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心房細動、abelacimab月1回投与で出血イベント改善/NEJM

 脳卒中リスクが中~高の心房細動患者の抗凝固療法において、リバーロキサバンと比較してabelacimab(不活性型の第XI因子に結合してその活性化を阻害する完全ヒトモノクローナル抗体)の月1回投与は、遊離型第XI因子濃度を著明に低下させ、出血イベントを大幅に少なくすることが、米国・ハーバード大学医学大学院のChristian T. Ruff氏らAZALEA-TIMI 71 Investigatorsが実施した「AZALEA-TIMI 71試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌2025年1月22日号で報告された。7ヵ国の無作為化実薬対照比較第IIb相試験 AZALEA-TIMI 71試験は、心房細動患者の抗凝固療法におけるabelacimabの安全性と忍容性の評価を目的とする無作為化実薬対照比較第IIb相試験であり、2021年3~12月に7ヵ国の95施設で患者を登録した(Anthos Therapeuticsの助成を受けた)。 年齢55歳以上、心房細動または心房粗動の既往歴があり、抗凝固療法が計画され、CHA2DS2-VAScスコアが4点以上、またはCHA2DS2-VAScスコアが3点以上で抗血小板薬の併用が計画されているか推定クレアチニンクリアランスが50mL/分以下の患者を対象とした。 これらの患者を、盲検下にabelacimab 150mgまたは90mgを月1回皮下投与する群、または非盲検下にリバーロキサバン20mgを1日1回経口投与する群に、1対1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要エンドポイントは、大出血または臨床的に重要な非大出血とした。出血イベントが予想以上に減少、試験は早期中止に 1,287例(年齢中央値74歳、女性44%)を登録し、abelacimab 150mg群に430例、同90mg群に427例、リバーロキサバン群に430例を割り付けた。CHA2DS2-VAScスコア中央値は5点で、ベースラインで患者の92%が60日以上の抗凝固薬の投与を受けており、66%が直接経口抗凝固薬(DOAC)であった。 abelacimabの月1回の皮下投与により、遊離型第XI因子の値はベースラインと比較して持続的に低下し、3ヵ月後の遊離型第XI因子の減少の中央値は、150mg群で99%(四分位範囲:98~99)、90mg群で97%(51~99)であった。 abelacimabによる出血イベントの減少が予想を超えていたため、独立データモニタリング委員会の勧告に基づき試験は早期中止となった。 大出血または臨床的に重要な非大出血の発生率は、abelacimab 150mg群が3.22件/100人年、同90mg群が2.64件/100人年であったのに比べ、リバーロキサバン群は8.38件/100人年と高い値を示した。リバーロキサバン群に対するabelacimab 150mg群のハザード比(HR)は0.38(95%信頼区間[CI]:0.24~0.60、p<0.001)、リバーロキサバン群に対する同90mg群のHRは0.31(0.19~0.51、p<0.001)であった。有害事象の頻度は同程度 副次エンドポイントである大出血(リバーロキサバン群に対するabelacimab 150mg群のHR:0.33[95%CI:0.16~0.66]、リバーロキサバン群に対する同90mg群のHR:0.26[0.12~0.57])および大出血、臨床的に重要な非大出血、小出血の複合(0.68[0.51~0.91]、0.46[0.33~0.64])についても、リバーロキサバン群に比べ2つのabelacimab群で良好であった。また、大出血のうち消化管大出血(0.11[0.03~0.48]、0.11[0.03~0.49])はabelacimab群で顕著に少なかったが、頭蓋内大出血やその他の大出血にはこのような差はなかった。 全有害事象、重篤な有害事象、試験薬の投与中止に至った有害事象の発現率は、3群で同程度であった。abelacimab群における注射部位反応は、150mg群で2.8%、90mg群で1.6%に認めた。抗薬物抗体を発現した患者はいなかった。 著者は、「本試験は症例数が少ないため、abelacimabの臨床的有効性を評価することはできず、より大規模な試験が必要である。現在、利用可能な抗凝固療法を使用できない高リスク心房細動患者を対象に、脳梗塞および全身性塞栓症の予防におけるabelacimabの有効性をプラセボと比較する第III相試験(LILAC-TIMI 76試験)が進行中である」としている。

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加糖飲料により毎年世界で数百万人が糖尿病や心血管疾患を発症

 加糖飲料の影響で、世界中で毎年200万人以上の人が2型糖尿病(T2DM)を発症し、120万人以上の人が心血管疾患(CVD)を発症しているとする論文が、「Nature Medicine」に1月6日掲載された。米ワシントン大学のLaura Lara-Castor氏らの研究によるもので、論文の筆頭著者である同氏は、「T2DMやCVDによる早期死亡を減らすためにも、加糖飲料消費量削減を目指したエビデンスに基づく対策を、世界規模で直ちに推し進めなければならない」と話している。 この研究では、184カ国から報告されたデータを用いた統計学的な解析により、加糖飲料摂取に関連して発症した可能性のあるT2DMとCVDの新規患者数を推定した。その結果、2020年において、約220万人(95%不確定区間200~230万)の新規T2DM患者、および、約120万人(同110~130万)の新規CVD患者が、加糖飲料摂取に関連するものと推定された。この数はそれぞれ、2020年の新規T2DM患者全体の9.8%、新規CVD患者の3.1%を占めていた。また、加糖飲料摂取に起因するT2DM患者の死亡が8万人、CVD患者の死亡が約26万人と推定された。 人口規模が上位30カ国の中で、加糖飲料摂取に関連する新規T2DM患者が多い国は、メキシコ(成人100万人当たり2,007人、新規T2DM患者全体に対して30%)、コロンビア(同1,971人、48.1%)、南アフリカ(1,258人、27.6%)などであり、新規CVD患者については、コロンビア(1,084人、23.0%)、南アフリカ(828人、14.6%)、メキシコ(721人、13.5%)などだった。なお、日本の加糖飲料摂取に関連する新規T2DM患者数は2万8,981人、新規CVD患者数は8,396人、死亡はそれぞれ158人、1,947人と推定されている。 加糖飲料がこれほどの害をもたらす理由の一つとして、栄養価が低いにもかかわらずカロリーは高く、また吸収が早いために満腹感を感じる前に飲み過ぎてしまいやすいことなどの影響が考えられている。長期にわたる加糖飲料の習慣的な摂取は、体重増加、インスリン抵抗性、そして、世界の死亡原因の上位を占めるT2DMやCVDの発症につながる。さらに加糖飲料は安価で、広く入手可能だ。論文の共著者である米タフツ大学のDariush Mozaffarian氏は、「低所得国や中所得国では加糖飲料が盛んに宣伝・販売されている。それらの国々では、長期的な健康への影響という視点での対策が十分講じられておらず、人々は健康に有害な食品を摂取してしまいやすい」と解説。また、著者らによると、国が発展し国民の所得が伸びるにつれて、加糖飲料がより入手しやすい飲み物になり、好まれるように変化していくという。 ソーダ税などの政策が、この問題の拡大を遅らせるかもしれない。米国の一部の地域で行われた研究は、そのような取り組みが効果的であることを示している。米ボストン大学公衆衛生大学院のデータによると、シアトルやフィラデルフィアといった米国内5都市で、課税に伴う加糖飲料の価格上昇による消費量減少が観察されたという。さらに最近の調査からは、カリフォルニア州の複数の都市で課税が導入された後、加糖飲料の売上減少とともに、若者のBMIの平均値が低下したことが明らかにされた。 課税を含む公衆衛生アプローチは、米国以外の国でも有効な可能性がある。また著者らは、課税などの戦略に加えて、人々の意識を高めるための公衆衛生キャンペーンや、広告の規制を求めている。現在すでに80カ国以上が、加糖飲料の消費削減を目的とした対策を実施しており、著者らによると「一部の国では介入効果が現れ始めている」という。

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飲酒は健康リスクに影響

 米国保健福祉省(HHS)は1月14日に発表した報告書の草案の中で、飲酒は早期死亡リスクを高める可能性があることを警告した。報告書によると、「米国では男女ともに1週間当たり7杯(米国の基準飲酒量〔ドリンク〕であるアルコール14g相当を1杯と表記)以上の摂取で1,000人中1人が飲酒に起因した死亡のリスクを負い、このリスクは1週間当たりの飲酒量が9杯以上になると100人中1人に高まる」という。 この報告書の目的は、健康リスクを最小限に抑えるための1週間当たりの飲酒量の基準値に関するエビデンスを得ることであった。ただし草案では、研究結果は要約されているが飲酒量に関する具体的な勧告は含まれていない。現行の米国のガイドラインでは、飲酒量に関して、男性は1日当たり2杯、女性は1杯を超えた量を飲むべきではないとの推奨が示されている。しかし、今回の報告書では、この基準を満たす量であってもリスクのある可能性が示唆されている。 この報告書は、飲酒と健康の関係に関する2つの補足文書のうちの1つで、HHSと米国農務省(USDA)が共同で『米国人のための食事ガイドライン(Dietary Guidelines for Americans)2025-2030年版』を作成する際の参考情報となるものだ。報告書では、飲酒が特定の傷病にどのように影響しているのかについて調査した結果がまとめられている。以下はその一部だ。・がん:非飲酒者と比べると、1日1杯の飲酒でも食道がんリスクが男性で51%、女性で37%、肝硬変リスクはそれぞれ37%と133%上昇する。・外傷:1日1杯の飲酒時のリスク(相対リスク1.29)と比べて、1日3杯の飲酒により不慮の外傷のリスクは男女ともに68%程度増加する。・肝疾患:日常的な飲酒は肝疾患のリスクを有意に高め、特に、C型肝炎などの基礎疾患がある人ではリスク上昇が顕著である。 また、これまでの研究では、少量の飲酒が特定の脳卒中リスクを低下させる可能性が示唆されていたが、今回の報告書では1日わずか2杯の飲酒でそのような効果は消失することが明らかにされた。 米国の食事ガイドラインは、公衆衛生政策や食品および飲料の表示に影響を与える。専門家によれば、今回の調査結果は将来的にアルコールに関する勧告の厳格化につながる可能性があるという。カナダ物質使用障害研究所(CISUR)の所長で報告書の著者の一人であるTimothy Naimi氏は、研究で長期的な影響を測定する方法には限界があるため、今回の報告書では飲酒の危険性が過小評価されている可能性があると指摘。「多くの人々が『適度(moderate)』と考える量の飲酒は、実際には中程度のリスクを伴う場合があり、あるいは健康リスクという意味では中程度以上である可能性もある」と結論付けている。 一方で、この報告書に対する反発も見られる。アルコール生産者の団体である米国スピリッツ協会(DISCUS)は、先ごろ発表した声明で、「今回の報告書は、欠陥のある、不透明で前例のないプロセスを経て作られたものであり、バイアスと利益相反に満ちている。未成年者の飲酒防止に関する省庁間調整委員会(ICCPUD)の6人の委員のうち数名は国際的な反アルコール啓発団体に所属しており、委員会はそれらの啓発団体とつながりのある人々と緊密に協力している。議会はICCPUDや同委員会の活動のために資金を承認あるいは計上したことはなく、議会や産業界からの数多くの書簡で、このプロセスに対する深刻な懸念が表明されている」と主張している。

