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Follow-up tests to detect recurrent disease: Patient’s reassurance or medical need? (Ian Smith, UK)

経過観察中に再発を発見するための検査:患者の安心のため?それとも医学的必要性?現在“多くの新しい治療が再発乳がんに対して利用可能となり、早く見つけることが治療において重要である“という定説がある。経過観察の理由として考えられるものは、早期発見により予後を改善する、QOLを改善する、治療の長期的な効果をみる、長期経過観察データを集める、BRCAのようなハイリスクにおける新規病変を検出する、である。集中的な経過観察は利益があるかということに関して3つの無作為化比較試験があり、3,055名の女性が登録されたが、生存率、無再発生存率に差はなく、年齢や腫瘍径、リンパ節転移状況によっても5年の死亡率に差がなく、QOLにも違いがなかった。Pelliら(1999年)は1,243名の患者からなる比較試験で、10年生存率にまったく差がないことを示した。Kokkoら(2005年)はフィンランドにおいて472名の患者を4群(i.3ヵ月毎受診+定期検査、ii.3ヵ月毎受診、iii.6ヵ月毎受診+定期検査、iv.6ヵ月毎受診)、に分けて経過観察したところ(定期検査の内容は、来院毎に血算/生化学/CA15-3、6ヵ毎月に胸部レントゲン、肝USと骨シンチを2年毎)、無再発生存率、全生存率ともに差はなく、コストは3ヵ月と6ヵ月で1,050から2,269ユーロへ、定期検査なしとありとで、1つの再発を見つけるのに4,166から9,149ユーロへ上昇した。それでは患者の安心のために定期検査を行うのか。QOLには差はなく、定期検査で10~15%の偽陽性があり、患者は検査による不安を増していて、むしろ余計な資金を用いることなく必要に応じて受けることを希望している。それにもかかわらず、なぜ患者は定期的な経過観察と検査を行いたがるのか。それは、医師、慈善活動、あるいはメディアがそうするのがよいと言っているからである。しかし、適切に説明したらそうはならないだろう。Pennantら(2010年)は、早期乳がんにおいてPET-CTのステージングについて28の研究をレビューしているが、診断精度は改善したものの、患者の予後が改善したというエビデンスはなかった。Augusteら(2010年)は2つの経済研究から1QALYあたり50,000ユーロ上昇するとした。現在ASCO、ESMO、St Gallenのいずれのガイドラインも、注意深い病歴の聴取、身体検査、定期的なマンモグラフィが、乳がん再発の適切な発見のために推奨されるとしている。身体検査は最初の3年は3~6ヵ月、4~5年は6~12ヵ月毎であり、マンモグラフィは1年毎である。血算、生化学、骨シンチ、胸部レントゲン、肝臓超音波、CT、18FDG-PET、MRI、腫瘍マーカー(CEA、CA15-3、CA27.29)は、無症状の患者に対して定期的に行うことは推奨されていない。それでは誰が経過観察をすることが大切であろうか。Grunfeldら(2006年)は、968名の患者を腫瘍専門医と家庭内科医による経過観察に無作為に割り付け、中央値で3.5年追跡したところ、再発、死亡、QOLともに有意な差はみられなかった。Koinbergら(2004年)は、264名の患者を腫瘍専門医と看護師による経過観察に割り付け5年追跡したが、やはり再発、死亡、QOLともに差がなかった。Meyerら(2012年)は、Dana Farberにおいて547名中218名の早期乳がん患者で、少なくとも診断から2年以上経過している方に質問票に答えてもらったところ、腫瘍内科医による経過観察を好む傾向にはあったものの、家庭内科医やナースプラクティショナーともに問題はなかった。ほとんどの方は電話相談を好んでおらず、ナースプラクティショナーによる経過観察はQOLとサバイバーケアを改善させる1つの方法であることを示した。Royal Marsden病院の経験では、ほとんどの再発は患者自身が自覚し、通常定期的な予約の間であった。より多くの女性は以前よりも乳がんから生存するようになり、経過観察のクリニックも大きくなっており、患者はこれらのクリニックで若い医師が診るようになっている。定期的な経過観察は、しばしば心配を引き起こし、予約がそれほど先でなければ患者からの症状の報告は遅れるかもしれない。最初の2年に2,232名の患者から問い合わせがあり、月平均で55回の電話があり、乳房の症状が40%、更年期症状が20%、再建のことが15%、精神社会的サポートが15%であった。そのうち10~15%がクリニックへの来訪を必要とし、多くが乳房の腫瘤であった。現在、より感度の高い検査法として末梢血中の腫瘍細胞や血清中の腫瘍由来DNAの検出があり、また標的治療が臨床応用されている。Dielら(2008年)らは、大腸がん18名で術後に血中変異DNAを測定し、検出されたものはされなかったものより、有意に無再発生存率が不良であることを示した。分子標的治療の時代に高い技術による経過観察ははたして利益があるだろうか。それを証明するためには次世代の無作為化試験が必要である。レポート一覧

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Personalizing extent of breast cancer surgery according to molecular subtypes (Monica Morrow, USA)

分子学的サブタイプに基づいた乳がん手術の個別化乳房温存術を選択する基準として考えられるのは、組織型、グレード、リンパ節の状況、ER、HER2、乳房内のがんの拡がり、放射線治療を受けられるか、である。Sorlieら(2001年)は、サブタイプ毎に予後をみており、luminal Aは無再発生存、全生存率ともによいことを示した。Wiechmannら(2009年)による6072例の検討では、HER2陽性とtriple negativeでグレードが高く(60~80%)、HER2陽性で多中心性/多巣性、広範な乳管内進展の頻度が高かった(30%前後)。Millarら(2009年)、Voducら(2010年)、Arvoldら(2011年)の研究から、乳房温存療法後の局所再発はHER2とbasalで高いことが示されている。しかしKyndiら(2008年)、Voducら(2010年)の研究からは、乳房切除術をしてもHER2やbasalでも局所再発率は高く、そのことは必ずしも温存療法を行ったからではないことが示された。一方、Kyndiら(2008年)は、サブタイプ毎に放射線治療の効果を検討した結果、局所再発率はER陽性では効果が非常に高いのに対して、triple negativeでは中程度であり、HER2では優位性が示されなかった。Cancelloら(2011年)は、T1mic、T1a、T1bでみており、局所再発はER陽性では低いものの、HER2やtriple negativeでは高かった。乳房温存療法後の局所領域再発をサブタイプ別にみたLoweryら(2012年)のレビューでも、triple negativeがnon-triple negativeと比べて再発率が高かった。Millarら(2009年)らは、分子学的フェノタイプ毎の検討で、乳房温存療法489例での10年局所再発率は、luminal A 3.6%、luminal B 8.7%、basal 9.6%、HER2 7.7%であった。次に遺伝子学的特性と局所再発の関係をみてみると(未発表データ)、21遺伝子リスクスコアでも70遺伝子特性でも、高リスク群で再発率が明らかに高かった。効果的な全身療法は局所再発に貢献していることが、NSABP B13,B14,B31,N9831でも明確に示されている。Kiessらは(2012年)、HER2陽性の場合にトラスツズマブが局所領域再発に与える影響をみてみると、3年再発率はトラスツズマブなしで7%、ありで1%であった。それでは、高リスクのtriple-negativeサブセットにより大きな手術を行うことが、より良い手術といえるエビデンスはあるのだろうか。Abdulkarimら(2011年)は、triple-negative (T1-2、N0)での5年局所領域無再発率をみており、乳房温存療法で96%、放射線療法なしの乳房切除術で90%であり、多変量解析では乳房切除術がむしろ局所再発の独立した因子であった。またHoら(2012年)の報告では、乳房温存療法と放射線療法なしの乳房切除術で、観察期間73ヵ月での局所再発率も、T1a-bでは3.1%対4.6%、T1-2、N0で4.3%対5.9%と、いずれも乳房切除術で高かった。さらにAdkinsら(2011年)の報告でも、局所領域の無再発生存率はStageI, IIともに乳房温存療法と乳房切除術で差がなかった。次に、より大きな断端を確保することは、triple-negativeにおいてより良いのであろうか。1999年から2009年の535例の検討で、断端が2mm以下であった71例と2mm以上であった464例を比較したとき、60ヵ月での局所再発率はそれぞれ7.3%と5.1%であり、有意差はなかった(p=0.06)。そして、リンパ節再発はERの状況や年齢によって異なるだろうか。Grillら(2003年)は1,500例の温存療法と郭清を行った症例を解析し、リンパ節転移の大きさのみがリンパ節再発の有意な予測因子だった。また、Yates(2012年)らは、リンパ節領域へ照射せず、乳房温存療法または乳房切除術と郭清を行って1~3個のリンパ節転移があった1,065例を検討したところ、グレード、転移リンパ節個数、術後放射線治療のみが有意なリンパ節再発予測因子であった。ACOSOG Z11の結果は、郭清群とセンチネルリンパ節群で、リンパ節再発率はそれぞれ0.5%対0.9%であり、差はなく、無再発生存、全生存においても差がなかった。メモリアルスローンケタリングがんセンター(MSKCC)において、ACOSOG Z11の基準を満たす患者においてセンチネルリンパ節転移陽性であったもののうち、287例について解析を行った。72例が微小転移、215例がマクロ転移であった。そのうち242例(84%)はセンチネルリンパ節生検のみ、45例(16%)は郭清を行った。サブタイプはほぼ同様であり、HR陰性が約10%であった。核グレード3が35%前後を占めていた。MSKCCの非センチネルリンパ節転移予測のためのノモグラムを用いると、センチネルリンパ節生検のみでは、34%と予測されたが、実際の郭清群では72%であった。経過観察期間は13ヵ月と短いが、いずれもリンパ節再発はしていない。以上より、局所再発は分子学的サブタイプによって異なり、より大きな手術は悪い生物学的特徴をカバーしない。有効な全身療法によって改善し、集学的治療は手術による悪影響を減少させる機会を提供する。レポート一覧

