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急性期脳梗塞、血管内再灌流後にウロキナーゼ動注は有効か?/JAMA

 主幹動脈閉塞を伴う急性期虚血性脳卒中で、最終健常確認後24時間以内に血管内血栓除去術を受け、ほぼ完全または完全な再灌流が達成され静脈内血栓溶解療法歴のない患者に対し、ウロキナーゼ動脈内投与(動注)を追加しても90日後の機能障害のない生存は改善しなかった。中国・重慶医科大学附属第二医院のChang Liu氏らPOST-UK investigatorsが、中国の35施設で実施した医師主導の無作為化非盲検評価者盲検試験「Adjunctive Intra-Arterial Urokinase After Near- Complete to Complete Reperfusion for Acute Ischemic Stroke(POST-UK)試験」の結果を報告した。末梢動脈および微小循環における持続性または新たな血栓は、介入後の梗塞を促進し神経学的回復の可能性を低下させる恐れがあるが、血管内血栓除去術後の動脈内血栓溶解療法が、機能障害のない生存を高める有望な戦略となることが第IIb相臨床試験「CHOICE試験」で示されていた。JAMA誌オンライン版2025年1月13日号掲載の報告。ウロキナーゼ動注群vs.対照群、無作為化90日後の機能障害のない生存を比較 研究グループは、頭蓋内内頸動脈、中大脳動脈第1セグメントまたは第2セグメントの閉塞を認め、NIHSSスコアが25以下、修正Rankinスケール(mRS)スコアが<2、静脈内血栓溶解療法歴はなく、小~中程度の虚血コア(6時間以内の非造影CTでASPECTSスコア6以上、ASPECTSスコア7以上、または発症後6~24時間にDAWN試験あるいはDEFUSE-3試験の選択基準を満たす)を有し、発症(最終健常確認)から24時間以内に血管内血栓除去術を受けeTICIグレード2c(ほぼ完全な再灌流)以上を達成した18歳以上の患者を、ウロキナーゼ動注群または対照群に1対1の割合で無作為に割り付けた。 ウロキナーゼ動注群では、標的領域にウロキナーゼ10万IUを単回注入し、対照群では動脈内血栓溶解療法を行わなかった。 有効性の主要アウトカムは、無作為化90日後の機能障害のない生存(mRSスコア0または1)を達成した患者の割合、安全性の主要アウトカムは90日以内の全死因死亡および48時間以内の症候性頭蓋内出血とした。90日後の機能障害のない生存の患者割合、両群で有意差なし 2022年11月15日~2024年3月29日に535例が無作為化された。ウロキナーゼ動注群の1例が直ちに同意を撤回したためウロキナーゼ動注群267例、対照群267例となった。患者背景は、年齢中央値69歳、女性が223例(41.8%)で、532例(99.6%)が試験を完遂した。最終追跡調査は2024年7月4日に行われた。 90日後の機能障害のない生存患者の割合は、ウロキナーゼ動注群45.1%(120/266例)、対照群40.2%(107/266例)であった(補正後リスク比:1.13、95%信頼区間[CI]:0.94~1.36、p=0.19)。 90日死亡率はそれぞれ18.4%、17.3%(補正後ハザード比:1.06、95%CI:0.71~1.59、p=0.77)、症候性頭蓋内出血の発現率はそれぞれ4.1%、4.1%(補正後リスク比:1.05、95%CI:0.45~2.44、p=0.91)であり、いずれも両群間で有意差は認められなかった。

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HER2+早期乳がんへの術後T-DM1、iDFS改善を長期維持しOS有意に延長/NEJM

 トラスツズマブを含む術前化学療法後に浸潤がんの残存が認められたHER2陽性(HER2+)早期乳がん患者において、トラスツズマブ エムタンシン(T-DM1)はトラスツズマブと比較して、全生存期間(OS)を延長し、無浸潤疾患生存期間(iDFS)の改善が維持されていた。米国・National Surgical Adjuvant Breast and Bowel Project (NSABP) FoundationのCharles E. Geyer Jr氏らが、第III相無作為化非盲検比較試験「KATHERINE試験」のiDFSの最終解析およびOSの2回目の中間解析の結果を報告した。術前化学療法後に浸潤がんが残存するHER2+早期乳がん患者は、再発および死亡のリスクが高い。KATHERINE試験では、iDFSの1回目の中間解析においてT-DM1のトラスツズマブに対する優越性が検証され(非層別ハザード比[HR]:0.50、95%信頼区間[CI]:0.39~0.64、p<0.001)、この結果に基づき「HER2+の乳がんにおける術後療法」の適応追加が承認されていた。NEJM誌2025年1月16日号掲載の報告。術前療法で浸潤がん残存HER2+早期乳がん、T-DM1 vs.トラスツズマブを比較 研究グループは、タキサン系化学療法およびトラスツズマブを含む術前薬物療法を受け、手術後、乳房または腋窩リンパ節に浸潤がんの残存が認められたHER2+早期乳がん患者を、T-DM1群またはトラスツズマブ群に1対1の割合で無作為に割り付け、14サイクル投与した。 主要評価項目はiDFSとし、重要な副次評価項目はOSなどであった。iDFSの定義は、同側浸潤性乳がん再発、同側局所の浸潤性乳がんの再発、遠隔再発、対側乳房の浸潤性乳がん、全死因死亡のいずれかが無作為化から最初に認められた日までの期間とされた。 有効性の解析はITT解析とし、iDFSの最終解析およびOSの2回目の中間解析は、iDFSのイベントが384件発生後に行うことと規定された。 ITT集団には各群743例の患者が組み込まれた。中央値8.4年追跡後もiDFSの改善は維持、OSの有意な改善を認める 追跡期間中央値8.4年において、iDFSのイベントはT-DM1群で146例(19.7%)、トラスツズマブ群で239例(32.2%)に報告された。浸潤性疾患または死亡の非層別HRは0.54(95%CI:0.44~0.66)であり、iDFSの改善が維持されていた。 7年iDFS率は、T-DM1群80.8%、トラスツズマブ群67.1%であった(群間差:13.7%ポイント)。 死亡は、T-DM1群89例(12.0%)、トラスツズマブ群126例(17.0%)が報告された。死亡のHRは0.66(95%CI:0.51~0.87、p=0.003)で、事前に規定された有意水準(p<0.0263、HR:0.739に相当)を超えており、T-DM1群はトラスツズマブ群より死亡リスクが有意に低いことが認められた。推定7年OS率はT-DM1群89.1%、トラスツズマブ群84.4%であった(群間差4.7%ポイント)。 Grade3以上の有害事象は、T-DM1群で26.1%、トラスツズマブ群で15.7%に報告された。

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副腎性クッシング症候群〔Adrenal Cushing's syndrome〕

