サイト内検索|page:14

検索結果 合計:1185件 表示位置:261 - 280

261.

歩行を守るために気付いてほしい脚の異常/日本フットケア・足病医学会

 超高齢社会では、いかに健康を保ちつつ日常生活を送るかが模索されている。とくに「脚」は、歩行という運動器の中でも重要な部位である。日本フットケア・足病医学会は、この脚を守るための下肢動脈疾患(LEAD)・フレイル研究募集についてメディア向けにセミナーを開催した。 セミナーでは、研究概要のほか、同学会の活動概要、LEADをはじめとする脚の動脈硬化の診療、LEAD・フレイル研究募集について説明が行われた。あまり社会に知られていないLEADの病態と患者数 はじめに同学会理事長の寺師 浩人氏(神戸大学大学院医学研究科形成外科学 教授)が、「日本フットケア・足病医学会として歩行を守る意義」をテーマに、わが国のLEADの発生状況やLEADが起こすさまざまな弊害、学会が行っている活動を説明した。 高齢化の中、政府は病床数の削減に動いている。その一方で、わが国のLEAD患者は約400万例(うち症候性が100万例)と推定され、この数字は増加中である。また、LEADには透析患者の15~23%が罹患しているとされ、糖尿病を併存しているケースも多いとされている。 通常、脚の創傷は入院となっても、外来などで適切なフットウェアと歩行・生活指導を受けると治癒する。また、脚はADLとも密接に関係し、切断レベル、年齢、神戸分類の要素で複雑に変化する。一例として、高齢者では、脚の大切断後の歩行機能は著明に低下することが知られる一方、小切断後では歩行機能を維持できることが知られている。これは、LEADがなければ創傷治癒後歩行ができることを意味し、LEADが次第に歩行機能を奪っていくという。 最後に学会について触れ、「日本フットケア学会」と「日本下肢救済・足病学会」は2019年に合併し、新たに「日本フットケア・足病医学会」として発足したことを紹介した。足病医学、装具士・整形靴の研究、保険診療要望などのほか橋渡し研究として臨床に即した基礎研究を推進することを目的に活動を行っているという。今後は、さまざまな研究について支援をお願いしたいと語り、説明を終えた。生命予後に関連するLEAD 「LEADとは? 脚の動脈硬化の話」をテーマに東 信良氏(旭川医科大学外科学講座血管・呼吸・腫瘍病態外科学分野 教授)が、LEADの病態についてレクチャーを行った。 はじめに脚の解剖図を示し、動脈網を説明後、脚の動脈疾患があまり知られていないことに警鐘を鳴らした。 脚が動脈硬化になりやすい人としては、「高齢、糖尿病、高血圧、腎機能障害」が主なリスク因子として挙げられる。わが国の発症頻度をみると60歳以上で1~3%、70歳以上では2~5%、とくに65歳以上で糖尿病を発症している人では12.7%、腎不全透析患者では10~20%の頻度でみられると報告され1)、今後の高齢化に伴い患者数はさらに増加すると予想されている。 脚の動脈(側副血行路)の流れが悪くなると、歩行時の筋肉痛や組織の維持に問題が生じる。診断では下肢の脈の触診や足首の動脈圧の測定で判断され、フォンテイン分類(I:無症状、II:間歇性跛行、III:安静時痛、IV:潰瘍・壊死)で4つのステージに分けられる。とくに足関節上腕血圧比(ABI)が1.00以下は要注意とされる。 治療は先述のステージごとに異なり、各ステージ共通では背景リスクの管理が必要となるほか、症例によっては間歇性跛行から血行再建治療が行われる。血行再建治療には、血管内治療(カテーテル治療)、内膜摘除・形成術、バイパス術などが行われる。2017年の学会の調査によれば、血行再建治療数は全体で4万9,833例がおもに循環器内科で実施され、治療方法別では血管内治療が1番多く実施されている。 また、治療後のゴールについて、運動器を中心に歩行改善、歩行器機能回復や救肢が目的とされる。ただ、LEAD患者の生命予後については、救肢できてもステージIII/IVの患者は予後不良であり、とくに術後、歩行機能が回復できないと生命予後が不良になるという研究報告がある2)。さらに近年の研究では、サルコペニアとの関連も研究され、筋肉量の低下が生命予後に影響することもわかってきた3)。そのためフレイルリスクを予防すれば予後改善に期待がもてるという。 今後の課題としては、無症候LEAD患者数や患者像の把握が進んでいないこと、こうした患者の予後やQOLの実態がつかめていないことから重症化予防のためにも、LEAD・フレイル研究が必要とレクチャーを終えた。LEAD・フレイル研究に協力を 次に「LEAD・フレイル研究の概要、現在の応募状況、お問い合わせ方法など」について、河辺 信秀氏(東都大学幕張ヒューマンケア学部理学療法学科 教授)が説明を行った。この研究は、「日本人のABI値異常を呈する症例のフレイル発症率および身体機能低下への影響、LEAD重症化への影響探索」を主たる目的に実施される。 研究デザインは、前向きコホートとして開始時測定から5年を上限に各年で測定を行う。主な測定項目は、身体測定、ABI、心電図、胸部X線、血液、神経伝導検査、下肢歩行機能検査、フレイル測定などで2~3日をかけて実施される。【取り込み基準】・ABIが1.0未満・参加につき文書で同意を得られた者・同意取得時連例が50歳以上90歳未満の者【除外基準】・下肢切断の既往のある者・下肢慢性創傷が存在、または既往のある者・下肢血行再建術を受けた既往のある者 など 被験者は640例で、対象600例とコントロール40例に分けて実施され、2023年11月時点での参加者は316例となっている。 研究実施施設は、医療社団法人恵智会(東京都渋谷区)となり、参加者は施設まで赴き、検査を受けることになる。研究に参加を希望する人は受付サイトなどへアクセスしていただきたいと説明を終えた。 なお、本研究は学会が主体となり、国などから補助を受けない独自研究となるという。■参考サイト日本フットケア・足病医学会LEAD・フレイル研究 医療者向けLEAD・フレイル研究 患者さん向けはこちら

262.

第201回 避難所のトイレ問題、医療者からの提言求む!

先日、ついに能登半島最深部の珠洲市に入った。ペーパードライバーの私は公共交通機関を使うしかなく、北陸鉄道が運行する特急バスで珠洲市を目指した。このバスは3月15日までは北陸鉄道の計らいにより無料。座席以上の乗車希望者がいた場合は現地の被災者と親族が優先乗車する。私が金沢駅で乗り込んだ時は、幸い乗車希望者が座席数を下回っており、難なく乗車することができた。通常、金沢駅から珠洲市役所までは2時間半程度で到着するが、道路事情や途中の停車バス停の関係などで約4時間かかった。現地は被災から2ヵ月を経過した今も大部分の地域で断水が続いている。私はとある場所に間借りで寝起きをさせてもらったが、2泊3日の滞在中の寝床は床にアルミホイル製ブランケット2枚を敷き布団と掛け布団代わりにして過ごした。その割に6時間はきっちり眠ったが…。食事は持ち込んだインスタント麺とパック入りご飯、補助食品のカロリーメイトが中心。上下水道が使えない断水状態のため、排水をすることができずにインスタント麺の汁はすべて飲み干しである。以前書いたことがあるかもしれないが、私はインスタント食品の中ではカップ焼きそばが大好きな人間だが、湯切り前提のカップ焼きそばを断水地域で食べるなどもってのほかである。これらの食品は飲料のお茶などとともに大部分は東京から最も大きなレジ袋に入れて持ち込んだ。金沢での現地調達も可能だが、東京のほうが安価なディスカウントストアを知っているという貧乏根性が働いてしまったのだ。ちなみにインスタント麺の汁飲み干しも前提に摂取水分量は1日2Lと計算して飲料も持ち込んだ。ほぼ完璧に計算したつもりだったが、その想定はやや狂った。何かというと、歯磨きの口すすぎの水が計算から漏れていたのである。おかげで最初の晩は、歯磨き後の口すすぎをペットボトルの緑茶でやる羽目になった(2日目は取材していた支援チームが大量に保有していた500mLのペットボトル入りミネラルウォーターを分けてもらったが)。さて、上下水道が機能していないのに歯磨きの口すすぎの水はどこに掃きだしていたのかとなるが、それはやむなく洗面所で吐き出すしかなかった。私が滞在していた場所には各種支援チームも滞在していたが、周囲もそうだった。これ以外に滞在先でやむなく排水となっていたものがある。まず、男子トイレの小便用器である。小便用器に用を足した後は、目の前に置かれた2Lサイズのペットボトルに入った水を便器にかけて流す決まりになっていた。また、その後の手洗いもトイレの洗面台に設置された、折り畳み式ポリ容器のコックをひねり、中から出てくる水で洗うため、洗面台の排水管に流すしかなかったのである。ちなみに、トイレについては滞在先の敷地内に3台のトイレ専用車も設置されていたが、滞在者数に対して数が少なく、周囲の住民も利用するため、常に利用できるわけではなかった。そして男性の大便用のほうは、建物のトイレ内に設置された簡易トイレに専用のビニール袋を1回ごとにセットし、用を足し終わると凝固剤を加えて密封したうえでトイレ内の大型ポリ容器に捨てる。女性の場合は大小便ともに男性の大便用と同じような使用・処理方法となる。大型ポリ容器内には予め大きな黒いポリ袋が設置されているため、用を足した後に各人が捨てた排泄物は、2時間おきに建物内のトイレ清掃担当班が口を縛って、屋外の廃棄物置き場に運搬していた。ある時、この作業の様子を撮影していると、「ちょっと持ってみます?」と担当班の人から廃棄物置き場運搬前の黒いポリ袋を渡されたが、軽量のダンベルよりは明らかに重かった。「思ったより重いですね」とダンベルを持ち上げる動作のように上げ下ろししてみたが、中は排泄物だと思い直してすぐに相手に戻した。念のために付け加えておくと、当然ながら現地では基本的に入浴はできない。なぜこんなことを書いたかというと、実は思っているほど現地の断水に伴う状況が伝わっていないこと、さらに公衆衛生の観点からもこの点は伝えておかねばと思ったからである。医学的にも重要な避難所のトイレ問題実は東日本大震災の時も感じたことだが、断水が続く地域でのトイレ問題は深刻である。そもそもトイレが仮設、かつこれに加えてぱっと見で汚いと感じると、排泄を控えようとする人は少なくない。そうなると飲食を控えることに行き着きがちだ。これ自体が健康問題に直結することを考えれば、たかがトイレとは言えないはず。とくに排泄の場合、必然的に小便の頻度が多くなるので、このような状況では水分摂取を控えがちになる。これは心血管系疾患を基礎疾患として有することが多い高齢者では時に致命的になる。しかし、いくら医療従事者が「水分摂取を過度に控えないように」と忠告しても、トイレがこの状況では「糠に釘」状態になってしまう。そして東日本大震災での取材経験も踏まえると、同じ断水地域でも市町村、あるいは避難所単位での「トイレガチャ」がある。端的に言うと、こうした仮設トイレは提供する企業、支援自治体によってかなりスペックに差がある。たとえば、珠洲市に先立って私が訪問していた輪島市門前町のある避難所では、屋外に工事現場にあるような仮設トイレが設置されていた。このトイレを実際に使ってみたが、内部は洋式で恐ろしく狭い。トイレの扉には男性の小便も便座に座ってするように注意書きが貼ってあったが、内部に正面から入って扉を閉めた後に便座に座ろうとすると、方向転換に苦労するほどの狭さなのだ。しかも屋外なので、トイレの床は利用者の靴底に付着した泥などで汚れている。ここでは予め小便の場合は何も流さず、大便の場合は用を足し終わった後、屋外に設置されたビニールプールから桶で水を掬って、再びトイレに戻って流すように指示されていた。小と大で対応をわけているのは、仮設トイレの排泄物タンクの容量をひっ迫させないためだろう。実際、私は小便で使ったが流さなくて済む反面、便器底部のタンクにつながる蓋が小便の重みで何度もバタンバタンと音を立てるのは正直気分が良いものではなかった。さらに言えば、この蓋の動作で体感はしていなくとも小便を含む飛沫が、自分の内股などに付いている可能性はある。さらに大便に関して言えば、現地で活動していた女性薬剤師が後日、「水を汲みに行って流しに戻るということは、大便をしたということが周囲にわかってしまいますよね。あれで私はなかなか用が足せず、数日間は便秘気味になりました」と語ったことでハッとした。この「トイレガチャ」は被災者の健康問題まで発展した場合、そのツケを払わされる当事者には間違いなく医療従事者も含まれる。その意味では各自治体の災害対応・訓練などに関わっている医療従事者の皆さんには、平時から災害時のトイレ問題を今まで以上に心を配って検討しておいてほしいと思っている次第だ。

