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進展型小細胞肺がん、アテゾリズマブ+化学療法へのベバシズマブ上乗せの有用性は?(BEAT-SC)/ASCO2024

 進展型小細胞肺がん(ED-SCLC)の標準治療の1つに、アテゾリズマブ+カルボプラチン+エトポシド(ACE療法)がある。非小細胞肺がんでは、アテゾリズマブ+ベバシズマブ+化学療法は、アテゾリズマブ+化学療法と比較して優れた治療効果を有し、アテゾリズマブとベバシズマブには相乗効果があることが示されている1)。そこで、ED-SCLC患者を対象に、ACE療法へのベバシズマブ上乗せ効果を検討する「BEAT-SC試験」が、日本および中国で実施された。本試験において、ベバシズマブ上乗せにより無増悪生存期間(PFS)が有意に改善したが、全生存期間(OS)の改善はみられなかった。大江 裕一郎氏(国立がん研究センター中央病院 副院長/呼吸器内科長)が、米国臨床腫瘍学会年次総会(2024 ASCO Annual Meeting)において、本試験の結果を報告した。・試験デザイン:国際共同第III相無作為化比較試験・対象:未治療のED-SCLC患者333例・試験群(ACE+ベバシズマブ群):ACE療法(アテゾリズマブ+カルボプラチン/シスプラチン+エトポシド)+ベバシズマブを3週ごと4サイクル→アテゾリズマブ+ベバシズマブを3週ごと 167例(日本人66例)・対照群(ACE+プラセボ群):ACE療法+プラセボを3週ごと4サイクル→アテゾリズマブ+プラセボを3週ごと 166例(日本人75例)・評価項目:[主要評価項目]治験担当医師評価に基づくPFS[副次評価項目]OS、治験担当医師評価に基づく奏効割合(ORR)、奏効期間(DOR)、安全性など・解析計画:PFSとOSは階層的に検定し、PFSが有意に改善した場合にOSの解析を実施することとした。OSについては3回の中間解析が予定され、今回は第1回中間解析の結果が報告された。・層別化因子:性別、ECOG PS、プラチナ製剤の種類(カルボプラチン/シスプラチン) 主な結果は以下のとおり。・患者背景は両群で同等であったが、過去の試験と比較して喫煙歴のない患者や脳転移を有する患者が多く、シスプラチンを用いる患者が少なかった。・主要評価項目の治験担当医師評価に基づくPFSの中央値は、ACE+ベバシズマブ群5.7ヵ月、ACE+プラセボ群4.4ヵ月であり、ACE+ベバシズマブ群がACE+プラセボ群と比較して有意に改善した(ハザード比[HR]:0.70、95%信頼区間[CI]:0.54~0.90、p=0.0060)。・事前に規定したPFSのサブグループ解析では、現喫煙者のサブグループを除いてACE+ベバシズマブ群が良好な傾向にあった。・OSのデータは未成熟であったが、OS中央値はACE+ベバシズマブ群13.0ヵ月、ACE+プラセボ群16.6ヵ月であった(HR:1.22、95%CI:0.89~1.67、p=0.2212)。・ORRはACE+ベバシズマブ群81.9%、ACE+プラセボ群73.3%であった。DOR中央値はそれぞれ4.3ヵ月、4.0ヵ月であった。・治療関連有害事象の内訳は両群で同等であったが、蛋白尿と高血圧はACE+ベバシズマブ群に多く発現した。治療中止に至った有害事象は、ACE+ベバシズマブ群20.5%、ACE+プラセボ群16.5%に発現した。 大江氏は、本結果について「ACE+ベバシズマブ群はACE+プラセボ群と比較してPFSを有意に改善し、主要評価項目を達成した。OSは本解析時点では未成熟であり、ACE療法へのベバシズマブ上乗せによる改善はみられなかった。ACE療法へのベバシズマブ上乗せの忍容性はおおむね良好であり、新たな安全性に関するシグナルはみられなかった」とまとめた。なお、OSについては、解析が継続される予定となっている。■関連記事ABCP療法、肺がん肝転移例に良好な結果(IMpower150)/ASCO2019

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飛行機でのコロナ感染リスク、マスクの効果が明らかに~メタ解析

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックの拡大は、航空機の利用も主な要因の1つとなったため、各国で渡航制限が行われた。航空業界は2023年末までに回復したものの、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染の多い時期は毎年発生しており注意が必要だ。米国・スタンフォード大学のDiana Zhao氏らは、ワクチン導入前のCOVID-19パンデミック時の民間航空機の飛行時間とSARS-CoV-2感染に関するシステマティックレビューとメタ解析を実施した。その結果、マスクが強制でない3時間未満の短いフライトと比較して、マスクが強制でない6時間以上の長いフライトでは感染リスクが26倍に及ぶことや、マスク必須の場合では長時間のフライトでも感染が報告されなかったことなどが判明した。International Journal of Environmental Research and Public Health誌2024年5月21日号に掲載。 本研究では、PubMed、Scopus、Web of Scienceを使用し、2020年1月24日~2021年4月20日に発表されたCOVID-19と航空機感染に関連する研究のうち、SARS-CoV-2感染のインデックスケース(最初の感染者)がいることが確認されていて、フライト時間が明示されているものを対象とした。抽出されたデータには、フライトの特徴、乗客数、感染ケース数、フライト時間、マスクの使用状況が含まれた。フライト時間は、短距離(3時間未満)、中距離(3~6時間)、長距離(6時間超)に区分し、フライト時間と機内でのウイルス感染率の関係を負の二項回帰モデルを用いて分析した。 主な結果は以下のとおり。・15件の研究が解析対象となった。これらの研究には、合計50便のデータが含まれた。・50便のうち、26便が短距離(2~2.83時間)、12便が中距離(3.5~5時間)、12便が長距離(7.5~15時間)だった。うち、長距離の6便はマスク必須であった。・50便のうち、35便では機内での感染がなかった(短距離20便、中距離7便、長距離8便)。うち、マスク必須の長距離の6便ではすべて機内での感染がなかった。・15便で1件以上の機内感染が報告された。・感染率は中央値0.67(四分位範囲[IQR]:0.17~2.17)、短距離では0.50(IQR:0.21~0.92)、中距離では0.29(IQR:0.11~1.83)、長距離では7.00(IQR:0.79~13.75)だった。・いずれもマスクが強制でない短距離、中距離、長距離のフライトの機内感染リスクを比較したところ、短距離フライトに比べて、中距離は4.66倍(95%信頼区間[CI]:1.01~21.52、p<0.0001)、長距離は25.93倍(95%CI:4.1~164、p<0.0001)の感染リスク増加と関連していた。・フライト時間が1時間長くなるごとに、罹患率が1.53倍(95%CI:1.19~1.66、p<0.001)増加した。 本研究により、フライト時間が長くなるほど、機内でのSARS-CoV-2感染リスクが増加することが示された。とくに、マスクを着用しない場合、このリスクは顕著に高まる。一方で、マスクの徹底した使用は、長時間のフライトにおいても感染リスクを効果的に抑制することが示された。

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再発難治多発性骨髄腫のBVd療法、DVd療法より有意にPFS延長/NEJM

 少なくとも1レジメン以上の治療歴のある再発または難治性の多発性骨髄腫(RRMM)の患者において、belantamab mafodotin+ボルテゾミブ+デキサメタゾン(BVd)併用療法はダラツムマブ+ボルテゾミブ+デキサメタゾン(DVd)併用療法と比較して、無増悪生存期間(PFS)に関して有意なベネフィットをもたらすことが示された。一方で、BVd併用療法群のほとんどの患者(95%)でGrade3以上の有害事象が認められた。ブラジル・Clinica Sao GermanoのVania Hungria氏らDREAMM-7 Investigatorsが「DREAMM-7試験」の結果を報告した。多様な抗腫瘍活性機序を有するB細胞成熟抗原(BCMA)標的抗体薬物複合体であるbelantamab mafodotinは、RRMM患者に対して単剤療法での有効性が示され、その知見に基づき標準治療と併用した場合のさらなる評価が検討された。NEJM誌オンライン版2024年6月1日号掲載の報告。主要評価項目はPFS、追跡期間中央値28.2ヵ月時点で36.6ヵ月vs.13.4ヵ月 DREAMM-7試験は、BVd併用療法の有効性と安全性をDVd併用療法との直接比較で評価した第III相国際非盲検無作為化試験。少なくとも1レジメン以上の治療後に病勢が進行した多発性骨髄腫患者を対象とした。 主要評価項目はPFSとし、重要な副次評価項目は全生存率(OS)、奏効期間、微小残存病変(MRD)陰性化であった。 2020年5月7日~2021年6月28日に、計494例がBVd併用療法群(243例)またはDVd併用療法群(251例)に無作為化された。 追跡期間中央値28.2ヵ月(範囲:0.1~40.0)において、PFS中央値はBVd併用療法群36.6ヵ月(95%信頼区間[CI]:28.4~NR)、DVd併用療法群13.4ヵ月(11.1~17.5)であった(病勢進行または死亡のハザード比[HR]:0.41、95%CI:0.31~0.53、p<0.001)。 18ヵ月時点のOSは、BVd併用療法群84%、DVd併用療法群73%。データカットオフ時点でOSに関する結果は有意基準を満たしておらず、フォローアップが続けられている。CR以上+MRD陰性化の達成患者、25% vs.10% 治療効果(部分奏効[PR]以上)が認められた患者は、BVd併用療法群83%(95%CI:77~87)、DVd併用療法群71%(65~77)であった。より深い奏効(完全奏効[CR]以上)が得られた患者はBVd併用療法群(35%)がDVd併用療法群(17%)より多かった。またCR以上+MRD陰性化が得られた患者は、BVd併用療法群25%、DVd併用療法群10%で確認された。 奏効期間の中央値はBVd併用療法群35.6ヵ月(95%CI:30.5~NR)、DVd併用療法群17.8ヵ月(13.8~23.6)。中間解析時点でBVd併用療法群の半数以上が継続中であり、奏効期間の中央値に関するデータは未成熟であった。境界内平均奏効期間の解析では、BVd併用療法がDVd併用療法よりも優れることが確認された(p<0.001)。 全患者に少なくとも1つ以上の有害事象が発現し、Grade3以上の有害事象の発現率はBVd併用療法群95%、DVd併用療法群で78%であった。また、重篤な有害事象の発現率はそれぞれ50%、37%であった。 belantamab mafodotinには眼毒性作用があることが知られており、BVd併用療法群のほうがDVd併用療法群よりも眼イベントが多くみられた(全Gradeのイベント:79% vs.29%、Grade3/4のイベント34% vs.3%)。BVd併用療法群の主なGrade3/4の眼イベントは霧視、ドライアイ、白内障であった。これらの発現イベントは用量変更によって管理され、視力悪化のイベントは大部分が回復した。 これらの結果を踏まえて著者は、「BVd併用療法を受けた患者の50%で重篤な有害事象が認められたが、PFSに関する結果と照らし合わせるとBVd併用療法のより深く持続的な効果は、初回再発時または再発後の多発性骨髄腫の患者にとって治療選択肢となりうることを支持するものである」とまとめている。

