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第163回 マウスピース矯正で集団訴訟、歯科ならではの診療報酬が影響か

ここで歯科領域の話を扱うのは初めてだが、6月6日に歯列矯正をめぐって300人以上が総額4億5,000万円の損害賠償を求めて、集団提訴した事件が報じられた。歯列矯正というと、ちょっと昔の世代は歯に接着したブラケットにワイヤーを通して歯に力を掛けて矯正するワイヤー矯正を思い浮かべがちだ。矯正中に歯を見せて笑うと、歯に装着されたワイヤーにドキッとしてしまうアレだ。このワイヤー矯正は見た目の問題以外に加え、ワイヤーで引っ張るために時に痛みを感じる、装着した歯では食事や歯磨きがしにくいなど患者にとっては生活に一定の影響がある。これに対し、近年登場してきたのがマウスピース矯正である。患者の歯列に合わせた透明な薄い樹脂製のマウスピースを作成し、これを1日20時間以上装着して矯正状況に応じてマウスピースを1~2週間ごとに交換する。治療期間は2~2.5年といわれている。目立たない、食事や歯磨きの際に取り外し可能、ワイヤー矯正ほど痛くないうえに、実は治療費も45~70万円くらいでワイヤー矯正よりも安価、と患者にとってはかなりメリットが多いと言われる。デメリットはワイヤー矯正と比べて適応が限られることである。今回の事件ではこのマウスピース矯正を希望する人をモニターとして集め、まずは歯科医院に1人あたり150万円前後を支払って、マウスピース矯正を開始。モニター謝礼としてクリニック側が毎月5万円をキャッシュバックして実質無料にするというものだった。しかし、途中でキャッシュバックの支払いが止まり、歯科医院も閉院して矯正治療も中断されたというものだ。一部報道ではこのモニター制度に関わった運営会社や関連会社、歯科医院の関係者それぞれが取材に応じ、自身のほうが騙された旨の発言をしているが、現時点でどの主張が本当かはわからない。もっとも個人的にはこの件を見るにつけ、歯科医療そのものの構造的な問題を感じてしまう。1つはご存じのように歯科治療の場合、医科よりも自由診療が占める部分が大きい。このため国内で自由診療扱いになるものに関しては、医科ほどには信頼性が高いエビデンスがあるとは言い難い。加えて今回の歯列矯正に加え、ホワイトニングもそうだが、治療目標が定めがたい。と言うのも、治療目標が患者の期待値に縛られていることが多く、医科のように明確なエンドポイントが設定しにくい。もっといえば歯列矯正やホワイトニングは、必ずしも医学的必要から行われるものばかりではなく、患者が歯の見た目(審美性)を重視するために行われるケースも多くを占める。その意味では、患者の持つコンプレックスに一部の不埒な歯科の専門性を持つものが付け込みやすい構造が存在する。しかも、そこに自由診療という金目の問題までもが入り込みやすい。今回の事件にそんな意味でため息をついていた矢先、政府が「経済財政運営と改革の基本方針(通称・骨太の方針)」の2023年版の案を公表し、その中身を見た。昨今、高齢者の医療・介護で口腔ケアが重視され始めているのは、多くの医療関係者にとっては周知のことだろうが、今回の骨太の方針案では、昨年初めて「国民皆歯科健診」が盛り込まれ、今年もこの方針が堅持された。また、従来から口腔ケアと全身の健康状態との関連のエビデンスを国民に広く伝えていく姿勢を強調している。しかしだ、こうした普及をすること以前に歯科が取り組まなければならないのは、自由診療という枠内で行われている治療行為や処置に関するより信頼性の高いエビデンスの構築ではないだろうか? こういうと「いや自由診療で行われていることにもエビデンスはある」という声も出てくるだろうが、医科領域と比べるとチャンピオンデータの強調という側面がぬぐい切れないものが多いと私は感じている。参考(1)経済財政運営と改革の基本方針2023(仮称) (原案)

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英語で「患者を椅子に座らせる」は?【1分★医療英語】第83回

第83回 英語で「患者を椅子に座らせる」は?Would you be able to get the patient up on the chair ?(患者さんを[ベッドから]椅子に座らせることはできますか?)Definitely.(もちろんです)《例文1》医師Let’s get the patient up and walking today.(今日は患者さんに立って歩いてもらいましょう)看護師Understood.(わかりました)《例文2》医師No worries. We will get you ready for the surgery.(手術に臨めるように手配します)患者Thank you so much.(ありがとうございます)《解説》この表現は、日々の診療の中で患者さんの状態について話すときに非常によく使われます。“get”の後に目的語である“the patient”(この患者さん)、その後に状態を表す形容詞や動名詞を続けることで、「この患者さんを~の状態にする」という意味になります。《例文》のように、治療の過程で状態変化を伴うときによく使われます。日常会話でも“get”の後にさまざまな名詞と形容詞を付けることでいろんな使い方ができます。たとえば、“get you dressed”だと「服を着てきなさい」という意味になります。非常に使いやすいのでぜひマスターしてください。講師紹介

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第163回 Elsevier社のオープンアクセス論文誌、“ハゲタカ”ばりの貪欲さに編集委員が反発、全員辞任し新しい論文誌創刊へ

The LancetやCellなどを発行するオランダのElsevier社で起きた事件こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この週末は、リアルな山登りの予定だったのですが、急遽予定を変更して、“ハイラル平原”や“サトリ山”の散策に出かけ、2日間をつぶしました。そう、任天堂から5月12日に発売された、Nintendo SwitchのアクションRPG、「ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム」です。Nintendoのゲームと言えば、「スーパーマリオブラザーズ」シリーズが最も有名ですが、もう一つの大看板、「ゼルダの伝説」シリーズは、その時々の任天堂のゲームマシンの能力を最大限に引き出すことを大きな目的として作られます。独特のアクションとトリッキーな謎解きも、1986年ファミリーコンピューターのディスクシステム向けの第1作、「ゼルダの伝説」から脈々と受け継がれており、不朽の名作と言われるスーパーファミコンの「ゼルダの伝説 神々のトライフォース」(1991年)、Nintendo64の「ゼルダの伝説 時のオカリナ」(1998年)などは、今でもNintendo Switch Onlineで遊ぶことができます。今回発売された「ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム」は、Nintendo Switch発売直後の2017年に発売され、世界で3,000万本売り上げた「ゼルダの伝説 ブレス オブ ワイルド」の続編です。前作の世界観がさらに広がり、楽しみ方も重層的になっています(この新作も既に1,000万本を売り上げたとの報道もありました)。Switchのゼルダの特徴は、前作のタイトル「ブレス オブ ワイルド(BREATH OF THE WILD)」の言葉の通り、ゲームの中の平原や山、川、空の息吹を感じられることです。ゲームの進行(ボス倒し)は二の次に、ハイラルの世界をブラブラ、狩りや洞窟探検、料理や道具作りだけをコツコツと楽しんでいる人も少なくないようです。確かに仕事で疲れて帰ってきて、2時間ほどハイラルの世界にいると、疲れも吹き飛ぶような気もします。私自身、「ブレス オブ ワイルド」のクリアには半年ほどかかりましたが、今作は1年以上かかりそうな気もします。さて今回は、The LancetやCellなどを発行するオランダのElsevier社の神経画像の論文誌「NeuroImage」の編集委員会の委員を務めていた40人以上の研究者全員が辞任したニュースを取り上げます。欧米の論文誌を中心に拡大し続けているオープンアクセス誌ですが、高額な論文掲載料(Article Publishing Charge:APC)など問題も少なくありません。今回の辞任は、同誌の高額な論文掲載料に対し、編集委員会の委員が反旗を翻したことで起きました。「Elsevierは学界を食い物にし、科学に貢献せずに莫大な利益を主張」英国の一般紙、The Guardianは5月7日付で「‘Too greedy’: mass walkout at global science journal over ‘unethical’ fees(「貪欲すぎる」:「非倫理的な」手数料を理由に世界的科学論文誌で多数が辞任)」というタイトルの記事を同紙のウェブサイトに掲載しました。同記事によれば、オランダのElsevier社の神経画像の論文誌「NeuroImage」で編集委員会の委員を務めていた40人以上の研究者全員が、編集委員を辞任したとのことです。辞任の理由として挙げられたのは、同誌の掲載料が高額過ぎるということです。Elsevier社の業績が高い利益率を確保していることから、編集委員会はElsevier社に対して掲載料の引き下げを要求していました。ところが、Elsevier社がその要求を拒否したため、編集委員会の委員全員が辞任するという事態に至ったのです。「NeuroImage」は購読料の支払いがないオープンアクセス誌で、研究者は論文を発表するため3,450ドルを支払う必要があるとのことです。同記事によれば、辞めた委員の1人は、「Elsevierは学界を食い物にし、科学にほとんど貢献せずに莫大な利益を主張している」と語ったそうです。そのElsevier社の利益率ですが、同記事によれば2019年の決算でのElsevier社の利益率は約40%と、GoogleやApple、Amazonといった世界的企業をも上回る莫大な利益を上げていたとのことです。2022年の売上高も10%増加していました。40%の利益率とは驚きです。インパクトファクターを餌に貧乏研究者たちからお金を搾り取る一流科学論文誌発行は「アコギな商売」と言われますが、この高い利益率からもその一端を窺い知ることができます。掲載料を3,450ドルから2,000ドル以下に引き下げるよう要請したもののElsevier社は応じずこの編集委員の辞任騒動、日経バイオテクも5月23日付で「Elsevier社の神経系論文誌、全エディターが辞任し独自に非営利論文誌を創刊」というタイトルのニュースで報じています。同記事によれば、「NeuroImage」は1992年創刊で、現在のインパクトファクターは7.4。2020年に完全オープンアクセス化されています。元編集委員たちは「2022年6月以降、掲載料を2,000ドル(約27万6,000円)以下に引き下げるよう要請したもののElsevier社は応じなかった。2023年3月、引き下げに応じない場合エディター全員が辞任すると通達したが、応じないとの回答があったため辞任した」とのことです。元編集委員たちは新たな論文誌のウェブサイト1)を立ち上げ、声明を発表しています。声明によれば、新たな論文誌は「Imaging Neuroscience」と名付けられ、7月中旬を目処に同じくオープンアクセス誌として始動する予定だそうです。そして、「論文掲載料は可能な限り低く抑え、低所得国または中所得国では免除します。私たちの目標は、Imaging Neuroscience が NeuroImage に代わってこの分野のトップジャーナルになることです。編集委員会のチームは、NeuroImageのときと同じです」としています。ちなみに、通常の論文掲載料は1,600ドルと半額以下にする予定だそうです。マイナーな専門領域での“反乱”がその他の論文誌にも広がっていくか?オープンアクセス誌は、購読料がないことから従来型の論文発表と比較してより多くの人の目に留まりやすくなると言われています。研究成果に誰でもアクセスできるようになれば研究人脈が広がったり、被引用件数が増えたりなど、研究者としてさまざまなメリットも期待できます。しかし、一方で、購読料収入がないため、研究者が支払う論文掲載料がオープンアクセス誌の収入源となります。オープンアクセス誌の多くは、Elsevier社やSpringer Nature社など大手出版社が発行している高いインパクトファクターをもつ学術誌であり、結果、数千ドル〜1万ドル近い“強気”の掲載料をふっかけられることになるわけです。なお、オープンアクセス誌については、著者から論文掲載料を得ることを第一目的として、インパクトファクターを詐称したり、十分な査読を行わないなどといった粗悪な論文誌、通称“ハゲタカジャーナル”も増えてまた別の問題となっています。今回の「NeuroImage」の編集委員退職は、大手で著名なElsevier社で起こったことなので、別問題のようには見えます。しかし、結局はお金、利益を第一義としている点では、“ハゲタカ”度合いは似たようなものかもしれません。その意味で、論文掲載料が高額でElsevier社の利益率も高いにもかかわらず、編集委員会の委員への報酬が「最低レベルだった」と批判されている点も興味深いです。高いインパクトファクターをもつ学術雑誌を発行する大手出版社は、高額の論文掲載料、高い購読料(購読誌の場合)にもかかわらず、編集委員やレビュアーの報酬は決して高くはなく、研究者たちから度々「強欲」と批判されてきたからです。神経画像の専門誌という若干マイナーな専門領域での“反乱”が、その他の論文誌にも広がっていくのかどうか、今後の動きが気になります。参考1)Imaging Neuroscience

