サイト内検索|page:12

検索結果 合計:1185件 表示位置:221 - 240

221.

polypharmacy(ポリファーマシー)【病名のルーツはどこから?英語で学ぶ医学用語】第7回

言葉の由来高齢者医療の分野でよく耳にするようになった用語「ポリファーマシー」は、英語の“polypharmacy”をカタカナにしたものです。“polypharmacy”という言葉は、ギリシャ語由来の2つの部分から成り立っています。接頭辞の“poly-”は、ギリシャ語由来の“polys”から来ており、「多い」「複数の」という意味があります。たとえば、“polyarthritis”は「多関節炎」を意味しますし、“polyuria”は「多尿」を意味します。このように医療現場でもいろいろな単語の中に登場するので、ご存じの方も多いかもしれません。一方、後半の“-pharmacy”はギリシャ語の“pharmakeia”から来ており、「薬」や「薬学」を意味します。単独の“pharmacy”で「薬局」という意味で日本でもよく用いられていますので、こちらもぴんとくる方が多いかもしれません。これら2つの要素が合わさって形成された“polypharmacy”という単語、意味としては「多くの薬を使用した状態」を指します。とくに高齢者や慢性疾患を持つ患者で、薬の相互作用や副作用に対して注意が必要な状況で重要となる言葉です。ただし、過去のシステマティックレビュー1)によれば、ポリファーマシーの定義(1日何錠以上から該当するのかなど)は厳密には定まっておらず、それが研究や臨床現場での評価を困難にしている、という指摘もあります。併せて覚えよう! 周辺単語薬物相互作用drug interaction脱処方deprescribing併存疾患comorbidity用量調整dose adjustment薬剤の照合と調整medication reconciliation(よくmed recと略して用いられる)この言葉、英語で説明できますか?Polypharmacy refers to the use of multiple medications by a patient, often to manage several health conditions at the same time. This is common in older adults who may have several chronic illnesses. While taking several medications can be necessary, it also increases the risk of side effects and drug interactions.参考1)Masnoon N, et al. BMC Geriatr. 2017;17:230.講師紹介

222.

言ってませんか?必要以上に責める「なんでこんなふうになるまで放っておいたんですか?」【もったいない患者対応】第9回

言ってませんか?必要以上に責める「なんでこんなふうになるまで放っておいたんですか?」登場人物<今回の症例>40代男性発熱、上気道症状あり、自宅近隣のクリニックで総合感冒薬と解熱薬を処方され、経過観察されていた。症状が改善しないため、当院受診体温38.2℃、SpO2 92%(room air)<胸部単純X線検査を行ったところ、肺炎像が認められました>先生、いかがでしょうか?いやぁこれ、肺炎ですよ。なんでこんなふうになるまで放っておいたんですか?え…肺炎?重症ですか?重症も何も…。これ入院が必要ですよ!えぇっ、近くの先生はただの風邪だって言ってましたよ!?これで風邪って言ったんですか?…信じられないな。もっと早くうちに来てくれたら入院せずに外来でも治療できたと思うんですけどねぇ。そんな…。【POINT】上気道炎として経過観察されていた患者さんが、肺炎を併発してしまったようですね。胸部X線では、誰が見てもわかるような肺炎像。唐廻先生も、「軽症の段階で受診していれば外来治療もできたのに」という思いから、「なんでこんなふうになるまで受診しなかったのか」と思わず声を荒げてしまいました。どうやら前医に対しても怒りがあるようですね。しかしこの説明、絶対にNG!です。責める言葉はかえって自分の信頼を落とす今回の唐廻先生の説明には2つの問題点があります。1つ目は、「こんなふうになるまでなぜ受診しなかったのか?」と言って患者さんを責めると、修復不能なほどに患者さんとの信頼関係が崩れる危険性があることです。患者さんのなかには、軽い症状でも心配だから病院に行っておく、という人から、しばらく我慢して悩んだ末に受診する、という人まで、“受診のハードル”に個人差があります。症状を悪化させてやってくる患者さんは後者に多く、散々迷った挙げ句、重い腰を上げて病院を受診することも多いでしょう。受診するときは、症状が悪化していることを自分でも認識しているでしょうし、恐怖心を抱いている可能性もあります。今回のケースのように他院に通院していた患者さんの場合は、病院を替えることに対して引け目を感じている可能性もあるでしょう。そんな心理状態の患者さんに対し、「なぜもっと早く来なかったのか」と責め立てると、患者さんをより一層追い込むことになります。すでに起きてしまった過去を非難しても、何も解決しません。患者さんには、これからどういう治療を行うべきか今後、体にどんなことが起こりうるかといった、先のことを伝える必要があります。「今後同じようなことが起きたときにどうすればいいか」を考えるのももちろん大切なことですが、初診時での優先順位は低いでしょう。適切な治療を行って病態が改善し、患者さんの不安がある程度軽くなったタイミングで伝えればよいことです。後医は名医。「後出しじゃんけん」で前医を批判しないこと2つ目の問題点は、唐廻先生の説明が前医への批判につながることです。今回のように、近隣の医療機関で治療中の患者さんが自院を受診されたケースで「なぜこんなふうになるまで放っておいたのか」と言ってしまうと、患者さんは「前医の治療方針が間違っていたのか」「前医は自分の肺炎を見逃して、風邪だと誤診していたのか」と、前医に対して不信感を抱く可能性があるのです。ひとたび不信感を抱いてしまうと、二度とその医療機関に通うことができなくなるかもしれません。“後医は名医”という言葉をご存じでしょうか?後から診る医師は、病態の経時的変化や、治療に対する反応など、最初に診察した医師よりはるかに多くの情報を得たうえで患者さんを診察するため、正しい診断に至りやすく“名医”になりやすい、という意味です。医師としての能力に差はなくても、単に後から診察するだけで、すでに大きなヒントをもらった状態なのです。また、この言葉は、前医がたどり着けなかった答えに後医がたどり着いても、前医を非難してはならない、という戒めの言葉としても使われます。当然ながら、経過観察中に予想外の速度で病態が悪化するようなタイプの病気もあります。前医がどれだけ腕の良い医師であっても、今回のような事態を防げないことはあります。今回、患者さんの目の前で前医を批判してしまった唐廻先生は、こうした診断プロセスの難しさを認識していない点でも、未熟だと言わざるをえないでしょう。これでワンランクアップ!先生、いかがでしょうか?レントゲンの結果ですが、肺炎を併発しているようです。えぇっ!近くの先生はただの風邪だって言ってましたよ!? 肺炎を見逃したんですか?おそらくその先生が診られたときは、風邪という判断でよかった※1のだと思いますよ。肺炎のように急激に悪化するような病気は、軽い段階では見つけるのが難しいこともあるんです※2。※1:まずは前医への不信感を取り除こう。※2:理由も伝えると納得してもらいやすい。そんなに急に悪くなるものなんですか?前回風邪だと言われたのなら、そのときからいままでの間に肺炎が一気に悪くなったことが推測できますね※3。もしいまの状況で診ていれば、前の先生もきっと肺炎だと診断するでしょう。※3:あくまでも冷静に経過を伝える。

223.

英語で「悔いはない」は?【1分★医療英語】第137回

第137回 英語で「悔いはない」は?《例文1》I have no regrets about the choices I have made.(私は自分の選択に後悔はありません)《例文2》Try everything you can and leave no regret behind.(やれることはすべてやって、悔いを残さないようにしなさい)《解説》「悔いを残さない」という表現は、日常会話、医療現場のさまざまな場面で使われます。私は終末期のがんの子供を持つ親と話すときに、往々にして“we left no stones unturned”という表現を使います。このような状況では、適切な声掛けというのは難しいのですが、「できることはすべてやりました(悔いはありません)」というメッセージは、残される家族の心的負担を少しでも減らせるのではと思います。この表現は古代ギリシャの逸話に由来し、「宝物を探すためにすべての石を引っくり返した」という意味から来ているそうです。類似表現としては、“have no regret”や“leave no regret”があります。文脈次第ですが、《例文1》《例文2》のように、前者は過去の事象に対して、後者は未来の事象に対して使用することが多い印象です。講師紹介

224.

