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抗精神病薬の多剤併用は50年間でどのように変化したのか

 抗精神病薬の多剤併用は、有害事象リスクが高く、単剤療法と比較し、有効性に関するエビデンスが少ないにもかかわらず、臨床的に広く用いられている。南デンマーク大学のMikkel Hojlund氏らは、精神疾患患者における抗精神病薬の多剤併用率、傾向、相関関係を包括的に評価するため、システマティックレビューおよびメタ解析を実施した。The Lancet Psychiatry誌2024年12月号の報告。 対象研究は、年齢や診断とは無関係に、精神疾患または抗精神病薬を使用している患者における抗精神病薬の多剤併用率を報告したオリジナル研究(観察研究および介入研究)。2009年1月〜2024年4月までに公表された研究をMEDLINE、Embaseより検索した。2009年5月以前の関連研究は、抗精神病薬の多剤併用率に関するこれまでの2つのシステマティックレビューより特定した。プールされた抗精神病薬の多剤併用率は、ランダム効果メタ解析を用いて推定した。抗精神病薬の多剤併用に関連する相関関係の特定には、サブグループ解析および混合効果メタ回帰解析を用いた。実体験を有する人は、本プロジェクトには関与しなかった。 主な結果は以下のとおり。・研究517件(個別時点:599件)、445万9,149例(平均年齢:39.5歳、範囲:6.4〜86.3歳、性別や民族に関するデータはまれ)をメタ解析に含めた。・ほとんどの研究には、統合失調症スペクトラム症患者が含まれていた(270件、52%)。・全体として、抗精神病薬の多剤併用率は24.8%(95%信頼区間[CI]:22.9〜26.7)、統合失調症スペクトラム症患者では33.2%(95%CI:30.6〜36.0)、認知症患者では5.2%(95%CI:4.0〜6.8)であった。・抗精神病薬の多剤併用率は、地域により異なり、北米では15.4%(95%CI:12.9〜18.2)、アフリカでは38.6%(95%CI:27.7〜50.6)であった。・全体的な抗精神病薬の多剤併用率は、1970年から2023年にかけて有意な増加が認められた(β=0.019、95%CI:0.009〜0.029、p=0.0002)。また、成人患者は小児および青年患者よりも高く(27.4%[95%CI:25.2〜29.8]vs.7.0%[95%CI:4.7〜10.3]、p<0.0001)、入院患者は外来患者よりも高かった(31.4%[95%CI:27.9〜35.2]vs.19.9%[95%CI:16.8〜23.3]、p<0.0001)。・抗精神病薬の多剤併用は、単剤療法と比較し、次のリスク増加が認められた。【再発】相対リスク(RR):1.42、95%CI:1.04〜1.93、p=0.028【精神科入院】RR:1.24、95%CI:1.12〜1.38、p<0.0001【全般的機能低下】標準化平均差(SMD):−0.31、95%CI:−0.44〜−0.19、p<0.0001【錐体外路症状】RR:1.63、95%CI:1.13〜2.36、p=0.0098【ジストニア】RR:5.91、95%CI:1.20〜29.17、p=0.029【抗コリン薬使用などの有害事象の増加】RR:1.91、95%CI:1.55〜2.35、p<0.0001【副作用スコアの高さ】SMD:0.33、95%CI:0.24〜0.42、p<0.0001【補正QT間隔延長】SMD:0.24、95%CI:0.23〜0.26、p<0.0001【全死亡率】RR:1.19、95%CI:1.00〜1.41、p=0.047 著者らは「過去50年間で、抗精神病薬の多剤併用率は世界的の増加がみられ、その傾向は統合失調症スペクトラム症患者でとくに高かった。抗精神病薬の多剤併用は、単剤療法よりも、疾患重症度が高く臨床アウトカム不良と関連しているが、これらの問題を解決するものではない。さらに、抗精神病薬の多剤併用は、全死亡率を含む副作用の増加と関連していることが示された」と結論付けている。

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低リスクDCIS、積極的モニタリングvs.標準治療/JAMA

 低リスク非浸潤性乳管がん(DCIS)に対する積極的モニタリング(6ヵ月ごとに乳房画像検査と身体検査を実施)は、ガイドラインに準拠した治療(手術±放射線治療)と比較して、追跡2年時点の同側乳房浸潤がんの発生率を上昇せず、積極的モニタリングの標準治療に対する非劣性が示された。米国・デューク大学のE. Shelley Hwang氏らCOMET Study Investigatorsが前向き無作為化非劣性試験「COMET試験」の結果を報告した。JAMA誌オンライン版2024年12月12日号掲載の報告。グレード1/2のDCIS女性を対象、同側浸潤がん診断の2年累積リスクを評価 研究グループは、2017~23年にUS Alliance Cancer Cooperative Groupのクリニック試験地100ヵ所で、ホルモン受容体陽性(HR+)グレード1/2のDCISと新規診断された40歳以上の女性995例を登録して試験を行った。 被験者は、積極的モニタリング群(484例)またはガイドライン準拠治療群(473例)に無作為に割り付けられた。 主要アウトカムは、同側浸潤がん診断の2年累積リスクで、事前に計画されたITT解析およびper-protocol解析で評価した。非劣性マージンは0.05%。2年累積発生率、積極的モニタリング群4.2%、ガイドライン準拠治療群5.9% 957例が解析対象となった。積極的モニタリング群は63.7歳(95%信頼区間[CI]:60.0~71.6)、ガイドライン準拠治療群は63.6歳(55.5~70.5)であり、全体では15.7%が黒人女性、75.0%が白人女性であった。 事前規定された主要解析(追跡期間中央値36.9ヵ月)において、DCISの手術を受けたのは346例で(積極的モニタリング群82例、ガイドライン準拠治療群264例)、浸潤がんと診断されたのは46例(19例、27例)であった。 Kaplan-Meier法による同側浸潤がんの2年累積発生率は、積極的モニタリング群4.2%、ガイドライン準拠治療群5.9%で、群間差は-1.7%(95%CI上限0.95%)であり、積極的モニタリングのガイドライン準拠治療群に対する非劣性が示された。 浸潤がんの腫瘍特性は、両群間で統計学的な有意差はなかった。 また、全体として68.4%(665例)が内分泌療法の開始を報告していた(積極的モニタリング群345例[71.3%]、ガイドライン準拠治療群310例[65.5%])。これら内分泌療法を受けたサブグループの同側浸潤がんの発生率は、積極的モニタリング群3.21%、ガイドライン準拠治療群7.15%で、群間差は-3.94%(95%CI:-5.72~-2.16)であった。 著者は、「より長期の試験を行うことで、積極的モニタリングが永続的な安全性と忍容性を提供するかを明らかにできるだろう」とまとめている。

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タクシーと救急車の運転手、アルツハイマー病による死亡率低い/BMJ

 タクシーと救急車の運転手は、アルツハイマー病による死亡率がすべての職業の中で最も低いことが、米国・ハーバード医学大学院・ブリガム&ウィメンズ病院のVishal R. Patel氏らによる住民ベースの横断研究で示された。アルツハイマー病で最初に萎縮がみられる脳領域の1つに海馬がある。海馬は空間記憶とナビゲーションに使用される脳領域で、研究グループは、空間処理とナビゲーション処理を頻繁に必要とする職業のタクシーと救急車の運転手について、アルツハイマー病による死亡率を他職業と比較し分析した。先行研究で、タクシー運転手は一般集団と比較して、海馬の機能が強化されていることが示されていた。BMJ誌2024年12月17日号クリスマス特集号「Death is Just Around the Corner」掲載の報告。タクシーと救急車の運転手を含む443職業の、アルツハイマー病による死亡率を評価 研究グループは、米国住民ベースの全死亡レジストリである国家人口動態統計システム(National Vital Statistics System、NVSS)から、2020年1月1日~2022年12月31日のデータ(死亡時年齢18歳以上)を入手し分析した。データは死亡証明書に基づくもので、ICD-10に基づく死因、死亡時年齢、人種、民族、学歴などのほか、職業に関するデータが含まれている。職業欄は、以前は記述式だったが2020年にコード化され、2020~22年には米国人口の約98%をカバーしていた。 分析対象データセットには、443の職業が含まれていた。そのうち、タクシー運転手と救急車運転手および残り441の各職業の、アルツハイマー病による死亡率を調べ、死亡時年齢およびその他の社会人口学的要因で補正し評価した。タクシーと救急車の運転手の死亡率、全職業の中で最も低い 死者897万2,221例の職業情報が入手でき、そのうち死因としてアルツハイマー病が記載されていたのは3.88%(34万8,328例)であった。 アルツハイマー病による死亡率は、タクシー運転手が1.03%(171/1万6,658例)、救急車運転手は0.74%(10/1,348例)であった。死亡時年齢等で補正後、救急車運転手は0.91%(95%信頼区間[CI]:0.35~1.48)、タクシー運転手は1.03%(0.87~1.18)で、全職業の中で最も低かった。一般集団の死亡率は1.69%(95%CI:1.66~1.71)だった(タクシー運転手、救急車運転手との比較ではいずれもp<0.001)。また全職業において、アルツハイマー病による死亡の補正後オッズ比は、タクシー運転手と救急車運転手で最も低かった(最高責任者[chief executive]を参照群として比較した両職種統合のオッズ比:0.56[95%CI:0.48~0.65])。 こうした傾向は、リアルタイムな空間処理およびナビゲーション処理の必要度が低い他の輸送関連職(バス運転手、船長、航空機パイロット)ではみられず、また他の認知症タイプ(血管性、不特定)でもみられなかった。さらに、アルツハイマー病を主因とした場合と一因とした場合でも、結果は一貫していた。 著者は、「得られた所見は、タクシーや救急車の運転手が行っているようなナビゲーション処理タスクや空間処理タスクが、アルツハイマー病に対する何らかの保護効果に関与する可能性を提示するものであった」とまとめている。

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食品中の果糖はがんの進行を促進する?

