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2021.

アンドロゲン遮断療法後に狭心症を発症した症例【見落とさない!がんの心毒性】第27回

※本症例は、実臨床のエピソードに基づく架空のモデル症例です。あくまで臨床医学教育の普及を目的とした情報提供であり、すべての症例が類似の症状経過を示すわけではありません。《今回の症例》年齢・性別70代・男性主訴ECG異常、NT-proBNP高値既往歴高血圧症、糖尿病、脂質異常症、喫煙歴(+)、飲酒歴(-)家族歴父親:大腸がん、母親:狭心症現病歴X-9年の人間ドック受診時にPSA上昇を指摘されたため精査目的で泌尿器科を受診、前立腺生検を施行した。初回ならびに2回目(X-7年)の生検では陰性であったが、X-5年のドック検査でPSAがさらに上昇したことからMRI検査ならびに3回目の生検を施行し、前立腺がんと診断された。がん治療はアンドロゲン遮断療法(androgen deprivation therapy:ADT)と放射線の併用療法が選択された。X-5年3月から同年12月まで第一世代抗アンドロゲン薬が投与され、X-5年4月からX-4年6月までGnRHアゴニストが併用された。さらに、放射線療法(78Gy)をX-5年10~12月まで施行された。その結果、PSAは正常化した。がん治療終了後に心臓CT検査を施行したが、冠動脈に有意な狭窄は認めなかった。その後、泌尿器科の定期的な受診とかかりつけ医で生活習慣病の治療を受けており、引き続き年1回の人間ドックは当院を受診していた。X年に受診した人間ドックで運動負荷試験陽性(図1)、NT-pro BNP高値を指摘された。胸痛などの自覚症状は認めなかったが糖尿病などのリスク因子を有しており、虚血性心疾患の合併を疑い、精査加療目的で循環器内科を紹介し受診された。(図1)X年の人間ドックでの運動負荷心電図試験(マスターダブル負荷)画像を拡大するX年に受診した人間ドック時運動負荷心電図ではV4-V6でST低下を認め、NT-proBNP 152pg/mLの上昇を認めた。本例は、前立腺がん治療終了後に心臓CT検査が施行されるも、冠動脈に有意狭窄は認められず、前年までの運動負荷心電図所見の異常はなかった。心電図変化は比較的軽く、自覚症状も認めなかったが、高齢かつ複数の動脈硬化危険因子を有していたこと、ADTを施行されていたことから心血管疾患の合併を疑い精査を行った。循環器専門病院で施行した冠動脈造影検査では左冠動脈#7に75~90%狭窄を認めたため、同部位に冠動脈形成術(ステント留置術)を施行した。【問題】本症例の治療に際して注意する点として、適切な答えを選択せよ。a.前立腺がん症例の多くは、治療前より高齢、高血圧症、糖尿病、脂質異常症、喫煙などの心血管リスクを複数有している事が多く、がん治療を施行する際には心血管毒性に対する注意が必要である。b.ADTの施行後は肥満症、糖尿病、脂質異常症を来すことがあり、その後の動脈硬化症や冠動脈疾患の発症に注意が必要である。c.症候性冠動脈疾患の既往を有する症例に対し、ADTを施行する際には、心血管リスクの有無を考慮したがん治療薬の選択が重要である。d.ADTにおける筋肉系合併症としてはサルコペニア・運動耐容能の低下、骨関連合併症としては骨粗鬆症・骨折などを認めることがあるので注意を要する。e.すべて正しい1)Studer UE, et al. J Clin Oncol. 2006;24:1868–1876.2)Calais da Silva FE, et al. Eur Urol. 2009;55:1269–1277.3)Weiner AB, et al. Cancer. 2021;127:2895-2904.4)Klimis H, et al. J Am Coll Cardiol CardioOnc. 2023;5:70-81.5)Narayan V, et al. J Am Coll Cardiol CardioOnc. 2021;3:737-741.6)Chen DY, et al. Prostate. 2021;81:902-912.7)Okwuosa TM, et al. Circulation. 2021;14:e000082.8)Lyon AR, et al. Eur Heart J. 2022;432:4229-4361.講師紹介

2022.

脳小血管病発症前のメトホルミン服用、予後を改善/新潟大

 糖尿病治療で多用されているメトホルミンに神経保護作用がある可能性が示唆されている。この可能性に関し、新潟大学脳研究所脳神経内科学分野の秋山 夏葵氏らの研究グループは、国立循環器病研究センターと共同で研究を行った。その結果、メトホルミンによる脳小血管病に対する神経保護効果が明らかとなった。Journal of the Neurological Sciences誌2024年1月号掲載の報告。メトホルミンは血液中の炎症を抑制する 秋山氏らは、2病院において脳卒中発症前に何らかの経口糖尿病治療薬を服用していた血管内治療適応のない虚血性脳卒中の2型糖尿病患者160例の臨床情報、画像データを収集、解析を行った。神経学的重症度の低下は、入院時のNational Institutes of Health Stroke Scaleスコア3以下、良好な機能的転帰は退院時のmodified Rankin Scaleスコア=0~2と定義した。虚血性脳卒中のサブタイプごとに、神経学的重症度と機能的転帰に対するメトホルミンの効果を、複数の交絡因子を調整したロジスティック回帰分析で解析した。 主な結果は以下のとおり。・脳梗塞発症前のメトホルミン治療が、とくに細い血管が障害される脳梗塞(脳小血管病)のタイプの患者において、神経症状の重症度軽減と退院時の症状改善に関係していた。・メトホルミンを内服している患者とそうでない患者を比較すると血液中の炎症を反映する指標(好中球/リンパ球比や炎症性サイトカインIL-6値)が、メトホルミンを内服している患者のほうが低く、炎症が抑えられていた。・脳卒中のサブタイプにおいて、メトホルミンの使用は、小血管病変(SVD)を有する患者においてのみ、神経学的重症度(p=0.037)と機能的転帰(p=0.041)の両方に影響を与えた。 本研究において、メトホルミンはSVD患者の予後改善に有用だった。秋山氏は「脳梗塞発症前の具体的なメトホルミンの投与量や投与期間を検討することが、実際の治療のためには必要。メトホルミンの投与期間と投与量に関する前向き検証研究が今後の課題」と展望を語っている。

2023.

PDE5阻害薬、子供を増やす可能性/BMJ

 勃起不全の薬物治療の標的として確立しているホスホジエステラーゼ5(PDE5)の阻害は、遺伝学的に服用した男性の子供の数を増加させる可能性があることが、英国・ブリストル大学のBenjamin Woolf氏らの検討で示された。PDE5阻害薬は勃起不全の治療としてよく用いられているが、男性患者の生殖能力、性行動、主観的なウェルビーイングに及ぼす影響は不明であった。BMJ誌2023年12月12日クリスマス特集号「ANNUAL LEAVE」掲載の報告。メンデル無作為化研究によりPDE5阻害の遺伝学的な影響を評価 研究グループは、PDE5阻害(代替バイオマーカーとして拡張期血圧の低下を使用)と、男性の生殖能力、性的行動、自己報告によるウェルビーイングとの関連を評価する目的で、シス-メンデル無作為化研究を行った。 解析には、International Consortium for Blood PressureおよびUK Biobankから得られた遺伝的関連についての要約データを用いた。 International Consortium for Blood PressureとUK Biobankに参加した77のコホート、欧州系の合計75万7,601例について、拡張期血圧のゲノムワイド関連メタ解析を行い、PDE5阻害の指標となる遺伝子の一塩基多型を同定した。次いで、UK Biobankから得られた男性21万1,840例のデータを使用し、遺伝学的に推定されるPDE5阻害と、男性の子供の数、性的パートナーの数、性交渉の経験がない確率、および自己報告によるウェルビーイングとの関連を評価した。PDE5阻害は、男性がより多くの子をもうけることと関連 PDE5を代用阻害する5つの遺伝子変異が同定された。 シルデナフィル100mgの拡張期血圧低下作用(5.5mmHg)に換算すると、PDE5の遺伝子代用阻害は、男性参加者の子供の数が平均0.28人(95%信頼区間:0.16~0.39、偽発見率補正p<0.001)多いことと関連していた。この関連は女性参加者では確認されなかった。 PDE5の遺伝子代用阻害と、男性におけるその他の評価項目(性的パートナーの数、性交渉の経験がない確率、自己報告によるウェルビーイング)との関連は、いずれも確認されなかった。 著者は結果を踏まえて、「PDE5の遺伝子代用阻害と子供の数の増加との関連が女性参加者ではみられなかったことは、潜在的に根底にあるメカニズムとして、持続的で強力な勃起傾向が増すことを裏付けている。だからといって、有害な副作用を引き起こす可能性もあるPDE5阻害薬のむやみな使用を促進するべきではなく、さらなる研究が必要である」とまとめている。

2024.