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米国での循環器専門医試験を終えて【臨床留学通信 from Boston】第8回

米国での循環器専門医試験を終えて昨年の10月に、米国の循環器専門医試験を受けました。結果として無事に合格でき、晴れて日米総合内科、循環器内科専門医となれましたので、その過程を共通させていただきます。この専門医試験は、合格しなければ仕事にならない、もしくは仕事がみつからないほど重要な試験です。そのため真剣に試験を受ける必要があるのですが、今回はとくに過酷なスケジュールでした。10月下旬に試験が行われましたが、私は7月からMGH(マサチューセッツ総合病院)のカテーテルフェローとして昼夜問わず多忙で疲弊しきっていたため、正直なところ十分な準備時間を確保することができていませんでした。それでも試験の申し込み費用が2,500ドル(約40万円)と高額であることから、とりあえず不合格だけは避けることを目標に試験対策を行いました。主に使用した教材として、ACC(米国心臓病学会)に準拠した「ACCSAP」というアプリベースの問題集を、隙間時間に約600問解きました。総合内科は「MKSAP」という問題集がありましたが、それの循環器版です。循環器領域は馴染みがあるので難なく対応できるのですが、先天性心疾患など普段診ない専門性の高い疾患については特別な対策が必要でした。この分野に関しては、メイヨークリニックから出されているボードレビュー動画を活用しました。動画は35時間もあり、到底全部見ることはできませんが、弱点の分野を絞り込み、英語ですが1.5倍速で視聴しました。試験は2日間で行われました。1日目は2時間×4セッションで、知識問題をコンピューターベースで解答します。米国の試験はすべてコンピューターベースになっていて、日本のように東京の会場に集まるということはありません。ただし8時間もあるのがなかなか大変でした。合格点は320点、平均点が459点の中、私は567点で問題ありませんでした。2日目は心電図、心エコー、冠動脈造影の読影テストです。5つの選択肢から解答を1つ選ぶといったよくある形式だと楽なのですが、この試験はユニークな形式で、たとえば心電図所見の選択肢が100個ほどあり、その中から適切なものだけ選びます。選び過ぎると減点される過酷な形式でした。心電図を見て、洞調律、左房負荷、左室肥大、であればそれだけしか選べず、微妙な左軸偏位がないのにそう読んでしまうと減点、というようなものです。この試験はより対策が必要で、「ECG source」というウェブサイトで600問の問題をひたすら解きました。すべて解くのは到底無理で、効率も悪く、実際の感触は今ひとつでした。試験本番では、合格点が352点、平均点が463点の中で、私は542点を取得し、無事クリアしました。おそらく合格率は80~90%程度だと思われます。ほっと一息つくことができました。今年の11月にはInterventional Cardiologyの専門医試験があります。この試験の受験費用はなんと2,900ドルと45万円超。フェローの収入でこれだけの費用を捻出するのは厳しいので驚愕しています。Column今年は幸先良く、ACCの機関誌であるJACC(IF:21.7)に、私がcorresponding author/co-senior authorを担当した、STEMIに対する完全血行再建に関するメタ解析を掲載することができました1)。また、JAMA Cardiology(IF:14.7)に、co-first authorとしてApoBに関する論文を発表しました2)。カテーテル手技に多くの時間を費やしていますが、研究活動も続けていきたいと思います。1)Ueyama HA, Kuno T, et al. Optimal Strategy for Complete Revascularization in ST-Segment Elevation Myocardial Infarction and Multivessel Disease: A Network Meta-Analysis. J Am Coll Cardiol. 2025;85:19-38.2)Slipczuk L, Kuno T, et al. Heterogeneity of Apolipoprotein B Levels Among Hispanic or Latino Individuals Residing in the US. JAMA Cardiol. 2025 Jan 2. [Epub ahead of print]

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第252回 依存や鎮静などを回避しうる新しい鎮痛薬を米国が承認

ここ20年以上なかった新しい作用機序の非オピオイド鎮痛薬を米国FDAが先週金曜日に承認しました1,2)。承認されたのは昨春2月に本連載でも取り上げた米国のバイオテクノロジー企業であるVertex Pharmaceuticals社の経口錠剤です。製品名をJournavxといい、その成分suzetrigineは依存や鎮静などの有害事象と背中合わせのオピオイド受容体ではなく、痛み信号伝達に携わる末梢感覚神経のNaチャネルを標的とします。suzetrigineは数ある電位開口型Naチャネルの1つであるNaV1.8に限って阻害します。Naチャネルは扉のような役割を担い、神経細胞を伝う電気信号に応じて開閉します。その働きによるNaイオンの通過をとっかかりとする一連の神経反応によって脳へと痛み信号が伝わっていきます3)。suzetrigineの開発はNaV1.8の活性を高める変異一揃いの発見4)に端を発します。NaV1.8を開きっぱなしにするそれらの変異を有する人は、無傷にもかかわらずひどい神経痛を被っていました。ゆえに、NaV1.8を阻害することで痛みを減らせるだろうと想定され、NaV1.8を強力に阻害するsuzetrigineがいくつかの試みから頭ひとつ抜けて今回の承認に漕ぎ着けました。suzetrigineは昨年1月に初出の2つの第III相試験の結果5)を拠り所にして承認されました。その1つでは軟部組織の痛みを代表する腹部美容手術(腹部の過剰脂肪を除去する腹壁形成術)後の痛み、もう1つでは骨痛として代表的な外反母趾手術後の痛みへの同剤の効果が調べられ、2試験ともsuzetrigineの鎮痛効果がプラセボを上回りました。ただし、オピオイド含有薬(ヒドロコドンとアセトアミノフェンの組み合わせ)との鎮痛効果の比較でsuzetrigineは勝てませんでした。suzetrigineの安全性はより良好で、有害事象の発現率はプラセボ群より少なくて済みました5)。中等度~重度の急な疼痛の治療に使うことが許可されたsuzetrigineの1錠の値段は15.5ドルです。初回の用量は100mgで、その後1日に1錠を2回服用6)する患者の1日当たりの値段は31ドルとなります。慢性痛への効果はどうやら覚束ない次にsuzetrigineが目指すのはオピオイドに代わるより安全な鎮痛薬がより切実に待望される、いわば本丸の慢性痛治療の適応獲得であり、糖尿病性末梢神経障害患者を対象にした同剤の第III相試験が昨年の後半にすでに始まっています7)。一見順調そうだったその前途は、昨年の暮れに発表された第II相試験結果を受けて今や傍目には覚束なくなったように見えます。同試験には坐骨神経痛(LSR)患者が参加し、suzetrigine投与群102例の疼痛数値評価尺度(NPRS)の低下はプラセボ群100例と差がつきませんでした8)。Vertex社によると、プラセボ効果は試験を担った54施設ごとにまちまちでした。プラセボ効果がより低かったおよそ40%の施設のsuzetrigine投与患者47例の12週時点のNPRS低下は2点弱で、全体集団と遜色がありませんでした。ゆえにそれら40%の施設でのsuzetrigineの効果は、プラセボ群36例の1点弱のNPRS低下に比べて良好でした9)。Vertex社にどうやら迷いはなく、LSR相手のsuzetrigineの第III相試験を米国FDAなどの規制当局との相談(discussions with regulators)の後に始めます。第III相試験はより整ったプラセボ効果になるように設計すると同社は言っています8)。参考1)Vertex Announces FDA Approval of JOURNAVX (suzetrigine), a First-in-Class Treatment for Adults With Moderate-to-Severe Acute Pain / BusinessWire2)FDA Approves Novel Non-Opioid Treatment for Moderate to Severe Acute Pain / PRNewswire 3)Dolgin E. Nature. 2025 Jan 31. [Epub ahead of print]4)Faber CG, et al. Proc Natl Acad Sci USA. 2012;109:19444-9.5)Vertex Announces Positive Results From the VX-548 Phase 3 Program for the Treatment of Moderate-to-Severe Acute Pain / BusinessWire6)Journavx prescribing information7)Vertex Announces Positive Results From the VX-548 Phase 3 Program for the Treatment of Moderate-to-Severe Acute Pain / BusinessWire 8)Vertex Announces Results From Phase 2 Study of Suzetrigine for the Treatment of Painful Lumbosacral Radiculopathy / BusinessWire 9)SUZETRIGINE (VX-548) PHASE 2 RESULTS IN PAINFUL LUMBOSACRAL RADICULOPATHY / Vertex