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TAVRデバイスの完成度は高く短期成績はTAVR>SAVR、しかし長期成績と2次介入リスクの評価が必要(解説:伊藤敏明氏)

 論文サマリーはすでに過去の解説があるため簡潔にまとめる。 今回のRCT1)はドイツの38施設共同で行われた。生体弁適応となる65歳以上の有症状大動脈弁狭窄症(AS)、STSスコア4%未満のlowまたはintermediateリスク患者1,414例、平均年齢74±4歳がTAVRまたはSAVRに1:1で無作為割り付けされた。二尖弁、有意な冠動脈病変、先行心臓手術歴のある患者は除外され、TAVRの97.3%がtrans femoralで行われた。SAVR群の50.8%が胸骨正中切開で行われ、15.8%にrapid deploy弁が使用され、CABG同時手術率は1.8%であった。 プライマリーエンドポイントとして1年での全死亡およびstrokeの合計が設定され、カプランマイヤー法にてTAVR群5.4%、SAVR群10.0%(HR:0.53、95%信頼区間:0.35~0.79)とTAVRの非劣性が示された。 TAVR vs.SAVRの比較に必要な追跡期間と、再介入治療時のリスクの2点につきコメントしたい。 一般的に外科手術はカテーテル治療、放射線、あるいは薬物療法と比較して侵襲性が高いため、そもそも短期成績が劣る治療法である。意外とこの前提が共有されていない。外科手術が仮に優れるとしても、一定以上の期間後に、他療法との予後が交差して利点が現れてくる治療なのである。その期間は、疾患あるいは比較対象となる治療法により異なる。循環器領域での一例として、多枝病変患者に対するPCI vs.CABG比較2)では生命予後の交差に約1年を要し、2年以降差は開いていった。2021 ACC/AHAガイドラインでは、糖尿病合併多枝病変に対してはCABGがClass I推奨され、手術ハイリスクの場合に限りPCIがIIa推奨となっている。 今回のスタディは二尖弁の除外、再手術の除外、CABG同時手術率が低く、TAVRの97.3%がTFで行われ、SAVRの半分が胸骨部分切開または肋間開胸で行われた。対象患者の均質性が高く手技がアップデートされている点で、より現実的な比較と思われる。1年の短期成績は従来の報告と同じ結果であり、これ自体は手術とカテーテル治療の特性の差を反映しているにすぎず、驚くに値しない。TAVRデバイスの完成度が十分高い今日、おそらく今後どのような患者群を対象にスタディが行われても短期ではTAVR>SAVRとなるに違いない。ではTAVRとSAVRの予後の交差は果たして起きるのか、起きるとすれば何年後であるのか? これには、先行する7つのRCT(PARTNER 1A、PARTNER 2A、PARTNER 3、NOTION、US CoreValve High Risk、SURTAVI、EVOLUT Low-risk trial)のメタ解析3)が参考になり、2年で予後は交差し、以後SAVRが有利となるとされている。主にPARTNERシリーズでの予後の交差が影響していると思われる。本RCT1)は5年までの追跡がデザインされており続報が待たれる。 次に、再介入の必要が生じうる年齢層における生体弁(TAVR、SAVR含め)選択においては、初回弁の中へのカテーテル弁植え込み(Valve in valve)、または再SAVRへの適合性も考慮されるべきである。大阪大学におけるTAVR後造影CTを用いた研究4)では、SAPIEN3後の48%、Evolut PRO留置後の71%がsimulation上Valve in valve不適合と報告されている。 現在、すでにACC/AHAガイドラインでは65~80歳の生体弁適応ASにおいてTAVRもSAVRと同等のClass I推奨されており、米国の都市部では多くがTAVRを選択し、さらにこのガイドラインすら超えて通常機械弁が選択されるべき若年者までTAVRを選択しているという。これらの患者には早晩2次、3次介入が必要となり、通常倫理的に行うことができない「試験」の結果がリアルワールドから報告されるはずである。TAVR後の2次介入はSAVR、TAVRとも容易とはいえない現在、初回治療選択には個別の解剖学的条件など踏まえ、慎重な判断が求められる。

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女性では短時間睡眠がNAFLD発症と関連

 女性では、短時間睡眠が非アルコール性脂肪性肝疾患(non-alcoholic fatty liver disease;NAFLD)の危険因子であるとの研究結果が発表された。日本人を対象とする縦断研究として、福島県立医科大学医学部消化器内科学講座の高橋敦史氏らが行った研究であり、「Internal Medicine」に4月23日掲載された。 NAFLDの発症や進行には不健康な生活習慣が関連しており、食習慣や運動などの身体活動に関するエビデンスは確立されている。一方で、睡眠時間とNAFLDのリスクとの関連については研究結果が一致せず、明らかになっていない。 そこで著者らは、2013年5月~2018年12月に福島県で2回以上の健診を受けた日本人を対象に縦断研究を実施。対象者は、1回目の健診時に33~86歳で、NAFLDを発症しておらず、B型肝炎抗原検査とC型肝炎抗体検査が陰性だった1,862人。そのうち男性は533人(年齢中央値65歳)、女性は1,329人(同64歳)だった。ピッツバーグ睡眠質問票を用いて睡眠時間を評価し、6時間未満、6~7時間未満、7~8時間未満、8時間以上に分類した。NAFLDは腹部超音波検査で評価した。 追跡期間の中央値は男性が39カ月、女性が47カ月であり、全体で483人(25.9%)がNAFLDを発症した。そのうち男性は159人(29.8%)、女性は324人(24.4%)だった。 NAFLD未発症のベースライン時点の生活習慣要因について、NAFLD発症者と非発症者で比較すると、男女ともに、NAFLD発症者は現在喫煙者の割合が有意に高かった。男性では、NAFLD発症者の方が、睡眠薬を使用している人、間食習慣のある人、朝食抜きの人の割合が有意に高く、運動習慣のある人の割合が有意に低かった。女性では、早食い人の割合がNAFLD発症者で有意に高かった。 同様に睡眠時間を比較したところ、女性では、NAFLD発症者の方が非発症者と比べて、6時間未満の人の割合が有意に高かった(23.8%対17.8%)。一方、男性では有意な差は見られなかった。女性について睡眠時間ごとに検討すると、6時間未満の人は7~8時間未満の人と比べて、NAFLD発症者の割合が有意に高かった(30.1%対21.2%)。 次に、睡眠時間とNAFLD発症との関連について、影響を及ぼし得る要因(年齢、性別、BMI、血圧、睡眠薬の使用、喫煙・運動・食事などの生活習慣、AST、ALT、γ-GTP、トリグリセライド、LDL-C、HDL-C、尿酸、HbA1c)を統計学的に調整した上で、Cox比例ハザードモデルを用いて解析した。その結果、睡眠時間が7~8時間未満の女性と比較して、6時間未満の女性におけるNAFLD発症のハザード比は1.55(95%信頼区間1.09~2.20)だった。すなわち女性では、短時間睡眠がNAFLDの独立した危険因子であることが明らかとなった。 著者らは今回の結果に関連して、女性の方が男性と比べて不眠症の有病率が高いことを挙げ、「将来のNAFLDの発症を予防するためには、十分な睡眠時間が必要だ」と述べている。また、糖尿病や肥満などの代謝異常を持つ脂肪肝として、MASLD(metabolic dysfunction-associated steatotic liver disease)の概念が提唱されていることに言及し、さらなる研究の必要性を指摘している。