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英語で「服用禁忌」は?【1分★医療英語】第82回

第82回 英語で「服用禁忌」は?Hi Dr. Smith, the patient has a history of angioedema and ACE are contraindicated.(スミス先生、患者さんは血管浮腫の病歴があるのでACE剤は服用禁忌です)Oh okay, let’s change the med then.(そうか、では、処方を変えましょう)《例文1》A bleeding disorder is a contraindication for taking aspirin.(出血性疾患はアスピリンの服用禁忌です)《例文2》Are steroids contraindicated in cancer?(ステロイドはがん患者に服用禁忌でしょうか?)《解説》薬剤を処方するときにお馴染みの「適応」という表現。英語では“indication”で表現します。これに「反対、逆」の接頭語である“contra”を付けた“contraindication”が「禁忌」という意味になります。形容詞的に“contraindicated”として使う場合もあります。米国の場合、添付文書に記載されている警告は3段階あります。注意warnings and precautions禁忌contraindications最大級の警告boxed warning(black box warning)“black box warning”とは文字どおり「黒枠で囲まれた警告」であり、添付文書の一番初めに強調して記載されている、特筆すべき警告です。ちなみに、添付文書は“package insert”といいます。これも文字どおりで、「パッケージに挿入(insert)されたもの」だからですね。医薬品情報収集はスピードが命。私も多岐にわたる医薬品情報については、スマホからでもすぐに見つけられるよう、普段から準備をしています。講師紹介

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第162回 止められない人口減少に相変わらずのんきな病院経営者、医療関係団体(後編) 「看護師に処方権」「NP国家資格化」の行方は?

ジャニーズの性加害問題報道でNHKが「反省」の弁こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この週末、メディアはG7広島サミットの話題に加え、ジャニーズ事務所の「謝罪」動画、歌舞伎役者の自殺未遂事件など社会部ネタが頻発し、バタバタだった模様です。ジャニー喜多川氏によるジャニーズJr.の少年への性的虐待については、この連載の「第155回 日本はパワハラ、セクハラ、性犯罪に鈍感、寛容すぎる?WHO葛西氏解任が日本に迫る意識改造とは?(後編)」でも簡単に触れたのですが、「謝罪」動画公開後の5月17日にNHKで放送された「クローズアップ現代」(クロ現)はなかなか興味深い内容でした。「“誰も助けてくれなかった” 告白・ジャニーズと性加害問題」と題されたこの回の「クロ現」では、元ジャニーズJr.の男性が実名で登場、自身が受けた性被害の詳細を語っていました。印象的だったのは、桑子 真帆キャスターが、「なぜこの問題を報じてこなかったのか。私たちの取材でもこうした声を複数いただきました。海外メディアによる報道がきっかけで波紋が広がっていること。私たちは重く受けとめています」と反省の弁を述べ、番組の最後に「私たちは、これからも問題に向き合っていきます」と語ったことです。日本で長年に渡って起こっていた性被害事件にもかかわらず、日本のメディアで報道してきたのは週刊文春などごくわずかです。英国BBCのドキュメンタリーが放映されたので渋々動きました、というのではNHKも報道機関としての存在意義が問われても仕方ありません。今回、NHKの顔とも言えるキャスターが番組で反省の弁を述べたというのは、とても大きな意味があることだと思います。逆に言えば、ジャニーズ事務所に忖度し、BBCのドキュメンタリーや今回の「謝罪」動画に関しても、お茶を濁した報道しかしていない民放(「クロ現」ではジャーナリストの松谷 創一郎氏が「民放の人たち、テレビ朝日やフジテレビなんかはとくにそうですけれども」と名指しして批判していました)は、報道機関としては完全に“失格”と言えそうです。人口減少に対する、医療関係団体の希薄過ぎる危機感さて、今回も4月26日に厚生労働省の国立社会保障・人口問題研究所が公表した「将来推計人口」に関連して、日本の医療に及ぼす影響について考察してみます。前回は、一向に進まない地域医療構想や、病院の役割分担の明確化や病床削減などへ取り組みの遅れなど、医療提供体制における問題点について書きました。今回は、急速に進む人口減少が招くであろう医療・介護人材難に対して、日本医師会や日本薬剤師会といった医療関係団体の危機感が希薄過ぎる点について書きます。訪問看護ステーションに配置可能な医薬品の拡大案に「断固反対」と日本薬剤師会会長5月12日付のメディファクス等の報道によれば、日本薬剤師会の山本 信夫会長は5月10日に開かれた三師会の会見で、政府の規制改革推進会議で議論が進められている、訪問看護ステーションに配置可能な医薬品の拡大案について、「配置可能薬を拡大するということについては断固反対という立場だ」と述べたとのことです。この案は、規制改革推進会議の医療・介護・感染症対策ワーキング・グループで3月6日、医師の佐々木 淳専門委員(医療法人社団 悠翔会理事長)と弁護士の落合 孝文専門委員が提案したものです。佐々木氏は関東を中心に在宅医療専門のクリニックを複数ヵ所運営する医療法人を経営しています。佐々木氏らが提案したのは、訪問看護ステーションに配置する薬剤の種類を増やし、訪問看護師がある程度自由に使用できるようにするための新しいスキームです。現状では看護師が薬局で薬剤を入手してから患者宅に向かうか、看護師から連絡を受けた薬剤師が薬剤を配達しているのですが、このスキームによって患者への薬剤提供が効率化される、としています。このスキームでは、薬剤師はオンラインで訪問看護ステーションに配置された薬剤を遠隔管理(倉庫室温、ピッキングの適切性、在庫など)し、薬局がステーションに随時医薬品を授与します。一方、ステーションの看護師は、必要に応じて医師の指示内容を薬局と共有、処方箋の写しに基づいてステーションの倉庫から薬剤をピッキング、患者に投薬します。なお、倉庫内に配置する薬剤としては、脱水症状に対する輸液、被覆剤、浣腸液、湿布、緩下剤、ステロイド軟膏、鎮痛剤などを想定しているとのことです。薬剤師の調剤権を著しく侵害することにつながり「極めて問題がある」現状、薬剤師法などで、調剤を行えるのは、医師、歯科医師、獣医師が自己の処方箋により自ら調剤するときを除いて薬剤師に限られています。山本会長は、この改革案は医師の処方権、薬剤師の調剤権を著しく侵害することにつながり「極めて問題がある」と述べたそうです。その上で、在宅医療の提供について、「チームを組んで医療を提供するのが本来の姿。専門職が集まってその患者さんに対してどんな医療が必要か、医師や看護師、薬剤師など各専門職種が議論していくことが大前提だ。それを抜きにして、ただ置けばいいという発想について私どもとしては大変断固反対だ」と述べたとのことです。他の医療・看護・介護拠点が薬局機能を代替して何が悪い?「薬局の遠隔倉庫」案と呼ばれるこの案、患者が薬剤を手に入れるまでの時間が短縮されるだけでなく、調剤をする薬局自体がない地域や、土日や夜間は営業しない薬局しかない地域では、とても便利で現実的な方策に見えます。「薬剤師の調剤権を侵害」「チーム医療が本来の姿」と山本会長は語っています。しかし、そもそも薬局薬剤師が機能しない地域や時間帯があるなら、ほかの医療・看護・介護拠点がその機能を代替して何が悪いというのでしょう。山本会長の発言は、薬剤師のことは考えているが、患者のことは考えていないように感じます。ちなみに、令和4年度の厚生労働白書によれば、2020年度において、無薬局町村は34都道府県で136町村あるそうです。「包括指示」の仕組みを活用、「訪問看護師に一定範囲内の薬剤の処方箋を発行できるようにする」案も規制改革推進会議の医療・介護・感染症対策ワーキング・グループは先週、5月15日にも開かれ、佐々木氏は「薬局の遠隔倉庫」案をベースとした、もう一歩踏み込んだ改革案を提案しています。5月16日付のCBnewsマネジメントの報道によれば、佐々木氏は一定の条件下で訪問看護師が処方箋を発行して投薬できる規制緩和策を検討すべきだと提案したとのことです。具体的には、医師に連絡がついたものの処方箋を発行できない場合、看護師は医師の指示に基づいて処方箋を発行できる医師と連絡がつかない場合、看護師は医師の包括的指示に基づいて処方箋を発行できる24時間対応を標榜する薬局がある場合、薬剤師は迅速・確実に患者宅に薬剤を届ける。24時間対応の薬局がなければ訪問看護事業所に薬剤を配備し、看護師がその備蓄から薬剤を使用することができる24時間対応する薬局の有無にかかわらず、訪問看護事業所内への輸液製剤の配備を可能とするなお、佐々木氏は、これらの対象となる薬剤(輸液製剤を含む)の範囲をあらかじめ指定しておくことも提案しています。医師から看護師への「包括指示」の仕組みを活用して、「訪問看護師に一定範囲内の薬剤の処方箋を発行できるようにする」という大胆な提案です。日本薬剤師会が再び激怒しそうですが、働き方改革や人材難を背景に、タスクシフト/タスクシェア推進が叫ばれる中、とても理に適った提案ではないでしょうか。「NPを導入し、国家資格として新たに創設するというのは適切ではない、反対だ」と日本医師会政府の規制改革会議ですが、その議論や提案はいつもラジカルで、旧態依然とした医療関係団体を時折怒らせています。2月13日、規制改革推進会議の医療・介護・感染症対策ワーキング・グループは、医師と看護師のタスクシェア、とくにナース・プラクティショナー(NP)について日本医師会等にヒアリングを実施しました。NPとは、端的に言えば、医師と看護師の中間的な技量を有した医療専門資格です。現行の特定行為研修を修了した看護師ができる医療行為の範囲を超えて、“医師のように”自主的に医療行為が行える新しい国家資格(NP)をつくろうというのがNPの国家資格化のコンセプトです。米国においてNPは医師の指示・監督がなくても診察、診断、治療・処方のオーダーができる資格として確立しています。この回のワーキング・グループに日本医師会から参加した常任理事の釜萢 敏氏は「外国で行われているものを日本に導入すれば必ずうまくいくというものでは決してない。特定行為研修の修了者を増やしていくという方向に大きく踏み出したので、まずそれをしっかり実現することが喫緊の課題。NPという新たな職種を導入し、国家資格として新たに創設するというのは、現状において適切ではない、反対だ」と述べました。日本医師会などが慎重な姿勢を示してきたため業務範囲の拡大は遅々として進まず医療・介護分野のタスクシェア・タスクシフトを巡っては、これまで日本医師会などが慎重な姿勢を示してきました。そのため、実際の医療現場での業務範囲の拡大は遅々として進んでいません。2021年5月の医療法等改正においても、業務範囲が拡大されたのは診療放射線技師、臨床検査技師、臨床工学技士、救急救命士のみで、“本丸”とも言える看護師には踏み込んでいません(「第66回 医療法等改正、10月からの業務範囲拡大で救急救命士の争奪戦勃発か」参照)。政府の規制改革推進会議が昨年5月に決めた令和4年度の最終答申には「医療・介護分野のタスクシェア・タスクシフトの推進」は記述されていますが、より本格的な検討は今期の同会議の“宿題”となりました。その後、議論を進めてきた規制改革推進会議は、昨年12月に当面の改革テーマに関する中間答申をまとめました。そこには、医師や看護師が職種を超えて業務を分担する「タスクシェア」の推進が明記され、医師の業務の一部を看護師らに委ねる「タスクシフト」も進めると書かれました。それを踏まえ、看護師らが担える業務の対象拡大を主要テーマとして、医療・介護・感染症対策ワーキング・グループが議論を進めてきた、というのがこれまでの流れです。6月にまとめられる規制改革推進会議の最終答申に注目それにしても、医師や薬剤師がタスクシェア・タスクシフトをこうも毛嫌いする理由はなんでしょう。自分たちの仕事が、「看護師ごときには対応できないほど高度なもの」とでも考えているのでしょうか。あるいは逆に、「意外に簡単で誰にでもできそうであることがバレるのが怖い」のでしょうか。確か、日本医師会は医師増(医学部新設)にも反対していましたから、単に自分たちの既得権を守りたいだけなのかもしれません。前回の冒頭で書いた青森の下北半島ではないですが、現状、医師確保にあえいでいる地域は全国にたくさんあります。人口減が今以上に進めば、無医町村も増えていくでしょう。そんな中、相応の資格を得た訪問看護ステーションなどの看護師が、処方を含む医療行為を自らの判断で行うことができるようになれば、地域医療に一定の安心感を与えるのではないでしょうか。また、老人保健施設や介護医療院は医師でなければ施設長になれませんが、高齢者医療を専門とするNPが施設長になることができれば、貴重な医師人材の節約にもつながります。今年6月にもまとめられる予定の令和5年度の規制改革推進会議の最終答申に、医師から看護師への包括指示の活用や、訪問看護師への処方権付与、NP国家資格化といった、ワーキング・グループで議論されてきた内容がどれくらい盛り込まれることになるか、注目されます。

