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英語で「異なるケアレベルに移行する」は?【1分★医療英語】第153回

第153回 英語で「異なるケアレベルに移行する」は?《例文1》The patient has stabilized, so we are transitioning him to an alternate level of care.(患者の状態が安定したので、異なるケアレベルに移行します)《例文2》We need to discuss an ALOC option for Mrs. Johnson as she no longer requires acute hospital care.(ジョンソン夫人はもはや急性期の入院治療を必要としないので、ALOCの選択肢について話し合う必要があります)《解説》“We are transitioning him/her to an alternate level of care.”という表現は、患者のケアレベルを変更する際に使用される医療用語です。この文脈での“alternate level of care”とは、「現在の治療レベルとは異なる、より適切なケアレベルへの移行」を意味します。急性期病院でこの言葉を使う場合は、「患者が安定し、急性期治療が必要な状態を脱したために退院を待つフェーズに入った」ことを意味します。“alternate level of care”は略して“ALOC”とも呼ばれます。この概念は、患者の医療ニーズに適したケアを提供し、医療資源を効率的に利用するために、病院システム内で患者のケアレベルを適切に変更することを目的としています。“ALOC”は、急性期病院から亜急性期施設、リハビリテーション施設、長期療養型施設、在宅ケアなど、さまざまなレベルのケアへの変更を意味する可能性がありますが、一般的には急性期病院内で退院待機の間にケアのレベルを下げ、1日おきに診療するようなレベルへの変更を意図する際に用いられます。日本ではあまりなじみがないものかもしれません。医療現場では、患者の状態や利用可能な医療資源に応じて、適切なケアレベルを選択することが重要です。“alternate level of care”や“ALOC”を適切に使用することで、より効果的な患者ケアとリソース管理が可能になります。米国の臨床現場ではよく耳にする言葉として紹介しました。講師紹介

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第214回 美容医療のトラブル増加、専門医資格の有無など報告義務化へ/厚労省

<先週の動き>1.美容医療のトラブル増加、専門医資格の有無など報告義務化へ/厚労省2.かかりつけ医機能報告制度、2026年夏から公表開始へ/厚労省3.新たな地域医療構想、急性期病院の集約化と外来医療の確保が課題に/厚労省4.2022年度、国民医療費46兆円超と過去最大、高齢化とコロナで増加/厚労省5.救急搬送で選定療養費徴収へ 軽症者増加で救急医療ひっ迫/茨城県6.新学長に山中 寿氏 不透明資金問題で理事ら総辞職/東京女子医大1.美容医療のトラブル増加、専門医資格の有無など報告義務化へ/厚労省美容医療に関するトラブルが増加していることを受け、厚生労働省は10月18日に「美容医療の適切な実施に関する検討会」を開き、医療機関に対し、安全管理状況の定期報告を義務付ける案を提示した。厚労省案では、美容医療などを行っている病院やクリニックに対し、安全管理状況を年1回、自治体に報告することを義務付ける事項などを検討した。国民生活センターなどへの美容医療に関する相談件数は、2023年度に5,507件と5年間で3倍以上に増加している。おもな相談内容は、皮膚障害などの健康被害や料金に関するものが多く、中には、カウンセラーや受付スタッフが施術を行っていたというケースも報告されている。このほか、医療機関に対して行った実態調査の結果、施術技術に関する研修や、施術後の管理についてのルールがないと回答した医療機関が多く、とくに麻酔下施術を行う医師に対する麻酔・全身管理に関する研修がないと回答した医療機関は60%を超えていた。こうした現状を受け、厚労省は報告の義務化を打ち出した。具体的には、専門医資格の有無や、副作用などの問題が起きた場合の相談窓口などを報告し、自治体がその内容を公表するとしている。また、検討会では、医療機関が遵守すべき法令や、医療事故発生時の対応などをまとめたガイドライン策定の必要性も議論された。さらに、保健所による立ち入り検査の法的根拠を明確化し、指導を強化する方針も示された。厚労省は、年内にも新たな対策をまとめる方針。参考1)第3回美容医療の適切な実施に関する検討会(厚労省)2)美容医療、安全管理体制報告・公表を検討 都道府県に年1回、厚労省案(CB news)3)美容医療 “受付スタッフが施術”のケースも 厚労省の被害調査(NHK)4)美容医療、安全管理状況の報告義務を議論 厚労省検討会、健康被害やトラブル増加(産経新聞)2.かかりつけ医機能報告制度、2026年夏から公表開始へ/厚労省厚生労働省は10月18日、自治体向け説明会を開催し、2025年4月から始まる「かかりつけ医機能報告制度」の詳細を明らかにした。この制度は、慢性疾患を持つ高齢者など地域住民が、身近な医療機関で継続的な医療を受けられる体制を強化することを目的としている。対象となるのは、特定機能病院と歯科医療機関を除くすべての医療機関。医療機関は「日常的な診療を総合的・継続的に行う機能」の有無や、時間外診療、入院・退院支援、在宅医療、介護との連携といった機能の提供状況を、毎年都道府県に報告する必要がある。初回の報告は2026年1~3月に行われ、都道府県は報告内容を確認した上で、2026年夏頃から順次公表する予定としている。報告された情報は、地域の関係者による協議の場で活用され、地域のかかりつけ医機能確保に向けた具体的な方策が検討される。そのため協議には、地域の実情に精通したキーパーソンを参加させることが重要となる。厚労省は、この制度を通じて、地域医療の充実と住民の健康増進に繋がることに期待を寄せている。参考1)かかりつけ医機能報告制度に係る第1回自治体向け説明会 資料(厚労省)2)「かかりつけ医機能」報告結果、26年夏ごろから公表 都道府県が順次(CB news)3.新たな地域医療構想、急性期病院の集約化と外来医療の確保が課題に/厚労省厚生労働省は、2040年頃を見据えた新たな地域医療構想の策定に向けて検討会で議論を進めている。10月17日に「新たな地域医療構想等に関する検討会」を開き、医療機関の機能分化と外来医療の確保について討論した。2040年までに高齢化の進展によって、医療需要は増加する一方、医療従事者の確保は困難になることが予想されている。とくに、救急医療や手術など高度な医療を提供する急性期病院においては、質の高い医療を提供し続けるために、一定の症例数を確保することが重要となる。検討会では、急性期病院の機能を明確化し、医療の質やマンパワー確保の観点から、都道府県への報告に当たり、一定の基準を設けることが提案された。具体的には、救急搬送の受け入れ件数や高度手術の実施件数などを基準とする案が示された。しかし、急性期病院の集約化は、一部病院の急性期からの撤退を意味し、病院経営や地域住民の医療アクセスへの影響も懸念されている。この課題を解決しつつ、地域の実情に応じた集約化を進めることが求められる。さらに2040年には、診療所医師の高齢化や医師不足により、診療所のない市区町村が342ヵ所に増加する可能性が指摘されている。地域住民が身近な場所で医療を受けられるよう、外来医療の確保も重要な課題となっている。また、検討会では、かかりつけ医機能を持つ医療機関と、紹介受診重点医療機関との連携強化、地域医療の確保、医療資源の有効活用などが議論された。具体的には、オンライン診療を含む遠隔医療の活用、医師派遣、巡回診療、診療所と病院の連携などが提案された。厚労省は、これらの議論を踏まえ、年内に新たな地域医療構想の大枠をまとめる予定。参考1)第10回 新たな地域医療構想等に関する検討会(厚労省)2)新たな地域医療構想、病院機能を【急性期病院】と報告できる病院を医療内容や病院数等で絞り込み、集約化促す-新地域医療構想検討会(Gem Med)3)265市区町村で診療所なくなる可能性、40年までに 医師が75歳で引退なら、厚労省集計(CB news)4.2022年度、国民医療費46兆円超と過去最大に/厚労省2022年度の国民医療費は、過去最大の46兆6,967億円に達したことが明らかになった。高齢化の進展に加え、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、前年度比3.7%増と大幅な伸びとなった。厚生労働省が10月11日に発表した「国民医療費の概況」によると、1人当たり医療費は37万3,700円。65歳以上は1人当たり77万5千円と、医療費全体の6割以上を占めていた。医療費の財源は、国民や企業が負担する保険料が約半分、公費が約4割、患者の自己負担が約1割。高齢化による医療費増加や団塊の世代の後期高齢者入りにより、75歳以上の医療費が増加傾向にあった。また、1人当たり医療費は、最高額の高知県と最低額の埼玉県で1.44倍の格差があり、依然として地域間での偏りがみられている。高齢者の医療費の伸びは、65歳未満と比べて低い水準に抑えられており、後発医薬品の使用促進などの効果と考えられる。一方、がん医療費は、65歳未満、65歳以上ともに、シェアは減少していたが、コロナの影響で検診などが控えられた可能性があるため、今後の高齢化の進行とともに新しい技術導入などで増加も予想されている。今後の課題としては、高齢化の進展に伴う医療費増加への対応、地域格差の解消、医療費の適正化などが挙げられている。参考1)「令和4(2022)年度 国民医療費」を公表します-46兆6,967億円、人口一人当たり37万3,700円-(厚労省)2)22年度の医療費、46兆円超 過去最大、コロナも影響(共同通信)5.救急搬送で選定療養費徴収へ 軽症者増加で救急医療ひっ迫/茨城県茨城県は、救急搬送件数の増加と軽症者の利用による救急医療現場のひっ迫を受け、2024年12月2日から救急搬送における選定療養費の徴収を開始すると発表した。救急車で搬送された患者のうち、救急要請時の緊急性が低いと判断された場合の搬送が対象となる。具体的には、軽度の切り傷や擦り傷、微熱のみ、風邪の症状のみなどが該当する可能性があるが、意識障害や痙攣、大量出血を伴う怪我などは、これまで通り緊急性が高いと判断される。選定療養費は、紹介状を持たずに大病院を受診する際に患者側が負担する。今回の制度見直しにより、救急搬送であっても、緊急性が低いと判断された場合には、この選定療養費が徴収されることになる。対象となる病院は、県内22病院で、金額は病院によって異なる。県は、この制度導入により、軽症者の安易な救急車利用を抑制し、重症患者の搬送を優先することで、救急医療体制の確保を目指す。なお、緊急性の判断に迷う場合は、「茨城県救急電話相談」(#7119または#8000)に相談するよう呼びかけている。参考1)救急搬送における選定療養費の徴収について(茨城県)2)茨城県、12月に救急搬送時の選定療養費徴収を開始、独自の工夫でデメリット解消を目指す(日経メディカル)3)救急搬送時の「選定療養費」県が大規模病院ごとの徴収額公表(NHK)6.新学長に山中 寿氏 不透明資金問題で理事ら総辞職/東京女子医大東京女子医科大学は、同窓会組織を巡る不透明な資金の動きがあった問題で、ガバナンス機能不全の責任を取り、理事会の全理事と監事が辞任したと発表した。新たに選任された学長は、国際医療福祉大学の山中 寿教授(70)で、就任日は10月23日。山中氏は、1983~2018年まで女子医大に在籍しており、臨床と研究両面で高い実績を上げていた。選考委員会は、山中氏を「学長にふさわしい」と判断し、全会一致で選出した。女子医大では、同窓会組織の一般社団法人「至誠会」を巡る不透明な資金の動きが発覚し、当時の理事長だった岩本 絹子氏が今年8月に解任されており、今回の理事・監事の総辞職と新学長の選任は、この問題を受けた組織改革の一環とみられている。参考1)新生東京女子医科大学のための学長候補者の選考報告について(東京女子医大)2)東京女子医大の全理事・幹事11人が寄付金問題で引責辞任、新学長に国際医療福祉大の山中寿教授(読売新聞)3)東京女子医大、理事ら辞任 新学長選任、不透明資金で(東京新聞)

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患者と家族の要望が対立―どのように治療方針を決める?【こんなときどうする?高齢者診療】第6回

CareNeTVスクール「Dr.樋口の老年医学オンラインサロン」で2024年9月に扱ったテーマ「意思決定に関わる”もやもや“とどう付き合う?」から、高齢者診療に役立つトピックをお届けします。高齢者診療では、積極的治療の差し控えや中止といった選択を迫られる場面が必ず訪れます。そのような厳しい決断に直面する中で、「これでよかったのだろうか?」と、言葉にできない感情を抱えた経験は誰しもが持つものだと思います。こうした状況で、患者や家族と共に最良の選択を見つけるために、老年医学の型「5つのM」の4つめ「Matters Most大切なこと」を扱います。75歳女性。進行性の大腸がんで在宅療養中。訪問診療と在宅看護で定期的なケアを行っている。疼痛や呼吸苦などの症状が悪化してきているが、本人は可能な限り自宅での生活を希望している。しかし夫を含めた家族は、ケア負担が増加していることや、夫自身の体調に不安が出始めていることを理由に、患者の施設入所を検討したいと考えている。このケースのように、患者の病状と家族のケアキャパシティ(ケア・介護能力や体力・精神的余裕)が同時に変化している状況で、患者と家族の希望が異なることは珍しくありません。どのように落としどころを見つけるのか見ていきましょう。事前指示では不十分!ACPの本当の意味―たとえば「何かあったときに挿管はしないでください」といった事前指示だけでは、いざその場に立ち合ったときに「これでよかったのか?」と悩むことになるかもしれません。なぜなら、事前指示をした時点と実際に決断をする時点では、患者や家族の状況が変わっていることが多いからです。医療・ケアの現場で本当に求められるのは、予後を予想し、情報を共有しながら患者・家族の価値観を掘り下げ、ケアプランを患者と医療者が協力して紡いでいくACP(アドバンスドケアプランニング)です。このACPの目的は、患者が希望することの背景にある価値観を知ること。価値観を知ることが、状況が変わった場合でも患者の意図に沿った支援を提供するための基盤となります。事前指示そのものが「ダメ」なのではなく、それだけでは不十分であるという点を押さえておきましょう。ACPが勧められる3つのシチュエーションACPの時間を持つことを勧めるタイミングはおもに3つあります。まずは患者が健康なとき、次に重大な病にかかった際、そして予後が短いと感じたときです。まず、患者が健康なときを考えてみましょう。この時期は、患者と家族が時間に追われることなく価値観を共有し始めるよいタイミングです。また、患者自身が判断できなくなった場合に誰に代わりに判断してほしいかをあらかじめ考えておくと、後の話し合いも円滑に進められます。次に、命にかかわる疾患に罹患し、それが進行している段階です。この段階では、将来の選択肢について具体的に話し合い、患者の価値観を再確認することが重要です。最後に余命1年以内と予想される場合。この時期は、患者がこれからどのようなケアや治療を望むのか、再度価値観を明確にするのに適したタイミングです。こうしたタイミングで役立つコミュニケーションの型はいくつかありますが、今回のケースのように状況が変化したときにおすすめのものをひとつご紹介します。協働意思決定の型―REMAPたとえば、ステージIのがんに転移が見つかりステージIVと診断し直されたとします。つまり完治の可能性がなくなるという事実です。完治する見込みだったものが完治しないとわかったとき、病状を「完治する」から「完治しない」という新しい枠組みで捉え直すことが必要です。この変化を関係者全員が共有できていないと、患者が大切にしたいことや治療に求めることを正確に理解することができないからです。REMAPは前提条件が変わったときに、新しい枠組みで捉えなおすことを助けるフレーム。これを使うと、状況の変化によって新しく生じた患者・家族の「大切なこと」を理解し、それに沿った治療やケアの提案することができるようになります。具体的な手順をみていきましょう。(1)Reframe状況の変化を伝える(2)Expect emotion感情に対応する(3)Map重要な価値観を掘り下げる(4)Align価値観に基づいた治療ゴールの確認(5)Plan具体的な治療計画を立てるまず、Reframeで状況の変化を伝えます。これには、ニュースのヘッドラインのようにシンプルで的確な一文を使うと効果的です。状況が変われば、患者に必ず感情が伴います。この感情に対応するために、NURSE1)などの手法を使って感情に寄り添い、サポートします。医療者は正しい医学的情報を伝えれば患者に十分伝わると誤解しがちですが、感情に寄り添わないと、どんなに正確な情報でも患者には届きません。感情に対応するExpect emotionは、とても大切なプロセスです。次にMapの段階で患者の価値観を探ります。たとえば予後が3年から3ヵ月になった場合、やりたいこと、会いたい人、時間の使い方などが変わることがあります。新しい状況で新たに気付いた価値観を丁寧に引き出します。そして、その価値観をもとに治療の提案をするAlignを行い、最後にPlanで具体的な治療計画を立てます。今回のケースでは、もともと「可能な限り痛みを管理しながら自宅で過ごす」という当初の計画から、家族の負担が増し「自宅での生活が難しくなるかもしれない」という状況に変わりました。この状況の変更を伝えた後、患者にはさまざまな感情が生じるでしょう。その際、感情に寄り添うことで、患者が感じている不安や葛藤に共感しやすくなり、価値観を丁寧に引き出すことができるようになるでしょう。それに基づいた治療やケアの提案をすることが重要です。事前にExpect EmotionやMapのプロセスを想像しておくことで、患者や家族との話し合いによりよい準備をもって臨むことで、さらによい支援が可能となります。ぜひ皆さんの現場でも役立ててみてください! オンラインサロンではもやもや症例検討会を実施オンラインセッションでは、メンバーが体験した意思決定に関するもやもや症例を取り上げています。人工透析を拒否していた患者が専門病院入院を機に透析を導入して帰ってきたケース、認知症が進行して本人の希望とは異なる施設入所に至ったケース。それぞれでもやもやしたポイント、専門医とジェネラリストの思考パターンの違いなど、意思決定に関するさまざまなトピックをお話いただいています。参考1)樋口雅也ほか.あめいろぐ高齢者診療. 181-182.2020. 丸善出版