1 疾患概要■ 定義クッシング症候群は、副腎皮質から慢性的に過剰産生されるコルチゾールにより、中心性肥満や満月様顔貌といった特徴的な臨床徴候を示し、糖・脂質代謝異常、高血圧などの合併症を伴う疾患である。手術により治癒が期待できる内分泌性高血圧症の1つである。 広義のクッシング症候群は副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)依存性クッシング症候群(下垂体性のクッシング病や異所性ACTH産生腫瘍など)とACTH非依存性クッシング症候群(副腎性クッシング症候群)に大別され、本稿では副腎性クッシング症候群について解説する。■ 疫学厚生省特定疾患副腎ホルモン産生異常症調査研究班による全国実態調査では、日本全国で1年間に約50症例の副腎性クッシング症候群の発症が報告されている。CT検査などが行われる機会が増えた現在では、副腎偶発腫を契機に診断される症例が増加していると考えられる。副腎腺腫によるクッシング症候群の男女比は1: 4と女性に多く、30~40代に好発する。■ 病因副腎皮質の腺腫やがんなどにおいてコルチゾールが過剰産生される。その分子メカニズムとしてcAMP-プロテインキナーゼA(protein kinase A:PKA)経路およびWNT-βカテニンシグナル経路の異常が示されている。顕性クッシング症候群を生じる症例の約85%で症例の副腎皮質腺腫において、PKAの触媒サブユニットをコードするPRKACA(protein kinase A catalytic subunit α)遺伝子、およびアデニル酸シクラーゼを活性化することによりcAMP産生に関わるタンパク質をコードするGNAS(α subunit of the stimulatory G protein)遺伝子、WNTシグナル伝達経路の細胞内シグナル伝達因子であるβカテニンをコードするCTNNB1(β catenin)遺伝子の変異を認めることが報告されている。■ 症状クッシング症候群に特異的な症状として、中心性肥満(顔、頸部、体幹のみの肥満)、満月様顔貌、鎖骨上および肩甲骨上部の脂肪沈着(野牛肩:buffalo hump)、皮膚の菲薄化、皮下溢血、赤色皮膚線条、近位筋萎縮による筋力低下があり「クッシング徴候」と言う。その他、耐糖能異常、高血圧、脂質異常症や性腺機能低下症、骨粗鬆症、精神障害、ざ瘡、多毛を認めることもある。■ 分類副腎腫瘍によるもの、副腎結節性過形成によるものに大別される。副腎腫瘍には副腎皮質腺腫、副腎皮質がんがあり、副腎結節性過形成にはACTH非依存性大結節性過形成(primary bilateral macronodular adrenal hyperplasia:PBMAH)、原発性色素性結節状副腎皮質病変(primary pigmented nodular adrenocortical disease:PPNAD)が含まれる。顕性クッシング症候群のうちPBMAH、PPNADの頻度は併せて5.8%とまれである。また、クッシング徴候を欠くがコルチゾール自律分泌を認める症例を「サブクリニカルクッシング症候群」と言う。■ 予後副腎皮質腺腫によるクッシング症候群は、治療によりコルチゾールを正常化できた症例では同年代とほぼ同程度の予後が期待できる。治療しなければ、感染症や心血管疾患のリスクが増加し、予後に影響することが示されており、早期発見、治療が重要である。一方、副腎皮質がんはきわめて悪性度が高く、急速に進行し、肝臓や肺などへの遠隔転移を認めることも多く予後不良である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)クッシング徴候や副腎偶発腫、また、治療抵抗性の糖尿病、高血圧、年齢不相応の骨粗鬆症を認めた際は、クッシング症候群を疑い精査を行う。まず、病歴、服薬状況の問診によりステロイド投与による医原性クッシング症候群を除外し、血中コルチゾール濃度に影響を及ぼす薬剤(表)の使用を確認する。表 クッシング症候群の診断に影響する可能性がある薬剤(左側は一般名、右側は商品名)画像を拡大する血中コルチゾール濃度は視床下部から分泌されるCRHの調節により早朝に高値になり、夜間には低値になる日内変動を示す。クッシング症候群ではCRHの調節を受けないため、コルチゾールの日内変動は消失し、デキサメタゾン内服により抑制されない。そのため、24時間尿中遊離コルチゾール高値、デキサメタゾン1mg抑制試験で翌朝血清コルチゾール値≧5μg/dL、夜間血清コルチゾール濃度≧5μg/dLのうち、2つ以上あればクッシング症候群と診断する。さらに早朝の血漿ACTH濃度を測定し、測定感度以下(<5μg/mL)に抑制されていれば副腎性クッシング症候群と診断する。図に診断のアルゴリズムを示す。図 クッシング症候群の診断アルゴリズム画像を拡大するただし、うつ病、慢性アルコール依存症、神経性やせ症、グルココルチコイド抵抗症、妊娠後期などでは視床下部からのCRH分泌増加による高コルチゾール血症(偽性クッシング症候群)を呈することがあり、抗てんかん薬内服ではデキサメタゾン抑制試験で偽陽性を示すことがあるため、注意が必要である。副腎腫瘍の有無の検索のため腹部CT検査を行う。副腎皮質腺腫は脂肪成分が多いため、単純CT検査で辺縁整、内部均一な10HU未満の低吸収値を認める。直径4cm以上で境界不明瞭、内部が出血や壊死で不均一な腫瘍の場合は副腎皮質がんを疑い、MRIやFDG-PETなどさらなる精査を行う。PBMAHでは著明な両側副腎の結節性腫大を認め、PPNADでは副腎に明らかな腫大や腫瘍を認めない。コルチゾールの過剰産生の局在診断のため131I-アドステロール副腎皮質シンチグラフィを行う。片側性副腎皮質腺腫によるクッシング症候群では、健側副腎に集積抑制を認める。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)副腎皮質腺腫では腹腔鏡下副腎摘出術を施行することで根治が期待できる。術後、対側副腎によるコルチゾール分泌の回復までに6ヵ月~1年を要するため、その間は経口でのグルココルチコイド補充を行う。手術困難な症例や、片側副腎摘出術後の再発例、著明な高コルチゾール血症による糖代謝異常や精神異常、易感染性のため術前に早急なコルチゾールの是正が必要な症例に対しては、副腎皮質ステロイドホルモン合成阻害薬であるメチラポン(商品名:メトピロン)、トリロスタン(同:デソパン)、ミトタン(同:オペプリム)が投与可能である。11β-水酸化酵素阻害薬であるメチラポンは可逆性で即効性があることから最もよく用いられている。副腎皮質がんでは開腹による腫瘍の完全摘出が第1選択であり、術後アジュバント療法として、または手術不能例や再発例に対しては症状軽減のためミトタンを投与する。ミトタンは約25~30%の奏効率とされているが、副作用も少なくないため有効血中濃度を維持できない症例も多い。PBMAHでは、症状が軽微な症例や腫大副腎の左右差もあり、合併症などを考慮して症例ごとに片側あるいは両側副腎摘出術や薬物療法による治療方針を決定する。一部の症例でみられる異所性受容体に対する阻害薬が有効な場合もあるが、長期使用による成績は報告されていない。PPNADでは、顕性クッシング症候群を発症することが多いため、両側副腎全摘が第1選択となる。サブクリニカルクッシング症候群では、副腎腫瘍のサイズや増大傾向、合併症を考慮して症例ごとに経過観察または片側副腎摘出術を検討する。4 今後の展望唾液コルチゾール濃度は、外来での反復検査が可能で、遊離コルチゾール濃度との相関が高いことが知られており、欧米では、夜間の唾液コルチゾール濃度がスクリーニングの初期検査として推奨されているが、わが国ではまだ保険適用ではなくカットオフ値の検討が行われておらず、今後の課題である。また、2021年3月に11β-水酸化酵素阻害薬であるオシロドロスタット(同:イスツリサ)の使用がわが国で承認された。メチラポンと比べて服用回数が少なく、多くの症例で迅速かつ持続的にコルチゾールの正常化が得られるとされており、長期使用成績の報告が待たれる。5 主たる診療科内分泌内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報日本内分泌学会(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)厚生省特定疾患副腎ホルモン産生異常症調査研究班 副腎ホルモン産生異常に関する調査研究(医療従事者向けのまとまった情報)1)出村博ほか. 厚生省特定疾患「副腎ホルモン産生異常症」調査研究班 平成7年研究報告書. 1996;236-240.2)Lacroix A, et al. Lancet. 2015;386:913-927.3)Yusuke S, et al.Science. 2014;344:917-920.4)Rege J, et al. J Clin Endocrinol Metab. 2022;107:e594-e603.5)日本内分泌学会・日本糖尿病学会 編. 内分泌代謝・糖尿病内科領域専門医研修ガイドブック. 診断と治療社;2023.p.182-187.6)Nieman Lk, et al. J Clin Endocrinol Metab. 2008;93:1526-1540.公開履歴初回2025年1月23日

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MASLD患者の転帰、発症リスクに性差

 代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)は世界的に増加傾向にあり、好ましくない肝臓や肝臓以外における転帰の主な原因となっている。米国のMASLD患者のデータを使用し、性別と肝臓および肝臓以外の転帰との関連性を調査した、米国・スタンフォード大学医療センターのTaotao Yan氏らによる研究がJAMA Network Open誌2024年12月4日号に掲載された。 研究者らは2007~22年のMerative MarketScanデータベースからMASLDの成人患者を特定し、傾向スコアマッチングを使用して男性/女性群のベースライン特性のバランスを取った。肝臓関連の転帰(肝硬変、肝代償不全、肝細胞がん[HCC])と肝臓以外の転帰(心血管系疾患[CVD]、慢性腎臓病[CKD]、肝臓以外の性別に関係ないがん)の発生率を推定し、性別ごとに比較した。 主な結果は以下のとおり。・MASLD患者76万1,403例のうち、ベースライン特性がマッチした男女34万4,436組が分析に含まれた。平均年齢(52.7歳/53.0歳)のほか、糖尿病や高血圧などの既往症、服薬状況などは2群間でバランスが取れていた。・女性は男性と比較して、1,000人年当たりのあらゆる肝臓関連の転帰(12.72対11.53)および肝硬変(12.68対11.55)の発生率が有意に高かった。・一方、男性は肝代償不全(10.40対9.37、ハザード比[HR]:1.11、95%信頼区間[CI]:1.08~1.14)、HCC(1.88対0.73、HR:2.59、95%CI:2.39~2.80)、CVD(17.89対12.89、HR:1.40、95%CI:1.37~1.43)、CKD(16.61対14.42、HR:1.16、95%CI:1.13~1.18)、および性別に関係のないがん(6.68対5.06、HR:1.32、95%CI:1.27~1.37)の発生率が高かった。 著者らは「これは性別とMASLDの好ましくない臨床転帰との関連性を調べるために設計された最大のコホート研究だ。女性のほうが肝硬変の発症率とリスクが高いことがわかったが、これはMASLDが米国の女性における肝移植の主な適応であるという観察結果と一致している。既存の研究結果と同様に、本研究でも、男性のMASLD患者はHCCリスク増との有意な関連性がわかった。さらに、男性のMASLD患者は女性よりもCVDと性別に関係のないがんのリスクが高いことで、一般集団では男性が女性よりもCVDとがんリスクが高いという既存の知識を裏付けた。私たちの研究は、MASLD患者の肝臓および肝臓以外の臨床転帰のリスクに有意な性差があるという証拠を提供し、性別に基づいたMASLD予防、モニタリング、および治療管理戦略の方針を支援するものである」とまとめた。

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急性期脳梗塞、再灌流後のtenecteplase動注は有益か/JAMA

 主幹動脈閉塞を伴う急性期脳梗塞を発症し、最終健常確認時刻から24時間以内に血管内血栓除去術(EVT)を受け、ほぼ完全または完全な再灌流を達成した患者において、補助的なtenecteplase動脈内投与(動注)は、90日時点の障害なしの患者の割合を有意に増加させなかった。中国・重慶医科大学附属第二医院のJiacheng Huang氏らPOST-TNK Investigatorsが無作為化試験「POST-TNK試験」の結果を報告した。JAMA誌オンライン版2025年1月13日号掲載の報告。90日時点の障害なしを評価 POST-TNK試験は、医師主導の無作為化非盲検アウトカム評価盲検化試験で、中国の34病院で行われた。被験者は、近位頭蓋内主幹動脈閉塞による急性期脳梗塞を発症し、最終健常確認時刻から24時間以内にEVTを受け、EVT後のexpanded Thrombolysis in Cerebral Infarction(eTICI)スコアが2c~3、静脈内血栓溶解療法を受けていない患者とし、補助的なtenecteplase動注の有効性と安全性を評価した。 被験者の募集は2022年10月26日~2024年3月1日に行われ、最終フォローアップは2024年6月3日であった。 適格患者540例を、tenecteplase 0.0625mg/kgの動注を受ける群(tenecteplase動注群、269例)、または動脈内血栓溶解療法による治療を受けない群(対照群、271例)に無作為に割り付けた。 有効性の主要アウトカムは、90日時点の障害なしとし、修正Rankinスケールスコア(範囲:0[症状なし]~6[死亡])0/1と定義した。安全性の主要アウトカムは、90日時点の死亡、48時間以内の症候性頭蓋内出血とした。対照群と比較し主要アウトカムに有意差なし、症候性頭蓋内出血の発現率が高率 試験を完了したのは539例(99.8%)であった(年齢中央値69歳、女性221例[40.9%])。 90日時点の修正Rankinスケールスコア0/1の患者の割合は、tenecteplase動注群49.1%(132/269例)、対照群44.1%(119/270例)であった(補正後リスク比:1.15、95%信頼区間[CI]:0.97~1.36、p=0.11)。 90日死亡率は、tenecteplase動注群16.0%(43/269例)、対照群19.3%(52/270例)であった(補正後ハザード比:0.75、95%CI:0.50~1.13、p=0.16)。48時間以内の症候性頭蓋内出血の発現率は、それぞれ6.3%(17/268例)と4.4%(12/271例)であった(補正後リスク比:1.43、0.68~2.99、p=0.35)。