HIVと関連するがん【1分間で学べる感染症】第6回

画像を拡大するTake home messageHIVと関連するがんは「AIDS指標悪性腫瘍」と「非AIDS指標悪性腫瘍」の2つがあることを押さえよう。「AIDS指標悪性腫瘍」は、1)非ホジキンリンパ腫、2)カポジ肉腫、3)子宮頸がんの3つを覚える。HIV感染者ではがん罹患の頻度が高いため、積極的なスクリーニングにより早期発見が求められる。HIV感染者では非感染者と比較して、がん罹患の頻度が高いとされています。なかでも、とくに関連があるとされる「AIDS指標悪性腫瘍」は、HIV感染者がこれらのがんを発症した場合、AIDSを発症していることを意味します。「AIDS指標悪性腫瘍」には以下の3つが挙げられます。1)非ホジキンリンパ腫2)カポジ肉腫3)子宮頸がんまた、これらの3つには入らないものの、HIV感染者で非感染者と比較して発生頻度が高いがんを「非AIDS指標悪性腫瘍」と呼びます。「非AIDS指標悪性腫瘍」には以下が挙げられます。1)肺がん2)肛門がん3)ホジキンリンパ腫4)口腔がん・咽頭がん5)肝臓がん6)外陰部がん7)陰茎がん抗レトロウイルス療法(ART)により「AIDS指標悪性腫瘍」の発生頻度は低下しましたが、「非AIDS指標悪性腫瘍」に関しては年々増加してきていることが報告されています。積極的なスクリーニングにより早期発見が求められます。1)Yarchoan R, et al. N Engl J Med. 2018;378:1029-1041.2)Yuan T, et al. EClinicalMedicine. 2022;52:101613.3)Reid E, et al. J Natl Compr Canc Netw. 2018;16:986-1017.4)“アンケート結果 HIVの悪性腫瘍(非AIDS指標疾患)の動向−2022年症例分解析−”. 日本医療研究開発機構 エイズ対策実用化研究事業. 2024-05. , (参照2024-06-05)

225.

AIを用いた血液検査で肺がんを早期発見

 人工知能(AI)により、血液中のセルフリーDNA(cfDNA)と呼ばれるDNA断片のパターンに基づいて肺がんリスクのある人を特定できることが、新たな研究で示された。論文の共著者で、米ジョンズ・ホプキンス大学キンメルがんセンターのVictor Velculescu氏は、「われわれは、医師の診察室で実施可能な簡便な血液検査を手に入れた。この検査により、CT検査で確認すべき肺がんの潜在的な兆候が認められるかどうかが分かる」と話している。研究の詳細は、「Cancer Discovery」に6月3日掲載された。 世界保健機関(WHO)によると、肺がんは世界で最も死亡率の高いがんである。肺がんリスクの高い人では、CTによる肺がん検診を毎年受けることで、まだ治療可能な段階の早期がんを発見でき、がんによる死亡を防ぐことが可能になる。米国予防医療専門委員会(USPSTF)は、喫煙歴がある50〜80歳の人に対し、肺がん検診を年に1回受けることを推奨しているが、実際に毎年、検診を受けているのはそのうちの6〜10%であるという。Velculescu氏は人々が検診を敬遠する理由として、予約から受診までにかかる時間の長さと低線量CT検査での放射線被曝を挙げている。 こうした肺がん検診へのハードルを下げるためにVelculescu氏らはこの5年間、AIを用いて肺がん患者に特徴的なcfDNAを検出する血液検査の開発に取り組んできた。この検査法(cfDNAフラグメントームアッセイ)は、正常細胞とがん細胞との間に見られるDNAの折り畳まれ方の違いを利用している。研究グループの説明によると、正常細胞のDNAは、巻き上げられた毛糸玉のように整然と折り畳まれているのに対し、がん細胞のDNAの折り畳まれ方はより乱雑であり、細胞死に伴い血液中に放出されるがん患者のcfDNAは、がんのない人のcfDNAより混沌としていて不規則な傾向があるのだという。 Velculescu氏らは、576人の肺がん患者および非肺がん患者の血液サンプルを用いてAIソフトウェアを訓練し、血液中の特定のcfDNA断片化パターンを識別できるようにした。その後、382人のがん患者および非がん患者の血液サンプルを用いて、この検査の肺がん識別能を検証した。その結果、この検査の陰性的中率は99.8%と非常に高いことが明らかになった。これは、肺がんの可能性があるのに見逃されてしまう人が1,000人中わずか2であることを意味する。 さらに、コンピューターシミュレーションを用いて、この血液検査により肺がん検診の受診率が5年以内に50%にまで向上した場合にどうなるのかをシミュレートした。その結果、検出される肺がんの数が4倍になり、早期に発見されるがんの割合は約10%増加し、これにより、5年間で約1万4,000人のがんによる死亡を防ぐことができると推定された。 Velculescu氏は、「この検査は安価で、非常に大規模に実施することが可能だ。この検査により肺がん検診がもっと身近になり、より多くの人が検診を受けるようになると、われわれは信じている。それにより、早期に発見され治療される肺がんも増えるだろう」とジョンズ・ホプキンス大学のニュースリリースの中で述べている。 この血液検査はすでに試験室で使用可能である。研究グループは、肺がん検診に使用するために米食品医薬品局(FDA)の承認を求める予定であるとしている。

226.

リウマチ性心疾患に関する知見を改めて見直した研究(解説:野間重孝氏)

 本研究の主な目的は、さまざまな国のさまざまな所得水準におけるリウマチ性心疾患(RHD)の発生率と臨床転機の予測因子を明らかにすることにあったが、同時に現在世界をカバーするRHD患者に関するデータの集積が十分になされていないため、そのコホートを構築することでもあった。実際今回この研究グループは現代のRHD患者に関する最大のコホートを作成することに成功した。 もっとも、類似した研究が行われたことがなかったということはなく、実際このジャーナル四天王でも2017年8月に「世界のリウマチ性心疾患死、25年で半減/NEJM」が掲載されている。この研究では132ヵ国のデータ分析が行われており、十分に大きな研究だったといえるだろう。 現在わが国ではRHDの発症は5~10例/年で、新しいRHD患者が発生すれば症例報告がなされるほどまでになったが、昭和期にはまだメジャーな心疾患の1つだった。たとえば、1960年(昭和35年)においても人口動態統計の疾患別死亡者統計によると、(400~402:国際疾患分類)慢性リウマチ性心疾患による死亡件数は循環器系疾患の6.3%に上ったという(「日本内科学会雑誌 創立100周年記念号」による)。現在、1960年当時の正確な疾病別統計を入手することは困難だが、RHDが決してまれな疾患ではなかったことは理解できるだろう。これが1970年(昭和45年)には循環器系疾患による全死亡数の1.75%にまで減少している。評者は1980年の卒業であるが、当時でも循環器病棟に数人のRHD患者が入院していることは珍しくなく、インターベンショニストとしても経皮的僧帽弁裂開術(PTMC)を10例以上経験している。つまり、つい30年前まではわが国においてもRHDは決してそう珍しい疾患ではなかったのである。 RHDの歴史をたどってみると、リウマチ熱(RF)という用語を初めて用いたのはDavid Dundasで、1808年のことだった。ちなみに、関節リウマチが初めて明確に記載されたのが1800年、全身性エリテマトーデスによる皮疹が初めて記載されたのが1845年。19世紀の初めは自己免疫疾患が初めて認識された時期だったといってよい。ただし、RFが溶連菌感染後の自己免疫反応によるものであることが判明するには20世紀を待たなければならなかった。 RFはA群溶血性連鎖球菌で生じた咽頭炎に起因する自己免疫反応である。咽頭炎の治療にはペニシリンが用いられるが、ペニシリンがAlexander Flemingによって発見されたのは1928年のことだが、量産が可能になるのは1940年代になってからである。米国においてT. D. Jonesがリウマチ熱の診断基準を発表したのが1944年。この改訂版が発表されたのは1956年である。一方、2次予防として投与されるベンザチンペニシリンが開発されたのは1950年代。人によって感じ方はもちろん違うだろうが、人類がこの疾患に堂々と立ち向かえるようになってから、まだそれほどの時間はたっていないのである。 われわれ人類がRFに立ち向かうために重要なことは3つ。1つは貧困の解消、2つ目が教育、もう1つが言うまでもなく医療である。しかし1次予防として最も重要なことは貧困の解消である。密集の解消、社会衛生状態の改善など、とにかく溶連菌感染にかからないこと、かかっても速やかに対処すること、不顕性感染にも十分に配慮できる余裕があることが重要なのである。 こうして積み上がってきた知見を、大規模な疫学研究によって明らかにしたのが本研究である。RF、RHDの予防と当該地域の経済状態とがいかに密接な関係にあるかを明らかにするとともに、手術、PTMCの有用性も明示した。この論文評では何度も繰り返し書いていることだが、こういったみんなが当たり前のように思っているがきちんと証明されていないことを改めて証明し直すということは貴重なことで、その意味で本論文はこういったRHDを取り巻く諸問題に1つの結論を与えた論文であると評価されよう。 と、本来ならばここで論文評を切り上げるところなのだが、少々気になる点があるので蛇足を承知で付け加える。RFについて書かれた総論の中のいくつかで予防注射について比較的積極的に言及しているものがあることが気になった。まず、溶連菌感染に対する予防注射はまだ実用化されていない。そして厳に心得てほしい点が2点ある。第1点は、こうした性格の疾患に対する予防注射はそれ自体が免疫異常を誘発する危険性があるということである。そして重要な第2点、溶連菌感染とそれに続くRFのように、その原因と予防(つまり貧困の解消と社会衛生状態の改善)、1次治療(ペニシリン、必要ならステロイド)、2次予防治療(長期作用型ペニシリン)という治療が確立された疾患に予防注射は必要ないばかりか、かえって余計な危険性を増すだけだという点である。改めて、蛇足を承知でこの点を強調してこの論文評を終えたい。