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治療転帰、男女医師で有意差~35研究のメタ解析

 これまでに、女性医師が治療した患者は男性医師が治療した患者よりも転帰が良く、医療費も低くなる可能性が報告されている。医師と患者の性別の一致も転帰に影響する可能性があるが、これまでの研究では有意差は確認されておらず、統合解析によるエビデンスはほとんどない。今回、米国・メイヨークリニックのKiyan Heybati氏らがランダム効果メタ解析を実施した結果、女性医師の治療を受けた患者は、男性医師の治療を受けた患者に比べ死亡率が有意に低く、再入院も少なかったことがわかった。BMC Health Services Research誌2025年1月17日号に掲載。 本研究では、MEDLINEとEMBASEの開始から2023年10月4日まで検索し、関連研究を手作業で検索した。メタ解析には、成人(18歳以上)を登録し、内科および外科の専門領域にわたって医師の性別の影響を評価した観察研究を含めた。バイアスのリスクはROBINS-Iを用いて評価した。事前のサブグループ分析は、患者タイプ(外科対内科)に基づいて実施した。主要評価項目は全死亡率、副次評価項目は合併症、再入院、入院期間など。 主な結果は以下のとおり。・35件(1,340万4,840例)の観察研究のうち、20件(891万5,504例)は外科医の性別の影響を評価し、残りの15件(448万9,336例)は内科治療/麻酔ケアにおける医師の性別に焦点を当てた研究であった。バイアスのリスクがmoderateと評価されたのは15件、severeが15件、criticalは5件だった。・女性医師が治療した患者の死亡率は男性医師が治療した患者よりも有意に低く(オッズ比[OR]:0.95、95%信頼区間[CI]:0.93~0.97、PQ=0.13、I2=26%)、これは外科医と非外科医で一貫していた(相互作用:p=0.60)。・有意な出版バイアスは検出されなかった(Egger検定:p=0.08)。・女性医師による内科治療/麻酔ケアを受けた患者では再入院率が有意に低かった(OR:0.97、95%CI:0.96~0.98)。・9件(716万3,775例)の研究の質的統合では、医師と患者の性別の一致は良好なアウトカムと関連し、とくに女性医師と女性患者の一致で良好だった。 著者らは「すべての患者の健康アウトカムを最適化するためには、異なる国々のほかの医療状況におけるこれらの影響を検証し、根底にある機序と長期アウトカムを理解するために、さらなる研究が必要」としている。

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がん診断前の定期的な身体活動はがんの進行や死亡リスクを低下させる?

 がんと診断される前に運動を定期的に行っていた人では、がんとの闘いに成功する可能性が高まるようだ。がんの診断前に、たとえ低水準でも身体活動を行っていた人では、がんの進行リスクや全死亡リスクが低下する可能性のあることが明らかになった。ウィットウォーターズランド大学(南アフリカ)のJon Patricios氏らによるこの研究結果は、「British Journal of Sports Medicine」に1月7日掲載された。 研究グループによると、運動ががんによる死亡のリスク低下に重要な役割を果たしていることに関しては説得力のあるエビデンスがあるものの、がんの進行に対する影響については決定的なエビデンスがない。 この点を明らかにするためにPatricios氏らは今回、南アフリカで最大の医療保険制度であるDHMS(Discovery Health Medical Scheme)のデータを用いて、2007年から2022年の間にステージ1のがんと診断された患者2万8,248人を対象に、がんの進行および全死亡と診断前の身体活動との関連を検討した。がん種で最も多かったのは乳がん(22.5%)と前立腺がん(21.4%)であった。フィットネスデバイスのデータやジムでの運動記録などから、がんの診断前12カ月間の対象者の身体活動レベルを調べ、身体活動なし(62%)、低水準の身体活動量(中強度以上の身体活動を週平均60分未満、13%)、中〜高水準の身体活動量(中強度以上の身体活動を週平均60分以上、25%)の3群に分類した。 解析の結果、中〜高水準の身体活動量の群では、がんの進行率と全死亡率の低いことが明らかになった。がん進行のリスクは、身体活動なしの群と比べて、低水準の身体活動量の群では16%(ハザード比0.84、95%信頼区間0.79〜0.89)、中〜高水準の身体活動量の群では27%(同0.73、0.70〜0.77)、全死亡リスクはそれぞれ33%(同0.67、0.61〜0.74)と47%(同0.53、0.50〜0.58)低かった。 診断から2年後にがんの進行が認められなかった対象者の割合は、身体活動なしの群で74%、低水準の身体活動量の群で78%、中〜高水準の身体活動量の群で80%であった。同割合は、3年後ではそれぞれ71%、75%、78%、5年後では66%、70%、73%であった。全死亡についても同様のパターンが認められ、2年後に生存していた対象者の割合は、91%、94%、95%、3年後では88%、92%、94%、5年後では84%、90%、91%であった。 Patricios氏らは、「身体活動は、がんと診断された人に対して、がんの進行と全死亡の観点で大きなベネフィットをもたらすと考えられる」と結論付けている。また、研究グループは、身体活動には自然免疫力を強化して、体ががんと闘う準備を整える効果があるのではないかと推測している。身体活動はまた、体内のエストロゲンとテストステロンのバランスやレベルの調整を改善することで、乳がんや前立腺がんなどのホルモンが原因のがんの進行リスクを低下させる可能性も考えられるという。 本研究結果に基づき研究グループは、「がんが依然として公衆衛生上の重大な課題である現状を踏まえると、身体活動の促進は、がんの進行だけでなく、その予防と管理においても重要なベネフィットをもたらす可能性がある」と指摘。「公衆衛生ガイドラインは、がんを予防するだけでなく、がんの進行リスクを軽減するためにも身体活動の実施を奨励すべきだ」と提言している。

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切除可能食道腺がん、FLOTによる周術期化学療法が有効/NEJM

 切除可能な食道腺がん患者の治療において、術前化学放射線療法と比較してフルオロウラシル+ロイコボリン+オキサリプラチン+ドセタキセル(FLOT)による周術期化学療法は、3年の時点での全生存率を有意に改善し、3年無増悪生存率も良好で、術後合併症の発現は同程度であることが、ドイツ・Bielefeld大学のJens Hoeppner氏らが実施した「ESOPEC試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌2025年1月23日号に掲載された。ドイツの医師主導型無為化第III相試験 ESOPEC試験は、切除可能食道がんの治療におけるFLOTによる周術期化学療法の有用性の評価を目的とする医師主導の非盲検無作為化対照比較第III相試験であり、2016年2月~2020年4月にドイツの25の施設で患者を登録した(ドイツ研究振興協会の助成を受けた)。 年齢18歳以上、組織学的に食道の腺がんが確認され、食道の腫瘍または食道胃接合部の原発巣から食道へ進展した腫瘍を有し、原発巣のUICC病期分類がcT1 cN+、cT2-4a cN+、cT2-4a cN0のいずれかで、遠隔転移がなく、全身状態の指標であるEastern Cooperative Oncology Group performance status(ECOG PS)のスコアが0、1、2点の患者を対象とした。 被験者を、FLOTによる周術期化学療法+手術を受ける群、または術前化学放射線療法+手術を受ける群に1対1の割合で無作為に割り付けた。FLOT群では、術前に2週を1サイクルとする化学療法(FLOT)を4サイクル施行し、術後に同様の化学療法を4サイクル(退院から4~6週後に開始)行った。術前化学放射線療法群では、カルボプラチン+パクリタキセル(週1回[1、8、15、22、29日目]、静脈内投与)と放射線治療(総線量41.4Gy:23分割、1.8Gy/日)を施行した後に手術を行った。 主要エンドポイントは全生存とした。全生存期間は66ヵ月vs.37ヵ月 438例を登録し、FLOT群に221例(年齢中央値63歳[範囲:37~86]、男性89.1%)、術前化学放射線療法群に217例(63歳[30~80]、89.4%)を割り付けた。FLOT群の193例、術前化学放射線療法群の181例が手術を受けた。全体の追跡期間中央値は55ヵ月だった。 3年の時点での全生存率は、術前化学放射線療法群が50.7%(95%信頼区間[CI]:43.5~57.5)であったのに対し、FLOT群は57.4%(50.1~64.0)と有意に高い値を示した(死亡のハザード比[HR]:0.70、95%CI:0.53~0.92、p=0.01)。全生存期間中央値は、FLOT群が66ヵ月(36~評価不能)、術前化学放射線療法群は37ヵ月(28~43)だった。 また、3年時の無増悪生存率は、FLOT群が51.6%(95%CI:44.3~58.4)、術前化学放射線療法群は35.0%(28.4~41.7)であった(病勢進行または死亡のHR:0.66、95%CI:0.51~0.85)。術後の病理学的完全奏効は16.7% vs.10.1% 完全切除(R0)は、FLOT群の193例中182例(94.3%)、術前化学放射線療法群の181例中172例(95.0%)で達成した。術後の病理学的完全奏効(ypT0/ypN0:切除された原発巣およびリンパ節に浸潤がんの遺残がない)は、それぞれ192例中32例(16.7%)および179例中18例(10.1%)で得られた。 Grade3以上の有害事象は、FLOT群で207例中120例(58.0%)、術前化学放射線療法群で196例中98例(50.0%)に発現した。重篤な有害事象は、それぞれ207例中98例(47.3%)および196例中82例(41.8%)にみられた。手術を受けた患者における術後の手術部位および手術部位以外の合併症の頻度は両群で同程度であり、術後90日の時点での死亡はそれぞれ6例(3.1%)および10例(5.6%)であった。 著者は、「病理学的完全奏効の解析は、各試験を通じて標準化するのが困難な因子に依存するため、先行試験との比較では慎重に解釈する必要がある」「併存症のためFLOTが施行できない患者やFLOT関連有害事象を呈する患者では、2剤併用化学療法へのde-escalationや術前化学放射線療法への切り換えが望ましいアプローチであるかは、本試験では回答できない問題である」としている。