内臓脂肪はアルツハイマー病の発症リスクを高める?

 腹部を中心とした内臓の周りに脂肪が多くついている中高年は、後年、アルツハイマー病を発症するリスクの高いことが、新たな研究で示唆された。研究では、表面からは見えないこの脂肪(内臓脂肪)が脳の変化に関係しており、その変化は、アルツハイマー病の最初期の症状である記憶障害が生じる最長で15年前に現れ始めることが示されたという。米ワシントン大学医学部マリンクロット放射線医学研究所のMahsa Dolatshahi氏らによるこの研究結果は、北米放射線学会年次総会(RSNA 2023、11月26~30日、米シカゴ)で発表された。 米アルツハイマー協会によると、米国でのアルツハイマー病患者数は600万人以上に上るが、この数は2050年までに1300万人近くに達すると見込まれている。Dolatshahi氏らは、認知機能が正常な40〜60歳の54人(BMIの平均値32)を対象に、頭部MRIで測定した脳の異なる領域の容積、PET検査で評価したアミロイドβの蓄積およびタウタンパク質のもつれと、BMI、肥満、インスリン抵抗性、および腹部の脂肪組織(皮下脂肪と内臓脂肪)との関連を調べた。アミロイドβの蓄積とタウタンパク質のもつれは、脳細胞間のコミュニケーションを阻害すると考えられている。 その結果、内臓脂肪と皮下脂肪の面積比(V/S比)の値が高いほど、脳の楔前部における、アミロイドβを検出するためのPETトレーサーの取り込みが増加する傾向が認められた。楔前部は、アルツハイマー病の進行初期にこの病気に特有の脳の病理学的変化であるアミロイドβの蓄積が生じる部位であることが知られている。V/S比とアミロイドβ蓄積との関連は、女性よりも男性で強かった。さらに、内臓脂肪の量が増加すると、脳内炎症が増加することも明らかになった。 内臓脂肪と脳内炎症との関連についてDolatshahi氏は、「いくつかの経路の関与が示唆されている。皮下脂肪が保護作用を持つ可能性があるのとは対照的に、内臓脂肪から分泌される炎症性物質は、アルツハイマー病における主要なメカニズムの一つである脳内炎症を引き起こしているのかもしれない」と述べている。 Dolatshahi氏は、「これまでの研究で、BMIと脳の萎縮、あるいは認知症リスクの上昇との関連は報告されていたが、認知機能が正常な人において、特定の種類の脂肪とアルツハイマー病の発症に関わるタンパク質とを関連付けた研究はなかった」と強調する。同氏はさらに、「同様の研究でも、特にアルツハイマー病でのアミロイドβの病理学的変化に果たす内臓脂肪と皮下脂肪の役割の違いについて、中年期早期の人を対象に調査したものは存在しない」と付け加えている。 共同研究者である、マリンクロット放射線医学研究所の神経磁気共鳴画像診断部長であるCyrus Raji氏は、「これらの知見は、医師がアルツハイマー病を発症するリスクがある人を診断し、治療するのに役立つかもしれない」との見方を示す。同氏は、「この研究は、内臓脂肪がアルツハイマー病の発症リスクを高め得る重要なメカニズムを明らかにするものだ。研究では、このような脳の変化が概ね50歳という早い段階で起こることが示された。50歳という年齢は、アルツハイマー病の初期症状である記憶障害が認められる年齢よりも最大で15年も早い」と述べている。その上で同氏は、医師が患者の内臓脂肪量を減らすことで将来の脳内炎症を抑え、認知症やアルツハイマー病の発症を予防できる可能性に言及している。

2025.

アトピー性皮膚炎の診療で役立つTIPS

口唇の乾燥アトピー性皮膚炎の患者さんで「唇が乾燥する」という訴えは多いです。それは口唇炎の症状なのですが、リップなどを長い期間使っても治らない患者さんも多数います。なぜなら「唇が乾燥する」状態の患者さんは、唇をなめるクセがあることが多いからです。子供の患者さんに多いのですが、唇やその周りをずっとなめ回すことを繰り返していると、周囲が輪を描くように赤くなります。これを「舌なめずり皮膚炎」と言います。これが長期間続くと口の周囲に色素沈着を来すこともあります。口唇のシミ唇が長い期間荒れている方は、点々とシミができてきます。“labial melanotic macules”や「口唇メラノーシス」と言われたりします。アジア人に多いとされています1)。アトピー性皮膚炎の発症時期が早い患者さんに多い傾向があり、アトピー性皮膚炎があっても、IgEが高い患者さんに唇の色素沈着が多い傾向があります2)。口唇トラブルへの治療の仕方〔口唇炎の治療〕口唇炎に関してはステロイド外用剤を中心に治療していきます。ワセリンを中心とした保湿も有効です。乾燥した感覚がある間は改善するまでステロイド外用剤を使ってみてください。しっかり治った良い状態をワセリンや患者さんに合ったリップでキープすることも大切です。〔口唇のシミの治し方〕口唇の色素沈着にはQスイッチルビーレーザーを使用します。痛み止めのクリームを塗り、レーザーを患部に照射します。治療の所要時間は数分で、1回の治療で終了することが多いです。1)Aljasser MI, et al. J Dermatol. 2019;23:86-89.2)Kang IH, et al. Int J Dermatol. 2018;57:817-821.

2026.