 糖の一種である果糖(フルクトース)は、がん細胞の増殖を促す燃料になる可能性があり、果糖の摂取を控えることが、がんと闘う手段の一つになり得ることが、新たな研究で示唆された。米セントルイス・ワシントン大学遺伝学・医学部教授のGary Patti氏らが、米国立衛生研究所(NIH)から一部助成を受けて実施したこの研究の詳細は、「Nature」に12月4日掲載された。 米国人が毎日口にしている食品には高果糖コーンシロップが多用されており、果糖はすでに米国人の食生活に広く浸透している。Patti氏は、「高果糖コーンシロップは、キャンディーやケーキから、パスタソースやサラダ用ドレッシング、ケチャップまで、極めて多くの食品に含まれている。意図的に摂取を回避しようとしない限り、高果糖コーンシロップを食事から除くことは困難である」と話す。 何世代か前までは、米国人の果糖の摂取量は比較的少なかった。しかし、数十年前から食品業界は多くの製品に高果糖コーンシロップを添加するようになった。そのタイミングと一致して、50歳以下の人の間で特定のがんが徐々に増加しているとPatti氏らは指摘している。 Patti氏らは今回の研究で、果糖が腫瘍の成長にどのような影響を与えるのかを調査した。まず、メラノーマ、乳がん、子宮頸がんの動物モデルに果糖を多く含む餌を与え、腫瘍の成長速度を測定した。その結果、果糖は、体重や空腹時血糖値、空腹時インスリン値に影響を与えることなく腫瘍の成長を促進することが確認された。Patti氏は、「果糖の影響の大きさには驚かされた。腫瘍の成長速度が2倍以上に加速したケースもあった。果糖の大量摂取が腫瘍の進行に極めて大きな悪影響を及ぼすことは明らかだ」と述べている。 しかし、次の実験室での分子レベルの分析から、がん細胞には、果糖を栄養源として直接利用するための生化学的機構が備わっていないことが判明した。Patti氏らが、高果糖食で飼育した動物の血液中の小分子について再調査したところ、リゾホスファチジルコリン(LPC)などのさまざまな脂質のレベルが上昇していることが確認された。また、肝細胞が果糖を代謝する過程でLPCを放出することも明らかになった。Patti氏は、「興味深いことに、がん細胞自体は適切な生化学的機構を発現していないため、果糖を栄養素として利用できなかった。しかし、肝細胞はそれが可能であり、果糖をLPCに変換して、それをがん細胞に栄養として供給することができる」と話している。 Patti氏は、「食事に含まれる果糖ががんの発症にどのような影響を及ぼすのかについて、今後、もっと多くのことが分かれば素晴らしいことだ」と言う。その一方で、「今回の研究で明らかになったメッセージの一つは、不幸にもがんに罹患した場合には、果糖の摂取を回避すべきだということだ。しかし、果糖はあまりにも多くの食品に含まれているため、残念ながら、『言うは易し行うは難し』というのが現実だ」と付け加えている。

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切除不能EGFR変異陽性StageIII非小細胞肺がんに対するCRT後オシメルチニブ:LAURA試験【肺がんインタビュー】第105回

第105回 切除不能EGFR変異陽性StageIII非小細胞肺がんに対するCRT後オシメルチニブ:LAURA試験切除不能EGFR変異陽性StageIII非小細胞肺がん(NSCLC)における化学放射線療法(CRT)後オシメルチニブを評価する第III相LAURA試験の日本人サブセットを含めた結果が発表された。試験概要、主要結果、そして視聴者からの質問に対して共同研究者である神奈川県立がんセンターの加藤 晃史氏に解説いただいた。参考Shun Lu, et al. Osimertinib after Chemoradiotherapy in Stage III EGFR-Mutated NSCLC. N Engl J Med.2024; 391:585-597.

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順天堂大学医学部 乳腺腫瘍学講座【大学医局紹介~がん診療編】

九冨 五郎 氏(主任教授)佐々木 律子 氏(助教)板倉 萌 氏(専攻医)講座の基本情報医局独自の取り組み・特徴順天堂大学乳腺腫瘍学講座は、日本でも数少ない乳腺外科と乳腺内科で構成されている講座です。乳腺診療、とくに乳がん治療においては外科手術と薬物療法は2大治療ツールとされていますが、外科と内科が講座内で連携を取りながら日々診療・研究・教育に取り組んでいます。順天堂大学附属順天堂医院においては、2006年に大学病院では初めて乳腺センターが設立され、センターの診療において中心的な役割を果たしています。順天堂医院の乳腺センターはほかの関連診療科や診療部門と密に連携を取りながら、Patient Firstの精神で1人ひとりの患者さんに寄り添いながら最高の医療を届けられるように日々努力を続けています。当院における乳腺センターの取り組みは日本だけではなく海外からも評価を受け、毎年数多くの見学者を受け入れております。外科治療においては、最先端の機器を用いて新しい治療に取り組んでいます。縮小化にシフトしている外科治療の中でも手術で救える症例は確固たる技術で助けるというコンセプトで皆が精進しています。薬物療法に関しては、最新の臨床試験に数多く参加して最先端の治療を行っています。薬剤選択や薬剤の副作用マネージメントのみならず、再発症例においてはトータルマネージメント(治療、ACP、緩和等)を念頭に診療にあたっています。医局カンファレンス・外来カンファレンスの様子講座の研修先としての魅力 (1)豊富な症例数手術件数は本院で約500件、分院 (練馬・浦安・静岡)と併せて1,000件を超えています。年間の本院での化学療法実施数は3,864件(2023年度)で、治験も多数実施しています。(2)他科・多職種連携が充実診断から治療まで、放射線診断・治療医、病理医、形成外科医 (自家組織および人工乳房再建術)、臨床遺伝専門医 (遺伝カウンセリング外来併設)、腫瘍内科医(がん遺伝子パネル検査)、産科医 (妊孕性温存はリプロダクションセンターと連携)、認定看護師、乳腺科専属超音波技師、がん治療認定薬剤師とチーム医療を実践しています。(3)指導層の充実、各分野のエキスパートによる指導外科分野以外に腫瘍内科と遺伝診療の指導医が在籍。大学院では、幅広い基礎・臨床講座、連携研究施設との共同研究が可能です。医局の雰囲気指導医との距離が近く、相談しやすい雰囲気が特徴です。日常診療に加えて、学会発表や論文執筆の機会も積極的に提供されており、充実したサポート体制が整っています。また、最新の治療情報の共有も活発です。さらに、医師としての成長だけではなく、プライベートとの両立も重視しています。性別や年齢を問わず、ワークライフバランスのとれた勤務環境は、サステナブルな医局運営に繋がると考えています。医学生/初期研修医へのメッセージ~当科で乳腺診療医の基礎を築きませんか~乳腺診療医の魅力は多岐にわたりますが、まず強調したいことは、その社会的ニーズの高さです。乳がんは女性が最も罹患する悪性腫瘍で、年々患者数が増加している一方で、乳腺専門医は全国的に不足しています。ニーズがあるため、乳がん治療は日々進化しています。個々の患者にとって最適な治療を考え、寄り添う新たな仲間をお待ちしています。また、乳腺診療は医師自身のライフステージに合わせて柔軟に関われる点も大きな魅力です。医師のキャリアは、専門医取得を目指す最初の10年が注目されがちですが、実際には定年まで40年近い長い道のりがあります。乳腺診療は、その期間を通じて、臨床や研究など多様な形で関わる可能性を広げられる分野です。その第一歩をふみだす環境として最適な当医局で、研鑽を積み、ぜひ一緒に乳腺診療の未来を築きましょう。気軽に見学へお越しください!これまでの経歴順天堂大学医学部を卒業後、順天堂大学医学部附属静岡病院で初期研修を2年間行いました。初期研修開始時には内科志望でしたが、ローテーションで外科を回った際に手術の楽しさを知り、外科系の診療科へ興味が出てきました。診断から手術、薬物治療、緩和治療と一貫して患者さんに関わることができる点や、女性医師の需要が高い科である点に魅力を感じ、乳腺科を志望しました。同医局を選んだ理由順天堂大学に入局を決めた理由としては、母校であることに加え、手術件数が多く外科専門医や乳腺専門医を取得するための十分な症例数があること、大学病院として治験や研究に積極的であることが魅力的でした。私は同大学出身ですが、他大学出身者の医局員も多く、学閥もなく和気藹々とした雰囲気がある点も当医局の強みと感じています。現在学んでいること入局2年目までは、初期研修先である順天堂大学医学部附属静岡病院の消化器外科で外科の基礎を学ばせていただき、3年目から乳腺に主軸をおいた診療に携わっています。症例の相談もしやすい環境にあり、外来診療や手術、病棟管理を通じて上級医の先生方のご指導のもと、研鑽を積ませていただいています。毎年の学会発表や論文執筆も熱心にご指導いただきました。現在は大学院に入学し、研究に励む日々を送っています。乳腺科にご興味がある方はぜひ見学にいらしてください!順天堂大学医学部 乳腺腫瘍学講座住所〒113-8431 東京都文京区本郷3-1-3問い合わせ先rt-sasaki@juntendo.ac.jp(医局長 佐々木 律子)breast-office@juntendo.ac.jp(医局秘書)医局ホームページ順天堂大学医学部乳腺腫瘍学講座【乳腺腫瘍学】順天堂大学医学部附属順天堂医院乳腺科(乳腺センター)専門医・認定医取得実績のある学会日本外科学会日本乳癌学会日本癌治療学会日本乳房オンコプラスティックサージャリー学会日本人類遺伝学会日本遺伝性腫瘍学会研修プログラムの特徴(1)外科および乳腺専門医取得に必要な症例が十分経験できる(2)乳がんの診断から外科・薬物・放射線療法、そして緩和ケアまで網羅的に経験を積める(3)乳がん診療を提供するさまざまな領域のエキスパートが在籍しており、最新の情報を入手することができる詳細はこちら順天堂大学医学部附属順天堂医院臨床研修センター 専門研修プログラム

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第128回 年末年始、インフルエンザ・新型コロナの大流行が直撃

インフルエンザの流行曲線がヤバイさて毎年のように感染症に警戒しなければならない年末。昨シーズンは、新型コロナもインフルエンザも年明けからわりと流行していましたが、今シーズンはインフルエンザの流行曲線がほぼ直角に上がっています。第50週で19.06人。定点医療機関あたりの感染者数が5週間で1から一気にここまで上がりました(図)。やべえ!画像を拡大する図. インフルエンザとCOVID-19の定点医療機関あたりの感染者数(筆者作成)1)外来でも、インフル陽性、インフル陽性、新型コロナ陽性、インフル陽性…といった感じで報告が上がっていて、時折混ざってくる新型コロナにドキっとする日々です。幸いマイコプラズマは当地域では徐々に減ってきており、もともと風邪症状や気管支炎止まりのことが多いため、全体として入院を逼迫するような要因にはなっていません。マイコプラズマの感染者が若い人が中心、という理由もあるでしょう。しかし、インフルエンザや新型コロナに関しては、高齢者が罹患すると、わりと入院が必要になります。年末年始はまた大変なことになるのかなあと身構えています。新型コロナもじわじわ増えており、第50週で3.89人です。過去、この立ち上がりから流行を迎えなかったことはありません。ですから、ほどなく新型コロナも注意報レベルになることも既定路線でしょう。2年連続、同時流行。乾燥している病院インフルエンザウイルスは、相対湿度が40%を超えるとウイルスの活性化率が急速に低下することが知られています2)。ゆえに、医療機関においても40%ラインは確保したいところ。新型コロナも同様です。121ヵ国の気象データと新型コロナの感染者数・死亡者数を調べたアメリカのデータによると、室内の相対湿度を40~60%に維持することで、新型コロナの感染だけでなく、ひいては死亡者数まで低下するという研究結果が報告されています3)。温度環境は良好に管理されているものの、相対湿度については、多くの医療機関や高齢者福祉施設では40%を下回っています。そもそも、湿度をしっかり管理している病院って多くないかもしれません。レジオネラなどの院内アウトブレイクがあったら問題になりますし、加湿器はなかなか置けないかもしれませんね。参考文献・参考サイト1)厚生労働省:インフルエンザ・新型コロナウイルス感染症の定点当たり報告数の推移2)Noti JD, et al. High Humidity Leads to Loss of Infectious Influenza Virus from Simulated Coughs. PLoS One. 2013;8(2):e57485.3)Verheyen CA, et al. Associations between indoor relative humidity and global COVID-19 outcomes. J R Soc Interface. 2022;19(196):20210865.