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統合失調症に対する抗精神病薬の有効性および安全性の性差

 抗精神病薬は、精神疾患患者にとって中心的な治療薬であるが、有効性と安全性のバランスをとることが求められる。治療アウトカムを改善するためにも、抗精神病薬の有効性および安全性に影響を及ぼす個別の因子を理解することは重要である。オーストラリア・モナシュ大学のMegan Galbally氏らは、抗精神病薬に関連する有効性および忍容性における性差について、調査を行った。CNS Drugs誌オンライン版2024年5月7日号の報告。 大規模抗精神病薬比較試験であるClinical Antipsychotic Trials of Intervention Effectiveness(CATIE)の第IおよびIa相試験のデータを2次分析した。CATIE試験では、統合失調症患者を経口オランザピン、クエチアピン、リスペリドン、ziprasidone、ペルフェナジンによる治療にランダムに割り付け、二重盲検治療を行った。評価基準には、陽性陰性症状評価尺度(PANSS)、臨床全般印象度(CGI)、Calgary Depression Rating Scale、自己報告による副作用、服薬コンプライアンス、投与量、体重、さまざまな血液パラメータを含めた。 主な結果は以下のとおり。・対象患者は1,460例(女性:380例、男性:1,080例)であった。・治療反応、副作用、コンプライアンス、抗精神病薬の投与量は、男女間でほとんど差が認められなかった。・便秘(28% vs.16%)、口渇(50% vs.38%)、女性化乳房/乳汁漏出(11% vs.3%)、失禁/夜間頻尿(16% vs.8%)、自己報告による体重増加(37% vs.24%)は、女性において男性よりも有意に多く報告された(各々、p<0.001)。・リスペリドン治療群では、女性(61例)において男性(159例)よりもプロラクチンレベルの有意な上昇が認められた(p<0.001)。・臨床医の評価による測定値、体重増加、その他の臨床検査値は、全体として差が認められなかった。 著者らは「抗精神病薬の有効性および忍容性は、全体としての性差は限られていたが、リスペリドンについては、いくつかの特定の知見がみられた。抗精神病薬の試験において性差を評価することは、統合失調症患者に対する個別化治療だけでなく、有効性の向上や副作用の軽減にとっても重要である」としている。

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asciminib、新規診断の慢性期CMLに有効/NEJM

 新規に慢性期の慢性骨髄性白血病(CML)と診断された患者の治療において、ABLミリストイルポケットを標的とするBCR::ABL1阻害薬asciminibは、担当医が選択した第2世代チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)やイマチニブと比較して、分子遺伝学的大奏効(MMR)の達成割合が有意に高く、安全性プロファイルも良好であることが、ドイツ・イエナ大学病院のAndreas Hochhaus氏らASC4FIRST Investigatorsが実施した「ASC4FIRST試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2024年5月31日号に掲載された。第1/2世代TKIと比較する国際的な無作為化第III相試験 ASC4FIRST試験は日本を含む国際的な多施設共同非盲検無作為化第III相試験であり、2021年11月~2022年12月に参加者の無作為化を行った(Novartisの助成を受けた)。 年齢18歳以上、登録前3ヵ月以内に新規の慢性期CMLと診断された患者405例を登録した。これらの患者を、asciminibの投与を受ける群に201例、担当医が選択したTKI(第1世代TKIイマチニブまたは第2世代TKI[ニロチニブ、ダサチニブ、ボスチニブ])の投与を受ける群に204例(イマチニブ群102例、第2世代TKI群102例)を無作為に割り付けた。 主要評価項目は、48週時点でのMMR(BCR::ABL1IS≦0.1%)とし、asciminibと担当医選択TKI、asciminibとイマチニブの比較を行った。第2世代TKIとの比較では差がない 追跡期間中央値は、asciminib群が16.3ヵ月、担当医選択TKI群は15.7ヵ月であった。 48週時のMMRの達成割合は、asciminib群が67.7%、担当医選択TKI群は49.0%であり、イマチニブ群との比較ではasciminib群が69.3%、イマチニブ群は40.2%であった。 これらMMR達成割合のasciminib群と担当医選択TKI群の群間差は18.9ポイント(95%信頼区間[CI]:9.6~28.2、補正後両側p値<0.001)、asciminib群とイマチニブ群の群間差は29.6ポイント(16.9~42.2、p<0.001)であり、いずれもasciminib群で有意に優れた。 一方、asciminib群と第2世代TKI群の比較では、48週時のMMR達成割合はそれぞれ66.0%および57.8%と、両群間に有意な差を認めなかった(群間差:8.2ポイント、95%CI:-5.1~21.5)が、この比較は主要評価項目ではなかった。Grade3以上、投与中止に至った有害事象の頻度は低い 安全性プロファイルは、イマチニブや第2世代TKIに比べasciminib群で良好であった。Grade3以上の有害事象および試験薬の投与中止の原因となった有害事象の頻度は、イマチニブ(それぞれ44.4%、11.1%)、第2世代TKI(54.9%、9.8%)と比較してasciminib群(38.0%、4.5%)で低かった。また、試験薬に関連した死亡例は認めなかった。 著者は、「慢性期CMLの1次治療の選択は微妙であり、患者の目標やその他の患者固有の要因によって異なる。本試験では、無作為化前のTKIの選択は患者の希望を考慮して担当医が行ったため、共有意思決定が可能であった」とまとめ、「asciminibの有益性をさらに明らかにするには、長期の追跡調査を要する」としている。

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超音波で脳の「窓」から脳活動をモニタリング

 米南カリフォルニア大学(USC)ケック医学校と米カリフォルニア工科大学の研究グループが、患者の頭蓋骨の欠損部分にアクリル樹脂製のインプラントを設置し、この「窓」を通して、機能的超音波イメージング(functional ultrasound imaging;fUSI)により高精細の脳画像データを得ることに成功したことを報告した。研究グループは、患者の病状経過のモニタリングや臨床研究において、この感度の高い非侵襲的なアプローチが新たな道を切り開く可能性があるのみならず、脳機能に関する広範な研究にも役立つ可能性があると話している。USCケック医学校臨床神経外科分野のCharles Liu氏らによるこの研究の詳細は、「Science Translational Medicine」に5月29日掲載された。 この透明な頭蓋インプラントを用いた治療を受けたのは、米カリフォルニア州在住のJared Hagerさん39歳だ。スケートボーダーのHagerさんは、2019年4月にスケートボードで事故を起こして外傷性脳損傷を負い、脳への圧迫を和らげるために頭蓋骨の半分を取り除く緊急手術を受けた。Hagerさんの回復後に予定されていた頭蓋形成術は、新型コロナウイルス感染症パンデミックの影響を受けて大幅に遅れ、Hagerさんは2年以上、皮膚と結合組織だけで脳を守っていたという。 この間にHagerさんは、Liu氏らが実施した別の新たな脳イメージング技術であるfPACT(機能的光音響断層撮影)に関する早期研究にボランティアとして参加した。その後、頭蓋骨を再建するに当たり、Hagerさんは再びLiu氏らに協力した。Liu氏らは、fUSIの有用性を研究するために、PMMA(ポリメチルメタクリレート)製の透明な頭蓋インプラントをデザインし、これを用いてHagerさんの頭蓋骨に取り付けた。 研究グループは、頭蓋形成術の前後に、Hagerさんにコンピューターのモニター上で点と点をつなぐパズルを行う、ギターを弾くなどのいくつかのタスクをこなしてもらい、その間にfUSIを実施して脳活動のデータを集めた。その結果、この「窓」が、脳活動を測定するために効果的な方法であることが明らかになった。Liu氏は、「当然ながら、fUSIで得られる画像は他のイメージング技術で得られる画像よりも質は劣るが、重要なのは、それでも十分に有用であることが分かった点だ。また、他の脳-コンピューターインターフェース技術とは異なり、fUSIでは脳内に電極を埋め込む必要がないため、導入の障壁も格段に低い」と話す。 Liu氏はまた、「これは、覚醒した状態で何らかの行動をしている人の頭蓋インプラントを通してfUSIを適用した初めての例だ」と語る。同氏はさらに、「特に、頭蓋骨の再建を必要とする患者の多くは、神経学的障害を持っているか、あるいはこれからそうした障害を発症する可能性があるため、このような『窓』を通して非侵襲的に脳の活動に関する情報を得られることは大きな意味のあることだ」と大学のニュースリリースで語った。 研究グループは、このような「窓」を利用した超音波やCTが、不透明な骨や頭蓋インプラントを介したMRIやEEG(脳波)スキャンよりも有用な情報を得ることができると考えている。Liu氏はさらに、「もし、脳の機能的な情報が診断や治療に役立つのであれば、頭蓋骨にダメージを受けていない患者にも、このような『窓』を手術で埋め込むことも可能だ。もし、患者の頭蓋インプラントを通して機能的な情報を引き出すことができるのなら、より安全で積極的な治療が可能になる」と述べている。