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米アルツハイマー病協会が新たな診療ガイドラインを作成

 アルツハイマー病(AD)の専門家グループが、新たに包括的な診療ガイドラインを作成し、家庭医や脳専門医がADおよびAD関連疾患(ADRD)を最も効果的に検出する方法を提示した。この新ガイドラインは、「Alzheimer’s & Dementia」に12月23日掲載された。 このガイドラインでは、次に挙げる3つの一般的な基準に従い脳の健康状態を評価することを推奨している。それは、1)患者の全体的な認知障害のレベル、2)記憶、推論、言語、気分などに関わる特定の症状の有無、3)症状を引き起こしている可能性のある脳疾患の有無。 本ガイドラインの筆頭著者である、米アルツハイマー病協会および米ハーバード大学医学大学院神経学分野のAlireza Atri氏は、「これらの診断領域は、ADをはじめとする認知症に関する新たな研究成果が得られるたびに、新しい検査方法をガイドラインに組み込むことができるよう、意図的に広く定義されている」と話す。また同氏は、「本ガイドラインは、米国初の学際的なガイドラインとして広範な臨床状況で利用できるように設計されており、高品質で個別化された診断プロセスを体系的にまとめた包括的な基盤を提供する。このプロセスには特定の検査が組み込まれており、分野の進展に応じて更新することが可能だ」と説明する。さらに、「新しいツールやバイオマーカーが十分に検証され、実臨床で使用されるようになれば、本ガイドラインも、細部で部分的な修正が必要になるだろう」と付け加えている。 ADをはじめとする認知症の研究は着実に進展しているが、認知機能低下の診断に関する現在のガイドラインは20年以上も前に作られたものだと専門家は指摘する。さらに、これらのガイドラインは神経学や認知症の専門医を対象としたものであり、脳の健康に不安のある患者を診察する家庭医に対する指針は示されていなかった。こうした現状を踏まえて、アルツハイマー病協会は今回のガイドライン作成に当たり、脳の健康の評価プロセスを刷新するために、プライマリケア医や専門医など、複数の医療分野の専門家から成るワーキンググループを招集した。 新ガイドラインの上席著者でアルツハイマー病協会の最高科学責任者であるMaria Carrillo氏は、「新ガイドラインは、記憶に関する訴えを評価する際の指針を医師に提供する重要なものだ。記憶の問題の根底にはさまざまな原因が関与している可能性がある。そのため、そのような訴えの評価は、ADを早期かつ正確に診断するための出発点となる。さらに、このガイドラインは、記憶障害の一因となる可能性のある他の根本的な原因に関する情報を臨床医に提供する」とアルツハイマー病協会のニュースリリースの中で述べている。 脳の健康状態の総合的な評価には、次のようなことが含まれている。・記憶力と思考力のテスト・年齢、認知症の家族歴、高血圧、喫煙などのリスク因子の評価・認知機能の低下を反映している可能性のある日常生活の症状の評価・MRIまたはCTによる脳の検査、およびその他の臨床検査 ワーキンググループによれば、新しい検査やスキャンは、開発され次第、このフレームワークに追加される可能性があるという。本ガイドラインの共著者である米マサチューセッツ総合病院前頭側頭葉疾患ユニットのBradford Dickerson氏は、「このガイドラインは、従来のガイドラインの範囲を拡大し、診断プロセス全体にわたる推奨事項を臨床医に提供する」と述べる。同氏はまた、「われわれは医療専門家に対して、認知症評価の目標についての自分の考えが患者と一致しているかを確認することから始めることを推奨している。そのためには通常、プロセスの具体的な手順について患者に説明し、理解を得るための話し合いが必要になる。その後、症状や検査に関する情報の取得に必要な手順を概説し、患者に合わせたさまざまな診断テストを行い、診断開示プロセスに関するベストプラクティスをまとめると良い」と話している。

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タバコを1本吸うごとに寿命が22分縮む?

 紙巻きタバコ(以下、タバコ)を1本吸うごとに寿命が最大22分短縮する可能性のあることが、英国の喫煙者の死亡率データに基づく研究で明らかにされた。この結果は、1日に20本入りのタバコを1箱吸うと、寿命が7時間近く縮む可能性があることを示唆している。英ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)のアルコール・タバコ研究グループのSarah Jackson氏らによるこの研究結果は、「Addiction」に12月29日掲載された。Jackson氏は、「喫煙者が失う時間は、大切な人々と健康な状態で過ごすことができるはずの時間だ」と述べている。 2000年に報告された研究では、1991年まで40年にわたって男性の死亡率を追跡したBritish Doctors Studyのデータ(1日当たりの喫煙本数は15.8本と推定)を基に、タバコを1本吸うごとに寿命が平均11分短縮することが推定されていた。現時点では、British Doctors Studyの2001年までの50年間の追跡データと、女性の死亡率を2011年まで追跡したMillion Women Studyのデータが利用可能である。これらの研究では、喫煙をやめなかった場合、男性では約10年、女性では約11年寿命が短縮することが推定されているという。今回、Jackson氏らは、1996年の女性の1日当たりの喫煙本数(平均13.6本)を考慮してタバコを1本吸うごとに失われる寿命を算出した。その結果、男女全体では20分、男性では17分、女性では22分と推定された。 また、喫煙の有害な影響は累積的であり、禁煙を早期に始めて喫煙本数を減らせば減らすほど寿命は長くなることも示された。例えば、1日10本のタバコを吸う人が2025年1月1日に禁煙を始めると、1月8日までに1日分、2月20日までに1週間分、8月5日までに1カ月分、年末までに50日分の寿命を守ることができることになるという。なお、過去の研究から、喫煙者は通常、不良な健康状態で過ごす年数と同じ年数の寿命を失うことが示唆されている。つまり、喫煙が主に影響を与えるのは健康な中年期ということだ。この知見に基づくと、60歳の喫煙者の健康状態は、非喫煙者の70歳の健康状態に相当することになると研究グループは述べている。 Jackson氏は、「これらの結果は、20代か30代前半までの早い時期に禁煙した人の平均寿命は、喫煙未経験者と同等に近付く傾向があることを示している。しかし、年齢を重ねるにつれて、禁煙しても取り戻せないほど少しずつ寿命が失われていく。禁煙時の年齢に関係なく、禁煙することで喫煙を続けた場合よりも平均寿命は確実に長くなる」と述べている。その上で同氏は、「禁煙は間違いなく、健康のためにできる最善のことだ」と強調している。 喫煙率は1960年代から減少しているが、米疾病対策センター(CDC)によると、喫煙は依然として米国における予防可能な死因の第1位であり、毎年48万人以上の米国人が喫煙により命を落としている。喫煙は寿命に影響を及ぼすだけでなく、免疫系にも悪影響を及ぼす。2024年に「Nature」に掲載された研究では、喫煙は免疫反応を弱め、感染症、がん、自己免疫疾患に対する脆弱性を高めることが示されている。このNature誌掲載論文の責任著者の1人でパスツール研究所(フランス)トランスレーショナル免疫学部門長のDarragh Duffy氏は、「良い知らせとしては、喫煙によりリセットが始まることだ。禁煙する最適な時期は今なのだ」と話している。

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高齢患者の抗菌薬使用は認知機能に影響するか

 高齢患者の抗菌薬の使用は認知機能の低下とは関連しないことが、新たな研究で明らかにされた。論文の上席著者である米ハーバード大学医学大学院のAndrew Chan氏は、「高齢患者は抗菌薬を処方されることが多く、また、認知機能低下のリスクも高いことを考えると、これらの薬の使用について安心感を与える研究結果だ」と述べている。この研究の詳細は、「Neurology」に12月18日掲載された。 研究グループは、人間の腸内には何兆個もの微生物が存在し、その中には認知機能を高めるものもあれば低下させるものもあると説明する。また、過去の研究では、抗菌薬を使用すると、腸内細菌叢のバランスが崩れる可能性のあることが示されているという。Chan氏は、「腸内細菌叢は、全体的な健康の維持だけでなく、おそらくは認知機能の維持にも重要とされている。そのため、抗菌薬が脳に長期的な悪影響を及ぼす可能性が懸念されている」と話す。 今回の研究でChan氏らは、低用量アスピリンの毎日の使用が健康に与える影響を検証する臨床試験のデータを用いて、抗菌薬の使用と認知機能との関連を検討した。対象は、最初の2年間の追跡期間中に認知症を発症しなかった70歳以上の健康なオーストラリア人高齢者1万3,571人(平均年齢75.0歳、女性54.3%)。Anatomical Therapeutic Chemical(ATC)コードを基に、対象者の追跡期間中における抗菌薬の使用を特定したところ、約63%が2年間に少なくとも1回は抗菌薬を使用していた。 2年間の追跡調査終了後、対象者は中央値で4.7年間追跡された。その間に、461人が認知症を発症し、2,576人が認知機能障害はあるが認知症ではない状態を指すCIND(cognitive impairment, no dementia)と診断されていた。社会人口統計学的特徴やライフスタイル因子、認知症の家族歴、試験開始時の認知機能、認知機能に影響を与えることが知られている薬剤の使用を考慮して解析した結果、抗菌薬使用者では非使用者に比べて、認知症リスク(ハザード比1.03、95%信頼区間0.84〜1.25)やCINDリスク(同1.02、0.94〜1.11)の有意な上昇や認知機能スコアの有意な低下は認められなかった。また、抗菌薬の累積使用頻度、長期使用、特定の抗菌薬クラス(β-ラクタム系、テトラサイクリン系、サルファ剤など)や、リスク因子に基づき分類されたサブグループにおいても、抗菌薬の使用と認知機能との間に有意な関連は認められなかった。 このような結果が示されたとはいえ、Chan氏および付随論評の著者である米ジョンズ・ホプキンス大学ブルームバーグ公衆衛生大学院のWenjie Cai氏とAlden Gross氏は、「さらなる研究で、抗菌薬の使用と認知機能低下との間に関連性はないことを確かめる必要がある」と述べている。Chan氏は、今回の研究の限界点として、対象者の追跡期間が短期間であった点を挙げ、より長期間の研究を実施して、抗菌薬の使用が長期的に脳の健康に悪影響を及ぼさないことを確認する必要があるとしている。 また、Cai氏らは、「この研究は処方箋の記録に依存しているため、対象者の実際の抗菌薬の使用状況を正確に追跡することはできなかった」ことを別の限界点として挙げている。その上で同氏らは、今後の研究では、抗菌薬の正確な投与量と使用期間を記録し、潜在的な用量反応関係を調査すること、また、異なるクラスの抗菌薬とその相互作用が認知機能に与える影響を調査することの必要性を強調している。

