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非喫煙者の42%に肺がんと関連する肺結節所見

 45歳以上の非喫煙者(喫煙未経験者と元喫煙者)1万人以上を対象にした研究で、42.0%もの人に肺がんと関連する可能性のある肺結節が1つ以上認められたことが報告された。非喫煙者の肺がんリスクは、通常は低いと考えられている。この論文の上席著者を務めたフローニンゲン大学医療センター(オランダ)心胸部画像診断科教授のRozemarijn Vliegenthart氏は、「この数字は予想以上に高く、喫煙者のハイリスク集団で報告されている肺結節の発生率に近いものだった」と述べている。この研究の詳細は、「Radiology」に8月13日掲載された。 研究グループの説明によると、胸部CT検査で肺結節が見つかるのは珍しいことではなく、肺がんの高リスク集団においては初期肺がんの兆候である可能性が高い。また、肺結節の発生率とサイズに関する過去の研究の大半は、ヘビースモーカーの肺がん検診データに基づくものであり、現在の肺結節の管理に関する推奨のほとんどもこの集団をベースにしている。そのため、低リスク集団において肺結節が見つかった場合に現在のガイドラインに準拠すると、不必要な追加検査の実施につながる恐れもあるという。 Vliegenthart氏らは今回の研究で、45歳以上の非喫煙者1万431人(平均年齢60.4歳、女性56.6%、喫煙未経験者46.1%、元喫煙者53.9%)を対象に、肺結節の発生率とサイズの分布を年齢と性別ごとに調査した。 その結果、対象者の42.0%(4,377人、男性47.5%、女性37.7%)に1つ以上の肺結節が確認され、この割合は年齢とともに上昇することが明らかになった。また、臨床的に意味のある肺結節(結節サイズが6〜8mm以上)が認められた対象者の割合は11.1%で、この割合も年齢とともに上昇していた。さらに、男性の方が女性よりも肺結節が見つかる確率と複数の結節を持っている確率が高いことも示された。 ただしVliegenthart氏は、「これらの肺結節のほとんどは、がんではなかった。これらの非喫煙者での肺がん発症率は0.3%と極めて低く、発見された臨床的に意味のある結節や対応が必要とされる結節のほとんどが良性であることを示唆している」とフローニンゲン大学のニュースリリースで述べている。それでも、これらの結節が見つかった場合には、現行のがん検診ガイドラインに従った追加検査と診察が必要となる。 研究グループは、欧米諸国では喫煙者が減少傾向にあることに言及した上で、「肺がん検診のガイドラインを更新することが重要だ」との考えを示している。またVliegenthart氏は、「このような喫煙者の減少傾向に鑑みると、非喫煙者の肺結節に関する基礎的かつ包括的なデータを提供した今回の研究結果の重要性が増す」とニュースリリースの中で述べている。 なお、米国肺協会(ALA)によれば、肺結節はがん以外にも、大気汚染、関節リウマチのような慢性炎症性疾患、結核のような感染症によっても引き起こされるという。また、非喫煙者の肺結節は、交通事故や健康問題でX線検査やCT検査を受けたときに偶然、発見されることが多いという。

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第228回 パワハラの訴えを撤回させようとまたパワハラ 札幌医大教授が今年2回目の懲戒処分で停職合計8ヵ月に

台風10号の大雨で北陸新幹線経由が注目こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。台風10号には皆さんほとほと参ったのではないでしょうか。大雨に見舞われた地域の方々だけではなく、出張や旅行などで“東海道”や“山陽道”を移動しようとする人も大変だったようです。飛行機や東海道新幹線が止まる中、関西方面から関東へは、まず福井の敦賀に出て、北陸新幹線経由で東京に向かう、というルートが注目されていました。JR西日本も北陸新幹線と特急列車サンダーバード(大阪から敦賀への特急列車)を増発するほどでした。これからも台風などによって似た気象状況は頻繁に起きそうです。皆さんもこの迂回ルート、頭の片隅に入れておくといいかもしれません。パワハラを断固として認めずあくまでも「必要な指導だった」と兵庫県知事断続的な雨が続いたこの週末、私はMLBのドジャース戦や、兵庫県の斎藤 元彦知事のパワハラの疑いなどを告発する文書をめぐって開かれた県議会調査特別委員会(百条委員会)のライブ中継を観るなどして時間を潰しました。証人尋問での斎藤知事の受け答えで感心したのは、「パワハラをしていた」を断固として認めないその意志の強さです。あくまでも「必要な指導だった」と無表情で言ってのける鉄面皮振りは、ホラー映画を観ているようでした。さらに、委員から「出張先で玄関の20メートルほど手前で公用車を降りて歩かされ、出迎えた職員らをどなり散らしたのは事実か」問われたのに対し、「歩かされたことを怒ったのではなく、円滑な車の進入経路を確保していなかったことを注意した」と説明していたのにも驚きました。それにしても、百条委員会の委員たち(各党の県議会議員)はちょっと追及が甘過ぎますね。誰も知事を追い詰め、しどろもどろにさせることができませんでした。各紙報道によれば、百条委員会終了後、報道陣から進退を問われた斎藤知事は「知事としての仕事を果たすのが私の責任」と続投の意思を改めて表明、「職員からの人望や信頼感が1ミリもないということはないと思っている。信頼関係を再構築する」と話したとのことです。信頼感が“ミリ単位”かつ、レームダック状態となりそうな斎藤知事で、今後の兵庫県政は大丈夫なのでしょうか。心配になります。札幌医科大パワハラ事件で2回目の懲戒処分ということで、今回は8月に各紙で報道された、札幌医科大学(札幌市)におけるパワハラ問題について書いてみたいと思います。札幌医科大は8月8日、今年5月に教員2人にパワハラなどをしたとして停職3ヵ月になった50代男性教授について、処分直前の4月、同教授が被害を訴えたと推測した相手に対して申し出を撤回するよう求めていたことがわかったとして、新たに停職5ヵ月の処分を行いました。停職期間は計8ヵ月となりました。さらに、この教授の処分軽減のために動いていた50歳代の准教授も停職 1ヵ月の処分を受けました。パワハラで就業環境を害したほか、アカハラも行い研究、教育環境を害したこの教授については、昨年に複数人からハラスメント被害の申し出があり、大学側は調査の結果その事実を認定し、今年5月29日に停職3ヵ月の処分を行ったばかりでした。このときの処分は、「所属する教員2名に対して、パワーハラスメントを行い、就業環境を害したほか、うち1名に対してはアカデミックハラスメントも行い、研究、教育環境を害した」(同大プレスリリースより)ことが理由でした。部下を呼び出し処分の撤回・軽減に向けた嘆願書作成に協力するよう強く要請今回のパワハラは、5月の処分が下る前、調査が進んでいる段階で起きていました。同大学が8月8日に出したプレスリリースの「職員の懲戒処分について」によれば、「4月、当該教授は、自らの懲戒処分を軽減するため、ハラスメントの申出人と類推した教室員に対し、ハラスメントの申出の有無を尋ねるなどの不利益な取扱いを行ったほか、ハラスメントの申出の撤回を求めるなどのパワー・ハラスメントを行った」とのことです。一方、准教授については、「現状の教室体制を維持するため、当該教室員に対し、ハラスメントに係る証言内容等を確認するなどの不利益な取扱いを行ったほか、当該教授の懲戒処分への反証の協力を求めるパワー・ハラスメントを行った」とのことです。端的に言えば、ハラスメントの申出人と思われる部下を呼び出し、申し出をしたかどうかを問い詰め、処分の撤回・軽減に向けた嘆願書の作成に協力するよう強く要請した、ということです。しかし、大学によれば、この「申し出人だと思われる部下」はハラスメントを訴え、認定された2人とは別の人物だったとのことです。教授と准教授は要請する相手を間違ってしまったようです。なお、8月9日付の東京読売新聞によれば、教授の代理人弁護士は同紙の取材に対し、「教授はパワハラをしておらず今回も事実誤認がある。処分内容も重すぎで、社会的相当性を逸脱した懲戒権の乱用だ」と話したとのことです。嘆願書作成への協力要請に応じず、一連のやり取りの証拠を大学に提出北海道の経済誌『財界さっぽろ』8月号(7月15日発行)は、「法廷闘争に発展も…札幌医科大学、名物教授パワハラ停職の波紋」と題する記事を掲載、事件の経緯をより詳細に報じています。同記事によれば、処分を受けた教授は「がん治療においては世界的エキスパート」で「全国ネットの人気テレビ番組でも取り上げられたこともある」X氏です。X氏のパワハラを大学に申し立てたのは同じ医局に所属する3人の医師で、計30件のパワハラの申し立てたとのことです。しかし、学内調査の結果、最終的にパワハラの被害者として認定されたのは2人、6ケースでした。「医者を辞めろ」と怒鳴りつけたり、新規患者の担当や手術を行わせないようにしたり、学位論文の作成を意図的に妨害したりしたことなどがパワハラと認定されました。今年5月の処分は、この2人に対するパワハラが認定された結果として下されたものでした。しかし、処分前、調査の過程では3人の申し立てが検討されていました。それを知ったX氏が准教授とともに、学内調査で最終的に認定されなかったもう1人の医師を呼び出し、処分の撤回や嘆願書作成に協力するよう求めたというのです。この医師はその要請に応じず、一連のやり取りの証拠を大学に提出、それが2回目の処分につながったというのが真相のようです。同記事によれば、「(5月の)処分発表後、X氏は弁護士を通じて、裁判所に停職撤回の仮処分命令を申し立てた。しかし、審査の結果この申し立ては却下された」とのことです。有名ドキュメンタリー番組に登場の医師X氏は、関西地方の私立医大を卒業後、国立大学医学部の医局に入局。複数病院の勤務などを経て、40代で札幌医大の教授に就任しました。手術支援ロボットを駆使した手術で脚光を浴び、NHKや民放の有名なドキュメンタリー番組などでロボット手術のエキスパートとして取り上げられたこともあります。つまり、X氏は札幌医大にとってはまさにスター医師だったわけです。ただ、『財界さっぽろ』の記事は、「目立つ教授だけに最新機材を自分の科にどんどん導入し、他科とのパワーバランスが崩れるようなもこともあったようです」、「外部の人間には人当たりが良いが、就任当初からハラスメント気質があったようです」といった関係者の言葉を紹介しています。何年にもわたるパワハラの積み重ねが、被害者たちの怒りに火を付けるこの連載でも、「第104回 パワハラ事件に大甘の医療界、旭川医大、大津市民の幕引きの背後に感じた“バーター”の存在」、「第154回 日本はパワハラ、セクハラ、性犯罪に鈍感、寛容すぎる?WHO葛西氏解任が日本に迫る意識改造とは?(前編)」、「第227回 東京女子医大第三者委員会報告書を読む(後編)『“マイクロマネジメント”』と評された岩本氏が招いた『どん底のどん底』より深い“底”」などで、医療界におけるパワハラについて書いてきました。共通するのは、パワハラを行う人間は、1回、2回のパワハラが問題になるのではなく、何年にもわたるパワハラの積み重ねが、被害者たちの怒りに火を付け、内部告発などにつながっているという点です。それはあたかも、コップにポツリ、ポツリと溜まった水がある時点で満杯となって溢れ出すかのようです。パワハラを行う人の多くは相手の気持ちを慮ることをしないので、限界を超えてしまったことに気付きません。結果、告発された時はすでに手遅れ、ということになります。「第154回」でも書きましたが、欧米先進国では、パワハラやセクハラについては表沙汰になった(訴えられた、告発された)段階でほぼアウト、というのが常識です。そもそも複数の人間から告発された段階で、仕事の能力以前にその人の人間性やリーダシップに疑問符が付けられてしまいます。そうした意味では、札幌医大の教授も、兵庫県知事も、人の上に立つ人間ということでは、法律以前の問題としてすでにアウトと言えるのかもしれません。

