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悪性黒色腫、深達度0.8mm以上で関連死リスク上昇

 原発腫瘍深達度(Breslow厚)1mm以下の悪性黒色腫による死亡リスクは、Breslow厚0.8~1.0mmの患者が同0.8mm未満の患者と比較して有意に高かったことが、オーストラリア・シドニー大学のSerigne N. Lo氏らによるレジストリコホート研究で示された。なお、悪性黒色腫以外による死亡リスクは同等であった。原発性皮膚悪性黒色腫を有する多くの患者は、腫瘍の厚さが薄く(1.0mm以下、すなわちpT1aおよびpT1b)、一般的に予後は良好と考えられているものの、1.0mm以下の腫瘍深達度と死亡リスクの関連についての明確な情報は限られていた。著者は、「今回の解析結果から、悪性黒色腫AJCC病期分類の改訂時にT1の閾値を1.0mmから0.8mmに変更することを考慮すべきであることが示唆された」と述べている。JAMA Dermatology誌オンライン版2024年12月11日号掲載の報告。 研究グループは、1982~2014年に浸潤性原発性皮膚悪性黒色腫と診断されたすべてのオーストラリア人のレジストリデータを解析し、悪性黒色腫による死亡率と悪性黒色腫以外による死亡率に関して、腫瘍深達度0.8mmを閾値として2群に分類して評価した。 データは、オーストラリアの8つの州および準州の住民ベースがんレジストリから抽出。データおよび死因は国家死亡統計(Australian National Death Index)から入手し、原発腫瘍深達度1.0mm以下の浸潤性原発性皮膚悪性黒色腫の初回診断成人を対象とした。 主要アウトカムは、悪性黒色腫による死亡と悪性黒色腫以外による死亡。競合リスク回帰分析と死因別解析を行い、腫瘍深達度別(0.8mm未満vs.0.8~1.0mm)に主要アウトカムを評価した。 主な結果は以下のとおり。・全体の被験者コホートは14万4,447例であった。年齢中央値56歳(範囲:18~101)、男性が7万8,014例(54.0%)。追跡期間中央値は15.0年(四分位範囲:9.5~23.3)。・診断後20年の悪性黒色腫による粗死亡率は、全コホート6.3%(95%信頼区間[CI]:6.1~6.5)、0.8mm未満群6.0%(5.7~6.2)、0.8~1.0mm群12.0%(11.4~12.6)であった。・診断後20年の悪性黒色腫特異的生存率は、全コホート91.9%(95%CI:91.6~92.1)、0.8mm未満群94.2%(94.0~94.4)、0.8~1.0mm群87.8%(87.3~88.3)であった。・多変量解析で、0.8~1.0mm群は0.8mm未満群と比較して、悪性黒色腫による死亡の絶対リスク(部分分布ハザード比[HR]:2.92、95%CI:2.74~3.12)および悪性黒色腫による死亡率(HR:2.98、95%CI:2.79~3.18)が有意に高かった。・悪性黒色腫以外による死亡リスクに、腫瘍深達度による違いはみられなかった(HR:0.99、95%CI:0.92~1.04)。

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炭水化物制限で糖尿病患者のβ細胞機能が改善

 2型糖尿病患者を対象に、炭水化物制限食と高炭水化物食で介入した結果、前者において膵β細胞機能が改善したとする論文が、「The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism」に10月22日掲載された。米アラバマ大学バーミンガム校のBarbara A. Gower氏らが行った、12週間にわたるランダム化比較試験の結果として報告された。 この研究は、エネルギー量が等しい炭水化物制限(carbohydrate-restricted;CR〔炭水化物由来のエネルギーが約9%、脂質由来が約65%〕)食と、高炭水化物(higher carbohydrate;HC〔炭水化物由来が約55%、脂質由来が約20%〕)食が、2型糖尿病患者のβ細胞機能に与える影響を比較するために実施された。対象は、糖尿病診断からの経過が10年以内でHbA1cが8%以下のインスリン療法を行っていない、アフリカ系米国人(African American;AA)および欧州系米国人(European American;EA)の成人2型糖尿病患者57人。なお、AAは人種的にβ細胞の脆弱性がEAより高いと考えられている。 介入前後のデータが欠落しておらず解析対象とされたのは51人(CR群25人、HC群26人)だった。ベースライン時において、年齢、性別の分布、BMI、HbA1c、およびβ細胞機能(disposition index;DI)に有意差はなかった。HbA1cは、CR群が6.9±0.72%、HC群が6.7±0.47%であり、糖代謝異常の程度は比較的軽度の患者群だった。 血糖降下薬は介入前に中止され、介入中に3日連続で空腹時血糖が200mg/dLを超えた場合には投薬が再開された。食事は全てを支給し、宅配サービスによって参加者の自宅に届けられた。ベースライン時点と介入12週間後に、75g経口ブドウ糖負荷試験およびアルギニンを用いたグルコースクランプ法にて、糖代謝と膵β細胞機能を評価した。 12週後、急性C-ペプチド反応(アルギニン投与開始30分以内の上昇)は、CR群ではHC群に比べて約2倍に増加し有意な群間差が認められたが、人種別に見た場合、EAでは有意差がなかった。最大C-ペプチド反応はCR群では22%有意に増加し、HC群との間に有意差が認められたが、人種別に見た場合、AAでは有意差がなかった。DIはCR群では32%有意に上昇したが、これを人種別に見た場合、EAでは有意差がなかった。 著者らは、「われわれの研究は、エネルギー量が等しいCR食が、HC食に比べて急性および最大C-ペプチド反応の双方を含む、β細胞機能の指標に有益な影響をもたらすことを示唆しており、臨床的に重要な結果と言える。CRの継続が困難な患者が存在する可能性がある点は否めないが、CR食によって、軽度の2型糖尿病患者は投薬を中止し食事を楽しみながら、β細胞機能を改善できるのではないか」と総括している。なお、AAとEAで反応に差が見られた点について、「この反応の差の一部は人種固有のβ細胞機能の違いに起因するものと考えられる」と説明している。

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2型糖尿病発症予防のためにダークチョコレートを毎日食べますか?(解説:住谷哲氏)

 チョコレートの主成分であるカカオには抗酸化物質の一種であるフラバノール(flavan-3-ol)が豊富に含まれている。抗酸化物質を含む食品を摂取することの健康ベネフィットはこれまでに多く報告されているが、本論文はダークチョコレートの摂取が2型糖尿病発症予防に関連することを大規模前向きコホート研究の結果を用いて明らかにした。 解析に用いたのは米国の医療従事者を対象としたNHS、NHSII、HPFSの3つの大規模前向きコホートであり、これまでにも多くの食品と健康ベネフィットとの関連を研究する目的で使用されてきている。解釈する際の注意点としては、対象がすべて医療従事者であり、さらにNHS、NHSIIは対象が看護師なので、全体として健康意識の高い女性を中心とした対象から得られた結果であることである。 結果は、ダークチョコレートを1 serving週5回以上摂取する群はそうでない群に比べて2型糖尿病の発症が21%減少していた。これは1 serving/週の摂取によって2型糖尿病の発症が3%減少することに相当する。一方でミルクチョコレートには、そのような関連は認められなかった。 筆者もチョコレートは好きなので朗報であるが、そもそもダークチョコレート(dark chocolate、ビターチョコレートbitter chocolateともいわれる)はどのようなチョコレートを指すのだろうか? またservingは日本ではなじみがないが欧米でよく使用される摂取量単位であり、チョコレート1 serving=約30gとされている。日本でのチョコレート販売量トップクラスの「明治」のホームページを見ると、「ダークチョコレートはカカオマス、ココアバター、砂糖、レシチン、香料などで作られたチョコレートです。カカオマスが40〜60%以上あり乳製品が入っていないため、カカオ独特の苦味と渋味、香りがあるのが特徴です。スイートチョコレートやビターチョコレートと呼ばれることもあります。さまざまな健康効果があることで注目されている高カカオチョコレートもダークチョコレートの一つで、一般的にカカオ分が70%以上のものを指します。」とある1)。カカオマスを40%以上含むチョコレート(理想的には70%以上)が一般にダークチョコレートと考えてよいようだ。昔からある明治ブラックチョコレート1枚50g(カカオ分35~40%含有)であれば2日に1枚食べる計算になる。 筆者の外来に通院している2型糖尿病患者さんが、ある時の外来で血糖コントロールが著明に悪化していることがあった。よくよく話を聞いてみるとテレビで脂肪肝の改善にはチョコレートが良い、と言っていたのでそれから毎日食べていたとのことであった。本論文の結果から、ダークチョコレートを毎日摂取することと2型糖尿病発症予防とに関連があることは明らかにされたが、因果関係は不明である。筆者としては、たまにチョコレートを食べるならミルクチョコレートではなく苦みのあるダークチョコレートにするくらいがちょうど良いように思われる。

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渡米7年目でも、Podcastで毎日英語の勉強【臨床留学通信 from Boston】第7回