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第233回 各党の迷走ぶりをみる、衆院解散総選挙に向けた公約とは

さてさて、自民党総裁選が終わり、石破 茂氏が総裁に就任。そのまま首相になった途端、衆院解散総選挙となった。となれば、人気のないテーマとわかりつつも、毎度お馴染み各党の政策とそれに対する独断と偏見に基づく所感を書かないわけにはいかない。いやはや短期間でこれほど政治のことに触れなければならなくなるなど、まったく思っていなかった。毎度のごとく現在衆院に議席を有する国政政党に限定して取り上げていきたい。もっとも議席順や五十音順だとなかなかにバランスを欠く配置となるため、勝手ながら今回は各政党の議席順の奇数順位と偶数順位に分けたい。まずは奇数順である。自民党(1位:258議席)首相就任以来、言動がブレブレと言われる石破 茂氏。今回の選挙で自民党は「2024年政権公約」を公表した。これがどのようなものか、以前取り上げた石破氏の総裁選での公約との比較も交えて取り上げてみたい。総裁選時の石破氏の政策は「5つの『守る』」だったが、同じ「守る」を使いながら今回の自民党としての公約は6つに増えている。社会保障、医療・介護関連は、まず2番目の「暮らしを守る」に登場する。ここで社会保障の項目に記述してある内容(文意は変えずに一部改変)は年金を除くと以下の2点である。全ての世代が安心でき、能力に応じて支える、持続可能な全世代型社会保障の構築予防・健康づくりを強化し健康活躍社会を創る。女性の健康支援の総合対策、がん、循環器病、難病、移植医療、依存症等への対策を推進。食品の安全を確保し、公衆衛生の向上を図る観点からも生活衛生業を振興。感染症危機管理体制を整備。一番目は総裁選時の「従来の家族モデルを前提とした社会保障の在り方を脱却し、多様な人生の在り方、多様な人生の選択肢を実現できる柔軟な制度設計を行います」がやや言葉が丸くなった感じである。この辺は選択的夫婦別姓に関して従来は「選択なのだから反対する理由がない」から、首相就任後に「国民の間にさまざまな意見があり、政府としては、国民各層の意見や国会における議論の動向などを踏まえ、更なる検討をする必要がある」と発言が後退したことと関連があるかもしれない。いわゆる夫婦同姓に代表されるような「従来の家族モデル」に固執する党内保守派に配慮してフワッとおさめる戦略と見受けられる。2番目については総裁選時に掲げていた政策をより深化させた印象である。というのも総裁選時に「がん、循環器病、難病、移植医療、依存症等への対策を推進」に関連する文言はまったくなかったからである。また、同じ「暮らしを守る」内では、成長戦略の項目で「2025年大阪・関西万博を、AI、ロボット、ヘルスケア等の新技術の社会実装を先行体験する『未来社会のショーケース』として活用し、イノベーションの力で変革し続ける日本を発信する絶好の機会とします」と言及したほか、経済安全保障の項目で「半導体、医薬品、電池、重要鉱物等の重要技術・物資のサプライチェーンの強靱化」など、ややナショナリスティックなヘルスケア関連経済政策も掲げている。この辺は総裁選で争った高市 早苗氏や小林 鷹之氏らの政策にやや似通っている。経済に弱いと言われる石破氏の“汚名”返上とやはり党内保守派への配慮の産物だろうか?もっとも社会保障、医療・介護関連以外も眺めまわしてみたが、石破氏の総裁選時の公約と比べ、今回の党としての公約はかなり微に入り細を穿つ内容で、良く書き込まれている印象が強い。これほど短期間でどうしたのだろう? 順当に考えれば、側近がかなり練り込んだのだろうが、それが誰なのか気になってしまう。日本維新の会(3位:44議席)大阪・関西の地域政党から全国政党へと進化しようとしている日本維新の会。前回の2021年衆院選では公示前より4倍弱の議席を積み増したが、昨今では大阪・関西万博に対する支出増大などを背景に、以前より支持を落としているとも伝わる。同党のマニフェストでは、「将来世代への徹底投資で、新しい時代の政治を創る」をキャッチフレーズにしている。ここからは若年保守層への支持浸透を狙っていることが改めてうかがえる。今回、4大改革の1つとして掲げているのが「世代間不公平を打破する社会保障の抜本」だ。これ自体は以前から同党の姿勢として変わらず、「現役世代に不利な制度を徹底的に見直し。高齢者医療制度の適正化による現役世代の社会保険料負担軽減」として、低所得者等へのセーフティネットは確保しながら、高齢者医療費の原則3割負担を主張している。もっともこれまた現役世代への配慮のためか、「こども医療費の無償化」も掲げてしまうところが微妙な感じではある。これは従来から学術関係者からは指摘されている通り、無償化はモラルハザードと表裏一体の関係である。これは同党に限らず思うことだが、小児の医療費無償化を行うぐらいなら、それはせずに児童手当の支給額を積み増したほうが消費にも繋がり遥かにマシだと思うのだが。日本共産党(5位:10議席)日本の政党としてはすでに100年以上、同一政党名で活動し、旧西側諸国の共産党の中では党員数最大である。今回の衆院選では以下のような政策を掲げている。介護保険の国庫負担割合を現行の25%から35%に引き上げ、国費投入を1.3兆円増やし、ホームヘルパー、ケアマネジャーなど介護職の賃金を、「全産業平均」並みに施設職員の長時間・過密労働や「ワンオペ夜勤」の解消に向け、配置基準の見直しや報酬加算・公的補助などを実施介護事業所の人件費を圧迫している人材紹介業者への手数料に「上限」を設定今春の介護報酬改定で引き下げられた訪問介護の基本報酬を早急に元の水準に戻す介護事業が消失の危機にある自治体に対し、国費で財政支援を行う仕組みを緊急につくり、事業所・施設の経営を公費で支援70歳以上の医療費窓口負担を一律1割に引き下げ、負担の軽減・無料化を推進介護保険での軽度者の在宅サービスの保険給付外しや利用料の2割負担・3割負担の対象拡大などを止め、保険給付の拡充、保険料・利用料の減免を図る公費1兆円を投入し、国民健康保険料の抜本的に引き下げ後期高齢者医療制度を廃止病床削減や病院統廃合の中止と医師・看護師を増員で地域医療の体制を拡充マイナ保険証の強制をやめ、健康保険証を存続ざっと見まわせば、「いつもの共産党ポピュリズム」というイメージを抱く有権者が多いと思う。もっともこれまで毎回の国政選挙で各党の政策を見てきた身からすると、若干変化がある。たとえば1番目に挙げた予算について、投入金額など定量的な数字が散りばめられるようになった点である。もっとも公費負担割合の引き上げ率を定めれば、投入予算規模は計算できるので、むしろこれまで数字を積極的に記載してこなかったことが不思議と言ってしまえば、それまでではあるが…。そして毎度お馴染みが医療費や介護サービス利用料の引き上げ反対。しかし、現行や将来の財政負担を考えれば、この場合、その分の財源は若年勤労層への負担転嫁か蜃気楼のようにつかみどころがない将来の経済成長に財源を期待するしかなくなり、不透明感が増す。そもそも同党の場合、歴史の古い政党ゆえのイデオロギー縛りのためか、経済政策が相も変わらず、労働運動と所得再分配の目線が強過ぎる傾向にあり、経済振興策になっていない。余計なお世話を覚悟で言えば、そろそろこの現状から脱して経済政策と連動する財源論を唱えてほしいと思う。病床削減や病院統廃合の中止は、よくよく今後の医療需要の変動を考えれば、少なくとも単なる現状維持は、国民に均てん化した質の低い医療・介護を受けろというようなものだ。一方、比較的、現実味のある政策としては、介護事業所が支払う人材紹介業者への手数料の上限設定である。すでにこの件は社会保障審議会の介護給付費分科会でも議論されていることであり、介護事業所の経営改善の一助にはなる政策である。マイナ保険証の件については、同じ政策を掲げている後段のれいわ新撰組の政策で触れる。れいわ新撰組(7位:3議席)ご存じ山本 太郎氏が党首のリベラル系政党である。古い世代の私はどうしてもバラエティ番組「天才・たけしの元気が出るテレビ!!」の「高校生制服対抗ダンス甲子園」にスイミング・パンツ一丁で、全身にサラダ油を塗ってテカテカしたままおどけていたイメージが抜けない。今回の選挙マニフェストでは「世界に絶望している?だったら変えよう。れいわと一緒に。」のキャッチフレーズを掲げ、政策として01~06までの6つの大項目を掲げている。「01増税?ダメ 絶対!」では「社会保険料を下げる!年金は底上げ!」を掲げ、「国民健康保険料や介護保険料などの社会保険料を国庫負担で引き下げる」「後期高齢者医療制度は持続不可能なので、現役世代の負担と保険料をすべて国の負担とする」を謳っている。「03親ガチャ?国がやる!『子育ては自己責任』終了のお知らせ」では、子供医療費の完全無償化、「04 失われた30年を取り戻す!賃金爆上げ大作戦」では介護・保育の月給10万円アップ、民間事業者が少ない地域では、介護士を公務員化し「公務員ヘルパー」の復活を掲げている。さて、問題はこれらについては財源をどうするのか? に尽きる。従来から山本氏は3~5%までのインフレ水準までは国債を発行してもよいという考えを主張している。同時に同党が累進課税の強化や法人税引き上げを担保に消費税全廃を掲げていることも有名である。とはいえ、国によるインフレ率コントロールは、これまでの歴史から容易ではないことは明らかで、かつ日本の所得税収が中所得以下からの薄く広い徴収に依存している現実を見れば、れいわの財源論はかなり空想と言わざるを得ない。前述の中で「公務員ヘルパー」が何のことかわからない人もいるかもしれないが、介護保険制度創設以前の居宅訪問サービスがそうだったことに由来しているのだろう。これについては一考の余地はある。というのも居宅介護を拒否する人の中には公務員ならば受け入れるというケースもあるからだ。もっともこの場合は公務員と民間企業とで起こるであろう賃金格差をどのようにならすかの問題が生じる。一方、「05 あらゆる不条理に立ち向かう」では、「マイナンバーカードはいらない! 保険証・免許証はこれまでどおり」と主張している。これは個人監視や社会保障の削減につながる懸念があるためとしているが、社会保障の適切な提供のためにはデータ分析が必要であり、そのための基盤になる可能性のあるものは現時点でマイナンバーカードを軸に収集されるデータ以外にない。概観すると、日本共産党と共通する政策が多く、共産党よりもポピュリズム過ぎないか? という印象しかない。参政党(9位:1議席)2020年に結党され、「日本の国益を守り、世界に大調和を生む」との理念を掲げる保守政党である。2022年の参院選では約177万票を集め、元大阪府吹田市議の神谷 宗幣氏が議席を獲得した。これまで衆院に議席はなかったが、2021年の衆院選で国民民主党から出馬し、比例復活(神奈川10区[現18区])で当選した鈴木 敦氏は、旧民主党政権で国交相、外相などを務めた前原 誠司氏らが2023年に結党した「教育無償化を実現する会」に参加(のちに本人は国民民主党に離党届を提出するも党側から除籍される)。今回の衆院解散で同会が日本維新の会に合流を決めた中、選挙区の関係などで鈴木氏はこれに加わらず参政党に入党したため、同党は公示前1議席となった。さて同党は今回、「日本をなめるな」のスローガンの下、「3つの決意と7つの行動」を謳っている。「決意1 奪われる日本の国土と富を護り抜く」では、「消費税減税と社会保障の最適化により国民負担率に35%上限のキャップをはめる」と主張しているが、どのような社会保障最適化を行うかは、同党の衆院選特設ページを見る限りは不明である。また、「決意2 失われる日本の食と健康を護り抜く」では、「行動4 ワクチン薬害問題を党をあげて追究し、被害救済申請の負担軽減と審査の迅速化」を掲げる。同党HPでは令和6年9月時点で新型コロナウイルス感染症ワクチンによる予防接種健康被害救済制度認定件数が8,180件(うち死亡843人)で、これがコロナワクチン以外の過去すべての同制度認定総数3,687件を大幅に超えるペースとして、危険性を強調している。もっともこの数字を解釈なしで見ることが危険である。まず過去のワクチン接種による健康被害認定は、今ほど医療従事者の安全性認識が鋭敏ではなかった時代も含むことや、かつては事後の有害事象の追跡が十分にできない1回接種だったものもあったことから過少報告の可能性が十分にある。さらに制度の救済認定では、厳密な医学的な因果関係までは必要とせず、接種後の症状が予防接種で起きたことを否定できない場合も対象としており、新型コロナワクチンの被害救済認定=因果関係の認定ではない。仮に前述の8,000件超すべてに因果関係が認められたとしても、このワクチンの国内接種者は1億人超であり、認定対象となった副反応出現率は0.008%に留まる。一方で統計的な検討からこのワクチンにより数多くの死亡を防げたとする学術論文は多数ある。このようなことから新型コロナワクチンは社会全体で見れば明らかにメリットのほうが大きいと言える。これらのことから同党の主張は過剰にワクチンの危険性を強調していると言わざるを得ない。また、同党HPではレプリコンワクチンに対しても懸念を示しているが、これについては以前、本連載で触れたとおりだ。さらにこの行動4に関連し、以下のような政策を箇条書きしている。薬やワクチンに依存しない治療・予防体制強化で国民の自己免疫力を高める新型コロナワクチンの接種推進策の見直しを求める対症医療から予防医療に転換し、無駄な医療費の削減と健康寿命の延伸を実現「自己免疫力」という言葉もさることながら、それを国家として推進するのは半ば意味不明である。さらに予防を政策的に行う場合、実はそれなりにコストがかかるので、それで単純に将来的な医療費削減につながるとは言い難いのが現実。いずれにせよ同党関係者や支持者には申し訳ないが、かなり現実離れした政策が多い。さて、次回は残る立憲民主党、公明党、国民民主党、社民党についてご紹介したいと思う。

