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低リスクDCIS、積極的モニタリングvs.標準治療/JAMA

 低リスク非浸潤性乳管がん(DCIS)に対する積極的モニタリング(6ヵ月ごとに乳房画像検査と身体検査を実施)は、ガイドラインに準拠した治療(手術±放射線治療)と比較して、追跡2年時点の同側乳房浸潤がんの発生率を上昇せず、積極的モニタリングの標準治療に対する非劣性が示された。米国・デューク大学のE. Shelley Hwang氏らCOMET Study Investigatorsが前向き無作為化非劣性試験「COMET試験」の結果を報告した。JAMA誌オンライン版2024年12月12日号掲載の報告。グレード1/2のDCIS女性を対象、同側浸潤がん診断の2年累積リスクを評価 研究グループは、2017~23年にUS Alliance Cancer Cooperative Groupのクリニック試験地100ヵ所で、ホルモン受容体陽性(HR+)グレード1/2のDCISと新規診断された40歳以上の女性995例を登録して試験を行った。 被験者は、積極的モニタリング群(484例)またはガイドライン準拠治療群(473例)に無作為に割り付けられた。 主要アウトカムは、同側浸潤がん診断の2年累積リスクで、事前に計画されたITT解析およびper-protocol解析で評価した。非劣性マージンは0.05%。2年累積発生率、積極的モニタリング群4.2%、ガイドライン準拠治療群5.9% 957例が解析対象となった。積極的モニタリング群は63.7歳(95%信頼区間[CI]:60.0~71.6)、ガイドライン準拠治療群は63.6歳(55.5~70.5)であり、全体では15.7%が黒人女性、75.0%が白人女性であった。 事前規定された主要解析(追跡期間中央値36.9ヵ月)において、DCISの手術を受けたのは346例で(積極的モニタリング群82例、ガイドライン準拠治療群264例)、浸潤がんと診断されたのは46例(19例、27例)であった。 Kaplan-Meier法による同側浸潤がんの2年累積発生率は、積極的モニタリング群4.2%、ガイドライン準拠治療群5.9%で、群間差は-1.7%(95%CI上限0.95%)であり、積極的モニタリングのガイドライン準拠治療群に対する非劣性が示された。 浸潤がんの腫瘍特性は、両群間で統計学的な有意差はなかった。 また、全体として68.4%(665例)が内分泌療法の開始を報告していた(積極的モニタリング群345例[71.3%]、ガイドライン準拠治療群310例[65.5%])。これら内分泌療法を受けたサブグループの同側浸潤がんの発生率は、積極的モニタリング群3.21%、ガイドライン準拠治療群7.15%で、群間差は-3.94%(95%CI:-5.72~-2.16)であった。 著者は、「より長期の試験を行うことで、積極的モニタリングが永続的な安全性と忍容性を提供するかを明らかにできるだろう」とまとめている。

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第128回 年末年始、インフルエンザ・新型コロナの大流行が直撃

インフルエンザの流行曲線がヤバイさて毎年のように感染症に警戒しなければならない年末。昨シーズンは、新型コロナもインフルエンザも年明けからわりと流行していましたが、今シーズンはインフルエンザの流行曲線がほぼ直角に上がっています。第50週で19.06人。定点医療機関あたりの感染者数が5週間で1から一気にここまで上がりました(図)。やべえ!画像を拡大する図. インフルエンザとCOVID-19の定点医療機関あたりの感染者数(筆者作成)1)外来でも、インフル陽性、インフル陽性、新型コロナ陽性、インフル陽性…といった感じで報告が上がっていて、時折混ざってくる新型コロナにドキっとする日々です。幸いマイコプラズマは当地域では徐々に減ってきており、もともと風邪症状や気管支炎止まりのことが多いため、全体として入院を逼迫するような要因にはなっていません。マイコプラズマの感染者が若い人が中心、という理由もあるでしょう。しかし、インフルエンザや新型コロナに関しては、高齢者が罹患すると、わりと入院が必要になります。年末年始はまた大変なことになるのかなあと身構えています。新型コロナもじわじわ増えており、第50週で3.89人です。過去、この立ち上がりから流行を迎えなかったことはありません。ですから、ほどなく新型コロナも注意報レベルになることも既定路線でしょう。2年連続、同時流行。乾燥している病院インフルエンザウイルスは、相対湿度が40%を超えるとウイルスの活性化率が急速に低下することが知られています2)。ゆえに、医療機関においても40%ラインは確保したいところ。新型コロナも同様です。121ヵ国の気象データと新型コロナの感染者数・死亡者数を調べたアメリカのデータによると、室内の相対湿度を40~60%に維持することで、新型コロナの感染だけでなく、ひいては死亡者数まで低下するという研究結果が報告されています3)。温度環境は良好に管理されているものの、相対湿度については、多くの医療機関や高齢者福祉施設では40%を下回っています。そもそも、湿度をしっかり管理している病院って多くないかもしれません。レジオネラなどの院内アウトブレイクがあったら問題になりますし、加湿器はなかなか置けないかもしれませんね。参考文献・参考サイト1)厚生労働省:インフルエンザ・新型コロナウイルス感染症の定点当たり報告数の推移2)Noti JD, et al. High Humidity Leads to Loss of Infectious Influenza Virus from Simulated Coughs. PLoS One. 2013;8(2):e57485.3)Verheyen CA, et al. Associations between indoor relative humidity and global COVID-19 outcomes. J R Soc Interface. 2022;19(196):20210865.

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重症血友病A、新たな第VIII因子発現遺伝子治療が有望/NEJM

 第VIII因子インヒビターのない重症血友病A患者において、レンチウイルスベクターを用いて遺伝子導入した自己造血幹細胞(HSC)による遺伝子治療は、安定した第VIII因子発現が得られ、第VIII因子活性は末梢血中のベクターのコピー数と相関することが、インド・Christian Medical College VelloreのAlok Srivastava氏らの検討で示された。研究の成果はNEJM誌オンライン版2024年12月9日号に掲載された。5例を対象とするインドの第I相試験 研究グループは、第VIII因子インヒビターのない重症血友病Aにおけるレンチウイルスベクターを用いた自己CD34陽性HSCによる第VIII因子発現遺伝子治療の安全性と有効性の評価を目的に、インドの単施設において第I相試験を行った(インド政府科学技術省などの助成を受けた)。 年齢22~41歳の男性患者5例を対象とした。骨髄指向性CD68プロモーターを有する新規F8導入遺伝子(ET3)を含むレンチウイルスベクター(CD68-ET3-LV)を用いて、自己HSCに導入用エンハンサーなし(第1群、2例)または導入用エンハンサーあり(第2群、3例)のいずれかで形質導入した。患者は、骨髄破壊的前処置後に遺伝子導入HSCの移植を受けた。 治療の安全性については、生着とレジメン関連毒性作用の評価を行い、有効性は第VIII因子活性と年間出血率で評価した。 5例の患者のCD68-ET3-LV導入自己CD34陽性HSCの投与量は、体重1kg当たり5.0×106~6.1×106であった。最終の製剤中のベクターコピー数は、第1群の2例が1細胞当たり1.0および0.6で、第2群の3例は1細胞当たり1.5、0.6、2.2だった。全例で生着、インヒビターの発現はない 予想どおり全例で重度の血球減少が発現し、絶対好中球数の最低値は0.1×109/L未満、血小板数最低値は20×109/L未満であった。一方、全例で生着が得られ、好中球生着までの期間中央値は11日(範囲:10~12)、血小板生着までの期間中央値は15日(12~15)だった。重症好中球減少の期間中央値は8日(7~11)、重症血小板減少の期間中央値は3日(1~7)であった。 移植特性は第1群と第2群で差がなかった。5例のうち4例は、遺伝子治療後1~3ヵ月までには血球数が正常範囲に戻った。残りの1例(第2群)は、治療後14ヵ月には血球数が正常範囲となった。 好中球減少と血小板減少を除き、グレード2以上の有害事象はどの患者にも発現しなかった。最も頻度の高い有害事象は、吐き気(±嘔吐)であった。また、第VIII因子インヒビターは、製剤の投与後にどの患者にも発現しなかった。投与後4~22ヵ月目に行った遺伝子組み込み部位解析では、安全性に関する懸念は認めなかった。 これらのデータは、導入用エンハンサーがこのレンチウイルスベクターの遺伝子組み込みプロファイルに悪影響を及ぼさないことを示している。治療前に年間20件以上の出血が0件に 内因性第VIII因子の発現は、第2群の1例で投与後18日目に早くも観察された。60日目の第VIII因子活性値は、第1群の2例では7.9 IU/dLおよび4.0 IU/dLであり、第2群の3例では28.0 IU/dL、14.2 IU/dL、36.6 IU/dLであった。 第1群の2例では、投与後28日目から最後の追跡調査までの第VIII因子活性の中央値は、5.2 IU/dL(範囲:3.0~8.7)および1.7 IU/dL(1.0~4.0)であり、末梢血ベクターコピー数はそれぞれ0.2および0.1であった。同様に、第2群の3例では、第VIII因子活性中央値は37.1 IU/dL(18.3~73.6)、19.3 IU/dL(6.6~34.5)、39.9 IU/dL(20.6~55.1)であり、末梢血ベクターコピー数はそれぞれ4.4、3.2、4.8だった。 遺伝子治療前に、5例は少なくとも年間20件の出血イベントを報告していたが、治療後の累積追跡期間81ヵ月(追跡期間中央値14ヵ月[範囲:9~27])の時点で、年間出血率は5例ともゼロであった。 著者は、「このfirst-in-human試験の初期結果は、血友病Aの遺伝子治療の新たな可能性を示すものである。すべての患者で、より若い時期に施行可能であり、第VIII因子の持続的発現をもたらすと考えられる。この予測が正しいかは、より多くの患者を対象とした長期の臨床試験で明らかになるだろう」としている。

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動物性から植物性タンパク質への摂取移行は心臓の健康に有益

 主なタンパク質源を肉から植物に切り替えると、心臓の健康に驚くべき効果がもたらされるようだ。30年にわたる研究により、動物性タンパク質に対する植物性タンパク質のエネルギー比率が最も高い人では、心血管疾患(CVD)リスクが19%、冠動脈性心疾患(CHD)リスクが27%低下することが示された。米ハーバード大学T.H.チャン公衆衛生大学院のFrank Hu氏は、「われわれの多くが、植物性タンパク質を主なタンパク質源とする食生活にシフトしていく必要がある。肉の中でも、特に赤肉や加工肉の摂取を減らし、豆類やナッツ類の摂取量を増やすことでそれが可能になる。このような食生活は、人間の健康だけでなく地球の健康にも有益だ」と述べている。この研究の詳細は、「American Journal of Clinical Nutrition」12月号に掲載された。 この研究では、Nurses’ Health Study(NHS)I(1984〜2016年)参加女性7万918人、NHS II(1991〜2017年)参加女性8万9,205人、およびHealth Professionals Follow-up Study(1986〜2016年)参加男性4万2,740人の追跡データを用いて、植物性タンパク質と動物性タンパク質のエネルギー比率がCVD発症に与える影響を検討した。このエネルギー比率は、4年ごとに実施される食事摂取頻度調査を用いて、それぞれのタンパク質が全エネルギー摂取量に占める割合として計算された。 30年に及ぶ追跡期間中に、虚血性心疾患や脳卒中など1万6,118件のCVD症例が発生していた。解析の結果、植物性タンパク質と動物性タンパク質のエネルギー比率が上位10%の人(第10十分位群)では、下位10%の人(第1十分位群)と比較して、全CVDリスクが19%、CHDリスクが27%、有意に低いことが示された。このリスク低下は、タンパク質の摂取量が多い人で顕著であった。特に、タンパク質の摂取量が最も多く(全エネルギーの21%)、かつ植物性タンパク質と動物性タンパク質のエネルギー比率が高い人では、タンパク質の摂取量が最も少ない人(全エネルギーの16%)と比較して、CVDリスクが28%、CHDリスクが36%低いことが明らかになった。一方、脳卒中のリスクと動物性タンパク質および植物性タンパク質のエネルギー比率との間に有意な関連は認められなかった。ただし、赤肉や加工肉をナッツ類などの植物性食品に置き換えることで、脳卒中リスクは低くなることが示された。 研究グループによると、植物性タンパク質を中心とした食生活への完全移行はCHDリスクの低減に最も効果的な可能性があるが、CVDに対する効果は植物性タンパク質と動物性タンパク質の比率が約1対2で頭打ちになるとの考えを示している。 また、論文の筆頭著者である、ハーバード大学T.H.チャン公衆衛生大学院のAndrea J Glenn氏は、「平均的な米国人での植物性タンパク質と動物性タンパク質のエネルギー比率は1対3である。しかし、われわれの研究結果は、CVDの予防には少なくとも1対2の比率の方がはるかに効果的であることを示唆している。CHDの予防には、1対1.3以上の比率で植物性タンパク質を摂取すべきだ」と話している。

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抗菌薬と手術、小児の虫垂炎に最善の治療法はどちら?