227.

英語で「絶飲食」は?【1分★医療英語】第136回

第136回 英語で「絶飲食」は?《例文》患者 I am hungry, Can I eat something?(おなかがすいたのですが、何か食べてもいいですか?)看護師The doctor instructed you to be on NPO for the procedure this afternoon.(この午後の検査のために、医師から絶飲食の指示がありました)《解説》今回は“NPO”という表現の解説です。元々はラテン語で“nil per os”を指し、英語では“nothing by mouth”が同じ意味になります。直訳では「口から何も入れない」つまり「絶飲食」という意味です。米国の医療現場ではこれを略した“NPO”(エヌピーオー)という用語を頻繁に使います。手術、全身麻酔の前や経口摂取が困難で輸液のみで管理したいときに、「“NPO”にしましょう」というように使われます。「彼は絶飲食です」と伝えたいときには、“He is on NPO”というように“on”を用います。補足ですが、《例文》の“procedure”という単語は、医療の領域においては広く「手技を用いるもの」全般を指します。ですので、胃カメラ、生検、手術などは全部“procedure”で表すことが可能です。講師紹介

228.

英語で「代診をしています」は?【1分★医療英語】第135回

第135回 英語で「代診をしています」は?《例文1》Good morning, I'm Dr. Smith, filling in for Dr. Yamada while he's away at a conference.(おはようございます、スミスと申します。山田医師が会議で不在の間、代診をしています)《例文2》Your usual doctor is on vacation, so Dr. Jones will be filling in today.(いつもの先生は休暇中ですので、今日はジョーンズ医師が代診を務めます)《解説》“I'm filling in for XXX.”は、別の医師が予定されていた担当医師に代わって診察を行うときに使うフレーズです。この“fill in”という表現は、“Please fill in the blank.”といったように、(空欄を)埋めるという意味合いで用いられます。それに“for”という前置詞と人の名前を続ければ、「空欄」ではなく「担当医師が休みで空いてしまった枠」を埋める、すなわち「代診する」という意味になり、臨床現場のコミュニケーションで頻繁に用いられています。このほかにも、“I’m covering for Dr. Yamada.”や“I’m seeing you on behalf of Dr. Yamada.”という表現も(少しニュアンスの違いはあるものの)同様の場面で「代診する」という意味合いで用いることが可能です。担当医師の突然の休養などで、代診を伝えなければいけない場面もあることでしょう。そんなとき、このフレーズを覚えておくとスムーズに伝えられます。講師紹介

229.

開業するならなるべく早く!と言い切れる恐ろしい理由とは【医師のためのお金の話】第81回

「来る来る」と言われて全然来ないのが、国民皆保険制度の破綻ではないでしょうか。まだ私が若かった(?)2000年代前半から、しきりに国民皆保険制度の命運が尽きようとしていると警告する人が後を絶ちませんでした。あれから20年近く経った現在でも、国民皆保険制度は機能しています。もちろん、保険料だけで膨れ上がった医療費を賄うことは不可能です。保険料は医療費全体の約5割に過ぎず、3割以上は税金から拠出されています。「相互扶助」の観点からは、すでに国民皆保険制度は破綻しています。しかし、現実には税金で支えられているため、国民皆保険制度はつつがなく維持されているようにみえます。このご利益を最大限に受けているのは医師ではないでしょうか。医療費の支払いは出来高払いです。医師の立場では医療費を節約するインセンティブがはたらきにくいですね。一方、患者さんは国民皆保険制度のおかげで安価に医療を受けられます。医師や患者さんを含めた全員が、保険料や税金に群がっているのが現実なのです。インフレの定常化で医療業界に大逆風発生!相互扶助の観点では、すでに実質的に破綻している国民皆保険制度ですが、実際の運用は税金で補填されているため盤石振りが際立っています。それでは、このまま私たちは安心して医療に取り組んでいればよいのでしょうか。少し前まで、この考え方もあながち間違いではありませんでした。ところが、コロナ禍以降で、医療業界を揺るがす可能性のある大きな地殻変動が起こっています。その変化とは、強烈な円安とそれに伴うインフレです。勤務医の中でも投資をしていない医師にとっては、「少し物価が上がったかな?」程度の変化かもしれません。しかし実際には、円安に伴うインフレのために、医療機関の経費が増大しています。最初の兆候は、原油価格高騰による電気代上昇でした。これだけであれば、ウクライナ戦争による特殊要因として片付けられたでしょう。しかし、それに続いてあらゆるモノやサービス価格が上昇しました。2024年度の診療報酬改定で診療報酬の本体部分は0.88%引き上げられましたが、数%を超える経費の上昇率に追い付いていません。国民皆保険制度の実質的破綻前にやってくる恐ろしい状況残念ながら、これまでの推移を見る限りでは、診療報酬増加率がインフレによる経費上昇率を上回る可能性は高くなさそうです。さらに保険料収入が頭打ちのなか、診療報酬の原資に占める税金の割合が年々高まっています。増税は政治リスクが高いので、簡単には引き上げられないでしょう。このため、診療報酬増加率はインフレ率に負け続ける可能性が高いです。私たちにできることは、インフレが鎮静化して、あわよくばデフレ経済に逆戻りすることを、ただひたすら祈るしかありません。この未来予想図が意味するところは、医療業界の収益性が年々悪化する状況です。1990年代のバブル崩壊後に延々と続いたデフレ経済は、医療業界には追い風でした。何といっても、経費が増加しないのに診療報酬微増を確保できましたから。しかし、夢のような状況は、どうやらコロナ禍明けで終わりを告げたようです。これから私たちが体験するのは、診療報酬という収益のアタマを押さえられた状態で、経費だけが増加していく苦しい状況です。開業するならなるべく早く!驚かすことを言いましたが、少なくとも現時点では、医療業界の収益性はまだまだ高い状態が続いています。TKC医業経営指標令和5年版では、院内処方の一般診療所の経常利益率は26.4%でした。よほど下手な経営をしないかぎり、診療所は黒字を確保できる状況です。しかし、この状況が今後10年先まで続く保証はありません。仮に、経費上昇率-診療報酬増加率=2%の状況が10年続くと20%減益となり、現在の経常利益の大部分が消えて無くなります。診療報酬増加率がインフレ率2~3%と同じ状態を続けられれば、なんとか現状維持可能です。しかし、これまでの推移を見る限り、診療報酬が毎年2~3%ずつ増加する状況は少し想像し難いですね。これらの状況から、もし開業するのであれば、医療業界の収益性が保たれているうちにチャレンジすることが望ましいでしょう。端的に言うと、いますぐ開業が望ましいということです。世の中がインフレに転換したのであれば、できるだけ早く開業するしかありません。私はいまでも母校の医局に所属している勤務医です。いますぐ開業しよう! などと主張するとお叱りを受けること必定でしょう。そのような事情があるものの、ケアネットの読者の方には、こっそりお伝えします。開業するつもりであれば早いに越したことはないでしょう。

230.