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肺炎の診断の半数以上は後に変更される

 肺炎の診断を誤る医師は少なくないようだ。肺炎の診断について、初期診断と退院時の診断が一致していないケースは半数以上に上ることが、200万件以上の入院データの解析から明らかになった。これは、肺炎症例の半数以上で、肺炎の初期診断が誤診であり最終的に別の病気の診断が下されたか、あるいは初期診断時に肺炎が見逃されていたかのどちらかであることを意味する。米ユタ・ヘルス大学のBarbara Jones氏らによるこの研究結果は、「Annals of Internal Medicine」に8月6日掲載された。Jones氏は、「肺炎は、明確に診断できる疾患のように見えるかもしれないが、実際には、肺炎に似た他の病気と混同されて診断されているケースがかなりの割合を占める」と述べている。 今回の研究では、全米118カ所の退役軍人(VA)医療センターの238万3,899件の医療記録を用いて、救急外来(ED)から入院した患者の間で肺炎の初期診断と退院時の診断、および放射線学的診断が一致するかどうかを人工知能(AI)に解析させた。また、臨床メモに記された診断の不確実性や患者の疾患の重症度、治療内容、および転帰についても比較した。 その結果、全体の13.3%が初期診断または退院時に肺炎と診断され、肺炎の治療を受けていたことが明らかになった。このうち、9.1%は初期診断で肺炎、10.0%は退院時に肺炎と診断されていた。初期診断と退院時の診断の不一致度は57%に上った。また、初期の胸部画像で肺炎の兆候が認められ、退院時に肺炎と診断された患者のうち、33%は初期診断で肺炎と診断されていなかった。一方、肺炎の初期診断を受けた患者のうち、36%は退院時に肺炎と診断されておらず、21%は初期の胸部画像で肺炎の兆候が確認されていなかった。 臨床メモには、診断に対する不確実性に関する言及が随所で見られ、EDの診療メモでは58%、退院時の診療メモでは48%で不確実性について言及されていた。治療として、27%の患者が利尿薬、36%がコルチコステロイド、10%が抗菌薬、コルチコステロイド、および利尿薬を入院後24時間以内に投与されていた。さらに、初期診断と退院時の診断が一致していなかった患者では、臨床メモの中に不確実性に関する言及が多く見られ、追加の治療を受けることも多かったが、他の患者と比べて病状が特に悪化していたわけではなかった。初期診断と退院時の診断が一致した患者に比べて、診断が不一致だった患者のうち、初期診断で肺炎が見過ごされていた患者でのみ、30日死亡率が有意に上昇していた(10.6%対14.4%)。 こうした結果を受けてJones氏は、「医師も患者も、肺炎は診断が難しい疾患であることを肝に銘じ、柔軟に治療を進めるべきだ」と述べている。同氏はさらに、「患者も臨床医も回復に注意を払い、治療を施しても症状が軽快しない場合には、肺炎という診断に疑問を持つ必要がある」とユタ・ヘルス大学のニュースリリースで述べている。

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英語で「1日にタバコを何本吸いますか」は?【1分★医療英語】第146回

第146回 英語で「1日にタバコを何本吸いますか」は?《例文1》Do you use any tobacco products?(何かタバコ製品を使用していますか?)《例文2》Are you interested in quitting smoking?(禁煙に興味がありますか?)《解説》英語での「タバコ」。日本語同様に“tobacco”と言いたくなるかもしれませんが、“tobacco”はタバコの原料の葉そのものを指すことが一般的で、多くの人が使用している「紙で巻かれたタバコ製品」を指す単語は“cigarette”です。発音は「スィガレット」のような感じです。「タバコを吸いますか?」は“Do you smoke cigarettes?”といい、問診でよく使うフレーズです。また、“tobacco products”は、葉巻や自分で作る紙巻きタバコ、電子タバコなどを広く含む意味で使われることが多く、タバコ製品の使用について広く聞きたい場合は、“Do you use any tobacco products, such as e-cigarettes?”(電子タバコのようなタバコ製品を何か使用していますか?)という聞き方も有効です。なお、禁煙は「やめる」を意味する“quit”という単語を用いて、“quit smoking”といいます。講師紹介

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第208回 都市部での新規開業を制限、医師の偏在是正の対策案を発表/厚労省

<先週の動き>1.都市部での新規開業を制限、医師の偏在是正の対策案を発表/厚労省2.マイナ保険証の利用が低迷、医療機関への働きかけ強化へ/政府3.少子化の深刻化続く、2024年上半期の出生数が最少記録/厚労省4.75歳以上高齢者に2割負担導入で、医療費が3~6%減少/厚労省5.2022年度の体外受精児、過去最多の7.7万人に/日本産科婦人科学会6.独居高齢者の孤独死が2万8000人超に、2024年上半期/警察庁1.都市部での新規開業を制限、医師の偏在是正の対策案を発表/厚労省厚生労働省は、8月30日に地域ごとの医師の偏在を是正するための総合対策を発表した。医師が多い都市部での新規開業を抑制するため、法令改正を含む一連の措置を検討しており、都道府県知事の権限を強化する予定。武見 敬三厚生労働大臣は30日の記者会見で、医師の偏在を是正するため、省内に「医師偏在対策推進本部」を設置、9月には初会合を開くことを発表した。具体的には、新規開業希望者に対して、救急医療や在宅医療などの地域で不足している医療サービスを提供するよう要請する法的枠組みを整え、開業を事実上制限することが柱となっている。さらに、地方の医療機関への財政支援を強化し、医師不足地域への医師派遣を推進するためのマッチング支援を行うことが検討されている。これには、医師が少ない地域での勤務経験を管理者要件とする医療機関の拡大、大学医学部卒業後地元で働くことを条件に医学部入学を認める「地域枠」の再配置も含まれる。厚労省内では、部局横断の推進本部が新設され、年末までに具体的な対策パッケージがまとめられる予定。また、この対策は「近未来健康活躍社会戦略」の一環として、国民皆保険の維持や医療・介護産業の発展を目指している。今後、25年度予算案への反映や通常国会での法改正も視野に入れ、医師の偏在是正に向けた取り組みが本格化する見通し。参考1)武見大臣会見概要[令和6年8月30日](厚労省)2)今後の医師偏在対策について(同)3)近未来健康活躍社会戦略(同)4)医師偏在是正へ開業抑制、都道府県の権限強化 厚労省案(日経新聞)5)医師多い地域で開業抑制、厚労省が偏在是正へ対策骨子案 地方医療機関へ財政支援強化(産経新聞)6)医師偏在是正「多数区域」の知事権限強化など 厚労省が対策具体案、年末までに具体化(CB news)2.マイナ保険証の利用が低迷、医療機関への働きかけ強化へ/政府厚生労働省は、8月30日に社会保障審議会医療保険部会を開き、「マイナ保険証」の利用促進策について検討した。2024年7月時点でのマイナ保険証の利用率は11.13%と低迷し、政府が掲げる現行健康保険証の12月廃止に向けた利用促進には課題が残っていることが明らかになった。とくに利用率が低い医療機関や薬局に対しては、厚労省が地方厚生局を通じて個別に事情を確認し、利用促進を図るための支援を行う方針を明らかにした。厚労省は「消極的な利用は療養担当規則違反の恐れがある」としているが、医療機関側からは威圧的との批判も寄せられている。政府はマイナ保険証の利用率を引き上げるため、医療機関に対して一時金の支給や補助金の期間延長などのインセンティブを提供してきたが、利用率については最高の富山県で18.0%、最下位の沖縄県で4.75%と依然として利用率が伸び悩んでいる状況。今後、政府は利用促進策をさらに強化し、国民の不安を解消するための広報活動にも力を入れる予定。さらに総務省と厚労省は、マイナンバーカードの利用拡大を図るための一連の新対策として、マイナンバーカードの暗証番号をコンビニエンスストアやスーパーで再設定できるサービスを開始し、従来の自治体窓口に出向く必要をなくした。変更にはスマートフォンの専用アプリを使用して事前手続きを行い、イオングループの店舗やセブン-イレブンの一部店舗内のマルチコピー機端末で再設定が可能となり、今後さらに広がる予定。マイナンバーカードの普及と利用促進に向けた政府の取り組みが進んでいるが、現場の課題や地域差が浮き彫りになっており、さらなる対策が求められている。参考1)マイナ保険証の利用促進等について(厚労省)2)マイナ保険証 利用率低い医療機関や薬局に聞き取りへ 厚労省(NHK)3)マイナ保険証利用増へ追加策 厚労省、個別に働きかけ(日経新聞)4)マイナ保険証、利用実績低い施設に働き掛けへ 7月の利用率11.13%、新たな利用促進策(CB news)3.少子化の深刻化続く、2024年上半期の出生数が最少記録/厚労省厚生労働省が発表した2024年1~6月の人口動態統計(速報値)によると、出生数は前年同期比5.7%減の35万74人で、1969年の統計開始以来、上半期として最少を更新した。この減少は、少子化の深刻さを浮き彫りにしている。前年同期比で約2万人の減少がみられ、これで3年連続して40万人を下回る結果となった。また、2014年と比べると出生数は約3割減少しており、長期的な低下傾向が続いている。加えて、2024年の年間出生数が70万人を下回る可能性が高まっており、少子化対策の重要性が一層強調されている。婚姻数は、前年同期比で若干の増加がみられたが、新型コロナウイルス感染症の影響による晩婚化や晩産化が、今後の出生数減少に拍車をかける可能性がある。厚労省は、若い世代の減少や晩婚化により、出生数が今後も中長期的に減少する可能性が高いとし、少子化対策は待ったなしの危機的状況であると強調する。政府は、児童手当の拡充などの対策を進めているが、これまでの施策だけでは減少を食い止められていない状況。参考1)人口動態統計速報(令和6年6月分)(厚労省)2)上半期の出生数速報値で35万人余 統計開始以来最少に(NHK)3)1~6月の出生数は35万74人、上半期で過去最少 厚労省統計(朝日新聞)4)出生数1~6月最少、5.7%減の35万人 年70万人割れの恐れ(日経新聞)4.75歳以上高齢者に2割負担導入で、医療費が3~6%減少/厚労省厚生労働省は、8月30日に社会保障審議会医療保険部会を開き、一定の所得がある75歳以上の高齢者の窓口負担割合を、2022年10月から医療費の窓口負担を1割から2割に引き上げられた影響で、1人当たりの1ヵ月の医療費が3~6%減少したことが明らかにした。この調査は、2割負担の高齢者と1割負担のままの高齢者の診療報酬データを比較して行われ、医療サービスの利用が減少したことが確認された。とくに、糖尿病や脂質異常症などの一部の疾病で外来利用が顕著に減少しており、負担増が受診控えに繋がった可能性が示唆されている。厚労省が行った厚労科学研究の結果、負担増に伴う「駆け込み需要」も一部でみられたことが報告された。調査では、2割負担への移行後に医療サービスの利用日数が約2%減少し、医療サービス全体の利用が約1%減少したことが確認された。これにより、高齢者の医療費総額が減少し、特定の疾病での外来受診が減る傾向がみられた。一方、負担増が高齢者の健康にどのような影響を与えているかについては、さらに詳しい調査が必要とされ、社会保障審議会委員からも健康影響の検証を求める声が上がっている。今後、厚労省は、この調査結果を基に、後期高齢者医療制度の窓口負担割合の見直しを検討する方針。この調査結果は、高齢者の医療費負担増が医療サービスの利用にどのような影響を及ぼしているかを理解する上で重要な資料となり、これからの政策立案に役立てられることが期待されている。参考1)後期高齢者医療の窓口負担割合の見直しの影響について(厚労省)2)受診控えで医療費3~6%減 窓口負担1割→2割に増の75歳以上 厚労省調査(産経新聞)3)75歳以上で窓口負担2割、1ヵ月の医療費3%減少 1割負担者と比べ 厚労科研で検証(CB news)5.2022年度の体外受精児、過去最多の7.7万人に/日本産科婦人科学会日本産科婦人科学会が、2024年8月30日に発表した調査結果によると、2022年に国内で実施された不妊治療の一環である体外受精によって誕生した子供は、過去最多の7万7,206人に達した。これは、前年よりも7,409人増加し、全出生数の約10人に1人が体外受精で生まれたことを意味している。2022年の総出生数は約77万人であり、体外受精による出生がこれまでで最も多くなったことが確認された。体外受精の治療件数も過去最多の54万3,630件に上り、前年から4万5,000件以上増加した。とくに42歳の女性での治療件数が突出して多く、4万6,095件に達した。これは、2022年4月から体外受精に対する公的医療保険の適用が始まり、費用面でのハードルが下がったことが大きく影響したと考えられている。保険適用の対象は43歳未満の女性であるため、この年齢までに治療を行いたいと考える人が増加したとされている。また、体外受精の治療件数は2021年の約50万件からさらに増加し、前年の45万件台の横ばい傾向から再び上昇に転じた。この増加傾向は、2021年に続く大規模なもので、新型コロナウイルス感染症の影響による一時的な減少を除けば、近年は一貫して増加していることが示されている。その一方で、適齢期の女性の人口が減少していることから、今後もこの増加傾向が続くかどうかは不透明であり、専門家からは、医療保険適用による一時的な増加が影響している可能性が高く、今後の動向については引き続き注視が必要だとしている。参考1)2022年体外受精・胚移植等の臨床実施成績(日本産科婦人科学会)2)22年の体外受精児、10人に1人で過去最多 識者「保険適用でハードル下がった」(産経新聞)3)体外受精児、最多7.7万人 22年、10人に1人の割合(日経新聞)4)2022年に国内で実施の体外受精で生まれた子ども 年間で最多に(NHK)6.独居高齢者の孤独死が2万8,000人超に、2024年上半期/警察庁警察庁は、2024年上半期(1~6月)に全国で自宅死亡した独居高齢者(65歳)が2万8,330人に達したことを初めて発表した。これは、同期間に全国の警察が取り扱った自宅で死亡した1人暮らしの人が、全国で3万7,227人(暫定値)いた中の約76.1%を占めている。この統計は、政府が進める「孤独死・孤立死」の実態把握の一環として行われ、今後の対策の議論に活用される予定。この中で孤独死は、85歳以上の高齢者が7,498人と最も多く、次いで75~79歳の5,920人、70~74歳の5,635人と、高齢者の孤独死が顕著だった。また、男女別では男性が2万5,630人、女性が1万1,578人と、男性の方が圧倒的に多い傾向がみられた。地域別では東京(4,786人)が最も多く、続いて大阪、神奈川といった都市部での高齢者の孤独死が目立っている。さらに、死亡から警察が認知するまでの期間が1日以内のケースが全体の約4割に当たる1万4,775人であった一方で、15日以上経過したケースも19.3%に達し、孤立した生活の中で発見が遅れる事例が少なくないことが浮き彫りとなった。政府は昨年8月から「孤独死・孤立死」の問題に対応するためのワーキンググループを設置し、今年4月には「孤独・孤立対策推進法」が施行された。この統計結果は、今後の政策立案や社会支援の強化に向けた貴重な資料として活用されることが期待されている。参考1)令和6年上半期(1~6月分)(暫定値)における死体取扱状況(警察取扱死体のうち、自宅において死亡した一人暮らしの者)について(警察庁)2)独居高齢者、今年上半期に2万8,000人が死亡 7,000人超が85歳以上 警察庁まとめ(産経新聞)3)高齢者の「孤独死」、今年1~6月で2万8,330人…警察庁が初めて集計(読売新聞)4)高齢者の「孤独死」、半年で2万8千人 死後1ヵ月以上経ち把握も(朝日新聞)

