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AHA開発のPREVENT計算式は、ASCVDの1次予防に影響するか/JAMA

 米国心臓病学会(ACC)と米国心臓協会(AHA)の現行の診療ガイドラインは、pooled cohort equation(PCE)を用いて算出されたアテローム動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)の10年リスクに基づき、ASCVDの1次予防では降圧薬と高強度スタチンを推奨しているが、PCEは潜在的なリスクの過大評価や重要な腎臓および代謝因子を考慮していないなどの問題点が指摘されている。米国・ハーバード大学医学大学院のJames A. Diao氏らは、2023年にAHAの科学諮問委員会が開発したPredicting Risk of cardiovascular disease EVENTs(PREVENT)計算式(推算糸球体濾過量[eGFR]を導入、対象年齢を若年成人に拡大、人種の記載が不要)を現行ガイドラインに適用した場合の、スタチンや降圧薬による治療の適用、その結果としての臨床アウトカムに及ぼす影響について検討した。研究の詳細は、JAMA誌オンライン版2024年7月29日号に掲載された。米国の30~79歳の7,765例を解析 研究グループは、現行のACC/AHAの診療ガイドラインの治療基準を変更せずに、ASCVDリスクの計算式をPCEの代わりにPREVENTを適用した場合に、リスク分類、治療の適格性、臨床アウトカムに変化が生じる可能性のある米国の成人の数を推定する目的で、横断研究を行った(米国国立心肺血液研究所[NHLBI]の助成を受けた)。 2011~20年にNational Health and Nutrition Examination Surveys(NHANES)に参加した30~79歳の7,765例(年齢中央値53歳、女性51.3%)のデータを解析した。 主要アウトカムは、予測される10年ASCVDリスク、ACC/AHAリスク分類、スタチンまたは降圧薬による治療の適格性、予測される心筋梗塞または脳卒中の発症とし、PCEを用いた場合とPREVENTを用いた場合の差を評価した。10年ASCVDリスクは、PREVENTで低下する PCEとPREVENTの双方から有効なリスク推定値が得られた参加者は、心筋梗塞、脳卒中、心不全の既往歴のない40~79歳の集団であった。この集団では、PREVENTを用いて算出した10年ASCVDリスク推定値は、年齢、性別、人種/民族のすべてのサブグループにおいてPCEで算出した値よりも低く、この予測リスクの差は低リスク群で小さく、高リスク群で大きかった。 PREVENT計算式を用いると、この集団の約半数がACC/AHAリスク分類の低リスク群(53.0%、95%信頼区間[CI]:51.2~54.8)に分類され、高リスク群(0.41%、0.25~0.62)に分類されるのは、きわめて少数と推定された。スタチン、降圧薬とも減少、心筋梗塞、脳卒中が10万件以上増加 スタチン治療を受けているか、あるいは推奨されるのは、PCEを用いた場合は818万例であるのに対し、PREVENTを用いると675万例に減少した(群間差:-143万例、95%CI:-159万~-126万)。また、降圧薬治療を受けているか、あるいは推奨されるのは、PCEでは7,530万例であるのに比べ、PREVENTでは7,270万例に低下した(-262万例、-321万~-202万)。 PREVENTにより、スタチンまたは降圧薬治療のいずれかの推奨の適格性を失うのは、1,580万例(95%CI:1,420万~1,760万)と推定される一方、10年間で心筋梗塞と脳卒中を10万7,000件増加させると推定された。この適格性の変動の影響は、女性に比べ男性で約2倍に達し(0.077% vs.0.039%)、また、黒人は白人より高率であるものの大きな差を認めなかった(0.062% vs0.065%)。 著者は、「PREVENTは、より正確で精度の高い心血管リスク予測という重要な目標に進展をもたらすが、推定される変化の大きさを考慮すると、意思決定分析または費用対効果の枠組みを用いて、現在の治療閾値を慎重に見直す必要がある」としている。

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自転車通勤や徒歩通勤は心身の健康を向上させる

 自転車通勤は健康を大幅に改善し、あらゆる原因による死亡(全死亡)リスクを低減することが、新たな研究で明らかにされた。自転車通勤をしている人では、していない人に比べて全死亡リスクが47%低いのみならず、心臓病、がん、精神疾患の発症リスクも低いことが示されたという。英グラスゴー大学MRC/CSO Social and Public Health Sciences UnitのCatherine Friel氏らによるこの研究結果は、「BMJ Public Health」に7月16日掲載された。 Friel氏らは、スコットランドの人口の約5%が参加した全国健康調査の参加者から抽出した8万2,297人(16〜74歳)のデータを分析した。追跡期間は2001年から2018年までとし、この間のデータを入院、死亡、および治療薬処方の記録とリンクさせた。対象者を、学校や職場への通勤手段により、活動的な通勤者(自転車、または徒歩で通勤)と、それ以外の手段で通勤している非活動的な通勤者として分類し、両者間での健康リスクを比較した。 解析の結果、自転車通勤者では非活動的な通勤者と比べて、全死亡リスクが47%(ハザード比0.53、95%信頼区間0.38〜0.73)、あらゆる原因による入院リスクが10%(同0.90、0.84〜0.97)、心血管疾患(CVD)による入院リスクが24%(同0.76、0.64〜0.91)、CVDの治療薬処方のリスクが30%(同0.70、0.63〜0.78)、がんによる死亡リスクが51%(同0.49、0.30〜0.82)、がんによる入院リスクが24%(同0.76、0.59〜0.98)、精神疾患の治療薬処方のリスクが20%(同0.80、0.73〜0.89)低いことが明らかになった。 ただし、自転車通勤者では、交通事故による入院リスクが非活動的な通勤者の2倍であった(同1.98、1.59〜2.48)。研究グループは、「自転車通勤者は非活動的な通勤者に比べ、交通事故による死傷者のリスクが2倍であるというこの結果は、自転車利用者のためのより安全なインフラ整備の必要性を補強するものだ」と述べている。 一方、徒歩通勤者では非活動的な通勤者と比べて、入院リスクが9%(同0.91、0.88〜0.93)、CVDによる入院リスクが10%(同0.90、0.84〜0.96)、CVDの治療薬処方のリスクが10%(同0.90、0.87〜093)、精神疾患の治療薬処方のリスクが7%(同0.93、0.90〜0.97)低かった。 研究グループは、「この研究は、地域、国、国際的な政策立案者に、活動的な手段での通勤は健康にベネフィットをもたらすというタイムリーなエビデンスを提供するものだ」と結論付けている。 さらに研究グループは、「活動的な通勤は集団レベルで健康にベネフィットをもたらし、罹患率や死亡率も減少させる。また、自転車通勤や徒歩通勤がメンタルヘルス問題で薬を処方されるリスクの低下と関連していることは重要な発見だ」と述べている。

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「周期性嘔吐症候群」とはどのような病気?治療法はある?

 あまり知られていないが、悪夢のような症状をもたらす疾患がある。周期的に突然、強い吐き気や嘔吐が繰り返される、周期性嘔吐症候群(CVS)と呼ばれる疾患だ。米国消化器病学会(AGA)はこのほど、CVSの診断と管理に関する新たな臨床ガイダンス「臨床診療の改訂版(Clinical Practice Update)」を発表。CVSの症状があると思う人は、症状についてメモを取り、声を上げるよう呼び掛けている。 同ガイダンスによると、全人口の約2%がCVSを経験しているが、診断に至るまで何年もかかる場合もあるという。同ガイダンスの著者の1人で米ピッツバーグ大学医療センターのDavid Levinthal氏は、「診断は強力なツールになる。診断されることで患者は衰弱性の症状の正体が分かるだけでなく、医療提供者も効果的な治療計画を立てることができるようになる」と説明している。 CVSの主な症状は、数日間にわたって続く吐き気や嘔吐である。次の発作が現れるまでの期間は長い。軽度のCVSの場合、発作の持続期間は2日未満で、発作の回数も年に4回に満たない。一方、重度のCVSでは発作の持続期間がより長く、1年間に起こる発作の回数も多く、患者の中には入院や救急外来の受診が必要になる人もいるという。現在、CVS患者の約半数が少なくとも年に一度は救急外来を受診し、3分の1がCVSの症状による機能障害を抱えているという。また、発作と発作の間に嘔吐を繰り返すことはなくても、吐き気や消化不良といった症状が現れる場合もあるという。 CVSは誰にでも起こり得るが、女性や若年成人に多い。また、片頭痛の既往歴や家族歴がある人にも多いという。CVSの診断を受けるには、過去の嘔吐発作の詳細な記録を残しておく必要があると医師らは説明している。CVSは、胃腸炎や食中毒と誤診されることが多い。これらの症状が一定のパターンの一部であることを示すことで、自分がCVSである可能性を疑えるようになると研究グループは述べている。 Levinthal氏は、「臨床診療改訂の目的は、CVSの認知度を高め、診断が遅れるケースを減らし、患者の治療へのアクセスを向上させることだ」とAGAのニュースリリースの中で説明。その上で、「プライマリケアや救急医療、緊急医療の提供者、特に発作時に治療を求めるCVS患者と接する最前線にいる人たちに届くことをわれわれは願っている」としている。同ガイダンスでは、睡眠やストレスの管理、また薬物療法はCVS患者の助けになり得るとされている。 米国立衛生研究所(NIH)によると、専門家の間でもCVSの原因は明確になっていない。ただ、脳と消化管の間の神経信号の問題や、ストレスに対する脳と体内のホルモンシステムの反応に問題があることなどが原因となる可能性が指摘されている。また、遺伝子もリスクに影響している可能性があるという。