英語で「深呼吸をしてください」は?【1分★医療英語】第134回

第134回 英語で「深呼吸をしてください」は?《例文1》Breathe in, breathe out.(吸って、吐いて)《例文2》Hold your breath, please.(息を止めてください)《解説》肺の聴診の際には患者さんに深呼吸をお願いしますが、こんなとき英語ではどのように言えばよいでしょうか。「深呼吸をする」は英語で“take a deep breath”といいます。このフレーズを用いて“Please take a deep breath.”や“Can you take a deep breath?”と表現すると伝わります。“breath”は呼吸を意味する名詞です。カタカナにすると「ブレス」ですが、日本人が苦手な“r”と“th”の発音が含まれているため、カタカナ英語では伝わりにくく、注意が必要です。自然に口から出てくるよう、しっかりと発音を練習しましょう。診察中に「吸って、吐いて」と患者さんに呼吸を促すときには、“breathe”(呼吸する、息をする)という動詞を用いて“Breathe in, breathe out.”と言います。動詞になると「ブリーズ」という発音になり、名詞とは発音が異なるので気を付けましょう。また、「息を止めてください」と言いたいときには、「止める」という動詞の“hold”を用いて、“Hold your breath.”と表現します。講師紹介

231.

英語で「悪魔の代弁者を演じる」は?【1分★医療英語】第133回

第133回 英語で「悪魔の代弁者を演じる」は?《例文1》For the sake of argument, can you tell me your plan B if your initial therapy does not work?(議論を深めるためですが、もし最初の治療が有効でなかった場合のプランBを教えてもらえますか?)《例文2》I am not opposing the idea but just playing the devil's advocate.(私はその考えに反対ではないですが、あえて反論をしているだけです)《解説》日本語のことわざも同様ですが、英語の慣用句の中には、言葉どおりの意味ではなく、逸話などに基づいて、まったく別の意図で使用されるフレーズが多くあります。“play the devil's advocate”は直訳すれば「悪魔の代弁者を演じる」となります。私が最初にこのフレーズを聞いた際は、単語の意味はわかっても、意図するところはまったくわかりませんでした。このフレーズの由来はローマ教会の“devil's advocate”という役職に由来するとされており、“devil's advocate”は特定の宗教の儀式において、「負の情報だけを提供する役割」を担っていました。ここから、議論などの場で「あえて反論する」「反対役を買って出る」といった意味で使われます。英会話の聞き取りでは、このような慣用句が出てきた際に、真の意味を理解しておくことが重要です。“play the devil's advocate”は、直接的な表現である“for the sake of argument”と言い換えることもできます《例文1》。“play the devil's advocate”はどちらかというとポジティブな表現であり、「議論を深めるためにあえて反対の立場をとっているが、相手を批判する意図はない」というメッセージを伝えることができます《例文2》。講師紹介

232.

英語で「膿の切開と排膿」は?【1分★医療英語】第132回

第132回 英語で「膿の切開と排膿」は?《例文》医師To treat the abscess, the best course of action will be the I&D procedure, which stands for Incision and Drainage.(膿瘍を治療するために、最適な処置としてはI&Dです。これは切開排膿という意味です)患者Does the procedure hurt?(その処置は痛いですか?)《解説》今回は“I&D”という略語についての解説です。これは“abscess”(膿瘍)の切開排膿の処置を示す表現です。“Incision(切開)and Drainage(排膿)”という表現を略して、“I&D”と表現します。発音としては「アインディー」という感じです。“and”が文の間に入る際、英語だと「ン」のみしか発音しないので注意です。医療者間であれば、当たり前のように“I&D”という表現が使われます。口語のみでなく、カルテにも“I&D”と記載されることが多くあります。“I&D”のみでも“I&D procedure”でも構いません。ただし、医療に詳しい人でない限り患者さんはこの用語を知りませんので、使う際には《例文》のように、“Incision and drainage procedure”といった補足説明が必要でしょう。私が現場で働いている際にも「Please prepare the stuff forアインディー」といった感じで言われて「???」となった経験があるため、今回紹介させていただきました。この文は「切開排膿に必要なものを準備しておいて」という意味ですね。講師紹介

233.

認知症の人と抗精神病薬、深層を読む(解説:岡村毅氏)

 実はこれは20年以上も延焼している問題だ。認知症の人のBPSD(行動心理症状)、たとえば自傷や他害、激しいイライラや怒り、幻覚といった症状は、本人にも介護者にも大変つらい体験である。非定型抗精神病薬(パーキンソン症候群などが比較的少ないとされる第2世代の抗精神病薬、具体的にはリスペリドン以降のもの)が精神科領域で使われ始めると、時を同じくして老年医学領域でも使われ始めたのは当然であった。もちろん、これは患者さんをいじめようと思って処方されたのではない。しかし、どうも肺炎や心不全などの有害事象につながっているのではということが指摘され始め、2005年に米国のFDAが死亡リスクを「ブラックボックス」で指摘してからは、使うべきではない、とされてきた。さまざまなガイドラインでも、認知症の人に抗精神病薬は使ってはならないとされている。 日本では、悪い医師が本当は処方してはならない抗精神病薬を処方して、けしからんという文脈で使われることが多い。 とは言うものの、実際には世界中で使われている。そもそも英国でもハロペリドールとリスペリドンはBPSDに対して正式に使える。 この論文は、英国のプライマリケアのデータベースを用いて、認知症と診断された人について、その後に抗精神病薬が処方された人と処方されていない人を比べたら、された人の肺炎、血栓症、心筋梗塞、心不全などのリスクが高くなったという報告である。やはり使うべきではない、という論文である。 大きなデータを扱う公衆衛生の論文では仕方がないが、いろいろ限界はある。そもそも用量がわからないデータである。一部の人が過剰に多い用量を出されており、それがリスクを上げている可能性は否定できない。また認知症に新たになった人を組み込むために、「認知症診断はついてないがドネペジルを処方されている人は除いた」とある。これは私が英国の臨床を知らないだけかもしれないが、意味がわからない。認知症でない人にドネペジルを処方することなどあるのだろうか? データセットの粗さを示しているのかもしれない。またBPSDの程度もわからない。身体疾患が悪化しているときは高次機能にも影響し、攻撃性が増すなどBPSDとして発現する可能性もある。因果はわからない。 と文句をつけたが、抗精神病薬をなるべく使うべきではない、というのは今や医療現場では常識である。 以下はあくまで個人の印象だが、シンプルに高齢者に慣れている医師は、抗精神病薬はあまりにも危険なのでなかなか使わない。どうしても使わねばならない時に、期間を限定して乾坤一擲に使う。めちゃくちゃに使っているのは、あまり高齢者に慣れていない医師が多いように思われる。 そもそも年を取って心も体も弱ってBPSDが出るのは、人間の本性であり「治せる」ものではない。老いて施設に入ることになった人においては、悲しみ、怒り、焦燥はあって当たり前で、いかに顕在化させないか、行動化させないか、ということだけが論点だ。 環境を変える(認知症の人に過ごしやすい物理環境にする、スタッフの接し方を認知症の特性を踏まえたものにする)ことが最重要である。それでもダメなら漢方、あるいは抗精神病薬以外の処方、それでもダメなら期間限定で抗精神病薬だろう。 こう書くと非道な医師だといわれてしまうかもしれないが、介護スタッフが暴力を振るわれたり、あるいは家族が疲弊したりするのを看過するほうが、よほど非道であろう。 というわけで結論は、「認知症の人に抗精神病薬は出すべきではない。肺炎や血栓症や心疾患のリスクが増えることは臨床家なら知っているし、今回の論文でも改めて示された。しかし、ケアが崩壊して本人もケアラーも破綻するくらいなら期間限定で使う」ということになろう。 延焼は止まらないようだ。だが、こうやって悩み続けるというのも「治せない」ことが前提であることが多い老年精神医学の、基本姿勢かもしれない。最後に「認知症の高齢者に抗精神病薬を処方するからには、しっかり悩み、苦しみながら処方せよ」と言っておこう。

234.

