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アルコール依存症やニコチン依存症と死亡リスク

 一般集団を対象とした、アルコール依存症とニコチン依存症の併発とその後の死亡リスクとの関連についての知見は、不十分である。ドイツ・グライフスヴァルト大学のUlrich John氏らは、死亡率の予測における、過剰な飲酒、喫煙、アルコール依存症、ニコチン依存症、起床してから最初に喫煙するまでの時間との潜在的な関連性を分析した。その結果から、過剰な飲酒、喫煙、アルコール依存症、ニコチン依存症、起床してから最初に喫煙するまでの時間は、死亡するまでの期間に累積的な影響を及ぼす可能性が示唆された。European Addiction Research誌オンライン版2023年10月26日号の報告。 対象サンプルは、18~64歳のドイツ北部在住の一般集団よりランダムに抽出した。1996~97年における過剰な飲酒、喫煙、アルコール依存症、ニコチン依存症、起床してから最初に喫煙するまでの時間を、Munich-Composite International Diagnostic Interviewを用いて評価した。すべての原因による死亡率に関するデータは、2017~18年に収集し、分析には、Cox比例ハザードモデルを用いた。 主な結果は以下のとおり。・過剰な飲酒、喫煙、アルコール依存症、ニコチン依存症、起床してから最初に喫煙するまでの時間は相互に関連しており、死亡までの期間の予測因子であることが示唆された。・アルコール依存症歴のある人の29.59%は、現在ニコチン依存症であった。・アルコール依存症歴があり、現在起床してから30分以内に最初の喫煙を行う人は、アルコール消費量の少ない非喫煙者と比較し、早期死亡のハザード比が5.28(95%信頼区間[CI]:3.33~8.38)であった。 結果を踏まえ、著者らは「死亡リスクを低減させるためには、依存症からの寛解支援に加え、非依存者に対しても高リスクの飲酒や喫煙をやめるように支援することが、有益である」としている。

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お金は人生の満足度を高める?

 お金で幸せは買えないかもしれないが、人生の満足度を高める一助にはなり得ることが、新たな研究で示された。米国立保健統計センター(NCHS)が2021年に実施した調査で、「自分の人生に不満がある」と回答した米国成人はわずか4.8%だったが、そのような回答をした人は、世帯所得が連邦貧困水準の200%未満〔4人家族の場合、年間約5万5,000ドル(1ドル151円換算で830万5,000円)未満に相当〕の世帯の人に多いことが明らかになったのだ。NCHSのAmanda Ng氏らによるこの研究の詳細は、「National Health Statistics Reports」に11月2日掲載された。 Ng氏らはこの研究で、NCHSの2021年の米国国民健康調査(National Health Interview Survey;NHIS)のデータを用いて、人生に不満を感じている人の割合を、年齢、性別、人種(アジア系/黒人/白人/ヒスパニック系)、出生地(米国/米国の領土)ごとに調べた。 その結果、全体で4.8%の調査参加者が、人生に不満を感じていた(「不満」3.7%、「大いに不満」1.1%)のに対し、95.2%は人生に満足している(「満足」46.6%、「大いに満足」48.6%)ことが明らかになった。人生に不満を感じていると回答した人の割合は、男性の方が女性よりも高く(5.1%対4.6%)、年齢層による違いも見られた(18〜44歳で4.4%、45〜64歳で5.5%、65歳以上で4.8%)。人種別では、人生に不満を感じていると回答した人の割合は黒人で最も高く(6.0%)、その後は、白人(4.9%)、ヒスパニック系(4.1%)、アジア系(3.1%)の順だった。出生地別では、米国出身の人の方が米国領土出身の人よりも不満を報告した人の割合が有意に高かった(5.0%対3.7%)。 調査参加者を世帯所得が連邦貧困水準の200%未満か200%以上かで分類すると、人生に不満を感じていると回答した人の割合は、200%未満の人で8.1%、200%以上の人で3.6%であった。また、世帯所得が連邦貧困水準の200%未満の人の中で人生に不満を感じている人の割合は、男性(9.3%)の方が女性(7.2%)よりも、45〜64歳(11.1%)の方が18〜44歳(6.8%)と65歳以上(7.2%)よりも、白人(9.7%)と黒人(9.0%)の方がアジア系(4.7%)とヒスパニック系(5.0%)よりも、米国出身の人(9.2%)の方が米国領土出身の人(4.7%)よりも有意に高かった。これに対して、世帯所得が連邦貧困水準の200%以上の人では、このような人口統計学的属性による有意な差は認められなかった。 米ジョージ・メイソン大学幸福度向上センターのJames Maddux氏は、「所得に関する今回の調査結果は、これまでの多くの研究報告と一致している」と話す。同氏は、世界規模での研究により、経済的に豊かではない国に住む人では、豊かな国に住む人よりも生活満足度が低い傾向にあることが示されていると指摘し、「生活満足度は、清潔な水が手に入り、居住環境が安定し、食の安全が保障され、医療へのアクセスが改善するなど、生活環境が整っていくにつれ上昇するものだ」と説明する。同氏はさらに、「同じことが個人にも当てはまる。家賃や医療費の支払い、食料の購入費に不安がある状況下で生活に満足を感じることなどできるはずもない。しかし、生活の基本をまかなうための十分な経済基盤があれば、人生の満足度は向上する」と話す。同氏によると、人生の満足度は通常、収入の増加とともに上昇するが、ある時点でそのペースは鈍化し、最終的には平坦化するという。 Maddux氏は、周囲への見せびらかしや競争心から豪邸や高級車などを購入しても心が満たされる可能性は低く、「顕示的消費は、実際には人々の幸福度を低下させる傾向がある」と話す。それに対して、教育や慈善事業、自己満足のための旅行など、自分にとって意味のあるものに投資すれば、人生の満足度を高めることができると話す。 さらに、本研究では比較的高所得の人でも3〜4%の人は人生に不満を感じていることが示された。この結果についてMaddux氏は、「人生の満足度は、家族や友人と強い絆を築くこと、目的意識を持つこと、他人と自分を比較しないこと、すでに持っているものに感謝することなど、収入以外の要素に左右されるものだ」と語っている。

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卒業試験に失敗、そしてこれから起きること(解説:岡村毅氏)

 アルツハイマー型認知症の病態の「本丸」、すなわちアミロイドをターゲットにした薬剤が世に出始め、新たな時代が始まりつつある。すでにエーザイと 米国・Biogen によるアデュカヌマブそしてレカネマブ、米国・Eli Lilly and Companyのdonanemabにおいて科学的効果が確認され、市場に出てくる。 レカネマブのスタディ名はClarity AD(明快AD)、そしてdonanemabのスタディ名はTRAILBLAZER(開拓者)であった。アルツハイマー型認知症を明らかにしたい、新世界を開拓したいという研究者の夢が詰まったスタディ名である。 一方で、今回のロシュ・ダイアグノスティックスのgantenerumabは残念ながら有意な結果を得られなかった。市場に出る前の卒業試験に落ちたわけである。奇しくもこのスタディ名はGRADUATEであった…。 とはいえ、2010年代は失敗の連続だったわけで、今後すべて成功するというわけではない。挑戦に失敗は付きものである。 さて、これから臨床現場では何が起きるのだろうか? アルツハイマー型認知症は、根本治療薬はない、あるのは症状の出方を和らげる薬だけだ、という時代が長く続いた。しかしこれからは、アミロイドに作用する薬がある時代だ。ドネペジル(アリセプト)の時のような、内科の先生がとにかく処方しまくったようなバブルが起きるのだろうか。とはいえ、月に1回点滴しないといけない、重大な副作用もあるので脳神経内科のある総合病院でなければ無理だ、といった情報も正しく報道されている。夢の薬ができた、という熱狂はないように思える。 私の周りでも、「多くの高齢者が外来に殺到する。大変だ」という意見もあれば、「いや人々は意外に冷静だ。そんなことはなかろう」という意見もある。 また、この薬の恩恵を受けられない人が受診し、診断はされるが処方の対象ではないという事態も起きるだろう。たとえば、すでに重度認知症の人や、アルツハイマー型認知症ではない他の認知症の人が、家族の誤解と共に受診してしまうような事態だ。何かに困って受診するわけであり、「あなたは薬の対象ではないので、もう来なくてもいいです」というわけにもいかないだろうから、認知症疾患医療センターのPSWやMSWが忙しくなってしまうかもしれない。

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第189回 エクソソーム療法で死亡事故?日本再生医療学会が規制を求める中、真偽不明の“噂”が拡散し再生医療業界混乱中