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英語で「まだ安心できない」は?【1分★医療英語】第152回

第152回 英語で「まだ安心できない」は?《例文1》The jury is still out on whether the treatment is fully effective.(その治療が完全に効果的かどうかは、まだ結論が出ていません)《例文2》Don’t count your chickens before they hatch - we can’t assume success just yet.(まだ結果が出ていないので、確定する前に安心してはいけません)《解説》日本語で「まだ安心できない」という表現は、進行中の困難や不安を示すときに使います。英語にも同じようなニュアンスを伝える表現がいくつかあります。たとえば、冒頭の“We are not out of the woods yet.”という表現は、直訳すれば「まだ森を抜けていない」という意味ですが、「まだ困難を完全に乗り越えていない」というニュアンスで使われています。また、《例文1》の“The jury is still out.”という表現もあり、これは「まだ結論が出ていない」という意味で、状況によっては「まだ安心できない」という意味でも使われます。《例文2》も類似表現です。冒頭の医師の会話にある“keep our (your) guards up.”は「心のガードを下げない」という意味で、同じ文脈で併用されることが多い表現です。“catch someone off guard”(不意を突かれる)という表現も一緒に覚えておきましょう(第140回 参照)。講師紹介

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CAR-T細胞療法により二次がんリスクは上昇しない

 自家キメラ抗原受容体T細胞(CAR-T細胞)療法製品の添付文書には、CAR-T細胞療法後に二次性のT細胞性悪性腫瘍が発生するリスクがあるとの警告が記載されている。しかし、新たな研究で、CAR-T細胞療法後のそのような二次がんの発生頻度は、標準治療後の二次がん発生頻度と同程度であることが示された。米メモリアル・スローン・ケタリングがんセンター(MSKC)成人骨髄移植サービス分野のKai Rejeski氏らによるこの研究の詳細は、「Clinical Cancer Research」に9月11日掲載された。 米国がん協会(ACS)の説明によると、CAR-T細胞療法は、患者の血液から採取したT細胞にキメラ抗原受容体(CAR)を発現させるための遺伝子を導入し、特定のがん細胞を攻撃できるようにした上で患者の体内に戻す治療法である。ACSは、「CAR-T細胞療法は、ある種のがんに対して、たとえ他の治療法が効かなくなった場合でも、非常に有効な可能性がある」と述べている。 しかし、米食品医薬品局(FDA)は2024年1月、FDAの有害事象報告システムのデータに基づき、CAR-T細胞療法製品の添付文書に、治療対象となったB細胞リンパ腫や多発性骨髄腫などとは無関係に新たなT細胞性悪性腫瘍(二次がん)が発生する可能性について警告を表示するよう要求した。これに対し、Rejeski氏らは、FDAのデータでは、二次がん発生に影響を及ぼす可能性のある他の因子、例えば年齢、他に受けた治療、追跡期間などが考慮されていない点を指摘する。同氏は、「患者は、この警告の追加についてのニュースを読んでおり、当然のことながら、医療提供者に安全性について質問している。われわれは、潜在的なリスクを理解するとともに、データを慎重に解釈して患者に説明する必要がある」と話す。 今回の研究でRejeski氏らは、リンパ腫または多発性骨髄腫の患者5,517人を対象とした18件の臨床試験と7件のリアルワールド研究のデータの分析を行った。対象者は、現在承認されている6種類のCAR-T細胞療法のうちのいずれかを受けていた。 中央値21.7カ月に及ぶ追跡期間中に5.8%の患者に326件の二次がんが発生していた。解析の結果、CAR-T細胞療法前に受けた別の治療の回数が3回以上だった患者では、3回以下だった患者に比べて二次がんリスクの高いことが示された。CAR-T細胞療法を受けた患者と標準治療を受けた患者の転帰を比較した4件の研究(対象者の総計1,253人)を対象にした解析では、二次がんが発生した患者の割合は、CAR-T細胞療法を受けた患者で5%、標準治療を受けた患者で4.9%であり、両群間に有意な差は認められなかった。また、二次がんリスクは、治療対象となるがんの種類や受けたCAR-T細胞療法の種類によって変わらないことも明らかになった。さらに、326件の二次がんのサブタイプを調べたところ、T細胞性悪性腫瘍はわずか5件(0.09%)を占めるに過ぎず、T細胞性悪性腫瘍と患者のCAR-T細胞療法で使用されたT細胞との遺伝的関連については、3件のうちの1件でのみ陽性と判定されていた。 こうした結果を受けてRejeski氏は、「これらの結果は、標準治療に比べてCAR-T細胞療法が二次がんリスクを上昇させることを示唆するものではない」と結論付けている。同氏はさらに、「CAR-T細胞療法により患者の生存期間は延びるが、それは同時に新たながんが発生する期間も延びることを意味する」と指摘し、「CAR-T細胞療法は、自身の成功の犠牲になっている可能性がある」と述べている。 Rejeski氏は、「過去20年以上を振り返ると、難治性の大細胞型B細胞リンパ腫に対する治療法で、標準治療以上に患者の生存率を向上させたのはCAR-T細胞療法だけだ。CAR-T細胞療法での二次がんリスクは極めて低いため、この治療を決して控えるべきではない」とアドバイスしている。

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第233回 40年前の“駆け込み増床”を彷彿とさせる“駆け込み開業”が起こる?診療所が多い地域で新規開業を許可制にする案を厚労省が提起

「医師偏在是正に向けた総合的な対策パッケージ」に関する議論進むこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。MLBのポストシーズンが盛り上がっています。10月6日(日本時間)のナショナルリーグ地区シリーズ、ドジャースvs.パドレス戦は、NHKはなんと地上波でライブで放送していました。第2戦は大谷 翔平選手と、ダルビッシュ 有投手の対戦が見応えがありました。大谷選手は3打数無安打で、ダルビッシュ投手の多彩な変化球に完全に抑えられていました。ダルビッシュ投手は2017年のポストシーズン、ロサンゼルス・ドジャースの投手としてワールドシリーズ進出に貢献、しかしその本番のワールドシリーズで、ヒューストン・アストロズとの戦いで2敗を喫し、ファンからは“戦犯”とまで非難され、同年にFA(フリーエージェント)で退団しています。ドジャースに対しては複雑な思いもあるであろうダルビッシュ投手のこの日の勝利は、いちファンとして感慨深いものがありました。サンディエゴ・パドレス、このまま上まで行くかもしれませんね。さて、今回は本格化してきた「医師偏在是正に向けた総合的な対策パッケージ」に関する議論について書きます。この問題については、本連載でも幾度か取り上げてきました。「第229回 武見厚労相最後の大仕事か?『医師偏在是正に向けた総合的な対策』の議論本格化」では現在議論されている骨子案の内容を紹介しました。この「対策パッケージ」、厚生労働省(以下、厚労省)のいろんな検討会等で議論が行われていますが、一体どこが主導してまとめていくのか見えづらいです。最終的には厚労省内の官僚チームがエイヤッとまとめ上げ、大して誰も傷まない中途半端なパッケージが出来上がるのではないかと心配です。9月30日にこのテーマが議論されたのは、第9回「新たな地域医療構想等に関する検討会」(座長:遠藤 久夫・学習院大学長)でした。ここでは、診療所が多い「外来医師多数区域」におけるさまざまな規制的手法が厚労省から提起され議論されました。新規開業時に足りない医療機能を要請できる仕組みを法制化規制的手法の案でとくに注目されたのは、診療所が多い「外来医師多数区域」において、開業希望者に地域で足りない医療機能を要請したり、新規開業を許可制にしたりするという案です。現状、診療所は免許を持つ医師が地方自治体に届け出れば、原則自由に開業できます。その点は、医療計画で2次医療圏ごとに病床数が規制されている病院よりもハードルは極めて低いと言えるでしょう。また、開業できる診療科も自由です。都道府県が開業を希望する医師に救急対応など足りない医療機能を設けることを要請できる仕組みが指針(外来医療に係る医療提供体制の確保に関するガイドライン1))ベースでありますが、法律に規定されているわけではありません。つまり、在宅医療など地域に不足している医療機能の提供を開業希望者に強制することはできないのです。そこで今回、厚労省が「外来医師多数区域における新規開業希望者への地域で必要な医療機能の要請等の仕組みの実効性の確保」を目的に提起したのは、『指針』の仕組みの医療法での位置付け(法制化)です。それによって、外来医師多数区域の新規開業希望者に対して、事前に診療所で提供する予定の医療機能を記載した届け出を求め、都道府県はその届け出の内容を踏まえて、不足している医療機能の提供を要請できるようにするわけです。要請に従わない場合は勧告・公表などのペナルティも設けるとしています。また、外来医師多数区域での開業を許可制とし、開業の上限を定める案も提起しました。なお、検討に当たっては、憲法上の職業選択の自由・営業の自由との関係、規制の合理性、既存診療所との公平性および新規参入抑制による医療の質等について留意して検討を進めるとしています。「『営業の自由』に抵触する可能性も高く、規制的手法はまったく馴染まない」と日医常任理事こうした提起に対して、同検討会では賛成論、反対論の両方が出ました。10月1日付けのGemMed(旧メディ・ウォッチ)などの報道によれば、「医師偏在を強力に是正するためには規制を強める必要がある。優先すべき外来医師多数区域での新規開業対策である」(土居 丈朗・慶應義塾大学経済学部教授)、「医師多数区域に医師が集まる背景を分析して過剰集中を規制的に解決しなければ偏在は解消しない」(河本 滋史・健康保険組合連合会専務理事)といった積極的な賛成論が構成員から出ました。しかし一方で、「“日本国憲法第22条第1項から導かれる『営業の自由』”に抵触する可能性も高く、規制的手法はまったく馴染まない」(江澤 和彦・日本医師会常任理事)、「規制的手法を実行したとしても、医師は医師少数区域には行かず、医師多数区域の近隣に動くだけである」(伊藤 伸一・日本医療法人協会会長代行)といった反対論も、日本医師会をはじめとする医療提供側から出ました。ある構成員から、「都道府県が要請する機能を提供しない場合は保険医療機関の指定を取り消すなどの強い対応をすべき」との意見が出ましたが、日本医師会の江澤氏は、開業を希望する勤務医と地域の医師会などによる『協議の場』を作ることを提案、保険医療機関の指定取り消しなどの対応には反対したとのことです。地域の病院で働く医師を増やすために本当に効果があるかどうかは疑問私自身も、何らかの規制的手法の導入はもはや避けられないことだと思います。人口減少が急速に進む地方では、どんどん診療所や中小病院が閉鎖しています。そんなところに新規開業する医師はいませんから、早めに医療機関を集約して、基幹病院を中心とした医療・介護のネットワークを作っておかなければなりません(地方での診療所開業を促す策は、医療機関の集約化が喫緊の課題である現状では無意味でしょう)。しかし、その病院で働く医師がいないことにはネットワークも作れません。地方の病院で働く医師を半ば強制的に生み出す仕組みがまず必要です。現在検討されている医師偏在是正に向けたさまざまな対策には、そうした地域で働く医師を増やすための方策が多数盛り込まれており、それらがどこまで実効性のある仕組みにできるかがポイントと言えます。そのポイントの一つが、ベースとなる医師数の確保策であり、「外来医師多数区域」において足りない医療機能を要請して開業を牽制したり、新規開業を許可制にしたりする案もその一環ということになりますが、果たしてこれらの案が地域の病院で働く医師を増やすために本当に効果があるかどうか疑問です。「駆け込み増床」のように「駆け込み開業」が起きるかもとくに開業を許可制とし、開業の上限を定める案などは、医療計画の法制化で1980年代後半に起こった「駆け込み増床」のように「駆け込み開業」が起きるかもしれず、現実的ではないでしょう。現実的ではない、ということではこんな案はどうでしょう。そもそも医学部教育、医師の養成には、他学部の学生に比べて比較にならないほどの多額の税金が投入されています。ここはもう、“徴兵制”に匹敵するほどの厳しい勤務年限(自治医大や医学部地方枠のような)をすべて(か相当割合)の医学生に課すという案です。併せて医学部の授業料の無償化も進めていいかもしれません。いずれにせよ、「現実的ではない」と批判されるくらいの方策でないと、医師偏在対策の特効薬にはならないでしょう。今後の議論の行方に注目したいと思います。参考1)厚生労働省:外来医療について

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家庭用血圧計のカフのサイズは上腕囲に合っている?

 高血圧患者に対しては自宅での血圧モニタリングが推奨されているが、米国成人の約7%に当たる1700万人以上で、家庭用血圧計に付属のカフのサイズが上腕囲に合っていないため、血圧を正確に測定できていない可能性のあることが明らかになった。米ジョンズ・ホプキンス大学疫学分野の松下邦洋氏らによるこの研究結果は、米国心臓協会(AHA)のHypertension Scientific Sessions 2024(9月5〜8日、米シカゴ)で発表されるとともに、「Hypertension」に9月5日掲載された。 AHAによると、米国の成人のほぼ半数が高血圧と診断されている。コントロールされていない高血圧は、心筋梗塞、脳卒中、心不全などの発生リスクを高める。AHAは、高血圧患者に対して、家庭用血圧計による血圧の測定・記録を推奨しており、その際に使う血圧計は、手首で測るタイプよりも上腕で測るタイプの方が望ましいとの見解を示している。 今回の研究では、大手オンライン小売業者を通じて販売されている最も一般的な10種類の血圧計のカフの評価が行われた。それぞれの血圧計に付属のカフは、10種類中9種類が22〜42cmの上腕囲に、残る1種類は22〜40cmの上腕囲に対応するものだった。次いで、2015年から2020年の間の1万3,826人(平均年齢47歳)を対象とした米国国民健康栄養調査(NHANES)のデータを用いて、対象者の上腕囲を調べた。 その結果、米国成人の約7%に相当する1730万人において、カフのサイズが上腕囲と合っていないことが明らかになった。そのような人の大半(米国成人の6.4%に相当する1650万人)は上腕囲が42cmを超えていた。また、カフのサイズが上腕囲と合っていなかった人は、黒人で特に多かった(黒人12%、白人7%、ヒスパニック系5%)。松下氏は、「黒人の成人での高血圧罹患率はもともと高めな上に、今も上昇傾向にあることを考えると、このカフサイズにおける不公平は特に懸念すべきことだ」とAHAのニュースリリースの中で述べている。 研究グループは、一部のメーカーは追加のカフサイズを提供しているものの、それを手に入れるためには余分な費用がかかると指摘する。松下氏は、「公平性を高めるために、家庭用血圧計のメーカーは、上腕囲が42cmを超える人でも測定できる血圧計の開発と手頃な価格での販売を優先すべきだ。また医療従事者も、家庭用血圧計を購入する際に患者が適切なカフサイズを選択できるよう、患者の上腕囲を測定するべきだ。機器設計におけるサイズの不公平に対処することは、高血圧の診断・管理の質と公平性にとって非常に重要だ」と主張する。 本研究には関与していない、米チューレーン大学公衆衛生・熱帯医学分野のPaul Whelton氏は、「この研究は、高血圧患者にとって実用的な情報を提供している」と話す。同氏は、「サイズの合わないカフの使用は、血圧測定中に予測可能な誤差が生じる重要な原因の一つだ」と指摘する。 Whelton氏は本研究で、カフのサイズが小さ過ぎた例(1650万例)の方が大き過ぎた例(80万例)よりも圧倒的に多かったことに言及し、「これは、標準的なサイズのカフを使用すると、高血圧を過小評価するよりも過大評価する可能性の方がはるかに高いことを意味する。最善の解決策は、さまざまなサイズのカフを用意して、患者が自分に適したサイズのカフを選択できるようにすることだ」と述べている。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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英語で「触知可能です」は?【1分★医療英語】第151回