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Triple negative disease: Germ-line mutations, molecular heterogeneity and emerging target (William D. Foulkes, Canada)

トリプルネガティブ病:胚細胞変異、分子学的異質性、期待される標的このプレゼンテーションの目的は、トリプルネガティブ乳がん(TNBC)における胚細胞遺伝子変異の頻度、TNBCをさらにいくつかの異なったタイプに分類すること、これらの結果をTNBCの治療に適用することである。BRCA1は1994年に同定され、数千の異なった変異が認められており、膨大な創始者変異が存在する。BRCA1の変異があると、乳がんおよび卵巣がんの生涯リスクが高くなり、他の部位でのがんのリスクも増大する。また、TNBCの頻度が高いことが特徴であり、DNA修復に重要な役割を果たし、BRCA2やPALB2と相互作用する。TNBCにおけるBRCA1変異保有の頻度は、過去の報告から約10~20%である。またBRCA2変異保有者においてもTNBCはまれではない。PALB2の変異はBRCA1/2よりも少ない。PALB2変異保因者におけるTNBCの頻度は40%程度と見込まれる。これらBRCA1/2、PALB2の変異を同定する意義は、TNBCを持った女性への治療および新たながんへの対策、家族に対する予防と早期発見である。それらの変異が認められなくても家族歴がある場合には、TNBCに関連しているようにみえるさまざまなSNPsが全ゲノム関連解析(GWAS:Genome-wide association study)の研究から同定された。臨床上の利益は非常に少ないが、BRCA1/2のような重要なアレルにおけるリスクを修飾している可能性がある。また新しい経路への手がかりとなり、いくつかのSNPsは体細胞変異と連携しているかもしれない。画像を拡大するTNBCはER/PgR/HER2陰性の均一な1つのタイプとして同定されているが、しかし組織学的にはかなり不均質であり、Lehmannら(2011年)は、21のデータセットからの587例のTNBCを、マイクロアレイの発現より、7つのサブグループ、すなわちBL1,BL2,IM,M,MSL,LAR(もう1つのグループは不安定であり、省略された)に分類した。そのうち50%未満がbasal-likeであり、注目すべきことに14%がluminal Aであった。免疫療法への可能性としては、ER陰性では特に腫瘍へのリンパ球浸潤が予後と関連していて、それは年齢によって逆転しているようである。画像を拡大するTNBCにおける次世代シーケンサーの研究として、ブリティッシュコロンビアのグループが、104例の原発性TNBCを調べたところ、クローンの頻度が広く変化しており、BLBCが最もクローンの多様性があり、p53、PI3K、PTENの変異が優位であった。basal のTNBCではnon basalと比べp53変異の頻度が高く(62%対43%)、クローンの集団と転位の数が多かった。Perouら(2013年)は、86例のTNBCを調べ、変異の頻度はTP53が79.1%と高かったが、それ以外はPIK3CAが10.4%、RB1が4%、MLL3とNF1がそれぞれ3%と低かった。basal-likeにおける治療の標的として考えられるものは、遺伝子の増幅(PI3CA,KRAS,BRAF,EGFR,FGFR1,FGFR2,IGFR1,KIT,MET,PDGFRA)であるが、HIFα/ARNT経路の活性化も高頻度に観察されている。TNBCはしばしば予後不良とされているが、多くの女性は治癒しており、TNBCの多くが進行性であるものの、TNBCのあるサブセットでは従来の治療によく反応し、pCRとともに予後が改善する。その一方でpCRに至らなかったものは非常に予後が悪い。アントラサイクリンにタキサン系薬剤を加えることでER陽性乳がんよりもベネフィットが期待できる。プラチナ製剤はBRCA変異をもった腫瘍以外ではまだ結論は出ていない。BRCA変異はPARP阻害剤の効果と関係しており、プラチナ製剤への反応性も高い。またBRCA1関連乳がんでは、PI3K阻害剤(BKM120)のPARP阻害剤(olaparib)への相乗効果が期待されている。Banerjeeら(2012年)は、TNBC72例中5例に遺伝子の融合を見出しており、これも治療標的の1つとなるかもしれない。レポート一覧

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RA単独療法は、トシリズマブがアダリムマブよりも症状改善が有意/Lancet

 メトトレキサート(商品名:リウマトレックスほか、MTX)が使用できない関節リウマチ(RA)患者に対する生物学的製剤の単独療法は、トシリズマブ(同:アクテムラ)がアダリムマブ(同:ヒュミラ)よりも優れることが、スイス・ジュネーブ大学病院のCem Gabay氏らによる第4相国際多施設共同無作為化二重盲検並行群間試験「ADACTA」の結果、示された。先行研究(第3相無作為化二重盲検対照試験)において、トシリズマブ+MTXまたはDMARDsの併用療法が異なるRA患者の症状を改善することが示されていたが、米国のRAレジストリにおいて約3分の1が生物学的製剤単独療法を受けているとの実態を受けて本検討が行われた。また、トシリズマブ単独療法の有効性および安全性は、先の第3相試験で示されていた。Lancet誌オンライン版2013年3月18日号掲載の報告より。MTXに対する忍容性が低い、同治療が適切でない患者を対象に ADACTA試験は、15ヵ国(北・南米、オーストラリア、ヨーロッパ)76施設から被験者を登録して行われ、RA患者に対するトシリズマブ単独療法とアダリムマブ単独療法の有効性と安全性を評価することを目的とした。 被験者は、18歳以上、6ヵ月以上重症RA状態で、MTXに対する忍容性が低い、あるいはMTX治療が適切ではなかったRA患者を対象とした。 被験者は1対1の割合で、トシリズマブ8mg/kg体重を4週に1回静脈内投与+2週に1回プラセボを皮下注射群、アダリムマブ40mgを2週に1回皮下注射+4週に1回プラセボを静脈内投与群に無作為に割り付けられ、24週間治療を受けた。試験担当医、患者および試験のスポンサーの人間は、治療割付を知らされなかった。 主要エンドポイントは、28関節の疾患活動性スコア(DAS28)のベースラインから24週までの変化とした。24週時点のDAS28スコア変化、トシリズマブ群-3.3、アダリムマブ群-1.8 452例がスクリーニングを受け、326例が登録された。intention-to-treatコホートは325例(トシリズマブ群163例、アダリムマブ群162例)であった。 結果、24週時点のDAS28スコア変化の平均値は、トシリズマブ群が-3.3と、アダリムマブ群の-1.8よりも有意に大きかった[差:-1.5、95%信頼区間(CI):-1.8~-1.1、p<0.0001]。 重大有害事象を呈したのは、アダリムマブ群16/162例(10%)、トシリズマブ群19/162例(12%)であった。 また、トシリズマブ群のほうがアダリムマブ群よりも、LDLコレステロール値の上昇およびALT値の上昇を呈した患者、血小板および好中球の減少を呈した患者が多かった。 以上の結果を踏まえて著者は「MTX治療が不適切とされたRA患者の症状改善について、トシリズマブのほうがアダリムマブよりも優れていた。トシリズマブとアダリムマブの有害事象プロファイルは、以前の所見と一致したものであった」とまとめている。