生成AIを活用して作った 「ブラック・ジャック」の新作が発表こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。先週(11月23日)発売の週刊少年チャンピオンに、「ブラック・ジャック」の新作が発表されました。手塚治虫の漫画、「ブラック・ジャック」については、1ヵ月前、本連載の「第185回 六本木で開催中の『ブラック・ジャック展』で考えた、“黒い医者”たちと医療・医師の普遍性」でも取り上げました。この時、OpenAIの「GPT-4」やStability AIの「Stable Diffusion」などの生成AIを活用して「ブラック・ジャック」の新作を制作する試みが進行中だと書いたのですが、その新作がいよいよ発表されたのです。ということで、週刊少年チャンピオンを買おうと近所の書店に出掛けたのですが、どこにもありません。近所のコンビニも数軒覗いたのですが、やはり在庫がありません。書店もコンビニも、少年誌で置いてあったのは少年ジャンプと少年マガジンばかり。発行部数・流通量が少ない雑誌はこうまで手に入りにくいものかと驚いた次第です。ちなみに漫画雑誌の新刊はアマゾンでは冊子版は流通しておらず、電子版(Kindle)でしか読めないようです。半ば諦めていたところ、たまたま出先のコンビニに飲み物を買いに入ったところ、1冊だけ週刊少年チャンピオンが残っており、なんとか現物を入手することができました。「ブラック・ジャック」掲載を見越して発行部数や流通量にもAIを活用してほしかった…、と思いました。手塚 治虫氏の長男、手塚 眞氏が中心となった「TEZUKA2023プロジェクト」による「ブラック・ジャック」の新作、「機械の心臓-Heartbeat Mark II」(33ページの読み切り)ですが、大学のAI研究者や有名映画監督も入った大プロジェクトの割に、作品はこの程度かと少々肩透かしをくらった、というのが正直な感想です。AIといえども、やはり“神様”には勝てないのだな、と思った次第です。エクソソーム療法、「将来的には何らかの規制下に置かれることが望ましい」と日本再生医療学会が提言さて、今回は、一部で話題となっている「エクソソーム療法」について書いてみたいと思います。11月10日の厚生労働省の再生医療等評価部会で、日本再生医療学会はエクソソーム療法が美容クリニックなどの自由診療で広がっている現状を踏まえ、「将来的には何らかの規制下に置かれることが望ましい」と提言しました。「エクソソーム療法で死亡例が出ている」といった情報も一部に流れているようです。この情報はデマの可能性もあり、業界は混乱に陥っています。美容やアンチエイジングを目的に他家細胞由来の細胞培養上清液やエクソソームを自由診療で投与エクソソームは、直径100nm程度の細胞外小胞(EVs:Extracellular Vesicles)と呼ばれるものの1種です。EVsは細胞が分泌する物質で、組織の再生を促す成長因子や細胞間の情報伝達物質を含んだエクソソームなどからなっており、医療分野での活用が期待されています。国内でも、美容やアンチエイジングを目的に、他家細胞由来の細胞培養上清液や、上清液から抽出したとされるエクソソームを自由診療で投与する医療機関が増えています。これらを通称「エクソソーム療法」と呼んでいます。もっとも、有効性や安全性が確認され、治療法として承認されているものはまだありません。インターネットで「エクソソーム療法」を検索すると、数多くの自由診療クリニックがヒットします。それらのクリニックでは、エクソソームを含んだ幹細胞由来の細胞培養上清液やエクソソームについて、皮膚の再生、創傷治癒の促進、老化防止、疲労回復、ED(勃起不全)改善などに効果ありと、まるで万能の不老薬のように宣伝しています。再生医療等安全性確保法の対象外のため提供計画の提出、副作用などの報告の義務なし11月10日の厚生労働省の再生医療評価部会で、日本再生医療学会の岡野 栄之理事長(慶應義塾大学医学部 生理学教室 教授)は、「再生医療という名目で、多くのクリニック等で自由診療として行われている現状や、感染症のリスク等を鑑み、製造過程等を含めて、将来的には何らかの規制下に置かれることが望ましい」と主張しました。同学会は、2023年10月27日、「再生医療等のリスク分類・法の適用除外範囲の見直しに関する提言」を行い、エクソソームを含むEVsを再生医療新法の対象とするよう提言していますが、それを改めて再生医療評価部会の場ででも訴えたわけです。背景には、老化防止をうたう美容クリニックなどにおいて自由診療によるエクソソーム療法が急拡大していることがあります。現状、日本では細胞培養上清液やエクソソームは細胞断片であり、細胞には当たらないと整理されており、再生医療等の安全性の確保等に関する法律(再生医療等安全性確保法)の対象外となっています。同法が施行されたのは2014年、主に自由診療でがん免疫療法(自家の免疫細胞を培養し投与)を行っていた医療機関における安全性確保のためでした。この時はEVsによる治療自体がまだ認知されておらず、規制対象にはなりませんでした。そのため、現在、細胞培養上清液やエクソソームを医療機関で投与する際、同法で定められた認定再生医療等委員会の審査や再生医療等提供計画の提出、副作用の報告といった煩雑な手続きは課せられません。これがエクソソーム療法の急拡大につながっているわけです。「交差汚染管理が不十分な場合などに敗血症等重篤な事故を引き起こす可能性がある」しかし、EVsは、「主に細胞から調製されるという点において細胞加工物と類似のリスクを有しており、交差汚染管理が不十分な場合などに敗血症等重篤な事故を引き起こす可能性がある」(再生医療等評価部会・岡野氏資料より)ことから、日本再生医療学会は「科学的根拠に基づき、グローバルスタンダードに則ったEVs治療の開発を進めるために、産学官の協力が必要である。EVsの定義、効能、品質管理に基づいた安心、安全なEVsの治療応用のガイドライン作成は急務であり、その為に、何らかの班研究あるいはワーキング・グループ等を構築し、問題点の精査が必要」と提言したわけです。再生医療抗加齢学会が「幹細胞培養上清液を使用した治療に関し、患者が死亡するという事象が発生したという情報に接しております」と公表ところで、日本再生医療学会がエクソソーム療法の規制の必要性を求める2週間ほど前、「エクソソーム投与後に死亡」との情報が一部に流れ、関係者が色めき立ちました。情報の出どころは再生医療抗加齢学会。10月11日、同学会の森下 竜一理事長(大阪大学大学院 医学系研究科臨床遺伝子治療学寄付講座 教授)が、同学会のウェブサイトで「幹細胞培養上清液に関する死亡事例の発生について」というタイトルで声明を出したのです。声明は、「当学会では、幹細胞培養上清液を使用した治療に関し、患者が死亡するという事象が発生したという情報に接しております」として、「幹細胞培養上清液及びエクソソームの静脈投与につきましては、医療水準として未確立の療法であり、その有効性・安全性について、エビデンスに基づく十分な検討をお願いいたします」と注意喚起をしました。前述したように、エクソソーム療法は再生医療等安全性確保法の対象外のため、仮に死亡事例が発生しても医療機関は同法に則って報告する義務はありません。ということは、そうした事例を国が把握することもできません。ということで、関連学会が注意喚起することはそれなりに意味のあることです。11月9日付のリスファクスも再生医療抗加齢学会の死亡事案の声明を受け、「エクソソーム創薬、死亡事案で規制急務」というニュースを掲載しています。ただ、その記事では、「学会は本紙に『事案』は会員外の施設と回答し、詳細や施設名は開示していない」としています。「死亡例」は本当にあったのか?噂になった医療機関、学会、厚労省も否定学会が「死亡するという事象が発生したという情報に接しております」と公表したにもかかわらず、どこの施設での事象かわからないという状況は、再生医療やエクソソーム療法に携わる関係者に少なからぬ混乱を巻き起こしているようです。「死亡はデマではないか?」という声も聞こえてきます。11月15日付の日経バイオテクは「『エクソソームの投与後に死亡』の噂を追う」と記事を掲載しています。同記事は、「同学会(再生医療抗加齢学会)によれば、学会の会員や会員企業は死亡事例に関係しておらず、外部から寄せられた情報だと言います。噂で名前が挙がっている自由診療の医療機関や、自由診療でエクソソームの投与を手掛ける医師などにも当たってみましたが、『そうした事例は無い』『全く知らない』と否定されました。(中略)。さらに、日本再生医療学会も、本誌に対して『死亡事故があったとは考えていない』とコメント。厚生労働省の関係者も『正直、分からないというのが本音だ。情報の出所が把握できていない』と話していました」と書き、取材時点で死亡事例の情報は確認できなかったとしています。学会同士の対立説、関連企業に対する牽制説も仮に「死亡」がガセ情報だとしたら、一体背後で何が起こっているのでしょうか。真偽のほどはわかりませんが、日本再生医療学会の関係者と再生医療抗加齢学会の関係者の対立説や、幹細胞培養上清液やエクソソームを製造する企業(学会幹部が株を保有している企業もあると聞きます)への牽制説も流れているようです。エクソソーム療法の規制や注意喚起が必要だ、という点は理解できます。しかし、仮にも学会という組織が情報の裏も取らないで「死亡するという事象が発生したという情報に接しております」と公表することは、無責任過ぎるのではないでしょうか。無用な混乱は、再生医療に携わる医療機関や企業の信頼性にも影響します。再生医療抗加齢学会は早急に「死亡情報」の“エビデンス”を開示するべきです。もし虚偽情報だったなら、早急に訂正を出すべきではないでしょうか。

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原発性胆汁性胆管炎の2次治療、elafibranorが有効か/NEJM