263.

非ウイルス性肝疾患による死亡リスクは女性の方が高い

 飲酒やメタボリックシンドローム(MetS)が関与して生じる肝臓の病気は、男性に比べて女性は少ないものの、それによる死亡率は男性よりも女性の方が高いことが報告された。青島大学医学院付属医院(中国)のHongwei Ji氏、米シダーズ・サイナイ医療センター、シュミット心臓研究所のSusan Cheng氏が、米国国民健康栄養調査(NHANES)のデータを解析した結果であり、「Journal of Hepatology」2月号にレターとして掲載された。 肝臓の病気の原因のうち、C型肝炎などのウイルスによるものは治療が進歩して患者数が減少している一方で、MetSなどの代謝性疾患に伴う脂肪性肝疾患「MASLD」やアルコール関連の肝疾患「ALD」、および代謝性疾患とアルコール双方の影響による肝疾患「MetALD」と呼ばれる肝疾患が増加している。Cheng氏は、それらの肝疾患の有病率と死亡率の実態を性別に検討した。 1988~1994年のNHANES参加者から、20歳未満および解析に必要なデータのない人を除外し、1万7人(平均年齢42±15歳、女性50.3%)を解析対象とした。各疾患の定義は、MASLDについては心臓代謝疾患のリスク因子があること、ALDは飲酒量がアルコール換算で男性420g/週超、女性350g/週超、MetALDは同順に210~420g/週、140~350g/週であり、画像検査で脂肪肝が確認されたものとした。 各疾患の患者数は、MASLDが1,461人、ALDが105人、MetALDが225人だった。これらの有病率を性別に見ると大きな性差が認められ、3タイプの疾患の全て、男性の有病率の方が高かった。具体的には、男性ではMASLD、ALD、MetALDの順に18.5%、1.7%、3.2%であるのに対し、女性は10.3%、0.3%、1.2%だった(すべてP<0.001)。一方、死亡リスクについては以下のように、女性の方が高い傾向にあった。 中央値26.7年の追跡で、2,495人の死亡が記録されており、年齢やBMI、人種、喫煙習慣、収縮期血圧、脂質異常症、糖尿病、降圧薬・血糖降下薬・脂質低下薬の処方、世帯収入などを調整後の死亡ハザード比を性別に検討。すると、MetALDに関しては女性でのみ有意なリスク上昇が確認された〔男性1.00(95%信頼区間0.79~1.28)、女性1.83(同1.29~2.57)。ALDは男性・女性ともに有意なリスク上昇が確認されたが〔男性1.89(1.42~2.51)、女性3.49(1.86~6.52)〕、女性のリスクの方が高い傾向にあった(P=0.080)。MASLDは男性・女性ともに有意なリスク上昇は観察されなかった。 MetALDの「Met」とは「代謝性の」という意味の「metabolic」の略であり、肝臓への脂肪の蓄積を引き起こす可能性がある代謝性の問題、つまり肥満や糖尿病、高血圧、脂質異常症を指している。研究グループでは、「これらのリスク因子のいずれかが該当する女性は、飲酒には特に注意が必要」と述べ、その理由を「飲酒と代謝の問題が組み合わさると、肝臓に脂肪がより蓄積しやすくなるからだ」と解説している。 しかし、なぜ女性の肝臓がこれらの変化に対して、男性よりも脆弱であるのかはまだ明らかにされていない。Cheng氏らは現在、その理由の解明と、そのようなリスクの抑制につながる介入方法の確立に向けて、新たな研究を計画している。

264.

“抗加齢医学”の実学創造~北里 柴三郎博士の思いを継いで~

第24回日本抗加齢医学会総会が2024年5月31日(金)~6月2日(日)の3日間、熊本城ホールにて開催される。今回のテーマは『実学創造~老化制御の一新紀元』。大会長である尾池 雄一氏(熊本大学大学院生命科学研究部分子遺伝学講座 教授/熊本大学医学部長)に本総会に込める思いや注目演題について話を聞いた。予防医学の父、北里 柴三郎氏の精神を引き継ぐ2024年は新日本銀行券が発行されますが、新たな千円札紙幣の顔となる北里 柴三郎博士の生誕の地がこの熊本です。私自身も博士のモットーである『“実学の精神”をもって社会に貢献』にならい、これまで当たり前のように受け入れてきた年齢を重ねることで発症リスクが高まる脳・心血管疾患、悪性腫瘍など加齢関連疾患の発症を”抗加齢医学”の実践により予防するための研究を進めてきました。その思いを詰め込み、本学会総会初となる地方都市開催の実現とともに、北里 柴三郎博士の玄孫にあたる北里 英郎氏による講演「近代医学の父、予防医学の礎を築いた北里 柴三郎博士の功績」ほか、北里 柴三郎博士の意思、精神を引き継ぎ、抗加齢医学の実学創造に挑む関連演題をお届けします。また、会長企画シンポジウムでは、1)コホート研究から健康長寿の鍵を紐解く、2)ミトコンドリア研究から老化制御の実学創造/ミトコンドリア先制医療、3)Inflammagingから老化に迫る、4)老化を予測・制御する最先端研究といったテーマで各々の領域でご活躍されているの方々にご講演いただく予定です。また、『生物はなぜ死ぬのか』の著者で知られる小林 武彦氏(東京大学定量生命科学研究所附属生命動態研究センター 教授)、新たな年齢指標「epigenetic clock(生物学的年齢)」を開発したSteve Horvath氏(米国・カルフォルニア大学)、世界的なエイジング医学ジャーナルnpj Aging編集長のMarco Demaria氏(オランダ・フローニンゲン大学医療センター)を海外からお招きし、抗加齢医学におけるグローバルな話題も提供いたします。予防医学に光明、ミトコンドリア研究が熱い! 私は病的な老化を制御・予防する観点から主に2つの柱で研究を進めております。一つがミトコンドリア機能制御の解明と抗加齢医学への応用です。ヒトの細胞は一人あたりに約200種類、数十兆個が存在していますが、各々の細胞が正常に機能するにはエネルギーが不可欠です。ここで重要なのがミトコンドリアであり、ほぼすべての細胞においてエネルギーを生成する発電所的な役割を果たしているわけです。しかし、このミトコンドリアの機能が異常を示せば細胞レベルで異常がみられるようになり、また、機能異常が進むと、酸化ストレスとも呼ばれる活性酸素(ROS)が細胞内で産生されて体内の老化が一気に加速してしまいます。つまり、ミトコンドリアの機能をいかに正常に保つかが非常に重要課題であることから、さまざまな研究が進められており、近年ミトコンドリアだけにフォーカスした国際シンポジウムが頻繁に開催されたり、CellやNatureといった世界のトップ科学雑誌に新たな研究成果が立て続けに掲載されたりするなど、とても競争が激しくホットな領域なのです。たとえば、“細胞内小器官“であるミトコンドリアが、隣接する細胞間や遠隔の細胞間でやりとりされ、お互いの細胞機能に関わり老化に影響を与えることや、ミトコンドリアの機能に重要なミトコンドリアを構成するタンパク質の合成が活性化されていることが長寿に重要であることなど解明されており、ミトコンドリアを標的とした薬剤やサプリメントの開発など、抗加齢医学への応用が着実に進められています。そこで、皆さまにミトコンドリア研究の今を知ってもらうために、会長企画シンポジウムとしてご用意いたしました。老化に抗う時代の到来か!?もう一つの研究の柱が炎症老化(Inflrammaging)です。これは炎症を意味するinflammationと老化を意味するagingを組み合わせた造語で、老化に伴う慢性炎症のことです。炎症自体は感染や組織損傷への防御反応で、その多くは改善すれば自然と収まるものなので、悪いものではありません。しかしこれまでも、何らかの原因で炎症が遷延し慢性炎症を惹起し、がん化などに繋がることは注目されていました。しかし近年、老化した個体の中で変化し生じるさまざまな機構により慢性炎症が生じ、細胞/臓器/身体の機能低下をもたらし、老化表現型の出現および加齢関連疾患の発症・進展に寄与していることが明らかとなってきました。上述のミトコンドリアの変化も老化に伴う慢性炎症の原因の一つです。現在の老化予防としては老化細胞を除去(セノリシス)する方法や、それとは別に老化細胞のinflammagingなど老化を促進する特徴的な機能を阻害するセノモルフィックな戦略が注目され、既に米国を中心にヒトでの臨床研究が進んでおります。われわれもまた抗老化医学の実学創造の柱としてinflammagingの解明とその制御に挑んでおり、会長企画シンポジウムでもこの話題を盛り込みました。このほか、さまざまな視点から抗加齢に着目した教育講演やシンポジウム、日本血管生物医学会、日本肝臓学会、健康食品産業協議会などとの共催シンポジウム、2025年に向けた大阪万博や世界長寿サミットに関するセッションなどを取り揃え、どんな専門分野の医師、医療関係者も楽しめる総会となっています。ぜひ現地にて皆さまのご参加をお待ちしております。

265.

