてOjji氏は、「標準治療は現行のガイドラインに厳密に従い、より多くの通院を必要としたにもかかわらず、3剤配合降圧薬による治療は標準治療よりも臨床的に有意な血圧低下をもたらした」と話す。同氏は、「高血圧の治療により血圧コントロールを達成するのは、低所得国では治療を受けた人の4人に1人未満であり、高所得国でも50〜70%にとどまっている。そのことを考えると、わずか1カ月で80%以上の患者が目標を達成できたことは印象的だ」と付言する。 なお、George Medicines社は、米食品医薬品局(FDA)にGMRx2の承認申請を行ったとしている。

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RCTで重視、効果検証の鍵となるプラセボ手技【臨床留学通信 from Boston】第4回

RCTで重視、効果検証の鍵となるプラセボ手技ボストンは8月下旬よりすでに最低気温が10度を切ることもありましたが、おおむね気候は9月下旬になっても変わらず、最高気温17~25度、最低気温10~13度前後と過ごしやすい季節になっています。10月になるとニューヨークではダウンジャケットも必要な日もあったため、すぐにそういった日が来るのではないかと思います。マサチューセッツ総合病院(MGH)ではランダム化比較試験(RCT)に参加することも多く、今回はそのことについて紹介します。coronary-sinus reducer(CSR)という冠静脈洞の血流を落とすようなステントを置くことで、血行再建もままならない薬物治療抵抗性の狭心症の患者さんに効果が見込めるのかどうかのRCTとなります。英国では「ORBITA-COSMIC試験」という名前でLancet誌に掲載されています1)。このORBITA試験シリーズのRCTは非常にユニークで、PCIが狭心症の症状に効くのかどうかを調べたRCT「ORBITA 2試験」も行われています2)。そもそも狭心症に有効と考えられていたPCIですが、とくに安定狭心症に対しての予後改善効果が乏しいとされ、窮地に立たされているところでした3)。それなら症状はどうか、ということで行われたのがORBITA2試験でした。面白いことに、コントロール群はPCIを受けないのですが、カテーテルは動脈に挿入されて、少し鎮静されて、ヘッドホンを付けて音も聞こえないという状況で、治療したかどうかが患者さんにわからないようになっています。このようなQOLを評価するRCTにおいて、プラセボ手技は循環器領域で重要視されています。今回、ORBITA試験シリーズの米国版RCTを行ううえで、上記のとおり患者さんは眠らされ、ヘッドホンを装着させられ、治療されたかどうかわからないようになっています。そして、手技をする医師と外来でフォローする医師は別になり、外来でフォローする医師は、介入群かコントロール群かまったくどちらかわからない中で症状を評価します。私の患者さんがどちらにあてられたかはさておき、患者さんは「You are making history」と言われてRCTに参加されてきました。日本ではプラセボ手技を念頭に置いてRCTに参加することはなかなかないので、貴重な経験でした。参考1)Foley MJ, et al. Lancet. 2024;403:1543-1553.2)Rajkumar CA, et al. N Engl J Med. 2023;389:2319-2330.3)Maron DJ, et al. N Engl J Med. 2020 Apr ;382:1395-1407.ColumnMGHのような大きな施設にいると、さまざまな研究者が日本から海を渡ってやってきます。なんと驚いたことに、私の大学のテニス部の後輩が2人も同時期にいました。肝移植についての研究をしているそうで、年齢は6つ以上離れているので同時期に大学にいたわけではないのですが、テニスの話はいつになっても盛り上がりました。もう1枚は同僚カテーテル治療フェローとの写真をカテ室で。ニューヨークではレジデントがひと学年に25人、フェローが12人と非常に多くひしめいて、予定もバラバラでした。同僚フェロー達と毎日同じ部屋にいることがなかったのですが、ボストンでのこの1年は同僚たちと毎日同じ部屋にいます。優秀な3人にいろいろと助けられています。