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日本のメモリークリニックにおける聴覚障害や社会的関係とBPSDとの関連性

 認知症の行動・心理症状(BPSD)は、認知症患者とその介護者のQOLに悪影響を及ぼす。そのため、BPSDを予防するための修正可能なリスク因子を特定することは、非常に重要である。滋賀医科大学の田中 早貴氏らは、聴覚障害、社会的関係とBPSDとの関連を調査するため、横断的研究を実施した。Psychogeriatrics誌2025年1月号の報告。 対象は、2023年7月~2024年3月に日本のメモリークリニックを受診した患者179例。純音聴力検査および質問票によるインタビューを行い、医療記録をレビューした。聴覚障害の定義は、聴力がより良好な耳における純音聴力検査で測定された平均聴力レベル40dB以上とした。BPSDの有無および重症度の評価には、BPSD25Qベースの質問票を用いた。交絡因子で調整したのち、聴覚障害、社会的関係指標とBPSDの有無および重症度との関連を評価するため、部分回帰係数を算出する多重回帰分析を行った。 主な結果は以下のとおり。・分析対象患者は144例(平均年齢:82.7歳、女性の割合:66.7%[96例])。・多重回帰分析では、聴覚障害患者は、他人と同居している非聴覚障害患者と比較し、他人との同居(β=1.49、p=0.038)または独居(β=2.23、p=0.044)にかかわらず、BPSDの発生率が高かった。・聴覚障害患者の定期的に会話している(β=1.51、p=0.027)または社会的交流に参加していない患者(β=2.02、p=0.020)は、同様の状況にある非聴覚障害患者と比較し、BPSDの発生率が高かった。・同様に、聴覚障害患者の独居(β=4.54、p=0.033)および社会的交流が欠如した患者(β=3.89、p=0.020)では、BPSDの重症度に上昇が認められた。 著者らは「聴覚障害患者では、独居および社会的交流の欠如は、BPSDの発生および重症度の両方に関連していることが示唆された。さらに、聴覚障害患者は、同居家族や他人との会話を通じたコミュニケーションの増加により、BPSDの発生率が上昇する可能性がある。コミュニケーションによるストレスを軽減し、社会的つながりを維持することは、これらの課題を解決するうえで、不可欠であろう」と結論付けている。

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中等~重度の椎骨脳底動脈閉塞、血管内治療vs.内科的治療/Lancet

 中等度~重度の症状を呈する椎骨脳底動脈閉塞患者において、標準的な内科的治療と比較して血管内治療は強固な有益性を示し、良好な機能的アウトカムの達成の可能性が高く、症候性頭蓋内出血のリスクは有意に増加するものの、全体的な機能障害および死亡率の有意な減少と関連することが、米国・ピッツバーグ大学のRaul G. Nogueira氏らが実施した「VERITAS研究」で明らかとなった。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2024年12月11日号で報告された。4つの試験のメタ解析 研究グループは、急性椎骨脳底動脈閉塞患者における血管内治療の安全性と有効性を評価するために、標準的な内科的治療(対照)と比較した無作為化試験の系統的レビューを行い、患者レベルのデータを統合したメタ解析により、事前に規定したサブグループにおける有益性を検討した(特定の研究助成は受けていない)。 2010年1月1日~2023年9月1日に実施された無作為化試験の中から4つの試験(ATTENTION、BAOCHE、BASICS、BEST)を選出した。 主要アウトカムは、90日後の良好な機能状態(修正Rankin尺度[mRS]スコア[0~6点、高点数ほど機能状態が不良、6点は死亡]が0~3点)とした。安全性のアウトカムとして、症候性頭蓋内出血と90日死亡率を評価した。90日mRSスコア0~3点達成率:45% vs.30% 4試験の参加者988例のデータを統合した。血管内治療群は556例(56%)、対照群は432例(44%)であった。全体の年齢中央値は67歳(四分位範囲:58~74)、686例(69%)が男性だった。904例(91%)が脳卒中の推定発症時から12時間以内に無作為化された。3試験は中国人が対象で、988例中690例(70%)を占めた。1試験は欧州人とブラジル人を対象としていた。 良好な機能状態を達成した患者の割合は対照群よりも血管内治療群で高く、90日時にmRSスコア0~3点を達成した患者は、対照群が30%(128例)であったのに対し、血管内治療群は45%(251例)であった(補正後共通オッズ比[OR]:2.41、95%信頼区間[CI]:1.78~3.26、p<0.0001)。 血管内治療群は機能的自立度(mRSスコア0~2点の達成率)が高かった(血管内治療群35%[194例]vs.対照群21%[89例]、補正後共通OR:2.52、95%CI:1.82~3.48、p<0.0001)。また、血管内治療群で症候性頭蓋内出血のリスクが有意に高かった(5%[30例]vs.<1%[2例]、11.98、2.82~50.81、p<0.0001)にもかかわらず、全体的な機能障害の程度(2.09、1.61~2.71、p<0.0001)および90日死亡率(36% vs.45%、0.60、0.45~0.80、p<0.0001)は有意に低かった。心房細動や頭蓋内動脈硬化の有無にかかわらず有益 血管内治療の効果の異質性は、ベースラインの脳卒中重症度(ベースラインのNIHSSスコアが10点未満では効果が不確実)および閉塞部位(閉塞部位が近位であるほど有益性が大きい)については認められたが、年齢、性別、ベースラインの後方循環ASPECTSスコア、心房細動または頭蓋内アテローム性動脈硬化性疾患の有無、発症から画像診断までの時間で定義されたサブグループではみられなかった。 著者は、「アジア人は頭蓋内動脈硬化性疾患の発生率が高いことが知られているため、今回の知見の欧米諸国に対する一般化可能性について考慮する必要がある」「脳卒中重症度が軽度で、神経画像上広範な梗塞を呈する椎骨脳底動脈閉塞症患者に対する血管内治療の有益性はまだ不明であるが、これらの結果により椎骨脳底動脈閉塞症のさまざまな患者において血管内治療の有意な臨床的有益性が示された」としている。

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一部の主要ながんによる死亡回避、予防が治療を上回る

 「1オンスの予防は1ポンドの治療に値する」は、米国の建国の父ベンジャミン・フランクリンの有名な格言の一つだが、がんに関してはそれが間違いなく当てはまるようだ。米国立がん研究所(NCI)がん対策・人口科学部門長のKatrina Goddard氏らによる新たな研究で、過去45年間に、がんの予防とスクリーニングによって子宮頸がんや大腸がんなど5種類のがんによる死亡の多くが回避されていたことが明らかになった。この研究の詳細は、「JAMA Oncology」に12月5日掲載された。 Goddard氏は、「多くの人が、治療法の進歩がこれら5種類のがんによる死亡率低下の主な要因だと考えているかもしれない。しかし、実際には、予防とスクリーニングが死亡率の低下に驚くほど大きく貢献している」と話す。さらに同氏は、「過去45年間に回避されたこれら5種類のがんによる死亡の10件中8件は、予防とスクリーニングの進歩によるものだ」と付け加えている。 この研究でGoddard氏らは、人口レベルのがん死亡率データを用い、Cancer Intervention and Surveillance Modeling Network(CISNET)が開発した既存のモデルを拡張して、1975年から2020年の間に回避された乳がん、子宮頸がん、大腸がん、肺がん、前立腺がんの累積死亡数に対する予防、スクリーニング(前がん病変の除去や早期発見)、および治療の寄与度を定量化した。介入としては、肺がんは喫煙量の削減による一次予防、子宮頸がんと大腸がんは全がん病変の除去を目的としたスクリーニング、乳がん、子宮頸がん、大腸がん、前立腺がんは早期発見、乳がん、大腸がん、肺がん、前立腺がんは治療の寄与度についてそれぞれ評価した。なお、研究グループによると、これら5種類のがんが、新たに診断されるがんと死亡者のほぼ半数を占めているという。 その結果、対象期間中に、予防、スクリーニング、および治療により、これら5種類のがん患者の推定594万人が、がんによる死亡を回避しており、このうちの80%(475万人)は、予防またはスクリーニングによる回避と推定された。介入の寄与度はがん種により異なっていた。乳がんでは、回避された死亡の25%(26万人)はスクリーニング(主にマンモグラフィー)によるものであり、残りの75%(77万人)は治療によるものであった。子宮頸がんでは、回避された死亡の100%(16万人)が、スクリーニング(パップテストやヒトパピローマウイルス〔HPV〕検査)と前がん病変の除去によるものであった。また、大腸がんでは、回避された死亡の79%(74万人)はスクリーニング(大腸内視鏡検査など)による早期発見や前がん性ポリープの除去によるもので、残りの21%(20万人)は治療の進歩によるものであった。さらに、肺がんでは、回避された死亡の98%(339万人)は喫煙量の削減によるものであり、前立腺がんでは、回避された死亡の56%(20万人)はスクリーニング(PSA検査)によるものであった。 こうした結果を受けてGoddard氏は、「これらの調査結果は、検討した全てのがん領域で強力な戦略とアプローチを継続する必要があることを示唆している。がんによる死亡率低下に役立つのは、治療の進歩と予防・スクリーニングの両方なのだ」と話している。研究グループは、HPVワクチン接種による子宮頸がん予防や胸部X線検査による肺がん検診などの新しい戦略により、近年、さらに多くの死亡が回避されている可能性が高いことを指摘している。これらの対策は、本研究期間中は普及していなかった。 研究論文の上席著者であるNCIがん予防部門長のPhilip Castle氏は、「これら5種類のがんの予防およびスクリーニングの普及と利用を最適化し、特に十分な医療を受けられていない人が恩恵を受けられるようにする必要がある。また、膵臓がんや卵巣がんなど、致命的になる可能性の高い他のがんによる死亡を回避するための新たな予防およびスクリーニング方法を開発する必要もある」と述べている。

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閉経後HRT(ホルモン補充療法)のビッグデータを用いたtarget trial emulation(標的模倣試験)の結果(解説:名郷直樹氏)