第202回 2024年診療報酬改定の内容決まる(後編) 「メリハリ」効かせ過ぎの敷地内薬局、調剤報酬激安化で患者数増加、逆に市中薬局離れ加速の可能性も

成田赤十字病院で人工肛門を大腸ではなく胃に造設する医療過誤発覚こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。先週末、腰を抜かしそうな医療過誤のニュースが入って来ました。2022年に千葉県成田市の成田赤十字病院(青墳 信之院長)で行われた手術で、誤って人工肛門を大腸ではなく胃に造設していたというのです。3月1日付の共同通信等の報道によれば、患者は70歳代の女性で、手術には執刀医のほかに医師2人も立ち会っていたにもかかわらず、横行結腸か胃かを十分に確認することなく漫然と手術を行い胃に人工肛門を造設、術後の検査でやっとミスが発覚したとのことです。女性は再手術を受けた後、快方に向かっていましたが、今年1月に死亡しています。家族は2月27日、病院を運営する日本赤十字社(東京都港区)に計600万円の損害賠償を求めて東京地裁に提訴し、今回の医療過誤が表沙汰になりました。病院は医療過誤を認めているとのことです。日赤の病院の医療過誤としては、本連載の「第199回 脳神経外科の度重なる医療過誤を黙殺してきた京都第一赤十字病院、背後にまたまたあの医大の影(前編)」、「第200回 同(後編)」でも書いた、京都第一赤十字病院の事例が記憶に新しいところです。京都の隠蔽事例と大きく違うのは、今回は、腸と胃を間違えるという重大な過誤であり、患者家族が目で見てもわかりそうなミスだったということです。いずれにせよ、医療事故や医療過誤に対する日赤の体制には大きな問題があると言わざるを得ません。詳細がわかればまた続報しようと思います。普及・定着が全く進まなかったリフィル処方箋、テコ入れへさて、今回も前回に続き、2024年度診療報酬改定の内容のうち、本連載でも過去に取り上げた項目を中心に、いくつかその内容を見てみたいと思います。まず、2022年改定で財務省主導の鳴り物入りで導入された「リフィル処方箋」ですが、その普及・定着がまったく進まず医療費削減効果も軽微だったことから、大幅なテコ入れが行われます。リフィル処方箋については、2022年の診療報酬改定時に、本連載の「第96回 2022年診療報酬改定の内容決まる(前編)オンライン診療初診から恒久化、リフィル処方導入に日医が苦々しいコメント」でも詳しく書きました。2022年度改定における改定率決定の際の大臣合意では、リフィル処方箋の導入・活用促進による医療費効率化効果を、改定率換算でマイナス0.1%(医療費470億円程度)と見込んでいました。しかし、2023年11月に開かれた財政制度等審議会財政制度分科会で、予算未達の実態が明らかにされました。リフィル応需実績0.148%(2023年6月単月のリフィル応需回数/総受付回数[日本保険薬局協会の調査])の実績に基づいて単純計算すると、医療費効率化効果は年間マイナス70億円程度(改定率換算でマイナス0.014%程度)に留まっていたのです。財務省はこの時、リフィル処方箋による適正化効果が達成されるまでの期間、時限的に処方箋料を引き下げるなど、「その分を差し引く調整措置を講ずる必要がある」と厳しい提言をしていました。生活習慣病管理料(I)、(II)、地域包括診療料・地域包括診療加算の施設基準にリフィル処方箋対応盛り込むそうした経緯から、今回の改定では、各種診療報酬の施設基準に絡めてリフィル処方箋の普及・定着を目指すことになりました。今回、リフィル処方箋に関連した施設基準が盛り込まれた主な診療報酬は、診療所や中小病院を対象とする「生活習慣病管理料(I)(II)」、「地域包括診療料・地域包括診療加算」です。これらの算定要件に、患者の状態に応じ、28日以上の長期の投薬を行うこと又はリフィル処方箋を交付することについて、対応が可能であることを医療機関の見やすい場所に掲示し、患者から求められた場合に適切に対応する――ことが盛り込まれました。また、「特定疾患処方管理加算」については、リフィル処方箋の複数回の使用による合計の処方期間が28日以上でも算定可能となりました。財務省はリフィル処方箋普及・定着のPRを自ら行ってもいいのではリフィル処方箋の発行が普及・定着しなかった要因はいくつか考えられます。医療機関が実質収入減となるため積極的に取り組まなかったことに加え、医師側に次回診察までの間の患者管理を薬剤師に任せることに抵抗感があったことなどが指摘されています。また、薬剤師・薬局側(日本薬剤師会)も、日本医師会に遠慮してか、リフィル処方箋に積極的に取り組む姿勢を見せてこなかったことも原因の一つでしょう。私自身は、こうしたいくつかの原因に加えて、厚生労働省も財務省も、国民に対してリフィル処方の意味や利便性を国民に対してアピールしなかったことも大きいと考えます。「リフィル処方」と聞いて、ピンと来る国民はどれだけいるでしょうか。マイナンバー保険証もそうですが、国は制度をつくれば、国民は勝手に勉強して活用するようになると考えているフシがあります。今回のテコ入れは、従来型の診療報酬による医療機関の誘導策に過ぎません。財務省が本当に医療費削減のためにリフィル処方を普及・定着させたいのであれば、そのPRを厚労省だけに任せるのではなく、自らが前面に出て行ってもいいのではないでしょうか。敷地内薬局、「1薬局単位」の各報酬の引き締めに加えて誘致する病院側の評価も見直し薬剤・薬局関係の改定項目でもう1点気になったのは、「敷地外薬局」の扱いです。各地で急増中のいわゆる病院の同一敷地内薬局に対しては、中医協の議論で診療側、支払い側双方から厳しい対応を求める声が強く、厚労省からは「1薬局単位」ではなく「開設者(グループ)単位」の評価に見直す提案まで行われました。しかし、厚労省の提案に対し日本保険薬局協会などから強い反発もあり、そうした対応は一旦見送られ、今後の検討課題とされました。しかし、「1薬局単位」の各報酬の引き締めに加えて、誘致する病院側の評価見直しも盛り込まれました。敷地内薬局が算定する特別調剤基本料(敷地内の医療機関からの処方箋が5割超の場合に適用)がA・Bの2区分に見直され、届け出を行う特別調剤基本料Aは7点から5点に減点(届け出なしのBは3点)されました。各種加算、薬学管理料、薬剤料も大幅に見直されました。たとえば、地域支援体制加算と後発医薬品調剤体制加算はこれまで100分の80に相当する点数を算定していましたが、改定後には100分の10となります。一方、敷地内薬局を誘致する医療機関側への措置も厳しいものとなりました。1ヵ月当たりの処方箋の交付が平均4,000回を超えており、交付する処方箋による調剤の割合が9割を超える薬局と不動産取引等の特別な関係を有する場合、処方箋料が減額になります。具体的には、現在の処方箋料1、2、3が28点、40点、68点のところ、それぞれ18点、29点、42点となります。さらに、敷地内薬局は急性期病院での開設が多いことから、2022年度改定では急性期充実体制加算が算定できなくなりましたが、今改定で2024年4月以降に新規誘致する場合は総合入院体制加算も算定不可となります。人口減社会、高齢社会に向けて、敷地内薬局はむしろ普及・定着させていくのが正解では薬局、病院双方にとって相当厳しい締め付けと言えます。しかし、これが本当に正しい医療提供体制の方向と言えるのでしょうか。敷地内薬局については、本連載の「第182回 アイン、『敷地内薬局』入札妨害事件が問うもの(前編)」「第183回 同(後編)」でも書きましたが、私自身はこれからの人口減社会、高齢社会に向けて、敷地内薬局は規制するのではなく、むしろよい具合に普及・定着させていくのが正解だと考えます。2月19日付のメディファクスによれば、日本保険薬局協会の三木田 慎也会長(総合メディカルグループ株式会社の代表取締役副社長)は2月15日の会見で、今改定での敷地内薬局の評価について「減額幅は常軌を逸するというか、大変大幅な引き下げで、ただただ驚いている」と語り、「(敷地内薬局を)合法でできる状態にしておいて、それに対してこのような評価をするというのは行政の判断としてどうなのか」と疑問を呈したそうです。確かに敷地内薬局を認めた官庁が関係団体等の圧力を理由に規制し直す、というのはある意味、理不尽と言えます。調剤報酬激安化で患者は割安な敷地内薬局を選択するようになる報酬をぐっと下げた結果、行政や関係団体が予期しなかった事態も起こりそうです。調剤報酬の激安化によって、患者はこれまで以上に市中の薬局を避け、安価な敷地内薬局で薬をもらうようになるかもしれないのです。2月19日付のダイヤモンド・オンラインは、「病院の敷地内薬局の『調剤料激安化』が止まらない!患者はどの薬局を選べば、いくらお得?」という記事を掲載、薬局の形態別に患者負担額を比較し、「実は『敷地内薬局』が患者の財布に最も優しい」と結論付けています。マイナンバーカード保険証を普及させ始めた当初、同保険証を使ったほうが患者負担が高くなる、という珍妙な施策を展開し批判を浴びた厚労省ですが、今回の敷地内薬局に対する締め付けも、結果として敷地内薬局の利便性(と割安感)を逆に患者に知らしめる結果となり、またまた各方面から批判を浴びるのではないかと心配になってしまいます。敷地内薬局については、2024年度診療報酬改定の答申の付帯意見に、「いわゆる同一敷地内薬局については、同一敷地内の医療機関と薬局の関係性や当該薬局の収益構造等も踏まえ、当該薬局及び当該薬局を有するグループとしての評価の在り方に関して、引き続き検討すること」と盛り込まれていますが、“規制するべき”という大前提を改め、ゼロベースでその在り方を議論し直すべきではないでしょうか。

266.

英語で「緊急対応策」は?【1分★医療英語】第120回

第120回 英語で「緊急対応策」は?《例文》医師ADue to the outbreak of this new virus, we need to establish a contingency plan.(この新型ウイルスの大流行のため、われわれは緊急対策を立てる必要があります)医師BIndeed, we need to organize necessary resources for unforeseen circumstances.(そうですね、予期しない事態に備えて、必要なリソースを整理しなければなりません)《解説》“contingency plan”についての説明です。“contingency plan”とは、英語の直訳で「緊急対策」や「予備計画」という意味を持つ言葉ですが、医療現場では予期しない事態や緊急事態に対応するための計画を指します。米国では医師も日勤と夜勤の引き継ぎを行うため、日勤帯で決めたプランを的確に引き継ぐことが重要です。医療現場の引き継ぎの際に「“contingency plan”を基に、もし~が起こったら~する」というような文脈で使われます。基本的には、“sign out”と呼ばれる電子カルテの引き継ぎ欄の機能を使って引き継ぎを行うことが多いのですが、そこにも“contingency plan”というリストが存在します。《例文》に挙げたように、さらに大きな緊急事態が想定される場合の計画にも用いることができます。講師紹介

267.