外用薬【アトピー性皮膚炎の治療】

外用薬ではステロイド、タクロリムス、デルゴシチニブ、ジファミラストを用います。外用薬はFTU(finger tip unit)を考えて使用します。やさしく、すりこまないように塗ることが大切です。私はステロイド外用薬を使わなくても良い状態まで改善させることを、治療目標の1つにしていますが、ステロイドを完全に止めてしまうのではなく、継続して治療することで再燃を防ぐことに心がけています。デルゴシチニブ(商品名:コレクチム)デルゴシチニブは、2020年6月24日から使用できる外用薬であり、プロトピック(タクロリムス)以来約20年ぶりの新発売です。ヤヌスキナーゼ阻害薬という、新しいメカニズムの外用薬で、発売から1年が経過し、小児用の0.25%製剤が発売されました。デルゴシチニブは、さまざまな種類のJAKを抑える働きがあります。その効果として、IL-4/13を代表とするサイトカインを抑えることや皮膚バリア機能を回復させることに役立つという基礎研究データがあります1)。デルゴシチニブの安全性について、副作用は比較的少なく、長期投与による皮膚萎縮、多毛などといったステロイドの弱点はまだありません。適用部位の刺激感はまれにありますが、使えなくなるほどのヒリヒリ感は経験しません。また、第III相臨床試験でも副作用発現頻度は、19.6%(69/352例)であり、主な副作用として適用部位毛包炎3.1%(11/352例)、適用部位ざ瘡2.8%(10/352例)、適用部位刺激感2.6%(9/352例)などが報告されています。デルゴシチニブの用法・用量通常、成人には、1日2回、適量を患部に塗布する。なお、1回当たりの塗布量は5gまで、体表面積の30%までとする。そのほか、生後6ヵ月以上のアトピー性皮膚炎の小児にも適応がとれ、小児には2021年6月21日に発売された0.25%製剤の使用が望ましいとされています。ただし、妊婦、授乳婦への使用は「治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ使用すること」と注意も記載されています。デルゴシチニブの薬価0.25%:1g 139.70円0.5%:1g 144.9円〔ワンポイント〕効果の強さに関してはストロングクラス、すなわちベタメタゾンやタクロリムスと同等程度と位置付けられ、症状がかなり強く、急速に寛解導入したい場合には向いていないことがあります。一方、デルゴシチニブの副作用は比較的少なく、長期投与によるものがないため、プロアクティブ療法などでの使用に向いています。また、光線療法、シクロスポリン、デュピルマブとの併用が可能で、ステロイド外用薬の副作用があるときには、光線療法と併用することでステロイド外用薬の減薬に期待できます。1)Wataru Amano W, et al. J Allergy Clin Immunol. 2015;136:667-677.2)コレクチム軟膏 電子添文(2023年1月改訂(第6版))ジファミラスト(商品名:モイゼルト軟膏)ジファミラストは、2022年6月1日に発売されたホスホジエステラーゼ4(PDE4)阻害剤の新しい外用薬です。PDE4阻害薬は、細胞の中の細胞内のサイクリックAMP(cAMP)濃度を回復させる薬で、cAMP濃度が回復することで免疫細胞の活性化が抑えられます。また、ジファミラストの第III相臨床試験結果について、投与開始後4週間でInvestigator’s Global Assessment(IGA)が0または1かつベースラインから2点以上減少を達成した患者さんの割合は、38.46%とプラセボ(12.64%)に比べて有意に高く1)、小児では0.3%製剤で44.6%、1%製剤で47.1%といずれもプラセボ(18.1%)に比べて有意に高い効果を得ていました2)。病勢の指標であるeczema area andseverity index(EASI)が50%減少した指標であるEASI50は、4週間の投与で58.24%とプラセボ(25.82%)に比べ、有意に高くなりました。同様にEASI75は42.86%(プラセボ13.19%)、EASI90は24.73%(プラセボ5.49%)でした。4週後の平均EASI改善率は−49.1%(プラセボ−10.5%)でした1)。ジファミラストの安全性としては、色素沈着障害(1.1%)、毛包炎、そう痒症、膿痂疹、ざ瘡、接触皮膚炎が記載されています3)が、明らかに多い副作用は認められませんでした1,2)。ジファミラストの用法・用量15歳以降は1%製剤を使用します。14歳以下は0.3%か1%製剤を使用します。通常、成人には1%製剤を1日2回、適量を患部に塗布します。小児は0.3%製剤を1日2回、適量を患部に塗布します。また、症状に応じて、1%製剤を1日2回、適量を患部に塗布することができます3)。ジファミラストの薬価0.3%:1g 142.00円1%:1g 152.10円〔ワンポイント〕使用感について患者さんからの評価は良く、塗った際の刺激感を訴えられることはありませんでした。効果に関しても総じて好印象でした。1)Saeki H, et al. J Am Acad Dermatol. 2022;86:607-614.2)Saeki H, et al. Br J Dermatol. 2022;186:40-49.3)モイゼルト軟膏 電子添文(2023年6月改訂(第3版))

2027.

注射薬【アトピー性皮膚炎の治療】

デュピルマブ(商品名:デュピクセント)デュピルマブは、ヒト型抗ヒトIL-4/13受容体モノクローナル抗体の治療薬で、2018年から使用できるようになったアトピー性皮膚炎の治療薬です。2週間に1回注射をします。生物学的製剤であり、生体が作る抗体タンパクを人工的に作成しアトピーを悪化させる活性物質にピンポイントで作用させることを目的としています。デュピルマブの対象患者ステロイド外用剤やタクロリムス外用剤などの抗炎症外用剤による適切な治療を一定期間施行しても、十分な効果が得られず、強い炎症を伴う皮疹が広範囲に及ぶ患者。デュピルマブの注射の種類注射器型のシリンジと自己注射に向いているペンの2種類。デュピルマブの特徴アトピー性皮膚炎の炎症やかゆみに大きく関わる蛋白であるインターロイキン4(IL-4)、IL-13の働きを抑えます。具体的には、IL-4受容体α(IL-4Rα)をブロックする薬です。ブロックすることでアトピー性皮膚炎のかゆみ、皮膚炎症状が改善します。また、IL-4、13はフィラグリンという皮膚のバリア機能を保つための重要な蛋白を作りにくくさせることが知られており、これを抑制することで皮膚バリア機能の回復も期待できます。デュピルマブの用法・用量15歳以上の成人の初回投与は600mg(2本)です。以後、2週間おきに300mg(1本)ずつ注射します。初診時は問診と診察で適応があるかどうかの確認を行います。なお、初診時にデュピルマブの投与はできません。2023年9月25日より生後6ヵ月以上の小児に適応が追加されました。また、2023年12月18日より200mgシリンジが発売されました。小児では体重ごとに用法が変わります。具体的には5kg以上15kg 未満:1回 200mgを4週間隔、15kg以上30kg未満:1回 300mgを4週間隔、30kg以上60kg未満:初回に400mg、その後は1回 200mgを2週間隔、60kg以上:初回に600mg、その後は1回 300mgを2週間隔(成人と同様の用法、用量)で投与します。デュピルマブの薬価300mgシリンジ:5万8,593円300mgペン:5万8,775円200mg シリンジ:4万3,320円〔ワンポイント〕高額療養費制度の勧め:薬剤費が高額なため、高額療養費制度を利用されることを強くお勧めします。収入や年齢により適応となる場合やそうでない場合があります。自己注射をする場合、最大6本の注射薬を処方することができ、一部の方には高額療養費制度を用いて医療費の負担軽減が可能です。デュピクセント皮下注 電子添文(2023年9月改訂(第6版))ネモリズマブ(商品名:ミチーガ)ネモリズマブは、ヒト化抗ヒトIL-31受容体A(IL-31RA)モノクローナル抗体です。IL-31は、かゆみに重要な役割を果たすサイトカインで、主にTh2細胞から作られます。ネモリズマブは、アトピー性皮膚炎に伴うかゆみを改善する新しい発想の治療薬です。IL-31とアトピー性皮膚炎、そしてかゆみIL-31は、Th2細胞から産生され、アトピー性皮膚炎の皮膚病変部では、過剰に産生されていることが知られています1)。また、血清中のIL-31の濃度はアトピー性皮膚炎患者では上昇しており、病勢と相関していることが知られています2)。IL-31は神経線維が成長することを促進し、かゆみを増強する働きもあります3)。IL-31の受容体は神経線維や表皮角化細胞に分布しています。また、IL-31はバリア低下にも働くことが知られています4)。そして、この受容体は、感覚情報の中継点として機能する脊髄後根神経節に多く発現しており、かゆみを脳に伝えることにも深く関わっています5)。つまり、IL-31はかゆみに関係する神経を刺激して脳にそのかゆみを伝え、そして神経の成長を助けてかゆみを起こしやすくする働きがあります。この受容体は、IL-31RAとオンコスタチンM受容体(OSMR)が合わさってできており、ネモリズマブはそのうちIL-31RAに結合して働きを抑えます。ネモリズマブの効果第III相臨床試験の結果6)より、かゆみに関しては、1週目より有意な差がみられています。速やかなかゆみの改善という点を期待したいところです。ネモリズマブの副作用電子添文7)によると、アトピー性皮膚炎(18.5%)、皮膚感染症(ヘルペス感染、蜂巣炎、膿痂疹、二次感染など)(18.8%)が頻度の多い副作用です。ウイルス、細菌、真菌などによる重篤な感染症が3.4%に認められ、アナフィラキシー(血圧低下、呼吸困難、蕁麻疹など)などの重篤な過敏症が0.3%報告されています。使用上の注意ネモリズマブはかゆみを治療する薬剤であり、かゆみが改善した場合も含め、投与中はアトピー性皮膚炎に対して外用薬をはじめとした必要な治療を継続することが必要です。ネモリズマブはIgGという種類の抗体製剤ですので、胎盤や乳汁に移行することがあります。そのため、妊娠中や授乳中の投与は禁忌ではありませんが、治療上の有益性が投与の危険性を上回ると判断された場合にのみ使用することになっています。ネモリズマブの適応13歳以上のアトピー性皮膚炎に伴うそう痒(既存治療で効果不十分な場合に限る)となっています。ステロイド外用剤やタクロリムス外用剤などの抗炎症外用剤および抗ヒスタミン剤などの抗アレルギー剤による適切な治療を一定期間施行しても、そう痒を十分にコントロールできない患者さんが対象です。ネモリズマブの用法・用量ネモリズマブとして60mgを4週に1回皮下注射で投与します。在宅自己注射も可能です。ネモリズマブの薬価60mgシリンジ:11万7,181円1)Guttman-Yassky E, et al: J. Allergy Clin. 2019;143:155-172.2)Ezzat M H M, et al. J Eur Acad Dermatol Venereol. 2011;25:334-339.3)Feld M, et al. J Allergy Clin Immunol. 2016;138:500-508.4)Cornelissen C, et al. J Allergy Clin Immunol. 2012;129:426-433.5)Furue M, et.al. Allergy. 2018;73:29-36.6)Kabashima K, et al. N Engl J Med. 2020;383:141-150.7)ミチーガ皮下注 電子添文(2023年11月改訂(第3版))トラロキヌマブ(商品名:アドトラーザ)トラロキヌマブは、IL-13を選択的に阻害するヒト免疫グロブリンIgG4モノクローナル抗体であり、IL-13がその受容体に結合するのをブロックします。IL-13はアトピー性皮膚炎の病変ができ、慢性化していくのに重要な働きをしますので、IL-13をブロックするのは合理的と考えられます。2022年12月に製造販売承認を取得、2023年3月に薬価基準に収載されました。2023年9月26日、アドトラーザ皮下注150mgシリンジが発売されました。IL-13の働きアトピー性皮膚炎の病変が持続するために重要な働きをするのが、Th2細胞というリンパ球です。Th2細胞は、IL-13やIL-4を産生することで皮膚のバリア機能低下、抗菌ペプチドの産生低下、IL-31というかゆみに関連するサイトカインの産生などを起こしてアトピー性皮膚炎の特徴的な病変を作ります。IL-13はIL-4と似た働きをしていますが、アトピー性皮膚炎の病態が作られる上で、IL-4よりIL-13のほうがより中心的な働きをしていることが知られています。また、線維化に関しても重要な役割を果たすことが解明され、アトピー性皮膚炎の慢性病変では苔癬化という皮膚がゴワついた感じになる病変ができますが、それにもIL-13の働きが重要であることが判明しています。トラロキヌマブの効果ステロイド外用剤併用下で、16週間トラロキヌマブを投与することで皮膚炎の重症度指標であるEASIが75%減少した患者割合であるEASI75は56.0%でした。これに対し外用薬だけの患者は35.7%でした。トラロキヌマブの適応従来の治療(ステロイド外用剤など)で十分な効果が得られない15歳以上のアトピー性皮膚炎患者トラロキヌマブの用法・用量トラロキヌマブはシリンジ製剤で、初回4本、その後2週間隔で2本を皮下注射します。現段階では在宅自己注射はできません。トラロキヌマブの薬価150mgシリンジ:2万9,295円アドトラーザ皮下注 電子添文(2023年9月改訂(第2版))