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ESMO2024レポート 消化器がん

レポーター紹介本年、スペインのバルセロナで欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2024)が、現地時間9月13~17日にハイブリッド開催で行われた。注目の演題が多数報告されていたが、今回は消化器がん(消化管がん)の注目演題について、実臨床に影響してきそうなものを含め、いくつか取り上げていきたい。胃がんと食道胃接合部がん、術前化学放射線療法は有用性を示せず(TOPGEAR試験)LBA58 - A randomized phase III trial of perioperative chemotherapy (periop CT) with or without preoperative chemoradiotherapy (preop CRT) for resectable gastric cancer (AGITG TOPGEAR): Final results from an intergroup trial of AGITG, TROG, EORTC and CCTG.TOPGEAR試験は、切除可能胃がんもしくは食道胃接合部がんに対して、周術期化学療法群(3サイクルのECF療法もしくは4サイクルのFLOT療法を術前・術後に行う)と術前化学療法群(2サイクルのECF療法もしくは3サイクルのFLOT療法を行った後、5-FU静注+45Gy/25照射の術前化学放射線療法を施行し、術後化学療法は術前と同じものを行う)を比較した第III相試験である。術前化学放射線療法の優越性を検証する試験であり、主要評価項目は全生存期間(OS)で、副次評価項目は無増悪生存期間(PFS)、病理学的完全奏効率(pCR rate)、毒性と手術合併症およびQOLであった。2009年9月~2021年5月に15ヵ国70施設から574例が登録され、周術期化学療法群に288例、術前化学放射線療法群に286例が登録された。患者背景はT3/4が88%、リンパ節転移ありもしくは不明が61~62%およびECF使用例が67%、FLOT使用例が33%であった。pCR率は16.8% vs.8.0%と術前化学放射線療法群で有意に高かったが(p<0.0001)、R0切除率は92.4% vs.87.7%で有意差を認めなかった(p=0.09)。術後化学療法を受けられた症例は全ランダム化群で比較すると、56% vs.66%と術前化学放射線療法群で有意に低かった(p=0.01)。術前化学放射線療法群と周術期化学療法群で比較すると、OSは46.4ヵ月vs.49.4ヵ月(ハザード比[HR]:1.05、p=0.70)で術前化学放射線療法の優越性は示せず、5年OS率も44.4% vs.45.7%であった。PFSも31.4ヵ月vs.31.8ヵ月(HR:0.98、p=0.86)で優越性は示せなかった。サブグループ解析においても、とくに術前化学放射線療法の有効なグループははっきりしなかった。以上の結果より、切除可能な胃がんもしくは食道胃接合部がんに対して術前化学放射線療法の有効性は証明できなかった。今後は、化学療法+免疫チェックポイント阻害薬の周術期試験の結果が待たれるところである。HER2陽性胃がんに対する化学療法+トラスツズマブ+ペムブロリズマブ、OSを延長(KEYNOTE-811試験)1400O - Final overall survival for the phase III, KEYNOTE-811 study of pembrolizumab plus trastuzumab and chemotherapy for HER2+ advanced, unresectable or metastatic G/GEJ adenocarcinoma.KEYNOTE-811試験はHER2陽性胃がんに対する1次治療として化学療法+トラスツズマブにペムブロリズマブの上乗せ効果を検証するプラセボ使用ランダム化第III相試験で、奏効率などのデータはすでに報告されていた。今回はOSの最終解析結果が報告された。698例がランダム化され、350例がペムブロリズマブ群に、348例がプラセボ群に登録された。OSはペムブロリズマブ群vs.プラセボ群で20.0ヵ月vs.16.8ヵ月と、有意に延長した(HR:0.80、p=0.0040)。PFSも10.0ヵ月vs.8.1ヵ月(HR:0.73)、奏効率も72.6% vs.60.1%と、ペムブロリズマブ群で良好であった。