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〔CLEAR! ジャーナル四天王(76)〕 ATLAS試験の功績は?~国際臨床試験の集大成~

乳がんに対するホルモン療法の臨床試験は、古くから行われているが、このATLAS試験は、これまで行われたホルモン療法・抗がん剤の臨床試験の中で最も大規模な臨床試験であったと言える。全世界36ヵ国、10年かけて1万2,894名の患者が登録され、日本からも137例が登録された。タモキシフェンを5年飲むのがよいのか、10年飲むのがよいのか? という臨床的疑問に答えるべく、この試験は開始されたのであるが、膨大な準備と計画により成し遂げられたこの成果は、賞賛されるべきと言ってよいと思われる。しかも、この試験は、製薬企業のスポンサーではなく、英国オックスフォード大学の研究資金により行われた。さすが、ランダム化比較試験の生みの親の国と言ってよいだろう。 ATLAS試験は、筆者の前任地の病院でも参加していたが、患者の適格基準が、乳がんで術後にタモキシフェンを5年内服した患者はすべて登録可能であり、細かい除外基準など一切なし、というものであった。近頃の治験などでよくあるように、何十項目もある適格基準・除外基準でガチガチに厳選された患者を対象とするのではなく、より臨床現場に近い患者を対象にという、pragmaticなデザインであったことは、当時としても画期的であったと思われる。 振り返って結果はというと、本来のプライマリー解析は、全登録例における死亡の減少であった。今回は、エストロゲン受容体(ER)陽性例に対する解析を行ったということで、サブ解析になるのであるが、5年より、10年内服する方が、全死亡の低下、乳がん死リスクの低下、乳がん再発の低下をもたらしたというものである。 試験開始から解析・公表までに、17年も過ぎたこの結果が、実際の患者に応用できるかというと、閉経後乳がんには、現在はアロマターゼ阻害薬が標準治療になっているので、応用不可であるが、閉経前乳がん患者には応用可能である。閉経後乳がんに対しても、より長くホルモン療法をやった方が、再発予防効果をもたらしたというATLAS試験の結果は、今後大変参考になるものと思われる。 いずれにせよ、ATLAS試験がもたらした功績は、試験の結果に加えて、臨床試験のあり方、研究者主導の国際共同試験のあり方に大きな希望と勇気を与えてくれるものであったと思われる。わが国では、まだまだ研究者主導臨床試験においても、先進国の中でかなり遅れをとっているので、このような臨床研究からもっと多くを学んでほしいと願うものである。勝俣 範之先生のブログはこちら

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慢性腰痛症の高齢者、体重が痛みや歩行時間と関連

 腰痛を有する高齢者で肥満者は過体重者より、歩行および階段昇段時の疼痛が強く腰椎の強度が低いことが、米国・フロリダ大学のHeather K. Vincent氏らの比較記述的研究で示された。腰椎伸展強化を含むリハビリテーション戦略は機能的な可動性と歩行時間を改善し、そのどちらも慢性腰痛症を有する肥満高齢者の体重管理に役立つ可能性がある、とまとめている。American Journal of Physical Medicine & Rehabilitation誌オンライン版2013年3月8日号掲載の報告。 対象は慢性腰痛を有する過体重以上の高齢者(60〜85歳)55人で、BMIに基づき過体重群(25~29.9kg/m2)、肥満群(30~34.9kg/m2))、高度肥満群(35kg/m2)以上)に分け、機能検査(歩行耐久、椅子立ち上がり、階段昇段、7日間の行動監視および歩行パラメータ)を行うとともに動作時の痛みの程度を評価した。  主な結果は以下のとおり。・歩行および階段昇段中の疼痛スコアは、高度肥満群が最も高く過体重群と比較して有意差を認めたが(p<0.05)、機能検査スコアにおいてはBMIによる有意差はみられなかった。・高度肥満群は、過体重群と比較して歩行時の支持基底面が36%多く(p<0.05)、片脚支持時間/両脚支持時間は3.1%~6.1%高値であった(p<0.05)。・女性は男性より椅子立ち上がりと階段昇段が緩徐で、歩行速度も遅かった。・毎日の歩数は、過体重群および肥満群と比較して高度肥満群が最も低かったが(1日当たり4,421歩 vs 3,511歩vs 2,971歩、p<0.05)、性別による差はみられなかった。・腰椎伸展、腹筋カールアップ、レッグプレスの強度は高度肥満群で最も低かった。また、3つのエクササイズすべてにおいて女性は男性より18%~34%低かった(p<0.05)。・腰椎伸展の強度は階段昇段、椅子立ち上がり、歩行耐久時間と関連していた。・BMIは、1日当たりの歩数ではなく歩行耐久時間の独立した予測因子であった。~進化するnon cancer pain治療を考える~ 「慢性疼痛診療プラクティス」連載中!・「痛みの質と具体性で治療が変わる?!」痛みと大脳メカニズムをさぐる・「痛みの質と具体性で治療が変わる?!」神経障害性疼痛の実態をさぐる・「不適切なオピオイド処方例(肩腱板断裂手術後難治性疼痛)」ケースレポート

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血中循環腫瘍DNA、転移性乳がんに特異的で高感度のバイオマーカー/NEJM

 血中循環腫瘍DNA(circulating tumor DNA)は、転移性乳がんに関し、特異的で感度の高いバイオマーカーであることが示された。従来マーカーのがん抗原15-3(CA 15-3)や血中循環腫瘍細胞(circulating tumor cells)よりも、腫瘍量との相関関係が強いという。英国・ケンブリッジ大学のSarah-Jane Dawson氏らが、転移性乳がん患者30例について行った試験で明らかにしたもので、NEJM誌2013年3月13日号で発表した。転移性乳がん患者については、その治療反応性のモニタリングを目的とした、より適切なバイオマーカーが必要とされている。3種バイオマーカーをCT画像と比較 研究グループは、全身療法を受けている転移性乳がんの女性30例について、血中循環腫瘍DNA、CA15-3、血中循環腫瘍細胞の測定を行い、CTによる腫瘍画像と比較した。 特定領域または全ゲノム配列決定法により、体細胞のゲノム異常を特定し、個人に合った分析法を設計し、連続採取した血漿検体中の血中循環腫瘍DNA量を測定した。 CA15-3値と血中循環腫瘍細胞については、同じ時点で測定を行った。血中循環腫瘍DNA、腫瘍量と相関大 その結果、血中循環腫瘍DNAが検出されたのは、ゲノム異常が認められた30例中29例(97%)だった。CA15-3が検出されたのは27例中21例(78%)、血中循環腫瘍細胞が検出されたのは30例中26例(87%)だった。 血中循環腫瘍DNA値には大きな変動が見られ、CA15-3や血中循環腫瘍細胞に比べ、腫瘍量との相関が強かった。 血中循環腫瘍DNA値は、19例中10例の治療反応に関し、最も早い段階で測定することができた。