2028.

治療抵抗性うつ病患者の自殺リスクに対する衝動性の影響~FACE-DR研究

 自殺は重大な問題である。うつ病患者ではとくに自殺発生率が高いことから、うつ病は自殺関連リスク因子の1つとされている。重度のうつ病患者における自殺企図は、衝動性や制御不能などの症状と関連していると考えられる。しかし、治療抵抗性うつ病における衝動性と自殺リスクとの関連を具体的に調査したデータは、ほとんどない。フランス・トゥールーズ大学病院のJuliette Salles氏らは、治療抵抗性うつ病患者の自殺リスクに対する衝動性の影響を再検討するため、本研究を実施した。その結果、治療抵抗性うつ病患者における衝動性は、自尊心、抑うつ症状、不安への間接的な影響と関連し、自殺リスクに影響を及ぼしている可能性が示唆された。Journal of Affective Disorders誌オンライン版2023年11月20日号の報告。 プロスペクティブコホートとして患者を募集した。自殺リスクの評価には精神疾患構造化面接法、衝動性の評価にはBarratt Impulsiveness Scaleバージョン10を用いた。うつ病の症状重症度、不安症状、小児期虐待の評価には、それぞれモントゴメリー・アスベルグうつ病評価尺度(MADRS)、状態-特性不安尺度(STAI)、Childhood Trauma Questionnaireを用いた。 主な結果は以下のとおり。・対象は、治療抵抗性うつ病患者220例。・衝動性スコアは、自尊心、婚姻状況、職業上の地位、不安との相関が認められたが、自殺リスクとの直接的な関連は認められなかった。・衝動性は、自尊心(係数:-0.24、p=0.043)および抑うつ症状重症度(係数:0、p=0.045)と関連していた。・自殺リスクは、抑うつ症状重症度(係数:0.38、p<0.001)および自尊心(係数:-0.34、p=0.01)との相関が認められた。・これらの相関を考慮すると、衝動性が自殺リスクに及ぼす影響は、抑うつ症状重症との観点からみられる自尊心により媒介される可能性があると仮説が立てられた。最終的に、共変数として重要な影響を来す自尊心や不安を伴う抑うつ症状に影響を与えることで、自殺リスクに間接的に影響を及ぼす衝動性に関連する媒介モデルを発見した。

2029.

猫を飼うと統合失調症などの精神疾患になるのは本当か

 猫の飼育は、統合失調症関連障害および精神病症状様体験(PLE)のリスク修飾因子であるといわれている。この可能性についてオーストラリア・クイーンズランド大学脳研究所のJohn J McGrath氏らの研究グループは、猫の飼育と統合失調症関連の転帰との関係を報告した文献の系統的レビューおよびメタ解析を行った。その結果、猫の飼育(猫への曝露)は広義の統合失調症関連障害のリスク増加との関連を支持するものであった。Schizophrenia Bulletin誌オンライン版2023年12月2日号の報告。猫の飼育と統合失調症関連障害の発症オッズの上昇との関係 方法として、Medline、Embase、CINAHL、Web of Science、および灰色文献のうち1980年1月1日~2023年5月30日の出版物について、地域や言語に関係なく検索。追加論文の検索では後方引用検索法を用いた。研究対象は、猫の飼育と統合失調症関連の転帰に関するオリジナルデータを報告している研究。広義の定義(猫の所有、猫の咬傷、猫との接触)に基づく推定値を、共変量調整の有無にかかわらずメタ解析し、ランダム効果モデルを用いて比較可能な推定値をプールし、バイアスリスク、異質性、研究の質を評価した。 猫の飼育と統合失調症関連障害のリスクとの関連を評価した主な結果は以下のとおり。・1,915件の研究を同定し、そのうち106件をフルテキスト・レビューに選択。最終的に17件の研究を組み入れた。・広義の猫の飼育と統合失調症関連障害の発症オッズの上昇との間に関連が認められた。・調整前のプールされたオッズ比(OR)は2.35(95%信頼区間[CI]:1.38~4.01)であり、調整後のプールされた推定値は2.24(95%CI:1.61~3.12)だった。・PLEアウトカムの推定値は、測定範囲が広いため集計できなかった。 これらの結果からMcGrath氏は「猫への曝露と広義の統合失調症関連障害のリスク増加との関連を支持するものだったが、転帰としてのPLEに関する知見はさまざまだった」と結論付けている。

2030.