 閉経後のホルモン補充療法(hormone replacement therapy:HRT)は、かつて観察研究で心血管イベントを減らすがランダム化比較試験では増やすという真逆の結果が報告され、多くの論争を呼んだ。結論としては、RCTでは閉経直後でない多くの患者が対象とされていたり、ITT解析がなされていたりすることと、観察研究での実際に継続投与された患者での解析による選択バイアスや、観察研究では排除できない交絡によって、違いが出たとされている。さらに最近では、新しいホルモン製剤によるHRTが主流となっている現状もある。 そこで企画されたのが、閉経から間もない50~58歳を対象として、現在行われているHRTの効果を、ビッグデータを利用したtarget trial emulation(標的模倣試験)の手法で検討する研究である。標的を具体的に言えば、RCTに近い形で効果を観察研究でどう検討するかである。また模倣試験と呼ぶように、RCTを模倣することによって、従来の観察研究よりバイアスが少なく、さらにRCTより現実の患者に近い状況での検討を試みる試験である1)。エビデンス-プラクティスギャップを埋めるための第2世代の橋渡し研究(T2リサーチ)の1つともいえる。 通常の観察研究では、交絡因子以外にも、治療を開始したにもかかわらず服薬ができなかった人たちが除外されたり、以前より服薬を続けていた人たちが含まれていたり(選択バイアス)、イベントが起きない時間が追跡時間に含まれたり(immortal bias)などのバイアスがある。これらのバイアスを考慮するために、多変量解析や傾向スコアマッチングなどの手法で交絡因子を調整し、選択バイアスを少なくするためにITT解析を用いたり、介入行為の開始時点を明確にしてimmortal biasを排除したりすることが重要なポイントである。 実際の論文2)では、スウェーデンの公共の医療データを統合して利用し、HRTを開始された人と開始されていない人での心血管イベントを比較している。交絡因子の調整法が明記され、ITT解析とper-protocol解析の両方が行われ、介入の開始日を確認し、immortal biasについても考慮している。模倣の実際についてはTable1に詳細が記載されている。 結果は、tibolone群とHRTを開始していないグループとの比較で、ITT解析では、心血管疾患のハザード比(HR)が1.52(95%信頼区間[CI]:1.11~2.08)とリスク増加を示し、冠動脈疾患についてのHRと95%CIは、tibolone群で1.46(1.0~2.14)、エストロゲン+プロゲスチン群で1.21(1.0~1.46)と報告されている。静脈血栓症については、エストロゲン+プロゲスチン併用療法で1.61(1.35~1.92)、エストロゲン単独療法では1.57(1.02~2.44)とリスク増加を認めているが、tiboloneではリスク増加を認めていないという結果である。per-protocol解析での解析結果もほぼ同様である。 観察研究とRCTの結果の相違が問題となってから20年を経過したが、閉経後間もない50代を対象にし、現在使用されているHRTで検討しても、心血管疾患リスク増加が示された。ただ、tiboloneで静脈血栓症の増加が認められなかったように、使用するレジメによる違いについては今後の研究が待たれるところである。 ビッグデータを利用したtarget trial emulationの研究は、今後ますます増加していくことが予想される。より現実の患者に近い患者全体で検討できるという大きな利点がある一方、バイアスリスクについては従来の観察研究と同様な問題があり、論文の評価がより複雑化するという欠点もある。コホート研究や症例対照研究のように、観察研究の手法として多くの医療従事者に認知され日常的に読まれるようになるには、まだまだ時間が必要だろうし、むしろその批判的吟味は専門家に任せたほうがいいのかもしれない。

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GOMER、暴れる患者、対応困難な患者【救急外来・当直で魅せる問題解決コンピテンシー】第1回

GOMER、暴れる患者、対応困難な患者Point陰性感情をもたないようにして、コミュニケーション能力(傾聴と共感)を磨け。警察を呼ぶタイミングを知っておこう:暴力、器物損壊はただちに。それ以外は2段階方式で。身体拘束と薬物拘束は段階的に、人権意識をもって対処する。器質的疾患を見逃さないようにすべし。症例56歳男性。研修医の診察中に急に激高して暴れ始めた。目はどこかあちらの世界に飛んでいるようだ。家で奇声を上げたり、台所で排尿したりして、家人が心配で連れてきた。バイタルサインは血圧160/100mmHg、脈拍110回/分、呼吸数30回/分、体温38.2℃、SpO2 98%であった。落ち着くようにいっても聞く耳をもたない。本人は帰宅するというが、そのまま帰していいのだろうか。おさえておきたい基本のアプローチ対応困難な患者は、患者だけの問題ではないGOMER(Get Out of My ER)とは、「俺の救急室からとっとと出ていけ」という特定の患者を嫌う医療者の勝手な造語であり、使ってはいけない隠語だ。患者と馬が合わないのを患者のせいにするなんて医者の風上にも置けない。多くの人が苦手とする患者であってもうまく対応できてこそプロなのだ。difficult patient(良好な医師-患者関係を築けない患者)には、患者要因、医療者要因、環境要因などが挙げられる(図1)。図1 difficult patientが誕生するわけ画像を拡大する勝手に患者が悪いなんて決めつけてはいけない。以前医療過誤にあった家族をもつ患者であれば、医療者が誰も話を聞いてくれなかったつらい過去をもっており、医療不信になるのも当然だ。そんな患者に寄り添うには、事情がわからなくても「1に親切、2に親切、3に親切」に接するに限る。つらい思いでやっと救急室にたどり着いたのに、待ち時間は長く、暇そうな医療者が大声で笑い、コーヒーのいい匂いが漏れ出てきて、愛想のない受付や看護師が対応し、最後にコミュニケーションスキルが皆無の医者が出てきて、あなたの期待に全然応えなかったら…ハイ、あなたでも怒っている患者になりませんか?医者は偏見を捨てて、患者の訴えに傾聴し(医学的に間違っていてもすぐに否定してはいけない)、決めつけずに、愛情をもった態度で、患者中心のコミュニケーションを進め、共感を示すべし1)。どんな状況においても医者には大逆転できるhalo effectがあるんだから、「私はあなたの味方ですよ」オーラを全開に放って対応しよう。自分の感情をコントロールせよ医者が陰性感情をもつ場合は、自分の力が及ばない無力感こそが最大の敵である(表1)。表1 こんな患者に陰性感情をもってはダメ:誤診の宝庫画像を拡大する研修医にわけのわからない質問を受けると、イラッと来てしまうが、それは答えがわからないいらつきなんだよね。対処法がわからない、きちんと情報が取れない、それは何も患者が悪いわけではないと自覚しよう。自分の感情をコントロールし、偏見を捨てて、患者に変なレッテルを張らないようにしよう。陰性感情をもつと、診療が雑になり、誤診しやすくなってしまう。危ない患者、暴れる患者を予想する医療者の第六感を鍛えるのは大事。どんな患者が暴れ始めるのか早めに察知しよう(表2)。表2 危険を察知する画像を拡大する初期研修医2年目も終わりごろになれば、どの科のどの医者が危ないか第六感でわかってくる、その勘と相通じるとか通じないとか…。危険を察知したら、なるべく団体行動をとること。人を集めて、数がいることで抑止力になり得る。警備員を救急待合室に配置しておこう。多勢に無勢なのに暴れるなら、その患者は本物のせん妄なのかもしれない。治療を要する患者を見逃すな病気のせいでせん妄になり暴れている場合は、何が何でも患者の安全を優先して治療しないといけない。自傷他害の恐れがなく、判断能力(decision-making capacity)がしっかりしている場合は、患者の同意なく医療行為はできない。反対にどれか1つでもかけていたら、患者の安全のために抑制し治療が必要になる(図2)。decision-making capacityに関しては4つの要素を確認する(表3)2)。その際にはきちんとMMSEなど記録をしっかり残すこと。図2 治療を優先すべきとき画像を拡大する表3 decision-making capacityの4つの要素画像を拡大するせん妄患者の特徴は、急性発症で意識レベルが変動し、注意力散漫または意識障害を呈するものである。まるでキツネにつままれたように、まともになったり、変になったりする。バイタルサイン異常、とくに発熱に気をつける。新しい記憶の障害を伴う見当識障害を認めることが多い。古い記憶は保たれるため、名前や住所が言えても意識は大丈夫と思ってはいけない。暴れる患者の鑑別診断機能的なものは精神疾患や人格障害によるものが多い。治療可能な器質的疾患は見逃さないようにしたい。鑑別診断「FIND ME」と覚えよう(表4)。慢性硬膜下血腫の半数は精神症状で来院する。感染症や薬剤によるせん妄も多い。低血糖も3割は好戦的になるのだ3)。子供だって、お腹がすくと怒りっぽくなるよねぇ。表4 暴れる患者の鑑別診断 FIND ME画像を拡大する落ちてはいけない・落ちたくないPitfalls「そんな大声出すなら警察を呼びますよ」…大声をあげるだけでは警察は動かない警察を呼ぶのに許可はいらない。必要なときは、遠慮せずさっさと警察に助けを求めよう。ぎりぎりまで我慢すると、暴力はエスカレートしてくるので、早い段階で警察を呼ぶほうがいい。警察は誰か怪我をしたとき(暴行罪:刑法第208条、傷害罪:刑法第204条)や物が壊れた時(器物損壊罪:罪刑法第261 条)は素早く動いてくれる。敵もさるもの、大声くらいでは警察が来ないのを知っている。この程度で、「警察呼びますよ」なんていうと、「おりゃぁ、じゃ、呼んでみぃ、コルアァ」と火に油を注ぐ結果になっちゃうかもしれない。大声を出したくらいでは警察は動かない。公然わいせつ罪:刑法第174条、脅迫罪:刑法第222条、強要罪:刑法第223条「土下座しろ~」、名誉棄損罪:刑法第230条、侮辱罪:刑法第231条、威力業務妨害罪:刑法第234条「大声を出す」、恐喝罪:刑法第249条「お金は払わないぞ」、つきまとい行為:ストーカー規制法など罪状は数あれど、この程度では警察はすぐ来てくれない。これくらい病院自身で対応しなさいということ。そんな場合は、2段階警察呼び出し法を知っておこう(図3)。2回通告しても診療の邪魔をしてきて、ほかの患者の診療に支障が出る場合は、証拠を残しておけば、警察に助けを求められる。図3 2段階警察呼び出し法画像を拡大するPoint暴言・暴力、迷惑行為には早々に屈して、警察を呼ぼう身体拘束と薬物拘束を同時に行いましょう…はダメ!身体拘束や薬物拘束は、重大な人権侵害になる可能性があると、常に気を配ろう。自傷他害の恐れがある場合や見当識障害がありdecision-making capacityがない場合は、患者の安全のために拘束が許される。身体抑制に至った経緯と所見をしっかりカルテ記載すること。身体抑制で事足りる場合は、薬物抑制はしてはならない。したがって、身体抑制では患者の安全が保てないと判断した場合は、その理由と時間をカルテ記載し、段階的に薬物抑制が必要だった旨をカルテ記載すべし。Point身体抑制と薬物抑制は段階的に行い、人権意識をもって対処し、記録をしっかりすべしワンポイントレッスン言葉による鎮静言葉による鎮静は基本の基本。言葉による鎮静の10ヵ条を示す(表5)。表5 言葉による鎮静の10ヵ条画像を拡大する多くの場合、患者が自分の思いが医療者に通じないと思って騒いでいることが多い。言葉の鎮静は、相手の意見を十分聞くことが秘訣だ。平昌五輪のカーリング女子のように「そだねー」を連発し、相手の意見を承認するのがいい。医療者をなるべく集めておき、患者と医療者は2人きりにならないようにする。部屋のドアは開放し、出口側に自分を位置し、いざというときはさっと逃げられるようにする。身体抑制・薬物抑制身体抑制Tips、薬剤抑制Tipsを表6に示す。表6 身体抑制・薬物抑制Tips画像を拡大する必ず同時に行わないで、段階的に行い時間を記載する。身体抑制のみでは患者の安全が保てない場合に、薬物抑制を行ったというカルテ記載を必ず残すべし。薬物抑制はなるべく筋注がいい。静注だと点滴ライン確保時に、患者が暴れて針刺し事故になる危険がある。またジアゼパムの筋注は、残り少ない理性が吹っ飛んで余計暴れるので、しないほうがいい。勉強するための推奨文献New A, et al. Psy Clin North Am. 2017;40:397-410.Moukaddam N, et al. Psy Clin North Am. 2017;40:379-395.Moukaddam N, et al. Emerg Med Clin North Am. 2015;33:797-810.American Academy of Family Physician. Fam Pract Manag. 2019;26:32.参考1)Cannarella Lorenzetti R, et al. Am Fam Physician. 2013;87:419-425.2)Appelbaum PS. N Engl J Med. 2007;357:1834-1840.3)Malouf R, Brust JC. Ann Neurol. 1985;17:421-430.講師紹介