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心肺蘇生への立ち会い、家族のPTSDを抑制/NEJM

 自宅で心停止を来した患者に対する心肺蘇生(cardiopulmonary resuscitation:CPR)に家族が立ち会うことで、立ち会わない場合に比べ心的外傷後ストレス障害(PTSD)の発症が有意に改善することが、フランス・アヴィセンヌ病院(ボビニー)のPatricia Jabre氏らの検討で示された。先進工業国では心停止が年間約60万件発生しており、蘇生に立ち会う家族の心理的、身体的負担は大きいが、可能な限りの蘇生処置が行われたことを知るという長所がある。また、家族が立ち会うことで、見えない場所で行われる蘇生処置への疑念や非現実的な期待が払拭されるとともに、最後の別れの機会が提供され、死の現実を理解することで死別のプロセスの遷延化や病的な悲嘆、PTSDを軽減する可能性があるという。NEJM誌オンライン版2013年3月14日号掲載の報告。家族のPTSD関連症状の抑制効果をクラスター無作為化試験で評価 研究グループは、患者近親者のCPRへの立ち会いによる、PTSD関連症状の抑制効果を評価するプロスペクティブな多施設共同クラスター無作為化対照比較試験を実施した。 自宅で心停止となった患者の配偶者および第一度近親者を対象とした。院外救急救命チームを、近親者にCPRに立ち会う機会を提供する群(介入群)または隊長が通常の対応を行う群(対照群)に無作為に割り付けた。 1次エンドポイントは90日後の患者家族のPTSD関連症状の発症率とし、2次エンドポイントは不安、うつ症状の発現、立ち会いが医療チームの蘇生活動やストレス、さらに法医学的問題の発生に及ぼす影響などとした。PTSD関連症状は立ち会わなかった家族で1.6倍に 2009年11月~2011年10月までに、フランスの15の院外救急救命チームが参加し、570人の患者近親者が登録された。介入群に266人(平均年齢57歳、男性35%、患者のパートナー/配偶者55%)、対照群には304人(同:57歳、38%、56%)が割り付けられた。 介入群の79%(211/266人)が心停止患者のCPRに立ち会ったのに対し、対照群は43%(131/304人)であった。PTSD関連症状の頻度は、介入群よりも対照群で有意に高く[調整オッズ比(OR):1.7、95%信頼区間(CI):1.2~2.5、p=0.004]、立ち会った近親者よりも立ち会わなかった近親者で有意に高かった(OR:1.6、95%CI:1.1~2.5、p=0.02)。 CPRに立ち会わなかった近親者は立ち会った近親者に比べ、不安(24 vs 16%、p<0.001)やうつ症状(26 vs 15%、p=0.009)の発現率が高かった。 CPRへの近親者の立ち会いの有無は、生存率、2次蘇生処置の時間、薬剤の種類や用量、電気ショックの回数、医療チームの心理的ストレスなどに影響を及ぼさず、法医学的問題を引き起こすこともなかった。 著者は、「介入の有無にかかわらず、CPRへの家族の立ち会いは心理面に良好な結果をもたらした。立ち会いが蘇生活動の妨げとなったり、医療チームのストレスを増大させたり、法医学的な対立を生むこともなかった」とまとめている。

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ソホスブビル+リバビリン併用12週治療で、慢性HCV患者のSVR24達成/Lancet

 肝硬変のない未治療の慢性C型肝炎ウイルス(HCV)遺伝子型1の患者に対する、NS5Bポリメラーゼ選択的阻害薬ソホスブビルのペグインターフェロンα-2a+抗ウイルス薬リバビリン(商品名:レベトールほか)との併用12週間治療の有効性と安全性を検討した第2相試験「ATOMIC」の結果が報告された。本試験は、同患者に対する標準療法の24週間治療法(ポリメラーゼ阻害薬+リバビリン)と同等の効果が、ソホスブビルレジメンの12週間治療法で認められるか、また同レジメン12週投与後にソホスブビル単独療法もしくはソホスブビル+リバビリン併用投与を12週間追加した場合のあらゆるベネフィットを調べることが目的であった。Lancet誌オンライン版2013年3月14日号掲載の報告より。12週治療、24週治療、12週+単独等の3つのコホートで検証 ATOMIC試験は、2011年3月23日~2011年9月21日に、米国、プエルトリコの医療施設42ヵ所で患者を登録して行われたオープンラベル無作為化第2相試験であった。慢性HCV感染症(遺伝子型1、4、5、6)で18歳以上、HCV感染症未治療の患者を適格とした。 研究グループは、遺伝子1型を有するHCV患者を無作為に1対2対3の割合で、ABCの3つのコホートに割り付けた。また、IL28B遺伝子型タイプ別(CC対非CC)、HCV RNA別(<800000 IU/mL対≧800000 IU/mL)での階層化も行った。 コホートAはソホスブビル400mgとペグインターフェロン+リバビリンの12週間投与、コホートBは同24週間投与を、コホートCは同12週間投与後ソホスブビル単独12週間投与もしくはソホスブビル+リバビリン12週間投与を受けた。 コホートBには遺伝子型1以外を有する患者も登録した。 主要有効性エンドポイントは、intention-to-treat解析にて評価した24週時点の持続的ウイルス学的著効(SVR24)の達成とした。3コホートのSVR24達成患者の割合に有意差なし HCV遺伝子1型の患者は316例が登録された(Aコホート52例、Bコホート109例、Cコホート155例)。またBコホートには、遺伝子型4の患者11例、同6の患者5例の患者が割り付けられた(遺伝子型5の患者は非検出)。 HCV遺伝子1型の患者において、SVR24の達成は、Aコホート46例(89%、95%信頼区間:77~96)、Bコホート97例(89%、同:82~94)、Cコホート135例(87%、同:81~92)であった。3群間のSVR24達成患者の割合に有意差は認められなかった(AコホートとBコホートの比較p=0.94、同Cコホートp=0.78)。 遺伝子型4の患者11例のうち9例(82%)および遺伝子型6の5例全員が、SVR24を達成した。 割り付けられた治療終了後の再発は7例(全例が遺伝子型1)だった。 試験中止となった最も頻度の高かった有害事象は、貧血と好中球減少症であり、ペグインターフェロン+リバビリン治療と関連していた。試験中止となったのは、Aコホート3例(6%)、Bコホート18例(14%)、Cコホート3例(2%)であった。 以上の結果を踏まえて著者は、「ソホスブビルの忍容性は良好であることが示された。また、12週以上治療を延長することのベネフィットは認められなかったが、これらの所見については第3相試験で実証する必要がある」と述べた上で、「本試験の結果は、ソホスブビルレジメン12週間治療について、肝硬変のある患者を含むなどより広範な遺伝子型1の慢性HCV患者においてさらなる評価を行うことを支持するものである」とまとめている。

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〔CLEAR! ジャーナル四天王(73)〕 高齢者のOPCAB:手術成績の改善は見られず、再血行再建率が高い

ドイツで実施された、75歳以上の高齢者を対象としたoff-pump CABG(OPCAB)とon-pump CABGの多施設前向き比較臨床試験報告である。 術後30日の死亡率(2.6% vs 2.8%)、および死亡・脳合併症・心筋梗塞・再血行再建・新規血液透析の5つのCompositeエンドポイント(7.8% vs 8.2%)は両群で差はなかったが、再血行再建率(1.3% vs 0.4%、p=0.04)はOPCABで高かった。術後12ヵ月の成績については、両群間に差はなかった。 これまで日本では、OPCABがon-pump CABGより成績良好とされてきた。しかし、2011年の日本冠動脈外科学会アンケート調査結果では、手術死亡率はOPCAB(2.11%)、心停止on-pump(1.05%)、心拍動on-pump(3.95%)であり、OPCABの成績が2010年(0.53%)と比較して極端に悪化したことが報告され、日本でもOPCAB熱に一定の歯止めがかかった。 Oliver Kuss氏ら(Kuss O et al. J Thorac Cardiovasc Surg. 2011; 142: e117-e122.)も86のRCTのメタ解析により、低左室駆出率症例でOPCABは優れているとしたが、年齢では差はなかった。また、最近のRCTでOPCABのグラフト開存率不良とする報告(Shroyer AL et al. N Engl J Med. 2009; 361: 1827-1837、Hattler B et al. Circulation. 2012; 125: 2827-2835.)も散見され、本報告と一致する。 本報告の「高齢者でも臨床成績には差はなく、逆にoff-pump症例で再血行再建率が高い」という結果は妥当なものと考えられる。