frail(フレイル)【病名のルーツはどこから?英語で学ぶ医学用語】第5回

言葉の由来高齢者医療やケアの分野でよく耳にする「フレイル」は、英語の“frailty”から取り入れられた日本語です。日本語の「フレイル」は、「フレイルである」など名詞として使われていますが、それに対応する英語の“frail”は実際には形容詞です。無理やりカタカナを当てるのであれば「フレイルティ」が名詞、ということになります。“frailty”という単語は、古代フランス語の“frailete”などに起源を持ち、ラテン語の“fragilitas”から派生したものだといわれています。ラテン語の“fragilis”は「壊れやすい」「脆い」という意味であり、物理的なものだけでなく、健康や生命の脆弱性を指す場合にも使われます。このように、“frailty”は本質的な「脆さ」「弱さ」を表す意味合いを持つことから、高齢者が抱える身体的、心理的な「脆さ」や機能低下を指すのに使われるようになったようです。“frailty”を既存の日本語に置き換えると「脆弱性」または「虚弱」となりますが、医療現場や福祉の分野では主にカタカナの「フレイル」という表現が用いられます。「虚弱」という言葉も同様の状態を指すと思われますが、この言葉には加齢に伴う不可逆的な衰えという印象が定着しており、一般には「体力がない」という身体的な意味合いで用いられます。しかし、“frailty”はしかるべき介入によって可逆的になりうる問題であり、また身体的な側面に限定されず、心理的、社会的な側面をカバーする言葉であるため、あえて日本語では「フレイル」という言葉が選ばれた、という経緯があるそうです。併せて覚えよう! 周辺単語身体機能低下physical decline老年症候群geriatric syndrome脆弱性vulnerability高齢者総合的機能評価comprehensive geriatric assessment健常なrobust(frailの対義語として用いられる)この病気、英語で説明できますか?Frailty is a condition often seen in older adults, characterized by an aging-related decline in physical, psychological, and social functioning. It encompasses not just the loss of physical strength but also includes vulnerability to stressors, increased risk of falls, and a higher likelihood of hospitalization.参考日本老年医学会. “フレイルに関する日本老年医学会からのステートメント”. 2014-05.(参照2024-05-09)講師紹介

235.

英語で「それでは始めましょう」は?【1分★医療英語】第131回

第131回 英語で「それでは始めましょう」は?《例文1》Let's get the ball rolling with the test.(それでは、その検査から始めましょう)《例文2》Shall we get the ball rolling with your blood pressure check?(それでは血圧の測定から始めましょうか?)《解説》“Let's get the ball rolling”は、何かのプロセスや活動を始めるときに使われる表現です。直訳すると「ボールを転がし始めましょう」となりますが、そこから転じて、「それでは始めましょう」という意味で用いられます。医療現場においても、診察を始めるとき、検査を開始するとき、治療に取り掛かるときなど、さまざまなシチュエーションでこのフレーズを使うことができます。英語では、具体的な行動に移ることを示唆するために、このような動きを連想させる表現がよく用いられます。たとえば、“Let's kick things off”なども何かを始める際に使える表現です。よりシンプルな“Let’s begin”や“Let’s get started”などでもよいですが、“Let's get the ball rolling”のような少し気の利いたフレーズは親しみやすさも兼ね備えており、コミュニケーションをより円滑にすることに役立ってくれるため、レパートリーに加えておくとよいでしょう。講師紹介

236.

第211回 医師は必見!“見返りなしでも逮捕”された事件

実は昨年秋からこの4月まで私はある裁判を傍聴するため、札幌に5回も出張した。保険薬局チェーン・アイン薬局を展開するアインファーマシーズ(以下、アイン)の元社長と元取締役がKKR札幌医療センター(以下、同センター)の敷地内薬局の整備を巡り、同センター事務部長と共に公契約関係競売等妨害罪に問われた裁判である。事件のあらましは以下のようなものだ。同センターが公募型プロポーザル方式の企画競争入札で敷地内薬局事業者の選定中、元事務部長が企画提案書の提出期限後にアイン元取締役に企画内容の再提案を打診。これに応じてアイン側が2度も企画提案書を再提出し、優先交渉権を獲得した。最終的に同センターの敷地内薬局を開業するに至った。この際の企画提案書提出期限後の再提出が刑法第96条の6第1項で定める公の競売や入札での公正さを欠く偽計として罪に問われたのである。結論を言うと、札幌地裁は4月18日の判決で、元事務部長に懲役1年・執行猶予3年(求刑懲役1年)、アイン元社長と元取締役にそれぞれ懲役6ヵ月・執行猶予2年(求刑懲役10ヵ月)を言い渡した。アイン側の2被告はこの判決を不服として5月1日付で札幌高裁に控訴している。裁判の争点さて、この経過を聞くと、「それがなぜ罪になのか?」と疑問に思う人もいるだろう。まず、前提条件として同センターの位置付けがある。KKRは国家公務員共済組合連合会の略称で、国家公務員の年金や福祉事業に関する業務を加入共済組合と共同で行うことを目的に設立され、国家公務員共済組合法に基づき運営されている。職員は「みなし公務員」の地位にあり、KKRが運営する全国32医療機関はすべて公的病院の扱いだ。一方、「公募型プロポーザル方式」という言葉もあまり馴染みがない人も少なくないだろう。類似するものとしては一般競争入札があり、これは公募に応じて参加した事業者の中で評価点が最も高い提案者を落札者とし、契約を締結する。ただ、一般競争入札の場合、性能・仕様があらかじめ定まった物品の購入などで行われることが多く、「評価の高い提案≒入札価格」の場合がほとんど。これに対し、公募型プロポーザル方式は、あらかじめ性能・仕様を定めることが困難か複雑な事業に関して、公募に参加した事業者が企画提案を行い、その中で評価点が最も高い提案者を優先交渉権者とし、そこから具体的な契約交渉を行う。前述のように性能・仕様をあらかじめ定めることが困難だからこそ、優先交渉権者との間で具体的な話し合いの下、条件などを詰め、実施主体にとって有利な契約締結に導くことができるメリットがある。