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航空会社のシフト制労働者の不規則な食事リズムは抑うつや不安と関連

 遅い夕食や長い食事摂取の時間枠などの不規則な食事リズムが、抑うつや不安のリスクを高める可能性のあることが、航空会社のシフト制労働者を対象にした新たな研究で明らかになった。上海交通大学(中国)のMi Xiang氏らによるこの研究の詳細は、「JAMA Network Open」に7月15日掲載された。 この研究では、中国の主要航空会社の従業員(パイロット、客室乗務員、航空保安検査員)を対象とした継続中の研究(Civil Aviation Health Cohort of China)への参加者2万2,617人(18〜60歳、年齢中央値29.1歳、男性60.6%)のデータが分析された。研究グループは、調査データをもとに、就業日と休日における朝食と夕食を摂取するタイミング、毎日の食事摂取の時間枠、およびイーティングジェットラグを割り出し、抑うつや不安との関連を検討した。 その結果、午前シフトの日における午後8時以降の夕食の摂取は、午後8時前の摂取と比べて、抑うつと不安のリスク増加と関連することが明らかになった(抑うつ:調整オッズ比2.01、95%信頼区間1.78〜2.27、不安:同1.78、1.53〜2.05)。同様の結果は、夜間シフトの日と休日でも認められた。一方、午前シフトの日に食事摂取の時間枠が12時間未満であることは、12時間以上の場合と比べて抑うつと不安のリスクが低かった(同順で、同0.81、0.75〜0.89、同0.84、0.75〜0.93)。この結果は、休日でも同様であった。 また、午前シフトの日における夕食の遅れと夜間シフトの日における夕食の遅れは、抑うつと不安のリスク増加に関連していた(午前シフト:同順で、調整オッズ比1.39、95%信頼区間1.22〜1.58、同1.32、1.13〜1.54、夜間シフト:同順で、同1.21、1.08〜1.36、同1.22、1.06〜1.39)。さらに、午前シフトの日における食事を摂取するタイミングの遅れは抑うつリスクの増加と関連していたのに対し(同1.35、1.13〜1.61)、タイミングの前倒し、つまり早めに食事を摂取することは不安リスクの低下と関連していた(同0.78、0.70〜0.87)。 こうした結果を受けて研究グループは、「航空会社の従業員の食事リズムは、フライトスケジュール(早朝か、夜遅くかなど)に左右されることが分かった。このような不規則な食事リズムは抑うつと不安のリスク上昇と関連していた」と述べている。また、このような結果が得られた理由として、研究グループは、食事時間の変動が、概日リズムとしても知られる体の睡眠・覚醒サイクルに影響を与え、最終的に気分に影響を与える代謝シフトを引き起こすのではないかと推測している。 研究グループはさらに、「航空会社の従業員は厳しい訓練の中で回復力を養っているため、平均的な労働者よりもストレスにうまく対処し、緊急事態を管理する能力が高いと考えられる。それゆえ、典型的なシフト制労働者において不規則な食事リズムが心理面に与える影響はより深刻な可能性がある」と述べている。

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極端に暑い日や寒い日には診療予約のキャンセルが増加

 極端に高温や低温の日には、予約されている診療時間に来なかったり(ノーショー)、診療をキャンセルしたりする患者が増えることが明らかになった。こうした傾向は、65歳以上の高齢者と慢性疾患を有する人で顕著だったという。米ドレクセル大学医学部のNathalie May氏らによるこの研究の詳細は、「American Journal of Preventive Medicine」に6月20日掲載された。 この研究では、米フィラデルフィア市の13カ所の大学病院の外来患者(18歳以上)9万1,580人の間に、2009年1月から2019年12月31日の間に発生した診療予約104万8,575件の追跡が行われた。May氏らは、受診の有無に関するデータを米国海洋大気庁(NOAA)の国立環境情報センター(National Centers for Environmental Information;NCEI)が提供する気象データに基づいて寒い季節と暑い季節に分類し、極端な気温とプライマリケアの利用との関連を検討した。 その結果、最高気温が華氏89度(摂氏31.7度)以上になると、華氏1度(摂氏0.56度)上昇するごとに、無駄になる(ノーショーまたはキャンセル)診療予約が0.64%増加することが示された。また、最高気温が華氏39度(摂氏3.9度)以下の場合でも、華氏1度低下するごとに、無駄になる診療予約が0.72%増加していた。さらに、極端な気温に伴い診療を取りやめる傾向は、特に、65歳以上の患者と慢性疾患を有する患者で強いことも判明した。 May氏は、「気候変動による異常気象は、慢性疾患を有する全ての患者の健康とウェルビーイングを脅かす」と指摘する。同氏はさらに、「とりわけ、極端な暑さや寒さに対抗するための資源を持っていない可能性のある最も脆弱な患者に対しては、警戒を怠らないようにするべきだ。われわれは、プライマリケアの利用における気候変動の影響を研究することで、特に、都市における気候変動の悪影響の観点から健康と公平性を支援する政策を推進したいと考えている」と話している。 一方、論文の筆頭著者であるドレクセル大学医学部のJanet Fitzpatrick氏は、「ノーショーは、患者が自身の健康を損なうだけでなく、他の患者にも悪影響を及ぼす。診療を切望している患者は他にもいる中でのノーショーは、貴重な予約枠を無駄にし、待ち時間の長さによる患者満足度を低下させる。また、急患や救急外来の利用が増え、慢性疾患の管理も不十分になることから、将来、より多くの医療が必要となり、結果的に国の医療システムにかかるコストも増加する」と話す。 医療システムは、遠隔医療の活用によってこのような影響を軽減することができるとFitzpatrick氏は話す。同氏は、「新型コロナウイルス感染症のパンデミックの際、遠隔医療は医療提供の重要な一形態として機能した。気候変動が悪化する中、この研究は、患者が必要なケアを確実に受けられるようにするための選択肢として、遠隔医療の恒久的な適用を提唱することを支持するものだ」と述べている。