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ASH2024レポート

レポーター紹介はじめに2024年12月6日(金)~10日(火)の5日間にわたり、アメリカ合衆国カリフォルニア州サンディエゴにて、第66回米国血液学会(ASH)年次総会が開催されました。ASHは、全世界から約3万人の血液学の専門家が集う世界最大の血液学会のイベントであり、毎年、12月の初旬に開催されます。私は、2019年にフロリダ州オーランドで開催された第61回ASHに参加して以来、5年ぶりの現地参加となりました(2020年からはCOVID-19の世界的流行のため、On lineでの開催となり、以降、現地開催とともにOn lineでの参加が可能となっている)。3年前の2022年から、米国臨床腫瘍学会(ASCO)で発表された血液領域の注目演題のレポートをケアネットのDoctors'Picksのコーナーに寄稿していますが、ASCOにて口演に採択される血液がん関連の演題数は限られており、その中から10演題程度を選ぶ作業は比較的容易ですが、ASHの演題はすべて血液関連であり、口演の演題数だけでも1,000演題程度(ポスターは4,000演題程度)あり、その中から10演題選ぶのは至難の業でした。今回は、私の専門領域のリンパ系腫瘍(悪性リンパ腫と多発性骨髄腫)の演題から独断と偏見で10演題選びました。それでは、どのような演題が発表されたか各演題の概要にお目を通してください。なお、YouTubeチャンネルのEXPERT MINDでも、これらの演題を含む24演題の解説動画を2025年1月中旬から順次アップしておりますので、興味のある方は、そちらもご覧ください。びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)Five-Year Analysis of the POLARIX Study: Prolonged Follow-up Confirms Positive Impact of Polatuzumab Vedotin Plus Rituximab, Cyclophosphamide, Doxorubicin, and Prednisone (Pola-R-CHP) on Outcomes. (Abstract #469)POLARIX試験(初発のびまん性大細胞型リンパ腫[DLBCL] に対し、Pola-R-CHP療法とR-CHOP療法を比較したグローバル試験であり、主要評価項目のPFSにおいて、Pola-R-CHPが有意に優った試験)の結果をもとに、2年前から日本でも保険診療でPola-R-CHPが初発DLBCL患者に対し使用可能となっている。今回、そのPOLARIX試験の5年のフォローアップデータが示された。主要評価項目のPFSは、2年時点のHR0.73(95%CI:0.57-0.95)が、5年時点でHR0.77(0.62~0.97)となり、Pola-R-CHPのR-CHOPに対する有意性が維持されていた。副次評価項目のOSについては、2年時点でHR:0.94(0.65-1.37)であったが、5年時点ではHR:0.85(0.63-1.15)とK-M曲線において少し差が開きかけているデータであった。安全性については、両治療にほぼ差を認めず、Pola-R-CHP療法は初発DLBCLの新たな標準療法とみなせるデータが示されたと思われる。本試験はあと2年フォローが継続されるようで、OSにも有意差がみられることが期待される。A Randomized Phase 2, Investigator-Led Trial of Glofitamab-R-CHOP or Glofitamab-Polatuzumab Vedotin-R-CHP (COALITION) in Younger Patients with High Burden, High-Risk Large B-Cell Lymphoma Demonstrates Safety, Uncompromised Chemotherapy Intensity, a High Rate of Durable Remissions, and Unique FDG-PET Response Characteristics. (Abstract #582)IPIや組織型でハイリスクの初発DLBCL患者(IPI≧3あるいはNCCN-IPI≧4あるいはDH/TH)に対し、CD20/CD3二重抗体薬のglofitamab(Glofit)をPola-R-CHPとR-CHOPに併用した第2相ランダム化比較試験(COALITION試験)の結果が報告された。投与法は、Glofitを2サイクル目のDay8、Day15と3~6サイクル目のDay8に投与し、さらに地固めとしてGlofitのみを2サイクル追加した。各群40例ずつの患者がエントリーされた。安全性に関しては、ほぼ同等であり、CRSはどちらも約20%の患者でみられたがG1~2であり、ICANSはゼロであった。最良効果でのCMR率はどちらも98%であり、EOIでのcfDNAを用いたMRD陰性率は88%であった。2年時点のPFSは、どちらの群とも86%と、ハイリスクDLBCL患者に対する良好な治療成績が示された。以上の結果を基に、さらに症例数を増やした試験が実施される予定である。濾胞性リンパ腫(FL) Single-Agent Mosunetuzumab Produces High Complete Response Rates in Patients with Newly Diagnosed Follicular Lymphoma: Primary Analysis of the Mithic-FL1 Trial. (Abstract #340)CD20XCD3二重抗体薬のmosunetuzumab(Mosun)を単剤で初発の濾胞性リンパ腫(FL)患者に投与した第2相Mithic-FL1試験の初めての解析結果が報告された。Mosunは、再発・難治FLに対し、海外ではすでに承認され、日本でも近々承認される薬剤である。特徴は投与スケジュールであり、1サイクル目Day1に5mg、Day8、15に45mg、2サイクル目からはDay1に45mg投与し、8サイクル終了後(6ヵ月間)にCRであればそこで治療を終了し、PRであれば9サイクル追加(約1年間)する固定期間の治療ということである。80例がエントリーされた。効果判定可能な76例のうち、ORRは96%、CRは80%であり、1年のPFSは91%という優れた治療成績が示され、免疫化学療法の成績に劣らなかった。安全性ではCRSが54%にみられ、G2は3%のみであった。初発FLに対して二重抗体薬のみで免疫化学療法と同等の治療効果が得られる可能性が示されたことでFLの今後の治療はケモフリーの方向に進んで行くと思われた。Loncastuximab Tesirine with Rituximab Induces Robust and Durable Complete Metabolic Responses in High-Risk Relapsed/Refractory Follicular Lymphoma.(Abstract #337)抗CD19抗体に抗がん剤のPBD dimer cytotoxinを結合した新規のADC薬のLoncastuximab Tesirine(Lonca)とリツキシマブによる再発・難治FLに対する臨床試験の成績である。Loncaはすでに海外で2ライン以上の治療歴のあるR/R DLBCLに対し単剤での使用が認められており、開発試験の成績では14例に対し、ORR 78.6%、CR 64.3%であった。投与スケジュールは1~2サイクル目にLonca+R、3・4サイクル目にLoncaのみを投与し、PR以上であれば、Lonca+Rを3サイクル追加し(維持療法1)、CRであればRのみ、PRであればLonca+Rを6サイクル追加する(維持療法2)。39例の患者がエントリーされ、POD24の症例は20例であり、3ライン以上の前治療歴のある症例は11例であった。最良治療効果のORR 97.4%、CR 76.9%であり、12ヵ月時点でのPFSは94.6%であった。有害事象もほとんどがG1~2であり、安全性も問題なかった。Lonca+RもR/R FLに対する新たな選択肢となりうる可能性が示された。マントル細胞リンパ腫(MCL)Ibrutinib-rituximab is superior to rituximab-chemotherapy in previously untreated older mantle cell lymphoma patients. Results from the international randomised controlled trial, Enrich.(Abstract #235)マントル細胞リンパ腫(MCL)は、難治性のリンパ腫であり、寛解・再燃を繰り返す。これまでは、初発MCLに対しリツキシマブと抗がん剤を併用する免疫化学療法(CIT)が標準療法として実施されてきたが、BTK阻害薬が登場し治療戦略が変わりつつある。本発表では、高齢の初発MCL患者に対し、BTK阻害薬のイブルチニブとリツキシマブを併用したIR療法と従来のCITを比較した第III相試験(Enrich試験)の結果が報告された。IR群:199例、免疫化学療法群(RBかR-CHOP)198例がエントリーされた。主要評価項目のPFS中央値は、IR群65.3ヵ月、免疫化学療法群42.4ヵ月であり、HRは0.69(0.52~0.90)と有意にIR療法が優れていた。ただし、免疫化学療法の治療法別では、R-CHOPとのHRは0.37(0.22-0.62)であったが、RBとのHRは0.91(0.66~1.25)と差がみられなかった。また、Blastoid-typeのMCLに対してはRBとのHRは2.33(0.83~6.52)とIRの治療成績が劣ることも示されている。IRはケモフリー治療として初発MCL患者に対する1つの選択肢となり得る。Lack of Benefit of Autologous Hematopoietic Cell Transplantation (auto-HCT) in Mantle Cell Lymphoma (MCL) Patients (pts) in First Complete Remission (CR) with Undetectable Minimal Residual Disease (uMRD): Initial Report from the ECOG-ACRIN EA4151 Phase 3 Randomized Trial.(Abstract #LBA6)若年の初発MCL患者に対しては、第一寛解期に自家移植併用大量化学療法(ASCT)が行われることが標準療法とされてきたが、リツキシマブやイブルチニブによる維持療法を追加することで、ASCTが不要となる可能性が示されてきている。本試験でも、寛解導入療法によって微小残存病変(MRD)が陰性となった患者において、リツキシマブによる3年間の維持療法を行うことで、ASCTをスキップ可能かどうかが前向きに検証された。寛解導入治療によって、MRD陰性となった患者をASCT+R-m(A)群とR-m単独(B)群にランダム化し、主要評価項目としてOSが評価された。A群257例、B群259例がエントリーされた。2.7年の追跡期間で、HR 0.984と両群にまったく差がみられず、MIPI-cでHighリスクの症例でも同様であった。このことから、寛解導入療法でMRD陰性となったMCL患者においてはASCTを行う必要はなくなったという結果が示された。これから長期のフォローが必要だが、MCLの治療においてもMRD陰性が治療目標になることが示された。慢性リンパ性白血病(CLL)Fixed-Duration Acalabrutinib Plus Venetoclax with or without Obinutuzumab Versus Chemoimmunotherapy for First-Line Treatment of Chronic Lymphocytic Leukemia: Interim Analysis of the Multicenter, Open-Label, Randomized, Phase 3 AMPLIFY Trial.(Abstract #1009)初発の慢性リンパ性白血病(CLL)に対し、BTK阻害薬アカラブルチニブ+BCL2阻害薬ベネトクラクス±抗CD20抗体薬オビヌツズマブ併用治療(AV±O)を固定期間(14ヵ月)で行う治療と従来の免疫化学療法(FCRかBRのどちらかを選択)を比較した第III相試験(AMPLIFY試験)の中間解析結果が報告された。エントリーされた患者は、AV群291例、AVO群286例、FCR群143例、BR群147例であった。主要評価項目はAV群と免疫化学療法群のPFSの比較であった。結果は、PFS中央値が、AV群未達、免疫化学療法群47.6ヵ月でHR 0.65(0.49~0.87)と有意にAV群が優った。AVO群の免疫化学療法群に対するHRは0.42(0.30~0.59)とさらに良好であり、MRD陰性化率もAVO>免疫化学療法であったが、本試験の実施中にCOVID-19のパンデミックがあり、AVO群でCOVID-19による死亡、治療中止が最も多かったということも示された。固定期間のAVあるいはAVO療法が免疫化学療法よりも有用であることが初めて示された。感染症の観点からはAV>AVOと思われるが、現在日本で使用可能なAOの固定期間治療の有用性は、これから検証する必要がある。多発性骨髄腫(MM)Sustained MRD Negativity for Three Years Can Guide Discontinuation of Lenalidomide Maintenance after ASCT in Multiple Myeloma: Results from a Prospective Cohort Study.(Abstract #361)初発多発性骨髄腫(MM)の治療では、自家移植併用大量化学療法(ASCT)を行い、レナリドミドにて維持療法を行うのが標準療法となっている。また、MRD陰性が持続することが長期のPFSを得るためには必要な条件となっているが、いつまでレナリドミドを投与すべきか、あるいはレナリドミドを中止できる条件などは明らかではない。本試験では、レナリドミドによる維持療法を3年間行い、その期間、MRD陰性を確認できた患者に対し、レナリドミドを一旦中止し、その後のMRDを6ヵ月ごとにフォローする前向き試験の結果が報告された。52例のMM患者がエントリーされた。中央値3年間のフォロー期間で、12例(23%)がMRD陰性⇒MRD陽性となり(中央値27.5ヵ月にて)レナリドミドが再開された。4例(7.6%)がPDとなった。1例がMM以外で死亡された。Treatment-free survivalは、93.9%(@1年)、91.6%(@2年)、75.8%(@3年)であった。また、7年のPFSは90.2%であった。以上より、ASCT後、レナリドミド維持療法による3年間のMRD陰性持続が治療中止の条件として妥当と考えられた。Phase 3 Randomized Study of Daratumumab Monotherapy Versus Active Monitoring in Patients with High-Risk Smoldering Multiple Myeloma: Primary Results of the Aquila Study.(Abstract #773)くすぶり型骨髄腫(MM)に対し、これまでは治療介入せずに注意深く経過観察を行うことが推奨されてきた。本試験(AQUILA試験)では、ハイリスクのくすぶり型MMに対し、ダラツムマブ皮下注単剤治療を導入する群と注意深く経過観察する群に分けて、SLiM-CRABの所見を認めるまでの期間(PFS)を比較している。Dara群:194例、観察群:196例がエントリーされた。有害事象のためDaraが中止となったのは13例(6.7%)であり、Daraが安全な治療薬であることが示された。追跡期間の中央値65.2ヵ月において、主要評価項目のPFSは、Dara群未達、観察群41.5ヵ月であり、HR 0.49(0.36~0.67)と有意にDara群でSLiM-CRABの所見に移行する患者が少なかった。また、骨髄腫の治療が開始されるまでの期間もDara群で有意に長く、さらに、骨髄腫の最初の治療の効果(PFS、OS)は観察群で有意に不良であることも示された。以上の結果から、ハイリスクのくすぶり型MMに対するDaraによる早期の治療介入が、今後の標準治療となることが示された。Previous HDM/ASCT adversely impacts PFS with BCMA-directed CAR-T cell therapy in multiple myeloma.(Abstract #79)多発性骨髄腫(MM)の初期治療は、ASCTを行うかどうかで治療方針が大きく分かれる。通常、65歳以下でPS良好の患者はASCTの適応となる。しかし、多くの患者ではやがて再発がみられ、次の治療が必要となる。再発MMに対しては、CAR-T細胞治療の有効性が示されている。本研究では、ASCT治療歴のあるMM患者に対するCAR-T治療の効果が検証されている。BCMA-CAR-T治療が行われたMM患者で、ASCT治療歴のある81例とASCT治療歴のない77例が比較された。寛解導入療法の治療効果は、両群で差を認めなかったが、CAR-T療法によるPFS中央値は9.9ヵ月(ASCT歴あり)と16.1ヵ月(ASCT歴なし)で、ASCT歴があるとCAR-T療法の効果が有意に悪いことが示された。ただし、OSへの影響は差がなかった。CAR-T療法の種類では、特に、Ide-celの効果が落ちることも示された。この結果のメカニズムの詳細は不明だが、CAR-T療法を行う可能性があるMM患者へのASCTの適応は慎重に考える必要があることが示唆された。おわりに今回、5年ぶりのASHへの現地参加であったが、これまでと変わらない参加者たちの熱気を感じ、on lineでの参加とは違う刺激を受けました。レポートしました10の演題は現地でも注目度が高く、会場が満席で、急遽、別室で中継される事態も発生していました。これらの発表を聞いていると、今後、リンパ系腫瘍の治療は、従来の化学療法剤(ケモ薬)を使用せず、分子標的薬と免疫療法(CAR-TやT細胞エンゲージャー)だけで治療する時代に変わっていくように感じました。ASHの参加費は年々高くなり、さらに円安の影響で学会参加費は、かなり高騰しています。また、アメリカは物価が高く、わずか5泊の滞在でしたが、ホテル代や食費もかなりの出費でした。今後、毎年、ASHに参加するのは難しいと思いましたが、できれば、数年後に、また、現地参加してみたいと思っています。