 過去数十年にわたり、小児の虫垂炎(いわゆる盲腸)に対しては、手術による虫垂の切除が一般的な治療とされてきた。しかし、新たな研究で、手術ではなく抗菌薬を使う治療が、ほとんどの症例で最善のアプローチであることが示唆された。この研究では、合併症のない虫垂炎(単純性虫垂炎)の治療に抗菌薬を使用することで、痛みが軽減し、学校を休む日数も減ることが示されたという。米ネムール小児医療センターのPeter Minneci氏らによるこの研究結果は、「Journal of the American College of Surgeons」に11月19日掲載された。 本研究の背景情報によると、米国では、小児の入院理由として5番目に多いのが虫垂炎であり、また、入院中の小児に対して行われる外科手術の中で最も多いのが虫垂切除術だという。Minneci氏らは、2015年5月から2018年10月の間に中西部の小児病院で単純性虫垂炎の治療を受けた7〜17歳の小児1,068人のデータを分析し、1年間の追跡期間を通じて、抗菌薬による非手術的管理と手術的管理(緊急腹腔鏡下虫垂切除)の費用対効果を比較した。対象者の親には、子どもの虫垂を切除するか、手術回避の可否を確認するために少なくとも24時間の抗菌薬による点滴治療を行うかの選択肢が与えられていた。370人(35%)は抗菌薬による非手術的な管理、698人(65%)は手術的管理を選んでいた。 費用対効果の評価では、増分費用効果比(ICER)を主な指標として採用した。これは、非手術的管理と手術的管理の費用の差を健康アウトカムの差で割ったもので、1単位の質調整生存年(QALY)または障害調整生存年(DALY)を得るために必要な追加費用を意味する。1QALYまたは1DALY当たりの支払い意思額(WTP、支払っても良いと思う最大金額)を10万ドル(1ドル150円換算で1500万円)に設定し、この閾値を基準として費用対効果を評価した。 その結果、非手術的な管理は手術的管理よりも費用対効果の高いことが明らかになった。手術的管理にかかった費用は、1人当たり平均9,791ドル(1ドル150円換算で146万8,650円)であり、平均0.884QALYを獲得していた。一方、非手術的管理にかかった費用は1人当たり平均8,044ドル(同約120万6,600円)であり、平均0.895QALYを獲得していた。 Minneci氏は、「この結果は、合併症のない小児の急性虫垂炎に対しては、非手術的管理の方が手術的管理よりも1年を通して最も費用対効果の高い治療戦略であることを示している」と述べている。 Minneci氏はさらに、「われわれの研究は、抗菌薬のみの治療の方が小児にとって安全かつ効果的であるだけでなく、費用対効果も高いというベネフィットがあることを明らかにした。虫垂炎に対する非手術的管理は、安全かつ費用対効果の高い初期治療であり、手術に代わる合理的な選択肢だ」と述べている。 研究グループは今後、それぞれの治療法が失敗する頻度を比較し、虫垂炎の小児に病院ではなく自宅で抗菌薬を投与できるかどうかを検討する予定だとしている。

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一部の主要ながんによる死亡回避、予防が治療を上回る

 「1オンスの予防は1ポンドの治療に値する」は、米国の建国の父ベンジャミン・フランクリンの有名な格言の一つだが、がんに関してはそれが間違いなく当てはまるようだ。米国立がん研究所(NCI)がん対策・人口科学部門長のKatrina Goddard氏らによる新たな研究で、過去45年間に、がんの予防とスクリーニングによって子宮頸がんや大腸がんなど5種類のがんによる死亡の多くが回避されていたことが明らかになった。この研究の詳細は、「JAMA Oncology」に12月5日掲載された。 Goddard氏は、「多くの人が、治療法の進歩がこれら5種類のがんによる死亡率低下の主な要因だと考えているかもしれない。しかし、実際には、予防とスクリーニングが死亡率の低下に驚くほど大きく貢献している」と話す。さらに同氏は、「過去45年間に回避されたこれら5種類のがんによる死亡の10件中8件は、予防とスクリーニングの進歩によるものだ」と付け加えている。 この研究でGoddard氏らは、人口レベルのがん死亡率データを用い、Cancer Intervention and Surveillance Modeling Network(CISNET)が開発した既存のモデルを拡張して、1975年から2020年の間に回避された乳がん、子宮頸がん、大腸がん、肺がん、前立腺がんの累積死亡数に対する予防、スクリーニング(前がん病変の除去や早期発見)、および治療の寄与度を定量化した。介入としては、肺がんは喫煙量の削減による一次予防、子宮頸がんと大腸がんは全がん病変の除去を目的としたスクリーニング、乳がん、子宮頸がん、大腸がん、前立腺がんは早期発見、乳がん、大腸がん、肺がん、前立腺がんは治療の寄与度についてそれぞれ評価した。なお、研究グループによると、これら5種類のがんが、新たに診断されるがんと死亡者のほぼ半数を占めているという。 その結果、対象期間中に、予防、スクリーニング、および治療により、これら5種類のがん患者の推定594万人が、がんによる死亡を回避しており、このうちの80%(475万人)は、予防またはスクリーニングによる回避と推定された。介入の寄与度はがん種により異なっていた。乳がんでは、回避された死亡の25%(26万人)はスクリーニング(主にマンモグラフィー)によるものであり、残りの75%(77万人)は治療によるものであった。子宮頸がんでは、回避された死亡の100%(16万人)が、スクリーニング(パップテストやヒトパピローマウイルス〔HPV〕検査)と前がん病変の除去によるものであった。また、大腸がんでは、回避された死亡の79%(74万人)はスクリーニング(大腸内視鏡検査など)による早期発見や前がん性ポリープの除去によるもので、残りの21%(20万人)は治療の進歩によるものであった。さらに、肺がんでは、回避された死亡の98%(339万人)は喫煙量の削減によるものであり、前立腺がんでは、回避された死亡の56%(20万人)はスクリーニング(PSA検査)によるものであった。 こうした結果を受けてGoddard氏は、「これらの調査結果は、検討した全てのがん領域で強力な戦略とアプローチを継続する必要があることを示唆している。がんによる死亡率低下に役立つのは、治療の進歩と予防・スクリーニングの両方なのだ」と話している。研究グループは、HPVワクチン接種による子宮頸がん予防や胸部X線検査による肺がん検診などの新しい戦略により、近年、さらに多くの死亡が回避されている可能性が高いことを指摘している。これらの対策は、本研究期間中は普及していなかった。 研究論文の上席著者であるNCIがん予防部門長のPhilip Castle氏は、「これら5種類のがんの予防およびスクリーニングの普及と利用を最適化し、特に十分な医療を受けられていない人が恩恵を受けられるようにする必要がある。また、膵臓がんや卵巣がんなど、致命的になる可能性の高い他のがんによる死亡を回避するための新たな予防およびスクリーニング方法を開発する必要もある」と述べている。

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冬季に高齢者の入浴は要注意

冬季の高齢者の入浴はなぜ危険?■冬季こそ高齢者は入浴時に気を付けよう65歳以上の高齢者で入浴中に意識を失い、そのまま浴槽内で溺れて亡くなるという不慮の事故が増えています。毎年11月~4月にかけて多く発生し、高齢者の浴槽内での不慮の溺死および溺水の死亡者数は4,750人(厚生労働省人口動態統計[令和3年])で、交通事故死の亡者数2,150人のおよそ2倍です。原因の1つは、急な温度差による血圧の急激な変化です。血圧の急激な変化により一時的に脳内に血液が回らない貧血状態になり、一過性の意識障害を起こし、浴槽内で溺れて死亡するものと考えられています。【とくに注意が必要な人】・65歳以上の高齢者・血圧が不安定な人・以前風呂場でめまいや立ちくらみを起こした人政府広報オンラインより引用(2024年12月16日閲覧)https://www.gov-online.go.jp/useful/article/202111/1.htmlCopyright © 2024 CareNet,Inc. All rights reserved.

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GOMER、暴れる患者、対応困難な患者【救急外来・当直で魅せる問題解決コンピテンシー】第1回