18歳未満の家族性高コレステロール血症への診断アプローチは?/Lancet

 世界では毎年約45万例の子供が家族性高コレステロール血症を患って誕生しているが、家族性高コレステロール血症の成人患者のうち、現行の診断アプローチ(成人で観察される臨床的特徴に基づく)により18歳未満で診断されるのは2.1%にすぎないという。英国・インペリアル・カレッジ・ロンドンのKanika Inamdar Dharmayat氏らの研究グループ「European Atherosclerosis Society Familial Hypercholesterolaemia Studies Collaboration」らは、家族性高コレステロール血症ヘテロ接合体(HeFH)の小児・思春期患者の臨床的特性を明らかにする検討を行い、成人で観察される臨床的特徴が小児・思春期患者ではまれで、検出には低比重リポ蛋白コレステロール(LDL-C)値測定と遺伝子検査に依存せざるを得ないことを明らかにした。しかし、世界の医療水準は画一ではないことを踏まえて、「遺伝子検査が利用できない場合は、生後数年間のLDL-C値測定の機会とその数値の使用率を高められれば、現在の有病率と検出率のギャップを縮めることができ、脂質低下薬の併用使用を増やして推奨されるLDL-C目標値を早期に達成できるようになるだろう」と述べている。Lancet誌オンライン版2023年12月12日号掲載の報告。48ヵ国の55レジストリを基に、小児・思春期患者の特性を明らかに 研究グループは2015年10月1日~2021年1月31日に、Familial Hypercholesterolaemia Studies Collaboration(FHSC)レジストリに登録された、HeFHの臨床的または遺伝学的診断を受けた18歳未満の小児・思春期患者を対象に試験を行った。 データは、48ヵ国の55レジストリから収集され、自己申告による家族性高コレステロール血症歴、二次性高コレステロール血症疑いの診断症例は、レジストリから除外した。LDL-C値が13.0mmol/L以上で未治療の症例も除外した。 データは総合的に、またWHO地域、世界銀行による国の所得水準別分類、年齢、診断基準、インデックス・ケース(家族の中で最初に診断された患者)で層別化して評価した。 主要アウトカムは、家族性高コレステロール血症の小児・思春期患者について、現行の患者特性や管理の状況を評価することだった。高所得国と非高所得国で診断格差、脂質低下薬の非服用は72% FHSCレジストリの登録患者数6万3,093例で、そのうち18歳未満のHeFH患者1万1,848例(18.8%)を対象に試験を行った。 性別データが不明だった372例を除く1万1,476例中、女子が5,756例(50.2%)、男子が5,720例(49.8%)だった。登録時の年齢中央値は9.6歳(四分位範囲[IQR]:5.8~13.2)だった。また、遺伝子診断データまたは臨床診断データが得られなかった613例を除く1万1,235例中1万99例(89.9%)が家族性高コレステロール血症と最終的に遺伝子診断で確定診断を受けており、臨床診断による患者は1,136例(10.1%)だった。 遺伝子診断は、高所得国の小児・思春期患者が1万202例中9,427例(92.4%)と、非高所得国の415例中199例(48.0%)に比べ大幅に高率だった。インデックス・ケースは、1万804例のうち3,414例(31.6%)だった。 家族性高コレステロール血症関連の身体的徴候や心血管リスク因子、心血管疾患は全体としてはまれであり、非高所得国でより多く認められた。1万428例の患者のうち7,557例(72.4%)が脂質低下薬を服用しておらず、LDL-C中央値は5.00mmol/L(IQR:4.05~6.08)だった。 遺伝子診断に比べ、家族性高コレステロール血症の臨床基準に基づく診断は、成人向けに設定された基準を用いた場合には、より極端な表現型に依存するため、家族性高コレステロール血症の小児・思春期患者の50~75%が診断されない可能性があった。

2031.

専門用語の発音に慣れよう【学会発表で伝わる!英語スライド&プレゼン術】第29回

専門用語の発音に慣れよう1)YouTubeなどのリソースを活用する2)「YouGlish」で専門用語の発音を確認する3)Podcastで専門用語に慣れておく英語での学会発表や質疑応答をスムーズに行うためには、専門用語の英語に慣れ親しんでおく必要があります。日本で仕事をしていると慣れるのは難しいと感じるかもしれませんが、今ではYoutubeなどにレクチャーや教育的な動画が数多くアップロードされているため、日本にいても学ぶチャンスは十分あるといえます。YouTubeを活用する場合に知っておきたいのは、特定のワードが含まれた動画を無料で検索できる、「YouGlish」というウェブサイトです。発音が難しい専門用語の発音を確認するだけでなく、どういう文脈でその単語が使われているかを確認したり、関連する背景知識を収集したりするためにも役立ちます。使い方ですが、ウェブサイトにアクセスし、検索窓に検索したい単語を入力します〈図1〉。たとえば、“paracentesis”(腹水穿刺)と入力してみましょう。検索する際、アメリカ、イギリス、オーストラリアなど好みの英語のなまりを選ぶこともできますが、とくにこだわりがなければ「All」を選択します。〈図1〉画像を拡大する検索すると、“paracentesis”を含む動画が字幕付きで表示され、単語が使われている少し前の場面から再生されます。再生するスピードは細かく調整できるため、発音を確認したい場合は遅めに設定します。なお、再生される動画の周辺部分を見ることで、“ascites”(腹水)や“catheter”(カテーテル)といった、関連する単語の発音も併せて確認することができます。〈図2〉画像を拡大する専門用語以外にも、自分がプレゼンで使ってみたいけれどなじみのないフレーズを検索すると、実際にどういう文脈やトーンで使用されているのかがわかります。また、いわゆるネットラジオである「Podcast」も専門用語の学習に有効です。スマホアプリで簡単に利用ができ、好きな番組を登録しておくことで手軽に情報収集を行えます。Podcastは日本ではあまり一般的ではないかもしれませんが、米国では医療分野のPodcastがかなり発達しており、ジャンルも幅広く、医療者のリスナーも多くいます。例として、内科医にお勧めのPodcastを〈図3〉にまとめています。〈図3〉「New England Journal of Medicine」のような有名雑誌は、その週に出版された論文のサマリーを流すPodcastを用意している場合が多くあります。「The Curbsiders」は各内科疾患の専門家が登場し、低ナトリウム血症や肺炎といったトピックについてレクチャーしてくれます。また、「The Clinical Problem Solvers」は米国の医学生や研修医が症例プレゼンを行い、指導医と一緒に臨床推論をしていくという番組で、臨床留学を目指す人にはプレゼンの練習に役立つでしょう。ほかにも、外科や産婦人科など、学会が運営している各専門分野のPodcastがたくさんあるので、通勤途中などに習慣的に聴くようにすれば、自身の分野の専門用語にも慣れることができ、学会発表もスムーズに行えるようになるはずです。講師紹介

2032.