第86回 研修医大量辞職による韓国医療危機、韓国人医師に聞いてみた

illustACより使用韓国の研修医が大量に辞職した問題が話題です。韓国政府が医師不足への対策として、大学医学部の入学定員を大幅に拡大すると発表したことが発端です。医師の収入が減少することも一因にあるかもしれませんが、背景にはいろいろ複雑な事情があるようです。たまたま知り合いに韓国人医師がいるので、この事情を聞いてみました。現在韓国で勤務しておられるわけではないので、現状と合わないところがあったらあしからず。「医学部の定員増で給与が減ることが原因か?」「医学部の定員増で給与が減ることが原因?」という質問に対しては、「うーん、確かにそれもあるかもしれないが」と前置きがあり、「待遇はよいのですが、日本と違って医師の扱いはかなり雑な印象」という返答でした。そもそも皮膚科や美容外科などに流れてしまうのは、診療報酬が安いだけでなく、仕事がしんどいのに訴訟リスクが高いという背景があるようです。(日本の医師もあまり大事にされているとは思えませんが…。令和の今になってようやく働き方改革にメスを入れるくらいですから)「私は外科系ですが、韓国の場合、産科の訴訟リスクが高いです。そのため、あえて産科を避けて婦人科で診療している産婦人科医もいます。外科系なのに外科手技を避けるみたいなところもあって」日本でも、過去に産婦人科の訴訟リスクが高い時期がありました。現在はずいぶん医療訴訟件数が減りました。これは2009年に導入された、「産科医療補償制度」によるものでしょう。病院・診療所・助産所など分娩を取り扱う機関が加入する制度で、分娩機関に過失がなくても重度脳性麻痺の症例に対して補償金が支払われる制度です。韓国では外科系診療科は訴訟リスクが依然として高く、しかも医師の過失の認定閾値が低いそうで、それが急性期離れを加速させています。最近も、救急科のレジデントが医療過誤で懲役刑になったことが報道されています。実刑になると、医師免許も当然剥奪されます。さらに、「扱いが雑と言ったのは理由があって、韓国政府の高官のインタビューで『ウィセ』という言葉を使っているんですよね」と続けます。ウィセ(의새)というのは、「医師ごとき」というニュアンスで、小鳥という意味を持っています。そのため、これに反発する医師は、SNSのアイコンを鳥に変えています。「いつまでストライキは続くのか?」「いつまでストライキは続くのでしょう?」という質問に対しては、「4月の選挙くらいまででしょうか」と返答がありました。長期化することは確実で、保健医療の危機対策レベルを最も高い「深刻」に引き上げ、対策本部を設置しています。新型コロナのときにこの「深刻」が発出されましたが、まさか研修医の大量辞職でこのような事態になるとは、国民も予想していなかったでしょう。また、韓国政府は、ストライキによる医療被害報告センターを設置しており、現場を去る研修医に対して「業務開始命令が出されても職場に復帰しない場合、資格を停止する」とかなり強硬な態度を示しています。Zoomの画面越しに、「政府と医師の溝は、なかなか埋まらないかもしれません」とため息をついていました。

268.

第201回 2024年診療報酬改定の内容決まる(前編) 武見厚労大臣の言う「メリハリ」ある改定とは?

本体0.88%引き上げ分の大半が賃上げに割り当てられるこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この連休は山仲間数人で、毎年恒例の八ヶ岳の冬山登山に行ってきました。小海線側、海ノ口から杣添尾根をひたすら登り、横岳まで日帰りピストンというコースです。連休の中日、24日だけ快晴だったので、横岳頂上では、富士山から南アルプス、中央アルプス、北アルプス、浅間山まですべてを見渡せる360度の眺望を楽しんで来ました。ただ、日頃不摂生の中高年パーティーのスピードは遅く(ほとんどのパーティーに抜かれました)、麓の駐車場に着いたのは17時過ぎで薄暮になってしまいました。連休中、横岳の北にある硫黄岳では遭難騒ぎも起こっていたようです。冬山は夏山に比べ危険が多く、相応の体力と技術、緊張感が要求されます。我々も厳冬期の登山はそろそろ潮時かなと皆で反省した次第です。さて、2月14日の中央社会保険医療協議会(中医協)総会で、2024年度診療報酬改定の答申が行われ、項目の詳細と点数が明らかになりました。今回の改定では、医師の技術料や医療従事者の人件費となる「本体」は0.88%の引き上げ、「薬価」は1%の引き下げ、全体の改定率は0.12%のマイナスとなっています。本体0.88%引き上げ分の大半が賃上げに割り当てられました。物価高騰などを踏まえ、医療従事者の賃上げに向けて初診料が3点、再診料と外来診療料が2点引き上げられ、さらに新たな評価料となる外来・在宅ベースアップ評価料や入院ベースアップ評価料が新設されました。これらによって、初診時、再診時の診療報酬や、入院基本料といった医療機関の基本報酬が引き上げられることになりました。厚生労働省は2024年度で2.5%、2025年度で2%の医療従事者のベースアップを目指す考えで、医療機関に賃上げに関する計画や実績の報告を求めるなどして、引き上げた報酬が確実に賃上げに回るようチェックする、としています。管理料等の効率化・適正化等を行ったことで「メリハリある内容になっている」と武見厚労大臣今回の診療報酬改定について、武見 敬三厚生労働大臣は2月16日の閣議後の記者会見で、「医療従事者の賃上げ」「医療DX等による質の高い医療の実現」「医療・介護・障害福祉サービスの連携強化」の3つの課題の評価の充実と併せ、「生活習慣病等を中心とした管理料等の効率化・適正化を行」ったことで、「メリハリある内容になっている」と語ったとのことです。“メリハリ”は、漢字で「減り張り」と書き、緩めることと張ることを意味します。この言葉、かつて診療報酬改定のたびに、厚労省の担当官や中医協委員が「評価した分と、厳格化した分がはっきり分かれている」という時によく使っていました。個人的には診療報酬改定の時にしか聞かない言葉です。以前の本コラム「第179回 驚きの新閣僚人事、武見厚労相は日医には大きな誤算?“ケンカ太郎”の息子が日医とケンカをする日」でも書いたように、当初、その実行力に疑問符が付いていただけに、ある意味、“自画自賛”の意味を込めての“メリハリ”発言だったのかもしれません。なお、日本医師会の松本 吉郎会長は、2月14日に開かれた日本医師会、日本歯科医師会、日本薬剤師会の三師会合同記者会見で、本体プラス0.88%は、「医療界が一体・一丸となって対応した結果と考えている。物価・賃金の動向を踏まえれば、十分に満足できるものとは言えない部分もあるが、さまざまな主張や議論も踏まえた結果であり、多くの方々にご尽力頂いたものでもあり、まずは素直に評価をさせて頂く」と述べたとのことです。こちらも、ほぼほぼ賃上げ原資となってしまうとは言え、本体プラス改定を勝ち取ったことに対する“自画自賛”と言えなくもありません。「これでは『病院の経営安定』『病院の赤字解消』にはつながらない」と日病・相澤会長一方で、賃上げに重点が置かれた分、とくに病院経営には厳しい改定になったとの見方もあります。日本病院会の相澤 孝夫会長は2月20日に開いた定例記者会見で、「今改定は病院経営の安定化につながる内容にはなってない」との見解を示しています。2月20日付のGemMedの報道によれば、定例記者会見で相澤会長は、「確かに点数引き上げはなされているが、そのほとんどは『人件費・賃上げに充当せよ』との縛りが設けられている。これでは『病院の経営安定』『病院の赤字解消』にはつながらない」と語り、さらに診療報酬による賃上げについても、「現在の医療人材不足・他業界への人材流出を食い止める水準にはなっておらず、部分的な効果にとどまるのではないか」とコメントしています。昨年秋からの今改定の議論の過程では、財務省が「診療所の初・再診料を中心に報酬単価を引き下げることなどにより、診療報酬本体をマイナス改定とすることが適当だ」と主張し、大きな話題となりました。このとき、財務省は病院経営の厳しさについては理解を示しつつ、診療所の経営状況の好調さに言及していました。結局、財務省の言い分は通らず、今改定では診療所、病院の区別なく初・再診料が上がりました。仮に診療所の初・再診料を本当に下げて、その分を病院の診療報酬に回していたら、松本会長、相澤会長、それぞれのコメントも変わっていたかもしれません。「特定疾患療養管理料」の対象疾患から糖尿病、脂質異常症、高血圧を除外の衝撃では、2024年度診療報酬改定の内容のうち、本連載でも過去に取り上げた項目などを中心に、いくつかその内容を見てみたいと思います。武見厚労相もメリハリの例として挙げた「生活習慣病の管理」に関する診療報酬、「特定疾患療養管理料」ですが、対象疾患から糖尿病と脂質異常症、高血圧が除外されます。また、脂質異常症や高血圧症、糖尿病を主病とする患者への総合的な治療管理を評価する「生活習慣病管理料」と「外来管理加算」の併算定を認めない、などの厳格化が図られます。診療所、中小病院にはそれなりの打撃となりそうです。厚労省は、3疾患については新設する生活習慣病管理料(II)に移行を促す、としていますが、同報酬は「患者に対し、患者の同意を得て治療計画を策定し、その計画に基づいて生活習慣に関する総合的な治療管理を行う」ことを求めており、特定疾患療養管理料よりも算定要件のハードルが高くなっています。これまで糖尿病患者などに大した“管理”も行わず、処方箋を書くだけで漫然と算定できていた報酬がなくなったわけで、そうした意味でもまさに“メリ”と言えるでしょう。また、かかりつけ医機能の評価である「地域包括診療料」等の見直しも注目されます。かかりつけ医と介護支援専門員との連携の強化、かかりつけ医の認知症対応力の向上、リフィル処方及び長期処方の活用、人生の最終段階における適切な意思決定支援、医療DXの推進などが要件となります。かかりつけ医機能は2023年5月に改正医療法が成立し、現在は制度整備を議論中ですが、新たな制度を後押しする報酬体系に変更されるわけです。10年ぶりの新入院料、「地域包括医療病棟入院料」病院関係の最大のトピックは、高齢者救急への対応を目的に「地域包括医療病棟入院料」が新設されることでしょう。新たな入院料が設定されるのは、2014年度改定の「地域包括ケア病棟入院料・入院医療管理料」以来10年ぶりとなります。今改定に至る議論では、当初、「生活機能が低下した高齢者(高齢者施設の入所者を含む)に一般的である誤嚥性肺炎をはじめとした疾患について、地域包括ケア病棟や介護保険施設等での受け入れを推進する」ことが論点になっていました。しかし、その後の中医協の議論において、診療側委員から「救急搬送時点で患者の重症度は判断できない」「看護配置13対1の病棟で救急医療に対応することは困難」などの意見が出され、結果、地域包括ケア病棟などでの受け入れ推進は慎重論が大勢を占め、地域包括医療病棟入院料の新設に至ったわけです。救急医療提供体制を整える負担を考慮し、地域包括ケア病棟入院料1(40日以内)の2,838点よりも高い3,050点となります(各種加算をすべて取得すると4,000点弱の点数設定)。施設基準は看護配置10対1の他、常勤の理学療法士、作業療法士または言語聴覚士が2人以上、専任で常勤の管理栄養士が1人以上配置されていることや、入院早期からのリハビリを行うのに必要な構造設備を有していることなどで、平均在院日数は21日以内です。7対1の維持が厳しくなった場合の移行先としても期待地域包括医療病棟入院料新設のもう1つのポイントは、2006年の診療報酬改定による看護配置基準の引き上げで登場し、その後激増した7対1看護病棟の削減に一役買うのではないかということです。実際、2月14日に開かれた日本医師会・四病院団体連絡協議会の合同記者会見では、病院団体幹部から、急性期病床の重症度、医療・看護必要度の見直しによって、7対1看護配置の急性期一般入院料1を維持できない病院が相当数に上る可能性がある、との懸念が示されています。2月15日付のメディファクスによれば、全日本病院協会の猪口 雄二会長は、7対1の維持が厳しくなった場合の移行先について、新設の地域包括医療病棟が選択肢になることが「あり得る」と語ったとのことです。また、中医協委員も務める医療法人協会の太田 圭洋副会長は、同病棟について、「必要度が厳しめに設定されている」との認識を示しつつ、7対1からの受け皿になれるかどうかは「これから地域の各病院の先生がさまざま考えながら、(算定要件に)対応しきれるかというところにかかってくる」と話したとのことです。地域包括医療病棟は、これからの高齢社会において地域の高齢者救急に対応する、という本来の役割に加え、今後の地域の医療機関の役割分担や再編・統合、そして2025年以降の次の“地域医療構想”のあり方にも大きな影響を及ぼしそうです。(この項続く)

269.