サブグループ解析では、PD-L1発現がCPS1以上の場合にはOSが20.1 vs.15.7ヵ月(HR:0.79)、PFSが10.9 vs.7.3ヵ月(HR:0.72)かつ奏効率が73.2% vs.58.4%とより良好な結果であったのに対し、CPS1未満ではOSが18.2ヵ月vs.20.4ヵ月(HR:1.10)かつPFSが9.5ヵ月vs.9.5ヵ月(HR:0.99)と、ペムブロリズマブの効果が弱まる傾向があった。CPS1未満は本試験では15%に認められており、現在欧米ではHER2陽性かつPD-L1がCPS1以上の症例に対してペムブロリズマブの使用が推奨されているが、本邦でどのような条件で保険承認されるのかが注目される。肛門管がんに新たな治療選択肢の可能性が現れる(POD1UM-303試験)LBA2 - POD1UM-303/InterAACT 2: Phase III study of retifanlimab with carboplatin-paclitaxel (c-p) in patients (Pts) with inoperable locally recurrent or metastatic squamous cell carcinoma of the anal canal (SCAC) not previously treated with systemic chemotherapy (Chemo).肛門管の扁平上皮がんに対しては、局所進行例でマイトマイシン+5-FU+放射線療法が行われることが多かったが、切除不能局所再発例や転移を有する症例に対する標準治療は長らく確立されていなかった。今回、カルボプラチン+パクリタキセルを標準治療とし、抗PD-1抗体薬であるretifanlimabの上乗せ効果を検証する二重盲検プラセボランダム化第III相試験が行われ、その結果が報告された。主要評価項目はPFS、副次評価項目がOSであった。2024年4月までに308例が登録され、retifanlimab群に154例とプラセボ群に154例が登録された。年齢中央値は62歳で女性が72%、HIV感染陽性が4%、36%が肝転移を有していた。主要評価項目であるPFSは9.30ヵ月vs.7.39ヵ月とretifanlimab群で有意に延長を認めた(HR:0.63、p=0.0006)。OSは29.2ヵ月vs.23.0ヵ月、奏効率は55.8% vs.44.2%であった。本試験はPFSの観察期間中央値が約7ヵ月かつOSの観察期間中央値が約14ヵ月程度とまだ短い試験であるが、希少がんである肛門管がんの全身化学療法の標準治療はエビデンスに乏しいのが現状であった。本試験のディスカッサントも触れていたが、カルボプラチン+パクリタキセル+プラセボ群の治療成績は、従来の5-FU+シスプラチンと比較して良好であった。患者や医療者にとって、カルボプラチン+パクリタキセルおよびカルボプラチン+パクリタキセル+retifanlimabは有望な治療になりうると考えられ、本邦でも使用可能になることが待たれる状況である。局所進行直腸がんに対する臓器温存治療の可能性(NO-CUT試験)509O - Total neoadjuvant treatment (TNT) with non-operative management (NOM) for proficient mismatch repair locally advanced rectal cancer (pMMR LARC): First results of NO-CUT trial.現在、局所進行直腸がんに対する化学療法と放射線療法を用いたTotal Neoadjuvant Therapy(TNT)は、非常に重要な戦略として世界中で研究が進んでいる。TNTを行った後に臨床的完全奏効(cCR)となった症例では、切除を避けて手術なしの経過観察であるNon Operative Monitoring(NOM)に持ち込める可能性も示唆されている。今回、pMMR局所進行直腸がんに対してTNTを行いcCRとなった症例に対して無遠隔再発生存期間(DRFS)を損なわないかを検証し、かつ腫瘍および血液のマルチオミクス解析を行う単群第II相試験であるNO-CUT試験の初回報告が行われた。4つのがんセンターからcT3-4N0/cTxN1-2の下部/中部pMMR局所進行直腸がん症例を対象に、4サイクルのCAPOX療法に続いて5週間にわたる化学放射線療法(カペシタビン+IMRT)を行うTNTが実施された。