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スタチンの使用はパーキンソン病リスクの低下と関連

 日本人高齢者を対象とした大規模研究により、スタチンの使用はパーキンソン病リスクの低下と有意に関連することが明らかとなった。LIFE Study(研究代表者:九州大学大学院医学研究院の福田治久氏)のデータを用いて、大阪大学大学院医学系研究科環境医学教室の北村哲久氏、戈三玉氏らが行った研究の結果であり、「Brain Communications」に6月4日掲載された。 パーキンソン病は年齢とともに罹患率が上昇し、遺伝的要因や環境要因などとの関連が指摘されている。また、脂質異常症治療薬であるスタチンとパーキンソン病との関連を示唆する研究もいくつか報告されているものの、それらの結果は一貫していない。血液脳関門を通過しやすい脂溶性スタチンと、水溶性スタチンの違いについても、十分には調査されていない。 そこで著者らは、LIFE Studyの2014年~2020年の健康関連データを用いて、コホート内症例対照研究を行った。65歳以上の高齢者で、追跡中にパーキンソン病を発症した人を症例、症例1人に対してコホート参加時の年齢、性別、市町村、参加年をマッチさせた対照5人を選択し、解析対象は症例9,397人と対照4万6,789人とした(女性53.6%)。スタチンは脂溶性(アトルバスタチン、フルバスタチン、ピタバスタチン、シンバスタチン)と水溶性(プラバスタチン、ロスバスタチン)に分類し、コホート参加時からの累積投与量の指標として、標準化1日投与量の合計(total standardized daily dose;TSDD)を算出した。 条件付きロジスティック回帰を用い、先行研究に基づいて併存疾患の有無を調整して解析した結果、スタチン使用は非使用と比較して、パーキンソン病リスクの低下(オッズ比0.61、95%信頼区間0.56~0.66)と有意に関連していることが明らかとなった。この関連は性別にかかわらず、男性(同0.62、0.54~0.70)と女性(同0.60、0.54~0.68)ともに認められた(交互作用P=0.71)。また、年齢層ごとに検討した場合も、65~74歳(同0.57、0.49~0.66)、75~84歳(同0.60、0.53~0.68)、85歳以上(同0.73、0.59~0.92)のいずれも同様の関連が認められた(交互作用P=0.17)。 全体として、スタチンの累積投与量が多いほどパーキンソン病リスクが低いことも明らかとなった。具体的には、TSDD 0(投与なし)の人と比較して、TSDD 1~30ではリスク上昇(同1.30、1.12~1.52)と関連していた一方で、TSDD 31~90(同0.77、0.64~0.92)、TSDD 91~180(同0.62、0.52~0.75)、TSDD 181以上(同0.30、0.25~0.35)ではリスク低下と関連していた。また、脂溶性スタチン(同0.62、0.54~0.71)と水溶性スタチン(同0.62、0.55~0.70)のどちらも、パーキンソン病リスク低下と関連していることが示された。 以上から著者らは、「日本人高齢者において、スタチン使用とパーキンソン病リスク低下との間に有意な関連が認められた。スタチンの累積投与量が多いほど、パーキンソン病の発症に対して予防効果を示した」と述べている。スタチンによる予防効果のメカニズムについては、脳動脈硬化の低下やドーパミン作動性神経細胞の生存などによる可能性が考えられるとして、この予防効果をより正確に評価するため、さらなる研究の必要性を指摘している。

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COPD・喘息の早期診断の意義(解説:田中希宇人氏/山口佳寿博氏)

 COPD(chronic obstructive pulmonary disease:慢性閉塞性肺疾患)は2021年の統計で1万6,384例の死亡者数と報告されており、「健康日本21(第三次)」でもCOPDの死亡率減少が目標として掲げられている。気管支喘息も、年々死亡者数は減少しているとはいえ、同じく2021年の統計で1,038例の死亡者数とされており、ガイドラインでも「喘息死を回避する」ことが目標とされている。いずれも疾患による死亡を減少させるために、病院に通院していない、適切に診断されていないような症例をあぶり出していくことが重要と考えられている。しかしながら、疾患啓発や適正な診断は容易ではない。現在、COPD前段階ということで、「Pre COPD」や「PRISm」といった概念が提唱されている。閉塞性換気障害は認めないが画像上での肺気腫や呼吸器症状を認めるような「Pre COPD」や、同じく1秒率が閉塞性換気障害の定義を満たさないが、%1秒量が80%未満となるような「PRISm」であるが、それらの早期発見や診断、そして治療介入などが死亡率の減少に寄与しているかどうかについては明らかになっていない。 今回NEJM誌から取り上げるカナダ・オタワ大学からの「UCAP Investigators」が行った報告では、症例発見法を用いたCOPD・気管支喘息の診断と治療により、呼吸器疾患に対する医療の利用が低減することが示された。約3万8,000例の中から、595例の未診断のCOPD・喘息が発見され、介入群と通常治療群に分けられ、呼吸器疾患による医療利用の発生率が評価されている。ガイドラインによる治療を順守するような呼吸器専門医の介入により、被検者の医療利用は有意に低下することが報告された。早期診断・治療を受けることにより、SGRQスコアとCATスコアや1秒量が改善することが示され、症例の健康維持に寄与することが期待されている。また、早期診断することにより、自らの病状の理解や自己管理の重要性を認識することも重要と考えられる。 一見、病気はすべて早期発見・早期治療が良いように思われるが、いくつかの問題点も考えられる。1つは軽症や無症状の症例が診断されることにより、生命予後に寄与しない治療が施される可能性がある。診断された患者は不安や精神的・心理的なストレスを抱えることも懸念される。2つ目に、限りある医療資源を消費してしまうことが推測される。呼吸器専門医や呼吸器疾患に携わる医療者は本邦でも潤沢にいるわけではなく、呼吸器専門医が不在の医療機関も少なくない。より重症や難治例のために専門医の意義があるわけで、軽症例や無症状の症例に対してどこまで介入できるか、忙しい日本の臨床の現場では現実的ではない部分が大きい。3つ目には薬物療法の早期開始により、副作用リスクがメリットを上回る可能性も不安視される。とくに吸入ステロイドによる局所の感染症や糖尿病や骨粗鬆症のリスクは、長期使用となると見逃すことはできないのだろう。 いずれにしても症例発見法は簡便であり多くの医療機関で導入可能と筆者は訴えているが、COPD・喘息の早期診断・早期介入が医療利用の低減のみならず、長期予後や死亡率の減少などにつながるかどうか、より長期的な検討が必要なのだろう。

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何はさておき記述統計 その7【「実践的」臨床研究入門】第46回

変数の型とデータ記述方法の使い分け前回は交絡因子について解説し、われわれのResearch Question(RQ)の交絡因子として下記の要因を挙げました(連載第45回参照)。年齢、性別、糖尿病の有無、血圧、eGFR、蛋白尿定量、血清アルブミン値、ヘモグロビン値今回からは、仮想データ・セットからこれらの交絡因子のデータを「低たんぱく食厳格遵守群」と「低たんぱく食非厳格遵守群」に分けて記述し、表を作成していきます。これは論文の表1として示されることの多い、いわゆる「患者背景表」となります。実際に表を作成してみる前に、まずは変数の型とデータ記述方法の使い分け、について説明します。変数の型は連続変数とカテゴリ変数に大別されます。連続変数は量を表す変数です。前述した交絡因子では年齢や血圧などの測定値、eGFR、蛋白尿定量、ヘモグロビン値や血清アルブミン値という臨床検査値、が連続変数です。カテゴリ変数は性質を表す変数で、名義変数、順序変数が該当します。今回挙げた交絡因子のうち性別と糖尿病の有無、が順序のない2値(1 or 0)の名義変数となります。ここからは、無料の統計解析ソフトであるEZR(Eazy R)の操作手順を含めて解説します(連載第43回参照)。表1の作成に必要な仮想データ・セットを以下の手順でEZRに取り込んでみましょう。仮想データ・セットをダウンロードする※ダウンロードできない場合は、右クリックして「名前をつけてリンク先を保存」を選択してください。「ファイル」→「データのインポート」→「Excelのデータをインポート」取り込んだ仮想データ・セットの内訳を下記に示します。A列:id 患者IDB列:treat 比較群分け(カテゴリ変数 1;低たんぱく食厳格遵守群、0;低たんぱく食非厳格遵守群)C列:age 年齢(連続変数)D列:sex 性別(カテゴリ変数 1;男性、0;女性)E列:dm 糖尿病の有無(カテゴリ変数 1;糖尿病あり、0;糖尿病なし)F列:sbp 収縮期血圧(連続変数)G列:eGFR (連続変数)H列:UP 蛋白尿定量 (連続変数)I列:albumin 血清アルブミン値(連続変数)J列:hemoglobin ヘモグロビン値(連続変数)それでは、連続変数のデータ記述方法について説明します。連続変数データの代表値としては平均値(Mean)や中央値(Median)が使われます。また、連続変数データのばらつきを示す値としては標準偏差(Standard deviation:SD)や範囲(Range)、もしくは四分位範囲(Inter-quartile range:IQR)を用いる場合があります。それぞれの使い分けについては、実際にEZRを操作しながら説明します。連続変数を記述する際、まずはヒストグラム(度数分布図)を確認してみましょう。EZRでは下記の手順でヒストグラムを描くことができます。「グラフと表」→「ヒストグラム」を選択すると、ポップアップウィンドウが開きますので、まずは下記のとおりに変数や設定を選択してみてください。年齢のヒストグラムが比較群分けごとに示されています。想定のとおり、低たんぱく食厳格遵守群(treat=1)は、低たんぱく食非厳格遵守群(treat=0)より年齢の分布が若干若いようです(連載第45回参照)。このヒストグラムのように、その連続変数データの分布が一峰性(ひとやま)でおおむね左右対称で正規分布に近似している場合は、その代表値を平均値(Mean)で、そのばらつきを標準偏差(SD)で記述することができます。しかし、臨床研究における連続変数のデータは正規分布に近似するものばかりではありません。たとえば、下記のように「ヒストグラム」のポップアップウィンドウで蛋白尿定量であるUPを選択し、「OK」ボタンをクリックしてみてください。ネフローゼ症候群の患者は対象から除外されていることもあり(連載第40回参照)、多くのデータがUP2g/日以下に偏り、右に裾を引いたようなヒストグラムになっています。このような形状のデータ分布の場合、代表値としては中央値(Median)、データのばらつきを示す値としては四分位範囲(IQR)、もしくは最小値から最大値という範囲(Range)で示すことが望まれます。なお、カテゴリ変数データの記述方法は簡単です。カテゴリ変数はカテゴリ別の頻度か割合で報告しますが、データ数の大きさによって、下記に示したような使い分けが慣例的に推奨されています。データ数が100以上:小数点以下1桁までの割合(%)データ数が100未満20以上:整数の割合(%)データ数が20未満:割合は使用せず、頻度の実数