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調査:統合失調症患者における抗精神病薬の服薬状況

 統合失調症患者において、アドヒアランスは患者の予後を決定する重要な要因のひとつである。スペイン領カナリア諸島保健サービスのFrancisco J. Acosta氏らは、統合失調症患者における抗精神病薬の服薬状況を調査した。その結果、1日の服薬回数や指示された服薬時間が遵守されていないなど、服薬アドヒアランスが不良である実態を報告した。Schizophrenia Research誌オンライン版2013年3月7日号の掲載報告。 本研究では、統合失調症の外来患者74例を対象に、治療薬の投与プロファイルに関する正確な情報を提供するMedication Event Monitoring System(MEMS®)を用いた3ヵ月間モニタリング調査を行った。抗精神病薬の投与プロファイル、治療スケジュールの影響、MEMS®使用によるホーソン効果を評価した。なお、治療スケジュールの影響については、関連する因子、治療に対するアドヒアランス(指示された時間枠内での服薬)を検討した。主な結果は以下のとおり。・モニタリング日数の18.7%に非服薬日が認められ、そのほぼすべてが週末であった。 ・処方された用量の約3分の1が、指示された時間外に服薬されていた。・抗精神病薬の服薬に当たり、1日の服薬回数、指示された服薬時間(朝食、夕食)のいずれも遵守されていなかった。・過量服薬は概してまれであった。・指示された時間枠外での服薬がしばしばみられた。・MEMS®使用によるホーソン効果はみられなかった。・アドヒアランスを“指示された時間枠内での服薬”を含めて定義した場合、服薬遵守率はわずか35%であった。・以上より、統合失調症患者における抗精神病薬の服薬はかなり不規則であることがわかった。非服薬日を減らし、指示された時間枠内での服薬を増やす戦略が必要だと思われた。経口抗精神病薬の正確な投与プロファイル、あるいは治療スケジュールの影響を把握することは、アドヒアランス向上に向けた戦略の考案に有用と思われた。関連医療ニュース ・アリピプラゾールで患者満足度向上?! ・長時間作用型注射製剤は、統合失調症患者の入院減少と入院期間短縮に寄与 ・持効性注射剤のメリットは?アドヒアランスだけではなかった

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非緊急PCI、心臓外科部門のない施設でもアウトカムは非劣性/NEJM

 非緊急の経皮的冠動脈インターベンション(PCI)について、心臓外科部門のない病院(非専門施設)での実施のアウトカムが、同部門がある病院に劣らないことが、米国・ボストン大学医学部のAlice K. Jacobs氏らによる多施設共同の前向き無作為化非劣性試験「MASS COMM」の結果、明らかにされた。PCI後に緊急手術を要する事象の発生はまれになったが、最良のアウトカムを得るためには、PCI実施は専門施設を基本とするべきかについては不明であった。MASS COMMは、政策へのエビデンス提供を目的に州公衆衛生局と共同で2006年に企画された研究であった。NEJM誌オンライン版2013年3月11日号掲載の報告。主要重大心イベントの発生について安全性(30日時点)と有効性(12ヵ月時点)を評価 本試験には10件の非専門施設と7件の専門施設が参加して行われた。2006年7月~2011年9月の間に、非専門施設で非緊急PCIが適応とされた患者を登録し、無作為に3対1の割合で専門施設または提携病院に割り付けた。 主要エンドポイントは、主要重大心イベント(死亡・心筋梗塞・再血行再建・脳卒中の複合)の発生について、安全性エンドポイントは30日時点で、有効性エンドポイントは12ヵ月時点の評価とした。主要エンドポイントはintention-to-treat解析にて行い、非劣性マージンは安全性エンドポイントについては1.5、有効性エンドポイントについては1.3とした。主要エンドポイントは安全性、有効性とも非劣性マージンを下回る 3,691例が無作為化を受け、非専門施設PCI群に2,774例、専門施設PCI群に917例が割り付けられた。 結果、安全性エンドポイントとした30日時点の評価では、主要重大心イベントの発生は、非専門施設群9.5%、専門施設群9.4%で、非専門施設の非劣性が認められた[相対リスク(RR):1.00、95%信頼区間上限値:1.22、非劣性p<0.001]。 有効性エンドポイントとした12ヵ月時点の評価でも、各群17.3%、17.8%で、非専門施設の非劣性が認められた(同:0.98、1.13、p<0.001)。 主要エンドポイントの各イベントを個別でみても、30日時点、12ヵ月時点で両群間に有意な差はみられなかった。

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〔CLEAR! ジャーナル四天王(71)〕 神経刺激療法は、早期パーキンソン病患者の治療選択肢として有用

パーキンソン病に対する神経刺激療法(視床下核刺激療法)は、わが国では脳深部刺激療法(Deep Brain Stimulation: DBS)と呼ばれ、すでに健康保険が適用されている定位的脳手術療法の一つである。その適応は、Levodopaなどのパーキンソン病の薬に対して「オフ」期間(薬の効果が十分になく、症状が続いている) に悩まされている場合や、ジスキネジア(不随意過剰運動)がある場合など、病状が比較的進行したパーキンソン病患者(Hoehn-Yahr重症度分類Stage3以上)に有効とされている。一方で、DBSはパーキンソン病と診断されて間もない患者やパーキンソン病の薬で症状がうまくコントロールされている患者には不向きとされてきた。 しかし、今回ヨーロッパから報告されたEARLYSTIM試験(多施設共同無作為化試験)において、罹病期間4年以上、Hoehn-Yahr重症度分類Stage 1~3で薬物療法を受け、早期の運動障害がみられる251症例を神経刺激療法群と内科的治療単独群に割り付け、そのQOLを比較したところ、神経刺激療法が早期のパーキンソン病にも有用との仮説が証明される結果となった。著者らの指摘のとおり、神経刺激療法は、現行の勧告よりも早期のパーキンソン病患者の治療選択肢となる可能性がある。