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乾癬治療のデュークラバシチニブ、長期投与の有用性

 中等症~重症の局面型皮疹を有する乾癬において、3年間のデュークラバシチニブによる継続治療は安全かつ有効であることを、米国・カリフォルニア大学ロサンゼルス校のApril W. Armstrong氏らが、3試験(POETYK PSO-1、PSO-2、長期継続試験)の結果のプール解析を行い報告した。デュークラバシチニブ治療は3年間にわたり一貫した安全性プロファイルを示し、有害事象(AE)および重篤な有害事象(SAE)の発現率は、時間の経過とともに低下または同程度であった。結果を踏まえて著者は、「今回の結果は、中等症~重症の局面型皮疹を有する乾癬患者に対するデュークラバシチニブの長期安全性と有効性を、さらに支持するものであった」とまとめている。JAMA Dermatology誌オンライン版2024年11月27日号掲載の報告。 研究グループは、PSO-1、PSO-2試験(52週間の第III相無作為化二重盲検試験)、長期継続試験(PSO-1試験またはPSO-2試験を完了した被験者が対象)における、3年間(148週)のデュークラバシチニブの安全性と有効性を評価した。 対象は、中等症~重症の局面型皮疹を有する乾癬患者で、PSO-1、PSO-2試験における52週の治療を完了後、事前に指定された長期継続試験に登録が可能であった患者とした。長期継続試験の登録は、2019年8月12日に開始。世界的なCOVID-19パンデミックのピーク時に行われた。安全性および有効性の評価は2022年6月15日まで行われ、これらのデータは2024年6月28日まで解析された。 PSO-1、PSO-2試験では、患者をプラセボ群、デュークラバシチニブ群(6mgを1日1回)、アプレミラスト群(30mgを1日2回)に1対2対1の割合で無作為に割り付け投与した。長期継続試験に登録された患者は、非盲検下でデュークラバシチニブ6mgを1日1回投与された。 安全性のアウトカムは、デュークラバシチニブを1回以上投与された患者を対象に評価した。 有効性のアウトカムは、PSO-1、PSO-2試験の1日目からデュークラバシチニブ治療を受け、長期継続試験に組み入れられた患者を対象に、Psoriasis Area and Severity Index(PASI)75/90達成率、static Physician’s Global Assessment(sPGA)スコア0(消失)または1(ほぼ消失)達成率(sPGA 0/1達成率)などを評価した。 主な結果は以下のとおり。・1,519例がデュークラバシチニブを1回以上投与され、513例が長期継続試験に組み入れられた。・100人年当たりの曝露期間で調整した有害事象の発現率(EAIR)は、最初の1年間と3年間で減少または同程度であった。AEのEAIRはそれぞれ229.2、144.8で、SAEのEAIRはそれぞれ5.7、5.5、中止に至ったAEのEAIRはそれぞれ4.4、2.4、死亡のEAIRはそれぞれ0.2、0.3であった。・多くみられたAE(100人年当たりのEAIR≧5)の最初の1年間、3年間の発現率は、上咽頭炎がそれぞれ26.1、11.4で、COVID-19がそれぞれ0.5、8.0、上気道感染がそれぞれ13.4、6.2であった。・注目すべきAE(帯状疱疹、主要心血管イベント、悪性腫瘍など)のEAIRは、いずれも低く、最初の1年間と3年間で減少または同程度であった。・臨床的寛解は、3年にわたって維持された。PASI 75、PASI 90、sPGA 0/1の1年時と3年時の達成率は以下のとおりであった。 PASI 75:72.6%、73.2% PASI 90:45.6%、48.1% sPGA 0/1:58.1%、54.1%

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敗血症疑い患者の抗菌薬の期間短縮、PCTガイド下vs.CRPガイド下/JAMA