 標準治療で十分な効果が得られなかった原発性胆汁性胆管炎の治療において、経口投与のペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPAR)α、δの二重作動薬であるelafibranorはプラセボと比較して、生化学的治療反応が有意に優れ、ALP値の正常化の割合も高いことが、米国・Liver Institute NorthwestのKris V. Kowdley氏らが実施したELATIVE試験で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2023年11月13日号に掲載された。14ヵ国の無作為化プラセボ対照第III相試験 ELATIVE試験は、14ヵ国82施設が参加した二重盲検無作為化プラセボ対照第III相試験であり、2020年9月~2022年6月の期間に患者を登録した(フランスのGENFITおよびIpsenの助成を受けた)。 年齢18~75歳、原発性胆汁性胆管炎と診断され、標準治療のウルソデオキシコール酸の効果が不十分または許容できない副作用を認めた患者を、elafibranor(80mg、1日1回)またはプラセボを経口投与する群に、2対1の割合で無作為に割り付けた。 主要エンドポイントは、52週の時点での生化学的治療反応(ALP値が正常範囲上限の1.67倍未満で、ベースラインから15%以上減少し、総ビリルビン値が正常であることと定義)とした。 161例を登録し、elafibranor群に108例、プラセボ群に53例を割り付けた。ベースライン時に66例(elafibranor群44例、プラセボ22群)に中等度~重度のそう痒を認めた。平均(±SD)年齢は57.1±8.7歳で、96%が女性であり、平均ALP値は321.9±150.9U/Lであった。有害事象は消化器症状の頻度が高い 52週時に生化学的治療反応を達成した患者は、プラセボ群が53例中2例(4%)であったのに対し、elafibranor群は108例中55例(51%)と有意に優れた(群間差:47%ポイント、95%信頼区間[CI]:32~57、p<0.001)。 52週時にALP値が正常化した患者は、プラセボ群では1例もなかったのと比較して、elafibranor群では15%と有意に良好であった(群間差:15%ポイント、95%CI:6~23、p=0.002)。 また、ALP値のベースラインから52週目までの最小二乗平均変化量は、elafibranor群が-117.0U/L(95%CI:-134.4~-99.6)、プラセボ群は-5.3U/L(-30.4~19.7)だった(群間差:-111.7U/L、95%CI:-142.0~-81.3)。 中等度~重度のそう痒を有していた患者における最悪のかゆみの数値評価尺度(WI-NRS、0[かゆみなし]~10[考えうる最悪のかゆみ]点)スコアの52週目までの最小二乗平均変化量は、elafibranor群が-1.93点、プラセボ群は-1.15点であり、両群間に有意な差はみられなかった(群間差:-0.78点、95%CI:-1.99~0.42、p=0.20)。 また、ベースラインで中等度~重度のそう痒を認めた患者におけるPBC-40 QOL質問票のかゆみドメインの52週目までの最小二乗平均変化量(群間差:-2.3、95%CI:-4.0~-0.7)、および5-Dかゆみ尺度の52週目までの変化量(群間差:-3.0、95%CI:-5.5~-0.5)は、いずれもプラセボ群に比べelafibranor群で良好だった。 試験期間中に発現した有害事象(elafibranor群96%、プラセボ群91%)、試験薬関連の有害事象(39%、40%)、重度の有害事象(11%、11%)、重篤な有害事象(10%、13%)、試験薬の投与中止の原因となった有害事象(10%、9%)の割合は、両群で同程度であった。また、10%以上で発現した有害事象やelafibranor群で頻度の高かった有害事象は、主に消化器症状(腹痛[11%、6%]、下痢[11%、9%]、悪心[11%、6%]、嘔吐[11%、2%])であった。elafibranor群で致死的な有害事象を2例(1.9%)に認めた。 著者は、「生化学的反応の改善効果は、他のPPAR標的治療薬の報告と一致している。また、ALP値の正常化は無移植生存率の改善と関連することが示されており、同値の正常化の割合はelafibranor群で有意に良好であった」とし、「本試験の結果により、elafibranorは原発性胆汁性胆管炎患者に対し有効で、新たな2次治療薬となる可能性が示された」と指摘している。現在、非盲検下に延長・確認第III相試験が進行中で、本薬の長期的な安全性および臨床アウトカムへの影響に関する追加データの評価を行っているという。

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リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップ‐E(要因)およびC(比較対照)設定の要点と実際 その1【「実践的」臨床研究入門】第38回

E(要因)およびC(比較対照)を測定可能で具体的かつ明確なものにする今回からは、Research Question(RQ)のE(要因)およびC(比較対照)を設定する際の要点と実際について解説します。これまでブラッシュアップしてきたわれわれのRQのEおよびCは、現時点では以下のとおりです(連載第34回参照)。E(曝露要因):食事療法(低たんぱく食 0.5g/kg標準体重/日)の遵守C(比較対照):食事療法(低たんぱく食 0.5g/kg標準体重/日)の非遵守量的な臨床研究では、この低たんぱく食事療法の遵守という「概念」を測定可能な「変数」に落とし込むことが必要です。「変数」にすることで「概念」を定量化し客観性を持たせることにより、比較が可能になるとともに再現性も担保されるようになります。具体的には、「変数」として測定するための「ものさし」とその基準(しきい値)を、それぞれ決めることが求められます。まずは「ものさし」です。低たんぱく食事療法の定量的評価のゴールドスタンダードとしては「食事記録法」が挙げられます。これは、患者が摂取した食事内容を詳細に記録し、その栄養成分を分析する手法です。しかし、「食事記録法」は非常に煩雑で熟練した栄養士も必要であるため、すべての患者で日常的に実施するのは現実的ではありません。そこで、一般に広く用いられているのが、24時間蓄尿中の尿素窒素排泄量から算出される「推定たんぱく質摂取量」です。先行関連研究1)でも、下記の記述のように、このMaroniの式2)と呼ばれる計算式が使用されています。”Dietary protein intake was estimated on the basis of three consecutive 24-hour urine samples completed before each visit, using the urinary excretion of urea nitrogen as follows:"「タンパク質摂取量は、尿素窒素の尿中排泄量を用いて、外来受診ごとに行った連続3回の24時間蓄尿検体を用いて、以下のように推定した(筆者による意訳)」次に、基準(しきい値)ですが、これまで、「厳格な」低たんぱく食事療法の遵守の程度のしきい値を仮に 0.5g/kg標準体重/日としています。このしきい値は、この架空の臨床シナリオの舞台となっている施設の診療方針に由来するものでした(連載第5回参照)。「慢性腎臓病に対する食事療法基準2014年版(日本腎臓学会編)3)」では、慢性腎臓病(CKD)ステージ別のたんぱく質摂取量の基準を下記のとおりに示しています。CKDG3a:0.8~1.0 g/kg標準体重/日CKDG3b以降:0.6~0.8 g/kg標準体重/日また、重要な関連研究である近年アップデートされたコクラン・システマティック・レビュー論文4)もみてみましょう。この論文では、低たんぱく食(0.5~0.6g/kg/標準体重/日)に加えて超低たんぱく食(0.3~0.4g/kg/標準体重/日)のしきい値も追記されていました(連載第13回参照)。これまでのところ、「厳格な」低たんぱく食事療法の遵守の程度のしきい値は明確になってないようです。このように、既知のしきい値が定まっていない場合は、実際の解析データ・セットの「変数」の分布に基づいて、しきい値を設定することがよく行われます。今回のわれわれの解析データ・セットでは、「推定たんぱく質摂取量」が600例余りから取得できました。「推定たんぱく質摂取量」は連続変数(量を表す変数)ですので、その代表値である「中央値」を求めてみると、0.5g/kg標準体重/日と偶然? 架空の診療方針に合致していました(連載第5回参照)。 「中央値」は、データを大きさの順に並べたときに中央にある値です。連続変数の代表値としては、データ値の総和をデータ数で割った「平均値」も多く使われています。しかし、臨床研究で扱う多くのデータは外れ値が存在する歪んだ分布をとることが多く、連続変数の代表値としては「平均値」よりも「中央値」を用いることが推奨されています。そこで、われわれのRQのEとCを以下のように改訂することにします。E:推定たんぱく質摂取量 0.5g/kg標準体重/日未満C:推定たんぱく質摂取量 0.5g/kg標準体重/日以上*外来受診ごとに行った連続3回の24時間蓄尿検体を用いてMaroniの式より算出1)Hansen HP, et al. Kidney Int. 2002;62:220-228.2)Maroni BJ, et al. Kideny Int. 1985;27:58-65.3)日本腎臓学会編.慢性腎臓病に対する食事療法基準2014年版. 東京医学社;2014.4)Hahn D, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2020:CD001892.