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うつ病発症リスクが高い夜型人間、再発リスクへの影響は

 夜型クロノタイプは、うつ病発症リスクが高いといわれている。この影響は、主にうつ病の初期と関連するのか、再発エピソードでも見られるのかはわかっていない。中国・上海交通大学のShuang Hu氏らは、うつ病患者におけるクロノタイプとうつ病重症度との関連が、初回エピソードと再発エピソードで同様であるかを調査した。Chronobiology International誌2024年7月号の報告。 対象は、うつ病患者386例(女性の割合:70.7%、年齢範囲:16〜64歳)。クロノタイプ、睡眠の質、疲労レベル、うつ病重症度の評価には、朝型夜型質問紙(MEQ)、ピッツバーグ睡眠質問票(PSQI)、Multidimensional Fatigue Inventory(MFI20)、簡易抑うつ症状尺度(QIDS-J)をそれぞれ用いた。クロノタイプとうつ病重症度との関連を分析するため、多変量回帰モデルを用いた。 主な結果は以下のとおり。・クロノタイプ、睡眠の質、疲労レベルは、いずれもうつ病重症度と関連していることが示唆された。・夜型クロノタイプは、初回エピソードのみで、睡眠の質および疲労レベルとは独立してうつ病重症度の有意な増加を予測したが(−0.068、p=0.010)、再発エピソードでは認められなかった(0.013、p=0.594)。 著者らは「サーカディアンリズムに焦点を当てた治療は、初回エピソードのうつ病患者のみで検討することが妥当である」としている。

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ベンラリズマブ、好酸球性食道炎に有効か?/NEJM

 好酸球性食道炎に対し、ベンラリズマブはプラセボと比較して組織学的寛解率が有意に高かったものの、嚥下障害の症状に関しては有意な改善は認められなかった。米国・シンシナティ大学のMarc E. Rothenberg氏らMESSINA Trial Investigatorsが、第III相多施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照試験「MESSINA試験」の結果を報告した。ベンラリズマブは好酸球を減少させる抗インターロイキン-5受容体αモノクローナル抗体である。これまでの研究で、ベンラリズマブ治療により、血液、骨髄、肺、胃、食道組織における好酸球のほぼ完全な減少がもたらされ、ベンラリズマブが好酸球性食道炎の治療薬として有望である可能性が示されていたが、好酸球性食道炎患者におけるベンラリズマブの有効性と安全性は不明であった。NEJM誌2024年6月27日号掲載の報告。組織学的寛解と嚥下障害症状の改善をベンラリズマブとプラセボで比較 MESSINA試験は2020年9月22日~2022年10月25日に、12ヵ国78施設で実施された。 研究グループは、症状を有し組織学的に活動性の好酸球性食道炎と診断された12~65歳の患者を、ベンラリズマブ(30mg)群またはプラセボ群に1対1の割合で無作為に割り付け、盲検下で4週ごとに24週皮下投与した後、以降は全例に非盲検下でベンラリズマブ(30mg)を4週ごとに52週時まで皮下投与した。 主要有効性エンドポイントは2つで、24週時の組織学的寛解(高倍率1視野当たりの好酸球数が6個以下)、および嚥下障害症状質問票(DSQ)スコア(範囲:0~84、スコアが高いほど嚥下障害が高頻度または重度であることを示す)のベースラインからの平均変化量とした。ベンラリズマブは組織学的寛解率を有意に改善、嚥下障害症状の改善に差はなし 計211例が、ベンラリズマブ群(104例)およびプラセボ群(107例)に割り付けられた。 24週時に組織学的寛解が認められた患者の割合は、ベンラリズマブ群87.4%、プラセボ群6.5%であり、ベンラリズマブ群で有意に高かった(群間差:80.8%、95%信頼区間[CI]:72.9~88.8、p<0.001)。 一方、DSQスコアのベースラインからの変化量は、ベンラリズマブ群-12.1、プラセボ群-15.1で、両群間に有意差は認められなかった(最小二乗平均の差:3.0、95%CI:-1.4~7.4、p=0.18)。 また、重要な副次エンドポイントである24週時における好酸球性食道炎内視鏡基準スコア(EREFS、範囲:0~9、スコアが高いほど内視鏡所見の異常が多い)のベースラインからの変化量は、ベンラリズマブ群-0.5、プラセボ群-0.4であり両群間に差はなかった。 有害事象の発現割合は、ベンラリズマブ群64.1%、プラセボ群61.7%で、有害事象のために試験を中止した患者はいなかった。

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OTC医薬品の点鼻薬が呼吸器感染症の罹病期間や重症度の軽減に有効か

 OTC医薬品の点鼻薬が、公衆衛生の大きな脅威である薬剤耐性に対する強力な武器になるかもしれない。1万4,000人弱の成人を対象にしたランダム化比較試験から、広く用いられている点鼻薬が上気道感染症の罹病期間を短縮し、抗菌薬の必要性を減らすのに役立つ可能性のあることが示された。英サウサンプトン大学心理学および行動医学分野のAdam Geraghty氏らによるこの研究の詳細は、「The Lancet Respiratory Medicine」に7月11日掲載された。 抗菌薬の使い過ぎや誤用によって引き起こされる薬剤耐性は、細菌感染症の治療を困難にしている。研究グループは今回の研究について、点鼻薬を使って鼻や喉からウイルスを洗い流したり、運動やストレスマネジメントによって免疫機能を高めたりすることで、呼吸器感染症の頻度や重症度を減らすことができるという最近のエビデンスに興味を持ち、実施したものだと説明している。 このことを確かめるために、Geraghty氏らは英国の332の診療所から集めた18歳以上の患者1万3,799人を対象にランダム化比較試験を実施した。これらの患者は全員が、呼吸器感染症に罹患すると転帰が不良となり得る併存疾患かリスク因子を1つ以上持っていた。対象者は、通常のケア(疾患の管理に関する簡単なアドバイス)を受ける群、ジェルベースの点鼻薬を使用する群(感染症の兆候が現れた際、または感染者に曝露した可能性がある際に、それぞれの鼻腔内に2回ずつスプレーする、1日最大6回まで)、生理食塩水のスプレーを使用する群(ジェルベースの点鼻薬と同じ条件)、簡単な行動介入(運動とストレスマネジメントを促すウェブサイトへのアクセスを提供)を受ける群に、1対1対1対1の割合でランダムに割り付けられた。 データのそろった1万1,612人を対象に解析した結果、呼吸器感染症の平均罹病期間は、通常ケア群では8.2日であったのに対し、点鼻薬群では6.5日(発生率比0.82、95%信頼区間0.76〜0.90、P<0.0001)、生理食塩水群では6.4日(同0.81、0.74〜0.88、P<0.0001)であり、点鼻薬群と生理食塩水群で有意に短縮することが明らかになった。一方、行動介入群での平均罹病期間は7.4日(同0.97、0.89〜1.06、P=0.46)であり、通常ケア群の罹病期間との間に有意な差は認められなかった。また、仕事と通常の活動の損失日数についても、点鼻薬群と生理食塩水群では通常ケア群よりも20〜30%程度少なかった。 こうした結果を受けて、論文の筆頭著者であるサウサンプトン大学プライマリケア研究分野教授のPaul Little氏は、「この研究により、点鼻薬は呼吸器感染症の罹病期間と重症度、および日常的な活動への影響の軽減に効果的であることが明らかになった」と述べている。 またGeraghty氏は、「点鼻薬は、もし広く使われるようになるなら、抗菌薬の使用とそれに伴う薬剤耐性菌の出現を減らし、呼吸器系ウイルスが患者に及ぼす影響を軽減するという、重要な役割を果たす可能性がある」との見方を示している。