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英語で「もう一度言ってもらえますか?」は?【1分★医療英語】第81回

第81回 英語で「もう一度言ってもらえますか?」は?Could you repeat it for me, please? (もう一度言ってもらえますか?)Sure.(もちろんです)《例文1》Could you say that again for me?(もう一度言ってもらえますか?)《例文2》Could you rephrase it?(別の言い方で言ってもらえますか?)《解説》英語でのやりとりで聞き逃したり、オンライン会議で聞き取りにくかったりという状況はよくあることかと思います。相手にもう一度繰り返してほしいときの表現はたくさんあります。一番使いやすく、シンプルかつ丁寧なのは、“Could you say that again?/Could you repeat it again?”などでしょう。“I’m sorry I didn’t get it/catch it.”(すみません、よくわかりませんでした/よく聞き取れませんでした)、または“I don’t(quite)follow”(よくわかっていません)と付け加えると、より丁寧かもしれません。また、言っていることは聞き取れたものの、単語や表現がわからないときには“Could you rephrase it?”(別の言い方で言ってもらえますか?)と言って言い換えをしてもらうよう頼んでみましょう。患者さんとのやりとりでも、スラングや非医療者特有の表現で意味が理解できない、といったこともしばしばです。聞いたことを正しく理解できているか自信がない場合には、“Do you mean〜?/Does it mean〜?”と言って、自分の理解が合っているかを確認するようにしましょう。講師紹介

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第161回 止められない人口減少に相変わらずのんきな病院経営者、医療関係団体。取り返しがつかなくなる前に決断すべきこととは…(前編)

5月の連休、北海道のテレビが放送されている下北半島で考えたことこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。5月の連休、私は山仲間と青森県の八甲田山に行って来ました。豪雪で有名な酸ヶ湯温泉から地獄湯の沢を登って大岳(八甲田山の主峰です)、毛無岱を経て酸ヶ湯に戻る周回コース。幸い好天で残雪の春山を堪能できたのですが、やはりここ八甲田山でも雪は例年より少なく、地元の人は「季節が変わるのが2週間は早い」と話していました。八甲田山を登った後はレンタカーで下北半島巡りをしました。恐山霊場を参拝した後、下風呂温泉の宿に泊まったのですが、その宿のテレビでは北海道の民放が普通に放送されていました。もちろんCMも北海道の企業のものばかりです。下北半島の北エリアはテレビ的には青森ではなく距離が近い函館圏内、ということなのでしょう。ちなみにマグロで有名な下北半島の先端にある大間町と函館市の距離は直線(フェリー)で約46キロ、大間町と青森間は国道を使って約150キロです。となると仕事柄、医療提供体制についても気になるので、源泉かけ流しの温泉に浸かった後、ちょっと調べてみました。下北半島が位置する下北地域には4つの病院があります。基幹病院である一部事務組合下北医療センター・むつ総合病院(454床)以外は、国民健康保険大間病院(48床)、自衛隊大湊病院(30床)、むつリハビリテーション病院(120床)と、中小病院とリハビリ病院しかありません。実質的にむつ総合病院が、この地域の急性期医療を一手に引き受けていることになります。ただし、大間町からむつ市までは陸路で48キロもあり、距離的には函館とほぼ同じです。医療、とくに救急などの急性期医療に迅速に対応するには微妙な距離です。北海道のドクターヘリが自由に使えれば、ある意味”函館医療圏”と言ってもいいくらいでしょう。翌日我々は、人口減に苦しむ僻地の医療の大変さを実感しながら、約2時間半をかけてむつ市経由で青森まで車を走らせました。日本の人口、50年後の2070年には3,900万人減少し8,700万人にということで今回は、ゴールデンウイーク直前の4月26日に厚生労働省の国立社会保障・人口問題研究所が公表した「将来推計人口」と、日本の医療提供体制への影響について書いてみたいと思います。「将来推計人口」は国勢調査を基に5年に1度公表する日本の人口の長期予測です。今回は新型コロナウイルスの影響で2017年4月以来、6年ぶりの公表となりました1)。それによれば、最も実現性の高いとされるケースで、2020年に1億2,615万人だった日本の人口は、50年後の2070年には3,915万人減少し、8,700万人になるとのことです。女性1人が生涯に産む子供の推定人数「合計特殊出生率」は2070年に1.36と推計されました(2020年は1.33)。推計には、日本に住む外国人も含まれ、933万人で人口の約1割になるとしています。人口が1億人を割るのは2056年で、前回推計の2053年より3年遅くなりました。そして2067年には9,000万人を下回るとしています。「生産年齢人口」は人口の52.1%まで減少65歳以上の高齢者の割合である高齢化率は2020年に28.6%だったのが、今後も上昇し2070年には38.7%まで高まるとしています。高齢者数のピークは前回推計では2042年の3,935万人でしたが、今回は1年遅い2043年の3,953万人となりました。15歳から64歳までの「生産年齢人口」は2020年で7,509万人(全人口の59.5%)だったものが、2070年には4,535万人、全人口の52.1%まで減少するとしています。ただし、外国人の流入もあり、前回(4,281万人)よりは働き手を多く確保できる推計となっています。平均寿命は2020年で男性81.58歳、女性87.27歳だったものが、2070年には男性85.89歳、女性91.94歳にまで延びるとしています。人口が減れば医療・介護のマーケットは縮小、今以上の人手不足が起こる以上が、最新の「将来推計人口」の概要です。6年前の推計と比べ、人口1億人割れの時期は3年遅くなったものの、日本の人口減の勢いはまったく弱まらないようです。人口が減るということは、都道府県、市町村の人口が減り、医療・介護のマーケット(つまり患者数)が縮小、同時に、労働集約型産業の側面が大きい医療・介護の分野での人手不足が今以上に深刻になることを意味します。日本の医療の現場では現在、そうした事態に備えた準備を着実に進めていると言えるでしょうか。私は2つの側面からみて、現場の医療者の多くはまだまだ他人事として、のんきに構えているようにしか見えません。遅々として進まない病院の役割分担の明確化や再編成に向けての動き1つ目の側面は医療提供体制における、病院の役割分担の明確化や再編成、病床削減などの取り組みです。将来の地域の医療提供体制(医療機関の役割分担)を形づくる国の仕組みとしては、医療法で定められた「医療計画」と「地域医療構想」があります。医療計画は現在、各都道府県で第8次医療計画(2024〜28年)の策定が進められています。地域医療構想については当面は策定された2025年の目標に向けての取り組みが進められていることになっています(次の地域医療構想は2040年頃を視野に入れつつ策定予定ですが、詳細は未定)。しかし、大規模な再編が本格化しようとした矢先、新型コロナウイルス感染症のパンデミックが起こり、地域の病院再編は先延ばしとなってしまいました(「第32回 遅れに遅れた地域の病院再編、コロナに乗じた「先延ばし」はさらなる悲劇に」参照)。コロナ禍で、補助金などにより一時的に地域の公立・公的病院の経営状況が上向いたことや、地域の病院病床の必要性が”再確認”されたこともあり、病院の役割分担の明確化や再編成に向けての動きは活発化していません。実際、財務省もそんな状況にやきもきしています。4月28日に開かれた医療や介護など社会保障分野の改革を検討する政府のワーキンググループにおいて、財務省は地域医療構想について「過去の工程表と比較して進捗がみられない」「目標が後退していると言われかねない」などと指摘しています。山形県米沢市では公立、民間が病院機能を再編するケースももっとも、そんな中でも先を見越し、大胆な再編計画を進める地域もあります。厚生労働省が3月1日に開いた第11回地域医療構想及び医師確保計画に関するワーキンググループでは、山形県米沢市でのユニークな取り組みが紹介されました。米沢市では、米沢市立病院(322床)と民間(一般財団法人 三友堂病院)の三友堂病院(185床)と三友堂リハビリテーションセンター(120床)の再編計画が進行中です。3つの病院の機能分化と連携強化を推し進め、急性期は米沢市立病院が、それ以外の回復期や慢性期などは三友堂病院が担うことにしたのです。また、各病院とも老朽化が進んでいたことから、現在、米沢市立病院がある敷地に三友堂病院(三友堂リハビリテーションセンターを統合)が移転し、通路を挟んでそれぞれが新病院を建設することになりました。開院予定は今年11月です。人口減と高齢化を背景に、公と民の病院が生き残りを賭けたこの計画、病床数は米沢市立病院が59床減の263床、三友堂病院が106床減の199床になる予定です。公立病院と民間病院の組み合わせということで完全な統合はせず、それぞれ経営が独立したまま「地域医療連携推進法人」を設立し、人材交流や物資の共同利用を進める方針です。この連載でも地域医療連携推進法人については度々書いてきましたが、公立・公的と民間というように、経営母体が違う法人同士の連携を進める上では、使い勝手の良い制度と言えるでしょう(「第138回 かかりつけ医制度の将来像 連携法人などのグループを住民が選択、健康管理も含めた包括報酬導入か?」参照)。ちなみに、この米沢市のケースを想定してか、国の認定再編計画に基づいて再編を行う病院同士を併設する場合、施設や構造設備を共用できるのは「再編対象病院が同一の地域医療連携推進法人に参加していること」とする厚生労働省医制局長通知(医政発0331第10号「病院の併設について」)が今年の3月31日に発出されています。相変わらずのんきな日本医師会、日本薬剤師会「自分たちだけは大丈夫」と考え、依然再編には無関心の病院経営者も少なくないようですが、このケースのように高齢化、人口減、患者減、医師・看護師などの医療者確保難が深刻化している地域では、ドラスティックな再編に乗り出す医療機関がこれからも増えることでしょう。しかし一方で、相変わらずのんきなのは日本医師会や日本薬剤師会といった医療関係団体のトップです。人口減が招くであろう人材難に対する危機感が希薄過ぎるのです。(この項続く)参考1)日本の将来推計人口(令和5年推計)/国立社会保障・人口問題研究所