渡米7年目でも、Podcastで毎日英語の勉強米国に7年もいれば英語は不自由なく話せると思われるかもしれませんが、実際はそうではありません。確かに臨床留学は研究留学に比べて英語を使う機会が格段に多く、話せないと話になりません。渡米してかなり苦労したのは事実ですが、医師になった後に、英語のシャワーを浴びるように英語漬けの環境に身を置けたのは良い経験でした。英語のレベルは、日本にいるだけでは到達はできなかったであろうところまで来たと思います。仕事をするうえでは、あらかじめ会話の内容を予想できることが多いためとくに問題はありません。ただ、日常会話では同僚が何を言っているのかよくわからないと感じることも時折あります。自宅では子供たちの教育上日本語をメインにしており、米国のニュースは一切流しません。病院でも疲れると「英語デトックス」と称して人があまりいないところで休憩することもあり、同僚と会話を楽しむことも少なかったので、正直なところ、自分の英語レベルは周りと比べてそれほど高くないと感じています。以前こちらの連載で、渡米前は英語の勉強を2~3時間を確保していたとお伝えしました。しかし、実践しようとしても、なかなか日常業務が忙しくて難しいかもしれません。私が最近やっていることは、主に車の通勤時間に、Podcastを活用し、循環器の最新知識を英語で学ぶことで、一石二鳥の時間活用を目指しています。私がとくにおすすめするPodcastは以下のとおりです。【循環器誌】JACC:former editor in chiefのValentin Fuster氏が、毎週すべてのoriginal articleやreviewを解説。ただしスペイン語なまりで、話すスピードは遅めです。1.5倍速で聴くのが良いです。AHAなどの学会に合わせて、著者と他のゲストスピーカーが会話するセッションもあります。網羅的に循環器の最近の流れを把握できます。Circulation on the Run:こちらもeditorたちが毎週いくつか簡単に論文内容を説明し、そのうちの1つの著者とディスカッションするもの。ESC TV today:欧州心臓病学会のPodcast。ホストの先生はアイルランドの方なので英語にややなまりあり。最初にいくつか最近掲載された論文を紹介し、トピックに沿ってディスカッションしています。2週間に1度の配信。JAMA Cardiology:こちらも著者との会話です。月に1度かそれ以下の更新なのが難点。【医学誌】NEJM:NEJM this weekという内容の紹介と、NEJM interviewsの2つが毎週あります。同様に、JAMAもclinical reviewとauthor interviewsがあります。【ACC関連】Eagle’s Eye ViewとACCEL LiteというPodcastが、英語がきれいで内容も最新のものがまとまっています。双方、1回分が10分以下で比較的短いので、いくつかまとめて聴きます。Medscape This Week in Cardiology:John Mandrola氏が、歯に衣着せぬ論調で最新の論文を紹介。英語もきれいです。CardioNerds:これは臨床留学を志す人必聴。米国の有名大学病院のcardiology fellowたちがほぼ毎週の頻度で40~50分ほど症例についてディスカッションし、supervisorがその病態の概説もするというもの。症例提示の仕方は参考になります。【一般的なニュース】 大統領選の前後はPBS News Hourを聴いていました。慣れたら1.5倍で聴き、(運転時は十分注意して)可能な限りシャドーイングをしてみてはいかがでしょうか。電車の時は聴くのに集中し、歩いている時は周りに人がいなければそこでシャドーイングするのが良いでしょう。聴くだけよりは口を動かしたほうが効果は高いと思います。なお科学的なテーマでは、Moment of Scienceがロングランでやっていて、transcriptもあるので、一つひとつの細かい単語を聴く癖を付けるのに効果的でした。科学的なテーマはTOEFL受験などでも必要だったため、このMoment of Scienceを聴いていました。1~2分と短いため、細かい単語の聴き取りや、ディクテーションにも良い教材になります。

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診療科別2024年下半期注目論文5選(消化器内科編)

Histological improvements following energy restriction and exercise: The role of insulin resistance in resolution of MASHMucinski JM, et al. J Hepatol. 2024;81:781-793.<MASHにおけるカロリー制限・運動療法の有用性>:肝臓、体組成、心肺フィットネスが大幅に改善代謝機能障害関連脂肪性肝炎(MASH)患者に対しカロリー制限、運動療法を同時に行うことにより肝臓、体組成、心肺フィットネスが大幅に改善することを証明しました。同治療によるMASH肝組織改善が、肝臓ではなく筋肉のインスリン感受性と関連していたことがとても興味深いです。Long-term liver-related outcomes and liver stiffness progression of statin usage in steatotic liver diseaseZhou XD, et al. Gut. 2024;73:1883-1892.<MASLDにおけるスタチンの有用性>:全死因死亡・肝関連有害事象発生を有意に低下国際共同研究で7,988例の代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)患者を平均4.6年観察。スタチンの使用は全死因死亡を76.7%、肝関連有害事象発生を62%低下させました。またスタチン使用は、フィブロスキャンで測定した肝硬度の進行も軽減させました。Alternating gemcitabine plus nab-paclitaxel and gemcitabine alone versus continuous gemcitabine plus nab-paclitaxel after induction treatment of metastatic pancreatic cancer (ALPACA): a multicentre, randomised, open-label, phase 2 trialDorman K, et al. Lancet Gastroenterol Hepatol. 2024;9:935-943.<ALPACA試験>:転移膵がんにおけるGEM+NabPTX減量療法の有用性と忍容性進行膵がんにおいてGEM+NabPTX療法は有害事象のため忍容性が問題となっていました。今回、 GEM+NabPTX を3サイクル実施後、 GEM+NabPTXとGEM単独投与を交互に行う減量レジメンが、従来の治療と同等の全生存期間と、より良好な忍容性を示すことが報告されました。[177Lu]Lu-DOTA-TATE plus long-acting octreotide versus high-dose long-acting octreotide for the treatment of newly diagnosed, advanced grade 2-3, well-differentiated, gastroenteropancreatic neuroendocrine tumours (NETTER-2): an open-label, randomised, phase 3 studySingh S, et al. Lancet. 2024;403:2807-2817.<NETTER-2試験>:進行NENに対する1次治療としてPRRTが有用これまで神経内分泌腫瘍(NEN)に対するPRRTは2次治療以降のレイトラインでの導入が推奨されてきましたが、本研究によりGrade2、3の高分化型NENにおいて1次治療でのPRRT早期導入の有用性が報告されました。Risk of colorectal neoplasia after removal of conventional adenomas and serrated polyps: a comprehensive evaluation of risk factors and surveillance use Polychronidis G, et al. Gut. 2024;73:1675-1683.<大腸がん・ポリープの再発予防>:高リスクの大腸ポリープは3年以内のサーベイランス大腸内視鏡が有益advanced adenomaのサーベイランスの最適な間隔は明らかではありませんでしたが、今回の報告では高リスクポリープが見つかった患者は、その後の大腸がんおよび高リスクポリープのリスクが高いため、3年以内の早期監視が有用である可能性が示されました。

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診療科別2024年下半期注目論文5選(呼吸器内科編)

Respiratory syncytial virus (RSV) vaccine effectiveness against RSV-associated hospitalisations and emergency department encounters among adults aged 60 years and older in the USA, October, 2023, to March, 2024: a test-negative design analysisPayne AB, et al. Lancet. 2024;404:1547-1559.<リアルワールドにおけるRSウイルスワクチンの有効性>:RSウイルスワクチンはRSウイルス関連の入院および救急外来受診を予防Test Negativeデザインにより、RSウイルスワクチンの60歳以上の成人におけるリアルワールドでの有効性を評価した初めての研究です。本研究により、リアルワールドにおいても、RSウイルス関連の入院や救急外来受診に対するワクチン予防効果が示されました。Cathepsin C (dipeptidyl peptidase 1) inhibition in adults with bronchiectasis: AIRLEAF®, a Phase II randomised, double-blind, placebo-controlled, dose-finding studyChalmers JD, et al. Eur Respir J. 2024:2401551.<AIRLEAF®試験>:気管支拡張症に対するカテプシンC阻害薬投与は最初の増悪までの時間を減少気管支拡張症の成人を対象に、カテプシンC阻害薬BI 1291583の有効性、安全性、および最適用量を評価した第II相無作為化比較試験です。BI 1291583は、最初の増悪までの時間に基づいて用量依存的にプラセボよりも有意な効果を示しました。今後、この薬剤の第III相試験(AIRTIVITY®)も予定されています。Neoadjuvant pembrolizumab plus chemotherapy followed by adjuvant pembrolizumab compared with neoadjuvant chemotherapy alone in patients with early-stage non-small-cell lung cancer (KEYNOTE-671): a randomised, double-blind, placebo-controlled, phase 3 trialSpicer JD, et al. Lancet. 2024;404:1240-1252.<KEYNOTE-671試験>:NSCLCへの周術期ペムブロリズマブ上乗せでOS改善:KN-671長期成績切除可能な早期非小細胞肺がん患者において、周術期のペムブロリズマブ+化学療法は、プラセボ+化学療法と比較して36ヵ月全生存率(71% vs.64%)および無イベント生存期間中央値(47.2ヵ月 vs.18.3ヵ月)を有意に改善しました。Durvalumab after Chemoradiotherapy in Limited-Stage Small-Cell Lung CancerCheng Y, et al. N Engl J Med. 2024;391:1313-1327.<ADRIATIC試験>:限局型小細胞肺がん、デュルバルマブ地固め療法でOS・PFS改善Efficacy and safety of tezepelumab versus placebo in adults with moderate to very severe chronic obstructive pulmonary disease (COURSE): a randomised, placebo-controlled, phase 2a trialSingh D, et al. Lancet Respir Med. 2024 Dec 6. [Epub ahead of print]<COURSE試験>:トリプル吸入療法使用中のCOPD患者を対象としたtezepelumab投与は増悪を改善せずトリプル吸入療法使用中の中等症から最重症COPD患者を対象としたtezepelumabの第IIa相試験の結果が報告されました。主要評価項目である年間中等度/重度増悪率において、プラセボ群との有意差は認められませんでしたが、好酸球数150cells/μL以上のサブグループでは増悪抑制効果がある可能性が示唆されました。

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第248回 GLP-1薬とてんかん発作を生じにくくなることが関連

GLP-1薬とてんかん発作を生じにくくなることが関連セマグルチドなどのGLP-1受容体作動薬(GLP-1 RA)とてんかん発作を生じにくくなることの関連が新たなメタ解析で示されました1)。たいてい60~65歳過ぎに発症する晩発性てんかん(late-onset epilepsy)を生じやすいことと糖尿病やその他いくつかのリスク要因との関連が、米国の4地域から募った45~64歳の中高年の長期観察試験で示されています2)。近年になって使われるようになったGLP-1 RA、DPP-4阻害薬、SGLT2阻害薬を含む新しい血糖降下薬は多才で、糖尿病の治療効果に加えて神経保護や抗炎症作用も担うようです。たとえば血糖降下薬とパーキンソン病を生じ難くなることの関連が無作為化試験のメタ解析で示されており3)、血糖降下薬には神経変性を食い止める効果があるのかもしれません。米国FDAの有害事象データベースの解析では、血糖降下薬と多発性硬化症が生じ難くなることが関連しており4)、神経炎症を防ぐ作用も示唆されています。晩発性てんかんは神経変性と血管損傷の複合で生じると考えられています。ゆえに、神経変性を食い止めうるらしい血糖降下薬は発作やてんかんの発生に影響を及ぼしそうです。そこでインドのKasturba Medical CollegeのUdeept Sindhu氏らはこれまでの無作為化試験一揃いをメタ解析し、近ごろの血糖降下薬に発作やてんかんを防ぐ効果があるかどうかを調べました。GLP-1 RA、DPP-4阻害薬、SGLT2阻害薬の27の無作為化試験に参加した成人20万例弱(19万7,910例)の記録が解析されました。血糖降下薬に割り振られた患者は半数強の10万2,939例で、残り半数弱(9万4,971例)はプラセボ投与群でした。有害事象として報告された発作やてんかんの発生率を比較したところ、血糖降下薬全体はプラセボに比べて24%低くて済んでいました。血糖降下薬の種類別で解析したところ、GLP-1 RAのみ有益で、GLP-1 RAは発作やてんかんの発生率がプラセボに比べて33%低いことが示されました(相対リスク:0.67、95%信頼区間:0.46~0.98、p=0.034)。発作とてんかんを区別して解析したところ、GLP-1 RAと発作の発生率の有意な低下は維持されました。しかし、てんかん発生率の比較では残念ながらGLP-1 RAとプラセボの差は有意ではありませんでした。試験の平均追跡期間は2.5年ほど(29.2ヵ月)であり、てんかんの比較で差がつかなかったことには試験期間が比較的短かったことが関与しているかもしれません。また、試験で報告されたてんかんがInternational League Against Epilepsy(ILAE)の基準に合致するかどうかも不明で、そのことも有意差に至らなかった理由の一端かもしれません。そのような不備はあったもの、新しい血糖降下薬が発作やてんかんを防ぎうることを今回の結果は示唆しており、さまざまな手法やより多様で大人数のデータベースを使ってのさらなる検討を促すだろうと著者は言っています1)。とくに、脳卒中患者などのてんかんが生じる恐れが大きい高齢者集団での検討を後押しするでしょう。参考1)Sindhu U, et al. Epilepsia Open. 2024;9:2528-2536.2)Johnson EL, et al. JAMA Neurol. 2018;75:1375-1382.3)Tang H, et al. Mov Disord Clin Pract. 2023;10:1659-1665.4)Shirani A, et al. Ther Adv Neurol Disord. 2024;17:17562864241276848.