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自己主導型のCBTはアトピー性皮膚炎の症状軽減に有効

 アトピー性皮膚炎(atopic dermatitis;AD)は、強いかゆみや皮疹、乾燥肌を特徴とする炎症性皮膚疾患である。AD患者では、皮膚をかく行為が不安や抑うつなどのメンタルヘルス問題と関連していることが示唆されている。こうした中、オンラインで患者自身が行う認知行動療法(cognitive behavioral therapy;CBT)が、医師主導で行うCBTと同程度にADの症状を軽減する可能性のあることが、新たな研究で明らかにされた。カロリンスカ研究所(スウェーデン)のDorian Kern氏らによるこの研究結果は、「JAMA Dermatology」に12月18日掲載された。 Kern氏は同研究所のニュースリリースの中で、「オンラインで患者自身が行うCBT(自己主導型CBT)は、医療リソースの消費を抑えながら患者の症状を軽減し、生活の質(QOL)を向上させる効果的な選択肢であることが明らかになった」と述べている。 CBTは、心身の問題に対する考え方や行動のパターンを変えることでストレスを軽減し、QOLを向上させる心理療法の一種であり、ADの症状改善にも有効とされている。過去の研究では、医師主導型CBTがADの症状軽減に有効であることが示されている。 今回の試験では、非劣性試験のデザインに基づき、自己主導型CBTの有効性と、従来の医師主導型CBTの有効性が比較された。対象とされた168人のAD患者(女性84.5%、平均年齢39歳)は、12週間にわたり自己主導型CBTを行う群(86人)と医師主導型CBTを受ける群(82人)にランダムに割り付けられた。自己主導型CBT群は、オンラインプログラムを利用して、マインドフルネスやかゆみへの適切な対処法(保湿剤やローションの使用など)を学び、自分で湿疹関連の治療を行った。主要評価項目は、自己報告によるPatient-Oriented Eczema Measure(POEM)スコアのベースラインから介入後およびその12週後の変化量とし、自己主導型CBT群と医師主導型CBT群のスコアの差が3点以内であれば、効果は同等と見なした。POEMは7つの質問で過去1週間の症状の強さを評価するツールである。 最終的に151人(90.0%)の対象者が介入後の評価を受けた。介入後のPOEMスコアの変化量は、自己主導型CBT群で4.60点、医師主導型CBT群で4.20点であった。両群間の変化量の平均差は0.36点であり、自己主導型CBTと医師主導型CBTの効果は統計学的に同程度であることが示された。深刻な有害事象は報告されなかった。医師主導型のCBTでは、治療ガイダンスに平均36.0分、評価に平均14.0分かかっていたのに対し、自己主導型のCBTでは評価に平均15.8分かかっていた。 こうした結果を受けて研究グループは、「自己主導型CBTは、特にトークセラピーに興味がない人にとって、利用しやすい効果的な湿疹管理法となる可能性がある」と述べている。Kern氏は「これは、AD患者だけでなく、皮膚科や慢性疾患の他の分野にとっても重要な進歩だ」と述べている。

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酔っ払い? ン? 元酔っ払い?【救急外来・当直で魅せる問題解決コンピテンシー】第2回

酔っ払い? ン? 元酔っ払い?Point外傷の病歴や、疑う所見を入念に確認すべし。時間経過で症状の改善が確認できるか?普段の飲酒後とは異なる腹部症状や、意識変容がないか?症例45歳男性。夜中の1時に歓楽街の路地裏で嘔吐を繰り返し、体動困難となっていたところを通行人に発見され救急搬送された。来院時は吐物まみれで臭いも酷かったが、本人は本日の飲酒は大した量でないという。頭部CTで頭部内病変がないことのみ確認し、外来の診察室で寝かせておくことにした。数時間後に様子を伺いに行くと嘔気・嘔吐が改善していないどころか頻呼吸、頻脈も認め、強い腹痛を訴えていた。慌てて施行した血液検査でアニオンギャップ開大のアシドーシスを認め、速やかにビタミンB1と糖の補充、補液を開始した。半年前に妻に捨てられてから自暴自棄となりアルコール漬けの日々を送っていたが、来院3日前から食欲不振があり、景気付けにと繁華街に繰り出したとのことだった。入院時のスクリーニングでCAGE 3点とアルコール依存症が疑われため、ベンゾジアゼピンの予防内服も開始し、本人に治療希望あったため精神科受診の手配もすすめられた。おさえておきたい基本のアプローチ酔っ払い患者だから、と門前払いしたり先入観をもったりするのは避け、むしろ普段より検査も多めにして、慎重に診察にあたり表1に挙げた疾患の可能性を評価しよう。表1 急性アルコール中毒を疑った際の鑑別疾患実際の診療現場では、患者は指示に応じないどころか悪態をつくなど、とても診察どころではない状況も多々あるが、モニター装着のうえ人目につく場所でこまめに様子を観察しよう。意識レベルの経時的な改善がなければ、ほかの原因を考慮すべきだ1)。図1にERでの対応の流れの一例を提示する。図1 ERでの対応の流れの一例画像を拡大する救急の原則はABCの確保にあり、泥酔患者に対してもまずは気道、呼吸、循環が安定していることを確認するようにしたい。外傷診療で生理学的異常、その後解剖学的異常を評価する流れに似ている。アルコール自体で呼吸抑制を来すには血中アルコール濃度(blood alcohol level:BAL)が400mg/dL以上とされ、めったに出くわさないが、吐物などによる窒息の危険は高く、気道確保の必要性について常に考慮しておく。友達が酔っぱらっていたら仰臥位に寝かさずに、昏睡体位をとろう。意識障害の対応の基本である血糖checkも忘れないようにする。糖尿病や肝硬変が背景になければアルコール自体による低血糖の発症は多くないのだが、小児ではその危険性が増すため2)、誤って口にしてしまった場合などではとくに注意したい。血糖補正の際は、ウェルニッケ脳症予防のために、ビタミンB1の同時投与も忘れずに。酔っ払いにルーチンに頭部CTをとっても1.9%しかひっかからない3)。したがって表2のように、外傷の病歴や、頭部外傷、頭蓋底骨折を疑う所見を認める際に頭部CTを施行するようにする。中毒患者では頸椎骨折の際に頸部痛や神経所見があてにならないケースがあるので、頸部もあわせてCTで評価してしまおう。表2 頭部CTを早期に施行すべき場合頭蓋底骨折を示唆する所見がある(raccoon's eye、バトル徴候、髄液漏、鼓膜出血)頭蓋骨骨折が触知できる大きな外力(転倒などではない)による外傷歴があり、意識変容を認めるBALで予測されるよりも意識状態が悪い意識レベルが著明に低下(GCS※≦13)しており、頭部外傷の病歴や懸念があるGCSが低下していく神経局在症状がある※GCS(Glasgow Coma Scale)落ちてはいけない・落ちたくないPitfallsBALはルーチンで測定しないアルコール中毒自体の診断にBALを測定する意義は限定的で、そもそも筆者の施設では測定ができない。GCSの低下をきたすのはBAL≧200mg/dLであったという前向き研究の結果があり4)、前述のように意識障害の鑑別としてアルコール以外の要因を考慮するきっかけにはなる。PointBAL測定は意識障害にほかの鑑別を要するときに直接の測定が困難な場合、浸透圧ギャップ(血清浸透圧-計算上の浸透圧:通常では体内に存在していない物質分の浸透圧が上昇しているため、ギャップが開大する)から算出が可能であり、とくにエタノール以外のアルコール属中毒の際に参考となる。くれぐれも飲酒運転を警察に密告するために用いてはならない。直接治療に関連のない行為を行い、その結果を本人の同意なく第三者に伝えることは守秘義務違反に抵触する。酔い覚ましに…だけの補液は推奨されない二日酔いの朝イチは3号液+ビタミン剤の点滴に限る…なんて先輩からアドバイスを受けたことがある者は少なからずいるだろうが、アルコールの代謝を担うアルコール脱水素酵素は少量のアルコールで飽和状態になってしまうため、摂取した量にかかわらず、体内では20〜30mg/dL/時程度の一定の速度でしかアルコールを代謝できない。Point補液は泥酔患者のER滞在時間を短縮しないアシドーシスや膵炎合併、脱水症など、それ以外に補液を施行すべき病態があれば別だが、泥酔患者でアルコールの代謝を早める目的のみで補液を施行することに効果はなく、ER滞在時間を短縮する結果とはならないことが報告されている5)。アルコール常習犯への対応は慎重に急性アルコール中毒にルーチンで血液検査を行う必要はないが、とくにアルコール依存患者や肝不全合併患者では、血液検査で肝機能や電解質(低マグネシウム血症や低カリウム血症)を確認する。合併症の1つであるアルコール性ケトアシドーシス(alcoholic ketoacidosis:AKA)は、アニオンギャップ開大のアシドーシス所見が決め手ではあるが、嘔吐による代謝性アルカローシス、頻呼吸による呼吸性アルカローシスを合併し、解釈が単純ではない場合がある。ここ数日経口摂取できていない、嘔気・嘔吐、腹痛があるなどの臨床症状から積極的に疑うようにしたい。AKAの治療は脱水の補正と糖分の補充であり、それ自体では致死的な病態とならない。経過でアシドーシスが改善してこないようなら表3の鑑別疾患も念頭に置きたい。なお、ケトン体の存在の確認に試験紙法による尿検査を使用しても、血中で増加しているβヒドロキシ酪酸は反応を示さないので注意されたい。表3 アルコール性ケトアシドーシス(AKA)の鑑別疾患糖尿病性ケトアシドーシス重症膵炎メタノール、エチレングリコール中毒特発性細菌性腹膜炎ワンポイントレッスンアルコール離脱症候群アルコール常用者で、飲酒から6時間以上間隔が空いた際に出現する交感神経賦活症状(発汗、頻脈など)、不眠、幻視、嘔気・嘔吐、手指振戦、強直間代性発作で鑑別に挙げる。診断基準はDSM-5で定められているので参照いただきたい。慢性的なアルコール飲酒は脳内のGABAA受容体の感受性低下とNMDA受容体の増加を起こしており、アルコール摂取の急激な中止により興奮系であるNMDA受容体が活性化して症状が出現する。図26)のような時間経過で振戦せん妄へと移行していくが、早期に治療介入することで予防できる。図2 アルコール離脱症候群の重症度と時間経過画像を拡大する軽症症状は見逃がされやすく、またけいれんは飲酒中断後早期から生じ得るため注意が必要だ。治療の基本はベンゾジアゼピン系で、アルコールと同様にGABAA受容体に作用させ興奮を抑制させる。けいれん発作中ならジアゼパム(商品名:セルシン、ホリゾン)5〜10mgの静注を行うが、ルート確保困難な際はこだわらず、ミダゾラム(同:ドルミカム)10mgの筋注・口腔内・鼻腔内投与を行う。内服投与の際には、より作用時間の長いジアゼパム(代謝産物まで抑制効果を有する)やクロルジアゼポキシドを選択すればよい。アルコールの嗜好歴がある患者が入院する際には、アルコール依存のスクリーニングに有用7)なCAGE質問スクリーニング(表4)8)を用いて離脱予防の適応を判断しよう。表4 CAGE質問スクリーニング画像を拡大するウェルニッケ・コルサコフ症候群、脚気心慢性のアルコール摂取状態ではアルコール代謝においてビタミンB1が消費されるようになり、まともな食事を摂らなくなることも合わさりビタミンB1欠乏症を生じる。このうち神経系異常を引き起こしたものがウェルニッケ・コルサコフ症候群(dry beriberi)、心血管系異常を引き起こしたものを脚気心(wet beriberi)で、両者のオーバーラップも起こり得る。ウェルニッケ脳症は急性で可逆的とされる脳症のため積極的に疑い治療介入をしたいところだが、古典的3徴とされる眼球運動障害(眼球麻痺・眼振)、意識変容、失調のすべてを満たすものは16%だったとの報告もあり9)、これにこだわると見逃しやすい。Caineらが報告した診断基準(表5)は感度85%、特異度100%と報告されており10)、ぜひとも押さえておきたい。ビタミンB1は水溶性で必要以上の量は腎排泄されるので、疑えば治療doseである高用量チアミンで治療開始してしまおう。表5 ウェルニッケ脳症診断基準勉強するための推奨文献Sturmann K, et al. Alcohol-Related Emergencies: A New Look At An Old Problem. Emergency Medicine Practice. 2001;3:1-23.Muncie HL, et al. Am Fam Physician. 2013;88:589-595.参考1)Nore AK, et al. Tidsskr Nor Laegeforen. 2001;121:1055-1058.2)Lamminpaa A. Eur J Pediatr. 1994;153:868-872.3)Godbout BJ, et al. Emerg Radiol. 2011;18:381-384.4)Galbraith S, et al. Br J Surg. 1976;63:128-130.5)Homma Y, et al. Am J Emerg Med. 2018;36:673-676.6)Kattimani S, Bharadwaj B. Ind Psychiatry J. 2013;22:100-108.7)Fiellin DA, et al. Arch Intern Med. 2000;160:1977-1989.8)Ewing JA. JAMA. 1984;252:1905-1907.9)Harper CG, et al. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 1986;49:341-345.10)Caine D, et al. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 1997;62:51-60.執筆