この性格の違い上、一般競争入札は公募時に示した条件の変更は原則不可能だが、公募型プロポーザルではこの点が柔軟に対応できる。ただ、公募型プロポーザルのデメリットは一般競争入札に比べ、契約締結まで時間を要することである。さて今回の事案は、公募した企画提案の提出期限後、他社の提案なども参照できた元事務部長が、アインが優先交渉権者になるよう、元取締役らに企画提案書の再提出を打診。これに応じたアイン側が2度にわたって企画提案書を再提出して優先交渉権を獲得したことが、刑法第96条の6第1項に定める「偽計又は威力を用いて、公の競売又は入札で契約を締結するためのものの公正を害すべき行為をした者は、3年以下の拘禁刑若しくは250万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する」の偽計に当たり、逮捕・起訴された。これに対しアイン側の2被告の弁護人は「公募型プロポーザルは、随意契約(特定の事業者を選んで交渉の上、契約)の一種で入札には当たらない」との学説を引用して争点とし、加えて元社長の弁護人は、元社長が案件提出期限とその後の再提出不可を認知していなかったと主張し、故意性と元取締役との共謀性を否定した。しかし、結果として、両被告の弁護人の主張が退けられ、前述の判決となった。判決では、まず国家公務員共済組合法に基づき、▽KKRが設置する病院は福祉事業の一環として設置▽職員は罰則適用で公務員の扱い▽KKRの事業計画や予算は事業年度ごとに財務大臣の認可が必要▽業務執行や財産状況は財務大臣が監督、監査▽理事長や一定の理事、幹事は財務大臣の任命や認可を受けて理事長が任命、などの性格を踏まえ、KKRが行う事業はあくまで「公」と改めて認定。さらに公募型プロポーザルが「入札」に相当するかについては、▽過去の判例などから会計法上の随意契約であっても競争入札と同様の内容や性質があれば、刑法第96条の6第1項が定める「入札」に相当▽今回の公募型プロポーザルは審査項目と一定の客観性・公平性を担保した審査基準を設定▽審査項目内では敷地内薬局事業者がセンターに支払う賃料という一般競争入札の落札価格にも似た経済的・客観的項目を相当程度重視▽非公表の予定価格の設定、不特定多数の参加者の公募、参加事業者は互いに他の事業者の提示内容を知らずに企画を提案▽あらかじめ定めた基準で提案順位を付けるなど手続の競争性を担保、などの理由から「入札」に該当するとの判断を示し、有罪を言い渡した。ちなみに元事務部長がアイン側に再提出を促したのは、審査項目内で最多配点だった敷地内薬局開設者が同センターに支払う賃料が公募に応じたほかの事業者と比較して低額だったためだ。最高賃料の事業者が有利なことを見越して、元事務部長はアインが優先交渉権者になれるよう、賃料を引き上げた企画提案書の再提出を求めたのである。その結果、アイン側が提示した月額賃料は当初の450万円から750万円まで引き上げられて優先交渉権者となり、最終的に敷地内薬局の開設契約に至っている。アイン薬局への便宜、人情が足かせに!?元事務部長はなぜアインを優先交渉権者にしようとしたのか? このケースでは少なからぬ人が「元事務部長は便宜を図る代わりに賄賂を受け取っていたのではないか?」と推測するだろう。実際、今回3被告が問われた公契約関係競売等妨害罪に問われた過去の事件の多くは同時に贈収賄罪でも立件されている。ところがこの事件では贈収賄罪は適用されておらず、公判での検察の陳述や尋問でもそれを示唆するような内容はまったくなかった。さらに判決では元事務部長に関して「犯行動機は、医療センターの経営改善を意図したものであり、当該事業者と癒着して私腹を肥やしたような事情はないものの、当該特定の事業者を選定しなければならないとする十分な理由は認められず」と言及し、本人の私利私欲とは無縁であることをわざわざ強調している。さらにここでも多くの人が「経営改善が目的ならば、最初からアインより高額な月額賃料を提案した事業者を優先交渉権者にすれば良いだろう」と疑問に思うはずだ。さて、ではどうして元事務部長は金銭的見返りもないのにここまでアインに便宜を図ったのだろうか? 裁判で元事務部長は「アインが信頼できる会社だから」と述べているが、それも極めてあいまいなもの。実はこの点をうかがい知れる背景情報が裁判で明らかになっている。元事務部長とアイン元取締役は、共に北海道では甲子園出場常連校の野球部OB同士で、旧知の間柄だったのである。私の世代では高校の体育会系の伝統的頂点は野球部。しかも甲子園常連校のOB同士ならば、半ば“鉄の結束”になっているはずである。つまり「仲間内に仕事を渡したい」という義理・人情の色彩が濃厚にうかがわれるのだ。率直に言って、この手の事例は民間では吐いて捨てるほどあるはず。たまたま、公的病院が舞台だったため、刑法に抵触してしまったと言える。もっとも今回の事件は、ある種、検察の“見込み違い”もあったのではないかとの指摘が関係者の間でささやかれている。前述のように公契約関係競売等妨害罪が適用される事件では、贈収賄罪や官製談合防止法違反で同時に立件されることが少なくない。“見込み違い”とは、検察が当初、この件で贈収賄罪も疑って立件に踏み切ったが、結果的にその証拠はなかった、いわば「大山鳴動して鼠一匹」だったのではとの見方だ。裁判傍聴マニアが驚いた検察側の姿勢ここからは推測になるが、指摘はそれほど外れてはいないと個人的には踏んでいる。一応、これでも検察案件の刑事事件の裁判傍聴はそこそこに経験がある。その自分が今回の裁判の初公判でビックリしたことがあった。検察側の出廷者が比較的若い女性検察官1人だったことである。検察が注力している案件の場合、出廷する検察官は2~3人であることが多い。そしてその中にはパッと見で熟練と思われる年配の男性検察官が含まれていることがほとんどだ。やや女性差別と言われてしまうかもしれないが、日本の官公庁は今でも男性社会であることに異議を唱える人は少ないだろう。要は今回の事件が検察にとっても拍子抜けだったかもしれないのは、ここからもうかがえると個人的には解釈している。しかし、奇しくもこの一件は、公の立場では、義理・人情をベースにした不公正も罪として成立するという現実を世の中に示した。公的病院の医師が知っておくべきこと今回、敢えてこの件を紹介したのは、これまでの個人的な取材の経験から、医師も含む公的病院の勤務者には、この公の場にいるという意識の濃淡が人によってかなり格差があると感じているからだ。とくに医師の場合、公的病院でも外部の大学病院医局が派遣元になっていると、かなりこの“公”の意識が曖昧なままの人を散見する。たとえば先日、公的病院である東京労災病院の整形外科医が特定の医療器具を使用する見返りとしてメーカーから現金を受け取っていたとして贈収賄罪で逮捕されている。これは明確な私利に基づく行為だが、公的病院の勤務者の自覚に欠いていることは明らかである。改めて強調するが、金銭・物品の見返りがなくとも、知己のある相手に不公正な便宜を図っただけでも罪になることを改めて示したという点で、今回の判決はかなり意味のあるものと言える。この点を改めて医療従事者に認識して欲しいと切に願っている。