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高リスクくすぶり型多発性骨髄腫、ダラツムマブ単剤が有効/NEJM

 くすぶり型多発性骨髄腫は、活動性多発性骨髄腫の無症候性の前駆疾患であり、現在の標準治療は経過観察であるが、活動性多発性骨髄腫への進行リスクが高い患者では早期治療が有益な可能性があるとされる。ギリシャ・アテネ大学のMeletios A. DimopoulosらAQUILA Investigatorsは「AQUILA試験」において、高リスクくすぶり型多発性骨髄腫の治療では注意深い経過観察と比較して抗CD38モノクローナル抗体ダラツムマブ皮下注単剤療法が、活動性多発性骨髄腫への進行または死亡のリスクを有意に改善し、全生存率も良好で、予期せぬ安全性に関する懸念も認めないことを示した。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2024年12月9日号で報告された。23ヵ国の無作為化第III相試験 AQUILA試験は、高リスクくすぶり型多発性骨髄腫の治療におけるダラツムマブの有用性の評価を目的とする非盲検無作為化第III相試験であり、2017年12月~2019年5月に日本を含む23ヵ国124施設で患者を登録した(Janssen Research and Developmentの助成を受けた)。 年齢18歳以上、過去5年以内に国際骨髄腫作業部会(IMWG)の基準でくすぶり型多発性骨髄腫との確定診断を受け、活動性多発性骨髄腫への進行リスクが高く、全身状態の指標であるEastern Cooperative Oncology Group performance-status(ECOG PS、0~5点、点数が高いほど機能障害が重度)のスコアが0または1点の患者を対象とした。 これらの患者を、ダラツムマブの皮下投与を36ヵ月間で39サイクル受けるか、あるいは病勢の進行が確定するまで投与を継続する群、または注意深い経過観察を受ける群に、1対1の割合で無作為に割り付けた。注意深い経過観察群では、疾患特異的治療を受けず、36ヵ月間あるいは病勢が進行するまで観察を継続した。 主要評価項目は無増悪生存(活動性多発性骨髄腫への進行または全死因死亡)とし、IMWG基準に従って独立審査委員会が評価した。完全奏効以上、最良部分奏効以上の割合も良好 390例を登録し、ダラツムマブ群に194例(年齢中央値63.0歳[範囲:31~86]、男性49.0%)、注意深い経過観察群に196例(64.5歳[36~83]、47.4%)を割り付けた。くすぶり型多発性骨髄腫の初回診断から無作為化までの期間中央値は0.72年(範囲:0~5.0)であった。ダラツムマブの投与期間中央値は35.0ヵ月(0~36.1)、サイクル数中央値は38だった。 追跡期間中央値65.2ヵ月の時点で、活動性多発性骨髄腫への進行または全死因死亡に至ったのは、経過観察群が99例(50.5%)であったのに対し、ダラツムマブ群は67例(34.5%)と有意に少なかった(ハザード比[HR]:0.49、95%信頼区間[CI]:0.36~0.67、p<0.001)。5年無増悪生存率は、ダラツムマブ群63.1%、経過観察群40.8%であった。 病勢進行までの期間中央値は、それぞれ44.1ヵ月および17.8ヵ月(HR:0.51、95%CI:0.40~0.66)であり、完全奏効以上(厳格な完全奏効+完全奏効)は、17例(8.8%)および0例(0%)、最良部分奏効以上(厳格な完全奏効+完全奏効+最良部分奏効)は、58例(29.9%)および2例(1.0%)だった。 41例が死亡し、内訳はダラツムマブ群15例(7.7%)、経過観察群26例(13.3%)であった(HR:0.52、95%CI:0.27~0.98)。5年全生存率は、それぞれ93.0%および86.9%だった。重篤な有害事象は29.0%、投与中止は5.7% Grade3または4の有害事象は、ダラツムマブ群40.4%、経過観察群30.1%で発現し、最も頻度が高かったのは高血圧で、それぞれ5.7%および4.6%であった。重篤な有害事象は、29.0%および19.4%で発現し、最も高頻度だったのは肺炎で、3.6%および0.5%だった。ダラツムマブ群では、11例(5.7%)で投与中止に至った有害事象を認めた。 Grade3または4の感染症は、ダラツムマブ群16.1%、経過観察群4.6%で発現した。ダラツムマブ群では、32例(16.6%)で投与に関連した全身反応が報告され(Grade3または4は2例[1.0%])、53例(27.5%)で注射部位の局所反応(Grade3または4はなし)を認めた。ダラツムマブ群の18例(9.3%)および経過観察群の20例(10.2%)で2次原発がんが発生した。ダラツムマブによる新たな安全性に関する懸念は確認されなかった。 著者は、「これらの知見は、ダラツムマブは臓器障害の進行を遅らせるか、あるいは完全に防止し、活動性多発性骨髄腫への進行を抑制する可能性を示唆し、深い寛解を達成しない場合でも臨床的な有益性をもたらす可能性があると考えられる」「ダラツムマブをベースとした併用療法などの治療戦略がより適切かは現時点では不明だが、先行試験と本試験の結果を統合すると、本疾患の治療にダラツムマブ単剤療法を一定期間使用することが支持される」としている。

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線形回帰(重回帰)分析 その1【「実践的」臨床研究入門】第50回

まずは相関と回帰これまで、統計解析手法はアウトカム指標(目的変数)の型によって異なることを説明してきましたが、その内容を以下のように表にまとめました。アウトカム指標(目的変数)の型による統計解析手法の分類記述統計の際、カテゴリ変数はデータ数が20未満の場合は頻度の実数で、データ数が20以上の場合は割合で示します。連続変数の場合は、まずヒストグラムを作成し、そのデータの分布が正規分布に準じるか否かを確認します。正規分布に近似できる場合、平均値と標準偏差(Standard Deviation:SD)で示すか、または中央値(四分位範囲)で示します。正規分布に近似できない場合は、中央値(四分位範囲)で示すことが推奨されています(連載第46回参照)。生存時間の記述統計については、人年法を用いて生存時間曲線を描きます(連載第40回〜第43回参照)。また、2群の生存時間曲線の比較では、一般的にLogrank検定を使用します。2群比較ではカテゴリ変数(2値)の場合はΧ2検定(もしくはFisher検定)、連続変数の場合は(正規分布に準じていれば)t検定を用います。もしデータが歪んだ分布である場合、対数変換を行い、正規分布に近似させることを検討します(連載第48回参照)。今回からは、アウトカム指標が連続変数の場合の多変量解析(回帰モデル)手法のひとつである線形回帰(重回帰)について解説していきます。まずはその前段として、相関と回帰について説明します。まず、相関とは「2つの連続変数間の直線的な関係」を指します。一方の変数が他方の変数に影響を及ぼしており、一方の値が増加すると他方の値も増加、または減少する関係性です。このような 1対1に対応する2つの連続変数データ を観察する場合、両者の関連性を視覚的に表す最も良い方法は散布図です。散布図とは、2次元のグラフ上で x軸に一方のデータの値を、y軸に他方のデータの値をとり、それぞれの該当する場所に点をプロットしたグラフです。もし、2つの連続変数間に直線的な関係が見られた場合、次に考えることは「一方の値から他方の値を予測できるか」ということではないでしょうか。別の言い方をすると、「ある結果を表す変数(従属変数、または目的変数)」を「他の変数(独立変数、または説明変数)」によってどの程度説明できるかを考えることです。この手法を回帰と呼びます。散布図に基づき、最も適切な回帰直線を当てはめるための数学的な方法が最小二乗法です。最小二乗法は、実際のデータ点と予測値との誤差の二乗和を最小化することで、最適な回帰直線を求めます。データをプロットした散布図において、できるだけ多くのデータ点に「近い」直線を引こうとするイメージです。それでは、仮想データ・セットを用い、EZR(Eazy R)で散布図と回帰直線を描いてみましょう。仮想データ・セットをダウンロードする※ダウンロードできない場合は、右クリックして「名前をつけてリンク先を保存」を選択してください。はじめに。以下の手順で仮想データ・セットをEZRに取り込みます。「ファイル」→「データのインポート」→「Excelのデータをインポート」続いて「グラフと表」→「散布図」を選択し、下記のポップアップウィンドウのとおり、x変数は「age」をy変数は「diff_eGFR5」を指定、またOptionsでは「最小2乗直線」のチェックボックスにレ点を入れます。※「diff_eGFR5」は、われわれのResearch Question(RQ)のセカンダリO(アウトカム)に設定されている、ベースラインから5年後の糸球体濾過量(GFR)変化量「OK」をクリックすると、下記のような散布図と回帰直線が描けたでしょうか。回帰直線の傾きからは、「age」が増加すると「diff_eGFR5」が減少(eGFRの低下幅が大きくなる)する傾向、すなわち負の相関が示唆されます。今回の解説では、相関と回帰について基礎から説明し、EZRを用いて散布図と回帰直線を描画する手順を示しました。次回は、この基礎を踏まえて線形回帰(重回帰)分析について実践的に解説していきます。