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前立腺がんに対する監視療法の有効性を確認

 前立腺がんの多くは進行が遅いため、医師は患者に積極的な治療ではなく「経過観察」を勧めることが多い。このほど、米フレッドハッチンソンがん研究センターのLisa Newcomb氏らが約2,200人の患者を最長で10年にわたって追跡調査した研究において、医師のこの決断は多くの場合、賢明であることが明らかになった。この研究の詳細は、「Journal of the American Medical Association(JAMA)」に5月30日掲載された。Newcomb氏は、「われわれの研究は、定期的なPSA(前立腺特異抗原)検査と前立腺生検を含む監視療法(アクティブサーベイランス)が低リスク(favorable risk)の前立腺がんに対する安全で効果的な管理方法であることを明らかにした」と話している。 数十年前は、前立腺がんと診断された男性の多くが、すぐに手術やホルモン療法などの治療を受けていた。これらの治療には、勃起障害や排尿障害などの副作用を伴うことがあり、生活の質(QOL)に深刻な影響を及ぼす可能性がある。 しかし、過去20年間で前立腺がんの多様な性質に関する理解が深まり、現在では検査により、差し迫った脅威をもたらす可能性のある攻撃的で進行の速い腫瘍と、非常にゆっくりと進行する腫瘍を区別できるようになった。特に患者が高齢の場合には、緩徐進行型のがんが健康にもたらす脅威は、心臓病など他の疾患がもたらす脅威ほど深刻ではない可能性がある。このため、多くの前立腺がん患者では、治療を行わずに定期的な検査により緩徐進行型のがんがより危険な状態に進行していないかどうかをチェックする監視療法が実施されている。 しかし、このような監視療法が患者の生存とQOLにどの程度有効なのかは明らかにされていない。このことを明らかにするためにNewcomb氏らは、監視療法を受けている、低リスクで治療歴のない前立腺がん患者2,155人(診断時の年齢中央値63歳、白人83%)の長期的な転帰を調べた。対象患者は、中央値7.2年、最長10年にわたって追跡されていた。 その結果、追跡期間中に40%(870人)の対象者が治療を受け、このうちの425人では確認生検後に(中央値1.5年後)、396人では監視療法中の生検後に(中央値4.6年後)治療が行われていた。治療後5年間の再発率は、確認生検後に治療を受けた患者で11%、管理療法中の生検後に治療を受けた患者で8%であった。しかし、49%の患者では、監視療法下でがんが進行したり治療の必要性が生じたりすることはなかった。診断から10年後の時点で、対照者の43%で生検により腫瘍グレードが変更され、49%が治療を受け、また、この間のがんの転移率、前立腺がん特異的死亡率、および全死亡率は、それぞれ1.4%、0.1%、5.1%と推定された。 Newcomb氏は、「この研究で得た重要な知見は、数年間の監視療法後に治療を受けた人では、1年間の監視療法後に治療を受けた人と比べて再発や転移などの有害な転帰が悪化しているようには思われないことだ。この結果は、監視療法では治癒の機会を失うのではないかという懸念を緩和するだろう」と述べている。その上でNewcomb氏は、「この研究により、前立腺がんに対しては即時治療ではなく監視療法を実施するということを、より多くの人が受け入れるようになることを期待している」と付け加えている。

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英語で「代診をしています」は?【1分★医療英語】第135回

第135回 英語で「代診をしています」は?《例文1》Good morning, I'm Dr. Smith, filling in for Dr. Yamada while he's away at a conference.(おはようございます、スミスと申します。山田医師が会議で不在の間、代診をしています)《例文2》Your usual doctor is on vacation, so Dr. Jones will be filling in today.(いつもの先生は休暇中ですので、今日はジョーンズ医師が代診を務めます)《解説》“I'm filling in for XXX.”は、別の医師が予定されていた担当医師に代わって診察を行うときに使うフレーズです。この“fill in”という表現は、“Please fill in the blank.”といったように、(空欄を)埋めるという意味合いで用いられます。それに“for”という前置詞と人の名前を続ければ、「空欄」ではなく「担当医師が休みで空いてしまった枠」を埋める、すなわち「代診する」という意味になり、臨床現場のコミュニケーションで頻繁に用いられています。このほかにも、“I’m covering for Dr. Yamada.”や“I’m seeing you on behalf of Dr. Yamada.”という表現も(少しニュアンスの違いはあるものの)同様の場面で「代診する」という意味合いで用いることが可能です。担当医師の突然の休養などで、代診を伝えなければいけない場面もあることでしょう。そんなとき、このフレーズを覚えておくとスムーズに伝えられます。講師紹介

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第219回 マラリア薬が世界の数百万人もの女性疾患を治療しうる

マラリア薬が世界の数百万人もの女性疾患を治療しうる植物のヨモギ(artemisia)から単離され、抗マラリア作用を有することでよく知られる化合物群アルテミシニン(artemisinins)の多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)治療効果がマウス/ラットやヒトへの投与試験で判明しました1,2)。世界の数百万人もの女性が被るPCOSは女性の最も一般的な内分泌疾患の1つで、男性ホルモン過剰(高アンドロゲン血症)、排卵を乏しくするかなくならせる卵巣不調、多嚢胞性卵巣を特徴とします。濾胞異形成や排卵/内分泌/代謝障害などのPCOSの病変の数々にアンドロゲン過剰が寄与することが知られています。また、PCOS女性から生まれた女児はPCOSになりやすく、出生前に過剰なアンドロゲンと共に過ごした雌マウスにはPCOS様病態が生じることが示されており、PCOSの影響は子にも及ぶようです3)。よってPCOSを制するにはアンドロゲン過剰を制する必要があります。薬によるPCOSの治療といえば今のところもっぱら個々の症状の手当てを目指すもので、PCOSのすべての病態を相手しうる薬はほとんどありません。経口避妊薬がPCOS成人女性のアンドロゲン過剰や不規則な月経周期の手当てとして推奨されていますが、不妊や多嚢胞性卵巣病変の改善は見込めません。また、経口避妊薬は血栓症などの副作用の心配があります。PCOS女性の多くは肥満などの代謝障害を呈します。中国の上海の復旦大学のチームによる先立つ研究で、アルテミシニン化合物がエネルギー消費を増やして肥満を防ぐ効果を有することが示されています。PCOS発生に代謝経路不調がどうやら寄与しうることとアルテミシニン化合物の代謝恒常性促進作用にヒントを得た同チームのさらなる検討のかいあって、アルテミシニン化合物のPCOS治療効果が今回新たに判明しました。アンドロゲン生成を増やすことが知られるヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)やインスリンの動物への投与でPCOSを模す病態が生じることがわかっています。hCGはミトコンドリアプロテアーゼLONP1とアンドロゲン生成の始まりを触媒する酵素CYP11A1の相互作用を妨げてCYP11A1を増やし、アンドロゲン生成を促してPCOSを起こします。アルテミシニンはLONP1とCYP11A1の仲を取り持ってCYP11A1分解を促し、卵巣でのアンドロゲン生成を阻止することを復旦大学のチームは今回新たに突き止めました。PCOSを模すマウスやラットにアルテミシニンの一種であるアルテメテルを投与したところ、血清のテストステロン上昇が抑制され、不規則な発情周期が正常化し、多嚢胞卵巣が減り、不妊病態が改善しました。検討はさらに少人数の臨床試験へと進みます。マラリア治療に実際に使われているアルテミシニンの一種であるdihydroartemisininをPCOS女性19例に投与したところ、マウスやラットでの結果と同様に血中のテストステロンが減り、多嚢胞卵巣病態が改善しました。19例中12例はいつもの生理周期を取り戻しました。長期投与の効果や経過改善を最大限にするための投与手段の最適化がさらなる検討で必要ですが4)、今回の結果によるとアルテミシニンはPCOS治療手段として有望なようです。参考1)Liu Y , et al. Science. 2024;384:eadk5382.2)Antimalarial compounds show promise to relieve polycystic ovary syndrome / Eurekalert 3)Risal S, et al. Nat Med. 2019;25:1894-1904.4)Stener-Victorin E. Science. 2024;384:1174-1175.

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アルツハイマー病のアジテーションに対するブレクスピプラゾールの有用性〜メタ解析

 最近のランダム化比較試験(RCT)において、アルツハイマー病患者の行動障害(アジテーション)のマネジメントに対するブレクスピプラゾールの有用性が示唆されている。しかし、その有効性および安全性は、まだ明らかとなっていない。ブラジル・Federal University of CearaのGabriel Marinheiro氏らは、アジテーションを有するアルツハイマー病患者を対象にブレクスピプラゾールとプラセボを比較したRCTのメタ解析を実施した。Neurological Sciences誌オンライン版2024年5月20日号の報告。 アジテーションを有するアルツハイマー病患者を対象にブレクスピプラゾールとプラセボを比較したRCTを、PubMed、Embase、Cochrane Libraryよりシステマティックに検索し、メタ解析を実施した。 主な結果は以下のとおり。・3件(1,048例)の研究をメタ解析に含めた。・アジテーションを有するアルツハイマー病患者に対するブレクスピプラゾール治療は、12週間にわたり、いずれの用量(MD:−3.05、95%信頼区間[CI]:−5.12〜−0.98、p<0.01、I2=19%)および2mg(MD:−4.36、95%CI:−7.02〜−1.70、p<0.01、I2=0%)においても、コーエンマンスフィールド行動異常評価尺度(Cohen-Mansfield Agitation Inventory)総スコアの有意な改善を示した。・同様に、アジテーションに関連する臨床全般印象度-重症度(CGI-S)スコアにおいても、ベネフィットが認められた(MD:−0.20、95%CI:−0.36〜−0.05、p<0.01、I2=35%)。・治療中に発生した少なくとも1つの有害事象の発生率(RR:1.14、95%CI:0.95〜1.37、p=0.16、I2=45%)および全死亡率(RR:1.99、95%CI:0.37〜10.84、p=0.42、I2=0%)は、両群間で有意な差は認められなかった。・ブレクスピプラゾール治療により、いずれの用量においても、シンプソンアンガス評価尺度(Simpson-Angus Scale)の有意な増加が認められた(MD:0.47、95%CI:0.28〜0.66、p<0.01)。 著者らは、「アルツハイマー病患者のアジテーション治療において、ブレクスピプラゾールの有用性が示唆された。ブレクスピプラゾールの長期的な効果を確認するためには、さらなる研究が求められる」としている。