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たまには地雷を踏もう【Dr. 中島の 新・徒然草】(541)

五百四十一の段 たまには地雷を踏もうついに8月に突入して暑さ全開!今日、車に乗ろうとしたら外気温が41度と表示されました。これ、お盆の頃には一段落つくのでしょうか?さて、今回は外部講師による先日の研修医向け症例検討会の様子を述べたいと思います。当初は研修医が準備した症例についてディスカッションする予定だったのだとか。しかし、病歴聴取も身体所見も不十分だ、ということで結局は講師が準備した症例を使ってのカンファレンスになりました。私にとっても良い勉強になるので、この検討会にはもう10年以上も参加し続けています。さて、肝心の検討会。準備された症例は、中年女性の発熱です。講師は可能性のある病態を順に研修医に挙げさせます。発熱ですから、当然のことながら、鑑別診断は感染症に集中します。講師「感染症としてありそうな疾患は、ほかに何を挙げることができるかな?」研修医「悪性リンパ腫でしょうか?」中島「うっ、マズイ」その瞬間、講師の表情が険しくなります。講師「今は感染症ということで鑑別疾患を挙げているのだから、ほかのカテゴリーに入ってはダメだよ」講師はイラッとしたに違いありませんが、この時は事なきを得ました。でも、この研修医、一体何を聴いていたんでしょうか。レビュー・オブ・システムズを含む病歴聴取が済んだ後、講師が研修医たちに尋ねます。講師「じゃあ一通り病歴を確認した後に、次は何が必要かな」研修医「CTでしょうか?」中島「ま、まずい!」そう思う間もなく、講師がアナフィラキシーを起こしてしまいました。講師「違ーう! CTなんか撮るな。血液検査も論外!」研修医「え……と?」何という鈍い研修医。自分が地雷を踏んだ自覚もないのか。講師「身体所見じゃないか。身体所見だろ、次に必要なのは!」研修医「そうでしたっけ」病歴聴取、身体所見の後に検査というのがお作法です。総合診療科のカンファレンスで毎週のように研修医を厳しく指導してきたあの日々は、一体なんだったのか?こっちまでアナフィラキシーを起こしそうになりました。ただ、講師のほうは一気に活性化されたようです。その後の身体所見の取り方、鑑別診断の挙げ方など、レクチャーそのものは冴えわたりました。何よりも、診断学の奥の深さを思い知らされ、私までヤル気が湧いてきます。西洋社会ではdevil's advocate(悪魔の代弁者)といって、わざと違う意見を吹っかけて議論を活性化させるという手法があるそうですが、あの研修医は期せずして悪魔の役割を果たしたのかも。レクチャーの後で講師と話したときに「ああいう奴も必要ですよね」ということで意見が一致しました。正しい答えを言おうとするあまりに出席者が沈黙してしまうカンファレンスよりも、見当外れであっても講師を活性化させる研修医がいたほうがいいような気がします。もし今後のカンファレンスがあまり活発でなかったら、私自身がdevil's advocateになることが必要かもしれません。でも「こいつアホか?」と思われたりしたら辛いですね。ま、今さら世間体を気にする年齢でもないか。最後に1句地雷踏む 若者現る 夏盛り

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自閉スペクトラム症のADHD症状に対する薬理学的介入〜メタ解析

 自閉スペクトラム症(ASD)患者における注意欠如多動症(ADHD)症状の治療に対する薬理学的介入の有効性に関するエビデンスを明らかにするため、ブラジル・Public Health School Visconde de SaboiaのPaulo Levi Bezerra Martins氏らは、安全性および有効性を考慮した研究のシステマティックレビューを行った。Progress in Neuro-psychopharmacology & Biological Psychiatry誌2024年7月14日号の報告。 ASDおよびADHDまたはADHD症状を伴うASDの治療に対する薬理学的介入の有効性および/または安全性プロファイルを評価したランダム化比較試験を、PubMed、Cochrane Library、Embaseのデータベースより検索した。主要アウトカムは、臨床尺度で測定したADHD症状とした。追加のアウトカムは、異常行動チェックリスト(ABC)で測定された他の症状、治療の満足度、ピア満足度とした。 主な結果は以下のとおり。・システマティックレビューの包括基準を満たした22件のうち、8件をメタ解析に含めた。・メチルフェニデートと比較した、クロニジン、モダフィニル、bupropionによる治療に関する研究が、いくつか見つかった。・メタ解析では、メチルフェニデートは、多動、易怒性、不注意などの症状に対し、プラセボと比較し、有効であることが示唆された。しかし、定型的症状に対する影響は認められず、メチルフェニデート誘発性の副作用による脱落率が大きな影響を及ぼしていることが、データ定量分析より明らかとなった。・アトモキセチンは、プラセボと比較し、多動および不注意症状に対し有効であることが示唆されたが、定型的症状または易怒性には影響を及ぼさなかった。・さらに、研究からの脱落原因となった副作用に、アトモキセチンは影響を及ぼさないことが明らかとなった。 著者らは「メチルフェニデートは、多動、不注意、易怒性に有効であるが、安全性に懸念がある。一方、アトモキセチンは、多動および不注意に緩やかな有効性を示し、副作用プロファイルは比較的良好であった。グアンファシン、クロニジン、bupropion、モダフィニルなどの薬剤に関する情報は、限定的であった」としている。

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デュピルマブ、11歳以下の好酸球性食道炎に有効/NEJM

 小児(1~11歳)の好酸球性食道炎患者において、デュピルマブはプラセボと比較して有意に高率な組織学的寛解をもたらし、デュピルマブの高曝露レジメンがプラセボと比較して、重要な副次エンドポイントの測定値の改善に結びついたことが示された。米国・マウントサイナイ・アイカーン医科大学Mirna Chehade氏らが第III相無作為化試験の結果を報告した。デュピルマブはIL-4/IL-13経路を阻害するヒトモノクローナル抗体であり、成人および思春期の好酸球性食道炎を含む、2型炎症で特徴付けられる5つの異なるアトピー性疾患で有効性が示されていた。NEJM誌2024年6月27日号掲載の報告。16週時点の組織学的寛解を主要エンドポイントに第III相試験 第III相試験はパートA~パートCの3段階で行われ、本論ではパートAとパートBの結果が報告された。試験は米国26施設とカナダ1施設で行われた。 パートAは16週の無作為化二重盲検プラセボ対照フェーズで、1~11歳のプロトンポンプ阻害薬(PPI)に不応の活動期好酸球性食道炎患者を、デュピルマブの高曝露レジメンまたは低曝露レジメン、および各レジメンの適合プラセボ群(2群)に、2対2対1対1の割合で割り付け投与した。パートBは36週の実薬投与フェーズで、パートAを完了した適格患者をパートBに組み入れ、パートAで割り付けられたレジメンに従いデュピルマブの投与を継続、パートAでプラセボに割り付けられた患者には、無作為化時の適合レジメンに従いデュピルマブを投与した。デュピルマブの各曝露レベルでは、4段階に設定した用量のいずれかをベースラインの体重に応じて投与した。盲検化を確実とするため、全患者にデュピルマブまたはプラセボを2週ごとに投与した。 主要エンドポイントは、16週時点の組織学的寛解(食道上皮内好酸球数の最大値が高倍率視野当たり6個以下)とした。重要な副次エンドポイントは(1)食道上皮内好酸球数の最大値が高倍率視野当たり15個未満、(2)食道上皮内好酸球数最大値のベースラインからの変化率、(3)eosinophilic esophagitis histology scoring system(EoE-HSS)のグレードスコアのベースラインからの絶対変化、(4)同ステージスコアの絶対変化、(5)2型炎症遺伝子シグネチャーのnormalized enrichment score(NES)のベースラインからの相対的変化、(6)eosinophilic esophagitis diagnostic panel(EDP)遺伝子シグネチャーのNESのベースラインからの相対的変化、(7)Eosinophilic Esophagitis Reference Score(EREFS)総スコアのベースラインからの絶対変化、(8)Pediatric Eosinophilic Esophagitis Sign/Symptom Questionnaire-Caregiver(PESQ-C)で1つ以上の好酸球性食道炎の症状を認める日数割合のベースラインからの変化の8つで、階層的に検定した。組織学的寛解率は高曝露レジメン群68%、低曝露レジメン群58%、プラセボ群3% パートAで無作為化された患者は102例であった(デュピルマブ高曝露レジメン群37例、同低曝露レジメン群31例、プラセボ群34例)。このうち、パートBでは37例(100%)が高曝露レジメンを、29例(94%)が低曝露レジメンを継続。プラセボ群はパートBでは、18例(53%)が高曝露レジメンを、14例(41%)が低曝露レジメンの投与を受けた。 パートAで、組織学的寛解は高曝露レジメン群25/37例(68%)、低曝露レジメン群18/31例(58%)、プラセボ群1/34例(3%)で認められた。高曝露レジメン群とプラセボ群の群間差は65%ポイント(95%信頼区間[CI]:48~81、p<0.001)、低曝露レジメン群とプラセボ群の群間差は55%ポイント(37~73、p<0.001)であった。 高曝露レジメン群はプラセボ群と比較して、組織学的測定値(食道上皮内好酸球数の最大値、EoE-HSSグレードおよびステージスコア)、内視鏡的測定値(EREFS総スコア)およびトランスクリプトーム測定値(2型炎症およびEDP遺伝子シグネチャー)が有意に改善した。 また、すべての患者におけるベースラインから52週まで(パートB終了時)の組織学的測定値、内視鏡的測定値、トランスクリプトーム測定値の改善は、パートAでのデュピルマブの投与を受けた患者のベースラインから16週までの改善と、おおむね同程度であった。 パートAでは、デュピルマブ投与(いずれかの用量)を受けた患者がプラセボ投与を受けた患者よりも、新型コロナウイルス感染症、注射部位疼痛、頭痛の発現が、少なくとも10%ポイント以上多かった。重篤な有害事象は、パートAではデュピルマブ投与を受けた患者3例、パートBでは全体で6例に発現した。