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英語で「オブラートに包む」は?【1分★医療英語】第145回

第145回 英語で「オブラートに包む」は?《例文1》I did not sugarcoat anything when I obtained informed consent.(インフォームドコンセントを得た際には、まったくオブラートに包まず話しました)《例文2》I will be always honest with you.(私は、常にあなたに対して正直に接します)《解説》医療現場では、患者に対してがん診断などの重大な告知をすることがあります。その状況でよく使われる日本語の表現に「オブラートに包んで話す」があります。この表現を英語に訳すのは難しいと思われるかもしれませんが、実は適切な類似語があり、感覚的にはほぼ直訳することが可能です。“sugarcoat”という英語表現は、「砂糖で物質の表面をコーティングする」ことを意味し、苦い薬を飲みやすくするために使用される動詞です。そのため、“sugarcoat”は「受け入れ難い内容を、直接的でない言い方で伝える」という意味もあります。一方、オブラートはゼラチン質の薄い膜で、苦い薬を包んで飲みやすくするために使われることから、日本語の「オブラートに包む」という表現の由来となっています。単語自体は異なりますが、その由来は驚くほど類似しています。ほかの類似表現としては、“be honest with someone”があります。直訳すると、「相手に対して正直である」という意味です。講師紹介

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第225回 令和のカネミ油症事件、小林製薬に創業家を斬る覚悟はあるのか?