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ネグレクトは子どもの発達にダメージを与え得る

 ネグレクトは身体的虐待や性的虐待、感情的虐待と同様に子どもの社会的発達にダメージを与え得ることを示した研究結果が明らかになった。基本的な欲求が満たされない子どもは、友人関係や恋愛関係を築く能力が生涯にわたって損なわれる可能性があるという。米イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校社会学分野のChristina Kamis氏と米ノートルダム大学社会学分野のMolly Copeland氏による研究で、詳細は「Child Abuse and Neglect」2024年12月号に掲載された。 Kamis氏らは、思春期の子どもの健康状態を成人期まで追跡調査している米連邦政府の長期研究(National Longitudinal Study of Adolescent to Adult Health;Add Health)調査参加者9,154人のデータを分析し、マルトリートメント(ネグレクトや虐待などの不適切な養育)が参加者の社会性や仲間からの人気度、社会と強固なつながりを築く能力に及ぼす影響について調べた。参加者は、7~12年生時(1994〜1995年)に初回の調査を受け、その後、第3次調査(2001〜2002年)および第4次調査(2008〜2009年)も受けていた。 参加者の40.86%が12歳あるいは6年生(12歳)になるまでに、身体的虐待や性的虐待など何らかのマルトリートメントを受けた経験があると報告していた。そのうちの10.29%は、養育者が住居、食事、衣服、教育、医療へのアクセスや精神的サポートを与えないことで子どもを危険な状態に置くことを意味する身体的ネグレクトであった。参加者には、在学時に実施した調査で、参加者に最も親しい男女の友人を5人まで挙げるよう求めた。社会性は当時の友人の数に基づき測定した。一方、人気度は、その参加者の名前を友人の1人として挙げた仲間の数に基づき測定した。社会的つながりの強さは友人グループのネットワークに基づき測定した。 子どもが友人として挙げた仲間の数は平均で4.49人であり、1人につき平均4.54人がその子どもを友人として挙げていた。しかし、虐待やネグレクトを経験した子どもは、友人として挙げる仲間の数や、その子どもを友人として挙げる仲間の数が統計学的に有意に少ないことが示された。また、種類にかかわらず、マルトリートメントは子どもの社会性の発達に有害な影響を与えることも示された。例えば、性的虐待の経験は子どもを仲間から孤立させやすくする。一方、感情的虐待や身体的虐待の経験は、子どもの人気度を低下させたり、社会的なつながりを弱めたりする可能性のあることが明らかになった。ただし、これら3つの要素の全てに支障をもたらすのは身体的ネグレクトのみであった。 Kamis氏は、「マルトリートメントを受けた子どもは、しばしば羞恥心を感じ、それが自尊心や帰属意識を低下させ、結果的に仲間から孤立しやすくなる可能性がある。また、そうした経験から、仲間から拒絶されたり危害を加えられたりするのではないかと考えるようになり、他者との関わりを持とうとしなくなる可能性も考えられる」とイリノイ大学のニュースリリースの中で述べている。 Kamis氏らは、ネグレクトの経験がある子どもを友人として挙げる仲間が少ないという事実は、同級生がそうした子どもを避けたがっていたことを示唆していると考察している。Kamis氏は、「マルトリートメントそのものが偏見の対象となり、その経験の痕跡が目に見える形で残っていたり仲間に知られたりすると、仲間はその子どもを避けるようになる可能性がある」と説明している。また同氏は、「マルトリートメントによって感情のコントロールが難しくなったり、攻撃性が増したり、社会性に乏しい行動が見られたりすることで、友人としての望ましさを損なう行動が多くなる可能性もある」と述べている。 こうしたことを踏まえてKamis氏は、医師や教師が子どもに虐待やネグレクトの兆候がないか注意を払い、子どもたちにサポートを提供する準備をしておくことを勧めている。同氏は、「こうした子どもにとって、学校は厳しい場所となっている可能性がある。子どもが友人関係を築き、仲間との間の壁を取り払うためには、さらなるサポートが必要であることを認識することが重要だ」と結論付けている。

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rabies(狂犬病)【病名のルーツはどこから?英語で学ぶ医学用語】第19回

言葉の由来「狂犬病」は英語で“rabies”といいます。この病名は、ラテン語の“rabies”に由来し、これは「狂気」や「激怒」を意味します。さらにさかのぼると、ラテン語の“rabere”(激怒する)という動詞に関連しており、これは狂犬病に感染した動物や人間が示す過度の攻撃性や不安定な行動を反映して付けられたとされています。また、古代ギリシャでは、この病気を“lyssa”または“lytta”と呼んでいました。これは「狂乱」や「狂気」を意味する言葉で、狂犬病ウイルスの属名である“Lyssavirus”はこのギリシャ語に由来しています。歴史的には、紀元前5世紀ごろのギリシャの哲学者デモクリトスが狂犬病について記述しており、同時代のヒポクラテスも「狂乱状態の人々は水をほとんど飲まず、不安になり、最小の物音にも震え、痙攣を起こす」と記録しています。狂犬病は致死率がきわめて高く、長年にわたって恐れられていた病気ですが、19世紀後半にフランスの化学者ルイ・パスツールによって狂犬病ワクチンが開発され、予防可能な感染症になりました。併せて覚えよう! 周辺単語神経症状neurological symptoms恐水病hydrophobia予防接種vaccination興奮状態agitationこの病気、英語で説明できますか?Rabies is a viral disease that causes inflammation of the brain in humans and other mammals. It is typically transmitted through the bite of an infected animal. Early symptoms often include fever, headache, and a tingling at the site of exposure. As the disease progresses, symptoms can include violent movements, uncontrolled agitation, fear of water, and inability to move parts of the body.講師紹介

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成人ADHDに対するさまざまな治療の有用性比較〜ネットワークメタ解析

 成人の注意欠如多動症(ADHD)に対する利用可能な介入のベネフィットとリスクの比較は、これまで十分に行われていなかった。英国・オックスフォード大学のEdoardo G. Ostinelli氏らは、これらの重要なギャップを解消し、将来のガイドライン作成に役立つ入手可能なエビデンスを包括的に統合するため、システマティックレビューおよびコンポーネントネットワークメタ解析(NMA)を実施した。The Lancet Psychiatry誌2025年1月号の報告。 2023年9月6日までに公表された、成人ADHDに対する薬理学的および非薬理学的介入を調査した発表済みおよび未発表のランダム化比較試験(RCT)を複数のデータベースより検索した。ADHDと診断された18歳以上の成人に対する症状改善を目的とした治療介入群と対照群またはその他の適格な積極的介入群を比較したRCTの集計データを含めた。薬理学的介入は、国際ガイドラインに従い最大計画投与量が適格であると判断された研究のみを対象とした。薬理学的介入は1週間以上、心理学的介入は4セッション以上、神経刺激的介入は適切とみなされる任意の期間であったRCTを分析に含めた。薬物療法、認知機能トレーニング、神経刺激単独療法のRCTについては、二重盲検RCTのみを対象に含めた。2人以上の研究者により、特定された研究を独立してスクリーニングし、適格なRCTよりデータを抽出した。主要アウトカムは、有効性(12週間に最も近い評価時点における自己評価および臨床医評価尺度によるADHDの中核症状の重症度変化)および受容性(すべての原因による治療中止)とした。介入を特定の治療要素に分解し、ペアワイズランダム効果およびコンポーネントNMAを使用して、標準化平均差(SMD)およびオッズ比(OR)を推定しました。研究および執筆には、成人ADHDの実体験を有する人が関与した。 主な結果は以下のとおり。・3万2,416件の研究のうち、113件のRCT、1万4,887例(女性:6,787例[45.6%]、男性:7,638例[51.3%]、性別不明:462例[3.1%])を分析対象に含めた。・113件のRCTには、薬理学的介入63件(55.8%、参加者:6,875例)、心理学的介入28件(24.8%、1,116例)、神経刺激的介入およびニューロフィードバック10件(8.8%、194例)、対照群97件(85.8%、5,770例)が含まれた。・12週時点でのADHD中核症状の軽減は、自己評価および臨床医評価の両方において、アトモキセチンと神経刺激薬が、プラセボよりも高い有効性を示した(NMAの信頼性[CINeMA]:非常に低い〜中程度)。【アトモキセチン】自己評価尺度SMD:−0.38(95%CI:−0.56〜−0.21)、臨床医評価尺度SMD:−0.51(95%CI:−0.64〜−0.37)【神経刺激薬】自己評価尺度SMD:−0.39(95%CI:−0.52〜−0.26)、臨床医評価尺度SMD:−0.61(95%CI:−0.71〜−0.51)・認知行動療法、認知機能改善療法、マインドフルネス認知療法、心理教育、経頭蓋直流電気刺激法は、臨床医評価尺度のみでプラセボよりも優れていた。【認知行動療法】臨床医評価尺度SMD:−0.76(95%CI:−1.26〜−0.26)【認知機能改善療法】臨床医評価尺度SMD:−1.35(95%CI:−2.42〜−0.27)【マインドフルネス認知療法】臨床医評価尺度SMD:−0.79(95%CI:−1.26〜−0.29)【心理教育】臨床医評価尺度SMD:−0.77(95%CI:−1.35〜−0.18)【経頭蓋直流電気刺激法】臨床医評価尺度SMD:−0.78(95%CI:−1.13〜−0.43)・許容性に関しては、アトモキセチンとグアンファシン以外は、プラセボと同等であった。【アトモキセチン】OR:1.43、95%CI:1.14〜1.80、CINeMA:中程度【グアンファシン】OR:3.70、95%CI:1.22〜11.19、CINeMA:高い・受容性は、プラセボよりも低かった。・自己評価によるADHD中核症状のベースライン重症度、公表年、男性の割合、ADHDと他の精神疾患を併発している患者の割合は、自己評価によるADHD中核症状の未調整非構成要素モデルで観察された異質性を説明できなかった。・治療期間の異質性には、ほとんど影響を及ぼさなかった。 著者らは「短期的に成人ADHD患者の中核症状を軽減する点で、神経刺激薬およびアトモキセチンによる薬理学的介入は、自己評価および臨床医評価の両方においてその有効性が裏付けられた。しかし、アトモキセチンは、プラセボよりも許容性が不良であった」とし「ADHD治療薬は、QOLなどの追加の関連アウトカムに対し効果が実証されておらず、長期的なエビデンスは不十分である。また、非薬理学的介入の効果は、評価者により一貫性が認められていない」としている。