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お酒の種類と血圧の関係

 アルコールの摂取量が血圧と強い正の相関関係を示すことが報告されているが、アルコールの種類が血圧に及ぼす影響についてのデータは十分ではなく、赤ワインは女性において血圧を低下させる可能性、ビールは血管内皮機能に有益な効果を有する可能性が指摘されている。デンマーク・University of Southern DenmarkのGorm Boje Jensen氏らによる10万人以上を対象とした大規模研究の結果、アルコール摂取量は用量依存的に血圧の上昇と関連しており、その影響はアルコールの種類によらず同様であった。The American Journal of Medicine誌オンライン版2024年5月14日号の報告より。 アルコールの種類と摂取量はアンケートにより収集された。参加者は赤ワイン、白ワイン、ビール、スピリッツ、デザートワインの週当たりの摂取量を報告。アルコールの週当たりの総摂取量に応じ、7群に層別化された(0/1~2/3~7/8~14/15~21/22~34/35杯以上、1杯のアルコール量は約12gとして評価)。血圧はデジタル自動血圧計で測定され、週当たりのアルコール摂取量と血圧の関係の評価には、多変量線形回帰モデルを使用。年齢・性別により層別化され、関連する交絡因子が調整された。各アルコールの種類別の評価については、他の種類のアルコールについて調整済みのモデルで解析された。 主な結果は以下のとおり。・Copenhagen General Population Studyから、2003年11月25日~2015年4月28日に20〜100歳の10万4,467人が登録された。・8.0%(8,402人) がまったくアルコールを飲まなかったのに対し、2.6%(2,767人)が週に35杯以上のアルコールを摂取していた。・73.7%(7万6,943人)が週に2種類以上のアルコールを摂取していたのに対し、12.6%(1万2,093人)は赤ワインのみ、4.5%(4,288人)はビールのみ、1.9%(1,815人)は白ワインのみ、1.0%(926人)はスピリッツとデザートワインのみを摂取していた。・週当たりのアルコール総摂取量と収縮期血圧(SBP)および拡張期血圧(DBP)の間には用量反応関係が認められた(p<0.001)。・アルコール摂取量が多いグループ(週 35 杯以上)と少ないグループ(週1~2杯)の間で、SBPは11mmHg、DBPは7mmHgの差(crude difference)が確認された。・アルコールの種類がSBPとDBPに与える影響についてみると、系統的な差異は確認されなかった。赤ワイン、白ワイン、ビールの週当たり1杯の摂取により、SBPは0.15~0.17 mmHg、DBPは0.08~0.15 mmHg高くなった。・年齢と性別で層別化した結果、女性と60歳未満では影響がわずかに大きかった。

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EGFR-TKI治療後の再発NSCLC、ivonescimab追加でPFSが改善/JAMA

 上皮成長因子受容体(EGFR)チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)による治療後に病勢が進行したEGFR変異陽性の局所進行または転移のある非小細胞肺がん(NSCLC)の治療において、化学療法単独と比較してivonescimab(抗プログラム細胞死-1[PD-1])/血管内皮細胞増殖因子[VEGF]二重特異性抗体)+化学療法は、無増悪生存期間(PFS)を有意に改善し、安全性プロファイルは忍容可能であることが、中国・中山大学がんセンターのWenfeng Fang氏らHARMONi-A Study Investigatorsが実施した「HARMONi-A試験」で示された。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2024年5月31日号で報告された。上乗せ効果を評価する中国の無作為化プラセボ対照第III相試験 HARMONi-A試験は、中国の55施設で実施した二重盲検無作為化プラセボ対照第III相試験であり、2022年1~11月に参加者を登録した(Akeso Biopharmaの助成を受けた)。 年齢18~75歳で、EGFR-TKI療法後に病勢が進行したEGFR変異陽性の局所進行または転移のあるNSCLC(AJCC病期分類[第8版]のStageIIIB、IIIC、IV)の患者322例を登録した。 これらの患者を、ivonescimab+化学療法(ペメトレキセド+カルボプラチン)を受ける群に161例(年齢中央値59.6歳[範囲:32.3~74.9]、女性52.2%)、プラセボ+化学療法を受ける群に161例(59.4歳[36.2~74.2]、50.9%)を無作為に割り付けた。試験薬の投与は3週ごとに4サイクル行い、引き続き維持療法としてそれぞれivonescimab+ペメトレキセド、プラセボ+ペメトレキセドを投与した。 主要評価項目は、独立画像審査委員会(IRRC)の評価によるITT集団におけるPFSとした。今回は、予定されていた初回中間解析の結果を報告した。奏効率も良好 データカットオフ日(2023年3月10日)の時点での追跡期間中央値は7.89ヵ月であった。IRRCの評価によるPFS中央値は、プラセボ群が4.8ヵ月(95%信頼区間[CI]:4.2~5.6)であったのに対し、ivonescimab群は7.1ヵ月(5.9~8.7)と有意に延長した(群間差:2.3ヵ月、ハザード比[HR]:0.46[95%CI:0.34~0.62]、p<0.001)。 事前に規定されたサブグループ解析では、大部分のサブグループにおいてプラセボ群よりもivonescimab群でPFSに関する有益性が示され、たとえば第3世代EGFR-TKIの投与中に病勢が進行した患者のHRは0.48(95%CI:0.35~0.66)、脳転移を有する患者では同0.40(0.22~0.73)といずれも良好だった。 また、IRRC評価による奏効率は、プラセボ群の35.4%(95%CI:28.0~43.3)に対し、ivonescimab群は50.6%(42.6~58.6)と有意に高率であった(群間差:15.6%、95%CI:5.3~26.0、p=0.006)。OSのデータは未成熟 全生存期間(OS)のデータは初回中間解析時には未成熟で、データカットオフ日の時点で69例(21.4%)が死亡した(ivonescimab群32例[19.9%]、プラセボ群37例[23%])。 試験期間中の治療関連有害事象は、ivonescimab群で99例(61.5%)、プラセボ群で79例(49.1%)に発現し、化学療法関連の有害事象が最も多かった。Grade3以上の免疫関連有害事象は、ivonescimab群で10例(6.2%)、プラセボ群で4例(2.5%)に、Grade3以上のVEGF関連の有害事象は、それぞれ5例(3.1%)および4例(2.5%)に認めた。 著者は、「ivonescimab+化学療法は、TKI抵抗性の患者における新たな治療選択肢となる可能性がある」とし、「VEGF阻害薬ベバシズマブはNSCLC患者における脳転移の進行を遅延または予防する可能性があることから、本試験の脳転移患者におけるPFSの改善は、二重特異性抗体ivonescimabによるVEGFの阻害または抗PD-1/VEGFの複合的な効果に起因する可能性がある」と指摘している。 現在、NSCLCの治療においてivonescimab単剤と併用療法を比較する複数の第III相試験が進行中だという。

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慢性腎臓病を伴う2型糖尿病に対するセマグルチドの腎保護作用 -FLOW研究から何を学ぶ-(解説:栗山哲氏)