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英語で「病棟を任せます」は?【1分★医療英語】第80回

第80回 英語で「(病棟などを)任せます」は?I will eat a quick lunch. Please hold down the fort while I am away from the floor unit.(簡単に昼食を済ませてきます。その間、[病棟を]任せますよ)Sure, enjoy your lunch!(もちろんです。昼食楽しんできてください!)《例文1》医師AI will hold down the fort because she has a vacation and is off work next week.(彼女は来週休暇で職場に来ないので、その間は私が責任を持って対応する予定です)医師BOkay I will keep that in mind.(わかりました。覚えておきますね)《解説》“hold(down)the fort”という慣用句について解説します。「Cambridge Dictionary」によると、“to have responsibility for something while someone is absent”という訳になっています。元々の英語の直訳では“the fort”(砦)を“hold down”(護る、保つ)という意味から来ているようですね。それが慣用句となり、日本語で訳すならば、「誰かがいない間に、その場の責任を任せます」といった意味ですね。一見使える場面が限られるように思われますが、実は米国の医療現場で働く際に使われる場面にたびたび出くわし、私もそこでこの表現を学びました。日本人は聞き慣れなくても、ネイティブの方々がよく使う表現の一つといえるでしょう。医療現場において、「自分が一時的にその場を離れないといけないが、誰かに患者や状況を見ていてもらう必要がある際」にぴったり当てはまる表現です。さらに具体的にいうと、夜間救急当直などでチームメンバーや上司が少し休憩をとる際に「その間、頼んだよ」といった感じで使います。また、この表現は一般慣用句で医療場面以外でも使えますので、もっと幅広く「留守番を頼んだよ」というようなニュアンスでも使えます。そう捉えると、日本語でも頻繁に使われる表現ですよね。また、使い方としては“hold down the fort”そのままの表現で聞くことが多い印象ですが“down”を省略した“hold the fort”でも使用できます。こうした英語の慣用句をさらりと日常で使いこなせるようになると格好良いですね。講師紹介

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第159回 5類移行でマスク着脱議論が再び炎上、それって誰の何のため?

5月8日から、ついに新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)は、感染症法上の5類扱いとなった。とは言っても、多くの一般人にとっては5月7日と5月8日で一気にガラリと生活が変わるわけではないだろう。ただ、接客が伴う各種業界ではこの日を機に以下のようにさまざまな変化が起こることが報じられている。『ローソン店員のマスク着用は「任意」に、一方で高島屋は「継続」 新型コロナ「5類」変更でも分かれる対応』(TBS)『「3年間お世話になりました」処分か保管?アクリル板どうする「5類移行」正式決定』(テレビ朝日)こうした身近な変化から、多くの人はいわゆる「コロナ禍」という言葉が有していた深刻さから徐々に解放されていくのだろう。そんな最中、国内でホテルリゾート業を営む星野リゾート代表取締役社長の星野 佳路氏は、5月8日から同社従業員が一斉にマスクを外すとTwitterで宣言し、いわゆる炎上案件になったことを一部の人はご存じかと思う。このツイートは文字通り読むと、従業員に一斉にマスク外しを指示したようにも読めてしまうのだが、ほかの記事を読むと、どうやら完全一律というわけではなさそうである。そんな最中、SNSで知人がある投稿をしていたのに目が留まってしまった。彼はこの星野リゾートの件をフックに「これでもマスクを外せない人は、一生顔を隠して生きていくの?」という記述とともに、学校で教職員や来訪する保護者のマスク外しが進んでおらず、これでは同調圧力で子供は外せないだろうという趣旨の書き込みをしていた。さらに「『外すのも付けるのも自由』なんて言うのは無責任の極み」ともダメ押しで記述していた。「大人が外せなければ、子供は…」のくだりは概ね同意はできるが、そのほかに関しては、私個人としてはなかなか賛同できず、ついコメント欄に書き込みし、数日間にわたって応酬となった。最終的には互いに穏便なところに落ち着いたが、改めて思ったのはこの問題の根深さである。この3年間、新型コロナに関しては嵐のように大量のニュースが流れた。その時々で伝わった情報を理解しつつも、状況が頻繁に変化するため、多くの人が混乱しただろう。私なりにいまだに残るこのウイルスの厄介さを箇条書きにすると以下のようになる。感染力が既存の感染症の中でもかなり高いほうに分類される重症化・死亡リスクが集団によって大きく異なる短期間で感染の主流をなすウイルス株(変異株)が入れ替わったウイルス株の入れ替わりとともにワクチンの効果が変動した(とくにオミクロン株出現以降)感染力のピークが発症前にあるなかでも最後の性質は、今回のユニバーサル・マスク対策の根拠となっている。また、日常会話の飛沫で容易に感染してしまうことから、人との接触を避けることが対策の核となり、飲食業を中心に一部の業態が深刻なダメージを被った。ちなみに前述の知人も飲食業ではないが、深刻なダメージを食らった業種の人である。その意味で社会の中でもコロナ禍に対する「恨み」にはかなりの濃淡がある。一方、感染症法上の5類になったところでウイルスそのものは根絶されたわけでも何でもなく、重症化・死亡リスクの高い人たちは依然として一定の警戒が必要である。その結果、そうした人の中にはなかなかマスクを手放せない人もいる。これらを総合すると、新型コロナを巡る問題はどうしても社会の分断を招きやすい性質を有してしまう。私自身は以前、屋内も含めたマスク着用を“個人の判断”とした政府の宣言に対し、その伝え方には一言モノ申したが、宣言そのものについてはまったくその通りだと思っている。いわずもがな、個々人の置かれた環境や保有するリスク因子はかなり異なるからだ。前述の知人の主張をざっくりまとめると、子供がマスクを外しやすくなるように、この5類化を機に学校では教職員や来訪する保護者は半ば強制的かつ一律的にマスクを外すことを求めている(少なくとも私はそう受け取って応酬した)。しかし、これはかなり困難な話だ。学校にも一定数はいるはずの重症化・死亡リスクの高い人に対し、公権力はリスクが上昇する方向への行動変容を強いることはできないからだ。文部科学省の都道府県・指定都市教育委員会の教育長などへの通知でも原則は「マスクの着用を求めないことを基本とする」としつつも、「基礎疾患があるなど様々な事情により、感染不安を抱き、マスクの着用を希望したり、健康上の理由によりマスクを着用できない児童生徒もいることなどから、学校や教職員がマスクの着脱を強いることのないようにすること」と付記している。もっとも知人が指摘する大人が醸し出してしまう「同調圧力」もまったくわからないわけではない。ただ、学校の場合、もう一つの難しい問題は、基本的に年功序列システムが維持されている組織であること。何かというと、学校長が比較的高齢であるため新型コロナでの重症化・死亡リスクが高い集団に分類される可能性が高く、トップがマスクを外しにくい可能性も少なくないからだ。いずれにせよ新型コロナに関して現時点の知見が維持される限り、私自身の主張が今後も大きく変わることはない。一方、一律的に常時マスクを外して元の生活にシンプルに戻りたいと考える人の気持ちもわからないわけではない。多分、今後は医療従事者の皆さんもこうした一般人の思いと医学・公衆衛生学的な知見が軽く火花を散らす局面にたびたび遭遇するだろう。これは「コロナ禍」ならぬ「ポスト・コロナ禍」とも言うべきだろうか?

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第44回 WHO緊急事態宣言解除、「コロナ禍終了」でOK?

緊急事態宣言が解除コロナ禍3年経って、ようやくWHOの緊急事態宣言が解除されました。感染症としての動向・予防策・治療の予測が可能となり、また以前ほど肺への毒性が強くないということで、国際的に脅威として対応し続けるよりもウィズコロナを選択するという意味合いが含まれています。しかし、「もう怖い感染症ではない」と誤認を招くのではないかという懸念もあります。実際、WHOは緊急事態宣言の解除に当たって注意を付記しています。それは以下のようなものです。「“The worst thing any country could do now is to use this news as a reason to let down its guard, to dismantle the systems it has built, or to send the message to its people that COVID19 is nothing to worry about”(今、どの国も一番やってはいけないことは、このニュースを理由に警戒を解き、構築したシステムを解いて、国民にCOVID-19は心配ないとメッセージを送ることだ)」"The worst thing any country could do now is to use this news as a reason to let down its guard, to dismantle the systems it has built, or to send the message to its people that #COVID19 is nothing to worry about"-@DrTedros— World Health Organization (WHO) (@WHO) May 5, 2023 日本では結構「緊急事態宣言が終了」というニュースが好意的に報道されたため、「5類」移行期とぴったりマッチしたこともあり、「もう大丈夫」という希望を持った人が多いと思います。ウィズコロナを続けていく上で、感染したら大変なことになるという警戒は以前ほど必要ありませんが、「一気に感染対策をゼロに」という時代が戻ってきたわけではありません。「希望は持ってよいが、油断はできない」というのがWHOの本音でしょう。日本は、欧米と違って非常に低い致死率でCOVID-19を抑えることができました。これはひとえに、日本国民の感染予防意識の高さと医療アクセスの良さによるものだろうと思っています。しかしその反作用として、苦しめられたという思いを持っている国民が多いのも事実です。患者数が増えれば、同じような医療逼迫を繰り返すことになる構図は変わりませんが、もはやそれは「禍」ではなく、1つの日常と受け取られることになるのかもしれません。医療従事者の努力私たち医療従事者は、まさに力戦奮闘、よく頑張りました。不気味な肺炎を起こす感染症には、二度と遭遇したくありません。「“At one level, this is a moment for celebration. We have arrived at this moment thanks to the incredible skill and selfless dedication of health and care workers; The innovation of vaccine researchers and developers; The tough decisions governments have had to make in the face of changing evidence; And the sacrifices that all of us have made as individuals, families, and communities to keep ourselves and each other safe”(ある意味、祝福の瞬間です。私たちがこの瞬間に立つことができたのは、医療・介護従事者の驚くべき技術と献身のおかげです。ワクチンの研究者や開発者の革新性、変化するエビデンスに直面しながらも政府が下した難しい決断、そして、私たち全員が、自身とお互いの安全を守るために、個人として・家族として・コミュニティとして、犠牲を払ってきたことによるものです)」"At one level, this is a moment for celebration.We have arrived at this moment thanks to the incredible skill and selfless dedication of health and care workers;The innovation of vaccine researchers and developers;The tough decisions governments have had to make in the face…— World Health Organization (WHO) (@WHO) May 5, 2023 コロナ禍を締めくくって感傷的になっているさなか、第9波がやってきてまた国内が混乱するということもあるかもしれません。感染対策も一気にゼロというわけではないため、各医療機関で少しずつ引き算していく苦労がしばらくは続くでしょう。とりあえず、情報発信する側に立ってきた人間として、コロナ禍はできるだけ後世に伝えていきたいと思っています。

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英語で「臨機応変」は?【1分★医療英語】第79回

第79回 英語で「臨機応変」は?I was wondering how much fluid we should give.(補液をどのくらい投与すればよいか悩んでいました)It depends on his urine output, so let’s play it by ear.(それは尿量によるから、臨機応変にやろう)《例文1》I’m not sure what time the round starts, but let’s play things by ear.(回診が何時に始まるかわからないけど、臨機応変にやろう)《例文2》She didn’t know what to do on the first day, but she played things by ear.(彼女は初日に何をすべきかわからなかったが、臨機応変に対応した)《解説》この“play it by ear”というのは、「状況に応じてやることを決めていく」、「臨機応変に対応する」という意味を持つイディオムです。このイディオムは、元々は音楽の世界から来たものです。楽器を演奏する際に、決められた音を予定どおりにきっちり演奏するには、楽譜をしっかりと目で追いかけなければならないでしょう。一方、“by ear”すなわち「耳で演奏する」という場合には、楽譜は見ないということになり、耳で聞こえる音だけを頼りにフレキシブルに演奏することになりますよね。そこから転じて、「状況に応じて臨機応変に対応する」という意味で用いられるようになりました。医療現場でも、物事が全て予定通りに進むわけではなく、患者さんの容態が突然変化した際など、状況に応じた臨機応変な対応が求められることは多いと思います。そんなとき、シンプルに“Let’s play it by ear.”(臨機応変にやろうよ)と、チームに声を掛けられれば、フレキシブルに動く心の準備ができるかもしれません。これは、院内外で耳にすることの多い表現だと思います。TPOに合わせてこのイディオムを使えれば、まるでネイティブのような“音色”を奏でられることでしょう。講師紹介