第76回 海外で新型コロナJN.1が急増

もう来ないでほしい「波」Unsplashより使用日本で現在流行している新型コロナはオミクロン株のEG.5系統(通称エリス)であり、全体の6~7割くらいがこれです。現在インフルエンザの流行で陰に隠れていますが、水面下で感染が広がりつつあるのではないかという見解が増えてきました。懸念されるのは、諸外国で急激に増えているJN.1です(図)。画像を拡大する図. 世界の新型コロナウイルス変異株流行状況GISAIDに登録された各国からのゲノムデータ報告数と国別流行株(10月30日~11月30日)1)諸外国の感染状況アメリカでは12月中旬で1日約3万人の感染者数が報告されており、入院患者数もじわじわと増えてきている状況です。オミクロン株の変異株であるBA.2.86(通称ピロラ)が台頭していますが、ピロラからさらに派生したJN.1(BA.2.86.1.1)が急速に増えています。一応これもピロラの仲間になるわけですが、ややこしいのでJN.1と呼びます。たとえばオランダでは、現在JN.1が最も流行していますが、下水の新型コロナウイルス量が過去最高を記録しており、感染が相当広がっていることがわかります。そのほか、フランスやイタリアにおいても、JN.1が優勢になった直後に急激な入院増加が観察されています。イタリアはこの1年で最多水準の新型コロナ患者数を記録しています。JN.1は、感染性や免疫逃避能がこれまでの変異ウイルスの中で最も強力であることがわかっています(当然といえば当然なのですが)2)。肺炎が多くないのはこれまでのオミクロン株と同様ですが、数が多いと医療逼迫の懸念が生じます。日本もこの波に飲み込まれるのではないかと考えられます。実際、すぐ近くのシンガポールでは呼吸器系の入院のほとんどがJN.1で占められている状況で、マレーシアでも感染者数が倍増しています。ゆえに、同じ島国である日本が、EG.5系統の流行のみでこの冬を乗り切る可能性は低いと考えられます。JN.1は、XBB.1.5やEG.5系統の感染で成立した免疫や、XBB.1.5ワクチンによる免疫を逃避しやすいことから3)、しばらく人類は、このいたちごっこを続けないといけないのかもしれません。ごく軽症であればもう騒がなくてよいのですが、これまでと同じメカニズムで医療逼迫が起こるなら、インフルエンザと同じように警戒し続ける必要があります。参考文献・参考サイト1)東京都健康安全研究センター:世界の新型コロナウイルス変異株流行状況2)Kaku Y, et al. Virological characteristics of the SARS-CoV-2 JN.1 variant. bioRxiv preprint. 2023 Dec 9. 3)※WHOはXBB.1.5対応ワクチンでJN.1に対しても接種効果ありとコメントしているWHO:Initial Risk Evaluation of JN.1, 19 December 2023

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携帯電話依存症と先延ばし癖の関係~メタ解析

 携帯電話依存症は、学生の先延ばし癖に影響を及ぼす重要な因子として、広く研究されている。しかし、携帯電話依存症と先延ばし癖との相関関係とその影響力は、依然として明らかになっていない。中国・上海大学のXiang Zhou氏らは、学生の携帯電話依存症と先延ばし癖との関係、参加者の個人的特性(教育レベル、性別)、測定ツール、社会的状況要因(出版年、文化)の緩和効果を調査するため、メタ解析を実施した。Journal of Affective Disorders誌2024年2月号の報告。 PubMed、Web of Science、Embase、PsycINFO、China National Knowledge Infrastructure(CNKI)、Wanfang、Weipuよりシステマティックに検索し、適格基準を満たす研究を収集した。メタ解析には、CMA3.0ソフトウェアを用い、緩和効果のテストには、分散メタ解析(ANOVA)を用いた。 主な結果は以下のとおり。・75件の研究、4万8,031例をメタ解析に含めた。・変量効果モデルの総合エフェクトサイズでは、学生における携帯電話依存症と先延ばし癖との有意な正の相関が認められた(r=0.376、95%信頼区間:0.345~0.406)。・教育レベル、性別、文化、携帯電話依存症の測定ツールは、携帯電話依存症と先延ばし癖との関係を有意に緩和した。・この関係は、出版年や先延ばし癖の測定ツールでは緩和されなかった。 著者らは「携帯電話依存症は、学生の先延ばし癖と正の相関がある」とし、「学生では携帯電話依存症の発生率が高く、先延ばし癖の潜在的なリスク因子であることを考慮すると、学生の先延ばし癖を予防するために、携帯電話依存症の特定および介入に注意を払う必要がある」としている。

2034.

尋常性ざ瘡へのisotretinoin、自殺・精神疾患リスクと関連せず

 isotretinoinは、海外では重症の尋常性ざ瘡(にきび)に対して用いられており、本邦では未承認であるが自由診療での処方やインターネット販売で入手が可能である。isotretinoinは、尋常性ざ瘡に対する有効性が示されている一方、自殺やうつ病などさまざまな精神疾患との関連が報告されている。しかし、isotretinoinと精神疾患の関連について、文献によって相反する結果が報告されており、議論の的となっている。そこで、シンガポール国立大学のNicole Kye Wen Tan氏らは、両者の関連を明らかにすることを目的として、システマティック・レビューおよびメタ解析を実施した。その結果、住民レベルではisotretinoin使用と自殺などとの関連はみられず、治療2~4年時点の自殺企図のリスクを低下させる可能性が示された。JAMA Dermatology誌オンライン版2023年11月29日号掲載の報告。 2023年1月24日までにPubMed、Embase、Web of Science、Scopusに登録された文献を検索し、isotretinoin使用者における自殺および精神疾患の絶対リスク、相対リスク、リスク因子を報告している無作為化試験および観察研究に関する文献を抽出した。関連データを逆分散加重メタ解析法により統合し、バイアスリスクはNewcastle-Ottawa Scaleを用いて評価した。メタ回帰分析を行い、不均一性はI2統計量で評価した。 主要アウトカムは、isotretinoin使用者における自殺および精神疾患の絶対リスク(%)、相対リスク(リスク比[RR])、リスク因子であった。 主な結果は以下のとおり。・システマティック・レビューにより、合計25研究(162万5,891例)が特定され、そのうち24研究がメタ解析に含まれた。・全25件が観察研究で、内訳は前向きコホート研究10件、後ろ向きコホート研究13件、ケースクロスオーバー研究1件、ケースコントロール研究1件であった。各研究の対象患者の平均年齢の範囲は16~38歳、男性の割合は0~100%であった。・1年絶対リスクは、自殺既遂0.07%(95%信頼区間[CI]:0.02~0.31、I2=91%、対象:7研究8コホートの78万6,498例)、自殺企図0.14%(同:0.04~0.49、I2=99%、7研究88万5,925例)、自殺念慮0.47%(同:0.07~3.12、I2=100%、5研究52万773例)、自傷行為0.35%(同:0.29~0.42、I2=0%、2研究3万2,805例)であったのに対し、うつ病は3.83%(同:2.45~5.93、I2=77%、11研究8万485例)であった。・isotretinoin使用者は、非使用者と比べて自殺企図のリスクが、治療2年時点(RR:0.92、95%CI:0.84~1.00、I2=0%)、3年時点(同:0.86、0.77~0.95、I2=0%)、4年時点(同:0.85、0.72~1.00、I2=23%)のいずれにおいても低い傾向がみられた(いずれも対象は2研究44万9,570例)。・isotretinoin使用と全精神疾患との関連はみられなかった(RR:1.08、95%CI:0.99~1.19、I2=0%、対象:4研究5万9,247例)。・試験レベルのメタ回帰分析において、高齢であるほどうつ病の1年絶対リスクが低い傾向にあった。一方、男性は自殺既遂の1年絶対リスクが高い傾向にあった。 著者は、「今回の所見は心強いものだが、引き続き臨床医は統合的な精神皮膚科ケア(holistic psychodermatologic care)を実践し、isotretinoin治療中に精神的ストレスの徴候がみられないか観察する必要がある」とまとめている。

2035.