GOMER、暴れる患者、対応困難な患者Point陰性感情をもたないようにして、コミュニケーション能力(傾聴と共感)を磨け。警察を呼ぶタイミングを知っておこう:暴力、器物損壊はただちに。それ以外は2段階方式で。身体拘束と薬物拘束は段階的に、人権意識をもって対処する。器質的疾患を見逃さないようにすべし。症例56歳男性。研修医の診察中に急に激高して暴れ始めた。目はどこかあちらの世界に飛んでいるようだ。家で奇声を上げたり、台所で排尿したりして、家人が心配で連れてきた。バイタルサインは血圧160/100mmHg、脈拍110回/分、呼吸数30回/分、体温38.2℃、SpO2 98%であった。落ち着くようにいっても聞く耳をもたない。本人は帰宅するというが、そのまま帰していいのだろうか。おさえておきたい基本のアプローチ対応困難な患者は、患者だけの問題ではないGOMER(Get Out of My ER)とは、「俺の救急室からとっとと出ていけ」という特定の患者を嫌う医療者の勝手な造語であり、使ってはいけない隠語だ。患者と馬が合わないのを患者のせいにするなんて医者の風上にも置けない。多くの人が苦手とする患者であってもうまく対応できてこそプロなのだ。difficult patient(良好な医師-患者関係を築けない患者)には、患者要因、医療者要因、環境要因などが挙げられる(図1)。図1 difficult patientが誕生するわけ画像を拡大する勝手に患者が悪いなんて決めつけてはいけない。以前医療過誤にあった家族をもつ患者であれば、医療者が誰も話を聞いてくれなかったつらい過去をもっており、医療不信になるのも当然だ。そんな患者に寄り添うには、事情がわからなくても「1に親切、2に親切、3に親切」に接するに限る。つらい思いでやっと救急室にたどり着いたのに、待ち時間は長く、暇そうな医療者が大声で笑い、コーヒーのいい匂いが漏れ出てきて、愛想のない受付や看護師が対応し、最後にコミュニケーションスキルが皆無の医者が出てきて、あなたの期待に全然応えなかったら…ハイ、あなたでも怒っている患者になりませんか?医者は偏見を捨てて、患者の訴えに傾聴し(医学的に間違っていてもすぐに否定してはいけない)、決めつけずに、愛情をもった態度で、患者中心のコミュニケーションを進め、共感を示すべし1)。どんな状況においても医者には大逆転できるhalo effectがあるんだから、「私はあなたの味方ですよ」オーラを全開に放って対応しよう。自分の感情をコントロールせよ医者が陰性感情をもつ場合は、自分の力が及ばない無力感こそが最大の敵である(表1)。表1 こんな患者に陰性感情をもってはダメ:誤診の宝庫画像を拡大する研修医にわけのわからない質問を受けると、イラッと来てしまうが、それは答えがわからないいらつきなんだよね。対処法がわからない、きちんと情報が取れない、それは何も患者が悪いわけではないと自覚しよう。自分の感情をコントロールし、偏見を捨てて、患者に変なレッテルを張らないようにしよう。陰性感情をもつと、診療が雑になり、誤診しやすくなってしまう。危ない患者、暴れる患者を予想する医療者の第六感を鍛えるのは大事。どんな患者が暴れ始めるのか早めに察知しよう(表2)。表2 危険を察知する画像を拡大する初期研修医2年目も終わりごろになれば、どの科のどの医者が危ないか第六感でわかってくる、その勘と相通じるとか通じないとか…。危険を察知したら、なるべく団体行動をとること。人を集めて、数がいることで抑止力になり得る。警備員を救急待合室に配置しておこう。多勢に無勢なのに暴れるなら、その患者は本物のせん妄なのかもしれない。治療を要する患者を見逃すな病気のせいでせん妄になり暴れている場合は、何が何でも患者の安全を優先して治療しないといけない。自傷他害の恐れがなく、判断能力(decision-making capacity)がしっかりしている場合は、患者の同意なく医療行為はできない。反対にどれか1つでもかけていたら、患者の安全のために抑制し治療が必要になる(図2)。decision-making capacityに関しては4つの要素を確認する(表3)2)。その際にはきちんとMMSEなど記録をしっかり残すこと。図2 治療を優先すべきとき画像を拡大する表3 decision-making capacityの4つの要素画像を拡大するせん妄患者の特徴は、急性発症で意識レベルが変動し、注意力散漫または意識障害を呈するものである。まるでキツネにつままれたように、まともになったり、変になったりする。バイタルサイン異常、とくに発熱に気をつける。新しい記憶の障害を伴う見当識障害を認めることが多い。古い記憶は保たれるため、名前や住所が言えても意識は大丈夫と思ってはいけない。暴れる患者の鑑別診断機能的なものは精神疾患や人格障害によるものが多い。治療可能な器質的疾患は見逃さないようにしたい。鑑別診断「FIND ME」と覚えよう(表4)。慢性硬膜下血腫の半数は精神症状で来院する。感染症や薬剤によるせん妄も多い。低血糖も3割は好戦的になるのだ3)。子供だって、お腹がすくと怒りっぽくなるよねぇ。表4 暴れる患者の鑑別診断 FIND ME画像を拡大する落ちてはいけない・落ちたくないPitfalls「そんな大声出すなら警察を呼びますよ」…大声をあげるだけでは警察は動かない警察を呼ぶのに許可はいらない。必要なときは、遠慮せずさっさと警察に助けを求めよう。ぎりぎりまで我慢すると、暴力はエスカレートしてくるので、早い段階で警察を呼ぶほうがいい。警察は誰か怪我をしたとき(暴行罪:刑法第208条、傷害罪:刑法第204条)や物が壊れた時(器物損壊罪:罪刑法第261 条)は素早く動いてくれる。敵もさるもの、大声くらいでは警察が来ないのを知っている。この程度で、「警察呼びますよ」なんていうと、「おりゃぁ、じゃ、呼んでみぃ、コルアァ」と火に油を注ぐ結果になっちゃうかもしれない。大声を出したくらいでは警察は動かない。公然わいせつ罪:刑法第174条、脅迫罪:刑法第222条、強要罪:刑法第223条「土下座しろ~」、名誉棄損罪:刑法第230条、侮辱罪:刑法第231条、威力業務妨害罪:刑法第234条「大声を出す」、恐喝罪:刑法第249条「お金は払わないぞ」、つきまとい行為:ストーカー規制法など罪状は数あれど、この程度では警察はすぐ来てくれない。これくらい病院自身で対応しなさいということ。そんな場合は、2段階警察呼び出し法を知っておこう(図3)。2回通告しても診療の邪魔をしてきて、ほかの患者の診療に支障が出る場合は、証拠を残しておけば、警察に助けを求められる。図3 2段階警察呼び出し法画像を拡大するPoint暴言・暴力、迷惑行為には早々に屈して、警察を呼ぼう身体拘束と薬物拘束を同時に行いましょう…はダメ!身体拘束や薬物拘束は、重大な人権侵害になる可能性があると、常に気を配ろう。自傷他害の恐れがある場合や見当識障害がありdecision-making capacityがない場合は、患者の安全のために拘束が許される。身体抑制に至った経緯と所見をしっかりカルテ記載すること。身体抑制で事足りる場合は、薬物抑制はしてはならない。したがって、身体抑制では患者の安全が保てないと判断した場合は、その理由と時間をカルテ記載し、段階的に薬物抑制が必要だった旨をカルテ記載すべし。Point身体抑制と薬物抑制は段階的に行い、人権意識をもって対処し、記録をしっかりすべしワンポイントレッスン言葉による鎮静言葉による鎮静は基本の基本。言葉による鎮静の10ヵ条を示す(表5)。表5 言葉による鎮静の10ヵ条画像を拡大する多くの場合、患者が自分の思いが医療者に通じないと思って騒いでいることが多い。言葉の鎮静は、相手の意見を十分聞くことが秘訣だ。平昌五輪のカーリング女子のように「そだねー」を連発し、相手の意見を承認するのがいい。医療者をなるべく集めておき、患者と医療者は2人きりにならないようにする。部屋のドアは開放し、出口側に自分を位置し、いざというときはさっと逃げられるようにする。身体抑制・薬物抑制身体抑制Tips、薬剤抑制Tipsを表6に示す。表6 身体抑制・薬物抑制Tips画像を拡大する必ず同時に行わないで、段階的に行い時間を記載する。身体抑制のみでは患者の安全が保てない場合に、薬物抑制を行ったというカルテ記載を必ず残すべし。薬物抑制はなるべく筋注がいい。静注だと点滴ライン確保時に、患者が暴れて針刺し事故になる危険がある。またジアゼパムの筋注は、残り少ない理性が吹っ飛んで余計暴れるので、しないほうがいい。勉強するための推奨文献New A, et al. Psy Clin North Am. 2017;40:397-410.Moukaddam N, et al. Psy Clin North Am. 2017;40:379-395.Moukaddam N, et al. Emerg Med Clin North Am. 2015;33:797-810.American Academy of Family Physician. Fam Pract Manag. 2019;26:32.参考1)Cannarella Lorenzetti R, et al. Am Fam Physician. 2013;87:419-425.2)Appelbaum PS. N Engl J Med. 2007;357:1834-1840.3)Malouf R, Brust JC. Ann Neurol. 1985;17:421-430.講師紹介