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第191回 リドカインが苦味にまつわる仕組みでがん細胞を死なす

リドカインが苦味にまつわる仕組みでがん細胞を死なす良薬口に苦しとはよく言ったもので、苦い薬リドカインに備わると思しき別の効能がその苦味にまつわる仕組みに端を発するらしいことが米国・ペンシルバニア大学のチームの研究で示されました1)。その別の効果とは抗がん作用です。20年ほども前の観察試験で局所麻酔が乳がん手術患者の再発や転移を減らしうることが示唆されています2)。リドカインは言わずもがな局所麻酔薬の1つであり、外来での外科処置でよく使われます。乳がん以外のがんへのリドカインの検討もいくつかあり、化学療法を助けたり転移を抑制したりするなどの効果を有するらしいことが示唆されています。リドカインは電位依存性ナトリウム(Nav)チャネルを阻害して感覚神経からの痛み信号を遮断します。リドカインが担いうる抗がん作用がそのNavチャネル阻害によるのかその他の仕組みによるのかはよくわかっていませんでした。リドカインは苦いだけに、25種類ある苦味受容体T2Rの1つT2R14を活性化します。T2R14を含むいくつかのT2R受容体の活性化は核内やミトコンドリアのCaイオン上昇を介して気道上皮細胞や頭頸部扁平上皮がん(HNSCC)細胞を死なすことがわかっています。そこでペンシルバニア大学のチームはリドカインがT2R14への作用を介してHNSCC細胞、もっというとそれ以外のがん細胞を死なすのではないかと考えました。その予想はどうやら正しく、リドカインはHNSCC細胞のT2R14活性化によってCaイオンを動かしてHNSCC細胞を弱らせ、やがては死に至らしめました。ヒトパピローマウイルス(HPV)と関連するHNSCCではT2R14遺伝子の発現が盛んなことも示され、リドカインによるT2R14活性化が最も有益かもしれません。そこで研究チームはHPV関連HNSCCの標準治療に加えてリドカインも投与する試験を計画しています3)。試験はペンシルバニア大学医学部のがん治療部門Abramson Cancer Centerが担当します。ペンシルバニア大学のチームはHNSCCを題材に研究を進めていますが、乳がんへのリドカインの効果の検討はより年季が入っています。欧州臨床腫瘍学会(ESMO)での昨年の発表に続いて今年4月に論文になった大規模無作為化試験の結果、乳がんの手術に際してリドカインを手術前に腫瘍に直接注射したところ非注射の対照群に比べて生存が改善しました4)。試験はリドカインがNavチャンネル阻害を介して転移促進経路を食い止めるとの想定で実施されました。実際のところ生存の改善に加えて転移の減少も認められており、仕組みがどうあれ乳がん細胞の転移手段に手出しすることでリドカインは転移を減らし、手術後の経過を改善する働きがあるらしいと試験の担当者は述べています5)。乳がんもHNSCCと同様にT2R14を発現します。よって同試験で認められたリドカイン注射の生存改善にはT2R14への作用も寄与しているかもしれません1)。参考1)Miller ZA, et al. Cell Rep. 2023 Nov 16. [Epub ahead of print]2)Exadaktylos AK, et al. Anesthesiology. 2006;105:660-664. 3)Lidocaine may be able to kill certain cancer cells by activating bitter taste receptors / Eurekalert4)Badwe RA, et al. J Clin Oncol. 2023 Apr 6. [Epub ahead of print]5)Lidocaine Presurgery May Improve Survival in Early Breast Cancer / Medscape

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女性統合失調症に対する治療~エビデンスに基づく推奨事項

 性差は、抗精神病薬の有効性や忍容性に大きな影響を及ぼすことが示唆されているにもかかわらず、現在の統合失調症スペクトラム障害(SDD)の治療ガイドラインでは、男女間の区別は行われていない。オランダ・フローニンゲン大学のBodyl A. Brand氏らは、女性に対する薬物療法の改善に寄与する可能性のある戦略について、入手可能なエビデンスを要約し、女性統合失調症患者の治療を最適化するためのエビデンスに基づいた推奨事項を報告した。Current Psychiatry Reports誌オンライン版2023年10月21日号の報告。 次の3つのトピックスに関する査読済みの研究をPubMed、Embaseよりシステマティックに検索した。トピックスは、(1)用量調節した抗精神病薬の血中濃度に関する性差、(2)症状の重症度を改善するためのエストロゲンおよびエストロゲン様化合物によるホルモン増強療法、(3)抗精神病薬誘発性高プロラクチン血症を軽減するための戦略とした。 主な結果は以下のとおり。・データベース研究3件、ランダム化比較試験(RCT)1件に基づくと、ほとんどの抗精神病薬は、男性と比較し、女性において用量調節濃度が高かった。・クエチアピンは、とくに高齢女性で高濃度であった。・最近の2つのメタ解析に基づくと、エストロゲンおよびラロキシフェンにおいて全体的な症状改善が認められた。・閉経後女性におけるラロキシフェン増強療法に関する最も一貫した所見が確認された。・症状に対するエストロゲン性避妊薬の効果を評価した研究は見当たらなかった。・メタ解析2件、RCT1件に基づくと、抗精神病薬誘発性高プロラクチン血症を軽減するための研究として、アリピプラゾール補助療法が最も研究されており、最も安全な戦略であることが示唆された。 女性SSDに対する薬物療法について、エビデンスに基づく推奨事項は次のとおりであった。 (1)治療薬のモニタリングに基づく女性特有の抗精神病薬の投与量 (2)閉経後の女性におけるラロキシフェンによるホルモン増強療法 (3)抗精神病薬誘発性高プロラクチン血症に際するアリピプラゾール補助療法 著者らは「これらの戦略を組み合わせることで、女性SSD患者の副作用を軽減し、アウトカムを改善できる可能性がある」とし、「これらの効果を今後の縦断的RCTで明らかにしていく必要がある」とまとめている。

2109.

無症候性心房細動の脳卒中予防、アピキサバンvs.アスピリン/NEJM

 無症候性の心房細動患者への経口抗凝固療法について、アピキサバンはアスピリンと比較し、脳卒中または全身性塞栓症を減少するが大出血が増加したことを、カナダ・マクマスター大学のJeff S. Healey氏らが、欧米16ヵ国247施設で実施された無作為化二重盲検比較試験「Apixaban for the Reduction of Thrombo-Embolism in Patients with Device-Detected Subclinical Atrial Fibrillation trial:ARTESIA試験」の結果で報告した。無症候性心房細動は、持続時間が短く無症状であり、通常はペースメーカーまたは除細動器による長期的な連続モニタリングによってのみ検出可能である。また、脳卒中のリスクを2.5倍増加するが、経口抗凝固療法による治療効果は不明であった。NEJM誌オンライン版2023年11月12日号掲載の報告。主要有効性アウトカムは脳卒中または全身性塞栓症 研究グループは、ペースメーカー、植込み型除細動器または心臓モニターによって検出された6分~24時間持続する心房細動を有し、CHA2 DS2-VAScスコア(範囲:0~9、スコアが高いほど脳卒中リスクが高いことを示す)が「3以上かつ55歳以上」、または「75歳以上」、あるいは「他のリスク因子のない脳卒中既往」の患者を、アピキサバン群(5mgを1日2回[または製品ラベル表示に準じて2.5mgを1日2回]投与)またはアスピリン群(81mgを1日1回投与)に無作為に割り付け追跡評価した。無症候性心房細動が24時間以上持続、または臨床的な心房細動を認めた場合は、試験薬の投与を中止し抗凝固療法が開始された。 有効性の主要アウトカムは、脳卒中または全身性塞栓症とし、ITT集団(無作為化されたすべての患者)で解析した。安全性の主要アウトカムは、国際血栓止血学会(ISTH)の定義に基づく大出血とし、on-treatment集団(無作為化され試験薬を少なくとも1回投与されたすべての患者、理由を問わず試験薬の投与を中止した場合は5日後に追跡調査を打ち切り)で解析した。脳卒中または全身性塞栓症リスク、アピキサバン群で37%低下 2015年5月7日~2021年7月30日に、計4,012例がアピキサバン群(2,015例)またはアスピリン群(1,997例)に割り付けられた。平均年齢(±SD)は76.8±7.6歳、CHA2 DS2-VAScスコアは3.9±1.1、女性は36.1%であった。 平均追跡期間3.5±1.8年において、脳卒中または全身性塞栓症の発生は、アピキサバン群55例(0.78%/人年)、アスピリン群86例(1.24%/人年)であった(ハザード比[HR]:0.63、95%信頼区間[CI]:0.45~0.88、p=0.007)。 on-treatment集団における大出血の発現頻度は、アピキサバン群1.71%/人年、アスピリン群0.94%/人年であった(HR:1.80、95%CI:1.26~2.57、p=0.001)。致死的出血は、アピキサバン群5例、アスピリン群8例であった。

2110.