英語で「それ自体」は?【1分★医療英語】第119回

第119回 英語で「それ自体」は?《例文1》It is not a perfect solution per se but better than nothing.(それは完全な解決策とはいえませんが、何もないよりは良いです)《例文2》The medication doesn’t cure the disease per se, but it relieves the symptoms and improve the patient’s quality of life.(その薬はそれ自体が病気を治すものではありませんが、症状を緩和し、患者の生活の質を改善させます)《解説》今回ご紹介した“per se”はラテン語由来の言葉で、英語の“by itself”や“itself”に当たります。しかし、この“per se”のままで英語表現として用いられることがありますので、覚えておきたい表現です。日本語に翻訳すると、「それ自体は」「本質的には」「正確には」といった意味を指す言葉で、例文にあるように文末に挟み、逆接の前に用いられることが多いフレーズです。逆接の間に見られる場合には、「一見すると矛盾しているように見えるものの、実際には矛盾していない」といった状況を説明する際に使われることが多いです。そのようなシチュエーションでは、“per se”の前に来る文章を「それ自体は」と補強してくれます。使い慣れないと適切な場面で使用するのが難しい表現かもしれませんが、英語ネイティブと話をしていると医療機関内のコミュニケーションでも時々耳にすることがあります。聞いたときに戸惑わないよう、表現の持つニュアンスをつかんでおくとよいでしょう。講師紹介

270.

便器の蓋を閉めて水を流してもウイルス粒子の飛散量は変わらない

 便器の蓋を閉めてから水を流すと、水を流したときに発生するミストを便器内にとどめておくことができるため、細菌の拡散を防ぐことができると言われている。しかし、ウイルスの場合には、蓋を開けたまま水を流すか閉めてから流すかで、水を流している間のウイルス粒子の飛散量に変わりはないことが新たな研究で明らかにされた。米アリゾナ大学環境科学部ウイルス学分野教授のCharles Gerba氏らによるこの研究結果は、「American Journal of Infection Control」2月号に掲載された。 先行研究では、トイレの水を流すとエアロゾルが舞い上り、周囲の床や壁などのさまざまな表面に細菌をまき散らすことが明らかにされている。また、便器の蓋を閉めて水を流すことで、トイレ内での細菌の飛散量を抑制できることも示されている。しかしGerba氏らによると、同じことが細菌よりもはるかに小さいことが多いウイルスにも該当するのかどうかについては、いまだ検討されていなかったという。 今回の研究では、便器の蓋を閉めてから水を流すことが、ウイルス粒子を含んだエアロゾルの発生とさまざまな表面へのウイルスの付着に与える影響が検討された。腸管感染の原因ウイルスの代理として人体に無害なウイルス(バクテリオファージMS2)を家庭用トイレと公共トイレの便器にまき、便器の蓋を閉めた状態と開けた状態で水を流し、便器の中の水や、便座、周囲の壁や床などの表面からサンプルを採取した。 その結果、家庭用トイレの水を流す際に蓋が開けられたままだったか閉められたかにかかわりなく、トイレのさまざまな表面から採取されたウイルスの量に差はないことが明らかになった。同様の結果は、公衆トイレでも確認された。 次に、研究グループは、トイレ掃除の際に塩酸配合の洗剤を使った場合と使わない場合でのウイルス除去効果についても分析した。その結果、塩酸配合洗剤を使ってブラシで清掃すると洗剤を使わなかった場合と比べて、便器内の水から検出されるウイルス量が99.99%超減少することが示された。また、トイレブラシから検出されるウイルス量も、洗剤を使った場合では使わない場合に比べてウイルス量が97.64%減少していた。 Gerba氏は、「便器の蓋を閉めてから水を流しても、ウイルス粒子の飛散防止には意味がないことが示された」と話す。このことを踏まえて研究グループは、トイレ内での感染リスクを下げる最も効果的な方法は、水を流す前に便器の中に消毒剤を入れるか、トイレのタンク内にあらかじめ消毒剤ディスペンサーを入れておくことだと助言している。また、定期的に便器をブラシで洗浄し、その後にトイレ内のさまざまな表面を消毒することや、殺菌効果が持続する消毒剤を使用することも有効だと付言している。 米感染管理疫学専門家協会(APIC)のTania Bubb氏は、同協会のニュースリリースの中で、「この研究は、病原体がどのように広がっていくのか、また、感染の連鎖を断ち切るためにどのような対策を講じればよいのかをより明確に理解するのに役立つ。また、医療現場でウイルス感染の拡大を抑えるためには、さまざまな表面の定期的な消毒が重要であることも強調されている」と述べている。

271.

英語で「お決まりの治療」は?【1分★医療英語】第118回

第118回 英語で「お決まりの治療」は?《例文1》MRI is a go-to imaging for stroke.(MRIは脳卒中でお決まりの画像検査です)《例文2》He is my go-to person.(彼は私の頼れる存在です)《解説》“go to~”は動詞として使うと “go to school” (学校に行く)のように「~に行く」という意味になりますが、ハイフンを付けて“go-to”という形容詞として使うと、「行くべき」という意味から転じ、「頼れる」「お決まりの」「定番の」「お気に入りの」といった意味になります。臨床現場でもそれぞれの症状や病気に対してお決まりの検査や治療がある場合には、“go-to imaging”(お決まりの画像検査)、“go-to treatment”(お決まりの治療法)というような表現をします。また、形容詞以外に名詞としても使うことができ、“Pad Thai is my go-to when I order Thai food.”(タイ料理を注文するときは、パッタイが私の定番です)といった言い方もします。簡単な単語の組み合わせですが、日常会話でも臨床業務でも使えて、知っていると差がつく表現です。講師紹介

272.

電話による緩和ケアでも患者のQOLは改善する

 命を脅かす慢性疾患を抱えている人に対する緩和ケアは、電話で行っても効果があるようだ。慢性閉塞性肺疾患(COPD)、心不全(HF)、および間質性肺疾患(ILD)の患者を対象にした臨床試験で、看護師やソーシャルワーカーが電話を通して症状の管理や心理社会的ケアを行ったところ、患者の生活の質(QOL)が有意に改善したことが明らかになった。米コロラド大学医学部教授のDavid Bekelman氏らによるこの研究結果は、「Journal of the American Medical Association(JAMA)」に1月16日掲載された。 Bekelman氏は、「われわれは、これらの病気に対する治療では良い成果をあげているが、患者のQOL向上に対してはもっとできることがある。多くの患者は、持続的な抑うつ、不安、息切れ、睡眠障害などの症状に悩まされ、病気を抱えながら生きることに大きな困難を感じている。これらの症状は早期死亡とも関連している」と話す。 この臨床試験には、米コロラド州とワシントン州にある2つの退役軍人局の医療システムから抽出された、COPD、HF、またはILDの外来患者のうち、入院や死亡リスクが高く、QOLが低いことを報告した306人(平均年齢68.9歳、男性90.2%)が登録された。試験参加者は、177人(57.8%)がCOPD、67人(21.9%)がHF、49人(16%)がCOPDとHFの併存、13人(4.2%)がILDの診断を受けていた。 306人のうちの154人は電話による緩和ケアを受ける群(介入群)、152人は通常のケアを受ける群(通常ケア群)にランダムに割り付けられた。通常ケア群には、慢性疾患のセルフケアについて説明した資料が配布された。介入群は、症状管理に関する看護師との6回の通話と、心理社会的な側面のケアに関するソーシャルワーカーとの6回の通話による緩和ケアを受けた。介入の頻度は月に2回が基本だったが、患者のニーズに応じて通話の頻度や長さは変更された。看護師とソーシャルワーカーは、プライマリケアおよび緩和ケアの医師と定期的に会ってそれぞれの患者の状態を確認し合い、患者が抱える懸念に対する最善の対処法を決めた。また、必要に応じて循環器専門医や呼吸器専門医とも面談した。QOLの改善度は、FACT-G(Functional Assessment of Chronic Illness Therapy-General)で評価した。FACT-Gは0〜100点でスコア化し、高得点ほどQOLが良好なことを意味する。 試験開始から6カ月後の時点でのFACT-Gの平均スコアは、介入群では6.0点向上していたのに対し、通常ケア群では1.4点の向上であり、前者では後者に比べてQOLが有意に改善したことが明らかになった(差4.6点、95%信頼区間1.8〜7.4、P=0.001)。また、介入群のうちCOPD患者とHF患者では、通常ケア群に比べて疾患特異的QOLの改善も認められた(COPD:標準化平均差0.44、P=0.04、HF:同0.41、P=0.01)。さらに、抑うつ(同−0.50、P<0.001)と不安(同−0.51、P<0.001)の有意な改善も確認された。 こうした結果を受けてBekelman氏は、「緩和ケアは有益だ。しかし外来では、緩和ケア専門医へのアクセスが限られているか、専門医自体が存在しない場合がある。そのため、早期に緩和ケアを提供するための、柔軟で拡張可能な新たな方法が必要とされている」と話す。そして、「われわれが提示したこの革新的なチームケアモデルは、さまざまな現場に適応可能で拡張性もあり、慢性疾患とともに生きる人々のQOLを改善するのに役立つ。われわれが試したプログラムでは、たとえ短時間でも、構造化された遠隔ケアを提供することで、通話終了から数カ月後でもQOLが改善されていることが示された」と述べている。

273.