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ASH2024レポート

レポーター紹介はじめに2024年12月6日(金)~10日(火)の5日間にわたり、アメリカ合衆国カリフォルニア州サンディエゴにて、第66回米国血液学会(ASH)年次総会が開催されました。ASHは、全世界から約3万人の血液学の専門家が集う世界最大の血液学会のイベントであり、毎年、12月の初旬に開催されます。私は、2019年にフロリダ州オーランドで開催された第61回ASHに参加して以来、5年ぶりの現地参加となりました(2020年からはCOVID-19の世界的流行のため、On lineでの開催となり、以降、現地開催とともにOn lineでの参加が可能となっている)。3年前の2022年から、米国臨床腫瘍学会(ASCO)で発表された血液領域の注目演題のレポートをケアネットのDoctors'Picksのコーナーに寄稿していますが、ASCOにて口演に採択される血液がん関連の演題数は限られており、その中から10演題程度を選ぶ作業は比較的容易ですが、ASHの演題はすべて血液関連であり、口演の演題数だけでも1,000演題程度(ポスターは4,000演題程度)あり、その中から10演題選ぶのは至難の業でした。今回は、私の専門領域のリンパ系腫瘍(悪性リンパ腫と多発性骨髄腫)の演題から独断と偏見で10演題選びました。それでは、どのような演題が発表されたか各演題の概要にお目を通してください。なお、YouTubeチャンネルのEXPERT MINDでも、これらの演題を含む24演題の解説動画を2025年1月中旬から順次アップしておりますので、興味のある方は、そちらもご覧ください。びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)Five-Year Analysis of the POLARIX Study: Prolonged Follow-up Confirms Positive Impact of Polatuzumab Vedotin Plus Rituximab, Cyclophosphamide, Doxorubicin, and Prednisone (Pola-R-CHP) on Outcomes. (Abstract #469)POLARIX試験(初発のびまん性大細胞型リンパ腫[DLBCL] に対し、Pola-R-CHP療法とR-CHOP療法を比較したグローバル試験であり、主要評価項目のPFSにおいて、Pola-R-CHPが有意に優った試験)の結果をもとに、2年前から日本でも保険診療でPola-R-CHPが初発DLBCL患者に対し使用可能となっている。今回、そのPOLARIX試験の5年のフォローアップデータが示された。主要評価項目のPFSは、2年時点のHR0.73(95%CI:0.57-0.95)が、5年時点でHR0.77(0.62~0.97)となり、Pola-R-CHPのR-CHOPに対する有意性が維持されていた。副次評価項目のOSについては、2年時点でHR:0.94(0.65-1.37)であったが、5年時点ではHR:0.85(0.63-1.15)とK-M曲線において少し差が開きかけているデータであった。安全性については、両治療にほぼ差を認めず、Pola-R-CHP療法は初発DLBCLの新たな標準療法とみなせるデータが示されたと思われる。本試験はあと2年フォローが継続されるようで、OSにも有意差がみられることが期待される。A Randomized Phase 2, Investigator-Led Trial of Glofitamab-R-CHOP or Glofitamab-Polatuzumab Vedotin-R-CHP (COALITION) in Younger Patients with High Burden, High-Risk Large B-Cell Lymphoma Demonstrates Safety, Uncompromised Chemotherapy Intensity, a High Rate of Durable Remissions, and Unique FDG-PET Response Characteristics. (Abstract #582)IPIや組織型でハイリスクの初発DLBCL患者(IPI≧3あるいはNCCN-IPI≧4あるいはDH/TH)に対し、CD20/CD3二重抗体薬のglofitamab(Glofit)をPola-R-CHPとR-CHOPに併用した第2相ランダム化比較試験(COALITION試験)の結果が報告された。投与法は、Glofitを2サイクル目のDay8、Day15と3~6サイクル目のDay8に投与し、さらに地固めとしてGlofitのみを2サイクル追加した。各群40例ずつの患者がエントリーされた。安全性に関しては、ほぼ同等であり、CRSはどちらも約20%の患者でみられたがG1~2であり、ICANSはゼロであった。最良効果でのCMR率はどちらも98%であり、EOIでのcfDNAを用いたMRD陰性率は88%であった。2年時点のPFSは、どちらの群とも86%と、ハイリスクDLBCL患者に対する良好な治療成績が示された。以上の結果を基に、さらに症例数を増やした試験が実施される予定である。濾胞性リンパ腫(FL) Single-Agent Mosunetuzumab Produces High Complete Response Rates in Patients with Newly Diagnosed Follicular Lymphoma: Primary Analysis of the Mithic-FL1 Trial. (Abstract #340)CD20XCD3二重抗体薬のmosunetuzumab(Mosun)を単剤で初発の濾胞性リンパ腫(FL)患者に投与した第2相Mithic-FL1試験の初めての解析結果が報告された。Mosunは、再発・難治FLに対し、海外ではすでに承認され、日本でも近々承認される薬剤である。特徴は投与スケジュールであり、1サイクル目Day1に5mg、Day8、15に45mg、2サイクル目からはDay1に45mg投与し、8サイクル終了後(6ヵ月間)にCRであればそこで治療を終了し、PRであれば9サイクル追加(約1年間)する固定期間の治療ということである。80例がエントリーされた。効果判定可能な76例のうち、ORRは96%、CRは80%であり、1年のPFSは91%という優れた治療成績が示され、免疫化学療法の成績に劣らなかった。安全性ではCRSが54%にみられ、G2は3%のみであった。初発FLに対して二重抗体薬のみで免疫化学療法と同等の治療効果が得られる可能性が示されたことでFLの今後の治療はケモフリーの方向に進んで行くと思われた。Loncastuximab Tesirine with Rituximab Induces Robust and Durable Complete Metabolic Responses in High-Risk Relapsed/Refractory Follicular Lymphoma.(Abstract #337)抗CD19抗体に抗がん剤のPBD dimer cytotoxinを結合した新規のADC薬のLoncastuximab Tesirine(Lonca)とリツキシマブによる再発・難治FLに対する臨床試験の成績である。Loncaはすでに海外で2ライン以上の治療歴のあるR/R DLBCLに対し単剤での使用が認められており、開発試験の成績では14例に対し、ORR 78.6%、CR 64.3%であった。投与スケジュールは1~2サイクル目にLonca+R、3・4サイクル目にLoncaのみを投与し、PR以上であれば、Lonca+Rを3サイクル追加し(維持療法1)、CRであればRのみ、PRであればLonca+Rを6サイクル追加する(維持療法2)。39例の患者がエントリーされ、POD24の症例は20例であり、3ライン以上の前治療歴のある症例は11例であった。最良治療効果のORR 97.4%、CR 76.9%であり、12ヵ月時点でのPFSは94.6%であった。有害事象もほとんどがG1~2であり、安全性も問題なかった。Lonca+RもR/R FLに対する新たな選択肢となりうる可能性が示された。マントル細胞リンパ腫(MCL)Ibrutinib-rituximab is superior to rituximab-chemotherapy in previously untreated older mantle cell lymphoma patients. Results from the international randomised controlled trial, Enrich.(Abstract #235)マントル細胞リンパ腫(MCL)は、難治性のリンパ腫であり、寛解・再燃を繰り返す。これまでは、初発MCLに対しリツキシマブと抗がん剤を併用する免疫化学療法(CIT)が標準療法として実施されてきたが、BTK阻害薬が登場し治療戦略が変わりつつある。本発表では、高齢の初発MCL患者に対し、BTK阻害薬のイブルチニブとリツキシマブを併用したIR療法と従来のCITを比較した第III相試験(Enrich試験)の結果が報告された。IR群:199例、免疫化学療法群(RBかR-CHOP)198例がエントリーされた。主要評価項目のPFS中央値は、IR群65.3ヵ月、免疫化学療法群42.4ヵ月であり、HRは0.69(0.52~0.90)と有意にIR療法が優れていた。ただし、免疫化学療法の治療法別では、R-CHOPとのHRは0.37(0.22-0.62)であったが、RBとのHRは0.91(0.66~1.25)と差がみられなかった。また、Blastoid-typeのMCLに対してはRBとのHRは2.33(0.83~6.52)とIRの治療成績が劣ることも示されている。IRはケモフリー治療として初発MCL患者に対する1つの選択肢となり得る。Lack of Benefit of Autologous Hematopoietic Cell Transplantation (auto-HCT) in Mantle Cell Lymphoma (MCL) Patients (pts) in First Complete Remission (CR) with Undetectable Minimal Residual Disease (uMRD): Initial Report from the ECOG-ACRIN EA4151 Phase 3 Randomized Trial.(Abstract #LBA6)若年の初発MCL患者に対しては、第一寛解期に自家移植併用大量化学療法(ASCT)が行われることが標準療法とされてきたが、リツキシマブやイブルチニブによる維持療法を追加することで、ASCTが不要となる可能性が示されてきている。本試験でも、寛解導入療法によって微小残存病変(MRD)が陰性となった患者において、リツキシマブによる3年間の維持療法を行うことで、ASCTをスキップ可能かどうかが前向きに検証された。寛解導入治療によって、MRD陰性となった患者をASCT+R-m(A)群とR-m単独(B)群にランダム化し、主要評価項目としてOSが評価された。A群257例、B群259例がエントリーされた。2.7年の追跡期間で、HR 0.984と両群にまったく差がみられず、MIPI-cでHighリスクの症例でも同様であった。このことから、寛解導入療法でMRD陰性となったMCL患者においてはASCTを行う必要はなくなったという結果が示された。これから長期のフォローが必要だが、MCLの治療においてもMRD陰性が治療目標になることが示された。慢性リンパ性白血病(CLL)Fixed-Duration Acalabrutinib Plus Venetoclax with or without Obinutuzumab Versus Chemoimmunotherapy for First-Line Treatment of Chronic Lymphocytic Leukemia: Interim Analysis of the Multicenter, Open-Label, Randomized, Phase 3 AMPLIFY Trial.(Abstract #1009)初発の慢性リンパ性白血病(CLL)に対し、BTK阻害薬アカラブルチニブ+BCL2阻害薬ベネトクラクス±抗CD20抗体薬オビヌツズマブ併用治療(AV±O)を固定期間(14ヵ月)で行う治療と従来の免疫化学療法(FCRかBRのどちらかを選択)を比較した第III相試験(AMPLIFY試験)の中間解析結果が報告された。エントリーされた患者は、AV群291例、AVO群286例、FCR群143例、BR群147例であった。主要評価項目はAV群と免疫化学療法群のPFSの比較であった。結果は、PFS中央値が、AV群未達、免疫化学療法群47.6ヵ月でHR 0.65(0.49~0.87)と有意にAV群が優った。AVO群の免疫化学療法群に対するHRは0.42(0.30~0.59)とさらに良好であり、MRD陰性化率もAVO>免疫化学療法であったが、本試験の実施中にCOVID-19のパンデミックがあり、AVO群でCOVID-19による死亡、治療中止が最も多かったということも示された。固定期間のAVあるいはAVO療法が免疫化学療法よりも有用であることが初めて示された。感染症の観点からはAV>AVOと思われるが、現在日本で使用可能なAOの固定期間治療の有用性は、これから検証する必要がある。多発性骨髄腫(MM)Sustained MRD Negativity for Three Years Can Guide Discontinuation of Lenalidomide Maintenance after ASCT in Multiple Myeloma: Results from a Prospective Cohort Study.(Abstract #361)初発多発性骨髄腫(MM)の治療では、自家移植併用大量化学療法(ASCT)を行い、レナリドミドにて維持療法を行うのが標準療法となっている。また、MRD陰性が持続することが長期のPFSを得るためには必要な条件となっているが、いつまでレナリドミドを投与すべきか、あるいはレナリドミドを中止できる条件などは明らかではない。本試験では、レナリドミドによる維持療法を3年間行い、その期間、MRD陰性を確認できた患者に対し、レナリドミドを一旦中止し、その後のMRDを6ヵ月ごとにフォローする前向き試験の結果が報告された。52例のMM患者がエントリーされた。中央値3年間のフォロー期間で、12例(23%)がMRD陰性⇒MRD陽性となり(中央値27.5ヵ月にて)レナリドミドが再開された。4例(7.6%)がPDとなった。1例がMM以外で死亡された。Treatment-free survivalは、93.9%(@1年)、91.6%(@2年)、75.8%(@3年)であった。また、7年のPFSは90.2%であった。以上より、ASCT後、レナリドミド維持療法による3年間のMRD陰性持続が治療中止の条件として妥当と考えられた。Phase 3 Randomized Study of Daratumumab Monotherapy Versus Active Monitoring in Patients with High-Risk Smoldering Multiple Myeloma: Primary Results of the Aquila Study.(Abstract #773)くすぶり型骨髄腫(MM)に対し、これまでは治療介入せずに注意深く経過観察を行うことが推奨されてきた。本試験(AQUILA試験)では、ハイリスクのくすぶり型MMに対し、ダラツムマブ皮下注単剤治療を導入する群と注意深く経過観察する群に分けて、SLiM-CRABの所見を認めるまでの期間(PFS)を比較している。Dara群:194例、観察群:196例がエントリーされた。有害事象のためDaraが中止となったのは13例(6.7%)であり、Daraが安全な治療薬であることが示された。追跡期間の中央値65.2ヵ月において、主要評価項目のPFSは、Dara群未達、観察群41.5ヵ月であり、HR 0.49(0.36~0.67)と有意にDara群でSLiM-CRABの所見に移行する患者が少なかった。また、骨髄腫の治療が開始されるまでの期間もDara群で有意に長く、さらに、骨髄腫の最初の治療の効果(PFS、OS)は観察群で有意に不良であることも示された。以上の結果から、ハイリスクのくすぶり型MMに対するDaraによる早期の治療介入が、今後の標準治療となることが示された。Previous HDM/ASCT adversely impacts PFS with BCMA-directed CAR-T cell therapy in multiple myeloma.(Abstract #79)多発性骨髄腫(MM)の初期治療は、ASCTを行うかどうかで治療方針が大きく分かれる。通常、65歳以下でPS良好の患者はASCTの適応となる。しかし、多くの患者ではやがて再発がみられ、次の治療が必要となる。再発MMに対しては、CAR-T細胞治療の有効性が示されている。本研究では、ASCT治療歴のあるMM患者に対するCAR-T治療の効果が検証されている。BCMA-CAR-T治療が行われたMM患者で、ASCT治療歴のある81例とASCT治療歴のない77例が比較された。寛解導入療法の治療効果は、両群で差を認めなかったが、CAR-T療法によるPFS中央値は9.9ヵ月(ASCT歴あり)と16.1ヵ月(ASCT歴なし)で、ASCT歴があるとCAR-T療法の効果が有意に悪いことが示された。ただし、OSへの影響は差がなかった。CAR-T療法の種類では、特に、Ide-celの効果が落ちることも示された。この結果のメカニズムの詳細は不明だが、CAR-T療法を行う可能性があるMM患者へのASCTの適応は慎重に考える必要があることが示唆された。おわりに今回、5年ぶりのASHへの現地参加であったが、これまでと変わらない参加者たちの熱気を感じ、on lineでの参加とは違う刺激を受けました。レポートしました10の演題は現地でも注目度が高く、会場が満席で、急遽、別室で中継される事態も発生していました。これらの発表を聞いていると、今後、リンパ系腫瘍の治療は、従来の化学療法剤(ケモ薬)を使用せず、分子標的薬と免疫療法(CAR-TやT細胞エンゲージャー)だけで治療する時代に変わっていくように感じました。ASHの参加費は年々高くなり、さらに円安の影響で学会参加費は、かなり高騰しています。また、アメリカは物価が高く、わずか5泊の滞在でしたが、ホテル代や食費もかなりの出費でした。今後、毎年、ASHに参加するのは難しいと思いましたが、できれば、数年後に、また、現地参加してみたいと思っています。

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敗血症疑い患者の抗菌薬の期間短縮、PCTガイド下vs.CRPガイド下/JAMA