本論文は何が新しいか? GLP-1受容体作動薬は、LEADER/SUSTAIN-6/REWINDなど2型糖尿病の大規模研究において心血管主要アウトカムのリスク軽減が報告されている。一方、これらの研究で腎イベントは副次項目として設定されており、肯定論はあるものの正確な評価はされていない。今回のFLOW研究は、セマグルチドの効果を、腎疾患イベントを主要評価項目として評価した初の腎アウトカム研究である。FLOW試験のデザインと経緯 慢性腎疾患(CKD)を有する2型糖尿病の成人を対象として、腎臓を主要評価項目とした。標準治療の補助療法として追加したセマグルチド1.0mg週1回皮下注とプラセボを比較した、無作為割り付け、二重盲検、並行群間、プラセボ対照試験のデザイン。両群のベースラインeGFRは、47mL/min/1.73m2である。複合主要評価項目は、eGFRのベースラインから持続的50%以上の低下、持続的なeGFR 15mL/min/1.73m2未満の発現、腎代替療法(透析または腎移植)の開始、腎死、心血管死、の5項目。本計画書では、事前に規定した数の主要評価項目イベントが発生した時点で中間解析を行うこととした。試験は2019年に開始、28ヵ国、387の治験実施施設で3,533人が組み入れられた。そして、経過中セマグルチドの腎アウトカムの改善効果が明確になったため、2023年10月独立データモニタリング委員会の勧告に基づき試験の早期終了が決定された。FLOW試験の主たる結果 早期終了勧告の際の中間観察期間は3.4年。主要評価項目において、セマグルチド群でのリスク低下は24%(ハザード比[HR]:0.76、95%信頼区間[CI]:0.66~0.88、p=0.0003)であった。この結果は、主要評価項目の中で腎に特異的な複合項目(HR:0.79、95%CI:0.66~0.94)と心血管死(HR:0.71、95%CI:0.56~0.89)においても同様であった。サブグループ解析において、セマグルチド群のHRが低い要因として、欧州地域、UACRが多い、BMIが大、糖尿病歴が長い、などが挙げられた。以上、本試験から「CKDを有する2型糖尿病患者においてセマグルチドは腎アウトカムを改善し、心血管死を抑制する」、と結論された。GLP-1受容体作動薬による腎保護の想定機序 FLOW試験は、GLP-1受容体作動薬の腎保護の作用機序を議論する研究ではない。しかし、この点は万人にとって興味の的である。GLP-1受容体作動薬には食欲抑制作用がある。その機序には、胃排出遅延作用と中枢における食欲抑制が知られている。食欲抑制は、糖負荷とNa負荷を軽減し、糖代謝や高血圧などを改善し、腎保護に寄与する。さらに腎保護作用のメカニズムには、Na利尿作用、抗酸化作用、抗炎症作用、血管拡張作用など複合的に想定される。腎臓におけるGLP-1受容体は、糸球体、近位尿細管、輸入細動脈、緻密斑(MD)などに分布する。GLP-1受容体作動薬は、近位尿細管でNHE3やNHE3-DPP4複合体の活性化を抑制しNa利尿を亢進させる。GLP-1受容体作動薬が、MDへのNa流入増加から、尿細管・糸球体フィードバック(TGF)を介して糸球体内圧低下を惹起するか否かに関しては、一定の見解は得られていない。本論文の日本での意義付けと注意点 FLOW研究の成果は、糖尿病や腎臓病専門医の日常診療にとってもインパクトは高い。日本糖尿病学会の「2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム(第2版)」において、ステップ1でGLP-1受容体作動薬が、ステップ3でCKD合併2型糖尿病ではSGLT2阻害薬と共に選択薬剤として推奨されている。また、ADA/KDIGOにおける糖尿病性腎臓病(DKD)に対する腎保護管理2022の推奨においても、GLP-1受容体作動薬はリスクに応じた追加治療としてARB/ACE阻害薬、SGLT2阻害薬、MRAと共に推奨されている(Kidney Int. 2022;102:S1-S54.)。一方、本論文を直接日本人に外挿できるか、には注意が必要である。FLOW研究は、アジア人が20%と少なく、さらにHRが低下した患者層は、BMI>30でUACR≧300であった。このことは、同剤は肥満度が高い顕性蛋白尿を有するDKDで効果が高い可能性を示唆する。さらに、本試験で使用されたセマグルチドは、注射製剤(オゼンピック)であることも注意すべきである。現在、本邦では経口セマグルチド(リベルサス)も使用可能であるが、両者は薬物動態学/薬力学の面で同一ではない。したがって、注射製剤セマグルチドで得られたFLOW試験の腎保護効果を、経口セマグルチドには直接外挿はできない。心血管イベント抑制や腎アウトカム改善を目標とするなら、経口薬ではなく注射薬を選択すべきであろう。慢性腎臓病を伴う2型糖尿病における腎保護療法の未来展望 近年、心不全治療ではファンタスティックフォー(fantastic four:ARNI、SGLT2阻害薬、β遮断薬、MRA)なる4剤の組み合わせが注目され、臨床現場で実践されている。これに追随しDiabetic Kidney Disease(DKD)治療において推奨される4種類の腎保護薬(RAS阻害薬、SGLT2阻害薬、非ステロイド型・MRA[フィネレノン]、GLP-1受容体作動薬)の組み合わせを、新たに腎臓病ファンタスティックフォー(The DKD fantastic four)とする治療アルゴリズムが一部に提唱されている(Mima A. Adv Ther. 2022;39:3488-3500.)。また、腎臓の酸素化や炎症を評価する試験(TREASURE-CKD[NCT05536804]、REMODEL[NCT04865770])が進行中であり、GLP-1受容体作動薬の作用機序の一部が解明される期待がある。今後、「GLP-1受容体作動薬やSGLT2阻害薬など早期から使用することにより、さらなる腎予後改善が望めるかもしれない」、との治療上の作業仮説も注目されつつある。この観点に立ち、将来的にはGLP-1受容体作動薬やSGLT2阻害薬は、糖尿病性腎臓病の早期から開始する「Foundational drug:基礎薬」となり得るのではとの意見もある(Mark PB, et al. Lancet. 2022.400;1745-1747.)。

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島根大学医学部 内科学講座呼吸器・臨床腫瘍学(附属病院 呼吸器・化学療法内科)【大学医局紹介~がん診療編】

礒部 威 氏(教授/診療科長)津端 由佳里 氏(診療教授/副診療科長)奥野 峰苗 氏(医科医員)津田 洸旬 氏(医科医員)講座の基本情報医局独自の取り組み・特徴われわれの教室は、増加する呼吸器疾患と、がん医療の均てん化を推進するため、全国的に不足している呼吸器専門医・がん薬物療法専門医の育成を行ってきました。その特徴は呼吸器病学・腫瘍内科学・感染症学をベースとした、総合内科医の育成に取り組み、患者さんを疾患横断的、全人的に診療する力の養成にあります。肺がんは高齢化が進み、診断時に50%以上が75歳以上の高齢者です。高齢者は複数の慢性疾患を抱え、薬物の代謝や排泄が低下しているため、高齢者機能評価による適切な評価と介入ががん薬物療法を行う際には重要となります。教室の主要な臨床・教育・研究テーマが高齢者機能評価の普及と実践です。すでに高齢者機能評価の有用性を検討する多施設共同研究(ENSURE-GA)が終了し、現在は肺がん薬物療法時における高齢者機能評価の有用性を検討する多施設共同研究が始まったところです。また、呼吸器診療において持続可能な開発目標(SDGs)を掲げ、島根県の呼吸器診療、がん診療の基盤を整え、健康増進に寄与することを目的としたクラウドファンディングを開始しました。今後の教室の発展にご注目ください。我が医局のエースを紹介!津端はじめに自己紹介と医局の雰囲気の実際を教えてください。奥野医師10年目の奥野 峰苗です。もともと薬剤師でしたが、がんのエビデンスを作る臨床研究に興味があり、医学部に入りました。入局時は個別のキャリアプランを具体的に提案してくれ、ここなら自分の夢がかなえられる! と思い決めました。院外研修など自身のキャリアプランについてもトップダウンでなく、希望を聞いてもらえる医局だと思います。津田医師4年目の津田 洸旬です。大阪大学の人間科学部で学んでいましたが、医学こそ人間を科学する学問だ! と気が付き医学部へ入りました。研修医のころから薬物療法に興味があり、肺がん症例では診断から薬物療法、人生の最終段階まで寄り添えることにやりがいを感じました。趣味は美味しいごはんとお酒です(笑)。医局の雰囲気は一言で言うと「明るい」。若手から専門医まで在籍していて、カンファレンスは若手も発言しやすいです。津端では、当科でのがん診療/研究のやりがいはどんなところに感じていますか?奥野私はチームリーダーなのですが、一緒に考える、お互い刺激を受け合うチームを目指しています。研究は自身で立案したCQを、実際に臨床研究に結び付けることを医局がサポートしてくれます。先日、初めて国際学会(ATS)で発表してきました。語学の壁は感じましたが、今後もどんどんチャレンジしていきたいです。津端国立がん研究センターでの国内留学も終えられ、臨床試験の立案から実施、そして学会発表まで行えるよう成長できているという証拠ですね。津田肺がん診療が日進月歩であることを最前線で感じられ、とてもやりがいを感じますし、高齢者が多く併存疾患への対応にも携わることができています。診断・治療だけではなく、大学に緩和ケア病棟があって看取りまで担当できるのも当科の特色です。先輩方からサポートいただきつつ入局1年目から多施設共同試験のPIも経験でき、勉強になっています。津端それでは最後に、今後の目標と医学生/研修医の皆さんへメッセージをどうぞ!奥野さらにたくさんの臨床研究を立案することが目標です。肺がん患者さんの予後は延長し、新しい治療もたくさん出てきていますがまだまだ奥深い世界です。当科は少し迷っている方でも、サポートして一緒にやりたいことを見つけてもらえます。津田まずは専門医を取得する。そのうえで、肺がんを中心として専門性を高め、国内外の留学も目標です。がん診療、とくに肺がんは難しいという印象があるかもしれませんが、個々の症例と向き合うことで理解は深まりますし、患者さんに最期まで寄り添える、とてもやりがいのある領域です。津端今日はありがとうございました、これからも一緒に当科を盛り上げていきましょう!島根大学医学部 内科学講座呼吸器・臨床腫瘍学(附属病院 呼吸器・化学療法内科)住所〒693-8501 島根県出雲市塩冶町89-1問い合わせ先koka-nai@med.shimane-u.ac.jp医局ホームページ島根大学医学部 内科学講座呼吸器・臨床腫瘍学専門医取得実績のある学会日本内科学会日本呼吸器学会日本臨床腫瘍学会日本呼吸器内視鏡学会日本結核・非結核性抗酸菌症学会日本老年医学会日本アレルギー学会日本喘息学会日本がん治療認定医機構 ほか研修プログラムの特徴(1)ガイドラインに準拠した診療スタイルを身につけることができる(2)チームによる教育・研修体制を組み、常に上級医からの指導を受けることができる(3)完全当直、待機医師制度のため、オン・オフが明確化される詳細はこちら

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発熱性好中球減少症に対するグラム陽性菌をカバーする抗菌薬の追加の適応【1分間で学べる感染症】第5回