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急性呼吸不全、高流量経鼻酸素vs.非侵襲的人工換気/JAMA

 急性呼吸不全患者への呼吸支持療法として、高流量経鼻酸素療法(HFNO)は非侵襲的人工換気(NIV)に対して非劣性なのか。ブラジル・Hcor Research InstituteのAlexandre Biasi CavalcantiらRENOVATE Investigators and the BRICNet Authorsは、急性呼吸不全患者を原因で5群に層別化して、無作為化非劣性検証試験「RENOVATE試験」を行い、4群(免疫不全の低酸素血症、呼吸性アシドーシスを来したCOPD増悪、急性心原性肺水腫[ACPE]、低酸素血症を伴うCOVID-19)について非劣性が示されたことを報告した。ただし、サンプルサイズや感度分析の観点から結果は限定的であるとしている。急性呼吸不全患者の呼吸支持療法として、HFNOとNIVはいずれも一般的に用いられている。JAMA誌オンライン版2024年12月10日号掲載の報告。ブラジルの33病院で実施、5群で7日以内の気管内挿管または死亡を評価 試験は2019年11月~2023年11月にブラジルの33病院で行われ、急性呼吸不全を呈し入院した18歳以上の患者を5群に層別化し、7日時点の気管内挿管または死亡の発生率について、HFNOのNIVに対する非劣性を検証した。5群の内訳は、(1)非免疫不全の低酸素血症群、(2)免疫不全の低酸素血症群、(3)呼吸性アシドーシスを来したCOPD増悪群、(4)ACPE群、(5)低酸素血症を伴うCOVID-19群(2023年6月26日に試験プロトコールに追加)であった。最終フォローアップは2024年4月26日。 主要アウトカムは、7日以内の気管内挿管または死亡で、患者群間の動的利用(dynamic borrowing)法を用いた階層ベイズモデルで評価した。非劣性は、オッズ比(OR)が1.55未満となる事後確率(NPP)が0.992以上と定義された。低酸素血症を伴うCOVID-19群でHFNOの非劣性を検証 1,800例が登録・無作為化され、1,766例(平均年齢64[SD 17]歳、女性707例[40%])が試験を完了した(HFNO群883例、NIV群883例)。 主要アウトカムの発生率は、HFNO群39%(344/883例)、NIV群38%(336/883例)であった。 非免疫不全の低酸素血症群では、主要アウトカムの発生率はHFNO群57.1%(16/28例)、NIV群36.4%(8/22例)であった。同患者の登録は無益性により途中で中止され、最終ORは1.07(95%信用区間[CrI]:0.81~1.39)、非劣性のNPPは0.989であった。 免疫不全の低酸素血症群では、主要アウトカムの発生率はHFNO群32.5%(81/249例)、NIV群33.1%(78/236例)であった(OR:1.02[95%CrI:0.81~1.26]、NPP:0.999)。 ACPE群では、主要アウトカムの発生率はHFNO群10.3%(14/136例)、NIV群21.3%(29/136例)であった(OR:0.97[95%CrI:0.73~1.23]、NPP:0.997)。 低酸素血症を伴うCOVID-19群では、主要アウトカムの発生率はHFNO群51.3%(223/435例)、NIV群47.0%(210/447例)であった(OR:1.13[95%CrI:0.94~1.38]、NPP:0.997)。 呼吸性アシドーシスを来したCOPD増悪群では、主要アウトカムの発生率はHFNO群28.6%(10/35例)、NIV群26.2%(11/42例)であった(OR:1.05[95%CrI:0.79~1.36]、NPP:0.992)。 しかしながら、5群にわたる動的利用法を用いない事後解析では、呼吸性アシドーシスを来したCOPD増悪群、免疫不全の低酸素血症群、ACPE群でいくつかの質的に異なる結果が示された。著者は、「これら患者群についてはさらなる試験が必要」としている。 重篤な有害事象の発現率は、HFNO群(9.4%)とNIV群(9.9%)で同程度であった。

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医師の腺腫検出率改善が大腸がんリスク低下と関連/JAMA

 大腸がん検診プログラムで大腸内視鏡検査を受ける参加者において、医師の腺腫検出率(ADR)の改善が大腸がんリスク低下と統計学的に有意に関連することが示された。ただし関連が認められたのは、医師の改善前のADRが26%未満であった場合のみであった。ポーランド・Maria Sklodowska-Curie National Research Institute of OncologyのNastazja D. Pilonis氏らが、大腸がん検診プログラムのデータを用いた観察研究の結果を報告した。ADRの改善が大腸がん発生率の低下と関連しているかどうかは明らかになっていなかった。JAMA誌オンライン版2024年12月16日号掲載の報告。年30件以上大腸内視鏡を実施している医師の検査を受けた参加者について解析 ポーランドでは2000年以降、ポーランド在住の50~66歳または大腸がんの近親者がいる40~49歳のすべての人を対象に、大腸内視鏡検査による大腸がん検診プログラム(PCSP)が実施されている。 研究グループは、PCSPにて2000年10月1日~2017年12月31日に大腸内視鏡検査を受けたすべての人を、スクリーニング大腸内視鏡検査日から死亡または追跡期間終了時(2022年12月31日)まで追跡し、PCSPデータベースおよびポーランドのがん登録より大腸がんの診断および死亡に関するデータを取得した。 また、PCSPにて2000~2017年に大腸内視鏡検査を実施した医師で、年30件以上の内視鏡検査を実施した医師を対象にADRを算出した(各医師について暦年ごとに、腺腫またはがんを検出した大腸内視鏡検査数÷大腸内視鏡検査の総数で算出)。 主要評価項目は、ADRの改善と大腸内視鏡後の大腸がん発生率との関連であった。Joinpoint回帰分析を用い、大腸内視鏡検査後の大腸がん発生率を、ADRが改善した医師と改善しなかった医師で比較した。ADRは、データセットの六分位に基づき6つのカテゴリー(0~13%、>13~18%、>18~22%、>22~26%、>26~31%、>31~63%)に分類し、少なくとも1段階改善または最高位にとどまった場合をADR改善と定義した。検査後大腸がん発生率の変化が示されたADRの変曲点は26% 年30件以上の内視鏡検査を実施した医師は789人、それら医師の内視鏡検査を受け適格基準(最初のスクリーニングで大腸がんと診断されていない、など)を満たした参加者48万5,615人(平均年齢57[SD 5.41]歳、女性が59.6%)が解析対象となった。ベースラインの医師のADRは中央値21.8%(四分位範囲:15.9~28.2)、最高値は63.0%であった。 追跡期間中央値10.2年において、大腸内視鏡検査後の大腸がんの診断は1,873例、大腸がん関連死亡は474例に発生した。 Joinpoint回帰分析の結果、大腸がん発生率の変化が示されたADRのjoinpoint(変曲点)は26%であった。ADRが26%の医師の患者の、大腸内視鏡検査後の大腸がん発生率は27.1(95%信頼区間[CI]:20.6~33.7)/10万人年。 ADRがベースラインでは26%未満で追跡期間中に改善が認められた医師の患者では、大腸内視鏡検査後の大腸がん発生率は31.8(95%CI:29.5~34.3)/10万人年であったのに対し、改善しなかった医師の患者では40.7(37.8~43.8)/10万人年で有意差が認められた(差:8.9/10万人年、95%CI:5.06~12.74、p<0.001)。 一方、ベースラインのADRが>26%の場合の大腸がん発生率は、追跡期間中に改善が認められた医師の患者で23.4(95%CI:18.4~29.8)/10万人年、改善がみられなかった医師の患者で22.5(18.3~27.6)/10万人年で有意差はみられなかった(差:0.9/10万人年、95%CI:-6.46~8.26、p=0.80)。

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疾患の検出や発症予測、血液検査が一助に?

 定期健診で一般的に行われている血液検査の検体には、検査を受けた人の健康状態について現在医師が得ている情報よりも多くの情報が隠されているようだ。全血球計算(complete blood count;CBC)と呼ばれるルーチンで行われている血液検査が、心疾患や2型糖尿病、骨粗鬆症、腎疾患など数多くの疾患の検出や発症の予測に役立つ可能性のあることが新たな研究で示された。米マサチューセッツ総合病院の病理医であるJohn Higgins氏らによるこの研究は、「Nature」に12月11日掲載された。 CBCでは、全身を循環している血液中の赤血球、白血球、血小板数を測定する。Higgins氏は、「CBCは一般的な検査だ。われわれの研究では、CBCは完全に健康な人であっても個人差が大きく、より個別化されたプレシジョンメディシン(精密医療)のアプローチによって、その人の健康状態や疾患の実態をより詳細に把握できる可能性のあることが示された」と説明する。 Higgins氏らは今回、1万2,407人の健常者から採取された血液を用いて、CBCによって測定される10種類の血液成分について調査し、患者ごとのばらつきを計算した。調査した成分は、赤血球数(RBC)、白血球数(WBC)、血小板数(PLT)、ヘマトクリット値(HCT)、ヘモグロビン濃度(HGB)、平均赤血球容積(MCV)、平均赤血球ヘモグロビン量(MCH)、平均赤血球ヘモグロビン濃度(MCHC)、平均血小板容積(MPV)、赤血球分布幅(RDW)である。その結果、性別や人種/民族、年齢の影響を受けることのない、それぞれの患者に固有の「セットポイント(基準値)」が存在することが明らかになった。研究グループは、これらのセットポイントを活用することで、医師は一見健康そうに見える人でも早期の段階で疾患を診断できる可能性があると話す。 次に、セットポイントが推定されてから15年間の追跡データがそろう1万4,371人のデータを用いて、セットポイントと全死亡リスクや主要疾患の発症リスクとの関連を検討した。その結果、多くの指標において、セットポイントの値が高くなるか低くなるにつれ10年間の死亡リスクが上昇することが明らかになった。ただし、HCTとHGBに関しては、セットポイントの値が中間で最もリスクが低く、両極端の値(高過ぎる、低過ぎる)でリスクが上昇することが示された。また、MCHCのセットポイントが低いことは心筋梗塞や脳卒中、心不全(主要心血管イベント〔MACE〕)のリスク上昇と関連し、WBCの高いセットポイントは2型糖尿病、MCVの高いセットポイントは骨粗鬆症、HCTの低いセットポイントは慢性腎臓病、RDWの高いセットポイントは心房細動、RBCの低いセットポイントは骨髄異形成症候群のリスク増加と関連していた。 Higgins氏らは、「セットポイントを調べることで、本研究で対象となった健康な成人の20%以上が、その値の逸脱により、10年間での全死亡や心血管疾患や糖尿病などの早期介入が有効な主要疾患の診断の絶対リスクが2〜5%以上増加することが示唆された」と述べている。 なお、今回の研究の結果は先行研究の結果とも一致しているという。例えば、HGBの低下は心筋梗塞のアウトカムに関連し、MCVは大腿骨近位部骨折に、またWBCは糖尿病に関連していることが示されている。 Higgins氏らは、「これらの関連が生じるメカニズムの解明にはさらなる研究が必要だが、今回の研究では、セットポイントが複数の疾患において、2〜4倍の相対リスクの層別化を可能にすることが示された。これは、家族歴や一部の遺伝子変異を含む一般的な疾患のスクリーニング因子による相対リスクの層別化に匹敵する」と結論付けている。