動物病院での猫の不安を軽減する薬を米FDAが承認

 猫を飼っている人なら、猫を獣医師のもとへ連れていくことが猫と飼い主の双方にとっていかにストレスとなるかを経験的によく知っているだろう。米食品医薬品局(FDA)は11月17日、このような猫の不安を軽減する新薬を承認したことを発表した。FDAは、Bonqatと呼ばれるこの抗不安薬は、「移動中や動物病院での診察時に猫が感じる不安や恐怖を和らげるように設計されている」とニュースリリースで説明している。 Bonqatは、過活動状態にある神経を鎮める薬物であるプレガバリンを含む、初のFDA承認薬だ。FDAの説明によると、同薬は、猫を連れて移動するか、または動物病院で診察を受ける1時間半ほど前に経口投与すればよい。投与は2日間連続で可能である。 米VCA動物病院の情報によると、猫の中には、行き先を問わず、移動中に重度の不安を感じたり、ひどい乗り物酔いを起こす個体がいる。そのような猫には、ニャーニャーと鳴く、唇を鳴らす、よだれを垂らすといったものから、ストレスによる乗り物酔いで排尿や排便を起こすものまで、さまざまな症状が現れる。 Bonqatは、この薬を製造するフィンランドのOrion社が実施した実地調査の結果に基づき承認された。試験では、動物病院を受診した際に恐怖や不安を感じたことのある猫の飼い主に、5〜10日の間に2回に分けて猫を診察のために動物病院に連れてくるよう依頼した。初回は、治療前に試験に登録するためのスクリーニング訪問とし、2回目の訪問時には、訪問に先立ち、Bonqatまたはプラセボが猫に投与された。移動中の猫の不安や恐怖は飼い主が、身体診察中の猫の不安や恐怖は獣医師が評価した。 その結果、Bonqatを投与された猫(108匹)の半数強は移動中と動物病院受診中の両方で良好、または優れた反応を示したのに対して、プラセボを投与されたネコ(101匹)では、その割合が約3分の1にとどまったことが明らかになった。さらに、2回の診察の間に恐怖と不安のレベルに改善が認められたのは、Bonqatを投与された猫では77%(83匹)であったのに対し、プラセボを投与された猫では46%(46匹)にとどまっていた。Bonqatの投与により生じた副作用は、軽度の鎮静、運動失調、嗜眠などであった。 FDAは、Bonqatは、人が誤用する可能性があるため、資格を有する獣医師の処方を通じてのみ入手可能と述べている。また、製品を安全に使用するためには、正確な投与量や適切な投与方法などに関する医師の専門知識と監視が必要だとしている。FDAはまた、猫の飼い主に対しても、「薬剤が人の皮膚や目、その他の粘膜に触れないように気を付けるなど、薬の取り扱いに注意する必要がある」と注意喚起している。

2036.

RNA干渉治療薬パチシランはトランスサイレチン型心アミロイドーシス患者の12ヵ月時の機能的能力を維持したが全死因死亡や心血管イベントは低下しなかった(解説:原田和昌氏)

 ATTR心アミロイドーシスは、トランスサイレチンがアミロイド線維として心臓、神経、消化管、筋骨格組織に沈着することで引き起こされる疾患で、心臓への沈着により心筋症が進行する。パチシランは、脂質ナノ粒子に封入されたsiRNAの静脈注射剤で、RNA干渉により肝臓におけるトランスサイレチンの産生を抑制する。2019年にパチシラン(商品名:オンパットロ)は、APOLLO試験の結果に基づき、トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチーの適応を取得している。 米国・コロンビア大学アービング医療センターのMaurer氏らは国際共同無作為化二重盲検プラセボ対照第III相試験(APOLLO-B試験)において、パチシランがATTR心アミロイドーシス患者の12ヵ月時の機能的能力を維持すると報告した。360例がパチシラン群(181例)およびプラセボ群(179例)に無作為に割り付けられ、3週に1回12ヵ月間静脈内投与された。タファミジスのATTR-ACT試験ではNYHA III度の患者が30%以上含まれていたのに対して、本試験では8%程度で、NYHA II度が中心であった。ATTR-ACT試験の層別解析でNYHA III度の有効性が示されなかったことと、プラセボ群とタファミジス群の生存曲線の乖離が18ヵ月後以降であったことを踏まえ、早期診断による早期治療を目指した試験である。 ベースラインから12ヵ月時の6分間歩行距離における、プラセボ群とパチシラン群の変化量の差は14.69mで、KCCQ-OSスコアの最小二乗平均差は3.7ポイントであった。両群の治療効果の差は有意ではあったが、2指標ともあまり意味のある差ではなかった。KCCQ-OSスコアがパチシラン群ではベースラインから増加したというが、軽症例への早期投与であり、その後も効果が継続するかは明らかでない。また、全死因死亡、心血管イベントおよび6分間歩行距離の変化の複合は、両群間に有意差は認められなかった。有害事象は注入に伴う反応、関節痛および筋痙縮であった。 ATTR心アミロイドーシスの早期診断による、より早期の治療を目指した試験であり最短で有意差を出したが、結果を手放しで受け止めるのはまだ早いように思われる。RNA干渉治療は大手製薬企業が手を引いた後にバイオテクノロジー企業Alnylam(アルナイラム)が研究を進めたという経緯があり、こうした技術開発を応援する論文であるとも言えよう。ちなみにAlnylamはアンジオテンシノーゲンに対するRNA干渉による降圧治療薬の第II相試験にも成功している。

2037.

腎移植患者に対する帯状疱疹ワクチン接種の推奨/日本臨床腎移植学会

 日本臨床腎移植学会は、2023年11月7日付の「腎移植患者における帯状疱疹予防に関するお知らせ」にて、腎移植患者に対する帯状疱疹発症予防のための乾燥組換え帯状疱疹ワクチン(商品名:シングリックス筋注用、製造販売元:グラクソ・スミスクライン)の接種を積極的に検討するよう同学会の会員に向けて通達した。 米国疾病予防管理センター(CDC)の勧告や海外の最新のガイドラインにおいて、固形臓器移植患者に対するワクチンの接種は、原則、移植前に接種するよう推奨されており、移植前にワクチン接種が不可能な場合は、移植後少なくとも6~12ヵ月後に接種することが望ましいとされている1,2)。 2023年6月に本ワクチンの適応が「帯状疱疹に罹患するリスクが高いと考えられる18歳以上の者」へ拡大された。本ワクチンは、50歳以上を対象とした臨床試験において、2回の接種による帯状疱疹への高い予防効果と、約10年間にわたる予防効果の持続が確認されている3-5)。 接種対象者拡大の追加承認は、腎移植患者や自家造血幹細胞移植患者における臨床試験結果6,7)に基づいており、本ワクチンは不活化ワクチンのため生ワクチンが禁忌となる免疫抑制剤使用中の患者でも接種が可能とされる。現時点で、腎移植患者における帯状疱疹発症予防を検証したデータはないが、腎移植患者を対象とした臨床試験6)において免疫原性が確認されている。問題となる副反応や、拒絶反応を増加させる報告はない。また、同学会は通達の中で、自家造血幹細胞移植患者を対象とした臨床試験7)で検証された予防効果(約2年間の観察期間において68.2%)は、腎移植患者においても参考になりうるデータと考えている、としている。■参考文献・参考サイト1)CDC, Clinical Considerations for Use of Recombinant Zoster Vaccine (RZV, Shingrix) in Immunocompromised Adults Aged ≧19 Years. Last Reviewed: January 20, 2022.2)カナダ・アルバータ州予防接種方針|予防接種の特別な状況(2023年12月4日改訂)3)Lal H, et al. N Engl J Med. 2015;372:2087-2096.4)Cunningham AL, et al. N Engl J Med. 2016;375:1019-1032.5)Strezova A, et al. Open Forum Infect Dis. 2022;9:ofac485.6)Vink P, et al. Clin Infect Dis. 2020;70:181-190.7)Bastidas A, et al. JAMA. 2019;322:123-133.