第151回 英語で「触知可能です」は?《例文1》Palpable cervical lymph nodes were found on physical exam.(身体診察で触知可能な頸部リンパ節が見付かりました)《例文2》Left supraclavicular lymph node was palpable, and we should discuss this case further.(触知可能な左鎖骨上リンパ節があり、この症例についてさらに検討する必要があります)《解説》今回は身体診察の所見の表現方法を解説します。「触知可能である」は形容詞の“palpable”という単語で表現します。動詞に“-able”と語尾に付けることで「~が可能である」という意味の形容詞になります。今回の場合、“palpate”(触診する)という動詞に“-able”を付けることで“palpable”、「触知可能である」という意味になるわけです。このように“-able”を語尾に付けることで動詞から変化した形容詞はほかにも多くあります。たとえば、“movable”は「可動性がある」という形容詞ですが、こちらも動詞の“move”(動く)に“-able”を付けた形です。文章にすると、“The lymph node is movable.”(このリンパ節は可動性があります)といった表現になります。実際の医療の場面でも使えますね。“lymph node(s)”という単語は「リンパ節」という意味です。せっかくですので、主要なリンパ節の英語表現も挙げておきましょう。cervical lymph nodes頸部リンパ節axillary lymph nodes腋窩リンパ節inguinal lymph nodes鼠径リンパ節mediastinal lymph nodes縦隔リンパ節supraclavicular lymph nodes鎖骨上リンパ節ぜひ、リンパ節とそれに付随する所見の表現方法を覚えてください。講師紹介

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第231回 某学会がレプリコンワクチンの安全性に懸念表明!?気になる内容は…

新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)のワクチンの特例臨時接種が今年3月末に終了したが、65歳以上の高齢者と60~64歳までの基礎疾患を有する人たちに対する定期接種が10月1日からスタートした。今回の定期接種はファイザー、モデルナ、第一三共のmRNAワクチン、ノババックス/武田薬品の組換えタンパクワクチン、Meiji Seikaファルマの次世代mRNAワクチンの5種類のワクチンが使用される。レプリコンワクチンの作用機序このうち巷で話題をさらっているのが、Meiji Seikaファルマの次世代mRNAワクチン「コスタイベ」である。これは通称レプリコンワクチンと称される。ウイルスのスパイクタンパク質とRNAを鋳型にRNAを複製する酵素であるレプリカーゼのmRNAを脂質ナノ粒子で包んだ自己増幅型mRNAワクチンである。これを筋肉注射すると、体内でレプリカーゼの働きによりウイルスのスパイクタンパク質のmRNAが多数複製され、それに応じて中和抗体も多数産生される。さらに、これまでよりも少量のmRNAを投与することで効率的に中和抗体が産生でき、かつ抗体価の持続期間も長いという仕組みである。端的に言えば、投与したmRNAが一時的に自己増幅(増殖ではない)するという新技術だ。さて、“これが巷で話題になっている”というのは、すでに多くの医療者がご存じのようにネガティブな意味でだ。主には「レプリコンワクチンは、接種した人の体内で増殖したmRNAが人やほかの動物に感染する危険性がある」という主張である。SNS隆盛の現在はとくにネガティブ情報は拡散されやすいが、こうした科学的に見て不可思議な説に医療系の国家資格を持つ人々も加担しているため、なんとも厄介である。学会がレプリコンワクチンを忌避!?そうした最中、日本看護倫理学会が「【緊急声明】 新型コロナウイルス感染症予防接種に導入されるレプリコンワクチンへの懸念 自分と周りの人々のために」を8月8日に公開した。ちなみに私自身は今回初めて同学会の存在を知ったが、「看護倫理の知を体系的に構築する」ことを目的に2008年に設立された学会とのこと。さて、その主張は主に5点である。1点目はコスタイベの主な治験実施国であるベトナムや、もともとMeijiがこのワクチンを導入したArcturus Therapeutics社が本社を置くアメリカでは承認されていないことに対する疑問であり、それゆえに安全性に懸念があるのではないかとの指摘だ。しかし、これ自体ははっきり言って揚げ足取りに近い。国情や規制当局の在り方によっても変わってくることだからである。ちなみに国外で米・Arcturus Therapeutics社は豪・CSL Seqirus社と開発提携しており、CSL社のホームページでは欧州連合で承認申請中と記載されている。また、Meiji側が9月末に行った記者会見では、ベトナムで承認準備、アメリカで承認申請に向けて準備が進むほか、数ヵ国で開発中である。そもそも新型コロナワクチンの場合、先行したファイザー、モデルナ両社の製品による接種が急速に進行したため、後発企業は被験者確保に苦労したことはよく知られている。こうした事情も併せて考えれば、日本が先行承認されたことは驚くに値しない。実はこの手の指摘は、今回の定期接種に用いられているノババックス/武田薬品の組換えタンパクワクチンの日本での緊急承認時も「ノババックスの本国であるアメリカでは承認されていない」とネガティブな方向性でSNS上では指摘されていた。しかし、当時すでにEUでは承認されており、後にアメリカでも承認されている。さて緊急声明の2点目は、このワクチンに関して最も多いネガティブ指摘である接種者から非接種者に感染(シェディング)するのではないかとの懸念があります」と言うもの。そもそもこの「シェディング」という用語自体は、以前からワクチンに懐疑的な人たちがSNS上で使っていたが、今回よく調べてみたところ、英語の「shed(発する、放つ)」の現在分詞らしい。声明では「望まない人にワクチンの成分が取り込まれてしまうという倫理的問題をはらんでいます」としているが、いやはやである。そもそも声明では「感染」という言葉を誤用している。感染とは微生物が生体内に侵入し、生体内で定着・増殖し、寄生した状態を指す。このワクチンも先行したファイザー、モデルナのワクチンも成分として封入されているmRNAは、新型コロナウイルスの表面にあるスパイクタンパクのみを生成する。これのみで医学的な定義の感染は起こりえない。しかも、元来、不安定で細胞内で分解されてしまうmRNAが、そのまま血中を流れて肺で呼気に混入してヒトから排出されるなど、もはやファンタジーの域である。それだったら、長年、麻疹や風疹で使われているウイルス本体を弱毒化した生ワクチンのほうがよっぽど危険であるし、生ワクチンではここで言うシェディングに相当するような現象が起きたことはあるが、大局的に問題になったことはない。極めて雑な例えをするが、この主張は私個人からすると「刺身を食べてしばらくしたら、その人の口から生きた小魚が継続的に飛び出すようになった」と言われるくらいナンセンスである。3点目は「人間の遺伝情報や遺伝機構に及ぼす影響、とくに後世への影響についての懸念が強く存在します」というもの。要は投与したmRNAがDNAそのものに影響を及ぼすのではないかとの主張である。この点はヒトでの逆転写酵素の有無に関連するものだが、厳密に言えばその可能性はゼロではない。しかし、率直に言って「あなたが明日死ぬ可能性はゼロではない」というレベルのものである。ちなみにここの項目ではスウェーデンで行われた培養細胞にファイザーのmRNAワクチンを曝露させたin vitroの実験でDNAへの逆転写が起こったとの論文を引用している。しかし、免疫応答も含め通常の生体内とは異なる条件で行われた実験であり、使用された細胞は高分化型ヒト肝癌由来細胞株 Huh-7。そもそもがん細胞由来の細胞株なら正常なDNA複製が行われるとは言えないはずで極めて特殊な条件で行われている。4点目は、そもそもファイザー、モデルナのmRNAワクチンですらリスクの説明が必ずしも十分ではないという指摘だが、これについてはさまざまな受け止めがあろうと思う。少なくとも私個人は、厚生労働省を筆頭に自治体も神経質なまでに情報発信をしていたとの認識である。5点目はレプリコンワクチンが定期接種に用いられることで、患者を守るとの至上命題で医療者を中心にワクチン接種に関する主体的な自己決定権が脅かされるとの懸念。正直、これもどちらかというと感情論であり、レプリコンワクチンに対する懸念とはやや別物ではないかと考える。いずれにせよ今回の声明は、ピッチャーがマウンドからいきなり外野スタンドに投球し始めたかのような違和感を覚えるもので、私個人は読み切るのに相当疲れた次第である。

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第232回 「2040年問題は革命的なことを議論しているのだと自覚したほうがいい」と元厚労官僚 地域包括ケアシステム・セミナーを覗いて考えた(後編)

石破首相、加藤財務相で医療はどうなる?こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。9月27日に行われた自民党総裁選で石破 茂元幹事長が第28代総裁に選ばれ、10月1日召集の臨時国会での首相指名選挙を経て、第102代の首相に就任しました。現時点で、石破首相がどんな社会保障政策、医療政策を展開するかははっきりとは見通せませんが、総裁選で公表された政策集を見ると、「社会保障制度改革」については以下のように述べています。「医療DXの推進により、ビッグデータも活用しつつ、予防と自己管理を主眼とした健康維持のための医療制度を構築し、医療費を適正化するとともに、遠隔医療の拡充、医師偏在の是正、健康寿命延伸、薬価制度の見直しなどに取り組み、国民一人一人に最適な医療の実現を目指します。併せて医療人材の処遇改善、医療機関の負担軽減にも取り組みます」現行の政策を一通りなぞっただけで、とくにユニークさは感じられない内容です。石破氏は厚生労働大臣の経験もなく、おそらく社会保障政策には疎いのかもしれません。そう考えると、決戦投票で支持に回ったと報道されている岸田 文雄前首相や、菅 義偉元首相の社会保障政策(財務省寄り)をそのまま踏襲していくと考えられます。新内閣では、厚生労働大臣には福岡 資麿・参議院自由民主党政策審議会長、財務大臣には加藤 勝信元官房長官が就任しました。初入閣の福岡氏の実力はまだうかがい知れませんが、加藤氏は安倍 晋三、岸田両内閣で厚労大臣を務めており、自民党では医療DX推進の旗振り役でもあります。今から2年前の本連載「第125回 医療DXの要『マイナ保険証』定着に向けて日医を取り込む国・厚労省の狙いとは(後編)かかりつけ医制度の議論を目くらましにDX推進?」で私は、2022年8月に発足した岸田内閣で3度目の厚労大臣に就いた加藤氏について、「加藤厚労相は、親日医の姿勢を見せつつ、マイナ保険証を突破口として医療DXを強力に推進するために岸田首相から医療界に送り込まれた“刺客”という見方もできるかもしれません」と書きました。今度は厚労省のみならず、日本そのものを牛耳る財務大臣です。マイナ保険証、電子処方箋、そして全国医療情報プラットフォームを含めた日本の医療DXは、今まで以上に強力に推進されることは間違いないでしょう。「尊厳のある看取り」のために変わらなければならないのは医療さて、今回も前回に続き、9月2日に東京で開かれた「第10回 地域包括ケアシステム特別オープンセミナー」(医療経済研究機構主催)での議論の内容を紹介したいと思います。「尊厳ある“在宅での看取り”とは」をテーマに開かれた同セミナーのパネルディスカッションにおいて、日本在宅ケアアライアンス副理事長という肩書での出席していた武田 俊彦氏(元厚生労働省医政局長)は、「尊厳のある看取り」のために「変わらなければならないのは(病院や診療所など)医療だ」と強調しました。武田氏は「2014年に地域包括ケア病棟ができ、『治す医療から支える医療へ』『ときどき入院、ほぼ在宅』という革命的な概念が導入されたにもかかわらず、医療の側も診療報酬もそれ(支える医療)に応える形になっていない」と指摘、その上で「診療所と病院の役割分担を根本的に変えなければならない」と述べました。「変わらなければならないのは診療所」とくに診療所については、「現状、看取りは病院がほとんどやっている地域は多い。その意味で変わらなければならないのは診療所のほうかもしれない」と語ると共に、関連して「『全国どこでも地域包括ケア』を実現するには、医師の地域偏在にも取り組む必要がある」としました。さらに、次期地域医療構想の目標年ともされる2040年に向けて医学部教育、診療報酬、病院と診療所の機能・分類など、さまざまな議論が進んでいること自体が、そうした“支える医療”のあり方の議論でもあり、「2040年問題は革命的なことを議論しているのだと自覚したほうがいい」と語りました。「変わらなければならないのは診療所のほうかもしれない」は、元厚労官僚の発言としてはなかなか含蓄があると言えるでしょう。武田氏は、ボストン コンサルティング グループのシニア・アドバイザーを務めるとともに、内閣官房健康・医療戦略室政策参与兼内閣府健康・医療戦略推進事務局政策参与という肩書も持っています。現在、厚労省では、かかりつけ医機能の制度化、次期地域医療構想、医師偏在対策など、さまざまな改革が進められようとしていますが、全体を「地域包括ケア」や「支える医療」という視点から見直してみると、“足りない部分”が改めて浮き彫りになってきます。新政権でのこの方面(とくに診療所)への踏み込み度合いに注目したいと思います。

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英語で「転ばぬ先の杖」は?【1分★医療英語】第150回

第150回 英語で「転ばぬ先の杖」は?《例文1》Safety always comes first.(安全が最優先です)《例文2》An ounce of prevention is worth a pound of cure.(予防は治療に勝る)《解説》医療現場では、患者の安全を守るために慎重な判断が不可欠です。とくに新しい治療や薬剤を導入する際には、予期せぬリスクを回避するために「転ばぬ先の杖」の精神が重視されます。英語でのコミュニケーション能力を養うためには、このような日本語の慣用句を直訳するのではなく、英語での類似表現に置き換えたうえで覚えておくことが重要です。こうした場面で頻繁に使われる表現として、“better to be safe than sorry”があります。これは「後悔するよりも安全を重視するほうが良い」という意味で、予防や慎重さを強調する際に使われます。また、“safety always comes first”(安全が最優先です)という表現も、こうした慎重さを象徴するものです。さらに、“An ounce of prevention is worth a pound of cure”(予防は治療に勝る)もよく使われるフレーズで、予防の重要性を強調しています。これらはいずれも、安全を最優先に考える医療現場の姿勢を反映した表現です。講師紹介

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第230回 迫る自民党総裁選、立候補者の言い分は?(後編)