 敗血症が疑われる重篤な入院成人患者において、バイオマーカー(プロカルシトニン[PCT]とC反応性タンパク質[CRP])のモニタリングプロトコールによる抗菌薬投与期間の決定について、標準治療と比較してPCTガイド下では、安全に投与期間を短縮でき全死因死亡も有意に改善したが、CRPガイド下では投与期間について有意な差は示されず、全死因死亡は明らかな改善を確認することはできなかった。英国・マンチェスター大学のPaul Dark氏らADAPT-Sepsis Collaboratorsが、多施設共同介入隠蔽(intervention-concealed)無作為化試験「ADAPT-Sepsis試験」の結果を報告した。敗血症に対する抗菌薬投与の最適期間は不明確であり、投与中止の判断はバイオマーカー値に基づいて行われているが、その有効性および安全性の根拠は不明確なままであった。JAMA誌オンライン版2024年12月9日号掲載の報告。総抗菌薬投与期間(有効性)と全死因死亡(安全性)を評価 ADAPT-Sepsis試験は2018年1月1日~2024年6月5日に、英国国民保健サービス(NHS)の集中治療室(ICU)41ヵ所で行われた。敗血症が疑われ24時間以内に抗菌薬の静脈内投与を開始した、少なくとも72時間の投与継続の可能性がある18歳以上の成人患者2,760例を対象に、PCTまたはCRPの評価に基づく決定が抗菌薬期間を安全に短縮可能かどうかについて検証した。 被験者は、daily PCTガイド下プロトコール群(918例)、daily CRPガイド下プロトコール群(924例)、標準治療群(918例)に無作為に割り付けられた。 主要アウトカムは、無作為化から28日までの総抗菌薬投与期間(有効性)と全死因死亡(安全性)であった。副次アウトカムは、CCU(critical care unit)入室期間、入院期間データなどであった。90日全死因死亡も評価した。PCTガイド下の有効性、安全性を確認 無作為化された2,760例のベースライン特性は3群間で類似しており、平均年齢は60.2(SD 15.4)歳、男性60.3%であった。ほぼすべての患者が敗血症診断Sepsis-3基準を満たしていたと考えられ(SOFAスコア:7[四分位範囲:5~9])、敗血症患者は1,397例(50.8%)、敗血症性ショック患者は1,352例(49.2%)であった。 無作為化から28日までの総抗菌薬投与期間は、daily PCTガイド下プロトコール群が標準治療群と比較して有意に短縮した(平均期間:9.8日[SD 7.2]vs.10.7日[7.6]、平均群間差:0.88[95%信頼区間[CI]:0.19~1.58]、p=0.01)。一方、daily CRPガイド下プロトコール群は標準治療群と比較して、総抗菌薬投与期間について差はみられなかった(10.6日[SD 7.7]vs.10.7日[7.6]、平均群間差:0.09[95%CI:-0.60~0.79]、p=0.79)。 無作為化から28日までの全死因死亡について、daily PCTガイド下プロトコール群(全死因死亡率20.9%[184/879例])の標準治療群(19.4%[170/878例])に対する非劣性(非劣性マージンは5.4%)が示された(絶対群間差:1.57[95%CI:-2.18~5.32]、p=0.02)。daily CRPガイド下プロトコール群(全死因死亡率21.1%[184/874例])の標準治療群に対する非劣性は確証が得られなかった(絶対群間差:1.69[95%CI:-2.07~5.45]、p=0.03)。

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胃ろうは必要? 希望する家族・ためらう医療者【こんなときどうする?高齢者診療】第8回

CareNeTVスクール「Dr.樋口の老年医学オンラインサロン」で2024年11月に扱ったテーマ「ACPとよりよい意思決定のためのコミュニケーションスキル」から、高齢者診療に役立つトピックをお届けします。高齢者診療には、延命治療や心肺蘇生、生活場所の変更といった大きな決断がつきものです。今回はサロンメンバーが経験した胃ろう造設に関するケースを例に、よりよい意思決定支援につながる医療コミュニケーションのコツを探ります。85歳男性。進行した認知症により経口摂取が難しくなり、誤嚥性肺炎を繰り返し、栄養状態の悪化、体重減少が進んでいる。現在、本人の意向は確認できないが、家族は栄養状態の回復と誤嚥性肺炎の予防のために胃ろう造設を強く希望している。医療チームは、胃ろう造設による栄養状態回復や誤嚥予防が望めないことや造設によるデメリット・リスクが大きいと考え、家族の希望には添えないのではないかと悩んでいる。医療コミュニケーションのための3ステージ意思決定支援(Goals of Care)の場面では、患者や家族と話し合うための準備が不可欠です。米国コロンビア大学の中川俊一氏が提唱した3ステージプロトコル1)は、意思決定支援において多くの医療者が実践できるアプローチです。意思決定のプロセスを3つのステージに分けて順を追って進めることで、患者の価値観と家族のリソースに適した落としどころにたどり着きやすくなります。老年医学の5つのMも活用すると、以下のようになります。(1)病状説明5のM(Matters most、Mind、Mobility、Medication、Multi-complexity)を活用し、包括的に現状理解を深め、病状や予後を患者・家族に共有する(2)治療ゴールの設定患者・家族と治療・介入のゴールを設定する(3)治療オプションの相談2で設定したゴールに最も適したオプション(落としどころ)を提示・相談するひとつずつ見ていきましょう。病状説明のステージのゴールは、関係者全員(医療者・患者・家族など)が現状認識を共有することです。皆が持っている情報を統一することで、予後予測や治療への期待のズレを解消します。ここでのポイントは、現在の病状評価のプロセスに5つのMを活用すること。診断は、①情報収集②情報の統合と解釈③仮説としての暫定診断を繰り返す作業です。5つのMを用いて高齢者に頻度の高い事象の情報収集をすることで、患者の実態をより的確に把握し、診断の精度を高めることができます。それにより予後予測や今後の提案の質も高まります。治療ゴール設定のステージは、前の段階で共有した病状・現状認識をもとに、患者の価値観や優先順位を踏まえて、今後の治療やケアのゴールを設定するステップです。ここでのポイントは、「どのようなゴールを望むか」に加えて、「そのゴールが達成できない場合、何が許容できて、何が許容できないのか」を確認することです。信頼関係が築けている場合は、「どのような状態になったら、自分にとって耐え難い状況だと思いますか?」「もしこうなったら死んだほうがましという状況は何ですか?」といった質問も、患者が心の中で抱えている本音を引き出すきっかけになることがあります。患者本人の意向を直接聞くことができない場合には、「もし本人が現在の状況を理解していたら、何を望み、どのように感じているだろうか」といった問いを家族や親しい人にしてみることが必要です。最後のステージでは、これまでに明らかになった患者の価値観や治療ゴール、家族の意向を踏まえ、医療チームとしての推奨方針を明確に提示します。この段階では、選択肢ごとのメリット・デメリットや実現可能性を具体的に説明しながらも、患者にとって最も価値観に沿った治療オプションがどれであるのかを医療のプロとして明示しましょう。そして、その推奨に対する家族の意見や懸念を丁寧に聞き取り、必要に応じて選択肢を調整しながら、最終的に合意された治療方針を共有します。ステージを1つずつクリアしよう!今回のケースでは、家族は患者の存命を願うあまり、胃ろう造設による栄養状態の改善や誤嚥性肺炎の予防という、実は存在しないかもしれないメリットに注目している可能性があります。一方で、医療者は、胃ろう造設による経管栄養で期待できることの限界やリスクを理解しており、造設がもたらすデメリットやネガティブな転帰を懸念しています。この状況では、家族と医療者の間に認識の違いがあることが、意思決定を難しくしているのかもしれません。この場合はステージ1に戻りましょう。もう一度、現在の病状の共有(進行した認知症で、認知機能の回復が見込めない状態。その結果としての嚥下機能低下、合併症としての誤嚥性肺炎)と、治療的介入に期待できることの限界(進行した認知症患者に対しての胃ろう・経管栄養による誤嚥予防のエビデンスはないこと、栄養状態の改善に関するエビデンスも乏しいこと)などを共有し、家族と医療者の認識の違いを解消する必要があります。ステージ1をクリアしなければ次に進めないのです。現状共有をし直した後、ステージ2で、患者の希望や意向を踏まえて、再度治療ゴールを設定します。患者は認知機能の低下により、胃ろう造設に関する意思決定能力がないと判断されるため、「もし患者が現在の状況を理解できたとしたら、どのような希望や意向を持つだろうか」という視点で、患者の価値観を深く掘り下げていきます。ステージ1まで戻ることで、ステージ2で家族の意向が変わる可能性が生まれ、それに応じてステージ3で医療チームの推奨も変化し、最終的に患者の価値観に最も合った治療方針を見つけることができるでしょう。いかがでしょうか?3ステージプロトコルを使って対話を構成することで、意思決定に関わるコミュニケーションは格段にスムーズになるはずです。私を含めて、医師は対話のスキルを磨くことに苦手意識を持つ方が多いかもしれませんが、コミュニケーションは練習すれば必ず上達するスキルです。ぜひ、一緒に練習していきましょう! コミュニケーション向上の7ステップはオンラインサロンでオンラインサロンメンバー限定の講義では、コミュニケーションの練習を効率的かつ効果的に行うための7ステップを解説。外科的介入のときに押さえておきたい4つのゴールなどのすぐに活用できるトピックがご覧いただけます。参考1)中川俊一. 米国緩和ケア専門医が教える あなたのACPはなぜうまくいかないのか? . 2024.メジカルビュー社定価2,970円(税込)判型A5判頁数240頁発行2024年9月著者中川 俊一ご購入(電子版)はこちらご購入(電子版)はこちら紙の書籍の購入はこちら医書.jpでの電子版の購入方法はこちら紙の書籍の購入はこちら

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第246回 カロリー制限と抗老化作用の関連を担う胆汁酸を発見

カロリー制限と抗老化作用の関連を担う胆汁酸を発見現代は定期的な食事に重きが置かれていますが、古く古代より断食(カロリー制限)の効用が説かれています1)。また、古代(紀元前16世紀)のエジプトのパピルス古文書には浣腸やその他の治療として胆汁(bile)が使用されたとの記載があり、胆汁の重要な役割は古代の医師にとって自明の理だったようです2)。中国からの最新の研究成果により、古代より知られていたその2つの効能を関連付ける仕組みが判明しました。先週水曜日にNatureに掲載されたその研究の結果、カロリー制限が抗老化作用をもたらすことに胆汁酸の一種であるリトコール酸(LCA)が寄与すると判明しました3)。餌を減らした研究用の動物の寿命が伸びることが知られています。ヒトも同様の絶食で健康が改善するようです。しかし、カロリーを抑えた食事を長く続けられる人はおよそ皆無でしょう4)。そこで、ほぼ継続不可能なカロリー制限をせずとも、その効果を引き出すカロリー制限模倣化合物(CRM)を探す取り組みが始まっています。AMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)はCRMの有望な標的の1つです。AMPKはヒトを含め真核生物ならおよそ持ち合わせており、カロリー制限で活性化し、カロリー制限の効能になくてはならない分子です。たとえばカロリー制限のマウスの筋肉はAMPKが活発で、萎縮し難くなることが知られています5)。糖尿病薬メトホルミンやワインに含まれる植物成分レスベラトロールはAMPKを活性化するCRMであり、種々の生物の寿命や健康生存を伸ばしうることがわかっています。そういうCRM探しが進展する一方で、カロリー制限への代謝順応がどのような仕組みでAMPKを活性化して健康を維持し、寿命を伸ばすのかは不明瞭であり、多くの疑問が残っています。そこで中国のチームはカロリー制限で変化する特定の代謝産物がAMPKの調節に携わるかもしれないと当たりをつけて研究を始めました。まず初めにカロリー制限したマウスの血清のAMPK活性化作用を調べ、加熱しても損なわれずにAMPKを活性化しうる低分子量の代謝産物が確かに存在することが示されました。続いて、カロリーを制限したマウスとそうでないマウスの血中の1,200を超える代謝分子が解析され、カロリー制限で増える212の代謝産物が見つかりました。それらを培養細胞に与えて調べた結果、LCAがAMPKを活性化することが突き止められました。LCAは肝臓で作られる胆汁酸の2次代謝産物です。その前駆体であるコール酸(CA)やケノデオキシコール酸(CDCA)が肝臓から腸に移行し、そこで乳酸菌、クロストリジウム、真正細菌などの腸内細菌の手によってLCAが作られます。特筆すべきことに、LCAは絶食で増える血清の代謝産物の1つであることが健康なヒトの試験で示されています6)。カロリー制限していないマウスにLCA入りの水を与えたところ、どうやら代謝がより健康的になり、インスリン感受性が向上してミトコンドリアの性能や数が上向きました。また、体力も向上するようで、いつもの水を飲んだマウスに比べてより長く速く走れ、より強く握れるようになりました。LCAが老化と関連する衰えを解消しうることをそれらの結果は示唆しています6)。研究はさらに進み、LCAがAMPKを活性化する仕組みも判明しました。LCAはTULP3というタンパク質を受容体とし、LCAと結合したTULP3で活性化したサーチュイン遺伝子がAMPK活性化を導くことが解明されました7)。LCAに延命作用があるかどうかは微妙です。ショウジョウバエや線虫の寿命を延ばしたものの、マウスの検討では有意な延命効果は認められませんでした3,6)。ヒトと同じ哺乳類のマウスがLCAで延命しなかったことは興ざめ4)ですが、その効果がないと結論付けるのはまだ早いようです。ヒトで言えば中年のマウスで試しただけであり、より若いうちからLCAを与えてみるなどの種々の切り口での研究が必要です。中国の研究チームは先を急いでおり、サルでのLCAの効果を調べる研究をすでに開始しています4)。参考1)A bile acid could explain how calorie restriction slows ageing / Nature2)Erlinger S. Clin Liver Dis (Hoboken). 2022;20:33-44.3)Qu Q, et al. Nature. 2024 Dec 18. [Epub ahead of print]4)Restricting calories may extend life. Can this molecule do it without the hunger pangs? / Science 5)A bile acid may mimic caloric restriction / C&EN6)Fiamoncini F, et al. Front Nutr. 2022;9:932937.7)Qu Q, et al. Nature. 2024 Dec 18. [Epub ahead of print]