画像を拡大するTake home message発熱性好中球減少症に対するグラム陽性菌をカバーする抗菌薬の追加の適応を7つ覚えよう。発熱性好中球減少症は対応が遅れると致死率が高いため、迅速な対応が求められます。入院中の患者の場合、基本的には緑膿菌のカバーを含めた広域抗菌薬の投与が初期治療として推奨されていますが、それに加えてグラム陽性菌に対するカバーを追加するかどうかは悩みどころです。そこで、今回はガイドラインで推奨されている以下の7つの適応を理解するようにしましょう。1)血行力学的不安定または重症敗血症の場合2)血液培養からグラム陽性菌が陽性の場合3)メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、バンコマイシン耐性腸球菌 (VRE)、ペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP)の保菌がある場合4)重症粘膜障害(フルオロキノロン系抗菌薬予防内服)の場合5)皮膚軟部組織感染症を有する場合6)カテーテル関連感染症を臨床的に疑う場合7)画像上、肺炎が存在する場合上記のうち、1)2)に関してはとくに疑問なく理解できると思います。3)に関しては、患者のこれまでの記録をカルテで確認することで、そのリスクを判断します。4)5)6)に関しては、身体診察でこれらを疑う場合には、すぐに追加を検討します。6)はカテーテル局所の発赤や腫脹、疼痛などがあれば容易に判断できますが、血液培養が陽性となるまでわからないこともあるため注意が必要です。7)に関してはMRSAによる肺炎を懸念しての推奨です。グラム陽性菌をカバーする抗菌薬の追加の適応に関しては、上記7つをまずは理解したうえで、その後のde-escalationを行うタイミングや継続の有無に関しては、その後の臨床経過や検査結果から総合的に判断しましょう。1)Freifeld AG, et al. Clin Infect Dis. 2011;52:e56-e93.

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くも膜下出血の発症リスクが上がる/下がる薬は?

 オランダ・ユトレヒト大学医療センターのJos P. Kanning氏らは、動脈瘤によるくも膜下出血(aSAH:aneurysmal subarachnoid hemorrhage)の発症リスクを下げるとされる処方薬として、5剤(リシノプリル[商品名:ロンゲスほか]、アムロジピン[同:アムロジンほか]、シンバスタチン[同:リポバスほか]、メトホルミン[同:メトグルコほか]、タムスロシン[同:ハルナールほか])を明らかにした。一方で、aSAHの発症に関連している可能性がある薬剤についても示唆した。Neurology誌オンライン版2024年6月25日号掲載の報告。 研究者らは、処方薬とaSAH発症リスクとの関連性を体系的に調査するため、drug-wide association study(DWAS)を実施。Secure Anonymised Information Linkage(SAIL)データバンクの1982年1月1日以前に生まれた患者を研究対象とし、ICD-9およびICD-10を用いて2000~20年までの全aSAH症例を抽出した。さらに、各症例を年齢、性別で9つの対照群と無作為にマッチングさせ、さらに症例と対照の観察期間を比較できるようデータベースへの登録年を基にマッチングさせた。本研究集団の2%超に処方された薬剤を調査し、インデックス日(aSAH発生)前で、処方に関連する曝露期間を重複しないように3つ定義付けした(現在:インデックス日から3ヵ月以内、最近:インデックス日から3〜12ヵ月、過去:インデックス日から12ヵ月より前)。また、年齢、性別のほか、交絡因子の調整のためaSAHと薬物曝露に関連するであろう変数として、既知のaSAHリスク因子(喫煙状況、高血圧の有無、飲酒、BMI)についてコントロールし、インデックス日以前の1年間のヘルスケアの利用(かかりつけ医への来院数など)も評価した。 主な結果は以下のとおり。・aSAH群4,879例(平均年齢±SD:61.4±15.4歳、女性:61.2%)と対照群4万3,911例を照合した。・aSAH症例群は対照群よりもかかりつけ医の受診回数が多く(平均受診回数:23回vs.19回)、インデックス日以前の喫煙率(37% vs.21%)や高血圧症の既往(42% vs.37%)も高かった。・本研究中に特定された2,023種類の薬剤のうち、205種類(10.1%)が共通して処方されていた。・二項ロジスティック回帰分析でボンフェローニ補正を用いたところ、現在服用中でaSAH発症リスクが低下した薬剤は、リシノプリル(オッズ比[OR]:0.63、95%信頼区間[CI]:0.44~0.90)、アムロジピン(OR:0.82、95%CI:0.65~1.04)であった。ただし、両者とも服用が「最近」の場合には、aSAH発症リスクが上昇(リシノプリルのOR:1.30[95%CI:0.61~2.78]、アムロジピンのOR:1.61[95%CI:1.04~2.48])し、リシノプリルとアムロジピンで同様の傾向が見られた。・シンバスタチン(OR:0.78、95%CI:0.64~0.96)、メトホルミン(OR:0.58、95%CI:0.43~0.78)、タムスロシン(OR:0.55、95%CI:0.32~0.93)を現在服用中の場合でも、aSAH発症リスクの低下が認められた。・対照的に、ワルファリン(商品名:ワーファリンほか、OR:1.35、95%CI:1.02~1.79)、ベンラファキシン(同:イフェクサー、OR:1.67、95%CI:1.01~2.75)、プロクロルペラジン(同:ノバミン、OR:2.15、95%CI:1.45~3.18)、Co-codamol*(OR:1.31、95%CI:1.10~1.56)を現在服用中の場合、aSAH発症リスクの増加が認められた。*アセトアミノフェン・コデインリン酸塩、国内未承認

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糖尿病とがんの相互関連性、最新の知見は?/日本糖尿病学会