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日本における遺伝子パネル検査、悪性黒色腫の治療到達割合は6%

 悪性黒色腫(メラノーマ)は、アジア諸国では欧米に比べてまれな疾患であり、前向き臨床試験による検証が難しい状況がある。日本において、包括的がんゲノムプロファイリング検査(CGP)を使用して悪性黒色腫患者の遺伝子変異と転帰を解明することを目的とした後ろ向き研究が行われた。北海道大学の野口 卓郎氏らによる本研究の結果は、JCO Precision Oncology誌2025年1月9日号に掲載された。 研究者らは、標準治療が終了(完了見込みも含む)し、保険適用となるCGPを受けた悪性黒色腫患者のデータをがんゲノム情報管理センター(C-CAT)から得て、結果を分析した。 主な結果は以下のとおり。・2020年10月~2023年5月に、C-CATに登録された569例の悪性黒色腫患者が対象となった。遺伝子パネル検査の種類はFoundationOneCDxが84%、FoundationOne Liquid CDxが6%、OncoGuide NCCオンコパネルシステムが9.7%で、それぞれ324、324、137遺伝子が解析対象となった。・悪性黒色腫の発生部位は皮膚悪性黒色腫が64%、粘膜悪性黒色腫が28%、ブドウ膜悪性黒色腫が7%だった。・遺伝子変異で多かったものはBRAFが25%、NRASが20%、NF1が17%、KITが17%だった。BRAFの82%、NRASの97%、NF1の69%、KITの54%が特定の薬剤で対応可能な変異だった。・BRAF V600E/K変異は皮膚の22%、粘膜の2%で発生したが、ブドウ膜では発生しなかった。皮膚悪性黒色腫における平均腫瘍負荷は4.2variants/Mbだった。・BRAF V600E/K変異体を有する患者のうち、16例は検体採取前にBRAF/MEK阻害薬による治療を受けている一方で、66例は受けていなかった。以前にBRAF標的療法で治療を受けた患者は、治療を受けていない患者よりも頻繁にBRAFおよび細胞周期遺伝子の増幅を示した。・Molecular Tumor Board(MTB:がんゲノム医療カンファレンス)は全体の3分の1の患者に治療の推奨を行ったが、実際に推奨された治療を受けた患者は36例(6%)だった。36例中29例は詳細な治療情報が得られ、10人は米国食品医薬品局(FDA)承認薬以外の治療を受けていた。 研究者らは「BRAF、NRAS、NF1、KITにおける遺伝子変化は、日本人の悪性黒色腫患者によく見られるが、推奨に従って治療を受けた患者は少なかった。日本においては承認薬、もしくは臨床試験における治療薬へのアクセスを容易にすることが求められている」とした。

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BRAF V600E変異mCRC、1次治療のエンコラフェニブ+セツキシマブが有用(BREAKWATER)

 前治療歴のあるBRAF V600E変異型の転移大腸がん(mCRC)に対して、BRAF阻害薬・エンコラフェニブと抗EGFRモノクローナル抗体・セツキシマブの併用療法(EC療法)はBEACON試験の結果に基づき有用性が確認され、本邦でも承認されている。一方、BRAF V600E変異mCRCに対する1次化学療法の有効性は限定的であることが示されており、1次治療としてのEC療法の有用性を検証する、第III相BREAKWATER試験が計画・実施された。 1月23~25日、米国・サンフランシスコで行われた米国臨床腫瘍学会消化器がんシンポジウム(ASCO-GI 2025)では、米国・テキサス大学MDアンダーソンがんセンターのScott Kopetz氏が本試験の解析結果を発表し、Nature Medicine誌オンライン版2025年1月25日号に同時掲載された。・試験デザイン:国際共同第III相無作為化比較試験・対象:未治療のBRAF V600E変異mCRC、ECOG 0~1・試験群:EC群:エンコラフェニブ+セツキシマブEC+mFOLFOX6群:エンコラフェニブ+セツキシマブ+mFOLFOX6(オキサリプラチン、ロイコボリン、5-FU)・対照群:標準化学療法(SOC)群:CAPOX or FOLFOXIRI or mFOLFOX6±ベバシズマブ・評価項目:[主要評価項目]無増悪生存期間(PFS)、奏効率(ORR)[副次評価項目]全生存期間(OS)、奏効期間(DOR)、安全性など※試験中にプロトコルが変更され、EC+mFOLFOX6群とSOC群を比較する試験デザインとなった。今回はORRの1次解析、OSの暫定的解析が報告され、PFSをはじめとするほかの評価項目は解析中で、後日報告される予定だ。 主な結果は以下のとおり。・2021年11月16日~2023年12月22日にEC+mFOLFOX6群に236例、SOC群243例が割り付けられた。治療期間中央値はEC+mFOLFOX6群で28.1週間、SOC群で20.4週間であり、データカットオフ(2023年12月22日)時点でEC+mFOLFOX6群は137例、SOC群は82例が治療継続中だった。・ORRはEC+mFOLFOX6群60.9%、SOC群40.0%だった(オッズ比:2.44、95%信頼区間[CI]:1.40~4.25、p=0.0008)。奏効期間中央値は13.9ヵ月対11.1ヵ月であった。設定されたすべてのサブグループにおいて同様の結果が認められた。DORが6ヵ月または12ヵ月を超える患者の割合は、EC+mFOLFOX6群ではSOC群の約2倍だった。・OSデータは未成熟であったが、EC+mFOLFOX6群が優位な傾向が見られた。・重篤な有害事象の発現率は、37.7%と34.6%であった。安全性プロファイルは既知のものと同様であった。 研究者らは、「本試験では、BRAF V600E変異を有するmCRC患者を対象に、1次治療としてのEC+mFOLFOX6併用療法がSOC療法と比較して、有意に高い奏効率を示し、その奏効が持続することが示された」とした。なお、2024年12月、米国食品医薬品局(FDA)は、本試験の結果に基づき、エンコラフェニブとセツキシマブの併用療法をBRAF V600E変異を有するmCRCの1次治療として迅速承認している。

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心筋線維化を伴う無症候性重症AS、早期介入の効果は?/JAMA

 心筋線維化を伴う無症候性重症大動脈弁狭窄症(AS)患者において、早期の大動脈弁置換術による介入は標準的な管理と比較し、全死因死亡またはASに関連した予定外の入院の複合アウトカムに関して、明らかな有効性は認められなかった。英国・エディンバラ大学のKrithika Loganath氏らが、英国およびオーストラリアの心臓センター24施設で実施した前向き非盲検無作為化エンドポイント盲検化試験「Early Valve Replacement Guided by Biomarkers of Left Ventricular Decompensation in Asymptomatic Patients with Severe Aortic Stenosis trial:EVOLVED試験」の結果を報告した。AS患者では、左室代償不全に先立って心筋線維化が進行し、長期的な予後不良につながる。早期介入は、AS関連の臨床イベントリスクが高い患者において潜在的な利点が示唆されていた。著者は、「本試験では主要エンドポイントの95%信頼区間(CI)が広く、今回の結果を確認するにはさらなる研究が必要である」とまとめている。JAMA誌2025年1月21日号掲載の報告。経カテーテルまたは外科的大動脈弁置換術の早期介入と保存的管理を比較 研究グループは、2017年8月4日~2022年10月31日に、18歳以上の無症候性重症AS患者をスクリーニングし、高感度トロポニンI値が6ng/L以上または心電図で左室肥大が認められた場合に心臓MRIを行い、心筋線維化が確認された患者を、経カテーテルまたは外科的大動脈弁置換術を行う早期介入群と、ガイドラインに従った保存的管理を行う対照群に1対1の割合で無作為に割り付けた。最終追跡調査日は2024年7月26日であった。 主要アウトカムは、全死因死亡またはASに関連した予定外の入院(ASに起因する失神、心不全、胸痛、心室性不整脈、房室ブロック2度または3度を伴う)の複合とし、初回イベント発生までの時間についてITT解析を行った。副次アウトカムは、主要アウトカムの各イベント、12ヵ月時の症状(NYHA心機能分類による評価)などを含む9項目であった。複合アウトカムに両群で有意差なし 当初は356例の登録が計画されていたが、COVID-19の流行期に英国政府の指示に従い患者登録は5ヵ月間中断され、流行後も進まなかった。別の新たな2件の無作為化試験の結果から必要イベント件数が35件と推定されたことから、患者登録は早期に中止となった。 解析対象は224例(早期介入群113例、対照群111例)で、患者背景は平均(±SD)年齢73±9歳、女性63例(28%)、平均大動脈弁最大血流速度は4.3±0.5m/秒であった。 主要アウトカムのイベントは、早期介入群で113例中20例(18%)、対照群で111例中25例(23%)に発生した。ハザード比(HR)は0.79(95%CI:0.44~1.43、p=0.44)、群間差は-4.82%(95%CI:-15.31~5.66)であり、有意差は認められなかった。 副次アウトカムは、9項目中7項目で有意差が示されなかった。全死因死亡は、早期介入群で16例(14%)、対照群で14例(13%)に発生した(HR:1.22、95%CI:0.59~2.51)。ASに関連した予定外の入院は、それぞれ7例(6%)および19例(17%)確認された(0.37、0.16~0.88)。また、早期介入群は対照群と比較して、12ヵ月時のNYHA心機能分類II~IVの症状を有する患者の割合が低かった(21例[19.7%]vs.39例[37.9%]、オッズ比:0.37、95%CI:0.20~0.70)。

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血液検査でワクチン効果の持続期間が予測できる?