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第250回 エムポックス薬の日本承認に専門家が驚いている

エムポックス薬の日本承認に専門家が驚いているエムポックスに適応を有する抗ウイルス薬tecovirimatをこの年末に日本が承認したことに専門家が驚いています1)。というのも、昨年に結果が判明した無作為化試験2つ・PALM007試験とSTOMP試験のどちらでもエムポックス治療効果が認められなかったからです。東京の日本バイオテクノファーマが先月12月27日に日本でのtecovirimatの承認を手にしました2,3)。日本での商品名はテポックスで、適応にはエムポックスに加えて、痘そう、牛痘、痘そうワクチン合併症の治療を含みます。コンゴ民主共和国(Democratic Republic of the Congo)での無作為化試験であるPALM007試験の結果は昨夏2024年8月に発表され、クレードIのエムポックスの小児や成人の病変消失の比較で残念ながらtecovirimatはプラセボに勝てませんでした4)。PALM007試験で対象としたクレードIはコンゴ民主共和国やコンゴ共和国(Republic of the Congo)などの中央アフリカのいくつかの国で多く5)、感染の病状はより重く、西アフリカで広まるクレードIIに比べて死亡率が高いことが知られます(クレードIIの死亡率は約4%、クレードIは約11%6))。先月12月に結果が速報されたもう1つの無作為化試験であるSTOMP試験はクレードIIのエムポックス患者を対象とし、病変消失までの期間がtecovirimat群とプラセボ群でやはり差がありませんでした7)。ヒトへ安全に投与しうるが効果のほどはわかっていなかった2022年に、欧州連合(EU)と英国は男性と性交する男性(MSM)におけるエムポックス蔓延を受けてtecovirimatを承認しています。その承認時にEUは新たな試験結果が判明したらその扱いを見直すとしており、実際PALM007試験とSTOMP試験の結果を俎上に載せると欧州医薬品庁(EMA)の部門長Marco Cavaleri氏は言っています1)。また、ブラジル、スイス、アルゼンチンで進行中の試験結果も検討されます。そういう状況で日本がtecovirimatを承認したことはなんとも不可解だとCavaleri氏は話しています。エムポックスの疫学、ワクチン、治療、政策に関する論文8)を昨年11月に発表したメリーランド大学の薬理学者John Rizk氏は、承認の経緯が不可解なことが多いのは承知しているが、それでも日本のtecovirimat承認には驚愕した(shocker to me)と言っています。EUと同様に2022年にtecovirimatを承認した英国はというと、異例な事態の下で承認された薬すべてを毎年見直すことにしているとScienceに伝えています1)。米国FDAはエムポックスへのtecovirimat使用を承認していません。しかし、生物兵器として悪用される恐れがある痘そう(smallpox)への使用を日本と同様に承認しています。tecovirimatのエムポックスと痘そうに対する効果の仕組みは同じであり、痘そうへの同剤の承認も再考が必要かもしれません。生物兵器の襲来に備えた治療は必要だと思うが、tecovirimatに頼るのは気乗りしないとSTOMP試験リーダーTimothy Wilkin氏は言っています1)。参考1)In a ‘shocker’ decision, Japan approves mpox drug that failed in two efficacy trials / Science 2)新医薬品として承認された医薬品について / 厚生労働省3)テポックスカプセル 200mg(Tecovirimat)製造販売承認を取得 / 日本バイオテクノファーマ株式会社4)NIH Study Finds Tecovirimat Was Safe but Did Not Improve Mpox Resolution or Pain / NIH 5)Epidemiology of Human Mpox ‐ Worldwide, 2018-2021 / CDC 6)Bunge EM, et al. PLoS Negl Trop Dis. 2022;16:e0010141.7)The antiviral tecovirimat is safe but did not improve clade I mpox resolution in Democratic Republic of the Congo / NIH8)Rizk Y, et al. Drugs. 2025;85:1-9.

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服薬アドヒアランスの悪い心血管疾患の患者に対して、一般的なテキストメッセージ、ナッジを追加したテキストメッセージ、ナッジとチャットボットによるテキストメッセージを提供しても、通常のケアと比較して12ヵ月後のアドヒアランスを改善しなかった(解説:名郷直樹氏)

 ナッジ*やチャットボット**という新しい介入手段が出現し、患者の服薬アドヒアランスを改善できるのではないかという視点で行われたランダム化比較試験である。 服薬アドヒアランスの悪い心血管疾患の18歳から90歳までの患者を対象に、一般的なテキストメッセージ、ナッジを追加したテキストメッセージ、ナッジとチャットボットによるテキストメッセージのそれぞれの提供を通常のケアと比較し、12ヵ月後のリフィルの処方箋の発行のギャップを服薬アドヒアランスのアウトカムとして検討している。 この研究は“pragmatic”と書かれているが、個々の患者に臨床試験に対する情報提供と同意を行う“opt in”のステップを踏まず、手紙の郵送によって参加者を募るという“opt out”の手法を用いているところに特徴がある。より幅広いリアルワールドでの患者を対象にしようとする配慮がなされており、これが“pragmatic”ということなのだろう。 結果は、テキストメッセージ群で62.0%、ナッジ追加群で62.3%、ナッジ+チャットボット群で63.0%、通常ケアで60.6%の順守率で、統計学的な差はない。順守率の差の多変量解析による結果も報告され、統計学的に有意な差が認められているが、順守率2%程度の差であり、統計学的な有意差が認められたとしても、臨床的に意味のある差とは言えないだろう。 服薬アドヒアランスを改善することは治療効果を上げるために重要である。アドヒアランスの低下が患者の予後に関連するという研究もある。しかし、アドヒアランスの評価そのものが困難である。毎回きちんと通院している患者が訪問診療に移行し、自宅を訪ねてみると、大量の残薬が発見されることは決して珍しくない。自己負担の少ない国民皆保険の日本で同様な研究を行うとしたら、さらに大きな困難があると思われる。*ナッジ:元の意味は「軽くつつく」というものであるが、ちょっとした本人の意識しない介入(ナッジ)を行動経済学の領域で経済的な利益を高めるための手法として利用したのが始まりである。それがさらに一般的な行動にも適用されるようになり、行動科学に基づいて、強制することなく、小さな介入により、本人に意識させることなく、人々の行動を改善する手法として利用されるようになった。この論文においてナッジの相殺については記載されていないが、サプリメントに記載されている。**チャットボット:「対話(chat)」と「ロボット(bot)」を組み合わせた造語であるが、AIと人との対話ということである。この論文に準じて言えば、アドヒアランスの改善についてAIと対話し、その結果をテキストメッセージとして提供するということであろう。