「CGP検査で肺がんの治療法が見つからない」は誤解?/日本肺癌学会

 肺がん遺伝子検査は、「コンパニオン診断→標準治療→CGP検査(遺伝子パネル検査)」という流れで行われる。CGP検査は、標準治療が終了あるいは終了見込みとなった段階で保険診療での使用が可能とされている。しかし、CGP検査が受けられる病院が限られていたり、保険適用となるのは生涯で1回のみということもあったりすることから、肺がん患者においては十分に普及しているとは言い難い。そこで、近畿大学病院における肺がん患者のCGP検査の実態が調査された。その結果、非小細胞肺がん(NSCLC)患者では、想定以上にCGP検査後に遺伝子検査結果に基づく次治療へ到達していたことが明らかになった。高濱 隆幸氏(近畿大学医学部腫瘍内科/近畿大学病院ゲノム医療センター)が、本研究の詳細を第64回日本肺癌学会学術集会で報告した。CGP検査でNSCLC患者の約2割が次治療に到達 高濱氏らの研究グループは、2019~22年に近畿大学病院において保険診療でCGP検査を受けた肺がん患者100例(NSCLC 76例[腺がん58例、扁平上皮がん10例、大細胞神経内分泌がん3例、その他5例]、小細胞肺がん[SCLC]24例)を対象として、CGP検査の実態を調査した。CGP検査の検体は92%の患者が組織検体を利用しており、そのうち70%は生検検体であった。 調査の結果、NSCLC患者の17%(13/76例)はCGP検査後にエキスパートパネル推奨に基づく次治療へ到達していた。13例の治療薬の内訳は、承認薬5例、治験薬7例、患者申出療養1例であった。SCLC患者では、次治療へ到達した患者はいなかった。 また、CGP検査でドライバー遺伝子変異が認められた患者のうち、10%以上の患者は次治療に到達できなかった。主な理由は、PS不良、治験の適格基準不適合、患者の意思(治験施設が遠方で不可など)であった。 がんゲノム情報管理センター(C-CAT)の調査では、CGP検査後に次治療へ到達した患者の割合は9.4%(エキスパートパネル推奨に基づく治療薬の提示は44.5%)と報告されている1)。これらのことから、高濱氏は今回の結果について、単施設での調査という限界は存在するものの、NSCLC患者において想定よりも高い割合でCGP検査が次治療に結びついたのではないかとまとめた。CGP検査をどのように活用すべきか? 肺がんCGP検査は組織型を限定するべきであろうか? これについて、今回の調査で扁平上皮がんや大細胞神経内分泌がんでも次治療に到達した患者がいたこと、生検検体と手術検体では組織型が一致しない場合があること2)、西日本がん研究機構(WJOG)の調査(REVEAL試験)では非腺がんの8.5%にドライバー遺伝子変異を認めたことを例に挙げ、NSCLCについては腺がんだけでなく、非腺がんでもCGP検査の実施を検討する余地があると述べた。 また、マルチコンパニオン診断でドライバー遺伝子変異が認められた患者にCGP検査を行う意義はあるのか、考察されていた。分子標的薬に対する耐性変異の発見に有用な場合があること、コンパニオン診断では報告対象外のバリアントがCGP検査で発見されて次治療につながる可能性があることを高濱氏は指摘した。 とくに、EGFR遺伝子については、マルチ遺伝子検査で検出ができないがCGP検査で検出できるバリアントが多く存在する。欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2023)でも、uncommon変異に対するアファチニブの有用性が報告されており(ACHILLES/TORG1834試験)3)、uncommon変異の検出も今後は重要となっていくものと思われる。CGP検査をいつ、誰に実施すべきか? 最後に、高濱氏はCGP検査をすべき患者と実施タイミングについて以下のとおりまとめた。<対象>・とくに腺がん、ドライバー遺伝子変異がみつかっていない患者・長期生存の患者(過去のバイオマーカー検査が不十分な可能性がある患者)・初回生検検体が不足していた患者、IHCでの検体が不十分な患者、腫瘍マーカーで腺がんの要素が考えられる患者は、非腺がんでも考慮<タイミング>・NGS検査が可能なクオリティー・量の生検検体を最初に採取し、CGP検査が出せるようにしておく・CGP検査には時間がかかるため、1次治療開始時から相談を開始し、標準治療終了「見込み」の時点で検査をオーダーする・がんゲノム医療が提供できる病院以外で治療を受けている患者は、CGP検査が受けられる病院への紹介が必要となるため、早くから主治医の先生と相談していくことが重要。

2111.

コロナ入院患者へのビタミンC投与、有効性認められず/JAMA

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)入院患者へのビタミンC投与は、心肺支持療法離脱日数や生存退院を改善する可能性は低い。カナダ・Sunnybrook Health Sciences CentreのNeill K. J. Adhikari氏らの研究グループ「The LOVIT-COVID Investigators」が、2件の前向き調和型無作為化比較試験の結果を報告した。JAMA誌2023年11月14日号掲載の報告。ビタミンCを6時間ごとに静脈投与 ビタミンCがCOVD-19患者のアウトカムを改善するかどうかを評価した2件の試験は、2020年7月23日~2022年7月15日に、世界4大陸で、集中治療室(ICU)で心肺支持療法を受けている重症患者(90ヵ所で登録)と非重症患者(40ヵ所で登録)を対象に行われた。被験者は無作為に2群に割り付けられ、一方にはビタミンCを、もう一方にはプラセボを6時間ごとに96時間(最大16回)静脈投与した。 主要アウトカムは、心肺支持療法離脱日数(ICUで最長21日間心肺支持療法離脱で生存と定義)と生存退院の複合とした。同アウトカムの範囲は、院内死亡(-1)~心肺支持療法離脱で生存(22)で評価した。 主要解析は、ベイジアン累積ロジスティックモデルを用いて行った。オッズ比(OR)1超の場合は有効性(生存の改善、心肺支持療法離脱日数の増加、またはその両方)を、1未満の場合は有害性を、1.2未満では無益性を示すものとした。有害性・無益性の統計学的基準を満たし、試験中止に 本試験は、有害性と無益性が統計学的基準を満たした時点で、登録が打ち切られた。 主要アウトカムが得られたのは、重症患者1,568例(ビタミンC群1,037例、対照群531例、年齢中央値60歳[四分位範囲[IQR]:50~70]、女性35.9%)、非重症患者1,022例(456例、566例、62歳[51~72]、39.6%)だった。 重症患者において、心肺支持療法離脱日数中央値はビタミンC群7日(IQR:-1~17)、対照群10日(-1~17)で(補正後比例OR:0.88、95%信用区間[CrI]:0.73~1.06)、事後確率は8.6%(有効性)、91.4%(有害性)、99.9%(無益性)だった。 非重症患者においても、心肺支持療法離脱日数中央値はビタミンC群22日(IQR:18~22)、対照群は22日(21~22)で(補正後比例OR:0.80、95%CrI:0.60~1.01)、事後確率は2.9%(有効性)、97.1%(有害性)、99.9%超(無益性)だった。 重症患者の生存退院率についても、ビタミンC群61.9%、対照群64.6%で(補正後OR:0.92[95%CrI:0.73~1.17])、有効性の事後確率は24.0%だった。非重症患者の生存退院率も、それぞれ85.1%、86.6%で(0.86[0.61~1.17])、有効性の事後確率は17.8%だった。

2112.

生体吸収型ステントの再挑戦やいかに(解説:野間重孝氏)

 日本循環器学会と日本血管外科学会の合同ガイドライン『末梢動脈疾患ガイドライン』が、昨年(2022年)改訂された。この記事はCareNet .comでも紹介されたので、ご覧になった方も多いのではないかと思う。 冠動脈疾患以外のすべての体中の血管の疾患を末梢動脈疾患(PAD)と呼び、さらに下肢閉塞性動脈疾患をLEAD、上肢閉塞性動脈疾患をUEADに分ける。脳血管疾患はこの分類からいけばUEADということになるが、こちらは通常別途議論される。そうするとPADの中で最も多く、かつ重要な疾患がLEADということになる。その危険因子としては4大危険因子である高血圧、脂質異常症、糖尿病、喫煙が挙げられるが、腎透析が独立した危険因子であることは付け加えておく必要があるだろう。 そのLEADの中でとくに下肢虚血、組織欠損、神経障害、感染など肢切断リスクを持ち、早急な治療介入が必要な下肢動脈硬疾患がとくに「chronic limb-threatening ischemia :CLTI」と呼称され、「包括的高度慢性下肢虚血」と訳される。ガイドラインにもあるように速やかに血行再建術が施行される場合がほとんどであるため、その自然歴の報告は大変少ないものの、血行再建術が非適応ないし不成功だったCLTI患者の6ヵ月死亡率は、20%に上ることが報告されている。 今回の他施設共同研究では主要エンドポイントがスキャフォールド群で173例中135例、血管形成群で88例中48例となっているが、これは研究の対象患者が膝窩動脈疾患とはいってもCLTI例ばかりではなく、有症状ながらもそれほどの重症例ではないものも組み入れられていたためと考えられる。この結果は生体吸収型のステントにかなり有利なものになっているが、一方で批判的な見方も忘れてはならないと思う。 血管内治療に携わったことのある医師ならば、以前生体吸収型の冠動脈ステントがやはり今回のスポンサーであるアボットから発売されて一時話題になったが、血栓症のリスクが高いことが問題となり、現在はこの技術の開発や普及がほぼ中断された状態になっていることをご存じだと思う。 一方足の血管において、とくに膝窩動脈の治療においてはステントが血管内に残留していることによる足の可動制限が大きな問題となる。膝窩動脈の治療は、下肢動脈の他の部位の治療とは違った見方がされる必要があるのである。さらに足の血管は冠動脈に比して血流が遅く、血管内の炎症が進行しやすいため、血栓症のリスクが高まると考えられている。その点生体吸収型ステントは、一定期間で分解・吸収されるため、血管内に留まる時間が短く血栓症のリスクを下げるばかりでなく、可動制限が一定期間で解消されるのではないかと期待が持たれている。 しかしその一方、生体吸収性ステントは、金属製ステントよりも血栓の発症そのものは起こりやすく、また金属ステントに比して厚みのある構造になっていることから、留置後の血管治癒反応が起こりにくく、血管内腔にデバイスの一部が浮いた状態となる「遅発性不完全圧着」が生じ、これがさらに血栓症の危険を高めるのではないかとも危惧されている。 評者は今回の試みを評価するものではあるが、もうしばらくフォローアップ期間を置いて判断する必要があるのではないかと思う。また、重症例に絞った結果も知りたいところである。そして何といっても、外科的な治療との比較が行われることが重要なのではないかと考えるものである。評者は内科医であるから外科領域について軽々に言及することは控えなければならないが、あえていえば、最近末梢血管治療を手掛ける外科医(下肢の血管は血管外科医だけでなく形成外科でも一部手掛けられている)が、どんどん減少していること、それもあってか新しい術式の開発が積極的になされていないことが気になるところである。 なお、今回の研究は動脈硬化性狭窄を対象としているが、はっきり動脈瘤を形成している場合は、現在でも外科手術が第一選択であることは付け加えておかなければならないだろう。