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第159回 働き方改革まであと1年、大学病院の医師約3割が年960時間超の残業見込み。危惧される派遣先からの医師引き揚げ

全国医学部長病院長会議が全国の81大学病院の医師の勤務実態を調査こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。ゴールデンウィークに突入しましたが、皆さんお休みは取れていますか?私は連休前半、所用があって久しぶりに渋谷に出たのですが、人の多さ、中でも外国人観光客の多さに驚きました。渋谷のスクランブル交差点は、外国人にとってはもはや日本の名所らしく、携帯やカメラで撮影しながら歩く外国人だらけ。2年前、3年前の同時期との違いに、感動すら覚えました。それにしても、長い休暇を取って日本にわざわざやって来て、お金を落としていってくれる外国人はとても有り難い存在です。しかし、心持ち繁華街の飲食店の料金も高めにシフトしているようです。もちろん物価高の影響もあるとは思いますが、観光客増はいいことばかりではないようです。さて、今回は医師の働き方改革について書いてみたいと思います。全国医学部長病院長会議は4月17日、全国の81大学病院の医師の勤務実態を調査した結果を公表しました1)。現状では、約3割が医師の働き方改革がスタートする来年度(2024年度)、時間外労働の上限となる年間960時間を超える見込みであることがわかりました。原則年960時間まで、1,860時間のB水準は2035年度末まで一般の労働者から4〜5年遅れて、来年2024年4月から始まる医師の働き方改革では、医師の休日・時間外労働が原則年960時間までとなります。地域医療に貢献する病院などは年1,860時間までとする特例が設けられます。細かくは、年間の時間外労働が960時間以下の医師は「A水準」、960~1,860時間の医師については、地域医療確保暫定特例水準として「B水準」と「連携B水準(兼業等により960時間を超える医師)」、集中的技能向上のための水準として「C-1水準(臨床研修医や専攻医)」と「C-2水準(医籍登録後の臨床従事6年目以降の者の特定高度技能水準)」に区分けされます。特例の「B水準」と「連携B水準」は2035年度末(2036年3月末)には廃止される予定です。「助教」の15%が研究に割く時間が週0時間、約半数が1~5時間程度今回の調査は、文部科学省の委託事業として昨年7月11日~8月31日、全国の大学が運営する81病院と医師個人を対象にそれぞれ調査を行いました。病院調査では、対象となる医師4万4,183人の時間外労働の実態を聞いたところ、24.6%にあたる1万852人が「連携B水準」、7.0%にあたる3,088人が「B水準」、2.5%にあたる1,099人が「C-1水準」、0.1%にあたる31人が「C-2水準」でした。つまり、全体の34%にあたる約1万5,000人が、2024年度の時間外労働が年960時間を上回る見込みとなっていたのです。結果として、すべての大学病院が特例の適用を求める申請を予定しており、内訳は「B水準」が33大学(40.7%)、「連携B水準」が69大学(85.2%)、「C-1水準」が22大学(27.2%)、「C-2水準」が3大学(3.7%)でした。大学病院の医師の多くは、大学病院以外の医療機関でも週に数日勤務するのが一般的です。一方、こうしたケースでの労働時間の実態把握は十分ではなく、それが長時間勤務の常態化にもつながっているとの指摘もありました。また、981人から回答があった医師個人調査では、「今後、我が国の教育、研究の主力を担う」とされる「助教」の15%が研究に割く時間が週0時間、約半数が1~5時間程度に留まっていました。以上を踏まえ、同会議は「医師の労働時間の短縮が教育・研究に与える影響は大きい。日本の研究力低下が深刻視される中、医師の時間外・休日労働時間の上限規制に伴い研究にさらなる打撃が加わることは、我が国の医学・医療と日本の将来に重大な影響を及ぼしかねない。このために医師の増員はもとより、教育・研究の効率化を図るためのICT化の推進が必要」と提言しています。また、NHKの報道によれば、全国医学部長病院長会議の横手 幸太郎会長は記者会見で、調査結果に関して「働き方改革を進めるうえで医療機関だけで解決できない問題も多く、大学病院の機能を維持するため、医師も行政も国民も一緒になって取り組む必要がある」と語ったとのことです。「宿日直許可」の取得、3割で許可得られずもう何年も前から準備が進んでいるはずなのに、制度のスタートまで1年を切った段階でのこの状況は、いろいろな意味で厳しいと言わざるを得ません。この調査では、大学病院による「宿日直許可」の取得状況も集計しています。それによると、希望通りの宿日直許可を受けているのは81病院のうち54病院(66.7%)で、残り27病院(33.3%)では希望通りの許可を得られていませんでした。宿日直許可とは、一般の労働者と働き方が著しく異なる業種を対象に設けられた例外措置です。たとえば、夜間の勤務について病院が「断続的宿直又は日直勤務許可申請書」を労働基準監督署に提出し、審査を受けて「断続的宿直又は日直勤務許可書」を交付されれば、宿日直として当該夜間勤務は労働時間にはカウントされません。しかし、この許可を得ていなければ、夜間の勤務は労働時間にカウントされます。夜間勤務が労働時間にカウントされれば、当然時間外労働が長くなり、960時間を超えてしまいます。夜間や休日の診療業務が当たり前となっている救急病院などでは、ほとんど許可が下りない状況のようです。再び大学の医師引き揚げが起こる可能性も今後、大学病院は、自院のみならず、医師をアルバイトなどで派遣している病院についても、しっかりと労働時間のマネジメントを行わないと、それこそ大学病院自体の診療や研究に大きな影響が出るでしょう。一方で、大学からのアルバイト医を受け入れている医療機関は、宿日直許可を受けないと医師を派遣してもらえなくなるかもしれません。昨年暮れに会った九州地方のある民間病院の院長は、「うちは1次・2次救急に力を入れているので、夜は寝当直というわけにいかず、宿日直許可を受けるのは難しい。2004年に臨床研修制度が始まったとき大学の医師引き揚げが問題となったが、同じようなことが全国で起きる可能性はある」と浮かない顔でした。個々の医療機関の働き方改革に対する取り組み遅れだけではなく、実際に現場で働く医師の間でも働き方改革に対する認知や理解が進んでいないようです。ただ、幸いなことにまだ時間はあります。働き方改革を優先した結果、地域医療が崩壊してしまった、とならないような“現実解”(働き盛りの中堅医師が該当するC-2水準の新解釈や活用などが最近議論されているようです)を導き出してほしいと思います。参考1)大学病院における医師の働き方に関する調査研究報告書について/全国医学部長病院長会議

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英語で「脂っこい食べ物」は?【1分★医療英語】第78回

第78回 英語で「脂っこい食べ物」は?How can I control my cholesterol?(コレステロールをコントロールするにはどうしたらよいですか?)That is a good question. Don't eat greasy food too much.(良い質問ですね。脂っこいものを食べ過ぎないようにしましょう)《例文1》My stomach pain gets worse when I eat greasy food.(脂っこいものを食べると、お腹の痛みが悪化します)《例文2》How often do you eat greasy food?(どれくらいの頻度で脂っこいものを食べますか?)《解説》“greasy”は馴染みのない単語かもしれませんが、「脂っこい」「ギトギトした」という意味の単語で、“greasy food”は「脂っこい食べ物」を表します。発音は「グリースィー」で、“r”の発音に注意して話すと伝わりやすくなります。患者さんへの栄養指導や、食事摂取歴を聞く際によく使います。“oily”や“fatty”も同様に「脂っこい」という意味の単語ですので、一緒に覚えておくとよいでしょう。米国では日本のコンビニのように安くヘルシーな食べ物を入手できる場所が少なく、安い食べ物はピザやハンバーガー、フライドポテトなどの“greasy food”ばかり…。生活水準の差が肥満や糖尿病などの健康問題に直結している印象です。講師紹介

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第158回 またまた医師退職問題を起こしていた京都府立医大、移植チームの体制整え1年ぶりに腎移植再開