ChatGPTの研修会【Dr. 中島の 新・徒然草】(516)

五百十六の段 ChatGPTの研修会寒い日々が続きますね。健康のために歩かなくては、と思っても外に出る気がしません。なので、もっぱら家の中での散歩。以前にも述べたように、台所↔リビング↔部屋で1周100歩ほどになるので、YouTubeを聴きながら歩いております。さて、先日は医師会で「生成AIの最新情報 及び 働き方改革に向けた活用方法」という研修会があったので出席してきました。第438話でも述べたように、すでにAIは医療現場に入り込んでいます。大阪医療センターでは胸部レントゲンの読影に使っており、皆に重宝されてきました。診断をつけるというよりも、私は「結節影や浸潤影を見逃さない」という形で使っています。今回の医師会の研修会ではもっぱら「ChatGPTをどう活用しているか」という話に終始しました。基調講演が終わると、初期研修医や大学病院助教ら3名がそれぞれの活用法を発表しました。最新の話題だけあって質疑応答が途切れることがありません。今回は講演内容と質疑応答について、私の理解できた範囲で軽く触れたいと思います。有料版であるChatGPT-4は、無料版であるChatGPT-3.5より賢い米国の司法試験を解かせてみると、前者は上位10%で合格点を取りましたが、後者は下位10%で不合格の点数しか取れなかったそうです。講演では、司法試験のほかに20以上の分野の試験での得点の比較がグラフ化されていましたが、3.5と4でほとんど差のないものから大きく差のついたものまでいろいろでした。ちなみにほとんど差のないものはAP Environmental Scienceで、これは環境科学になるのでしょうか。APというのはAdvanced Placementで「上級科目」という意味だそうです。逆に大きく差のついたものはAP Calculus BCで、微積分のようです。われわれに関係ありそうなAP Biologyつまり生物学は中間程度の差でした。ChatGPT-4に「AIのイメージ作って!」と入力すると画像生成もしてくれる発表で紹介されたのは写実的な擬人化されたAIの画像です。続けて「もっとかわいいの!」と入力するとキャラクター的なイラストになり、それも紹介されていました。ChatGPTの出力結果は専門家のほうが正誤の推測をしやすい何を尋ねてもChatGPTは何らかの答えを返してきますが、それが正しいのか否かを質問者が見極めることは困難そのもの。が、自分がまったく知らない分野よりは、ある程度知っている分野のほうが、その回答の整合性から正誤を推測することができます。ということは、まったくの素人がChatGPTを使って知らない分野の知識を得ようとするよりは、専門家が自分のアシスタントみたいな形でChatGPTを使うほうが現実的なのかもしれません。そのほか、いろいろな活用法が紹介されていましたが省略して、次は質疑応答の内容を紹介します。プロンプトと呼ばれる入力を日本語で行った時と英語で行った時に、出てくる結果の精度にどのくらいの違いがあるのか?そもそもChatGPTを開発したOpenAIが米国の会社なので、英語入力のほうが日本語入力より精度が高いのではないかという気がします。しかし、基調講演の講師によると、ほとんど差がないのではないかということでした。日本語入力でも結果が大きく変わらないのであれば、かなり楽に使えます。指導医はChatGPTの使い方をどのように研修医に教えるべきか?論文作成に生成AIを使う場合が要注意で、まったく受け付けないジャーナルから、どこにどのように使ったかを明記すれば使ってよい、というジャーナルまでいろいろあるのだそうです。また投稿論文の査読を頼まれた時に、生成AIにやらせるのはやめておいたほうが無難だとか。まだオープンになっていないデータが、どこにどのように拡散するかはわかりませんから。そのような潜在的な地雷を踏まないような指導が必要だと思います。私見ですが、皆が手探りで使い方の試行錯誤をしているところなので、研修医だろうが指導医だろうが、先行したユーザーが後から使い始めた人に手ほどきするというのが正しいのではないかと思います。というわけで、休日にもかかわらず盛り上がった研修会、出席した甲斐がありました。最後に1句AIを 学んで試す 如月にChatGPTを使ってこの句をイラストにしてみました。条件として、外の風景と人物は和風、室内は洋風としています。なんか不思議な画像が出来てしまいましたが、いかにも生成AIといった画像ですね。

274.

英語で「慎重かつ前向きに」は?【1分★医療英語】第117回

第117回 英語で「慎重かつ前向きに」は?《例文1》 Let's prepare for the worst and hope for the best.(最悪の事態に備えて準備して、最善を祈りましょう)《例文2》He always has a glass-half-full mentality and never pessimistic.(彼は常に「コップが半分満たされている」という精神でいて、決して悲観的にならない)《解説》“cautiously optimistic”は英語の頻用表現です。“optimistic”は前向き、楽観的という意味で、“pessimistic”(悲観的)の対語です。医療現場では気軽に楽観的な言葉を掛けられない深刻な状況もありますが、「そんな状況でも患者さんを励ましたい」という場面で使うことができます。“cautiously”と前置きすることで、「医師として最大限に慎重に対応はしているが、そのうえで前向きに希望を持って臨みたい」という気持ちを伝えることができます。類似表現として、例文に示した“prepare for the worst and hope for the best”も同じような状況・意図で使われます。英語表現では楽観的・悲観的という性格を、“glass-half-full mentality” or “glass-half-empty mentality”と呼ぶことがあります。これは、水が半分入ったコップを見たときに、楽観的な人は「コップは半分まで満ちている」と言い、悲観的な人は「コップは半分まで空になっている」と言う、という逸話に由来します。講師紹介

275.

鳥取救急に関する「ニュース批評」で批判的に取り上げた当事者が真相を語る

CareNet.comに2月7日に掲載した記事「救急医を巡るパワハラ疑い、鳥取県立中央病院で起こったこととは」(ニュース批評 ざわつく水曜日)に対して、記事中で、批判的に取り上げた当人、鳥取県立中央病院 院長補佐/救急集中治療部長の小林誠人氏から記事に事実と異なる部分があると編集部に連絡があり、取材を行った。何が事実で何が誤りなのか?ニュースの当事者からの情報をお届けする。まず、パワハラについてです。鳥取県東部広域行政管理組合消防局から当院の医師、看護師の対応が「パワーハラスメントではないか」と調査依頼を受けたのは事実ですが、病院ではホットラインはすべて録音していますし、初療の対応は医療安全の観点から全部動画撮影しています。つまり、指摘されたことが事実か否か事後検証できます。それを検証すると、消防局の指摘は必ずしも事実ではありません。パワハラは疑い事例について専門委員会に判断を仰いでいる段階だからといって、消防局の指摘が間違いだとただす気持ちはありません。人間の記憶はあいまいで、そこにいろいろな感情や2次情報、3次情報が加わって書き換えられてしまうものですから、仕方ないことだと思っています。一方、一連の報道は誤りであるとはっきりと申し上げたい。具体的には、当院の職員の対応が「パワハラであった」と断定している部分です。事実は、パワハラの可能性があると考えられた事例について、裁定を仰ぐため鳥取県病院局のハラスメント防止委員会に上げた段階であるということです。院長はそれを記者会見で説明したのですが、すべての報道で明白なパワハラがあったかのごとく取り上げられています(※記事では訂正済み)。今お話ししている時点(2024年2月8日)で、委員会の裁定は下っていません。動画を見ると、若いスタッフが厳しく言っていたりするところがあり、それを受け取り側が…、というのがあったのでしょうが、それも救急活動をよくしたいという一心からです。私としては、改めて動画を見て、医師も救急隊も看護師も、患者を救うために救命のために協働しながら一生懸命やってるな、と純粋に感じました。しかし、専門委員会がパワハラと認定するのかどうか私にはわかりません。指示要請は受けていた。「応諾」しなかったが「拒否」はしていないもう1つの論点が、救急活動プロトコルと特定行為に関する指示要請についてです。ここでまず理解していただきたいのは、パワハラ問題と本件はまったく別の話だということです。私たちは病院に来る前と病院内と分けて考え業務を行っています。パワハラ問題は病院内の管轄で、責任者は院長です。一方、特定行為に関する指示要請は地域メディカルコントロール協議会の管轄です。救急救命士の活動を医師が担保するというのが救急救命士法の趣旨であり、当県の主管は鳥取県救急搬送高度化推進協議会、私たちは通称「県メディカルコントロール協議会」と言っています。この論点についての記事の大きな誤りは、われわれが「特定行為に関する指示要請を拒否した」と書かれている部分があることです。「特定行為に関する指示要請に応諾しなかった」というのが正しい表現になります(※記事では訂正済み)。「拒否」と「応諾しない」は大きく異なります。「拒否」は何かをお願いされたときに門前払いすることで、「特定行為の指示要請をかけていいですか?」という電話も受けませんということです。それはメディカルコントロール体制下で許されないことであり、私たちは一度も「拒否」はしていません。一方、「応諾しない」というのは、指示要請に対してイエスもノーも言わないということです。しかし、それでは電話をかけてきた救急救命士が困るので、私たちは「特定行為の指示要請」を救急救命士法上の「助言」や「指導」に切り替えて対応していました。「先生、心肺停止の傷病者です。この特定行為をしてもよろしいでしょうか?」という依頼に対して「いや、特定行為は許可できません。その状況であれば、代わりに何々をしてください」ということを伝えていました。これが当方が説明してきた真実、1次情報です。実際に録音も残っています。その前段階で「医学的観点からの責任もあり、当院ホットラインへの指示要請、及び検証医への検証は応諾いたしかねます」というメールを私が消防局に送っています。では、なぜ私がそのような対応をとったのか説明します。傷病者に医学的に不利益があるプロトコルでは医師として応諾できない鳥取県のメディカルコントロール協議会の救急活動プロトコルは何年も改訂されておらず、現在の救急の実態とそぐわない部分があります。プロトコルは、フローチャートと手順書がセットになっていますが、県のプロトコルには、フローチャートしかない部分が多々あります。また、その内容も、現在の医学的な知見に照らし、傷病者にとって不利益になる内容が含まれています。そのことについては関係者の間で異論はなく、現在、県メディカルコントロール協議会のプロトコル改訂作業が進められており、もうすぐ改訂版が出来上がる見込みです。では、改訂されるまでの間、不具合があるとわかっている、立て付けの悪いプロトコルを現場で使うべきかということになるわけですが、傷病者に対して不利益があることが明らかなプロトコルを使うことは医学的にあり得ません。このため、われわれの地域、東部地域メディカルコントロール協議会では、地域に見合った補完したプロトコルを救急救命士法の範囲内で運用していました。これは私たちの地域だけの特殊事例ではなく、全国どこの地域でも普通のことだと思います。ところが、先の県のプロトコル改訂作業と並行して進めていた地域のプロトコルの文書化が一時ストップしてしまって、改めて、どのプロトコルを運用するのかという議論になったのです。責任者である東部地域メディカルコントロール協議会の会長に判断を求めたところ、それまでの改訂・文書化作業は中断して、昔の県のプロトコルで運用するように、という指示が出ました。それでは問題があるので何度も確認しましたが、県のプロトコルでやりなさいという指示は変わりませんでした。なので、傷病者、県民にとって不利益になるので、私たちはそのような指示要請には応諾できません。受けますけれどもイエスとは言えません、とお伝えしたのです。わずか10日後に「応諾しない」方針を撤回した真の理由このような経緯で、あのメールは「応諾いたしかねる」という表現を使い、会長の許可ももらったうえで出しています。病院の許可は必要なく、そもそも病院ではなく地域メディカルコントロール協議会が主体となる事案です。組織構造の理解と事実関係の確認が不十分なままに、病院側への謝罪要求が行われたことで、話がややこしくなっているのです。記事にもありますように、10日後には「ホットラインの運用を通常通り再開する」と連絡し、実際にそうしました。しかし、これは報道されていませんが、私たちが判断を変えたわけではありません。会長の方が判断を変えられたのです。つまり従来から運用してきたプロトコルに戻すことになったので、私たちも応諾しない理由はなく、従来の通常対応に戻したということです。そこで、会長はなぜわずか10日で判断を覆し従来のプロトコルに戻すよう指示したのかという疑問が沸くでしょう。プロトコルの明文化、改訂作業と並行して、救急救命士のプロトコル違反および事故事案の検証を行っていました。その検証作業中に県のプロトコルの不具合が改めて認識され、露呈したことで従来から運用されてきた地域のプロトコルに戻されたのだと理解しています。実事案の情報提供は、患者個人情報の絡みもあり慎重にならざるを得なかったのですが、患者家族への説明、県メディカルコントロール協議会への報告も行われましたので、今回情報提供に至りました。今回は、事実確認が不十分なマスコミの報道で相当振り回されましたが、その間も、当院は変わらず救急応需率100%、ホットライン通話時間1分以内を維持し、例年以上に多くの救急車搬入を受け入れています。救命救急士も救急医も傷病者のため県民のために粛々と救命救急をやり続けています。現場ではとくに大きな問題は起こっていないのです。逆に、この問題が明るみに出たことで、プロトコルの改訂作業を含む当地域の救急体制の課題解決へ向けての動きが一気に進み始めました。その意味では良かったと思っています。しかしながら、一方的かつ出所が不明確な情報だけで県民の不安を煽る報道、メディア・スクラムによる医療への悪影響は誰も幸せにしないことを改めて痛感しました。なお、2月10日付で県病院局が、私が救命救急センター長を外れる人事を発令していますが、これは先を見据え、今回の件で露呈した当県、当地域の救急医療体制、各組織の問題、課題を解決し、整備していくためです。院長補佐、救急集中治療部長の任は変わらず、私の役目、仕事はこれまでとまったく変わるところはありません。ニュース批評 ざわつく水曜日「救急医を巡るパワハラ疑い、鳥取県立中央病院で起こったこととは」(2月7日配信、一部修正済み)