2113.

早期アルツハイマー病へのgantenerumab、2件の第III相試験結果/NEJM

 早期アルツハイマー病患者において、完全ヒトモノクローナルIgG1抗体のgantenerumabは116週時点のアミロイド負荷をプラセボより減少させたものの、臨床症状の悪化を抑制しなかった。米国・ワシントン大学のRandall J. Bateman氏らGantenerumab Study Groupが、30ヵ国288施設で実施された無作為化二重盲検プラセボ対照並行群間比較第III相試験「GRADUATE I試験」および「GRADUATE II試験」(それぞれ15ヵ国156施設、18ヵ国152施設)の結果を報告した。アミロイドβ(Aβ)を標的とするモノクローナル抗体は、早期アルツハイマー病患者の認知機能や身体機能の低下を遅らせる可能性がある。gantenerumabは、Aβの凝集体に対して高い親和性を有しており、皮下投与のアルツハイマー病治療薬として開発が進められていた。NEJM誌2023年11月16日号掲載の報告。116週後の臨床認知症評価尺度6項目合計スコア(CDR-SB)を評価 研究グループは、陽電子放射断層撮影(PET)または脳脊髄液(CSF)検査でアミロイド斑が認められ、臨床認知症評価尺度(CDR)の全般的スコア(CDR-GS、範囲:0~3、スコアが高いほど認知障害が高度)が0.5または1、ミニメンタルステート検査(MMSE)スコアが22以上(範囲:0~30、スコアが低いほど認知障害が高度)などのアルツハイマー病による軽度認知障害または軽度アルツハイマー型認知症を有する50~90歳の患者を登録し、gantenerumab群またはプラセボ群に1対1の割合で無作為に割り付けた。 投与量は120mg(4週ごと、3回)より開始し、255mg(4週ごと、3回)、510mg(4週ごと、3回)と漸増した後、510mgを2週ごとに皮下投与した。 主要アウトカムは、116週時点のCDR6項目合計スコア(CDR-SB、範囲:0~18、スコアが高いほど認知障害が高度)のベースラインからの変化量であった。CDR-SBのベースラインからの変化量に有意差なし GRADUATE I試験に985例、II試験に980例が登録された。ベースラインのCDR-SBスコアは、それぞれ3.7、3.6であった。 116週時点のCDR-SBスコアのベースラインからの変化量は、GRADUATE I試験ではgantenerumab群3.35、プラセボ群3.65であり(群間差:-0.31、95%信頼区間[CI]:-0.66~0.05、p=0.10)、II試験ではそれぞれ2.82、3.01であった(-0.19、-0.55~0.17、p=0.30)。 116週時点の脳アミロイドPET画像におけるアミロイドのgantenerumab群とプラセボ群の差は、GRADUATE I試験では-66.44センチロイド、II試験では-56.46センチロイドであり、gantenerumab群でのアミロイド陰性状態の患者の割合はGRADUATE I試験で28.0%、II試験で26.8%であった。また2試験のいずれにおいても、gantenerumab群がプラセボ群と比較してCSF中のリン酸化タウ181濃度が低く、Aβ42濃度が高かったが、PETでのタウ凝集蓄積は両群で同程度であった。 浮腫を伴うアミロイド関連画像異常(ARIA-E)は、gantenerumab群で24.9%に認められ、症候性ARIA-Eの発現率は5.0%であった。プラセボ群はそれぞれ2.7%、0.2%だった。

2114.

既治療の転移TN乳がんへのペムブロリズマブ、健康関連QOLへの影響(KEYNOTE-119)

 既治療の転移を有するトリプルネガティブ乳がん(TNBC)に対してペムブロリズマブを化学療法と比較したKEYNOTE-119試験では、主要評価項目である全生存期間がペムブロリズマブは化学療法と同等であったが、ペムブロリズマブの治療効果はPD-L1発現レベルが高いほど大きかったことが報告されている。今回、本試験における健康関連QOLを解析した結果、臨床アウトカムと一致しており、PD-L1陽性スコア(CPS)10以上の患者の結果に左右されるようであると英国・Barts Cancer Institute, Queen Mary University of LondonのPeter Schmid氏らが報告した。European Journal of Cancer誌2023年12月号に掲載。 本試験は、対象患者をペムブロリズマブ群(3週ごと200mgを静脈内投与、最大35サイクル)と医師選択治療群に1対1で無作為に割り付けた。事前に規定された探索的評価項目は、健康関連QOL(EORTC QLQ-C30、QLQ-BR23)のベースラインからの変化と有用性(EQ-5D-3L)であった。悪化するまでの期間(time to deterioration:TTD)は、治療開始から最初に10点以上悪化するまでの期間とした。 主な結果は以下のとおり。・健康関連QOLはPD-L1 CPSが10以上の187例を解析した。・ベースラインから6週時点(主要解析時)までの変化は、QLQ-C30 GHS/QoL(最小二乗平均スコアの群間差:4.21、95%信頼区間:-1.38~9.80)、QLQ-C30の機能尺度(身体、役割、認知、社会)、QLQ-C30の症状尺度/項目(疲労、悪心/嘔吐、呼吸困難、食欲不振)、QLQ-BR23の症状尺度/項目(全身療法による副作用、脱毛による動揺)において、化学療法よりペムブロリズマブで良好だった。・TTD中央値は、QLQ-C30のQHS/QoL(4.3ヵ月vs.1.7ヵ月)、QLQ-C30の悪心/嘔吐(7.7ヵ月vs.4.8ヵ月)、QLQ-BR23の全身療法による副作用(6.1ヵ月vs.3.4ヵ月)において、化学療法よりペムブロリズマブのほうが長かった。・その他の健康関連QOLの評価項目は、治療による差がほとんど認められなかった。

2115.

アミロイド陽性アルツハイマー病患者の皮質萎縮に対する炭水化物制限の影響

 インスリンレベルを低下させる炭水化物制限は、アルツハイマー病(AD)発症を遅らせる可能性がある。炭水化物の摂取を制限するとインスリン抵抗性が低下し、グルコースの取り込みや神経学的健康が改善すると考えられる。ADの特徴は、広範な皮質の萎縮だが、アミロイドーシスが確認されたAD患者において、正味炭水化物摂取量の低下が皮質萎縮の軽減と関連しているかは、明らかとなっていない。米国・Pacific Neuroscience Institute and FoundationのJennifer E. Bramen氏らは、炭水化物制限を行っているアミロイド陽性アルツハイマー病患者を対象に、中程度~高度の炭水化物摂取の場合と比較し、皮質厚が厚いとの仮説を検証した。Journal of Alzheimer's Disease誌2023年10月号の報告。 アミロイド陽性アルツハイマー病患者31例を、正味炭水化物のカットオフ値130g/日に基づき2群に分類した。皮質厚は、FreeSurferを用いて、MRIのT1強調画像より推定した。皮質表面分析は、クラスタワイズ回帰分析を用いて、多重比較のために補正した。群間差異の評価には、両側独立サンプルt検定を用いた。交絡因子を考慮した連続変数として正味炭水化物を用い、線形回帰分析も行った。 主な結果は以下のとおり。・正味炭水化物摂取量が低い群は、体性運動ネットワークおよび視覚ネットワークの皮質厚が有意に厚かった。・線形回帰では、正味炭水化物摂取レベルの低下は、前頭頭頂葉、帯状鞠膜、視覚ネットワークの皮質厚の厚さとの有意な関連が認められた。 著者らは「炭水化物制限は、AD患者の皮質萎縮を軽減する可能性がある。正味炭水化物摂取を130g/日未満に抑えることは、検証済みのMIND食を順守することにつながり、インスリンレベル低下による恩恵も受けることになるであろう」としている。

2116.