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多発血管炎性肉芽腫症〔GPA:granulomatosis with polyangiitis〕

1 疾患概要■ 概念多発血管炎性肉芽腫症(granulomatosis with polyangiitis:GPA)は抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連血管炎(AAV)の主要疾患の1つで、血清中に出現するANCAと小型血管(臓器内動静脈、細動静脈、毛細血管)の肉芽腫性炎を特徴とする。罹患血管には免疫複合体の沈着はほとんどみられない(pauci-immune)。■ 疫学GPAは国が定める指定難病で、2022年度末の指定難病受給者証所持者数は3,437人であり、登録患者数は徐々に増加している。世界的には100万人当たり96.8人の患者数が報告されている。GPAは、日本を含むアジアよりも欧州、とくに緯度が高い地域で多くみられる傾向がある。■ 病因GPAは他の自己免疫性リウマチ性疾患と同様に、遺伝的要因と環境要因が相まって発症すると考えられている。ヨーロッパおよび北米におけるヨーロッパ系集団を対象としたゲノムワイド関連解析では、HLA-DPA1、DPB1遺伝子領域との関連が報告されており、臨床分類よりもPR3-ANCAとの関連がより強くみられる。日本人集団においてもDPB1*04:01の増加傾向が認められている。非HLA領域では、SERPINA1、PRTN3がヨーロッパ系集団で、ETS1の発現低下に関連する単塩基バリアントが日本人集団で関連することが報告されている。■ 症状GPAは発熱・倦怠感、体重減少、筋痛、関節痛などの全身症状と多彩な臓器症状を呈する疾患である。臓器病変は、眼(34~61%)、耳・鼻・咽喉頭(83~99%)、肺(66~85%)、心臓(8~25%)、消化管(6~13%)、腎臓(66~77%)、皮膚(33~46%)、中枢神経(8~11%)、末梢神経(15~40%)に出現する。眼病変、上・下気道病変、腎病変がとくに重要である。眼病変として、結膜炎、上強膜炎、強膜炎、眼球突出、鼻病変として鼻閉・膿性鼻汁・鼻出血、鼻粘膜の痂疲・潰瘍、鞍鼻、耳病変として滲出性または肉芽腫性中耳炎、咽喉頭病変として口腔内潰瘍、声門下狭窄による嗄声・呼吸困難がみられる。肺では肺肉芽腫性結節、肺胞出血、間質性肺炎がみられ、咳・息切れ・喀血などを呈する。腎では壊死性半月体形成性糸球体腎炎が典型的であり、しばしば急速進行性糸球体腎炎として発症する。■ 予後国内の前向きコホート研究では、治療開始後6ヵ月までの死亡率は1.9%で、治療開始後6ヵ月までに末期腎不全に至ったのは3.7%あった。中長期的には、治療に関連した副作用・合併症が問題となる。欧州における検討では、AAV患者を平均7.3年追跡すると65.6%の患者で治療に関連した副作用・合併症(高血圧、骨粗鬆症、糖尿病、心血管イベント、白内障など)がみられ、グルココルチコイドの早期減量・中止が重要と考えられる。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)国内における診断には指定難病の診断基準が広く用いられている。国際的には、米国リウマチ学会と欧州リウマチ学会が共同で開発した分類基準(表1)を参考に診断することが多い。疾患特異的自己抗体として抗プロテイナーゼ3(抗PR3)抗体(PR3-ANCA)が知られている。活動期にはCRPが陽性となることが多い。GPAでみられる臓器病変を想定した問診と身体診察に血液検査と画像検査を組み合わせて診断および罹患臓器を検索し、活動性を評価する。表1 GPAの分類基準分類基準を使用する前に以下を考慮する。小・中型血管炎と診断された患者を多発血管炎性肉芽腫症に分類するために、本分類基準を適用すべきである。本分類基準を適用する前に、血管炎類似疾患の除外をすべきである。画像を拡大する10項目の中から該当項目のスコアを合計し、5点以上であれば多発血管炎性肉芽腫症に分類する。(難治性血管炎の医療水準・患者QOL向上に資する研究班.多発血管炎性肉芽腫症の分類基準[2024年9月20日アクセス]より引用)3 治療 (治験中・研究中のものも含む)ANCA関連血管炎の中でGPAと顕微鏡的多発血管炎(MPA)の標準治療は同一であり、難治性血管炎の医療水準・患者QOL向上に資する研究班が作成した診療ガイドラインに示されている。標準治療は、寛解導入治療と寛解維持治療で構成される。さらに、長期予後を改善するために、合併症リスクを最小限に抑える必要がある。寛解導入治療ではリツキシマブまたはシクロホスファミドのいずれかを、グルココルチコイドまたはアバコパン(商品名:タブネオス)またはその両者と併用する。リツキシマブはキメラ型抗CD20抗体で、375mg/体表面積1m2を週に1回、4週連続で投与する。シクロホスファミドは15mg/kgを0、2、4、7、10、13週に点滴静注で投与するパターンが標準だが、投与量は年齢と血清クレアチニン濃度で調整し(表2)、投与回数と投与間隔は原疾患の重症度と安全性のバランスで調整する。シクロホスファミドは経口投与(1~2mg/kg/日)も可能だが、副作用の観点から点滴静注が望ましい。表2 年齢および腎機能によるシクロホスファミド投与量の調節画像を拡大する(Ntatsaki E, et al. Rheumatology. 2014;53:2306-2309.より引用)アバコパンは経口の補体C5受容体阻害薬で、1回30mgを1日2回朝・夕に内服する。アバコパンは原則的にグルココルチコイドと併用する。アバコパンは腎機能改善に有用である可能性が示されている。アバコパンの副作用として重症肝機能障害(胆道消失症候群を含む)が報告されているので、血管炎の治療に精通した施設での使用が望ましい。標準的な寛解導入療法で使用するグルココルチコイドの投与量は2つの臨床試験結果から、以前よりも大幅に減量された(表3)。表3 寛解導入治療におけるグルココルチコイド減療法画像を拡大する(Walsh M, et al. N Engl J Med. 2020;382:622-631.およびFuruta S, et al. JAMA. 2021;325:2178-2187.より引用)血清クレアチニン濃度が5.7mg/dLを超える最重症の腎障害を伴うGPAでは、グルココルチコイドとシクロホスファミドに血漿交換が併用される場合がある。MPAおよびGPAに対する血漿交換のメタ解析から、欧州リウマチ学会の推奨では血清クレアチニン濃度が3.4mg/dLを超える腎障害で血漿交換を考慮する場合があるとされている。リツキシマブにより寛解導入した場合には、治療開始後6ヵ月から寛解維持治療に移行し、シクロホスファミド点滴静注の場合には、最終投与後3~4週間で寛解維持治療に移行する。寛解維持治療はリツキシマブまたはアザチオプリンを用いる。寛解維持療法におけるリツキシマブ投与方法は、375mg/体表面積1m2を6ヵ月ごと、500mg/回を6ヵ月ごと、1,000mg/回を4ヵ月または6ヵ月ごとなどがある。アザチオプリンは1~2mg/kg/日を使用し、開始前にNUDT15遺伝子多型検査を実施する。寛解維持治療における有効性はアザチオプリンよりもリツキシマブが有意に優れている。GPAはMPAよりも再発しやすい。寛解維持治療中は症状および検査をモニタリングし、早期に再発の兆候を把握する。腎病変は症状なく再発することがあるため、尿検査を定期的に実施する。寛解維持治療期間は、リツキシマブでは1年6ヵ月よりも4年、アザチオプリンでは1年よりも2年6ヵ月以上が有意に再発を防ぐことが示されている。個々の患者における寛解維持治療期間は、治療開始前の疾患活動性、治療経過、再発歴、合併症を参考に検討する。4 今後の展望GPAの分類基準が改訂され、診断に関する検討は一段落したと考えられる。治療に関する課題として、アバコパンを寛解導入に使用する際に適切なグルココルチコイドの使用方法、リツキシマブの寛解維持療法の標準化、アバコパンの安全性、新規の抗B細胞治療などが挙げられる。5 主たる診療科膠原病リウマチ内科、腎臓内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患政策研究事業)難治性血管炎の医療水準・患者QOL向上に資する研究(医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター 多発血管炎性肉芽腫症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報全国膠原病友の会(患者とその家族および支援者の会)膠原病サポートネットワーク(患者とその家族および支援者の会)1)針谷正祥 責任編集. Evidence Base Medicineを活かす膠原病・リウマチ診療. メジカルビュー社.2020.2)厚生労働科学研究費補助金難治性疾患政策研究事業 針谷正祥ほか編集. ANCA関連血管炎診療ガイドライン2023. 診断と治療社.2023.3)Hellmich B, et al. Ann Rheum Dis. 20242;83:30-47.4)Ntatsaki E, et al. Rheumatology. 2014;53:2306-2309.5)Walsh M, et al. N Engl J Med. 2020;382:622-631.6)Furuta S, et al. JAMA. 2021;325:2178-2187.公開履歴初回2024年12月31日

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第247回 プラスチックの化学物質のたった1年間の影響で世界的に約60万例が死亡