主要評価項目は30ヵ月の無遠隔再発生存率で、副次評価項目はpCR率、NOM群における臓器温存率であった。TNT終了後、cCRパラメータに基づくプロトコルアルゴリズム(Siena S, et al. ASCO 2023.)に従って、患者は手術群またはNOM群に割り付けられた。2018~24年に、180例がTNTを受け、164例(91%)がプロトコルどおりに治療を完了し、46例(25.5%)がpCRを達成し、NOMに割り当てられた。治療効果がincomplete response(IR)であった群(134例)では手術が行われた。30ヵ月無遠隔再発生存率はNOM群で96.9%と主要評価項目を達成した。IR群も含めた全体集団での30ヵ月無遠隔再発生存率は77%であった。NOM群の臓器温存率は85%で、局所再発は46例中7例発生し、全症例で救済手術が行われた。局所再発はすべて治療後4~18ヵ月で発生した。2024年4月1日時点で、12例の死亡(6.6%)が報告された(有害事象1例、腫瘍関連9例、その他2例)。マルチオミクス相関解析が進行中で、TNT後のctDNAはcCR例では8%で陽性であったがそれ以外では31%で陽性であり、陽性例では有意に遠隔転移再発が多く認められた。またTNTでpCRに至らなかった症例の手術後のctDNA陽性例で有意に遠隔転移再発が多いことも報告された。治療前の検体解析ではRNAシーケンスに基づく白血球スコアはcCRと関連し、Paneth細胞様表現型(CRIS-E)は遠隔転移再発と関連した。本結果より、TNTによるcCRを得られた症例では臓器温存の可能性が示唆された。本試験はまだ初回報告であること、本邦でも局所進行直腸がんに対する複数のTNTの試験が進行していることから、これらの結果が明らかになり、本邦で適切に患者に届けられる時代が来ることが待ち望まれる。MSI-H(dMMR)結腸がんの術前イピリムマブ+ニボルマブ(NICHE-2試験)LBA24 - Neoadjuvant immunotherapy in locally advanced MMR-deficient colon cancer: 3-year disease-free survival from NICHE-2.MSI-High(dMMR)の直腸がんについては、術前治療が非常に奏効することが複数報告されている。結腸がんについては転移のあるdMMR結腸がんにおいて免疫チェックポイント阻害薬の有用性が報告されており、本邦でも現在切除不能dMMR結腸がんの1次治療の標準治療はペムブロリズマブであり、今後イピリムマブ+ニボルマブの登場が待たれている状況である。NICHE-2試験は局所進行dMMR結腸がんに対する術前治療としてのイピリムマブ+ニボルマブ療法の有効性を探索する単群第II相試験であり、1コース目にイピリムマブ+ニボルマブを行い、2コース目にニボルマブ単剤療法を行った後、手術を行う試験デザインである。主要評価項目は安全性と3年無病生存(DFS)率、副次評価項目はpCR率、translational research・ctDNAの変動であった。すでに高い病理学的奏効率と安全性が報告されていたが、今回3年DFS率とctDNAのデータが報告された。115例が登録され、女性が58%、T4が65%でT4bが29%、リンパ節転移ありが67%かつ33%がLynch症候群といった対象であった。既報のとおりpCR率は68%であり、3年DFS率は100%であった。ctDNAは治療前の段階では92%で陽性であったが、1コース後に45%が陰性となり、2コース後には83%が陰性となった。術前の段階でctDNA陽性であった16例のうち、術後のリンパ節転移が陽性であったのは14例中8例であった。また、術後のctDNAを用いたminimal residual diseaseの探索では、全例がctDNA陰性であった。本試験より局所進行dMMR結腸がんにおいて、イピリムマブ+ニボルマブは非常に魅力的な結果であった。本試験は2コースで術前治療が終わり、手術まで6週と定義されており、短期間で有効性が示されていることも魅力である。ESMO2024では同様の局所進行dMMR結腸がんに対してペムブロリズマブの有効性を探索したIMHOTEP試験や、ニボルマブ+relatlimab(抗LAG-3抗体)の併用療法の有効性を探索したNICHE-3試験も報告があった。局所進行MSI-H結腸がんの術前治療としての免疫チェックポイント阻害薬の有効性はおそらく確実であるが、どの対象にどの薬剤をどの期間使用するのがよいのかは、今後の研究が待たれる状況である。