 敗血症が疑われる重篤な入院成人患者において、バイオマーカー(プロカルシトニン[PCT]とC反応性タンパク質[CRP])のモニタリングプロトコールによる抗菌薬投与期間の決定について、標準治療と比較してPCTガイド下では、安全に投与期間を短縮でき全死因死亡も有意に改善したが、CRPガイド下では投与期間について有意な差は示されず、全死因死亡は明らかな改善を確認することはできなかった。英国・マンチェスター大学のPaul Dark氏らADAPT-Sepsis Collaboratorsが、多施設共同介入隠蔽(intervention-concealed)無作為化試験「ADAPT-Sepsis試験」の結果を報告した。敗血症に対する抗菌薬投与の最適期間は不明確であり、投与中止の判断はバイオマーカー値に基づいて行われているが、その有効性および安全性の根拠は不明確なままであった。JAMA誌オンライン版2024年12月9日号掲載の報告。総抗菌薬投与期間(有効性)と全死因死亡(安全性)を評価 ADAPT-Sepsis試験は2018年1月1日~2024年6月5日に、英国国民保健サービス(NHS)の集中治療室(ICU)41ヵ所で行われた。敗血症が疑われ24時間以内に抗菌薬の静脈内投与を開始した、少なくとも72時間の投与継続の可能性がある18歳以上の成人患者2,760例を対象に、PCTまたはCRPの評価に基づく決定が抗菌薬期間を安全に短縮可能かどうかについて検証した。 被験者は、daily PCTガイド下プロトコール群(918例)、daily CRPガイド下プロトコール群(924例)、標準治療群(918例)に無作為に割り付けられた。 主要アウトカムは、無作為化から28日までの総抗菌薬投与期間(有効性)と全死因死亡(安全性)であった。副次アウトカムは、CCU(critical care unit)入室期間、入院期間データなどであった。90日全死因死亡も評価した。PCTガイド下の有効性、安全性を確認 無作為化された2,760例のベースライン特性は3群間で類似しており、平均年齢は60.2(SD 15.4)歳、男性60.3%であった。ほぼすべての患者が敗血症診断Sepsis-3基準を満たしていたと考えられ(SOFAスコア:7[四分位範囲:5~9])、敗血症患者は1,397例(50.8%)、敗血症性ショック患者は1,352例(49.2%)であった。 無作為化から28日までの総抗菌薬投与期間は、daily PCTガイド下プロトコール群が標準治療群と比較して有意に短縮した(平均期間:9.8日[SD 7.2]vs.10.7日[7.6]、平均群間差:0.88[95%信頼区間[CI]:0.19~1.58]、p=0.01)。一方、daily CRPガイド下プロトコール群は標準治療群と比較して、総抗菌薬投与期間について差はみられなかった(10.6日[SD 7.7]vs.10.7日[7.6]、平均群間差:0.09[95%CI:-0.60~0.79]、p=0.79)。 無作為化から28日までの全死因死亡について、daily PCTガイド下プロトコール群(全死因死亡率20.9%[184/879例])の標準治療群(19.4%[170/878例])に対する非劣性(非劣性マージンは5.4%)が示された(絶対群間差:1.57[95%CI:-2.18~5.32]、p=0.02)。daily CRPガイド下プロトコール群(全死因死亡率21.1%[184/874例])の標準治療群に対する非劣性は確証が得られなかった(絶対群間差:1.69[95%CI:-2.07~5.45]、p=0.03)。

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SGLT2iはDPP-4iより網膜症リスクを抑制する可能性―国内リアルワールド研究

 合併症未発症段階の日本人2型糖尿病患者に対する早期治療として、DPP-4阻害薬(DPP-4i)ではなくSGLT2阻害薬(SGLT2i)を用いることで、糖尿病網膜症発症リスクがより低下することを示唆するデータが報告された。千葉大学予防医学センターの越坂理也氏、同眼科の辰巳智章氏らの研究グループが、大規模リアルワールドデータを用いて行ったコホート研究の結果であり、詳細は「Diabetes Therapy」に9月30日掲載された。 SGLT2iは血糖降下作用に加えて、血圧や脂質などの糖尿病網膜症(以下、網膜症)のリスク因子を改善する作用を持ち、また網膜症に関する観察研究の結果が海外から報告されている。ただし日本人でのエビデンスは少なく、特に早期介入のエビデンスは国際的にも少ない。これを背景として越坂氏らは、健康保険組合の約1,700万人分の医療費請求情報および健診データが登録されている大規模データベース(JMDC Claims Database)を用いた解析を行った。 2015年1月から2022年9月末の期間にSGLT2iまたはDPP-4iの処方が開始されていた患者から、18歳未満、両剤併用、合併症(網膜症を含む細小血管症や大血管症)診断の記録、および1型糖尿病や妊娠糖尿病の患者などを除外した上で、傾向スコアマッチングにより背景因子の一致する各群1万166人を解析対象とした。SGLT2iまたはDPP-4iの処方開始日から網膜症(黄斑浮腫を含む)の発症、治療中断、患者データ最終日、または死亡のいずれか最も早い日まで追跡した。追跡開始時点において、平均年齢(約50歳)、男性の割合(同80%)、BMI(29kg/m2)、HbA1c(7.7%)は両群間に大きな差はなく、また喫煙者率、血圧、血清脂質、eGFR、チャールソン併存疾患指数、併用薬剤、医療機関の規模、追跡開始年などもよく一致しており、標準化平均差が0.05未満だった。 SGLT2i群は1万5,012人年の追跡で694人が網膜症を発症し、1,000人年当たりの罹患率は46.23だった。DPP-4i群は1万3,954人年の追跡で797人が網膜症を発症し、1,000人年当たりの罹患率は57.12だった。Cox比例ハザードモデルによる解析で、DPP-4i群に比較しSGLT2i群は網膜症発症リスクが有意に低いことが示された(ハザード比0.83〔95%信頼区間0.75~0.92〕、P=0.0003)。 患者背景別のサブグループ解析でも、おおむね全体解析と同様にSGLT2i群において網膜症発症リスクが有意に低いことが示された。ただし、65歳以上、HbA1cが7~8%の範囲、脂質低下薬またはレニン-アンジオテンシン系降圧薬の併用、およびベースライン時点で何らかの血糖降下薬が既に処方されていたケースでは、DPP-4i群とのリスク差が非有意だった。 著者らは、本研究を「合併症のない日本人2型糖尿病患者を対象に、網膜症リスクに対するSGLT2iとDPP-4iの影響の違いを検討した初の大規模研究」と位置づけている。研究の限界点として、健康保険組合のデータを用いたため高齢者の割合が低いこと、および残余交絡が存在する可能性などを挙げた上で、「SGLT2iが処方された患者はDPP-4iが処方された患者よりも網膜症リスクが低い可能性が示された」と結論。また、研究参加者が比較的若年で合併症がない集団であり、かつサブグループ解析では血糖や脂質・血圧に対して既に介入がなされていた群でリスク差が非有意であったことから、「より早期からのSGLT2iによる治療が網膜症抑止において有益と考えられる」と付け加えている。

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「クリスマス熱傷」にご注意を!【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第272回

「クリスマス熱傷」にご注意を!スイスのチューリッヒ大学病院で1971~2012年の41年間に、クリスマスツリーやアドベントリースの火災による重度の熱傷患者28人を治療した研究がありました。いや、そんな研究、あるんかい!Rohrer-Mirtschink S, et al.Major burn injuries associated with Christmas celebrations: a 41-year experience from Switzerland.Ann Burns Fire Disasters. 2015 Mar 31;28(1):71-5.この研究では、スイスではクリスマスツリーやアドベントリースにろうそくを灯す習慣があり、それが家庭内火災のリスクを高めているのではないかと書かれています。なるほど、確かにそれだと熱傷リスクは高そうですし、論文としてまとめたい気持ちもわかります。クリスマス熱傷28人の患者さんのうち、なんと4人(14%)が死亡しています。ガクブル、怖い。全体の61%が男性、39%が女性で、年齢は51~75歳が最も多く全体の53.6%を占めていました。熱傷の重症度を示すABSIスコアは、生存者群で平均6.5点、死亡者群で10.8点でした。全体の熱傷面積(TBSA)は生存者群で平均18.9%、死亡者群で45.2%でした。死亡している人は広範囲の皮膚をやられていますね…。火災の原因は89%がクリスマスツリー、11%がアドベントリースによるものでした。特徴的だったのは、火災の発生時期です。60.7%が1月4日以降の1月中に発生し、重症な事故も1月4日以降に集中していました。これは、クリスマスツリーが時間とともに乾燥し、燃えやすくなることが原因とされています。乾燥したツリーは通常の燃焼ではなく、爆発的な引火を起こし、数秒で部屋全体に火が広がる可能性があります。これを象徴する典型的なパターンは、燃えているツリーを運び出そうとした際の手と顔面の重度の熱傷を起こした事例です。研究者らは、クリスマス熱傷は比較的まれではあるものの、通常の家庭内火災よりも重症になる傾向があると指摘しています。スイスに行かれる際は、クリスマス熱傷にご注意ください!

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胃ろうは必要? 希望する家族・ためらう医療者【こんなときどうする?高齢者診療】第8回

CareNeTVスクール「Dr.樋口の老年医学オンラインサロン」で2024年11月に扱ったテーマ「ACPとよりよい意思決定のためのコミュニケーションスキル」から、高齢者診療に役立つトピックをお届けします。高齢者診療には、延命治療や心肺蘇生、生活場所の変更といった大きな決断がつきものです。今回はサロンメンバーが経験した胃ろう造設に関するケースを例に、よりよい意思決定支援につながる医療コミュニケーションのコツを探ります。85歳男性。進行した認知症により経口摂取が難しくなり、誤嚥性肺炎を繰り返し、栄養状態の悪化、体重減少が進んでいる。現在、本人の意向は確認できないが、家族は栄養状態の回復と誤嚥性肺炎の予防のために胃ろう造設を強く希望している。医療チームは、胃ろう造設による栄養状態回復や誤嚥予防が望めないことや造設によるデメリット・リスクが大きいと考え、家族の希望には添えないのではないかと悩んでいる。医療コミュニケーションのための3ステージ意思決定支援(Goals of Care)の場面では、患者や家族と話し合うための準備が不可欠です。米国コロンビア大学の中川俊一氏が提唱した3ステージプロトコル1)は、意思決定支援において多くの医療者が実践できるアプローチです。意思決定のプロセスを3つのステージに分けて順を追って進めることで、患者の価値観と家族のリソースに適した落としどころにたどり着きやすくなります。老年医学の5つのMも活用すると、以下のようになります。(1)病状説明5のM(Matters most、Mind、Mobility、Medication、Multi-complexity)を活用し、包括的に現状理解を深め、病状や予後を患者・家族に共有する(2)治療ゴールの設定患者・家族と治療・介入のゴールを設定する(3)治療オプションの相談2で設定したゴールに最も適したオプション(落としどころ)を提示・相談するひとつずつ見ていきましょう。病状説明のステージのゴールは、関係者全員(医療者・患者・家族など)が現状認識を共有することです。皆が持っている情報を統一することで、予後予測や治療への期待のズレを解消します。ここでのポイントは、現在の病状評価のプロセスに5つのMを活用すること。診断は、①情報収集②情報の統合と解釈③仮説としての暫定診断を繰り返す作業です。5つのMを用いて高齢者に頻度の高い事象の情報収集をすることで、患者の実態をより的確に把握し、診断の精度を高めることができます。それにより予後予測や今後の提案の質も高まります。治療ゴール設定のステージは、前の段階で共有した病状・現状認識をもとに、患者の価値観や優先順位を踏まえて、今後の治療やケアのゴールを設定するステップです。ここでのポイントは、「どのようなゴールを望むか」に加えて、「そのゴールが達成できない場合、何が許容できて、何が許容できないのか」を確認することです。信頼関係が築けている場合は、「どのような状態になったら、自分にとって耐え難い状況だと思いますか?」「もしこうなったら死んだほうがましという状況は何ですか?」といった質問も、患者が心の中で抱えている本音を引き出すきっかけになることがあります。患者本人の意向を直接聞くことができない場合には、「もし本人が現在の状況を理解していたら、何を望み、どのように感じているだろうか」といった問いを家族や親しい人にしてみることが必要です。最後のステージでは、これまでに明らかになった患者の価値観や治療ゴール、家族の意向を踏まえ、医療チームとしての推奨方針を明確に提示します。この段階では、選択肢ごとのメリット・デメリットや実現可能性を具体的に説明しながらも、患者にとって最も価値観に沿った治療オプションがどれであるのかを医療のプロとして明示しましょう。そして、その推奨に対する家族の意見や懸念を丁寧に聞き取り、必要に応じて選択肢を調整しながら、最終的に合意された治療方針を共有します。ステージを1つずつクリアしよう!今回のケースでは、家族は患者の存命を願うあまり、胃ろう造設による栄養状態の改善や誤嚥性肺炎の予防という、実は存在しないかもしれないメリットに注目している可能性があります。一方で、医療者は、胃ろう造設による経管栄養で期待できることの限界やリスクを理解しており、造設がもたらすデメリットやネガティブな転帰を懸念しています。この状況では、家族と医療者の間に認識の違いがあることが、意思決定を難しくしているのかもしれません。この場合はステージ1に戻りましょう。もう一度、現在の病状の共有(進行した認知症で、認知機能の回復が見込めない状態。その結果としての嚥下機能低下、合併症としての誤嚥性肺炎)と、治療的介入に期待できることの限界(進行した認知症患者に対しての胃ろう・経管栄養による誤嚥予防のエビデンスはないこと、栄養状態の改善に関するエビデンスも乏しいこと)などを共有し、家族と医療者の認識の違いを解消する必要があります。ステージ1をクリアしなければ次に進めないのです。現状共有をし直した後、ステージ2で、患者の希望や意向を踏まえて、再度治療ゴールを設定します。患者は認知機能の低下により、胃ろう造設に関する意思決定能力がないと判断されるため、「もし患者が現在の状況を理解できたとしたら、どのような希望や意向を持つだろうか」という視点で、患者の価値観を深く掘り下げていきます。ステージ1まで戻ることで、ステージ2で家族の意向が変わる可能性が生まれ、それに応じてステージ3で医療チームの推奨も変化し、最終的に患者の価値観に最も合った治療方針を見つけることができるでしょう。いかがでしょうか?3ステージプロトコルを使って対話を構成することで、意思決定に関わるコミュニケーションは格段にスムーズになるはずです。私を含めて、医師は対話のスキルを磨くことに苦手意識を持つ方が多いかもしれませんが、コミュニケーションは練習すれば必ず上達するスキルです。ぜひ、一緒に練習していきましょう! コミュニケーション向上の7ステップはオンラインサロンでオンラインサロンメンバー限定の講義では、コミュニケーションの練習を効率的かつ効果的に行うための7ステップを解説。外科的介入のときに押さえておきたい4つのゴールなどのすぐに活用できるトピックがご覧いただけます。参考1)中川俊一. 米国緩和ケア専門医が教える あなたのACPはなぜうまくいかないのか? . 2024.メジカルビュー社定価2,970円(税込)判型A5判頁数240頁発行2024年9月著者中川 俊一ご購入(電子版)はこちらご購入(電子版)はこちら紙の書籍の購入はこちら医書.jpでの電子版の購入方法はこちら紙の書籍の購入はこちら