紅麹サプリでの健康被害が報告された小林製薬が4ヵ月ぶりに開催した記者会見。会見で明らかにされた8月4日時点での健康被害状況は、死亡に関連して詳細調査対象となった事例が107件。その内訳は調査完了21件、調査継続中が32件、詳細調査の同意取得ができないなどで調査困難なケースが54件。そのほかに入院が467件、検査入院を含む通院が1,819件。今回も前回に続き、小林製薬の記者会見での質疑応答から感じたことをお伝えしたい。あの事件を彷彿とさせる健康被害会見の質疑では、調査完了21件について「(サプリ摂取との)関係性があり/なしのどちらとも言えないというレベルのものも含まれる」(同社執行役員/信頼性保証本部本部長・渡邊 純氏)とのことだった。これらがすべて小林製薬の紅麹サプリが原因と仮定した場合、製造過程での過失を原因とした食品健康被害事件としては、1968年に発覚したPCB(ポリ塩化ビフェニル)が混入した米ぬか油による健康被害「カネミ油症事件」(2024年3月末の累計認定患者2,377人)に匹敵する事案となる。会見で同社は健康被害を訴えた消費者に対しては、医師の診断書内容などを総合的に勘案し、相応の因果関係が認められれば、医療費・交通費、慰謝料、休業補償、後遺障害による逸失利益も含めて補償する方針を説明した。摂取により死亡が疑われる事例に関しては別途対応するという。すでに原因究明は厚生労働省と国立医薬品食品衛生研究所に委ねられているため、補償認定をどのように行うかも会見で質問が出たが、「最後の判断は当社でやっていく。社内の薬剤師も含めて会議体を設定し、医師、弁護士など知見に富んだ外部有識者の監修による(判定)基準を策定している。ただ、それでも判断が難しい部分もあり、CROを通じた主治医の詳細調査、その結果に対する(監修)医師の解釈も踏まえ、間違いないかの判断を突き詰めてやっていきたい」(同社執行役員/補償対応本部本部長・佐藤 圭氏)とのことだ。会見は同社側の説明が39分超、そこから会場、オンラインそれぞれからの参加記者との質疑に入った。前回書いたように、開始前に広報・IR部の担当者から「1人2問まで」との情報を得ていたので、私の中で優先順位が高いと考えた2問に絞り込み、質問の挙手を続けた。私が指名されたのは質疑開始から41分過ぎ、最初の質問者から8番目だった。私が用意した質問は、以前、本連載でも触れた同社の事実検証委員会報告書で感じた疑問だった。質疑応答その1:調査の遅さ、所轄官庁への相談の有無【村上】健康被害の公表と製品回収の基準について、社内でいろいろ検討されて特定保健用食品の基準を援用されたようですが、規制の多いヘルスケア業界では、判断が悩ましい場合は所轄官庁に問い合わせるのが一般的だと思います。今回の件で事前の所轄官庁への問い合わせの有無、あった場合はどのような回答を得ていたのか、ない場合はなぜ問い合わせなかったのかを教えていただきたいと思います。【渡辺】監督官庁の方へのご相談はこの時に行っておりません。今思えばですが、われわれの中で自ら考え、こういった方向性で考えられるというか、物事を捉えることができるんじゃないかと少し内向き、自分たちで解決しようとする意識が強すぎたと反省しております。今であれば監督官庁にご相談に行き、前向きにやることが必要であると理解しております。【村上】事実検証委員会の調査報告書を見ると、2月5日に信頼性保証本部で健康被害の原因についてシトリニン説、モナコリンK説、コンタミネーション説の3つを検証する方針を決定していますが、原因特定、3つの仮説の絞り込みのためには症例を報告した医師からのヒアリングが非常に重要だと思われます。しかし、御社では医師に連絡を取ったのは2月5日のかなり後で、わざわざ御社から月末の面談候補日を医師に提示しています。これがなぜだったのかをお伺いしたいんですが。【渡辺】確かにおっしゃる通りで、それぞれの患者様に起こっていることは、その主治医が一番わかっておりますので、速やかにその情報を取ることが必要であったと今は感じております。この時は、その点が十分に速やかにできていなかったことは現在、反省するところでございます。面談候補日をわざわざ月末に設定した件は、準備に一定の時間がかかったためと私は理解していますが、細かな理由は、今、確認が取れておりません。この回答を得ても私が前述の事実検証委員会に関する記事を執筆した時に書いた「過度な悪意はない危機感の欠如」との印象は変わらないどころか、むしろ確信に近いものにすら感じた。質疑応答その2:青カビに対する問題意識について小林製薬が公表した事実検証委員会の調査報告書の中で、多くの人が驚いたであろうと思われるのが、紅麹原料の培養タンクの蓋内側に青カビが付着していたことを確認した同社旧大阪工場の現場担当者が、その事実を品質管理担当者に伝えたところ「青カビはある程度は混じることがある」旨を告げられたという点だ。この点についての直接的な質疑応答は2回あった。【記者】現場が青カビを認識していながら問題視しなかったという証言は、いつ頃のことだったのでしょうか?【山下】大変申し訳ございませんが、本日時点ではいつのことであったかという詳細はまだ判明しておりませんので、お答えできない状況でございます。【記者】青カビの件ですが、健康被害の訴えがあってから事実を公表した3月22日まで製造現場を積極的に調べていれば、もっと早くわかった可能性もあると思いますが。【山下】初期段階の原因究明でシトリニン、モナコリンK、コンタミネーションを疑いましたが、その時点で製造記録や品質管理担当者への確認の結果、過去と大きな変化はなかったという事実だけを受け止め、そこを信じてしまったことが問題だったと考えております。青カビの件の質問がこれだけに留まった背景には会見の時間制限に加え、記者側も呆れを通り越しているのではと思われた。創業家を排除する覚悟があるような、ないようなそして今回、最も質問が多かったのが、今後の経営体制と創業家である小林家との関係だった。今回の記者向け配布資料の中で私が一番驚いたのは「経営体制の抜本的改革」との項目で「同質性の排除」と明記していた点だ。小林製薬が同族企業である以上、同質性の排除とは率直に読めば、創業家中心の雰囲気を打破するということになる。しかし、「排除」という言葉はあまりにも意味、語感ともに強すぎる。このため「同質性の排除」は同族企業特有の社風を排除することと別の意味で使っているのかと思っていたが、そうではなかった。前回、山根氏が会見冒頭で述べた「他者を慮る想像力を見失っていた、弱くしてしまっていた」について「なぜ弱くしてしまっていたのか?」と質疑で問われた際の理由の1つにこの同質性を挙げ次のように語った。「やはり同質性の問題があったと思います。われわれは創業家中心の同族会社で同質性は良い時は一枚岩で強く回りますが、悪い時は負の方向に回ります。これが想像力の弱体化と連動し、今回の事態を招いたのではないかと思います」山根氏自身は1983年入社の生え抜きだが、私の印象では冒頭の謝罪の弁も質疑応答も用意された原稿を読むわけでもなく、本人なりの言葉で話していた印象がある。その中で「同質性の排除」もかなりの覚悟で盛り込んだのだろうと感じたが、同時に創業家に関する質問では、ある意味揺れ動いていると感じられる部分もあった。とりわけ今回代表取締役会長を辞任し、特別顧問に就任した一雅氏について記者から問われた際がそうだ。ちなみに一雅氏の特別顧問報酬が月額200万円であることが明らかになり、世間の批判の的にもなっている。以下、関連質疑応答を紹介する(複数の記者とのやり取りを抜粋)。質疑応答その3:特別顧問の一雅氏、報酬が月額200万円について【記者】先日、経済同友会の新浪 剛史代表幹事が、“これだけ社会に迷惑をかけた会社で前会長が月収200万円の特別顧問に就任し、小林前社長が取締役で残留する甘い体制を是とした理由を説明すべきだ”と公に発言しています。【山根】ご批判は承知しています。新浪さんのコメントを読み、正直自分も恥ずかしかったし、ショックでした。一雅氏が辞任意向を示した際に特別顧問として事業に貢献したいと申し出がありました。新製品開発、マーケティングで当社に貢献されたのは事実で、われわれの気付かない着眼点などもあり、それを与えていただく前提で取締役会は合意しました。【記者】創業家は今もまだ大株主である以上、無視することは困難です。先ほど創業家に忖度しないとの発言がありましたが、そう言い切れる根拠をご説明ください。【山根】大株主の考え方にわれわれが耳を傾けるのは当然ですが、われわれの考え、あるべき姿や方向に基づき主張すべきは主張し、皆さんが納得する良いアイデアが(創業家から)あったら受け入れる。是々非々の姿勢を貫きたいと私は思っています。【記者】一雅氏が特別顧問として関わりたいと申し出たから特別顧問としたとの説明自体が既に忖度しているとの解釈もあると思います。【山根】当然そう思われる方もいるでしょう。一方でわれわれはこれからもメーカーとしてさまざまなアイデア・事業を作っていくわけで、この点で知見があるならば生かすことが会社にとっても意味があることじゃないかと思い、取締役会では決断しました。【記者】再発防止に注力しなければならない中、新製品やマーケティングに対する知見があるから力を貸して欲しいというのは拙速と受け止められかねませんが。【山根】そこはやはり先ほど触れましたが、品質・安全に対する今までの考え方はわれわれがさらに強くしなければならないと思いますので、そのフィルターの上に新しいアイデア・知見をどう構築するかが今後求められます。これはもう新体制で判断するのがわれわれの権利ですから、何でも採用するという判断は一切いたしません。【記者】3月、今回の会見共に小林前会長がいらっしゃらない理由を教えてください。【山根】3月の会見は執行サイドのトップである社長が出るという判断だったと思います。今回、本人はもう辞任済みで同席できなかったのだと思います。【記者】辞任しても特別顧問として残られますし、山根社長がおっしゃった同質性の問題にも深く関わってる方です。何らかの説明責任はあると思いますが。【山根】これも本人にそれをどう決断していただくかも当然あると思います。私は1つの考えとしては説明責任を果たすべきだと思います。【記者】一雅氏の特別顧問の月額報酬が200万円は適切とお考えですか?【山根】捉え方はさまざまあると思います。この額は本人より提示のあったもので、取締役会で議論して、合意しました。先ほど少しも触れましたが、われわれにない視点やアイデアを提供していただく前提でこの金額で合意したものです。何度も申し上げますが、われわれの顧問でありますから助言があったとしても、われわれは是々非々で判断し、すべて言いなりになるわけではありません。同社関係者をして“天皇”とも呼ばれ、山根氏の入社時点で社長の任にあった一雅氏のことについては、どうしても奥歯にものが挟まった言い方になるのだろう。そして会見中、ある関西ローカル局の記者が「この問題について質問のため電話をしても、電話での質問は一切答えられませんと言われ、広報部長さんにも何度も電話しても、1回も折り返しがありません。正しい報道をしたいという私達の考えと相いれない。改善してほしい」との発言まであった。ちなみに私個人は2度電話で問い合わせ、いずれも回答をもらえているので「?」と思ってしまった。答えようのない質問だったのかもしれないが、「1回も折り返しがない」は対応としていかがなものだろう? この時は会見前の控室での出来事が頭に浮かんでしまった。これも強力な創業家によって運営されてきた社風の一端だろうか? 同社の改革とは絶壁を切り崩すかのごとき難易度に思えてしまう。

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ADHDや境界性パーソナリティ障害に対するシンバイオティクスの有効性〜basket試験

 注意欠如多動症(ADHD)およびまたは境界性パーソナリティ障害(BPD)の患者では、易怒性により予後が悪化し、死亡率上昇を来す可能性がある。しかし、その治療選択肢は、不十分である。近年、プロバイオティクスとプレバイオティクスを組み合わせたシンバイオティクスは、医療のさまざまな領域で注目されている。スペイン・Hospital Universitari Vall dHebronのGara Arteaga-Henriquez氏らは、ADHDまたはBPD患者の易怒性レベルに対するシンバイオティスクの有効性を評価するため、ランダム化二重盲検プラセボ対照試験を実施した。Brain, Behavior, and Immunity誌2024年8月号の報告。 本試験は、2019年2月〜2020年10月、ハンガリー、スペイン、ドイツの臨床センター3施設で実施した。対象は、ADHDおよびまたはBPDと診断され、易怒性レベルの高い18〜65歳の患者。易怒性レベルが高い患者の定義は、Affectivity Reactivity Index(ARI-S)5以上かつ臨床全般印象度-重症度(CGI-S)スコア4以上とした。対象患者は、シンバイオティクス群とプラセボ群にランダムに割り付けられ、10週間連続で毎日投与を行った。主要アウトカムは、治療終了時の治療反応とした。治療反応の定義は、ベースライン時と比較し10週目のARI-Sスコア30%以上減少かつ臨床全般印象度-改善度(CGI-I)総スコアが3未満(very muchまたはmuch)とした。両群間の副次的アウトカムの治療差および安全性も評価した。 主な結果は以下のとおり。・対象患者231例中180例がランダム化され(シンバイオティクス群:90例、プラセボ群:90例)、ITT分析に含めた。・分析対象患者のうち、女性は117例(65%)、平均年齢は38歳、ADHD診断患者は113例(63%)、BPD診断患者は44例(24%)、ADHDとBPDの両方の診断患者は23例(13%)であった。・シンバイオティクスの忍容性は良好であった。・シンバイオティクス群における10週目の治療反応率は、プラセボ群と比較し、有意に高かった(OR:0.2、95%信頼区間[CI]:0.1〜0.7、p=0.01)。・シンバイオティクス(併用)療法は、ADHDおよびまたはBPDの成人患者において、臨床的に意味のある易怒性の改善と関連している可能性が示唆された。・シンバイオティクスは、プラセボと比較し、さまざまな副次的アウトカムのマネジメントにおいて優れていた。【感情調節障害】−3.6、95%CI:−6.8〜−0.3、p=0.03【感情症状】−0.6、95%CI:−1.2〜−0.05、p=0.03【不注意】−1.8、95%CI:−3.2〜−0.4、p=0.01【機能】−2.7、95%CI:−5.2〜−0.2、p=0.03【知覚ストレスレベル】−0.6、95%CI:−1.2〜−0.05、p=0.03・シンバイオティクス群では、ベースライン時のRANKLタンパク質レベルが高い場合、治療反応率の低下が認められた(OR:0.1、95%CI:−4.3〜−0.3、p=0.02)。・プラセボ群では、ベースライン時のIL-17Aレベルが高い場合、とくに感情調節障害の改善度が有意に上昇しており(p=0.04)、新規標的の薬物療法介入の可能性が示唆された。 著者らは「シンバイオティクスによる治療は、成人のADHDやBPD患者の易怒性改善に有効である可能性が示唆された。これらの結果を確認するためにも、より大規模なプロスペクティブ研究が求められる」としている。

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英語で「代わりに来ました」は?【1分★医療英語】第144回

第144回 英語で「代わりに来ました」は?《例文1》Good morning, my name is Dr. Smith. I came to see you on behalf of Dr. Yamada while he's away at a conference. How can I assist you today?(おはようございます。スミスと申します。山田医師が学会に出席しているので、代わりに診察に来ました。本日はどうされましたか?)《例文2》Dr. Johnson is here on behalf of Dr. Tanaka to discuss your test results.(ジョンソン先生が田中先生の代わりにあなたの検査結果についてお話しします)《解説》“on behalf of”は、「ほかの医師の代わりに診察を行う」際に使用できる丁寧な表現です。“on behalf of”は「〜の代わりに」「〜を代表して」という意味を持ち、比較的フォーマルな場面で使用されます。この表現は、ビジネスや法律の分野でも頻繁に使用されますが、医療現場においても適切な表現だといえるでしょう。「代表して」というニュアンスがあるので、たとえば、“I would like to thank you on behalf of my team.”(チームを代表して、私がお礼を申し上げたいです)といったようにも使えます。医療現場では急な代診や担当医の変更など、予期せぬ状況が発生することがあります。そのような場面で“on behalf of”を使用することで、専門的かつ丁寧に状況を説明することができます。なお、このような代診のシチュエーションでは、以前に扱った“fill in for”も“I'm filling in for Dr. Yamada today.”のように使えますので、そちらのフレーズとセットで覚えておいていただくとよいでしょう。講師紹介

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英語で「やることがたくさんある」は?【1分★医療英語】第143回