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中年期~高齢期の血漿バイオマーカー、認知症発症との関連を解析/JAMA

 米国・ノースカロライナ大学チャペルヒル校のYifei Lu氏らは、中年期から高齢期にかけての血漿バイオマーカーの変化とすべての認知症との関連を、米国で行われた前向きコホート試験「Atherosclerosis Risk in Communities(ARIC)試験」の参加者データを用いて後ろ向き解析にて調べた。アルツハイマー病(AD)の神経病理、神経損傷、アストログリオーシスを示す血漿バイオマーカー値は加齢とともに上昇し、既知の認知症リスク因子と関連していた。また、AD特異的バイオマーカーと認知症の関連は中年期に始まり、高齢期のAD、神経損傷、アストログリオーシスの血漿バイオマーカー測定値は、すべてが認知症と関連していた。血漿バイオマーカーは、AD病理と神経変性に関する費用対効果の高い非侵襲的なスクリーニングになると大きな期待が寄せられているが、発症前に関しては十分に解明されておらず、多様な集団や生涯にわたる追加の調査が必要とされていた。JAMA誌オンライン版2024年7月28日号掲載の報告。Aβ42/Aβ40比、p-tau181、GFAPを評価 研究グループは、ARIC試験の参加者1,525例について、参加者全員および地域で暮らすサブグループにおける、血漿バイオマーカーの経時的変化および、それらとすべての認知症との関連を後ろ向き解析にて評価した。 血漿バイオマーカーは、中年期(1993~95年、平均年齢58.3歳)と高齢期(2011~13年、平均年齢76.0歳、フォローアップ:2016~19年、平均年齢80.7歳)に採取された保存検体を用いて測定。中年期のリスク因子(高血圧、糖尿病、脂質、冠動脈性心疾患[CHD]、喫煙、身体活動)を評価し、それらと血漿バイオマーカーの経時的変化との関連を評価した。また、バイオマーカーとすべての認知症発症との関連を、2011~13年に認知症を発症しておらず1993~95年および2011~13年にバイオマーカー測定を受けたサブグループ(1,339例)で評価した。 血漿バイオマーカーは、アミロイドβ(Aβ)42/Aβ40比、phosphorylated tau at threonine 181(p-tau181)、ニューロフィラメント軽鎖(NfL)、グリア線維性酸性タンパク質(GFAP)を、Quanterix Simoaプラットフォームを用いて測定した。 すべての認知症の発症は、2012年1月1日~2019年12月31日の期間に、神経心理学的評価、半年ごとの参加者または情報提供者との接触および医療記録サーベイランスによって確認した。中年期のAD特異的バイオマーカー、高齢期認知症と長期に関連 参加者1,525例(平均年齢58.3歳[SD 5.1])のうち、914例(59.9%)が女性、394例(25.8%)が黒人であった。総計252例(16.5%)が認知症を発症した。 中年期から高齢期にかけて、Aβ42/Aβ40比の減少、p-tau181、NfLおよびGFAPの上昇が観察された。これらバイオマーカーの変化は、アポリポタンパク質Eε4(APOEε4)アレルを持つ参加者でより急速だった。 また、中年期から高齢期のバイオマーカーの変化率は、中年期に高血圧を有する参加者のほうが有さない参加者と比べてより大きかった(NfLの変化率の群間差:0.15 SD/10年など)。中年期に糖尿病を有する参加者は有さない参加者と比べて、NfL(変化率の群間差:0.11 SD/10年)、GFAP(同0.15 SD/10年)の変化が急速だった。 中年期ではAD特異的バイオマーカーのみが、高齢期認知症と長期にわたって関連していた(Aβ42/Aβ40比の1 SD低下当たりのハザード比[HR]:1.11[95%信頼区間[CI]:1.02~1.21]、p-tau181の1 SD上昇当たりのHR:1.15[95%CI:1.06~1.25])。 高齢期のすべての血漿バイオマーカーは、高齢期認知症と統計学的有意に関連しており、NfLとの関連が最も大きかった(HR:1.92、95%CI:1.72~2.14)。

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オリンピック陸上選手のパフォーマンスのピークは何歳か

 オリンピックはしばしば、国際的なスポーツの栄光を手にする一生に一度の貴重な機会だと言われるが、このことは、とりわけ陸上競技選手に当てはまるようだ。走る・跳ぶ・投げる能力を競う陸上選手のパフォーマンスのピーク年齢は27歳であることが、新たな研究により明らかになった。27歳を超えると、それ以降にピークを迎える可能性は44%になり、この数字は1年ごとに低下していくことも示されたという。ウォータールー大学(カナダ)データサイエンス分野のDavid Awosoga氏と同大学経済学分野のMatthew Chow氏によるこの研究の詳細は、「Significance」7月号に掲載された。 Awosoga氏は、「オリンピックは4年に1度しか開催されないため、陸上選手は、自分のパフォーマンスがピークを迎える時期に合わせて、オリンピック出場権を獲得する確率を最大化するためのトレーニング方法を慎重に検討するべきだ」と述べている。 Awosoga氏らは、World Athleticsより、1996年のアトランタオリンピックから2020年の東京オリンピックまでの7大会分の陸上競技データを入手し、各選手のキャリアアップに関するデータと組み合わせて分析した。キャリアアップとは、アスリートの競技人生における年ごとのトップパフォーマンスと定義した。分析の際には、性別、国籍、イベントの種類、オリンピックイヤーであるか否か、およびトレーニング年齢(アスリートがWorld Athletics公認の大会に参加し、記録を残した年数)を考慮した。 なお、今回の研究で陸上選手に焦点を当てた理由についてAwosoga氏は、「サッカーやテニスのような他のオリンピック競技は、オリンピック期間以外のときにも注目される大会があるが、陸上選手にとってはオリンピックが最大の舞台だからだ」と説明している。 解析の結果、過去30年間を通してオリンピックの陸上選手の平均年齢は、男女ともに一貫して26.9歳であることが明らかになった(年齢中央値は、女性27歳、男性26歳)。興味深いことに、陸上選手のパフォーマンスがピークを迎える年齢の中央値も27歳であった。また、27歳を超えると、それ以降にピークを迎える可能性は44%に過ぎず、その可能性は年を追うごとに低下していくことが示された。 その一方で、この研究では、アスリートのパフォーマンスのピークに影響を与える因子は年齢だけではないことも示されたとChow氏は説明する。同氏によると、アスリートは年齢に関係なく、次のオリンピックの出場権を争っている年により良いパフォーマンスを発揮する傾向があることが示されたという。 例えば、オリンピックに5回出場した、西インド諸島のセントクリストファー・ネイビスの選手であるキム・コリンズ(Kim Collins)は、40歳のときに、2016年リオデジャネイロオリンピックの出場権をかけた100m走で自己ベストの9秒93を記録した。Chow氏は、「本当に興味深かったことは、オリンピックイヤーであることが、アスリートのパフォーマンスの予測にも役立つことが分かったことだ」と話す。 Awosoga氏らは、彼らの分析が、アスリートが試合でベストパフォーマンスを発揮するのに役立つことを期待している。同氏は、「オリンピックイヤーや、自分の遺伝子、国籍を変えることはできないが、これらの生物学的・外的要因にうまく沿うようにトレーニング方法を修正することはできるだろう」と述べている。 一方Chow氏は、「この結果は、オリンピックを目指すことがいかに大変なことであるかを示すものでもある」と話す。同氏は、「陸上選手の競技を見ているとき、われわれは、身体能力のピークに達しているだけでなく、非常に幸運なタイミングの恩恵を受けているという、統計学的な異常さを目の当たりにしているのだ」と述べている。