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DOACとスタチンの併用による出血リスク

 直接経口抗凝固薬(DOAC)はスタチンと併用されることが多い。しかし、DOACとアトルバスタチンまたはシンバスタチンの併用は、出血リスクを高める可能性が考えられている。それは、DOACがP-糖タンパク質の基質であり、CYP3A4により代謝されるが、アトルバスタチンとシンバスタチンもP-糖タンパク質の基質であり、CYP3A4により代謝されることから、両者が競合する可能性があるためである。しかし、これらの臨床的な影響は明らかになっていない。そこで、英国・ロンドン大学衛生熱帯医学大学院のAngel Ys Wong氏らの研究グループは、英国のデータベースを用いて、DOACとアトルバスタチンまたはシンバスタチンの併用と出血、心血管イベント、死亡との関連を検討した。その結果、DOACとアトルバスタチンまたはシンバスタチンには、臨床的な相互作用は認められなかった。ただし、アトルバスタチンまたはシンバスタチンを使用中にDOACの使用を開始した場合、出血や死亡のリスクが高かった。本研究結果は、British Journal of General Practice誌オンライン版2024年11月28日号で報告された。 本研究は、英国のClinical Practice Research Datalink(CPRD)Aurumデータベースを用いて、コホート研究とケースクロスオーバー研究に分けて実施した。コホート研究では、2011~19年に初めてDOACが処方された患者を対象とした。DOACとアトルバスタチンまたはシンバスタチンを併用した集団(アトルバスタチン群、シンバスタチン群)と、DOACとその他のスタチン(フルバスタチン、プラバスタチン、ロスバスタチン)を併用した集団(その他のスタチン群)に分類し、出血(消化管出血、頭蓋内出血、その他の出血)、心血管イベント(虚血性脳卒中、心筋梗塞、心血管死)、死亡のリスクを比較した。ケースクロスオーバー研究は、DOACまたはスタチン開始のタイミングが及ぼす影響について、患者自身をコントロールとして比較することを目的として実施した。対象は、DOACやスタチンの使用期間中に初めて出血、心血管イベント、死亡が認められた患者とした。 主な結果は以下のとおり。【コホート研究】・DOACが処方された患者は39万7,459例で、そのうちアトルバスタチンを併用した患者は7万318例、シンバスタチンを併用した患者は3万8,724例が抽出された。・アトルバスタチン群は、その他のスタチン群と比較して、出血、心血管イベント、死亡のいずれについてもリスクの有意な上昇はみられなかった。・シンバスタチン群は、その他のスタチン群と比較して、出血、心血管イベントのリスクの有意な上昇はみられなかった。死亡についてはシンバスタチン群でリスク上昇がみられたが(ハザード比[HR]:1.49、99%信頼区間[CI]:1.02~2.18)、年齢を詳細に調整することで、影響は減弱した(HR:1.44、99%CI:0.98~2.10)。【ケースクロスオーバー研究】・アトルバスタチン使用中にDOACの使用を開始した患者、シンバスタチン使用中にDOACの使用を開始した患者において、出血や死亡のリスクが上昇した。・DOAC使用中にアトルバスタチンの使用を開始した患者、DOACを使用中にシンバスタチンを使用した患者では、同様の傾向は認められなかった。 なお、ケースクロスオーバー研究において、スタチン使用中にDOACの使用を開始した患者で出血や死亡のリスクが高かったことについて、著者らは「薬物相互作用ではなく、DOAC開始時の患者の状態(臨床的脆弱性)が影響していると考えられる」と考察したが、「アトルバスタチンまたはシンバスタチン使用中にDOACの使用を開始する際は、出血や死亡のリスクが高いため注意が必要である」とも述べている。

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乳がん再発予測、ctDNA検査はいつ実施すべき?示唆を与える結果(ZEST)/SABCS2024

 血中循環腫瘍DNA(ctDNA)陽性で再発リスクが高いStageI~IIIの乳がん患者に対するPARP阻害薬ニラパリブの有効性を評価する目的で実施された第III相ZEST試験において、試験登録者のctDNA陽性率が低く、また陽性時点での再発率が高かったために登録が早期終了したことを、英国・Royal Marsden Hospital and Institute of Cancer ResearchのNicholas Turner氏がサンアントニオ乳がんシンポジウム(SABCS2024、12月10~13日)で報告した。 ZEST試験では、治療可能病変に対する標準治療完了後の、トリプルネガティブ乳がん(TNBC)または腫瘍組織のBRCA(tBRCA)病的バリアントを有するHR+/HER2-乳がん患者(StageI~III)を対象に、血液を用いた微小残存腫瘍検出専用の遺伝子パネル検査(Signatera)を実施。ctDNA陽性で放射線学的に再発のない患者を、ニラパリブ群(200または300mg/日)およびプラセボ群に無作為に割り付けた。ctDNA検査は2~3ヵ月ごとに実施された。主要評価項目はニラパリブ群の安全性と忍容性で、無再発生存期間(RFS)も評価された(当初は無病生存期間が主要評価項目とされていたが、登録の早期中止に伴い変更)。 主な結果は以下のとおり。・2024年5月8日時点で2,746例が事前スクリーニングに参加、1,901例がctDNA検査を受け、147例(8%)がctDNA陽性であった。・1,901例の患者特性は、年齢中央値が52.0歳、TNBCが88.5%、tBRCA病的バリアントを有するHR+乳がんが11.5%、術前補助療法歴ありが32.7%、術後補助療法歴ありが33.8%、術前・術後補助療法歴ありが31.2%であった。・ctDNA陽性率が低く、また陽性時点での再発率が高かったために登録は早期終了した。・ctDNA陽性となった患者の割合は1回目の検査で5.2%、2回目以降の検査で4.4%、再発率はそれぞれ52.5%、43.8%であり、再発率はctDNAレベルの高さと関連していた。・根治的治療完了からctDNA陽性までの期間は3ヵ月未満が最も多く、TNBCにおいてはctDNA陽性者の60%が根治的治療完了から6ヵ月以下で検出されていた。・ctDNA陽性者では、リンパ節転移陽性、Non-pCR、StageIII、術前・術後補助療法歴を有する傾向がみられた。・ctDNA陽性者のうち、50%(73/147例)はctDNA検出時に再発が確認された。・ctDNA陽性者のうち40例がニラパリブ群(18例)またはプラセボ群(22例)に無作為に割り付けられた。90%がTN乳がん、10%がtBRCA病的バリアントを有するHR+乳がんであった。・RFS中央値は、ニラパリブ群11.4ヵ月(95%信頼区間[CI]:5.7~18.2) vs.プラセボ群5.4ヵ月(95%CI:2.8~9.3)であった(ハザード比:0.66、95%CI:0.32~1.36)。・ニラパリブ群において、新たな安全性シグナルは確認されなかった。 Turner氏は、十分な登録患者数が得られず早期終了したため、ニラパリブの有効性について結論を出すことはできないが、本試験が直面した課題は今後の臨床試験の設計に影響を与えるものだと指摘。ctDNA陽性者の半数がすでに再発していたことを踏まえると、今後の研究では、術前療法終了前にctDNA検査を開始すべきではないかとコメントした。これはとくにTNBCが該当するとして、術前療法で効果が得られない場合、早期に再発する可能性があると指摘している。

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造影剤アナフィラキシーの責任は?【医療訴訟の争点】第7回