237.

第212回 新規開業の落とし穴(前編) 診療所の大型化・重装備化、複数医師開業というトレンドの背後にあるもの

コロナ禍が過ぎて、各地で診療所の新規開業が活発化こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この週末は、愛知県で一人暮らしをしている父親の様子を見に行ってきました。先月、洗濯物の取り込み中に転倒し、顔面を強打、血だらけになってしまったと電話で話していたので心配しての帰省です。久しぶりに会ってみると、「おまえ、喋り方が下手になった。聞きづらいのでもっときちんと喋れ!」と話す92歳の父親は、自分の耳のせいだとはまったく考えていないようです。顔だけではなく頭も打ったのかな、と思ったのですが、土曜昼間にテレビで放送されていた、広島・中日戦での中日ドラゴンズの戦いぶりを観て、「中田 翔はもう少し打点がほしい」、「マルティネスは時々打たれるが、防御率ゼロは大したもんだ」と意外と的確な評価をしていたので、頭はまだ大丈夫そうだ、とひと安心した次第です。さて今回は、いつもの事件や医療行政の話題から少し離れて、新規開業の最近の動きについて書いてみたいと思います。というのも、医療業界で働く知人から「コロナ禍が過ぎて、各地で新規の開業が活発化しているようだ」と聞いたからです。実際、コロナ禍が過ぎて、新規開業は再び増え始めているようです。各地で活発化している病院の再編統合や、医師の働き方改革を背景に、病院での実際の働き方にやたら制約ができて、“バイト”も気軽にできなくなっていることも、勤務医生活に見切りを付けるきっかけになっているのかもしれません。2022年医療施設調査では、無床診療所は1,101施設増最近の大まかな開業動向は、厚生労働省が発表している「令和4(2022)年医療施設(動態)調査・病院報告の概況」1)で確認できます。それによれば、2022年10月1日現在の一般診療所は10万5,182施設。うち無床診療所は 9万9,224 施設(一般診療所総数の94.3%)で、前年に比べて 1,101 施設増加しました。一方、有床診療所は5,958 施設(同5.7%)で、前年に比べ211 施設減少しました。この無床診療所1,101増という数字は、廃止・休止を差し引いた純増数です。同調査によれば新規開設は7,803施設でした。コロナ禍もあって前年2021年の9,503、2020年の8,250に比べると少ないですが、それでも年間8,000近い診療所の新規開業があり、その数は廃止・休止を上回っているのです。開業当初からMRIなど高額な医療機器を導入するところもこうした新規開業、最近の一つの傾向として言われているのは、「診療所の大型化・重装備化」、「複数医師による開業」です。以上の2点を背景に「開業費の増大」も指摘されています。昨年末、ある開業コンサルタントの話を聞く機会があったのですが、たとえば整形外科診療所では、開業当初からMRIなど高額な医療機器を導入するところが少なくないそうです。複数医師による開業は在宅専門診療所によくみられる傾向ですが、在宅医療ではない診療分野でも、最初から複数医師の共同開業や複数医師による診療体制を整えるところが増えているようです。国のかかりつけ医の議論の中で、かかりつけ医の体制は単独で構築するだけではなく、複数で一人の患者をフォローしていく体制も今後は望ましいと言及されたことも影響しているのかもしれません。一方、開業費は増大の一途です。大型化・重装備化で必然的に必要資金が増えることに加え、建築資材の高騰や、都市部での不動産マーケットの好況を背景に賃料が値上がりしていることなどもその要因です。戸建て開業では億単位の資金が必要になるケースは少なくないですし、大都市のテナント開業でも、そこそこの医療機器を揃えれば、億に近い資金が必要になってきます。そうした多額の開業資金を金融機関から借り入れる場合、相応の返済期間が必要になってきます。50代、60代になってからの新規開業は厳しく、勢い30代、40代という比較的若年での開業が増えていくことになります。開業の成否は二の次に、大規模・重装備、複数医師開業を提案するコンサルタントもただ、これから開業を考える医師が注意しなければならないのは、こうしたトレンドは、先程も書いたように金融機関や開業コンサルタント側の事情も多分に関係している、という点です。とくに地方では、企業や事業者数そのものが限られており、有望かつ融資金額が大きい案件はそんなにありません。というわけで、地方銀行や信用金庫にとって病院や診療所などの医療機関は願ってもない上顧客ということになります。融資金額を最大限に増やしたい金融機関や、コンサルタント料に加え診療所の管理業務を受託したい、関連企業で門前薬局を経営したい、と考える開業コンサルタントの中には、開業の成否は二の次に、大規模・重装備の診療所で、複数医師による病院並みの外来運営を企画・提案するところもあると聞きます。「医療機関が潰れたら、金融機関側も困るのでは?」と思う方もいるかもしれませんが、債務を負うのは医師です。仮に経営が破綻し診療所を畳むことになったとしても、金融機関側は「僻地の診療所などで10年も働いてもらえば億のお金でも返済してもらえる」と考えます。さらに、複数医師開業で債務者が複数いれば、返済期間も短くなります。そういった意味でも金融機関にとって医師は願ってもない上顧客なのです。最初、患者として勤務医に近づく開業コンサルタントもそうした状況下、開業志望の医師の相談や悩みに親身になって対応してくれる金融機関やコンサルタントがいる一方で、医師を単なる“カモ”としか見ない悪いやつもいます。結果、経営に疎い医師が騙される、という事態も発生します。「第176回 虫垂がんを宣告されたある医師の決断(後編) 田舎の親の病医院を継ぎたくない勤務医にも参考になる『中小病院が生き残るための20箇条』」で紹介した『続“虎”の病院経営日記 コバンザメ医療経営を超えて』(東謙二著、日経メディカル開発)の中には典型的なエピソードが紹介されています。同書の「中小病院が生き残るための20箇条」の章の20箇条目、「医師は世間知らず、開業で騙されないために」の項では、「熊本界隈でも新規開業したばかりの診療所の閉院が増えている」として、40代の公的病院勤務医の開業失敗話が紹介されています。最初、患者として勤務医が働く病院の外来にやってきた男が、親密になると「開業コンサルタントである」と打ち明けます。その後、地方銀行員と組んで言葉巧みかつ強引に勤務医を新規開業に導いていく展開は、モダンホラーさながらです。コンサルタントの“悪魔の囁き”、「先生なら開業すれば患者さんがたくさん集まるでしょうね」この本には、「先生なら開業すれば患者さんがたくさん集まるでしょうね」、「開業資金のことなら心配要りません」、「開業までのことはすべてお任せください」といったコンサルタントの“悪魔の囁き”の例もいくつか紹介されています。この勤務医は結局、「開業後、自腹を切りながら経営を続けたものの、結局は多額の借金を背負い閉院した」とのことです。なお、東氏は「医師をはじめ、医療従事者はほとんどが『性善説』の中で仕事をしているが、世の中には『性悪説』を基本に対処していかないとすぐに騙されてしまう世界もあるのである」と書くとともに、「だから開業するな、と言っているわけではない。自分の所有する土地があり、運転資金も十分にあるならば多くのリスクは回避できる。しかし、土地から購入して、全てが一から開業となれば、自分はかなりギャンブル性の高い勝負に出るのだと理解してほしい。もちろん全ての業者が悪徳ではないし、親身になってくれる経営コンサルタント会社や銀行もあるだろう」と結んでいます。収益が出ないと不正請求すれすれの無理な診療に手を染めるところも少し話が脱線してしまいました。診療所の大型化・重装備化、複数医師開業の話に戻りましょう。大型化・重装備化は開業費がかかり、複数医師開業は医師の人件費が倍になります。収入は増えますが、支出も当然増えます。患者数をこなしてもこなしても収益がなかなか出ないとなると、不正請求すれすれの無理な診療に手を染めるところも出てきます。私が昨年秋にかかった都内の整形外科はまさにそんな診療所でした(この項続く)。参考1)令和4(2022)年医療施設(動態)調査・病院報告の概況/厚生労働省

238.

免疫不全患者のCOVID-19長期罹患がウイルス変異の温床に

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に1年半にわたって罹患していた免疫不全の男性患者が、ウイルスの新たな変異の温床となっていたとする研究結果が報告された。さらに悪いことに、確認された変異のいくつかは、新型コロナウイルスのスパイクタンパク質に生じていた。これは、ウイルスが現行のワクチンを回避するために進化していることを意味する。アムステルダム大学医療センター(オランダ)のMagda Vergouwe氏らによるこの研究の詳細は、欧州臨床微生物・感染症学会議(ECCMID 2024、4月27〜30日、スペイン・バルセロナ)で発表された。 Vergouwe氏は、「この症例は、免疫不全患者が新型コロナウイルスに長期にわたって感染している場合の危険性を強調するものだ。なぜなら、そうした症例から新たな変異株が出現する可能性があるからだ」と話している。研究グループによると、例えばオミクロン株は、より初期の変異株に感染した免疫不全患者の中で変異を遂げて登場したものと考えられているという。 Vergouwe氏らが報告した症例は、新型コロナウイルスへの感染が原因で2022年2月にアムステルダム大学医療センターに入院した72歳の男性患者に関するもの。この男性患者は、骨髄から白血球が過剰に産生される骨髄異形成/骨髄増殖性腫瘍(MDS/MPN)オーバーラップ症候群に罹患しており、その治療として行われた同種造血幹細胞移植により免疫不全状態にあった。患者はその後、移植後リンパ増殖性疾患を発症し、リツキシマブによる治療を受けた。これにより、患者の体内には、通常であれば新型コロナウイルスと闘う抗体を産生するB細胞が消失していた。 この患者は、COVID-19に罹患する前に新型コロナワクチンを複数回、接種していた。しかし、入院時の検査で新型コロナウイルスに対するIgG抗体は検出されなかった。定期的なゲノムサーベイランスから、この患者はBA.1系統のオミクロン株(BA.1.17)に感染していることが分かり、ソトロビマブ、抗IL-6抗体であるサリルマブ、およびデキサメタゾンによる治療が行われた。しかしシーケンス解析からは、ソトロビマブ投与後21日目には、患者の体内の新型コロナウイルスは同薬に耐性を持つように変異していたことが判明した。また、治療から1カ月が経過しても、新型コロナウイルスに特異的なT細胞の活性化や抗スパイク抗体の産生がほとんど認められず、患者の免疫システムにはウイルスを排除する能力がないことが示唆された。最終的に、患者は613日にわたって新型コロナウイルスと闘い、その後、血液疾患により死亡した。 この男性の入院中(2022年2月〜2023年9月)に採取された27点の鼻咽頭ぬぐい液の全ゲノムシーケンスからは、現時点で世界的に広まっているBA.1系統と比べると、ACE-2受容体と結合するスパイクタンパク質の部位にL452M/KやY453Fの変異が生じるなど、ヌクレオチドに50以上の新たな変異が生じていることが明らかになった。さらに、スパイクタンパク質のN末端ドメインにはいくつかのアミノ酸の欠失が生じており、免疫回避の兆候が示唆された。 こうした調査結果を踏まえて研究グループは、「この症例では、COVID-19の罹病期間が長引いた結果、宿主の中でウイルスが広範に進化し、新規の免疫を回避する変異体が出現したものと思われる」と述べている。そして、このような症例は、「エスケープ変異株を地域社会に持ち込むリスクをはらんでおり、公衆衛生上の脅威となり得る」と付け加えている。ただし、この男性患者から他の人への新型コロナウイルス変異株の伝播は記録されていないという。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

239.