移動式脳卒中ユニットは脳卒中からの回復の可能性を高める

 現在、米国の一部の大都市で導入されている移動式脳卒中ユニット(mobile stroke unit;MSU)は、脳卒中が疑われる患者の病院への搬送中に検査や組織プラスミノゲンアクチベーターを用いた血栓溶解療法(t-PA療法)を行うことができる、特別な救急車だ。米ワイル・コーネル・メディシンなどの研究グループは、脳卒中疑いの患者を通常の救急車でER(救急救命室)まで搬送する場合と比べてMSUで搬送する場合では、t-PA療法が中央値で37分早く開始され、それにより患者が脳卒中から回復するか、あるいは症状が迅速に消失する可能性の高まることが示されたと、「Annals of Neurology」に10月6日発表した。 論文の共著者の一人でワイル・コーネル・メディスンのMatthew Fink氏によると、脳卒中のほとんどは血栓が原因で発症するという。「脳細胞が死滅するスピードは極めて速いため、脳卒中の予防や回復のためには迅速に血栓を除去するか溶解する必要がある。そのため、患者をもっと早く病院に運べないものかとわれわれは感じていた」とFink氏は説明している。 そこで考案されたのが、車内で治療を行える特別な救急車をニューヨーク市内に走らせることだった。ニューヨーク・プレスビテリアン病院のMSUは、ワイル・コーネル・メディスン、コロンビア大学アービング医療センター、ニューヨーク市消防局との協力体制の下で2016年に運用が開始された。なお、米国で最初にMSUが導入されたのはテキサス州のヒューストンであり、現在、約20都市でMSUのプログラムが導入されているという。 Fink氏によると、このMSUにはCT検査装置が搭載され、看護師も同乗している。また、脳卒中の専門家と常時、遠隔医療システムで用いる音声通話やビデオ通話で連絡を取ることができるという。そのため、例えば、救急医療サービス(EMS)への電話で脳卒中の症状を訴えている人の家へMSUが急行し、搬送中の車内で患者の評価と診断を行ってt-PA療法を開始することも可能だ。t-PAには脳への血流を塞いでいる血栓を迅速に溶かす作用がある。Fink氏は、「この研究で示されたように、t-PA療法を行うことで、患者が迅速に回復し、脳卒中の後遺症が残らないようにすることができる可能性が高まる」と言う。 今回の研究では、MSUが導入されている米国内の複数の大都市の2014~2020年のデータを用いて、t-PA療法が施された1,009人の患者を対象に解析した。このうちの644人はMSU車内でt-PA療法を受け(MSU治療群)、残る365人は救急搬送先でt-PA療法を受けていた(通常治療群)。患者の最終未発症確認時からt-PA療法を受けるまでの時間は中央値87分だった。 その結果、対象患者の27.4%(276人、MSU治療群の31%、通常治療群の21%)では、t-PA療法によって24時間以内に脳卒中が疑われる症状が消失し、15.8%(159人、MSU治療群の18%、通常治療群の11%)はMRIで脳損傷を示す所見が全く認められない状態にまで回復していたことが明らかになった。通常治療群に比べてMSU治療群では約37分早く治療が開始されていたため、1時間以内に治療を受けていた患者が多かった。 米ケンタッキー大学神経学部長のLarry Goldstein氏は、脳卒中に対する迅速な対応の重要性を指摘。「米国のエビデンスに基づいたガイドラインは、脳卒中発症後4.5時間以内に血栓溶解薬を使用することを推奨しているが、脳の血管が閉塞した状態が長く続くほど同薬の治療効果は低下する」とした上で、「時間をセーブ(短縮)することは脳をセーブ(助ける)ことにつながる」と話している。 ただし、Goldstein氏は、今回の研究はランダム化比較試験ではないこと、参加施設のほとんどが都市部の病院であることなどの限界がある点も指摘し、「MSUは大都市圏以外の地域には適していないかもしれない」と話している。

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小児感染症に対する抗菌薬、多くはもはや効果を見込めず

 薬剤耐性菌の増加に伴い、一般的な小児感染症の治療において長らく使用されてきた抗菌薬の多くがもはや効果を失っていることが、新たな研究で明らかにされた。論文の筆頭著者であるシドニー大学(オーストラリア)感染症研究所のPhoebe Williams氏は、「抗菌薬の使用に関する世界的なガイドラインにこの結果を反映させる必要がある」と述べるとともに、乳幼児や小児用の新しい抗菌薬の開発に重点を置くべきだと呼び掛けている。この研究結果は、「The Lancet Regional Health - Southeast Asia」に10月31日掲載された。 世界保健機関(WHO)は、薬剤耐性菌の増加を世界的な公衆衛生上の脅威のトップ10に位置付けている。世界全体では、毎年約300万人の新生児が敗血症を発症し、57万人が死亡しているが、その原因の多くは薬剤耐性菌に有効な抗菌薬がないことである。 Williams氏は、「薬剤耐性菌の問題は他人事ではなく、すぐそこに差し迫っている脅威だ。薬剤耐性菌は、われわれが考えている以上のスピードで増加している。多剤耐性の侵襲性感染症や年に何千人もの子どもの死亡を食い止めるためには、新しい解決策が早急に必要だ」と主張する。 Williams氏らの今回の研究は、東南アジアおよび太平洋地域の低・中所得世帯の子どもに処方された、経験に基づく抗菌薬治療がどの程度有効であるのかを検討したもの。研究グループは、システマティックレビューにより抽出した、11カ国で収集された6,648の細菌分離株の感受性データを使用してパラメーター化した、WISCA(weighted incidence syndromic combination antibiogram)と呼ばれる薬剤感受性のデータベースを構築。これにより、新生児と小児の敗血症や髄膜炎に対する治療において、WHOが推奨する特定の抗菌薬(アミノペニシリン、ゲンタマイシン、第3世代セファロスポリン、カルバペネム)がどの程度有効であるか(coverage)を推定した。 その結果、新生児の敗血症/髄膜炎に対して、アミノペニシリンは26%、ゲンタマイシンは45%、第3世代セファロスポリンは29%、カルバペネムは81%有効であることが示された。一方、小児の敗血症と髄膜炎に対しては、アミノペニシリンはそれぞれ37%と62%、ゲンタマイシンは39%と21%、第3世代セファロスポリンは51%と65%、カルバペネムは83%と79%有効であった。 こうした結果を受けてWilliams氏は、「小児や新生児に対する新たな抗菌薬による治療法の研究に、資金を優先的に投入する必要がある」との見解を示す。「抗菌薬に関する臨床研究は成人に焦点が当てられることが多く、小児や新生児は置き去りにされている。そのため、小児や新生児に対する治療法の選択肢は少なく、新しい治療法に関するデータも極めて限定的だ」と指摘する。 論文の上席著者で、アンコール小児病院(カンボジア)のカンボジア・オックスフォード・メディカルリサーチユニットのディレクターを務めているPaul Turner氏は、「この研究により、小児の重篤な感染症治療に有効な抗菌薬について、その利用可能性に関する重要な問題が浮き彫りになった。また、薬剤耐性菌の拡大状況をモニタリングするために、質の高い検査データが必要であることも明示した」と述べている。

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HER2陽性転移乳がん1次治療におけるpyrotinib(解説:下村昭彦氏)

 BMJ誌2023年10月31日号に、HER2陽性転移乳がん1次治療におけるpyrotinibによる無増悪生存期間(progression free survival:PFS)の改善を示したPHILA試験の結果が公表された。pyrotinibは中国で開発されたHER2をターゲットとしたチロシンキナーゼ阻害薬(tyrosine kinase inhibitor:TKI)であり、HER2陽性転移乳がんの2次治療におけるカペシタビンへの上乗せがラパチニブと比較して、PFS(Xu B, et al. Lancet Oncol. 2021;22:351-360.)ならびに全生存期間(overall survival:OS)(SABCS2021)を改善することが示されている。 PHILA試験ではトラスツズマブ+ドセタキセルにpyrotinibまたはプラセボを上乗せし、PFSで24.3ヵ月vs.10.4ヵ月(ハザード比:0.41、95%信頼区間:0.32~0.53、片側p<0.001)と大きな改善を認めた。一方、有害事象はpyrotinib群で14%と増加し、とくに下痢の増加が著しかった。下痢はHER2TKIの一般的な有害事象であり、pyrotinibで特別増加するということではなさそうである。 pyrotinibは中国国内でのみ開発されている薬剤であるが、それ以外にもこの試験を解釈するうえでいくつか注意すべきポイントがある。まず、世界的なHER2陽性転移乳がんの1次治療はペルツズマブ+トラスツズマブ+タキサン療法であるということである(Swain SM, et al. N Engl J Med. 2015;372:724-734.)。ペルツズマブの上乗せはPFSのみならずOSも延長する。一方、PHILA試験では中国国内での承認の関係からペルツズマブは使用されていない。さらに現在、抗体薬物複合体(antibody drug conjugate:ADC)であるトラスツズマブ デルクステカンの1次治療における有用性を検証するDESTINY-Breast09試験(NCT04784715)が実施されており、この結果次第ではHER2陽性転移乳がんの1次治療が変わる。 さらに、TKIについても以前から使用されているラパチニブに加えて、3次治療においてtucatinibのトラスツズマブ+カペシタビンへの上乗せがPFS、OSを延長するのみならず、脳転移に対して有効であることが示されている(Murthy RK, et al. N Engl J Med. 2020;382:597-609.)。さらにアップフロントでのADCとの併用の有効性に関する検証も行われている(NCT03975647、NCT04539938)。pyrotinibも重要な薬剤であるが、ペルツズマブやADCとの併用の有用性について検証されなければ、私たちの実臨床への影響は大きくないといえよう。

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猛暑日の増加で心血管疾患による死者が劇的に増加?