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RA合併肺がんに対するICI治療を考える【肺がんインタビュー】第107回

第107回 RA合併肺がんに対するICI治療を考える自己免疫疾患を合併するがん患者の治療においては、がん治療と自己免疫疾患の管理が複雑に絡み合う。とくに、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)などのがん免疫療法では、不明点が多い。そのような中、大阪南医療センターの工藤 慶太氏らがリウマチ(RA)合併肺がんのICI治療に関するリアルワールド試験を行った。自己免疫疾患合併がん、治療のジレンマ自己免疫疾患合併がんはがん治療医を悩ませる。がん治療による自己免疫疾患悪化、自己免疫抑制治療によるICIの有効性低下、自己免疫疾患の免疫亢進による免疫関連有害事象(irAE)発現といったClinical Questionに答えはない。画像を拡大する自己免疫疾患のなかでも頻度の高いRA患者は、一般集団に比べて発がんリスクが高い。とくに悪性リンパ腫、肺がんで多いと報告されており1)、肺がん患者のRA合併率は5.9%との報告もある2)。「自己免疫疾患イコールICI適用外」ではないICIは固形がんの生存予後に大きく関わり、今や治療に欠かせない。そのため、がん治療医はICIを使いたいと考える。しかし、自己免疫疾患合併がんにおけるICI治療に関しては前向きなデータがない。米国リウマチ学会(ACR)、日本リウマチ学会いずれのガイドラインにもICIの記載はない。がん免疫療法の使用を妨げるべきではなく、ベースラインの免疫抑制レジメンは可能な限り低用量にして維持する必要があるとする欧州リウマチ学会(eular)ステートメント、Annals of Oncology誌で発表された自己免疫疾患合併がんにおけるICI使用指針(レビュー)が数少ない指標だ。そういう状態の中、工藤氏は、さまざまなレトロ研究を分析し、自己免疫疾患イコールICI適用外というわけではない、という判断に至る。画像を拡大する工藤氏が所属する国立病院機構 大阪南医療センターは、年間約2,500名のRA診療が行われており、腫瘍内科医として以前からRA合併がん患者を診療する機会が多かったという。そのような中、あるIV期のリウマチ合併肺がん患者に関し、リウマチ主治医から「RAはコントロールするから、がんを何とかして欲しい」と依頼される。南大阪の5病院で後ろ向き試験を行う工藤氏は、まったくデータがない中、自施設でデータをまとめ出した。それが、南大阪の5病院でRA合併進行肺がんに対するICIの安全性と有効性を検証する後ろ向き試験に繋がった。この試験はリアルワールド研究なので、リウマチの治療内容も、ICIの治療内容も多種多様である。この試験の最も大きな特徴は、RAの疾患活動性が把握できている点である。実際に解析対象に含まれた疾患活用性のあるRAは81%にのぼる。「既報では疾患活動性のあるRAの割合は20〜30%、活動性RA合併例をこれだけ反映しているデータは貴重」と工藤氏は言う。画像を拡大する研究の結果、リウマチが急性に増悪(フレア)しても、きちんとコントロールすれば、ICI治療が継続できるICI投与後にRAのフレアを認めた症例は22例中9例(41%)。フレアはICI投与後早期に起こっている。ただ、フレアした9例中7例はICIを継続できている(ICI中止1例、一時中止1例)。工藤氏は「フレアしても、RAをきちんとコントロールすれば、ICI治療は継続できた」と結論する。画像を拡大するICIの治療効果については、少数例のレトロスペクティブ研究であるが、一般的なICIの効果と比較して劣るというようなデータではないという。治療継続期間は1年を超えており、「多くの症例で治療継続できていると示されたことには大きな意味がある」と工藤氏は指摘する。irAEについては、22例中9例(41%)に発現した。irAE発現4割程度という数値は、海外データと同等であり、免疫活動性のある日本の患者であってもirAEは必ずしも高くならないという結果だ。つまり、ICI投与によってリウマチの増悪やirAEが増えても、管理できれば、ICIの治療効果は非自己疾患非合併例と変わらないことになる。画像を拡大するがん治療医は必ずしもリウマチ治療の経験が深いとは言えない。また、リウマチ専門医も多くの方はがん治療についての知識・理解が十分とは言えない。たとえば、リウマチの場合、安定していれば3ヵ月に1回程度の外来で済むが、ICIを使う場合は短期フォローが必要である。「免疫の専門医とがん治療の専門医で治療方針についてすり合わせていくことが重要」と工藤氏は言う。 RA合併がんにおけるRA治療の方針工藤氏らは自施設の治療の方針も提案している。この方針はがん治療開前と開始後について、IC I+化学療法とICI単独に分けて作成されている。(詳細は下図)原則として、がん治療開始前・開始後ともはリウマチのステロイドはできるだけ低用量にして継続し、DMARDsを中止する。がん治療開始後にRA症状が悪化したら、ICI治療に拮抗するとされるアバタセプトと、がん発生リスクのあるJAK阻害薬を除いたDMARDsを再開。さらにコントロール不良の場合は、がん免疫に悪影響をおよぼさないとされるIL-6阻害薬を第一選択として用いる。画像を拡大する画像を拡大する自己免疫疾患合併がん患者にもICIの恩恵を十分に与えるICIは固形がんの生存予後に大きく関わり、今や治療に欠かせない薬剤である。RA合併肺がんの治療に十分なエビデンスがあるとは言えないが、「エビデンスだけを考えてしまうと、本来治療できる患者も治療を受けられない危惧がある」と工藤氏は言う。自己免疫疾患治療医と連携して、自己免疫疾患合併がん患者にもICIの恩恵を十分受けられるよう努めるべきであろう。参考1)LK Mercer, et al.Rheumatology (Oxford).2012;52:91-98.2)Khan SA, et al. JAMA Oncol.2016;2:1507-1508.

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メリオイドーシス(類鼻疽)【1分間で学べる感染症】第19回

画像を拡大するTake home messageメリオイドーシス(類鼻疽)は主に東南アジアや北オーストラリアで多発する感染症。国内への持ち込み例もあるため注意が必要。臨床症状は多様で致死率が高いため、迅速な診断と治療が重要。皆さんは、メリオイドーシス(類鼻疽:るいびそ)という感染症を耳にしたことがありますか。日本で遭遇することはまれではあるものの、さまざまな症状を呈し、20~40%と致死率も高いため、臨床としては疾患の概念と治療のポイントを知っておくことが重要です。今回は、このメリオイドーシスに関して重要なポイントを学んでいきます。原因菌メリオイドーシスは、主に東南アジアや北オーストラリアで発生する感染症で、Burkholderia pseudomalleiという好気性グラム陰性桿菌が原因となります。渡航者を中心として日本でも散見されています。流行地、潜伏期間メリオイドーシスの潜伏期間は1~21日間で、中央値は9日とされています。流行地として東南アジア、北オーストラリアを中心に、中南米でも報告されています。最近では、2022年に米国において、輸入のアロマ用品を媒介としたアウトブレイクが発生しました。臨床症状メリオイドーシスの臨床症状は非常に多様で、肺炎、皮膚や内臓(とくに肝臓や脾臓)の膿瘍、菌血症、さらに骨関節感染症などが報告されています。不明熱として慢性の経過をたどる場合が多いですが、菌血症や肺炎などの基礎疾患を持つ患者では急速に致死的な転帰をたどることもあります。したがって、流行地域への渡航帰りの患者においては、常に鑑別診断の1つとして念頭に置くことが重要です。治療法、注意点治療法としては、初期治療と根治治療の両方が推奨されます。急性期には、セフタジジムまたはメロペネムの点滴が用いられます。状態が改善した後には、ST合剤やアモキシシリン・クラブラン酸による長期の内服治療が必要です。治療の遅れが不幸な転帰を起こす可能性が高いため、迅速な診断と治療介入が求められます。本疾患は、バイオテロリズムの潜在的リスクがあることでも注目されています。感染力の高さから、監視対策の強化や輸入例への迅速な対応、国内外の臨床医に対する啓蒙が求められています。以上、メリオイドーシスは東南アジアや北オーストラリアからの渡航帰りの患者を中心に、上記の臨床症状を見た際に迅速な診断と治療を遂行できるよう心掛けましょう。1)Limmathurotsakul D, et al. Nat Microbiol. 2016;1:15008.2)Wiersinga WJ, et al. N Engl J Med. 2012;367:1035-1044.3)Gee JE, et al. N Engl J Med. 2022;386:861-868.4)Gassiep I, et al. Clin Microbiol Rev. 2020;33:e00006-e00019.