プラスチックの化学物質のたった1年間の影響で世界的に約60万例が死亡世界の38ヵ国を調べたところ、プラスチックにたいてい含まれる3つの化学物質と関連する2015年のたった1年間の健康の害が1.5兆ドルの負担を強いました1,2)。言い換えると、それらの化学物質を使っていなければ1.5兆ドル分を浮かせられたことになります。メリーランド大学の経済学者Maureen Cropper氏らによる研究です。プラスチックは色付け、柔軟性、耐久性のために1万6,000を超える化学物質を使って製造されます。プラスチックから漏れ出した化学物質はそれらの普段使いによって多くの人に行き及んでいます。食品包装によく使われているプラスチック成分・ビスフェノールA(BPA)は内分泌を撹乱することで知られ、心血管疾患、糖尿病、生殖機能障害と関連します。食品加工、家庭用品、電気製品で使われるフタル酸ジ-2-エチルヘキシル(DEHP)は心血管が原因の死亡や発育不調との関連が知られます。繊維、家具、その他家庭用品に添加される難燃剤・ポリ臭素化ジフェニルエーテル(PBDE)は神経に差し障るようであり、妊娠中にPBDEを被った母親の子は認知発達を損ないます。プラスチックに含まれる化学物質の中で最もよく調べられているそれら3つと関連する健康の害に的を絞り、できるだけ多くの国におけるそれらの害の蔓延を調べることをCropper氏らは目指しました。Cropper氏らは情報がそろっていて最も万全な検討ができた2015年のデータを使って、38ヵ国でのBPA、DEHP、PBDEの健康や経済への影響を推定しました。その結果、BPAは540万例の虚血性心疾患、35万例弱の脳卒中と関連し、43万例強の死亡を引き起こしていました。それら死亡の経済的損失は1兆ドル弱です。DEHPは55~64歳の中高齢者の16万例強の死亡と関連し、4千億ドル弱の経済的損失をもたらしました。PBDEは2015年生まれの子の知能指数(IQ)1,170万点の損失をもたらし、800億ドルを超える生産性損失と関連しました。それらを総ずると、38ヵ国でBPAとDEHPを排除していたら約60万例が死なずに済みました。また、PBDEも含めて3つとも排除していたら1.5兆ドルを捻出できたことになります。米国、カナダ、欧州連合(EU)加盟国はすでにBPA、DEHP、PBDEを減らす手立てを始めており、成果も示唆されています。たとえば米国では製造業界の規制や自主的な制限のかいがあって、BPAに起因する心血管死が2003年から2015年に60%減じています。そのような前向きな取り組みの一方で、プラスチックに使われている7割超の化学物質は毒性が検査されないままです。プラスチックの化学物質の害から健康を守るには化学物質を扱う法律を根本から変える必要があると著者は言っており2)、それら化学物質の健康への影響を減らす国際的な合意が国連条約(United Nations Global Plastics Treaty)に基づいて確立されることを望んでいます3)。参考1)Cropper M, et al. Proc Natl Acad Sci USA. 2024;121:e2412714121. 2)Health, Economic Costs of Exposure to 3 Chemicals in Plastic: $1.5T in a Year, Study Shows / University of Maryland3)These 3 plastic additives are lowering our IQ and killing us sooner, new study finds / MassLive.com

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糖尿病予備群が大動脈弁狭窄症を引き起こす

 糖尿病予備群の主要な原因であるインスリン抵抗性が、大動脈弁狭窄症のリスクを高めることを示唆するデータが発表された。クオピオ大学病院(フィンランド)のJohanna Kuusisto氏らの研究によるもので、詳細は「Annals of Medicine」に11月26日掲載された。 大動脈弁狭窄症(AS)は高齢者に多い心臓弁の病気の一つであり、心不全や死亡のリスクを高める。Kuusisto氏は、ジャーナル発のリリースの中で、「この新たな発見は、インスリン抵抗性がASの重大かつ修正可能なリスク因子である可能性を浮き彫りにしている。インスリンに対する感受性を高めることを意図した健康管理は、ASのリスクを減らし、高齢者の心血管アウトカムを改善するための新たなアプローチとなり得る」と語っている。 ASの発症後には、時間がたつにつれて大動脈弁が厚く硬くなっていき、心臓が血液を送り出す際の負担が大きくなる。しかし、胸痛や息切れ、動悸、疲労などが現れるまでに何年ものタイムラグがあり、それらの自覚症状が現れた時には既に重症化していることが少なくない。米国心臓協会(AHA)は、75歳以上の米国人の13%以上がASに罹患しているとしている。 一方、インスリン抵抗性は、血糖を細胞に取り込む時に必要なホルモンであるインスリンの作用が低下している状態のことで、2型糖尿病が発症する何年も前に起こり始めていることが多い。インスリン抵抗性がより進行すると、徐々に血糖値が高くなり、やがて糖尿病の診断基準を超える高血糖となる。 この研究では、ASのない45~73歳(平均年齢62歳)のフィンランド人男性1万144人を対象とする、メタボリックシンドロームの疫学調査のデータが解析に用いられた。平均10.8±1.4年の追跡期間中に、1.1%に当たる116人が新たにASと診断された。Cox回帰分析の結果、インスリン抵抗性を表す複数の指標が、ASの発症と関連していることが明らかになった。 例えば、血清Cペプチドが高い場合は、ASの発症ハザード比(HR)が1.47(95%信頼区間1.22~1.77)であった。血清Cペプチドが高いことはインスリン分泌が増加していることを示しており、インスリン抵抗性による血糖上昇の負荷が高まっていることを表している。また、Matsudaインデックスという指標が高い場合はHR0.68(0.56~0.82)だった。Matsudaインデックスは値が低いほどインスリン抵抗性がより強いことを意味する。これらの関連性は、ASの既知のリスク因子を調整した解析、および、糖尿病患者を除外した解析でも有意だった。 Kuusisto氏は、「体重管理や運動の励行などによってインスリン感受性を高めることが、ASの発症抑止につながるのかを確認するため、今後のさらなる研究が求められる」と述べている。

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2024年の消化器がん薬物療法の進歩を振り返る!【消化器がんインタビュー】第15回