2038.

小児の消化管アレルギー患者の約半数は新生児期に発症/国立成育医療研究センター

 新生児、小児では消化管は発達途上であり、アレルギーを発症しやすいことが知られている。一方でわが国には、新生児、乳児の消化管アレルギーについて全国を対象にした疫学研究は行われていなかった。そこで、国立成育医療研究センター研究所 好酸球性消化管疾患研究室の鈴木 啓子氏らの研究グループは、日本で初めて2歳未満の新生児、乳児の消化管アレルギー(食物蛋白誘発胃腸症)に関する全国疫学調査を実施。その結果、新生児、乳児の消化管アレルギーの約半数は生後1ヵ月までの新生児期に発症していることが判明した。Allergology International誌オンライン版2023年10月30日号からの報告。消化管アレルギーの原因食物の1位は牛乳由来ミルク 鈴木氏らは、2015年4月~2016年3月に消化管アレルギーを発症した2歳未満の新生児、乳児の患者について、日本全国の病院および診療所に質問票を送付(アンケート回答率は病院67.6%、診療所47.4%)。医師が診断した2歳未満の消化管アレルギーの患者数、パウエルの診断基準への該当状況、初期症状に基づき4つのグループへの分類、発症日齢、合併症、原因食物について集計、解析した。 分析対象はパウエルの基準のステップ3までを満たした「本症の可能性が高い」患者群402例と、そのうち「経口食物負荷試験などで診断が確定した」患者群80例。 主な結果は以下のとおり。・新生児、乳児の消化管アレルギー患者の約半数は新生児期に発症している(発症の中央値が生後30日)ことが確認された。・グループ1(嘔吐あり、血便あり)の発症は出生後7日目(中央値)と、4つのグループの中で最も早いことが確認された。・グループ1(嘔吐あり、血便あり)とグループ3(嘔吐なし、血便なし、一方で慢性下痢や体重増加不良を起こす)は重症が多く(それぞれ約25%と約23%)、腸閉塞(それぞれ約16%と約11%)、深刻な体重減少(それぞれ約14%と約23%)などもみられ、とくに注意が必要と考えられた。・原因食物は牛乳由来ミルクが最も多くみられたが、母乳、治療用ミルク、大豆、鶏卵、米により発症した患者もいた。 本結果から、胎児期および新生児期における早期診断のシステム構築、病態の研究が重要と考えられる。

2039.

コーヒーや炭酸飲料、潰瘍性大腸炎リスクを減少/日本人での研究

 食事は潰瘍性大腸炎リスクに影響する可能性があるが、日本人でのエビデンスは乏しい。今回、日本潰瘍性大腸炎研究グループが、コーヒーやその他のカフェインを含む飲料・食品の摂取、カフェインの総摂取量と潰瘍性大腸炎リスクとの関連を症例対照研究で検討した。その結果、欧米よりコーヒーの摂取量が少ない日本においても、コーヒーやカフェインの摂取が潰瘍性大腸炎リスクの低下と関連することが示された。愛媛大学の田中 景子氏らがJournal of Gastroenterology and Hepatology誌オンライン版2023年12月10日号で報告。 本研究では、潰瘍性大腸炎の症例群として384人、対照群として665人が参加した。コーヒー、カフェインレスコーヒー、紅茶、緑茶、ウーロン茶、炭酸飲料、チョコレート菓子の摂取量について半定量的食物摂取頻度調査票を用いて調査し、性別、年齢、喫煙、飲酒量、虫垂炎既往、潰瘍性大腸炎の家族歴、学歴、BMI、ビタミンC、レチノール、総エネルギー摂取量で調整した。なお、本研究は厚生労働科学研究費補助金の「潰瘍性大腸炎の発症関連及び予防要因解明を目的とした症例対照研究」班として実施された。 主な結果は以下のとおり。・コーヒーと炭酸飲料の摂取量が多いほど潰瘍性大腸炎リスクが減少し、有意な用量反応関係が認められた。一方、チョコレート菓子の摂取量が多いほど潰瘍性大腸炎リスクが有意に高かった。・カフェインレスコーヒー、紅茶、緑茶、ウーロン茶の摂取量と潰瘍性大腸炎リスクとの関連は認められなかった。・カフェインの総摂取量は潰瘍性大腸炎リスクと逆相関し、両極の四分位間の調整オッズ比は0.44(95%信頼区間:0.29~0.67)であった。

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LVADにおいても抗血栓療法の常識を疑う時代(解説:絹川弘一郎氏)

 最近ステントの抗血栓療法について、相次いでDAPTの常識が緩和される方向にデータが出てきている。その流れはLVADにも及んできた。このMandeep R. Mehra氏のJAMA誌の論文は、HeartMate3新規植込み患者において通常の抗血栓療法(ワルファリン[INR:2~3]と低用量アスピリン)とアスピリンなしの抗血栓療法(ワルファリン[INR:2~3]とプラセボ)をダブルブラインドで割り付けし、その後の有害事象フリーの生存率をprimary endpointとして12ヵ月間比較したものである。ここで言う有害事象は、LVADの場合、とくにhemocompatibility-related adverse eventと呼ばれ、脳卒中・ポンプ血栓・大出血・末梢塞栓症が含まれる。 そもそも前世代のHeartMate IIとHeartMate3を比較した MOMENTUM3試験で、HeartMate3のポンプ血栓はほとんどゼロの発症率であり、おそらくポンプ内血栓に起因すると考えられる脳卒中も激減していた。出血の中でもLVAD特有の合併症として知られる消化管出血(Angiopoietin-2活性化からくる血管新生による動静脈奇形などが原因とされるが、その限りではない)も減っており、HeartMate3のポンプ構造自体が進化したことがhemocompatibilityを増加させ、俗な言い方であるが、血球や凝固因子にfriendlyになったとも考えられてきた。その中で、ここまでポンプ血栓が生じないなら、抗血栓療法を甘くしてもいいのではないかと考えるのは必然であり、また依然としてHeartMate3でも一定の消化管出血は生じることから、アスピリンを除外したレシピが望まれたことも当然である。 もともと抗血小板薬は速い血流を有する動脈性の血栓予防に対する薬剤であり、LVADの中の血流は静脈系よりは速いものの、真に動脈系かというと微妙である。結論から言えば、アスピリンなしでも脳卒中や塞栓症はまったく増えず、大出血は有意に減少した。 Primary endpointは優越性検定をするとp=0.03でアスピリンなし群が優れているのだが、もともと非劣性試験として計画された関係上、一応アスピリンなしでも大丈夫ですよ、という言い方しかできないが、結果を見ればむしろアスピリンは切るべきといえる。試験プロトコルに忠実な姿勢ならばアスピリンフリーのレジメンで良いのは新規植込み患者においての話と限定的に捉えることもできるが、消化管出血をすでに合併した患者において日常臨床においてアスピリンをやめて管理している例は、実際は多いかと思われる。私自身は少なくとも出血の合併症を生じた場合には、遠隔期においてもアスピリンを中止することがむしろ望ましいと読める結果と解釈する。 Mandeep氏に聞いたところ、彼の属するBrigham & Women’s Hospitalには、かのEugene Braunwald先生が健在で週に1~2回話をするそうであるが、この結果を見てBraunwald先生は、「世の中にはエキスパートコンセンサスといって、検証されずになんとなく入っている薬剤が、まだたくさんある。ぜひそういう事例を見つけて、どんどん検証試験をやってほしい」と言われたそうである。Braunwald先生には何かしら念頭にあるんでしょう。私たちも探しましょう、そういう都市伝説的な薬剤使用を。

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