自民党総裁選は本日、ついに投開票が行われ、新総裁が決定する。与党の自民党と公明党が衆参両院の過半数を占めている現状では、当然ながら自民党総裁=日本国総理大臣となる。巷の報道では、議員票や党員・党友票、都道府県連票の票読みが行われているが、今回は上位2人による決選投票が確実視されているだけに、その段階で一気に票読みの困難度が増す。とりわけ自民党の総裁選は過去から権謀術数が渦巻く世界だ。現在の推薦人制による立候補となった1972年以降、決選投票となったのは3回。初めての決選投票は、1972年の田中 角栄氏vs. 福田 赳夫氏。第1回投票では第1位の田中氏と第2位の福田氏はわずか6票差だったが、決選投票では票差が92票まで開き、田中氏が総裁に選出された。残る2回のうち1回は2012年。この時は党員・党友票の過半数を獲得した石破 茂氏が1回目で安倍 晋三氏に58票もの差をつけて1位となったが、決選投票では逆に安倍氏が石破氏を19票上回り、逆転で総裁となった。ちなみに1972年以前の自民党でも決選投票が2回あり、1956年の初の決選投票では同じく1回目の1位、2位の逆転が起きた。この時勝利したのは石橋 湛山氏、逆転負けを帰したのは“昭和の妖怪”の異名を持つ安倍氏の祖父・岸 信介氏である。最も直近の決選投票は前回2021年の総裁選で1位の岸田 文雄氏と2位の河野 太郎氏の1回目の票差はわずか1票。これが決選投票では87票差となり、岸田氏が勝利した。このように概観するだけでも自民党総裁選は魔物である。さて誰が当選するのか? 前回紹介しきれなかった自民党総裁選候補者(五十音順)である小林 鷹之氏、高市 早苗氏、林 芳正氏、茂木 敏充氏の社会保障、医療・介護政策を独断と偏見の評価も交えながら紹介する。小林氏(千葉2区)今回、真っ先に出馬表明した小林氏だが、閣僚経験があるとはいえ、最も世間的には知名度が低かったのではないだろうか? 小林氏は東大法学部卒業後、旧大蔵省に入省。2010年に退官し、自民党の候補者公募に応募して2012年の衆議院で初当選して現在に至っている。大蔵省・財務省在籍中にはハーバード大学ケネディ行政大学院に留学し、公共政策学修士号を取得している。小林氏の特設ページでは、「世界をリードする国へ」をキャッチフレーズに掲げている。政策については直ちに取り組む3本柱とこれも含めたより詳細な7項目ごとの政策を披露している。前者では“02.暮らしを明るく:中間層「ど真ん中」の所得向上を実現”として以下の2点を挙げている。地方や若者も多く従事する介護・看護・保育従事者の賃上げ(「物価を超える処遇改善ルール」導入)。若年層の保険料負担軽減を図る「第3の道」の具体化。「社会保障未来会議(仮称)」立ち上げ。介護関係者などの賃上げは、ほかの候補者も挙げているが「物価を超える処遇改善ルール」とより具体的なのは小林氏だけである。もっとも現在の物価高騰を考えれば、介護報酬改定などでは相当な引き上げが必要になる。後者については小林氏の特設ページの7項目のうちの「V. 教育・こども・社会保障」では以下のように記述している(下線は筆者によるもの)。「社会保障未来会議(仮称)では、(1)データに基づく人的物的資源の適正配分、(2)ロボット、AI、アプリ等による健康管理、(3)健診・予防・リハビリ・フレイル対策・軽度認知症対策などの「健康づくり」とその行動や成果へのインセンティブ付与、(4)DX による効果的・効率的なサービスの提供を通じた費用の抑制に資する取組、などを通した医療・介護需要の低減を進めます。あらゆるアイデアをすべて俎上に載せ、国民の皆様とともに広く社会保障制度を考え、方向性を共有して、新たな時代の社会保障制度を作り上げます」DX(Digital Transformation)、EBPM(Evidence based policy making、エビデンスに基づく政策立案)、PHR(Personal Health Record)などを通じて、まずは需要そのものを適正化したいということらしい。もっとも日本記者クラブの候補者討論会では、「若い世代の社会保険料の軽減を主張していますが、財源はどこにあるんですか。結局、一定以上の所得・資産のある高齢者に負担を求める、かなり抵抗が強い方向になると思いますが、そういった覚悟はありますか」と問われたのに対し、前述の社会保障未来会議の説明を平たく語っただけでスルーしてしまっている。高齢者の負担増に関しては今の時点で単にかわしたか、あるいは念頭にあるからこそ敢えてかわしたかのどちらかではないだろうか? (ちなみに私は高齢者の負担増に反対ではない)この項では、ほかに以下のような政策を列挙している。家族等にとって大きな不安の源となる現役世代の怪我や疾病に対しサポート体制を築き、医療サービスの面からも現役世代を支えます。また、DXやイノベーションを通じ、健康医療分野でも世界をリードします。医師の地域偏在と診療科偏在を是正し医療へのアクセスを確保していきます。また、公的サービスの安定供給を前提に、医療法人等の経営改革も進めます。医療・介護・障害福祉等の人材確保を進めます。地域特性に応じた地域包括ケア体制を確立し、住み慣れた場所で生き生きと暮らせる社会の実現を目指します。あらゆるがん対策や研究支援を分野横断で進めると共に、腎疾患、アレルギー疾患等の重症化予防、移植手術の利用推進等に努めます。このなかで個人的に注目したのは2番目である。「医師・診療科の偏在是正」「医療法人等の改革」は若さゆえに繰り出せるパワーワードだろうか? これに手を突っ込めば、医療界、とりわけ日本医師会からの最強度の抵抗を受けることを小林氏は承知して言っているのか定かではない。むしろ、具体的にこれらをどのように実現したいかの詳細があれば、ぜひ聞いてみたいものである。また、これらとは別に「II.経済」では“創薬産業の競争力強化”を掲げ、そこでは「官民の連携を強化し、創薬のエコシステムと政府の司令塔機能を強化します。医療・介護分野のヘルスケアスタートアップを大胆に支援します。『ゲノミクスジャパン』を早期に構築し、ゲノム医療で世界と伍する創薬産業にします」と記述している。これについては7月30日に岸田首相の肝入りで開催された「創薬エコシステムサミット」に酷似した政策である。同サミットは医薬品産業を成長産業と位置付け、必要な予算を確保し、国内外から優れた人材や資金を集結させることで、日本を世界の人々に貢献できる『創薬の地』としていくというものだ。政策の大枠について異論はないが、現行では国際レベルと大きく差が開いた日本の創薬力を引き上げるのは容易ではない。また、コロナ禍中に開催された2020年4月3日の衆議院厚生労働委員会での小林氏の質疑を読むと、新型コロナウイルス感染症のワクチン、治療薬の国産を強く促しているが、失礼ながら製薬業界の現在地に対する理解はやや甘いようである。高市氏(奈良2区)意外と知られていないようだが、高市氏はもともと野党出身の政治家である。神戸大学経営学部経営学科卒業後、松下政経塾に入塾し、その資金提供を受けて米・民主党下院議員のもとで研修を積み、帰国後は日本経済短期大学(後の亜細亜大学短期大学部)助手に就任するとともに、テレビ朝日、フジテレビの番組でキャスターを務めた。テレビ朝日の番組では立憲民主党の前参院議員の蓮舫氏、フジテレビでは日本維新の会の参院議員の石井 苗子氏も同じ番組のキャスターだったのは、今となればなんと因果な巡り合わせかと思う。1992年の参院選・奈良県選挙区で自民党に公認申請をするも公認は得られず、無所属で出馬して落選。翌1993年には中選挙区時代の衆院選奈良全県区から再び無所属で出馬して初当選した。高市氏の当選時は折しも自民党が下野し、細川 護熙政権が発足した時期である。その後高市氏は、自民党を離党した柿澤弘治氏らが結党した自由党に参加。さらに非自民の自由改革連合(代表:海部 俊樹元首相)、新進党を経て、96年に新進党を離党して自民党に入党している。これまで衆院選は9選しているが、自民党入党以降は小選挙区で2度落選している(うち1度は比例復活)。さて安倍 晋三氏の秘蔵っ子とも言われるほど、自民党内でも保守色の強い政治家として知られる高市氏だが、特設サイトでは「日本列島を、強く豊かに。」とのスローガンを掲げている。このスローガンの下、総合的な国力を強化するための6項目のポリシーを掲げており、全体として経済、安全保障に関する高市氏の思考が背骨となっている印象だ。このため社会保障、医療・介護に関する政策もいくつかの項目に散らばっている。政策集を読むと、明らかにもっとも注力しているのは、ポリシー01の「大胆な『危機管理投資』と『成長投資』で、『安全・安心』の確保と『強い経済』を実現。」である。端的に言うと、積極的な財政出動で経済浮揚を図るという考え。そもそもご本人は昨今の日本銀行による利上げを「アホやと思う」とまでこき落としているほど積極財政論者である。そしてポリシー01では、さらに6つの詳細プランを提唱。プラン05の「健康医療安全保障の構築」では、以下のような政策が箇条書きで示されている。国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)が実施している「革新的がん医療実用化研究事業」「スマートバイオ創薬等研究支援事業」「医療機器開発推進研究事業」を促進します。AMEDが支援してきたiPS細胞由来の心筋細胞移植の臨床試験が大きく前進しました。「再生・細胞医療、遺伝子治療分野」における研究開発を推進し、その成果を早期に患者の皆様にお届けできるよう、取り組んでまいります。今後のパンデミックに備えるべき「重点感染症」の見直しと医薬品等の対応手段確保のための研究開発支援、有事において大規模臨床試験を実施できる体制の構築、緊急承認については新たな感染症発生時の薬事承認プロセスの迅速化に資する準備を進めます。CBRNEテロ(化学・生物・核・放射線兵器や爆発物を用いたテロ)の対策を検討する専門家組織を創設します。テロに悪用された微生物・化学物質などの特定と拮抗薬やターニケット(止血用の緊縛バンド)の使用が迅速に行われる体制の構築方法を検討します。「国民皆歯科健診」の完全実施に加え、PHRの活用と、「予防医療」や「未病」の取組へのインセンティブを組み込んだ制度設計を検討します。また、プラン06「成長投資の強化」では“工業製品、環境、エネルギー、食料、健康・医療など適用分野が広く、経済安全保障の強化にもつながる『バイオ分野の事業化・普及』に向けた取組を促進します”と謳っている。概観すると、成長が見込めそうな分野への財政出動を通じた徹底投資とそれに伴う製品の国産強化という方針だ。実はこの政策を列挙する前に「ワクチンや医薬品の開発・生産は、海外情勢に左右されてはならず、安全保障に関わる課題です。原材料・生産ノウハウ・人材を国内で完結できる体制を構築します」との基本的考えを示している。この辺は高市氏の保守色の強さを如実に表している。現在、世界水準からはかなり立ち遅れつつある創薬・バイオを安全保障の観点から捉えて強化する方針そのものに異論はない。むしろ日本に欠けているのは、安全保障の観点である。ただ、創薬・バイオは消費・貢献対象の多くが民生分野であり、安全保障視点が過度だと、逆に産業発展を阻害する面もある。また、コロナ禍での国政選挙の際の各政党の政策でも批判してきたことだが、創薬・バイオ技術のグローバル化が進展する今、国産にこだわり過ぎれば、国内での技術開発や社会還元はスピーディーさを欠く結果となる。ポリシー02「『全世代の安心感』を、日本の活力に。」で掲げているのは以下。私は、生涯にわたってホルモンバランス変化の影響を受けやすい女性の健康をサポートする施策の検討に平成25年に着手し、ようやく令和6年度新規事業として「『女性の健康』ナショナルセンター機能の構築」が開始されました。女性特有の疾患や不調について、予防・病態解明・治療・社会啓発の取組を推進します。人手不足の中でも就労時間調整の一因となっている「年収の壁」と「在職老齢年金制度」を大胆に見直し、「働く意欲を阻害しない制度」へと改革します。高齢者だけではなく、現役世代も将来に年金を受け取ることを踏まえ、年金に対する課税の見直しを検討します。物価が上昇する中で年金の手取りが減らないよう、公的年金等控除額の拡大を提案します。国民年金受給額と生活保護受給額の逆転現象を解消するため、低年金と生活保護の問題を一体的に捉えた新たな制度の在り方を検討します。ここに見える年金政策では、既存の制度内で負担と給付のバランスを取るというよりは、給付の拡充とそれによる消費拡大のほうに重点を置いているようだ。その意味で、高市氏は社会保障制度改革も経済政策の一環として捉える思考がほかの候補と比べても極度に強い「経済バカ一代」のような印象である。林氏(山口3区)旧大蔵相・旧厚生相を務めた林 義郎氏の長男。祖父・高祖父も衆院議員歴がある政治一家育ち。東大法学部卒業後、三井物産、サンデン交通(林家のファミリー企業)、山口合同ガスを経てハーバード大学ケネディ・スクールに入学、米・下院議員のスタッフや米・上院議員のアシスタントを経験した。父・義郎氏の大蔵相就任に伴い大学院を休学して帰国し、大臣秘書官を務めた(後に復学、修了した)。1995年の参院選で自民党公認として山口県選挙区で初当選し、同選挙区で連続5回当選。2021年の衆院選で鞍替えして当選。衆院議員としてはまだ1期目である。特設サイトでは「人にやさしい政治。」のキャッチフレーズの下で3つの安心を掲げる。このうちの1つ「底上げによる格差是正と、生活環境の改善・地域活性化を通じた、少子化対策」として「医療・介護DXの推進や医療・介護・福祉人材の処遇改善、医薬品の安定供給、医師の偏在是正、大学病院の派遣機能強化、歯科保健医療提供体制の構築、看護師確保対策などを推進します」と謳っている。概ねほかの候補と共通する政策だが、石破氏と同じく数少ない医薬品安定供給を掲げているほか、林氏の政策にのみ見られるのが「大学病院の派遣機能強化」である。もっとも後者に関して、そのためにどのようにするのかはわからない。また、日本記者クラブでの討論会では、林氏が出馬表明時にマイナ保険証に関して「皆さん納得の上でスムーズに移行してもらうための必要な検討をしたい」と述べたことの意味を問われた。以下は林氏の回答の要約である。林氏廃止という言葉でお伝えをしていたが、実際は新しい切り替えがなくなるということ。紙の保険証は12月3日以降、次の期限までは使え、その期限後は希望すれば資格確認書が発行される。聞くところによると、(資格確認証は)今の保険証とほぼ同じようなものであるとのことなので、私は廃止と言わずに新規発行がなくなることを丁寧に説明するだけで、かなりの不安は解消するのではないかと思っている。いや果たしてそうだろうか? デジタル慣れしていない高齢者などはそうかもしれないだろうが、若年者でマイナ保険証を躊躇する層は、これまでに明らかになったずさんな個人情報管理を問題視しているのが多数のように感じるのだが。この辺はやや危機感に欠けている印象は拭えない。茂木氏(栃木5区)東大経済学部卒業後、丸紅、読売新聞、マッキンゼー社を経て政界入りした茂木氏。政界入り前にはハーバード大学ケネディ行政大学院に留学し、行政学修士号も取得している。以前の立憲民主党代表選の時も触れたが、政界入りは政治改革を掲げた元熊本県知事の細川 護熙氏が立ち上げた日本新党を通じてであり、この時の当選同期が今回の立憲民主党代表に選出された元首相の野田 佳彦氏、野田氏と同代表選で決選投票を戦った枝野 幸男氏である(ほかに日本新党の当選同期は東京都知事の小池 百合子氏、名古屋市長の河村 たかし氏など)。日本新党が解党して新進党に合流した時に無所属となり、その後、自民党に入党して現在に至る。世間的には必ずしも知名度は高くないが、閣僚経験数は実は石破氏や高市氏よりも多い(もっともその多くは内閣府特命担当大臣ではあるが)。今回は「経済再生を、実行へ」をキャッチフレーズに掲げ、その下で6つの実行プランを掲げている。特設サイトを見ると、実行プラン3として「『人生100年時代』の社会保障改革 年齢ではなく経済力に応じた公平な負担へ」を謳っている。茂木氏の各実行プランは「何をする?」「具体的にどうする」の順で目指す政策の概念と具体的な施策を開示している点が特徴だ。実行プラン3の「何をする?」では、デジタル化で個々人の立場に応じた負担と給付へ。“余力のある人には払ってもらい、困難な人への負担軽減と支援拡大”。あらゆる世代が活躍し、生きがいを実感できる社会へ」とし、「具体的にどうする」では以下の3項目を列挙している。社会保障分野にデジタルを完全導入。“標準世帯”から“個々人のデータ”に基づく、負担と給付へ(標準報酬月額の上限も見直し)。在職老齢年金制度の見直しによる中高年層の労働意欲向上。給付手段の簡素化(スマホ搭載のマイナンバーカードにキャッシュレス決済機能を付与し、ここへの給付を可能に)。要はデジタル化で国民個々人の所得状況をガラス張りにし、そのデータを基に応分の負担を求めるということ。カッコ内でさらりと標準報酬月額上限の見直しに触れているが、前段で「余力のある人には払ってもらい」と書いている以上、上限見直しとは上限の引き下げ、すなわち高額所得者や高齢者を中心に保険料負担の引き上げを想定していると思われる。同時に年金の見直しの「中高年層の労働意欲向上」も聞こえを良くしただけで、素直に解釈すれば、給付開始年齢の引き上げや給付水準の引き下げで“労働意欲を持たざるを得ない”状況にするということではないだろうか?いずれにせよある程度“物は言い様”は確かだが、総理総裁を目指そうとするならば、それなりに意図していること臆せず表現する度胸も必要だと思うのだが…。さてさて9候補も紹介するとなると、なかなか骨が折れる。現時点での各社報道によると、上位3人は石破氏、小泉氏、高市氏だという。いずれにせよこの記事公開後、半日も経たずに日本の首相が決まることになる。