昨年春から腎移植の手術ができなくなっていた府立医大こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この週末は野球観戦三昧でした。MLBだけでなく、日本のプロ野球も時折観ているのですが、セ・リーグでは読売ジャイアンツの低調ぶりが気になります。原 辰徳監督の采配や言動、オフでの首脳陣人事報道などを読むと、素人目にも少々“古臭いのでは”と感じるのは私だけでしょうか。選手を信頼し、選手に一定部分を任せ切ったWBCでの栗山 英樹監督のマネジメント手法との違いは明らかです。ジャイアンツの岡本 和真選手がWBC終了後の記者会見で「野球ってこんなに面白かったんだなあと思いました」と語ったそうですが、今のジャイアンツの野球が「面白くない」と言っているようで、なかなか興味深かったです。次のジャイアンツの監督に誰がなるのかについて、早くもマスコミは騒ぎ始めています。上から目線の古臭い権威主義や指導方法は、スポーツの世界からも一掃されていく流れなのかもしれません。権威主義と言えば、その最たるものがアカデミア、とくに大学医学部の世界です。ということで今回は、京都府立医科大学附属病院(京都市)で昨年春から腎移植の手術ができなくなっていた問題を取り上げます。4月11日、同大は再開後の1例目となる腎移植手術を3月末に実施した、と発表しました。同病院では昨年、移植外科の医師5人が相次いで退職。春以降、腎臓の移植手術ができない状態になっていました。市立大津市民病院の大量退職と並行して起こっていた移植外科での退職府立医大に関連する医師退職事件としては、昨年にこの連載でも何度か取り上げた地方独立行政法人・市立大津市民病院(大津市)の医師大量退職が記憶に新しいところです。昨年2月に発覚したこの事件では、府立医大病院勤務後に、大津市民病院の理事長となった医師(府立医大名誉教授)が、同病院の複数の診療科の医師を、京大出身者から府立医大出身者に半ば強引に入れ替えようとして、京大出身医師の大量退職を招きました。30人近くの医師が退職意向を示したことで地域医療は大混乱、結局、理事長、院長の交代と相成りました(「第121回 大量退職の市立大津市民病院その後、今まことしやかに噂されるもう一つの“真相”」ほか参照)。府立医大病院での腎移植の手術中止は、まさに大津市民病院の大量退職が起こっていた時期と並行して起きていたわけです。懲りないというか、流石というか、患者や地域医療は二の次に、大学の体面(やジッツ拡大)を優先する府立医大のスタンスは相変わらず揺るぎないようです。移植外科に所属していた6人のうち5人が退職府立医大病院で腎移植ができなくなっていることが表沙汰になったのは昨年10月でした。10月15日付の大阪読売新聞の報道によれば、府立医大学病院の移植外科に所属していた6人のうち5人が退職し、昨年4月以降、腎移植手術ができなくなっていました。移植外科は2018年に教授が定年退職した後、教授不在が続いていました。2022年2月に医師1人が転職を理由に辞めた後、3~4月にも3人が転職や留学を理由に退職。5月には同科のトップだった准教授も退職して医師が1人になり、手術停止に追い込まれました。各紙報道によれば、府立医大病院における2020年の腎臓移植手術件数は27件で、府内全体の約9割を占めていたそうです。2022年3月時点で、25組が生体腎移植を希望し、一部は検査を終えて手術が決まっていたとのことです。また、亡くなった人から提供される腎臓の移植手術(献腎移植)の待機患者も約200人いたそうです。生体腎移植を希望する25組のうち14組は京大医学部附属病院に紹介し、11組は他病院での手術を希望するか、府立医大病院で手術再開を待つことになりました。「前任教授の退職後から現在まで新たな医師の受け入れはゼロ」同病院は腎移植停止が発覚した10月時点で、医師たちの退職理由を明らかにしませんでしたが、2022年12月8日付の京都新聞は「『患者不在』学内からも批判 京都府立医大病院 腎臓移植中断問題」と題する記事で、その背景や理由について報じています。同記事は「退職の背景に教授の不在があった」と書いています。移植外科では2018年に当時の教授が定年退職してから約5年間、教授ポストの空席が続いていました。その結果、大学や病院内での移植外科の地位が低下、「前任教授の退職後から現在まで新たな医師の受け入れはゼロだった。それまで実施していた肝移植もできなくなり、在籍医師のキャリア選択の幅も狭まった」とのことです。「医師4人の退職意向が分かった今年1月下旬から2月上旬にかけ、准教授は残った2人で手術の継続は難しいと考え、泌尿器科などから支援を受けられないか掛け合ったものの、病院幹部らは消極的だった」と同記事は書いています。准教授(病院教授という肩書は持っていました)が病院幹部から受け取ったメールには「(移植外科)OBの意向を無視して(泌尿器科の協力を得るのは)現時点では困難」と記され、対応してもらえなかったそうです。また、同記事によれば、准教授は4人の医師の一斉退職の責任を押しつけられる形になり、結果、退職に追い込まれたとのことです。退職後、准教授はパワハラなどによって精神的な苦痛を受けたとして大学に対して申立書を提出、これに対し学長ら学内の管理職でつくるハラスメント対策会議は11月中旬までに「業務目的を大きく逸脱した言動とは言えない」とパワハラに該当しないと結論付けています。同記事は「准教授の代理人弁護士によると、准教授は病院幹部らから『新しい移植体制では君をリーダーにすることはあり得ない』と責められた」とも書いています。泌尿器科内に移植チームを急遽立ち上げ腎移植停止が表沙汰になったことで流石に慌てたのか、各紙報道によれば、府立医大は泌尿器科内に急遽移植チームを立ち上げ、同科の3人の医師が移植手術を、腎臓内科をはじめとする複数科のスタッフが術後管理などを行う体制を整え、11月には日本腎臓学会に腎臓移植施設資格の再認定を求める申請書を提出しました。再認定後、2023年1月から新規の外来受け付けを再開、3月29日に再認定後1例目となる生体腎移植が実施され、4月11日の公表に至ったというわけです。メディアが報じる10月まで府立医大は腎移植停止を公表せずそれにしても、府立医大の関連病院である大津市民病院の医師大量退職事件とほぼ時を同じくして、“本丸”である府立医大病院でも退職問題が起こっていたとは驚きです。しかも、移植外科の医師退職と腎移植の停止は、メディアが報じる10月まで、その事実を公表していませんでした。それまで府内の腎移植のほとんどを手掛けており、患者にとってはまさに生きるか死ぬかの問題だったにもかかわらず、です。さらに、移植外科の准教授が病院幹部に対して泌尿器科への協力依頼を行っていたにもかかわらず、医局の都合を優先してか「現時点では困難」と判断していました(その後の報道で事態が表沙汰になってから、泌尿器科による移植チームを編成)。移植を待つ患者は二の次で、大学や医局の都合を重視するかのような対応からは、大津市民病院の医師退職の時の同病院元理事長の言動と共通するものを感じます。それはある意味、府立医大の“学風”と言えるかもしれません。准教授のパワハラの申し立てに対し、学長ら学内の管理職でつくるハラスメント対策会議が「パワハラに該当しない」と結論付けている点も気になります。少なくともこうした調査や判定は第三者によって行われるべきものです。自分たちもパワハラの当事者かもしれないのに、内部者だけで調査し、結論を下すのは言語道断でしょう。確か、大津市民病院の大量退職に際しても、一部の医師からパワハラとの主張があったものの、当初は病院内部の検証で否定されていました(その後、事件が大きくなってから第三者委員会を組織)。2010年代、度々世間を騒がせた府立医大2010年代、府立医大はディオバン事件(バルサルタン臨床研究:Kyoto Heart Study論文撤回)、暴力団総長の虚偽診断書作成事件(当時の病院長の指示で虚偽の診断書や意見書をつくったとされる事件。病院長は不起訴となるも総長との関係が指摘された当時の吉川 敏一学長は再任を辞退)、名誉教授強制わいせつ事件など、さまざまな事件を起こし、世間を騒がせました。そう言えば、暴力団総長の虚偽診断書作成は移植外科が舞台で、当時の移植外科の教授が病院長でした。この教授の退官後、移植外科の教授の空席が続き、残った准教授が、病院教授の肩書を持ちつつも移植外科の教授にはならないまま腎移植を切り盛りしていた結果、医局が破綻してしまったというのが今回の流れのようです。大学を去った元准教授はメスを捨て、京都の山奥の国保診療所で地域医療に従事しているという情報もあります。2020年代も府立医大は、本来の診療や研究以外の部分で世の中を騒がせ続けるのでしょうか。『白い巨塔』の世界のような古臭い権威主義は、医療の世界からそろそろ消えてもらいたいところなのですが……。

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第155回 「サル痘」感染対策、やってはいけない患者啓発とは

先日、京都滞在中、ある1通のメールを受信した。国立国際医療研究センター広報企画室からだ。フリーライターでも過去に取材をしたことがある医療機関・研究機関の広報部門に名刺を渡すと、ニュースリリースをはじめとするお知らせが届くようになる。私に国立国際医療研究センターからメールが届くようになったのは、2014年に扶桑社から発刊されている「週刊SPA!」で、知人を介して新興・再興感染症の特集を企画している編集者を紹介され、同特集の執筆者として同センターに取材に行ったのがきっかけである。ちなみにこの時は異例づくしだった。そもそも初対面となる担当編集者から指定された打合せ場所が同センターの結核病棟だった。なんと、担当編集者自らが結核にかかり、この病棟に入院中という。そこで私は同センターに赴き、1階の自動販売機でN95マスクを購入して装着。結核病棟に入院する編集者のもとを訪ねて打ち合わせをした。当時、アフリカではエボラウイルス病(旧エボラ出血熱)が流行していたことに加え、編集者本人が結核にかかったことで企画を思いついたという。なんともアグレッシブな企画立案経緯だが、実は雑誌の特集などでは編集者本人が当事者だったことがきっかけで企画が生まれることはよくある。結局、この時は編集者から病棟内を案内され、そこにあるオープンスペースで打ち合わせをした。編集者曰く、まずは特集内でエボラウイルス病と結核を取り上げることは決まっているので、それ以外にふさわしい感染症をリストアップして欲しいという。そこで私が挙げたのが「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)」「デング熱」「E型肝炎」。最終的にはデング熱は外され、それ以外の2つをやることとなった。そこでSFTSの取材で再び同センターを訪れたのだった。取材当日、対象者である医師と向かい合った瞬間、開口一番に「なんかさっきデング熱の国内発生が報じられてました」と聞かされた。そのニュースをまだ知らなかった私は「え?」となった。何とも間が悪い。髭面のこの医師に企画段階でデング熱が外されたことを話すと、「あははは」と笑われた。この医師こそが今回のコロナ禍で全国区の有名人となり、現在は大阪大学大学院医学系研究科の感染制御医学講座教授に転身された忽那 賢志氏である。さて前置きが長くなったが、同センターからのメールには、今年に入ってから国内で急増している「サル痘」に関して、厚生労働省がメディア向けのハイブリット勉強会を開催する旨が記載されていた。同センターの医師が参加するため、情報提供のためリリースを行ったとある。私個人としても興味を持っていた事象だったので、ぜひ参加したかったが、基本は省内の記者クラブ所属記者向けである。開催日は金曜日夕方で、この日の午前中まで私は京都にいて夕刻までには東京に戻る予定だった。十分参加可能だ。とりあえずリリースにあった結核感染症課の担当者に電話連絡し、クラブ外からの参加が可能かを尋ねたところ、現在確認中なので決まり次第連絡をするとのこと。翌日午前中、京都最後のワーケーションとして仁和寺で満開だった御室桜を見ている時に参加可との着信が入り、その足で京都駅に向かい、新幹線に飛び乗った。さて、国内でのサル痘患者については4月12日現在108例が報告されており、うち100例が2023年になってからの発生報告例だ。とりわけ3月以降増加している。2022年内に報告された8例では、うち5例は海外渡航歴あるいは国内来訪中の外国人と接触があったが、2023年以降報告されている100例のうち海外渡航歴などがあったのはわずか1例。その意味では輸入感染症から土着性の感染症になりつつあるステージである。これまで判明した患者はすべて男性である。世界保健機関(WHO)がサル痘のハイリスク群として指摘しているのがMSM(Men who have Sex with Men)である。この辺の定義をより厳格に記述しておくと、MSMは男性同性愛者とイコールではなく、バイセクシャルも含む。現在、日本国内で報告されているサル痘患者が全員男性であることからもわかるように、MSMは明らかなハイリスク群である。勉強会でもこのような国内での感染状況などの事実関係や代表的な症状、予防法、現在の治療法などが簡潔に解説され、あとは出席した記者と厚労省担当者や国立国際医療研究センターからの出席医師と質疑応答になった。実は特筆すべきだったのがこの場のプレゼン側の出席者として、厚労省が新宿でHIV/エイズ、性感染症などのセクシャルヘルス情報センターを運営するNPO法人の代表を呼んだことである。NPO法人代表からは、参加した記者達に向けて、「報道時に感染者や感染経路と関連した特定の属性の人達への差別・偏見に十分にご注意いただきたい」とのお願いがあった。代表はより具体的に次のように語った。「特定の人たちに対する差別・偏見が生まれることは人権の視点で当然避けられるべきです。さらに過去40年にわたるエイズ対策の中で私達が学んできたことは、社会での差別・偏見が高まれば、感染する可能性のある人が(差別・偏見を受けやすい)その属性と関連付けられてしまうことを気にして、たとえば医療機関の受診や検査・相談を受けることを避けてしまう。それによって、必要な人が必要な予防やケアに繋がらなくなってしまう。その結果、感染症の流行を終わらせることがさらに遅くなってしまう」この点はその通りである。もっとも報道としては悩みが深い部分でもある。というのも前述のような国内発生例が現状では全員男性、WHOがMSMをハイリスク群と指摘している事実は報じないわけにはいかない。ところが事実を単純に報じるだけでは、少なからぬ人がサル痘を「男性同性愛者特有の性感染症」と受け止めて他人事と思い、一部ではそれが先鋭化してMSMへの偏見・差別につながることは十分起こり得るからだ。もちろん報道を含めた情報発信側により突っ込んだ努力は求められる。たとえば実際のサル痘の感染経路である▽げっ歯類をはじめサルやウサギなどウイルスを保有する動物との接触▽感染者や動物の皮膚の病変・体液・血液との接触(性的接触を含む)▽感染者とかなり接近した対面での飛沫への長時間の曝露▽感染者が使用した寝具などとの接触、を具体的に報じることがその1つである。また、この感染経路を考えれば性感染症というのも正確ではないので、そうした表現は使わない。さらに、感染経路と現状の国内での感染急増を考慮すれば現在は女性も含めて多くの人が感染リスクにさらされているステージになっていることを報じることも必要だろう。しかし、そこまでしてもなお人は自分にわかりやすく解釈してしまう。報道は個人の解釈までには手が及ばないのである。たぶんこうした歯がゆい思いはMSMの人達に接したことがある医療従事者ならば経験していることではないだろうか。確かにかつてと比べれば、性的マイノリティに関する認識や議論はかなり進化している。とはいえ、政治家の不穏当発言に代表されるように、今も差別・偏見は各所に根強く残っている。差別・偏見を肯定するつもりはさらさらないが、社会全体でみると、少数派への理解がどうしても遅れてしまうのは世の常である。これを少しでも変えていくためには、ある程度のトップダウン型の対応が必要になると個人的には考えている。具体的には教育や法整備を実施することで、やや強制的に社会を変えていくのである。つまり「外堀」を埋めて否が応でも理解をしなければならない環境を作り出す。その意味で、今回このサル痘のメディア勉強会に厚労省がMSMを支援する当事者を呼んだことは、私は英断だと思っている。一方、サル痘の件も含め、性的マイノリティの人達が抱える心身のリスクに接する機会が社会のほかのクラスターよりも明らかに多いのは医療従事者である。この環境を考えれば、医療従事者向けにこうした性的マイノリティに関する理解を深めるための教育も国が率先して取り組んでいく時期に差し掛かっているのではないだろうかとも思っている。