 幼少期に受けた予防接種が、麻疹(はしか)や流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)から、われわれの身を守り続けている一方、インフルエンザワクチンは、毎年接種する必要がある。このように、あるワクチンが数十年にわたり抗体を産生するように免疫機能を誘導する一方で、他のワクチンは数カ月しか効果が持続しない理由については、免疫学の大きな謎とされてきた。米スタンフォード大学医学部の微生物学・免疫学教授で主任研究員のBali Pulendran氏らの最新の研究により、その理由の一端が解明され、ワクチン効果の持続期間を予測できる血液検査の可能性が示唆された。 Pulendran氏は同大学が発表したニュースリリースで、「われわれの研究では、ワクチン接種後数日以内に現れる特徴的な分子パターンを特定することにより、ワクチン反応の持続期間を予測できる可能性が示唆された」と述べている。同氏らの研究結果は、「Nature Immunology」に1月2日掲載された。研究グループの説明によると、ワクチン効果の持続性は血液凝固に関与する巨核球と呼ばれる血小板の前駆細胞と密接な関係があることが示されたという。 この研究では、H5N1型鳥インフルエンザワクチンを接種した健常なボランティア50人を対象に追跡調査を行った。ワクチン接種後100日間の間に血液サンプルを12回採取し、各被験者の免疫反応に関連する全ての遺伝子、タンパク質、抗体を解析した。 その結果、ワクチンの接種から数カ月後の抗体反応の強さと、血小板に含まれる巨核球由来のRNA小片の量に正の相関があることが示された。血小板は、骨髄に存在する巨核球から分離された後、血流に乗って全身に運ばれる。この過程で、血小板中には巨核球由来のRNAの一部が含まれる。 研究グループはさらに、巨核球がワクチン効果の持続性に関係していることを証明するため、実験用マウスに鳥インフルエンザワクチンとトロンボポエチン(TPO)を投与した。TPOには骨髄内の活性化した巨核球の数を増やす働きがある。その結果、TPOを投与したマウスでは、2カ月以内に鳥インフルエンザに対する抗体産生量が6倍に増加したことが確認された。追加の研究で、巨核球が、抗体産生を担う骨髄細胞の生存を助ける物質を生成していることも判明した。 研究グループは、また、季節性インフルエンザ、黄熱病、マラリア、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)など7種類の感染症に対するワクチンを接種した244人のデータを収集解析した。その結果、いずれのワクチンにおいても、巨核球活性化の兆候が抗体産生期間の延長と関連していることが示された。 この結果は、巨核球の活性化を評価することで、どのワクチンの効果がより長く持続するか、またどのワクチン接種者がより長期にわたり免疫反応を持続できるかを予測できる可能性を示している。研究グループは、ワクチンによる巨核球の活性化レベルの違いを解明するため、さらなる研究を予定しているという。その研究から得られる知見は、より効果的で長期間効果が持続するワクチンの開発に貢献する可能性がある。 Pulendran氏は、「巨核球の活性化をターゲットとした簡易なPCR検査法が開発されれば、追加接種が必要な時期が予測できるため、個々人に個別化されたワクチン接種スケジュールを立てることも可能になるのではないか」と述べている。また、同氏はワクチン効果の持続期間は多くの複雑な要因に影響される可能性が高く、巨核球の役割はその全体像を構成する一部分にすぎないのではないかと付言している。

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“添付文書に従わない経過観察”の責任は?【医療訴訟の争点】第8回