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痛みと大脳メカニズムをさぐる

神経障害性疼痛の大脳レベルのメカニズム神経障害性疼痛のメカニズムについては、末梢神経の一次ニューロンあるいは脊髄レベルでの研究が非常に進んだのですが、その一方で大脳レベルでのメカニズムも明らかにされてきています。脳の一次体性感覚野と一次運動野には、体部位再現地図(somatotopy)があり、身体各部位からの感覚入力や身体各部位への運動指令の出力を担う脳領域が決まっています。神経障害に伴って末梢神経からの入力がなくなると、その地図が描き換わることがわかっています。具体的には、腕を切断された後に起こる幻肢痛の患者さんの体部位再現地図を調べてみると、手の領域がなくなってしまい、その代わり手の領域の隣にある顔の領域が拡大しています。脊髄損傷の患者さんの場合では、足の領域や腰の領域がなくなる代わりに顔や手の領域が拡大しています。神経障害性疼痛を発生している患者さんは体部位再現地図の描き換えが明確に現れますが、神経障害があっても痛みのない方は描き換えが非常に少ないことがわかっており、体部位再現地図の描き換えが、痛みの発症に関わっていると考えられています。リハビリテーションなどにより神経の入力を増やす治療を行うと、体部位再現地図は再び描き直されて、それとともに痛みが軽減してくることもわかっています。体部位再現地図の描き換えは、末梢からの感覚入力がなくなった神経系のために脳の神経細胞のスペースを使うのは無駄である、その代わり感覚入力のある神経系に利用してもらおう、という生体の代償的な反応と考えられます。なぜ、脳の地図が描き換わると痛みが起こるのかは今のところわかっていません。描き換わるときに、エラーとして痛みの信号を発生してしまうのだと考えられます。 画像を拡大する新しいリハビリテーションの可能性神経リハビリテーションにはさまざまなものがありますが、従来から行われている理学療法や作業療法以外に、私たちの施設では鏡を使った治療を行っています。対象となるのは、脊髄損傷や腕の切断あるいは腕神経叢引き抜き損傷といった運動麻痺を伴う神経障害性疼痛の患者さんです。身体の中央に鏡を立て掛けて健常な手あるいは足を動かすと、あたかも鏡の中で患肢が動いているようなイメージを作ることができます。この鏡を使ったイメージトレーニングにより、脳内の地図が新たに描き換えられることが示されています。われわれはこの治療法で痛みや患肢の運動麻痺が軽減した患者さんをたくさん経験しています。画像を拡大するさらに、より有効な治療法として、リハビリテーション支援ロボットスーツを開発しています。健肢の運動を、人工筋肉によって麻痺している患肢に模倣させる装置です。鏡の治療では視覚的な入力だけですが、リハビリテーション支援ロボットスーツでは実際に患肢が運動をします。したがって、視覚的な情報だけではなくて、筋肉の伸び縮みや関節の屈伸といった体性感覚情報も脳にフィードバックされるので、より強力に運動のイメージを脳内につくることができると期待しています。これから患者さんの協力を得て、臨床応用を進めたいと計画しています。痛みの破局的思考痛みと一次体性感覚野、運動野の関連性は明らかになってきたものの、実際の患者さんでは心理的要因が強く影響します。痛みの事を何度も考えてしまう、痛みを必要以上に大きな存在と考えてしまう、自分が感じている痛みは救い(治療法)がないと考えてしまう、などの性格的な傾向を持つ方がいます。こういった考え方を痛みの破局的思考と呼んでいますが、このような患者さんでは、心の問題が痛みの認識を歪め、不眠や不安、痛みに対する恐怖、抑うつ症状を引き起こし、その結果、行動制限が生じ、ひいては身体機能障害をもたらすという悪循環が起こります。近年では、このような心の問題による痛み悪化のメカニズムに、脳の扁桃体、島皮質、前頭前野という理性・感情・気分を司る領域が関連しているという事も明らかになっています。画像を拡大する脊髄刺激療法の有用性最後に脊髄刺激療法のお話をさせていただきます。神経障害性疼痛で薬物療法抵抗性であったり、あるいは高齢の患者さん等で副作用が忍容できない症例では、脊髄刺激療法を施行します。脊椎硬膜外腔に電気のリードを入れて脊髄を刺激することによって、疼痛を感じている範囲に電気的な刺激を与えて痛みを緩和させる治療法です。鎮痛効果のメカニズムとしては、痛み情報を伝える神経伝達物質の分泌を抑える、抑制性の神経伝達物質の分泌を促進する、脊髄レベルで神経細胞の興奮を抑える、といった作用が報告されています。障害されている神経レベルよりも上位の脊髄領域を電気刺激することで鎮痛効果が得られる患者さんがたくさんいますので、大脳レベルでも効果を発揮しているのではないかとわれわれは考えています。まず電気リードだけを硬膜外腔に挿入して治療効果の確認をし、効果が得られれば皮下に電気の発生装置であるジェネレーターを植え込みます。患者さんは自宅でも痛みが強くなったときにスイッチを入れることで痛みを緩和できます。合併症は、非常にまれですが感染が起こる可能性があります。薬物療法と違って眠気や便秘などの副作用は起こりません。最近は治療機器が進歩して小型化され、10年くらい電池寿命があるジェネレーターも使用できるようになり、より有用性が高くなっています。このように、研究の進歩により痛みのメカニズムが解明されると共に日々新たな治療法が開発されています。

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75歳以上高齢者に対するCABG、off-pumpとon-pumpに有意差なし/NEJM

 75歳以上の高齢者に焦点をあてoff-pump冠動脈バイパス術(CABG)のベネフィットについて検討した、ドイツ・ヘルツ&ゲファスクリニックのAnno Diegeler氏らによる無作為化試験「GOPCABE」の結果が発表された。on-pump CABGと比べて、30日時点、12ヵ月時点ともに死亡や脳卒中など複合アウトカムに関する有意差は認められなかったという。off-pump CABGについてはその有用性はなお議論の的である。これまで低リスク患者や異なるリスク背景をもつ患者を対象とした試験は行われているが、高齢者については確認されておらず、Diegeler氏らは、高リスク患者におけるoff-pump CABGの有効性を明らかにできることを確信して本検討を行った。NEJM誌オンライン版2013年3月11日号の掲載報告より。死亡・脳卒中・心筋梗塞・再血行再建・新規腎代替療法の主要複合エンドポイントを評価 GOPCABE(German Off-Pump Coronary Artery Bypass Grafting in Elderly Patients)試験は、2008年6月5日~2011年9月9日の間にドイツ国内12ヵ所で、待機的初回CABGを受ける75歳以上の患者を登録して行われた。 4,355例がスクリーニングを受け、2,539例が無作為化を受け、off-pump群に1,271例、on-pump群に1,268例が割り付けられた。主要エンドポイントは、手術後30日時点と12ヵ月時点についての、死亡・脳卒中・心筋梗塞・再血行再建・新規腎代替療法の複合であった。 無作為化後に適格除外となり、割り付けられた手術を受け解析に組み込まれたのはoff-pump群1,187例、on-pump群1,207例であった。両群のベースラインでの患者特性はほぼ同等で、平均年齢は78歳、女性が約3割で、心筋梗塞既往は36.9%、左室駆出率≦50%は32.2%などであった。30日時点、12ヵ月時点ともに主要複合エンドポイントの有意差はみられず 結果、術後30日時点の主要複合エンドポイント発生は、off-pump群93例(7.8%)、on-pump群99例(8.2%)で、両群間に有意な差はみられなかった[オッズ比(OR):0.95、95%信頼区間(CI):0.71~1.28、p=0.74)。ただし5つの複合エンドポイントを個別にみると、再血行再建のみoff-pump群で有意に高い発生がみられた(同:2.42、1.03~5.72、p=0.04)。他の4つは有意差はみられなかった(各ORは0.80~0.92)。 12ヵ月時点についても主要複合エンドポイントの発生は、両群間で有意な差はみられなかった[154/1,179例(13.1%)対167/1,191例(14.0%)、ハザード比(HR):0.93、95%CI:0.76~1.16、p=0.48]。個別にみても、再血行再建のみoff-pump群の発生が高率だったが有意差は認められず(同:1.52、0.90~2.54、p=0.11)、その他4つのエンドポイントは有意差はみられなかった(各HRは0.79~0.90)。 同様の結果は、per-protocol解析(割り付け治療がクロスオーバーした被験者177例を除外)においてもみられた。

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抗精神病薬は“せん妄”の予防に有用か?

 高齢入院患者においてしばしば問題となるせん妄は、死亡率の増加を招く。せん妄治療に関するエビデンスは蓄積されているものの、高リスク患者における薬理学的予防に関する報告は限られている。米国・メリーランド大学のPolina Teslyar氏らはせん妄の高リスク入院患者に対する抗精神病薬の予防投与の影響を検討するためメタ解析を行った。その結果、術後の高齢入院患者に対する抗精神病薬の予防投与はせん妄リスクの減少につながると報告した。Psychosomatics誌2013年3月号の報告。 Pubmed、PsychInfo、コクラン比較臨床試験およびデータベースによる文献検索(1950年1月~2012年4月)を行った。せん妄を予防するために抗精神病薬が投与された唯一のRCT試験が含まれた。検索で使用したキーワードは「delirium」「encephalopathy」「ICU psychosis」「prevention」「prophylaxis」であった。せん妄診断の検証方法を基準に含めた。データ分析にはStataのmetanコマンド解析を用いた。 主な結果は以下のとおり。・5試験(1,491例)が選択基準を満たした(ハロペリドール3試験、リスペリドン1試験、オランザピン1試験)。いずれの試験とも対象は術後の高齢入院患者であり、また異なる国で実施されていた。・せん妄の相対リスクはプラセボ群と比較し、抗精神病薬投与群で50%減少した(RR [95%CI]=0.51 [0.33~0.79]、異質性p<0.01、ランダム効果モデル)。・出版バイアスはファンネル・プロットにより検出されなかった。関連医療ニュース ・せん妄を有する高齢入院患者の死亡リスクは高い! ・がん患者のせん妄治療に有効な抗精神病薬は… ・認知症患者における「せん妄診断」有用な診断ツールは?