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PTSDの新たな治療選択肢となるか、ブレクスピプラゾールとセルトラリン併用療法〜第III相臨床試験

 心的外傷後ストレス障害(PTSD)では、新たな薬物治療の選択肢が求められている。米国・アラバマ大学バーミンガム校のLori L. Davis氏らは、PTSDに対するブレクスピプラゾール+セルトラリン併用療法の有効性、安全性、忍容性を検討するため、第III相二重盲検ランダム化比較試験を実施した。JAMA Psychiatry誌オンライン版2024年12月18日号の報告。 2019年10月〜2023年8月に米国の臨床試験施設86施設で実施された。PTSD成人外来患者を対象に、ブレクスピプラゾール(可変用量:2〜3mg/日)+セルトラリン(150mg/日)併用療法とセルトラリン(150mg/日)+プラセボ治療との比較を行った。1週間のプラセボ導入期間後に11週間の二重盲検ランダム化実薬対照並行群間期間(21日間のフォローアップ調査)を設けた。主要アウトカムは、ランダム化後(1週目)から10週目までのClinician-Administered PTSD Scale for DSM-5(CAPS-5)合計スコア(20のPTSD症状の重症度を測定)の変化とした。安全性評価には、有害事象を含めた。 主な結果は以下のとおり。・1,327例の適格性を評価し、878例がスクリーニングに失敗したため、416例(平均年齢:37.4±11.9歳、女性:310例[74.5%])をランダム化した。・試験完了率は、ブレクスピプラゾール+セルトラリン群で64.0%(214例中137例)、セルトラリン+プラセボ群で55.9%(202例中113例)であった。・10週目のCAPS-5合計スコアは、ブレクスピプラゾール+セルトラリン群でセルトラリン+プラセボ群よりも統計学的に有意な改善が認められた(最小二乗平均[LSM]平均差:−5.59、95%CI:−8.79〜−2.38、p<0.001)。【ブレクスピプラゾール+セルトラリン群:148例】ランダム化時の平均:38.4±7.2、LSM変化:−19.2±1.2【セルトラリン+プラセボ群:134例】ランダム化時の平均:38.7±7.8、LSM変化:−13.6±1.2・すべての主な副次的エンドポイントおよびその他の有効性エンドポイントの達成も確認された。・ブレクスピプラゾール+セルトラリン群(205例)において治療中に5%以上で発生した有害事象は、悪心12.2%(25例)、疲労6.8%(14例)、体重増加5.9%(12例)、傾眠5.4%(11例)であった。・上記有害事象のセルトラリン+プラセボ群(196例)の発生率は、悪心11.7%(23例)、疲労4.1%(8例)、体重増加1.5%(3例)、傾眠2.6%(5例)であった。・有害事象による治療中止率は、ブレクスピプラゾール+セルトラリン群で3.9%(8例)、セルトラリン+プラセボ群で10.2%(20例)であった。 著者らは「ブレクスピプラゾール+セルトラリン併用療法は、セルトラリン+プラセボと比較し、PTSD症状の有意な改善が認められ、PTSDの新たな治療法になりうる可能性が示唆された。ブレクスピプラゾール+セルトラリン併用療法の忍容性は良好であり、安全性プロファイルはブレクスピプラゾールの既存の適応症におけるものと同様であった」と結論付けている。

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乳腺密度の経時的な上昇や高濃度の持続、乳がんリスクと関連/BMJ

 韓国・漢陽大学のBoyoung Park氏らは、40歳以上の女性において乳腺密度の経時的変化が異なる5つのグループを特定し、各グループの乳がんリスクが異なること、乳腺密度の上昇や、高濃度状態の持続が乳がんリスクの上昇と関連することを明らかにした。結果を踏まえて著者は、「乳腺密度の経時的な変化を、乳がんのリスク分類において慎重に検討すべきであり、今後リスクモデルに組み込むべきである」と述べている。先行研究により、乳腺密度は乳がんリスクの増加と関連することが知られており、また定期的にマンモグラフィスクリーニングを受けている大規模集団における、乳腺密度の縦断的変化についての研究報告は限られている。BMJ誌2024年12月30日号掲載の報告。40歳以上の韓国女性、乳腺密度の変化の軌跡と乳がんアウトカムとの関連を評価 研究グループは、韓国の国民健康保険サービスのデータベースに組み込まれている全国乳がんスクリーニングプログラムのデータを用いて、4回の縦断的評価で類似の乳腺密度の変化を示す女性の集団を特定し、それらの変化とその後の乳がんリスクとの関連を調べる後ろ向きコホート研究を行った。 対象としたのは、2009~16年に隔年で4回のマンモグラフィスクリーニングを受けた40歳以上の女性。Breast Imaging Reporting and Data System(BI-RADS)の4つのカテゴリー(1:脂肪性、2:乳房散在、3:不均一高濃度、4:きわめて高濃度)を用いて乳腺密度を評価。2021年12月31日までに判定された乳がん発症を調べ、Cox比例ハザードモデルを用いて、交絡因子を補正後、乳腺密度の変化の軌跡と乳がんアウトカムとの関連を評価した。グループ1と比べてグループ2~5の乳がんリスクは1.60~3.07倍 174万7,507例(平均年齢61.4歳)の女性コホートにおいて、5つの乳腺密度の変化の軌跡を特定した。グループ1には「一貫してBI-RADSカテゴリー1~2であった女性」が包含され、グループ2には「ベースラインでBI-RADSカテゴリー1~2であったが、時間の経過とともに乳腺密度が上昇した女性」が包含された。グループ3には「ベースラインでBI-RADSカテゴリー2~3であったが、時間の経過とともに乳腺密度が減少した女性」が、グループ4には「ベースラインでBI-RADSカテゴリー2~3であり、その後も同レベルが持続していた女性」が、グループ5には「一貫してBI-RADSカテゴリー3~4であった女性」が包含された。 グループ2の女性はグループ1の女性と比べて、乳がんリスクが1.60倍(95%信頼区間[CI]:1.49~1.72)であった。グループ3~5の女性もグループ1の女性と比べて乳がんリスクは高く、補正後ハザード比はそれぞれ1.86(95%CI:1.74~1.98)、2.49(2.33~2.65)、3.07(2.87~3.28)であった。 同様の結果は、いずれの年齢群でも、また閉経状態やBMIの違いに関係なく確認された。

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再発・難治性MMへのtalquetamab+teclistamab、第Ib-II相で有望(RedirecTT-1)/NEJM

 イスラエル・テルアビブ・ソウラスキー医療センターのYael C. Cohen氏らRedirecTT-1 Investigators and Study Groupが、再発・難治性の多発性骨髄腫に対するtalquetamab+teclistamab併用療法の安全性と有効性を評価するRedirecTT-1試験の第Ib-II相の結果を報告した。Grade3/4の感染症の発現頻度がそれぞれの単剤療法と比べて高率であったが、すべての用量群において高い割合の患者で奏効が観察され、推奨された第II相レジメンでは持続的な奏効が示された。talquetamab(抗Gタンパク質共役受容体ファミリーCグループ5メンバーD:GPRC5D)およびteclistamab(抗B細胞成熟抗原)は、CD3を標的としT細胞を活性化する二重特異性抗体薬であり、3種類の標準的な前治療歴を有する再発または難治性の多発性骨髄腫の治療薬として承認されている(本邦では承認申請中)。NEJM誌2025年1月9日号掲載の報告。第Ib-II相試験で、有害事象と用量制限毒性を評価 第Ib-II相試験は、多施設共同非無作為化非盲検試験として現在も進行中である。適格被験者の募集は、カナダ、イスラエル、韓国で行われた。第I相の用量漸増試験では、5つの用量群を評価。その結果を踏まえて第II相試験では、talquetamab 0.8mg/kg+teclistamab 3.0mg/kgの隔週投与が推奨レジメンとされた。 第Ib-II相試験の主要な目的は、有害事象と用量制限毒性の評価であった。Grade3/4の有害事象96%、奏効率は推奨レジメン群で80% 2020年12月9日~2023年4月26日に116例がスクリーニングされ、2024年3月15日時点で94例が治療を受け、そのうち44例に推奨された第II相レジメンが用いられた。 追跡期間中央値は20.3ヵ月(範囲:0.5~37.1)、推奨された第II相レジメンを受けた患者の追跡期間中央値は18.2ヵ月(0.7~27.0)であった。5つの全レジメン群において、計49例(52%)が併用療法を継続していた。年齢中央値は64.5歳、診断後期間中央値は6.1年、前治療歴中央値は4種類であった。 用量制限毒性は3例に発生した(第II相レジメン群のGrade4血小板減少症1例を含む)。 5つの全レジメン群で最も多くみられた有害事象は、サイトカイン放出症候群、好中球減少症、味覚の変化、皮疹を除く皮膚障害であった。 Grade3/4の有害事象は全レジメン群で96%に発現し、最も多くみられたのは血液学的事象であった。Grade3/4の感染症は64%に発現した。 奏効が認められた患者の割合は、第II相レジメン群で80%(髄外病変を有する患者では61%)、5つの全レジメン群で78%であった。奏効が持続している患者の割合は、18ヵ月時点で第II相レジメン群86%(髄外病変を有する患者では82%)、5つの全レジメン群77%であった。