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【GET!ザ・トレンド】第2の聴診器ポケットエコーの進化はAirへ

(協力:GEヘルスケア社)医療検査機器の進歩は目覚ましいものがある。とくにCTやMRIは、さらに高画質化し、読影も立体的になるなど、最近ではソフトウェアの進歩も著しい。また、超音波も同様に高画質化、コンパクト化がはかられ、ベッドサイドではなくてはならない検査機器となりつつある。こうした診療機器を一堂に集めた国際医用画像総合展(ITEM 2023)が4月14日から3日間、パシフィコ横浜で開催される。ITEMの開催を前にCareNeTVやケアネットDVDでもお馴染みの白石 吉彦 氏(島根大学医学部附属病院 総合診療医センター センター長/隠岐広域連合立隠岐島前病院 参与)にポケットエコーの進化を振り返り、臨床現場での使い方のポイントや検査・読影のコツ、そして、今後の展望についてお聞きした。質問 ポケットエコーの進歩とハードウエアの課題について教えてください2010年にVscan(GEヘルスケア社製)がポケットエコーの嚆矢として発売されました。非常に衝撃的ではありましたが、当時は心エコーなど限定された部位・機能であり、現在のように処置などに使えませんでした。2010年に発売されたポケットエコーVscan(GEヘルスケア社製)その後、他のメーカーもポケットエコーを開発・発売していくなかで、先のVscanはプローブのデュアル化をしました。1個のプローブにセクタ型とリニア型が一体となり、携帯する機材の省力化で、臨床現場での使い勝手が向上しました。Vscan Dual Probe(GEヘルスケア社製)その間にも個々の機種は充電がしやすくなったり、起動までの時間が短縮化されたり、軽量化なども図られるとともに、本体の価格もかなり安くなっていきました。そして、現在の進化はVscan Air(GEヘルスケア社製)のように無線化であり、邪魔なコードがなくなり、プロ―ブを検査したいところに当て、機動性良く検査ができるようになりました。また、所見はタブレットやスマホに送ることができて、その画面で読影ができるようになりました。Vscan Air Carotid Artery(GEヘルスケア社製)臨床では、臨床判断と手技の向上に役立てる超音波検査を“point-of-care ultrasonography”(POCUS)と呼び、一般社団法人 日本ポイントオブケア超音波学会(j-pocus.com)が設立されるなど環境も大きくかわりつつあります。ポケットエコーで今後期待されることとしては、画質や画面の大きさ、価格、質の担保があります。たとえば、胆嚢炎について、本症では読影時に胆嚢壁の厚さや形状を知ることが大事です。ポータブルエコーでは、カラードップラーも使え、鮮明に壁の厚さもわかりやすい一方で、ポケットエコーではまだそこまで到達できていません。ほかに重要な点として非接触充電ができるようになったり、機能的にも良くなっていますが、「電池の持ち時間」がユーザーとしては気になります。もっと長時間使用できるようになって欲しいと思います。1点注意しなければいけないこととして、最近ではインターネットサイトで非常に安価なポケットエコーを入手することができます。サイトで買われたポケットエコーは、自己トレーニングなどでの使用は問題ありませんが、薬機法(医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器、再生医療等製品について安全性と、体への有効性を確保するための法律)を通っていない機器は、診療で使用すると法に抵触する恐れがあります。この点を医療者はよく理解して、診療にあたらなければいけないということがあります。質問 ポケットエコーの臨床現場での活用法やビギナー向けのポイントを教えてくださいポケットエコーは在宅診療をされている医療者などでは結構普及していますが、医師全体からすると、まだ5%も普及していません。理由はいろいろとありますが、はじめの頃は250万円くらいの高価なデバイスであったことが要因かと思います。ポケットエコーのメリットは、携帯性、経済性、起動時間の早さにあります。診療に使うことで診断精度と治療精度の向上が望めます。私の勤める病院では、看護師にも積極的にポケットエコーを扱ってもらっています。一例として「導尿」の有無の判断に膀胱にエコーを当て、導尿の必要があるかどうかを判断しています。導尿では、感染症のリスクや患者さんの羞恥心もあり、できればしたくない処置です。そこでエコーを当て要否を判断することで確実に導尿が必要な患者さんにだけ処置を施すことができます。これは全国でもまれかもしれません。また、膀胱の背側にある直腸の便を確認することもできます。膀胱横断面所見(提供:GEヘルスケア社)画像を拡大する診断の補助として、たとえばひざの腫れであれば、関節液の貯留か軟部組織の炎症による腫脹か、それ以外の原因なのか、ベテランでないと難しい診断もポケットエコーを使えば診断がし易くなります。触診した部位を見える化することによりポケットエコーで身体所見の診断の答え合わせもできます。ほかにもプライマリ・ケアでよくある主訴の「頻尿」では、問診では判断が難しい過活動膀胱か神経因性膀胱かどうかについて、ポケットエコーで膀胱の容量を把握し、残尿があるかないかを確認することができます。両疾患では治療薬も異なるので、適切な治療につなげることができます。エコーは軟部組織や水をよく描出するので胸水、肺B-line、胸膜、膝などの診断に強みを発揮します。今では初期の大動脈瘤の発見もできる精度であり、みつけることができれば予防的な治療も可能です。膀胱、前立腺所見(提供:GEヘルスケア社)画像を拡大する腹部大動脈所見(提供:GEヘルスケア社)画像を拡大する処置で使うのであれば、ひざの穿刺などで注射を必要な部位にピンポイントで施行できますし、膀胱、便秘、肺エコー、大静脈の点滴の適否、末梢血管確保についてポケットエコーは有効です。エコーを使用した処置により、ベテランでもそうでなくとも同じ視覚で処置ができるので、医療の均てん化にも役立つと考えています。質問 超音波所見の読影のコツやビギナー向けの学習法について教えてくださいエコーの上達については、とにかく「日々プローブを当てること」が基本です。自分でも仲間同士でもプローブを当て、手技や読影を訓練することです。もちろんこのときには指導する先輩医師の役割も重要ですし、身近にすぐできるエコーがあることも必要です。そういう意味ではポケットエコーは、エコーに馴染むという意味ではよいツールとなります。また、読影でわからない場合で先輩医師がいない場合には、成書やDVDなどで学習し、それでも難しいときは研修会などで勉強することが必要です。本当は、医学生のころからエコーに慣れ親しむのがいいのですが、現在、医学部でのエコーの講義や実習は、力の入れ具合に差があります。私が所属している島根大学医学部では、医学生にエコーの勉強会を実施していますし、エコーを使った診療の動画も島根大学医学部附属病院 総合診療医センターのサイトで公開して、学習のサポートを行っています。今年の7月には私が会長で行う「第15回 日本ポイントオブケア超音波学会学術集会」を島根で開催します。エコーに少しでも興味のある医療者にはぜひ参加していただきたいと思います。質問 ポケットエコーの将来の展望について教えてください診療でポケットエコーが普及していけば、診療ガイドラインなどにも記載されるようになるでしょう。日本ポイントオブケア超音波学会(JPOCUS)では、ガイドラインから試案を作成したりしていますし、日本救急医学会では「救急point–of–care超音波診療指針」を公開していますので、じわじわと臨床の中に入っていくと思われます。今後、プライマリ・ケアでも症状や病態の見える化は需要が増していきますので、「第2の聴診器」として医療者には必要な手技・スキルになると考えます。繰り返しますが、ポケットエコーの理想形としては、より小さく、軽く、鮮明な画像で、値段もお手ごろ、電池も長持ちし、操作も簡単、プローブのバリエーションもあり、そして、院内のPACSにつながるポケットエコーの登場を期待します。(インタビューは2023年3月6日に実施/ケアネット 稲川 進)

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第154回 日本人の驚くべきマスク定着化ー新聞社の世論調査

先日、知人の墓参りとワーケーションを兼ねて京都に4日ほど滞在した。食事時と自分が会員となっているスポーツジムの系列店舗で運動する以外は、ほぼホテルの部屋で仕事をしていた。もっとも春先の京都にいながら観光ゼロというのも何なので、昼食時の帰りに1件ほど寺社・仏閣に立ち寄ったりもした。すでに京都市内はコロナ禍「明け」とも言える雰囲気で、市中心部の四条付近は外国人観光客でごった返していた。ぱっと見だが、白人系の人々は屋内外いずれもほぼノーマスク、対して日本人も含め見た目がアジア系の人々では屋外でもマスク着用率が明らかに高くなる印象だ。たまにアジア系の顔立ちでノーマスクの人たちを見かけるが、言葉を聞くとその多くは広東語、中国語などの非日本語である。それでもノーマスクの日本人は、少なくとも私が見る限り、東京などと比べると若年者を中心に明らかに多いと感じた。到着翌朝、ホテルのエレベーターに乗り込もうとし、先客の若い女性がノーマスクだった時は一瞬ぎょっとした。途中から乗り込んできたやはりノーマスクの男性2人は女性と顔見知りだったらしく、密閉空間のエレベーター内でそのままペチャクチャ話し始めた。会話の内容からすると、どうやら新入社員の研修中らしい。私はマスクをしていたものの、その間ずっとヒヤヒヤしていた。ところが慣れというのは怖いもので、3日も滞在していると、コンビニに行こうとしてホテルの部屋を出た際にマスクを忘れたことに気付いても、「短時間だし。ま、いいか」という感じになってしまう。すでにマスク着用が任意となった現時点での表現としては適切ではないかもしれないが、「こうやってなし崩し的にモラルハザードが起こる」と受け止めている。新聞社主催の世論調査から見えるマスク定着化そうした中で興味深い調査結果を目にした。読売新聞社が行った新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)に関する世論調査である。調査結果を報じた記事では「日本の社会は、全体として、新型コロナウイルスに、うまく対応できていると思いますか、思いませんか」との問いへの回答が、「思う」「どちらかといえば思う」合計で57%、「どちらかといえば思わない」「思わない」合計が41%となり、2021年から3年連続同様の調査を行った中で、初めて「思わない」よりも「思う」ほうが上回った点に主眼が置かれている。しかし、私が注目したのは調査結果内のマスク関連の回答である。まず、「新型コロナウイルスの感染を防ぐため、現在あなたが実践していることを、いくつでも選んでください」のトップが、「外出するときにマスクを着用する」の92%。さらに「あなたは、日常的にマスクを着用することを、つらいと感じますか、感じませんか」では、トップは「どちらかといえば感じない」が31%、次いで「感じない」が29%で、マスク着用に肯定的な層が6割を超えている。ちなみにこの設問で反対の立場である「感じる」が12%、「どちらかといえば感じる」が27%だった。ただし、この世論調査を読み解く際には2つの注意点がある。1つは調査の実施主体が読売新聞であることだ。新聞による無作為抽出世論調査の場合、回答者と新聞社の思想ベースが類似しがちになる。たとえば、保守的と分類されることが多い読売新聞の調査では、どうしても保守的な人が回答しがちになる。一方、リベラル傾向が強いと言われる朝日新聞社の読者に読売新聞社主催の調査が送付された際には回答拒否になる傾向が強まる。実際、今回のアンケートの回答を見ると、概して保守層に受け入れられやすいワクチン接種について、3回以上接種者は82%であり、現在の首相官邸が公開している総人口に占める3回ワクチン接種割合の68.6%と比べるとかなり高めだ。もう1つの注意点として、回答者の年齢層は50代以上が6割超を占めている。たとえば、調査で「あなたは、今後、自分が新型コロナウイルスに感染して重症になるのではないかという不安を、感じますか、感じませんか」では、「大いに感じる」「多少は感じる」の合計がやはり6割超である。その意味で今回明らかになったマスク信仰については、社会全体の傾向よりやや高めに出ていると解釈したほうが良いかもしれない。とは言っても、これだけの日本人にマスクが定着したという点には今回驚きを感じている。さて昨今の新型コロナの感染状況だが、すでに陽性者報告数は上昇トレンドに入り、第9波の到来が懸念されている。一部には早ければ5月下旬という説もある。現在、オミクロン株対応ワクチンの接種率は約45%と心もとないが、第8波でかなりの感染者が発生したことも考えると、今現在は事実上の「集団免疫」が成立している状況かもしれない。これに今回の世論調査でわかったマスク信仰の高さも考え合わせれば、もしかすると第9波は第8波を下回るのではないだろうか? もっともこれは個人的かつ希望的観測に過ぎない。ただ、間近に迫った新型コロナの感染症法上5類化で対応病床が減ると予想される中、その状態ですら医療側が対応可能なレベルかどうかは、かなり不透明ではないだろうか?