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北海道大学 血液内科学教室【大学医局紹介~がん診療編】

豊嶋 崇徳 氏(教授)白鳥 聡一 氏(助教)杉村 駿介 氏(後期研修医)講座の基本情報医局独自の取り組み、医師の育成方針私たちの使命は、1人ひとりの患者さんの診療を大切にし、地域の医療を守りながら、同時に世界的な医療の発展に貢献するような高いレベルの臨床研究、基礎研究を推進していくことです。そのために、患者さんの味方として、心・人生を支える確固たる姿勢を持ち、同時に疾患を科学的に徹底して分析する姿勢を持ち、尊敬され感動を与える医師を育てたいと考えています。臨床研究にあたっては、北大の40床では世界に太刀打ちできません。そこでスケールメリットを生み出すために北日本血液研究会を設立し、500床以上の大規模な臨床研究を実施し、世界に対しエビデンスを創出しています。血液疾患ではほかの多くの疾患と異なり、診断・治療の大部分が血液内科医1人の双肩にかかってきます。責任重大ですが、患者さんとの強い信頼感、連帯感が生まれ、医師としての達成感、生きがいを強く感じることができます。 さらに最も高いレベルでの全身管理、トータルケア能力が要求され、臓器別診療の垣根を越えた総合内科医としての実力も身に付きます。 また分子標的療法、移植療法など、基礎研究の成果の臨床応用を目の当たりできるのも血液内科ならではです。明るく、自由度が高く、外に開かれ、1人ひとりのスタッフの夢を実現できるような“新生”血液内科を目指しています。若き情熱にあふれた皆様の教室への参加を心よりお待ちしています。力を入れている治療/研究テーマ当科では、基礎、臨床共に精力的に研究を行っています。臨床研究の分野では、「同種造血幹細胞移植」を主なテーマとして取り組んでおり、代表的な研究として、移植後の重篤な合併症である「移植片対宿主病(GVHD)」の新たな予防法を開発してきました。「移植後シクロホスファミド法」は、GVHDのリスクが高いHLA半合致移植(親子間移植等)における有効性が、当科を中心とした全国試験で証明され、国内のガイドラインで推奨されるに至り、現在では保険診療下で使用可能となりました。また「低用量抗ヒト胸腺細胞グロブリン法」も、当科を中心とした全国試験で高いGVHD予防効果が証明され、こちらもガイドラインへの掲載に至りました。さらに、同じく重篤な移植後合併症である「肝類洞閉塞症候群」に対し、当院の超音波センターとの共同研究で、超音波検査を用いて早期に診断する「HokUS-10スコアリングシステム」を開発しました。こちらのシステムも、国内のガイドライン、さらには最新の国際診断基準に掲載される等、国内外から高い評価を得ています。医局の魅力、医学生/初期研修医へのメッセージ当科では、同種造血幹細胞移植やキメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)療法や治験等、最先端の血液内科診療に触れる環境が整っており、研究への高いモチベーションにつながっています。当科はフロンティア精神に溢れた教室で、これからも活気ある教室を目指して臨床、教育、研究を精力的に進めていきますので、興味のある方はいつでもご連絡をお待ちしています。カンファレンス風景入局した理由私が北海道大学病院血液内科に入局した理由は、学生時代に受講した臨床講義で血液内科に強い興味を持ち、全身管理を必要とする内科的診療に魅力を感じたからです。さらに、道内各都市に関連施設があるため、地域との強いネットワークが構築されており、地域医療に貢献する意義を実感できることも大きな動機となりました。現在学んでいること大学病院における最先端の医療技術や、地域医療でのリアルワールドな診療を通じて、血液内科疾患について幅広く学んでいます。これらの経験は、理論と実践を結びつける貴重な機会となり、医療の多様な側面を理解する助けとなっています。また、上級医からの指導を受けることで、最新の治療法や研究動向について常に学び、日々成長を実感しています。今後のキャリアプラン来年度からは院生として研究活動にも取り組む予定です。臨床と研究の両面から血液内科を学ぶことで深みのある医師を目指しています。将来的には、専門医としての知識を深め、教育や地域医療への貢献も視野に入れたキャリアを築いていきたいと考えています。北海道大学大学院医学研究院 内科系部門内科学分野血液内科学教室住所〒060-8638 北海道札幌市北区北15条西7丁目問い合わせ先s.shiratori@med.hokudai.ac.jp医局ホームページ北海道大学大学院医学研究院 内科系部門内科学分野血液内科学教室専門医取得実績のある学会日本内科学会日本血液学会日本造血・免疫細胞療法学会日本輸血・細胞治療学会日本検査血液学会日本血栓止血学会日本臨床検査医学会日本エイズ学会研修プログラムの特徴(1)同種造血幹細胞移植、CAR-T療法等、最先端の血液内科医療に携わることができます。(2)チームによる診療体制を組んでおり、常に上級医からの指導・サポートを受けることができます。(3)北海道全域に関連病院を有しており、幅広い血液内科診療を経験できます。