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英語で「脳神経は正常です」は?【1分★医療英語】第149回

第149回 英語で「脳神経は正常です」は?《例文1》Although the patient presented with mild dizziness, her cranial nerves were grossly intact on initial evaluation.(患者は軽度のめまいの訴えがありましたが、初回の診察では脳神経の明らかな異常は見られませんでした)《例文2》The cranial nerves were not intact on neurological exam, as the patient showed facial asymmetry.(神経学的検査において、患者は顔面の非対称性を示したため、脳神経に異常が見られました)《解説》今回は脳神経に関する単語の解説です。救急外来などでは、身体検査で脳神経系を評価する場面がしばしばあるかと思います。「正常な脳神経所見」はどのように伝えればよいでしょうか。医療英語では、I~XIIの12の脳神経のことを“cranial nerve”と呼びます。副詞の“grossly”は単語としては「甚だしく/著しく」といった意味ですが、これを“intact”(=「損なわれていない/完全な」という意味の形容詞)と組み合わせて“grossly intact”とすると、「(脳神経が)異常なし/正常である」という意味になります。この“grossly intact”は“Cranial nerves are (were) grossly intact.”(脳神経所見は正常です)というお決まりのフレーズとして、カルテでも口頭のプレゼンでも頻用されます。ただ、“grossly”という単語は基本的に脳神経所見に限って使われる単語であり、ほかの身体所見ではあまり使われないので注意してください。なぜ脳神経のみがこの表現なのかは明らかではないのですが、米国の医療現場で広く使われているのでそのまま覚えてしまいましょう。一方、“intact”のほうは、ほかの部位の正常所見を示す際にも使われます。直訳すれば、“physically and functionally complete.”(身体的、機能的に完璧である)という意味になりますが、実際にカルテに記載されている例を挙げると、“Skin is moist and intact.”(皮膚は湿潤、損傷なし)や、“Extraocular movements is intact.”(眼球運動は正常)といった使われ方をしています。講師紹介

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第229回 迫る自民党総裁選、立候補者の言い分は?(前編)

さて前回は立憲民主党代表選挙の立候補者が掲げる社会保障、医療・介護政策を取り上げた。となれば、いま一番熱い? 自由民主党(以下、自民党)の総裁選を取り上げないわけにはいかないだろう。自民党総裁選は、1955年の結党以来、今回で45回目。ちなみに現在のような推薦人制度に基づく立候補制となったのは1972年の第12回総裁選(田中角栄が当選)以降であり、これ以降で現在まで最も立候補者が多かった時は2008年の第38回と2012年第40回の5人である。しかし、今回は9人。形式的には派閥解消後初の総裁選ということもあってか、異様な賑わい、まるで東京都知事選化である。9人の立候補者を50音順に挙げると、石破 茂氏(67)、加藤 勝信氏(68)、上川 陽子氏(71)、小泉 進次郎氏(43)、河野 太郎氏(61)、小林 鷹之氏(49)、高市 早苗氏(63)、林 芳正氏(63)、茂木 敏充氏(68)。国会議員当選回数(参院も含む)は石破氏の12回が最多、次いで茂木氏の10回、河野氏と高市氏が9回、加藤氏と上川氏が7回、林氏が6回、小泉氏が5回、小林氏が4回。ちなみにこの中で世襲議員は、石破氏、加藤氏(娘婿として)、小泉氏、河野氏、林氏で過半数を占める。立候補者全員が閣僚経験者だが、小泉氏と小林氏は経験1回である。自民党で総裁を除く最高幹部である、幹事長、総務会長、政調会長という党三役経験者は、石破氏と茂木氏がともに幹事長・政調会長、加藤氏が総務会長、高市氏が政調会長の経験者である。総裁選立候補回数は石破氏が今回で最多タイの5回(同じ5回は小泉 純一郎氏)、河野氏が3回。両者とも第12回総裁選以降導入された決選投票方式で過去3回行われた決選投票経験者である。このようにしてみると、改めて、ベテランから若手まで幅広い候補者が並んだことがわかる。ちなみに自民党自体が総裁選特設ページを設けている。「THE MATCH」とややエンタメ化を意識したページで、各候補の政策は通常の一般選挙の選挙公報を模したような紙ペラ1枚が掲載されている。ちなみにこれとは別に各候補とも自前の総裁選特設ページを開設している。当然ながら、多くの候補は自前ページのほうの内容が充実している。ということでこの自前ページを前提に、自民党の特設ページや日本記者クラブが主催した総裁選立候補者の公開討論会なども参考にしながら、恒例の各候補の社会保障、医療・介護政策を見ていき、独断と偏見の評価も加えたい。なお、あまりに候補者が多過ぎるので、2回にわけてお届けしたい。となると、2回目は総裁選投票当日になってしまうが、9人全員を一気に紹介したら1万字超となるので、ご理解いただきたい。石破氏(鳥取1区選出)まず、石破氏の略歴だが、父親の石破 二郎氏は旧建設省事務次官を経て、鳥取県知事、自民党参院議員に当選し、旧自治相などを歴任した人物。旧三井銀行を経て、父の跡を継いで自民党から政界入りした。しかし、今の若年世代は知らないかもしれないが、1993年の宮澤 喜一内閣の政治改革停滞に伴い野党が提出した内閣不信任案決議に自民党議員のまま賛成票を投じた。直後の衆院選では党公認を得られなかったものの無所属で当選。その後、自民党の下野に伴い細川連立政権入りした、自民党離党組の羽田 孜氏・小沢 一郎氏らが率いる新生党に入党した。新生党が野党各党と新進党を結成した際にもそのまま同党に参加したが、安保政策の不一致から新進党を離党し、橋本 龍太郎氏が総裁の時の自民党に復党している。私が大学4年時、宮澤政権の崩壊直前に自民党若手政治家たちを代表した石破氏が、政治改革実現を訴えるために宮澤氏の私邸を訪問し、テレビカメラに囲まれていた映像が鮮烈に記憶に残っている。さてその石破氏の特設ページでは、「5つの『守る』」をキャッチフレーズに掲げている。その中の「03 国民を守る」に“社会保障制度改革”がある。以下に列挙する。従来の家族モデルを前提とした社会保障の在り方を脱却し、多様な人生の在り方、多様な人生の選択肢を実現できる柔軟な制度設計を行います。医療DXの推進により、ビッグデータも活用しつつ、予防と自己管理を主眼とした健康維持のための医療制度を構築し、医療費を適正化するとともに、遠隔医療の拡充、医師偏在の是正、健康寿命延伸、薬価制度の見直しなどに取り組み、国民一人一人に最適な医療の実現を目指します。併せて医療人材の処遇改善、医療機関の負担軽減にも取り組みます。国民が必要とする医薬品の安定供給を実現するため医薬品の原材料の確保にも万全を期します。子ども・子育て支援に加えて、結婚・出産支援にも重点を置き、結婚、出産、育児と一貫した支援で少子化対策を拡充します。一番目と最後の少子化対策を併せて考えると、少なくとも既存概念からやや脱却したリベラルな思考のようである。石破氏というと安全保障政策でやや保守的な政策が目立つとの印象を持つ人も少なくないようだが、一応そちらの分野も取材テーマである私からすると、石破氏の安全保障政策は徹底したリアリズムである。その意味で社会保障政策でもあくまで現在の社会状況に立脚している印象である。そして医療DXは誰もが言いそうだが、私個人の注目点は薬価制度見直しと医薬品安定供給に言及している点である。ちなみに医薬品安定供給については、自民党の特設ページの簡易版公報では削除されている。その意味では、この問題の優先度は高くないということか? やや皮肉的に言えば、安定供給で問題が生じていることを「知らないわけではないよ」という意思表示と解釈できるかもしれない。とはいっても、厚生族でもないのにこの問題を認識している点が、当選回数が多く政策通と呼ばれる石破氏らしいとも言える。そのためか、ほかの候補と比較しても石破氏の公報は文字で溢れかえったビジーなオジサンパワーポイントのごとしである。その意味では、石破氏は宮澤政権の崩壊前夜のあの時とまったく変わっていないのかもしれない。加藤氏(岡山3区)加藤氏は東大卒業後に旧大蔵省入り、退官後に当時自民党衆議院議員だった加藤 六月氏の秘書となり、同氏の娘と結婚して改姓。初の国政選挙では無所属で参院選に出馬するも落選。後に自民党の衆院選比例候補となるもこれも落選し、その後、ようやく比例区で当選した。途中からは小選挙区に転じ、今に至っている。議員当選後は一貫して厚生族畑を歩み続け、省庁再編による厚生労働省発足後、最多となる3度4代、厚労相に就任した(最長在職期間は初代厚労相の坂口 力氏)。さてその特設サイトでは「ニッポン総活躍 国民の所得倍増を柱とした8つのプラン」を掲げている。この中では「プラン3 こども・教育改革」で「三つのゼロ』給食費・こども 医療費・出産費負担ゼロの実現へも掲げているが、メインは「プラン4 社会保障改革」の人生100年を“健幸”で過ごせる社会保障改革である。以下、政策内容の原文である。2040年を見据え、必要な人に必要なサービスが提供され、能力に応じて負担し支えあう新たな仕組みを構築。医療・介護のDX推進、人材の確保や処遇改善、物価に連動した薬価の見直し、創薬推進と薬の安定供給、5大がん検診・生活習慣病健診・国民皆歯科健診の推進、多職種連携による医療・介護の充実、低年金者の年金水準改善など、人生100年を健やかに暮らせる“健幸”社会を実現。医療・介護・福祉職員などのさらなる処遇改善、医療・介護DXの推進などによる医療福祉人材の確保AIを活用した診断・診療強化による医療水準の向上地域において必要な医療が受けられる地域医療構想の推進保険給付と自己負担の組み合わせ方式(保険外併用療養)の活用による最先端医療の提供物価に連動した薬価の見直し、創薬の推進と薬の安定供給5大がん検診や生活習慣病検診の無償化、プッシュ型の保健指導国民皆歯科検診の導入栄養管理・口腔ケア・リハビリを含めた多職種連携による医療・介護の充実専門的支援も含めたメンタルヘルスの充実低年金者の年金水準改善私見ではざっと見ても、さすがはたたき上げの厚生族で元厚労相である。地域医療構想、薬価制度の見直しと医薬品安定供給、栄養管理・口腔ケア・リハビリの三位一体提供などへの言及など、かなりの玄人である。そして「保険外併用療養」という用語の使い方もまた絶妙である。この言葉、混合診療と混同されがちだが、基本的に解釈の違う言葉である。若手議員あたりが勢い余って混合診療と言ってしまい、あとで医師会関係者から叱られるポイントだったりする。ただし、玄人過ぎて、党員や下手をすると国会議員にも伝わるかどうかはやや懸念点である。また、個人的には地域医療構想の推進の中身が気になる。というのも、私個人は将来の適切な医療提供のためには病院再編は避けられないと考えているからだ。しかし、この点は日本医師会の会員内でも温度差があるので、そちらと関係が深い加藤氏はどう考えているのだろうか?また、冒頭ではさらっと言及した「プラン3 こども・教育改革」の中でこどもの死を予防するための検証制度(CDR)の促進も私自身は頷いた点である。少子化対策というと、すぐ「産めよ、増やせよ」になるが、まず今を生きている子供が不慮の死を迎えないよう予防措置を推進することも少子化対策ではないかと思っているからだ。実はこの視点が多くの政治家に欠けている。上川氏(静岡1区)今回の候補で最年長の上川氏。東大卒業後に三菱総合研究所研究員を経て、ハーバード大学で政治行政学修士号を取得。米・上院の民主党マックス・ボーカス議員の政策スタッフを務めた。1996年の衆院選に静岡1区から無所属で出馬して落選。その後、自民党に入党するも、2000年の衆院選では自民党公認が得られず、再度無所属で同区から出馬して初当選した。自民党公認候補がいながらの出馬強行と、その当選で自民党公認が落選したことで自民党を除名。2001年に復党した。上川氏の特設ページに掲げられたキャッチフレーズは「一緒に創りませんか 日本の新しい景色」と何ともほんわかとしている。関連する政策は『7つの政策の柱』の筆頭の「1. 新しい経済の景色を創りましょう!」で、成長産業の育成として7分野を挙げ、この中にバイオ、ヘルスケアを含んでいる。上川氏はこうした産業育成に向け、”『令和版産業構造ビジョン』を策定し、科学技術イノベーションと社会実装を飛躍させます“と宣言している。社会保障制度そのものについては「3. “誰一人取り残さない社会”の景色を創りましょう!」と題する項目で健康長寿日本への社会保障として以下の2点を掲げている。「令和の財政強靭化」を通じて、 国民皆保険制度、年金制度を堅持しますヘルスケアサービスを推進するほか、病に至る前の予防・健康増進、自立支援を強化し、「健康寿命」を延伸しますちなみに「令和の財政強靭化」とは、経済政策の中で言及しており、“世界・金融市場の信認を維持しながら、しなやかで力強く成長する『令和の財政強靭化』に乗り出します”との記述がある。なんともふわっとした「強靭化」である。日本記者クラブの公開討論会では「(社会保障制度が)持続可能になるためには、給付と負担の関係の見直しということは極めて重要であると認識をしております」と発言しているが、給付削減に重点を置くのか、負担増に重点を置くのか、給付削減と負担増を等分で行うのかは不明である。外交畑が得意とはいえ、衆院厚生労働委員会委員長の経験者でもあるので、もっと分厚い政策が欲しかったところである。小泉氏(神奈川11区)もはや説明も不要なほど、今回の総裁選の台風の目である小泉氏。変人とまで称された元首相・小泉 純一郎氏の次男である。関東学院大学卒業後、米コロンビア大学大学院に進学し、政治学修士号を取得。その後は米国戦略国際問題研究所(CSIS)研究員、純一郎氏の私設秘書を経て、2008年に純一郎氏の引退を受けてその地盤を引き継ぎ初当選し、今に至る。さて小泉氏の特設サイトで掲げるのは「決着 新時代の扉をあける」とのキャッチフレーズ。社会保障関連で掲げる政策は、自民党の特設サイトの公報、本人の特設サイト、出馬会見全文のいずれでも「社会保障」「医療」「介護」という言葉はゼロである。正直、目を疑って何度も読み返したがゼロである。大事な事なのでもう1度言うと、ゼロである。ちなみに前述の公開討論会では、進行の都合などもあるだろうが、やはり何も言及していない。新たに開設された本人のYouTubeチャンネルにアップされている街頭演説2本でも同様。いやいや、ライドシェア解禁よりもはるかに国民生活にとって重要なテーマではないだろうか?「若さ」「改革」という言葉が並び、加えてイケメンだと、こうも有利に事が運ぶのかと感心しきりである。河野氏(神奈川15区)河野氏は自民党総裁を務めながら首相にはなれなかった河野 洋平氏の長男。父・洋平氏は若き頃、ロッキード事件に失望して自民党を離党。新自由クラブを組織し、一時自民党が衆院で過半数割れになった時に同クラブとして連立を組むなどして政界のキャスティングボードを握ったが、後に自民党に復党している。河野氏自身は日本で大学を中退して渡米。米・ジョージタウン大学に進学して在学中は米・民主党の大統領選にボランティアで参加したり、交換留学生として共産圏時代のポーランドに渡るなど、どちらかというとリベラル思考である。大学を卒業して帰国後は富士ゼロックス(現・富士フイルムビジネスイノベーション)、日本端子(洋平氏が大株主、現社長は河野氏の弟)を経て、1996年の小選挙区比例代表制が初めて導入された衆院選で、洋平氏の選挙区が分割されたことを受けて出馬。ここで当選し、今に至る。河野氏の特設サイトで掲げられているキャッチフレーズは「有事の今こそ、河野太郎 国民と向き合う心。世界と渡り合う力」。まず、経済として「投資拡大ができる環境整備」を掲げ、“データに基づいた投資を行いやすくするために、地域におけるサービスの需要をオープンデータ化し、企業と共有しながら地域活性化につながる産業を創り出す(交通、医療・介護、教育、小売)”と産業面からの医療・介護支援を提言。さらに社会保障で第一に掲げているのが、「社会保険料が『現役世代の賃金課税』となっていることを改める」として、“『前期高齢者納付金』と『後期高齢者支援金』が現役世代に重くのしかかっていることを考慮して、応能負担の観点から世代間移転のあり方を検討する”としている。ここから察するに高齢世代に応分負担を求めて行く考えであろうことが想像できる。この問題は従来から各種審議会などでも指摘されていることで、最終的には政治決断でやるかやらないかだけの問題とも言えるかもしれない。これ以外では以下のようになる。社会課題が集中する厚労省を厚生と労働に分割し、それぞれ専任の大臣を設置する電子カルテ、電子処方箋の推進や、福祉施設の業務効率化など、医療・介護DXを更に進めることで、人手不足の中でも活力ある健康長寿社会を実現する医師確保計画の深化、医師の確保・育成、実効的な医師配置により、日本中どこでも確実に医療を受けられるようにする皆保険を維持しながら医療の高度化に対応するため民間医療保険を活用する心臓死からの臓器移植を増やす一番目の厚労省分割は、当時の省庁再編時に会社員記者として旧厚生省に出入りしていた立場として、なかば結論ありきで進められた雰囲気がありありだったと体感している。厚生行政と労働行政は、関連はあっても完全に別物であり、1つのゲージに犬と猫を同居させるやや無理ゲーのようなもの。また、厚生行政は国会会期中の対応が突出して多く、明らかに業務過多であり、私個人も分割して人員を強化すべきという立場である。医療DXは、ほかの候補よりもやや具体的だが、基本的に現在の施策のスピードアップ化と解釈できる。この辺に関連し、例のマイナ保険証推進での河野氏に役割について、日本記者クラブ主催の討論会では、記者との間でやや尖ったやり取りがあった。以下に引用する。 記者 突破力があるということでは、もうこれは自他共に認めるところでありましょう。ただマイナ保険証に一本化することを唐突に表明されたり、それから防衛大臣時代にイージス・アショアの問題で配備の中止をアメリカとまったく調整しないまま打ち出したりで、これに対していろんなご意見があります。突破力があるというばっかりに、悪い言い方をすると、自分を誇示すること、あまり異なる意見に耳を傾けないというそういう感じがあるんではないかという具合に思われている。このことについてどうお考えですか。河野氏(イージス・アショアについては省略)マイナ保険証についても、これは当時の厚労大臣、総務大臣、あるいは官房長官と調整をして、最終的に総理のご了解をいただいて、こういうふうにやっていこうということにしたわけでございますから、私が何か誇示をするというよりは、一番批判を浴びやすいところを私が記者会見などで受持ってお話を申し上げてきたというのが正しいところだと思います。またまた河野氏らしい受け答えではあるが、通称ブロック太郎と呼ばれるX(旧Twitter)でのブロック姿勢を眺め、若干やり過ぎと考えている私としては、これに通じる印象、どちらかというと質問した記者と同様の印象を受けてしまう。さて医師確保と民間医療保険の活用は既得権益の抵抗大は必至。とはいえ、ここはもっとも河野氏らしいと言える。詳細な考えはこの中では述べられていないが、もし総理になったら、どのような中身でどう進めるか? を間違うと、政権崩壊に繋がる危険性のある事案である。最後の心臓死からの移植増は、今回の河野氏の政策のなかで、正直、私がもっともナンセンスと思った点である。心臓死からの移植であれ、脳死からの移植であれ、提供はあくまで亡くなった本人の生前の意思か家族の承諾に基づくのが現在の法令上の規定。河野氏の主張は生前意思不明の場合の家族承諾をなくすということかもしれないが、人の内心に手を突っ込むということであり、「増やす」と宣言して増やせるものでもない。とりあえず今回はここまでにしておこう。