 近年、糖尿病とがんの相互関連性が着目されており、国内外で研究が進められている。日本では、2013年に日本糖尿病学会と日本癌学会による糖尿病とがんに関する委員会から、医師・医療者・国民へ最初の提言がなされた。糖尿病は全がん、大腸がん、肝がん、膵がんの発症リスク増加と関連するとされている。5月17~19日に開催された第67回日本糖尿病学会年次学術集会で、シンポジウム11「糖尿病とがんをつなぐ『腫瘍糖尿病学』の新展開」において、能登 洋氏(聖路加国際病院内分泌代謝科)が「糖尿病とがんの関係 2024 update」をテーマに講演を行った。講演の主な内容は以下のとおり。糖尿病患者はがん死リスクが高い 日本での2011~20年における糖尿病患者の死因は、多い順に、がん(38.9%)、感染症(17.0%)、血管障害(10.9%)となっている1)。糖尿病患者のがん死リスクは一般人よりも高く、糖尿病により発がん・がん死リスクが増加する可能性が注目されている。糖尿病を有するがん患者は生命予後・術後予後が不良であることがメタ解析で示されている。能登氏によると、糖尿病とがんはさまざまな要因を介して相互関連しているという。 糖尿病に伴うがんリスクの倍増率に関する研究によると、糖尿病がある人では、ない人と比べて、がん死リスクは1.3倍、がん発症リスクは1.2倍増加していることが示されており2)、能登氏は、がんは糖尿病の「合併症」とまでは位置付けられないが、関連疾患、併発疾患としては無視できないと述べた。糖尿病に伴う発がんリスクのがん種別では、海外のデータによると、リスクが高い順に、肝がん(糖尿病がない人と比べて2.2倍)、膵がん(2.1倍)、子宮がん(1.6倍)、胆嚢がん(1.6倍)、腎がん(1.3倍)、大腸がん(1.3倍)などが並んでいる2)。国内のデータによると、肝がん(2.0倍)、膵がん(1.9倍)、大腸がん(1.4倍)となっており3)、主に消化器系の発がんリスクが有意に高いことが判明した。 また能登氏は、上記の海外のデータにおいて、糖尿病を有する男性の前立腺がんの発症率は通常の0.8倍となっており、前立腺がんにはなりにくいことを興味深い点として挙げた。これは、糖尿病の場合はテストステロンが低くなることと関連しているという。糖尿病患者のがん発症メカニズム 現在想定されている糖尿病により発がんリスクが高まる機序について、能登氏は解説した。高血糖と高インスリン血症という主な2つの因子が、正常細胞をがん化し、がん細胞を増殖させていくと考えられている。また、高血糖により血中酸化ストレスが増加すると、染色体にダメージを与え、正常細胞ががん化する。さらに、高血糖自体が細胞増殖のエネルギーとなり、がん化した細胞の増殖が促進される。また、インスリンは直接的に発がんプロモーションに関与する。IGF-1という成長因子を介して間接的にも発がんを促進すると考えられている。さらに最近の研究によると、mTOR経路ががんに関わってくる遺伝子を促進したり、あるいは、正常細胞は発がん細胞を抑制しようとする細胞競合という機能を持っているが、インスリンによって細胞競合機能が抑制されてしまうことで、がん細胞が増殖しやすくなったりすることが判明した。また、糖尿病や肥満は全身的な炎症が慢性的に存在する。この炎症が、発がん・がんの増殖により拍車をかけることが考えられるという。最近では、さまざまな糖尿病治療薬が、発がん・がんの増殖に対して関連しているという仮説もあり、研究が進められている。 能登氏は、高血糖と高インスリン血症はどちらが発がんに影響しているかについて、以下の研究を取り上げて解説した。米国の研究によると、糖尿病患者は、糖尿病の発症から5~10年後に発がん倍率が1.3倍のピークを迎え、その後は低下するという。インスリン分泌能をC-ペプチドに置き替えてみると、発がん倍率とほぼパラレルな推移が認められる。一方、HbA1cで示される高血糖は、10~15年後にピークに達する。そのため、発がんへの影響は、高インスリン血症のほうが主体であることが推測されている4)。 一般的に欧米人よりもアジア人のほうがやせ型の人が多く、肥満度が低い。肥満は高インスリン血症を引き起こすため、肥満のほうが、発がんリスクが高くなると考えられている。しかし、能登氏らが実施したアジア人を対象とした調査によると、アジア人糖尿病患者の発がんリスクは低いだろうという予想に反して、男女共に、欧米人よりもアジア人のほうが発がんとがん死リスクが高いという結果になった5)。高血糖と高インスリン血症のがんへの影響は人種によっても変化する可能性がリアルワールドデータにより示唆された。 能登氏はここで、データ解釈上の注意点があることを指摘した。糖尿病患者は高齢・肥満によりがん発症リスクが高まるという交絡因子があるが、これは解析時に調整することができる。一方、糖尿病患者は日頃から検査を受けることが多いため、がん発見率も高まる。この「発見バイアス」は考慮しなければならない。実際のがん発症リスクは、前述の数値よりも低いであろうという。また、がん患者は糖尿病になりやすく、実は膵がんを先に発症し、それが糖尿病を引き起こしていたが先に糖尿病が診断されたという因果の逆転も考えられる。その点に気を付けて解釈をしなければならない。血糖変動幅を小さくすれば、がんリスクは低下するか? 高血糖ががんのリスク因子であるならば、血糖コントロールをよくすれば、がんのリスクは低くなるのかということについて、海外での心血管疾患に関するメタ解析の副次結果が提示された。発がんリスク、がん死リスクのいずれも、厳格な血糖管理をしても、がんのリスクは下がらないということが示唆された6)。また、能登氏らが実施した日本人を対象としたHbA1cと発がんリスクに関する研究によると、HbA1cが5.5~6.4%を基準値として、それよりも血糖コントロールが悪くても、発がんリスクはほとんど変わらなかった7)。 さらに踏み込んで、HbA1c変動と発がんリスクに関するデータでは、HbA1cの変動幅が大きい人ほどがんリスクが高まることが判明した8)。また、アジア人を対象とした海外のデータでも、発がんリスク・がん死リスクともに、HbA1c変動幅が大きいほうが、リスクが高くなることが明らかとなった9)。 ただし、観察研究で関連性が示されても、バイアス残存などのため因果関係にあるとは限らない。また、因果関係にあっても、是正・予防によりリスクが低下するとは限らないという。現時点では、HbA1cの変動幅はがんリスク評価マーカーとして活用するのが妥当で、Time in Range(TIR)もリスク評価マーカーとして有用かもしれない。がんと糖尿病に共通するリスク因子:食事と運動 能登氏は、がんと糖尿病に共通してリスクを上昇させる食事例として、赤肉・加工肉の過剰摂取、高Glycemic index(GI)食摂取を挙げ、逆にリスクを下げる食事例として、野菜、果物、食物繊維、全粒(未精白)穀物、魚をカロリーやバランスの管理をしたうえで摂取することを挙げた。 糖質制限・低炭水化物食には、以下のような功罪があるため慎重に行う必要がある。・血糖コントロール・減量に有効だが、1~2年で効果消失する。・糖尿病発症リスクは変わらない(J-カーブ示唆)。・さらに、極端な食事制限を長期間続けると、総死亡・がん罹患/死亡・心血管死亡が増加することも報告されている。 ある日本の観察研究によると、運動量とがんに関しては、運動量が多いグループほどがんリスクが低下することがわかっているため10)、運動ががんの予防につながる可能性があると能登氏は述べた。ただし、ベースラインにおいて、元々身体的な制限があるため運動できない人や、逆に元から健康志向が強い人が含まれるといった交絡因子が含まれることも考慮しなければならないという。 最近では、国内でも保険適用による減量手術がある。食事・運動を介さずに手術で劇的に短期間で減量した場合も、糖尿病とがんのリスクを劇的に減少させることが報告されている11)。体重を減らすことが非常に重要であることを示すデータとなっている。糖尿病治療薬はがんリスクに影響するか? 高インスリン血症はがんのリスク因子となるが、インスリンを治療薬として使用する場合は、がん死リスク・発がんリスク共に変化がないことがわかっているという12)。インスリンにより血糖値が劇的に下がるため、リスクが相殺されて、リスクがプラスにもマイナスにもならないのではないかと推察されている。そのほかの糖尿病治療薬とがんリスクについては、エビデンスは限定的だが、メトホルミンはがんリスクを低下させる可能性がある。ピオグリタゾンは、投与された患者で膀胱がんの発生リスクが増加する可能性が完全には否定できないので、膀胱がん治療中の患者には投与を避けることと添付文書に明記されている。 日常診療では、糖尿病とがんに関する日本糖尿病学会と日本癌学会による医師・医療者への提言を参照のうえ、性別・年齢に応じて適切に科学的に根拠のあるがんのスクリーニングを患者に受診するよう促す必要がある。がん患者における糖尿病 能登氏は最後に、日本での糖尿病を有するがん患者の割合を述べた。糖尿病を有するのは、全がん患者の20.7%、男性では21.8%、女性では19.4%。肝がん患者の32.1%、膵がん患者の31.7%が、糖尿病を合併している13)。なお、日本の一般成人の糖尿病有病率は15%程度である。 また、韓国で実施されたコホート研究によると、がんの既往がない人と比べて、がんの既往のある人・現在がんに罹患している人は、がん全般で糖尿病発症リスクが35%高まることが示された14)。とりわけ膵がんでは5.15倍に跳ね上がる。デンマークで実施されたコホート研究も韓国のデータと同様に、膵がんの糖尿病リスクが5倍となっている15)。 能登氏は今後の課題として、がんに伴う糖尿病リスク増加機序と経過の究明や、最適な治療法・コントロール目標値・医療者連携の確立を挙げ、研究を進めていきたいとまとめた16)。■参考1)中村二郎ほか. 糖尿病. 2024;67:106-128.2)Ling S, et al. Diabetes Care. 2020;43:2313-2322.3)春日雅人ほか. 糖尿病. 2013;56:374-390.4)Hu Y, et al. J Natl Cancer Inst. 2021;113:381-389.5)Noto H, et al. J Diabetes Investig. 2012;3:24-33.6)Johnson JA, et al. Diabetologia. 2011;54:25-31.7)Kobayashi D, Endocr Connect. 2018;7:1457-1463.8)Saito Y, et al. Cancer J. 2019;25:237-240.9)Mao D, et al. Lancet Reg Health West Pac. 2021;18:100315.10)Inoue M, et al. Am J Epidemiol. 2008;168:391-403.11)Adams TD, et al. N Engl J Med. 2007;357:753-761.12)ORIGIN Trial Investigators. N Engl J Med. 2012;367:319-328.13)Saito E, et al. J Diabetes Investig . 2020;11:1159-1162.14)Hwangbo Y, et al. JAMA Oncol. 2018;4:1099-1105.15)Sylow L, et al. Diabetes Care. 2022;45:e105-e106.16)後藤温ほか. 糖尿病. 2023;66: 705-714.

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ストレスチェックで、その後の精神疾患による長期休職が予測できるか

 労働安全衛生法の改正に伴い、2015年より50人以上の労働者がいる事業所では、ストレスチェックの実施が義務化された。京都大学の川村 孝氏らは、ストレスチェックプログラムを用いた従業員の精神疾患による長期病欠の予測可能性を検討した。Journal of Occupational and Environmental Medicine誌2024年5月1日号の報告。 対象は、2016〜18年に精神疾患の長期病欠を取得した大学職員。対象者と性別、年齢、職種が一致した職場に出勤している大学職員を対照群に割り当てた。57項目の質問票より得られたデータの分析には多変量回帰分析を用い、最終的に予測モデルを開発した。2019年に検証を行った。 主な結果は以下のとおり。・本研究には、22大学(国立大学:19、私立大学:3)が参加し、2016〜19年度まで各年度で約4万500人(15万7,498人年)が参加した。・病欠を取得した職員は723人(10万人年当たり459.1人)、精神疾患により死亡した職員は605人(83.7%)であった。そのうち、病欠前2年以内にストレスチェックに回答した205人(33.9%、自殺者2人含む)を対象に割り付けた。・多変量回帰では、次の6項目が予測因子と特定され、これらを予測モデルに含めた。【職場の方針に自分の意見を反映できる】オッズ比(OR):0.652、95%信頼区間(CI):0.868〜0.490【イライラしたことがある】OR:0.559、95%CI:0.400〜0.783【非常に疲れを感じたことがある】OR:1.799、95%CI:1.334〜2.426【落ち着かないことがある】OR:1.580、95%CI:1.154〜2.163【悲しいことがある】OR:1.590、95%CI:1.148〜2.202【家庭生活に満足している】OR:0.627、95%CI:0.829〜0.475・受信者動作特性曲線下面積(AUC)は、0.768(95%CI:0.723〜0.813)であった。・本結果は、検証サンプルでも同様であった。 著者らは「予測モデルのパフォーマンスは中程度であり、ストレスチェックプログラムのさらなる改良が求められる」としている。

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