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ペムブロリズマブ+化学療法、悪性胸膜中皮腫1次治療のOSを改善/MSD

 2023年3月10日、Merck社は切除不能な進行または転移のある悪性胸膜中皮腫の1次治療においてペムブロリズマブと化学療法の併用療法を評価する第II/III相CCTG IND.227/KEYNOTE-483試験で、主要評価項目の全生存期間(OS)を達成したことを発表した。 IND.227/KEYNOTE-483試験は、Canadian Cancer Trials Group(CCTG)が実施医療機関となり、National Cancer Institute of Naples(NCIN)およびIntergroupe Francophone de Cancerologie Thoracique(IFCT)と共同で実施する非盲検無作為化第II/III相試験である。同試験では切除不能な進行悪性胸膜中皮腫の治療においてペムブロリズマブと化学療法の併用療法を評価した。主要評価項目はOSで、副次評価項目は盲検下独立判定機関(BICR)が評価した無増悪生存期間(PFS)および客観的奏効率(ORR)のほか、安全性、生活の質(QoL)であった。 同試験の最終解析でペムブロリズマブと化学療法の併用療法群は、化学療法単独群と比較して統計学的に有意かつ臨床的に意味のあるOSの改善が認められた。本試験におけるペムブロリズマブと化学療法の併用療法の安全性プロファイルはこれまでに報告されている試験の結果と一貫していた。 悪性中皮腫は胸部、腹部、心臓、精巣など体の特定の部位を覆う膜に発生するがんで、2020年には世界で3万人以上が新たに診断され、2万6,000人以上が死亡したと推定されている。胸膜中皮腫は、悪性中皮腫の中で最も多く、約75%を占めている。悪性胸膜中皮腫は多くの場合進行が速く、5年生存率はわずか12%とされる。 この結果は、今後さまざまな腫瘍関連学会で発表するとともに、世界各国の規制当局へ承認申請する予定である。

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第155回 日本はパワハラ、セクハラ、性犯罪に鈍感、寛容すぎる?WHO葛西氏解任が日本に迫る意識改造とは?(後編)

パンデミック以前の日常が完全に戻ってきたこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この週末、関東はお花見日和でした。近所の公園では、葉桜となってきた桜の木の下で多くの人がノーマスクで宴会をしていました。パンデミック以前の日常が完全に戻ってきたわけですが、数週間前からこれだけ飲んで騒いでいるのに、新型コロナウイルス感染症の患者数は目立った増加となってはいません。感染症は本当に不思議な病気だなと思いながら、私も桜が舞い散る公園で、タコスにコロナビールを楽しみました。さて今回も、前回に引き続き、WHO(世界保健機関)の西太平洋地域事務局(フィリピン・マニラ)の葛西 健・事務局長が解任されたニュースを取り上げます。「The Lancet」が「グローバルヘルスの専門家たち葛西氏解任を歓迎」と報道WHOは3月8日、職員らへの人種差別的な発言などがあったとして内部告発され、昨年8月から休職中だった葛西・西太平洋地域事務局長を解任したと発表しました。日本国内では「解任理由がきちんと説明されていない」といった批判もあるようですが、国際的にはどうやら今回の解任を歓迎する声の方が大きいようです。医学雑誌の「The Lancet」は3月18日、「Global health experts welcome Kasai dismissal(グローバルヘルスの専門家たちが葛西氏解任を歓迎)」と題する記事を掲載しています1)。「葛西氏はWHO労働者への嫌がらせを行っていた」刺激的なタイトルのこの記事は、世界の複数のグローバルヘルスの専門家が、今回の調査や決定が適正に行われ、処分も妥当と考え、解任決定を歓迎していると報じています。記事によれば、WHOは虐待行為を一切容認しないという方針に沿って今回の内部告発を調査、すべてのWHOスタッフに適用される通常の手順に従って検討が行われたとのことです。その結果、葛西氏が「攻撃的なコミュニケーション、公の場での侮辱と人種的中傷」を含む、WHO労働者へのハラスメントを行っていたことが判明したとしています。これら結果を踏まえ、西太平洋地域委員会の投票が行われ、解任賛成13票、反対11票、棄権1票という結果となり、その後、非公開の理事会で葛西氏の解任が決定したとのことです。WHOの不正行為や虐待行為に対するチェックの目は一層厳しくなる同記事は、米国ジョージタウン大学のグローバルヘルス法の研究者の次のような発言も報じています。「この決定を行ったWHOに拍手を送る。その決定は正しかったが、もっと早く行われるべきだった。WHOは、誰もが尊重される安全で敬意に満ちた職場を作るために、可能な限り最高の基準を設定する必要があると考える」。同記事は、その他の世界のグローバルヘルスの専門家たちの今回の決定に対する賛意も伝えています。それらはある意味、日本が期待を持って送り込んでいた葛西氏の”評判”とも言えるもので、日本政府にはなかなか手厳しい内容となっています。ところで、WHO内部では葛西氏の事例のようなハラスメントだけではなく、エボラ出血熱発生中に起きたWHO労働者や援助労働者に対する性的虐待なども問題視されており、同記事は、葛西氏に行われた内部調査や解任決定を機に、WHOの組織内におけるその他のさまざまな不正行為や虐待行為に対するチェックの目は一層厳しくなるに違いない、と書いています。横浜DeNAに現役バリバリのMLBの投手入団そう言えば、WBC開催中の3月14日、横浜DeNAベイスターズは3年前の2020年、シンシナティ・レッズ時代にサイ・ヤング賞を獲得(同年に同じく候補となったダルビッシュ有投手と争いました)したMLB投手、前ロサンゼルス・ドジャースのトレバー・バウアー投手と契約を結んだことを発表しました。現役バリバリのMLBの投手がNPBに来るということで大きなニュースになりました。実は彼、2021年に知人女性に対するドメスティックバイオレンスの禁止規定違反でメジャーリーグ機構から324試合の長期の出場停止処分を受け(その後、異議申し立てをし、処分は194試合に短縮)、今年1月にドジャースとの契約が解除された選手です。契約解除後、MLBでは新たな契約をする球団は現れず、うまくDeNAが獲得したというわけです。MLBが獲得に動かなかった理由は多々あるようです。ヒューストン・アストロズの投手陣が強力な粘着物質を使っている疑いがあることを”チクリ”、粘着物質使用厳格化のきっかけを作ったことでMLBの選手たちから裏切り者扱いされた、という説も流れていますが、女性に対するドメスティックバイオレンスの一件も少なからず影響していることは確かでしょう。そうした”問題”選手を、トラブルにはとりあえず目をつぶって獲得し、大喜びしているのも日本人のパワハラ、セクハラへに対する鈍感さ、寛容さのなせる業かもしれません。DeNAは3月24日に横浜市内で華々しくバウアー投手の入団会見を行いましたが、その5日後の29日に同選手が「右肩の張りを訴えた」と球団が発表、4月中の一軍デビューは先送り濃厚となってしまいました。「バウアー投手はMLB復帰のために日本にリハビリに来ただけ。もとより真剣に投げる気はない」という声もあるようです。BBC制作ジャニーズのドキュメンタリーをほぼ黙殺の日本マスコミパワハラ、セクハラ関連の話題ということでは、英国のBBCが制作、公開したドキュメンタリー「Predator:The Secret Scandal of J-Pop」(J-POPの捕食者:秘められたスキャンダル)を日本のマスコミのほとんどが黙殺したことも挙げておきたいと思います。2019年に死去したジャニーズ事務所の創業者、ジャニー喜多川氏によるジャニーズJr.の少年への性的虐待を追ったこのドキュメンタリー、日本ではBBCワールドニュースで3月18日、19日に配信放送されました。この件について日本のマスコミで報道したのはかねてからジャニーズ問題を追ってきた週刊文春と、FRIDAYデジタル、日刊ゲンダイDIGITALなどごく一部でした。香港や韓国、台湾のメディアも大きく取り上げたというのに、日本のマスコミの沈黙ぶりは、異常と言えるかもしれません。こうした鈍感さ、時代遅れの寛容さや忖度は、葛西氏のパワハラ同様、国際社会ではもう認められなくなってきています。そうした自覚と意識改造が日本人には早急に求められていると思いますが、皆さんいかがでしょう。「ジャニー喜多川氏の性的虐待の事実と、メディアに与えた強い影響力を調査し、社会が見て見ぬふりをすることの残酷な結果を明らかにする」(BBCワールドニュースのWebサイトより)というこの番組、4月18日までAmazonプライム・ビデオで視聴可能です。興味のある方はご覧下さい。参考1)Zarocostas J, Lancet. 2023 Mar 18. [Epub ahead of print]

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英語で「痛みはどれくらいですか」は?【1分★医療英語】第74回

第74回 英語で「痛みはどれくらいですか」は?On a scale of 1 to 10, how would you score your pain?(1から10のスケールでいうと、痛みはどれくらいですか?)I would say 7.(7くらいです)《例文1》Could you describe your pain for me?(痛みはどのような感じですか?)《例文2》Could you rate your pain?(痛みを評価してもらえますか?[どのくらい痛いですか?])《解説》「痛みスケール」を使って患者さんに痛みの強度を表現してもらうとき、“Could/Would you rate/score your pain on a scale of 1 to 10, 1 being the lowest and 10 being the highest? ”(1が最も弱くて、10が最大の痛みとすると、あなたの痛みはどれくらいですか?)という言い方をよく使います。“score”や“rate”は、共に「点数を付ける」といった意味で、数字で答えてもらうスケールの質問に使いやすい動詞です。スケールを0~10として“0 means no pain and 10 is the worst pain that you can imagine. How are you feeling?”(痛みがないのがゼロ、想像できる最大の痛みが10だとすると、今はどんな感じですか?)という聞き方も可能です。 どのような種類の痛みなのかを詳しく知りたいときには“Could you describe/explain your pain?”(どんな痛みなのか説明してもらえますか?)と尋ねます。この時の患者さんからの期待される回答としては、“It is a sharp/dull/stubbing pain.”(鋭い/鈍い/刺すような 痛み)などとなります。講師紹介

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