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第114回 10月からの新型コロナワクチンの値段がヤバイ

10月から定期接種次の新型コロナワクチンの案内はいつ来るのかと待ちわびていたら、秋冬のインフルエンザワクチン接種と時期を合わせるかのように定期接種が開始されることになりました。「2,000~3,000円なら余裕で打つっしょ!」と思っていたら、われわれ非高齢者の医療従事者の自己負担額は…1万5,300円!!!グハッ!鉄板焼の高級店のカウンターで、神戸牛フィレ肉をカットしてもらうくらい高いでんがな!もともと新型コロナワクチンというのは、1回接種すると原価で1万5,300円かかるのです。そもそもが高い。65歳以上の高齢者や、60~64歳の重度の疾患がある場合には定期接種が適用され、安い値段で接種できるような仕組みになっています。この負担軽減は、国と自治体の両方が頑張ってくれていて、渋谷区や足立区のように、高齢者の場合は無料で接種できるところもあるようです。問題はわれわれ任意接種世代です。過去には医療従事者にも新型コロナワクチンの接種費用が減免された時代もありましたが、今やもう一般の方々と同じ扱いです。当院のスタッフに聞いたところ、打たない人のほうが多かったです。子供についても、何らかの助成があってしかるべきと思いますが、今のところ自治体に委ねられているようです。ワクチン流通量は?これまで圧倒的なシェアを得ていたmRNAワクチンが流通量のほとんどを占め1)、おそらく主にこれが選択されるでしょう(表)。SNSで炎上気味のレプリコンワクチンについては400万回程度の流通です。画像を拡大する表. 10月以降流通する新型コロナワクチン(筆者作成)レプリコンワクチンについては、mRNAを自己複製できるという意味ですが、この言葉が独り歩きして、周囲にシェディングをもたらすなどというデマが広まっているようです。生物学の知識があれば、誤ったことであることは読者の皆さんもおわかりかと思いますが…。レプリコンワクチンは、1本16人分なので、集団接種とかそういうことになったら使いやすいかもしれませんが、クリニックや医療機関では外来用に使いづらいかもしれません。外来で聞かれることが増えた最近外来で、「10月以降、新型コロナワクチンを接種すべきかどうか」という質問を患者さんからよくいただきます。個人的には、「これまでインフルエンザワクチンを接種していたなら検討いただく形でよい」と返しています。ただ、この値段だと、全員に強くお勧めするとは簡単に言えなくなりました。最近だと、帯状疱疹ワクチンもそれなりに高いですが、今後ワクチンの原価は上がってくる時代なのかもしれません。参考文献・参考サイト1)厚生労働省 健康・生活衛生局 感染症対策部 予防接種課. 2024/25シーズンの季節性インフルエンザワクチン及び新型コロナワクチンの供給等について(2024年9月2日)

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脳梗塞入院時の口腔状態が3カ月後の生活自立度と有意に関連

 脳梗塞で入院した時点の歯や歯肉、舌などの口腔状態が良くないほど、入院中に肺炎を発症したり、退院後に自立した生活が妨げられたりしやすいことを示すデータが報告された。広島大学大学院医系科学研究科脳神経内科学の江藤太氏、祢津智久氏らが、同大学病院の患者を対象に行った研究の結果であり、詳細は「Clinical Oral Investigations」に7月19日掲載された。 全身性疾患の予防や治療における口腔衛生の重要性に関するエビデンスが蓄積され、急性期病院の多くで入院中に口腔ケアが行われるようになってきた。ただし、脳梗塞発症時点の口腔状態と機能的転帰や院内肺炎リスクとの関連については不明点が残されていることから、祢津氏らはこれらの点について詳細な検討を行った。 2017年7月~2023年8月に脳梗塞急性期治療のため同院へ入院し、データ欠落がなく発症前の生活が自立していた(修正ランキンスケール〔mRS〕2点以下)連続247人を解析対象とした。口腔状態は、歯や歯肉だけでなく、舌や口唇、口内粘膜の状態、および含漱(うがい)ができるか否かなどの8項目を評価する指標(modified oral assessment grade;mOAG)で判定した。mOAGは同院の西裕美氏らが独自に開発した口腔衛生状態を表す指標で、0~24点の範囲にスコア化され、スコアが高いことは口腔状態の不良を意味する。 入院3カ月後のmRSの評価で、137人(55.5%)が転帰良好(スコア上限が2点〔仕事や活動に制限はあるが日常生活は自立している〕)、110人(44.5%)が転帰不良(スコア下限が3点〔食事やトイレなどは介助不要だが外出時には介助を要する〕)と判定された。入院時の口腔状態は、転帰良好群がmOAGスコアの中央値6点(四分位範囲5~7)、転帰不良群が11点(同10~14)で、後者が有意に高値(不良)だった(P<0.001)。 交絡因子(年齢、性別、BMI、喫煙・飲酒習慣、脳卒中の既往、併存疾患、入院前mRSスコア、神経学的重症度〔NIHSSスコア〕、発症から入院までの期間など)を調整した多変量解析の結果、入院時のmOAGスコアが予後不良に独立した関連のあることが明らかになった(1点高いごとにオッズ比〔OR〕1.31〔95%信頼区間1.17~1.48〕)。mOAGスコアで予後不良を予測する最適なカットオフ値は7であり、感度83.9%、特異度65.5%、予測能(AUC)0.821と計算された。またmOAGスコアが7点以上の場合、予後不良のオッズ比は4.26(2.14~8.66)だった。 入院中に肺炎を発症したのは13人(5.3%)だった。入院時の口腔状態は、肺炎非発症群がmOAGスコアの中央値6点(四分位範囲4~9)、肺炎発症群が10点(同8~12)で、後者が有意に高値(不良)だった(P<0.001)。 交絡因子を調整した多変量解析の結果、入院時のmOAGスコアが院内肺炎発症に独立した関連のあることが明らかになった(1点高いごとにOR1.21〔95%信頼区間1.07~1.38〕)。mOAGスコアで院内肺炎発症を予測する最適なカットオフ値は8であり、感度84.6%、特異度64.5%、AUC0.783と計算された。またmOAGスコアが8点以上の場合、院内肺炎発症のオッズ比は7.89(1.96~52.8)だった。 なお、同院では全入院患者に対して標準化されたプロトコルに基づく口腔ケアが実施されている。その結果、入院中にmOAGが2回評価されていた患者(159人)のうち91人は、mOAGスコアの改善を認めた。しかしこの改善と、3カ月後のmRSや院内肺炎発症率との関連は有意でなかった。その理由として、「mOAGが2回評価されていた患者は重症例が多かったためではないか」との考察が加えられている。 以上一連の結果を基に著者らは、「脳梗塞急性期のmOAGスコアは、院内肺炎リスクや3カ月後の機能的予後と独立して関連していた。脳梗塞患者の入院に際して、口腔状態の評価結果を医療従事者間で共有し、積極的な口腔衛生介入をすべきではないか」と述べている。

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第228回 立憲民主党代表候補4人の医療政策、医療当事者は納得できる?

この9月は国内外で選挙に伴う候補者討論会が目白押しだ。日本では政権与党の自由民主党(以下、自民党)の総裁選挙と野党第一党の立憲民主党の代表選挙、国外ではアメリカ大統領選挙などである。本稿執筆時点では自民党総裁選挙以外の候補者討論会は終了した。毎度のこと、かつ本連載で最も読まれないと自覚している政治ネタ定期便として、いち早く選挙が始まった立憲民主党の各候補が掲げた社会保障・医療・介護関連政策を独断と偏見に基づく寸評も交えて取り上げてみたい。まず、今回の立候補者は現代表の泉 健太氏(50)、同党設立時の党首である枝野 幸男氏(60)、前身の旧民主党の政権獲得時の最後の首相だった野田 佳彦氏(67)、衆議院議員1期目の吉田 晴美氏(52)の4人である。本稿執筆時点で自民党総裁選への出馬を表明した候補もそうだが、それ以上に旧民主党・民進党の流れをくむ立憲民主党は、旧民主党時代も含めて今回の候補者4人中3人が党代表経験者で、やや批判的な意味で「毎度お馴染み…」と評される状況。衆参両院の議員数が自民党の半分以下とは言え、人材が乏しい印象は否めない。このうち枝野氏と野田氏は、通称55年体制と呼ばれる1955年以降続いた自民党政権が崩壊した1993年衆議院選挙で、当時の新党ブームの先陣を走っていた日本新党(代表:細川 護熙氏)が臨んだ初の衆議院選挙で初当選を果たした御仁。ちなみに自民党総裁選に出馬を表明した同党幹事長の茂木 敏充氏もこの時の日本新党当選組である。4人の候補者の経歴は大学卒業後、枝野氏は弁護士経験約5年、野田氏は松下政経塾やアルバイト生活を経て千葉県議、泉氏は旧民主党議員秘書を経て、それぞれ国政入りしている。この3人は半ば生粋の政治家に近い。吉田氏は大学卒業後にイギリスに留学して経営学修士号(MBA)を取得、職務経験として航空会社CA、コンサルタント会社、旧民主党政権期の法相秘書官、大学教員などを経て2021年の衆議院で初当選している。ちなみに略歴の中のコンサルタント会社とは、医療関係者にはそこそこ聞き覚えのあるKPMGヘルスケアジャパンである。さてまず4氏の社会保障政策に対する考え方は、9月7日に日本記者クラブ主催の討論会で概略が触れられている。まずこれを紹介する。野田氏野田政権で社会保障と税の一体改革をやりました。その精神は老後の不安、子育ての不安など国民が抱える不安が一番集中しているのが社会保障分野。この不安をなくし、社会保障の充実と安定を果たしていかなければいけない。そのために財源をいつまでも赤字国債に頼り、将来世代のポケットに手を突っ込んで賄っていくやり方は持続可能性がないとの判断から、消費税を充て併せて財政の健全化を図ることを目指しました。その後、十数年政権を離れている間、残念ながら社会保障改革が進んでない。だからもう1回、医療・介護含めて社会保障のあり方を全般的に見直し、法律上も予算会計上も社会保障費に充てられている消費税も含め財源の扱いに関する大きな議論をこれから党内挙げてやっていくべきではないかと思います。枝野氏社会保障負担という表現自体が財務省の土俵の上に乗せられてるんじゃないかと思います。実は従来型公共事業よりも社会福祉関連への投資のほうが、経済波及効果が大きい。今、日本で足りないのは介護職や保育士などの担い手。重労働のわりに低賃金だからです。国内の人件費に回したお金は、ほぼ国内や地方の消費に回ります。これは消費税の税収増にも繋がります。何よりも国内の消費が冷え込んでいるから、この30年間、日本経済は停滞してきました。賃金が上がらないから消費が停滞し、さらに国内消費に関連する投資も停滞してきた。この停滞に賃金アップは大きな力を与えることになります。経済政策のため借金しても公共事業をやってきたのならば、もっと波及効果が大きい社会福祉関連の人件費に充てる投資、負担ではなくて投資という意識でしっかりと充実させるべきだと私は思います。そうすればその分がきちんと戻ってきて、良い循環ができるはずです。社会福祉関連人件費に投資し、2~3年間、税収や国内消費の回復を見ながら進めていくべきだと思います。泉氏経済効果が語られることが少ない介護の分野でお金が回っていくようにしていかねばならないと思います。たとえば介護離職による経済損失は、多大なものがあります。介護が家庭に内部化されるほど、実は経済損失も大きい事実をわれわれは見なくてはいけない。介護の社会化に投資をし、働く人材の賃金を増やしていく。私は国会議員になる前にデイサービスのスタッフとして勤務し、周りがどんどん結婚退職をしていく中で仕事をしていました。やはり介護人材が集まって、多くの方々の面倒を見られるようにするためには、介護職員の待遇を上げていく。介護職員は地域で生活をしている方々が非常に多いので、彼らが地域で消費をする経済の循環が生まれてきます。これは地域経済の活性化にも繋がっていきます。吉田氏私はこの点(国民の不安)について、大きな二つの原因があると思います。1つは消費税が本当に社会保障に使われているのかという国民の皆さんの疑問があると思います。本当にそう使われているならば、負担をするという国民の皆さんも多いと思います。そのためには政治の信頼回復、言ったとおりに使っていると国民の皆さまに思ってもらえれば全然感じが違うのではないか。もう1つは少子化。労働力不足、消費の冷え込みは人にまつわるところから始まっていると思いますので、根本治療としての少子化対策が必要です。まず、概観すると、枝野氏と泉氏の考えはほぼ同一と言っていい。積極的な社会保障分野、とりわけ介護分野への積極的な財政出動策である。そしてこれは現時点で首相であり自民党総裁でもある岸田 文雄氏が首相就任時に掲げた「成長と分配の好循環による新しい日本型資本主義」ともほぼ同一である。吉田氏は少子化対策として教育の充実(無償化)を上げており、これも枝野、泉両氏と方向性が違うとはいえ積極的な財政出動策と言えるだろう。これに対し、野田氏は財政健全化も念頭に置いている。いわば財務省に近い考えでもある。枝野、泉、吉田氏との大枠での違いは、より現実を見据えなければならない財務相や首相を経験したことに起因するのかもしれない。それでは各氏のよりミクロな政策を見ていこうと思う。野田氏の想いまず、野田氏である。代表選挙の