症例日常診療において、造影剤を使用する検査は多く、時にその使用が不可欠な症例もある。しかしながら、稀ではあるものの、造影剤にはアナフィラキシーショックを引き起こすことがある。今回は、造影剤アレルギーの患者に造影剤を使用したところアナフィラキシーショックが生じたことの責任等が争われた東京地裁令和4年8月25日判決を紹介する。<登場人物>患者73歳・男性不安定狭心症。経皮的冠動脈インターベンション(PCI)後。原告患者本人(常に両手がしびれ、身体中に痛みがあり、自力歩行ができない状態)被告総合病院(大学病院)事案の概要は以下の通りである。平成14年(2002年)11月不安定狭心症と診断され、冠動脈造影検査(CAG)にて左冠動脈前下行枝に認められた99%の狭窄に対し、PCIを受けた。平成20年(2008年)1月再び不安定狭心症と診断され、CAGにて右冠動脈に50~75%、左冠動脈前下行枝に50%、左冠動脈回旋枝に75%の狭窄が認められ、薬物治療が開始された。平成23年(2011年)1月CAGにて右冠動脈に75%、左冠動脈前下行枝に75%、左冠動脈回旋枝に75%の狭窄が認められ、PCIを受けた。平成29年(2017年)2月28日心臓超音波検査にて、心不全に伴う二次性の中等度僧帽弁閉鎖不全と診断された。3月9日CAGにて右冠動脈に75%、左冠動脈回旋枝に50%の狭窄が認められた。このとき、ヨード造影剤(商品名:イオメロン)が使用され、原告は両手の掻痒感を訴えた。被告病院の医師は、軽度のアレルギー反応があったと判断し、PCIを行うにあたってステロイド前投与を実施することとした。3月14日前日からステロイド剤を服用した上で、ヨード造影剤(イオメロン)を使用してPCIが実施された。アレルギー反応はみられなかった。令和元年(2019年)7月19日ヨード造影剤(オムニパーク)を用いて造影CT検査を実施。使用後、原告に結膜充血、両前腕の浮腫および体幹発赤が見られ、造影剤アレルギーと診断された。9月17日心臓超音波検査にて、左室駆出率が20%に低下していることが確認された。9月25日前日からステロイド剤を服用した上で、CAGのためヨード造影剤(イオメロン)が投与された(=本件投与)。その後、収縮期血圧50 mmHg台までの血圧低下、呼吸状態の悪化が出現し、アナフィラキシーショックと診断された。CAGは中止となり、集中治療室で器械による呼吸補助、昇圧剤使用等の処置が実施された。9月26日一般病棟へ移動10月3日退院実際の裁判結果本件では、(1)ヨード造影剤使用の注意義務違反、(2) ヨード造影剤使用リスクの説明義務違反等が争われた。本稿では、主として、(1) ヨード造影剤使用の注意義務違反について取り上げる。裁判所は、まず、過去の最高裁判例に照らし「医師が医薬品を使用するに当たって、当該医薬品の添付文書に記載された使用上の注意事項に従わず、それによって医療事故が発生した場合には、これに従わなかったことにつき特段の合理的理由がない限り、当該医師の過失が推定される」との判断基準を示した。そして、本件投与がされた令和元年9月時点のイオメロンの添付文書に「ヨード又はヨード造影剤に過敏症の既往歴のある患者」に対しての投与は禁忌と記載されていたことを指摘した上で、原告が過去にヨード造影剤の投与により、両手の掻痒感の症状が生じていたことや、結膜充血、両前腕の浮腫および体幹発赤の症状が生じたことを指摘し、原告は投与が禁忌の「ヨード又はヨード造影剤に過敏症の既往歴のある患者」に当たるとした。そのため、裁判所は「被告病院の医師は、令和元年9月、原告に対してヨード造影剤であるイオメロンを投与し(本件投与)、その結果、原告はアナフィラキシーショックを起こしたから、上記添付文書の記載に従わなかったことにつき特段の合理的理由がない限り、被告病院の医師の過失が推定される」とした。上記から、過失の推定を覆す事情が認められるかが問題となるが、裁判所は、主として以下の3点を指摘し、「実際の医療の現場では、本件提言を踏まえて、過去のアレルギー反応等の症状の程度、ヨード造影剤の投与のリスク及び必要性を勘案して、事例毎にヨード造影剤の投与の可否が判断されていた」と認定した。(1)日本医学放射線学会の造影剤安全性管理委員会は、ヨード造影剤に対する中等度又は重度の急性副作用の既往がある患者に対しても、直ちに造影剤の使用が禁忌となるわけではなく、リスク・ベネフィットを事例毎に勘案してヨード造影剤の投与の可否を判断する旨の提言を出していること(2)被告病院は、提言を踏まえ、リスク・ベネフィットを事例毎に勘案してヨード造影剤の投与の可否を判断していたほか、急性副作用発生の危険性低減のためにステロイド前投与を行うとともに、副作用発現時への対応を整えていたこと(3)「ヨード又はヨード造影剤に過敏症の既往歴のある患者」に対してもリスク・ベネフィットを事例毎に勘案してヨード造影剤の投与の可否を判断していた病院は、他にもあったことその上で裁判所は、「過去のアレルギー反応等の症状の程度、ヨード造影剤の投与のリスク及び必要性等の事情を勘案して原告に対して本件投与をしたことが合理的といえる場合には、上記特段の合理的理由(注:添付文書の記載に従わなかった合理的理由)があったというべき」とした。そして、投与が合理的か否かについて、以下の点を指摘し、投与の合理性を認めて過失を否定した。過去のアレルギー反応等の症状の程度は、軽度又は中等度に当たる余地があるものであったこと原告に対しては心不全の原因を精査するために本件投与をする必要があったこと被告病院の医師は、ステロイド前投与を行うことによって原告にアレルギー反応等が生じる危険性を軽減していたこと被告病院では副作用が発現した時に対応できる態勢が整っていたこと注意ポイント解説本件では、添付文書において「禁忌」とされている「ヨード又はヨード造影剤に過敏症の既往歴のある患者」に対してヨード造影剤が投与されていた。この点、医師が医薬品を使用するに当たって添付文書に記載された使用上の注意事項に従わなかったことによって医療事故が発生した場合には、添付文書の記載に従わなかったことにつき特段の合理的理由がない限り、当該医師の過失が推定されるとするのが判例である(最高裁平成8年1月23日判決)。このため、添付文書で禁忌とされている使用をした場合、推定された過失を否定することは一般には困難である。本件は、この過失の推定が覆っているが、このような判断に至ったのは、学会の造影剤安全性管理委員会が、ヨード造影剤に対する中等度又は重度の急性副作用の既往がある患者に対しても、直ちに造影剤の使用が禁忌となるわけではないとし、添付文書の記載どおりに禁忌となるわけではない旨の提言をしていたこと被告病院だけでなく、他の病院も、提言を踏まえ、リスク・ベネフィットを事例毎に勘案して投与の可否を判断していたことという事情があり、禁忌であっても諸事情を考慮して使用されているという医療現場の実情を立証できたことが大きい。この点に関してさらに言えば、医療慣行が当然に正当化されるわけではない(医療慣行に従っていても過失とされる場合がある)ため、学会の提言を起点として、他の病院でも同様の対応をしていたことが大きな要素と考えられる。これは学会の提言に限らず、ガイドラインのような一般化・標準化されたものであっても同様と考えられる。もっとも、学会やガイドラインが、添付文書で禁忌とされている医薬品の使用について明記するケースは非常に少ないため、本判決と同様の理論で過失推定を覆すことのできる例は多くはないと思われる。そのため、多くの場合は、添付文書の記載と異なる対応を行うことに医学的合理性があること、及び、類似の規模・特性の医療機関においても同様に行っていること等をもって過失の推定を覆すべく対応することとなるが、その立証は容易ではない。したがって、添付文書の記載と異なる使用による責任が回避できるとすれば、それは必要性とリスク等を患者にきちんと説明して同意を得ている場合がほとんどと考えられる。医療者の視点われわれが日常診療で使用する医薬品には副作用がつきものです。とくにアナフィラキシーは時に致死的となるため、細心の注意が必要です。今まで使用したことがある医薬品に対してアレルギーがある場合、そのアレルギー反応がどの程度の重症度であったか、ステロイドで予防が可能であるか、などを加味して再投与を検討することもあるかと思います。「前回のアレルギーは軽症であったろうから今回も大丈夫だろう」「ステロイドの予防投与をしたから大丈夫だろう」と安易に考え、アレルギー歴のある薬剤を再投与することは、本件のようなトラブルに進展するリスクがあり要注意です。医薬品にアレルギー歴がある患者さんに対しては、そのアレルギーの重症度、どのように対処したか、再投与されたことはあるか、あった場合にアレルギーが再度みられたか、ステロイドの予防投与でアレルギーを予防できたか、等々の詳細を患者さんまたは家族からしっかりと聴取することが肝要です。そのうえで、医薬品の再投与が可能かどうかを判断することが望ましいです。Take home message「ヨード又はヨード造影剤に過敏症の既往歴のある患者」に対するヨード造影剤の使用は、学会の提言に従い、リスク・ベネフィットを事例毎に勘案し、リスク発症時の態勢等を整えた上で対応されていれば、責任を回避できる場合もある。もっとも、一般に、添付文書の記載と異なる使用による事故の責任を回避することは容易でないため、必要性とリスクについて患者に対する説明を尽くすことが重要である。キーワード医療水準と医療慣行裁判例上、医療水準と医療慣行とは区別されており、「医療水準は医師の注意義務の基準(規範)となるものであるから、平均的医師が現に行っている医療慣行とは必ずしも一致するものではなく、医師が医療慣行に従った医療行為を行ったからといって、医療水準に従った注意義務を尽くしたと直ちにいうことはできない」とされている。このため、たとえば、他の病院でも添付文書の記載と異なる使用をしているという事情があるとしても、そのことをもって添付文書の記載と異なる使用が正当化されることにはならず、正当化には医学的な裏付けが必要である。

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ATTR型心アミロイドーシス、CRISPR-Cas9遺伝子編集療法が有望/NEJM

 心筋症を伴うトランスサイレチン型心アミロイドーシス(ATTR-CM)患者において、nexiguran ziclumeran(nex-z)の単回投与は、血清TTR値を迅速かつ持続的に減少したことが示された。nex-zと関連がある有害事象としては一過性の注入に伴う反応が認められた。英国・ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのMarianna Fontana氏らが、トランスサイレチン(TTR)遺伝子を標的とするCRISPR-Cas9を用いた遺伝子編集療法nex-zの、安全性および有効性を評価した第I相非盲検試験の結果を報告した。ATTR-CMは進行性の致死的疾患であるが、nex-zはポリニューロパチーを伴う遺伝性ATTRアミロイドーシス患者において血清TTR値を減少させたことが報告されていた。NEJM誌2024年12月12日号掲載の報告。心不全既往・併存のATTR-CM患者36例においてnex-zの安全性と有効性を評価 研究グループは、18~90歳のATTR-CM患者で、心不全による入院歴があるかまたは心不全の臨床症状があり、NYHA心機能分類I~III、NT-proBNP値≧600pg/mL(心房細動の診断がある場合は>1,000pg/mL)の患者を対象に、用量設定パートにおいてnex-zを0.7mg/kg(9例)または1mg/kg(3例)、その後の拡大パートにおいて固定用量の55mg(0.7mg/kgに相当)(24例)を、最低2時間かけて単回点滴静注した。 試験の主要目的はnex-zの安全性および薬力学(血清TTR値)の評価であり、副次エンドポイントはNT-proBNP値、高感度心筋トロポニンT値、6分間歩行距離およびNYHA心機能分類の変化などであった。 2024年8月21日時点で、36例が登録されnex-zの投与を受けた。患者背景は、50%がNYHA心機能分類III、31%が遺伝性ATTR-CMで、追跡期間中央値は18ヵ月(範囲:12~27)であった。主な副作用は注入に伴う反応、血清TTR値は28日後に89%低下 有害事象は36例中34例で報告された。主な事象(発現率15%以上)は、心不全13例(36%)、COVID-19および上気道感染が各7例(各19%)、心房細動および尿路感染が各6例(各17%)であった。治験責任医師によりnex-zと関連があると判断された有害事象は、注入に伴う反応5例(14%)およびAST増加2例(6%)であった。 重篤な有害事象は14例(39%)で報告されたが、ほとんどはATTR-CMの症状であり、nex-zと関連があると判断された重篤な有害事象は注入に伴う反応1例のみであった。 全例で血清TTR値はベースラインから急速に低下し、平均変化率は28日時で-89%(95%信頼区間[CI]:-92~-87)、12ヵ月時で-90%(-93~-87)であった。 副次エンドポイントについては、12ヵ月時におけるベースラインからの変化として、NT-proBNP値が幾何平均で1.02(95%CI:0.88~1.17)、高感度心筋トロポニンT値が同0.95(0.89~1.01)、6分間歩行距離は中央値で5m(四分位範囲:-33~49)であった。また、NYHA心機能分類は、患者の92%で改善または変化なしであった。

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温水洗浄便座を使用する?しない?その理由は/医師1,000人アンケート

 友人同士でも腹を割って話しにくいであろう話題の1つがトイレや排泄に関することではないだろうか。今回、CareNet.comでは医師のトイレ事情として、温水洗浄便座の使用有無や温水洗浄便座が影響する疾患の認知度などを探るべく、『温水洗浄便座の使用について』と題し、会員医師1,021人にアンケートを実施した。その結果、医師の温水洗浄便座の使用率は約8割で、年齢を重ねるほど使用率が高い傾向にあることが明らかになった。6割が自宅・外出先を問わず使用 まず、使用場所について聞いたところ、「自宅・外出先問わずどちらも使用する」は61%、「自宅では使用するが外出先では使用しない」が17%、「自宅では使用しないが外出先では使用する」が1%、「どちらも使用しない」が20%であった。また、年代別にみると50~60代の医師の使用率が高く、「自宅・外出先問わずどちらも使用する」との回答が7割超で、「自宅では使用するが外出先では使用しない」まで合わせると8割強にまでのぼり、温水洗浄便座が生活になくてはならないものになっているようだ。実際に温水洗浄便座の使用に対して以下のようなコメントが寄せられていた。・排便後の清拭習慣はなかなか変えられないため(50代、内科)・排便後の局所の清潔が保たれる。排便後の掻痒がない(50代、外科/乳腺外科)・排便の調子が使うほうが良い(50代、内科)・清潔保持のため(60代、循環器内科/心臓血管外科)・清潔な便座であれば外出時でも使用します(60代、内科)・森林資源の保全に間接的に寄与するかもしれない(60代、神経内科)・痔があるから(60代、消化器科)・外出先ではノズル洗浄をしてから使用する。ノロウイルス感染を危惧はするが、トイレットペーパーの使用回数を減らしたいため(60代、整形外科) 一方で、使用しないと回答した医師の意見には以下のようなものが挙げられた。・尿路感染症などが心配(30代、糖尿病・代謝・内分泌内科)・肛門環境が悪くなるから(40代、内科)・便がお尻に飛び散る気がして心配になるから(40代、腎臓内科)・清潔ではないから(50代、消化器科)・膣炎や膀胱炎のリスクがある(60代、内科)使用者は患者にも勧める?温水洗浄便座が便失禁につながる報告も 温水洗浄便座の使用自体は肛門疾患、とくに裂肛を有する場合に勧められる1)。では実際に、痔の症状を訴える患者に対して勧めるかを聞いたところ、「毎回勧めている」は12%、「症状(裂肛など)や併存疾患を考慮して勧めている」は34%と、約半数の医師が患者に勧めていた。興味深いことに、50代以上の医師で患者に勧めている傾向が大きいことから、自身が利用しその有用性を認めた上で患者に話している可能性が考えられる。 一方で、温水洗浄便座の使用によって引き起こされる疾患も存在し、その1つが便失禁である2,3)。これについての認知度を調査したところ、「知っている」と回答したのは15%で、「聞いたことはあるが詳細は知らない」まで含めると約半数の医師が便失禁リスクになることを認識していた。これに関して、消化器科医の回答割合も同等であり、専門・非専門を問わず詳細まで知っている医師は少ないようだ。なお、温水洗浄便座の頻回使用や長時間使用が肛門のかゆみを引き起こす『温水洗浄便座症候群』の原因にもなることから、TOTO社はウォシュレットの使用説明書4)において「約10~20秒を目安にご使用ください」と注意喚起している。 このほか、温水洗浄便座使用に対する患者へのアドバイス経験の有無、患者や自身のトイレに関するエピソードのアンケート結果を公開している。アンケートの詳細は以下にて公開中『温水洗浄便座、医師の利用率は?』