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忽那氏が振り返る新型コロナ、今後の対策は?/感染症学会・化学療法学会

 2024年8月2日の政府の発表によると、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の定点当たりの報告数は14.6人で、昨夏ピーク時(第9波)の20.5人に迫る勢いで12週連続増加し、とくに10歳未満の感染者数が最も多く、1医療機関当たり2.16人だった。週当たりの新規入院患者数は4,579人で、すでに第9波および第10波のピークを超えている1)。 大阪大学医学部感染制御学の忽那 賢志氏は、これまでのコロナ禍を振り返り、パンデミック時に対応できる医師が不足しているという課題や、患者数増加に伴う医師や看護師のバーンアウトのリスク増加など、今後のパンデミックへの対策について、6月27~29日に開催の第98回日本感染症学会学術講演会 第72回日本化学療法学会総会 合同学会にて発表した。日本ではオミクロン株以前の感染を抑制 忽那氏は、コロナ禍以前の新興感染症の対策について振り返った。コロナ禍以前から政府が想定していた新型インフルエンザ対策は、「不要不急の外出の自粛要請、施設の使用制限等の要請、各事業者における業務縮小等による接触機会の抑制等の感染対策、ワクチンや抗インフルエンザウイルス薬等を含めた医療対応を組み合わせて総合的に行う」というもので、コロナ禍でも基本的に同じ考え方の対策が講じられた。 欧米では、オミクロン株が出現した2021~22年に流行のピークを迎え、その後減少している。オミクロン株拡大前もしくはワクチン接種開始前に多くの死者が出た。一方、日本での流行の特徴として、第1波から第8波まで波を経るごとに感染者数と死亡者数が拡大し、とくにオミクロン株が拡大してからの感染者が増加していることが挙げられる。忽那氏は「オミクロン株拡大までは感染者数を少なく抑えることができ、それまでに初回ワクチン接種を進めることができた。結果として、オミクロン株拡大後は、感染者数は増えたものの、他国と比較して死亡者数を少なくすることができた」と分析した。新型コロナの社会的影響 しかし、他国よりも感染対策の緩和が遅れたことで、新型コロナによる社会的な影響も及んでいる可能性があることについて、忽那氏はいくつかの研究を挙げながら解説した。東京大学の千葉 安佐子氏らの日本における婚姻数の推移に関する研究では、2010~22年において、もともと右肩下がりだった婚姻数が、感染対策で他人との接触が制限されたことにより、2020年の婚姻数が急激に減少したことが示されている2)。また、超過自殺の調査では、新型コロナの影響で社会的に孤立する人の増加や経済的理由のために、想定されていた自殺者数よりも増加していることが示された3)。忽那氏は、「日本は医療の面では新型コロナによる直接的な被害者を抑制することができたが、このようなほかの面では課題が残っているのではないか。医療従事者としては、感染者と死亡者を減らすことが第一に重要だが、より広い視点から今回のパンデミックを振り返り、次に備えて検証していくべきだろう」と述べた。パンデミック時、感染症を診療する医師をどう確保するか コロナ禍では、医療逼迫や医療崩壊という言葉がたびたび繰り返された。政府が2023年に発表した第8次医療計画において、次に新興感染症が起こった時の各都道府県の対応について、医療機関との間に病床確保の協定を結ぶことなどが記載されている。ただし、医療従事者数の確保については欠落していると忽那氏は指摘した。OECDの加盟国における人口1,000人当たりの医師数の割合のデータによると、日本は38ヵ国中33位(2.5人)であり医師の数が少ない4)。また、1994~2020年の医療施設従事医師数の推移データでは、医師全体の数は1.47倍に増えているものの、各診療科別では、内科医は0.99倍でほぼ横ばいであり、新興感染症を実際に診療する内科、呼吸器科、集中治療、救急科といった診療科の医師は増えていない5)。 感染症専門医は2023年12月時点で1,764人であり、次の新興感染症を感染症専門医だけでカバーすることは難しい。また、岡山大学の調査によると、コロナパンデミックを経て、6.1%の医学生が「過去に感染症専門医に興味を持ったことがあるが、調査時点では興味がない」と回答し、3.7%の医学生が「コロナ禍を経て感染症専門医になりたいと思うようになった」、11.0%の医学生が「むしろ感染症専門医にはなりたくない」と回答したという結果となった6)。医療従事者のバーンアウト対策 日本の医師と看護師の燃え尽きに関する調査では、患者数が増えると医師と看護師の燃え尽きも増加することが示されている7)。米国のMedscapeによる2023年の調査では、診療科別で多い順に、救急科、内科、小児科、産婦人科、感染症内科となっており、コロナを診療する科においてとくに燃え尽きる医師の割合が高かった8)。そのため、パンデミック時の医師の燃え尽き症候群に対して、医療機関で対策を行うことも重要だ。忽那氏は、所属の医療機関において、コロナの前線にいる医師に対して精神科医がメンタルケアを定期的に実施していたことが効果的であったことを、自身の経験として挙げた。また、業務負荷がかかり過ぎるとバーンアウトを起こしやすくなるため、診療科の枠を越えて、シフトの調整や業務分散をして個人の負担を減らすなど、スタッフを守る取り組みが大事だという。 忽那氏は最後に、「感染症専門医だけで次のパンデミックをカバーすることはできないので、医師全体の感染症に対する知識の底上げのための啓発や、感染対策のプラクティスを臨床現場で蓄積していくことが必要だ。今後の新型コロナのシナリオとして、基本的には過去の感染者やワクチン接種者が増えているため、感染者や重症者は減っていくだろう。波は徐々に小さくなっていくことが予想される。一方、より重症度が高く、感染力の強い変異株が出現し、感染者が急激に増える場合も考えられる。課題を整理しつつ、次のパンデミックに備えていくことが重要だ」とまとめた。■参考1)内閣感染症危機管理統括庁:新型コロナウイルス感染症 感染動向などについて(2024年8月2日)2)千葉 安佐子ほか. コロナ禍における婚姻と出生. 東京大学BALANCING INFECTION PREVENTION AND ECONOMIC. 2022年12月2日.3)Batista Qほか. コロナ禍における超過自殺. 東京大学BALANCING INFECTION PREVENTION AND ECONOMIC. 2022年9月7日4)清水 麻生. 医療関連データの国際比較-OECD Health Statistics 2021およびOECDレポートより-. 日本医師会総合政策研究機構. 2022年3月24日5)不破雷蔵. 増える糖尿病内科や精神科、減る外科や小児科…日本の医師数の変化をさぐる(2022年公開版)6)Hagiya H, et al. PLoS One. 2022;17:e0267587.7)Morioka S, et al. Front Psychiatry. 2022;13:781796.8)Medscape: 'I Cry but No One Cares': Physician Burnout & Depression Report 2023

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最新のアトピー性皮膚炎治療薬レブリキズマブ、有効性はデュピルマブと同等か