1)【胃がん】HER2陽性胃がん1次治療、化学療法+トラスツズマブにペムブロリズマブの上乗せ効果KEYNOTE-811試験はHER2陽性胃がんに対する1次治療として、化学療法+トラスツズマブにペムブロリズマブ(PEMB)の上乗せ効果を検証するプラセボ使用無作為化第III相試験であり、奏効率(ORR)および無増悪生存期間(PFS)の結果より、欧米においてはすでに臨床導入されている。ESMO2024で全生存期間(OS)の最終解析結果が報告され(#1400O)、同時に論文発表もされた(Janjigian YY, et al. N Engl J Med. 2024;391:1360-1362.)。OSはPEMB群vs.プラセボ群で20.0ヵ月vs.16.8ヵ月と有意に延長し(ハザード比[HR]:0.80、p=0.0040)、PFSも10.0ヵ月vs.8.1ヵ月(HR:0.73)、ORRも72.6% vs.60.1%とPEMB群で良好であった。サブグループ解析では、PD-L1 CPS1以上の場合にはOSが20.1 vs.15.7ヵ月(HR:0.79)、PFSが10.9ヵ月vs.7.3ヵ月(HR:0.72)かつORRが73.2% vs.58.4%(奏効期間中央値:11.3ヵ月vs.9.5ヵ月)とより良好な結果であったのに対し、CPS1未満ではOSが18.2ヵ月vs.20.4ヵ月(HR:1.10)、PFSが9.5ヵ月vs.9.5ヵ月(HR:0.99)、ORRが69.2% vs.69.2%と、PEMBの上乗せ効果が弱まる傾向があった。一方、論文ではCPSのカットオフを10としたサブグループ解析も報告されており、CPS10以上ではOSが19.9ヵ月vs.17.1ヵ月(HR:0.83)、PFSが9.8ヵ月vs.7.8ヵ月(HR:0.74)に対し、CPS10未満ではOSが20.1ヵ月vs.16.5ヵ月(HR:0.83)、PFSが9.8ヵ月vs.7.8ヵ月(HR:0.75)であった。現在、欧米ではHER2陽性かつPD-L1がCPS1以上の症例に対してPEMBの併用が推奨されているが、本邦でどのような条件で保険承認されるのかが注目される。2)【大腸がん】切除不能な大腸がん肝転移に対する化学療法後の肝移植の可能性TransMet試験(NCT02597348)では、原発巣切除後、肝外病変がなく、化学療法を3ヵ月以上かつ3ライン以下投与して効果があった切除不能大腸がん肝転移の患者において、化学療法に続いて肝移植を行った場合と化学療法のみを行った場合が比較された(ASCO2024、#3500)。観察期間中央値は59ヵ月で、主要評価項目であるOSはITT解析でHR:0.37(95%信頼区間[CI]:0.21~0.65)、5年OS率は肝移植群57%、化学療法のみ群13%。per protocol解析でOSのHR:0.16(95%CI:0.07~0.33)、5年OS率は肝移植群73%、化学療法のみ群9%となっていた。切除不能な大腸がん肝転移は化学療法が標準治療だが、TransMet試験により、肝移植をすることで長期予後を得られる可能性が示唆された。日本においても先進医療が現在進行中であり、本邦からのエビデンス創出にも期待したい。3)【大腸がん】MSI-H/dMMRの再発転移大腸がん患者へのニボルマブ+イピリムマブCheckMate 8HW試験(NCT04008030)は、MSI-HまたはdMMRの再発または手術不能な進行大腸がん患者を対象に、ニボルマブ(Nivo)とイピリムマブ(Ipi)の併用投与とNivoの単剤投与、医師選択化学療法(mFOLFOX6またはFOLFILI±ベバシズマブまたはセツキシマブ)を比較した無作為化オープンラベル第III相試験である。医師選択化学療法群で増悪した患者は、Nivo+Ipi併用投与群へのクロスオーバーが認められていた。主要評価項目は、1次治療におけるNivo+Ipi併用投与群と医師選択化学療法群のPFSの比較、およびすべての治療ラインにおけるNivo+Ipi併用投与群とNivo単剤投与群のPFSの比較である。ASCO-GI 2024(#LBA768)では、1次治療としてのNivo+Ipi併用投与群と医師選択化学療法群のPFSが発表された。観察期間中央値24.3ヵ月でPFS中央値は、Nivo+Ipi併用投与群と医師選択化学療法群で未達(95%CI:38.4~NE)vs.5.9ヵ月(95%CI:4.4~7.8)、HR:0.21(97.91%CI:0.13~0.35、p<0.0001)と有意にNivo+Ipi併用投与群で延長した。1年PFS率は、79% vs.21%、2年PFS率は72% vs.14%と大きな差がついた(Andre T, et al. N Engl J Med. 2024;391:2014-2026.)。近々、Nivo+Ipi併用投与群vs.Nivo単剤投与群における比較の結果報告も予定されており、同対象に対するIO-IO combinationとIO単剤療法による治療成績の違いも楽しみだ。4)【直腸がん】dMMR局所進行直腸がん患者に対するdostarlimabdMMR局所進行直腸腺がん患者に対するdostarlimabは、すでに6ヵ月のdostarlimab投与が完了した最初の14例すべてで臨床的な完全奏効(cCR)が得られ、ORRは100%だったことが報告されている(Cercek A, et al. N Engl J Med. 2022;386:2363-2376.)。ASCO2024においては、投与を完了した42例の結果が追加報告された(#LBA3512)。本試験は、dMMRの臨床病期II期/III期局所進行直腸腺がん患者を対象にdostarlimab 500mgを3週おきに6ヵ月投与し、その後に画像学的な評価および内視鏡評価を行い、cCRが得られた場合は4ヵ月ごとに観察、cCRが得られなかった場合は化学放射線療法や手術を受けるというデザインで実施された。主要評価項目はORR、病理学的完全奏効(pCR)率または12ヵ月後のcCR率であり、試験に参加した48例のうち、T3~T4の患者が8割、リンパ節転移陽性も8割強を占めたが、観察期間中央値17.9ヵ月で、dostarlimabの6ヵ月投与が完了した42例すべてでcCRが得られ、cCR率は100%であった。本邦においてもdMMR局所進行結腸がん患者に対するdostarlimabの臨床試験(AZUR-2試験)が開始されており、日本人に関する治療効果にも期待したい。本邦においてもdMMR局所進行結腸がん患者に対するdostarlimabの臨床試験(AZUR-2)が開始されており、日本人に関する治療効果にも期待したい。また、dMMR局所進行直腸がん患者に対しニボルマブによる術前治療を検討する医師主導治験であるVOLTAGE-2が症例登録中である(https://jrct.niph.go.jp/latest-detail/jRCT2031220484)。対象患者を認めた際にはぜひ、治験実施施設へご紹介ください。5)【結腸がん】NICHE-2追加報告,局所進行dMMR結腸がんに対する術前Nivo+Ipi療法MSI-High(dMMR)の直腸がんについては、先のdostarlimabをはじめ、術前免疫療法が非常に奏効することが複数報告されている。一方、転移のあるdMMR結腸がんにおいても免疫チェックポイント阻害薬の有用性が報告されており、本邦でも切除不能dMMR結腸がんの1次治療の標準治療はPEMBであり、免疫チェックポイント阻害薬未投与例には2次治療以降でNivo+Ipiも選択可能である。NICHE-2試験は局所進行dMMR結腸がんに対する術前治療としてのNivo+Ipi療法の有効性を探索する単群第II相試験であり、1コース目にNivo+Ipi療法を行い、2コース目にNivo単剤療法を行った後、手術が実施された。主要評価項目は安全性と3年無病生存(DFS)率である。すでに高い病理学的奏効率と安全性は報告されていたが、ESMO2024で3年無病生存(DFS)率とctDNAのデータが報告された(#LBA24)。115例が登録され、T4が65%でT4bが29%、リンパ節転移ありが67%と局所進行例が登録されていた。pCR率は68%、3年DFS率は100%と非常に良好な治療効果が示唆された。ctDNAは治療前の段階では92%で陽性であったが、1コース後に45%が陰性となり、2コース後には83%が陰性となった。術後のctDNAを用いたMRDの探索では、全例がctDNA陰性であった(Chalabi M, et al. N Engl J Med. 2024;390:1949-1958.)。本試験により、局所進行dMMR結腸がんに対するNivo+Ipiは非常に魅力的な治療選択肢であることが示唆された。本治療は2コースで術前治療が終わり、手術まで6週と定義されており、短期間で良好な治療効果を認めている。ESMO2024では、同様の局所進行dMMR結腸がんに対してPEMBの有効性を探索したIMHOTEP試験や、Nivo+relatlimab(抗LAG-3抗体)の併用療法の有効性を探索したNICHE-3試験も報告があった。局所進行MSI-H/dMMR結腸がんの術前治療としての免疫チェックポイント阻害薬の有効性は有望な治療法だが、至適投与期間や単剤/併用療法などについては、今後の検討が待たれる。6)【大腸がん】CodeBreaK 300最終解析KRAS G12C変異陽性の進行大腸がん患者に対する新規分子標的薬combinationCodeBreaK 300試験は、フルオロピリミジン、イリノテカン、オキサリプラチンを含む1ライン以上の治療歴があるKRAS G12C変異陽性の進行大腸がん患者を対象に、High-doseソトラシブ(960mg)とパニツムマブを投与する群、Low-doseソトラシブ(240mg)とパニツムマブを投与する群、医師選択治療群(トリフルリジン・チピラシルとレゴラフェニブから選択)が比較された。主要評価項目は盲検下独立中央判定によるRECISTv1.1に基づくPFSであり、ASCO2024における最終解析でKRAS G12C阻害薬ソトラシブと抗EGFR抗体パニツムマブの併用は、標準的な化学療法よりもOSを延長する傾向があることが報告された(#LBA3510)。High-doseソトラシブ群の医師選択治療群に対するOSのHRは0.70(95%CI:0.41~1.18、p=0.20)、Low-doseソトラシブ群の医師選択治療群に対するOSは0.83(95%CI:0.49~1.39、p=0.50)と、医師選択治療群では後治療として3割の患者がKRAS G12C阻害薬へクロスオーバーしていたにもかかわらず、高用量群で30%のリダクションを認めた。ORRもHigh-doseソトラシブ群で30%(奏効期間10.1ヵ月)、Low-doseソトラシブ群が8%、それに対して医師選択治療群は2%であり、高用量では腫瘍縮小効果が期待された。本邦においても比較的早い時期に臨床実装されることが見込まれており、新たな治療選択肢として期待される。7)【膵消化管神経内分泌腫瘍(GEP-NET)】NETTER-2試験(NCT03972488)は、高分化型(G2およびG3)の膵消化管神経内分泌腫瘍(GEP-NET)患者において、1次治療として、従来の標準治療である高用量オクトレオチド長時間作用型(LAR)と「ルテチウムオキソドトレオチド:ルタテラ(177Lu)+低用量オクトレオチドLAR」併用療法とを比較した非盲検無作為化第III相試験である。主要評価項目はPFS、副次評価項目はORR、病勢コントロール率、奏効期間、有害事象(AE)など。対象患者はソマトスタチン受容体陽性(SSTR+)かつG2およびG3のGEP-NETと診断された患者であった。両群でバランスは取れており、原発部位は膵臓(55%)、小腸(30%)、直腸(5%)、胃(4%)、その他(7%)であった。PFS中央値はルタテラ群と対照群でそれぞれ22.8ヵ月vs.8.5ヵ月、HR:0.28(95%CI:0.18~0.42、p<0.0001)とルタテラ群で有意に延長を認め、客観的奏効率は43% vs.9.3%(p<0.0001)とルタテラ群で良好な腫瘍縮小効果を認めた。ルタテラ群と対照群との比較において最もよく見られた(20%以上)全GradeのAEは、悪心(27.2% vs.17.8%)、下痢(25.9% vs.34.2%)、腹痛(17.7% vs.27.4%)であり、Grade3以上のAE(5%以上)はリンパ球数の減少(5.4% vs.0%)であった。進行期GEP-NET(G2/G3)患者における新たな第1選択薬として期待される結果であり、今後、OSおよび長期安全性を含む副次評価項目が報告予定である。

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ミノサイクリン処方の際の5つの副作用【1分間で学べる感染症】第18回

画像を拡大するTake home messageミノサイクリンを使用する際には、皮膚症状の副作用を中心とした5つの副作用を覚えておこうミノサイクリンはテトラサイクリン系抗菌薬の1つで、あらゆる感染症に対して効果を発揮します。腎機能にかかわらず使用できるため便利な反面、いくつかの重要な副作用には注意する必要があります。今回は、とくに気を付けるべき5つの副作用を学んでいきます。1. 皮膚:光線過敏症まれに光線過敏症が生じることがあります。日光に長時間さらされることを避け、外出時には日焼け止めの使用や遮光性の高い衣類の着用を推奨します。2. 皮膚:色素沈着(青灰色・褐色)青灰色や褐色の色素沈着がみられることがあり、長期使用で患者の3~15%に発現するという報告もあります。この色素沈着は、タイプ1~4が報告されており、分布や機序が異なります。高用量のミノサイクリンを長期間使用した場合に発生率が高くなるといわれますが、短期間の使用における報告もあります。色素沈着の改善には時間を要することが多く、一部では不可逆的な場合の報告もあるため、注意が必要です。3. 消化器系および前庭神経症状(嘔気・嘔吐、めまい・運動失調)最も一般的な副作用として、消化器系症状(嘔気・嘔吐)および前庭系症状(めまい・運動失調)が挙げられます。前庭神経症状は、ミノサイクリンがほかのテトラサイクリンと異なり、血液脳関門を通過しやすい特性を持つために発生すると考えられています。とくに女性に多くみられる傾向があり、対症療法で改善する場合が多いものの、症状が継続する場合は薬剤変更を検討します。4. 良性頭蓋内圧亢進症(偽脳腫瘍)これもまれですが、良性頭蓋内圧亢進症(偽脳腫瘍)が発生することがあります。とくに女性に多くみられ、頭痛が主な症状です。偽脳腫瘍が疑われる場合は、眼科での診察を依頼し、乳頭浮腫の有無を確認することが重要です。この副作用は通常は可逆的ですが、まれに視覚障害が回復しないケースも報告されているため、早期発見と対応が重要です。5. 小児/胎児における歯の変形および着色、骨発達の遅延小児/胎児において歯の変形および着色、骨発達の遅延を引き起こす可能性があるとされています。ミノサイクリンは胎盤を通過するため、妊婦には禁忌とされています。また、8歳未満だけでなく、歯冠がすべて発達する(13~19歳)までミノサイクリンの使用は避けるべきという報告もあるため、ほかに選択肢がある場合は小児への使用は避けたほうがよい、という意見が多いです。このように、ミノサイクリンは頻度の高いものからまれなものまで多様な副作用があり、十分に理解しておくことが重要です。とくに色素沈着に関しては青黒色や灰色の外観が非常に印象的であること、回復まで時間を要することが多いため、患者に対する十分な説明と理解が必要です。ほかの抗菌薬と同様に、可能な限り短期間の使用にとどめることが重要です。1)Wang P, et al. JAMA Dermatol. 2021;157:992.2)Katayama S, et al. N Engl J Med. 2021;385:2463.3)Martins AM, et al. Antibiotics (Basel).4)Smilack JD, Mayo Clin Proc. 1999;74:727-729.5)Mouton RW, et al. Clin Exp Dermatol. 2004;29:8-14.6)Raymond J, et al. Australas Med J. 2015;8:139-142.