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リスクマネジメントの視点で診る心房細動診療 ~プライマリ・ケア医になって起こった診療のパラダイムシフト~

解説者のブログのご紹介『心房細動な日々』心房細動の2つの側面私は、初期研修医の時代から不整脈や電気生理に慣れ親しみ、十数年にわたり、カテーテルアブレーションも含めた不整脈の専門診療に携わってきました。思うところあって9年前にプライマリ・ケアの世界に身を転じてみて、改めて不整脈、とくに心房細動という疾患の他のcommon diseaseにはない特徴を感じるようになりました。その特徴は大きく分けて2つあると思います。まずひとつは、心房細動は多くのリスク因子を背景に発症する疾患であると同時に、それ自身、脳塞栓の最大のリスク因子であるということです。心房細動は高血圧、甲状腺疾患などさまざまな因子を背景に発症し、発症時には患者さんに動悸などの苦痛を強いる一つの立派な「疾患」です。それと同時に脳塞栓、心不全といった他の心血管イベントの主要因、つまりリスク因子としての側面も持っているのです。心房細動は多くのリスク因子を背景に成り立つと同時に、重大イベントのリスク因子でもあるという二面性を持つ病気なのです。もうひとつの特徴は、心房細動は長期的、段階的に進行し、その間の治療オプションが豊富であるため、患者—医療者に数々の治療法選択に関する意思決定を迫る疾患であるということです。心房細動は平均58歳で発症し、どんな薬物療法を行っても年間5~15%の割合で慢性化する疾患です。この間に発作を抑えるため、レートコントロールあるいはリズムコントロールとしての抗不整脈薬やカテーテルアブレーションなど、さまざまな治療オプションを選択する必要があります。そして言うまでもなく、長期予後の改善にあたっては、昨今注目されている抗凝固療法についての意思決定があります。さらに、心房細動それ自体に対するリスク因子である高血圧や糖尿病、心不全などをいかに管理するかも重要な治療アイテムです。「リスクマネジメント」という視点これらの2つの特徴、つまり(1)疾患であると同時にリスク因子である (2)長い経過の間に数多くの意思決定場面がある、ということからひとつのキーワードが浮かび上がってきます。それはずばり「リスクマネジメント」です。心房細動はほかの幾多のcommon diseaseにも増して、このリスクマネジメントの視点が要求される疾患ということができます。われわれは心房細動発作という目の前の疾患(いわば短期リスク)と、将来の脳塞栓などの長期リスクを同時に管理するという視点を持たなければなりません。中でも抗凝固療法は、心房細動治療アイテムの中でもダントツでリスクマネジメント的感覚が必要である治療法だと思われます。実例を挙げてこのことを考えてみましょう。抗凝固療法をめぐる意思決定問題 ~リスクの識別・評価~「77歳女性、2ヵ月前から娘さん家族と同居。10年前から高血圧。数年前から発作性心房細動あり。以前からワルファリン服用を薦めているが、本人は出血が怖いとためらっている。」このような場合、リスクマネジメントはどう考えたら良いのでしょうか? 一般的なリスクマネジメントの手順としては、まず(1)リスクを識別し、(2)そのリスクがどの程度であるかを評価し、(3)そのリスクに対応(=意思決定)し、(4)全体にフィードバックする、という4工程があると言われています。上記(1)(2)の「リスクを識別し評価する」には現在便利なツールが存在します。そう、CHADS2スコアです。近年はCHA2DS2-VAScスコアも有用とされています。これらのスコアは、目の前の患者さんの脳塞栓リスクと抗凝固療法適応の可否を医学的に教えてくれる、きわめて重宝な道具です。この方のCHADS2スコアは2点ですから教科書的には抗凝固療法の適応です。しかし医学的(生物学的というべきか)なリスクと適応がわかったとしても、患者さんの「出血が怖い」心理を払拭するという課題が残っていますどうすれば払拭できるでしょうか?「解釈モデル」から見えてくるもの当院では試行錯誤の末、このような意思決定問題が発生した際に、ある程度の時間をかけて患者さんの「病(やまい)体験」を把握するための「心房細動外来」を開設しました。抗凝固療法導入時に、患者さんの抗凝固療法に対する「解釈モデル」を聴くようにしたのです。解釈モデルとは次の4つの要素からなります1)。なぜ脳梗塞予防薬を飲む必要があると思いますか?(解釈)脳梗塞予防薬を飲むことの何が不安ですか?(感情)心房細動の治療について当クリニックに何を期待しますか?(期待)脳梗塞予防薬を毎日飲むことは日々の生活(食生活も含めて)に、どんな影響がありますか?(機能)なぜ、このような聴き方が必要なのでしょうか?それは、患者さんごとに抗凝固療法について知りたいこと、不安に思うことの順番が異なるからです。ある患者さんは脳出血が怖いと言います。また、薬を飲むことそのものに嫌悪感のある人もいます。あるいは、心房細動から心筋梗塞になると考える人もいます。さらにお話を聴いていくと、脳出血を怖がる原因が「親戚に脳出血の人がいたから」であるとか、「有名野球監督が抗凝固療法のために障害をうけた」といったような、きわめて個別的な事情や誤解によるものだと明らかになることがあります。このように患者さんの病気に関する捉え方はさまざまです。また、医師からの説明の受け止め方もさまざまです。患者さんの個別の事情を、ある程度の時間をかけて聴くことにより、患者さんの期待や不安の優先順位が把握でき、そこに焦点を当てた説明をすることで、合意形成がかなりスムーズになります。このように、まず「何が問題なのか」を、医学的な「疾病」としての側面と患者さんの「病(やまい)」としての側面から把握し、共有することがリスクマネジメントの第一歩となります。意思決定におけるポイントこのような情報共有の次にめざすべきは、「何をゴールとするか」ということを明確にすることです。抗凝固療法のゴールは言うまでもなく「脳塞栓予防」です。そのことをよく患者さんに理解してもらうわけですが、それを治療開始の最初の時点で、お互いに確認しておくことがとても大事なのです。そのときはやはり、抗凝固薬を飲むことによる具体的なベネフィットとリスクを、時に数字を交えて説明する必要が生じると思います。脳塞栓症がノックアウト型であり、予後がきわめて不良であること。抗凝固薬を服用することで、そうしたリスクがどのくらい減り、出血のリスクがどのくらい増えるかということ。これらのベネフィットはリスクを上回るということを、わかりやすい言葉で説明していく努力が必要です。このとき、患者さんは「薬を飲む」という新たな行為に伴うリスク(出血)に目を奪われがちになるので、出血を避けるための手立てがあること、たとえば血圧を十分下げる、INRを適切に管理する、といったリスク予防策について十分説明するようにします。リスクにどう対応するか?さてこのように説明しても、出血リスクを怖がる方はいらっしゃいます。一般に、リスク=インパクトx確率と言われていますが、リスクの「インパクト」に関しての捉え方は人さまざまであり、その方にとってインパクトが非常に大きい場合、いくら医学的・科学的に説明しても患者さんの納得にはつながりません。また反対に、医師の説明など関係なく「とにかくお任せします」と言われる方が多いのも現実です。私はそうした在り方も「あり」だと思います。抗凝固療法、さらには医療の最終的な目標とは「共通の理解基盤の構築」であるからです1)。医師への信頼に基づいて治療について双方が納得することこそ、最終的なゴールであると思います。出血の恐怖のためになかなか抗凝固薬を飲んでくれない方、また、わかってはいても飲み忘れの多い方、そうした方には長い心房細動の旅の道のりの中で、ゆっくりと納得してもらうように、あせらずに共通基盤の構築を図っていけばよいのです。ここにプライマリ・ケアに携わる開業医のだいご味があるともいえます。心房細動診療こそプライマリ・ケア医で私が開業して、最も痛感することがこの患者さんを「ずっと診る」ことの大切さです。もちろん病院勤務の時代でも、外来で長く診せていただく患者さんはたくさんおられました。しかし地域に根ざした医療を心がけるようになってからは、その方の来し方から見えてくる人生、その方を取り巻くご家族、さらに地域を考え、そのうえで「心房細動の人」「心房細動も持つ人」を診るという視点を持つようになりました。心電図に心が奪われがちだった勤務医時代に比べると、180度のパラダイムシフトが自分の中で起こりました。当院では初回に医師が説明したあと、上記の4つの質問用紙を患者さんに渡します。そして、次の外来で看護師が20〜30分程度でお話を伺い、患者さんの優先順位を把握したうえで意思決定をするようにしています。看護師を交えることで、医師には言っていただけないような情報を得ることが少なくありません。また、その場にご家族も参加していただくことが、とくに高齢者においては重要なポイントになります。こうした多職種、家族、地域を巻き込んでの医療ができるというのもプライマリ・ケア医の強みだと思います。一方で、上記のような抗凝固療法をためらう方は、勤務医時代にはあまり経験しなかったように思います。総合病院、大学病院を受診する患者さんは、他医からの紹介が多く、心房細動や抗凝固薬についての知識をあらかじめ持っておられる方が多く、また基本的に発作に悩んでいる、抗凝固療法の必要性が高い、など患者さん自ら治療へのモチベーションの高い方が多いように思います。かたや、プライマリ・ケアの場では、高血圧や糖尿病などで長く診ている長い患者さんが、たまたま脈をとった時に心房細動だった、というように長い旅の途中で心房細動が不意に目の前に立ち現れるということをよく経験します。まったく心構えがないままリスクが降ってくるという状況は、場合によっては理解を得るのに時間がかかるのです。しかし前にも述べたように、こうした場面こそプライマリ・ケア医としての力が発揮されるべき時なのです。そうです。心房細動診療こそ継続性、包括性、協調性が求められるプライマリ・ケア医にうってつけの領域なのです。今後は、このような継続的なリスクマネジメントはプライマリ・ケア医が行い、抗凝固薬や抗不整脈の導入時や発作頻発時、心不全発症時、カテーテルアブレーションなどの専門的医療が必要な場合に専門医に委ねるという役割分担がさらに進み、心房細動の人をまさにオールジャパンで診るというスキーマが構築されることを期待したいと思います。1)Stewart M, et al. Patient-Centered Medicine: Transforming the clinical method. 2nd ed. Oxford: Radcliffe Medical Press; 2003.