第143回 英語で「やることがたくさんある」は?《例文1》She has a bunch of stuff to do before the appointment.(彼女は予約の前にたくさんの用事をこなさなければなりません)《例文2》We have a bunch of patients to see this morning.(今朝は多くの患者さんを診察する予定です)《解説》“I have a bunch of stuff to do.”は、「やることがたくさんあります」という意味を表す口語的な表現です。ここで登場した“bunch”と“stuff”という単語、あまり聞き慣れない方も多いかもしれません。まず、“bunch”は本来、「束」や「房」を意味する単語ですが、口語においては「たくさんの」という意味で使われることがあります。たとえば、“a bunch of grapes”といえば「ブドウの房」となりますが、そこから転じて「複数の物事や人を1つのグループ(房)」として表現する際に“a bunch of”が使用できるのです。“a lot of”よりもカジュアルで、話し言葉らしい印象を与えます。次に、“stuff”は非常に汎用性の高い単語で、具体的に名前を挙げたり特定したりしない「物事」を指す際に使われます。「仕事」「タスク」「モノ」など、あらゆるものを“stuff”で表現できるため、日常会話でよく使用されます。“I have a bunch of stuff to do.”は、自分の忙しさを簡潔に伝える際に役立ちます。たとえば、ストレスや時間の管理に関する話題の中で「やらなきゃいけないことがいっぱいあってさ…」といったトーンで頻用されます。ただし、あくまで口語表現なので、よりかしこまったメールの文面や診療記録などで使うのは不適切です。このような口語表現を適切に理解し、状況に応じて使い分けることで、コミュニケーションがより円滑になります。“A lot of things”の代わりになる表現として頭に入れておけば、ネイティブの口から聞くことがあってもびっくりせずに済むでしょう。講師紹介

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第223回 院内処方は例外?腑に落ちない「医薬品の自己負担の新たな仕組み」

酷暑が続く最中だが、秋に向けてさまざまな動きがスタートしている。医療界では10月から、患者の希望に基づくジェネリック(GE)医薬品のある先発医薬品(長期収載品)の処方は選定療養となり、新たに自己負担が生じることになる。すでに厚生労働省は特設ページまで用意している。国民に新たな負担を強いるわけだから、この対応自体は一定の評価はできると個人的に考えている。さてこのページを見ていて、ちょっと気になったことがあった。それは「長期収載品の処方等又は調剤の取扱いに関する疑義解釈資料の送付について(その1)」という事務連絡通知だ。余計なことを言えば、「その1」があるならば、「その2」はいつ出るのだろうとも考えているが…。私がこの通知の中で気になったのが以下の疑義解釈である。【院内処方その他の処方について】問7 院内採用品に後発医薬品がない場合は、「後発医薬品を提供することが困難な場合」に該当すると考えて保険給付してよいか。(答)患者が後発医薬品を選択することが出来ないため、従来通りの保険給付として差し支えない。なお、後発医薬品の使用促進は重要であり、外来後発医薬品使用体制加算等を設けているところ、後発医薬品も院内処方できるようにすることが望ましい。「は?」という感想しかない。念のために言っておくと、私は原則的に医薬分業を推進すべきだと思いつつ、過渡的に院内処方はありだと思っている。しかしだ、さすがにこれはないだろうと思ってしまった。まず、国が医薬分業推進とジェネリック品(私の表記はこれで統一、以下GE品)の使用促進を謳っている中で、院内処方にこだわるならば、せめてGE品も院内在庫として有するのが筋というもの。こういうと、「GE品は先発品とは医薬品添加剤などが異なるから実質的に異なるもの」という主張が出てくる。医薬品添加剤などが異なるは、その通りである。しかしながら、GE品は長期収載品との同等性試験のデータを提出して承認されるものである。実は私は会社員として専門紙記者をやっていた頃、この生物学的同等性試験(以下、同等性試験)を受けようとしたことがある。やや余談になるが、その時の話をまず記述したいと思う。同等性試験に参加したワケ当時の私は、所属していた媒体でインフォームド・コンセント(IC)に関する連載を担当しており、臨床試験でのICの実態を体験したいと考えていた。私の友人にはGE品の同等性試験を経験した人がおり、そこから試験申し込みの情報は得ていた。とはいえ、会社員の身で事実上の潜入取材となるため、直属の上司は編集局長の許可がいると言い出し、最終判断は局長一任となり却下された。だが、その直後、直属の上司が社内異動となり、社内の他媒体の編集長が私の媒体の兼任となった。私はこの間隙を縫って、兼任編集長に次ぐ、記者でもある主任に再度掛け合った。主任は私の申し出に腕組みして考えた後、「友人に迷惑かけんなよ。それと試験手前で離脱できるならしろ。その条件で認める。後は俺が責任を取る」と言ってくれた。私は友人から教えられた電話番号に連絡し、事前の採血や健康診断を受け、さらに臨床試験のICも受けた。率直に言って、この時受けたICは、臨床試験に際して求められる項目がかなり抜け落ちたものだった。結局、私は試験開始前に離脱を表明し、最終的にその状況を記事にしたのだった。記事が出た当初、社内で問題になることはなかったが(そもそも局長が社内媒体すべてには目を通していなかった)、しばらくして大問題となった。社内の広告営業部門の幹部が飛んできて「えらいことをしてくれた」と言うのだ。曰く、私と同期入社である営業担当社員が半年ほど、臨床試験受託会社の業界団体加盟社すべてから営業訪問を拒否されているとのこと。長らくその理由も明らかにされなかったが、この同期社員が「なぜ会ってもいただけないんですか?」とある会社に食い下がったところ、私の記事のコピーを差し出されたという。私が離脱した同等性試験を受託していたのは、この業界団体の加盟社だった。結局、同期の営業社員は年間で営業成績が数百万円の落ち込みとなってしまった。彼には直接詫びたが、彼は「まあ、うちら専門紙がやるかという問題はあるけど、(記事は)必要だったと思うよ」と精一杯の“やせ我慢”(と私は思っている)で応えてくれた。私が属していた会社は、いわゆる業界紙という区分にもなる専門紙だったが、私以外にもこうした誤報ではないが、読者でもあり広告出稿者の癇に障る記事を書いて、一時出稿停止になることは珍しくなかった。ちなみに私の退職時の送別会に出席した前述の営業部門幹部から、私の記事が原因で飛んだ7年間の広告料概算総額を聞かされた時は正直血の気が引いたものである。同等性試験の参加者は過酷さて同等性試験に話を戻そう。私は事前に友人が受けた同等性試験の様子は聞いていたが、それはある意味壮絶なものだった。友人の証言に基づくと、彼が受けた同等性試験では最初の6時間は1時間おき、その後は丸2日間にわたって3時間おきに採血が行われたという。これは服用薬の血中濃度測定のためだ。この頻回な採血により、後半になると採血用の注射針を刺した直後に失神する被験者もいたという。いずれにせよ、そうした犠牲を払って行われた同等性試験の結果が正しいという前提に立てば、「GE品は先発品と異なる」との主張はあまり適当ではないと思われる。確かに昨今のGE企業の相次ぐ不祥事もあるが、それでGE品を丸々否定するのはやや度が過ぎていると感じる。そのような中で、今回示された疑義解釈に沿えば、院内処方の医療機関でGE品を在庫していないというだけで選定療養の対象外とするのは、さすがに国の方針としてやや甘過ぎないだろうか? そしてこの解釈を利用すれば、院内処方を行う医療機関と医学的な必要性もなく長期収載品の処方を望む患者が手を組めば、事実上不正な処方も行えることにほかならない。院内処方はたかだか20%なのだから固いこと言うなとの意見もあるかもしれない。しかし、そもそもこの解釈そのものが今回の制度改正の主旨であるGE品の使用促進に伴う国の薬剤費負担を軽減することにすら反する。現行の制度や世の中を取り巻く環境を考えるならば、院内処方をする医療機関はそれ相当の矜持を有するべきであり、国もそれ相応の対応を取るべきである。しかし、この解釈に対しては、少なくとも私は場当たりな印象しかない。最後に申し添えておくと、ときどき保険薬局の薬剤師からは「院内処方をしている医療機関から時に在庫確保が困難だからとかの理由で処方箋が出されることがある」との話はよく耳にする。現在の医薬品供給不足で、在庫確保の困難さは薬局も同じこと。大きなお世話と言われようが、そこは互いに思いやりが必要ではと思ってしまう。

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英語で「腰椎穿刺」は?【1分★医療英語】第142回

第142回 英語で「腰椎穿刺」は?《例文》医師AHow did the spinal tap go?(腰椎穿刺はうまくいきましたか?)医師BI was able to do it on the first attempt.(1回目のトライで成功しました)《解説》今回は「腰椎穿刺」という医療単語を解説します。「腰椎穿刺」を医療用語では“lumbar puncture”といいます。日本でも腰椎穿刺を「ルンバール」とカタカナで表現することがあるかと思いますが、これはドイツ語由来の言葉です。ほかにも日本で当たり前に使われている医療のカタカナ用語は、ドイツ語由来のものが多くあります。たとえば「マーゲンチューブ(胃管)」という用語も、元になっているのはドイツ語です。英語では“G-tube”(Gチューブ)と呼ばれ、こちらは“Gastric”(胃の)の“G”から来ています。英語話者の患者さんの場合、単に“lumbar”(ルンバール)と言ってもまったく伝わりませんので注意が必要です。“lumbar puncture”まで言えばだいたいは伝わりますが、今度はやや仰々しい印象になってしまいます。そこで、医療者間での会話や患者さんに説明するときなどによく使われるのが、“spinal tap”という表現です。“tap”は名詞でいろいろな意味がありますが、そのうちの1つに“the procedure of removing fluid”(液体を取り除く手技)いう意味があります。これに脊椎を意味する“spinal”を付けることで「腰椎穿刺」という意味になるわけです。“spinal tap”はカジュアルな表現で、口語で使われることが大半です。カルテなどに記載する際には“lumbar puncture”のほうが適切ですので、その使い分けも含めて覚えておきましょう。講師紹介

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言ってませんか? 実はうまく伝わらない「バットで殴られたような痛みですか?」【もったいない患者対応】第11回