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tuberculosis(結核)【病名のルーツはどこから?英語で学ぶ医学用語】第13回

言葉の由来「結核」は英語で“tuberculosis”(トゥバキュロウスィス)といいます。この病名は、「小さな塊」や「結節」を意味するラテン語の“tuberculum”に、状態を表す接尾辞の“-osis”が合わさってできたものです。結核の感染部位に小さな結節や塊が形成されることから、この名前が付けられました。「結核」という病名が医学的に使用され始めたのは19世紀のことです。結核の病態は古代から知られており、ヒポクラテスなど古代の医師たちもこの病気について記述を残していますが、当時は原因がわからず「消耗病」といった名称で呼ばれていました。医学や解剖学の進展で、死亡者の肺に小さな瘤がみられることがわかり、19世紀半ばに“tuberculosis”という病名が付けられました。結核の原因となる細菌である“mycobacterium tuberculosis”は、1882年にドイツの細菌学者ロベルト・コッホによって発見され、この発見が結核の診断と治療に革命をもたらしました。なお、結核菌は太古の昔から存在しており、イスラエル沖から発掘された紀元前7,000年ごろの人骨から結核菌の遺伝子が検出されています。日本では、結核は弥生時代からあったといわれていますが、本格的に流行したのは江戸時代から明治時代で、スペイン風邪流行下の1920年ごろに死亡者数はピークを迎えました。一時期は国民の死亡原因の首位になり、「国民病」と恐れられていましたが、結核予防法の制定や隔離治療、BCGの予防接種の推進などにより死亡者数は減少に転じました。併せて覚えよう! 周辺単語粟粒結核miliary tuberculosis多剤耐性結核multidrug-resistant tuberculosis空気予防策airborne precaution潜在性結核感染症latent tuberculosis infection非結核性抗酸菌症nontuberculous mycobacterial infectionこの病気、英語で説明できますか?Tuberculosis is a contagious disease caused by Mycobacterium tuberculosis, primarily affecting the lungs. It spreads through the air and can be latent or active. Symptoms include a persistent cough, fever, and weight loss. Tuberculosis is treatable with antibiotics but remains a global health challenge.講師紹介

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毎日のナッツ摂取が認知症リスク低下と関連〜前向きコホート研究

 英国バイオバンクコホートのデータによる5万例以上の大規模コホート研究で、毎日のナッツ摂取と認知症リスク低下の関連が示された。スペイン・Universidad de Castilla-La ManchaのBruno Bizzozero-Peroni氏らは、成人におけるナッツ摂取と認知症リスクとの関係を分析した地域ベースのコホート研究結果を、GeroScience誌オンライン版2024年9月30日号に報告した。 本研究では、2007~12年(ベースライン)と2013~23年(フォローアップ)の英国バイオバンクコホートの参加者データが解析された。ナッツ摂取に関するベースライン情報は、Oxford WebQ24時間アンケートを使用して取得され、すべての原因による認知症(アルツハイマー病、前頭側頭型認知症、血管性認知症など)の発症は、ベースライン時およびフォローアップ時に、自己申告による医学的診断、入院、または死亡記録を通じて評価された。なお、ベースライン時点で認知症を発症していた参加者は除外された。 ハザード回帰モデルを使用して、ナッツの摂取とすべての原因による認知症の発症リスクとの関連性を推定し、社会人口統計学的特徴、ライフスタイル、聴覚障害、自己評価による健康状態、慢性疾患の数により調整された。 主な結果は以下のとおり。・5万386人の参加者(平均年齢:56.5±7.7歳、女性:49.2%)が前向き解析に含まれ、すべての原因による認知症の発症率は2.8%(1,422件)であった。・平均7.1年の追跡調査後、ナッツをまったく摂取しなかった場合と比較して、毎日のナッツ摂取(>0~3つかみ以上)は、潜在的な交絡因子に関係なく、すべての原因による認知症リスクの12%低下と有意に関連していた(ハザード比:0.88、95%信頼区間:0.77~0.99)。・ナッツの摂取とハザード回帰モデルに含まれた共変量との間には、統計学的に有意な相互作用は観察されなかった。・層別分析では、1日当たり最大1つかみ(30g)のナッツの摂取と無塩ナッツの摂取が最も大きな保護効果と関連していた。