症例薬剤の添付文書には、使用上の注意や重大な副作用に関する記載があり、副作用にたりうる特定の症状が疑われた場合の処置についての記載がされている。今回は、添付文書に記載の症状が「疑われた」といえるか、添付文書に記載の対応がなされなかった場合の責任等が争われた京都地裁令和3年2月17日判決を紹介する。<登場人物>患者29歳・女性妊娠中、発作性夜間ヘモグロビン尿症(発作性夜間血色素尿症:PNH)の治療のためにエクリズマブ(商品名:ソリリス)投与中。原告患者の夫と子被告総合病院(大学病院)事案の概要は以下の通りである。平成28年(2016年)1月妊娠時にPNHが増悪する可能性を指摘されていたため、被告病院での周産期管理を希望し、被告病院産科を受診。4月4日被告病院血液内科にて、PNHの治療(溶血抑制等)のため、エクリズマブの投与開始(8月22日まで、薬剤による副作用はみられず)7月31日出産のため、被告病院に入院(~8月6日)8月22日午前被告病院血液内科でエクリズマブの投与を受け、帰宅昼過ぎ悪寒、頭痛が発生16時55分本件患者は、被告病院産科に電話し、午前中にエクリズマブの投与を受け、その後、急激な悪寒があり、39.5℃の高熱があること、風邪の症状はないこと等を伝えた。電話対応した助産師は、感冒症状もなく、乳房由来の熱発が考えられるとし、本件患者に対し、乳腺炎と考えられるので、今晩しっかりと授乳をし、明日の朝になっても解熱せず乳房トラブルが出現しているようであれば、電話連絡をするよう指示した。21時18分本件患者の母は、被告病院産科に電話し、熱が40℃から少し下がったものの、悪寒があり、発汗が著明で、起き上がれないため水分摂取ができず脱水であること、手のしびれがあること、体がつらいため授乳ができないこと等を伝えた。21時55分被告病院産科の救急外来を受診し、A医師が診察。診察時、血圧は95/62 mmHgであり、SpO2は98%、脈拍は115回/分、体温は36.3℃(17時に解熱鎮痛剤服用)、項部硬直及びjolt accentuation(頭を左右に振った際の頭痛増悪)はいずれも陰性であった。22時45分乳腺炎は否定的であること、エクリズマブの副作用の可能性があること等から、被告病院血液内科に引き継がれ、B医師が診察した。診察時、本件患者の意識状態に問題はなく、意思疎通可能、移動には介助が必要であるものの短い距離であれば介助なしで歩行可能であった。血液検査(22時15分採血分)上、白血球、好中球、血小板はいずれも基準値内であった。23時30分頃経過観察のため入院となった。8月23日4時25分本件患者の全身に紫斑が出現、血圧67/46mmHg、血小板数3,000/μLとなり、敗血症性ショックと播種性血管内凝固症候群(DIC)の病態に陥った。抗菌薬(タゾバクタム・ピペラシリン[商品名:ゾシンほか])が開始された。10時43分敗血症性ショックとDICからの多臓器不全により、死亡。8月24日本件患者の細菌培養検査の結果が判明し、血液培養から髄膜炎菌が同定された。8月29日薬剤感受性検査の結果、ペニシリン系薬剤に感受性あることが判明した。実際の裁判結果本件では、(1)エクリズマブの副作用につき血液内科の医師が産科の医師に周知すべき義務違反、(2)8月22日夕方に電話対応した助産師の受診指示義務違反、(3)8月22日夜の救急外来受診時の投薬義務違反等が争われた。本稿では、このうちの(3)救急外来受診時の投薬義務違反について取り上げる。本件で問題となったエクリズマブの添付文書には、以下のように記載されている。※注:以下の内容は本件事故当時のものであり、2024年9月に第7版へ改訂されている。「重大な副作用」「髄膜炎菌感染症を誘発することがあるので、投与に際しては同感染症の初期徴候(発熱、頭痛、項部硬直、羞明、精神状態の変化、痙攣、悪心・嘔吐、紫斑、点状出血等)の観察を十分に行い、髄膜炎菌感染症が疑われた場合には、直ちに診察し、抗菌薬の投与等の適切な処置を行う(海外において、死亡に至った重篤な髄膜炎菌感染症が認められている。)。」「使用上の注意」「投与により髄膜炎菌感染症を発症することがあり、海外では死亡例も認められているため、投与に際しては、髄膜炎菌感染症の初期徴候(発熱、頭痛、項部硬直等)に注意して観察を十分に行い、髄膜炎菌感染症が疑われた場合には、直ちに診察し、抗菌剤の投与等の適切な処置を行う。髄膜炎菌感染症は、致命的な経過をたどることがある」この「疑われた場合」の解釈につき、患者側は、「疑われた場合」は「否定できない場合」とほぼ同義であり、症状からみて髄膜炎菌感染症の可能性がある場合には「疑われた場合」に当たる旨主張した。対して、被告病院側は、「疑われた場合」に当たると言えるためには、「否定できない場合」との対比において、「積極的に疑われた場合」あるいは「強く疑われた場合」であることが必要である旨を主張した。このため、添付文書に記載の「疑われた場合」がどのような場合を指すのかが問題となった。裁判所は、添付文書の上記記載の趣旨が、エクリズマブは髄膜炎菌を始めとする感染症を発症しやすくなるという副作用を有し、髄膜炎菌感染症には急速に悪化し致死的な経過をたどる重篤な例が発生しているため、死亡の結果を回避するためのものであることを指摘し、以下の判断を示した(=患者側の主張を積極的に採用するものではないが、被告病院側の主張を排斥した)。積極的に疑われた場合または強く疑われる場合に限定して理解することは、その趣旨に整合するものではない少なくとも、強くはないが相応に疑われる場合(相応の可能性がある場合。他の鑑別すべき複数の疾患とともに検討の俎上にあがり、鑑別診断の対象となり得る場合)を含めて理解する必要がある添付文書の警告の趣旨・理由を強調すると、可能性が低い場合かほとんどゼロに近い場合(単なる除外診断の対象となるにすぎない場合)を含めて理解する余地があるその上で、裁判所は、以下の点を指摘し、本件は添付文書にいう「疑われた場合」にあたるとした。『入院診療計画書』には、「細菌感染や髄膜炎が強く疑われる状況となれば、速やかに抗生剤を投与する」ために入院措置をとった旨が記載されており、担当医は、髄膜炎菌感染症を含む細菌感染の可能性について積極的に疑っていなくとも、相応の疑いないし懸念をもっていたと解されること(CRPや白血球の数値が低い点はウイルス感染の可能性と整合する部分があるものの)ウイルス感染であれば上気道や気管の炎症を伴うことが多いのに、本件でその症状がなかった点は、これを否定する方向に働く事情であり、ウイルス感染の可能性が高いと判断できる状況ではなかったといえること(CRPや白血球の数値が低いことは細菌感染の可能性を否定する方向に働き得る事情ではあるものの)細菌感染の場合、CRPは発症から6~8時間後に反応が現れるといわれており、それまではその値が低いからといって細菌感染の可能性がないとは判断できず、疑いを否定する根拠になるものではないこと。同様に、白血球の数値も重度感染症の場合には減少することもあるとされており、同じく細菌感染の疑いを否定する根拠になるものではないことそして、裁判所は「細菌感染の可能性を疑いながら速やかに抗菌薬を投与せず、また、(省略)…細菌感染の可能性について疑いを抱かなかったために速やかに抗菌薬を投与しなかったといえるから、いずれにしても速やかに抗菌薬を投与すべき注意義務に違反する過失があったというべき」として、被告病院担当医の過失を認めた。この点、被告病院は「すぐに抗菌薬を投与するか経過観察をするかは、いずれもあり得る選択であり、いずれかが正しいというものではない」として医師の裁量である旨を主張したが、裁判所は、以下のとおり判示し、添付文書に従わないことを正当化する合理的根拠とならないとした。「あえて添付文書と異なる経過観察という選択が裁量として許容されるというためには、それを基礎づける合理的根拠がなければならないところ、細菌感染症でない場合に抗菌薬を投与するリスクとして、抗菌薬投与が無駄な治療になるおそれ、アレルギー反応のリスク、肝臓及び腎臓の障害を生じるリスク、炎症の原因判断が困難になるリスクが考えられるが、これらのリスクは、髄膜炎菌感染症を発症していた場合に抗菌薬を投与しなければ致死的な経過をたどるリスクと比較すると、はるかに小さいといえるから、添付文書に従わないことを正当化する合理的根拠となるものではない」注意ポイント解説本件では、添付文書において「髄膜炎菌感染症が疑われた場合には、直ちに診察し、抗菌薬の投与等の適切な処置を行う」となっているところ、抗菌薬の投与等がなされないまま経過観察となっていた。そのため、「疑われた場合」にあたるのか、あたるとして経過観察としたことが医師の裁量として許容されるのかが問題となった。添付文書の記載の解釈について判断が示された比較的新しい裁判例である上、添付文書でもよく目にする「疑われた場合」に関する解釈を示した裁判例として注目される。「疑われた場合」の判断において本判決は、その記載の趣旨が、エクリズマブは髄膜炎菌を始めとする感染症を発症しやすくなる副作用を有し、髄膜炎菌感染症は急速に悪化し致死的な経過をたどる例があり、そのような結果を避けるためであることを理由とする。そのため、本判決の判断が、他の薬剤の添付文書の解釈でも同様に妥当するとは限らない。とくに、可能性が低い場合かほとんどゼロに近い場合(単なる除外診断の対象となるに過ぎない場合)を含めて理解する余地があるかについては、生じうる事態の軽重によりケースバイケースで判断されることとなると考えられる。しかしながら、一定の悪しき事態が生じうることを念頭に添付文書の記載がなされていることからすると、添付文書に「疑われた場合」とある場合は、強くはないが相応に疑われる場合(相応の可能性がある場合。他の鑑別すべき複数の疾患とともに検討の俎上にあがり、鑑別診断の対象となり得る場合)を含めるものとされる可能性が高いと認識しておくことが無難である。また、本判決は、添付文書と異なる対応をすることが医師の裁量として許容されるかについて、生じうるリスクの重大性を比較しており、生じ得るリスクの重大性の比較が考慮要素の一つとして斟酌されることが示されており参考になる。もっとも、添付文書の記載に従ったほうが重大な結果が生じるリスクが高い、という事態はそれほど多くはないと思われるうえ、そのような重大な事態が生じるリスクが高いことを立証することは容易ではないと考えられる。このため、前回(第7回:造影剤アナフィラキシーの責任は?)にコメントしたように、添付文書の記載と異なる使用による責任が回避できるとすれば、それは必要性とリスク等を患者にきちんと説明して同意を得ている場合がほとんどと考えられる(ただし、医師の行ったリスク説明が誤っている場合には、患者の同意があったとして免責されない可能性がある)。なお、本件薬剤の投与にあたり、患者に「患者安全性カード」(感染症に対する抵抗力が弱くなっている可能性があり、感染症が疑われる場合は緊急に診療し必要に応じて抗菌剤治療を行う必要がある旨が記載されたもの)が交付されており、診療にあたりすべての医師に示すように伝えられていたものの、このカードが示されなかったという事情がある。しかし、裁判所は、患者からは本件薬剤の投与を受けている旨の申告がされており、このカードの記載内容は添付文書にも記載されているとして、患者からカードの提示がなかったことが医師の判断を誤らせたという関係にはないとしている。医療者の視点本判決の焦点は、添付文書の記載の解釈でした。しかし、一臨床医としてより重要と考えた点は、「普段使用することが少ない薬剤であっても、しっかりと添付文書を確認し、副作用や留意点に目を通しておく必要がある」ということです。本件においても、関係した医療者がエクリズマブという比較的新しい薬剤の副作用を熟知していれば、あるいは処方した医師や薬剤師から情報共有がなされていれば、このような事態は回避できたかもしれません。エクリズマブの適応疾患は非常に限られており、使用経験のある医師は少ないと考えられます。たとえそのような稀にしか使用されることがない薬剤であっても、その副作用を熟知しておかなければならない、という教訓を示した案件と考えました。昨今は目まぐるしい速度で新薬が発表されています。常に知識・情報をアップデートしていないと、本件のようなトラブルを引き起こしかねません。多忙な勤務の中、各科の学会誌やガイドラインを熟読することは困難です。医療系のウェブサイトやSNSなどを有効的に活用し、効率よく情報を刷新していくことも重要と考えます。Take home message普段使用することが少ない薬剤であっても、その副作用や留意点を熟知しておく必要がある。添付文書に「疑われた場合」とある場合は、強くはないが相応に疑われる場合(相応の可能性がある場合。他の鑑別すべき複数の疾患とともに検討の俎上にあがり、鑑別診断の対象となり得る場合)を含めるものとされる可能性が高い。副作用と疑われる症状が発症した場合、副作用であることを念頭に添付文書の推奨に従って対応することが望ましく、もし添付文書と異なる対応をする場合、患者や家族に十分な説明を行う必要がある。キーワード添付文書(能書)の記載事項と過失との関係最高裁平成8年1月23日判決が、以下のように判断しており、これが裁判上の確立した判断枠組みとなっているため、添付文書の記載と異なる対応の正当化には医学的な裏付けの立証が必要であり、それができない場合には過失があるものとされる。「医薬品の添付文書(能書)の記載事項は、当該医薬品の危険性(副作用等)につき最も高度な情報を有している製造業者又は輸入販売業者が、投与を受ける患者の安全を確保するために、これを使用する医師等に対して必要な情報を提供する目的で記載するものであるから、医師が医薬品を使用するに当たって右文書に記載された使用上の注意事項に従わず、それによって医療事故が発生した場合には、これに従わなかったことにつき特段の合理的理由がない限り、当該医師の過失が推定されるものというべきである」

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肥満症治療薬、減量効果が特に高いのはどれ?

 GLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)受容体作動薬などの肥満症治療薬のうち、肥満や過体重の人の減量に最も効果的なのはどれなのだろうか? マギル大学(カナダ)医学部教授のMark Eisenberg氏らにより「Annals of Internal Medicine」に1月7日掲載された新たな研究によると、その答えは、デュアルG(GIP〔グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド〕/GLP-1)受容体作動薬のチルゼパチド(商品名ゼップバウンド)、GLP-1受容体作動薬のセマグルチド(商品名ウゴービ)、および開発中のトリプルG(GLP1/GIP/グルカゴン)受容体作動薬のretatrutide(レタトルチド)であるようだ。これに対し、GLP-1受容体作動薬のリラグルチド(商品名サクセンダ)の減量効果は、これら3種類ほど高くないことも示された。 GLP-1受容体作動薬は、食物を摂取したときに小腸から分泌されるホルモンのGLP-1の作用を模倣した薬剤で、もともと糖尿病の治療薬として開発された。GLP-1は、胃の内容物の排出を遅らせることで食後の血糖値の急上昇を抑えるとともに、中枢神経に作用して満腹感を高める効果を持つ。これにより、食物の摂取量が減り、それが体重減少につながる。デュアルGやトリプルG受容体作動薬は、GLP-1受容体に加え、GIP受容体やグルカゴン受容体などをターゲットにすることで、血糖値上昇を抑制したり満腹感を促進したりする効果を高めようとするもの。 今回Eisenberg氏らは、総計1万5,491人(女性72%、平均BMI 30〜41、平均年齢34〜57歳)を対象にした26件のランダム化比較試験(RCT)のデータを用いて、糖尿病のない肥満者に対する肥満症治療薬の有効性と安全性を検討した。これらのRCTでは、3種類の市販薬(リラグルチド、セマグルチド、チルゼパチド)およびretatrutideなど9種類の承認前薬剤の計12種類の効果が検討されており、治療期間は16週間から104週間(中央値43週間)に及んだ。 その結果、プラセボ投与と比較して、72週間のチルゼパチド(週1回15mg)投与により最大17.8%、68週間のセマグルチド(週1回2.4mg)投与により最大13.9%、48週間のretatrutide(週1回12mg)投与により最大22.1%の体重減少が確認された。また、これらの効果に比べると控え目ではあるものの、26週間のリラグルチド(1日1回3.0mg)投与によっても最大5.8%の体重減少が認められた。安全性の点では、吐き気、嘔吐、下痢、便秘などが一般的な副作用として報告されていたが、薬の服用を中止しなければならないほどひどい副作用はまれだった。 論文の上席著者であるEisenberg氏は、「われわれの調査で対象とした12種類の肥満症治療薬のうち、RCTにおいて最も大きな減量効果が報告されていたのは、retatrutide、チルゼパチド、セマグルチドであることが判明した」と結論付けている。 研究グループは、これらの肥満症治療薬の欠点の一つは、治療効果を維持するために継続的な服用が必要な点であると指摘し、「われわれが実施したシステマティックレビューでは、治療期間が長いRCTでは、追跡期間の短いRCTと同様の減量結果が示されている。この結果は、継続的な治療の必要性を裏付けている」と述べている。なお、retatrutideは、イーライリリー社により開発が進められている薬剤で、現在、臨床試験が進行中である。