登場人物<今回の症例>70代男性夕食後に突然発症した頭痛で救急要請意識清明。頭全体の激しい痛みを訴える<急いで痛みの性質を確認する必要がありそうです>どこが痛みますか?頭全体がとにかく痛いです。それは、バットで殴られたときのような痛みでしょうか?バット? そんなもんで殴られたことはないからわからん!えーっと、最高の痛みを10とすると、いまは何ですか?え? 10? どういう意味?1番痛くないときをゼロ、最も痛いときを10とすると…。よくわからん! とにかく痛いんだ。なんとかしてくれよ!【POINT】頭痛を訴える患者さんに対し、くも膜下出血で特徴的とされる「バットで殴られたときのような痛み」であったかを尋ねる唐廻先生。しかしあまり有用な情報が得られず、今度はペインスケールを使って痛みの程度を尋ねようとしました。ところが、今度は患者さんから「よくわからん」と一言。どうすればスムーズに問診できるのでしょうか?突然のペインスケールはかえって混乱を招く教科書では、典型的な痛みの表現の仕方として、くも膜下出血の「突然バットで殴られたような」や、心筋梗塞の「ゾウに踏まれたような」というものがよく紹介されています。しかし実際にバットで殴られたり、ゾウに踏まれたりしたことのある人はいないでしょう。突然こうした質問を投げかけられると、患者さんは予想外の事態に面食らってしまうことがあります。また、痛みの程度を知る際には確かにペインスケールが有用ですが、これは患者さん自身にもある程度の“慣れ”が必要になる手法です。たとえば、がん性疼痛などでは、前と比べてどうであったかを数字で表現することで、痛みの推移を医療スタッフと共有し、鎮痛薬の用量調節を行う、といったように便利に使うことができます。しかし、初診で救急搬送されたような患者さんに対して、いきなり「最高が10としたらいまは何ですか?」と聞いても、まともに答えられる人はいません。医師よりは看護師に多い印象ですが、初診の時点で患者さんにこのような質問を投げかけ、「は!?」と不思議そうな顔で返されている姿をときどき見ます。緊急時はとくにスムーズな問診が必須となるため、とにかく答えやすい質問方法を選ぶ必要があるでしょう。では、どのように聞けばスムーズに答えてもらえるのでしょうか?「人生最大の痛みですか?」痛みの程度を知りたい際に、最も答えやすい質問が「人生最大の痛みかどうか」です。同程度の痛みをこれまで何度か経験している・繰り返している場合と、今回初めて人生で経験したこともないほどの強い痛みに見舞われている場合では、想定する疾患は変わってきます。「OPQRST」で痛みの程度以外の情報も集める目の前で強い痛みを訴える患者さんの場合、最初に痛みの“程度”ばかりに意識が向かいがちですが、それ以外の情報もなるべく素早く収集する必要があります。問診すべき情報は語呂合わせでよく紹介されますが、例えば「OPQRST」が便利です。O:Onset 発症様式P:Provocative/Palliative 増悪・緩解因子Q:Quality/Quantity 痛みの性質・程度R:Region/Radiation 部位・放散痛S:associated Symptoms 関連症状T:Time 経過これらの項目をなるべく素早く聞いていき、痛みという主観的な情報を客観的な情報に“翻訳”していくことが大切です。これでワンランクアップ!どこが痛みますか?頭全体がとにかく痛いです。人生でこれまで経験したことないほど痛いですか?※1※1:緊急時には感覚的に答えられる質問が◎こんなに痛いのは初めてです。いつ頃痛くなりましたか?※2※2:痛みの強さ以外のこともしっかり聞き取る2時間くらい前です。全体が締めつけられるような痛みですか? 鼓動に合わせてガンガン痛みますか?※3(以下略)※3:クローズドクエスチョンだとスムーズに答えてもらいやすい。

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第222回 未来の診療報酬、お手本は介護?~アウトカム評価のデータ化を実現

2024年診療報酬改定から施行時期が初めて6月に後ろ倒しされたのは周知のとおりだ。これまでの4月施行では医療機関、薬局、電子カルテ・レセコンのベンダーなどの負担が大きいための措置である。すでに施行から2ヵ月が経過したが、いまもバタバタしている医療機関や薬局は多いだろう。今回の改定では、▽医師の働き方改革、▽外来医療の機能分化、▽医療機能に応じた入院医療評価、さらには▽在宅医療の評価などが行われ、全体としては医療機関の機能分化と介護との連携に重点が置かれている印象がある。医師の働き方改革は、今改定での重点課題だったが、個人的にはむしろ医療機関の機能分化推進の補助的材料に使われたと感じている。そして気の早い人は、すでに2年後や4年後の改定、さらには6年後の介護報酬との同時改定も睨みつつあるだろう。それもこれも診療報酬改定が国の目指す医療体制実現のための誘導手段であり、ある種の目指す姿が実現するとより高い次元の医療体制実現のために診療報酬を付け替える「2階に上げて梯子を外す」かのようなことが繰り返されてきたからだと言える。その意味で昨今の診療報酬改定は、医療機関や薬局という“箱”が持つ機能、実施した対人業務に報酬や加算が付く出来高払いがかなり進行してきたが、私個人は次期同時改定までにこうした流れはかなり変化していくのではないかと考え始めている。その最大の理由は今回の診療報酬改定のもう1つのテーマだった医療DXの推進である。ご承知のように紙の保険証は今年12月の廃止が確定し、マイナンバーカードを利用したマイナ保険証へと一本化される。しかも、内閣府の医療DX推進本部は、オンライン資格確認等システムを拡充し、レセプト・特定健診情報、電子処方箋情報、電子カルテ情報などを網羅した「全国医療情報プラットフォーム」の2026年本格稼働を目指している。この中で電子カルテ情報の標準化はやや手間取るかもしれないが、次期同時改定の2030年には同プラットフォームはかなり目処が付いているだろう。そうなると、もはや医療は「どんな医療行為や業務を行ったか」に留まらず、その先のアウトカムまで白日の下にさらされる可能性が高まる。これを厚生労働省(以下、厚労省)が利用しないわけはない。つまり、いずれはアウトカム評価に基づく診療報酬体系が導入される可能性がある。私が「こうした流れはかなり変化していく」と前述したのは、こういうことだ。もっとも最近までこれは個人的な予想に過ぎなかったのだが、どうやら厚労省内部にも似たような考え方をしている御仁がいることを、7月に長崎市で開催された第17回日本在宅薬学会学術大会で知った。その御仁とは薬系技官で厚労省医薬局医薬品審査管理課長の中井 清人氏である。ちなみに日本在宅薬学会は主に在宅活動を行う薬剤師向けの学会で、中井氏はあくまで薬剤師向けとして講演していた。講演内で中井氏は突如、薬剤師業務と関係がない介護報酬の科学的介護情報システム(LIFE)を利用した通称LIFE関連加算を取り上げた。同加算は2021年度介護報酬改定で導入されたもので、事業所が利用者のADL、栄養状態、口腔機能を評価したデータをLIFEに入力することで算定できる。しかも、この仕組みでは厚労省が各事業者のLIFE入力値と全国平均値の比較などをフィードバックし、事業者はそれを基に改めてPDCAサイクルを回す。半ばアウトカム評価のような様相を呈しているのだ。そもそもLIFEの導入は、医療に比べてエビデンスが乏しい介護でのエビデンス構築の意味もある。この時の講演で中井氏は「医療のほうが介護より絶対電子化が早いと思っていたのにすげえなって。介護が来たんですよ。次にどういう時代が来るか、ぜひ皆さん考えてください」と語りつつ、「どういう時代」の結論は濁した。そのうえで中井氏が引き続き紹介したのが、米・オバマケアで実現した多職種連携でのケアを33の指標で評価し、その結果で医師を含むケア担当者らの報酬が変わる「ACOプログラム」だった。ここまで来れば、「次なる時代の診療報酬体系はアウトカム評価で」と言っているようなものだ。ちなみに中井氏はキャリア官僚としては珍しく私見丸出しの講演をする。時には自身のスライド内に「以下は私見の塊」と断っていたりもする。それゆえ今回の講演も「話半分で…」と言えるかもしれないが、口にしないだけで同じことを考えているキャリア官僚は必ずいるだろう。また、介護とは違い、医療はすでにかなりのエビデンスが集積している。要はデータと解析ツールさえあれば、一定のアウトカム分析とそれに基づく評価は今でも即時に可能と言ってもよい。そんなこんなで私個人は、今後の中央社会保険医療協議会(中医協)などでの医療DX議論もこのアウトカム評価導入の視点を注視していくつもりである。

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英語で「最後に食事をしたのはいつですか」は?【1分★医療英語】第141回

第141回 英語で「最後に食事をしたのはいつですか」は?《例文1》When was the last time you ate?(最後に食事をしたのはいつですか?)《例文2》You have nothing by mouth after midnight.(深夜12時以降は絶飲食です)《解説》救急医療の現場などで、手術や検査が行えるかどうかを確認するために、「最後に食事をしたのはいつですか?」と聞く場面は多いかと思います。英語ではシンプルに、“When did you last eat?”や“When was the last time you ate?”と質問することができます。頻繁に使うフレーズなので、丸ごと覚えてしまいましょう。また、手術や検査に備えて絶飲食することを、医療者の間では“NPO”と表現します。これは、「口から何も入れない」ことを意味するラテン語の“nil per os”の頭文字を取ったものです。患者さんに説明する場合は“NPO”では伝わらないため、“nothing by mouth”や、“nothing to eat or drink”、“no food or drink”といったフレーズを使うようにします。講師紹介

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英語で「不意を突かれる」は?【1分★医療英語】第140回

第140回 英語で「不意を突かれる」は?《例文1》We will monitor fungal infections so that we will not be caught off guard.(不意を突かれて不利にならないように、真菌感染は持続的に監視します)《例文2》We still cannot let our guard down.(まだ安心できません)《解説》“catch A off guard”という表現は、何か予期しない出来事や情報に対して驚きや戸惑いを感じるときに使われます。直訳すると「Aが油断した状態で捕らえられる」といった意味になりますが、より広く「思いがけない出来事」や「予期せぬ状況」に対する感情的な反応を表現します。医療現場では、予期しない悪い検査結果を知らされたときなどによく使われます。“deer in the headlights”(車のヘッドライトに照らされた鹿=ショック状態になる、呆然とする)も、この類似表現です。日本語では「蛇ににらまれたカエル」が近いニュアンスでしょうか。“be caught off guard”は「不意を突かれて不利な状態になる」という意味でも頻用され、予防的な検査や治療をする際の説明などに使うことができます《例文1》。“guard”を使った表現としては、“let our guard down”は「(安心して)防御を下げる」という意味になり、こちらも頻用されています《例文2》。講師紹介

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英語で「追加質問」は?【1分★医療英語】第139回

第139回 英語で「追加質問」は?《例文》医師AThank you for your question. Are there any other questions about my presentation?(ご質問ありがとうございます。ほかに質問はありますか?)医師BYes, I have a follow-up question about this.(はい、これに関する追加質問があります)《解説》医療の場面に限らずとも、会話の中で質問をすることは多いですよね。そんなときに使える便利な表現があります。“follow-up question”で「追加質問」という意味を伝えることができます。たとえば、患者さんへ治療の説明をするとき。患者さんから質問が出てそれに医療者が答えた後にも、患者さんから“May I ask you a follow-up question?”(追加で質問してもいいですか?)と聞かれるかもしれません。ほかにも、医療者間でのプレゼンやカンファレンスで出た質問内容に関連し、自分も追加で質問したいときには、“I have a follow-up question.”(追加質問があります)と言うと自然に話をつなげることができます。日本語でも「フォローアップ」という言葉は使いますが、医療の現場においては「再診」や「検査結果の確認」の意味に限定して使用されることが多いのではないでしょうか。英語でも“follow-up visit”(再診)という使い方はありますが、上述のようにさらに広義の「追加」という意味全般に使うことができます。“follow-up”は1単語の名詞・形容詞として使いますが、“follow up”と間のハイフンが消えると動詞としても使えます。“Please follow up on the test result.”(この検査結果に関してフォローアップ[後日確認]しておいてください)といった感じで使われます。講師紹介