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スマートマスクで呼気から健康状態をチェック

 実験段階にある「スマートマスク」によって、吐いた息からその人の健康状態をチェックできる可能性のあることが、新たな研究で明らかにされた。バイオセンサーが取り付けられたこのシンプルな紙製のマスクは、呼吸器疾患や腎臓病などさまざまな健康問題のモニタリングに使える可能性を秘めているという。米カリフォルニア工科大学(CalTech)医用工学教授のWei Gao氏らによるこの研究の詳細は、「Science」8月30日号に掲載された。 このマスクは、受動冷却システムにより人の呼気をマスク上で冷却して液体化し、リアルタイムでその分析を行う。この論文の筆頭著者でCalTechのWenzheng Heng氏によると、呼気の凝縮液には、溶解性のガスだけでなく、エアロゾルや飛沫の形で存在する揮発性ではない物質が含まれており、これらを疾患のマーカーとして検査することができるのだという。分析結果のデータは、ワイヤレスでスマートフォンやタブレット、コンピューターに転送される。Gao氏によると、このマスクは比較的低コストで製造でき、材料費はわずか1ドル程度だという。 このマスクの性能を確かめるために、Gao氏らは一連の実験を行った。そのうちの1つの実験では、このマスクを用いて喘息や慢性閉塞性肺疾患(COPD)がある人の呼気を検査した。その結果、このマスクにより、両疾患における炎症マーカーである亜硝酸塩を正確に検出できることが確認された。また、別の実験では、血中アルコール濃度を検知するためにこのマスクを使用し、飲酒運転の現場での検査やアルコール摂取のモニタリングにも利用できることが示された。さらに3つ目の実験では、マスクによって腎臓病の指標となる呼気中のアンモニアガスの濃度を検知できるかが検証された。腎機能が低下すると、尿素などのタンパク質代謝の副産物が血液や唾液に蓄積し、呼気中のアンモニアガス濃度が高くなる。実験の結果、スマートマスクにより検知されたアンモニアガスの濃度から、血中の尿素濃度をかなり正確に知ることができることが確認された。 Gao氏は、「これらの初期の研究は、概念実証(PoC)段階のものだ。われわれはこの技術を拡大し、さまざまな健康状態に関連するマーカーを組み込みたいと考えている。これは、幅広い用途に使える全般的な健康状態のモニタリングのプラットフォームとして機能するマスクを作るための基礎となる」と説明している。 一方Heng氏は、CalTechのニュースリリースの中で、「このマスクは、呼吸器疾患や代謝性疾患の管理および精密医療における新たなパラダイムを象徴するものだ。なぜなら、毎日マスクをすることで呼気検体を簡単に得ることができ、さらに呼気中の化学分子をリアルタイムで分析できるからだ」と述べている。 なお、このマスクを着用した研究参加者は、呼吸器障害に苦しんでいる人も含めて、マスクが快適だと感じていたと研究グループは付け加えている。Gao氏は、「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)以来、人々がマスクを使用する頻度は増えた。こうしたマスク使用の広がりを利用して、自宅やオフィスでリアルタイムで健康状態のフィードバックを得るための、個別化された遠隔モニタリングを実現できるはずだ。例えば、その情報を使って、治療の効果を評価することもできるかもしれない」と話している。

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