第73回 使い分けできていますか?「割合」と「率」と「比」【統計のそこが知りたい!】

第73回 使い分けできていますか?「割合」と「率」と「比」物事の現状を観測したり、過去の出来事を調査したりする場合、ある状態の出現や発生の頻度が問題になることがあります。そして、頻度が高いものは、より注意深く、観測や調査が行われます。頻度を定量的に表すために、通常は、「割合」、「率」、「比」のいずれかが用いられますが、これらの言葉は、日常生活の中で自然に使われているものなので、よく似通っており、それぞれの意味やニュアンスの違いを、あまり意識せずに使っていることがほとんどです。しかし、病気の発生原因を解き明かすことを目的とする疫学では、これらの言葉の概念を正確に理解することが必要とされます。「割合」、「率」、「比」を混同すると、疾病の頻度を測定する基準が揺らいでしまいます。今回はこれら「割合」、「率」、「比」について解説します。■疫学とは薬剤に関わらず何かの医療技術や生活習慣が、「病気に効くか効かないのか」「病気の発症に関係があるかないか」を、集団に対して評価する学問のことを「疫学」と言います。1)割合(proportion)「割合」は、分子が分母に含まれる(分子が分母の一部である)ときに使用ができます。たとえば、ある地域住民の成人のうち「ある疾患Aに罹患しているヒトの割合」について調査する場合、住民1万人でそのうちの「ある疾患Aに罹患しているヒトが150人だった」としたら、「ある疾患Aに罹患しているヒトの人数」÷「ある地域住民の成人の人数」「150」÷「1万」=0.015となり、「ある疾患Aに罹患しているヒトの人数150人」は、必ず「ある地域住民の成人の人数1万人」に含まれます。これが「分子が分母に含まれる」ということです。割合は、分子が分母に「すべて含まれる」ことが必須です。当然、分子と分母の単位も同じでなければなりません。割り算によって単位が相殺されるため、割合は必ず単位なし、このことを「無次元」になると言います。割合=分子が分母に含まれる→必ず無次元ポイントは「時間的概念を含まない」という点です。時間を含まない概念ですから、一時点のみで測定を行う横断的研究(調査)でも算出ができます。定点観察でも求められる指標ということになります。そのほか、日常生活で売値1万円の買い物をすると消費税が10%かかって、1万1,000円のお支払いになりますね。このようなとき、普通に消費税率10%と言っていませんか?「消費税率」は、「税金の額÷売値の額」です。同じような事例で100人中60人が「内閣を支持する」というのは、分子の60人は必ず分母の100人に含まれるので、支持率ではなくて、「支持割合」が正解ですが、先述のように日常出てくる「○○率」は実際には割合の意味で使われているものが多いのが実情です。ですから、言葉としては「率」が定着しているので仕方ないですね。本連載の解説においても「割合の検定」「割合の信頼区間」と表現していたのは、こっそりとこの意味に忠実に使っていたのです。ここで大事なことは、「分子が分母に含まれる」ということは、割合には上限と下限があるということになります。「割合」は必ず0から1の間の数値をとる!しかし0から1の間の数値が必ずしも「割合」を表すわけではないので要注意!2)率(rate)「率」は、「一方を1単位だけ変化させたときに、他方がどの程度変化するか」を表します。また、「注目している量÷時間」という式で表されます。単位時間当たりに、注目している量がどの程度あるのか、という意味で使われます。そのため、次元は「注目している量の単位/時間」となります。たとえば、1年当たりの出生率を表現したい場合には、「注目している年に生まれた赤ちゃんの人数÷年」となるので、単位は「人/年」です。「出生率」とは、「年齢や性別の区別なく、その年に生まれた人口1,000人当たりの出生数」のことです。厚生労働省の令和3年の人口動態統計によると、わが国の出生数は81万1,604人で、前年の84万835人より2万9,231人減少し、出生率(人口千対)は6.6となっています。率の分母は時間に関係することが多く「出生率」や「罹患率」などが当てはまります。「時間」以外では、たとえば単位としてタクシー料金なら「距離」、登山やダイビングなら気圧で〇m(メートル)などもあります。このように単位が違うので「1年当たり500人増える」とか「10m当たり1気圧上がる」とか、「割合」と違って「率」は単位の記述が残ることになります。そして、率は違うものの比較になるので、割合と違って0から1になる必要はなく、どんな値でもとり得ます。3)比(ratio)「比」は、「比べる」の文字の通りにありとあらゆるものを比べるために使われます。「男女比」ならば、「男性人数÷女性人数」あるいは「女性人数÷男性人数」となり、どちらも「人」が単位なので、単位を消すことができ、0.5や1.85などと表現されます(「0.5:1.0」や「1.0:1.85」と表現されることもあります)。この場合、明らかに「女性人数」=分子は、「男性人数」には含まれません。つまり、「分子が分母に含まれない」(分子と分母は別のもの)ということです。ただ、分母と分子のどちらが男性で、どちらが女性かがわからなくなってしまうので、あえて単位を残しておくという方法もあります。割合は「全体に占める割合」という意味で使われますが、比は「比べた結果を単純化したもの」という違いがあります。割合:0から1で比と率:どんな値でもとり得る■有病率(prevalence rate)と罹患率(incidence rate)ある時点で、病気にかかっている人が何人いるかを示す指標を「有病率」と言います。通常は、「10万人当たり○○人」などの単位で表現されます。「病気にかかっている人÷全体」なので、この数値も「有病割合」が適切なのですが、慣用的に「有病率」と表現されます。そして、「有病率」と対をなす概念に「罹患率」があります。一定の時間中、「新しく」病気にかかった人が何人いるかを示す指標を言い表します。通常は、「1年間で10万人当たり○○人」などの単位で表現されます。「有病率」とは異なり、こちらは「時間を1単位ずらしたときに、何人新しく病気にかかるか?」を評価しているので、正しい意味での「率」に分類されます。次回は「パラメトリック検定・ノンパラメトリック検定」について学習します。■さらに学習を進めたい人にお薦めのコンテンツ「わかる統計教室」第4回 ギモンを解決! 一問一答質問5 リスク比(相対危険度)とオッズ比の違いは?(その1)質問5(続き) リスク比(相対危険度)とオッズ比の違いは?(その2)統計のそこが知りたい!第52回 相関比とは?

240.

日常会話に役立つ第1文型【Dr. 中島の 新・徒然草】(528)

五百二十八の段 日常会話に役立つ第1文型大阪では雨が続いています。もう梅雨が始まったのでしょうか。できればもう少しの間は爽やかな季節を楽しみたいところです。さて、本日は英語の第1文型の話をしたいと思います。そもそも第1文型というのはS+V。つまり主語+動詞からなる文章です。例文を考えてみましょう。He runs.She sings.それぞれ「彼は走る」「彼女は歌う」ですね。まさしく主語+動詞の第1文型。しか~し。関西人の私は突っ込んでしまうわけですよ、ここに。彼が走る?彼女が歌う?何やねん、それ。もうちょっと気の利いた例文はないんかい!なら、これはどうだ。It works.「(何だかんだいっても)それで上手くいくんだ」という意味です。「(その機械は古いけど)きちんと作動するんだ」とか。「(非効率に見えるかもしれないけど)ちゃんと機能するよ」とか。なんだか日本語の日常会話でも使えそうですね。“He runs.” とか “She sings.” よりずっと役に立つはず。で、今回はこういった役立つ第1文型のコレクションを披露しましょう。日常会話にも使えるものです。まずはこれ。It hurts.「痛てえ」という意味ですね。医療従事者なら1日に何度も耳にするはずの会話フレーズ。応用として “Tell me where it hurts.”(どこが痛いか言ってごらん)とか。英語圏の患児だったらちゃんと答えてくれるかな?次、行ってみよう。It matters.「それが大切なんだ」という意味ですね。医療現場で応用するなら、“What matters to you?”(どうされましたか)。初診の患者さんに対する最初の声掛けです。さらに使える第1文型。Who cares?これもいい。「誰が気にするんだ」「誰も気にしないぞ」という意味。周囲の目を気にして1歩踏み出せない人を見たら、力強く “Who cares.” と背中を押してあげましょう。たった2語だけど力強い。そして使える第1文型の5つ目はこれ。Sh*t happens.直訳すると「クソが出る」です。実際は「悪い事は起こるもんだ」という意味で使われるのだとか。まさしく人生の真実をついた力強いメッセージ。自己完結する自動詞を用いた第1文型の面目躍如!インパクトなら誰にも負けない。というわけで “It works.” から “Sh*t happens.” まで、力強く美しい第1文型。読者の皆さま、ぜひお使いください。最後に1句梅雨が来る 第1文型 活用だ

検索結果 合計:1185件 表示位置:221 - 240