 夏に猛暑日が続くのが当たり前のようになりつつあるが、これから数十年のうちに米国では、暑熱に関連した心疾患や脳卒中などの心血管疾患による死者数が劇的に増加するとの予測が、米ペンシルベニア大学医学部のSameed Khatana氏らの研究で示された。この研究の詳細は、「Circulation」に10月30日掲載された。 専門家の間では、熱波がしばしば脳卒中や心筋梗塞などの心血管疾患を引き起こし、その発症例は特にリスク因子を持つ人で多いことが知られている。これは、Khatana氏によると、心臓や血管(心血管系)が体温調節で中心的な役割を果たしているためだという。体がオーバーヒートすると、発汗によって熱を放出するために、心臓はより激しく働いて血液を体の末梢まで行きわたらせようとするが、脆弱な人にはそれが過剰な負荷となることがある。 さらにKhatana氏は、「猛暑日は今後ますます増えることが予測されている」と指摘する。この事実は、米国内の人口の高齢化とより温暖な地域への人口流入の増加と相まって、暑熱に関連した心血管疾患による死者が増加するという明確なシナリオを示している。 こうした米国の未来の姿を把握するため、Khatana氏らは今回の研究で、まず2008年から2019年までの米国の各郡における心血管疾患による死亡と猛暑日のデータを調べた。「猛暑日」は最高ヒートインデックス(体感温度の指標)が華氏90度(摂氏32.2度)以上の日とした。その結果、この期間中に猛暑日によって1年当たり平均1,651件の心血管疾患による超過死亡、つまり猛暑日がなければ避けることができた死亡が発生していたと推定された。 次いで、この数値と今後の環境や人口の変化の予測に基づき、2036年から2065年までの期間に起こることを、温室効果ガスの排出量の増加が中程度の場合と大幅に増加する場合の二つのシナリオの下で予測した。 その結果、まず、温室効果ガスの排出量の増加が中程度にとどまるという、より楽観的なシナリオ(1年間の猛暑日の平均が近年の54日から71日に増加すると想定)の場合でも、1年当たりの暑熱に関連した心血管疾患による死亡は平均4,320件に増加する(162%の増加)と推定された。さらに、二つ目のより悲観的なシナリオ(1年当たりの猛暑日の平均が80日に増加すると想定)の場合では、暑熱に関連した心血管疾患による死亡は1年当たり5,491件に増加する(233%の増加)と推定された。また、この問題による打撃が最も大きいと予測されるのは高齢者と黒人で、それにより、既存の心疾患に関する人種間の格差がさらに拡大すると見られている。 これは悪い知らせといえるが、希望を抱かせる解析結果も示されている。現在提唱されている温室効果ガス削減に向けた対策を実行することで、こうした暑熱関連死の一部を回避できる可能性があるというのだ。「われわれの研究は、温室効果ガスの排出削減は効果的であり、その効果は短期間で得られることを示唆している」とKhatana氏は言う。 今回の研究には関与していない、米国の非営利団体「憂慮する科学者同盟」の主任気候科学者のKristina Dahl氏は、「これらは全て過小評価された数である可能性が高い」との見方を示す。同氏によると、暑熱関連死は公衆衛生機関によって正式に追跡されているわけではなく、死亡記録などでも必ずしも正式な死因としては認識されていないという。 Dahl氏とKhatana氏の両氏は、脆弱な住民を暑熱から守るために地域でできる対策として、都市部で日陰を作るために樹木を植えること、アクセスしやすく安全で人々に訪れたいと思わせる魅力を兼ね備えた「クーリング・センター(住民が涼むことのできる施設)」を作ること、熱波に備えた「ヒート・アクション・プラン」を立案することなどを挙げている。

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関節リウマチに対するJAK阻害薬、実臨床下で有効性を確認

 関節リウマチ(RA)に対する治療薬の中では比較的新しいJAK(ヤヌスキナーゼ)阻害薬は、その効果を疑問視する声があったものの、実臨床下において全般的に大きな効果を上げていることが、新たな研究で明らかになった。JAK阻害薬は、体内での炎症に関わっているサイトカインの細胞内伝達に必要な酵素であるJAKの働きを阻害することで炎症を制御する内服薬。神戸大学医学部附属病院の林申也氏らによるこの研究結果は、「Rheumatology」に11月1日掲載された。 RAは、免疫系が体内の関節組織を誤って攻撃することにより引き起こされる自己免疫疾患で、関節の痛み、腫れ、こわばりなどを引き起こす。炎症が全身に広がると、時間の経過とともに、心臓、肺、皮膚、目など、体の他の部位にも問題が生じる可能性がある。RA治療薬の多くは、免疫反応の一部を標的とすることで関節障害の進行を遅らせる。JAK阻害薬もそのような治療薬の一つだ。しかし、本研究には関与していない、米Rheumatology AssociatesのStanley Cohen氏は、「JAK阻害薬は、RA治療の第一選択肢とは考えられていない」と言う。 その理由としてCohen氏は、2021年に実施された試験に言及する。高血圧や糖尿病といった心疾患や脳卒中のリスク因子を一つ以上有する50歳以上のRA患者を対象にしたこの試験では、JAK阻害薬のトファシチニブを投与された患者では、TNF(腫瘍壊死因子)阻害薬を投与された患者に比べて心筋梗塞や脳卒中、特定のがんの発症リスクの高いことが示された。この結果を受けて米食品医薬品局(FDA)は、RA治療に使われる全てのJAK阻害薬に枠組み警告を追加するとともに、医師に対して、1種類以上のTNF阻害薬が奏効しなかった患者に対してのみJAK阻害薬の処方を検討するよう求めた。 林氏らは今回、622人の成人RA患者を対象に、JAK阻害薬のトファシチニブ、バリシチニブ、ペフィシチニブ、ウパダシチニブの有効性と安全性を実臨床下で比較した。治療の前後に、clinical disease activity index(CDAI、臨床疾患活動性指標)と修正版Health Assessment Questionnaire(mHAQ)で評価を行い、炎症反応マーカーとされるC反応性蛋白(CRP)レベルを測定し、治療開始から6カ月時点でのCDAIでの寛解または低疾患活動性率(low disease activity;LDA)を比較した。 その結果、治療開始後6カ月間での全体での治療継続率は85.4%であり、それぞれのJAK阻害薬による治療を受けた患者間で継続率に有意な差は認められなかった。また、治療6カ月目までに投薬により生じた有害事象や投薬の効果が得られないことを理由に治療を中止した患者の割合についても、4群間で有意な差はなかった。 治療開始後6カ月時点で、およそ3分の1の患者がRAの寛解を達成し(CDAI寛解率は、トファシチニブ群で35%、バリシチニブ群で30%、ペフィシチニブ群で46%、ウパダシチニブ群で44%)、80%以上がLDAを達成していた(CDAI-LDAは同順で、87%、85%、89%、82%)。治療開始後6カ月時点で、CDAIとmHAQの平均スコア、CRPレベル、CDAI寛解率、CDAI-LDAに、4群間で有意な差は認められなかった。 Cohen氏は、「この研究は、JAK阻害薬による治療の有効性を確証するものだ。また、それぞれのJAK阻害薬の有効性が同等である可能性も示唆された。複数のJAK阻害薬が臨床試験で直接比較されたことはこれまでに一度もないが、それぞれのJAK阻害薬に関する個別の試験では、本研究と同様の有効性が示されている。今回の研究のような『実際の経験』は、そのような試験で報告された結果を確証するものだ」と述べる。 一方、JAK阻害薬の安全性についてCohen氏は、「TNF阻害薬と比べると、有害事象のリスクが若干高まるものの、全体的にリスクはかなり低く、TNF阻害薬や他の生物学的製剤のリスクと同程度だといえる」との見方を示す。同氏によると、JAK阻害薬により帯状疱疹のリスクが高まる可能性があるとのことだが、同氏は、「このリスクは、帯状疱疹のワクチン接種で対処可能だ」と話している。 なお、本研究は外部からの資金援助を受けていないが、共著者の中には、JAK阻害薬の製造会社から資金提供を受けている者も含まれている。

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