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ヘルスリテラシー世界最低国の日本、向上のカギは「がん教育」

 現在、小・中・高等学校で子供たちが「がんの授業」を受けていること、そしてその授業を医師などの医療者が担当する可能性があることをご存じだろうか。 2024年8月27日、厚生労働省プロジェクト「がん対策推進企業アクション」メディアセミナーで、中川 恵一氏(東京大学大学院医学系研究科 総合放射線腫瘍学講座 特任教授)が「がん教育の意味」をテーマに、ヘルスリテラシーから考えるがん教育、授業の効果、医療者による授業などについて解説した。ヘルスリテラシーの欠如と学校がん教育 ヘルスリテラシーとは「健康情報を入手し、理解し、評価し、活用するための知識、意欲、能力」を指すが、先進国以外も含む調査において、日本のヘルスリテラシーは最低レベルであることが報告されている1)。 がんはヘルスリテラシーを高めることでコントロールできる側面があるが、日本においては、予防につながる生活習慣の理解や早期発見のためのがん検診受診率などに課題が多い。また、受動喫煙対策やワクチン接種など、がん対策の遅れの背景にも、ヘルスリテラシーの欠如があるという。 中川氏は、がん予防に関わる費用を他国と比較した場合、日本では教育や情報提供に占める割合が少ないことを示したうえで、今後国民のヘルスリテラシーを向上させうる「学校がん教育」への期待を語った。がん教育の効果の検証 がん教育は、教育カリキュラムの基準となる学習指導要領に2017年から明記されており、全国の小・中・高等学校で授業が始まっている。がん教育の一般認知度はまだ高いとはいえない状況だが、子供が授業で学んだことを親と話したり、がんについて学ぶ授業があることを親が知ったりすることで、大人のヘルスリテラシー向上も期待されている。 実際に、香川県の中学校におけるがん教育授業開始後に、町内の大腸がん検診受診率が向上したという報告もある。また、授業を受けた子供の知識やリテラシーが向上したことも報告されている2)。ただし、授業を受けた子供の成人後の検診受診意向の変化などについてはまだ調査が不十分であり3)、がん教育の長期的な効果の検証が求められる。高知県では、がん教育授業を受けた卒業生を対象に、子宮頸がんワクチン接種の有無などを含む行動変容について今後調査する予定である。医療者のがん教育参画への期待 がん教育をより効果的なものとするために、医療者やがんサバイバーなど、外部講師の授業への参画が期待されている。しかし、令和5年度の調査4)では、がん教育授業を実施した学校のうち、外部講師が授業を実施した割合は中学校で16.4%、高等学校で11.3%にとどまっており、この向上が課題の1つとなっている。 中川氏は「がん教育は、(死のイメージが強い)がんを題材とすることで、子供たちが命の大切さや死について考える大事な機会になる」としたうえで、医療者やがんサバイバーなどの参画の重要性を語った。さらに、学校医はがん検診受診促進やがんの緩和ケアに関わる機会もあるため、外部講師としての活動も期待されると述べた。 東京都で多くのがん教育授業を実施している南谷 優成氏(東京大学医学部附属病院 放射線科 助教)は、医学生にも授業を担当してもらっているという。授業を行うことは、患者教育やヘルスコミュニケーションについて学ぶ機会となるため、医療者にもメリットがあると語った。また、授業のインパクトを残すことは重要であり、そのためにも学校の教師ではなく外部講師が授業を実施する意義があると述べた。 高いヘルスリテラシーを持つ医療者ががん教育に参画することで、国民全体のヘルスリテラシーのさらなる向上が期待される。

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第227回 Nature誌の予言的中?再生医療の早期承認の現状は…

科学誌「Nature誌」の“予言”は正しかったのか? 2015年12月、同誌のエディトリアルに「Stem the tide(流れを止めよ)」というやや過激なタイトルの論評が掲載されたことを覚えている人もいるのではないだろうか?ちなみにこの論評には「Japan has introduced an unproven system to make patients pay for clinical trials(日本は臨床試験費用を患者に支払わせる実績のない制度を導入)」とのサブタイトルが付け加えられていた。Nature誌が批判した日本の制度とは、2014年11月にスタートした再生医療等製品に関する早期承認(条件および期限付承認)制度のことである。同制度はアンメットメディカルニーズで患者数が少なく、二重盲検比較試験実施も困難な再生医療等製品について、有効性が推定され、安全性が認められたものを、条件や期限を設けたうえで早期承認する仕組み。承認後は製造販売後使用成績調査や製造販売後臨床試験を計画・実施し、7年を超えない範囲で有効性・安全性を検証したうえで、期限内に再度承認申請して本承認(正式承認)を取得する。Nature誌の論評の直前、厚生労働省(以下、厚労省)の中央社会保険医療協議会は、同制度での承認第1号となった虚血性心疾患に伴う重症心不全治療のヒト(自己)骨格筋由来細胞シート「ハートシート」(テルモ)の保険償還価格を決定していた。ハートシートは患者の大腿部から採取した筋肉組織内の骨格筋芽細胞を培養してシート状にし、患者の心臓表面に移植する製品。念のために言うと、Nature誌による批判の本丸は、同制度の承認の仕方そのものというよりは保険償還に関する点である。通常、製薬企業などが新たな治療薬や治療製品を開発する際は、開発費用は当然ながら企業側が全額負担する。しかし、条件付き承認制度では、企業は暫定承認状態で販売が可能になり、最低でも本承認の可否が決定するまでの期間、保険診療を通じた公費負担と患者の一部自己負担が製品の販売収益となる。そしてこの間にも企業側は本承認に向けた臨床試験を実施する。つまるところ、暫定承認期間中に、本来、企業負担で行うべき臨床試験費用の一部を事実上患者が負担し、効果が証明できずに本承認を得られなかったとしても過去の患者負担が返還されるわけでもない。企業が負うべきリスクを患者に付け回している、というのがNature誌の主張だ。そしてNature誌の論評では「条件付きかどうかに関わらず、すでに承認された医薬品を制御するのは容易ではないだろう。評価が甘く、医薬品の効果が明らかにされない、あるいは流通から排除されないなど生ぬるい評価が行われれば、日本は効果のない治療薬であふれてしまう国になる可能性がある」とまで言い切った。2014年から10年、制度利用の状況このハートシート以降、条件付き早期承認制度を利用して承認を取得したのは、脊髄損傷に伴う神経症候及び機能障害の改善を適応としたヒト(自己)骨髄由来間葉系幹細胞「ステミラック」(ニプロ)、慢性動脈閉塞症での潰瘍の改善を適応とする「コラテジェン(一般名:ベペルミノゲンペルプラスミド)」(アンジェス)、悪性神経膠腫を適応とする「デリタクト(一般名:テセルパツレブ)」がある。そして今年7月19日に開催された厚労省の薬事審議会の下部会議体である再生医療等製品・生物由来技術部会は、ハートシートについてメーカーが提出した使用成績調査49例とハートシートを移植しない心不全患者による対照群の臨床研究102例の比較検討から、主要評価項目である心臓疾患関連死までの期間、副次評価項目である左室駆出率(LVEF)のいずれでもハートシートの優越性は確認できなかったと評価し、「本承認は適切ではない」との判断を下した。また、これに先立つ6月24日、同じく条件付き早期承認を取得していた前述のコラテジェンでも動きがあった。製造・販売元のアンジェスが「HGF 遺伝子治療用製品『コラテジェン』の開発販売戦略の変更に関するお知らせ」なるプレスリリースを公表。同社はすでに2023年5月に本承認に向けた申請を行っていたが、プレスリリースでは「非盲検下で実施した市販後調査では、二重盲検の国内第III相臨床試験成績を再現できなかったことから上記申請を一旦取り下げ」と述べ、6月27日付で本承認申請を取り下げた。率直に言って、データを提出して本承認への申請を行っていながら、1年後には第III相試験成績を再現できなかったと申請を取り下げるのはかなり意味不明である。厚労省側は前述の7月19日の部会にコラテジェンに対するアンジェスの対応を報告。結果としてハートシートとコラテジェン共に暫定承認が失効した。制度発足から10年で、条件付き早期承認制度を利用して承認を受けた4製品のうち2製品が市場から姿を消したことになる。つまり同制度の暫定“打率”は5割という、医療製品としてはあまり望ましくない数字だ。薬事審議会後の厚労省医薬局の医療機器審査管理課の担当者による記者ブリーフィングでは、審議会委員から「今後こういったことが続かないように制度運用での有効な措置を考えるべきだ」との意見も出たことが明らかにされた。ある意味、当然の反応だろう。もっとも今回、医療機器審査管理課が公表したハートシート、コラテジェンの審議結果では、いずれも「有効性が推定されるとした条件及び期限付承認時の判断は否定されないものの」とのただし書きが付いた。さて、そのハートシートが条件付き期限付き承認を受けた当時の審査報告書に今回改めて目を通してみた。当時の審査報告何とも評価が難しいのは、承認の前提になった国内臨床試験が症例数7例の単群試験である点だ。この7例は▽慢性虚血性心疾患患者▽NYHA心機能分類III~IV度▽ジギタリス、利尿薬、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)、β遮断薬、アルドステロン拮抗薬、経口強心薬といった最大限の薬物療法を行っているにもかかわらず心不全状態にある▽20歳以上▽標準的な治療法に冠動脈バイパス術(CABG)、僧帽弁形成術、左室形成術、心臓再同期療法(CRT)、経皮的冠動脈インターベンション(PCI)を施して3ヵ月以上経過しているにもかかわらず心不全の悪化が危慎される▽エントリー時の安静時LVEF(心エコー図検査) が35%以下、を満たす重症心不全患者である。実際の7例の詳細を見ると、年齢は35~71歳、NYHA心機能分類は全員がIII度、LVEFが22~33%。治療では全例がPCIかCABGを施行し、5例はその両方を施行していた。薬物治療では利尿薬、ACE阻害薬、β遮断薬のうちどれか2種類は必ず服用しており、心不全治療目的の治療薬は3~7種類を服用していた状態である。ハートシートによる治療は、開胸手術が必要になるが、この7例の状態はそれを行うだけでもかなりリスクの高い症例であることがわかる。同時にこれらの症例では、意図して対照群を設定して比較試験を行うことは、現実的にも倫理的にもかなり困難だろう。国内臨床試験の主要評価項目はLVEFの変化量である。ハードエンドポイントを意識するならば、心疾患関連死を見るべきかもしれないが、やはりこの試験セッティングでは難しいと言わざるを得ない。こうしたさまざまな制約の中で行われた臨床試験結果はどのようなものだったのか?まず、LVEFだが、ご存じのようにこの数値の算出には、心プールシンチグラフィ、心エコー、心臓CTなどの検査を行う必要があり、この中で最もバイアスが入りにくいのは心プールシンチグラフィである。臨床試験では、心プールシンチグラフィのデータでメインの評価を行っており、事前に設定したLVEFの変化量に基づく改善度の判定基準は、「悪化」が-3%未満、「維持」が-3%以上+5%未満、「改善」が+5%以上。ハートシート移植後26週時点での結果は「悪化」が2例、「維持」が5例、「改善」が0例だった。ちなみの副次評価項目では心エコー、心臓CTによるLVEF変化量も評価されており、前述の改善度判定基準に基づくならば、心エコーでは全例が「改善」、心臓CTでは「維持」が5例、「改善」が1例、残る1例はデータなし。LVEF算出において、心エコーはもっともバイアスが入りやすいと言われているが、さもありなんと思わせる結果でもある。ちなみに試験の有効性評価の設定では、試験対象患者が時問経過とともに悪化が危慎される重症心不全患者であったことから、「維持」以上を有効としたため、心プールシンチグラフィの結果では7例中5例が有効とされた。もっともここに示したデータからもわかるように、評価結果に一貫性があるとは言い難い。この点はメーカー側も十分承知していたようで、心臓外科医1名、循環器内科医2名の計3名からなる第三者委員会を組織し、各症例のデータなどを提供して症例ごとの評価を仰いでいる。審査報告書にあるその評価は「有効」が5例、「判定不能」が2例。とはいえ、有効と評価されていた症例でも、その評価にはある種の留保条件的なものが提示されたものもあった。そして最終的な医薬品医療機器総合機構(PMDA)の評価は「国内治験における本品の有効性の評価は限定的であるものの、個別症例に対する総合的な評価に基づき、標準的な薬物療法が奏効しない重症心不全患者に対して本品は一定の有効性が期待できると考える」とした。申請者、評価者、それぞれの努力がにじむ結果であり、今から振り返ってこの評価が妥当ではなかったとは言い切れないだろう。しかしながら、審査報告書を事細かに読むと、たとえば国内臨床試験の主要評価項目であるLVEF変化量についてPMDAは「申請者が設定した『悪化』、『維持』及び『改善』の各判定基準の臨床的意義は必ずしも明確ではないが」などと表現しており、あえて私見を言うならば、「第1号」ゆえの期待、もっと言えば“ご祝儀“意識も何となく感じてしまうのである。もっともNature誌のような酷評まではさすがに同意はしない。今回、薬事審議会が不承認の判断を下したことで「効果のない治療薬であふれてしまう国」という“最悪“の状況は回避されている。とはいえ、今後の同制度の運用にはかなり課題があることを示したのは確かだろうというのは、ほぼ万人に共通する認識ではないだろうか?

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