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小児の喘息のエンドタイプを特定できる新たな検査法を開発

 新しい迅速かつ簡便な鼻腔スワブ検査により、小児の喘息の背後にある特定の免疫システムや病態に関する要因(エンドタイプ)を特定できる可能性のあることが、新たな研究で示された。研究グループは、この非侵襲的アプローチは、臨床医がより正確に薬を処方するのに役立つだけでなく、これまで正確に診断することが困難で、研究の進んでいないタイプの喘息に対するより良い治療法の開発につながる可能性があると見ている。米ピッツバーグ医療センター(UPMC)小児病院呼吸器科部長で上級研究員のJuan Celedon氏らによるこの研究結果は、「Journal of the American Medical Association(JAMA)」に1月2日掲載された。 Celedon氏は、「喘息は、エンドタイプによって関与している免疫細胞や治療方法が異なる多様な疾患である。そのため、エンドタイプの正確な診断がより良い治療法への第1歩となる」と述べている。 喘息は小児期に最も頻発する慢性疾患であり、米国立衛生研究所の統計によると、米国では10人に1人の小児が喘息に罹患している。喘息は通常、気道に炎症を引き起こす免疫細胞に基づきいくつかのエンドタイプに分類される。主なエンドタイプは、Tヘルパー2(T2)細胞が関与する免疫反応が亢進し、T2サイトカイン(インターロイキン〔IL〕-4、IL-5、IL-13)の産生と免疫グロブリンE(IgE)の分泌、および気道中の好酸球増加を特徴とする「T2-high」、好中球による気道の炎症とIL-17およびIL-22の血清レベル上昇を特徴とする「T17-high」、および好酸球性または好中球性の気道炎症を欠き、病態の解明が進んでいない「T2-low/T17-low」などである。 研究グループによると、喘息のエンドタイプを正確に診断するには、小児に麻酔を施して肺組織のサンプルを採取し、その遺伝子解析を行う必要があるという。しかし、この処置は極めて侵襲的であるため、軽症の喘息の小児には適応されない。そのため医師は血液、肺機能、その他のアレルギーの検査の結果に基づいて喘息のエンドタイプを推測しているのが現状だとCeledon氏は説明する。同氏は、「これらの検査により、小児の喘息のエンドタイプがT2-highであるか否かを推測することはできるが、100%正確とは言えない。また、T17-highかT2-low/T17-lowかについては、臨床マーカーがないため分からない。この格差が、喘息エンドタイプ診断の精度を向上させるためのより良いアプローチを開発する動機となった」と話す。 今回の研究では、小児459人の鼻上皮細胞のサンプルを用いて、トランスクリプトーム解析により、T2経路に関連する3つの遺伝子とT17経路に関連する5つの遺伝子の転写プロファイルを調査した。研究グループによると、これらのサンプルは、喘息の罹患率が高く、喘息で死亡リスクも高いプエルトリコ人とアフリカ系米国人の小児に焦点を当てた米国の3件の研究から採取されたものであったという。 その結果、この鼻腔スワブを用いた解析により、小児の喘息の特定のエンドタイプを正確に特定できることが明らかになった。全体で、参加者の23~29%がT2-high、35~47%がT17-high、30~38%がT2-low/T17-lowの喘息であった。 Celedon氏らによると、重度のT2-highの喘息の治療には、強力な新クラスの生物学的製剤を利用できるが、それ以外のエンドタイプの喘息に対して有効な治療薬はないという。Celedon氏は、「T2-highの喘息に対する治療法が改善されたのは、より優れたマーカーがこのエンドタイプの研究を推進したおかげでもある。今後は、この簡便な検査により他のエンドタイプの喘息を検出できるようになるため、T17-high、およびT2-low/T17-lowの喘息に対する生物学的製剤の開発にも着手できるだろう」と話している。

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MCI温故知新:「知情意」のほころび【外来で役立つ!認知症Topics】第25回

MCIとは「軽度の認知症」か?認知症の臨床現場における「あるある誤解」の一つに「MCIとは軽度の認知症か?」があるもしれない。確かにMCI(Mild Cognitive Impairment)とは「軽度認知障害」と訳されているから、その字面からしてそう思われても仕方がない。またMCIになるとMRI画像に海馬萎縮が現れてアルツハイマー病の診断がなされると思っている人も少なくない。実際には、この時期の海馬は多くの場合は萎縮しておらず、局所脳血流(rCBF)はむしろ増加していることもあるのだが。早期診断への壁:受診の遅れと心理的バイアス近年MCIが注目される最大の理由は、抗アミロイドβ抗体薬を皮切りに、今後の承認が期待される疾患修飾薬(Disease Modifying Drugs)のターゲットがこれだからだろう。ところがこうした治療適齢期に医療機関を受診する人が少ないのである。これに関して、最初の認知症の気付きから医療機関受診までに平均で4年を要するというLancet誌のレビューがある1)。経験的には、本人、家族共に、診断されるのが怖いのはわかる。心理学用語で「確証バイアス」と言われるように、人は自分に都合の良い情報を集める性癖がある。たとえば、「年を取ればこんなもの」「家系に認知症はいない」「かかりつけ医が『あなたはうつだから、大丈夫』と言った」などである。逆にネガティビティバイアスといって悪いイメージが強く残っていると恐怖が強すぎて、他のプラスの情報をすっかり忘れ去ることもある。悪いイメージとは、たとえば、頭部外傷や大腿骨頸部骨折、また重症肺炎などの合併症が重なり急速に死に至ったアルツハイマー病の患者さんといった、特別に不運なケースを身近に経験したような場合である。つまりアルツハイマー病と診断された時、そうした極端な例が心を占めて、一般的なアルツハイマー病の経過を説明しても耳を貸さない人もいる。さて新薬の恩恵にあずかるには、MCIの時期に的確にそれに気付かなくてはならない。以下に述べるように、MCIと診断される頃には、実は行動や感情面でも変化が表れているのだが、MCIとは記憶の障害であり、それはMMSEや長谷川式の記憶項目などの失点として現れると思い込んでいる人が多い。MCIの概念の歴史的変遷MCIというとRonald C. Petersen氏らの定義2)有名だが、実はこの用語は彼のオリジナルではない。というのは、このMCIという術語を用いて複数の学者がそれぞれに異なる定義をしているのである。歴史的にみて、このMCIの始まりは、1991年にBarry Reisberg氏らがアルツハイマー病のステージ判定のために彼らが開発したFAST尺度でStage3を意味する表現としてMCIを用いたことにある3)。次に、Michael Zaudig氏らが現在も抗アルツハイマー病薬の効果判定でもよく使われるClinical Dementia Rating(CDR):0.5に相当するとされる別のMCIを提唱した4)。この2つは行動などを含めて生活機能全般に注目して認知症の前駆期を捉えようとしている。一方で、現在最も注目されているMCIは1996年にPetersen氏らによって定義されたものだが、これは記憶障害に重点の置かれた診断基準であった。行動・感情面の評価が重要にこのようなMCIの概念の歴史からもわかるように、認知症の前駆・初期症状は記憶などの認知機能障害ばかりではない。たとえば近年では、道具的ADL(Instrumental Activities of Daily Living:IADL)の失敗が始まる時期はMCI期に重なるという指摘がある。具体的には料理、掃除、移動、洗濯、金銭管理などであり、日常生活動作(ADL)よりも複雑で神経心理学的能力が求められるものである。それだけに認知機能の衰退が始まるとIADLの障害は露呈しやすいのも納得できる。そこで「IADL障害は認知症発症に先立つのでMCIの診断でこれを考慮すべき」とまとめられている5)。また、客観的に観察される日常的な行動面での変化も病初期から認められやすい。認知症の前駆期やMCI期にみられる特有の行動症状として、近年ではMild Behavioral Impairment(MBI)の概念やその定義が提唱され、多くの質問項目も作成されている6)。その内容は、意欲低下、情緒不安定、衝動の制御困難、社会的に不適切な言動、知覚・思考の異常という5つのカテゴリーになっている。自身の臨床の場を思い出してみると、何でも面倒臭くなって長年の習慣が廃れる高齢者は枚挙にいとまない。また些細なことで怒り炸裂の「怒りん坊」になる人はとくに男性で多い。そうした方々に見られる言動を仔細に思い出してみると、確かにこの5つのカテゴリーのすべてに該当する何らかの問題がありそうだとも思えてくる。ところで、人の精神活動を「知情意」とまとめる言葉がある。MCI に関して言えば、この3つの中で「知」ばかりが重んじられていたのだが、最初期のMCIの概念やMBIの考え方に代表されるように、実は「情意」の異常も初期から見られるということだ。さて、これからの認知症の治療におけるキーワードであるMCI。多くの人々にこれに気付いてもらうためには、認知機能のみならずIADL、客観的な行動、そして情意という点にも心を向けていただけるような医療的な指導が必要になると思う。参考1)Liang CS, et al. Mortality rates in Alzheimer's disease and non-Alzheimer's dementias: a systematic review and meta-analysis. Lancet Healthy Longev. 2021;2:e479-e488.2)Petersen RC, et al. Mild cognitive impairment: clinical characterization and outcome. Arch Neurol. 1999;56:303-308.3)Reisberg B, et al. Clinical Stages of Alzheimer’s disease. In:de Leon MJ, editor. The Encyclopedia of Visual Medicine Series, An atlas of Alzheimer’s disease. Pearl River (NY):Parthenon;1999.p.11-20.4)Zaudig M. A new systematic method of measurement and diagnosis of "mild cognitive impairment" and dementia according to ICD-10 and DSM-III-R criteria. Int Psychogeriatr. 1992;4 Suppl 2:203-219.5)Nygard L. Instrumental activities of daily living: a stepping-stone towards Alzheimer's disease diagnosis in subjects with mild cognitive impairment? Acta Neurol Scand Suppl. 2003;179:42-46.6)Ismail Z, et al. The Mild Behavioral Impairment Checklist (MBI-C): A Rating Scale for Neuropsychiatric Symptoms in Pre-Dementia Populations. J Alzheimers Dis. 2017;56:929-938.

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delirium(せん妄)【病名のルーツはどこから?英語で学ぶ医学用語】第18回

言葉の由来「せん妄」は英語で“delirium”といいます。この言葉はラテン語の“delirare”(正気を失う、錯乱する)に由来し、さらに分解すると、“de”(外れる、離れる)と“lira”(畝、耕した後の土の列)という2つの部分に分けられます。この組み合わせは「耕作の畝から外れる」、つまり「道を外れる」という比喩的な意味を持ち、混乱や錯乱を意味します。“delirium”という言葉は16世紀ごろに「病気や発熱中に一時的に心が乱れる状態」を指す用語として初めて使用されました。その後、1640年代には「激しい興奮や狂乱」を意味する形で使われるようになりました。現代の医学では、せん妄は急性で変動性の意識変容を指し、高齢者や重病患者にとくに多くみられます。せん妄の特徴には、注意力の低下、意識の変容、支離滅裂な思考などがあり、これらが急性に現れ、時間と共に変動するのも特徴です。この状態は可逆的である場合が多いものの、患者や家族への心理的負担は非常に大きく、予防、早期発見と適切な対応が重要です。併せて覚えよう! 周辺単語変動fluctuation注意力低下inattention見当識障害disorientation幻視visual hallucination支離滅裂な思考disorganized thinkingこの病気、英語で説明できますか?Delirium is an acute and often sudden change in mental state, characterized by confusion, inattention, and altered level of consciousness, often occurring in older adults or during severe illness. It is usually reversible with proper management.講師紹介

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