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85歳以上の日本人、高血圧は死亡リスクに影響する?しない?

 日本人高齢者の大規模コホート研究において、高血圧は65~74歳および75~84歳では全死亡リスクおよび心血管系死亡リスクを上昇させたが、85歳以上では上昇させなかったことを岡山大学/就実大学の赤木 晋介氏らが報告した。Geriatrics Gerontology International誌オンライン版2024年12月12日号に掲載。 本コホート研究は、2006年4月~2008年3月にベーシックな健康診断を受診した岡山市の65歳以上の5万4,760人を登録した。参加者は血圧によりC1からC6までの6つのカテゴリーに分けた(C1:SBP<120、DBP<80、C2:120≦SBP<130、80≦DBP<85、C3:130≦SBP<140、85≦DBP<90、C4:140≦SBP<160、90≦DBP<100、C5:160≦SBP<180、100≦DBP<110、C6:180≦SBP、110≦DBP)。血圧と全死亡および心血管疾患死亡との関連を評価するため、Cox比例ハザードモデルを用いて、C3を基準に各カテゴリーの全死亡のHRと95%信頼区間(CI)を計算した。心血管疾患死亡については、他の死亡を競合リスクと見なすFine and Grayモデルを使用し、部分分布HRと95%CIを推定した。さらに年齢層(65~74歳、75~84歳、85歳以上)ごとに解析した。 主な結果は以下のとおり。・全死亡の完全調整済みHRは、C5で1.11(95%CI:1.04~1.19)、C6で1.23(同:1.09~1.38)であった。・心血管死亡の完全調整済み部分分布HRは、C4で1.11(95%CI:1.01~1.21)、C5で1.19(同:1.05~1.34)、C6で1.36(同:1.09~1.70)であった。・年齢層別では、C4、C5、C6 の 全死亡の完全調整済みHRは、65~74 歳では1.14、1.26、1.75、75~84 歳では1.06、1.16、1.19、85 歳以上では 0.95、0.99、1.22であった。・高齢になるほど低血圧のリスクが増加し、C1のHRは85歳以上で1.28(95%CI:1.16~1.41)であった。

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タルラタマブ、既治療の小細胞肺がんでの承認根拠となったDeLLphi-301試験のアジア人データ/ESMO Asia2024

 腫瘍細胞上に発現するDLL3とT細胞上に発現するCD3に対する特異性を有するBiTE(二重特異性T細胞誘導)抗体タルラタマブ。既治療の小細胞肺がん(SCLC)患者を対象とした国際共同第II相試験「DeLLphi-301試験」において、タルラタマブ10mg投与例の奏効率は40%、無増悪生存期間(PFS)中央値は4.9ヵ月、全生存期間(OS)中央値は14.3ヵ月と良好な成績を示した1)。DeLLphi-301試験の結果に基づき、本邦では2024年12月27日に「がん化学療法後に増悪した小細胞肺癌」の適応でタルラタマブの製造販売承認を取得した。また、『肺癌診療ガイドライン2024年版』では、全身状態が良好(PS0~1)な再発SCLCの3次治療以降にタルラタマブを用いることを弱く推奨することが追加されている2)。欧州臨床腫瘍学会アジア大会(ESMO Asia2024)において、DeLLphi-301試験のアジア人集団のpost-hoc解析結果を、赤松 弘朗氏(和歌山県立医科大学 内科学第三講座 准教授)が発表した。タルラタマブの投与方法と評価項目(DeLLphi-301試験) DeLLphi-301試験は3つのパートで構成された。対象は、プラチナダブレットを含む2ライン以上の治療歴を有するSCLC患者とした。パート1(用量探索パート)では176例を登録し、タルラタマブ10mg群(88例)と100mg群(88例)に1対1の割合で無作為に割り付け、投与した。パート2(用量拡大パート)では12例を登録し、パート1の結果に基づいてタルラタマブ10mgを投与した。パート3(reduced inpatient monitoringパート)では34例を登録し、タルラタマブ10mgを投与した。 投与方法は、割り付けられた治療群に基づき1日目にタルラタマブ1mgを投与し、8、15日目に10mgまたは100mgを投与、その後は2週ごとにタルラタマブ10mgまたは100mgを投与することとした。DeLLphi-301試験の評価項目は以下のとおりであった。[主要評価項目]ORR[副次評価項目]病勢コントロール率(DCR)、奏効期間(DOR)、PFS、OS、安全性などタルラタマブ投与で最も多く認められた有害事象はCRS 今回はタルラタマブ10mgを投与されたアジア人集団43例(有効性の解析は41例)の結果が報告された。DeLLphi-301試験のアジア人集団のpost-hoc解析の主な結果は以下のとおり。・対象患者の年齢中央値は64.0歳(範囲:43~79)、男性の割合は81%であった。喫煙歴あり/なしの割合は84%/16%で、2ライン/3ライン以上の治療歴を有する割合は65%/35%であった。・ORRは46.3%(全体集団の10mg投与例:40.0%)、DCRは80.5%(同:70.0%)であった。また、DOR中央値は7.2ヵ月で、データカットオフ時点において奏効例の32%(6/19例)が1年以上治療を継続中であった。・PFS中央値は5.4ヵ月であり、6ヵ月PFS率は41.7%、12ヵ月PFS率は21.4%であった。・OS中央値は19.0ヵ月であり、12ヵ月OS率は67.4%、18ヵ月OS率は53.3%であった。・最も多く認められた有害事象は、サイトカイン放出症候群(CRS)で49%に発現したが、全例がGrade1/2であった。CRSのほとんどが1サイクル目に発現した。・免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群(ICANS)は、9.3%に発現したが、全例がGrade1/2であった。ICANSのほとんどが3ヵ月以内に発現した。・治療中止に至った有害事象は認められなかった。 本結果について、赤松氏は「既治療のSCLC患者に対するタルラタマブは、アジア人集団でも新たな安全性に関するシグナルは認められず、持続的な奏効と注目すべき生存成績がみられ、良好なベネフィット/リスクプロファイルを示した」とまとめた。なお、SCLCへのタルラタマブについては、再発SCLC患者を対象としてタルラタマブと化学療法を比較する国際共同第III相試験「DeLLphi-304試験」が進行中である。

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進行期低腫瘍量濾胞性リンパ腫の初回治療、watchful waiting対早期リツキシマブ(JCOG1411/FLORA)/ASH2024

 未治療の進行期低腫瘍量濾胞性リンパ腫(LTB-FL)では、診断後にすぐに治療を行わずに経過を診る、いわゆる無治療経過観察(watchful waiting、WW)が標準治療とされているが、高腫瘍量(HTB)への進行や組織学的形質転換といったリスクが懸念される。 一方、リツキシマブ単剤療法は、LTB-FLに対する初回治療の選択肢としてその有効性が示されているが、同剤を開始する最適な時期は明らかになっていない。そこで、未治療の進行期LTB-FL患者を対象に、WWに対する早期リツキシマブ導入の優越性を検証する無作為化第III相JCOG1411/FLORA試験が行われた。なお、同試験は、2024年6月に事前に計画された2回目の中間解析により、JCOG効果・安全性評価委員会から早期終了が勧告された。同試験の結果を東北大学の福原 規子氏が第66回米国血液学会(ASH2024)で発表した。・試験デザイン:無作為化第III相比較試験・対象:未治療の進行期・超低腫瘍量FL(Grade 1〜3A)※本試験では、GELF規準による低腫瘍量FLを、超低腫瘍量(腫瘍の最大長径が5cm未満、長径3cm以上の腫大リンパ節が2領域以下、胸腹水貯留なし)と、中腫瘍量(最大長径5cm以上7cm未満、長径3cm以上の腫大リンパ節3領域、重篤な胸腹水貯留なし、のうち1つ以上該当)の2つに分け、超低腫瘍量を試験の対象とし、中腫瘍量をリツキシマブ投与規準と定義した。・試験群:リツキシマブ(375mg/m2 day1、8、15、22)(RTX群、144例)・対象群:無治療経過観察 (WW群、148例) 両群とも中腫瘍量に進行した場合はリツキシマブ(375mg/m2 day1、8、15、22)投与・評価項目:【主要評価項目】無イベント生存期間(EFS)(イベント:高腫瘍量(HTB)への進行、細胞傷害性化学療法±放射線療法の開始、組織学的形質転換、または死亡)【副次評価項目】無細胞傷害性化学療法生存期間、無組織学的形質転換生存期間、無増悪生存期間(PFS)、全生存期間(OS)、全奏効割合(ORR)、有害事象など 主な結果は以下のとおり。・2016年12月〜2023年3月にJCOGリンパ腫グループ54施設から292例が登録された。・第2回中間解析(データカットオフ2023年12月)の観察期間中央値2.5年時点で、主要評価項目であるEFSにおいて、中央値はRTX群6.9年に対しWW群4.5年であり、有意にRTX群で改善した(HR:0.625、95%CI:0.425~0.918、片側p=0.0078)。・EFSのイベント内訳は、HTBへの進行(RTX群18.8%、WW群32.4%)、組織学的形質転換(RTX群8.3%、WW群12.8%)、化学療法の開始(RTX群11.8%、WW群8.8%)などであった。・PFS中央値はRTX群、WW群とも3.0年で両群間に差はみられなかった(HR:0.911、95%CI:0.666~1.247)。・ORRはRTX群70.8%、WW群3.4%であった。・OS中央値は両群とも未到達、3年OS割合はRTX群97.5%、WW軍98.5%で両群間に差は見られなかった(HR:0.908、95%CI:0.329〜2.506)。・無組織学的形質転換生存期間中央値は両群とも未到達、同3年割合はRTX群91.4%、WW群87.4%であった。・主なGrade2~4の非血液毒性(>5%)はインフュージョンリアクション(RTX群24.1%、WW群8.9%)、上気道感染症(RTX群6.4%、WW群2.1%)、高血圧(RTX群5.7%、WW群1.4%)であり、主なGrade3~4の血液毒性(>5%)はリンパ球減少であった(RTX群11.4%、WW群8.5%)。 以上の結果から福原氏は、未治療の進行期超低腫瘍量FL患者において、リツキシマブ早期介入は高腫瘍量への進行や化学療法の開始時期を遅らせることが示され、OSや組織学的形質転換に関しては長期のフォローアップが必要であるものの、リツキシマブ早期投与は未治療の進行期超低腫瘍量FLの初期治療に推奨されると結んだ。

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