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「ストレス食い」の悪影響、ココアで軽減の可能性

 ストレスから、ついクッキーやポテトチップス、アイスクリームなどの脂肪分の多い食べ物に手が伸びてしまう人は、ココアを飲むことで健康を守ることができるかもしれない。新たな研究で、脂肪分の多い食事を取るときに、フラバノールが豊富に含まれているココアを一緒に飲むことで、脂肪が身体に与える影響、とりわけ血管に与える影響の一部を打ち消すことができる可能性が示されたという。英バーミンガム大学のRosalind Baynham氏らによるこの研究の詳細は、「Food & Function」11月18日号に掲載された。 Baynham氏は、「フラバノールは、ベリー類や未加工のココア、さまざまな果物や野菜、お茶、ナッツ類に含まれている化合物の一種だ。フラバノールは健康に有益で、特に血圧を調節して心血管の健康を守ることが知られている」と説明している。フラバノールは、フラボノイド系化合物に分類されるポリフェノールの一種。緑茶の成分として知られるカテキン、エピカテキン、エピガロカテキンなどが、代表的なフラバノールに含まれる。 Baynham氏らは今回の研究で、18〜45歳の健康な成人23人(平均年齢21.57±4.11歳、男性11人、女性12人)に、バタークロワッサン2個(1個67g)、チェダーチーズ1切れ半(37.5g)、牛乳250mLの朝食を取ってもらった。さらに、この朝食に加えてフラバノール含有量の多いココア(1サービングあたりエピカテキン150mg、総フラバノール695mg)を飲む群と、フラバノール含有量が少ないココア(1サービングあたりエピカテキン6.0mg未満、総フラバノール5.6mg)を飲む群のいずれかにランダムに割り付けた。その後、参加者にストレスのかかる数学のテストを課し、血管機能と心臓の活動のモニタリングを行った。Baynham氏は、「このストレステストは、日常生活で遭遇するストレスと同様、心拍数と血圧の有意な上昇を誘発したことが確認された」とバーミンガム大学のニュースリリースの中で述べている。 その結果、低フラバノールのココアと一緒に脂肪分の多い食品で構成された朝食を取った人では、テストによってストレスがかかると血管機能が低下し、この機能低下はテストから90分後まで続いていることが確認された。一方、高フラバノールのココアはこのような血管機能の低下を抑えることが示された。高フラバノールのココアを飲んだ人では、低フラバノールのココアを飲んだ人と比べて、ストレステストから30分後と90分後の時点で測定した血管機能が有意に高いことが確認された。 論文の上席著者であるバーミンガム大学栄養科学のCatarina Rendeiro氏は、「この研究で、フラバノールが豊富に含まれる食品を飲んだり食べたりすることが、不健康な食品の選択によって血管系にもたらされる悪影響の一部を軽減する方法になり得ることが示された。このことは、われわれがストレスフルな時期に何を食べ、飲むべきかについて、より多くの情報に基づき判断するのに役立つ」と話している。 Baynham氏らは、加工度ができるだけ低いココアパウダーを探すか、緑茶や紅茶を飲むことを勧めている。ガイドラインでは、1日に400〜600mgのフラバノールの摂取を推奨している。これは、紅茶か緑茶を2杯飲むか、ベリー類やリンゴに純度の高いココアを組み合わせることで達成できる。 共著者でバーミンガム大学生物心理学教授のJet Veldhuijzen van Zanten氏は、「現代人の生活はストレスが多い。ストレスが人々の健康や経済活動に及ぼす影響については、すでに良く知られている。したがって、ストレスの症状から身を守るためにわれわれが変えられることがあるなら、どんなことでも有益だ」と話す。その上で同氏は、「ストレスを感じるとついおやつに手が伸びてしまう人や、プレッシャーのかかる仕事や時間がないことを理由にインスタント食品に頼りがちな人では、こうした小さな変化を取り入れることで大きな違いが生まれる可能性がある」と話している。

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「クリスマス咳嗽」の理由【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第271回

「クリスマス咳嗽」の理由クリスマスの時期になると、呼吸器内科では喘息や気管支炎の増悪で来院する人が多くなります。年末年始にかけて受診できないと困りますので、早めの軽症の状態で受診しようという理由もあるでしょうが。今日紹介するのは、まさにクリスマス咳嗽の典型ともいえる症例。Carsin A, et al.When Christmas decoration goes hand in hand with bronchial aspiration…Respir Med Case Rep. 2017 Sep 29;22:266-267.2歳2ヵ月の女児が、クリスマスの2日前に、急性の咳嗽と喘鳴を起こしました。かかりつけ医を受診したところ、両側に喘鳴があることを発見し、既往歴として喘息があったことも踏まえ、喘息の急性増悪として対応しました。吸入サルブタモールと経口プレドニゾロンで治療を行いました。しかし、治療開始3週間後も、臨床状態は変わらずの状態。ほかに何か原因があるのではないかと疑い、胸部単純X線検査が行われました。すると、なんと、左主気管支に異物が存在していました。「これは…アレだよね?」というのは誰しもわかるX線写真です。これは…LED電球です!両親によると、そういえばクリスマスツリーの装飾に使っていたLED電球が1つなくなっていたそうです。なんと、女児はLED電球を誤嚥していたのです。―――というわけで、全身麻酔のもと、気管支鏡によってLEDは無事除去されました。クリスマスの時期に誤嚥を起こすと、時期的にも喘息や気管支炎と誤診されやすいので注意が必要、と当該論文の著者は述べています。とくに今回は、喘息の既往があったため、初期治療として吸入β2刺激薬と経口ステロイドが処方されてしまいました。確かにLEDは小さいので、誤嚥しやすいと思います。中国でも右主気管支にLEDを誤嚥した事例が報告されています1)。皆さんも、お子さんのクリスマス咳嗽にはご注意を!1)Lau CT, et al. A light bulb moment: an unusual cause of foreign body aspiration in children. BMJ Case Rep. 2015:2015:bcr2015211452.

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ブータンの緩和ケアを見てきました【非専門医のための緩和ケアTips】第90回

ブータンの緩和ケアを見てきました最近は国際保健に関心のある医学生が増え、学会でも学生時代から海外で活動した発表を目にする機会があります。私自身、国際経験は多くないのですが、今年になってブータンに行く機会があり、この経験を紹介します。今回の質問学生時代にアジアのさまざまな国を旅行するのが趣味でした。訪問診療をする一方で、海外の医療にも関心を持っています。日本のように制度が整っている国ばかりではないと思うのですが、何か経験はありますか?先日、緩和ケアの指導医としてブータンに行ってきました。文化や医療システムがまったく異なる環境でさまざまなことを経験したので、そんな海外の緩和ケア事情をお伝えしたいと思います。まず、ブータンに行った経緯ですが、APHN(Asia Pacific Hospice Palliative Care Network:アジア太平洋ホスピス緩和ケアネットワーク)という団体があり、アジア各国で緩和ケアにおける研究や教育、普及啓発、ネットワーク構築に取り組んでいます。私は数年前からこの団体の活動に参加しています。この団体の取り組みでユニークなものとして、緩和ケアの体制づくりに取り組む国への支援があります。さまざまな国から指導者を派遣し、レクチャーやベッドサイドでの教育を支援するのです。今回、私はこのプログラムに参加するかたちでブータンを訪問しました。ブータンは人口約80万人、九州程度の広さの国です。以前、ブータンの国王が来日した際、「世界一の幸福度の高い国」として話題になりました。そんなブータンにおける緩和ケア事情とは、どのようなものなのでしょうか?ブータンの医療事情は、日本と比較すれば厳しい面が多くあります。心臓カテーテル検査や放射線治療を国内で実施できず、必要な患者は国外の医療機関に紹介する必要があります。実際、私が訪問診療に同行した患者は、インドでPET-CTや放射線治療を受けていました。一方で、緩和ケアについては提供体制を構築中であり、数年前に女性医師がシンガポールに1年間の研修に行き、ブータンに戻ってさまざまな体制をつくろうとしている状況です。私が参加したプログラムもこの部分を支援するためのものでした。今回のプログラムは、月~金曜日の5日間、午前中は講義とグループワークの座学、午後は訪問診療と急性期医療機関でのベッドサイドティーチングというスケジュールでした。会話はすべて英語で、私は「せん妄」と「がんに関連した大量出血の対応」のテーマで講義をしました。40人程度の受講生は医師、看護師、薬剤師などで、皆が真剣に話を聞いてくれました。質疑応答ではお互いの経験に基づく実践的な質問があり、私も日本で経験した大量出血を起こしたがん患者さんの例などをお話ししました。同じ症状や病態に対しても、医療体制や文化が異なるとアプローチが異なるのは興味深いことでした。私の講義中に多くの時間を割いたのが、「倫理的検討」をテーマにしたグループワークでした。実際に訪問診療を行い、その患者の情報を「臨床倫理の4分割」という方法を使って整理し、発表するのです。臨床倫理の4分割は日本でもよく用いられている手法で、倫理的な問題に直面した際、「医学的側面・患者の意向・周辺の状況・QOL」の4つの要素を整理しながら議論します。私たちが担当した患者は、「将来的には生まれ故郷のインドに戻りたい」という思いがありました。それを踏まえ、「家族内で終末期に関する話し合いをどのように促すか」というテーマで議論をしました。こうした複雑な内容の議論を英語で行うのはハードルが高かったのですが、良い経験になりました。ブータンは仏教国で、行政もゾンと呼ばれる寺院で行われます。訪問診療に行った際の患者の自宅でも、ベッドが日本でいうところの仏壇のようなつくりで、まるで祭壇の前に横たわっているようでした。ホテルの前にも有名な寺院があり、早朝から多くの参拝者が熱心に祈りを捧げていました。このように生活の中に宗教が文化として定着している光景は見たことがなく、緩和ケア医である私にとって非常に新鮮で大きな経験となりました。このような日常と異なる環境や文化、人々に触れることは緩和ケア医としてはもちろん、医療者としても非常に大切なことだと思います。ちなみにブータンの方々は英語が非常に堪能で、議論の際は私のほうが拙い英語で申し訳ない思いでした。それでも、お互いの考えを確認し合いながら学びを深めていく作業によって、大変さに見合うだけの絆ができたように感じました。今回のTips今回のTipsそれぞれの国で異なる緩和ケア事情を学んでみるのも楽しいですよ。世界の医療事情・ブータン/外務省

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