 カナダ・トロント大学のAaron M. Drucker氏らは、アトピー性皮膚炎を効能・効果として新たに承認されたレブリキズマブについて、リビングシステマティックレビューおよびメタ解析により、その他の免疫療法と有効性・安全性を比較した。その結果、成人のアトピー性皮膚炎の短期治療の有効性は、デュピルマブと同等であった。レブリキズマブは臨床試験でプラセボと比較されていたが、実薬対照比較はされていなかった。JAMA Dermatology誌オンライン版2024年7月17日号掲載の報告。 研究グループは、Cochrane Central Register of Controlled Trials、MEDLINE、Embase、Latin American and Caribbean Health Science Informationデータベース、Global Resource of Eczema Trialsデータベースおよび試験レジストリを用いて、2023年11月3日までに登録された情報を検索した。中等症~重症のアトピー性皮膚炎に対する全身免疫療法を8週間以上評価した無作為化比較試験を適格とし、タイトル、アブストラクト、全文をスクリーニングした。データを抽出し、ランダム効果モデルを用いたベイジアンネットワークメタ解析を実施。薬剤間の差は、臨床的意義のある最小変化量を用いて評価した。エビデンスの確実性は、GRADE(Grading of Recommendations Assessment, Development and Evaluation)システムを用いて評価した。最新の解析は2023年12月13日~2024年2月20日に実施した。 有効性アウトカムは、Eczema Area and Severity Index(EASI)、Patient Oriented Eczema Measure(POEM)、Dermatology Life Quality Index(DLQI)、Peak Pruritus Numeric Rating Scales(PP-NRS)とし、平均群間差(MD)と95%信用区間(CrI)を求めて比較した。安全性アウトカムは、重篤な有害事象、有害事象による試験薬の中止とした。その他のアウトカムは、EASI-50、EASI-75、EASI-90達成率、Investigator Global Assessment(IGA)スコアに基づく奏効率(IGAスコアが2点以上低下し、1点以下を達成)などとし、これらの二値変数のアウトカムはオッズ比と95%CrIを求めて比較した。 主な結果は以下のとおり。・解析には、98の適格試験の対象患者2万4,707例が組み込まれた。・最長16週間の治療を受けた成人アトピー性皮膚炎患者において、レブリキズマブはデュピルマブと比較して、EASI(MD:-2.0、95%CrI:-4.5~0.3、エビデンスの確実性:中)、POEM(-1.1、-2.5~0.2、中)、DLQI(-0.2、-2.1~1.6、中)、PP-NRS(0.1、-0.4~0.6、高)のいずれも臨床的に意義のある差はみられなかった。・有効性に関する二値変数のアウトカムのオッズは、デュピルマブがレブリキズマブと比較して高い傾向にあった。・その他の承認済みの全身療法の相対的有効性は、今回のリビングシステマティックレビュー以前のアップデートで示されたものと同様であり、高用量ウパダシチニブおよびアブロシチニブが、数値的に最も高い相対的有効性を示した。・安全性アウトカムは、イベント発現率が低く、有用な比較が制限された。

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英語で「腰椎穿刺」は?【1分★医療英語】第142回

第142回 英語で「腰椎穿刺」は?《例文》医師AHow did the spinal tap go?(腰椎穿刺はうまくいきましたか?)医師BI was able to do it on the first attempt.(1回目のトライで成功しました)《解説》今回は「腰椎穿刺」という医療単語を解説します。「腰椎穿刺」を医療用語では“lumbar puncture”といいます。日本でも腰椎穿刺を「ルンバール」とカタカナで表現することがあるかと思いますが、これはドイツ語由来の言葉です。ほかにも日本で当たり前に使われている医療のカタカナ用語は、ドイツ語由来のものが多くあります。たとえば「マーゲンチューブ(胃管)」という用語も、元になっているのはドイツ語です。英語では“G-tube”(Gチューブ)と呼ばれ、こちらは“Gastric”(胃の)の“G”から来ています。英語話者の患者さんの場合、単に“lumbar”(ルンバール)と言ってもまったく伝わりませんので注意が必要です。“lumbar puncture”まで言えばだいたいは伝わりますが、今度はやや仰々しい印象になってしまいます。そこで、医療者間での会話や患者さんに説明するときなどによく使われるのが、“spinal tap”という表現です。“tap”は名詞でいろいろな意味がありますが、そのうちの1つに“the procedure of removing fluid”(液体を取り除く手技)いう意味があります。これに脊椎を意味する“spinal”を付けることで「腰椎穿刺」という意味になるわけです。“spinal tap”はカジュアルな表現で、口語で使われることが大半です。カルテなどに記載する際には“lumbar puncture”のほうが適切ですので、その使い分けも含めて覚えておきましょう。講師紹介

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AhR活性化を介してアトピー性皮膚炎/尋常性乾癬の症状を改善する外用薬「ブイタマークリーム1%」【最新!DI情報】第20回

AhR活性化を介してアトピー性皮膚炎/尋常性乾癬の症状を改善する外用薬「ブイタマークリーム1%」今回は、アトピー性皮膚炎/尋常性乾癬治療薬「タピナロフクリーム(商品名:ブイタマークリーム1%、製造販売元:日本たばこ産業)を紹介します。本剤は、リガンド依存的な転写因子AhRの活性化を介して炎症性サイトカインを低下させ、抗酸化分子の発現を誘導して皮膚の炎症を抑制するとともに、皮膚バリア機能を改善させる新しい作用機序の薬剤です。<効能・効果>アトピー性皮膚炎および尋常性乾癬の適応で、2024年6月24日に製造販売承認を取得しました。<用法・用量>●アトピー性皮膚炎通常、成人および12歳以上の小児には、1日1回、適量を患部に塗布します。治療開始8週間以内に症状の改善が認められない場合は、使用を中止します。●尋常性乾癬通常、成人には、1日1回、適量を患部に塗布します。治療開始12週間以内に症状の改善が認められない場合は、使用を中止します。<安全性>主な副作用に、適用部位毛包炎(17.0%)、頭痛、接触皮膚炎、適用部位ざ瘡(5%以上)があります。その他、毛包炎、ざ瘡、乾癬、アトピー性皮膚炎、適用部位刺激感、適用部位そう痒感、適用部位変色、適用部位多毛症、適用部位湿疹(1~5%未満)があります。<患者さんへの指導例>1.アトピー性皮膚炎や尋常性乾癬の症状緩和・進行抑制に効果がある非ステロイド性のクリーム薬です2.皮膚感染症を増悪させることがあるので、皮膚感染症があるときは必ず医師または薬剤師に申し出てください。3.この薬で症状の改善が認められないときは、使用を中止することがあります。4.アトピー性皮膚炎では、12歳未満の小児には使用できません。尋常性乾癬では、小児には使用できません。 <ここがポイント!>アトピー性皮膚炎は、増悪と軽快を繰り返す、強い痒みを伴う炎症性皮膚疾患です。治療の目標は、症状がないか、あっても軽微で日常生活に支障がない状態への導入およびその維持です。薬物療法にはステロイド外用薬を中心に、タクロリムス外用薬やデルゴシチニブ外用薬などが使用されます。ステロイドでは特有の副作用、その他の外用薬では対象患者や塗布に関する制限などがあり、使用には注意が必要です。慢性の皮膚疾患である尋常性乾癬は、遺伝的、環境的および免疫学的要因などの複数の要因で発症します。治療にはステロイド外用薬が用いられますが、局所の副作用発現などに注意が必要です。本剤は、非ステロイド性の低分子の芳香族炭化水素受容体調節薬(therapeutic AhR modulating agent:TAMA)で、既存薬と異なる作用機序を有するアトピー性皮膚炎および尋常性乾癬の治療薬です。リガンド依存性転写因子であるAhRの活性化を介して炎症性サイトカインの産生を抑制し、またNrf2経路を活性化させて抗酸化分子の遺伝子発現を誘導してアトピー性皮膚炎および尋常性乾癬における皮膚の炎症を抑えます。さらに、皮膚バリア機能関連タンパク質の発現を誘導して皮膚バリア機能を改善します。使用対象年齢は、アトピー性皮膚炎では成人および12歳以上の小児、尋常性乾癬では成人です。現在、小児のアトピー性皮膚炎に対する臨床試験を実施しており、今後の適応拡大が期待されます。アトピー性皮膚炎患者を対象とした国内第III相比較試験および継続投与試験(ZBB4-1試験)において、投与8週時のIGA反応率(IGAスコアが0[消失]または1[ほぼ消失]で、かつベースラインから2段階以上改善した患者の割合)は、本剤1%群が20.24%、基剤クリーム群が2.24%で、2群間の差は18.0%(95%信頼区間[CI]:10.0~25.9)であり、本剤1%の優越性が示されました。また、尋常性乾癬患者を対象とした国内第III相比較試験および継続投与試験(ZBA4-1試験)において、投与12週時のPGA反応率(PGAスコアが0[消失]または1[ほぼ消失]で、かつベースラインから2段階以上改善した被験者の割合)は、本剤1%群が20.06%、基剤クリーム群が2.50%で、2群間の差(本剤1%群-基剤クリーム群)は18.1%(95%CI:8.3~27.9)であり、本剤1%の優越性が示されました。

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