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ASCO2024 レポート 老年腫瘍

レポーター紹介昨今、ASCOで老年腫瘍に関する重要な臨床研究の結果が発表されるようになった。高齢がん患者を対象とする臨床研究の枠組みとしては、(1)高齢がん患者を対象とした治療開発(特定の治療の有用性を検証)に関する臨床試験、(2)特定の因子、とくに高齢者機能評価が予後因子になるか否かを評価する臨床研究、(3)「高齢者機能評価+脆弱性に対するサポート」の有用性を評価する臨床試験に大別されるだろう。ASCO2024では、それぞれの枠組みの中で、日常診療の参考になる臨床研究が多数発表されていた。その中から、興味深い研究を紹介する。転移性膵がんを患う「脆弱な」高齢者を対象としたランダム化比較試験(GIANT study: #40031))近年、高齢者という集団は不均一であり、暦年齢だけで治療方針を決めるべきではない、という認識が浸透しつつあるように思う。とくに欧州では、高齢者という集団を全身状態の良いほうから順番に、fit、vulnerable、frailに分類するという考え方が提唱されている。すなわち、“fit”は、積極的ながん治療の恩恵を受けられるような全身状態の良い患者、“frail”はベストサポーティブケアの適応となるような全身状態の悪い患者、“vulnerable”は、その中間に位置することが提唱されている2)。しかし、それぞれの分類の線引きは定まっておらず、がん種ごと、病態ごとに定義が異なっているのが現状である。米国のECOG-ACRINグループが実施したGIANT試験は、“vulnerable”な高齢者を独自に定義し、GEM+nab-PTX vs.5FU/LV+nal-IRIの有用性を比較したランダム化比較第II相試験である。70歳以上、転移性膵管腺がんを有する、ECOG-PS:0~2かつ高齢者機能評価(生活機能、併存症、認知機能、暦年齢、老年症候群[転倒、失禁])の結果で“vulnerable”な高齢者と判断された患者が本試験に登録された(表1)。登録患者は、ゲムシタビン(1,000mg/m2)とナブパクリタキセル(125mg/m2)を14日ごとに投与するA群および5-フルオロウラシル(2,400mg/m2)、ロイコボリン(400mg/m2)、リポソームイリノテカン(50mg/m2)を14日ごとに投与するB群に無作為に割り付けられた。Primary endpointは全生存期間、secondary endpointsは、無増悪生存期間、奏効割合、有害事象などであった。A群の生存期間中央値を7.7ヵ月、B群を10.7ヵ月(HR:0.72)、片側α:0.10、検出力80%とした場合、予定登録患者数は184例であった。本試験は想定よりも予後が悪すぎたため、第1回目の中間解析で無効中止となった。92施設から176例の患者が登録され、年齢中央値は両群とも77歳。登録はしたものの治療を開始できなかった患者はA群で10.2%、B群で14.8%、1~3コースしか治療ができなかった患者はA群で34.2%、B群で42.7%であった。全生存期間は、A群で4.7ヵ月、B群で4.4ヵ月(HR:1.12、0.76~1.66、p=0.72)であり、無増悪生存期間はA群3.0ヵ月、B群2.4ヵ月であった。Grade3以上の有害事象発生割合は、A群45.6%、B群58.7%であった。残念ながら早期中止となってしまったが、“vulnerable”な高齢者を対象として治療開発を試みた意欲的な試験である。高齢者機能評価を用いて高齢者を分類するという手法を用いた臨床試験は過去にも複数存在3)するが、このタイプの臨床試験では試験結果がnegativeになった場合、「試験治療が適切なのか」という問題以外にも、「そもそも高齢者機能評価を用いた分類方法が適切なのか」という問題がつきまとう。本試験の場合、両群で治療強度を弱め過ぎたのかもしれないという問題と、本試験で定義した“vulnerable”という分類方法が適切ではなかったのではないかという問題が生じる。治療が開始できなかった患者や治療期間が極端に短かった患者が多かったことを踏まえると、本試験で定義した“vulnerable”の大部分が本当は“frail”なのではないかという疑問を持ってしまう。患者の大多数は、認知機能障害(46%)、暦年齢が80歳以上(36%)、併存疾患(31.4%)により“vulnerable”と判断されており、これらの患者は、より慎重に化学療法を実施、またはベストサポーティブケアを提案してもよいのかもしれない。一方、サブグループ解析では、75歳以上と75歳未満の集団の生存曲線に大きな違いはなかったため、やはり暦年齢だけで治療方法を決めるのは避けるべきなのだろう。本試験は早期中止となり、また“vulnerable”な高齢者を定義することの難しさを改めて知ることになったが、このような意欲的な試験のデータが蓄積されていくことで、より適切な集団を設定することができ、その集団に適切な治療を提供できるようになると考えている。画像を拡大する日本発の高齢者機能評価+介入のランダム化比較試験の副次的解析(NEJ041/CS-Lung001: #15024))“vulnerable”な高齢者をどう定義するのか、という議論は以前からある。生理的予備能が乏しい高齢者が全身化学療法などで重篤な有害事象が生じると全身状態が悪化することが予想されるため、重篤な有害事象が生じうる集団を“vulnerable”な高齢者とするという考え方もある。化学療法の毒性を予測するツールで有名なものとして、米国の高齢がん研究グループ(Cancer and Aging Research Group:CARG)が作成したChemo Toxicity Calculator(以下、CARGスコア)がある。CARGスコアは簡単な11項目(年齢、がんの種類、予定されている化学療法の投与量、予定されている化学療法の薬剤数、ヘモグロビン、クレアチニンクリアランス、聴力、転倒、服薬管理、身体活動、社会活動)を評価するだけでGrade3以上の有害事象の出現頻度を予測できるとされている5,6)。CARGスコアは米国では妥当性が検証されており、また正式な手順で翻訳されたCARGスコア日本語版があるため日本でも使用しやすいツールである(当該URLのlanguageをJapaneseにすれば日本語になる)7)。しかし、日本人での有用性が評価されていないこと、また分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬などは予測式を作成する際の対象集団に含まれていなかったことから、その使用には注意が必要であるとされていた。今回、日本発の高齢者機能評価+介入のランダム化比較試験の副次的解析の中で、日本人におけるCARGスコアの有用性が評価された。NEJ041/CS-Lung001は、非小細胞肺がんを患う75歳以上の患者を対象とした、高齢者機能評価+介入の患者満足度における有用性を評価したクラスターランダム化比較試験であり、主たる解析の結果はASCO2023で報告された。1,021例が登録され、そのうち911例がCARGスコアで評価された。CARGスコアは19点満点であり、0~5点を「低い」、6~9点を「中間」、10~19点を「高い」とした場合、米国のデータでは、それぞれのカテゴリーとGrade3以上の有害事象の発生割合に関連がみられたため、CARGスコアは重篤な有害事象を予測できるという結論に至ったが、今回の日本人データではそれらに関連がみられなかった。また、CARGスコアの対象外とされていた分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬を受けている集団でもCARGスコアの有用性を評価したものの、いずれもCARGスコアのカテゴリーと重篤な有害事象に明らかな関連はみられなかった。欧米のKey opinion leaderが提唱しているツールをそのまま日本に流用することなく、日本人データで妥当性を検証し、日本人でのCARGスコアの有用性をきちんと否定するという重要な研究である。CARGスコアの日本語版はCARGのホームページに掲載してもらっているのだが、日本人でも毒性を予測できるか否かの評価がされていなかったため、研究目的以外でのCARGスコアの使用は推奨してこなかった。今回、副次的解析ではあるものの、日本人ではCARGスコアの有用性が示せなかったことは、臨床上重要である。ただし、欧米でもCARGスコアは絶対的なツールではない。実際、「全がん種」を対象として生まれたCARGスコアでは予測精度が低いという理由で、「乳がん」に特化した予測ツールCARG-BC(Breast Cancer)が作成されている8)。このように、それぞれのがん種、人種に特化した予測ツールが望まれており、今後、日本独自の毒性予測ツールが求められる。『高齢者機能評価+脆弱な部分をサポートする診療』モデルの費用対効果分析(#15099))欧米の老年腫瘍ガイドラインでは、高齢者機能評価(Geriatric Assessment:GA)を実施するのは当然であり、「高齢者機能評価+脆弱な部分をサポートする診療」、いわゆるGeriatric Assessment and Management (GAM)の実施までもが推奨されるようになった。これは、世界中で「高齢者機能評価+脆弱な部分をサポートする診療」の有用性を検証するランダム化比較試験が公表されたためである。ただ、それぞれの試験におけるGAMの診療モデルはまったく異なるため、どの診療モデルが最適なのかはわかっていない。このため今回、GAMの有用性を検証したpivotal study 4試験のデータを基に、費用対効果分析が行われた(表2)。これらの試験のGAMモデルを概説すると、(1)The 5C試験は「老年医学の訓練を受けたチームによる電話を用いてフォローアップするモデル」10)、(2)GAIN試験は「老年医学の訓練を受けたチームによる脆弱な部分をサポートする方法を提示するモデル」11)、(3) GAP70+試験は「老年医学の訓練を受けたチームがいない状態でのGA実施および脆弱な部分をサポートする方法を提示するモデル」12)、(4)INTEGERATE試験は「適宜、老年科医にコンサルトしながら診療を行うモデル」13)である。本試験はカナダの研究者が実施したため、カナダの医療費をベースとして、さまざまなシナリオの下でそれぞれの試験における12ヵ月以内の、がん薬物療法に伴う費用、有害事象に伴う費用、入院/救急外来受診に伴う費用、GAM実施に伴う費用を推定し、質調整生存年(Quality-adjusted life years:QALY)当たりの医療費および増分純金銭便益(incremental monetary benefit、INMB)を計算した(INMB=[λ*ΔQALY]-ΔCosts、閾値は50,000ドル)。患者当たりの平均QALYはGAM群で0.577~0.662、通常診療群(GAMを実施しない通常診療)で0.606~0.665、平均総費用は、GAM群で3万1,234~3万9,432ドル、通常診療群で2万9,261~4万1,756ドルであった。がん薬物療法の費用は総費用の46~66%を占めていた。INTEGERATE試験およびGAP70+試験では、INMBが3,975ドルおよび1,383ドルと正の値だったが、GAIN試験、The 5C試験では、INMBの値がそれぞれ-3,492ドル、-2,125ドルと負の値であった。INTEGERATE試験の診療モデル(適宜、老年科医にコンサルトしながら診療を行うモデル)は最も高価なモデルであったが、入院の減少(GAM群での入院/救急外来受診割合:26.6%、通常診療群:40.2%)により費用対効果が良好になったと考察されている。結果の解釈には慎重になる必要がある研究である。すなわち、12ヵ月のみのデータであること、カナダの医療費を基に計算されたものであること、入院/救急外来受診のしやすさは環境によって変わりうることなど、多くのlimitationがある。しかし、それぞれの診療モデルの一長一短は推察できるため、どの診療モデルが自施設に適していそうかの考察には使えると考えている。欧米の老年腫瘍ガイドラインがGAMを推奨しており、また日本老年医学会が発刊した『高齢者総合機能評価(CGA)に基づく診療・ケアガイドライン2024』でも悪性腫瘍を患う患者に高齢者総合機能評価(ほぼGAMと同じ意味)は推奨しているが、これらガイドラインはGAMを推奨しているにもかかわらず、具体的にどのようなモデルを用いればよいかは提示していない。日本では現状、がん治療に携わる老年科医が少ないため、「老年医学の訓練を受けたチームがいない状態でのGA実施および脆弱な部分をサポートする方法を提示するモデル」、すなわちGAP70+モデルが費用対効果の意味でも適しているのかもしれない。しかし、将来的には老年科医と協働して高齢がん患者の診療を進めてゆける環境がつくられることを祈っている。画像を拡大する参考1)Dotan E, et al. A randomized phase II study of gemcitabine and nab-paclitaxel compared with 5-fluorouracil, leucovorin, and liposomal irinotecan in older patients with treatment-naive metastatic pancreatic cancer (GIANT): ECOG-ACRIN EA2186.J Clin Oncol.2024;42:s4002)Ferrat E, et al. Performance of Four Frailty Classifications in Older Patients With Cancer: Prospective Elderly Cancer Patients Cohort Study. J Clin Oncol. 2017;35:766-777.3)Corre R, et al. Use of a Comprehensive Geriatric Assessment for the Management of Elderly Patients With Advanced Non-Small-Cell Lung Cancer: The Phase III Randomized ESOGIA-GFPC-GECP 08-02 Study. J Clin Oncol. 2016;34:1476-1483.4)Furuya N, et al. Geriatric assessment in older patients with non-small cell lung cancer: Insights from a cluster-randomized, phase III trial―ENSURE-GA study (NEJ041/CS-Lung001).J Clin Oncol.2024.42:s15025)Hurria A, et al. Predicting chemotherapy toxicity in older adults with cancer: a prospective multicenter study. J Clin Oncol. 2011;29:3457-3465.6)Hurria A, et al. Validation of a Prediction Tool for Chemotherapy Toxicity in Older Adults With Cancer. J Clin Oncol. 2016;34:2366-2371.7)Cancer and Aging Research Group, Chemo-Toxicity Calculator.8)Magnuson A, et al. Development and Valida39tion of a Risk Tool for Predicting Severe Toxicity in Older Adults Receiving Chemotherapy for Early-Stage Breast Cancer. J Clin Oncol. 2021;39:608-618.9)Selai A, et al.Cost-utility of geriatric assessment (GA) in older adults with cancer: A model-based economic evaluation of four randomized controlled trials (RCTs). J Clin Oncol.2024;42.16:s150910)Puts M , et al. Comprehensive geriatric assessment and management for Canadian elders with Cancer: The 5C study. 2021. J Geriatr Oncol. 2021;12:s40.11)Li D, et al. Geriatric Assessment-Driven Intervention (GAIN) on Chemotherapy-Related Toxic Effects in Older Adults With Cancer: A Randomized Clinical Trial. JAMA Oncol.2021;7:e214158.12)Mohile SG, et al. et al. Evaluation of geriatric assessment and management on the toxic effects of cancer treatment (GAP70+): a cluster-randomised study. Lance. 2021;398:1894-904.13)Soo WK, et al. Integrated Geriatric Assessment and Treatment Effectiveness (INTEGERATE) in older people with cancer starting systemic anticancer treatment in Australia: a multicentre, open-label, randomised controlled trial.Lancet Healthy Longev. 2022;3:e617-e627.