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新品の靴が原因の接触皮膚炎、アレルゲンは?

 スロバキア・コメニウス大学のDanka Svecova氏らは、重症のアレルギー性接触皮膚炎(ACD)を呈した9例の患者の原因調査を行った結果、全員に共通することとして新品の靴を履いていたことが浮かび上がり、アレルゲンについて調べた結果、防カビ剤の小袋に含まれていたフマル酸ジメチル(DMF)が特定されたことを報告した。欧州では、フマル酸ジメチルを防カビ剤として使用することを禁じる予防対策がすでに講じられており、著者は「症例数を増やさないためにも、同対策を徹底する必要がある」と警告を発した。International Journal of Dermatology誌オンライン版2013年2月22日の掲載報告。 DMFは防カビ剤として有用である一方、強力な感作性物質であり、低濃度でも重症ACDを引き起こす可能性があることが知られる。欧州では、家具等の接触皮膚炎の原因物質として特定されており、防カビ剤としてDMFを使用する禁止措置が勧告されているという。 本研究では、靴の接触皮膚炎がみられた患者について、DMFとの関連を調べることを目的とした。 パッチテストとアレルゲンの特定調査を行い(試料は履いていた靴、DMF製品、欧州ベースライン、靴のスクリーニング、織物・皮革の染色材スクリーニング、工業用殺虫剤シリーズ)、得られた結果は国際ガイドラインに即して記録した。靴および防カビ剤の小袋中のDMF含有量の分析については、ガスクロマトグラフィと質量分析によって行った。 主な結果は以下のとおり。・被験者は、重症ACDを呈し靴の接触皮膚炎が疑われた9例のスロバキア人(コーカサソイド)であり、全員が女性であった。・陽性パッチテストにおいて、靴の内張りに使われていた布について検証した際に、全患者が遅延型のアレルギー反応を呈した。・7例の患者が0.1%DMFのパッチテストを受け、全員が陽性反応を示した。・入手した被験者の靴を化学分析した結果、DMFが非常に高濃度に含有されていること(25~80mg/kg)が明らかになった。

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グルタミン酸トランスポーター遺伝子と統合失調症・双極性障害の関係

 米国・ニューヨーク州立大学SUNYアップステート医科大学のMarina Myles-Worsley氏らは、統合失調症と双極性障害の間に遺伝的な重複がみられることに着目し、グルタミン酸トランスポーター遺伝子であるSLC1A1遺伝子変異について検討を行った。その結果、SLC1A1遺伝子の欠失が認められ、家系内で共分離していることを報告した。American Journal of Medical Genetics Part B: Neuropsychiatric Genetics誌2013年3月号(オンライン版2013年1月22日号)の掲載報告。 統合失調症と双極性障害の間に遺伝的な重複がみられるというエビデンスが蓄積されており、疾患発症リスクに大きな影響を及ぼす原因変異は、従来から診断の境界とされる部分とクロスしている可能性が示唆される。研究グループは、多世代にわたり統合失調症と双極性障害の両方を有する家系は、背景にある遺伝子破壊の自然経過およびその表現型を明らかにできるため、疾患の発症に関連する共通の生物学的経路を明らかにするうえで有意義な対象であるとして、本検討を行った。5世代のパラオ人家系が保有する遺伝子コピー変異としてしばしば特定される、グルタミン酸トランスポーター遺伝子「SLC1A1遺伝子」の欠失について検討を行った。家系内の21人の検体を用いて定量PCR法を実施した。 主な結果は以下のとおり。・精神障害を有する7人全員で遺伝子欠失を確認した。内訳をみると、「両親が絶対保因者」が3人、「表現型を有さない兄弟姉妹」が1人、「両親が非保因者」が4人であった。・常染色体優性モデルを用いた連鎖解析により、LOD値3.64という結果が得られ、精神障害者においては遺伝子欠失が共分離していることが判明した。・遺伝子欠失の正確な局在を明らかにするため、1人の欠失保因者に対して次世代シーケンスデータ配列を用い、PCR産物であるアンプリコンすべての欠失遺伝子座を評価して正確な欠失エンドポイントを決定した。・その結果、欠失spanは84,298 bpであり、翻訳開始部位の全プロモーター領域が欠落していることが示唆された。その部位は、タンパク質を構成する59アミノ酸の先端であり、グルタミン酸輸送作用を示すドメインの1つである膜貫通Na2+/ジカルボキシル酸共輸送体ドメインを含んでいた。・機能的に関連するSLC1A1変異の発見と、多世代にわたり共分離がみられる家系の存在は、精神障害の病態生理においてグルタミン酸伝達が重要な役割を果たしていることをさらに支持する知見と言えた。関連医療ニュース ・グルタミン酸ドパミンD3受容体遮断による統合失調症の新たな創薬の可能性 ・統合失調症の遂行機能改善に有望!グルタミン酸を介した「L-カルノシン」 ・グルタミン酸作動性システムは大うつ病の効果的な治療ターゲット

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テレダーマトロジー、QOL改善への効果は?

 米国・トゥルーマン記念退役軍人病院のJohn D. Whited氏らは、テレダーマトロジー(遠隔皮膚診断)のQOLへの効果について無作為化試験を行った。皮膚の状態とQOLに関する論文は散見されるが、テレダーマトロジーがQOLに及ぼす効果に関する研究報告はこれまでほぼなかったという。JAMA Dermatology誌オンライン版2013年2月20日の掲載報告。 本研究では、テレダーマトロジーのQOLへの効果を評価することを目的とした。 米国内2ヵ所の退役軍人省下の施設(皮膚科クリニックとプライマリ・ケア提携施設)において、皮膚科受診を紹介され来院した患者を無作為に、テレダーマトロジー群と対面診断群に割り付けた。テレダーマトロジー群は画像診断と標準化された問診を受け、対面診断群には従来どおりの皮膚科診断プロセスを経て、9ヵ月間にわたって追跡した。 ベースラインから9ヵ月時点のSkindex-16スコア(皮膚特異的なQOL評価ツール)の変化を主要エンドポイントとし、副次エンドポイントは、同スコアのベースラインから3ヵ月時点の変化とした。 主な結果は以下のとおり。・無作為化された392例のうち、326例が割り付けられた診断を完了し、解析に組み込まれた。・両群ともベースラインから9ヵ月時点のSkindex-16スコアの変化は、統計的に有意に改善したことを示した。両群間に有意な差はみられなかった(統合スコアp=0.66)。・ベースラインから3ヵ月時点のSkindex-16スコアについても、両群間に有意な差はみられなかった(統合スコアp=0.39)。・対面診断と比較してテレダーマトロジーは、3ヵ月後、9ヵ月後の皮膚関連のQOLについて、統計的に有意な差をもたらさなかった。

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