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活動性クローン病に対する抗サイトカイン抗体ミリキズマブの有効性と安全性(解説:上村直実氏)

 中等症~重症の活動期クローン病(CD)の寛解導入療法および寛解維持療法における抗IL-23p19抗体ミリキズマブ(商品名:オンボー)の有用性と安全性を、プラセボと実薬対照である抗IL-12/IL-23p40抗体ウステキヌマブ(同:ステラーラ)と同時に比較検討した結果、ミリキズマブが寛解導入および維持療法においてプラセボと比べて有意な優越性を示し、さらに、ウステキヌマブと同等の有用性を示したことが2024年11月のLancet誌に掲載された。 わが国におけるクローン病に対する治療は、経腸栄養療法、5-アミノサリチル酸(5-ASA)製剤、ステロイド、アザチオプリンなど従来の薬物療法が行われてきたが、難治例に対してインフリキシマブやアダリムマブなどTNFα阻害薬が使用されるケースが増えている。しかし、以上のような治療を適切に行っても、寛解導入できない症例や寛解を維持できなくて再燃する症例がいまだ多くみられるのが現状であるため、さらに新たな薬剤が次々と開発されている。 新たな生物学的製剤としてミリキズマブと同じ抗サイトカイン抗体であるウステキヌマブ、リサンキズマブ(商品名:スキリージ)やJAK阻害薬のウパダシチニブ(同:リンヴォック)および抗インテグリン抗体であるベドリズマブ(同:エンタイビオ)がクローン病に対する保険適用を有している。なお、対象として日本人も参加している本試験の結果から、今後近いうちに、ミリキズマブもクローン病に対して保険適用となることが予想される。 今回の研究デザインで特徴的なのは、ミリキズマブの有効性を検証するために寛解導入試験の開始時にプラセボ群および実薬対照のウステキヌマブ群の3群に無作為割り付けして、治療開始12週時点での臨床的奏効率を比較した後、そのまま同じ薬剤の投薬を継続して52週時点での臨床的有効率および内視鏡的奏効率により比較検討した方法(treat-through study)という点である。従来、プラセボ対照試験として寛解導入できた症例を寛解維持療法の試験にエントリーして寛解維持率を比較検討する方法が多かったのであるが、今回のデザインはより臨床現場における治療方針の参考になるものと考えられる。 最後に、同じ抗サイトカイン抗体であるが、IL-23のp19サブユニットを標的とするミリキズマブとIL-12とIL-23を抑制するウステキヌマブの実薬同士の比較は非常に興味深いものと思われた。本研究結果からは両者間に有意な違いは認められなかったが、今後、IL-23p19のみを抑制するミリキズマブやリサンキズマブと、IL-12も同時に抑制するウステキヌマブとの長期的な有用性や安全性を比較する検証が期待された。

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最初の3歩のビデオ撮影で働き盛りの転倒リスクを機械学習で推定/京都医療センターほか

 70歳までの就業が企業の努力義務となり、生涯現役時代が到来した。その一方で、職場での転倒による労働災害は最も多い労働災害であり、厚生労働省は2015年から「STOP!転倒災害プロジェクト」を展開している。しかし、休業4日以上の死傷者数は、令和3(2021)年度で転倒が最も多く(3.4万人)、平成29(2017)年度と比べ18.9%も増加している(労働者死傷病報告)。保健・医療・福祉分野においてさまざまな転倒リスクアセスメントトツール(AIを含めた)が開発されているが、元となるデータは診療録や看護記録であるため精度に限界があることが指摘されていた。 そこで、坂根 直樹氏(京都医療センター 臨床研究センター 予防医学研究室長)らのVBGA研究グループ(山内 賢氏[慶應義塾大学体育研究所]、パナソニック株式会社)は、フィールド実験に参加した40~69歳の男女190例(平均年齢=54.5±7.7歳、男性48.9%)をトレーニングデータとして、歩き方を撮影し、最初の3歩の3次元動画から歩行特徴量を抽出した。そして、機械学習を用いて転倒リスクを評価するモデルを作成した。 ラボ実験に参加した男女28例(平均年齢=52.3±6.0歳、男性53.6%)をバリデーションデータとして、転倒リスクを予測することができるかを検証した。 研究結果はJournal of Occupational Health誌オンライン版2025年1月10日号に掲載された。 主な結果は以下のとおり。・最初の3歩につき77の歩行特徴が抽出された。・男性では、3つの歩行特徴で転倒リスクを予測することができ、その曲線下面積(AUC)は0.909(95%信頼区間[CI]:0.879~0.939、Excellent[優れている])と判定された。・女性では、5つの歩行特徴から転倒リスクを予測することができ、そのAUCは0.670(95% CI:0.621~0.719、sufficient[十分])と判定された。 これらの結果を受けて坂根氏は、「従来の転倒リスクを推定する研究は高齢者を対象とした研究が多かった。今回は働き盛りの転倒リスクを、最初の3歩のビデオ画像から判定しており、応用範囲は広く、労働災害防止に役立つ可能性がある」と述べている。

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高齢者救急、緩和ケア開始は入院率を改善するか/JAMA

 生命を脅かす重篤な疾患を呈し救急診療部(ED)を受診した高齢患者に対する、複数要素介入を取り入れた緩和ケア(Primary Palliative Care for Emergency Medicine:PRIM-ER)の開始は、入院率を改善せず、介入後の医療活用状況や短期死亡率にも影響を及ぼさないことが、米国・スローン・ケタリング記念がんセンターのCorita R. Grudzen氏らが実施した「PRIM-ER試験」で示された。研究の詳細は、JAMA誌オンライン版2025年1月15日号に掲載された。米国の救急診療部のクラスター無作為化試験 PRIM-ER試験は、EDにおける救急医、医療助手、看護師などによる緩和ケアの実践を強化するための複数要素介入の評価を目的とするstepped-wedgeデザインを用いたクラスター無作為化試験であり、2018年5月~2022年12月に米国の29のEDで患者を登録した(米国国立衛生研究所[NIH]などの助成を受けた)。 EDを初めて受診した66歳以上、Gagne comorbidityスコアが6点以上(短期的な死亡リスクが30%以上)のメディケア登録患者9万8,922例を対象とした(高齢者介護施設入居者は除外)。介入前の5万458例と介入後の4万8,464例を比較した。 PRIM-ERは主に次の4つで構成された。(1)エビデンスに基づく集学的な教育、(2)重篤な疾患のコミュニケーションに関するシミュレーションベースのワークショップ、(3)臨床意思決定支援、(4)EDの臨床スタッフに対する評価とフィードバック。 主要アウトカムは入院とした。副次アウトカムとして6ヵ月時の医療活用と生存を評価した。副次アウトカムにも差はない ED初診患者全体の年齢中央値は77歳(四分位範囲[IQR]:71~84)、女性が50%で、黒人が13%、白人が78%であり、Gagne comorbidityスコア中央値は8点(IQR:7~10)だった。 入院率は、介入前が64.4%、介入後は61.3%と差を認めなかった(絶対群間差:-3.1%、95%信頼区間[CI]:-3.7~-2.5、補正後オッズ比[OR]:1.03、95%CI:0.93~1.14)。 介入から6ヵ月時点の医療活用についても改善は得られず、ICU入室率は介入前が7.8%、介入後は6.7%(補正後OR:0.98、95%CI:0.83~1.15)、1回以上のED再診率はそれぞれ34.2%および32.2%(1.00、0.91~1.09)、ホスピス施設利用率は17.7%および17.2%(1.04、0.93~1.16)、在宅医療利用率は42.0%および38.1%(1.01、0.92~1.10)、1回以上の再入院率は41.0%および36.6%(1.01、0.92~1.10)であった。死亡率、死亡例の生存期間にも差はない 6ヵ月以内の死亡率は、介入前が28.1%、介入後は28.7%だった(補正後OR:1.07、95%CI:0.98~1.18)。また、死亡例のED初回受診から死亡までの平均期間は、介入前が17.3(SD 38.8)日、介入後は17.1(37.7)日であった(補正後ハザード比:1.00、95%CI:0.93~1.08)。 著者は、「試験期間中のCOVID-19の世界的な大流行はED治療の状況に大きく影響し、患者の社会人口学的構成や疾患の重症度、入院の可能性などに変化をもたらした。たとえば、多くの在宅医療提供者やホスピス施設がCOVID-19患者の受け入れを拒否したか、人手不足であったか、これら双方であったため、これらのサービスの活用が困難であったり、入院を回避できなかった可能性がある。また、介入後の期間の大部分がCOVID-19大流行の期間中であったため、その後の医療活用の変化がその結果として生じたのか、あるいは介入そのものによるのかを知るのは困難である」と指摘している。

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