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英語で「コロナ陽性です」は?【1分★医療英語】第138回

第138回 英語で「コロナ陽性です」は?《例文1》I tested positive for COVID.(コロナの検査が陽性でした)《例文2》If you test positive for COVID, you must be quarantined for 5 days.(コロナの検査が陽性の場合、5日間の隔離が必要です)《解説》新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行以降、日本では「新型コロナ」という呼び方が定着しましたが、英語圏では「COVID(コヴィット)」と呼ぶことがほとんどです。「コロナの検査」は“COVID test”、「検査を行うための綿棒」は“COVID swab”と呼ばれます。また、“test”という動詞には「自動詞」と「他動詞」があり、自動詞では、「検査の結果~を示す」という意味になります。“(誰=主語)test positive/negative for(○○=検査内容)”という構文で、「“誰”が“○○”の検査を受けて陽性/陰性だった」という表現となり、医療者同士はもちろん、患者さんとの会話でも頻出します。なお、コロナに関連する単語でよく使われるものに“quarantine”(隔離)という単語があります。「クアランティーン」と発音し、“self-quarantine”(自主隔離)という用語もしばしば使われます。講師紹介

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第218回 迫る都知事選、主要4候補”以外“で気になる人物

今、東京は過去最多の56人の候補者が出馬している「東京都知事選挙」の真っ最中である。候補者の数もさることながら、すでに報道でも数多く伝えられているように、掲示板スペースが足りずにテープなどで掲示板の端っこにはみ出る形でポスター掲示を強いられる候補、公序良俗に反する内容のポスターで警視庁から警告を受ける候補、政党による掲示板スペースの販売などが伝えられるカオスな状態である。今回のことを受けて、「都知事選候補は予備選を」とか「選挙出馬での供託金(知事選は300万円)を引き上げるべき」など有権者の声もあるほどだ。私個人は自分にとって不快でノイズと感じる声・意見を耳にすることは民主主義の必然(もちろん限度はある)であることや、昨今の地方首長選挙で半ば“流行り”の無投票再選になるくらいだったらカオスなほうがマシという考えであるため、今回の都知事選を巡るさまざまな事象には寛容なほうである。とはいえ、東京都在住の私は有権者でもあるため、常に選挙で自分に最低限課している選挙公報の精読も56人もの候補者がいると、なかなかに骨が折れる。実はそれだけで1時間半を要したほどだ。さらに補足的に各候補のホームページやX(旧Twitter)の投稿もウォッチしているため、この選挙で消費する労力は生活への負の影響を危惧するレベルである。いつもならば医療・介護にかかわる各候補の主な政策を網羅的に紹介し、個人的な批評も加えるのだが、今回の都知事選でそれをやれば文字数で1万字超が避けられない。また、ここまで候補者が多いと、通常の選挙以上に主要候補と呼ばれる人とその他候補の報道量の格差が大きいし、各候補のHPやXを見ても、医療・介護関連にまったく言及していない候補も結構いる。ちなみに各種報道を見る限りでは、今回の主要候補とされているのは現職都知事の小池 百合子氏、立憲民主党を離党して出馬した蓮舫氏、広島県安芸高田市前市長の石丸 伸二氏、元航空幕僚長の田母神 俊雄氏となるようだ。これら候補を除く52人の候補者は相対的に露出度が少ない。露出度が控えめも公約は有権者ファーストその中で私がやや興味を引いた候補がいる。日本でのAI研究の草分けとも言われる東京大学大学院工学系研究科教授の松尾 豊氏の研究室を経て、AIエンジニア・SF作家として活動する安野(あんの) 貴博氏である。2022年にデジタル庁のデジタル関係制度改革検討会デジタル法制ワーキンググループの構成員も務めている。なぜ安野氏に興味を抱いたかと言えば、ネットニュースサイトNewsPicksでのインタビューで、デジタルを活用しながら民意を吸収し、選挙公約として掲げた政策も選挙期間中にアップデートしていく旨を語っていたからだ。こういった主張はネガティブな観点で“今風”と揶揄する人もいるだろうが、そもそも民意とは常に変化するものであり、それに応じて政策のアップデートは必要だろうと私は常々考えていたのである。そうこうしながら安野氏のXをウォッチしていたところ、突如、男性のHPVワクチン任意接種の全額助成という政策変更(追加)を打ち出してきた。ちなみにここの読者には釈迦に説法だが、4価のHPVワクチンに関しては、肛門がんや男性の尖圭コンジローマの適応が追加され、海外ではHPV起因の中咽頭がん、陰茎がんの予防にも有効とする報告もあり、男性での定期接種化が議論されてきた。しかし、厚生労働省の厚生科学審議会の予防接種・ワクチン分科会予防接種基本方針部会では、有効性・安全性に問題はないものの費用対効果の観点から課題があるとして、現時点では定期接種化を見送っている。ただ、各地の自治体で男性の接種に対する補助は広がりを見せており、東京都の場合は確認できるだけで23区内のうち20区がすでに全額助成を開始している、あるいは今後開始する予定である。一方、都下26市のうち現時点で全額助成を開始/開始を決定しているのは4市のみ、一部助成が1市とかなりの格差がある。これを都内一律で全額助成をするというのだ。ちなみにそのほかの政策でも「認知症への備えをアプリで支援」など特有の政策を掲げている。ちょっとご本人に直接話を聞いてみようと思い、街頭演説場所に出かけて話しかけてみた。その場に集まってきている有権者にもあいさつするなど多忙な中、3度に分けてご本人に疑問をぶつけてみた。街頭演説時に質問してみると―HPVワクチンの男性への接種費用の全額補助という政策を選挙戦中に追加しましたが、選挙以前にHPVワクチンのことはどの程度は認識していましたか?【安野】実は私も25歳頃にHPVワクチンを受けています(ちなみに本人は33歳)。その意味で、そもそもこのワクチンの接種が男性にも良い効果をもたらすことは知っていましたし、その結果、パートナーをも守れる可能性が高いことも知っていました。―認知症の方をアプリで支援するという政策が書かれてありましたが、具体的なイメージが湧きません。【安野】イギリスでは、実はアプリで自分が認知症発症後に備えて、たとえば、どういう治療方針を選択するか、自分の資産を誰に信託するかなどの情報をあらかじめまとめ、一定の条件下でほかの人が見られるような仕組みが整っています。また、オーストラリアでは自治体によっては60歳時点で今後の自分の意思を残すよう促す制度が存在しています。認知症の人が保有する凍結資産は東京都だけでも19兆円を超えるという試算もあるほどで、これは大きな問題です。また、認知症の高齢者の場合、さまざまな併存疾患を有していることも少なくないので、それらの治療方針についても自分の意思を反映させられないままになるのはこれまた問題と考えています。このような現実を考えれば、海外で行われている事例を東京都で導入する余地はあるのではないかと考えているのです。―アプリを使ったPHR(Personal Health Record)の活用は、国内でも難病患者をはじめさまざまなシーンで試みられていますが、今のところは目立った成果を挙げられていません。【安野】PHRがなぜあまりうまくいってないのかについては、私個人はまだ十分に精査できてない部分もあり、そこはきちんと調べる必要があると思っています。ただ、アプリそのものの出来であるとか、政府など公共機関などの発注などでは、使いやすさなどを担保しない形の発注になってしまっていることが多く、その点は一つ問題だと認識しています。とはいえ、これも仮説ではあるので、もう少し深く見たほうが良いとは思っています。―今回、安野さんが取り組んでいるような、有権者から提言を受けてアジャイルに政策を変更・追加することには批判もあると思うのですが。【安野】おっしゃる通りです。ただ、それについてはどのような政治家であっても自分一人が考え付くことには限界があると思うのです。ならば外部の声を上手に拾い上げて自分の政策に反映するほうが、より良いものになると考えています。そういう意味ではアジャイルに改善していくという考えです。“気持ちの揺れ“、候補者にもあっていいアジャイルとは、英語で”機敏な“という意味。最近ではソフトウェア開発などに関連してよく耳にするようになった言葉で、要は基本機能を実装したソフトウェアはすぐに実用を開始し、必要に応じて徐々にアップデートしていくということ。そもそも医療・介護を巡る個人の意思決定は、自分の生命や生活に直結するがゆえに揺れ動くのが常。その観点からむしろもっともアジャイル精神を求められるのが医療・介護政策だと個人的には考えているが、どうにも日本という国では行政は不必要なまでに首尾一貫性を求められ、それ以外にはあれやこれやのしがらみが影響して、やるべきことが鼻先まで見えていながら実現しない隔靴掻痒な状況は少なくない。ちなみに今の自分にとって、最もアジャイルなのはこの選挙の投票先である。これは元からそうだが、選挙当日朝まで私は投票先を決めていないことがほとんど。それもこれも選挙期間中は、候補者本人の政策提言にアジャイル精神が残されているし、候補者自身の評価につながる情報もアジャイルに変化するからである。そして、とくに今回は候補者が多いだけにいつも以上に悩ましい。もっともこの悩みも昨今、無投票再選が増えている地方首長選挙の有権者からすれば贅沢な悩みかもしれないが。

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