276.

自宅で受ける病院レベルの医療の安全性と有効性を確認

 自宅で病院レベルの医療を受けた人は、入院して治療を受けた人と同程度に良好な経過をたどる可能性のあることが、米ハーバード大学ブリガム・アンド・ウイメンズ病院のDavid Michael Levine氏らによる研究から明らかになった。同研究では、自宅で病院レベルの医療を受けた人の死亡率は低く、すぐに救急外来受診を必要とする状態に陥る可能性も低いことが示されたという。詳細は、「Annals of Internal Medicine」に1月9日掲載された。 Levine氏は、「患者の自宅で提供される病院レベルの医療は非常に安全で質も高いようだ。本研究では、患者の生存期間が延び、再入院の頻度も抑えられることが示された」と話した上で、「もし、自分の母親や父親、きょうだいがこのような形で医療を受けるチャンスがあるならば、そうすべきだ」と付け加えている。 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックに対する対応として、米国のメディケア&メディケイドサービスセンター(CMS)は、2020年にAcute Hospital Care at Home Waiver initiative(在宅急性期医療の規制免除イニシアチブ)を発足し、メディケア認定病院が、患者の自宅で病院レベルの医療を提供できるようにした。これを受け、米国37州、300施設の病院の数千人の患者が、病院ではなく自宅で医療を受けた。ただし、現行の規制免除プログラムは2024年12月に終了する見通しだ。 米国病院協会(AHA)によると、技術の進歩により病院は幅広いサービスを患者の自宅で提供できるようになった。例えば、X線検査や最新の心臓画像検査、静脈注射による治療や検査のための検体の採取が可能であり、ベッドサイドまで食事や薬を届けることもできる。 Levine氏らは今回の研究で、自宅で病院レベルの医療を受けた患者の状態を評価するため、出来高払い制のメディケアパートAの2022年7月1日から2023年6月30日の間の請求データを用いて、在宅急性期医療の規制免除プログラムによる医療を受けた患者5,858人(女性54%、白人85.2%、75歳以上61.8%、身体障害あり18.1%)のデータを分析した。対象患者のうち、42.5%が心不全、43.3%が慢性閉塞性肺疾患(COPD)、22.1%ががん、16.1%が認知症を抱えていた。 解析の結果、対象患者の死亡率は0.5%であり、24時間以内に病院に戻ることになった患者の割合も6.2%に過ぎないことが示された。さらに、自宅での急性期医療の終了から30日以内に介護施設への入所が必要となった患者の割合は2.6%、同期間に死亡した患者の割合は3.2%、病院への再入院が必要となった患者の割合は15.6%だった。 Levine氏は、「病院レベルの医療を自宅で受けることが良好な転帰につながる理由と思われるものは数多くある」と説明する。例えば、「医療専門家は、患者の自宅で患者にどのように自身のケアをすべきかを教えることができる上に、自宅という環境は、患者にとって病院よりも起き上がって動き回りやすい」ため、治療後の移行がスムーズなのだという。また、患者の自宅で医療を提供することを通じて、医療専門家が患者の生活を垣間見ることができるため、患者の健康状態の悪化につながり得る要因などに気付くことができるのも理由だという。 さらに今回の研究では、患者の人種や民族、あるいは障害の有無によって自宅で病院レベルの医療を受けた場合のアウトカムに差はないことも明らかになった。Levine氏は、「従来の入院治療ではアウトカムに大きな格差があることが分かっているだけに、社会的に疎外されている集団で臨床的に意味のある差がなかったことは心強い。このことは、自宅での急性期医療が多様な患者や家庭に対応できることを示唆している」と述べている。

277.

CAR-T療法ide-cel、多発性骨髄腫の早期治療に承認の意義/BMS

 ブリストル・マイヤーズ スクイブは、2023年12月に同社のCAR-T細胞療法イデカブタゲン ビクルユーセル(ide-cel、商品名:アベクマ)が、再発または難治性の多発性骨髄腫の早期治療に承認されたことを受け、2024年1月31日にメディア向けプレスセミナーを開催した。セミナーでは日本赤十字社医療センター・血液内科の石田 禎夫氏が「早期ラインとしての CAR-T 細胞療法(アベクマ)が多発性骨髄腫(MM)の治療にもたらすもの」と題した講演を行い、新たな承認が臨床に与える意味について解説した。 多発性骨髄腫は抗体を産生する形質細胞ががん化し、骨病変、腎障害、免疫不全などを引き起こす疾患。10万人当たり6.2人(2017年)が罹患、高齢者に多い疾患で、高齢化に伴い患者数は増加傾向にある。 多発性骨髄腫の治療戦略は、65歳未満の初発患者は化学療法+自家造血幹細胞移植となり、65歳以上や移植不適患者、再発時には複数薬剤を併用する化学療法の適応となる。2次治療以降に使われる薬剤は、大きく分けてプロテアソーム阻害薬、免疫調節薬、抗体薬、HDAC阻害薬があり、これらにステロイド薬デキサメタゾンを組み合わせ、3剤にして投与するレジメンが主流となっている。承認されているレジメンは複数あり、これまで多発性骨髄腫治療におけるCAR-T療法の承認は、これらの薬剤クラスの組み合わせがすべて不適となった4次治療以降だった。 今回の3次治療における承認は、第III相KarMMa-3試験の中間解析結果に基づいたもの。同試験はプロテアソーム阻害薬、免疫調整薬、抗CD38モノクローナル抗体を含む2~4レジメンの前治療歴を有する患者を対象とし、ide-celと標準療法の有用性を比較した。主要評価項目である無増悪生存期間(PFS)の中央値は、ide-cel群13.3ヵ月に対し標準療法群4.4ヵ月と、ide-cel群でPFSの有意な延長が認められ、かつ新たな安全性シグナルは認められなかった。 石田氏は「CAR-T療法は自身のT細胞を使うオーダーメードの治療法であり、投与までに2ヵ月ほどかかる。進行の速い患者さんでは手遅れになることもあり、早期段階で使えることには大きな意味がある。また、大量化学療法を受けて疲弊する前のリンパ球を使えることもメリットだ」とした。さらに「CAR-T療法が奏効した場合は、治療を停止することが可能となり、標準療法と比較して患者のQOLが上がることも大きな利点となる」と説明した。 今後、造血器腫瘍において広がりが見込まれる新規薬剤BiTE抗体(二重特異性T細胞誘導抗体)とCAR-T療法の使い分けについては、「BiTE抗体薬の作用機序として投与後に抗体が変異し、その後にCAR-T療法を行っても意味をなさない可能性がある。よってCAR-T療法を優先し、治療抵抗となったらBiTE抗体薬にスイッチする戦略が現実的ではないか」とした。

278.

英語で「これが現実です」は?【1分★医療英語】第115回

第115回 英語で「これが現実です」は?《例文》医師AThe symptoms of this patient aren't improving, are they?(この患者の症状はなかなか改善しないですね)医師BYes, that's right. We've tried all available treatments, but it is what it is.(そうですね。すべての治療法を試しましたが、これが現実です)《解説》“It is what it is.”という表現についてお伝えします。直訳すると「それは、それだ」となってしまいますが、本来の意味としては「仕方がない」「それが現実だ」などと理解するのがよいでしょう。この表現は、「受け入れ難いかもしれないが、現実的に変えることができない状況」を認めて受け入れるときに使われます。日常表現としても「仕方がない」という意味合いとして頻用される表現の1つです。医療現場においては上記の例文のように、「ネガティブな状況に対して現状では打つ手がない。これが現実だ」と言いたい場合に使われます。“It is what it is.”、シンプルな英語でありながら、日本ではあまり習うことのない表現ではないでしょうか。さらっと使いこなせるとすてきですね。講師紹介

279.