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第246回 カロリー制限と抗老化作用の関連を担う胆汁酸を発見

カロリー制限と抗老化作用の関連を担う胆汁酸を発見現代は定期的な食事に重きが置かれていますが、古く古代より断食(カロリー制限)の効用が説かれています1)。また、古代(紀元前16世紀)のエジプトのパピルス古文書には浣腸やその他の治療として胆汁(bile)が使用されたとの記載があり、胆汁の重要な役割は古代の医師にとって自明の理だったようです2)。中国からの最新の研究成果により、古代より知られていたその2つの効能を関連付ける仕組みが判明しました。先週水曜日にNatureに掲載されたその研究の結果、カロリー制限が抗老化作用をもたらすことに胆汁酸の一種であるリトコール酸(LCA)が寄与すると判明しました3)。餌を減らした研究用の動物の寿命が伸びることが知られています。ヒトも同様の絶食で健康が改善するようです。しかし、カロリーを抑えた食事を長く続けられる人はおよそ皆無でしょう4)。そこで、ほぼ継続不可能なカロリー制限をせずとも、その効果を引き出すカロリー制限模倣化合物(CRM)を探す取り組みが始まっています。AMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)はCRMの有望な標的の1つです。AMPKはヒトを含め真核生物ならおよそ持ち合わせており、カロリー制限で活性化し、カロリー制限の効能になくてはならない分子です。たとえばカロリー制限のマウスの筋肉はAMPKが活発で、萎縮し難くなることが知られています5)。糖尿病薬メトホルミンやワインに含まれる植物成分レスベラトロールはAMPKを活性化するCRMであり、種々の生物の寿命や健康生存を伸ばしうることがわかっています。そういうCRM探しが進展する一方で、カロリー制限への代謝順応がどのような仕組みでAMPKを活性化して健康を維持し、寿命を伸ばすのかは不明瞭であり、多くの疑問が残っています。そこで中国のチームはカロリー制限で変化する特定の代謝産物がAMPKの調節に携わるかもしれないと当たりをつけて研究を始めました。まず初めにカロリー制限したマウスの血清のAMPK活性化作用を調べ、加熱しても損なわれずにAMPKを活性化しうる低分子量の代謝産物が確かに存在することが示されました。続いて、カロリーを制限したマウスとそうでないマウスの血中の1,200を超える代謝分子が解析され、カロリー制限で増える212の代謝産物が見つかりました。それらを培養細胞に与えて調べた結果、LCAがAMPKを活性化することが突き止められました。LCAは肝臓で作られる胆汁酸の2次代謝産物です。その前駆体であるコール酸(CA)やケノデオキシコール酸(CDCA)が肝臓から腸に移行し、そこで乳酸菌、クロストリジウム、真正細菌などの腸内細菌の手によってLCAが作られます。特筆すべきことに、LCAは絶食で増える血清の代謝産物の1つであることが健康なヒトの試験で示されています6)。カロリー制限していないマウスにLCA入りの水を与えたところ、どうやら代謝がより健康的になり、インスリン感受性が向上してミトコンドリアの性能や数が上向きました。また、体力も向上するようで、いつもの水を飲んだマウスに比べてより長く速く走れ、より強く握れるようになりました。LCAが老化と関連する衰えを解消しうることをそれらの結果は示唆しています6)。研究はさらに進み、LCAがAMPKを活性化する仕組みも判明しました。LCAはTULP3というタンパク質を受容体とし、LCAと結合したTULP3で活性化したサーチュイン遺伝子がAMPK活性化を導くことが解明されました7)。LCAに延命作用があるかどうかは微妙です。ショウジョウバエや線虫の寿命を延ばしたものの、マウスの検討では有意な延命効果は認められませんでした3,6)。ヒトと同じ哺乳類のマウスがLCAで延命しなかったことは興ざめ4)ですが、その効果がないと結論付けるのはまだ早いようです。ヒトで言えば中年のマウスで試しただけであり、より若いうちからLCAを与えてみるなどの種々の切り口での研究が必要です。中国の研究チームは先を急いでおり、サルでのLCAの効果を調べる研究をすでに開始しています4)。参考1)A bile acid could explain how calorie restriction slows ageing / Nature2)Erlinger S. Clin Liver Dis (Hoboken). 2022;20:33-44.3)Qu Q, et al. Nature. 2024 Dec 18. [Epub ahead of print]4)Restricting calories may extend life. Can this molecule do it without the hunger pangs? / Science 5)A bile acid may mimic caloric restriction / C&EN6)Fiamoncini F, et al. Front Nutr. 2022;9:932937.7)Qu Q, et al. Nature. 2024 Dec 18. [Epub ahead of print]

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DOACとスタチンの併用による出血リスク

 直接経口抗凝固薬(DOAC)はスタチンと併用されることが多い。しかし、DOACとアトルバスタチンまたはシンバスタチンの併用は、出血リスクを高める可能性が考えられている。それは、DOACがP-糖タンパク質の基質であり、CYP3A4により代謝されるが、アトルバスタチンとシンバスタチンもP-糖タンパク質の基質であり、CYP3A4により代謝されることから、両者が競合する可能性があるためである。しかし、これらの臨床的な影響は明らかになっていない。そこで、英国・ロンドン大学衛生熱帯医学大学院のAngel Ys Wong氏らの研究グループは、英国のデータベースを用いて、DOACとアトルバスタチンまたはシンバスタチンの併用と出血、心血管イベント、死亡との関連を検討した。その結果、DOACとアトルバスタチンまたはシンバスタチンには、臨床的な相互作用は認められなかった。ただし、アトルバスタチンまたはシンバスタチンを使用中にDOACの使用を開始した場合、出血や死亡のリスクが高かった。本研究結果は、British Journal of General Practice誌オンライン版2024年11月28日号で報告された。 本研究は、英国のClinical Practice Research Datalink(CPRD)Aurumデータベースを用いて、コホート研究とケースクロスオーバー研究に分けて実施した。コホート研究では、2011~19年に初めてDOACが処方された患者を対象とした。DOACとアトルバスタチンまたはシンバスタチンを併用した集団(アトルバスタチン群、シンバスタチン群)と、DOACとその他のスタチン(フルバスタチン、プラバスタチン、ロスバスタチン)を併用した集団(その他のスタチン群)に分類し、出血(消化管出血、頭蓋内出血、その他の出血)、心血管イベント(虚血性脳卒中、心筋梗塞、心血管死)、死亡のリスクを比較した。ケースクロスオーバー研究は、DOACまたはスタチン開始のタイミングが及ぼす影響について、患者自身をコントロールとして比較することを目的として実施した。対象は、DOACやスタチンの使用期間中に初めて出血、心血管イベント、死亡が認められた患者とした。 主な結果は以下のとおり。【コホート研究】・DOACが処方された患者は39万7,459例で、そのうちアトルバスタチンを併用した患者は7万318例、シンバスタチンを併用した患者は3万8,724例が抽出された。・アトルバスタチン群は、その他のスタチン群と比較して、出血、心血管イベント、死亡のいずれについてもリスクの有意な上昇はみられなかった。・シンバスタチン群は、その他のスタチン群と比較して、出血、心血管イベントのリスクの有意な上昇はみられなかった。死亡についてはシンバスタチン群でリスク上昇がみられたが(ハザード比[HR]:1.49、99%信頼区間[CI]:1.02~2.18)、年齢を詳細に調整することで、影響は減弱した(HR:1.44、99%CI:0.98~2.10)。【ケースクロスオーバー研究】・アトルバスタチン使用中にDOACの使用を開始した患者、シンバスタチン使用中にDOACの使用を開始した患者において、出血や死亡のリスクが上昇した。・DOAC使用中にアトルバスタチンの使用を開始した患者、DOACを使用中にシンバスタチンを使用した患者では、同様の傾向は認められなかった。 なお、ケースクロスオーバー研究において、スタチン使用中にDOACの使用を開始した患者で出血や死亡のリスクが高かったことについて、著者らは「薬物相互作用ではなく、DOAC開始時の患者の状態(臨床的脆弱性)が影響していると考えられる」と考察したが、「アトルバスタチンまたはシンバスタチン使用中にDOACの使用を開始する際は、出血や死亡のリスクが高いため注意が必要である」とも述べている。

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