花粉症重症化を防いで経済損失をなくす/日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会

 花粉飛散が気になる季節となった。今後10年を見据えた花粉症への取り組みについて、日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会(理事長:村上 信五氏)は、都内で「花粉症重症化ゼロ作戦」をテーマにメディアセミナーを開催した。 セミナーでは、花粉症重症化の身体的、経済的、社会的弊害と鼻アレルギー診療ガイドラインの改訂内容、花粉症重症化ゼロ作戦の概要などがレクチャーされた。アレルギー性鼻炎の経済的損失は年19万円 はじめに村上氏が挨拶し、花粉症は現在10人に4人が発症する国民病であること、低年齢での発症が増加していること、花粉症により経済的損失も多大であることなどを語り、同学会が取り組む「花粉症重症化ゼロ作戦」の概要を説明した。 続いて岡野 光博氏(国際医療福祉大学耳鼻咽喉科学 教授)が「花粉症重症化の意味するもの」をテーマに花粉症による社会・患者の損失について説明した。 2023年に政府は花粉症は国民病として関係閣僚会議を立ち上げ「発生源対策」「飛散対策」「発症等対策」の3本柱で対策を施行することを決定した。具体的には、診療ガイドラインの改訂や舌下免疫療法(SLIT)の推進、リフィル処方箋の活用推進などが予定されている。 花粉症の主な症状である鼻、眼、全身、のど症状について述べ、1日にくしゃみと鼻かみが各11回以上、鼻閉による口呼吸が1日のうちでかなりを占める場合は「重症」と評価し、花粉症が重症化するとQOLが著しく悪化すると説明した。QOLの評価指標であるEQ-5D-5Lを用いた値では、重症花粉症のQOLは糖尿病や骨折、乾癬よりも悪いことが報告された。一例としてアレルギー性鼻炎(AR)の研究ではあるが、重症化が患者の健康状態と労働生産性に重大な影響を与え、とくに労働生産性についてみると平均収入日額で1万5,048円、労働時間で年12.74時間、経済的損失で年19万1,783円と見込まれるとする報告を紹介した1)。 また、重症スギ花粉症患者では、抗ヒスタミン薬と鼻噴霧用ステロイド薬の標準治療を受けていても症状ピーク期には労働や勉強の能率が約35~60%低下するという報告もあり、社会に影響を与える事態を避けるためにも花粉症重症化には対策をするべきと説明を終えた。オマリズマブなどの作用機序の図など追加 大久保 公裕氏(日本医科大学耳鼻咽喉科学 教授)が、「鼻アレルギー診療ガイドラインの改訂点:最新の治療を教えます」をテーマに今年発行が予定されているガイドラインの内容を説明した。 本ガイドラインは、1993年に初版が発行され、不定期ではあるが最新の診療エビデンスを加え改訂され、最新版は改訂第10版となる。 今版では次の内容の改訂が主に予定されている。【第1章 定義・分類】・鼻炎を「感染性」「アレルギー性」「非アレルギー性」に分類・LAR血清IgE陰性アレルギー性鼻炎を追加 【第2章 疫学】・スギ花粉症の有病率は38.8%・マスクが発症予防になる可能性の示唆【第3章 発症のメカニズム】・前段階として感作と鼻粘膜の過敏性亢進が重要・ARはタイプ2炎症【第4章 検査・診断法】・典型的な症状と鼻粘膜所見で臨床的にARと診断し早期治療開始・皮膚テストに際し各種薬剤の中止期間を提示【第5章 治療】・各治療薬の作用機序図、免疫療法の作用機序図、スギSLITの効果を追加 この中で大久保氏は、とくに治療について厚く触れ、治療目標として「症状がないか軽度、日常生活に支障がない」「症状が安定し、急性の増悪がない」「抗原誘発反応がないか軽度」の状態に患者をもっていくことが必要と語った。また、ARの治療アドヒアランスについて、患者の69%が不良であり、その一因として抗ヒスタミン薬の眠気などの作用を上げ、理想的な抗ヒスタミン薬の要件として「速効性、効果持続」「眠気など副作用が少ない」「安全で長期間投与」「1日1~2回」などを提示した。また、重症花粉症では、抗ヒトIgE抗体オマリズマブについて、症状ピーク時に有意に鼻症状のスコアを改善したことを紹介した2)。 そのほか、アレルゲン免疫療法について、症状を改善し、薬用量が減少しうること、全身的・包括的な臨床効果が期待できること、治療終了後にも効果が期待できることを示し、スギSLITについて、3年継続することで治療終了後2年間の効果持続があったことなどを説明した3)。しかし、SLITでは、即効性がなく、長期治療が必要であること、不安定喘息などには禁忌であること、アナフィラキシーの副反応など注意が必要と短所も示した。 最後に治療法の選択を示し、「主治医とよく相談し、自分に合った治療法を決めて欲しい」と述べ、レクチャーを終えた。花粉症重症化の知識を啓発してゼロにする 川島 佳代子氏(大阪はびきの医療センター 耳鼻咽喉・頭頸部外科 主任部長)が、「花粉症重症化ゼロ作戦2024:我々がこの春の花粉症で行うべきこと」をテーマに今年から始まる「花粉症重症化ゼロ作戦」について説明を行った。 先述のように花粉症では重症患者が多く、間接費用も含めると経済損失など多大な額に上るほか、患者個人にも就業や学業で大きな負担を強いるものとなっている。また、患者もありふれた疾患ゆえに自己流の対処を行っているケースが多く、重症であっても適切な治療がなされていないこともあり、こうしたことが社会的損失を起こす一因となっている。こうした背景から、学会として花粉症の正しい病態、治療について発信することが重要との認識に立ち、今回の取り組みが行われることになったと説明した。 花粉症重症化ゼロ作戦2024の診療の柱としては、・初期療法の重要性を周知・重症化したら併用療法や抗IgE抗体療法にスイッチ・根本治療としてアレルゲン免疫療法などを説明し、実践などが掲げられている。 今後、この取り組みのために特設サイトが開設され、「花粉症重症化とは」「重症化度チェック」「患者の声」などのコンテンツ公開が予定され、市民講座やポスター掲示、地元医師会との連携などを実施、2030年までには目標として「花粉症の重症化ゼロを目指す」と説明を終えた。

280.

第3章 実臨床の観点からの医師国家試験【国試のトリセツ】Introduction

Introduction医師国家試験は、医師法第9条に基づき、「臨床上必要な医学および公衆衛生に関して、医師として具有すべき知識および技能」が出題の対象となっており、これまでも卒前教育や医療を取り巻く状況および医療の進歩に合わせて改善・検討が繰り返し行われてきました。その結果、近年では「初期臨床研修において指導医の下で従事するのに必要な知識および技能を問う水準」「診療科に関わらずに総合的な鑑別診断や治療方針の選択に関する能力を問う内容」が重視されるようになりました。厚生労働省主導の医師国家試験改善検討部会の報告書によれば、「出題傾向として『臨床実地問題』に、より重点をおくこととする」と明記されています。従来の試験対策であった過去問ベースの学習方法が今後も根幹を貫くことには変わりはないでしょうが、それだけで十分と言えるかどうかについては疑念が残ります。今後は、これまでと同様、過去問演習が必須であることに加え、病院実習で見学・体感できるような臨床医の思考プロセスや医療現場の実際が重要視されるようになりつつあります。本章では、医師国家試験を実臨床の観点から眺めたときに、どのような考え方や背景知識が試験を解く上で有用になるかを考察します。(a)臨床医はどのような思考過程で意思決定をしているのか、(b)医療の現場は実際にはどのようなものかというように、臨床医の思考過程と実臨床のリアリティに関して医師国家試験を解く上で有用となりそうなものをpick upしています。§1 アセスメント医療現場に出ると「アセスメント」という言葉が飛び交うようになります。まず、臨床医の思考過程を考える上で、その基本となる「アセスメント」について、そもそも論から見直すことからはじめます(#25 アセスメントとは情報に意味を与えること)。アセスメントの定義を「情報に意味を与えること」とするならば、適切にアセスメントが成し遂げられるためには背景知識と情報の取捨選択が必要不可欠となります(#26 背景知識が評価基準を決める/#27 情報の取捨選択のセンスを身に付ける)。提示された症例情報に対して意味を与えるためには、そのために必要な背景知識が必須であるとも言い換えられます。ここでいう背景知識とは、解剖学・生理学・病態生理学・薬理学などに基づいた教科書的な医学知識や、医学的知見の集積であるevidenceを指します(#28 解剖と病態を想像する/#29 EBMを問題から汲み取る)。適切にアセスメントができるようになると、陰性所見にも注目できるようになり、さらに情報の解釈能力に奥行きをもたらします(#30 陰性所見に注目する)。拾い上げた患者情報と自分の中の知識ないしevidenceとを関連させる過程がアセスメントだと換言できます。したがって、適切にアセスメントが行われるには、症例情報の収集能力(病歴聴取、身体診察、検査所見)と知識(教科書的な知識、evidence)の両方の存在が必要条件となるのです。医学生が教科書的な知識を集積するのも、病院実習で病歴聴取や身体診察のトレーニングを行うのも、対象となる患者を適切に評価することを目的としているのです。アセスメントが重要だと指導医から繰り返し言われるのは何故でしょうか。その謎解きの結論が§1の中に隠されています。§2 診断推論患者を「よく」するためには、現時点で解決すべきproblemや課題を考えることからはじめます。そして、どのように問題を解決するかという計画を立案して、実行、効果判定を行うのが通常です。臨床医は、対象の問題が何であるかを明確にするために「診断」を下します。診断をすれば標準的な治療が定まるので、まずは診断をしようとするのが臨床医の一般的な思考の流れとなるのです。そこで§2の#31~38では具体的な診断推論を体系的に取り上げます(#31 診断のエントリーはパターン認識で捉える/#32 snap diagnosisでは以降の情報を確認目的に利用する/#33 似たような疾患はグループ化して拾い上げる/#34 症候論から鑑別疾患を挙げる/#35 semantic qualifierで鑑別リストを単純化させる/#36 緊急度はRed Flag Signで伝える/#37 二項対比で鑑別する/#38 診断を下すには定義が必要となる)。§3 decision making診断の次は治療です。実臨床では、あらゆる瞬間に意思決定を迫られますが、何を優先するのかを常に考えることが重要になります。仮に、治療法が複数あった場合には、どのように選択していくのかを決める基準が必要です(#39 優先度を考えてdecision makingを組み立てる)。さらに、日進月歩の勢いで医学知識が更新され続けるので、evidenceを絶えずupdateし続けることが問題解決能力の向上に繋がります(#40 知見のupdateを絶えず重ね続ける)。また、診断と治療だけでは患者を「よく」する条件として不十分です。すなわち、治療の効果判定を行い「治療が奏効した」と判断できてはじめて、一連の診療が機能し、患者が「よく」なるのです。効果判定で治療が効いていない場合には、自分の思考過程のどこに誤りがあるかを振り返らなければなりません(#41 治療効果判定の指標を設計する)。このように医師に求められる能力の1つに、意思決定〈decision making〉があります。その決断力を言語化して考察するのが§3のテーマとなっています。2018年現在の学部教育では「医師がどのような過程で意思決定を行っているのか」を体系的に学ぶ機会には恵まれにくいので、本書が何らかのヒントを提示できたら幸いです。§4 実臨床リアリティ第3章の§1、§2、§3は、臨床医の思考過程を要素ごとに分解して言語化をするという内容で、他方§4は臨床医を取り巻く環境、現実に照準を当てます。医師国家試験と実臨床の現場との間には大きな乖離が生じることがあります(#42 実臨床と資格試験との乖離を知る)。最も大きな違いは、医師国家試験はあらかじめ症例情報が提示されているのに対し、実臨床では自分で情報を拾い上げていかなければならない、という点です(#43 closed questionで疾患特異的な情報を引き出す)。他には、現場での時間感覚(#44 時間感覚をイメージする)、地域性が反映される疾患頻度(#45 疫学的な頻度を意識する)、そして診療が行われる場面設定の重要性(#46 置かれている状況を的確に把握する)をテーマにして、医療現場のtime、place、occasionについて見つめ直します。資格試験が合否を判定する目的を有している以上、客観的な唯一解を用意しなければなりません。しかし、実臨床には正解がなく、常に仮説と検証を繰り返しながら診療を進めていく不確実なものだという結論で第3章を締めくくっています(#47 臨床には正解がない)。医療現場の臨場感という切り口で、医師国家試験を解説するのが§4の共通項です。臨床実地問題の本文に含まれるニュアンス、行間を読むという点で極めて重要な考え方・視点が含まれていますので、想像力を働かせながら読み進めていきましょう。

検索結果 合計:1185件 表示位置:261 - 280